私家版*band用語集
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太古の怨念 The Curse of Topi Ylinen 【システム】
「太古の怨念」はアイテムのフラグのひとつであり、真鑑定時に表示されるものであるが、システム的にはこのアイテムのフラグ以外に、他の要因で引き起こされる同様の効果もすべて指す。なお、原語でcurseであることから、これは[Z]初期などでは「太古の忌まわしい呪い」という訳語があてられていたが、解除可能なLIGHT/HEAVY_CURSEの「呪い」としばしば混同されたため(掲示板でアイテムのTY_CURSEフラグの解除方法の質問が頻出する等)「呪い」から「怨念」に訳語のみ差し替えられた経緯がある。
原語のTYことTopi Ylinenとは、要は[Z]の作者である。つまり、この呪いはそれ自体にそう特別な由来などはない。おそらくは、初期のバリアント、主に2.8までなどの[V]が(ことにメイジの終盤などが)かなり堅実なプレイングが可能であり、慎重に行動さえすればほとんど脅かされない、ある意味では退屈な側面があるのに対して、[Z]において刺激を与えるために加えられた要素のひとつであるといえる。[Z]のスポイラー集(Knowledge base)にはTY_CURSEの効果を「Zangbandにおいてもっとも卑劣で、もっとも不公平で、そしてもっとも危険なフィーチャー」と評価されているが、この表現はその危険性を呼びかけると共に、作者TY氏に対するジョークまじりの敬意のようなものが読み取れる。訳語の「太古の」「忌まわしい」といった表現にも深い意味があるわけではなく、「トッピんの呪い」「作者ビーム」などといった訳語にするわけにもいかないため選択されているといったものである。
効果が発動する条件などはスポイラーを参照されたいが、フラグのあるアイテムを所持していると一定ターン置きにある程度の確率で発動という代表的なもののほか、混沌魔神の報酬(→混沌の戦士)やアンバーの血の呪い(→参照)の効果でしばしば起こる。そして、その効果は、いずれも防ぎづらい各種ペナルティや、ことに上位モンスターや「サイバーデーモンの召喚」、麻痺耐性があっても防げないことがある「彫像化」など、深層などで起こるとしばしば致命的になりうる効果である。
非常に危険な効果ではあるが、元々このフラグのあるアイテムを用いないのは無論のこと、罠、カオスパトロンの報酬など(パトロンも極力危険がないものをスタートロール時に選ぶのが一般的である)プレイヤーの注意や対処手段により、多くの原因は避けることができる。しかし、アンバーの王族のユニークを倒すといった(普通は)ゲームのクリアまでに避けるのが難しい要因も存在し、実際にアンバーの血の呪いはこの効果を受けうる主な要因と見なされている。[Z]系の暴走部分、慎重な行動によっても避けることができない、NHや*band系のような(運任せでない)緻密なRLらしからぬ不確定要素であることは確かだが、注意されてはいても、バランスの問題点といった批難はあまり聞かず、([変]の一部高速ユニークの連続行動などと同様に)むしろ血の呪いを受けることも踏まえた事前事後の対処を求められている傾向がある。また、このフラグがあるアイテムは、特に忌まわしい呪いの物品とされる物についており、[V]系などにおける強い呪いやモンスターを怒らせる等以上に、全く使用不能な物品と見なされていることが多いが、特殊な戦法にあたってそのアイテムの持つ特殊効果などのため、短期間あるいはある程度の期間使われるという例も決してないでもない。太古の怨念といえども、ゲームのフィーチャーとして比較的冷静に対処されているのが*band的であるとはいえるが、一般的には最も危険な要素のひとつとされているものである。
対邪悪結界 Protection from Evil 【魔法】
魔術や聖なる効力の図形や円などで場所や人物を加護する効果は、いわゆる魔法の代表的なもののひとつである(→結界の紋章など参照)。RPG全般の原型であるD&D系に存在する、「Protection from evil 悪からの防護」というくどい名前の呪文は、その一種と考えることができるもので、邪悪からの加護を祈る聖職者と、それら邪悪を召喚し使役する(実際にその機会に使用することも多い)魔法使のどちらの系統の呪文としても最初歩レベルに存在する。類似したバリエーションの呪文や強化版も目立つ。
D&D系のこの呪文の特記すべき特徴として、祝福程度の防御力上昇の加護をもたらす以外に、魔法で操られたり「魔法の武器でしか傷つけられない」存在を遮断するバリアーを張る(内側からは破れてしまうので、防護専門である)という効果がある。魔性から守るのは結界の術として然るべくものにも見えるが、このバリアーは呪文回避(セーブ)の余地すらなく決して通り抜けられない強力なもので、最下級レベルの呪文としては理不尽に強力な効果にも見える。これは、ダンジョンでの冒険を主舞台とする旧D&D系で、魔法の武器がない場合、魔法でしか傷つかない敵に対して完全な手詰まりになってしまうという状況(旧D&DやAD&Dには、以後のRPGでは初歩魔法としてかなり一般的である「武器に魔法を付与する」類の魔法が、基本のルールでは非常に限られている)に対処するためという、純然たるゲーム的な都合のために追加されたとも考えられる。そのためか、以後のRPGには、こうした呪文はまったくないか、名は似ていても再現されていないか、さらに強力な防御呪文としてのみ存在することが大半である。(ちなみに、WizardryのMAPORFICはその呪文レベルや防御効果から、D&D系の聖職者系の上級呪文(Protection from evil 10'R)から、バリアーでなく防御力上昇効果のみをとられているものである。)
さて、*bandではMoriaの時点から対邪悪結界の巻物、およびプリースト系の魔法([Z]系では生命など)に存在するが、「邪悪」な対象からの攻撃を無条件ではないもののかなりの確率で完全に防ぐ、という、不自然な名前のこの魔法の元であるD&D系のそれを踏襲したものになっている。階層が深くなると効かなくなってくるが、防御の魔法としては効果のほどは馬鹿にならないことも多い。
大将ソロンギルのクローク The Cloak of Thorongil 【物品】
大将などと言うと近現代軍隊の階級かラーメン屋の親父のようだが、ここではゴンドール王国の司令官につけられる呼び名である(最近のLotRファンの間では、「大将」だけだと指輪戦争で指揮官だったファラミアの通称となっていることも多い)。
ソロンギルとは、追補編に記述されているゴンドール史において、エクセリオン二世(『指輪物語』のデネソール二世の父で、先代のゴンドール執政)の代に突如として異国から現れ、サウロン不在の不穏期のモルドールへの抗戦に活躍した謎の助っ人武将の名である。その正体に関してはこの箇所では明記されておらず、「アラゴルンとアルウェンの物語」などで簡単に推測はできるのだが、追補編年表の方にさらりと明記され、要は修行中だったアラゴルンの変名である。ソロンギルとは「鷲の星」の意で、鷲のような鋭い強面と眼光、そしてクロークの「放射状の星を象った銀の留め金」から人々が名づけたという。こんな留め金をつけていれば、伝承に少し詳しいゴンドール人にならそれがアルノールの野伏=北方王朝の一族郎党の印だとバレバレの気がするが、事実、武将かつ賢人でもある執政の息子デネソールはソロンギル=アラゴルン=北方王朝の王の末裔とまで気づいており、彼にゴンドールを乗っ取られることを警戒していたと言われている。ソロンギルの方としては、デネソールと争うつもりはなく、ある程度ゴンドールの戦況が落ち着くと姿を消した(このあと修行を終えてアルウェンと一度再会する)。なお、無論40年近く前のことなので、大抵のゴンドール人はソロンギルと後のアラゴルンが同一人物とは思いもよらない。
またソロンギルはゴンドールの前には、ローハンのセンゲル王(これも『指輪物語』のセオデン王の先代である)に仕え、このころ増えていた丘・洞窟オークとの戦いに手を貸していたことがある。若かったセオデンがそれを覚えているかは、原作でははっきりしないのだが、セオデンの人間性描写が非常に重視されている映画版では、アラゴルンを覚えており(DVD版の追加シーン「エオウィン汁の章」において、エオウィンがアラゴルンの年齢を尋ねる場面にこの話が出てくる)またそのためか、セオデンはアラゴルンの血筋、王のあり方を強く意識しているらしき描写がある。
*bandには[V]から登場する。上記の星のついたクローク、また指輪物語本編に登場する野伏たちのマント(解説文章の茶と緑のマントというくだりも)を意識したものだろう。麻痺知らず、視透明、耐性自体は酸のみ、アーティファクトなので元素では破損しないので、単なる守りのクロークの上位版である。レアリティは少しは高いので、もしたまたま序盤に手に入れば便利というところで、むしろ俗称「アラゴルンセット」のひとつとしてのコレクターアイテムに近い。
タイタン Titan 【敵】
出典:「Titan ティターン」(巨神族)とは、最も総括的な表現をすると、ギリシア神話においてゼウスらオリンポスの面々以前の宇宙の支配者であった巨人・神族である。総じてtitanという語は「強大・頑健無比かつ荒々しい巨人」として、本義ならずとも比喩としての例、ことに自然科学方面で使用される例は異様なほどに多い。
ヘシオドスの整理した神統においては、原初のウラノス(天)・ガイア(地)の支配に続いて2代目の支配者らである。タイタンは最も狭義では、ウラノスとガイアの無数の子の中でも重要な12体を指すが、広義ではその12体の子孫らも指す。さらに広義では(誤用でもあるが)ウラノスの神統に属さないものも含めて「ギリシアの神々」の同族(種族)すべてに呼称されることもある。
12体のティタンには、それ以前の代の純然たる自然現象に対して、さらに概念的な自然(オケアノス(虚洋)等)や観念的なもの(ムネシュモネ(記憶)、テミス(摂理)等)まで含まれ、やや擬人的な「多神教の神々」をなしているといえるが、コイオスやクレイオスなど名前以外ほとんど残っていないようなものもいる。結局のところ、オリュンポスの信仰で淘汰された古い神々の読み替えの側面が強く、その権能は以前や以後の代の神々に吸収されているものが多い。例えば、ヒュペリオン(天道)と息子ヘリオス(太陽)の権能どころか、しばしば神話のエピソードそのものさえも、本来オリュンポスの神託・芸道神であるアポロンに吸収され、もっぱらアポロンが太陽神とみなされることが多い。
ゼウスが父クロノス(→参照)率いるティタンから覇権を奪ったティタノマキアにおいて、ティタン側の勢力は、12体に限ると多くの女神をはじめゼウスに味方したと思われるもの(破れたティタンはタルタロス(奈落)に幽閉されたが、女神やヘリオスらなど以後も幽閉されていない者も多い)を除くとかなり少数になる。神統記に記されている名のあるティタンやその子孫らの他にも、かなりの数の名のない同族(あるいは、淘汰された古い神々で名前さえ残れなかったものと考えるべきか)が存在していた可能性もある。ティタンはいわゆる「種族」としては、比較的有名なものの中では「最もスケールの大きいもの」と見なされることも多い(拮抗できるものとして「ドラゴン」や同様の北欧の巨神など少数があることはあるが、多くはあまりにも上下の幅がありすぎ曖昧すぎる(「悪魔」など論外である)のに対して、ティタンは天地を揺るがす、自然現象を自在にするというスケールが一貫している)。[Z]以降の*bandにおいて「半タイタン」(→参照)があえて独立した種族として加えられているのも、ティタンをことに偉大な種族の代表格と見られている表れと言っていいだろう。
RPGにおいては、AD&D以来、いわゆる巨人系の最大のものをはじめ強力なモンスターとしてタイタンが位置づけられているが、いわゆる神格ではなく通常のモンスターやあるいは精霊などに似た存在の位置づけであることが多い(他のもっと一般的な幻獣などのモンスターでも、ギリシア由来でも特に神ではないことが多いので、偉大にするとは決まっていないとも言える)。特定の神話を連想させすぎるためか、あえて避けているファンタジー作品やRPGも多い。D&D系では「混沌にして善」(この属性の典型がギリシアの神々といえる)であり基本的に善良モンスターであるが、普通に敵として登場するRPGも多い。D&D系では能力的には肉体能力で並ぶものがないのは無論だが、ほとんど無数の擬似呪文能力と、さらにタイタンは必ず「なんらかの自然現象に強く関わっている」として、一体にひとつ非常に強力な特殊能力(稲妻、地震、暴風、噴火、巨大武器、等)を持っている。なお通常のタイタンは基本ルールの最高レベルのキャラクターでなんとか太刀打ちできる最上位モンスターだが、サプリメントには「エルダー・タイタン」や、普通に神格になっているタイタンも存在する。
なお余談だが、ガンダムシリーズの「ティターンズ」などを指して「実際の発音はタイタンなので誤り」などという主張が巷で頻繁に見受けられるが、タイタンは英語発音であり、元来の”ギリシア”発音はあくまで「ティターン」である。つまり、ギリシアの本来の神族を指す場合は「ティターン」、『ファイナルファンタジー』やRLなどD&D由来のモンスターとしてのものを指す場合は「D&Dが出典=”英語”」なので「タイタン」が正しい。
敵:[V]以来、中高レベルの敵として「レッサー・タイタン」、高レベルに「グレーター・タイタン」など、ノーマルモンスターとしてきわめて頻出する敵である。「混沌にして善」であるD&D系とは異なり、EVILフラグがあることから、どうやらティタノマキアで戦った悪役としてのものらしい。なおその混沌性ゆえか[V]以来伝統的に混乱打撃があるが、どういうわけか自らは混乱耐性はない。思い出文章にはレッサーで10フィート、グレーターで12フィート等と書かれており、一見するとさして大型のものではないように見えるが、その打撃や耐久力の強烈さはドラゴン類にも劣らない。魔法は治癒やテレポート、モンスター複数召喚と少ないが、的確なので逆に性質が悪い。一応DROP_GOODはあるものの、ドラゴン(召喚を持たない下級ワイアーム)などと比べてもあまりにも危険であるため、好んで戦うようなものではない。とはいえクエストや、深層ではユニークによる召喚その他でそうはゆかない状況も多い。
→半タイタン →クロノス →アトラス
大天使 Archangel 【敵】
大天使とは、宗教的に厳密には聖書に名のあるわずかな天使で、他の天使より上位とされるもの、ないし俗称的にはもっと漠然と「天使の中で偉大なもの」、対して神秘学では偽ディオニシウス・アレオパギタの天使位階で「天使」の上にあたる下から2番目の第8階位とかなんかこんなの機械的に書くのさえ激しくめんどくなったからそのへんに転がってる神話解説サイトだのネット創作設定でも参照されたい。一般語・比喩としては、angelは良い(性根ないし見目)人・子供や、ことに奉仕者といった意味を持つことが多いが、archangelとなるとangelほど一般語化していない=格式ばった言葉であるためもあって、単なるangelの上位というより、天命の大執行者や指揮官といった仰々しいニュアンスが含まれる傾向もある。
ゲームに『大天使』が登場する例としては、『ウィザードリィ』シリーズでは宗教的理由か、移植機種によっては「アークエンジェル」が「フェイトスピナー」という蜘蛛の化け物なのに数値はそっくり同じ、というものに差し替えられている場合がある。おそらくこの天使→蜘蛛の変換に深い意味はなく、たぶんその大天使は実は上位の神がアトラク=ナクア(→参照)か何かでその使徒が実は蜘蛛か何かだったのだろう。
*bandでは、[V]2.8系などではAD&Dのセレスチャルの名前がついていた天使系のノーマルモンスター(→天使)に、のちの[Z]以後、[V]3.0系などの大半のバリアントではD&Dオリジナルの名を避けてもっと一般的な天使の名をつけているうちのひとつである。この大天使も、[V]2.8以前には「モヴァニック・ディバ」(AD&Dでは最下級だが、なぜか[V]ではモナディック・ディバ(→天使)と入れ替わり、下から2番目だった)だったのものの、名前が変わっているだけであり、ヒエラルキーでも下から2番目の「大天使」の名がついているに過ぎない。*bandでは第3−7階位が飛ばされて、すぐ上が第2階位の「智天使」になっているので上から二つと下から二つをつけたに過ぎないことは明らかである。モンスターの思い出解説でも、「大天使」という単語が冒頭に述べたように大仰な意味も持つにもかかわらず、「下級の天使(lesser angel)」と書かれている。
AD&Dのモヴァニック・ディバはアアシモン(セレスチャル)の中でも若いものとされ、星のデヴァ(ステラ・デヴァやプラネター、ソーラー)や天のアストラル・デヴァに対して、物質の世界に近い「内方次元界」を守護する霊である。モヴァニック・デヴァが主物質界・正物質界・負物質界を守護し、すぐ上のモナディック・デヴァがエーテル間隙界や元素界を守護する。そう考えると、内方次元界に現れるモヴァニックとモナディックのデヴァが、およそ神秘学での「天使9階位のうち、通常人間に干渉する世界に出現するのは主に天使・大天使のみ」といわれる点に合致すると見てよさそうである(*bandではモヴァニックとモナディックが逆だが)。ディバは各大宗教の天使のような「秩序にして善」の尖兵とは限らず、「秩序・中立・混沌」にして善のいずれでも有りうる、もっと一般的な善の来訪者である。モヴァニック・ディバは見かけとしては、逞しく肩幅のある人間に似て白銀の翼、銀髪、白い肌、無色の瞳を持つ。武装によって攻撃力は異なるが、しばしば天使らしく火炎のグレートソードを持つ。
ちなみにモナディック、モヴァニック、アストラルのデヴァは、SLASH'EMにも登場するが、ここではAD&Dのデータそのままではなく、一回りほど強力になっているようである。SLASH'EMにはしばしばあることだが、NetHackとは異なり厳密には沿っていないようで、天使全般が強力になっている。
→天使 →アルコン
体力回復 Healing 【物品】【魔法】
主に聖職者系の回復呪文で、中〜上レベルまでは少しずつある程度の傷のみ直す呪文が(段階によって複数)存在し、最高レベル近くで突如として「すべての傷(と、場合によっては大半の状態異常)を一気に治癒する」呪文が存在するのは、多くのTRPGと相当な割合のCRPGに共通するが、こうした図式はTRPGの原型である旧D&DのCure All呪文以来のものである。AD&D1st-2ndのHealや、呪文レベルや効果までこれらと同じWizardryのMADIにも見られるが、これ以前の回復呪文は(一般的なキャラクターのhpの総量に比して)やたらと心許なく、このCure All系の呪文を聖職者が習得すると戦力があまりにも激変する、またさらに高レベルになるとこれ以外の回復呪文が無意味、といった状況も多い。この格差を埋めるために、以下の呪文の効果を拡大したり、Cure All系でも全回復でなくある程度の固定・変動値としているゲームも数多いが、依然としてこれがずば抜けて優秀な呪文となっているという場合が多い。
まれに、これを逆転させた呪文であるAD&DのHarmなどに由来する呪文(WizardryのMABADIなど)が存在するゲームもある。これはCure Allの逆に対象のhpの大半を一気に落とす呪文だが、これは巨大なhpを持つ強敵を倒し得る呪文になっている場合もあれば、上記したバランス調整のためにhp減量が抑えられている場合も、あまりに抵抗判定が厳しくなっている場合もあり、強力であるか否かはゲーム毎に異なる。また、アンデッドに対してはHealとHarmがちょうど生者に対するのと逆の効果を及ぼすルールの場合もある。
*bandでは、体力回復の呪文や薬は初期のバリアントから存在する。*bandの効果は薬・呪文ともに300hpを回復し、状態異常(盲目・混乱・毒・朦朧・切傷・狂戦士化)を治す。これは終盤ではこの数倍のhpを持ちうる*bandにおいては全回復というほどではないが、これだけのhp値を1コマンドで一気に回復し得る手段がこれ以下の治癒系の薬にはない(→治癒の薬)ため、体力回復の薬は(上位の*体力回復*や生命の薬と共に)中盤以降の生命線である。結局のところ、D&D系同様の図式を引きずった状況になっていると言え、[変]ではこのため治癒呪文のバランスを微調整しているが、状況はさほど変わってはいない。体力回復の呪文もプリーストなどにとっては同様に有効だが、当然、失敗率が残るデュアルクラスにとっては緊急時に危険が伴うため、どうしても重要性がかなり劣る。それでも、杖やロッド(バリアントによっては回復量が異なる)ともども頼りにされる機会は多い。
ダオロス Daoloth, the Render of the Veils 【敵】
外なる神。ヴェールを与える者。いわゆるクトゥルフ神話でも、CoC旧版ルールブックをはじめとするラヴクラフト宇宙観重視派の「外なる神」は、いわゆる精神性や哲学性すらも欠いた、何らかの「宇宙のエネルギー」の純然たる具現化である側面が大きい。そんな外なる神の中でも、CoCルールブックに名を連ねるうち最も「無機的なエネルギー」の性質を強く持っているのが、このJ.ラムジー・キャンベルの『ヴェイルをはぎとる者』に登場するダオロス神である。
その姿は、半球体の金属がプラスチックの棒で連結されたオブジェが、ゴチャゴチャと無数に組み合わさった塊に見える。金属も棒も全面まったく同じ灰色に見えるので、その周辺の空間ではまったく遠近感がつかめず、どれだけの数と大きさの棒なのか、また全体の大きさも見当がつかない。そして、その棒の間の中空からは何らかの「意識」が発せられているように見え、それに魅入られてダオロスの姿を凝視するものは正気を失ってしまう(現に、CoCでは外なる神に共通した膨大な正気度喪失にくわえて、ダオロスには毎ラウンド正気度を消失していくという酷いルールがある)。ダオロスは司祭などに召喚されると、魔術的な障壁がない限りは無限に膨らんでゆくが、ダオロスの内部に取り込まれたものはどこか異次元に「抵抗・回避」の余地なく無条件に放り出されてしまい帰ってくることは決してない。外なる神ならば出会った人間の悲惨さはどれでも大差ないとはいえるのだが、中でも最も厄介なルールになっていると言える。
なお、地球上ではほとんど知られておらず、ユゴス星(→ミ=ゴ)に信奉者がいるという。時空に関する外なる神という点で、ヨグ=ソトースに共通した部分もあるのだが、外観が「金属・樹脂」と「空間」のみで形成されているという所が、より無機質で機械的な「原理そのもの」の存在である印象を与える。
*bandでは、原典のような問答無用なほどの厄介さは全く再現されておらず、接触攻撃は「混乱」であることで魅入られた者の正気度喪失が再現され、逆に、異空間に飛ばすテレポート類は魔法の数々や、因果混乱のブレスで表現されている。ユニーク全般としてはせいぜい中階層程度になっており、元の設定の恐ろしさの割にはさほど強力なユニークにはなっていないのだが、厄介な能力を持っていることには違わない。
ダガシ Dagashi 【敵】
指輪物語に追随して出現した数々の大スケール設定の佳作FTのうちひとつ、デイヴィッド・エディングス『ベルガリアード物語』に登場する暗殺者階級。いわゆる”敵国”クトル=マーゴスの擁する暗殺軍団で、性質としては西洋の陰謀物の暗殺傭兵と似たようなものなのだが、能力自体は、東洋の闇の暗殺拳士や日本の忍者のイメージが入っているような所がある;全身を武器として使う異質な体術を用い、”毒蛇の牙”と呼ばれる毒の塗られた三方手裏剣は曲線の軌道さえ描いて骨すら貫き、鎧兜で完全武装の戦士も物ともしない(このあたりはさすがに誇張されたニンジャ的である)。
最初の方から登場した、下っ端のチョイ役の悪役だと話のセオリーからは誰もが思っていたとある人物が、実は潜伏していたダガシであったことが明らかになってゆき、敵地のまっただ中に乗り込んだ中盤の山場にて、主人公一行の悪漢シルクと対決する場面は、否応にも山場を盛り上げる。
*bandには、トールキン以外には特定の世界観(AD&DのGreyhawkは例外として)からは取り入れることがほとんどない[V]の時点から加えられていた、非常に数少ない要素のひとつである。Moriaから存在する「ニンジャ」をやや強化したようなデータになっているノーマルモンスターで、ニンジャ同様にやや速いスピードと、毒、筋力減少攻撃(これは腱を切ったりする特殊攻撃や体術を示している)を持っているが、ありがたいというべきか残念というべきか、飛び道具攻撃は再現されてはいない。
→ニンジャ
ダークエルフ Dark elf 【敵】【種族】
出典:「暗闇のエルフ」というもの自体は、北欧神話における「大気の光の妖精と、地底の闇の妖精」の分類に由来しているといえる。通常の解釈やファンタジー作品では、「光の妖精」を小妖精やエルフ、「闇の妖精」はいわゆる「ドワーフ」ないしそれに近いものと解釈されることが多い。
しかしながら、古典的RPGファンタジーの祖であるトールキンは、ドワーフはまったく別の種族とし、「光と暗闇のエルフ」を、エルフのうちで光(西方の諸神の威光)にふれたものとそうでないものという基準で分類した。あくまで両方をエルフとしたのは、言語を主眼においての分類、すなわち最初は共通のエルフの言語を用いていたはずの者らから、光のエルフの言葉(クゥエンヤ、ゴロジン語)と闇のエルフの言葉(レンベリン、ダニアン語)に分離した、という「言語分類の立場」での種族の構想に重きを置いたためとも言われている。ともあれ、トールキンの物語に登場するエルフは、ごく一部の「上のエルフ(ガラドリエルなどの一部ノルドール)」を除いてすべて「暗闇のエルフ」ということになり、トールキンではダークエルフこそがありふれたエルフということになる。ただし物語に登場する中つ国土着の暗闇エルフの多くは、西方に住んだことはないが諸神に従う、光と闇の中間の「灰色エルフ(シンダール)」とも呼ばれる種族であり、「暗闇のエルフ」という語で呼ばれることは少ない。
しかし、こちらの意味がむしろ使われることが多いのだが、トールキンにはまったく別の意味で「暗闇のエルフ」という語が使われている例がある。シルマリルリオン(Sil.)などにエピソードが登場する、元々はシンダールながら、ドワーフのような地下の鍛造技術や黒の技に長けた鍛冶師のエルフ『エオル』や、ファンの通称ではその息子で悪に走りゴンドリンの都を裏切った『マイグリン』のそれぞれ個人に対する通称である。北欧の「闇の妖精」に対する語義を、これもまたあくまでエルフとしながらも別の形で取り入れたものといえる。
さてゲームの「ダークエルフ」に関してであるが、AD&Dの背景世界のうちひとつ、World of Greyhawkでは、トールキンのエオルを思わせる「ダークエルフ(本来の種族名はドロウ)」という「種族」が設定されている(Sil.とほぼ同時期であり、エオルの直接の影響というわけではない)。地下に住み、黒の技、黒い強力な金属アダマンタイトを扱うだけでなく、肌も黒く、白髪を持ち、アルダ世界のシェロブかウンゴリアントかというような蜘蛛の女神ロルスを信仰する。さらに、もうひとつの背景世界Forgotten Realmsでは、同様に「ルロス」を信仰する「ドラウ」種族と、彼らの詳細な文化、そのひとつとして地下都市メンゾベランザンが設定された(D&D系の有名なドラウとしては、R.A.サルバトーレ作のメンゾベランザン出身のドリッズトが、海外では割と知られているファンタジーヒーローである)。一方で、背景世界Mystaraの「シャドゥエルフ」のように特に肌が黒くもない(地下に住むため青白い)場合や、背景世界Dragonlanceのように、「ダークエルフ」は単に掟を破り故郷を追われたエルフを指す場合もある。(なお、D&D系の「ドロウ」「ドラウ」の語は、スコットランド語の「トロウ」(トロルと類義とされる)から採られているとも考えられる。)T&Tでは9版などでは「ヴァルタ」が悪のエルフとしてそれにあたり、肌の色は白〜青灰(つまりエルフに似たものからドラウに近いものも含むという意であるらしい)だが、日本語版では、旧版の頃に日本で付け加えられた「漆黒の肌、魔法への抵抗」というドラウそのままの(ヴァルタには合わない)記述が、原語と区別できない状態で今でも残ってしまっている。
日本では、『ロードス島戦記』(フォーセリア世界)などがGreyhawkのドロウとほとんど同じ(生まれつき魔法に抵抗を持つという所までも)「ダークエルフ」を設定したためもあり、和製ファンタジーでは「ダークエルフ」というとドロウ/ドラウのような種族をそのまま指すかの如く定着してしまった。なお、和製RPGの「ダークエルフ」は実在の有色人種のような肌に描かれている場合が多いが、D&D系のドロウの肌は艶のない真っ黒で、しかもそんな肌色に陰翳をつけようと画家が苦心して青や紫を混ぜたりするので、まるっきりナスビの漬物である。日本のダークエルフをイメージしていたファンが海外イラストを見て顔に縦線が入るというケースはあとを絶たない。
敵:*bandでは、まずは[V]から数多くのモンスターとして登場する。アルダ世界だからといって、特にトールキンの「暗闇のエルフ」種族やエオルの親類というわけではなく、普通にGreyhawkのドロウのような敵のようである。階層が低いものから手ごわいものまで、かなり広い範囲の種類がおり、ウォーロックやソーサラーなど魔法使い系が目立つ。なおHURT_LITEフラグがあり、光のロッドなどでダメージを与えることができるのは、確かに日光は苦手で視界が減ることの表現であろう(しかし、AD&Dではトロルのように石化したりドロドロに溶けたりはしない)。
種族:[Z]以降は種族としても選択できる。光でダメージを受けたりすることはないが、生い立ちでは「肌、瞳、髪がすべて黒」になり、おおむねドロウのような(厳密には少し違うが)種族を指しているようである。エルフ(ハイエルフでない方)の上位版というところで、肉体的にはエルフと同じだが、知能、賢さはさらに高く、技能類も良好である。また、レイシャルパワーでマジックミサイルも便利である(生まれつき呪文能力を持つAD&Dのドロウも思わせる)。魔法系を中心に有利な種族のひとつと言える。
→エオル →マイグリン →ワーロック
他者変容 Polymorph Others 【その他】
「ポリモーフ」系列の魔法は多くのTRPGでいわゆる「変身」の術として位置づけられているものである。いわゆる変身・変化は東西ともに「魔法」や「術」の効果として最もポピュラーなものといえるが、伝承や創作の例を挙げていてはまるできりがないので、ここではRPGにおけるPolymorph Othersの内容に絞る。
TRPG/RPGの原型であるD&Dシリーズにおいては、古くから他者変容(polymorph others)と自己変容(polymorph self)の2種類の魔法が存在し、他者にかける場合と自分が変身する場合が分けられていた。これは、(D&Dでは呪文をあらかじめ記憶しておくという性質から)単に呪文をあえて細分するという理由もあるが、他者と自己で大きく効果を変えることで個性づけを行っている。おおむね、他者変容の呪文は自己変容よりはるかに幅広い対象へと変身させることができ、効果も永続だが、知能や精神が変身後のものになってしまう上、AD&Dでは肉体が変容にたえきれず(システム・ショック)即死することさえある(そのため、味方を強化するために安易にかけるといった使い方は難しい)。聖職者系でなく魔法使系らしいとも言えるが、自己変身よりもかなり強力だが危険な呪文になっているといえる。
中レベルの呪文としてはやや強力すぎるせいか(D&D系は記憶呪文性というシステム上、以降のTRPGに比べて呪文自体の効果が強力という傾向がある)BRP系やT&Tその他、以降のRPGでは、同様の効果はかなり高レベルの呪文となっていることが多い。また変身させられる先に大きい制限、例えば能力値が元の値以下(旧D&Dではレベルの2倍まで)、またかなり綿密に研究して熟知した生物の種類にしか変身させられない(これは自己変身の場合も)といった制限が設けられていることが多い。
戦闘呪文としては、無論、危険なだけ敵にかかれば非常に有効な呪文といえるのだが、CRPGなどではやはり強力すぎるのと、「変身」という効果をそれらしく表現できるわけでもないため、他者変身という形で再現されている例は少ないといえる(一方で、自己変容の変身魔術をなんらかの形で取り入れているものはしばしば見つかる)。
*bandでは、他者変容は[Z]系以降のカオスなどの魔法領域に存在するものだが、これはいわゆる「チェンジ・モンスター」の効果にそれらしい名前がつけてあるだけのものといえる。Roguelikeゲームでは、初代UNIX-Rogueの時点から、モンスターがアルファベットシンボルで表されているこのゲームにおいて、安易にシンボルをランダムに変更してモンスターを変身させるという「チェンジ・モンスター」の効果があり、謎のワンドなどと同様に有利とも不利ともつかない、不規則な効果というところである。強敵に使えば弱いモンスターに変身する可能性が高いといえば高いが、狙って行えるほどの信頼性はない。そして、この性質はNetHackやAngband系などいずれのRoguelikeでも同じようなものである。[V]以来のワンドに加えて、[Z]系では魔法でのものにD&D系を踏襲した「他者変容」の名がついており、姿だけでなく完全に新しい生物に変えてしまうという点はD&D系と同じといえるが、もとの生物のレベルに応じて強さが決まるというわけでも、狙った姿へと変身させられるわけでもなく、出鱈目なものである。ただし、これが「カオス魔法」であることから考えると、この出鱈目さがいかにもそれらしいかもしれない。
丈高きエレンディルの星 The Star of Elendil 【物品】
出典:エレンディルミア(エレンディルの宝石)とも言われる。中つ国のドゥネダインの北方王朝(宗家)、アルノールの王位の象徴のひとつである宝石。アルノールの王は代々、初代王であるエレンディル以来、王冠は使用せず、ヌメノール人が王位の象徴とする錫杖(アンヌミナスの杖)と共に、このエレンディルミアと呼ばれる「銀のバンドに巻いた白い宝石」を額につける慣習になっていた。
杖が王位の象徴であれば、エレンディルミアは家柄の象徴であったといえる。エレンディルミアは元々、遥かなヌメノール四代王タル=エレンディルの娘、ヌメノール王女シルマリエンにまでさかのぼる品で、このシルマリエンの息子が初代のアンドゥーニエ領主となり、代々領主がこのエレンディルミアを身に着けていた(ヌメノールの領主はこうした宝石を着ける慣習だった)。
「丈高きエレンディル」は最後のアンドゥーニエ領主アマンディルの息子で、シルマリエンの遠い子孫にあたるが、第二紀末のヌメノールの水没の際、二人の息子イシルドゥアとアナリオンを連れて脱出し、中つ国にドゥネダインの王国を築きその初代王となった。「丈高き」エレンディルと呼ばれるのは、Unfinished Talesの説明から計算するとその身長が240センチあまりあったためで(しかも、この説明はあくまで「背丈が劣ってきた後代のドゥナダンを基準にした」もので、実際はそれより高かった可能性もある)映画版に登場するナルシル(→アンドゥリル)が無駄に長いのは、そんな長身のエレンディルの剣であったためでもある。やがて、エレンディルらはエルダール王ギル=ガラドと同盟を結んでサウロンと戦い、エレンディルとギル=ガラドはサウロンと相打ちに倒れた(映画版FotR冒頭ではわかりやすくするため、エレンディルはサウロンのメイス一発で空中を飛翔、壁に激突して死亡し、その後イシルドゥアがサウロンを倒している)。そのためイシルドゥアがアルノール(宗家である北方王朝)の王位を継ぐことになり、エレンディルミアも引き継いだ。
しかし、イシルドゥアがあやめ野でオークに討たれた際(このとき《一つの指輪》も失われた)このシルマリエン以来のエレンディルミアも行方不明となってしまう。そのため、生き残ったイシルドゥアの四男ヴァランディルのために、裂け谷のエルダールらが複製品として新たに「エレンディルの星」を作り(以後、便宜上ヴァランディルの星と表記する)これが、かわりにそれ以後のアルノール王に38代もの間伝わってきたのである。
さて、Unfinished Talesによると、指輪戦争の後、オルサンクの塔の秘密の部屋(ギムリがシークレットドアを発見した)の中から、シルマリエンのエレンディルミアの方が発見された。イシルドゥアのエレンディルミアを、誰かが流れ着いていたのを発見したか、サルマンの手元にどういった経緯で渡ったかは定かではないが、本文の中では、サルマンがイシルドゥアの死体を発見して漁り、アイテムを奪って死体を破棄してしまったのだろうとほぼ断定されている(悪事のように書かれているが、NetHackをはじめRPGではごくあたりまえのどうということのない行動である)。
こうして新旧の星が結局はエレスサール王のもとに戻ったわけだが、エレスサールは普段は代々のアルノール王が昔からつけていたヴァランディルの星の方を身につけ、特に北方王朝の祭日などの時のみシルマリエンのエレンディルミアをつけたという。なお、追補編にはエレスサールがサムに「ドゥネダインの星を与えた」というくだりがあり、「ヴァランディルの星の方は、最終的にはサムに譲られた」という説を述べるファンもいるが、おそらくこのサムに与えられたドゥネダインの星は、単に野伏(アルノールの一族や重臣)の印である星型のブローチを指しているのであろうという説が有力である。
シルマリエンのエレンディルミアは、ヴァランディルの星よりも遥かに美しさでも力でもまさっていたというが、宝石としてもただの石ではなかったようで、Unfinished Talesの記述によると、オークとの戦いの間激しい輝きを発し、オークらを寄せ付けなかった。さらに、この光は非常に強く、イシルドゥアが《一つの指輪》をはめて姿を隠した際も、エレンディルミアの光だけは見えていた、とある。あるいはノルドールの手による秘石の一種かもしれないという気がするが、シルマリエン以前の由来に関しては確かな記述がない。なお、*bandでは(できるだけ二つ名などを加えて)親しみやすくするために、「丈高き」エレンディルの星となっているが、この宝石のエレンディルが、実は丈高きエレンディルではなく、シルマリエンの父であったタル=エレンディルであった可能性もあるかもしれない。
物品:[V]以来、中盤の標準的な光源物品として各バリアントに登場する。これがシルマリエンのエレンディルミアなのか、複製されたヴァランディルの星の方なのかは定かではないが、[Z]などのバリアントでは、サルマンを倒すとある程度の確率で落とすので、少なくともこちらは前者である。視透明と麻痺耐性、生命力保持、申し訳程度だがやけに目立つ加速+1など、中盤では重宝する堅実な能力がある。発動で感知なのは、光源アイテムがガラドリ瓶の明かり→アーケン石の千里眼と、高級なものほど「感知能力がレベルアップしていく」という位置づけになっている以上の意味はないかもしれない。
なお余談だが、「エレンディル」はNetHackにおいてエルフのクエストリーダーとして登場すると思われているが、これはエルウィングと同時に登場することからも分かる通り「エアレンディル」の誤訳である。ElendilとEarendilなので、LとRをまず間違わない海外では混同されることはほとんどないが、日本人でシルマリル未読であれば仕方もなく、さらに指輪未読であれば間違う方がむしろ当たり前であるとさえ筆者は考える。(しかし、みずから指輪ファンを名乗っている人や、あまつさえ本職で日本語字幕を担当した人がこんな間違いをしようものなら、残念ながら申し開きの余地は全くない。)
丈高きマエズロスのマン・ゴーシュ The Main Gauche of Maedhros 【物品】
マエズロスはアルダ世界の伝説時代、ノルドール族ハイエルフ、7人の「フェアノールの息子たち」の長兄である。『クゥエンタ・シルマリルリオン』では主役・語り手の一人に据えることができるほどの、数多くの描写があるひとりである。
大宝玉シルマリルを奪った暗黒の大君主モルゴスを追って、フェアノールに連れられて共に中つ国に上陸し、サンゴロドリム(モルゴスの国)の包囲網の最前線に国を構える。父の死後はノルドール上級王の位を叔父フィンゴルフィンに譲りつつも、7人の兄弟とモルゴス包囲網の牽引役となる。快活で武人肌ではあるが、いずれも幾分かは激烈な性格を持つフェアノールの息子たちの中でも落ち着いたまとめ役でもあり、同族や中つ国の灰色エルフらに巧みに譲歩し、互いを懐柔する。長男がこういう性格だったからよいものの、そうでなければ伝説時代のエルフの歴史はさらにどれほど酷い事態になっていたか想像もつかない。
すぐ下の弟、フェアノールの次男で詩人のマグロール(→伶人マグロールの竪琴)も同様の良識派であり、マエズロスの参謀といった趣きがあるが、二人は「シルマリル奪還」の誓いに駆り立てられながらもそれを重荷とするようになってゆく。シルマリル奪還のために灰色エルフを攻め滅ぼしながらも、幼いエルロンドとエルロスの命を助け育てたのもこの二人である。フェアノールの息子らはこれらの戦いで次々と命を落とすが、マエズロスとマグロールはモルゴスが倒された怒りの戦いまで生き残り、遂に奪還されたシルマリルを手にする。しかしシルマリルはもはや血塗られたフェアノールの息子らを主とは認めず彼らの手を焼き、マエズロスはシルマリルを抱いたまま地の裂け目に身を投じた。
さてマン・ゴーシュとは、通常フェンシングで使う左手用の短剣のことであるが、マエズロスは右手を失っており、「左手で剣をふるった」という記述があるため、彼の剣はマン・ゴーシュとなるわけである。物品の解説にも書かれているが、マエズロスが右手を失ったのは最初のモルゴスとの合戦で捕えられ、解けない戒めでサンゴロドリムの断崖に右手を縛られたため、フィンゴン(フィンゴルフィンの長男でマエズロスの友人)が彼の右手を切断して救出したためである。このときマエズロスは死ぬほどの衰弱の上に傷のために並のエルダールであれば死んでいたところであったが、内なる炎をもつフェアノールの血脈の生命力のために回復したばかりか、左手でも優れた使い手となった。
なお、ICE社のMERPの設定では、マエズロスは「カムマエズロス」というエオグ鋼の強力な義手を右手のかわりにつけ、剣は「シルマルース」という名の、父フェアノール作の相当強力な(リンギルに次ぐほどの)ブロード・ソードである。
*bandでは[V]から通じて登場し、短剣ベースであるが、ベースダメージも強まり中堅程度の強さはある物品となっている。マエズロスが「左手のみ」で使った物品であるため、マンゴーシュであっても二刀流修正などは特にない。
ダゴン Father Dagon 【敵】
父なるダゴン。唯一の存在、上級の奉仕種族のディープワン。深き者の支配者。深みの大公。すけとうだら大魔王。一般に、半人半魚の巨人であり、「大いなるクトゥルフ」のいわゆる従属神とされる。クトゥルフを信奉する半魚人「深き者」ら、または人間の信者・教団らが直接に奉仕するのは、従属神ダゴンであることが多い。いわゆる「旧支配者」の中でも下級な(身近な)ものとも、または、旧支配者(神性)ではなく、深き者が巨大に成長した首領格であるとも言われている。
ラヴクラフトの掌編『ダゴン』は後のクトゥルフ神話のストーリーの雛形といえる(人間の神話の背後にあった宇宙的恐怖を知る筋立ての)一篇だが、ここで半人半魚のダゴン神(ダゴンの名自体はペリシテの神として旧約聖書にも登場する)の正体は、この海の巨人であったというアイディアになっている(なお、こうした海の巨人が一体限りであるとは必ずしも断定されていない)。のちのラヴクラフトの作品に、大いなるクトゥルフと共に信奉される存在として、また深き者や人間の信者による「ダゴン秘密教団」と、さらに各地に水の邪神として見られるハイドラ(ヒュドラ)の名が列記されるようになる。「父なるダゴン、母なるハイドラ」という記述から、ハイドラはダゴンと形態的に同一の存在で対をなす女神と解釈されることが多い。なおこのダゴンと対のハイドラは、ヘンリー・カットナーや山本弘の著作に登場する「千の顔もつ月」ハイドラとは別物である。
『クトゥルフの呼び声』ルールブックでは、ダゴンとハイドラは深き者(ディープワン)が数百万年を経て体長6メートル強へとそのまま大きく成長した長老とされる。ここでは神でも旧支配者でもない(旧支配者のような不滅性は持たない)が、能力的にはマイナーな旧支配者にもさほど劣らない。一方で、後出のCoC d20ルールブックでは、神性(神格ランク)を持つ「半神」扱いとなっている。
クトゥルフ神話の派生作品には「有名な連中でもクトゥルフみたいな大物がやられるとまずいが、このランクならいいだろう(旧支配者だとすればどうせ完全には滅びないし)」とばかりに、しばしば「力ずく」で倒される役にダゴンやハイドラがいたりする。下級で身近な存在という点が良きも悪きも広く膾炙し、変に解釈されていることも多い。
ペリシテの神や、悪魔としてのダゴンがRPGに登場することは(特に神話などがテーマのものを除き)まれである。AD&Dでは古くからこうした悪魔としてのダゴンがデーモン(「混沌として悪」の悪鬼)や、そのうち神性を有するものとしてデータ化されており、なぜか最初期の版のクトゥルフ系データやCoC d20のデータよりもさらに強敵である。最近の版の「深みの大公」としてのデーモン・プリンスのデータのものは、クトゥルフ系の影響も見られる設定になっている。
*bandでは、[Z]以降のバリアントでダゴン、ハイドラともに38階に登場し、クトゥルフ系の神格級ユニークとしては最初に出現すると思われる。'u'シンボルを多量にひきつれ現れ・また召喚し、階層の関係から実際に「深き者」であることが多いが、テングやウォーハンマー系デーモンなどが混ざっているとかなり厄介なことになる。クトゥルフ系の常として階層よりもやや強めなので、ある程度戦術を組んで戦った方がよいだろう。
→深き者 →クトゥルフ
タラスク The Tarrasque 【敵】
Theがついているところから見てもわかるように、種族ではなく、固有名詞である。
伝承のタラスク(タラスクス)自体は、アジアのガラテアで海竜とロバ(リヴァイアサンとボナクスという説もある)との間に生まれた怪物で、ライオンに似た頭部を持ち、猛毒の息を吐く竜とされている。フランスのローヌ川に現れたが、聖女マルタによって帯で縛られ、退治されたという。
これが元になっているか皆目わからないほどの凶悪さを持つ怪物が、AD&Dの基本ルールブック(モンスターコンペディウム)にさえ記載されているタラスク(タラスキュー)である。体長21メートルほどの、二足歩行する爬虫類のような生物で、鱗や甲羅や角などを目いっぱい備えている。その肉体能力だけ見ればどの版でも基本ルールブック内では桁外れの頂点に位置し、ヒットポイントだけなら基本ルールの最大のドラゴンの2倍以上あったりする。角や牙はヴォーパルヒットを飛ばし、甲羅はほとんどの魔法を跳ね返し、そしてD&Dらしからず、まるで旧支配者のように、肉体を破壊されても滅びることがない。破壊したあとに祈願(ウィッシュ)系の呪文を施してはじめて停止させることができる(AD&Dゲームブック『魔法の王国』シリーズで、タラスキューを停止させるために「限られた願い(リミッテッド・ウィッシュ)」の巻物をふたつ重ねて用いた、という描写を覚えている人もいるだろう)。10年あまりに一度、ある日突然現れて破壊活動を行い、生物無生物を食べて回り、容易に文明を崩壊させる。ワールドセッティングにもよるが、その存在は神が世界の終末に備えて用意しているものであったり、太古の文明の最終兵器であったり、とりあえず漫画などによくあるあらゆる逸話が噂されている。
なぜAD&Dでは、ギリシアの有名な怪物などはノーマルモンスターになっていて、強大なユニークがむしろこうしたマイナーな伝承から選ばれていることが多いのか、というと、一発物のシナリオのネタのような扱いで加えられている、または、本当にそうやって公式シナリオの一発物で登場したものが後にルールブックにもデータとしてそのまま収録されている、といった事情が多いためであったりもする。
*bandには[V]から、おそらくAD&D由来のモンスターとして深層84階に登場する。「魔法に対する免疫を持ち、殺すことができない」という思い出文章は、AD&Dのデータ反映と思われる。劣化攻撃やブレスを持っているが、これはおそらく建造物や物品を破壊するデータからだと思われる。上級者には必須ではない劣化耐性はなしで潜る人も多いが、その場合このタラスクは相手せずに逃れることが多い。それほどこの劣化は凶悪である。また描かれるイメージがモンスターよりは映画の怪獣、特にゴジラに近いためか、[Z]以降のゴヂラのデータ(および思い出文章)のベースにもなっているようである。
ダル=イ=サリオン The Pair of Soft Leather Boots 'Dal-i-thalion' 【物品】
[V]以来*bandに登場する靴のアーティファクトのひとつであるが、トールキンの記述にはなく、結論から言えば*bandで創作されたものと考えられている。dalは「足」、thalionは「強き者」で、物品解説にも「英雄の足」と書かれている。しかし、シンダリン語の定冠詞iはtheに相等するものだが、ことに固有名詞の中にそれが含まれる場合、冠される単語は「ある特定の存在」を指している。従ってi-thalionは「その強者」だが、いずれかの英雄の名を特定して指している、ということができる。
i-thalionとは誰かということになるが、thalionとはシンゴルの勇士のひとり「強弓(cu-thalion)のベレグ」などにも見られるが、そのまま「サリオン」のみでは、実際のところ人間(エダイン)の中で最も勇猛な武将であったドル=ローミンの王フーリン(→参照)を指す。(フーリン・サリオンはトゥーリン(→グアサング等)らの父にあたる。)従って、Dal-i-thalionとは、ただそれだけで婉曲的に「フーリンの足(靴)」を意味する語と読みとって構わないことになる。
もっとも、*bandにおける創作アーティファクトは他にも割と適当にデザインされている感もあり、あるいは(フーリンなども特に意識せず)単に「強者の靴」という意味でこの名がエルフ語から選ばれ、冠詞iは全体の座りのためだけで特に深い意味はこめられていない、という可能性もないでもない。
*bandが多く参照しているICE社のMERPのデータでは、フーリンの靴は『翼もつ足』という共通語の名で、その名の通り高い地への登攀にボーナスがあるが、ダル=イ=サリオンとの関係は見当たらない。また、ベレグのデータには特殊な物品としての靴はない。従ってこの品に関しては、特にMERPのデータが参照されてはいないようである。
[V]に登場する靴ダル=イ=サリオンは、麻痺・混沌・因果混乱耐性と器用度への大きなボーナス(スピードにはない)を持つ申し訳程度の防御品である。[Z]系では、まったく関係が見当たらない「フローラ靴」に差し替えられ、器用の他に魅力も上昇する品になっている。
力の杖 Staff of Power 【物品】
「マジカリパワースタッフ(新和版ルールブック原文ママ)」は、最初のTRPGであるOD&D(1974)からルールブックに記述されている魔法の物品で、魔法使や一部聖職者のさまざまな呪文の効果を豊富に発動できるという品である。D&D系の魔法の杖(スタッフ)は、T&Tや、のちの大半のTRPG, CRPG(ついでに、現在の魔砲少女アニメ)のように使い手の魔力や攻撃力を増加させる触媒となる、といったものはほとんどなく、術者の力とはまったく別個に呪文がたまっている、乾電池式電化製品のようなものが多い。これは当初のD&D系システムでの術者の、あらかじめ準備しておいた呪文以外一切使えないという融通のきかなさから、いつでも呪文が発動できるアイテムが重宝されるという側面がある。Staff of Powerはそんな便利アイテムとしての杖の最たるもので、火炎・電撃・冷却など多種類の破壊用呪文が発動可能であり、またファイナルストライク(AD&Dではretributive strike, 3e和訳では応報の打撃)という、杖を折って巨大な自爆を起こすことができるという使用法も有名で、CD&Dのミスタラ世界設定をゲーム化したアーケードのカプコンD&Dでも登場し、AD&Dでもフォーゴトンレルム世界設定の小説『呪われた女剣士(アジュア・ボンド)』などで言及されている。これらの点から、「強力な破壊用の杖の代表格」「術者の力の象徴」としてプレイヤーに広く認識されている物品である。(なお、上位の品として破壊のみならずさらに多目的の「ウィザードリースタッフ/The Staff of Magi」も有名である。)
*bandに[V]以来登場する「力の杖」は、上位の「Staff of Magi 賢者の杖」(*bandでの効果はまったく異なる)と共にこのD&Dの物品から名を引用されていると思われる。70階の強力アイテムであるこの杖は、視界内のすべての敵に一律ダメージを与え(上位の「聖浄の杖」のように自身を回復したりはしない)「邪悪存在退散の杖」の上位と言うこともできるが、ダメージはより大きく、また邪悪な存在以外にも効果がある。実質、特に[V]のシンプルなシステムではひとつの杖にさまざまな効果を持たせるのには適さず、*bandでは単に万能的に強力な攻撃の杖の意を反映しているか、あるいは「応報の一撃」をも意識しているかとも思われる。
→賢者の杖 →聖浄の杖
力の指輪 Ring of Power 【物品】【敵】
アルダ世界の第二紀にノルドールの鍛冶師らの技により作り上げられた、20の指輪。正確には19は鍛冶師ら、一つはサウロンが作り上げた。強大な力を秘めているが、すべてサウロンがひそかに加えた悪意と「一つの指輪」に従属しているため、サウロンが一つの指輪をはめれば、すべての力の指輪のなすことはサウロンの悪意の思うがままとなる。
『指輪物語』冒頭の詩から、「エルフの三つ、ドワーフの七つ、人間の九つ、冥王の一つ」が存在することが広く知られる。エルフの三つは第三紀当時は隠され、いまだにエルフとイスタリがこの世を癒すために使っている。ドワーフの七つは、ドワーフと龍の戦いによって、失われるかサウロンの手元に戻った。そして人間の九つは、与えられた人間に強大な力をもたらしたが、やがて彼らを指輪のみに、もといサウロンのみに支配される九人の幽鬼(→ナズグル)に変えたのだった。
原作を読む限りでは、力の指輪の力はいずれも、直接的な力というよりも、目に見えない影響(使用者や周囲の精神に働きかけたり、運命を左右する)をもたらすという印象が強い。しかし*bandでは能力値や耐性がバリバリにつくわ、発動すると巨大魔法球だの信じがたい魔力爆発だのが飛び出すわで、非常に唯物的な効果が与えられている。他に表現の仕方がない以上致し方なくはある。
*bandでは強力なアーティファクトとして、エルフの「三つの指輪」が普通にお目にかかるところである。「元素への免疫」は重宝するが、これが手に入る頃の終盤になると、指輪のスロットはスピードや打撃・射撃回数の指輪に必要となってくるため、重要性に関しては微妙な存在となってくる。
ToMEにはドワーフの「七つの指輪」の一部や、ナズグルを倒すと生成されるランダムアーティファクトとして人間の「九つの指輪」も登場する。
なお、はたして「一つの指輪」も登場するのか否かを、はっきり書かずにほのめかすのが[V]当時の紹介サイトの一時の流行りだったらしい。
→ナルヤ →ネンヤ →ヴィルヤ →一つの指輪 →アホヤ
遅消化 Slow Digestion 【システム】
オリジナルのRogueにおいて、空腹と消化のシステムは非常に重要であり、そして特に序盤において食料の調達はNetHack等の以後のRoguelike以上に切実な問題であった。ゆえに、「Slow Digestion 食料の消費を抑える指輪」こそは、まさに進行上の最重要アイテムであったといえる。
Rogueにて他のすべての「指輪」は、消化(食料消費)を加速するというペナルティを伴う。その中で、ただ唯一Slow Digestionの指輪だけは、その「対極」の効果を持っていると言え、低俗〜中俗FTのギミックにありがちな(他のすべてを打ち消しバランスを取る無の魔術だの何だの)きわめて観念的な雰囲気もそこには漂っていると言えなくもない。かつて、ゲームデザイン論特集でオリジナル(UNIX)Rogueをとりあげた『Oh! MZ』誌のライターは、「まさに《一つの指輪》の如くすべての指輪の上に君臨している」と表現したが、──これはちと言い過ぎである。
ともあれ、遅消化というアイテム能力は他のRPGにも由来しないRogue独特の発想から生じた、独自のシステムである。ゲームに限らず他のFTにも「消化が遅れる」という類の発想はほとんど類を見ない。それは、ゲームの場合は消化システムを加えるのはともかくも、その速度を増減させるといった部分をプレイヤーが意識し管理するようなシステムだと煩雑になるに違いないという判断にも由来するだろう。
初代Rogueをかなり忠実に、しかし適度に普及に向いたアレンジを加えたRoguelikeのヒット作『トルネコの大冒険』第1作でも、空腹システムは存在し、さらにRogueのそれに相当する「腹減らずの指輪」も存在する。しかし、これは使用中は一切空腹にならない(満腹度が減らない)ようになっており、他のRoguelikeに比べても驚異的なまでの威力である。しかし、トルネコがその体型から想像するような美食家・大食家だとすれば、これほどまでに退屈な指輪があろうか。そのせいか、最も難易度が高い裏ダンジョンでは、この指輪が登場しない(生成されない)。また、『トルネコ』の発展作でこれもRoguelikeの普及作である『風来のシレン』1作目SFC版では、この効果の腕輪は登場しない(続編等の後続のRLにはふたたび登場するものがある)。さらに、『トルネコ』『シレン』のいずれも、なぜか「皮の盾」に食糧消費を抑える特殊効果がある。盾が軽いので疲労しないと考えることはできるが、なぜ(盾を装備しないよりも)消化が抑えられるのかは結局のところ不明である。
これらの食糧の切実さが少しずつ緩んでいった他のRoguelikeにも増して、*band系では食料の切実さはことさらに少ない。Moriaの時点から、Rogue以来の伝統で食料と遅消化の物品が存在するが、食料は普通に買えも拾えもするのであまり実質の効果を持っていない。[V]では、急速回復能力があると消化が急増し、そこに遅消化能力を加えると、何もないときより若干消化が遅れる方が優勢になる、というディティールがある。また有利な突然変異をつけすぎると消化が異様に早まったりすることもあるが、ゲーム的な実質を伴っているかは定かではない(消化があまりに早いと、広域マップですぐに空腹になるので面倒だが、面倒だという以上の意味があるかどうか)。結局のところ、今では遅消化の物品も、Rogue発のゲームであることの伝統をしのばせる以外の意味はほとんど持っていないといっていいだろう。食料システム自体の是非の議論にもなってくるのだが、その点は詳しくは食料の項目にでも譲る。
秩序のユニコーン The Unicorn of Order 【敵】
アンバーの王国の象徴である一角獣。王家の家紋(緑地に後ろ足で立った一角獣)や王室規範の「ユニコーンの書」の象徴であるのみならず、しばしばアンバーの近くにある森に現れて、実際に重要な決断をすることもある(なお、喋らない)。
さらにアンバー後半シリーズでは、同様に混沌の宮廷の象徴であるサーペントと戦い続けていると描かれる。かつてサーペントから片目を奪い、その「審判の宝石」をドワーキンに与え、ドワーキンがパターンを描いたことからも、「パターン・アンバー・秩序」の根源たる存在である。(原書でのsheという表現を見るまでもなく、*bandファンには既にモンスターの思い出などで「女性である」ことが周知であるが、それに伴ってなにげに強烈な事実があったりもする。)しかしながら、その起源などに関しては、後半シリーズでもやはりあまり詳しくは説明されていない。万物が混沌から生じ、また混沌から「ユニコーンのような(マーリン談)」”影”を渡る幻想生物が常に生み出されていることから、単に初期に生まれたそうした生物と考察される(アンバーTRPGの設定なども)ことが多い。
*bandでは[Z]から、「サーペントよりも明らかに強いにも関わらず、サーペントよりも手前の階で」登場する。サーペントが登場する以上、対立する存在も出したというところであろうが、最大の謎がなぜこの善玉の極め付けが「敵なのか」ということである。プレイヤーキャラは落ち着いて考えると「アンバーの敵」であり、王族を皆殺しにしたりするので、一応は敵対する存在なのかもしれない。結局、あまり深い意味はなさそうなのだが、しかし、襲われる方としてはたまったものではない。恐らく、サーペントから目を奪ったことから、こちらの方が若干強いという発想なのだろうが、サーペントよりひと周り強力なパラメータと猛烈なスピード、さらにGOODであるため、(特にヴォーパルの頼みの)武器の破邪属性も効かず、生命([変]では破邪)の打撃呪文も効果が薄い。打撃力はモルゴスやサーペントほどはないのだが、時間逆転打撃なども持っておりサーペント以上の能力値減少に見舞われる。サーペント同様の分解ブレスや召喚をはじめとした魔法も持っている。*勝利者*でもよほど強さと物資に余裕がない限り戦わないか、最後まで避け続けることの方がむしろ多い。
実際に戦うとなれば、物資(特に能力回復)を豊富に用意して正攻法で戦うという、サーペントと同じ戦法を取る他にないだろう。
→混沌のサーペント →アルセウス
智天使 Cherub 【敵】
智天使とは、よく知られた偽ディオニュシオスによる天使の九階級の階級づけにおいて、第二階級、上級三隊の中間に位置する天使を指し、剣を持ち知識、守護、仲裁を司るとされ、じかに神の御座の側に控えあるいは御者となり、てなことを書いているうちにすごく眠くなってきたんであとはそのへんの同人関連でも参照されたい。エゼキエル書によると車輪と多くの手足、巨体を持つ異形の天使とされるのだが、宗教画の多くが抽象化された中世までの絵画の様式ではどうしてもそれをうまくイメージ化することができず、天使どころかデビルガンダム細胞に侵食された巨大ロボが無造作にパーツが異常増殖・肥大化した代物としか思えない珍妙な絵画が多く残っている。その当時の宗教画よりもむしろ、その後においてローマのクピドの影響を受けた子供の天使として描かれる(知恵を司るため、日々知恵をつけてゆく子供になぞらえられたと言われるが定かでない)画像の方が智天使のイメージとしては主といえるかもしれない。
漫画やゲームなどでは、天使が「裁く者」として登場した場合、それ自体が人間の及ぶべくもない高位の存在であり、しかも階級づけではそもそも主物質界などのレベルに出現しうるのがせいぜい下から二番目の「大天使」までとされているため、上から二番目の智天使ともなると下手な異教系の神以上なり、またその巨体からスケール的にも強大な存在、といった解釈になっていることも多い。しかしながら、*bandに登場する智天使は、33階というせいぜい下の上レベルのノーマルモンスターにすぎない。これは、天使系モンスターに「デイバ」等のAD&D独自の名前をつけていた[V]2.8以前にかわって、[Z]ではより一般的な名に変更されたが(詳しくは「天使」などの項目参照)そのさい、モンスターのデータは勿論思い出までもそのままに、無造作にデイバの上の方から上位の天使の名をつけただけだからである。[Z]の智天使は[V]2.8系では「アストラル・デイバ」として作られたモンスターだった。(それでも、D&D系のアストラル・デイバは、上位巨人やヴァンパイアロード程度は遥かに上回る存在ではあるが。)「ウォーハンマー」(粉砕のメイス)、「しなやかな身のこなし」といった*bandのモンスター思い出解説の文章は、D&D系のアストラル・デイバの特徴である。
[Z]の他にも、[変][V]3.0系など、いまや多くのバリアントでアストラル・デイバは智天使の名に変更されている。それまでの大天使(モバニック・デイバ)と階層も肉体能力もさほど大きな差はないのだが、モンスター複数召喚等の厄介な魔法を持っていることが大きな特徴である。とはいえ、さらに上位天使やユニーク天使系の持つ大量天使召喚などの能力は持っていないので、それほど重大視されることはない。
→天使 →アルコン
チャウグナール・ファウグン Chaugnar Faugn, Horror from the Hills 【敵】
旧支配者。丘よりきたる恐怖。ぞう大魔王。チャウグナー・フォーンと表記されていることが多いこの小神は、『クトゥルフ神話』の中ではかなりマイナーで力も弱いものだが、よくモチーフや他の旧支配者・種族との相互関係に登場する、ファンの間では重要な存在である。H.P.ラヴクラフトの古い友人であるフランク・ベルナップ・ロングが、ラヴクラフトの夢のひとつをモチーフにしたという『恐怖の山』(『丘の恐怖』)で言及している。
とあるアジアの奥地の洞窟に鎮座し、周囲の人間や謎の種族に礼拝されている。(謎の種族は、TRPGのCoCルールではチョー・チョー人で、しばしばゴシックホラー等に登場する特殊民族であるが、ここではチャウグナールが亜人種と交配させて作り出した種族となっている。ロングの作中ではミリ・ニグリ族であり、TRPGのCoCの資料によっては別にデータ化されていることもある。)全体的な姿は何となく「象」に似ているのだが(例によって、インドのガネーシャ信仰はチャウグナー信仰が変形したという説もある)鼻の先端はディスク状の吸盤で、耳や手足はなんとなく鉤爪めいている。普段は石像のように台座の上に座っているのだが、夜になると動き出し、手近な生物をとって食う。もっとも、昼間も不用意に近づく者がいれば台座から立ち上がり、やはりとって食う。鼻の先端の吸盤で血を吸い、殺すこともあれば、鼻を当てることでその人間を「コンパニオン」(特に目をかけた信奉者というあたりである)にすることもある;この思念を送られた人間はチャウグナールに支配され、また外見もどこかチャウグナールに似た怪物じみてくるが、ときどき養分を吸うのに利用されることもある。チャウグナールの住む近くの亜人間やチョー・チョー人の奴隷はチャウグナールに日々いまわしい儀式を行っているという。明確に「悪意」ある「邪神」的な旧支配者の一体といえる。
ロングの『丘の恐怖」の作中では、(他の旧支配者ではラーン・テゴス等と似て)この石像を現代人が博物館に運び込み、夜に覚醒して町を徘徊して犠牲者を出すのだが、謎のオカルト研究家が作った謎の機械が発した謎の怪光線を浴び、生きてきた時間を逆転させられて萎びて死亡という、本人も作品もかなり冴えない終幕を迎える。そのわりにこの旧支配者本人も作品もわりと重視されているのは、このロングの作品の一部にラヴクラフト自身が手紙で語った夢想が使用されているという理由ではないかと思えなくもない。
なお、チャウグナールはアジア以前はドリームランドのレン高原や、ヨーロッパのピレネー山脈に住んでいたとも言われており、これらの山脈には、チャウグナールよりも小規模で同族の(クトゥルフでいう眷属のようなものといえる)「チャウグナー・フォーンの弟たち」が何体も眠っているとも言われている。
*bandでは[Z]以降登場し、44階と階層自体は旧支配者としては低い方だが、攻撃力・防御力ともにかなりばかにならず、魔法もクトゥルフ系にありがちな厄介なものを使ってくる。
チャードロス Chardros the Reaper 【その他】
刈り入れもの。地獄の公爵、<混沌の神>。マイクル・ムアコック『永遠の戦士』シリーズに登場する混沌の魔神らの一体。なお、TRPG版の発音手引きではむしろ「シャアードロゥズ」に近い発音であるという。大頭で曲がった鎌を持つ、典型的な「死神」(西洋で疫病などに重ねられたもの)の姿の通り、生命を刈り取るものとされる。名前と(終盤のみ現れる)姿のほかは作中に詳細はなく、現実の西洋の死神同様に忌まれているかは定かではないが、混沌の神の例にもれないとすれば、やはり容赦ない無慈悲な存在と認識されているのは確かと思われる。『エルリック・サーガ』のシリーズを通じて、何度か台詞などの中に名前が登場し、ヴィルミールのアヴァン公爵や、パン・タンのセレブ・カーナが感嘆表現に「チャードロスにかけて」と呼んでいることから、新王国では広く信仰されていることが伺える(パン・タンの船長のひとりがストームブリンガーで魂を吸われる時に「チャードロスにかけてあんまりだ」という断末魔を発するのが、まるで死神の方がましと言っているようで印象的である)。シリーズ終盤の混沌と法の決戦時には、混沌の神官ジャグリーン・ラーンに呼ばれて実際に新王国に姿をあらわし、直接にその大鎌をふるって<法>の主神ドンブラスと渡り合う場面もある。
TRPG版『ストームブリンガー』の設定では、新王国ではチャードロスはスローターおよびマベロードと共に最も強力な「3神」であるとされ(原作でアリオッチよりマベロードが大きく劣るという、少なくともメルニボネ人の感覚の記述とは異なる)その姿は朽ちたみすぼらしい死神ではなく、長身に黒い豪華な服装をまとうが、青白く骸骨じみた人間離れした容貌をもつ。「不死の呪い」を与え、死とともに恐怖と司るとされる。
*bandでは、[Z]系の混沌の戦士ほかに報酬を与えるカオスパトロンとして、他の混沌の魔神らと共にその名がある。報酬はチャードロスの設定に沿う抹殺系のほか、能力値上昇などの有利なものになることが多く、また、なによりハイオンハーンとともに、報酬が自己変容(混沌の戦士にとって、ゲーム的にもイメージ的にも予定が台無しになる筆頭)になることがないため、混沌の戦士のプレイヤーからは最も人気のあるカオスパトロンといえる。
治癒の薬 Potion of Cure Wounds 【物品】
「軽傷」「重傷」「致命傷」の治癒の薬を一括してこのエントリーで扱う(癒しの薬は別とする)。*bandにおいては、いわゆるHP回復薬の中でわずかな量のHPを回復するものにはこの3種類があり、Moriaの時点から一貫して登場する。
Cure 'Light/Serious/Critical' Woundsというのは、クラシカルD&DおよびAD&Dにおける治癒呪文の名前がそのまま採られており、元は後の方になるに従って高レベル呪文で回復量も多いものに無造作につけられた名前である(WizardryのDIOS/DIAL/DIALMAの呪文は、それぞれ効果も呪文レベルまでもこれらと全く同じである。なお、D&D 3eにおいては呪文レベルが異なり、さらにこれらの狭間にMinorやModerateといった呪文がある等整理されている)。従って、「重傷」やら「致命傷」やらといった言葉は、後にゆくに従って強力な呪文になるため、「重そうな傷を示す言葉」が便宜上つけられているだけのもので、実際にキャラクターの重傷や致命傷を確実に治すことができるという意味では全くない。キャラクターのHPが膨大になってダイス3個分HPの傷などほんの軽傷にすぎなくなっても、「致命傷治癒」の呪文・薬ではどうあがいても3個分しか治せない。確かに生命線ではあるが、古いD&D系にしろWizardryにしろ治癒呪文バランスが非常にきつく制限も多いのできわめて苦労することになる(逆説的に先手必勝でオーバーキルの攻撃力がとびかう)。この致命傷治癒よりさらに上のレベルの呪文が、大きな値を一気に(低レベルではほぼ最大値まで)治癒できる体力回復(Heal, CureAll, MADI)の呪文となり*bandでもそれに準じているが詳細はその項目に譲る。
*bandではこれらが回復手段としては頼りないのは元のD&D系以上で、軽傷の薬はほとんどターンの無駄同然、重傷や致命傷はかなり初期には若干の回復手段になることがあるものの、むしろ「特殊攻撃の影響を治癒する」効果としての方が重要である。(なおシステムが違うのでどういう意味があるとも言えないが、回復量はD&D系のそれとはダイス数がちょうど2倍になっている。*bandの致命傷治癒はダイス6個である。)有名無実なD&D系とは異なり、「切り傷」類のルールがある*bandでは、これらの薬は看板に偽りなく名前通りまでの切り傷を治すことができる。どちらにせよ、致命傷治癒の薬は店で買える最大限の回復薬なので、どうしようもなくてもさまざまな意味でこれに生命を預けなくてはならない状況は多い。中盤まで大量に買い込んで携帯することとなる。
なお余談であるが、NetHackの「回復」「超回復」の薬の方は、呪文の名ではなく、クラシカルD&DおよびAD&Dでのポーションの名前と効果(Healing/Extra Healing)に準じているものである。D&D 3eではポーションの名は呪文と統一され、*bandと同様にCure ** Woundsといった名になっている。
超能力者 Mindcrafter 【システム】【敵】
出典:超能力という分野と古今の現実およびフィクションにおける位置づけに関しては概論すらもあまりにかったりいから省きここではファンタジーRPGにおける超能力というものに絞る。例えば海外ファンタジー小説には魔法が超能力のような描写であったり、T&Tのように「魔法は超能力の一種である」と定義されている場合もあるのだが、そも魔法というものが存在する世界でわざわざそれとは別にSF的な超能力なるものを導入するようなRPGはその発想の原点は何であろうかということになる。
AD&D 1stのプレイヤーズハンドブック(すべてのプレイヤーが最初に熟読する最も基本的なルール書)には既に、選択ルールとしてPsionicsとそのキャラクター、使用ルールが記述されている。AD&DのPsionicsは当初、デーモンや天使ゲフゲフゴフッセレスチャルといった超次元的存在が、いわゆる魔法とはまるで別次元の”超感覚的知覚”を有することを表現するためのルールであったといえる。基本的に、他の生物(プレイヤーキャラクターを含め)はこの能力を望んで得られることはなく、キャラクター製作時に非常な低確率で偶然獲得するものだった(しかし、この能力を有する者の方は、持たない普通人よりも遥かに敵の使う側の能力の影響を受けやすいため、この能力を下手に持ってしまっても生来のPsionicsクリーチャーに一発でやられる運命を辿るだけであった)。しかし、ある意味ルール的「異物」でありながらもPsionicsクリーチャーの強さをはじめとしてバランスを担っているこのルールは、調整拡大とそれに伴うインフレ、オプションルール化や復帰などのかなりの紆余曲折を経た。結局、2ndや3edではプレイヤーキャラクターとしても「サイオニシスト(サイオン)」を使用できる主要ルールとなり、オプションながらサイオニクスはD&D系世界観の構成要素となっている。
D&D系においてサイオニクスの特徴としては、魔法が呪文書からあるだけ呪文を習得でき(厳密には制限もあるが)一方でスロットに記憶しておくなど使用に制限の多いのに対して、サイオニクスは習得できる能力の種類は非常に少なく(1stや生来能力のサイオニックでは最初に決まってしまう)MP制に近い使用の自由度があり、効果は強力である(防御手段が非常に少ない)。
純然たるファンタジーRPGにおいて、以降のゲームで超能力者やサイオニックが魔法使系クラスと別に登場する場合、このD&D系後期のサイオニシストを意識した側面が大きいのであるが(例えばWizardryの後期のものなど)、魔法使系とは「使用する魔法のタイプが異なる」(いかにもといった精神攻撃やフォース(力)系の能力など)だけの、あくまで単に別タイプの呪文使いとしてのみ差別化されていることが多い。特にCRPGの場合は探知やテレパシーを充分に表現できないことが多いので、やむをえない点ではある。
海外RPGのファンタジー世界においてプレイヤーキャラクターがこうしたサイオニクスを用いる場合、どういったイメージが持たれているかといえば(すっかりSFのようなエスパーというわけにもいかないので)SFのミュータント等を思わせる生来能力などの他に、一例として「修行僧などの持つ神秘の力」が挙げられる。魔法や聖職者の力とはまた異質の、精神修養によって得られる力という位置づけで、また、場合によっては格闘修行僧が(通常の修行僧のルールに加えて)不思議な力を得られる場合、それはサイオニクスの力とされていることもある。また、ミュータント系からの発想でサイオニクスには肉体を変容させたり増強するパワーもある点も、それに合致したものになっている。
システム:*bandでは[Z]以降導入されたシステムとキャラクタークラスであり、クラスの位置づけとしてもかなり重要なものとなっている。
原語はサイオニシスト等ではなく、Mindcrafter(この名では他のRoguelike、ADOMにも登場する)になっていることから、SF的な「エスパー」のイメージを排しているようで、この名前からは上記したような「行者」「修行者」的な雰囲気を思わせる(なお、Mindcrafterに加えてPsionicistというクラスを導入しているPsiAngbandのようなバリアントも存在し、これは装飾品を焦点具に用いるなど、よりD&D系のそれを思わせるものになっている)。とはいえ、武器防具に制限がほとんどなかったりと、あまり「修行僧」のようなイメージにも合わない。結局、純ファンタジー小説の主人公(「力」を持つ云々など)をイメージすべきかもしれない。厳密にはSF的な超能力者とは違うものといえるが、[Z]の初期の邦訳では「霊能者」という訳になっていたものの(これはエスパーとは違うことと、後期WizardryのPsionicクラスの訳語を参照していたようである)紆余曲折の末に、結局はわかりやすい「超能力者」の訳が採られて現在に至っている。
*bandの超能力魔法も一種他のRPGのような「超能力=別体系の魔法」に過ぎないという位置づけになっており(例えば他ゲームでは超能力は魔法防御に無関係に貫通したりすることが多いが、*bandでは普通に魔法の一種として反魔法などに阻害される)流石に呪文数は呪文書魔法に比べれば少ないが、多くの物語の「エスパー」のような生まれつき限られたパワーというほどでもなく、万能的な種類の呪文を覚えてゆき、レベルに応じて効果自体が増強するというものも多い。初期は直接打撃力が物足りない傾向があるものの([Z]や[変]では精神攻撃のパワーしかない。[X]では電撃が使える)特に中盤は探知、移動、防御、直接打撃、戦闘力補助とまったくそつがない。「非常に洗練された魔法体系の一種」と表現することもできる。なお、[Z]では後半、あまり決め手となる魔法攻撃がなくなるため、攻撃補助のパワーを駆使して打撃中心で戦わなくてはならなくなるが、[変]では強力なパワーが追加されており超能力中心で戦い続けることができる(なお、[変]では追加されたパワーのため、超人ロック(→光の剣)やスタンド使い・サイキックフォース(→完全なる世界)など、いわゆる超能力者を思わせるイメージがより強くなっている)。
概して、クリアの難度やキャラクターの強さで言えば、極端に強い方には入らないクラスであるが、全般非常にプレイしやすいため、初級者(初心者の次の段階)、特に魔法系の入門としても最適である。おおむね、このパワーの便利さから言っても、[Z]の時点でその位置づけを狙ってデザインされたクラスと想像することができる。
なお、特に[Z]の方での超能力には悪魔などの堕落した精神に用いるとバックファイアを受けるものが多い(これはD&D系、特にAD&D 1stでより強大なサイオニックを使うデーモンに逆襲されるのを思わせる)。それを覚悟でも普通に進行できるが、一部種族は精神構造のためにバックファイアを受けないため、賢さ修正がマイナスでもそうした種族を選ぶプレイヤーも多い。賢さとどちらを採るか、好みの問題である。
敵:[変]では、戦士、メイジ、パラディンなどと同様、「超能力者」も「人間型の敵のタイプ」として見習いから達人まで様々な強さのものが登場する。見習超能力者あたりはともかく、モンスター召喚を行ってくる超能力者(これは、思い出によると支配パワーで他モンスターを操っているということらしいが)元素攻撃を行ってくる達人超能力者など、プレイヤーの超能力者とまったく異種のパワーを用いたりすることも多く、ファンの間では議論の的となっている。しかし、それを言えば、超能力者ユニーク(リチャード・ウォン、超人ロック、魔人ウォーケンなど)もプレイヤーの超能力者とは似ても似つかない能力を用いてくることがあり、さらにこの*bandの次元世界ではスタンドパワーが超能力魔法に入っているかと思えば別のパワーは「物品」として落ちていることなどもあるので、この世界では「超能力」というものに関して深く突っ込まないのが無難であるという他ない。
ツァール Zhar the Twin Obscenity 【敵】
旧支配者。双子のひわいなるもの。オーガスタ・ダーレスとマーク・ショアの『潜伏するもの』に言及される巨大な怪物。中国のツァン高原の地下にひそみ、その地の魔術民族チョー=チョー人(チャウグナール・ファウグン(→参照)によって、魔術で両生類と合成された種族という説がある)に信奉されている。「闇の中に肉塊があり、触手が伸びており、うち震えて奇怪な吼え声」なる、一応は肉体の描写ともいえるのだがはっきり言ってクトゥルフ系の単なる「当たり前のデフォルト形容」のような文なので、結局のところ姿は実体不明としか言いようがない。
「双子のひわいなるもの」なる名の由来は、あんなゲームとかそんなゲームではなく、ツァールが「体が二つある」といわれることに由来するが、これが同名の二匹の怪物が高原の地下に共に住んでいるという意味なのか、触手でつながった二つの体があるという意味(これが有力である)なのか、ツァールが超次元的に「二重の肉体(存在)」を持つという意味か何かなのかはまったく定かではない。また、「ツァールとロイガー」という呼び名で言及されることが非常に多く、この「ロイガー」というのは双子のもう一方を指しているのだとか、単なる別名だとか、奉仕者・司祭・実働部隊などを指しているとか、これも定かではない。しかも、別にコリン・ウィルソンの著作に登場する「ロイガー」というエレメンタル種族が有名だが、このロイガーとはまったく関係がないというのだから意味不明な話である。そういえば、旧版CoCルールブックのイラストでは、ロイガー種族の首領とされる旧支配者ガタノソアと、ツァールの容姿はキャラがかぶりまくってるように見えるが、断固として関係ないんだってばよとのことである。なおツァールはファンにはCoC旧版ルールブック等によってもよく知られているが、マイナーな旧支配者とされているのか、後出のd20版には載っていない。
*bandでは[Z]以降の47階に登場し、旧支配者としてはまだ下位に見えるが、太古の恐怖や強力な精神魔法などを持ち、何より地震打撃の攻撃力がなんじゃいこりゃというほど強力なもので、そろそろクトゥルフ系が、ユニークモンスターにおいても本当に厄介なものになってくるという辺りである。
ツァトゥグァ Tsathoggua, the Sleeper of N'kai 【敵】
出典:旧支配者。ン・カイに眠るもの。ヒューペルボリアの蟇神。のほほ大魔王。H.P.ラヴクラフトの作家仲間・文通相手でその宇宙観の協力者クラーク・アシュトン・スミスが創造したこの古代神は、おそらく『クトゥルフ神話』においてもラヴクラフト以外の創造した旧支配者としては最もポピュラーな存在である。
その姿はスミスの作中では「毛に覆われた太った巨大なヒキガエルのような」「コウモリのような」とあり、おおむね「ヒキガエル神」と形容されることが多い。その目は眠そうに(仏像の笑みにも見える)閉じられており、目を薄めると燐光を発する。旧CoCルールブックでは、毛に覆われているが無形に近い塊で、頭はヒキガエル状だが、コウモリのような耳が生えていると定義されている。ともあれ、根本的に変幻自在の性質を持つ生き物とされているためもあり、その細部の描写には、描かれるストーリー(後述するがクトゥルフ神話にすら限らない)によって非常にさまざまな説がある。現在ネットにおいて、その直接の画像イメージ例として言及されるものは「大トトロ」「巨大ノーマッド」「ガルガンチュアうにゅう」など枚挙に暇がなく、あるいはこれらのキャラクターの造形こそは、人間の心理の根源にツァトゥグァが存在していることを端的に示していると、ツァトゥグァ信奉者らによってまことしやかに主張されているともいう。
獣、もしくは蛙そのものの(両生類のように地に這った四足の)姿のように想像され、またクトゥルフ神話関係の画像でもそのように描写されていることが多いが、スミス自身の描いているツァトゥグァの像が肖像画(胸と肩のトルソ図)であり、
このように描いていること自体が、実はツァトゥグァが後人の想像するよりも「擬人的」な体躯を持っていた可能性を示している。
ツァトゥグァはかつて惑星サイクラーノシュ(土星)から数十億年前に地球に飛来し、初期は毛に覆われた亜人間(ツァトゥグァの落とし子に由来する奉仕種族と推測できる)に信奉されていたが、勃興した人類によっては古代ヒューペルボリアの地において大きく信仰され(「魔道士エイボン」がツァトゥグァから力を得た代表とされる)歴史時代においては衰退したが呪術師や魔術師らによって細々と続いてきた(ローマ時代の別名のひとつに「サダクァ」というものがあるという説があり、当然ながらこれはローマのサターン信仰(土星神)の由来という含みと容易に想像できる)。その「変幻」に関する性質のためでもあるのか、旧支配者らの中でも「魔術の守護者」の性質を強く持つとも言われる。
しかしながら現在のツァトゥグァは、地下の神殿にうずくまるだけの怠惰な生き物である。無論人間とはまったく精神原理が異なり、気まぐれのために人間が悲惨な目にあうこともあるだろうが、たまたま空腹でもなければ人間を襲うこともなく、明確な悪意・害意は持っていない存在ともいえる。なお、CoCルールブックではその著名さほどのパワーはなく、「正気度チェック」でも正気度を失わないことさえある。もっとも、これらの性質はすべて、単にツァトゥグァが「休眠期」であるための、かりそめの姿にすぎないという説もある。
スミスの作品の性質にあることだが、ツァトゥグァはラヴクラフトの外なる神のような「宇宙的恐怖」を宿すホラー的存在というよりも、「奇妙でエキゾチックな古代神」の雰囲気を色濃く持っており、スミスやハワードら同様の協力者らの作品にそうした位置づけで登場することも多い。例えばリン・カーターとデイ・キャンプがコナン・シリーズに創作で付け加えた『コナンと毒蛇の王冠』において、毒蛇の王冠を守っていたのは(トート=アモンによると)「ひきがえる神ツァトゥグァの神像」だった。この像は七つの目のあるヒキガエルの姿の巨大な動く像で、コナンに崖下に転げ落とされてしまうのだが、イグ(→参照)を信奉していたヴァルーシアの蛇人間(→参照)の王冠がツァトゥグァに守られていたのは、おそらくツァトゥグァがヒューペルボリアの古代において魔術の守護神としての広い役割を担っていたのであろう。
敵:[Z]系以降で登場するが、CoCルールブックとは異なり、その著名さからなのか74階とわりと上位の敵として設定されている。もっともスピードは通常通りで、魔法の頻度も高く、「怠惰」と見えるようなところは全くない。CoCの戦闘データ通り打撃には酸の攻撃と能力低下があるが、肉体的にはさほどでもなく、また酸と地獄のブレスはあるものの、どちらかというと怖いのは各種の召喚魔法であるといえる。
ツァトゥグァの落とし子 Formless spawn of Tsathoggua 【敵】
下級の奉仕種族。CoCルールブックでは「無形の落とし子」(Formless spawn)のみになっているが、ここで「ツァトゥグァの」とついているのはクトゥルフやハスターの落とし子と対比し、分かり易くするためと思われる(余談だが、ss sと三つ続くところがゴクリ語的というか不愉快な摩擦音の多いクトゥルフ的である)。*bandの思い出の直接の出典であるCoCのTRPGルールブックの解説文は、ゼリア・ビショップの著作に登場するものであるが、この存在自体はツァトゥグァの主な作者であるC. A. スミス自身の著作、ヒューペルボリアの大盗賊サタムプラ・ゼイロスの語りに登場するものに相当するといわれている。ツァトゥグァ本人の寺院の中にいることからその直接の落とし子ないし奉仕種族と言われているが、実態は定かでない。少なくとも、毛に覆われた怠惰な生き物であるツァトゥグァとは、姿はまったく似ていない。不定形の粘液質の塊で(「無形の」という名が優先なのはこのためである)ときどき偽足を伸ばしたりして移動するが、ヒキガエルに似た頭部とおぼしき部分を形成することがあるのが、主人をうかがわせる程度である。主ツァトゥグァも「不定形」がその性質であるといわれているが、あるいは高級な固体ほど、人間に認識できるような定形を取るのかもしれない。
また地球の造物主たる古代種族「古のもの」らの作った万能生物ショゴス(→参照)は、小神ウボ=サスラ(→参照)から作られたという説がもっぱらで、神話マニアは「無形の落とし仔とショゴスは別物」とこだわるが、CoCルールブックなどにはしばしば、そのショゴスの変幻自在さから、ツァトゥグァの落とし子から作られたという説も記述されている。
TRPGのCoCのルールでは人間よりひと周りからふた周りほど大きく、犠牲者を飲み込むという攻撃を行う。機嫌が悪かったり腹が減っていなければ友好的なツァトゥグァ神とは異なり、この落とし子は神殿への侵入者には容赦しない(神殿から逃げれば追ってはこない)。会話を含めてそれ以外の行動をしないため、「知能」があるのかは不明で、CoCルールでもBRP版では人間と同じか若干高い知能だが、d20版では知能の数値自体がなかったりする。
*bandでは[Z]系に登場し、粘体ではあるがjなどではなくデーモンのUシンボルになっている。41階という中盤の、クトゥルフ系のノーマルモンスターとして平均的であり、ショゴスやロイガーその他ほど極端に凶悪ではないものの、例によって階層不相応なしぶとさと厄介なひととおりの魔法を持っている。
→ツァトゥグァ
槌手王の鉄ヘルメット The Steel Helm of Hammerhand 【物品】
「槌手王」とはアルダ世界の北方国ローハンの第9代(指輪物語の250年ほど前)の国王、槌手王へルムを指す。この剛力の王は、不遜な貴族を素手で無造作に叩き殺したことで有名となった。のちに、件の貴族の子が謀反を起こし褐色人などの勢力を加えてローハンを占拠し、ヘルムらはローハン西の渓谷の要塞に立てこもった。長い包囲の貧窮によってヘルムはやせ衰えて幽鬼のようになったが、真夜中には全身白をまとってふらふらと城砦をさまよい出、出会う褐色人の兵士の首を素手でねじ切って歩いた。まもなく、褐色人の間には包囲で腹が減ったヘルムが夜中に褐色人を取って食っているという噂が流れるようになる。やがてヘルムの甥フレアラフの軍勢がローハンを奪回した頃、ヘルムは白衣をまとって城砦の上に仁王立ちになったまま死んでいた、とのことである。後にもこの渓谷にはヘルムの幽鬼が現れ、その角笛が聞こえるという。
『指輪物語』中盤の山場のひとつとなる合戦の舞台が、このヘルムがかつて立てこもった「ヘルム渓谷」である。映画版TTTにおいて角笛城の場面に、トンカチと角笛を持った武人の石像が立っているが、おそらくこれが槌手王ヘルムの像である。
*bandには[V]以降この槌手王の兜が登場するが、他のセンゲル帽などの微妙な中堅兜物品に比すると、肉体系の能力がすべて+3され、あとは酸と因混の耐性くらいしかないという、きわめて男らしい品である。戦士系で中盤までにこれが手に入ったりすると中々すがすがしい気分になることが多い。
槌手王ヘルムの角笛 The Horn of Helm 【物品】
中つ国の北方国ローハンの剛力王である槌手王ヘルムの伝説(→槌手王の鉄ヘルメット)の中には、アーティファクト解説にも書かれているように、敵に包囲されて砦に立てこもった際、夜に角笛を吹き鳴らして彷徨い歩いたこと、また後にもこの砦にはヘルムの霊の角笛が聞こえるという説話がある。指輪物語中盤のいわゆる「ヘルム渓谷の戦い」の舞台であるこの砦が「角笛城」と名づけられたのはこの説話からと思われるが、あるいは霊の角笛がいまも聞こえるという点からかもしれない。
角笛城には実際にヘルムの大角笛(原語ではthe great hornとも、trumpetともあるが、theがついていることから、角笛城で鳴らされた角笛の比喩などではなく「特定の角笛」を指していると思われる)があり、ヘルム渓谷の戦いで吹き鳴らされて敵を脅かす場面があるが、これが実際にヘルム王が使用したものかそれと関係あるのか、あるいは単に因んでいるだけの名なのかは定かではない。映画版LotRの第二部(TTT)の角笛城には、城の塔に備え付けの巨大なホルンが据え付けられ、塔の基部の吹き口から頂上のホルンが鳴る仕組みになっており、映画ではなぜかこれを吹くのはドワーフのギムリである。
なお、アーティファクト解説文には「吹雪にしばれることもなく、闇に恐れることもなし」とあるが、この「しばれる」というのは日本語の共通語ではなく、明らかに「北海道弁」である。東北系の現地人(関東からの渡航組一世、二世ではなく)は特に「スンばれる」と発音するなどということはこのさいまったくどうでもよいのだが、これは殊に零下数十度といった冷え込みを形容する言葉であり、語源としては諸説あるが「凍(し)む+晴れ」という説が有力であり、ことに道北・道東などでは豪雪よりもむしろ真冬の晴れた朝方に気温が低くなるような状況を指しているとも言える。ともあれ、まさしく「北方国」であるローハンの、酷寒のヘルム王の伝説に相応しい訳語であるといえよう。
*bandではToMEなどに登場し、通常の(持ち歩ける)角笛となっている。(なお、ICE社の設定のヘルム王はレベル値などはあるが、アイテムなどの詳しいデータはなく、角笛もデータ化されていない。)肉体能力の増強、冷気の免疫に恐怖耐性といういかにもな能力のほか、発動の効果は「轟音球」という、角笛のアーティファクトとしては「それらしい」と言えるものである。低階層の品だが、ToMEの楽器アーティファクトには深層でも極端に強力といったものがあるわけではないので印象に残りやすいかもしれない。
杖 Staff 【物品】
出典:肉体を補う道具として杖は古来より最も多用されてきた道具のひとつだが(武器としての長杖(棒)とはまた微妙に別の位置づけがあるが詳細は略す)ここでは「魔法の杖」とされるもののうち、さらに、魔力が貯蓄された「杖」([Z]240以降などの一部バリアントでは「スタッフ」)を指す。
各種の杖が「魔法の道具」となった経緯には、(炉辺に座り込んでいる老女の身の回りにある箒や火かき棒が、魔法の道具と信じられたのと同様)老人が持つ杖が魔法の道具と信じられあるいは魔法使いの象徴となった、というまことしやかな説が、日本のゲーマーにはよく知られているが、実際のところは後述する各種の杖、錫杖などによって、力や権力・継承権の象徴、それを経由した指揮棒などから出た複雑な経緯を持っていると言えるため、一概に言うのは不可能である。イスタリ(トールキンのアルダ世界の魔法使)の杖に関しては、「賢者ガンダルフのクォータースタッフ」の項目を参照。
RPGにおいては、さまざまな種類の杖ごとにルール的に特徴を設けている場合がある。T&Tでは、魔法の杖や特別製の杖など性能のルールはいくつかあるが、形はさまざまとされ(ルール的には杖でも形状は指輪、水晶球の場合などもある)形状による明確なルールはない。(ただしT&T7版では、売られている物の例として、普通の大型の杖と違って光が出たり若干性能のよいワンドなどの記述がある。)
一方ではD&D系では、いわゆる「魔法の杖」はワンド、スタッフ、ロッドに大別し、その大きさ・形状でルール的に分離している。「スタッフ」はこのうち最も大型(1メートル前後のロッドよりもさらに大型)のタイプの総称といえる。スタッフは特にワンドやロッド以外なら何でも指すためか、様々な形状や大きさのものがある(細い飾り棒から、武器のような形で実際にそう使えるものまで)。そして、D&D 3eにおいては、スタッフはワンドと同様に「限られた回数の呪文が発動できる」(1日何回なりではなく、十数回分といった感じに決まっている)タイプの魔力がこめられた杖とされ、一般に小さなワンドよりも強力な呪文がこめられ、また、ワンドと異なり複数の種類の呪文を使い分けて発動可能なものとされる。(ただし、AD&D 1stや2ndでは例外が多々あり、この限りではない。また例えば、Dragonlanceのレイストリンやパリンが持つ「マギウスの杖」は1日何回といった魔力を多数持ち、ロッドのように持っているだけで魔力を増幅する作用があるが、こうした、魔力がこめられたタイプのアイテムとしてのスタッフの一種というよりは、「様々な魔力がこめられた武器アイテム」に近い物品もある。)概して、魔法使系のクラスにとっては、非常に強力な万能アイテムである。
Roguelikeでは、UNIX-Rogueの最初期のバージョンでは「杖」にはwandとstaffの2種類がある。しかし、大きさ(打撃の際のダメージ)以外にはwandとstaffには差はない。そのためか、後のバージョン(ローグ・クローンの元となったものを含む)やNetHackなどの派生RLでは、杖はwandのみに統一されている。そのため、RLであってもstaffが登場しないものが大半である。
物品:*bandの原型となったMoriaでは、初代Rogueに倣ってかwand, staffが、呪文もしくは類似効果がこめられ発動する品としてデータ化されている。(なお、[V]ではrodが追加され、さらにD&D系に近くなる。staffの邦訳は単なる「杖」となっている([Z]240では原語のままの方が解りやすいとされ「スタッフ」となっている。)Moriaや*bandでは、一般に、D&D系同様に「ワンドより大規模な」魔法がこめられているという言い方もできるといえるのだが、D&Dのように呪文自体の強さや複数種の呪文発動といった形での区別ではない;*bandでは、杖には自分もしくは自分を中心にして働き「対象」を指定する必要のない魔法がこめられているといえる。一般論としては、スタッフの方が「大規模」な魔法であるためか、チャージ数(最大・可能)は少ない。多くの魔法手段を持たないクラス、特に鑑定魔法がないクラスや習得前には、「鑑定の杖」に頼ることが非常に多くなり、これが最も使用されるスタッフといってよい(D&D系には鑑定のスタッフは登場しないので、*bandの特徴的な点のひとつである)。NetHackの杖(これはワンドのみである)に対する依存よりも、*bandでははるかに重要と言える。一般にワンドより値が張るが、元素攻撃によって破壊されることも多いため、回転の速い品である。
なお[変]には単に「杖」とだけされる物品が存在する。これは、[変]ではあるバージョンから食料ルールが見直され、杖の魔力を栄養とする種族(ゴーレム、一部アンデッド系など)が最初に持っている、食うためだけの魔力がこめられた物品である。
→魔法棒 →ロッド
塚人 【敵】
→ワイト
塚山丘陵 Barrow-Downs 【その他】
ToMEの略称でBDw, アルノール国のドゥネダインによってはティリン・ゴルサドと呼ばれる。塚山丘陵とは『指輪物語』前半において主人公のホビット一行がさしかかる一箇所で、ホビット庄から東のブリー郷にいたる大東街道の南に広がっている。ホビットらはここに迷い込んで塚人(→ワイト)にとらわれ、古森の謎の半神ボンバディルに助けられる。
この塚山は原作のこの箇所だけ読むと、魔国アングマールか何かのものだと思われがちだが、少々ややこしい経緯になっている。これはアングマールやアルノールの存在した第三紀前半ですらなく、伝説時代の第一紀(エルダールの文明は北のべレリアンドにしか存在しない)に、この周辺に住んでいた人間たちが築いていた塚だった。実際のところ、ブリー郷周辺には第一紀から人間が住んでいたというが、この塚山を築いたのは中でも特にのちに移住してべレリアンドに向かい、エルダールに従った人間の祖先、すなわちドゥネダインの先祖である「エダイン」であったという。
第二紀末に再びやってきてアルノール王朝を築いたドゥネダインらは、この塚山を新たに埋葬地として用い、その時代の王侯の墓も作られた。しかし、アングマールに攻められてアルノールが弱体化すると、カルドラン王国(アルノールの分裂した一部)の人々の避難場所となり、やがて彼らも攻め滅ぼされると(→ログログ等参照)この塚山丘陵はアングマールやルダウア(最初にアングマールに占領された国)の「悪霊」が占拠してしまった。つまり、塚を築いたのは第一紀のエダイン、主な埋葬者はカルドランの王族、住んでいる悪霊はアングマールという、ややこしい話になっている。ホビットがこの塚にとらわれた時、「塚人」自体はアングマールの悪霊だが、そこにあった武具などはカルドランのドゥネダインらのものであり(→西方国の武器)彼らにとりついて「カルン・ドゥムの奴らに襲われた」等の台詞を言うのは、カルドラン王の残存思念である。
*bandでは、ToMEの1.0からPernAngbandの最初のダンジョン「カルガルの上流」(当初はブリー郷のマップは[Z][変]の辺境の地と同じであり、[変]で言えばイーク洞の位置にこのダンジョンがあった)にかわって配置された、おそらくToMEの冒険者が最初に挑むダンジョンである。原作設定通りにブリー郷から西に伸びる道の南側にあり、近すぎる気はするがだいたい原典の設定に忠実である。マップの様子からは、通常の階は塚の中ではなく、丘陵の「屋外」という設定になっているようである。塚人の王、『ワイトの王』は割と手ごわいので、一応鍛えるだけ鍛えてダンジョンの主攻略はしばらく後回しにするというのもだいたいイークの洞窟と同じである。
月の怪物 Moon-beast 【敵】
下級の独立種族。ムーン=ビースト、拷問愛好家たち。H.P.ラヴクラフトの幻想巨編『幻夢郷カダスを求めて』に登場する生物である。(なお、AD&Dにムーンビーストという同名の怪物が存在するが、おそらく無関係である。)灰色がかったヒキガエルに似た巨体をしていて、その身体にはかなりの伸縮力があり、目鼻がなく、鼻のあるあたりに細かい短い触手が生えている。そう見えても知能・肉体能力は高く、他の種族の生物を捕らえて奴隷として酷使し、また虐待する。その体格にそぐわず、槍を武器として使う。
彼らは地球ではなく、『幻夢郷カダスを求めて』の舞台である幻想世界ドリームランドの、しかも月に生息しているが、CoCルールブックでの扱いなどでは現実世界の他の天体に生息しているという説もある。『幻夢郷カダスを求めて』では、主人公カーターは奴隷売買のガレー船に拉致されて、月の怪物が奴隷を使役しているドリームランドの月まで連れてゆかれるのだが、ここに至ってラヴクラフトの妄想のとてつもない爆発力は極限に達し突如脈絡なく「猫の絨毯」が大挙して現れバドッ バドッ バドバドッといった感じになるのだがここから先は読者各位がその目で確かめられたい。
*bandでは[Z]以降登場し、レベルは12とクトゥルフ系モンスターの中でもかなり低い方で、集団で現れるわけでもなく、攻防ともにさして高い能力は持っていない。ただし、*bandでは混乱・傷・盲目などかなり多彩な呪文を使ってくるため、この階層ではやや厄介かもしれない。
つよしスペシャルの薬 Tsuyoshi Special 【物品】
漫画『セクシーコマンドー外伝 すごいよ! マサルさん』において、セクシーコマンドー部員のひとり磯部強の常備する薬。キャシャリン(これは誰にでも変なあだ名をつけるマサルによる通称だが、「マチャ彦」「スーザン」など通称がつけられていない人物もわずかに存在し、その条件と理由はどこにあるのかと考察させられるが単なる話の流れのつけそびれだと思われる)こと磯部強は、あまりの虚弱体質にかねてから悩み(その痩せこけて骨ばった容貌には別の意味で凄みがあるが)そのためさまざまな市販の栄養剤の類の錠剤を大量に混ぜあわせた薬瓶を持ち歩いている。「つよしスペシャル」というその混ぜ薬は体質との闘いの辛苦の日々の中で編み出したものというが、とりあえず効果は薬物過剰摂取で変な夢を見るというだけである。同じ話の末尾で、これをマサルに大量に飲まされたマチャ彦が同じ幻覚状態に陥っているため、他の人間にも効果を発揮する薬であると推測される。
他のゲームにおいては、『スペランカー』に登場するパワーアップの薬が、このスペランカーの普段からのあまりの虚弱体質(→考古学者)と、そのせいでスピードが上がるとかえって死にやすくなること、それらがスピードの上昇がアッパー系の興奮効果や反応を異常に早くする危険なドラッグのイメージを連想させたことと相まって、この薬を「つよしスペシャル」「オクレ兄さんの薬」などと呼ぶゲーマーが一部に存在する。
*bandでは[変]にきわめて初期に追加されたノーマルアイテムで、腕力・耐久力の最大値が減少し幻覚を見るという純然たるペナルティアイテムである。おそらく、若干は使い道がある「ネオ・つよしスペシャル」(→参照)との差で迷宮初心者を悩ませる、組ということでに意味がある物品として加えられたものと思われる。しかし、現実問題としてはデフォルトの自動拾いではペナルティアイテムであるつよしスペシャルは自動破壊されてしまうので、別に迷宮初心者は悩むこともなく流してしまうことが現在では多いと思われる。
つらぬき丸 The Small Sword 'Sting' 【物品】
出典:『ホビットの冒険』でビルボが使用し、『指輪物語』でもフロドが受け継いで活躍する、以後のRPGファンタジー作品におけるホビット(ハーフリング)の剣の代名詞。『オルクリスト』『グラムドリング』と共に発見されたエルダールの短剣で、従ってこの二振同様にゴンドリンのノルドール・エルフの剣と考えられる([V]初期のドキュメント、アーティファクト解説のrumors.spoなどで「西方国の武器」と書いてあるが、これはオークやトロルに効果が高いことから、あるいはメリーらの塚山出土の剣と混同した誤りと思われる)。実際に、つらぬき丸の威力は西方国の武器(おそらくボロミアが持っていたゴンドールの剣や、サムも持っていた塚山の剣など)に比べても明らかに群を抜いている。ビルボにしろフロドにしろ敵と正面から戦う戦士ではないが、要所要所でその威力は発揮される。
'Sting'とはビルボの命名だが、英語ではハチのようにチクチクと刺すものといった意味合いが強いと思われ、和訳の「つらぬき丸」は、『ホビット』が「児童文学」であることも強く意識した、かなり極端な意訳であることがわかる。瀬田貞二和訳の、丁寧で古風に語りかける「御伽噺ファンタジー」のイメージが絶妙に混ぜ合わさった独特の雰囲気を作り出すのに、大きな一役を買う語である。
Peter Jackson監督の映画版LotRでは、エルフの剣らしく、葉を思わせる形状のブレードを持っている。これは史上の戦闘用の大型短剣(サックスなど)の形状に近く、[V]をはじめとする多くの*bandでの「スモール・ソード」とは明らかに異なる形状である。「スモール・ソード」とは通常「フェンシング刀の小型のもの」で、短剣よりやや長く、かなり細身のものを指す。しかし'the Hobbit'でのエルフのナイフ・短剣といった記述は、エルフ、特におそらく身長7〜8フィートが珍しくないノルドールの戦士が短剣として使用していたことを考えると、フェンシング剣よりも、戦闘用短剣、なおかつエルフ形状のものがそのまま大型化したような(このサイズが、ホビットにとっては格好の太刀となったわけである)形状の方が自然なように思われる。実際、NetHackをはじめ他のゲーム化の際にも、「小剣」でなく「エルフの短剣」としてデータ化されていることが多い。しかしながら特筆に値する点として、史上のスモール・ソードのバリエーションであるスラスティング・ソードの中に、「ビルボ」と通称される武器がある([V]の前身であるMoriaにも登場する)。トールキンがこれを意識して、「突き刺す」という描写の多さと共にこの形状であると想定していたかどうかはともかく、[V]の作者がこれに引っ掛けて、あえてビルボの剣をスモール・ソードに当てた可能性も否定できない。
つらぬき丸はオークが近くにいると強く輝き、またオーク鬼の類に強い効果を発揮するようだが、オルクリストやグラムドリングにも共通しているこれが「銘剣」故に持っている能力であるのか、それとも「ノルドールの剣」ならば(大小なりとも)すべて持っている能力なのかは定かではない。トールキンのエルダールの「関わることすべてが魔法となる」描写からは、後者ではないかと強く推測されるのだが、例えばNethackでは「エルフの短剣」はこうした能力は持っておらず、「スティング」という名前をつけた(銘を刻んだ)瞬間にこれらの能力が顕れる。
物品:*bandには[V]から例外なく登場する。威力は控え目だが、前半〜中盤あたりに手に入ると、そのあたりにかけて特に有効な耐性や属性が揃っているので重宝する。軽さと打撃回数の多さが特徴で、o-combatの[O]や[Z]240では打撃回数は抑えられベースダメージが高まっている。レアリティは(中盤までとしては)比較的高いので手に入れば幸運といったところである。
が、この剣に関してより重要なのは、[Z]以降はクエスト「宝物庫」で確実に入手できる物品のひとつであることである(このクエストを、指輪関連のストーリーに対してどう解釈すべきかは定かではない)。しかし、このクエストは(クラスや魔法領域によって難易度に大きな差があるのだが、最もたやすくクリアできるクラスであっても)これが安全にクリアできる頃には、既にもっと良い武器が手に入っていることが多い。といっても、もっと早くに手に入るようにしてしまうと、全員これを使うようになりプレイが固定化してしまうので(→アランルース参照)難しいところである。それはさておき、「つらぬき丸」が活躍する機会は、「宝物庫」までにもっと良い武器が手に入らないか、もしくは結局は[V]同様にもっとずっと前に迷宮で偶然拾った場合などになるかもしれない。
デアドリ Deirdre of Amber 【その他】
四王女。アンバーの女卿。エリックとコーウィンの同母妹で、王女らの中では一応最も正統な血筋ということになるかもしれない。
...それから、同じように青い目をした、髪の黒い娘がいる。
髪を長く垂らし、黒ずくめの意匠に、腰のあたりに銀のガードルをしている。
ぼくの目に涙がたまった。なぜだかわからない。彼女の名はデアドリ。...
(R.ゼラズニイ『アンバーの九王子』)
恐らく唯一の正統派の王女、可憐な淑女と思いきや、膝蹴りで怪物の背骨を叩き折ったり、「混沌の宮廷」との抗争(パターンフォール戦争)では黒い全身鎧に戦斧を振るって戦ったりと、王族全員の中でも相当な武闘派である。実際のところ、エリックの王位簒奪に他の王族のように日寄らずに脱出を図ったりと、もしかするとある意味同じ武人のジェラードのように良心派でさえあるのかもしれない。アンバーRPGなどの設定では、(他の腹黒い王族とは違って)民衆や人々から姫として人気をかちえている、となっていたりもする。パターンフォール戦争で「混沌の宮廷」の前の戦場の最前線に立っていたため、ブランドと対峙し、──
自身の出番はかなり少ないが、何といってもコーウィンの熱烈なシスコン(ランダムすらときどき言葉に詰まる)の対象として、前半シリーズのコーウィンの語りのさ中しばしば言及される。そして、かつてデアドリに贈る宝石をわざわざ自分の手作りで磨いていた時に偶然重要な発見をしたことがあったりと、何かと話の要所に出てくる名である。
余談であるが、フィオナが「フローラには脳味噌が、デアドリには肝がない」などと評したり、またフローラの側のフィオナへの姿勢なども見ると、四王女のうち、交流自体がほとんどないルウェラはともかくとして、他の三姉妹の関係はかなり険悪なのではないかと思えてくる。九王子の兄弟間の関係を見ればさもありなんである。
*bandでは、じかに登場することや関連物品もなく、ランダムアーティファクトの名の中に入っているのみだが、アンバーに興味のある*bandプレイヤーやこの用語集にも頻出するので、アンバーの王族として付記しておく次第である。
→コーウィン
ティアマット Tiamat, Cerestial Dragon of Evil 【敵】
地獄界ドラゴン。AD&Dにおいて「色」の名前のついたドラゴン(白、黒、緑、青、赤)は、悪のドラゴンであるが(金属の名前が善である)、その悪竜の総帥にもあたる神性が、(真の)クロマティック・ドラゴンとも呼ばれるティアマットである。5つの色すべての首をもつ、5つ首の万色の竜で、九層地獄界(ナイン・ヘル)の入り口に陣取り、AD&Dのあらゆるワールドに出現することができる。いわば、AD&Dのラスボスの「究極」であると言える。
その能力はAD&D 1stの頃はなんとかプレイヤーも戦える程度であったが(NetHackに登場するクエストモンスター「クロマティック・ドラゴン」はそのデータのひとつを参照している)版が進むごとに数値・特殊能力ともインフレし、3edでは見なかったことにでもするより他にない。
なおAD&Dでも、ドラゴンを中心に据えた世界の真骨頂であるDragonlance世界では、悪の主神「暗黒の女王タキシス」がこのティアマットをモチーフにした「万色にして無色の五つ首の竜」とされている(あくまでモチーフなだけで、タキシスと、他の世界に現れるティアマットは神性としては別の存在である。Dragonlanceにはティアマットの方は登場しない、とされる)。
実在伝承のティアマットは、アッカドの海水の化身であり、混沌の根源である。ギリシアのガイアのような万物の母神とされるが、原初混沌神には例にもれず、神話が発達すると役割が奪われバビロニアでは影が薄くなってゆく。しかし、ギリシアでは海魔としてペルセウス伝説に登場する等(これは南国の、海に生贄を要求する魔神的な信仰が形を変え、征服されてギリシアに取り込まれた背景を想像させる)信仰の根強さを伺わせる。AD&Dでドラゴンの長にこの女神の名を取ったのは、竜の化身、原初の混沌神で、なおかつ神話群の中でも古いものに由来する存在を選択したのであろう。
*bandでは[V]当時からすでに登場している。出展をトールキン世界に絞っている[V]だが、「RPG一般」としてAD&D(特に、多数の世界観に呪文名などが影響するGreyhawkなど)から引用しているものがしばしばある。70階というのは大ボス格のひとつだが、他のAD&D由来モンスターの階層などから想像すると、インフレしきる前の、1st後期あたりのデータを意識しているのだろう。設定通り5元素のブレスを吐いてくるが、*band終盤では耐性さえあればこれはさほど危険ではない。階層不相応に強いわけではないと思うのだが、やはり二重耐性をつける手段は必要であろう。また、自身は元素ブレスしか持っていなくとも、周囲に大量に召喚されてきたDが何をやってくるかわからないのである。
→バハムート
ディオ・ブランドー Dio Brando 【敵】
出展:荒木飛呂彦の漫画『ファントムブラッド』(『ジョジョの奇妙な冒険』第1部)のライバルキャラで、『石仮面』(→参照)の力によって人類の敵と化した吸血鬼。また、第3部で、吸血鬼の上にさらにスタンド(第3部以降の特殊能力)の力を身につけ、ふたたびラスボスとして登場するのをはじめとして、4部以降にも名が言及される"DIO"も同一人物である。3部からは"DIO"という表記になっており、主に第1部当時のスタンドパワーを持っていない時期のみ、人間だった頃の名の「ディオ・ブランドー」で呼ぶ、と使い分けるファンもいるが、とりあえず*bandではこの名で、3部以降の能力や台詞もひっくるめて持っているため、以後の話題はDIO時代も含めたものとしてこのエントリーで取り上げる。
その時代がかったもって回った悪役ぶり、美学や狡猾さ(後述)もあって、荒木飛呂彦の奇妙な作風を最も強く体現するキャラクターであり、少年漫画、ひいては日本のフィクションにおける代表的な悪役のひとりとして広く知られている。そのアクの強い台詞の数々に関しては1部から十数年を経た今も巷に常に乱れ飛ぶ上に、*bandのmon_speakにおいても存分に確認することができるため、あえてこの項目で取り上げる必要も認められない。
『ジョジョ』第1部では、19世紀イギリス、貧しい生まれだったディオは奇縁から貴族ジョースター卿にひきとられ、策をもってジョースター家の子息ジョナサンを蹴落とし家を乗っ取ろうとするが失敗、『石仮面』(→参照)の力で吸血鬼と化して逆襲(ここまでで第1部の実に半分が費やされている)、波紋戦士として修行したこのジョナサン・ジョースター(すなわち、初代『ジョジョ』)と戦い続けることになる。石仮面は人間の数倍の力と豹ほどの速度をもたらし、また自分の肉体を最大限に操る能力も与える(例えば分解された体を再生するも自在であり、血管を針のように伸ばし操ることもでき、ディオが牙も生えているのにもっぱら「指」を突き刺して血を吸うのも、自在に指の血管を伸ばせるためと言われている)。またディオは独自の技として「肉体を自由に操れることを利用して、自分の体内の水分を気化させ、周囲の熱を奪うことによる冷凍攻撃」という、なんだかわけがわかるのかわからないのかよくわからんような技を用いる。(伝承の吸血鬼が死人であり冷たい顔色と肌を持つことから、昨今の吸血鬼には「熱に弱く冷気に関係する」という設定がよく見られ、それを意識したものと思われる。また『ジョジョ』では、吸血鬼の力は特に「太陽の力と相反する」という部分も大きい。)その冷却能力は人間の全身を数秒で凍らせ、他者がディオを殴ればダメージを与える前に殴った手の方が凍るという強力なもので、ディオの最も主要な能力である。石仮面は脳を刺激して生物の潜在能力を引き出す原理であるため、吸血鬼は脳を破壊すれば倒せる、かと思われていたが、2部での同じ吸血鬼ストレイツォの驚異的な再生能力を見る限り、単純な火力ではほとんど滅ぼす手段はないようである。直射日光、あるいは生命エネルギーを日光とよく似た波動として放つ「波紋法」によって倒すことができる。
また一方で、およそ丸一世紀の休眠の後に復帰した第3部では、DIOは吸血や気化冷凍の力はさほど、ないしほとんど使わず、もっぱら3部からの特殊能力である「スタンド」の能力で戦う。スタンドとは特殊能力を持った守護霊のようなもので、DIOの「ザ・ワールド」はオーソドックスな人型の直接打撃と、数秒の時間停止が可能なスタンドであるが、後者の能力に関しては「完全な世界」などの項目に譲る。また1部では吸血鬼としての魅了や吸血した死者を従えていたが、3部では別の描写、DIOの肉体の一部である「肉の芽」を埋め込んで下僕にする他にも、純粋にそのカリスマでもって数多くのスタンド使いを従えている描写も強い。吸血鬼としての力を特に失っているわけではないが(長年の休眠の間に回復していないとは考えられるが)作者が意図的に「3部のルールで戦う」という描写にしているといわれている。
ディオは日本漫画界の悪役全般として見ても稀有なキャラクター性とされ、特に第一部全般の珍妙な雰囲気からも醸し出される強烈なインパクト、また3部での多数のスタンド使いを従属させた悪の救世主としての姿もあり、しばしば「究極の悪」のように言及されることもある。第1部、第3部の姿ともども、すでに悪役のステレオタイプとしてパロディ等に用いられる例も枚挙に暇を持たない。しかし実際のところ、ディオ自身のキャラクターを見ると、決して悪として「完璧」な優秀さではない。やたらと気が短く、詰めが甘いため、肝心なところで敗北を繰り返す。逆境や絶体絶命に追い詰められると実にしぶとく生き延びる反面、余裕がある場面ではやけに油断しがちである。また、誇り高さをつねに自称し、実際にそうした部分への拘りを持っていながらも、ほんの少しでも追い詰められれば、やけにあっさりとプライドもへったくれもない手段や言動に走る。すなわち、美学や拘りが、ヒーロー的な強固な主義の上のものではなく、また、ダークヒーロー的な悪の美学というわけでもなく、あくまで慢心や油断の現れでしかない、悪役としての持ちようでしかない、という位置づけのものである。しかし、この絶妙なレベルこそが、かえって「悪役の位置づけ」として理想的であり(よく『三国志演義』での曹操と似ていることが指摘される)中ボスとして最適化されたサルマンなどともまた異なる、非常にすぐれた悪役像なのである。ただし、3部について言うならば、その落差の描写がかなりひどく(大味に)なっている上に、1部のような作品自体の荒削りに由来するアクが抜けてしまっているため、3部、特に最後の方のDIOが「小物化」していることに不満を述べるファンもまた数多い。それでも、ディオの人気を大きく落とすものではなく、『ジョジョ』シリーズを通しての随一の悪役として今も認められている。
なお、この漫画のシリーズは、固有名詞が洋楽のアーティスト等の名から採られていることが知られているが、「ディオ」の名はHR/HM界代表的ボーカリスト、レインボーやブラックサバスのロニー・ジェイムズ・ディオから取られていると考えられている(バイクの名からという説はあまり有力とはいえないが、発想元のひとつである可能性はある。作中にも自己パロディのように使われている)。
敵:*bandでは、[Z]の和訳にあたって日本語版独自の要素としてつけ加えられた敵である(和訳の板倉氏によると、[Z]日本語版は([変]と異なり)独自要素といっても国民的な有名キャラしか追加しないという)。データ的には同じ吸血鬼キャラであるドラキュラ伯こと『ヴラド』(→参照)を元にして、「ザ・ワールド」の能力をソースレベルで追加したものであった。(なお、[変]ではこの[Z]のソースを元にしてさらに時間停止の能力が他の敵や魔法にも一般化している。)その後、ディオも原作の気化冷凍法を元にした冷気オーラをはじめとして細かく手が加えられ(倒した時の台詞が、[Z]当初はなぜか@側が3部の主人公・承太郎の台詞を喋るものだったのが、DIO側の最期に差し替えられている等、実に細かい変更点がある)現在に至る。ヴラドの経験吸収・混乱打撃だけでなく、たとえばSPITの盲目があるのは、3部で用いた血の目潰しの再現とのことである。原作では1部と3部(および6部の回想など)ではかなりキャラのイメージが異なるが、*bandではどれに特定というわけでもなく、いずれの能力や台詞も持つようなデータになっている。倒すとある程度の確率で『石仮面』を落とし、*bandの石仮面は1、2部にいくつか登場するうち1部のディオが用いたものという設定になる。
→石仮面 →完全な世界
ディスプレイサー・ビースト Displacer Beast 【敵】
出典:所くらましの魔獣。D&Dシリーズのオリジナルモンスターの一種であり、その「ディスプレースメント」の特殊能力から同シリーズのゲーマーからはかなり名の知れた怪物である。見かけは紺色で9フィートあまりの6本足のピューマのようだが、両肩からは無数の棘が先端にある触手のようなものが生えており、主にこの打撃で戦う(一応、他の猫属のように爪と牙を使うこともできる)。普通の主物質界の山地に、群れをなして住んでいる生物だが、特殊能力でもって小型の生物をすべて襲う魔獣である。その姿も昔の版では単に触手の生えた猫属であったが、版が進むにしたがって骨ばったものや竜じみたものなど、「怪物的」イメージが強くなっていっている。なお、別種の目くらましの能力を持つといえる「犬科」の動物であるブリンク・ドッグ(→参照)と対になる種族であり、宿敵という設定になっている。
かれらのもつ「ディスプレースメント」の特殊能力とは、常に周囲の光が屈折し、必ずわずかにずれた場所にいるように見えることである。この特殊能力のルール的な効果は、シリーズのバージョンによって細かい差があるが(単に防御能力が上がるものから、最初の攻撃が必ず外れる、飛び道具が外れる、つねに一定確率で攻撃が失敗する等)いずれもかなり特殊な、他の能力では得られないものである。この能力がことに有名なのは、プレイヤーにもこの能力を与えることのできる、非常に有用な「ディスプレイサー・クローク」という防具のマジックアイテムがルールブックに存在するためで、AD&Dなどではこのクロークの材料にディスプレイサー・ビーストの毛皮を用いることが明記されており、この獣を倒さない限りは製作することはできない。(なお、NetHackではDisplacementの能力は、ルール的な表現がD&D系のいずれともかなり異なり、むしろミラー・イメージ(→分身)に近いものである。そのため「幻影能力」「幻影のクローク」という訳は妥当かもしれない。)
また、ディスプレイサー・ビーストの目は死んだ後も輝き続け(これは所くらましの能力を持つ同族を見通す力があると思われる)特に利用できるわけではないが、盗賊たちにとっては幸運のお守りとして取引される。
D&D系オリジナルの獣であるが、その姿とアイディアはファン・ヴォークトの小説『宇宙船ビーグル号』に登場する宇宙生物「クァール」であると考えられている。肩から伸びた触手と(おそらく)黒い体を持つ捕食生物という、ほぼそのままのイメージである。また、RPG『ファイナルファンタジー』シリーズには「クァール」という豹の怪物が登場するが(シリーズによって名前や綴りは若干異なったりもする)これはヴォークト著作ではなくD&Dのディスプレイサー・ビーストが直接の発想元であるとされている。ただし、『FF』のクァールは毛皮も豹と同じ色で、触手というより髭のようなものが後頭部から生えているという生物である。
敵:*bandではAD&D由来モンスターにはよくあるように[V]の時点から登場する。思い出文章には「その肩からはハサミの付いた触手が生えている」とあり、これは原語のclubbed (棍棒状になった)をcrab (カニ)と読み違えた誤訳だが、先端が無数の棘のついた棍棒のようになっているというイメージやイラストをあらかじめ知らなければ、想像できなくとも無理もない話である。能力的には、おそらくアーマークラスがかなり高い(ユニークアンバライトほどもある)点によってその所くらましの特殊能力を表現していると思われるのだが、*bandのシステムでは単に耐久力や鎧が硬いのとさして見分けがつかない。また「透明」の能力も持っているが、26階という階層ではほとんどのプレイヤーが視透明なしには潜ってこないため意味があるかは不明である。おそらくブリンク・ドッグなどとは差別化のために異なるシステムで表現したのであろうが、若干かけ離れてもなんらかの魔法や特殊能力で表現すべきだったのではと思わないでもない。
ティラノサウルス Tyrannosaurus 【敵】
ティラノサウルスは「暴君の蜥蜴」を意味するラテン語で、白亜紀後期すなわち恐竜時代の最末期に異常巨大化した恐竜として出現した、地上生物としては最大級の肉食動物として最も有名なものを指す。ティラノサウルス属の恐竜はトラスス、バタール、レックスの三属に分類されるが、世間一般でティラノサウルスという言葉が指すのは中でも最大(全長13-16m)のレックス(T. Rex)属のみである。(トラスス、バタールは別属とする異説があり、学術上もレックスのみとも考えられる。)おそらく「恐竜」もとい「古生物」という存在の中で最もイメージされやすい存在であろう。
世界各地に残る「ドラゴン」のイメージは生き残りの恐竜の遠い記憶や、古代人が偶然発見した化石の記憶であるといった説はとても取り上げるに値するものではないが(近代までの「ドラゴン」のイメージはむしろ蛇のイメージが直接に強かったり(→ワイアーム)キメラ生物的な性質であったりする)現代に入ると、解明された強く恐ろしげな恐竜の姿は、特に西洋風のドラゴンの姿には強くフィードバックされ、こうした肉食恐竜の姿が最も強い影響を及ぼしているといえる。(「超古代の実在生物」の「現代の虚像」が「中世の幻想生物」のイメージを侵食しているのだからよくわからない話である。)
D&D系では「他とは隔絶した古代環境を残す、ロストワールド的な隔離地域に登場する」という意味づけがなされてデータ化されている。そうした特殊・過酷な地域=熟練した冒険者のみが遭遇するものであるためか、なぜか、体躯や知能ではまさるはずの平均的なドラゴンよりも、遥かに強力なモンスターになっている。以後のRPGでは恐竜は巨大モンスターの水増しとして、しばしば何の説明もなしに、その背景世界のその時代に存在するものとして(格付けはまちまちで)登場するが、恐竜が登場する理由のひとつには、姿が実在の資料などで数多く描かれてイメージしやすい(他の動物を巨大化させただけのモンスター同様である)上に、最初から巨大生物としてそのままモンスターとして使用できるという利点が挙げられる。
恐竜は現在でこそ、現代の爬虫類の下位カテゴリではなく恐竜という大きなグループで、温血動物という説も有力であり、ティラノサウルスも敏捷に体を水平にし尾でバランスを取りながら疾走するという(ラリー・エルモアの描くドラゴンといって閃く人がどれだけいるかは定かではないが)説が一般的である。しかし、それ以前は非常に長い間、恐竜は爬虫類と考えられ、冷血動物でその動作は緩慢であり、またその骨格から、尾を引きずって直立しちょうどゴジラのごとくのしのしと歩くというイメージが信じられ、すでに独立したひとつの像となってしまっている。D&D系や多くのRPGでは、作られた頃の背景のため、あくまでそうした恐竜のイメージやデータであることは留意しておく必要はある。
*bandでは[Z]以降登場し、おそらく直接はD&D系に登場するという点を参照したものと思われるのだが、思い出文章には「混沌の力で呼び覚まされた」等と書いてあり、時間が均一でない混沌の宮廷からログルスで引っ張り出したのか、虫入りアンバーを集めて塩基配列から組み上げたのか何なのかは知らないが、どちらにせよ上記のようにRPGには何の説明もなく出てくるものなので別にどうでもいいかもしれない。しかも、なぜか、骸骨や幽体のティラノサウルスなど何種類かが登場し、化石=死体を死霊術で操るという本体を蘇らせるより容易なことなのかもしれないが、ゲーム的には要するにこれも上記したように「ティラノサウルスという既存のイメージを利用しやすい存在」ということで多用されていると思われる。割と耐久力があって、動物系の常で実入りのない面倒な敵であるが、なぜか幽体だけは物品を落とす。
<ティーンチ>の火炎悪魔 Flamer of Tzeentch 【敵】
ティーンチはミニチュアウォーゲーム『ウォーハンマー』の設定にある混沌の神の一体であり、変化・変幻・予測のつかないエネルギーを司る。絶望・退廃の神ナーグルの対極にあるとも言われている。
ティーンチ自身は皺に隠れ首に埋もれたような頭と角を持ち、それ以外に全身が常に変化し続け常に謎を喋り続ける顔に覆われている。ティーンチは野望や策謀も司るため、信者に権力や予知能力、魔力(魔法の品)などを与える。
火炎悪魔(フレイマー)はティーンチの魔獣の一種(つまり、レッサーデーモンであるピンク・ブルーホラー等よりも本来は格そのものは下である)であり、フードにすっぽり包まれた人影のようだが、炎の舌を吐きつけ、熱を操る力をもつ。
*bandではウォーハンマー世界が取り入れられた[Z]以降に登場する。炎オーラや炎の呪文を持ち、それ自体はさほど強力な方とは言えないのだが、ウォーハンマー世界の生物一般として、耐久力は比較的高いので、まともに相手しているとアイテムを燃やされるなどの被害がばかにならない。見つけたら油断せずに対処する必要があるだろう。
→変幻の魔公 →ピンクホラー、ブルーホラー
鉄獄
→アングバンド
鉄のくさび Iron Spike 【物品】
くさびとは「▲」状の小材で、ここではとがった部分を戸の隙間に差し込んで戸を固定するものを指す。無論、破片その他で代用することが可能で、『指輪物語』原作FotRのモリア、マザルブルの間の場面で武器の破片を戸のすきまに押し込んで開かないようにした場面が例である(映画版FotRではわかりやすいように、くさびを使わず、かんぬきの場所にかわりに武器を差し込んだ描写になっている)。
いわゆる第一世代の古い迷宮探検物TRPGのルールでは、おそらく上記のモリアの場面も意識していたのであろうが、こうした迷宮探検の細かい小道具といえるものの数々が、一般アイテムリストに必ず入っていた。ここでのくさびは大概は木槌と組になっており、鉄だったり木だったりする。「10フィートの棒(数歩先に罠がないかつつくのに使う)」「ワイン(ここでは飲み物ではなく、アルコール分で毒薬その他を洗い流すために用いるのである)」といったこれら小道具は、しかし以降の世代のストーリーRPGにおいて、マンチキンDM/プレイヤーのくだらぬ狸の化かしあいにのみ転化していったせいもあって、駆使するような状況設定と共に急速に廃れていった。
*bandでは、Moriaの時点から存在し、ドアにくさびを多数はめこむことで密閉(はめこみすぎると、自分にもどうやっても開けられなくなる)することができ、例えば強敵との間を遮断することができるが、実際には逃亡中にドアを密閉して助かったという話も聞いたことがない。[V]で序盤のドワーフ戦士が自分で面白がって部屋をがっちりと閉じてしまい開けられなくなって餓死といったあまりにドワーフらしからぬ不名誉な(笑える)話もあったものの、実質ゲームで活用される機会は非常に稀であったといえる。1個金貨1枚で売れ、30個くらいずつ落ちているので、序盤の@が拾ったらお小遣いの足しにする程度であった。
しかし、[変]で追加されたクラス「忍者」が「くさびを投げると大ダメージ」という能力を持つことから、くさびの存在感には重大な転機が訪れる。普通の鉄のくさびの形状は忍者や暗殺者が投げて使う「くない」「ヒョウ」に似ていると称するのはあまりにも苦しいが、しかし古来打物や手裏剣術の披露に使われた「棒手裏剣」には確かに見えないこともない。さらに、忍者の伝承の原型である中国の「暗器術」の伝承には、その達人はいかなる日常物品でも、棒状や先がとがった道具であれば、隠し持ち、奇襲に使い、また恐るべき速度と精度で投げつけることで、必殺の凶器に変えることができる、というまことしやかな説話がある。
無論、実在したであろう忍者と言うものは、普通の武器を使えない状況のために非常武器の使用法を訓練しているのであって、普通の武器よりそういう間に合わせの非常武器の方が威力が高いなどというばかげた話は絶対にない。しかし、ゲームに登場する忍者とはつまりは歴史上の忍者ではなく誇張された「ニンジャ」である。ニンジャにしか使えない、ニンジャらしい武器を使ってこそ威力を発揮できる、それこそがニンジャというキャラクターの存在意義であり、それはキャラ性を強くするために何の問題もない。たとえわざわざ家庭用品店で買ってきたくさびを袋いっぱいに詰めてあたり構わず投げつけるという姿であっても、である。
→ニンジャ →忍者
デモゴルゴン The demogorgon 【敵】
”ザ”・プリンス・オブ・デーモンズ。キリスト教的な文脈において悪魔としてしばしば言及されるデモゴルゴンは、結局のところは悪魔としては古くからの存在ではなく、多義のとれる曖昧なギリシア語(Demoは「小神」ないし「群集」、gorgonは「恐るべき」など)が魔神の名と定義されて用いられるようになったものといわれる。グノーシスにおけるデミウルガ(偽創造主、物質の創世主、魔術神)とも関連づける説もある。名をはばかる魔神、むしろ具体的な姿や実体が曖昧な悪霊を言及する際に説話にしばしば用いられている悪魔の名である。ミルトン『失楽園』やスペンサー『妖精女王』などが代表例とされ、錬金術的悪魔学で悪魔の代表例のひとつとなっている。
AD&Dでは、前身のОD&DのEldritch Wizardry (1976)に既に見られ、AD&D1stの最も基本のルールブックのひとつモンスターマニュアル1(1977)に載っている、ユニークとはいえ非常にポピュラーな敵(ティアマットなどと並び)の一体であり、デーモンの最大のもので指揮官格とされていた(これらは赤〜黒箱などのクラシックD&Dよりも前出である)。もっとも、後のデーモンのデータのフォローでは、アビス・プレーンの権力者グラズトやオルクス(NHではオーケス)、ダゴン(クトゥルフ系のそれではなくペリシテの神としてのデータを指す)、パズズ(日本ではWizardryのマイルフィックのモデルとなる)などがデモゴルゴンに迫るか拮抗する力を持っており、またアビスは文字通り底が知れないので、彼らより大規模なデーモンが存在するか否かも定かではない。
なお余談であるが、AD&Dの「デーモン」はローフル・イービルの「デヴィル」とは異なり、カオティック・イービルの邪神、純粋に異教系の混沌とした悪魔を指す。D&D系は「唯一神とサタン最強」といった安直な二極論ではないので、デーモンはデヴィルの従属ではなく等価の存在でしかない(というよりも総力で対立している。また、むしろデヴィルよりも規模の天井ならぬ底が知れないデーモンの方に危険なものが控えている感もある)。また、NetHackの解説サイトなどでデモゴルゴンを「悪魔の皇子」としているものがあるが、デモゴルゴンはabysal lord, 'demon' princeであり、デヴィルのヒエラルキーや系図の範疇に収まるdevil princeではない。また、英語のprinceという語は日本では「王子・皇子」と訳されることが多いが、本来は大支配者・公王のニュアンスで用いられることが多く、ここでも例にもれない。
AD&D 2ndでは、これらのユニークデーモンは、単純なモンスターのデータでは存在しなくなったが(基本ルールからも外されている)アヴァター(化身)がプレイヤーキャラクターと戦いになることはあり得る。D&D 3eのサプリメントに復帰したモンスターデータは例によって、1stの頃とは比較にならないほどインフレした数値である。
デモゴルゴンの姿は、オカルトなどの絵画では骸骨でさらに下半身が蛇の骨だったりといった像画があるが、AD&Dのアヴァターのものは、爬虫類体で腕が大蛇、首が2本の蛇の先にそれぞれ頭といったものである。D&D系では頭は主に「マントヒヒ」であるが、3.Xe系で頭が「ハイエナ」になっている記述や画像がしばしばあり、これはデザイナーがミスをした(おそらくハイエナ頭のイーノグフと取り違えたか何か)とのことでヒヒが正しいらしい。頭が二つあるだけでなく、頭脳(精神)も二つあり、左の頭は「アーメウル」という名、右の頭は「ヘトラディア」という名で、頭同士はやたらと仲が悪いが、宿敵であるデーモンの2大公王、グラズトとオルクスに1体で立ち向かってザ・プリンスの座を維持していられるのは、「頭脳が2人分あるためだ」という胡散臭すぎる説もある。
余談だが、『ドラゴンランス』の外伝(英雄伝)『投げられた石』で魔道士に束縛され、ケンダーのタッスルホッフに「瞬間移動の指輪」を使わせて脱出した「悪魔(デモン)の王子」は、このプリンス・オブ・デーモンズ、デモゴルゴンである。
NetHackでは、この1stの基本だったデモゴルゴンのデータがそのまま移されて登場するが、[変]のデモゴルゴンはこのNetHackから採られたといわれている。75階という主要なボスキャラクラスであり、暗黒や地獄の魔法やブレスといったいかにも悪魔かくあるべしといった攻撃を行ってくる。この階層としては普通の*bandの敵であり、NetHackのような埒のあかない戦いにはならないであろうが、悪魔系(クトゥルフ系であろうがウォーハンマー系であろうが、とにかく屈強な'U'シンボル)を大量にひきつれて現れ、また召喚してくるので、抹殺でもなければやっていられない。
デーモン Demon 【敵】
個々のデーモンの項目でフォローしきれなくなってきたので一般用語として独立のエントリーを設ける。以下はゲーム内でのデーモンという語の*bandに関連する概説であり、神話伝承学や現実の学術上のデーモンという語自体の詳細はここでは述べないことを断っておく。
「デーモン」という語に、悪の神性や、所謂モンスターよりもっと超自然的な「悪魔」などのイメージを持つ人も多いと思われるが、*bandやNetHackが引用しているAD&Dでの「デーモン」とは、天国・地獄などの「外方次元界」に住む存在・生物のうち、「混沌にして悪」の属性を持つものの総称である。具体的には「混沌にして悪」の次元世界である<奈落界(アビス)>に原住、定着あるいは本来の住居とする生物を指す。広義では、奈落界を彷徨う魂(→古代の死霊)から普通の住人、神性を持ちまさに「悪魔」と呼ぶに値する存在まで、すべてデーモンということになる。(ただし、AD&D初期には、千差万別の中〜高レベルのデーモンをひっくるめたデータとして「I類-VI類のデーモン」という名前がついている一群があり、狭義では、「デーモン」とだけ呼ぶとこの一群のことを指すこともあった。しかし、この一群は宗教諸々の理由から「タナーリ」という名に変わり、やがて奈落界の生物をすべてタナーリと呼んだりと混乱が続いたが、現在はこの元I-VIをはじめとする中高レベルの一群を含む一種族群を「タナーリ」、混沌にして悪の奈落界の生物の総称が「デーモン」、と記述されている。)
一方で「秩序にして悪」の属性を持つ存在を「デヴィル(デビル)Devilないしバーテズゥ Baatezu」、「中立にして悪」のものを「ダイモーン Daemonないしユーゴロス Yugoloth」と呼んで区別する。これら属性(アライメント)に関しては詳細は専用の項目に譲るほかないが、デヴィルらの「秩序にして悪」とは日本のゲーマーには理解しがたいかもしれないが、契約や盟約を重視し、契約を盾に陥れる等の悪魔像を想像すれば、概ね間違いないと思われる。また大悪魔らの階層構造もこの属性の反映である。対して「混沌にして悪」のデーモンは、どんなに高位でも刹那・感情的に行動する傾向がある(もっともデーモンらも知能は高いため、戦争などでは組織的に行動した方が有利なことは認識している)。
D&D系では、デヴィルに有名な黒魔術などの悪魔、デーモンやダイモーンに異教系・古宗教系の香りの強いものをあてている傾向が強い(NetHackの攻略サイトなどには、「イリニスやアスモデウスは悪魔なのになぜか秩序」などと書いてあることがあるが、それらはAD&Dではデビルなので「秩序にして悪」なのである)。また、キリスト教準拠の神話ファンタジーなどでは、サタンなどのデビルが上位で異教系のデーモンが下位となっていることがあるが、D&D系のこの定義ではそうした「優劣」は原則的にない。善・悪ないし秩序・混沌の二元論ではなく、これらの混合した多元・多極論といえる。なお、デビル、ダイモーン、デーモンのこれら「悪」の3種を含めて「フィーンド」あるいは「インファーナル」という総称もあるが、個々の名称ほどは使用頻度は高くないようである。
日本のRPGでは、デーモンという言葉やそれが意味するものに対して「魔神」という訳語が当てられることもあるものの特定のRPG世界設定の定義の域を出ず、ことに「悪魔」「魔神」といった語はキリスト教ベースの文化認識の定着しがたい日本では避けられるのか、結果として、かのおぞましい「魔族(まぞく)」という単語、いまや「ご都合主義設定あるいは自己陶酔系主役」の最大の象徴と化した語が氾濫するに至ったのである。例えば、ツクール系RPGやオリジナルファンタジー・伝奇系ネット創作に関して、一部コミュニティでは「『魔族』というのがキーワードに入っていたら120%地雷と思え」という認識が恐々としつつまかり通っており、無論この提示は真実とはいいがたいものであるが、彼らの感情自体にはまったく異をとなえる気は起こらない。
*bandにおけるデーモンであるが、まず原型となるゲームMoriaではデーモンというフラグもなく、デーモンスレイヤーという武器もなかった(聖戦者の武器にも、破邪とアンデッド倍打しか付与されていない)。Moriaにはデーモンといえるものは最後のバルログを除けばクアシト類しかおらず、このクアシトも上記した「狭義の(I-VI類のような)」デーモンではないため、分類としてのデーモンは省かれたのだろう。対して[V]では、おそらくバルログ(VI類すなわちバロールでもある)に同族を追加する発想だったのであろう、I-V類(ヴァロックからマリリスまで)までのデーモンや、パズズなどのユニークデーモンもあり、おおむねD&D系の定義と同じデーモンが'U''u'シンボルやDEMONフラグとして登場している。
しかしながら、[V]3.0以降や[Z]系では、D&D系でデビル(ピットフィーンドやメフィストフェレスなど)やダイモーン(メッツォデーモン Mezzodaemonなど)にあたる「デーモンではない悪魔」、またムアコックや『ウォーハンマー』の混沌勢力やクトゥルフ系などにも、'U''u'シンボルやDEMONフラグがついている。おそらく、[V]の時点ではD&D系の定義でのデーモンだけが登場していた(インプやホムンクルスのような若干の例外があるものの)のに対して、モンスターの種類が増えた[Z]系などでは、本来の意味でデーモンであるか否か、ではなく、単に「対デーモンの武器・攻撃が有効と思われるモンスター」に、一律としてDEMONフラグが付与されていると考えられる。例えばクトゥルフ系のモンスターは、デーモンや邪神的な生物ばかりとは限らないが(独立種族、宇宙種族など)「地上とは別の法則(地上では「歪んだ法則」といえる)で構成された怪物」には、応報者・聖戦者のような武器は有効であるとされるため、DEMONフラグがついているとも考えられるだろう。ただし、これらの判断も曖昧なものであるためか(クトゥルフ系でもシンボルやDEMONフラグの有無の基準は不明である)明確な基準はないように思われる。
[V]からのI類-V類のデーモンの一群に対して言うならば、彼ら自身(ヴァロックを除き)やレッサー・バルログも持つデーモン召喚などで大量に召喚されてくることが多く、また、元が高位モンスターであるにも関わらず、FRIENDフラグがありかなりの数の集団で登場する。が、耐久力・攻撃力ともに階層に比するとさほど強くはない。
→ヴァロック →ヘズロウ →グラブレズ →ナルフェシニ →マリリス →バルログ
デュアルクラス Dual-class 【その他】
双岐職種。*bandにおいては、パラディンなどの、複数のクラス(この場合戦士とプリースト)の両方の能力を併せ持ったクラスが、ヘルプやスポイラーのファイルでしばしばこう呼称されている。この語はAD&D 1st, 2ndに由来している。
AD&Dのデュアルクラスは、いったんついたクラスである程度成長してから転職し、元のクラスとレベルは所持したままで、新たなクラスのレベルを伸ばし始めるというルールを指す(これは、特に2ndでは厳しい条件制限があり、プレイヤーに認められないことも多い)。たとえば普通に戦士として3レベルまで上げてから、新たに完全に僧侶に転職して1レベルから始めるが、僧侶となっても「戦士3レベル」の能力はそのまま残っている(ただし、僧侶の方が充分成長するまで戦士の方に能力行使に制限があるなど、非常に煩雑なルールが多い)。転職によるデュアルクラスは「適応能力が高い」人間のキャラクターしか行うことができない。
この一方で、デミヒューマン(人間以外の種族)は、複数のクラスを最初から兼業して(これは途中で変更できない)均等にレベルを上げてゆく「マルチクラス(複合職種)」を選択することができる。これは、人間よりも寿命が長いため、冒険を開始する以前に複数のクラスの初期訓練を受けていることも在り得、また単一の職業の技術に専念せずともゆっくりと様々な技術を学んでゆける、という解釈のためである。例えば戦士+僧侶ならば、最初から「戦士1+僧侶1」というキャラクターで、経験値が入ると戦士と僧侶の分にそれぞれ分割されて同時に入ってゆくのである。(なお、D&D 3edでは大きく変更され、人間・デミヒューマンともに、どのクラスのレベルもいつでも伸ばせる形に変更された。名前は「マルチクラス」の方になっている。)
*bandでのデュアルクラスと呼ばれているクラスは、強いて当てはめれば実質はAD&Dのデュアルクラスと近いものとはいえず、どちらかといえば均等に能力が成長するさまがマルチクラス(パラディンならば、ファイター/クレリック)の方に似ている。また、*bandでは、盗賊のように片方の能力(魔法)がかなり低いクラスには呼称せず、パラディン(特に)やレンジャーのように、両方の能力をかなり高く持つクラスに対してのみ呼称するようである(ちなみにD&D系のパラディンやレンジャーは、あくまで基本は戦士であり呪文能力はおまけ程度にしか持たず、呪文使いのかわりは決して務まらない。名実ともに、マルチやデュアルクラスではない)。
ヘルプの解説では、デュアルクラスは双方の利点を併せ持つため、経験値の修正が厳しいとある。しかしながら、実際は(種族の方は、経験値が厳しくなると確実に強力になるのとは異なり)あるクラスの能力が入った分、戦士よりも戦闘能力は目に見えて目減りしているというトレードオフであり、こと*bandに限っては専業の戦士やプリーストと比べて能力の一極集中ができない分むしろやや不利であるという見解が多く、経験のペナルティがそれに見合うかものかは疑問かもしれない。
→魔法戦士
デュラハン Durahan 【敵】
デュラハン Dullahanは「自分の首を抱えた亡霊騎士」として多くのRPG, ファンタジー作品で描写されるが、この像の定着自体は、RPGのモンスターとしても比較的新しく生じたものとされている。デュラハンの語の原義とされるアイルランドの妖精(妖怪)は、首なしの馬にひかせた馬車に乗っており、死ぬ予定の者の家の付近・戸口に現れ、元来はバンシー(→参照)によく似たイメージとされる(女性とされることもある)。これが語以外はまるで異なる、RPGでの姿のような「チャリオッツに乗るアンデッドの鎧騎士」となったのは、明確にアメリカの「スリーピー・ホロウ」の亡霊騎士の都市伝説と合流して形成されたものと考えられている;18世紀末、開拓時代のアメリカの同名の村において、ドイツ騎士くずれの傭兵が、首切りの残忍さで恐れられたが自分も首を刎ねられて死に、以後この村には首のない鎧の騎士の亡霊が現れるようになった、というもので、米国ではかなり有名なフォークロアである。なお、日本でも首なし落武者や、首なしバイクライダーの怪談、ブロッケン伯爵など非常にありふれているため、ことに日本のRPGではこれらも合流しているという説もあるが、定かではない。
元来いずれも豊かな幻想イメージである妖精(妖怪)に対して、亡霊騎士は「首をはねられたものがその姿で現れる亡霊」などという短絡的な発想によるものへと堕してしまったものともいえるが、妖精のものの原型として頻繁に挙げられるケルトやスカンジナビアの死の女神・乙女以前に、元来、首を自分で切ったり外すことができ、したがって首がなくても・切られても死なないので「不死」であることと定義する、といった発想は、古来の世界各地の幻想説話に数多く見ることができる。各地の断首しての埋葬の風習などにも由来が見られ、RPGの関係説話での代表はいうまでもなくサー・ガウェインの「緑の騎士」やその多数の類型説話だが、創作ではダンセイニ卿『サクノスを除いては破るあたわざる堅砦』の敵役ガズナクなどは、ケルトの原型を色濃く引いている例である。東洋でも、封神演義の申公豹や、三国志演義で左慈の行う術をはじめとして、中国の仙道・妖術の説話に頻出する。
RPGでの「アンデッド」としてのデュラハンは、その死の予告という付随説話ともども、(頭のない「騎士」の)映像がいかにも恐ろしげで、似たような姿の霊体の類などよりも想像しやすいためか、おおむね上位のものとして扱われていることが多い。しかしそれ以外の点では、大半の例が亡霊騎士の姿に右ならえしておきながら、姿や説話(の一部)や背景、それらに由来すると思われる発想の能力など、ほとんどがまちまちである。騎士の姿からこれも短絡的に剣技のみ持つことも多いが、一方では海外のゲームでは、手に持った首が目から怪光線を発する(ペルセウスと合流している可能性がある)だの口から炎を吐くだのといったものが見られる。さらに、『ファイナルファンタジー3』のように、原型の妖精を意識してかバンシー的な女性形といった場合も、非常にまれであるが存在する。
*bandでは、[V]や[Z]などの古くからの基本的なモンスターではなく、[変]など数少ないバリアントにノーマルモンスターとして登場する。思い出解説によると首を抱えている、とはなっているが、馬や馬車の類には乗っている記述はない(プレイヤーからなんらかのギミックの希望が出ることもある)。ノーマルモンスターとしてはやや上位にあたり、アンデッド的な通常攻撃能力(経験吸収、混乱)と、魔法能力(各種状態異常とまたアンデッド召喚、地獄攻撃などこれもアンデッドらしいもの)を備えている。
テレポート Teleport 【システム】
出典:神出鬼没というのは神仙や魔法使いの最も典型的な能力といった例をひくまでもなく、モダン以降設定の作品の超能力に至るまでポピュラーな能力であり、そして、それは非常に強力な能力である。「自由な位置に」「瞬時に」移動できるという手段は、戦略・作戦・戦術の全面において容易に決定的になりうるものであり、そのため、ゲームやしばしばファンタジー物語の世界設定においてさえ、制限を設けようと注意深くルールや設定をはりめぐらせているものや、完全にこの要素を排除している設定も少なくない。(トールキンのアルダの世界では、強大なアイヌアやエルダールの術師でも、飛行すらも不可能なほど移動の魔法が制限されている。理由としては、無闇に大きな魔法や自然の摂理をこえる魔法を行うと、敵勢力に感知されたり介入される隙が大きくなるとされる。)
例えば、最初のRPGである旧D&Dが、そもそもこんな魔法をプレイヤーに使用可能なことにしてしまったわけだが、ここではTeleportの魔法に「危険」を設けることによって、無闇な使用を躊躇させるような、強引な制限を設けている。それは、どんな術者や条件であっても必ずランダムに失敗の可能性があり、失敗すると上空や地中すなわち「石の中」に入ってしまうというものである。そのためプレイヤーはできる限り事前調査を行ったりよく知る場所にのみ行って失敗確率を下げなくてはならなくなり、どんなに下げても数パーセントで石の中にテレポートしてしまうため、無闇に行うわけにはいかなくなった。なお、AD&Dでは詠唱時間が短いことなどからも、「緊急脱出」の時にのみ使うといった性質が色濃くなっている。
他にTeleport以外の上級呪文や、別の呪文でテレポートに近い効果を持つものもあるが、特にAD&Dや3.Xeには、テレポート系やそれに至る探知・調査を阻害する手段も数多く用意されている。こうした制限があっても、ネームレベル、すなわち「魔法使がTeleportを使えるレベル」以降にD&D系で凄まじいまでに戦略戦術が高度化することは間違いないことである。
以降ゲームでも、T&TのようにD&Dと同程度のレベルで使える魔法にも関わらずほとんどペナルティがない場合もあるが(というよりこのゲームでは魔法自体が強力なのでさほど際立った問題ではないかもしれない)登場するほとんどのゲームではその扱いには注意が払われ、TRPGでは阻害手段や特定の場所(ポータル等)にしか移動できない等の制限を設けているものや、テレポート系の呪文自体がまったく存在しないものも当然ある。対して距離や重量の制限はD&D以来、かなり緩いことが多い(距離的には「大抵の場所」には行け、また自分が持ち運ぶ分には制限はなく、複数移動できることも多い)。CRPGにも自由自在な位置に移動するといったテレポートが可能な手段は存在しないものも多い(D&D系ですら、CRPG版では「当然だろう」というそぶりを見せてテレポート系の呪文が一切導入されていないものが多い。)'Wizardry'のMALORの呪文やテレポートのトラップには、石に入るなどD&D系から踏襲されたペナルティが存在するが、他のCRPGなど町やポータルの間の移動をはじめ、戦略戦術よりもプレイヤビリティに関係する形で存在しているものが見受けられる(→帰還の詔)。
D&D系のテレポートの「動作原理」については、かつては一貫したルール的な設定はなく、書物や小説によっては、時空を歪めたり、分解して別位置で再構成するといった説明があったりもした(『ドラゴンランス』においては魔術師レイストリンが「光に変化して移動する」と説明している)。3.0e時点の設定では、すべての実存次元界同士の間隙の虚空である、アストラル間隙界を経由して移動するものとなっている。『次元の扉』など他のテレポート系の項目でも述べているが、アストラル界には「時間」が存在しないため、隣接したどんな次元界の場所にも、時間の経過なしに移動することができる。このため、アストラル界に関連する他の呪文や能力の影響を受けることがあり、またアストラル界に隣接していない次元界(自然には存在しないが、世界設定によっては、また術者や神格が「作った」擬似次元界にはそういったものの可能性がある)では働かない。
システム:Roguelikeにおいては、初代UNIX-Rogueの時点から巻物などによるテレポートは、画面内のランダムな場所に移動するという形で存在し、そして、その機能や、主に窮地に陥った時の緊急脱出手段という位置づけも含めて、ほとんどの以降のテキスト型のRoguelikeにおいて、それが一貫して続いており、Roguelikeでは単に「テレポート」といった場合、「自由な位置に移動する」ものではなく、ランダム移動のものがそれにあたることになる。NetHackにおいて瞬間移動の巻物などが祝福されている場合や、瞬間移動制御の能力を持っている場合、また*bandにおける次元の扉などの呪文のバリエーションではその限りではないが、基本的にはテレポートの呪文自体はこの形で存在し、D&Dの脱出手段としてやWizardryのMALOR(戦闘中に使うと失敗はないがランダムな場所に飛び、脱出手段とされる)に近いものといえる。
*bandでは、原型であるMoriaの時点から、ランダムにテレポートするという効果のTeleportが、巻物・杖・呪文などの効果で存在する。Moria/*bandでは1階ごとのマップがRogueやNetHackよりも遥かに広いためか、距離(ランダムに飛ぶ範囲)は無限ではなくレベルに依存している。*bandではかなり多くの魔法領域にテレポート呪文や似た手段が入っており、非常にポピュラーである。バリアントにもよるが巻物を店で買うこともできるため、致命傷治癒の薬などとあわせて中盤までは買いだめしておくのが常套とされる(巻物は失敗確率がない。ただし盲目や混乱で使えないので、これらの耐性がなければテレポートの杖で代用する。杖も高価ではあるが店で買えることがある)。重要な緊急脱出手段だが、どんな場所に飛ぶかがわからないため、テレポート・アウェイ(自分はその場にいるまま)に比べれば危険性は残っている。また深層ではこれが容易に致命的になるのでまず用いることはできない。概して、テレポートという名はついているものの、「テレポート系魔法」としては基本的で初歩的ということになる。使用できるレベルも比較的低い。
なお*band界隈では、掲示板内でのやりとりできわめて頻出する語のため略称として、『ファイナルファンタジー』シリーズの略称派生魔法名に由来すると思われる「テレポ」という略称もよく使われる。
→帰還の詔 →フェイズ・ドア →レベル・テレポート →テレポート・アウェイ
→次元の扉 →トランプ
テレポート・アウェイ Teleport Away 【その他】
他の次元界(プレイン)から魔法で召喚、魔法で生成された存在や邪悪な存在をその場から追い払うという目的の術は、魔術としてはポピュラーなもので、TRPGにも系統問わず数多くの種類が存在し(→邪悪退散)*bandでも破邪などの魔法にそういった効果のものがあるが、ここではそうした特定の目的のものではなく、通常の移動用の「テレポート」(→参照)呪文の応用として、どんな対象でも強制的に瞬間移動させる呪文を指す。
D&DシリーズなどのTRPGでは、テレポート呪文の便利さをあるていど制約するために、失敗確率および危険を伴うというシステムになっているが、一方で敵などに対して強制的に「攻撃」として使う場合はこれはデメリットにならないといえる。(D&Dをシステム的に継承しているWizardryはこれを逆手にとってテレポーターのトラップが存在する。)しかし現実問題として、プレイヤーが使う側としては、このテレポートの呪文は効果範囲や距離が不十分などの理由から後列の魔法使からは使用しづらいことが多く、こういった用法は実用的ではない。
しかし他のRPGになると、演出として敵が味方集団の強制テレポートを使ってくるといった場面は頻出する。また『ドラゴンクエスト』シリーズのバシルーラ呪文など普通に使用できる呪文に含まれていることもしばしばある。
Roguelikeでは、初代Rogueの時点から「怪物を飛ばす杖」が存在し、敵を強制的に瞬間移動させることができる。これは、Rogueのアイテムがいずれも「一発逆転」の効果を持つものが多いという点であり、有用な危機回避手段として用いることができる。NetHackでは瞬間移動の巻物は自分が対象だが、瞬間移動の杖はモンスターを対象とすることができ、初代Rogue同様に使うことができる(ただし、怪物側に抵抗の余地はある)。DQシリーズの設定を用いて初代Rogueのクローンとして作られた『トルネコの大冒険』でも、「バシルーラの杖」として同じ効果で存在する。しかし、後続の『風来のシレン』では直接その効果のものではなくなっているため(敵を「階段に」テレポートさせて金縛りにする「一時しのぎの杖」など)シレンlikeであることが多い日本製の以後のRoguelikeでもそちらに準じていることも多い。
*bandでは、Moriaおよび[V]の時点では初代Rogueと同様の強力な危機回避手段と位置づけられており、一直線の対象をすべて強制的にテレポートさせることができる。その有用性において、他のテレポート系の魔法のどれにも増して重要といわれることも多い。しかしながら[Z]以降ではこの術が強力すぎると考えられてか(自分がテレポートするよりも抵抗する対象を強制的にテレポートさせることの方が困難であるべきだというのは当然の発想である)テレポートに耐性を持つ敵や、ユニークモンスターは抵抗の余地があることになり、[V]以前ほどは強力な必須手段ではなくなっている。ただし、前半までや、後半でもテレポート耐性を持たない強力なノーマルモンスターに対してはきわめて有効であるため、依然として非常に重要な戦法である。
→テレポート
テング Tengu 【敵】
天狗とは紀元前の中国では天を駆ける者=流星の意で、すなわち凶兆を示す語のひとつであったというが、後に日本でも幻妖を示す漠然とした語、またこの語源からか、特に天から(一説には金星から)鞍馬山に落下した魔王が関連づけられた。しかし鞍馬山の修験道と共に、古来の山岳信仰や長鼻神サルタヒコ信仰なども混ざってゆき、次第に卓越した・常人を越える存在としての天狗およびその信仰、修験者が修行によってそれを得る「天狗道」となってゆく。
修験者の装いと赤ら顔、高い鼻、翼に高下駄という、天狗の長「鞍馬山僧正坊」の姿は室町時代に狩野元信が描いたものだが、この時期と前後してこうした天狗のイメージとして確立し、描かれたと考えられる。妖怪の一種でもある一方、畏敬される魔神でもあるわけである。日本の著名な魔神は、天狗信仰においてはしばしば僧正坊に従う数多くの天狗の一種に名を連ねていることがあり、「飯綱三郎(飯綱の項目参照)」「大峰ノ前鬼(役小角が使役した鬼神童子)」なども、天狗に入っていることがある。
西洋では、ポルトガルに流れた江戸時代の日本の知識などによる書物に、既に'tengu=japanese demon'と記録されているものなどがあり、割と古くから「デーモン」の一種として認識されていたようであるが、なぜか、AD&D 1stのモンスターコンペディウムの中には、まるっきり当たり前のように「tengu (humanoid tengu, crow tengu)」が入っている(もっとも、現在ではoriental adventure以外の背景に使用されることは流石に少なくなったようである)。NetHackの「テング」は、このデータおよび能力をほぼ複写したものである。結局のところ、こうしたAD&D由来の用い方をされる「テング」という言葉は、「日本語でデーモンを意味する言葉」をデーモンの名前のひとつとして用いているだけであり、必ずしも日本の天狗そのものを指しているとは限らないだろう(ファンタジーRPGで、別世界のオリジナル悪魔になぜか名前だけは実在の悪魔学からとられているように)。
*bandでは[V]から下級デーモン('u'シンボル)の一種として入っている。AD&DやNetHack同様、テレポート能力を多彩に持つが、鬱陶しいとはいえるが単数で登場してもさほど危険ではない。危険なのは、他のモンスターとの乱戦に混ざっていた場合、テレポートバックなどで戦術が混乱する場合である。これを加味したのがモリバントのクエスト「テングとデスソード」で、テングのテレポートバックでデスソードの隣に送られたりすると危険という図式を狙ってデザインされたようだが、よほど運悪くハマらない限りはさほどそういう状況にもならないような気がするため、成功しているかは定かではない。
テンサー Tenser 【物品】【その他】
AD&Dの人名のうち、*bandに名前のみが頻出するひとつ。D&Dシリーズの数多くのワールド設定のうち、システムのベースとなっている部分が多いthe World of Greyhawkの魔術師で、代表的魔術師らの結社サークル・オブ・エイト(八魔陣、八者の円)のひとりである。
八者の円などのGreyhawkの大魔術師らの多くは、実際にGreyhawk世界でプレイングをしていたAD&Dのデザイナーらがプレイヤーとして操っていたキャラクターで、彼ら魔術師が作りその名がついた呪文の多くは、D&Dの基本ルールとして呪文リストに載っている。テンサーは、Greyhawkのメインデザイナーであるゲイリー・ガイギャックス(→モルデンカイネン)の子息アーニー・ガイギャックスの使用プレイヤーキャラクターで、Tenserとはアーニーの本名Ernestのアナグラムである(ゲイリーのファーストネームもErnest (E. Gary Gygax)なので、そこからも由来しているという説もある)。
ゲイリー・ガイギャックスが1972年にD&Dの原型を考案したとき、小さな1層の迷宮を作り、夕食の後に11歳の息子アーニーと9歳の娘エリスをプレイヤーとして「世界で最初のRPG」を行った、その神話的な場面に関しては、多くの確固たる説と異説がある。その中で、「世界初の冒険者」がアーニーの操る魔術師テンサーと、エリスの操る聖職者アーリッサであったことが知られている(アーニー自身の証言では、この世界初の冒険者に、ゲイリーの数多くの友人のうちシナリオや世界デザインの仲間である、ロブ・クーンツ操る戦士ロビラー卿が加わることがあるが、どのみちロビラーはほとんど同時といえるほど早期に参加したものと考えられる)。アーニーはゲーマーとしてはクーンツと並んで熱心であり、テンサー、ロビラー及びテリック(ロブの兄テリー・クーンツのキャラ)は、ゲイリーの最初の巨大ダンジョン「グレイホーク城」を制覇した数少ないキャラだった。
WG世界の設定において、テンサーも八者の円の例にもれず、無論偉大な魔術師であるが、同時に強欲なことで名をはせたとも記述されており、テンサーの名のついた呪文は肉体を強化させたり運送能力を上げるものが多く、これは「できるだけ沢山財宝を運べるように」という目的で作ったものらしい。
それらのテンサーの呪文は、同じ八者の円のモルデンカイネン(父ゲイリーのキャラ)の名のついたものとは対照的に、やたらめったらと役に立たないことでも知られる。特に「テンサーの浮揚円盤(フローティングディスク)」の呪文は、かつてのCD&D赤箱の方にも抜粋されて入っていたため有名で、和訳版D&Dプレイヤーもいったいこの呪文は何なのかと首をかしげる定番であったが、実はこれでもテンサーの呪文の中では法外に役に立つ(工夫しがいがある)方なのである。
なお、テンサーは*bandに取り入れられた当時のAD&D 1stでは八者の円の一人であるが、最近の激動のGreyhawk史の中では、同じ八者の円の魔術師ラリー(レアリー)が反逆する際に暗殺されている。その後当然の如く、男塾のように平然と復活するのであるが、現在(D&D 3ed)の時点では八者の円のメンバーからは退いている。
*bandには、ランダムアーティファクトの名などとしてテンサーの名が見られる他、[V]やその系統のメイジの上級呪文書に[テンサーの変容(tenser's transformation)]がある。[V]では、おそらくD&Dでは他の世界設定でもGreyhawkの名前の呪文が出てくるという発想から、彼らの名前の呪文書を出しているのだと思われる。この呪文書の名とまったく同名のtenser's transformationという呪文がAD&Dにはあり、これは魔術師(特にD&D系では戦闘能力はゼロに近い)の肉体を意味もなく筋肉達磨と化し、しかも触媒にマジックアイテムのポーションが必要という、相当に使えない呪文である。[V]では、呪文書の内容自体もスピードや防御など状態変化に関わるものなのでこの名が選ばれているらしい。中でも[V]では「無傷の球」があるので、元ネタのAD&Dでのテンサーとは比較にならないほどにプレイヤーに重視される呪文書となっている。
→モルデンカイネン →無傷の球
天使 Angel 【敵】
キリスト教の天使に関する詳細は、ビルボ・バギンズの誕生パーティーの夜空に広がる花火のように爆発的にめんどいから略し、この項目では天使系モンスターの*bandに関係ある概要と、モンスター「天使」に絞る。天使は本来は一神教で神格という位置づけより下に存在する(もしくは元来は神格や信仰対象だったものがそこに押し込まれている)もので、多神教では、それらの役割として下級神や精霊・御霊が存在し得るため明確に神格より劣った天使である必然性は別にない。しかし、RPGの原型であるD&D系では、実在非実在とわず数多くの神々が存在する多元世界設定であるにも関わらず、<上方世界>に住み、多くは神格に仕え、なおかつ自らは(擬似神や半神といった)神性を持たない存在、「天使」が設定されている。
しかし最初期のD&D系、RPGの祖型となったOD&D、AD&D1stやその直接影響下にある最初期のCRPGでは、angelがその通りに使用されているとは限らない。AD&D1st最初期の資料(Dragon誌など)では、いわゆるヘブライ系の天使学の各位階の天使が設定されているが、数年後の次元界資料やAD&D2ndではこれらの天使の名やデータは使用されず(宗教諸々の理由や自粛などの説があるが、定かではない)これらの上方世界に住む存在はアァシモンなりセレスチャルなりといった総称、またデータごとの名も各種「アガシオン」「ディバ」「プラネター、ソーラー」といった名となっている(*bandにいるものの詳細は各項目に譲る)。また、本来へブル系の神に仕えていた(属性が「秩序にして善」)かつての天使らに対して、これらの中には各種の善に(「中立にして善」「混沌にして善」ともに)使える各々の存在の「総称」になっているものもあるので、結果、神格でもなく、かといってヘブル教な天使なのかそうでないのかよくわからない「存在」が上方世界あまねく「一般住人」としてカッ飛んでいるという、わりと謎の状況になっている。なお、3.Xe(すなわち、*bandやNHよりはかなり後)の資料では、セレスチャルの総称としてangelという語はしばしば使用されている。
NetHackに登場する「天使」は、前記最初期データで言えば「能天使(パワーズ)」にほぼ相当する能力を有しているが、データ自体は異なり、また2nd以降のアァシモンにも相当・該当するデータはない。おそらく、1stの時点では天使があくまで基本ルールのモンスターではないため、(参照したにせよ)NetHack独自のデータをデザインしたものと思われる。
*bandにおいては、[V]2.8系まではAD&Dに従い各種「ディバ」がシンボル'A'のモンスターとして登場していた。しかし、多くの[V]系バリアントではこれらは外されている。また、[Z]では各ディバらがそのまま名前のみ「天使」「大天使」「智天使」といったものに差し替えられている。これは、より一般的な名詞にしたのか、宗教もろもろよりもD&D系独自の用語の方をむしろ避けることにしたのか定かではないが、その一方で[Z]では他のD&D系独自モンスターを改めて追加したりしているので(そもそも「アルコン」が入っている)何がやりたいのか結局よくわからない。
[Z]での最も基本的な「天使」モンスターは、[V]2.8の天使系で最下級の「モナディック・ディバ」(AD&D2ndでは最下級が「モヴァニック・ディバ」であり、なぜか入れ替わっている)がそのまま差し替えられたものである。なぜ天使が敵なのかという疑問を述べる人がいるだろうが、名前こそは天使だが、実質は上記したようなさまざまな背景もつディバの一種と考えるとおそらく事情を詮索するだけ無駄である。天使というと決して傷つけられない存在であり、26階という階層は並のRPG的な基準ならばそれに値するものなのかもしれないが、*bandにあっては、階層にしては攻防ともにすぐれるものの、天使系の中ではまだ召喚のような厄介なものを含めてこの階層で致命的な特殊能力類は何も持っていないので、単独で出現してもさして危険ではない。
→アルコン
ドア/階段探知 Detect Door/Stairs 【その他】
ディヴィネーション(感知、探知、占術)のどれにも言えることだが、秘密の場所や通路を発見できる能力は地下の探索という状況下では非常に有利になりうる。
クラシカルD&Dでは、秘密のドアを探知できる能力はエルフ(目ざといことからの発想と思われる)、階段(高度が変わっている場所、気流が変わる元など)とは若干異なるが傾斜などの地形を探知できる能力はドワーフが種族の特殊能力として持っている。ただし、これらは能動的に探さなくてはならず時間も必要で、結局はほかの人間などの発見確率だけが若干高いだけなので、あまりゲーム内で有効に活用された例は多くなかったと思われる。
魔法としては、秘密のドアや特殊な地形を感知する魔力はアイテム(ワンドや、強力なエゴ武器の特殊能力など)が持っているが、呪文にはAD&Dともども存在しない。限定された使用法だけを持たされている(範囲の狭い)D&D系の呪文体系であるが、ひとつの呪文に与えるにはこれらの能力がそれにしても狭すぎること、また盗賊系の特殊能力などを重視して入っていないのかもしれない。
CRPGなどでは、例えばWizardryの光の魔法LOMILWAが秘密の扉も表示する能力を持つ、またほかに魔力や罠探知の魔法に効果が持たされているRPGもあるが、一般に目の前にあるものを探知するというもので、離れた位置の階段などが探知できるというものではない。Roguelikeでも、例えばNetHackにはD&Dの秘密の扉探知のワンドをそのままデータ化したとおぼしき「秘密の扉探索の杖」があるが、これも自分の近くの扉を感知するにすぎない。一方で、CRPGではオートマッピングなどの魔法やアイテムの効果が、離れた場所にあるこれらを探知する魔法の効果を含んでいると言える。
*bandではMoria以来、毎回ダンジョンの形状が変わり、また階層が広く扉や階段の多い状況では気軽に・頻繁に使うことのできるものとして、低いレベルの多くの領域で低いレベルの魔法として、また各種アイテムとして使うことのできる魔法の類である。どちらかというと、見える領域で探索するというより離れたものを探知することから他のCRPGでのオートマッピングの方の効果に近いといえ、隠された扉でなくとも扉自体の位置がどれでも表示される。[Z]以降ではドワーフが扉と「罠」の感知をレイシャルパワーとして持ち、目に見えるものではなく離れたものを感知するので、魔法的な特殊能力を思わせる。他の地形探知系同様、必須というわけではないが、あると探索の手間を省いてくれる一種である。
トゥオルの影のクローク The Shadow Cloak of Tuor 【物品】
出典:アルダ第一紀(伝説時代)の人間の王族である、フオルの息子トゥオルは、ヌメノール王朝の直接の祖のひとりであり、上級神の一体ウルモ(→水の王ウルモのトライデント)が、エルダールと人間を救うための使者として選んだ人間であった。『クゥエンタ・シルマリルリオン』、および前半分だけに関しては『終わらざりし物語(トゥオルがゴンドリンを訪れたこと)』にさらに詳しい記述がある。
エルダールのモルゴス軍への2度目の大敗北(→ニアナイス・アルノイディアド)と同じ頃に生まれたトゥオルは、シンダール・エルフのアンナイルに隠れ育てられるが、やがて東夷の隊長ローガン(→参照)にとらわれ奴隷にされ、ついで逃亡して無宿者となる。が、やがて水と水鳥に導かれ、巨大なウルモその人に出会い、城塞都市ゴンドリンへと向かう。ゴンドリンはモルゴスもその位置を知らないノルドール・エルフらの最後の砦であったが、ウルモは、ゴンドリンも間も無く滅ぶであろうことと、ノルドールたちに都を捨ててアマンに船出するようという助言をトゥアゴン王に届けるために、トゥオルを使者として遣わしたのだった。
このときに敵を潜り抜けて安全にゴンドリンにたどり着けるよう、ウルモが自分のマントの切れ端を千切って与えたのが、灰色の大きな「トゥオルのクローク」である。この身隠しのクロークのおかげでトゥオルはゴンドリンにたどりついたが、ウルモの伝言をトゥアゴン王に伝えた時に役目を終えたクロークは消えうせてしまった(らしいと、トールキンの殴り書きから子息クリストファー教授が読み取っている)。
しかし、トゥアゴン王は中つ国とゴンドリンを捨てきれず、ウルモにそむいて都に留まり続けた。トゥオルもそのままゴンドリンに留まり、人間であるにも関わらずエルダールである王女イドリルと結婚する。これはトゥアゴンが高潔なトゥオル自身を寵愛していただけでなく、「エルダールの運命が以後もこのウルモの使者にかかっている」ことを予知していたためだという(実に、このトゥオルとイドリルの息子が、のちにヴァラールにモルゴス打倒を請願する半エルフの航海者エアレンディルである)。やがてウルモの予言通り、ゴンドリンの都は闇エルフとなったマイグリン(→参照)の裏切りにあって陥落してしまい、トゥオルはマイグリンを崖に叩き落としてから、妻子と共に陥落する都を脱出した。
以後海辺に細々と住んだトゥオルは、老齢になるとイドリルと共に西に向けて船出し、そのまま帰らなかった。伝説ではトゥオルはアマンにたどりつき、人間にも関わらず「エルダールと同じ運命を得たものとして」(人間と結婚したエルダールのルシエンが、人間と同じ死を得たのとは丁度逆に)アマンに住んだともいう。
一般にトゥオルは、べレンと並び、またある意味トゥーリン以上に重要な人間の王族なのだが、エピソードにトールキンが稿を途中にしたままのものが多く、描写も少ないため、この中ではかなり薄い印象を受ける。トゥオルは美しく金髪であったが、長身のエルダールの武具をたやすく扱える逞しい武力を備えていたという。同じハドール王家の英雄トゥーリン(→グアサング等参照)とは従兄弟にあたるが、一度すれ違ったことしかない。ウルモと出会う少し前に、トゥアゴンの古い武具(剣、盾、鎧)を見つけ以後それを使っていたようだが、(第一紀の英雄には多いが)戦争で実際に使ったのは剣でなく斧で、トゥオルの戦斧『ドランボルレグ』はヌメノールの水没まで秘宝として伝わっていた。
物品:あるいは[V]以来存在する、「影のクローク」というベースアイテムが、これとルシエンのクローク(→参照)を表現するために追加されたのかもしれない。原典通りの隠密に+4の他、おそらくウルモの品ということで水のエレメンタルを支配するという力があるとされて「酸免疫」(ウルモ槍同様、なぜか氷免疫ではない)がある。その他は麻痺知らずと視透明という申し訳程度の下級能力があるが、発動効果もなく、実質は酸免疫のみの、かなり地味な品である。
洞窟熊 Cave Bear 【敵】
cave bearという語は本来、数万年前に絶滅したホラアナグマを指し、ヨーロッパに生息していた巨大な(3m半の高さに直立できたといわれる)クマである。洞窟から骨格が見つかっていることからこの名があるが、冬眠や、洞窟人などによって食用とされたものという説もある。また大型ではあるがどちらかというと草食が主であったという。
そんなケイブ・ベアであるが、RPGのモンスターとしては古いゲームより非常にポピュラーなものである。アニマル・モンスター(実在の動物がそのまま、あるいは巨大化のみで存在するとされるもの)の常でもあるが、実際に恐れられている熊という動物であること以外に、現存する熊より大型という点、洞窟に生息していた(という説では)という点はダンジョンにおける脅威としてはおあつらえ向きである。実際、特に古いTRPGではアニマルモンスターは純然たる異形や魔獣などに比べて妙に強いことが多いが(これは、異形類が初期にも登場しなくてはならないことと、実在の動物の脅威との兼ね合いである)熊の類は耐久力と攻撃力を見ると小型のドラゴン級だったりと妙に危険なデータのことも多い。ことにT&Tではメインデザイナーのひとりに”熊の”ピーターズがいるが、彼のデザインによる、ケイブ・ベアが支配するベア・ダンジョンはT&Tのいつもながらのオーバーキルの嵐であることはもはや説明しておくまでもない。
そうしたRPGでは定番の洞窟熊のはずなのだが、なぜか*bandでは[V]2.8系をはじめとする伝統的にほとんどのバリアントには存在せず、ToMEをはじめとして[V]3.0系やアルダ系の幾つかのバリアントに追加されているのみである。実際のホラアナグマの危険さから推測されるほどには階層もさして高くなく、(こうしたノーマルモンスターの強さに関しては*bandの伝統的にまちまちなのだが)集団で出現するでもなく、若干のみ攻撃力が高い程度である。わざわざ後から追加されたものにも関わらず、あまり深く考えられずに、単なる動物モンスターの一種としてのみデータ化されたと思われる。
洞窟トロル Cave-troll 【敵】
トールキンをモチーフにしたMERPや*bandでは、登場するあらゆる生物、ことにオークやトロルの数多くの種族・部族に関してもデータのために原作以上に細かく分類されている。それらには便宜上のものであったり、明確に別個の種族と断定できないものの推測・創作や命名であったりすることも多いのだが、「洞窟トロル cave-troll」は作中に登場する表現であり、明確に一個の種族と言えるひとつである。「西の地に住む岩トロル(明確でないが、『ホビットの冒険』のトロルらのように岩屋に住むものと定義できる)」「闇の森やモルドールの山地に住む森トロル(オログとの区別は断言できない)」とは区別することができる。
トールキンのcave-trollは、FotRにて一行がモリアで遭遇したトロルに対してガンダルフが呼ぶ表現である(和訳では「岩穴トロル」となっている)。原作にてマザルブルの間の戦いで扉に押し込まれた「緑の苔をはやした黒っぽい皮膚」「指のない扁平な足」とあるのがこのトロルのそれと思われ、フロドがつらぬき丸(→参照)を突き刺すとこの手足は引っ込められてしまい、以後出番はまったくなく本体は姿を現さず、マザルブルの間の戦いにも出てこない。(後のバルログの場面にトロルが2体出現するが、同じ個体かは定かではない。)一方では映画版FotRではボスキャラかと思うくらいに活躍する。原作のこの手足の描写にはあまり似ておらず、後に登場するオログよりは石化していた岩トロル(DVD版に登場する)に似ている印象である。
MERPの設定では、洞窟トロルはオログ以外の自然種のトロル(とはいえ、神話時代にメルコールが創造したものであるが)では最も大型で強力なものという設定になっている(これはFotR原作の凶悪そうな手足の描写を鑑みたものと考えられる)。また、日光の下を歩けないトロルの中でもさらに洞窟に適応しているため、視覚がほとんどない。生息地を推測するならば、洞窟オークらと同様に霧ふり山脈の地下にのみ生息すると考えられるので、アングマールの王国と共にエリアドールに広まった岩トロルや闇の森・モルドールから広まった森トロルとは異なり、洞窟オークらと同様、モルゴス時代からじかに山脈を南下して広まったと考えられそうである。それだけに神話時代からの純血種が多く、強力なものが多いとも考察できる。
*bandでは[V]以来ノーマルモンスターとして登場し、オログや水トロルなどの例外的なものを除けばトロル類の中ではかなり強力なものに属する。総合力では劣るが、バート・ビル・トム(→参照)と階層の上ではほぼ同じである。それだけに、これらのユニークが最も大量に引き連れている可能性が高いことが推測できる。
→トロル
盗賊 Rogue 【クラス】
出典:ゲーム'Rogue'の主人公は、剣のみを頼みにあらゆる敵に真っ向から突き進んでゆく戦士でもなければ、ましてや「宿敵を倒すこと」を目的に奈落に挑む勇者やら英雄やらでもない。「富と名声をもたらすイェンダーの魔除け」(半神となる云々はNetHack以降の設定であり、Rogueでの設定は本当にこれしかない)をかすめ取るという純粋な私欲のために「必滅の大迷宮」(この設定は最初からある)に潜り、ひいてはゲーム内で使われることもない財宝をなぜかひたすらにかき集める、全き無頼の徒である。
Rogueは「無頼漢」というような意味で、悪漢piccareや盗人thiefとも重なりつつも、意味する範囲は異なる。D&D 3edのリリース時に、標準のクラス名が2ndまでのthiefからrogueに変わった時の質問に対して「スターウォーズのハン・ソロはthiefとは言えないが、rogueとして物語内で活躍している」というメーカーの答えが有名である。RPGでのrogueの意味合いとしては、泥棒や無法者であるか否かに関わらず、「力まかせの戦いや正攻法よりも、機転・人脈・狡知・技術などを利用して活躍する」タイプを広範に指すということである。故に、*band系をはじめとして、泥棒や無法者を連想しやすい「盗賊」と和訳することは必ずしも意味として正しくはない。だが、日本では「RPGのクラスの語」として最も普及している語なので、無難な選択といえるだろう。
戦士や魔法使いではない、「盗賊」のような役割がヒロイック・ファンタジーの主人公格(しかし対等でない主人公の補助役としてならば古来セオリーのひとつであり、例えば日本の時代物にも忍者や盗賊が特殊技能で侍を助けるものが非常に初期から見られたりする)の一員となった原典はどこなのか、それはピカレスクロマンスの影響と共に、ジャック・ヴァンスもしくはフリッツ・ライバーの著作であるというのが通説である。トールキンにも、ホビットらのような、強さや魔法以外で活躍する「忍びの者」も既に登場しているが、彼等の位置づけはむしろ無力な一般市民や農民が活躍する民話などの方に近いと思われる。しかし、例えばライバーの著作を見ると、いわゆる盗賊ギルドを主にしたシティアドベンチャーのような状況と、あくまで剣士ながら機転と素早さで活躍するといった傾向の、あくまで「英雄ではなく悪漢としての『戦士』」らであって、泥棒の技術(鍵開けや壁登りなど)の専門の職人がその技を冒険に役立てるといったRPGの盗賊の姿はまだ確立していない。
やがて登場したD&D/AD&D1st-2ndの「シーフ」は、戦闘能力は絶望的に低く、完全に盗賊技術の専門家となっている。これは、単純にD&Dシリーズが複数のプレイヤーで行なうための「役割分担のゲーム」としてデザインされたためである。そのために、泥棒の技術を迷宮内の罠や鍵開け・移動に役立てるという、一見奇妙な役割が、このときから明確にクローズアップされた技術としてルール化され、記述された。こうして、RPG独特の盗賊像が確立した。
こうして折角確立した盗賊のイメージだが、CRPGでは『ウィザードリィ』で「罠発見」のためだけに一人入れなくてはならないという状況が鬱陶しく感じられたり、『ファイナルファンタジー』シリーズでは1作目から試行錯誤した能力で入っていたりするが中途半端な評を免れなかったりと、うまく表現される例は少ない。力や数値ではなくウィットと柔軟性が命の盗賊の真価を、特にシステマチックなCRPGでうまく表すのは現在でも困難である。
この一方で、T&Tのように盗賊技術を全く設定せず、剣と魔法の両方の能力を持つ(これは、ライバーのグレイ・マウザーがモデルと明記されている)という形で、依然として剣以外にも頼る剣士という「悪漢」としてのローグを表現している場合もある。なおD&Dでも3eからは(rogueの名になったことにも合致してか)特に戦闘に優れた能力が追加され、2ndまでのthiefと一転して非常に目立つ魅力的なクラスとなっている。
クラス:Moriaから、ほとんど総てのバリアント([X]などごくわずかを除いた)を通して存在するクラスである。基本的に打撃・射撃(特にスリング)が得意なクラスで「戦士系」に数えられるが、戦闘能力は(パラディンや混沌の戦士に比べて)「戦うだけで進んでいくにはぎりぎりで足りない」程度の絶妙なバランスにあり、あまり上手ではない魔法や、隠密・解除・探索などのあらゆる面で「技能」が高いことを利用して進んでゆくことになる。D&D系の「シーフ」よりは、ヴァンスやライバーの著作における初期の悪漢としての「ローグ」であろう。
魔法は全般にMPの効率が悪く、非常に失敗率が高いので、あくまで便利な補助であって頼り切ることはできない(これは、ライバーのグレイ・マウザーを思わせる部分がある。D&Dでも高レベルでは盗賊は失敗率がありながら、魔法使系用のマジックアイテムを使用できる)。[V]ではメイジ系の呪文が使えるが、強力な攻撃魔法だけは使えない。[Z]では戦闘補助の側面が強い(そしてレンジャーやパラディンとかぶさらない)領域のうちひとつを選べる。
なおヘルプにはRogueは、使用する魔法領域によって、秘術=Thief, 仙術=Burglar, 暗黒=Assassin, トランプ=Cardsharkというサブクラスと呼称する、と書いてある。このうちCardsharkは、シャッフルや召喚等の計算でメイジやハイメイジと同じ有利な扱いになる場合がある。これはトランプ盗賊がゼラズニィの世界観に合致する面が多いので、優遇されているのだろう。
[O]や[Z]系では軽い武器を装備すると攻撃力が上昇し(一方で重い武器にもペナルティーも少ない)、動かない敵には強力な打撃を行えるなど工夫されている(ToMEで敵や店のアイテムを盗めるのはやりすぎの感があるが)。純粋な強さで言えば中庸程度で(実際のところは、出てくる物品に大きく左右されるだろう)初心者向きではなく、日本では(CRPGでうまく表現されていないせいもあって)非常に馴染みが薄いせいか、人気もさほどないが、様々な戦法の工夫で面白いプレイングが可能なクラスだと言える。
ドゥナダン Dunadan 【種族】
出典:シンダリン語で西方(dun-)の人(-adan)、ヌメノーリアンを指す。複数形はドゥネダイン(歳のいった指輪ファンには、旧訳「デュナダン」「デュネダイン」の方が馴染み深いであろう)。かつて第二紀に中つ国の西に浮かび権勢を誇った島ヌメノールの末裔で、肉体・精神ともに非常に優れた人々である。
そもヌメノールの王族には、上のエルフの三種族全ての王族のみならず、神族の血まで混ざっている。そして王族ならずとも、第一紀の戦いの褒章として、優れた能力と長い寿命が与えられていた。ヌメノールの王国が滅亡した後は、その亡命者が中つ国にアルノール人(のちの野伏)・ゴンドール人、および黒きヌメノール人(海賊化)として生き残る。しかしながら彼らの血は中つ国の人々と混ざり、これらの国の人々はいまなお頑強であるが、普通の人間の3倍もの寿命を持つ者となると第三紀末(指輪物語の時代)には最も血筋の正しい王の末裔のアラゴルンしか残っていない。
アラゴルンの能力と活躍に関しては映画版のファンサイトに存分に詳しいと思われるが、三日に45リーグを走破し、土に耳をつけて数マイル先の足音を読み取るといった、日本の忍者はだしのあからさまに超人的な能力を有する。そして(特に原作のアラゴルンは)見かけよりも年齢と経験を遥かに重ねているために、円熟したような雰囲気を持つことが特徴である。(なお、"The Dunadan"だけだと、裂け谷のエルフやビルボらの間ではそのままアラゴルン個人を指す呼び名として通っている。)それ以外、例えばゴンドール人に関しては、ゴンドールの国風で古風な雰囲気を持つこと以外は、人間とは(登場するゴンドール人らの高い能力はともかく、寿命などは)目立った差はない。ゴンドール人にはデネソールやファラミアのように、洞察力や預言で人間を大きく上回る「西方の血」を残す者の他、ボロミアのように戦闘・指揮能力は高いが精神能力は特殊なものは持たない者まで様々である。ゴンドール人がどの程度ヌメノールの「ドゥネダイン」の能力を残しているかは諸説あるが、例えばICE社のTRPG,TCGではボロミアやファラミアは種族「ドゥナダン」となっている。ただし、ICEのドゥナダンには、王の血からどれだけ近いかによって、寿命や薬草(王の葉)の効力など、個別のルールも多い。
種族:*bandでは[V]から登場する。原作そのままに、総ての能力がプラスであり、特に耐久力と耐久力維持を持つ有利な種族である。必要経験値修正は+80%と、ハイエルフ(+100%)より若干緩いが、感覚としては大差がない。*bandでは一般的に経験修正が厳しくても強い種族の方が有利なので、強さを目指すならハイエルフ共々選択肢(特に、賢さが必要なクラスの場合は)であろう。なお、原作のアラゴルンをそのままイメージしているのか、年齢や身長体重も非常に大きな値になる。王族の血が濃いとでも考えておくべきであろうか。
[Z]では能力はほとんどそのままに、急速回復とレイシャルパワーを追加されて「アンバライト」に差し替えられて無くなってしまったが、[変]ではアンバライトとは別にドゥナダンが改めて追加されている。[Z]以降はクラスによって極端に有利な種族があるので、器用貧乏な種族をどう捉えるかはまちまちであろう(私見では、耐久力にウェイトが強いこともあり、少なくとも何をやるにも「間違い」にはならない種族に思える)。アンバライト(+125%)との差は、アンバライトの方にはレイシャルパワーがあることだが(急速回復はさほど感覚的に違いがない。なお、[Z]から再びアルダ系に逆輸入されたバリアントによっては、ドゥナダンにも急速回復が入ったままになっている)これは中盤まで全く関係がない。アンバライトのシャドゥシフトとパターンウォークをどの程度活用することになるか(クラスや魔法領域によっても大きく違ってくる)が、そのままプレイヤーにとってのこの2種族の差となってくるであろう。
→ヌメノール →アンバライト
動物習し Animal Taming 【その他】
動物を「ならす」呪文としては、初期にはクラシカルD&Dの聖職者呪文であるSpeak with animal呪文がある。動物と話す、つまり意思疎通する行為は、また「仲良くなる」イメージと重複する部分があるため、この呪文には動物からの反応を良くする効果も含まれているわけである。動物を強化する、呼び寄せる、召喚するといったほかの多数の呪文の最も初歩のものにあたるわけだが、これが聖職者呪文となっているのは、魔法使系の呪文が善悪に関わらない(たとえば魅了や支配など)性質をもつことが多いのに対して「反応を良くする」効果がどちらかというと聖職者に近いと見られたものと思われる。D&D系の後の版を含めて後出のTRPGでは、聖職者でなく自然系の術者のものとして、より多様な「動物魅了」の類の呪文が存在することが多いが、魔法的に魅了するのでなく「ならす」かそれに近いものは、呪文よりもドルイドやレンジャーなどが持っている「技能」であることも多い。一般にRPGの動物データは、肉体的能力が高めで魔法への抵抗力が弱く、容易に味方につけることができきわめて有利になることも多い。
*bandの場合は[Z]からの友好モンスターやペットシステムに伴って、動物(ANIMALフラグ)モンスターのみを魅了するという形で自然魔法に存在する、動物のペット化の最も初歩のものといえる(直接のモンスター召喚等に比して。なお動物をならすは通常「馴らす」の字を用いる)。が、改良された[変]などに至ってもペットシステム自体が単なる「おまけ」の色合いが強い部分もあり、限られたクラスや状況でないとうまく役立たないといった事情や、また*bandでは格別、動物が肉体能力の割に抵抗が弱いといった性質が再現されているというわけでもないので、自然魔法のいかにもラインナップにそれらしい呪文のひとつといったところだろう。
ドゥリン斧
→不死ドゥリンのグレート・アックス
ドゥリンの指輪 The Ring of Durin 【物品】
出典:20の「力の指輪」のうち、ドワーフの七氏族の首長であるドゥリン王家に伝わるものを*bandではこの名で呼ぶ。ドワーフの《七つの指輪》の最初に鍛造され、七つの中で最大の力をもち、そして七つの中でサウロンに奪われずに最も後まで残った「最後の指輪」である。(そして、七氏族ではドゥリン王家がほとんど唯一言及されるのと同様、七つのうち単独の消息が唯一言及される指輪である。)
人間の《九つの指輪》と、ドワーフの《七つの指輪》は、すべてエレギオンのエルダールの鍛冶師からサウロンに奪われた後、サウロンの手によって人間とドワーフの手に与えられたというのが、中つ国の賢人ら(おそらく、指輪学者の長サルマン)の説である。が、ドゥリン王家のドワーフら自身は、このドゥリンの指輪はサウロンからではなく、エルダールの鍛冶師らの手から直接、ドゥリン三世王に与えられたものだと信じていた。
どちらが真実であるか、Unfinished Tales(『ガラドリエルとケレボルンの歴史』の一節)によると、サウロンは九つの指輪を見つけ出して奪い、七つの指輪はケレブリンボールを拷問して場所を聞き出した、となっている(エルフの三つの指輪は既に隠されており、サウロンは見つけられなかった)。この記述によると、一見すると七つはすべてこの時サウロンに奪われ、後でドワーフに与えられた、という説に近いように見える。また、九つと七つは作られた当初から人間とドワーフのために作られたと、ファンにはよく信じられているが、必ずしもその記述はなく(なお有名な「指輪物語」の詩を作ったのはサウロンである)エルフの三つ以前に「より力の劣った」七つと九つが作られた、というだけで、エルフの指輪をドワーフのために作ったとも限らず、その場合サウロンの危険が現れる前にケレブリンボールがドゥリンに与えたとはあまり考えられない。
しかし一方で、UTのこの記述はサウロンは「七つの場所を聞き出した」となっているだけで、すべて奪ったとは必ずしも書かれておらず、このときドゥリンの指輪、あるいは他の6つのいくつかも、既に鍛冶師らからドワーフらに与えられた後だったのかもしれない。UTにも具体的にドワーフにどう与えられたかという記述はない。結局のところ、どちらとも断言のしようがない。
が、直接に与えたのがどちらであったにせよ、《七つの指輪》は鋳造する時点でサウロンの手がかかっていたので(最初から一度も見ることさえなかったエルフの三つとは異なる)、サウロンの悪意のこもった指輪であることは逃れられなかった。サウロンが《一つの指輪》をはめてさえいなければ比較的無害に用いることもできるエルフの三つとは異なり、《七つの指輪》はドワーフの貪欲さを増大させ、富をもたらしたが、最終的にはすべてを不幸な結末へと導いた。ただし、ドワーフが非常に頑強な種族であったため(あるいは、アウレに作られた種族で、人間やエルダールとは異質であったせいか)ホビットや人間のように、ドワーフらは寿命が薄く引き伸ばされたり幽鬼になったりサウロンに直接支配されてしまうことはなかった。
指輪の直接の効能に関しては、やはり他の力の指輪と同様、直接の効果というより「目に見えぬ運命をもたらす」と思われるが、ドワーフの富を生み出す力を増大させたといい、七氏族の「七大財宝」はそれぞれ「金の指輪をもとに築かれた」という記述がある。しかし、ドワーフらの氏族はそれぞれ、すべて一度ならず略奪にあい、その際に七つの指輪のうち四つは龍の炎に焼き尽くされ(龍が食べた、と書いてあるサイトがあるが、それよりは、この場合は各ドワーフ王が龍の炎で殺された際にはめていたものと思われる。力の指輪が龍の炎によって溶ける、という、おそらくこれもサルマンの学説の根拠がこれである)二つは、巡りめぐってサウロンの手に戻ってくることとなった。
最後に残ったドゥリンの指輪は、ドゥリン王家のドワーフらによって、どこかに温存されていると信じられていた。(これは、ドワーフらは指輪を継承者以外には決して見せなかったため、他の者には行方が知れなかったためである。)エルロンドの会議でグローインが「モリアにある」と最初信じていたのは、スロール王(→参照)がモリアでアゾグ(→参照)に殺された後に両者の死体から見つからなかったため、モリアの他の誰かが奪ったか坑道内に落ちたと信じられたためである。しかし実際は、スロールはモリアに行く直前に息子スライン(『ホビットの冒険』のトーリン王の父)に指輪を渡し、そしてスラインは後になってサウロンのドル=グルドゥアの要塞に捕らえられ、指輪はこのときサウロンに奪われたのである。(ガンダルフはドル=グルドゥアで死のまぎわのスラインに会うが、このときスラインは既に奪われた指輪のことをぶつぶつ繰り返すだけで、トーリンやエレボールの地図について聞くのに困難をきわめた、とUTの記述にある。)非業とはいえ大往生したトーリンに比べてこのスロールとスラインのあまりに不幸な死は、指輪の呪いと考えてだいたい差支えないと思われる。
なお、《七つの指輪》のうちこのサウロンが最終的に取り戻した三つは、指輪戦争後にはどうなったかだが、イシルのパランティアと同様、《九つの指輪》やその他の宝と共に、バラド=ドゥアの崩壊時に地割れに呑まれ永遠に消滅したと推測できる。
物品:ドゥリン王家の指輪は、PernAngband当時からToMEには通して登場する。20の力の指輪のうち、《一つ》《三つ》はアルダ舞台でなくとも大抵のバリアントに皆勤し、《九つ》もよくなんらかの形でデータ化されているものの、なぜかドワーフの《七つ》はそれ自体ほとんど出てくることがない。ToMEにしてもドゥリン王家の指輪以外には登場しない。(ICE社のTCGには、MERPのRPG用設定に従う6氏族の名を冠した、他の6つの指輪がデータ化されている。)物品としては、三つの指輪に準ずる強力な耐性が数多く揃っている(ただし免疫はない)ものの、呪い(重い呪いで、永遠ではない)や経験吸収、反感などが多く、基本的には呪いのアイテムに近いものだろう。
→ドワーフ →力の指輪
ドゥリンの禍 Durin's Bane 【敵】
出典:マイア。モリアのバルログ。ドゥリンの滅びのもと。カザド=ドゥムの暴君。もとはアルダ世界の第1紀にモルゴスの親衛隊をつとめていた、炎の悪霊バルログの一体であった。サウロンの配下などではないことを示すため第三紀では「モルゴスのバルログ」と記述されていることも多い。
第1紀の最後にバルログはほとんどすべて倒されたが、少なくとも一体は遥か南に逃れ、霧ふり山脈の地下深くに潜伏、もしくは力を貯えるため眠りに入った。第3紀の後半(つまり5500年ほど後)、霧ふり山脈のモリア(カザド=ドゥム)の坑道を深く堀りすぎたドワーフたちがこのバルログを目覚めさせ(追補編には、サウロンに呼応して既に目覚めていたのではないかとも書かれている)、バルログはモリアのドワーフを滅ぼし、モリアの王ドゥリン6世を殺し(このためドゥリンの禍と呼ばれる)以後モリアを占拠した。
そして、『指輪物語』にて、指輪所持者の一行がモリアを通過する時に、このバルログが一行と対峙し、同じマイアで炎の使い手であるガンダルフが一行を守って立ちふさがる。これが、トールキン関連の資料で最も多くの絵画や音楽のテーマとして取り上げられている、「カザド=ドゥムの橋」の場面である。
そしてその後ろから何かがやって来ました. それがなんであるかは見えませんが、大きな影のようでその真ん中に黒い姿がありました. 人間の形をしたもののようですが、人間よりずっと大きかったのです. 力と暴威がその者の中に存在し、またその者の露払いをしているように思われました.
...
そのものは火のきわまでやって来ました.火はまるで雲がかぶさってきたかのように,光がうすれました.ついでその物は一跳びで割れめを越えました.焔は迎えるようにごうごうと燃えたけり,それにからみつきました.黒い煙が渦を巻いて立ち上りました.たなびくたてがみに火がついて,その者の背後に赤々と燃え上がりました.その者の右手には切っ先鋭い火の舌のような刃が握られ,左手にはたくさんの皮紐のついた鞭が握られていました.
「ああ! ああ!」レゴラスが声をふりしぼりました.「バルログだ! バルログが来た!」
(J.R.R.トールキン、瀬田貞二訳『旅の仲間』)
あまりにも多くのFT解説が、このNetHackのデータベースファイルの文章をそのまま引用して掲載しているため、筆者と同様このくだりをそらで言えるようになってしまったFTファンはかなり多いと思われる。気障な美辞麗句でごてごてと表面を塗り固めたライトファンタジーの一分野などから見れば、あまりにも平易で簡潔な日本語を(しかも仮名主体で)並べているに過ぎない。にも関わらず、良質の童話を語り聞かされる子供に引き戻すようにひしひしと胸に迫ってくる情景は他のいかなる文章にも換えがたい。元々俳人である瀬田氏の詩感を切実に思う一部である。
ICE設定のモリアのバルログは、標準的なバルログよりやや強力で、灰色のガンダルフらイスタリ(魔法使)らより若干のみ弱い能力(それでも、体格などから考えれば能力以上に危険である)を持っている。18フィートもの体格を持ち、強力な恐怖・精神支配・命令能力(弱いものならば魂が砕けてしまう)も持っている。「クウィヴィグワス(覚醒する死)」という、オガムア(エルダールの特殊魔法樹脂)でできた炎の鞭と、「カルリス(光を切り裂く者)」という名の炎の剣を持っている設定なのだが、*bandでは[V]のスポイラーファイル(rumors.spo)の当時からなぜかカルリスはルンゴルシン(→参照)の剣である。
ICEのRPGやカードでも、「ドゥリンの禍」がこのバルログの固有名詞のように扱われているが、MERPの比較的新しい設定では、シンダリンで「フェラグログ(洞窟の魔神)」、クゥエンヤで「フェルヤソーノ(洞窟の眷属)」という名も存在する。ただし、これらはその名から想像するに、第一紀当時の武将として使われてきた名やマイアとしてのまことの名ではなく、モリアにこもってからのこの悪鬼にナウグリムやエルダールらがつけた通称であろう。
敵:*bandでは、ToMEなどに『ドゥリンの禍』、前バージョンのPernAngbandでは『モリアのバルログ』として登場しているが、かつて[V]ではバルログ『ムアル』(→参照)という別の名になっていたユニークの名前のみ変更しているものである。『ムアル』は遥かに[V]の原型であるMoriaが、最下層の50階に待つラスボスとして採用している敵のデータを参照して作られていたため、データ上は元来のモリアのバルログそのものということになる。
ToMEでは原典通りダンジョン「モリア」の最下層50階を守る。ToMEの初期のPernangbandは、[Z]の初期版のユニークモンスターの名を元に戻して使っているため[V][O]などと異なることが多いが、しばらく『ムアル』ではなく『モリアのバルログ』になっていた。ToMEの後のバージョンでは『ドゥリンの禍』という名になっている。ToMEでは[V][O]のムアルと異なりアンデッドの召喚能力も持っているのが変更点であるが何の意味があるかは不明である。ドゥリンの禍を倒し、モリアの最下層を攻略すると、なぜか「★オローリンの杖」が手に入る。原典で橋の戦いでガンダルフの杖が折れたことに対して、どういった脈絡かは定かではない。
→バルログ →ガンダルフ →モリア →ムアル
トゥルカス
→勇猛なるトゥルカスの指輪
トゥールスチャ Tulzscha, the Green Flame 【敵】
外なる神。緑色の火炎。H.P.ラヴクラフト『魔宴』において、謎の儀式を行う人々が、不気味な色をした炎の柱に向かって礼拝しているという描写がある。が、なぜかここの炎を、どういうわけかTRPG『クトゥルフの呼び声』においては、「主神アザトートの周囲で燃えている異形の神の一体」が降臨しているものと拡大解釈して扱っている、というものらしい。
『クトゥルフの呼び声』ルールブックでも、他の神や旧支配者に比べてさしたるパワーを持っているわけではない(神なので滅ぶことはないが、人間の世界に影響を与えることも少ないという意味である)。アザトートに従属する小神ならそうしたものも珍しくはない。他には描写も物語もないし、おそらくはゲームで扱われることもほとんどないだろう。
が、*bandにおいて[Z]以降登場するものは、89階という深層のユニークモンスターであり、その中でもかなり強烈な攻撃力を持つ強敵となっている。一体どういう理由でこうした扱いになったかは想像・推察するほかにないのだが、一応「御大ことラヴクラフトが描いた神」「アザトートの直接の随神」と解釈できることから、他作家の旧支配者の類に比べて格上になっているのかもしれない。TRPGの設定では、『魔宴』のように地上に招来されてきたものは、岩の割れ目などから火柱となって吹き上がり、その場から動くことはないとされているのだが、*bandでは普通に動いてやってくる。炎ではあるが「冷たく腐敗じみた」と記述にあるので、炎、冷気、地獄のいずれのブレスも持っている。炎と冷気のオーラは持っているが、攻撃自体はなぜか「打撃」で、そのダメージはかなり洒落にならない。
毒針 どくばり 【物品】
「どくばり」はコンシューマRPG『ドラゴンクエスト』シリーズに登場する武器の一種で、攻撃力・ダメージは低いが、確実にダメージを与え、さらに低い確率で対象を即死させるという効果を持つ武器である。登場時のDQ3では、その特殊性に加えて、通常は武器制限が最も厳しい「まほうつかい」のみが(リメイク版によっては「盗賊」も)使用することができ、要は、攻撃力の低い魔法使の意外な攻撃手段というわけだが、急所を見分ける知性を要するといった理屈になっている。イラストなどでビジュアル化された場合、護拳まで一体化した尖った短剣(装飾はまさに毒虫の針がモチーフだが)の形状になっていることが多い。「毒」であるわけだが、(システム上とはいえ)DQ3では対象を毒の効くような生物に限らないため、重要なのは急所を突く「針」の方であり、その効果は多分に魔法的・神秘的のようである。
DQ内での即死効果は、会心の一撃などとも異なり、本当に即死させるが、無論ボスキャラの類には効かない。しかし、それ以外ならば、はぐれメタル(→参照)をはじめとして強敵に有効な武器として、また裏技的な戦術を組む際に特殊戦法として選択肢にのぼることがある。即死武器の効果は、DQ3以前のRPGを探すとD&D系のヴォーパルヒット(およびスライシングのエゴアイテム、→切れ味の武器 →ヴォーパルブレード)や、Wizardryのニンジャのクリティカル攻撃(「おおっと!どくばり」の方はほぼ関係ないという結論に達せざるを得ない)を彷彿とさせるが、特にこれらから採ったというよりは、魔法使い・低ダメージ武器の意外性からの発想ではないかと思われる。
昼夜の概念があるDQ3において、夜に道具屋の主人が寝ている間に宝箱から手に入れる、というのは、「勇者=なぜか人の家に勝手に上がって品物を物色する輩」の説の代表としても有名である(なお、他にも入手できる箇所はある)。
*bandでは、[変]に登場し、内容はめんどいからAlba氏のサイトから引用すると確実に命中して1ダメージを与えるほか、低い確率で非ユニークモンスターを即死させる効果を持っており、ほぼそのままDQの扱いのままを引き継いでいる。この確実に命中してダメージという点で、[変]においてはDQよりさらに倒すのが困難な「はぐれメタル」の対策武器として非常に強く認識されているが、というよりも、この「はぐれメタルと毒針」が、組でDQから[変]に取り入れられた側面も大きくある。他にも、強敵を一撃死させる可能性という側面も引き継いでおり、「竜のすみか」などでワイアームを狙い経験や物品を稼ぐ際などにも使われる。[変]では毒蜘蛛であるシェロブを倒すことで確実に入手することができる設定になっている。
→急所突き
飛飯綱 とびいづな 【その他】
マンガ・アニメ『るろうに剣心』の最初期に登場する敵、石動雷十太の起こした「真古流」の技。雷十太は斉藤伝鬼坊(実在の天道流の開祖)を思わせる容貌魁偉で、古流の技を集めた実践流派を打ちたてようとし、古流の巻物のひとつから解読して会得した奥義がこの「飯綱」である。
刀身に真空を纏いつかせてカマイタチで切断する技で(つまり仁王剣(ショック・ブレイド)ではなく真空剣(メイデン・ブレイド)の一種であるわけだが)竹刀でも羽目板をたやすく両断するほどの威力を持つ。刀に纏い付かせたまま攻撃する物を「纏飯綱(まといいづな)」、真空波を遠距離に飛ばすものを「飛飯綱(とびいづな)」と名づけている。よくよく考えてみると、なんとか物理的にありえる範疇の必殺技に収まっている(と言っていいのかどうか)『るろうに剣心』の技のうちでは、初期の敵の技にもかかわらず、技自体の「現実離れ度」が比較的高い。そのためか、印象も強いようでよく話題にのぼる。
元々日本の伝承の飯綱とは、飯縄明神の管狐の法(狗神信仰にも関連する)に由来し、幻術師を飯綱使い、幻術などの怪奇現象を飯綱、またその使い魔の妖獣(犬、狐、イタチ)も飯綱と広く俗称されたが、転じて、つむじ風が切り傷を作る(真空のほか、気圧差、温度差等の説があり、巻き上げられた礫等の説が尤もらしい)自然のカマイタチ現象が、この獣の仕業と信じられ、飯綱はカマイタチ(これも獣の名とされる)をも指す語となった。
なお、抜け忍カムイの投げ技、飯綱落とし(ストライクヘッズ、ペガサスローリングクラッシュ)は、飯綱イタチの動きにヒントを得て編み出したと『カムイ伝』内では描かれているが、伊賀忍者が修行に用いたという飯綱山にも掛けてあると考察するファンもいる。
*bandでは、「飛飯綱」が剣術家が最初に使える武芸技としていきなり登場する。わずか8方2マス(斜め2マスでもよい)離れた敵を攻撃できる技だが、先手を取って迎え撃つ場合や、特に逃げた敵を追撃する場合に威力を発揮する。ただし、そのMPを消費も意外に馬鹿にならず、様々な意味で、低レベルで2マスだからといって侮れない技である。
飛蔭 Shadowfax, steed of Gandalf 【敵】
ガンダルフの乗騎。ローハンの当代のメアラ。メアラ(「馬の王族」、複数系メアラス)とは、アルダのヴァラ(上級神)狩人オロメの乗騎である白馬「ナハール」の、直の子孫だと信じられる馬である。実際に血筋が明らかになっているわけではないが、ローハン王家の先祖エオル(→エオル家のランス)が野から従えた名馬フェラロフを祖とし、代々王家が養ってきたのがメアラスで、この馬らは人間と同じほど長命で非常に俊足、頑強であるという、明らかに「魔法の馬」の特徴を備えていた。
代々、メアラスが背に乗せることを許すのはエオル王家の王のみであり、指輪戦争当時のローハン王セオデン(→参照)の乗る「雪の鬣」もメアラスの一頭であったかは定かでないが、ともあれその時代のメアラスでも最も優れた馬とされたのが、飛蔭であった。FotR原作前半、サルマンのオルサンクから脱出した直後のローハンを訪れたガンダルフが見出し、平原を追いかけ回して馴らし、乗騎とする(その頃フロドは袋小路屋敷を出発する前日だった。これは映画版では合致せず、この時にはガンダルフはまだ茶色の馬に乗っている)。その後、FotRは徒歩の旅となるので出番がないが、TTTで「白のガンダルフ」となった魔法使の乗騎として活躍する。
ローハン王しか乗せないはずのメアラスが、何故ガンダルフを乗せたのかは定かではないが(あるいはイスタリの使命に対して、オロメの援助が働いたのかもしれない)飛蔭はガンダルフと意志を通じ合うことができ、呼べば走り寄り、鞍も手綱もなしに操ることができた。他の馬は恐れるナズグルと恐るべき獣の前でも走ることができ、また彼らの翼にも劣らない速度で駆けることができた。ガンダルフは「もうこの世では二度と別れるまい」と言っていたほどの絆の強さは、しばしば強調される。(しかし、はるかな後にガンダルフが西方アマンに帰る際、その船の傍らに飛蔭の姿はあったものの、ともに西方に渡ったかは定かではない。)
ガンダルフと飛蔭の関係は、RPG的に言えば、また説話の魔法使いの「使い魔」に似ているというのがよく言及される点であるが、また善の使いとして、聖書的な白い騎士のイメージが重ねられた側面もある。
飛蔭は記述によると、灰色(影色)の毛とたてがみを持ち、それがshadowfax(元は「影のたてがみ」の意)という名の由来である。映画版LotRでは、原作と異なり見事な白馬になっているが、これは白のガンダルフと色合いをあわせるためであると思われる(原作では、ガンダルフ自体が下の衣は白でも、以前通り灰色の外套と帽子を用いているのであるが)。「飛蔭」の訳語は、日本の瀬田訳でも必ず筆頭にのぼるほどの名訳である。
トールキンでも非常にポピュラーな生き物でありながら、*bandには何故かToMEにしか登場しない。ただし、そのデータは[Z]のジュリアンの乗騎『明の明星』号(→参照)を元に、名を差し替えられて作られている。描写がよく似た大きな灰色の馬という点もあるが(これは明の明星号も、飛蔭同様にノルマンやシベリア伝承にしばしば見られる灰色の霊馬を意識しているためであろう)飛蔭の方が攻撃力が若干まさり、経験値も高くなっている。すなわち、敵として対する時は明の明星同様に、スピードとしぶとさがやや面倒な相手となる。
ドラウグルイン Draugluin, Sire of All Werewolves 【敵】
マイア。巨狼の帝王。アルダの第一紀、モルゴスに誘惑されて堕落した、もしくは彼に捕えられて心身をねじまげられたマイアの精霊には、巨大な動物の姿をとっているものが数多くいた。その主たるものが巨狼(Werewolves)で、ドラウグルインはその最初で最大のものとされる。じかに精霊であったもの以外にも、ドラウグルインの子孫の巨狼の一族はモルゴスの軍に加わっており、後世にも残ったという。
第一紀のドラウグルインは、アングバンドの前線基地であるトル・イン・ガウアホス(狼の島)の要塞に住んでいた。ここには他の動物の悪霊が数多く住んでおり、妖術師サウロンの魔力がそれを支配していたが、この島の名から考えて最も巨狼が多く、またドラウグルインはサウロンに次ぐ重要な位置にあったのは間違いない。
しかし、やがて人間の随一の英雄べレンと、エルダールのフィンロド王一行が、サウロンとの呪歌対決に敗れてこの島に捕えられてきた。彼らを救うためにエルダール王女ルシアンとヴァリノールの猟犬フアンが島に現れ、フアンは次々とここの巨狼を倒してゆき、最後にドラウグルイン自身も挑んだが、かつてオロメ(狩のヴァラ)が「狼狩り用」に鍛えたこの著名な猟犬に破れた。巨狼の帝王はサウロンの元に這ってゆき、「あそこにおりますのはフアンですぞ!」とサウロンに遺言を残して息絶えた(台詞、これだけ)。
この後には結局サウロンも破れ、べレンも救い出されるのだが、べレンはこのドラウグルインの毛皮をはいで被り、巨狼に変身して敵の目をあざむいてアングバンドに向かい、地下城砦の奥深くまでこの変装のままで進んでいった(なお、ルシアンはスリングウェシル(→参照)の皮によって蝙蝠に変身していった)。古代のライカンスロープやシェイプチェンジャーの伝承には、月光や水によって変身するもの以外に、毛皮自体が魔力をおびていて皮をかぶることで普通の人間が変身するというものが目立ち、それを強く思わせる描写である;アルダ世界においてこれを解釈するならば、マイアは服を取り替えるように肉体・姿をとりかえることができ、その魔法の服=肉体はしばしば他の種族にも有効なものだと考えられるだろう。(なお、マイアでもイスタリはヴァラールから変身などの能力を止められているので、ガンダルフの皮をはいで被っても無駄なことである)。
*bandには[V]から深層の87階に登場する。深層の「犬系」の敵に顕著なのだが、耐久力はあるが、やたらと攻撃力が低い。注意すべきは、倒す前に大量のハウンド系やその他モンスターが召喚されてくる場合であろう。カルハロスなどと異なり、ブレスその他の魔法は持っていない。
ドラエボル Draebor, the Imp 【敵】
Angbandオリジナル、数少ない[V]当時からの”ジョーク”モンスターの一体で、テレポートを繰り返す「猛烈に人をイライラさせる」小鬼。当時のメンテナーの一人Warwick大学のGeoff Hill氏によると、[V]初期開発当時、どんなオンラインゲームも毎回チートコードを用いてプレイするとある学生が大学にて不評を買っていたといい、当時の[V]には、その学生のユーザーアカウント"rebroad"を感知し、その学生がプレイした時には一切アーティファクトを与えないようなコードが付加されていたという。のちにその故事は「神格化」し、そのアカウント名のアナグラムである'Draebor'が人をイライラさせるモンスターとして追加され、さらに当時のバージョンでは、倒した場合には報酬として高確率でアーティファクトを落とすようになっていた。
*bandでは[V]およびそのモンスターが比較的忠実に残るバリアントにおいて存在する。MoriaのEvil Eggyのように極端な強敵というわけではない。少なくとも現在のバージョンでは、DROP_GOODになっておりアーティファクトや極端に上等な品を落とすというわけではない。[Z]系のバリアントではなくなっているが、これは純粋なトールキン由来ではないから、というよりも調査不能なため排除された可能性が高い。
ドラコニアン Draconian 【種族】
「ドラゴニアン(「ドラゴンです。人)」ではなく、「ドラコニアン(辰人)」である。
東西の民間伝承などに散見する、いわゆる蜥蜴人や蛇人(水神族)、爬虫人(ルール的にはリザードマン、トログロダイト、ユアン=ティ、サウリアルなど)の類とは根本的に異なる種族として、あくまでRPGのドラゴンありきでその設定自体に深い関係を持つ、RPG特有の「ドラゴン+ヒューマノイド」種族は、特に海外RPGに散見する。
ことに、AD&Dの中でさらにドラゴン物の真髄ともいうべき、Dragonlance世界のルールセッティングでは、「ドラコニアン」という種族の明確で詳細な設定が作られた。この惑星クリンには、元々リザードフォークの類の種族自体がいないが、ドラコニアンは善悪の竜の戦争の折に邪竜勢によって作られた種族であった。小説前半シリーズDragonlance Chloniclesやゲームブックのネタバレともなるが、既に公式サイトの公開データにもつまびらかなので明かすと、ドラコニアン種族は善竜(金属の竜)の卵を邪竜側の軍勢が手にし、魔術によって変質させて作られたものである。元となった卵の善竜の色と同じ金(オウラク)、銀(シヴァク)、青銅(ボザク)、真鍮(バアズ)、銅(カパク)の種類のドラコニアンがおり、それぞれ能力は異なる。高い知能、非常に高い武装度・戦闘能力を持ち、上位の一部は翼、ボザク以上の上級のものはかなり高い魔力を持ち、また、種類によってそれぞれ殺されると死体が火の玉に変わる、爆発する、酸の海に変わる、石化して敵の武器をとらえるなど死体すら危険な力を持つ。種族自体が殺傷兵器として作られているのである。しかし、性質自体はかなり人間に近い描写にこと欠かず、ビールと巨乳美少女(なぜか人間の)に目がない。
D&Dでも4版、5版(それ以前から追加資料に記述自体はある)では基本ルール種族として、ドラゴンの頭部、爬虫類の肌、(標準では)尾や翼はない「ドラゴンボーン」が選択可能になっている。4版や5版の標準では戦士系向きで、ブレス攻撃を持つ。5版ではDragonlance世界でのドラコニアンは、ドラゴンボーンのサブ分類となっている。
D&D系以外でも、同様に蜥蜴人とは別にドラゴンと深いかかわりをもつヒューマノイドが、『ルーンクエスト』のドラゴンへの進化種族ドラゴニュートをはじめ、多くの作品に設定されている。Wizardryのドラコンは、ドラコニアン同様、ドラゴンの古語のdrako/dracoの語幹から作られた名前を持つヒューマノイドだが、-conに「角を持つもの、麒麟児」の語義がひっかけてあるようである。このドラコン同様に、「ブレスを吐く能力」がルール化されているものも多い。デザインはリザードフォーク系のものから、基本的に人間ベースで「獣人」的に竜の特徴が合わさったもの(D&D3edのHalf-Dragon Templateなどもそれである)まで様々である。
*bandには、[Z]以降登場するが、生い立ちの容姿の描写や、肌の色などが金属竜に準じている点もDragonlanceのドラコニアンを思わせる。ただし、Dragonlanceほどの凶悪な特殊能力ではなく、ブレスを吐くレイシャルパワーがあることから、さほど忠実なものではなく、ドラコンなど多くの辰人の公約数的なイメージでデザインされているように見える。すべての能力にすぐれている他、ブレス(種類は生い立ち等でなく、クラスで決まる)、飛行能力、10レベルごとについてゆく元素耐性(これもD&Dのドラゴンボーン等では生い立ちでどれか決まるが、*bandでは順番に全てつく)など、かなり有利な能力を備えており、経験値はきついが慎重に動けば強い=初心者向きの、万能種族のひとつといえる。特に、耐性を集めるのに苦労する修行僧クラスは、慣れないうちはドラコニアンを選ぶと非常にプレイしやすい。
→大長編ドラコえもん
ドラコリスク Dracolisk 【敵】
ドラコリスクは「ブラックドラゴンとバジリスクの混血」というふざけた設定のモンスターである。AD&D2ndでは標準モンスターだが、初出はルールブック類ではなく、原案者ゲイリー・ガイギャックス作のかなり古いシナリオに登場するもので、本来はRPGの世界観に汎用的に存在するものではなく一種の仕掛けとして設定されたものだろう。(とはいえD&D系ではこうした一部シナリオの登場モンスターが以後汎用的にマニュアルに記載され、また他RPGでも汎用モンスターのように登場といったこともままあることである。)ブラックドラゴンはよく猛毒の血液を持つといわれるため、バジリスクと掛け合わせるアイディアとなったことは普通に推測できる。バジリスクの外見と6本の足に、ブラックドラゴンの黒い鱗と翼をもち、当然、バジリスクの石化の凝視と、ブラックドラゴンの酸のブレスの能力をあわせもっている。
当然、AD&Dのモンスターであるため他のゲームでは頻繁に出るものではないが、非常に珍しい例として、アーケードアクションゲーム『フェアリーランドストーリー』がある。魔法の国の王女が活躍するファンシーな世界でありながら登場する敵キャラにオーク、ゴーレム、レイス、クレリック等RPG的な敵が揃っているのだが、最大の敵がドラゴンの怪物という「ドラコリスク」となっており、6本足の巨大なトカゲというまぎれもないAD&Dのドラコリスクである。
AD&Dではバジリスクは能力は厄介でもレベル自体は極端に高くはないため、それがベースになったこのドラコリスクもさほど高レベルではないのだが、*bandでは[V]以来バジリスクは石化能力がただの麻痺であるかわりにノーマルモンスター中では非常に強力な生物になっているため、それをベースにしたドラコリスクもそれに輪をかけて強力である。ここではドラゴンの一般としてか、酸ではなく火炎の打撃やブレスを吐くようになっており、なぜか地獄や因果混乱(バリアントによる)のブレスも吐く。動物、邪悪、ドラゴンなどのフラグがすべてついており武器のスレイングが効くが、あまりそれで助かるという話でもない。
ドラコリッチ Dracolich 【敵】
ドラゴリッチ(ドラゴンです。リッチ)ではなく、ドラコリッチ(辰屍)である。
ドラゴンの高級アンデッドというアイディア自体は何が元と言えないほどありふれている気がするが、「リッチ」が「モンスターとしては」実質上はAD&D由来であると考えると、このモンスター名もAD&Dが元と言うしかないのかもしれない。AD&Dにおいて、ドラゴンゾンビなどと異なり、ドラゴンが以前の知能や能力を残したままの高級なアンデッドと化したのがドラコリッチである。どちらも頂点のモンスターであるドラゴンとリッチが合体という時点でインフレもここに極まれり(→ドローレム)といった感がある。が、ヒューマノイドの「リッチ」は強力な魔法使や聖職者が自らをアンデッド化させるが、ドラコリッチは、同じほど魔法にまでもたけたドラゴンが同様の経過でアンデッド化するという恐ろしい代物ではない。AD&Dの設定では、カルト・オブ・ドラゴン(特にForgotten Realmsでは重要な悪役組織である)と呼ばれる組織が、困難な儀式によって「普通の」ドラゴンをアンデッド化させることができ、これが(普通には)唯一知られたドラコリッチの生まれてくる手段である。個人レベルで自然発生してくるわけではない分、救いようがあり、また、そうした比較的「普通の」ドラゴンがなるものなので、幸いドラゴンとリッチを単純加算したほど強いとは決して限らない(アンデッドの各種有利な特殊能力は得るが)。また、この経緯から、充分な知能を持つにも関わらず、自身が黒幕やボスキャラよりも、カルトの一員として、地下から発進する巨大メカのような立場で登場することが多い傾向にあるようである。
ドラコリッチはかつての特殊能力をすべて有しているため、使う呪文やブレスウェポンの種類は、以前のドラゴン(無論のこと、こうした怪物になれるのは悪の属性のドラゴンのみである)に準拠し、個体ごとに異なる。例えば以前レッド・ドラゴンであったものは炎を吐くが、当然、ほぼ骸骨だけになっている外見からは、事前にその判別はかなり困難である。
*bandに[V]以来登場するものは、冷却と地獄のブレスを吐き、これは前がどのドラゴンであったというよりも、「アンデッド」であることを強く意識したものと思われる。*bandにおいて最強クラスのドラゴンであるワイアームをベースにして、アンデッドの能力を持たせたようなものになっている。(なお、AD&Dではリッチともども、打撃で冷気による麻痺のみで、エナジー・ドレインはない。しかし*bandでは上級アンデッドに経験値吸収が共通している。)竜とアンデッドの両方のスレイングが効くのだが、だからといって何が有利になったとは思えないほどの強敵である。上級ワイアームと上級アンデッドの召喚魔法でいずれも登場する頻度が大きく、かなり鬱陶しい。
→リッチ
ドラゴンスケイルメイル Dragon Scale Mail 【物品】
ドラゴンの名のついた物品、ことに装備品はRPGの類にはあまりにも頻出し(小説等よりもむしろ多いのは、この名がしばしばエピソードを強要するほど自己主張が強すぎる場合があるためである)中でも目立つのが、いかなる防具よりも強靭なドラゴンの外皮を「防具」として用いるというものである。不文律として、ドラゴンの鱗はミスリル程度の金属よりは遥かに硬く軽く、また元のドラゴンの体質に由来する魔力(ほとんどはブレスウェポンのタイプと同種の攻撃に対する耐性)を持ち、そこから作られた防具も同様の力を持つのがセオリーである。
そのため、しばしば低質FTにおけるドラゴンの威容のデフレーションと共に、ドラゴンを倒すとその鱗だの歯(→スケルトン参照)だのをやたら持って帰りたがるプレイヤーが増えるわけだが、もしそれが可能だとしてもそうそう単純にドラゴンの鱗の防具が作れるとは限らない。AD&Dでは1st-3edまで通じて、ドラゴンの鱗を使用して普通に防具を組み立てたとしても単なる「高品質(マスターワーク)の防具」ができるだけだと明記されている。一方で、サプリメントによっては強力な「ドラゴンスケイルメイル」が登場するが、これは莫大な魔力・費用と無論のことドラゴンの鱗が必要とされる。つまり、ドラゴンスケイルメイルとは、他の強力な物品が同様に貴重かつ希少な材料を必要とするのと同様にドラゴンの鱗を必要とする「マジックアイテム」であって、(他のアイテムが材料だけでは何の役にも立たないのと同様)鱗だけ集めてきてもどうにもならない。
NetHackに登場するドラゴンの鱗鎧は、通常の鎧の二段飛ばしの防御性能(AD&D1stのルールで言えばフルプレートも上回る)と桁の間違いに見えるほどの異常な軽さを持ち、また元のドラゴンに由来する耐性(NetHackでの耐性はほとんど免疫に等しいものである)を持つ。その上、特別に珍しいものでもないため、他の防具が中盤以降役立つ機会は皆無である。倒したドラゴンが鱗を残した場合、そのまま装備することができるが(これが上記する、ただの鱗でできた高品質の防具というところか)そこに「鎧に魔法をかける」ことで作れてしまう。鎧に魔法をかけるというのはD&D系では高レベル術者の長期間の儀式と費用を必要とするが、NetHackではさして珍しくもない巻物一本である。
*bandでは[V]以降、各種の色およびロー、カオス、バランス、パワーといった上級エネルギーのドラゴンスケイルメイルが登場する。色に対応する耐性のみならず、対応するブレスウェポンを発動する力も持っている。しかし、実際問題としては長期間を隔ててダメージ魔法の発動能力というのは、特に中盤以降はさほど頼りにはならない。運良く序盤に入手できたとしても、本来の階層が非常に高いのでよほど魔法道具技術が高くないと発動できないため、かなり技能が高い種族の魔法戦士系用ならば役立つのではないか、といった考察をAlba氏から送られた。アーマークラスはベースと(一般に)つく修正ともに申し分ないのだが、軽いといっても重鎧と比較しての話で、魔法を扱うクラスとしては圧迫されることが多い。また耐性も元素では終盤とても頼りにならず、上級エネルギーであれば上級耐性が数多く揃うのだが上記の問題もあわせて考えるとエルフのエゴ鎧やアーティファクトと比較して有利とはいえない。非常に貴重な物品ではあるのだが、使いづらい位置に収まってしまっている物品といえる。
→ドラゴン・ヘルム →剣竜の鎧 →刀返し
ドラゴン・ヘルム _DRAGON_ Helm 【物品】
ドラゴンをかたどった兜に関しては、トールキン作品においては、第一紀(伝説時代)に龍と唯一軍勢として戦うことができた、ドワーフが用いていた記述がある。特に、ドル=ローミンの龍の兜(→参照)などの記述に見られるのだが、グラウルングなどの龍が登場しはじめた時、「彼らに対抗する」「同等の力がこちらにもある」ということを示すために、それらの龍の形を正確にかたどった兜が作られたという。ドワーフの頑丈な兜は彼らに唯一龍の攻撃を防ぐ力を与えたというが、おそらくは龍の熱や咆哮、多分に毒液なども防ぐことができ、また伝説時代のドワーフの鍛冶の腕ならば、それにはいわゆる「魔法的」な効果も持っていたに違いない。また、当時のドワーフらは戦において「恐ろしげな仮面」をつけて戦ったといい、これが「龍の兜」と同一かは定かではないとされるが、地球の現実の歴史において兜が自らを誇示し、敵を威圧する効果が求められたことから、龍の形こそが敵が避けた「恐ろしげ」な姿と考えることもできるだろう。
ドラゴンをかたどった兜は様になるため、西洋の兜の意匠にもよく見られるもので、ファンタジー作品やRPGに登場することも多い。また、特にドラゴンに関係ある能力があるとも限らないが、それらがこじつけられていることもまた多い。
*bandでは、[V]系には存在せず[Z]から登場する。組となって追加されたドラゴン・シールド同様に、やや高いベースAC値と、四元素の耐性を保障する。シールドと組であることや、ドラゴンスケイルメイルと特に関係ないことから、特にトールキンのものを意識しているわけではなさそうである。[V]では鉄ヘルメットだったドル=ローミンの兜が[Z]から原作通り「龍の兜」という名前にできているのだが、そのためだけに追加された、というわけでもないようである。
レアリティはさして高くないが、階層がかなり深いため、全耐性エゴの盾のかわりになるといったことは望めない。むしろ、これがベースのアーティファクトなどが生成された場合、四元素に穴があくことがないので耐性パズルに有効といった面で扱われると思われる。
トラッパー Trapper 【敵】
→ラーカー
トラのホッブス Hobbes the Tiger 【敵】
アメリカのビル・ワターソン作の新聞連載漫画"Calvin and Hobbes"の有名キャラクターで、カルヴィン(カルビン)少年の親友の虎。"Calvin and Hobbes"は、よく表現されるようにシュルツのピーナッツシリーズにも通じる絵柄・作風で描かれ、6歳のカルヴィン少年がホッブスと共に遊び回る等の日常もので、基本的にやんちゃで想像力旺盛な子供を描いているが、子供特有のシュールさによる展開にもなるという漫画である。(巻数は少ないが、新旧の邦訳もある。)
ホッブスはカルヴィンの持つぬいぐるみの虎(名前は政治学者カルヴァン同様、哲学者ホッブスに由来するといわれる)で、喋り二足で歩行する(2頭身キャラのカルヴィンのだいたい2倍くらいの背丈になる)が、ほかの人々にはぬいぐるみにしか見えない。動くのはカルヴィンの想像の中でのことにすぎないようにも見えるが、描写や作者自身のコメント含めて、どちらとも断言しがたい、という状態のまま漫画は続く。カルヴィンとのやりとりでは、いわゆる突込み役であり、カルヴィンの良心や理性がその実体ともいわれる。姿はなにやら四足のバランスのまま立って歩いているようで、かなり胴長短足である。時々カルヴィンに飛びかかって脅かし、のばしてしまうのがお約束の場面になっており、肉食獣・猫科としてのプライドを持っている。漫画作者によると、ホッブスのキャラクター(ツナサンド好きなど)は作者の飼い猫が基本的にアイディアの元であるという。
"Calvin and Hobbes"には、漫画本編を除くとアニメ化などの他媒体の展開、ひいては関連グッズ、ライセンス品すらもほとんどなく、これは作者自身が大々的な商業化を嫌ったためという。しかし、このため、ほかの有名キャラクターに比べてもかなりおびただしい量の、原作漫画を大きく貶める劣悪・ひいては下劣な類(*bandでも恐怖時に「漫画の中に帰してくれ」と叫ぶが)の非許可模造製品が大量に発生する原因になってしまったとも考えられている。
*bandにはホッブスが[Z]以降登場するが、メジャーキャラクターを残虐ブラックジョーク化する[Z]のいつもの姿勢にせよ、俗悪な模造品をそのまま表現しているにせよ、どちらにしても凶悪で憎たらしい台詞を吐く敵となっている。mon_speakの、人間を虎より見下したりサンドイッチ云々やカルヴィンを食ってしまった(飛びかかる定番に由来すると思われる)等の台詞は、原作と歪められたものを表現している。序盤のユニークとして賞金首になることもあるが、動物(特にfシンボル)ゆえのスピードの高さは注意する点である。少し下の階層の本物の虎(ノーマルモンスターの「トラ」)よりは耐久力は低いが、攻撃力が若干高い。
トランプ Trump 【システム】【物品】【その他】
出典:アンバーの切札。真世界アンバーシリーズの最も特徴的な物品のひとつである。普通のタロットに似て、下位には杖・剣・杯・五芒星などのカードがあるが(つまり、アンバーのトランプは小アルカナのデッキである)上位のカードには絵札のかわりにアンバーの宮廷の主要人物が描かれている。人物のカードを持って集中すると、その人物と精神的なコンタクトを取ることができ(またこれを応用しトランプの相手への「精神攻撃」も可能である)さらには、コンタクトしている者は、相手の助けを借りると相手のいる場所(世界、時空)に「転移」することができる。裏には緑の野原に左向きに後ろ足で立ったユニコーンの姿が描かれており、触るとひんやりと冷たい。
前半シリーズでは、王族がそれぞれ一そろい持っているものと(しかし、何人かの王子・王女は一部もしくはデッキ自体を紛失している)アンバーの宮廷の図書館に何組か予備がある。これらは、宮廷画家で実はパターンの創始者であるドワーキン(→参照)が製作したものだが、前半シリーズ半ば以降や後半シリーズには、他にトランプを製作できる者や、追加の人物が描かれたトランプが登場してくる。これらのトランプは誰にでも使うことができ、また不完全なトランプの模造品はアンバーや混沌の王族以外の魔術師も作ることができるが、「きちんと扱う」ことができるのは”パターン”か”ログルス”のどちらかの試練を経たものだけらしい。
また、皆が持つ「人」が描かれたトランプの他に、ドワーキンやマーリンは様々な「場所」が描かれたトランプを持っており、これは集中すればその場所に行くことができる。そもそも、ドワーキンが描いた絵はそのままトランプの効果を持つように、描かれた場所に転移できる場合がある……。
なお日本ではプレイングカード(小アルカナの変化したもの)を指して「トランプ」と言うが、英語では大小アルカナを含めてこれらを単に「カード」と呼ぶ。「トランプ」とは英語ではゲームにおける「切札」もしくは切札を出すことを示す語である。(これを意識してか、初期の[Z]の翻訳では「トランプ」ではなく「カード魔法」となっていた。)
システム、その他:[Z]系の「トランプ」魔法はこのアンバーのトランプをモチーフにしている、とヘルプファイルにはある(トランプ魔法の「魔法書」は、実際はカードのデッキであると説明にはある)。説明によると、トランプは転移の魔力でありテレポート系の魔法を多く持つが、その転送の魔力を利用して召喚を行なうとのことである。
実際に、テレポート能力はドワーキンの地形を描いた札や、人間トランプ能力(ブランドやジャートなどの何人かが持つ能力)を用いて転移するのをイメージできないこともないが、別に王族とコンタクトできるわけではなく(オベロン等の「アンバーの王族召喚」はそれらしいが)アンバーにはトランプで様々なモンスターを召喚する姿が印象に残っているわけではないので、さほどアンバーシリーズのそれと近いようには見えない。どちらかというと、このトランプ魔法は[Z]の魔法体系の参考になったMagic: the Gatheringのような、カードゲーム(クリーチャーや物品のカードでそれらを召喚して戦う)からの発想ではないかという気がする。
呪文書の名前の[万物のデッキ]はAD&Dの強力なアイテム(D&D3edではアーティファクトになっているほど強力である)であり、3冊目の呪文書Trump of Doom([変]で[運命の切札]、[Z]で[破滅のカード])はアンバー第6巻の題名である。
トランプ魔法のテレポート魔法は、使い勝手がわかると非常に強力な防御手段となる。また、ペット召喚は、ペット使用に関して慣れが必要だが有効な攻撃力を提供する。癖が強いが、熟練すると攻守ともに優れた領域となりうる。
なお、[変]ではペット支援の目的で、他のバリアントではアイテムでしかない「回復モンスター」「スピード・モンスター」がトランプ魔法に入っている。偶然ではあるが、唯一他者を支援する魔法が”アンバーの切札”にのみ可能というのは意味深かもしれない。
物品:[Z]以降、Z系のバリアントには、エゴアイテムとして「(トランプ)の武器」が存在する。トランプと同様の構造が武器に埋め込まれたものとのことで(詳細は不明だが)破邪、探索、麻痺知らず、急速回復、遅消化、因果混乱への耐性、またある確率で悪魔倍打や追加の耐性などを持ち、自動および発動で「テレポート」が起こる。この自動テレポートがうっとうしいという、それだけの理由でトランプ武器を使わない人がいたりするが、{.}という銘を刻めば防げる(呪われると、制御できない自動テレポートになるが)。事実上、破邪だけなので、下級のエゴアイテムとして認識されているが、特に序盤に手に入りやすいわけではなく、使う機会はまれかもしれない。
[Z]ではトランプ魔法に「トランプの刃」があり、このエゴアイテムを自分で製作することができるが、それができる頃にはあまりトランプの武器程度では役に立たなくなっているかもしれない。……と思ったが、[変]では打撃武器が元々ほとんど使えないメイジは、これも[変]から存在する「魔術師の杖」にこのトランプの刃をかけ、耐性を埋めるため、かつ魔力消費を抑えることのできる装備として使うといった使用法もある。
[Z]ではこの高価なエゴアイテムを生産して金貨を増殖することもできるのだが、それができる頃にはやはり金貨も役に立たなくなっているかもしれない。なお[変]ではこの金貨増殖は封じられている。
ドリダー Drider 【敵】
AD&Dの著名なオリジナルモンスターの一種。Greyhawk世界の発音の手引きでは「ドライダー」に近いようである。AD&Dのダークエルフ、ドロウ/ドラウ(→ダークエルフの項目参照)は、だいたい6レベルあたりで、蜘蛛の女神ロルス(ルロス)による「試練」を受ける。試練に成功したものは高レベルのドロウとして女神の強力な使徒となる道が開けるが、失敗した者は、上半身がドロウ、下半身が巨大蜘蛛という恐るべき化け物、ドライダーへと変形(へんぎょう)する。性質はより凶暴になり、ドラウの社会からは外れて互いに憎みあうが、別の形で女神の勢力の強力な兵士となるともいえる。ドライダーはまた、ドロウだった頃のすべての魔術能力と怪物の肉体能力をあわせもつ。
*bandでは、[V]の頃から多数取り入れられているAD&Dオリジナルモンスターと同様、ダークエルフのバリエーションとして加えられている。
→ダークエルフ
トーリン王の金属製スモール・シールド The Small Metal Shield of Thorin 【物品】
トールキン作品のアルダ世界で「トーリン」というと、ほとんどの場合ドワーフの大トーリン・オーケンシールドこと、ドゥリン王家のトーリン2世を指す。かつてエレボール(はなれ山)の王であったスロールの孫であり、黄金竜スマウグ(→参照)に奪われたエレボールの国と財宝を取り戻すために、親類縁者近所の12人のドワーフをひきつれ、魔法使ガンダルフ、ホビットのビルボと共に、『ホビットの冒険』にて旅に出る。
堅実で風格あるが、挙措尊大、「頑固なドワーフ親父」の後代の典型になった人物像である。ことにビルボに向ける態度の変遷や、そのやりとりに人物像は如実に読み取ることができる。ドワーフの身長でありながら、ノルドールの剣オルクリスト(→参照)をふるって活躍する。なお、おそらく領地を失っていることもあって、作中ではトーリンは「王」とは呼ばれていないが、*bandではドゥリン王家の本筋ということで、便宜上「王」がつけられている。
トーリン2世は2012年-の映画版『ホビット』でも当然主役級のひとりとして登場するが、映画的ビジュアルか、原作準拠の年齢設定よりもかなり若く勇ましい、同監督のLotR映画版のアラゴルンやボロミアを思わせる外見の美中年と化している。もっとも、ガンダルフの頑固さに一歩も引かず、同胞以外を容易に信用しない頑固さは原作通りである。周囲に対してしばしば強引や頑迷とも思える様子を露わにする場面は原作よりも強く出ており、かならずしもアラゴルンらのようなヒーロー性や善玉を貫かれたキャラではない。
さて、トーリン王の盾であるが、トーリンの二つ名の「オーケンシールド(樫の盾)」とは、若い頃のアザヌルビザールの激戦(→アゾグ参照)において、盾が壊れたので傍の樫の枝を斧で切り取り、左手に持ちそのまま枝を盾のかわりにして戦ったことに由来する(なお、この名についてトールキンの設定構築の話をすると、ドワーフの共通語名はthorinを含め多くが古エッダのヴェルスパー詩から採られているが、eikinskjaldi(やはり樫の盾の意)というthorinとは別人の小人の名をくっつけたものである。トールキン日本語訳の瀬田訳は、原作者の指示に従い英語は現地語に訳すということですべて和訳されているが、ほぼ英語のこの語については「樫の楯のトーリン」等ではなく「オーケンシールド」というままの表記である)。なのでオーケンシールドは本人の呼び名で苗字の類ではないが、『ホビット』原作の和訳では上記指輪物語追補編のエピソードが訳されるよりも前なので、「オーケンシールド家」と誤訳されている箇所がある。
上記映画版ホビットにも、アザヌルビザールの合戦に関する回想場面で、アゾグに武器を破壊されたトーリンが樫(トンファーのような形状で、腕をカバーできるほどにかなり大きい)を盾として使い続ける場面があり、以後、このトンファー状の樫を加工し、金属クロー付の小手兼盾として持ち歩いている設定となっている。この防具は映画のスタッフ(監督やデザイン、メイク班)ではなく、トーリン役のR・アーミティッジが考案したものである。1作目のラストでトーリンが鷲に助けられる際にこの樫の盾は落ちて失われ、どのみち2作目以降は捕えられたり再武装したりして装備が変わるので、以後はこの樫の盾は登場しない。
これらのエピソードに登場するいわゆるトーリンの樫の楯は、金属の盾ではないので、*bandでは(木製シールドなどというベースアイテムが無いことを考慮しても)わざわざ金属製シールドの物品が加えられているのが逆にかえって不自然にも思える。
故に、筆者としてはもしかすると、[V]製作当時はこの「トーリン」とは、『ホビット』のトーリン2世ではなく、エレボールを離れて灰色山脈に一国を築いたことがある先祖「トーリン1世」を指していたのではないかとも考える。しかし、[O]以降のアーティファクト解説では、「トーリン・オーケンシールド」の盾であると明記されているので、そちらで解釈する他にあるまい。
*bandでは[V]以来、比較的初期に手に入りやすい「酸免疫」の物品として非常に重視されてきた。酸免疫とは、ドワーフの大地の技が「地の元素を支配する」という発想に由来している旨が説明にはある。ちょうどエルフ王スランドゥイルの帽子(→参照)が初期の「テレパシー」物品の代名詞と見なされているのと同じような感じに対称をなしているとも言える。免疫がないと元素攻撃で物品が傷つくのは四元素どれも厄介なものであるが、酸の場合はたとえ二重耐性があったとしても、酸から守られていない物品は傷ついたりするので、酸免疫は非常にありがたく見える。もっと後になって他の上位耐性を揃えなくてはならない段階になっても、トーリン盾をなかなか手放せないという話もよく耳にする。また腕力と耐久にプラスがあるという点も、戦士系には見栄えがする点である。
ドール Dhole 【敵】
上級の独立種族。穴を掘る怪物。H.P.ラヴクラフトのいくつかの作品に登場する、地下に住む巨大なイモムシのようなものと思われる生物。引用元とされる『銀の鍵の門を越えて』においては、地球から遥かに離れたヤディス星に生息する一族で、地下に原初のトンネルを掘り、その星の人々(魔道士ズカウバら)と激しく戦っていた生き物とされる。CoCルールブックなどでは「地球にはいない」ものと定義されているが、しかし、ラヴクラフトの『幻夢郷カダスを求めて』においては、ドリームランドのナスの谷に住んで恐れられており、主人公カーターがこれから逃れる場面も出てくる。
『銀の鍵の門を越えて』の記述に「青白い粘液にまみれた姿が数百フィートにそびえたち」とあるので、CoCルールブックにおいてはそのスケールの巨大なイモムシと定義されている。実際のところ、データ的には普通の生物の「種族」にも関わらず個体能力として神や旧支配者のようなスケールの能力や、数値の代わりに「戦艦をペシャンコにするくらい」「踏まれたら自動的に死亡」といったアバウトな記述がとられている。単に数百フィートという「大きさ」から、旧支配者同様に人智では抵抗の及ばぬ存在とされているようであるが、原作ではヤディスの魔道士らが抵抗していたので疑問がないでもない。また原作ではどうとも言えないが、CoCルールでは知能は(イモムシほどではないにせよ)低いものと定義されている。
*bandでは[Z]系から登場するが、29階のノーマルモンスターであり、CoCはもちろん原作のスケールから考えても、(FRP系モンスターとしてはともかく)ノーマルモンスター全般、またクトゥルフ系としても相等な低階層である。どうもこれは既に[V]からある大長虫や紫ワームなどのデータを改造して作ってしまったことからそうなったようだが、せめてナイトクローラー(→ナイトシェイド)をベースにするとか、なんとかならなかったのかと思わないでもない。壁を掘り進む、酸を吐くなど、紫ワームなどのこれ系のモンスターとよく似た特性である(ブレス以外の呪文などは使って来ない)が、なにげにELDRITCH_HORRORを持っているのがクトゥルフ系としての特色である。
ドルアーガ Druaga 【敵】
出典:RPG風世界観ゲームの草分け『ドルアーガの塔』のボスキャラ。9本の腕と青い体。女神イシターを封印した魔神。『ドルアーガの塔』はイシターの巫女カイを求め全60階の塔を上ってゆくもので、シュメールやバビロニアの神話を一応はベースにしながらもオーソドックスな中世ファンタジー風の雰囲気を持つ「バビロニアン・キャッスル・サーガ」の一作である。
「ドルアーガ」という魔神に関しては、作者・遠藤雅伸氏は某巨大掲示板などで何度か典拠を聞かれると、決まって「バビロニアの神話が出典」と答えていた。しかし、バビロニアはもちろんメソポタミアの神話にそのような典拠が見当たらないことを指摘されたり、さらに直接に文献の典拠まで問い詰められた場合に、遠藤氏がさんざん言葉を濁し詰まった挙句に「名称・形状ともに『D&Dのガイドブックのひとつのバビロン神話編』なる書物の怪しげな記事から引用したので詳細は自分にもわからない」と白状する、というのが某掲示板で何度も繰り返し延々ループする定番の流れとなっていた。(*bandの話題含め、「出典不明」という説に対して「作者がバビロニア神話からの引用と言っていた」という情報が提供されることがあるが、これは上記したように実質は完全に堂々巡りで、何の追加情報にもならない。)
推測するに、この「D&Dのガイドブック」とは、Deities & Demigods又はAD&D1stのLegends & Loreであり、そこに記されているバビロニア神話の項目の「Druaga, Ruler of the Devil World (lesser god)」だと思われ、その挿絵とゲーム内のデザインの特徴(多腕多脚、爬虫類じみた肌、兜のような意匠)も全く同じである。この1stのLegend & Loreは、世界各地の実在の神・英雄を紹介するとしておきながら、日本の神として太平洋戦争の兵士のような格好の「Yamamoto Date」なる神が存在するなど(遠藤氏が某掲示板のやりとりでこのYamamoto Dateに繰り返し言及しているため、この書物のことだと確定する)およそ想像を絶するほど怪しい内容で(一転、相当物で現在手に入る2ndのLe&Loや3ed版のDeities & Demigodsは良きも悪きもまともな本であるので注意)ドルアーガに関しても筆者は調べた限りではこのLe&Lo以外の他の由来などの裏づけが取れない(→ドルジ 等の項目も参照)。まして日本語で読めるものでは、他のシュメールやバビロニア神話関連の書物にはドルアーガという名は見られないため、ネットには、「ドルアーガの塔のボスキャラはバビロニアでなく、インド神話のドゥルガーやイングランド伝承のデルガーを(ナムコが)持ってきたと思われる」といった様々な誤説で定着してしまっている。
これに便乗してか、2017年のナムコのパンフレットでは、遠藤氏も「インドのドゥルガー(カーリー)にデザイナーが角を付けた」という、前記したLe&Loのドルアーガのデザインが明らかにそのまま使用されている事実とは全く異なる説明をしており、実際の典拠は意図的に伏せているようである。調べようと思えば上述の遠藤氏の掲示板発言やその引用は簡単にわかるので、伏せても何も意味はないのだが、わかったところで当時の引用元、正確性、権利問題、創作姿勢などの混沌とした実情をいまさら明らかにしたところで誰も得をしないので、巷に信じられている説に便乗している、といったところの事情が考えられる。
ドルアーガのゲームのリアルタイム、かつ当時のゲームブックや黎明期TRPGなどのマニアには、鈴木直人作のゲームブック『ドルアーガ』3部作が印象深い。(当時のゲーマーには、ドルアーガやギルガメッシュ叙事詩というと、上記ゲームやより後出の作品ではなく、まずメスロンとかタウルスとかゴルルグとかいう名前を思い出す者も多い。)ここではドルアーガは美青年、少年、女性などさまざまな姿をとって出現し、1巻目から顔見せや展開によっては戦闘や傷を負わせる(最終巻まで影響する)仕掛けもあり、繰り返し異なる姿で見え隠れする様はいかにも魔神めいた、例えばムアコックのアリオッチなども思わせるキャラ像である。基本は青年の姿で、戦闘などの過程で上記ゲームのような真の姿をあらわす。ゲームブックのラスボス戦は味気ないものになりがちだが、本作では変身、一定条件(残り耐久など)で繰り出してくる様々な戦法(4連マジックミサイルなど)、また主人公ギル側がとれる対策もかなりの種類があり、工夫が凝らされている。
敵:*bandには、[変]においてパロディ系(と言っておくべきか)の一種である、有名レトロゲーム関連要素の一環として追加された。59階という『ドルアーガの塔』での出現階の通りの階層になっており(*bandは「地下」59階なので厳密には何か違うわけだが)中レベルのユニークモンスターである。一応人型モンスターであるためか、シンボルは'h'である。敵としてはプラズマ攻撃が厄介である。
ドルイド Druid 【敵】【クラス】
出典:*bandの話題に限らず、「ドルイドってメダパニ使ってくる奴だったような」というくだりがあまりにも頻出するが、それは明白に、DQ(『ドラゴンクエスト』シリーズ)にて色違い(同グラフィック)の「きめんどうし」「げんじゅつし」との混同による記憶違いである。DQにおいてドルイドは、催眠系を用いる色違いの同族とは異なる特性を持ち、バギ系列(風)やマヌーサ(霧)の呪文を使用してくる。つまり、DQでもそうだが、RPGのドルイドとは結論から言えば「自然系」の魔法および特殊能力に特化した存在であり、西洋ではポピュラーな語であるものの、日本に翻訳または移植する際に(上記の例を出すまでもなく)その認知度・普及度の危険なまでの低さが、大きな障害となってくる存在でもある。
元来ドルイドとはケルトの司祭であり、「樫の秘儀を知る者」(又は単に、深く知る者等とも読める)を語源とし、ケルトの神々、自然精霊としての神、ルーンなどを司った。かいつまんで言えば世界各地にある原始的魔術体系の一種に過ぎないとも言えるのだが、ケルト文化自体が、かつては北欧から西欧の広い範囲に渡り、最終的にはウェールズなどに残ったが、その秘儀はウィッカ(いわゆる「魔女」系の術のひとつ)、いわゆる「異教系の魔術体系」の代名詞、キリスト教系の魔道と双璧をなす存在として西洋オカルトに食い込んでいる。
が、RPGにおいて「ドルイド」が、「魔法使」「聖職者」とあえて独立した典型クラスのひとつとまでされたのは、単にこうした別体系(自然系)の魔法を使う術師というだけの理由ではない;実在のドルイドの「原始的な祭式とそれを厳重に守護する」という特色から、RPGにおいて「ドルイド」は(直接ケルト神等の司祭でなくとも)非常に極度な「文明否定」の祭式そのもの、あるいは自然信仰者に対して用いられる呼称となっている。これは、単なる自然系神の司祭や自然系の魔法使にとどまらない;例えば「自然神・地母神」などは、農耕や植物の神であることが多いが、ドルイドの自然観は「耕地や園芸=自然世界に手を加えること」そのものを全面的に否定する。またエルフのように美や快いものを守るという生来の「感情」「感覚」や、レンジャーのように破壊に心を痛める「善」「良心」において自然を守るのではなく、「バランス」「調和」そのものを目的とする自然維持を行うのである。「アライメント(秩序混沌・善悪)」によって他のいずれのクラスも行動方向が明確なことが多い海外TRPGにあって、極度の「中立」(AD&D 1st, 2ndのドルイドはアライメントが「真の中立 True Neutral」でなければならない)は非常に特徴的であり、また挑戦的なロール(役割)でもある。
無論、この非常に特異な存在と細部まで寸分たがわぬドルイドが、架空世界において厳密に存在しうるわけではなく、あくまでRPGにおけるドルイドは「これに近い存在」であり、特に現在はかなり広義ではある(D&D3eでは部分的に「中立」であればよい)。例えば現在の例としては、日本の神官(巫女)や中国の道士は「ドルイドではなく自然系プリースト」とされ、アイヌや南北アメリカの自然・動物霊信仰など、より自然信仰に近いイメージをプレイヤーキャラクターとする場合にドルイドが推奨される。よく言われる、トールキン作品に登場する鳥や獣を友とするイスタリ「茶色のラダガスト」は、能力としてはRPGのドルイドそのものだが、実際にその振る舞い自体がそう呼べるかは、なかなか微妙なところがある。
なお、CD&D(緑箱)のドルイドは、クレリックが高レベルに達した時に突如として転職できる存在になっている。そのため、TRPGの解説でドルイドが「クレリックの上級職のひとつ」と説明されている例があるが、ドルイドに転職するとそれまでのクレリックの能力の多くを失うなど、明らかに不自然な点が多く、実際に能力的にも「クレリックから移行する」必然性、関連性はほとんどない;実際のところは、CD&D(日本に入ってきた第四バージョンの頃)のルールは、レベルが上がるごとに新しいルールやクラスを追加する形になっており、プレイングがやや難しいドルイドを、ルールに慣れた(=高レベルキャラクターを持った)プレイヤーにのみ選択させるための措置のようである。従って、ドルイドは本来クレリックの上級職ではなく、全く別のクラスなのである。AD&DやD&D3eにおけるドルイド僧は、攻撃力のある呪文もあるが、それよりもさらに動物召喚や変身などの「特殊能力」がむしろ特色といえるクラスである。
日本のCRPGやFT小説では、上述したように馴染みがなくイメージしにくいため、西欧やケルトをかなり強く意識した世界設定以外では、直接あるいは間接的にもドルイド的な描写はかなり少ない。自然系術師や特殊能力者は「精霊使い」「巫女」などの描写になっていることが多い。能力的にドルイドに近いキャラクターとしてはこれらの精霊使いに探すことができるが、合致するものは決して多くない。格闘ゲームだが『サムライスピリッツ』シリーズの自然の巫女であるナコルルやミナ(いずれも動物を従えていることからも)がTRPGのドルイドの引き合いに出されることがよくある。また、かなり意外なことだが、上述した有名RPGのDQシリーズのうち、DQ5の主人公(勇者ではなく、勇者に対しては狂言回し的立場で、同シリーズの僧侶系に近い能力で調整されている)が、D&D系のドルイドのアーキタイプにきわめて近い能力を持っている(僧侶魔法、バギ系(自然系攻撃)魔法、モンスターを従える、怪物変身や召喚を思わせる杖の発動のドラゴラム等)。
クラス:*bandにおいては、[O]やToME1.0などで、独立した魔法体系とクラスとしてドルイドが追加されるのもポピュラーである。また、レンジャーの魔法は[V]では魔法使系であるが、ドルイドが存在するバリアントでは、いわゆる自然魔法が共通と見なされて、レンジャーの魔法はドルイドと同じ呪文書であることが多い(本来はレンジャーとドルイドのメンタリティはかなり異なるが)。また、ドルイドはD&D系のルールでは金属の武器防具を用いないことから、素手戦闘に長けていると見なされていることも多く、また東洋系の術師から修行僧と混同されるためでもあるのか、[O]のドルイドはなぜか[Z]の修行僧によく似たクラスとなっている。
[Z]系では、魔法体系に「自然」を入れたプリーストや、[O]のものに相当するともいえる自然修行僧で表現できると考えられてか、ドルイドという独立したクラスは加えられていない。
敵:[V]以来ドルイドは13階の低階層の標準的な敵として登場する。火炎・電撃や状態変化の魔法などいかにもであるが、モンスターの思い出には「自然との調和をめざす修行僧(mystic)だ。オーム」などと書かれているのでやはり東洋の修行僧と混同されている可能性が高い。また、ドルイド僧は中立でなくてはならないにも関わらず悪のダークエルフにドルイド僧がいるのは、彼らが蜘蛛の女神ロルスの祝福を受けて、蜘蛛を操れるという卑怯な理由である。使ってくる魔法も13階のドルイド僧とは似ても似つかず怪しげである。
→レンジャー →修行僧
ドル=グルドゥア Dol-Guldur 【その他】
アルダ第三紀、闇の森の南部にあったサウロン軍の砦。Dol-Guldurとは「暗黒の呪魔の丘」の意となる(訳では「妖術師の丘」とされる)。サウロンの別の姿である「ドル=グルドゥアの死霊術師」に関しては別エントリーを設ける。
最後の同盟(→イシルドゥア)でサウロンが滅びた(と思われていた)後、1000年ほど経った第三紀の10世紀頃、闇の森の南部に死霊術師が出現し、闇の生物が集まり、森全体に影が立ちこめはじめた。(『ホビットの冒険』の時点ではこのあたりの地に死霊術師がいるとはいっても、細部や砦の名前は出てこないが、『指輪物語』で設定されたのがドル=グルドゥアである。)賢者らはこの死霊術師を、かつてのサウロン軍の残党、そしておそらくはその大きな力から、サウロン滅亡後も生き残っているナズグルの一体と考えていた。しかし、一念発起したガンダルフが2度に渡り単身でこの砦の中に乗り込んで探索を行い(後の方の時に地下に囚われていたドワーフのスラインに出会ったのが『ホビットの冒険』の発端となるが)その死霊術師がサウロン自身の残存思念であることを見出した。一つの指輪を奪われて大きく弱体化していたサウロンは、壊滅したモルドールではなく、人間の王国や白の会議の目の届きにくい深い森(スランドゥイル王国が北にはあるのだが)に潜伏して力を蓄えていたものと考えられる。
『ホビットの冒険』の直後、賢者ら(白の会議)は軍を起こし、サウロンとその軍を闇の森から追い出した。しかし、どのみちかなり力を取り戻していたサウロンはこの後、モルドールに戻ることになる。また、その後も指輪戦争までこの土地には闇の生物の横行などは絶えることがなく、依然としてサウロン軍の前線基地のひとつであったようで、指輪戦争時もドル=グルドゥアを本拠として他のエルダール、ドワーフや人間の国を攻撃している。指輪戦争の後には、この闇の勢力の生き残りはロリエンのエルダール王ケレボルンと北のエルフ王スランドゥイルの軍が掃討し、城砦そのものはガラドリエルが叩き壊した(→ネンヤ)。
死霊術師自身はナズグルではなかったわけだが、このドル=グルドゥアの担当が東方の影ハムール(→カムル)と、その補佐にもう一人のナズグルがおり、実質の軍司令官およびサウロン不在時の指揮官であったと、トールキンのUnfinished Talesにある。
ICE社のTRPG用設定では、ドル=グルドゥアはサウロンが最初から築いたものではなく、かなり昔にドワーフが築いたが廃棄された城砦という設定である。城壁だけでなく、元々が火山であったところに穿たれている。またカムルの補佐のナズグルが第七位のレディ・アドゥナフェルであったこと、かの「サウロンの口」もこの地に赴任しており(モルドール滅亡時の足跡である)その交錯する指揮系統から、城砦内の配置、見取り図などきわめて詳細に設定されている。また、ガンダルフがドル=グルドゥアに潜入した足跡に対してもほぼ小説といえる分量で解説されており、闇の森に住んでいたラダガストの助けをかりた点、逃走中にカムルと対峙しあしらう場面など詳細に述べられている。侵入するガンダルフも、同格のマイアの出現を洞察するサウロンも、臆病といえるほど慎重な駆け引きがすべての選択と行動が逐一述べられており、*bandのイメージや、ICE設定に対してしばしば未見者に噂されるパワーRPG設定とはかけ離れていることを断っておく必要があるだろう(MERPのロールマスター自体が殺伐きわまりないルールなので何の役にも立たないが)。
2012年-の映画版『ホビット』三部作でも、1作目から闇の拠点のひとつとして登場するが、原作やICE設定とはかなり異なる経緯となっている。映画メイキングによると、元はヌメノールの技術(アルノールかゴンドールのドゥネダインらが建造した)で造られたという設定で造形されている。森に異常を感じたラダガストが原因を探るため廃墟に乗り込み、アングマールの魔王(この映画では、倒されてルダウア地方に封印されていることになっている)の剣を持ち帰り、ガンダルフが不穏さに気付いて潜入する。スラインにも出会うが(原作と異なり、スラインはこの時点、つまり『ホビット』同時期には生存していたことになっている)死霊術師サウロンとナズグル全員(ここは原作とは異なる)、アゾグらのオークの軍勢が集結しており、ガンダルフも囚われる。この映画では、サウロンはドワーフらのエレボールを占領するための拠点としている(原作では、五軍の戦いが発生したのは霧降り山脈の大ゴブリンが倒されたためだが、この映画では大ゴブリンもアゾグから依頼されてドワーフを捕えている)。ガンダルフの助力に白の会議が集結し、サウロンとナズグルらを東に追い払う。ここでガラドリエルが先頭でサウロンと直接対峙するのは、原作で戦後にドル=グルドゥアを破壊したのがガラドリエルであることを意識した描写かもしれない。
ToMEでは古くから「ドル=グルドゥア」が闇の森にあたる位置にダンジョンとして存在する。さらには、ドル=グルドゥアの最深層に至り死霊術師を倒すことは、開始時から与えられるクエストになっているが、ドル=グルドゥア自体はメインダンジョン([V]の1−99階が分離されたもの、ということになっている塚山、モルドール、アングバンドなど)ではない。
→ドル=グルドゥアの死霊術師
→カムル →アドゥナフェル →サウロンの口
ドルジ Druj 【敵】
ペルシアの「生命を害するもの」を指す語・悪霊から名が採られているが、ここで言及する「アンデッドモンスターのドルジ」は、クラシカルD&Dが、インフレしたゲームに強敵を捏造するために(ヴァンパイア程度はプレイヤーキャラクターが10レベル前後になると下っ端になってしまっているので)設定した実質オリジナルモンスターの一種を指す。ドルジと同列とされるアンデッド(スピリット)には。他にレヴナント(→参照 これは原点がある)、オーディックがある。(なお、新和版クラシカルD&Dの和訳(緑箱)では「ドルージュ」となっている。)
スピリットはどれも猛毒を帯びており、存在自体が自然の生命に対して致命的である。またドルジは骸骨の部分、レブナントは死体といった姿をとっているが、実際は極度に霊的・魔法的な物体であり、肉体を自由に再構成したり分身を作り出して別々に行動させることもできる。下級の呪文やクレリックの退魔もすんなりとは効かないなど、いかにも苦心してプレイヤーキャラクターのインフレに対抗した能力を持っている。ドルジは形によって頭蓋骨、目玉、手骨の3種類があるスピリットだが、リッチもしくは「エントロピーの神」(ここではムアコックの混沌の神の別名ではなく、死に関係した神々を指す)の指令下にある場合のみ、頭蓋骨と、目玉と手骨が二つずつ組み合わさった「がったいモンスター」として出現することがある。
なおまったく余談だが、ペルシアのゾロアスターには偽りの女神ドルグDrugの別名にこのドルジ、もしくはドラウガDraugaがある。(このDraugaがいわゆるアスラ神族としてインドに渡りドゥルガーになったと考えられるが、AD&Dがなぜかバビロニアの神として加えている「ドルアーガ(→参照)」もこれが原型なのかは、裏づけが取れないので推測できない。)また、ムアコックの『エルリック』シリーズに登場する、猟犬や馬を操る古代種族の死霊(ゾンビ)、「ダルジ」一族がアンデッドの「ドルジ」の元である、という主張も巷でしばしば見かけるが、これはDharjであって、Drujの少なくとも直接の原典ではない。
*bandでは頭蓋、目、手のドルジがそれぞれ深階層の非常に危険なアンデッドとして登場する。移動することはないが、かなりのスピードで危険な魔法攻撃を放ってくる。目と頭蓋のドルジは攻撃の他にアンデッド召喚も持っている。元のD&Dほど多彩な能力、毒などは持っていないが、耐久力も意外にあるので特に集団だと非常に厄介な敵である。特にクエストなど、感知の重要さを知らしめてくる敵である。
ドル=ローミンのドラゴン・ヘルム The _DRAGON_ Helm of Dor-Lomin 【物品】
出典:アルダ第一紀(伝説時代)の竜殺しの英雄、トゥーリン・トゥランバールの兜で、彼の先祖ハドール王家の伝説の品。
『クゥエンタ・シルマリルリオン』にも若干の記述があるのだが、Unfinished Tales(『終わらざりし物語』の「ナルン・イ・ヒン・フーリン」およびその注釈)に詳しい説明がある。それによると、この兜は元々当時のドワーフの最大の(というよりもまともに名前のある数少ない)鍛冶師である、ノグロド王国のテルハールの手によるもので(テルハールはナルシルやアングリストを作った「刀鍛冶」であるはずだが、ここでは兜である)もうひとつのドワーフの王国ベレゴストの王、アザガルのために作られたものだった。ちょうど当時、アングバンドから竜、つまりはその祖であるグラウルングが現れた頃で、竜を宿敵とするドワーフとしてはそれに「挑戦する」という意味で、この兜は前立てにグラウルングのような長龍を模した金の飾りを据え付けた。他にも鋼の鉢に金飾りと魔法のルーンが刻まれ、あらゆる刃・矢・魔法を跳ね返す力があった。
しかし、アザガルはあるとき援助を受けた御礼に、フェアノールの長子マエズロスにこの兜を譲ってしまい、折角のこの兜がなかったためなのか後にまさにそのグラウルングに殺されてしまう(→ドワーフ王アザガルのマンゴーシュ参照)。この兜の方は、マエズロスから親友であるフィンゴルフィンの長子フィンゴンに譲られ、フィンゴンは同盟者のうち重装でこの兜を使いこなせる唯一の者、人間の王ハドールに贈った。ついでその孫であるドル=ローミンの王フーリン、息子トゥーリンへと受け継がれる。が、放浪生活を続けたトゥーリンがどうこの兜を受け継ぎ、所持したかはいくつかの稿があり、はっきりしない部分がある。例えば、『クゥエンタ・シルマリルリオン』には、ドワーフの対竜火の仮面と、トゥーリンもナルゴスロンドで同じドワーフの面をかぶっていたとあるが、これが「ドワーフ造り」のこの兜と同じものなのかは断定できない。
物品:[V]ではベースアイテムを「鉄ヘルメット」としてデータ化されている物品であり、これでも設定に沿ってはいるが、[Z]系で晴れて「ドラゴン・ヘルム」をベースとする物品となった。基本元素耐性、盲目耐性にテレパシー、戦士系の能力各+4という相当強力なアーティファクトである。[V]の場合も含めて重さが馬鹿にならないため、戦士系以外は圧迫されるであろうが、かなり有用な品のひとつである。
ドレイク Drake 【敵】
drakeはドラゴンの語源drac-に近い形の古語であり、古英語の文献にFiredrakeという形でしばしば見られるため、特にイギリスに住む火竜とみなされる場合もある(ちなみに雄鴨やカモノハシの俗語のこともある)。DQシリーズなどに登場するドラキー(恐らくdrakie)はこのdrakeの語尾を妖精名称風に変化させたものだろう。
トールキンは、竜はdragonとしているが、これをさらに、「火を吹く竜=火炎竜=firedrake」「爬虫類のように冷血の火を吹かない竜=冷血竜=colddrake」と大きく二つに分類する際に用いている。(ICE社のMERPのRPGやTCGなどでは「冷血竜」を、冷気や毒を吐くものを含めたりと拡大解釈している場合もある。)
ドレイクと同様、ワイアームwyrmも古語であるわけだが、AD&Dなどでは、ワイアームを偉大なドラゴンの総称とするが(→ワイアームの項目参照)ドレイクの方は、蜥蜴型の(しばしば翼がない)ドラゴン亜種の「種類」を指す語と位置づけている。しかし和製RPGなどではこれとは逆に、ドレイクの方をドラゴンの中でも偉大な古いものを指すとし(エンシェント・ドラゴン=ドレイクなど)、ワイアーム(ワーム)の方は蛇型のドラゴンの亜種、と位置づけることもある。*bandのプレイヤーらの話題の中で、ときどきワイアームとドレイクが逆転したような発言が見られたり、「なぜ逆なのか」という疑問を抱くのが見られたりするが、和製RPGの定義の方に慣れ親しんでいるプレイヤーが少なからぬためであると思われる。
*bandに[V]の頃から存在するドレイクが各元素や属性のものが揃っているのは、おそらく*bandの元ネタのひとつであるICE社のRPG、「ロールマスター」の設定に由来し、エレメンタル生物のうち爬虫類型のものであるためと考えられる。すなわち、生物というより、霊的存在に近いような(精霊的な)竜を示しているのではないかとおぼしき節があり、古語であるドレイクの、また別の解釈と言える。(ただし、MERPに登場するファイア・ドレイク『イタンガスト』や北欧のヘルドレイク『ニーズホッグ』などは除く。)しかし、ロールマスターにおける元素や属性と、*bandのドレイクは一致していないものも見られる。
→ドラゴン →イタンガスト →ニーズホッグ
トロル Troll 【敵】
出典:世界各地の、相互に接触を持っていないはずの数々の文明に、「知恵を持つ蛇」と並んで共通して見られる根源的な畏怖のイメージがある。額に「角」を持ち、光を避け地下に住み、切り取られた手足がなお恐るべき威力をもって生き長らえ・再生する力を持ち、他のあらゆる生物(主に人間)の肉・臓腑・血(ひいては命、魂)を糧とする。単なる「巨人」よりさらに生々しい恐怖の具象、人間の潜在意識の根底に潜む「地底の鬼」(巌の者、柱の男)がそれである。そのイメージの根源は、現代人に連なる新人(クロマニョン人)が、個体能力では圧倒的であった旧人(ネアンデルタール人、洞窟人)に脅かされていた祖先の記憶に遡るといったおぼろげな説から、単に異邦人(漂流した異人種など)への畏怖が膨れ上がったに過ぎないなどの諸説があり、定かではない。
何にせよ、スカンジナビアではこの破壊の権化を、いつしか「トロル」と呼んでいた。北欧神話のうち古い半島端の説話では、神と同列かそれ以上でパンテノンには数えられていない強大な巨人が概してトロルと冠されており、要は巨大な自然力の象徴である。
しかし、こうした「自然霊」に対する漠然とした語でもあるトロルは、特に時代が下ると他の精霊神・妖精等にもみられるように、自然の妖精・小人の広義の名称のような形でも用いられ、東欧では北国独自の小妖精となり(ニーベルング的な小型の魔法のドワーフや、子供に対して「トロルが不幸を食べてくれる」といった説話など)一方、大陸の俗伝では小物の悪玉妖精のことが多く、ことに英語の語義では悪の巨人を指すニュアンスが非常に強い(これは島にはケルトを経由して原型に近い意味が伝わったためとも言われる)。
ゆえに、頻出する「ムーミントロールもRPGのトロルの一種」という訳知り顔の説明は、決して妥当とは言えない。ヤンソン女史の言及するところの小さなトロールsmatrollenを含め、上記したように北欧のトロールは人間以外の「魔物」「妖精」に対する最も古い総称で呼んだようなものであり(作中では全く異なる種族、例えば「飛行おに trollkarlen(妖術の魔物/魔術師の意)」なども多くが一種のトロールである)RPGのような巨人を特定する英語とは、指しているものが明らかに別と言えるだろう。なお、かの『トトロ』もトロルの訛りだが、古い妖精の呼称に近いとみてよい。
つまるところ、トロルも非常に広義の語であり、エルフ同様、RPGのトロルは結局はトールキンの描写したものがその姿を規定しているということになる。トールキンが『ホビットの冒険』で描いたトロルは、日光に当たると石になり、橋の手前に住む(橋を守るトロルの民話としては、北欧民話の『がらがらどん』が有名であり、日本ではトールキン訳者でもある瀬田貞二訳の絵本が名高い)という、悪鬼としての伝承にきわめて忠実なものである。アルダ世界のトロル(これは共通語訳で、エルフ語ではトログと呼ぶ)は、かつて神話時代にモルゴスがエントをねじまげて作り上げた生物とほのめかされ(木の鬚の台詞などの中に出てくるが、はっきりした根拠はない)幾つかの亜種族が記述されている。第三紀にサウロンが作り上げた、さらに屈強で日光も恐れない亜種がオログ・ハイ(→オログ)である。
D&D系でのトロル、すなわち現在の「RPGにおけるトロル」の原型は、おおむねトールキンの描いた低知能の中レベルの巨人である。ただし、日光で石化することはなく、再生能力があることが最大の特徴である(全身をばらしても四肢が寄り合わさって再生できるほどの力がある)。D&D系でのこれらの直接の姿(長い手足と鼻、緑の肌)や再生能力、炎に弱いなどは、直接はポール・アンダースンの著作に由来するといわれる。
... みたところ、8フィート(註:240cm)、あるいは、それ以上はあるにちがいない。... 毛のない緑色の肌が体のうえで波うち、頭部には耳まで裂けた口と1ヤード(註:91cm)も突出した鼻がついていて、落ちくぼんだ眼は、黒い眼窩がプールのように穴をあけ、瞳孔も白眼もみえず、松明の光を吸い込んでしまうだけで、ひとかけらも反射しなかった。
... 巨大な緑のクモのように、大男の切断された手首が、指で這いはじめる。盛り土した床をこえ、丸太につきあたって鉤爪をひっかけて這いのぼり、また降りて這いすすみ、腕の一端へたどりついた。そして、大男の手首は、そこにぴたりと癒着した。...
... アリアノラが大声で叫んで、大男の背に松明を押し当てた。大男は、唸りながら、四人めがけてつかみかかった。その背にできた黒い傷跡は、癒っていなかった。ホルガーは、新しい発見を知って、おもわず叫んだ。
「火だ。火をつけろ。この怪物を焼きころすのだ」
(ポール・アンダースン、豊田有恒訳、『魔界の紋章』)
このアンダースンのトロルの再生の描写は、海外のそれを中心とするFT関連の説明書に載っていたり、D&D系の小説にほとんど同じ描写が出てきたり、まったくそれと知らずにそれらから日本のFT関連の書物やサイト等に孫引きされている例も散見される。
一方、T&T(トンネルズ・アンド・トロールズ)というTRPGがあるが、D&Dをパロディ化したなげやりな題名にそぐわず、題名のトロールの扱いに関してはいいかげんではなく、トールキンや伝承に忠実な、日光での石化や、一度だけ何らかの魔法をかける能力などがある。T&Tのタイトルにもなっているメイン敵(味方としても使用可能なことも多い)といえるトロールは、メインのイラストレーターであるリズ・ダンフォースの描くものなどは、姿としてはD&DやLotR(映画含む)のような姿とは大きく異なり、いわゆる「小鬼」「小悪魔」(ただし、サイズ自体は人間より遥かに大きいものが多い)を思わせる姿で、緑や灰などの肌に、巨大な耳をしているものが多い。石化するケイ素生物としての真のトロールの他、他の人型怪物との中間的なものなど多種が設定されている。他のTRPGでは『ルーンクエスト』の世界グローランサがオリジナルのトロゥルの設定の細かさで有名である。
なお付け加えておくと、D&Dに発するRPGでは、筋肉質で頑健な「オーガ」に対して、トロルは節くれだった手足をもつ、緑の「細長い」巨人であることが多い。アンダースン著作にも通じるこうした姿の、大本の根拠は不明だが、語源のトロルが樹木などの自然霊に近いことと、トールキンのトロルがエントから発していることを意識してのものかもしれない。しかし映画版LotRで活躍するトロルは、ずんぐりとして屈強なむしろRPGの「オーガ」の方に近いイメージである。根源的な食人鬼のイメージならば、こちらの解釈も自然である。映画FotRのモリアの場面で暴れまわるトロルは、「人間より遥かに屈強な生物を、人間の武力で制圧することがいかに困難か(味方側に人間離れした活躍をする者が複数いたとしても、である)」を当然の如くすべてのRPGファンの眼前に突きつけてくる。
敵:UNIX版の古くから、オリジナルRogueの数知れないプレイヤー達にとって、目にするテキスト内の':'(食料)の文字が条件反射的な幸福を呼び起こすのと同様、'T'の文字はまさしく恐怖の象徴であった。オリジナルRogueはトロールが登場するレベルまでは、比較的パワーゲームとして進行するのだが、トロールは突如バランスを越えて極端な強敵として立ち塞がる。ここから進めるには力まかせは役に立たず、どうあってもアイテムを使用するなどの工夫が必要となってくる。ちょうどゲーム進行に慣れてある程度まで潜れるようになった頃に、プレイヤーに知識・技量を要求するようになるわけで、オリジナルRogueの絶妙無比なバランスを実現している一因といえる。
以後のRoguelikeにも登場するトロルは、流石にRogueほどのインパクトを持たせることはできていないが、NetHackに幾種類か登場するトロルは、残った死体を食べつくすか缶詰にでもしない限りは何度でも蘇ってくるというD&D系(HDやACなどのデータもそのままなのだが)を踏襲している。強さ自体はさほどでもないため、印象は薄いかもしれない。
*bandでは、強弱さまざまな種類のトロルが登場し、光に弱いものから、トールキン通り耐性を持つオログ、またハーフトロルやアルグロス系などまでいる。いずれもほぼ必ず集団、多くはぎっしりと詰まったピットで登場するので、まともに戦えばかなりの長期戦となり、光のロッドをはじめ物資を用意して修練(経験や物品集め)にのぞむことになる。ともあれ、オークと並んで*bandにおける「主要な敵」のひとつであり、前半から中盤にかけて普遍的に戦い続けることになる。
→エント →オログ →森トロル →ハーフトロル
→ウリク →バート、ビル、トム →ログログ
ドローレム Drolem 【敵】
ドラゴンの形状をしたゴーレム、というのは起源を考えてもあまり意味がないほどありふれたアイディアで、特にカバラのゴーレムにかけてあるというわけでもなくとも(そこまで遡って取材されたとも思えない作品において、また実際にゴーレムの名も持たない)ドラゴンの形状をしたコンストラクトモンスターは特にガーディアンとして頻出する。
しかし、クラシカルD&Dのコンパニオンルール(上位レベル用ルールブックのひとつ)にデータ化されている「ドローレム」に関しては(このレベルのルールのモンスターの多くに言えることであるが)プレイヤーキャラクターの能力インフレに対応した無理矢理な強さのモンスターの一体であり、非常に強力なものを特定する。このゲームにおいては「ゴーレム」も例外なく強力無比な存在のみであること、それとドラゴンとの合成となると言うに及ぶやである。ドラゴンの形状をしているものと、ドラゴンの骸骨のようなものの2種類の姿がある。(なお、D&Dシリーズの現バージョン、3e以降では「ドローレム」はドラゴンフレッシュ・ゴーレムの別名となり、これは上級レベル(若めの成体竜くらい)のモンスターで、さほど極端に強力なわけではない。)
*bandに登場するものはクラシカルD&Dのものとほぼ同様に、ワイアーム級の能力を持ち、毒ガスのブレスの攻撃を行ってくる。飛び道具攻撃があるのはコンストラクトであることの表現(何かの弾丸の仕掛け)と思われる。DRAGON属性があるので竜倍打のスレイが有効なのがせめてもの救いであろう。
ドワーキン Dworkin Barimen 【敵】
ドワーキン・バリメン。アンバーの宮廷画家。[Z]和訳から「線の巨匠」という呼び名が付け加えられているが、原作のMaster of Linesは多分にそう和訳できる以外にも深い含みのある語である。
思い出やアーティファクト解説の範囲内のネタバレでまとめると、多元宇宙そのものの「狂言回し」であり、創造に関わったひとりである。元は混沌から生まれ出た存在のひとつ(混沌の王族とも言えるのだが、定まった形態どころか各自の時間も均一に持っていなかった当時である)であったが、混沌の宮廷の淵で秩序のユニコーンと出会い、その首にかかった審判の宝石に「パターンの啓示」を見出し、宮廷から逃亡して、”パターン”を描く。その基本のパターンからアンバーが生じ、秩序が存在を開始し、多元宇宙が生じた。同時に、彼自身もパターンが具現化し人間のような姿をとった。とはいえ、混沌のその姿は以後も意識・無意識によって自在に変化し得、アンバーの王族らの前では小柄な背の曲がった老人の姿をとる。
アンバーと混沌の真理に近づきすぎたためか、あるいは最初から近すぎるためか、コーウィンらが覚えている頃からすでに狂人と化しているが、そのなすこと、例えば描く線・画のすべてが、混沌やパターンの魔法の効果を及ぼす。宮廷人の描かれた”アンバーのトランプ”を作ったのも彼であり、絵を描けば実際にその風景の場所に通じる。そしてパターンのあらゆる魔術と原理を知る。色々な意味で危険すぎるため、前半シリーズではオベロンによって基本のパターンのすぐそばに幽閉されている(他の王族らは彼を単なる宮廷画家で、行方不明だと思っていた)。後半シリーズでは、アンバーの新王宮の相談役をつとめている。
*bandでは[Z]以降、56階に登場する。混沌の貴族と同様のシェイプチェンジャーのシンボルとその能力が印象深いが、能力的にはさほど危険ではなく、またアンバー作品での重要性に対して階層も低く、あっさりと殺されすぎるような気もする。が、結局のところ、このモンスターとしてのドワーキンを倒すということは、姿かたちも、その場に存在することすらも覚束ないドワーキンという存在の「あくまで一面を、その場から追い払った」(あるいは自分から消えうせた)ことでしかないのかもしれない。
しかし、どちらにせよ、倒される時には例の厄介なアンバーの王族の血の呪いをかけてくる。他の王族と並び、細心の注意を払いなおかつ排除せねばならない。また、倒すと低確率で「★審判の宝石」を落とす。
→パターン →トランプ →審判の宝石
ドワーフ Dwarf 【種族】
出典:ドワーフは北欧の「黒妖精」を現すドヴェルグやそのケルトでの形デルガーに由来する語で、それらの神話伝承上での詳細や役割は専門のサイトに譲るが、概要としては地下に住む小人で神をしのぐ鍛造技術を有し、自然現象やその擬人化が変化した神や巨人とは明らかに異質の根源を持つ。この「地下の小人」の神話的原点に関しては、例によって地下に住むネアンデルタール人への先祖の記憶であるという無茶で眉唾物の説から、異種族(おそらく、北欧のノルマン人に比べれば小柄な場合が多かったであろう)の持つ異なる技術に由来するといった説、もしくは、先天的ないし後天的ハンデを負った人々が高度な職能を身に付けて、集団を形成し、やがてその集団と卓越した技術に対する驚異が変化したといった説がある。ともあれ、中世から近代以降の「小人・妖精」説話では、ドワーフの姿は他の妖精等とも混合しながら、原型を矮小に残す「鉱工業・職能」をもつ小人と位置づけられるあたりに収まったが、一般的にはdwarfは「小人」の最も広範な語のひとつとなっている。
しかし、言うまでもなく、RPGにおける「ドワーフ」の原型はトールキン作品におけるそれである。もはや説明するまでもないが概説すると、人間より一回り小柄でこわい髭を生やし、容姿・性質ともに地味で堅実な種族である。シンダリン語ではナウグリム(発育しきらない者)・ゴンヒアリム(石の工匠)といった勝手な名で呼ばれるが、彼ら自身の秘密の言葉(クズドゥル)では「カザド」と自称する。(クズドゥル語や名前に対しては別エントリーを設ける。)
トールキン作品におけるドワーフ(カザド)は、クゥエンディ(エルフ)やアタニ(人間)の遠縁のヒューマノイドではなく、根本的に異なる命をもつ種族である。クゥエンディやアタニのように「至上神の手によって作られた」存在ではなく、その使徒階位にあたるヴァラの一体である、工人アウレ(→鍛冶の司アウレのウォーハンマー参照)が独断で作った種族である。ヴァラの中でも探究心が最も強かったであろうアウレは、クゥエンディやアタニが目覚める時が待ちきれず、言葉を話す種族を自分で作ったのであった。この性急さを至上神にも諌められ、結局ドワーフは至上神が改めて生命を与え、クゥエンディと同じ時代に目覚めることになった。アルダのドワーフが鍛冶の技に優れているのは、アウレが自分に似せて作ったためと思われ(「普通の人間」が目覚める前なので、アウレはいわゆる平均的な人間の姿や能力は知らなかったわけである)また、不死の種族ではないにも関わらずハイエルフにひけを取らないほどの生命力・耐久力を持っている(なお、寿命は200-400歳であるが寿命直前まで衰えない)のは、メルコール(モルゴス)に支配されていた当時の中つ国において、強靭に生き延びることをアウレが期待したためである。ドワーフの父祖は「不死のドゥリン」をはじめ7人であるが、詳細は不死ドゥリンおよびドゥリンの指輪の項目に譲る。
トールキンは、『ホビットの冒険』に登場するドゥリン一族をはじめとする自作品のドワーフらを、近代の妖精説話や童話、ディズニーアニメなどと厳然として区別し、古来の神話や伝承の雰囲気を反映させようとした。その中には、謹厳実直といった点ばかりでなく、宝物によっては非常に貪欲になり正体すら失う(妖精説話のようなお人よしではない)といった点も含まれている。なお、トールキンはドワーフの表記に関して、単なるミスで"dwarves"というものを用いてしまったことがあり(正しくはdwarfsである)、現在の英語で用いられるdwarfsは妖精物語で卑小化したものを差し、dwarvesはドゥリン一族等の古風な種族だけを指す、と強引にこじつけてしまったことがある(Hob.原語版序文)。
トールキンに発して他のRPGでも踏襲されている「エルフとドワーフの不仲」の理由として、最も大きいとされるのが、はるかな第一紀の伝説時代にシンゴル(→灰色マント王シンゴルのクローク)が大宝玉シルマリルをめぐってノグロドのドワーフと起こした争いである。そのため、シンダール(シンゴルの縁者の灰色エルフ)であるケレボルンやスランドゥイルといった現在のエルダール王らにはドワーフに確執がある。しかし、他にも単なる種族的な性格の不一致や、エレギオン(第二紀のノルドールの都)がサウロンに滅ぼされた際にモリアのドワーフが援助しなかったといった事情(ドワーフは種族的理由(→アゾグ)でオーク等は憎んでいるが「自由の民の勢力」として積極的に冥王自身と戦うわけではない)など、様々な事情が重なっている。(それでも、ノルドールであるガラドリエルなどは、ドワーフにはかなり好意的である。)一方で人間やホビットとは、頻繁に採掘・工芸品の交易・交流を行ったが、しばしば人間はドワーフの技術や富に対して嫉妬し、冷淡な姿勢をとることも多かったようである(→スカサ)。ドゥリン一族以外のドワーフをはじめとして、ドワーフという種族に不明な点が多いのは、彼らの秘密主義と共に、必ずしも人間と友好でなかった点も大きい。
さて、RPG、およびその影響の強いファンタジー作品におけるドワーフは、種族的特徴はおおむねトールキンに準じている。種族として扱われない場合も、トールキンの堅実なドワーフに従って非常な「正義」のモンスターであることが多い。(悪事も行う「黒ドワーフ」としてデュワーやデルガーをデータ化しているRPGは非常に数少ないが、冒頭で述べた通り、実はこれらの方が名前としては元である。なおトールキンは、神話のドワーフや黒小人を強く重ねているものの、語源ともいわれる北欧の「黒妖精」に対応するものとしては、ドワーフではなく、「暗闇のエルフ」アヴァリや、地下を選んだエルダールのエオルらを設定していることに注意されたい。)
海外、および非常に数少ない日本のファンタジーにおいて、種族の概要だけでなく、具体的描写の点においても、トールキンを律儀に忠実になぞろうとしていることもある。だが、それ以上に海外RPGなどで目立つのが、エルフや人間の中にあって「コミカルな役割」を担当するというものである。これは、エルフやアンバライト以上に「人間と異質な種族」は、みずからが主役というより、世界観自体を大幅に深める強い彩りの役目を果たす側面が大きいためと思われる(日本に優れたデミヒューマンの描写が皆無なのは、そうした立ち位置、ひいてはファンタジー観というもので地に足をつけることができない面が大きい)。ことに、『ホビットの冒険』の真面目ながらもどこかユーモラスなドワーフたち、特にリーダーであるトーリン・オーケンシールドの「大音声を発する豪快な頑固親父像」が、ドワーフ全体のステロタイプと化している部分がある。これら「RPG的ドワーフ像」は、いまやひとつの典型として定着しているものの、トールキンの目標とした像(多くのドワーフは物静かで上品ですらある)とは大きく異なることは留意しておく必要がある。また、こうしたRPG的ステロタイプの影響の強い映画版LotRのドワーフの描写に関しては、ギムリ(→ギムリの鉄鋲底の靴)の項目に譲る。
LotR映画のギムリらに続いて、2012年-の映画『ホビット』3部作にはさらに多くのドワーフとその描写が存在する。原作『ホビットの冒険』には、ビルボやガンダルフと旅する、実に13人のドワーフが登場するが、『ホビット』3部作が映画化されるにあたって、「ギムリが13人いるような映画になっては困る」という懸念の声はファンの各所から上がっていたが、現に映画メイキングでは(実際にギムリ13人は避けるという表現で)ドワーフ個々の個性づけにはかなり苦心した旨が語られている。(映画LotRの時点でも、エルロンドの会議でギムリ以外のドワーフも数人登場するが、いかにもギムリの類似品であり、まだ映画ホビットほど個性付されてはいない。)実際のところ、トールキンの原作でも13人全員の個性づけがされているわけではなく、リーダーのトーリンとお笑い(和み)役のボンブール、あとは書いているうちに特徴が出てきたとおぼしき(力の強いドーリ、目ざといバーリンなど)数人の描写がある程度である。実際のところ、トールキンとしても故郷を取り戻す軍勢ということで、ドワーフの人数としてお約束の「7人」よりも目だって多い人数、それも多過ぎない10人台にしようと思っただけで、11人いるでも15中年漂流記でもたいして変わらなかったのではないかと思える。ともあれ、ディズニーが白雪姫の7人の小人に対して個性づけを行ったように、また、白雪姫が現代解釈映画化されるたびに小人らには気合の入った設定がされるように、『ホビット』3部作映画でも苦心の末に設定が行われている。トーリンは(詳しくはトーリン盾の項目に譲る)一変して若きリーダーを強調した美中年とされた反面、原作の豪快でコミカルな色が削がれたため余計に気難しさが強調されて見える。さらに、映画共興上は必須の(人間視点での)美青年になっているフィーリ・キーリ、童話の老獪な小人のようなバーリン、RPG典型の豪壮なドワーフ戦士であるドワーリンやグローイン、かと思えば『ウォーハンマー』のドワーフ狂戦士を思わせるビフール、お調子者のボフールや愛嬌あるオーリなどである。とはいえ、視聴者にはこれでも中々把握が難しいという声が多いが、もっともそれらの個々の区別がストーリー上重要というわけでもないので、LotRでホビットらや場合によっては人間の見分けもつきにくいのと同様、最初は見分けられなくても、さほど問題はない(トーリンとキーリくらいは覚えておいた方がいいが、かれらは元々目立つようなビジュアルになっている)。
種族:エルフ、ドワーフに、場合によってはハーフリングにAD&D 1st的解釈のノームと、姿と特技がそれぞれ異なるデミヒューマンらを選択できるのはRPGの通例と化しているが、*bandの原型であるMoriaから例外なく、腕力と耐久力に優れた種族としてドワーフが存在する。実直であるため聖職者にもやや向いている(賢明度が高い)というのは、単にエルフやホビットとの差別化の側面も大きいが、これも通例である。また、*bandでは独自の設定として、ヘルプファイルによると「大音声を発したりイメージファイトを行っているので、隠密が低い」となっている。これは、海外RPGのコミカルなドワーフ像の影響とも考えられるが、どちらかというと隠密にたけた他種族との差別化のためにあえて設定されているのかもしれない。
総じて、ハイエルフや半タイタンのような万能種族ではなく、経験値修正の低い、あえて分類するなら「弱い」方の種族のひとつでしかないが、耐久力と盲目耐性(序盤から終盤まで通して予想以上に大きくものを言う)はかなり「堅実」なプレイングを可能にする。故に、同列とされるホビットやノーム、ましてや無印エルフなぞと比べれば、かなり有利で初心者などにも勧められる種族として挙げられることが多い。
→クズドゥル語 →ドゥリンの指輪
→不死ドゥリンのグレートアックス →ギムリの鉄鋲底の靴
ドワーフ王アザガルのマンゴーシュ The Main Gauche of Azaghal 【物品】
アザガルとはアルダの第一紀(伝説時代)のドワーフの王国、鎧鍛冶の都として知られるベレゴストの王のひとりである。ニアナイスの大敗北の際、ベレゴストの軍勢を率い、エルダール軍の側に立ってモルゴス軍に抵抗した。
ニアナイスの合戦は人間の裏切り(→ウルファング)と、龍族の祖グラウルング(→参照)率いる龍らの猛威によって、エルダール軍の大敗に終わるのだが、ドワーフは特に龍を憎み、龍火の守りの装備(仮面と、龍の鱗に唯一効果のある斧)によって龍に対抗した。そのためグラウルングは指導者アザガルを狙い、踏み潰したが、アザガルは死の間際にグラウルングの腹部に短剣を突き刺し、重傷を負わせた。グラウルングは逃げ帰り、あわせて龍の大群も退却したが、指導者を失ったベレゴストのドワーフらもそれ以後はエルダールの軍に力を貸さなかったという。
グラウルングは結局はこの時の傷を癒して、この後もナルゴスロンド略奪などの暴威をふるい続ける。グラウルングが倒されるのは、はるかな後のトゥーリンの手(→グアサング)によってである。そう考えるとどうもアザガルの立場も薄いようにも見える;ドワーフと龍との間には、宿敵のごとき確執があるが、スカサにせよスマウグにせよ、じかにドワーフの手で龍に雪辱を果たせるという例は、ほとんどないようである。そも、龍を倒せるのはあまりに特殊な運命・生い立ち・武器を持った、ごくわずかな人間のようである。
なお、ICE社のMERPの設定にはアザガルは7氏族のうち「ドワリン一族」のひとりという設定はあるものの、所有していた物品などの設定は作られていない。
余談であるが、ドワーフらの名は、クズドゥル(ドワーフ語)による本名はほぼ秘密とされ、当時の言葉で通り名がつくのが通例である。例えば、第三紀のドワーフらの「トーリン」「バーリン」といった名は彼らの本名ではなく、当時の人間語、おそらくエレボールの王国が交流した人間たち、北方(ローハン)語に近い響きの「通称」をもっぱら名乗っているのである(これらの名は元々トールキンが古エッダから引用したことが有名だが、つまり北方の人間語の響きであることを示すために北欧語になっているわけである)。一方で、第一紀の刀鍛冶として有名な「テルハール」というのはエルフ語を思わせるが、こちらはよくエルダールと交流するために、エルフ語風の通称を名乗っていたと思われる。
しかし、この「アザガル」という名は響きから考えてクズドゥル語であり、彼の「本名」である可能性が高い。ドワーフの、特に王族が他人にクズドゥルの本名を教えるというのはほとんどありえないことのようにも思える。だが、これを推測する材料として、Unfinished Talesの中に、アザガルが一度、ノルドールの指導者のひとりマエズロスに命を助けられたことがある(そして、ドル=ローミンの龍の兜(→参照)を贈った)という記述がある。恐らく、このときに恩人マエズロスに対してアザガルは自分の「本名」を明かしたのではないか、とも考えられるのである。そして、『ノルドランテの謡(シルマリルの物語)』を作ったマグロールは、マエズロスのすぐ下の弟であるため、マエズロスからこの名を教わり、後代に伝えたのではないかと考えられる。クズドゥルを流布するというのもあまり考えられないことではあるが、すでにアザガルの死後であること(もっとも、転生を信じるドワーフらの方は、死後明かしてよいと考えるかは不明であるが)他の名を彼らが知らなかったことから、アザガルの名を残したとも考えられる。
アザガルのマンゴーシュは、ToMEをはじめとするアルダ系バリアントに登場し、[変]にも取り入れられている。言うまでもなくグラウルングに突き立てた「短剣」であるが、左手用の「マンゴーシュ」になっているのは、あるいはドワーフの斧やハンマーに対する「予備の武器」であることを強調しているのかもしれないし、龍の爪をそらすドワーフ装備のひとつとして、マンゴーシュを想定しているのかもしれない。武器としての能力そのものは中堅クラスであり(軽いので盗賊や忍者には有効だが)龍倍倍打と火免疫以外という背景通りの能力、追加能力ひとつ以外には何も能力がない。
ドワーフの首飾り The Necklace of the Dwarves 【物品】
シルマリルのうちひとつがはめ込まれたドワーフ細工の至宝。『クゥエンタ・シルマリルリオン』ではナウグラミアで、シンダリン語でそのままドワーフの装飾物の意である。
元々のナウグラミアは、アルダの第一紀(伝説時代)にノグロドとベレゴストのドワーフの名鍛冶師たちがその技術の粋のすべてを集めて作り上げ、ノルドール王のひとりフィンロド(ガラドリエルの兄、伝説時代のエルダール王では唯一「まともな人」である)に贈ったものであった。巡り巡ってこれは灰色エルフの王シンゴル(→シンゴルのクローク参照)の手元に入るが、シンゴルはこのときもうひとつ手元にあったフェアノールの大宝玉シルマリルのひとつ(モルゴスの冠からただ一つ奪回されたもの)を、ドワーフの職人に命じてナウグラミアにはめ込ませた。こうして、おそらくアルダでも最大の至宝が作られた。
しかし、完成したその直後からシンゴルとドワーフらはこの至宝に魅了されたばかりにつまらぬ争いを起こし、結局はドリアスとノグロドの王国がともに滅亡するに及び、第三紀(指輪物語時代)に至るまで双方の子孫には確執が残ったのであった。ナウグラミア自体はさらに巡り巡って、航海者と呼ばれるエアレンディルが持ち、以後永遠に空飛ぶ船に乗ってその光を明と宵に空から照らすことをヴァラールに命じられる;つまり、「金星」とはエアレンディルと彼の持つナウグラミアの、シルマリルの光なのである。
*bandには[V]からアミュレットのスロットに入る物品のひとつとして登場する。バリアントによっては「ナウグラミア」という名前になっている場合も、解説に入っているのみの場合もある。視透明・耐麻痺・急速回復といった下級能力と、腕力・耐久の追加があり、特に戦士系に重宝する機会も多いが、これらの能力を補う必要がなければさほど活躍する物品でもない。かといって、アルダ最大の至宝故に、博物館に放り込んでしまうのは何か問題があるような気もするので意味もなく大事にしたいところである。
ドワーフのロッコーバー・アックス The Lochaber Axe of the Dwarves 【物品】
ドワーフ(→参照)という種族が「斧」を用いるというのは、いまや東西のへだてなくRPGファンタジーの通例と化しているが、その理由としては無論のこと『指輪物語』のギムリをはじめとしてアルダのドワーフらがしばしば「斧」「まさかり」を武器として持っていることがあるために相違ない。
アルダの伝説時代からドワーフの斧は、「龍の鱗を唯一貫通できる武器」として恐れられ、彼らの伝統的武器となっていた。ドワーフが龍を宿敵とすること、またそれに伴って、巨大な壁である龍を打倒するに、純然たる対人殺傷武器である剣ではなく、強固な門や木を穿つ力を持つ「斧」という武器が当てられたという発想が考えられる。
また、斧であるという理由を逆に推測すると、最もたやすく推測できるものとしては、「短柄」の武器、すなわち鈍器なら槌、鋭器なら戦斧が、短躯のドワーフに扱いやすい武器であると推測できる。(なお、ドワーフは斧のような短い武器でどうやって巨躯のオークやトロルを倒すのかという疑問がよく出るが、これは斧に対して樵の手斧のようなものを想像しているためで、人間が用いる戦斧が背より少し低い程度の柄に大型の刃がついているのと同様、ドワーフの「戦斧」もかれらの身長より若干短いくらいの柄はある。短柄武器といってもその程度の長さはあるわけである。)ただし、アルダ伝説時代の戦場では、エルダールや人間にとっても斧はポピュラーな武器といえるので、そうした「ドワーフ特有の武器」としての位置づけまでも持っているかは不明である(なお、トールキンの初期原稿には、森に住むナンドールや、あるいはシンダールにも'Axe Elves'という通称があった)。「つるはし・槌」は採鉱・鍛冶にたけたドワーフに密接したものといえるが(実際にこれらはいわゆるRPGの「山ドワーフ」の原型であるくろがね山脈の一族が使用している)斧は地下に住むドワーフに密接したものともいえない。結局、上記の対龍武器からの連想だけなのかもしれない。
*bandに[Z]系において追加されているドワーフのロッコーバー・アックスは、ムンドウィネ(→参照)の名前を変更したものだが、このICE社のRPG, MERPの設定物品であるムンドウィネはドワーフとは無関係なローハンの将軍の武器で、実は斧ですらない。無論、「ドワーフのロッコーバー・アックス」にあたる武器やそう推測できるものは、トールキンなどの原典や、ICE社の設定などにも見当たらない。おそらく、MERPの物品(トールキン自身の記述になかったもの)を排除するという[Z]のデザインの方針で、「ムンドウィネ」という名前を排除し、斧に関係の深そうな「ドワーフの」という名前をつけたように思われる。ローハンに関係のありそうな名前をつけなかった時点で、この変更を加えた[Z]スタッフはムンドウィネの方の設定を知っていたかは疑わしいような気もする。ロッコーバーアックスとは、重い斧状(刀状に見えることもあるが広刃で重い)の刃がついたポールアーム(長柄武器)で、いわゆるドワーフの斧の形状ではない。物品としては若干のダイスブーストと、破邪、4元素耐性という標準的な武器アーティファクトだが、ポールアームの一種ゆえにかなり重たく、有効に使える機会はさほど多くないと思われる。
(ドワーフ)防具 (Dwarven) Body Armor 【物品】
ドワーフという幻想的種族が、職工の技術や技術者のイメージが発展した面を持ち(→ドワーフ)類似種族を含めて鍛冶の技や作品の説話がほとんど常に組になっていることは説明するまでもないが、トールキン作品においても、ドワーフの工芸、ことに優れた「防具」が言及される例は枚挙に暇がない。
具体的には、時代を追ってゆくと、『クゥエンタ・シルマリルリオン』では、第一紀(伝説時代)には鎧鍛冶の都ベレゴストは灰色エルフらに優れた防具を提供し、また刀鍛冶の都ノグロドのテルハールも、ドル=ローミンの龍の兜(→参照)という傑作を残している。『ホビットの冒険』には、かつてのエレボールのドワーフらの手による武具の数々が言及され(その傑作がビルボに与えられ、のちにフロドが着たミスリル服である。→ミスリル)また、他にもダインら山ドワーフの鎖かたびらも優れたものであるという描写がある。『指輪物語』ではドワーフでほとんど唯一活躍するギムリがドワーフ製鎖かたびらを着ているが、ローハンの角笛城の決戦において「既に着ているドワーフ造り以上の品が城にはない」というくだりがあり、このとき城にあったローハンの鎧とは実はゴンドール人からローハン王らが贈られたものなので、すなわちエレボール製の鎧はヌメノールの鎧よりも優れていることを意味している。
トールキンでは、鍛冶の技といっても他の物品、例えば宝玉や指輪、あるいは武器すらも(ドワーフにも例はあるとはいえ)ノルドールなど「エルフ製」の物品として登場する例が比較的多いのに対して、ドワーフは「防具」の例がことに多い。これは無論のこと、この種族の性質にも由来しており、また実質上その後のRPGファンタジーの原型となったトールキンのドワーフの性質を「形成」している一面もある。
さて、上記のように、ドワーフが他の種族のために作った鎧のことも多いので、別に「ドワーフが着ている鎧」を意味するわけではない。エゴアイテム名が、エルフの鎧が「エルフの〜」なのにドワーフの鎧が「(ドワーフ)」と統一されていないのが気持ち悪いという意見がしばしばプレイヤーから出るが、これは「of Elvenkind」と「Dwarven」の細かいニュアンスの違いである。of Elvenkindは直訳すると「エルフ一族の」という、エルフが持ち彼らが自身のために作り使用するというニュアンスが非常に強いが(実際にエルフらの体質から考えるとそうだったであろう)、Dwarvenだと単に「ドワーフ流の」、あるいは「ドワーフの手になる」となり、上記した他種族のためにドワーフの手によって作られたというニュアンスをこちらはかなり表現できるといえる。これらの細かい点は日本語版の表記では表現できないとしても、だからといって無造作に同一にするよりは、分離しておくべきだろう。
*bandでは、[O]をはじめとしてアルダ系のバリアントを中心に登場し、やがて[変]など多くのバリアントが取り入れている。エルフの鎧に対して、耐性などはないものの(ただし元素攻撃で傷つかない)純粋なアーマークラスの高さと、腕力(場合によっては他の能力値)のプラスがある。主に能力上昇が頼もしいものの、エゴアイテムに頼る中盤までではどうしても全耐性やエルフ鎧の耐性に比べると出番が少なくなりがちである。
→ドワーフ
ドワール Dwar, Dog Lord of Waw 【敵】
第三位のナズグル(指輪の幽鬼)。ワウの犬王。トールキンの原作では、三位以降のナズグルは設定は一切なく(これは、故意に空白を設けることで逆に歴史に深みを持たせるためであるという)そもそも個々に区別して描かれてすらいないのだが、RPG(MERP)およびTCGを製作したICE社の作った設定によって言及されることがある。[V]のモンスターの思い出にあるドワールの説明は、「生まれた頃から犬に好かれていた呪術師」というが、これはMERPの一部の簡単な記述から創作したのか、「ゴルゴロス」などのサプリメントやTCGで広く知られている設定とはやや異なっている。
後者の設定では、デンドラ・ドワルはかつてウォワズの島に住んでいたウォーリム族(これらは設定自体がICEオリジナルの地域のひとつである)の、貧しい漁師の子であった。が、侵略戦争で家族を失い、小舟でウォワズ本国に流れ着く。少年ドワルは軍で武芸の修行に身を投じ、頭角を現したばかりか、犬や狼が友として彼に従うようになる。故郷に舞い戻り、侵略者を二千をこえる犬の大群の助けによって打ち倒し、圧制から開放し島の王となる。
と、ここまではむしろ、まるで宮崎なんたら入った和製RPGの主人公勇者か何かのようなのだが、この後なぜか王位を空にして行方をくらまし(何やら復讐を終えて行き場のなくなった憤怒や黒い心が、学んでいた呪術の黒い方面に向かったという)戻ってきた時にはサウロンに《九つの指輪》の第三を与えられた呪術師になっており、ワウを支配する一方で、しばしばモルドールにも住み魔狼らを集めた。ナズグルとしては、カムルやアデュナフェルと共に東方を牽制しており、東夷に影響を及ぼすばかりか、東方に勢力を伸ばしたアラタール・パルランドの二人のイスタリの影響を妨害していた。
MERPのデータではドワールは39レベル(魔王の60, カムルの50からは落ちるが、無論ナズグルでは3番目である)の「魔術師」であり、'War-dancer'と呼ばれるイシルナウア製のファルシオン、'Air-cleaver'という名のフレイル兼投げボーラ、また《九つの指輪》のほかに心術を増幅させる(動物を操るためか)指輪を持っている。魔法とはまた別に、犬を媒介して2000'フィート内まで感覚を増幅させる能力や、無論のこと犬類を操る特殊能力を持つ。
*bandでは、[V]以降40階代に現れるナズグルで、この階層に固まって登場し(ToMEの特殊システム以外では)さほど脅威ではない。が、設定通りにハウンドを召喚してくるという特徴があり、一応は名前と特徴がプレイヤーに覚えられていることも少なくない。[Z]では3位以降のナズグルが削除され非ユニークとなったが、[変]で復帰しているひとりである。が、[V]のデータのままなので、強化された非ユニークのナズグルよりかなり弱いという謎の位置づけのままである。
→ナズグル
トンボ
→巨大トンボ
あ-い
う-お
か
さ
た
な
は
ま
や・ら・わ
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