私家版*band用語集
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怪奇苔男 Swamp Thing 【敵】
Swamp Thingはアメコミの同名シリーズの主人公で、文字通り苔や藻類で全身緑だが、植物の精霊の力も宿すといったヒーローである。その背景は*bandのモンスターの思い出解説にも書かれている通りで、植物学者のアレック・ホランドが事故(実は対立組織の陰謀)によって研究室の爆発に巻き込まれ、沼に落ちて死ぬが、所持していた薬品と沼の精霊の力によって植物と融合した怪人となって生まれ変わったものである。その能力によって敵対する科学者や組織と戦うが、その怪人としての姿と能力に対する苦悩も持っており、王道スーパーヒーロー主流から70年代以降アメコミにも多くなってきた非正統ヒーロー的主人公の一種とされる。なおSwamp Thingは映画にもなっているが(邦題は「怪人スワンプシング」のままである)こちらはホラーやダークよりも、コミカルなB級なつくりになっている。
原作のアラン・ムーアはアメコミの中でも毛色の変わった設定やプロットを打ち出す「奇才」として熱烈なファンを持つが、近代の架空人が集合して活躍するLeague of Extraordinary Gentlemenシリーズ(映画『リーグ・オブ・レジェンド』にもなっているが)で知られている。
Swanp ThingのRPGのモンスターとしての登場例としては、Wizardry#5の上級のノーマルモンスターとして登場するものが挙げられる。これは一般名詞としてのモンスター名なのか、例によってアメコミに対する何かのパロディなのかは不明である。
*bandで[Z]から登場するものは、ヒーローとしてのユニークではなくノーマルモンスターである。Swamp Thingには上記のアレック以外にも、原型の読みきり作品に登場した別の人物や、アレックの娘(普段の姿は人間だが、体を植物に変化させたり植物を操る力を持つ)など複数が存在していることは確かである。しかし*bandのものはさして強くもなく特殊能力も(恐怖打撃以外には)特にないので、アメコミヒーローそのものというよりはジョークモンスターの一種かもしれない。「怪奇苔男」というのはヒーローより妖怪や怪人を思わせる訳だが、[Z]の訳語のしばしば近代怪奇小説や水木しげるを思わせる訳(ゼラズニイの黒丸訳などにも通じるが)の一種である。
骸骨 Skeleton 【種族】【敵】
出典:骸骨とは広義では脊椎動物の骨格を指すが、狭義においては、「人間」の白骨化した死体そのもの、また遺骨の一部ではなく全身が揃ったものを「一そろいの骸骨」と呼ぶことも多い。カルシウム質の骨格は腐食などの死後経過に最も長期間まで耐え(しばしば古生物の場合化石化までして)残ることから、古来より「死(を経過したもの)」や「時」の象徴と見なされるが、一方で死後も残ることから「生物(生命)の根源にあるもの」とされる場合もあった。(特に東洋での「骨」という言葉、卑近に言えば「骨のある」「骨まで染みる」といった表現がそれに近いと言える。)しかしながら、「死体」であることの生理的恐怖に加えていわゆる時・死そのものへの入り混じった骸骨に対する畏怖は、西洋においては特に錬金術時代以降「死神」の象徴として用いられ、また死神の表像そのままから飢餓・疫病等への連想、さらには毒や悪魔の表像としても用いられ、これらが重なるうちにその範囲と認識はさらに広まり強まってゆくことになる。おおよそ古今において「骸骨」「髑髏」は、恐怖を象徴する最も代表的なシンボルとなっており、その文化的な積み重なりから、人々に無意識に恐怖の感情を呼び起こす存在といえるものである。
ホネホネ人間だァアアアアア!!! (ガビーン)
(うすた京介『セクシーコマンドー外伝 すごいよ! マサルさん』第39話、集英社刊)
伝承や説話では、亡霊や死者のうちでも、ことに厳しい「時」に晒されたことを示す場合に骸骨の姿が用いられることがあり、古戦場や戦死者の霊、幽霊船などに登場する亡霊が直接に「骸骨」の姿をしているという例は珍しくない。現代でも骸骨や髑髏はホラーの道具として用いられるが、それは骸骨自体に何か能力があるといった明確な理由があってのものではなく(グロテスクといった生理的な比重も薄く)特に直接的理由のない先入観だけに因する純然たる恐怖であることが多い。また逆に、その恐怖の独特のシンボライズを受けてか、骸骨はゴシックホラー以来いわゆるブラックジョーク的な諧謔・滑稽としても頻繁に用いられる(ダンスマカブル等)。
さてRPGにおいては、一般に骸骨自体が死の象徴であるため、アンデッドには直接に骸骨の姿をとるものも多いが(スケルトン化した生前の肉体をそのまま持つリッチ(→参照)は無論のこと)通常「スケルトン」と言った場合、骸骨が意思も持たず自動的に動く最下級のアンデッドモンスターを指す。これは上記した中世までの死者の説話のうち「墓場や戦場で大量に骸骨が動き出す」といったものを参照し、また霊的な死霊類のアンデッドよりは下級と見なせる(これもまた、いわば具体的な危険よりも骸骨であること自体の恐怖による)ことから、最下級のアンデッドの位置とされていると思われる。
なお、RPGの「スケルトン」兵士(武具としてよく剣とバックラーを持っている、といった何気ない点など)のイメージ的な定番となったのは、映画『アルゴー探検隊』の中でドラゴンの牙から作られた骸骨兵士が群れをなして襲い掛かる(非常に古い映画のローテクな特殊効果だが、SFXの草分けと呼ばれ語られる名場面である)箇所であるとよく語られる。この場面は、”原作”にあたるギリシア説話のアルゴナウタイ詩に拠り、魔女メディアがアルゴ隊長イアソンに「竜の牙から生じる骸骨の中をくぐる」困難を乗り越える必要があるとのくだりが出てくる。この説話そのものも、直接もしくは間接的に波及し、牙から骸骨兵士、もしくは牙のもとになった生物を生じさせる呪文としても、TRPGルールやゲームブックなどにきわめて頻出する。こうしたやや上級な呪文によって生じた骸骨兵士は、通常のスケルトンより優れたモンスターであることも多い。
さて、よく疑問が出るスケルトンの霊的な「作動原理」についてであるが、多くのモンスターに「定義」が与えられ、他のアンデッドの定義・肉体や動作原理について細かい情報が詰まっているAD&Dなどを見ても、スケルトンに関しては基本ルールにはさして詳しい情報はない。スケルトンは「アニメイト・デッド」呪文で動き、24単語(助詞を含まない)の命令を受け付ける、といった実際上の点のみである。他のエナジーやモンスターの記述から、おそらく「死体」はネガティブエナジーで(生前の組織・器官を利用して)たやすく動かすことができるものなので、アニメイト・デッドはそれを利用する呪文なのだろうと推測するくらいしかできない(つまり、筋肉などが完全に残っていないスケルトンは厳密には動かせないと考えられる。ゾンビより骨だけの部分が多いというのはあくまで比較問題だろう)。
種族:*bandにおいては、[Z]の売りとして追加された当時の新フィーチャーの色物種族のひとつである。破片耐性を持ち、アンデッド系(→ゾンビ →吸血鬼)やゴーレムと同様、生命や精神構造が生物と異なるので生命力・精神攻撃や正気度ロールに対して異なる特性を示す。また、まさしく『魔導物語』の登場キャラ、スケルトンT(日本茶が好物だが、飲んだものを腹に収められないためゆっくりと味わうことができない悩みを持つ。→ぷよ)のように、飲んだものが顎の骨を通過してしまい、ポーションの効果が自分だけでなく周囲に飛散するという独特の特性がある。特殊能力が多いのと引き換えに能力値は低く、どちらかというと戦士向きであるが特性の方が重大である。なお「魔法を使うタイプの骸骨をLichと呼ぶ」(→リッチ)と言うヘルプ等の記述をうけてか、[変]では魔法系クラスにもつけるよう、知力もプラスになっている。
さて*bandではこのように、同じ骸骨でも戦士系だとアンデッド最下級のスケルトン、魔法系だと最上級のリッチだという、おそらく見かけだけから採られたあまりにも極端な説明になっている(なお、ジョークの可能性も大いに考えられることである)。豪華を極める魔法系に対して、戦士系は本当に生前の意思も持たず操られているような存在なのであろうか。実際のところD&D系では(残存思念系アンデッドにならず)まともに死んだ者の魂は<外方次元界>に飛んでしまい、肉体は抜け殻となり、アニメイト・デッド呪文はそのまともに死んだ者の抜け殻をネガティブエナジーで動かしているのが最下級アンデッドのスケルトンであると思われ、生前の意志とは無関係である。しかしながら前記したように「より上級のスケルトン」や骸骨戦士、意思を持ったりリッチでなくとも呪文を使うものや、デスナイト(*band暗黒パラディンとは異なる)等もおり、*bandの戦士系骸骨キャラクターも(特にレベルが上がったものは)こうした「戦士版のリッチ」と考えることもできるかもしれない。
しかし、本来意思を持たないロボット的存在のはずなのは所詮ゴーレムやゾンビも同じである。故に、やはり戦士系骸骨も情け容赦もなく、24単語で操られるような最下級の存在なのかもしれない。現に生い立ち文章には、生前のことは全く出てこない。
敵:*bandには[V]の時代から敵としては、通常「スケルトン」といえばそれだけを指す人間のスケルトンだけでなく、ヒューマノイドや巨人の骨から作られたスケルトンが数多く登場する。アイス・スケルトンのようなD&D系の非常にマイナーなものもいる。ことに、Eyangbandや[O]にはさらに種類が多い。スケルトンにはゲームによっては、刃のある武器が効きづらいといった特性があることも多いが、*bandでは特に防御力が極端に高いということもない。むしろ、アンデッド全体に共通する耐久力の高さの方が際立っている。それ以外には、いずれの種も特殊能力のたぐいは持たないのが常である。スケルトンは一般的に非常な数の多さで登場するのがRPG的な特色だが、*bandでのスケルトン類(浮遊髑髏などの他のsシンボルは除く)はほぼ単独になっているのは、Moria当時のまま、オークのような集団フラグが特に付与されていないといった事情だろう。
→ゾンビ →リッチ
解呪 Remove Curse 【システム】
ことに武器防具など物品にかかる「呪い」と、それを解除する手段は、およそほとんどのRPGに登場する。普通の「魔法の効果」と「呪い」は何が違うのかという点は「呪い」に関する独立の項目に譲るが、どちらかというと呪いは(本来TRPGなどでは)あからさまな効果よりも無意識に影響を及ぼす(ダイス目がわずかに悪くなる、無意識に剣を手放したくなくなる等;「手に張り付いて取れない」などではない)ものが多く、ともあれ別々のものとされ、呪文解呪(ディスペル)では「呪い」は解けないとされることがほとんどである。
RPGの原型であるD&D系のRemove Curse呪文は中レベル呪文にすぎず、わりと簡単にプレイヤーキャラが使うことができるが、強力な呪いは解けないとされたり、完全に除去するのではなく一定期間中和するのみ(呪いの剣を手放すことはできるが、剣自体には依然として呪いがかかっている)などと制限が多い。呪いはどちらかというと力で対抗するより、「特定の手段や探索でしか解けない」というストーリー的な要素も高く、そうした応用も推奨されているためであろう。とはいえ、D&D系のダンジョンの冒険では、ランダムに登場する呪いの物品や罠、モンスターの弱い呪いの呪文などが頻繁に出現するので、それらに対抗する程度ならこの呪文で充分である。
他のRPGでもこれとよく似た扱い(プレイヤーキャラクターが割と簡単に使えるが、強力な呪いを解くには制限が多い等)が多いが、ことにCRPGではWizardry以来、なぜか「呪文」としてはまったく存在せず、物品の呪いを解くには寺院などで解いてもらうほかにないことが多い。これは、呪いの強弱で解けたり解けなかったりといったストーリー的なサポートがややこしく、かといって何でも簡単に解けるようにすると呪いシステム自体の意味が薄くなるので、一律自力では解けないようにしてあるといった事情もあるのだろう。
Roguelikeでは、初代UNIX-Rogue以来呪いの武器防具が存在するため、「呪いを解く巻物」も存在し、以来多くのRoguelikeに解呪の巻物が存在する。呪文を使えるクラスが存在するRLの場合、呪文で解呪が用意されていることも多い。*bandでは[V]以来プリーストや生命魔法に解呪の呪文がある([変]では、広義の解除・回復という意味からか生命魔法にも解呪があるが、破邪にも最高レベルの[天神怒罰]の呪文書に「呪い退散」がある)。そうでないクラスの場合、やはり巻物を使って呪いを解く必要がある。重い呪いは*解呪*の巻物や呪文でないと解けないなど、D&Dの解呪の呪文に段階がある感覚に近いともいえる。モンスターの呪いを受けて装備が呪われた場合、大概のバリアントでは(装備交換の必要が生じるまで)別に解く必要もなかったりもするが、[変]では呪いで厄介な効果が起こるようになっており、いざという時に解呪や*解呪*の巻物が売っていないと致命的になりうるという恐れから、売っているうちに買っておいて家に置いておく用心深いプレイヤーもいる。
回復モンスター Heal Monster 【その他】
通常TRPG, CRPGとわず回復系の魔法や技は術者だけでなく他者に施術できるのが普通である。しかし、古典的なRoguelike, RogueやMoriaや[V]などでは、NetHack系などとは異なり、原則的に他者(店主などシンボルでは登場しない者を除いて)はすべて敵である。従って、*bandの原型であるMoriaでは「回復モンスター」のワンドは、敵を有利にする純然たる「ペナルティアイテム」として登場した。ひいては、特にMoriaで、もっぱら低階層のプレイヤーキャラクターが鑑定せずに手当たり次第にワンドを振った場合にペナルティになるといった状況を狙って作られている幾つかの物品のひとつである。[V]や派生バリアントの多くではその伝統を引き継いで残り続け、使用状況も変わらない。
しかし、[Z]やそれをベースとしたバリアントにおいて、友好的モンスターやペットのシステムが追加されると、同様に本来敵を有利にするスピード・モンスター類とともに、それら友好的なクリーチャーを支援する目的に使える、といった裏技的使用法(とはいえ、FAQにも記されている常套手段だが)が生じる。また、回復モンスターの魔法棒で街の病人を治すと徳が増えるといったシステムが追加されるバリアントも出てくる。
さらには[変]ではある時期からワンドだけでなく、ペットを多用するトランプの魔法領域には「回復モンスター」が入り、友好的モンスターを支援できるようになっている(ただし、[ファイブ・エース]に入っている魔法で、そう簡単に使えるようになるわけではない)。故に、*bandでは通常の白魔法系のクラスや領域は治癒魔法がなぜか主に自分だけにかけるもので、トランプという一見すると特に善魔法とも生命に関わるとすらよべない魔法領域にだけ、他者を治癒する魔法が入っているという、通常のTRPG, CRPGから見ると一見かなり奇妙な状況に見える現状になっている。
なお、魔法棒はかなり初期から出てくるもので(ゴミアイテムといった性質もあるだろう)回復量は10d10(平均55)にすぎず、実際的には中盤以降のモンスターの支援には役立たないが、トランプの回復モンスターの魔法はレベル*10+200という大きいものである。
怪力サムソンの棍棒 The club of Samson 【物品】
出典:サムソンは旧約聖書で、古代イスラエルの士師(指導者だが、ここでは他民族の圧制と戦った英雄といった意になる)のひとりとして述べられている人物である。サムソンは生まれつきの主との誓約が成っている人間(ナジル)で、剛力無双であるが、誓約の「刺激物を飲食しない」「頭の毛を剃らない」といった禁制を犯さなければ、主の霊の力が降りた時にはさらに非常識的な力を発揮し、ライオンを素手で引き裂いたり、300体のジャッカルを横並びに縛り上げて尻尾に火をつけ駆け回らせ辺り一面を焦土とすることもできた。しかし、サムソンの怪力よりも遥かに顕著な特徴であり弱点は、彼があまりにも「女に弱い」ということだった。
サムソンがその性情により圧迫者であるペリシテの社会で起こした女性関係のトラブルは、どんどんこじれて膨れ上がり、遂にペリシテ人の軍隊がまるごとサムソン一人に差し向けられるに至り、ペリシテ人に圧迫されていたイスラエル人たちは、サムソンを引き渡すより他になかった。サムソンは縛り上げられてペリシテ人に連行されたが、霊の力が降りたサムソンは縄を引きちぎって暴れたばかりか、落ちていたロバの骨を拾い上げ、それを棍棒として、ただ一人で1000人の兵士を殲滅してしまったのである。
サムソンの強さに手を焼いたペリシテ人は、しかしこのサムソンの女性に関する性情に気づくと策を弄し、美女デリラを差し向けて、サムソンを篭絡させる。サムソンは遂にデリラに弱点を明かしてしまい、彼女に髪を剃られて上記の誓約に反してしまう。力を失ったサムソンはペリシテ人に捕らえられ目をえぐられて縛められ、ペリシテの神ダゴン(→参照)の大神殿に晒されるが、天に祈ったサムソンはふたたび髪が生えて怪力を取り戻し、サムソンはダゴン大神殿の柱を打ち倒して崩壊させ、神殿のペリシテ人5000人を道連れに生き埋めとなった。
怪力の他には見事に”女絡みの話”しかないこと、そのだらしない人生の結果が破滅的ではあっても完全に否定的には描かれていないことは、偉人としての持ち上げ(ペリシテ人のこういった悪役としての描き方は民族説話としてはさほど珍しいものではない)を差し引いても、聖典の偉人というよりは愚かな英雄の生き様を描く古い伝承説話のようである。サムソンは欧米では強者、特に怪力の代名詞としてよく使われるが、日本でもトラックの名前や、RPGでは悲劇的エピック英雄譚のレトロゲーム『リザード』『アスピック』の主人公、またその筋の雑誌名に使われさらに転じて「アドン」と組で強者として使われるだけでもゲーム『超兄貴』(→ボ帝ビル)加えて転じて漫画『ベルセルク』などの例がある。
剃髪は古来から東西のいずれでも、不名誉・刑罰や信仰的な特殊な意味合いを持っている例が見られる(現代でも体育会系の自己刑をはじめとして、反社会の表示の色合いを持つ)。創作では、フリッツ・ライバーの『ランクマーの夏枯れ時』で、剛力の戦士ファファードが酔っ払って寝入ったところを盗賊ギルドに髪とヒゲを(ついでに眉毛も)全部剃られ、戒めていた台を破壊して、神の降臨を望む熱狂する民衆の前にふらつき出るシリーズ屈指の名場面は(現に台詞の中に剃髪と力に関する迷信について言及があるが)サムソンの説話を元にしているものであるらしい。
物品:サムソンの棍棒は、変愚開発掲示板において、アーティファクトとして実在伝承等の有名物品を多数追加する案を募っていた際に提案されたひとつで、解説文章にもある通り、上記のペリシテの軍隊との戦いに使われたロバの骨の棍棒である。「聖書の品」ということで破邪とアンデッドのスレイがあるが、有用な品というよりも、当時の物品のバリエーションをより増やすという性質の強い経緯により、性能は控えめである。
カイン Khaine 【その他】
英国産のウォーゲーム/TRPG『ウォーハンマー』シリーズの神であるが、WHシリーズの有名な「混沌神」らの一種ではなく、冥界のデーモン(属性で言えば「悪」)の一体とでもいうべき存在である。「暗殺」および「アンデッド」の神であり、名前からもコーン(Khorne)と似た印象を受けるが、WH世界の万物を飲み込む「混沌の勢力」ではなく、混沌以外の各種族の勢力(アーミー)のうち、ダークエルフやアンデッド(ヴァンパイア軍団など)の勢力の後援として力をもっている。本体は4本の腕をもつ巨大な悪魔の姿をしており、闇の世界やアンデッド(カインに捧げられた魂は吸血鬼になるという)を集めて勢力の拡大を試みている。カインの勢力で代表的なのはやはりダークエルフ(ドルチー)であり、「カインの花嫁」とも呼ばれるウィッチ・ダークエルフをはじめとする術者(コーンの勢力が魔法を用いないのと対照的でもある)や、暗殺者や拷問者、海軍などさまざまなものが揃っている。余談であるが、特にWH-FRP(TRPG)では混沌神やその勢力は敵としてもあまりに身も蓋もないので使いづらく、ゲームを繰り返すうちに敵がカインばかりになることも多いという。
*bandでは、混沌神ではないにもかかわらず「カオスパトロン」として混沌の戦士などの守護魔神として登場する。WHの悪そうな神は入っているということで特に深い意味はないように思えるが、実際問題としてカインも後援を与える存在なのでゲーム的には別に問題はない。やはりダークエルフやアンデッド系の種族の混沌の戦士にするとそれらしいかもしれない。しかし、報酬が自己変容になる(そして種族が変わってしまう)可能性も割と高く、また混沌神ではないのに混沌招来になる可能性も割と高い。
ガウス Gauth 【敵】
ガウスはAD&Dのオリジナルモンスターであるビホルダー(→参照)のバリエーションのうちの一体で、日本のゲームにも登場したスペクテイターなどに比べるとマイナーな一種であるかもしれない。
ビホルダー(一つ目の球形の上部に十本の小さい目の触手)によく似ているが、上部の触手はなく、中央の目を取り囲むように6つの目がついている。ビホルダーの中央眼が「呪文や魔力」を打ち消すというのは有名だが、ガウスの中央眼は見たものの「知能」を無力化(フィーブルマインドという高レベル呪文と同様である)する力がある。他の小さな6つの目は、呪文に似た様々な魔力を放つという点はビホルダー同様だが、しかし、ガウスの最大の特徴は中央眼ではなく、この小さな目のうち第六の眼にある。この目は魔力を「吸収する」という力を持っており、すなわち、既にある呪文の効果を消滅させるだけでなく、杖などの物品のもつチャージや魔力を吸収してしまうという力がある。通常のビホルダーよりやや小型とはいえ、錆の怪物や劣化ビースト(→それぞれ参照)に並んで恐れられるべき怪物だが、これらほどは知られていないかもしれない。
*bandでは[V]3.0, ToME, Unangband, EyAngbandなど主にアルダを舞台にしたバリアントに登場する。最大の特徴である魔力吸収は、劣化の打撃とチャージ吸収の打撃でまさにそのまま表現されている(マナ吸収もあるが、原典では人からじかに魔力を吸い取ることはない)。原典のガウスの小さな目ではさほど頻繁に使わない能力なのだが、*bandのガウスは魔法の回数も少ない(5回に1回)ので、かなり頻繁にこの打撃枠の魔力吸収を用いてくることになる。呪文には冷気や電撃があるが、これはビホルダーと異なり、元のAD&Dのデータでも小さい目の魔力にあるものである。
カウンター Counter Attack 【その他】
カウンターは広義では反撃や逆襲で、ときに反撃一般に対して使われることがあるが、狭義で個人戦闘用語としては、相手と同時攻撃によって相手の勢いと攻撃時の無防備を利用する打撃を指す。とあるボクシング漫画によって広く一般に知られることになったが、はたして相手の力によって威力が2倍になるカウンターに対してさらにカウンターをかけると4倍になるのかどうかは、読者各位がよくよく考えて判断されたい。ボクシングの「クロスカウンター」とは相手の打ってくる腕に対して軌道を交差させる形で決める型になることからこう呼ばれるが、奇しくも、これは日本の神(新)陰流の秘太刀に、相手の剣の上に交差させて乗りかかることから通称「十文字勝」とも呼ばれるものがある、その名義・理合に合致している。
剣術、ことに日本の古流剣術における反撃技は、この十文字勝をはじめとして、何をおいても新陰流が根本とする「合撃(がっしうち)」と呼ばれる「後の先」(相手の動きに応じて、後から動くが、結果的に先手を取る)の技の数々が挙げられる。新陰流の合撃の数々は、もはや一言カウンターの一種などと呼べる域の代物ではない;相手よりも後に動くにも関わらず、動きの途中で止まらないその相手の体躯の働きと時間差が、詰め将棋の解のように細密に組み上げられ、その容赦のない結果がなすすべのない敵を必ず斬殺する。背筋が冷たくなるほど情け容赦のない殺戮技法が、陰流系のその膨大な本数の組太刀のひとつひとつに並んでいるのである。
一方で、二大流派として新陰流と双璧をなす一刀流が主力とする「切落(きりおとし)」は、一見理合の細部は全く異なるように見えるが(新陰流は「反撃:防御的」で、一刀流は「攻撃に攻撃で返す:攻撃的」な色合いがある)結果として見ると反撃技としての共通点は非常に多い。(なお、「合撃」と「切落」は、それぞれの流派における特定の言葉でもあるのだが、より広義には、それぞれの流派による「後の先」の技の総称として、特に「切り落とし技」の方は、一刀流以外に対しても用いられる。)
きわめて乱暴にくくってしまうと、日本の剣術というものは、この「後の先の技」を主力にした流派が現れた時に、完全にそれまでと別次元の高度な「術技」として成立したといえる。例えば、古い剣術の代表である鹿島流の「一之太刀」(→斬魔剣弐の太刀)は、その名が如実に示しているが、どんな敵や状況であるかに全く関与せず、どんな場合もひとつの太刀、ひとつの技で対処することが可能であるとする、ひいては、それが可能な究極奥義の技を追求する、という原理である。その理合は明快ではあるが、融通はきかず、予想外の敵には成すすべがないかもしれず、何より個人の能力差が如実に現れ、塚原卜伝にせよ宮本武蔵にせよ(武蔵が若くして学んだ當理流は鹿島など神道流系に関係する)大成した時にはすでに一握りの天才にしか意味をなさない術技となりがちである。
一方で、後の先の技は「敵の動きに応じて」敵や状況に対して臨機応変に対処するものであり、すなわちそのための「理論」を積み重ねて成立する。新陰流の、潜在意識をも考慮した敵の動きと対処理論は想像を絶するほどに緻密なものであり、一刀流のそれは遥かに素朴なものであるが、術技にこめられているのはほぼ同じ深度である。ここではじめて、個人の資質の有無だけでなく、技術や鍛錬の蓄積を強力さに繋げることの可能な「術技」と呼べるものになったとすら言えるのである。これら反撃技術を基本理念としたのはこの新陰流系と一刀流系であり、そして、まさにこの二流派がその後の日本の剣術流派の主流となってゆくのである。
[変]の剣術家の武芸の技<カウンター>は、相手に攻撃を受けるごとに7MPを消費して反撃する、つまり単純に攻撃回数(機会)が増えるもので、攻撃を受けた時に相手の力をこちらの力として一方的に切り返すといったものではない(それはレイシャルパワー技「型」の<居合>(→参照)が近い)。多くのTRPGのルールなどでは、カウンター技にはダメージや命中率にボーナスがあり、反面成功させるのは困難であったり失敗時の危険が大きかったりするが、[変]ではそれらの効果や実在の反撃技を思わせる効果は居合の型のほかに<捨て身><払い抜け>などにむしろ見られる。ここの<カウンター>は特に出技の単純なものなどを指していると解釈する方がよさそうである。
ガエボルグ The Spear 'Gaebolg' 【物品】
ケルトの英雄クーフーリンの持つ光の槍。詳しくは実在伝承の解説ページに譲り説明は割愛するが、閃光・電光(一説には無数の投げ槍)を発する槍とされる。元来はga bool'ga ゲイ・ブールガといった発音に近く、「ぎざぎざの投擲物(果実)=稲妻」といった意味である。かいつまんで言えばケルトの光の槍(光の神ルーフの持つ槍、各種の飛道具、ないし秘宝ブリオナック(ブリューナク)と創作等で俗説されるが、各々の関連は定かではない)から発し、ロンギヌスの槍やオーディンのルーン槍ともつながっている。トールキンの、エルフの上級王ギル=ガラドの槍アイグロスは、これらの槍の伝承をそれぞれ参照していると思われる。ギル=ガラドが上のエルフでありながらもリンドン(現代ではドルイドの栄えたウェールズあたりだが、トールキンの最初期の構想ではこの英国西が不死の国でもあった)の港を本拠とするあたりにも伺える点である。
[変]掲示板にて槍のアーティファクトが少ないという意見を受けて、筆者がアイグロスをベースにデータを製作した品である。光の槍という設定から、AD&DのLegend & Loreなどの記述も参照し、適当に電撃属性と光・盲目耐性を入れている。ごく当たり前の中程度の強さの品で、プレイ日記等の話題に上ったのさえ見たことがないが、実在の伝承の品だけあって、[X]やToBandにも採用され、しぶとく生き残っている様子である。なお他のRPGなどでは、ケルト発音に近い「ゲイボルグ(ク)」になっていることもあり、[変]掲示板で指摘もあったが、アイグロス(アエグロス)やアエグリンなどとあえて語感を重ねるために、こちらの発音にしているという経緯がある。
→アイグロス
ガグ Gug 【敵】
下級の独立種族。不浄の巨人。H.P.ラヴクラフト『幻夢郷カダスを求めて』に登場する怪物の一種で、ドリームランド(夢想家が入ることができるラヴクラフトの異世界)で主人公カーターが遭遇する。20フィート(6メートル)ほどの毛むくじゃらの巨人なのだが、頭に(もしくは頭がなく、首から胸にかけて)縦に割れる口があり、また両手は肘から先が二股になって、その両方に手がついている。
知能は決して低くなく、外なる神々を信奉しているが、かつて地上で人間を喰らい生贄としていたため地上土着の神々の怒りを買って種族ぐるみ地下に追放され、ガースト(→参照)を捕食して生き延びている。他の奉仕・独立種族ともどうも険悪な関係にあるらしく、『幻夢郷カダスを求めて』では、ドリームランドに住むグール(→参照)らは礼儀正しくも地上の人間の墓地を漁ることはないが、地下のガグの死体を常食し重要な「栄養源」にしてしまっている。
でたらめに非解剖力学的な姿の怪物が多いクトゥルフ神話の中でも、ことさらに「ぼくのかんがえたあくまちょうじん」のような無茶なその姿から想像するに、文字通りまさに悪夢の中で存在しうるものであって、現実世界の物理法則では普通に存在できる生物ではないような気がするのだが、CoCのRPG等の設定では、ドリームランドだけでなく現実世界の地下にも、ひそかに隠れ住んで忌まわしい儀式を行っている、となっている。
*bandではクトゥルフ系の導入された[Z]以降登場し、GIANTフラグとなっており、やや攻防ともに高い他はさほど他の巨人系と目立った差はなく、集団で登場するわけでもないので、くと系としてはさほど強敵ではない。
格さん Kaku-san, the Mitsukuni's Warder 【敵】
水戸黄門(→参照)の諸国漫遊の姿が定着した講談以来、「助さん」(→参照)こと佐々木助三郎と共に御付を勤める定番が、「格さん」こと渥美格之進(あつみかくのしん)である。なお講談や他編では「格之丞」「格之助(格さんの息子の名のこともある)」となっていることもあり、まれに「角さん」と表記されることがある。助さんの項目でも述べているが、いわゆる「水戸黄門一行」の面々はドラマ他作品によって異なるが、助さんとともに格さんは(アニメ『ダイオージャ』のカークス男爵を含め)講談から一貫してお伴となっている。
近代までの講談はともあれ、現代の「水戸黄門」とその周囲の像の定番となっているTVドラマ版では、渥美格之進は軟派な佐々木助三郎に対して生真面目・実直な一行の抑え(特に、旅費など実務も管理する)とされる。また、通例、『水戸黄門の印籠』(→参照)を持ち、山場で決め台詞と共に「例のアレ」を発動するのは格さんであり、助さんよりも、より水戸黄門の側に控え、守る役柄ともいえる。実直な人格にたがわず骨太な武士であり、剣技にひいでた助さんに対して素手で腕力を発揮して立ち回る場面が多い。なお、このイメージはドラマから派生するかそれ以前からあるのか、他の水戸黄門作品でも線の細い助さんに対して無骨な格さんが、異様な怪力を発揮したり家具を振り回して暴れ回ったりといった描写は散見する。『まんが水戸黄門』では三枚目的役回りもあったり、『ダイオージャ』のカークス男爵はむしろうるさ方のスケード公よりも軽い役回りであったりもし、ドラマ版以外では、堅物の役回りも一定しているわけではない。
助さん同様に史上のモデルは徳川光圀の儒学活動にともに尽力した光圀の臣であり、安積覚兵衛(「あづみ」もとい、「あさか」かくべえ)こと澹泊(たんぱく)という儒学者である。その生没年は1656-1737とされ、佐々介三郎は1640-1698なので、そのイメージに反して、助さんのモデルの方が格さんより遥かに年上である。安積覚兵衛も佐々介三郎同様にやはり『大日本史』編纂に関わり、(こちらは破天荒な学僧の佐々とは異なり)温厚な人格者で、当時の学者らと交流が深かったとされる。
*bandでは、[変]のアーティファクトの発動効果などで『助さん』と同時に召喚される。データ的には名前以外には助さんと寸分たりとも違わず、特に素手や家具で攻撃してきたりはしない。
→水戸黄門の印籠
陰口の弾薬 Ammo of Backbiting 【物品】
Moria以来存在するこの呪いの弾薬のエゴアイテムは、おそらくはAD&Dのエゴアイテムの一種であるSpear +1-+3, Cursed Backbiterに由来していると思われる。これは、呪いが発動すると、近接戦闘では敵を突いた時にぐにゃりと湾曲し、さらにわざわざ防具すべてをかいくぐって使用者を突き刺すという槍である。無論、投げつけて使っても使用者の方に帰ってきて突き刺さる。
backbitingとは陰口・中傷の意であるが、これを呪いの言霊・冒涜的な言辞として、悪い魔法がかかっているとし、さらに、このbackbitingという言葉のそのままの意味にひっかけて、後ろに噛み付く槍という形で創作されたのではないかと思われる。(なお、HJ社のD&D3.Xe邦訳ではbackbiterは「背反の」となっている。)
*bandでは弾薬一般の呪いのエゴアイテムになっているものの、通例では(他のRPGを含めて)この槍以外に普通にbackbiterという名がついていることはあまりない。そのためか、*bandでは[V]以来「陰口の弾薬」と直訳されている。*band上では、物品としては無論陰口などには関係なく、「呪いの言葉」がかかった品とでも解釈しておくべきだろう(この弾薬が使用者に戻ってきて噛みつく等まで再現されていない以上は)。
影のジャック The Jack of Shadows 【敵】
出典:シャドゥジャック。ロジャー・ゼラズニイの同題名の小説の主人公である、暗黒界の王にして薄明界の大盗賊。クローク&ダガー物は言うまでもないが、なぜか、何となく「近代怪奇物の怪人」「初期の特撮ヒーロー」を思わせるピカレスクキャラである。
小説『影のジャック』の舞台は、常に日のあたる陽光界、決して日光の差さない暗黒界、その中間の薄明界からなる空想的地球である。(これは、この世界設定での地球が、公転と自転を同じくすることにより維持され、さらにその仕組みは終盤で重要になってくるのだが、特に陽光界が灼熱世界のみになっているといった厳密に科学的な要素は重要ではなく、科学と、ファンタジーや神話の異世界的・概念的な設定が半々である。)一応、陽光界には強すぎる陽光や熱を遮断するためのスクリーン、暗黒界には冷気を遮断する<楯>(シールド、魔法的結界)があり、世界の成立にかかわっている。簡単に言えば、陽光界が科学の世界、暗黒界は魔法の世界である。
ジャックは、薄明界では盗賊であると同時に、暗黒界では強大な力をもつ王のひとりである。暗黒界の強力な実力者、特に<王>(原語は「パワー」、諸力(神)の意でもある)らは、「自らの領域・領地において特殊な力を持つ」という属性で表されるが、ジャックは「自らの作った影(自分自身の影とは限らない)の中」という領域で強力な力を発揮できるという能力を持つ。影の中の力としては、どちらかというと正確な定義というより曖昧な描写だが、影の中に自身を拡張させる(序盤、怪物の力を影を介して吸引する場面がある)影の中を移動する、分身としての影を操る(これは後でテーマにも関わってくる)、といったものがあり、例えば宿敵の<こうもり王>は部下の助言にしたがって、ジャックの能力を防ぐべく、影のできない鏡の部屋にジャックを幽閉したことがあった。
ジャックは暗黒界にも薄明界にも多くの対立する敵を持つが、ある盗みに失敗し、それらの敵の中でも特に宿敵といえる強力な王のひとり<こうもり王>とその協力者らの罠におち、復讐を誓う。ジャックは死んだ暗黒界人が落とされる、一種の荒廃地獄のような地方、「堆屍穴」に落とされる。陽光界人と異なり、暗黒界人は堆屍穴から脱出すれば生き返ることができるのだが、脱出には少なからぬ労力と苦痛を伴い、容易ではない様が描写されている(このあたりは、なんとなく初代RogueやCrawlなどのRoguelikeやそのプレイヤーを思い出させる)。
堆屍穴と敵の手から逃れたジャックは、こうもり王への復讐を邁進するため、暗黒界の強大な魔力、<失われた鍵>コルウィニアを入手する。コルウィニアの鍵とは、物理的なアイテムではなく、魔術の奥義のようなものだが、根幹が遺失しており、暗黒界の魔術の技ではもはや会得することができないと誰にも思われていた。ここで、ジャックは陽光界に渡り、大学講師(ジョナサン(ジョン)・シェード博士)となり、陽光界のとある科学技術を利用することで、その奥義を入手するのである。
このあたりの手のこんだ逆襲劇は、ゼラズニイの後のアンバーシリーズを思わせる。特に、別世界の技術を利用するあたり、コーウィンのエリックへの復讐劇を思い出す*bandファンは多いだろう。(なお、ときどきネット上の影のジャックの解説として、故意か否か、「普段は陽光界のさえない大学講師で、いざというときは薄明界の盗賊に華麗に変身」という変身ヒーローか何ぞのような解説を見かけることがあるが、これは上述のように微妙に実際の内容とは合致しない。おそらく、特撮じみた雰囲気が既読者にあえてそんなふうに語らせているのだろう。)
コルウィニアの鍵によってさらに強大な力を得たジャックは、非情にもライバルらを次々と倒し、支配する。しかし、それだけでは得られないものが見つかるばかりか、ライバルを排除してしまったために解決不能になってしまった世界的問題が持ち上がる。このため、復讐劇から一気にさらにゼラズニイの後期の思想冒険ファンタジーを思わせる大スケールの展開へともつれこんでいく。
『影のジャック』は、サンリオSF文庫の荒俣訳のためか、<不死大佐><こうもり王>といった、乱歩などの近代奇譚をはじめ、貸本時代、活動写真、ひいては特撮初期をも思わせる独特の訳語が用いられており、ゼラズニイの常であるクールなピカレスクとこれらの訳語が相まって、独特の雰囲気が作り出されている。ゼラズニイ作品としては、後の作品の原型を思わせる部分が多いが、神話からひねられたダークヒーローらとは空気の面で共通するものの、設定上は純粋なダークファンタジーであるディルヴィシュや魔性の子あたりとも共通点が多い。多作のゼラズニイの執筆順からいえば『アンバーの九王子』の直後に書かれているのだが、プロットしてはおそらくやや先に作られたものと考えられる。
ジャックのキャラ自身の造形は、アンバーその他のゼラズニイの悪漢ヒーローらと共通しているが、中でもとりわけ、自らの復讐のために行動する、ライバルに対する無慈悲な部分は後出の悪漢ら以上に容赦がなく、何となく後代の神話ヒーローに比べると、荒削りを感じさせる悪さを持つ。スカしていていけすかないが、何かと頻繁にかっこわるい状況に陥る場面も、コーウィンに並んで多い。その他、ジャックと幾重もの因縁のある<こうもり王>、不死の暗黒界人の中でも死んだことのない<不死大佐>、こうもり王の手下らや大学同僚のマヌケキャラ、超然とした半神的な友人モーニングスターといった面白いキャラクター達が、駆け足のストーリーの中で、惜しげもなく魅力を放っては流され、消えていく。
さて、『影のジャック』は小説にしろキャラにしろ、その原作の知名度の低さと入手の困難さから、*bandファン以外の日本のFTファンには全くといっていいほど知られていないが、非常に稀な例外として、TRPGのひとつT&Tにどういうわけか「モンスター」としてその名前が登場したので、そのゲーマーにのみ名前だけは知られていることがある。T&Tには、モンスターをプレイヤーキャラと同じ形式で表現するデータ(人型種族のピーターズ&マカリスター表が有名である)が非常に豊富に揃っているが、メインサプリメントで、モンスターをそのままPCとして使う『モンスター・モンスター』には、「シャドウジャック」というデータがある(なお、影男 Shadowjackは影のジャック Jack of Shadowsの通称、別名として原作にも表れるが、T&Tでの用法は単なる「影の男」の一般名ともとれる)。「ロジャー・ゼラズニイの小説より」と名前に添えてあるので、このジャックに由来することは確かなのだが、表に付されている説明によると、「悪の道に走った魔術師の一種で、ひじょうに魔法的な生き物」という、人間とは別種族とおぼしきモンスターとされている。同書の”熊の”ピーターズによるさらに詳細なモンスターの説明によると、紳士的な怪盗である、等のある程度原作が反映された設定になっている(女性に親切というのはゼラズニイ通りではないが)。モンスター能力としては、呪文を使用する、影を移動する、影の中では回復する、影の中では呪文を無効化する、といったものがある。能力は人間よりも高い知性度と魅力度、低い幸運度(原作通りなのか、”不吉”なイメージなのかは定かでない)と体重(”影”であるためかもしれない)となっている。おそらく、T&Tでのクトゥルフ神話のショゴスやツァトゥグァの落とし子が、原典とは微妙に違った形でT&Tに取り入れられているのと同様、独自解釈であろうと推測することくらいしかできない。おそらくT&Tの原作者のグループ、ケンstアンドレや、高い確率でおそらく”熊の”ピーターズかマカリスターらが、ゼラズニイ好きでこのようなキャラをプレイしたかったため、一種のキャラクタークラス(アーキタイプ)ともとれる選択肢として入れたのではないだろうか。
また、日本語版の訳者・清松みゆきによる追加のモンスター解説では、「真っ黒な影でできた人型のモンスター」(T&TでおなじみNikov氏のイラストでは、まったくもってドラクエのスモールグールが真っ黒になったようにしか見えない)となっており、のちにSNE社のホームページに連載されたハイパーT&Tリプレイでは、人間からシャドウジャックになってしまった、なるプレイヤーキャラが登場する。これらが他の未訳の膨大なT&Tシナリオのどれかに由来するのか、みゆきちゃんの完全な創作なのかは定かではない。概して、このような経緯でT&Tゲーマーにだけはシャドウジャックの名は知られているのだが、原作の方の姿で知られている・想像されていることはまずないだろう。
敵:*bandでは、[Z]のゼラズニイ要素の中でも代表的なひとつとして入っているものである。40階という前半の敵であるが、大盗賊にたがわぬ猛烈なスピードと暗黒魔法攻撃(この階層では耐性が揃っていないことも多い)を持ち、階層としては非常な強敵であり、アンバライトと並ぶ厄介な敵の代表として頻繁に*bandプレイヤーの口にのぼる。[Z]のインフレぎみのスピードに対応したとも考えられるが、それにしてもこの階層で[Z]プレイヤーキャラの手にする並大抵の速度では対処できない。そのあまりの凶悪さから、”禿のジャック”という駄洒落すぎる蔑称で呼ばれることもあり、ランダムアーティファクトに入っていることもある。mon_speakで、すでに「コルウィニアの鍵」を手に入れている、なる台詞を口走るが、設定上のそれだけの力を得たにしては低階層とはいえるのだが、圧倒的なスピードと影魔法の攻撃力に畳み掛けられて、原作のライバルやその手下のようにプレイヤーが次々と一方的に屠られる姿はある意味原作通りと言える。なお、関連物品として『影のジャックのクローク』があるが、これは当該項目に述べるが、英語版では別の名のクロークが[Z]和訳で名を変更されたもので、元の[Z]の要素ではない。
→影のジャックのクローク →ボーシン
ガーゴイル Gargoyle 【敵】
出典:ガーゴイルはフランスの文語で喉を意味するgargouilleに由来し、その名の通り口を開ける門戸の霊(家屋の守護霊)とも、また水を通し清める水霊ともいわれるが、何にせよ、中世においてはキリスト教によって異教霊として怪物化され(フランスの怪物ガルグイユ等、個々の伝承に関しては専門サイトを参照されたい)低級霊として「魔よけ」的な装飾に聖堂などを飾る像として用いられ、ゴシック用語として、禍々しい翼と爪を持った魔神像やその姿を「ガーゴイル的」と呼ぶごく一般的な用語としても用いられる。
RPGにおいては、その扱いはゲームによってさまざまである。「石のような外見を持ち、像にまぎれて不意をうつ」といった性質は共通しているが、ではその本質は石や像なのかそうでないのか、特に扱いが分かれるのが、登場するガーゴイルが”神やその堕落者・悪霊”からの発想である「デーモン」と、”像”からの発想である「ゴーレム」のどちらを採るか、という点である。このどちらが正しいかといえば、ゴシックでのガーゴイルという形に落ち着いた時点で「神像」であるため、すなわち”魔神”と”像”のどちらも正しい、としか言いようがない。和製RPG『ソードワールド』などは箇所によって記述が食い違う(ルールブックには「ゴーレム」と書いてあるが、刊行後、同世界設定の『ロードス島戦記』の関連記述にレッサー・デーモンの一種であるなり、デーモンの精神をゴーレムに召喚する術であるなりと、様々な混乱した解説があった)。
さて、RPGの原型であるD&Dシリーズにおいては、デーモンとゴーレムのどちらだったかというと、実は「どちらでもない」というのが答えである。AD&Dでは悪魔でもゴーレムでもなく野生の「生物」であり、ことにD&D3eでのモンスター分類では「魔獣」(Magical Beast, 超常能力ないし変則的能力を持つ「自然の生物」、幻想的怪物。キマイラ、ゴーゴン等)である。思えば、ギリシア神話の「神族」出身の怪物(メデューサ、ミノタウルス等)や、他神話由来の後にキリスト教で悪魔や悪霊とされた怪物神らが、D&D系においてはデーモン等といった特殊な怪物ではなく「ごく普通の(典型的な)モンスターの種族」として扱われていることを考えると、ガーゴイルのこの扱いも、ごく普通のことでしかないのかもしれない。(ただし、クラシカルD&Dにおいてはルールにグレイター・コンスラクト(上級魔法生物=ゴーレム)と書いてある箇所と、サプリメントで自然生物のように扱われている箇所が混在していたので、あるいは、他RPGの混乱はこれを引きずっている可能性もある。)なお、D&D4版及び5版でもまた異なり、「地の元素に関連するクリーチャー」となっている。
大半のRPGでは、どちらにせよ「下級の怪物」として扱われているであることが大半であるが、古いFTや非常に古いゲームにおいては、ほとんどこれらにおける「ゴーレム」の古い扱い(→ゴーレム)と同等に強力であることや、致命的なことも珍しくない。NetHackの「ガーゴイル」は他の大半のようなAD&D1stのガーゴイルそのままではなく、むしろより強力な亜種Margoyleに近いデータ(そのままではない)になっており、「羽のあるガーゴイル」はさらに強力であり、いずれも防御能力が極端に高い。強力なものとされている中でも特に印象深いのがT&Tであり、(公式シナリオやソロシナリオにおいて)ガーゴイルは常に相当な強敵であり、「不死である」とされ、倒すと1度だけだが能力が2倍になって蘇る(おそらく、石像として呪縛されていた神性が、像を破壊されると蘇るなりといった発想であろう)ばかりか、ガーゴイルを倒した者も、一度だけ復活できる能力を得る。神の一族から堕落した、もしくは偽りの神の意味もこめて、「偽りの不死」の力を宿しているのであろう。
敵:きわめてポピュラーなモンスターであるが、[V]やその直接派生バリアントの時点では登場していない。由来は[Z]からであり、その派生である[変], ToMEにも存在する。しかし、その能力はRPGにおけるガーゴイルの通例(D&D系も含めて)から想像できるものとはかなり異なったものである。「デーモン」として追加されているのだが、集団で登場し、他のRPGではほとんど見られない電撃や火炎のブレスを用いてくる性質がある。あるいはガーゴイル形態の他の多数の悪鬼(ニュカロス(→ニカデーモン)やスピナゴン(スペンドデビル))が参照されているのかもしれないが、*bandにおいては、像に擬態するといったギミックを用いることができないため(ミミック的にする方法もあったかもしれないが)単なる「下級のデーモンの一種」の発想でデザインしなおしたものになっているようである。なお、[Z]旧版や[変], ToMEでは34階のモンスターで屋外にも登場するが、[Z]2.7では54階という深層になっている。能力自体はさほど変化がない。おそらく、深層においての「下級兵士」的な位置づけになっていると思われ、より「デーモン」という側面が重視されていると思わせる点である。
カシェイ Kaschei the Immortal 【敵】
不死なるカシェイ。不死身なるコスチェイ、怒りの大公。コシチェイはスラヴの民話の数々に登場する悪鬼であり、その名は「骨(kosti)」を示すといわれ、骨ばった、多分に老人のような姿をしているとされる。単体の悪の魔法使いや怪物のようであることも、城などを構えた魔王の類であることもある。これもスラヴ民話の定番として数々の物語に登場する、英雄イワン皇子、賢女ワシリーサ姫、ねるねる魔女ババ・ヤーガ等と、さまざまな形で対抗したり戦ったりする。近代翻案では、ストラヴィンスキーのバレエ音楽『火の鳥』の敵役としてなどが特に有名であろう。一方で、さらに語源を探ると、koshchiがテュルク語で「囚人」の意であり、この性質は、コシチェイが女傑マーリヤ姫の城の倉庫に鎖で長年呪縛されており、後で解き放たれる、というロシア民話の一つにその原型の影響が残っているとも推測でき、どうやら元来「封じられた・埋められたもの」といった属性を有していた存在であった可能性もある。
一方、前記した『火の鳥』やその原型のコシチェイの民話では、針や玉や箱などの品物に自分の魂を封じて隠し、その魂を見つけ出して奪わない限りは肉体の方は決して死なない、とされ、RPGで言ういわゆるアンデッドのリッチ(経箱に魂を封じておく)がこういったスラヴ伝承と関連づけられて語られることもある。骨ばった姿からも、伝承の姿はリッチ的なイメージに近いものとして想像されることが多いと思われる。
しかしRPGでは、原型であるD&D系において、創始者ガイギャックス作の寒冷地(ぶっちゃけGreyhawk世界のヤティル山脈だが)探索シナリオに、おそらく一発キャラとして登場したのだが、これが後のモンスターマニュアルに記載されてしまい、「デーモンロード」として他のアークフィーンド等と同様、定番のボスキャラの一体となってしまっている。綴りは都合なのかKostchtchie(発音ガイドでは「カスツチェイ」等)と、スラヴからの訳の都合なのかスラヴで知られたものとは微妙に異なるが、HJ社などの日本語版では「コシチェイ」の表記となっている。ここでのコシチェイは初出のせいなのか、松本0士御大のサルマタヒーローのようなすごいガニマタに偏平足にジャガイモ面、つるっぱげに両津勘吉のような眉毛に100tハンマーを持った筋肉質の巨人で、せっかくの不気味なリッチのような設定の原型とはまるで無縁である。
*bandでは、[Z]から[変]、Gumbandなどに登場する。[Z]においてICE社由来のアルダ設定である、アンデッド・ソーサラー『フィアグワス』が除去されたかわりに入っているように見え、思い出文章や基本パラメータが共通しているが、ほかのデータはあまり似ておらず、危険度、階層ともに深くなっている。D&D系のサルマタデーモンそのほかよりも「アンデッド」的な側面が強調されているのか、シンボル、データ傾向ともにいわゆるリッチの一種となっている。
→フィアグワス
鍛冶の司アウレのウォーハンマー The War Hammer of Aule 【物品】
アウレ槌。工人アウレはトールキンのアルダ世界のヴァラール(諸神)らでも特に重要な一体で、アルダの形成、神話時代の建造の類にどれも関わっている。自然・草木のヴァリエア(女神)であるヤヴァンナと対になっている。ドワーフという種族を独断で創造した(人間やエルフは、ヴァラールの手によるものではなく至上神イルヴァタールが命を与えたものである)ため、ドワーフらに守護神とされる他、アマンでは工芸のノルドール・エルフにも敬われる。ドワーフ創造の場面をはじめとして、「槌」を持っているという描写は各所に出てくる。
サウロン、クルモ(サルマン)といった工芸の力を持つマイア(下級神)は、もとアウレに従属していた聖霊であり、また、火の精霊バルログもアウレの従属ではないかと考察するファンが多い(確証は見当たらない)。そのファンの中に特に多いが、「堕落するのはアウレの部下のマイアばかり」という意見がある。しかし、実際のところを考えてみると、堕落するのはマイアだけではなく、同様に工芸の力を強く持ったノルドールのエルフらや、またドワーフもナウグラミア(→ドワーフの首飾り)創造やミスリル採掘に際して、業を負い、暴挙に駆り立てられた。アウレがドワーフを創造する際の至上神やヤヴァンナとの紆余曲折にも端的に現れているが、トールキンは「創造」という行為に対して、最も根源的で価値をもたらす行為でありながらも、産みの苦しみや創造者の傲慢さ・業と表裏一体なものと常に意識していたのではないかと思える。
ICE社の指輪物語TRPG, MERPでは、アウレのデータには「エケル(Eceru)」という名の槌が見られる。これは金と黒エオグで作られた、武器としても強力な槌で衝撃のクリティカルを与える。
*bandでは、アウレの槌をはじめとして、ヴァラの名のついた武器の数々は、[V]当時から最強ではないにせよ最終装備級の強力物品の代表とみなされている。剣以外の武器はレアリティが2倍となるので、リンギルよりレアリティは高い。これらは強さにせよレアリティにせよ、「強力な武器アーティファクト」をデザインする際の目安となる場合が多く、如意棒やエクスカリバーなどはアウレ槌を参照している(エクスカリバーの殺戮修正がアウレ槌と同じなのはこの事情による)。
ガス・スポア Gas spore 【敵】
AD&Dの「気胞子」ことガススポア(クラシカルD&Dではブラストスポア、「爆風胞子」である)は、D&Dシリーズの唯一無二の象徴である怪物ビホルダーと切ってもきれない「ビックリモンスター」である。
見かけはビホルダー(鱗に覆われ触手眼のある巨大な目玉)と瓜二つに見えるこの怪物は、遠くからはほとんど区別することは不可能だが、10フィート(3メートル)以内に近づくと、ビホルダーの魔力の目や牙や鱗が完全に「ハリボテ」であることに気づく。これは側はビホルダーそっくりだが、中には胞子がぎっしりと詰まった「菌類」の一種なのである。衝撃を与えられると爆発してその胞子を撒き散らし、もしくは近づいたものに胞子を吹きかける。胞子はダメージを与えたり病気にしたりするが、駆除できなかった場合はそのまま犠牲者の体内で成長し、寄生された犠牲者は丸一日後に爆発死して中から新たなガススポアが1〜6体誕生する。
D&Dシリーズのビホルダーは巨大な目玉から「反魔法」の光線を発してプレイヤーの魔法を封じ、しかもビホルダーの側からは触手眼による魔法を放ってくるので、ビホルダーを倒すには打撃によって、しかも早期決戦を余儀なくされる点に特色がある。そのためビホルダーだと思って早とちりして突っ込んだ者を陥れるのはいかにも狙ったトラップ怪物である。が、実際問題としては、迷宮の仕掛けひとつひとつに一喜一憂し驚愕し翻弄される初期レベルならばいざ知らず、ビホルダーと戦うほどのレベルになったプレイヤーキャラクターはいくらでも探知手段は持っているので(D&Dシリーズはレベルが上がると「攻撃呪文」が増えたりすることよりも、行動スケールそのものが大規模化することの方が重要なゲームである)他にもかなり巧妙に仕掛けない限りは、そうそうひっかかるプレイヤーがいるとは思えない。
NetHackでも例によってAD&D 1stと同じデータでガススポアは登場するが、寄生のような厄介な点は流石に表現されていない。
*bandではAD&Dモンスターも大量に増えた[Z]から(ビホルダーの方は[V]からいるのだが)登場する。跳ねる火の玉などと同様の自爆系モンスターの一種であるが、病気(耐久力減少)攻撃を撒き散らす。ダメージ自体は決して大きくなく、致命的というほどでもないが能力減少はどのみち厄介である。解説の和訳には英文だけでなく、AD&Dでの寄生についても補足されている。とはいえ、普段から数少ない文字シンボルばかりのモンスターを見慣れ、「見かけ」でなく名前等で区別することが当然になっているローグライカーが、こうしたトリックにはD&D系プレイヤー以上に殊更にひっかかりづらいのは言うまでもない。
カスタミア Castamir the Usurper 【敵】
ゴンドールのドゥナダン。王位簒奪者。アルダ第三紀、カスタミアはドゥネダイン南方王朝ゴンドールの18代王の孫にあたる王族で海軍の指揮官だった。しかし、ローハン人を母にもつエルダカール王に反発し、混血を快く思わないゴンドール人を味方につけてクーデターを起こし王位を簒奪する。だが残忍な性情と海軍重視の無理な遷都を試みたことから信望を失い、10年後にエルダカールの軍勢に逆襲され、討ち取られた。
ただし、カスタミアの子孫のサンガハイアンドとアンガマイテ(それぞれ参照)がさらに南方のウンバールの港に逃げ込んで海賊を率い、ウンバールが本国に奪回されるまでゴンドールを脅かすことになる。また、この抗争はおりしも第三紀の15世紀、北方王朝アルノールも魔国アングマールに脅かされていた頃で、ドゥネダインの衰退が続いていくことになる。
*bandには[V]からアルダを舞台にしたToMEなどのバリアントを通じて登場しているが、[Z]系ではさほど重要でないためか外されている。子孫らが残っていてカスタミアが外れた選考基準は定かではない。思い出には「黒きヌメノール人」となっており、これはこの語がしばしば悪のドゥナダンを指すためだが、正確には黒きヌメノール人は第二紀のサウロンの信奉者や、その子孫などの海賊化したものを指すので、厳密には(彼の代では)黒きヌメノール人ではない。頻度からもどちらかといえば魔法系であるが、強いて言えば極寒の矢を除けば、さほど危険ではない。
ガースト Ghast 【敵】
ガーストは、アンデッドの設定の細かいRPGにおいてはその一種の名、特にグール(→食屍鬼)によく似たアンデッドの類の怪物の名として扱われることの多い一種である。Ghastは、英語の副詞「ghastly 青ざめた、死人の、恐るべき」(ghostlyとほぼ同義とされるが、アングロサクソン語のghastlicなどに由来し、より大仰・古風な意を持つ)から逆に作られた名詞と言われるが、特にRPGのようなこの用法とグールに似た種族の姿は、怪奇作家H.P.ラヴクラフト(→クトゥルフ神話)のドリームランドを舞台とする著作に現れたものに由来すると考えられている。(ただし、その後にむしろghastlyから取って、ghostや悪霊に近い語というような意で、ghastが使われる場合はしばしばある。)
ラヴクラフトの『幻夢境カダスを求めて』(未知なるカダスを夢に求めて)に登場するガーストは、地下に住む種族だが、光のある所では生きることができず(比喩ではなく、薄明かりの中でさえ数時間しか行動できない)知能が非常に低く、ガグや食屍鬼といった種族に見境なく襲い掛かり(ガグには捕食されることも多い)また同士討ちも行う。探索者ランドルフ・カーターの感想では鼻と額とその他重要な特徴が無い事を除けば、「妙に人間じみた面構え」というのだが、基本的には「獣じみた外見」であり、小馬ほどの大きさがありカンガルーのような跳躍で移動する。咳のような喉声を発するが、言語なのかは定かではない。地下の種族ではあるが、特にグールと同族などではないと思われる。TRPG版CoCのデータでも、ガストは知能が低く、特殊能力はまったくないが、グールよりも肉体的にはかなり強靭である。またほぼ完全に人間型(グールよりも近い)のイラストが添えられている。
多くのRPG/CRPGの原型であるAD&Dでは、グールと同様、また同種の「アンデッド」の一種とされているが、ここではグールより知能も高く強靭な、完全な上位のモンスターとなっている。グールと同様に麻痺攻撃を行う力があり、また腐敗の匂いのため周囲に吐き気のペナルティを与える、という特殊攻撃がある。なお版によっては、グールに殺されたものが感染によってグールとなる場合があるが、このとき元々強力な人型生物は、グールでなくガストに変容する場合があり、ガストがグールの完全な同族、また上位互換のものとして位置づけられていることが伺える。
*bandに登場するものは、[Z]以降のクトゥルフ系のモンスターの一種として、基本的にラヴクラフトのものを指すと思われるが、D&D以降のRPGの伝統も意識してか、アンデッドにもなっている。光でダメージを受けるのは原作に忠実であるといえるが、むしろアンデッドの共通であるかは定かではない。打撃、魔法ともに特殊能力・特殊攻撃の類はない点も、D&D系以降のアンデッドとしてのそれよりも、ラヴクラフトやCoCゲームのものに近い位置づけといえる。
→食屍鬼
ガタノソア Ghatanothoa 【敵】
旧支配者。火山の主、闇の神、魔物の主、ロイガーの支配者。ヘイゼル・ヒールド『永劫より』(例によってラヴクラフトの添削・共著とされる)に言及される魔神。
クトゥルフ系の外なる神・旧支配者はいずれも見ただけ・触れただけで問答無用に人間など破滅してしまうものが殆どであり、ことに外なる神の中には見ただけで無条件で異次元に送られて帰ってこないとか近づいただけで数億年老化といった問答無用なものも多いのだが、しかし、そうしたものを押し退けてさえも、極めつけにえんがちょな存在と強く認識されているのが、このガタノソアである。
ガタノソア自身は、触手と感覚器官・口がごちゃごちゃに寄り集まった巨大な塊という、クトゥルフ系統としては別にどうということのない姿をしているのだが、人間は単にその姿を直視したり、近寄っただけで、全身の表面が硬化しはじめるという呪いを受ける。2、3分で体の表面がなめし皮のように硬くなってしまうのだが、恐ろしいことに体の中身は普通に生きており、犠牲者は麻痺しきったまま苦痛と狂気に苛まれてゆく。この硬化の呪いはガタノソアからその後離れてもまず逆行することはない。見る・近づくだけでも危険な旧支配者らの中でも、実にひどい駄目押しであり、探索が目的であるCoCルールブックにさえ「ガタノソアがいるニュージーランド・チリ間の島には近づくな」などと書かれている。
ガタノソアが眠っているのは、その死火山の島の地下にあるかつてミ=ゴ(→参照)が築いた地下施設の空間であると言われている。クトゥルフ同様にそこに旧神に封印されたという意見もあるが、ガタノソアがしばしば地上に出現するのは地殻変動によってその島がさらに隆起した場合などであり、「火山の主」の名の由来である。かつてはムー大陸とアトランティスにおいて恐れられ、怒りを静めるため生贄をささげられていたという。あまり見かけや能力に関連性がないように見えるが、ロイガー(ツァール →参照の対ではなく、別のエレメンタル生物である)の首領とも言われる。しかし、リン・カーターなどの設定や、CoCゲーム用サプリメントでは、地下に眠っているという共通点などもあってか、クトゥルフの同族(場合によってはじかの子など)と設定されていることもある。
その恐ろしい認識に反して、*bandには46階というクトゥルフ系ユニークとしては比較的初期に登場する。通常打撃が知能・賢さの減少や混乱打撃なのは、こうした見かけが恐ろしいといった点を反映していると思われるが、無論のこと原典の危険性には遠く及ばない。魔法は重力・遅鈍ブレスやテレポート系などかなり特殊なものを持っており、これはガタノソア自身というよりは、配下とされるロイガーの能力を意識して作られたのかもしれない。ともあれ、この階層ではこれらの特殊攻撃に注意を要するといえる。
→ロイガー
カツオノエボシ Portuguese man-o-war 【敵】
カツオという名が入っているが魚ではなくクラゲ(クダクラゲ)である。カツオノエボシとは通称「電気クラゲ」と呼ばれる毒クラゲであり、10センチほどの透明な浮き袋から、長い紐のような触手(場合によっては数十メートルにいたる)が生えたという姿をしている。触手には触れると電撃にあたったかのような激しいショックを与える強力な毒があり、これが通称の由来であるが、その小型の外見に反して、クラゲの類でも非常に危険なものとされている。毒は腫れや水ぶくれを引き起こすが、ショック症状、場合によっては麻痺、ショック死に至る可能性すらある。
「鰹の烏帽子」とは、その浮き袋が烏帽子に見えることから、あたかも魚がかぶる烏帽子を擬して名づけられたという。また、英名のPortuguese Man-o'War (man of war)とは、「ポルトガルの軍艦」を意味し、ポルトガルの海で見られることと、浮き袋の部分が艦の形にも見えるところからともいう。
RPGにおいては、初期海外RPGが祖型として多く引用しているAD&D1stのモンスターマニュアル1に、すでにモンスターの1体に"Portuguese man-o-war, giant"が見られることから、モンスターとしての扱いが既に知られていることがわかる。
*bandでは[Z]以降、おそらく「水地形」を追加するにあたって、水棲のモンスターを水増しするためにピラニアやサメ等のいかにも危険な魚とともに持ってこられたと思われる。実在の生物であるが、*bandにおけるカラスやネズミ等の危険さから考えれば危険なモンスターになっているのは不思議ではないかもしれない。毒の効果は「麻痺攻撃」として表現されている。
カトブレパス Catoblepas 【敵】
カトブレパスはプリニウス『博物誌』によるとエチオピアの怪物とされるものである。ナイル川ぞいに住むカトブレパスは黒い水牛に似ているが首が非常に長いため、いつも首を地面近くまで垂らしており、そのためギリシア語で「俯ける者」であるカトブレパスと名づけているという。が、その俯いている目の視線には見たものを即死させるという効果がある。以後の説話集では、豚の頭そのものであると書かれていたり、またバジリスクからの発想らしき別の怪物や龍の姿になっているものもある。
リビアではこれとよく似たものが「ゴーゴン」と呼ばれており、ギリシア神話の蛇女ゴルゴン一族とはほぼ別物ではあるが(ただしD&D系およびそれを踏襲する*bandでは、ゴーゴンは牛の姿の方と定義されている)ゴーゴンが死の視線をもつ怪物の通称であったり、これらがいずれも蛇の表像(カトブレパスの長い首と鎌首、また睨んだ獲物を金縛りにする能力の神秘化)をもつことから同根の怪物であったりする可能性はありうることである。
クラシカルD&Dではおおまかな能力と姿は同じなのだが、名前は「ネクロゾーン」といい汚濁の湿地を疾走する非常に危険な印象を持つ怪物で、「かつてカトブレパスと呼ばれていたが今は呼ばれない」となっている。おそらく、能力がインフレした上級ルールに登場する怪物なので、元のカトブレパスの持つどこか緊張感のない外見や雰囲気のイメージを無理矢理に廃し、名前も恐ろしげなものにして、可能なことであれば、既知のものと「差し替えようとした」ものと思われる。AD&Dや現在のD&D3eでは別にインフレルールではなく、ただの中級モンスターであるためか、能力はそのままでも、のどかな外見と「カトブレパス」という名前のままになっている。
CRPGなどにもしばしば登場するが、即死攻撃でなく、バジリスクとの類似やリビアのゴーゴンも意識してか、石化能力を持つとしている場合もかなり多い。
*bandでは[V]以来ノーマルモンスターとして登場する。モンスターの思い出解説文章には「錯乱した錬金術師により作られた生物のようだ」とあるが、この原文のlooks likeはむしろ「〜のように感じられる」というべきところではないかと思われ、
細い体と首に大きな頭という非常なアンバランスさが戯画や中世の未発達な魔術像画のように見える、という意味に思える;別に「*bandでは錬金術師が作ったという設定」という意味ではなさそうだということである。特殊攻撃をあまり表現できないことも多い*bandではしばしばあることだが、死の凝視らしきものは表現されておらず、打撃の凝視攻撃で恐怖や混乱があるのみである。バジリスクやゴーゴンのような毒攻撃やブレスもない。階層はバリアントによってまちまちだが、20−30階台前半とあまり高くはない。プレイヤーキャラはこの階層では恐怖や混乱にすでに耐性を持っていることも多いこともあって、さほど強力なモンスターとは認められていないのではないかと思われる。
→ゴーゴン →メデューサ
ガブリエル Gabriel, the Messenger 【敵】
出典:ガブリエルはキリスト教など(イスラム教ではジブリール)の大天使で、オカルトで知られる無数の有名天使のうちでも聖書に実際に名が書かれている数少ないひとりであり、また階位は様々にいずれの場合も最も偉大な天使の一体として四・七大天使などにも常に名が入る一体でありオカルトでは東・水の属性が付加されとかなんか急にめんどくなったから詳しくはどこぞの成人向ゲームがきっかけで大量に解説してあるようなサイトでも参照されたい。
神の左手に座することがユダヤの慣習から「女性の天使」とされる(また女性に告知したことの自然さから)ことが多いが、イスラムでは特にそうしたことはなくジブリールは男性とされる。聖母マリアに受胎を告知しムハンマドに啓示を与えたのがこの天使であることから「告知の天使」とされ、それ以外にも、伝承や偉人伝で告知者や使者がガブリエルとされる(カール大帝の勇士ローラン(→パラディン)に関わるなど)ことも多い。概してその役割が、聖書の重要天使であること以上に、その存在が一般に広まった理由といえる。
これらの性質から一般にそのイメージは温厚であるが、以後のフィクションの天国地獄の世界観に多大な影響を及ぼしているミルトンの『失楽園』で天界の防衛者(元来、智天使の総帥とする説もある)であることを受けて、やはり戦闘的・指揮官・断罪者である(特に男性とする場合や、ジブリールとする場合)こともある。その最たるものが、ガブリエルがサタンに続いて反乱を起こすという設定の映画『ゴッド・アーミー 悪の天使』(どこぞのイダテンアラゴルンのようなサタンが登場するという点は今回は絶望的なまでに関係ない)のシリーズともいわれる。
敵:*bandでは、どういうわけか[V]において天使ユニークモンスターとして登場する。こうした有名天使が無造作にユニークの敵となっている理由は定かではないが、おそらく、ノーマルモンスターに天使類が多数存在するので、それらの上位としてユニークの強敵も配する目的ではないかとも考えられる。(有名ユニークモンスターには、ティアマットのように、D&D/AD&Dで有名なユニークのものが純粋に伝統的というだけで入っている、といった理由の場合もあるが、D&D系には聖書などの有名天使のデータは(表向きというか主要ルールブックには、最終的には)存在しない。)また[V]やToMEにはガブリエルがそのまま登場しているが、[Z]やその派生バリアントではなぜか『ラファエル』(→参照)に変更されており([Z]やGumbandでは名前以外はすべて同じデータである)削除されているバリアントも多い。さらに、*bandではガブリエルは男性(英語での人称がhe)となっている。敵としては、天使類の特徴である攻守とも非常に高い数値と、天使をひきつれて現れ・召喚する能力をもつ強力な相手である。特にオカルトのような水元素に関係した性質は持っていない。
カマイタチ Whirlwind Attack 【システム】
[Z]以降の自然魔法にある魔法のひとつで、自分の周囲の8方向すべてに攻撃を行う。このWhirlwind Attackという名および効果は、AD&D1stのoriental adventureのkensai(剣斎(才),剣聖)の技に由来している(後のmonkや2nd, 3edにも導入された)。周囲の敵すべてに通常攻撃を行う、純粋な攻撃(打撃)技であり、自然魔法であることやその名から想像されるような風の魔法の類ではない([Z]英語版で自然の魔法に入れられたのは、その名からの連想と思われるが)。和訳の「カマイタチ」というのは、あくまで風の魔法と解釈したわけではなく、いい訳語が見つからなかったのではないかと思われる。D&D 3edの訳語では「大旋風」であるが、どのみち単語だけで効果を想像するのは難しい。なお本当のカマイタチ現象一般については、「飛飯綱」の項目に譲る。
oriental adventureは例にたがわず、海外人による笑えるデフォルメ中世日本像のオンパレードだが、このwhirlwind attackはその中でも語り草になっている代物である。付記されているイラストが、サムライが自分も回転しながら超電磁タツマキを巻き起こしている姿にしか見えないのである(D&D 3edでは「大旋風」は強力ながら、割と多くの戦士系キャラクターが使用できる技となったが、筆者の周囲の年のいったD&Dファンの間では、これの習得・使用時の「超電磁スピン」は合言葉である)。
サムライがこんな技を使うなどという発想は何処から出てきたのかという疑問も(サムスピの覇王丸の技はこれの逆輸入という説もある)長い間語られていたが、ずっと後になって、どうやら、映画『椿三十郎』にてミフネ扮する浪人の三十郎ではないかと思えてきた。周りに群がる兵士を、瞬時に抜刀しその場で翻転しつつ7人を3秒だかで切り伏せる場面があるのだが(英語の日本剣術・剣道の解説書に、コマ送りと図説つきで数ページにわたって解説されていたりもする名場面である)この場面がそのD&Dデザイナーの目からは、超電磁タツマキと共に回転して敵をなぎ倒したように映ったらしいのである。
*bandでは、自然魔法が使えてなおかつ打撃が得意となればレンジャーか修行僧だが、特に修行僧が、防御に難があり対多数の弱点を補う形で使う機会が多いかもしれない。
神々の黄昏 The Two-handed Sword of Twilight 【物品】
「神々の黄昏」とは北欧神話の終末戦争「ラグナロク」の訳とされるが、元々「ラグナロク」はスカンジナビア語で「支配者の宿運」というような意味なのが、ドイツに移る際に意訳されたのが「神々の黄昏」であるという。ともあれ、*bandでは「ラグナロクにおいて巨人スルトが世界を焼き尽くした炎の剣」の名前として使用されている。もっとも、Twilightを剣の名としたのは、*bandには別に「The Long Sword of Dawn 暁の剣」もあるからというだけの思いつきかもしれない。
ラグナロク以外に、北欧神話の冒頭でも、スルトの炎の剣がニフルハイムの霜に当たることで霧が生じ、原初巨人にあたる霧のイミルが生じた、という説になっている場合があり、つまりは世界の創造と終末の両方に関わる剣とも言える(が、これはいかにも辻褄が合っていて後代のこじつけ風である)。
なおこのスルトの剣の名を、「レーヴァティン Laevatein(n)」と呼ぼうとする向きが非常に多い(かつて、ウェブでレーヴァティンで検索すると、それ以外の情報は一切確認できない時期がかなりの年月あった)。レヴァテインとは、古エッダによると熱の巨人の国ムスペルハイムの秘宝であり、スルトの妻シンモラが保管していた「傷つける魔杖」の意であるが、そのため「スルトの剣」と短絡的に結びつける風潮があるようである。だが、あくまで北欧伝承のみからはこれが同一であるとみなせる根拠は全くなく、むしろ困難であり(シンモラの秘宝は氷の剣と思える節もある)そのため、特に神話関係の厳密な書物には断言されていない(レーヴァティンの名自体が書かれていない本が多いのはそれ故である)。しかし、和製RPGやライトノベル、その解説書にはほぼ「スルトの炎の剣=レーヴァティン」と頭から断定されて頻出するので、特にそちらのファンの間に偏って定着している部分がある。(近日とみに北欧神話を稚拙に引き写した和製ライト物が多い中、レーヴァティンを「世界を滅ぼす最強剣」の名だと信じて何かとこの語を連発するファンが少なからずいるようで、ただでさえ世界に並外れて低い日本のFTファンの品位をさらに著しく落とすことにもなりかねない。)なお、シンモラのレヴァテインも、最近は語意そのままで解釈し「剣でなく杖」などと解説しているサイトもあるが、「剣ではない」などという保障もまったくない。長物に剣でも矛でもなんでも「杖」という名がついているのは欧州伝承の文脈では普通のことでしかない(創作ではライバーのファファードのもつ「灰色杖」など)。
現在北欧神話と呼ばれるものは、スカンジナビアの神話のみではなく、ヨーロッパ各地がキリスト教化する際に追い出された異教伝承の名残の性質も持ち、例えばアース神族と脈絡なく共存しているように見えるヴァーン神族(ニョルド、フレイなど)は、ケルトの神々と同根であったものと考えられている。ケルトの四大宝物が巨人国の秘宝と同一視され、そのうち光の剣もしくは「炎の剣」(これも俗称「クラウ・ソラス」)が、シンモラの秘宝レーヴァティンに重ねられる節も生じたのではと考察する人もいるが、定かではない。
*bandでは[Z]以降、[V]の呪われた剣『モルメギル』と差し替えられて登場する。モルメギルと異なり火免疫、また加速はプラスとなっているのだが、「太古の怨念」つきなのでやはり使えないコレクターズアイテムである。
→スルト
かみつき 【その他】
『指輪物語』未読の*bandプレイヤーが頻繁にユニークモンスターの名として間違って出す名前。農夫マゴットの犬は「くいつき」「きば」「おおかみ」であり「かみつき」はいない。「玻璃瓶」の読みと同様の、一発丸分かりの指輪未読判別手段である。
カムル Khamul the Easterings 【敵】
出典:第二位のナズグル(指輪の幽鬼)。黒き東夷、東方の影。ドル=グルドゥアの副官。トールキンが名前、出身地、細かな動きのすべてを設定している唯一のナズグルである。なおトールキンの指定に従うと「ハムール」という発音に近いようである。
トールキンのUnfinished Talesによると、アルダの第3紀、最後の同盟に破れて以来力を取り戻していなかったサウロンは、モルドールでなく闇の森のドル=グルドゥアの要塞に潜伏していたが、この地の副官と、サウロンがいない際の統率をしていたのがハムールともう一人のナズグル(これはICE設定では、第七位のアドゥナフェルがつとめる)であったという。指輪戦争では黒の乗手として動き、「指輪所持者がメリーの舟で川を渡った際、船着場で立ち止まった」のがハムールとされている。ハムールは魔王と異なり光や水への弱さを持っているばかりか、魔王以外の8人の中では、闇と火の中では最も強い反面、光や水に対しては最も弱いという。
原典に充分な設定が存在するわけだが、ナズグルの他の設定も作成したICE社はさらに細にわたり設定を追加している。それによるとハムールは、東方にアヴァリ(ヴァラールに従ったことがなく、のちに原始的な「民間伝承の妖精」と化したエルフ)との混血によって高度な文化と血脈を持ち栄えた、ウォーマウと呼ばれる一族の王、コムール1世であった。第二位のナズグルを、トールキン原作での未開人的な東夷ではなく、第一位(魔王ムーラゾールはヌメノールの王子である)に匹敵する血脈を与える設定にしたのかもしれない。龍皮の鎧をまとっていたため”龍皇(ドラゴンロード)”の二つ名を持ち、また、彼らの支配者の称号である「超権司」といい、中つ国の東端の「日のいずる島」(Isle of Sunrise)でアヴァリの巫女と出会うエピソードといい、ICE設定のコムールには日本のイメージが重なっているとおぼしき部分もある。第二紀にはバラド・ドゥアの門を任されていたので”獄門の主”の名も持ち、第三紀の初期は、ナズグルの第三位ドワールと共に東方を牽制し、東に行ったイスタリのアラタールとパルランドを抑えていたという。
MERPのレベル値は第三〜九位のナズグルが30-39であるのに対し、50と頭二つぶんほど飛び抜けている(なお、魔王が60である)。また、クラスがいわゆる戦士系(MERPでは「野伏」)なので戦闘能力がめっぽう高く、MERPやTCGでは、第三紀には直接の戦闘能力で彼をしのぐのはモリアのバルログしかいない。MERPのカムルは青竜の鱗の鎧兜、モルグルの刃のほか、エルフ殺しのボーラと吹き矢を持っており、かなり軽装である。
敵:*bandでは、アルダを舞台にしたバリアントでは、ICE設定に従ったナズグルとして登場する。[V]や[O]では魔王以外のナズグルはユニークとはいえ40-50階代にダンゴになって登場するが、『カムル』もその中では最も階層が上とはいえ、さほど強敵とはいえない。一方ToMEやEyangbandなどではナズグルが各階層に均等に配置しなおされているが、カムルは70階代と文字どおり魔王についで強力な階層となっている(しかし、やはり階層の割には弱いかもしれない。ToMEではシステム的に厄介であるが)。
[Z]系のバリアントにおいては、ICE設定のみの非トールキン設定のナズグルが非ユニーク化され、魔王の名前さえ削られたにも関わらず、トールキンの原典に確実に存在する『カムル』のみは、[V]そのままのデータとしてユニークとして入っている。
[変]では非ユニークのナズグルが強化されたにも関わらずユニークの階層・強さがそのままなので、なぜか非ユニークのナズグルよりもカムルの方がかなり階層が低く弱いという現象が発生している。
→ナズグル →アデュナフェル
カムロスト The Set of Gauntlets 'Camlost' 【物品】
アルダ伝説時代の人間の英雄、ヌメノール王朝の先祖(遠くはアラゴルンらの先祖)、アルダの空手小公子(くうしゅプリンスと読み、断じてからてプリンスではない)ベレンの詳しい略歴は長きにわたるため、詳しくはルシエン王女、アングリスト等の項目で補足するが、ここではこの物品の名に関係した点のみにとどめる。
人間の王子ベレンはシンゴル王から王女ルシエンを得るために、冥王モルゴスの地下城砦アングバンドの底に潜入し、モルゴスの冠にはめられた大宝玉シルマリルを一個奪い持ち帰る。しかし、アングバンドの外に脱出しようというところで、表門を守る魔犬カルハロス(→参照)に道を塞がれる。ベレンは、カルハロスを追い払おうとして、手に持ったシルマリルを突き出す。これは、シルマリルの聖なる光が闇の生物を焼き、追い払うことを期待したようである。
しかし、この目論見はどうも妙な展開を呼び起こす。というのは、シルマリルの光はモルゴスをはじめ闇の眷属を苛む一方で、彼らをどうしようもなくひきつけるという、マタタビのようなよくわからない性質を持っている。カルハロスは貪欲さにかられて(これがシルマリルの光に対するものか、ベレンの手の肉を食いたいという貪欲さは定かではない)かざされた宝玉にくらいつき、ベレンの手首から先を食いちぎって諸共に飲み込んでしまい、その後、腹の中のシルマリルによって苦しめられて狂乱しベレリアンド中を破壊して回るという、ベレンの目論見がわりと裏目に出たとおぼしき結果になる。その後も少々紆余曲折があるのだが、とりあえずこのときからベレンは片手となり、「空手」「隻手」のベレンとして以後の伝説に語られることになるのである。
「空手(くうしゅ)」を意味する「カムロスト」はベレンの二つ名であるが、どちらかというと「隻手(せきしゅ)」こと「エアハミオン」の方が使われる頻度が高いようである。隻手のベレンの伝承は、『指輪物語』中でもサムなどが特によく言及する。
「カムロスト」は*bandには[V]以来登場する物品であるが、これは単にエルフ語で「うつろな手(甲)」を意味するという発想からの呪いの物品というだけであるかもしれず、仮にベレンの名からの発想で名がとられているとしても、必ずしもベレンそのものと関係ある物品であるかは疑わしい。が、どちらにせよ[O]以来の物品解説では、「ベレンの名に因んで」つけられたとなっている。具体的に何か関係があったかは定かではない。[Z]系ではアメコミでも名高いスケールのインフィニティガントレットこと、『サノスのガントレット』に差し替えられている。
ガラドリエルの玻璃瓶 The Phial of Galadriel 【物品】
『指輪物語』で、主人公フロドにエルフ女王ガラドリエルが贈った玻璃(水晶かガラス)の瓶で、ガラドリエルの鏡と呼ばれる泉に映ったエアレンディルの光(つまり、金星の星明かり)を集めてある。とある要所で重要な役割を果たす。
ほとんどの*bandでは最初に手に入るアーティファクトであり、しかも『指輪物語』中でも印象深い物品であるため、初心者に対してまさに「指輪物語のゲームである」ということを早々と実感させる、実に貴重な役割を果たす(次にそれを実感するのは馴染みのアーティファクトが登場した時になるだろうが、それは随分と後になる可能性が高い)。
多くのバリアントでは初の(油などを補充する必要がない)永久光源であり、発動で明かりを点すこともできるので非常に便利だが、反面、早く手に入りすぎるので(ときに地下1階の場合もある)ランタンなどの普通の光源や、光の魔法の存在意義を著しく落としているとも言える。これを考慮してか、[変]では玻璃瓶の階層がかなり深くなり(とあるクエストで入手できるが)それまでは「フェアノールのランプ」という永久光源ノーマルアイテム(これも、さらに少し前のクエストで入手できる)を使用することが多くなった。上記の「指輪物語」ファンに対するフレヴァーは失われたわけだが、致し方ない。
なお、「玻璃瓶」を正しく音読できるかどうかが、その*bandプレイヤーが指輪物語を読んだことがあるかを一発で判別する常套手段であるらしい。まぎらわしいことに、「瑠璃瓶」という単語の方を世間一般では比較的よく見かけるのが大きなトラップである。
指輪物語を読んだことがない*band初心者が、最初に拾ったこれを何だかわからず売り払ってしまい、莫大な売値に不安になって指輪・*band先輩に聞いたところ、次の永久光源は当分手に入らないだろうと言われショックのあまり自殺(Qy@)という報告は跡を絶たない。
狩人オロメのスピア The Spear of Orome 【物品】
出典:狩人オロメとは、J.R.Rトールキンのアルダ世界におけるヴァラール(上級神)のうちの一体であり、『ヴァラクゥエンタ』『クゥエンタ・シルマリルリオン』などに言及される。また、狩人の神として、『指輪物語』にもその名前だけはしばしば登場する。例えば、ゴンドールの執政の角笛(→ボロミアの角笛)は「アラウの牛」と呼ばれる大牛の角で作られたという説明と共に、アラウとはオロメを指す(アラウがシンダリン語である)ことが記されている。また、ローハンのセオデン王がペレンノール野に乗り込む場面において、セオデンの姿を「古の神の一人とも、この世界がまだ若かった頃のヴァラールたちの合戦(筆者註:メルコールの最初の城砦ウツムノが破られた「力の戦い」を指す)における偉大な狩人オロメとさえも見えた」という比喩がある(なおこの箇所の訳注では「オロメはエルフ語でアラウのこと」とあり、正確にはどちらもエルフ語(オロメがクゥエンヤ)なのだが、何にせよここではローハン人の立場上か、アラウという名の方に馴染みがあるという前提で書かれているのが興味深い)。一般に、騎士が豊かで広大な山野を駆け回る中つ国において、「人間」らの間では最も信仰されやすいヴァラールなのかもしれない。
その点とも関係があることだが、ヴァラールの中でオロメは「中つ国」の地に深い関わりを持つ。アイヌアのほとんどはアマンの地に移り、力の戦い以後もう中つ国に全く戻らなかったものもいるが、オロメはしじゅう中つ国に出かけ、特にトールキンの記述では以後もほとんど言及がない中つ国の「東方」に足を運んでいた唯一の存在だった。星々の時代の最初、中つ国の東端で目覚めたエルダールと最初に出会い、彼らに名と言葉を与えたのも、またアマンに移住する(後にハイエルフとなった)エルフらを先導したのもオロメである。
アイヌアとしてのオロメは、偉大なる狩人であり、常に「槍と弓」を携えて、ウツムノの怪物を狩り立てていた。『ヴァラクウェンタ』によると、オロメは同じ戦士のヴァラとしても、陽気で決して猛り狂うことのないトゥルカス(→勇猛なるトゥルカスの指輪)に比べて、「力ではトゥルカスに及ばないが、怒ればトゥルカスよりも恐ろしい」と形容される。また狩の獣の支配者としても知られる。例えば『クゥエンタ・シルマリルリオン』に登場する偉大な猟犬フアン(→参照)は元はオロメが金髪のケレゴルム(→参照)に授けたものである。またローハン人は『指輪物語』時代まで王家に伝わる魔法の馬メアラス(→飛蔭)の種を、オロメの馬である「ナハール」の子孫だと信じている。
オロメとはクゥエンヤで「角笛を吹く者」(-romが角笛ないし喇叭を指す)の意であり、彼のもつ角笛ヴァラローマに由来する。ただし、トールキンの初期のクゥエンヤに関するメモの中には「アウレの子」の意であり(おそらく最終的な物語稿では残っていないが、初期にはヴァラールらに子がいたり相互に親子関係があるといった実在の多神教的な設定が作られていた)また「東の者(oro 日が昇る)」といった意味合いをこめるという案がある。
なお余談であるが、オロメの妃は常若のヴァーナというヴァリエアだが、トールキンの最初期の神話構想(HoME1)には、オロメとヴァーナの間には「ニエリッキ Nieliqui, Ni(y)elikki」という娘のアイヌアがいる。これがフィンランド神話の自然女神ミエリッキ(マイリーキー)やその子ニューリッキとなんらかの関係があるのか(クゥエンヤ語自体がフィンランド語を原型のひとつに持つが)は定かではない。
物品:[V]以来*bandに登場するオロメの槍は、アルダを舞台にしたバリアントにのみ残り、トールキンの由緒正しい品にもかかわらず、[Z]や[変]ではアーサー王伝説の「運命の槍」(→ロンギヌス)に差し替えられてなくなっている。
*bandが多く参照しているICE社のTRPG, MERPのデータでは、オロメ(480レベルレンジャー)はどういうわけか「槍」を持っておらず、「弓」(『ルヴァニンクゥエ(白の弓)』+200のロングボウ)のデータしかない。イラストを見ても弓と短剣しか持っていないので、書き落としか何かではないようである。ちなみにトールキンの原稿集には「力の戦い」の詳細な描写は各執筆期ともにあるが、弓(great white bow)に関する記述の方が目立つといえば目立つので、MERPスタッフは弓のみを重視した可能性はある。あるいは、[Z]のスタッフも同様に、またMERPにもデータのない槍の方はさほど重要ではないとでも考えて差し替えてしまったのかもしれない。
*bandのオロメ槍には数多くのスレイングと能力、戦士系用のみならず知能・賢さの増加がある上に「祝福」がついており、多くのクラスが使用できる強力な武具を想定したものと考えられる。レアリティはアウレやウルモの武器ほどには高くはない。しかし、その強さはどういうわけかバリアントによって大きくばらつきがあり、最も強いものでもダメージ修正の低さなど、他のヴァラの武具や最終装備級に比べると若干微妙に思えるところがある。
カリス Kharis, the Powerslave 【敵】
力の亡者。Kharis(映画邦訳では「カーリス」とされていることもある)は、1940年代に怪奇映画の数々をシリーズ化していたユニバーサル映画が「ミイラ男」として創造したクリーチャーである。
1940年の映画The Mummy's Hand(邦題は『ミイラの復活』)のシリーズでは、カリスは古代エジプトの高僧であったが、同時代の王女を蘇生させる秘儀に手を出した罰を受けて呪いのミイラにされ、ミイラを操る技を伝えてきた現代の墓守に操られて、発掘者らを襲う。この映画は、1932年の映画The Mummy(こちらの邦題は『ミイラ再生』)のリメイク、アレンジ(いわゆる同モチーフの第二シリーズ)である。ただし、32年のミイラが、名も「イムホテップ」と異なり、生前に近い姿と知能で活動する幽玄的で高貴ともいえる姿であり(イムホテップという名はエジプト史上の神官にモデルがいる)こちらは、RPGでいう「グレーターマミー」(→王のミイラ)の類型にもなっているのに対して、40年代のものは「全身を包帯に包まれ、彷徨い人を襲う」となっており、いわゆるホラー映画的なミイラ男のイメージはこちらのカリスが近い。
32年のイムホテップは、ボリス・カーロフ(フランケンクリーチャー役で有名な俳優)が演じたが、40年代のカリスは、トム・タイラー(主にはカウボーイ俳優である)や、ロン・チェイニーJr(狼男をはじめ、カーロフやベラ・ルゴシの後の時代の怪奇俳優として活躍した)など、複数の俳優が演じた。さらに、50年代に、怪奇名優クリストファー・リー主演でもリメイクされた。(こちらの邦題は『ミイラの幽霊』。なお、この映画でリーのカリスに対抗する考古学者はリーのライバル役なら当然だろうとでもいうようにピーター・カッシングが演じる。)
カリスの名は、ギリシア神話の女神群charitesとの語感の類似を指摘する者がいるが、直接的な関連はないようである。なぜイムホテップがカリスと名が変わったのかは、イムホテップの名にカーロフ(及び、32年版の普通の人間型として現れる姿)のイメージが強いためではないかという見方もある。1999年にさらにリメイク(こちらの邦題は『ハムナプトラ』)された際は、高僧はカリスでなく「イムホテップ」の方の名になっている。なお、前述のように人間型の多いイムホテップと怪物ミイラ男のカリスの描写が異なる他に、ストーリーや設定の細部、例えばアナンカ(アナクスナムン)王女との関係(相思相愛であるもの等)や、なぜイムホテップやカリスがいわゆる呪いのミイラとなったのか、なぜ人を襲うか(王女のミイラや王女に面影のある女性を追う等)の経緯などは、リメイクや続編ごとにアレンジされており、最初に挙げた第二シリーズのものとはそれぞれ異なる。
その後、カリスはミイラ男の一般名のひとつのように(たとえば「ドラキュラ」=なかば吸血鬼自体の一般名化のように)用いられることもしばしばある。元々怪物としても映画以前に独自の伝承を持つ吸血鬼や狼男とは異なり、怪物としてのミイラ男は映画のシリーズに依存しているところが(吸血鬼や狼男、さらには単一原作に由来するフランケンクリーチャー以上に)大きいので、怪物の「ミイラ男」という場合は特別な事情がない限りはこの映画のカリス、イムホテップやその物語を指すもの、という考え方もできるだろう。例えば、特にカーロフの32年版や、しばしばその後のリメイクの、役名が実際は「イムホテップ」であるものが、誤って「カリス」と書かれている映画情報等も多い。しかしながら、記録ではなくそこから派生する風説のことを言えば、怪奇ジャンルの邦訳や紹介で原語では他の吸血鬼の名前であるにも関わらずしばしば「ドラキュラ」と意訳されることもあるのと同様、「カリス」はミイラ男の一般的な名として広まっていると考えれば、必ずしも不自然・不適とはいえない。
こうした一般名としての「カリス」の登場例では、例えば、TRPGでは、T&T世界に「王族のミイラ『カリス』」(Kharis,the Royal Mummy)がいる。2013年までT&Tのフライングバッファロー社が販売していた対戦キャラゲームブック『ロストワールド』には、さそり魔術師アムスロパガアス(ケンstアンドレのキャラで、デストラップ迷宮の主)ら、たまにT&Tのキャラが登場するが、このロストワールドの対戦用キャラのひとつとしても、この『カリス』のキャラブックも存在する。さらに、『ロストワールド』は日本でHJ社が訳する際にアレンジし『クイーンズブレイド』シリーズとなり、その際に一部のキャラブックは元のロストワールドの筋肉男や怪物どもがデータはそのまま絵と設定だけ無造作に女体化されているが(鎖鎧男→レイナ、巨棍棒ゴブリン→リスティ、羽根ガーゴイル→ナナエル、ヒゲダルマドワーフ→ドリルロリドワーフ等)このミイラ男カリスがデータはそのままに流用されたのが、『古代の王女メナス』であることは説明するまでもない。メナスの正体がアンデッド(魔女が再生させた王女)だというのはQBでは定番の話題だが、実際、メタ的な話をしても、中身はまんまカリスだとしか言いようがない。王女に懸想したため呪いを受けたカリスが気づいたら自分が王女にされていたとかどういう因果であろうか。
[Z]のカリスが、これらの一般的に用いられるうち直接に何からとられているかは定かではないが、ヴラド公の名や説明がクリストファー・リー主演の『凶人ドラキュラ』から取られている(→ヴラド)と思われる点などを参照しても、これも怪奇映画、特にリー主演のシリーズが直接の引用元である可能性は高い。
『力の亡者』については、メタルのアイアン・メイデンの楽曲・アルバムのPowerslaveが有名であるが、Powerslaveは古代エジプトや死のオシリス神をモチーフにした楽曲であり、アイアンメイデンのシンボルキャラのエディ(もともと骸骨ゾンビじみた男)がアルバムジャケットで巨大ファラオ像に扮していたり、包帯を巻いたミイラ男に扮するパフォーマンスなども行われ、「ミイラのテーマ」のようにイメージされることが多い。[Z]のカリスは名がこの楽曲からだけでなく、姿もこのミイラ姿のエディが想定されている可能性も高い。なお、多分にこの楽曲を意識し、Powerslaveをタイトルとしエジプト遺跡を舞台としたファーストパーソンシューティング(直接は上記楽曲や上記映画群とは特に関係ない)も存在する。
*bandでは、[Z]以降に前半階層(26階)のユニークとして登場する。思い出文章は「彼は自分の墓を汚したあなたに復讐するため甦った。」となっているが、特に上記の映画群のカリスの物語のどれかに関連するというよりは、どちらかというと呪いのミイラ男の一般の説明のように思われる。イメージ元に映画や楽曲があるとしても、ミイラ男の一般名としてのカリスに近いものと思われる。護衛や召喚など、アンデッドのユニークとしては標準的な能力をそなえているが、20階台には他に階層以上にやけに強いユニークというのがよくおり、それらに比べるとあまり危険な類とはみなされていない。
→ミイラ →王のミイラ →ヴラド →ミリム
カルハロス Carcharoth, the Jaws of Thirst 【敵】
出典:赤顎狼。渇く顎。トールキンのアルダ世界の全史を通じて最大の狼であり、第一紀のアングバンドの城砦の入り口を護る番人であった。冥王モルゴス自身が子狼の頃から手ずから生肉を与えて大きく育てた狼であり、つまり、マイアの巨狼(→ドラウグルイン等参照)などではなく、普通の狼のようであるが、モルゴスが多分に力を付与して強大に育て、また地獄の炎と苦悶の力を宿して、恐るべき生き物と化したという。トールキンが初期から書き続けていた『レイシアンの謡』(HoME3)には、「赤熱の目と焔のちらつく顎、墓場の霧のごとき息」とある。Carcharothはそのまま「赤い顎(the Red maw)」の意である。初期原稿では「刃の牙(Knifefang)」がそのまま名前であった。
主に語られるのは、『クゥエンタ・シルマリルリオン』等で、人間の王子ベレンと、エルダールのルシエン王女がシルマリルを求めてアングバンドに侵入したくだりにおいてである。侵入する際はルシエンの呪文によってあっさりと眠らされたが、彼らがシルマリルの一個を持って脱出する際、カルハロスはベレンの片手をシルマリルごと食いちぎり(→カムロスト)直後にわかに凶暴化しベレリアンドの地を暴れ回った。これは、主と認めないものを焼くシルマリルによって体内を焼かれ、激しい渇きに襲われてのことであるといわれており、ここから後にカルハロスはアンファウグリア Anfauglirという別名で呼ばれた。これを英語に訳したのが、*bandでも二つ名である「渇く顎(the Jaws of Thirst)」である。しかし最大の狼狩りの猟犬である、ベレンとルシエンの忠実な犬フアン(→参照)と戦い相打ちになり、シルマリルはその腹から回収され、シンゴル王の手に渡った。
この猟犬フアンには「最大の狼と戦って死ぬ」という予言があり、その予言を成就させた狼であったことから、逆にこのカルハロスを最大の狼と定義されている側面もある。しかし実際にその規模において最大であったかは疑問も残る。モルゴスが手ずから育てたとはいえ、精霊でも(龍のような)魔獣と言うわけでもない。また(ドラウグルインはともかく)サウロンはフアンと戦った際、予言を成就させるために自らが地上最大の狼に変化(へんげ)して戦っているのだが、サウロンがカルハロスについて知らなかったはずがなく(サウロンはモルゴスの腹心であるし、そもそもカルハロスはアングバンドの門番である)それ以下の狼に変化したとは考えられない。このサウロンとフアンの戦いより以後に急速にカルハロスが大きくなったとも考えられるのだが、同じレイシアン謡の中であり、そう期間があったとも思えない。結局のところ、カルハロスはシルマリルを飲み込んだ状態で身を焼かれつつも、「凶暴化」という形で結局は宝玉から大きな力を得ていたという記述があることから、本来の肉体よりさらに強大な力を得て、このときのみ最大の狼にあたる存在となっていたのではないかと考えるファンもいる。敵知らずのフアンが命を捨てるための最大の敵というのは単に闇の最大のものではなく、闇がシルマリルの力を得たものを指していた、というのである。
敵:[V]以来、アルダ要素をすべて除去している数少ないバリアント以外にはほぼすべてに登場している、定番の最深層の敵である。火炎打撃や火のブレスなど、火属性の敵になっているが、シルマリルに体内から焼かれて焼け付くような息を吐いているならばともかく、そうでない普段はただの「狼」のはずなのだが(「焔のちらつく顎」は多分に比喩表現である)雰囲気でこうなっているようなものだろう。火炎以外にもさまざまなブレスを吐き(原典でもフアンとベレンはカルハロスの毒にあたったという記述があるので、なぜか毒は持っているらしい。また上記した出典の「墓場の霧」も地獄のブレスとは言える)おそらく狼の強力ユニークであるという理由からハウンド召喚も持っている。古めのデータになっているバリアントでは、暴れ回るという原典のものを採ったのか、ややランダムに移動するようになっているものもあるが、思い出解説にはなぜか通して「知能が高い」と書いてある。[V]2.8やそのままになっている[Z][変]などではなぜか打撃ダメージが異様なほど低く、実は召喚以外は階層の割に強敵ではない(「火二重耐性や免疫さえあれば安心」と呼ばれていたことも多かった)のだが、現在では大幅に打撃も強化されているバリアントが多い。
→フアン
カルリス The Bastard Sword 'Calris' 【物品】
[V]から登場する、呪いのアーティファクトだが武器として強力なもののひとつ。初期のrumors.spoおよび[O]、またそれ由来のToME邦訳の解説には、白炎のバルログ『ルンゴルシン』の持つ剣であるという設定(後述するが[Z]系でもルンゴルシンが落とすためその設定と思われる)になっているのだが、トールキンのルンゴルシンの記述にはない。このカルリスは、ICE社のTRPG, MERPの設定ではモリアのバルログことドゥリンの禍の剣である。(なお、PernAngband(ToMEの旧版)では『ムアル』がカルリスを落とすバージョンがある。)名はシンダリンで「光を裂く者」の意とされる。
*bandでは、強力な呪いと、命中率に大きなマイナス値があり、反感もついているが、武器としてはかなり強力である。ダメージ自体はリンギルに準じ、スレイングも強い。[V]や[O]、ひいてはMangbandでは、武器として強力なアーティファクトが貴重・希少であるため、この呪いをなんとか解いて使用することは珍しくなかった。命中率のマイナスは、強化の巻物を買い込んでプラスにまでもってゆくことができ、その過程で呪いも消えることも多い。レアリティがかなり低く、入手しやすいため、実際にこうした使い方をすることが多かったので、FAQや噂の巻物にはカルリスに関してやその使い方、呪いの解き方などがかなり頻出する。
[Z]系やToMEなどの発展型バリアントでは、もっと強力で使いやすいアーティファクトやエゴアイテムが比較的手に入る上、反感がつくことは[V]系にも増して非常に不利なので、ここまでしてカルリスを使用する機会は少なくなっているだろう(なお、命中率を上昇させ呪いを解くのは、[Z]系は戦士の集会所などでよりたやすく行なうことができる)。それだけに、かつての名残で頻出するカルリスに関する噂の類は、*bandシリーズの時代を感じさせるものがある。なお、レアリティの低さに加えて、[Z]系ではルンゴルシンを倒すとある程度の確率で入手できる。
→ルンゴルシン
カレス・アスドリアグ Careth Asdriag 【物品】
[V]から登場する武器アーティファクトのうち、まるっきり弱い上に、なおかつ出典も不明といった、何のために入っているのかわからないにも関わらず多数存在するきわめてへぼい物品群のうちのごくひとつ。[O]に由来するアーティファクト解説ではリューン(東夷の国)の王の剣となっているのだが、無論トールキンに記述はなく、他の出典でもじかに物品としては見当たらない。
ただし、「アスドリアグ族」というのはICE設定に記述が見られ、中つ国の奥地に住む東夷バルホスの一種族とされ、トールキンにおいてハンドに住む「ヴァリアグ族」とよく似た語・似た位置づけであると捉えることができる。馬車族(ロバニオンに襲来した東夷の一族)と関係があるとも言われており、この物品がサーベルであるのも馬上の武器を意識しているようである。
もしエルフ語であるとすれば、asdri- (astar-)は「剛勇なる」といった意味であり、アスドリアグは「勇猛たる一族」、またカレス・アスドリアグは「アスドリアグの流血」といった意味になると思われるが、何語であるか確証がないため実際のところは何ともいえない。
一応、打撃追加に、ひと通りのスレイングが揃っているため、かなり初期に入手できればさほど使えないこともないような気もするのだが、役に立ったという話は耳にしたことがない。低い階層では、一般にスレイングよりも下級の耐性や能力の方が重宝するという点も、こうした似たような物品が影が薄くなっている一因であろう。
カロン Charon, Boatman of the Styx 【敵】
出典:三途の川の渡し守。ギリシア神話で、冥界をとりまくステュクス川(この川自体は大洋オケアノスからの分岐で、ティタン神族の女神である)または支流アケロン川(実在)の渡し守として死者を渡す、(小船に乗る老人の姿をしているといわれる)神性であり、神話において冥界に何か関連のある説話の各所にはかなり頻出するので、詳細はギリシア神話の専門サイトを参照されたい。
カロンはヘシオドスによる神統では、原初神カオスの血統であるエレボス(幽冥)とニュクス(夜闇)の子である。ギリシア神話において、主流であるウラノスとガイアの血脈(ウラニオネス、広義のティタン)に対して、カオスのみからの血脈はかなり概念的な性質、特にニュクスの子は人間の精神の(負の)概念を神格化したものが目立つ(ネメシス(復讐)、エリス(闘争)、ピロテース(情欲)、運命の三女神など)。その血脈にあるにも関わらず、精神的概念ではなく渡し守という「役割」を持っているカロンは、かなり奇異な存在に見える。あるいは、カロンの姉妹であるアイテル(霊幽)とへメラ(昼光)の間にあって、渡し守のみならず元来これらの空間・光の境界そのものの性質があるのではないかとも思われるが、定かではない。
死後の世界と現世とを区分するのが川であり、渡し守がいるというのは、ギリシア以外でもよく知られているように東洋の三途の川があるが、河川が「境界線」であるというのは民間信仰ではかなりありふれた考え方とも思われる。オリエントの河川文明に単に普遍的なものであるのか、いずこかに原型があるのかは定かではない。
RPGでの登場例は、まずAD&D1stのモンスターマニュアルのユニークモンスターとしてのカロンがある。ダイモーン(「中立にして悪」の悪鬼)の上位ユニークであるが、<下方世界>(属性が「悪」の諸次元界)の複数をまたがって流れているステュクス川の渡し守の一体(渡し守は他にもいる)で、骸骨じみた姿(骨そのものではない)で渡し賃を徴収するなど、ギリシア神話のものをほぼ踏襲している。日本ファルコムのレトロRPG『ザナドゥ』に登場する「チャロン」、『ソーサリアン』に登場する「チャロナデーモン」は、多数登場するモンスターで能力も設定も別物だが、AD&Dのものを参照していると思われる。これらのゲームは、AD&D1stのマニュアルに載っているクリーチャーは神だろうがユニークだろうがモンスターの形式で書いてあるので、おそらく英語の説明を参照せずに「ただのモンスター」として大量に引っ張ってきているものだった。
神話のカロンそのものが登場するゲームもいくつかあるが、「モンスター」として登場しているものに、有名なものでは『ドラゴンクエスト』シリーズのいくつかにカロン・カロン系のモンスターがある。冥界神官で復活の魔法を用いるが、骨でなく一種のデーモン的な姿をしており、神話由来モンスター(幻獣類)などと同様に引っ張ってきたものか、上記のレトロゲームのいずれかを子孫引きしたものかは定かではない。また『マリオ』シリーズに骨型の亀としてカロン系の敵が登場する。
敵:*bandではToMEに登場し、同じデータで[変]にもコピーされている。神話や説話やユニークダイモーンのカロンが鉄獄で何かをする用事があるとはとても思えないが、いかにもユニーク「モンスター」としてはそれらしいので登場していると思われる。いわゆる神性やダイモーン(デーモン)ではなく、姿や死神的なイメージからか「アンデッド」フラグとなっており、能力的にも吸収系や地獄、冷却の魔法など、いかにもアンデッドといったものである。
観光客 Tourist 【クラス】
出典:観光客というものがどういったものであるのか、自分で観光したことのある読者は誰しも多少なりとも知っていると思われるが(知らない読者は観光の専門のサイトを参照されたい)Roguelikeにおけるクラス「観光客」とはほぼその通りの存在、すなわち、多分に「日本人の観光客」をモチーフにしたと思われる存在である。その原型となるのは、テリー・プラチェット作『ディスクワールド』シリーズに登場する観光客ツーフラワーである。
*band, [変]の「観光客」は、NetHackの観光客クラスを参照して追加されたものといえるが、さらにそのNetHackの観光客クラスが、『ディスクワールド』シリーズを元としているものである。『ディスクワールド』は、亀と象の背に乗った円盤という何ぞの神話のパロディの世界を舞台に、これも何ぞの有名ファンタジー小説のパロディをまじえて、珍妙な現象が次々と起こるというシリーズである。そのうち幾つかの話の狂言回しが、創世に関わる巨大呪文ひとつしか知らないので普段は魔法を一切使えない魔術師、帽子に「Wizzard(「魔法つっかい」とでも訳すところか)」と書かれたリンスウィンド(→雑貨屋)だが、第1作目をはじめとする数作において、そのリンスウィンドを円盤世界じゅうの旅行に連れ出し、事件に巻き込むのが、観光客ツーフラワーである。
円盤世界はじまって以来の「旅行者」であるツーフラワーは、故郷では保険の事務員であるが、「世界の名所を”見たり”」「有名人に”会ったり”」するただそれだけを目的として旅行に出たという人物である。背が低くやせこけ、見ていて気持ちが悪くなるほどセンスの悪い色の服を着て(イラストではさらに額に眼鏡を乗せている)知らない土地の言語は小さなガイドブックらしき本をめくって片言で話す。<写像機(アイコノグラフ)>をいつも離さず、無数の足が生えて自走する荷物箱を引き連れている。荷物箱は魔法的に非常に貴重な木材でできており、どんな魔法も攻撃も通用しない。荷物箱からは、他のファンタジー都市の感覚を大幅に超えた潤沢な貨幣が飛び出し(しかしそれでもツーフラワーは別に故郷では裕福な方ではない)彼の口にする謎の魔力”反響地下妖精的(エコー・ノーミ・ックス)な力”が都市の人々の感覚を煙にまく姿、そして彼が「黄金の秤」でできていると噂される国からやってきたという点は、疑いもなく、高度成長期のかつての日本とその”さらりまん”がモチーフである。が、気難しいビジネスマンではなく、好奇心旺盛で快活な観光客で、リンスウィンドともども、冒険者らしい能力は持っていないにも関わらず巻き込まれた事件を引っ掻き回す。
現代観光客がモデルとはいえ、別にテクノロジーは現代のものではなく、例えばツーフラワーのもつ<写像機>は、中に子鬼が住んでいて、キャンバスに似姿を描くという仕組みの箱である。NetHackの「高価なカメラ」は相手を盲目にする効果があり、これはフラッシュといわれている。原作には写像機に標準装備だという「サラマンダー」の閃光が、いわゆる旧支配者のような目玉の怪物の眼をくらませてしまう場面がある。また、ツーフラワーのこの写像機は「これを向けられた者は、使い手のどんな命令(「笑って」とか「もう少し右」とか)にも従ってしまうという強力な魔力がある」と説明されており、あるいはこの魔力なのかもしれない。
『ディスクワールド』シリーズは、既存の神話や大小規模ファンタジーのあからさまなパロディで細密に充填されており、1作目だけでも、「キメリアの蛮人フルン(後のシリーズには他にヨボヨボでガリガリの蛮人コヘンも活躍する)」、「大男ブラヴドと小男イタチ」の二人組英雄、「竜騎士の女王リーサ」といった、激しくどこぞで見たような人物が次々と登場する。いわゆるユーモアファンタジーではあるが、しかし文章的には決してライトではなく、きわめて精緻な引用とコラージュ、カリカチュアが相当な知性と感性で構築された地の文であり、すべてを読み取るにはファンタジー以外にも膨大な知識量を必要とすると思われる、超一級のジョーク作品である。
リンスウィンド以外にも、魔女グラニーや警備員キャロット、<死神>などを主人公にした多数のシリーズが存在する。総数はペーパーバックにして40冊に余り、英語圏では大ベストセラーで、ゲーム化、音楽など展開も多様だが、日本では出版順もばらばらに異なる出版社・訳者をまじえて(児童書扱いすら含めて)数冊しか訳されておらず、絶版等入手困難なものが殆どである。これは、日本では「基本的なファンタジー小説」の数々の一般への認知度があまりにも低すぎるため、ほとんどパロディが理解されず(1作目の訳者である、関西ゲーム界の”大御所”ですら、よくわかっていないと思われる節もある。後書きにて、記憶呪文の仕組みや大仰な呪文名を、ジャック・ヴァンスでなく「D&Dをパロったものに違いない」などという、順番があべこべの解説など)ましてファンを掴むべき初期作品が訳された時期があまりにも早すぎたことなどが想像できる。なお、角川文庫刊の1作目は、イラストがT&Tの解説書や、かつての『ウォーロック』誌の妖精ロッコなどの錦織正宣(nikov)氏のかなりコミカルなもので、これは原書の初期シリーズがこれもT&TでおなじみのJ.キルビィのイラストである点などからの発想で起用したとも思われるが、残念ながら古きT&Tゲーマーの筆者らとは異なり、日本のわずかなプラチェットファンからは不評のようである。選択肢としてはいい味を出した絵柄であるが、初読者のイメージが固定されてしまう先としては、確かに適切とは言いがたいかもしれない。
NetHackの観光客クラスにおいては、クラス自体のモデルであるほか、ツーフラワー本人も観光客のクエストリーダーとして登場する。また祭式の「盲目のイオ」「女神(レディ)」「鰐の神オフラー」らもディスクワールドの神々である。しかし、観光客クラスは、高価なカメラや潤沢な物資(金銭、食料)はともかく、アロハシャツや良質ダーツ(おみやげのダーツゲームか)を持つなどといった点は(日本の)観光客一般のイメージと思われ、直接にディスクワールドから採られているばかりでもないらしい。NetHack3.6系(2015年-)においては、「高価のカメラ」は破損すると"i"(小妖魔)シンボルが飛び出してくることがあり、どうやら子鬼が絵を描いているツーフラワーの<写像機>と同様のものの場合があるらしい。
なお、「観光客」は、海外において「日本人」を表現するステレオタイプのひとつとして広く認められているものであるらしい。例えばウィリアム・ギブスンのサイバーパンク小説『記憶屋ジョニイ』に登場する、全身強化合成体で単分子ワイアーを使う凄腕暗殺者(映画『JM』では「シンジ」)は、アロハシャツを着たさえない中年の日本人の姿をしているが、暗殺者の本性が明らかになった後も、ニコンのカメラを持った日本人観光客のイメージが重なる点が、執拗に繰り返し描写される。
まったくの余談だが、英国で1作目(The Colour of Magic)が2008年にTVドラマ化された際(和訳『アメイジング・ワールド』)、観光客ツーフラワーを演じていたのは、映画LotRでホビットの庭師サム役だったショーン・アスティンである。
クラス:[変]のクラス観光客は、おおむねNetHackに準じており、「弱いクラス」であることをまず特徴としている。ジョーク職・ベテランの挑戦職にも近いのだが、すべての技能が最大値まで上がること、また強力なアーティファクト(プラチナイェンダー印エクスプレスカード →参照)などによって「大器晩成型」(とはいえ、晩成しても大器というほどではないかもしれないのだが)の性質を持たされている点も、またNetHackに準じている。秘術領域の呪文が使える点は特に大きな意味はなく弱い万能的能力と思われる(一応ヘルプにはそれなりに多芸なためとある)。とはいえ、NetHackのようにもともとがランダム要素や戦法によって大きく変わるゲームにおいてのギャンブル的・逆転的進行を期待される「弱い観光客」に対して、もともとが堅実な進行を要求される*bandにおいては、単に地味な艱難辛苦クラスとなっている性質はある。中盤以降は、死にやすさという面ではふとしたミスで死んだりもする一部メイジ系ほどには死にやすくはないのも、また別の意味で地味な点である。NetHackでのアロハシャツやカメラなど観光客独特の物品が少ないのもやや寂しい(レイシャルで写真撮影ならある)。「なイ観」のように、他の正確や種族とあわせて、「挑戦的ゲーム」の題材に使われるのが目立つ。
ガンダルフ Gandalf the Gray 【敵】
マイア。中つ国のイスタリ(魔法使)のひとり。5人のイスタリは元々、不死の国のマイア(下級神)が人間の老人の姿(およびエルフ等と大差ない能力)を持たされて、サウロンへ抵抗する自由の民の助力のために遣わされている者である(なお「オローリン(オロリン)」は不死の国でのマイアとしての名)。サルマンが寝返り、他の3人が任務から脇道に逸れてしまったので、結局任務を続けたのはガンダルフだけになってしまった。その活躍は『ホビットの冒険』『指輪物語』の通りで、映画版のファンサイトなどを当たればいくらでも知ることができるだろう。頑固だが、感情表現が激しく、王や貴人などより一般人に好かれるようである。ベトナム戦争の反戦に「ガンダルフを大統領に!」というフレーズが出たほど、その人格はファンに人気がある。なおそのキャラクターの祖形は、トールキンの大学受験直後にまで遡り、スイス旅行に行った時に買ったとされている絵ハガキが残っており、その包み紙にトールキン自身の字で「ガンダルフの原型」と書かれている。絵ハガキの図柄はドイツの画家ヨーゼフ・マドレーナによる『ベルクガイスト(山の精)』であり、山林の中、灰色のローブと三角帽子の小さな老人がうずくまり、白い小さな山羊と向かい合い──おそらく語り合っている図である。
RPGファンの間では「魔法を無闇に使わない賢者」の代名詞とされているが、原典を読むとしじゅうバリバリと炎を飛ばしている。ただし、これがRPG的な魔法なのか、単にロケット花火を隠し持っているだけなのか、「この程度の代物は魔法などとは表現すべきではない(サウロンの絶大な力や指輪の魔力などを「魔法」と呼ぶとすれば)」のか、その解釈は読者に任されている。なお、これらの炎を発したり扉を開けたりする時(および、映画FotRでの天候を操る時)のガンダルフの呪文は「シンダリン語」(中つ国に土着した灰色エルフの間に伝わった言葉)であり、技術であれ魔法であれ、マイアとしての力や不死の国での技術ではなく、「中つ国に来てから学んだエルフの技」を使っていることがわかるだろう。(対して、サルマンの呪文はクゥエンヤ語である。)
2000年代やLotRやHob.の映画で「魔法使い」にも関わらず剣(や杖)で物理戦闘を行うことからも話題になったが、魔法による援助や後方支援を行って前線は戦士や英雄に任せる魔法使のではなく、自分が前に出て戦い何でもやってしまうような魔法使である。結局のところ、魔法だけを担当する(ように役割分担されている)RPG以後のMagic-userではなく、特殊能力を持つ半神的英雄(自分で別の半神や魔神と戦い退治する説話のような)としての魔法使Wizardであるといえる。また、ガンダルフのイメージ元として研究者は神話伝承のマーリンとオーディンの姿を指摘するが、このあたり、マーリン(特に、元の伝承でなくマロリー編などの騎士物語となってからは)のような導き手よりは、オーディンのような自分で行動する賢人が色濃いともいえる。しかしながら、「イスタリは自ら圧制者を打倒するのではなく、あくまで援助者」であるという設定にもかかわらず、結局何もかも全部一人でこなしていた、という位置づけに、反感を持つFTファンも決して少なくない。他のイスタリが用無しとなり、離反者であるサルマンはまだしもラダガストのように無意味に任務放棄者へと設定変更された者もいるといった不自然な面を含めて、結局、Hob.からLotRの構想時点でのイスタリやガンダルフ自身の設定にはこなれていない部分があるともいえる。ムアコックのダークFT以後での、善意と言いつつ世界を一人で操っている類の黒幕(手っ取り早い例としては日本ではカーラ、うがった見方で言えばベルガラスやエルミンスター)の姿を重ねるFTファンもおり、奇しくも原作LotRのデネソールの台詞にもそれを指摘するものがある。
しかし、映画版LotRやHob.では、おそらく映画的主人公を立てるといった事情もあるのであろうが、ガンダルフ一人で行っていた役割のいくつかが他の登場人物に分担され、また特に、ソフト版の追加映像でアングマールの魔王やサウロンに力では及ばないという場面(トールキンの書簡に示唆はあるが、原作作品上は登場していない)が追加されたこともあって、あくまで自分で解決する者ではなく、他の主人公を支援する役割であることが強調されている。
*bandでは、[Z]以後に「味方(フレンドリー)モンスター」として登場する。能力はサルマンとほぼ同じだが、魔法の内容が「火の魔法」中心になっている。指輪物語を読んだことがないプレイヤーは、どうしても攻撃したくなったなら別にしてもいいが、EVILではないのでサルマンより少々手強いかもしれない。
物品にも、『グラムドリング』、《ナルヤ》、杖([V]の★賢者オローリンのクォータースタッフ、[変]の★魔法使ガンダルフの魔術師の杖)、ローブ([変], ToMEの★インカヌスのローブ)など、ガンダルフに関係するアーティファクトは[V]から通じて実に数多く登場する。(なお、これらのうち、倒すと一定確率でローブを落とすが、他には特に落としやすいものはないので、「ナルヤ落とすかも」などと期待しても無駄である。)
→インカヌスのローブ →グラムドリング
→賢者ガンダルフのクォータースタッフ →ナルヤ
→サルマン
感知のカード Trump Spying 【その他】
トランプ魔法の<感知のカード>という訳語だけを見ると、他の魔法領域のような探知魔法の一種かという印象を与えるかもしれず、あるいはトランプによる占いのようなイメージも与えるかもしれないが、それらはいずれも、より上位魔法の<予見のカード Trump Divination>や<知識のカード Trump Lore>の方である。こちらの<感知のカード>は、探知魔法ではなく、一時的に「テレパシー」の能力を与えるものである。
このトランプ魔法は[Z]においてゼラズニイを出典とする要素のひとつとして、アンバーシリーズのトランプの能力から発想されたものと考えられる。アンバーの王族のもつトランプは、描かれている人物と精神的に交信することが可能だが、その精神コンタクトの力を利用して精神攻撃(→参照)など、他の応用も可能である。また、相手の心を読む場合は、当然コンタクトされる側も気づくため、気づかれずに一方的に心を読み取ったりすることはできないのが通常だが、とある王族のひとりは、交信するのではなく「完全に受身になって」トランプに触れることで、他のトランプの交信をそれと気づかれずに「盗聴」する方法を編み出している(それでも、王オベロンだけは気づくことができた)。これは交信以外やトランプを持たない者の精神まで読めるわけではないが、Trump Spyingという原語から推測するに、[Z]のこの魔法はこの盗聴法を意識しているのではないかと考えられる。また、人間トランプの一種(厳密には後半シリーズのそれとは異なるが)である王子ブランド(→参照)は、(ジュリアンの推測によると)実際にトランプに触れなくても、あたかもトランプ交信中のようにある程度他者の心を読むことができる。こちらは、アンバーの王族やトランプ使用者であるかに関わらず読心が可能ではないかと推測できるため、どちらかというとこの[Z]の魔法はこちらのブランドの能力に近いのかもしれない。
*bandにおいてはテレパシーの能力はかなり有利なもので、<感知のカード>はさほどレベルも難易度も高くないため、トランプ魔法における探知手段として、また他の領域で探知手段がある場合も重宝する。
鑑識 Identify 【システム】
*bandではこの用語は「鑑識」「鑑定」となっていたり、バリアントや魔法領域によって混在していたりするが、ここでは未鑑定の物品の、名称やあれば他の情報(強化ボーナス値、チャージ数)などを知る能力を指す。
アイテムが未鑑定の状態(ある程度、外観などの「不確定名」程度はわかるが、詳細なデータはわからない状態)で登場するというのは、ダンジョン等の限定的な状況で遭遇する全ての要素が謎や冒険でそれを少しずつ明らかにするという初期のTRPGに発するものであり、それ以来伝統的なシステムである。というよりもTRPGでは、「数値的なデータ」はプレイヤーキャラクターにとっては参照できるようなものではないので、アイテムの効果自体を(実際にその物品を繰り返し使用したりして)経験的に検証することが前提の場合もある。例えばクラシカルD&DやAD&Dで鑑定呪文(ロア)が6レベル、CD&Dではいわゆるコンパニオンレベル(緑箱)の呪文であり、ほとんど通常の冒険者が使用することを想定としていないのはこの前提によるものと考えられる(そのかわり、ロア呪文はアイテムの来歴や伝承の詩文といった情報まで入ってくるといった強力なものであり、どちらかというと世界情勢に影響を与えるPCや、情報提供役のNPC賢者に関わるイベント的な呪文でもあるだろう)。AD&Dではこれとは別に、最初級レベルの鑑定魔法もあるが、その効果は非常に心もとないものである。非常な儀式時間と疲労を伴い、失敗確率が(特に低レベルでは)かなり高く、誤った情報が得られる可能性も高く、さらに鑑定者は装備しなくてはならないので、呪いの物品だった場合、その害を逃れる方法がない。冒険中に気軽に鑑定できるようなものではなく、よほど安全で時間的・金銭的に余裕のある状況でしか行えないので、店に任せる鑑定などと感覚的にはさほど変わらない。
一方でT&Tのように鑑定魔法がごく初級で特に制約がない場合や、さらに後出のTRPG(D&D系含め)では、「技能」による鑑定能力を設けている場合が多い。特に種族や職種による特殊能力で、限定的な鑑識能力(ドワーフや学者なら鉱物や工芸品など)を有しているといったものも多い。
CRPGのうち、初代RogueやWizardryで物品が未鑑定の状態で手に入るのも、上述のダンジョンRPGの伝統によるものと考えられる。Wizardryのビショップ(AD&Dの情報提供してくれるNPCクラス、sageが原型と考えられる)が鑑定できる点、ビショップが鑑定により害を受けたり呪われる点、店に頼むと鑑定だけで異常な高額を要求される点などは、おおむねAD&Dを踏襲しているものと考えられる。初代Rogueでは、「鑑定の巻物」により鑑定することができるが、登場するアイテムの総数(つまり、鑑定する必要がある物品数)に比べて鑑定の巻物の出現数は明らかに少なく、鑑定が容易でないため、特に消耗品などは実際に使用して経験から判断する他ないなども上述の伝統を踏襲していると考えられる。*band系以外のRoguelikeでも一般に、鑑定はやや難しめで、経験則が役に立つ(鑑定用アイテム等を使わず、杖を振ってみる、壺を押してみる、アイテムを店に置いて売値から判断する等)ことが多い。
その一方で、(RPG以外のゲーム同様)最初から鑑定された状態で手に入る場合も、特に日本のCRPGには初期から決して少なくはない。むしろ、鑑定の手間が単に煩雑でしかないという理由で、wizライクなどのCRPGや、TRPGを直接または意識してゲーム化したCRPG以外では、あまり重視されている要素ではないといえるだろう。初期の日本のCRPGは、洋風RPGにありがちな「TRPGのルール(すなわち、その大半はAD&D1st)」をそのまま踏襲したような煩雑なルールを簡略化し、とっつきやすくする、ということを直接の目的として改良されていったことが、そのまま進化の背景であるため(アクションRPGのような操作の簡略化、ブラックオニキスやDQ1−2のような編成の簡略化、システムよりも物語重視等)ゲーム進行を停滞させるものとして削ぎ落されてきた背景が考えられる。
*bandでは他のRoguelike同様、未鑑定の状態で入手できるアイテムがほとんどであるものの、Moria/[V]以来、リソースが実質上無限であるためもあって、鑑定はかなり容易なものとなっている。巻物や杖が店に普通に売っており、様々な魔法領域において比較的低レベルに鑑定魔法があり、バリアントによっては施設などでも鑑定手段がある。未鑑定のアイテムを実際に使用しての判別も、非常に稀に致命的なアイテムを引いてしまう可能性から推奨されず、又、序盤では*bandではマイナスアイテムのことが多い低層の消耗品を売り払って小金を稼ぐ場合もあるが、有用アイテムを安値で売ってしまうことも少なくなく、これらが必須といえるほど切迫した状況には*bandでは陥らないのが実際のところである。結局のところ、それだけ鑑定が容易だということは、食糧や明かり同様、*bandではあまり実質的に意味のないシステムだがRoguelikeの伝統的に存続しているという側面も存在する。一方で、特にエゴアイテムやアーティファクトでは、より詳細な鑑定が必要なこともあるが、上述の「ロア」のような高位の鑑定については*鑑定*の項目を設ける。
カンベレグ The Set of Leather Gloves 'Cambeleg' 【物品】
カンベレグとは、ICE社による指輪物語RPGことMERPの設定において、大蜘蛛シェロブ(→参照)が巣の中に大量にためこんでいる物品の中に含まれているとされる篭手である。由来などの詳細はまったく不明なのだが、ドワーフ造りの鋼の篭手である。カンベレグとはシンダリン語で「剛力の手」を意味するが、エルフ語の名前から想像して、ドワーフが灰色エルフに武具を提供していた第一紀に遡る品だと推測できるだろう。
特徴としては、名前の通り、篭手として用いた時、あらゆる武器の攻撃力を大幅に増強させるという力があり、またドワーフ造りではあるが、はめた手(どんな種族であっても)にあうように伸縮する。
*bandには[V]以来ほとんどのバリアントに共通して登場している品である、といいたいところだが、いきなりだが筆者の勘としては[V]のこの物品はMERPから引用されているのではなく、*bandのオリジナルの物品として作られたものとの「偶然の一致」である可能性がきわめて高いように思われる。「エルフ語で”強い手”という名のつけられた篭手」というのはいかにもありそうな発想であり、そしてMERPとAngbandはともにそのオリジナル物品の発想の「安直さ」にかけては互いに人後におちるところではない。またMERPでは鋼の篭手である一方で*bandでは革手袋であり、さらに、*bandには「カンミスリム」というMERPにはない対の物品がある(アエグリン等のように、MERPのカンベレグをもとに創作された物品という可能性はあるが、カンベレグ自体があまりにもマイナーな物品であるため、その可能性は限りなく低いように思われる)。*bandのカンベレグにも、MERPの設定と同じ攻撃力増加(殺戮修正、命中率ダメージともに)があるのだが、これはあくまでその「名前」から必然的に出てきたものと思われる。
*bandにおいては、殺戮修正と麻痺知らずのついた篭手ということで、前半に出てくることがあればかなり重宝する方の物品に入ると思われる。各種の強力なエゴやランダムアーティファクトが登場する中盤以降はまったく霞むことが多い。
キシオムバーグ Queen Xiombarg of Chaos 【その他】
剣の女王、退化の創造者。マイクル・ムアコックの多元宇宙に君臨する<混沌>の神々のうち一体であり、『永遠の戦士』シリーズに共通して登場する。物質世界に現れる時は、剣を持ったほっそりした美少女の姿で現れることが多いことからも「女王」の名があるようだが、しかし、ゲーム(BRP版ストームブリンガー)の設定ではどうも「性別不詳」であるらしい。なお、「キシオムバーグ」とは原作小説の邦訳によるものだが、ゲーム(d20:DLoM)の発音表によると、「ジィーオムバーグ」という発音で呼ばれる場合もある。
エルリック・シリーズやコルム・シリーズにおいて頻繁に言及され、コルムの方ではアリオッチ、マベロードと共に三大神ともいうべき位置にあり、第二巻の主要な対立勢力となる。しかし、ことに有名なのは、特にエルリック終盤で、<混沌>の侵攻において混沌の神官となったジャグリーン・ラーンによって呼び出され、『ストームブリンガー』と『混沌の盾』を持ったエルリックと対決する場面である。このときも黒髪の少女の姿で、獅子の頭と牡牛の体をもつ獣に乗り、巨大な夜色の斧を投げつけ、ストームブリンガーの数倍の巨大な剣(Gumbandではアーティファクト化され、倒すと落とす)で戦った。ここで登場する姿はいわゆるアヴァター(化身)であり、神としての本体ではないが、そうであっても無論、二つのアーティファクトを持ったエルリックだからこそ、次元世界から放逐できる存在でもある。
少女の姿で獣を従えた邪神というイメージは以後も見られるものであるが(『ドラゴンランス』の邪女神タキシスのアヴァターのひとつに似た姿がある)例えば、ロードス島戦記シリーズの『魔神王』が、山田章博著の漫画でのビジュアルとイメージが「少女」の姿をとり、剣や、しばしば斧槍を持ち、魔獣を乗騎としているのは、このキシオムバーグの直接の影響であることはかなり確かに思われる。
*bandでは、混沌の戦士の守護魔神のうち一体として登場する(無論、混沌の魔神らを倒すことが目的のGumbandでは99階のクエストモンスターの一体でもあるが)。他のムアコックの魔神らに比べると、報酬がIGNORE(無視される)である確率が低く、変容系になることが多いのが特色である。(このクラスの時点でそういう問題ではないが)ギャンブル性は割と強いと言える。「女王」だからといって(スラーネッシュのように)魅力が上がりやすいということはなく、特有能力は腕力である。
旗手エオンウェのグレートアックス The Great Axe of Eonwe 【物品】
エオンウェとは、トールキンのアルダ世界のマイア(下級神)の一体であり、風の王マンウェの副将・旗持ちである。マイアの中では最も強力な存在とされる。(ヴァルダ(エルベレス)の侍女頭である流星の姫イルマレと並び称されるが、立場的には無関係で、対というわけではない。)
ヴァラールらの伝令司であると共に、ヴァリノールの軍勢(他のマイアらや、アマンのハイエルフの戦士からなる軍)の総司令でもある。敵を震撼させる角笛の音と命令、戦叫がその特徴とされる。
(余談であるが、よく、指輪物語の賢者エルロンドを、最後の同盟当時の上級王ギル=ガラドの伝令使という役割に因んで「パシリ」と呼ぶ声があるが、マイア最大のエオンウェも風の王マンウェのパシリであり、この全員の属性が「風」であることも含めて、風の王の伝令使という役割にかなり象徴的に重い意味があることは省察すべきかと思う。)
エオンウェは戦士および指揮官としての力は「ヴァラール(上級神)にも劣らない」とされるほど強力であるが、ここはオロメやトゥルカスのような戦士のヴァラではなく、女神らも含めたヴァラールの平均をとった場合と推測される。無論、モルゴスと渡り合うことも可能であろう。実際に、アマンの軍勢がモルゴスの軍団を滅ぼしたハルマゲドン「怒りの戦い」において、総司令をつとめていたのはエオンウェであった(このとき、ヴァラール自身は攻め込んでいないと推測されている)。怒りの戦いの後、モルゴスの副将で捕虜として生き残ったサウロンを、エオンウェは同列のマイアであるため裁くことができなかった。結局、ヴァラールのいるアマンに連れ帰って裁くことになったのだが、この遅れが致命的であり、サウロンは逃亡して、のちに中つ国を闇で覆うことになるのである。
*bandでは[V]以降エオンウェ斧が登場するが、原典にエオンウェの武具、斧の記述はない。(なおICE社のTRPG, MERPではエオンウェの武器は「クゥエタマキル」(言霊の刃)と呼ばれる、自在にルーン(呪文)を操る剣である。)ただし、伝説時代の記述には、個人戦闘ではなく「戦争」で活躍する士には「剣」ではなく「斧」を武器としていたという者が多いので(フーリン、トゥオル、ゴスモグなど)同様に想定されたのだとも考えられる。
リンギルの倍のレアリティであり、全能力の増大、最大級の威力にスレイングなど、[V]以来「隠れ最強クラス」とみなされてきた(ただし、[Z]系以降は威力にやや頼りなさがあるかもしれない)。「周辺抹殺」を発動することができるが、これはエオンウェの戦叫があらゆる敵を逃げ散らし、またエオンウェの軍勢の通り道にいた敵が火に巻き込まれた藁しべのように消し滅ぼされたといった描写によるものであろう。
木の鬚 Treebeard
→ファンゴルン
ギムリの鉄鋲底の靴 The Pair of Metal Shod Boots of Gimli 【物品】
『指輪物語』の9人の旅の仲間のひとり、グローインの息子ギムリは、ドワーフの代表的一族であるドゥリン王家(→参照)の王族のひとりである。物語・指輪戦争を通じてレゴラスとともにほぼアラゴルンと同行し、各地の戦闘場面で活躍する。またエルダールと疎遠なドワーフにも関わらず、レゴラスやガラドリエル女王などのエルダールへの友情・敬愛による「エルフの友」として知られる。
『指輪物語』においてドワーフ種族一般、舞台となるゴンドールやローハンより遥かに北の本拠地で東夷やドル=グルドゥアの軍勢と戦っていたため、ほとんど登場することはなく、「代表」として旅の仲間に加わったギムリが、唯一活躍するドワーフであるといえる。この種族の秘密主義や人間・エルフとの疎遠(ドワーフの項目参照)のためもあり、エレスサール王への記録やエルフらの伝聞を通じて「ドワーフ」という種族の情報源であり、また『指輪物語』赤表紙本の読者=現代の読者にとってもドワーフ種族に対する、否応なくその典型像のひとつである。現に、RPGなどではドワーフのもうひとつの雛形であるトーリン王(→参照)の頑固で威厳ある姿と並んで、ギムリは戦士としての姿、ことに「斧をふるうドワーフ」(いまやRPGにおいて「戦斧」そのものがドワーフの象徴である。→ドワーフのロッコバー・アックス)の参照元と広く見なされている。
そのドワーフ像であるが、トーリンの方のイメージと相まって、質実剛健で頑固といった側面ばかりが強調され、寡黙で無愛想、冗談を解さないといった像が形づくられ、あべこべにそうした既存のドワーフ像から、「原作に忠実な渋いギムリ像」もそうしたものと思い込まれがちである。しかしながら実際には原作のギムリは、基本的には質実剛健ながらも、融通がきかず石のように押し黙っているというまったくの朴念仁ではない。原作FotRの霧降り山脈の山々をクズドゥル語で解説する有名な場面、原作TTTのガラドリエルからの伝言に喜ぶ場面やアイゼンガルドでホビットと再会する場面など、そしてレゴラスとの会話全般、感情表現が非常に豊かな面をもつ。またその物腰も、日本の瀬田訳では『ホビットの冒険』におけるドワーフの「小人」のイメージを踏襲しているためもあってか、文官のような柔和な言葉遣いであり、ドゥリン王族に相応しいかなり上品な印象を受ける。
ICE社の設定のMERPサプリメント(Lords of Middle Earthなど)のイラストのギムリは、羽根帽子をかぶり、目元も涼しく、まるで上品な初老紳士のようで、瀬田訳の口調が本当に似合いそうな姿である。燦光堂の領主となってからの姿とも考えられるが、どちらにせよ指輪戦争時のギムリはすでに139歳であり、250歳前後と思われるドゥリン王家の寿命からしても決して若者ではない(邦訳のエルロンドの会議の「若いドワーフ」という表現は、原語では「グローイン(父)より若いドワーフの姿もあった」といった意である)ため、本来はこうした貫禄のある姿が妥当であるのかもしれない。
さて問題の、PJ実写映画版LotRにおけるギムリだが、例によってその姿や演者の努力、映像表現などに対しては賞賛の声もつきない。しかしながらその脚本上の役割、他の人物との対比でもっぱら「お笑い役」が割り振られてしまったことや、そのためもあって原作にそぐわない「ガサツ」な人物像とされている点に関しては、どんな好意的な原作ファンからもほとんど不満しか聞いたことはない。筆者自身はといえば、非常に複雑な心境である;指輪物語ファンとしては、上記したように原作のギムリ像に対してもドワーフ像に対しても歪めたイメージ化が行われ、今後も少なからず広まってしまった点には、憤懣やるかたない部分がある。しかしながらRPGファンとしては、D&DやT&T、ファイティングファンタジーのような古典的RPGのドワーフ像(→ドワーフ)としてファンタジー世界を広くするユーモラス担当でなおかつ戦闘能力では頼りになるジョン・リス・ディヴィス演じる豪快なドワーフの総合的な姿は、きわめて魅力的な映像にも映る。(なお、原作では共に行動するレゴラスよりもやや武功が多いが、映画ではアクション描写を一身に担うレゴラスの前には、ギムリもかなり活躍はしているとはいえ、ユーモア担当のせいもあってさすがに霞みがちである。)ことに深みのあるファンタジー世界像、デミヒューマン像の枯渇した日本のRPGにもイメージを提供するものとして、この映像が無価値なものとは、筆者には言い切れないのである。
ギムリの靴については(もちろん原作には特殊な記載はないが)ICE設定ではギムリの装備している靴は「岩走りの長靴」といういわゆるエゴアイテム機能を持っているが、特に*bandのものとは関係ないと思われる。
*bandのギムリ靴は、[O]において多数追加されたアルダ由来のアーティファクトのうちひとつであり、他にはToMEにも存在する。殺戮修正の上乗せと探索・穴掘りの能力を与える(耐性などはない)。「魔法の地図」の能力があるが、これは能力ともども、ドワーフが地下探索に向いていることから与えられた能力のようで、実は原作のギムリには直接は地下探索で活躍した場面があるわけではない。『指輪物語』の戦闘場面は多くが地上で、またモリアや死者の道でも地下に慣れているからといってギムリが案内の役まで果たしたといったわけではない。ここでも、あくまで「ドワーフの代表」的な役割がギムリの名には与えられているといえる。
→ドワーフ
キメラ Chimera 【敵】
キメラはギリシア神話の怪物キマイラに由来し、RPGのモンスターとして扱われる場合は神話のそれと同様にライオン、ドラゴン、山羊の混ぜ合わさった怪物を指す場合もあるが、モンスター分類においては複数の自然動物の合成されたタイプの怪物を総称する場合もあり、和製ファンタジーなどでは(魔法生物を何でも「ゴーレム」呼ばわりするのと同様)あらゆる合成怪物を無理やり何でもキメラと呼ぶカテゴリー名となっている場合も珍しくない。
現実の生物学では、別々の個体に由来する組織・器官を持つ生物がキメラ生物と呼ばれ、また、本来は別々の生殖細胞に由来する遺伝子がつなぎ合わされた遺伝子をキメラ遺伝子と呼ぶ。
ギリシア神話の怪物キマイラは、ヘシオドスによるとヒュドラ(→レルニアン・ヒドラ)の子であるが、兄弟となっている説もある。キマイラは「前が獅子」と「中央が牡山羊」と「後ろが蛇竜」の体を持つが、元々chemaeraとは「牡山羊」を指す語で、おそらく中心(元)の動物から採られている。体躯強大、素早く剛力で炎を吐くキマイラは地上から倒すことは決してできず、天馬ペガソスに乗った英雄ベレロポンテスが討ち取った(なおペガソスもキマイラ同様にメドゥーサ(→参照)に発する一族で、キマイラの大伯父か大々伯父にあたるがそんなことは追求してゆくときりがない)。なおヘシオドスによるとキマイラは「女怪」であり、メネアのライオン(ヘラクレスと戦った怪物の一)やフィックス(テーベを滅ぼした怪物)を産んだとされるが、例によって系図の同族の別の位置にされている説もある。
D&D以来、RPGにはこのギリシアのキマイラとほぼ同型の中レベルモンスターとしてキメラが登場することがある。D&Dのキマイラは後半身が山羊、前半身が獅子で、頭も獅子だが山羊と竜の首はその左右から飛び出しており、背中からは竜の翼が生えている。炎を吹くのは竜の首だけで、他の首や、なぜか翼も殴りかかってくる。知能は動物程度しかない。上記したように、「キメラ」という語をこのモンスターを特定して指すよりは、「合成怪物の総称」としかみなさないゲームや小説など(上の生物学の定義をそのまま参照したらしく、RPGファンタジーでの定義と主張できるような根拠はほとんどない)も多く、その場合別の動物やさらに多くの動物が合成されている場合も多い。
*bandではMoriaにはなく[V]より中レベルの怪物として登場するが、思い出の記述からはおおむねD&D系のようなものを指していると思われる。D&D系の中レベル=著名モンスターにありがちなことだが、低階層でいまいち特殊能力もインパクトに欠ける存在になっている例に漏れない。特殊能力としては火炎打撃とブレスを持つが、ブレスの方は頻度も低く脅威ではない。宝を落とさないので、慣れたプレイヤーは火炎打撃を受けるだけ受け損なのでもっぱら素通りすると思われる。
キャリオン Carrion 【敵】
ミニチュアウォーゲーム/TRPG『ウォーハンマー』シリーズのユニット/怪物のひとつ、アンデッドの巨大鳥。遥かな過去に絶滅した種の鳥だが、儀式によって偉大な鳥として崇められており、死体がアンデッドとして蘇ったというものである。ウォーゲームではケイオスの勢力(腐敗のナーグルなど)とは別の、「アンデッド」の勢力に属するものであり、大移動力、乗物などを担当するユニット(ちょうどケイオス勢力で言えば妖獣などにあたる)といえる。ウォーハンマーのオリジナルといえるが、そもそも、ウォーゲームのバランス上、アンデッド勢力にこうした位置づけの存在を加えるため、腐肉食らい鳥などをもとに考案されたモンスターであるかもしれない。
イメージイラストには羽毛がなく長い首が露出した、ナズグルの乗騎(→恐るべき獣)のような翼竜の怪物か何かのように見えるものなども描かれており、実際のところ腐肉食らいのハゲワシなどもイメージの元であることを伺わせる。また一方では別のミニチュアのデザインには、もとは黒い羽根の鳥(おそらくは語の元のひとつであるハシボソガラス carrion crowがらみか)だったと思えるものが羽毛や肉が剥げ落ち、ミイラ的な組織や骨が露出した、いかにも朽ちかけたアンデッドのものもある。
*bandでは『ウォーハンマー』の要素が取り入れられた[Z]とその流れをくむバリアントに登場する。特殊能力や魔法の類はもたないが、アンデッドらしく通常打撃には毒や経験吸収がある。元の位置づけからしても、また手ごわいノーマルモンスターが多いウォーハンマー系としてはそれほど強靭ではないが、この打撃が厄介といえば厄介である。邪悪・アンデッド・動物の打撃がすべて効果があるが、階層自体が低いのでさほどそれが有利とも言えない。
キャリオン・クローラー Carrion Crawler 【敵】
巨大地這い虫。腐肉を求めて這いずりまわるもの。くされにくクローラー。戸板にあらわれるもの。全長3メートル、体高では1メートルになる多足虫のような姿で、頭に8本の麻痺の触手が生えているという怪物。地下に生息し、腐肉を食物とするが、生きている生物もまったく恐れずに触手で麻痺させて捕食する。アイディアの連想元はあるかもしれないが、少なくともこの名前ではD&Dシリーズのオリジナルモンスターとされている。
その姿から純然たる「虫」や、少なくともその変種であるという認識で、長年のあいだ旧D&Dプレイヤーや他のゲームで説明されてきたが、D&D 3.Xeでは「異形」(自然の動植物とは異なる解剖学を持つ生物を指す。知能・魔法的能力をもつ「魔獣」とは異なる)に分類されている。その姿はヨトウムシ、ネキリムシといった地下の虫と、頭足類(タコ・イカ)の中間のようなものと説明される(これは頭部の触手からであろうか)。ダメージをまったく与えない麻痺の触手は、麻痺を与える粘液を分泌しているとされている。AD&Dや3.Xeでは、邪悪な魔術師らが作り出した生命体にその起源があるという推測が付記されている。
決して派手なモンスターとはいえないが、これがビホルダー(→参照)や錆の怪物(→参照)などと並んでD&Dシリーズの象徴的モンスターとなった理由は、巨大地這い虫や腐肉クローラーといった無理矢理訳やキャリリン・クローラーとかキャリオン・クロウリーとかいう誤植があるとかないとかいう説話だけではなく、ベーシックルール(赤箱)の初心者用サンプルシナリオの中に出現することが挙げられる。これは地下ではなく、最初のダンジョン(廃城)に向かう途中に落ちている戸板をひっくりかえすと出て来るのだが、たいした防具もない1レベルのパーティーに対して「8回の麻痺攻撃」を行ってくるのであるから、前衛が2人や3人ではまずもたない。城にたどりつく前からやる気をごっそりと殺いでくれそうだが、これを乗り切っても城で待つのは殺人状況のオンパレードなのでただの序の口である。
なお、RPGのセッションを元に小説化した『ドラゴンランス』において、魔術師レイストリンがホブゴブリン隊長を脅すのに使った名前「奈落(アビス)より立ち現れ出でる大長蟲キャティルペリウス」は、担当のプレイヤーのキャリオンクローラーの語感をもとにした出まかせという噂があるとかないとかである。
以後のCRPGなどでは、D&Dモンスターにも関わらず何か当然のごとく登場することも少なくないが、その麻痺の能力など再現されているかいないかはゲームによって様々で、何か「虫のようなモンスター」というバリエーションを増やすだけの理由で追加されている感もなきにしもあらずである。
*bandでは、[V]以来ノーマルモンスターとして登場する。*bandでは20階から「麻痺耐性」をもつことが必須とされているが、20階以降のその「麻痺を持つモンスター」の代表格としてスポイラー等にも記されているのが、キャリオン・クローラーである。上記の事情から麻痺モンスターの代表に相応しい知名度の存在であるとは思われるのだが、実際にこれに麻痺を食らうプレイヤーが多いといえるかは疑問である。初心者が耐性なしで潜り、麻痺している間に殺されるという状況はありそうだが、それならばクローカー(→参照)のようなむしろ麻痺必須階層よりは初期のモンスターに、他の不注意のせいで殺されるという状況の方が多いのではないかと思われる。
究極ビホルダー Ultimate beholder 【敵】
「究極ビホルダー」は[Z]および[変]における名で、ToME, [V]3.X系, Unangbandでは「ビホルダーの巣母」になっている。この両者でわずかにデータに食い違いがあるが、これはどちらもAD&Dのビホルダー近縁種の一種'Hive Mother'、別名を'Ultimate Tylant'(「アイ・タイラント」がビホルダーの別名であり、D&D系ではしばしば「タイラント」だけでもビホルダーを意味する)から名が採られていると思われる。ただし、下記するが単に「ビホルダーの上位種」として、名前だけが取られた可能性が高い。
AD&DのHive Motherは巨大なビホルダーに似ているのだが、一つ目のある球体のみで、魔法の目のついた上部の触手が生えていない。すなわちビホルダーと異なり、触手の目から各種の魔法を使うことはできないのだが、通常ないし下級のビホルダーかビホルダー近縁種を最大十数体までコントロールする、という能力を有している。別にこれが母体で、自らがじかに産んだビホルダーをコントロールできる、というわけではなく、普段は不仲の近縁種同士も種に関わらずコントロールできるため、複数種族を統率する「司令塔」のような存在である。このHive Motherの初出はAD&Dでも謎のルネサンスパンクスペオペ宇宙を旅するSpelljammerシリーズの設定においてであり、ビホルダー類を「宇宙種族」として見た場合の指揮系統の統率者としてデザインされたもののようである。
なお、D&Dシリーズではビホルダーらが信奉する悪の神格も”太母(Great Mother)”という名である。”太母”は<奈落界>の第6階層に、壁に無数の「眼」がある洞窟(太母本人の眼である)という領土を有するという神である。
さて*bandの「究極ビホルダー」「ビホルダーの巣母」であるが、おおむね*bandでのビホルダーと同様に各種のダメージ魔法の能力をみずから持った上で、同族召喚の能力も持っているものの、さほど元のAD&Dのものに沿わず、単にビホルダーの上位種としてデザインされているようである。
266 名前:名@無@し 投稿日:2006/05/28(日) 01:30:43
ビホルダーが進化してアンデッド・ビホルダーになるのはまあ、いいです。
しかしそのアンデッド・ビホルダーが進化してアンデッドではない究極ビホルダーになるのはいったいどういうことですか?
267 名前:名@無@し 投稿日:2006/05/28(日) 01:52:04
究極進化で生死を超越したのです。
268 名前:名@無@し 投稿日:2006/05/28(日) 02:18:54
カーズは石仮面で逆波紋のエネルギーが波紋エネルギーに逆転したでしょう。
そんな感じ。
(『roguelikeの理不尽な点を強引に解釈するスレPart5』 @の溜まり場II過去ログより、詠み人知らず)
なおToMEなどの「ビホルダーの巣母」の方が若干打撃などが強力である。特性はビホルダーとまったく同じで、宝物などは落とさず、さらに同族召喚でもかなり厄介な面々が召喚されてくる可能性が高いため、可能な限り避けるべきだろう。
→ビホルダー
急速回復 Regeneration 【システム】
Regeneration 再生は、生物学的には失った肢や臓器を自然回復に伴って再構成できることを指し、手っ取り早い話では、人間は指ひとつ再生できないがトカゲは尻尾を再生でき、また、人間でも肝臓などは、半分を取っ払ってもかなり短期間で元の大きさに戻る(ギリシア神話では、ゼウスに反逆したプロメテウスは、毎日ハゲワシに肝臓を食われるが次の日には再生して毎日食われ続けるという刑を受けており、これは古代ギリシア人が既に肝臓の再生能力をかなり知っていたのではと、うちの上司が著書で書いているのだが何やら疑わしい)。
RPGではこれに従い、本来は、トロルやヒドラのように、四肢が切り落とされてもすばやく再生するモンスターの特殊能力を指している面が大きかったといえる。D&Dシリーズには同名の呪文とリジェネレーションリングという指輪があり、これは人間も戦いで失った手足などを再生する力を得られるというものだった。とはいえ、大雑把なダメージシステムのD&D系には、プレイヤーが手足を失ったりするルール自体が、AD&Dのかなりマイナーな選択ルールにしか存在しなかった。故に、この指輪が注目されるのは「hpの回復能力」、すなわち本来は1日ごとのhp回復が10分ごと(これが、後のWizardryのリング・オブ・ヒーリングのモデルである)であるという点だった。また、モンスターのリジェネレーションは戦闘中に回復が目立つように秒単位でhp回復するルールになっており、D&D 3eでは結局指輪も10秒ごとになってしまった。CRPGではさらに四肢が切れるという効果が表現しにくいので、もっぱらhp回復効果のみが注目されるようになる。話は飛ぶが*bandでも[V]以来、訳が「再生」でなく「急速回復」になっているのは、実質に即してはいる。
具体的にリジェネレーションの能力の細部について、D&D系のルールでは、「酸」や「火炎」による傷だけは「通常の切り傷などより”深い”」として、回復・再生することができない。手足がもげたりする傷より小さな火傷の方が深いというのは意味不明にも見えるが、これは、火傷などが後々まで目立つ跡が残ることからの発想と思われ、またヘラクレスがレルニアンヒドラ(→参照)の傷口を焼いて倒したように、傷口を封じるには焼くという荒っぽい治療法も中世まであった。ともあれ、トロルやヒドラなどは、酸や火炎で回復できないダメージを与えてとどめをさすというのがセオリーである。また指輪などのリジェネレーションはhpがゼロ以下になってしまうと働かないので、死ぬともう再生することはできない(無限の住人の血仙蟲くらいである)。トロルやヒドラはもっと再生力が高く、四肢が残っていればやがて寄り集まる(ストレイツォくらいである)。
Roguelikeには、*bandにはMoriaの時点から、またNetHackにはD&D系の同名指輪とほぼ同じものが登場するが、どちらもリジェネレーション能力はさほど重視されない。これは、Rogue以来、多くのRoguelikeでは普段からターン単位で回復するため、日が分や秒になるといったD&D系やWizardryとは異なり、せいぜい回復力が何倍かになる程度だからである。*bandの急速回復には、無論システム上の都合で火炎や酸の傷でも普通に回復する(ただし、*bandでは耐性がないと火炎や酸によって能力値がよく減少し、なかなか治らない傷はこの能力値減少で表現されているかもしれない)。
*bandの急速回復能力が、本当にD&D系のリジェネレーションと同列、つまりトロルのように秒単位で傷が回復し四肢も再生するならば、他の大概のファンタジー物やRPGのメディアならば、「不死身」の域として扱われるほどの力であることはほぼ疑いはない。にも関わらず、*bandの深層ではほとんど「あってもなくても同じような能力」となっているのが、それほどまでに*band世界がオーバーキルな世界であることを端的に示しているといえよう。
[Z]の種族ではアンバライトに急速回復があるのがまずは代表である。言うまでもなく、真世界アンバーシリーズ原作の、コーウィンの回復能力に因んだもので、また、*bandの急速回復は空腹が早くなるが、アンバライトがそのエネルギーと活力・生命力の根源ゆえに大食である点ともうまく合致している。そして、原作でも必ずしも「不死身」のような便利な能力という形ではない点(刺されても平気で戦い続けるのではなく、すぐにグロッキーになるがとにかくしぶとく生きている、というタイプである)が、*bandの急速回復の、中盤以降は特に実質的にはさほど劇的な影響ではないという点ともちょうど合っている。
それ以外の種族では再生といえばトロルであるが、ハーフトロルは最初は持っておらず、15レベルでようやく獲得する。しかしその頃はともかく、もうほんの少し後になるともうあまり影響がなくなるような能力なので、惜しいところである。
狂気の夢想家ブランドのライトクロスボウ 【物品】
→ ブランド弓
恐怖除去 Remove Fear 【その他】
地下迷宮の冒険において、アンデッドは勿論のこと、多くのモンスターやもっと自然に動物など(恐怖をあおる小動物の群れ、鳴き声など)すらも含めて、モンスターの特殊能力等でシステム的(物語的や感情的ではなく)に「恐怖」の状態にされる状況は数多い。RPGの原型であるD&D系において、「恐怖除去」の呪文が聖職者の最も初歩の呪文として、他の治癒系の魔法と独立して存在するのは、こうした初歩から多く役立つという事情の他に、勇気を与えるというのが神の加護といった聖職者のイメージに合致するといった事情もあると思われる。パラディン(聖騎士)の特殊能力の最も基本的なものも、恐怖への耐性と周囲に勇気を及ぼすものである。
ただし、以降のゲームでは、他の「精神に影響を及ぼす」呪文の解除や呪文全般の解除と区別されないことが多い。これはD&D系が呪文を細分化して「選択」自体の判断も仰ぐのに対して、後のRPGが呪文システムを整理・体系化していること、また、D&D系ほどGood-Evil二元論的ではなく「神の加護」が精神を高揚させるといったイメージが薄いといった事情が考えられる。
*bandでは例によってD&D系のように、Moria以来、プリースト系呪文(祈り)に恐怖除去の効果がある。*bandでは恐怖の効果は「近接打撃ができない」というもので恐慌のため多くの行動がとれなかったり逃げ回ったりするほどのものではないが、それでも打撃中心のキャラクター(ことに射撃が苦手なプリーストやパラディン)には大きい。ヒーローの薬を大量に買えるようになったり、呪文、また恐怖耐性が揃うまでの繋ぎにすぎないとはいえ、序盤は有効な呪文である。
→ヒーロー
恐怖耐性 Resist Fear 【システム】
いわゆる「恐怖状態」は、逃亡や積極的行動にペナルティなど、RPGの状態異常としては軽微なものである(もっと重大な恐慌状態は正気度ロール(→参照)の類で表されることが多い)。しかし、RPGの原型であるD&D系には、アンデッドや呪文効果以外にも、思い切り飛び掛ってきたときに恐怖状態を引き起こしてくるイタチがいるなど恐怖状態になる機会は少なくない。こうした非魔法的な恐怖はディスペルなどで直すこともできず、手ごろな精神状態治癒の呪文などもあまりないので、恐怖に対する抵抗手段はある程度の必要性がある。そのためか、D&D系ではリムーブ・フィアという恐怖除去の呪文が単体で聖職者系の最も初歩の呪文に設けられているが、これは恐怖を除去するだけでなく恐怖に対するしばらくの間の「耐性」(細かい効果は版によって異なる)を与えるものになっている。また、クラス「パラディン」は恐怖状態に完全な耐性があり、周囲の者の恐怖耐性を高めるといった特殊能力を持つ点も同様といえる。これは軽微な状態異常の治癒が最も初歩、という点に加えて、恐怖がアンデッドなどによって引き起こされることが多いため、アンデッドや、ひいては妖異現象に対抗する聖職者の能力という側面の強調のためと思われる。
しかし、以降のRPGでは、正気度云々未満の恐怖状態そのものが、ペナルティとしては軽微すぎて、設けるとかえって煩雑になると考えられてか、あまり再現されていない場合が多い。例えばWizardryなどでは、一部シナリオで恐怖状態になる唯一の機会が「ビショップがアイテムの鑑定に失敗したとき」といった、よくわからない状態になっている。また、設けられているとしても、多くのRPGでは抵抗手段も精神状態の異常全般の抵抗能力といったものにまとめられていることが多い。
*bandでは、恐怖耐性がわざわざ単体で設けられているのは、D&D系などの古いシステマチックなTPRGの名残ということができる。*bandでは恐怖の状態異常は打撃ができなくなるので、その対抗手段は打撃系やデュアルクラスでは重要である。しかし、ヒーローの魔法や薬で耐性や除去の効果が得られ、打撃を重視するクラスではいざというときの攻撃力補助のためにヒーローの薬を持ち歩くことも少なくないため、恐怖耐性は必ずしも必須ではなく、あらゆる耐性が重要な*bandの耐性の一種にも関わらず装備で備える必要性は低くなっている。
恐怖耐性は、上述した聖騎士やアンデッドに対する対抗手段としての面を反映してか、バリアントによっては、「聖戦者」や「*滅邪*」のエゴアイテムの効果に含まれている。(西方国やパターンの武器には一定確率でつく。)しかし、アンデッドスレイヤー(*つきも)やトランプの武器にはつかない。どちらかというと序盤についた方がありがたい耐性であるにも関わらず、序盤ではつきにくいことも含めて不遇である。
巨大アマガエル Giant green frog 【敵】
RPGにおいては、自然生物の巨大なもの、もしくは誇張の一種として例にもれずカエルのモンスターも登場することも多いが、それは「トード」である場合が圧倒的に多い。Toadとは、カエルの総称でもあるFrogに対して、いわゆるヒキガエル類(概ね大型で、跳躍力はあまりないが毒を持つ)を指す。D&D系などの古いゲームではFrogとToadのどちらのデータも存在するが(この場合、Frogはカエルでも「トード以外のもの」を特に指すことになる)無論、いかにも大型で毒を持っている方がモンスターとしてはそれらしく、また毒が特になければ普通のカエルは(たとえ大型でも)さほど特徴があるわけでもないため、トードの方しかモンスターとしては存在しないRPGが多い。
しかしながら*bandではMoriaおよび[V]以来、RPGとしては非常に珍しいことに、Toadが存在せず、Giant Frog類のみが登場する。これは、巨大ガエルが、ゼリーやモルド類と同様にさまざまな特殊攻撃を持つ「色・属性」をもった多種が存在していた、Moriaの頃の名残である;「普通の毒をもつトード一種類」ではなく、カエル類の総称のFrogを用いた上で、さまざまな種類の毒や皮膚の粘液などもイメージした色・属性のカエルが存在していたわけである。しかしながら、[V]に移るに至ってこれら多すぎた属性のみの小モンスターは多くが廃止されてしまい、今では巨大ガエル類も、ほとんどのバリアントにおいて巨大アマガエルと巨大ピンク・ガエルの2種類を残すのみである。(なお例外的に、Unangbandでは何種類かのToadの方も存在する上、なぜかMoriaのFrogのすべてまでもが復活している。)
巨大アマガエルは、それらのカエルのうち最も基本的な「緑」のもので、特殊攻撃のたぐいを持たないものである。元来は、多種の色のうちgreenのfrogだったので「巨大グリーン・ガエル」とでも訳すべきところであったのだろうが、種類が減ってしまった今はあまり意味がないので、緑のカエルの妥当な訳であるアマガエル(Green-*-Frogという正式名のアマガエルも多い)で良いのかもしれない。
→巨大ピンク・ガエル
巨大軍隊アリ Giant army ant 【敵】
巨大アリはモンスターとして非常にポピュラーである。アリの生態の組織力、集団意思などは非常に興味深いものとされており、その勤勉さの他に、単純に黒光りする外骨格をもつアリは仮に巨大ならばいかにも恐ろしげで、SF類のモンスターとしてもよくモチーフに使われる。なお、軍隊アリとはグンタイアリの他にサスライアリ、ヒメサスライアリの3亜科の総称であり、他のアリより大規模な巣と集団を構え、しばしば移動し、他の生物(昆虫、他のアリから、巨大な肉食動物までも)を集団で襲い捕食する。蟻が象を倒すといった言葉や、トムとジェリーのシロアリではないが、しばしば「蟻塚」が恐れられていたり、蟻が巨大動物に群がったりすべてを食い尽くすといった説話の元がこの種である。
この「グンタイアリの巨大なもの」を特定するわけではないが、古いTRPGから巨大アリは定番のモンスターとして登場する(なお、集団で様々なものを集めるアリは奥に宝物を蓄えているというメルヘンな説話を反映して、巨大アリの巣に金塊があるとしている場合もある)。*bandでもNetHackでも例にもれないわけだが、レベル2-3という例によってAD&Dの通りのデータになっているNetHackに対して、*bandではどういうわけか[V]以来、30階というジャイアントやドラゴンを圧するほどの深階層になっている。なにゆえこれほどの階層になっているのか、ここでは軍隊蟻の説話からその能力をそれほどまでに強力なものとみなされているという可能性もないでもないが、実際のところは、ユニークモンスターとして[V]以来ほとんどのバリアントに登場する『女王アリ』のため、すなわち配下とともに生成される場合や同族を召喚する際、「出やすい」ような階層に軍隊アリを設定しているだけだと思われる。パラメータを見ても、実際のところ30階に相等するほどに高いとは思えない。軍隊アリ自体に関して言えば、その点でも他のアリ類とは差がないのであるが、赤や青のアリと異なって元素打撃などがないため、深層で出てしまうが故にかえって地味な存在であるといえる。
→女王アリ
巨大シロアリ Giant White Ant 【敵】
white antは、英語ではシロアリ(termite)の別称・通称として使われることもあるものの、やや稀な用法である。*bandのモンスター思い出解説での、後述するが「鋭い顎」などのシロアリとは異なる特徴から、ここでは本当にシロアリの巨大なものを指すわけではなく、単なる「白色のアリ(のようなもの)」を指す、実質オリジナルな巨大生物モンスターを指しているとも考えられるのだが、定かではない。
シロアリは、アリによく似た昆虫で、木材を食い荒らすことでよく知られる。種としてはアリのようなハチ目でなく、シロアリ目(カマキリ等に近い)で、また形成社会などの共通点が多いが役割(働き蟻に雌雄両方がいる等)など異なる点は多く、アリの一種とは言えない。分解酵素と体内微生物の助けをかりて木材を消化し、自然界においては、セルロース、特に枯死した木材の分解者の位置をしめる。
人間に対しては木造物を侵食すると言う点は脅威になり、それを誇張した『トムとジェリー』等の一瞬にしてすべての木造物を消失させてしまう群れなどの描写も多い。しかしながら、虫の個体自体に関して言えば、毒針をもつハチや、肉食で働き蟻でも強いアゴを持つ(かまれると痛い。→死番虫の項目のアリガタバチ参照)に対しても、他の生物(動物)に対する攻撃性はきわめて低い。
そうした生物が、なぜRPGに伝統的に「モンスター」として入る発想になったのかという疑問が起こる。これは、旧D&Dで中上級レベルに達した時の追加ルール(青箱)で、プレイヤーキャラクターらが屋外冒険を行ったり建築物を建てたりする展開が追加されたに伴って加えられた、という可能性がきわめて高い;特に、水上冒険のための船舶の運用ルールがあるのだが、船の木材に穴をあけて耐久力を落とす「水棲シロアリ」が遭遇モンスターとしていかにもわざとらしく追加されている。
*bandでは、特に木材を食うシロアリめいた能力もなく、aシンボルとしてもかなり階層の低い弱めなモンスターで、「白化した」貧弱なアリをイメージしている可能性も高い。(ただし、巨大黒アリよりはレベルが高い。)しかしながら、こうした巨大生物モンスターの多くは(実情はかけ離れていても)実在の生物に外見のモデルをとることで「イメージしやすくしている」ことが多いので、中身はともかく姿は実在のシロアリに近い可能性が高い。
→巨大灰色アリ →巨大黒アリ
巨大タランチュラ Giant tarantula 【敵】
タランチュラ tarantulaは、フランスのタラントの伝説の毒蜘蛛で、噛まれると毒により踊り続ける(踊らないと死ぬ、等)という説話がタランテラ舞曲の元になっていること等が非常に有名である。神経毒をもつ毒蜘蛛が元になった説話と考えられるが、この地方に人にそれほどまでに害を与えるほど強力な毒を持つ蜘蛛は見当たらず、直接に何が元であるか、どういった経緯であるかは特定できないという。
転じて、熱帯産の恐ろしげな大型のツチグモなどにも「タランチュラ」という俗称が使われることがあるが、小動物を捕食するものや毒毛を持つものはいるものの、人を噛んで死に至らしめるような種が見つかるわけではないという(毒ツチグモは大人しいので日本でも「飼いタランチュラ」として飼育される)。多分に架空の、そうした猛毒の蜘蛛に対して「タランチュラ」が俗称となることもある。
なお余談だが、動物モンスター(モンスター的動物)にはどちらかというとリアルを追及する最近の版と違って細分や変り種が目立つ旧D&Dでは、「タランテラ」というモンスターが存在する。これは噛まれた者は踊りだす毒を持つ巨大蜘蛛というもので、すなわち現在のタランチュラ(ツチグモ等)の巨大なものではなく、本当に「タラント伝説のタランテラ」である、という設定のモンスターである。しかし、一般にはタランテラの伝説よりも毒蜘蛛としてのタランチュラの方が遥かに有名であるためもあってか、他のゲームではここまで細分しているものは見当たらない。
*bandには巨大タランチュラはMoria以来登場し、実に想像通りの巨大毒蜘蛛として扱われているもので、木蜘蛛などと似た階層だが(トールキンにならってか、蜘蛛は一般にノーマルモンスターとしてはやや強めである)毒攻撃が特徴といえる。「毛のある脚」という思い出文章の記述からは、やはり一般的タランチュラのイメージであるツチグモなどの姿と思われる。
巨大トンボ Giant dragon fly 【敵】
古来、昆虫のトンボをdragonflyと呼ぶのはその形状と長虫を恐れる西洋の発想から察しがつくわけであるが、この名前を逆手に取り、巨大トンボは他の巨大動物のようにただ巨大なだけでなく「ドラゴンのようにブレスも吐く」という親父ギャグのような発想はかなり古いものではないかと想像する。ともあれその原点は不明だがAD&D 1stのモンスターコンペディウムにはすでに見られ、それを基にWizardryをはじめとする海外ゲーム、DQシリーズにも登場することで有名である。
*bandでもMoria以来、例にならってそうしたブレスを吐く巨大トンボが登場し、おまけにドラゴンの「色」によるブレスの種類にならって、同じだけの様々な「色」ごとにドラゴンと同じ種類のブレスを吐くトンボが登場する念の入りようである。(dragonflyではなく、あくまでdragon flyなので、厳密には「トンボではない」のかもしれないが。)しかし、原語でDragon flyというのを読めば一目瞭然ではあるが、日本語版ではなぜ「単なるトンボ」がドラゴンの色でしかも同じブレスを食らわしてくるのか、理不尽に感じたプレイヤーも少なくないだろう。
不規則に動き、この手の生物の例にならって耐久力はさほどでもなく、従ってブレスの威力もどうということもないが、装備を破壊されたり状態異常を食らったりすると非常に鬱陶しく感じられる(特に酸や混乱、轟音のブレス)。
巨大ナメクジ Giant slug 【敵】
出典:ナメクジは軟体動物、いわゆる巻貝の殻が退化したもので、見かけは同じに見えるが別種(様々な種類のカタツムリなど)の系統に由来するものが数多く混在している。水中種ではウミウシなどがその一種であるといえる。ともあれ、ことに東洋では、よく似たカタツムリに比して、怪奇的な伝承の類が非常に多く信じられてきたのは、その異様な陸上軟体動物としての姿によると思われる。よく知られる「3すくみ(ナメクジ・蛇・蛙)」のナメクジが蛇を制するというのは何が由来かは数多くの説が非常に入り乱れておりはっきりしないが(『関尹子』の、ムカデが蛇を制するとなっていたものが、ムカデを消化するといわれたナメクジが取ってかわったか単に混同された、といった説が有力である)つまりはそれほどに数多くの怪奇伝承が伝わり交錯していることを意味している。蛇やその他大動物を倒すといった禍から転じて魔除けになるなり、薬になるなり(ただし、実際は感染症は勿論、粘膜のアレルギー性のショックの原因ともなり危険でさえある)といった説話は多い。
西洋では、蛇とは異なり、東洋ほどには奇怪な説話は多くないようだが、やはり奇妙な生物とは認められている故か、巨大版などがモンスターとしてRPGに登場する例は多い。粘膜がものを溶かすという説などのためか特殊攻撃を持っていることが多く、またなぜかその姿に反して異常に動きが速いものなども数多い。
ただし、巨大生物の常か、その大きさ(レベルなど)はゲームによって様々である。AD&DのジャイアントスラッグはHD(レベル)12という小型のドラゴン級のモンスターであり、酸を吐き出す能力がある。AD&Dのプレイングを小説化した『ドラゴンランス戦記』前半において、一行がエルフ王の墳墓で巨大ナメクジに襲われる場面があるが、ゲームシナリオの該当場面をデータで見ると実に全滅しないのが不思議である。他のゲームでは、さすがにこれほど巨大ではない、せいぜいが中レベルのモンスターであることが大半である。レトロPCゲーム『ハイドライド2』では決して強くはないが、どういうわけかWAVE(衝撃波)の攻撃の魔法を放ってくるためきわめてうっとうしい敵としてゲーマーに知られている。
ナメクジは塩をかけると浸透圧によって水分を失い縮むが、ゲームの巨大ナメクジに対しては、その巨大さほど大量の塩をかけるのは現実的でない(実際のナメクジには体質量の半分程度の重さの塩をかける必要があるとされる)とする場合も、どうせFTゲームなので科学的なことは無関係に塩を苦手としてある場合もある(なお知られている通り、塩は保存作用から伝承では魔除けでもあり、それに関連づけられている場合もある)。AD&Dの強大なジャイアント・スラッグは、塩をふりかけられると(さすがに数つまみでは駄目であろうが)わずか1d4+1ラウンドで乾燥し死亡する。なお、ナメクジ同様に「スライムに塩をかけると撃退できる」と主張するライトノベルやそれを鵜呑みにしたアマチュア創作などが多数あり、これはポリビニルアルコールのゲルスライムが塩で脱水できることからの発想なのかそんな知的裏づけなど最初からないのか不明だが、少なくともD&Dなどのスライムは体表に粘膜をもつ軟体動物ではなく、微生物(主に細胞壁をもつ菌類)およびその分泌物質の集合体に過ぎないため、食塩の浸透圧だけでナメクジほど水分を失わせることはできない。
敵:*bandでは、[V]以来低階層のノーマルモンスターとなっており、さほど強力なものではない解釈である。ただし、階層の割には耐久力も高く、また低階層ゆえに耐性の少ないうちからの酸の攻撃(ダメージも結構大きい)やブレスがかなり厄介であるため、それなりに危険なモンスターとなっている。酸の攻撃やブレスはD&D系のものを踏襲したものと思われる。ゲームによっては、宝物として胃袋に溶け残ったもの(宝石など)が残っているとする場合もあるが、少なくとも*bandでは何も宝物を落とさないどころか他の物品を溶かしながら移動してくる。あまり戦っても益のないモンスターである。
巨大ハエトリグサ Giant Venus Flytrap 【敵】
ハエトリグサ(ハエトリソウ)は「食虫植物」の中でも最も有名な一種であるが、その理由として姿と捕食の様子が非常にわかりやすく、いかにも恐ろしげであることに由来する。ハエトリグサは数本まとまった長い茎の先に二枚の葉があり、虫がその上に乗ると(葉の内側のセンサー的な毛に触れるものがあると)葉がぱたりと閉じて虫を閉じ込めてしまい、消化してしまうという、きわめて見た目がいかにもな捕食機構を持つ。そしてその葉には、閉じた時に獲物を逃がさないためのトゲが縁にびっしりと生えているのだが、それが猛獣の牙のようにも見え、葉が閉じるさまは獣が顎を閉じて噛み砕く姿や、金属性の獣ワナが閉じる様も彷彿とさせる。なお、英語名のvenusとは、そのトゲのついた葉を女神ビーナスの睫毛のついた目蓋に見立て、女神がまばたきすると男をコロリと悩殺するかのごとく虫を仕留めてしまうという、なんだかよくわからないネーミングセンスに由来する。
食虫植物の有名なものとして、フィクションにも人間を捕食できるほど巨大なものがそのまま登場することが多い。また『スーパーマリオ』のパックンフラワーをはじめ、歯や花に牙がついていて獲物にかみつく植物モンスター自体が、この巨大ハエトリグサの葉の姿に由来している、影響されているといった例も多い。そうした食虫植物で最も有名なものとされるのがブラックユーモアホラー『リトルショップ・オブ・ホラーズ』(映画、ミュージカルなど上演例は数多い)に登場する、花屋の人気者だが実は人食い花だったという「オードリー2世」という植物型宇宙生物で、ビジュアル的にも直接にパックンフラワーの原型と考えられている。
AD&Dでは「ハエトリグサをそのまま巨大化した」という植物モンスターが存在するが、その名はMantrapとなっており、また獲物をとらえた後急速に酸でダメージを与えるという攻撃を行い、後述するRoguelikeの参照元とは異なると思われる。なお、その名と元の植物の女神の名の由来のためか、このMantrapから抽出できる成分は「惚れ薬」の材料にすることができる。
Roguelikeでは、初代UNIX-Rogueでは、モンスターの'F'シンボルがver4系のFungi, Violetからver5系でFlytrap, Venusに差し替えられて以来登場する、非常に由緒正しいモンスターである。プレイヤーキャラクターを捕らえ、動かなくさせる力があるが強力な攻撃力があるわけではない(実際のハエトリグサも、虫を完全に消化するには10日ほどかかる)。やや深層で登場するため、動けないうちに他のモンスターが現れるのが危険といえる。
*bandでは、Roguelikeの伝統的な怪物にも関わらず、登場するのはPernangband, ToMEのシリーズのみである。ミミックくらいの耐久力を持つ動かないモンスターだが、初代Rogue同様に麻痺攻撃を行ってくる。15階という、通常はまだ麻痺耐性を持っていない頃に登場するため、[Z]系のクローカーなどと同様の危険性を持つといえる。
キリス・ウンゴルの番人 Silent Wathcer 【敵】
トールキン『指輪物語』において、モルドールの入り口のひとつキリス・ウンゴルの塔の門番をつとめる、邪悪な霊が宿った石像。
その正しい名前は不明で、「番人」「物言わぬ黒々とした姿」としか記述されておらず、いくつかの資料では「Watcher 番人」のみと書かれている。Silent Watcherはこれらを組み合わせたICE社のゲーム、MERPでの名称で(邦訳MERPでは「物言わぬ番人」である)*bandでの呼称はこれに準じていると思われるが、和訳では[Z]板倉氏の案でさらにわかりやすく「キリス・ウンゴルの番人」とされた。
石でできた三つの体が組み合わさり、ハゲワシのような頭が三つある。玉座に腰掛けた形のまま石から削り出された石像にすぎないが、それを見る者は中に強力な意思・敵意が宿っているのを感じることができ、その精神的な威圧力によって侵入者は通ることができない。また侵入者に対してはけたたましい叫び声を上げてオーク軍に知らせることもできる。原作RotKにおいて、キリス・ウンゴルを通り抜けようとした指輪所持者らは、ガラドリエルの玻璃瓶(→参照)の力と例によってエルベレス(→参照)の名をとなえることによって、この番人らをひるませて通過する。
トールキンの作品には、こうした生ける石像、「ゴーレム」類の登場例が存外に少なく、目だったところではプーケル人(→参照)くらいのものである。この番人は、果たしてどういった経緯で作られたコンストラクト・モンスター(魔法構造物類)であるのか、ひいては本当にコンストラクトであるのかの正体も定かではなく、魔王、サウロン、あるいはモルゴスに従った聖霊、悪霊、死霊や、それらの霊が呪術によって石像に封じられたもの等、様々に推測できる。『トールキン指輪物語事典』ではなぜか「マイアールの悪霊」と書かれているが、この資料は分類不能なものを全て無根拠にマイアールに放り込むきらいがあるので注意が必要である。
何にせよ、こうした番人を構築・支配・制御するにはさしものサウロンもかなりの力を傾けていると思われ、このキリス・ウンゴルの塔がそれほど要所だということを意味している。キリス・ウンゴル(蜘蛛の塔)は大蜘蛛シェロブ(→参照)の巣の近くに配置された城砦であるが、サウロンがおよそ同格ながら手なずけている怪物シェロブへの牽制、またモルドールの知られざる出入り口という意味でも相当な要所と見なしているのであろう。
鷲の頭に、三つの体が組み合わさった像というのは、モルドールの位置と現代地球の対応から考えると、オリエントの原始宗教の神像などを思わせる。
*bandでは[Z]に登場し、以後アルダ系・非アルダ系問わず多くのバリアント([V]3.0系以降含む)に導入されている。特に『指輪物語』設定への意識が強いUnangbandでは、じかに"The Watcher of Cirith Ungol"という名になっている。各種の凝視による攻撃や、精神系の魔法は、原作の悪意ある意思を放ってくる点の反映であり、絶叫やモンスター召喚類の魔法を多数使ってくるのは、無論のこと援軍を呼び寄せることの表現といえる。移動せず、スピードもさほど速くなく、魔法を使ってくる頻度も決して高くないのだが、油断しているとモンスター大量召喚に囲まれたりするので、見つけた場合かなり注意して排除する必要があるだろう。
霧の巨人 Mist giant 【敵】
マイクル・ムアコック『エルリック』シリーズにおいて、『死せる神々の書』を求める旅で<霧の沼地>にさしかかったエルリックらの前に現れた怪物。大きさは四方8フィートあまりで、「巨人」という名ではあるが4本の肢腕があり足はなく、不定形生物に近い(こうした本来の姿とは一見あまり関係のないような名前がついた怪物は、しばしばムアコック作品に登場する)。霧をまとって現れるが、それ自体が非実体というわけではない。湿地に住む「食屍鬼の一種」とされ、人の命と魂をむさぼり食うという。「ベルベイン」という固有名詞がある有名な怪物だというが、霧の巨人が一体なのか他にもいるのかは賢人らの間でも定かではないらしい(伝承妖怪のようなものだろう)。のろのろと不気味な動きで、しかし実際の速度自体はかなりのものだという。この怪物に対して、エルリックの魔剣ストームブリンガー(→参照)は人間等に対するような劇的な効果こそ発揮しなかったものの、それでも効果があり、頼りにならない守護神アリオッチの若干の助けも借りて撃退する。
*bandでは[Z]以降に登場し、おそらくその名と不定形ということを重視して'#'シンボルになっているが、EVILとGIANTフラグがある。36階というノーマルモンスターとしては高いレベルの方に属するが、原作の有名怪物という設定ほどには強くはないかもしれない;とはいえ物語上さほど重要ではないので致し方ないかもしれない。「食屍鬼の一種」と魂を食うという設定からか経験吸収の打撃も持っているが、それ以外にはシンボルから驚かされるほどの特性はほとんど持たない。
禁断の護り手 Keeper of Secrets 【敵】
痛みをふるまう者、肉体の略奪者、偉大なる角、卑しき輩、スラーネッシュの殺戮者。ミニチュアウォーゲーム/TRPG『ウォーハンマー』において、それぞれ有力勢力である混沌神のうち、快楽神スラーネッシュの悪魔の一種で、混沌神に一種ずつの「グレーターデーモン」にあたる。
その姿は、「腕の余分にあるミノタウロス」というのだがそれもなんとか強いて言えば牛面と言えないこともないといった程度である。スラーネッシュ神自身も巨大な角を持つが、この上級悪魔も立派な角が特徴である。ミニチュアの多くの造形では、全体的には、腰布や装飾品をまとった痩せた人間型をしているが、その肌はどこか甲殻類の甲羅を思わせる硬質に覆われているようにも見えるものも多く(そしてその色はしばしば、快楽神スラーネッシュの扇情的なピンク色である)足や爪の形状などもカニが戯画化されて合成されているようにも見える。腕のうち2本は甲殻類のハサミになっており、1本には巨大な剣を持っているという造形が多い。
凶悪な殺戮の悪魔であり、「禁断の護り手」という名に反して他の二つ名も殺害者・執行者のものばかりだが、スラーネッシュが快楽神であることから、この上級悪魔も背徳的・冒涜的な「禁断の快楽」を比喩なり本当の意味なりで守護する者という意味からその名を持つと思われる。これほど強力な悪魔に護られる禁断の秘密とは、両性具有の快楽の神だけに、禁断のみさくら語の秘訣だとか何だとか、いかに口にするのを憚られるものかは想像に余りある。
*bandでは[Z]系のウォーハンマー系のデーモンの一体として登場し、<コーン>の渇血悪魔や<ナーグル>の偉大なる不浄、<ティーンチ>の変化の魔公といった他の混沌神のグレーターデーモンとともに、深層の強敵ノーマルモンスターの一体として登場する。無論のことこれらと共通する強烈な耐久力と攻撃力のほか、渇血悪魔などとは異なりアンデッドやデーモン召喚をはじめとする厄介な魔法も使ってくる。
金髪のケレゴルムの革製ラージ・シールド The Large Leather Shield of Celegorm 【物品】
ケレゴルムはアルダのノルドール・エルフのうち、シルマリルを作ったフェアノールの三男にあたる。ノルドールらのアングバンド包囲網のうち、五男クルフィンと共にヒムラドの地(長兄・次兄の治める最前線のすぐ背後で、後ろにはさらに弟らの地や灰色エルフのドリアスがある)を治めていた。
アルダ伝説時代の歩く爆弾七人衆と呼ばれる「フェアノールの息子たち」だが、主人公が務まるほど魅力的な長兄マエズロスと次兄マグロール、また名前以外が出た時には既に死んでいた双子の末弟アムラスとアムロドは、実際はそれほど悪者ではない。あからさまに問題人物としてじかに記述されているのは、真ん中の三人(ケレゴルム、カランシア、クルフィン)である。
ケレゴルムとクルフィンの治めるヒムラドは、「危険なフェアノールの息子らの治める地」としてドリアス、エオル、人間などから避けられ、これら関係者との間に憎まれ口を叩いたり叩かれたりする場面も多々ある。最もケレゴルムの憎まれ役ぶりが出ているのは、「べレンとルシアンの物語」にて、逃亡中のルシアンをかくまうと見せて監禁し、無理やり婚約しようとした一連の場面である。しかし、これはケレゴルムがルシアンの魅力にまいっただけではなく、シンゴル(灰色エルフの王で、ハイエルフ以外の中つ国のエルフの実質の最大権力者)の王女と政略結婚することで絶大な権力を手に入れてから、シルマリル探索を始めようという策士の面が現れており、何も考えず突撃するフェアノール自身や、カランシアなど(フェアノールの息子たちの中でも最も激烈とされ、キレまくる発言も見られる)とはまた違った一面を見せている(せいぜい中ボス悪役としての面だが)。
「べレンとルシアンの物語」に欠かせない忠犬フアン(→参照)は、もともとケレゴルムがアマンの地で狩のヴァラであるオロメから授かったものであった。ノルドールに親しいアウレのみならずオロメに目をかけられるほどであるから、(少なくとも一時は)ケレゴルムもそれなりの人物であったに違いない。しかしフアンは肝心要の場面であっさりとルシエンに寝返ることになった。なおケレゴルムは後に、ベレン・ルシエン・フアンらがモルゴスから奪ったシルマリルを、ルシエンの息子ディオルが持っているという情報により攻め込むが、ディオルに返り討ちにあうという実に因果な最期を迎える。
原典にケレゴルムの盾などは登場しないが、[V]から加えられているのは第一紀の名を冠した物品ということで、またアングバンド包囲網を担っていたということで盾が創作されているのかもしれない。(なお、*bandが多く参照しているICE社のアルダTRPG, MERPの設定では、ケレゴルムの下位装備の中に盾はあるものの、この時代の品としてはさほど高性能ではなく、固有の名称などもなく、荷重がない・水に沈まないといった以外に特殊能力もない。)
このケレゴルム盾には、[O]由来のアーティファクト解説によると、様々な生物の姿が刻まれている、というのだが、これはケレゴルムがフアンを授かった著名な狩人であることからも、また荒野ヒムラドの王であったことからもイメージされているためかもしれない。かなり手に入りやすく、四元素に光に闇と「基本的な」耐性が揃っているため、全耐性シールドの上位版として前半〜中盤あたりに活躍する機会は多い。
なお、PernAngband, ToMEでは、どういうわけか中つ国に支援にやってきた竜騎士/Thunderlordの軍団と同盟を結んだのはケレゴルムで、竜騎士の統領フ-ラル(またはThunderlordの長フラール、フレア)の強力な指輪は、ケレゴルムが与えたものという解説になっているが、創作にせよこの根拠はよくわからない。
→アングリスト →フアン
吟遊詩人 Bard 【クラス】
出典:吟遊詩人はRPGの冒険者としてはいわゆる「基本クラス」ではないが、語り部、詩人、歌い手、言霊使い、秘儀・伝承の伝え手といった存在は呪術師や魔法使いといった存在のかわりにしばしばその位置にあるもので、実質の神話伝承においても神秘的、鍵となる存在としてありふれたものである。ことに魔術において重要なのがケルトのバードで、これは宮廷や放浪の伝承詩人でもありながら、司祭であるドルイド(→参照)と同様に秘儀を司るとされた(しばしば同一視されたり、ドルイドがバードとして修行するとも言われる)。これが、RPGにおいて最初の吟遊詩人クラスであるAD&D 1stのバードが、ドルイド呪文を習得する由来である。(なお、AD&D 2ndでは魔法使系呪文となったり、3edではソーサラー同様の独自の歌魔法となったりして、バードのドルイド要素は消失し、漫画『バスタード』のシェラ・イー・リーなど1st当時を参照した派生作品のキャラにその面影を引きずるのみである。)
「詩人が魔術師であるから」という理由のみならず、「歌」そのものが呪文などとまったく同様に神秘的なものとして扱われるのもまたありふれたもので、例えばトールキンにおいても、『指輪物語』本編のトム・ボンバディルの描写をはじめとして、神話・伝説時代を見ると原初のアイヌア(神族)からエルダールたち、またサウロンに至るまで、ほとんどの場合その魔術は「歌」の形で描写されている。RPGに登場する「吟遊詩人」クラスは、ほとんどがこうした「歌」を特殊能力として用いるクラスとされ、このまま魔法使系とまったく同種別系統の「魔法」として扱われていることも多いのだが(名前だけは引き継いでいても、当初のAD&D 1stのバードの影響は少ないと言える。なおD&D 3eなどもむしろこちらだと言えるだろう)しかし一方、あくまで「歌」は「魔法」とはまるで別種の特性、ことに聞いた精神にしか影響しない、聴いた者すべてに影響する歌なので必ず敵味方両方にかかる等、「歌」の表面上の見かけに由来する魔法より極めて限定された効果であることも多い。これは、差別化のためにあえて行っている場合も恐らくあるものの、大半は上記の背景、魔法使と吟遊詩人が「しばしば同一」という背景・側面を考慮に入れずに、別物と決め付けている匂いも強い。
吟遊詩人というクラスで言えば、D&D系のバードは「芸人」であるため1st-3edまで通じて多芸な器用貧乏クラスである。また吟遊詩人を単なる「別種の魔法使い」として扱っているRPGはともあれ、上記のような変な特性を持たされたRPGのバードはやはりイレギュラーで使いづらいことが多い。
クラス:Pernangband/ToMEをはじめUnangband, [変]などに存在するクラスである。ことにPernAngbandでは、原作『パーンの竜騎士』において竪琴師は重要な存在であったため(竜騎士と領主らを描いた正伝的な話と、詩人らを描いた外伝的なシリーズが平行して進んでいる)最初はそれを念頭に追加されたと思われ、関連のアーティファクトも幾つかあった。現在のToMEでは『パーンの竜騎士』の要素は外されたものの、吟遊詩人はアルダ神話・伝説時代の歌の魔法を思わせるものとして残っている。なお、[変]でも英語表記がHARPERとなっているのは、PernAngbandの竪琴師が起源にあることの名残である。[変]を含め、歌の効果は割と初期のレベルから音波攻撃など強力な魔法的なものという解釈になっている。その能力をすべて発揮できれば決して弱いクラスではないものの、癖が強いため*bandシリーズのゲーム進行自体にかなり熟練したプレイヤー以外には推奨できないという、初心者非推奨クラスの代表格となっている。
吟遊詩人ダエロンの竪琴 The Harp of Daeron 【物品】
ダエロン(旧訳ではダイロンだが、シンダリン発音ならばどちらの表記にもなりうる)とは、アルダ伝説時代まで中つ国土着の全エルフを支配したシンダール(灰色エルフ)王シンゴルの宮廷詩人である。Daeronは「影の者」と読める由が『シルマリルの物語』巻末用語集にあるが、daerという語には「力」の意もあるので、その背景と功績から考えて「偉大なる者」、あるいは「力ある者」(アルダにおいて言葉、歌、ルーンに宿る力にかけて)の解釈の方が妥当に思われる。ダエロンは中つ国において歌を作った者としては史上最も優れた詩人とされ(これはエルフ種族問わずで、宝玉物語を後世に伝えたノルドールの詩人マグロールも及ばなかったという)また、中つ国でエルフ、ドワーフ問わず広く用いられるキアス(ルーン文字型のエルフ文字)を、発明したのではないが最初に整理したのがダエロンであり、最も古い一般的書式はアンゲアサス・ダエロンと呼ばれていた。ダエロンはおそらく神話時代から長くシンゴルについて最も有能な文人として働いてきたであろうから、彼の功績はこれだけでなく、文化面にもっと細かな業績が多数あっても不思議でない気もする(無論のこと、詩の様式や語法などが最も多いであろうが)。
しかし、こうした記録の一方で物語内での役割としてのダエロンは、シンゴルの姫ルシエンと英雄ベレンの仲を邪魔した単なる悪役である。実際のところルシエンの教育係でもあったダエロンは彼女に教え子として以上の感を抱いており(素晴らしい歌の数々がそのためできたと一応フォローはしてある)ベレンに嫉妬し、シンゴルに彼らのことを密告したというのが彼の唯一の役柄である(これは、初期原稿ではダエロンがルシエンに相当する人物の「兄」であったため、ルシエンをベレンにまつわる危険から引き離そうとしていた、という流れの名残と思われる)。ルシエンはシンゴルに幽閉され、脱出し、紆余曲折の末にベレンと共にアングバンドに乗り込むことになるのだが、王女が行方不明になった王国の民は嘆き、ことにダエロンはあまりの悲嘆にそのまま王国を去り、それきり永遠に行方がわからなくなった。明らかに自分にも原因があるのではないかという気がするのだが、ダエロンは中つ国の東に足を伸ばし、ルシエンの歌を伝えながら果てしなく歩いていったともいい、あるいはルシエンの物語は『指輪物語』時代にノルドール(上記のマグロールが伝えたものとされる)以外の形でも伝わっていた可能性もある。
「フェアノール文字」にしろダエロンの文字にしろ、これほど重要な言語を発明した人物が物語的には中々どうしようもない人物だったりつまらない人物だったりすることに違和感を覚える声をファンからはよく聞くが、文字の発明という極めて具体的なものなのでそう見えるのであって、神話や伝承の大人物というのはえてしてそういうものであろう。神話時代にはあらゆる功績が数少ない大物の業績であったりするが、そういう大物のすべてに役得までも回ってくるとは限らない。
原典には「竪琴」を使っていたという記述そのものはないが、リュートや笛等よりは雰囲気に合うことは確かである。ICE社のアルダTRPG, MERPでのダエロンのデータには、「ティンクリン」(シンダリンで「夢の琴」の意という)というハープがあり、これは吟遊詩人の魔法の類を全面的に大きく増幅させる魔力がある。
*bandには、ToMEにPernangband時代から楽器アーティファクトのひとつとしてこのダエロンの竪琴が登場する。神話時代や第一紀の、しかも吟遊詩人としては最も偉大な者の物品であるが、特に極端に強力だったりレアリティや階層が高いことはないようである。
グアサング The Two-handed Sword 'Gurthang' 【物品】
トールキンのアルダ世界、第1紀の人間(エダイン)の英雄トゥーリン(トールキン『クゥエンタ・シルマリルリオン』およびUnfinished Talesにそれぞれ1章が設けられている)の剣。その名はシンダリン(灰色エルフ語)で「死の鉄(剣)」の意である。
元々はアングラヘル(燃える鉄)といい、黒エルフの鍛治師『エオル』がアングウィレルと雌雄一対で作った剣で、隕鉄を鍛えて作られた(つまり、ICE設定ではガルヴォルン=アダマンタイト製ということになる)。巡りめぐってトゥーリンが使用するが、ナルゴスロンド(ノルドール(地エルフ)の都のひとつ)に迎えられた際、鍛え直されてグアサングと名付けられ、トゥーリンはモルメギル(黒い剣)として勲しをあげ恐れられた(なお、なぜか★『モルメギル』は別のアーティファクトになっている)。のちにトゥーリンはこの剣で竜族の祖『グラウルング』を倒すが(通るのを待ち伏せて下から腹部を刺したというのは、ノートゥングによるジークフリードのファフナー退治を思わせる)友人ベレグや恩人ブランディアも誤って殺した剣でもあった。トゥーリンは自殺する際にこの剣の上に身を投げ、その後剣は粉々に砕けた。
鍛えたエオルの邪悪さがこの剣にこもっている、というのはトゥーリンに会う人々(エルフの女王で半神のメリアンや、ベレグの友人グウィンドールなど)が口にするが、まさに非業を呼ぶ魔剣であり、のちのストームブリンガーなどのはしりとも言えるものがグアサングのエピソードには詰まっている。
なお、日本の解説サイト類ではこのグアサングが、ストームブリンガーやD&Dのインテリジェンスソードの「元ネタ」と書かれていることがある。トールキンが創作自体を行ったのはかなり前に遡るが、『シルマリルの物語』が刊行されたのは1977年なので、ストームブリンガー(『夢見る都』, 1961)やD&D(インテリジェンスソードの記載はOD&DのMonsters and Treasure, 1974)が、トールキンのグアサングを直接引用して作られた可能性は無い。これらは伝承の呪いの剣から別個に発したと思われる。一般に「トールキンがRPG風FTの引用元」と流布されているが、Hob.とLotRはかなり刊行年が前で、D&Dや初期FTに多大な影響を与えているものの、それ以外の大半のトールキン要素はかなり後であり、時系列上直接引用が不可能なので、注意が必要である。
*bandには[V]から登場するのだが、KILL_DRAGONフラグと申し訳程度のSLAY_TROLL, 麻痺知らずなどが揃っているものの、単なるエゴアイテム(竜倍倍打)と大差があるわけではない。[V]の、必ずしもアーティファクトが最強ではないという位置付けを示しているが、この上に強力なエゴなどが頻出する[Z]や[変]になるとさらにひどい位置に押しやられる。『シルマリルリオン』には「アングラヘルと並ぶのはアングウィレルだけ」という記述があり、おそらくアルダでも最も強力な剣であるはずであるが、この影の薄さは如何にすべきか。ToMEでは切れ味、焼棄、毒殺、生命力吸収などが追加され、いかにもアーティファクトらしくなっているが、果たして使えるか……
→ アングウィレル → エオル → ノートゥング → グラウルング
クァチル・ウタウス Quachil Uttaus, Treader of the Dust 【敵】
旧支配者。塵の中を歩くもの。スキヤポデス大明神。ラヴクラフト宇宙観に、そのエキゾチックファンタジーの創造能力から古代神・魔神・概念神といったさまざまなアイディアをつけくわえたC.A.スミスが、『塵を踏むもの』で創造した時間の化身である(大瀧訳『塵埃を踏み歩くもの』では「クアキル・ウッタウス」)。「カルナマゴスの誓約」という古書にのみ唯一記述された、ほとんど知られていない存在である。見かけは人間の子供くらいの真っ黒くしわだらけのミイラのような形だが、体は硬直して動くことはない。呼び出されると、犠牲者のもとに天から光の柱が現れ、その柱に沿ってこの姿が降下してきて、触れられた犠牲者は時間を加速されて老化、風化して塵の山になる。そしてこの小神はまたそのまま上空に戻ってゆく。あとに残るのは犠牲者の塵を踏んだこの神の足跡だけなので、「塵の中を歩くもの」という二つ名があるようである。触れた者(近づいた者)を問答無用で塵にするだけの存在なのだが、時間と死に関係する存在であることから、(CoCルールブックによると)不死を求めるためにこの小神に接触する者もいるという。なお、原作小説『塵埃を踏み歩くもの』では「古代の怪物の一種」とされ、特にラヴクラフトの神話に関連する記述はない。
*bandには[Z]以降登場し、44階という旧支配者のユニークとしては低階層に属するものであるが、時間攻撃・時間ブレスなどを持ち、しかも威力の方も馬鹿にならないためかなり厄介な存在である。原作やCoCルールのように問答無用で即死(塵)ほどではないのはありがたいかもしれないが、なぜか姿の似たゾンビを引き連れて出現(ESCORTフラグがある)、普通に歩いてやってくる、また、*bandにおける時間攻撃というのは時間逆転=若返らせる攻撃であって老化攻撃とは正反対である点、落ち着いてよくよく考えてみると本来のクァチル・ウタウスがあまり再現されているとは言いがたい。
クアシト Quasit 【敵】
AD&D 1stにおいては、小鬼「インプ」(→参照)はデビル(”秩序にして悪”の属性を帯びた悪魔)の最も小型のものという定義であるが、インプと外見・能力・規模的によく似た存在で、異なる属性を帯びた悪魔として設定されているのが、「メフィット」と「クアシト」である。メフィット mephit(火炎や毒や酸の属性をおびた小鬼として登場する)は、「毒気の霊」「汚濁の霊」といった意味で文献に見られる語形であるが、クアシト quasitすなわち「霧中の霊」(苦渋の霊とも読めるが)は、これらが基になった語のようである。
D&Dシリーズのクアシトは、「デーモン(”混沌にして悪”の属性を帯びた悪魔)」の小型のものだが、(カオティック・イービル・マスターの)下僕・使い魔となっている点、数多くの特殊能力などは、ローフル・イービル・マスターの下僕であるインプとほぼ同等である。卑小な生物で、透明化や心理・変身能力、毒、策略などを利用して戦うか、あるいはもっぱら逃亡する。
この原典にも関わらず、NetHackにおいては、クアシトは妖魔類('i')の一種であり「悪魔」扱いにはなっていない。スポイラー(weapons)にも特にAD&Dのプレイヤーはデーモン類と混同しないようにと注記されている。テングやレムレースなどのAD&Dの他の小型デーモン・デビルも同様なのであるが、これは、おそらく「悪魔」類は主にゲヘナに出現するものとされ、ゲヘナ以前の階層に登場する小型のものは便宜上、悪魔とは別種のものという点を強調するため、との説がある。しかし、バージョンによってはデーモン扱いになっている(銀の武器で焼かれた)という報告がある。AD&Dプレイヤーでないらしい報告者は「バグだ」と主張しているが、実際はこれがバグなのか故意にデーモンに戻されたのか否かは定かではない。騎士クエストで山のように登場するのは、悪魔の意か、騎士の背景であるケルトの妖魔の意か、これも定かではない。
*bandには、Moria以来クアシトとデス・クアシトの2種類が登場している。クアシトの方はインプより一階層下だが色ぐらいしか違いがなく、他には嫌な特殊能力の持ち主も多い'u'シンボルを見てぎくりとするくらいがせいぜいである。一方でデス・クアシトは中盤以降の強靭なモンスターであり、スピードに能力値減少、召喚系魔法など厄介な能力が多々あり、これらに対処できれば割と多い経験値に財宝と倒しがいのあるモンスターで、中盤以降けっこうな存在感を放ってくる。
クィム、イブン Khim/Ibun, Son of Mim 【敵】
ミムの息子。アモン・ルーズの小ドワーフ。なお*bandには「クィム」「イブン」の2体のユニークモンスターとして登場するが、同一の項目とする。「クィム」は新訳に従って一部バリアントでは「キーム」となっている。
アルダ第一紀(伝説時代)、ドワーフの一小部族「小ドワーフ」の最後の生き残りがミム(→参照)とその二人の息子クィムとイブンだった。ミムと息子らは、無法者の指導者となっていた人間の英雄トゥーリン(→グアサング等参照)と出会い、逃げようとしたので逆に怪しまれて捕らえられ、捕らえられた身代として、自分たちの隠れ家を無法者らの住居として提供することになった。が、このとき息子のうちクィムが、無法者らのひとりの矢にさされた傷がもとで死んでいた。ミムがなぜ息子を殺したトゥーリン一行をそれでも匿うことにしたか、あくまでそれがミム自身の命の「身代」となる行為なので割り切っていたとも考えられるのだが、後にトゥーリンとミムは友好的とはゆかないまでも語り合ったりもしており、またミムは後にモルゴス軍にトゥーリンと無法者らを売り渡すのだが、特に息子の復讐としてではない。おそらく、ミムはトゥーリンや無法者を味方につけることを、危険なモルゴス軍やまたエルフなどから身を守るため必要と考えた上ではないかと思われる。(ある意味、トゥーリンの父フーリンが、裏切り者ではあるが息子の死に対しては些細な責しかないミムを容赦なく殺したのとは対照的にも見える。)
さて、クィムの方はここで最期がはっきりしているが、イブンの方はその後もミムと共に記述があり、ミムがオークに囚われた際まで動向している記述がある。しかし、ずっと後にミムがナルゴスロンドに流れ着いた際はいなくなっており、この間に忽然と消えうせている。消息の記述はまったくない。正直、トールキン自身がこのイブンの存在自体を忘れていたのではないかと思える。あえて推測するならば、ミムと共に流れるうちはぐれたりのたれ死んだりしたと考えるのが妥当である。
*bandでは[V]以来、小ドワーフの一家が登場する。「悪意に満ちた小さな魔法使い」とあるのだが、無論トールキンにそうした記述はなく、小ドワーフは一応トゥーリンを裏切った悪玉であること、またエルフに疎まれた剣呑な種族であることから、邪悪なモンスターとして扱われているようである。無理やりにユニークの数を増やしたといえないでもないが、しかし、[Z]以降でニーベルング一家が定番モンスター化されるアイディア自体の元となっている。ニーベルング同様、前半における劣化攻撃がその特徴で、スピードがやや速いためもあって劣化を避けるためショートテレポートを駆使した遠距離戦になるが、回復も含めた魔法も多々あるため一筋縄ではいかない。この3体を潰すことが前半における関門のひとつといえる。
→ミム
クイルスルグ Quylthulg 【敵】
肉いアンチクショウ。モンスターを召喚する肉塊。何が出典なのか、しとしん氏や板倉氏をはじめ、[V]や[Z]の翻訳スタッフがひととおり調査したというが、原典を調べることはできなかったという。無論のこと、筆者も寡聞にして知らない。Angbandの遥かな原型であるMoriaから登場しているため、Evil Iggyなどと同様、Moria作者にわかるネタの一種であるのかもしれない。モンスターの思い出やタイルの絵柄を見ると、うごめく肉塊であり、おそらくモンスターをその肉塊から「生み出して」いるイメージらしい。原点はおろかMoriaの流れの他には登場例すら見つかっていないので、「クイルスルグ」という読みが正しいのかも判然としていない。英語版ゲーマーの間での一説には、AD&Dのゴミと肉の塊のようなモンスター'otyugh'(かつての日本のCRPG『ザナドゥ』では「オティフ」、日本語版D&D3eでは「アティアグ」と訳されている)と同じか似たものであり、この綴りを「読み取り違えた」ものに由来するか、あるいは故意に行って創作されたという推測もあるが、定かではない。
Moriaのクィルスルグに加えて、[V]からドラゴン、デーモン、グレーター、腐乱など上位版が数多く登場する。さらにユニークに『エンペラー・クイルスルグ』『クルズククルズップ』がいる。いずれも、自分は移動することがなく、ひたすら召喚を繰り返し、ときどきブリンク移動する。感知や明かりをつけずに探索していると、部屋の闇の中からモンスターが沸いてきて煙にまかれる、というようなことが起こる。さらには上位クイルスルグの場合、いきなり大量に召喚されて囲まれたりもする。移動せず、耐久力もACも低いので、見つけてしまえば対処できるが、広い場所で戦うなどの油断は禁物である。移動しないので、[V]や、特に[Z]ではLOSトリック(うまく視界外を選んで攻撃する)が有効であった。[変]では視界外でも召喚などはしてくるが、場所を選んで戦うのが重要なのは変わらない。
空鬼 Dimensional shambler 【敵】
下級の独立種族。残忍な悪意。ヘイゼル・ヒールド『博物館の恐怖』(H.P.ラヴクラフトの書き直しによる作品で、現在は共著として収録されている)に登場する生き物であるが、Dimensional shamblerという名はTRPG『クトゥルフの呼び声(CoC)』でつけられたものであるらしく、また「空鬼」という和訳もこのルールブックの邦訳でつけられた名であるらしい。
ルールブック付属のイラストによると全体的に人間の形と、たるんだ皮膚をした生き物である。原作の描写では「類人猿のような昆虫のような」「鉤爪がある」とあるが、きわめて唐突にそれらの描写と共に登場し、いきなり主人公をハリ倒して気絶させ、出番はそれっきりで、その後に一言の言及もない。どこから出現した何者なのかの説明もまったくない。
CoCルールブックでは、これは次元の狭間に棲む生き物で、獲物を狭間に連れ去る肉食動物であると定義している。また、賢明な魔術師は狭間を行き来する空鬼をうまく召喚し、利用することができる、とある。おそらく原作のものも、そうしてたまたま召喚されたのだろうとしか推測のしようがない。「特に不明瞭な生き物で名前と皮膚のこと以外何もわかっていない」とあり、なんでそんなものをわざわざデータ化するのかと疑問が膨らんでくるが、要はよくわからない生き物や定義があいまいな生き物をそれぞれ細部を適当に(個人ごとに矛盾が生じようと)描写するに任せる、というのがクトゥルフ神話の通例というところなのかもしれない。
*bandではクトゥルフ系の登場した[Z]にはなぜかおらず、ToME(PernAngband)に登場し、ほぼそのまま[変]にも取り入れられている。しかし、ToMEからのデータは「GOOD」フラグがついているのが相当に謎であるが、デーモン類ではなく'h'すなわちデミヒューマンのシンボルになっていることからも、単なる異種族であって邪神や奉仕者ではないという解釈なのかもしれないが、なぜそんな解釈にしたのかの根拠も不明である。階層、HPやAC, 経験が共通することから、「大天使」あたりのモンスターをテンプレートにして改造し、属性を変更し忘れたのかもしれないとも考えられるが、変更点も非常に多いので確かなことはわからない。次元の狭間に棲むものらしく、テレポート系を主とする魔法を使ってくる。
腐った死体 Rotting corpse 【敵】
NetHackで初心者が食ってのたれ死にするようなものではなく、その死体が動いて襲ってくるアンデッドモンスターを指す。「腐った死体」はRotting corpseの単なる直訳という以外の何でもないように見えるが、*bandにおいてこの訳語が採られているのは、『ドラゴンクエスト』シリーズであまりにも有名な同名モンスターを意識している、といわれている。であるとすれば、生前の名はきわめて高い確率で「スミス氏」である。
Rotting corpseはしばしばDQ以外のRPGでもモンスター名や表現、また単なるゾンビらしきものの別名、婉曲名として多用される(ただし、本来のヴードゥーのゾンビは腐ってはいない(→ゾンビ))。ゾンビがヴードゥー用語なので、そうした特定の領域の語を避ける為に単にこの語を用いている場合などもあり、名前でなく単なる形容詞として言及される場合も枚挙に暇がない。であるからこそ、RPGにおいてわざわざゾンビとは別にこれが「独立したモンスター」の名として用いられている場合、多分に似たようなビジュアルの「別の」モンスター、それも多くはゾンビ(大抵は最低レベルのモンスターである)よりやや強力なモンスターを別に捏造する必要ができた場合のことも多い。例えば、Wizardry Iにはゾンビとは別にいる、かなり強力なアンデッドモンスターにRotting Corpseの名が与えられている。上記したDQ世界のものは、他の生物が元や性質をもつものは「○○ゾンビ」といった名がついているのだが、それとは別にこの「腐った死体」が存在する。どれかといえば中レベルに位置し、やはり強力な方といえる。
*bandには、Moriaや[V]ではなく、[Z]系から[変], Tome, Gumbandなどのバリアントに登場し、例によって人間の死体からの「ゾンビ」とは別のモンスターとして加えられているものである。しかし*bandでは無印ゾンビより階層が低い、より弱いモンスターである。ただし、危険度という意味では、毒を持っているためむしろゾンビよりも危険かもしれない。わざわざ[Z]以降これが後から追加されたからには、何か明らかな動機となる引用元があると推測されるが、元々が非常に多用される表現であるため、直接の引用元は明らかではない。しかし、強いて言えば、Angband系列が多く参照しているTRPGルール『ロールマスター』(MERPすなわち指輪物語ロールプレイングは、ロールマスターを簡略化したものである)から引用し[Z]において追加したものとも推測される。
草薙之剣 Kusanagi-no-tsurugi 【物品】
出典:日本に神話時代から伝わる「三種の神器」のひとつとして信じられている品。『古事記』によると、須佐之男命(スサノオノミコト, 「素戔嗚尊」は『日本書紀』)が八岐大蛇(→参照)を退治した際にその尾の方から出てきた剣で、当初は天叢雲剣(アメノムラクモノツルギ)ないし都牟刈(ツムカリ)とも呼ばれる。天叢雲とは大蛇が巻き起こしていた風雲に因むと記述され、そのまま氾濫・嵐の化身である大蛇の由来が有力であるが、須佐之男自身の水神・嵐神としての権能や、もと鍛えたダイダラボッチ(タタラ神)の嵐の神としての性質に因むなどの説も数多い。一方、都牟刈は単に著しい武力もつ刈手の意とも思われる字があてられているが、ツムカリという発音の元来の意味は定かでないといわれている。天叢雲剣は天照大神に献上され、大和朝廷に伝わり、日本武尊(ヤマトタケル)が東国遠征の際に携え、火責めにあった際にこの剣で草を薙いで脱出したことから、「草薙之剣」(『古事記』の大蛇の箇所には「草那芸の大刀」)とも呼ばれるようになったとされる。
以後の日本史で、この天叢雲剣が辿った正確な経過は定かではない。厳密な歴史学でなければ世間によく知られているのが、本来の三種の神器は源平合戦で平家がほろびた壇ノ浦の合戦に持ち出され、宝剣は幼帝・安徳天皇らとともに水中に没した、とされるものである。しかし、別の祭器が混同された説、また三種の神器は代替品(現在も宮内行事で使用されるものを含め)がしばしば使用され、現にそれらを受け渡していると解釈できる記述もあるため、この説は有力でない(もっとも、現在他にそれと伝わっているものもそれはすべて同様といえる)。結局、日本武尊が残していった後に建てられた熱田神宮の神体がいまだに本当のそれだともいわれるが、調査などは神宮側から許されていないという。また、そもそもが、天叢雲剣(日本武尊以前まで神器だったもの)と草薙の剣(日本武尊が持っていったもの)とは、代替品で別の剣であるという説もある。神話ゆえに結局は辿ることは不可能なほど曖昧というのが実際であろう。
天叢雲剣の形状の有名な説として、この熱田神宮のものを垣間見たという江戸時代の記録があり、二尺八寸で刃の形は葛の葉に似ており、色は白っぽいとされる。鉄器の象徴(→八岐大蛇)とされる天叢雲剣だが、この記述を信じるなら(少なくともここにあったものに関しては)白っぽいことから錫などの別の金属ではないかとよく考察される。
天叢雲剣・草薙剣は、特に何かを倒したといった強力さを示すエピソードがないにも関わらず、伝承に出てきたということと、日本に実際に伝わる数少ないアーティファクトということで、和洋とわずゲームでの「伝説の武器」としての登場例は決して少なくない。例えばAD&Dでは最初期のDragon誌に「クスノギ・ノー・ツルギ(Kusunogi No Tsurugi, Sword of Grass Quelling)」のデータがある。これは抜き放たれると自動的に周囲の火を消し、火への耐性を与え、また植物をたやすく切り払い、植物モンスターに大ダメージを与えることもできる剣である(ただし、ドラゴンの体から出たため、なぜかドラゴンにダメージを与えられない、という特性がある)。また日本の皇族が代々持つというデータになっている「ジ・エンペラーズ・ソード(+5キーン・ダンシング・ヴァンピリック・サムライスォード)」もおそらく天叢雲剣のことなのだろう(現実的には、即位時に鏡と共に献上される須賀利御太刀にあたるとはいえる)。これを含めて、海外のゲームに登場する場合は名前はツルギ(本来日本語では反りのない直刀を指す)でも、ベースアイテムが「サムライカタナ」(カタナは反りのあるものを指す)であったり、しばしば名前までもクサノギカタナだったりすることも多い。しかし、これは別に海外の製作者の間で日本の直剣と曲刀の分類を混同しているばかりとは限らず、現に『古事記』においては草薙の剣を「草那芸の大刀」「都牟羽の大刀」といった記述も現れるのを、文中から直接に採っている可能性がむしろ高い。
日本のRPGにおける最も有名な登場例のひとつは、『ドラゴンクエスト3』においてそれも日本を模したジパングとヒミコ、オロチの一連のイベントと前後して登場する「くさなぎのけん」であろう。中盤で高い攻撃力を持ち、また戦士系でない賢者が使える武器である(草を薙ぐことから鋭利さや、やはり西洋剣よりは細身で扱いやすいものをイメージされていると思われる)。また防御力を下げるルカナンの呪文を使えるためボス戦などの戦法に利用されることもある。
登場する作品はいくつかあるが、その扱いは神話を思わせる側面を反映しているもの、いないもの等さまざまである。アーケードアクションゲーム『源平討魔伝』では、主人公の平家武者の怨霊が、なぜか源頼朝を倒すためなぜか三つ首の竜を倒して草薙の剣を手に入れる。RPGなどでは単に神剣の場合もあれば、火への耐性や水・風の属性を持っている場合もある。その中には、大蛇を倒して入手する剣ではなく、大蛇を倒すための剣となっているものもある(まるでグラムとバルムンクのような混乱である)。スサノオが活躍する士郎正宗の漫画『オリオン』では、ツムカリは巨大化した大蛇(九頭龍)の体内で見つかるが、大蛇の崩壊にも使われるという消化の仕方である。また本来とは逆に龍に効果があるとされたり水でなく火属性になっていることも少なくない(格闘ゲーム・KOFの草薙京などもその一例である)。神剣であるという点のみ重視され、インパクトの小さいエピソード自体に関してはさほど忠実に検討されていないという側面がありがちである。
物品:[変]において、八岐大蛇と同時に追加された物品で、八岐大蛇を倒すと4分の1の確率で落とす。ベースアイテムは(直剣であるにも関わらず太刀などにする海外ゲーム同様)カタナになっているが、おそらく日本系の物品であることの方を重視したのだろう。カタナのアーティファクトは他の多くはアグララングを参照して作られ、切れ味以外に特殊能力がなくベースダメージが大きいということが多いが、この草薙之剣は比較的攻撃力が低く、かわりにスレイングや耐性がかなり豊富に揃っている。この耐性は日本武尊のエピソードから、身を守るという効果が重視されたものであるらしい。
普通のカタナよりはダイス1個分ベースダメージが大きいものの、攻撃力自体は中程度で、八岐大蛇が60階代であることから、(基本と上位2耐性があるとはいえ)手に入るころはあまり頼りにならなくなっている可能性が高い。
→八尺の勾玉 →八咫の鏡
クトゥルフ The Great Cthulhu 【敵】
出典:旧支配者。大いなるクトゥルフ、ルルイエの主。H.P.ラヴクラフト『クトゥルフの呼び声』による、人間の認識力を超えた宇宙的恐怖の存在である(通例的な分類では)「旧支配者」のうち一体で、遥か昔に地球に飛来したが、現在は仮死状態で海底の「ルルイエ」の都に眠っている。(一方、弟子のダーレスがラヴクラフトを元に構築した、いわゆる旧神・邪神対立型のダーレス系「クトゥルフ神話」では、クトゥルフとその神は水の精だが、旧神によって海底に縛り付けられたことになっている。)
ラヴクラフトの別作品『ダンウィッチの怪』のネクロノミコンの記述によると、クトゥルフは<旧支配者>(ラヴクラフトによる定義は明確ではないが)の縁者ではあるが、それを窺うにとどまる存在、とされ、おそらくは神性そのものですらなく、それらの遠い末裔や、信奉する一種族のうち長老格に過ぎないといったものと思われる(それでも、後述するが超次元的存在であり、不死性を持つほど強大である。詳しくは「旧支配者」の項目も参照)ただし、後のこれを元にしたダーレス系の「クトゥルフ神話」では、後述するが最も有名な存在であるためもあって、重要な主神格(地水火風のうち水の化身)のひとつに位置づけられている。
ルルイエは遠い未来にいつの日か(または、旧神の封印が解かれた時)浮上し、クトゥルフとその眷属も完全に復活して世界を覆うと言われているが、星の位置などに従って一時的に遺跡の一部が水上に浮かび上がることがある。そのたびに半覚醒するクトゥルフの意識を、感受性の強い者は夢に感じ取ってしまうのである。このクトゥルフの「呼び声」によってクトゥルフの狂気の信仰が古来から秘密に存在し、その信仰とついで宇宙的真理の片鱗に触れる恐怖が、この作品の、ひいては、後の「クトゥルフ神話」すべての根幹となったモチーフである。
きこえるか
きこえるだろう
はるかな 呼び声
海の中 魂ゆさぶる 目覚め始まる
大地割り そそり立つ姿 狂気の証か
伝説の邪神の力 銀河切り裂く
雄たけびが 腹に漁船の一撃を呼ぶ
震えるな瞳こらせよ
復活の 時
人よ 魚人よ 始まりを見る
グレート・オールドワン クトゥルフ クトゥルフ
グレート・オールドワン クトゥルフ クトゥルフ
(『復活のクトゥルフ』 H.P.ラヴクラフト、某巨大掲示板過去スレより、詠み人知らず)
ルルイエに眠るクトゥルフは、太った人間型に蛸のような頭、蝙蝠の翼の、ふくれあがったような緑色の巨大な肉体を持つ。原作では(また、*bandが直接参照しているTRPG『クトゥルフの呼び声』ルールに従うと)腹に大型の船程度がぶつかると霧散してしまうが、その瞬間からゆっくりと再生しはじめやがて元に戻り、肉体は不滅である。なお、原作のこの描写に関して、なぜこの程度のことで霧散するなどという描写がわざわざあるのか不満が多く、これはクトゥルフ自身ではなく実はただの落とし子の一体に違いない、という意見もあったりもするが、おそらくは「再生する=物質的な力では滅びない存在である」ことを示すために入れられた、やはり不可欠な描写だったのではないかと筆者としては考察する。なお、TRPGルールのうちでもd20版のルールブックでは、ファンの考察としてそれ以前から少数派で聞くこともある解釈だが、クトゥルフは吸血鬼のように自由に霧にも姿を変えられるルールになっており、この描写を「霧に変化してかわした」場面だと見なしているようである。
クトゥルフはラヴクラフトの宇宙神話では最も重要な神格というわけではないが、旧支配者の中では、地球で人間の信奉者が最も多い者という設定から(主に後継者のダーレスらによる)「クトゥルフ神話」の語の元となっている。クトゥルフ、クトゥルーなど日本では何種類かの表記があるが、元々人間が発音する名前ではないため「正しいつづり方」というものはないとラヴクラフトは言っている(おそらく、旧支配者や神話生物らはすべて)。英語でのファンらの発音に似た「クトゥルー」がどれかといえば最も多いが、昔からのゲームでの呼び名「クトゥルフ」も根強い。「ク・リトル・リトル」はラヴクラフトがファンのひとりにおそらく冗談まじりに教えた発音だが、無闇なクドさに愛好者も多い。
敵:*bandでは[Z]系に登場する。クトゥルフ系のユニークモンスターの中では最も階層が深く、ラヴクラフトの提示した宇宙観の最高神アザトース、重要神ヨグ=ソトースやニャルラトテップよりも強敵になっている。これはクトゥルフ神話の「名の由来である便宜上の主神」であるということで特別扱いされているということであろうが、一方で前記の外なる神々は*bandではアヴァター(化身、神の超次元体の物理次元への投影図)としてしか現れていない、本来の強さからは微々たる部分に過ぎないという一部ファンの主張の裏づけともなる部分である。
敵としては、クトゥルフ系の敵全般が(たとえ悪魔倍打があったとしても)階層不相応に理不尽にしぶとく鬱陶しいが、無論のことその極めつけである。これで前記のように倒しても再生されたらやりきれないが、無論そんなことはない。特別におかしな戦い方はしてこないので、気長に戦うしかない。なお階層が近いこともあって、これも厄介な「クトゥルフの落とし子」が召喚されてくることも多い。
また、[Z]のクエスト「海底都市」や、[変]のルルイエダンジョンの最下層に鎮座している。
→クトゥルフ神話 →クトゥルフの落とし子
クトゥルフ神話 Cthulhu Mithology 【敵】【システム】【その他】
出典:20世紀初頭のアメリカの不遇の作家H.P.ラヴクラフトが創造した宇宙観を原型とする神話体系。古来の神話は自然現象の擬人化や、さらに人間原理的な宇宙内での人間の位置づけを根幹とするが、ラヴクラフトは、宇宙の真理は人間の思考・理解とは完全にかけはなれたもので、一片でも垣間見たものは人間の思考を逸脱する=狂気に陥る、という「宇宙的恐怖」を根幹とする宇宙観を作り上げた。それに触れた魔術師に応えるヨグ・ソトースや、また秘本ネクロノミコンや夢の世界を通じて現れるアザトースやニャルラトテップといった宇宙のエネルギー・概念的存在(強いて言えば神)、またその宇宙観を担う不思議な生物(太古から海底に眠るクトゥルフや、古のもの等)などに触れた人間の精神的、ひいては入り混じった血統などによる肉体的な恐怖などを描いた作品がある。トールキンやゼラズニイと並んで、完全に古来の神話とは考えを新たにし、なおかつ拮抗すると言うに値する数少ない近現代の創作神話である。
この宇宙観を元に他の作家も多数の作品を描き、要素を追加していったが、その一人オーガスタ・ダーレスはラヴクラフトの作品を紹介・保存する反面、クトゥルフら旧支配者「邪神」が旧神「善神」に対立し、人間は旧支配者を旧神の印で退け得る等、一言で言ってしまえば「RPGのような」世界観を広めてしまっている。ラヴクラフトの仲間内での交流に発するこの宇宙観は、C・A・スミスの風変りな古代神らや、R・A・ハワードらによる陰のある怪奇物など、友人の各作家が自分なりにそれぞれ独自の要素を加えており、ダーレスのそれも個々が当然に行っていたうちのひとつでしかない。しかし、ダーレスはラヴクラフトや各作品を普及させたこともあり、いわゆるダーレス系の解釈は多くの作家が踏襲することになった。その経緯もあり、クトゥルフ「神話」物という言葉自体は、厳密にはラヴクラフトの描いた宇宙よりは、いわゆるダーレス系のこちらの図式を指していることも多い。ダーレス系は、ラヴクラフトの宇宙の純粋な恐怖を薄めるとして、ラヴクラフト作品や後述のTRPG設定が先行した日本では特に避けるファンも多い。しかし、最も広義では、「クトゥルフ神話」というとあくまでラヴクラフトの宇宙観を中心・根底としながらも、ダーレスも含めて他の作品の要素も出来る限り取り入れたような世界観を指すことも多い。
とはいえ、各々の作家の描く「クトゥルフ神話」は時にはラヴクラフトとも矛盾し、まして他の作家相互では辻褄が合うこと自体がほとんどなく、あまりにもその言葉の含む内容は混沌としている。創作内においてだけでなく、実際のジャンルとしても支離滅裂な世界観の代名詞として使われるほどである。
それ以外に日本独自の傾向として、TRPGの『クトゥルフの呼び声(CoC)』(現・クトゥルフ神話TRPG)ルールブックのTRPG解釈が普及していることが少なくない。モンスターリスト以外にも、CoCルールブックのTRPGルールとしての解釈には、少なくともラヴクラフトや、該当する要素を描いた作家が直接言及したものではない、きわめて独自のものも数多い。具体的には、一例としては各作家の超自然存在の「外なる神」「旧支配者(グレート・オールド・ワン)」「大いなるもの」「唯一のもの」「旧き神」の分類などである。それらの存在の位置づけはラヴクラフトをはじめ他の作家らも明確に言及していなかったり、作家ごとに異なっていたりもするのだが、語の定義やどこに分類されるか等について、CoCルールブックの記述が当然のように流布されていることが少なくない。日本では場合によっては、ダーレス解釈が避けられるにも関わらず、CoC独自の解釈があたかも当然のように(CoC独自であるという注記なしに)流布されて子孫引き引用されていることも多いため、特に注意を要する。
「クトゥルフ」という旧支配者は決してラヴクラフトの宇宙観の根源的概念ではないが(「主神」格はアザトースである)、なぜ「クトゥルフ神話」と呼ばれるかというと、関連する神性の存在の中では地球の人間にとってはクトゥルフが最も信奉者が多くポピュラーとされているのと(→クトゥルフ参照)何よりラヴクラフトの宇宙観の代表作である短編『クトゥルフの呼び声』に因んでいるようである。
なお「旧支配者」に関してもエントリーを独立して設ける。
敵、システム、その他:*bandでは、[Z]からクトゥルフ神話の旧支配者・神らがユニークモンスターとして、他の生物も普通のモンスターとして登場している。TRPG『クトゥルフの呼び声』ルールブックに記述されている生物がほとんど入っているほどなので、そのウェイトは相当なものである。*bandのクトゥルフ系のモンスターは、種族にしろ神格にしろ、ほぼ『クトゥルフの呼び声(CoC)』基本ルールブックのモンスターリストがそのまま導入されているといってよい。例えば、小説やゲームなどを介してクトゥルフ神話ファンには有名な「モルディギアン」、「ヴォルヴァドゥス」、ニャルラトテップの化身「闇にさまようもの」などは、CoC基本ルールブックではデータ化されていないので*bandには入っていない。逆に、神格の化身にすぎない「黄衣の王」、「アフトゥ」などは、CoC基本ルールブックで独立したモンスターとしてデータが存在するため、*bandでもハスターやナイアルラトホテップとは別の「独立したユニークモンスター」としてデータ化されている、等である。
上述したように、CoCルールブックの解釈はクトゥルフ神話をTRPG的に定義するにあたって行われた独自なものが多い。*bandでは、例えば伝承のモンスター等を解釈するにあたって「実在の神話伝承の姿」ではなく、あくまで「トールキン」や「AD&D」を直接のベースにしているのと同様に、一般的なクトゥルフ神話(原作小説群や、そこから多くのファンが共通して把握できる解釈)ではなく、あくまで「CoC」ゲームをベースにしていると考えるべきであろう。無論、単に動く物は殺すだけの*bandのゲーム内では設定がどうあれたいした意味は持たないのだが、*bandの知識(モンスターの能力、序列や説明等)を外に持ち出す場合には、留意する必要がある。
なお、「モンスターの思い出文章」は、[Z]の原語ではCoCルールブックの記述、具体的にはCoCのモンスターの項で引用されていた各作家の原作の抜粋がそのまま転載されているのだが、和訳にあたってその訳だけでなく、簡単な説明も追加されている。しかし、その説明が(おそらくCoCルールブック未読の者によって行われたため)青心社『クトゥルー』シリーズの解説文などの内容が説明されているため、CoC準拠の*bandとは大きな食い違いが生じている。
クトゥルフ系の生物は、旧支配者・神は人間には力では対抗できないような純粋な恐怖的存在であるはずで、他の生物にせよ恐怖の対象としてであって「闘う」相手として創作されたわけではなく、それらがモンスターとして登場していることには異論もある。が、それでも、*bandでのクトゥルフ系の生物は、ショゴスなどのノーマルモンスターでも階層から比較するとかなり手ごわく、ほとんどが何らかの鬱陶しい能力を持っており、また太古の根源的恐怖(ELDRICH_HORROR)による「正気度チェック」と各種の精神能力の低下・精神的変異などを引き起こす。絶妙な「会いたくなさ」を表現できており、単なるモンスターに終わっていないと言える。40階あたりから出てくるクトゥルフ生物ピットは見たら別の階に逃げるか*破壊*確定である。
また、[Z]の比較的初期から派生したCthangbandは、[Z]での扱いに加えて、ラヴクラフト作品のドリームランド(『幻夢郷カダスを求めて』などに登場する、主人公が夢から入り込む異世界で、他のラヴクラフト作品の生物や神らも住んでいる。地理も詳しく記述されている)を舞台にしている。ドリームランドはラヴクラフト/クトゥルフ世界をRPGで使用するためのまた別の有力なアプローチであろう。またCthangbandには、クトゥルフ作品の物品も数多く追加されている。スキルシステムの採用も、TRPG『クトゥルフの呼び声』を思わせるかもしれない。
→旧支配者 →クトゥルフ →正気度チェック →H.P.L
クトゥルフの落とし子 Star-spawn of Cthulhu 【敵】
上級の奉仕種族。眠る者たちの総督。大いなるクトゥルフ(→参照)と同じ種族の、すなわち首領のクトゥルフよりは劣った同型の種族。
小説『クトゥルフの呼び声』をはじめとして、ラヴクラフト作品内には「クトゥルフとその眷属」としか書かれておらず、この眷属とは同類の異界生物ではあるがさまざまな姿の有象無象のたぐいを指している可能性もあるのだが、おおむねこの眷属としては同型で力の劣る同族が共にルルイエに、または別の深海に眠っていると解釈するのが主流のようである。つまり、大いなるクトゥルフも「この種族」の最大のものに過ぎないというわけだが、クトゥルフをより神性的なものと解釈する作品などの場合は、ツァトゥグァの落とし子などと同様、クトゥルフ神(彼自身はおそらくもっと別の姿をしているだろう)がじかに産み落とした子であると解釈する場合もある。CoCルールブックで記述されているStar-Spawnも、どちらでも解釈可能としてのことらしい。
CoCルールでは、クトゥルフと異なり神性はおびていないが、単純な力においては下手な旧支配者に匹敵することもある種族である。何にせよ、その姿と位置づけ・強力さから、「深きもの」その他の大いなるクトゥルフに仕える様々な奉仕種族たちの中にあって、「上級司祭」の役割を果たしているという。特にルルイエに住んでいないものは、地方のクトゥルフ信奉の要になっているのだろう。
大いなるクトゥルフの持っている能力の、どの程度まで落とし子の方も持っているかは定かではないが(というよりも、各キーパーに任されているのだろう)かつてのCoCのイラストブックでは、クトゥルフ同様自分の身体を自在に伸縮できるようで、その巨体を支えるために翼を異様なほど巨大化させて飛翔する姿が非常に印象的であった。
さて、なぜクトゥルフの眷属がタコの姿をしているのかは、ラヴクラフトが魚介類が嫌いだったという単純な理由もあるが、触手もつ大生物であるタコへの恐怖が英米ではかなり強いということと、それが深海と宇宙の深淵への恐怖と相まって異星・異界生物によく用いられるシンボルという背景がある。クトゥルフの眷属とマインドフレア(→参照)の外見は酷似しているが、(権利に敏感なD&D系の背景もあって)非常に長い間、直接的なつながりは全くないと主張され続けていた。しかし最近のD&D 3eおよびCoCd20では、マインドフレアが信奉する神格の中にクトゥルフがある。こうなると逆に、あたかもホビットを兎呼ばわりされて必要もなく反駁したくなるトールキンの気持ちのような残念さが残る。
*bandでは[Z]以降に登場する「クトゥルフの落とし子」は、最大の力と最も深い階層をもつノーマルモンスターのうちの一体である。クトゥルフと同じくらい強いのではないかという錯覚さえ抱かせ、無論そんなことはないのだが非ユニークとはとても思えないほど凶悪であることは確かである。CoCでは直接攻撃以外を持っているわけではないが*bandでは上級デーモンの常で凶悪な魔法やブレス(なぜ火炎まで吐くのか定かではない。モチーフに龍が含まれているためだろうか)が目白押しである。[Z]当時はルルイエクエストに大量に生息していた他、最深階で悩まされる機会も多い。
クトーニアン Chthonian 【敵】
上級の独立種族。触肢のある穴掘り怪物。『クトゥルフ神話』にて、人知れず地球の地下に数多く隠れ住んでいると言われる人知を超えた生物の一種。巨大な芋虫が先端に触肢を備えているようにも見え、このため烏賊が逆立ちしたようにも見える。体長はそれこそ芋虫くらいから千年をかけて数十メートルに及ぶ。(現在、最も巨大に成長している個体は「シュド=メル」(→参照)と呼ばれる一体で、RPGでは旧支配者の一体に数えられる。)成長したクトーニアンは人間より若干上の知能と、吸血、テレパシー能力(他種族を操ることもできる)をもち、マグマを自由に突き進み、単体もしくは協力して「地震」を起こすことができる。そのスケールは1体につきマグニチュード1弱で、協力すると単純計算で足してゆくという洒落にならないものである。なお、名前の響きがクトゥルフとその眷属と似ているがほとんど関係なく、『銀河漂流バイファム』の異星人とはもっと似ているがもっと関係ない。
クトーニアンは70年代になってからクトゥルフ神話に参加した有力な作家ブライアン・ラムレーが『地下に棲むもの』で描いた生物である。ラムレーはクトゥルフでも「タイタス・クロウ」シリーズなどで有名であり、いかにも英国の恐怖小説作家らしく怪奇・オカルト・数秘推理物を取り入れている作家である。しかし、このクトーニアンが他作品やTRPGなどでよく言及される重要な種族となっているのは、ラヴクラフトの描いた独立種族(ある意味RPG的に通俗な「邪神」やその下僕ではなく、かつて人間の前に栄えた「謎の生物種」として、そこはかとない宇宙観が強い)を思わせることと、ギミック的にかなり使いやすいことからよく使用されるのであろう。単体で人間界に大パニックを引き起こすことができるが、現れたからといって世界が終わるというほどではなく、単独でも手下を操る役としても活躍させることができる。
*bandでは[Z]以降登場し、中レベル(39階)の敵であるが、強力な地震攻撃を起こしながら岩を掘って進んでくるのでかなり強く感じる。また、なにげにデーモン召喚能力なども持っているので油断してゆっくり殴っていたりすると、いつのまに画面が地震とデーモンでぐちゃぐちゃになっていたりする。クトゥルフ系ではまだくみしやすい敵の方に入るが、できるだけ避けたいものであろう。
→シュド=メル
グノフ=ケー Gnoph-Keh 【敵】
上級の独立種族。氷の伝説。毛むくじゃらのもの。CoCルールブックなどでは「ノフ=ケー」と表記されている。H.P.ラヴクラフトの創造した、角と6本足を持ち長毛に覆われた極北の怪物。*bandの思い出文章に引用されているヘイゼル・ヒールドとの共著『博物館の恐怖』などでは、グノフ=ケーは「神話上の生物」とあり、個体の名とも種族名とも取れるのだが、個体(神格)の名として、同作に登場する旧支配者ラーン=テゴス(→参照)の化身である、という説(リン・カーターの神話解説など)もある。しかし、ラヴクラフトの『北極星』などの作品では「種族」の名として扱われており、あるいはグノフ=ケーという名の神格を信奉する種族に同じ名(グノフケ族)がついているなり、ひいては、人間がそうした種族をさらに信奉し(深き者の大個体を信奉する教団のように)変貌していったものを指すなりといった説もある。CoCルールブックでは、ラーン=テゴスではなく同じ寒冷地の旧支配者イタクァに関連する種族の名、という定義でデータ化しており、それに準拠しているらしき*bandでも同様と考えられるので、以下はCoCゲームでのその種族に関して記述する。
CoCでのグノフ=ケーは、上記したような深い毛を持つ、人間よりかなり大型の怪物種族で、旧版では犬系の猛獣を思わせる容貌をもつが、新版のルールブックの記述とイラストでは、鼻の部分にユニコーンのような角の生えた巨大なシロクマに見える。寒冷地にかなりわずかに生き延びている生物だが、イタクァの信奉者として人間に対してはかなり凶暴にふるまう。知能は人間並以上だが、発声器官が人間の言葉に向いていないため、人間語は話せない。しかし、イタクァへの祈りがときに人間に聞き分けられることがあり、その得体の知れない発声が寒冷地の人々に恐れられているという。CoCルールのグノフ=ケーは、イタクァから授かったという吹雪を操る能力と、氷のオーラを身にまとう能力を有する。
*bandでは[Z]以降26階のノーマルモンスターとして登場する。希少種であることの反映か、単独で現れる。元の個体能力が人間より遥かにまさるとはいえ、「モンスター」としては平均的な位置に収まってしまっていると言え、正気度チェックなどのクトゥルフ系の厄介な能力や召喚魔法も持っていない。ただし、CoCのそれを反映した氷の魔法に関しては酷寒の矢も含めてかなり強力なものを持ち、冷凍打撃、氷オーラを含めてその攻撃力には注意を要する。
→イタクァ →ラーン=テゴス
首なし Headless 【敵】
古典CRPG『ウルティマ』シリーズにUl4以降に登場する怪物で、人型(大きさは後述するように差がある)だが首だけがない生物。魔術師の実験の失敗であるとか、(その真偽も含めて)正体はそもそもが不明であるとか、Ul4-7のマニュアルの記載でも一貫した記述になっておらず不明である。魔術師が作ったとしても、どうもモンデインやミナクスのような歴史的な魔人の軍勢としてではなく、名の知られていない者によって作られたようである。
Ulシリーズ独自のモンスターに共通することだが、例えば、FC版Ul4にも登場するので、日本のゲーマーも少なからず目にしたことがあるはずなのだが、このFC版Ul4はモンスターの名前が一切出ないので(戦っている時の表示ですら、「てき1」等としか表示されなかったりする)名前はほとんどと言っていいほど知られていない。Wizardryのモンスターに比べて、Ultimaのモンスターは概して日本のゲーマーへの認知度では不遇である。
シリーズに共通して、装備が少なく獰猛な打撃能力のみで戦う。首をはじめ感覚器の類はまったく無いが、なぜか周囲を把握することに不自由はなく、同等の体躯の専業戦士にひけをとらない戦い方ができる。ただし、目玉(頭)の怪物であるゲイザーに索敵を任せるのか、組になって登場することもある。
首がない人間という以外の特徴、体躯などの姿はシリーズの各作によってさまざまである。Ul4のドット絵では棍棒を持った人型だが、さほど強くはない。Ul5のマニュアルでは、やせこけて食屍鬼めいた姿、Ul7のマニュアルには、たくましい人間(の首がないもの)がふんどし一丁でポーズを取っている(素手である)図版がある。Ul4-7の時点では人間と大きく違わない大きさのものだったが、『ウルティマアンダーワールド』あたりからかなり大きさも強大化している。『アンダーワールド』のものはその細部のデザインもあって、発想元とも思われるラヴクラフトのガグを思い出させる。なお、開発中止に終わったUl10の予定ではやや細かい設定があり、Ul5に似た人間大かやや小さい痩せた姿で、精神のない魔法生物的な存在とする予定であったらしい。
*bandでは、[Z]以降にゲイザー等と同様にUlシリーズからの引用モンスターとして登場する。シンボルは人型のpでも巨人のPでもなく、「雑種」をあらわす'H'になっており、Ul未プレイの*bandプレイヤーに正体がわからないと思わせる一因となっている。モンスターの思い出文章によると「魔法の突然変異によって作られた」となっており、Ulシリーズの中でも公約数的な設定を採用しているようである。27階と、いわゆる人型モンスターとしては深層であるが(やはり「巨大」でないものでもUl4-7のような人型よりは大きいのかもしれない)巨大首なしと異なり、恐怖の呪文(おそらくは見かけが恐怖心をあおることの表現と思われる)以外には特殊能力はなく、打撃能力も特に強くはない。ただし、耐久力は相応に高い。
→巨大首なし →首なし幽霊
クフ王 Khufu, the Mummified King 【敵】
ミイラ。として*bandには登場するのだがこれは無茶な話であり、古代エジプトのファラオでも最も有名なひとりの名であるためマミーのユニークの名に使われているのだが、クフ王自身のミイラが見つかったことはなく、そもそもこの王のミイラが存在するかどうかすらも定かではない。
クフ王は紀元前26世紀のエジプト初期第四王朝の王のひとりであるが、ギザの3つの「大ピラミッド」のうち最初で最大のものがクフ王の墳墓である、という説からきわめて有名な王である。しかし、この大ピラミッドが最初調査された(9世紀にイスラム教徒による)時から石棺の中は空で、朽ち果てた痕跡すらも見つかっていない。盗掘されたなり、真の埋葬場所(後の王朝における「王家の谷」のような)があるなり、巨大なピラミッドにはまだ隠された部屋があるなりといった説もあるが、それ以前にこのピラミッドが形式上たりとも墳墓なのか否かさえもわかっていない。そもそも王や王妃の墳墓の部屋といった名も、見つかった石の箱が棺らしく見えたため後代につけられた名にすぎず、そしてこれがクフ王が建造したという説ですら、中に見つかった象形文字にクフの名が見つかったというもので曖昧な部分を残している。
クフとは「クヌム神(粘土細工を行う創造神、顔変えオインゴのアレ)に祝福されたる者」の意であるが、その生前史については何しろ4500年以上前なので当然ながらほとんどわかっていない。ヘロドトスの史書(神話伝承に膝まで両脚を突っ込んでいる法螺話的側面も強いが)には、ケオプス(ギリシア読み)王は膨大な奴隷を酷使してピラミッドを築いた暴君であったという「エジプト神官からの伝聞」があるが、現在ではピラミッド建設一般が不況対策の労働提供事業であったという説が有力であり一概には信じられない。一方でパピルスの聖なる説話にこの第四王朝のクフの名が用いられていることもある。どちらにしろ、大きな権力を持ち、影響力が強かったことが推測できる程度である。
*bandにはなぜだかToMEに登場し、説明には「墓を汚した者への復讐のため蘇った」とあり、大ピラミッドが略奪された説に対応しないでもないが、特に深い考えもなくエジプトの呪いのファラオとして出されている可能性の方が高い。王のミイラ(グレーター・マミー)より、階層は低いのだがかなり強力である。zシンボルと共に現れ、ミイラに共通する特性のほかにそれらしい魔法の数々を備えている。
→ミイラ
クブラゴル The Light Crossbow 'Cubragol' 【物品】
[V]以来、アルダを舞台としたバリアントに共通して登場するクブラゴルという名のクロスボウは、筆者の確認した限りではトールキンの記述には見当たらず、その由来は厳密には不明と別の箇所では書いている。
しかしながら、ICE社のTRPG, MERPの設定において、半エルフのエルロンドの二人の息子のうちエルラダンのもつ弓に、この名がついている。MERPのクブラゴルは、タサラング(弾性を持つ魔法金属)とオガムア(弾性の非常に高い謎の樹脂)で作られた弓で、名の通り非常に早く射撃することができる。しかし、普通の長弓であり、クロスボウではない。他にも*bandのクブラゴルと共通点らしきものは見当たらない(とはいえ、同じ武器とはっきりしているものであっても、*bandとMERPではかなり共通点が少ないことが大半なのであるが)。
実際のところ、「cu 弓 bragol 突然(素早い)」というエルフ語はかなり容易に発想できるものなので、おそらくMERPと[V]で別々に創作されたもので、名前が一致したのは偶然ではないかと筆者としては考えている。あるいは[V]のものはMERPの名のみを参照して作られたのかもしれないが、基本的には別であろうと考えられる。
MERP設定では、他にエルラダンにはグアスドゥアという剣と、メネルコルロという衣の防具の設定がある。もう一人のエルロヒアの弓はクーカラン(赤い弓)、剣はゴルドゥアで衣は同じである。ケレボルンのように、より上質の装備ながら装備には名も特殊能力も何もついていないような人々に比べれば、MERPではこの二人はかなり良い扱いである。あるいは、この「エルロンドの息子ら」は、立場的に非常に重要人物ながら活躍はほとんど空白で、またかなり長期間中つ国におり、『指輪物語』以後の第四紀にも残っているので、いわゆるNPCとして活躍させやすいため優遇されているのかもしれない。
*bandでは、クロスボウのアーティファクトを追加するために創造されたものと考えられるが、速度+10と強力射、矢に炎をまとうことができる点が特色である。この炎の矢とは、もし[V]独自の創作であるとすればbragolの名の直接の引用元であるbragollach(俄に炎流るる)を意識したものとも考えられる(エルロヒアの弓クーカランをも意識している可能性もないでもない)。名前は速度+10からつけたものであろうが、この速度と強力射、炎の矢を加えても、純粋に飛び道具としての重要性はバルド弓やベルスロンディングに比べて今一歩というところで、射撃の命中・ダメージ修正もだいぶ劣る。一方で射撃をさほど重視しないクラスで射撃力と速度の両方の補助として重視されることも多い。
[Z]系ではブランド弓(→参照)に差し替えられているが、アンバーの王子ブランドのクロスボウも原典ではさほど目立った能力があるわけではないので、単に「クロスボウのアーティファクト」というだけで差し替えられていると考えてよさそうである。
→ブランド弓
グラウルング Glaurung, Father of the Dragons 【敵】【物品】
龍族の祖。アルダの第一紀にモルゴスが作り上げた龍の中でも、火炎を吐く(ただし、空は飛ばない)最初のもので、そうした類の龍のすべての祖でありかつ最大のものである。最初に現れたのはモルゴスがエルフ軍を手ひどく破った「第五の戦い」で、いまだ成長しきっていない状態であったが、エルフや人間の軍に脅威を与えつつもドワーフ王アザガルに追い払われた(トールキンの構想では、龍の宿敵はドワーフという構図のようである)。しかし成長後は、ノルドールの都ナルゴスロンドとその宝を強奪し、トゥーリンによって倒されるまで(→「グアサング」参照)猛威をふるい続けた。さらには、トゥーリンと家族の非業の多くはグラウルングの邪言と呪いによるものである。トールキンは龍の凶暴ながらも狡猾をきわめるイメージに生涯魅了され続けていたが、このグラウルングは単なる龍の祖という点のみならず、暴威と魔力・神秘をあわせもつ、ファフナーなどのイメージが最も色濃く反映されたひとつである。
龍は偉大な存在ながら、アルダ形成以前から存在したマイア等ではなく、あくまでモルゴスが造った生物の最高傑作ということになっている。しかし、トゥーリンと喋る場面に「彼の中の邪悪な精霊が口をきいた」というくだりがある。この和訳では「精霊」となっているspiritが、原語では単なる「精神」の意に過ぎないのか、はてまた、龍でも最も強力なものは(おそらくバルログや巨狼のように)実は魂はマイアの精霊でありモルゴスが猛悪な肉体を作って与えているという意味なのかは定かではない。
ファフナーの伝説には、龍の血には浴びた者を不死身にするなり、もしくは飲んだ者を世界で最も賢くする(あるいは動物の言葉がわかるようになる。伝によっては、龍の肝や心臓を食べた者)等とあるが、グラウルングの血はこれらとは異なって煙を上げる猛毒であり、トゥーリンを傷つける。伝承を重視するトールキンには珍しい差に見えるが、「ドラゴンが炎を吐く」という通説が、唾液や息が焼けつくような猛毒であるという伝承の誤伝に発していることの反映と思われる。
なお、指輪画家のうち怪物や鎧武者の第一人者ジョン・ハウの画では、アルダのドラゴンはそれぞれが個体ごとに非常に異なる特徴的な形状に描かれているが、中でもグラウルングはまるで「ばかでかいイグアナ」か何かのようで、あまりにも無骨である。
*bandでは[V]から登場する。ドラゴンの祖の名にたがわず、あらゆるドラゴン('d''D'シンボル)を大量に呼び寄せる能力は無論のこと脅威ではあるが、原典では第一紀で最も恐るべき存在のひとつと言えるにもかかわらず、階層はさほど高くなく(48階)、さらに階層としてはさほど攻撃力も高くはない。一般にアルダのユニークドラゴンはなぜかこういった扱いで、また、ある程度以上の階層には出てくるのだが、アンカラゴンやグラウルングのような一二を争うような強力なドラゴンでさえも、どういうわけかさほど高い階層にはなっていない。(ただし、EyAngbandのようにきわめて強化されている場合もある。)
なお、原典ではアンカラゴンともども古語で喋るので、[Z]以降では翻訳の板倉氏がいかにもそれらしい台詞を考えて独自に追加している。
また、[O]には「グラウルングの血のワンド」という強力な酸のドラゴンブレスの魔法棒のアーティファクトが登場する。
→グアサング →ドワーフ王アザガルのマンゴーシュ
グラーキの奴隷 Servant of Glaaki 【敵】
下級の奉仕種族。崩壊する奴隷。これはラムジー・キャンベル『湖の住人』に旧支配者グラーキと共に登場するアンデッドの従者で、いわゆるクトゥルフ神話のクリーチャーに含まれる「アンデッド」としてはポピュラーな代物である。
グラーキは周囲に住む人間に悪夢を送り、洗脳して奴隷にする「夢引き」という儀式によって信者=従者を増やす。夢引きによってグラーキのいる湖の湖岸にやってきた人間の前に、グラーキ自身が現れて、そのトゲを突き刺す。その人間はトゲの毒が注入されると共に死亡し、トゲは体内に枝を張り数日で抜け落ちるが、残った網目状の赤いマトリックスの力によって、その死体はグラーキのアンデッドの奴隷となってしまう。(トゲや毒の注入が不完全だと、死ななかったり奴隷にならなかったりアンデッドにならなかったりといった不完全な状態にもなり得るという。)
グラーキの奴隷は死体ではあるが、知能も持っており独自に行動できる(CoCルールでは、ほとんどが呪文も知っている)。しかし自らの意思をもつというよりグラーキと記憶を共有する端末のような存在である。しばらくは普通の人間の姿を保ったままに見えるが、だんだんひからびてゆき、60年も経つとミイラのようになってしまい、この状態で日光を浴びると「緑の崩壊」と呼ばれる現象を起こし、2〜3時間で塵になってしまう。
*bandでは[Z]以降、他のゾンビ等と並んで登場する出現頻度の高いアンデッドである。申し訳程度にアンデッドらしい病気攻撃を持ち、また呪いや恐怖呪文を使ってくるのは、呪文よりもむしろアンデッドである外観などによるものかもしれない。また、光を当てられると、*bandでおなじみのシステムである光によるダメージを受け、つまり*bandに登場するものはすべて「緑の崩壊」を起こしうる、半世紀以上を経たグラーキの奴隷ということらしい。オーク等と同様に集団で登場するためロッド等で効果的に倒すことができる。が、逆に、このグラーキの奴隷と他の'z'シンボルモンスターを混同し、光で倒せないものにロッドを浴びせたりする弊害の方が問題である。
クラーケン Kraken 【敵】
クラーケンはスカンジナビア語の「極地 krakeの者」に由来し、ノルウェーに伝わる巨大な極北の海の怪物であるが、それ以外の点で姿や性質などに定説はなく、ある意味巨大な海魔に対する曖昧な総称ともいえる。あらゆる南北の海の怪物(→カリュブディス →ファスティトカロン →リヴァイアサン)のいずれの説話とも混ざり合っているとおぼしき数々の説が見られるが、一応は『ノルウェー博物誌』の、背を島のように海面から出した怪物という記述が定説とされ、また大型のタコ・イカを見誤ったことに発する伝承であるという説から、それらの怪物であるという定義も有力だが、詳しいことは神話伝承関連の専門のサイトに譲り、ここではゲームにおけるクラーケンのものに絞る。
AD&D 1stの時点から、RPGのクラーケンは巨大なタコ・イカ類として表され、また両者の長者であるという定義から、両者の性質があわさった怪物という定義になっている。D&D系では基本は全長60mほどのイカで足がタコのように8本となっているが、ゲームによってはタコがベースであったり、他の要素が混ざっている。単なる巨大生物(ジャイアントアニマル)の類ではなく、知能もきわめて高く、めっさりと呪文能力を持っている。その「格」は非常に高く、上位のドラゴンに匹敵する存在とされる。また、ICE社のMERP(指輪物語ロールプレイング)では、指輪物語のモリアの場面に登場する『水中の監視者』(→参照)の種族の名を水の上級の魔物としてクラーケンとしており(ただし原典では無論、触手の怪物としかわからず、姿はタコ・イカの類であるかは定かではない)ここではクラーケンはマイア(神族)の一種である。
以後のRPGでも『ブラックオニキス』の井戸の底の生命力振り切れ、『ザナドゥ』の各種ボスキャラなど多くが、この定義と格に準じていたが、のちには単に「タコ型モンスター」(やや大きいだけのジャイアントアニマルとしてのタコや、さほど強力でないものも含めて)の総称が「クラーケン」と誤解される場合もかなり多い。またモンスターなのでなんでもありという見地からか、水辺や水上・水中でなく、陸上で平然と遭遇するといった例もまったく珍しくない。
余談だが、とある和製RPGで水の上位の「精霊」の名を「クラーケン」としているものがある。このゲームでは風や火の上位精霊をアラビア由来の「ジン」や「エフリート」としているので、水の上位精霊を同種のアラビアの魔神である「マリード」としない理由はまったく見当たらないように思われる。逆に、これらの魔神のAD&Dに強いイメージ、ないし宗教色に反発し、ジンやイフリートに対して水や大地の精霊は無理矢理別のものを採ったとも考えられるのだが、しかし中でもよりもよって、上記したように曖昧で誤解を招きやすく、D&D系のモンスターとしての設定イメージの強い影響を持つ「クラーケン」という語の選択が妥当なものであるかは甚だ疑問がある。
*bandでは、水地形が取り入れられた[Z]から仔、レッサー、グレーターといったクラーケンが登場し、クエストでもおなじみである。巨大なタコに似ていると思い出解説に記されているが、「巨大タコ」というモンスターとは別物として設定されている。[Z]においてはMERPのマイアとしてのクラーケンを意識したものか否かは定かではない。いずれもノーマルモンスターとしては非常に強力であり、能力のどの要素をとってもドラゴン系に匹敵するものを備えている。一応宝は落とすものの、これがいる水地形に無闇に近づくものではない。
クラス Class 【システム】
出典:職種。冒険者の「役割」と能力をキャラクタークラスというもので分類するのは、要は最初のRPGであるD&Dシリーズに由来し、多人数のプレイヤーで行うにあたって「役割分担とその役割(能力)の把握をしやすくする」という、ひどく実際的な理由に発するものである。
1974年のD&D系の最初の形(OD&Dとか白箱とか呼ばれる)では、種族(エルフ、ドワーフ、ホビット)とは別に、キャラクタータイプがFightingman, Magic-User, Clericの3種類の職種に分類され、エルフにはこれらのマルチ(デュアル)クラスの原型もある。OD&Dの追加ルールのかなり初期から、Thiefのような基本的クラス、Paladin, Monk, Assassinのようなかなり複合的(派生的)なクラスが追加され、77年のAD&D1stのあたりではRanger, Druid, Bardのような現在でも基本とされる数多くのクラスと、その複合系のマルチ・デュアルクラスがほぼ出そろってしまう。
一方、これらOD&DやAD&Dを簡略化した派生ルールであるCD&D(赤箱等)では、職業的な戦士・魔法使い・盗賊・僧侶は人間専用となり、エルフ・ドワーフ・ハーフリングといった、OD&DやAD&Dでは「種族」であったものがクラスになっている。なお、「最初のD&Dではクラスと種族が分離されておらず、後のT&Tやwizardryなどがこの概念を分離した」といった説が日本では頻繁に流布されるが、それはCD&Dしか和訳されなかったため「最初のD&D」と誤解されたためであり、CD&Dはかなり後の派生ルールのCD&D(赤箱等)であるため誤りである。CD&DはAD&Dを入門用として簡略化したとともに、CD&Dにおける「クラス」が、単なるその人物の職業ではなく、「演じるキャラクターのタイプ(典型、アーキタイプ)」という性質が多分に含まれた概念であることを、非常に強く表している。エルフ、ドワーフ、ハーフリングの三つの種族を選ぶことは、同時にその種族として典型的な能力・性質の持ち主を演じることも示したのである。しかし、例えばトールキン作品におけるそれら三種族のような、それら種族の「典型」というイメージ自体がプレイヤーの一般的知識でなくなってしまった現在においては、にわかには戸惑うかもしれない。
さて、D&D系が使用したクラスという語は、classという語の一般的な「分類、等級」というほかに、これが中世における「階級社会」における「階級」であり、すなわち職業であると同時に「生活(行動)層・行動範囲・持つ能力の範囲」をも指す意味と考えられる。しかし自由社会の現在において、というよりも、世界背景によっては社会に関しては中世のそれに別段似ていないものも増えた現在のゲームにおいて、階級社会の階級やらといっても戸惑うものでしかない。故に、多くのゲームではクラスは単に「職業」と意訳されている。また、この語意を避けてのことかは定かではないが、「クラス」にかわって、CRPG『ファイナルファンタジー』シリーズに発する「ジョブ」という語も日本ではきわめて普及している。しかし、いかにも「職業」をさらに和製英訳したような「ジョブ(仕事)」という言葉には、実質に対して、クラスという語以上の語弊があると感じざるを得ない。かなり広くこれが普及していると見られる表れとして、新参らしきゲーマーがウィザードリィなどのレトロゲームの話題でのクラスに対してや、ひいては*bandの掲示板でさえ、クラスのことをさも当然のように「ジョブ」と誤って呼ぶ発言が見られたりする現状は、クラスという響きそれ自体がRPGとは切れざる一部と化していた筆者の感覚からは隔世の感がある。
なお、Roguelikeでは、NetHackにも「職業」が存在し、一時のバージョンから職業と種族が別々に選べるようになったことから「かつては種族と職業が分離されていないCD&Dに準拠していたが、後の版のD&Dにあわせて改訂された」という主張があるが、NetHackの日本語版で「職業」と訳されているのは原語ではclassではなくRoleであり、内容的にもD&Dシリーズの同名・または対応するclassとは何も合致する部分がないため、NetHackの職業はCD&Dとかいう以前にD&D系のclassとはまったく関係がない。
システム:Moria以来、D&Dの主要4クラスに相当するウォリアー、メイジ、プリースト、ローグ(およびAD&D1stあたりの時代からすでに定番のサブクラスである、レンジャーとパラディン)が選択できるようになっている。しかし、Roguelikeは一人で冒険する以上、主要クラス分類にはそれぞれの役割分担といった目的はなく、どの能力に重点があるかという比重の問題となっている。ウォリアーも魔法のアイテムは使え、メイジも武器や防具が使える。あるていどの分野でそれぞれ最低限の能力は持っていないと進行に困難をきたすためである;しかし、システム自体が大幅に拡張され選択肢も増えたバリアントでは、膨大なクラスの選択肢のひとつとしてひとつの能力しか持たないクラスを入れる余裕も出ている(ある意味ではハイメイジ、さらにはToMEのソーサラーや[変]のスペルマスター、狂戦士など)しかしあくまでこれらは例外的クラスと位置づけられるだろう。
Moria/*bandでは、クラスごとの難易度は必ずしも均等でない。どのバリアントでも、一応は極端にバランスが崩れないようデザインしてあるが(ToMEあたりは怪しいかもしれないが)序盤が易しいクラス、後半でようやく強大になるクラス、そしてどうあがいても通して弱いクラスや強いクラスが多々ある。ある意味、均等にすることなどよりも、どのクラスを選ぶかによって(難易度を含めて)色々なプレイ体験が可能であることの方が、求められているともいえる。
特に[Z]以降のバリアントでは、[V]に対して追加する時点からすでに、既存クラスの能力のバランス変化やサブクラスではなく、これまでとは全く異質な能力・プレイスタイルを持つことが望ましいようである。易しいことではないが、日々新しいクラスを発案しようと考え続ける人々は多い。それは必ずしもイメージ・名前のみでの妄想ばかりでなく、新しいタイプのプレイスタイルを体験してみたいという欲求によることの表れであろう。
グラブレズ Glabrezu 【敵】
グラブレズはかつてAD&D 1stにおいて「III類のデーモン」と総称されていた種族で、通称や召喚などで必要な場合のデーモン語の名前のひとつグラブレズが後の版ではモンスターの種族の名にもなった、D&D系オリジナルモンスターの一種である。全体としては野獣じみた容貌だが鎧をまとったように甲殻があり、巨大なハサミや複腕がある。その名前はハサミやそれで本当にルール的につかみ攻撃を用いてくることから'glab'からの安易な発想でつけられたという説もあるが定かではない。その性質は、ベイラーやマリリスのような流血戦争の軍団の一種というよりは、(ここでは同じデーモン類となっている)サキュバスと同様に、定命のものを力への誘惑によって堕落させるということを行っているという。故に、(そのごつい外見に反して)本来はさほど戦闘は得意ではないが、中上位のいわゆる「グレーターデーモン」の一種で(厳密な分類ではTrue Tanar'riだが)モンスターとしては凶悪であることはいうまでもない。
*bandでは[V]以来、他のI-V類のデーモンとともに、中レベルのノーマルモンスターとして数多くのバリアントに登場する一種である。一応中以上の階層に出てくるのであるが、実はデーモンの名や印象ほど耐久力が高くなく、さほど脅威ではない。ただし、グループで登場するが、デーモン召喚の魔法(これもさほど頻度が高くはないが)で増殖するならまだしも、下手をするとバルログやもっとひどいデーモンが登場する可能性もあるので、さほど強くないからといってあまりグループには近づかないほうがいいかもしれない。
→デーモン
グラムドリング The Broad Sword 'Glamdring' 【物品】
トールキン『ホビットの冒険』でガンダルフが入手し以後使用する剣で、元は第一紀(アルダ世界の「伝説時代」)のノルドール(地エルフ)の都、ゴンドリンで鍛えられた銘剣。(伝承家エルロンドによると)「ゴンドリンの王」の剣であり、つまり、もとの持ち主は上級王トゥアゴンということになる。
グラムドリングとは「敵砕き(foehammer)」の意であるというが、(他のエルフ語での意味を簡単に解析できる「オルクリスト」に比べて)'Glamdring'という語のエルフ語としての意味を解析できる他の出典がなかなか見当たらない、というのはしばしば言われてきた。Unfinished Talesの注釈によると、「glam」は「(敵の)群れ」を指しオークの婉曲語でもある。「dring」は槌(変形がdhring)である。無論のこと、「グラムドリング」という語感は、トールキンが現実の伝承の名剣の「グラム」「バルマング」「(フ)ランティング」といった語にひっかけたのは容易に想像できる。
Peter Jackson監督の映画Fellowship of the Ringでも、ガンダルフの剣はエルフの葉型(blade)のデザインを意識して作られたといい、グラムドリングだという設定に違いないが、原作とは異なり(予算の関係、及びフロドの剣の光を目立たせるためであるとか)モリアなどの戦闘場面では光は発しない。映画でのこの剣の見せ場はモリアではなく、第2作の冒頭のバルログとの戦闘場面である。
Unfinished Tales(『終わらざりし物語』)の注釈には、ゴンドリンでトゥアゴンが佩いていた剣の描写があり、「象牙の鞘に入った白と黄金の剣」である。これがグラムドリングだとすれば、かなり豪華なつくりの剣だったようで、実際に『ホビットの冒険』でも宝石がちりばめられた見事な剣とあった。しかし、映画版LotRをはじめ、多くの絵画などのグラムドリングはかなりシンプル、美しくともきわだって目立つ装飾などは少ない機能的な剣のことがほとんどである。
なお、グラムドリングは『ホビット』の言及以外のトールキンの原稿(HoMEなど含め)では常に「ガンダルフの剣」と書かれており、トゥアゴンの剣としての記述はない。エルロンドがゴンドリン王の剣といい、ゴンドリンには王はトゥアゴン以外にはいないので、グラムドリングが彼の持ち物であったことは間違いないのだが、常の佩刀であったかは明確ではないということである。ICE社のMERPの設定では、トゥアゴン王はオンドマキル(「岩の剣」の意)というグラムドリングより遥かに強力な剣も持っており、上記のUTでの豪華な剣はこちらかもしれない。どうやらICEの設定ではグラムドリングはトゥアゴンにとっては「脇添え」の剣に過ぎないようだが、これはグラムドリングの方は主に第三紀に活躍する剣なので、第一紀のほかの強力な物品に比肩するトゥアゴンの主な武器は別に創作したのだろう。
Roguelikeでは、オルクリストより有名な剣であるにもかかわらずなぜかNetHackには登場しなかった。*bandでは「焔の剣」という扱いでオルクリストと共に登場する。なぜ焔かと言えば、青い焔を発したという描写があるにはあるが、むしろ炎使いガンダルフの剣だからであろう。
能力としては中程度である。もし中盤以前に入手できれば中々に役立つとしても、入手が少しでも遅れると往々にして下手なエゴアイテムよりも使えないことが多い。いわんや「ベースダメージがすべて」の[Z]240系をおいてやで、ベースがただの2d5なのでそこらの上質武器より使えなかったりすることもある。トールキン由来の武器の中でも最も有名なひとつであるにも関わらず(英語圏では'The Hobbit'はしばしば小中学生の指定必読書である)その*bandで置かれた宿運は厳しい。
→オルクリスト →アエグリン
暗闇の杖 Staff of Darkness 【敵】
暗闇を生み出す魔法は、単なる光の魔法の逆転というだけでなく、見通せない・明かりも届かない闇を生ずる魔法という点が恐怖を煽るという意味で、それなりに例が多い。古典的なアドベンチャーゲームやゲームブックの罠や仕掛け、またCRPGでもWizardryの「まっくらやみだ!」や『ブランディッシュ』シリーズのダークゾーンなど、ダンジョンの仕掛け自体が登場するゲームに例は多い。どちらかというと、戦闘の最中にプレイヤーや敵が使う戦術よりも、あらかじめの仕掛などの作戦・戦略が多いが、戦術として使えないわけでもない(ただし、ダンジョンに原住する敵の方が一般にプレイヤーキャラクターよりも闇に慣れていることが大半であるから、その局面は限定される)。
ゲームでの魔法の例を辿ると、古いD&Dシリーズの闇の呪文は、光の呪文の序列と同様にいくつかの強力さの段階があり、最も初歩のものであっても自然の明かり(松明やランタンなど)で照らすことはできず、さらに、ことに永続的な闇を生ずる強力なものは、デミヒューマンの持つ暗視能力、インフラビジョン(→赤外線視力)でも見通すことはできず、たとえ魔法でも弱い光の呪文では照らすこともできない。『ドラゴンランス』において、ブラックドラゴンの用いる闇の呪文に主人公タニスのハーフエルフの赤外線視力が再三無効化されたのは顕著な例である。Wizardryのダークゾーンが、せっかく光の呪文MILWA, LOMILWAが存在するにも関わらず照らすことができないのは、マッピングを困難にするゲーム的発想以外に、このD&D系からの参照でもある。以降のWizardry外部クローンやその系譜のダンジョンゲームでは、これを参照せずに光の呪文で照らせることになっていることが多く、またD&D3.Xeなどでは暗視能力がさらに細分化され、完全な闇でも見通せるデミヒューマンもいる。
*bandでは、ダンジョンを暗闇にすることで敵に不利になるという効果はあまりないので、一般に言って有効に使用する魔法ではなく、暗闇を生み出すというだけの呪文も大半のバリアントにはない(暗黒攻撃属性のダメージ魔法は別だが)。原型であるMoriaの時点から存在するペナルティアイテム、「暗闇の巻物」「暗闇の杖」が主である。発想自体は初代Rogueの盲目の薬(なお、日本語版ローグ・クローンのメッセージは「深い暗闇のとばりがあたりをおおってゆく。」である)であろうが、盲目効果はまた別で、つまりは「光の杖」の効果を逆転させたものといえる。効果は単にすでに照らされている部屋を暗くするというだけのもので、特に「見通せない闇」を作るといったものではない。それだけだとペナルティが少ないと考えられてか、使い手を盲目にする効果もある。(なお一部TRPGでは、光や暗闇の呪文は、対象の目にかけることで盲目にすることができる。)ペナルティの杖全般にいえることだが、RogueやNetHack系と異なり*bandでは鑑定手段が潤沢なので、杖を未鑑定で振ることは少なく、こうしたペナルティの杖を鑑定前に使用する羽目になることは稀なので、この暗闇の杖も実効を持つ例は少なく、伝統で入ったままになっている物品の一種に分類される。
グリシュナッハ Grishnakh, the Hill Orc 【敵】
丘オーク。(旧版瀬田訳では「グリシュナク」と表記されている。)『指輪物語』TTTに登場するオーク隊長のひとりで、捕らえた二人の若いホビットの処遇をめぐって、もう一方の隊長ウグルク(→参照)と対立する。原作では、モルドール(サウロン側の軍)配下のオークであり、アイゼンガルド(サルマン軍)のウグルクらと、どちらの拠点に連れてゆくかで激しく争う。ウグルクの立場的優位と政治力におされて一旦は引くが、その後捕虜のホビットらと取引をして、抜け駆けを試みる。粗暴な兄貴肌のウグルクに対して、より残忍で狡猾なイメージが、特に原語ではより強く読み取れるように思える。
が、ホビットをオークの野営から引き離してひそかに取引をしている最中、唐突に追いついたエオメルらローハン騎士らの流れ矢に当たっていきなり絶命し、結果的にホビットらが逃れるきっかけを作った。やはりオークの中では活躍の多いひとりと言えるため、ホビットとセットで食玩が売っていたりするようである。
明らかにウグルクら(サルマンのハーフオーク)とは別種族で、地につくような長い腕をもち、背をかがめて走る、とある。なお原作文中でウグルクはグリシュナッハの一党のことを「豚野郎」と呼んでいるが、ここをオークが豚顔とする典拠とみなすのはいくらなんでも考えすぎである。映画版LotRでもグリシュナッハとその一党は、ラーツやウグルクらウルク=ハイやモリアのゴブリンとは明らかに異なる姿をしているのでそれとわかる。しかし、映画版では描写を簡略化するため、グリシュナッハは(サウロン軍ではなく)同じサルマン軍であり、単に命令に対する意見等の相違で対立するといった描写になっている。
本文中にはグリシュナッハとその仲間らは、「北の国のオーク」とあり、ここからはアングマールやグンダバド、または五軍の戦いで滅ぼされた霧降り山脈のゴブリン(洞窟オーク)の生き残りで、ローハンなどに定住していたオークが考えられる。しかし、追補編によるとグリシュナッハは「黒の塔の兵士」であると書かれており、南のモルドールのサウロン直属のオークということになっている。この二つの記述を矛盾のないように解釈するとなると、最初はモルドールの黒の塔から出陣し、おそらくドル=グルドゥアもしくはモリアに派遣されたオークで、台詞に繰り返されるようにナズグルの指令を受けてそれら北の国からローハンまで南下したとも考えられそうである。なお、MERPでは「黒の塔のウルク」と設定されており、一方*bandでは単純に「丘オーク」となっていることから、「北の国のオーク」の記述を重視したものらしく、北西のアングマールの生き残りという設定になる。
[V]から登場するグリシュナッハは階層は10階であり、とてもウグルクと張り合えるような力ではない。このあたりは丘オーク設定の悲しさである。オークユニークの中でもゴルフィンブールやスナガのラグドゥフと並んで、弱い方の担当と見なされることが多い。丘オークではあっても、さすがに光でしぼんだりはしない。
→ウグルク →丘オーク
グリフォン Griffon 【敵】
幻想生物の定番である「合成動物」の類としては最も洗練され主要な存在といえるこの怪物は、鷲の前半身(半分がどこまでかは様々である)とライオンの後半身を持つ幻獣で、詳細は神話伝承の専門サイトを参照されたい。この型の最も古い原型はインダス文明とも呼ばれるが、ユーラシアのありとあらゆる地域で非常に古くから使用されるシンボルである。古くはギリシアの文献にも見られるが、欧州で印章として多用されるものは、じかにギリシアから北上したというよりは、スキタイ等の騎馬民族がシンボルとして頻繁に使用していたものが、民族移動に伴って流入したと考える方が妥当であろう。グリフォンという名自体はギリシアに由来し、grupsグリュップス(嘴の曲がった者)を意味するといい、グリフィンとグリフォンの二種の読み方があるのは、これがラテン化した「グリュフィオス」に発するためとされる。
その知名度と洗練においてドラゴンに次ぐとおぼしき幻獣であるが、ドラゴンやペガサス、ユニコーンのように人間と直接の交流等を行うような古い神話・伝承に由来していないためか、物語的に重要な位置を占めることは少なく、野生の動物に近い位置づけであることも多い。
D&D系における「グリフォン」は、「中レベル」で知能の低い(ただの野生動物よりはかなり高いが)怪物とされ、魔法的な特殊能力は持たず、結局ドラゴンとは比ぶるべくもない位置づけが与えられた。以後、他のRPGやRPG系のファンタジーでも概ねその位置づけに留まることが多いようである。ただし、その姿の美しさから乗騎として用いるなり、エルフ等の自然種族が使役するといった扱いも多い。「馬」が最も主要な食物であり、どれほど巧妙に調教されていても、馬を見ると襲うという誘惑に勝つことができない。これが、グリフォンと馬の交配による生物が「ありえない存在」の代名詞であることにも関係するが詳しくは「ヒポグリフ」の項目に譲る。
なお、トールキンのアルダ世界に居たという明記はない(合成動物や幻獣一般に言えることだが)。
*bandでは15階のノーマルモンスターとして登場し、この手の幻想的生物としてもかなり低階層の方である。何の特殊な能力も有してはいないが、階層の割にはかなりしぶといので、油断していると危ないかもしれない。馬や騎兵を追い掛け回したりはしない。
グレイスワンダー The Sabre 'Grayswandir' 【物品】
アンバー前半シリーズで主人公コーウィンの持つ銀のサーベル。アンバーの天の鏡像である幻影世界ティルナ・ノグスにおいて月光で鍛えられた剣で、銀・月・夜の魔力を持つ武器として、実体のない悪霊や、”影”の怪物であるウィア(→参照)さらには特に”混沌”の生物に対して、特に多大な力を発揮し、しばしば彼等に恐れられているようである。悪魔の肌を焼くという描写がある──が、コーウィンはなぜか悪魔相手にも結局素手で絞め殺したりする展開になるため、前半シリーズを見る限り、実はあまり重要なとどめには使われていない。また、コーウィンは自在に「この剣の存在する”影”」を作り出すことができ、”影”を操れる(アンバーの王族の、平行世界の創造能力)限りはすぐに手元に呼び寄せることができるような描写である。
実に長い物語が背景にある、というようなことをコーウィンが作中で言っており、よく読むとその伏線らしきものも多々ある。例えば、その刀身には”パターン”に似たものが刻まれ(そのために混沌の生物に効果があるようだが)破損した”パターン”を歩かなくてはならない場合、この剣をかざしながら歩くと、剣が一時的にパターンを補填しながら進むことができる。また、ティルナ・ノグスの幻影世界の中では、剣と持ち主が確固たる実体として行動する(幻影と切り結ぶなど)こともできる。後半シリーズによると、「”パターン”の起点部分の一部と同じものが刻まれている」「ワーウィンドルと対をなす」といった一部が説明され、さらには後半シリーズより後のゼラズニイの短編において、この二振は、パターンやログルスとは別個に存在していたといわれる、『スピカード』という物品(指輪としても現れる)が武器の形をとったもの、とされる(つまりこれらの剣に刻まれたパターンは、アンバーのパターンから複写されたわけではなく、別の原型から映りこんだものと考えることができる)。いかにもそれ以上の作品・短編でのさらなる説明が待たれる記述だったが、詳細に関してはすべては解明されないまま、作者ゼラズニイは死去してしまった。
グレイスワンダーは海外ではかなり有名なファンタジーアイテムのようで、しばしば(AD&DやT&Tの記述など)ファンタジー関連で言及されることがあるが、日本では、何をおいてもNetHackに登場し、しかもきわめて有効な武器なのが知られているところであろう。「秩序」側のアーティファクトの代表格で(”混沌”に対して有効な武器なので、これは合致している。コーウィンの性格はあまり秩序的ではないが)無条件に大きなダメージを与え、また銀の武器なので悪魔系や獣人に特に有効である。NetHackのグレイスワンダーは「幻覚を防ぐ能力」を持っており、これはティルナ・ノグス(幻影の都)の描写の中で持ち主と剣が実体として行動できる点をはじめ、コーウィン(アンバライト)のシャドゥシフト、真の世界を歩く能力や、あるいは剣の月やパターンの属性から数多くの解釈ができるが、(NetHackのDatabase.txtに後半シリーズのマーリンの台詞から引用されている部分を考えるに)パターンの原型が刻まれ、破損したパターンの修復能力も持つグレイスワンダーが極度に”真の存在”であるという解釈によるとも考えられる。
*bandでは[Z]から、[V]の『アランルース』をベースに差し換えられて登場する(アランルースが妖精王とヌメノール王の剣であることと、「アヴァロンの主」の剣であることは……さして関係はないかもしれない)。アランルースにあった謎のアイスボルト能力はないが、様々なスレイや属性が追加されている。サーベルというベースアイテムの割にベースダメージが高く、軽いままなので盗賊などもうまく使え、また祝福もあるので、大抵のクラスが使用できることになる。いわゆる「主役アイテム」なのだが、終盤まで使うとなると中々つらいかもしれない、[O]やToMEでのアンドゥリルあたりと同じような位置にいる。
→コーウィン →アランルース
グレーター・ヘル・ビースト Greator Hell-Beast 【敵】
上位地獄獣。GHBと略される。[Z]系のバリアントにおいて、1階から登場し、何の攻撃力も持たないにも関わらず1階レベルのプレイヤーキャラクターではほぼ倒せない耐久力を持ち、壁を抜けテレポートを駆使しながら執拗に追い掛け回してくるこの謎の怪物に対して、誰もが一度は何者か、どういう由来のモンスターであるかと疑うだろう。
しかし、残念ながらそう大した背景があるわけではない。[Z]の原語公式サイトのFAQの項目によると、この名と'U'のシンボル、行動力に対して、Moriaや[V]および同系のバリアントをプレイしてきたプレイヤーに対して、「上位のデーモンであるかと疑わせ、驚かせる」目的で登場させているという、本当にただそれだけのジョークモンスターのようである。(「この不浄な災いはあなたを押し潰すだろう。いまのうちに逃げろ!」というモンスターの思い出文章は無論のことはったりで、攻撃力は全くない。)[Z]というバリアントは、開発当初、[V]系をやりつくして飽きてきたプレイヤーに新鮮味を提供する趣向を数多く取り入れる、という目的で数多くの要素、ルールが追加されていたが、そうした[V]プレイヤーを対象に絞った余興という姿勢がきわめて端的に出たジョークモンスターであるといえよう。やはり大学のハッカーや予備軍のゲームだった当初の*bandに対して、現在、特に[変]は以前に増してかなり広い層のプレイヤーに普及しており、[X][変]が最初の*bandという人々も多いため、実感の沸かないプレイヤーも多いと思われる。
[Z]では恐ろしいことにノーマルモンスター扱いであったため(これは単に、ユニークよりもノーマルモンスターである方が、前述の[V]プレイヤーを「だましやすい」というだけの目的であるように思われるが)生成確率が低いといっても、低階層にこれが複数登場するという厄介な状況も生じたといい、ひいてはこのGHBがぎっしりとつまったピットが生成されるという伝説的な事件も生じた(これが、日本では[Z]初期の貴重な攻略サイトであった"Pit of GHB"というサイト名の由来である)。
最初に登場する低階層では自然回復力などもあるために倒すことはほぼ不可能な怪物であるが、別に無敵ではなくHPは1500, ACは100と中レベルのモンスター程度である。最低どの程度の攻撃力があればGHBを倒せるか、という攻略テキストを載せていたサイトもあったが、中盤程度の能力(攻撃力の高い戦士系が良い武器を持っていればかなり早く)があれば倒すことはできる。
→GHBを倒したけどこんな嫌なTシャツしか手に入らなかったよ!
クレバイン Crebain 【敵】
中つ国に住むカラスの一種で、『指輪物語』原作ではサウロンの間者となっているもの(「大カラス」と書かれている情報サイトも多いが、大鴉 Ravenは光の勢力に近いものが多く別である)。FotR原作において狼などと同様にサウロンの情報源となって旅の仲間の様子を探るために見え隠れする。野生のカラスと種族そのものが違うのかは不明だが、焦茶の国(褐色人の住む、ローハンの北西)やファンゴルンの森(ローハン北)を本来の根拠地としている。当然、これはドル=グルドゥアやモルドール、あるいはアングマールの残存勢力からは直接手の届かないあたりをカバーする地域であり、中つ国の隅々までサウロンの目が届く抜け目なさも思わせる。
なお、情報サイトでは邦訳新訳の表記と同じ「クリバイン」となっていることも多く、「クレイバン」という誤字も多いが、シンダリンの文法からは「クレバン」が単数形という説も有力である。
映画版FotRでは、旅立って初期の一行が休むカラズラス前の山岳地に、一斉に飛来する場面がある。見つけたレゴラスの「Crebain of Duneland!」という台詞や群れが風向きに従わずに動いている(野生ではないと気付く)場面で知られている。映画の設定では、(狼もそうなのだが)サウロンではなく、サルマンの間者ということになっている。(これは、映画が前半戦ではもっぱらサルマンに狙われることで中ボスとして理解しやすくされているためだが、それだけに完結編RotKには特別版にしかサルマンが登場しないことは片手落ちの感がある。)
*bandには[V]初期には登場していなかったが、現在は[V]3.0系をはじめ、ToME, Eyangband, Unangbandなどアルダを舞台とするバリアントの大半に登場する。16階とカラスとしては高階層で、あらゆる自然および地下にも登場する。攻撃も防御もさほどではないが、集団で出現し、時々叫び声を上げるので、群れに遭遇するとかなり厄介なことにもなる。
グレンデル Grendel 【敵】
出典:欧州の実在伝承の真打ちといえる『ベオウルフ』英雄叙事詩の悪鬼。デンマークのフロースガール王の宮廷を深夜襲い、家臣を殺害していた悪鬼で、退治のため宮廷を訪れたベオウルフに撃退される。グレンデルには刀槍の類が一切通用しなかったが、ベオウルフは夜に宮廷を襲ってきたグレンデルの扉ごしにその腕をつかみ、素手で力ずくでその腕をもぎ取る。グレンデルはそのまま、住処である水中に逃亡し、母の悪鬼のもとで息絶える。また、ベオウルフはこの水中の住処にこの母の悪鬼も退治にゆき、同様に刃の通じないこの怪物に対して悪鬼のためこんだ宝の中の宝剣を奪い、その剣で退治する。なお余談だが、ベオウルフの剣としては『フランテング(→参照)/ルンティン』「ナエグリング/ネイリング」などが著名であり、翻案の物語や解説、派生作品などによってはこれらがグレンデルを退治した剣や母鬼の宝剣となっていることがあるが、原詩ではどちらも単に登場しただけで、退治に使われてはいない(*bandのフランテングの能力はAD&Dその他のゲームデータのもじりである)。
グレンデルは通例、「人食いの鬼」「巨人」の一種と解釈され、また人型をした人食い鬼・巨人としては、竜としての『ファフナー(→参照)/ファーヴニル』などと並んで、英雄伝承の怪物の代表格と見なされることも多い。いわゆる「悪鬼」とだけ言えば悪魔であれ鬼であれ、通常は人型がカリカチュアされたものであることからは妥当な解釈である。ベオウルフ詩中で悪鬼を示す語ork-が、トールキンが「オーク」(→参照)を創造する原語であり、またogre(→オーガ)に発展したのがこの語という説があることからも、人食い巨人とすることは自然である。しかしながら、原詩にはあくまで、例えば北スカンジナビアのトロル(→参照)のような「巨人」であったと断言できる材料はなく、その姿には不明な点が多い。いわゆる悪魔(デーモン、デヴィル)やドラゴンであったという解釈もあり、特に「水魔」であったという点もドラゴンの説を有力にする部分がある。グレンデルがそれであると示す悪鬼orkの語は「オルクスの怪物」とそのまま読み取ることができ、ギリシアの海の魔神フォルキュス(ポルクス)の「海魔」とも、あるいはローマの冥神オルクス(→オーク)の「死霊」であるとすら考えられる。
なお、この伝承に登場する悪鬼らについては「カインの罪から生まれた魔物」という言及がきわめて有名であり、一般にはグレンデルが聖書の罪人カイン自身の末裔と解釈されていることもあるが、これは悪鬼全般に対して、魔が地上に存在する説明、あるいは純然たる悪魔ではなく現世に住みあるいは人型をした悪鬼が存在することの説明という色合いの強いものと思われる。どちらにせよ、これ以外の点ではキリスト教以前の世界観を持つこの伝承に対して、あとから付加されたものと考えられている。伝承の源泉的なことを考えれば、日本での『酒呑童子(→参照)』ら頼光伝説のそれらと同様に、もとは人間の賊や敵対勢力が原型である可能性も高い。しばしば研究家は、このグレンデルの説話に対し、頼光四天王のひとり渡辺綱がその腕を切り落とした「羅生門の鬼」の説話との類似性を挙げるが、いずれも賊などを処罰した(腕を切り無力化した、勢力や部下を奪った)逸話からの派生なども考えられるだろう。
敵:*bandにはワーグナーなどを取り入れた、というよりもフィンランドの原作者TY氏が北欧伝承を広く取り入れた[Z]から登場する。いわゆる人食い鬼、オーガの代表格であることから、そのオーガの能力や通例を逸脱しない範囲であるためか、非常に有名な怪物であるが階層自体は前半の27階となっている。魔法や特殊攻撃などの能力もない。しかしながら、この階層に不相応にきわめて攻撃力が高く、前半では注意を要する非常に危険なユニークモンスターである。類似品に[変]などの『酒呑童子』がいるが、これは階層自体が若干高くなっているので低い階層の割の危険性という意味ではグレンデルが遥かに高い。多量のオーガをひきつれて現れるが(酒呑童子と異なり、原作にそういった面はない)これはまぬけトロル3人組(→バート、ビル、トム)同様に同シンボルの代表としてのもので深い意味はないと思われる。オーガシンボルはトロルと比べても危険性が低い(せいぜいオーガ・メイジの冷却攻撃くらいである)ため、大量に出現した場合、調子に乗ってなぎ払いがちであるが、グレンデルが混ざっていないかは常に注意する必要がある。
黒 Black 【敵】
『クトゥルフの呼び声』プレイヤーの間では、原語のまま「ザ・ブラック」と呼ぶことで非一般名詞的な雰囲気を出している場合が多いと思われる。*bandの単に「黒」というのはあたかもクトゥルフ神話という特異な環境ではなく一般的な単語のようにも見え、意味不明で不気味な印象をプレイヤーに与えていると思われるが、あえてこう訳すことがRoguelikeの伝統らしいともいえる。
クトゥルフ神話の「ザ・ブラック」とは、外なる神『イブ=ツトゥル』の血液が独立して動いているものである。イブ=ツトゥルは本来ドリームランド(H.P.ラヴクラフトの描いた、夢の中の異世界)の神だが、なぜかその血液は、物質世界の魔術師によって召喚されて現れることがある。現れるのは、血液ではあるのだが、実際は黒いヒラヒラとした細かい紙片のような破片である。無秩序に舞っているように見えるのだが、犠牲者(辺りの手当たり次第の生物なのか、召喚した魔術師に従うのかは、定かではない)の周囲に次第次第に寄り集まってゆき、遂には全身を覆い尽くして、窒息させてしまうのである。窒息した犠牲者は、魂がイブ=ツトゥル神のもとに連れ去られると言われている。これも「単独の生物」というよりは、存在自体が魔術・魔法のギミックの一種ともいえるような存在といえる。
本来、たとえ『クトゥルフの呼び声』ゲーム内であってもそうそう登場するクリーチャーとは思えないのだが、*bandでは割と頻繁に出現する上、かなり鬱陶しい能力(集団で出現、空白シンボルの見づらさ、ランダムに動く捉えづらさ、経験値奪取。経験奪取は魂を奪うところから由来しているのであろうが、何か違う気もする)を持っているせいもあり、かなり前半〜中盤プレイヤーの印象に残る存在となっているようである。
→イブ=ツトゥル
クローカー Cloaker 【敵】
外套なモノ。AD&Dでのこのモンスターは、動かない状態ではクローク(外套)にそっくりで、犠牲者が近づくと襲い掛かるという、典型的なトラップモンスターの一種である。動かなければ、爪や背中の模様が外套のボタンや留め具にそっくりだが、動き出すと(飛行が可能である)空中を飛ぶエイのようになる。
その外套のような広い体で犠牲者を包み込む肉体能力の他、うめき声や恐怖、吐き気、匂い、また各種の光と影の幻術の魔法を操る。この能力や姿からは、おそらく「館」「劇場」などを舞台としたTRPGの「ホラーシナリオ」の小道具として、さまざまに合致するようにデザインされたことを強く推測させる。人間を罠にはめるだけの高い知能を持っているが、どういう目的で生きているのか、精神構造はまったく理解できないといい、エイと似ていても同種なのか(そういう生き物は他にいる →ラーカー)否かも不明の謎の生き物で、こういう細部の設定が非常に投げやりなあたりが、このゲームのトラップモンスターにありがちである。
*bandには、AD&Dのモンスターを数多く取り入れた[Z]から登場する。麻痺と恐怖の打撃を行ってくるが、これはAD&Dのデータでの恐怖やそれがもたらす麻痺のルールに合致している(包み込みが麻痺になっているとも考えられるが)。一方で、「魔法能力」を一切持っておらず、多彩な幻術がデータ化されていないのが気にかかるが、これは「実際に近づいてみるまでクロークに見える」「プレイヤーをひっかける」という罠の効果を実際に*bandにおいて再現するためと考えられる(遠くにいるうちから「クローカーが○○を使った。」といったメッセージが出てしまうと、すぐにわかってしまうので)。実際に、出現率は高くないものの13階という、まだ麻痺耐性が必須と見なされていない階層から出現するため、クロークと見誤って犠牲となるプレイヤーキャラクターも少なくないようである。油断による死因の定番のひとつとなっている。
黒の息 Black Breath 【システム】
トールキン『指輪物語』において指輪の幽鬼ナズグル(→参照)の発する息。定命のものがこの息を吸うと、まず力がなえ、夢見るように意識が遠くなる。重度であると、そのまま死んだように冷たくなり、死にいたることもある。
実は最初にこの描写があるのは意外に初期で、FotR前半でホビット一行がブリー郷に滞在した際、ひとり躍る小馬亭の外に偵察に出ていたメリーがナズグルを遠くから見かけるが、「何かに忍び寄られ」不意に昏倒してしまうという場面である(直後に店員ノブに助けられ、起こされた)。忍び寄られたというのはナズグルのうち誰かが近づいたが人通りがあったか何かでそのまま去ったのかもしれないし、偶然近くを通ったか、はてまた風向きが悪くてメリーが息を浴びたのかもしれない。ともあれ、このときはメリーは「水に落っこちたように」「悪い夢を見たように」と言っているのだが、よほど軽度だったのか、その後何か後遺症が残った様子はまったくない。
印象が強いのは後半、RotKにおいてナズグルに襲われた・戦った人々(因果なことに前のメリーも含まれている)の描写で、これはアラゴルンの癒しの技と、アセラス(→王の葉)の薬草の効力によって追い出すことができた。
このナズグルの黒の息は、物理的な形をあまり持たない幽鬼が肉体を持つものに物理的な効果を及ぼすひとつで、こうしたものが武器だというのはナズグルが直接の力より「恐怖」「呪い」を身にまとい、振りまくという雰囲気を強く感じさせる。具体的に何なのかは不明であるが、あるいは幽鬼の生きる世界の空気、「幽鬼の呼吸する息」という意味で、その息を吸う者を幽鬼の世界に誘うものかもしれない。ともあれ毒というよりは呪いに近いもので、アセラスの効力は多分に魔法的な部分があるが、詳しくは「王の葉」の項目を参照されたい。
なお、NetHackにおいてナズグルが催眠のブレスを吐くのもある意味この黒の息の再現と言える(継続的効果とその強力さはまったく再現されていないが)。
*bandでは、[O]に最初に実装されたもので、ナズグルと接近戦を行ったものはかなり高い確率でこの効果を受ける羽目になる。その効果は病気類(耐久力減少)には準ずることなく、「経験値が少しずつ減少してゆく」というもので、即・多大な被害になるものではないがかといってそのままにするのも厄介なものである。これは治すには「王の葉」を食べるか「生命の薬」を飲むしかないのだが、生命の薬は無論のこと[O]ではナズグルの出てくるような階層では王の葉などなかなか集まっているものではない。ToMEでは、全般的に凶悪なものとなったナズグルに加えて[O]のこのシステムも無論のこと再現されている。こちらは、とあるクエストでもらえる王の葉をあてにするほかないだろう。他のバリアントでは、[変]のナズグルは「地獄のブレス」が追加されており、これは効果の上では割と黒の息に合致するが、あるいは乗騎の獣(→恐るべき獣)の息か何かかもしれず、定かではない。
→ナズグル →王の葉
クロノス Kronos, Lord of the Titans 【敵】
タイタン族の王。ヘシオドス『神統記』などに準拠するギリシア神話の正史においては、二代目の主神とされる。初代の主神であるウラノス(天)とガイア(地)から生まれた原始的主神族、「タイタン12神」の末子がクロノスであったが、最も奸智と胆力にたけ、鉄石(アダマス)の鎌でウラノスを去勢(身も蓋もない表現)して王位を奪った。しかし、ウラノス同様に力ある同族の多くをタルタロス(奈落)や自分の腹の中(ゴヤ「我子を食らうサトゥルヌス」など)に幽閉したため反感も受け、やがて父同様に、息子のゼウス(神鳴)に簒奪され、共に戦った一部のタイタンらと共にタルタロスに幽閉された。
神話正史のこうした政権交代の説話は、多くの場合、古く信仰されていた神が吸収され淘汰されて新しい神が台頭した背景が反映されている。「タイタン12神」らはウラノスや以前の代のような純然たる自然神よりは、擬人的な緒力であり発展した神話を思わせる性質があるが、ギリシアの先住民の古い神であるクロノス自身に限っては、元来極度に原始宗教的な「収穫神(鎌を持つ)」であり、遥かな北インドをはじめ世界各地に典型的ないわゆる「破壊神(食らう者、創造に対し消費の喜びを象徴する神)」であったようである。もっとも後代から伺えるこの姿自体も、后神である、結果的にガイアの変形にすぎないレイア(創造の農耕女神、スティギアの女神「キュベレイ」に相当する)との対照で固まった部分もある。ローマにおいては、古代王に由来すると言われる土着神サトゥルヌス(語源は種をまく者で、むしろ創造の農耕神に近い)と同一視され、サトゥルヌス自身の性質も変化したが、両者を取り込んでサターンとして広く信仰された。
のちにKronoがラテンのchrono(時)と混同されたため、「クロノス=時間の神」という説が生じてくるが、元来はこれは別義とされている(時間神chronosが別に存在するという説もあるが、定かではない)。収穫や破壊が、時間のもたらす枯死と関係しているとも言われるのだが、あまりにも哲学的な辻褄が合いすぎており、かえって後代の創作じみている(なお、この場合、鎌は死神のそれと重ねられる)。しかしどの道、他の神性に吸収されたり曖昧だったりする収穫神や破壊神の性質よりも特徴的であるためか、大半の場合は「時間神」の方が採られるか、ひいてはそちらしか知られていない。他の説話、ストーリーでこの語が用いられる際、また他のゲーム(無論、ギリシア神話を舞台としないものでも)などで流用されて登場する際、ほとんどが時間神としてのものである。
クロノスが玉座から歩み出る。彼は頭をすっぽりと覆っていた兜をとった。正面からは時計のような顔がのぞく。声が轟いた。
「わたしに戦いを挑みたがる者は多い。彼らは<時>の効果を打ち破りたいのだろう。おまえは、その<時>と正面から戦える数少ない者だ」
彼はベルトから細い30センチほどの管を取り出した。そこについているボタンを押すと、それは望遠鏡のように伸びて、1.5メートルほどになった。片方は鋭い刃を持つ振り子が揺れ動き、もう一方には、大きな広刃がついている。...
(マイケル・A・スタックポール『トンネルズ&トロールズ 恐怖の街』)
*bandにはToMEおよび[変]にも取り入れられている。アトラスと共に深層に登場し、最大レベルの肉体能力と攻撃力を持つが、アトラスよりやや近接能力は低い。しかし、アトラスと異なり同族をひきつれて現れ、まともに食らえばかなり洒落にならない威力の上級下級各種のブレスと召喚魔法を備えている。時間攻撃などはなく、*bandではあくまで'k'ronosの方としているようである。
→タイタン
黒豹 Panther 【敵】
pantherは学術用語としては大型の猫科の総称であるが、口語的には斑点模様のヒョウを英語でleopardとするのに対して、pantherと呼ぶ場合は、黒豹を指していることも多い(*bandでは単なるpantherだが、思い出解説文章に'A large black cat'とあるので黒豹である)。ヒョウと異種であるジャガー等とは異なり、黒豹は種としてはヒョウであり、毛の色はあくまで個体としての差にすぎないとされる(劣性遺伝によるとも言われている)。完全に漆黒なわけではなく、わずかに色の差でヒョウと同様の模様があり、また他の(模様が一定の)大型猫科にも黒変種はしばしば現れる。CRPGなどではビジュアル的に目立つクロヒョウが別枠になっていることが多くとも、TRPGのデータなどでは大抵ヒョウ等のデータとは区別されていない。
敏捷で優雅な大型猫の中でも、ことに精悍な印象を与える黒豹は、人物の比喩表現として男女どちらに対しても用いられてきており、かなりアンティークな匂いを漂わせる。なおこの項目で解説を期待されているかもしれない「黒豹シリーズ」と呼ばれる小説に関しては色々と厄介なので言及を避けるがその理由は読者各位検索して推し量られたい。また、フィクションで従僕や使い魔の動物として登場する例も非常に多いが、勇猛な虎や獅子に対して、その姿から隠密に適した能力などを持つ、忠実な影といったイメージが与えられることが多い。
*bandでは、どういうわけかモンスターとしては普通の豹やピューマなどは存在せず、なぜか「黒豹」が野生の肉食の猫科の中で追加されている数少ないひとつである。(なお、NetHackではジャガーやリンクスなど多数の猫科が登場するが、ヒョウ(panther)はこれも普通のヒョウではなく黒豹らしい)。おそらくそれだけ「黒豹」がシンボルとして多用されていることを反映したものだろう。
グロンド The Mighty Hammer 'Grond' 【物品】
冥界の大鉄杖。モルゴスが、フィンゴルフィンと戦った時(→リンギル参照)に使用していた武器。この場面の画像や絵画によく描かれているが、画家によって、言葉の通りハンマーであったり、メイスのような鉄杖であったりもする。モルゴスが山のような巨体なので、完全に巨人サイズである。『クゥエンタ・シルマリルリオン』の該当場面によると、打ちつけた大地を劈いて大穴をうがち、そこから煙と火が発した、とある。直接使用されるのが描かれたのはこの箇所のみだが、モルゴスが打ち倒された時にどうなったかは定かではない。なお、『指輪物語』でモルドール軍の攻城兵器にこれにちなんだ名がついているが、名前以外の直接の関係はない。
モルゴスの武器が鉄槌というのは、剣と異なっていかにも凶悪であると同時に、どこか頭が悪そうなイメージが出ていて好評のようである(別の場面では槍 →メルコールのスピアも用いるのだが)。映画版LotRのサウロンが用いるのがなぜか小型の片手用ライトメイスなのは、このモルゴスのグロンドのイメージを重ねたからとも言われる。
*bandでは[V]からモルゴスを倒すと入手できる、勝利者の証のひとつである。一撃のたびに地震を発生する効果はまさに原作通りである(そも、[V]には地震のエゴアイテム、というより地震属性の攻撃自体がモルゴスとグロンド以外にはない)。ありとあらゆるスレイング属性がつき(これらは古いrumors.spoによると、モルゴスが自らの軍団に属する命を「支配下に置いている」ためであるという説明がある)激烈なベースダメージと修正値を持つ。O-Combatの[O]や[Z]240でも、ベースダメージを調整してさえいない所が、完全に別格の武器であることを示している。
重量1000という数値は、同様に並外れたベースダメージを持ち、なおかつこれも並外れた筋力を要求する、地震で壁を掘り進むことができるAD&Dの巨大ハンマー「巨神の鉄槌(Mattock of Titans)」の重量から取られていると思われる。この重量は、*bandでは筋力を最大にしてなおかつ攻撃回数値が最大になるクラスであっても、さしたる回数にはならず(他の装備で無茶をして増やすという方法もないでもないが)また、地震攻撃自体が使いにくいので(状況にもよるのだが)、結局のところ、あまりメインの武器としての実用性はない(それでも使いたくなる状況というのはあるにはある。しかし、サブ武器として持ち歩くにはあまりに大荷物すぎる)。あくまで別格の、勝利者の証というところであろう。
なお、モルゴスの武器であるにも関わらず、[Z]以降、モルゴスではなくサーペントを倒すとこれが手に入るのは一体どういう脈絡なのかは、*bandの最もわけのわからない謎のうちのひとつである。もしサーペント以前にモルゴスを倒した場合(多くの場合、それを狙うわけだが)いかに実用性が微妙な武器とはいえ、勝利以前のプレイヤーが確実に入手してしまうのはバランス的に危険を伴う武器であることと、単純に勝利の象徴アイテムとして、強引にサーペントに持たせているのかもしれない。
→モルゴス →リンギル →混沌のサーペント
グワイヒア Gwaihir the Windlord 【敵】
出典:風早彦グワイヒア。第三紀の大鷲の末裔の王。鳥たちの中でも大鷲は特に、ヴァラの首長である風の王マンウェの使いとして、第一紀以来重要かつ強力な光の勢力であるが(詳しくは大鷲の項目参照)第一紀のソロンドールの子孫であるグワイヒアとその兄弟は、ガンダルフやラダガストといった賢者の盟友である。グワイヒアと兄弟は人くらいは軽々と乗せて、他のあらゆる空飛ぶ生物よりも速く飛ぶことができ、『指輪物語』ではガンダルフやホビットらの救助のような要所要所に出現し、力を貸す。
原作では鳥の賢者ラダガストが仲介して鷲たちに助力を仰いでいるが、映画版FotR/RotKでは出番のないラダガストのかわりに蛾がガンダルフのもとに現れて、鷲との間を仲介する(ご都合主義的に鷲が飛んでくるのではなく、蛾を通じて呼んでいるのである)。そのため、鷲の前触れの蛾が出てくるたびに、これはラダガストの変身に違いないという声がファンの間では流れる。原作ではガンダルフと会話するグワイヒアも、映画では(台詞は無論のこと)劇中で名前がじかに呼ばれることもないが、ガンダルフが蛾に鷲を呼ぶようエルフ語で頼んだ時に「グワイヒア」の名が入っているのが聞き取れる。
さて第三紀の大鷲としては、『ホビットの冒険』で、ガンダルフが自分で森に放火した炎にまかれて窮地に陥った一行を助けたり、五軍の戦いで大きな力をかす「鷲の王」とその一族が登場する。ファンの間ではこの鷲の王は固有名は出てこないがグワイヒアである、と見なされることが多いものの、研究家にはそれは断言できないとする意見もある。『ホビット』『指輪』では半世紀あまりが経っているので、鷲の王も代がわりしても不思議はないという他に、例えばトールキンの性格から考えて、鷲の王とグワイヒアが同一だとすれば、『ホビット』でのエピソードの数々(『ホビット』での逸話や、鷲の王が金の冠と首輪をつけていたことなどの細部)に、『指輪』のグワイヒアのくだりでも必ずや触れるはずだが、そうした記述がない。これは確かに「消極的に、かれらが同一の存在と言っていない」ようにも読み取れる。
しかし、かといって彼らを無理に別々と考えなくてはならない積極的な理由も何もないので、ファンの間ではだいたい同一視して差し支えないような空気になっている(『トールキン指輪物語事典』などでは「同一」という前提で記述されている)。少なくとも「蛾とラダガスト」以上には近い存在であろう。
2012年の映画版Hob.第1作にも、原作通りの木々から助け出す場面に鷲の王とその一族が登場する。LotR同様、ガンダルフが蛾を通じて助けを呼ぶ描写がある(ラダガストは別に登場しているので、こちらの蛾もラダ蛾ストであるのかは不明)。しかし、原作のガンダルフやドワーフらとの会話等もなく、LotRの鷲との関係もはっきりしない。
敵:[V]には意外にも登場していないが、[Z]以後大半のバリアントには追加されている。GOOD属性ではあるのだが残念ながら純然たる敵である。いざ戦うとなると、階層(40階)の割に攻撃力もあり、無論スピードも相当に高く、同族召喚もあるので(この階の'B'シンボルだとクトゥルフ系やウォーハンマー系のヘンなモノが出てくることも多い)かなり厄介なことになるだろう。
→大鷲 →ソロンドール
グングニル The spear 'Runespear' 【物品】
ここでのRunespearはワーグナー『ニーベルングの指輪』にて父神ウォダンが持つ槍を指す。[Z]和訳ではこのウォダンを北欧の主神オーディンの別名であるとして、このルーン槍にオーディンの槍「グングニル」の物品名を当てている。しかし、オペラ『ニーベルングの指輪』と、ウォルスング伝説およびニーベルンゲンの謡の、神話や説話の設定および内容はかなりの別物で、「ルーンスピアの北欧名がグングニル」とそのまま同一視してよいかに関しては疑問も残る。が、とりあえずアーティファクト名としては解釈できるうちの有名なものを選んでおくのは無難ではあるかもしれない。
グングニールに関してはそこらの解説サイトに譲り詳細はおおむね省くが、北欧の火神ロキが黒小人を事実上だまくらかして作らせた数々の名品のうちひとつで、柄はとねりこの木、穂先は鉄でルーン文字が刻まれている。gungは古ノルド語での、斬り突きの「突く」の擬音に近いもの、-nir「者」である。刻まれたルーンに由来する数々の特徴を持ち、戦場で最も強力な敵を指し示し、あるいはその穂先が指した(刺した、ではない)相手を恐怖させ変身させる(例えば敵を「蟻」の姿へと変える)。これらは、オーディンが一種の死神であることから、即死させること以上に「勝敗の宿命を定める」「逃れがたい死の宿命を与える」ことがあえて強く象徴されているといえる。直接の破壊の力が暗示されたミョルニール(→参照)やフレイの神剣とは根本的に性質が異なるもので(実際に神話内で、神々が破壊力における至宝ともっぱら呼ぶのはこれらである)直接破壊力のある兵器の類ではなく、後代において狙いをはずさない投槍だの鎧を貫くだのと威力が重視されたのは、ケルト関連でブリューナク等とこれも創作・俗説されるものと相まって発展した面が大きい(例えば異説の中には、グングニールはオーディンが自らの血を贄として人間に知恵を与えた際に脇腹を刺した槍となっているものがあり、明らかに聖槍(→ロンギヌス)との合流である)。北欧神話を表面だけ引き写した最近のアニメ・ゲーム作品やそれ系の創作においては、まず例外なくグングニールという名前は「主神の武器」というだけの理由で「最強兵器」に用いられているが、「破壊力」に確固たるルーツを持つ他の多くの名に比してセンスのなさの現われた命名と言わざるを得ない。
*bandではワーグナーを取り入れた[Z]において、『アイグロス』を差し替えて登場する。凍結ブランドは火炎と電撃に差し替えられている。元がかなり強い武器なので有効であるが、あまり*band内で有効に使用された例は聞かない。中途半端にレアリティが高いので、(特に[変]においては)耐性などの関係もあって他の武器を選択することも多いためかもしれない。
→アイグロス
慶雲鬼忍剣 けいうんきにんけん 【その他】
漫画『バスタード』に登場するニンジャマスター・ガラの技。ガラの持つ「妖刀ムラサメブレード」の真の力を引き出す禁じ手で、刀が持ち主の生命力を吸い取り、無数の呪文と化して物質と魔力双方に対する破壊力を発揮する。魔力でしか倒すことのできないエデ・イーのリッチー(→リッチ参照)を足止めするために使用する。
このガラのムラサメブレードというのは、レトロゲーム『ザナドゥ』から採られているが(Wizardryの「ムラマサブレード」をひねったというのは誤説だが、もっぱら信じられている)村正のような「本当の日本刀」ではない証として、柄の中には得体の知れないコンバーターのようなメカニズムが組み込まれ、持ち主の生命力を吸引し、破壊力に変換する機能を担っている様がこの場面にのみ出てくる。後には設定も話もその場の出任せの目茶目茶へと空中分解してしまうバスタードだが、まだごく普通のD&D世界観の漫画であった連載の当時から、魔法や魔法の品というのは「かつて栄えた科学で、生命力・精神力を具体化させる技術の残滓」という設定ができていた。──といった言い方をするともっともらしいが、結局のところこの技と場面全般、伝奇忍者物とサイバーがB級テイストで混ぜ合わさった非常にカルトな特撮映画『慶雲機忍外伝・未来忍者』のパロディに過ぎなかったりもする。
[変]において忍者ではなく、剣術家の技として登場し、また使う武器に関わらず投射できる。「切腹」に次ぐ、すなわち実質上剣術家の最強の技であり、まさに原典通り、自分も平均200余の大ダメージを受けるが、あらゆる敵、特にアンデッドに最大ダイス14倍もの強力な打撃を加える。が、MPともに消耗が激しいため、というよりも、終盤の剣術家は虎伏絶刀勢のような地味でも堅実な技や、無構えの威力が戦術的に有効なため、さほどには使用される頻度は高くないと思われる。
ゲイザー Gazer 【敵】
「ゲイザー」が目玉の怪物の名前として使われる場合、同じ「見る者」の意から、「ビホルダー」(→参照)のようなモンスターを、主にD&D系の権利関係に配慮するその他の理由で婉曲的に名を変えたものや、それらのビホルダーのたぐいのバリエーションである場合が多い。
ビホルダーの実質別名と思われる位置づけでゲイザーが登場しているゲーム等のファンタジー作品は複数あるが、最も古いもののひとつにオープンフィールド型RPGの定番『ウルティマ』シリーズがある。*bandでは[Z]の時点で、コープサー、モングバット、首なしなど『ウルティマ』シリーズ独自のモンスターが多数追加されているため、このゲイザーも直接とられたのは『ウルティマ』からである可能性は高い。*bandのモンスターの思い出テキストでは「宙に浮かぶ眼でいくつかの小さな眼柄に囲まれている。」となっており、ビホルダーの類似品であるという以外の詳細はあくまで不明ではあるが、『ウルティマ』シリーズのゲイザーは、1作目から通して「5本」の小眼の触手が主眼の球体の「背後」(大本のD&D系ビホルダーは「10本」で「上部」)から生えているというものが主だが、7作目のマニュアルのように小眼が球体の「下」から生え、9作目では蜘蛛のような主眼+触手の周囲に小眼が浮遊しているという元のビホルダーから大きくかけ離れたものもある。
他のゲームでは、日本のRPG『サガ』シリーズでのゲイザー系の敵は『ウルティマ』1以来の姿に近い。一方で『聖剣伝説』『リネージュ』シリーズのものは単眼の独自のものである。さらに、ゲイザーという名がビホルダーとは異なる「目」に関係したモンスターに使われている場合もあり、例えば『ファイナルファンタジー』ではFF1でビホルダーをイビルアイに変更した一方で、後のシリーズでは、眼が多数ある軟体状というモンスターとしての、別のゲイザーも存在する。
なお、D&Dでも5版などになると、ビホルダーの近縁種として「ゲイザー」という名のモンスターも追加されているので、「(*bandやその他のゲームの)ゲイザーもD&D由来である」と流布されていることがあるが、*bandが参照している2版あたりまでのコアルールには存在しないので、*bandの時点では明らかにD&D由来のものとは別物なので注意されたい。
*bandでは前述のように[Z]以降多数のバリアントに登場するモンスターで、*bandには元のビホルダーとそのバリエーションも登場するにも関わらずその下位バージョンの位置づけで存在する。12階と、ビホルダー、スペクテイターより下の初期の敵である。精神異常系の呪文能力を持つが、ビホルダーのような強力なダメージ魔法や極端に危険な魔法は使ってこない。
軽傷/重傷/致命傷の呪文 Cause Light/Serious/Critical Wounds 【システム】
聖職者系のいわゆる治癒呪文には、それを逆転させた「同じ規模の傷を与える」呪文があり、悪や闇の僧侶によって使用されるというのはRPGの伝統である。クラシカルD&Dから、'Cure' Light/Serious/Critical Woundsのいずれの治癒呪文も、傷を引き起こす'Cause'の逆呪文に変換できるというルールがあった。ただし、逆呪文を用いる行為は善の僧侶には戒律や属性(→参照)で制約され、生死にかかわる緊急時以外は用いることはできない。(なおAD&Dでは別々の呪文となり、さほど強い制限はないが、現在のD&D3.X系のルールでは、「コーズ」系は「インフリクト」系と呼称が変化し、悪の聖職者や、一部の死などを司る神格の僧のみがインフリクト呪文を準備なしで発動できるという形で引き継がれている。)また、実際に、聖職者系も含めて他のダメージ呪文よりかなり効率が悪いので、それこそ緊急時以外には使う必要も皆無である。
AD&Dのこれらの呪文のデータを全てそのまま引き継いだWizardryのBADIOS/BADIAL/BADIALMA呪文を含めて、各種RPGにおいて「傷を作る」というのがどういった原理であるかは、さまざまな説が採られた。よく提唱されるのが、カマイタチのような刃や、本来は他の聖職者系のダメージ呪文にあるような「言霊の刃」が敵を攻撃するといったものである(DQシリーズの僧侶がバキ系呪文を使えるのは、これらの解釈が発展したものといわれている)。が、無論、実際のところは負のエネルギーなどで、別の殺傷手段を介さず、そのまま治癒の呪文の効果が逆転したといった映像が然るべきである(なお、多くのTRPGではこれらの呪文は、負のエネルギーで動くアンデッドなどにはこれらのコーズ(インフリクト)系呪文でダメージを癒したり、逆にキュア系の呪文でダメージを与えることが可能である)。日本の一部創作のような「にんげんのしぜんちゆのうりょくをおおきくぎゃくてんさせてきやぱしていあすとらるさいどまぞくへんたいしよねんあい」といった屁理屈は劣化ビースト(→参照)の餌にでもぶちこんでおくとして、他の直接的なダメージ効果とはあえて区別されている「直接に状態を悪化させる」効果であることからも、「呪い」がかけられ、その「呪詛」の影響によって状態が悪化するような純粋に"超自然的"なイメージが考えられる。直接に装備への呪いの効果も伴う*bandでは、特にこれに近いものが想像できる。ことに、ヒットポイントの定義や*bandにおける切り傷(出血、継続的なヒットポイント喪失状況)などが、物理的な刀傷などに限らないという点からも、一種の呪いによって総合的にコンディションを悪化させるものと考えるのが妥当だと思われる。極端な例をとると、体調が悪化した場合に生じる皮膚の爛れが、それも瞬間ではないにせよ自然よりもかなり急速に生じる、といった形での顕現が考えられる。
*bandでは、プリースト系をはじめとする敵が使用してくるのが印象的かもしれない。最序盤ではメイジが見習いパラディン集団の軽傷で殺されるといったこともないでもないが、大概は軽傷や重傷といったものは、傷よりも装備品に「呪い」がかかることの方が厄介がられているといえる。プレイヤーキャラクター用としては、もともとの[V][Z]にはなく、[変]の生命の領域にあるものである。上記の善のプリーストは通常使用しないといった点からは生命魔法のイメージに合致しないかもしれないが、[変]では破邪が善の魔法となり、生命は生命に関連する総合的な魔法領域という色は強まったかもしれない。本来は定義からは「暗黒」の領域に相応だったのかもしれないが、暗黒系のダメージ魔法に埋もれそうな感もあるので、結局生命領域が妥当なのかもしれない。
ケイン Caine of Amber, the Conspirator 【敵】
九王子。陰謀家。アンバーの提督。常にアンバーにおり、艦隊を率いて海上を守っている。浅黒い顔と黒い瞳、黒と緑の繻子の服に羽帽子の、軽剣士風の服装。森を守るジュリアンとは性格が似ており友人で(この、兄弟間で友人という言葉を使わなくてはならないあたりが、そうでなければ互いに全く信用していないという、アンバーの一家の殺伐とした一面を現わしている)前半シリーズでは共に、エリックに従う立場を取っている。コーウィンの艦隊がブレイズと共にエリックに対して攻め上る際に迎え撃ち、流石は専門家というところか、手酷く破り、コーウィンはトランプで脱出しなくてはならなくなった。ケインが「王族で最も信用できない男」とファンの間でも通称されるのは、これ以前コーウィンに手を出さないと約束しながら結局迎撃してきたことから、であるが、このときコーウィン自身も兄弟間ではこんな裏切りも状況次第だと言っており、エリックに比べてその後もケインを格別憎んでいるようにも見えないので、さほどケインが飛びぬけて裏切り者というわけでもないのかもしれない。
『アンバーの九王子』邦訳ではコーウィンの「兄」と称されている部分があるが、原書の該当箇所を当たってみると、'brother'(男の兄弟)となっており、兄か弟かは定かではない。生まれた順番は不明ではあるが、継承権では母違いからコーウィンの次である。
アンバー前半シリーズにて、とある事件で早々に退場し、全く出番がない。が、後にまさしくアンバーの王族のみに可能な反則中の反則(例えて言えば、任意たんがカードキャプターを背中から刺すような)の策略をその前に用いていたことが明らかになり、結果としては非常に重要な役割を果たすことになる。あまりにもコメントしづらいが、とりあえず「陰謀家」という他には確かに形容のしようがない。
[Z]以降に九王子のひとり、ユニークモンスターとして登場。ジュリアンに次ぐ71階である。打撃・魔法とバランス良く揃っているが(ただし<光の剣>はない)アイテム・金貨を盗む盗賊打撃を行なってくるのが鬱陶しい。ほぼ半分の確率で落とす「★ケインのダガー」は、トランプの絵柄で短剣を吊っていることと、原作でとある暗殺未遂に用いたものから取られていると思われる。
結界の紋章 Glyph of Warding 【システム】
グリフ(絵文字)をはじめとする紋章や図形などで結界を張る、中でもことに文字を配置して通過するものを害する、ないし通過自体を直接阻む、といった術は、古今東西・架空・実在(オカルト)・体系・非体系(土俗)の「魔術」の中でも極度にありふれたものであり、「魔術の行使」に対するイメージとして最も主要なものといっても過言ではない。「立小便禁止」の注意書きの上に描かれる鳥居(結界)のマークに至るまでその名残といえるのだがそんなことまで説明しているととてもサイト容量が足りないため詳しくは立小便禁止の専門サイトを参照されたい。(なお、初代Rogueから一部Roguelikeに存在する「怪物を恐怖させる巻物」は地面に置くと怪物が恐怖して通れない、拾うと(はがすと)塵になる巻物というものだが、要はこうした術、ことに怪物よけの呪符の一種といえる。)
こうした術はその性質上「RPG的魔法使い」の魔法には少なく、オカルトに近い術を使うような一部TRPGや、イベントで扱われることが多いのだが、実際はこれらRPGの原型であるD&Dシリーズには聖職者の中レベル呪文として「グリフ・オブ・ウォーディング」が存在する。なぜ聖職者呪文かといえば、防御呪文としてであったり白魔道の結界を想定しているものなのだろう。その効果は、紋章を通過したものに対して、紋章自体が爆発したり恐怖・麻痺等のペナルティ、他の低レベルの呪文の効果などさまざまなものから選べる。持続時間が長く、「悪」などに限らないどんな対象にも効果を発揮するため、中低レベル呪文の割には強力だが、もちろん使用はそれなりに工夫しなくてはならない(別に突撃してくる敵にグリフをぶつけてもよいのだが)。上位呪文として抵抗しづらいグレーター・グリフや「シンボル」の呪文など多彩なものがあり、呪文としてはポピュラーである。
*bandにMoria以来存在するこの呪文は、基本的にD&D系の同名呪文から発想を得たと考えられるのだが、単純に「敵が通過(召喚などで存在も)できない」という効果のものになっている。ただし、それはランダムで非常に低い確率([Z]では「モンスターのレベル/550」である)でしかモンスターが紋章を破壊(通過)できないというものになっている。これも工夫次第で敵に囲まれるのを防ぐといった戦法に使えると思われるが、どんな敵でも低い確率とはいえ、低確率で破壊されるというのは間違いないので、それを見越してまで使うとなると難しいところだろう。[Z]以降などには上位呪文の「真・結界」があるが、これはD&D系のグレーターグリフやシンボルのように紋章自体が強力なのではなく、自分と周囲のマスにもグリフを配置するだけである。
血流の刺 The Morning Star 'Bloodspike' 【物品】
ICE社のRPG, MERPの設定に存在する、アングマール魔王軍のブラック・トロルの将軍ログログ(→参照)のもつ武器のうちのひとつ。ログログの設定では、名はBlood Spikeになっているのだが、これが固有名詞なのか武器の通称なのかエゴ名なのかは実のところ定かではないように見える。とりあえず固有名とするが、この「血流の刺」はログログが武器の中でも最も主要なものとした棍棒で、人間に特に大きな威力を発揮し、破壊力ならばアンドゥリル(→参照)をも上回っているかなり危険な品である。ログログはこの血流の刺でもって、カルドラン国(北方王朝アルノールの、三つの国に分裂したうちのひとつ)においてエレンディル王家の血を引く王としては最後のオストヘア王を、ただ一撃で倒したといい、そのため「オストヘアの禍」「アルノールの禍」とも呼ばれるようになった。
*bandでは[V]の頃から「血流の刺」がアーティファクトとして追加されているが、なぜか棍棒ではなく、ベースアイテムが「モーニングスター」になっている。このモーニングスターというのも、単に棘の鉄球を頭にもったメイスや棍棒を指す場合と、それを頭に持った鎖鉄球(ボールアンドチェイン・フレイル)を指す場合とがある。あるいは、棍棒を名前から拡大解釈して前者のようなものを指しているとも、適当に解釈が変化して(*bandでは、特にMERP由来のマイナーな物品に対しては、ときどきあることである)後者になってしまっているとも、どちらとも考えられる。MERPの設定ではログログは棍棒の「血流の刺」の他に、火炎を発する魔法の「火のメイス」と、「黒水晶の鎖鉄球」の二つの武器を持っている。あるいは、*bandのものは後者の鎖鉄球と血流の刺のイメージが重ねられた武器と考えることも可能である。ただし、Oangband以降のアーティファクト解説では([V]のデザインが想定していたものを知っていたか否か、わからないのであるが)明らかに「鎖鉄球」という記述になっている。ともあれ、物品そのものは、ダメージ修正が若干大きい以外はそれほど特記すべきところもない品である(それでも、MERPの設定通り、*bandの弱すぎるアンドゥリルよりも実は強かったりするのだが)。
ゲルーゴン Gelugon 【敵】
ゲルーゴンはD&Dシリーズに存在するデヴィル(「秩序にして悪」の悪魔類の総称)の一種であり、HJ社によるD&D3ed系の邦訳では「ゲルゴン」となっている。現在はd20の共通ルールでも別名として併記されているが、古いAD&D時代はIce Devilという名になっており、AD&D1stを参照したNetHackでは邦名「氷の悪魔」として存在する。ゲルーゴンとは他の悪魔のゲーリュオーンなどではなく、「gelid 極寒・非情」からの名である。
ゲルーゴンはバーテズゥと呼ばれる中上レベルのデヴィルの中では、ピット・フィーンド(→参照)につぐ力を持つ強力な悪魔である。その姿は12フィートほどの、昆虫じみた特徴をあわせもつ人型をしている。鋭い鉤爪と尾、槍をもち、いずれの打撃も冷気の打撃を与えることからIce Devilの名がある。悪魔系の例にもれず強力な特殊防御や魔法能力があるが、ほかの下級悪魔を従えての戦闘のリーダー等よりは、ゲルーゴンのみの少数特殊部隊を編成していたり密偵を行っていることが多い。
*bandにはToMEをはじめ、[V]3.0系やその派生のEyangband, Unangbandのほか、Gumbandなど主にアルダを舞台とするバリアントに、他のD&D系のデヴィル類と共に存在しているひとつである。原典通りピット・フィーンドに次ぎ、デーモン系(マリリスなど)よりも遥かに深階層で強力だが、これも原典通りデーモン系と異なり単独で出現する(召喚は持っているが)。氷の打撃や呪文、極寒の呪文、氷や破片のブレスも持つ。アルダ系バリアントのこれら異常に強力なデヴィルは、[Z]系のウォーハンマー系の強力なデーモンのかわりのようなものだと思われ、無論WH系ほどには厄介ではないものの危険であることにはかわりない。
ケレゴルム盾
→金髪のケレゴルムの革製ラージ・シールド
ケレブリンボールの金属帽子 The Metal Cap of Celebrimbor 【物品】
出典:中つ国のノルドール・エルフのケレブリンボールは、第二紀のエルフの宝石細工師(グワイス=ミーアダイン)の長として有名であり、20の「力の指輪」(→参照)の創造に深く関わる者として、トールキンの作品の設定を語る際に非常に言及されることの多い名のひとつである。ケレブリンボールとは「銀の掌」というような意味となる。銀の手なり足(ケレブリンダル「銀の足」など)なりといった形容はトールキンには無論のこと、ケルト伝承を通じて海外ファンタジーの設定にもよく出てくるが(→コーウィン篭手)すぐれた技、神がかった力をひめた四肢を表現する常套である。
追補編には、アルダ史上で最も優れたノルドールの工芸師フェアノール(→参照)の「末裔」であるとしか書かれていないが、『クゥエンタ・シルマリルリオン』『力の指輪と第三紀のこと』によると、フェアノールの息子でも工芸にたけたクルフィン(→アングリスト参照)の子であり、祖父と父の工芸の技を受け継いでいたが、第一紀当時は、灰色エルフらと対立する中ボス悪役と化した父クルフィンとは袂を分かち、親類フィンロド(ガラドリエルの兄)のナルゴスロンドの国に住まっていた。その後、モルゴスが倒されて第一紀が終わり、かれら親族を含めてほとんどのノルドールらが死に絶えるかアマンの地に戻った第二紀には、ケレブリンボールは中つ国に残り、南下してドワーフのモリア(→参照)のすぐ近くの地に「エレギオン」(首都オスト=イン=エジル)の工芸都市を築き、その領主かつ工芸の指導者となった。(なお、他の資料にはナルゴスロンドでなく「ゴンドリンの工芸師」と書かれていたり、エレギオンを建国した領主はガラドリエルとケレボルンで、ケレブリンボールは参加していた工匠のひとりにすぎない記述になっている部分もある。)
第二紀、エレギオンでのミーアダインたちの工芸は、モリアのドワーフのそれと交流することもあって(FotRの有名なモリアの入り口の場面より、その魔法の門を作ったのもケレブリンボールである)非常に栄え、フェアノール自身を除けばノルドールにかつてないほどの技術に達し、遂には恐るべき力を持った「力の指輪」を作り出すに至った。しかし、すべての指輪はこのとき技術者に紛れ込んでいた妖術師サウロン(西方の使者アンナタールを名乗っていた)の《一つの指輪》の従属下に入ってしまい、ほどなくエレギオンは指輪王となったサウロンと対立し、やがてサウロンの圧倒的な軍勢に攻められた。ケレブリンボールは「工芸師の館」の門の前でひとり戦ったが、サウロンに捕らえられた。サウロンは拷問によって19の力の指輪のうち《九つ》と《七つ》の場所を引き出したものの、最も重要な《三つ》についてはケレブリンボールは口にしないまま死んだ。サウロンはおそらくエルフらの恐怖と敵意をかきたてるため、そのケレブリンボールの死体を逆さづりにして軍の旗印とし進軍していった。
『力の指輪と第三紀のこと』によると、エルフの《三つの指輪》は、ケレブリンボールがただ一人で作り上げたものであるといい、これは、エレギオンで最も重要な作品であるため、長である彼が工程の最初から最後まですべて手がけたのだと思われるが、これが幸いして、《三つの指輪》はサウロンも見たことも触れたこともなく、《一つの指輪》には従属するもののサウロン本人の悪意・支配からは逃れていた。
ケレブリンボール自身に関して言えば、ガラドリエルに密かに思いを寄せていた(→エレスサール)等の記述が読み取れる部分があるものの(あるいは、フィンロドのもとに住んでいた頃にガラドリエルに会っていたのかもしれない)自身の記述は少なく、キレやすく味のある祖父や父に対して非常に大人しいキャラクターである。またモルゴスと異なりたくみな知略を用いるサウロンに対して、知能戦で善戦してはいるが、《三つの指輪》に関して以外はほぼ完敗してしまっているといえる。
物品:*bandでは、ケレブリンボールの名は他のアーティファクト解説文やrumors.spoなどによく登場するが、物品として「ケレブリンボールの金属帽子」が登場したのは[V]3.0系やToME2など最近である。特に原典に記述はなく、帽子である必然性もさほどないが、強いてこの人物に関係する物品を言えば技能増強の手袋か知能増強の帽子あたりになってしまうのは妥当かもしれない。
なお、ICE社のMERPのデータでは、ケレブリンボールは50lvとノルドール王侯としては平均的であるが、工芸師の背景からか、非常に多数の強力な物品を装備品として所有している。サーレット(兜)のデータは、面頬とあわせて、痛打を無効化し光や炎、冷気の攻撃から身を守る力がある。あまり*bandのものとは関係がなさそうである。
*bandの金属帽子は、基本耐性の中でも炎・酸耐性のみ(これは、ノルドールかつ工芸師という性質からと思われる)二つの上級耐性、知能・器用・魅力のプラスがある。さほど強力な物品でもないが、また([V]では[Z]系バリアントほど顕著ではないものの)耐性や能力の特性として「兜」スロットの物品には、テレパシーや盲目耐性などを要求するプレイヤーが多いかもしれないので、その点ではやや物足りなく思えるかもしれない。
源氏の籠手 Gauntlet of Genji 【物品】
「源氏」とは、本姓(血脈の元流)として特に武士に名乗られる代表のひとつであるが、元来は「平」「在原」と同様、皇族が別の家を立てるさいに賜る姓のひとつであった(「光源氏」もこの意での源氏である)。従ってさまざまな皇族を祖とするものを含み、いわゆる源氏21流とよばれる系統があるが、武士として台頭した「清和源氏」を主に指すことが多い。さらにその中でも、本来嫡流である摂津源氏(源頼光(→酒呑童子)など)に対し、武家時代の源氏の大半は関東に移った河内源氏の流れをくむ(源義家から子孫の鎌倉将軍家、足利・新田・武田・小笠原・今川・佐竹などの各名門がそれにあたる)。
実際にあらゆる階層の武家に源氏の流れが多かったのは無論として、「武家の血脈」の代名詞のひとつであることから、血脈がさだかでなくとも、苗字はともあれ本姓として源氏を名乗るのは(藤原・平などと同様)当たり前に行われていた。ネット創作の伝奇物の設定などに、「源氏の末裔で(しかも苗字まで「源」のまま等)頼光以来伝わる鬼切りの宝具だの霊性だの古流武術だのを受け継ぐ」といったものがしばしば見うけられるが、摂津や鎌倉の源氏の本流は当然ながら歴史の表舞台で堂々と断絶しており、一方で傍流ならば(たとえ血脈が確かといえるものでも)あまりにもありふれており、実のところ単に「源氏である」では伝奇云々の価を主張できる余地はない。
さて*bandに登場する源氏の篭手は、『ファイナルファンタジー』シリーズにおける物品から採られている。かなり初期のシリーズから、おそらく「まさむね」等と同様のジャパネスクアイテムとして「げんじの」小手、鎧、兜、なぜか盾などが強力なアイテムとして存在していた。攻略本などには、これらは「源義経の所持品」と書かれていることがあるが、品ごとに所持者が違う(別の源平合戦の源氏武将となっている)こともある。頼光や義家などと比べてこうした品の持ち主として相応しいかははなはだ疑わしいが、義経や源平合戦の武将はなにより有名であることから選ばれたのであろう。かように、元はなんらかの(特定の)源氏の武将の持ち物という意味を持つが、RPG一般的な品としては、前記したように「源氏の」は単なる「武士の」のような意に受け取るのが無難なところであろうか。
『FF』の後の方のシリーズになると、「げんじのこて」は「二刀流を可能にする品」となっている。西洋風ファンタジーでは、サムライはなぜか無闇に「二刀流」を行ったりその代名詞であることも多い。実際は戦場や近代の竹刀試合にならば必ずしも珍しくはなかったものの、刀をもつサムライの主要な戦法というわけではなかった二刀流(→参照)であるが、海外で無闇にそう見られることが多いのは、見かけが「大小を差している」ことと、単純に宮本武蔵がサムライで最も有名なことに由来しているとも考えられている。その影響もあり、日本製含めRPG一般でサムライが西洋風の戦士・騎士に対して二刀流にたけていることが多く(本来西洋風で二刀を使うスワッシュバックラーなどの出番がRPGでは少ないこともあり)おそらくサムライアイテムである源氏の小手が『FF』で二刀流物品とされていったこともその流れで、特に「源氏」だからという意味はないと考えられているが、定かではない。
*bandでは「源氏の〜」はガントレット類につくエゴアイテム効果(当然ながら日本にはありえないベースアイテムにもおかまいなしにつく)で、『FF』にならって二刀流のペナルティを減らし、またそれ自体にボーナスもある。特に二刀流を重視する打撃系クラスでは大変に有効なものである。
賢者オローリンのクォータースタッフ The Quarterstaff of Olorin 【物品】
→賢者ガンダルフの魔術師の杖
賢者ガンダルフの魔術師の杖 The Wizardstaff of Gandalf 【物品】
この物品名は[変]のもので、[V]当初とアルダ系のバリアントでは「賢者オローリンのクォータースタッフ」であったものが、[Z]においてよりポピュラーな「賢者ガンダルフの〜」に変更されている(オローリンとは、のちにガンダルフとなったマイア(下級神)の、アマンの地でのクゥエンヤ名である)。他のデータにも細かい差がある([V]は火ブランドなのに、なぜか[Z]では地など。なお[V]3.0のアーティファクト解説は、[Z]の解説を流用しているため、「地のエレメント」と書いてあるが、データでは火ブランドである)。アーティファクト全般が弱いと言われつつも、頑なに[V]以来そのままのデータを引き継いでいる物品は多いのだが、この品は、かなり積極的に次々と改変されている数少ない例である。ことに、ベースアイテムがマナ消費を抑える(打撃能力はほとんどない)「魔術師の杖」となっている[変]においては、魔法系クラスにとって、戦士系でのリンギルにあたるような品に位置づけていると、製作側の掲示板発言にある。
RPGにおける魔法使いのもつ杖の詳細は、「杖」および「魔術師の杖」の項目にでも譲るが、アルダにおいて、ガンダルフをはじめとしてイスタリ(魔法使)が必ず持っている杖がどういう意味を持つのかは、直接の明確な示唆はほとんどない。ただし、確かに読み取れるのは、魔法使の「力の象徴」であるという点である。『指輪物語』原作でガンダルフの杖がバルログとの戦いで砕ける場面、サルマンの力を奪うさいに杖を折る場面に対して、原作巻頭要約には「力の象徴である杖が砕ける・折る」といった表現もある。同じサルマンの場面の会話の中にも、「王(ヴァラ)たちの冠」と並べて「魔法使の杖」が挙げられているのは、これらが同列のもの、すなわち力の「証」としての位置づけとも考えられる。
中世において、杖には権力の証という意味もあり、アルダの権力者でも、ヌメノールやアルノールの王錫、ゴンドール執政の杖がそうである。ここから深読みになることを承知で言えば、魔法使の杖も、神族でありながら地上に干渉する権限をヴァラールから与えられた「証」ではないかと思える。イスタリの項目でも述べるが、魔法使のふるう力は「(中の人をつとめる聖霊が)どれほどの力を持っているか」ではなく、「どれほどの力をふるうことを許されているか」に依存していると思われるのである。また、杖が実質的に力を持っているのではなく、後述するようにガンダルフは杖を取り替えているが、杖の物品そのものが重要なのではなく、杖という力の象徴を「所持する」こと自体が重要なのではないかと思えるのである。
さらに深読みすると、力の象徴である杖は同時に「力の表に出ている部分」ではないかとも思われる。バルログ、特にサルマンの場面では、杖が破壊されるという結果が生じているが、それは「力ある杖自体をどうこうしようと戦っている」わけではなく、実際は目に見えない部分で巨大な精神と魔力の激突が起こった、その結果のみが象徴である杖の破壊という形で表面に現れているのではないかと思える。
(なお、T&Tでは、魔術師にとって杖、特に特別製の杖はかけがえのない品で、サルマンの杖を折る場面をモチーフにしたらしい、全身全霊の能力値争いによって相手の強制的に杖を破壊する<杖折り(シャター・スタッフ)>という魔法がある。またAD&Dにも力の杖や大魔術師の杖を破壊する魔法がある。これらは、「力ある杖自体をどうこうする」方の例である。)
とりあえず、『指輪物語』において主要人物ガンダルフが持っていた杖を指すものとして、少なく見積もっても2つの杖がある。ひとつは、モリアのバルログとの戦いにおいて橋を壊した際に砕け散った杖で、おそらくは、それ以前に諸国を放浪していた頃もずっと持っていた杖であろう。次に、白のガンダルフとなって帰還した際、前の杖が砕けたにも関わらず杖を持っていたが、これが2本目である。これは、帰還の際にヴァラールに改めて権限を与えられたことを指していると考えられる。
映画版LotRでは3本の杖が登場し、最初に持っていた杖(先端にパイプをはめこむことができる)は、サルマンとの戦いで奪われたままになっているらしく、脱出後には別の杖を持っている(明かり石をはめこむことができる)。なぜかこの杖はバルログとの戦いで砕けないのだが、白のガンダルフとなった時には(サルマンのものと似た)新しい白の杖を持っている。原作では武器として使う場面はないが(上記するような、尊い力の証ならばそちらが当然かもしれないのだが)映画版では白の杖も含めて、かなり平然と振り回している。
幻術師 Illusionist 【クラス】【敵】
出典:RPGにおいてはイリュージョニストとは「幻術(RPGでのその内容に関しては後述)」に特化した魔法使の一種、ということになるが、一般的な語には、illusionという語は手品や、仕掛け・ペテンによる幻惑も指し、illusionistは手品師を指したり(特に現代ではイリュージョンはスペクタクルにすぐれた大規模な手品にもよく用いられる)また実際にこれらが魔法と信じられた経緯から魔法使いそのものを指したりもする。つまり、一般的にはあくまで、RPG的幻術を用いる術者に限らず「魔法使い一般」を指す語であることもあり、ないし、それらの語のうちでも手品師やトリックスター(その性格に関しても)の性質をことに強く持った語ということになる。(なおこれらの語意とは直接には無関係だが、さらに一般にはいわゆる「リアリズム」の対極にある語をillusionism、それを採る説者・用いる手法者のことをillusionistという場合もある。)
ゲーム的な魔法の定義で言うと、「イリュージョン(幻影)」とは実体をもたない「光景」を作り出す魔法を指し、一方で、光景でなく対象の精神を操るなどで錯覚を起こさせる魔法は「ファンタズム(幻覚)」と呼ぶ。ただし、多くのゲームではイリュージョンの上位の魔法は視覚以外の感覚にもうったえる力を持ち、こうなるとファンタズムとの区分は曖昧となってくる。ファンタズム自体がエンチャントメント(心術)と重なる部分があり、さらに強力なものは、信じたものは実際の影響を受ける(例えば火の幻を見破れないと火傷を受けたと思い込む、どころか、本当に火傷を負うなど。これは幻想小説などによく見られる)という類の術になり、幻影・影を部分的に実体の効果に近いものにする操影術や、ひいては、想像力をそのまま実体化するという「クリエーション」の魔法を、幻術の上位カテゴリとする解釈もある。(なお、テレパシーが超能力の代名詞であるのと同様、幻術はしばしば魔術の代名詞であったり、ひいては魔術とされる範囲はすべて幻術で説明できるという説もよく見られる。)
RPGでは、IllusionistはAD&D1stの基本ルールの時点から魔法使い(Magic-User)のサブクラスとして存在した。当然、Magic-Userと比べて幻術や、一部手品にも通じる呪文をもち、独自の呪文もある。上位呪文には光やエネルギーを操る術、操影術、ひいてはクリエーションや現実変容の術なども目だってくる。AD&D1stの時点から、ノーム(D&D系ではトリックスター種族として知られる)が優秀な幻術師になるとされ、これは3.5eで適正クラスが吟遊詩人になるまで残っていた。AD&DのIllusionistはまた(手品師からか)知力のほかに器用度が必要なことも知られる。有名どころでは、Dragonlanceの魔法使レイストリンに初歩の魔術を教えたウェイランもIllusionistクラスで、このためレイストリンも手品(技、パフォーマンスともに)を得意とし、幻術師を名乗ることもある(ただし、彼のクラスはあくまでMagic-User (Red Mage)である)。
CRPGでは、プレイヤーが直接に想像力を絞る側面が大きい幻術という形そのままではないものの、幻術・幻術の効果という「設定」のクラスやキャラクターは時々存在する。その多くは光・操影や、実質は対象の精神を操る(非攻撃的な)術である傾向が強い。珍しい例では、ゲーム『ファイナルファンタジーIII』において、モンスター召喚能力を持つクラスが「幻術士」「魔界幻士」であるのは、史上の禁術を扱う幻術(玄術)師などの伝承と共に、AD&DのIllusionistの、ことにクリエーションからの発想といわれている。召喚されるモンスターは、FF3に限っては「幻獣」と呼ばれることもある(以後のシリーズでは「召喚獣」)。1ラウンドだけモンスターを作り出して攻撃させるこれらは、(以後のシリーズの召喚術士と異なり)クリエーションで1ラウンドだけモンスターを作り出しているのかもしれないし、信じた者がダメージを受ける攻撃の幻影を作り出している(Illusionistがしばしば使う戦術である)のかもしれないという解釈もできる。
クラス:Illusionistはいくつかの[V]派生のバリアント(多くが未訳)において、ネクロマンサー等とともに追加クラスとして存在する。いずれも、*bandではことに補助の傾向が強い心術呪文などがメインになっているため、まとまった直接打撃呪文を入手するまではかなり厳しいクラスといえ、上級者用として追加されたものであるらしい。また、ToME1では例によって単独クラスではなく、選択できる魔法領域に「幻影」や「影」がある。幻影の上位の魔法書には例によってD&D系のGreyhawkの術者の名がつき、セルタンとオティルーク、魔術神であるボカブはともかくとして、最上位の呪文書はなぜか力術呪文の権威ビッグバイ(ビグビー)のものになっている。上位のものにはクリエーション系と思われる召喚や打撃呪文が多く、性質としてはほぼAD&D1stのIllusionistに近い。
敵:[V]からノーマルモンスター、pシンボルの人間の敵としても「幻術師 Illusionist」は登場する。無印の「プリースト」「ドルイド僧」等と同程度の階層である。その呪文の内容は、混乱や暗闇やスピード、テレポートなど、「非直接打撃」の術がひと通り揃っているというもので、思い出文書の通り「まやかしを得意とする」である。(なお、幻覚のキノコの幻覚はイリュージョンではなくハリュシネーション(本来は錯覚)で、ここでの幻術師の能力にはない。)特に攻撃力はほとんどない(2d2のみ)ので、鬱陶しさやこの敵が未知の時(攻撃力がないことを知らない時)のみ驚かせる効果か、あるいは、他の敵と共に登場したときに能力を発揮するのかもしれない。
元素耐性の防具 Armor/Shield of Resist Element 【物品】
火炎、冷却、電撃といった「元素」が明確にルール化された比較的新しいRPGより以前にも、それらが曖昧な古いRPGやファンタジー作品から、特定の攻撃(現象)に対する防護をもたらす防具は、いかにもポピュラーなものである。ただし、それらは「強力な装備が持って当然のもの」というより、特定の目的に対して作られた物語やシナリオ上のキーであることの方がむしろ多かったといえる。
例えば、D&Dシリーズには膨大な量のマジックアイテム、エゴアイテムの記述が存在するが、炎に強い鎧といった特定の元素からの防護の物品というのは少なく(ドラゴンスケイルメイル(→参照)などは、ランダムでも生成されるといったありふれたエゴアイテムではなく、珍しいものである)元素の耐性は薬や巻物、指輪(→耐火の指輪、火炎の指輪)などの別のアイテムにきわめて多い。これは「強力な戦士の誰もが持つ防具」というより、むしろ「珍しい能力」としてのものや、イベント的な扱いを想定しているといえる。また、言ってしまえば、元素耐性に関しては呪文による援護を想定している傾向にあり、一人で冒険するRoguelikeとは異なり、TRPGの役割分担というデザインを示しているといえる。
CRPGでは、なんらかの元素攻撃(特に火炎)への耐性をもたらす防具というのは、どんなゲームにも必ずといっていいほど登場するが、一般にいってその他の防御力、また総合的に見て最も優秀な防具であるとは限らない。本来のファンタジー小説等に比べて濫用であったり、またアイテムの数あわせの傾向があることも多い。また元素攻撃自体がありふれていないゲームも多いため、かなり限られた機会や、特定の場面でしか有用ではないといった品も多い。ただし、すべてのキャラクターや攻撃に元素属性があるといった類のシステムの場合はその限りではない。
*bandでは、Moria以来、低い階層からふつうの防具につくありふれたエゴアイテムの一種として火炎、冷気、電撃、酸のいずれかの耐性を持つものが登場する。アーティファクトの存在しないMoriaでは、実質「強力な防具」というものがこの耐性のいずれかか、そうでなければ全耐性がついたものしかない。実質*bandの中盤までのゲームであったMoriaでは、また元素攻撃が有意義というバランスになっており、互いの弱点をついて攻撃するといった戦闘が行われたため、このいずれかの耐性というのも意味を持っていた。といっても防具の腐食を防ぐ「酸」の耐性に比べて他の重要性が低いというのは否めず、また全耐性の防具が手に入ると用がなくなってしまう性質はあった。Moriaでさえそうなので、まして*bandでは序盤以外にはほとんど意味がなく、その序盤でも偶然その階層の敵で多い元素の耐性が手に入れば幸運であるか、あるいはもっぱら換金用の品といえる。序盤に出てくる可能性のある耐性品として、なければないで心もとないとはいえるが、概してMoriaの伝統で存在する品の感が強い。
元素ブランドの武器 Weapon of 'Elemental' Brand 【物品】
出典:剣の刀身を炎や冷気が伝い、元素攻撃によって敵をさらに傷つけるというアイディアは極度にありふれたものだが、-Brandという日本人の発想ではおぼつかないこの名は、AD&D 1stのエゴアイテムであるSword +3, Frost Brandに由来する。Brandは燃えさし、焼印、刻印の意もあり、Frost Brandとは霜の松明、あるいは、あたかも敵の体に刻印を刻むか書簡に紋章印の蝋を押し付けるように、霜を打ち込み又は付着させるという意と、またBrandは詩語ではそのまま「剣」の意もあることから、これらを総じて掛けての命名と推測される。
「フロストブランド」等の多くのAD&Dのエゴアイテム名は、『ファイナルファンタジー(FF)』等で登場したため(これは初期のFFがAD&D, Greyhawkの影響が特に強かったためだが)エクスカリバー等のような「固有名詞」のように見なしている和製FTファンすら少なくないが、単なる物品の「種類」に過ぎない。(別の場所にも書いている気がするが、AD&Dのドリッズトのシミターは、よく出される「フロストブランド」はエゴ名でしかなく固有名は『アイシングデス』である。)
刃のダメージと共に炎などが斬撃とは別にダメージを与えるというあたりが一般的なイメージであろうが、よほど火勢が強くない限りは(それこそ一撃で敵の体の一部以上を炎に包むほどでなくば)そうそう有効とは思えない。そのせいか、D&D系の初期のFlame TongueやFrost Brandは、せいぜい炎や冷気に特に弱い敵(逆元素関連の生物や、植物など)に追加の強化ボーナス(本来+1が+3など)を発揮するのみであった。しかし、最近は視覚イメージが派手な方向に向かっているせいか、D&D3eではより大きな追加ダメージを与えるものになっている(「火勢」も昔よりも強いものがイメージされているのだろう)。AD&Dと同ルールを持つNetHackでは(エゴアイテムがないので)アーティファクトとしてファイアブランドやフロストブランドが存在するが、これもむしろ3eに似て大きな追加ダメージを与える。
さて、これら元素属性の物品は、どちらも自然な発想として、同じ元素に対する耐性を与える場合と、逆の属性から守る(氷の品がその冷気によって、熱を打ち消すなど)場合がある。元々AD&DのFrost Brandの刃は使用者を熱から守り、これに倣って古いゲームにはWizardryのCold Chain Mail(Chain pro. Fire, Chain Mail of Freon)のように、自身は冷気属性で冷気によって炎を防ぐというものも多い。協力者Alba氏によると、「FF4では炎の物品は逆属性(冷気)耐性を持つのにFF5では炎耐性を持つのが疑問である」という。要するにAD&Dの影響が強かった初期からFFは次第に変化していった為だが、特にTRPGと異なり細部を伴わないデータだけのCRPGの場合、炎属性=耐性も炎の方が「わかりやすく」例えば炎属性の怪物やレッドドラゴンが冷気に弱い、またレッドドラゴンの鱗鎧が炎耐性を持つといった点とも一貫性を持たせるため、こちらにする傾向があるだろう。
なお「同属性を防ぐのは魔法的な加護で、逆属性を打ち消すのは物理的現象に見えるので、前者が強力に違いない」との考察もあるが、そうしたライトファンタジー的理屈(ワイバーンの方がドラゴンより小柄だからスピードが速いやら何やら)は海外系や*bandのような混沌としたFTにあってあまり役にも立たないように思われる。D&D系のFrost Brandは物理的な炎を消すどころか、炎系の魔法をディスペルするほどで、非常に明確で強力な魔法的効果がある。
物品:*bandでは、武器に対しては地風火水の四元素に対応する酸・電撃・火炎・冷却の「ブランド」の属性がある。D&D系では、じかに-brandという名はfrost brandのみで、火炎はFlame Tongue, 電撃武器はShocking/Sparking等のエゴアイテム名になっているが、*bandやNetHackのアーティファクトでは-Brandで統一されている。これは、brandが元素の「燃え木」の意であるか、あるいは刃にそれら元素攻撃を行う銘(呪文)が刻まれているの意とも取れる。また耐性に関しては、Moria/*bandのものは、「その武器の元素と同一の元素への耐性」を持つというわかりやすいものになっている。
アーティファクトにこれらの属性が付加されている場合がある他、これらの能力のみを持つエゴアイテムとしてそれぞれ「溶解」「焼棄」「凍結」「電撃」の武器が存在する。下級スレイング(倍打)同様、これらの元素耐性・免疫のない敵に対して武器のダメージダイスの部分のみを3倍にする。これらのアーティファクトの属性やエゴアイテムは、一般に序盤では役立つが、中盤以降になると耐性のある敵が増え(電撃属性は比較的後まで有効であるが)ダメージダイスの影響が少なくなる場合も多く(o-combat →参照のバリアントではその限りではないが)結果、それらのアーティファクトが原作の描写でどの属性に近かったかの「雰囲気」を出す役割以外にはあまり意味をなさないようになる。
そもこの元素ブランドの武器の乱立は何なのか? かつて、*bandの原型であるMoriaでは、モンスターに*bandのような特定の元素に対する耐性・免疫という形ではなく、特定の元素に対する「弱点」という形で表現されており、弱点が合致する対象には、元素の攻撃は極めて有効であった(Moriaには呪文書も下級のものしかなく、従ってメイジの元素魔法のウェイトも大きい)。またこれらを工夫することで、単調になりがちな戦士系が武器選択を行う余地を増やすという面もあった。Moria自体が*bandの中盤戦未満に相当するゲームであるせいもあるが、元素攻撃の武器の位置は大きいものだったと言える(なお、Moriaには焼棄・冷却の2種類のみがあり、ダメージは1.5倍だった)。現在の元素属性ブランド、特に前半しか意味のないエゴアイテムの元素武器は、そのMoriaの名残である、という側面が大きい。
減毒 Slow Poison 【システム】【物品】
毒はゲームによってさまざまなシステムで表現されるものの、多くのRPGでは、毒を治療する魔法やアイテムはhpの回復の魔法以上に初歩であることも多い(DQなどをはじめ、「どくけし」が「やくそう」より安価なゲームもまた多い)。しかし、D&D系では毒の中和(Neutralize Poison →解毒)はかなり高レベル(呪文レベル4であり、英雄とはいわずとも一流の術者にしか扱えない)である。これは、クラシカルD&Dの基本ルールでは「毒」は抵抗に失敗すると即死だったり巨大ダメージだったりする恐ろしいシステムで、解毒の呪文はこれに対抗する強力な呪文であるばかりか、短期間なら毒で死んだ人物を(体内の毒を中和することで)復活させることさえできる呪文であったためである。以後のAD&Dや3.Xeなどの毒が弱い(あるいは効果がさまざまな)システムでも、この伝統で解毒は高レベル呪文として残っており、Wizardryのラツモフィスや『ファイナルファンタジー1』のポイゾナが高レベル、ひいては「呪文レベル4」であることさえも、この直接の伝統である。
前置きが長くなったが、D&D系において「解毒」呪文とは別に初歩のレベルに「減毒 Slow Poison」というより弱い中途半端な呪文が存在するのは、こうした事情で完全な解毒呪文が高レベルであるからに他ならない。Slow Poison呪文はその名の通り、毒の進行を遅らせる効果があり、毒を受けた直後にかけると毒の効果を一定期間まぬがれることができる(その間に、街などで手当てを受けるわけである)。
*bandにおいて、薬やMoria/[V]のプリースト系などの呪文リストで、「解毒」よりも効果の薄い「減毒」が存在しているのはこのD&D系の踏襲ということができる。*bandでの効果は、Slow Poisonは便宜上の名前といえ、実質はより弱い解毒呪文というところで、毒の効果(残りターン)を半減するというものである。しかしながら、*bandのシステムでは各種の治癒の薬で毒も治療されてしまうため、解毒の薬も滅多に使われることはなく、まして減毒の薬の出番はほとんどないといっていい。純粋に伝統でのみ残っている薬・呪文といえる。
幻惑 げんわく 【その他】
日本の武術、特に戦国期およびそれ以前には、神託を得た者が開眼するといった「神秘」やその説話と切り離せない。故に、武芸の開祖や達人が神秘視され、ときには天狗道・飯綱使い(幻術士)などと同一視され、また売名のためにそれらを名乗ったといった例も多く、従って刀法にも事実上、幻術や幻惑の術まがいの説話も珍しくなかった。
しかし特に時代が下った武芸は、よりストイックな道であり、そうした表面的な幻妖を避けようとする。それでも結果的に、それらの神技に及んだ遣い手があまりに精妙で常識離れして見えるために、あたかも玄妙の術であるかのように語られる例はついぞ絶えることはなかった。あるいは兵法黎明期の飯綱使いらも(単に自称していただけの者はともかく)そうした単に精妙無比な技だったのが拡大視されて幻妖と見なされるようになったのは、大いにありうることである。
例えば、江戸時代に至るまで「飯綱使い」の術として名高かった二階堂流平法の「心の一法(心の一方)」がある(漫画『るろうに剣心』のやはり序盤に登場したので有名である)。これは眼光で相手をすくませる一種の催眠術とされるのが通例である。しかしながら、実際はこの「心の一法」とは、二階堂流同様「念流」の流れをくむ流派、中条流や新旧の陰流における「面影」「鏡見」の刀法に相当する術技であったとする説がある。これらの技は「即意(そくい)」の技、すなわち相手の動きや心理を捉え、先取りし対応する「水月移写」であり、発した時には既に鏡が照り返しているかの如く、相手に常に対処し、または、それ故に事実上動きを封じ込めてしまう技にも通じる(馬庭などの代の下った念流では、字面のみ異なる「続飯(そくい)付け」で有名である)。陰流の系統に特に顕著だが、こうした相手に応ずる術技は、当時西洋でさえ知られてもいなかった心理や潜在・非潜在意識を驚くほどとらえて編まれている。故に、この「即意」の技のみ極端に極めた使い手がいた場合、あまりにも巧みに相手の心理を読み取り反応する技が、幻術やすくみの術などと同一視されても、またこうした得体の知れないとしか見えない技が対手を萎縮させ、すくみの使い手といった説が拡大しても、一向に不思議は感じられないのである。
さて話かわって、そうした説話ではなく、近現代になって創作された「剣士の遣う幻惑の術」として最も有名なものに、柴田練三郎描くところの眠狂四郎の円月殺法がある。これは描写だけ見ると「狂四郎が刀でゆっくり円を描くように回すと、相手が必ず正体を失って先に切りかかり(完全な円月を描き終わるまで「ふみこたえる」者がいないという)そして必ず斬られる」というもので、この描写だけは知っていても「何がどうなってどういう技なのか結局わからない」という声が多い。(柴田自身もフェンシングの剣尖を回してフェイントや巻き込みに用いる動きがヒントになったと言うだけである。)
よくある解釈としては、この刀で円月を描く動きは一種の催眠術である、とするものである。剣士は当然ながら対峙する敵の刀から目を離して戦うことはできないため、その刀で催眠術を行われればどうあっても破ることができないのである(ただし、より優れた眼力を持つ正剣の達人ならばその限りではない。柴田練三郎は邪剣士ヒーローを専売特許としながら「邪剣は正剣で必ず破り得る」という見解を述べており、円月殺法が通じない剣士もわずかながら確実に登場する)。そして、優秀な剣士であればあるほど、誤った剣を発したその瞬間こそが最大の弱点であり、催眠術によってそれを誘発されれば斬られる他にない。
無論のこと、作中ではこうした催眠の原理をはっきりと述べたり明確に分析することはなく、玄妙な剣技の曖昧模糊とした理合と共に、あたかも上記の即意とすくみの術の関係のような、剣技の心理戦法との境界の不明な技、として述べられている。狂四郎は円月殺法を、一刀流の高上極意五点から編み出した旨の記述があるが、例えば五点のうち「妙剣」や「絶妙剣」には大きく空を切るように剣尖を円に回して構えの段を転じる動きがあり、また「独妙剣」はまさに「水月移写」の窮理を編みこんだ剣であることを思い出さずにはおられない。
[変]における武芸の技「幻惑」は、円月殺法を代表とする幻惑の術を総合的に表現したもの、として追加されたもので(とはいえ、その際掲示板に具体例として挙がったのは円月殺法のみであった)その場にいるあらゆる対象に、「朦朧・混乱・眠り」を与えるというものになっている。基本的に直接攻撃系を補強する剣術家の技としては、かなり変り種の技である(整合性を上げるならば、実は混乱・朦朧打撃の方が良いのかもしれない)。そのためもあってそう簡単に使えるようにならない技とするためか、最後の武芸書「北辰一刀流皆伝」に入っている(そういえば、北辰一刀流の有名な鶺鴒剣の発展で、剣を激しく動かす「七耀剣」などは見かけ上は一種幻惑術の域に達するかもしれない)技なので、結局はレベルの割にかなり強力な剣術家のみ使えることになりがちである。
→正気度チェック →朦朧打撃 →セクシーコマンドー
コアトル Coatl 【敵】
単に翼の生えたヘビの形状をしたこの怪物は、少なくとも多くのRPGに登場するものは、AD&Dのコウアトル(Couatl)に由来すると考えられている。AD&Dのコウアトルは、おそらくはアズテック神話のケツァルコァトルからアイディアを得たと考えられているが(ナワトル語でquetzal- 羽毛の生えた -coatl 蛇)転じて、アズテックの最高神ケツァルコアトルの化身や使いのような強力で神々しい存在、さらには世界各地の古伝承で畏怖される「賢い空とぶ蛇」を表現したような、神とはいえずとも強大な精霊などを表現するといえる、きわめて強力な「秩序にして善」のモンスターの一種である。(ただし、D&D系の多元宇宙設定では、種族コウアトルの守護神はケツァルコァトル自体ではなく、多元宇宙の<法>バランスの最高権化である”秩序のサーペント”ジャズィリアンである。)
その姿は体長・翼長ともに4メートル前後の大蛇というものだが、特に最近のイラストなどでは、下手なドラゴンなどよりも遥かに畏怖的で神々しいイメージで描かれる。何よりも強力なのは(特にAD&D1st/2ndで恐れられるのは)その高い賢明度に由来する強力無比なサイオニック能力である。
転じて、他のゲーム等でも「羽のある蛇」の姿のコアトル/コウアトルが使用されることがある。(AD&Dの'Couatl'という綴りが取られていることもあるが、'Coatl'となっていた場合、おそらく原典(D&D系)の存在を知らず、ケツァルコァトルの方の綴りを調べて引いたらしいと推測できる場合がある。無論cuotlなど、ナワトル語からじかにアレンジされている場合もある。なお、レトロゲーム『ザナドゥシナリオ2』の「コリアティ」などの、元々読み違いの誤植に発して原型からあまりに離れたものも存在する。)その背景や詳細が知られておらず、せいぜい人間より若干大型程度の姿もあって、CRPGやTRPG、ときには小説等のフィクションでさえも、「ただの蛇に翼があるだけのモンスター」として扱われることも珍しくないようである。ドラゴンですらも激しくデフレーションするRPGファンタジーの現状にあっては、こうした風潮は嘆かわしくも避けがたい。
NetHackにも、聖なる生き物の一種としてとられたと思われ、'couatl'が天使(A)シンボルとして登場する。(ちなみにD&D系のコウアトルは、基本的には<上方世界>に住む天使(セレスチャル)ではなく、強い霊性は持つが主物質界に住む「原住来訪者」である。)基本パラメータなどはAD&Dのものとまったく同じだが、ただしNHでの悪魔類などと同様、サイオニック能力がないので原典の能力の大半は再現されていない。(一応、幻覚能力などは持っている。)弱いわけではないが、この印象の薄さもあって単なる「序盤に出会う弱い天使系」と見なされているようである。
*bandでは、[変]で追加されたモンスターの一種にコアトルがある。ここでのデータは、中盤クラスのノーマルモンスター(友好的)となっており、元のAD&DやNHのデータでは肉体的には「中〜上レベル」であることから考えると妥当なのかもしれないが、あまり強いモンスターとは見なされていないようである。一応、サイオニック(超能力者)も思わせる撹乱系の数種類の魔法を持つ。毒の打撃は持っていない。結果的ではあるが、どちらかというとNHや他のRPGに近い、あまり特色のないモンスターの一種になっている側面がある。
→イグ
航海者エアレンディルのナイト・シールド The Knight's Shield of Earendil 【物品】
出典:航海者エアレンディル(Earendil the Mariner)とは、トールキンのアルダ伝説時代(第一紀)末に活躍した半エルダールのひとりであり、以降の時代は空とぶ船で天をめぐっているとされる人物である。また『指輪物語』のエルロンドの父であり、アラゴルンらヌメノール王朝の先祖でもある。アルダの伝説上の重要人物として根本的な設定となっている一例として、『指輪物語』内にも、FotRでビルボがリンディアらに聞かせる詩や、ガラドリエルの玻璃瓶(→参照)に関連する台詞を中心として、しばしば名前が出てくる。エアレンディルとはクゥエンヤで「ea- 海」「-rendil 愛する者」を意味する。
『クゥエンタ・シルマリルリオン』や『失われた物語の書(HoME1-2)』に記されたその生涯には非常に言及すべき点が多いため、詳細は指輪物語関連の専門サイトを参照されたいが、エアレンディルは伝説時代の人間の王子トゥオル(→トゥオルの影のクローク)とゴンドリンの王女であるノルドールのイドリルの子であった。ゴンドリンの陥落後は海辺に住み、父と同様に海に親しみ、エルダールの長老キアダンに船造りと航海を学ぶ。なお妻エルウィングもベレン(→カムロスト)とルシエン(→参照)の孫にあたる半エルダールで、ベレンがモルゴスから奪ったシルマリル(→ドワーフの首飾り)を継承していた。モルゴスの軍勢と、シルマリルの強奪を目的とするノルドールら(→マエズロス)が迫ると、エアレンディルは船ヴィンギロトに乗って西方に向かい、その航海の技で遂にアマンの地に辿り着き、ヴァラール(諸神)に中つ国の自由の民への助けを請うた。このためアマンの軍勢がモルゴス軍に向けられる最後の「怒りの戦い」となるが、このときエアレンディルもヴァラールによって空飛ぶ船に作り変えられたヴィンギロトに乗り、モルゴスの最大の龍であるアンカラゴン(→参照)を倒した。戦いの後は、一度アマンの地を踏んだエアレンディルは人間として生を全うすることを許されず、シルマリルを掲げながら永遠に空とぶ船で天を巡る航海者の命を課せられた。このシルマリルの光(エアレンディルの光)が、アルダにおける金星、明の明星である。
エルダールとエダインの血脈とを、またアルダの神話・伝説時代を以降の歴史とを、後述するがアルダと実在の神話伝承とを強く結びつけ、トールキンのアルダ神話の構想の原点にあたるという点でも、およそ膨大なアルダ神話・物語中でも、最重要人物であることは疑いない。シルマリルリオン(伝説時代物語)でも主人公・中心人物であっても不思議ではないが、しかしながら、トールキンは伝説時代の最後の方のエアレンディルが描写されるあたりまでは充分にまとまった物語稿を残せなかったため、結局は『クゥエンタ・シルマリルリオン』には子息クリストファー教授が遺稿からまとめたと思われる概要程度の分量しか存在しない。
さて、トールキンは青年時代にアイルランドやフィンランドの語の美しさに感銘を受けて、アルダの言語や物語を創造しはじめたというのは有名な話だが、直接に強い霊感を与えたのが、17世紀の古英詩『キリスト』中にある「eala earendel engla beorhtast / ofer middangeard monnum sended おおエアレンデル最も輝かしき御使/中津国の天にもろびとの元へと遣わされし」であるというのもまた非常に有名な話である。古英語での「エアレンデル」は、光や明けの明星を指す漠然とした意で用いられる語で、この詩では洗礼のヨハネやキリスト自身の比喩として使われていると言われるが、元々エアレンデルとは、北欧神話の巨人オーヴァンデール(トール神がその凍った爪先を折り取り天に投げ上げると「オーヴァンデルの星」になったという説話)、中世詩の英雄に多出するオレンティル(ハムレット物語の原型『デンマーク人事跡』でのアムレズの父オルヴェンディルもこの派生とされる。ただし、エレンティルはエレンディルに流れた可能性もある)など、欧州各地の説話で高貴なる英雄として広く使われている名であった。オルヴェンディルの語源は「ヴェンデル(地方)に至った者」、また「or- 矢」「-wendel 悪魔」で異教の神(ケルトの神・半神を彷彿させる)から派生したとも、またはギリシアの「オリオン」と同根で、起源も星に疑せられる点(「オーヴァンデルの星」は北極星、金星、ないしオリオンの爪先にあたるとも言われる)もさらに古くまで遡れる、という説もある。
トールキンのエアレンディルは、キリスト詩と共にこれらの説話を意識しているというが、主に『失われた物語の書』(この物語の主幹のエリオル説話自体もそうといえるが)に説かれているエアレンディルは、ケルトの一連のイムラム(航海物)に準拠しているといえる。
NetHackにおいて、かつて旧バージョンでエルフに独自クエストが存在した際、エアレンディルはクエストリーダーとなりエルウィングと共に登場した(このエルフは信仰や属性はAD&Dだが、クエストや物品にアルダのものが多い)。しかし、NetHack日本語版では映画版LotRの某字幕女王訳と同様「エレンディル」と誤訳されていたことも大変に有名である。
物品:エアレンディルはアルダでも有名な名ではあるが、[V]および大半のバリアントにはその名を冠する物品は登場しない。これは『シルマリルリオン』にはエアレンディルの持つ物品が(ナウグラミア以外には)ほとんど記述が存在しないことによる。しかし、比較的アルダの設定を反映しているバリアントのひとつOangbandに「航海者エアレンディルのナイトシールド」が登場する。これは、『シルマリルリオン』『失われた物語の書』等が典拠ではなく、出典の項目で触れた『指輪物語』中の、ビルボの作った詩の中に現れるエアレンディルの輝く盾を指しており、[O]の特徴のひとつであるアーティファクト解説文章もその抜粋である。[変]にはかなり初期のバージョンから、この品が取り入られて登場するようになった。いずれも電撃、火炎、地獄、暗黒、盲目の耐性と、発動で治癒の能力がある。「あらゆる危難をさける」というほどではないが、防具としては高性能な方である。
噛尾刀 The Broad Sword 'Tailbiter' 【物品】
こうびとう。カウディモルダクス剣。竜退治説話や童話をひねったトールキンのお気楽話、『農夫ジャイルズの冒険』に登場する剣。らっぱ銃(註:舞台は小王国時代のブリテンのはずである)で巨人を追い払った褒章として王が農夫ジャイルズに与えた剣で、「物語の本などでおなじみの」剣らしいがそれ以上のエピソードは記されていない。竜がいると自動的に鞘から飛び出すので、鞘におさめることができない。ジャイルズはこれで竜を脅し、財宝を巻き上げる。
筆者(フェリアナス)が[変]掲示板に提案を行なったが、トールキン由来の由緒正しい品であるためか、[X]にも取り入れられた。強くなりすぎないようノートゥングを参考にしたのだが、何の特徴もなく、既に多数ある使えないアーティファクト同様、存在意義のわからない物品を増やすだけの結果になってしまった。弱くとも、何らかの特徴のある物品(攻撃回数だけは上げる、技量が低い場合に特に有利など)にしておけばよかったと思っている。
コウベサセ虫 The Neekerbreeker 【敵】
トールキンのアルダ世界第三紀、中つ国の北西部エリアドールの沼沢地に住んでいる羽虫。原作FotRにおいて、フロド達ホビットとアラゴルンがホビット庄から裂け谷に向かう途中(細かくは、ブリー郷とアモン・ルーズの中間)にある「ぶよ水」と呼ばれる沼沢地にて遭遇する。あまりにも血を吸う羽虫が多い沼地だが、また別に住んでいる「コオロギのような凶悪な生き物」の鳴き声が「コウベ、サセ、コウベ、サセ、シモト、サセ(neek-breek, breek-neek)」と(他の吸血虫をたきつけているように)聞こえることから、庭師サムが田舎ホビットらしいセンスで命名した名である。
アラゴルンはサムにこの名を呼ばせるままにしておいたのだが、あるいは、エリアドールに住んでいる野伏のアラゴルンは虫の本当の名前も知っているような気がするのだが(エルフの知識と技をもつ野伏は虫でさえおろそかにしないのではないかと思われるため、命名されていないともあまり考えられない)結局のところ本名がないのかアラゴルンが教えなかったのかは定かではない。
西洋では、日本のように虫の音を愛でるという文化は一般的でなく(ラフカディオ・ハーンは虫の音に音楽を感じる日本人の感性に対して、むしろその繊細さを驚いている。が、日本人はそういうスケールの小さいことにいかにもこだわりがちな民族だとは言えるかもしれない)子供が虫捕りでそうした羽虫を取ってくるようなこともないという。単なる騒音、さらには羽音だけでそうした音を出されるというのは不気味なものにも感じられるのかもしれない。"neek-breek, breek-neek"という音(この表現自体詩的な部分があり、作者がこの手の虫の音に興味を注いでいる面が見えなくもないのだが)から想像すると、日本人の耳にはスズムシのような快い音、少なくとも面白い音なのかもしれない。
なお映画版LotRでは登場しないが、美術のWETA社のシンボルマークでもあるニュージーランドの巨大コオロギを監督PJはサムのコウベサセ虫へのそれのごとく嫌っている。ウェタは実は絶滅危惧種の一種なのだが、世界各地(の僻地)に幾種類かが存在し、中には体長5センチを超えるものがいる。羽根がないのでコウベサセ虫のような鳴虫ではなく、というかはっきり言って北国人が恐れおののくカマドウマにしか見えず、コオロギへの憎しみも募ろうものであろう。
*bandには『指輪物語』由来の由緒正しい生物としては、とうとう晴れて[V]でも最近のバージョンから追加された。アルダ系のバリアントには大体登場する。思い出文章には原作通りコオロギの「邪悪な」近縁と書かれており本当にEVILフラグがある。また本当にじかに彼ら自身が頭を刺すらしく毒攻撃がある。当然ながら魔法としては絶叫もある。階層は19階と深いが、しかし、それ以外の数値などは本当にただの虫である。
蝙蝠のクローク Cloak of the Bat 【物品】
「蝙蝠の」はクロークのみにつくエゴアイテムで、攻撃力(殺戮修正)などにペナルティを与える反面、その名から想像できる通りの隠密や飛行をはじめ、スピード、視透明や暗黒耐性などを提供する。
由来として、トールキンのアルダ世界には、伝説時代の姫ルシエン王女(→参照)が、巨大蝙蝠スリングウェシル(→参照)の皮によって姿をかえ、アングバンドの城砦に潜入したという言うまでもなく有名なエピソードがある。(なお、『ルシエン王女の影のクローク』は王女が髪を編んで作ったもので、この蝙蝠のクロークとはまた別であり、蝙蝠の方は上に重ね着していたものである。)一方で、Moria以来の*bandが多く参照しているゲームAD&Dにも、Cloak of the Batというポピュラーなエゴアイテムがあり、*bandのものとほぼ同じ利点である(ただし、夜間しか飛べないなどの制限がある)。*bandがこのどちらを直接の由来としたかは定かではないが、多分に*bandは両方とも意識していたであろうし、おそらくはAD&Dのものもトールキンのルシエン王女から発想を得てデザインされた、どのみち同根のものと思われる。(なお、かのブルジョアなアメコミヒーローは連想を避けられないとはいえ、アイテムのデザインから考えて、あまり関係はなさそうである。)他のゲームでは『ダンジョンマスター』などにも存在するが、これもトールキンとAD&Dの両方の影響が強いゲームであるため、どちらが直接の出典かは定かではない。
ToME1から存在する物品であるが、[変]やTObandなど国産のわずかなバリアントに導入されているのみで、他の例は少ない。ToMEのものは殺戮修正にはペナルティ、アーマーにはボーナスがあるが、[変]のものはアーマーにもペナルティがあり、レアリティもかなり高い。[変]では隠密の重要性がどちらかというとToMEより高く、深層でのバランスを重視したとも思われる。
コーウィン Corwin of Amber, Lord of Avalon 【敵】
出典:九王子。アヴァロンの主。アンバーの魔太子。弟者。ゼラズニィのアンバー前半シリーズの主人公で語り手。見かけは30代半ば、黒い髪と碧の目。黒装束に銀の剣帯、マントの留め金は銀の薔薇、銀の小札造りの篭手。地位も力も知力もあり、一族でも卓越した狡知の持ち主でピカレスク的に活躍というと完全無欠なようだが、毎回気がついてみれば騙されているかぶちのめされて療養している。「妹萌え(デアドリ)」に、いくらのされても立ち上がる再生能力が売りというのがまるで日本の青年漫画あたりの駄目男ヒーローのようである。
BLACK FIGURE ON A BLACK HORSE,
HE CARRIES THE WHITE ROSE.
THE RISING SUN -- CHANGE WILL COME
IT FOLLOWS WHEREVER HE GOES.
WHAT CARD AM I?
漆黒の馬に乗りし黒き影
白いバラ持ちて歩み寄る
陽が昇る、そして変化が訪れる
彼赴くところ、変化は続かん
我がカードの名は?
("Wizardry" scenario #3 "Legacy of Llylgamyn")
なお「アヴァロンの創造主」とは、コーウィンがアンバーの王族の”影の転換(創造)”能力で、かつてアンバーによく似た幻想世界「アヴァロン」(アーサー王伝説の妖精郷で、このアンバーシリーズのアヴァロンにもランスロット(円卓の騎士筆頭)などがいる)を作り出し長期間支配していたことによる(しかしこのアヴァロンはコーウィンもしくはその投影人物が見捨てたので滅び、後にベネディクトが再建して住んでいた)。
さて、ロジャー・ゼラズニイはその膨大な神話・伝承の知識と考察から設定を構築しており、このアンバーシリーズもケルトをはじめ西欧の原始神話から作られているが、主人公「コーウィン」の名とエピソードにはそうした古来の神話から現代神話までもの凄まじいまでの大量の暗示が詰め込まれており、神話伝承において何が原型であるのか、整理して概説するのはきわめて至難である。西欧の神話伝承という側面で、ゼラズニイのファンの間でコーウィンの直接の基盤として説が上がるうちのひとつに、ケルトの伝説のひとつに見られる、アルスター王コノール(クーフーリン(→ガエボルグ)の叔父であり、アルスターで最も有名な悲恋伝説のデアドリ(→参照)の養父でもある)の実子「コルマク」がある。コルマクは父コノール王の遺言でひそかに後継者に任ぜられるが、流離行からの帰還に失敗し死亡する。この経緯がコーウィンに照らしあわされているというのである(作中、少なくともコーウィンの最初の王位継承の試みはエリックによって失敗した)。
しかしそれ以上に強い暗示を投げかけるのが、アルスターにおいてさらに原始神と思われる、不明瞭かつ多数のバリエーションを持つ「塚の神」クロムである。ケルト文化には、(現在もっぱら日本で「ケルト神話」として流布される、ダーナ神族として知られる面々と以後まつわる伝承などの他にも)詳細が失われたおびただしい数の神や信仰の名残が残っているが、クロムとその綴りのバリエーション(クレム、コラム、クイル、クロウ等)は、語意の上では塚(円、円陣、円月)・墓(石版)・曲がった者(三日月、長生者)などの意を持ち、地名などに見られ、恐らくは現在主なケルト神話とされるもの以前のアイルランドにおいて、陽光と豊穣の主神であったと考えられている。ダーナ神族の神話における旧世代の主神ヌアダと合流や分離も繰り返した節もあるが、その明瞭な像は定かには残っていない。豊穣神ゆえに「生贄を捧げられた神」であったという性質と、後の主神らに淘汰された信仰という側面からか、後のより一般的なケルト神話の解説では、ヌアダらと戦った悪神「邪龍クロウ・クルーアッハ」という形で残ったものが説明されるのみである。(なお、アンバーシリーズではこの一般的なケルト神話での説話に対しても、コーウィンが作った世界アヴァロンにおいてコーウィン自身が神の地位から堕ちて悪魔と恐れられるようになっている点、そのアヴァロンをベネディクト(ヌアダ)が継いで蛇(リリス)ことリントラを倒した点などに符号している。)また、クロウ・クルーアッハは血のブラックアートの性質からか「黒い死の蛇」ともされ、ねじ曲がった角や羊の頭を持つとされ、カエサルの『ガリア戦記』でケルト人が生贄を捧げていた蛇像もこれとされるが、これはキリスト教以降さらにいわゆる「サタン」の姿へと直接に変化した大聖霊の性質そのものである。またペルシアのアンリマンユら黒の邪神類との相互の影響も思わせる。(言うまでもなく、コーウィンはサタンやアスモデウスなどの「悪魔」の表像を強く持つ。)
まったく余談だが、古い大神としてのクロムは無論のこと『コナン』シリーズでキンメリアなどの北部の主要神と設定されているものであり、またムアコックの紅衣の公子コルム(前半でもコルムにその手を与えた古代神クゥイルが登場し、後半3巻でコルム自身もクレム・クロイクと呼ばれる。ここでのクロイクは「血」の意をとったもの、すなわち「紅衣」の暗示と思われる)は、これらの暗示にそのまま当てはまる。
アンバーシリーズ開始時、コーウィンは行方不明になっていたためアンバーの宮廷には彼の「墓」が作られており、墓の下にいる者と呼ばれる等、繰り返し言及されるが、これが「塚の神」クロムを暗示していることは強く想像できる(その作中での足跡も、「黄泉帰り譚」との類似も強く指摘される)。また、コーウィンの剣グレイスワンダーが月(クロウ)の剣であること等からも、クロムとその派生説話の暗示が強いことは確かに思われる。
なお他の説としては、コーウィンの名はケルトの「暗黒」を意味する語のひとつ「ケルウィン」であるともいうし、銀の薔薇はタロットの大アルカナの「死:13」の象徴とされることから、塚神、黄泉帰り譚、死の蛇クルーアッハとの関連なども囁かれる。
敵:[Z]のメインテーマであるアンバーシリーズの主人公のひとりだが、結局はユニークモンスターすなわち「敵」として登場する。原作での純粋な強さで言えばエリックやジェラードに劣るが、奸智とはったりで強さ以上に活躍するので、[Z]での階層(強さ)は、やはりというかベネディクトに次ぐものになっている(というよりベネディクトが別格である)。倒すとそれぞれ低確率で『グレイスワンダー』もしくは「★コーウィンのガントレット」を落とす。
なお板倉氏も迷っていたが、もし[Z]や[変]で「コーウィン」という名のアンバライトでプレイする場合、どのクラスに当たるかは不明である。剣とトランプ魔法を使えることは間違いないが、盗賊や魔法戦士だと「★コーウィンのガントレット」は麻痺耐性も器用さ上昇もついていないので、メイジ系魔力が減少するので不自然である。トランプのプリーストなら問題なく装備できるが(グレイスワンダーには祝福がついている)イメージに合わなすぎる。
→ グレイスワンダー →コーウィン篭手
コーウィン篭手 The Set of Gauntlets of Corwin 【物品】
上のコーウィンの項目に関して、監修のひとりAlba氏から前に考察があったのだが、[Z]以降のコーウィン篭手に麻痺耐性がついていないのは、これが[V]の『パウアニンメン』の名前を変えただけのもので、パウアニンメンの耐冷がついたままになっている点からも深い意味はなさそうとのことであった。
元々のパウアニンメンも、他にも炎や電気といった「元素」に関連する篭手があるうちのひとつで、トールキン設定にもなく、ニムサンク等と同様に[V]にあまり意味もなく適当に追加されただけのもののようである。が、これを変更したコーウィンの篭手の方は、コーウィンのトランプの絵柄に「銀の小札造りの手袋」と明記されているもので、アンバーシリーズ原作に登場する、数少ない防具のひとつである。もっとも、他には特に能力に関してや活躍する描写があるわけでもない。また、パウアニンメンのまったくの引き写しというわけでもなく、コーウィンの最大の特徴である耐久力を表現するためCON+4が追加されている。そして、よくあることなのだが、舞台がアルダ世界に戻りパウアニンメンに戻ったはずのToMEでも、このCON+4のままになっている(Gumbandでは戻っている)。[変]ではコーウィン篭手の他に改めてパウアニンメンが後の番号に追加しなおされているのだが、抜け目なく[V]の通りのデータになっている。
このコーウィンの「銀の篭手」というのは、「銀の手」の逸話や名を持つケルトの神を暗示する、ゼラズニイの例にもれぬ間接的ほのめかしと受けとることができる。ゼラズニイに関する話題では、よく「コーウィンがアヴァロンの主であるということは、彼はアヴァロンの過去と未来の王・アーサー王なのか」という考察が見られるが、コーウィンはアーサー自身よりも、アーサーの前身である光神や、一説には転生する前の妖精王そのものに重なるように思える。銀の腕と剣を持つヌアザ(ヌアダ)をはじめ、後代のコウィル、すなわちケルトのフィン=マク・クウィル(ムアコックのコルム・サーガでは、タネローンの古代神の一体である。無論、銀の義手「クゥイルの手」をつけたコルムすなわちクレム・クロイク(クロウ・クルアッハ、クロム)自身も重なる)との関係も見え隠れする。しかし、片手の神というとゼラズニイでは同様にアヴァロンを守っていたベネディクトも挙げられるので、コーウィンの方だけに断定することはできない。マーリンやブレイズなどとのドルイド系の関わりも考慮に入れると、容易には結論に近づかない。
→コーウィン
虚空への暗い裂け目 【システム】
→ぬぞぷり
コカトリス Cockatrice 【敵】
出典:コカトリス、コカトライスは鳥と爬虫類の特徴、石化の能力を持つとされる伝承生物で、同様の特性を持つ混成怪物であるバジリスクと対になってよく語られる。よく知られたものは「雄鶏の産んだ」卵から生まれるという伝承である。バジリスクともども伝承の発想の原点を考えると、蛇以上の怪物、蛇を殺す怪物として、マングースや猛禽からの想像が発展した(ちょうど、東洋では龍の天敵である金翅鳥王)ところにもあるのではないかとも想像できる。Cockatriceという語は、ワニ(croco-)と鳥(cock-)のどちらかに由来しどちらかが混同され混成されたものであるとか、それぞれの順番やバジリスクとの関連については諸説があってはっきりしないようだが、詳細はその手の伝承の解説サイトを参照されたい。ここでは、RPG系FTにおいての受容とその姿についての記述に限定する。
コカトリスは作品ごとに非常に多様であり、モンスターは逆説的に元の姿が曖昧なものは、何かの作品やゲーム設定で描かれた一定の姿に定着するという場合もあるのだが、コカトリスの場合はそういった一定の典拠がなく曖昧なまま広まっている感がある。石化能力がバジリスク同様に視線、接触(両方であることもある)であるもの、ほかの能力を持つもの、バジリスクとの関係、その姿や大きさも様々である。
最初期のRPG全般の原型であるD&D系では、大きめの鶏くらいの小さな怪物で鶏と爬虫類の中間(AD&Dの説明では龍めいた蝙蝠の羽とトカゲの尾)、嘴による石化の能力を持つという中級のモンスターである。しかし、旧D&Dや3.Xeでは嘴で接触した相手に石化に対して抵抗の余地があるが、AD&Dでは抵抗の余地なく即石化させるなど、能力はまるで一定しない。なお、NetHackなどにも登場する「パイロリスク(ピロリスク)」は、ここでは(名前と、視線の能力にもかかわらず、バジリスクでなく)コカトリスのバリエーションとされており、抵抗に失敗したあらゆる対象を爆死させる能力があるが、これにも抵抗の余地はある。ちなみに、AD&D/3.Xeのコカトリスは「敵を見つけたら顔面にとびつく習性がある」というあまりにも嫌な記述がある。
T&Tでは、ソロシナリオにおいて登場するものは石化の「視線」となっている。パラグラフをめくったとたん「扉を開けたらコカトリスがいて君は見られて石になってそのキャラクター用紙は破り捨てれ」だけで、姿はもちろん描写も説明も一切なく、「T&Tじゃ(ソロシナリオ作者がケンstアンドレじゃ)しょうがない」としかいいようがないのだが、そもそもゲームブック等では、肉体的には小型のコカトリスはデータ的なモンスターとしては戦っても面白みがないのでイベントやトラップモンスターとして扱われていることが多いとはいえる。
後出のゲーム類では、RPGの例によってD&D系を踏襲しているとも、ほかの一定の典拠があるともいえない。また、どちらかというと石化は「凝視」の能力になっていることが多い。これは原典があるというよりも、見た目のインパクトや、最も一般的なメデューサ(→参照)から石化は「凝視」のセオリーのことが多いことが原因に思われる。また、その大きさからも全体的にバジリスクよりも低レベルモンスターであることが多いのだが、初期レベルに登場させるには特殊能力が凶悪すぎるために、登場頻度は高レベルに調整できるバジリスクやメデューサよりは少ない傾向にあると思われる。
レトロPCゲームでAD&Dをそのまま踏襲していることが多いゲーム『ザナドゥ』では、石化をゲーム的に表現できないため、「かつては石化(金縛り)の視線を持っていたが退化して現在は念動魔法しか使えない」となっており、ただの念波のダメージ魔法を放ってくる。また例えば、漫画『バスタード』は右記の『ザナドゥ』やさらにさかのぼるD&D系を元にした描写が多いが、これに登場するコカトリスはいずれでもなく、なぜか異様に巨大であり、石化の視線でも接触でもない「石化ガス」のブレスを吐く。石化ブレスはAD&Dでの牛型のゴーゴン(→参照)の能力からとられていると思われるが、おそらくは見た目のインパクトと意外性を重視し、さらには牛型ゴーゴンのマイナー性(あるいはD&Dモンスターに伴う諸々の事情)を除去した結果として、牛ゴーゴンの特性を持つコカトリス、という奇妙な存在になったのかもしれない。
初期の『ファイナルファンタジー』はAD&D(特にGreyhawk世界)をかなり忠実に踏襲していることで有名だが、FF1などではコカトリスの石化能力の強力さも再現されている。ただし、その媒介は接触ではなく「にらみ」になっている。他の睨みによる特殊攻撃と統一したのか、ピロリスク(こちらも登場するのが芸が細かい)と統一したのか、定かではない。
さて、Roguelikeでは何よりもNetHackにおいて、コカトリスやその死体等が「最終兵器」となっていることが特筆すべき点であろう。その効果や注意点に関してはNetHackの専門のサイトに譲るが、なぜここまで強烈な兵器となっているかは、実のところ定かとはいえない。数値データ的には、例によってAD&Dのそれと同じで、抵抗の余地なく一撃で石化させるというのは、AD&Dの2版まで(3.Xe以前)と同一とはいえるものの、コカトリス関連のあらゆる部位に手袋や靴なしで接触したら即石化、という描写は独自のものである(D&D系のものはあくまで石化は「嘴」の接触となっている)。AD&Dではコカトリスの羽根が魔法ペンの材料になるなり、ペットや守護者として重宝されているなりといった記述があり、それほどまでに危険な存在でもない。唯一、噛まれてからの3ターン(3ラウンド)の余裕がある点がNetHackの猶予だが、これはソロゲームのバランス(治療や祈りの余地)上に過ぎないと思われる。アークフィーンド(上位悪魔)まで石化する点にせよ(なお後の版だが、神格持ちやそれに準ずる存在は麻痺石化には耐性がある)AD&Dの「抵抗の余地なく」の点や、嘴がエーテル間隙界まで貫通する点などが誇張されたものと考えられるが、それを考慮しても一般モンスターの特殊能力のうちでもコカトリスのみの存在がここまで大きくなっている理由については定かではない。
敵:*bandでは、NetHackに比べて非常に影が薄く、[V]の時点から多数のバリエーションや強化された能力、上位モンスターが多量に追加されているバジリスクとは対照的に[V]2.8系に至るまで存在しない。これは*bandがNetHackと意図的に差を設けていることと関係があるかもしれない。*bandでコカトリスが登場するのはEyAngbandなどのわずかなバリアントである。バジリスク同様、石化については*bandのシステムでは再現されず、「麻痺」で表現されている。麻痺の媒介は「視線」であり、ほかの毒などの能力は持っていない。姿は「雄鶏とトカゲの中間」とされ、13階という階層から小型のモンスターであると考えられる。
→バジリスク
黒王号 Kokuo, Raou's Steed 【敵】
ラオウの愛馬。バイオレンス大河アクション漫画『北斗の拳』の重要強キャラのひとり、拳王こと世紀末覇者ラオウ(→参照)の乗騎である、黒い巨馬。その騎乗姿は兜にマントというラオウ自身と「拳王」の名を引き立てる偉容を持つ。ラオウの堂々たる体躯は描写によりしばしば巨大化するが、一応スペック上はラオウは身長210cmであること等を諸々に考慮しても、黒王号はどう考えても巨大すぎ、象と見まがうほどといわれることもある。単なる移動手段だけでなく、黒王号のその戦闘能力も凄まじいものがあり、いわゆるザコキャラや並の拳士は前足で粉砕されてしまう(一説には、ラオウの部下全部の中でも実質最強ではないかと評されることすらある)。ラオウ自身は特に認めた相手に対してのみ、黒王から降りて戦う。
黒王号はラオウ編の後も、主人公ケンシロウやラオウの息子リュウ(→子孫)の乗騎として登場し続け、その作中での存在感はかなりのものがある。しかし、なぜかラオウ編後には片目にいつついたのかわからない傷があったり(北斗の拳は多々の事情により無茶な展開も多く(→アミバ)プロットが錯綜していたため、なんらかのエピソードが漏れた・変更等の影響の可能性もある)役目が終わると突然死したりと謎も多い。
*bandでは、[変]がバージョンアップ途上で数々の要素を取り入れていた頃に、とある有名ユーザーが[変]にもともといたケンシロウをもとに「ラオウ」を追加した際、明の明星号(→参照)のコピーで同様に黒王号を追加していたのが、そのまま取り入れられたというものである。ラオウはケンシロウのデータが元なのでつまり徒歩であると思われ、黒王号に乗っていないということは、一応*bandのプレイヤーキャラクター(と、まきぞえで殴られる他のモンスター)は、ラオウに徒歩で戦うに相応しいと認められた存在ということになる。北斗の拳と同じ作画者による漫画『花の慶次』に登場する馬「松風」が黒王号に酷似しているというのは常にファンから指摘されるところであるが、つまりは*bandのアンバーシリーズ設定的に言えば、黒王号や松風はジュリアンのモルゲンスターン同様、屈強で危険な馬の超次元的な原型に近い存在であり、同様のデータを有するのも然るべきといえる。対処法などは明の明星号の項目を参照されたい。
ゴーゴン Gorgon 【敵】
gorgon, gorgo- とはギリシア語もしくは遡ってオリエントで恐慌・畏怖、ひいては怪物を指す漠然とした語であるが、ギリシア神話では、海神フォルキュスとケトの間に生まれた「蛇の髪と石化の眼光をもつ三姉妹」(→メデューサ参照)を指し、一般には、ほとんどこの語義以外に使用されることはない。
しかし、リビアではゴーゴンという語を、ギリシアではカトブレパス(→参照)と呼ばれた「眼光で人を殺す野牛のような怪物」に対して用いていた。(これらが同根で大きく変化したものか、別根で混合していったものかは定かではない。)
D&Dシリーズでは、ゴーゴンという言葉は、リビアのゴーゴンを基本としてギリシアのそれを取り入れたようなものとして用いている。すなわち、巨大な野牛のような生き物で、岩のような外皮と肉体を持ち、石化ガスのブレスを吐く怪物である(なお、メデューサやカトブレパス自体はこれとは別にデータ化されている)。主物質界では不毛の岩山や迷宮の奥底に住み、非常に気性は荒く、ダオ(地の元素界の魔神)や地のエレメンタル以外の生物がこれを馴らしたり手なづけることは不可能である。地の元素界に住む知的生物は、このゴーゴンを牛のように飼いならし、牛肉や牛乳(石油そっくりである)を得ている。
*bandに[V]から登場するものは、巨大な牛の怪物のノーマルモンスターであるが、石化の能力はなく(これは、石化モンスター全般が*bandでは表現しづらいためでもあるだろうが)毒の攻撃とブレスのみで表現されており、D&D系よりもリビア等の原型に近いものと言えるかもしれない。
→メデューサ
ゴーゴンキメラ Gorgimera 【敵】
ゴルギメラは、キメラ(→参照)の亜種としてAD&Dに存在するモンスターの一種であり、山羊・龍・ライオンの頭を持ったキメラに対して、前半身がライオン、後半身がゴーゴン、龍の翼に、これら3種の頭というものである。無論ここでのAD&Dのゴーゴンは、ギリシアのメドゥサらの一族のものではなく、牛の形で石化のブレスを吐くというものを指す。ギリシアのキマイラに発した異説に、ゴルゴン(ここではリビアでのカトブレパスの別名であり、ギリシアのものでも、両者が合成されたAD&Dのものでもない)や類似怪物が混ざっているというものがあることからの発想であろう。そのゴーゴンの頭のため、当然ながら「石化」のブレスを吐く能力を持つ。モンスターとしての大きさ・規模はキメラと同じなのだが、これによって大幅に危険度が増している。(しかし得られる経験はさして変わらない。これは、元々のキメラが充分に特殊能力が多く危険な怪物であるため、あまり特殊能力が増えたと見なされていないためのようだが、挑戦する側としては迷惑きわまりない話である。)
RPGでの登場例としては、例えばAD&Dの影響がきわめて大きい『ファイナルファンタジー』シリーズでは、ゴーキマイラ(FF1、5、6等)、ゴーギマイラ(FF2、11等)といった表記で登場し、ブレス等の特殊攻撃が再現されている。
*bandでは、[V]から古典的モンスターの一種として登場する。ゴルギメラでなく「ゴーゴンキメラ」と改められているのは、イメージをわかりやすくするための変更であると思われ、[V]の翻訳の特徴でもあるやや立ち入ったところもある配慮である。この手のモンスターとしては例によって、あまり高レベルのモンスターではなく、申し訳程度にキメラよりは上がっている。*bandでは石化ブレスは再現できないので、当然ながら特殊能力ではキメラの火炎ブレス以外に何か増えているわけではないが、ひとつ直接攻撃に「麻痺の凝視」が入っていることが挙げられる。バジリスク同様、石化を麻痺攻撃で再現しているともいえるのだが、この「凝視」というところはギリシアやAD&Dのゴーゴンでもなく、元のリビアのゴーゴン(カトブレパス)を思わせるところがあって興味深い。しかし、どちらにせよこの階層(27階)まで麻痺知らずなしに降りてくることはありえないので、さして気にもとめられず葬り去られるか火炎攻撃・ブレスを避けて相手にされないかの運命である。
→ゴーゴン →キメラ
ゴスモグ Gothmog, the High Captain of Balrogs 【敵】
マイア。バルログの長。モルゴスの私的親衛隊である炎の悪魔・バルログの軍団のうち、最も強大な力をもつ首領で、サウロンと並んでモルゴスの左腕ともいうべき存在である。バルログの中では、『クウェンタ・シルマリルリオン』およびUnfinished Talesにおいて、唯一名前が判明している存在でもある(「ルンゴルシン」は準備稿にしかない)。大蜘蛛ウンゴリアントからモルゴスを守り、エルフ中で最も優れた存在であるフェアノール、また上級王フィンゴンを倒し、さらに当時の人間で最も優れた戦士であったフーリンを捕えるなど、武勇には事かかない。
なお、*bandの思い出には「泉のエクセリオンを倒した功績があり、戦いに一度も負けたことがない」と書いてあるが、トールキンの原典では、ゴンドリン陥落時にこのノルドールの武将エクセリオンと相打ちになっている。(*band世界では、その後も生き残っているという設定なのかもしれない。歴史軸が目茶目茶な*bandとはいえ、モルゴスの冠のシルマリルが奪われた後であるなどわずかな軸は存在するため)しかしながら、トールキン作中では「武勇にすぐれた」と書かれていても、具体的にはあって1箇所程度しか功績が述べられていない存在も多い中、強力な相手と闘い、そして連戦連勝ばかりという点を確実に見いだせる存在であることは間違いがない。この「負けたことがない」という表現は必ずしも大仰とは言えない。
「ゴスモグ」という名であるが、これはクゥエンヤで元来「Kosomoko コソモーコ」という名のノーム語(初期構想でのゴンドリン語)型であり、このコソモーコとは「-mok 争いの koso- 憎悪」といった意であるという。トールキンの最初期のアルダの構想である『失われた物語の書』(HoME1-2)の中には、アイヌア(神族)らに関して最終的な物語稿とは異なる部分もある多数の案があるが、実は、コソモーコ/コソモートとはその中に「メルコールの息子」のアイヌアとして記されている名である。のちの物語稿でのメルコール最大の部下の一体の名が、このメルコールの息子の名が流用されたことは確かではあるが、メルコール自身の子といった設定があとにも続いていたかは定かではない。またコソモートの「母」のアイヌアの名として「Ulbandi ウルバンディ」という名が見えるが(コソモートともども、後でいうヴァラかマイアかは定かではない)Ulban(d) ウルバンド(怪物の意)はメルコールの多数の別名のうちのひとつでもあったりするので、これはさらに定かではない。
*bandでは[V]から登場する。設定通り最下層に近い大ボスキャラ格だが、(バルログ全般に言えることだが)この階層としては思ったほど攻撃・防御は強くはなく、ただし火炎、および同族召喚能力に注意が必要となる。火炎は特に洒落にならないため、免疫がつくまで逃げておくという慎重なプレイヤーもいるほどである。[変], ToMEではゴスモグの鞭と斧(バルログの標準装備であった鞭の他に、「赤いまさかり」を使用するという記述が原典にある)がアーティファクト化されており、また[変]では倒すとある程度の確率で鞭を落とす。
→バルログ →バルログの長ゴスモグのムチ
ゴスモグ Gothmog, the Lieutenant of Morgul 【敵】
モルグルの副官。『指輪物語』に登場するミナス・モルグルの武将で、アングマールの魔王の補佐を勤めているというが、原典には名前以外にほとんど情報がない。*bandではわずかなバリアントにしか登場しないが、上の方のゴスモグの項目に加筆しようと思ってたらなんか元のゴスモグより長くなったので、せっかくだから独立したエントリーを設ける。
このゴスモグは、第一紀のモルゴスの武将であるバルログのゴスモグ(→ゴスモグ(第一紀)参照)とは明らかに別人であるが、破城槌にモルゴスの武器グロンドの名がついていたのと同様、第一紀に因んでいる名であることは疑いもない。しかし、その種族・出自などは何なのか、ファン間のFAQのひとつにもなっているが、トールキンの全記述に手がかりは全くなく、推測さえも困難である。魔王の副官ならば彼もナズグルに違いない、という想像も海外・国内ともに見られる(「ナズグルのナンバー2の名」と書かれているサイトもあるが、ナズグルの2位はトールキン自身がUnfinished talesで東夷出身の「ハムール(→カムル)」という名を明記しているので、ゴスモグがナズグルであったとしても2位ではないことは確実である。(なおICE設定では魔王の参謀は5位のアコラヒルである。)
ただし、第一紀の悪鬼の名をそのままつけたというのは、遥かな昔から由緒ある名ではなく、いかにも後から名乗った・つけられた名と考えられるので(種族合成で作られた時に名づけられたか、あるいは論功によりサウロンもしくは魔王から「与えられた」名ではないかと想像する)由緒ある名を持つであろう精霊やナズグルやドゥナダンなどではなく、ICEや映画設定のように人間やオーク、トロルといった者からの叩き上げの武将とする方が妥当ではないかと個人的には想像する。
ICE設定でのゴスモグは、オログ=ハイと人間(ヴァリアグ)の混血であるペレトログ(ハーフトロル)の戦将で、サウロンにこの名を授かっている。その勇猛さと、さらに容姿もどこか第一紀のバルログのゴスモグを彷彿とさせたためであるという。半トロルだが、サウロンからは魔王、ハムール、サウロンの口についで4番目と見なされている(レベル値も相応で、3位以下のナズグルを上回る非常に強力なものである)。9フィート7インチの巨躯だが、おそるべき素早さと戦闘技術をもち、三つ頭のフレイル'Skull-flail'と投げても戻ってくる巨大な戦斧を投げて戦った。戦士であるが、魔王などに習ったかなりの魔法を使うこともできる。
映画版RotKでは、ゴンドール攻撃などの指揮をとるオークの武将がゴスモグとなっている。映画のゴスモグは火傷のように歪んだ容貌のオークで(あるいは無理な交配の繰り返しによって生まれ、ひきかえに優秀さをもつウルクであろうかとも想像する;というといかにももっともらしいが、はっきり言って監督Peter Jacksonの代表作スプラッターギャグ『バッドテイスト』のエイリアンリーダーと単に同じ顔なだけである)PJ映画版ではオーク全般の活躍が印象的であるが、「これからはオークの時代だ」をはじめとする台詞でRotK一等に目立つ。左半身すべてがきかないように見えるが、ひとたび武器をとるとそれを忘れさせるほどの強さを発揮する。映画のDVD拡張版(SEE版)では、さらに場面が追加され、鋭くもエオウィンを西方軍の最大の危険人物と見なして再三四度と彼女と刃を交えるが、亡霊軍と共に上陸・参戦したアラゴルンとギムリに、通りすがりのついでに滅多切りにされる(おそらく彼らは覚えていない。直後にアラゴルンがレゴラスに例のムーマク(→参照)戦を命じる場面があるからである)という最期も追加された。
なお、他のRPGでのゴスモグという名のキャラとして、3DリアルタイムRPGの定番『ダンジョンマスター』で選択できるキャラに入っている「Gothmog」は全身黒の純魔術師系なので、おそらくシルマリルリオンのバルログではなく、LotRのみの「名前以外は不明なサウロンの部下」から発想されている可能性が高い。
*bandにおいては、Unangbandに「モルグルの副官『ゴスモグ』」が登場し、これはナズグルの1人として扱われている。Unangbandではイベントに従ってユニークが登場することも多いので、ナズグルをイベントごとに出す目的もあるのかもしれない。コメントには、[V]でのディアのホアルムラス(序列は6位だが、[V]以来*bandでのデータの強さでは魔王とカムルに次ぐ3番目である)のデータを用い名を変更した、とある。
→ゴスモグ(1) →アングマールの魔王
古代の死霊 Manes 【敵】
Manes メインズとは、ローマにおいて「死者の霊」を指す言葉で、ことに先祖の霊、(特にMane と単数である時は)神として崇拝に足る力もつ良い霊を指した(対して悪のものをレムレー(→参照)と呼ぶという説もあるが、どちらも無害で、悪のものをLarvaeとする説もある)。どちらにせよ、これらの古い霊の機嫌を損ねず害を避けるよう、レムリア祭において黒豆を投げながら「manes exite paterni 祖霊去れかし」と唱えるという風習があった。まるで節分のようだが、どちらの祖でもあった可能性のあるインダス文明に由来しているとも考えられる。
しかしながらRoguelikeにおいてモンスターとして登場するのはAD&DにおけるモンスターのManesである。ここでは、「混沌にして悪」の<下方次元界>すなわち奈落界(アビス)に原住する生物、すなわち「デーモン」の最下級のものとされている。一見、「よい神霊」であった元のローマとは結びつかないように見えるが、AD&Dでは「異教の神」の色濃いものをデーモンとしているため、神となる霊という意味でのデーモンであるとも考えられる。「死者の霊」という側面としては、死者の魂のうち奈落界に落ちてそのまま彷徨うものがメインズとなる。メインズのうちわずかなものはより上位のデーモンに進化するというあたりも、九層地獄界のレムレーと同じである。ただし、混沌の坩堝である奈落界は、九層地獄のような厳しい「階層社会」ではないため、数年を生き延びるだけ(さほど多くが生き延びるわけではないが)で昇格できるようである。AD&Dのメインズは人間型で、青白い肌に薄い頭髪、歯や爪が伸び、しばしば肌に汚れや蛆がわいているという姿をしている。
NetHackではこれらの最下級のデーモンは、悪魔系ではなく「小妖魔 'i'」シンボルとして扱われ、割と低い階層に単独で出現する。他のゲームでは、Wizardry Vなどに登場し、これはAD&Dのデータのままではなく、心持ちではあるが強力で、あるいはより強力なローマ系の霊という定義になっているのかもしれない。
*bandでは[V]以来、最下級のデーモンとして低階層に集団で登場する。最も低い階層では対デーモンや破邪の武器もないと思われるので、耐久力が比較的高いものにあたるかもしれないのだが、基本能力自体が低いためかそうした記憶に残ることはほとんどない。特殊能力も特殊攻撃もない(一応火炎への耐性もあるが、逆にこの階層ではほとんど関係はない)ので、割と地味な初期の「経験稼ぎ」の相手になっていると思われる。
→デーモン
虎伏絶刀勢 こふくぜっとうせい 【その他】
『るろうに剣心』終盤に登場する「倭刀術」の「絶技」で、伏せるかのように一旦大きく身を沈めた後、伸び上がりざまの力をこめて一気に斬り上げる。溜め込んだ力を一気に放つ反動と、刀を体に隠すようにしているため太刀筋が読めない効果が真髄であるとされ、天翔龍閃であっても完全な状態で放たない限りはこれを破ることはできない。
古来日本の刀法は、裾の長い着物で闘うためもあってか、跳躍や伏せなどの激しい体術はきわめて古流の京流などを除けば少なく、また機動力としては用いてもじかに奇襲などに使うものはまれである。また、勢いのある斬撃(「ダメージ」を想像しがちだが、どちらかというと剣の勢いは剣尖の「伸び」であり技の切れである)は上段からのものとされ、下段はもっぱら奇襲や技巧を重視した攻撃である。『るろうに剣心』での倭刀術(大陸で日本刀を模して作られた倭刀は実在する)は、大陸の体術を組み合わせた力押し中心の激しい技と設定され、故にこれらの日本の刀法の定石とは大きく異なるこのような技を顕せた、という事のようである。
しかしながら、日本の太刀法の中でも特に緻密な戦闘理論を持つ幾つかの流派には、(伏せるとまではゆかずとも)これを思わせる変則的な戦法すらもカバーしていると思しきものがあり、一刀流の高上極意の末点・独妙剣や、直心影流の七箇撓型には身を沈めてからの瞬発を伴う強力な擦り上げなどが見られ、まったく無根な技とも言い切れないのである。
*bandには、[変]の武芸の技のうち42レベルの、<切腹><慶雲鬼忍剣>に次ぐ最強から3番目(事実上は2番目だが)の技として登場する。プレイヤー中心に半径5の、通常ダメージの1.5倍期待値のダメージを与える技で、隕石属性であるということには「属性に関わらない安定した大ダメージ技」という以外にあまり意味はないようである(一応「地」に関係すると言えなくもない技なので、石なのかもしれないが)。消費はかなり厳しいが、ペナルティが特にないことと安定したダメージから、高レベルの技の中ではよく使われるようである。
→天翔龍閃
ゴブリン 【敵】
→スナガ
コボルド Kobold 【敵】【種族】
「コボルド」はギリシア語の「コバロス(小妖)」のドイツ語変形で、ゴブリン、ボーグル、ボガード、バグベア、ブーカなど、同じギリシア語から派生した妖精の名のうち、最も原語に近い形と言える(コボル「ト」という表記も散見するが、これは元のチュートンに近い発音である)。つまり、民間伝承でのコボルドの実態は、ゴブリンらの伝承と内容的に重なっているものだが、あえて一点を挙げるならば、ゴブリンらにもある伝承のうちでも「金属を毒に変える」という点が特に取りざたされる;金属コバルトは、貴金属をコボルドが劣化させたか、あるいは価値のないものに取り替えたものと信じられたことから名づけられ、またコバルト鉱石に含まれる毒素(砒素)はコボルドの毒とされた、とも言われている。またドイツ語であるこのコボルド(ト)は、ゴブリン的な地妖の名から地の精霊の総称として、パラケルススの「ノーム」に相当して使用されていることがある。(ゲーテの『ファウスト』において、ファウスト博士が四大精霊を呼び出す場面でノームでなく「コーボルト」を呼んでいるのが有名である。ただし同じものをインクブスと呼んでいる箇所もある。)
RPGに登場するコボルドは、D&Dシリーズをはじめとして、ゴブリンとは別種族でより小型の(そしてレベルも低い)ヒューマノイドとして扱われることが多い(Wizardryではオークより上だったが、Wizのオークはよほど弱いタイプの部族と考えられる)。和製RPGでしばしば、猫獣人の対極のような「ファンシーな犬獣人」のような姿のモンスターにコボルドの名がついていることがあって仰天させられるが、これは当初邦訳されたクラシックD&Dでは「鱗を持ち犬のような頭、犬じみたくぐもった声を出す」のみ記述されていたものが(「鱗」の部分が忘れられた上に)巡り巡って曲解され、犬獣人のイメージに変わったものと考えられる。AD&Dや3e系では犬どころか、初期の版の頃から「爬虫類の鱗を持つ卵生哺乳類」であると描写されている(他のRPGでも、しばしば体色がトカゲのような緑色の点に、この影響が残っている)。これに対して、日本の"TRPGマニア"には、これらの事情を知らず、初期AD&D系と間が抜けてクラシックD&Dだけの後に突然3eが和訳されたため「それまで犬獣人だったのがD&D3eがいきなり爬虫類人に変更した」などと、誤った説を流布していることがある。
なお余談であるが、D&D3edのクラス「ソーサラー」はドラゴンの末裔の能力という説があるという設定だが、コボルドにはソーサラーの素質(存在率)が異様なほど高く、それを誇りにしているという記述が付け加えられている。毒を扱うという記述はしばしば見られる。
Roguelikeでは、初期のUNIX版のオリジナルRogueに序盤モンスターとして登場していたが、後のものでは(ローグ・クローン含め)存在しない。NetHackに例によって完全にAD&D 1stと同じデータで出現し、体内に毒を持ち(なので、死体を食べるとまずいことになる)また毒矢をイメージしているらしい(実際は毒はないが)投げ矢をしばしば持っている。
D&Dシリーズで「エルフとオーク」「ドワーフとゴブリン」が宿敵なのは単にトールキンに由来するだけと思われるが、これらと同様に「ノームとコボルド」を宿敵としているのは、前記した地の精霊の名としての並列の他に、貴金属をためこむノームと奪い劣化させるコボルドの対立からの発想であろう。
トールキンのアルダ世界には、結論から言うと「コボルド」という種族の直接の記述はない。しかし、*bandでは、コボルドのモンスターや種族の説明には「小型のゴブリンの一種族」となっており、ゴブリンがオークの俗語(さらには*bandではスナガのこと)であるということは、これもオークの亜種という位置づけになる(しかし、オークスレイヤーの武器によるボーナスはない)。特に毒矢などは使って来ないが、コボルドやラージ・コボルドは階層の割に意外にしぶとく、追い詰められると強敵である。特に[V]では、1階に登場することがあるコボルドは「メイジキラー」として長らく恐れられている。
[Z]からは種族としても使用できる。毒の矢は、レイシャルパワーで毒のボルトを発射できることで表現されたが、能力としては些細なものである。能力値は人間やハーフエルフと同程度の差し引きゼロバランスで、種族としてはこれらと並び「貧相」なものに入る。技能類も軒並み低い。が、よく見ると能力値は肉体系にペナルティーがなく、打撃技能も若干あり、また貧相種族の中では毒耐性というのはかなり有効である。賢さが低くないので、パラディンやプリーストなど技能類に頼らないクラスで少しは狙い目かもしれない。
ゴラム Gollum
→スメアゴル
コルイン The Cloak 'Colluin' 【物品】
[V]以来「コルイン」となっているが、トールキンのエルフ語では重なった母音は分離するため、「コルルイン」の発音に近く、一部の新訳バリアントではその表記になっている。クゥエンヤ語でcol-はマント(灰色マント王sindacolloなど)、-luinは青(青の魔法使isrin luinなど)の意なので、colluinは「青い衣」の意に読める。
*bandのこのアーティファクトは、組になっているといえるクローク「コランノン(→参照)」と共に、トールキンのまとまった物語には見当たらず、MERPのうち筆者が読んだことのある設定などにも見当たらない物品である。[V]当時から発動時に「青く輝く」ことから、名前通り青い衣であるという設定はあるようだが、[O]以来のアーティファクト解説文には、ただ「ヴァリノールからの英雄が着ていた」とだけ書かれている。
ただし、この「ヴァリノールからの英雄」という表現に値するのは、かなり限られた存在と言え、ヴァンヤールなどのハイエルフも考えられないでもないが、概ねヴァリノール土着の「ヴァラールの民」(神族)で中つ国を訪れたものを指す、と捉える方が自然である。まずは思いつくのが、狩のヴァラ(上級神)である狩人オロメ(→参照)その人であり、彼は神話時代から繰り返し直接に中つ国を訪れ、目覚めたばかりのエルフや人間を救っていたことがあり、「英雄(hero)」というのはヴァラに対してはかなり矮小な表現であるがそれなりに辻褄が合うように思える。もうひとつの可能性は、下級神「青の魔法使」のひとりのうち、おそらくオロメに仕える戦士でもあった(MERPではクラスはレンジャーである)アラタールである。彼の活躍は一切記述されていないが(The History of Middle Earthには第二紀にエルフを積極的に助けるという構想があるものの)、「英雄」という言葉のスケールからは、オロメその人よりはこちらがより妥当に見える(イスタリは性質上、英雄的に前面に立って戦う存在ではないが、MERP設定ではアラタールはサルマン同様に我が強いとされる)。また、コルインは発動で「自然」に対する耐性を与えることから、オロメやその配下のアラタールにはかなり合致するものと言える。(もう一人の青のイスタリ、パルランドもオロメの配下だが、彼はマンドスに関係する案の記述などもあるので、MERPの設定でより戦士に近いことからも、どちらかといえばアラタールだろう。)
無論、オロメに仕える別の聖霊や、既知・未知の別の戦士の聖霊である可能性もあるのだが、特にコルインとコランノン(→参照)が両方ともに説明によると青いローブであることから、この「組になった」クロークはそれぞれ、二人の青のイスタリであるアラタールとパルランドの上衣であるという解釈は、かなりつじつまが合うように思われる。(しかし、オルクリストやアエグリンの所持者に対するファンの有力な予想も、トールキン設定とMERPの両方から盛大に外していたので、この手の解釈は当てにならないとも言える。)なお、MERPの設定でもこの二人ともアマンのクロークをまとっているが、特にローブに名前はない。
こんな正体不明な品なのだが、*bandでは、このコルインは元が「全耐性」を持つ上、呪文や薬と同じ一時的全耐性を「発動」で得ることができ、すなわちひとつで「二重耐性」を保障する、非常に強力な品である。これは呪文による一時的耐性を得られないクラスにとって、実質上、大量の耐性の薬のかわりになるものである。名前は似ていても発動効果が「テレポート」であるコランノンとは比較にならないものであり、レアリティは決して低くはないが、*bandにおける最重要アーティファクトのひとつであろう。
→バルザイのクローク
ゴルゴロスの蝙蝠 Bat of Gorgoroth 【敵】
『指輪物語』の話題では、ゴルゴロス(恐怖の地)とは、アルダ第三紀のモルドールで暗黒の塔や滅びの山などが位置する不毛の「ゴルゴロス高原」を指すことが多い。しかし、アルダ第一紀(伝説時代)、モルゴスとエルダールらが戦っていたベレリアンドの地にも、「エレド・ゴルゴロス(恐怖の山脈)」と呼ばれる地名があった。後述するが、どちらかというとここでは第一紀のものを指していると想定するのが妥当である。
第一紀のゴルゴロス山脈は、モルゴスの副将サウロンと、エルフ女王メリアンの魔力が隣接するあたりに存在し、緊張が高く闇の生物が多数生息する忌まわしい場所だった。一族を殺された人間の英雄ベレン(→バラヒアの指輪 →ゴルリム等参照)が、ルシアンに出会う前に彷徨っていた記述がある。また、『指輪物語』TTT原作のシェロブの棲家の章には「ベレンがドリアスの恐怖の山々でこれ(シェロブ自身の意と採れるが、比喩で他の匹敵する大蜘蛛の意とも考えられる)と戦った」とあり、恐怖の山々はそのままエレド・ゴルゴロスを指すことと、かつてのウンゴリアントの子孫ら(→闇の森蜘蛛)が少なからず生息していた山脈であったことが推測できる。
なお『クトゥルフの呼び声』の新旧ルールブックには以前から「ゴルゴロスの肉体歪曲」という呪文があり、指輪物語のゴルゴロスとの関係がときどき話題に出てくることがあるが、このGorgorothはR.E.ハワードの著作に登場する神(一応はラヴクラフトやスミスと共有する宇宙観の著作ではあるが、作者の性質上、旧支配者云々よりは単なる「古代神」であろう)とされ、トールキンのそれとは無関係である。ただし、gorgo-は単純にオリエントで恐怖・恐慌の意を示す語で、トールキンもエルフ語以外にも暗示的に使用しており(ドルアダン語で悪鬼を示すゴルグンなど)強いて言えば「同じ語源の語」とは言えるかもしれない。
*bandでは、[O]などのアルダ系バリアントの多くに登場し、[変]にも取り入れられている。r_infoの解説には'this slaving creature'としかなく、和訳の文章で「モルゴスの奴隷」となっているのは*bandの舞台に鑑みて追加されたのであろうが、高原よりは、多くの忌まわしい生き物の住んでいた山脈の蝙蝠と考える方がどのみち妥当ではある。単独で出現しすぐに倒せる序盤のコウモリ類とはまるで異なり、群れて出現し、前半の階層としては異常に耐久力が高く、スピードもあり、暗黒や毒のブレスを放ってくる(これは、普通の動物ではなく第一紀サウロン配下の悪霊の動物達とおぼしき面もある)ので、コウモリのつもりで戦おうとすると危険なことになる。名前にそぐわず、非常な鬱陶しさを印象づける敵である。
ゴルバグ Gorbag, the Orc Captain 【敵】
オークの隊長。ミナス・モルグルのウルク。『指輪物語』において、フロドらがシェロブの巣からキリス・ウンゴルにとらわれたあたりに登場するオークの一体。「同士討ちをした二体のうち欲を出して結局やられた方」である。
キリス・ウンゴルにはモルグル軍のオーク(直接の指揮はアングマールの魔王である)と、サウロンの直轄である黒のウルクの部隊が駐留しており、ゴルバグは前者、シャグラトが後者の部隊長のうち一体である。直前の二人の会話から、ことが起こる前の普段からかれらの仲が悪かったとは思えないのだが、ともあれ、ゴルバグがフロドからの略奪品を着服しようとしたのに対し、シャグラトが忠実にサウロンの元に届けようとしたことから、かれらは部隊ごと仲間割れを起こした。サムの見たところだとゴルバグの率いていた部隊の方が2倍以上の人数がいたようなのだが、終わってみると生き残っていたのはシャグラトらの方だった(ただし仲間もだいぶ殺しているようである)。ゴルバグはそれでもしぶとく死体のふりをして隠れ、シャグラトを槍で不意打ちしようとしたが、うめき声をもらしたために気づかれて、シャグラトにナイフを喉に突き刺され切り刻まれて絶命した。
原作で出番が比較的多いためか、ICE社のTRPG, MERPの設定でも、主要キャラと同じ枠のエントリーが設けられて詳しいデータが設定されている一体である。ただし、やや上質の武具を持ってはいるが、特に詳しいデータにする価値があるほど特殊な品や能力を持っているというわけでもない。なぜか槍のデータはない。*bandのモンスターの思い出解説では「かなりのずる賢さを持つオーク」とあり、これはシャグラトを不意打ちしようとしたこと等からと思われるが、MERPでも極度に知能が高いわけではない。
*bandでは[V]以来のオークユニークの一体で、とりあえずオークでも名前が出てきたものは片端から中ボス化している一体である。その能力はシャグラトとまったく同じものになっており、出て来るのも同じ頃であると思われる。
→シャグラト
ゴルフィンブール Golfimbul, the Hill Orc Chief 【敵】
丘オークの隊長。ホビット庄暦1147年にホビット庄に侵入した、グラム山のゴブリン(おそらくアングマールのオークの残党と思われる)の王で、緑野でうなり牛(→牛うなり参照)ことバンドブラス・トゥックに討ち取られる。その様は以下の文章にしか記述がない:
このひと(うなり牛)は、緑ガ原の戦いで、グラム山のゴブリン小人の大軍のなかにつっこんで、ゴブリン王ゴルフィンブールの首をこん棒でうちおとしたものでした。そのとき、首は空中を百メートルとんでウサギ穴におち、これで戦いに勝ったそうで、それからゴルフ遊びというものが、くふうされたということです。
(J.R.R.トールキン、瀬田貞二訳『ホビットの冒険』第二版、岩波書店刊)
しかし、*bandや指輪物語関連の日記に頻出するところでは、この説話を読んだ時は、にわかには信じがたい感を覚えることがほとんどであるという。それは恐らくは、日本人の間では最も広く信じられている「ゴルフ」の起源とは次のものであることに起因する:
纏咳狙振弾(テンガイソシンダン)
棍法術最強の流派として名高いチャク家流に伝わる最大奥義。
この技の創始者、宗家二代 呉 竜府(ご りゅうふ)は、正確無比の打球で敵をことごとく倒したという。
この現代でいうゴルフスイングにも酷似した打撃法は運動力学的観点からいっても球の飛距離・威力・正確さを得る為に最も効果的であることが証明されている。
ちなみにゴルフは英国発祥というのが定説であったが、最近では前出の創始者、呉 竜府の名前でもわかるとおり、中国がその起源であるという説が支配的である。
(『スポーツ起源異聞』、民明書房刊)
この「英国発祥という定説」とは、実際にイギリスのゴルフ協会が提唱しているものであり、14世紀半ばのスコットランドが発祥である(ゴルフに関する法令が出た記録がある)とするものである。
しかし、仮に現在の競技の形の原型はスコットランド発のものを引き継いでいるとしても、ゴルフという競技の歴史的な起源、経緯にはいまだ不明点が多く、各地に様々な説が存在する。(中国には上記の説以外にも起源説が幾つか存在する。)
実際のところは、オランダの13世紀頃のコルフ、コルヴェン(ゲーム的にはホッケーに近い)といった競技、また14世紀初頭に既に現在のゴルフらしき像画が見え、最も古い原型はオランダであろうという説が有力である。
ここで留意すべき点として、トールキンのエンドール(中つ国)はそのまま現在の地球の過去の姿でもあり(例えばリンドンの地域がロンドンとなったと思われるように)トールキンによるとホビット村が丁度オックスフォードあたりの緯度に相当する。それらから推測すると、この「ホビット庄の北の緑野」は、現在の地球では丁度オランダ辺りの土地に含まれるのである。まだ諸説紛糾していたであろう執筆当時すでに、しかもイギリスにおいて、既にオランダ説を埋め込んでいたなど、つくづくトールキン歴史観その底計りがたしという他に言葉が見つからない。
→牛うなり
コルブラン Colbran 【敵】
*bandに登場するコルブランは、ICE社によるアルダ世界のTRPG, MERPにおけるモンスターから引用されているものである。MERPのベスティアリー(モンスターマニュアル類)サプリメントによると、コルブランは「プーケルモンスター」の一種であり、ドルエダインが石から作り出す構造物(コンストラクト)モンスターの一種である。
中つ国のドルエダインとは、『指輪物語』のガン・ブリ・ガンなどの一族や、また闇の森に住んでいる森の人とそれらの先祖であるが、トールキンのUnfinished Talesによると、かれらは第一紀の伝説時代には、石像に自分の命を乗り移らせた一種のゴーレムを操ることができたという(→プーケル人)。MERPでは、この能力が第三紀までのドルエダインにも一部残り、また、プーケル人石像以外にも、何種類かの奇妙なコンストラクトを製作し操ることができるというルール設定のようである。
MERPのコルブランはそうしたプーケルモンスターのうちでも最も高度な技によるもの、最も恐ろしい怪物、と位置づけられているものである。その姿は身長3メートルほどの、だいたい人の形をした石像に見えるのだが、激しい稲妻と火花で青く輝いており、ほとんど正視することも不可能である。闇を生ずるような呪文はこの周囲ではほぼ無効であり、無論のこと打撃を行えば甚大な被害をもたらすが、電撃の各種の呪文を放つことも可能である。また、攻撃する側でさえ、非魔法の武器はコルブランを打つとかなりの確率で衝撃により砕けてしまう(いかにも中つ国らしい)。説明中には、これはアルダでは唯一、招来や召喚、降臨によるものではなく、「人が”悪魔を作り出した”例である」とさえ書かれている。
*bandでは、[V]から通じてほとんどのバリアントで登場する。ゴーレムの一種となっており、電撃打撃と稲妻の魔法を用い、オーラのあるバリアントでは電撃オーラもまとっている。比較的低レベルのノーマルモンスターだが、ゴーレムの耐久力と(免疫や二重耐性がなければ)頻繁な電撃により、このレベルではかなり厄介なのは間違いないだろう。
→プーケル人
ゴルリム Gorlim, Betrayer of Barahir 【敵】
第一紀(伝説時代)のエダイン。アングリムの息子ゴルリム、バラヒアを裏切りし者。『クゥエンタ・シルマリルリオン』によると、ゴルリムはアルダ第一紀のエダイン(エルフと共にモルゴスと戦った人間)の首長バラヒア(→バラヒアの指輪)に仕えた、12人の猛将のひとりであった。バラヒアらは、エルフの最初の大敗北(→ニアナイス・アルノイディアド)の後はドルソニオンの森に隠れ、ゲリラ戦法を続けていた(そのため、バラヒア一党や息子べレンはオークも青ざめるほどの野戦と暗殺の達人である)。
しかし、勇士のひとりゴルリムはしばしば、ニアナイスの大戦で離れ離れになった妻が帰って来てはいないかと自宅を訪れて、空の自宅を見つけては落胆してバラヒアらの隠れ家に帰る、という往復を繰り返していた。あるときゴルリムは遂に、自宅の中に妻が帰ってきているのを認めて近づいていったが、家はひそかにモルゴス軍に包囲されており、ゴルリムは捕らえられた。モルゴスの策士サウロンが、妻を囮に使ってゴルリムを捕らえ、拷問してバラヒアの隠れ家を吐かせようとしたのである。
ゴルリムはいかなる拷問にも屈しなかったが、サウロンの「妻と共に釈放してやろう」という取引に対して、長年捜し求めた妻恋しさにとうとうすべてを明かしてしまった。サウロンはすべてを聞くと、実はゴルリムの妻はとうの昔にサウロンに殺されており、家にいた妻の姿はそのさいにサウロンが見た姿を利用した魔法の幻にすぎないと暴露し、「約束通り、妻と同じ所に送ってやるから共に暮らすがいい」とゴルリムを容赦なく殺した。のちに冥王として君臨するサウロンであるが、モルゴス配下のこの頃のサウロンは実に輝いて見える(褒め言葉)。
ゴルリムが明かした情報によってバラヒアの隠れ家はモルゴス軍に見つかり、バラヒアと残り11人(全員きちんと立派な名前がついているのに出番これだけ)は皆殺しにされ、バラヒアの息子べレンだけが辛うじて逃れてさらなる放浪の身となった(その後のべレンの行方については、アングリスト、カムロスト、ルシエンのクロークなどの項目参照)。
*bandではゴルリムは中レベル(41階)のユニーク敵のひとりとして配されている。また呪いの物品のひとつとして、「ゴルリムの鉄ヘルメット」が加えられている。「モルゴスの力に完全に支配され、今ではほとんど意思を持たない邪悪の生物に成り下がってしまった」という思い出だけ見ると、詳細を知らない*bandファンには蛇の舌のように単なる小心の裏切り者のようなイメージを持たれていることが多いかもしれない。しかし、よくよく見るとEVILフラグがついていない。上記したようなエピソードによって、その後のゴルリムは文字通りの「生ける屍」と化し、アンデッドのようにモルゴスやサウロンに操られ、わずかに残った魂は自らの裏切りの罪の意識に苛まれながらもアングバンドを彷徨っている、などという想像もできる。なお一部アルダ系バリアントの最近のバージョンでは、ゴルリムの妻エイリネルも「モルゴスに霊魂を支配された」という設定でユニークモンスターとして登場する。
ゴルリムのデータは[Z]以降のリナルド(→参照)のベースとなっているが、これは敵味方の立場が入れ替わるという共通点からか、というとこじつけらしいが、実はせいぜいそんな程度の理由からベースとなるデータが選ばれていることが、案外[Z]には多いものである。
ゴーレム Golem 【敵】【種族】
出典:golemとはヘブライ語で「形をなさぬもの」、ひらたくいえば「胎児」であって、神がアダムを作り上げた塵、転じて、それに準じた秘法によってすぐれたカバリストが作り上げることができる「人造人間」を指す。カバラにおいて何種類かのエピソードがあるが、有名なものは東欧のユダヤ教に残っているもので、16世紀にプラハのラビであるエリヤ(レーフ)がユダヤ人弾圧に対抗するため泥からゴーレムを作り出したが、お約束のごとく暴走させたとも、弾圧終了と共に自ら停止させたとも言われる。他のエピソードや詳細、カバラの技芸に関しては専門のサイトを参照されたい。「生命なきものに”尋常の生命”を与える」のではなく、「最初から尋常ならざる”人造生命”を作り出す」という考え方は恐らく根源的なものではなく、「文明」というものが兆しを見せ始めた直後からにわかに出現してくるのが空寒いところであるが各文化に散見する。
が、RPGにおいてゴーレムという語は、どちらかといえば「人造生命」の点よりは「動く像」の方の意味が強いものとなっている。単に石や金属の像が動く・生命を与えられる、という説話ならばギリシアをはじめ各地に散見し、これらは別根とも言えるが、むしろこちらの無機的な性質がより強く反映されていると言える。最も一般化したイメージは、ほとんどの場合が石か金属で作られ鈍重で知能を持たない(作成者の簡単な命令を実行する)像だが、ひいてはそれに限らず、なんらかの魔力による自動構造をもった魔法構造物(コンストラクト)を何でもゴーレムと総称する例、逆に魔法でなくとも「動く石人形」「泥人形」といったものに、考えもなしにゴーレムと名づける例などがある。もはや、骸骨がひとりでに動いていたら単に英語で「スケルトン」と呼んだだけで、根本的に何の説明もしていないのに誰しもが何か納得したような気になってしまうのと同様、特定の方向に定着し、一般化してしまった言葉かもしれない。
初期のヒロイック・ファンタジーにゴーレムが登場するとき、単なる鉱物の巨像であってさえ、英雄にとっても真なる強敵のひとつ、もしくは力任せでは決して倒せない敵と位置づけられている(これは、ゴーレムには必ず製作者や背景が存在するため、そうした仕掛けと直結しやすいためである)ことが多かった。また、D&D系のゴーレムはどれも真の英雄でなくば対処できないような非常に強力な存在であり(各種の魔力や武器に対する耐性、製作に多大な魔力、時間、費用を要するなど)極度に高級な魔術の産物であるという点が強調されていた。が、現在では、和製RPGのファンにゴーレムの製作が「それほどまでに高級な技術(生命創造)である」と説明するのが困難であるほどに、ありふれた存在になってしまっている。
Roguelikeでは、NetHackなどの「フレッシュ・ゴーレム」の説明に『フランケンシュタイン』の怪物の例が引かれるのが、ゴーレムという語の「人造生命」に対する語義を残しているところである。もっとも、このフランケンシュタインの怪物自体が、原作の人間性を求めて苦悩する人造生命から、(商業主義などの事情で)映画などの唸り声しか発せない低知能の鈍重な怪物のイメージへと、現在は塗り替えられてしまっている存在でもある。
敵:*bandでMoria以来敵として登場するゴーレムは、AD&Dでの黒曜石や琥珀といった変わった素材、動物型など変わった形状といった「変わり種」はおらず、鉄、肉、石、ミスリルなどの素材の人型のオーソドックスなものにとどめられている。知能(精神)を持たず、スピードが遅いが頑強で、魔法の類(精神系のみならずダメージ魔法なども)が効きづらいことが特徴である。一般に、相手どるのは疲れるが宝を持っていない。また[Z]以降は特に、'g'シンボルは、精神を持たない魔法構造物(コンストラクト)に多く用いられる。
種族:[Z]において追加された、その珍妙さにどう見てもネタとしか思えないにも関わらず、あまりの強力さに[Z]の売りとなった一連の種族のひとつがこれである。はたして苦悩する人造人間なのか、それとも素材の塊が服を着て無言で歩いているのかはまったく不明だが、「あなたはカバラの秘法で××から作られました」という一行たらずの生い立ちは、それを語ってはくれない。
概説すればこの種族ゴーレムは、極端に「戦士」に偏った能力を持っている。「精神がない」ことで知能・賢さが非常に低いが、肉体能力・ヒットダイスは極度に高い上、優良な肉体系技能、生来のアーマークラスボーナスに加えてレイシャルパワーでさらにアーマークラスを上昇させることができる。耐性も毒、麻痺、視透明など非常に有用なものが揃っている。この「ゴーレム戦士」の非常な強力さが、戦士そのものの地位を大きく向上させたことは紛れもない。[V]では特定の能力に「偏った」ドワーフやエルフよりも、何でもできるドゥナダンやハイエルフの方が有利であるが、[Z]以降は何かの能力に「特化した」種族がその方面の極端な能力で切り進んでゆくという傾向がはっきり出たと言えるだろう。
[Z]以降つねに言われ続けてきたことであるが、特に上記の「耐性」と「生存性」を最も重要視するに、初心者に最適の種族として常に筆頭に上がるのが、「ゴーレムの戦士」である。また、熟練者はゴーレムの非常な精神能力の低さ(各マイナス5)にも関わらず、ある程度もしくは完全に魔法に依存するクラスに挑戦してみるという例もある。しかしあまりの肉体能力の高さ(特に中盤までは)と有用な耐性から、むしろ有利であるほどである。総じて、まぎれもなく[Z]以降の最重要種族のひとつであるが、[変]においては、能力的によく似た特性でかつレベル上昇システムが面白い「アンドロイド」の影に隠れつつある一面も存在する。
ゴロウナク ごろうなく 【敵】
→ヰ=ゴロゥナク(わ行)
ゴンドール王国の金の冠 The Golden Crown of Gondor 【物品】
出典:ここでのゴンドールの冠は、おそらく『指輪物語』の戴冠式に登場する王冠を指していると思われるのだが、この王冠は下記もするがおそらくその材質は黄金ではなく、また、かつて別にゴンドールで金の冠が用いられたという歴史もない。とはいえ、「鉄冠」や「宝冠」よりは近いと考えられてあえて*bandでは金の冠としてあるとも思えるので、戴冠式のゴンドールの冠を指すものとして以下は記述する。
元来、ヌメノールの王は冠をかぶるという伝統はなく(→西なる国ヌメノールの宝冠を参照)中つ国にヌメノール王の後継者がやってきたとき、北方王朝アルノールの王はヌメノールの伝統に従って「王錫」を持ったが、南方王朝では初代王でもあるイシルドゥア(最後の同盟の戦いの後は、父にかわってイシルドゥアが北方王朝、弟のアナリオンの子孫が南方王朝を継ぐのだが)がかぶっていた兜を、かわりに王冠として用いる伝統になった。これは指輪物語時代まで普通のゴンドール兵が使っている普通の兜とほとんど同規格のものだった。
しかし、1200年あまりが経ちアタナタール・アルカリン王のもとでゴンドールが繁栄したとき、形は同じだがもっと立派なつくりで宝石がちりばめられたものが作られ、以後のゴンドールに伝わる王冠となった。全体は白く作られており(材質は不明であるが、ゴンドール近衛隊が使用しているヌメノール伝来の兜の白い部分がミスリルなので、これと似ているならやはりミスリルの可能性が高い)銀と真珠で海鳥の翼の形が両側に作られ、ゴンドールの紋章の七つの星を模した宝石がはまっている。これはゴンドール最後の王エアルヌアまでが使っていたが、エアルヌアはミナス=モルグルの砦へアングマールの魔王(→参照)に決闘を挑みに乗り込んだ時に、先王の墳墓に冠を置いていった。そのままエアルヌアは帰らず、王家がとだえ執政家がゴンドールを治めている1000年もの間、ラス・ディネン(沈黙の通り、死者の館)のエアルニル王の膝の上に置かれていたのである。
物品:*bandには[V]以来登場し、右記したようなゴンドールの王冠を指すものであればヘルメットか何かの方がよさそうにも思えるのだが、金の冠とされている。[O]からToME, [変]に至るアーティファクト解説の文章には「滅び行くヌメノールからエレンディルが持ち出した」とあるのだが、無論右記の通りで原典にそうしたエピソードはない。ただし、追補編にはなぜか「エレンディルの王冠」となっている(おそらく誤記)部分が一箇所だけあり、これに由来しているのかもしれない。物品解説自体は'shining winged circlet'となっており、翼をもつゴンドールの冠に他ならないと思われる。しかしcircletという語も額冠(小冠)・宝冠(皇帝冠)・兜の三種類に読めるので厄介である。
さほどレアリティも高くないので後半には手に入っていることも多いと思われる。腕力・賢さ・魅力のプラスと、基本的な耐性が揃っているので手堅い品であるが、後半の耐性パズルにおいては物足りないかもしれない。発動で体力回復の効果があり、アイテム発動は失敗率も高いので頼りにはできないが、特に魔法の回復手段の少ないクラスにとっては、ないよりはかなり心強い。[Z]系では回復力などが若干強化されて「真世界アンバーの金の冠」に差し替えられている。
ゴンドリン Gondolin 【物品】【システム】【その他】
出典:ノルドールの隠れ王国。アルダ第一紀(伝説時代)に冥王モルゴスと戦っていた上のエルフ(ノルドール)の、最大にして最後の砦。伝説時代の中つ国のエルフは、シンゴル王のドリアスなどいずれも石の都を築いたのだが(現在のRPG的エルフの森の木の上だけに住むイメージは、第三紀のロスロリアンのガラズリムのみから作られたものである)ことに工芸にたけていたノルドール族は、ドワーフの影響も受けた豪壮な城砦を築き、特に優れたものがフィンロド王(ガラドリエルの兄)の築いたナルゴスロンド(→グラウルング)と、トゥアゴン(フィンゴルフィンの子で、フィンゴンの弟)の築いたゴンドリンだった。
トゥアゴンは、最初は父や兄らの領地の東、ベレリアンドの東端の海辺ネヴラストの地を領地としていたが、まもなくヴァラ(上級神)の水の王ウルモから、より堅固で敵の目から隠された都を作ることとその詳細の啓示・助言を受け、半世紀をかけてベレリアンドのほぼ中央の山地の真ん中、トゥムラデンの谷間に石の都を築いた。ゴンドリンはアマンの地にある上のエルフの都ティリオンを模して作られ、堅固と優雅を極めたのみならず、
その険しい山地の秘密の道の奥底に隠され、ほとんどのエルフとすべての人間はその位置すらも知ることがなかった。無論のことモルゴスの軍からは厳重に隠され、他のノルドールの都や灰色エルフらが滅んでも、最後まで存続し続けた。
しかし、他が滅びればそう長くは持たないというウルモの次の助言(トゥオル →参照を通じて伝えられた)を拒んで、トゥアゴンはこの地に固執し続けたため、やがて内通者マイグリンによってモルゴスの軍が都に引き入れられ、遂には陥落することとなる。トゥアゴン王や名将エクセリオン、グロールフィンデルらは、陥落と前後して都と運命を共にした。
伝説時代のエルフの都であるが、『ホビットの冒険』『指輪物語』ともに、伝承の大家エルロンドの台詞の中に出てくるために非常によく知られている。ゴンドリンとは、クゥエンヤの「オンドリンデ」すなわち「石の歌(の都)」をシンダリン語に直した語(gond- 石 -lin 歌)だが、これは「gond-dollen 隠れた岩山」の意味にも読むことができるため、その意味で表記されていることがある。なお、第三紀の「ゴンドール Gondor」はよく似ているが、こちらは単に「石の国」である。
物品:ゴンドリンで作られた武器といえば『つらぬき丸』『グラムドリング』『オルクリスト』がそれにあたり、おおよそ中つ国では、西方国(アルノール)、ヌメノールの武器以上に、「伝説時代の由緒ある武器」の代名詞にあたるといえる。一方で、「ゴンドリンの武器」がエゴアイテムとして追加されたのは[V]の3.0系であり、かなり後のことである。一言で言えば、ヌメノールの武器にあたる「西方国の武器」のさらに上位版として作られ、宝玉戦争やゴンドリンの戦いに深く関わるともいえるデーモンや龍へのスレイングが追加されている。当然ながら、つらぬき丸やグラムドリングよりもスレイング能力や耐性は多く、また大抵の場合はこれら「本来は名高い伝説の品」よりも強力になってしまうと予測される。エゴアイテムの方がしばしば強力なのは特に[V]では従来からのことだが、これら有名ながら中堅〜下層の物品がさらに影が薄くなった側面があり、『指輪物語』ファンにとっては嬉しい追加である反面複雑なものがある。
システム、その他:ゴンドリンはToME2においては北方に位置し(本来、第三紀にはアングバンドともども土地自体が水没しているので、原作通りの地図では物理的にたどりつくことはできない)伝説時代の最大都市、実質上の「究極的な拠点」にあたる都市と位置づけられて登場する。アングバンドをじかに攻略するための街と位置づけられているだけあってさまざまな施設が揃っているが、信仰などの都合上特に拠点としない場合も多いのも例にもれない。また、これもToME姿勢の例にもれず、よせばいいのに原作をきっちり再現してしまった「ゴンドリンの劫掠」クエストも存在する。みずからの手でゴンドリンを救えるのは『シルマリルリオン』ファンにとっては感慨深いかもしれないが、極限状態であればあるほど乱れ飛ぶToMEのはじけぶりが竜巻の如く荒れ狂い、そしてすべてが終わり「最大HP+150」というもはやRPGとして何が何だかわからない報酬を貰ったとき、どれだけ感慨にひたる暇があるかは定かではない。
→グラムドリング →トゥオルの影のクローク →マイグリン
混沌の王子マーリンのショート・ソード The Short Sword of Merlin 【敵】
アンバー後半シリーズの序盤において、主人公マーリンがシャドゥシフトを繰り返す合間の休息中、凶悪な獣に襲われた際に、”影”の中から引き出した武器。”影”の配列をコードする図のひとつであるログルス(→参照)を用いると、別の世界から望むような物品を探し出し、取り出すことができる。
ぼくは中くらいのナイフよりも渡りの長いような刃物をほとんど持ち歩かない。何フィートかの鋼鉄を脇に吊るすと、忌々しいほどに扱いづらいし、ぶつかるし、藪を通る時に引っかかったり、つまづかせることさえある。ぼくの父や、アンバーや混沌の宮廷の人々は、重たくて不便なそういうものを頼りにしているけれど、そうする彼らはおそらくぼく自身より頑健なつくりなのだろう。ぼくもフェンシングは好きで、その扱い方はたくさん訓練した。ただ、剣を四六時中持ち歩くのはナンセンスなことも分かったのだ。すぐにベルトが腰に擦りむけたりもする。ふだんはぼくは《フラキア》と、即興で生み出した品を好む。だけど……
ひとつ持つにはいい機会、として、これを許容してもいいところか。...ぼくは”影”の中に自らを延長させてゆき、「刃」を探った。延長させ、伸張させ、……
──忌々しい。ぼくは「金属加工というものに関する然るべき文化解剖学的と歴史的発展段階」というものからは、”遥かに遠い場所に来て”しまっていたのだ。さらに伸張させる。汗の珠がどっと額に噴き出す。遥かに、遥か遠くまで。...触れた! ぼくは柄を手の中に感じる。掌握し、召喚する!
(ロジャー・ゼラズニイ『運命の切札』、拙訳)
こうして即興で作り出した物品であるが(特にこの剣自体に特徴や能力があるわけではない)その後しばらくは携帯し用いるものの、少し後にはまたその場の即興で別の(もっと長い)剣を呼び出して使う。というより、長い剣を本当は持ちたくないマーリンは、話が進むごとに、さらにさまざまな剣をとっかえひっかえ、持ち歩き、使用して戦い続けることになる……
*bandでは[Z]において「ギレッター」から差し替えられて存在する武器で、[Z]からアルダ舞台に戻されていないバリアントの多くに登場する。おそらく、[Z]にゼラズニイ関連の物品を何か追加するとして、「マーリンが小さな剣らしいものを使っていた場面があった」のでショートソードのアーティファクトと差し替えられた、という以外にさほど深い意味はない品であろう。一応、ギレッターから引き継いだ動物のスレイングは、原作の「獣を倒すために出した」という点とは合致するかもしれない(しかし、このときこの獣は実はマーリンが倒してはいなかったりする)。
[Z]2.0系当時は、メイジにも小型の武器を使う余地はあったため、原作のように魔法使系のキャラクターが所有する機会もあっただろうが([Z]2.2.8あたりまでの[V]戦闘ルールの当時は、特にメイジに武器の大きさの制限はないが、筋力が低い中盤までのメイジには軽く追加打撃のあるこうした剣は有効な面もある)O-combatとなった[Z]2.4系ではメイジの武器制限や打撃自体も非常に厳しくなったので、この武器程度でも扱うのは困難になっている。また、[変]では武器技能が導入され、メイジはショート・ソードの技能も上がらず打撃自体がほぼ不可能になっている。あるいは盗賊や魔法戦士系の選択に入ってくるかというところだが、元々アンバーのマーリンのイメージ以外のメリットがほとんどない武器なので、前半よほど他に使うものがない場合程度だと思われる。
→マーリン
混沌の王族 Lord of Chaos 【敵】
出典:*bandにおいて混沌の王族と言った場合、ゼラズニィのアンバーシリーズに登場する、多元宇宙においてアンバー(→参照)の宮廷の対極に存在する「混沌の宮廷」を支配する王族らで、アンバーの宮廷を支配するアンバライト(アンバーの王族)らと対をなす存在を指す。ことにアンバー後半シリーズには、混沌の女王ダラを母にもつ主人公マーリン(→参照)の身辺に多数の人物が登場する。
彼らは物語に登場する際は、アンバライト同様に人間のような姿と、宮廷において中世から近代にかけてを思わせる王候のような生活を送っている姿が多い。が、存在そのものが定まらぬ混沌でもあるため、「怪物」や「悪魔」のような、定まったあるいは自由な姿に変化できるという能力を持つ。この変形は”影”(偽)からアンバー(真)を見分けることができるアンバーの王族すらも欺くことができるが、これはおそらくいわゆる魔法(”影”の操作)による変化とは異なり、カオス人にとっては定まらぬということ自体が「本質」であり真に他ならないためなのかもしれない。混沌の王族はアンバーのパターンやシャドゥシフトに対する、ログルスやその徴の発現といった能力を用いる。これらの混沌の王族はさらに自分らに近い、宮廷に近い混沌とした平行世界から呼び出した怪物や悪魔の軍勢を持つが、すなわち、アンバーの王族を神々や伝承の根源として考えるのと同様にあてはめるならば、混沌の王族は原初神や魔神などのさらに広義で曖昧な「超自然的存在」にあたるということができる。(なお、アンバー前半シリーズでは「完全に人間の姿をした者は混沌の王女ダラが最初」とされるが、後半シリーズではダラより前の世代とおぼしき王族もほぼ人間の姿らしい状態で現れている。)
パターンを描いたドワーキン(→参照)も混沌の王族出身であり、その言葉はどこまでが比喩・詩的表現でどこまでが言葉通りかは不明だが、その言葉を信じるとパターン(アンバー)が存在するよりも前に混沌の王族らは存在していたことになる。(もっとも、人間の考える意識・思考・物質のようなものを持っていたかは不明である。これらの概念自体がパターンから生じているためである。余談だが、アンバーのダイスレスRPGなどではもう少しわかりやすい設定になっているらしい。)オベロン以後のアンバライトにも、実のところしばしば混沌の宮廷の血が入っており、混血が続いている。極論として言えば、多元宇宙にはアンバライトとその”影”と混沌の王族しか存在せず、アンバライトらは自分たちの影を選ぶのでなければ混沌の王族を選ぶしかないとも言える。
混沌の王族はアンバーのような王家一家だけではなく、武力にたけたヘンドレイク(→ボレル公爵)、またログルスを司っているサワール(→マンドール、マーリン)など、何家かの「王家」が登場するが、詳しい内訳には不明な点も多い。
敵:*bandにおいては[Z]のノーマルモンスターの一種として登場する。60階という、九王子にも匹敵する階層であり(無論、ユニークほどには強力ではないが)おそらく、この名前とシェイプチェンジャー(常に文字シンボルが変化していること)を見たときにはじめて見るプレイヤーでも果てしなく嫌な予感を覚えるに相違ないが、素手打撃に全能力減少の打撃、頻繁に用いてくる魔法ことにノーマルモンスターにも関わらず「光の剣」持ちという実にえんがちょな敵で賢明なプレイヤーなら相手にするようなものではない。
混沌の王族でも指折りの強力なログルス使いであるはずのマンドールや、重要王族であるボレル公、ジャート等よりも遥かに深階層であり、また強力である。これは、これらの人物が適当な階層に散らばって追加(おそらく、九王子より弱い階層を意識して)したあとで、また適当に強敵ノーマルモンスターを出すためにこの混沌の王族が作られたのだろうと推測できるが、とりあえずモンスターの思い出解説には「the few true masters of the art」とあり、これは拡大解釈すると、ログルスの「トゥルーマスター」であるマーリンの師スーヒューのように、宮廷の格技芸においてそれぞれ最高の技を持つ者やそれに匹敵する数人、アンバー本編に名前の出ていなかったそれら強力な王族であるとでも考えるほかない。
→混沌の宮廷 →ログルス
混沌の宮廷 the Courts of Chaos 【システム】
出典:アンバーシリーズにて、アンバーの宮廷の対極に位置し、多元宇宙の片方の極点を為す「場所」。前半シリーズ最終巻の巻名であるが、(特に後半シリーズでは)単に「宮廷(コート)」とも呼ばれ、また単に「混沌」と言うと、混沌の宮廷やその王族に属する勢力を指すことが多い。オベロンの子らは幼い頃に少なくとも一度この宮廷に行ったことがあるはずだが、特にコーウィンは記憶が抜けていたせいもあって、混沌の宮廷の存在自体を忘れており、前半シリーズも半ばになってその姿が現れてくる。
”パターン”が生ずる前には、混沌の淵にただこの「宮廷」だけがそびえ立っていた。パターンの形成に関わる人物・事物も、元は混沌およびこの「宮廷」の出身者からなる。パターンと真世界アンバーが形成されると、アンバーとこの「宮廷」の中間に無数の”影”の世界が形成された;すなわち、「秩序」の根源の王国であるアンバーが影の世界を投げかけ、アンバーから「離れる」に従ってアンバーに近い(秩序の)性質の世界から遠ざかり、その性質も混沌とした世界になってゆく。(アンバーという「実体」から離れるに従って劣ったものになってゆく、という記述があるが、最も離れた混沌の宮廷に限ると、アンバーとは別の同等の「実体」ともある。)終点に混沌の宮廷があり、その「先」は世界としての形も成さない”奈落(アビス)”である。パターンが生じた現在でも、この「宮廷」の周囲は空間も時間さえもが「均一」ではなく、姿も定かならぬ住人も住んでいる。
混沌の極致である「宮廷」は、恐らくは「混沌の中からあらゆる存在を引き出し、号令を下しうる存在」であり、実際に、その勢力として普通には「魔物」と呼ばれるような魔獣や悪魔を操る。「宮廷」はこれもアンバーの宮廷同様に、様々な特殊な能力を持った混沌の貴族(→参照)、王族によって統率されている。前半シリーズ時点の王はスウェイヴィルだが、この時点では名前しか登場しない。
また、混沌の宮廷は、多元宇宙の中で混沌の勢力を増大させるために、秩序のアンバーと対立している。宇宙自体がパターンから生じているため、宇宙内の勢力を維持したままアンバーとパターンを完全に消し去ることは不可能だが、できる限りアンバーを弱体化させた状態のままに置こうとしており、シリーズの際にも実に周到で巨大な陰謀を巡らせる。
システム:[Z]以降、[変]などにも踏襲されているが、デーモンやカオスに関連する部分にこの「混沌の宮廷」に関係する設定が多数加えられている。例えば、デーモンを召喚する際、(それがアルダやクトゥルフ系のデーモンであっても)「混沌の宮廷から召喚した」というメッセージが出る。無論のこと、混沌の宮廷からは全パラレルワールド(あらゆる作品世界)の「魔物・混沌とした怪物」を引っ張り出せる理屈であり、クロスオーバーの設定の極めつけである。また、エゴアイテムの(混沌)の武器に関しても、そのカオス効果に対して「混沌の宮廷で作られた武器」という説明がヘルプファイル等にある。ゼラズニィの混沌とアンバーの対立は、例えばムアコックなどのロー・カオス対立図式とは全く異なっているが、[Z]系ではこれらを包括する世界観として一応はこの混沌の宮廷に統一してあるようである。
→アンバー →混沌の貴族
混沌のサーペント The Serpent of Chaos 【敵】【システム】
出典:アンバー後半シリーズに登場する片目の大蛇。実はあまり詳しくは説明されないのだが、多元宇宙・ログルス・パターンすべてが存在する以前の混沌の一種の顕現であり、混沌の魔力の具象化図である”ログルス”はその描く軌跡である。(”ログルス”の対極として”パターン”が生み出され、パターンから無数のパラレルワールドをすべて含む「多元宇宙(マルチバース)」が発生した、と落ち着いて思い出してみると、人間の精神活動の産物としてはまるっきり洒落にならないスケールの頂点にこのサーペントは君臨する。SFやFTでは「宇宙の根源」として混沌が言及されることがあるが、ここでの混沌はその宇宙より遥かに上位段階の「多元宇宙」の、そのさらに数段階の根源にあたる。)
しかし混沌から出でた、影を渡る能力を持つ数々の生物のうち、秩序のユニコーンのみがサーペントと混沌に従属せず、サーペントの左目を奪って去った。以後、アンバー後半シリーズに至るまでサーペントとユニコーンの抗争は続いている。アンバーにとってユニコーンが象徴である以上に、サーペントは混沌では崇められ、アンバーの王家儀式書『ユニコーンの書』(→[一角獣の書]参照)に対応する『サーペントの書』と、その神殿・司祭が「混沌の宮廷」には存在する。
...地面が再び震えた。曲線の輪郭が目の前に浮かび上がった。『ユニコーン』がその力強い陰影を刻み付けるよりも前に、一つ目の大蛇の頭が、神殿の通路に沿って現れるのをぼく(マーリン)は認めた。ぼくは自分の視点をかれらの中間に移し、両者とも視界の端の方に入れておこうとした。両者のぼくへの凝視のうち、どちらか片方ならまともに受け止めて睨み返すのもよさそうだなんて、とても思えなかった──『秩序のユニコーン』と、『混沌のサーペント』の。それはとても楽しい気分とはいえなかったから、ぼくは背後の祭壇のところへと退却した。
両者は神殿の中、少し離れたところまで入ってきた。『ユニコーン』の頭が下げられ、その角はまっすぐぼくを指した。『サーペント』の舌は、ぼくの方向をまっすぐに射指した。
(ロジャー・ゼラズニイ『影の騎士』)
古来から、蛇という生物は、ある程度高等な生物の特徴を備えていながらも、一方であまりにも人間と異質な点(手足がない、脱皮、低体温、眼力など)が目立つ、自然にいながらも極めてモンストラスな生物であるため、東西いずれにおいても極度に恐れられ、また畏敬されてきた。知識を持つ蛇、翼を持った神秘的な蛇、大地を覆う大蛇、もしくは竜が、神として、ひいては神以上の存在として位置づけられるのは様々な神話、特に原始的なものに目立つ。あらゆる神話を統合するAD&Dのplanscapeセッティングでは、なぜか「秩序のサーペント」とも表現できる2体の大蛇、ジャジリアン(後の総合的な蛇神)とアーリマン(後のペルシアの邪神で、この後planescapeではアスモデウスとなる)が形成したウロボロスから、上方世界・下方世界などの各世界が発生した(という設定だったことがあった)。
敵、システム:[Z][変]など[Z]系の勝利条件であり、またこれを倒さないと100階より下に進むことはできない。それまでのアルダ世界観のバリアントにおける冥王モルゴスにかわる、100階の勝利クエストモンスターとして選択された存在である。
モンスターの思い出には「パターンが損傷して(これは前半シリーズ)多元宇宙が混沌に帰す恐れがあり、もしそうなるとサーペントの混沌が総てを呑み込むので、その一連の動きを止めるためサーペントも倒す」云々という、何やらやたらと無理のある設定になっている。クエスト文章にも「総ての元凶である、困難だがやりとげろ」云々と、何故倒すのかの理由が詳しく書かれていない不自然さに原典未読者でも気づくであろう。おそらくは、アンバーシリーズで言及されるうち最も強大な存在という、たったそれだけの理由で選ばれたのであろうと思える。
が、必ずしも元ネタを知らない*bandフリークらによって、上記のようなスケールを持つサーペントのことを「そろそろ倒します」「殺しに行きます」「始末しときます」などと平然と語られている場面は、このサーペントの背景を知る者から見ればおおよそ強烈無比な風景という以外に表現のしようがない。よくある、クトゥルフ系をモンスターとして扱う・力押しで戦う云々の議論なども、この「混沌のサーペント」のスケールと*bandでの身も蓋もない扱いの前には消し飛んでしまう些細な問題でしかあるまい。
しかしながら、そのモンスターとしての凶悪さに対して、とりあえずスケールに見合わないとか弱いとかいう説を述べる者はいない。単純に[V]系のモルゴスをふた周り上回るパラメータを持ち、分解のブレスやユニークの召喚(これを避けるためにサーペント戦前に他のユニークをできるだけ潰しておく必要がある)といった遠距離攻撃に、近距離攻撃も強力な地震攻撃である。どちらかというと遠距離戦の方がましだが、比較問題でしかない。とはいえ際立って特殊なタイプの攻撃や防御の特徴はないので、「物資を大量に備蓄して物量戦」となる。誰かが勝利のための戦いというより「勝利者に相応しい能力と物資が揃っているかの試験のよう」と表現したことがあり、その単純さに対して異を唱えるプレイヤーもいるが、クラス等を隔てないラスボスとするには致し方ない。
同じやりこむタイプのゲームでは、Diabloやウィザードリィは、どちらかというとボスキャラは表向きの目標にすぎず、数値を伸ばしたりアイテムを集めたりすること自体がプレイヤーの目的のゲームと言われることが多い。しかし、*bandはそういう目的で楽しむことも無論可能であるが、目標として(上記するように、サーペントを殺そうというのは十二分に殺伐としているのだが)あくまで「ラスボスを倒す」ことを眼内に入れて語られるゲームとなっているのは、プレイヤーキャラクターの最大能力と、このサーペントの強さの間の絶妙なバランスにあると言える。
なお、倒すと必ず二つ、「★混沌の堂々たる鉄冠」と、どういうわけかモルゴスの武器『グロンド』を落とす。一応、*bandの伝統に従って「勝利者のアイテム」として出てくるだけで、深い意味はなさそうである。
余談であるが、[O]はアルダ世界が舞台であるが、ユニークではなくノーマルモンスターの1体に「混沌のサーペント」というのがいる。無論のこと[Z]系の最終ユニークほどは強くはないが、かなり深階層のモンスターである。詳細は不明である。
→ログルス →混沌の宮廷 →秩序のユニコーン →モルゴス
混沌の戦士 Chaos Warrior 【クラス】
出典:英国産のミニチュア製作蒐集+ウォーゲーム『ウォーハンマー』(日本ではTRPGルールブックが最初に和訳されて上陸したため、RPG版を指すことが多いが、通常RPGは「ウォーハンマーFRP」と区別される)に登場するユニット、もしくは敵。
『ウォーハンマー』の舞台オールドワールドは、混沌に呑み込まれつつある、ちょうど『エルリック・サーガ』の終盤のような世界だが(『ストームブリンガー』項目の引用文参照)これらゲームで扱うのはもっぱら、混沌と抵抗勢力の軍勢同士が抗争する兵士らの「最前線」である。RPGでは大体混沌に抵抗する側となり、どのみち終末が不可避の世で泥臭く戦うさまが漫画『ベルセルク』のような雰囲気と評する人が多いが、中々遠からぬ表現と言えよう。しかし、やけにコミカルにも映るイメージ(混沌の珍妙な面々や、転職を繰り返しおかしな経歴が列記されたキャラクター等)が頻出するためもあり、重厚ではあってもさほど暗すぎるわけではない。
混沌の神々と、それに従う多数のデーモンや獣人が設定されているが、混沌に従いもしくは飲み込まれた人間の代表格と言えるのが「混沌の戦士」「混沌の獣人(→獣人)」である(ウォーゲームではユニットだが、無論『ウォーハンマー』RPGでは敵であることが多い)。混沌の戦士は、混沌の神々の尖兵で、神々から強力な能力(そしておぞましい変異)や物品を授かり、その中でも最も重要なケイオスアーマー(強力な全身鎧であるのみならず、持ち主に完全にフィットし、変異にすら合わせて変形し、使用者と一体化もできる)をまとっていることで知られる。中でも特に守護神の恩寵を受けた強力な戦士が「混沌の覇者(ケイオス・チャンピオン)」(→アーツィ →はぶ)と呼ばれる。
以上が『ウォーハンマー』におけるケイオスウォリアーであるが、*bandでは、ムアコックの作品において、アリオッチをパトロンとするエルリックなどの「混沌の魔神のバックアップを受けた英雄」を表現している面もある(このムアコックの魔神と英雄をもとに、前線のおどろおどろしい兵士にしたのがウォーハンマーの混沌の戦士とも言えるが)。そのため*bandのカオスパトロンには、コーンやスラーネッシュといった『ウォーハンマー』の混沌の神々の他、ムアコックのアリオッチやマベロードなどの魔神も加えられている。アリオッチはエルリックに対して、忙しさを口実に助力しなかったり、エルリックの方も助力が得られる時は勝手な要求を付け加えたり、公然と対立したりもする。かなりゆるやかな約束同盟のようで『ウォーハンマー』ほど相互に依存はしない。*bandにおいてパトロンがアリオッチ等になった際、恩寵が少なくなるのは、この原作を元にしているためでも、またムアコックの混沌の英雄は『ウォーハンマー』ほどにはパトロンが関わらないこと自体も表現していると思われる。
留意点として、[Z]では例えばクトゥルフ神話要素は、ラヴクラフト等の原作ではなく、BRPシステムのTRPGである『クトゥルフの呼び声』(CoC)ルールブックに準拠している。しかしながら、同様に[Z]で導入されたムアコックの要素については、同じBRPシステムのTRPG『ストームブリンガー』各版や派生ルール『エルリック!』とはほとんど関係がない。例えば、「[Z]のイーカー女神は原作でなくBRP版由来」といった風説が流れていることがあるが、これは原作のエクオル女神に相当することが誤読により見落とされたためで、あくまで原作要素にすぎない。混沌の戦士についても、TRPGの一部版にあるアリージャンスや盟約、<混沌>の戦士のシステムとは関連性がないことは留意しておく必要がある。
なお[Z]以降のランダムアーティファクト名にある『スカルクラッシャー』は、オールドワールドの混沌の覇者ダークブレイドの剣として有名なものである。
クラス:混沌の戦士は*bandでも独特の異彩を放つクラスである。基本的に「魔法も使える戦士系サブクラス」の一種に分類すべきなのだが、特徴はキャラ作成時にカオスパトロン(ウォーハンマーもしくはムアコックの混沌の神)が設定され、進行(主にレベルアップ)と共に「報酬」が与えられることである。報酬はパトロンによって頻度も内容も万別で、アイテム・能力や経験から、突然変異、能力低下・モンスターの群れに至るまで有利不利様々であり、ゲームの進行を容易に左右する。故に、一般にこのクラスは「非常にギャンブル性が強く」*band熟練者向きとされる。筆者個人としても、おそらく[V]系のゲーム自体の地味さや、[Z]でもごく普通の職業に慣れてしまった経験者プレイヤーに、大きな刺激を与えるためにデザインされたクラスではないかと考えるのである。
しかし、一般には混沌の戦士に憧れるのは初心者の方がむしろ多い。特に、巷の会話を見る限り、元ネタの『ウォーハンマー』の混沌の戦士がどれだけおぞましい存在か知る由もないまま、名前のみとせいぜい概要から単に「闇の魔法剣士」のようなイメージ(→魔法戦士)を持ってしまう場合が多いようである。その結果、吸血鬼の美形不死貴族魔法剣士(→吸血鬼)のつもりだったのが最初の報酬の突然変異で女サイクロプスに変えられたなど、強烈なしっぺ返しの例も多いのだが、依然として語感のみから憧れる初心者は跡を絶たないようである。(なお、スコアサーバーでは04年11月現在、人気(プレイヤー数)では27職業中の5位にも関わらず、「平均スコア」では文字通りケタ違いの最低(下から2番目の魔法戦士が100万あまりで、混沌の戦士が44万)であることを付記しておく。)
魔法はカオス魔法が使え、習得の上ではメイジに次ぐが、打撃魔法が大半のカオス魔法は戦士系とは相性がよくない。これも経験者向きと言われる一因だが、初心者は攻撃魔法に余計に憧れてしまうようである。[変]では悪魔魔法も選べ、こちらは補助系も多々ある。
なお、『ウォーハンマー』では代表的な報酬はケイオスアーマーだが、*bandではバランス上の問題か、かわりに報酬としてはカオスの武器が貰えることが多い。カオス武器自体不確定な効果のため使いにくい場合もあり、だぶついてしまって換金する他にないことも多い。
<コーン>の渇血悪魔 Bloodthirster 【敵】
名前だけ聞いても<コーン>の血戮悪魔(→参照)とどっちがどっちだったかわからなくなるが、「あの早くて硬い方の奴」である。
ブラッドサースターは『ウォーハンマー』世界の混沌の神、血と殺戮の神コーンに仕える多々のデーモンのうち「グレーターデーモン」である。*bandでも原語はBloodthirsterだけでof Khorneはついておらず、他の神のデーモン「変化の魔公」「禁断の護り手」等と同様、神の名はつけず通常「ブラッドサースター」だけで通るものらしい。しかし現状の訳の方が直感的にわかりやすいだろう。
見かけは巨大な翼のはえたいかにも「悪魔」であり、というより、海外のバルログやバロール(D&D)のイメージに多い犬科を思わせる顔、ひいては鞭やゴスモグのような斧に赤い体などのため、まんまバルログになってしまっているミニチュアも多い。鎧をまとっており、ベルトのバックルにコーンの紋章があるのでかろうじてバルログではないと見分けることができる。どれも立派な牙をむき出してはいるのだが、特に血を吸うことに特化した外見には見えない。
*bandでは[Z]以降登場し、55階というバルログより若干上の階層であるが、その特性はバルログとは似ても似つかないものである。決して深層ではないにも関わらず、この階層どころかもっと深い階で会っても厄介なほどの異様なスピード、アーマークラスを持つ。固定ダメージ50x3の打撃(忘れがちだが、吸血攻撃ではない)を使い、魔法は一切使ってこない。ほとんどのプレイヤーが一度は「血戮悪魔」の方と間違えて戦い、ひどい目にあう。アイテムのみとgoodなどではない若干の宝物を落とすが、できればひたすら避けた方が無難である。
<コーン>の血戮悪魔 Bloodletter of Khorne 【敵】
名前だけ聞いても渇血悪魔とどっちがどっちだったかわからなくなるが、「集団でカオスブレード落とす方の奴」である。
『ウォーハンマー』世界の混沌の神コーンは、頭蓋骨とクロスボーンを象徴とする血の神であり、いわゆるRPG的悪神のように非常にわかりやすい、個人的な力の追求と殺戮を広める(グループSNEの訳した「コーン」という日本語表記が、Khorneという原語と比べてあっさりしすぎて、この神の凄惨さが伝わってこないというのが以前からファンの間でよく話題にされる)。コーンは裏切りや知人や身内の血を特に喜び、後述するヘルブレードからも伺えるが、ムアコックのエルリックの命運などを最も強く思い出させる(これは個人や剣の運命でなく神の教義であるが)。
「ブラッドレター(血文字の悪魔)」は、そんなコーンのレッサーデーモンであり(コーンのグレーターデーモンが、もうひとつの方、渇血悪魔である)赤い肌を露出させた角の生えた魔人である。コーンの尖兵となり、コーンから与えられた地獄刃(ルール的にもかなり強力な武器である)を揮う。
*bandでは、『ウォーハンマー』が取り入れられた[Z]からデーモンの一種として登場する。集団で吸血攻撃をしてくるので、登場する34階前後としては微妙に厄介かもしれないのだが、そんなことよりも特筆すべきは、地獄刃を持つという設定が何を思ってかそのまま取り入れられ、倒すと「カオス・ブレード」を落とすということである。
カオス・ブレードは、ブロード・ソードの単純3倍のベースダメージを持ち、[V]では深階層でかなり稀にしか登場しないはずの物品であった。が、[Z]2.2.8以前ではブラッドレターを倒すと、このカオス・ブレードを1体につき1振必ず落としていた。実際に、必ず集団で登場するブラッドレターを全滅させた後には、おびただしいカオス・ブレードが残り、この中にまかり間違って強力なエゴやアーティファクトがあったりすると、30階やそれ以前にして最終装備確定ということもあった。[Z]2.4.0系や、[変]などそれ以後のバリアントは、必ず落とすとは限らず低確率に変更されており、低階層で強すぎる修正やエゴが出てくる可能性の低さ、扱える職業の兼ね合いなどもあってなんとかあやういバランスにあるが、ブラッドレターが狙い目であることには変わりない。特に[Z]2.4.0ではベースダメージが非常に重要なので、下手をすると単なる{上質}カオス・ブレードでも後半まで他の武器を用無しにさせたりする。
→カオス・ブレード →<コーン>の渇血悪魔
<コーン>のジャガーノート Juggernaut of Khorne 【敵】
ジャガーノートとはインドのクリシュナ神像を乗せた山車であり、またクリシュナ神同様にヴィシュヌ神の化身(アヴアターラ →シヴァ靴)のひとつである神の戦車(騎手)とされることもあるが、神話関連は他サイトを参照されたい。ここからjuggernautは英語として使われた場合、単純に「巨大な重量の存在」「人力では止められない質量・災厄」「巨大な車両」(イギリス英語では、大型トラックを指す、しかし古式ぶった表現)といったニュアンスをも指す。D&D以降のモンスターとしてのジャガーノート(巨大自動コンダラ)や、この『ウォーハンマー』におけるコーンのジャガーノートもその用法によるものである。
イギリス製のミニチュアウォーゲーム/RPG『ウォーハンマー』においては、殺戮の混沌神<コーン>の勢力に属する怪物のひとつがこれで、ゲームには単体のほかエリートのケイオスチャンピオン(→混沌の戦士)などが乗騎として使用するものなどがユニットとして登場する。おおむね金属でできた「牛」のような姿をしているが、ミニチュアから背のチャンピオンの対比などで考えると普通の牛より巨大というわけでもないらしい。従って、「車」でも「巨大」でもないが、見るからに非常にごつく直線的な外見で、重量もありそうでいかにも直進して踏み潰してきそうである。ケイオスチャンピオンらがこれに乗ってもユニットの移動力などは上がらないが(やはり金属製だけに遅いのだろうか)耐久力や攻撃力が激増する。
*bandでは[Z]から登場する『ウォーハンマー』系のひとつで、ジャガーノートのみなのか、背中に何か乗っているのかは定かではないが、攻撃のタイプや、魔法類がないことから見ると単体のようである。シンボルは'g'ゴーレム類になっている。階層は43階とウォーハンマー系としてもさほど強力な方ではないが、この階層としては攻撃力も耐久力もあるため、何かもっと強力なような錯覚を受ける。
<コーン>の腐肉犬 Flesh hound of Khorne 【敵】
フレッシュハウンド。コーンの獣。地獄の猟犬、肉を引き裂く者、血の狩手、避けられぬ敵。ミニチュアウォーゲーム・TRPG『ウォーハンマー』において、流血と殺戮の混沌神コーン(→コーンの血戮悪魔)の軍団の形成要素のひとつ。各神でデーモンの下に位置する「生き物」「獣」でコーンに属するのがこれである。
その主の神の性質と名前の文字通り流血の獣であり、高い機動力を持つ。公式ミニチュアなどからのイメージは、犬というより体長の長い狼に、鱗と竜のような翼(首周りのひれのように見える)のためキマイラ的な印象を強く持つ。魔法を跳ね返す首輪を与えられ、コーンの軍団でも「壁役」というか前線役であることが多いようである。
*bandでは[Z]以降、ToMEも含めて発展タイプのバリアントの多くに登場する。ウォーハンマー系の和訳には随分と苦心・工夫が凝らされており、コーンが流血の神であることからFleshは必ずしも「腐肉」「死肉」というわけではないのだが、「腐肉犬」はウォーハンマーの混沌らしい訳ではあるかもしれない。30階という、動物としては明らかに高いレベルのノーマルモンスターで、ウォーハンマー系の特徴ともいえる高い耐久力を持っており、明るい赤'C'のシンボルは警戒心をかきたてるものがある。
あ-い
う-お
か
さ
た
な
は
ま
や・ら・わ
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