私家版*band用語集


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 あ-い  う-お              や・ら・わ


あ行



アイアン・リッチ Iron Lich 【敵】

 文字通りの「機械や鋼を身にまとったリッチ」のモンスターが登場するウォーゲームなどもあるようだが、*bandに[Z]以降登場するアイアン・リッチは、そのモンスター思い出文章の説明からは、アーケードゲームHeretic([Z]に引用が多いDooMと同種のものである)に登場するIron Lichを指すと考えられている。
 その姿は、思い出文章にある通りの浮遊する灰色の髑髏で、赤い目が奥で燃えているというものだが、Hereticのものは人ほどもある巨大な頭蓋骨で、横に角の生えた兜をかぶっている。その名の通り、頭蓋骨の部分もすべて鋼鉄でできているとのことである。ゲームでは火炎、冷却、竜巻の強力な魔法を放ってくる。その姿はD&D系におけるデミリッチの姿(→リッチ)に巨大な髑髏のものがある(これ自体が頭蓋のドルジ →参照との合流ともいわれるが)ことなども彷彿させる。
 [Z]以降の*bandでは42階のノーマルモンスターとして登場するが、これも例によってかなり強力な耐久力と攻撃力から一見するとウォーハンマー系デーモンではないかとも間違われることもある厄介な敵である。原作ゲームの通りの3元素の打撃を用いるが、同じ攻撃を魔法としてもかなり頻繁に放ってくる上、中でもその耐久力に由来する火炎のブレスはかなり強力であり、厄介な上位のリッチと同様にみなされる敵である。



アイグロス The Spear 'Aeglos' 【物品】

 アルダ世界の第1紀末〜第2紀のノルドール族ハイエルフの上級王であり、人間の王エレンディルと共にサウロンと戦った、エレイニオン・ギル=ガラドの氷の槍。ギル=ガラドは原作ではサウロンと対決した際に倒れるが、その後この槍がどうなったかは定かではない(ICE社のRPG設定では、エレンディルの剣ナルシルと同様にサウロンに破壊される)。
 『指輪物語』映画版FotRでは、冒頭の戦いの場面で地面の敵にとどめを刺しているエルフとその槍が、ギル=ガラドとアイグロスである(原典でのギル=ガラドは直接サウロンと戦ったが、その場面は割愛されている)。映画の設定を見ると、単なる素槍ではなく、大型の刀のように湾曲した穂先を持っている。
 『指輪物語』での綴りではAiglosで、これは追補編によると「つらら」の意とされるが、*bandのアーティファクト名では『クゥエンタ・シルマリルリオン』等の原典のところどころにある別表記、Aeglos(発音はアエグロスだが、同じアイグロスでも構わない)の方が取られている。こちらもシンダリンで「eg(切先)+gloss(雪)」で「雪の切先」という、ほぼ同じ意味だが、一方で「Aeg(眼光)+los(花)」の意にも取れ「鋭い光の花(=火花)」とも読める。おそらく雪の結晶もイメージしているが、一方でこれは実在のケルトの光の槍や、特にクーフーリンの電光の槍「ガエボルグ」(→参照)がモデルであることを(語感の類似ともども)伺わせる。なお、同名の白い「雪の花」をつける潅木も中つ国には自生しており、作内の設定上はこの棘を持つ木に由来しているという(しかし、その「棘」の場合は直刃の素槍のイメージになる)。
 [Z]では、無造作にオーディンのルーン槍(和訳では『グングニル』の表記が採られた)に差し替えられていたが、トールキンでも有名な武器であるためか、[変]では後の物品番号に『アイグロス』が改めて追加されている。ToMEでは、Aeglosの方の表記を意識してか、「凍結」にさらに「電撃」属性もついている。GumBandでは「凍結」ではなく「焼棄」と「電撃」になっているが、これは単にルーン槍のデータをそのままに名前だけアイグロスに戻しただけだからという気がする。
 『指輪物語』で有名だった武器は(グラムドリングやアンドゥリルなど)やけに弱めで拍子抜けすることが多いが、その中にあってはこのアイグロスはベースダメージ、修正ともにヴァラたちの武器並にかなり大きく、強さとしては中々のものである。

 →グングニル →ガエボルグ



アイス・ボルト/ボール Frost Bolt/Ball 【システム】

 忘れがちなことだが冷却攻撃はファンタジーにはありふれたもので、吹雪を操るなり、対象や地形を凍結させて氷で閉ざすなりといったものは伝承や説話にごく普通に見ることができる。なおトールキンには直接に吹雪や冷気を操る魔法やその使い手は見当たらないが、アングマールの魔王(追補編参照)やサウロン(映画ではサルマンになっている)のように天候を操っての効果に含まれていると見ることができる。
 RPGにおいては、クラシカルD&Dの「アイス・ストーム」呪文がそのはしりだが、呪文使いが一度「記憶」すると一種の呪文と効果から変更できないこのゲームとしては興味深いことに、クラシカルD&Dのこの呪文はいわゆる「アイス・ウォール」の効果と、使用する際に選択できるようになっている。つまり、冷却攻撃には、そのまま攻撃するという効果と凍結で閉ざす両方の効果が説話などでよく見られることを、強く意識していると思われる。(なお、『ドラゴンランス』の敵役ソス卿のよく用いる城壁や土地を凍らせる魔法は、Death Knightの擬似呪文能力であるこのアイス・ウォール(AD&D2nd)である。)
 以降のRPGにおいてもD&D系に倣いこの種の呪文は多く、また元の説話に準じているためか、火炎や電撃と異なり「ボルト」類となっている例は少なく「ボール」「嵐」等であることが多い。また、D&D系から通じて冷却は火炎や電撃よりも「高レベル」の呪文とされ、また火炎や電撃以上に高レベルにバリエーションが豊富な場合も多い(AD&Dではアイス・ストームより上のレベルにも多数の氷の呪文がある。システム上にこれに準拠しているWizardryは、火炎はLAHALITOで打ち止めだが、冷却のみMADALTO, LADALTO(#5など)というさらに上級呪文がある)。
 なぜ一般にRPGにおいて冷却の方が高レベルなのか、「分子運動を減速させる方が加速させるより困難である」などというラノベ屋の短慮な屁理屈など錆の怪物(→参照)にでも食わせておくとして、単純にシステム的に言えば、火炎や電撃よりも冷却の方が応用がきくようになっているため、と言える。上記したようにD&D系では冷却攻撃は複数の効果を選択できる位置づけである(AD&D2nd(3eでは駄目である)のアイス・ウォールや、上級呪文の「オティルークの凍結球」では、さらに多数の、様々な効果を選択することができる)。また一般に、熱や電撃の爆発・高熱・轟音などを比較的伴わずに、冷却は純粋にダメージを及ぼすことができ、ことに地下迷宮の冒険においては有効である。さらには、熱に耐性を持つものは多いが、冷却に耐性を持つ対象がきわめて限られているという点もある(ただし、これは古いD&D系のような「なにがしに耐性を持つ」といった風にモンスターの特殊能力が記述されていた頃「火炎」はよくあっても「冷却」などがわざわざ書かれることが滅多になかった、といった面もあり、ルールが整理されて、「属性攻撃には一律耐性」といった具合になった最近のRPGでは、それほど冷気耐性は珍しくない感である)。総じて、冷却攻撃はひとつの属性というだけでなく、より上位の術者が選択するスマートな手段という側面がある。
 なお、「氷」を関する呪文のダメージの実質については、冷気による凍傷や氷つぶてによる裂傷・衝撃など諸説があるが、冷却系の呪文が存在するTRPG(T&Tのシナリオの説明や、AD&D等)では、低温と衝撃の性質を持つ呪文は冷気に耐性を持つ敵にもある程度のダメージを与えるなど、いずれもきわめて緻密に設定されている。しかし、CRPGではしばしば処理ができないため、冷気に耐性を持つ敵には一律効果が無く、にもかかわらず説明では衝撃も含むような記述など、混乱していることがある。
 *bandでは、Moriaの頃から冷却攻撃は、火炎、電撃、冷却という元素(正確には冷却は並体元素、パラエレメント)のひとつとして、ボルト、ボール共に揃っている。ただし、Moriaの時点からこの四元素のレベルおよび強さには序列があり、上記したRPGのセオリーとは異なり、冷却は火炎よりもかなり低レベル・低威力のものになっている。これは、Moriaが「耐性」ではなく「弱点」という形で元素攻撃の有効さを表現しており、結果火炎の方が有効であるためではないかと思われる。これを反映してか、発展型の*bandでも、アイス・ボルトが使えるか使えないかといったレベルにおいては、ユニークモンスターなどに「冷気に耐性を持つ」というものが目立ってくる。*bandでは、アンデッドが冷却攻撃に一律耐性を持つなど、冷気攻撃は一般にあまり強力・便利な手段とはいえなくなり、冷却攻撃の地位は低くなっているといえる。(むしろモンスターの、二重耐性がないとポーションを割ったり「酷寒」攻撃など、敵が使う時の方が重要である。)
 原語ではFrost Bolt/Ball(海外RPGでは冷却攻撃はFrostと表現されることもよくある →元素ブランドの武器)だが、邦訳ではいずれも直接的な「アイス・ボルト/ボール」になっている。frostとなっていることから、純粋な低温(AD&Dのcone of coldなど)や、あるいは氷つぶての塊の呪文ではなく、「霜」を放つようだが、特に低温の以外の効果はないようで、低温の耐性や免疫の効果を受けるのみである。[V]ではMoriaとほぼ同じ位置づけだが、[Z]系ではイメージからか冷却魔法は(電撃と共に)一般的な攻撃系のカオス領域ではなく自然の魔法領域とされている。自然魔法の術者は、耐性を持つ敵が少なくコストも安い電撃を使うことが多いので、あまり活躍の機会もない。



アイホート Eihort, the Thing in the Labyrinth 【敵】

 旧支配者。迷路の神。クトゥルフ神話作品群のうち、ラムジー・キャンベル『嵐前』に言及されている小神で、巨大な青白い楕円の塊から数多くの節足が生えたような(シルエットとしては蜘蛛にも似ている)姿をしている。ゼリー状のやはり楕円形の目がある。
 出会った人間に対して、自分をそのまま小型化したような「雛(仔)」を植えつけるという形で信者を増やす。アイホートの雛を植えつけられた人間はクトゥルフ神話の映像じみた悪夢を見るようになるのである。ただし、数ヶ月から数年後にはそうした人間は脳を破壊されて死に、アイホートの雛だけが犠牲者の体から飛び出して逃げ出す。(なお、CoCルールでゲーム用の呪文にもなっている「アイホートの雛を取り除く」というものがあるので、なんとか救いようがある。)
 アイホートはとある僻地の井戸の底にあるという迷路に住んでおり、その周囲の人間に対して、雛を埋め込んで数年後に死ぬか、拒否してその場で死ぬか、という選択を行わせている。つまり、クトゥルフらのような大規模な計画で信者を増やしているような神ではなく、こういったスケールの小さながむしゃらな生き方をしているわけで、ごく地方の小邪神、というよりは、典型的な地方伝承の「怪物」(なまずとかうわばみとか)に近いような存在と言えるだろう。ただし、CoCゲームなどでは知名度の高さからあちこちの井戸に現れたりと登場することが多いようである。ゲーム等の話題で小神ゆえに「殺された」という話がしばしば出るが、旧支配者故に滅びることはない(あるいは、殺されたのは「雛」が大きく成長したものにすぎないという説もある)。
 *bandには[Z]から登場する。階層は53階で旧支配者としてはやはり弱い方である。クトゥルフ系に共通する召喚系の魔法以外は、体当たりと麻痺のみの攻撃と、雛に由来する特殊な攻撃などは持っていない。ただし同族の'j'シンボルを大量に引き連れて現れるのは、雛をイメージしたものかもしれない。



アヴァロンの主コーウィンのガントレット

 →コーウィン篭手



アウルベア Owlbear 【敵】

 梟熊。フクロウの頭部とクマの体を持つというこの怪物は、最初のTRPGであるD&Dシリーズを創作したガイギャックスらのグループが、ウォーゲームの駒に使っていた香港製のプラスチック玩具に混ざっていた謎の怪物を、そのままモンスターデータも作ってしまったというもので、伝承などの由緒ある由来は残念ながら何もない。(Dragon誌などの記述によると、同じ経緯のものにラストモンスター(→参照)がある。また識者らには、アンバーハルク(→参照)にも類似の経緯が推測されている。)
 D&Dシリーズのアウルベアは、全高8フィート(2.4m)ほどで、描写される際は頭部のみがフクロウというのがほとんどだが、まれに前足に羽毛が生えていたりすることもある。知能は低く、特殊能力の類はなく、ベアハッグ(クマなどが両足で敵を掴むこと)以外には特殊な攻撃手段などもなく、モンスターであるため自然動物よりはるかに凶暴であるという以外には特徴はない。
 他のゲームへの登場例は、DQシリーズの一部に見られる等やや少ない方である。AD&Dのマニュアルを(名前だけ)写したレトロRPG『ザナドゥ』には当然出ているが、ムカデのような怪物とまったく関係ない。『ザナドゥ』はAD&D1stのマニュアルのイラストだけから想像するなどの理由でかけ離れることが多いようだが、Owlbearの場合はAD&Dのイラストともかけ離れているように見え、というかAD&D1stのマニュアルのイラスト自体がとてもフクロウ+クマにさえ見えない。
 そのほか、わずかな一般のゲーマーに知られるきっかけになっているものに、レトロRPG『魔導物語』シリーズに登場するアウルベアがいる(ひいてはキャラクターを引き継いだ『ぷよぷよ』シリーズで知るゲーマーも多いかもしれない)。『魔導物語』のアウルベアは、なぜか「読心能力」を持つ中ボスモンスター格となっている。これは設定および能力ともに同じメーカーの『魔導師ラルバ』シリーズに遡るものである。
 NetHackにも例によってAD&D1stのデータのままで登場し、特殊能力がベアハッグ以外にない点も同じである。シンボルは'Y'だが、当然猿類ではなく、かといって四足獣や鳥であるわけがないので、広義の二足歩行可能な生物を指すことが多い(*bandでもそうである)Yシンボルに入っているのかもしれない。
 *bandでは[Z]以降、その発展バリアントに登場する。グリズリーと同階層で、若干弱い程度である。*bandでは動物全般がかなり弱くなっているので(集団の脅威であることが多い)[Z]ではそれに合わせてクマの強さにしたところ、モンスターとしてはかなり弱くなってしまったのだろう。*bandでは他にも知能の低い幻獣類はさほど階層が深くないことが多いが、もう少し思い切りよくしても良いような気もする。



アウレ槌

 →鍛冶の司アウレのウォーハンマー



アエグリン The Broad Sword 'Aeglin' 【物品】

 アルダ世界で有名な『グラムドリング』『オルクリスト』と組で作られた(つまり、実際は3振りで一組だという)という触れ込みで[V]に存在する剣。グラムドリングが火、オルクリストが水(氷)、アエグリンは風(電撃)の剣という位置づけである。Aeglinはシンダリン語で「光鋭き者」というような意(aeはシンダリンでは二重母音だが、英語風の発音としては「アイグリン」に近くなるかもしれない)。
 トールキン本人の記述によるものではなく、もとはICE社のTRPG, MERP(指輪物語ロールプレイング)において創作されたもので、サプリメント'Angmar'に記述されている。他のニ振りと共にゴンドリンで鍛えられたが、このサプリメント当時(第三紀)は、アングマールの南部の山地に住む小型のドレイク、「赤のコルラゴン」の溜め込んでいる宝の中に存在するものとされている。しかし、第一紀当時に何者が所有していたか、どういった経緯を辿って他のニ振りと別れたかといった細かい設定はない。他のニ振り同様、刀身はイシルナウア(ミスリルとチタニウムの合金)で作られ、電気をあらわす紫色で飾られている。
 なお、情報がかなり豊富なとあるFT解説情報集積サイトが、おそらく*band等の情報から、アエグリンを「トールキンの創作」と一時表記していたが、間もなくMERP由来と訂正し、現在は正しく表記している。ところが、その情報サイトの訂正前の過去の文章を、大量に丸写しして無断転載している複数のウェブサイトが、いまだにアエグリンを「トールキンの創作」であるとして掲載し続けている。そのため、映画指輪以降のトールキンからの流用増加に伴って『アエグリン=トールキンの設定にある知られざる強力な武器』と信じて、FT・戦闘物の宝具名やらロボットの武装名やらの設定に濫用している例が、現在に至ってもなお増え続けている。
 *bandにおけるアエグリンは、もとのMERPの設定では組の3振りはどれも攻撃力(+OB値)は同じであるのに対して*bandにおいてはアエグリンを最もレアリティが高く強力、としている。確かに*bandでは命中率・ダメージ修正が少しは大きいのだが、実は他の二振りにある「破邪」属性がないので数段役に立たない。
 なお、トールキン原作以外の設定を削るのに躊躇ない[Z]では、容赦なく削られて『ノートゥング』に差し替えられている。

 → オルクリスト  → グラムドリング  → ノートゥング



暁の剣 The Long Sword of Dawn 【物品】

 出典:マイクル・ムアコック著作のエターナル・チャンピオンのひとり、ケルン公ドリアン・ホークムーンの「黒の剣」とされるもの。後述するが、当のホークムーンのシリーズ『ルーンの杖秘録』の邦訳では、「夜明けの剣」という訳語になっている。
 エターナル・チャンピオンは、多作品・多世界の英雄が「永遠の戦士」というひとつの存在の投影であるとするもので、その戦士は必ず、ある混沌の精霊(意思体)の同様のその世界における投影である特定の「黒の剣」を持つか、深い関係を持つとされる。が、エルリックの持つストームブリンガー(→参照)のようなこの図式の象徴的な剣もある一方で、その英雄の他の剣と比べてあまり多用されていないものや、深い関係とは思えないもの、また英雄の剣ではあっても必ずしも黒の霊の顕現ではないと思われるものも多々存在する。この「暁の剣」も、『ルーンの杖秘録』が永遠の戦士の設定が固められた『エレコーゼ』シリーズ以前に書かれ後付で永遠の戦士のサイクルとされたためもあり、ホークムーンが持っている期間・機会はそれほど多いものではない。
 夜明けの剣は『ルーンの杖秘録』全4巻の、後半3巻になって突如として言及されるもので、見つかった時、この剣はホークムーンが訪れた地の海賊王の家宝となっていた。登場の場面は神殿にまつられて大量の人間の生贄の血が捧げられていた、という、とてもヒーローの持つ剣には見えないもので、ホークムーンらも見るなり忌まわしいものとの感想を口にする。この作者の著作では比較的普通のヒーロー作品であるこのシリーズだが、主人公の剣のこんな登場の仕方もムアコックならではである。剣がまとっているというだけでなく、使い手からあふれ出すほどの「薔薇色の輝き」を放ち、命令によって「夜明けの軍団」を召集することができる。
 夜明けの軍団に関しては、詳しくは「暁の戦士」の項目に譲るが、装飾的な鎧の蛮族のような姿と「過去の戦士ら」であるらしい以外は、何者であるのか、またなぜこの剣がかれらを呼べるのか、詳細な情報はない。剣の能力に関してはさほど際立った描写はないが、百人余の夜明けの軍団は倒されると次の戦士が補充され、減ることがないので、強力な手勢である。ただし、呼び出した剣の使い手が意識を失うと消失してしまう。また、無限に補充されるわけではなく、何度も死んで補充が繰り返されると新たに現れないことも多くなってくると『ルーンの杖秘録』には描写されている。
 後の巻の決戦においてもこの剣の軍団は欠かせない役割を果たすことは確かだが、2巻目に登場する「狂える神の赤い護符」に比べても重要性はせいぜい同程度で、元来は、「永遠の戦士と結び合わさった黒の剣」でなく、シリーズのストーリー上のキーのひとつに過ぎなかったものと思われる。またホークムーンシリーズの続編の『ブラス城年代記』全3巻は他の世界や「永遠の戦士」らにも関わる物語だが、夜明けの剣はほとんど持つ場面もない。例えば、『エルリック』シリーズにおいて「永遠の戦士」4人が集まり魔術師の城砦を攻略する場面には、「エルリック以外の3人ともが並外れた大きさと形の剣を持っていた」とあるが、同じ場面が『ブラス城年代記』で描かれた際には、黒の剣を持つのはエルリックだけと思わせる描写になっている。これは、黒の剣の顕現はひとつの世界には一振りしか存在できない、という設定になったためであるらしい(これも他の幾つかの描写とも矛盾するが)。また、『ブラス城年代記』では黒の剣の霊は、ホークムーンが前シリーズから敵国に額に埋め込まれていた「黒い宝石」に宿っていたとあり、この宝石の方がむしろ、ホークムーンの宿命との関わりは深いといえる。『エレコーゼ』シリーズの、永遠の戦士としての回想に「暁の剣」の名があるので、便宜上、夜明けの剣が黒の剣とされてはいるが、仮に黒の剣であるとしても、「部分的な化身」「一部の力を引き出しているもの」に過ぎないのではないかとも言われている。
 ちなみに『エルリック』シリーズと同じBRPシステムによるホークムーンのTRPG 'HAWKMOON'では、Sword of Dawnのデータは追加1d6ダメージ、攻撃と受けに+10%という割とささいな能力の剣で、結局夜明けの軍団を召喚できるのが売りらしいのだが、なぜか軍団の能力の記述が漏れている。
 なお、その特殊性から他の作品にそのままの品や派生品、影響を受けた品が登場することは非常に少ないが、ECシリーズをもじった要素を多く出している(→ストームブリンガー)『悪魔城ドラキュラ』シリーズに、「暁の剣」という方の名で亡者の軍団を呼びだす品が見える。
 物品:*bandでは、エターナル・チャンピオンシリーズが取り入られた[Z]とその派生バリアントに登場する品である。邦訳の「夜明けの剣」ではなく、「暁の剣」となっているのは、『ブラス城』に一部混在するものや、『エレコーゼ』などの後のシリーズでこの表記になっているものから採られている。ただし、ムアコックを題材とするバリアントGumbandの邦訳ではホークムーン初期シリーズの「夜明けの剣」に戻されている。
 *bandの英語版ではそのままでLong 'Sword of Dawn'という原作の記述に合う表記になるが、日本語版では「暁のロング・ソード」になってしまうため、「ロング・ソード『暁の剣』」という形になっている。
 能力的にはアランルース(→参照)などをベースにしたとおぼしき、中堅よりやや強め程度で、邪悪、アンデッド、デーモンの一通りのスレイングが揃っている。火炎ブランドや永久光などは、放つ薔薇色の光からの発想かもしれない。そして、発動によって「暁の戦士」を複数招集する点が再現されている。さすがに百人余ではないが、暁の戦士は攻撃力はともかく割と強固で、もちろん殺されると一定確率で別の戦士が補充されてくるので、結構な戦力になる。中盤までに入手できればかなり役立つと思われるが、そのレアリティは(Gumbandを除いて)レアアーティファクトの代名詞であるリンギルと同じかそれ以上である。



赤魔道師 Red Mage 【クラス】

 出典:赤魔道師はコンシューマRPG『ファイナルファンタジー(FF)』シリーズにおける職種のひとつで、黒魔術系(主にダメージ)と白魔術系(主に回復)の両方と、若干の武器も使えるという万能系である。(なお最初のFF1では、最初は「赤魔術士」で、高レベルで転職するのが「赤魔道師」である。FF1では、例によって初期FFに多い、最初期TRPGであるAD&D1stからの伝統で、魔道師 Magiとは超高レベルの術士のみを指すと思われる(→メイジ参照)。)
 「善の白魔術と悪の黒魔術」、転じて「白魔術を回復、黒魔術を殺傷」の魔法とするのはゲーム以外にもありふれた発想であるが、「赤」の魔術というものは後述する赤い月などからの連想で名づけられることはあるものの、無論のこと、白や黒ほどには一般的な定義でも、また魔術学的にも多出するものでもない。『ファイナルファンタジー』の赤魔術師に関しては、結局のところ初期FFの例にもれずAD&Dの一部の世界設定で「赤の魔術師」を、白・黒の中間にあたるものとしているものに依っていると考えられている。
 例えば、AD&DのDragonlance世界設定の「赤ローブ」の魔術師は、善の白ローブ、悪の黒ローブの中間にあたる中立の「属性」の者を指し、回復や攻撃といった術の分類ではない(ただし、白は心術、黒は死霊術、赤は幻術をやや得意とするといった傾向は若干ある)。赤ローブの魔術師は、惑星クリンの3つの衛星(白・黒・赤の月)のうち、赤の月ルニタリから魔力を引き出す。おそらく、地球の文化で「赤い月」は凶兆・魔の象徴とされることから、ルニタリの赤ローブには純粋な魔・魔法の象徴の意味合いがこめられていると思われる。
 ただし、D&Dシリーズでも魔法使のローブがそのまま属性や白黒といった性質を示しているとは限らない。例えばForgotten Realms世界設定では、ローブの色は単に魔法使らのパーソナルカラーとなっている場合もあり、また別に、おおむね悪役のことが多いサーイ国のレッド・ウィザード軍団がおり(上位のザルカーら等、『コナン』シリーズのスティギア魔術師団らのようなイメージも持つ)彼らは別の意味で純粋な魔術に特化した存在であるともいえる。
 『ファイナルファンタジー』の赤魔道師の話に戻ると、FF1においては白系と黒系の両方の魔法が使え、装備もかなり強力なものまで使える等と、きわめて便利な(そして強すぎない)すぐれた万能職となっている。しかしながら、以後のシリーズではバランスがうまくとれず、かなりの役立たずクラスと化している。FFシリーズの知名度と相まって、中途半端・不器用貧乏の代名詞としてゲーマーらに使われることも珍しくない。万能職(RPGのセオリー的には、じっくりと育ててはじめて強力になるという位置づけも多い)であるにも関わらず、特殊能力を得るためだけに一時転職というパターンも多い。少人数クリアに使えるなり、さらに後のシリーズでは次第に改良されているといった話もあるが、FF1の頃の絶妙なバランスには及ばないというのが実情といわれる。
 FF1から通じて、赤魔道師のビジュアルには赤いマント(黒、白のような「ローブ」姿ではなく)に赤い羽根帽子をかぶった軽戦士というもので、ECシリーズにイラストを描いた天野喜孝のデザインという連想では、ラッキールやジャリー・ア・コネルのような、赤衣の「英雄の介添人」を彷彿させるような姿である。おそらく、「万能職」であることから重戦士とも魔法使とも異なる、軽戦士や活劇剣士(スワッシュバックラー)、D&D系の吟遊詩人などのイメージが与えられたものとも考えられる。赤衣以外のシルエットそのものは、天野喜孝がイラストを手がける小説の『吸血鬼ハンターD』にもよく似ており、デザインモチーフのひとつとのことである。
 その他:*bandにおいて赤魔道師は[変]に追加されているクラスのひとつで、ものまね師などに続いて『ファイナルファンタジー』シリーズから採られたクラスアイディアのひとつである。レンジャーと同等(魔法戦士よりは若干高い)の打撃能力を持ち、様々な魔法を扱うことができるのだが、この魔法ルールが特殊で、スペルマスターの応用であり、「低レベルの魔法書であれば、呪文ひとつひとつを覚えていなくても魔法書を持っているだけで使える」というものである。ある意味魔法戦士やレンジャー以上に万能、「どんな技も使える」をこうした形で実装したものといえる。
 つまるところ、スペルマスター同様に魔法書を自在に持ち替え、状況に応じて使い分けるという「万能」ならではの高度なプレイを期待したいところなのだが、現実問題としてはスペルマスターと異なり、決定的な攻撃力が得にくいため(低レベルの呪文はどんな魔法領域をとってみたところで一様に弱いというのも*bandの特徴である)そうした自在な姿とはかなり縁遠い。また、パーティー制のFFシリーズと異なり、単独行動の*bandでは、(ごく一部のクラスを除いて)どんなクラスでも行動のとりうる範囲はかなり広いものを持っており(魔法が使えなかったら同効果のアイテムを持ち歩くのが当然、など)どのクラスでないと決してできないこと、というものがあまり存在しない。結果的に、魔法系統に対する「万能」そのもののメリットが少ないとも言えるのである。
 結果的に、FF1より以後のシリーズでの「赤魔」の巷でのイメージにたがわぬ、かなり中途半端なクラスとなっている。魔法戦士同様に、「手段」は揃えることができるため別に弱いクラス・クリア至難なクラス等ではないのだが、やはり、繰り返すが、決定打に欠けることと万能であること自体の旨みが少ないことで、クラスの特徴がまったく無くなっているといえる。FFともども唯一のメリットといわれる、レイシャル(クラス)パワーである「連続魔」を「失敗率の高い魔法を2連続で使えば失敗しづらい」などというあまりにもしょぼくれた使い方が、*bandにおける赤魔道師の最大のメリットとしてアナウンスされるあたりが、かなり如実にこのクラスの性質を物語っている。

 →マゾい気持ちになれる



悪臭雲 Stinking Cloud 【その他】

 *bandシリーズでは「毒ダメージの呪文」であり、低レベルながら広範囲ダメージ魔法としてMoriaの頃から呪文、ワンドなどで活躍する魔法。これは呪文の名とアイディア自体はAD&Dの同名の呪文から採られてはいるが、実体は別物で、AD&Dではダメージではなく、特殊効果の呪文であった。
 クラシカルD&DおよびWizardry#1-3においては、眠りやマジックミサイルの存在する1レベルや、対多攻撃の存在する3レベル以降に対して、「2レベル」の呪文スロットは軽視される「死スロット」と見なされがちである。しかし一方でAD&Dでは、プレイヤーは2レベル目のスロットにこそ目の色を変える。それは何よりも、その筆頭であり象徴である、stinking cloudの呪文が存在するためである。
 これは嫌な緑色をした悪臭の煙幕が、指定した範囲にある程度の期間とどまり続けるというもので、致死毒ではなく悪臭でしかないが、触媒(AD&Dでは呪文ごとに材料を必要とする)が「腐った卵の殻」であることからも、よっぽど強烈なものに違いない。ここに入った者は、AD&D1stでは抵抗(セービングスロー)に成功しても大きなペナルティーを与え、まして失敗すると無慈悲にもいきなり「気絶」という、言語を絶する効果があった。そのためCRPG版のPools of Radienceなどで連発し「アッヒャッヒャッヒャー」とばかり病みつきになってしまった人もおり、のちAD&D2ndでは「抵抗に失敗した時のみペナルティー」など大幅に弱体化されたが、それでもBulder's Gateシリーズなどで愛用した人々も数多い。(さらに、D&D 3.Xeでは呪文レベル自体が3に上がることでさらに抑えられている。)



 おれぁ生まれてからずっとシジルの暗黒街で生き
 いろんな世界の魔法を見てきた
 だから甘っちょろい魔法と凶悪な魔法との区別は『におい』でわかる!

 こいつはくせえーッ! 腐った卵のにおいがプンプンするぜッーーーッ!

 こんな極悪魔法には出会ったことがねえほどになァーーーッ
 版上げで弱体化しただと? ちがうねッ!
 こいつは1版以来の極悪魔法だッ!
 ターシャさん! 早いとこ呪文書に書き写しちまいなッ!

 (『卓ゲーマーの奇妙な冒険』2ch過去ログより、詠み人知らず)



 Moriaをはじめ*bandにおいてこれが単なる毒攻撃の呪文となったのは、元の効果(AD&D1st当時)が強力すぎる、長期間雲が存在するのがデータ化しづらい、また単に単純明快な魔法にするといった理由が推測される。[V]の時点からメイジ系の攻撃手段として重宝し、敵も頻繁に使ってくる(ダメージ自体はさほどでもないので、耐性がなければ毒状態になる方が影響が強いといえば強い)。しかし、発展したバリアントでは、毒殺攻撃としてネクロマンサーや暗黒領域の魔法の方に加えられることが多くなった(AD&Dの悪臭のイメージからは離れている)。しかし暗黒の魔法は全般、単独では生物系以外に効く呪文が少ないため、他の魔法領域と併用することにもなりがちで、結果、メイジが単独で使用する機会は[V]の頃からは減り、むしろワンドで使用する機会が多いかもしれない。職業に関わらず、シラミなどの増殖タイプの敵に連発する目的で、中盤あたりまで持っているプレイヤーも多い。



明の明星 Morgenstern, Julian's steed 【敵】

 ジュリアンの乗騎、モルゲンスターン。アンバーの九王子・狩人ジュリアンが従えている数多くの狩猟者、彼が”影”を洗練して作り出した動物らの一体。
 例えばベネディクトは、アンバーの王族の並行世界を作り操る能力で、あらゆる世界における可能性を「戦闘」という分野で研究しているわけだが、ジュリアンはいわば、おなじみ競走馬の綿密無比な交配洗練という分野で同じことを行なっているわけである。そうして作られた最高傑作がこれである。


 「奴はいったい何に乗っているんだ。機関車か?」ぼくは尋ねた。
 「たぶん、あの強力な明の明星号に乗ってるんだろう。かれが今までに作り出した一番速い馬さ」
 ...たしかにかれは”影”から明の明星号を創造し、その獣にハリケーンと杭打機の力とスピードを溶かして注ぎ込んだのだ。
 ぼくにはその馬を恐れる必要があったのを思い出した。やがて、姿が見えてきた。
 (R.ゼラズニイ『アンバーの九王子』)


 コーウィンが恐れる必要とは、(ジュリアンの項目でも述べているが)コーウィンの替え玉に虐待されて以来、この馬が彼を目の敵にしているからである。しかし、ジュリアンを公然と辱めるコーウィンならば馬くらい斬り捨てるのに躊躇があるとは思えないところ、恐れ続けている点は、この馬が九王子から見ても並大抵の化物ではないことを示しているかもしれない。
 どんな馬より40センチは大きく、時速120キロの自動車程度には軽々と追いつき、飛び越す。ほとんど不死身であり、例によって銃弾などはものともしない。なお、このとき、ジュリアンにも明の明星号にもあらゆる攻撃が通じない以上どうしたかというと、ジュリアン自身にとびついて取っ組み合いに持ち込んだ(コーウィンの戦いは結局こうなる)。
 *bandでは[Z]系バリアントの中盤に登場する。特殊能力も攻撃力もなにもないが、スピードと耐久力が相当にあるので、かなり倒すのに手間がかかり、非常に鬱陶しい。
 また、[変]において黒王号やスレイプニール、ひいてはフアンなど、「動物系」のユニークが追加される際、この「ジュリアンのやつ」のデータがそのままコピーされたり改造されたりと、手当たり次第に濫用されている。一応、このあたりの面々ならば明の明星号にひけをとらない生き物と言えそうではある。

 →ジュリアン



アコラヒル Akhorahil the Blind 【敵】

 第五位のナズグル(指輪の幽鬼)。盲目の者、嵐の王。アングマールの魔王と同じヌメノール人の妖術師でその腹心。ヌメノール風に発音すると「アホーラヒル」となる。
 [V]のモンスターの思い出には、生まれた時から盲目であり、魔法で作られた宝玉を目のかわりにつけている、という簡単な説明がある。ICEのTCGなどの設定ではもう少し詳しく、それによると第二紀のアコラヒルは元々は(のちに魔王となる)ムラゾールの従兄弟にあたるヌメノールの王族で、南方のハラド方面の植民地を任された辺境王の息子だった。しかし権力に突き動かされたこの王子は妖術を研究し、ハラドの邪僧との取引で、己の眼とひきかえに「源の目」冷たき宝玉と呼ばれる強大な宝石を手に入れる。父の辺境王の位を簒奪し、ハラドの広域を手にしたところで、冥王サウロンに従い《九つの指輪》の第五を授けられる。ハラドがヌメノールの本国軍によって奪回された後は、モルドールの火山灰地ヌアンでの軍団編成に携わり、また第三紀後半は通してミナス・モルグルにて、魔王率いるモルドール軍の参謀格を勤めていた。ヌメノール王族の、もといナズグルの例にもれず2メートル近い長身で、常に灰色の妖術師の装いであったという。
 *bandには[V]系のバリアントに登場するが、[Z]では他のICE系ナズグル同様、ユニークからは外されており、[変]でも復帰していない。[V]でもせっかくユニークであるにも関わらず、他のナズグルらと能力的にはさほど代わり映えがしない。妖術師という設定であるが、特に他より魔法系を意識した能力でもない。というよりも、ナズグル自体が「しぶとさ」よりもむしろ、奇襲を受けた時や召喚の脅威を強調するために、どちらかというと魔法系で肉体能力が低めに作ってあるわけだが、印象の薄さは否めない。

 →ナズグル →アングマールの魔王



アザトート Azathoth, Seething Nuclear Chaos 【敵】

 出典:外なる神。沸騰する混沌の核。H.P.ラヴクラフトの宇宙観における宇宙の中核であり、「クトゥルフ神話」における、外なる神・旧支配者らの総帥・最高神。万物の主、盲目にして白痴の魔王。
 『クトゥルフの呼び声』ルールブックのキバヤシ解釈シナリオソースによると、その名はアラブで「トート(=ナイアルラトホテップ)に力を与えているもの」に由来するという。なお、くどいようだがクトゥルフ系の存在に正式な発音というものはないが、日本では「アザトース」と表記されていることが最も多い。
 宇宙の根源であり、宇宙自体(しかしそれは、あまりにも混沌に満ちたラヴクラフトの宇宙だが)の具現化でもある。無論、ラヴクラフト宇宙の諸力(外なる神)を生み出した源であり、彼らの支配者でもある。ただし、アザトートは一切の知覚力も、それを用いる知力も持っていない。要は、ラヴクラフト宇宙の数々の混沌とした緒力のうち、「そういう性質のエネルギー」のひとつだとしか表現のしようがない。(一方で、旧神・邪神対立型のダーレス派のクトゥルフ神話では、アザトートは単なる邪神の指揮官で、旧神に抗った罰として知能を封印されたということになっている。)宇宙の中心で、同様に盲目の小さな神らと共に、そのさらに従者らが吹き続ける「フルートの音」にあわせてただ延々とうごめき踊り続けているのみである。また人間などでもことに優れた「音楽」を奏でる者はアザトートを喜ばせ、ときにナイアルラトホテップがそうした人間を拉致ってきて永遠にアザトートのために働かせたりもする。
 多くの超次元的生物にその名前は知られているが、混沌そのものでしかも知能がないので、信仰することに見返りがない(少なくとも人間やそれに近い生物のレベルでは)ため、ほとんど信奉されることはない。しかしあらゆる外なる神はその従属者であり(じかに手足となって働くのは主にナイアルラトホテップである)また多くの旧支配者は、自身がアザトートの司祭でもある。
 実際に人間の目に姿をあらわすことは少ないであろうが、その姿はまったく不定形で、音楽にあわせて偽足(触手)のようなものをうごめかせているともいう。知能なく漂うのみといったイメージからか、クラゲのような姿をイメージされる場合も多い。『クトゥルフの呼び声』ルールブックによると、もし地球に現れた場合、最初は直径100mほどで、たまたま自分で帰る気にならない限り(1〜10%)10秒ごとに大きさが倍々になってゆく。これでは、ドラえもんにバイバインをかけられた栗饅頭の山のごとく地球を飲み込んでしまう可能性が相当高くなるような気がするが、気づかなかったことにする。
 さて、ホラーのみならず、SFやファンタジーの話題においても、「最大規模の『存在』」の代表格、象徴、例として、最も挙げられることが多いのがこの「アザトート」という名であると言えよう。人間が理解できないスケール、決して及ばない規模、抗しても意味のない巨大な存在の代名詞が、ラヴクラフトの外なる神であり、その最大のものアザトートと広く認識されている(実際は、ラヴクラフト宇宙観における巨大な存在は、ダンセイニ卿の『ペガーナの神々』などの影響が強いわけであるが)。さらにレベルの低い話題においても、「魔王」という名にも関わらず、それと戦うやら倒すやらといった話に及んだ場合、それはこの存在の定義(設定)を理解していないだろうと見なされる、その暗黙の諒解が存在するほどである。また、それ故に、それを理解した上でアザトートに対抗しうる存在の設定に対しては、「少年雑誌的インフレ図式」(一部に言わせると「燃え」)の最たるもの・最強のもの、と目されることもある。
 しかし、*bandでは、ひとつの宇宙どころか、そういう数々の宇宙──アザトートが支配する宇宙も、そんなものがいない宇宙も、はてまたアザトート以外・以上の存在が創造し支配しているような宇宙も──あらゆる宇宙が、無数に存在する「アンバーの影」でしかない。アンバーの王族が影を操ったり、パターンを消したり直したりするたびに、そんな宇宙の群れが大量(理論上無数)に作られたり消えたりしている、といったことが茶飯事のアンバーシリーズ、それを元とする*bandにおいては、アザトートも格別特記できるほどのスケールには及ばないだろう。
 敵:*bandでは[Z]以降登場するが、ラヴクラフト宇宙のあらゆる存在の頂点であるにも関わらず、なぜか大いなるクトゥルフよりは下の階層になっている。これはクトゥルフが最も有名なので別格扱いということでしかないだろう(なお、Cthangbandではきちんと最大の敵になっている)。
 'E'(精霊)シンボルであり、同じシンボルを大量に引き連れて登場する。デーモン召喚も持ってくるが、自身のブレスや周りの深層のE(シャンブラーなどが含まれていれば)とどちらが危険か微妙なところである。かなり強靭で、各種のブレスを用いてくるのが危険であるが、この階層としては飛びぬけた点があるわけではない。良きも悪きも特別扱いされておらず、これが*bandのような世界でなければ、100階より下の隠れモンスターにしてもよいところではあったろうが、──
 無生物でないにも関わらず、STUPIDやEMPTY_MINDフラグがあるのが設定通りでご愛嬌である。

 →クトゥルフ神話



足かせ Entangle 【その他】

 植物が足にからみついて自由を奪うというのは自然にもまた人造の罠にもあることだが、植物を操ることでこの効果を発揮するのは、ゲームの特殊能力としてはいわゆる自然系の魔法としてありふれた発想である。
 原型としてのAD&Dのドルイド呪文のEntangleは、最も初歩のレベルの呪文であるためか、それほど大きな束縛能力はなく、減速させる効果しかなく、大型の対象には効果が薄いこともある(以後の版ではこれよりやや強力である)。効果範囲は比較的広いが、範囲に入ったものをすべて(味方も)減速させてしまうため、戦闘の最中でこれ単独で使用するというよりも、他の戦法と組み合わせて使用するものだといえる(大規模な自然魔法全般、その傾向が強い)。以後のゲームではもっと一般的な魔法であることが多く、植物で束縛するにせよ、他の要因にせよ(土が盛り上がって足を固めるにせよ)対象を絞って強力に束縛できることが多いようである。
 また、当然ながら屋外、さらには植物が多く生えている場所でなければ効果を持たないことが多いが、特にCRPGなどでは(自然魔法全般に言えることだが)屋内でも平然と使えることなども少なくない。
 [Z]の自然魔法の「足かせ」は、初期のAD&Dのエンタングル呪文にほぼ忠実なものであり、比較的広範囲(視界内)の敵を減速(スロー効果)する。この効果自体は(さほど便利ではないが)強力な方に属するので、比較的レベルは高くなっている。*bandでは他のRPGにもまして大半の状況がダンジョン内だが、こと*bandのダンジョン内にはどこに何が生えていてもおかしくないので、屋外とさほど状況が変わらないともいえる。



アシッド・ボルト/ボール Acid Bolt/Ball 【システム】

 酸による攻撃や魔法というものはFT小説を探せばないこともないのだが、RPGにおける「魔法使い」の攻撃手段としては、元来は冷却や火炎のように一般的ないし電撃のように典型的なものではない。例えばクラシカルD&Dには酸攻撃の呪文は存在せず、AD&Dの初期レベルにあるものは「メルフのアシッド・アロー」という、特定の魔術師(Greyhawk世界のエルフの王子であるルナ騎士団長”輝く炎のメルフ”)の開発した呪文であるとされていることから、これが一般的なものでないことを示している。D&D系にはより高レベルの酸の矢や酸の嵐といった呪文もあるが、より後出のサプリメントのもので、メルフの呪文よりさらに一般的でない。酸攻撃は火炎・冷却・電撃と比べると、どうも凄惨で陰惨な映像が想像されやすい側面もあり、善玉や主人公らの使う攻撃手段としては憚られるのかもしれない。これら他の元素と比べると、酸攻撃が設けられていないCRPGなども数多い。
 *bandでもそうであるが、酸攻撃が他の元素と同列に一般化している背景には、むしろD&D系以来の伝統でブラック・ドラゴンが酸のブレスを用いることから、他のドラゴンのブレスで使われる元素と同列になった部分があるだろう。
 TRPGや一部CRPGでは、トロルやその他再生生物に対して、酸攻撃は火炎と同様に「再生能力のきかない傷を与える」とされている。これは酸と炎が「火傷」を残し、これが(場合によっては)刀傷などより凄惨に見えることからの発想か、酸によるダメージは火炎と同様に一種「深い傷」であると見なされていることからのようである。また酸攻撃が他の元素攻撃にきわだって、装備などにダメージを与えるという案を採用しているRPGも数多い。これらの特殊効果からも、酸攻撃は他の元素攻撃より若干上位の攻撃と見なされている場合が多い。
 *bandではMoria以来、酸のボルトとボールの呪文やアイテムが存在する。RPG的に珍しい呪文であることもあってか、元素攻撃の中では上位でダメージも大きいものとして扱われていることが多い(ただしロッドのダメージなど一部上下がある)。[V]2.8系のメイジ呪文のリストでは、レベル自体は極度に高くはないものの、最上位呪文書[ラアルの破壊集大成]の呪文である。[Z]系ではカオスの破壊魔法の中には直接に酸のボルトやボールの魔法はなく、一般に他の魔法の特殊効果などで現れることが多い。総じて、プレイヤーキャラクターが使用する機会は呪文ではかなり少ないと考えられ、むしろワンドやロッド等のアイテムの方がまだ多いと思われる。機会としては、ブレスに比べるとまだ少ないが、敵が呪文として使用してくることの方が多いだろう。酸攻撃全般に言えるが、敵が使用してきた場合、耐性のない装備を破損する可能性があるので、たとえボルトといえど厄介である。



アシュラム Ashram, the Ebony Knight 【敵】

 黒衣の騎士。和製RPGの先鋒である小説・アニメ・RPG等『ロードス島戦記』シリーズに登場するライバルの騎士。いわゆる”敵国”マーモの暗黒皇帝ベルド(→参照)の側近的な騎士で、ベルドの大人物と考え方に共感しており、その思想をつぐため、後のシリーズでもベルドなきあとの諸勢力の分立したマーモの重要人物として登場し続ける。その名はまとう黒い全身鎧の「影纏い(シャドゥ・ウィルダー)」のためで、これは『ロードス』が最初はD&Dのリプレイであった際、登場時に最上級ルール(黒箱)のみに登場するフルプレートアーマー(プレートメイル以上の鎧)であり、その数々の特典をゲームマスター(小説版作者)が誇示していたことでも知られる。またベルドの魔剣「魂砕き」(→ソウルクラッシュ)も引き継いで所持しており、黒い鎧のみならず魔剣という姿は日本では「黒騎士」のステレオタイプとして現在もしばしば見られたりもする。
 線の細い長総髪という姿ながらも、猛々しい姿勢や発言がよく目立ち、いかにも貴公子・騎士然とした美形悪役にはとどまらない敵役なりのキャラクター性をもつ。マーモ統一のため(海外産バリアントのSBFbandに由来する思い出解説では「地位」も引き継いだとあるが、ベルドのようにマーモをすぐに一人で支配できたわけではない)ドラゴンを狩りアーティファクトを求める二部をはじめ、死んだと思わせて生きている等、いかにも代表的「敵役」のお約束を網羅してはいるのだが、長く出ているだけいったい「誰のライバルであるのか」フォーカスがはっきりしない点もある。その剣技はロードス島有数で、古竜(→エイブラ →ブラムド)を圧するほどであるが、ベルドなきあとのロードス随一の戦士カシューには若干ながら及ばない点が、覇王ベルドと異なり目的を達しきれぬ因でもある。なお、アニメ(OVA)版で追加されのちに小説含めて設定化した女性ダークエルフ、ピロテースと共に、『ロードス』のシリーズに一区切りがついた後は同作者の同世界・別セッティングの『クリスタニア』の地へと渡り、漂流王なるかなり大仰な存在へと推移していくことになるが、あまり*bandに出ているものとは関係ないので略す。
 余談であるが、アシュラムの剣技の特徴は、その初太刀が誰よりも鋭い(おそらく、初太刀のみなら同時に言及されていたカシューやレオナー以上に)ことであり、彼の三の太刀までをしのげれば一流(これもおそらく、ここで言及された3者とも渡り合えるの意)の剣士であるという。こういった描写は、アシュラムが『ロードス』に登場する剣士の中でも特に両手剣使いであることと、日本の野太刀法などの特徴と合致するようにも思えるが、作者がそこまで考慮してこう記述したのかは定かではない。
 *bandでは、SBFbandから[変]に取り入れられたユニークのひとつである。ただしデータはその後にかなりいじられており、特に攻撃力が高くなっている。(なお、上記した相方のピロテースはOVA版を元とするSBFbandには当然存在していたが、[変]にはいない。)階層と攻撃力から考えると、思い出文に沿って、おそらくは魔剣を持っているところを想定されている(本当に魔剣を落とすことがあるベルドが別にユニークにいるにも関わらず)と思われる。特に仲間などは連れてこない。



アゾグ Azog, King of the Uruk-Hai 【敵】

 出典:ウルク=ハイの大王。カザド=ドゥムの僭主。アルダのあらゆるオークの中で、ドワーフらにとって、もとい中つ国の歴史において最も重要なオークの名として刻み付けられるに至った名である。アルダの第三紀、ドワーフが滅亡したモリア(カザド=ドゥム)の入り口付近に住んでいた洞窟オークらの首領格である。
 かつてモリア、また山の下の王国を支配していたドゥリン王家のドワーフらは、それらの国をバルログと黄金竜スマウグ(→それぞれ参照)に追われて、西国を放浪する身になっていた。スロール王は老いはてると、跡継ぎのスライン2世にすべてを任せて、ただひとり従者ナル(→参照)のみを連れて、かつてのドワーフの栄華の地モリアへと彷徨っていった。(彼の持っていた《七つの指輪》が愚行へと駆り立てたとも言われるが定かではない。)しかし、モリアはバルログ以外にも入り口付近にオークらが住み着いており、スロールは捕らえられて殺され、死体の額に「アゾグ」と書かれて侮辱された上、烏の餌にされた。
 ドワーフの中でも最も重要な氏族であるドゥリン王家の王に対して与えられた侮辱に対して、中つ国の全ドワーフが決起し、中つ国の地下世界(アンダーダーク)では9年に及ぶ血で血を洗う恐ろしい戦いが繰り広げられた。最後のアザヌルビザール(おぼろ谷、エルフ語(シンダリン)でナンドゥヒリオン)の戦いで、アゾグはスロールらの遠縁・山ドワーフのナイン(→ナインのつるはし)を返り討ちにするが、ナインの息子の「鉄の足」ダイン2世に首をはねられ、首はスロールの復讐として同様に杭にさらされた。
 ただし、この戦でもドワーフらはモリアについては入り口のオークらを倒したにすぎず、モリアをバルログから奪還するには及ばなかった。また霧降り山脈のオークらが滅亡するのは、『ホビットの冒険』で述べられた五軍の戦い(アゾグの息子ボルグ(→参照)がふたたびダインと対峙する)を待つことになる。
 2012年の映画『ホビット』第一部では、アザヌルビザールの合戦が描写された場面(バーリンの回想)よりアゾグも登場する。ここでは、巨躯に上半身裸で禿頭の超兄貴的な造形になっており、「鉄ですっぽり覆った大きな頭」という原作追補編の描写とは異なる。ここでは、合戦においてスロールの首を打ち(原作では、上記したようにスロールは合戦前にアゾグに殺されている)、樫の楯を持ったトーリン2世の反撃によって左手を奪われた描写になっている。ただし、これでもこの時点では死んでおらず、左手を義手にしてボスキャラ的な位置づけで登場し続ける。このスロール、スラインとトーリンらの親子の場面は、LotR映画第1部冒頭のエレンディルとイシルドゥア親子の場面にもよく似ているが、上述したナインとダイン親子の描写をアレンジの上、持ってきたものと思われる(映画にはくろがね連山のダインの名は出てくるものの、この場面では、原作でアゾグを打ち取ったダインは登場しておらず、映画三部の五軍の戦いで登場する)。第二部以後もアゾグは登場し続け、映画版の代表的な敵役となっている点が原作と大きく異なる。なお、映画メイキングによると、映画のアゾグは原作通り金属を頭に張り付け鎧をまとったものや、狡猾で小柄な年老いたオークなどで撮影までも行われ、相当な試行錯誤の末に原作と異なるデザインとなっている。
 さて、モリアのオークも含む霧ふり山脈の「ゴブリン」は、おそらく第一紀の末にモルゴス軍の壊滅と共に南下し、北方グンダバド山などから広まった一族であると考えられている。*bandで言えば「洞窟オーク」であり、ウルク=ハイ(モルドールのウルクにせよ、サルマンのハーフオークにせよ)の種族とは考えづらい。しかしアゾグの姿の描写は、確かに後のウルク=ハイのそれにも近く、これらの理由からも、*band以外でもアゾグの一族を「ウルク=ハイである」としている文章は何種類かある。大型のオークがおしなべてそうした姿をとりがちであったとも思えるし、ウルク=ハイが大型の戦闘階級の総称であったと考えれば、さほど誤った解釈でもないだろう。
 敵:[V]からアゾグはオーク類、ことに数多く出現するオークユニークの中でも、最大の階層と能力を持ったユニークモンスターとして登場し、*bandにおいては決してやられ役ともいえないオークの総元締めとして、中盤に入ったプレイヤーの前に立ちふさがる。耐性やスピードなどが揃っているとはいえ、アゾグ本人は極端に強いわけではないのだが、ウルクやオークキャプテンなどを引き連れて現れることになるので、対処は行き当たりばったりでは済まないかなりの大仕事になる。また、[O]の特別階やToME, [変]のオークの洞窟の最深層など、イベント的な役割に登場することも多い。アゾグを倒すとダンジョン探索の報酬として、ToMEではアランルース、[変]では氷の指輪が手に入るが、これらには特に出典に確たる由来があるわけではない。

 →ボルグ →アランルース →ウルク=ハイ →洞窟オーク



アダマンタイト Adamantite 【その他】

 「アダマント」は「堅固無比」といった意味であり、炭素結晶鉱物ダイアモンド(以下ダイヤ)の文語でもある(この場合、意味にあわせて「金剛石」の字が当てられることが多い)。しかし、RPGではしばしば、「ミスリル同様の特殊な魔法の金属で、ミスリル以上の頑丈さと貴重さをもつ」という形で別に存在することがある(特に、「アダマンタイト」といういかにも鉱物名の呼び名の場合はそうである)。*bandで貨幣・鎧の材質として登場するのは、後者である(なお、ヘシオドスの詩などの「アダマス」を引いて「伝説の魔法金属とするのはギリシア神話が出典」と解釈されているRPG関連等があるが、これら詩文は単に「堅牢」の意で用いているものである。無論、あえてギリシア神話をRPGのルールに当てはめて逆引きして解釈する場合はその限りではない)。下記するようにややこしいが、結論から言うとこの金属もミスリル同様トールキンが原点であるといえる(ただし、エルフ語であるミスリルとは異なり、アダマンタイトという言葉は英語であり、後発の作品でつけられた名である)。
 『指輪物語』では、まずガラドリエルの持つ指輪《ネンヤ》が「金剛石(アダマント)の指輪」と呼ばれているのが目につく。ネンヤは輪の部分がミスリルだと書かれているので、アダマントははまっているダイヤの石を指し、従ってここでの「アダマント」は単にダイヤの意である。ついで、ヌメノールやサウロンの建造物の土台の素材に「鉄石(アダマント)」の字が見える。これはそういう魔法的な金属を表しているようにも見えるが、原語では単に「堅牢な土台」の意で使っている可能性もないでもない。
 むしろ重要なのは、トールキンではミスリル同様の特殊な金属としては、ただひとつ明記されている「ガルヴォルン」という金属である。『クウェンタ・シルマリルリオン』で闇エルフのエオルが作り出した、黒曜石の輝きを放つ堅牢な金属で、直接アダマンタイトとは呼ばれていないが、後のAD&Dをはじめ、「アダマンタイト」のイメージの明確な原型である。
 AD&Dでは1stの最初期のDragon Magazine誌上にて、金属アダマンタイトの詳細な設定が記された。それによると、鋼鉄・炭素・ミスリル・その他エキゾチックな鉱物の合金であり、ドロウ(AD&D独自の闇エルフ種族だが、特に後出の設定ではトールキンのエオルと共通点が多い)が好んで用いる。ただしドロウが地下で作ったものに限ると、日光に触れると激しく劣化する(これは、『指輪物語』のモルグルの刃も彷彿させるが、ゲーム的に言えばプレイヤー側がドロウの強力なアイテムを安易に使えないようにするためである)。ドロウ以外の製造したマジックアイテム素材など、特にそういったペナルティーはないこともあるが、そうしたアダマンタイトの品は極端に希少である。のちのRPG作品(日本では『ファイナルファンタジー』が代表である)に登場するアダマント・アダマンタイトはこのAD&Dのものから派生しているようである。(なお、D&Dでも3ed以降では、英語やトールキンのアダマントと区別するためか「アダマンティン」という発音になっている。)
 最もややこしいのが[V]が直接参照している、RPGのICE社の設定である。まず、《ネンヤ》に使われている「アダマント」はダイヤではなく、ダイヤによく似ているがノルドールが作り出したもっと貴重な宝石、となっている。次に、エオルの作り出した合金として、「ガルヴォルン」の他に、それより少しは希少さでは劣る「エオグ(エオル鋼)」という魔法金属を設定している。エオグは「鋼鉄・炭素・ミスリル・その他神秘的な物質」の合金であり、一部のエルフしか作れない。ガルヴォルンは「隕鉄と謎の物質」の合金と設定され、こちらに至ってはエオルとケレブリンボール、フェンドーメの3人しか作れない。なお、トールキンの原典には「グアサングやアングウィレルの剣は隕鉄から作られた」「エオルはガルヴォルンという最硬の素材で鎧を作った」という別々の記述しかなく、「剣の隕鉄の素材=ガルヴォルン」とは書かれていないが、ICEではこれらの剣の素材=隕鉄の素材=ガルヴォルンと同じものとして設定されている。
 さて、*bandのアダマンタイトについては、ミスリルよりも上位の素材として登場するので、ダイヤのことではなく、AD&Dのように、「ミスリルよりも上位の金属素材」を指していることは確実である。それでは、*bandのアダマンタイトが、例によってICE社の設定に照らし合わせると、エオグとガルヴォルンのどちらであろうかを考えると、アダマンタイト製プレートメイルの解説([O], [変])によると、中つ国で最も堅牢かつ精緻な防護とあるので、最硬の金属ガルヴォルンに思える。が、ミスリル等に比してもガルヴォルンは貴重すぎ、武器はともかくも貨幣や土台に使えるような品ではない。エオグの方は*bandのアイテム説明やモンスターの思い出に頻出する。エオグはICEの設定では「赤」と「白」があるというのだが、*bandには他に「黒のエオグ」という記述が出てくるため、アダマンタイトのイメージに合致しないでもない。どちらとも言い切れないものがある。

 →ネンヤ →エオル →ダークエルフ



アーチ・ヴァイル Arch-vile 【敵】

 vileは「堕落、不浄、不道徳」といった意味で、悪魔系のモンスターでVileやArch-vile(聖書の慣用的にはArchは「アーキ」と発音することもあるが、この[Z]和訳は原作者に聞いたものという)といった名がつけられたものはRPGにはしばしば登場する(初代Rogueの、俗にアスキーネット版と呼ばれるPCバージョンでは、'U'には'Ur-Vile'というモンスターが当てられていた。なおローグ・クローンではUr-VileではなくUnicorn「一角獣」であるが、これはUNIXのオリジナルローグのBlack Unicornから取られている)。
 しかし、[Z]以降登場するアーチ・ヴァイルは、シューティングゲーム'DooM'からじかに取られた同名のモンスターである(サイバーデーモン、「ロケット」やアイテムネタ等、[Z]にはDooMから取られたものも多い)。DooMのアーチ・ヴァイルは敵を復活させる能力と、非常に早く動き、火球を連発してくる厄介な敵である。
 [Z]以降*bandでのアーチ・ヴァイルは、まさしくこれが再現されている。ANIM_DEAD能力も一応持っているが、何よりその階層としては圧倒的なスピードで、ファイアーボール魔法を連発してくる。感知を怠る、火耐性が抜けている、脱出を怠る、などのミスを行った初心者〜初級者を容赦なく葬り去ってくれる。初級者の死因の上位であるばかりでなく、かなり強くなったキャラクターにとっても、(装備を燃やすなど)かなり鬱陶しい敵である。また「破滅のクエスト1」の最後に待ち受けていることでも有名である。準備を整えて戦いたい。



アーチャー Archer 【クラス】

 出典:弓兵の意義やその歴史に関しては専門のサイトでも参照されたい。一般にRPGにおいては、弓矢の使い手とは別に接近戦要員がどのみち必要となるので(これは「前列」が必要であったり、あるいは狭い場所で戦う場合が多いといったさらに直接的理由であったりもする)弓矢やその使い手は副次的なものとされる場合が多い。そのためか能力自体も実際のものから推測されるものより低いことも多い。また大体精度重視の軽戦士となる点が、力押しの爽快感を得られないので海外発のRPGでは一段劣って見られるのかもしれない。いかにも繊細な点から女性キャラにうってつけだと思われるのだが、和洋問わずそれほど多いわけでもない。
 しかし、映画版LotRのレゴラスの活躍などによって、アーチャーの地位は着実に上がりつつある。レゴラスは弓技のみならず、接近戦の剣技(体術)にも秀で、さらに弓でさえ近接戦闘を弱点としない、超近距離(ポイントブランク)射撃、ゼロ距離射撃、矢をじかに手を持って敵に突き刺す(RogueやNetHackではよくやる。というか操作ミスでたまにそうなる)など、TRPGで「プレイヤーがやりたいと言ってゲームマスターに即座に却下される行動」の定番の数々を目白押しに実行している。(なお、D&D 3edではこういった行動のいくつかは追加ルールの射手専用上級クラスで普通に可能になる。)
 よくアーチャーとレンジャーが結び付けられるのは、精度重視と軽装の相性がよく、また大雑把には弓が主に野外兵器であり、具体的には隠密能力などで隠れて射撃するという戦法が有効なのでレンジャーの能力が有効なためである。しかしレンジャーの能力はこれよりさらに広範な意味を持ち、決してアーチャーとはイコールではない。レゴラスは日本のファンが決まって分類するようなレンジャーではなく、「弓をはじめとする戦闘技能に極度に特化したファイター」と解釈すべきのようである(MERPの設定や、またD&Dのデータ化でも例外なくそうなっている)。
 クラス:*bandではToMEおよび[変]がともにアーチャー・射手を独立したクラスとして導入している。「戦士」と同様で射撃の側を重視したクラスという位置づけであるが、また接近戦能力も魔法戦士系(魔法戦士や超能力者など)より若干上、レンジャーや赤魔道士と同等であり、まさに映画版レゴラス気分を味わうには十分すぎるほどである。また射手には弾丸補給というのは非常にリアルで切実な問題であるが、アーチャーは骨から矢を作る能力もある。
 また、初心者に向いていると言われる一因に、打撃は1ターン分の打撃を一度のコマンドで行ってしまうが、射撃は毎回コマンドを入力するので、攻撃対象を分けるも自在であるし、何よりコマンド入力機会自体が多いので、ミスをした場合中断する機会も多いことが挙げられる。
 実際のところ、Moriaや[V]の頃から、*bandにおける飛び道具は威力、戦術的にきわめて強力であり、元々レンジャーでも射撃だけで乗り切ることもできるくらいのバランスであったため、戦士をそのまま射撃化するという位置づけはかなりあやういバランスをもたらしていると言える。また、敵を目視すると位置などをとらずひたすら射撃するばかりというプレイングスタイルや、弓のアーティファクトの選択肢が狭いことなどで極度にプレイが「単調」であるという声も多いが、こうしたクラスだと思う他にないだろう。



アーティファクト Artifact 【システム】

 『「人工物・人造物・作為現象」という意味だと知ってがっかりした』という発言が、いっとき(主に大学サーバに置かれた)Roguelike系の日記に氾濫したことがあった。しかし、現代の自然科学のアカデミックでは確かにそういう意味であるが、一般語としては(日常で使用されることは、学術方面に比すれば皆無としても)「工芸品」という意味であり、優れた手技に対するニュアンスも持って古来より使用されてきた言葉である。
 artifactは物品を示すものとしてはやや格式ばった表現であるが、ヒロイックファンタジーにおいては、伝説的物品を示す語として初期の作品から普通に見ることができる。また、magic itemが「魔法使い系」の力の物品であるのに対し、artifactは「聖職者系」の物品(祭器)というニュアンスで使用されることもある。
 クラシカルD&D・AD&Dにおいては、アーティファクトとは個人の強さの範囲を超えた、「エピックのストーリーを左右するほどの強大な物品」を指す(ちょうど力の指輪や、ストームブリンガーのように)。ルール的には、神々によって作られた「唯一つしか存在しない(他のマジックアイテムが、いわばエゴアイテム名であり、その名のアイテムが多数存在するのに対して)強力な物品」と定義される。(神の作ったという点が、上のヒロイックファンタジーでの用法に対応する。)アーティファクトはすべて人間以上に強力な「自我」を持ち、独特の手段(例えば、《一つの指輪》は鍛えられた火口に投げ込まなくてはならないのと同じような)以外では破壊できず、また使用することはほとんどがトレードオフ(利害の両方がある)であり、定命の者が使用することには必ずペナルティーやハンデを伴う(ストームブリンガー(→参照)も思わせる)。ただし、D&D 3eではこの定義が大幅に変わり、プレイヤーもアイテムを自由に製作できるようになった3eでは単に「プレイヤーが作れないほど強力な物品」がアーティファクトと定義される。
 AD&D1stのDungeon Masters Guideには、固有の名前と設定を持った「ユニークアイテム」としてのアーティファクトが何種類か挙げられている(有名な『ヴェクナの目』『ヴェクナの手』などが代表である)。これらは単なる例示ではなく、実際にこのユニークアイテム自体もゲーム中で使用される可能性がある(プレイヤーキャラが入手したり使用する機会がありえる)ものとして記述されている。ただし、この1st-DMGのアーティファクト群は、ユニークアイテムにも関わらず、その性能(プロパティ)は固定ではなく、何種類かのリストからDMが任意に(またはランダムに)ピックアップして使用するようになっている。これは、たとえプレイヤーがDMGを読んでいてそれらのアーティファクトについて知っていたとしても、ゲームに出てくるまでどんな性能かはわからないようにするための仕掛けである。DMGの著者でD&Dシリーズの作者でもあるE.G.ガイギャックスには「プレイヤーを意外性に驚かせるような仕掛けを用意していなければならない」という思想が頻繁にみられるが、これは端的なひとつといえる。*bandのアーティファクトや、その派生のDiabloシリーズのユニークアイテムが、おおむね固定の能力でも一部はランダムに決まる能力を持っていることがあるのは、単にランダムアイテム生成自体がAD&D1st以来海外RPGにありふれた発想だという言い方も可能ではあるのだが、この1st-DMGにおけるアーティファクトの位置づけを強く意識しているというのも大いにありえることであろう。
 他のRPGでは「アイテム」と「アーティファクト」とを区別することは少ない。プレイヤーの手には余るほどの物品、ストーリー的意義の大きい品は、実際のプレイでは「イベントアイテム」のように処理されてしまうことが多いためでもある。
 NetHackに登場するアーティファクト(武器や武器以外)はだいたいAD&D 1stの位置づけに従っており、性格によるバックファイアを受けたり「発動」のルールも同じである。ただし、D&D系とて神に生贄を捧げれば即座に現れたり、水につけたり名前を刻んだり間違って店で手に入ったりすることはなく(ダンジョンマスターが計画的にそういう出し方をすることは考えられる。特に賜物)持つだけでペナルティーがあるというほどではないので、むしろ物品自体は3eに近いかもしれない。
 *bandでは、Moriaではなかった要素として[V]から導入された。『指輪物語』や他トールキン作品の物品が登場するという点で、ユニークモンスターと共にAngbandの売りのひとつである。もっとも、名前があるアイテムならば、さほど強力とは思われないもの(および、トールキンに記述がない上にかなり弱い)物品も多数あり、NetHackに増して、神の武器云々ではなく単に「固有の名前がある、唯一しか手に入らないアイテム」を何でもアーティファクトと呼んでいるようである。[V]のものはトールキンに由来するものの他、ICE設定のもの、まったく不明のものなど多数で法則性はよくわからない。他のバリアントでは無論のこと、ベースとなった作品(およびベースがないこと自体)に従って様々なものが加わる。
 一般に強力な性能を持ち、またエゴアイテムの規則に従わない耐性や能力を多数持ちうるというのがアーティファクトの売りのはずだが、「ある目的に確実に使える性質を揃えた」エゴアイテムに対してさほど有利ではないものも多々ある。さらに、[V]最新版やほとんどのバリアントには「ランダムアーティファクト」という、名前と能力がランダムに形成されるものが登場するが、これらはさらに能力が無脈絡な場合が多いので往々にして使えない。元々[V]以来、固定アーティファクトにも弱すぎて使えないものが多く([変]に関しては筆者にも一因があるのだが)無駄が多いバランスと、アーティファクトの地位向上のために何とかしたいという話題はしばしば上る。[O]やEyAngbandなど、調整を図っているバリアントもある。



アデュナフェル Adunaphel the Quiet 【敵】

 第7位のナズグル(指輪の幽鬼)。静なる者、レディ・アデュナフェル。ドル=グルドゥアの参謀。唯一の女性のナズグルで、アングマールの魔王および盲目の妖術師アコラヒルと同じヌメノール王族、トールキンが「ドゥネダインの王族出身のナズグルは3人いる」とだけ設定していた、その3人の最後のひとり。トールキン設定には第3位以降のナズグルの設定も、3人がドゥネダインだったという以外の種族の内訳の設定も、性別の設定もないが、MERPやME-TCGのICE社の設定に従って多くのファンに認識され、Roguelikeにも登場する名前である。
 MERPの設定では、アドゥナフェルはヌメノールの島に生まれ、宮廷では淑女としてまた詩人として知られていたが、野心をもち中つ国に渡り、港湾都市ウンバールと遠ハラドを治める女君主となる。やがてそれらの領土がヌメノール本国と対立し、彼女はサウロンと結ぶことになる。かように、女性ナズグルの吟遊詩人というイメージから想像するほどには劇的ではない(あくまで比較的にだが)生涯である。ウンバール自体は本国に奪回されて以後はヌメノールやゴンドールの支配下に置かれ、第3紀後半のアドゥナフェルはその地を離れ、なぜか第2位の東夷カムールと共にもっぱら北の闇の森のドル=グルドゥアを守る役についていた。この世界の女王としてはさほど長身ではない180センチあまりで、黒髪に黒い鎧をまとっていたという。MERPの設定では第3〜9位に共通する30レベル代で、クラスは「吟遊詩人」となっている。
 *bandでは[V]系ではユニーク、[Z]系では7体限定のノーマルモンスター版ナズグルの方に入れられているのだが、たとえユニークであっても他のナズグルと比べて特記するようなデータでもなかったりする。設定ともども印象の薄さと相まって、美女ユニークとしては『フィオナ』と比べると圧倒的に分が悪い。

 →ナズグル →カムル



アトラク・ナクア Atlach-Nacha, the Spider God 【敵】

 旧支配者。クモ神。巨大な網を紡ぐ者。夢幻紳士怪奇編その12。巨乳比良坂。祥子さまコンパチ。通常は(『クトゥルー』邦訳やCoCルールブックなどに従って)「アトラック・ナチャ」と表記されることがかつては最も多く、またアトラナートとも呼ばれる。クラーク・アシュトン・スミスによる、古代ヒューペルボリアを舞台にした典型的”幻想小説”、『七つの呪い』に登場する小神。ツァトゥグァと同じン=カイの地のさらに深い地下に住んでいる小神で、うずくまった人間ほどの大きさを持ち、黒い毛に覆われた蜘蛛のような体にどこか人間と共通点のある頭、小さな赤い目を持つ。
 ただ一体で、ひたすら延々と地下に巨大な網を張り続けている存在で、部下も人間の信者も持たない。針のように鋭く突き刺さるような甲高い声で人間の言葉を話し、網をかけること以外の仕事には興味も持たず、人間にもさほど関心を持たない。『七つの呪い』でも、害をなしたりする邪神のたぐいというよりも、通りすがる奇妙な生き物の一種というところで、スミス作品としては例によって、クトゥルフ神話云々よりもエキゾチックで謎めいた古代神の一種として読めるところであろう。ただし、「網をかけ終わった時に世界が終わる」等といった解釈がいわゆる旧支配者的宇宙観の設定として一般に知られている。この姿と能力にもかかわらず「蜘蛛とは無関係の存在」と説明されていることも多いが、一方で単純に「蜘蛛の支配者」と見なされていることもある。
 *bandでは[Z]から登場するが、単純にアルダの大蜘蛛であるウンゴリアント(→参照)を改造したデータになっている。能力もごく細部(腕力減少打撃、デーモン召喚の追加など)を除けば全く同じである。スミスの原典には具体的な能力の描写はまったく無く、それ以前にこれほどまでに深層で強力な存在とするような根拠もまったくないので(CoCルールブックでもさほど能力的に強力な方でもない)単純にウンゴリアントの改造という理由のみでこれほど深層になってしまったのであろう。なお腕力減少はCoCルールブックのデータの反映のようである。

 →ウンゴリアント



アトラス Atlas, the Titan 【敵】

 出典:ギリシア神話において、ゼウスの伯父伯母とその子孫ら「タイタン」の一族は、ゼウスの勢力と激しい闘争を繰り返したが、ことにゼウスの新政権の樹立の前も後も、常に目立った反逆者となったのが、ゼウスの伯父「イアペトス」(SF肌には『2001年』原作に登場した「ヤペタス」という発音の方が聞きなれているかもしれない)の一族とされる。イアペトスとクリュメネ(オケアネス、深海のニンフの一体)の息子らが、人間に火を与えた策士プロメテウス、人間世界を目茶目茶にしたエピメテウス(実行者は妻パンドラだが)そして樹立戦争で激しく戦った強者アトラスである。イアペトスの子らは、それぞれがゼウスを上回る英知もしくは力を備えていた厄介な存在であったといえる。
 このうち長兄アトラスは、ゼウスの勢力に敗れると、天と地の間に立って、永遠に天を肩に乗せて立つという任を課せられた。これは罰であり強制でもあるが、一方で天(ウラノス)と地(ガイア)が再び共謀してゼウスを脅かすことがないよう、彼らの出会いを妨げる任についている、という意味とも解釈できる;かつてウラノスやクロノスが玉座を追われたのも、ガイアの陰謀によるものだった。なおアトラスの娘らがプレアデス(昴)とヒアデスという女神らであり、プレアデスの一人マイアが、ヘルメスの母にあたる。ヘルメスは逆臣の一族であり、オリンポス神族のトリックスターでもあるわけである。
 さてこの天地を支えているというギリシアの説話から、アトラスという巨神は天地そのものである、また天地をあまねく傍観するものである、とされ、そのため地図や遺伝子地図、図表一覧、データ一覧に至るまで、「ある物の図表・全体像を網羅的に示した書物」が、「〜アトラス」と呼称されるのは一般的になっている。例えば『中つ国歴史地図』がAtlas of Middle Earthとなっているのは、ギリシアとトールキンが混ざっていて考えようによっては妙な感覚も覚えるが、つまりはatlasというのは、それほど普通の英語、完全な「一般名詞」であるということである。
 アトラスといえば無論、漫画『鉄腕アトム』におけるアトムのライバルロボットへの言及を避けるわけにはゆかないが、最大の巨人(アトム=「小さな者」に対照)であり、反逆者(人間社会にも、作り主にも)である以上他には考えられない命名であろう。
 CRPGでは、神話系の敵として登場する以外には、『ドラゴンクエスト2』の中ボス、いわゆる「悪霊の神々」の一体にアトラスの名を持つものが現れるのが有名かもしれない。DQ2のアトラスはサイクロプスの外見に純然たるパワー系の能力など巨神としての由来を思い出させるものになっている。いずれも(DQには珍しく)直接実在神話の名を持つ悪霊の神々は、単なるモンスターの突然変異巨大種に深い意味はなくそれらしい固有名詞がついているだけだとか、破壊神シドー同様に大神官ハーゴンが呼び出した邪神であるとか諸説がある。後者の説の場合、アトラスのようなタイタンというのはギリシア神話上はオリュンポス神に敵対した魔神であり、信仰上淘汰された古代神としての性質も、単なるありふれた悪神・悪役神を持ってくるよりも妥当な選択ともいえる。
 敵:ToMEやEyAngband, [変]など多くの発展型バリアントにおいて、深層の敵として登場する。巨神族最大のスケールにふさわしい、最深層級の強力な耐久力と、混乱打撃(タイタンに共通する。混沌から生まれ出た者らである現れである)と地震打撃でいずれも高いダメージを持ち、壁を掘り進んで追ってくる。魔法などは一切用いない。ジェラードなどと同様の完全なパワー系である。さっさと逃げるのでなければ、ひたすらに正攻法でなんとかするしかない。

 →タイタン



アドレナリン・ドーピング Addrenaline Channeling 【その他】

 アドレナリンは動物に運動が必要な状態(危機が迫った際や、捕食が必要な際)に分泌され、運動器官への血液供給を増やすように作用する等、一般に運動能力を増大させることで知られる。フィクションにおいて、これを含む内分泌の作用で能力を増大させる、肉体を変容させる(ある程度リアルなものから、ここから発想のみ得たとしか表現のしようのない荒唐無稽の域に達するものまで)といった小道具は、現代や近未来といった現代に近いテクノロジーないし比較的等身大のヒーローなどに頻繁に用いられる。「アドレナリン」という言葉はフィクションにおいて、比較的リアルな内分泌の小道具の代表や、しばしば代名詞同然に使われる側面がある。
 *bandに登場するクラス「超能力者」のパワーのひとつ、アドレナリン・ドーピングは、AD&Dの選択ルールであるサイオニック・ルールにあるパワーのひとつAdrenaline Controlに由来していると思われる。これはサイオニシスト(サイオン)が自分の肉体を変容させる、サイコメタボリズムと呼ばれる分野のパワーのひとつで、「能力値」を一時的に増強させる効果がある。この分野には他には肉体を大きく変形させる・武器にするといった著しい効果のものが揃っているのだが、アドレナリンのコントロールというのは、その中では比較的地味に見える上、なにも「超能力でなければ再現不可能」な効果というわけでもないように見える(実際のアドレナリンといえるようなリアルな効果ではないが、わざわざ選択されたアドレナリンという名前に対しては、そういった印象を受ける)。実際のところ、サイコメタボリズムがアメコミの超能力者・ミュータントのヒーローを意識したような分野にも見えることからも想像して、いかにもそうした現代や未来風のヒーローが用いそうな効果、さらには、他の魔法やファンタジー的要素に対してサイオニックに「テクノロジー」的な印象を与えるために、純然たるイメージでつけられた名・設定されたパワーではないかとも思われる。
 *bandで[Z]以来「超能力者」のパワーとして存在するアドレナリン・ドーピングは、恐怖や朦朧のような精神的な不利を取り除き、ヒーローとスピードの効果を与える。上記のように、アドレナリン云々の実際の効果というより、超能力によってより強力な効果を持つ物質(ダイビング・アシッドというところか)を肉体に与えたり、同様でより強力な効果を再現するとでも考えるべきかもしれない。特に直接攻撃も重要になってくる超能力者にとって、なくてはならない補助パワーである。



窖(あなぐら)の怪物 Crypt Thing 【敵】

 このややこしい字面から例によって、「窖に棲むもの(→参照)」等と同様、特定のホラーなどのややこしい作品のややこしい邦訳での訳語に由来しているのではないかと予想されていることが多いが、特にそういうわけでもない。*bandのクリプトシングは、基本的にAD&Dの同名のモンスターのデータから直接採られているものである。AD&Dのクリプトシングは、特定の墳墓を守護するという役割を持った怪物で、墳墓にこもったり守ったりする死霊や、『指輪物語』の塚人(→ワイト)などを参照したとおぼしき典型的なイメージの悪霊である。その姿はローブを着た骸骨というそれらしいもので、中レベル(マミー程度)のアンデッドであり、アンデッド的な特徴(精神呪文が効かない、魔法の武器が必要等)をのぞけば別に強力な特殊攻撃などは持っていない。しかし、 その最大の特徴はやはり「墳墓(場所)を守る」というものであり、墳墓に侵入してきた者(冒険者パーティーなら全員)を、1度だけ強制的にテレポートで追い払うという力を持っている。塚人のように先祖霊であることもあるが、ほとんどの場合は魔法使や聖職者が「作成」するガーディアンであるという。さほど重要な怪物ではないが、単にその見た目がいかにも「アンデッドの典型」らしいので、引き合いに出されることは案外多かったりもする。
 *bandでは[Z]とそのモンスター表をそのまま引き継いだ[変], ToMEなどに登場する。原典通り、多彩なテレポートの呪文、特にテレポート・アウェイや強制テレポートレベルなどを持つことが大きな特徴である。とはいえ、同じシンボルのリッチ系のモンスターもほとんどテレポート系の魔法も完備しているため、結局はいっしょくたなものと覚えられてしまっていることが多い。普通のノーマルモンスターの「リッチ」より若干レベルが高いので、そのぶん原典より強力な扱いになっているとはいえる。



アナリオンの金属製ラージ・シールド The Large Metal Shield of Anarion 【物品】

 アナリオンとは、中つ国のドゥネダインの南方王朝の祖であり、ヌメノールから共に脱出してきた上級王エレンディルの次男であり、即ち、イシルドゥアの弟にあたる。アナリオン(太陽の子)とはイシルドゥア(月影)と対をなす名である(アルダでは太陽より月、金より銀が先にくることが多い)。中つ国に来てからは、エレンディルらと共に人間とエルフの最後の同盟の戦いに参加し、サウロンと戦ったが、バラド=ドゥアの包囲戦でアナリオン自身は戦死した。南方王朝ゴンドールはその子孫が継いだが、やがて第三紀の2050年にエアルヌア王が消息不明になって以来、アナリオンの子孫の王家は、分家も含めて完全に絶えてしまった。北方王朝の子孫エレスサールは「宗家」(イシルドゥアの子孫)であることをもって、ゴンドールをも統一したわけである。
 実は映画版LotRでは、アナリオンが言及されないだけでなく、存在自体が削られているという、かなり重大な基本設定の改変がある。例えばFotRの「いかんざき」のアルゴナスの二体の巨像は原作ではイシルドゥアとアナリオンだが、映画版では父エレンディルとイシルドゥアという設定になってしまっている。しかし実際問題として、アナリオンの削除はさほど致命的な変化はもたらさない;例えば、原作では、ゴンドールの執政デネソールがエレスサール王の帰還を拒絶する理由のうち、最も大きなひとつに「アナリオンの子孫以外は王と認めない」というものがある。だがそれ以外の理由、長い間ゴンドールや執政家の守ってきた姿勢への保守や、北方王朝の血筋への不信、自身の錯乱(もっとも映画上映版ではパランティアによるという描写がないので弱いのだが)などだけでも、動機が弱いとはいえ、納得することは可能である。原作ファンはしばしば、映画でアナリオンが削られていること自体に気づかないことがあり、どんな些細な設定も欠かせないとみなす指輪ファンの慣習としては滅多にないことである。それだけ改変自体に違和感がないということだが、元々アナリオンの存在自体が、イシルドゥアに比べて極度に薄いという点があるだろう。バラド=ドゥア包囲戦で、投石の流れ弾に当たって死亡という、アナリオンの非常に地味な最期の影響も大きい。
 アナリオンの盾は原作には記述がない。一応MERPには相当する品はあるが、エルフ語などの名前はなく、かけられた呪文を所持者のレベルが充分ならば使い手に跳ね返すという力があるが、*bandのものとはあまり関係がなさそうである。*bandのものは、イシルドゥア鎧とあわせて「アラゴルンとそのご先祖様シリーズ」の一品としての性質が強いのだが、基本耐性とランダム上級耐性のほかに「全ての能力値の維持」という能力が非常に目立つ。特に[Z]以降では維持でも防げない能力低下が多いので頼り切ることはできないものの、場合によっては非常に重宝する品である。



アヌビス神のカタナ The Katana of Anubis 【物品】

 アヌビス神のカタナは荒木飛呂彦の漫画『スターダストクルセイダース』に登場するスタンド、もとい物品である。「スタンド」とは所有者特有の超能力を持った守護霊のようなものであるが、これは500年前の刀匠キャラバン・サライのスタンドが刀に乗り移ったものである。スタンドには、個人の超能力という形のもの以外にもこうした変則的なものが後のシリーズにも若干登場するが、スタンドが本人の死後独立する、というより、本人の意識がスタンドと混ざり合って、なんらかの媒体を新たな本体(肉体)としているようなものなのだろうか。
 『スターダストクルセイダース』に登場するスタンドは当初はタロットの大アルカナの名を持っていたが、少年漫画誌の都合による延長のためなのか何なのか、後半にはこの作内でのタロットのルーツであるともいわれる「エジプト九栄神」の名をもつスタンドが登場していた。冥府の神アヌビスの名をもつこの妖刀は、セオリーのごとく刀を抜いた者を実質上乗っ取り活動する。漫画内ではエジプトの農家の青年や床屋、子供などを乗っ取って主人公一行を襲った。そのまま切りかかって攻撃するが、いわゆる特殊能力(スタンドパワー)としては、斬る対象を選択することができ(つまり、壁などを斬らずに透過することも可能である)また戦った相手の特性や力を(刀が)正確に記憶し、同じ相手には(次の持ち主が)負けないという、あまり関係ないように見える二つの能力を持つ(透過の方は「スタンドはスタンドでしか傷つけられない」というルールから、通常物質を透過するスタンドの汎用的な能力とも思われるが、この能力で攻撃対象を細かく選択するスタンドの描写は他にはあまりない)。なお、どういうわけか地域にそぐわず「日本刀」のような刀身の形状をしているが、いわゆる「妖刀」のイメージを持つ品であるためと考えられる。
 *bandでは、[変]に次々と物品が追加されていた当時、スタンドのひとつであり「物品」としては不自然な『シルバーチャリオッツ』(→参照)が追加されたのを見て、筆者が[変]開発掲示板でたまたま「アーティファクトだったらアヌビス神の方がそれらしいような気がする」などとつぶやいてみるテストであったところ、次のバージョンを見たら本当に追加されてしまっていた。重い呪い、反感がつき、村正同様「妖刀」的にアーマークラスの低下がある。殺戮修正は超一級で4回打撃追加という結構な威力があるものの、基本的には呪いのアイテムである。強力であること以外には、さほど上記のスタンドパワーを反映した能力があるわけではない。



アブホース Abhoth, Source of Uncleanness 【敵】

 外なる神。不浄の源。定かならざる宇宙の父にして母なるもの。C.A.スミスの創作した超自然的存在で、いわゆるクトゥルフ神話の重要神とされている一体である。古代ヒューペルボリアにおいて、地球の地下奥深くの洞窟に蠢いているといわれている。灰色の汚泥のような塊で、常に体が膨れ上がり、細胞分裂のように「アブホースの落とし仔」が生成されているが、大半はアブホースがのたうち伸ばす粘体の手にふたたび取り込まれてしまう。しかし逃れ出すものも膨大な数にのぼり、それはどんな形状や大きさにも成長しうる。その仔らが充分に成長したものはアブホースによく似た小神になるなり、独立した怪物、ひいては旧支配者にさえもなりうる。そうした神々すらも生み出す元となる大神の一体である。
 変幻自在の性質は主要な旧支配者ツァトゥグァ(→参照)とその落とし仔に似ていることから、同じスミス作のツァトゥグァと関係あるなり(ただし、ツァトゥグァは土星から飛来し、地球で生み出されたわけではないので、直接アブホースの子ではない)ひいてはアトラク=ナクアのような地下に住む旧支配者の祖であるとか、かれらの住む洞窟はすべて繋がっているといった説もある。
 姿にせよ性質にせよ、同じスミスの作によるウボ=サスラ(→参照)と非常によく似ている。ウボ=サスラが直接、人類をはじめ地球上の生物の組織の元となったのに対し、アブホースは異質で、超自然的生物だけの祖であり、また人間の信奉者を持たない、といった点を別にして考えても、あまりにもキャラがかぶっている。ダーレスがラヴクラフトのクトゥルフやスミスのツァトゥグァとまぎらわしい「クトゥグァ」という名前を造ったケースもあるが、それならばまだしも、これは同じスミスが姿も名前もまぎらわしい代物を二体作っている。上記のスミスの神々は推測されている通り強い血縁関係にあるなり、また無理やりに解釈するならば、かえって名前も似ていることから、どれかが重なった存在の別名なり化身なりといった考え方もできるだろう。
 *bandには[Z]以降登場するが、[Z]ではシンボルが'J'(爬虫類)になっており、これは間違いなく'j'(粘体)のタイプミスである。ToMEでは'j'に直されているが、[変]では[Z]のままを踏襲されて直っておらず、[Z]でも2.7.2に至ってもまだ直されていない。クトゥルフ系をよく知らないプレイヤーを存分に混乱させて余りあると思われる。データ自体は主要な外なる神だけに、深層のクトゥルフ系ユニークの一体である。その仔を生み出すという設定からか、上位の召喚魔法が豊富にそろっているのが特徴かもしれない。粘体であるにもかかわらず、耐久力も決して低くない。



天翔龍閃 あまかけるりゅうのひらめき 【その他】

 マンガ・アニメ『るろうに剣心』に登場する、主人公の剣心が遣う飛天御剣流の最高奥義であり、超神速の抜刀術と、その際に生じる気流で敵の体勢を崩し二太刀目を見舞うこともできる二段構えの技。
 最初の抜刀は逆足を先に踏み出して、余計に一歩踏み込むことで超神速を実現するといういかがわしい説明になっているのだが、これは、剣心のモデルである幕末の剣客「河上彦斎」の説話が元になっていると考察するファンが多い。彦斎は我流に近い抜刀術を用いたが、それは抜刀の際に逆足を踏み出して姿勢を非常に低く落とし、大きく円を描くような動きで斬撃の勢いを増し、小柄のハンデを補ったとのことである。
 [変]の剣術家の技のひとつがこれから取られている。が、移動しながらその間にいる敵をなぎ倒すという、全く関係がない効果の技にこの名前がついている。天翔龍閃でなければ、剣心の普段の戦い方の動きを髣髴とさせる技ではあるのだが……[変]掲示板では、別の技の名をつけようと提案されたこともあったが、適切な技が『るろうに剣心』をはじめマンガ・アニメ等に見当たらないため、そのままになっているようである。
 筆者の考えでは、実在の流派から新陰流の金毘羅坊(陰之霞)の刀法か、比較的ポピュラーでイメージしやすいものとして薬丸自顕流の立木打(撃廻)が相応ではないかと思える。が、(別の項目でも述べるが)剣術家の技の名はマンガ・アニメ由来の雰囲気でこのとき既に定着していたので、かえって浮くと考えてあえてこの時も以後も提案していない。



天の沼矛 The Awl-Pike 'Ama-no-NumaHoko' 【物品】

 日本神話の創世(国産み)に現れる品。実質上の創世神であるイザナキ(ギ)・イザナミの両神に、それ以前の代の天神が国を作り固める道具として授け、両神がこの矛で海をかき回し、滴り落ちた塩が固まり淤能碁呂島(オノゴロシマ)となる。この最初の神話的な島に両神がおりたち、国産みの舞台とする。アーティファクト解説にあるように『古事記』の記述だが、『日本書紀』でもおおまかには同じである(矛は「天之瓊矛」となっている)。
 「天の沼矛」は神話では通常「あめのぬほこ」と読み(例外もあるが「あまの」と読むのは「の(之)」が入らない場合である)「ぬ」とは珠の意であり、すなわち本来は装飾の施された矛の意であろうとされる。そのためもあり、神話題材の像画などでは、珠で飾られた矛として描かれる場合も多い。なお非常に大雑把には、柄に穂先の部品を「差し込む」形の「槍」に対して、穂先の金属(など)の部分が柄に「覆いかぶさる」形になっているものが「矛」である。
 矛を突きたて潮が滴ったというくだりは、生殖行為の比喩とも言われるが、この神話は海を攪拌し、塩たまりができ、さらにその島に住んで普通に子作りをするという無闇やたらと多い段階を踏む。両神以前を含め、さまざまな民族神話の特性(混沌から開闢・浮上する、大地をこねあげる・種を蒔く・島や魚をつなぎとめる、洪水後の孤島に男女が流れ着く、等)がちぐはぐにつぎあわさったようなこの創世は、結局のところ多くの民族に起源をもつ日本において、数々の神話ないしその概念が混合した結果であることを特に強く想像させる点である。
 天沼矛そのものは、実際の武器としては目立った品物ではないが(国産みの最後にイザナキが使う武器としてすでに剣が現れる)引用される例としては、日本神話に登場する武具、それも創世に関わる重要な品であるため、ゲーム等に強力アイテムとして登場することは珍しくない。なおAD&Dではイザナギ・イザナミの武器となっている。Izanagi's lanceは塩を凝固させるため、これで刺された者は血液が凝固し死ぬという、神話をよく読んでいるのかいないのかよくわからない能力がある。
 *bandでは、[変]に(特に剣以外の)様々な種類の武具のアーティファクトを追加する動きであった辺りに追加された武具のひとつである。ベースアイテムの「オウル・パイク」は金属の穂先部分が柄の半分前後まであるという槍状武具の一種だが、これが選ばれているのはどちらかというと様々なベースアイテムのアーティファクトを創作するといった動機の方が強い。聖戦者エゴによく似た特性(賢さの追加・祝福やスレイング)を持ち、水に関係する品であるため冷気や酸の耐性、発動のウォーターボールなどを持っている。武器としての能力自体は普通の中レベルの物品である。根源的神話に登場するもののひとつとしては(通常のエゴアイテム程度なのは)物足りないかもしれないが、ほかの物品を比べるにこの程度であろう。



アミバ Amiba 【その他】

 漫画『北斗の拳』に登場する下っ端悪役のひとり。日本漫画界を超新星爆発のようにまばゆく照らし出した「アミバ」という光芒が、果たしていかなる因果によりこの世に生じたものであるのか、いかな推論を積み重ねようと重力崩壊を起こす超巨星の中核を実際にその目で見ることのできる者とていないかの如く、あるいはトカゲ座G−1のガンマ線バーストの急発原因の如く、確実なことを断言することのできる者は誰ひとりとしていない。「ひでえ」という悲鳴を原稿に書いたのに「ひでぶ」などと写植に読み取られてしまうような作者らの、ましてその構想と心中、その変遷の経緯までも省察し得る者がどこにいるというのだろう。或いは少年ジャンプ編集部の暗黒の編集会議を探った者がどこにいるというのだろう。
 しかしエレスセアの賢者たちによって真実であると考えられていることはこうである。当初、格闘漫画『北斗の拳』は主人公ケンシロウ(その名の通り四義兄弟の四男である)が、順番に兄らを倒し乗り越えてゆく構想であったという。が、原作者がそれでは単調になるという恐れから唐突に路線を変更し、兄弟と単純に殺しあう図式を破棄した(一説には、義兄弟とはいえ兄殺しの話は少年漫画には向かないという編集部の意見もあったとも言われているが定かではない)。突如、物語そのものの根本をなしていたはずの構想が消失し、しかも、その時すでに連載では、かつての癒しの聖者から転じて狂気と邪道に堕ちてしまっている次兄トキとの対決のまさに直前であった。そこで、突如としてその狂乱の悪役がトキではなく、「トキの名と技を騙っている偽者『アミバ』」という、その場で急造された人物にすげかえられてしまったというのである。
 故に、当初は主人公ケンシロウを圧倒する実力が描写された(トキ自身である予定だったため)このアミバは、聖人で癒し手であるトキに嫉妬・天才を自称し人体実験を繰り返す本性と同じくして、まるっきり三下悪役の実態と能力を突如として顕わにする。結果、『北斗の拳』のやられ役の例に漏れず、人体実験による新技での自爆を含む、猛烈にヘタレた最期をとげる。しかしながら、あまりにも見事な見かけ倒し下っ端やられ役ぶりをはじめとして、その急ごしらえのための強烈に無茶な設定(トキ本人の証拠であった背中の傷跡までも「真似てつけた」等)、そして何よりも「自称天才」「マッドドクター」のあわせ技が持つブチ切れまくった台詞の数々によるキャラクター性は、現在ですらなお他に到底かえがたい異彩を放つ。北斗の拳の下っ端悪役には、いまなお語り継がれ、ひいては「ハート様」や「ウイグル獄長」のように根強いファンを持つものが多いが、漫画としての知名度と影響力から比喩やパロディとして用いられることの多い『北斗の拳』中でも、アミバは単独の悪役キャラクターとしてはそのわかりやすい役柄やキレた台詞がパロディとして直接言及される例がずば抜けて多い。その中には「映画版LotR冒頭の鎧姿のサウロンが指を全部切られたときアミバを思い出した」などというまさしくわけのわからない連想(前記のアミバの最期の、全部の指が自爆したものを指している)なども含まれている。
 これらの例も通じて、『北斗の拳』をまったく読んだことのない人々にまで、アミバの名は広く知られており、特に、同人コミッカー情報誌『ファンロード』誌の「シュミ特辞典」に発し、無関係な作品の投稿辞典に執拗に「アミバ」の項目が投稿され、毎回掲載されるのが通例となっている。ここから転じて、ネット内外の「用語辞典」の類には、辞典のテーマとは一切関係なくとも「あ行」に「アミバ」の項目を必ず加えておくことが、「不文律」としてあまねく認められている。そうと知らぬままこの項目をわざわざ最後まで読んでしまった人に一応断っておくが、*bandとは一切関係ない。

 →ケンシロウ →ラオウ →サルマン →サウロン



アムロド/アムラスのショートボウ The Short Bow of Amrod/Amras 【物品】

 アムロドの弓とアムラスの弓、二つのアーティファクトが存在するが、便宜上ひとつの項目で扱う。アムロドとアムラスは、アルダ伝説時代の7人の「フェアノールの息子達」の末にあたる双子である。(混同されがちだが、ニムロデル河やドル=アムロス大公家に関係するのちのロリアンのエルフ王「アムロス」とは関係ない。)なお、トールキン作品の双子にはどちらが兄と弟か明確でないものも多いが(brotherだけのことが多いことからもわかるように、東洋ほど兄弟の上下、特に双子の場合などは厳密でないためもあるだろう)この二人に関してはアムロドが兄で、アムラスが弟である。
 第一紀、ノルドールらがモルゴス軍を包囲していたアングバンド包囲網では、この末子らは兄らの最も背後に位置しており、長い戦いの間もほとんど出番らしき記述がない。最初の大敗北で包囲網の領地を失うと、すぐれた狩人であった彼らは緑エルフ(森エルフに似ているが、ベレリアンドの森林に入った一派と考えてよい)のもとに落ち延びて共に暮らしていた。あるいは彼らにとってはそのままの暮らしが望ましかったのかもしれないが、彼らもまたシルマリル奪還の「フェアノールの誓言」に縛られており、兄らの灰色エルフらとの内戦に加わり、エアレンディル一党への攻撃の際に、双子ともに討ち死にした。言及はほとんどこれらの事件の際の説明のみで、いくばくかの直接の描写や台詞のある上の5人と比べても、人となり等の描写は皆無である。(トールキンの未整理原稿には、最初は同じ名だった片方の名前の変更や、運命が流転してゆく凝った構想もあるが、まとめきれなかったようで、宝玉物語にはその気配もない。)
 ICE社のアルダTRPG, MERPでは、アムラスのデータには「アラクー Aracu」すなわち高貴なる弓という名のロングボウのデータがある。アムロドの方はといえば、困ったことにアムロド自体を「アムラスと同じデータを使ってくれ」としか書かれていない。また余談だが、兄の狩人ケレゴルム(→金髪のケレゴルムの盾)もまったく同じ名とデータの弓を持っているので、あるいはフェアノールが狩にたけた子ら皆に作って与えたという設定なのかもしれない。
 この双子の弓は、Oangbandをはじめとして、[V]3.0、ToME, Eyangband, Unangbandなどアルダを舞台とするバリアントに登場するアーティファクトである。アムラスの弓は「知能・賢さ・器用・スピード」、アムロドの弓は「腕力・耐久力」にボーナスがある。無論のこと、この差の元となる双子の性格の違いなどの描写はろくにないため、単に差別づけのためだけに適当に設定されたものだと思われる(強いて言えば、兄が弟を守るだけ強靭で弟がそれをサポートという発想か)。弓としては、ToMEでは強力射があるものの、他のバリアントではベースアイテムもまた戦闘修正も弱いこともあって、さほど強力なものには属さない。階層も低く(ベースアイテムのためもあって)レアリティも比較的低いので、前半に入手できれば基本耐性と能力増強のために役立つかもしれない。ただし、解説には「地水火風の攻撃から守る」などと書いてあるがいずれのバリアントでも実は酸の耐性が抜けているという罠があるので過信は禁物である。

 →フェアノール



アラネア Aranea 【敵】

 アラネアはラテン語で蜘蛛を意味し、実際のところクモの学名にも含まれるが、普通に蜘蛛の「古語」として、また婉曲表現としてさまざまに使われる。ゆえにアラネア、アラクネ(ギリシア神話で蜘蛛と化した女性)と共に蜘蛛の怪物の名や、あるいはそのまま変哲もない蜘蛛につける固有名詞として使われる場合も多い。(モンスター以外のRPGでの有名どころでは、BRPのグローランサ世界の蜘蛛の女神アラネアがいる。)
 ゆえにモンスターとしてのアラネアもありふれたものということになるが、RPGのものとしては、やはりD&Dシリーズのデータが原型のひとつとして挙げられる。D&Dシリーズのモンスターのアラネア(3.0eでは「アレイニア」)は、アラクネにヒントがあるとも思われる知能のある蜘蛛で、発達した神経節による背中の瘤と、人間のような手をもち、魔法使系の呪文能力を持っている。(版によっては、人型生物や蜘蛛との中間形態に変身する能力もある。)決して邪悪な怪物というわけではないが、やはり人間は獲物の一種ということになってしまうようである。同様に蜘蛛とヒューマノイドの合成的モンスターといえるドリダー(→参照)とは特に関係はない。余談だが、アラクネやアラネアをモンスターとして登場させる作品でドリダーからヒントを得たとおぼしき、人間でなくエルフとの合成生物や、ないし単に混同していると思われるイメージもしばしば見受けられる。
 *bandではToMEに登場すること、さらにはロスロリエンのクエストのひとつで、他のクモと共に大量に登場することと、そのクモ('S')シンボルのノーマルモンスターらしからぬ多彩な魔法が大変に有名である。思い出文章によると、人間や中間形態ではない赤い蜘蛛で、「呪文の糸を織っている」という、しばしばアラクネのモンスターや電脳ウェブなどにも多用される比喩がある。さらに、上位のエルダー・アラネアは40−48階、バリアントによっては60階代のかなり危険な怪物で、同族大量召喚を含む強力な魔法を多種備えている。説明文にはさらにToMEの中つ国の舞台を反映して、ウンゴリアントの近い子孫という説明もある(なお、トールキンには蜘蛛の怪物は多いが、一応、直接にアラネアやそれに近いという形では出てこない)。いずれも、ToMEから逆輸入されて[V]3.0系や派生バリアントにもほぼ同様のデータで登場する。



アランルース The Broad Sword 'Aranruth' 【物品】

 トールキンのアルダ世界の神話時代から第一紀にかけて、ベレリアンドを支配した灰色エルフの王シンゴルの剣。シンダリン語で「王の怒り」の意。おそらくは、灰色エルフに武具を提供していたノグロド(第一紀当時のドワーフの刀鍛冶の都)で鍛えられたと考えられ、テルハール(アングリストと、アラゴルンによるとナルシルの作者)が随一の鍛冶師であったとすれば彼の手による可能性も高い。シンゴルと勇士ベレグのやりとりなどを見ると、純粋に剣としてもかなりの品だったのではないかと考えられる。
 第二紀以後は、西方の島ヌメノール(→参照)の王家に代々伝わる剣になっていた(ヌメノール王が、巡り巡ればシンゴルの世継ぎの血筋でもあるためである)。ヌメノール滅亡後にどうなったかの記述はないが、生き残りのドゥネダインに伝わっているという記述もないため、おそらく最後の王アル=ファラゾンと共に水没し失われたと考えられている。
 *bandには[V]から登場する(アルンルースArunruthという間違った綴りになっていたのが有名で、多くの[V]発バリアントでこのままになっている)。命中率がかなり高いのが特徴だが、オークとデーモンの倍打、耐冷に謎のアイスボルトで破邪はなしと、いまいち決定打に欠ける品である。原典では揮われた記述自体がなく性能も不明なため、適当に作るより仕方なくはある。
 王の剣であるためか、[Z]では『グレイスワンダー』に差し替えられてなくなっているが、ToMEやGumbandなどふたたびゼラズニイからアルダ舞台に逆輸入されたバリアントでは戻っている。このさい、グレイスワンダーの性能をそのまま名前だけ戻しているので(初期のPernAngbandではベースアイテムさえもサーベルのままになっていた)多数の能力やスレイングなど[V]のものより遥かに強くなっているのが特徴である。[変]ではグレイスワンダーより後の番号に改めてアランルースが追加されているが、[V]の頃よりもToMEなどの強力なものに近い。特に、ToMEでは「オークの洞窟」をクリアすると確実に手に入り、ほとんど後半まで使い続けることができるほど便利である。一方で、中盤のプレイが画一化するという弊害もよく話題になる。
 なお、[V]のアランルースのデータそのままでToMEに入っている「★泉のエクセリオンのブロードソード」をはじめとして、暁の剣、至高神ファリスのロングソードなど、明らかに[V]のアランルースをベースに若干改造して作られたとおぼしき物品は無闇に多い。「中くらいの武器」として広く認められているようである。

 →グレイスワンダー



アリオッチ Arioch 【その他】

 出典:マイクル・ムアコックの主に『永遠の戦士』シリーズの数々に共通して登場する混沌の魔神。地獄の大公、七つの暗黒界の王、剣の騎士。特に、『エルリック・サーガ』シリーズにおいて、エルリックの守護魔神として現れるのが有名である。
 複数の次元世界に、同じ神々が共通して現れる『永遠の戦士』シリーズでは、相互の力関係も次元世界によって大きく異なるのだが、アリオッチは『エルリック・サーガ』の新王国においては、ピアレー、アルナラと並んで古代帝国メルニボネで重視される強力な力を持ち、エルリックの先祖のメルニボネ皇帝が代々守護魔神としてきた(なお、別の世界、例えば『コルム』の次元世界ではマベロード、キシオムバーグと共に有力ではあるが、その勢力はマベロードに劣り、コルムの働きで次元界から放逐される)。しかし例によってエルリックは、力を望んでではなく、なりゆきでこの魔神と契約することになる。その姿は、美貌や装具がまばゆいばかりでありながらも「なぜか光を発さない」美青年をはじめとして、小さな虫や怪物などの様々な形をとって現れる。
 あらゆる次元世界で重要であるだけに、常に他の神との抗争を行っているため、それに関係する使命や援助をエルリックに与える、──といった場面も確かにないでもないのだが、むしろ印象深いのは、エルリックが窮地に助けを求めた時さえ「抗争で忙しいから」と何もしてくれないことの方が遥かに多い(幸い、大魔術王でもあるエルリックは、他の精霊王や獣の王などの力を借りて乗り切る)。しかし、たまたま援助してくれる場面では、エルリックの方も「ついでだから」とばかりに無茶な要望を押し付けることが多い。細い絆というよりは、かなり殺伐とした関係にあり、遂には神々や世界の抗争の別の都合で公然と対立したりもすることもある。
 エルリックが契約以後、アリオッチを呼び出す場面は、戦闘中に剣をふるいながら名前を連呼する、という印象的なもので、NetHackのPrayコマンドを思わせる。現れたアリオッチ自らがなんらかの姿をとって働く(怪物となって敵を飲み込むなど)こともある。エルリックの魔法は、他の王らの招来でも似たような形をとることが多く、TRPG『ストームブリンガー』の旧版では、そもこの世界の魔術はすべてそうした契約と招来の形をとるもののみ、と定義されていたことがあった。
 さて、アリオッチ(アリオク)は、聖書や偽典等に名が見られ、のちに復讐を司るとされて、後世の悪魔研究では堕天使(デビル)と見なされるようになった魔神である。AD&Dでのアリオッチは、ユニークの大悪魔「ディスペータ(NetHackにもそのまま登場する)」の配下の悪魔とされ、デヴィル(「秩序にして悪」の悪魔)ながら、復讐の担当者として狡い陰謀に手をそめる(なお、この場合属性は「秩序」となり、ムアコックの「混沌」神と異なる)。AD&Dで和訳されたものでは、ゲームブック『魔法の王国3部作』で主人公の魔術師カー・デリングが異界接触呪文で情報を得ようとしたときに接触した悪魔がアリオッチを名乗る(訳者がTRPGデザイナーの清松みゆきなので、悪魔学のアリオクでなく、RPGで慣れ親しまれたエルリックの和訳同様の表記にしたと思われる)。この下っ端の堕天使アリオクと、ムアコックの剣の騎士を同一視することはできないが、ムアコックの混沌の神の中では非常に際立って明確な実在典拠が存在するため、ここから名をとられたというだけでも、一種別の構想から作られた神だったのではないかと想像する。
 
なお、ムアコック作品のAriochの日本語表記は、長い間古い和訳版(安田均・井辻朱美訳)の「アリオッチ」であったため、多くの古参SFファンをはじめTRPGゲーマーにもそう呼ばれていることが多く、NetHackや[Z]等でも例外ではない。しかし、最近の訳(井辻朱美新訳)では語尾をドイツ語風にしたという「アリオッホ」になっている。これは最初期の鏡明訳でそうなっていたものがあるのと、訳者の考えによるものとのことである。実際にアリオク、アリオッチ、アリオッホのどれが正しいのかといえば、原作者ムアコック自身が音声メディアで発音していたものは表記すると「エアリオク」といったものに近く、ストレートに悪魔学のそれに近い。アンソロジー『不死鳥の剣』収録の初期原稿版短編の中村融訳では、作者本人の発音にしたがったというふれこみで「アリオック」になっている。
 最近の訳の「アリオッホ」については、「アリオッチ」に慣れた従来のファンからは非常な違和感があることがよく言及されるが、新訳から読み始めたという最近のファンからは、特にアリオッホにも違和感を感じないという声も多い。実際のところ、従来の「アリオッチ」とて、ムアコック自身の発音や悪魔学のものには沿っていない表記である上に、魔神らしい威厳のある名前というわけでもなく、「アリオッホ」とさほど大きな差はないという意見にもそれなりに妥当性がある。にも関わらず、「アリオッホ」に対する違和感が当時それほどまでに話題になっていた理由としては、アリオッチが従来エルリックシリーズのみの単語にとどまらず、多くのファンタジー談義で常に引き合いに出され、殊に慣れ親しまれていたということがある。さらには、この新訳の「アリオッホ」が出た頃とちょうど前後して、ネットでは「ウホッ!いい男」のフレーズで知られるヤマジュン(山川純一)作品がネタ作品の極致として蔓延していた時期であったことは、おそらく無関係ではあるまい。
 NetHackでは、混沌に深く関わったプレイヤーは「アリオッチの名誉」という称号を数々のボーナスと共に得ることがある。アリオッチはNetHackでは神として登場することもなく、他にこの単語が出ることもない。それほど「アリオッチの代行者」というのが、混沌の化身として強く認識されているということなのだろう。
 その他:*bandでは、クラス「混沌の戦士」(→参照)のカオスパトロンの一体という形で登場する。混沌の戦士のカオスパトロンはレベル上昇ごとに恩寵(ときには災厄)を送ってくるが、アリオッチは「干渉してこない」という恩寵になる確率がカオスパトロンの中では最も高く、アリオッチの戦士は、変異なども比較的おとなしい範囲に収まることが多い。混沌の戦士はNetHackのようにprayするのではなく一方的に恩寵を下してくる点も異なるが、これによって、ムアコックの戦士、また援助を中々くれない原作アリオッチを反映しているといえばしている点で、一応それらしくはなっているかもしれない。



アルヴェドゥイ王の鎖かたびら The Chain Mail of Arvedui 【物品】

 アルヴェドゥイ王は『指輪物語』のアラゴルンの先祖、アルノール北方王朝の最後の王である。アルヴェドゥイの代を最後として、北方王朝は国土を失い、その一族郎党は放浪する「野伏」となったのである。
 元々ドゥネダインの宗家であった北方王朝アルノールは、疫病で弱体化し、遷都を繰り返し、三国に分裂し、第三紀18世紀にはそのうち一国アルセダインにしか王家の血脈が残っていなかった。当時の預言者マルベスは、アルセダインの王子が生まれた際、「この王子の代にドゥネダインらの国は、運命の選択によっては他の三国はおろか南方王朝ゴンドールを含むすべてを統治する新しい大王国となり、どのみちこの王子はアルセダインの王としては最後の王となる」と預言した。それに従って、王子は「最後の王」を意味する「アルヴェドゥイ」と名づけられた。
 しかし、運命の選択は過酷なものであった;アルヴェドゥイが王となってから、馬車族(東夷の一種族)との戦いでゴンドールの王が戦死し、南方王朝の血脈が途切れた。ドゥネダインすべての宗家でもある北方王朝アルノールの王として、アルヴェドゥイは南方王朝の王位も引き継ぐことを提案した(なお、アルヴェドゥイの王妃は当時のゴンドールの王女でもあった)。これが容れられていれば、南北の王朝が統一されドゥネダイン全体が力を取り戻した可能性もあったと思われるが、ゴンドールの臣民はこれを拒否し、ゴンドール王家の近縁者を王位につけた(しかし、どのみちこの血筋も2代後に途絶えてしまい、ゴンドールは「執政家」が統治してゆくことになる)。アルセダインは魔王の国アングマール(→参照)に攻め立てられ続け、アルノール三国の他の二国は既にアングマールに従属するか滅ぼされており、王都フォルノストも陥落し、王と一族は抵抗を続けながらも東に逃れ、青の山脈のドワーフのもと、ついで北端のロスソス族のもとへと追い詰められた。アルヴェドゥイは海路を落ち伸び戦力を立て直すため、灰色港のエルフ・キアダンが送ってきた船を借りて海へ出たが、暴風雪にあい(ロスソス族によると、アングマールの魔王は冬の嵐・海をも支配できたという)アルヴェドゥイは海中に没した。
 その後、ゴンドール軍が北方に攻め上り、アングマールの軍を滅ぼし追い払ったが、北方王朝の国土は数々の主要都市が完全な廃墟となり、王家と一族郎党はアルヴェドゥイの息子アラナルス以後、エルロンドの避け谷を拠点として北方を放浪する野伏となった。こうして、アルノールはともかくアルセダインという国は消失し、アルヴェドゥイは名の通りアルセダイン「最後の王」となったのである。
 *bandでは[V]から登場する、創作された物品のようである(ICE社のMERPなどでも、アルヴェドゥイは詳しい設定は作られていない方の人物で、装備品に関する記述もない)。アルノール王朝に因んだ物品ということでアルヴェドゥイの名が選ばれているようだが、初期の王イシルドゥアのプレート・メイルに対して鎖かたびらなのは、落魄した、あるいは実戦的な雰囲気のためなのかもしれない。「王」の名の品のステータスとして腕力・魅力の増強と共に、基本四耐性、破片・因混耐性があり、レアリティの面からかなり手に入りやすいため、全耐性の鎧の上位版として重宝する。



アルグロス Algroth 【敵】

 ディヴィッド・エディングス『ベルガリアード物語』の舞台、アローン/アンガラクの世界に存在する怪物。トロルの一種であるという書き方である。
 [V]以降、ほぼすべてのバリアントに、この怪物や他にも「ダガシ」「エルドラク」が、ベルガリアードや続編『マロリオン物語』から登場する。ほぼアルダ世界、せいぜいICE(指輪物語RPGやTCG)設定からの引用のみに、厳重に雰囲気を統一されている[V]だが、わずかにニンジャなど(これはMoriaからだが)RPGのフレバー的なものが入っていないでもない。海外では、エディングスはトールキンと共に語る人も少なくないため、これらと同様に加えられたのかもしれない。何にせよ、引用が無節操な[Z]系ならばいざ知らず[V]では珍しい例である。
 なお、SBFband(未訳)が、[Z]をベースに、ゼラズニィを外しエディングスに置き換えたバリアントで、由来のユニークなどが多数登場する。



アルコン Archon 【敵】【種族】

 archonとは、元々は古代アテネの高級執政官・法の執行官を指す。一方で、グノーシス主義では、唯一神の眷属よりも古く世界を形成した悪の惑星霊で、下級の天使にも取り入れられているもの(様々な意味で、異教の神が悪魔化した「デーモン」の一種と言える)をアルコンと呼ぶ。アヒルの頭を持った邪神的なアルコンの像画がよく知られている。
 クラシカルD&Dでは、こうした像画を元にしたのか、聖なる炎の精霊(善モンスター)として、東洋のカルラか何かのようなイメージを持つモンスターとして「アルコン」が登場する(クラシカルD&Dでは、神や真の天使・悪魔といった高位存在はイモータルと呼び、他とは全く別個の存在なので、単純なモンスターデータでは扱われない)。
 しかし、AD&Dではこれとはまったく事情が異なり、1st時代の半ば以降「天使(angel)」という言葉が宗教もろもろの様々な事情で使用できなくなったので、一部天使にあたるものをアルコンと名を変えている。この名が取られたことは、おそらく法(天数)の形成を司る高位霊の名としてとはいえ、さほどグノーシスの語義には深く沿っているわけではないように思える(むしろ元のギリシア語の語義からだろうか。しかし、さらに上位種の天使に、おそらく上記のグノーシスの惑星霊にも因んで「プラネター」「ソーラー」といった名に変更されているものがいる)。グノーシスでは、権力の化身アルコンの下級霊としての位置づけは、真の神に対して否定的な意味ではあるが、D&D系の定義では多種の神性にかわって地上を守護する、肯定的な意味での下級霊としての名かもしれない。また、後の版ではアルコン自体、天使類(セレスティアル)の位置カテゴリを指す一般名詞のひとつのようになってしまい(D&D 3eではセレスティアルのうち、「秩序にして善」のものをアルコン、「中立にして善」のものをガーディナル、「混沌にして善」のものをエラドリン、という定義も使われる)下位のランタンやトランペットの御使(聖書に出てくる)のアルコンなど多種がいる。
 ほかのRPGにアルコンが登場する場合、特にグノーシスのデーモン等というよりも、このD&D系での上級天使の扱いであることが多いようである。NetHackに登場する友好的モンスターのアルコンは、D&Dのアルコンのデータをほぼそのまま参考にしている(ただし、少なくとも基本のルールには完全に同じデータのものはおらず、上記した旧D&Dのアルコンや、さらに強いて言えばトーム・アルコンに能力的には近い)。
 *bandでは、まず[Z]以降に敵として登場する。おそらくNetHackのアルコンを参考にしたものと思われる。天使全般に言えるのだが、とにもかくにも硬く、攻撃も防御も(打撃も魔法も)危険であるのだが、中でもアルコン(以上)は無傷球を使用し、天使を召喚する極めつけの厄介さを持つ。さらにアルコンを呼んだりすると全くもって収拾がつかなくなる。天使のユニークと戦う時には特に注意したい。このランクの天使は高級なアイテムを大量に落とすが、危なくなったら脱出、破壊、抹殺等は厭わないことが肝心である。
 [変]ではバルログと共に、種族としても選択できるようになった。典型的な上級天使という扱いである。マイナスのない能力値でも、すぐれた肉体能力、極めて高い賢さ、飛行に視透明と、特に賢さと属性が善に大きく振れることから生命・破邪プリーストに有利であるが、その向きも強いて言えばの話と言えるほど、およそどんな職業を行なうにしてもきわめて強力な種族である。無論経験値はきついが、初心者向きと言える。

 →天使 →ソーラー →プラネター



アル=ファラゾン Ar-Pharazon the Golden 【敵】

 黄金王。ヌメノール最後の王。アルダ第二紀の末、アル=ファラゾンの治世はヌメノール(→参照)の国が不死を求めてヴァラール(諸神)に最も反した時期であったが、国力・軍事力でもヌメノールの黄金期、絶頂期でもあった。暴君でもあるが、栄華をもたらしサウロンさえも破った覇王でもある。
 アル=ファラゾンは先代のヌメノール王タル=パランティアの甥で、先王の娘で本来の継承者タル=ミリエルをその意に反して(また従兄妹にあたるので伝統や法にも反する)娶り、25代の王となる。数代前の王ら以上に、エルフらに反する政策を行い、植民地である中つ国を力で押さえつけ、莫大な国力をヌメノールにもたらした。
 トールキン『アカルラベース』に詳しいが、すべての力の指輪を鍛え上げ冥王として君臨していたサウロン(ただし、エルフ王ギル=ガラドと以前のヌメノール王の連合軍に一度破れ、この時点ではモルドールのみを支配している)に対し大軍を派遣した。このときウンバール港(ゴンドールの南端の大港)を埋め尽くした大艦隊とその大軍は、アル=ファラゾーンのその後の所業はさておいてさえ、長くドゥネダインらの記憶にとどめられているという。その大軍の前に、サウロンの部下の中にも戦いを放棄し逃げ出す者も少なからずおり、サウロン自身も降伏しみずから捕虜になった。指輪をもつ全盛期のサウロンとその軍であったことから考えると、以前のギル=ガラドとの連合軍も含めてヌメノールの軍自体が非常に恐るべきものと考えられるが、アル=ファラゾンの軍がのちにアマン(怒りの戦いで大陸を沈めた大軍をもつ)にすら戦いを挑むことから、少なくともその自信を持てるほど強大な軍団であったことは確かであり、さもありなんとも考えられる。
 しかし、サウロンが降伏したのは、ヌメノール人のエルフやヴァラールへの反感を見抜き、内から破滅させる目論見のためであった。アル=ファラゾーンは冥王を降した自らの力の誇示のため、サウロンを連れ帰るばかりか傍に置き、結果サウロンは王に巧みにつけこみ、不死のエルフや諸神への反感、遂には悪神メルコール(→参照)の名をかりた闇の思想・信仰をも植え込んだ。その末に、諸神から力ずくで不死を奪えると信じたアル=ファラゾーンは、大艦隊を率いてアマンの地に攻め上る。諸神は人間と中つ国の守護者の役割を放棄し、イルーヴァタール(至上神が創生以後に手を下すのはこのときのみである)はアマンを地上から切り離し、栄華を誇ったヌメノールの島を水没させた。
 アル=ファラゾーンとその配下の騎士らは、ヴァリノールにつくなり崩れる山の下に飲み込まれたが(彼と共にヌメノールの本来の王錫や、王の剣アランルースも沈んだようである)死んだわけではなく、ダゴラスの戦い(アルダ世界の最後の審判)のときまで地底で眠っているといわれている。(こうした最後の戦いに蘇る大覇王の軍団の説話は幾つかの神話にあるが、ことにアーサー王伝説のバリエーション、アヴァロンの地にアーサーと配下の騎士らが眠るなり、またウェールズの洞窟に彼らの眠る地があるなりといった伝承を強く感じさせ、あるいはこの案自体はトールキンの比較的初期のものかもしれない。)
 MERPのアル=ファラゾンのデータは55レベル(第三紀の『指輪物語』登場人物だと匹敵するのは数えるほどしかいない)と相等に強力で、装備品も太陽の名を冠した優秀なものが創作されている。直接剣を揮ったりした記録はないのでこれらに直接の意味があるわけではないが、歴史シミュレーション等ならかなり高い値が与えられる支配者といったところだろう。
 *bandでは初期の[V]には登場しないが、Oangband, ToME, [V]3.0系などアルダを舞台とする多くのバリアントに登場する。ToMEや[V]3.0ではMERPにあわせたのか55階の中堅ユニークでダメージも大きく、最初は特に配下を連れて登場するわけではないが、同族召喚を主とする魔法を用いてくる。ToMEではダンジョン「水没した遺跡(失われた地ヌメノールへの水没した道)」の最深部のガーディアンとなっており、「トリス・メジストス」の石を落とす。水没したヌメノールにいるというのは原典とは異なるが解らないでもない。([変]では「水没した遺跡」のガーディアンは『ヨルムンガルド』であり別である。)また、[変]では初期のバリアントを参照したため38階と何段か弱いが、特にヌメノールの宝冠など、関連する物品を落とすといったことはないようである。

 →ヌメノール



アンカラゴン Ancalagon the Black 【敵】

 黒竜アンカラゴン。アルダに存在した最大の竜。モルゴスが作り上げた竜はそれまではグラウルング(→参照)に連なる、冷血竜・火炎竜ともに地を這うものであったが、アンカラゴンとその眷属は火炎を吐くのみならず翼も持つものとして生み出され、まさにモルゴスの軍団の最終兵器であった。アルダの伝説時代の末にモルゴスとアマンの軍勢が激突したハルマゲドン「怒りの戦い」においてアングバンドの地下城砦から現れ、アマンの軍勢を圧倒するが、航海者エアレンディルの空とぶ船および大鷲と一昼夜の空中戦の末に倒される。その名の意ははっきり分析できないが「突進する顎」であるらしい。
 アンカラゴンの記述はほぼ『クゥエンタ・シルマリルリオン』最後の「怒りの戦い」の場面にしかなく、また、その場面はアルダの神話・伝説時代の歴史の大詰めにも関わらず、非常に簡潔なので(どうもこの部分は、トールキンにとってむしろ覚書に近い簡単なテキストを、子息で弟子のクリストファー教授がなんとか形にしたものに過ぎないためらしい)結果としてさほど描写はない。しかし、アンカラゴンとその一隊がヴァリノールの軍勢をも一時撤退させたという描写、巨大な黒い翼が日光を覆い隠したという描写(これはありがちだが)、彼らが戦った大鷲が(第三紀の大鷲の先祖にあたる)翼長数十メートルといった眷属であったこと、落下したアンカラゴンの下敷きになったためにアングバンドの上層のサンゴロドリムの山(現代の地球の最高峰より巨大だと考察する人さえいる)が破壊されたという描写、これらの数々から、それ相応のスケールは想像することができる。
 また、『指輪物語』において、ガンダルフが「一つの指輪はかつてのアンカラゴンの炎でも溶かすことはできないだろう」という例を挙げたことからも、この名はよく知られる。
 [V]から登場するアルダのユニークドラゴンの数々に共通する点なのだが、原作の描写にも関わらず、せいぜいが50階台とさほどの強さ・深い階層ではなく、[V]2.8系の頃から既に、近い階層のノーマルモンスターのワイアームの方が強いほどで、むしろ、ドラゴンを召喚してくる能力の方が厄介なほどである(この階層にして上級ドラゴン召喚であるため、こちらは本当に侮れない)。[V]当時から、最大の竜と言いながら周りの上級ワイアームほどもないことに違和感を感じたプレイヤーは多いだろう([Z]以降は、上級ワイアームはモルゴス軍でなくアンバー系だと考えれば納得できる話ではあるが)。特にスレイングなどがなくとも、さほど苦戦する相手ではないだろう。個人的には物足りず、それなりの威容が欲しい所ではある。ただし、[V]3.0系やEyangbandなど、それ相応の深層に配置されている場合もある。

 →グラウルング



アンガマイテ、サンガハイアンド Angamaite/Sangahyand of Umbar 【敵】

 独立した二体のユニークモンスターだが、同じ項目で扱う。「サンガハイアンド」は新版指輪物語では「サンガヒャンド」になっているので、そうなっているバリアントもある。
 第三紀1634年、ゴンドール王ミナルディルをペラルギア港で襲い、殺害した海賊たちの二人の首領である。かれらは、オスギリアス荒廃などの内乱を招いた王位簒奪者カスタミア(→参照)の曾孫にあたる二人だが、兄弟であるのか(であるにしてもどちらが兄であるのか)もっと遠縁かは定かではない。彼らはカスタミア時代にゴンドール本国から離反し、もとヌメノールの大港だったウンバールを占拠し続けた独立勢力である。この通称「海賊 corsair」(MERPでは「南寇」というなかなかの名訳になっている)も、しばしば本国にそむいたヌメノール人の末裔ということから、「黒きヌメノール人」と呼ばれることもある(狭義には「黒きヌメノール人」とは第二紀にサウロンに降ったヌメノール人を指すので、厳密には異なる)。
 この二人がその後討ち果たされたか、別のなんらかの最期を迎えたかは定かではない。何にせよ、このウンバールの海賊たちと「カスタミアの最後の子孫たち」が完全に滅ぼされたのは、はるかに後の1810年のことだった。しかし、疫病や東夷(馬車族)の侵入でゴンドールは著しく弱体化し、ウンバールはまもなくハラド人(南方人)に占領されてしまった。以後もウンバールは、ゴンドールの叛徒や海賊、黒きヌメノール人らの残党の集う地となり続けたようである。
 さて[V]から登場するこの二人のデータであるが、24階のユニークモンスターで、色と思い出解説以外には差はない。海賊の首領といっても、特に仲間を引き連れて出現するわけでもない。打撃能力なども特に見るべきものはないが、ただ唯一「忘却」の魔法を使ってくることから、非常にプレイヤーへの印象が強い。MERPでも、ヌメノール人の血をひくものは(指輪物語原作では定かではないのだが)なんらかの魔法の心得があることが多く、ことに西方人の血の濃いものはデネソールのように透視術士・預言者の能力を持っていることが多いので、忘却魔法もそこからの発想であると考えられる。この二人もカスタミアの曾孫である以上は、腐ってもゴンドール王の直の子孫であり(実はデネソールより遥かに血筋は正しいことになる)ことに西方王の地を引く者の能力は侮れないのである。

 →カスタミア →ウンバール弓



アングウィレル The Long Sword 'Anguirel' 【物品】

 出典:アルダ伝説時代において闇エルフの鍛冶師エオル(→参照)によって鍛えられた、中つ国で最大の力をもつ雌雄一対の剣のうち一方。もう一振りはアングラヘル(→グアサング)で、これらは隕鉄を鍛えて作られた黒い刃で、地上のどんな物体でもやすやすと切り裂く力を持つ。*bandやMERPの設定ではこの隕鉄をもとにした地上最硬の合金「ガルヴォルン」(→アダマンタイト)製であるという記述になっているが、原典ではエオルが鎧などに用いたガルヴォルンとこの剣の素材である隕鉄の合金が同一であるかはあくまで記述がない。アングウィレルとは「熱い星の鉄」ないし「天を焦がす鉄」といった意味で、その素材に由来する。(最近のバリアントでは日本語表記が「アングイレル」になっていることもある。)
 アングウィレルはエオルの息子マイグリン(→参照)がエオルのもとを逃げ出す時に盗み出し、以後彼の剣となっていた。なお対のアングラヘルはエオルからシンゴル王の手に渡りさらに数奇な運命を経る。『クゥエンタ・シルマリルリオン』にはアングラヘルの記述は多いが、アングウィレルに関しては「これと対の剣に関してはこの物語には出てこない」とあり(一切出てこないわけではなく、別の箇所にアングラヘルの名とマイグリンが持ち出した記述だけはあるので、これは一種原稿が混乱したものと考えられるが)実際に、マイグリンの手にあっての、その後の経緯に関する記述もない。とはいえ、マイグリンがゴンドリンと共にほろびた際に運命をともにしたと考えるのが妥当である。
 隕鉄は高熱による精錬が不可能であった太古や古代にその頑強さを注目され、後代にも「天から業火にたえて降ってきた物体」である隕石そのものへの信仰も含めて神秘視が行われた。(現に、のちの製鋼技術でも隕鉄に特有の鉄とニッケルの特殊な合金構造は作ることができない。)隕鉄の刀剣に関しても、地上の魔を払う力があるなり、その硬さからまさに上記のトールキンのような「地上の物体をすべて切り裂く」なりと信じられ各地に多く残っている。
 ファンタジー創作にも、『コナン』シリーズをはじめとして、隕石から作られた剣がキーアイテムや強力な武器として登場する場合はことに海外小説に暇を持たない。ゲームでも同様であるが、RPGのルールとして有名な例として、東亜の実在武器であるクリス・ナイフがゲームによってはしばしば隕鉄で作られたもので様々な特殊能力をもつ(内容はゲームによって様々である。T&Tでは低レベルの魔法を打ち消す)となっていることがある。
 日本刀としては、ルパン3世シリーズの『斬鉄剣(流星(ながれぼし))』(→参照)をはじめ、一方これはいかにも何も考えてやがらねえなという例だが『サクラ大戦』のさくらの持つ刀・荒鷹も隕鉄によるという。ただし実際には、隕鉄は日本刀の製法には上記のニッケルとの合金構造がまったく向いておらず、すぐれた刀にすることは大変に困難である。
 物品:アングウィレルは*bandには[V]以来のアルダ系アーティファクトとして登場する。マイグリンのアングウィレルを指しているのは確かなことに思われるのだが、由来が不明な電撃打撃やデーモンのスレイングなどがついており、また、何より対であるはずのグアサングの能力と対応するような点が何も見当たらず(ベースアイテムも異なり、数値にもそれらしい点はない)一体本当に『シルマリルリオン』のアングウィレルなのか、名前だけメモしておいて中身を忘れてあとで適当に考えただけではないのかと一寸考えたりする(そんなことはないであろうが──恐らく)。しかし、どちらにせよ、「中つ国で比類なき剣」であるという設定にグアサング以上に反して、威力の点から中堅アーティファクトの域をまったく出ず、何にせよ重要とはいえない。(一方ToMEでは初期から、グアサングの方を恐らくアングウィレルを対にするよう意識されてスレイングなどが調整されてはいる。)さらに、[V]3.0系ではなぜかモンスター反感がつき、中堅物品としてすらまったく使えない代物とされている。[Z]系では「ワーウィンドル」に差し替えられているが、強いて言えば設定上共通する点はいくつかあるとは言える。

 →グアサング →ワーウィンドル



アングバンド Angband 【システム】【その他】

 出典:シンダリン語で「鉄の牢獄」を意味するこの言葉('ang'とは鋼鉄や鋳鉄ではなく、精錬前の粗鉄や鉄鉱石など粗雑な鉄を含めた語である)は、トールキンのアルダ世界のはるかな伝説時代(第一紀)に、初代の冥王・暗黒の大君主であるモルゴスが、中つ国の北に構えていた巨大かつ強大な地下城砦を指す。『指輪物語』の第三紀のモルドールの王サウロンも、かつてはこのアングバンドの軍勢の指揮官に過ぎなかった。第一紀、モルゴスの領地は、彼が魔力で隆起させた三つの巨峰(どれも海抜1万1千メートルに及ぶ)からなる山岳地「サンゴロドリム」であったが、その山裾に巨大な鉄の門が口を開け、モルゴスの居城である地下要塞「アングバンド」へと繋がっていたのである。
 元々アングバンドは、モルゴスの本拠地としてではなく、第一紀以前の神話時代、他のヴァラと戦うために構えていたウツムノ(オークなどが作り出された地である)の前線基地のひとつとして、腹心サウロンに守らせていた城砦であった。神話時代の「力の戦い」でウツムノは陥落し、モルゴス(この当時はメルコールという本来の名であった)はアマン(神々の地)に囚人となるのだが、アングバンドの方はこのさい徹底的に破壊されることはなく打ち捨てられ、実は秘密の地下通路にサウロンやバルログらが隠れ住んでいた。モルゴスはやがて、宝玉シルマリルを奪ってアマンから逃亡し、再び中つ国に舞い戻り、このアングバンドを大幅に増強してサウロンらと共に立てこもり、伝説時代を通してここでエルフ達と戦い続けることになる。
 土地としてはエルフらの勢力がサンゴロドリムを完全に包囲し、また野戦のひとつひとつをとってみれば有利に戦うことが多かったにも関わらず、まるでアングバンドの地下帝国からは無限の戦力が湧き出すかのようであり、突如として出現する切り札の龍やバルログが、エルフの軍勢を押し返した。6世紀あまり、エルフは包囲を続けながらもついにアングバンドをじかに攻城することはできなかったばかりか、次々とその国と城はサンゴロドリムの軍勢に滅ぼされていったのである。
 マエズロスやフーリンなどがサンゴロドリムの断崖に、またトゥーリン物語のグウィンドールなどが地下牢に囚われることはあったが、アングバンドの地下帝国の最深部にじかに入り込んだ(そして脱出することができた)のは、巨狼と吸血姫に化けて潜入したべレンとルシエンのみである。以下の、『シルマリルリオン』およびThe History of Middle Earthにおけるアングバンドの描写の大半は、そのときのものである。
 アングバンドは巨大な鉄の城砦であり、地下帝国であり、鉱山・溶鉱炉・鍛冶場・武器庫、闇の軍勢のあらゆる構成要素がそこにあった。その入り口は蛇形の怪物が蠢き腐肉喰らいの鳥が啼く荒涼とした谷間で、サンゴロドリムの山腹を穿った城壁が1000フィートの断崖の下にそびえていた。その門にはモルゴスの最大の猟犬であるカルハロス(→参照)が眠らぬ門番として控えていた。一歩入れば階段が迷路状に交錯して連なり、捕虜になったノルドールが詰め込まれた通廊や、石化したトロルやそれを模した怪物の彫像が立ち並び、常に数万もの鍛冶の槌で鳴り響いていた。最深部の冥界の玉座は蛇のような枝を伸ばした木々を模した柱(これは、ドリアスの木々の彫刻のカリカチュアとも思える)に支えられた大広間で、拷問と殺戮のあらゆる道具が並び、その奥に玉座のモルゴスと、おそらくゴスモグをはじめとする親衛隊がいた(腹心サウロンは第一紀の末期以外は、工作や指揮に出ていることが多かった)。
 第一紀の最後、滅亡したエルフらの国にかわり、アマンの軍勢が上陸した「怒りの戦い」で、サンゴロドリムの山地はアンカラゴン(→参照)ら龍の下敷きになって崩れ落ち、アングバンドの地下坑はヴァリノールの軍勢によってすべて陽にさらされるべく破壊され、今度ばかりは闇の拠点は徹底的に滅ぼされた。しかし、この破壊をはじめとする天変地異はサンゴロドリムのみならず、中つ国の北半分のベレリアンドをすべて破壊し尽くし、水没させたのだった。
 おおむね神話伝承やそれをモチーフとする物語の類において、闇の軍勢の拠点というものは多分において「抽象的」な存在であるか、そうでなければ常識的な範疇に収まっていることが大半であり、あらゆる悪と黒の技、そして勢力が凝集したこれほどの単一の巨大要塞というものはついぞ存在しないと言ってよい。そしてモルゴスとその配下のスケール、内包する要素の雑多さと多様さにおいて、前期の抽象的なものも含めてそれらの概念を遥かに凌駕している。モルドールや一つの指輪がそうであるのと同様、この城砦もハイファンタジーにおける暗黒と暴威の最大の象徴のひとつということができるだろう。
 システム、その他:[V]の題名がAngbandと名づけられた理由は確固たるものや推測を含めていくらでも挙げることができるが、総じて、「'Moria'(第三紀の闇の地下坑、→モリア参照)がスケールアップしたゲームが'Angband'と名づけられた」というのは非常にハッカーらしいセンスだと言うことができる。
 通り一遍の話をすれば、モルゴスを最深部に擁し、ランダムに(無限のバリエーションで)マップや敵や物品が生成されるダンジョンが、無限の広さと悪を裡に秘めたアングバンドの地下城砦になぞらえられたのがこのゲームである。Angbandと名づけられることで、「第一紀(伝説時代)の物語である」と便宜上特定されたことにもなるが、言うまでもなく、実際は第二紀以降の敵や物品も登場する。あるいは、あらゆる悪を凝縮した地下迷宮であるからこそ、アルダのあらゆる敵が登場すると言うこともできる。
 [変]やToMEなどを除いて多くのバリアントではダンジョンはこのアングバンド一箇所しかなく(([O]のように、アングバンドの中にも関わらず階によって「モリアレベル」「塚山レベル」などが存在する場合もあるが)さらにそのほとんどは地上に街もひとつしかなく、この街からアングバンドにひたすら潜るゲームである。あえてアルダの地理にあてはめるならば、例えばMoriaの地上の街はエレギオンやアザヌルビザール(おぼろ谷口)という説もあるのだが、この[V]系の「ヴァニラタウン」はどこの都市なのかはかなりこじつけが難しい。ゴンドリンやナルゴスロンドという説もあるが不自然すぎ、ヒスルム(包囲網の最前線にあった地)という説は少しは近いかもしれないが、カルハロスが守るはずの入り口が下水マンホールか何かのように街の真ん中にあるのもやはり不自然である。あるいはかなりの深層までは、アングバンド本道ではなくこれらエルフの都市から通じている「抜け道」なのかもしれない。
 Pernangbandの初期から広域マップのあるToMEでは、アングバンドは最も主要なダンジョンになっている。広域マップ自体がトールキンのエンドール(ベレリアンド水没前)としては微妙に不自然な部分があるが、アングバンドの位置もまた微妙に不自然さがある(本来ゴンドリンより東である)。とはいえ出発点からかなり離れた場所にあり、かなりの深層から始まる所など、雰囲気は出ている。
 [変]のメインダンジョンである「鉄獄」は英語表記ではAngbandになっており、また鉄獄という語は古くから[V]のプレイヤーによってアングバンドの訳語として使われてきたものである。とはいえ、アルダ系バリアント以上に脈絡のないさまざまな敵が出現し、床にグランドパターンが刻まれている場所などもあったりして、(おそらくアルダが舞台ではないこともあって)モルゴスのアングバンドそのものと見なせるかは疑問ではある。「アングバンド」という言葉が本来の語義から発して闇の大地下城砦の象徴的な語として用いられるとでも解釈すべきかもしれない。ToMEとは異なり、1階から開始し、すべてのランダムクエストはここで発生し、ここ以外に潜らなくともクリアは可能である。しかしランダムクエストや敵などの生成に制限がないことから一般に同じ階でも他ダンジョンよりも危険なことも多く、別のダンジョンの階層で鍛え、ある程度一気に潜るという進め方をしている[変]プレイヤーが多い。



アングマールの魔王 Murazor, The Witch-King of Angmar 【敵】

 出典:トールキンのアルダ世界第3紀、闇の勢力の版図の大きな部分を常に支配している呪術師の王。その正体はサウロンに「九つの指輪」の最初の一つを授かった、ナズグル(指輪の幽鬼)の筆頭であり、サウロンの第一の下僕である。
 なお、これは『指輪物語』の関連サイトなどでもよく説明されていることだが、「世間一般の」英会話においてはwitchはwizardの女性形として差し支えない言葉であるが、厳密な語意から言うと(および、魔法の研究関連では)witchとは、悪魔契約もしくは忌まわしき力源から魔力を得た術師を「男女問わず」指す。中世ではwitchは悪魔と淫行を行なった女性を多く指したため、「魔女」が訳語となったが、実際は「邪術師」とでも訳すべき言葉である。トールキンでは、厳密には5人のイスタリのみがwizardと呼ばれ、それ以外の魔法を使う者の呼称のひとつとして、また闇の側に近い者が「呪術師 witch」と呼ばれる。従って、Witch-kingという呼び名といえど男性であるので注意。
 トールキンの原作には、ナズグルの筆頭は(第三紀前半の歴史で)ドゥネダインの北方王朝を共倒れに滅ぼした魔国アングマールの王とだけなっており、出自や人間だった頃の名は記されていない。なお「アングマール」(鉄の家(館・要塞)の意)とは、本人の名前ではなくかつて治めていた国の名だが、ファンによって名前として使われることもある(欧州の○○公爵や、日本の大名の○○守が、単に「○○」の地名が本人の呼び名にもなるのと同様ともいえる)。RPGやカードゲーム用の独自設定を作ったICE社は、本人の名と出自を「ヌメノールの王子のひとり”エル・ムーラゾール(ヌメノールのアドゥナイク語で『黒き王子』の意)”」と設定している。
 ICE設定の出自では、ムラゾールはヌメノールの12代王タル・キアヤタンの次男として生まれたが、兄(キアヤタンの長男)がのちにヴァラールの禁を最初に非難しヌメノール没落の兆しを見せる大王タル・アナタミアだった(これらのヌメノール王はトールキン設定。なおムラゾールはこの設定だと、ヌメノール4代王の娘から出たにすぎない中つ国のドゥネダイン王家(エレンディルや子孫アラゴルンに至る)よりも遥かにヌメノール宗家に近い高貴な血筋と言えるかもしれないが、もうヌメノール云々以前に闇の王になってしまった本人にはどうでもいいことなのかもしれない)。兄に劣らず野心家であった彼はやがて兄や父と反目し、ヌメノール島から中つ国に渡り大国を築こうとするが父に阻まれる。そこに、冥王サウロンが接触し、ヌメノールから離れればさらに力をつけられるという甘言、さらには当時のヌメノール人が強く持っていた「限りある寿命への恐れ」をかりたてられ、ムラゾールは冥王の妖術の徒弟となり、ついには「人間の《九つの指輪》」の第一を受け取る。
 第二紀末、サウロンが黄金王アル=ファラゾーン(→参照)に囚われ捕虜となっていた頃にモルドールの留守を預かっていたのもナズグルの第一位だというが、その後、ここからはトールキンの原典設定にも有名な通り、何よりも第三紀の1300年に中つ国北西に出現した大国「アングマール」の支配者として有名であり、「魔王」という名もそこに由来している。その強大な国は、サウロンが指輪を紛失した第三紀に、力を取り戻すまでにドゥネダインの北方王朝アルノールを弱めるという、ただそれだけの目的のために作られた国だった。内乱と分裂も続く北方王朝は、オーク・トロルや人間からなるアングマールから5と半世紀もの間攻撃を受けて焦土と化した(アルノールの王族はじめわずかな生き残りはさすらいの野伏となる)。しかしアングマールの国も、ついで攻め上った南方王朝ゴンドールとエルダールの同盟軍によって壊滅する。
 この戦いで、当時のゴンドール王エアルヌアと魔王が対峙したものの、エアルヌアの馬は魔王に恐れをなして逃げ去ってしまい、魔王の馬もノルドール(上のエルフ)のグロールフィンデルに恐れをなして逃げ去った。無念を感じ、魔王への雪辱をのぞむエアルヌアを諌めて、グロールフィンデルはこのとき「魔王は人間の男の手では滅びることがないだろう」と預言したのである。
 逃げ延びた魔王(アングマール国はなくなったが、その後もこの名で呼ばれた)はその後も武勲を立て続ける。ゴンドールのミナス=イシルを奪取し、前記したゴンドール王エアルヌアは魔王に一騎打ちによる再戦を挑んだが、帰らなかった(原典の別の箇所には死んだとある。ここにゴンドールの王家は絶え、以後執政家に治められる)。サウロンがモルドールに帰還するまでは(それまではサウロンは「ドル=グルドゥアの死霊術師」として力を蓄えていた)モルドールの方は、魔王がかわって統治していた。
 指輪戦争では、ゴンドール攻略戦の指揮をとり、呪文ひとつで剣を朽ち果てさせ、呪文によって攻城機に魔力を与えて城門を破壊し、恐るべき獣(→参照)に乗って援軍のローハン軍を蹂躙し、恐怖と暴虐をあらんかぎりに撒き散らした。しかし、その前(と後)にローハンの騎士(と小姓)が立ちふさがった。「人間の男」の手では決して滅びないという魔王であったが、しかしその騎士は「男」ではなく、小姓は「人間」ではなかった──
 敵:[V]では「アングマールの魔王『ムラゾール』」となっているが、ICE設定を除去する[Z]では『アングマールの魔王』のみとなった。しかし、他のナズグルの名が復活しているToMEでも「ムラゾール」の名は戻っていない。
 *bandでは、バリアントごとにナズグルの能力(階層)は千差万別であるが、どのバリアントであっても共通しているのは、魔王だけは他を圧倒してずば抜けて強力である点である。例えば[V]では他のナズグルは40-50階代だが、魔王は80階である。[V]の上位の階層は主に第一紀の強力なマイア出身者などで占められている中、第二紀・第三紀の敵としては非常に健闘していると言える。原作でも、ナズグルは水や光を恐れるが、魔王だけはこれらを克服しているとなっている。(しかし、*bandでは魔王も他のナズグル同様、HURT_LITEフラグはついたままである。)

 →ナズグル →アングマールのロング・ソード



アングマールのロング・ソード The Long Sword of Angmar 【物品】

 この品には国の名前だけがついているが、原文のコメントによると、これはアングマールの魔王(→参照)の持っていた剣を指しているという。
 『指輪物語』において冥王サウロンの強力な下僕である、九人の指輪の幽鬼(→ナズグル)は、「黒の乗り手」の姿としては、それぞれが武器として長剣を帯びている。これらはすべて黒い呪術のこめられたモルグルの武器(→参照)と思われるのだが、幽鬼の筆頭である「アングマールの魔王」も例に漏れず、後半のミナス・ティリス攻城戦においてもガンダルフに挑戦した際、「剣を大上段に振りかざす」と「焔が刀身を走」るという場面がある。が、魔王はそれ以外の武器も用い、前半フロドを刺したモルグルの短剣や、エオウィンとの戦いで用いた黒い矛など、活躍しているのは別の武器の方で、長剣の方は常に持っていても、さほど活躍の出番はなかったりもする。
 映画版LotRでは、DVD版の追加場面にのみ、上記のガンダルフと魔王が対峙する場面が追加されている。長剣を大上段に振りかざし、焔が伝うというところまで再現されており、さらには原作にはなかった、ガンダルフは杖をこの魔王の力で(自分がサルマンの杖にしたように)折られ、馬から落とされてしまうという場面となっている。原作では不敗のガンダルフに対する、映画のかなり大胆なアレンジだが、実際のところは、トールキン自身は書簡でガンダルフと魔王が直接対決していたらどちらが有利かわからなかった、と言っており、魔王の方が強いというのも決してありえない話ではなく、ガンダルフ達ゴンドールの窮地を演出することで直後の戦でのローハン軍や死者の軍勢を引き立てる効果を上げている(映画ではガンダルフは全般、原作よりも弱めで、他の人物を引き立てている)。
 ICE社のMERPのRPG用データでは、アングマールの魔王の装備にはすべて詳細なデータが設定されており、魔王の長剣の名はヴァサマキル(クゥエンヤ語で「武具喰らい」の意)という名があり、これは遥かに第一紀にサンゴロドリムの地(アングバンド)で、サウロンの手により(おそらく、最初はサウロン自身のためにではないだろうか)鍛えられたものである。炎クリティカルを与え、武器としてはアンドゥリルなどには及ばないのだが、ぶつかった武器で抵抗判定(魔王自身のレベルに依存する)に失敗したものをすべて破壊してしまうという特性がある。
 なお、余談であるが、ICE設定ではアングマールの魔王の「矛」の方には、ナルラグアス(「死の宣告者」の意)という名があり、こちらはアングバンドよりさらに以前のモルゴスの城砦、ウツムノで作られたものである。威力はほぼヴァサマキルと同じであるが、同様の抵抗判定に失敗した者を「緩慢な死の呪い」に追いやるという魔力がある。RJNetHackでは、魔王の矛は「ニウル・クラドゥ」というあたかも和製ライトFTの超さぶいぼネーミングセンスかと思うような名になっているが、実際はそうではなくDark Ruinをひっくり返しただけだという。ICE設定の魔王の装備には剣とモルグルナイフ、矛のほか、ロモクゥエナーロという鉄弓(火球を発射する)、海竜の鱗のモルグルプレート、タル=キアヤタンの冠、アングマールの鉄兜などがある。
 *bandにはToMEに「anti-Ringil」という位置づけで登場する。発想でいえばウォーパルやエクスカリパー等同様の呪いの物品で、未鑑定で重要アーティファクト(この場合はリンギル同様の4d5)と見誤る品である。Angbandの名目上の最強武器の代名詞である第一紀のリンギルに対応するものとしては、第三紀の魔王の、しかもさほど活躍していない武器としては荷が重いようにも感じられるが、呪いの物品であるモルグルの武器の最も呪いが重いもの、という考えであろう。原作の「刀身を炎が走った」という記述通り焼棄武器属性があるが、無論リンギルの凍結属性に対応する意味でもある。いくつかはリンギル同様の能力が揃っているのだが、能力値やスピードへのマイナス修正があまりに大きいため、ウォーパルやエクスカリパー同様に(それ以上に)役立つものではない。

 →リンギル →アングマールの魔王



アングリスト The Dagger 'Angrist' 【物品】

 アルダ伝説時代における人間(エダイン)の代表的英雄、隻手のベレン(→カムロスト)の短剣。短剣ではあるが、稀代の銘刀のひとつであり、その名(鉄angを切り裂くものrist)の通り、地上のあらゆる鉱物を生木のように切り裂くことができるほどの業物であった。
 これは元々、当時のドワーフの最大の刀工、ノグロドのテルハール(ナルシルことアンドゥリルや、ドル=ローミンの竜の兜などを作った鍛冶師である)が、「フェアノールの息子」(ケレゴルム等参照。ハイエルフの偉大な鍛冶師の一族だが問題児の集団)でやはり鍛冶の技にたけたクルフィンに贈ったものだった。ほとんど中ボス悪役でしかないケレゴルムとクルフィンの二人の領土から、ベレンが恋人ルシアンと共に脱出する際、クルフィンを返り討ちに叩きのめして逃亡したときにどさくさに奪い取ったのがこのアングリストである(このときケレゴルムのもとからは名犬フアンがルシアンのもとに寝返っており、フェアノールの息子らにとっては踏んだり蹴ったりである)。
 この後も物語を通じてベレンが武器として持っていたようで、ベレンはのちにルシアンと共にアングバンドに潜入し、モルゴスがノルドールから奪っていた3つの大宝玉シルマリルのうち一個を持ち帰るが、このときモルゴスの鉄冠からシルマリルをえぐり取ったのが、鉄をも貫くアングリストである。しかし、さすがにそれと同時にアングリストの刃も折れてしまい、破片が寝ていたモルゴスの頬に思い切り突き刺さり、アングバンドは蜂の巣をつついたような大騒ぎになる。
 *bandでは[V]以来、短剣としてはベースダメージが大きく、アーティファクトとしては中堅に値するが、オーク、トロルのスレイングとさほど見るべきところはない。[Z][変]では名前のみが「ケインのダガー」に、Cthangbndでは「アサシンのダガー」に置き換えられている。
 対して背景を重視するアルダ舞台のバリアントではおおむね強化されており、[O]ではベースダメージがかなり高く、ToMEでは毒殺・溶解・破邪などが追加されている。特に、全般アーティファクトが強力で役に立つものになっているEyangbandでは、ベースが「ドワーフのショートソード」になっており(これはテルハールの手によるという点の反映であろう)かなりの威力をもつ物品となっている。
 なお、[O]に由来するアーティファクト解説では「隕鉄から作られた」となっているが、名前と効力がよく似たアングラヘル(グアサング)やアングウィレル(これら二振はテルハールではなく、闇エルフのエオルの作である)から想像が広がったのだろう。原典には隕鉄によるという明記はない。

 →ギレッター



アンデッド従属 Enslave the Undead 【その他】

 悪の聖職者や魔法使が、いわゆるアンデッド・モンスターを呼び出したり生成したりといった魔術は通常の発想であるが、RPGの原型であるD&Dシリーズでは、悪の聖職者にはさらに直接的な能力がある。善の聖職者がすでにいるアンデッドを追い払う(ターン・アンデッド)能力を特殊能力として呪文よりも遥かに頻繁に(あるいは無尽蔵に)使用できるのと同様、初期のルールから悪の聖職者は同じ行動を通して、すでにいるアンデッドをたやすく威伏(恐怖させる)、ないし永続的に支配することができる、というものである。支配するには、善の聖職者ならばそのアンデッドを一気に破壊するのと同じくらいの能力差が必要なので並大抵ではないが、悪の聖職者がたやすく部下を作り、いわゆるボスキャラとして応用しやすくするためのルールといえる。
 *bandで[Z]の暗黒魔法に見られる「アンデッド従属」の魔法は、1体のアンデッドモンスターの魅了を試みるというもので、暗黒プリーストのこうした能力を意識したものと考えられる。実用性としては、強力なモンスターの魅了が難しいことや、アンデッドの生成・召喚呪文が暗黒領域には多数存在することもあって有用な方とも言えず、視界内のアンデッド全てを魅了できればさらに原型にも近く有用であったかもしれない。とはいえ、精神のないアンデッドを魅了する呪文というのも珍しいものである。



アンデッド退散 Dispel Undead 【その他】

 シンボル、言葉、細かな道具や要素が、悪霊や死霊を退散できるという迷信は、「魔法」「神聖な奇跡」というほど大げさな表現にすら及ばないほど、非常にありふれたものである(厄を避けるげんかつぎという意味を含めれば、無意識を含め日常にすら取り入られているといえる)。
 そのためか、RPGの原型である初期D&D系では、聖印や聖水や香料など比較的ありふれたアイテムが(特に使用者の能力を伴わなくとも)アンデッドやライカンスロープにある程度効果があるといったものがルール的に設定されているものが目立つのだが、中でも特筆すべきは、クレリック(聖職者)クラスにとって「アンデッドを追い払う」(ターニング・アンデッド)能力が、回数無制限であることをはじめ、かなり使用制限の少ない特殊能力となっていることである。さらに、クレリックの浴びせた力が十分に強力であればアンデッドを破壊(解呪、ディスペル・アンデッド)することもでき、悪のクレリックならアンデッドを威伏(恐れさせる)や支配する効果になることもある。またAD&Dの一部の版ではパラディンはアンデッドだけでなく悪魔なども退散できたりもする(対して悪のクレリックは、天使やパラディンを退散できる)。もっとも、版によって退散のルールとその強さはまちまちであり、特にインフレした強敵は退散自体をほとんど無効とすることでバランスがとられている点も目立つ。またD&D系でも3.Xeでは比較的強力なぶん、遂に回数制限が導入されているが、比較的制限が少ないことにはかわりない。
 なお、D&D系では(特に低レベルでは顕著だが)アンデッド・モンスターは、同格のほかの生物などのモンスターに比べて、ルールで規定されている出現数がかなり多く、また倒しにくく、特殊能力も多く設定されている点は特筆に値する。強力なアンデッド退散や破壊能力を無制限に使用できる聖職者がパーティーにいることを前提としてゲームバランスが組まれているわけであって、D&D系が「役割分担のゲーム」として各クラスの特殊能力をそれぞれ最大に発揮させて冒険することを想定されている、端的な一例である。
 D&Dとほぼ同時期や以後のRPGでも、ほとんどの場合聖職者や破邪の類の魔法として、よく似た効果の聖なる能力や呪文が入っていることが多いが、他のゲームでは回数無制限では強力すぎるためか、というよりむしろ初期D&D系のような「脈絡のないルール」よりはましな状態に整理されていることが多いため、一括して「魔法」の一種として扱われ、従って消耗など同様の使用制限があることが多い。また、その効果の充分な強力さから、比較的強力な魔法となっていることも珍しくない。
 CRPGでは、ほぼD&D系をルール的に踏襲しているWizardryにおいて、同様にプリーストや同系能力者が回数無制限のアンデッドの「ディスペル」を使える。前述したように、元のD&Dでは元来はディスペルは退散を行った際、退散側の力が大きすぎた場合にアンデッドが破壊される効果だが、Wizardryのシステムでは、追い払うこととあまり区別がないためか、アンデッドを消し去る強力な能力になっているのだが、また経験を溜め込むことが主目的のひとつであるこのゲームで経験値を得られないため、重視されないことも多い。他には、呪文になっているものとして、同様に消し去るDQシリーズのニフラムや、対して純粋にダメージ(レベルのわりにかなり強力である)を与えるFFシリーズのディア系などがある。
 Roguelikeでは、NetHack系の「僧侶」と、「騎士」(これはパラディンを含むためか)が魔法でなく、#turnの特殊能力を使うことができ、退散や破壊の可能性もあるという点も元のD&D系と同じである。ただし、NetHackでは一対一の状況が多い(確実に退散できるような弱いアンデッドが、広い場所で大量に群がってくる、といったことが少ない)などの理由もあって、一般にあまり頼りにならない。なお、NetHackのTurn Undeadの杖は死体を蘇らせる効果があるため「蘇生の杖(死人返しの杖)」という訳語になっているが(→死者召喚 →死人返しの杖)実際のところD&D系でも蘇生の魔法をアンデッドにかけると破壊することができる。
 *bandでは、Moriaの時代からプリースト系や、バリアントでは生命(または破邪)の領域に存在する魔法、また巻物などにこのアンデッド退散がある。邪悪や悪魔の退散(ダメージ)とはバリアントや領域によって、区別されていたり、統合されていたりする。ただし、効果は「退散(Turnの訳語にあたる)」ではなく、原語ではDispel、効果も破壊(ディスペル)に近く、視界内のすべての効果対象に直接ダメージを与えるもので、奇しくもFFのディア系に近い(ただし、ディアと異なりレベルは決して低くはない)。これは、Roguelikeではテレポート・アウェイなど、敵を追い払う魔法は特にアンデッドに限らずともありふれているので(実は邪悪系などを追放、強制テレポートする邪悪飛ばしも、破邪領域でもより低いレベルにある)それと区別をつけるというのと、なによりプリーストやパラディンにとってこの代表的な魔法を「頻繁に使う」ようにするため、便利なダメージ効果にしたとも推測できる。実際のところこの退散(ダメージ)の魔法はプリーストやパラディンの重要な攻撃手段であり、「アンデッド」退散のみや悪魔などと共に分かれている場合は「邪悪」退散よりはMP効率などがよいため、そうしたピットに出くわした時など使うこともあるだろう。



アンデッド・ビホルダー Undead Beholder 【敵】

 TRPG, D&Dシリーズのオリジナルモンスターであるビホルダーのアンデッド化したものである。ビホルダーの俗称である「アイ・タイラント(眼の暴君)」を意識して、「デス・タイラント」と呼ばれることも多く、現にD&D 3e以降ではデス・タイラントの方がモンスターの正式名称になっているようである。
 クラシカルD&Dにおいては、最高レベル用ルールである黒箱のモンスターであり、例によって強大化するプレイヤーキャラクターに対処するため、ビホルダーをさらに無理やりインフレさせたとしか考えられない極悪な能力を持つモンスターである。(通常のビホルダーは敵の魔力を打ち消す眼光を放つが、アンデッド・ビホルダーは打ち消すのみならず、使い手に跳ね返すという無理矢理具合がいい感じにこのモンスターのコンセプトを物語っている。無論のこと、他の能力全般もビホルダーに大幅に輪をかけて強い。)しかしAD&D 2ndや後のルールでは、ノーマルモンスターをこれ以上インフレさせたところでどうしようもないと考えられてのデザインが多く、このデス・タイラントも能力的そのものはビホルダーと同等程度で、また知能が低い(ゾンビ的なアンデッドである)ことからか、総合的な危険度(得られる経験など)はビホルダーより弱いものになっている。あくまでビホルダーの強化版ではなく、「バリエーション」として作り直されたのだろう。
 他のRPGでは、あからさまにD&D系のアンデッド・ビホルダーを参照したらしき「レッサーバンパイア・バグベアード」が『ソードワールド』のシナリオ集に登場し、これは通常のバグベアードのインフレさせた強化版となっている。
 *bandのものは[V]から登場するのだが、これはAD&DではなくクラシカルD&Dのものを参照したらしく、厄介な*band版ビホルダーをさらに強化したものになっている(思い出文章の「冥界の暗黒の嵐」という表現からは、単なるゾンビ化ではないことを伺わせる。なお、地獄の嵐も暗黒の嵐も使ってはこない)。階層自体はさほど変わらないのだが、大幅に耐久力等が高く、さらにアンデッド召喚を持っているので非常に厄介である。ビホルダー同様に宝物は得られないので避けるにこしたことはない。

 →ビホルダー →究極ビホルダー



アンドゥリル The Long Sword 'Anduril' 【物品】

 『指輪物語』の旅の仲間の参謀格をつとめる、ドゥネダインの王の末裔、野伏アラゴルンの剣。元は、ヌメノールから中つ国に移住したドゥネダインの上級王エレンディルの剣「ナルシル」で、サウロンとの戦いで折れたが、サウロンの指を切り《一つの指輪》を奪うのに使われた。長らく「折れたる剣」として伝えられてきたが、旅の仲間の旅立ちにおいて裂け谷のノルドールらの手によって鍛えなおされ、アンドゥリル(シンダリン語で「西方の輝き(焔)」の意)と新たに名づけられた剣である。(なお、映画版LotRでは旅立ちの時には鍛え直されておらず、アラゴルンはFoTR, TTT通じて普通の剣を使っている。)
 アラゴルンによると、ナルシルは第一紀(伝説時代)のドワーフの鍛冶師の都ノグロドの、最大の刀匠テルハールによって鍛えられたという。ノグロドはドリアスの灰色エルフに武具を提供していたため、おそらくナルシルも優れた灰色エルフの武将か、シンゴル王の縁者のために作られ、ドリアスの遺産の数々を引きついだヌメノールに伝わった可能性が高い。
 元はナルシルはドワーフの作であったわけだが、裂け谷で鍛え直された際にはエルフのルーン文字が刻まれる。「折れた剣」を(新しい刃を入れるのではなく)どうやって直すのかという話題がよく出るが、古代ドワーフやエルフの鍛冶の技はそれ自体が半分がた魔法とでも考えるべきであろう。
 映画版RotKで鍛え直されて登場するアンドゥリルは、アラゴルンの演者が手間取ったと言っている通り非常に長い。これは、本来のナルシルの持ち主エレンディルが2.5m近い長身であったこと(→丈高きエレンディルの星を参照)を参照していると思われるが、かつて長身の灰色エルフの武器であったためでもあるかもしれない。RotKの登場場面は劇的であるが(アルウェン関係であれだけ無茶をやったら嫌でも劇的にならないと割に合うわけがないが)FotRでモリアのオーク隊長を倒す、TTTのヘルム渓谷での活躍といった原作での主要な活躍場面がない結果、単に死者の軍団を従えるだけのための剣のようになってしまったきらいがある。
 *bandでは名前にちなんでか、焼棄の武器、炎の剣となっているばかりか、発動でファイヤーボールといった怪しげな能力もある。恐らく名前にちなんで、また原作にも「刀身が焔のような光を発した」という描写が何箇所かあるにはある。その他、筋力増強、破邪やオーク、トロル倍打、AC増加などがあるが、強力なエゴなどに比較すると微妙なところである。ドゥネダインの王の剣だけに、並たいがいの「西方国の武器」からは確実に上回って欲しいと思いたいところなのだが、その点でも難しいところもある。一応、[O]などからベースダメージもやや大きくなっているものの、中堅かそれ以下から脱せる武器ではない。『指輪物語』読者には有名な剣で、いざ手に入れてみるとさほど使えないので拍子抜けすることもあると思うが、ヴァラや第一紀のエルフらの武器と比べればこの程度が妥当なのかもしれない。



アンドロイド Android 【種族】

 出典:「アンドロイド」は19世紀のリラダン伯の著作『未来のイブ』において、発明家エディソン(なぜか実在の本人が登場 →ヱヅソン)が作り上げた機械人間ハダリーの呼称「アンデリエーデ」に由来し、これ自体は「ロボット」(20世紀のカレル・チャペックによる)よりも古い。Androidとは「人間の(ような)眷属」というような意味で、語義自体はより雅語的なことを除けばHumanoidとさほど変わらない。ただしSF用語としては、ヒューマノイドが主に人間型の「異星人」(のちにRPGでは人間型のファンタジー種族も指した)のための用語だったのに対して、アンドロイドは人間型の「人造物」を指すのに用いられているといえる。
 チャペックのロボットは単に人型機械だけでなく語義とも「労働者」であるのに対して、リラダンのハダリーはギリシアのピグマリオン神話に遡る典型的な理想偶像(アンドロイド美女・美少女・レトロゲーム等との関連に関して述べ始めるとこのサイトの75%がそれで埋まってしまうので省くが、この語の起源自体がそうだったということである)と言う、元来まったく別のイメージである。しかしロボットが完全人間型を含みそれが一般的イメージとなっている現状からは、しばしば人型の人造物に対してこの二つの語が両用される。ちょうどファンタジーにおいて魔法使いを示すさまざまな語と同様に、「ロボット」「アンドロイド」の類を指す語の数々は、語義は一部が重なり、一部がずれているものの、区別するための明確な定義というものはない(ロボットは現在では工業用語であるが、SFもとい一般的にはこれらの用語分野は無法地帯である)。
 あまりにも俗な一般論(外見が人間に近いものがアンドロイドで、そうでないものがロボット)の他に、ロボットは完全に機械だが、アンドロイドは生体材料のものも含む、という定義が信じられていることがある。P.K.ディックの『アンドロイドは電(ry』に登場するネクサス6型などのアンドロイド(映画化『ブレードランナー』ではレプリカント)は、解剖学的には人間とほぼ完全に区別がつかず、精神検査以外に外から人間と区別するには、骨髄を分析しなくてはならない。また、たまたまSFをかじっている作者などが主張する場合、同じ機械製であっても、自律型でも(特にアシモフの三原則などが組み込まれて)人間に対する労働奉仕者であるものがロボットであり、そうでないもの(例えば人権を認められた高級AIなどが搭載されているもの)がアンドロイドとされる。非常に乱暴に総括してしまうと、ロボットは機械的、アンドロイドはそれより擬人的・扱うのも擬人問題的と言う、語源通りの位置づけになるが、それらも作者及び作品ごとのそれぞれの定義の域を決して出るものではない。
 まるっきり余談だが、映画『ターミネーター』においてTシリーズのターミネーター達が劇中「サイボーグ」と呼ばれることに対して、サイボーグとは「一部(あるいは脳以外)機械の人間」であるから、Tシリーズは「アンドロイド」であってサイボーグと呼ぶべきではないという疑問が多く見られる(自律的な殺人ができるので、3原則が組み込まれた「ロボット」ではない)。サイボーグとは工学用語において、広義では人間の反応と電子機器や入出力との対応を研究する分野であるが、狭義では「生体器官を機械で置き換えること」を指す。この狭義の定義の字面だけ見ると一見確かに「人間の体の一部を機械で置き換える」こととイコールのように見えるのだが、よく読むと人間がベースであることは何ら特定されていない;即ち「機械で作られた生体器官相当物」を組み合わせて構成されたロボットやアンドロイドを指すと言えないこともない。が、だとしてもサイボーグ=義肢と「SF用語では」あまりに定着した現在において、かなり説明不足かもしれない。
 なお、実際に人間型を模したロボットも作られることが多くなった近年において、「アンドロイド」は男性形なので、女性型の場合は女性形の語である「ガイノイド」と呼ぶべきであるという主張がとみに著しい。が、元来、「アンドロイド」という語そのものが、上記の女性型のハダリーを指して作られたものである。アンドロイドを人造人間そのものの一般語として人間のman同様のものとして見た場合、"man"の表記のすべてを躍起になって"woman"にすべて置き換える必要がないのと同様に、無理矢理にガイノイドに置き換える必要は認められない。
 種族:*bandでは[変]においてゴーレムをベースにしたような能力を持つ種族であるが、最大の特徴は経験値がなく「装備品の質によってレベルが決定される」という点で、大昔の「RPG」「レベル」という語を恐らく勘違いしていたらしいファミコン冒険ゲームブックドラゴンクエスト1よみがえる英雄伝説のシステムを思い出させる。経験値がないのはおそらく学習機能がないタイプのアンドロイドなのであろうが、ならばなぜ装備品から力を得るのかの理由づけは定かではないが、あるいは大昔のPCゲーム、装飾品のような部品で機能を回復してゆく『コズミックソルジャー』のアレだという説もまことしやかに囁かれている。当然、装備品によって序盤に一気に高レベルになることもあるので、ブラックマーケットや、マゴットや首相らを惨殺して入手できる品が以後の明暗を分けるという結果になる。[Z]の混沌の戦士や獣人などと同様、*bandの範囲を逸脱せずにまったく違うプレイスタイルを出せた例といえる(はっきり言って狂戦士などは*bandそのものを逸脱した面があるのに対し)。能力的にはゴーレム同様なので精神方面の能力値がどん底だが、このプレイスタイルの面白さから精神系クラスもアンドロイドで試す経験者も多い。



アンドンクラゲ Box Jellyfish 【敵】

 西洋人の名前(アントン)等とは一切関係ない。アンドンクラゲはカツオノエボシ(→参照)と並び称される危険な毒クラゲである。その形状は数センチの直方体状をした透明な頭に、十数〜30センチ程度の触手が4本生えているというもので、その頭が行燈(あんどん)やランプの傘に見える(しかし無論発光などはせず、水中では透明である)ことからこの名がある。刺激性の毒からカツオノエボシ同様に「電気クラゲ」の通称で呼ばれることがある。アンドンクラゲ自体は日本全国に、代表的な毒クラゲといえるほど多数生息するが、危険ではあるが即座に命に関わるほどに強い毒ではない。しかし、同じ種では、沖縄などに生息するハブクラゲや、さらにはオーストラリアのフリッカークラゲは死亡事故も多く、カツオノエボシに劣らず非常に危険である。
 *bandにはToMEにのみ登場するのだが、おそらくは[Z]のカツオノエボシを意識して同種の危険なクラゲとして追加されたものと思われ、実際には和訳のアンドンクラゲよりは、Box Jellyfishの中ではフリッカークラゲなどのより危険なものを指していると考えられる。しかしながら、ToMEにはなぜかカツオノエボシの方は登場しない。カツオノエボシと比較すると、階層がやや深くダメージがわずかに小さいという同程度である。[Z]のモンスターリストに対する対抗意識か何かは定かではない。



アンバー Amber 【システム】【その他】

 出典: 真世界。唯一の「実体」。真世界アンバーは原初の魔法印章図である『原初のパターン』(→パターン)から生じた最初の世界であり、ただひとつの「実体」の世界である。多元宇宙の無数のパラレルワールドとその含有要素は、すべてアンバーの投げかけた”影”でしかない。アンバーの世界の無数の”影”が、完全な無秩序である「混沌の宮廷(→参照)」の世界まで延びており、そのアンバーと混沌の間には、「現実の(現代の)」地球、「神話や伝説の世界」、人間の想像した「物語」の世界まで、ありとあらゆる「世界」が含まれる(実際に真世界シリーズではいくつも登場し、舞台となる)。
 またアンバーとは真世界だけでなく、(これもパターンが具象化したある人物の子孫であるが故に)パターンを血に宿す「アンバーの王族(→アンバライト)」もまた「実体」の人物であり、「影の人物」を投げかけ、また彼ら「実体」が存在した”影”の世界はあたかもアンバーのように、それ自身の”影”の世界を投げかける。「実体」にとっておぼろな幻像でしかない”影”はたやすく側面を変え、弄び、渡ることのできるもので、アンバーの宮廷や王族にとって影の世界や人物は(基本的には)存在自体が儚く取るに足らぬものでしかない。
 これは考えれば考えるほどに、あらゆる側面に関連して哲学的思考、知的関心や意欲をあまりにもかきたてられる設定である;しかし作者ロジャー・ゼラズニイはこれを流行りのSciFi/FT/伝奇ギャルゲーのごとくひたすらにいじくり回すよりも、次から次へと片っ端から事件を起こし、ピカレスク、ヒロイックファンタジー、推理、権謀術数の舞台として、人間の思考活動の全産物のうちでも空前のスケールとも言えるこの背景すら狭しとばかりに縦横無尽に張り巡らせるのである。
 強大な王オベロンによって治められ、その王族が住むアンバーは、また全多元宇宙に存在するうちかつてないほど巨大な城砦と王国である(実際はシリーズが進むにつれ、規模の面ではアンバーより大きな城砦が登場したりもするが詳しくは割愛)。異常に澄んだ青空と琥珀の黄昏をもつアンバーは非常に”濃厚”な剣と魔法の世界である(アンバーとその近くの”影”では内燃機関や火薬がほぼ無力であり、根源的な幻想・神話の性質のみを純粋に持つ世界といえる。もっともあらゆる”影”の成果はすべてアンバーに集積する)。
 作中のコーウィンの説明によると、アンバーの”影”である平行世界は離れるにしたがって少しずつ変わりながら並んでいるが、アンバーの真世界から離れてゆくほど劣ったものとなってゆく。そのためコーウィンらアンバーの王族は(どれかの”影”に半定住することはあるものの)究極的には最も優れ強力なアンバーの宮廷を支配することを強く望むのである。アンバーから離れてゆくと、影の世界は最終的には混沌の縁に達し虚無(奈落)となるが、その手前には唯一、アンバーとは別の意味での”実体”である混沌の宮廷(→参照)がそびえ立っている。
 量子力学のエヴェレット的解釈のパラレルワールドというのは、いったん分離した世界同士は相互に干渉することはないのだが、(なぜかこれは、のほほん女フローラが見出すのだが)アンバーの”近く”では濃い”影”同士の干渉が頻繁におこり、そのためアンバーの宮廷の領域に侵入してくる軍隊や魔術師もしばしばいる。それを守るために、九王子のうちジェラード、ケイン、ジュリアンといった面々は常に軍を率いてアンバーの宮廷を防衛している。
 なお、[Z]和訳の板倉氏は我々の世界が有限次元ユークリッド空間であれば、アンバーの真世界は無限次元ヒルベルト空間にあたるようだ、と考察している。(この語自体は原作にも、最初に『審判の宝石』に同調したコーウィンの台詞の中に「無限の次元を持つ亜原子のヒルバートの宇宙 the infinitely dimensioned Hilbert space of the subatomic」という、おそらく邦訳では意味を正確にとっていない訳語で出て来る。)我々の住む現実世界が4つ(10でも26でもいいのだが)の時間・空間の次元からなるのに対して、アンバーは次元、時間や空間の軸そのものが無限に存在し、現実の地球の世界ををはじめすべてのパラレルワールドは、すべての要素が含まれたアンバーから、限られた次元だけが反映された投影像に過ぎない、というようなことである。
 かなり余談であるが、クラシカルD&Dの公式市販シナリオ(モジュール)に、想像を絶する狂気と殺意のシナリオとして恐れられている「モヂュールX2 アンバー家の館」というものがあり、「アンバー」「アンバー一族」という語を聞くと歴戦のD&D戦士らは反射的にこれを思い出して、恐怖と悲しみの記憶にエルリックの如くむせび泣くが、こちらのアンバーの世界観アベロワーニュは(クトゥルフ神話でむしろ有名な)クラーク・アシュトン・スミスの作品をモチーフとしており、ゼラズニイのアンバーとは限りなく無関係である。
 システム、その他:[Z]は真世界シリーズを取り入れたバリアントとされるのだが、別にアンバーの真世界が舞台となっているようにも思えず、パラレルワールドという概念自体も特に登場するわけではない(レイシャルパワー「シャドゥシフト」は別の確率世界に移るという解釈を除けば)。詳細は不明としか言えないのだが、アングバンドでの戦いに、単に強大なアンバー関係者らが乱入しその能力も登場する程度だと思っておくのが無難なのであろうか。
 キャラクターの技能が上がると、[V]やアルダ系バリアントでは、技能欄に「超越」以上は「英雄的」「伝説的」と表示されるが、[Z]系では「カオスランク」、ついで「アンバー」の数字つきとなる。カオスランクとは混沌の宮廷に名を連ねるレベル(もしくはウォーハンマーやムアコックなどで混沌が勢力と認めるレベルと解釈してもよいが)とし、アンバーは単にアンバーの王族レベル、”影”ではなく”実体”のレベルに及んでいるなどと解釈できるだろう。
 なおまったくの余談であり、一見すると何の関係もないように思えるが、トールキンのクゥエンヤ語では「アンバー(Ambar)」は「世界、大地(earth)」を意味する語である。

 →アンバライト →パターン →シャドゥシフト



アンバーの王女フローラの軟革ブーツ 【物品】

 →フローラ


アンバーの王族 【種族】【敵】

 →アンバライト


アンバーの冠 【物品】

 →真世界アンバーの金の冠



アンバーの九王子 Nine Princes in Amber 【敵】

 剣聖ベネディクト、僭主エリック、魔太子コーウィン、提督ケイン、怪王ブレイズ、魔人ブランド、牧神ジュリアン、武神ジェラード、悪漢ランダム。(原作ではここに「アンバーの四王女」が加わるが、彼女らには継承権はない。女卿デアドリ、水精ルウェラ、妖姫フィオナ、美姫フローラ。)ゼラズニィのアンバーシリーズにおいて熾烈な継承争いとアンバーの地を巡る攻防を繰り広げる、オベロンの子ら(このとき生き残り、また主要王族として認識されている)である。
 [Z]および[変]に強敵として登場するアンバライトたち。非ゼラズニィ読者にはさっぱり覚えきれないそうだが、読者でもたまに名前が抜けそうになる。わかりやすく分類すると、前半シリーズではコーウィンを主人公として、いつも行動を共にしている副主人公格がランダム、割と善玉なのが武人肌のベネディクトとジェラード、いけ好かないのがエリックとその手先のケインとジュリアン、そして謀を巡らせる敵でも味方でもあるのがブレイズとブランドとフィオナである。
 [Z]のユニークモンスターでは、九王子からなぜかランダムが抜けており、上記のフィオナが入っている。これはプレイヤーがランダムとしてプレイする(アンバライト盗賊、トランプ)のが推奨されているのかもしれないしそうでないかもしれない。
 なお、彼等ユニークのアンバーの王族には、全員「EVIL」のフラグがついている。主人公でもひねたコーウィンならEVILでも納得できるが、ベネディクトやジェラードが「EVIL」と形容できるとはとても思えない。これに対し、(海外の開発グループでこれが話題になった時)[Z]和訳の板倉氏は「[V]の九人のナズグルを、そのまま九王子に変更した時の名残り」だと考察している。仮にそうだとして、なぜ今に至るまで直っていないかは定かではないが……武器の攻撃力は「破邪」に大きく依存しているものが多く、EVILの有無は敵の強さの結構重要な要素である。王族の一部だけEVILを取ったりすると王族間のバランス合わせが面倒になるので(ジェラード、エリック、コーウィン、ベネディクトの現在の力関係などは、かなり変動する)あえてそのままになっているのかもしれない。



アンバーの血の呪い The Blood of Amber 【システム】

 ゼラズニイのアンバーシリーズにおいて、真の世界アンバーを支配する真の実体の存在ら「アンバーの王族」の間に流れる血は、しばしば決定的ともいえる重要性を持っている。無論それは「血脈」の意味でも重要であるが(アンバーの血脈の継承者こそが、その宇宙における「実体」の存在であり、「影」を自由にできる全能者に値するからである)比喩ではない「血液」そのものも、多元宇宙の根源の印章図である「パターン」を宿し、血がパターンを操り、描き、消す力を持っている(→パターンの項目参照)。  そして、古来地球の伝承で、アンバライトの末裔である魔術師らが血の盟約を重んじたのはそれが直接の由来とも言えるが、アンバーの王族が血をもって誓言・呪いをかけた時、それはさらに恐ろしいものとなる。シリーズ序盤、エリックに敗れたコーウィンが兄の政権にかけた呪いは、アンバーから無数の並行宇宙を貫き、魔物を呼び寄せる黒い道を作り出した。
 ──が、この黒い道は、実はコーウィンとはまた別の理由もあって生じたものだった(入り口が開いたのはコーウィンの呪いがきっかけだとは言えるのだが)。またそれ以外には、しばしば一族の死んだ時の血の呪いの恐れについては言及はあるものの、実際に*bandのような効果を及ぼしたといった印象的な場面があるとも言えないので、実際のところは、[Z]以降のアンバーの血の呪いシステムは他のアンバーの要素(パターンやトランプ、シャドゥシフト)と同様、原典を再現したというよりは、Roguelikeの中であえて、アンバーの雰囲気を思い出せるような能力を「創作した」といえるかもしれない。


 もし、かれが償いをすることになったら──何をして、どんな代償を支払うにしても──ずっと昔に死んだ3人の兄弟と同様に(ぼくは突然思い出した)、アンバーの真の王子として、立派に償いをするだろうと思った。かれは自分の体の血で一杯になった口で、かれらの費やした手数をあざ笑い、そして、必ず実現する改変不能の呪いを口にしながら、死んでいくだろう。そして、ぼくにもその能力があり、必要とあればその能力を行使するだろう、と突然わかった。
(ロジャー・ゼラズニイ『アンバーの九王子』)


 (なお、この「3人の兄弟」のうち、オズリックとフィンドーを除く一人が誰なのかは定かではない。それ以前に初期巻では家族の設定が後と矛盾がかなりあるのだが、コーウィンの記憶喪失のためということにしておく。)
 システム上は、AMBERITEフラグのついた敵(登場しないランダムを除く8王子と、オベロン、ドワーキン、フィオナ、リナルド)を倒した際、およそ半々の確率でTY_CURSE発動と同じ様々な凶悪な効果が現れる。詳しくはTY_CURSE(太古の忌まわしき怨念)の項目に譲るが、彫像化やサイバーデーモンの出現など容易に致命的になりうる効果も多い。例えば物品などによるTY_CURSEと異なり、AMBERITEユニークをすべて避けて通るわけにもゆかないので、ときに「どうやっても防げない死の危険」と見なされることがある。彫像化などは「反魔法バリア」の物品などである程度は防げるものの、そんなものを誰もが何時も装備していられるわけでもない。これ以上AMBERITEユニークを増やすのはあまりに危険になってしまうため、要望がありながらも、ルウェラやデアドリといった追加のアンバーの王族が登場できない理由でもある。
 *bandというゲームは、最深階においてはプレイヤーの技術が要求され(他の大抵のRPGでは、「キャラクターの強さ(レベル、年功序列)」だけが問題となるが、*bandではそれを含めてキャラクターの全コンディションを整えることを含めた「プレイヤーの技術」が要求される)基本的に技術次第でいかなる死の可能性も最低限に抑えることができる、という方向性である(もっとも、やりすぎると[V]の無傷の球のようになってしまうが)。しかし、この[Z]におけるアンバーの血の呪いは、細心の注意を払ったとしても、彫像化やサイバーデーモンなどの相当の危険が残るという、バランスをかなり崩すことによって「派手さ」「スリル」を出している[Z]特有の一面といえるのである。そして、ゲームバランスの維持に可能な限りこだわり、大部分ではそれを実現した[変]においては、これのみ避けがたい理不尽な死をもたらすものとして、突出した印象を与える結果となっている(特に、[変]はスピードが一定ではないため、複数のサイバーデーモンに連続行動されるといった恐れがあり、[変]においてことさらに危険になっているとも言える)。単純に排除したり安全にしてしまうこともできない以上、バランス調整は困難であろう。[変]が思い切りよく[Z]の要素の大部を切り捨てない限りは、数少ないギャンブル要素として共存を続ける他にはないようである。



アンバーハルク Umber hulk 【敵】

 こげ茶色の図体のでかい奴。D&Dシリーズのモンスターで、二足歩行の体型をとった「昆虫」的生物。地中を自在に掘り進み、混乱の凝視を放つ化け物。
 その外見と、力まかせでも十二分な強靭な体躯に反して、人間より若干低い程度の知能と独自の言語を持ち、地中で罠などを作る戦法も得意とする。しかし、同じ地下に勢力を持つイリシッド(→マインドフレア)のようなサイオニック種族や、同じ昆虫的モンスターで催眠能力を持つネオジのような種族に、肉体的能力をふるう手下として使役されていることも多い。
 D&D系の初期のイラストでは何となく巨人や恐竜的怪獣に見えるものもあるものの、以後の版ではよりそれらしい、昆虫的に見えるものが多くなっている。およそゴリラに似た体型に、ほぼ哺乳類で眼のある場所に複眼、口の部分にクワガタの顎(これは昔から共通している)、背中だけでなく鎧状に甲殻で覆われ、蟹鋏を思わせる甲殻でできた巨大な下腕(対して、上腕や腿は細い)といった姿が多くなってきている。岩を掘る能力は「強靭な腕によって草でもかきわけるように掘り進む」と書いてあるだけで、超常的な説明が何もないのだが、そのためもあっていかにも強そうな腕として書かれているとも思われる。
 一応はD&D系のオリジナルモンスターだが、デザインモチーフとして、特に初期の姿は初代『ウルトラマン』に登場する怪獣アントラー(ウルトラマンマックスにも登場する)が元ではないかという説(さらには「こげ茶色の図体〜」を意味するこの名前自体、アントラーの玩具を入手したデザイナーからの通称という説)が、年のいった旧D&Dゲーマーの間では聞かれる。アントラーは頭だけクワガタを思わせ体は大きな鱗に覆われた大味な恐竜のような姿だが、アリジゴクのように砂に潜り、飛行機を落とす磁力光線を放つなど、能力的にも彷彿させる点はないでもない。
 なお余談だが、ロシアの水の怪物とされるヴォジャノーイ(Vodyanoi、ロシア語で「水のもの」のような意)は、AD&Dではこのアンバーハルクの水棲亜種という設定になっている。ロシアのヴォジャノーイは、沈没船に住み宝を守り、男性(鬚の老人とも)のような姿で水に人をひきこむというが、一部のゲームでヴォジャノーイがしばしば人型どころか、巨大蛙が歪んだような謎の怪物として表現されることがあるのは、このアンバーハルクの亜種から発しているのか否かは定かではない。
 *bandでは[V]以来、D&D系の怪物の一部がおそらく定番のノーマルモンスターの一種のような感覚で存在するもののひとつである。なぜかあまり深層ではなく、攻撃力もさほど極端なものではないが、自在に穴を掘り、また原典通りの混乱の凝視を通常攻撃のひとつとして持っているのが、耐性の揃っていない深層でない部分で出てくるだけに目立つ。原典では知能は低くないがEMPTY_MINDとなっているのは、クラッコン等と同様に昆虫の一種なので「異質」な精神を持つことの表現と考えるべきかもしれない。



アンバライト Amberite 【種族】【敵】

 出典:ゼラズニイの真世界シリーズの主人公たちで、真世界アンバーの王族。全並行宇宙の創造者らである。
 便宜上は、アンバーの王オベロン、その子ら(「九王子」と「四王女」をはじめとする47子)、孫(マーリン、マーチン、リナルドらの世代)までが、「確実に」アンバーの血の能力を残すアンバライトである(それ以降の子孫に関しては確実でない)。また例外的に”パターン”の創造者でありその具現化でもあるドワーキンも、アンバライトの能力を持つ。
 彼らの能力は「アンバーの血」によるもので、血の中に多元宇宙の根本原理の印章図である”パターン”が刻まれているため、パターンから宇宙の根本的な力を引き出し、また(おそらくパターンをなぞることで)並行世界を移動し、また世界を創造する力を持つ。詳しくは「シャドゥシフト」および「パターン」の項目を参照されたい。「真の世界」アンバーが”影”の並行宇宙を投げかけるのと同様、「真の人物」である彼ら自身も無数の分身(”影”の人物)を持つ。
 ”影”を操る能力(すなわちアンバー以外の並行宇宙群に対しての、絶対的なまでの神のごとき影響力)や、魔法能力を計算に入れなくとも、物理的な能力もかなり人間離れしている。ベンツ(大型乗用車)を二人がかりで持ち上げて運び、400ポンド(181キロ)の岩を「うっかり軽々と持ってしまって」運び、巨狼の背骨を膝蹴りで叩き折り、デーモンを毎回(最初のうちは一応剣で戦ってみるが)素手で絞め殺す。日本のサムライは24時間戦えるが、コーウィンとランダムは26時間ぶっつづけでフェンシングを行う(そしてコーウィンが中断したのは、疲労ではなくデートの約束のために過ぎない)。ゲーム的に言えば、「レベル」が高いだけでなく、「ベースの能力値」が極端に高いといえる。
 これらの力は、彼らが「実体」の根源そのものであるパターンがその血に流れており、つまり彼ら自体が「生命(存在)の根源」そのものである為かもしれない。また、王族はいくばくかの耐久力、再生能力も備えており、特に主人公コーウィンはプラナリア級の珍妙無比な再生能力を持っているが、他の王族はコーウィンの再生能力に対してさして詳しく知らなかったので、王族の間にもさほど一般的なものでもなく、コーウィンが特に強いもののようである。
 真世界であるアンバーとその”付近”の宇宙では、発動機や火薬の爆発が起こらないかもしくはまったく無力であり、そのためかどうか、アンバーは産業革命より若干前の帝国時代のような雰囲気の世界になっている(普通の剣と魔法物の「中世」よりは若干後、ただしこれはファンタジーより陰謀物やピカレスクの影響が強い話であるためかもしれないが)。そのためアンバライトたちのアンバーでの「真の」生活や見かけも、そういった雰囲気に近い。”影”によっては平然と現代地球のような生活をしていたり、持ち込める範囲でアンバーに現代の物品を持ち込んだりもする。しかし、いくらなんでもコンピュータ工学の理論と”パターン”からAIを作るなどという発想はマーリンが最初のようである。
 大概の全能神よりも遥かに高次元の力を持つ主要なアンバライトらは、しかし普段はギリシアの後期叙事詩の神・半神や、トールキンのノルドールほども人間離れはしていないと言える。常に実利的な欲求と、読者から見てたやすく理解できる感情のためだけに動く。しかしある意味では不死のノルドールなどと同様(そしてゼラズニイの雰囲気に従って)確実に人間とはずれた所がある。身内も含めた陰謀の中で生きているために、底が知れず、かなりつかみ所がない。ほとんどのアンバライトは人間社会に従うような倫理観や良心が根本的に存在しない。(ベネディクトやジェラードのような実直な武人ならば別だが、それでさえ現代人の善悪や倫理の感覚とはどこか大きくずれている。)
 非常に逆説的なことであるが、不老不死で無限の時間を持つアンバライトらは、生まれた順番(生きている年月)や才能よりも、どういった「性情」を持っているかが、その能力に対して決定的な要因であると言えるようである(その性情自体が、血脈に強く影響される面はあるが)。例えば、ベネディクトは他の兄弟を極端に上回る「武力」をもつが、それは明らかに、彼が長兄で年長であったという理由ではなく(武力だけならば、遥かに長い年月を生き経験も深い父オベロンすらも上回っている)彼が武芸にすべてを傾ける勤勉な性情が反映されているといえる。
 さて、神話SFの第一人者と呼ばれたゼラズニイは、人間が「神」と呼ぶものの原型であるという設定のアンバーの王族らに対して、ある程度は直接にケルト神話、特にウェールズなどの土着神話(直接間接的に「アーサー王伝説」などの原型である)との繋がりを非常にあからさまにしているものの、例えば九王子らのモチーフなどは、かなり深読みしてゆかないと地球の神話にはたどり着かない(→「コーウィン篭手」など参照)。オベロン、マーリン、ブレイズ、フィオナといった、直接に神話や伝承に登場するような名をもつ面々ですら、その名前は重要な神話や伝承の「本筋」からは外にあるような名前で(オベロンもマーリンも中近代まで変形を続けてきたイメージで、歴史の古い神話から比べれば極めて「邪道」の名である)実質もかなりの層を潜らないと見えてこない。そして、その一見傍流の名を本流まで層を辿ってゆくうちに、立体的にからみ合った伝承の関連の網が辿れば辿るほどに複雑に浮かび上がってくる。神話や伝承の表面部分(いとも簡単にパンテノンの神名、その周りの用語を引用するなど)をなぞって神話物を名乗っているような作品群とは、その深さと推測規模の広さにおいて比較にならない。そうした交錯の大きさ、ときには不協和音的な引用や、さらに奇妙に現代ハードボイルド的な精神感覚を持つ原神らといった点が、その神群像に他と一線を画す異様なリアリティを与えていると言える。
 種族:アンバーシリーズを元とする[Z]の売りとして追加されて以来、同系のバリアントに存在する種族である。
 原語でのアンバライト Amberiteとは「アンバー人」であり、広義では、アンバーの王族(オベロンのじかの子孫)でなくとも、アンバーの真世界(宮廷や城下など)に住んでいる人々なども含むと思われるのだが、原作中ではなぜかアンバー人と言った場合王族を指していることが多い。故にか、[Z]では王族の能力を持つ種族となっており、生い立ちテキストでもすべてオベロンの子孫になっている。少なくとも*bandでは「アンバライト」=「アンバーの王族」と同義と考えて差し支えないだろう。なお、[Z]日本語版では最初は「アンバーの王族」であったが、字数の関係で原語そのままの「アンバライト」になった経緯がある。
 プレイヤーとしてアンバライトを作った場合、生い立ちでは地位レベルが高い場合はオベロンの主要13子(無論、原作中で子がいなかった者だったりもする)の子や、オベロンの知られざる子、また知られざる第三世代の王族やその子だったりする。追記すると、[Z]系では種族が「人間」や「ハーフエルフ」であっても、地位レベルが非常に高い場合、アンバーの宮廷の血を引くという生い立ちが生成されることがある。
 システム的には、まず基本的に[V]のドゥナダン、すなわちアルダ世界の「長命な王族」をほぼそのまま差し替えたものである。奇しくも、アルダのドゥナダンとアンバーの王族は「全能力に優れ、特に耐久力が高い」という特徴も同じなので、能力値もほぼそのままである。
 ドゥナダンにない能力として、まず原作のコーウィンの描写に由来する急速回復(ただし、[Z]から再びアルダ系に戻したToMEのドゥナダンには急速回復が入ったままだったりもする)、そして原作の驚異的なそのアンバーの力をRoguelikeという制約の中で表現した、「シャドゥシフト」と「パターンウォーク」のレイシャルパワーがある(詳しくはそれぞれの項目に譲る)。
 おそらく[Z]では主役的種族であると目されてか、あらゆる技能に優れたかなり強力な種族であるといえる。ただし、かなり経験ペナルティーが大きく、レイシャルパワーも後半から終盤に入らないと役に立たないため、これらを充分に活用することができなければ無駄に成長が遅いだけであり、また魔法などでこれらのレイシャルと同じ(現実変容のできるカオスや能力回復が可能な生命など)効果が得られる場合などはメリットが大きく殺がれる。(ドゥナダンの項目にも書いている点であるが)特にドゥナダンも選べる[変]においてはそちらを選んだ方が良かった、ということになりがちである。すべての能力にまさるため、「初心者がとりあえず選んでおいても間違いではない」種族ではあるのだが、重い経験修正に値する能力を本気で活用するつもりならば、クラス、性格や魔法の選択などの時点から、後半まで視野に入れた選択をするべきだろう。
 敵:[Z]以降には、AMBERITEフラグがついた「アンバーの王族」とされるユニークモンスターが登場する。これは、アンバーの九王子とオベロンを主にしているので、アルダ系バリアントのナズグルとサウロンをかわりに差し替えたという説があるが(→アンバーの九王子)九王子は[V]のナズグルよりはおおむね非常に強力である。
 しかし、この強さもさることながら、AMBERITEフラグの厄介な点は、何をおいても倒した際に「アンバーの血の呪い」が発動する可能性であろう。詳しくは独立した項目を設けるが、アンバライトたちが「強敵」として強烈な印象を残す第一因であり、[Z]の最大の特徴とすら言える。

 →アンバー →アンバーの九王子 →アンバーの血の呪い
 →シャドゥシフト →パターン



居合 いあい 【システム】

 「居合」とは最も一般的には「立合」に対する語であり、立合が両者が剣を抜いて対峙した状態からの戦闘・技法を指すのに対して、居合は少なくともどちらかがそうでない状態でのそれを指す。また、「抜刀(術)」「居合(術)」もしばしば類義・交錯して用いられるが、厳密には抜刀術とは相手の先手を打って剣を抜いて切りかかる「先の先」での技法を、居合術とは相手が切りかかってきた後に抜刀して反撃する「後の先」の技法を指すことも多い。自然、前者は戦場または試合、後者は平時での奇襲やその対処の技法としての性質が色濃い。
 抜刀技法自体は非常に古い武術から見られ、またほとんどの古流の剣術はその技の中に抜刀技法も含んでいる。ただし、鹿島神明流の夢想流の流れをくむ戦国期の林崎重信は、それこそ抜刀のみで敵を倒すことを極意とするほど技法を洗練し、「剣術」と並ぶ「抜刀術」という術そのものを打ち立てる。江戸時代に入り、剣術などと比べても平時の緊急対処に向いた居合術が発達してゆくが、これらはほぼすべて林崎流から発するか流れをくむと考えられている。なお、大道芸の「居合い抜き」(不自然な態勢のまま長物を抜き、据え物を斬る)はこれら抜刀術から発すると考えられるが、居合術側からはもっぱら別物と強く主張されている。(故に、時々アニメ・ゲーム系にある、剣術キャラクターの設定などで特技に抜刀や居合でなく「居合い『抜き』」などと書かれているのは、そうした人々からは噴飯物のようである。)
 さて概して古流剣術は、竹刀による乱取り、木刀や刃引きによる流派ごとの技(組太刀)、および居合・抜刀の技を含むが、きわめて乱暴に言えば近現代では前者が「剣道」、中者が「剣術」、後者が「居合道」の範囲に分割されたといえる。居合は奇襲の対処法、抜く機、剣を持った時の心得なども自然と含むため、現在「居合道」は抜刀の剣技のみならず「真剣の扱い方、作法、心得」なども範囲とする芸道でもある。そのため技だけ見ても抜刀のみを修練するわけではなく、林崎流の流れをくむ居合術のものであるとも限らず、他の剣術流派のうちの抜刀技法である場合もある。実際に現在、無外流など剣術もあったが一部で「居合道」という形の継承のみ行われている(抜刀技法の内容自体は新田宮流居合術からの自鏡流の流れもくむ)流派も存在する。
 また、現代において居合道が真剣を扱う術をその範囲としていることから、居合はともかく「抜刀術」や抜刀流派を「真剣を扱うのは抜刀術」とイコールであるかのように誤解しているフィクションや、ことにアマチュア創作などが非常に多い。実際は、立合術を扱う術はあくまで「剣術」であり、また立合剣術流派にも多くは抜刀技法が含まれる。
 またフィクションなどで、稀な例ではあるが、居合=一太刀にして必殺である、という俗説や、単に据物斬りやひいては真剣による斬撃技術=抜刀術という誤解などから発して、「居合」「居合斬り」という語に対して(抜刀を伴わなくとも)一撃必殺の剣やその技、また気合をこめた剣などを示していることもある。
 時代物で、なぜ居合術・抜刀術流派の遣い手の抜きつけ(抜刀と共に放たれる初太刀)がそれほど恐れられるかといえば、抜刀・居合術自体が抜きつけに特化しているとか、立合いと違ってまだ抜かれていない剣の太刀筋は読めないとか(「受けかわしでなく、後退して外す他にない」と言われる所以である)そも、居合の遣い手は勝てない相手には決して抜かないような眼力を身に付けているため、抜いた時点で居合側が勝っている公算が高い等、さまざまな説明がされている。実際に居合技がすでに抜いた状態の立合技に比べて有利であるのか不利であるのかは諸説あり、結局は本来明らかに不利な納刀状態からの抜刀・居合はあくまで奇襲やその対処技であって、万全の状態からの立合に比べれば不利であるとも言われるが、無論のこと、その不利を縮めるほど高度な技術であり、また上記したような、居合全体の修練による、抜刀自体の技法以外(乱暴に言えば心理、眼力、それらによる奇襲効果)を含めた技術全般の有効さも考慮に入れることができる。抜き付けの初太刀のみで必殺というのは、多分に居合の主張する理念や誇張から生じたイメージでもあり、実際のところ居合流派も別に抜きつけのみの技術でもなく、その型は林崎流をはじめほぼ例外なく、普通の立合剣術流派の組太刀のようにその後に剣を合わせる技法に続いている。故に、「居合は初太刀の後は死に剣である」は良きも悪きも誇張であり、一部時代作品にすら見られる「居合流派は一旦抜かせてしまえば弱い」などという希望は少なくとも当てにはできない。
 *bandでは、[変]の剣術家の特殊能力の「型」の中に、最初に使用できる構えとして「居合の型」がある。実装当時は、装備の条件などで様々な意見が出て、効果も含めて紆余曲折があった。現在の効果としては、「打撃攻撃をしかけてきた相手に対して、そのダメージを受けずに反撃する」という、つまり、切りかかってきた相手に対して抜刀して相手より先に斬るというイメージであるらしく、居合術の「後の先の技」という面を強く意識した効果になっている。



イウォーク Ewok 【敵】

 映画『スター・ウォーズ』シリーズ(第3作つまりエピソード6)に登場する小型の種族。森林の衛星エンドアの原住民で、原始的な狩猟生活を送っている。近作では「イーウォック」という訳語になっていることも多い。身長は1m前後で、熊と猿の絶妙な中間のような毛皮に覆われた姿を持ち、頭巾から耳だけ出ているといったいかにも媚びたデザインの服を着ている。木を削った家に蔦を渡した森林の集落に住んでいる。本質的には温厚で見かけはいかにも無害そうだが、狩猟民族であるため勇猛な戦士が多い。また原始的だが好奇心が強くテクノロジーに触れればたやすく使いこなす。
 作中では戦士ウィケット(メディアでイウォークといって紹介されるのは大抵彼の姿である)が主人公らを助け、イウォークらは原始的ながら地の利を知り尽くした攻撃で宇宙兵器で武装した帝国軍に打撃を与える。エピソード6の公開以後、イウォーク自体の人気(「商業的価値」)もきわめて高く、ウィケットを主人公とした他の映画やアニメーションも作られた。かのサイバーブルース地帯チバにある、金欲鼠大帝国のアトラクションのひとつにエンドアとイウォークを訪れるものが作られたという点も、このイウォークらが金もうけ主義の権化のひとつにしてゲリラ尖兵と化した印象を強めているといえよう。
 なお、この星のエンドア Endorという名はトールキンの中つ国のクゥエンヤでの呼び名「エンドール」(→中つ国)より採っていると監督ルーカス自身がコメントしている。樹上生活を送るイウォークの生態は当然ながらロリアンや森エルフも髣髴とさせ、また、映画『エンドア/魔空の妖精』は魔女や怪物も登場する、筋立て自体もお約束ファンタジー御伽噺的なものである。
 *bandでは[Z]より入っている、例によって人気者キャラクターをバタバタとなぎ倒す[Z]にありがちないわゆるジョークのために入っているモンスターの一種と考えていいだろう。特に善良でも友好的でもなく、低い階層で集団で出現しおそらくパチンコだか弓矢だかの遠距離攻撃をしてくる。まったく見かけと能力通りのヒューマノイドとして容赦なくデータ化されているといった感で、遠距離攻撃に油断すれば危険といえば危険だが低階層の集団敵以上のものではない。



ESP いーえすぴー 【システム】

 ESP(Extra Sensory(Sensitive) Perception 超感覚知覚)といった語は、日本では、またことに古くはいわゆる「超能力」の総称のように用いられる(→ロック)ことが多いが(エスパー ESPerのperは感覚の略であったり、ESP + erの「超能力者」の略であったりする)本来はこの文字通り「知覚」に関する物のみを指し、念動力(PK)などは含まない。(ちなみにESPとPK等を総称した広義での日本語の「超能力」に相当する語が、英語にあるかどうかは疑わしい。これらの総称ではPsionicsという語はあるが、この「精神能力」よりも日本の「超能力」はさらに広義で曖昧な部分がある。)ESPのうちさらに最も大きな分野がテレパシー(遠隔感応、他の「知性」と感応する能力)であり、あるいはテレパシーが超能力の代名詞的であるともいえる。そのため、まれにではあるが、あえてESPとだけ言った場合はテレパシー以外の知覚能力(透視や予知など)を指すこともある。
 超能力よりむしろ魔法の色合いが強い(→超能力者)はずのRPGにおいて、超能力用語のESPという語が使われた背景のひとつに、D&DシリーズにおけるESPの呪文や物品(ESPメダル)が挙げられる(D&D 3.5eなど最近の版では相当する呪文はディテクト・ソート(思考感知)になっている)。これは知性ある生物の表層の思考を読み取るという魔力で、本来テレパシー能力の限定的な効果にESPという広義な名がついていることになる。なぜこれらがESPなどという名なのかは、おそらくESP全般の中で最もポピュラーといえる「読心」能力にわかりやすくつけたというだけで、昔のRPGなのでこんなものだろうとでも思うほかにない。深読みすれば、初期D&Dシリーズの呪文の名前に「全くファンタジーらしくない」「素っ気ないがいまいち要領を得ない・わかりにくい」「いかにも頭でっかちの学者(魔術師)がつけたような名前」がついているのは、D&Dシリーズの創始者ガイギャックスが愛読したジャック・ヴァンスの著作の影響とも思われる。D&D系にはこのほかにさらに、「テレパシー」の効果のある物品(→テレパシーの冠)があり、こちらは思考を読み取る他に相手に思考を伝えることもできる文字通りのものになっている。結果的になぜか「テレパシー」が「ESP」の上位版の能力になっているといえる。
 NetHackやAngbandの[V]などのRoguelikeでは、「テレパシー」は精神のあるものの「存在」を感知するものとして定義されているが、ESPという語は、NetHackでテレパシーが得られる「遠視の魔除け amulet of ESP」に見られる。これは上記のD&Dの「ESPメダル」を採り入れたものといえる。超能力としての精神感応ではなく、まさしく文字通りの単なる「精神感知」になっているRoguelikeのESPだが、交渉や会話をするゲームではない以上、感知魔法の一種としてはこうした表現の他にない。
 一方で、特定のフラグを持つモンスターに対してのみ働く限定的なテレパシー(精神の存在感知)としてのESP(オークESP, 善ESPなど)は、UnangbandやToMEをはじめとして[変]にも採り入れられているシステムだが、これは該当のフラグのモンスターに対するスレイングの武器などにつき、実際はテレパシー等よりは、つらぬき丸(→参照)等が原典で持っていたセンスエネミー(特定の種の敵が近くに存在すると発光して感知する)を再現している側面も強い。ともあれ、すべての精神あるモンスターに働く「テレパシー」(全ESP)よりも、「ESP」が下位の能力であるという点はなぜか古D&D系から踏襲される結果になっている。

 →テレパシー



イエティ Yeti 【敵】

 出典:この項目名を目にしたローグライカーが内容に何も期待していないのが手にとるようにわかるが、初代Rogueでシンボル'Y'に雪男Yetiがあてられて以来、Roguelikeでは大変に由緒ある存在であり、また以来*bandやNH系をはじめとしてテキスト型Roguelikeでは大型猿人・二足歩行怪生物のシンボルとして一貫してYが用いられている、非常に重要なモンスターである。
 イエティは「ヒマラヤ山脈の雪男」を指すが、いわゆる雪男(ほかにはアメリカ大陸のウェンディゴ(→イタカ)など)の中では最も有名であるため、広義の雪男(類似の寒冷地帯の未確認人型生物)に対して通称されたり、類似の生物の名としてフィクションで定義されたりもする語である。
 詳細はUMA(未確認生物)研究サイトに譲るが、ヒマラヤのイエティは現地に伝わる雪男で、19世紀から20世紀半ばまでヒマラヤ探検者らによる目撃例や調査が続いた。なお、広まった有名なイエティ像は長い白い毛を持ち、サルのような顔をしている(巨大な類人猿と予測された)といったいわゆる「雪男」の姿だが、現地の伝承のイエティは茶色であったり、様々な模様のある像画などもあり、アジアの神猿信仰なども思わせる。結果としては、足跡や毛などの痕跡は別の動物(キツネ、ヒョウ、カモシカ、サル、ヒグマ等)、目撃された姿や毛皮などはヒグマのものらしく、どうやら伝承のイエティという存在はともかく、その特に近代以後の「目撃例」に対しては別の動物やその姿の派生であるらしい。
 さて、フィクション(あまり真剣でないもの)の設定や、RPGの設定で「イエティ」が登場する場合、このヒマラヤの「伝承のイエティ」を指すものでも、無論暴かれた正体でもなく、中途まで予想されていた「白い毛の雪男」ひいては「巨大類人猿」の姿が、そのままイメージとして既に定着し、ひとつのモンスター像となっていると言ってよい。
 例えばT&Tでは、イエティは「現実世界でも生きて活動している唯一のモンスターであり、すばらしい幸運を持っている」というおなじみのT&T節で、非常に「幸運度」が高いモンスターとなっており、また、この扱いはあくまで当時の調査結果ではなく、「未確認生物」というイエティの姿そのものを特徴として捉えているといえる。さらには作品によっては、未確認生物としての面だけでなく、寒冷地での「ありふれた」モンスターとなり、寒冷地ならばどんな土地でも見られる設定である場合もまた多い。一方では、猿のような姿でもなく、寒冷地の謎の生物という意味のみで「イエティ」の語を使っているものもあり、漫画『少年アシベ』のイエティをはじめとしてゲーム『風の伝説ザナドゥ』のアルゴスなど、トロルにも関連するトトロの影響なども見え隠れする。(遡れば、極北の幻獣ムック(→ガチャピン)などもこうした存在の一種といえる。)
 モンスターとしての能力に関してはゲームごとに、あくまで動物としているもの、類人猿くらいに知能が高いもの、架空怪物ゆえか特殊能力(定番としては冷却系)を持っているものなど、これといった決まりはない。
 敵:Roguelikeでは、前述したように初代UNIX-Rogueから登場するモンスターで、特殊能力は持たず、レイス、ゼロック、ヴァンパイアといった特殊能力を持つモンスターを挟み、「普通に倒せる」モンスターとしては、一気に強くなるトロルの手前ということになる。
 一方で、NetHackのイエティはACやHD、攻撃などがほぼ同じなのでAD&Dのイエティ(知能は人間並だがやや大型の猿とされる)のデータの流用と思われ、さほど強力な方のモンスターではない。
 *bandでは、ほぼすべてのバリアントに登場する本当にノーマルな「ノーマルモンスター」の多数のうちの一種である。熊やヒョウといった野生動物とだいたい同程度の階層・強さで、動物がさほど強くない*bandにおいては相応に収まっている。定番として冷気免疫は持っているものの、能力に関しては同程度階層の動物に比してもさして高いとはいえず、動物によく見られる特徴のスピードがあるでもない。同類のサスカッチがわりと強くなっているのに大して、冷気免疫という特殊能力がある分引き下げられてしまった感もある。なお特に出現レアリティの面で珍しいわけでもない。



イエロー・モルド Yellow mold 【敵】

 黄色黴。元々、カビなどのダンジョンの構成要素が、クラシカルD&Dなどでモンスター化してデータ化されているものの一種である。床などに生息して近づいたり触れると毒などの効果を持った胞子を撒き散らす、という敵であるが、クラシカルD&Dでは、「イエロー・モルド」は低レベルのキャラクターを即死させるほどの猛毒を放つということでプレイヤーに非常に恐れられる有名なトラップであった。猛毒・細菌兵器としてやたら濫用する者が、筆者の知るダンジョンマスター以外にもいたかどうかは知らない。が、AD&Dではそれに加えてイエロー・モルドは、集合体で精神力(知能ではない)と微弱ながらサイオニック能力(→超能力者)を持ち、近づいた生物を操って精神力を吸い取って生息する、という非常に奇妙な能力を持つ生物になっている。
 これらの元のゲームのプレイヤーはRoguelikeにおいてイエロー・モルドを見かけた場合恐々とするかもしれないが、Roguelikeではそこまで恐ろしくも奇妙な生物でもない。NetHackに登場する「黄色モールド」は、攻撃したものに対して胞子を撒き散らし、混乱させる能力があるが、これはAD&Dにおける精神撹乱能力を意識したものと考えられている。また元々は吸い込んだだけで即死するモルドであるが、NetHackでは食べても幻覚状態になるのみである。
 *bandにもMoria以来登場するが、ここでは「カビ」は動かないわずかな力を持つモンスター(のちのCRPGの「スライム」的な)と位置づけられているのか、さしたる力はなく、めだった特殊能力・特殊攻撃や耐性なども持たない。というよりも、Moria自体がさして複雑なシステムのゲームではないため、さほど特殊な能力を表現できず、こうした表現になったのだろう。TRPGでのトラップなどのモルドは、遠距離から攻撃しても胞子が巻き上がったり炎などでしか倒せなかったりするが、*bandのイエロー・モルドは普通の遠距離攻撃や呪文などでかなり低い攻撃力でも排除することができる。

 →モルド



イーカー Eequor, the Blue Lady of Dismay 【その他】

 エクオル。幻滅の青の貴婦人。マイクル・ムアコック『エルリック』シリーズに名の登場する<混沌>の女神。原典小説などの邦訳では「エクオル」なのだが、*bandでは「イーカー」という訳語になっているため、原作のエクオルと繋がらず、英語の綴りのみを海外検索にかけた*bandファンから、「イーカーとはムアコックの原典由来でなく、『ストームブリンガー』などのエルリックTRPG版(シナリオSlaves of Fatesなど)のケイオシアム社オリジナルの神らしい」などという噂が流れたことがあった。ムアコックの混沌の神々や怪物などは、「アリオッホ」など読みが多様になるばかりでなく、しばしば地球のそれとは見慣れない語感・つづりが続くため、日本語の仮名表記自体が訳者ごとにかけ離れて、このイーカーのような事態になることもしばしばある。
 エクオル女神は、エルリックシリーズ(旧訳版で『黒き剣の呪い』収録)において、タネローンの勇士である射手ラッキールを主人公とした短編(→ハイオンハーン)に、ラッキールのかつての恋人であった女魔術師ソラナが仕えている女神、として言及された。女神であることと名前以外はほとんど不明で、作中にはソラナの内通によってこの短編の敵ナージャン神と連絡した、といったくだりがあるのみである。
 ムアコックのECシリーズや『エルリック』シリーズの新王国には、細かい言及の有無さまざまに非常に多数の<混沌>の神の名が出てくるが、それらのうちどれが主で、どれの力が大きいかといった点はごく一部を除いてほとんどが不明であり、記述も一定しない部分がある。TRPG『ストームブリンガー』では<混沌>の8放射状の矢の紋章にちなんだ8大神をはじめ強力とされる神々を定義し挙げるが、(新王国以外のECシリーズの有力神を単に挙げているように見えるなど)実際にムアコックの原作に沿うものかは疑わしい。エクオル女神も原典では新王国でどれだけの力・序列を持つ女神かは不明であるが、TRPG版では8大神とともに併記され、冒頭に挙げた二つ名をはじめ、「知識・悲しみに満ちた孤独を司り、酷寒を好む」「異界に青一色の領域を持ち、信者はその領域に自在に次元移動できる」「新興の魔術の島パン=タンでも一部信仰されており、女性に魔術が禁じられたこの島でもひそかに秘儀を行う魔女が多い」(ソラナ同様の女性魔術師の信者が多いことになっているらしい)といった設定が追加されている。
 *bandでは、イーカーとして[Z]系の混沌の戦士などの守護魔神の一種として登場する。原典には名前しかないにもかかわらず入っているのは、TRPG版の影響が強いためとも思われるが、やはり情報が少ないためか、無視(確率はムアコックの混沌神の平均よりは低い)・変異・物品など、ごく「平均的」な報酬が揃っている。

 →混沌の戦士



イーク Yeek 【敵】【種族】

 イークは、*bandシリーズの原型であるMoriaのオリジナルモンスターとして作られ、以後引き続いて多数の追加モンスターやプレイヤーキャラクター種族として登場している種族である。
 多くのプレイヤーから疑問が出るが、*bandのオリジナル(ジョーク)としても、追加の背景には期待に沿うほどの多くのエピソードがある(ないし判明している)わけではない。創作された背景としては、Moriaのモンスター(アルファベットの大文字小文字)のうち、'y'のシンボルだけが埋まらなかったため、yの字で始まる新たなヒューマノイドモンスター、それも序盤のごく弱いものを創作したといわれている。(なお、NetHackでもyは著明な実在説話やTRPGなどのモンスターではどうしても埋まらなかったため、yは'yellow light'の頭文字ではないかと言われているのは有名な話である。)
 モンスター思い出解説文章やヘルプファイル、関係者のコメント等から読み取れる「イーク」種族の特徴としておおまかに挙げられるものは、非常に虚弱で卑屈な、奇妙な姿のヒューマノイドであり、さまざまな体表の色ごとに部族に分かれている。最初のMoriaの5種類のイークは、青、茶、透明(視透明がないと見えないが、これは実際の透明でなく保護色で体表が風景に溶け込むものという)、黒の4部族と、「マスター・イーク」である。なお、[V]の初期のタイルでは、細長い触手のような手足が生えた、軟体を思わせる姿が描かれている。「イーク」とは彼らの叫び声(実際、yeekは絶叫の擬音を彷彿させる)に由来する。マスターやユニークなど比較的強力なものには、魔法の力を持つものがいるが、特定の武器の扱いに習熟するものはいないという。また、文章や、特に後バリアントでの追加ユニークには卑屈で卑小な種族ということから、そうした対象や人物を揶揄している部分もあると思われる節も感じられるが(作者らのコンピュータ管理上の厄介者をひっくるめているなど。→ドラエボル)定かではない。
 ノーマルモンスターのイークは2-12階で、幅は広いもののコボルド等に比べても弱い、人型生物としては最低レベルのものである。ただしマスター・イークのみは、強さはともかく召喚をはじめとする魔法の能力がばかにならず、1体でも残っていれば厄介なことになる可能性の高い、要注意のモンスターである。
 Moria以来のノーマルモンスター以外にも[V]のボルドール親子をはじめ、バリアントによってかなり多くのユニークが追加されている。ユニークの中には街に出現するものもおり、また[Z]以来、盗賊クエストでおなじみのモリバントのギルドマスター、パリロなどもイークであり、*bandの世界設定ではいわゆる「人類の敵」ではなく、ごく一般的に存在する種族の一種であることを伺える。
 イークがプレイヤーキャラクター用「種族」として使用できるようになったのは[Z]の途中のバージョン以降で、一般に「最も弱いが、成長が早い」種族と位置づけられてデザインされている。知能・賢さ・器用には+1があるが、腕力(これは上記した武器が苦手という点に特に負っている)や耐久力がかなり低く、メイジ向けとなっている。後述するが、イークも「人間」と比べれば最弱とは言いがたいにも関わらず、よく「なイ観(なまけものイーク観光客)」が最弱・経験者の自発挑戦の組み合わせとして上がる理由に、最弱職・観光客が結局は肉体能力に頼らざるを得ないという点のイークの不利さがある。成長が早いといわれるが、ペナルティは0%で人間と同じであり、また酸の耐性(20レベル以上で免疫で、これは中盤以降非常に有利である)やその名に由来すると思われるモンスター恐慌の絶叫をはじめ長所もあり、「一切何も持っていない」人間と比べて、「短所も大きいが、明らかな長所というものを持っている」イークの方が有利ではないかとも思われる。ただ、人間とどちらが弱いか考えたところでほとんど意味がないほどに弱い、ということは確かである。

 →ボルドール →オルファックス →ノボータ・ケシータ



イグ Yig, Father of Serpents 【敵】

 旧支配者。ヘビたちの父。ラヴクラフト作品やクトゥルフ神話において、世界各地の神話や信仰は、元々外なる神や旧支配者が姿を変えたものと定義されていることが多々ある;バストやダゴンのようなそのままのものは勿論、ナイアルラトホテップが世界各地の知識神に、シュブ=ニグラスが地母神にといった例があるが、このラヴクラフトとゼリア・ビショップの共著に言及される蛇神「イグ」は、そんな世界各地の原始信仰の中でも最も根源的な「蛇への畏怖」の原型に相当すると言えるものである。
 ただし、イグは中でも主にアメリカ大陸やアフリカ大陸に影響が大きいもので、アズテックのケツァルコァトルや、ヴードゥーで信仰されたもの(おそらくダンバラ・ウェドーなどを指すと思われる)の原型であるだろうと記述されている。だが、むしろそれ以上に、人類以前に文明を築いていた爬虫人(これは恐竜が有名になった近代のSFでは非常にポピュラーなアイディアだが、ラヴクラフトの仲間ではR.E.ハワードやC.A.スミスのような伝奇ファンタジー肌が多く用いた。→蛇人間)らにとっての神がイグであった。
 現在でも、原始信仰や爬虫人の生き残りといった知的生物に信仰されている他に、あらゆる野生の蛇がイグの命に従い(猫が無条件にバストに従うように)旧支配者としてのイグは常に絨毯のように大量の蛇を引き連れて現れ、大小の蛇を操る。特に、「イグの聖なるヘビ」と呼ばれる使徒はどんな生物も逃れられない毒を持ち、恐れられる。
 イグの姿は、ラヴクラフトとビショップの著作内でも細部は記述されてはいないものの、半人半蛇、人間によく似た姿となっている。TRPGの旧版CoCルールブックでは「ヘビの頭を持ったたくましい人間」とされていたが、新版d20では単に「巨大なヘビの姿」が主なものとされている。d20ルールブックの細部には、ダンバラ・ウェドーに由来するらしきディティールが記述に目立つ。これは、他のd20ルールとの整合性を意識したd20版CoCでは、(ノーデンスなどに極度に顕著なのだが)従来のクトゥルフ系の得体の知れない怪物そのものにするよりも、実在の神話などに積極的に関連づける傾向なのかもしれない。
 *bandでは76階の主要ボスクラスの一体で、攻防(高いHPとAC,毒攻撃)・魔法(毒やNUKEブレス、同族・ヒドラ・デーモン召喚)ともにそつのない高い能力を持っている。旧支配者の中でもかなり重要なものと見なされていると言っていい。シンボルは'J'ではなく'R'であり、したがってヘビではなく恐竜などの強靭な爬虫類モンスターを引き連れたり召喚する、おおよそ設定にそぐわぬ卑怯な登場をする。



イクシツザチトル Ixitxachitl 【敵】

 知性を持つエイの種族とされるこのD&Dシリーズのモンスターは、デイブ・アーンスン(E.G.ガイギャックスと並ぶD&D系の創始者の一人)が創作したものである。AD&D1stより前の70年代の最初期のD&Dの頃に、アーンスンのセッティングのひとつBlackmoorシリーズのモンスターとして追加されたもので、Blackmoorは水棲モンスターが多く、また中南米の神話や用語(NetHackのフヘヘトルの使いなどに見られるように)をよく使用しているので、西洋ではいわゆるデビルフィッシュと呼ばれるうち一種であるエイのモンスターに、それらしい名前をつけたというだけのようである。Blackmoorシリーズは紆余曲折あって、ガイギャックスの主要世界(1stと3.Xeの世界設定)である『グレイホーク』世界設定のほか、『ミスタラ』世界設定(クラシカルD&Dの赤箱などの時代や、カプコンD&Dなどの世界設定である)にも一地方として組み入れられていることがあるので、これらの世界設定にも紛れ込んでいることがある。
 モンスターとしては、知性を持つエイとしての通常のもののほか、聖職者の能力を持ち呪文を使ってくるもの、ヴァンパイア化したものなどがAD&Dでは設定されており、*bandにもこれらが登場する。また、数多いイクシツザチトル・プリーストたちは、他の水棲生物たちの海の神性ではなく、デーモン・プリンスのデモゴルゴン(→参照)を信仰しているため、単にデモゴルゴンつながりでゲーマーに名前を知られているだけということも少なくない。
 *bandでは読みが「イクシツザチトル」になっているが、これは[Z]和訳の板倉(ita)氏が[Z]原作者のTY氏に直接聞いてみてもわからないと言われたので暫定的に表記してあった、というものである。D&D4版の和訳では「イシトザチトル」になっているが、米本国のD&DのFAQによるとデザイナーたちもこの他に「イクシツザチティル」「イクジトザーチートゥル」等の読みを併用しておりどれでも誤りではないらしく、*bandのものは2番目のものに近いということになる。このおかしな名前は、米本国のプレイヤーも悩ませているようで、「DM(ダンジョンマスター)にありがちな絶体絶命の状況:今日持ってきたモンスターのフィギュアがitxachitlだけだが、あなたは滑舌が悪い」などといったジョークが本国のD&Dコミュニティの掲示板に書き込まれることもある。


→デモゴルゴン



イグの蛇 The Snake of Yig 【敵】

 主に南国に古く強力な神性としても崇められるという旧支配者イグの、じかの使いである蛇。CoCルールブックでは「イグの聖なるヘビ」とあり、特にイグの機嫌を損ねた者、神託を無視した者などに送り込まれるという。その地のヘビのうち特にすぐれた個体にその力が与えられるとも、イグが自らのエッセンスを分けて(一種の化身、アヴァターと言えるかもしれない)作り出すとも言われる。一般に同種のヘビの最も優れた(あるいは巨大な)個体として出現するが、後頭部に白い三日月形の印がついている。聖なるヘビは非常に素早く、攻撃を回避することは困難であり、また犠牲者をいつまでも追い続け、ひとたび聖なるヘビにかまれたものはそのイグに準ずる毒によって必ず即死(d20 CoCルールでは少しばかり弱くなってはいるが)する。
 *bandでは、クトゥルフ系を取り入れた[Z]の時点ではなぜか存在せず(これはCoCの基本ルールブックには、イグの蛇の直接のデータが存在しないためもあるだろう)多くの[Z]系バリアントにも存在しないが、クトゥルフ系専門バリアントであるCthangbandにはさすがに登場するほか、どういうわけかToMEにも存在している。毒のブレスと毒攻撃(どちらも、即死というほど強力なものではないが)を持っている他、なぜか炎のオーラに包まれているが、これは神秘的なヘビなので陽炎をまとっているという具合なのかもしれない。しかし優秀な以外は同種の(普通の)蛇に準ずるというCoCの設定には(毒ブレスともども)合致しない。ToMEでは38階、Cthangbandでは単に数値の桁を入れ替えたのか知らないが83階という最深層となっているが、データ自体は変わらない。



イケタ Iketa, the Brave 【敵】

 勇者。90年代にアマチュア制作された、『ドラゴンクエスト』の今風に言えばクローンゲームの一種、『T-Dragon Quest』(TDQ、ドラゴンオエスト)1作目の登場キャラ。TDQシリーズについての詳細は、最重要キャラである『炎のバイケタル』等の項目にその多くを譲らざるを得ないが、グラフィックや音楽等の素材やシステムはFC版のDQ1〜4を模しているものの、独自のシナリオのシリーズである。基本的に、初期DQを思わせる、語りが少ないながらどこかもの寂しくシリアスなストーリーと、DQデザイン・音楽故のファンシーと若干のユーモアをも再現したシリーズである。
 プレイヤーの操るTDQ1の主人公は、いわゆる「勇者」ではなく、僧侶のような能力の兄と武闘家のような能力の双子の妹である(この僧侶能力の主人公、主人公が勇者でない点、双子の兄妹、家族を重視したシナリオなどに、本家DQ5〜6を先取りしている、という意見もあるが、本家が王道故に4まではあえてまだやっていなかったことをやっていた、というところであろう)。その主人公らの旅の先々に出現するのが、この勇者イケタである。
 イケタは、何の背景や功績や任命により「勇者」であるかは判然とせず、「自分で勇者と名乗っている」と町人から語られるのみであるが、ライデインやアストロンなどのいわゆる勇者呪文や、相応の能力は備えているように見える。当初はいかにも堅物な口調で「きみたち! わたしの じゃまだけは してくれるな!!」などと孤高の旅を続けているように見えるが、最初は単に家族を探すうち魔の勢力に対抗するようになる兄妹に対して、妙に協力的になり、戦闘中にターン数がたつと唐突に現れて終わるといなくなったり、突如パーティーに加入したり(しかも、しばしば出現の仕方が「屋内や地下にもかかわらず、空から降ってくる」)、離脱したりと、一貫しない行動をとるようになる。
 こういう不審な行動をとるNPCに対して、深く勘ぐるプレイヤーもいるであろう一方で、この手のアマチュア制作ゲーム、特に描写が少ないことがふざけ半分につながりがちなフリーRPGには、こういうおかしなキャラ(『まものクエスト』シリーズのへんなきし(くうねる)等のように)はありがちな存在にすぎない、と片づけるかもしれない。何にせよ、ラストでは勘ぐった通りの展開が待っているのだが、度胆をぬくのはお約束のその展開自体よりもむしろ、その演出であったりする。
 イケタの能力は、戦闘に参加するようになった頃にわかるがDQ3の勇者のものに近い。レベルもその時点で42であり、普通にゲームを進めている限りは主人公らよりも遥かに高い。キャラグラフィックはシルエットではいかにもDQ勇者らしいが灰色一色が濃く、剣ではなくウォーハンマーのようなものを持っている。これは、一行に参加した際のデータによると「まじんのかなづち」であると判明するが、最近の本家DQのビジュアルとは異なる。さらに、戦闘中、盾が「口から」ザラキやら炎やらを吐き出し、その「イケタの盾」はどうやら南の島の土着民の盾のように、「顔」になっていることが判明してくる。まさにその盾の顔について、ラストの一連のイベントにおいて、それまで忠実すぎるほどDQクローンであったこのゲームにおいて一気にDQらしからぬ、激しく賛否両論喧々囂々の演出を伴う展開が待っている。
 まったくの余談だが、TDQはアマチュア制作で忠実にDQを再現している反面、特に複雑なシステムが要求されている箇所ではバグや裏技がやたらと多い。イケタ関連でも、加入・登場の特殊システムのためか頻繁に聞かれる。パルプンテでメンバーが入れ替わったら、イケタが入ったかわりに主人公(兄)が消え失せた(完全消失、ロスト。勇者でない主人公のかわりに本当の勇者パーティーになったわけだが誰得)、起動したらある日突然、ゼルク(TDQ2でも重要キャラである聖女)がイケタのグラに変わっており、しかも灰色でなくオエっとくるような気持ち悪い色をしていた、等の報告がある。
 *bandでは、[変]の追加要素である一連のTDQ関連のユニークモンスターの1体である。70階という、アンバーや北斗のような強力な人型ユニークを思わせる階層と相応の能力を持っている。フラグに善・邪悪が両方ついていたりするのもいかにも原作的である。まじんのかなづちらしきSUPERHURTフラグの打撃と、多彩な勇者呪文を表現しているとおぼしき、きわめて多彩な攻撃系の魔法を持つが、幸いなことに、盾の能力であったブレスは持っていない。

 →炎のバイケタル



石仮面 Stone Mask 【物品】

 出典:筆者と同じか近い世代ならば覚えていることが多いと思われるのだが、かつて薬物防止用のキャッチフレーズ(TVのCMやポスターなどに使用された)に:


 覚醒剤やめますか
 それとも
 人間やめますか


 というものがあった。闇を使った衝撃的な映像・音響と共に、おそらくは薬物への堕落が「人間の最後のタブー」であることを示すために選択されたと思われる、それにしてもあまりに無駄に絶大なインパクトの伴うキャッチフレーズでお茶の間を震撼させたこのCMが、実際の効果はともあれ、非常な後味の悪さを津々浦々に撒き散らしたことは確実と思われる。実際に検索してみれば、この言葉が含む不快感や極端すぎる断罪姿勢への冷静な批判から、「『それとも人間やめますか』なんて何様のつもりだ」といった興奮したものまで含めてかなりのコメントがウェブ上にも見つかるはずで、ある一定の世代には多かれ少なかれ様々な形でトラウマを残しているという説がある。
 しかし、むしろ筆者の周囲では、やがて(後の「いじめカッコ悪い」等と同様)内容自体よりもCMそのもののインパクトの強さだけが無駄に印象に残り続けるCMとなってしまい、筆者や周囲のハナタレ小僧どもが何か悪さをして教師や少女たちに「やめなさい」と注意された際「人間やめない」と切り返すネタに濫用されるという程度にまで、その重みは薄れていったのだった。
 数年が過ぎ去り、そのネタとしてのインパクトさえも我々の意識の片隅へと追いやられ、忘れ去られたちょうどその頃のことであった。当時マッチョ格闘物全盛期の少年ジャンプにまったりと連載されていた『ジョジョの奇妙な冒険』第一部が、ハウス名作劇場風の地味な序盤から一転緊張が高まり、序盤の姑息イジメをはじめ密やかな陰謀をめぐらすのみであったライバル青年ディオ・ブランドーが、次第に追い詰められ、遂に、「石仮面」の力による絶対悪へと転ずる;そのとき彼の発したその台詞こそは、我ら全員が無意識に心の奥底にひた隠していた「人間の最後のタブー」を意味する言葉へのトラウマを蘇らせ、筆者と周囲の元・ハナタレ小僧どもを神々の鉄槌のごとき衝撃で打ちのめしたのである:


 おれは 人間をやめるぞ! ジョジョ──ッ!!

 (荒木飛呂彦『ファントムブラッド』)


 んなことに文面を割くくらいなら最初から石仮面について原作に沿って解説しろよという説もあるのだが、おそらくこの手の物品に詳しい説明を書いたところで興味を持って読むような読者というのは既に筆者よりはるかに詳しい「濃いジョジョファン」であろうと思われるので、この項目では概説を述べるにとどめる。この石仮面とは、元々はアステカの「柱の男」たち(→トロル)が作り出した、被った生物の脳を刺激し、潜在能力を引き出して「個体進化」を起こさせる品であった。
 自然界の生物は、基本的に直接もしくは間接的に、日光がもたらしたエネルギーで動く。植物や微生物は日光のエネルギー、および日光によって吸い上げられ雨としてばらまかれた水分によって有機物を合成し、さらに食物連鎖の上に重なる生物はその有機物のエネルギーで動く。生物界の頂点にある「柱の男」らは、すべての生物をじかに自らのエネルギーとして取り込むことができるのだが、日光にだけは触れることができず、すなわち連鎖のエネルギーの「根源」であるはずの太陽のエネルギーを自ら受けることだけは決してできず、絶対的な頂点でありながら、連鎖に強固に依存して生きる他にない。見事な相克であった。だが仮に、「柱の男」がさらに日光と親和する生物へと進化することがあれば、それは生物界の連鎖すらも超越し、一個体で完成した生物界、「究極の生命体」となることを意味していた。
 石仮面は、元々「柱の男」らがその個体進化を目指して作り上げた道具であり、太陽に由来するか同じエネルギー(血液や、強力な紫外線)を与えると仮面から骨針が飛び出し、被っている者の頭に突き刺さって「脳を刺激し、潜在能力を引き出す」。しかしいわば未完成であり、「柱の男」らの脳を刺激することはできなかった。しかし、もしこれを人間その他の生物に用いた場合、生物と柱の男らの中間に位置すると言える「吸血鬼」へと個体進化させることができたのである。
 その仮面のひとつが、アステカの出土品から巡り巡って、主人公のジョースター家に渡り、ディオによって使用される。石仮面の吸血鬼となることは、人間から人間以上の生物へと進化することでもあるが、それは同時に人間を獲物・食物とする、人間という種族そのものへの仇敵と化すことも意味している。人間として生きる限界から逃避することでもあり、あらゆる意味で「人間という生き方を裏切る」行為でもある。ジョジョ第一部こと『ファントムブラッド』はその石仮面の吸血鬼との戦いの物語であり、「人間をやめた」者と、あくまで人間として生きる者の対比を描いたものであった。(しかし第一部においては、その人間こと「波紋使い」たちのあまりにも奇妙なポーズや技や効果音の方が、どう見ても吸血鬼より人間離れして見えるという些細な問題もないでもない。)なお、このディオの石仮面自体は、『ファントムブラッド』終盤に破壊されるが、アステカにはさらに前述の「柱の男」らの作った石仮面が多数あり、続く第二部はその仮面の本来の目的へと焦点は移ってゆく。
 余談であるが『ファントムブラッド』以来、「人間やめる」は、漫画などのキャラクターが人外の怪物と化す形容として広く用いられることになったが、一方でそれらのファンの日常に対して、「恥ずかしいオタアイテムなどの購入を決意する」ことを指す場合もある。後者の方がなお、最初に用いられた用法に近いものと言うことができよう。
 物品:[Z]邦訳から引き継いだディオ・ブランドーに伴って、[変]で追加された物品で、装備すると、アンドロイド以外の種族が「吸血鬼」へと変化するという形で再現されている(血や紫外線は特に要らない)。無論のこと、人間以外の種族や敵があふれ返っている鉄獄の次元界において、人間やめようが人間を食い物にしようが薬物で新オクレ兄さんになろうが日常茶飯事なわけで、種族だけ吸血鬼になったくらいで別にどうということはなく、ゲーム的にも決定的なものではない。それでも弱小種族(→人間)で始めて能力的に物足りなくなった時など、意を決して使ってみたりするとなかなかの雰囲気が味わえるものである。多くの耐性が揃っているが、ほとんどは吸血鬼の生来の耐性と重なっているのでその点でさほど有効ともいえない。ディオ・ブランドーを倒した時に低い確率(20%)で入手できることがある。レアリティは割と高いために頻繁に手に入るものでも、ましてそうそう使用するものでもないが、[変]の雰囲気を示す端的な物品のひとつとして貴重である。

 →吸血鬼 →ディオ・ブランドー →人間



石川五右衛門 Ishikawa Goemon 【敵】

 出典:なんでも真っ二つにしちまう怒らせると怖ーい男。漫画/劇画・アニメ『ルパン三世』シリーズに登場するルパンの仲間一行のひとり。安土桃山時代の大義賊とされる石川五右衛門の十三代目の子孫・襲名者とされ、血統正しい「和風無法者」ということでサムライ風のキャラクターである。なお先祖の方の五右衛門と区別するために「五エ門」とも表記される(アニメ版や関連商品で「五右衛門」のままや「五右ェ門」のこともあり徹底されてはいない)。
 豊臣秀吉を悩ませたとされる説話の石川五右衛門に関しては、当時その名の大盗賊が実在し、一党あるいは家族と共に釜茹で(実際の刑法は油煎りに近かったともいう)という極刑に処された記録は残っている。単なる盗賊のみならずその壮絶な最期が記憶にとどめられたのか、以後、権力者に楯突く義賊としてことに江戸時代以降にその姿が膨れ上がってゆく。(出身地の諸説のひとつに伊賀石川村の生まれというものがあり、伊賀忍術を百地三太夫に学んだという説や、講談における他の有名忍者との関係へと発展してゆく。)この「原型の方の石川五右衛門」を模した作品としてコナミの『がんばれゴエモン』シリーズがある。(ただし、このゴエモンは石川五右衛門が題材としてよく使用された歌舞伎におけるイメージ(延びすぎの月代、長煙管、どてら)を模しており、どちらかというと安土桃山時代よりは歌舞伎が流行った元禄時代風の雰囲気である。)
 しかし、*bandプレイヤーでも少し年のいった世代が「いしかわごえもん」といってまず思い出す、また*bandにも登場するのは、『ルパン三世』の方の五エ門である。原作漫画において当初はルパン暗殺のために登場した敵のひとりだったが、のちにいわゆる「ルパンファミリー」のひとりとなる(ただし、ルパンの「相棒」に近いガンマンの次元大介に比べると、頭が硬いだけルパンのいいかげんに付き合う頻度は低い)。
 最初の役柄からも、元来、この五エ門も先祖同様に盗賊もしくは忍者・暗殺者であり、また性質には「侠客」を思わせる部分もある(実際、この点は極道映画を好んで観ているという描写で、後シリーズのアニメでも残っている)。しかしながら、その卓越したキャラクターとルパンシリーズの有名さから、むしろ一般には「サムライ」のステロタイプと化してゆき、ひいては凄腕かつストイックなサムライの、最も典型的なテンプレートと見なされるようになってゆく。その振る舞いや「またつまらぬ物を斬ってしまった」等の名台詞はむしろサムライ・剣士キャラクターに関して引用されることが多い。こんにゃく以外のあらゆる物質・物体を自在に寸断する斬鉄剣(→参照)を手にしての非常識的な剣技もまた引き合いに出されることが多いが、主にアニメ版でのその技をして修行中と自称する求道者的な姿もまた盗賊としての面を忘れさせる一因である。
 なお、アニメも含めて、五エ門の剣技はサムライの剣術や殺陣の動きではなく、当時人気であった白戸三平の劇画などの忍術ものを思わせる描写(刃を逆手に持って跳躍して斬る、空中ですれ違いざまに打ち合うなど)であり、元来がサムライではなく盗賊や忍者である設定と合致する点ではある。原作漫画では、岩も鋼も寸断する剣の威力は斬鉄剣の切れ味ではなく、純然たる五エ門の剣技ということになっており、竹光でもこの技を使うことができる。これは、竹光で巨岩を両断したとされる江戸後期の剣士、寺田「五郎衛門」宗有も思わせる。
 ルパンの五エ門といえば、前述の「またつまらぬものを斬ってしまった」という決め台詞であるが、この用語集を読んでいるうち、若いゲーマーにはこの台詞の意味がいまいち理解できないかもしれない。「つまらぬもの」とは何なのか、なぜ「斬ってはいけない」のか。これは特にアニメの五エ門のモチーフである侍の、武士道や居合道の考え方である。武士道は「死ぬことと見つけたり」という言葉にもあるように、死に場所(命を捨てるに足る価値のある目的)を見つけてこそ、命を賭けて戦うとする。居合道は刀剣の使い方(抜き方、斬り方)と共に、抜くこと、斬ることを最低限にするための(殺傷や命を賭けるような戦いを避けるための)礼法や心法をそれ以上に重視する。ここで、五エ門の上記の台詞は、例えばルパンの焦げたり引っかかったりした服を寸断した後(ルパンはサルマタ一丁になる)といった場面で発せられる。これは一応ルパンの危機を救うという正しい目的のために抜いたり斬ったりしていると言えないでもない。しかし、剣豪・塚原卜伝が後継者を選ぶ際に、罠を切り払ったり避けたりではなく「予期して迂回する」のを最良としたように(『七人の侍』にも採用されているエピソードである)そもそも優れた武士・剣豪であれば剣に頼らずとも危機を避けられるよう常日頃予期や対処しておくのが最良であり、ルパンのサルマタなどに対して必殺の剣技を使わざるを得ないのは、五エ門の未熟さである、という求道者ならではの自戒の言葉ともいえる。なお、アニメ第一シリーズのスタッフでもある『カリオストロの城』の宮崎駿はルパンファミリーのプロファイルを分析しているが、五エ門については、求道者気取りだが人斬りとしての快楽的な生き方を捨て去ることができない俗物であるとしており、原作漫画の侠客・忍者暗殺者の姿を、その本質に強く重ねて解釈している。五エ門がこれほど卓越した剣技を持ちながらも、つまらぬ剣を避けるにはほど遠い未熟者でもあることと関係が深い。
 敵:[Z]の『放浪者グルー』、すなわち元は刀を持つ無法者が元で、倒すと『グルーのカタナ』を落とすユニークを差し替えられた敵である。他のルパンファミリーなしに五エ門だけが唐突に入っていることに不満をもらすファンもおり、確かにクラス盗賊を丸ごとルパン関係に差し替えてしまっているRJNHなどに比べるといいかげんだが、結局のところ刀を持つユニークとして(おそらくは斬鉄剣の方が先の発想として)適当に出されただけで深い意味のものではなさそうであり、でたらめなアニメなどからしかも主役級でないものが脈絡なく一体だけ登場するというのは、結局のところ[Z]系の*bandらしいかもしれない。その後、[Z]のバージョンアップなどに伴ってフラグがついたり外れたりと若干の紆余曲折を経る。
 アーティファクトの斬鉄剣は女性モンスターにダメージを与えられないのは、主にアニメ版の五エ門が「女は斬れない」ためだが(同じ硬派であるが、次元大介のように女嫌いなわけではなく、女性には優しく、また求道者の性格故か不器用な描写もアニメの一部にある)なぜユニークの五エ門は女性@や女性モンスターを攻撃できるのか、*bandプレイヤーの間で繰り返し疑問が述べられてきた。少なくとも言えるのは、*bandにおいては、ユニークの五右衛門が女性を攻撃してくるのは斬鉄剣ではない、ということである。原作では女性を斬れないのは斬鉄剣ではなく五エ門自身なので、それだけで済む問題でもないのだが、原作漫画では、いつもは斬鉄剣を持たず修行のために竹光を持ち、それでもあの威力を出すほどの技の持ち主、となっていたこともあり、あるいは*bandでも斬鉄剣を使わず竹光で攻撃してきているもので、女性キャラクターに対しては「峰打ち」を行ってきている、というあたりのところかもしれない(それでもslashダメージだが、竹光でも五右衛門が使うとslashになるのは原作漫画に忠実である)。4回の攻撃のうちダメージに異様にばらつきがあるのも、斬鉄剣を使っていないという裏づけのひとつである。



異次元の色彩 The Colour out of Spaces 【敵】

 上級の独立種族。生命力を喰らうもの。H.P.ラヴクラフトの同名の小説(邦訳文庫全集では『宇宙からの色』)に登場する「存在」で、この作品・存在ともに、自然科学に傾倒したラヴクラフトの最も特徴的な創造物のひとつであるといえる。(なお、ラヴクラフト自身も「自分が作り出したばけものどもの中でも唯一誇れるもの」と言っている。)
 単に「色」(Colourという綴りがイギリス風で、このあたりが生粋ニューイングランド人のラヴクラフトである)と呼ばれる彼らは、文字通り気体や物質ですらもない、純粋な「色」そのものの断片が、流れるように地や宙を漂うという存在である(例によって、既知の科学法則とはまったく異なる法則で形成された知性体である)。色彩はオーロラのようにも見えるが、知られているスペクトルには合致しない。幼生は最初は数センチのゼリー状で、地球の生態系に入り込むと異常を及ぼし、それと引き換えに成長してゆく。周囲は植物が異常に成長し、動物(人間も含め)も心身ともにねじくれ、しかもこれらの動植物は光のない夜では「色」と同じさまざまな色彩に明滅するようになる。このあたりが当時研究されはじめた原子力からの発想なのか汚染のようで不気味であるが、実はこの「色」は本当にガイガーカウンターに反応したりもする。充分に成長した「色」は、やがて宇宙へ飛び去ってゆく。
 ラヴクラフトは例によって、「色」によってそんな何とも形容しがたい変容を起こしてゆく地方のある村の周囲の自然、巻き込まれた一家の様子を(地元民から調査する科学者の目から)冷静に、しかしクドクドと描写というか「報告」してゆく。何やら取っつき難ければそれまでだが、一体どうやったらこんな存在、これほど細かい状況、そしてその状況を克明に描写してゆくこんな構成の小説にする発想が出るのかという点に次第に驚嘆を覚え始めれば、それはラヴクラフトの虜になる最短コースのひとつである。
 *bandでは[Z]以降登場し、常に変色する'.'シンボルと壁を抜けてどこまでも追ってくる様が、原作未読のプレイヤーにさえも充分すぎるほどの「不気味さ」を与えている。そしてクトゥルフ系の例によって異様に耐久力は高く、原作通りといえる全能力値低下攻撃を行ってくるため、階層としても恐ろしく危険なモンスターであるといえる。(なお地獄はともかく劣化ブレスを吐いてくるが、これは原作での周りの植物などを文字通り劣化させるという点からなのか、それともCoCルールブックにあるえんがちょな原子溶解能力を指しているのかは定かではない。)その能力ゆえに原作未読のプレイヤーにも大変に嫌がられているが、こんな「存在」を普通に剣や魔法で撃退することが可能なだけありがたいとでも思っておく他にない。



イージス・ファング The War Hammer 'Aegis Fang' 【物品】

 AD&DのサプリメントHall of Heroesに、オフィシャル世界Forgotten Realmsの近代・現代で製作された強力な武器のひとつとして記述されている品。正しくはAegis-fangとハイフンを入れなくてはならず、すなわちこれひとつで単語であり、Aegis Fangという熟語のような表記は誤りである。この品は、AD&Dのアイテムに付与される魔法効果(エゴアイテム)の属性のひとつ、hammer of thunderboltの一種である(D&D3.0e以降はアーティファクトに昇格しているほど強力である。ただし3.0eでは「アーティファクト」は製造困難な一連の物品を指し、AD&D2ndや*bandのような「ユニークアイテム」の意ではない)。hammer of thunderboltのエゴは北欧神話のミョルニールのように、力のベルトや篭手と併用することによって、雷鳴を発し周囲の敵を昏倒させる、投げても戻ってくる、巨人系を必ず一撃で殺す、等の属性を持つ。イージス・ファングはドワーフのブルーノーが養い子の蛮人ウルフガーのために作り上げたもので、ウルフガーの腕力と耐久力(どちらも人間離れしたものである)をもってすれば、ベルトや篭手なしでもこれらの威力を発揮できるように作られている、というのが特色である。『アイスウィンド・サーガ』などの小説内でウルフガーの手にあって活躍するが、後続の小説にてウルフガーの戦死後、保管を望むドワーフと利用しようとする人間との間の奪い合いの元となり、数奇な運命をたどることになる。
 この品は[変]開発初期に掲示板で提案されたものだが、掲示板のログを読む限りは、AD&Dの方のデータには全く準拠しておらず、データ製作者が小説『アイスウィンド・サーガ』の描写のみから想像し、さらには『アイスウィンド・サーガ』の後書きにある解説すらもろくに読まずにデータが製作されている。例えば、データ製作者は「どう見ても北欧神話のミョルニールのイメージで書かれています」などと主張しているのだが、それはhammer of thunderboltのエゴ属性(これは小説後書きにも解説されている)自体がミョルニールをデータ化したものなので、そのエゴ属性を持つ物品の描写がミョルニールと共通するのは全く当たり前の話であり、別に北欧神話をイメージした品や描写などではない。ヒロイックファンタジーのイメージが稚拙な日本において、『アイスウィンド・サーガ』の舞台であるフォーゴトン・レルム北部(ノース)を見て、極北を舞台にした見慣れないファンタジー作品に対して、過剰に北欧をイメージしていると決めつけた、というのが大いにありえる話である。(なお、NetHackのミュルニールに関しても、解説サイト等では、同様にデータ的影響の強いAD&Dのhammer of thunderboltではなく、執筆者の北欧知識のみから逆算したちぐはぐな解説が流布されていることが多い。)またhammer of thunderboltは無数のアイテムに付与され得るエゴ属性でしかないため、イージス・ファングの能力として描写されたものは、この物品特有のものではない。例えば、PCゲーム『バルダーズ・ゲート2』には固有名のない(量産品の)ハンマー・オブ・サンダーボルツが登場し、また別に、固有名(トゥルーネームは『クロム・ファエル』)のあるユニークアイテムも登場する。クロム・ファエルはhammer of thunderboltの能力に加えて、ウルフガーが所持している際のイージス・ファングすらも、遥かに上回る性能を有する。
 その他、この*bandのデータはhammer of thunderboltなら然るべき電撃や巨人倍打(繰り返すが、小説の後書きからこれは判るはずである)等がなく、「竜倍打・悪魔倍打・冷気耐性」があったりと、いかにも『アイスウィンド・サーガ』の描写の表層のみから想像・拡大解釈した、実情からは大幅にかけ離れたデータになっている。作中では竜と戦う際に使用はされたが、特に竜に有効な品ではなく、その描写もない。悪魔倍打・冷気耐性に至っては、イージス・ファングに加えている理由自体が不明である(作中のまったく別の武器にそれらを持つものがあるため、無理矢理加えているか、データ作成者の記憶が混同している可能性がある)。上記事情も含めて、この当時に掲示板に参加できていればと悔やまれてならないが、現在では一旦なんらかの形で[変]のゲーム内に定着した以上、改めて手を加える程の事でもないとも思われる。



石の壁 Wall of Stone 【その他】

 多くのTRPGには、炎・氷・電撃・刃・イバラ・力場などの魔法的な防護・遮断壁を築く魔法のほかに、石・金属などの純然たる物質の壁を築く呪文が存在している。これは、「物質を創造する術」であることを考えると、魔法としてもきわめて重要な位置づけにあるようにも見え、実際にレベルもある程度高い魔法であることが多いが、実際問題としては制限が多く(大きさや持続時間は申し分ないが、敵の頭上に生成して落として攻撃などといったことは大抵不可能とされる)逃亡状況での遮断や、橋をかけるといった限られた用法となり、派手な魔法である割には他の手段で代用がきくことが多い。(とはいえ無理矢理工夫する連中はするものであり、過去にD&Dプレイヤーなどの間では、垂直の壁を作った後に、念動(→参照)やあらかじめ他の呪文で巨大化したメンバーや動物などによって壁を敵の方に倒すといった、えげつない戦法が定番化していた。)
 またドルイドや、聖職者の呪文に分類されることも多い地形変化の呪文でも同様の効果が得られるが、やはり汎用性に欠けていることも多い。いずれも強いて言えば、一人や数人パーティーの冒険者よりも大規模な軍などの戦術に応用がききやすいという点があり、古いTRPGにおいて、「中〜高レベルのゲーム」が軍勢を率いたり領地を経営することを想定していたことからもそれが予想されていたとも考えられる。ともあれ、CRPG(特にコマンド戦闘のもの)にはほとんどこうした呪文が採用されていないのはこの汎用性の低さ故と思われる。
 *bandでは、[Z]以降の自然魔法に、自分の周囲に石を生成する「石の壁」が存在し、自然魔法を使えるどのクラスでも割と高めのレベルで使用できる。Rogue系の中でも、中高レベルにおける*bandでは比較的容易に地形が変えられたり変化を起こせることからこうした地形変化の呪文のひとつとして加えられたものと思われるが、ことに、自然魔法のクラスとして重要な修行僧やレンジャーでは、地震とともに遠距離攻撃を行ってくる敵の視線を妨げられるという利点がある。



石の手バリのバトル・アックス The Battle Axe of Balli Stonehand 【物品】

 石の手バリはICE社のRPG, MERPにおいて創作された、アルダの第二紀のドワーフの大呪術師である。トールキンの設定にはドワーフの記述、特にモリア以外の一族の記述はほとんどないのだが、そこを補足する一連の設定のひとつといえる。石の手バリは、第二紀の末の東方の山脈のドワーフのひとりで、ドルーイン一族の一人として生まれ、ドワーイン・バリン一族らとの友好に一役を買っていた。何より、バリの呪術はムアル(Moriaや[V]の設定とは異なり、モリアのバルログではなく、東のドワーフらと戦ったバルログとされる)を倒すのに一役買ったが、このときのムアルの呪いにより、バリの右手は石化されたことから、この名がついたという。
 この名は、エルフ語発音であれば子音が二重になるので「バルリ」の方が近いと思われるが、エルフ語ではなさそうなので何とも言えない。これは、第三紀のドワーフらに似せた名前として設定されたと思われるのだが、第三紀のドワーフの名(すべてクズドゥル語の本名ではなく、人間やホビットに教える通り名である)が北欧風なのは「ローハン語風」の語感にしているという設定のはずなので、第二紀の名前としては不自然である。あるいはまた別のそれらしい設定があるのかもしれない。
 *bandには[V]以来石の手バリの戦斧が登場するのだが、まずMERPの設定ではバリの武器は戦斧ではなく、モリア造りの「ハンマー」であり、斧の記述はどこにもない。さらに、[O]の物品解説には、バリは「古のベレゴストの伝説のドワーフ鍛冶」とあり、まるで第一紀の鍛冶師であるかのようだが、MERPの設定では前記したように「第二紀」の鍛冶師でなく「呪術師」であり、伝説の鎧鍛冶の都ベレゴストは第二紀にはすでに滅亡している(ただし、ベレゴストは水没をまぬがれた青の山脈の南端にあったため、廃墟となりつつも都の全部もしくは一部が存続したという説はある)。結局、「石の手バリ」という名前だけ、しかも設定を考慮せずに借りた品に過ぎないようである。



イシルドゥアのフル・プレートメイル The Full Plate Armour of Isildur 【物品】

 出典:イシルドゥアはアルダ世界の第二紀末のヌメノール王族、節士エレンディルの長男であり、ヌメノールが水没した際に父や弟とそれぞれ船団を率いて脱出し、中つ国のドゥネダインの王家の先祖のひとりとなった。北方王朝アルノール(アラゴルンの直接の先祖)はこのイシルドゥアの家から出ている。
 エレンディルと息子らは、ヌメノールの残存軍を率い「最後の同盟」にてギル=ガラド率いるエルフ軍と同盟して冥王サウロンと戦った。最後のバラド=ドゥア攻城戦で、エレンディルとギル=ガラドはサウロンに挑んで3人ともが相打ちに倒れるが、そばにいたイシルドゥアは父王の折れた剣(ナルシル)で《一つの指輪》をサウロンの指ごと切り取り、サウロンの暫定的な冥王の体をいったん滅ぼした(なお、映画版FotR冒頭では、わかりやすくするためイシルドゥアが1人で倒したような描写になっている)。
 ギル=ガラドに従軍していたエルロンド(とキアダン)は《一つの指輪》を破壊するよう勧めるが、イシルドゥアは拒んで、指輪を自分のものにする。しかし北方王朝へと凱旋する途中にオークの残存軍の待ち伏せに合って殺され、指輪は川に流されて行方不明となった。なお、イシルドゥアの長男らもこのとき父を逃がすため討ち死にするが、エルフらの元に預けられていて生き残った四男が、アルノール王朝を継ぐこととなる。
 指輪物語や追補編でのこれらのエピソードの概要のみや、特に彼が指輪を滅ぼす機会を逸したこと、何よりFotR映画版のエルロンドの勧めへの「い・や・だ」のやりとりなどから、イシルドゥアはいわゆるDQNであるというイメージがつきまといがちである。しかし、ボロミア同様立派な人間であっても(あるいはその「立派さ」の種によっては)指輪に誘惑されてしまうのは避けられないことである。またUnfinished Tales(『終わらざりし物語』の「あやめ野の凶事」)にはこの逃亡劇のさらに詳細が記されており、指輪が手に余ると改悛する旨もあり、また単に部下や息子を放って指輪で逃げたのではなく、彼の人物と周囲との絆が記されており、ドゥナダンの祖の名と武功に恥じない人物であることが伺える。また映画では悩める描写のアラゴルンは、イシルドゥアが誘惑に屈したことから自分もと悩んでいるが、原作での強靭なアラゴルンは偉大なイシルドゥアの子孫であることを各所で誇りにしており、中つ国において王族としてのイシルドゥア自身の名はかなり高いものである。
 なお「あやめ野の凶事」の記述では逃亡する際、武具を捨て短剣のみの軽装になってから泳ぐが、映画FotR冒頭では完全武装のまま水に飛び込み、なぜかしばらく鎧ごと浮かんだまま泳いでいる。この点から、映画版では「イシルドゥアの鎧」は、ヌメノールにおいてミスリル(ヌメノールの島で産出する)で作られそのまま中つ国に持ち込まれた非常に軽い鎧であるという可能性が高い(というのをたった今考えた)。
 物品:原典には特別な品としてのイシルドゥアの鎧やそれを思わせる逸話などはないが、[V]以来の多くのプレイヤーが述べているように、あるいは「ドゥネダイン王の装備」を揃える発想でアナリオンの盾(→参照)と共に加えられたのかもしれない。
 [V]訳では「フル・プレート・メイル」となっているこのベースアイテムは、英語版ではFull Plate Armourであり、鎖帷子を板金で補強した一般的な重鎧「プレートメイル」ではなく、全身板金主体の「プレートアーマー」、銃器に対抗するためかなり後代に登場したものを指している。『指輪物語』の時代の文明レベルは、原作を見るに重甲冑などの記述が少なく、中世としてももっと原始的な鎧しか存在しなかったのではという意見も多い。もっとも、映画版LotRでイシルドゥアから後のゴンドール兵まで使用している、白の木の板金をもつ重鎧はかなり重装備なので、ヌメノールの技術であるとか、視覚イメージを重視するならゲーマーとしてはそちらを優先した解釈も有りだろう。
 そのイシルドゥアの鎧であるが、四元素耐性に混乱・轟音・因果混乱耐性、耐久のみ+2と、まま中堅レベルの防具といったところだろう。



偉大なる不浄 Great Unclean One 【敵】

 グレート・アンクリーン・ワン。疫病の主、悪臭の王、蝿の主、ナーグル家族の父性。TRPG/ミニチュア蒐集ウォーゲーム『ウォーハンマー』において、混沌の神ナーグルのグレーター・デーモンにあたるモンスター、ユニットである。
 疫病と腐敗を広めるナーグルの軍団の上位であるこのデーモンは、そのまま緑色の腐敗物の巨大な塊のような姿をしている。悪ければ巨大スライムや単なるゴミの山、よくてもそれに足があるといったところで、イメージ元であるミニチュアはどれも申し合わせたようにその正面にヒキガエル的な顔があり、なぜかどれも右手を上げて剣を振りかざしている(そうでなければ、単なる腐肉の山では、デザインの統率がとれないためだと思われる)。ナーグルの軍団は連帯感が強いが、アンクリーンワンのナーグルの「父性」の通称はその意味にとどまらず、ナーグリング(→参照)などのナーグルの下級の生き物は、アンクリーンワンの腐肉がはじけて直接生まれでるとも言われている。
 *bandでは[Z]以来登場するウォーハンマー系の凶悪な上位デーモンの一種であり、コーン、スラーネッシュ、ティーンチの上位デーモンの中では最も階層も深く、またいずれも強力なこれらの中でもさらに耐久力が飛びぬけているので、まさしくウォーハンマー系の凶悪な敵の真打ち、代表格であるといえる。スピードだけはこれらの中で遅いのだが、相手をしていて楽だと感じるプレイヤーはまずいないはずである。魔法もブレス系や召喚など目白押しで、DROP_GOODはあるものの、割に合うものとは思えない。



イタカ Ithaqua the Windwalker 【敵】

 旧支配者。風の中を進むもの。”ザ”・ウェンディゴ。雪のもの、風神、風王、大いなる白き沈黙の神。死疫をもたらすもの。オーガスタ・ダーレス『風に乗りて歩むもの』等に言及される存在で、いわゆる「クトゥルフ神話」的にはハスターらと同様の(一説には従属の)風の邪神とされる一体である。邦訳の表記は「イタクァ」であることが多い。
 その姿は巨人のような形をした雲のような影で、頂上に燃えるような輝きを放つ目とおぼしきものがあるという。(CoC d20などのゲームでは、普段は非実体だが、身長12mの巨大な毛むくじゃらの雪男のような実体をとることもできる、と解釈されている。)これはアメリカ大陸の北極近くに出現し、周辺でのみ知られている怪物で、雪上を彷徨い、適当にそこにあるものや、出されたゴミ袋などを持ち去っていったりする。人間に特に興味を持っているわけではないが、人間も持ち去るという点では例外ではなく、どこか(ダーレス作品によると、おそらく地上ではない所)に連れ去ってしまうという。人間は数週間から数ヶ月あとに戻ってくることもあるが、その場合も半分凍って雪に埋まっていたり、四肢のどれかがなくなっていたり、決して無事にすむことはない。突風を操ってあらゆるものを吹き飛ばすことができるが、直接に風に乗ってくる吼え声だけでも人間を狂気に追いやるには充分である。
 CoCゲームでは遠くから声を聞いただけで正気度喪失があり、また、旧支配者の中でも、直接に姿を見たときの正気度喪失は最大値(1d10/1d100)の一体に数えられているが、これはその実際の定かならぬ姿の恐ろしさのほかに、連れ去られて帰ってきたものなど「出会ったものが悲惨な最期をとげている」ことからの発想ではないかと思われる。
 クトゥルフ神話では、アメリカ北部の実際の伝承であるウェンディゴが、イタクァの化身、奉仕種族、またイタクァによって同類や奉仕種族に作りかえられた人間であるという説になっている。(ダーレスの文中にはアルジャーノン・ブラックウッドの『ウェンディゴ』が言及されるが、この作品もクトゥルフ神話的原型ということができる。)元の伝承のウェンディゴとは、北部のネイティブアメリカン(またイヌイットなど)に伝わる怪物の伝承で、身長5mほどの食人、また呪いの病をもたらす雪男とされる。これは、食人種族(部族)への恐れが発展したものと考えられているが、煮えた油に突き落とすことで倒すこともできるという説もあることから、これを伝承する側の先祖にかつて食人習慣が伝わっていたことの名残とする説もある。
 *bandでは[Z]系などに登場する旧支配者の一体であり、階層・能力ともにかなり危険な方に属する一体である。なお、明らかに[V]以来のユニークである風の帝王『パズズ』を改造したパラメータを持ち、この階層は単にこの改造が理由だと思われる。パズズはイタクァと対照的な熱帯の風神であるが、疫病を呼ぶといった共通点が興味深い。イタカはかなりのスピード、強力な冷却打撃、冷却・電撃(風)系以外にも各種の魔法(光の剣も含む)などが特徴であり、同シンボル(つまりY印の雪男など)をひきつれて出現する。階層相応の能力であり、とびぬけて癖があるわけではないとはいえるのだが、この階層のクトゥルフ系自体があまりにも危険なためそれも助けにはならない。



イタンガスト Itangast the Fire Drake 【敵】

 ファイア・ドレイク。ICE社の創作したMERP設定において、中つ国の北方に生息している「北方の七大龍」の一体とされるドラゴンである。
 ファイア・ドレイク(火炎龍、クゥエンヤでウルローキ)とは、グラウルング(→参照)やアンカラゴン(→参照)の子孫である「火炎を吐く力を持つ龍」を指す。対義語のコールド・ドレイク(冷血龍、ヘルカローキ)とは、火を吐かず普通の爬虫類同様に「冷血動物」であるものを指す(無論のこと、トールキン当時は恐竜類が温血動物であるという学説が存在していない時代である)。
 中つ国の北方、荒地の国から北の山脈の幅広い地域には、かつてのモルゴス軍の龍の生き残りがさらに北方から南下して生息していた、という点までは、トールキンにもある設定である。ただし、北方に住んでいるのは多くが「冷血龍」で、スマウグ以外に強力なウルローキが残っていたかは定かではない。というのは、一般に火炎龍の方が冷血龍よりも遥かに恐れられているにも関わらず、ドワーフやローハンの伝説に残る北方の龍たちはいずれも冷血龍なので、強力な火炎龍がいなかったのではないか、とも考えられるのである。
 ともあれ、ICE社の設定では、あるいは火炎龍の伝説を足す意味もあるのか、スマウグと並び称される6体を火炎龍・冷血龍とりまぜて設定した。七大龍は、冷血龍が「アブグラナール」「バイラナクス」「ダイロミン」、火炎龍が「イタンガスト」「レウカルス」「スコルバ」そして「スマウグ」(→参照)である。(この「七」とは、伝承類に数多く現れる数字で、トールキンにもヴァラール・ヴァリエアやグレーター・バルログ、フェアノールの息子からパランティアの数まで頻出するが、ここでは直接は宿敵であるドワーフの氏族の数に対応していると思われる。)
 このうちイタンガストは、灰色山脈に住む翼のない火炎龍(グラウルングの同型である)で、青の混ざった黒い鱗を持つ巨大な龍である。「ヒースのかれ野(干上がった湖の盆地)」の奥地である黄金が丘に住み、北方人の族長らを客に招いて彼らを喰らった、という伝説があるために「客喰らい」という二つ名で呼ばれ、ドワーフだけでなく人間からも恐れられているという。
 *bandでは[V]以来、ICE創作の北方の七大龍では、この「イタンガスト」だけが追加されている。というよりも、ICE社のMERPやTCGのドラゴンは七大龍のほかにも数多くのドラゴンらの設定があるのだが、どういうわけかこのイタンガストが唯一入っている。また、なぜかMERP設定で当時のウルローキ最強であるはずのスマウグよりも階層が深く、耐久力もやや大きい。しかし、打撃能力が奇妙なほどに低いこともあって(実質上ブレスが主力である非ユニークのドラゴンの値を参考にしたらしき節がある)同階層のファフナー(→参照)とは雲泥の差で、アルダのユニークドラゴンの例にもれず、相当に影のうすい所に追いやられた感がある。



一角獣の書 Book of the Unicorn 【物品】

 ユニコーンの聖典。アンバー後半シリーズに登場する、アンバー王家が儀礼に用いるくだりが記されているという書物である。'the' Unicornとは言うまでもなく、アンバー王家の守護者にして真世界の根源の元である『秩序のユニコーン』(→参照)を指す。
 アンバー原作では、葬儀の式典のさいにこの中の詩節を読み上げているという場面があり、魔術書の類というよりは、法典書の類の書物に見える。しかし、マーリンによると(彼が誰からそう聞いたかは不明である)これは宮廷画家、実質の宮廷術師であるドワーキン(→参照)がまだ理性を保っていた頃に書いたものであり、また儀礼の節などの内容のいくばくかは、『秩序のユニコーン』自身から直接に授かったものであるという。また、アンバーの王家の起源など、家の秘密に関しても記述されているといい、あるいは、幾つかの秘儀なども記されているのかもしれない。
 アンバーや、カシュファなど近くの影には、じかにユニコーンに捧げられた礼拝堂・寺院などが存在し、『秩序のユニコーン』はアンバーの「ユニコーンの森」以外にも、これらの聖地にも出現(顕現)することがある。前半シリーズにおいてユニコーンはアンバーにとって家章・象徴と描写されたが、後半シリーズではのみならず先祖霊(実際にそうでもあるが)のような家法の源、信奉の対象といった側面が(設定的な理由もあり)さらに強くなっている描写である(ジェラードらの「ユニコーンにかけて」といった台詞も目立ってくる)。なお、対となる混沌の王家には同様にサーペントの聖典(”本質の樹に掲げられた大蛇の書”)のみならず、その「サーペントの道」(信仰)や高司祭も登場し、混沌の奈落のきわに大聖堂が存在する。
 *bandでは、[Z]の時点から生命領域の高位魔法書として登場する。[V]のプリースト領域の魔法書で使われていた名前([変]では破邪領域に用いられている)ではなく、アンバーの設定の名が使われているのは、[Z][変]の世界観においては「ユニコーンの道(仮称)」を聖なるもの、善なるものとして位置づけたものと思われる。*bandでは光の聖典のようなもの=癒しの魔法の書となっているが、無論アンバー原作のユニコーンの聖典にそうした秘儀が含まれているかは定かではない(ユニコーン=秩序と考えると、むしろ生命より[変]の破邪の位置づけの方が近いようにも思えてくる)。ただし、[Z]では癒しよりも邪悪退散や解呪などの破邪的な効果が多く、それを考慮した可能性もあり、退散などが破邪領域に移された[変]でも鑑定系など秘儀的なものが多く入っているので、結果的にそれらしいものにはなっていると言える。

 →秩序のユニコーン



射手バルド王の黒い矢 The Black Arrow of Bard 【物品】

 トールキン『ホビットの冒険』にて、エスガロスの射手バルドが黄金竜『スマウグ』との戦いで用いた矢。バルドという人物の詳細に関しては「射手バルド王の長弓」の項目を参照されたい。この黒い矢はバルドが父、さらにその先祖代々から受け継いできたという矢で、どんな時も最後の矢としてとっておき、狙いを外したことはなく、また射た獲物から必ず取り戻してきた、という矢である。バルドの台詞に「もし山の下のまことの王の鍛冶場から出たものならば」という台詞があるが、これは唐突なものではなく、バルドがそうした言い伝えを父祖から教わっていたためとも考えられ、元々は谷間の国のギリオン王の一族が、エレボールのドワーフから贈られた矢(ビルボとフロドのミスリル服や、ブラドルシン王の槍などと同様の由来の業物)である可能性がある。想像をたくましくすれば、古来、龍と宿敵としていたドワーフらが、同様に龍を貫いたアングラヘル(→グアサング)などを視野に入れて作った「黒い」武器であるとも考えられる。「黒い」のは矢羽なのか矢柄なのか矢尻なのかは定かではないが、出土品の黒曜石の鏃が「妖精の百発百中の矢」と信じられた伝承(→マジック・ミサイル →ガエボルグ)からの暗示なども思い起こさせる。
 なお、バルドまでは必ず回収し子孫に伝えてきたというこの矢だが、倒されたスマウグの死体にはその後だれも近づかなかった、という記述があるので、おそらくスマウグの死体に残されたまま、以後のバルドの息子バインや、孫ブランドには受け継がれなかったと思われる。あるいは、ブランドがこの矢を持っていれば、指輪戦争での彼の活躍と最期も多少は変わっていたのかもしれない。
 『ホビットの冒険』の少年文庫版・下巻の表紙(寺島龍一画)は、『指輪物語』の文庫最終巻初期表紙同様にそのまんまのネタバレだが、トールキンの画稿『スマウグの死』のスケッチと指定文章メモ、さらに文章内容の「竜の"前足が空ざまにのびた"そのつけねの、左のむなもとのうつろをめがけて」に徹底的に忠実である。トールキンが日本版の挿絵を高く評価していたというのも頷けると共に、こういう細かい所にことに無意味にこだわる点にトールキンの性格が如実に出ているともいえる。
 2012年-の映画版『ホビット』3部作では、この矢はかつて谷間の国がスマウグに襲われた際に射手王ギリオンが「ドワーフの大弓」と共に使用する回想場面に登場する。この大弓のサイズに合わせてかなり長く、また総金属製(ICE設定的に言えば、矢柄まですべてアダルケア作りか何か)と思われる。ギリオンがスマウグに撃った数本の矢、また、子孫であるバルドの家にも1本伝わっていたものが登場する。LotR追補編に名前しか登場しないバルドの息子、バイン(この時代には少年)が、この矢をバルドのもとに運ぶ等、3部作の2・3作目ではかなり重要な役割を演じる。
 *bandでは、Pernangbandの時点からToMEに存在するが、ここから[変]にも取り入れられて存在する矢のアーティファクトである。[V]やその派生のシンプルなバリアントの時点では、『ホビットの冒険』の射手バルドの品として、しかしシンプルなシステムである[V]では、通常は矢のアーティファクトといういかにも「例外的」なものを避けて、やむなく弓の方を創作して加えたと想像できる。(ただし、[Z]の時点からスマウグの台詞として「黒い矢? やめてくれー」というものは存在している。)しかしシステムやフィーチャーが非常に大規模なPernangband(ベースアイテムにかかわらず、ガラクタアーティファクトさえも存在する)では、弓よりも重要といえる矢があえて追加されたものと考えられる。[変]では他のアルダ由来の物品と同様に、板倉氏などのアイディアで追加されるようになった。
 バルド弓と黒い矢を組み合わせると原典通り『スマウグ』に多大なダメージ(スレイング15倍)を与えるが、『スマウグ』がさして深い階層のユニークではないため、この弓と矢が両方入手できるころにはすでに倒されているか、他の手段でも倒せるようになっていることが大半である。しかしながら、スマウグ以外にも、8d4という純粋なダメージの大きさと殺戮修正の優秀さ、ドラゴンに対する強力さから、充分に有用な品である。なお、アーティファクトであるため敵に刺さっても消滅せず、(原典通り)回収し続ける限りは使用できる。



射手バルド王のロング・ボウ The Long Bow of Bard 【物品】

 バルド弓。トールキン『ホビットの冒険』に登場する、黄金竜スマウグ(→参照)を射落とした射手バルドの使用していた、いちいの木で作られた長弓である。
 エスガロスのバルドは、もとはエレボール(ドワーフのはなれ山王国)と共にスマウグに滅ぼされた、「谷間の国」の王ギリオンの子孫だった。それはドワーフにしてみればトーリンの祖父スロール(→参照)の頃で2世代前の出来事に過ぎないが、実に170年前のことである。バルドは谷間の国なきあとの北方の町、湖の町エスガロスの町民のひとりとなっており、普段から「陰気顔」「いかめしい顔」で「不吉なことばかり言う」人物という評判だった(これはガンダルフと同様に、警告すべき危険が生じてからはじめて口を開く人物であったためと推測できる)。
 スマウグがエスガロスの町を襲った際、『ホビットの冒険』の主人公ビルボ・バギンズが見つけたスマウグの弱点をツグミから告げられ、この弓と黒い矢によってスマウグを射落とした。このときバルドが鳥の言葉を理解できたのは、彼が「ギリオンの子孫であったため」とだけ説明されているのだが、ローハン人が馬と語り、ビヨルンが熊に変身できたのと同様、古い血脈の北方人は「動物と特別な交感・関係を持つ」という設定になっていると思われ、北欧の民間伝承を思わせる部分のひとつである。
 その後、「五軍の戦い」でエスガロスの人々を率いて戦い、勝利した後はスマウグから奪回したドワーフの財宝の分け前(本来はビルボの分の大半である)を受け取り、その資金でみずから「谷間の国」を再建し、王となった。半世紀後の『指輪物語』ではすでに物語から退いており、孫のブランドが『指輪物語』の時代の王で、指輪戦争で戦い戦死した旨が記述されている。エルフやドワーフが登場する物語の中で、主役のホビットらと比べてすら、人間(長命なドゥナダン以外)の世界の移り変わりの速さを端的に示す点である。
 バルドの弓は、射手王ギリオンあるいはその後の先祖から伝わるものか、バルドの手によるものかは定かではない(黒い矢の方は先祖伝来とあるが)。いちいの弓は、ベルスロンディング(→参照)もそうであり、『ホビットの冒険』内で大鷲の台詞などにも出てくるので、トールキン世界では強弓としてポピュラーなものと言うことができる。
 エスガロスのバルドは映画版『ホビット』でも2作目以降に登場する。大筋の活躍は原作が再現されているが、出番や描写は原作よりもさらに増えている。例えば、湖の町であるエスガロスでの生業が「船頭」であり、トーリンらドワーフがエスガロスに(映画では)ひそかに潜入する場面をはじめドワーフらを助ける描写、エスガロス滅亡前から統領には危険視されていた描写等である。家族の設定や描写も増え、娘二人の設定が追加され登場する他、LotRに名前のみ登場する息子バインも映画ではかなり活躍している。
 映画版に登場するギリオン王の弓は、原作のような(そして*bandのような)ロングボウではなく、建物の据え付け式の巨大な弩弓となっている。作中ではドワーフの弓と呼ばれており、機械的な石弓である点も含めて、エレボールのドワーフに手によるものらしい。1作目冒頭のスマウグの谷間の国襲来場面から、谷間の国の高い建物に据え付けられており、ギリオン王がスマウグに向けて射る場面もある。しかし、3作目でバルドがスマウグと戦う際に使う弓はエスガロスの武器庫にあった普通の弓であり、さらに黒い矢を射る際にはこれらとはまったく別の『弓』を用いる。
 *bandでは、バルド弓は[V]以来登場し、ベルスロンディングと双璧をなす強力な弓アーティファクトである。ベルスロンディングが射撃回数に追加があるのに対し、バルド弓には強力射の能力があるが、これは龍を射殺すほどの威力に由来することは言うまでもない。上位耐性を揃えにくい[V]系では、劣化耐性のあるベルスロンディングに重要性で大きく譲るが(特に射撃重視でないクラスは劣化耐性のためにそちらを選ぶことが多い)[Z]系などの発展型バリアントではその威力からほぼ同位置にあるといえる。

 →スマウグ →射手バルド王の黒い矢



古のもの Elder thing 【敵】

 出典:独立種族。そも「独立種族」とは何かというと、クトゥルフ神話において外なる神や旧支配者の一族ではなく、またそれらの信奉者とも限らない独立した種族のことで、要するに普通の「宇宙人」である。クトゥルフ神話というともっぱら旧支配者や神が有名なように思えるが、原案者ラヴクラフトの著作においては、その宇宙観を捉えるにおいてむしろ独立種族の描写が重要とも言えるほどである。「古のもの」は、そのラヴクラフトの独立種族の中でも、さらに代表的といえるものである。ラヴクラフト『狂気の山脈にて』をはじめとして、時間視が登場する他の作品にも時々描写されている。
 古のものは外見としては人間より一回り程度大きいサイズの、樽状の胴体に、下部と半ばに枝のような手足、頭頂にヒトデのようなひれがある。蝙蝠の翼のようなものもあり、かつては宇宙空間も含めて自由に飛行できたらしいが、退化したらしい。(これらの描写は、無論人間にわかりやすい形容にしているに過ぎず、実際はこうした生き物は地上とは異なる法則で構成された名状しがたい代物なのである。が、ラヴクラフトの文章の特徴なのだが、そうした生物もイメージをできるだけ伝えようとした結果なのか、形容が日常的というか具体的すぎて、怪物が登場する描写に入るとかえってあんまり怖くなくなるきらいがある。)
 古のものは20億年前に地球に飛来し、高度な文明を築き、酸素呼吸を行う生物や多細胞生物自体を作り上げ、地球の生物の起源とした。これらの生物はその前から地球に眠っていたウボ=サスラ(→参照)という下級の異形の神の肉体を利用して作り上げたと言われる。やがてそこから生み出した「原始ショゴス塊」から様々な生物や、万能生物ショゴス(→参照)などを作り上げる。14億年前に飛来したクトゥルフとその眷属や、他の独立種族(盲目のもの、イスの偉大なる種族など)との戦いをしばしば続けながらも、およそ2億年前まで地上に住み続けるが、ショゴスの反乱によって主だった地上文明が壊滅してしまった。現在は南極の遺跡を除けば痕跡そのものがないが、地下などに知られざるコロニーが存在するという説もある。
 こうして見ると、かなり長きに渡って地球の支配者であり、また現在の地球において生命を創造した「創造主」の位置を占める種族であるといえる。実際のところ、ラヴクラフト自身は実は「旧支配者(great old ones)」や「旧きもの」といった言葉は、あえて厳密にせずに様々な古い種族の形容に用いていたのだが(旧支配者を神や巨大生物と限定したのは後代の神話作家やゲーム設定である)この「古のもの」について用いられている例も目立つ。クトゥルフ神話において旧支配者と戦った・また根源的造物主である「旧神」と信じられている存在の正体(創作的、設定的)の根源は、間接的にはラヴクラフトが「古のもの」の所業と見なしていたアイディアに存在するといえる。端的なものとして、クトゥルフの眷属を封印している「旧き印(elder sign)」は、「五芒星」に炎の目を持つもので、これはダーレス系神話では「旧神」の紋章であると解釈されていることが多いが、これは『狂気の山脈にて』で古のものが用いていた紋章と同じものであり、古のものの頭頂のヒトデ型を模したものである。地球に飛来したクトゥルフの眷属は、その前にすでに地球にいた古のものと激しく戦い、敵対していたのである。
 敵:*bandでは[Z]以降のクトゥルフ系として、中レベルのデーモンとして登場する。いわゆるクトゥルフ系の生物はすべて、形状などであえてどれかのシンボルに分類が不能なものはuもしくはUシンボルの「デーモン」とされるのが通例のようである(クトゥルフ系の生物は「異界の生物」という表現がよく使われることにもよるだろう。厳密にはFTで言う意味のそれとは異なるのだが)。一応、デーモンやアンデッド召喚、NUKEのブレスなど危険なはずの攻撃を持っており、検討すればかなり危険な生物のはずである。が、他のクトゥルフ系生物のような異様な耐久力やらエンガチョな特殊攻撃やらを持っているわけでもなく、集団で出るわけでもないので、何か印象が薄い。なお、DEMONではあるが、EVILフラグを持っていないのも原作通りのポイントである。



イブ=ツトゥル Yibb-Tstll the Patient One 【敵】

 外なる神。忍耐強き者。旧版CoCルールブックでは「イブ=スティトル」という名になっている。ブライアン・ラムレイの創造したこのクトゥルフ神話の神は、異世界ドリームランドに存在し、CoCルールブックではただれて腐った体を持つ巨人のような姿をしている。密林の中で、歩くことはないが、ゆっくりと回転し世界を見ている、旧支配者や怪物よりはいかにも虚無を見つめる神であるという印象を受ける。マントの下には無数の夜鬼(→参照)を住まわせており、ときにそれらが飛び立ったり再びイブ=ツトゥルにとりついたりしている。夜鬼ということは、あるいはノーデンスのような旧き神の一族に関係あるのかもしれないが、定かではない。ラムレイの著作では、「黒(→参照)」こと「ザ・ブラック」と呼ばれる黒い死の破片が、実はイブ=ツトゥルの血液である、という点でむしろ重要である。この血液は人間を窒息させるが、仮にイブ=ツトゥルがじかに人間に触れることがある場合、その人間は激烈な肉体的・精神的変異を起こす。
 ドリームランドにしかおらず、他に人間が眼にする機会はないと思われるのだが、困ったことにCoCルールブックのこの神の項目には《イブ=スティトルの招来》という呪文が記されている(巻末の呪文リストにはない)。果たして地球上に招来された時どんなことになるのかは想像したくないものがある。
 *bandでは、例によってCoCルールブックの姿のものがデータ化され、クトゥルフ神話の神格としては低めの階層に属する方であるが、だからといって階層相応に弱いというわけではないのが厄介な点である。まず、上級属性ブレスや召喚を含めてかなり厄介な魔法を多数持っており、接触の直接打撃ではCoCのルール通り変容、すなわちかなり強烈な全能力値減少を起こす。そして、動くことがないのだが、このあたりの階層では、おびきだしてうまく位置を調節するといったことができないと非常に厄介である。ソースレベルで「黒」の召喚をしてもよかったような気がするが、そんなものがなくても充分に印象に残る手ごわい敵である。

 →黒



イフリート Efreeti 【敵】

 出典:Efreeti(クラシカルD&Dの表記にある「エフリーて」という発音に近くなる)が単数系であり、日本でよく表記される「イフリート Efreet」は実は複数形である。アラビアの「魔神(ジンニー)」のうち主要な、凶暴、火の魔神といった性質が知られる一種。
 「ジンニー Genie」自体については、代表的といえる風の魔神、「ディジニ」の項目に説明を譲るが、イフリートは、イスラム教以前にジンニー jinnがいわゆる精霊・古代の人の霊といった形で信じられていた当時から、グール(イブリースの悪霊)等と並んでジンニーの細分の一種として位置づけられている。また、この当時からすでにアラビアのifritには火炎や日光の陽炎の形を取る・これらと深い関係で出現する、人にとって扱いづらい霊である、といった原型は存在しているようである。しかしこの時点では、悪魔・悪霊や魔法使い(の俗称)の曖昧な定義の域を出ず、また姿も怪物ではなく、他のジンニーと同様、美しく力強い肉体という姿である。
 イスラム文化になると、コーラン聖典内でジンニーは神の炎の意思(ただし人間に近い性質・習慣を持つ)とされるが、ifritも他の細分と共にコーラン内に名が言及される。さらには、アラビア夜話などやソロモン王の説話で、魔神らが物品に呪縛・使役される(魔法的精霊としての性質)といった姿が描かれ、千夜一夜内で「イブリースの落とし種」と呼ばれる悪の魔神としてのifritなども言及されることになる。なお、イブリース(魔神の主)の下の魔神としては、イフリートはジンニーの中ではマリード(→参照)に次ぐ序列とされる。
 RPGでの登場例であるが、AD&Dにおいて各種ジンニーは各元素界に住む強力な種族とされ(いわゆる「エレメンタル」とは別種族の、あくまで元素界の「住人の一種」であり、主物質界の元素の働きを司る上位精霊というものとも違う)イフリートに関しては、上記したアラビアの説話の数々の中から性質が選択され、人間とは比較的、非友好的な(最近の版では属性自体が「悪」になっているが、初期は「中立」である)火の元素界の種族とされている。あるいは、D&D系のジンニーの代表的な二体であるジンとイフリート自体が、D&Dのマジックアイテムである「ジニー・サモーニング・リング(アラジンに従ったディジニの指輪)」と「イフリート・ボトル(アラビア夜話の魔神の壷、封印を解いた漁師を殺そうとするが、計られて自滅するもの。何種類かの説話がある)」のアイディアから先に発想されたのではないかと想像できるのだが、おそらく比較的友好な種族として設定された風のジン(ディジニ)との対照で設定された側面もあると思われ、ディジニと異なり魔神じみた姿も、またジンニーらのうち悪として描かれるもの(イフリートに限らず)が怪物的な姿や、西欧の悪魔と重ねられた姿で描かれるものを採っていると思われる。
 D&Dシリーズのイフリートは、巨人サイズのモンスターで、相応の肉体能力と、やはりそのレベルに相応の主に火炎の魔法能力を持つ(「上位精霊」といえるほど強大ではない)。アラビアの序列に従ってか、個体能力はマリードに次ぎ、ディジニよりやや高い。クラシカルD&Dのイフリートは、(単にアラジンの指輪のジンに準拠するディジニにあわせて)食物や非魔法の物品を作り出したりする能力があるが、AD&Dや後の版では「願いをかなえる(ウィッシュ)」の効果に統合されているようである。火の元素界での政治体系はスルタン(大君主)政治であり(クラシカルD&Dではアミール(軍司令官)政治だったが)貴族や君主らはさらに強力な個体である。AD&D多元宇宙(現在ではグレイホーク世界設定ということになるが)の火の元素界の中心には大スルタンの黄銅城がある。
 T&TやBRPなどの他の古いTRPGでは、四大精霊などは別に存在するためか、またアラビア風の世界観でないためか、ジンニーはほぼ登場せず、あるいはディジニの方が特に「風の精霊」というわけでもない例として登場する場合はあるが、ましてイフリートがD&D的な定義で登場することはほとんどないように思われる。CRPGでは、仮にD&D系の直接の影響にあるとしても、その強力さから登場例は非常に少なかったと思われるが、『ファイナルファンタジー』シリーズで召喚獣(特に初期にいえることだが、さほど強力な方ではない)として登場して以来、日本のコンシューマRPGには同じようなシステム関連の精霊扱いとして、また敵としても、頻繁に登場するようになっている。
 敵:*bandでは意外なことに、ジンニーが登場するのは[変]やUnangband(0.6)などわずかなバリアントである。[変]にはイフリートはディジニと並んで比較的初期から追加されている。強力な上位精霊や特殊な召喚獣に比べると、比較的中レベルのモンスターというD&D系などの位置づけに近く、火炎攻撃とオーラ、魔法(ボルト、ボール、プラズマ)を持った巨人である。ディジニもそうだがNetHackの魔法のランプのジンのように特に役に立ってくれるわけではない。ディジニと異なりモンスター召喚はないが、オーラやプラズマは厄介であり、宝物も落とさないので戦っても益はなさそうである。ペットにすれば気分がよいかは定かではないが、何にも成長しない。

 →ディジニ



イブン Ibun, Son of Mim 【敵】


 →クィム、イブン



今のうちに逃げろ Flee while you can 【その他】

 グレーター・ヘル・ビースト(→参照)のモンスターの思い出解説の最後の一文。GHBの場合は、この文はプレイヤーを脅かす・怖がらせる(詳細はGHBの項目参照)という目的で入れてあると思われる。転じて、Roguelike系列の掲示板でジョークモンスターなどのアイディアやネタがデザインされた時には、解説の最後にはとりあえずこの一文をつけておくことが不文律・通例となっている。
 「今のうち」というのはいつのうちなのか不明だが、とりあえず既に手遅れなことも多い。

 →スピード



忌まわしき狩人 Hunting horror 【敵】

 上級の奉仕種族。巨大な飛ぶヘビ。元々はH.P.ラヴクラフト『幻夢郷カダスを求めて』で言及される「ナイアルラトホテップの無定形の配下ら」を指すとされるが、*bandが直接引用しているCoCルールブックにおいて、その外観などはオーガスタ・ダーレス『暗黒の儀式』のものを指すとされる。12メートルほどの、翼(1枚もしくは2枚)をもち空を飛ぶヘビだが、常にその飛行の様は不自然にねじくれて不定形な印象を抱かせる。外なる神ナイアルラトホテップの代表的な下僕とされ、力もあるが知能も高い。強力な(特に、ナイアルラトホテップの覚えがめでたい)魔術師は独力で召還(クトゥルフ神話ではこの字を使う)し、使役することもできる。ある意味では、クトゥルフ神話の「モンスター」的存在としては代表的な一種族といえる。
 CoCルールではまた、ラヴクラフトの名作『闇をさまようもの』のラストで主人公ブロックの前に現れた怪物(ナイアルラトホテップ自身の化身とされる)のイメージが重ねられ、赤い目を持っていたり、日光に耐えられないという性質を持っていたりもする。新版d20ルールでは、このときのナイアルラトホテップの化身「闇をさまようもの」が、「巨大な忌まわしき狩人の姿である」と定義されている。
 d20ルールではモンスターとしての種別は「竜」であったりするが、*bandにおいて[Z]以降登場するものは'U'シンボルの「デーモン」である。ことにd20では轟音ブレスや煙変身など嫌すぎる特殊能力を山ほど持っているが、*bandではクトゥルフ系モンスターとしてはそれほどでもなく、デーモン召喚や暗黒のブレスは比較的まれにしか用いて来ない。DEX低下打撃は新旧CoCルールともにある噛み付いて束縛する能力を指しているのかもしれない。クトゥルフ系の例にもれず、中レベルモンスターとしてもやや強力だが、スピードも決して速くはないので、相手にしないのも一手である。

 →ナイアルラトホテップ



イリニス Erinyes 【敵】

 イリニス(エリニュス)はギリシア神話の復讐の3女神(アレクトー、メガエラ、ティスホーン)の総称であり、NetHackにおいても、ソースレベルで「3体しか存在しない」となっているため、この女神がそのままモンスターとして登場しているものと信じられていることも多い。が、NetHackのデータ自体は、エリニュスからほぼ名前だけを取られたAD&Dのデヴィル(「秩序にして悪」の属性を持ち<九層地獄>に住む悪魔。「混沌にして悪」のデーモンとは区別される)からデータまでもほぼそのまま用いられているので、これはあくまでモンスターとしてのイリニスであり、ここで3体しか存在しないのは単に名前に「ひっかけた」NetHackユーモアに過ぎないと思われる。
 AD&Dのイリニスはレッサー・デヴィルに位置する、フィーンド系の中でも多数種族の一種で、版によってオシラス(→参照)あたりと序列が入れ替わっていたりするがどちらにしろ中レベルモンスターである。翼などが生えた女性というまったくヒネリのない女悪魔型をしている。魅了やテレポートの魔法能力、縄を自由に操る能力なども持っているが、総じて凶悪な悪魔類に比べてあまりたいした特殊能力は持っていない。ほぼ同等の能力をもつサキュバス(D&D系ではデーモンである)と対になる形で定命の者を誘惑させる役割についている。これがギリシアの女神と同じ名を持っているのは、RPGの世界ではギリシアの有名ユニーク怪物などが当たり前の多数種族と化しているのと同じようなものであって、普通の悪魔の名になっていることにさほど大きな意味はないのだろう。
 *bandでは、[V]2.8のD&D系デーモンを残してさらに悪魔系を追加したToMEをはじめ、[V]3.0と例によって[O], Ey, Unといった[V]発展系のバリアントに通常のノーマルモンスターとして取り入れられている。本来デヴィルであるが例によって(→デーモン)*bandでのフラグや思い出文章では悪魔類は一律「デーモン」として扱われている。[V]2.8より後から追加されたデヴィルは異様に高レベルになっていることも多いが、イリニスは38レベルと40レベル台の主要デーモンよりやや低めにとどまっている。とはいえ元の中レベルモンスターよりはかなり強力な扱いであることにはかわりない。ファイアボルトの魔法や腕力減少など、低めのレベルながら悪魔系の凶悪さを印象づける能力も持っている。



イルミネーション Illumination 【その他】

 「光の召喚」「光の巻物」などの同様の魔法やアイテム効果をこの項目で扱う。「明かり」を生み出す魔法は、多くのTRPGで最も初歩の魔法のひとつとされ、また、なぜか最も基礎の魔法の代名詞となることも珍しくない(なお、RPGにおける直接の原型のことを言えば、『ホビットの冒険』や『指輪物語』でガンダルフが杖に明かりをともした場面と思われる)。また、比較的初歩のものでも、アンデッドにペナルティを与えたり目をくらませたりといった付加的効果があることも珍しくない。(より強力な聖なる光の類のものは、<陽光召喚><スターバースト>等の項目に譲る。)システム的には、特に「魔法による」暗闇を払う力や、見えにくいもの(ひいては隠されたもの等)を見えるようにする効果が特に強い場合もある。CRPGでは、略されることも多いが、古い作品やルールの細かい類のものには、これらTRPGとまったく同様のものは珍しくない。
 冒頭のガンダルフの例のように、松明やランタンのかわりに持ち運ぶ明かりのことも多いが、*bandではそうした「光源」が存在するのとはまた別に、使用すると特定の範囲・部屋を明るくする魔法として存在しているのが、イルミネーションとその類似魔法である。なぜわざわざ存在するのか位置づけとしては、NetHackもそうであるが、原則的に「踏破した分だけが表示される」Roguelikeであるからこそ、視界・表示される範囲を増やす、ある意味で情報魔法の一種として存在するといえる。(ゲーム最序盤に、この情報量を増やすという意味で最も典型的な状況のひとつとなるのが、[Z]系バリアントの「盗賊クエスト」である。)もっとも*bandでは深い階層ほど最初から暗い部屋は多くなるものの、それ以外にマップの広い範囲を表示させる手段も多くなる。
 *bandでは原型のMoriaの時点から「光の杖」・「巻物」、また同様の魔法がメイジ・プリースト両系統に存在する。いずれも、ある程度の範囲と、もし部屋の中なら(部屋の大きさに関わらず)部屋のすべてを照らし、また光に弱い怪物にわずかにダメージを与える魔法である。*bandでは魔法領域が増えると異名で同様の効果の魔法が増えてゆくが、[V]の時点からロッドに「イルミネーション」がある。しかし特に[V]系では、最初期に入手できる『ガラドリエルの玻璃瓶』の発動効果である点が何より代表的である。イルミネーション(明かり、光の飾り、単に輝くような「装飾」の意もある)という語といい、光に弱い生物にダメージといい、まるでこの玻璃瓶の原作『指輪物語』の描写のために作られたような効果だが、あくまでこの魔法自体はMoriaからある効果である。



インカヌスのローブ The Robe of Incanus 【物品】

 「インカヌス」とは魔法使ガンダルフ(→参照)の数ある別名のひとつで、自身が「南方で呼ばれる名」と言っているものである。つまりここではインカヌスのローブとは、「灰色のガンダルフ」のその「灰色の衣」を指している。原典に特にローブがこの名前で登場しているわけではなく、*bandでの創作ということになるが、なぜガンダルフでなく「インカヌス」という名を出してきたかというと、「オローリンの杖(→賢者ガンダルフのクォータースタッフ)」同様、アーティファクト名がかぶらないよう、様々な名前を使ってみただけと思われる。
 『ホビットの冒険』においてガンダルフの初登場場面では、邦訳では「黒っぽい長めのマント」となっているのだが、原語ではa long gray cloakであり、この時点から間違いなく灰色で登場している(なぜgrayが「黒っぽい」と訳されたかというと、児童文学として「灰色」ではやや曖昧で(原語自体が曖昧さを残しているが)、「ねずみ色」ではネガティブなので、とでも推測すべきであろうか)。
 また、原作ではあくまで灰色なのは「ローブ」ではなく、ローブの上から羽織っている外套(クローク)である。故に、原作では「白のガンダルフ」となっても、ローブは白で外套は相変わらず灰色のものをまとっている(指輪戦争後、最終的には青と銀の新しい外套を新調したようである)。映画版LotRでは、灰色と白のガンダルフはそれぞれローブだけだが、TTTのセオデン更生の場面にのみ、原作通り白衣の上から灰色の外套をまとう場面が出てくる。
 映画版の灰色のガンダルフが特にそうであるが、くたびれたローブは灰色というより本当にねずみ色に近く、洗うと水が真っ黒になりそうなほど汚れているようにしか見えない。しかし、特に「最初は白かったが汚れて灰色になっている」というわけではない;オローリンはアマンの地においても、中つ国への上陸時にも最初から灰色をまとい、その色を自らの本来の色としている。ガンダルフの「灰色」の意味については国内外であまりに多くの考察がなされているが、当然ながらオローリン(夢幻の聖霊)としては「靄がかった中での夢」を意味するものでもあるし、中つ国においては、薄汚れて地を放浪する意味でもある。
 さて「インカヌス」とはガンダルフが「南方で呼ばれる名」であるが、アルダにおいて「何語」の「どういう意味」なのかは、実は確定していない。少なくともエルフ語やアドゥナイク語の響きとは完全に異質である。トールキンの覚書によると、インカーヌスとはラテン語で「灰色の髪」の意であり、『指輪物語』執筆時に(「ガンダルフ」という名を執筆時に古エッダから引用したのと同様)特にエルフ語等との整合性なしにつけた名だという。後に、この「南方」とはハラド国(ハラドとはシンダリンでそのまま南の意であり、南といっただけでハラドを指すとも思われる)を指し、サウロンの同盟国であったハラド人にとって「北方の間者」を意味する、ハラド語の「インカーヌシュ」に由来するという設定が作られている。が、その後に別の設定、この南方とはゴンドールを指し、インカヌスとはそこでつけられた「心の支配者」を意味するクゥエンヤ語である、というメモもある。一応こじつけはあるものの、かなりクゥエンヤとの響きが違うので無理があるが、ガンダルフという重要人物に「謎のハラド語」を使うよりは、無理にでもエルフ語という設定にしたかったのかもしれない。またラテン語とは偶然の一致(アタランテ(ヌメノール)とアトランティス同様)という設定である。あるいは、考案時にはゴンドールが現代世界では地中海辺りに位置することを含めて、「ラテン語風の名前」をつけてみたが、その後はアルダのあらゆる用語からラテン語風の名が意識的に避けられていることから考えて、ラテン語をそのまま使う案を破棄したのではないだろうか。
 ICE社のMERP用設定では、イスタリの着るアマンのローブは硬鎧に相当し袖や帽子が篭手や兜として機能するという中々しょうもない設定だが、ガンダルフの灰色のローブも例にもれない。ただし、白のガンダルフになってからの白衣は中つ国製のただの服なので何の力もなく、その点では灰色のローブの方が高性能ではある。
 *bandではToMEに登場し、[変]にも取り入れられている。知能・賢さ上昇と維持、マナ消費減の他に、基本元素耐性、基礎能力(麻痺知らず、視透明、浮遊)といったスタンダードな防御能力を持つ品である。ただし階層がやや深く、レアリティも高いので、魔法使系であってもクラスによっては、手に入る頃には物足りなくなっていることも多いだろう。

 →ガンダルフ



イングウェ

 →上級王イングウェのアミュレット



隠者の紫 hermit's purple 【物品】

 荒木飛呂彦の漫画、『ジョジョの奇妙な冒険』第3部の『スターダストクルセイダーズ』に登場するスタンド(視覚イメージ化された「超能力」エネルギー)のひとつで、主人公一行の頭脳として通して活躍するジョセフ・ジョースター老人が持つ能力。前作、第2部『戦闘潮流』では主人公であった2代目ジョジョことジョセフの後身であるが、第3部では老人でより知的サポート役に回るためか、ほぼ純然たる「探知専用」の能力のスタンドとなっている。初期の他のスタンドの数々、特に味方キャラの使うものには、守護霊らしく「本人のそばに立つ人型」になっているものが多いのに対して、『隠者の紫』は顕現する時には「両手から伸びるイバラの蔓」という形をとる点も異色である。最初はカメラを殴り壊して念写を行うといったものであったが、いつのまに能力が拡大し(というよりも、だんだん定義がいいかげんになって)テレビ画面や砂に情報を映す、ゲームソフトのカセットを触ってチートがないか判別するなどという、何をどうやっているのかさっぱり推測できないことさえ行っていた(第4部では「電線の中に入れるスタンド」等と言及されている)。ともあれ、念写・透視できる範囲は離れた国など制限がなく、予知能力に近い現象なども発揮するので、「ESP」分野の能力は概ねサポートする、超能力として見た場合にはかなり強力なスタンドであるといえる。
 ESPに特化したスタンドであり、物理的力はスタンドとしてはかなり弱いが、イバラは手足の延長くらいにならば問題なく使えるため、遠隔操作(念動)的な活躍の場面も3、4部通して少なくない。持ち主の生命・精神エネルギーの具現化であるスタンドは、破損した場合そのダメージが本体にフィードバックするが(特に人型では顕著である)ジョセフのハーミットパープルは最終戦でDIO(→ディオ・ブランドー)に千切られた際も、本体に特にダメージはなかった。この描写については様々な考察がなされているが、ハーミットパープルは地球の裏側まで届くほど非常に射程距離が長く、イバラとして出現するのはスタンドのごく一部でしかないため、千切られても本体には影響というほどのダメージがない(例えば、数十体の小型スタンドが集合してなる群体スタンドも、数体が倒されても本体にはダメージがない、という描写がある)とも考えられる。
 なお、3部初期のスタンドはタロットの大アルカナの名を持つが、このスタンドも『隠者IX』のカードにあたる。原作では「ハーミットパープル」だが、[変]の英語名のように「ハーミッツパープル」であるべきなのかもしれないが、所詮は造語なのでどうでもいいことかもしれない。
 余談であるが、ジョセフが念写を行う最初の場面の際、『スターダストクルセイダーズ』のラスボスであるDIO(→ディオ・ブランドー)が同じようにイバラのスタンドで探知している影が描かれる。DIOのスタンドは人型のザ・ワールド(→参照)のはずなので一見これはおかしい(要はこの時点の設定未定故と思われる)。これに対してファンの一部は、おそらくDIOのスタンドも進化型スタンド(後に登場する広瀬康一の、成長ごとにActI-IIIと姿と能力が増えるが、どれか一種を選んで出せる「エコーズ」など)であり、イバラ型のものは「ザ・ワールドActI」等なのだろうと考察していた。しかし、集英社による解説本やスピンオフ小説では、「DIOが体だけジョナサン・ジョースター(ジョセフらの祖先、初代ジョジョ)を乗っ取っていたため、本来はジョナサンの持つ力を使うことができた」という説がとられ、ファンの説よりも数段説得力のない説が公式に流布されるものとなってしまっている。
 二代目ジョジョことジョセフ・ジョースターは、主人公をつとめる若年時代の第2部では人間を遥かにこえる超生命体「柱の男」(→トロル)と戦うストーリーだったためもあり、屈強な体躯と特殊能力(波紋法)を持ちつつも、正攻法ではなく、知略と駆け引きを最大の武器として戦う戦士である。その話の流れに沿うように、軽い性格を通り越して万事不真面目でしかも突如激しくなる気性など、かなりアクの強い性格をしている(これは同じ偶数部の主人公ら、特に実の息子である四代目ジョジョ・東方仗助がきわめて似ているが、仗助の方が普段は温和で人当りが良い)。初老となった第3部では、老成のため知性的な面が強調されてはいるが、多々の脱力物の冗談を飛ばすなど、元々ヒーローらしからぬ面が多い2部のキャラを良い意味でそのまま失わないキャラになっている。しかし、主人公ではないためもあって、さすがに柱の男すら知略のみで翻弄した2部ほどの切れがないことを残念がるファンも多い。さらに、第4部にもさらに老齢となって登場するが、心身ともに大きく老け込んで描写されており、2部や3部の鮮やかな姿とは落差が激しい(それなりに活躍する場面もある)。とはいえ、三代目ジョジョの承太郎と並んで、シリーズで最も活躍しているキャラクターであることは確かである。(作者によると、登場こそしないものの6部の時代にも存命であるという。)
 なお、『ジョジョ』というタイトルどおり、ジョセフも第2部では「ジョジョ(後半ではローマ字表記でJOJO)」と呼ばれていたが、第3部以降は複数代のジョジョが同時に登場することが多いため、ファンからも「ジョセフ」と呼ばれる。また、『ジョジョ』は3部が最も有名であるため、通常「ジョセフ」というと3部の初老のジョセフを指し、本来主人公であったはずの2部のJOJOを指す場合は「若ジョセフ」、4部以降のさらに老け込んだ姿を指す場合は「老ジョセフ」等と呼ばれることが、第3部の格闘ゲーム以後は特によくある。ただし、2部がTVアニメ化されて以降の近年のゲームでは、2部版が「ジョセフ」、3部版が「老ジョセフ」となっていることもある。原作では3部の時点でも、 スタンドと波紋の能力を計算に入れても、戦力にこそなれ決して戦闘能力の高いキャラではないと思われるが、多くのゲームでは3部版のジョセフは他のキャラと充分に渡り合える戦闘能力に調整されている。
 [変]に登場するアーティファクトの『隠者の紫』は、[Z]からの改変のバージョンアップが続いていた頃に『シルバーチャリオッツ』等と同様に『ジョジョ』から追加されたひとつである。シルバーチャリオッツ(銀の戦車)とは異なり、なぜか日本語読みの『隠者の紫』になっている。スタンドは本来はその人物独自の能力が具現化したもので受け渡しできる「物」ではないはずだが(→シルバーチャリオッツの項目等も参照)これは無生物の形をしているひとつなので、「物」として追加することができるため、[変]に物品としてかなり無理やり加えられてしまっている。手から発する茨が「ムチ」として物品化され、精神力が攻撃力となるスタンドのセオリーに従ってか「理力の武器」となっている(原作では隠者の紫には攻撃力はほとんどないが)。それよりも探知能力を表現した全テレパシーが特徴的といえる。ほとんど打撃を行わない魔法系のクラスであれば、サポート物品として役立つものとも言えるが、レアリティは中途半端に高いので、活躍する機会がどれほどあるかは不明である。



インドゥア

 →ジ=インデュア



インドラの硬革帽子 The Hard Leather Cap of Ben Franklin 【物品】

 ベンジャミン・フランクリンはアメリカの政治学者・政治家(独立宣言の起章者として知られる)だが、自然科学を独学で学び、実験で雷が電気であることや電気の性質を研究したことの方が、日本では雑学的によく知られている面がある。フランクリンが避雷針を発明すると、革の帽子に避雷針と地までひきずる金属のコードをつけた「フランクリン帽子」という代物が本当に雷を避けられるものと信じられて流行したという、今見ると冗談としか思えない光景が当時見られたということである。
 [Z]に見られたこの物品のあまりの情けなさに、[Z]和訳の板倉氏がロジャー・ゼラズニイ『光の王』から、フランクリンと同じ属性ともいえる「雷」に関係する名前を引っ張って来、日本語版では別の名になったのがこの物品である(なお、[変]では英語名の方もof Indraに直されている)。インド神話の雷神インドラは、バラモン教では最重要神(これはどんな神話でも雷神が恐れられ、また天空自体の神を兼ねる性質を帯びることが多く重要なためだが)だが、三大神(→シヴァジャケット)を主神とするヒンズー教のモチーフを取り入れている『光の王』でも、あまり重要な役柄ではなく、登場する神々の中では強力な戦闘力を持つとは見なされているようだが結局ラストの戦いで唐突に登場し、戦うくらいしか出番はない。
 勿論、『光の王』のインドラが革の兜をかぶっていたなどという描写があるわけではないが、火神アグニがあれほどまでにブッ飛んだ扮装で登場した以上は、ゼラズニイにおけるインドラもたとえ本文中に記されていなくても何か予想を大きく裏切るようなデザインの装備品を身につけていて然るべきだろう等と、想像の余地はありそうである。
 同じ『光の王』の物品とされるシヴァの靴やジャケット(→参照)と異なり、「化身の -'s avatar」というフレーズがついていないが、特に深い意味(意図的な差など)はないと思われる。
 元々のフランクリンの性質を意識してか、知力・賢明の+5という大幅な増加、そして盲目耐性、電撃免疫がある。耐性パズルの都合が合えば、後半まで役に立つことも多いと思われる。



インビジブル・ストーカー Invisible stalker 【敵】

 元来はモンスターというよりは、魔法使いの能力や戦法といった「ギミック」に近い存在である。古来、使い魔などの一例として魔術師がことに「姿の見えないデーモン」を使役し、所用や呪殺に用いるという説話は多く、西洋のオカルトのそれはアラビアの魔霊(ジン、→ディジニ)の憑依呪殺が直接の原型であるとか、また東洋の妖術師(呪禁や海島派の呪術師など)の打つ式など広く見られる。クラシカルD&DやT&Tには、それらを表現するためのいくつかのルールや呪文、アンシーン・サーバントや聖職者系のエアリアル・サーバント(これはシェイクスピア『あらし』の大学者プロスペロの術と、その精霊 →アリエルに因んでいるとも噂される)などがあるが、そのうち魔法使い系の術の代表格とされるのが、インビジブル・ストーカー(旧D&D緑箱では「スハイ」または「ススハイ」が真の種族名とされる)という呪文とモンスターである。
 D&D系およびT&Tのこの呪文は、風の元素界の生物であるインビジブル・ストーカー/フィーンドを呼び寄せる呪文であり、かなり持続時間は長く、複雑な命令を与えることができる。ただし、この怪物は非常に邪悪で残忍であり、必ず主の命令を曲解し、また邪悪な方向に持っていく傾向がある(ゆえに、どちらかというと敵役の使う呪文かもしれない)。
 インビジブル・ストーカーは透明で影すらも映らないので、姿もまったく不明とされる。こうした生物は死ぬと姿が現れるのが通例だが、この怪物の場合大気のエレメントに戻って霧散してしまい死体が残らないので結局わからない(AD&D 2ndのモンスターマニュアルのイラスト欄は「白紙」というジョークだった)。ただし、視透明などの呪文を用いると、何となく人間くらいの大きさと輪郭に蒸気が渦巻いているような姿が大まかに見えるという。腕で殴る攻撃を行うが、実際は大気の渦をぶつけているわけである。
 他のゲームでは、最初期のUNIX-Rogueでは後のファントムと同様の特性を持つ透明な強敵がインビジブル・ストーカーとなっているバージョンがあったようである(ローグ・クローンには登場しない)。
 NetHackでは、例によってAD&D 1stそのままのデータで入っているのだが、必ず透明(Invisible)の状態で出現するので、モンスター名は「Stalker」のみにしてあり、出現時にお馴染みの「Invisible Stalker」という形で表示されるよう工夫がしてあった。しかし、日本語版では「透明なストーカー」になるので何もかも台無しになってしまっており、「透明な」まで含めてモンスター名だと認識される余地も当然ないので、「ストーカー」という意味不明・正体不明な認識の名前のままでモンスター名としてすっかり定着してしまっている(ストーカーを倒したらセーラー服(職業「戦士」Fの初期装備)を落とした、といったジョークなど)。
 また、NetHackのストーカーは、なぜか倒しても死体が残ることがあり、食べるとプレイヤーキャラクターが透明を得る。このNetHackのものは、その特性(物を持ち歩く点も含めて)から、必ずしもD&D系のエレメント生物とは同一ではないのかもしれないが、詳細は不明である。
 *bandでは[V]から中レベル(34階)の敵として登場し、エレメンタル生物であるため'E'シンボルとなっている。透明である他にさしたる特殊能力はない上、中レベルでは誰しも視透明を持っているのでそれも意味があるとは思えない。その点を考えてか、[Z]系では「インビジブル」ではなく「ナイトストーカー」(WizardryのNightstalkerはワイトのことで、これとは関係ない)という名になっているのだが、ますますよくわからない名前になっているような気もする。



インプ Imp 【敵】【種族】

 インプは妖精説話などでは性悪な小妖精、あるいは小悪魔(しばしばあまり厳密ではない意でも)の意でも用いられる語である。impとは「接木」の意であり、大木になぞらえられる大きな精霊から分離・分種した小さな霊を指すが、おそらくはケルトで精霊神の象徴であるヤドリギから転じて、元はドルイドが使役する小精霊、土着の妖精の一種と考えられる。しかしキリスト教化が進み、ケルトの精霊神はサタンとなり、ドルイドはウィッカひいては魔女となると、サタンの落とし子である最下級の悪魔、魔女に使役される使い魔とみなされるようになったとも思われる。いかにもな悪魔の姿(尻尾、翼、角、黒や赤の肌など)が定着しているが、また、さほど強い意味ではなく人間の「悪童」(impの小枝、若木は「子」の意でもある)を指すかなり一般的な語ともなっている。
 ハッカージャーゴンにはFT用語が引用されている場合が多いが、電脳空間での攻防をモチーフにした最も古典的なゲームCORE WARSの、最も基本的な攻撃プログラムが「IMP」と呼ばれるもので、自らを下位のアドレスに順次複製してゆくのみの機能を持っている。これは種をばらまかれた落し子らが次々とはびこってゆく、子鬼が(大戦期の、機械に寄生するグレムリンのように)メモリの隙間に増殖する、といったイメージからつけられたものであろう。
 D&Dシリーズでは、インプはフェアリーフォークと同じくらいの大きさの貧相な生物だが、最下級とはいえ立派なデヴィル(属性がローフル・イービルの悪魔。堕天使の眷属)である。他のRPGでは、能力や外見は似たようなものでも、同様に悪魔の場合もあれば、単なる悪のデミヒューマンなどの一種とされている場合もある。
 [V]から敵としても登場するが、どうということもないほど印象が薄い。わかりにくいが、インプがデヴィル、クアシト(クアジット)がデーモンのそれぞれ小鬼である。
 [Z]からは種族として使用することができる。ヘルプなどの記述ではローフル・イービル・マスターの下僕となっているので、やはりD&D系と同様下級のデビルのようである。また異界の悪魔の一種であることの表現と思われる、ELDRICH_HORRORの影響を受けないという特性がある。D&D系では翼を持つが、*bandでは飛行能力はない。火炎耐性と視透明があり、能力値も精神面を含めておしなべて低いが、技能類はどれも良好である上、人間やハーフエルフなど零細種族に比べれば上記する特殊能力が中盤以降割合に有利であり、あながち侮れない種族である。





 
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