私家版*band用語集


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 あ-い  う-お              や・ら・わ


や・ら・わ行


夜鬼 Nightgaunt 【敵】

 下級の奉仕種族。ナイトゴーント、夜のゴーントとしてそのままの訳文に表記されることもしばしばあるこの怪物は、H.P.ラヴクラフトの作品に登場し、クトゥルフ神話において邪神以外の生物としては定番のもののひとつである。ラヴクラフトの「ドリームランド」を描いた作品に登場し、ノーデンス(→参照)に仕えているヒューマノイドだが、クトゥルフ神話では地球の地上にも人知れず隠れ住んでいて、ノーデンスのために働いているという位置づけのことも多い。
 *bandのモンスターの思い出の文章の通り、蝙蝠の翼と、ねじれた角、とげの多数ついた尾、のっぺらぼうの顔を持った真っ黒いゴムのような肌のヒューマノイドである。決して直接攻撃を行うことはなく、無言・無音のまま、対象を持ち上げて運んだり、武器などを奪ったり、とげのついた尾でくすぐることによって不快感を与えるといった行動をとる。無言で淡々と使命をこなすのみで、知能などもある意味では不明だが、食屍鬼(→参照)をはじめとする超常的生物の語を理解し、友好関係にあるようである。
 ノーデンスの命にしたがって、他の旧支配者に襲われつつある人間を(その旧支配者を妨害するという目的だけで)助けたりすることもあるが、むしろ多いのは、意味もなく人間を拉致って意味もなく適当な場所に放置したりする行動である。これらを落ち着いて検討すれば、ノーデンス自身が旧神どころか、とても善玉とは言い難いことは想像がつきそうな気がするのであるが、──
 *bandでは階層38階という中盤のデーモンとして登場する。原作によくあるように特に集団として登場しやすいわけではないが、クトゥルフピットなどで複数現れることも珍しくない。ノーデンスが友好的モンスターではないのと同様、当然ながらこの夜鬼も普通に敵であり、しかもこちらはEVILフラグまである。攻撃は「打撃」ではなく、腕力減少と麻痺攻撃、という点で一応表現してあるといえばしてあるのだが、なにげにファイアボルトなどがあってとても無害とは言い難い。

 →ノーデンス



柳生武芸帳 やぎゅうぶげいちょう 【物品】

 五味康祐の長編時代小説で、映画化もされた『柳生武藝帳』に登場する品。武芸帳は全部で3巻の巻物で、どれも一見すると単に、剣術指南・柳生家の弟子たちの名が連記されているだけに過ぎない。が、表向きには活人剣の剣術流派である柳生新陰流とその門弟らは、裏に殺人剣の忍術と隠密集団の顔を隠しており(これは現在では時代作品のお約束だが、この小説以降に特に広まったものである)──この武芸帳の連名は、幕府と皇室はおろか日本を転覆させかねない恐ろしい秘密に関わった者たちの名であった(その内容は原作ではしょっぱなから明らかになるが、映画では最後までわからずじまいなので一応伏せる)。その秘密自体を隠そうとする柳生一族、秘密を知る弟子で柳生に従う者そむく者、それに対して秘密の内容を知ろうとする、柳生の宿敵の疋田陰流の忍者、幕府、竜造寺家の姫と遺臣、新免武蔵ら当時の名剣士などが、入り乱れて謀略戦・剣劇・忍術戦を繰り広げる。
 が、めまぐるしく息を呑む展開と爆発的に広がった大風呂敷が分厚い文庫3冊分に及びながら、出版社の都合もろもろで未完になっている。五味康祐は当時の並び称される時代作家の大家らの中では、やけにこんな羽目に陥る作品が多い。とはいえ、(それらの作品すべてに言えるが)書かれた個々のエピソードが面白いため問題なく読める点により、いまだに時代小説の屈指の傑作長編の一に数えられる。
 さてこの武芸帳は上記した通り、ただの名簿であって、「秘伝技が書かれた伝書」のたぐいではない。また持つ意味も政治的なものであって、武芸自体の奥義の類に関するものではない。*bandでこれが技の習得に必要な武芸の書の名前につけられ、しかも二番目の武芸書なので店で買えたりするのは、おそらく名前だけがやたらと有名なのと、例によって「柳生武芸帳」という名前だけ聞いたことのある一般からは「技の伝書」だと何となく思い込まれていることが多い点に対する、単なるジョークではないかと考えられる。



薬草治療 Harbal Healing 【魔法】

 植物の薬効を利用する(そして呪術的効果も伝える)治療法は古来各地にあり、直接のファンタジーRPGのモチーフとしては呪術師や薬草師らの技、さらには特に古典的なRPG世界設定ではドルイドが用いる植物に関するものが重要といえる。これらは医学薬学としては初期・過去の技術とも思われがちだが、特に東洋医術では、植物をはじめとする生薬の直接的な効果は大きな領域を占める。
 RPGの要素としての薬草治療では、トールキン作品におけるアセラス(→王の葉)を用いたアラゴルンらの治療の技が目につく。これらは純粋に薬草の化学的効果なのか魔法的なものなのか、また実在の薬草学と同じ純粋な技術なのか癒しの手が魔法的な特殊能力なのかは、描写からは様々に受け取ることができ明確ではないが、RPGの治癒の魔法などに近いようにも見える著しい効果をあらわす(なお、この描写の元のひとつでもある騎士物語、特にマロリーのアーサー王物語などに現れる高潔な騎士らの癒しの手は、どちらかといえば聖人の癒しの反映が強いと思われ、特に薬草などは用いない)。
 しかし、TRPGなどでは、特に魔法による治療が存在する場合、(比較的非魔法的な)薬草治療はめだっては存在しないか、してもアセラスほどには著しい効果ではないことが多い。D&D系では、AD&D1stではアラゴルンをモデルにしたと思われるレンジャーも治癒魔法を用いるが、1stではレンジャーは魔法使系魔法も使えるのと同様、治癒魔法も(聖職者と同様の)純粋に魔法の呪文によるもので、特に薬草や自然知識を用いるものではなく、基本のルールに限れば、特に薬草などを用いた技術のルールはない。以後のTRPGでは、非魔法の「技能」などで薬草治療やそれを含む医療処置を扱っている場合もあるが、少なくともヒットポイントの類の傷を治す手段としては(無視できない手段ではあるとしても)魔法的なものに比べて副次的であることが多い。特に、一瞬で傷を治すのは魔法以外にはなく、非魔法的技術は休息による自然治癒を助けるのみ、という解釈とおぼしきゲームもある(治療のポーションなどはいわゆる通常の「薬」でなく、すべて「魔法的なポーション」であるとされることになる)。
 一方で、特にCRPGなどでは、薬師や治療師の行う薬草治療の特殊能力を、魔法的・呪術的な側面を強調していたり、たとえそうでなくとも治癒魔法などに匹敵するか専門家としてそれ以上の効果としている場合も少なくない。ただし、これはアセラスを意識しているというよりも、ゲーム的なバランスやキャラクターの特徴づけの側面が強いように思われる。
 *bandでは、[Z]系の自然領域の高レベルのひとつにある呪文で(つまり、メイジ系魔法を使う[V]のレンジャーではない)プリースト系・生命領域の高レベルのものに匹敵する強力な治癒魔法である。自然領域さえ選択していれば修行僧やメイジその他も使えるが、やはり自然領域はレンジャーの必須領域であることと、その相当に強力な治癒効果から、アラゴルンとそのアセラスを意識されている可能性はないでもない。一方で、自然領域においてこれよりも弱い「傷と毒治療」などが薬草その他の物理的効果なのか、魔法的な治癒なのかは定かではない。

 →王の葉



宿屋 Inn 【システム】

 実在の史上の宿屋について述べるのは文化研究サイトや、それとフィクションの比較サイトに譲るとして、ここでは「RPGにおける宿屋」に関する話題に絞る。
 DQやFF以降のCRPGでは、「宿屋に泊まるとHP・MPが全快する」のは通例となっている。これはHPやMPが極めて抽象的な値であること(→ヒットポイント)を差し引いても、決して当たり前に理解できることではない。負傷等の回復であれば、(現に海外産を含む幾つかのRPGではそうだが)「病院」や、回復魔法を用いる「寺院」その他の魔法的な施設であるのがまずもって尋常な発想であり、どこの街にもあるいかなる宿泊施設であろうとも、昼間を含むいつなんどきであろうとも、単に「宿屋を利用する」と致命傷も何もかも全快するというのは、まぎれもなく非常に奇怪な現象であると言わざるを得ない。
 かといって、これらがまったく意味不明な現象や由来の不明な設定というわけでもない。「MP」の方が宿屋で全快する方の由来はかなり明確である。TRPGの元祖D&D系(3.Xeまで)では、呪文数(2/1/0/0/0/0/0/0/0等)は、「1日ごとに使える呪文数」を示している。なぜ1日ごとなのかは、D&D系の設定上は、ジャック・ヴァンス著作的な脳容量のほか儀式とか準備とか暦に応じて易算しなおし、とか色々あるが、ゲーム的な単純な理由は、目安として1回の冒険(探索)ごとに特殊能力を使用できる回数を区切るためである。D&D系では1日が経過すると(細かくは、1晩に相当する睡眠の後、呪文レベルに応じて呪文を準備しなおすことによる。睡眠時間や準備時間はルールの版や種族によって大幅に異なる)呪文能力を回復(再び使用できる状態に準備)することができる。
 初期CRPGのWizardryのMP表示も、本来はD&D系の呪文数と同じ理屈であるはずなのだが、このゲームではTRPGと同様に時間の流れを管理することができなくなっている。すなわち、本来は1枚のデュプリケートディスク内全体の時間を1日経過させ、その際にディスク中のキャラクター全員のMPが回復する、というのが本来D&D系同様の処理として行われるべきなのだが、当然ながら当時のハードウェア性能その他の問題で実現できないため、あるキャラが「宿屋に泊まる」「転職する」といった行動をとったときにそのキャラだけに時間が経過する(年をとる等)とし、時間の流れを均一にすることを完全に放棄してしまっている。このWizardryの時間のシステムとD&D系の呪文の回復のシステムの結果として、あるキャラが「宿屋に泊まった時に」そのキャラだけ1日経ったと同じように呪文も回復するという、ジョジョの時間系スタンド攻撃を受けたかのような奇妙な時間管理になってしまったのである。
 しかしその後、後のCRPGには、そのうち「宿屋」「泊まったというタイミング」でMPが回復という表面的な表現だけが踏襲され、Wizardryの流れをくむCRPGでは「宿屋に泊まることで回復」という一見すると奇怪な現象として引き続いてしまったものと考えられる。
 一方で、MPだけでなくHPが宿屋で回復するのも、同様にD&D系とWizardryの右ならえなのかというと、完全にそういうわけでもない。HPは体力でも気力でも耐久力でも精神力でもない、きわめて不自然な数値であるが、D&D系でもWizardryでも1日の休息でHPが全快するといったルールではない。例えばAD&D1stのPHBでは、「1日1ポイント、30日以上休息後ならば1日5ポイント」といった具合で、魔法に頼らない回復率はきわめて悪い。Wizardryの「より高級な宿屋では回復率が高いが、せいぜい数ポイント」というルールもこれに似たもので、宿屋のHP回復における重要性は非常に低い(実際のWizardryのプレイでは、宿屋で呪文だけ回復させ、HPは回復呪文で回復させることが多い)。ただし、「宿屋」という施設に泊まることを「そのキャラクターにとっては時間が経過した」と擬制することにより、「HPが回復する」アイディア自体の直接のヒントがこのWizardryの宿屋である可能性は高いと思われる。
 wiz以後のCRPGはといえば、Wizardryとは別流のCRPGであるUltima I、及び日本のARPGの草分け『ドラゴンスレイヤー1』ではHPはお金で「増加」し(単に「回復」ではない)、Ultima IIの宿は泊まる場所ではなく、ホテルマンが電波なつぶやきで能力を「増加」してくれる場所である。Roguelikeでは歩くごとに自然回復、『ハイドライド』では草原、『ブラックオニキス』では病院、『ザナドゥ』では病院で全快し宿屋では払った分に応じて回復である(宿屋というより酒場で一杯やってでもいるように見える)。「ひとつの施設でHPとMPがともに全快する」例も無いわけでもないのだが、DQ1以後のように「宿屋に泊まって全快」が完全にRPGで「一般的」「不文律」になるには、もう少し後になる。
 ちなみに、MPの回復については、D&D系でもなくWizardryとも特に関係のないTRPGで、ポイント性のMPに近いシステムをすでに採っているもの、例えばスタミナ(疲労度表示)や精神力を消費するもの(BRPやT&Tなど)では、単に休息や時間経過により、丸1日よりも早い時間で段階的に回復するものが多い。こうした後出TRPGの多くではMP類よりも耐久力(負傷)類の方が遥かにコストが高い。
 Roguelikeでは、上述のようにHPもMPも特に宿屋でなくともターン経過で回復することが多いため、DQ以後の宿屋のような位置づけになっていることは少ない。例えば初代『風来のシレン』に登場する宿屋は(一応各種回復はするものの)HPよりは満腹率回復施設としての色合いが強い。
 *bandでは[Z]以降、その流れをくむバリアントにおいて、店以外の街の追加施設として街ごとに『旅の宿』がある。特にゲームの流れの上では必然性があるものではなく、なぜこの時点になって導入されたのかは定かではないが、地上や街が導入されるに伴い、魔術の塔や城、ギルドなどと同様、それらしい施設を揃えたのではないかと思われる。[V]以来の我が家があるのにそちらでは泊まったり休んだりできず、泊まるのは旅の宿ではないといけないなど(アリアハンの勇者の実家とは異なる)様々な矛盾点が生じて解消されないままである。食事などのサービスは受けられるが、宿泊によって店の品ぞろえなどの目的のために「ターンを経過させる」施設としての意味合いが強いだろう。


柳じじい Old-man Willow 【敵】

 トールキンのアルダ世界中つ国ホビット庄の東、古森の枝垂川のほとりに生えている年経た柳の化け物。森のざわめきのような歌で通りすがる人を眠らせ、幹を扉のように開いて中に取り込んでしまう(目的は不明)。原作で指輪所持者たちがこれに悩まされ、古森の謎の半神トム・ボンバディルに救われる名場面は、残念ながら映画版LotRでは割愛されている。(しかし、後のTTTのDVD追加シーンに、なぜかエントのファンゴルンの森にそれらしきよく似た場面がある。)
 ボンバディルによると古森は、アルダの神話時代から存在する大森林の名残のひとつであり、柳じじいもその頃から生きているフオルン(長い年月を経て、エントが動かない木のようになったものか、あるいは木がエントのように意識を持ったもの)ではないかと考えられている。
 しかし、興味深いことにトールキンの詩『トム・ボンバディルの冒険』(ときどきボンバディル自身も油断して取り込まれるようである)においては、柳の巨木そのものではなく、その柳の「中に住んでいる独立した人物」のようで、言ってみれば、ギリシア神話の木妖ドリュアドの老人版のような描写である。歌で眠らせるのも木の中に取り込むのもまるっきりドリュアドと同じであるのが興味深い。
 *bandでは[Z]以降野外に登場するが、もっぱら辺境の地の「柳じじいクエスト」で遭遇する印象が強いところである。このクエストは名前にもよらず柳じじいだけでなく総ての敵を倒さなくてはならず、またフオルンや柳じじいはまったく強敵ではなく、入ったとたんに群がってくる虎や猿に殺されずに済むか否かがクリアの鍵なので、柳じじい自身の印象は薄い。魔法としては、なぜか眠らせる類ではなく「テレポートバック」だけを持っている。これは(蜘蛛類が持っているテレポートバックが、糸をからめる表現だという例に従えば)枝で引き寄せたり幹で取り込んだりすることの表現であるらしい。

 →フオルン



野蛮人 Barbarian 【種族】

 バーバリアンはギリシア語での「聞き苦しい言葉を話す者」バルバロス(複数バルバロイ)に由来する語で、要するにギリシア語以外を話す異国人をすべて指す語であった。しかし、ヒロイックファンタジーでは、蛮人コナンやファファードなどの影響から、ノルマン民族(ヴァイキング)を思わせる雪国の出身者というのが何故か典型例となった。
 良し悪しともコナンが確立したバーバリアンの典型的イメージは、屈強な肉体をもち、豪放にして磊落、文明的な規律に縛られないため、無法的で狡猾である(行動原理が力任せ優先だが、頭が回らないわけでは決してない。コナンは策略とは言わずとも狡猾に立ち回り、盗賊稼業の経験もある)。文明自体が嫌いなため決して金属鎧は身につけないとか、文明や私欲に毒されていないため朴訥で仲間内の「良心」を勤める蛮人像というのもあるが、それは海外RPGなどでは、バーバリアンよりさらに原始的な「サベージ」と呼ばれるタイプで、こちらは、アメリカやアフリカのネイティブをモチーフとするのが不文律である。
 ゲーム作品、特に日本のCRPGでの野蛮人の類型を見ると、バーバリアンのコナンが欧米ほどにはヒロイックファンタジーの代名詞として定着していないせいか、むしろ「サベージ的」なキャラ類型が目立つ傾向がある。例えば『ファイナルファンタジー(FF)2』で終始仲間キャラのガイは、本編中ではその生い立ちは定かではないが、肉体系に特化した能力、動物と語り、片言ながら本質をついた発言をするパーティーの良心というキャラづけはサベージそのものであり、スピンオフ小説では怪物に野生で育てられたことになっている。『FF6』ではそのまま肩書きが「野生児」でありモンスターの能力で「あばれる」ことができる少年ガウがプレイヤーキャラのひとりである。他には『聖剣伝説3』の獣人拳士ケヴィンなど、純真で朴訥な少年(あるいは少女)キャラのイメージが重なることが多い点も特筆できる。『サムライスピリッツ』のタムタムなど、成年キャラであるにも関わらず少年キャラ的な朴訥なイメージがプレイヤーから一方的に写し込まれている例も存在する。
 RPGのルール上のバーバリアンは、サベージやいわゆる「バーサーカー(狂戦士)」と重なったり分離されたりと様々である。例えばD&Dシリーズ内でも種族であったり職業であったりサブクラスであったりと位置づけが一定しない。D&D3eでは基本の「クラス」(キャラクタータイプ)となり、バーサークほど極端ではない(*bandの肉体野獣化を思わせる)レイジ(憤怒)能力を持つ等、バーサーカーやサベージなど、蛮人・野生戦士タイプの広範囲をカバーするクラスとなっている。
 *bandでは[Z]から「種族」として使用できる。肉体能力が一通り高く、精神側は低いが、まるで魔法が使えないというほどではない。特筆すべきは、魔法道具の使用が全種族中最も低いことである。これは蛮人が「自然にあらざるもの=魔法」を嫌うという発想で、さらには直接はD&Dシリーズのバーバリアンやサベージからであると思われる。特にAD&D1stのバーバリアンクラスはマジックアイテムを破壊することで経験を得るほどである(これは[Z]初期バージョンなどの戦士が魔法書を破壊して経験を得られるのとも関係する)。
 野蛮人の打撃・射撃修正はかなりのもので、「戦士」に向いていると考えるのが普通である。しかし、戦士は終盤ではスタッフやロッドに大きく依存せざるを得ないクラスである。実は、野蛮人の魔法道具使用の低さは、多くの高レベルスタッフやロッドがかなり困難なレベルであり(最高レベルでも、*破壊*のスタッフすら数十回に一度の成功しかおぼつかない)戦士でのプレイには終盤困難も伴う。[変]での騎兵やアーチャーなども同様と言える。なので、むしろ少しは魔法に頼る職業(修行僧など)の方がプレイしやすかったりする。



八岐大蛇 The Yamata-no-Orochi 【敵】

 ヤマタノオロチは日本神話の代表的怪物の一体で、高天原から追放され地上におりたったスサノオノミコトが退治する。オロチは目は鬼灯(ほおずき)、八つの頭、八つの尾、体は八つの谷と峰にまたがり、体からはコケとヒノキが生え、胴体は血にまみれている。地神の老夫婦が7人の娘を大蛇の生贄に取られ、末娘のクシナダを残すのみとなっていたが、スサノオは彼らに酒を用意させ、大蛇を酔わせて「十拳の剣(とつかのつるぎ、これは武器の固有名詞ではなく大きさの表現としてしばしば現れる武器で、日本書紀では天羽々斬(あまのはばきり)だが、日本神話の黎明期にイザナギが持っていてヒノカグツチなどを斬ったもの(古事記では天之尾羽張)と同じものかは定かではない)」で退治する。その尾からいわゆる『草薙の剣』が出てくるが、スサノオは着服(子孫に伝来)せずにアマテラスに献上した。細部や名前は古事記と日本書紀で若干の差がある。
 このヤマタノオロチという怪物の原型は、当然ながら自然現象・災害への恐れから生じた説話、竜や大蛇が大抵はのたうち氾濫する川の神格化であること、さらにはヤマタとは数多くの支流に分かれた川という発想は、考えをめぐらせるまでもなく出てくる(これはギリシアのヒュドラ(→レルニアン・ヒドラ)も同様であろう)。八つの谷と峰に渡るとはそのまま谷峰を間を流れることであろうし、七人の娘が取られたとは、氾濫で滅びた山野、国、人かもしれない。また、その退治の説話は、土地神が日本の神に吸収された暗示、ことに嵐や水害の暴威で恐れられる自然神の信仰が、より後代の信仰に淘汰されたこと自体を示しているという説もある。また鉄剣で自然神を斬り、よりよい鉄剣を得たのは製鉄・鍛冶の力を得たことの象徴という説も非常に有名である。
 しかしながら、この大蛇退治が神話学でいうあまりに典型的なペルセウス・アンドロメダ説話型(英雄神が策略で怪物を倒し、生贄の乙女をめとって血脈の祖となる)であることから、ギリシア・印欧・アジアの説話との共通の原型があったとも思われる純粋な「英雄譚」があくまで根本である(寓意・象徴の話ではなく)と主張する意見もある。
 1959年の実写映画『日本誕生』はスサノオ役をおなじみミフネこと三船敏郎(ヤマトタケルと2役)として日本神話を描くが、ここで八岐大蛇が(ゴジラやウルトラ等の)円谷英二により特撮クリーチャーとして表現されているため、この映画の八岐大蛇が「怪獣」に分類され、怪獣百科の類に「体長300m、体重1万t」というスペックで載っていることもある。
 RPGなどのゲームに登場するものは、真面目に取り組んでいるものからそうでもないもの、どちらだとしてもまともなものからおかしなものまで枚挙に暇がない。一定の世代に元の日本神話以上に有名になって例として、『ドラゴンクエスト3』に登場するイベント(ユニーク)モンスターが挙げられる。世界地図に似たDQ3世界の東端の国「ジパング」の女王ヒミコをとって食い、なりかわっているというもので、DQ3は日本のゲームにも関わらず全般日本に対する扱いがかなり酷い。FCのRPGの普及からゲームから神話を誤解する子供は増えたというが、さすがにDQ3から日本神話と卑弥呼を誤解したなどという子供の話は聞いたことがない。
 [変]に登場する八岐大蛇は、シンボルはM(ヒドラ)だが、さまざまなブレスを用い、おおむね発想元と思われる[V]の『カブラックス』(これはドラゴンだが)の強化版のようになっている。Mシンボルユニークにありがちなヒドラ召喚などは持っておらず、仲間も連れて出てくることはない。無論かなり危険ではあるが、割と深層に登場するためプレイヤーキャラも耐性・装備などが揃っていることも多いと思われ、実際のところ強さよりむしろ、ある程度の確率で『草薙之剣』を落とす点で話題になることが多い。

 →草薙之剣



闇の森 Mirkwood 【その他】

 トールキンの中つ国の東半分、「荒地の国」の中心となっている大森林。『ホビットの冒険』において後半の難関のひとつとなる場所で、木々は昼間でも異常な圧力をもって夜のように闇をおろし、森を横切る黒い魔の河から森に流れる水は眠りに誘うという不気味な森である。一行はこれらの河や森エルフらの幻想や、闇の森蜘蛛(→参照)などの災難に次々と見舞われる。
 Mirkwoodのmirkとはmurkと共に「陰鬱な」を示す英古語だが、Mirkwoodという語自体はトールキン自身が起源がわからないほど古くから、しかし多くの古文献に現れ、トールキンは北ゲルマン人がヨーロッパ南の山脈と以降の未知の土地に対する恐れを示していた語だと考察している。ともあれ、『ホビットの冒険』執筆当時は、これはドイツの黒の森のようなイメージも持たされ、作中での童話的役割からもわかるように「不思議な自然の力を持つ森」という意味で名づけたに過ぎなかったようである。しかし『指輪物語』の構想と歴史がまとまると、この森は元から「闇の森」と呼ばれていたのではなく、サウロンが南端部にドル=グルドゥアの死霊術師(→参照)として住むようになってから、その魔力によって闇に覆われたために呼ばれるようになった、という設定になった。
 『指輪物語』を含めたアルダ史で言うと、元々この森は「緑森大森林 Greenwood the Great」と呼ばれていた原初の森のひとつで、神話時代からべレリアンドに入らなかったエルフら(ナンドール)が住んでいた。その後水没したべレリアンドから脱出してきたオロフェアと息子スランドゥイルが、主にナンドールと思われる森の民(森エルフ)をまとめて、大森林の北部に王国を作る。しかし、第三紀の1000年頃にサウロンの霊体が南部のドル=グルドゥアに住み着くと、森をはじめとして荒地の国は彼の悪意にさらされ危険な土地となってくる。「闇の森」はエルフ語では「タウア・エ=ンダイデロス」すなわち「大いなる恐怖の森」というが、エルフ語ではほとんど本編に出てきたことはない。
 森の北端には森エルフのスランドゥイル王国があり、南端には東夷カムルに指揮され、また一時サウロンが死霊術師として潜伏していたドル=グルドゥアがある。中央部には一部森の人(ゴンドールのドルアダンの同類)が住み、外縁部に中ほどには、魔法使ラダガストの住むロスゴベルの地があるが、記述に食い違いがあるため正確な場所がはっきりしない。全体的に闇の森蜘蛛などの恐ろしい生き物が住んでいるが、これは後の設定ではサウロンの力で邪悪な森となっているためである。
 指輪戦争の後は、ケレボルン軍がドル=グルドゥアを破壊し(→ネンヤ)、邪悪な生物はスランドゥイルとケレボルンがほとんど滅ぼしたので、ふたたび闇の森から「緑森大森林」に戻った。戦後は北部はスランドゥイルの土地、中央部はビヨルン一族と森の人、南部がケレボルンの土地(東ロリエン)となった。
 *bandでは[V]以来、いくつかのモンスターのモチーフや思い出の中に登場するわけであるが、PernAngbandおよびToME1,2では前半〜中盤レベルのメインダンジョンのひとつとして闇の森が存在する。最深部に蜘蛛の女王である『シェロブ』(→参照)が住んでいるのだが、シェロブは原作ではここではなくモルドールのキリス・ウンゴルにいるはずである。ただし、闇の森蜘蛛はシェロブの子孫であるので、その長であるシェロブも他の場所に登場させるよりは、ここに住んでいるということになっているのだろう。また、[変]のダンジョンのひとつ「森」は、位置的にはかなり異なるものの、階層や深部をシェロブが守っている点など、この闇の森に相当するものだと言える。



闇の森蜘蛛 Mirkwood Spider 【敵】

 トールキン『ホビットの冒険』に登場する、中つ国地図の東半分、荒地の国の中心である「闇の森」(→参照)に住んでいる凶悪な蜘蛛。旅するビルボとドワーフらを襲うこの蜘蛛は、明確な記述はないが日本の寺島版挿絵などによるとドワーフと同じくらいの大きさがある。木々に糸をかけ、「集団」で行動し、また西方語で会話し(もっとも、この時は童話的に動物も喋っているというだけなのかもしれないが)少なくともビルボの罵りの歌を理解できるだけの知能・教養を持っている。この蜘蛛と戦ったことが、ビルボを冒険者として一気に成長させることになる。『中つ国歴史地図』は丸1ページを使ってビルボのこのときの動きのフットワークまでも詳細な図にまとめてあり、一見の価値がある。
 熊人ビヨルンによると、この森に住む生き物は皆凶暴で性が悪い(スランドゥイル一族もだろうか、とか思ったがその考察は別の機会に譲る)というが、『指輪物語』執筆に伴って闇の森は、ドル=グルドゥアに砦を構えていたサウロン(もしくはナズグルの第二位カムル)の影響で闇の魔力が降りているという設定になり、さらに「闇の森蜘蛛」に関しては、大蜘蛛ウンゴリアントやシェロブの同族ということになり、大幅に闇の色の濃い眷属という設定になった。
 映画版のHob.第二作では、ビルボが『一つの指輪』をはめると突如として言葉がわかるようになるような描写があり、あるいは元々はこれらの蜘蛛が喋れるわけではないが、指輪の力でビルボの認識力が増大している可能性もある。
 トールキン作品の中では蜘蛛は一貫して悪役であるが、実際はトールキンが生まれて間もない南アフリカで毒蜘蛛に噛まれた事件があり、その記憶によるのだろうと研究者らは考察するが、トールキン自身はそんな事件のことは覚えていないと例によって発想元を否定する。実際のところは、むしろトールキンの子供達が身近な蜘蛛をよく怖がっていたので、『ホビットの冒険』の原型となった子供達への話に悪役としてよく用いたというところらしい。
 *bandでは[V]以来登場する。これとは別にただの「森蜘蛛」(古い訳では「木蜘蛛」になっていた。木に巣をかけるので間違いではなさそうだが、やはり森蜘蛛を指しているというべきだろう)というものもいるが、特に「闇の森に住むもの」は別のモンスターになっている。特に階層より強いということもないのでごく普通の集団で登場する蜘蛛に過ぎないが、15階という階層自体は、同等の強さのものにハーフオーク(すなわち映画のウルク・ハイ)、グリフォン、フロスト・ジャイアントなどがおり、相等に強力な怪物だと言わなくてはなるまい。

 →闇の森 →シェロブ →ウンゴリアント



友好的モンスター Friendly Monster 【システム】

 現在はTRPG、CRPG含めて、モンスター(クリーチャー)のプレイヤーキャラクターに対する友好・非友好は、登場する時点であらかじめ設定しておくのがバランス上はほぼ必定である。しかし、古いTRPG、CD&DやAD&DやT&Tには、ワンダリングモンスターと共に、モンスターが友好か非友好かをダイスでランダムで決定する反応表があり、「必ず攻撃する」とモンスターデータに設定されている(ゴブリン→ドワーフ等。なお、この例はトールキンに由来する)場合以外は、モンスターが敵であるかどうかもその時点で判定するようになっていた。特にCD&Dでは、即座に戦闘になるようなモンスターは設定上の例外を除けばほとんどいないとし、登場する全てのモンスターと戦闘することは消耗必至の愚行であること、モンスターとの交渉は戦闘以上に重要であることは、重々に強調されていたのである。(これはAD&Dや3eが元々はウォーゲームに起源を持つ戦闘重視ゲームであるのに対して、CD&Dはルールが少ない故のローパワーによる過酷なゲームバランスに依る所が大きいが、このCD&Dの印象のため「CRPGは戦闘のゲームだが、TRPGは交渉のゲームである」等と一時流布される原因ともなった。)
 CRPGの初期の型のひとつであるWizardry#1には、登場するモンスターがランダムで「友好的モンスター」になる、などというシステムがある。これはアライメントの表現(友好的モンスターに襲い掛かると善が悪にチェンジする等)のためにあえて採用されている、という説もあるのだが、おそらく、実際の理由はそう大層なものではないと思われる。推測となるが、これはwiz#1が、単にD&D系の「反応表」のルールを意識した遭遇を、そのまま採用しただけのものと思われる。なぜそんなものを採用したのかといえば毎度例の如くの説明となるが、wiz#1以前には当然ながら「CRPGの模範」などは存在しないため、TRPGのスタンダードであるAD&Dのシステムが、大原則として片っ端から踏襲されていた(メモリの節約等の技術的都合があるものを除く)ためである。
 つまり、今でこそ「戦闘型RPG」の原型と見られているwiz系だが、この反応表のようなシステムを採用していることからは、当初は決して戦闘ゲームではなく、「出遭ったモンスターと、戦闘だけでなく交渉したりもするTRPG」を、大真面目で再現したゲームという側面もあったかもしれないことも推測できる。しかしwizは、現在では数少ない「過酷な戦闘特化RPGの極致」の位置づけがゲーマーの間で確立してしまっており、そうしたゲームにおいては友好的モンスターの登場はテンポを落とす以外のほとんど何の効果も持っておらず、最大の問題であったメモリの制約も現在は無いに等しい。にも関わらずこのシステムがかなり後の作品まで踏襲され続けたのは、単なる伝統以外の理由はあまり考えられない。
 さて、Roguelikeでは、NetHack等に友好的モンスターが登場し、それはD&D系などの古いTRPGを踏襲している点ではWizardryと同じとしても、wizと別の進化系統に属するRPGであるRoguelikeにおいては、必ずしも経緯も同様ではないことが強く推測できる。例えば、初期RoguelikeなどのUNIX上で動くRPGの中には、Nethackの原型であるHackと同時期に存在した"Island of Kesmai"(Rogueにインターフェイスが似ているが、システムはよりAD&Dに似ている)のように、プレイヤーキャラ同士が同画面上で出会うようなマルチプレイヤーのRPGが初期から存在していた。NetHackの友好的モンスターやペットの発想は、こうした初期のUNIXのマルチプレイヤーRPGで、画面上にモンスター同様のデータを持ったクリーチャーが友好的なものとして存在することが自然な発想だったためではないかと推測できる。友好的モンスターとの会話コマンドが"#chat"であることも、他プレイヤーに対するものを彷彿とさせる。
 対して*band系統では、Moria及び[V]においても、街に登場するものを含めて、登場するすべてのクリーチャーは敵である。しかし、[Z]系で友好的モンスターが導入され、街のマゴットをはじめ幾つかのユニークやエント等にfriendlyフラグがある。上述したようにRoguelikeでは友好的モンスターの発想は特異なものではないものの、怪物を手なずけるシステム(→ペット)同様、[V]に無く[Z]にあるシステムの多くに言えることだが、直接的にはどちらかというとNetHackの影響が強いと思われる。
 友好的モンスターは(こちらから攻撃して敵対に回らない限り)無害であり、特に深層の強敵であればことを構えないに越したことはないというのがまずもって尋常な発想である。しかしながら、*bandでは例えば強ユニークが他のユニーク戦で召喚されてきた際に脅威になるという場合もある。ユニーク戦の最中に友好的な木の鬚あたりがそばにいたのをうっかり魔法に巻き込んでしまい思いっきり撲殺されたという報告も少なくない。そのため、*bandでは後の危険をできるだけ取り除いておくため、これらが単独で歩いているのを見かけたら友好的でも攻撃して潰しておくというプレイが推奨されていることがあり、まさに勇者どころかアンバーの王族や自己中エターナルチャンピオンのような行動がまかり通っているといえよう。また、特にそんな事情がなくても、ガンダルフなどの何となく原作小説でいけ好かない友好キャラは優先的に見つけ出して惨殺しておこうと思うことも少なくない。



夕星 The Jewel 'Evenstar' 【物品】

 夕星(ゆうづつ)とは、『指輪物語』におけるエルロンドの娘でアラゴルンの婚約者である半エルフの姫、アルウェン・ウンドミエルを指す。しかし、ここでは指輪所持者フロド・バギンズがアルウェンから贈られた白い宝石を指す。
 『指輪物語』後半のゴンドールにおける大団円の最後あたり、アルウェンは指輪所持者であるフロドの任に対して、また単にアラゴルンの仲間に対して、アルウェンのみならずアラゴルンのよしみとしても、「自分がそのときかけていた」銀の鎖についた白い宝石を贈った。またフロドは、半エルフでありながら人間の寿命を選ぶアルウェンのかわりとして、西方で生きる権利を譲られたというが、その象徴であるという意味もある。
 映画版では、ラスト近くにその尺が削られてしまったので当然、宝石やそれを贈る場面は出てこない。アルウェンが「西方の権利を譲る」点に対しては、FotRにおいて、ナズグルの傷を受けたフロドに対するアルウェンの台詞にそれらしき示唆がある。しかし、結果的に映画のストーリー上に影響があったわけではないので(西に行くかの選択についてはまた別に出てくる)どういう意味があったとも言えない。よく言われるリブ・タイラー演のアルウェンの「蛇足感」(ここでは別に配役のせいでもないが)を強めてしまっている要素のひとつである。
 *bandでは[V]3.0以降をはじめとしていくつかのバリアントの新バージョンに登場する。単独の物品としてというよりは、同時に追加されている『エレスサール』(→参照)と組として、連想でこれも追加されたのだろう。生命力・能力維持と、わずかな耐性がある。



勇猛なるトゥルカスの指輪 The Ring of Tulkas 【物品】

 トールキンの『ヴァラクゥエンタ』によると、トゥルカスはアルダ世界のヴァラール(諸神)のうちの闘士で、金髪と金色の髭を持ち、素手での戦いと競技を好む気さくな神格とされる。彼の発言する場面とその単純明快な台詞は、読むものをいたく安心させる。『クゥエンタ・シルマリルリオン』は、アルダの創世期にヴァラールとメルコール(後のモルゴス)が戦っているのをトゥルカスが見て、ヴァラとしては最後にアルダに入り戦いに参入した場面から始まる。のちの力の戦いにおいてメルコールと素手で組みあい、捕らえる。
 ヴァラールの中では末席で、アラタール(ここでは、ヴァラールのうち特に優れた8体を指し、アラタールと他のヴァラールとの間にはヴァラとマイア以上の力の差があるとさえ取れる記述がある)にも加えられていないが、ヴァラでも総合的な能力では最大のメルコールよりも、単純な腕力だけとってみれば末席のトゥルカスの方が優れているというのは面白い点である。
 トールキンの原典にはトゥルカスの指輪なるものは登場しないが、[V]から登場するものはこのヴァラの能力を意識して肉体能力とスピードの各+4というものになっている。能力的には弱くないので、スピードの指輪や力の指輪と比べた選択肢に入る。[V]では素手で戦う職業はないが、[O]のドルイドや[Z]以降の修行僧が使用するとそれらしいかもしれない。



与一の弓 The Long Bow of Yoichi 【物品】

 源平合戦の弓の名手、那須与一宗隆は、下野国・那須の武将、那須資隆の子で、周知の通り元服した武士の通称は長男を「太郎」として次郎、三郎と続くが、「与一」とは他でもない、「十郎」までつけてしまった後の十一男であることを指す(なお、那須十郎は与一より弟だったという説もある)。源氏側に参戦した際、与一はわずか20歳(これは数え年である上に、実際はさらに若く満17歳とする説もある)にすぎず、ひどく病弱でこのときの行軍にもあとあとの話でも苦労している。にも関わらず、なぜかその弓の腕は源氏軍の間に知れ渡っており、屋島の合戦の前座の両軍の余興において、船に揺られる平家の女官の捧げ持つ40間(70m)あまり離れた扇を射抜き、両軍の賞賛を浴びるのである。(この扇を持っていた女官(『源平盛衰記』で「玉虫」)が、のちに与一もしくはその子の室となったなり、武蔵坊弁慶の縁者(愛人、娘とも)であったなりといった創作がよく知られている。)
 源頼朝はこの功をもって与一に那須郡5カ国の荘園を与えた。また、実は兄らには源平合戦では平家側についた者もおり、平家の敗北後、路頭に迷っていたところを与一に招かれ、那須家の分家となった。しかし、那須家の惣領となった与一本人は、病弱がたたり、屋島の合戦からわずか4〜5年後に病死する。上記の物語中の年齢を信じるなら(正確な生年は不明とされる)22〜25歳の若さである。
 与一の出番はこれだけだが、しかしながら「扇の的」の段は、武勇の華々しさを極める『平家物語』でも最も華やかな場面と称せられることも多く、『平家物語』の武将中でも最も有名と言われることもある。那須や屋島をはじめ、与一ゆかりの地を名乗る場所は多い。
 RPGにおける「与一の弓」は『ファイナルファンタジー』シリーズに初期から登場しているものである。一般に弓矢において、剣や槍と同じように語られる伝説の品というものは神話・伝承・物語どれを取っても少なく(トールキンを入れてすら、名のある品は『ベルスロンディング』がせいぜいである)RPGでは「アポロンのゆみ」「オリオンのゆみ」といった言語を絶するほどにあまりにもベタベタな品を創作することを余儀なくされていることが多いが、FFシリーズではベタともいえずマイナーともいえない手頃な名前を追加したといえる。以後、しばしば他のRPGに同名の物品が登場することがある。
 *bandでは[変]に登場し、その名に由来する極端に高い命中率(解説文のような必中では無論ないが)と器用度増加が特徴である。命中率だけでなく強力射もあるので、強力なアーティファクトとなっており、レアリティの面でも比較的入手しやすい。



妖精 Sprite 【種族】

 出典:和訳の「妖精」は東洋西洋ともに非常に広義の言葉で、ここでは[Z]以降のキャラクター種族の原語であるSprite、およびスプライトフォークと西洋の小妖精に話題を絞るが、その分類に関してやはり妖精概論が含まれることを注記しておく。
 RPGでのスプライトフォーク(スプライト、およびその眷属)は、千差万別の膨大な種類をもついわゆるフェアリーフォーク(フェイ、妖精の眷属)の中でも、ハーフリングと同じかそれ以下のサイズの小妖精で、昆虫の羽根と飛行能力を持ち、姿を消すなど何らかの生来の魔法的能力をもつ、といった種族を総称するといえる。さらに細かくは、「ピクシー」は2フィート半、最も一般的な「スプライト」は2フィート(60センチ)前後のもので、1フィートやそれ未満のものは「アトミー」および「グリッグ」である。一般にピクシーが最も派手で、後のものに従って昆虫の地味な色合いや要素(触角や四肢)が強くなってゆく。水棲のニクシー(→参照)はピクシーの遠縁だが4フィートに及ぶ(これらはギリシアの半神ニンフ、オケアネスやナイアデスの影響が抜けきらない「水の精」を広範に含んでいるためである)。フェアリーフォーク全体はエルフと遠縁とされるが、スプライトフォークはエルフを含めてあらゆる文化(ドルイドに例外があるが)と隔絶し自然に溶け込んで暮らす。また、すべてのスプライトフォークは、キノコから「眠り粉」を作ることができ、これを撒いたり武器に付着させたりして用いる。
 RPGでの定義の原型となっているAD&Dのスプライトフォークのうち、最も一般的な「スプライト」(ただし版によって異なり、AD&D 2ndや5版には基本ルールには「スプライト」という単独の種族が存在するが、3eでは基本ルールには見当たらない)は様々な亜種を含むが、ピクシー同様姿を隠す力をもち、大集団で生活し、ややピクシーより小型で個体の能力は低いが大きな魔法(人間の姿を変えるなど)を集団で用いる。これも版によって差があるが、悪ふざけをするピクシーに対して、スプライト種族はストイックで排他的という「姿の見えない妖精」の側面を重視していることもある。
 スプライトという語自体は、元々伝承の英霊や神が妖精という形で力も姿も卑小になった例の典型で、大きな霊spiritが「見えない小型の霊」へと変形した語源を持つ。余談であるが、この見えない霊の意から、コンシューマゲーム機やかつての家庭用パソコンの機能として、通常画面と透明に重ね合わさる独立した画面モードと、そこで(妖精のような)小型のキャラクターグラフィックを制御する機能を指して、スプライト機能と呼ぶことがある。
 なお、トールキンにおいては、現代のフェアリーテールの「小妖精」は、エルフの一種が退化したものや誤って伝わったものである、すなわちエルフの中でもエルダールより能力等の劣るアヴァリに関係したもの、とするのが基本である。ただし、HoMEなどの過去のアイディアには、feyやleprehaunといったspriteは、エルフ以前から存在する精霊である=後のアルダではマイア(下級神)の精霊に近いものであるといったアイディアも見られた。これはフェアリーテールの妖精=退化した神性という関連で共通点は見られるが、基本的に後のアルダの設定からは排除されていると考えられる。
 さらに余談であるが、和製RPGには、関西のとあるゲームグループが流布した「手に乗ったりするサイズの妖精は『ピクシー』か『スプライト』で、決して『フェアリー』とは言わない。フェアリーは人間より少し小柄程度で、基本的に人間と同サイズの妖精を指す」との主張がかなり広まっている。これは恐らく、元来は半神やニンフの流れをくむ古伝の妖精を指すフェアリーという語を、狭義にこれら「古妖精のみ」特定するものと誤解したか、あるいは、まさに古妖精のみを特定して指す英文語のファイアリfaerie(D&D系では灰色エルフを指す)をフェアリーfairyと混同していると考えられる。少なくとも、海外のRPGでもフェアリーは「主に小さいもの」を指すいわゆる妖精の通称であり、「ごく普通の人が普通に考える通り」とみなして差し支えない。多くのゲームでは「フェアリー」という種族がいて他に多数のフェアリーフォークがいない場合は、それは小妖精を指している。なお、和訳されていた(AD&Dや3版以降とは別系統の)クラシックD&Dでは、かの悪名高い、ハーフリングの体にドワーフの顔というフェアリーが設定されていたが、AD&Dや以後のD&D系ではフェアリーフォークという「総称」のみに用いられている。
 種族:*bandにおいて[Z]以降追加された種族、「妖精(スプライト)」は、単に小型のスプライトフォークの総称としての意だとも考えられるのだが(フェアリーという名ではないのは、他にもエルフやフェアリーフォークの種族がいるため小妖精を特定しているものと考えられる)一応、サイズや生い立ちの描写ともに、スプライトに準じていると思われる。透明化する能力はさすがにないが、レイシャルパワーで「眠り粉」は再現されている。(ただし、日本人にはキノコの粉の矢などではなく、羽根から出る粉なり、魔法の粉を想像しているプレイヤーが多いだろう。)
 種族としてはいかにもな、非常な精神よりの能力値と、浮遊・閃光耐性を持つ。また10レベルごとに、飛行速度が増すという解釈から、スピードが+1されるのが特徴である。[Z]では特にこのスピードが過大視されたのか、非常に厳しい経験修正であったが、[変]では[Z]以降のスピードのインフレでそれほどの価値はないと見てか、大幅に修正が下げられている。しかし、今度はやや修正が安すぎないかという意見も見られ、難しいところである。どのみち、さほど強すぎる種族ではないのであまり大きな影響ではないように思える。

 →エルフ →影フェアリー →ニクシー →ハイエルフ →レプラコーン



ヨグ=ソトート Yog-Sothoth, the All-in-One 【敵】

 外なる神。すべてにして一つのもの、門にして鍵。球状の恐怖。クトゥルフ神話の主神格、宇宙の支配者のひとり(ひとつ)。H.P.ラヴクラフト『ダンウィッチの怪』で言及されるほか、他のラヴクラフト作品での宇宙観で常のように触れられるこの存在は、すべての時空に隣接した(あるいは、時空(宇宙)そのものであるとも読める)超次元的なパワーである。外なる神の総帥アザトースが知能や行動力を持たないのに対して、実質の宇宙の統治者であると解釈される場合もある。じかに魔術師に時空を渡る力その他の魔力を与えることがあるため、神話中でもポピュラーな存在であり(クトゥルフ神話やアザトース神話でなく「ヨグ=ソトース神話」と呼ぶべきだという主張さえある)さらには力のみならず、様々な定命の種族、神などにエネルギーを与えて数多くの「混血児」を作ることもある。ドリームランドへ向かうランドルフ・カーターの前に現れた時空の門の守護者ウムル・アト=タウィルは、ヨグ=ソトートの化身もしくは代行者、下僕であるとされる。『クトゥルフの呼び声』TRPGルールブック中のキバヤシ解釈が楽しいシナリオソースによると、「ヨグ=ソトート」(元々トランス状態の詠唱から聞き取られた言葉だが)はアラビア語での「はかり知れざる永劫(が来たる)」から変形した語であるという。
 地球の上空に現れる際は、無数の球体が何か粘液質にからみあっているという巨大な納豆か何かのようであり、全体のスケールは常に変化し100ヤードから数マイルに及ぶ。『クトゥルフの呼び声』TRPGルールブックによると、その納豆のひとつを発射するという攻撃を行い、これは様々な効果を及ぼすが、大抵はエネルギー球で触れると問答無用でどんな人も神も即死するか、あるいはショックで朦朧とする(えらい差だが、要するにエキストラは即死し、重要人物(ヒーローとは限らない)はアニメのようにあとで焼け野原の真ん中で目を覚ますなり、演出でどうにでもしろということらしい。ホラーRPGでこんな相手には「ルールとしての戦闘」など意味を持たないという現われである)。
 *bandでは[Z]以降、こんな時空の根源すらもじかに殴りあう敵(中略)耐久性はさほどでもないが、攻撃力はかなり高く、耐久力減少攻撃はかなり洒落にならない値である。上級元素やマナのブレス、厄介な召喚など、遠距離戦も気が進まない。90階レベルのプレイヤーならば被害さえ覚悟すれば倒すこと自体はさして難しくないので、きのこでも持って出かけたいところである。



よろめき歩く塊 Shambling mound 【敵】

 日本のAD&Dプレイヤーの間では一般には(といっても日本で平均がとれるほど多数のプレイヤーが、しかもこのモンスターをよく使用しているとはとても思えないのだが)マインドフレアやキャリオンクローラー等と同様、「シャンブリン・マウンド」という英語そのもので、モンスター名として通っていると思われる。また、通称「シャンブラー」とも呼ばれ、高レベルのドルイド魔法には同名の召喚呪文があるが、*bandでの恐るべき精霊モンスターのシャンブラーとはあまり関係がない。
 AD&Dのシャンブリン・マウンドは、草木が寄り集まった小山のような、しかし微妙に人型のこともある知性のある植物モンスターである。なぜか肉食であり、完全に自然にまぎれながら近づき人間を襲う。植物であるにもかかわらず、なぜか火炎を全く受け付けず、おまけに電撃は食らうと力が一時的に増強するというあまりにも意味不明な能力がある。さらに2ndまでのAD&Dでは殴打攻撃からはまったく打撃を受けず、剣や槍といった切断・刺突の攻撃の効果も半減するという厄介なルールがあり、なぜか異様なほどダメージを受けにくい怪物のひとつである。
 基本的にAD&Dのモンスターであり、他のRPGに登場しているのは『ザナドゥ』などわずかな例しかない。
 *bandでは、シンボルがなぜかキノコ(',')であるためもあって、あまりこうしたモンスターの実態像は認識されていないと考えられる。Moria, [V]から登場するが、「腐った植物の塊で、悪臭を発して周囲のモンスターを目覚めさせる」となっており、(実際は叫び声でエキサイト・モンスター効果が表現されており、絶叫キノコなどと共通しているのでまた誤解を呼ぶ点でもある)耐性などは表現されていない。それ自体は弱い攻撃力しか持っていないが、早めに倒さないと厄介な怪物である。



ラーカー Lurker 【敵】

 潜伏の怪物。AD&D 1st以来、ダンジョンの天井に偽装して待ち伏せ獲物を襲う、数多い一連の「トラップ・モンスター」の一種である。
 ラーカーは熱帯地方にのみ存在する、体長6−9メートルほどの巨大な「エイ」のような肉食の魚類であるが、空中をはばたいてゆっくりと飛ぶことができ、その下面は岩そっくりである。建物の天井に張り付き、獲物が通りかかると落下し、その全身で包み込み、窒息させて捕食するという性質を持つ。まれに、洞窟の床に偽装する種類のもの(空は飛ばない)、森林にとけこむ能力のあるものがおり、これらは「トラッパー」「フォレスト・トラッパー」と呼ばれる亜種である。こちらは人間以上の知能を持ち、さらに巧妙な罠を張ることができる。なお、空中を浮遊するマジックアイテム、レビテート・ポーション(→浮揚)の魔力はこのラーカーの空中浮揚能力を利用したもので、ラーカーの卵は材料として高額で取引される。
 ラーカーとその亜種らは、レベル(ヒットダイス)でいえば下級のドラゴンやジャイアントをしのぐほどに高い。D&Dシリーズの、どんなに高レベルでもダンジョンの冒険と「びっくりどっきり仕掛け」を重視するという姿勢の現われであり、ドラゴン殺し等の「勇者」を自負するプレイヤーが「落ちてきた一反木綿に巻かれて窒息死」という英雄にあるまじき最期も当然という過酷な世界観を端的に示してもいる。
 *bandではラーカーは床と同じシンボルで、注意しないと見えないという部分も再現されているものの、ラーカー自体は14階と階層も低く能力も弱く、それ以外にはさほど強力ではない。一方で「トラッパー」が相当な深階層で、麻痺能力なども持っている完全な「上位版」として解釈され登場する。



雷撃鷹爪斬 らいげきしゅうそうざん 【その他】

 漫画『バスタード』に登場するハーフドロウの魔法戦士アーシェス・ネイの技、「覇王剣雷撃鷹爪斬」から採られたとされる。かなり万能の魔法能力の中でも特に風の魔法にたけたネイは、雷撃を乗せた剣技を得意とするが、特に雷の魔剣「雷神剣」を持った時に大きな威力を発揮し、この技は雷神剣が折れていてさえも、稲妻が刃の形になって斬りかかることができるという技である。そのため、「折れている(他の剣で受けられない)時の方が強いんじゃないか」という噂もあるが、最大奥義(当時)がそれほど限定された状況でないと使えないものとは思えず、また時々他の剣によっても使っているため、雷神剣であるかや刃の有無にかかわらず稲妻が相手の受けをかいくぐって襲い掛かることもできる技ではないかと思われる。
 [変]では剣術家の武芸の、22レベルだが[五輪書]の中に含まれる(そのため習得機会は遅くなることもある)剣技のひとつで、「元素攻撃」を可能にするいくつかの技のうちのひとつである。電撃属性の攻撃によってダメージダイスの目が+4倍(「焔霊」は+1.5倍なので、それよりは相当強力である)され、さらに、電撃に耐性のあるモンスターは前半は比較的少ないので、もし[五輪書]が早めに手に入れば、中々有効な技となりうる。
 なおこの技を『ラブひな』(→斬魔剣弐の太刀)に登場した「雷鳴剣」の名と効果(小ボール)に変えてほしいという要望が出たことがある、というとさらに脱力する(できる)人がどれだけいるかは不明だが、名前がこっちの方が派手だというただそれだけの理由でこちらが存続したという経緯がある。



ラグドゥフ Lagduf, the Snaga 【敵】

 キリス・ウンゴルのオークの一体。『指輪物語』RotK原作において、蜘蛛の塔の兵士であるオークらが、戦利品の取り合いやサムの乱入などによって内乱や命令違反などによる騒動を起こすが、その一連の場面で出てくる多数の名のうちのひとつである。キリス・ウンゴルのオークの隊長のひとりシャグラトと、その配下らしきスナガ(小型のオーク →参照の種族名でもあるが、ここではとあるオークのあだ名で固有名詞でもある)との会話の中に、もうひとりの隊長ゴルバグの配下の「ムズガッシュ(コボルド・ロードのムガッシュとは微妙に綴りが違う)とラグドゥフ」が、競り合いのさ中で走っているところを弓で撃たれた、と言及される。ただそれだけである。シャグラトに抗ったために目玉をしぼり出されたスナガ族(と思われる)の一体である「ラドブグ Radbug」とは、日本人は気づきにくいがLとRの違いでまったく別人である。が、どっちにしたってどうだっていいほどに、どちらもさっぱり出番などない。
 [V]には、オークの中でも『指輪物語』に実際に登場して活躍している者がデータ化されていない反面、こういう名前しか出ていないオークがユニークとして追加されていたりする。例えばTTTのウグルクと共に登場したマウフルも[V]にはおらず(いるバリアントもある)だいたい、RotKのこの場面もスナガ(固有名詞)の方がまだ活躍している。[V]では数多くのオークユニークが加えられ、強さも中々のもので他のRPGに比べてオークの地位が重視されているように見えながらも、実は人数や弱ユニークを揃えるだけのために適当に名前を拾ってきているだけで、さらに思い出の文章も時々間違っていたりして、実はたいして開発側にも重視されていないのかもしれないのが哀れを誘う。
 MERPではこのラグドゥフも詳細な設定があるひとりで、モルドール国内のオークであることから「ウルク隊」のひとりであるとされ、ゴルバグ配下のオークの中でも素早く頭も切れる一人であるとされる。さすがにこだわりが違う(TRPGで使われる機会から考えると全くどうでもいいような気もするが)。
 一方で[V]ではラグドゥフの種族が「スナガ」族となっているのは、このシャグラトと会話しているスナガ(固有名詞)が、ムズガッシュやラドグゥフを同列とみなして喋っているように見えるので、おそらくこのスナガと同格・同族と解釈されているのだろう。オークで最も弱いスナガ族のユニークなので、オークユニークとしては最も階層の低いものにあたる。ランダムクエストなどで出くわす機会も多いはずである。

 →シャグラト



ラフノールの鏡 らふのーるのかがみ 【その他】

 長編連作漫画『超人ロック』に登場する能力のひとつで、防護、停滞、空間移動などにも用いることのできる、強力な多目的フィールドである。多次元空間結晶構造、精神エネルギーを空間に結晶化させたものと定義される。
 この能力は、「惑星ラフノール」(超能力者らの集まった星で、わずかな共通テーマで繋がった独立中長編からなる『超人ロック』シリーズでも複数のストーリーのキーとなる語である)の「行者」たちが編み出したものであることからこの名がある。(ロックもラフノール星にて会得したものである。なお、行者の集うラフノールとは中国奥地の羅布泊(ロプヌールと発音されることが多い)から採られているとも言われる。)実はこのフィールドは、ラフノールの行者たちが肉体のかわりにこの空間の結晶に精神を移し、「精霊」すなわちいわゆる精神エネルギー生命体と化す目的で編み出されたものだった。(例えばロックは普通の人間の肉体をもつが、それ故の不自由さも持つといえる。ロックは身体の加齢を超能力で修復することで若返り、不老を保っている(詳細は不明だが、そう推測されている)が、この普通の肉体を持つが故に、桁外れの能力者でありながらほぼ毎回トラブルに巻き込まれたり、じかに操られたりする。)結晶や時空連続体に精神を移すというアイディアはSFには極めてありふれたもので、『ロック』が古典的SFの流れを受けていることを端的に示す例である。
 主な顕現はやはり防護壁、あるいは閉鎖空間として用いるものだが、他にも登場する能力や精神エネルギーによるバリアとは一線を画するとして扱われている。作中の強力能力の代表とされるサイコスピア(→光の剣)さえも防ぐことが可能で、純粋に「能力」でこれを破れるのはビームリングのみである(近接で継続的にエネルギーを集中できるためだろうか)。閉鎖空間として用いた場合、中からは同じラフノールの鏡の原理を理解した使い手にしか破れず、原理によらず無理矢理破壊した場合、中の物体も空間ごと破壊されてしまう(→鏡の封印)。中は「独立した空間」となり、鏡の箱を中の存在ごと伸縮させることも可能である。また本来永続的目的に作られたためかもしれないが、一度作ると長期間維持されるようである。
 また、「宇宙船」としての用法、この鏡の空間の中に入って移動するという使用法も代表的で、ロックはこれを用いて二千光年を1時間で移動することができる。これは鏡が「多次元の結晶」ということから単純にロック世界のハイパードライブ(他次元を経由して移動する)のような応用が可能であるとも言えるが、周囲の宇宙から独立した空間を形成する以上、スタートレック式のバブルワープ(空間を切り取って移動)のような移動が当たり前に可能であるとも考えられる。
 *bandでは、クラス「鏡使い」の最上位の技で、いわゆる無傷の球(→参照)を張るものである。超能力者ではなく、『サイキックフォース』を元とする「鏡使い」の技だが、深い意味があるわけではなく、鏡使いの原型作成者(Kcal氏)が「鏡」に関連する最上位の技という点から加えたものである。基本的に無傷の球なので無論強力であるが、敵のディスペルで解除され、サイコスピアには貫通され、長期間維持ができるわけではない。



ラマ僧 Lama 【システム】

 ラマとはチベット仏教における高僧であり、ダライ・ラマ(個人名でなく代々の称号)を頂点とし次席のパンチェン・ラマ等の称号がある。類語が東洋の哲学・宗教語に多々あるのでややこしいが、ここでのLamaは、現地語で「勝者」の意である。高位のラマはいわゆる化身、活仏とされ信仰されることもあるためチベット仏教は「ラマ教」とも呼ばれたが現在は正式には用いられない。
 [V]の旧版のプリーストのレベルごとの称号のひとつに「ラマ僧」があり([V]3.0系や[変]などでは変更されている)西洋風というかそれ以前に特定の宗教のイメージではなかったはずのプレイヤーキャラのプリーストが、いきなりチベット仏僧にされてしまうのでびびってしまうプレイヤーが昔から多々いるようである。これは、*bandのクラスごとの称号が、クラシカルD&DおよびAD&D 1stのクラス称号から引用されているものが多いためで、これらのゲームに由来する称号である。これら古いD&D系では、*band以上にキリスト教的イメージが強いはずのプリーストやクレリックであり、実際ほかの称号はキリスト教の聖職者の通称や称号(新教と旧教が混ざっている)が大半なのだが、なぜか「ラマ」だけが唐突にチベット仏教語である。こんな称号が平然と用いられていた理由としては、あるいは、特定の宗教(団体からクレームがついたことがある)のイメージを避けるためあえて別の宗教語を混ぜるという深い考えのもとのことかもしれないし、または、単に「高位の僧侶」を指す語のネタが尽きたのでチベット仏教語からさえも引っ張ってきたという、単にそれだけかもしれない。
 AD&D 2ndではクラスの「称号」というものがなくなったが、「クレリックは地方・宗教によって様々な名で呼ばれるかもしれないので、以下から自由に呼称を選んでよい」というリストの中には、ラマの他に「ブラザー」「フライヤー」「グル」「カンヌシ」「ボンズ」だのが混ざっている。少なくとも、これらの用語を、元の意味とは無関係に、世界設定の際に出鱈目に聖職者の名前をつける引用元としか見なしていないことは確実である。従って、*bandのプレイヤーも色々と奇妙な称号をつけられたからといって、深い意味を詮索したりする必要はないということなのだろう。



ランダム Random of Amber 【その他】

 九王子。アンバーの悪漢。オベロンの子らの末弟で風来坊。継承権に関係なく、つねにアンバー以外の”影”をふらふらしていた。

 一枚の絵は、ずるそうな顔つきの小男。尖った鼻、笑っている口、むぎわらを束ねたような髪。そして、オレンジ、赤、茶色の何かルネッサンス風の衣装。長い靴下に、ぴっちりと体に合った刺繍のあるダブレット。こいつは知っているぞ。名前はランダムだ。
(R.ゼラズニイ、『アンバーの九王子』)

 小男(165センチ60キロくらい)で、体格は日本人的な感覚に近い。アンバー前半シリーズでは、ゆきがかり上もあってなにかとコーウィンと同行し活躍する。けちな裏切り者として家族の誰からも疎まれている、とのことであったが、ある事柄をきっかけに変わってゆき、最後には……魅力的なキャラクター揃いのアンバーシリーズでも、最も感情移入できる人物と評する人も多い。ドラムの名手で、グライダーも趣味。戦闘能力も高く、戦う兄弟を機転でサポートするグレイマウザーのような役回りもある。
 が、なぜか[Z]では敵として登場する九王子からは外されており、ランダムアーティファクトの高級防具名リスト(a_high.txt)に名前が見えるのみである。クラスのトランプ盗賊(カードシャーク)は彼がモデルだろうか。
 なお『アンバーの九王子』によるとランダムはコーウィンと同じ母となっているのだが、『ユニコーンの徴』によるとコーウィンの同母兄弟は兄エリック、妹デアドリのみが記されている。この後にランダムと考えられないでもないが、ランダムは継承権が最後になる関係から、やはり違うと思われる。『アンバーの九王子』には後の巻と違う記述が散見するが、おそらく、後になっていくらか設定が変更されたのだろう。



ラーン=テゴス Rhan-Tegoth 【敵】

 旧支配者。亜人間の仇敵、無限にして見えざるもの。ヘイゼル・ヒールド『博物館の恐怖』に言及される小神(なお、この作品は当時添削やゴーストライトを請負っていたH.P.ラヴクラフトがほとんど全部書き直したもので、共著として収録されている)。大きさはせいぜい人間の倍ほどで、全体的なシルエットは蜘蛛か蟹かというところで、球形に近い胴体に甲殻類のような6本の足、アフロヘアーのような頭に三角形につりあがった目が三つ、長い鼻、吸引口がある。
 超古代にアラスカあたりを支配しており、当時の原始的な亜人間らを餌として捕食し、それが住人らの言い伝えにも残っている。一説には、さらに広い地域・種族を支配して暴威をふるったともいうが、どのみち氷河期のあたりに休眠状態に入り、以後は眠ったままである。元来はアラスカの氷に閉ざされた遺跡に鎮座していたのだが、何者かが連れ出し、現代社会に持ち込み、生贄を捧げているともいう。休眠状態にあるラーン=テゴスは、普段は像にしか見えないが、生贄を喰らうごとに力を取り戻し、強大化してゆくのだが、はたしてそうして目覚める日がいつ訪れるかは定かではない。生贄からは、その吸引器官で無惨に養分を吸い尽くし、生贄は消化液の酸で全身に穴があき血を吸い取られる。
 一説には、ラーン・テゴスの命が他の旧支配者の復活の鍵を握っているとも言われ、あるいは彼自身が旧支配者らの司祭にあたる小神なのかもしれず、作中でラヴクラフトの書いている召喚の呪文にクトゥルフの名が含まれている点からも、(外なる神の曖昧な相互関係だけでなく)旧支配者同士の関係というものも想像させる。
 *bandでは[Z]以降登場し、その姿からか蜘蛛類の'S'シンボルとなっている。どの状態まで生贄を捧げられ強大化したものか、また覚醒したものなのか否かは定かではないのだが、70階というクトゥルフ系ユニークとしても割と深い階層で出現する。あるいは上記の説から旧支配者でも重要なものとされているのかもしれない。酸と(腕力)吸引攻撃という原典通りの能力を持っており、同族・デーモン・アンデッドの召喚と酸のブレスというそつのないユニークモンスター能力を持っている。



リヴァイアサン Leviathan 【敵】

 通常「伝説的な巨大な海竜」とされるリヴァイアサンは、もともとウガリットやアッカドの古い伝承の大蛇であったらしいが、ヘブルでは陸の怪物ベヒモス(→参照)との雌雄一対とされ、そこから聖書では他伝承由来の悪魔、ひいては海の怪物の一般名詞のうちひとつとされた。ともあれ、「世間一般教養」としてはリヴァイアサンと言えば国家を巨獣に見立てたホッブスの著書の題名が最初に出てくるべきというのが建前で、それより先に下手に神話についてなど口走るとあべこべにRPG知識しかない教養の低さを露呈することになるのでよくよく注意されたい。
 その姿に関しては、鰐なり海蛇なり龍なり鯨なりと伝承ごとに変化もしており解釈も様々なので、どれに定まっているとも言えない。D&D系では巨大な「鯨」の怪物となっており(D&D 3e邦訳では「レビヤタン」の発音表記)ユニークではなくモンスター種族名である(もっとも、それほど多数がいるものでもないが)。『ファイナルファンタジー』シリーズの召喚獣は海蛇で、これに関してはバハムート(→参照)のようなAD&Dからの引用というわけではないといえる。しかし以降、海蛇や海龍のイメージとされることが多いようである。
 *bandには、この手のさまざまな「一般的モンスター」が追加された[Z]系から登場し、そもそも水地形の追加された[Z]でこそ追加できた代物でもあったりする。しかし、*bandにおいても、はたしてどういった姿であるのかは、やはりはっきりしていない。モンスターの思い出は一行しかなく、「海龍」という語は邦訳のもので、該当する語は原文にはない。フラグはANIMALで、DRAGONはなく、竜でなくなんらかの動物であると考えられるのだが、各種ブレスや火炎打撃、ドラゴンやヒドラの召喚などを持っておりワイアーム的な能力ではある。おそらくは、能力からなんらかの水棲ドラゴンのような姿をして特殊能力を持った独自の「動物」とでも考えておく他ないだろう。フラグのために上級ワイアームかそれ以上に厄介な上に、倒してもアイテム等を落とさないので、できれば避けるのみにしたいものである。



リヴェンデルの竪琴 Harps of Rivendell 【物品】

 リヴェンデルとは『ホビットの冒険』『指輪物語』邦訳では「裂け谷」と訳され、すなわち第三紀に上のエルフらの文化の中心地として残った隠れ里である。他にもそうした隠れ里はあるが、史学の大家であるエルロンドが住み、エルダールの伝承が集積しているのは裂け谷である。(なお邦訳・瀬田版では常に「裂け谷」という表記で、「リヴェンデル」という横文字で出てくる箇所はない。)
 裂け谷 Rivendellとは、エルフ語のイムラドリス(裂け目ある深き谷間)を西方共通語(すなわち英語だが、文語である)に言い換えた名前であるが、Rivendellを古く正しい形のイムラドリスと呼ぶことは、「ウィンチェスター」を「キャメロット」と呼ぶ以上に古めかしい・大仰に伝承めいた呼び方であるという(こういう日本人には殊更にわかりにくい比喩・脱線のため、このあたりのトールキンの説明はあまり要領を得ない)。なおLotR関連サイトでも散々断られている野暮な情報だが、アイスクリームの銘柄Liebenderとは、たまたま日本語表記で一致しただけでまったく無関係である。
 裂け谷は、第二紀にノルドール(上のエルフ)の国エレギオン(→ケレブリンボール →力の指輪)がサウロンに滅ぼされた際、そのさい灰色港のあるリンドンから派遣されたエルロンド(それまでは上級王ギル=ガラドのもとリンドンに住んでいた)とその軍勢と共に、主にそのノルドールらが集まった土地だった。ギル=ガラドの死後はリンドンではなく、上のエルフらとその知識・技が残されたこの地が、中つ国のエルダールらの中心地となる。もとエレギオン組にせよエルロンド以下の元ギル=ガラドの郎党にせよ、この地に住むエルフにはノルドール、上のエルフも多く含まれる。
 裂け谷は東を山脈に守られた谷というその地から天然の要害をなし、さらに西はエルロンドの術によってブルイネン川の流れを操り地を守ることができた(映画版でベンテンアルウェンが行ったのは実に不評であるが、不可能だという証拠もない)。エルフらの集う神秘の地ではあるものの、ロスロリアン(→参照)とは異なり、実在を疑われたり恐れられたりというほどではなく、人間をはじめ他種族とある程度の交流はあったようである。伝承の集積地ではあるものの、知識を求める者にも何もしない者にも騒ぎたい者にも、求める何もかもを与えることができた。そのためかトールキンの物語には妙に(何ヶ月といったオーダーで)やたらとこの地に長逗留する場面も多いが、大局的・歴史的にもホームタウンである。
 映画版LotRの裂け谷は入り口などのいくつかがニュージーランドの森林公園と屋内セット、あとはほとんどビガチュア(縮小模型だがそれ自体が大きすぎるのでミニチュアと呼べなくなってしまった代物)である。その映像は長年親しまれてきた原作のアラン・リーのイラストまさにそのもので、リーの起用で原作ファンから好意票を獲得するという謀略の最も端的な表れのひとつであり成功した点ともいえる。2012年-の映画版『ホビット』でも、原作通りドワーフらとビルボ、ガンダルフが裂け谷に逗留する場面があるが、裂け谷をさらに詳細かつ自由に描写できるよう、ビガチュアを精緻にするのではなく、逆にCG(VRで作られた仮想空間内の裂け谷)の割合が大きくなっているという。
 映画版『ホビット』では、原作での難なく訪れる描写とは異なり、ドワーフらの指導者トーリンがエルフを信用していないため、危機から逃れるためガンダルフに導かれて逃げ込む描写となっている。また、原作では、誰も拒まない(ドワーフの髭をからかいはするが)寛容な谷であるが、映画版はLotRともどもドワーフの豪壮・粗野な面がかなり強調されており、エルフの文化とドワーフ一行の気性が原作以上に合わない描写となっている。本来LotR原作に登場する、他種族がよく理解できない(LotRで羊の顔が同じに見えるようにホビットも人間も区別できないという台詞を持つ)廷臣のリンディアが登場し、一行を必ずしもエルフが歓迎しない旨が描写される。どちらかというと、トールキンの原作よりも、RPG以後のドワーフとエルフの位置づけを思わせ、LotR映画から通じてのこの映画シリーズ特有のドワーフの表現である。
 妖精の谷・隠れ谷といった説話(ムーミン谷と裂け谷の地理的な比較はよく行われている)と、そこからファンタジー一般にも登場例は多い。ことに、D&DのGrayhawkやForgotten Realmsにおける賢人やエルフの住む谷、「谷エルフ」の設定は直接に裂け谷を意識したものといえる(ただし、Grayhawkの魔道士の谷は裂け谷と見るには物騒だが)。
 *bandの「リヴェンデルの竪琴」は、もともとToMEの吟遊詩人の歌集の3冊目(最初の上位呪文書)であるが、[変]の吟遊詩人クラスにも取り入れられている。第三紀に関して言えば伝承や歌といえば裂け谷であることから採られたものと思われる。が、ToMEの「テルハールの鍛冶」(テルハールは第一紀の鍛冶師である)、[変]の「サルマンの甘言」(ToMEでは4冊目に入っている)など、内容までは第三紀の裂け谷に特に因んではおらず、単に上級呪文書の名前として選ばれたというだけのようである。ToMEと[変]では、重なる部分もあるが、内容的にはかなり異なる。



リザードマン Lizard Man 【敵】

 「爬虫類人」という説話は、知能を持った・あるいは偉大な爬虫類がその伝承に現れる世界各地にありふれたものである。そうした偉大な存在や怪物との混血などの「個体」の説話が決まって現れるものだが、ケツァルカトルなどの蛇神信仰が行われたアメリカ大陸の蛇の兄弟のような、「種族」としての説話も存在する。爬虫類人種族は多くのSF作品に、ことに「哺乳類人とは異質な種族」として見られ、スミスやハワードらのヒューペルボリア物のヴァルーシアの蛇人間(→参照)は代表的なものとされるが、ゲームではユアンティ、サウリアル、また爬虫類のみならず直接に「ドラゴン」と関連するコボルド(→参照)やドラコニアン(→参照)、ドラゴニュートなども見られ、一般に爬虫人といっても特定の種族が支配的ではなく、非常に多彩である。
 「リザードマン」という言葉は、これらを指すものとしてはreptilian humanoidsについで一般的なものに過ぎないともいえ、総称あるいは世界設定によってはこれらのうちどれかを曖昧に指す、単なる通称でしかないようにも見える。それでいて、あえて「リザードマン」という一種族に関して定義するならば、ガイギャックス作のオリジナルD&Dにおける、モンスターLizard Man (D&D3e以降ではさらに広義に「リザードフォーク」)が発祥ということになるだろう。D&Dのリザードマンは「ノール」と同程度の大きさであり、トログロダイトやユアンティ各種のような特殊能力をもたず、きわめて標準的なヒューマノイド同様の種族である。(ただし、3e以降のリザードフォークは、リザードマン語がなくドラゴン語を話す、ドラゴンや同系種族と友好等、システム的にこれらの種族との関連に組み入れられている模様である。)原始的で知能も低く、戦闘もきわめて非技術・非組織的に行うと明記されているが、湿地などの地の利は生かして戦うことが多く、どちらかというとその一点のみがこのモンスターの特色ともいえる。
 他のゲームにおけるリザードマンは、ほぼD&D系と同様のゴブリンやオークよりは若干上のモンスターとされている。ただし、(人間の冒険者に拮抗する能力まで成長するものや例外的に強力なものが「ありえない」かのように無意識に片付けられるゴブリン等と異なり)すぐれた「剣技」をはじめとする技術の数々を持っている、ある意味で強敵とされていることが多いのが特筆に値する。これは、最初に記した爬虫人の、異質ながら高度な文明を持っているといったイメージに発している可能性もあるが、決して知能が高いイメージばかりが流布されているわけでもないので、決定的とも思えない。どちらかというと、ゴブリンやオークのような下級モンスターと、オーガやトロル、また魔獣類といった強敵との「中間」という位置づけを中心に、上記のような爬虫人のイメージが幾重もの又聞き的に加わって、「適度な強さを持つ敵」の位置に収まったのかもしれない。ともあれ、古くデータの多いRPGではウルク=ハイなどが持っている位置づけが、リザードマンに持たされていることも少なくないといえる。また名前こそリザードマンだが、前記した他の爬虫人やドラゴン人の性質が持たされている場合も数多く存在する。WizardryVIなどではなぜかドラゴン人(ドラコン)とリザードマンはプレイヤー種族として別々に存在する。
 なお、『ドルアーガの塔』をはじめ、リザードマンには「左利き説」というものがしばしば主張されることがある。この原点として考えられるものとして、多くのRPGの原型であるAD&D1stのモンスターマニュアル(1977)のイラストでは、武器を左手、盾を右手に持っているが、さらに遡れる出典があるのか、またこれに何らかの意味があるのかは不明である(同じページの右下に描かれたリザードマンとおぼしき怪物の方は、右手に棍棒を持っている)。なお、この文献のイラストで左手のみに武器を持っているのは他にイーノグ(イーノグフ)やホーンドデビル(マルブランシュ、後のコルヌゴン)がいるが、これらは後のイラストでは武器を持つ手は左右まちまちである。
 『ドルアーガ』に関しては、作者遠藤氏が某掲示板のスレッドにて、集めた米国産の資料では「左利きのリザードマンばかりだった」ので同様にしたのみで、左利き自体の理由は不明と言っている。『ドルアーガ』は他にもAD&D1stの文献を参照している点が多いので、この資料には上記モンスターマニュアルも入っていたとは思われるが、この時点で米国では他の資料でもリザードマンは左利きとして描かれていたことになる。それ以後のゲームについては、最初期のFTゲームである『ドルアーガ』から影響されているものも多いと思われる。左利きの理由については爬虫人は心臓が右にあり盾で守るため、他種族を攻撃しやすいように、といった説明がされていることもあるが、おそらく各作品ごとの設定の域を出ない。
 *bandにおけるリザードマンは、なぜか[V]当時は登場せず、D&D系のモンスターを多種導入したとおぼしき[Z]とその系統のバリアントで登場する。AD&Dのモンスターマニュアル同様「リザードマン」「リザードキング」の2種がいる。思い出文章には「深淵からやってきたトカゲ」とあるが、このDepthとはダンジョンの深い階層や地獄などを示すのではなく、「水底」を示しているのだろう。ノーマルモンスターとしても低階層で集団で現れる敵だが、リザードキングともども階層の割にはやや強靭で攻撃力もあるため、スレイングの効くオーク類などよりは注意する必要がある。



リチャード・ウォン Richard Wong, Master of Time 【敵】

 時を統べる者。空中超能力対戦格闘ゲーム『サイキックフォース』シリーズに登場する超能力者キャラのひとり。一般人とサイキッカーの対立する『サイキックフォース』世界において、サイキッカーらによる世界征服結社(なげやりな説明)『ノア』のナンバー2であり参謀であるが、実はノアと軍、一般人とサイキッカーの対立を利用し世界情勢を思うがままに動かそうとしている策士で、ストーリー的にはシリーズを通じて黒幕に近い位置にいる。
 お約束のマネジメントにも長ける香港人で、丸眼鏡に長髪のインテリ悪役が見たまんまの容貌にタイガーバームのような珍妙な趣味の服装、「世界は私のもの」「かかりましたね」「この私があー!」といった美男天才悪役としてあまりにもわかりやすい台詞のほか、お前ほんとに東洋人かっていうかギースハワードと同じような似非東洋趣味じゃないだろうなと思うような「四文字熟語」をひたすらに連発する。『サイキックフォース』のサイキッカーらはなぜかそれぞれ特定の要素の能力(主役の熱血漢バーンは炎、鏡使いの元ネタの一人エミリオは光といったように)を持つが、ウォンが司るのは時間・次元である。


 「人間を支配するなんて……間違ってる」
 「いやいや。私が支配するのは『人間』ではなく『時』ですよ」


 *bandでは、[変]においてクラス超能力者の「次元の瞬き」「虚空の幻影」「完全な世界」といった超能力魔法の名がウォンの技からとられている他、自身もユニークモンスターとしても登場し、「完全な世界」の表現でもある時間停止攻撃を用いる。しかし、81階というとてつもない深層であり、一応はラスボス級の超能力者なので無理があるわけでもないが、有名格闘ゲームのボスキャラタイプが30−40階台だったりもする[変]において、また最大の超能力者といえるロック等も遥かに引き離して階層・能力ともに上回っているのは不自然に思えないでもない。ただし、特徴的な「時間停止攻撃」を使ってくるユニークとして他にディオ・ブランドー(→参照)がいるのだが、このディオと固まって出ないよう階層を離し、なおかつ時間停止を60階台より低い階層にするのもいささか危険すぎるので、深階層の方に離すほかにないのではとも思える。直接攻撃は値そのものは秀でたものはないものの(ただし時間逆転攻撃であり危険である)魔法は時間停止以外にもサイコスピアをはじめ危険なものが揃っており、階層に相応の敵である。monspeak.txtには上記をはじめとした台詞(そしてmondeath.txtには上記の死に台詞)が異様に豊富に揃っており、そのベタなキャラクター性が表現されている。

 →完全な世界



リッチ Lich 【敵】【種族】

 lichとは「屍」の文語のひとつで、一応は詩などに貴人の墳墓などに伴い使用されている例があるようだが、「アンデッドモンスター」としては、結論を言うとD&Dシリーズがアンデッドのカテゴライズを行なうため、インフレの末に全アンデッドの頂点として創作したものと見てよい。デザイナーのガイギャックスらによると、古くはCAスミスのゾティークシリーズなどに頻出する不死の魔術師や、ガードナー・フォックスの怪奇短編の描写に影響を受けているという。(日本では、「これらの作品が出典なのでリッチはD&D起源ではない」などと流布されていることがあるが、これらの著作では動かない・動く死体の両方にlichが使用されている、細部の描写のみ引用されている等、lichという名とD&Dのアンデッドの能力を備えた形態ができていたわけではない。)
 クラシックD&Dのものは、ほとんどが27-36レベル(D&Dの頂点が36である)の強力な魔法使か僧侶が自らアンデッド化したもので、無論生前の全能力(魔力)を持ち、吸血鬼の真祖を含むアンデッドを自在に隷属させ、片手の一振りで軍団レベルで呼び出す。死者を操る能力に関してはイモータル(D&Dにおいて、36レベルを越え神化した存在)と同等に述べられることも多く、実際に、AD&Dにおいてデミゴッド(半神)と化しているリッチもいる。見かけは上等なローブをまとったスケルトンのように見えるが、通常の(デミリッチ等でない)リッチであっても高度に魔法的であり、ほとんどの物理攻撃と、中レベル以下の魔法は効果がない。AD&DやD&D3e以降ではこれよりかなり下に幅があるが(例えば、AD&D2ndでは18レベル以上、D&D3.0eでは11レベル以上の術者からのリッチが存在し得る)強いものは似たようなものである。
 これが他のRPGなどに流用されてゆくうち、ほとんどRPGの一般用語と化し、そのまま他作品に使用されていることも多いが、あくまでD&D系モンスターとして回避する作品もある。例えば漫画『バスタード』に登場するものは、モンスター名は「エデ・イー」で、「リッチー」はあくまでエデ・イーになった「人名」であり、その名は(表向きには)リッチー・ブラックモア(脱退したバンド「ディープパープル」が、この漫画でエデ・イーに滅ぼされた国の名にかけてある)のような、この漫画の例によって海外アーティストの名にひっかけてある、という何重にも凝ったパロディになっている。(なおこの漫画での「エデ・イー」というモンスター名自体は、ヘヴィメタルバンド「アイアン・メイデン」のシンボルキャラクターで、ジャケットなどに描かれている骸骨アンデッドのような男「エディ」から採られていると噂される。)なお、現在では、D&DのWoTC社が緩いライセンスで使用可能としているd20のコンテンツにlichの名とモンスターデータが入っているため、アンデッドの名としてリッチを使用する分には特にD&Dに関する問題は起こらない。
 *bandでは、Moriaの頃からのリッチの他、AD&Dに登場するデミリッチや、マスターリッチやアーチリッチなどが登場し、[Z]からはリッチの修行僧(いわゆる即身仏、AD&Dのアーチリッチには修行僧やドルイドが変化した善のものもいる)やアイアン・リッチも登場する。「デミリッチ」の「デミ」は「劣った」の意ではなく、文字通り「半分だけ屍の形を遺すもの」であり、物質体を超越しはじめたさらに強力なものを指す。なお、D&Dシリーズでも版によって「デミリッチ」の定義や位置づけに大きく差があり、「上位存在と化した本体の方は物質を抜け出して去り、デミリッチはそのあとの抜け殻部分」「リッチの体を維持することに失敗して崩壊したもの」などを指していることがあるが、Moria/*bandのものはおおむね上位のリッチを指すと考えてよい。体を失ったデミリッチは頭蓋骨が残り、「眼窩や歯に宝石がはめこまれた髑髏」の姿をしていることがあるが、これはフリッツ・ライバーの『盗賊の館』(二剣士シリーズの2巻収録)に登場する髑髏がアイディア元であるといわれる(ただし、魔術師ではなく古代盗賊王の髑髏で、浮かぶのは半分は盗賊グレイ・マウザーによるからくりである)。
 上位のものでない「普通の」リッチであっても、本来ならば、いても世界に数えるほどといった強大な存在のはずだが(D&Dシリーズの一部版の説明では、城か地下迷宮の最深部にしかおらず、偶然遭遇することは決してないとまで書いてある)、ここでは「普通のリッチ」は「普通のバンパイア」の1ランク上の存在にすぎないらしく、召喚などで山のように出現する。しかしながら、普通のリッチならともかくも、それ以上のリッチは、召喚・テレポートなど鬱陶しい魔法が多い上に、何か異常に耐久力があり、厄介なことはこの上ない。
 他のRoguelikeではNetHackにも登場するのが有名で、Moria/*bandとよく似たものになっているが、こちらはさらにアイテムに「呪い」をかけるなどの効果がさらに鬱陶しいので、「虐殺候補」のひとつとなっている。
 なお、[Z]のヘルプやスポイラーテキストには、種族「骸骨」で、魔法を使うタイプのクラスを選んだものをlichと呼称すると書かれている。[Z]では骸骨の知力は賢さと同様−2だが、一方[変]では+1になっているので、一応メイジを選んでも有利になっている。こんな安易な1レベルリッチがいていいのかという疑問があるが、吸血鬼にしろ骸骨にしろ元々プレイヤーとしては謎だらけなので些細な問題であろう。

 →ベクナ



リナルド Rinaldo of Kashfa, Son of Brand 【敵】

 九王子ブランドの息子で、アンバー後半シリーズから登場し、シリーズを通して縦横に活躍する人物のひとり。マーリンとは従兄弟にあたる。父と同様にパターン魔法を操り、自分のトランプを描く力を持つ。赤毛、6フィートの長身、独特の異相的な風貌の美男子。父の復讐のためにとある手段で地球人として潜伏し、アンバーの王族らと激しい策略戦を繰り広げるが、やがて彼個人や身内の復讐では及ばぬ規模の事態に巻き込まれてゆくことになり、……


 「おれはお前の従兄弟、リナルド」彼がゆっくりと言った。「おれはケインの抹殺と、ブレイズに接近するために来た。葬式の爆弾は失敗だったがな。誰かに目をつけられたせいだ。おれはアンバーの家系を滅ぼしてやる、お前の"霊の車輪(ゴーストホィール)"がなくったって──だが、その類の力があれば、もっと簡単にやってやれるだろうよ」...
 ...「ぼくは──知らなかったよ」ぼくは彼の胸元の不死鳥の留金がきらめいているのを、じっと見つめた。「知らなかったよ、ブランドに息子がいたなんて」ぼくはようやく言った。
 「いま知ったというわけだな、相棒。それが、おまえを行かせられない、こういう所に押し込めなくちゃいけない、また別の理由なのさ。他の連中に警告されたくはないからな」
 「君は、そんなことをやってのけられやしないぞ」
 何秒間か彼は無言だった。そして、肩をすくめた。
 「勝とうが負けようが、おれはやらなければならない」
(ロジャー・ゼラズニィ、『運命の切札』)


 アンバーの王族などのこのシリーズの関係者は、地球では神や伝承で語られている人物という設定上、実在の何らかの説話の人物との関係が不明瞭にほのめかされていることが多いが、このリナルドも例にもれず、伝承性を伺わせつつも直接の由来は明らかではない。例えば、騎士物語で「リナルド」といえば、シャールマーニュのパラディンの一人、モンタバンのルノー卿が有名である。ルノー卿には従兄弟に騎士物語で活躍する魔法騎士(エルドリッチナイト)ことモージス(マラジジ)がいる点はリナルドとマーリンを、ルノー卿の魔剣フローベルジュ(フスベルタ)が破格の威力を持ち数々の説話に名や形を変えて現れる点などは陽光の剣ワーウィンドルなどを連想させなくもないが、それ以外には、優秀なパラディンであるルノー卿とこのアンバーシリーズのリナルドには、にわかには繋がらない点の方が多い。むしろ、フランスの昔話・狐物語の悪漢狐、ルナール(マイクル・ムアコックの小説では狐の盗賊王「ルニャール卿」)が直接の、又はより近い由来ではないかと考察する海外ファンが多い。
 [Z]系の41階に登場、「アンバライト」としては恐らく最初に出会うことになる相手である。「下っ端の敵」扱いされているとも言えるのだが、アンバーの王族の能力や血の呪いの凶悪さを最初に知らしめることになるので、ここに辿り付いたプレイヤーへの印象は中々に強いようである。思い出には父と同様に危険と書いてあるのだが、なぜかあまりブランドと魔法の内容は似ておらず、よく見ると「バラヒアを裏切りし『ゴルリム』」をコピーして作ってあり(ゴルリムはエダインで一応[V]でいえばドゥナダン→[Z]のアンバライトの元なのでそう外れてもいないが)結果的に九王子の多くよりもアーマークラスが高いなど不自然な点も多い。魔法は攻撃系のものばかりで、ストレートな戦いにしかならないが、ようやく40階代ぎりぎりの耐性を揃えて潜ってきたプレイヤーに対してはどれも強烈なので注意が必要である。

 →運命の切札



流星群 Meteor Swarm 【システム】

 古来より凶兆とされた流星やことに流星雨に関してはさておいて、数多くのRPGにおける天から流星を呼ぶ攻撃、隕石攻撃は、クラシカルD&Dより存在するMeteor Swarm呪文に拠っている。かつてはそれほどスケールの大きい攻撃を用いるRPG自体が他には皆無であったものの、その秀でたビジュアルから、特に派手な視覚イメージを旨とするある時点からの和製RPGやCRPGにおいて、最高レベルの攻撃・召喚の魔法として用いられるようになった。
 ただし、元来のD&D系ではこの呪文は何ら「天から流星や隕石を召喚する攻撃」ではない。Fireball呪文(→参照)とよく似た魔力のエネルギー弾を複数作り出す呪文にすぎず、天から呼ぶわけではなく、特にAD&Dや3edでは術者の手から放射すると明記されており、別にそこに呼ばれて来るのが天の隕石そのものというわけでもない。地下迷宮探索ゲームであるD&D系において、いかにも普通に地下で用いられる呪文の発想といえる。その数多くの光弾が軌跡をひくビジュアルと禍々しいほどの破壊力から、「ファンタジー世界的なボキャブラリ」において、Meteor Swarmという名が当てはめられただけだろう。単なるFireballのしかもあまり使い勝手のよくない上位版であるためか、日本のゲーム小説とは異なり、海外のAD&D小説などにおいては「高レベル呪文」として言及される例もほとんどない(実は、主な小説でよく描かれている旧AD&D 1stでは、単なるFireballやMagic Missilesにもダメージ上限がなく、これらの破壊力の方が追い抜いたりすることもあり得る)。
 呪文名の文字通りに天から流星を呼ぶ呪文としての解釈は、初期にD&DのようなTRPGを日本に紹介したりルールを作った人々による、より視覚的イメージの映えると想定して流布したものと考えられるが、そのため地下の冒険であろうと「天から」流星が呼び出されるといった珍妙無比な光景もまた当たり前の出来事として定着させられている。
 *bandでは、まず[V]において[ラアルの破壊集大成]に存在する破壊魔法の一種である。この魔法書自体が高階層なので使えるのは高レベルになりがちだが、最高レベルというほどに難度が高いわけではない。一方向に抵抗のない(エネルギーの)ダメージ魔法を放射するというもので、D&D系のMeteor Swarmにおそらくイメージが近いものである。[O]に由来するスターバースト、[変]のスターダストなど似ているようであまり関連性のないものは別の項目に譲る。[変]ではカオス魔法に「流星群」、またトランプ魔法の「隕石のカード」が同じ効果だが、これらは[V]系とは全く異なりダメージも違う隕石を自分の周囲に多数落とす、という呪文になっている。こちらはトランプ魔法の召喚にも入っている所を見ると、流星を天から召喚するという解釈によるものだろう。トランプでは数少ない直接攻撃のカードということになる。



龍争虎鬪 The Nunchaku of Xiaolong 【物品】

 映画『龍爭虎鬥』(燃えよドラゴン)において、伝説的カンフースターのブルース・リー(Li Xiaolong 李小龍、この映画で演じる役の名もリー)が持っているヌンチャク、を発想元とする武器。この映画の邦訳での題名は『燃えよドラゴン』であるが、ハリウッドと香港映画会社の合作であるこの映画は『龍爭虎鬥』(日本では表記しやすい『龍争虎闘』とされることもある)は中国語圏向きの題で、英語圏での題名は'Enter the Dragon'、すなわち「龍神降臨」とでもいうべき題であった。ブルース・リーは子役時代から通じて、それまでもTVや映画にスターとして出演し続けていたが、この『燃えよドラゴン』は中でもぬきんでて、ブルース・リー、格闘アクション、ひいてはアクション描写でのヌンチャクブームを巻き起こした。この映画の表題ポスターやパッケージとして、ヌンチャクを両手で眼前に捧げ持つリーの姿をもとにしたものが非常に有名である。が、映画中ではヌンチャクを使うのはごくわずかな場面しかない。
 格闘家・俳優としてのブルース・リー本人や、その武道の截拳道(ジークンドー、JKD)、およびこの映画『燃えよドラゴン』そのものについてさえ、ひとつでも満足に説明しようとすればこのサイトの98.725%がそれだけで埋まってしまうので略す。この映画の数々の逸話、例えば、のちに香港映画の有名人となる人材が大量にエキストラやスタントで登場、例えば当時やられ役エキストラのジャッキー・チェン(後ろから腕を極められ、髪を掴まれる役)を、リハーサルで殴りまくっていた(やはりアクション相手として筋がよかったためなのだろうか)ことをリーが後まで悪いと思って気にしていた、といった話題は尽きることを知らない。なお、同様にちょい役で登場していたサモ・ハン・キン・ポーが後に主演として撮った『燃えよデブゴン』は、邦題を見ると『燃えよドラゴン』のパロディに見えるが、原題の『肥龍過江』はリーの別作品『猛龍過江』(邦題:ドラゴンへの道)のオマージュパロディである。
 中国武道にはさまざまな武器(器械)を扱う技術が含まれるが、ヌンチャクは、詠春拳(リーが幼少時代に香港で習っていたもので、截拳道の元とされる)の特に主要な武器ではない。さらに、リーが劇中使用していたのはよく知られた琉球唐手式のようなヌンチャクではなく、エスクリマ(フィリピン武術)で使われるタバク・トヨクに近い(この武器や操法も、普通にヌンチャクとも呼ばれる)。じかに重い双棍の性質を残し破壊力にすぐれた琉球式に比べ、エスクリマ式のヌンチャクは棍が短かめで、接合部が長く、素早い動き・変則的な動きが可能とされる。リーが実際に撮影用に用いていたものはプラスチック製の軽いものだったといわれる。
 日本ではカンフー映画に匹敵するほどに世に格闘アクションを広めた格闘漫画『北斗の拳』では、主人公ケンシロウ(→参照)の漫画での造型は、モデルのひとりにブルース・リーがあることは有名である。ケンシロウは武器を使うことはほとんどないが、漫画にもわずかにヌンチャクを使った場面があり、おそらくこのモデルであるブルース・リーを意識してのものと思われる。
 *bandのアーテイファクトは、[Z]の日本語化の際に独自要素として有名アイテムが追加されたものである。 加速や隠密などもあるが、職業が修行僧のときは打撃回数の追加があり、素手に匹敵する攻撃が可能となっている。ドラゴンと動物のスレイングがあるが、これは名前に「龍」と「虎」が入っているだけの理由かもしれない。 同様に火炎ブランドと耐性も映画の邦題からなのかもしれない。修行僧にとってはかなり強力な物品のひとつである。



リリアのダガー The Dagger of Rilia 【物品】

 リリアの短剣なる品はトールキンの設定には存在せず、リリアをシンダリン語で読むとアーティファクト解説のように「地獄の輝き」のような意味になるのがわかる程度であるが、「ダガー『リリア』」ではなくThe Dagger of Riliaという表現から、リリアとは物品の名ではなく、このダガーを持っていた「人物」の名であることに気づいた*bandプレイヤーも多いかもしれない。
 TRPG(MERP)用に作られたICE社の設定を見ると、「リリア」という名は、中つ国の最南端に住んでいたノルドール・エルフの女性の名に見ることができる。ICE社ではトールキンが設定していない地域の地図も作っているが、モルドールより南は砂漠を挟んで、現代地球の南アフリカのように尖った地形ではなく複雑な港湾地になっている。 この地域「アルドール」のナウアリンドルという地域の支配者であったのがリリアというエルフである。この地域はモルドールから離れていることもあって、サウロンの影響からは離れて支配していた。
 「リリア」とは設定では同じシンダリンで「輝く虚空」の意という英訳が添えられている。彼女は妖術師の支配者で、第三紀としては割と強力な方にあたるエルフ(33Lv)のようである。ノルドールには非常に珍しい、暗赤色の髪と黄褐色(金色)の瞳を持っていた。総じて、よく知られているエルフとは異質で妖異な印象を与える魔女王、ということになるだろう。短剣の設定はなく、持っていたのは灰色の杖で、これは炎系の呪文を増強させ、火炎攻撃を行い、また命令によって長剣の形へと変形できる能力を持つ。
 *bandのリリアのダガーは、あるいはこのICE設定のリリアを参照したか、意識したか、あるいは名前だけ採ったとも考えられるのだが、「毒のダガー」というあまりICEの設定とは関係のない品になっている。「魔女」の品ということで意識されているとも考えられるのだが、どちらかというとダガーのアーティファクトを増やすために、特に設定を重視せず、魔女の名を採っただけではないかと思える。割とベースダメージも高く、発動で悪臭雲と、初期に入手できれば有効な物品と思われるのだが、レアリティがダガーの物品としてはかなり高い方に属するため(低階層ではアーティファクト自体が出にくいため、低階層アーティファクトの体感レアリティはやや高くなる)あまり入手し活躍する機会は多くないかもしれない。



理力の武器 Weapon of Force/RIRYOKU 【物品】

 [変]に早い段階から取り入れられた「理力の武器」は、MPを消費するかわりにダメージが増大するというもので、これは直接は(もはや説明するまでもない気がするが)『ドラゴンクエスト』シリーズの「りりょくのつえ」から採られている。DQ3の「りりょくのつえ」は比較的序盤に登場するアイテムのひとつで、使うとMPを消費するがその時期としては割と高い威力を発揮し、まだ必ずしも攻撃力の高くない魔法使い系の攻撃手段として重宝する、印象の強い物品であった。
 従って、精神力で刃を形成する武器の類(安手のファンタジー作品の「強そうな武器」のアイディアとして使われる場合は最低最悪に安直な、光が刃になっている聖剣云々)とは根本的に別根であるのだが、[変]においてはこれが「りりょくのつえ」単一の物品ではなく、剣その他などあらゆる武器につく可能性があること、また後述もするが序盤の杖どころかむしろ強力な武器につく場合(「強力武器」の望ましい条件)の方が重要なので、原典のイメージは忘れられがちである。(なお現在では、DQでも理力の武器に対して、「光の武器」のようなイメージイラストもあるらしい。)元のりりょくのつえのように、腕力など肉体能力でなく、知力や魅力などを要素にして「通常攻撃」力に変換する杖などのアイディアは、CRPG黎明期のシステムの異常に複雑な海外ゲームなどに見ることができる。日本では、比較的新しい(80年代後半)だが『エリシュオン』というRPGのロッドやスタッフは、魔法の道具ではなく、魅力や知力が威力に変換される「武器」であった。
 [変]の「理力」エゴも、知力や賢明度が上昇することから見ても、どちらかというと魔法系のキャラクターの杖などにつくイメージが先行していたのかもしれない。しかし、実際はMPの存在する打撃寄りのデュアルクラス(剣術家のMPは無関係で、修行僧は武器が使えないので無関係であるが)にとって、威力に直結する最重要要素となっており、知力・賢明上昇もそのMPの底上げ要素と見なされる。MPが続いている限りではあるが、他のスレイング(3倍、倍々打でも5倍)とは一線を画する6倍ダイス、あるバージョンからは3.5倍だがどんな敵にも確実に大ダメージをたたき出すため、ベースダメージの大きい大型武器にこのエゴがつくか、それよりもむしろランダムアーティファクトにFORCEフラグが付くかどうかが、これらクラスでの武器判定の最重要要素と言っても過言ではない。元のDQからは離れたものの、ファンタジー作品の強力武器にありがちな能力として妥当な位置にはあるかもしれない。



リンギル The Long Sword 'Ringil' 【物品】

 アルダ第一紀のエルダール、ノルドール一族の上級王フィンゴルフィン(本人については、上級王フィンゴルフィンの名のついた各物品の項目参照)の剣で、モルゴスと直接対決を挑んだ場面に登場する。リンギルとはシンダリン語で「冷たい星」の意。この剣によってモルゴスは直接に7つの傷をつけられ、ことに最後にフィンゴルフィンを踏み砕こうとした時に足を刺された傷のため、以後足を引きずって歩くようになる。中つ国に住んだエルダールでは最大の武力であったといわれるフィンゴルフィンの名と共に、中つ国の光の勢力では最大の武器と見なされる。(ただし、例外的な魔剣グアサングとアングウィレルを除けばのことで、ICE社のRPG, MERPではリンギルもこれらには及ばない。)
 なお、「リンギル」とはトールキンにとっては根源的な輝きを示す重要な語であったようで、トールキンの『失われた物語の書』(原稿集the History of Middle-earthの第一巻)によると、創世神話時のヴァラールの二本の巨大な灯火(南北どちらにも)に一時この名をつけていた案があり、また灯火の立っていた内海に'the Sea of Ringil'と名づけられていたこともある。フィンゴルフィンの剣にこの名がついているのは、語義通りに「冷たい輝きを放つ剣」であるためもあろうが、この上級王の剣は、それ以上に非常に強力な「光」の剣という意味を持たされていることをうかがわせる。
 [V]ではフィンゴルフィンの名声と該当場面の勲から、最強級の武器の能力が与えられており、さらには素早さの描写から+10もの加速能力を与えられている。またその絶妙なレアリティから、[V]を中心に、最貴重品・最強武器の代名詞となっていた。
 しかし、[Z]や[変]では、強敵の性質の違い、加速アイテムのインフレによる加速能力の必要性の低下などで、もはや打撃系の最終装備級の武器とは見なされていない。([Z]系では他の補強アイテムが豊富に存在するため、武器には純粋な打撃能力が要求されるためか。[Z]系の『ヴォーパルブレード』は無論だが、[V]からの『苦痛のグレイブ』などが再び脚光を浴びることになる。)
 だが、打撃能力が副次のクラスで打撃そのものを二次とし加速を重視する場合や、[変]での二刀流の副武器としてなど、重要性自体は依然として高い。



ルイージ Luigi 【敵】

 地味な脇役。任天堂のゲームの、配管工『マリオ』が登場するシリーズに、2プレイヤー用キャラクターとして登場するマリオの色違いの弟。
 その名の由来に関してはまことしやかな説が囁かれているが、実際には「ルイージ」は「マリオ」同様、イタリア人男子のきわめて一般的なファーストネームのひとつであり、マリオ同様に任天堂アメリカのスタッフが命名した、由緒あるものである。しかし結果としては、日本スタッフがその命名を聞いたときについ「マリオの類似品だからぴったりの名だよね」と発言してしまった歴史的事実は決して拭い去ることはできないものだった。さらに一時は公式サイトのキャラ紹介にさえ「類似だからルイージなのかも」とだけ書かれていたことがあった。
 元来二人同時プレイでマリオと共に常に活躍する『マリオブラザーズ』ために作られた弟であったものの、大ヒットとなった『スーパーマリオ』ではシングルプレイの二人目に過ぎず、影の薄さが定着するのは避けようがなかったといえる。そこに、吉田戦車による漫画が、兄に対する腹黒い反感を描き、しばしば本編のゲームにすらその影響が見られるようになってから、卑屈なヘタレキャラのイメージが強く定着してゆくのである。ウェブにはルイージのファンサイトも少なからず存在するが、その雰囲気は多くはデスクリムゾン(→参照)やアミバ様(→参照)のファンサイトの類と酷似したノリを感じさせる。
 が、スタッフに愛されていないかというとそういうわけでもなく、むしろサブストーリーや設定は多いほどで、マリオよりかなり若い(年齢自体は実は大差ないのだが、マリオの見かけが設定年齢より明らかに老けすぎているため)ことから若い恋人デイジー(しかしデイジー自体は、海外版のNES用マリオで単にピーチ姫の名を変更していた、その名に由来しており、類似品以前の問題だったりする)周りなど、ストーリーが必要なさいに中心となることも多い。ただしルイージと話自体のファンらにとっての影の薄さから、それらも認知度が低いものになりがちである。なお、あくまで原作の設定上は、マリオとルイージは非常に兄弟としては仲が良く信頼感は高いものとなっており、兄への反感は派生やネタである。ただし、前述のようにヘタレやネガティブ、兄への若干の目標・対抗意識などについてはキャラ付けの際に見え隠れする。
 [変]においてマリオとあわせて登場する。任天堂のゲームではルイージの方が身軽でジャンプ力が強かったりと(その分パンチ力などに欠けるため、ヘタレキャラ性を強調されがちである)差がつけられていることが最近では多いが、[変]のデータにおいては、筆者の確認した範囲ではマリオとの何らかの差を認めることはできなかった。

 →マリオ →クッパ大王



ルシエン王女の影のクローク The Shadow Cloak of Luthien 【物品】

 ルシエン(ルシアン、ルーシアン、ルーシエンなど邦訳では記述が一致しなかったりするが、物品コメントにもある通りこれらは微妙な聞き取り次第で明確な差はない)は、アルダ伝説時代(第一紀)の代表的なエルフ王女であるが、典型的な物語の深窓の姫ではなく、波乱に満ちた冒険に身を投じていった自らも物語の主役であった。
 ルシエンは第一紀の中つ国のエルフ(ハイエルフ以外)の王である灰色マント王シンゴルと、その后でマイア(下級神)のメリアンとの子だった(ただしメリアンは地上では「エルフの肉体」をまとっていたので、便宜上ルシエンは「エルフの王女」とされる)。ルシエンは黒髪で、青い服をまとい、夜の星のような美しさを持っていたという。
 しかし、人間の王子べレンと恋に落ちたことが──というよりも、シンゴルの親馬鹿故のあまりに無茶なベレンへの要求(ルシエンを得たくばモルゴスの宝玉シルマリルを奪えとの)が、ルシエンをも過酷な運命に投じたのだった。結果的にはべレンとルシエンはアングバンドの最下層からシルマリルの一個を奇跡的に持ち帰り、さらに紆余曲折の末に、ルシエンはべレンと短い余生をともに送った(半エルフ以外のエルフでは、ルシエンが唯一、人間の死を選んだとされる)。べレンとルシエンの子孫が、ヌメノール王朝となり中つ国のドゥネダインの王の血筋にまで連なる。
 映画版FotRでも、原作通りアラゴルンがルシエンの叙事詩を口ずさむ場面があり、最後にルシエンはどうなったのかとフロドに聞かれて「死んだ」とだけ答えるので、まるで非業の死でも遂げたように聞こえるが、原作のルシエンの運命は悲しくもあくまで幸福な終末と見なされている(映画のその口調は、おそらく自分の、不死のエルフとの相愛の末路を思ってのことだろう。映画のアラゴルンは、ベレンのように彼女を自分のために「死なせる」ことはしたくないのである)。
 さてルシエンの「影のクローク」であるが、話を戻してルシエンはべレンに会えないようシンゴル王に塔の高みに閉じ込められた時、「ろっぽんぞー」姫のように自分の髪をより合わせて綱とマントを作り、脱出する。この漆黒のマントには影のように身を隠す力と、眠りをもたらす力があり、兵士らを眠らせ、また隠れて脱出したわけである。その後もこのマントの力でサウロン、カルハロス、遂にはモルゴスまでもがバタバタと眠る。これを反映して*bandでは[V]以来、強力なスリープ魔法を発動することができる。さすがに終盤使えるほどの威力ではないが、ルシエン本人が眠りの歌と共に使うわけではない以上仕方がない。他には基本元素耐性と光・闇耐性、知能系とスピードにわずかな修正があるが、強力というほどではなく、中盤までに手に入れば耐性維持の選択肢となるといった程度であろう。



ルグドゥシュ Lugdush, the Uruk 【敵】

 アイゼンガルドのウルク=ハイ。『指輪物語』TTT原作および映画版にて、オークらが二人の若いホビットを捕虜にして強行軍を行う場面に登場する。サルマン配下のオークの隊長ウグルク(→参照)の部下で、ウグルクの台詞の中に、部下のオークらに対して「ルグドゥシュのあとについてけ!」と号令をかける台詞がある。従って、ルグドゥシュはウグルクの副将格か、隊の先鋒役をつとめていると推測できる。
 しかし、トールキンの全原稿の中にこの名前が出てくるのはこの一箇所だけである。かなぶんやら首つり草やらとてつもないちょい役までも項目にして重複説明を憚らない『トールキン指輪物語事典』にすら、ルグドゥシュの名前は載っていない。*bandのユニークオークの名には、トールキン著作の中でもほんのちょい役の名前だけ同然を無理やりデータ化したものも多いのだろう、と誰しも思っているであろうが、このルグドゥシュはその予想にあてはまるものの中でも、極めつけと言えよう。
 それだけではどうしようもないので、もう少し掘り返してみると、映画版TTTにおいて、ウグルクがそばにいる似たような姿のウルクと何度か相談している台詞があるが、一応このひとりは「ルグドゥシュ」であると脚本には設定されているらしい(演者:Robert Pollock)。MERPの設定では、ルグドゥシュには完全なデータ設定があり、名前とレベル値しかないアルヴェドゥイ(→参照)やドワーフ13人衆の大半などの一部有名人よりも、扱いは遥かに良い。隊長ウグルクの片腕で、隊の先鋒および斥候をつとめ、データ上も戦士ではなく忍びクラスを持ち、弓矢や隠れ外套などをもつ俊足のウルクである。
 *bandのデータでは、特にトールキン要素を念入りに削除している特殊なバリアントでもない限りは、(存在していること自体忘れ去られたまま)アルダ系と[Z]系とわず、すべてのバリアントに登場する。しかし、普通の戦士系のオークのユニークであり、しかも初期のデータやそれを踏襲したままの[Z][X][変]などでは、隊長のウグルクよりも深い階層で、攻撃力も高く、そしてどういうわけかオークユニークとしては『アゾグ』に次ぐ二番目の階層・強さにあたる。これが明らかにおかしいと考えられてか、ToMEのすでに1.0系や[V]2.9以降などでは、ウグルクとルグドゥシュが同階層とされたり、攻撃力の数値が入れ替わったりと細かい調整が行われている。おそらく、こんなキャラであるだけにプレイヤーがこうした細かい変更点に気づいていることはほとんどないと思われるが、それだけにメンテナーらの細かい配慮を思わせる点である。

 →ウルク →ウグルク



ルルイエ R'lyeh 【その他】

 H.P.ラヴクラフト『クトゥルフの呼び声』他において、大いなるクトゥルフ(→参照)が眠っているとされる海底都市。他の「クトゥルフ神話」派生作品においても、クトゥルフとその眷属(→クトゥルフの落とし子)、多数の下僕らが眠っている都市として位置づけられる。「ル・リエー」という読み方もあるが、ゲームおよび「クトゥルー」表記の作品等においても、「ルルイエ」という発音の方がやや多数派である。
 ルルイエはかつて地球を覆ったクトゥルフの勢力の都市であったが、現在は海底に沈んでいる(『クトゥルフの呼び声』に登場したニュージーランド沖合の南緯47度9分、西経126度43分に少なくともその一部があるが、派生作品では日本海溝近くまで伸びているといった説もあり定かでない)。沈んだ理由は億単位にわたる年月による地殻変動と考えられるが、旧神・邪神対立型の「クトゥルー神話」では旧神らがルルイエを海底に沈めることでクトゥルーを封印したことになっている(水の邪神ならば水没によって封印されたというのが辻褄があわないという意見が多いが、こじつけのしようはある)。海底にあるルルイエだが、星辰の位置が揃ったとされる時にしばしば一部が浮上する。また、対立型のクトゥルー神話では、将来ルルイエの浮上と共にクトゥルーが恒久的に目覚めて地上を闊歩するとされるが、信者はそのときにルルイエで旧神の封印を解く呪文を唱えなくてはならず、クトゥルーとその眷属の教団はその予定のために活動しているとされる。
 対立型神話のみならず、クトゥルフは水の怪物を従え、その怪物らはクトゥルフの眷属やそれに連なる者と認識されていることも多いが、元々ルルイエは地上の都市であり、それが予定外に「水没」したために、その後になってから「水の怪物に崇拝されるようになった」とも考えられ、解釈次第であるが興味深い点である。
 *bandでは、最初に[Z]においてクトゥルフとクトゥルフ神話系の要素として加えられたわけであるが、[Z]当初はルルイエの浮上は「クエスト『海底都市』」となっていた。幾つかのクエストを終了し条件を満たすとルルイエが「街」の形でマップに出現するという形になっていた。街にはクトゥルフと落とし子がおり、[ネクロノミコン]などが落ちている。無論、非常に危険な場所であるが、高レベルにおけるスカム的な行動のために利用されることが多かった。[変]では広域マップが選択されたバージョンから大幅に変更され、ルルイエは「ダンジョン」の一種となっており、最深部にクトゥルフがいる。サーペント戦前のユニーク(クトゥルフに限らず)討伐に赴くことが多い。

 →クトゥルフ →深き者



ルンゴルシン Lungorthin, the Balrog of White Fire 【敵】

 マイア。白炎のバルログ。モルゴスの私的親衛隊バルログ(→参照)の武将格のひとりで、トールキンの未整理原稿the History of Middle-earthに名前が見られる。レイシアンの謡(HoME3)において、アングバンドでモルゴスに仕えるバルログの長(Lord of Balrogs)がこの名になっている。バルログ自体の首領であるゴスモグ(→参照)と別に隊長がいるというのは、バルログの一部護衛隊のみの統率役なのかもしれないし、他種族も含めた護衛軍団の長なのかもしれない。また記述が少ないことから、単にルンゴルシンは、ゴスモグの別名として使われているという可能性もある。
 ともあれ、『クゥエンタ・シルマリルリオン』に記述されたバルログの長ゴスモグを除けば、唯一、トールキンが名前を設定しているバルログである。この由緒正しさから、海外のRPGでは、アルダ以外を舞台とする世界観においても、ゴスモグ同様に邪神・悪魔の名として採用されている場合がある。
 ICE社のトールキンTRPG, MERPの設定では、ルンゴルシンは護衛隊の隊長(Master of the Guard)という設定になっており、モルゴス自身、最高指揮官サウロン、そしてバルログの長であるゴスモグの命令だけを受け付ける。白い体に無色の炎を操り、またバルログではあるが力押しではなく、不意打ちや策略を得意とする。見かけは白色だが、他のバルログ同様に扱う術や力は純粋に炎や熱に関するものである。能力はゴスモグに次ぎ、他のバルログ(ドゥリンの禍を含め)に比べて段違いに高い。'White-demon'や'White Fire'の名の通りの白炎の剣『ニムリスト』の他、白いオガムアで作られた鞭『ログノール』、職権の印である杖(矛)の『ウンダマルス』を持つ。
 *bandでは、[V]からバルログの上級ユニークとして登場する。対処法などはバルログの項目を参照されたい。かなり深い階層だけにそれなりの準備が望ましい強敵である。基本的にはICE設定に準拠した存在のようなのだが、[V]のrumors.spoの頃から長剣「カルリス」はこのルンゴルシンの剣という設定になっており(ICE設定ではカルリスはモリアのバルログの剣で、ルンゴルシンの剣は二ムリストだが、カルリスになっている理由は定かでない)[変]では一定確率で『カルリス』を落とす。

 →カルリス



ルーンの地 The Land Of Rhun 【その他】

 Rhunは従来のトールキンの邦訳では「リューン」と書かれていることが多く、「ルーン」という表記はLune ルーン湾やルーン川、すなわち灰色港に通じている中つ国西端の湾や川の場合が多い。もっとも(LとRの差を除いて)日本語表記すると、Rhunの方も「ルーン」の発音に近いのかもしれない。
 ともあれRhunとは「東」の意で、おおむね「東夷」種族の出身地である東方の地を指すが、狭義では、『指輪物語』などの地図の東端にある大きな湖「リューン湖」の付近を指すとも考えられる。(もっともリューン湖自体が単に「東にある湖」という意でつけられた名で、もっと東も指すリューンとは別といったものかもしれない。)ゴンドールでは湖とそれより東を大雑把にリューンと呼ぶ。ゴンドール全盛期、ことに北方人(→ロヒアリム)の先祖であるロバニオン王家がモルドール真北あたりに住んでいた頃はゴンドール人が足を伸ばすこともあったようだが、『指輪物語』時代をはじめ、もっぱらこの地域はサウロンにくみする東夷の勢力範囲となっている。
 ToMEでは、この地域がなぜか「ダンジョン」として追加されている。迷宮、都市といった閉鎖空間や、山野といったとくに険しい地域ではなく、地図では特に開けた地域にしか見えないリューンがダンジョンとなっているのは不可解を感じないでもない。何か物品やユニークを登場させる目的かと推測するところだが、結局のところ東夷で最初に闇の軍勢(モルゴス)についた黒色王ウルファング(→参照)がダンジョンの主となっていることからも、さして強い動機があるようには見えない。強いて言えば、「危険な地」であること、またボロミアの先祖が「リューンの湖に足を伸ばし、アラウの牛を狩った」といった話から(→ボロミアの角笛)「冒険の地」であると意識されているのかもしれないのだが、ToMEの最近のバージョンではことに、モルドールなどの本筋のダンジョンが厳しくなっているので、比較的低階層のダンジョンを増やす目的が主なのかもしれない。



霊視 Precognition 【魔法】

 プレコグニション、未来予知能力とは、おそらくESP(超知覚)的な超能力の中で、もとい、いわゆる霊能力や魔法などの中で最もポピュラーなもののひとつである。精神論的な立場では、宿命論などで決まっているものを見るとする一方で、未来決定論に懐疑的な理論的(と表現できる分野かは定かではないが)な見地では、未来予知とは、結局のところいわゆるテレパシーや透視・遠視、来歴探知(つまり逆の能力、ポストコグニション →サイコメトリー)などの他の能力であり、それらの情報を意識的ないし無意識的に分析していわゆる予測を得ている、などという見方もあったりなどもする。
 RPGでも、特に超能力、また魔法で明確に「未来予知」とされる能力がデータ化されていることもしばしばある。しかし、正確に将来起こることを予測できるとゲームとして成立不能・再現不能となるため(が、まれに、T&Tのソロシナリオで神の類を叩き殺すと未来が全部わかったり操作できるようになる、といった滅茶苦茶な例もないでもない)プレイヤーキャラクター側が予知する事柄(出来事、どの未来の時期)を指定できない、ひいては特に超能力や神託などの場合は、プレイヤーキャラクターが能動的に予知能力を使うことができず、いつ予知が得られるかが不定という受動的な能力であることも多い(これは、フィクションの主人公が持つ限られた能力の特性にもよくある)。また、仮に予言が得られても「未来は不定なので予言通りになるとは限らない」といったあまりにも無責任な扱いであったり、さらに多いのは、わかるのは未来のごく一部(瞬間の映像など)にすぎず、他の要素は不定などといった性質を利用して、入る情報をごく限定的なものにとどめる場合である。
 また、下位の予知能力の一種として、ごく近い未来の限定的な予測能力として、相手の動きを予知することで防御能力を向上させるといった、まさしくゲームならではの非常にシステム的な能力をデータ化しているゲームも多い。
 *bandでは「霊視」は[Z]の超能力者から[変]などでも引きついでいる最も基本的な能力であり、探知能力、それもレベルが上がると様々な効果が追加されていくといったものである。Precognitionとは予知というよりも、あたかも訳語の「霊視」のような意味で、最もポピュラーな超感覚能力の語として選択されたと思われる。探知が重要である*bandでは言うまでもなく強力であり、また(能力の種類を少なくする超能力者クラスのデザイン視点から)1能力で何でもわかるようになるのは非常に便利であることから、この能力のせいで超能力者がやめられない、といったプレイヤーも少なくない。



伶人マグロールの竪琴 The Harp of Maglor 【物品】

 マグロール(『クゥエンタ・シルマリルリオン』旧和訳では「マグロオル」)とはトールキンのアルダ世界の神話・伝説時代のノルドールの王子、7人の「フェアノールの息子」らの次男である。Maglorとはおそらく「黄金glor- の手 ma(i)-」の意と思われる。詩人として知られ、シンゴル王の伶人ダイロン(→吟遊詩人ダエロンの竪琴)にはさすがに一歩譲るものの、第三紀に伝わる神話・伝説時代の伝承の大半が由来する『ノルドランテの謡』の作者もマグロールである。父フェアノールおよび6人の兄弟と共にモルゴスと戦うために中つ国に渡航し、軍をひきいてアングバンド包囲網の一箇所をなすが、主に長兄マエズロス(→丈高きマエズロスのマンゴーシュ)と共に行動していることが多く、統率者のマエズロスをさらに抑える参謀役のような側面がある。マエズロスと共に敵や同族との血塗られた戦いを最後まで生き残り、二つのモルゴスのシルマリルのうちひとつを手にするものの、シルマリルは彼を認めずその手を焼き、痛みに耐えかねたマグロールは最後のシルマリルを海へと投じた。その後はマグロールは海辺で悲しみの歌を作りながら生き、二度とエルダールらの間には戻らなかったという。
 なお、マグロールが護っていた地域に、アングバンドを包囲する山地が途切れる通称「マグロールの山あい」と呼ばれる場所があり、エルダールの第一の大敗北(俄に焔流るる合戦)では全軍はここを死守しようとしたものの、巨龍グラウルング(→参照)によって突破された。
 のちに『指輪物語』時代に登場する伝承家エルロンド(と兄弟エルロス)を育てたのもマエズロスとマグロールだが、おそらくエルロンドの伝承家としての技や知識はこの詩人としてのマグロールから教わったものが非常に大きかったであろうことが推測できる。
 トールキンの原稿集the History of Middle-earthによると、初期の案では、フェアノールの息子らの他の全員をはじめノルドールの関係者は細かい綴りが変わっていたりまったく別の名前になっているものが大半だが、「マグロール」は多くがこの名前のまま、常に「歌い手」「詩人」が併記されたままである(『クゥエンタ・シルマリルリオン』の最終案には「マイロール」という名の案も見られるが)。おそらく、ノルドールの重要人物の中でも特に最初からイメージが固まっており、後の伝承の多くを伝えた人物という案で最初から重要だったのかもしれない。また、しばしば「力の歌い手」「強き者(mighty)」という名が添えられており、あるいは、第一紀でのサウロンや『指輪物語』のボンバディルのように、マグロールには強力な言霊を操る「魔力ある者」としての性質が与えられていたのかもしれないと推測される。
 ICE社の指輪物語TRPG, MERPの設定では、マグロールは他のノルドールの諸侯に前後する85レベルの吟遊詩人で、「シルマナイニエ」という剣(フェアノールの鍛えたもので、のちのアンドゥリル等よりはるかに強力である)の他は名前のある品は持っていない。竪琴でなくリュートを持ち、このリュートは呪文や呪歌の効果範囲を3倍にする効果があるが、名前がなくただ「リュート」としかない。
 *bandでは、マグロールの琴はToMEの楽器アーティファクトのうちのひとつだが、ToME2になって追加されたもののひとつである。マグロールの楽器に関してはトールキンでは定かではないが、「黄金の手」というその本人の名前から弦楽器、そしてリュートよりはハープの方が相応ではないかという気もする。楽器アーティファクトの中では(そう数があるわけではないが)階層も深く高級なものに属する。発動もなく、基本元素耐性と轟音耐性、わずかなスピードと能力上昇その他の能力と、かなりベーシックな底上げ品にとどまっている。

 →フェアノール →丈高きマエズロスのマン・ゴーシュ



レイス Wraith 【敵】

 出典:wraithは起源・語源ともにはっきりしないが、中世以降に現れた語でスコットランド語のwarth 守護(聖)霊、もしくはvartha 魔霊(ジン)が変形した、といった説がある。そのスコットランドでのレイスは、本人と同じ姿をした生霊で、死の直前に現れ死を予告する、あるいは葬儀に現れるといったもので、語源の守護霊に関係あるのかもしれない。実質上は各地においてghostとほとんど同義の古式表現とされたものの、ウォルター・スコットやテニスンといった作家が用いてからは、もっぱら「死者のようにやつれた」人間に対する詩文的な形容として近代以降かなり一般的な語となり、日本でもそれを和訳した「幽鬼」が同義で普通に使われている。
 トールキンがRingwraith(指輪の幽鬼)等に用いるレイス(幽鬼)は、トロルやエルフ等同様にほとんど独自の定義といってもよいもので、生きながらにして指輪やモルグルの刃に心を蝕まれて幽鬼となったものを指す。故に「死者」が霊として活動している「アンデッド」ではない。死霊ではないという点が語源を意識したのか、はたまた偶然かは定かではない。
 しかし、RPGに登場するものはほとんどの場合、D&Dシリーズのようなモンスターとしてのレイス、「非実体のアンデッド」として基本的なものと、ほとんど同様の扱いの存在になっている。これは別のコメントでも述べたことがあるが、D&D系において通常の生物は物質(マテリアル)段階から非物質エーテル、霊魂に至るまで、幾重にも及ぶ要素が重なって構成されている存在といえる。物質段階から魂が抜けた「死者」が非物質エーテルや影界物質、負エネルギーの肉体を持つ状態で活動する存在こそが、要は種類の上で大半を占める霊体アンデッドである。死後・死者の具体的な状態や、どれほどの強さ・期間で残存するか等はまちまちだが、「レイス」とはアンデッドとして活動する比較的基本的なもので、非実体ではあるが、まだかなり主物質界寄りの存在といえる;物質の影響を及ぼしも受けもしないが(後述のエナジードレインを除けば)、一方では主物質界からおぼろげに目視することができ(完全な幽体は目視できない。なおD&D系では闇が凝縮したような黒い影で目などが赤く輝いていると、姿も特定されている)魔法の武器や呪文からは影響される。AD&Dの幽体化(レイスフォーム)呪文などの説明によるとエーテル界の存在と相互に影響する存在であるため、おそらく非物質エーテル体でイセリアルボーダー(エーテル界と主物質界の境界面)に呪縛されているためと説明されることもある。
 なお巷のRPG解説では、ワイトおよび特に「レイスの特徴」として、経験レベルを吸収する「エナジードレイン能力」が説明されていることがあるが、これは通常の生命力ではなく負の生命力で動くため「負物質界(ネガティブ・マテリアル・プレイン)」と繋がっているアンデッドの大半に共通する点に過ぎず、決して「レイスの特徴」ではない。(なお「死者が生の血と暖かさを渇望して」吸収する云々は本当に単なる詩的表現にすぎない。)
 一部の和製TRPGには、こうしたRPG一般の定義でなく「魔術師がある種の呪文で幽体離脱した霊体」のみをレイスと指しているものがある。これは、原型のスコットランドのレイスが死霊でなくいわば生霊(一般的には、生者が呪いなどのために幽体離脱したもの)の一種であることを意識したものかもしれないが、一般的RPGのセオリーに無駄にそむいて違和感を与える、さかしい例にしかなっていないように思える。なお、D&D系にも幽体化してレイス(普通のレイスに近い)に変身する呪文があり、*bandにも幽体化呪文があるが、おそらく別のエントリーで述べる。
 さて、同じRoguelikeとして、NetHackにおいては、レイスの死体を食うと無条件で1レベル上昇するというルールがあり、後半での重要レベルアップ手段のひとつである。これは何を根拠としているのか、結論から言うとよくわからない。例えば、中国の妖術やペルシア系の魔道において、摂理に反して人間が鬼(「き」中国の死霊)を食ってしまった場合や、鬼が地獄の悪鬼を食った場合、また動物が自分を食らうような生物を逆に食らった場合(鼠が猫を、羊が虎を食らうなど)に、「霊格が大幅に上昇する」という説話があるが、おそらくそんなものはあまり関係なく、単にゲーム的にレイスの能力を逆算した発想ではないかという気がする;レイスがエナジードレイン(レベルを食らう)能力を持っているため、逆にそのレイスを食らうとレベルが上がる、という発想か、単にレイスは普段からレベルを吸っているので「レベルの塊」である、という発想かもしれない。(無論、これはD&D系から引きついだルールではない。D&D系にはモンスターを食う詳細なルールなどはないし、それどころか、アンデッドの残骸を下手にいじるとそれだけでエナジードレインを食らう可能性がある。)
 出典:*bandでは無論のこと指輪の幽鬼(→ナズグル)が代表格であるが、通常モンスターにも、原型であるゲームMoriaから引き継いだ、多種多様のwraithが登場する。幸いなことに厄介なアンデッドや同族等の召喚魔法は使ってこないものの、冥界レイスやブラック・レイスは地獄の矢などを持ち、中盤でもなかなかしぶとい敵なので一応の注意が必要である。他のRPG一般ではレイスほども頻出せず強力でもない「ワイト」が、『指輪物語』の塚人の影響かどちらかというと強力になっているのに対して、ナズグル以外のレイスは、ワイトにも同族召喚などで呼び出される引き立て役と化している部分はあるかもしれない。
 D&D系のレイスは物質の影響を受けない(ただし、低レベルの幽体化呪文によるものは隙間などを通れるだけである)ため壁などを通過することができるが、*bandにおいてじかにPASS_WALLフラグがあるのは冥界レイスのみである。壁抜けはどうやらゴースト系のような完全な幽体モンスターの専売となっているらしい。

 →ナズグル →幽体化



例のアレ reveal your identity 【システム】

 史上の徳川光圀という人物、葵の紋及び印籠そのものについては『水戸黄門の印籠』の項目に譲り、ここでは「例のアレ」についての記事に絞る。水戸黄門説話の発祥当時の俳人や学者を連れていた頃の形態や、助さん・格さんを連れるようになった講談の水戸黄門漫遊記の時点では、助・格が印籠を見せるというクライマックスの展開はなく、光圀自身が俳号である『水隠梅里』を書き残し、あるいはさりげなく言及し、登場人物や悪役に自ら悟らせる、というものが主となっていたという(後出のいわゆる水戸黄門型の類型ストーリーには、依然としてこちらに近い流れのものも見られる)。50年代の月形龍之介主演の映画版シリーズでは、葵の紋が縫い取られた守り袋(将軍本家から賜ったもの)を同様にさりげなく見せることもある。
 「印籠」に葵の紋が刻まれ、それを見せることで一斉に平伏させる展開は、60年代のいわゆる定番ドラマ(ナショナル劇場)から始まった(そして、若干の紆余曲折を経て確立した)ものといわれており、いわゆる水戸黄門の長期ドラマのパターンストーリーを構築するための、直接的な要求から登場したものであったらしい。


「『成敗する』なんて生易しいものじゃない……
 助さん格さん達は戦う以外に、もう1つの能力を持っているんだ……

 大変だッ! もうすぐ『8時45分』が始まるぞッ!
 この場に居合わせた者は、みんなひれ伏してしまうッ!
 い……今! 助さん達をやっつけないと!
 『あの人達以外』! ここにいる全員がひれ伏してしまうんだーッ!」

「者ども! 出会えぃッ! 斬り捨ていッ!
『格さん』に『印籠』を出させるなーッ!」

「いいや! 『限界』だッ! 出すねッ! 今だッ!!」


(某動画サイト百科コメント欄より、詠み人知らず)


 ドラマ版を元とした他の水戸黄門作品では、アニメ『まんが水戸黄門』は助さんの流星十文字斬りをはじめとして演出が非常に派手なことで有名だが、例のアレの場面ではいきなり宇宙戦士バルディオスのBGM(RPGファンにはwizardryで有名な羽田健太郎の作曲)が流用されて流れ出すことがあり、数ある例のアレの場面の中でも抜群の臨場感を持つ。アニメ『ダイオージャ』では、山場の巨大ロボット・ダイオージャの合体によってその胸にスペードを3つ組み合わせたどこぞで見たような紋章が現れ、皆が平伏するという定番ドラマ版に忠実な流れが踏襲されている。このアニメでは、巨大ロボットは宇宙王家・貴族の誇りの象徴という設定であり、後のオリジナルヘビーメタル(モーターヘッド)、ガイメレフなどの騎士型ロボットの位置づけにも近く、破烈の人形やエンプレスが姿や紋章を見せる場面を大見得とする描写の先駆けともいえるものである。(しかし、ダイオージャでは作中では皆が平伏する中、首領だけは開き直って襲ってくるという、むしろ水戸黄門というよりも暴れん坊将軍まんまの展開になっている。)
 「身をやつしているご老公」及び彼がその正体を現す「例のアレ」の場面は、国民的定番であるドラマ版を意識した日本では古今のフィクションでパロディ化される場面が多いが、FTファン中においては、『指輪物語』原作TTTで白のガンダルフが黄金館に乗り込み、サルマンや蛇の舌の悪事をあばきローハンの世直しをする場面は(直前のガンダルフ復帰の場面が『男塾』めいたばかばかしさで語られると共に)しばしば例のアレになぞらえて、酒の席の与太話として長い間語り草になってきた。しかし、2002年の映画版TTTでのこの場面は、セオデン王に歩み寄るガンダルフを制しようとする兵らを助・格・弥七と化したレゴラス・ギムリ・アラゴルンがバッタバッタとなぎ倒す、白の衣の威力を示すと印籠でも見せられたかのように、セオデン王に(この映画版では)魔法的にとりついていたサルマンやその魔力、蛇の舌も退散するなど、それらの与太話を語っていたファンもあまりのベタさにしばし閉口を余儀なくされた。なお、ご老公本人が積極的に行動するためドラマ版よりは映画版の月形龍之介の水戸黄門に近いとか、設定上の立場で水戸黄門に近い身をやつした貴種はアラゴルンで実はレゴラスもギムリも王族だがこれらは水戸黄門のお供も水戸黄門に進化しやすい(→助さん)という背景に合致する等の考察が映画ファンらによってまことしやかに語られている。
 *bandでは、[変]の「例のアレ」は『助さん』『格さん』を召喚すると共に、朦朧、混乱、退散、麻痺といった効果を周囲に与える。発動時点で印籠を見せる役である格さんは既に現れていないとおかしいのではないかとも思われるが、おそらく、ドラマ版に準拠するとは限らないものと思われる。まして、表示される台詞「このお方をどなたとこころえる」に対して「一体どなたでしょうか(revealするyour identityとは一体、youとは誰でidentityとは何なのか)」などと疑問を挟むのは、「月形龍之介の頃はまさに水戸黄門が主役であったが以降のドラマではまるで印籠が主役みたいなものではないか」と時代劇ファンが長年議論している大変に奥の深い問題であり、到底当サイトの考察の及ぶところではないので詳しくは専門のサイトを参照されたい。

 →水戸黄門の印籠 →助さん →格さん



レヴナント Revenant 【敵】

 Revenantとはラテン語のrevenance 帰還するに由来し、長期間を経て帰還した者の意もあるが、中世盛期あたりの西欧において、多分には死から復帰したものを指す漠然とした、さらには蘇った死者を恐れてのニュアンスを持つ語である。復活した死者で肉体(死体)を有する者として東欧の吸血鬼に重なる部分があり、また同様に「死体が動く」ものとしてはゾンビ(→参照)があるが、ゾンビがヴードゥーに由来し近代になってからホラー道具として欧米に輸入されたのに対して、古い欧州での由緒ある語という側面を持つ。実在伝承についての詳細は専門のサイトを参照されたい。
 ゲームにおいては、ゾンビよりマイナーであるが同時にゾンビほどには俗でない語として、死体(肉体)を持つがやや高級なアンデッドモンスターとして用いられている例がいくらか見られる。例えばAD&D1stのものはFiend Folio (1981)などに記述され、一見ゾンビだが強力な怨念や目的があって復活したアンデッドである。後の版では、吸血鬼やダンピール同様に、テンプレートやプレイヤーキャラクター種族として用いることができる場合もある。他のゲームでは同様の扱いとなっている場合もあるが、特にAD&Dから引用されているといった一貫性はなく、能力などはゲームによってまちまちで、肉体を持つ場合も、ときには霊体アンデッドとなっている場合もある。例えば『ウルティマオンライン』のものは、ネクロマンシーの呪文で召喚できる霊で、対象をひたすら追い掛け回すもので、特に自らの生前の意思、動機や目的を持っているようには見えない。また、『ファイナルファンタジー』シリーズでは多くの作品で、単にゾンビ(まれにグールやゴースト)の強化版のようなものである。一方でモンスターでなく、語義から「蘇った者」としてその背景を持つ「キャラクター」の名として用いられることもあり、この単語がタイトルに用いられているゲームも多い。
 古いTRPGゲーマーに知られているのがクラシカルD&D(緑箱)の「リベナント」で、これはAD&Dのものとは似ても似つかず、アンデッドのインフレで無理矢理カテゴライズされた凶悪アンデッドのうち一種、「スピリット」というグループに押し込められている(他にスピリットにはドルジ(→参照)がいる)。スピリットは即死の猛毒を持ちアイテムを毒化させ、聖職者の撃退能力もほとんど効かないという非常に嫌な能力を持つが、中でも「リベナント」は、数十メートルをジャンプして蹴りを放った直後それに劣らぬ莫大なダメージの連撃を叩き込んでくるという、いわゆる「ライダーキックからの3連コンボ」として有名な攻撃手段を有し、緑箱レベルの屈強無比な英雄らを数限りなく撲殺してきたため、大変に恐れられていた。原典のレヴナントのイメージは全くない。
 かようにゲームによって解釈は様々なレヴナントだが、*bandに[Z]から登場するものについては、「壊れたプレートメイルを身に着けている骸骨」という思い出文章、ファイアボルトの魔法から推測して、アクションゲーム'DOOM'シリーズに登場するものから直接採られていると考えられている。'DOOM'のレヴナントは上半身に白い胸甲鎧をつけ、下半身が赤い(骸骨にわずかに血や肉が残っているという意味だと思われるが、赤タイツを穿いているようにも見える)骸骨で、両肩に短いキャノン砲を装備し、そこから追尾弾(両肩だが1発ずつ)を発射してくる。追尾弾の追尾能力はかなり高く、狭い空間や物陰に隠れる以外に回避は困難で、対応を誤ると危険である。追尾弾だけでなく、パンチ(かなり強そうな音がする)の打撃能力もある。また、ささいな点だが閉まっている扉を開けてくるのも、DOOMから*bandが踏襲している点である。
 *bandに登場するものは36階のノーマルモンスターで、幸いなことにCD&DやDOOM原作ほど注意すべき攻撃力や危険な魔法などを持っているわけではないが、ひととおり魔法の基本耐性なども持つ中堅モンスターである。



劣化ビースト Disenchanter Beast 【敵】

 これはさほど重要なモンスターというわけではないが、長らくRoguelikerの間でその正体が考察されてきたものである。[Z]において追加されていたが、邦訳にあたって板倉氏が「AD&Dの、おそらくFiend Folio (主に異次元界モンスターが収録された、AD&D1stにおける玄人向けサプリメントの代名詞である)か何かに入っているマイナーなモンスターらしい」とまで予測したものの、以後*band系ではそれ以上の調査については聞かなかった。
 AD&D1stのFiend Folio (1981)を調べると、おそらく'Disenchanter'とだけの名になっているモンスターがそれであると考えられる。*bandの思い出解説には「アリクイに似た動物で、長い鼻がある」とされているのだが、Disenchanterの姿の描写は「ヒトコブラクダのようで、長く柔軟な鼻がある」とされる。わずかに食い違ってはいるが、おそらくどちらもカトブレパス(→参照)のようなずんぐりした不思議な印象を与える四足獣、多分に「獏(バク)」のような生き物をイメージしているのではないかと考えられる。
 Disenchanterはやや体表は青ざめ、半透明になっているが、精霊などではなく一種の魔獣(Magical Beast)である。その習性は「魔法のかかった物品」をかぎとり、その魔力を食べることで、たとえバックパックに入れてある品でも、その長い鼻で魔力を吸い取られてしまう。ラストモンスター(→錆の怪物)が金属自体を錆びさせてしまうのとは異なり、純粋に魔力ボーナスを吸い取る(つまり、木の武器などでも無力化される可能性がある)。
 ラストモンスターと似たような発想の怪物といえるのだが、おそらく上記したような実在の動物のバクから発展したアイディアではないかと考えられる;バクにはよく知られるように「夢を食べる」という伝承があるが、「迷夢を覚ます、幻滅させる= Disenchant」の能力があると言え、それがRPGにおける「Enchantment= 武具の強化ボーナス」という定義においては「強化ボーナスを打ち消す能力」となるというのはたやすい発想である。
 (ただし、'Baku'はAD&D2ndにおいては全く別の生物、さらに伝承のそれに似た形の「サイオニック・クリーチャー」として存在する。イメージがうまく伝わっていないのか、2ndのBakuはむしろ象にそっくりで、ドラゴンの尾と鱗を持つ幻獣で、映画版LotRのムーマクのような凶悪な面構えをしている。能力の方も非常に強力なものだが、NetHack3.4以降のDisenchanter (AD&D1stのものとは全くデータが異なる)と同一のレベル値なので、あるいはNetHackのものはこのBakuが参考になっているのかもしれない。)
 英語のEnchantという言葉は、人や人に影響する惑わしの魔法をかけるという意であって(そのため、Enchantressは特に誘惑者、妖女のニュアンスを強く持つ)現在、RPGで用いられているような「物品の戦闘能力を強化する魔力を付与する」という意味で採られることは本来の意味ではほぼ全くない。物品に呪文を施すから転じて強化ボーナスという意味合いは、魔法の分類というものを行うにあたってRPGに独特に、おそらくAD&D1st(クラシカルD&Dにはない)に生じたものであるが、この怪物はそのゲームの持つ用語の特異性(スラング性)というものの産物のひとつと言えそうである。
 *bandにおいては25階のノーマルモンスターで、例によって能力的にはさほどでもないが、打撃で劣化、魔法でMP減少を用いてくる。ちょうどこのあたりの階層は、ミム一家やニーベルング一家など劣化を用いるユニークが登場し、劣化耐性を(あるいはこのあたりでのみ)つけたりつけなかったりの瀬戸際なので、耐性の有無で対応が変わってくる。



レムレース Lemure 【敵】

 英語ではレムレーだがラテン綴りで「レムレース」としてもっぱら知られるこの悪霊は、古代ローマの民間において、死者の霊として恐れられていた伝承である。概ね生前のままの人間の姿をしており、夜に地下から多数湧き出し、生あるものを苛むというが、また一説には特に悪い行いをしていなかったものの「善霊」で、直接には害する力を持たないものを指す、ともいう。
 RPGには、レムレースをほぼこのままの形で、時に「アンデッド」の一種として登場させているものもあるが、しかし*bandに[V]から登場するものは、AD&Dにおけるモンスター、「秩序にして悪」の<下方世界>(九層地獄界、ベイアトール)の最も下級の住人を指す。つまり、アンデッドではなくここではデヴィル(バーテズゥ)の一種であるということになるのだが、また同時にレムレーは、死者のうち九層地獄界を彷徨うようになったもの(生前に「秩序にして悪」だったもので、死後地獄に落ちたものの、悪神や上級デヴィルに気に入られたりせずに放っておかれたもの)の魂のとる形のひとつでもある。(なお、和訳されたD&D3.5eでは、九層地獄に落ちてから生前の記憶や人格をデヴィルらに絞り抜かれた後の虚ろな霊魂もレムレーに生まれ変わるとされる。)無数のレムレーの中からより上位のデヴィルに進化するものもあるが、非常に稀である。このあたりは和Z板倉氏のPlanscape(AD&D2nd当時だが)の紹介ページにも詳しい。レムレーは人間の大きさとわずかに形もとどめているものの、溶けて崩れた肉塊のような姿をしている。
 NetHackでは例によってAD&Dとほぼ同じデータだが、悪魔類ではなく「小悪魔類」として登場し、対悪魔などの攻撃がきかない場合もある。悪魔ではないといっても、アンデッド扱いというわけでもないので元の伝承にしたがっているというわけでもなく、恐らく基本的にゲヘナにのみ登場する「悪魔類」と区別する目的が優先されていると思われる。
 *bandには[V]から登場するが、思い出解説では「上級デーモンの幼生形態」となっている。フラグもであるがデヴィルでなくデーモン(混沌にして悪。悪鬼の分類は「デーモン」の項目参照)となっているのは、[V]当時、いわゆる悪鬼をバルログ(タイプVIデーモン)と同類の一括の勢力(アルダ設定的に言えば、ウドゥン(地獄)の眷属)としているからであろう。なお本来のデーモンの方の幼生形態であるメインズ(→古代の死霊)も[V]当時から別にいる。なおD&D系ではレムレースにしろメインズにしろ「幼生形態」といえるほど、上位の悪鬼に成長できるものが一般的なわけではない。他にデヴィルが追加された以降のバリアントとなっても、レムレースは解説ともにこのままの形で残っている。



レルニアン・ヒドラ The Lernean Hydra 【敵】

 ヒドラ(→参照)とだけ言うと、モンスターとして以外にもオリエント・インド系に発する様々な水神の名となっているのであるが、「レルニアン・ヒドラ」「レルネーのヒドラ」といった場合、多首の蛇のモンスターとしてのヒドラ(およびうみへび座や腔腸動物ヒドラ)の原型となった、ギリシアのヘラクレス伝説のヒュドラを特定して指すことが多い。
 レルネーのヒュドラは、蝮女エキドナ(→メデューサ参照)と最大の魔神テュフォンの子の一連の怪物神らの一体で、ヘラクレスの12の試練のうち第2がこれを倒すことであったが、ヘシオドスによると、大后ヘラがヘラクレスに試練を与えるためあらかじめ育てていたものであったという。(なお、さらに有名な怪物キマイラは、ヘシオドスの文脈からはエキドナでなくヒュドラの子とも読み取れるが、はっきりしない。)
 レルネーのヒュドラは9本の首をもち(一説には5本やら12本やら50本やら100万本やらとも)一本の首を切り落としても新たに二本の首が生えてくる(また一説には、ヘラクレスが最初に登場した時は最初は普通の毒蛇だったが、切っているうちに増えて9本やら12本やらになったという)ので、ヘラクレスは親類のイオラオスの助けをかりて切り口を火で焼いてもらうことでこれを防いだ。最後の首は何をやっても殺せなかったので(ヒュドラも神族のはしくれ故に、一部不死性を持っていたわけである)そのまま岩に埋めてしまった。説話によっては、逆にこのひとつの首だけが「真の命」であり、これを殺すと他の首も萎びて滅びた、となっていることもある。
 この再生能力からヒドラは(腔腸動物ヒドラをはじめ)学術的に「再生」の代名詞とされたり、いくら切っても顔が出てくることから金太郎飴になぞられられることも多い。
 D&D系の標準的なヒドラは単に多首の蛇というだけで、再生能力までは持ってない。しかし、どういうわけかD&D系では「レルニアン・ヒドラ」をユニークモンスターとしてではなく、この能力をもったヒドラが「種族」として存在するとして扱っている。レルニアン種のヒドラは、原則的にあらゆる攻撃が無効であり、特に体は無敵であり首しか攻撃できない(まるでドラゴンスレイヤー1のビオラインである)。滅ぼすには首を全部切り落とすほかにないのだが、切り口からは神話の通り、数ラウンド(行動ターン)を置いて2本の首が生えてくる。ゆえに、生えてくる先から次々と首を落としてゆき先に数をゼロにするという吐血マラソンとなる。こんな奴とは間違っても戦いたくない。
 [Z]系をはじめ一部バリアントに登場するレルニアン・ヒドラは、おそらくヘラクレス伝説に登場するものそのままを想定したユニーク・モンスターである。(思い出文章では、なぜか首は「12本」のものが採られている。)ヒドラの上位として火・毒をはじめとするブレス・魔法や、ヒドラ召喚能力を持っている。原典の奇妙さに比して、中堅のユニークとしてごく普通の強敵である。



レン Len the Unclean 【敵】

 第8位のナズグル(指輪の幽鬼)。不浄のレン。火山の王、狂気の苛烈王。トールキンの設定にはなく、MERP/TCGのICE社が作成したナズグルの設定のひとつである。凍れる荒野とも蜘蛛とも一切関係ない。
 レンは第二紀にはチェイ(中つ国の奥地で、西アジアあたりがイメージであろうか。地域自体がICEの設定である)の幻術師であったが、チェイに流行した疫病に倒れ、回復すると突如、啓示を受けたとしてチェイに数多くそびえる火山の神の息子を名乗り始めた(つまりは熱病で脳に後遺症が残ったという、奇妙にリアルな設定である)。しかし、元来の才覚もあってその「教祖」として勢力を拡大し、ほどなくチェイ全域の暴君となっていた。その鳥肌立つような妄執が気に入ったとサウロンが言ったかどうかは想像もつかないが、レンは与えられる力を打算し《九つの指輪》の第八を受け取る。その後、ハンドを支配したヴァリアグのウーヴァタ(騎兵ウバサ、第9位のナズグル)と共に中つ国の奥地を支配する。第三紀には第4位のジ=インドゥアと共にミナス・モルグルの改装に手を貸し、バラド・ドゥアとの間を遊撃軍として往復していた。
 ”不浄”のレンという名は、ナズグルとなる以前も以後も、その狂気によりあまりにも道を外れた行いを繰り返したためといい、彼以上に残忍にして悪逆非道な者は、中つ国にただ1人(ウバサ)を除いて存在しなかったという。黒い髪と目、赤い肌を持ち、黒い長衣をまとい、常に狂気に歪んだ素顔を革兜の面頬で隠していた。
 *bandでは[V]にICE設定通りに登場するが、[Z]系では非トールキン系として外されており、[変]でも復帰していない。
 なお、「不浄のレン」は、日本のウェブにおける指輪物語ファンの最古参のひとりであり、また中つ国用語辞典の編纂者、何よりかつては[V][Z]の和訳・普及にも大きく貢献した、「都々目さとし」氏のスレッド掲示板系におけるハンドルでもある。なぜ「野良犬の塒」なのにドワールではないのかという話もあるが、[V]の和訳中にこの「不浄のレン」という語感のみが妙に頭に残ったので、このハンドルを選んだとのことである。そう言われれば、ナズグルの二つ名の中でも一種独特の語感かもしれない。

 →ナズグル →ウバサ



連鎖稲妻 Chain Lightning 【その他】

 Chain LightningはAD&D 1stのUnearthed Arcanaに由来し、2nd以降は基本ルールにある魔法で、いわゆるライトニング・ボルト(→サンダー・ボルト)の上位呪文であった。AD&Dでのネームレベル(英雄の最低ランク)以上の術者にしか使うことができず、名実ともに「電撃系の高位呪文」といえる。ただし、単純に威力や範囲やレベルの大きい、サンダーに対するサンダラといった類のものではなく、直線でしか飛ばないライトニング・ボルト(硬いものに乱反射すると書いてある解説書があるが、そのオプションはDM選択である)に対して、少しずつ威力を弱めながら(ゼロになるまで)次の敵から次の敵へと「飛び移って」ゆくというものである(D&D3e以降はやや異なる)。ジグザグを描いてゆくさまがいかにも「電撃」のイメージであるための発想であろうが、また同じ電撃ながら直線のライトニング・ボルトとは対照的な、極めてトリッキーなイメージと魔法や魔法使いの面妖さを示す呪文である。
 が、*bandにおいて、[Z]のカオス魔法に追加されたこの魔法は、おそらく名前と発想だけを得たものと思われ、多方向に電撃のビームを飛ばすというものになっている。出鱈目に飛ぶというイメージと使用している姿はなんとなく似てはいるものの、「連鎖」というには語弊がある。ここでは一応上位呪文書ではあるがレベルは別に高くはなく、威力もそれなりで、多分にカオスのダメージ魔法の多さの「穴埋め」の性質が強い。一応「ビーム」であるため(他の大抵の電撃系呪文は「ボルト」である)多くの敵に対しては効果が高いとはいえるものの、ボール系に比して使い勝手がよいとも思えず実用となる機会は少ないように思われる。

 →サンダー・ボルト



レンジャー Ranger 【クラス】【敵】

 出典:現在ではアラゴルンの活躍が映像化されるLotRの映画などもあるものの、RPGの初期には「レンジャー」という言葉を馴染みのないプレイヤーに説明するのは困難を極めたものである(実在の現代の森林レンジャーや、日本のRPGファンがそれにひっかかる紆余曲折、ひいては大リーグのチーム名や五色の戦隊に関する言及はあまりにもかったるいので根こそぎ省く)。一言「野外活動にすぐれた戦士」と言っても(特に、ロビン・フッドのような存在が馴染みがない日本においては)イメージを具体的に提示したり例を挙げるのは難しい。が、かつてこの説明のためさんざん用いたものだが、日本の漫画・アニメにはなぜかAD&D 1stのレンジャーに格好に当てはまるキャラクターが存在する;誰あろう、『風の谷のナウシカ』に登場する剣士ユパ・ミラルダである。軽装で、野外活動にすぐれ、騎乗動物の扱いにたけ、そしてマントを翻して宙を飛ぶ小剣二刀流の達人である。
 RPGに登場するレンジャーの原型はAD&D 1stのレンジャークラスであるが、そのさらに直接のモデルは、やはりトールキンの『指輪物語』に登場するエリアドールおよびイシリエンの野伏である。(なお、現在では「レンジャーの訳語」としての方が有名な「野伏」は、元々日本語では「野武士」などに近い荒くれたイメージを強く持つ語であり、エリアドールのドゥネダインの野伏ら(アラゴルン等)が、町民からは一見胡散臭い風来坊のように見なされているという性質をも反映している点に留意する必要がある。英語のレンジャーはむしろ現代語で、自然を守る善の活動者というイメージが強い。)AD&D 1stのレンジャーは、トールキンの野伏をベースに、野外活動技術や動物の扱いなどに優れ、また軽装の戦闘が得意という部分(盾を持たないことからの発想で、2nd, 3edからは「二刀流」の技術を持つ)が強調されて他の戦士系と差別化されたサブクラスである。さらには、古代の伝承等の知識や技術が豊富であること(アラゴルンが持つエルフの伝承・治癒などの技術や、ファラミアの伝承知識なども影響してか)などから、魔法使い系とドルイドのそれぞれ低レベルの魔法をもわずかに扱う能力がある。
 しかし、この魔法使い系魔法の部分が、レンジャーという語が一時「魔法戦士」を指すものと誤解されてしまう原因となった。Wizardryの最初期版のマニュアル(後の版ではサムライにあたる。なおサムライになっても、HPや経験テーブルがAD&D 1stのレンジャーそのままである)をはじめとする初期の海外RPGのレンジャーが、ほとんど「魔法使い系魔法を扱う戦士」となっているのは、まだしも戦士でも知性派という意味あいであろうが、これらに影響された日本のRPG/FTが魔法を使う戦士のイメージの鮮烈さ(→魔法戦士)にのみ目がいって、単なる魔法戦士にレンジャーと名づけ語本来の意味を何ら説明していない場合が、現在に至ってすらも散見する。言うまでもなく、レンジャーの語義には魔法を使えることは何ら必須ではない。なおAD&Dでも、自然派として整理された2nd, 3edでは、使えるのは一部のドルイド魔法のみとなっている。(D&D小説の有名なレンジャー、ダークエルフのドリッズトが使う魔法のいくつかは、1stでは魔法使い系魔法だが、2ndではドルイド魔法、3edではダークエルフのレイシャルパワーという設定に変更されていたりする。というか、レンジャーやダークエルフ自体ドリッズトに合わせてルールが作られていたりもする。)
 レンジャーは野外活動を専門とすることからゲームデザインでは各種射撃能力が高いことが多くとも、弓のみに特化した専門家というわけではないが、上述した日本でのイメージの困難さから、wizardryの一部シリーズのように「レンジャー」に「射手」「弓使い」「狩人」といったそのままの訳語をあててしまっている場合もある。
 なお、自然に生き、自然を愛するとされるレンジャーであるが、その自然観は、ドルイドのものともエルフのものとも根本的に異なる。エルフは自然と一体化した文化を豊かにし(自然を克服する人間の文化とは自然に対する感覚感情が全く異なる)、ドルイドは文化自体を否定し自然と同化するのみならず広視野で積極的に均衡を保とうとする極度の「中立」である。しかし、レンジャーは動植物をいわば人間的感情で慈しむ、非常に明確な「善」である。(故に、ユパはレンジャーの例と言えても、ナウシカ自身はレンジャーの典型として例に使うことはできない。特に、アニメ版のナウシカの発言はドルイドそのものだからである。)しかし、AD&D 1st当初はこのイメージでデザインされたとはいえ、現在ではレンジャーの範囲も広範になり、D&D 3edでもエルフやドルイドの衛士なども含む自然戦士全般であることも多い。
 クラス:Moriaの時点から万能系職業として存在する。さまざまな能力を持つ野伏という見地から魔法能力のほかに射撃や技能なども高いものが持たされているため、まんべんなく一通りの能力を持つ万能職業となっている。D&D系では他の技能はおまけであくまで「戦士系」なのだが、*bandでは「万能系」以外の何者でもなく、[V]では戦士系の擬似鑑定能力もない。これはクラスの少ないMoriaでは戦士のサブクラスを増やすよりも「クラスごとの個性化」を重視する見地であったと思われる。おおよそアイテムの出方によってどんな戦い方もできるが、どれかと言えば射撃中心が強い。
 ToME1ではドルイドに似た部族系魔法が使え、[Z]系ではメイジに次いで強力な自然魔法が使える。どちらも戦闘補助にも直接攻撃にも優れレンジャーには非常に便利である(自然魔法は中盤までは直接攻撃に乏しいが、レンジャーの戦闘能力ならばあまり気にはならない)。さらに、[Z]ではもうひとつの体系(生命などのプリースト系以外で、つまりはプリースト魔法のパラディンと差別化するのは[V]と同じである)を選ぶことができる。既にある自然系にテレポートを補うために仙術やトランプを組み合わせてもよく、または、序盤の直接攻撃魔法を補うためもしくは[V]のような戦闘魔法中心を目指してカオスや暗黒を入れてもよい。最も強力な魔法は覚えられず、失敗率が必ず5%残るので、魔法系を中心にすることはできないが、単なる補助と片付けるにしては有り余るほどの魔法能力といってもいい。
 レンジャーは役立つ能力がすべて有効な形で揃っている強力なクラスであるが、ただし、どれか一つの能力の決め手に欠けるので経験者としてはさほど面白みがないという声も多く、また何をやっていいかわからないので初心者も戸惑わせる職業かもしれない。そういう意味では、強力で有効なクラスである割に、地味な存在であるかもしれない。
 敵:*bandでは[V]以降、Wizardry同様にプレイヤーキャラと同じクラスの人間らが敵としてわらわらと登場するのだが、そのうち「見習いレンジャー」は序盤で中々印象が強いと言えるだろう。大量に登場する上に射撃やマジック・ミサイルを放ってくるなど、油断すると([V]のメイジあたりでは、しなくても)危険にさらしてくれる。一本道で戦うなどの工夫が必要となってくる。[変]にはさらに上位版のハイエルフ・レンジャーなども登場する。



レンの蜘蛛 Leng spider 【敵】

 下級の独立種族。巨大な網を紡ぐもの。H.P.ラヴクラフトの『未知なるカダスを夢に求めて』に言及される生物で、ラヴクラフトのドリームランド(夢から入る異世界)の不毛の高地レン高原に住むとされるが、レンに住む亜人間がこの蜘蛛と戦っている姿が描かれたフレスコ画に、「巨大な紫色の蜘蛛」という描写があるのみである。
 CoCルールブックでは、この蜘蛛をイボだらけの膨らんだ体と剛毛を持つとし、生まれたばかりでも小馬ほど、成体は途方もなく大きくなるとしている。人間と同等の知性を持ち、巨大で強靭な網を張りめぐらせ、それは大都市のように高度でなおかつ複雑な構造の迷路になっているという。ドリームランド以外に住んでいるかどうかの記述はこのルールブックにもない。
 *bandには[Z]以降登場するが、蜘蛛類の共通として吸血や毒を想定した筋力吸収能力を持つものとしている。35階とノーマルモンスターとしてはかなりの深階層で、相応に巨大なものと想定しているようである。その知能や網の設定にも関わらず、呪文の類は使ってこないが、ANIMALフラグはなくEVILフラグがあり、一等に正気度チェックを強要するELDRITCH_HORRORフラグを持っている。そんなクトゥルフ系モンスターであるが、むしろ印象が強いのは、[変]やToMEにおいて、自然モンスターが出やすい地形・クエストや、シェロブなどの蜘蛛系ユニークの仲間や召喚ものとして大量に登場する蜘蛛の一種として(クトゥルフ系のユニーク蜘蛛は、登場がこれより随分後になるので)であろう。



レンバス

 →エルフの行糧



ロイガー Lloigor 【敵】

 上級の独立種族。触手の支配者。星からきた不可視のもの。いわゆるクトゥルフ神話の宇宙種族のひとつで、コリン・ウィルソン『ロイガーの帰還』に言及される別銀河(アンドロメダ星雲)からのエネルギー生命体である。なお、ゲームなどから入ってクトゥルフ神話マニアを自称するサイトなどで、旧支配者ツァール(→参照)の関連名(別名、関連種族あるいは対になる存在)である「ロイガー」と本当に混同している場合があって頭が痛くなるが、あまりにもくどいかもしれないがまったく関係がないので重々注意されたい。ロイガーは旧支配者のガタノソア(→参照)を指導者にするといわれ、まれにイタクァに関係あるとも言われる。
 ロイガーは、クトゥルフ神話の原型であるラヴクラフト世界に見られる、地球の生命体とはまったく異なる物理法則で形成された種族であり、その姿と性質は不可視・非物質的な「力の渦」(パワー・ボルテックス)と形容される。精神の構造もまったく異なっているが、総合的な知能は人間よりひと周り高く、テレパスや精神力奪取能力を用い、また人間を奴隷にし、触手などを生やした姿に改造したりもする。力の渦の形では、念動力やら念動爆裂球やらは使うことができるものの、物理的な行動には効率が悪いので人間を利用するらしい。ただし、まれに肉体行動をとるために自らも実体化し、地球の生物で言えばどこか爬虫類を思わせるような姿をとることがある。ロイガーがイラストとして描かれる場合は大抵がその形を描いたもので、そのほとんどは実在のワニや南国の大トカゲのようなイメージである。しかし、旧CoCルールブックの添付のイラストでは異常なほど脚、ことに後足が長く、鋭角に湾曲した首の骨を持ち、マウンテンバイクの機能性に対する旧世紀の巨大車輪自転車のような、異様なバランスを持っている。地球の爬虫類に擬せられながらその本質はまったく別の法則で構築されているという説得力を与えるものだった。
 *bandでは、「パワーの渦」の姿で襲ってくるとされてか、'v'シンボルとなっている。中階層のノーマルモンスターだが、なによりも同族召喚でvシンボルを呼んでくるのが非常に凶悪である。ロイガーは複数個体が力をあわせて念動などを行うことが多いため、本来これは別のロイガーを呼び出すものをイメージしていると思われるが、無論*bandで出て来るのは千差万別の元素や上級属性のボルテックスである。vシンボルはどれも下位・上位の属性攻撃・ブレスなどが厄介でそれが大量に出てくる上に、ロイガー自身もvの親玉のように衝撃や重力系のブレス、耐久力減少攻撃をしてくる上に、他のvのように耐久性が低いわけでもないので、たまったものではない。鬱陶しいだけでなく命取りにもなりかねないので、最初から近づかないか、できればvを丸ごと抹殺したいものである。

 →ガタノソア



ローガン Lorgan, Chief of the Easterlings 【敵】

 東夷の隊長。トールキンのアルダ第一紀(伝説時代)の、人間の英雄トゥオル(→トゥオルのクローク)の伝説に登場する人物である。『シルマリルの物語』の新訳では「ロルガン」という訳で最近の*bandバリアントでもそうなっており、これはエルフ語発音を反映したものだが、東夷なので実際の読み方は定かでない。
 トゥオルはエルフらのニアナイスの大敗北の直前に生まれ、16歳になった時にエルフらの隠れ家であったアンドロスの洞窟を出るが、まもなく、ヒスルムの地に勢力を伸ばしていたと思われるモルゴス軍の東夷らに捕らえられ、奴隷とされた。その東夷の首領がローガンとされる。しかし、トゥオルは3年の間に、ローガンの子飼いであったはずの猟犬らを手なずけてしまい、東夷のもとを脱出し、アンドロスの洞窟に戻る。トゥオルはその後も4年もの間、オークや東夷に対してゲリラ戦法で甚大な被害を与えたため(伝説時代の人間の英雄は、王侯というよりだいぶ野人がかっているのでこんな連中ばかりだが)ローガンはトゥオルの首に多額の賞金をかけて追わせたが、無論とらえることはできなかった。その後、トゥオルは長い旅(最終的にはゴンドリンに至る)に出るがローガンと配下の東夷に関する記述はその後はない。
 東夷の首領でそれなりの地位ではあろうが、「自分の飼っていた犬がそむかれてしまう」というのはキャラクター的にかなり人望がないもので、少なくとも何かの卓越した能力があるような描写もなく、単なる指揮官として名前だけ出てくるチョイ役(歴史シミュレーションゲームなら全部の能力値が適当に40〜60あたりになっていそうな)に見える。*bandでは[V]以来、「普通の人間の敵」としては階層の深い(36階)ひとりであるが、同じ東夷の親玉でもブロッダ(→参照)あたりより遥かに強敵とされる根拠が原典中にあるようには見えない。単に、より支配域が広い、ヒスルムの東夷の首領という位置づけだけで与えられているもので、さほど重要な意味はないと思われる。



ログルス Logrus 【システム】

 出典:混沌を象徴する印章図で、秩序を象徴する”パターン”と対極をなす。アンバー後半シリーズから登場する概念で、パターンが”影”を配列させるコードだとすれば、ログルスは”影”同士を混乱させるコードである。同心円と放射の曲線迷路のようなパターンに対して、直線と鋭角からなる迷路のようであり、しかも常にそれぞれの角度が変化し、蠢いているという。logrusはlogos(理(ことわり)・経路)などを思わせるがゼラズニイの造語のようである。(アーサー王伝説において、アーサーが治めていた地域あるいは都市ログレス Logresとは、深読みのしようはないでもないが、あまり関係がないように思う。)
 「アンバーの宮廷」に存在する「大パターン」同様、「混沌の宮廷」には「大ログルス」ともいうべきものが存在する。パターンをなぞると肉体が消耗するのと同様、ログルスは精神を消耗させ、混沌の狂気に誘うが、大パターンを歩くのと同様、ログルスを歩ききる儀式・試練を経ると(やはり「混沌の王族」の血が濃い者にしか不可能なようだが)ログルスの力を自分のものにすることができる。
 アンバー後半シリーズで主人公マーリンが使うログルス魔法によると、ログルスを脳裏にイメージして混沌の”徴”を呼び出し、純粋な魔力を自分の手や感覚の延長のように使ったり、また他の”影”に(隣り合った影とは限らず、混乱した影の集まりの中から)それらを伸ばしてさらなる力や物体を呼び寄せたりする。パターンとログルスは対極のもので、両方を歩く試練を行なうのは危険(死ぬか、生き残ってもどちらかの力しか残らない)と考えられているが、アンバーと混沌の王族の混血であるマーリンは両方に成功し使えるようになっている。なお、混沌の貴族にログルス使いは多いが、ログルス・マスターはマーリンの叔父スーフューと、父違いの兄弟マンドールである。
 システム:[Z]以降加えられたゼラズニイの要素として、ログルスという言葉はシステムの各所に頻出する。例えば、純粋なカオスを指してしばしば「純ログルス」と表現され、効果自体は[V]から存在したカオスのブレスや魔法に「ログルスのブレス」「ログルス球」といった呼称が使われる。原典では厳密には、純粋なログルスの図形がそのままカオスというわけではないのだが(一部*bandの話題で見なされているようなログルス=カオス球といったものではない)相互に純粋な顕現の関係にあるのは確かなので、そう離れてもいないだろう。原典では「純ログルスを操る」というのは、混然としたカオスの塊を無責任にばらまくものではなく、むしろ混沌の大元を握ることで、混然から各要素を自在に引き出し操作するといったスマートなイメージのような気もするのだが、仕方あるまい。なお、魔法領域の「カオス魔法」は一応、ログルス魔法の力を意識してあるらしい(ログルスのブレスの魔法などがある)。

 →マーリン →パターン



ログログ Rogrog the Black Troll 【敵】

 ブラック・トロル。頭蓋を採る者、魔王の片腕、オストヘアの禍、アルノールの滅びのもと。ICE社の追加したMERP/TCG用のアルダ世界の設定において、「黒のトロル」とはオログ・ハイの共通語での別名のひとつであり、かれらが鱗のような漆黒の肌を持つことに由来する。ICEの設定では、かれらはサウロンの軍においては自身で集団を組むよりも、それぞれが将軍として、オークやトロルの軍団を統率する重責にあたっていることが多かった。ログログとは、第三紀なかばの北方の魔王国(→アングマールの魔王)において、オーク軍団の統率を行っていたオログである。アングマール軍のオログの戦将としては、他に「ブロック」や「オルカムール」といった名が見え(中には呪術師すらも何体かいる)ログログがその中で最も重要であったか、強力であったか等は定かではないが、能力や装備の細かいデータが存在するのはログログのみである。
 ログログの代表的な功績とされるのは、第三紀1409年にオークとハーフトロルを率いてカルドラン(ドゥネダインの宗家・北方王朝アルノールのうち、三つに分裂したひとつである)と戦い、カルドラン王オストヘア(エレンディルの血脈に連なるカルドラン王としては最後である。なお同名のゴンドール王とは別人である)とその軍をティリン・ゴルサド(塚山丘陵)まで追い詰めた。オークは怪奇あふれる「古森」(→柳じじい)の前に逃げ去ってしまうが、ログログと精鋭の手勢は進み、ログログはオストヘア王を討ち取り、カルドランの血統を絶やした。
 その後もログログはアングマール軍で活躍を続けたと思われ、第三紀1975年まで戦将の地位にあったというが、この年は北方王朝が滅び、ついでアングマール国が南方王朝ゴンドールと裂け谷のエルフによって滅ぼされた年である。すなわち、ログログもアングマール最後のゴンドールやエルフ軍との戦いで戦死した可能性が高い。
 MERPのサプリメントのログログは、腹が出ている所に鎖かたびらを巻きつけやる気のなさそうな面構えをした鬼にしか見えないが、血流の刺(→参照)をはじめとした強力な武器を持ち、能力的にも高い。しかし、同じトロルでものちのモルグルの副官ゴスモグのような圧倒的な強さは持っておらず(レベルは20で、指輪戦争の主要な戦士・将軍らと同程度である)個人が極端に優秀というよりも、あくまで質の高い大軍をなす兵士のひとりということなのだろう。
 さて*bandには[V]からユニークモンスターとして登場する。[V]のトロル系列では最も階層の深いユニークといえるのだが、なぜか、能力自体は少し低階層のまぬけトロル三人組(→バート、ビル、トム)などよりも低い。また、モンスター思い出の文章の「狂気の心」「爪から酸がしたたっている」や実際にある酸攻撃など、元の設定と合致せず、不自然さを感じる。あるいは何か他の設定やゲームなどを経由してから[V]に取り入れられたのかもしれないが、詳細は今のところ不明である。

 →血流の刺



ロケット Rocket 【システム】

 ロケットという語はイタリア語の糸巻器(Rocchetto)に由来し、14世紀イタリアの、槍に火薬装置をつけた(現代のロケット花火の巨大なもののような)兵器がこう名づけられている記録があり、恐らく火薬装置から導火線の延びた形状から糸巻を連想されての名と考えられている(なお、似たようなロケット花火兵器自体は、さらに早くから火薬・花火が発達した中国に見ることができる)。そのまま現代のロケット弾火器に至るまで活躍を続けるが、近代に入り、まだミサイルほどの技術には至らない頃に、精度より推進力が余りあることに目をつけ「移動手段」として用いる発想が生じる。ロケット推進の自動車、飛行機が作られ、ついでSF作家ジュール・ベルヌをはじめとして宇宙に進出する手段としての着想が現れ、遂には現実の手段となってゆくのである。常にどこか突拍子もない兵器という目で見られてきたロケットは、それが故にSFにも先導され、遂には突拍子もない世界に現実に到達する手段となった例である。近代のスピリットオブワンダーとは、しばしばそうしたものであった。
 *bandに[Z]以降登場する「ロケット」という攻撃手段は、[Z]の引用元のひとつである銃撃戦ゲームDooMでの「ロケット弾」「ロケットランチャー」のことである。しかし、ことに普段から近現代兵器に馴染んでいないプレイヤーの場合は単に「ロケット」だけの表記に対してピンと来ずに、何となく宇宙ロケットのようなものを想像して首をひねるといった状況が見られる。カオス魔法で「ロケット発射!」などとメッセージが出るのも混乱をさらに助長する。一応、原語ではmagic rocketとなっている部分もあるので、マジック・ミサイル同様、魔法で(ロケット弾のような規模のモノが)召喚されるとでも考えるべきなのだろうか。
 アンバーの王族が血の呪いで恐れられるのと同様、サイバーデーモンが恐れられるのは要はロケットである。[Z]翻訳サイトにある通り、破片耐性なしにロケットを食らえば即死は免れず、耐性があっても複数食らうような状況なら死を覚悟してもおかしくない。プレイヤー側も、カオス魔法、ワンド、クリムゾン銃など、いくつか使用する手段がある強力な攻撃法である。

 →サイバーデーモン →ガンダルフ



ロスロリエンの弓 Bow of Lothlorien 【物品】

 [V]3.0.5以降において弓につくエゴ属性である「ロスロリエンの〜」は、『指輪物語』FotRに登場するロスロリエンの森に住むエルフら(ガラズリム)の弓であり、立ち寄った旅の仲間レゴラスが贈られ、以後使用するものを指していると思われる。
 ロスロリエンは、元々はロリナンドと呼ばれ、伝説時代の第一紀からシルヴァン・エルフ(アマンに向かわなかったアヴァリとナンドールと思われる)が住んでいた森である。が、第二紀以降、ガラドリエルとケレボルンがここに同族を連れて移住し、彼らの力によりさらに栄え「ラウレリンドリナン(歌う黄金の谷間の国)」と呼ばれた。しかし、年月が経つと語感の似た「ロスロリエン」と呼ばれることが多くなる。「ロリエン」とは、アマンの地にあり(おそらく中つ国に渡ってくる前のガラドリエルも訪れたこともある)夢幻の神ナーモの住む森の名で、「ロス」とは「花」を意味し、つまりロスロリエンとは「夢の花」というような意味になる。しかし、ロスロリエンもナーモの森と同じ「ロリエン」と縮めて呼ばれることも多い。第三紀には特にガラドリエルの守りの指輪(→ネンヤ)の力で、外界と隔絶した秘境のような場所になっていた。
 旅の仲間はFotR後半にここに立ち寄り、休息と支援、ガラドリエルからの贈り物を貰うのであるが、闇の森という別のエルフ王国出身のレゴラスがここで貰ったのが、ガラズリムの使うのと同じ新しい弓である。記述によると、レゴラスの出身地であるさらに北の闇の森のエルフの弓よりも「強く頑丈にできていて」エルフの髪が弦に用いられている。実際に、FotR原作にはレゴラスがこの大弓でナズグルの乗騎(→恐るべき獣)を射落とす場面があり、目に見えて強力な弓になっている。
 「闇の森のエルフ」も主に森で弓を使う種族であり、だからこそレゴラスも元々弓の達人であったわけであるが、にも関わらず闇の森のエルフの弓よりも、ロスロリエンのガラズリムの弓の方が優れているのは何故であろうか。実際のところ、ロスロリエンの方が闇の森よりも「技術的に」優れているらしき雰囲気が全般的にある。これは、闇の森が王族のみが灰色エルフだったのに対して(初代のオロフェアとスランドゥイル、レゴラス以外に何人のドリアスの血筋がいたかは定かではない)ロリエンはじかにその民にも、ケレボルンの灰色エルフ、ガラドリエルのノルドール(上のエルフ)、またベレリアンド水没から逃れた緑エルフ(ライクウェンディ、より灰色エルフに「近い」森エルフ)などが多数含まれていたという記述がある。これら上のエルフの文化がロリナンドの森エルフのそれと混ざり、闇の森とは違う文化を形成していたのだろう。
 映画版LotRでは、レゴラスは第二作TTT以後はロリエンの弓を貰ったという設定で新しい弓を使っているが、FotRのDVD版の追加場面には弓を貰う場面がある。演者オーランド・ブルームは当時かなりの新参俳優を自認し演技に関するコメントを多く残しているが、「スポーツ好きの小学生が新しい自転車を貰った時のような気分」を想定して演じたと言っている。レゴラスのキャラ上まさにその他にあるまい。
 映画版で活躍の限りをつくしたこのレゴラスの弓は、*bandでも掲示板などでこのアーティファクト追加の要望やデータアイディアなどが出ることも少なくないが、[V]3.05では「レゴラスの弓」という特定のアーティファクトでなく「ロスロリエンの弓」自体をエゴアイテムとしており、原作に従うとこちらが納得できる。強力射がつくのは、恐るべき獣を射落とした強力さを意識しているものと推測できる。攻撃ボーナス修正自体は高速度と高精度の平均あたりになり単なる強力射の弓よりは確実に強力である。充分な階層であれば、アーティファクトの飛び道具に匹敵するものも期待できると思われる。



ロッド Rod 【物品】

 出典:英語のrodは「竿、棒」のような意で、その中には「杖、魔法の杖」といった意味もあるものの、魔法杖の意がもっぱらのwandや杖一般のstaffなどに比してさえ、かなり一般的で広義な語といえるかもしれない(なお日常的には最も多用されるのは釣竿の意という)。その語の選択の詳細はともあれ、RPGにおいては、もとい*bandをはじめ多くのRPGに定義が踏襲されているD&D系では、魔法の物品表にあらわれる杖のうち、小型なものから順番にwand, rod, staffとしている。さらに厳密には、AD&Dではwandは37cm前後、rodは60-90cmで親指くらいの太さ、staffは150-180cm前後のものという記述がある(版が進むと細かく異なる)。
 いわゆる「(魔法の)杖」のうち、このロッドの大きさのものとしてはどんなものがイメージできるか、筆者はZangband和訳当時、杖の中では紳士用のステッキくらいのものではないかと訳者に伝えたことがあるが、時代劇などで老人(→水戸黄門の印籠)や杖術(staffを使う「棒術」とは便宜上別として)で使用する、腰より上で握る杖ほどの大きさはないものといえる。ロッドの大きさで飾りのないものならば、しばしば手品師が(シルクハットと共に持つ)caneを思わせる側面もある。Rodが「鞭」の意を持つ点からも、乗馬鞭を思わせるが、鞭の用法やシンボルでもある権力の象徴として同様に、西洋の君主が持つ笏やsceptre, 大きさや形状においてメイス(片手戦棍)を模し、儀礼用の装飾を施されたものの側面も大きい。なお、日本のTRPGではスタッフなどの杖と区別するためロッドを「錫杖」と訳している場合があるが、これは笏を意味している場合はともあれ、日本での「錫杖」は仏僧などの持つ、頭に金属輪や八角などの特徴のある長いものなので少なくともそれとは異なる。
 大きさ以外の内容(能力的)な部分で、ワンドやスタッフとの差異は何であるのか、AD&Dの記述によると、(魔法の品の)ロッドは最も希少な物品の類で、強大な王や魔法使でなくては入手できず、持ち主に権力と権威をもたらすものである、とされる。上記したうち、君主の持つ権力の象徴としての杖の側面が非常に大きいものといえ、(効果に関しては一概には言えないが)ワンドやスタッフよりも恒久的であったり広範であったり(人心を常に魔法的に操るなど)決定的な効果を持つもの(強力アイテムや特殊能力を含む魔法を中和するRod of cancellation、初代RogueやNetHackの「魔力を封じる」「無力化の」杖である)も多い。上記の鞭や笏の側面か、メイスとして使用でき、強力な武器でもあるものも存在する。七つ道具に変形するといった、他愛もないが非常に強力なものもある。その広義な語にも従ってか、必ずしも「魔法使いの杖」のような能力でないことも多い。
 以降のRPGやその影響によるファンタジーでもロッドが使用されるが、D&D系が踏襲されているというよりも、これほど細分する必要のない魔法の杖をいたずらに分類してしまったことや定義が、引きずられているようにも思われる。CRPGなどでは特にロッドはマジックアイテムより魔法使系の装備できる「武器」であることも多い。大きさにかかわらず、「スタッフが木製、ロッドが金属製」といった分類にしているものも見受けられる。またTRPG, CRPGとわず、その映像的イメージからか、聖職者(白魔)系が使用するのがスタッフ、魔法使(黒魔)系がロッド、となっていることも多い(ロッドがしばしばメイスであることを考えると、これはむしろ逆にも見える。なお旧D&Dでは最初級ルールでのみスタッフが聖職者用という記述があるが、実質は一貫していない)。また日本ではRPG以外を含め、ワンドやスタッフを用いる魔法使いの姿の文化的な蓄積がないためか、魔法使いの杖に対して「ロッド」という用語やその「手ごろな大きさ」が、特に多用される傾向があるようにも思われる。
 物品:Moria当時から「魔法棒 wand」と「杖 staff」はあったものの、「ロッド rod」はAngbandすなわち[V]になって追加された物品のカテゴリである。魔法棒や杖が「回数制限」がある魔法発動物品であるのに対して、*bandのロッドはアーティファクトの発動効果同様、「使用後一定ターンで自動的にチャージされる」物品である点がその特徴である。強力なロッドの多くは階層が深く扱いが難しく、また元素攻撃などで破壊されることのある魔法棒や杖に対して、それらで破損することがなく、おそらく魔法棒や杖よりも「高級な物品」という位置づけであり、D&D系などを踏襲しているといえる。しかしながら、その効果そのものは魔法棒や杖の内容と重複しているものが多く、弱い戦闘魔法のロッドなどあまり用途のないものも多い。ターンチャージ制であることは、多く入手できれば便利だが、入手数が少なかったりターンが長いとワンドより連発できず不便であるなど一長一短である。しかし、反復使用のコスト面や上記した破損しない安定性から、ほとんどのバリアントでは最終的に持ち歩く魔法供給手段としては、最も強力なロッド類を目標とされることが多い。なお、ToMEをはじめとして一部バリアントには、アーティファクトのロッドもわずかに存在する。

 →魔法棒 →杖 →魔術師の杖



ローパー Roper 【敵】

 縄の怪物。ムチムチマッシーン。地下迷宮に生息する木のような石筍のような生き物で、風景に擬態し他の生物を襲う怪物。6本の縄のような触手が生えており、これを投げ縄のようにしならせて(Roper 投げ縄手という名の由来である)実に15メートル先の敵まで「近接攻撃」を行う。これがムチのような威力とかいうのがまず尋常な発想だが、その連打のスピードと一撃の勢いはとても尋常でない信じがたいほどの破壊力を持っている。AD&Dで5レベルくらいの戦士、もとい具体的な肉体の大きさではオーガーやトロールくらいの生物なら、その鞭はまず一発で体躯に食い込み肩胛骨をブチ割って上半身を腰寛骨まで鯵の開きのようにしてしまうことは確実である。そればかりか、直接打撃力だけでなく、この触手には捕食のための猛毒があり、命中とともに腕力をごっそりと減少させる(亜種の、より石像のようなストーン・ローパーこと「ストローパー」というものは、それに加えて麻痺攻撃まで持つ)。巧妙に待ち伏せすることができる知能は並の人間を上回り、石筍のような見かけ通り非常に耐久力は高く、魔法攻撃への耐性も高い。
 AD&D 1stのこの怪物のあまりにオーバーロード(詰め込みすぎ)の凶悪さは呆気にとられる他にないが、D&D系には「ダンジョンの仕掛け」ギミックを兼ねたモンスターが非常に多く、このローパーは高レベルキャラに大損害を与えるための半ギミックとして、とりあえず大量の凶悪な能力が叩き込んである代物のようである。
 元来はさほど有名とはいえないモンスターであるはずなのだが、ダンジョンの生物故に格好であったのか初期のCRPGから登場例は多い。一時代をなした『ハイドライド』に登場するタコのような姿(それも『ブラックオニキス』のクラーケンのようなリアルな蛸ではなく、タコさんウィンナーのようなファンシィーな姿である)のローパーは、迷宮の中を所せましと高速でせわしく歩き回っており、しかもとあるフラグが立つと「ハイパー化」(富野アニメか何か知らないが)を起こし、ぞろぞろとダンジョン外を徘徊するようになるという、何かを確実に勘違いした登場の仕方をする(なお設定にはタコではなく洞窟に住む吸血生物だと一応書かれているが、皆タコとしか呼ばない)。ハイドライドにかわって著名となった『ザナドゥ』ではその形状・動かない点とともに概ねAD&Dに近い形で登場し(出るのは「ストローパー」である)突如敵全般の攻撃力が上昇するあたりの階層における厄介な強敵である。これらの有名古典ゲームの地盤故か、後代のCRPGにも原型通りのもの・離れたもの共に、しばしば登場する例が見られる。
 *bandでは[Z]から多数加えられたAD&Dモンスターのひとつとして登場する。どういうわけか原型と大きく異なり、「自分は動かないが凶悪な魔法を次々と使ってくる敵」の一種となっており、なぜか打撃力自体はそれほどでもない。打撃は腕力減少ではなく麻痺なので、強いて言えばストローパーなのかもしれない。登場するあたりの階層では割としぶとい方に入るので、霧と間違って突入したりしないよう注意が必要だろう。



ロヒアリムの金属製ブリガンダイン・アーマー The Metal Brigandine Armour of the Rohirrim 【物品】

 『指輪物語』のロヒアリムとはシンダリン語で「馬の司」の意であり、ゴンドール人らがローハンの民を指して言う言葉である。ローハンはゴンドールのすぐ北、ひらたく言えば中つ国地図の南部を東西に横切る「白の山脈」を挟んで北半分にある、ゴンドールの同盟国である。
 もともとロヒアリムは、『ホビットの冒険』に登場するビヨルン一族や谷間の国の人々と同族で、原初のエダイン(エルフと会ったドゥネダインではない)の遠い子孫にあたり、当初は同族同様に荒地の国の北部に住んでいたが、青年王エオルがゴンドールの支援に駆けつけたため、ゴンドール北部の地域を分けられ、そこにローハンの国を築いた。この戦いやエオル王や一族に関しては『エオル家のランス』などの項目を参照されたい。以後、 ローハン国はゴンドールの属国や包領ではなく、あくまで対等の「同盟国」として指輪戦争の後も共存を続ける。
 北方人は一般に、ドゥネダインよりは小柄でがっしりとしており、ビヨルン一族や谷間の国には黒い髪や目が多いが、ローハン人は金髪碧眼でやや長身(特にエオル王家は大柄のようである)が多い。「ロヒアリム(馬の司)」という名の由来はかれらがそのまま馬の扱いに長けていたためで、北方人はなんらかの動物と深いかかわりがあるが(熊に変身できるビヨルンや、鳥と話せるバルドなど)ロヒアリムは中つ国で最も馬の扱いにたけるとされ、ローハンで産出する馬やその騎馬軍団はモルドールの軍でさえ脅威と見なしていた。(映画版LotRのスタッフは、ローハンの騎馬軍団のような「機動力をもつ軍団」は中つ国に他に類を見ないとコメントしている。)
 さて、ロヒアリムの鎧であるが、『指輪物語』原作にはロヒアリムの鎧の中に、特殊なものや名前のあるものは出てこない。「ハラドのクロスボウ」「バックのスリング」等と同様、特定の文化の優秀な物品のごくひとつがアーティファクトされているに過ぎない、とも考えられ、おそらくローハン軍の騎士らの使っている鎧のひとつで特に上質なものとも思われるが、[O]由来の解説の「青年王エオルの魂を感じられる」云々からは、特に王家のためのものであるとも考えられる。もうひとつ言及すべきは、原作TTTヘルム渓谷の戦いの場面で、アラゴルンとレゴラスが王宮からロヒアリムの鎧を借りて着用するのだが(映画版TTTではこのとき彼らは鎧は着ない。ギムリが長すぎる鎖帷子を引きずる場面なら出てくるが、原作の「ドワーフの丈に合うものがない」という表現を受けたものである)このときのアラゴルンらのもの(他国人に貸されるもの)を指しているとも考えられる。ただし、ここの鎧はローハンで作られたものではなく、父祖の時代(エオルの時代であろうか)にゴンドールから贈られた、西方国の技で作られた鎧である。
 ローハンの騎士らの着ている鎧は、原作邦訳ではしばしば「甲冑」と書かれているが、ここは原書の該当箇所では単に'mail'であり、単に「鎧」、多分には「鎖帷子」を意味する語であり、いわゆる板金鎧ではないと見るべきである。「ブリガンダイン・アーマー」は金属の小札を他の鎧地で挟んだもので、一般にプレートメイルやプレートアーマーといったより重装鎧が登場する前に補強に用いられた鎧である。ヌメノールやゴンドールよりはやや古い型の鎧を使うというイメージで、ロヒアリムに選ばれたと考えられる。詳しくはヘルプファイルのj_item2.txtを参照されたい、といいたいところだが、こうした中装鎧は特に呼び名の使われ方も実態も極端に錯綜しており、他の作品での記述を鵜呑みにすることは決してできず、データから注意深く検討する必要がある。例えば、AD&D 1stではブリガンダインは、記述によると布や革の鎧に小札を縫いつけ、その上に革を重ね、下地は革鎧という、かなり防御効果の弱い鎧を指し、多くの海外RPGではこれに準じているのだが、Moria/*bandでは、強化鎖かたびら(和製TRPGではほぼ例外なく「プレートメイル」とされているものに該当する)をしのぐ準重装鎧の一種となっている。「金属製」ブリガンダインという記述からも、おそらく下地は鎖帷子で、あるいは小札を固定しているのも鎖帷子といった、かなりの重装備を指す解釈を採っているものと考えられる。
 [V]から登場するものは、基本の元素耐性と混乱、轟音耐性、わずかながらも腕力と器用の+2があり、ほぼ全耐性の上位として重宝する品である。

 →エオル家のランス



ロビン・フッド Robin Hood, the Outlaw 【敵】

 出典:12世紀頃に活躍したという伝説のイギリスの義賊・射手。無法者の代名詞とされ、現在に至るまで諺に使われるほど定着しているヒーロー像である。リトル・ジョンら友人・部下と共にシャーウッドの森を根城にし、主にノッティンガムの代官が宿敵であるが、国王リチャード一世とは盟友であり、基本的に国の腐敗を正す。
 14世紀頃からバラッドの数々に名前が見られ、また「ロックスリ出身のハティンドン伯ロバート・フィッツォース」という捏造らしき系図が幾つかの歴史書に引用され、実在と信じられたこともあったが、現在では実在もとい特定のモデルとなる実在の人物がいるのか否かは不明とされる。妖精ロビン・グッドフェロー(シェイクスピアでは、例の「パック」がこの名を名乗ることがある)やフッドキン(hodekin エルフの別称という)、またそれを名乗った盗賊に由来しているとも言われる。
 古今、英語圏にて数々の物語に描かれているが、特に有名なのは18世紀にサー・ウォルター・スコットの『アイヴァンホー』(名作だが、歴史小説的ながら考証が目茶目茶なことでも知られる)に森の義賊「ロックスリ」として登場し、リチャード一世や騎士アイヴァンホーを助けるものである。
 ケビン・コスナー主演のRobin Hood: Prince of Thievesは、この著名なヒーローの伝説の現代決定版、意欲作とアナウンスされていた。それをなかば鵜呑みにして格調高く地に足のついたものを期待した向きがむしろ悪かったのか、贔屓目に表現しても「お約束筋立ての娯楽物」であり決してそれ以上ではなく、なまじ話題作でフッドの知名度を高めただけに「ケビン・コスナーは俺の名を地に落とした!」との[Z]の台詞も無理からぬことである。
 なお余談だが、日本では時々フッドの逸話と混同されていることもある「人の頭の上のリンゴを射抜く」のは、スイス独立の英雄とされるウィルヘルム・テル(架空の人物)でありまったく無関係である。海外ではテルは一般性では到底フッドに及ばないが、日本では、政治的背景の強いテルの方がフッドよりも有名というのは実に意味深長である。
 敵:*bandでは8階に登場し、同じ階層の『ヘビの舌』とよく似た敵である。DROP_GREAT(倒すと最上質品を落とす)も同じなのでそれは良いのだが、攻撃力に決め手がなければ「スピード・トラップ生成・盗み」に翻弄され、なかなか厄介な相手となる。ただしヘビの舌の毒攻撃に比べると危険さはそれほどでもなく、弓も撃ってくるが、これに殺されたという話は聞いたことがない。有名なヒーローにも関わらずこの階層と「狡い敵」ぶりは、やはり[Z]原作者TY氏の映画への感情の表れであろうかとしみじみと考察する。



ワイアーム Wyrm 【敵】

 wyrmはいわゆる「大長蟲」、dragonの文語表現のひとつである。ここから、日本のTRPG等ではもっぱら、中世の古い絵画で(長蟲の意を含め)そう呼ばれている蛇型、ないし類似に描かれたドラゴンを指す(転じて東洋の蛇形の竜も指すことがある)。一方で、AD&Dでは形態に関わらず、「古語で呼ばれるに値する歳経た強大なドラゴン」をwyrmと呼び、多くのファンタジー概念にAD&Dを流用している*bandでもこれに準じている。wyrmは英語では「ワイアーム」とは発音しないが、*bandでは[V]の翻訳コメントによると、大仰さを示すために故意に実際よりくどい字面が選択されている。また*bandの日本語版では字数の関係で「ワイアーム」のみとなっているが、英語版では実際はgreat wyrmであり、AD&Dでの最大ランク「古龍」に相当する。
 (余談だが、RPGの解説サイト等で「蜥蜴型=西洋のドラゴン=『竜』、蛇型=東洋のドラゴン=『龍』」との主張が著しく頻出するが、特定の作品世界ごとの設定・定義ならばいざ知らず、ファンタジーの「一般論」として述べるには何ひとつ根拠はないので注意。「龍」は「竜」の繁型(修飾字)に過ぎず、意味の上ではどう深読みしようが完全に同義である。なお、新和旧AD&D和訳では形態に関わらず年へたドラゴンに「龍」「古龍」の字をあてる様式であったが、ただし、年へたドラゴンは体長・尾長が伸びるため、元々蜥蜴型のドラゴンでも年へてゆくと蛇型に近くなり、年へたドラゴン=蛇型=どちらの定義にせよwyrm,龍という説もある。)
 *bandでは、元素属性(ヘル、アイス、ストーム等)のものを下級ワイアーム、複合属性(カオス、バランス)のものを上級ワイアームということもある。なお[Z]で万色ワイアームやパワー・ワイアームなどが追加された。広義ではよく似た性質を持つ強力な'D'(スカイ・ドレイクなど)もワイアームに含めることもある。
 ワイアームは攻守ともに強大無比な力を持ち、下級ワイアームは対応する元素の免疫などを持っていれば物品、経験ともにリーズナブルになり得るが、上級ワイアームはプレイヤーキャラのパワーバランス限界を明らかに越えたさらなる攻守能力と、複数種類の上級属性ブレスに加えて同族の(つまり'D'の、である)召喚能力を有しており、まずもって洒落にならない。



ワイト Wight 【敵】

 wightとは、古語でずばり「人間」を指す語であり、古代の武人、転じて英霊、超自然的な精霊も指す。従って、『指輪物語』和訳でBarrow-wightが「塚『人』」とされているのは非常に深い意味がある。しかしながら、現在この古語wightが使われる場合はもっぱらRPG用語としてであり、この塚人をモデルとした下級のアンデッドモンスターの名前として、である場合が多い。
 『指輪物語』序盤に登場し、指輪所持者のホビットらを襲う塚人らは、魔王の国アングマールと征服されたルダウアからやってきた「悪霊」らで、カルドラン国等の塚を乗っ取っているが、彼ら自身がいわゆる「アンデッド」であるかどうかは定かではない。上記した語源のように精霊などの可能性もあるためである。(なお、このときメリーにとりついて「カルン・ドゥム(アングマールの要塞)に攻められた」云々と喋るのは、塚の本来の持ち主であるカルドラン国の最後の王の霊で、塚人らとはまた別である。)
 この塚人らをモデルに、RPG(クラシカルD&D)では「死体や骨を亡霊が操っている」というアンデッドとなっているが、『指輪物語』中でも割とあっさりと退けられてしまうためか、位置づけは、ゾンビやグールの次段階の下級のものである。ただし、通常の武器無効やエナジードレインといった、いかにも亡霊らしい能力はワイトから備わるようになる。単なる下級の亡者とみなされ、武人の霊というイメージから離れていることがほとんどだが、和製RPGなどでも時々デスナイト(アンデッド・ナイト)の従士は必ずワイトであるとするなど、注意深くデザインされている場合もある。
 *bandではMoriaの時点から、トールキンのBarrow-wightをはじめGrave Wight(これはAD&Dのもの)、Emperor Wightなど何種類かが登場し、いずれも中級の強さのアンデッドである(RPG的にはより高級とされるレイスの方が、*bandでは強さに上下のばらつきがある)。翻訳コメントにある通り、Barrow-wightを「塚人」とするとGrave Wightが「墓人」となるのが不自然に感じたとのことで、wightはそのままワイトとされている。またToMEにはトールキンのユニーク「塚山の『ワイトの王』」も登場する。



ワイバーン Wyvern 【敵】

 出典:wyvernは漠然とした竜の古語である大長蟲wyrmとよく似た語であるが、ラテンのviperに派生した流れと共通し「毒虫」のイメージが強い。そして、ワイバーンと呼ばれる竜の印章・紋章は「強い棘、毒針」を持っているという点で共通している。それ以外の点においては、足の数、他の生物の特徴をもつもの(キマイラ系)、炎や毒を吐く姿など、まったく共通点はないが、比較的多いものとして「巨大な翼をもつ竜」(他の特徴はともあれ)の印章を共通して指すようになった。
 RPGではD&D以来もっぱら、前足がない小型のドラゴンの姿をした怪物を指す。ブレスウェポンを持たず、尾に毒針がある。また、ドラゴンとは異なり動物くらいの低知能で、自然のものは獰猛ではあるが、一方で飼いならされて人間(主に敵役)を乗せる乗騎の役柄で登場していることも多い。特に物語では、彷徨うモンスターやガーディアンよりも、乗騎の場合が大半である。作品によってはワイバーンと呼ばれていても、これらのうちいくつか特徴が異なる場合があるが、小型で乗騎という点はほぼ共通している。
 ワイバーンを「ドラゴンをしのぐ飛行速度をもつ」としている和製FTは非常に多いが、これは乗騎として用いられることからいつのまに拡大したイメージのようである。クラシカルD&Dではドラゴンとワイバーンの飛行速度はまったく同じで、AD&Dでは上位のドラゴンはいずれもワイバーンよりも段違いに速い。小型なことから身軽であるという発想かもしれないが、だいたいドラゴンの飛行というそれ自体物理的に無茶なものにそういった感覚が介入できるものではない。
 なお、『指輪物語』でのナズグルの空とぶ乗騎(→恐るべき獣)は、映画版LotRではことに(日本のイラストレータの描く)ワイバーンの姿に近く、映画の関連書籍や、ファンサイトでこの生き物が「飛竜」「ワイバーン」等と呼ばれていることが非常に多い。この生き物は少なくともモルゴスの手によるアルダの様々なドラゴンとはまったく関係のない経緯を持つ生き物であり(起源はモルゴスのドラゴンよりも古い)原作でも映画版LotRでもこの生き物が竜とかワイバーンとか呼ばれている箇所は一か所もなく、あくまでファンの通称であることには留意すべきである。
 まったく余談であるが、かつて少年ジャンプ誌に漫画『バスタード』の最初期が連載されていた頃、名脇役の忍者マスター・ガラ(→慶雲鬼忍剣の項目参照)の乗騎としてワイバーンが登場したことが一部ではよく取沙汰されたものであった。わずかな8bit-PC geekを除けば、FRPG世界といえばほぼ「DQシリーズ(ある意味、鳥山明のコミカリティに支配されたイメージ世界であり、古典的なFTではない)」しか世間一般に知られていなかった頃に、バスタード(当時)がメジャーな少年誌にD&D的な本格的な古典RPG世界観をひっさげていたことはそのgeekらに大きな波紋を呼んだのであるが、ことに「ワイバーン」という当時「geekの中でもRPGフリークしか知らないような怪物」の登場には目を見張り、ことさらに「ガラの飛竜」はよく引き合いに出されたものであった。ワイバーンという怪物は、一般にRPGの設定においてはさほど重要な存在ではないが、そうした当時の印象から一部には思い出深いといえる怪物である。
 敵:TRPGのルールでは、ワイバーンはドラゴンの亜種としてもドラゴンそのものではなく、スレイングなどが通用しないとしていることが多いが、なぜか*bandではDRAGONフラグがついておりスレイングが効く。ドラゴンのようなブレスはもっていないが、設定通り毒があり、また、階層のわりになぜか相当に耐久力、攻撃力が高いので(下手をすると同階層のドラゴンよりも危険である)かなり注意を要する怪物であるといえる。
 なおモンスターの思い出では「毒爪に気をつけろ」となっているが、原語ではpoisonous stingであり「毒針」おそらく爪ではなくD&D系と同様の「尾の棘」のことである。



ワーウルフ Werewolf 【敵】

 出典:Werewolf 人狼(were- 人間)の本来の起源や民間伝承、各種RPGでの扱いに関しての詳細は専門のサイトに譲るが、例によっていわゆる狼憑き(神経症)や狂水症(狂犬病)などにかかった人間の姿が、獣と化す(次第に変化してゆくあるいは変身能力を持つ)イメージへと変化したというところらしい。これが他の熊(→狂戦士 →ベオルニング)や白鳥に変身する人間の本来別根の説話や、吸血鬼、神隠しの取替え子 changelings、夢魔の子などの超自然の落とし子と地方によって混合してゆくことになる。
 トールキンのアルダ世界におけるワーウルフは「巨狼」と訳されるが、彼らは元々は、アルダの伝説時代(第一紀)に初代の冥王モルゴスが堕落させ配下としていたマイアール(下級神)の悪霊らとされる。モルゴスの城砦の中でも、こうした獣の悪霊らが集っていたのが「巨狼の島」トル・イン・ガウアホスであり、その悪霊の首領が巨狼の祖ドラウグルイン(→参照)である。ここでは、「姿を変えられる生物」の能力は、「肉体を服のように取り替えられる」というアルダの神族とのつながりが暗示される。アルダにおいてはワーウルフの源流は、以降のRPGのような病気による獣化や「モンスター」としてのイメージとはおおよそ大幅にかけ離れた強大な存在なのである。
 モルゴスの軍団が滅びた第二紀以降は、ドラウグルインの末裔とも呼ばれる巨狼・魔狼らはいるが(→ワーグ)他の姿と狼を使い分ける、いわゆる人狼のような類が生き残っていたという記録はない。しかし、もし第二紀以降に悪霊の遥かな血をひき、不思議な力を持つものがその子孫に度々現れることがあったとすれば、それは「悪霊の落とし子」という、民間伝の人狼の形態のひとつにきわめて近いイメージを持つものかもしれない。
 なお、ビヨルン一族など熊人族は、『ホビット』のガンダルフの台詞に示唆されているように、これら巨獣の「悪霊の子孫」とはまた別の種族(おそらく、ロヒアリム同様に動物と関連が深い北方人)であるという説が有力であり、後述するRPG的な分類においてはいわゆるライカンスロープではなくシェイプチェンジャーにあたる。
 さて、D&D系をはじめとしてRPGのルールでは、ワーウルフをはじめとしてさまざまな獣への変身能力を持つ人間の大部分が、一律「ライカンスロープ」と総称される一群に組み入れられている(Lycanthropはギリシア語の「狼人」の意である)。ライカンスロープは高貴な魔力や血筋によるものではなく、ライカンスローピィという忌まわしい伝染病によるもので、これは狂水病が元となる伝承や、そして狼化病が伝染すると信じられたことに由来している。ライカンスロープのルールはワーベアーやワーボアー、ワーフォックス等にも適用されているが、これは本来伝承としては狼人のみのもので、他の変身動物は多くはまったく別根の伝承に由来しているところをゲームとしての便宜上一律ライカンスロープとして扱っているものである。特にRPGからモンスター類の知識を得たRPGファンは、ライカンスロープ以外の生来の変身能力を持つシェイプチェンジャー(変身生物の総称だが、概ねシェイプチェンジャーという言葉は「ライカンスロープ以外の」変身生物を指す言外の意が多い)らや、ひいては人狼以外の伝承の成立をライカンスロープのそれと混同しないよう留意する必要はあるだろう。
 ワーウルフをはじめとした変身生物は、ホラーとファンタジーとを問わず「オオカミ男」のような半獣半人へと変身するものとほぼ完全に信じ込まれているが、実際のところ伝承では(獣じみた人間から獣への変身まで様々なイメージが混合したので当然だが)毛深さ程度がオオカミじみた人間から、四足歩行オオカミといった中間形態、完全なオオカミになるものまで説話ごとに様々である。クラシカルD&Dでは、中間形態ではなく「完全なオオカミの姿に変身する」(しかし、獣に詳しい者や見慣れた者には明らかな邪悪な「雰囲気」の違いで見分けられる)となっていた。3edでは中間形態も完全な狼の姿もとれることになっている。
 人狼は吸血鬼と同じ地方で混同されて伝承になっていることも多く、重なる部分も多いことから、後代に同じゴシックホラーの要素として併用されることも多いが、D&D系では、吸血鬼はこれら獣化人の完全な上位版であるとして、ワーウルフやワーバットと全く同じ変身能力も備えており、これらの伝承の混合をも反映している。
 敵:*bandのワーウルフは、トールキン邦訳での「人狼」「巨狼」といった訳ではなく(ワーラットが訳しにくくなるので)ワーウルフとそのまま訳してある。はたして一般のRPGファンが想像するような半獣半人の「オオカミ男」なのか、完全なオオカミの姿をとっているのかは定かではないが、トールキンの「巨狼」の設定であるとすると、後者と考えるべきであろう。
 20階のノーマルモンスターで、特に病気攻撃があるでもなく、集団で出るでもなく、宝物も落とさず、心持ち強靭なくらいで*bandでは最も地味なたぐいのモンスターの一種である。結局のところ怪物化としてのライカンスロープは人間との間の変身のギミックの活用をシナリオで用意したり海外での「人狼という存在であること自体への恐怖感」がなければ、普通のCRPG用のモンスターとしては甚だ無意味な存在であるといえる(Wizardryなど、一部ライカンスロープに毒攻撃をつけたりして個性を持たせている場合もあるが蛇足でしかない)。せめて*bandのシステムならば同族召喚でも欲しかったところであるが、これが現状のバランスである。



ワーグ Warg 【敵】

 魔狼。トールキン作品に登場する凶悪な狼の一種を指す。多くのファンタジー作品では、強靭かつ精悍な獣である狼は、エルフの友であったりと善玉であることが多いが、トールキンでは(忠実な犬に対して)闇の勢力として現れることが多い。魔狼や巨狼のうち特に凶悪なものは、モルゴスの配下の悪霊ドラウグルイン(→参照)の直接の子孫であったろう。
 霧ふり山脈(中つ国の中央を縦断する)の主に東に沿って生息し、『ホビットの冒険』では山脈東に住むゴブリン(洞窟オーク)と共に悪事を行う狼がワーグとされ、また五軍の戦いでもグンダバドのゴブリン軍と共に戦い、背にゴブリンを乗せた姿が見られた。また、『指輪物語』では、山脈をまたいで西にやってきた(アラゴルンの推測による)ものがモリアの入り口付近で一行を襲うが、これらは殺されても朝になると死体が消えうせている、というかなり超自然的なものである。こちらのワーグが『ホビットの冒険』のものと全く同じ種族であるかは定かではなく(ワーグは多種の凶悪な狼の総称とも考えられるため)あるいはドル=グルドゥアあたりから派遣された、より巨狼の悪霊に近いものかもしれない。
 Wargは『ホビットの冒険』ではアクマイヌ(悪魔犬、旧版ではいわゆる基地害犬だが新版で直されている)と訳されていたが、『指輪物語』ではそのままワーグ(新訳では「魔狼」にルビ)となっている。トールキンは、古英語のweargや古ノルド語のvargr(これらは狼の古語であるが、そのまま伝説的な巨狼も指す)が、現在では「ごろつき、ならず者」の意でもある点から名づけたと書簡で語っている。言葉自体は単なる古語であるものの、例によってこのモンスターの名として「定義」したのはトールキンというわけだが、多くのRPGがワーグやウォーグウルフ等を通常の狼よりやや強いモンスターとして配し、ゴブリンと共に登場したり、ゴブリンが乗って登場する点まで忠実に倣っているRPGも多い。
 映画版TTTでは、サルマンがローハン軍の通行を妨げるために、ワーグに乗ったオーク部隊を送り出し、CGクリーチャーのワーグとウルフライダーのオークたちの暴れぶりが描かれる。が、原作ではワーグはあくまで直接的・間接的にモルドールの勢力であり、サルマンがワーグまでも手なずけていたかは疑わしい。ともあれ、映画版に登場するワーグのビジュアルは、直接にオオカミというよりは他のイヌ科の動物や熊科なども思わせる、かなり意外なデザインである。そしてまがまがしい闇のように黒い毛皮ではなく、毛並みは野良犬か野生のヒグマか何かのようである。おそらく、故意に犬や繊細な動きを思わせやすいオオカミを避け、純粋な「獰猛な獣」の表現を意識したのではないかと思える。
 *bandでは、動物系の常でやや強靭で動きがランダムである他は(ただし動物でもevilフラグがある点が魔法攻撃に対して特殊な点であろうか)階層不相応に強いわけでもなく、素ではさほど印象的なモンスターではない。しかし、重要なのは[Z]から入っている序盤クエスト「ワーグを殲滅せよ」で、このあたりの階としてはかなり深階層のワーグが確実に多数登場するので、固定クエストであるという点を利用して階段の上で戦い少しずつ倒してゆくという戦法によって、序盤に一気に結構なレベルを伸ばすことができるクエストとして重視されている。ワーグの数を調整してさほど極端に伸びないようにしているバリアントもあるものの、依然として序盤の稼ぎ所のひとつである。(しかし、クエスト文章では、その階層にワーグを配しているのも不明であるが、それを排除したい「依頼主」というのは一体誰なのかもよく考えてみると不明である。)一般に、ワーグというとまずこのクエストが連想され、「ワーグ」だけでこのクエストを指していることも珍しくないようである。



ワーロック Warlock 【敵】【クラス】

 魔人。「魔法使い」を表す英単語の古語のうちでも、きわめて古めかしいもののひとつ。最も「一般的」には、よく知られたwitchという単語を「女性」の魔女を意味する語とした場合、'witch'の男性形にあたるのはwizardではなく'warlock'である、とするものである。どちらにせよ、mageなどの宗教・学術的な術師を指す意味が強い語に対して、「邪霊・悪魔と契約して忌まわしい力を得ている術師」を指すと言える。ただし、witchは魔術専門の話題では男性の邪術師も指すので、そこでwarlockがあえて使われる場合には、善のニュアンスが強くなっている場合も多い。特に、悪魔ではなく「中立の精霊から力を引き出す術者」、ひいては、「四大元素の魔術を扱う術者」という意味が採られていることが、古いRPGでは特に多い。ここまでを総じて言えば、何らかの超自然的な「力源」と契約した・力を引き出す術者を指す、ということになる。(なお、Warlockの語源はラテンの「盟約を違える者」に遡るという説があり、単なる魔法使いの一般蔑視にありがちな詐欺師とも、また悪の盟約を行う者とも採れる。)
 最も広義には、その世界の魔法使いを表す言葉で、メイジ、ウィザードやソーサラーといった言葉が一般的である場合、古語であるワーロックはかなり高レベルの術者を指すものとして使われる場合もある。FTの中でおそらく最も有名なワーロックは、一般名詞ではなく個人の呼び名になっている、ラリー・ニーヴンの『マナ(魔法の国が〜)』シリーズにおける大魔法使いウォーロックである。ここでは「戦を封ずる者」にかけたジョークでもあり(実在のwarlockという語は語源上、war 戦とは全く関係は無い)古めかしい尊称として以上の意味はないようである。
 しかし、ゲーマーの間で最も重要なワーロックは、ゲームブック『ファイティング・ファンタジー』シリーズ等の「タイタン」世界設定、「アランシアの三魔人(デーモニック・スリー)」のひとり、『火吹山の魔法使い(ウォーロック)』ことオルドラン・ザゴールであろう(かつてゲームブックやT&Tを扱っていた雑誌『ウォーロック』は、この名作から誌名が取られていたに相違ない)。おそらく原書でのwarlockは単に、それこそwitchの男性型の意、禍々しいイメージを出すためだけに選ばれた語ではないかと思われる(そのため、単なる「魔法使い」という訳には異論もある。もっとも逆にマンパンのArchmageが旧訳でなぜか「大魔王」などと同様、FT訳語が手探りの時代の訳だったので、いたし方ない)。しかし一応、ザゴールは「魔法のカード」から魔力を得ているため、分類上でも何らかの力源から魔力を引き出す典型的なワーロックであるとも言える。(ただし、後の作品や小説では混沌魔術師や死霊術師に転向したりもしている。)
 CRPGでも、タイタン同様に魔女の男性版といった敵役に用いられる例が見られる。例えば「しんのゆうしゃ」が読んで字の如くに自殺行為という名のデストラップにかかりまくる、限りなくノリがゲームブックなレトロFTAVG、『シャドゥゲイト』の敵魔法使いも「ワーロック」である。
 またワーロックの語義としては、ウィッチの男性形や元素術師に比べればやや稀であるが、魔人・魔将、warの響きとの関係(前述のようにジョークを除けば語源上の関連は薄い)から、「魔法戦士」を指す言葉であることもある。特にAD&D 2ndのwarlockクラス(サブクラスのwitchの男性形になっているサプリメントもあるが)は、クラシカルD&Dのエルフ的なクラスで、剣と魔法の両面で強力であり、人気が高かったようである。PernAngband/ToME1でもこれらと似た意味で、[Z]の魔法戦士(→参照)にあたるものがほぼそのままウォーロックと名を変えられている。なお、これを、ToMEのスポイラーサイトで「『ダーク・ソード』シリーズが元ネタ」と説明されていることがあったが、小説『ダーク・ソード』に登場する「魔法戦士(ウィッチおよびウォーロック)」は、剣と魔法の使い手ではなく、魔法のみが支配するシムハラン世界において「戦闘の魔法を担当する高級術者」(witchおよびwarlockという語のもつ「危険な魔法」のイメージが、戦闘魔法に結び付けられたのであろう)を指す語である。ToMEのウォーロックは特にこれではなく、AD&Dなどと同様、単に武器と魔法の魔法戦士の意であると思われる。
 なお、D&Dシリーズでも近年のゲーマーに知られていると思われる3.Xe〜5版などの「ウォーロック」は、破壊光線を連発することのできるミュータント的異能者のクラスで、以前の版の「通常の魔術師のサブクラス」や、「通常の魔術師と複合した魔法戦士」とは、全く異なるデザインのクラスとなっている。特に5版では、強力な妖精・精霊・悪魔等のなんらかの存在と契約するなど、冒頭に述べた語義の性質もある。ひいては、以前の版のAD&D等を参照したCRPGのウォーロックについては、3〜5版のウォーロックの情報は全く参考にならないので、特に注意を要する。
 ToMEの魔法戦士の他には、「ダークエルフ・ワーロック」などのモンスターのタイプとして[V]から出現する。ダークエルフはさまざまな職種名を介しているものが多いが、魔術師としては強さからするとメイジ<ワーロック<ソーサラーとなっている(ソーサラーも邪術師としてかなり高級な響きに使われることが多い語である)。ダークエルフ・ワーロックは何よりも「魔力の矢」を持ちしばしば集団で現れて連射してくるので、反射を持たない前半〜中盤には、常識を外れたかのような大ダメージをもたらしてくれる。中盤までの主要な死因のひとつになっているほどである。(くどいようだが、ワーロックだからといって魔女的な邪術や元素術を使ってくるわけではない。というよりも、あまりにストレートな危険な魔法の連射ぶりが、むしろこっちが『ダーク・ソード』のウォーロックのようである。)
 高級とはいっても、単独で現れて魔力の矢も持たないダークエルフ・ソーサラーも危険といえば危険なのだが、怖さで言えばとてもワーロック軍団の比ではない。場所を選んで戦うか、それよりは避けた方がいいかもしれない。丁度、前半戦での「感知」の重要さが際立ってくるあたりである。



ワタリガラス Raven 【敵】

 日本では「ラットとマウス」「大きいハエとショウジョウバエ」などを区別するのは動物のお医者さんに出てくる菱沼さんくらいのものだとでも思われているかもしれない。しかし海外では、同じ動物でも大きさの違いでまったく違う名前がついていたり、別物と見なされていることが意外に多い(逆に、日本と違って、色や形に関しては、若干違うものでも同類としていることも多い)。
 大ガラス ravenとカラス crowもそのひとつであるが、トールキンのアルダ世界では非常に顕著な例として、大ガラスは光の勢力に近い誇り高い種族で、カラスは闇に近い卑劣な種族(→クレバイン参照)という厳然たる区別がある。『ホビットの冒険』において、ドワーフのバーリンが、大ガラスの一族はエレボール(はなれ山)のドゥリン王家と懇意だと語る場面があり、まもなく登場したカークの息子ロアークと名乗る大ガラスの長は、齢153年を数え、西方共通語を話すこともできた。さらにはロアークは、トーリン二世がドワーフ王族の宿命で黄金に魅了されて正気を失い始め、人間(湖の町のバルド)や森エルフ(スランドゥイル)の軍と事を構えようとしているのに対して、戦略や政情を分析し、諸国との友好を勧める、社会把握すら備えている聡明さである。このロアークは五軍の戦いにおいて伝令もつとめた。
 *bandにおいては、Ravenがこの大ガラスの一族と同じものと認識されているか否かは(追加された[Z]原語でも邦訳でも)定かではないが、日本でのレイヴンの訳語である「ワタリガラス」が当てられている。『ホビットの冒険』のエピソードが思い出されることはおそらくほとんどないと思われ、もっぱら「食料の準備や荒野の危険さを知らずに全体マップに飛び出してしまった初心者キラー(長すぎ)」として認識されている。スピードが速いので、キーを押しっぱなしにして荒野を通り抜けようとしたらいつのまに毎回攻撃されていて殺されていたとか、そうでなくとも一旦襲われれば逃れられないといった状況に陥る。ワタリであることや大ガラスの名に漏れず、意外に強靭な生物であり、結構なレベルになるまではそう油断できない生物である。



ワンダー

 →謎の魔法棒


ワンド wand 【アイテム】

出典:魔法棒。棒杖。wandは「杖のようなもの」を指すことができる非常に多数の英単語のうちひとつで、中でも杖として広義なstaffや、棒状物として非常な広義なrodに対して、「魔術・呪術」の道具やシンボルとしてのニュアンスを、かなり強く持つ語である。ここではシンボリズムや由来に関しては簡単な記述にとどめ、Roguelikeゲームでの扱いおよび関連する点を主として記載する。
 棒としてのwandは、古代ブリテン島では長さを現していた語としても使われ、yardに関連するともいわれており、農具としての尺棒のニュアンスがあったもののようである。wandはタロットのスート(ただし、場合によってはタロットの「杖」も、rodやbatonと呼ばれることもある)にも通じる魔術シンボルの他、「ウォンド」と表記した場合、手品師のステッキでの使用(特に、caneより短いもの)を指す場合もある。
 以上のような語そのもののニュアンスとしては、杖の中でも、多分に歩くためのstaffや武器としての六尺棒よりは、小型の杖を指しているように見える(辞書などには「細長いもの」と書かれていることも多い)。さらに、魔法のシンボルとしてのwandと呼ばれるものには、魔法使や妖精が持っている、片掌のサイズの、さらに小型の魔法の道具(現代の指揮棒なども思わせるもの)も多い。これは、中世以降、『オデュッセイア』劇において魔女キルケーが持っているものが小型と描写され始めたのに発し、中世後期から近世の妖精物語などで定着したともいわれる。
 日本では一般的な訳語としては、ほとんどの場合そのまま「杖」「魔法の杖」「棒杖」などと訳されるが、ときどき「魔法棒」という訳(旧D&Dの新和訳で有名だが、[V]などでも採用されていた)が、珍妙な訳の例として引き合いに出される。ただし、「wand=杖」は英和辞典などにも載っているが、鵜呑みにするのは短慮である。日本語の「杖」という一文字漢字のニュアンスは、stavesやrodsならともかく、魔法の道具としてのwandという単語の指している意味とはほとんど重ならないため、杖という語を避けたという見方もできる。wandに「魔法棒」という訳語を選択した例には、古くは英文学者でもあった夏目漱石がいる。
 FT諸作品やRPGでは、wandは歩行用等でなく、純然たる魔法の杖として登場することも多く、その大きさや道具としての位置づけも様々である。作品によっては、他の「杖」の位置づけ同様、魔法の媒体(収束具や発動体)や術者の力を増強させることになっているものも多い。例えばT&Tでは媒体としての杖にワンドの形状を選んでもよいことや、7版では媒体としてのワンドのアイテムも記述されている。しかし、Roguelikeをはじめ多くの古いRPGでのwandの大きさやアイテムとしての位置づけ、能力は、最初のTRPGであるD&Dシリーズでの「定義」をそのまま踏襲しているものである。
 D&D系では、wand, staff, rodに3大別される魔法の杖の中では、wandは最も小型のものとされ、版によって厳密な数値にはかなりばらつきがあるが、*bandやNetHackが直接参照していることが多いAD&D1stのDungeon Masters Guideの定義によると、wandは「1と1/4フィート(およそ38.1cm)の長さで細く、・・・象牙、骨、木などで造られ、普通は金属、水晶、石などがちりばめられている」ものである。
 また、D&D系では、rodやstaffがかなり多彩な効果(永久的効果、能力増大なども含む)であるのに対して、wandは一律、「回数制限のある発動効果がこめられた消耗品」となっている(すなわち、媒体、収束具や発動体としての性質は持たない)。さらに、特にAD&Dでは、こめられている効果や呪文の威力はかなり弱めで(ファイアボールなら最低レベルの術者の威力など)、「80〜99回分」という物凄い量のチャージがこめられている。これは、staffやrodに比すると、かなり手軽に所持、発動できるアイテムで、手数の少ない(D&D系の術師は呪文が回数制である)魔法使が自分の力の消耗の代用としてわりと常用する品という位置づけになっているようである。余談だが、こういった位置づけから、例えばD&D系での著名なユニークデーモンのオルクス(オーケス)が持つ”死の魔杖”ワンド・オブ・オルクスは名前はワンドなのだがルール的にはロッドだという乖離が生じている(後述するがNetHackではどんな杖もwandなので、奇しくも引っくり返ってオーケスの杖はwandになっている)。
 Roguelikeでは、まず初代UNIX-Rogueでは魔法の杖の消耗アイテムは、最初期のバージョンでのみwandとstaffが混合しているが(名前と殴った際のダメージ以外にあまり意味はない)後のバージョンやローグ・クローンでは、すべて杖の類がwandに統一され、D&D系ではrodやstaffであった強力な効果もwandが持っていることがある。NetHackではさらに多彩な効果のwandが追加され、位置づけとしては強力なものまですべてwand、という点は同じである。したがって、wandという語ではあるが、実際はRogueやNetHack内では、rodやstaffのような大きさのものも含んでいる可能性がある。ローグ・クローンやNetHackの日本語訳の「つえ」「杖」は、wand自体の訳語としては一般的にもRPG的にも妥当ではないが、これらの事情から考えた場合には適切な選択肢かもしれない。NetHackでは、もともとD&D系でwandであったものよりも、それ以外の強力なものの方が重要になってしまい、wandの代表格とみなされている傾向が強い。
アイテム:*bandでは、Moriaの時点から、多くの種類のwandがstaffとは別に存在する。チャージ数が多い点、staffよりも弱い効果が多い点(正確には、staffが画面全体や自身に効果があり、wandは振った方向にのみ効果がある)など、D&D系とほぼ同じ位置づけが再現されているといえる。D&D系ではwandは魔法使系クラス(および後の版での盗賊系等の特殊技能で)しか使用できないが、Moriaでは魔道具技能さえあれば使用でき、これはクラスによる難易度の差を縮めるためと、あとは初代Rogueを踏襲しているだけの理由だろう。
 その後の*bandでは、[V], [Z], [変]やToMEなど後出のバリアントになるに従ってワンドの種類は少しずつ追加されていることが多い。概ねワンドは威力や効果の面からさほど頼りにならないが、後のバリアントで追加されたものには特に、かなり強力な威力を持つ(発動難易度も高い)ものが目立つ。主に[O]やToMEには、アーティファクトのワンドも存在する。これは元のD&D系の弱めの消耗品アイテムの位置づけとは異なり、「振った方向に発動されるもの」として特徴づけされている側面があると思われる。

 →杖 →ロッド



ヰ=ゴロゥナク Y'golonac 【敵】

 *band関連の掲示板では、「ゐ」が苗字、「ごろぅなく」が名前だと解釈したのか何なのか、「ゴロウナク」「ゴローナク」という、かなり意味不明の名で呼ばれている例もあるが、日本のクトゥルフ神話ファンの間では「イゴーロナク」と呼ばれることが多い。
 他にはグラーキなどを創造したことで知られる作家ラムジー・キャンベルの創造したこの旧支配者は、魔道書「グラーキ黙示録」に記されている存在といわれる。本来の姿は頭がない太った巨人で、手のひらに口が開いているように見える。教団は持っておらず、廃墟の地下にひとり住んでいるが、接触する魔術師などがいれば「悪」を広めるのに利用するが、「悪」といっても確固たる計画などは持っていないらしい。人間を真似られるほどに精神が人間に近く、しばしば人間を吸収し、その姿になりかわって社会に身をやつすことができる。「グラーキ黙示録」によってイゴーロナクの名を知った人間の前に現れ、直接その手で触れて知能を奪取してゆき、最後には精神と共にその人間そのものを吸収してしまうというのである。
 *bandでは[Z]以降75階の後半の敵として登場する。『クトゥルフの呼び声』ルールブックなどでは、旧支配者の中でもさほど強力なものとはいえないのだが、*bandでは深層に属する上に、なにやら階層相応よりもかなり耐久力・防御力が高くなっているので、「クトゥルフ系のユニークの強敵」という印象をかなり強く持たれているユニークである。なぜこうなってしまったのかは不明である。設定通りに知力(知能、賢さ)を低下させる攻撃を持ち、召喚系をはじめ強力な魔法が揃っているので、バランスのとれた強敵である。



ヱヅソンの白熱灯 The Incandescent Light of Yeduson 【物品】

 トーマス・アルヴァ・エジソンは19世紀半ばから電信技士として活躍するうち、電信技術を皮切りに電気関係を中心に数々の特許を発表しはじめる。半年しか教育を受けたことがないとか、兄がガス作り怪人で触発されて科学を学んだとか、友達に毒薬を飲ませたり感電させたりとか、走行中の汽車でバイト中に発明をいじっていたら爆発したとか、いかにもなエピソードが前半生には期待通りに整列している。早くも30歳前にメンロパークに発明の研究所を築き、1000余の特許を送り出し「メンロパークの魔術師(ウィザード)」と呼ばれた。またエジソンの創立した数々の会社の後身が、現在のGE社である。
 一般に並ぶ者なき不世出の大発明家と信じられているが、実際はことごとく彼の前に立ちふさがる不倶戴天の宿敵がいた。現在の電脳界にも、かのUNIXとC言語の研究所にその名を残す電氣時代の巨人、アレクサンダー・グラハム・ベルである。エジソンの蓄音・映写にせよベルの電話・通信にせよ、一方の発明ともっぱら信じられている技術は、互いに先を争って発明し、一方が発明はしたが実用性がないといったものをもう一方が改良し、といった経緯を互いに繰り返すうちに現在に近い形へと完成していったものであった。(有名な蓄音機のそばに肘をついて顔をしかめたエジソンの写真は、自分が発明した蓄音機をベルに先に実用化され、さらなる改良を余儀なくされた際の五晩徹夜明けの写真と言われている。)いわば、近代文明をなす利器の多くが、このとき彼ら二人の鎬の削りあいによって急速に生み出されていったのである。ベル研究所のUNIXウィザードらの落とし子であるroguelikeのコード書きらが、エジソンの名を関したアーティファクトを加えているのは、エジソンとウィザードの名に対する、敵愾ゆえかはてまた敬意ゆえかは定かではない。
 白熱灯は蓄音機と並び、エジソンの発明として最も広く知られているが、これも実のところエジソンが行ったのは実用化に足る改良であり、わずかな時間しか持たなかったフィラメントに炭化繊維を用い二日近く持つものとして、はじめて商品化が可能となった。現在のタングステン線の白熱電灯が発明されるのはさらに後である。
 日本では長くエジソンと表記されてきたが、実際の発音は「エディスン」に近く、ごく最近ではこちらの表記も見かける。[変]の「ヱヅソン」はパティモソ風かつ田舎のオサァーン風表記にしたものか何かのようだが、実際はこちらの方が発音に近いような気もする。
 *bandには[Z]から、おそらくこの時間延長の逸話からいわゆる「永久光源」として加えられている。[変]などに見慣れてしまった今では珍しくもないが、それまでは光源にガラドリエルやらエレンディルやら審判の宝石やらであったところに見せられる違和感は強く、あまりのことに板倉氏が絶句していた。[Z]では辺境の街のクエストで前半に入手でき、前半では火・電撃のオーラも重宝する。しかし元々レアリティが低くないので、実際に拾った後にクエストでも入手してしまい二つあるという状況が珍しくなかった。[変]ではそのクエストの報酬がガラドリエルの玻璃瓶(→参照)に差し替えられている。
 なお、*bandのアーティファクト解説の文章「充分に発達した科学は魔法と見分けがつかない」とはアーサー・C・クラークの第三法則と呼ばれるもので(同様のものに「充分に発達したアイザック・アシモフのモミアゲはヒゲと見分けがつかない」「充分に発達したトニーたけざきのガンダム漫画の原稿は安彦良和本人でもときどき見分けがつかない」などがある)別にエジソンの台詞でも彼に向けられた台詞でも何でもない。とはいえエジソンを「ウィザード」と呼んだ人々が彼に向けた目にひっかけてあるとも一応言えなくもない。




 
あ-い  う-お              や・ら・わ




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