私家版*band用語集


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 あ-い  う-お              や・ら・わ


な行


ナイアルラトホテップ Nyarlathotep, the Crawling Chaos 【敵】

 外なる神。這い寄る混沌。いわゆるクトゥルフ神話の主要神格のひとつであり、ラヴクラフトの作品中では「神々のメッセンジャーであり魂・心である」とされる。「クトゥルフ神話」内では、人間に理解できる形の知性や個性・人格を持たない(むしろ単なる「ある種のエネルギー」に過ぎない)アザトースら外なる神々の中にあって、それらの精神にあたる部分、すなわち生物らとの間の媒介(メッセージおよび力の顕現)の役割を果たしているともいう。ある意味では、ナイアルラトホテップ自身はすべての外なる神々の下働きでしかなく、全くパワーを持たないが、すべての神々の力を自身が媒介として自由に顕現させられるという解釈もある。
 最初に登場したのは、ラヴクラフトが夢を書き出したという散文詩「ナイアルラトホテップ」(ラヴクラフトという作家を伺うにも重要とされる)で、この中で、人々の街に現れ謎の映像を見せて混乱を巻き起こす男として書かれる(なおこれは、世を騒がせたオカルティスト、アレイスター・クロウリーがモデルであるとか、ラヴクラフトが無意識にその噂の影響を受けたと読み取る向きもある)。しばしばじかに人間の姿をとって現れ(黒の男、黒のファラオ、ロバート・ブロックの著作に登場するデクスター医師や、TRPG版のCoCルールブックの付属シナリオで某ジャズの神様に化けている例など。変わったところでは、CoCサプリメントには、歴史の織田信長と同じ姿をした闇の武者の姿で現代にも現れる、というものもある)笑ゥせえるすまんのように魔法的な物品を人間に与え社会を混乱させる、というのもよくあるパターンである。ラヴクラフトの「ドリームランド」を描写した諸編でも擬人化されて古めかしい言葉で人間に語りかけ、いかにもよくある邪神のように陰謀を巡らせる。他に、人間の姿以外も含めて千もの姿で現れるが、怪物・邪神としての姿ではCoCルールブックで代表的な姿として挙げられているのは「闇に吼える者(血塗られた舌)」と呼ばれる、頭のかわりに巨大な赤い触手がつき、足が三本、両手をジョジョのようなポーズで突き出している奇妙な姿の巨人である。他に、ラヴクラフト『闇をさまようもの』に登場し、ファンにはこの題名と同じ名で呼ばれる、三つの目のある巨大なコウモリで強い光のない所に出現するという化身も有名である。
 存在自体が(宇宙すなわち諸神格に対しても)冷笑的な態度を示しており、接触する生物(人間や他種族の魔術師)を間接的に混乱に陥れるような姿勢を常にとる。直接的に手を下したり中心になったりするよりは、間接的に影響を与えるような陰謀を好む。名前もエジプト風だが、古代エジプトの書物の神トトをはじめとする、世界各地の知の神の正体であるともいう。
 なお、CoCルールブックの「ニャルラトテップ」、他の小説等での「ナイアーラトテップ」などの呼び方があるが、*bandの「ナイアルラトホテップ」は、定番である創元社ラヴクラフト文庫全集の表記に従っているようである。ただし、この文庫での異界の表記は「故意に発音しにくいものを採っている」とのことで、(ある意味理解しやすいことを旨とした)クトゥルフ神話の一般的な呼び名として最も普及しているものというわけでもない。
 *bandには[Z]以降、主神アザトースに次ぐ階層で登場する。本来ならナイアルラトホテップは力ずくで殴りかかってくるような存在ではないが、クトゥルフ系の神格と殴りあう時点で既にそういう問題ではない。刻々と姿が移り変わるシェイプチェンジャーのシンボルと、凝視による能力減少攻撃と、一応はそれらしい能力が揃っているが、もはやこの階層ではあまり大差がない。しぶといクトゥルフ系にしては防御力(だけ)は比較的低いので、早期決戦で滅多切りとかいう印象くらいしか残らない。

 →アフトゥ →ぬぞぷり



ナイトウィング

 →ナイトシェイド

ナイトウォーカー

 →ナイトシェイド

ナイトクローラー

 →ナイトシェイド



ナイトシェイド Nightshade 【敵】

 *bandにおいて「ナイトウィング」「ナイトウォーカー」「ナイトクローラー」として登場するのは、D&D系において「ナイトシェイド」と総称されるモンスターである。
 結論から言ってしまうと、これも例によってクラシカルD&D系が高レベルルールにおけるインフレの末に「強力なアンデッド」をでっちあげるだけのために設定された存在と言える。(それ故か、AD&D 1st-2ndでは一応基本ルールからは外されているが、再びパワーゲーム化したD&D 3edでは復帰している。)一応、宵闇の霊の伝承やら、虚無そのものであるとかのファンタジー的解釈も可能だが、あまり繋げることに意味はないだろう。また、名前がありふれているので魔女とかアメコミヒーローとかに同名のキャラや、見かけだけ共通したCRPGモンスター等が目立つが、概ねあまり関係はない。
 そのためこんなクリーチャーを解説することにあまり意味が認められないのだが、一応D&D系での設定を述べておくと、ナイトシェイドは闇が凝縮したような一切他の色のない巨体の存在で、ナイトウィングは巨大コウモリ、ナイトウォーカーは巨人、ナイトクローラーは巨大イモムシの形をとっているが、形状に応じて若干行動や範囲が異なるだけで能力は似たようなものである。ナイトシェイドに共通するのは、寒気と毒を周囲に発散していることで、この寒気のために周囲のポーション類や食料はすべて毒化してしまい、またなぜか打撃によって魔法のアイテムを破壊する力があり、プレイヤーキャラ自身を攻撃する前にまず装備をひっぺがし、ふんずけて破壊するなどという、どう考えても単なるプレイヤーへの嫌がらせとしか思えない攻撃を行う。多数のアイテムを持ち運ぶ高レベルキャラクターへの対処があからさまなルールである。
 それ以外にも中レベル以下の武器も魔法も効かないやら、ターンアンデッドに抵抗の余地があるやら、より下級のアンデッド、スピリット(→ドルジ)やハウントを呼び出す(吸血鬼の真祖などもう下級としてさえ問題になっていない)やら、山のように呪文発動能力があるやら、打撃によってマイルフィックのように毒やらドレインやらをばしばしと食らうなどと、インフレアンデッドのお決まりの能力が山積みである。
 リッチのような首尾一貫した設定のアンデッドとは異なり、果たしてこんな代物がどうやって生じるかも定かではない。アンデッドである限りは、もとは生物かもしれないのだが、クラシカルD&Dでは、エントロピーの神々のような強力な存在によって作られる、とある。ミスタラ世界設定(CD&Dや、カプコンD&Dなどの世界設定である)がAD&D2nd用に移された資料には、負物質界(ネガティブマテリアルプレイン)原住の単独生物で、アンデッドが破壊されたときに行き場のなくなるエネルギーが凝集してナイトシェイドを形成すると推測されている、といった説もある。
 *bandでは[V]から3種類いずれも登場し、ノーマルモンスターとしては攻防および魔法ともにすぐれたかなり凶悪なものである。ナイトクローラーとナイトウィングが劣化打撃を持っているのは、おそらくアイテム破壊能力への反映と思われる。(が、なぜか毒攻撃はナイトウィングしか持っていない。)その強靭さとアンデッド召喚(幸い上級アンデッドではないが)能力故に、ワイアームと並んであまり出会いたくないモンスターであろう。



ナイトストーカー Night Stalker 【敵】

 →インビジブル・ストーカー



ナインの戦闘用つるはし The Mattock of Nain 【物品】

 ナインはくろがね連山のドワーフの首領で、ドゥリン王家の宗家であるスライン2世(『ホビットの冒険』のトーリン・オーケンシールドの父)の従兄弟にあたる。モリアとエレボールを落ち延びた後は西を放浪していた宗家とは異なり、ナインらの一族は第三紀の地図の北東の端である、くろがね連山に住んでいた。
 ナインの一族はスラインのオークとの戦いに、アザヌルビザールの激戦(→アゾグ参照)の最後に援軍として参加する。ナインとそのつるはしは、オークの首領アゾグに一騎打ちを挑んだ場面に登場する。ナインはつるはしをアゾグに振り下ろしたが、かわされて足払いをかけられ、つるはしは岩に当たって折れる。アゾグはよろめいたナインの首に切りつけたが、ドワーフの頑丈な鎖かたびらはびくともしなかった。……が、結局、その衝撃で首の骨が折れており、ナインは絶命していた(出番、これだけ)。
 一応、原作に明記されている由緒ある物品ではあるのだが、他に入っていない数々の品(指輪戦争時のローハンの武具など)を押してまでわざわざ入るほど重要か、と言われれば確かに疑問が残らないでもない。これを入れるくらいなら、同時に登場する「ダインの赤いまさかり」の方が重要にも見える(”鉄の足ダイン”はナインの息子で、このときアゾグを討ち取った。また、スラインの血脈が絶えた後のドゥリン王家を継承し宗家となる。さらにこのあと五軍の戦いと指輪戦争でも活躍する、第三紀のドワーフでも図抜けた武勇の王である)。身も蓋もない言い方をしてしまえば、ドワーフのシンボルのひとつである「つるはしのアーティファクト」のひとつも欲しかったが、原典にあった唯一の、ナインのつるはしを加えたのかもしれない。原典にはくろがね連山のドワーフは主につるはしを武器としていた記述があるが(なぜかダインは斧だが)、RPG一般におけるドワーフ、特にトールキンのくろがね連山の一族をモデルとする「山ドワーフ」は、採掘のつるはしと同系のウォーハンマーを主なシンボルの武器とすることも多い。
 *bandにはToMEをはじめアルダを舞台としたバリアントに登場するが、[変]にも加えられている。日本語ではPickとMattockを「つるはし」として区別できないので、[変]では「戦闘用つるはし」となっているが、Mattockは無論戦闘用とは限らない。無論のこと、ナインやくろがね連山のドワーフが使っているものは戦闘用と考えられる。ナインのつるはしはかなり大きな採掘力と腕力の増加はお約束として、スレイングが揃っており威力自体も中堅以上にある。名前と思い出からは、おそらく原作既読者も未読者もこれほど強力な武器とは思ってもみないのではないかと思われる;グラムドリングやアンドゥリルより強力というのは流石にやりすぎの感がある。隠れた有効武器のひとつである。



ナーガ Naga 【敵】

 ナーガとは日本では通例、単に「竜」と和訳されるサンスクリット語である。具体的には、世界各地の知恵を持つ蛇の信仰として、バラモンやインドの土着信仰に特に蛇神は目立ち、その多くは人面(多数の頭がある場合も多い)蛇身の神であり、地下に住む世界の根源的な一族とされることが多い。なお水族よりはインドに住む毒蛇(コブラ)のイメージが強く、さらに後代ではいわゆるアスラ神族、ペルシアでの蛇の魔神の色も強い。が、ナーガ自体は漠然とした蛇の怪物・精霊をも指し、かなり広義の大蛇・竜を示すインドでの一般的な名詞と見てよいだろう。なお、この梵語を西洋風ファンタジー世界にて一般名詞でなく「人名・固有名詞」として用いる行為は、あたかも「指輪物語世界(トールキンの設定した言語と共通語(すなわち和訳では「日本語」)以外存在しない)でそれ以外の外国語の人名をつける」のと同じくらい稚拙なことは、並のFT読者ならわかりそうなものである。
 RPGにおいてより一般化したモンスターとしてのナーガは、AD&Dにおいて「ラクシャサ」や「テング」などと同様、本来の原語ではもっと広義で曖昧な言葉を、東洋風のエキゾチックな名前をもつモンスターをリストに加えるために、特定のモンスターのデータとして定義したものと思われる。
 一般にAD&Dのナーガは中レベルのモンスターで、20フィート程度の大蛇の体に人間の頭を持ち、非常に高度な知性・賢明さを持つ。代表的なのが「ガーディアン・ナーガ」で、これはバラモンの法典をイメージされた貴重な知識・英知・秘儀を物理的もしくは抽象的に守る「守護者」として配されている、正義(ローフル・グッド)のモンスターである。(マイナー故に仕方ないとはいえ、「番兵」ナーガとするNetHackの訳はなかなか脱力ものかもしれない。)それ以外にもより劣った力と目的を持つモンスター的なナーガや、スピリット・ナーガ(精神のナーガというような意味で、通常D&Dでは霊体というわけではない)など各種類が存在する。
 *bandにおいては、最も序盤から前半にかけて広い範囲に様々な種類が登場する。最も弱いブラック・ナーガは1階から登場することもあり、強敵ではあるが、死因リストを埋めるほど危険というわけではない。色によって、様々な能力値の奪取攻撃などを行うものが存在する。スピリット・ナーガは*bandにおいてはモンスターの思い出解説では「A wraithly snake-like form 蛇の亡霊のような姿」となっており、ここでは原典と異なり霊体である(ただし、UNDEADフラグはない)。*bandではどうも「女性」という設定になっているようで、本来のナーガのみならず、上半身が女性の蛇女などの総称のイメージとおぼしき節がある。他にもそうした性質をもつモンスター(メデューサ、ひいてはジャスラなど)も'n'シンボルになっていたりもする。



中つ国 Middle-earth 【システム】【その他】

 出典:トールキンのアルダ世界を舞台にした数々の物語の「中心」的な舞台となる、人間と幻想的要素の共存した大陸。「古典的ファンタジー世界」の雛形であり、遥かに憧れ達し得ない理想型のひとつであり、FTでありながらも「硬派な世界観」の代名詞にして最後の砦として、FTファンはおろか、RPGファンの間にも広く認識されている言葉である。
 エルフ語のエンドール(中央の領域といった意)を人間の言葉(西方語、英語)に訳したMiddle-earthとは、その名の通りの位置からの名称であり、言うまでもなく北欧で現世をミッドガルドと呼ぶのと同様であり、また邦訳での「中つ国」の訳語は、日本神話の葦原中津国から取られていることも非常に有名である。
 エンドールは当初、アルダの創世において、あらゆる種族の住む地と予定されていながら、アルダの形成期にメルコール(後のモルゴス)によって荒廃したので、神族(アイヌア)や上のエルフが立ち退いた地であった。諸神もエンドールと住人をすっかり見捨てたわけではないが、ヌメノール人の反逆や中つ国のエルフらも立ち退いてゆくに従って、諸神やエルフとは疎遠になり、影響は確実に薄れてゆき、「人間的・現実的」な世界へと推移してゆく。特に『指輪物語』の舞台となる第三紀は、それが強く残りつつも、最後の残光が消えゆく時代である。


 中つ国は、西、月よみ湾から東、くろがね山脈まで千三百マイル、北、フォロヘル湾から南、ベルファスト湾まで千二百マイル。住民は、エルフ、ドワーフ、人間などホビットを含めて七種族をこえ、...
 風土は私たちに順ずるが、はるかに豊かで、エアレンディルの星は宵の明星より明るく、大河アンデュインの瀑布は、ナイアガラよりすさまじい。...
 (...善悪の構造は、善が力をふるって悪をほろぼす少年雑誌の図式に依らない。善の側はガンダルフを代表として想像力に富むのみで、魔力はなく、悪は制御しきれぬ支配欲にかられて自滅する形をとり、...)

 (瀬田貞二『夢見る人々』(『子供の館』1975年7月)福音館書店刊)


 「少年雑誌の図式」と、75年にしてすでに瀬田翁が、現在においてFT/RPG物への批判の言葉としてお決まりの「(少年)ジャンプ的」「ジュブナイル(ラノベ)的」とまるっきり同じ表現を発しているのは、なかなかに鬱な話であろう。幻想の通俗視はこの頃から30年近く何も変わっていない。
 中つ国はこうした、当時から現在に至るまで「通俗化」の方向へと物凄い勢いで押し流そうとする潮流に常にさらされ続けている「ファンタジー世界へのイメージ」の奔流の中、圧倒的な質量を持って土台を下ろし、微動だにせずにそびえ立ち続けている存在である。広大無辺な「自然」、ゆるやかな「幻想」、無言でひそやかな、かつ強大無比な存在感をもつ「超自然存在」と、常に目に見えない力で顕れる巨大な「魔力」──それらの背後に気も遠くなるほどの分量で積み重なる、「言語」から巧妙に組み上げ上げられた文化と歴史の数々。そして、そうした人工言語以外は、固有名詞でさえ一切「外来語」を使わずネイティブに訳すよう指定したトールキンと、それを実行した各国の翻訳者のこだわり(例えば日本の瀬田訳では「シャドゥファックス」「バッグエンド」とそのまま書かず、「飛蔭」「袋小路屋敷」と表記されている)が、その重厚な他に類を見ない雰囲気を実現している。カタカナを並べ立てさえすれば雰囲気が出ると信じている和製低質世界などとは完全に一線を画しているといえよう。
 中つ国は完全な異次元・異世界ではなく、我々の住む現実の地球の過去の姿である。ホビット庄などのあるエリアドールは西ヨーロッパになり、リンドンの周辺は分離してブリテン島になり(もっとも、最初期の構想ではアマン=妖精郷が、妖精説話の多いブリテンだったらしい)ゴンドールやモルドールのあたりは地中海の国々が形成されると考えられている。トールキンには、第四紀から七千〜八千年後に実在の歴史に移ってゆく緻密な構想もある。とはいえ無論のこと、第三紀には古代史以前とは言い難い文化がすでにあったりと、厳密に実在の歴史につなげることができるわけではない。『コナン』の舞台ハイボリア時代の、アトランティス水没直後(約1万2千年前)といいながら中身は古代から中世が混ざっているような世界と同様である。あくまで、純然たる想像の産物でもあり、つながってもいるという、まさに「神話」的な位置づけの範疇といえるだろう。
 中つ国は狭義では、上に瀬田翁が書いている領域、すなわち第三紀の舞台である霧降り山脈を中心とする南西部を指すことが多い(第一紀の舞台で、その終わりと共に水没した北部は「ベレリアンド」と地方名のまま呼ばれることが多い)。またトールキンが第二紀・第三紀の明確な地図を描いていたのは中心的な歴史が語られたその南西部の領域のみである。より東や南の地域も含む大陸全図は、第二紀のものは『中つ国歴史地図』に、また第三紀も含めてICE社の設定に、現代の地球を参考に創作されたものしか存在しない。
 システム、その他:[V]はおろかMoriaの当時から、*bandの多くのバリアントは、『指輪物語』世界をその背景設定とし、従ってその舞台は中つ国であるはずである。だが知っての通り、[V]の時点から神話時代から第三紀までのあらゆる場所と時間の人物や物品が入り乱れて登場し、どこの時と場所なのかまったく特定できない。そして、明確に中つ国が舞台となっているToME(中つ国の災厄)でも、登場要素は同じであり、その全体地図は第一紀と第三紀が入り混じっている(おまけに、もしベレリアンドが水没していなければと想定した地図にはあまり合致しない)。総じて*bandは、「中つ国そのものを、純ログルスに頭を突っ込ませたような世界」になっている。
 Moriaや*bandのゲーム感は、大敵を力押しでなぎ倒し魔法が爆発するパワーゲームであり、決してトールキン作品の中つ国の雰囲気に近いとは言えない(第一紀の伝説時代ならばともかくも)。これは単にMoriaという題名から発想を得ただけで、最初から中つ国を舞台にしたゲームを作ること自体が目的だったわけではないためであろう。それでも、[V]の日本語訳は、できるだけ『指輪物語』、特に瀬田訳の雰囲気と違和感が生じない、一貫した世界観を表現するよう、細部に対して非常な注意が払われている。これはhelpファイルの中のj_trans.txtや、その他a_info_j.txtのコメントなどに多数記述があり、機会があれば一読をすすめたい。例えば、指輪物語由来ではない武具の名前、DoomcallerやBladeturnerといった言葉も、英語(現代語)はそのままカタカナにせずに、無理がある訳であることを承知ながら『災いを招く者』『刀返し』と、あたかも指輪物語の瀬田訳における中つ国に存在してもおかしくないであろう言葉として入っている等である([Z]以降は物品の由来そのものがトールキンに限らないので、こうなってはいない)。[V]や[O]のストイックなゲーム性自体とも相まって、「指輪物語のゲームの代表格」とファンの間からも長い間認められてきたのは、その賜物に他ならないのである。

 →アングバンド


ナーグリング Nurgling 【敵】

 ハーフリングが「小さな人たち」(ただし場合によっては若干蔑称の意あり)であれば、ナーグリングは「ナーグる者たち」を若干の蔑意と共に呼ぶ語ということになるだろう。これは英国産のTRPG/ミニチュアウォーゲーム『ウォーハンマー』シリーズにおいて、混沌の神ナーグルの下僕の一種であり、レッサーデーモンや魔獣よりさらに下位の低級悪霊である。RPG一般における悪魔に対するインプのようなものと言えばわかりやすいが、下級のユニットとして軍勢には集団で用いられる。おおむね人間よりかなり小型(人間大のプレーグベアラーと一緒にいるミニチュアで、プレーグベアラーの膝くらいというものがある)の、その姿は「小鬼」「魍魎」といったところで、*bandの説明には「毛のないテディベアのような姿」とあるがミニチュアのデザインは実際のところ個体ごとにかなり千差万別の妖怪で、テディベアとはどちらかというと、大きさや等身を示しているとも言えるかもしれない。ヌイグルミ的にカリカチュアされた等身・体躯バランスを持つものが多いのである。
 *bandでは『ウォーハンマー』要素が取り入れられた[Z]系において、8階の集団・下級デーモンとして登場する。打撃が病気攻撃なので、集団を相手どる際は耐久力に注意する必要があるが、光に弱いなどの弱点もなく(砂に棲むもの(→参照)と混同されがちだが)他にはさほど特徴はない。



<ナーグル>の疫病人間 Plaguebearer of Nurgle 【敵】

 ナーグルはミニチュアウォーゲーム/TRPG『ウォーハンマー』に登場する混沌の神の一体で、疫病、腐敗、不浄を司る。万物は死、腐敗、停止に飲み込まれるという考えで、信者はすべては死に絶えるものであるという虚無感から、死を恐れなくなるばかりか、周囲のすべてを滅亡と死に送り込もうとするため腐敗や疫病を撒き散らすようになる。こうした死と停滞の神ナーグルは、エネルギーと変幻の神であるティーンチの対極にあるという側面もある。
 ナーグルの下僕たちは、諸行無常に達観しているような面があるので、見かけは混沌の勢力の中でも最もみっともないにも関わらず、連帯感が強い一面があるという。
 疫病仲介者(プラーグベアラー)はそんなナーグルのレッサー・デーモンであり(グレーターデーモンがかの「偉大なる不浄」である)文字通り疫病・腐敗を媒介、感染して回る緑色の人型の怪物である。レッサーデーモンではあるのだが、混沌の神のデーモンにはかつては人間の、信者やケイオスウォリアーだったものがデーモンへと変化してしまうこともあり、*bandのものは、モンスターの思い出によると「ナーグルの腐敗病で死んだもの」がデーモンゾンビになったとあるので、まさしく疫病人間である。
 *bandに、『ウォーハンマー』が取り入れられた[Z]系で登場するものは、単なるゾンビと思いきや、いつのまにアリが大量発生しており、それがこのプレーグベアラーの仕業だったりすることが多い。アリというのは、つまりは害虫発生ということだと思われる;プレーグベアラーは蛆虫を連れるものともいわれているのである。このあたりの階層(15階)は、ちょうど普通のゾンビ類(かなり無害)もよく出てくるあたりなので油断しがちだが、オレンジ色のzを見かけたら注意したいところである。



<ナーグル>の妖獣 The Beast of Nurgle 【敵】

 TRPG/ウォーゲーム『ウォーハンマー』の混沌の神々が、それぞれデーモンや人間勢力の他に持つ「妖獣(ビースト)」と呼ばれる一種類ずつの怪物のうち、腐敗と疫病の神ナーグルの獣と呼ばれるものである。
 中でもこのナーグルの獣がそのままの「ビースト」という名前しか持たないのは、おそらく、それ以外に呼びようがないという側面もあるのだろう。ナーグルの妖獣は、ナメクジのような不定形の不気味な塊であり、場合によっては顔や手などの器官が側面にあったりもする。てっぺんからは2本の(たいていのフィギュアではそれ以上で、イソギンチャクのような)触手が生えている。ナーグルの性質と、不気味な色合いもあって、一見するとクトゥルフ系の生物と見間違うほどである。ナーグルの軍勢の中では、そのパワーを生かし、直接攻撃役は無論として、チャリオッツを引いていたりもするようである。この手の生物のまさにそのままお約束として、『ウォーハンマー』ゲーム中のデータでは耐久力が非常に高く重厚な壁役を務めるが、その姿からもお約束か移動力・行動力が非常に低い。
 *bandには『ウォーハンマー』系モンスターとして[Z]以降登場する。中級の非ユニークだが、ウォーハンマー系の敵の例に倣って強靭な上(一応、デーモンと邪悪のスレイングは効くのだが)病気攻撃に酸と、耐性の揃っていないこのあたりではかなり厄介になりかねない。魔法もなく実はスピードも遅いため、さっさと避けるのが有効である。



ナージャン Narjhan, Lord of Beggars 【その他】

 マイクル・ムアコックの永遠の戦士シリーズで、多くの世界に共通して現れるとされる混沌の神の一体である。『エルリック・サーガ』においてナドソコルの都の乞食の軍勢を率いて、永遠の都タネローンを攻撃したことで主に知られている。全身漆黒の鎧をまとい、兜の中に虚ろに響く声をしている。この外伝的ストーリーの主役はタネローンの元英雄の中でも指導者格の射手ラッキールで、例によって超自然の力をかりるためのラッキールの冒険の甲斐あってナドソコル軍を追い払うが、ナージャン神は敗退すると鎧だけを残して姿を消した。作中では、手勢の怪物を召喚することができるが、自分自身は戦うことができない、と書かれており、あるいはこのときは(しばしばシリーズに他の神が登場するときに肉体を持っているのとも異なり)鎧を媒介して間接的に力を送っていただけだったのかもしれない。
 どういう属性および位置づけの神なのかははっきりした明記がないように思え、BRP版のゲームでもデータがないが、ゲームでは、このナドソコルを手勢としていたことから乞食の神、またナドソコルの守護魔神という設定にもなっている。
 *bandでは混沌の戦士や突然変異などでつくカオスの守護魔神の一体として加えられている。報酬の内容は、物品であることが多く、治癒・増強も目立ち、そこに変容も若干あるという風で、召喚や攻撃などの攻撃的な効果よりも、自分に影響があるものが多いということになる。また、全体的に支援の効果が大きいので、比較的「普通」に混沌の戦士をプレイしたいプレイヤーにとっては、実はかなりねらい目の守護魔神かもしれない。



ナース Narse the Black Dragon 【敵】

 黒翼の邪竜。日本のライトファンタジーの先鞭である古典風RPG世界『ロードス島戦記』シリーズのドラゴンで、ロードス島に住む「五色五匹の古竜」のうち一体。このシリーズでは悪役のことが多い国、暗黒の島マーモに住んでいた。黒騎士アシュラム(→参照)や黒の導師バグナードら、マーモの勢力によって打ち倒されて服従させられ、リプレイ第三部のラストの邪神戦争では、アシュラムを背に乗せて、マーモ軍として戦ったと言及される。後のシリーズでも結局殺されることはなく、紆余曲折を経てマーモ軍への服従からは開放された。
 五匹の古竜と言われるドラゴンは、ロードス島の古代魔法王国の太守が使役し、アーティファクトを守らせており、小説版によるとナースが守っていたのは古代王国の知識を収めた「知識の額冠」であり、これはバグナードが使用した(なお「知識の額冠」とは灰色の魔女カーラのそれと同種の品だが、この「知識の額冠」という名前と細かいアイテム設定データは小説版の該当巻の刊行直前に、富士見「ドラゴンマガジン」誌のソードワールド・アイディアコーナーに読者投稿された代物で、ナースが守っている品については直前に詳細を詰めたことが伺える)。
 さらに後に作られたTRPG『ソードワールド』準拠の設定では、ナースはこの背景世界フォーセリアの竜の中では「闇竜」、すなわち太古の神々の戦いで暗黒神についた竜の眷属とされ、暗黒魔法やダークエルフのような抵抗力を持つのが特色とされる。また、古竜であるマイセンやシューティングスターに迫る能力を持つため古竜と混同されることがあるが、実際は老竜であるという。かつて『ロードス島戦記』がD&Dリプレイであった頃は酸を吐くブラック・ドラゴンの設定であったと思われるが(D&D当時に登場はしていない)『ソードワールド』での闇竜は酸のブレスを吐くというわけではない。
 *bandでは、もともとSBFband([Z]2.2系をベースに、デイヴィッド・エディングスの『ベルガリアード』『マロリオン』と、なぜかOVA版の『ロードス島戦記』も加えたバリアント。未訳)に登場していたものを、他の『ロードス』関連のモンスターや物品と共に移植されたものである。SBFbandでは*bandのブラック・ドラゴン(バイル・ワイアーム)風の能力であったのだが、[変]では移植後しばらく後のバージョンでアレンジが加えられ、「暗黒と地獄のブレス」という、『ソードワールド』とも異なるものになっている。『ソードワールド』データでは、ナースは肉体的にはシューティングスター等よりも劣るのだが、SBFbandおよび[変]のデータでは五色の古竜は基本パラメータはすべて同じになっており、しかもナースは暗黒と地獄という上位元素のブレスを持っているので、実は五匹のうちでもことに危険な方であるといえる。



ナズグル Nazgul 【敵】

 出典:指輪の幽鬼。もとは偉大な人間であったが、サウロンに「人間の九つの指輪」を授かり、強大な力と引き換えに、やがてサウロンの思うままに操られる下僕と堕した9人の幽鬼。「nazg」は黒の言葉(モルドール語)で「指輪」を示す。また「-gul」はシンダリン語での「呪魔」の意味にも掛けてあるようである。純粋にシンダリン語では「ウーライリ」と呼ぶ。首領であるアングマールの魔王のもと、『指輪物語』で暗躍する。なお、その翼もつ乗騎については「恐るべき獣」の項目を参照されたい。
 『指輪物語』のナズグルは指輪所持者を追跡する任務につくが、水や日光をやたらと恐れ、あまり強くは見えない。映画版FotRに至っては、5人がかりでアラゴルン一人が振り回した松明に追い払われ、燃え上がったりしている。一応こうした描写を擁護しておくと、(トールキンのUnfinished Talesに詳しいが)このときは隠密行のため装備品を全く持っておらず、また「九つの指輪」もサウロン側が保管しており所持していないのである(幽霊の@が装備品をすべて外して潜ってみたところを想像してほしい)。また、この不十分な能力はサウロンが力を取り戻していないためもある。現在(指輪物語の時点)のナズグルの能力は、「(サウロンが指輪を取り戻した時に)彼らが身に帯びる真におそるべき力の影にすぎない」というガンダルフの台詞があり、そして現在のそんな状態ですら、(トールキンの書簡によると)アングマールの魔王などは、強大なマイアの力の発揮を許された白のガンダルフに対してすら、互角以上の力を持つのである。
 ナズグルの経歴・履歴に関しては、トールキンの設定には乏しい。記述では:

 ・かつては中つ国の強力な王や呪術師であったこと
 ・うち3人が「黒きヌメノール人(ヌメノールの水没前後に海賊などと化し、または中つ国をサウロンが支配していた頃に従ったヌメノール人)」だったということ
 ・ナズグルの第一位がかつてドゥネダインの北方王朝(宗家)を滅ぼした魔王(→アングマールの魔王)であったこと(以上3項目、追補編より)
 ・魔王につぐ第二位が東夷出身の「ハムール(*bandではカムルと表記)」という男だったこと(Unfinished Talesより)

 これだけしか記述がない。ここに、ハムール以外にも全員に名前や出身地、担当地域をはじめとする大量の設定を加えたのが、TRPG(MERP)やTCGを製作したICE社である。*bandのみならず、ナズグルに関して語る時はICE社の豊富な設定を重視した話に及ぶ場合が多いが、あくまでトールキン自身の設定やその記述から直接に推測した(子息クリストファー教授の注釈のように)設定ではなく創作面が非常に大きいこと、何より入手困難な設定であり現在ファンに広く公開されているとは言い難いことで、ICE設定を極端に忌避するファンもまた多いため、注意する必要がある。なおICE設定を、しばしば「同人」や「ファンフィク」と同列に貶めて言及する原作・映画ファンが多いが、MERP等のICE社の出版物は映像化権等を持つ組織から認可を受けての製作であるため、ライセンス的な立場は正当、映画と同等であり、「同人」の類ではない。また、映画版やオンライン版(LotRO)等は、契約の問題からUT, HoME等の設定を反映させることができず、他の映画版以降の多数の関連商品も同様であることが多い。それに対し、ICE設定はUT,HoMEを含めてトールキンの設定は全て反映し、さらにオリジナル設定にしてもトールキンと矛盾する設定は緻密に避けられており、原作の反映の度合いは近年の作品の大半に比べても遥かに大きいものである。
 映画版LotRでも、冒頭の「九つの指輪」を受け取るシーンをはじめとして、ICE設定は考慮されていない(ICE設定に準拠しているならば、黒色系人種や女性が入っているのが目立つはずである)。
 敵:[V]では全員がICE社の設定に沿った名前・設定で、それぞれユニークモンスターとして登場する。[O]やToMEなどのアルダを舞台とするバリアントでもこれに倣っている。しかし、当初[V]では大半のナズグルが40-50階代だが、この階数の割にはさほど強敵ではなく、いまいち影の薄い存在になっていた。ただし、EyAngbandなどではナズグルのレベルを40-90階代に分散させて全般的にかなり強化し、ToMEの最近のバージョンやさらに[V]3.0系など最近のバリアントではそれに倣っているようである。また、[O]のナズグルは「黒の息」(経験値を永遠に減少させ続け、王の葉か生命の薬でしか治らない)を持っている。
 またToMEでは、旧版PernAngbandの時点から、単純な能力自体は[V]とさほど大差ないのだが、[O]同様の黒の息のほか、攻撃した武器が破壊される、何度も復活するなど、原作通りの(ある意味原作以上に誇張した)非常に強力で厄介なフィーチャーがシステム的に数多く付加され(バージョンによって大きく違うのだが)、手ごわい(面白い)敵となっている。[Z]でナズグルを排除して加えられた(と思われる)アンバーの九王子が、新システム血の呪いで恐れられ大活躍したので、ナズグルの巻き返しをはかったのだろうか? 第1紀の強大な存在がひしめく*bandの中、ある意味第3紀の敵とは思えない凶悪さである。
 [Z]では、トールキンの設定以外のナズグルは排除する、という触れ込みで、魔王とハムール([V]の頃から「カムル」と訳されている)以外のユニークは削除してしまった。他の7人はUNIQUE_7という「7人しか出てこない非ユニーク」として一律処理されることになった。
 [変]では、[V]初期のユニークや[Z]のUNIQUE_7たちが40階代だったものを、63階と一気に強化し、能力を底上げして名に相応しい強敵とした。……が、どういうわけか、それとは別に、[V]初期の40階代のユニークナズグルが、そのままの階層で、しかも一部だけ追加されている。

 →アングマールの魔王 →カムル →ドワール
 →ジ=インデュア →アコラヒル →ホアルムラス
 →アデュナフェル →レン →ウバサ



ナズグルの乗騎

 →恐るべき獣



ナズグルの飛び道具 Launchers of Nazguls 【物品】

 トールキンの原典には、ナズグル(→参照)が弓矢などの飛び道具を使う場面は出てこない。これは何故かと問われれば、恐らくたまたまでしかないが、強いて言えばナズグルは見えたり近づいたりした時に撒き散らす恐怖や、直接にナイフで襲われた時の恐怖などを煽り立てる描写になっており、見えない位置から飛び道具で奇襲するといった役割には合致しない、といった純粋な役割上の都合であろう。
 一方でICE社のRPG, MERPの設定では、ナズグルらが(完全武装時の)武具の設定が多数あるが、かれらの多くはユニーク名を持った高性能な飛び道具を備えている。アデュナフェル、インデュア、レン、ウバサ(嵐なき弓)、魔王(ロモクゥエナーロ)は弓矢を持ち、ことに戦士系データを持つウバサは、騎兵で騎射の特殊能力もあるため、その攻撃力はかなり強力である。またドワールとカムルは弓ではなく、獣使い・野伏として、ボーラを持っている。ボーラはどちらも捕縛にも殺傷にも使え、接近戦ではフレイルになるという優秀なものである。ただし、これらは完全武装時のものであるので、例えば装備をほぼ携行できなかった『指輪物語』序盤の追跡行では、持って行けたかどうかは不明である。
 *bandでは、[V]3.0などに飛び道具発射器のエゴアイテムとして「ナズグルの」が追加されている。原典にはナズグルの飛び道具はないので、強いて言えばICE設定ともいえるが、要するに「飛び道具にも呪いの物品を追加する」というだけのアイディアに過ぎないだろう。設定上はモルグルの武器と同種のものといえるかもしれない。呪いと視透明(ナズグルの幽鬼の世界を見られるという指輪の能力を意識していると思われる)以外には特に特殊能力もない。



謎の魔法棒 Wand of Wonder 【物品】

 元はAD&D1stより存在する、「ワンド・オブ・ワンダー」という名前からして存在そのものが駄洒落な物品である。なお、AD&D1stの新和日本語版ダンジョンマスターズガイド(幸か不幸か、新和のD&D系和訳の最末期にあたり、超レア品である)では、「ワンダーワンド」というさらに親父ギャグに磨きがかかったどうしようもない名になっていた。(なお、D&D3.0eではワンドは「いずれか一種類の呪文がこもったもの」と定義されたため、ロッドの方にこの品は移り「ロッド・オブ・ワンダー」となったので、幸か不幸か、前の駄洒落はなくなっている。)
 AD&D1stのものも、*band同様振ってみるまで効果がわからないもので、「効果表」の中には他の呪文に似た効果から、幻影、術者や対象の変身、チョウチョが飛び出す、術者が永遠にモノトーンになる等、その他予想もつかない効果まで様々なものが存在する。追加や上級ルールブックが出るごとに、表は新しいものが追加され、DM(ダンジョンマスター)はプレイヤーの裏をかくためこれらのどの表を使ってもよく、またDMらの想像力を働かせることが推奨されているようである。なおこのワンダーの効果は「魔力の暴走現象」に関与しているというが、この「暴走現象」を専門に研究するWild Mageというクラスの案の元となったようである。
 CRPG化もされたAD&DモジュールPools of the Radianceの小説版『廃墟の王』では、「目的を命じると、関係があるのかわからない非常に突拍子もない効果が現れるが、結果的にはその効果が目的の役に立つ」という効果になっていた。ゲーム通りに「完全に出鱈目な効果で、いざという時に役に立つ効果が出る」のでは単なるご都合主義にしか見えないが、こうするとそれらしく見えるという心理をついている。AD&Dのルールでは命じることはできず、あくまでランダムな効果が出るだけである。
 日本のRPGでは、『ファイナルファンタジー』シリーズは初期(1−3あたり)のものほどAD&Dからの直接引用が多いが、FF5に至って「ロッド」の一種に「ワンダーワンド」が入っている。
 Roguelikeでは、初代RogueにもNetHackにも登場しないが、日本のRoguelikeの普及作である『風来のシレン』に登場する「ガイコツまどうの杖」(後のシリーズでは「魔道の杖」)がこれによく似た位置づけのものとなっている(シレンの原型である前作『トルネコの大冒険』には登場しない。効果がランダムというとパルプンテの巻物があるが、こちらはどちらかというとwish(願い)に近い)。ガイコツまどうの杖は、ほぼプレイヤーキャラに有利な効果のみで効果は4種類のみと、厳密には同じ性質ではないが、*band以外のRoguelikeには少ないだけに興味深い。
 *bandでは、原型であるゲームMoriaの時点から存在する由緒正しい物品である。さすがにTRPGのような多種多様の効果とはゆかず、通常は呪文で得られるような効果のどれかがランダムに現れるというものになっている。不利なものとしてスピード・モンスターや回復モンスターが現れるが、[Z]以降では運の徳が高いと有利な効果(ダメージ呪文など)が出る確率が高くなっている。ロビンフッドあたりに使ってみたり(あまり得策とは評価しがたいが、一応*bandでは敵に不利になる効果の方が多いので一手ではある)あとはよほど他に何もない時に手当たり次第に狂ったように連発するというあたりに使用されるが、おおむね堅実なプレイヤーが使うものでもなく、使うとしても概ね序盤にしか出番はない。もとのD&Dシリーズでは「魔法」が一般に強力で、良かれ悪しかれ甚大な効果を及ぼすのだが、それに比べれば*bandでは地味な結果ではある。
 [Z]系の魔法には「ワンダー」としてこれと同じ効果が呪文で使用できるものがあるが、呪文制覇と初使用時の経験値目当て以外には、使われる呪文でもないだろう。



ナッパ Nappa the Saiayan 【敵】

 元の元となるのは漫画/アニメ『ドラゴンボール』に登場した敵キャラであり、戦闘種族サイヤ人のエリートであるべジータの副官格として、この種族としては最初期に登場したひとりである。この漫画のサイヤ人とは、崩壊したべジータ星に原住していた種族で、宇宙でも恐れられる最大の潜在戦闘能力と、月を見ると巨大猿に変身する能力、人間形態でも尻尾、なぜか野菜のような名前を持つ。他にもあとづけで設定・能力が追加されているが、思い出すのも死ぬほどめんどいしもうナッパとも関係ない頃の話なんで、興味がある向きは専門のサイトを参照されたい。
 とどまることを知らないインフレの続くこのシリーズの中にあって、しかも、このサイヤ人編から、強さを身も蓋も無く数値化する「戦闘力」というデータが使用されはじめたことから、この初期に倒された敵はそれまで以上に目に見えてインフレから置いてけぼりにされた。その最たるものが、最強主人公カカロットの兄であるはずのラディッツ(こちらは既に話題にのぼることすらも無くなった)であり、その次に挙げられるのが、ラディッツよりは一応遥かに強力にあたるものの、次の敵であるべジータの猛烈なインフレ(一応その時点でのボスキャラであるばかりか、この後も、共闘キャラとしてさらに強くなり登場し続ける)の前に霞みきった副官ナッパである。結局のところ、最初期に倒されたラディッツとナッパとは、宇宙に恐れられる戦闘種族サイヤ人としては、想像を絶するほどに弱いとしか考えられない奇妙な位置づけになってしまった。
 長い年月を経て、そんなどうしようもないやられキャラのナッパのネット上の位置づけが珍妙な方向にずれ始めるのが、某巨大掲示板の一連の「ナッパスレ」の登場以後である。実はナッパはこのインフレ漫画でも最大の力と度量をもっていたとして神格化し、陰ながら以後のストーリーを支えていたとするネタスレで、類似スレッドとしてガンダムファンによる「シロッコはいいひと」スレッドがあり、両者を知る者には「強く大物なナッパ」よりも「いいひとなシロッコ」な方が数百倍不気味であることは疑う余地を持たないであろうが詳細は読者各位概当スレッドを捜索されたい。
 [変]に登場するものは、フィーチャー追加等が非常に活発だった当時、攻略サイトでかつて公開されていたジョークモンスターデータ集から、「ナミ」「ラオウ」らと共に[変]本編に取り入れられたデータである。コメントで「強すぎる?」となっているが、これは原作『ドラゴンボール』中の強さに比してという意味なのか、ナッパスレでの大物を視野に入れてのコメントなのかはまったく定かではない。(と思ったが、追加者のコメントによると、当初はドラゴンボールでよく見られるエネルギー波の表現として「魔力のブレス」を入れていたためとのことで、それは確かに強すぎである。なお、参考までに触れておくと、Animebandでは8階となっており、原作版としても絶対に弱すぎである。)実際の強さは平均の50階であり、打撃系のユニークとしても非常に平均的な能力を有している。



ナルヤ The Ring of Power (Narya) 【物品】

 アルダ世界の第二紀にノルドールの鍛冶師とサウロンによって作られた、20の力の指輪のひとつで、「エルフの三つの指輪」の一、火の指輪。ガンダルフが中つ国に来たときにエルフの最長老キアダンから譲渡されて持っていたとされる。『指輪物語』にはヴィルヤ(風の指輪)が最も力あるとは書かれているが、ナルヤがネンヤ(水の指輪)より力で劣るという記述はない(ただし、常に書かれている順番や、Unfinished TalesにおけるThird Ringという表現から、序列ではそうと推測できる)。ルビーがはまっているが、地金が何かは記述が見当たらない。
 三つの指輪のうちヴィルヤは上のエルフの上級王ギル=ガラドが、ネンヤはガラドリエルが持っていたが、ナルヤは、第三紀前半にキアダンが持っていたという記述があるため、最初から、作ったケレブリンボールが中つ国のエルフの最長老である(上のエルフではないが、第一紀からずっと住んでいる)キアダンに与えたというのが通説である(映画版LotRでも冒頭の場面はそうなっている。消去法でガラドリエルと最後の戦いに出ていたギル=ガラドを除けば、残りの白髪のエルフがキアダンである)。しかし、トールキンのUnfinished Talesなどによると、ギル=ガラドがケレブリンボールからヴィルヤとナルヤを両方渡されて当初はこの二つとも所有しており、最後の同盟の際(各々、それ以前となっている稿もあるが)に、ヴィルヤをエルロンドに、ナルヤをキアダンに渡した、という説も語られている。なお、[V]のrumors.spoには「ケレボルンがキアダンに与えた」(ケレブリンボールが与えた、と書こうとしての誤りらしい)などとありこうなるともはや多重誤情報である。
 指輪の効力に関しては、キアダンがガンダルフに「人々の心を燃え立たせる」と言っているところからも、やはり直接的な(物質的な)効果よりも使用者や周囲の人々の精神や運命に目に見えない影響を与える力であると思われる。エルフの三つの指輪はサウロンが触れたことはないので、使用者が一つの指輪をはめていないサウロンにじかに操られたり災いを生んだりすることはないが、結局は指輪自体は一つの指輪に従属する存在でしかない。(ミドルアースTCGでは三つの指輪も使用には堕落チェックがある。)そのため三つの指輪によってなされたことは、一つの指輪が破壊されればやはり色あせて虚しくなると言われているが、少なくともガンダルフが人々を燃え立たせて行った偉業の数々は今でも色あせてはいない。
 *bandでは[V]から登場する。MERPなどと同様、ナルヤの偉大な火の力は全能力増強、火免疫、巨大火球といった直接的きわまりない効果で再現されている(くどいようだが、他はいざ知らずCRPGだしなにより*bandだしで割り切る他ない)。三つの指輪の中では最も階層もレアリティも低いので、勝利までにはナルヤだけは手にしていることが多い気がする。しかし、[V]では指輪スロットがほぼ必ずスピードの指輪で埋まっており、他バリアントではそれほどではないとはいえ、どうしても免疫が欲しい状況以外では似たようなものなので、使用する機会は必ずしも多くはない。

 →力の指輪 →ガンダルフ



ナンドール語 Nandorin 【その他】

 トールキンのエルダールの種族分類は非常にややこしいが、「ナンドール」とは手っ取り早く言えば、LotR時代には森のエルフらの「王族以外」の大部分をなしている種族である。神話時代、エルダールらは、ヴァラール(諸神)に連れられて中つ国の東から西へと横切っていったが、「ナンドール」とは中つ国を南北に分断する大山脈である「霧ふり山脈」を越えずに、そこに定住した部族の総称である。闇の森やロスロリアンに住んでいたナンドールらのもとには、のちにシンダールやノルドールの王族が同族とともにやってきて指導者となった。
 トールキンの創造・設定した膨大な言語の中でも、そのナンドールが使うことになっているのが通称「ナンドール語」、実際の言語の名は「ダニアン語」である。「シルヴァン語」も同じものということになっており、シルヴァン・エルフがナンドールと完全に同義かは定かではないのだが、とりあえず使われる語は同じものということである。例えば、旅の仲間レゴラスが故郷で普段使っている言葉は、LotRのエルダールの最も一般的な言語であるシンダリンではなく、このダニアンだということである(レゴラス自身は血筋上シンダールの王族だが、闇の森の家臣らはナンドールであり、またレゴラスの父スランドゥイル(→参照)も積極的にシルヴァン語を使用した)。「アムロス」「ニムロデル」といった人名・地名などは、シンダリン語では説明できず、ダニアンの語彙であるとされる。
 ナンドールはシンダールやノルドールの王侯よりはかなり生活も非文化的であり、「下位の」エルダールであるため、シルヴァン語も一見すると下位の言葉や、シンダリンの方言と見なされているかもしれない。しかしながら、前述したエルダールの大いなる旅で最も初期に部族が分かれたのがナンドールであり、すなわち、ダニアンは原初エルダール語から最初に分化した言葉である。トールキンの樹形図によると、イルコリン(ベレリアンド語)やドリアスリン(最終形のシンダリンである)よりもダニアンは遥かに古い語であり、実際のところ、ダニアンのシンダリンと一部異なる単語や語法には、よりクゥエンヤに近いと思われるものがある。
 LotR時代のエルダールらに最もよく話されていたと思われるダニアンだが、しかしこの言語には文字がなく、またナンドールの記録者らはより文書としては一般的なシンダリンを用いて記録を残した。そのため、ダニアンは「後代には」ほとんどが失われているという。
 *bandでは、ToMEにおいてゲーム内のキーワードとして使われる中に「わかる!ナンドール語」の羊皮紙文書がある。ダニアンにはLotR本編や、UT, HoMEなどの原稿をあわせると30余の単語が設定されているが、羊皮紙中の単語はLotR作内にある、馴染み深いと思われる5つほどである。

 →エルフ語



ニカデーモン Nycadaemon 【敵】

 NycadaemonはAD&Dにおけるダイモーン(三種に大別される悪魔類でも「中立にして悪」の悪鬼ら)の一種であり、代表的な(レベルも中レベルの)Mezzodaemon(→メッツォデーモン)よりかなり大型で危険な上級種である。その姿は大型で緑色の「ガーゴイル」によく似ており、爪のある4本の手足と角を持つ。通常は爪で戦うが、巨大な斧を用いることもある。その翼による機動力で一撃離脱を行うのを得意とし、『流血戦争(デヴィル・デーモン抗争)』の傭兵としては精鋭の遊撃隊の役割をはたす。魔法能力も数多い。
 なお、ダイモーンという宗教に関わる用語が避けられて中立の悪鬼の名が「ユゴーロス」となったとき、ニカデーモンは「ニュカロス」という名に変更されており、現在のD&D3e以降でもそうなっている。
 *bandでは、AD&Dのモンスターが数多く取り入れられた[Z]において追加されたもののひとつである。メッツォデーモンの項目などでも述べているが、本来はデーモン Demonではなくダイモーン Daemonだが、区別してもかえってややこしいためかデーモンに統一されている。ある意味原典以上に深階層のかなり強力なノーマルモンスターになっており、またその能力はやや階層相応よりも高いといえる。ガーゴイルのような外見を意識したとおぼしき、爪による攻撃がデータ化されており、斧のような武器ではないようである。原典にない「炎オーラ」の力を持っているが、これが姿が同じ「ガーゴイル」のものに準じているのか、別の理由で強化として付加されているのかは定かではない。

 →メッツォデーモン



肉ゴーレム Flesh golem 【敵】

 肉ゴーレムは額に「emeth」ではなく「肉」と書くことで作ることができるという説が非常に有名であるが、カバラの技芸に関する詳細は専門のサイトを参照されたい。RPGにおけるゴーレムのバリエーションを素材ごとに設定しているD&D系の時点では、死肉のゴーレムはメアリー・シェリー著作の、死体を結合して生命を与えた「フランケンシュタインの怪物」を彷彿させるものといわれており、実際に説明文やイラストのイメージもその他の素材の塊のようなゴーレムとは異なり、フランケンシュタインの怪物を強く思わせるものが多い。が、仮にそうであるにせよ、ゴーレムは命令を無言で実行する程度の知能しかないため、この肉ゴーレムもシェリー原作での苦悩する人造生物ではなく、その後のホラー映画によって定着されてしまった「うどの大木的な巨人」のイメージでしかないことになる。
 RPGの一般的なゴーレムが、単なる素材の塊が純粋な魔法的要因で動く性質の強いものであるのに対して、仮に肉ゴーレムがそのイメージのみならず、動作原理も「フランケンシュタインの怪物」かそれに近い場合、魔法的ではなく人体の組織を利用して動いていることになり、他のゴーレムとはかなり異なる。元のカバラのゴーレムも「粘土から作られた」からといって、RPGでクレイ・ゴーレムとして表現されたような粘土そのものが動くとは限らない。土から人間が作られたように、もっと人間に近いものが作られる姿も想像できる。実際に、カバラのゴーレム自体に元々はギリシアのタロンをはじめとする巨像などとは異なる、「人造人間」のイメージを強く持っていたと思われ、すなわち、本当に人間に近い組織を持つフレッシュ・ゴーレムも、そうした意味では典型的なゴーレム像のひとつといえる。故に、これにフランケンシュタインの怪物という単独のイメージのみが貼り付けられてしまったことは、イメージの喚起という面では不幸であるかもしれない。
 特にフレッシュゴーレムが人間の生前の組織を利用して動いているという定義の場合、「フレッシュゴーレムと(ゾンビなどの)アンデッドはどこが違うのか」という質問がよく出るが、フレッシュ・ゴーレムが魔法だけでなければ生前の生命と同じ機構の助けも得て動いている可能性もあるのに対し、アンデッドは魔法ではなく、動いているのは「負のエネルギー界(ネガティブ・マテリアル・プレイン)」から呼び込まれる、通常の生命とは正反対の負の生命エネルギーの力である。
 NetHackでは、モンスターのDatabase.txtにはシェリー著作からの引用が直接に書かれており、フランケンシュタインの怪物とまったく同じものであることが確認できる。さらに、[Z]のモンスターのコメントには、[V]当時からいた肉ゴーレムに対して、加えて「メアリー・シェリーを尊重してCAN_SWIMフラグを入れてある」と書いてある。どうやら[Z]で水地形を採用するにあたってわざわざ加えたようだが、また[V]のデータと見比べると、他に冷気耐性が追加されているが、これもシェリー著作での氷海での行動を参照している可能性がある。

 →ゴーレム



ニクシー Nixie 【敵】

 ニクシーとは水棲の小妖精で、いわゆる泉の女神の伝承、ギリシアの半神や各種の水棲ニンフ(ネレイデス、ナイアデス等)が妖精説話化したものといえる。この名はドイツやブリテンでの水棲妖精で、これらの原型の他に古英語の「ニコウ(水の魔物)」が変化した名であるなどとも言われているが、伝承の中には人間をおびきよせて食うなり死者の魂を集めるなり、元の強力な性質を色濃く残している。
 D&D系では小妖精カテゴリであるスプライト(→参照)の一種と定義されており、エルフやニンフとは区別された妖精種族であるが、スプライトの中では異例なほど大型(エルフと変わらない場合がある)な点が原型を強く垣間見させる。スプライトの共通項として、透明や魅了の魔法などを持っている。ただし、エルフやスプライトよりもさらに閉鎖的な大集団生活を送り、決して好戦的ではないが、一方で侵入者には容赦を与えない排他的な性質を持っている。このあたりは、ドイツのニクシーの人間の中に混ざる(ときに利用する)といったものや泉の女神の伝承とはかなり区別できるもので、大きさはともあれあくまで人間と関わらない「おぼろげな小妖精」なのかもしれない。なおD&D系での直接の姿(習性、人間をとらえるなど)はポール・アンダースン『魔界の紋章』のものを参照しているといわれる。
 が、[Z]系の*bandに登場するものは、この伝承とゲームのどちらに原型をとるとも言いがたく、水地形に単独で出現し、まったく問答無用で襲い掛かってくる。しかも、例外なく男性(MALEフラグ)で、「好戦的な海のエルフの種族」などと書いてある。というよりも、敵としてはエルフ(ToMEや[変]には見られるが)やニンフ(RogueやNetHackにはいた)やスプライトも登場しているわけでもないのに、なぜかそれより遥かにマイナーな種族であるこの「ニクシー」だけ加えられているというのは、要するに「水地形」を導入した[Z]において、水系モンスターを文字通り単に「水増し」するだけの理由で加えられたことがありありと推測できる。水系モンスターの常なのだが、階層よりも(そして、ニクシーという語が想像させるものよりは)耐久力が高く意外にしぶとい敵である。何も物品を落とさないし、イメージに反して別に魔法や飛び道具を使ってくるわけでもない(なお、透明なわけでもない)ので、水地形の向こうに現れても別に相手にしない方がいいのかもしれない。

 →スプライト



虹色の蝶人 Chaos butterfly 【敵】

 マイクル・ムアコック『エルリック・サーガ』シリーズにおいて、エルリックと腐れ縁で延々と長い間戦い続けることになる魔術師セレブ・カーナが、あるときエルリック一行に対して差し向けた怪物。


 今では、蝶の身体が人間で、孔雀色の羽根か羽毛かでおおわれているのが見てとれた。
 怪物が舞い降りるにつれ、大気は笛のような音を立てた。50フィートの大きさの羽根からすると、7フィートの胴体もごく小さく見えた。頭には二本のねじれた角が生え、腕の先からは長い鉤爪が突き出ている。

 (マイクル・ムアコック、井辻朱美訳『白き狼の宿命』 第三の書 歌う城砦)


 一応、「蝶人」となっているが、身体の部分は人間より一回り大柄、そして羽根は天を覆い尽くすような、はっきり言って巨大な化け物である。エルリックはこの怪物の人間の部分から、完全な冥府の住人(一種のデーモンか、混沌領域の住人か)ではなく、もとは人間だったものが混沌の力によって変容されたものと予想し、セレブ・カーナによって姿を変えられたものと推測するが、結局のところ詳しい正体は何なのかわからない。
 エルリックがストームブリンガーの剣の力だけでは中々倒せない、またろくに生命も吸い取れない強敵で、例によって追い詰められて衰弱してからようやくエルリックは魔法で怪生物を召喚して対抗させる;混沌の魔神のみならず、精霊や動物の王も召喚することができるエルリックは、昆虫を捕食するとある生物の王を呼び出してくる、例によってまるで少年漫画のカードバトル物のような駆け引きになる。
 *bandにはECシリーズが導入された[Z]から登場し、「虹色」の名の通りシンボル色が変化すること、昆虫'I'シンボルの予想を裏切るしぶとさ(さすがに原典のように剣ではどうしようもないような強敵ではないものの)と混乱・カオスのブレスからプレイヤーによく覚えられている。一応'I'シンボルではあるのだが、ブレス攻撃なども含めて、「ドラゴン」級に相当する強さの怪物と見てよいだろう。



ニーズホッグ Nidhogg the Hel-Drake 【敵】

 ヘルドレイク。ニーズホッグ(ニーズヘグ)は『巫女の予言』などに名の出てくる、北欧神話でニフルハイムの底に潜み世界樹ユグドラシルの根をかじっており例によって世界の終末になんぞ暴れだすとかいう大蛇ないし悪竜とかの話はえらくたるいんでそのへんに生えてる雨後のタケノコ的北欧用語をひっぱったらずるずる泥の中から出てくるばっちい二次創作設定解説サイトだのあと「403ガンダム」がどうのこうのとかいう解説でも参照されたい。基本的には世界樹を齧る等、北欧神話には多数存在する世界を侵食する怪物らの一体であり、その中でも神話中に特別に出番が多い、特別に目立った・重要な存在というわけではない。が、死者の血肉・魂を食らうほか、『巫女の予言』によると、世界の終末後に現れる新世界で死者を翼に乗せて現れるがやがて消え失せる、黒い飛竜、「閃光を放つ蛇」というくだりがあり、これは終末後に新しい冥界の担い手や、何か神々しい存在へと生まれ変わると解釈されていることもある。このくだりとされた背景を読めば、あるいは神話のさらに原型において元来なんらかの形でオーディンのような死の運び手と関係があったのか、ひいては、いわゆる北欧神話とは別ないしさらに古い信仰において、強力な死や光などの権能を持っていた蛇神(→コーウィン →混沌のサーペント)の影響や、名残の可能性なども見え隠れする。
 ゲーム等の派生作品の扱いでは、蛇でも竜でもありえるが、神話末尾で飛行するので竜と読み取っていることが多いようである。しかし、登場するゲーム等の表現によっては白い蛇であることもあり、これは神話初頭では単に地下に潜む蛇であることからの発想であると思われる。
 *bandでは、ワーグナーやアメコミ繋がりで北欧の要素が多く取り入れられた[Z]以降に追加されている。ほぼ同階層で[V]からいたユニークドラゴン、アンカラゴンとはあまりデータは似ていないが、黒の飛竜といったイメージの類似から同格とされて近階層であることは考えられる。[V]由来のアルダのドラゴンに比べると攻撃力がかなり高く、また、死者を食らう地下世界の竜であるということからか、耐久低下・生命吸収、地獄・冷気ブレスやアンデッド召喚などを持っている。ドラゴンとしては黒い竜からの発想か酸・毒ブレス、むろんドラゴン召喚も持っている。これらの特性があっても、耐久力がやや低く、ブレス攻撃が比較的弱くなるためもあってか、アンカラゴンより極端に強敵というわけではない。



西なる国ヌーメノールの宝冠 The Jewel Encrusted Crown of Numenor 【物品】

 トールキンのアルダ世界において水没した第二紀の超大国ヌメノール(→参照)の王冠、という設定に*bandではなっているとおぼしき冠。
 トールキンの設定においてヌメノールという国に王冠が存在していたかどうかは、実のところ定かではない。追補編によると、ヌメノールの国において王権を象徴するのは「王笏」であったこと、その子孫が立てたエレンディルの国でも王笏とエレンディルの星(宝石)のみを身につけ王冠は存在しなかった(ゴンドールの王冠は兜が変化したものに過ぎない)ことの記述があるが、ヌメノールの方に王冠(王笏に比べると重みの少ない、単なる儀礼品や装飾品であれ)が存在したのか否かは不明である。どちらかというと、存在しなかった可能性が高いが、断言はできない。なお王笏は最後のヌメノール王アル=ファラゾーン(→参照)と共に水没したとあるが、王冠がもし存在したとしても、やはり共に水没したものと考えられる。
 ICE社によるMERPの設定には、ヌメノールの初代王エルロスが被っており、その後もヌメノール王に伝わる「西方の冠兜」の記述がある。銀とアダマント(ここでは宝石ダイヤのことである)で装飾されたイシルナウア(ミスリルとチタニウムの合金)の冠で、銀の魚の鱗をもつように見える。「冠兜」という品であることから、王笏と異なり王権よりは防具や装飾品であるということらしいが、兜というのはむしろおそらくゴンドールの冠兜からの発想であり、いかにも「指輪物語ファンの創作あとづけ」な印象を与える。また、MERPでのアル=ファラゾーンにはこの冠ではなく「黄金王の高き冠」といわれる金の冠と、「海洋王の笏」と呼ばれる別の笏(海洋王アルダリオン(UTに詳しい)以後の王がこれを持っている)がある。MERPの設定では、水没したのはあるいはこちらの二品かもしれないということになる。
 *bandでは、[O]から発して[V]3.0系やほとんどのバリアントに登場する。おそらく、ゴンドール王国の金の冠(→参照)に対して、その祖となる国の、上位の冠として考えられたものと思われ、トールキン設定の是非やMERPの設定などはあまり参照されていないだろう。(「黄金の冠」という記述があるので、強いて言えばアル=ファラゾーンの方の冠かもしれない。)しかし、わずかに防御修正や階層が上位ではあるものの、能力的にはほとんどトレードオフ(代替)で明確にゴンドール冠より強力な品とはいえない。また体力回復が発動できるゴンドール冠に対してこちらには発動効果がないので、結果的により印象の薄い品、耐性パズルに使うといった程度の品になっているといえる。

 →ヌメノール →アル=ファラゾーン →ゴンドール王国の金の冠



ニセドラゴン Pseudodragon 【敵】

 ドラゴンの子供や小型のドラゴンなどがマスコット的存在として登場するのはFTの定番だが、AD&Dにはそのための「ドラゴネット」(「小ドラゴン」、意訳すると「どらごっち」といった意味合い)と総称される種族が4、5種類ほど存在する。ニセドラゴンはそのひとつで、体長1−3フィートほどのレッドドラゴンのような姿をしている。
 レッドドラゴンの子供に似ているが、やや見かけが貧弱であり(本物のレッドドラゴンの子供が「ぶっとい足は大きくなる証拠」等の特徴をおそらく備えているのに対して)成体でも全長3フィートほどにしかならない。また、鱗は鮮やかではなく、褐色がかっている。ただし、彼らはドラゴンやその子供と混同されると非常に怒る。少なくとも彼らが信じるところでは(世界設定によっては学術的に証明されているのかもしれないが)ドラゴンとは何か根本的に異なる生物種のようで、生物種名において「外見で間違われる・擬態しているが、種かそれ以上の系統で異なる生物種」につけられるpseudo-という語のニュアンスがそれを示している。なお*bandでは敵としては「ニセドラゴン」、ドラゴンスケイルメイルの名としては「ドラゴンモドキ」で、どちらもPseudo-の慣例的な訳である。D&D3eの和訳では、訳さずに言語発音に近い「スードゥードラゴン」となっている。
 彼らは知能は高いが、言語能力はなく、かわりにテレパシー能力で他種族を含めて交信する。カメレオンのように周囲の色と完全に同化する能力を持ち、ブレスウェポンは持たないが、尾に相手を麻痺させる棘がある。外敵を感知し、隠れ、逃亡する能力にたけているということになる。
 D&D系ではオプションルールで、魔法使い系キャラクターがファミリア(使い魔)として選択することができ、人気が高い。その能力からファミリアとしてはかなり強力である。しかしニセドラゴンの性格はおおむね「猫」に似ていると言われており、かなりマイペースでやや天邪鬼である。しかもその性質で生半可な知能と読心能力を持っているので、ニセドラゴン自身はたとえ忠実な使い魔のつもりであっても、楽しくもなかなか始末の悪い仲間となる。


 「黙れ! そのうろこのついた鼻を、ぼくの心にしばらく近づけるな! ...このおしゃべり脳みそのカメレオンめ!」
(モーリス・サイモン、『AD&Dゲームブック 魔術師の宝冠』)


 *bandでは[V]以降、10階のノーマルモンスターとして登場する(実際には8階あたりから登場することが多い)。透明や麻痺の棘の能力は持っておらず、混乱や恐怖の魔法、光と闇のブレスを吐く能力がある([V]のドラゴンスケイルメイルの名からは、「発光ドラゴン」の別名もあるようである)。このレベルのプレイヤーキャラクターにとっては魔法もなかなか厄介なので、ちょっとした「壁」と見なされる場合もあるようである。



二天一流開祖宮本武蔵のカタナ The Katana of Musashi 【物品】

 出典:知名度では随一の剣豪、宮本武蔵(二天一流自体は脇差および「ニ刀流」の項目に譲る)は、記録や物語で伝えられる試合にせよ実戦にせよ、どちらかというと刀(真剣)よりは木刀を使っている逸話が多い。また、中年期をすぎると無闇な殺生を避けるため特に木刀だけを使ったという説も信じられているが、実際のところ武蔵は木刀(ことにやや短めなもの)の方が、真剣よりも遥かに危険な武器であると主張している(詳細は別の箇所に書く機会があるだろう)。また、前半生のイメージであっても、勝つためには手段を選ばず、なりふり構わず暴れ回るといった武蔵は、相手の武器を奪ったりその場にある物を何でも使ったりと、どんな武器でも用いたりする印象もあるが、これは別に武蔵の天才性や『五輪書』に書かれている窮理などにその理由を求めなくとも、父・無二斎の當理流実手術を叩き込まれていた武蔵は、ありとあらゆる武器や体術に精通していたと推測される。ともあれ、宮本武蔵は、「侍」の代表格の一人とはいえ、侍の象徴であるはずの刀や、特定の愛刀・銘刀に魂を映していた、といったイメージが割と薄い方にあたるかもしれない。
 とはいえ、恐らくは真剣を用いたこともあるのも、また武士として携えていた両刀が存在していたのも無論のことである。武蔵の用いていた真剣に関しては、吉川英治『宮本武蔵』終盤に無銘の業物に惚れ込み贈られる場面があるのが有名だが(道具になど構わないように見える武蔵もやはり「侍」である、という描写である)実在のものとなると、例えばとある細川藩士に「吉岡一門との戦いで使った三尺八分の伯耆国安綱」が贈られたが「戦後紛失した」といった眉唾物の話など、かなり多数の説、およびそう主張される刀が日本各地に点在しているといわれている。
 そんな中で最も有名なのは、晩年の武蔵(複数いる「宮本武蔵」の中でも、二天一流と五輪書を遺した武蔵、という意味だが)が遺した確実なものとして現存している、和泉守藤原兼重の大小である。真剣で血で血を洗う前半生ではなく、晩年もしくは後期のものであることを考えると、「愛用」の品とはいえず、帯びていたもしくは持っていただけの銘刀かもしれないのだが、この刀の拵(こしらえ)は多芸であった武蔵が自分で実用性を考慮して造ったものと言われ(武蔵拵え、武蔵鍔として有名である)この刀に工夫を傾けていたことは伺える。大刀は渡り二尺七寸で、無論のこと差料としてはかなりの長剣である。刃紋は互の目乱れで沸えづきが厚く、よく言われるが虎徹によく似た作風に見える。この刀工は「良業物」に位置し、「上総介藤原兼重」は和泉守の改名とも言われるが、別人の説もあり定かではない。(この刀工は武蔵の紹介によって津藩の藤堂家のお抱えとなり、余談だが、新撰組副長助勤の藤堂平助はこの兼重の刀を愛用していると(噂)されたことから、実は津藩主の御落胤であると(噂)された。)
 武蔵の兼重は大小組で、二天一流の継承者であった寺尾求馬助信行が一旦預かり、武蔵の養子の宮本伊織に大小とも譲ったが、大刀の方は伊織から寺尾に改めて譲られたという。伊織は剣士としては名を立てず市民武士(小倉藩の重臣)であるがゆえに、小刀の方を受け取ったとも考えられるが、深読みしてゆくと確かなことは何とも言えない。
 物品:*bandでは、[変]において「二刀流に有利なアーティファクトとして雌雄一対の武器をデータ化する」というアイディアが先にあり(斬鉄剣(→参照)の一話だけ出た対剣の案なども出た。筆者はこのとき干将・莫邪(これも元々二刀流用というわけではないが)や、グレイマウザーやドリッズトの両剣の案も出したが、まとまらないまま終わった覚えがある)『すばやき刺』両剣と前後して提案されたのが武蔵の刀である。追加当時の掲示板の話し合いによると、この兼重の両刀をイメージして作られている、とのことである。かといってこの刀に特殊な能力の逸話があったりするわけではないので、「二刀流に有利」であること以外には目だった能力は持っていない。命中修正は非常に高いが、スレイング類は全くなく(これはカタナ系アーティファクトによく見られる)かといってベースダメージも通常のカタナのままで、器用+以外には能力もない。『二天一流開祖宮本武蔵の脇差』と同時に用いた時、二刀流のペナルティをすべて無くすという非常に大きな効果を発揮する(『すばやき刺』『小さき刺』のような軽減ではない)。が、仮にそうなったとて、元の武器の性能が両方ともよくないので、使い続けることができるでもない。



二刀流 Two-weapon Fighting 【システム】

 出典:両手それぞれに一本ずつ、二本の剣を持つ技法は日本以外では珍しいものではなく、西洋ではフェンシングの剣法に左手に短剣を持って補助するものが見られる(FTでもエルリック・サーガのムーングラムや《薔薇》の他にも、作者がフェンシングの心得のあるファファード&グレイマウザーのシリーズにこの技法が目立つ)。ただし、これは逆手はもっぱら防御に使うというものだが、一方では東洋には両方の剣を攻防一体に立体的に使用し、中国武術でも棍や槌の用法の応用として、また詠春拳のように両手に蝶剣を用いる技法が最初から組まれているものもある。
 日本では「二刀流」というと、広義では単に二刀を使うこと(流派よりむしろ使い手を指す)、狭義では宮本武蔵の二天一流という流派の通称とされる。二刀といえば「宮本武蔵」と一般に知られているが、非常によく引き合いに出される例として「新陰流の目録に二刀を持っている絵があるので、新陰流にも二刀はあり、従って二刀は武蔵の創始ではない」というものがある(しばしば「柳生十兵衛」が二刀を使う姿が描かれる根拠のひとつである)。が、この目録とは疑いなく智羅天(二具足・二刀)と火乱房(打物・二刀打物)の刀法の図のことで、これは実は「二刀に対抗するため」の奥義であり、図で二刀を持っているのは打太刀(仮想敵役)の側である。とはいえ無論のこと、対策の奥義が存在するほどに、当時すでに二刀が決して珍しくなかったという点を端的に示す点であるのは確かである。
 しかしこれらの流派においても、あくまで二刀技法は流派の中心ではなく副次的なもので、また、後にさらに発達する刀・太刀法の技法が二刀を主眼にすることはほとんどなくなる。日本刀の太刀法においてとりわけ二刀が不利な理由として、よく言われる重さの他に多々あるが、何をおいても、片手で握っていると「手の裡」(普段はぎりぎり剣を支える程度の力しかこめず、打撃の瞬間に両掌を絞り勢いと方向を定める。特に真剣では不可欠である)の効果が得にくいことが挙げられる。後に武蔵なども言及するが、二刀はむしろ決闘の緻密な攻防より乱戦において有効であったろう。
 そうした状況の中で宮本武蔵は、新たに二刀そのものを流派の主に置いた「二天一流」を構築した(言うまでもないが、二刀流というと二刀の使い手やその各流派のみならず、二天一流とその傍流を指すことも多い)。これもよく引き合いに出されるが、「五輪書」のみを参照し「刀を片手で使えるほど鍛えることとその対応力が重要だと書かれているのであって、武蔵(ひいては二天一流)は二刀を主としていない」との主張が非常に多い。しかし「五輪書」は他流含む初心者を視野に入れた心得書の側面も大きく、二天一流の技自体を伝えた勢法書は別に存在する(→五輪書の項目参照。また武蔵の當理流における二刀流のルーツ当詳細は「★武蔵のカタナ」の項目等に譲る)。武蔵が実際の試合で二刀を主に使ったとは限らないが、二刀を主に用いる剣術流派も構築したことと、それが現在の「二天一流」に伝えられていることは事実である。
 一方、竹刀を用いた試合では、上記した二刀のデメリットがかなり軽減されるので(二刀を同時に扱う自体が、それなりの困難も伴うが)逆に江戸時代以降は二刀竹刀で試合を行う者も多くなり、特に禁じられてもおらず、戦前まで珍しくないものであった。
 なお、この項目を途中でやめずにここまで読み進めてしまったような読者には既に周知であろうが、実在流派の「一刀流」系とは、「刀を一本しか使わない=二刀流の対義語」ではない。「すべての敵をひと太刀で倒すこと(切落(きりおとし)技)を骨子とする」流派である。
 システム:二刀流は特に日本人が憧れを持つが、RoguelikeではNetHackに予定されながら長らく実装されず、業を煮やす者が多かったという。Sangband(Skill Angband)において二刀流のスキルがあり、かなり長い間、二刀流が可能な唯一のRoguelikeであり、単に二刀流キャラをプレイするためにSangbandを始めるというプレイヤーも決して少なくはなかったという。
 やがて(NetHackの方でも実装されたのと前後して)[変]が二刀流と、シールドを持たないことによる両手持ちをサポートした。[変]の二刀流は、技能(熟練度)が上がらない限りは両方の手に大きなペナルティーがつき(これは、D&D系をはじめ多くのTRPGと同じである。CRPGにはペナルティーが少なすぎるものも多い)中盤以降にならないと、中々技能を上げて実用にするのは難しい。
 両手とも武器だと耐性が揃いにくいことを加味しても、一般に二刀流の方が強力だが、メイン武器がよほど強力で両手持ちした方が有効な場合や、盾が耐性はともかく大量の追加能力などを持っている場合もあるので、一概には言えない。勝利ダンプには様々なパターンが揃っている。イメージで二刀流かそうでないかを選びたがる人は多いであろうが、どちらかというと入手できる物品で変わってくるかもしれない。

 →五輪書 →すばやき刺 →二天一流開祖宮本武蔵のカタナ →源氏の篭手



二ムロス The Spear 'Nimloth' 【物品】

 ニムロスとはシンダリン語で「白の花」の意だが、トールキンの原典(およびMERPなど)には、*bandでの槍のモチーフとなるその名の槍や武器などはない。おそらく名のみ因んで創作されたものと思われるが、トールキンにおいてニムロスとして登場するのはヌメノールの象徴のひとつであった「ニムロスの木」と、エルウィングの母であるシンダールの姫ニムロスの二つがある。ここでは前者のようであり、[O]からToMEなどのアーティファクト解説には、この槍は「伝説の木ニムロスの枝から削り出された」とある。
 ヌメノールのニムロスの木は、エルフからアマンの白い木「ガラシリオン」の子孫が贈られたものである。ガラシリオンは、木々の女神ヤヴァンナが始原の銀の木テルペリオンによく似せて作った木だった。ヌメノールの末期、サウロンがヌメノール人を堕落させた際に、ニムロスの木は焼き払われるのだが、イシルドゥアが命を賭してニムロスの「実」を手に入れ、のちにヌメノール水没後にこの若木を中つ国にもたらした(《一つの指輪》のくだりだけでは愚かな悪役のように見えるイシルドゥアの、これは実際は偉大さを示す功績のうちのひとつである)。この木は「ミナス=ティリスの白い木」と呼ばれ、ゴンドールの王家が絶えると長い間枯れ果てていたたが、王の帰還と共にエレスサールが新たな若木を見つける。
 さて、「ニムロス」のクゥエンヤ名は「ニンクゥエローテ」であるが、この名はテルペリオンの別名のひとつである。そのためなのか(また訳注のくだりに拡大解釈の余地があるためか)日本の資料や映画版の解説などには、「ミナス=ティリスの白い木」が、「始原の二本の木テルペリオンの直接の子孫」と書かれていることがある。「アカルラベース」やUnfinished Talesによるとニムロスの元ガラシリオンはテルペリオンの子孫ではなく、あくまで似せて作られた木である(テルペリオンの実はただひとつ、空にかかる「月」である)。
 *bandのニムロスの槍は、名の通りの氷の槍で、アンデッドのスレイングや視透明などもあるものの、エゴ武器などと比べて強いかどうかは微妙なところである。バリアントによってスピード上昇もある場合もあるが、結局は手に入るタイミングや耐性との関係で使えたり使えなかったりするかもしれない。[Z]系ではほぼそのまま「ハーゲンのスピア」に変更されている。



如意金葹棒重一万三千五百斤

 →如意棒



如意棒 The Tetsubo 'Nyoi bou' 【物品】

 如意金箍棒重一万三千五百斤。元々は中国の創世紀に、禹(中国の原初皇帝、すなわち創世神のひとり)が海の荒れを鎮めるための「重し」のひとつとして沈めておいた巨大な鉄の柱。が、東海龍王が、斉天大聖がカツアゲに来た際、仕方ないのでこれを持って帰らせてしまい、以後、斉天大聖の武器となる。
 「如意金箍棒重一万三千五百斤」はこの鉄棒にじかに刻まれている真名(トゥルーネーム)で、「如意」とは、大きさを自由に変えられることから来ており(訳によっては、大聖の術の力で大きさを変える場合もある)、金葹(金箍)とは両端に金のタガがはまっている意である。なお一斤を600グラムとすると、一万三千五百斤は8.1トンとなる。元々は2丈余で丸太ほどの柱で、通常扱う際は1丈強で親指ほどの太さにしているという(漫画『ドラゴンボール』に登場するそれのように長さだけが果てしなく伸びるわけではない)。
 禹帝の「海の荒れを鎮める棒」というのが、悪龍(暴水神)を制圧することに象徴される破邪神・斉天大聖の性質に対応するというような側面があるといい、これは治水神から発しトライデントを持つ二郎真君が、破邪神である原理と同じことのようである。棒にはまった金のタガは斉天大聖が頭にはめられる「金箍帽」と同様、荒れに対する軛を示しているようである。(なお「如意棒」にはこの品以外にも、自在に伸縮・変型させられたり、飛行に用いたりもできる宝貝(パオペィ)の名としてしばしば見られる。一方で仏具の「如意」はカギのついた孫の手、「如意=便利」棒が発展したものだと言われる。)
 [変]に登場する武器のうち、かなり強力なものである。*bandの開発期、武器アーティファクトを募集していた頃に、開発掲示板で筆者が「グロンドもどきで『如意金葹棒重一万三千五百斤』とかどう」などと一言言ったところ、次のバージョンを見てみるとそのままの名で実装されてしまっていた。重量は500でさすがにグロンド(1000)ほどはない。腕力上昇、ダメージの大きさと非常にシンプルだが、唯一の属性である破邪が大ベースダメージに有効に働く。重いので有効に扱えるクラスは限られているが、非常に強力な武器のひとつである。

 →グロンド


ニョグタ Nyogtha, the Thing that Should not Be 【敵】

 旧支配者。ありうべからざるもの、闇に棲むもの、旧支配者の同胞(はらから)。いわゆるクトゥルフ神話の旧支配者の一体で、ヘンリー・カットナーの『セイレムの恐怖』に登場し、地下にひそみ、わずかな魔女に信仰され、生贄を捧げられているという。むせかえる麝香のような匂いを漂わせた、黒いゼリー状の塊で、なんとなく全体の外形は爬虫類のようでもあるが、常に全身から粘液の触手を這い出させ、うごめかせている。
 「闇に棲むもの」の別名から、リン・カーターはナイアルラトホテップの化身であるとしている(しかしニョグタの語尾が「にょ」であるか否かは定かではない(→ぬぞぷり))が、「旧支配者の同胞」とは本来のクトゥルフに似たような表現であり、かと思えば不定形の姿がツァトゥグァやその落とし子に関係しているとの説もあり、結局のところ定かではない。
 かなり力も弱くマイナーな旧支配者なのだが、特にCoCのTRPGゲーマーに知られている一因に、市販シナリオに唐突に登場し以後の版で正式ルールに加えられた「ニョグタのわしづかみ」(クラッチ・オブ・ニョグタ)という呪文によるところが大きい。目標者の心臓をゆっくり握るような緩慢なダメージを与え続け、これで犠牲者が死んだ時には術者の手に湯気を上げる犠牲者の心臓が本当に現れるという、いかにもホラー物にありがちな演出に満ちた呪文である。この効果のあまりの派手さと、その呪文和訳名のあまりの情けなさに人気が集中し、出版が中止された(作内であれ実在であれ)クトゥルフ神話関連の書物に対して「○○社がニョグタのわしづかみで握りつぶした」等といった表現が聞かれることもある。
 *bandでは[Z]以降の56階に登場し、ちょうどアフトゥと同じ階層にあたる中盤の旧支配者で、あるいはやはりアフトゥと同列のナイアルラトホテップの化身という解釈なのかもしれない。ゼリー状怪物の常で、うっとうしい酸攻撃を行ってくるが、たまに使用してくる魔法もかなり凶悪であり、よく見ると耐久力もかなり高い。典型的な凶悪クトゥルフ系ユニークのひとつである。



人間 Human 【種族】

 出典:「鏡を見てください。そこにいる生き物です。」などとT&Tのような説明をしても仕方がないが、かといって人類学や人類史を述べるのもたるいので、ここではRPGにおける人間という種族の扱いに絞る。
 無理やり格調高くするためトールキンのアルダ世界の人間に関して触れるが、イルヴァタール(至上神)が作ったのはわずか2種族、すなわち不老のエルフと、定命の人間アタニ(クゥエンヤで「二番目に目覚めた者」、シンダリンではエダイン)のみである。トールキンの遺稿のthe History of Middle-earthによると、彼らは肉体的には同じ存在であるといい、おそらく、人間の命が衰えてゆくのに対しエルフは魂によって裡から常に照らされていることで、能力をはじめとした様々な差が生じていると考えられる(故に、マイアが肉体をまとったメリアンやイスタリの場合は、エルフの体や人間の体といった区別はなく、エルフだから髭が生えないとも限らない)。人間は必滅の命を持つが、アルダの終末の後、人間の魂だけが新しい世界のための旋律に加わると言われる。人間はアルダの伝説時代の始まりにおいて、太陽が昇ると同時に目覚め、そのままエルフに味方したエダイン(のちに大きな力をもつドゥネダイン →参照)をはじめ、ドゥネダインではないが始原の人間の遠い直系である北方人や、東夷、南方人など様々な種族が第三紀までに登場する。エルフに次ぐ力をもつドゥネダイン以外も、人間は人生が短いだけ適応力、展開力にすぐれ、第三紀以降エルフとは異質の文化の中心となってゆく。
 他のほとんどのFTやRPG、多数の種族が存在する世界においても、人間という種族の位置づけはアルダによく似ている。現実世界の現代人に馴染み深い、という以外で人間の特性を記述すると、数が多く、個体の能力・性質に差が大きく、変化にとみ、様々な環境・能力に適応する。個体としても全体としても柔軟でかつしぶとい。世界観によっては、世界の大多数の有力勢力をなしている。ムアコックのいくつかの世界のように、主人公側の種族は滅び行く妖精類で、現実世界の人間はそれを脅かす「蛮族」である場合でも、人間の位置づけはそれに近い。
 RPGでは馴染み深い種族である点、適応力が高い点を反映し、「最もスタンダードな種族」として扱われるのが原則である。すなわち、どの能力も平均的に持ち、どんな能力にも訓練次第で適応する(ただし、古典的ゲームにも関わらずWizardryではRPG全体としても例外的に、信仰心が極端に低く、僧侶系のクラス・上級職には向かない。これは、実のところただですら種族ごとの個性づけに乏しいこのゲームで、あえて人間ばかりでなく多数の種族がゲームに加えられるようにしようという発想だと思われる)。そして「はずれがない」「初心者は人間を選ぶべき(ただしゲームを把握した上級者にはメリットがないという位置づけの場合も多い)」という文章、もしくは不文律も大多数を占めている。
 種族:RPGのお約束の例に漏れることなく、Moriaにはじまって以来あらゆるバリアントで、種族リストの筆頭として人間を選択できる。これもお約束として、能力値にも技能にも一切の修正がない。──特徴のない、一見すると「平均的な能力を持った」種族に見える。
 スコアサーバーを見ると、種族「人間」は圧倒的なほどに人気が高い(04年07月現在およそ、人間2000人、ハイエルフ1300人、吸血鬼・アンドロイド・アルコン900人と続く)。理由はいくつも考えられるが、最もなじみやすい種族であるという単純な理由以外に、主に*band初挑戦者・初心者が、他のRPGでは不文律である「最も標準的、どんな職業にも向いている」「最初はまずは人間で」というのがこのゲームにも当てはまるだろうという先入観によるものであると推測する。スポイラーに並ぶゼロの羅列を、他のRPGと同様の「特徴がないが成長が早い」という情報と受け取る場合もあるだろう。
 しかし、これこそは最初のキャラクターメークの段階で初心者を捕らえる巨大かつしばしば致命的ですらある罠である。*bandにおける「人間」は、初心者向きどころか、鉄人(上級者)向きの挑戦的種族すらも通り越して、経験者の間で「自虐プレー専用種族」というあまりにも惨い名称が、しかも完全に定着している種族なのである。
 種族の有利不利に関する概説は「種族」の項目に譲ることになるが、結局のところ、どんなに成長が遅くともレベルが50で終盤突入前後に打ち止めになる*bandにおいては、成長が無駄に早いだけで能力値修正も能力も何もない人間こそが、最も不利に近い位置にいる(あとはイークのような故意に鉄人用に高難易度の種族であるが、これすら職業・プレイスタイル等の選び方によっては人間とどちらが不利か迷いどころである。ハーフエルフやらコボルドやらのように長所短所を足すとゼロな種族でさえ、何か得意分野がある時点で、ない人間よりまだましだったりする)。──平均的な能力を持っているのではなく、「平均的に何も持っていない」のである。
 現に、種族人間の致命的な不利は拭い難く、スコアサーバでは圧倒的なプレイヤー数にも関わらず勝利者数で言えば相当に下位であり、当然平均スコアは他の人気種族からは桁違いに低く、その値たるや実に、04年7月現在「37種族中34位」である。考えすぎであればと祈るが、「人間は初心者用、最初は人間でクリア」という思い込みに固執するばかりに先に進めず(死んでばかりでゲームが進行せず、プレイ技術がいつまでたっても上がらない)勝利できないという潜在的プレイヤーも、実は多数存在するのではないかと危惧する。
 噂の巻物には「人間でいることに飽きたらアンバー人に変身しろ」とかいうのがたまに出てくるが、実際に人間で最高レベルに達したにも関わらずどうしても能力値が物足りず、カオス魔法の自己変容などで他の種族に変身するというのは筆者自身も一度ならず行ったことがある。
 何の修正もない種族、として種族一覧の筆頭に並べておく以外に何か「存在意義」があるのか、というと、つらつらと考えるに何もない。人間というものが登場するRPGで、ここまで人間の存在意義が薄いゲームもそうそうないようにも思われる。攻略・スポイラー等の提供者に対して、初心者に対してまず最初に「人間だけはやめるよう」強く忠告する情報の提示を呼びかけると共に、これは*bandの普及率に対して、思う以上に直接的な影響を及ぼしているのではないだろうかと考える。

 →石仮面



人間トランプ Living Trump 【その他】

 アンバーシリーズにおけるトランプ(→参照)とは、描かれた特定の場所や人物のもとに移動し、また交信するための物品だが、人間トランプとは、すなわち自身がトランプのデッキのように随意に移動し、また”影”をすかして探知できる能力を意味する。たとえアンバーの王族であっても、他の影に移動したり探知するには、シャドゥシフトによって次第に歩いていったり、またはパターンやログルスの魔法をじかに影に伸ばしていって”手探り”しなくてはならないが、人間トランプ能力者は「椅子に座ったまま」心で思うだけで、意思だけを望む影に伸ばしてゆくことができ、特定の物品を探すことも持ってくることもできる。またその心で思った場所に戸口を開き、移動することもできる。トランプで精神的な交信が可能なのと同様に、ある程度の読心能力さえも持つようである。
 邦訳では「生きているトランプ(ジュリアンの言葉による)」の語が最初に出てきたのは、アンバー前半シリーズにおいて、九王子ブランド(→参照)の持つ特殊な能力を形容するためのものである。この時点では、同じくだりでのジュリアンの推測によるとフィオナとブレイズも同じ能力を持つ、ということから、アンバーの王族の中でも彼ら同母の「赤毛の姉兄弟」が持つ特殊な力、という位置づけに見える。
 しかしながら、(ブランドと同族以外にも、人間トランプとなる人物や手段が存在している、ということが既に判明している*bandにおけるネタバレの範囲で説明すると)この、アンバーやカオスの王族一般から見ても異質な能力には、さらなる奥があった(前半シリーズの時点で考えられていたかは定かではないが)。アンバー後半シリーズには、強力なエネルギーの世界同士が交差する結合点にあたる世界である『四界の砦』が登場する。ここで行われる儀式や術、装置によって、それらのエネルギーを利用し、またそれを用いて自分のさまざまな能力の増強や、短期間での能力開発に用いることが可能である。しかし、この砦のエネルギーの最も特筆すべき点は、それが「多世界が交差している」世界であり、すなわち多分に、多重の世界の錯綜構造に深く関わるエネルギーであるという点であったようである。


 「...けど、シャルー老の研究室にあった記録には、それ以上のことが書いてあったんだ──肉体の一部をエネルギーと置き換えて、本当にそれを体に取り込んじまう(訳注:packing = カードをデッキに束ねるの意あり)方法なんだ。えらく危険な施術さ。まずお陀仏だぜ。けど、もし何かのはずみでうまくいったりしたら、そいつは一種のスーパーマン、”生きているトランプ”みたいなものになれるって話なのさ」
 「ぼく、その言葉、どこかで聞いたことがあるんだけどな、リナルド……」
 (R.ゼラズニイ『カオスの徴』)


 ブランドが持つ人間トランプの力が、フィオナやブレイズに比べてかなり強く(ジュリアンの推測にもよるが)また予想不可能に奥深いことの背後には、さらなる数多くの秘密があったのである──また、この施術は、アンバーの血によるシャドゥシフトやパターンによる移動能力には依存しない能力を与えるため、アンバライトでない者にすらも、この”影の転移”以上の移動・探知能力を付与することが可能である。


 然るべきやり方を経れば、*あなた自身*ですら「人間トランプ」になることができる。
 (噂の巻物より)


 *bandにおける人間トランプとしては、[Z]以降一部人間トランプにあたる敵が登場するが、目立つのは噂の巻物でもしばしば記される通り、自分が人間トランプになる魔法、すなわちトランプ魔法の「人間トランプ」であろう。これは無論、原作のブランド等ほど多彩な能力ではなく、一定確率でランダムテレポートか、制御可能テレポートのいずれかの突然変異を自分につけられる、という呪文である。この、プレイヤーキャラクターが突如として人間トランプになれる魔法というのは、ブレイズやフィオナ同様に、四界の砦の儀式に関わらなくとも”パターン”を研究することによって、部分的な人間トランプ的能力を編み出す、という術だとも考えられるだろう(彼らの能力が純粋に研究によるもので、クラリッサの赤毛の血から直接力を得ているのではないとすればの話だが)。

 →トランプ



ニンジャ Ninja 【敵】

 出典:通例、漢字で「忍者」と書いた場合は実際の日本の史上の忍者、カタカナで「ニンジャ」と書いた場合は架空の物語の荒唐無稽なものを暗に示す傾向が強い。*bandでは[V]からすでに登場するノーマルモンスターの「ニンジャ」がカタカナ表記になっているのは、「海外ゲーム」あるいは「指輪物語世界のゲーム」に忍者が登場する不自然さをあえて意識していたため、むしろ「架空のニンジャのニュアンスに近い」と考えられての訳と思われる。しかしながら、[変]で追加されたキャラクタークラスの「忍者」は漢字表記であるが、むしろこちらが荒唐無稽なニンジャ像であるという、いわば通例とは逆の表記になっている。この用語集では考慮の末、忍者をモデルとする像でも架空を主とする像に関しては、荒唐無稽なキャラクタークラスの「忍者」の項目に譲り、残りの史実の隠密に関する”概説”を、地味なモンスターの「ニンジャ」の項目に表記する。故に、項目名においては、「ニンジャ」と「忍者」がいわゆる通例と逆になっていることを留意されたい。
 忍者とは何か、一言で表現すれば、「陰の仕事を行うために、想像を絶するほどに”多様”な技術を身に付けた集団」ということになる。こうした特殊な存在が、しかも日本各地に独立して(伊賀・甲賀・柳生といった規模がある程度まとまり同根と推測できるもの、それ以外の各地にも)存在していたが、その日本の忍術すべての「根源」に関しては陰の存在であるが故に史料も不十分であり、不明瞭な点が多い。とある忍術研究家は「陰の仕事に対する要求から、どんな地にも忍者は自然発生して当然のものである」と定義するが、しかし、「隠密」ならば世界各地に存在するとはいえ、「日本の忍者」のみが世界の研究家を瞠目させるほど”多様”な技を持つことの説明にはならない。結局のところその説明としてゆきつくのは、日本がしばしば”混合・融合の文化”と呼ばれるように、古代から他民族がそれぞれ原型をとどめない形で混ざり合って成立した国であり(日本人の人種や言語的な系統分析には学術的にもいまだ不明な点が多い)様々な文化および階層から陰の技として抽出されていったものの集大成が忍者の技ということができる。
 武家時代の日本がサムライによる秩序の社会であったという言い方は、まるで海外の解説書のようで必ずしも適切ではない(→サムライ)が、それを手っ取り早い仮定とすると、そうした武家社会の秩序の外にあり、秩序で対応できないものすべてへ対応する要求に応じ、暗躍したのが忍者であったという言い方ができる。その技には言うまでも無いが、隠密、軽業、体術、変装や話術といった間諜術の定番をはじめ、工学、化学、催眠、心理術なども含まれていた。性質上、戦闘や暗殺の技よりも隠密の術に重点が置かれ、戦闘術もむしろ「短時間で終了させる(勝利する、ではない)」ことが最優先であり、殺傷よりも逃亡や無力化に重点が置かれた術といわれる。しかしながら、こうした技の数々やしばしばその多彩さ自体が、隠密故の秘密性と相まって神秘視され、忍者は超自然的な能力を持つなり超人的な戦闘能力を持つなりといった風説へと拡大していったのは当然の帰結であった。例えばよく言及される超人的な持久力や速力については、その技のいくつかが明らかに由来している中国武術の鍛錬と同様、ある程度は真実であったかもしれない。しかし、果たして史上の忍者が、現実性の面でぎりぎりといえる程度には人間として極限的な能力を持つ存在であったのか、すべてはそう思わせるためでしかない何らかのトリックであったのか、例によって陰の存在ゆえに証明するすべは一切ない。ただ断言できるのは、それを不明瞭にすることができるほどに忍者の技は”多彩”であったということのみである。
 敵:モンスターとしてのNinjaは、はやくも*bandの原型であったMoriaの時点で見ることができる。Moriaにはのちの*bandバリアントに登場する上位の盗賊クラス(大盗賊、大泥棒など)がおらず、いわゆる盗賊系のモンスターとしてはBrigandの上はこのNinjaのみで、おそらく盗賊や暗殺者系統で最上位のモンスターとして加えられたものと予想できる。その時点から、毒と「腕力減少」の攻撃を行ってくるというのが特徴であり、あえて考証するならば毒はともかく腕力減少は上記したような、体術などで「無力化」「弱体化」するという攻撃を示しているともいえる。が、Moriaはこうしたステータス減少攻撃を行ってくる敵がアクセント的に配されていたため、特に深い意味はないのかもしれない。この時点からダメージは3d4となっているが、これは恐らく「カタナ」(Moriaの時点からこの武器は存在する)のダメージを意識しているものだろう。ダメージ1d9の「忍者刀」は[Z]において追加されたもので、Moriaはもちろんのこと[V]の時点でも存在しない。

 →忍者 →忍者刀



忍者刀 Ninjato 【物品】

 忍者刀、忍刀(しのびがたな)とは忍者が所持していたとされる刀であり、武士の陣太刀や大小のいずれとも形状が異なるため区別して呼ばれる。概説すると、武士の差料よりはやや短く、反りがなく、角型の大きい鍔、長い下げ緒を持っている。そのため、まっすぐの鞘ぐるみを棒や支え等にする、鞘を筒にする、鍔を足がかりにする等、刀・鞘・下げ緒を組み合わせて隠密作業において多くの応用が可能で、また鞘や柄の中に様々なものを隠すことができ、忍者の武器のみならず忍び道具のひとつとして重要であった、と一般には説明される。
 こうした応用はともあれ、「日本刀」として見た場合、短く無反りの刀は取り回しや強度において、武士の刀には大きく劣る。フィクションなどでは忍者はどんな時も忍刀を携行しそれで戦うような描写のこともあるが、実際のところは忍者はいかなる武器でも使えるよう訓練され、無論のこと武士の刀を武士同様に使う技(剣術)も必ず修練していた。従って、戦闘自体が目的であり別の武器を準備し使用できる状況であれば、可能な限り別の武器を使用したと考えられる。実際のところ、ことに殺傷をあまり必要としないような太平の世になってからは、隠密の組に属する武士らは忍刀の形状の刀を、武士道やあるいは幕府などに対して距離感・反発心を表明するだけのために持っていた、という説すらも存在する。
 が、一方で、この忍者刀の形状は、伊賀や甲賀など古くから忍者が術を伝えてきた地域において、忍者の元来持っていた戦闘法(日本の剣術ではなく)を反映しているという考え方もある。忍者の無数の技術は、その多くが大陸に由来していると考えられる(→ニンジャ)が、地に足を着けた状態で戦う(長い袖・裾ゆえに)日本の剣術とは異なる、跳躍などの機動力や撹乱を多用する戦闘法、また反りのない、さらに武士の刀より製法の劣るとされる(鍛え方の異なる)刀は、即ちそれらの大陸由来の「突き中心」の戦闘法のためであったとも考えられる。しかしながら、跳躍などの戦法は、隠密行を目的とする忍者の技術の中においては、やはり殺傷より撹乱や逃亡に利用されたと思われ、忍刀とその戦法が使用されるのは直接の殺傷を目的とする状況ではなかったかもしれない。
 そうした不利な武器であり、特性故に有名な品もない忍刀であるが、物品そのものよりことに「ニンジャ」に対する神秘視ゆえか、ゲーム等での扱いは悪くなく、ときどき武士の刀を上回る性能になっている場合すらある。最も有名なニンジャといえば、徳川幕府に仕えた伊賀武士ということから創作では忍者軍団の頭とされる服部半蔵と、講談で真田幸村に仕えたとされる十勇士の代表である猿飛佐助であるが(ジライヤや石川五右衛門(→参照)や風魔小太郎も有名だが、どちらかというと「盗賊」になってしまう面がある)『ファイナルファンタジー』シリーズなどには「佐助の刀」という武器が登場し、半蔵の刀ではなかったのは日本語での座りと文字数の都合であろうか。これは英語表記ではKatanaでなくKnifeやSwordになっていることが多い。海外に目を向ければ一応それらしいものから変なものまで数多い。『忍者タートルズ』のレオナルドが両手に持っている山刀サーベルのような変な剣は、記述を信じれば'Ninja-katana'なのだという。
 *bandでは、Moriaや[V](普通のKatanaなら最初からある)にはなく、[Z]において数多く追加されたいわゆるエキゾチック・ウェポンのひとつである。ダメージはワキザシやショートソード類よりは若干大きくカタナよりは低いというものである。軽いので、ベースアイテムとして盗賊や、ことに[変]の忍者クラスに重宝されることが多い。



抜け忍カムイの忍者刀 The Ninjato of Kamui the Escapee 【物品】

 白土三平の漫画『カムイ伝』シリーズの主人公である忍者、夙谷のカムイは、江戸時代の身分制度からさらに枠外とされる底層に育ち、身分が無関係な実力のみで身を立てるべく、武芸の世界に身を投じ、遂には伊賀で忍術を学び窮めるに至る。しかし身分制度よりさらに非情な忍者の世界から抜け忍となり、徳川家の起源の秘密(隆慶一郎作品でおなじみである)を知ったことで、さらなる波乱に巻き込まれてゆく。最初はどう見ても冒険漫画少年にしか見えないカムイが、後半は精悍無比としか言いようの無い凄みに満ちた容貌になっているのも、明らかに長期連載のための絵柄の変化(白土の協力漫画家らである赤目プロでの作画者らも変遷している)だけの理由ではない。
 しかし、この一方で『カムイ伝』は、身分制度と戦う農民や武士の姿を凄惨に描きだす作品としての印象があまりにも強く、これらカムイの忍者としての活躍はテーマを補強する位置づけといった印象すらまぬがれない。実のところ、この正伝よりもむしろ知られているのは、純粋なカムイの「忍術もの」として、アニメ化もされた『カムイ外伝』の方のイメージであろう。ただし、そのカムイ外伝も第二部(主にアニメ化された部分より後)になると、この時代の人々の辛い人生模様が主となり、中にはカムイがずっと登場しないといったエピソードも含まれるようになる。
 さてこのカムイの刀は「忍刀」(伊賀流の唐風の流れをくむ刀法で用いる、片刃の直刀)ではなく、さらに短い侍の打刀であり、カムイが「変移抜刀霞斬り」(背後から廻し抜き打つ技で、いわゆる忍び抜刀の動きではない)を編み出した際、身分制度と戦う盟友のひとり草加竜之進(それぞれの階級のうち、「武士階級」で制度をはみ出してしまった者の代表といえる)に貸された大刀を断って霞斬りに適した小刀を選んだものである。外伝6話(霞斬りが破られた際)などでカムイの小刀が折られる場面や、装備を失くす場面もあり、ずっと同じ刀を用いているわけではないと思われる。余談だが、解説サイト等では「変移抜刀霞斬り」を、カムイが忍術を修行した「伊賀流」の技である等と述べている場合があるが、実際は正伝において伊賀を離れてから編み出した技である。また「夙流」「夙忍法」を忍術流派としてその流派や地名に伝わる技と解説されていることもあるが、これは作中カムイの元の出身地の名がカムイ独自の技に冠せられているもので、忍術流派の地名に因んだ名ではない。変移抜刀霞斬りは、カムイが夙谷や伊賀を離れてから、竜之進らと鉄人流(これは実在し、宮本武蔵の弟子の城太郎こと青木兼家が立てた、二天一流というよりもその源流の當理流を継承した総合戦闘流派である)の道場で研鑽し修行した際に編み出した技なので、強いて言えば鉄人流の技かもしれない。
 *bandでは抜け忍カムイの忍者刀は[変]に追加された物品のひとつで、発動でテレポート(忍者の身隠しか、「抜け忍」故か)の能力がある。器用・隠密・探索が+4というのは大きいが、ベースダメージは高いものの、ダメージ修正が非常に低いのも地味な点である。また決して軽くはないので忍者や盗賊にもさほど有効ではないかもしれない。



ヌメノール Numenor 【その他】

 西方国。アルダ世界の第2紀に海上にあったドゥネダインの強大な王国。
 第1紀に、エダインと呼ばれる人間の祖先は、定命の存在であるにも関わらずエルフと共にモルゴスと闘った。その報償として、(依然としてエルフと諸神の国アマンには行けないかわりに)中つ国とアマンの地の中間の西の海上に星型の島と、そこに住む人間には普通の人間より優れた能力と3倍以上の寿命が与えられた。そのヌメノール人が「西のエダイン=ドゥネダイン」である。ヌメノールの初代の王は『指輪物語』のエルロンドの弟で、人間としての定命を選んだエルロスである。
 全盛期のヌメノールの国力は比肩するものがなく、船で中つ国の全域を探究・支配し、《一つの指輪》を持った最盛期のサウロンの軍勢でさえも降伏させた。しかし、次第に奢りたかぶっていた所に、最後の王アル=ファラゾーンは捕虜にしたサウロンにたぶらかされてメルコール(モルゴス)を信仰し、アマンの地に攻め込もうとし、至上神の怒りによってヌメノールは軍勢・島とともに海底に没した。節士エレンディルに率いられた一部が生き残り、中つ国のドゥネダインはその子孫である。
 なお、ヌメノールの島は別名「アタランテ」(水没した国)と呼ばれ、トールキンはこれがアトランティス伝説と重なる構想にしていたようである。
 ToMEや[変](こちらはアルダ世界かどうかは不明にも関わらず)には地上マップの海上に「水没した遺跡」のダンジョンが存在し、「ヌメノールの遺跡」に潜っていくことができる。
 また[V]以降のエゴアイテム「西方国の」武器は(実際は、エレンディルの国アルノールで作られたものを指しているが)ヌメノールの技術の残光である。

 →西方国の武器 →ドゥナダン



ヌメノール語 Numenorian 【その他】

 ヌメノールとはシンダリン語なので、ヌメノール語(人)に対してそれ自身の言葉での言い方は「アドゥーナイク語」である。この言葉は人間の古代帝国ヌメノール(→参照)の言葉を指す。実際のところ、ヌメノールではエルダールの言葉(クゥエンヤとシンダリン)もよく使われており(初代王エルロス自身が半エルダールであった)王らもアドゥーナイクとクゥエンヤの名の両方を持っていた。ただし、エルダールと疎遠になった後期のヌメノールでは、エルダール語は廃れたり禁じられたりし、王はアドゥーナイク語の名だけを名乗り、またちょうどその時代の領土拡大期にも用いられたので、中つ国でも、かつてヌメノールの重要都市であったウンバールやペラルギア、ゴンドール南のわずかな地名などに、アドゥーナイク語が残っている。
 しかし、『指輪物語』には直接にアドゥーナイク語が現れる例は非常に少ない。第三紀のドゥネダインの生き残り、アルノールやゴンドールといった国やその人々は、エルダール語を使い続けた「節士派」の末裔であるし、これらの国の重要な語にはもっぱらシンダリン語、王族の人名にはクゥエンヤ語が使われている。
 アドゥナイク語は元々エルダールに出会う前のエダインらが使っていた言葉が元になっているが、トールキンの「言語樹形図」によると、それら「神代の人間の言葉」は、西方に向かわなかったエルダールの言葉を元にした言葉(すなわちアヴァリのレンベリン語を元にした言葉や、ライクゥエンディやナンドールのダニアン語を元にした初期の共通語タリスカ語)であったという。シンダリンはまったく別系統になった語だが、アドゥーナイクはタリスカを元にシンダリンの影響も強く受けているとされる。UTによると、茶の魔法使の名前「ラダガスト」もヌメノールの古語で「獣の護り手」というが、これがアドゥナイクの古語という意味なのか、それ以前のエダインの言葉(北方人の言葉の原型)であるのかは定かではない。
 ToMEにはキーワード、力ある言葉としてエルダール語やクズドゥル、暗黒語などと共に「ヌーメノール語」が設定されているが、実際にアドゥーナイクがそれらの言葉と同様の「言霊」を有しているかは定かではない。「ヌーメノール語入門」などに記されているのは、「アル-」が「王」といった、『指輪物語』追補編などに見られるわずかな(非常に有名な)ものにとどまっているようである。



ネヴラストの硬革ブーツ The Pair of Hard Leather Boots of Nevrast 【物品】

 「ネヴラスト」とは「此岸」の意であり、広義ではアルダ伝説時代(第一紀)にエルフらの住んでいたベレリアンドの西岸(アマンに面している)を指し、アマンの岸を指す「ハイラスト(彼岸)」の対義語である。が、狭義では、ベレリアンドの中でもドル=ローミンの西にある、海に面した地域をもっぱら指した。この地は、エルフ王トゥアゴンの一統が、のちにゴンドリンを築き移住するよりも前に支配していた。
 伝説時代の舞台であるベレリアンドの「地の果て」というところで、さらに北西にはかつてモルゴスがウンゴリアントに追い回されたラムモスの地、さらに北はもうかつてアマンと中つ国の陸続きだった北極ヘルカラクセである。トゥアゴンが去った後の荒廃した地の描写しかないためでもあるが、それを考えても厳しい土地であるようである。トゥアゴンは海・水に対する愛着が大きいので、それでも最も海・アマンに近い地を選んだと思われるが、内陸で湧き水の豊かなゴンドリンに移ったのは尤もなのかもしれない。
 *bandでは[O]に最初に登場し、のちにToMEにも取り入れられている。[O]のものは、耐久、隠密、スピードのみ+3修正という各種エゴ靴の上位版というところだが、相等に深層でレアリティもやや高いので、入手出来る頃に役立つかは疑わしいものがある。ToMEのものはさらに基本耐性もあり、ぐっと入手しやすいので、入手時に他にめだったエゴ靴がなければかなり役立つと思われる。[O]からのアイテム解説の「熊の毛皮」という部分は、いかにも厳しい土地で使われる品という意味ということらしい。どちらもネヴラストという元ネタから考えると、「荒涼とした土地を歩く」に優れた物品という発想の性能といえないでもないが、設定に即したというほどでもなく、トールキンから引用した地名を使用してみたという以外にさほど意味はないと思われる。



ネクロノミコン Necronomicon 【物品】

 死霊秘本。H. P. ラヴクラフトが自作の神話体系を網羅的に記してある古書として創作した書物の名。それ以後の他作家を含めた「クトゥルフ神話」では他にも数々の魔道書が登場するが、ネクロノミコンは神話の内容・儀式などに関して、最も網羅的に述べられている「百科事典的」な書物であり、また最も重要で貴重な書物と位置づけられている。以後、さまざまなフィクションおよびSF/FT/ホラー等の関連ファン中の話題でも、ほぼ「禁断の書物」の代名詞として広く知られている。
 TRPG『クトゥルフの呼び声』によると、その内容は無論のこと(→クトゥルフ神話)謎めいたほのめかしに満ちた書き方自体でさえ、たえず読む者の精神をかき回し、狂気に誘う。数値を見る限りは、読み通した時の正気度の喪失は、下手な神(蛙とか蜘蛛の旧支配者)との遭遇すらも遥かに上回っている。
 ラヴクラフトの解説によると、8世紀にアブドゥル・アルハザード(アブド・アル=アズラッド)によって書かれたアラビア語の『キタブ・アル・アジフ』が、ギリシア語に訳された際に『ネクロノミコン』と改題され、このギリシア語版を底本にラテン語、英語と重訳された。アラビア語とギリシャ語版は焚書などにあって現存せず、ラテン語版が合計5冊(フランス国立図書館、ミスカトニック大学図書館、ハーバード大学ワイドナー図書館、ブエノスアイレス大学図書館、大英博物館)現存し便宜上の原本とされる。削除部分のある英語版(有名な史上の神秘学者ジョン・ディー博士が訳したことになっている)はノア・ウェイトリーが所有していたものをはじめ比較的多数が現存し、さらに不完全な多重訳であるサセックス草稿は「いくつもの大きな図書館に」納められているという。
 まるっきり架空の書物であるが、ファンの間でそれらしいものを創作するという試みは数多くなされている。日本で特に有名なのは、ディー訳の英語版と称して出版されているものを国書刊行会などが和訳しているもので、適当なオカルト書の劣化コピーにしか見えずなかなかに笑える(オカルトな雰囲気は結構良いのだが、いまいちコズミックホラーには見えず、ダーレス系の神話図式がわかりやすく丁寧に説明されていたりと、まるで謎めいて見えない)。『ネクロノミコン』という題名ではH. R. ギーガーも画集を出しており、これは「本物」の息吹が吹き込まれている、と、『クトゥルフの呼び声』のスタッフがやけに絶賛していた。
 *bandでは、「ネクロマンサー」の魔法の最上位の魔法書として、[O]やそれ以前のバリアントから登場していた。[Z][変]では暗黒(death)の魔法領域で最上位であるが、特にクトゥルフ系に関係がある呪文があるというわけでもない……ネクロマンシーという語つながりで魔法書の名前に取られたという以外は、特に深い意味はないのであろう。ただし、この魔法書の呪文は失敗すると、クトゥルフ系のモンスターが引き起こすような「狂気」に襲われる場合があり、恐らく後付けであろうが、クトゥルフ系を踏襲している面もある。また[Z]のクエスト「ルルイエ」に置いてある点もそれらしく意識してある例である。
 内容そのものは、それまでの3冊に比べてアンバランスなほどに強力な攻撃や補助のものが揃っており、暗黒領域は、ほとんどこの魔法書を手に入れてからが本領発揮である。ただし、どうしても失敗率がかなり残る呪文が多いので、前記した狂気の可能性を結構意識しながら使うことになる。

 → クトゥルフ神話



ネクロマンサー Necromancer 【クラス】

 necromancyは「死(者)の術」であるが、元々のnecromancerが持っていた意味は「死者の霊と交信する者」であり、魔法使いを指す他の語のうちevokerやinvokerとさほど差があるものではなかったようである;「霊」を喚起し交信し知識や力を得るのは魔法としては非常にポピュラーな行いでしかない。とはいえ、キリスト教的にこれらの行いにもたれた少々禍々しいイメージを、necromancyは特に強調した側面はある。『ホビットの冒険』にて、サウロンがNecromancer(死人うらない師)と呼ばれているのは、単にこの語が、他にアルダで悪の呪術師に使用されるソーサラーやウィッチ以上に禍々しい語感を持つというだけの理由と思われる。(なお、原書では最初に言及される際にthe Necromancerとだけなっており、この定冠詞と大文字のついた表現は恐らく「有名な死霊術師」個人を特定している(暗に「サウロン」であることを示すとも考えられる)。が、邦訳の瀬田翁は、この特定に対して「丁寧に訳す」という姿勢をとったようで、「死人の魂を呼び起こす死人うらない師」とわざわざ説明をつけ加えた結果、ある意味で原書以上に恐ろしげになっている。)
 なお、タイタン(主にゲームブックのファイティング・ファンタジーの世界)においては、『ソーサリー』の「スローベンのネクロマンサー」や、最初はウォーロックだがやがて後出の小説にてネクロマンサーと呼ばれる『火吹山の魔法使い』ことザゴールなど、自らを霊体と化し、他の時空に転生できる能力を持つ者を指しているようである。
 しかし、こういった状況からやがて、AD&D 1stにて死者復活や死人を動かす魔法を「ネクロマンシー」と呼ぶ定義ができたあたりから、急速にRPGにおける様相は変わってくる。ネクロマンシーの初期呪文で代表的なものが「下級のアンデッドを製作する魔法」とされ、本来理不尽なゾンビやスケルトンの発生原因(→ゾンビ参照)に「ネクロマンサーの仕業」という説明がつくようになったため、ネクロマンサーはひたすら死体を動かし引き連れる「ゾンビ屋」として描かれるようになった。さらには、そうした行いで同類のフランケンシュタイン男爵やハーバート・ウェスト医師などのようなマッドなイメージが引かれることが多くなる。しかしながら、そうした魔法に専門化できる程度には「高級な術者」としてのイメージだけは残留しているようである。
 *bandには、[O]やSangbandなど、[V]に部分的にシステムを追加した初期のバリアントに、早くからネクロマンサーのクラスやネクロマンシーの魔法系統が追加されている。毒、暗黒、吸血、地獄、善退散や抹殺など、一般に「邪悪」なイメージの魔法を持つ(なお[O]では蝙蝠や狼、吸血鬼に変身するなど、原典でのサウロンの能力を意識したらしき魔法が多々ある)。[Z]系統やToME1の「暗黒(原語ではDeath Magic/Necromancyである)」の魔法領域もおおむねこれがベースとなっているが、さらに特化が強くなっている。本来のネクロマンシーは(語源であれRPGであれ)アンデッドの技だけにそれらへの対処も自在なはずであるが、[Z]系の暗黒領域は毒や吸血など、生命ある敵への攻撃力という方向性で特化され、アンデッドも含む生命のない敵には対処しづらくなっている。  なお、[O]等のネクロマンシーの時点から、最も強力な魔法書に[ネクロノミコン]があてられているが、これは語の一致と「邪悪」な魔法という点がクトゥルフ神話の禁書とひっかけてあるだけであって、語源のネクロマンシーも含めてクトゥルフ神話やネクロノミコンと特に関係が深いわけではない。しかし、ネクロマンシーやネクロマンサーという語を、語源からなおさら離れたややこしい位置づけのものにしている一因である。



ネコの帝王 the Cat Lord 【敵】

 Cat Lordは、D&Dシリーズのモンスター、Animal Lordのうちでも最も有名なものである。AD&Dのモンスターデータには数種類の「動物の帝王」が存在し、これは<上方世界>のビーストランド(いわゆる神界の類のうち、自然に深く関わる性質の「中立にして善」の次元界である)を本拠地とする、各動物の支配者とされた。(原始宗教での動物信仰や、D&Dでのオベロン(→参照)神のデータのLord of Beastなどとは一応別物である。)タカ、トカゲ、狼などのAnimal Lordのデータがあり、いずれも能力的には(当時のデータの)ユニーク悪魔などとほぼ同程度の力関係を持っている。そうしたAnimal Lordの中でもことに有名なのがCat Lordである。
 現在、世界設定のひとつ『グレイホーク』世界のNPCとして3.0eのデータに載っているものは、中でも最も有名なレックスフェリス(これ自体ラテン語で「王猫」の意だが)という名のものといわれ、準神格(D&Dでは半神(demigod)より下位の、神性は持つが権能や呪文を与える力などはないものを指す)の力を持っているとされる。レックスフェリスは黒いビロードのような毛皮をもつ猫と、獣人的な中間形態、黒い髭をたくわえた黒い肌の男性の姿をとることができる。ビーストランドではなくエーテル間隙界に独自の領土を持ち、各種の猫のシェイプチェンジャーや関連種族を廷臣として従えている。また、グレイホーク世界の設定や短編小説になっている、中立(均衡)の勢力に巻き込まれて戦う若い盗賊「悪漢ゴード」も、レックスフェリスの血をひく(曾孫とされる)ことで知られる。D&DシリーズにCat Lordはこの一体というわけではなく、世界設定によっては他の、女性のCat Lordやバスト(→参照)に近いものもいるという。
 *bandには、最初期の[V]2.8当時から、AD&DのCat Lord一般なのかレックスフェリスをそのまま意識したか(なお、ToMEではMALEになっている)は定かでないが、『ネコの帝王』がユニークモンスターとして登場する。ただし、[Z]系では(おそらく、AD&D独自のモンスターを減らす考えもあって)クトゥルフ系の猫の女神『バスト』にほぼ名前だけだが差し替えられており、舞台がアルダに戻ったバリアントでもクトゥルフ系も登場する場合もあって、共にそのままになっていることが多く、ToMEやEyAngbandなど、『ネコの帝王』のままで存在するバリアントはごくわずかに限られる。『ネコの帝王』もバスト同様に同族召喚などを持っているが、特にfシンボルの強力なノーマルモンスターが増えた[変]以降とは異なり、初期のバリアントではこれは極端な脅威ではない。しかしながら、非常なスピードの速さなど、[V]当時から本体だけでも充分な危険さを持っているといえる。

 →バスト



ネズミ怪物 Rat Thing 【敵】

 下級の奉仕種族、チョロチョロ走るもの。直接はH.P.ラヴクラフトの『魔女の家の夢』に登場する怪物ブラウン・ジェンキンだが、ここではRPG『クトゥルフの呼び声』において、ジェンキンをモデルとして、複数存在する「怪物の種族」として扱っているものである。
 ブラウン・ジェンキンは典型的な妖婆キザイア・メーソンの使い魔で、普通のネズミより一回り大きい程度の体に、人間の顔と手を持つ。狂暴というより不吉にほのめかされる存在だが、実に人間の体の一部をかじりつくす力をもつ危険な存在でもある。CoCルールブックでは、この人間としての顔とジェンキンという名をもつことから、かつては人間であったものが死後、魔女の儀式によって復活しネズミ怪物になる、としている。
 こうした小さな使い魔が半人間であるという説話は伝承にもありふれたもので、例えばファファード&グレイマウザーシリーズの『凶運の都ランクマー』に登場する妖術師の使い魔スリヴィキンなどは、名前の響きのみならず半人の姿もジェンキンそのものであり、その役割も含めて、物語自体は反対のラヴクラフトと共通する点が目立つ。
 *bandでは[Z]以降、残念ながらジェンキンはユニークにはなっておらず、ノーマルモンスターのネズミ怪物のみが登場する。ネズミ類だけに低階層にすぎないが、同階層としてはやや強い上に、その姿ゆえか「恐怖」をもたらす力があり、油断すると(ことに他の敵がいる場合は)危険である。低階層にも関わらず、割と印象に残る怪物になっているといえる。



燃素 Phlogiston 【システム】

 [Z]の秘術呪文書、[小秘術]から存在する、有限光源の寿命を延ばす呪文である。フロギストン(「燃素」という和訳自体が通例である)とは、ギリシア語で「着火する」の意であり、17−18世紀、可燃物に含まれ物体を燃焼させる役割を果たすと提唱された物質である。フロギストン濃度が高い物質ほど可燃性が高いといった説が唱えられたが、無論のこと、酸素の発見と近代化学の解明に伴ってごくごく短期間で消滅した。しかしながらフロギストンという語はまれに、古自然科学の用語「エーテル」などと同様にSFやファンタジーの用語に使用されることがある;例えばAD&DのSpelljammerキャンペーンでは、星間エーテルの間にあって世界同士を遮断しているのが「フロギストンの壁」であるとされる。
 [小秘術]のこの呪文は、おそらく松明やランタンの油に燃素そのものを注入することでより燃焼を可能とするという術を想定しているようだが、この用語そのものが呪文リストに入っているのが、秘術(Arcane)という語が持つ秘儀的、オカルティック・実在魔術魔道的な雰囲気を強め、また、安易に光の呪文ではなくこの抑えた効果が、秘術魔法のいかにもな地味さと共に渋さを醸し出している。「魔法の呪文」とは本来かくあるべきもの、言い換えればこうした術の積み重ねの上に、大魔法体系・大魔法使の技は存在しているべきものであろう。
 しかし実際問題としては、有限光源の寿命を延ばす呪文がしかもややレベルが上がった[小秘術]でなど、そも永久光源アーティファクトをほぼ1−5階で拾う*bandにおいては爆発的に無意味である。[変]では永久光源が少し後になるので使用される機会がないとは断言できないが、「これで油を持ち歩かなくていい」とプレイヤーが有り難がる姿というのは少々想像しがたいと思われる。仮に、これが1−2レベルの呪文であれば[変]でもあるいは他バリアントでも少しは何かの役に立ったかもしれないが、仮にそうであっても実質の意味があるかといえば疑問である。というよりも、[Z]製作において秘術呪文でこのあたりのレベルで入れるネタがないため、そのへんのそれらしい語を拾ってきてそれらしい効果を入れたのではないかと思えてくる。秘術という魔法体系自体が、このあたりのレベルでダレたような印象を与えるリストになっており、渋さはやっぱりいいから、もっとこう華やかなものが欲しいところである。



念動力 Telekinesis 【その他】

 念動力はいわゆる心霊・超能力用語で、PK(超感覚的知覚(ESP)と大別される、心理ではなく物理的効果を発揮する能力を指す)の代表的な現象である。RPGにおいては、超能力クラスや霊媒クラスの能力のこともあるが、ことにTRPGにおいては魔法使クラスのもつ「魔法」の一種として、このテレキネシスという名と効果のまま存在することも多い。
 物体を物理的に触れずに離れて動かす、この能力は超能力と共に、魔法のイメージとしても最も一般的なものといえ、ことに超能力と魔法の区別が曖昧な多くのファンタジー小説ではそうした描写が多い。しかし、RPGにおける「魔法」はそうした「範囲が広いもの」ではなく「もっと限定的なものの複雑な集まり」というイメージが強いためか、また、念動はさまざまなことに応用できるので便利すぎるというゲーム的な都合か、念動の呪文はどのTRPGにおいても、かなり高レベルの呪文で、また使用法に制限があることが多い。例えば生物にはかかりにくい、動かす物体は直接な攻撃に使えるほどのスピードは与えられないといった制限である。(ただし、生物を念動で動かしたり武器を念動で動かして攻撃といった呪文が、同じかもっと低レベルに、これとは別に存在することが多い。つまりは応用範囲が限られているということである。)もっとも、高レベルの呪文であるため、動かせる「重量や体積」自体はかなり大きいことが多く、工夫すれば(岩を押して、転がすきっかけを与えるなど)攻撃に使うことも充分に可能である。また、非常に魔法ルールが細かいTRPGでは、手品や雑用レベル(さして大きくないものを動かすなど)の念動ならばこれとは別に、最も初歩の魔法に存在することがある。
 *bandでは、戦闘ゲームであるためにこうした魔法(ことに攻撃に使えないもの)の出番はにわかにはないように見える。しかしながら、非常に魔法のバリエーションが豊かな[Z]においては、メタ魔法・便利魔法の領域とされる仙術に見ることができる。これは「遠距離にあるアイテムを取り寄せる」という魔法であり、TRPGのそれ以上にその効果は限定されたものといえるが、どんな敵とも無闇に戦うのではなく危険な敵との接触を避ける必要がある*bandにおいて、また、ことに敵を選ぶ必要のある魔法系クラスにとって、アイテムを捜索中に敵と戦わずに取り寄せられるこの魔法は、使い方によっては非常に有用となりうる。単なる一方的な殲滅ゲームではない、戦闘ゲームなりの*bandの世界の複雑さが見える一点である。
 一方、*bandの超能力者クラスの方は、[変]においては仙術魔法と同様の効果の「テレキネシス(こちらはカタカナ名)」パワーが存在するが、なぜか[Z]の時点では存在しない。そのかわり、超能力者クラスの最高レベルの攻撃パワーがTelekinetic Waveになっている。これは使用者中心に「テレキネシスの球体」を発生させるというもので、敵にダメージを与えると共に近くにテレポートさせ吹き飛ばし、気絶させることもある。これは漫画などでよくある「イヤボーン」のようなパワーの爆発と考えていいだろう。特に打撃中心となりがちな[Z]の超能力者クラスにとっては囲まれるのを防ぎつつ戦うことができるので有効である。



ネンヤ The Ring of Power (Nenya) 【物品】

 アルダ世界の第二紀にノルドールの鍛冶師とサウロンによって作られた、20の力の指輪のひとつで、「エルフの三つの指輪」の一、水の指輪。中つ国の上のエルフのうち、上級王ギル=ガラドと並んで偉大な女王ガラドリエルが持っていた。三つの指輪のほかの二つは持ち主が二転三転するが、ネンヤは最初からガラドリエルに与えられずっと所有していた。地金はミスリルで作られ、ダイアモンドがはまっているので「金剛石(アダマント)の指輪」とも呼ばれる。
 効力は、やはり他の「力の指輪」同様、目に見えない影響を与える(水の力を生命を育む力として影響を及ぼす)ものと考えられるのだが、住むロスロリエンの森に光を与え、栄えさせていたのはじかにネンヤの力と言われる。他の指輪に比べるとかなり積極的に「使用」しているようにも見え、不敵にも見えるところに、ガラドリエルのノルドールとしての気性が垣間見えるとも言える。Unfinished Talesによると、ガラドリエルの水の指輪の力は防御的に働くもので、ヴァラールではマンウェが働かせるのと同様の性質であるという(なぜか風のヴィルヤではなく、ネンヤの方にこの付記がある)。
 *bandでは例によって力の指輪の、基本能力類(視透明など)や全能力値増加、水属性を冷却と解釈し冷却免疫や発動で巨大アイス・ボールなどがある。レアリティが高いので微妙に勝利までに手に入らない(ヴィルヤとネンヤのどちらか、ということが多い)こともある。もし手に入れば指輪スロットが開いていれば選択肢であろうが、ただし冷却免疫は(ユニークの能力などの関係で)火炎免疫よりは若干重要性が劣る。どれかといえば、火炎免疫のナルヤか、能力値上昇が大きいヴィルヤを使うことが多いかもしれない。無論、手に入ればの話である。

 →力の指輪



能力値 Ability Score 【システム】

 クラスやレベル以外にキャラクターの個性づけ、特に「本来の資質」を表現するためのパラメータ。Moria/*bandやNetHackの能力値(筋力Str, 知能Int, 賢さWis, 器用Dex, 耐久Con, 魅力Cha)は、D&Dシリーズと全く同じものであるが(特にNetHackでは、修正値テーブルまで完全にAD&D 1stに準じている)ならばD&Dシリーズがなぜ「この6つの能力値」を設定したのかといえば、例によってキャラクターの役割分担のためである。「腕力が戦士、知能が魔法使い、賢さが聖職者、器用が盗人」と、どれかひとつの能力が高いキャラクターが4人集まって互いの長所を生かして冒険する図式が推奨されているわけである。なぜか「知能」と「賢さ」が分割されているのも、対して手先の「器用」と全身の「敏捷」が統合されてしまっているのも、ただこの4つのクラスと、その役割分担というのみの目的で設定されていることの端的な表れである。(なお、残りの「耐久」は生存率、「魅力」は会話と、すべてのキャラクタータイプにとって重要な能力とされているが、だんだん後のルールになるとこの説明に無理が出てくる。)
 *bandやNetHackのプレイヤーからよく出る疑問として、「知能と賢さはどう違うのか」というものがある。結論から言えば、Intが魔法使いの力の元である「硬く理性的な部分」、Wisが聖職者の力の元である「柔軟で豊かな部分」ということらしいが、具体的な区分や定義は中々断言できない。日本のD&D解説などでは知能が「知識量」で賢さは「その使い方」といった説明が多いが(D&D 3edの和訳ではIntが「知性」、Wisが「判断力」となっている)AD&Dの詳しい記述ではそうそう簡単なものではなく、知能(Int)は「知識量、頭の回転の速さ、理解力、暗号などの解読力」であり、賢さ(Wis)は「精神力、柔軟性、愚者の言葉や神託の受け止め方」であるという。何となく察しがついても、はっきりした説明や実際に即しての両者の区分は非常に難しい。WizardryではIntはIQ, WisはPiety(信仰心)とあっさりと変更されているが、要は信仰心の根底をなすものがWisということである;考えるに、文化的背景にほとんどが宗教観を持たない我々日本人、殊に、かの似非基督世界ロボットアニメのように、信仰に対してすら理屈をこねて(Intで)考える設定類が当然となっている日本のファンタジープレイヤーが、Wisの指しているものを本当の意味で理解するのは、余計に困難なことではないかという気もする。
 並んでよく出る疑問として、能力値が「18の次に18/xxとなるのは何なのか」というものがある。古いD&D系では能力値を3d6して3-18で表し、19以上は怪物や神などの、人間でないもののための値とした。しかしAD&D 1st/2ndでは、特にスーパーヒーローの戦士の腕力に関して「神の域ではないが、明らかに人間離れした」値を表現するため、18以上19未満を、18のうしろに1-100のパーセンテージの数値をつけて表した(Dragonlanceのキャラモンの腕力が18/63, かのコナンが18/90である)。これは腕力にしか存在せず(エクセプショナル・ストレングスと呼ばれる)戦士系クラスの腕力にしかこの値はつかない。(なお、D&D 3e以降は、この奇妙な表現は廃止され、普通に18の次は19となり、成長などによって人間や非戦士系も到達できるようになった。)NetHackではAD&D同様腕力だけにつくが、Moria/*bandでは他の能力値にもこの表現が行なわれているわけである。また、NetHackで「力の篭手」をつけると腕力が25になるが、AD&D 1st/2ndにおいてたとえ神であっても到達し得る腕力の最高値は25で、要はその値になったという記号である。
 なお、Roguelike界隈には、初心者の疑問に対してStr19以上を「神の域」であると説明している例が多い。しかし正確には、「人間には」通常ありえるのがAD&Dでは18/00、CD&Dでは18までで、人間が素の腕力を19以上に延ばすには例えば神格化やイモータル化するといった手段がある、といった意味であって、Str19以上は神以外のいかなる存在でもありえない、という意味ではない。人外(怪物)であればごく普通に19以上相当の場合があり、人間でも(AD&Dでは)魔法効果(呪文やアイテム)によれば、ゲーム内でもかなりごく当たり前に到達し得る。
 D&DシリーズのStr能力値は、(プレイヤーキャラにその能力を与えるアイテムが、オーガや○○ジャイアント・ストレングスのガードルやガントレットであると共に)しばしば「巨人」の腕力がそれにあたる、として表現される。Str18/100がオーガ、Str19がヒルジャイアント、Str22がファイヤージャイアント、Str25がタイタンや多くの力の神々である。*bandの修正値から推測すると、*bandのStr18/110以降はそのままAD&Dの19-25に相当する。18/110がAD&Dでは19、18/140はAD&Dの22、18/180はAD&Dの25である。*bandの18/190以上はそれを上回る値で、あえて言えばStr25のキャラがアイテム等で増強した場合に到達し得る攻撃力等になる。
 なお、AD&D 2ndの記述によると、Str18/100は、実際のウェイトリフティングの世界記録よりもさらに値と時間を上乗せした値であるという。ときにRoguelikeの日記で、テレビなどで大力を目にして「あれは筋力25だ」と表現されていることがあるが、そのほとんどは18/50未満である。また、コーウィンとランダムが1トン強の自動車を持ち上げて運んだところを見ると、彼らのStrは22-23以上のようである(D&D3edでは32前後)。



ノーデンス Nodens, Lord of the Great Abyss 【敵】

 出典:旧き神。大いなる深淵の大帝。うろこさかなびと大明神。クトゥルフ神話が原典とするラヴクラフトの作品に登場する、地球の神話の海の神のような姿(海の生物を従えた、全身灰色の老人)をした存在で、ラヴクラフトの宇宙観では数少ない温厚な(人間を災いや狂気に誘うことのない)神性である。しかし、通りすがった人間を何気なく拉致るような点といい、部下の夜鬼(夜のゴーント。のっぺら蝙蝠の化物)のやることの方は人間にはかなり迷惑である点といい、「たまたま形態・思考が、人間や、その想像する神からさほど離れていない」というだけでしかないようにも思える。
 しかしながら、一応はナイアルラトホテップを妨害して人間を助けた描写があり、「旧支配者と敵対する」という解釈も可能なことに発し、クトゥルフ神話のまとめ役作家のダーレス(→「クトゥルフ神話」参照)は、宇宙を支配する偉大な善神「旧神」の主神と位置づけてしまった。しかしまた一方で、クトゥルフ神話の作家の中には、ナイアルラトホテップらによって人間らの干渉から隠されている卑小な「大地の神々」の一体に過ぎないと位置づける向きもある。
 TRPG『クトゥルフの呼び声』では、確かに旧神の主神との解釈も可能としてか、能力的にはアザトースやニャルラトテップといった外なる神の総帥級にもひけを取らない力を持っているのだが、直接にいずれかの神性と対決することは決してなく、やることと言えば、敵が登場すれば夜鬼を呼んで連れ去らせるか、自分が逃げ出すかである。
 なおラヴクラフトのノーデンスは、ウェールズの治癒神ノデンスから取られているというが、これはさらにケルト神話の主神の一体である軍神ヌアダ(ノーダ、ヌアザ、アガートラム)と同根のものである。ノーデンスの二つ名に「銀の手の」というものがあり、これはヌアダが片手を失い銀の篭手をつけていることに由来するともいう(このヌアダの隻腕伝が北欧のテュールと並び発してマエズロス、ベネディクト、コルムなどに転変落つる処にあるのは言及するまでもない)。
 敵:*bandでは[Z]以降に登場するのだが、「果たしてノーデンスとは旧神か中立か、直接の戦いを行なうか否か」といったクトゥルフ神話ファンの議論を待つことすらなく、とりあえず問答無用で殴りかかってくる。またぞろ例外もなく、鉄獄という次元世界の殺伐のほどを思い知らせてくれる。
 [V]までは、恐れられる大文字Pと言えばモルゴスのことだったのだが、[Z]以降ではほとんどノーデンスの代名詞である(だいたい、なぜ巨人シンボルなのかもよくわからない)。ただでさえしぶといクトゥルフ系の頂上部分にいる上に、DEMON属性もなくGOODなので、スレイングが効かず厄介この上ない(この点と強さも相まって、よく秩序のユニコーンと並べて言及される)。さらには、テレポート系を実によく駆使してくるので、クラスごとに工夫して戦わないと死因とはならずとも手詰まりは必至である。

 →夜鬼



ノートゥング The Broad Sword 'Nothung' 【物品】

 出典:ワーグナー『ニーベルングの指環』にてジークフリードが龍のファフナーを倒す剣。
 別の項目でも述べることになるが、『ニーベルングの指環』はスカンジナビアの「ウォルスングサーガ」とゲルマンの「ニーベルンゲンリード」を元にしているが、内容はどちらが底本とも言い難い、かなりの別物である。物品や人物の名称も、どちらとも脈絡がなく変わっている部分がある。ノートゥングに関しては、ウォルスング一族の銘剣「グラム」に近い。「グラム」はスカンジナビア語で「怒り・悲しみ」の意だが、ノートゥングは「苦行」を示す。
 グラムはオーディンが城のとねりこの柱(ノートゥングは立木の幹)に突き立てたものを、ウォルスング一族のジグムンドが手にしたもので、ウォルスング一族が滅びた戦の際にオーディン自身が折る。その破片を、黒小人族のレギンが鍛え直し、ジグムンドの忘れ形見で成長したシグルズが受け取り、龍ファーヴニールを倒す。
 ニーベルンゲンリードでは、ジークフリートが愛用する剣は「バルマング」となっており、グラムと同一視されることが多いが、厳密には別根である。バルマングはオーディンやレギン(ミーメ)ではなく、伝承最大の鍛冶師ウェイランド(ギリシアとローマのヴァルカン神にも関係する極めつけに古く強大な神性。ミーメとも関連が深くその項目参照)の手によるまた別の伝説的な剣で、龍を倒した後にかなり経ってから、ジークフリートが古い宝物の中から入手する。(バルマングは渡り7フィートに及ぶ大剣であることが有名で、ゲーム『ソウルエッジ』シリーズの、巨大な剣を手に傍若無人に暴れるジークはこれがモチーフらしい。)龍を倒す際は、ジークフリートは工房に弟子入りして自分で鍛え上げた剣を使い、こちらが強いて言えばグラムに近い役割である。
 「ノートゥング」は、これらを折衷したのか、ジークフリードが折れたジークムントの剣(こちらは戦ではなく、愛の逃避行を邪魔しに来たウォダンが折ったもの)の破片を、ミーメ(レギン)の工房を借りて自力で鍛え直す。一旦刃を完全に坩堝に溶かし、新たに鍛え上げるのである。ジークフリードはノートゥングを、ベースの伝説同様にファフナーの腹部に下から突き立て龍を倒す。
 鍛え直される剣はトールキンのナルシル(アンドゥリル)やアングラヘル(グアサング)に、龍退治の様はグアサングでのそれに影響を与えていることは説明するまでもない。
 物品:ワーグナーを取り入れた[Z]以降、『アエグリン』から差し替えられて登場。竜倍倍打がつき、一説にはファフナーの吐く炎や毒への耐性が追加され、しかしアエグリンから引き継いだ電撃やオーク倍打属性が当然のように残っている。単なる竜倍倍打ではなく、ソースレベルで、ファフナーに対してのみはダメージがさらに3倍、計15倍という驚異的な数字になるよう設定されている。……しかし、例えば竜倍倍打のカオス・ブレードは、ベースダメージ自体がブロードソードの3倍、しかもファフナー以外の竜にも効果がある。ノートゥングはアエグリンから引き継いだかなりのレアリティだが、そうまでして有難い物品と言えるかは、難しいところである。

 →アエグリン →グアサング →ファフナー



ノーム Gnome 【種族】【敵】

 ドワーフに似ているが、よりトリッキーな性格を持つ妖精小人、として、古典的あるいは設定の特に細かいRPGにしばしば登場する種族。
 ノームは妖精の類の中では由来の古い語とも言われるが、これを四大精霊のひとつとして定義し、ギリシアのgnosisから「地・知」の語義にひっかけて知識を守る大地の精霊という図式を作ったのは16世紀のパラケルススであるという。また、ここでは地の妖精・精霊たちの「総称」でもある。(より一般的な英語として、知識や技術、ひいては宝を溜め込む偏屈な老人をgnomeという場合もある。)むしろ中世より以降に数多く出現した「妖精小人」としてもノームは老人の姿の小人となるが、また、他の妖精らでかつて総称でノームともされていた地の精らは、その姿に関しては、多くがノームの老人のような姿から派生していったともいわれる。さらに、それ以後か元来別のイメージかは定かではないが、地に棲む妖精としてのノームは、特に地下で鍛冶などを行なうドワーフと区別する場合、庭などに住むより身近な妖精とされた。「ガーデンノーム」と呼ばれる、原色(主に赤いとんがり帽子と青い服、白い髭)の庭の置物は欧州では割と定着した存在である。
 RPGの種族としての「ノーム」は、D&Dシリーズに原型があるが、必ずしも独特の種族やガーデンノームを意識してのものではなく、「ドワーフと似たような存在」というくくりである。AD&D 1stではプレイヤー種族とされた際に、ドワーフとの差異を際立たせる形で、特に妖精説話のユーモア・ペーソス的性質を意識したと思われる、知性の高い小人としてデータ化されたようである。AD&Dでは、頑固なドワーフに対して冗談や幻術を好む小人として、プレイヤー種族に選択できる。非常に知性は高いが、常識にとらわれない反面として賢明度が低い。Dragonlanceなどのワールドでは、さらに個性がきつい亜種も登場する。またDragonlanceを含め、妖精的種族・幻術(魔法)よりも、その知性の高さから機械工学・発明にたけているという描写が強調されることも多い。
 ただし、ほかのRPGではドワーフやエルフほどにさえもその姿は一定しているわけではなく、例えばT&Tでは知性が非常に高く機械工学にたける点ではD&Dシリーズと同じだが、人間等には友好的でなく、プレイヤーキャラのデフォルトではなくモンスター種族となっている(AD&Dの幻術的な種族に相当するのはT&Tでは「レプラコーン」が担当しており、元々のこの2種族の共通イメージを伺わせる)。一方、AD&Dを強く踏襲するCRPG 'Wizardry'では、ノームはAD&Dやそれに発する海外ファンタジー・RPGの標準とは全く異なり、臆病で信仰心が高い種族というものである。また世界設定によってはパラケルススに従って、ヒューマノイドでなく「精霊」ほか、さらに超自然的な存在と定義する場合も珍しくない。
 その一方で、オリジナルD&D及びAD&Dを簡略化した後出のクラシックD&D(いわゆる赤箱として和訳された)では「モンスター」のみに加えられており、ドワーフに似ているという以外の記述も特に説明されていない。これが、日本ではTRPGのゲーマーも含めてAD&Dにおける、海外TRPGでは一般的なノームの姿がほとんど知られておらず、上述のWizardryのような非常に特異な例が、あたかも「それまでモンスターだったノームをプレイヤーキャラクターにしたのはWizardryが初」「以後他のファンタジーでも同じ姿になった」「海外ではそれが一般的なノームの姿」という、AD&Dに拠る海外のRPG常識と大幅にかけ離れた説が今も流布され続けている原因と考えられる。
 トールキンのアルダ世界には、結論から言えばAD&Dのノームのようなドワーフに似た種族は存在しない。ただしトールキンの最初期構想から'The Hobbit'の第2版(岩波の和訳版は第2版準拠である)に至るまで、ゴンドリンのノルドール・エルフがgnome(和訳では「土鬼」)と呼ばれている。これは恐らくパラケルススの定義に近い「地と知の精」を意識している。'The Hobbit'でも第3版以後この記述は削られたが、かわって『クウェンタ・シルマリルリオン』にナルゴスロンドのノルドール・エルフ(フィンロド王ら)を人間らがノム(nom:エルフ語で知恵者)と呼ぶ記述がある。この語が後のノームに変わったというのがトールキンの構想、という説を述べるファンもいる。
 RPGにおいては、Roguelikeでは最初期のUNIX-Rogueに弱めの敵として登場し(ローグ・クローン等には登場しない)NetHackなどで大量に登場するのもこれを踏襲しているものと思われる。一方、「善良モンスター」であることを意識してか、他のRPGでは、少なくともヒューマノイドとしてのノームは敵としては登場しないことも多い(むしろ、精霊のノームとしての登場が多いといえる)。
 *bandでは、原型のMoriaの頃からプレイヤーが選択できる種族として存在する。特にノルドールその他ではなく、生い立ち・能力から見ると初期AD&Dのそれに近い種族のようである(他記もするが、MoriaはラスボスがThe Balrogであるとはいえ、特に指輪世界にこだわっているわけではなく、単にAD&Dのような「標準的ファンタジー種族」が出ているようである)。格別に強いわけではないが、ドワーフがプリーストに合っているのと同程度には、メイジ系職業には若干有利である。
 敵としては「ノーム・メイジ」が登場する。ブリンクにモンスター召喚能力を持つが、集団で出現し、油断すると大量にモンスターを召喚され収拾がつかなくなる厄介な敵である。

 →ノーム・メイジ  →ノルドール





 
あ-い  う-お              や・ら・わ




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