私家版*band用語集


 フレームを表示


 あ-い  う-お              や・ら・わ


あ行(う-お)



ヴァラ Vala 【その他】

 出典:トールキンのアルダの世界観における上級神。男性形の単数が「ヴァラ」で複数が「ヴァラール」、女性形は単数が「ヴァリエ」で複数が「ヴァリエア」である。ヴァラはクゥエンヤで「力あるもの」と訳されるが、むしろ直に「力」=「諸力」の意であり、英語のpowers 諸神にそのまま対応する。
 創世前の至上神イルーヴァタールの聖歌隊のうち、地上形成のためにアルダに降り立ったのがアイヌア(聖霊、神族)であり、元来ヴァラールとはそのアイヌアのうちたまたま大規模の15体に過ぎず、階位の上でマイアール(下級神)と差があるわけではない。創世前は一神教の天使群のようなイメージだったヴァラールは、しかしアルダに入った後はそれぞれ性質に応じたイメージを強くまとい、より古い宗教の雰囲気に遡った、多神教の主要神群のような様相になってくる。
 ヴァラールの内訳や、各々に関して詳しい解説は『指輪物語』系の専門サイトに譲るが、指導者の風の王マンウェ、星の妃ヴァルダ(エルベレス)、*bandのアーティファクトに名が見える水の王ウルモ、鍛冶の司アウレ、狩人オロメ、勇猛なるトゥルカスなどがいる。メルコール(→モルゴス)もかつてはヴァラであり、その最大のものであったが、冥王となったためヴァラからは(便宜上)外され、エルフらの間で通例ヴァラールと呼ばれるのは14体(ヴァラとヴァリエが各7体)である。14体の中でも特に主要な8体をアラタール(優れたもの Aratar, イスタリ(魔法使)のひとりAlatarとは関係ない)と呼び、ヴァラールの中でもその影響力は、ヴァラとマイアの差以上に際立っているようにも読み取れる(MERPの設定ではヴァラールの能力は全員ひとまとまりマイアールと一線を画しているが。MERPのレベル値はヴァラールが400-500、上位のマイアールが300台である)。
 アイヌア全般がそうなのであるが、ヴァラールは特にアマンにのみ住み、ほとんど中つ国にじかに姿を現すことはない。はるかな神話時代にはオロメ等が訪れていたことや、伝説時代にウルモが一度トゥオルのもとに出現した例などはあるが、ことに中つ国自体と「疎遠」となった第二紀・第三紀以降にはほとんど出現することはない。なおヴァラールは自由な姿をとることができるが、肉体を持つ者の前には「巨人」のような姿で現れることが多いようである。ウルモやメルコールがそうであったためだが、一般に「エルフは力と身の丈ではアイヌアに劣る」という記述があるため、大柄なトールキンのエルフ(クゥエンディ)よりさらにヴァラールは(恐らくマイアール一般も)長身であったとみなせる。
 アイヌアに共通するが、実質上ヴァラールは「諸神」と呼ばれるとはいえ、彼らは全能性や絶対性を持つ「神」というよりも、「すべての『種族』の中で最も強力で年長のもの」という雰囲気である(ことに、自身が偉大な上のエルフの目から見ればそうである。このトールキンではエルフは神を信仰対象としなかったという点が、一部のRPGでエルフが信仰をもたないとする根拠のひとつである)。ゆえにヴァラールは神性(deities)ではあっても厳密な意味では神(gods)ではない(そのためこの用語集中では、アイヌアは「柱」でなく「体」で数えている)。
 よく聞く疑問に、「中つ国には宗教は存在しないのですか」というものがあるが、例えばRPGでの聖職者のように、ヴァラールを神として信仰する本当の意味での宗教や、その「組織」などは存在しないと言える。ヴァラールは人間やホビットにとってはさらに縁遠い存在で、エルフを通じて(それも、主にドゥネダインのみに)伝承で名前が伝わっている程度であろう。ただし、ヌメノールの王らが儀式的に至上神を敬ったり(あるいは末期にメルコールを信仰したり)また、かつて未開だった辺境の人間がエルフやヌメノール人やサウロンを神としてあがめたことがあるのと同様、非組織的により原始信仰的に崇められることはあったであろう。また、『指輪物語』中でエルベレスの名を唱えて力を得るように、ヴァラール自身が神のようにじかに力を与えるのではなくとも、現実世界のようにいわゆる「神の名を唱えて力を奮い起こす」といった対象になっている(これは、ヴァラではないエアレンディルやガラドリエルも名を呼ばれ、結果的に神のような位置になっているのであるが)。
 なおヴァラールについての追記だが、『指輪物語』TTT原作において、オルサンクの陥落後、白のガンダルフとサルマンが対決する場面で、サルマンの台詞の中に「七人の王の冠と、五人の魔法使の杖」というくだりがある。五人の魔法使が何を指すかは明確だが(といっても追補編やUnfinished Talesの記述なので、指輪物語本文の中だけではこれも意味不明だが)この「七人の王」とは何なのか、という疑問がしばしば出る。これは、中つ国の人間等の王などではなく、14体のヴァラールのうち男神7体を指しているという説が有力である。文字通りこれ以上はないほどに大仰な台詞だが、サルマンのこのときの「大仰さ自体」を表現する台詞なので、妥当とも捉えられる。あるいは、人間の台詞でいえば「神にでもなったつもりか」といった比喩の罵倒にでも値するというところだが、双方半神であるサルマンからガンダルフへの罵倒ならば、ヴァラールくらいしか引き合いに出せるものがない、というようなところかもしれない。(なお、この表現は、『指輪物語』執筆時点ではトールキンは上位を8体のアラタールとすることを明確とせず、ヴァラールに対して「主となる7体の男神と、それと対の7体の妃神」といった構想が残っていたのではないかと伺わせる。最終的な案では、7体ずつのヴァラとヴァリエアには対になっていない、独り身のものがいる)。
 その他:*bandでは[V]の時点では、メルコール(→モルゴス)以外は特にヴァラールがじかに登場するでもなく、あとは一部のアーティファクト(主に武器)がヴァラールの武具として創作されて入っているのが主である。一般にヴァラールの名のついた武具は、いずれも最強級に非常に強力であるのは言うまでもないが、しかも同等の物品に比べてレアリティがきわめて高く、超貴重品であり、『シルマリルリオン』等の愛読者を思わず頷かせるものとなっている。
 OangbandやToMEなどでは、魔法やミミックのクロークで「ヴァラ変化」というかなりとてつもない能力がある。これは変身系の最大のものとされ、おおむねヴァラール化によって他と一線を画する肉体能力が得られる。
 またToMEでは信仰システムによってさまざまなヴァラ(とはいえ、メルコールや至上神イルーヴァタールも)を信仰することができ、ヴァラールの性質に応じた恩恵やペナルティを得ることができる。これはヴァラールを完全な「神」(NetHackなどと同様)として扱った信仰システムとなっている。

 →マイア



ヴァロック Vrock 【敵】

 vrockとはD&Dシリーズに登場するデーモン(「混沌にして悪」の悪魔)のカテゴリのひとつである。発音は本来「ヴロック」に近いのであろうが、*bandにおいて「ヴァロック」となっているのは先出のNetHackの邦訳に従ったらしく、NHでこうした理由は定かではないが、日本語で発音しやすい表記を選んだとも考えられる。
 「マリリス」の項目でも述べているが、初期のAD&D 1stでは千差万別のデーモンには個体ごとに定まったデータがなく、単に「Type I-VI」という姿ごとの能力のテンプレート例と姿があり、ほかに通称や、召喚などの際の個体名(支配するにはその悪魔の真の名を知る必要があるなどのフレバーである)に使うためのデーモン語のような名のサンプルが列記されていた。そのうち筆頭の「Type I」にあたるものに「ヴァロック」という名があった。のちAD&Dでは宗教上の理由で一時「デーモン」という名が使えなくなり、種族名をType Iと呼べなくなると、「ヴァロックという名前のAD&Dオリジナルモンスター」という建前に変わり、データと名前はそういう特定の種族を指すものになった。
 ヴァロックは、2.5mほどの人間の頭身を持ったハゲワシの姿をしており、両腕の羽根ではない鉤爪と牙で戦う。ヴァロックという名はAD&Dオリジナルの名であるが、ハゲワシ(バルチャー)とカロック、ロック鳥などの名をかけあわせたのかもしれない。I-VIのうちType Iだけあって、これらの中では最も弱いタイプに位置するものの、AD&D 2ndに移った時には大幅に強化されており、ドラゴン等に匹敵するレベル(ヒットダイス)と様々な特殊能力(多彩な呪文、同族召喚、呪文無効化、猛毒の胞子、なぜか直接ダメージを与えるふしぎなおどり等)を持つ、いわゆる凶悪なグレーターデーモンである。
 しかしながら、NetHackに登場するものはヴァロックという名前になっているにも関わらず、AD&D 1stのType Iデーモンのデータ(例によって数値までそのままである)になっているので、かなりレベルも低く、特殊能力もまるでないままである。
 *bandに[V]から主にアルダ系バリアントに通じて登場するヴァロックは、おそらくはこのAD&D 1stか、あるいはNetHackのデータを参照して作られたのではないかと考えられる。40階という階層は決して低くはないとは言えるが、この階層の割にはさほど強くないと言える。ほぼ同階層のレッサー・バルログ(AD&DではType VIのデーモンがこれにあたる)が火炎攻撃とブレス、召喚魔法(近い階層なので、ヴァロックはバルログに大量に召喚されてくることが多い。むしろそのイメージが強いとさえ言える)が非常に凶悪なのと比べると、危険な攻撃も魔法などもほとんど持っていない。むしろバルログと共に思い出すように入れられた、デーモン系の水増しのようなものと言えるかもしれない。

 →バルログ →マリリス



狼<ウィア>人 Weir 【敵】

 アンバーの近くの森(ランダムによるとアーデンの範囲らしい)で、四王女デアドリを捕らえていた一団に混ざっていた(らしい)怪物。デアドリによると、エリックの支配を脱出しようとして捕まったというので、これもエリックの軍団の一員ということらしい。


 ...”影”の中でだけだが、それが起こるのが見えた。かれらは四つん這いになった。すると月の光が、かれらの灰色の衣服に魔法をかけた。すると、追跡者の六つの目が燃えるように光った。
(ロジャー・ゼラズニイ『アンバーの九王子』)


 ”影”の中でだけ彼らが変身したというのは、アンバーの真世界内ではシャドゥシフトによる事象の変化というのが起こらないので、彼らの”月光の影による変身”が近くの並行世界にしか影響を及ぼしておらず、アンバーから見れば、またその場の3人のアンバライトらから見れば彼らも元の姿や能力でしかない、という意味のようである。真の世界とその近くでは、”真の姿”しか取れないのである。
 上の表記で登場した3体のうち、コーウィンがグレイスワンダーで1体、ランダムが剣で1体、デアドリが大雪山おろしのような技で1体倒す。後者2体はとどめはグレイスワンダー(銀のサーベル)で刺さなくてはならなかったところを見ると、「銀の武器でないと死なない」のではないかと思われる。上の月光で狼の皮に魔法をかけられた云々も含めて、人狼の伝承に至極忠実な描写である。weirはweirdなどと同義の恐怖・怪物の意もあり、wereとは意味は異なる(wereは「人」の意でwerewolfで人狼となる)が、古い英語では同じ発音になるので、ひっかけてあるのかもしれないが詳細は不明である。
 [Z]以降にゼラズニイ系のモンスターとして登場する(そして、ありがちな話であるが、ToMEにも入ったままになっている)。原作では単に「狼人間」に「ウィア」というルビのみだが、[Z]和訳では何やら「狼<ウィア>人」というどこぞのSFの邦題のような印象深い表記になっている。[V]にすでにいる「ワーウルフ」とは別に改めて追加されているのだが、要するにアルダ世界の「巨狼」(一種のマイアである)とはまた別の怪物といったところだろう。

 →ワーウルフ



ウィザード Wizard 【システム】【クラス】

 出典:Wizardは、以下に述べる意味合い上のさまざまな問題をさておいて、実際問題としてその普及度から、ゲームを含めてあらゆる分野において「魔法使い」というものの最も一般的な呼称である。その語源は「wys- 智恵」「-ard 大いに-為すもの」であり、元来は「魔法の使い手」ではなく純粋に「賢人」を示す語である。
 なお、これは他の項目でも述べているが、ここの項目を初期に目にする読者が多いと思われるためここでも断っておくと、「Wizardは男性の魔法使いを指し、女性はWitchと呼ぶ」とは英語の辞書にも必ず書かれているほどの通例であり、世間の日常会話では一般的と見なして差し支えない。しかし、これは日本語での「魔法使い」と「魔女」の単語の関係とちょうど同じで、少しでも狭義(FT/RPG, 魔術学等)に踏み込めば、WizardとWitchは男女云々以前に本来まったくの別義である。Witchの語源、男性Wicce/女性Wiccaから変形しwickや卑語の意も加えたwitchは、中世の邪術師、また一般語化してからは、ウィッチドクターのような呪術師も男女とわず指す。(現在ウィッチでなくウィッカ自体が使われる場合、主に地信仰・ドルイド系の祭式や術師を男女とわず指す。 →ドルイド →シャーマン)ゆえにこれら邪/呪術師は男性であっても「ウィッチ」であり、ウィザードは女性であっても「ウィザード」である。ただし、Witchがあまりにも女性を示すものとして普及していることから、より純粋に邪術師をあらわすWarlock(→ワーロック)という語を「Witchの男性形」として用いる通例は専門用語的な用法でもかなり一般的である。
 さてWizardという語は、「魔法使い」として一般的なものながらも、元来の賢人としてのニュアンスも残した形で用いられていることも多い。例えば(RPGに限らず)ファンタジー説話中での魔法使いとしても「賢者」から出て「善の魔法使い」を暗示されることが多いが、より一般的な現代語としても、「特定の専門分野(技術、知識)に関して非常に幅広い知恵を持ち、頼りになる人物」「魔法のようにそれらを解決する人物」を通称する口語でもある。現在それが最も多用されるのがコンピュータ関連のもので、ソフトウェアの設定支援などの「ウィザード」もその一例であるが、ハッカー文化においては、ことにそうした能力を持つ優秀なハッカーを指す。これは他分野同様に口語で呼ばれることもあるが、またコミュニティによっては滅多に口にされない「尊称」「最高称号」であることもある;後者の場合、伝承や説話のウィザードの出自の多くが半神半人でもある事から、ハッカーらの究極称号であるDemigod(ケントムソン等)に次ぐ称号としてWizardが設けられたとも言われるが、一方で別の高称号であるGuru(これも定義が諸説ある)より上であったり下であったり場合によって異なり、詳しい経緯や定義は計算機Geekである和Z邦訳のita(板倉充洋)氏にじかに聞いてもつまびらかでない。
 なお、ハッカーの称号でなく、特定のプログラムやシステムに対して、「その内部動作を熟知した人々(開発関係者や解析者)」に対してウィザードと呼称されることもある(システムの項で後述)。
 さて、FT作品におけるウィザードであるが、トールキンのアルダ世界においては、Wizardは「イスタリ」の訳語とされている。イスタリに関しては独立した項目を設ける必要が出るかもしれないが、すなわち下級神(マイア)が身をやつした「5人」の魔法使らであり、彼ら以外にはこの世界にはWizardはいない(トールキンの補足原稿UTには5人の「長」以外を含めたイスタリの総数は不明とされるが、LotR追補には賢人団の総数が5人とあるので、このUTの記述は参考程度とされる)。なお『ホビット』ではエルダール王のエルロンドの形容に「魔法使いらしい賢さ」とあり一見彼をWizardと呼んでいるように見えるが、これは原語ではas wise as wizardであり「イスタリにも等しい賢明さ」と読み取るべきである。作中の「賢人(エルロンドら偉大で賢明なエルダールも含む)」は原語ではWisesであり、Wizardはあくまでイスタリらにのみ対応している。
 Wizardはその語源からクゥエンヤのIstar(i)(賢明なる者(ら))とは合致する語ではあるが、Wizardは世間一般では賢者よりも「魔法の使い手」を指している面が強い語なので、この語を賢者であるイスタリの訳語とすることには、トールキンは悩んでいた一面があったようである。
 「ウィザード」というよりも「魔法使い」一般の話となるが、神話伝承やその雰囲気を強く残す作品では、魔法使いという言葉はしばしば、半神などの「超常能力を有するいわゆる超人」のような意として、(比較的)超常能力を有さない「英雄」とちょうど同様に物語の主役・主軸となっていることもある。ガンダルフらイスタリもそうであるが、この場合、のちのFT作品やRPGの魔法使い・呪文使い(Magic-User)のような位置づけを指しているとは限らない。
 一方、主にファンタジー作品において、賢者や魔法使い(Magic-User)としての真の強力で英知もつ典型的「ウィザード」というものは、その賢者としての位置づけや(しばしば半神半人といった性質からも)ヒロイックファンタジー等ではヒーローよりその支援者や狂言回しであることが多い。例えば『ゲド』は厳密にはヒロイックファンタジーではなく、しかもシリーズの後の巻ではどうもその中心的立場は怪しくなってくる。いわゆる魔法使いがFTやRPGに主役格となる経緯は「メイジ」などの項目も参照されたいが、単一主人公が魔法使である場合それは典型的な賢人としてのウィザードというより(むしろ戦士以上に)人間性の塊であったり、より広義の魔法使となっている場合が多く、真の言葉通りの「ウィザード」といえる存在は非常に稀である。
 RPGにおいては、「魔法使い」とは冒険で魔法を使う役割を担当する存在(Magic-User)と定義されているが、ウィザードは、魔法使いに対する最も一般的な当たり障りのない用語でもあることから、D&D3e系など、代表的な「魔法使い」クラスの名として最も普通に扱われることも多い。しかし、最も有名な語であることから「魔法使い系のカテゴリの総称」(AD&D2ndなど)であったり、また有名さや賢者としての意から、「特に高級な術者」を指している場合もある(例えばクラシカルD&DやAD&D1stでは、魔法使いのクラス名はMagic-Userであり、そのうち英雄級であるネームレベルに達したものの称号がWizardである)。
 また、同様に代表的な名であることや高級術者の意、ドラクエ的「けんじゃ」の意も含めた結果、「さまざまな魔法体系の呪文をすべて扱える術者」(結果的にD&D3e系のウィザードもその性質が強いといえるが)に対してのみウィザードという語を用いているRPGも多い。しかし、ここから発展して、魔法体系の統合・メタマジックに特化した「統合魔術」なる分野体系があり、ウィザードをその統合技術の専門家といった具合に定義する作品もあるが、ここまできてしまうとWizardの賢人としての原義(杓子定規でなく、これまで述べてきたニュアンス)からは大きく外れた、他はともあれFT/RPG作品としてはきわめて穿った用法といえる。
 なお、NetHackにおけるクラスの一種のWizardは、NetHackが通例参照している旧D&DやAD&Dでは前記したようにクラスとしてのWizardはないためもあって、これらD&D系におけるMagic-Userとはあまり似たデザインにはなっていない。要はプレイヤーキャラクター一人で進行するRoguelikeのデザインのためもあるが、魔法や装備のシステムも異なり、戦闘能力もD&D系ほど低くなく、現在のD&D3e系でのウィザード(古いD&D系のMagic-Userにあたる)とは名前こそ同じだが関連性はほとんどないということである。
 システム:RoguelikeにはNetHackや、*bandの原型のMoriaの頃から「ウィザードモード」がある。これはデバッグモードとも称してさまざまなゲーム要素の操作(数値の操作、アイテムの生成など)を行えるもので、本来は開発者用のものである。これは上記した語義のうち、システム(この場合はRoguelikeのプログラムのシステム)の「内部動作を熟知した人物」の意味でのウィザードということである。プレイヤーによっても、ソースを読むことなく数々のテストを行うスポイラー類を製作するための確認などによく使用される。ことにNetHackでは、ゲームフィーチャーが非常に多く複雑な上ソースが難解なのでよく使用されるが、*bandでもアイテム生成のテストなどで使ったと聞くことがある。『指輪物語』のガンダルフの何か妙に卑怯臭い幾つかの要素を指して「彼はウィザードモード」とする*bandのジョークも定番である。
 クラス:*bandでは最も一般的な魔法使いのクラス名は「メイジ」であり、クラスの名としてウィザードが設けられているものはどのバリアントでもほとんどない。しかし、ToMEの旧版であるPernAngbandでは一時、メイジとよく似ているが数々の魔法体系から選ぶのではなく、かつての「[V]のメイジと同じ呪文書を使うもの」が独立したクラスとして「ウィザード」として存在した。(同様に[V]のプリーストの呪文書を使うクラスは「クレリック」といった。)しかしながら、ToME1ではこの[V]の呪文書は「魔術」という体系として「メイジ」から選べるようになってしまい、独立したクラスとしては消失してしまった。

 →マーリン →ガンダルフ →メイジ →ソーサラー



ヴィルヤ The Ring of Power (Virya) 【物品】

 アルダ世界の第二紀、ノルドール族エルフの魔法の指輪細工師(グワイス・ミーアダイン)とサウロンによって作られた20の力の指輪のひとつで、「エルフの三つの指輪」の一、風の指輪。ミーアダインの長ケレブリンボールが、ノルドールの当時の上級王ギル=ガラドに渡し、最後の同盟の際にエルロンド(エルフと人間の全王族の血を引く半エルフで、『ホビットの冒険』『指輪物語』時代には中つ国に残っている全エルフの指導者である)に手渡された。ヴィルヤは三つの指輪の中でも最も気高く強力なもので、(一つの指輪を除けば)力の指輪では最も強力なものということになる。地金は金で作られ、サファイヤがはまっている。
 原作では力の指輪の能力は、例によって目に見えない運命や心への影響の力なので、直接的な力が描かれることはない(例えば、エルロンドの魔法として筆頭に上がるのが、ブルイネンの川の水流を操り氾濫させることだが、これは風のヴィルヤとはあまり関係がありそうにない)が、エルロンドに深い洞察力を与え、エルフらの郷である裂け谷をより繁栄させていたのはこの指輪であるとされる。
 *bandには三つの指輪の中でも最も強いものとして登場する。電撃免疫は終盤の敵の性質からは便利であるが、他の固定アーティファクトでもつけやすいこともあってそこそこの重要性である。しかし、能力値への修正が、全+3ともなるとさすがに影響が大きいので(指輪以外の装備を1−2取り替える余地が出てくることもある)選択のしどころとなる。



ウィル・オー・ウィスプ Will o' the wisp 【敵】

 をにび。しとだま。いたづら妖精。リンによる自然発光現象(特に墓地や沼地で発する)や摩擦電気・静電気による発光を、妖精・妖怪・霊魂などとする伝承は世界各地にあまねく見られるが、ウィル・オー・ウィスプとはブリテン島で、沼地に浮かぶ青白い光で彷徨う霊魂が生者を呼び寄せている、という迷信である。鍛冶屋のウィルや修道士その他が成仏できなくてといった説話に興味がある向きは伝承研究の専門サイトを参照されたい。元来は一種の害悪をなす霊魂なわけであるが、しかしながら近代以降の「妖精説話」ではいわゆる小妖精たちの説話と合流し、このウィル・オー・ウィスプも、普通の小妖精・小人の一種、中でも最も小型(光しか見えないような)のもののようなニュアンスで使われることも多くなっている。半ファンタジーロボットアニメ『ダンバイン』でこんなものを一度ひねってから「巨大戦艦」の名前につける禿監督のセンスには、今にして眉間から迸る電波が感じられるが、異世界ファンタジーというものがまだ草分けであった(実際になじみのないジャンルであり、売れ行きのために腐心した逸話も多い)時代ならではであろう。
 RPGでの登場例は、その見かけと背景・後の妖精説話を一面的に参照したものが多いため、実に作品ごとに千差万別の扱いになっていることがその特徴である。AD&D 1stでは、宙に浮かぶエネルギー球で、精霊でもアンデッドでも妖精でもないが「ガスの肉体を持つ普通の生物」という何が言いたいのかよくわからない謎の生命体である。にも関わらず、なぜか「負の感情を喰らう」ことを目的とし、相当に高い知能と自由に光(姿)を消したり現したりできる能力で生物を襲う。恐ろしく強固な防御力と生命力のためにまともな戦いは非常にやりにくい。まともなモンスターというよりトラップやイベントの道具に近いものといえるが、CRPG 'Wizardry'では、かなりの高レベルと極端な防御力、充分なレベルがなければその危険も馬鹿にならない攻撃力など、ほぼAD&Dのそれと同じ位置づけのままモンスターとなっているといえる。ただし、倒せば極端に高い経験が得られるボーナスキャラクターとしても有名である。
 他のゲームでは、「鬼火」「人魂」という元来の伝承から、「火の玉」ひいては「炎の精霊」となっていることの方がむしろ多く、FT一般や伝承由来解説にも関わらず「火の精霊の一種」と誤記されている解説類も多出する。ゲームによってはD&D系のような強敵や倒せない障害(アクションゲームなどで特に見られる。『ドルアーガの塔』では時間切れになると出現する無敵モンスターである)の場合の他、背景やトラップ同様のたやすく破壊される小精霊とされていることまで、その扱いは様々である。『ソードワールド』とそれを参照したとおぼしき作品では、魔法で明かりをつけるために術者が呼び出すことが多い小さな「光の精霊」とされているが、これはT&Tにおいて「ウィル・オー・ウィスプ(T&T邦訳では「鬼火」)」がモンスター名ではなく光を生み出す魔法(セントエルモのような燐光を作り出す)になっていたことにそのまま準じていると言われている。
 *bandでは[V]以来登場するが、'E'シンボルすなわち精霊類の一種となっており、階層からはノーマルモンスターとしては中〜高レベルに位置する。階層として見るとかなりスピードが速く、動きが不規則で短距離・長距離テレポートをしじゅう使い、運良くとらえてもかなり耐久力があるので、危険ではないものの相当にうっとうしい。AD&DやWizardryに近い厄介な癖のあるモンスターになっている。



ウォーター・ボルト/ボール Water Bolt/Ball 【システム】

 火炎、冷却、電撃などと比べて、「水」はそのまま魔法などで攻撃に使う「属性」としては決して自然なものではない。水位などを操って戦略戦術に用いる呪文ならば少なくないが、地上で炎や冷気同様に「水の矢や球体」をぶつけて攻撃する呪文といったものは決してありふれてはいない。古典的なTRPGやそれに発するCRPGなどでも、「水」は呪文などによる主な攻撃手段にはなっていないことが多い。(D&D系などでは水を操る怪物に水圧で攻撃するものや、マイナーな呪文に水圧攻撃のものがあったりするのだが、通常プレイヤーキャラクターが使うものではなく、あくまで例外的なものだろう。ちなみに、そうした呪文の場合、水位などを操る場合と違って「水地形」で行われるとは限らず、水がどこから来るかといえば”水の元素界”とのチャネルの類を開くと考えられ、それだけに余計に強力に水圧などを操り、甚大な攻撃力を持つとも考えられる。)
 「水」が攻撃手段となっているのは、そうした古典的なTRPGの流れをくむシステムではなく、独自のシステムでことに「元素の対立」などを重視した類に多く、TRPGよりもCRPGやその他のゲームに多いかもしれない。特定の怪物(火炎やガス、埃の怪物等)に対するものを除くと、水圧をそのままぶつけることに衝撃や朦朧、窒息の効果や、あるいは無理やりに水が刃状になって攻撃などといった説明になっている場合、さらには、古いCRPGの書物などには「これは聖水でありすべての魔に効果がある」などという説明があったりもするのだが、火炎や冷却ほどに直接的な攻撃手段でないことは否めない。
 しかしながら*bandにおいては、[V]から主に敵モンスターの使用する魔法的攻撃手段として「ウォーターボルト」「ウォーターボール」が存在する。これは、ことに[V]以来*bandに影響が濃いMERP(指輪物語TRPG)その原型であるTRPG『ロールマスター』から採られたものと思われる。膨大な呪文リストを基本ルールに持つロールマスター(D&Dなどが追加ルールは多いが基本ルールの呪文リストは比較的シンプルであるのに対し)には、「冷却」と独立して「水」が大カテゴリとして存在し、水を直接にボルトとして攻撃に用いる呪文(強弱が多種)や渦潮(Whirlpool)を攻撃に用いるものが存在する。
 ロールマスターの時点では各元素は対等といえるものなのだが、*bandでは主にアイテムの威力などで元素間に比較的「強弱」が存在し、Moria当時以来の四元素のあとから追加されたこの「水」属性は、四元素よりも上位のものとして位置づけられ、また耐性の存在しないものとなっている。一応は「轟音耐性」で朦朧を軽減することはできるものの、大きな被害は避けられないため、いずれもある程度以上の強力なモンスターが用いる攻撃となっている。そのため「ウォーター」の名をもつモンスターがすべてこの属性を使用するわけではなく(下位の「ウォーター」モンスターは属性が結局「冷却」なのか「酸」なのかよくわからなくなっている)むしろ、強力なユニークが魔術として使ってくる印象が強い。
 [Z]以降は、プレイヤーキャラクターもウォーター・ボールを自然魔法のWhirlpoolで使用でき、なかなか上位の攻撃が揃わない(そして、抵抗されやすい元素攻撃が多い)自然系の術者にとっての攻撃手段のひとつである。



ヴォーパルブレード The Long Sword 'Vorpal Blade' 【物品】

 ルイス・キャロル『鏡の国のアリス』中のナンセンス詩『ジャバウォッキー』に登場した剣。「ヴォーパル」自体がキャロルの造語である。

One, two! One, two! And through and through   いち、に! いち、に! ぐっさりぐさり、
The vorpal blade went snicker-snick!      目にも止まらぬけしにぐの剣、手練の早業!
                                     (高橋康也訳)

 ここでvorpalは頭が大文字ではなく、固有名詞ではなく一般名詞であるかのように書かれているところがいい感じに馬鹿げている。なお高橋康也によると、「けしにぐ」は「くさなぎ(草薙)」を一文字ずつ後ろにずらしたもの、とのことである。vorpalはgospel(神託)から来ていると考察もしており、「神剣」を彷彿しての訳に相違ない。vorpalという語が言葉(vocalやgospel)を発音として連想されることから、意味不明な言葉遊びを紐解くといった意味合いではないかと考察されることもある。
 また、他の訳ではそれぞれの訳者によって思い思いの語にされているが、他の和訳に関しては、「ことえる剣」も「言=神託」から、「まきれもなぎな剣」は「vapor 霧+薙ぎ」、「ねれたる妖剣」「ひるめくつるぎ」は「捩れたる=翻めく=vortex 旋風」などからの訳かもしれない。
 アンバー後半シリーズには、とある事情によってアリスの世界に迷い込んだ際にわずかながら登場する場面がある。燐光と月光が折りたたまれたような奇妙な光を発している、といい(ウィリアム・ギブスン作品の電脳空間に登場するような、鏡面の切れ端が寄り集まったオブジェのような代物であろうか)ともあれ、ここでは普通の物品としてではない。また、同じ世界を訪れることになる短編で、こちらはキーアイテムのひとつとして活躍する。「光り輝き、ねじくれた」武器という描写がある。(なお、いずれもVorpalは頭が大文字で、ここでは固有の武器の名として扱われている。)
 原典や派生創作の時点で、強力な剣という示唆はすでに出ているが、vorpalがRPGにおける「切れ味」「即死」の意として用いられるのは、RPGの原典であるD&Dシリーズから派生すると思われる。オリジナルD&Dの追加ルール集Greyhawk(1976)には、ランダム宝物テーブルの中にすでにVorpal Bladeが見られる。後述するAD&Dのものとは細部のデータが異なり、(同様に四肢を切り落とすSharpnessの剣同様)「聖剣」の一種であるという後のデータには見られない特徴がある。大半のCRPGのvorpal weaponは後述のAD&D由来であるが、roguelikeを含めVorpal "Blade"となっている場合はAD&D以前の最初期CRPGがOD&D出典であることに由来している。例えばNetHackではヴォーパル「ブレード」であることと、ヴォーパルヒットの発生確率が15%でなく「10%」であることはOD&Dのデータ由来である。
 初出はオリジナルD&Dであるが、以後の多くのCRPGに登場するものの原型となっているのは、大半は普及率の高いAD&Dの方である。「ヴォーパルウェポン」はAD&DのDMGのエゴアイテムとして登場し、恐るべき威力を誇るが、多くのRPGではこの扱いがベースとなっている。AD&D1st、2ndのものは、どんな強敵でも一定確率で一切抵抗の余地なく即死させるので、AD&D原典では他にこれほど強烈なものは少ないため(NetHackのコカトリスや死の杖、その他の即死手段はAD&Dにもあるが強敵に有効なことはほとんどない)遥かに性質が悪い(なお、後の版ではヴォーパルヒットも抵抗の余地があるものとなっている)。NetHackに登場するアーティファクトではAD&Dとほぼ同じデータで、一定確率で敵を即死させるほか、モンスター「ジャバウォック」を必ず即死させる。「首」のない敵は即死させず大ダメージを与えるが、これはAD&Dのヴォーパルウェポンよりも、クラシックD&Dのスライシングのエゴアイテム(→切れ味の武器)に近い。なおNetHackで「調和の使者」の称号を貰った際に、神からこの剣を授かることがあるのは、「神託」の意から来ている可能性も高いが、単にこの場合、エクスカリバーやストームブリンガー同様、中立のアーティファクトの代表という意味合いだけのような気もする。なおヴォーパルソードは、D&D系ではセレスチャル、天使系が持っていることが多い;聖書の黙示録で御使が口から取り出すという利剣のイメージも重ねられていると思われる。
 他のRPGでは、例えばT&Tでは「ヴォーパルブレード(死の刃)」は武器の攻撃力を増す呪文の名前となっている。上述の詩の切れ味の意からとられたと思われるが、T&Tの呪文の名前は非常に諧謔的なものが選択されているのが常なので、おそらくナンセンス詩からという意味をこめていると思われる。
 CRPGなどでもVorpal武器が登場することは多く、AD&Dの要素をそのまま採っていることが多いレトロゲーム『ザナドゥ』をはじめ、上述を元としているものが特に海外RPGに頻繁に見られる。ただし、クリティカル武器であることから、(特にこれらを子孫引きした日本製ゲームには)盗賊の武器や短剣となっていることも多い。
 *bandにはZangband以降登場している。一応アンバーシリーズが元とも言えそうではあるが、それよりもAD&Dに発する強力無比な効果の影響の方が強そうである。AD&DやNetHackのような効果はないが、武器としての威力自体が他を圧倒して大きい上に、ヴォーパルヒットというダメージ増大確率がソースレベルで高くなっており(詳しくはhabu氏の[Z]攻略ページ参照のこと)数値をさらに上回る威力を発揮する。[Z]や、[変]旧版ではレアリティも比較的低いため戦士系の標準の最終装備であったが、[変]ではあるバージョンから、その強さに応じてリンギルの2倍と厳しくなっている。



ウグルク Ugluk, the Uruk 【敵】

 アイゼンガルドのウルク=ハイ。サルマン軍のウルク=ハイの隊長のひとりで、ウルク、ひいては『指輪物語』に登場するオークの代表格として扱われる(食玩が出たり)こともあるらしい。
 旅の仲間のうち二人の若いホビット(メリーとピピン)を拉致し、アイゼンガルドに連れ去ろうとしたサルマンのオークの一部隊の隊長で、真っ黒で大柄なオークとだけ記述がある。理由もわからずにホビットを生け捕りにしている(サルマンはホビットがもつ「一つの指輪」を探していたのだが)オーク部隊らの、不満やもめ事が頻発する中を、豪胆さばかりとも言えない兄貴肌でうまくまとめあげていた印象がある。また、アイゼンガルドでなくモルドールに指輪を持ってゆこうとしたサウロンの配下のオーク(グリシュナッハら)の部隊とのもめ事も収め、引き続きアイゼンガルドに指輪を向かわせる。原作では結構長いこれらの場面で、最も台詞も多く活躍したオークとは言えそうである。
 が、まもなくどちらの部隊のオークも、エオメルらのローハンの騎馬部隊に遭遇し、一人のこらず(無論ウグルクも含めて)殺されて死体を山積みに焼かれてしまうのだった。
 ホビットをさらう際、それを妨げようとした旅の仲間ボロミアに矢を放ったのは、映画版LotRでは映画オリジナルのラーツという2Pカラーなウルク(FotRのラスボスかもしれない)だが、原作では自分たち(おそらくウグルク一人ではなく部隊の多数)だとウグルクが語っている。映画版TTTでも、指揮を行いグリシュナッハと口論していたウルク=ハイがウグルクとされる(そして、おそらく死体が焼かれたそばで槍にさらし首にされていたのも)。
 *bandにはおびただしいオーク・ユニークモンスターの一体として登場する。解説には「モルゴスの下僕のひとり」「もめごとには加わろうとしない」とあり、なぜサルマンでなくモルゴスか、一応[V]でも珍しいことではないが後からさほど検討せずに解説をつけたのではないかと予想する。例によってオーク(ものによっては階層以上に強いもの)を引き連れて登場することが大半である。ウグルク自体について言えば、20階としては決して弱くはないが、ゴルフィンブールやルグドゥシュと異なり元素への耐性を持っていないので、そのあたりが弱点のつきどころである。

 →グリシュナッハ



牛うなり Bullroarer the Hobbit 【敵】

 アルダのホビット一族の歴史の中では、指輪の仲間以前では随一の英雄。歴史的には指輪物語の時代の300年ほど前、グラム山の丘オークの軍勢がホビット庄の北の緑野まで及んだとき、丘オークの隊長ゴルフィンブールを討ち取り侵攻を撃退したのが、「牛うなり」(『指輪物語』邦訳。ただし、岩波版の和訳『ホビットの冒険』では「うなり牛」)と通称される、バンドブラス・トゥックである。
 トゥック一族は、アルノール上級王なきあとのホビット庄の選候(セイン、形式上は領主と軍司令。町政は別に「庄長」がつとめる)を任じられた名家で、資産や一族数も桁外れに多い(指輪の仲間・ピピンはここの馬鹿息子だが、フロドやメリーの家も遠縁にあたる)。トゥック家は、ファロハイド族というホビットの中でも屈強で勇猛な種族の血が濃く、勇士や冒険家が多い(ただし、無鉄砲な者をしばしば排出することは、ビルボやフロドらの時代には平和なホビットの間では「落ち着きがない家柄」とやや否定的に見られているようである)。また、時代がかった名家であることを示すため、中世貴族のような名前になっていることも特徴である。バンドブラスは当時の選候イルンブラスの弟で、135cmもの長身を持ち(「現代」のホビットの多くは90cmに満たないらしい)ホビットやドワーフの乗る小馬でなく、普通の馬を乗り回したという。
 『ホビットの冒険』では、「うなり牛」は老トゥック(ジェロンティウス)の大おじと記述され、また、ビルボが自分の「大大大おじ great-great-grand uncle」であると口走りかける場面があるが、『指輪物語』追補編の系図を見ると両方とも本当にそうなっている。特に出まかせの感の大きい後者ですら辻褄を合わせることくらいは、トールキンにとっては造作もないことでしかないらしい。
 また、ビルボがこう口走りかけた際に、ドワーフのグローインがうなり牛とその時代について知っているらしき応答をしているので、うなり牛と緑野の合戦についてはホビット庄だけでなく、(グローインらが当時、同じエリアドールでホビット庄より西の青の山脈に住んでいたことを加味しても)他の種族にもかなり広く知られていることを伺わせる。
 2012年-の映画版『ホビット』3部作の1作目でも、ビルボの袋小路屋敷には壁に肖像画がかかっており、出発におじけづくビルボを焚き付けるために、ガンダルフがこの逸話を語る。しかし、映画でのビルボは、最後(ゴルフの発祥くだり)は作り話だといい、あまり信じていないようである。
 bullroarerは和訳では「牛うなり」とそのまま訳されているが、実際のところは「南国の原住民などが、戦・狩や家畜馴らしのため、紐などの先に木切れ笛など風を切る物をつけて振り回し、敵や動物を脅かす」道具を指す言葉であるという。トールキン自身は書簡の中ではうろ覚えでいいかげんに使った単語だと言っているのだが、実際は「人間から見ればちっぽけな『偉丈夫』が、大げさな名前と名声を発し空威張りする」という雰囲気のために厳選された語としか見えない。
 さらには、AD&DのDragonlance世界におけるハーフリングの一種(ホビットとは性格等はまったく異なるが)「ケンダー」族は、種族独自の武器としてフーパックというスタッフスリングを持つが、この使用法のひとつに先端を振り回して奇妙な音を発し相手を混乱させて難を逃れるものがあり、おそらく同じハーフリングにまつわるこのbullroarerの道具にアイディアを得たものであろう。
 バンドブラス・トゥックは、ICE社のアルダTRPG、MERPでは無論のことデータ化されており、7レベルの戦士となっている(なお、指輪戦争後のメリー、ピピンが8レベルの忍びであり、かれらが英雄としても牛うなりをしのいだという原作の記述に合致する)。種族はなぜか「ファロハイド」となっている(これはトゥックやバック等の名家のホビットのデータに多く、血筋の上では標準的種族の「ハーフット」のはずなのだが、戦士的気質の持ち主なので、データ的にはファロハイド扱いにするということなのだろう)。Hob.原作に言及された、ゴルフィンブールの首をゴルフのごとく吹き飛ばした棍棒『Driver とばし丸』、また、そのまま『Bullroarer 牛うなり』という、オークの士気を落とす角笛を所有する。付されているイラストは、ものすごいゲジ眉以外はMERPのピピンにかなりよく似ている。
 *bandでは[V]からユニークモンスターとして登場する。ホビット庄の偉人にもかかわらず、なぜか「敵」であり、また戦士ではなく盗賊のような能力を持っている。何にせよ5階ではゴルフィンブール(12階)には歯が立つまいが、ホビットの伝承とは異なり奸計を弄して倒したとでも考えるべきか。実際は低い階層にしかも印象的なユニークを増やすために、さほど深い意味もなくここに位置づけられたのであろう。[Z]では外されているが、[変]では再び追加されている。

 →ゴルフィンブール



ウバサ Uvatha the Houseman 【敵】

 ナズグル(指輪の幽鬼)の末席すなわち第9位。騎乗者ウーヴァタ、黒き騎兵。凶暴かつ残忍非道なヴァリアグの騎兵でサウロン軍の伝令使。MERP/TCGのICE社で作られた設定である。
 ICE設定では、ウーヴァタル・アキーフは第二紀には東ハンド(中つ国の南東)の放浪する王族のひとりとして生まれる。トールキンはハンドのヴァリアグ(褐色騎馬民族)を、殺伐とした文化ゆえにサウロンの影響を受けやすく、指輪戦争では冥王軍についた一族としたが、分裂、下克上や血で血を洗う権力抗争が絶えないこの過酷な生い立ちのためもあってウーヴァタルは屈強かつ非情に育つ。逆境を非道さで乗り越えるという形で逆に利用して頭角を現し、遂にはそれまでの歴史では決してまとまることのなかったヴァリアグの統一を果たす。元々ハンドと同盟関係にあったサウロンから《九つの指輪》を受け取ったウーヴァタは、第二紀から第三紀の大半にかけてサウロンのヴァリアグ軍の指揮をつとめ、不浄のレン(第8位)と共に南国人の軍をなした。が、緊張の高まった第三紀末には伝令使として中つ国を縦横に動き回り、こちらの活躍の方が代表的とされる。
 ウバサは中つ国のあらゆる存在のうちでも最も暴虐かつ悪逆であり、その奔放さは使者・遊撃者として冥王軍において目覚しい活躍をしたが、あまりに混沌とした性格のため、サウロン本人ですらもその行いに手を焼いていたという設定になっている。
 余談であるが、ウバサに特に顕著な、こうしたICEのナズグルの強固な個性の設定は、必ずしも指輪物語本編の設定やイメージにはそぐわないようにも見える;トールキンのUnfinished Talesの記述では、ナズグルは(魔王以外は特に)ほとんど個々の自由意志を持たなくなってしまったサウロンの「端末」である(よく疑問が出る、ナズグル自身が《一つの指輪》をはめてしまう危険がないのはこのためである)。トールキンにナズグルの詳しい設定がないのは、歴史に空白を設けるといっただけの理由ではなく、物語の描写で、ナズグルは個々の個性を持たない謎の影のような存在とし、それが名前もない恐怖そのものの不気味さと、逆に、ときには水や火で追い払われる「その他大勢」として使うこともできるといった効果も挙げているように思われるのである。個々の背景やそれに合った性格、人間の頃のような容姿や服装などまで定義しているこれらICEのナズグルの設定は、非常に綿密で興味深いながらも、トールキンの「空白が生む効果」と対極に位置する、ICE設定でも端的なものと言えるかもしれない。ICE設定に賛否両論が出る所以は、密かにはこうした背景にも負っているのではないかと推測する。
 MERPのRPGの設定では、他の大半のナズグルが魔術師系なのに対しウバサはクラスが「戦士」なので、末席でレベルも最も低いにも関わらず攻撃力は非常に高い。
 *bandでは[V]以降40階〜バリアントによっては50階代に登場する。ICE設定を除去する[Z]系では外されているが、[Z]の量産型ナズグルの方が[V]での40階代のウバサより強かったりする。戦士系だからといって特に肉体能力が強いわけではなさそうである。後半序列のナズグルの階層は所詮ダンゴなので、そう変わらないかもしれないが、一応は最も早く出会う可能性の高いナズグルである。

 →ナズグル →レン



ウフサク Ufthak of Cirith Ungol 【敵】

 キリス=ウンゴルのオーク。『指輪物語』のモルドールの入り口のひとつキリス=ウンゴルの場面に、やたらとオークの名前ばかり密集して沢山登場するうちのひとつである。[V]以来オークをひきつれて現れる隊長格のユニークの一体であることと、[V]のモンスターの思い出の解説の「キリス・ウンゴルの通り道を守る力の強いオークだ。彼は極度に蜘蛛を恐れている。」から、あの辺りの場面で隊長格で活躍し、シェロブのことを噂していた一体にそんなのがいたかもしれないなどと、『指輪物語』をうろ覚えの読者は漠然と思ったかもしれない。筆者も最初に遭遇した時にはその例に漏れなかったものである。
 が、実は、このウフサクとは、シャグラトの会話の中、シェロブの網と毒の説明のためのみに出てくる名で、シェロブの網にぐるぐる巻きにされて吊り下げられていたというだけである。(おそらくシェロブが食べるのを忘れていたため、仮死状態から意識を取り戻していたが、シャグラトらは面倒になると嫌なので助けずにそのまま放っておいた。)無論のこと、ウルクやスナガなどの種族・部族などは不明である(映画版RotKでもあのへんにぶら下がっていたのがそれとかあの映画のことだし何か設定があるかもしれないが、現在のところ調査中である)。結局のところ[V]以来、ラグドゥフ(→参照)などと同様、原作に大量に出てくるオークの名前の中から適当に選び出してユニークにしているだけで、隊長格になっていることにはまったく何の意味もないようである。
 しかしながら、ToMEのモンスターの思い出解説文ではその後にさらに、「彼は一度シェロブに捕らわれたことがあるが、彼女が彼のことをすっかり忘れてしまったので逃げ出すことができた。」などと、あたかも本編描写の隙をついてむやみに必然性のないサブキャラを立てようとする後付け続編や二次創作のような設定が追加されている。あるいは、シェロブの巣から生還したことを周囲のオークらに喧伝し、ハクがついたとしてその後隊長の座にのし上がったのが*bandでのこのウフサクの姿なのかもしれないが、それにしても、ToMEはシステムのバランスなどは極めてまったりとしか対応しない一方で、しかも適当としかいえないこじつけであってもこんな設定の細部に妙に気が回っているあたり、ToMEの製作・メンテナンス姿勢には奇妙なシンパシーを憶えざるを得ない。

 →シェロブ



ウボ=サスラ Ubbo-Sathla, the Unbegotten Source 【敵】

 外なる神。自存の源。しばらく前に、どんな生き物のものか正体不明のあまりに巨大な肉塊が海から引き上げられた、というニュースがあり、[Z]邦訳の板倉氏がRoguelike日記に書いた「ウボ=サスラではないのか」という考察が、SF日記の界隈をあまねく駆け巡ったことがあった。これは無論、単に化け物と言っている以上の意味がある;というのは、地球上のあらゆる生命は、元をたどればウボ=サスラの原形質であるとも言われているからである。
 ウボ=サスラは、ラヴクラフトの文通仲間でその世界観に次々と外から多くの要素を加えていった作家クラーク・アシュトン・スミスの、同名の小説に登場する存在である。地の底に届くようなとある深い洞窟の底(南極大陸か、あるいはドリームランドのレン高原に入り口があるとも言われている)にいると言われる、非常に巨大なアメーバのような物体で、表面は泡立つように常に小さな分裂を繰り返したり、再びそれを飲み込んだりしている(分裂して偶然離れ出たものが「ウボ=サスラの落とし子」(→参照)で、大きなものは充分に危険である)。そこには知能もなく、ただ「生命活動」の原初そのものがあるのみである。
 かつて地球に大文明を築いた樽+ウミユリ生物「古のもの」(→参照)は、このウボ=サスラの原形質から地球に適応した肉体をもつ生命を作り出したという。代表的なのがショゴス(→参照)であるが、しかし古のものの作った生命の原型が原始ショゴス塊とも言われ、地上のあらゆる生物はそこから生み出されたものとも言われているのである。「クトゥルー」シリーズの訳者のひとりは、これを人類をエデンの園から追放する、クトゥルフ神話の中でも最も忌まわしい設定のひとつと述べている。
 ひそかに隠れ住んでいる神であるウボ=サスラはあまり人間には知られておらず、教団などもないが、ネクロノミコンなどでウボ=サスラについて知った魔術師はこの神を探しに洞窟に降りてゆくという;というのは、ウボ=サスラのアメーバ状の身体の中や周りには、「旧き解答」と呼ばれる、宇宙の真理の知識が刻まれた石板があると言われているためである。当然ながら、その石板を見たり持ち帰った者の話は知られていない。余談だが、このあたりの設定が、いかにも当時の冒険物・秘境物の匂いのするスミスらしい雰囲気である。
 スミス作の地球の土着の神のようにも見えるウボ=サスラだが、生命の根源・不定形といったイメージから、最高神アザトースと同類といった図式にしているクトゥルー神話系派生物の解釈も存在する。例えば、アザトースとウボ=サスラが「旧神」から「旧き解答」を奪ったが、罰として両者とも知性と定型を奪われて封印された、といったものである。
 *bandでは、旧支配者や外なる神の類の中では、最も低い階層の41階に登場する。あくまでも「地球のみの神」という雰囲気が強いので、小神として扱われているのかもしれない。酸や毒の攻撃などがいかにもだが、魔法などは全く使ってこないので、意外に危険ではない敵と言えるだろう。原作の扱いからすると少々無礼かもしれないが、クトゥルフ系の腕試しとして対策を立てて挑んでみたいところである。

 →古のもの →ウボ=サスラの落とし子



ウボ=サスラの落とし子 Spawn of Ubbo-Sathla 【敵】

 いわゆるクトゥルフ神話の不定形の神ウボ=サスラは、創造したC.A.スミスの同名の著作によると、地下においてたえまなく「地球の生命の原型である単細胞生物」を生み出しているというが、同作冒頭の『エイボンの書』の記述によると「定まりし形とてなき原初のイモリ」(これは地を這う柔らかい生物の比喩表現で、おそらくRoguelikeでもおなじみのあのイモリという意味ではないと思われる)「地球上生物の不気味なる原型」を産んでいるという。『エイボンの書』によるとそれだけでなく、ウボ=サスラをその発祥とする地球の生命は、いずれすべてが輪廻ののちに、ウボ=サスラのもとに帰ってゆく運命にあるという。
 TRPGのCoCルールブックでは、ウボ=サスラの落とし子は常に生み出され、また大半が生み出された直後にウボ=サスラ自身に食われているもので、その一部(とはいえ数的には膨大だが)が洞窟へと這い出してゆくというものである。ひとつとして同じ形のものはなく(必ずしも不定形ではない)大きさなどは不明(おそらくまちまち)だが少なくとも人間を飲みこむことは可能である。
 CoCゲーム同様に、原典の記述から容易に想像できる、形をなさず知能もない「蛭子」的なイメージを持たれることが多いと思われるが、しかし、「生命の発生源であると共に帰属するところ」というスミスの著作内容から読み取れるところを広く解釈され、まるで別の形をとっている作品もある。例えば、クトゥルフ神話作家のひとりでもあるコリン・ウィルソンが『宇宙ヴァンパイアー』『精神寄生体』で描くニオス=コルガイ(種族ないし神格)、またウボ=サスラの眷属・信奉者として描いている存在は、精神を寄生させ、人間の生命力を集め、自由に他生物の姿をとり、ことに『宇宙ヴァンパイアー』において「妖艶な美女」として現れるものまで存在する。


    _  ∩
  ( ゚∀゚)彡 おっぱい!おっぱい!
  (  ⊂彡
   |   | 
   し ⌒J

(映画『スペースバンパイア』実況スレッド、2ch過去ログより)


 *bandにおいては、ユニークモンスターのウボ=サスラと共に40階に設定されて出現する。分裂・増殖する'j'シンボルの一種という定型的なものである。ただし、ウボ=サスラ自身は仲間を引き連れるフラグも召喚も持っていないので、必ずしもこれを伴って出現するとは限らない。しばしば、これと共に現れたほかのユニークが、増殖するこの落とし仔に囲まれ攻撃されてプレイヤーが何もしないうちから瀕死になっていることがあり、これを「ウボ=サスラの落とし仔に陵辱されている」などという発言がときどきクトゥルフ神話ファンの*bandプレイヤーから飛び出し、*bandのモンスターの思い出文章には一応「気味の悪いゼリー状生物」とはあるものの、仮に『宇宙ヴァンパイアー』のそれを考えるとどうにも洒落になるものではない。敵としては、増殖速度も速く、攻撃も酸の高ダメージで二重耐性がなければかなり厄介なもので、増殖系の敵の中でも危険なひとつである。

 →ウボ=サスラ



羽毛落下 Feather Falling 【システム】

 「羽毛落下」は膨大な種類の呪文を持つAD&Dにおいて、魔法使系の最も初歩の呪文のひとつとして存在するもので、落下速度をゆるやかにし、落下によるダメージを軽減するのみの効果を持っている。ある意味では「飛行呪文」の最も初歩のものといえるかもしれない。
 この呪文は、基本的に落下速度を一定にする(自由落下の法則を無視して一定低速の等速運動にする)というもので、具体的に重量がどう変化しているのか等に関する詳細のルールなどはあまりない。自分が落下するだけでなく、上から落下してくる物体(落石など)にかけた場合、上に落ちてきてもダメージが減少するが、頻繁にこんな使い方をしたという話も聞いたことはない。また落下速度が遅くなるならば、どのみち普通に持ち運ぶ物品にかけると運びやすくなるような気がするが、そういった(テンサーの浮揚円盤のような)使い方はできない。定義が不可解な分だけ、細かいことを考えはじめると疑問が多々わいてくるように思えるが、使用される(意識される)頻度自体が少ないので、あまり理屈をこね回したという話も聞かない。
 TRPGであれば、普通は「盗賊」しか移動できない垂直方向を(落下だけだが)移動する場合、落とし穴への対処など、有効な局面は多々考えられるものの、事実上浮遊や飛行の呪文と分離する必然がなく、呪文能力の非常な細分・制限をモットーとするAD&Dであってこそ、という側面もある。TRPGの後出のルールにもよく似た落下制御(フォーリング・コントロール)の呪文が存在することがあり、ゲームブック「ソーサリー」シリーズには、普通の浮揚呪文(ZEN)に対して落下速度のみ落とす呪文(FAL)があり、ZENには道具(メダル)が必要という差はあるものの、なぜ分離しているのかはなはだ疑問がある。
 が、飛行呪文とはまた違った絵になるので、話題には上りやすい。Dragonlanceのレイストリンの持つ『マギウスの杖』は、データ上では1日1回(コンティニュアル・ライトと共に)このフェザーフォールの呪文を発動でき、小説版でも頻繁に使用しているので、フィズバンがかけるのに失敗した等と共に覚えているファンも多いかもしれない。
 羽毛落下は呪文のほか、指輪のアイテムとしても存在し、むしろこの恒常的に働いている状態ではじめて役立つ感があり、Roguelikeでのそれも直接はこちらに近いとも言える。
 *bandでは、Moriaの時点から[V]系を通じて羽毛落下の能力が存在する。おそらく、ダンジョン内の冒険では「浮遊」「飛行」などよりも、こちらの魔力の方が相応だと考えられて導入されたのだろう。その位置づけは、落とし穴やトラップ・ドア(下の階に落ちる)のダメージを軽減するというもので、落ちること自体を防ぐことはできない。落とし穴で致命的な大ダメージを受けるとなると、序盤のメイジ系ぐらいのもので、確かにその時点で羽毛落下の能力が手に入っていれば役立つのかもしれないが、おおむねほとんどの局面で実効のない能力と言ってよいものだろう。
 屋外マップや、ダンジョン内にも深水や溶岩などのさまざまな地形が導入された[Z]以降は、おそらくそれら地形を越えられる浮遊能力が、羽毛落下にとって変わっている。地形のほかに、トラップドアなどに落ちないという意味でも、羽毛落下に比べて一転してかなり重要なものとなったが、「浮遊」に関しては別エントリーを設ける。ともあれ、[Z]の流れをくむバリアントや発展型では、羽毛落下は浮遊にそのまま差し替えられ概念として消失している(設定ファイル内のフラグとしてはFEATHERで残っていることもあるが、実質の効果は浮揚であったりする)ことがほとんどである。

 →浮遊



ヴラド Vlad Dracula, Prince of Darkness 【敵】

 出展:闇貴公子。歴史上のワラキア公ヴラド・ツェペシュを指すが、「RPGにおける用法」に限った話では、この人物がブラム・ストーカー著作のドラキュラ伯爵のモチーフであることから、ヴラドといった場合「他の吸血鬼でなくドラキュラ本人」を指すという目的で用いられることがほとんどである。
 いわゆるドラキュラ伯爵とそのモデルであるワラキア公ヴラドに関してはあまりにもかったるいので「吸血貴族」やら「真祖」やらという語を少年雑誌図式バトル物の材料としか見なしていないそこらの同人関連に大量に氾濫する情報にでも譲っておくとして、ここでは概説とRoguelikeに関係する補足説明のみにとどめる。また吸血鬼一般に関しては種族「吸血鬼」およびモンスター「バンパイア」の項目に譲る。
 15世紀の武将ヴラド3世は、ブラム・ストーカーがドラキュラ伯のモデルにした実在の人物であるが、ストーカー作品内のドラキュラ伯とは、必ずしも同一人物として書かれたものではない。文中には「ドラキュラ」という名以外にヴラド3世と特定できる記述も繋げられる材料もない。また、例えばヴラドはルーマニア南部のワラキア公で、ドラキュラのトランシルヴァニアは北西部である(ただし、ヴラド3世の祖父の砦で3世が一時滞在したことのあるドラキュラ城(ブラン城)がトランシルヴァニアにある)。どちらかというとストーカー作品では、ドラキュラ城や猛将らの悪魔化伝承にアイディアのみ受けているように思われる。しかしながら、次第にドラキュラ伯個人を指すのに「ヴラド」という名が使われるようになったのは、本来固有の人名である「ドラキュラ」という語自体が、通俗化に伴ってあまりに軽々しく「吸血鬼の一般名詞」か何かのように使われることも増えたので、ドラキュラ伯を特定する語として強いてヴラドが本名として「設定された」という側面も強い。
 ヴラド・ツェペシュ(と、その前後代のワラキアの猛将ら)は、人質生活や失地・回復を繰り返す波乱の中、トルコやハンガリーの圧力から巧みにルーマニアを守り続け、生前後ともに、地元では称えられるがその周辺の土地では敵国による悪評もあって蔑まれ恐れられる、至極典型的な戦乱時の英雄である。従わぬ者を大量に串刺しにしたという逸話が有名だが、これはとりあえず記録される程度には残忍だとはいえ(特にアジア系の)荒々しい武将らにおいては、他が霞むほどには格別きわだった所業ではない。のちに東欧土着の吸血鬼伝説に繋げられるに至る、遂にワラキアを攻略できなかったトルコによる「串刺し公」の評判が特に広く長期間にわたって流布されたという側面が大きい。ドラキュラとは「ドラクルの子」の意で、ヴラドが特に失地時代に自称した通称であるが、父のヴラド・ドラクルの名は神聖ローマ帝国の「龍騎士」勲爵士だったことに由来する(ただし、後代には龍=サタンの意の恐怖の名にも流布され、あるいは誤解される)。*bandにもある「ヴラド・ドラキュラ」(ヴラドのサインにこの形のものがあるともいう)はそのまま読めば「ドラクルの息子のヴラド」の意となり、なんとか意味は通らないでもない。
 さて、*bandにおいても採られている「闇貴公子 the Prince of Darkness」という熟語だが、これはクリストファー・リー主演の定番ドラキュラ映画シリーズのひとつ、『凶人ドラキュラ』の原題として最も有名である。熟語自体が英語において「サタン」の婉曲表現でもあり、ひいては、「サタンすなわちthe Dragon」の子=dracula、にも通じる。なお『凶人ドラキュラ』は、同シリーズとされる吸血鬼映画としては4作目、ドラキュラが登場するものとしては3作目だが、リー主演のものとしては2作目、初の「続編」である。故に、*bandでのこの名は「(ストーカーの原作とは異なり復活した)リーのドラキュラ」であることを示しているのかもしれない。CGなどのSFXがほとんど存在しない当時、俳優は地の演技力で吸血鬼の迫力を出すことを要求されており、ドラキュラ俳優は幾多あれどそれに成功したのはベラ・ルゴシ以外にはリーが最も重要と言われているが、時期故にモノクロ映画で時代がかった面の大きいルゴシに対していまだにも通じる、またカラー映画の草分けであるリーのドラキュラは当時きわめて大きな反響を呼び起こしたようである。リーによるドラキュラの、長身に短い黒髪をオールバックに整えた姿はドラキュラ像の最も典型的な姿として広く知られており、少し遡った世代では、映画のドラキュラ伯のイメージはいまだ強いようである。なお、短い黒総髪と夜会服風の貴族的な正装という優雅な姿は基本的にはルゴシとリーで同じだが、代表的な画像としてはルゴシが静かに佇む姿なのに対して、リーは牙から血を滴らせて目を血走らせた怪物的なドラキュラの姿が出てくることも多く、ソフトのジャケット等でも強調されていることもある。あるいはリー版の方が娯楽ホラーとして知られているということかもしれない。
 なおまったくの余談だが、吸血鬼としてのドラキュラ伯爵が真祖(闇の親を持たず、自力ないし最初から吸血鬼であるもの)であるか否かは諸説がある。当然ストーカーの原典に記述はない。コッポラの映画の、神を呪ったため吸血鬼になった描写なども、東欧以来の伝承での吸血鬼の生成経緯と合致するものなので、真祖とする説も特に否定する材料はない。しかし、世界各地の吸血怪物の伝承の中で考えると、ヴラドの時代背景からは決して吸血鬼として「老齢」というわけでもないため、真祖ではなくより長生者から血を与えられた、という扱い(キム・ニューマンの小説など)の方がむしろ多いようである。菊地秀行の”D”シリーズのドラキュラが呼ばれる「神祖」は、あるいはこのシリーズの超未来ではすべてドラキュラの血脈から派生しているのか、単に偉いから(単に偉い吸血鬼を「真祖」と定義している作品も多い)なのかは定かではない。近代ホラー風題材を描くTRPGの'World of Darkness'シリーズでは、ヴラドは血脈の上では東欧吸血鬼のツィミーシィ氏族にあたるが、その派閥とは独立した勢力とされる。
 敵:*bandに[Z]以降登場するヴラドは、おそらくNetHackに登場する「ヴラド公」に倣ってこちらにも登場しているのだと考えられる。NetHackのヴラドは、ほぼAD&DのGreator Vampireに相当する能力を持つデータになり、特有のマップ(城)も持っているが、だいたいここに到達するあたりのプレイヤーにとってはさほど危険な能力もなく、インパクトの薄い敵となっていることが多い。
 [Z]では66階となっているが、[変]ではほぼコピーで能力が追加されたディオ・ブランドー(→参照)などの兼ね合いからか、3階のみ階層が低くなっている。[V]においては最大の吸血鬼はスリングウェシルで、ノーマルモンスターの吸血鬼(バンパイアロード等)より段違いに強力だが、吸血鬼の代表としてこれより強力にし、またこれが55階なので一回り大きいゾロ目階層の66階にしたとも考えられる。(あるいは、66階はそのthe Prince of Darknessという名からサタンを意識したものとも思われる。)日本の『悪魔城ドラキュラ』等と異なり、海外のドラキュラはあまり必殺技を放ってきたりはしないが、*bandでは階層相応の各種の魔法を使用し、そつのない典型的な深層ユニークとなっている。



ウリク Ulik the Troll 【敵】

 トロルの。北欧神話を題材にしながらも宇宙を舞台にしたヒーローアメコミ、『マイティ・ソー』(Mighty Thor, 似非ノルド語の「トール」ではなく英語発音で「ソー」である)に登場するライバルキャラクターのひとり。ウリクはRock Troll族の一体で、主人公のソーをはじめアースの神々と対立して、繰り返し登場するひとりである。このシリーズに登場する神々やトロルは、大柄な人間程度の大きさになぜか3倍もの密度があるが、ウリクも例外ではなく、トロルといっても身長は6フィート半程度でしかないが、780ポンドの体重がある。見かけはどこか類人猿的な、だが茶色の髪と鬚の人間に近い容貌を持つ。めだった特殊能力の類はないが、もっぱら素手で、また硬質合金でできたブラスナックルを両手にはめて戦う。登場するトロルらの一族では最大の腕力を持つとされる。ソーのハンマー(ムジョルニア)を盗もうとして登場したのをはじめ、何度か物品をめぐってソーと対峙する。
 *bandでは、アメコミからいくつかが採り入れられた[Z]から(『ソー』に関してはワーグナーつながりで北欧ともいえるのだが)51階というちょうど真ん中のユニークモンスターの一体として登場する。しかしながら、アメコミ有数の剛力ヒーローであるソーのライバルにたがわぬその凄まじいまでの打撃能力(20d12の地震打撃が2回)は深層のプレイヤーにとっても非常な脅威であり、Tシンボルに油断して秒殺されるケースは跡を絶たない。



ウルク Uruk 【敵】

 出典:ウルクとは暗黒(モルドール)語で単にオークのことだが(クゥエンヤのウルコ、シンダリンのオルフ/ユルフに発するとされる)あえてオークと呼ばず「ウルク」と言った場合、多くはいわゆるウルク=ハイ、オークの上級種族にあたる亜種を指す。(ウルク=ハイは大型のオーク種族、の意とされる。ハイとは共通語のHighではなく、モルドール語haiで「ともがら」「集団」「一族」を指すようである。直接「部隊」の意であるという説も有力で、ICE社の設定では「ハイ」とは50-100人の部隊を指す語とされる。)ウルク=ハイとは一般に、アルダ世界の第三紀になってから、オークがさらに魔力で強化されて作り出された種族であり、他のオークよりも遥かに屈強で知能・武装度も高い。また、かつてモルゴスがウツムノで作り出したオーク(→参照)は「火と暗黒の中で作り出されたため、水と日光を恐れる」が、ウルク=ハイはこれらをまったく恐れることがないとされる。
 そのウルク=ハイを作ったのは誰(どの勢力)なのかと言えば、実はトールキンの作中では、サウロンとサルマンの軍のそれぞれにウルク=ハイと呼ばれるオークが現れる。『指輪物語』追補編によると、第三紀の25世紀にサウロンが日光を恐れない「モルドールの黒のウルク」を作り上げたという記述がある。また一方で、サルマンが指輪戦争の若干前に作り出したハーフオーク(これは交配ではなく、木の鬚の台詞等によると、サルマンが妖術でオークと人間を合成したものとされる)も日光を恐れない。「ウルク=ハイ」という語がどちらを指すのか、『トールキン指輪物語事典』をはじめ非常に多くのファンサイトや辞典類では、「ウルク=ハイ」という語が、前者の「モルドールの黒い『ウルク』」をそのまま指している語であると信じ込まれ、さらに主にウルク=ハイがオログ=ハイと名が似ているといった理由からも同様に「サウロンが作ったもの(のみ)を指す」「現れるウルク=ハイはすべて、サウロンが25世紀に作ったものである」あるいは「原作小説ではサルマン軍は半オークなので、ウルク=ハイとしている映画版は誤り」などと断定的に記述してあることがかなり多い。しかしながら、トールキン自身の記述にそんな断定などは無く、小説の場面では「明らかにサルマンが作ったハーフオーク」がウルク=ハイと呼ばれている方が遥かに多い。また追補編によると「ウルク」の方もモルドールとアイゼンガルドの両方の「図体の大きいオーク」に用いるという。
 結局のところ、子息クリストファー・トールキン教授によると、トールキンは当初「ウルク」はモルドールの黒のウルク(サウロン軍)、「ウルク=ハイ」はハーフオーク(サルマン軍)を指す意図であったといい、特にLotR小説前半部でその用法が多いのはその反映である。しかし、やがて「ウルク」と「ウルク=ハイ」の二種類の語は相互に互換可能に用いるようになったといい、結局のところ、「ウルク」「ウルク=ハイ」の両方の語とも、サウロン製とサルマン製のどちらの種族にも用いる、というのが実際である。おそらく、オークらの呼称する「ウルク=ハイ」は単一の種族の特定の名というより、単に大型のオークの戦闘階級(黒のウルク、ハーフオークとわず)を指す総称と考えた方が妥当であるように思われる。なお、映画版LotRでは、ウルク=ハイはこれらの中では最も出番が多い、「サルマンのハーフオーク」のことを指しての説明が多い。また、原作FotRのモリアの場面にも「モルドールの黒のウルク」が登場するが、このときのモリアのオークらはアゾグらの一族ではなく、(後のハルディアの言によると)直前にモルドールから進軍してきた軍団である。
 
トールキン世界の解釈には、オークが「ゴブリン」と呼ばれる(または退化してそうなった)のと同様、ウルク=ハイは「ホブゴブリン」となったとファンの間で考察される場合がある。伝承のホブゴブリンは、僻地のゴブリンの意のより古風な妖精であり、近世以降の妖精説話ではゴブリンよりさらに小型で妖精的な存在(しばしば善ですらある)である。しかし、トールキンは『ホビットの冒険』の序文で「大型のゴブリンをホブゴブリンと呼ぶ」(トールキンの方法論では、古い妖精=近世以降でなく神話の大精霊の原型を残す偉大で大型な存在、という発想とも思われる)と定義しているため、中つ国の設定で言えばウルク=ハイがそれにあたるだろうとも推測されている。なおRPGではD&D以来、ホブゴブリンはこのトールキンの序文(およびウルク=ハイという推測)にならったと思われ、D&Dや海外RPGではゴブリンより屈強で武装度が高く、強固な軍団を組織し、すぐれた戦士および指揮官を輩出することも多い。
 RPGではゴブリンとオークはそれぞれ単独の種族として扱われることが多いが、ウルク=ハイはトールキン独自の語であるという点を除いても、それに相当する種族自体が登場する例はほとんどない(AD&D1st,2ndのオロッグが相当するが、登場することは非常にまれである)。ほとんどの場合、それが占める位置はバグベアやオーガなどの種族で代用されるためであろう。
 NetHackでは、「ウルク=ハイ」と「モルドールのオーク(黒のウルクのことと思われる)」は別々の存在として登場する。前者がもつ「ウルク=ハイの盾」は、不確定名が「白の手の盾」なので、NetHackのウルク=ハイは、サルマンの作ったものを指しているようである(「白の手」はサルマンの軍章である、映画版では顔に直接塗っているが)。強さ(レベル)自体はほぼ同じで、どちらも、ゴブリンや普通のオークと比するとかなり強い上に、集団で登場し、武器に毒がある場合も多いので、9レベル(AD&Dではネームレベルと呼ばれ、国レベルの英雄である)程度のプレイヤーキャラクターならば少しでも不注意に対峙すればいとも簡単に死ねる。トールキンの英雄たちがウルク=ハイに殺されているさまを身をもって納得できるだろう。
 敵:*bandではMoria以来、おびただしい種類のオークが敵として登場するが、「ウルク」とサルマンの「ハーフオーク」は別々にデータ化されている。さらに「ブラック・オーク」がモルドールの黒いウルクなのかもしれないが、こちらは一段弱い上に光に弱く、よくわからない。そのためここでの「ウルク」が結局何を指しているかははっきりとは確定できない。ユニークモンスターは、サルマン軍にせよモルドール軍にせよ、原作でウルク=ハイと自称していたものには「ウルク」の名がついており、区別されていないようである。ゆえに、結局ノーマルモンスターをはじめ、*bandにおけるウルクとは全般、強力なオークの総称であり、単一の亜種からではない混成部隊なのかもしれない。
 ウルクとハーフオークは、集団で登場しオークピットの中に混ざっていたりすることが多いが、それまでのオークと比すると一段強い上に(ウルクは飛び道具も持っている)原典の設定通り、光で弱ることがないので、それまでのオークと同じ感覚で調子に乗って突っ込んだりすると、気がつくと厄介なことになっていたりもする。NetHackよりはましなので、落ち着いて戦いたいところである。

 →オーク →ハーフオーク →アゾグ



ウルク=ハイ Uruk-Hai

 →ウルク



ウルドール Uldor the Accursed 【敵】

 呪われし者。『クゥエンタ・シルマリルリオン』邦訳では「呪われたる者」「呪わしき者」といった複数の訳になっている。ウルドールはアルダ第一紀、エルダールのモルゴスへの二度目の大敗北にあたるニアナイスの合戦にあたって、父ウルファングや兄ウルファスト、ウルワルスと共に、ノルドールの王子(フェアノールの息子のひとり)黒髪のカランシアに味方した東夷だった。しかしながら、彼らは合戦のさなか離反し、それが元でエルダール側が大敗することになる(ウルファングの項目参照)。その際、陰謀の首謀者となり、またアングバンドから大軍が出撃したという虚報を流したのが、末子ウルドールだった。ウルドールはニアナイスの合戦のさなか、エルダール軍の指導者であるマエズロス(フェアノールの長子)に直々に討ち取られた。
 「呪われし者」というのは、自身のそれまでの性質云々ではなく、エルダール(おそらくはノルドール)が彼の存在をそれほど呪ったという意味であると思われ、後のRPGでも「エルフはひとたび敵を作ると決して忘れない」という設定にも強く意識される、伝説時代のエルダールの執念深さ、猛々しさの典型的な表れである。ヴァラールとモルゴスの決戦である「怒りの戦い」の記述においても、モルゴス側についた東夷について(父ウルファングではなく)「ウルドールの民」という呼び名が使われており、「エルダールに敵する人間」を指すものとして、おそらくその後の伝承にも長く使われたものと考えられる。
 *bandでは[V]以来、アルダ系のバリアントにいずれも通じて登場するが、[Z]からは外されており(入ったままになっている兄ウルファスト、ウルワルスとはなぜか異なり)また父ウルファングが戻った[変]でもどういうわけか戻されていない。重要さからか兄らよりは深層であるが、能力的には目だった差はない。また、その名や設定に反して、特に邪悪な魔法の類を使ってくるということもない。



ウルファング Ulfang the Black 【敵】

 黒色王。トールキンのアルダ第一紀の人間で、エルフ(エルダール)側からモルゴスの軍へと寝返った東夷の族長。黒色王はかれらの一族の東夷が、r_infoの思い出文章に書かれているように褐色の肌で黒衣であったことからでもあるが、またこのBlackの意味でもある「腹黒きウルファング」という二つ名がつくことも多い。
 元々、エルダールとモルゴスが戦うべレリアンドからはるか東に住んでいた、東夷と呼ばれる人々は、エルダールやエダイン(親エルダールの人間)とは疎遠で、一部はすでにモルゴスの傘下に入っていた。しかし、エルダールの繁栄にひかれてべレリアンドにやってくる東夷もおり、エルダールの最初の大敗北の数年後に、「ボオル」と「ウルファング」の二人のひきいる一族が増援としてエルダール側に参加した。ボオルと、その息子のボオルラド、ボオルラッハ、ボオルサンドは、ノルドールの長兄である丈高きマエズロス(→参照)に仕え、ウルファングと息子のウルファスト、ウルワルス、ウルドール(→三者それぞれ参照)は、金髪のケレゴルム(→参照)に仕え、それぞれが膨大な軍勢を呼び集めた。
 しかしながら、次の合戦(ニアナイス・アルノイディアド)において、ウルファングはモルゴスから報酬を約束されて寝返り、三人の息子らは総司令マエズロスの軍を撃った。結局、三人の息子らはマエズロスと忠実なボオルの息子らに討ち果たされるが、彼らが敷いておいた配下の東夷の軍勢はエルダールの軍を分断してしまい、これはニアナイスの合戦が二度目の大敗北となる決定的な要因となった。
 *bandでは、[V]当時から存在するユニークで、[Z]系ではどういうわけか息子の一部が残ってウルファング自身が外されているが、理由は定かではない。[変]では復帰している。定命の人間のユニークとしては階層が深い方に入る。黒きヌメノール人らの前半ユニークと完全にキャラがかぶっており、おそらく記憶として混同しているプレイヤーがほとんどだと思われるが、魔法を使ってこないのが大きな違いである。

 →ウルファスト →ウルワルス →ウルドール



ウルモ槍

 →水の王ウルモのトライデント



ウンゴリアント Ungoliant the Unlight 【敵】

 光なき闇の大蜘蛛。アルダ世界の神話時代、メルコール(後のモルゴス)の陰謀(シルマリル奪取など)に加担した悪霊。元はアルダの創世以前から存在する精霊であったが、メルコールが堕落させてアマンの地のはずれに隠れ住ませていた。(つまり、広義ではマイア(下級神)の一種とされることが多いが、ヴァラールに従属する下級神というよりはもっと漠然とした悪意の精霊、例えば創世時の不協和音の産物等と考えるファンが多い。)
 大蜘蛛としての姿は、光なき闇と呼ばれる暗黒をまとい、毒液を持ち、またそれ自体が闇でできた糸・網を張る力を持っていた。メルコールがシルマリルをはじめとするノルドールの大小の力の宝石を奪い、光の根源であるアマンの二本の木を破壊するのに手をかした。その後に彼らはアマンから中つ国に逃げるが、二本の木と小宝石の力を吸って巨大化しさらに飢えたウンゴリアントは、メルコールすら手がつけられないほど強大になり、あやうくメルコールをシルマリルごと食いかけたが、駆けつけたゴスモグらによって追い払われた(このときメルコールを食ってしまえばモルゴスも滅びていただろうが、それ以上巨大化すれば次はもうアルダ自体が食われていたのではないかと恐れる人々が多い)。その後さらに南に逃げたウンゴリアントがどうなったかは不明だが、飢えに耐え切れずに自分を食い尽くしたとされている。ただし、第三紀に登場する大蜘蛛、シェロブや闇の森蜘蛛は、直接間接にはウンゴリアントの子孫であろうとも書かれている。
 MERPでは巨大化した状態のデータもあり、完全にアルダ最強の生物である(その状態のレベル値はメルコールやマンウェと同じなのだが、彼らはクラスが「魔術師系」なので、肉体能力ではこの状態のウンゴリアントには及ばない)。
 [V]から*bandに登場するウンゴリアントは、さすがにその状態ではないが、75階という深層の脅威のひとつである。蜘蛛と共に現れ、また蜘蛛召喚能力もあるが、(特に[V]では)蜘蛛系にここの階層ほど強力なものはいないので、それ自体はさほど強力ではない。攻撃力にも特筆すべきものはないが、この階層としても耐久力が非常に高く(よく見ると、これより上には破壊スル者やモルゴスなどしかいない)つまりは暗黒ブレスにはかなりの威力がある。防御力も高いので、気長にかつ油断できない戦いになるのは避けられない。

 →アトラク・ナクア →シェロブ


運命の切札 Trumps of Doom 【物品】

 アンバー6巻(後半マーリンシリーズ1巻)の題名でもあるが、とあるアンバライトが製作した”アンバーのトランプ(→参照)”の一連のカードであり、地球に暮らしていた主人公マーリンへの策略として用いられたものを指す。”トランプ”には、人物を描いたものや易算などにも使える字札の他に、風景が描かれてその風景の場所に転移できるイレギュラーな札(前半シリーズではドワーキンが何枚か持っている)があるが、これの多くはそれと同種のもので、見たことのない風景やセフィロト樹が描かれたものがある。マーリンの知人のトランプも何も使えないはずの一般人(そういえば最初はそんなようなのだったのだが以下略)の部屋に置かれており、いわば、後半シリーズの出来事のきっかけになったカードで、この名をマーリンが名づけたものである。マーリンが知るトランプ(アンバーのトランプは勿論、同じ巻で言及される、他の次元世界の魔法札類を指すと思われる)とは、扱い方が異なるというが、描かれた物(場所)はともかく、トランプ自体の機能などに大きな違いがあるわけではないようである。
 [Z]からトランプの3冊目、上級呪文書として存在する。この名が上級の魔法書の名前として採られた理由は、この名前自体の印象の強さという以上の意味はないと思われる。呪文書の内容的に原作の内容と関係があるわけではないし、出てくる呪文書が件のアンバライトの製作(やそのレプリカ)であるとも思えない。なお[変]では「運命の切札」だが、[Z]では「破滅のカード」になっている(これはZの初期訳で、英語と日本語のトランプの意味を考慮して、「トランプ」自体が最初「カード」と訳されていた名残である)。他のRoguelikeの'Dungeon of Doom'にも言えることだが、このDoomという言葉が「運命、なおかつ不可避の悪運・滅亡や死の運命」という微妙なニュアンスを持つ英単語で、日本語ではこれといった適切な訳がなく、どの例を見ても訳には苦労の跡がある。[Z][変]あるいは他の候補のどの訳がよいかは、筆者にも正直判断できない。
 この3冊目の呪文書には幻霊召喚をはじめとした強力なものがあり、[Z]ではようやくトランプ魔法の真髄が見られてくるところである。ただし、[変]では[Z]から一部の魔法が下級の2冊目や上級の4冊目にずれて変更されているものが多いので、やや[Z]に比べて重要性が減ってしまったきらいがある。ただし、*band全体でも重要な魔法「次元の扉」が[変]では3冊目なので、きわめて重要であることにかわりはない。

 →トランプ



エイブラ Eibra the Water Dragon 【敵】

 青竜島の水竜。和製ファンタジーの先鋒である小説・アニメ等のシリーズ『ロードス島戦記』に登場するドラゴンで、ロードス島に住む「五匹の古竜」の一匹。ロードス島北西端の島、青竜の島に住み、かつての古代王国の秘宝のひとつ「魂の水晶球」を長らく守護していたが、別の秘宝を探していた黒騎士アシュラム一行に、休眠期であったこともありさしたる重大な被害もなしに倒される。原作小説にアシュラムらと戦う場面が直接描写されているだけブラムド(→参照)よりはましな程度である。なお、「魂の水晶球」はアシュラムらにとっては外れであったが、この点を比較的軽視していたため敵国フレイム王国に渡り、この品が次のキャンペーンのキーとなるのである。
 描写によるとエイブラはサーペントかワーム(ここではD&D系や*bandのワイアームの定義とは異なり、蛇型のドラゴンを指す)に近いほど脚部や翼が退化した蛇型のドラゴンの形状を持つ。『ソードワールド』としての設定では実際は古竜ではなく大幅に格の劣る老竜(エルダー・ドラゴン)でしかないが、古竜に拮抗する肉体能力と古代語魔法(竜語でなく、人間の魔術師の使用する魔法と考えてよい)を用いる非常な知能の高さから誤解されていたとも言われている。『ソードワールド』におけるドラゴンのサブ分類である「水竜」は水のエレメントの耐性や適正を持つが、吐くのは火炎であり、『ロードス島戦記』のいずれの作品の描写でもそうである。しかし、「青竜の島」という名にのみ残っているように、最初期のリプレイの題材ルールであるクラシカルD&Dではブルー・ドラゴンであり、このルールでは本来電撃のブレスを吐くものである。
 *bandではOVA版『ロードス島戦記』を取り入れたSBFbandにユニークモンスターとして追加されていたもので、ここから[変]に取り入れられている。SBFbandでは当然のように海外では馴染み深いD&D系のブルー・ドラゴンとして解釈されたままで、名前もEibra the Blue Dragonになっており、能力も当然電撃のブレスを吐くものである。[変]では一応、ウォーター・ボールの魔法が追加されており、ウォーター・ハウンド等と同様の「酸」のブレスを吐くように変更されている。しかし、やはり火炎のブレスでもなく、原作で用いていた古代語魔法のような他の魔法類も追加されてはいない。なお数値的には、5匹の古竜はSBFbandでも[変]でもまるで同じである。



エオグ

 →アダマンタイト


エオル Eol, the Dark Elven Smith 【敵】

 闇エルフの鍛冶師。アルダの伝説時代(第一紀)の代表的な名工のひとりであるが、妖刀匠伝説のような業と共に語られる名でもある。(なお、第三紀のローハン人ことエオルリンガスの祖である青年王エオル Eorlとは無関係である。)
 元々はシンダール(灰色エルフ)のひとりだったのだが、鍛冶の技を高めるうち、次第にエルフらしからぬ地下での技に手をそめ、エルフらの同胞から離れて(特にノルドールとは不仲であった)単独やドワーフと共に鍛冶の技を行うようになる。この時点ではこれといった悪事や邪悪の技を行ったというわけではないのだが、これらの行いが不吉に見なされたのか、「暗闇のエルフ」という名で呼ばれるようになった。
 中つ国で知られた最も古い森のひとつであるナン・エルモスに屋敷を構えて住んでおり(他のエルフ貴族らと交流しなかったとはいえ、独り住まいではなく、使用人等はいたらしい)この森に彷徨い込んだノルドールのアレゼル(ゴンドリンのトゥアゴン王の妹である)をさらって妻とし、息子マイグリンをもうける。エオルはアレゼルとマイグリンに対しては不自由ないよう尽くしたようで、彼らは必ずしも不幸ではなかったというが、森から出して貰えず、また理想郷ゴンドリンへの郷愁と憧れがつのり、二人はやがてゴンドリンへと逃走する。エオルは彼らを追いかけてゴンドリンまでたどり着くが、トゥアゴン王の御前でマイグリンがエオルを裏切り、そのもつれが重なってアレゼルはエオルの槍が刺さって命を落とし、エオルは崖から突き落とされる処刑が施されるという最期を迎えた。エオルの呪いと、マイグリンの奇妙な生い立ちと屈折は、のちのちゴンドリンの都に陰を落すこととなる。
 エオルとアレゼルの物語は非常に御伽噺的である。例えば妖精が人間の少女をさらって尽くしてくれるが、少女が帰りたがると逆に呪うといった説話は非常によく見られる。とはいえ、ここではアレゼルがより上位の妖精なのであるが、天女が囚われるというさらに世界各地で頻出する説話をも思わせる面もある。
 エオルは黒髪で厳しく秀でた容貌をしていたが、常に鍛冶のために長身をかがめていた(しばしば丈高いことが尊さの目安であるトールキンのエルフにおいて、一種独特の位置づけである)。エオルが発明したものにガルヴォルンという非常に堅牢な金属(→アダマンタイト)があり、その金属で作った黒い鎧をまとっていた。隕鉄から鍛え上げた中つ国で並ぶもののない剣、アングウィレルとアングラヘルを作ったのがその鍛冶の技の極致である。が、アングウィレル(→参照)はマイグリンが出奔する際に持ち出してしまい、アングラヘルはエオルが灰色エルフのシンゴル王に領地を横断する許可を貰う際に献上し、シンゴルから勇士ベレグに与えられ、ベレグの親友トゥーリンに渡る(→グアサング参照)。
 *bandでは自身がユニークモンスターとして登場する扱いがほとんどである。[V]には登場しないが、[O]をはじめほとんどの発展系バリアントに見られ、ToMEや[変]にも追加されている。また[O]には魔法道具使用を増加させる「エオルのガントレット」というアーティファクトも存在する。40階という中レベルの敵で、階層としては中々攻撃力も高いが、設定ほどの防御力はないように思える。魔法もあるがこのレベルでは大きな影響もないもので、さほど印象には残らないかもしれない。

 →マイグリン →ダークエルフ



エオル家のランス The Lance of Eorlingas 【物品】

 出典:エオルリンガスとは、『指輪物語』に登場するローハン国、ロヒアリム一族を指す。ロヒアリム(馬の司)はシンダリン語で、ドゥナダンらが彼らを呼ぶ名であるが、彼ら自身は実質の初代王である「青年王エオル」の一族であることからエオルリンガスを名乗る。Eorlingasというのは(現代では)古英語で、英語の文法ではなく、『指輪物語』邦訳では「エオ(ル)リンガス」のままであったり、「エオルの子」「エオルの家の子」「エオルの裔」など、箇所によって様々な表記がある。*bandでは一応は王家のランスということで、「エオル家」となっているようである。ローハンやローハン人にはこのような様々な名があるが、作中ではロヒアリムの表記がとられていることが多く、「エオルリンガス」はセオデン王(→参照)の決め台詞、"Forth Eorlingas!"で用いられるのが代表的である。
 青年王エオルについては、『指輪物語』追補編およびUnfinished Talesに詳しいが、元々は荒地の国の遥かに北のエオセオド王家の一族だった。王家の先祖には竜のスカサ(→参照)を倒したフラムと、さらに遡ると南方王朝ゴンドール王と共に馬車族と戦ったロヴァニオン王家につきあたる。エオセオドにおいてエオルは若い頃に、父王を振り落として死なせた馬フェラロフを手なずけたという、馬の民の王に相応する説話がある。フェラロフの子孫がローハンの魔法の馬メアラス(→飛蔭)である。また「青年王」とは、エオルが(衰えても老けないゴンドール人とは異なり普通の人間の一族であるにも関わらず)晩年まで若々しく金髪であったことに由来する。(なお前の「エオル」の項目でも述べているが、このEorlは伝説時代の闇エルフの鍛冶師Eolとは何も関係ない。)
 第三紀の26世紀(『指輪物語』の4世紀前、というとエルフ史を見慣れた目にはさほどの期間に感じないから不思議であるが)ゴンドールが東夷の大侵攻を受けた際、ゴンドールの執政キリオン(すでに南方王朝ゴンドールに王はいない)を助けて、エオルは一族の全軍を率いて大きく南下し、ケレブラント野において東夷および呼応したオークらを撃退した。執政キリオンは、この侵攻と疫病で人口が激減していたゴンドールの山脈を挟んだ北部の広大な地を、エオル一族に提供した。エオルの一族と民は、手狭で農耕にも向かないエオセオドの地からこのゴンドール北の地に移住し、この国は辺境国(マーク)、ローハンとなり、エオルはその初代王となった。
 なお、エオルの子孫であるローハン王家の直系は槌手王(→参照)ことヘルムで一度絶え、甥フレアラフと子孫が続き、セオデンまで続く。セオデンの次が甥エオメルから始まる第三王家である。
 物品:*bandにはエオル家のランスは[V]以来登場する。ランスとは現在、およびRPGで最も一般的な解釈では騎乗試合に用いる馬上専用の長槍だが、この槍は『指輪物語』でロヒアリムらが使っているのと同様普通の槍の長いものの形をした初期の馬上槍であろう。彼らの槍に特別なものは特に登場しないが、強いて言えばこの物品はそのうち上質なものか王家のものかもしれない。
 [O]由来のアーティファクト解説には、「青年王エオルはコルマルレンの荒野へと到来し、彼のランスは獰猛なるトロルと魔狼たちを敗走させた」とあるが、コルマルレンとはヘンヌス・アンヌーンに近い、イシリアンの「緑野」であり、エオルの長征の際は(および以前のロヴァニオン王家の支援時も)そこまでは南下していない。ここでコルマルレンとされる由来は不明だが、あるいは単なる「ケレブラント」「カレルナルゾン」といった地名との書き違えかもしれない。また、エオルの長征にはトロルや魔狼が敵だったという記述はない。ここでは、単にアーティファクト性能にあわせた解説にしているだけだろうと思われる。攻撃力としてはダメージがかなり大きく中堅の品であるが、非常に重いため、あまり使用される機会はない。



エオルのガントレット The Gauntlets of Eol 【物品】

 アルダのエルダールの鍛冶師の中でもひときわ特徴的な、闇エルフのエオル(→参照)に関しては、その鍛えた品や資材は無論のこと、自身が持っていた装備に関しても記述が多い。これはトールキンの原典は無論のこと、ICE社のゲーム設定はなおのことである。しかしながら、トールキンにはその防具がガルヴォルン(→アダマンタイト)製であったことの記述はあれど、「篭手」に関する明記があるわけではない。また、ICE社の設定でも、剣(アングウィレル(→参照)とグアサング(→参照)以外の自分の剣である)や盾、指輪、兜、鍛冶道具などの詳細なデータはあるが、篭手の記述はない。
 この物品は*bandでは[O]において追加されたものだが、元来、[O]のシステムにある「魔法道具」能力=物品を扱う能力を向上させる品として、鍛冶師エオルの篭手(手袋、手)という発想で追加されたものなのだろう。しかし、[O]以外のバリアントにもこの品が取り入れられているが、この発想とはおそらく離れたものになっている。ベースACや電撃・暗黒・毒などへの耐性は共通しているものの、ToMEのものは魔法能力を増強させるもので、また[V]3.0系より取り入れられたものは、反感もついた単なる「呪いの品」に過ぎず、エオルの闇のエルフという側面だけを採ったものとなっている。[O]と同様のシステムを再現できないが故に別の方法で個性づけたと言えるが、紛らわしくはある。なお、他の防具と同じならばこれもガルヴォルン製と考えるのが妥当に思えるのだが、[O]以来のアーティファクト解説では「鉄」製と書かれている。

 →エオル



エオンウェ斧

 →旗手エオンウェのグレートアックス



エクスカリバー The Long Sword 'Excalibur' 【物品】

 ブリテンの伝説王アーサー王の剣。実在の神話・伝説における宝剣・聖剣の代名詞で、ゲーム類への登場例は枚挙に暇を持たない。実在伝承に関して詳しくはその類の研究ページに譲るので略すが、つまりは元来のケルトから後代のキリスト教まで、相矛盾するものも含めて多数の伝説の集合体であり、実体を捉えるのは難しい(定本、マロリー版『アーサー王の死』でさえ矛盾する複数の記述がある)。その名の語源はケルト神話の「硬い果実」カラドボルグ(カラドヴォルヒ、カレイドウルフ)あるいは「妖精のchalybs(鉄)」に発するキャリバーンの説、それが折れて鍛え直されex-がついた説、ラテンの「エクス・カリス・リベリア」(”岩より解き放つ”、言語学上はかなり意味不明という指摘が多い説であるが、古いD&Dの資料に記載されているためFT/RPGとしては知名度が高い)の説などがある。
 [変]に登場するものに関しては、筆者が開発掲示板で原案を行なった。AD&Dでは何度も異なるデータ化がされているが、大分して二種類、「holy avenger」と「sharpness/vorpal weapon」の能力を持っているものがある。前者はアーサー王物語がキリスト教化し「聖剣」の代名詞となったことを意識してであろうが、元々妖精郷の武器=異教系の物品であることに合致しない。後者は岩を貫くほどの鋭利さからと思われる。また、NetHackではholy avengerを思わせる命中・ダメージ修正を持ち、また(正確には鞘の)「所有者は切り傷を負わない・血を失わない」という伝承を意識してか、エナジードレイン防止能力を持っている。*bandではこれらを参考にし、総合して、(聖戦者)、切れ味、生命力保持や破片耐性の能力をすべて持たせている。レアリティはリンギルの1.5倍と非常に出にくくなっている。
 実は筆者の掲示板提案時点では、当時の実装時点よりもさらにひと回り半ほど強かったのだが、当時の強武器であるアイヌア武器を超えてはいけないとの当時の開発者氏らにより弱体化されてしまった。なので「レアリティが高すぎかつ知名度に見合わない」「デュアルクラスで賢さが足りない場合のつなぎくらいにしか使えない」と現在言われていてもそれはどうしようもない。



エクスカリバー・ジュニア The Small Sword 'E. J.' 【物品】

 出典:およそゲームブックに登場する単一の剣としては、「E.J.」という通称と共に最も有名なひとつといえるこの剣は、J.H.ブレナン著『グレイルクエスト』(ドラゴンファンタジー)シリーズの主人公、ピップ(→参照)の佩刀である。かのアーサー王の聖剣エクスカリバー(→参照)をそのまま小型にしたような形状をもつ、非常に見事な小剣である。
 この剣は、ピップの冒険の後援者である賢者マーリン(→参照)が、最初の冒険にあたってピップに与えたものである。マーリンは、「自分が王に作ってやった剣と同じで、やや小さいもの」と言っているのだが、この「エクスカリバーを作ったのがマーリンである(スペンサー著作にある有力説である)」と言う主張は、後の巻の本文中であっさりと否定されてしまっている。このシリーズでも、(マロリー版等と同様)エクスカリバーはマーリンでなく、湖の淑女からアーサーに与えられたものである。ただし、E.J.は、実際のエクスカリバーを意識した、折り紙つきの性能を持っていることは確かである;ダメージ修正はちょうど半分(アーサー王のエクスカリバーは+10であるという記述があるが、E.J.は+5である)で、命中率(基準点)はエクスカリバーと変わらず、登場する他の剣・武器や強靭な戦士のものを大幅に凌駕している。実際に、ピップはかなり多彩な打撃の魔法を教わるのだが、(マーリンがその数々を「剣より強力」と称しているにも関わらず)必殺技的なごく一部を除いて、命中率・ダメージともにこの剣で切りかかった方が遥かに強力なのである。
 何よりファンにこの剣を印象づける最大の特徴は、この剣の持つ「自意識」であるに違いない。もっとも「知性を持つ武器」のアイディアの元となったストームブリンガー(→参照)やグアサング(→参照)のような禍々しいイメージは微塵もない。ときどき思い出したように喋るだけであり、その言葉遣いからはガラが悪い上に、たいていは不平不満で、基本的にあまりやる気がないように見える。さらに、この剣本人の意思は「クモ嫌い」であり、剣としての能力ではなくこの剣本人の恐怖のために、実際にクモが相手の時にはダメージ修正が低下したり、クモの巣を切り払うのに使っただけで命中率が以後低下したりすることがある(ただし、場合によってはただE.J.が恐怖を訴えるだけで結局何も変化がない場合もあり、かなりいいかげんである)。
 なお、「E.J.」という通称(イニシャル)は、マーリンによると、もっぱら剣自身が自分を呼ぶためのものだというのだが、作中ではおおむねト書きの中でも「E.J.」と通称されている。
 さて、このシリーズ中に数あるブレナンのジョークの中でも、「このE.J.の存在そのものが最大のジョークである」と国内外のブレナンファンらは見なしている。ファンタジーに限らずゲームやアニメや小説において、あまりに有名な伝承や神話から無造作に引用した固有名詞を使用するのが当然となっている日本においては、これが「ジョーク」であるという発想自体が理解しがたいかもしれない。しかし、これほど名を挙げるまでもないほどに有名な剣に単に「ジュニア」などという名だけくっつけてしかもどこの馬の骨ともわからない異世界の主人公に持たせるなど、本来どうしようもないほどにあまりにもベタベタであり、おまけにそれがクモ嫌いの不平不満をまくしたてるなど、伝承を考慮しているこの作者や読者から見れば、「大真面目ジョーク」でやっているとしか言いようがないのである。
 物品:筆者が[変]掲示板において「エクスカリバー」のデータを持ち込んだ際、ついで別の投稿者氏により『グレイルクエスト』の物品やユニークが次々と提案された際のものである。しかし、そのデータはエクスカリバーの能力やその数値を低くするような形で製作されたものではなく、マーリンのショート・ソードや『つらぬき丸』といった小剣のアーティファクトを参考にして創作されたもののようである。あるいは当時の投稿者氏は、「エクスカリバー」データの話題が出るよりはるか以前に、データ自体は別に作っていたのかもしれない。能力がエクスカリバーの(聖戦者)に準じたものではなく、実際にシリーズ中で倒すドラゴンや動物(アンサロムの猟犬か)のスレイングになっている点、ベースアイテムが本来のショート・ソードでなくスモール・ソード(誤解されているのだが、これはフェンシング用の小型剣を指す)になっている点などがそうである。あるいは、このときいくつか意見してエクスカリバーに近づけることもできたかもしれないが、原作では特に(聖戦者)的な能力は持っていないので、*bandとしての一貫性よりは原作重視ということでよいのかもしれない。他には、クモにうまく攻撃できない点、ユニークの『ピップ』を倒すと一定確率で入手できる点などで、原作の要素が表現されている。

 →ピップ →マーリン →エクスカリバー



エジソンの白熱灯

 →ヱヅソンの白熱灯(わ行)



エティン Ettin 【敵】

 エティン ettinは英語の妖精物語の巨人の一種で、特にジョセフ・ジェイコブスが民話から拾った『英国のおとぎ話』の中の、『赤毛のエティン(etin)』のものが代表とされる。民話の巨人に複数の頭があるものは珍しくないが、この赤毛のエティンでは、アイルランドの3つ頭の巨人とされる。
 エティンとは古英語で巨人の意のエントにも関連するが、北欧の巨神をさすヨトゥンなどから発していると考えられている。なお、トールキン著作の中つ国、エリアドール地方には「エテン(etten)高地」があるが、ここでのエテンは西方共通語(英古語)地名として「巨人」の意と思われ、ビルボがトロルに出会ったあたりに相当する。トールキンのアルダ世界には、直接に怪物のエティンという名としてではないが、頭が「いくつもついてるトロルもあります」と、複頭のトロルも存在することが『ホビットの冒険』には明記されている。
 また、エティンはC.S.ルイスの『ナルニア』シリーズにも魔女側の種族として言及されている。「アイルランドの複数の頭のエティン」自体は、怪物としては他の民話の巨人と比べてさほど広く定着したものではないとも思われ、以後のファンタジー作品の設定などでは単にエティンを「巨人」の意で使われていると思われる場合も目立つ。
 TRPGの原型であるD&D系では、オーガやトロルの上位の(ジャイアントほどではないが、一般的なトロル等よりは強力である)双頭の巨人で、例えばAD&Dではオーガやトロルにも双頭のバージョンがいるにも関わらず、それらとはまた別に存在する。知能は低く、二つの武器(投槍などを多用する)を同時に使うがトロルが爪で二回攻撃してくる等に対して特筆すべき点でもなく、特に双頭だからといって特殊能力などがあるわけでもない。おそらく巨人系モンスターの常でシンプルなのだろう。無論、3頭でなく双頭となっていることを含めて、このD&D系の定義をそのまま踏襲しているTRPG, CRPGも数多い。
 *bandでも[V]以来登場するエティンは、やはりこうしたシンプルな能力のモンスターだが、トロル以上ジャイアント以下ではなく、多種多様な「トロル系」シンボルのうちの上位のものとされている。結果、純粋な肉体能力ではストーム・ジャイアントさえ上回る位置にある強靭な怪物となっている。



エリック Eric of Amber, the Usurper 【敵】

 九王子。王位纂奪者。アンバーの僭主。兄者。コーウィンの次兄だが、オベロンの離婚・認知の非常にややこしい関係で、継承権に関しては微妙な物を持つ。コーウィンとは母も同じなのだが(オベロンの十三子は母が違う者も多い)昔からそりが合わず、継承問題でも邪魔なので、決闘で叩きのめして「地球」という世界に飛ばし、その後も決闘・戦争を繰り返しそのたびに破り、一時は地下に幽閉する。他の兄弟を一応静めて王位につくが、アンバーを攻撃してきた謎の軍団との戦いで「審判の宝石」の使用を試みて、……
 一応、アンバーシリーズ序盤のボスキャラ。知力、武力、統率、魅力など王に必要なすべてを兼ね備えているが、出てくるたびに何かヘマをやるので「ヘタレキャラ」性が非常に強い(というより、単にコーウィンが苦手なだけにも見えるが)。
 [Z]では、アンバライトの中でも上位で、後半戦の強敵のひとりである。打撃、魔法内容、血の呪いとどれもアンバライトならではの手強さである。また、テルモラのクエスト「エリックの城塞」は、エリックの王位纂奪を阻止する、といういかにも原作ファン向きの設定になっている(しかし、かなり困難なクエストである)。なお、このクエストの存在もあって、ゼラズニィ未読の*bandファンには、いわゆる「アンバーの王族」の中では最も印象に残っているかもしれない。



エルヴァギル The Long Sword 'Elvagil' 【物品】

 *bandに[V]以来登場する武器アーティファクトのひとつであるが、筆者の知る限りではトールキンの原典には見当たらない名である。エルヴァギルは「el- 星もしくはエルフ」「-vagil 剣」より、「星の剣」もしくは「エルフの剣」の意となる。-vagilとは、シンダリンでの本来の形である「剣 -magil」が、シンダリンによく見られるv->m音相互変化(前置詞やi, l音の直後)を起こしたものと推測できる(ナル=イ=ヴァギル Nar-i-vagilなども同様である)。一方で、*bandファンの考察の中には、ElvagilはEl-ua-gilの変化として「エルフの星(星の星?)」とする意見もある。
 さほど物珍しいエルフ語にも見えないので、*bandが[V]において独立に創作した名前・物品とも考えられるのだが、ただし、ICE社によるアルダの創作設定では、イスタリ(魔法使)のひとり「茶のラダガスト」のもつ木製の魔法の剣が、『エリヴァギル(Erivagil)』という名である。こちらはシンダリン語で「秀でた eri-」「剣 -vagil」で、一見似ているがまるで別の意味であり、単なる偶然の一致である可能性も高いが、命名のヒントであった程度は考えられることである。
 ラダガストのエリヴァギルは、「言葉を話す生物(人間、オーク、トロル等)」には多大な威力を発揮するが、それ以外、オルヴァール(植物)やケルヴァール(動物)は決して傷つけることがないという、いかにも森の隠者ラダガストの持物らしい品である。木でできた剣なのに「利剣」という賢者の謎かけのような名を持つのは、この選択能力あってのことと思われる。
 2012年-の映画版『ホビット』では、ラダガストの出番は多く、アクション場面も少なくない。例えば1作目ではオーク(ワーグライダー)から逃亡したり、ドル=グルドゥアを視察に訪れアングマールの魔王の剣を杖で防いだりする場面があるが、残念ながら帯剣している様子はない。
 *bandのエルヴァギルは、初期のrumors.txtや[O]由来の解説では「喜びの剣」「歌う剣」となっている以外はその詳細は不明である。[O]解説の「地に隠れたものを倒す...」といったくだりはラダガストの剣との共通点が認められるが無関係かもしれない。オーク、トロルのスレイングと視透明などの能力があるが、攻撃力は上質品くらいしかなく、まとまったエゴアイテムほどの力もない。いかにも重要でない物品と考えられてか、[Z]系では外されて差し替えられているが、その入れ替わった物品が「チェンソー」なのは(歌う剣という共通点からかもしれないが)ラダガストやエルフの関係から考えると中々あべこべに逆転した位置づけになっているともいえる。



エルドラク Eldrak 【敵】

 ディヴィッド・エディングス『ベルガリアード物語』等の世界設定に登場する、トロルやアルグロスの親類といわれる種族。アローンの地に住むトロルは人間より若干大きい程度で、アルグロスもさらに毒があったりする程度で、重騎士の突撃で複数を蹂躙できたりするのだが、このエルドラクは他世界のトロルにひけをとらない巨躯をもつ真に恐ろしい生物で、(*bandの思い出の「何人の人間が束になってもかなわないほど」との文面通り)主人公一行は一体に対して総力で甚大な被害というありさまであった。『マロリオン物語』では、どんな太古の生物についても平然と解説する場面が多い7000歳の魔術師ベルガラスでさえも、最初に見たときはこんな生物の存在を信じられなかった、という形容を用いるので、よほど珍しく、また凶悪な生物であるらしい。粗末ではあるが武装し、片言の言葉を話すことができる程度の知能を持ち、また威圧でもって、オオカミなどの野生動物を手なずけることができるようである。物語に登場するのはグラルという名の個体で、SBFbandにはこれがユニークとして登場する。
 *bandにはアルグロス(→参照)等と同様、[V]の時点から珍しくアルダ以外の特定世界設定から引用されているモンスターである。原典によると「エルドラクが一体いたら、同じ谷に別のものが住んでいる可能性はまずない」とのことだが、その通りで他のトロルと異なり、常に単独で生成される。しかしながら、最も出会う機会が多いのは大量生成されるトロルピットの中央にいたりするもので、単独という印象はほとんど忘れ去られがちである。原典通り、エティンなどと並び、かなり屈強なトロル系で、消耗しているピット掃討中などには注意を要する。



エルフ Elf 【種族】

 出典:様々な妖精説話をもとに、トールキンの著作以降、RPGやその系列のFT作品において、長命で線の細い人間型種族のアーキタイプとなっている種族名。詳細はその手のサイトで語りつくされているので略し(投げやり)ここでは*bandの「種族」のうち、「ハイエルフ」や「森エルフ」や「ダークエルフ」でない、単なる「エルフ」を取り上げる。トールキンのエルダール種族そのものの能力や性質については「ハイエルフ」の項目にまとめてあるものや、他の特殊エルフや、エルフ装備についてはそれぞれの項目を参照されたい。
 RPGにおける人型種族エルフは、トールキンの著作に登場するエルフ(クゥエンディ)をその祖形としていることは周知の通りである。しかしながらトールキンのこの種族は、最初期の稿(HoME1収録の原稿など)ではエルフと呼ばれてさえいなかった。最初期に限っては、トールキンはケルトやヴァン神族などの原初的な精霊神を原型とするこの偉大な種族をもっぱら「Eldar エルダール」や「Gnomes ノーム(かなり後までノルドールのために使われたが、最終的には廃棄された)」と呼び、Elves/Elvishと対比・差別化する語として使われている節さえある。トールキンは、古代の精霊神が時代が下るに従って「小妖精」として、シェイクスピアなどの近世以後、さらには特に近代で急激にフェアリーテールとして著しく卑小化したことに激しい違和感を抱き、当時の小妖精のイメージや語を与えることを拒否していた。しかしながら、間もなく、アルダの言葉をあえて英語に対応させる(これは大半の語に関して意図的に行っている)場合、「ノーム」を含め小人のイメージへと俗化した言葉を避けつつ、さまざまな妖精を示す語の中で”比較的堕落していない”と思われた(特に、中英語の物語でしばしば半神的妖精に使われている)「Elf エルフ」という語を選択した。英語のElfという語は、古ノルド語のアールヴに由来していると言われるが、とはいえElfは北欧のアールヴのイメージともども、英語としてはすでに小妖精を意味する語にひとしく、根本的に精霊神であるエルダールの本質には、この時点で必ずしも合致しない面が大きい。
 故に、しばしばゲームなどのファンなどから主張される「トールキンは小妖精であるはずのアールヴ(アールヴは元来は小型とは限らないが、現在の形の神話解説本などではもっぱら小妖精として描写されてしまっている)からエルフの原型を取っている」、ひいては「元々民間伝では最初から小妖精以外の何者でもないのに、トールキンが独断でそこからねじまげて、人の大きさの『種族』をでっちあげた」に至っては、まったくの事実無根である。特に日本の"TRPG"通の間には「エルフは『シェイクスピアの昔』から小妖精」などという主張があるが、そのシェイクスピアとやらは「16世紀」であり、古代〜中世以前の異教神が文明とキリスト教に押されてフェアリーテールとして矮小化された後の姿でしかない。エルダールはあくまで原型はケルトや北欧の神族、ひいてはそれ以前の精霊神であり、そこから大幅に時代が下って既に矮小化された結果でしかないその「民間伝」とやらよりも遥かに以前の姿であり、妖精という語がかつて持っていた原型であり、小妖精の姿をもとにして変形させたわけではない。
 さて、RPGでは最初期のTRPGに発して、このトールキンのエルフを原型として、RPGのプレイヤー種族である「エルフ」が設定されている。ただし、『シルマリルリオン(Sil.)』等に記載されたトールキンの設定では、エルダールは精神は無論、肉体的にも人間をはるかに凌駕している(長身で逞しい)が、RPGでは当然ながらプレイヤー種族であるため、エルフは他の種族と同程度となっていることが殆どである。特に、海外のファンタジー自体の原型のひとつとなっているAD&D1st(1977年-)では、種族エルフは魔法寄りの能力を有し、敏捷であるが、小柄で強靭さには他種族より劣るとなっている。この理由としては、初期TRPGが創作された1970年代前半の時点ではSil.は刊行されておらず、当時参照された『ホビットの冒険(Hob.)』の時点では、エルフは長身で強大な精霊神でなく、「妖精小人」の一種のように描写され(これは特にホビットの時点ではトールキンとしてもエルダールの設定が固まっていなかったためもあると考えられる)また『指輪物語(LotR)』の時点でも、それより後(70年代後半)に刊行されたSil.やHoMEほどに強大な描写はなく、レゴラスの戦績はドワーフのギムリとあまり変わらない(レゴラスは旅の仲間仲間のうちでは最も戦功が少ないというトールキン書簡の言及もある)。そも、エルフをプレイヤー種族に加えた背景は、おそらくLotRの旅の仲間にレゴラスが入っていたという、ただそれだけの理由が大きい。
 また、エルフに他種族よりも「虚弱」なイメージが与えられた理由として、単に他の種族(強靭なドワーフや頑丈なハーフリング)との兼ね合い・バランスというものも大きいかもしれないが、さらには理由のひとつとして、トールキンの作中でも最も有名、あるいはRPGのアイディアの原型になったLotRにおいては、登場するエルダールらのほとんどがガラズリムやシルヴァン・エルフ(→森エルフ)であることが挙げられる。彼らは森の中に緑の服を着て潜み、身軽で隠密にすぐれ、弓矢を得意とする。プレイヤーがエルフにこうしたイメージを持ち、ひいてはこういった(身体)特性のキャラクターをプレイしたがると予想されたため、敏捷さは残しても、強靭さは切り捨てられたといった面があるだろう。しかしながら、Hob.にオルクリストやグラムドリングといった「エルフの剣」が登場することから、エルフに弓のほかに長剣にボーナスや使用特技を持つといった性質は、D&Dでは3.Xeに至るまで残っている(誤解されているが「Sil.でエルフが他の武器も用いていた」のは、Sil.刊行が最初期TRPGより後である時系列上、「海外エルフの典型」とは全く関係ない。そのため、Sil.でのエルフらは剣にすら限らず武器を選ばないが、AD&Dのエルフがボーナスを持つのはあくまで剣と弓のみである)。
 また、新和版の通称「赤箱」などで和訳もされたクラシックD&D(CD&D)の「クラス」エルフは、英雄妖精を思わせる強力な「魔法戦士」としてある程度原型である精霊神のイメージをとどめてはいるが、これはOD&D・AD&Dでマルチクラス可能(多芸)であったことを簡略化しているのみであり、Sil.等の強大なエルフの再現ではない。実際に、CD&Dのエルフには成長が遅い、耐久力に大きく劣る、非常に早期で成長が止まるなどのかなり厳しい制約がある。なお「TRPGの初期では、エルフは種族と分離されていない『エルフという職業』だった」と流布されるのは、CD&Dしか和訳されずこれが最初のTRPGと信じ込まれている日本独特の誤解である。CD&DはOD&D(最初から種族とクラスは分離されている)より遥かに後出の派生ルールにすぎない。また、CD&Dでも赤箱などの初期レベルだけが極端に多くプレイされたことから、高レベルで顕著になる上記の欠点がほとんど知られることなく、日本ではCD&Dエルフの魔法戦士としての能力が異様に過大評価され、しかもSil.以後のトールキンの描写や映画などと混同され、あたかも実体よりも強大なクラス兼種族であったかのように流布されていることも少なくない。
 以後の「海外RPGエルフ」も、Sil.の強大な種族の再現や、CD&Dのような魔法戦士ですらなく、AD&Dに準じた肉体的には虚弱な種族であることが多い。例えばT&Tのエルフは(小柄なD&Dシリーズのエルフとは異なり)長身であり、知力のみならず敏捷性も高いのだが、著しく耐久力に劣る。上記のCD&Dの誤解がさらに発展した、「海外RPGのエルフはCD&D以来すべて、トールキン準拠の強大な種族で、それを魔法と弓しか使えないように制限したのは日本人である」という風説にはまったく根拠がないため、注意する必要がある。
 さて、すでにここで詳細を触れるまでもないが、日本のゲームや多分にファンタジー作品の「エルフ」の姿・イメージには、(仮に製作側は、D&DやT&Tから発したいわゆるRPG的なエルフを描写していると自分では信じ込んでいるとしても)トールキンはおろかD&Dにすら触れずに孫引き・子孫引きした結果、原型をとどめないものが膨大に出回っている。さらにエルフの設定にあたって、「RPGのエルフ」がすでに「虚弱」であることから、卑小な小妖精のみが遡れる典拠であるものと信じ込んだ結果、「近世以降のフェアリーテールの小妖精」を中途半端に参照したための稚拙な設定も見られる。その能力に関しても、「金属を忌避する」「鎧を一切着ない」「細身の武器しか持たない」「必ず精霊使い」だの、主義もそこから転じて、ヒステリックな動植物非殺主義、現代のナチュラリストの中途半端な知識を歪めたもの、ひいては杓子定規で病的な自然偏執(いずれも、自然中の文明を築くトールキンのシンダールやナンドールの設定とは根本的に異なり、著しく稚拙なもの)なども見られる。なによりも、内面的な差異もこうした底の浅いものしか定義できない故に、外面的にも異種族・異質な定義が本質的にできず、人間との差異は単に「耳と寿命が長いだけ」で、「不老で細身で美しい」という点をひたすら都合のいいように取り上げるに終始する場合もある(いわゆるアニメ/ゲーム系が、そこからどういう描写に帰結するかは記すまでもない)。さらに極端な話では、「耳長」以外に何ひとつとして「エルフ」の確固たる特徴づけを知らず・見出すことができないばかりに、「顔の真横から水平に飛び出した耳」のみにエルフという存在・概念の全てが集約されるかの如き偏執的なとらえ方から転じて、イラストの描き手や受け手がこの形態の「耳長」造型そのものに対して異常なまでの執着をあらわにしている場合すらある(かれら自身がしばしば「エルフ」属性でなく「エルフ耳」属性と自称する)。
 こうした「耳長エルフ」の外面・内面問わず、日本のSF/FTファンからは常に批難を浴びせられ、SF/FTファンは特にトールキン愛好家というわけでなくともしじゅうエルダールの崇高さを引き合いに出し、ときに行き過ぎた糾弾や的外れな批判すら含めて、容赦ない非難が絶えず行われている。
 しかし、こうしたエルフ像が、日本でのファンタジーの受容の激しい歪み方に由来しているのは確かではあろうが、かといって、海外でもRPGなどを見ると、エルフキャラクターのイメージには(別に「耳長」に不気味な妄執が見られるわけではないにせよ)イラストを見るとハイレグを着ているもの、ビキニアーマーを着ているもの、民族衣装風のワイルドエルフと言いつつどう見ても「脱ぱんつキャラ」を描きたかったとしか思えないもの、素肌にプレートメイルで胸の谷間がババーンといった遠慮会釈もないものが頻出し、常若で美しい種族ということで都合のいいような解釈に使おうとする、という点では、どこに行ってもさほど決定的に変わるものではない。海外でも、トールキンのイメージの遵守や、エルフというものが崇高なものと尊重されている、とはとても思えない。結局のところ、トールキンの原型から乖離した描写を批難したところで、もはやどこに行っても原型通りの描写などはトールキンのエルダールそのもの(→ハイエルフ)以外には求められないという他になさそうである。
 いわゆる「エルフ耳」についてはFT説で様々に述べられているので、ここであえて説明する必要も少ないものの、誤説も非常に多いため概説する。日本の「耳長エルフ」の耳が、顔から真横に飛びだすほど「長い」という描写は、出渕裕の『ロードス島戦記』CD&Dリプレイの雑誌連載(1986年9月)が発祥というのはほぼ異論なく定説であり、それ以前の西洋の妖精(D&D等のエルフ種族を含め)は、耳の先端(後方上)が僅かに「尖っている」だけで、「長い」という描写は一切存在しなかった、と説明される。しかし、直接の影響元は出渕裕であったにせよ、それ以前にしばしば描写が無いでもない。例えば、FT映画『ダーククリスタル』(1982)のゲルフリン族のなどがそうである(ロードス島よりはかなり短いが、形状は酷似している)。出渕裕がこの映画に傾倒していたため、また他にも当時のFTシーンに少なからずこの影響を与えていたため、定かではないにせよ、ここから直接の影響であるという説もある。また、FCゲーム『ゼルダの伝説』(1982年2月)の主人公リンクが「長い」耳では先行している。これは、解像度の低い当時のドット絵で目立つような特徴を与えたかったためといい(マリオの「ヒゲ」と同様である)リンクらハイリア人はいわゆるエルフではなく人間の一種族とされるが、超自然性、ファンタジー性を持ったキャラクターが活躍する世界観に一役買っているといえる。その他、もっと人間離れした妖怪・悪魔の描写にも(動物耳とも関連するが)尖っているだけでなく「長い」耳の描写も全く存在しないわけではない。
 超自然的種族の耳の後方上先端が「尖っている」という、こちらは古来からの描写に関しては、単に動物(類人猿含め)に先端が尖っているものが多いことに由来するという説もある。例えば、超自然的種族の伝承の発祥元に、動物や類人猿の半端な目撃例が妖精(広義)や妖怪と信じられたことに由来するというものである。また、例えば人間にも、耳朶の内側に出っ張っている尖った部分(ダーウィン結節)が存在する。これは人間が進化する過程で、耳の尖っていた部分が内側に丸まった痕跡であり、人間の聴力への依存が退化したためとも言われるが定かではない。ともかくも、このダーウィン結節が遺伝学的な理由で外側に尖ったままになっている人間が、やはり妖精と信じられたり、取り換え子(チェンジリング)と信じられたり、妖精や妖怪や悪魔の耳が尖っているという伝承の元になったという説もある。
 なお、トールキンのエルフ(クゥエンディ)が西洋の妖精一般のごとく耳の先が「尖っている」かどうかに関しては諸説がある。トールキンの原稿(物語稿、準備稿、書簡含め)中にはその直接的な言及は一切存在しない。しかし、エルフ語で葉と耳を表すlasが同じ語幹の語であることを根拠に、「耳も葉のように尖っていた」と推測することがある(Hob.注釈を書いたD.アンダーソンなど)。しかし、エルダールやエダイン、その混血などの各種族の身長や髪の色、またエルフの髪の色と異なり物語には一切関係しないホビットの巻き毛や靴に関してもこと細かにわたって明記していたトールキンが、エルフの耳については一切の記載を残していないことから考えると、この説はにわかには受け入れがたい。もっとも、古今東西とわず、トールキンのエルフを含め妖精小人は、「超自然種族のごく一般的イメージ」として耳が「尖っている」という描写については、ごく当たり前に行われている。無論、いずれにせよ耳が「長い」などという描写も推測材料も一切ない。
 ちなみにRPGの祖形である初期D&Dシリーズでは、イラスト及び説明本文でも「尖った耳を持つ」とはなっているが、CD&DであれAD&Dであれ、エルフはその視力による恩恵(赤外視、隠し扉を見つける等)は持つものの、耳のせいで聴力が優れているというルールは一切存在しない。T&Tでは「耳が尖っているので聴力が優れているかもしれない」と一言言及はされているが、視力を「ただの噂」の一言で片づけるのと同様、ルール的な恩恵は一切ない。
 種族:本来、トールキンでは、神話時代にヴァラールの招きに従って不死の国の地を一度踏んだエルフのみを「上のエルフ(ハイエルフ)」と呼ぶ。従ってアルダ世界のみが舞台の[V]のプレイヤー種族のうち、「エルフ」とはそれ以外のエルフすべてを指していたはずである。が、アルダ以外の世界も含む[Z]以降では、そもそも偉大なトールキンのそれの他のエルフ(D&D系のWG世界などのエルフや、ムアコックのヴァドハーやエルドレンを含め)も登場すると思われるため、便宜上:
 「ハイエルフ」=トールキンのクゥエンディ(エルダール以外もすべて)
 「エルフ」=それ以外のRPGなどのエルフ
 と見なす考え方もある。これは、トールキンのエルフ(上のエルフでなくともクゥエンディすべて)の、他の作品でのエルフ像とは完全に一線を引く偉大さと、さらには和製RPGでは「ハイエルフ」という言葉は「ほとんど現存しないエルフの上位種族」として使用されていることからの影響があるようである。(なお、キャラクターの生い立ちは、[V]の時点から、なぜかエルフ・ハイエルフとも、本来は上のエルフの3つの氏族のものが使われている。)
 RPGのエルフはもっぱら、肉体的には人間より脆弱で、反面魔法にたけるということになっている。Moria以来、*bandに存在する「エルフ」は、これを裏付けるかのごとくである;すなわち、若干知力は高いが肉体的に人間に大きく劣り、無論、すべての面で人間を遥かに上回るハイエルフには比べるべくもない。人間同様、プレイヤーの選択としてポピュラーと思われがちだが、実際は非常に不利な種族(自虐的プレイと称されるほど)であると言える。(一般に*bandでは、経験値の厳しさにはほとんど関わらず強い種族が遥かに有利である。)肉体能力の低さは死にやすさを助長する上に、打撃能力がかなり低く、さらには有利な特殊能力もほとんど持っていない。初心者はイメージで選んでしまわないよう注意する必要がある。イメージといえば、圧倒的に有利なはずのハイエルフを選ばずあえてエルフを選ぶのは、トールキンのエルフではない「和製RPG風のエルフ娘」像によほどこだわりがあるプレイヤーだけ、という説もある……
 なお、[Z]では種族修正として賢さにもプラスがあるが、[変]では、和製RPGの「エルフは信仰心がない」というお約束に加えてドワーフなどプリースト向き種族との差別化のためか、賢さのプラスは0になっている。

 →ハイエルフ →森エルフ →ダークエルフ →ハーフエルフ →エルフの防具 →妖精



エルフ語 Elvish 【その他】

 要はエルフの言葉だが、Roguelikeに関するサイトや話題でエルフ語というと、ほとんどトールキンが創造したそれを指す。ただし、他RPGでの様々なエルフ語と区別する必要が生じた場合、トールキンのものは個々の「クゥエンヤ」「シンダリン」という呼称を用いることが多い。
 もともと言語学者であるトールキンは、ウェールズの土着語の美しさにひかれ、また古い欧州の語や文字を参考に古雅な言語体系を創造してみたが、なまじ言語には背景が必要だと知っていただけに、背景となる世界をまるごと作ってしまった(順序はもう少し込み入っているが、一般にはこう説明される)。その主なものがエルフ語(クゥエンヤ、シンダリン)であり、半神的妖精のエルフ(エルダール)であり、アルダという世界である。
 クゥエンヤは、最初にエルフが使っていた言葉で、ハイエルフがそのまま使用している。『指輪物語』の第三紀頃にはエルダールの間ですらも「古語」のようなもので、ハイエルフらも要所でしか使わない。
 シンダリン(灰色エルフ語)は、中つ国に残ったエルダールの間でクゥエンヤが変化していったもので、ハイエルフ以外が用いていたが、第三紀ではエルフの日常語である。といっても、いわゆる「言霊」としては、人間らから見れば計り知れない威力をもつ言葉である(ガンダルフの唱える呪文のすべて、また有名な「エルベレス」もシンダリンである。また、原作TTTでレゴラスがローハン騎士から預かったばかりの馬に、および映画版TTTでアラゴルンが厩でブレゴに、ただ数言のシンダリンで呼びかけるだけで馴らしている)。また、森エルフが使っていたシルヴァン語などもあるが、おおむねシンダリンに近い語に分類される(→ナンドール語)。
 トールキンの文字としては、水飛沫か炎の舌のようなテングワール(主にフェアノール文字)と、実在のケルトのルーン文字に似たキアス(主にダイロンのルーン文字)の大きくわけて二種類が登場する。前者は紙に描くか浮き彫りに適し、後者は岩に刻むのに適しているが、いずれも両方の用途に用いられる。テングワールは主にハイエルフが用い、キアスはより一般的である。また本来の語であるクズドゥル語を秘密とするドワーフらによっても、シンダリン語とキアス文字は多用される。これらの記述法も文法も、すべてトールキンは詳細に構築している。
 エルフ語による地名・人名・事柄の命名は、元が西欧・北欧の古語を元にしているためそれらと関係あるものは勿論のことであるが、語源的には全く関係のないものでさえ、数々の伝承と無数のつながりがちりばめられている(例えば、クゥエンヤで水没せし国の意の「アタランテ」が、ギリシア神話のアトラスもしくは南米の銅アテラに由来するといわれる「アトランティス」に重なっているなど)。
 2000年代の映画版LotRや『ホビット』でも、数多くのエルフ語が登場する。例えば、呪文については原作では上述したようにいずれもシンダリンだが、映画ではガンダルフやその他エルフらが使う呪文がシンダリンなのに対して、映画版FotRでサルマンが使う天候変化の呪文はクゥエンヤであり、また、映画版『ホビット』1作目でラダガストがハリネズミを助ける(杖の霊力を注入する)場面のものもクゥエンヤである。これは、サルマンもラダガストもエルフや人間との交流が少なく、またはより古い秘儀の類を使うという点を表しているのかもしれない。
 ラジオドラマや映画の原語などでエルフ語の続く会話を耳にすると、その響きの美しさは英語や日本語に対して際立つ。エルフ語の美しさに対してひとたび目を開いた者が、和製FTに見られるさぶいぼが出るような人名・固有名詞、はてはゲームシステム用語にすら別地方の語源によるちぐはぐな語を組み合わせた「和製英熟語」を使用する気になるなど、おおよそ有り得ないと思われるほどである。──アルダに触れることは、すなわちエルフ語に触れることである。昨今映画ブームでトールキンを読む層は増えたと思われるが、それと共にエルフ語に、ひいては「言語」というものの大切さに目を開いてくれることを祈らずにはおられない。
 エルダール語はファンタジーの人工言語の中でも、その文化への浸透性においても別格のものである。『指輪物語』が米国のヒッピー層に特に迎えられ、のちにGEEK的な文化に浸透してゆくと(というよりも、Roguelikeというものが作られたこと自体が、その副産物のひとつなのだが)ハンドルやコードネームは無論のこと、ジャーゴン、パスワード等にも極めて広く用いられることになった。これは、土着の神話をもたない北米(もっともゼラズニイらは、西部劇や走り屋の神話を提唱するわけだが)のハッカーらにとって、トールキンの創作神話が、本来言葉などが引用されるべき神話伝説の位置を占めたとも言われるのだが、定かではない。ともあれエルフ語は、トールキン内外の物語内の魔法使(ウィザード)たちのみならず、実際の「コンピュータ・ウィザード」らにとっても、日々唱える言葉になっているのである。



エルフのクローク Elven Cloak 【物品】

 妖精や精霊その他超自然的存在が人間から身を隠すための衣(隠れ蓑、身隠しの衣)という伝承は散見するが、ここで直接のモチーフとなっているのは、トールキン『指輪物語』で旅の仲間一行がロスロリエンの森で与えられるガラズリム(森エルフ)の上衣である。
 絹のようだが暖かくなめらかな素材でできており、森では(もらった時は)灰色に見えるが、光の加減によって色が微妙に変化する。首もとが葉の形のブローチで留めてある。女王ガラドリエルと侍女たちが手ずから編んだもので、ガラズリム以外には与えられたことがなく、旅の仲間に対する心の現われのひとつである。最大の能力は、周囲の光景にあわせて色が変わるので、難なく溶け込み、身を隠すことができるという点である。原作中では何となくさりげなく触れられることが多いが、このクロークの効能が働く場面は何度となくある。アルダでは、単にエルフの技(行いや、作った物)だというだけで魔法のような働きを示すことがほとんどだが、これもそのひとつである。
 映画版LotRでは、例えばTTTで黒門前でハラド兵に見つかりそうになったフロドとサムが上にこのエルフの上衣を乗せて隠れる場面があるが、あまりにも唐突に岩そっくりにチェンジしているので、原作での設定を知らない人には余計にわけがわからないのではないかと危惧する。
 エルブンクロークというと、クラシカルD&Dでは「かぶると透明化する」というさらに直接的な魔法の効果を持っていたことが知られている。これは伝承のうち、ピクシーやスプライトなどの小妖精(→妖精)の生来に持つ透明の能力の方を意識していると考えられる。しかし一方でAD&Dでは非視認率が上がるという、『指輪物語』に近いものとなっている。NetHackにもエルフのクロークは登場するが、透明クロークとは別で、AD&Dの方に準じた隠密の能力が得られる。
 *bandには[Z]系以降に登場する。なぜ指輪物品の代表格のひとつにも関わらず[V]に登場していなかったのかと考えるが、おそらくは隠密加算の「エルフの防具」の方に含まれていたという解釈だったのだろう。[Z]系のものはエゴなどではなく「ベースアイテム」である。故に、「守りのエルフのクローク」や「至福の地アマンのエルフのクローク」(ハイエルフのクロークといったところか)のような豪華なものも珍しくない。クロークよりベースACが高く、元素では傷つかず(耐性を保障するわけではない)隠密能力が向上する。アングウィルのオークのキャンプクエストで貰えるためもあって、[V]系まで標準的だった守りのクロークよりもこちらを装備する機会の方が多いだろう。というと、ガラズリムにしか与えられないという上記の原作での貴重さの割に、レアリティが低いような気もするが、エルダールやカザドの防具が中盤以降普通に転がっていたり、第一紀の物品やフェアノールのランプが比較的容易に入手できる*bandではこんなものかもしれない。



エルフの行糧 Elvish Waybread 【物品】

 出典:[V]から登場する「エルフの行糧」とは、トールキン作品に登場するエルダールの非常食「レンバス」を指しているのは確かなことである。が、なぜRoguelikeの一方の雄NetHackでも「レンバス」となっているのに、折角トールキン世界のゲームであるAngband([V])でこの名になっていないのか、といえば、このElvish WaybreadがAngbandの原型であるゲームMoriaから引き継いでいる物品であり、このMoriaは(たとえ題名と最後のバルログをトールキンから引き継いでいても)Angbandほどには「トールキン世界」と限定されているわけではない「一般的な」世界観のRPGであること、またNetHackや[Z]以降ほど特定作品の用語を節操なく使うようなゲームでもなかったためだろうと、推測するくらいしかできることはない。
 レンバス Lembasは、シンダリンのLennmbassすなわち「旅行用糧食」が縮んでできた単語で(これを意識してか、映画版LotRの俳優たちは「レェエ工エェンバス」と伸ばして発音するようエルフ語考証からしつこく注意されたという)クゥエンヤではCoimas「命の糧」という。エルフの非常食だが、きわめて尊重されるものであり(エルフらの反応からすると、さほど「珍しい」というわけではないようだが)伝統的にそのエルフの国の「王妃」のみが管理(保管、譲渡)することが許される。『指輪物語』で女王ガラドリエルが旅の仲間に与えたのが有名だが、『クゥエンタ・シルマリルリオン』には、友人(トゥーリン)を探す旅に出た配下の勇士・強弓のべレグに女王メリアンが与える場面もある。
 見かけは、きめの粗い粉で練られた非常に薄い焼き菓子(wafer, また原語でThe cakesともあるが、ここではいわゆる菓子だけでなく、粉を固めた食物を総称する)で、外側がとび色に焼け、中はクリーム色をしている。薄い菓子のように見えるが、一枚で巨躯のドゥナダンが一日行動できるほどの活力をもたらす。その力が最大限に発揮されたのは、『指輪物語』後半の指輪所持者サイドの、飢えと渇きに苛まれるモルドールの強行軍においてであろう。その時点での描写によると、レンバスは「食欲を満たしてくれることはない」が、行動する活力を与えてくれる、とある。そのまま「食料の何食分のかわりに満腹になる」といった効用ではないらしい。ここでリゲインだのカロリーメイトだのという意見もたまに読者から出てくるわけだが、トールキンは書簡において、レンバスにあるのはキリスト教徒が「神のパン」から得る聖なる力のようなものだと言っている。形状がキリスト教のミサに使われる聖餅、イーストなしパンも思わせるが、海外では、そもそもLembasはLemmas Day 収穫祭のlemmasと、その語源となったアングロサクソン語のloaf-mass(loafはパン、massはミサ)に由来しているのではないか、という推測もある。無論、アルダ世界やエルフの食物やレンバスがキリスト教だという意味ではなく、あくまで「レンバスの力の比喩」に過ぎないと思われるが、結局のところ「食物」という形をとってはいても、栄養を与えるといったような理屈では計れない力をもたらすもの、という意味であるらしい。クゥエンヤでの「命の糧」なる意や、レンバスが「割らずに、もとの葉に包んだままで」「他の食料を混ぜることがなければ」さらに強い活力を与えてくれるというあたりも、「聖なる食料」のイメージを思わせる。
 さて、『指輪物語』読者にとって「理想の食料」であるレンバスに対して、実在の食物に例えるならばどんなものに近いと想像するかは、遥かに昔から常に話題になってきた。ファンが挙げるものに、ブルボンのラングドシャクッキー、神戸ゴーフル、おばあちゃんのぽたぽた焼き、京都の八橋などがあり、「きめが粗い」「薄い」「外が焼けて中がクリーム色」といった情報のうちひとつ、あるいは複数から、まちまちのイメージを作り出しているようである。例として、東京にある「木のひげ」という店が「エルフの焼き菓子」と名づけて売っている手作り菓子は、繊細な甘い菓子ではなく、きめが粗く、発酵の酸味の強い、かむと味が出る堅パンのようなタイプのようであるという。かえってリアルに感じられる面がある。ともあれ一方で、映画で有名になった「レンバス」という名の菓子が大々的に商業化されて売り出されても不思議はない気もするが(おそらく名を使うのにトールキン協会の協力が不可欠なので中々できることはないが、映画便乗ならおかしくはない)そういった話は聞かない。
 映画版LotRでは、第一作FotRでロスロリエンでレンバスを貰う場面は劇場公開版からは外されているが、DVD版の追加映像で、レゴラスがホビットらに説明している場面が出ている。見かけはかなり薄手で、白い料理用クラッカーにも見えるが、京都の八橋に近いようにも見える。ここではなぜか「一枚」ではなく「一口」で一日動けるという説明になっている。エルフのレゴラスはドゥネダインよりは小食ということなのかもしれないが、大食のホビットが四口で腹いっぱいになっている(お笑い半分ではあるものの、上記原作設定とは異なり「満腹」になっている描写である)。
 第二作TTT以降は劇場公開版にも、指輪所持者らサイドがレンバスを食べる場面が頻出する。なぜかFotR映像のものよりも遥かに厚手で、ウェハースかそれこそカロリーメイトの一種にも見える。しかも毎回何口も食べているように見える(多分、FotR追加映像とは撮影された時期が離れているのだろうが、それでも結構不自然である)。撮影に使われたレンバスは、甘いスコーン生地で作られていて味はよいものの、ぱさぱさしていて非常に食べにくく、飲み込みにくく、演技にかなりの支障をきたしたという。
 ゲーム等ではトールキン用語ゆえにそのままの語で頻繁に登場することはないが、NetHackでは重量が軽く栄養が優れた食物の一種として見つけると重宝する。特にしばしば、エルフのクラスを選んで初期の標準装備にもなるので、かなり印象は強いものである。
 物品:Moria以来、*bandの食料システムにおいて、重量の割に栄養が優れており、毒などを回復する効果もある食品である。しかし、安定して手に入るものではない以上、常備することができるでもなく、またスロットを潰してさえ拾って持ち歩くほどの価値はないので、さほど使用されることはない。さらに食料システム自体があまり大きな意味がない。「王の葉」のように特別の大きな効果があれば拾う価値もあるところだが、なかなかさびしい限りである。
 [変]では食料システムが見直され、それまで非魔法クラスが使用していた空腹充足の巻物が廃止され、種族ごとに各種の食料を店で買えるようになったが、「エルフの行糧」も店で買えるようになり、普通に食事を行う種族の中盤以降の標準的食料の位置づけになった。高価であるが、普通の「食料」より遥かに軽く、空腹充足とだいたい同じ栄養になるよう調整された。



エルフのブーツ Boots of Elvenkind 【物品】

 神話や伝承には音をたてない魔法のブーツ、じかに妖精の靴に関するものが珍しくないのだが、RPGにこの名で登場する場合は、クラシカルD&Dの基本ルールから(例えば最初のOD&D(1975)のElven Cloak and Boots、和訳されたCD&Dでは最初期レベルの赤箱時点より)マジックアイテム表に存在するエルブンブーツに端を発していると考えられている。これらは着用者が音を立てずに移動することができる。
 『指輪物語』にも、物品のみならず自身らも肉体そのものが不思議能力の塊のようなアルダのエルフは、足音を立てず足跡を残さないといった描写があるのだが、明確に靴そのものの取沙汰なり他種族が使用したといったわけでもない。故に、このRPGでのブーツは特にそのエルフの描写を参照したという側面よりも(直接、ガラズリムの外套を元にしたと考えられるエルフのクローク(→参照)とは異なり)OD&Dのようにクロークが姿を、ブーツが音を隠すという、組で隠密能力を与える物品としてデザインされたのではないかと言われている。
 さて*bandには[V]3.0系をはじめ、数多くのバリアントにブーツ類につく「エゴアイテム」として「エルフのブーツ」のデータがある。*bandには隠密とはいえ音と姿といった区別がないので、単純に隠密能力を増加する能力となっている。(従って「エルフ装備で固めて」鎧、クローク、靴を全部装備すると不自然な隠密の化け物と化す。これはこれらが互いに相補する元のD&D系とは乖離してしまった点である。)これらのバリアントには単なる「消音」のブーツがあるので、その上位版(消音ブーツには轟音耐性があるので、上位ともいえないかもしれないが)となっている。しかしながら、このブーツはその他に「羽毛落下」の能力を持っている。これは、上記の指輪物語でエルフが「足跡を残さない」という軽足の能力をも意識した可能性の高い能力が与えられている。こうした面は『指輪物語』原作と照らすとなぜこれが入っていないといった片手落ちも少なくない古い[V]由来のエゴアイテムやアーティファクトに比すると、細かい点が雰囲気を出している例である。

 →エルフのクローク →エルフの防具 →ハイエルフ



エルフの防具 Armours of Elvenkind 【物品】

 『指輪物語』においてエルフの装備は、単にエルフが使用している品というだけで数々の神秘的な能力があるものと見なされていることが多い。しかしながら、エルフのクローク(→参照)あたりを除けば、「一般的な」エルフの防具自体が(ドワーフの防具などと比べても)登場する例や活躍する機会もない。
 故に、*bandにおいて[V]から登場する、防具に対して付加されるエゴ名「エルフの〜」は、何を直接のモチーフとしているかは定かではない。例えば『クゥエンタ・シルマリルリオン』には、ノルドール(フェアノールら)が作ったアマンの甲冑や、中つ国のエルフ王シンゴルがベレゴストのドワーフに提供された灰色エルフの防具についての記述があるものの、*bandのような能力と関係が読み取れるわけではなく、どちらを指すかも定かではない。結局のところ、エルフの高級で優れた防具であると想定されて創作されたもので、隠密能力は例えばより身体に合うため音を立てず自由に動けるなり、エルフのクローク(→参照)同様に周りの色に溶け込む力があるなりと、想像する他にないだろう。
 映画版LotRに登場するエルフの全身鎧は、おおかたの想定通り流線型が主体で、木の葉が幾重にも重なったような姿を思わせる意匠になっている。これは、映画のデザイナーのひとりだがそれ以前にも著名なトールキン画家(特に甲冑と怪物の専門家)ジョン・ハウの画の、「ヘルム渓谷で完全武装したレゴラスの画」などが参考になっているようである(なお実際は、レゴラスは原作ではエルフの防具ではなくロヒアリムに借りた鎧を使用し、映画では鎧は着ない)。あるいはこのハウの画が参考になっているのかもしれないが、他の海外RPGの画像でも、エルフの甲冑はこれとよく似たイメージのことがある。なお日本では「エルフは鎧を着ない」のが不文律として流布され、これは妖精が金属を嫌うことに由来すると弁明はできようが、結局はケルト等の英雄妖精でなく近代の小妖精の発想しか出ない時点で西洋FTの根源が土着していない地の限界と見える。
 ゲーム的にはエルフの防具は[V]以来、全耐性(基本の4元素耐性)と、隠密はともかく上位耐性を持っているため、序盤で入手できれば例えようもなく貴重である。[Z]以降は「全耐性」エゴの防具にも追加の上位耐性がつくことがあるものの、エルフ防具に保障された上位耐性は終盤まで耐性パズルの駒として考慮される。ほとんどのバリアントにはMangband(の、一部の日本語サーバー独自仕様であるともいう)のようなアイヌアの防具などのエゴが存在せず、ドラゴンスケイルメイル(→参照)もさほど頼りにならないため、アーティファクト以外の防具では実質上の最高級品といっていいだろう。なお、どんな防具にもつくため、事実上エルフが作りそうもないような防具(紙甲とか)についていることもある。



エルベレス Elbereth 【システム】【その他】

 Eの字。NetHackをはじめとするRoguelikeにきわめて頻出するこの語は、映画LotRなどの流行によって現在では既に少し検索すれば判明するようになったが、トールキン世界のヴァリエ(上級神ヴァラの女性形)である、「ヴァルダ」の別名である。エルベレスとは「星の妃」を意味するシンダリン語(すなわち『指輪物語』当時、第三紀のエルフらの日常語)であり、エルフらの台詞の中に極めて頻出する。エルベレスと並んで頻出する「ギルソニエル(光輝の君)」、またクゥエンヤの「エレンターリ(星の君)」「ティンタルレ(灯火をともす者)」などはすべてヴァルダの別名である。
 ヴァルダは、ヴァラールの指導者でアルダの上級王でもある風の王マンウェの妃でもあるが、特にエルフの守護女神とされるのは、ヴァルダが天に星をちりばめた時、その光によってエルフという種族が最初に目覚めた、という説話による。そのためエルフがエルベレスを畏敬し(もっともエルフにとってはアマンに住むヴァラは神ではなく、単なる年長者にすぎない)その名がよく唱えられるということもある。が、初代の冥王であるモルゴス(メルコール)は他のヴァラたちを憎んだが、ヴァルダとその光の力をことに忌避したため、モルゴスの流れをくむ闇の勢力はその名前を忌み嫌っており、結果、エルベレスはエルフ以外にとっても闇を払う言葉としての意味を持つのである。ヴァラール自身がじかに人の前で神のような行いをしたというよりも、アルダの世界は一般に「言葉」が非常に重視され、また実際に大きな力を持つがため、(特にエルフ以外の者にとっては)唱えられるエルベレスやガラドリエルの名が、原始的な信仰において唱えられる神の名のような位置づけを垣間見せるものとなってゆくのである。
 NetHackでは、床などにElberethと刻むと、その場に人間型以外のクリーチャーが侵入できなくなる(虚弱なキャラクターの生命線だが、消えないようにする方法など詳細はスポイラー類を参照されたい)。また秩序の「称号」である「エルベレスの御手」は、ヴァルダの代行者の意とも言えるが、(エルベレスという言葉自体が最もポピュラーな「おまじない」であることから)むしろエルフらの光の行い全般の象徴といった意味かもしれない。
 [O], ToMEなどアルダ系のバリアントでは、常に床に刻みまくっているNetHackほどの印象はないかもしれないが、エルベレスをはじめヴァルダの二つ名を冠した呪文など注意すれば随所に見つけることができる。



エレッサール The Elfstone 'Elessar' 【物品】

 『指輪物語』旧訳ではエレサール、新訳ではエレスサールになっているが、最新の訳に従って「エレッサール」になっているバリアントが多い。そのまま「エルフの石」の意のこの宝石は、『指輪物語』において旅の仲間のひとりアラゴルンのもつ石であり、のちの彼自身の名ともなる。緑の石が、翼をかたどった銀の首飾りにはめこまれた形をしている。これは元々エルフ女王ガラドリエルの持つ宝石だったが、その娘ケレブリアン、そのまた娘のアルウェンに渡り、アラゴルンが受け取ることになった。原作では、アルウェンから一旦ガラドリエルに託されて、FotRの旅のロリアンにおいてガラドリエルからアラゴルンに渡されるが、映画版では裂け谷において直接アルウェンからアラゴルンに贈られる。以後、アラゴルンはこれを首にかけていたので、指輪戦争で活躍するアラゴルンをゴンドールの人々は「エルフの石の殿」すなわちエレッサールと(その石の名であるとは知らずに)呼んだ。
 物語中ではこの名前(と、エルフから与えられた宿命ともいえるもの)に合致するといった程度の品でしかないが、その背景と能力に関してもトールキンは「物凄く汚い字で殴り書かれた4枚の原稿(子息クリストファー教授談)」で遺している。それによると、元々「エレッサール」という石は第一紀の伝説時代に、ゴンドリンの宝石細工師エネアジル(フェアノールに次ぐ技の持ち主とされ、ここでは後のケレブリンボール以上とされる)がゴンドリンの王女イドリルのために作ったとされ、その息子エアレンディルが帯びていた「エアレンディルの宝石」だった。第三紀にガラドリエルが持っていたエレスサールに関しては、このエアレンディルの宝石に似せて、ガラドリエルにひそかに思いを寄せていたケレブリンボールが作った別の宝石(かなり力は劣る)という説と、アマンの地において最初の石をエアレンディルから聖霊オローリンが受け取り、オローリンが中つ国に来た(すなわち、ガンダルフである)後でガラドリエルに手渡した、という説があるという。また最初の石もエネアジルでなくケレブリンボールが作ったとする説もある。これらは複数の原稿があるのではなく、トールキンがひとつの4枚原稿中で、アルダに「これらの複数の説が伝えられている」と言っているのである(単にどれにするか決めていなかったのかもしれない)。
 エレスサールの石はエネアジルの石にせよ、それより劣るにしてもケレブリンボールの石にせよ、「ガラドリエルの周囲のものをみな美しく成長させる」力を持つもので、これを娘や孫娘に引き渡したのはガラドリエルがより強力なネンヤを手に入れたというのが理由だった。『指輪物語』中では気にしなければ気づかないが、この石はアラゴルンにも明らかに力を与えていたのだろう。
 *bandではToMEなどのアルダ系バリアントに登場する。階層も深くレアリティも高いが、かなりの能力とスピード増強、殺戮修正もあり、発動で体力回復に黒の息も含めた治療と、特にデュアルクラスならば相等に重宝するだろう。弱くはないがどうもぱっとしないといった印象が多いアミュレット枠の固定アーティファクトの中ではかなりの品といってよい。



エレボールのドワーフのつるはし The Dwarven Pick of Erebor  【物品】

 「エレボール」とは、『ホビットの冒険』終盤の舞台となる、中つ国第三紀のドワーフの王国「はなれ山」のエルフ語での名である。シンダリン語としては「ereb- 離れた」「-orod 山」といった意味が読みとれるが、かなり崩れた形にも思えるため、あくまでドワーフが用いていたエルフ語の訛りが入っているのかもしれない。
 はなれ山(lonely mountain)は、それまでドワーフの王国のあった北の灰色山脈から、南に単独で離れていることからつけられた名のようである。この地にドゥリン王家のスライン一世が移住し、巨万の富を築いたが、子孫のスロールの代になって龍のスマウグに占領され、エレボールの王国は滅ぼされた。スロールの孫であるトーリン二世が王国と財宝の奪還を試みるというのが『ホビットの冒険』の物語の縦糸である。紆余曲折の末に奪回され、第三紀末からは、ドゥリン王家の世継の住む、中つ国のドワーフの王国の最も主要なものとなっている。
 エレボールはスロールの地図によると六つの尾根を持つ星型の孤峰で、『中つ国歴史地図』では、春でも山頂が雪をかぶっていたことと照らし合わせて1100mほどの高さを推測している。エレボールの二つの尾根の間の谷間に、北方人らの「谷間の国」があったが、これもスマウグによって滅ぼされていた。エレボールは地理としては同族の住む灰色山脈よりも、谷間の国や後代の湖の町に近く、かれらとの交易によって栄えたようである。谷間の国の末裔バルドが受け取った、スマウグの溜め込んでいた財宝の1割足らずでも人間の王にさえ多すぎる財宝で、これだけで谷間の国の再建が可能だったということから、エレボールの財宝は実に膨大なものであり、モリア(→参照)ほどではないにしろドワーフの栄華の極致であったようである。
 *bandにはToME, Unangbandをはじめとして、[V]にも3.0系ではこのアーティファクトが登場する。原典に具体的にはそうしたつるはしは登場しないが(直接登場するのは、エレボールでなくくろがね連山の山ドワーフらの使う軍用つるはしである)おそらくドワーフの採掘・富を連想させるものとして代表格のエレボールの名を採ったものと思われる。和訳では「エレボールのドワーフ」たちのピックなのか、エレボールの「ドワーフのつるはし」なのか曖昧である。武器としては中堅レベルで、上位耐性がいくつかあるが、階層が55階なので、あまり初期には入手できず、装備する機会も中々ないかもしれない。



エレメンタル Elemental 【敵】

 出典:四大元素思想とエンペドクレス、パラケルスス等に遡る話題に関してはめんどいからまともな解説サイトに譲り、ここではRPGにおける精霊的存在のエレメンタルに絞る。四大元素やそれぞれを司る精霊が登場するなり、彼らの住む「四大精霊界」が存在するなりといった90年代以降のファンタジー世界観やゲームの作者は四大は上記のギリシア云々に由来する等と説明をおっぱじめるであろうが、結局はこれらの図式自体はそれぞれの先出の古いRPGを踏襲して発想しているに過ぎず、大本を遡ると最初期D&Dの次元界概念の四大元素界のアイディアが引き続いているに過ぎないとされる。
 D&Dシリーズの元素界 Elemental Planesとは、いわば物質の世界(インナープレーン)の「相」のうち、特定の性質の「極地」といえる次元界である。四大元素をはじめさまざまな性質ごとに極地・界が存在し、次元的(物理的距離ではない)にそれらの性質がすべて均等に交差した所にあるのが主物質界であるともいえる。すなわち、元素界は界自体がそういう性質を帯びており、精霊と呼ばれる元素生物は単に性質が合致するためそこに住む存在に過ぎない。つまり、後出のRPGの「精霊」「精霊界」の説明にあるような、「地上で火が燃えるのは火の精霊のおかげである」なり「その精霊が住んでいる世界だから『精霊界』である」ではないことには留意しておく必要がある。(余談だが、トールキンのアルダ世界のアイヌア精霊が、彼らが実際に世界にそれらをもたらしているから精霊なのか(多神教の「神」の小規模なものといえる)、単に彼らが帯びている性質のために精霊と呼ばれるD&D的精霊なのかは定かではない。)
 ようやくエレメンタルという「モンスター」の話に移るが、D&D系のエレメンタルとはこうした元素界ごとに生息する知的生物の最も一般的なものであり、その元素の「塊」のような姿をしている。これは、元の元素界では「水滴」のような姿だが、主物質界ではその元素の渦巻く塊のようである(ただし、D&D 3eのイラストではそれより擬人化された「魔神」のような姿のことも多くなっている)。年齢・地位によって無限に巨大化し、さまざまな大きさのものがおり、人間とは生命・精神が異質ではあるものの、元の元素界では社会を作って暮らしている。
 D&D系のエレメンタルは元来、マジックユーザーが召喚し操るモンスターとしてデザインされたもので、サラマンダーやジィニーらといった錬金術文化で知られる「精霊」ではなく単なる元素の塊となっているのは、特定のイメージに依らないどんな世界観にもありえる(あるいは、イメージを術者によって変化させられる)ものにしたのかもしれない。元の元素界では知性をもつ生物であるが、旧D&DやAD&Dの魔法使系の召喚では召喚されて主物質界に現れるものは知性もなく暴走しており、術者の集中力によって制御する必要がある(*bandの召喚ルールの、MPを占拠するというアイディアの元のひとつと思われる)。これは、「悪霊を苦しみの多い現世に束縛する」といった伝承からのアイディアであろうが、あるいはシステマチックに考えれば、元素界と主物質界ではヒルベルト空間的な多次元から全く別次元が切り抜かれているため、元素界でのごく普通の精神活動・行動が主物質界では暴走として反映されるだけなのかもしれない。(AD&Dでも僧侶系の召喚や、後出のD&D3.Xeでは、特に暴走ではなく普通に使役できたりもする。)
 シルフやサラマンダー、ジィニー(ディジニ、イーフリート等)といった、説話でよく知られた元素の「精霊」らは、元素生物であっても単に元素界の別の住人であって、このD&Dおよび狭義での「エレメンタル」ではない。しかし、RPGによっては「エレメンタル(生物)」はこれら精霊自体を総称して指している言葉になっていたり、ひいては4大元素と何も関係のない精霊についてまで「エレメンタル=精霊」の訳語でもあるかのように用いている場合もあるので、読み取る際や他で流用しようとする際にはよくよく注意する必要がある。
 敵:*bandでは、特に誰に召喚されたものでなくとも普通に迷宮をさまよう存在として、[V]以来のノーマルモンスターとして各種のエレメンタルが入っている。よく似た「スピリット」や「ボルテックス」に対して、比較的深階層の大型モンスターである。地水火風のほかに、「マグマ」「氷」「汚物(ウーズ、泥)」「煙」はD&D系で「パラ・エレメンタル(並体元素、古代四大思想による二元素が混ざり合う副元素を指す)」とされているものの他、「時間」などマイナーなプレーンのもの等の多くが入っている。その性質の攻撃の塊なので、元素によってはボルテックス同様に厄介であるし、大型なので危険なことも少なくない。
 [Z]にはトランプ魔法に「エレメンタル召喚」のカードがあったのだが、[変]では外されている。もともとD&D系では召喚モンスターであったといっても、*bandのようなシステムでは一旦召喚してしまえば同じで、特にエレメンタルに大きなメリットがあるわけではなく、重要ではないのでバランスのための追加魔法のためもあって外されたようである。(かわりに一応、大きく改変された秘術魔法の中に入っている。)



エレメンタル召喚 Conjure Elemental 【魔法】

 旧D&Dの「コンジュァエレメンタル」(新和版ルールブック原文ママ)とは、いわゆる魔術説話などの召喚術を元にしたとおぼしき魔法使系の比較的上級の呪文だが、特定の名のついた精霊モンスター(サラマンダー等)ではなく、単に巨大な元素の塊のような生物「エレメンタル」(→参照)を呼び出す。特に旧D&Dの呪文は、その時点の魔法使の能力に比して、呼び出されるエレメンタルはきわめて巨大で強力である。有名なルールとして、この呪文でエレメンタルを召喚するには、その巨大な元素の塊を構成するための物質が、術者のもとに実際に存在する必要がある(例えばアースエレメンタルを召喚するならば、土が充分に得られる場所で行うか、大量の土自体を準備しなくてはならない)。また、魔術説話の悪霊などの召喚に似て、召喚したエレメンタルは術者が精神集中を行って束縛し続けない限りは暴走する。ただし、ドルイドなどが用いるエレメンタル召喚呪文は(より「自然」に召喚・招来を行うのか)こうした構成物質の準備や、集中といった制約を受けることはない。
 四大元素のみならず、パラケルススの定義したそれら元素の精霊の名(サラマンダー、シルフィード(シルフ)、ウンディーネ、ノーム(コーボルト、インクブス))は魔術説話は勿論のこと、ゲーテの『ファウスト第一部』にもじかに召喚場面が登場するなど、一般的な文芸のレベルで西洋文化に非常に広く知られたものである。そのため(地球とは文化的に異世界であるはずの)『エルリック・サーガ』の新王国を舞台としたTRPG『ストームブリンガー』でも、四大精霊王(精霊王自体は原作にも登場する)配下の精霊たちにパラケルススによる名がついているなど、四大元素の霊、特にこれらの名の精霊を直接に呼び出し使役するものは、特に「精霊魔法」を重視するような世界でなくともRPGでは定番である。しかし、そうした特定の名の精霊を召喚する場合なども、魔術説話の精霊・悪霊召喚のみならず、TRPGの原型であるD&D系のルールを直接に元にもしたのか、よく似た描写をとっている場合がある。例えば日本のTRPG『ソードワールド』では、ルールが定まっていなかった頃の同世界舞台の初期ロードス島戦記などの小説には、精霊を操る関連の描写全般、じかに構成要素や精神集中が必要といった、きわめて細部まで旧(A)D&Dのコンジュアエレメンタルのルールそのままの描写が目立つ。また以後のルールでの精霊魔法そのものが、関連の元素・要素がじかに存在する必要がある(いわゆる精霊力が必要)とされ、小説の描写などでも初期小説の描写の影響が後まで残っている。そのため、これらのAD&D由来の描写が後の『ソードワールド』自体のルールとは著しく矛盾していたりする(よって、AD&Dを知らないSWプレイヤーの間では「謎」として延々議論されていたり、埒が明かない解釈が試み続けられていたりもする)。
 一方では、CRPGのように極度に単純化する必要がある場合をはじめ、TRPGでも単に煩雑さを避けるため、精霊やエレメンタルを召喚するにしても、こうした元素や集中が必要といった特殊ルールが特に存在しないことも多い。例えばT&Tの類似のエレメンタル召喚呪文は、D&D系とよく似た、「エレメンタル」という名しかついていないものを呼び出す(ただし和訳した日本のデザイナー作のサプリメントで、これらにサラマンダー等の名と姿がつけられていることがある)ものだが、相当に高レベルだが強力でもあり、むしろ上記したうちのドルイドの召喚術に近いとも思われる。またD&D系でも、のちの3.Xeでは、一般的モンスター召喚呪文のかなり無造作に召喚できる中にエレメンタルも入っており、特殊な手順などは必要なく、それぞれの元素界への接触が困難である界やコスモロジーで行う場合のみ、「大量の元素」が必要となることがある。
 *bandでは、いわゆる召喚術の代表としてと思われるエレメンタル召喚の呪文が存在する。[Z]の時点ではトランプ魔法の召喚術の中に'Trump 〜'ではなく'Conjure Elemental'という呪文の名で見られる。意外なことに自然魔法にはない。[変]ではトランプ領域の魔法からは外され、秘術に入っている。これは、さまざまな領域の要素を集める秘術として、召喚術として代表的(典型的)であるのと、呪文名に'Trump'が入っていないことなどから妥当な選択といえる。*bandでは召喚とペットシステム全般が(エレメンタル元素は必要ないものの)術者の集中力(MP)を要する、となっているためルール的にはそれらと同じである。



\e えんいー 【システム】

 「ESCキー」を示すコード。*bandではマクロの中に組み込んで用いられる。ESCは命令やメッセージをキャンセル、スキップする。マクロを組む際には必ず頭には「\e\e\e」などをつけておき、マクロの前に割り込んだメッセージやコマンドのためにマクロが誤動作を起こさないようにしておくことが望ましい。
 一般にスクリプトやマクロでは、\記号とアルファベットを組み合わせた記号はごく普通に並んでいるものだが、「\e」というと、とあるデスクトップマスコットの制御命令群(SSTP = Sakura Script Transport Protocol)の会話終了命令、転じてこのユーザー間での「終了の挨拶」を思い出す人々が一部おり、特にどこにも指標がないにも関わらずためらいなく平仮名で「えんいー」と書いてしまっている人を見かけたら、確実にそれだと見てよい。

 →蛮子



エント Ent 【敵】【種族】

 出典:木の牧者。トールキンのアルダ世界で最も古い種族のひとつである、「巨木と巨人の中間」のような種族。結論から言うとトールキンが創造した種族で(リン・カーターはトールキンの創造種族の中でも随一の傑作と主張する)「エント」とはアングロサクソン語の「巨人」から採られている。つまり、巨人の伝承は自然現象(→トロル →ジャイアント)への崇拝や恐れに発しているより他に、より後代の辺境においては、「巨木への恐れ、もしくは見間違い」といった由来も考えられる、という背景を反映したアイディアであろう(実際に『指輪物語』時代においても、フオルンに関するホビットの噂話などはその端的な例である)。その姿は原作の描写からは、中間といってもどちらかというと木よりは人間型種族の方に近いように思える。なおアルダでの「エント」とはローハン語という設定で、シンダリン語の「エニド」(複数形は「オノドリム」)が変化したものである。
 アルダのすべての「ものをいう種族」は、どういった起源であるか、言及されているかもしくは推測可能となっているのだが、エントの場合は、神話時代にヴァラール(上級神)の一体、大地の后ヤヴァンナの「思い」から生まれた種族だという。工人アウレがドワーフという種族を作ったのと前後して、ヤヴァンナは動けない植物や喋れない動物(マンウェの鷲など喋る動物も一部いるが)を守るような種族を欲した(ことに、中つ国がメルコールによって脅かされている当時はなおのことだった)。マンウェらと共の請願により、至上神イルーヴァタアルが「木の牧者」に魂を与えたと言われている。
 そのためかエントは太古の森(神話時代から存在するような森で、『指輪物語』のファンゴルンの森はその残った一箇所である)の奥で木々の世話をして暮らす。エントらの姿は様々だが、それぞれの世話をする木々にどこか似ている(自身に似た木々を世話するのか、彼らがあまりにも長い年月をかけて世話するうち、木々の種というものが牧者にあわせて分化していったのかは定かではない)。樹木同様かそれ以上に、寿命というものはなくいくらでも老木になるようだが、『指輪物語』時代には森が少なくなり女性エントらと離れ離れになっているために、子供が生まれることはなく、神話時代から生きているのはファンゴルン(→参照)こと木の鬚をはじめ3体のみ、行動しているのは木の鬚のみである。
 その見かけから想像できるように、エントは非常に温和で、その言語もゆっくりとしており、言語学的には膠着性が高く(単語の格変化が全くないかあるいは少なく、助詞に大きく依存する言語を指す。考えながらゆっくり話すのに向いている言語といえ、この設定はまさに言語学者ならではである)挨拶だけに何時間も費やすといった具合である。他者から急かされても滅多に「せっかち」になることはない。しかし、自ら奮い立つと非常に敏捷である。そして、アルダのおおよそどんな生物よりも強靭である(木の鬚によると、剛力のトロルはエントをもとに(おそらくモルゴスによって)作られた種族に過ぎず、そして力もエントに遠く及ばないらしい)。エントの攻撃、アイゼンガルドの城壁を破壊する場面の、「木が根を張って、長い年月のうちにどんな固く巨大な岩でも土にしてしまう、彼らが岩を壊すのは”それが一瞬のうちに縮められて起こる”ような光景になる」という形容が、時代や歴史に重きを置くトールキンのファンタジー表現の中でも、尋常ならぬスケールと恐ろしさを示している。血肉を備えた地上の”種族”の創造と描写において、これほどの重量感を与える形容は古今ほとんど例を見ないであろう。
 さて、他のファンタジーおよびRPGでは、例えばD&D系のトレントがトールキンのエントを参照したものである。オリジナルD&D(1974年)の最初期の版では、エントという名がそのまま使われていたが、のちに自主的に「トレント」に変更された。(同様に「ホビット」も「ハーフリング」に変更されている。)以後、「トレント」がD&D系から発して「樹の化け物」として他のFTに登場するに至る。「トレント」はD&D系がトールキンの原語を避けたものだが、ゲームによっては、(しばしば上記のD&Dでの事情を知らずに)エントとトレントを両方別々に存在するとしたり、より由緒正しいエントをトレントの上位種とすることもある。他にもエントが木の精霊などとして扱われる例があるが、いずれも名前はトールキンから採られていても、「木のような巨人」ではなく、明確に「生きている木」であることが大半である。それでもD&D系など古いTRPGではトレントは善の種族であり、他のゲームでも中立や善の精霊となっていることもあるのだが、CRPGをはじめトレントともども、単なる「木が襲ってくるモンスター」として扱っている例も多い。というよりもそれが孫引きされて、トレントやエントが単なる「植物モンスター」の代名詞となっていることも非常に多い。エルフほどではないにせよ、トールキンの創作した概念が、名前だけ子孫引きに引用されて非常にぞんざいに扱われている典型例のひとつといえる。
 敵:[V]などには登場していないが、[Z]系において中階層のノーマルモンスターとして登場し、数少ない「友好的モンスター」の一種となっている。また同系のユニークモンスターも数多く登場しよく似た性質である。友好的ではあるのだが、仮に敵に回すと階層相当を遥かにしのぐまさに原作通りの恐るべき打撃力と耐久力のために相等な強敵と化す。ただし大量の良いアイテムを落とすため、あえて状況を整えて闘うプレイヤーも珍しくない。ことにピットに遭遇したりするとそれは*bandにおいて起こり得る中でも有数の激戦となるが、あえて挑んでみる場合もまた多い。うまくいけば同士討ち(一部が敵に回ると友好なままのエントがそれを攻撃する)に持ち込めるが、どのみちメッセージが大変なことになり、何はともあれ一筋縄ではゆかない。
 種族:[O]やToMEをはじめとしたアルダ系バリアントの多くにかねてから種族として加えられ、[変]にも取り入れられている種族である。成長するにつれて腕力・耐久が上がり、器用さが下がっていくという性質がある。能力値が「生来の体格・素質」を示しているものと考えると、これは成長するにつれて「より強靭な木」へと変わっていくものと考えられるだろう。器用さが低下することや火炎からダメージを受ける(これはことに中盤までは非常に深刻である)ことからか、敬遠されがちな種族である。キャラクターがイメージしづらいためもあり、スコアサーバでの人気も最も低いひとつである。しかし、器用さは能力値の中でも影響が比較的少なくフォローしやすい方の能力である上、しかもよく言われることだが何かのはずみで火炎免疫が手に入るとかなり恐るべき種族と化す。

 →ファンゴルン →せっかち →トロル



黄衣の王 The King in Yellow 【敵】

 出典:旧支配者。ハスターの化身。王者の姿。玉座につくもの。いわゆる『クトゥルフ神話』の通例では、旧支配者ハスター(→参照)の現世での典型的な姿、あるいは化身(アヴァター)の一種であるとされている存在。R.W.チェンバース短編集の邦訳では「おういのおう」というルビが振られ、クトゥルフ神話のTRPGであるCoCルールブックでもその箇所にあるが、CoCのほかの関連書ではときに「こういのおう」に相当すると思われる順番の箇所に書かれていたり、「黄衣のキング」という訳語になっているものも複数ある。
 出典として元来”黄衣の王”とは、R.W.チェンバース(チェンバーズ、チェイムバーズ)が『黄の印』や『仮面』といった怪奇短編の数編の中で用いた用語で、同名の戯曲の中に現れる用語または登場人物と推測され、その読者の言葉の中に現れる。戯曲『黄衣の王』は、チェンバースの架空の作中作品だが、その内容については判然としない。戯曲の文章は美しく芸術の至高の調べのようだが、その美しさと内容の極限までのおぞましさが同時に存在しており、第1幕を読んだ読者がその時点で暖炉に放り込むが、そのとき第2幕の最初の語が目に入った途端、一転して拾い上げ最後まで読みふける、といった姿が描かれる(『評判を回復する者』より)。その戯曲の本を少なくとも第2幕まで読んだ者はいずれも、精神に異常をきたして自滅したり、さらにはそれを読んだ直後から謎の災厄に巻き込まれたりして破滅する、といった姿がこれらの短編では描かれる。『黄衣の王』という用語・登場人物についても、これらの読者による「青白の仮面」「奔放な色の襤褸のマント」、おそらく(何らかの)王、支配者(と推測できる)で何かに君臨しているまたは将来君臨する、といったきわめて断片的なものしかない。戯曲またはその内容に関係すると思われる(どう関係しているのかはまったく不明である)『黄の印』というメダル、印章に触れた者も、破滅に巻き込まれる旨が描かれている。なお、さらに他の作家アンブロワーズ・ピアズの著作から採ったカルコサ、ハリ湖、ハスターといった用語がこれらの短編にちりばめられているが、チェンバース作中ではハスター等が地名なのか人名なのかさえ判然としない。
 こうした用語や支配者、架空書物についてあえて曖昧にして恐怖を誘う描き方は、特に『クトゥルフ』等で知られる宇宙的恐怖を描いたH.P.ラヴクラフトの著作(特に、関係ない話に後から唐突に神性や書物の名を挿入したものなど)を思わせるが、事実、ラヴクラフトはハスターやカルコサなどの単語を短編『闇にささやくもの』に登場させ、これらチェンバースの著作の影響も受けているといわれている。さらに、ラヴクラフトやクラーク・アシュトン・スミスらと共に宇宙的恐怖を『クトゥルフ神話』としたオーガスタ・ダーレスは、これらチェンバースの用いた用語のうち「ハスター」を旧支配者(神性)の名とし、他の用語もとりいれた。ここから、チェンバースの上述の各用語・記述は、大量の後付解釈によってクトゥルフ神話の設定として取り込まれることとなった。
 (まったくの余談だが、R.W.チェンバースという作家は画家出身で、小説家としても非常に作風が多彩であり、上述のようなクトゥルフ系以上に意味不明プロットな怪奇物も書くかと思えば、歴史小説やラブロマンスも大量に残している。和訳短編集には、美女が駄目男と組んで暗殺集団と霊能力大合戦という日本の深夜テレビアニメのような中篇が、あまりにもちぐはぐに入っている。)
 『黄衣の王』の設定については、錯綜するクトゥルフ神話の設定のうち、日本で有名な、また*bandとも関係が深いのは、CoCルールブックのものである。『黄衣の王』はハスターの化身で、地球では最もよく知られたもののひとつとされ、ほぼ人間サイズで、青白き仮面をつけ、黄色のぼろぼろの衣をまとった姿をしている(衣は見かけ上のもので、実際は肉体の一部である)。この化身は、「ふしぎなおどり」で見た者を朦朧とさせ、衣のような触手や仮面の下の触手によるからみつき、凝視などでもダメージやPOW(マジックポイント)ダメージ、正気度喪失を与える。見ただけの場合の正気度喪失は仮面をかぶっている場合も、外している場合ですら、本体ほどには大きくない。『黄衣の王』戯曲本は、CoCゲームではネクロノミコン等と同様の「魔導書」の一種と同様のルールとなっているが、マイナーな魔導書と同じ程度であり、チェンバーズ著作から想像できるほど極端に危険ではない。CoCのd20版では「読んだだけでもハスターのことしか考えられなくなり、またハスターも読んだ者のことを見つけてしまう」ものであるとされている。「黄の印」は『黄衣の王』戯曲本の表紙などに記されているマークとされ、軸から3本の曲がった枝が伸びている、というものになっている。この印の形状は、黄衣の王の衣が渦巻くように襲い掛かる様や、触手を渦巻かせながら飛翔するハスター本体の象形ととらえられなくもない。ルールとしては黄の印を見ただけで吐き気や幻覚、ひいては悪夢に苛まれるようになる。
 敵:*bandではハスターとは別に独立したユニークモンスターとして登場するが、これは*bandが直接の参考としているCoCルールブックでわざわざ別個の数値データの項目が設けられているためだと思われる。化身というと劣った投影像のような解釈のことも多いが、この化身の黄衣の王については、ハスター(55階)と階層はあまり変わらない。思い出文章の、「伸縮自在である」云々や、チェンバーズでなくブリッシュの『月光』を登場作品の例として挙げている点も、CoCルールブックの記述から直接にとられている。*bandではリッチ(シンボル'L')で、能力やフラグもアンデッドの特徴を持つものとなっているが、チェンバーズ著作にせよCoCルールにせよアンデッドとする根拠は何もないので、なんとなく「ぼろをまとった姿」の雰囲気的からのものでしかないらしい。アンデッドのフラグや経験吸収などは本体のハスターも持っているが、こちらは召喚や死者蘇生など、よりリッチの性質に近い。


 →ハスター


王の葉 Sprig of Athelas 【物品】

 古い言葉(西方語においてエルフ語を縮めた「外来語」というところであろうか)でアセラス、クゥエンヤでアセア・アラニオンと呼ばれるこの薬草は、中つ国の西域に所々に生息するが、元々はヌメノール人が持ってきた植物で、非常にすぐれた薬効をもつ万能薬である。しかしながら、南方王国ゴンドールをはじめほとんどの地域では薬効を引き出す技術は失われ、老人らの口伝で空気を清める・疲れ取り・頭痛を和らげる香草として残っていた程度であった。ただし、ゴンドールには「王の手は癒しの手」という言い伝えと共に、黒い息には王の手によるアセラスが効くなりといった、かなり具体的に言及した民謡まであった。
 ヌメノール王の末裔であり、また裂け谷のエルフらの癒しの技も身につけているアラゴルンが、FotR, RotKともにこのアセラスを治療に用いる場面があり、特に彼の技にあってはナズグルの刃や黒の息による致命的な傷さえも癒すことができる。そのまま傷に当てて用いることもあるが、湯に煎じて傷口を拭ったり単に香りを広めたりにも使用される。清清しく、刺激臭に近い芳香に特徴がある。映画版FotRでモルグルの刃(→参照)に刺された傷に葉を当てられたフロドが、消毒薬がしみたかのようなショックを受けているのがいかにもそれらしい。
 実際のところ、アラゴルンがこの草から驚異的な薬効を引き出せるのは、本当にゴンドールの伝承の通りの「王の血筋であるが故」の超常能力であるのか、それともこの薬効を十二分に引き出せる癒しの技術(多分にエルフの技である)の持ち主が、この場においてアラゴルンだったに過ぎないのかは、明確に読み取ることはできない。アラゴルン自身が、自分と同じ癒しの技で、最も優れているのはエルロンドである、と語っていることからは、むしろ後者であることを強く示唆しているとも考えられるのである(もっとも、エルロンドはヌメノールの初代王と双子なので、彼ほど王の血の濃い者もいないとも言えるが)。
 しかし、どちらにせよ、この結果からは、ゴンドールの市民らは「王の手は癒しの手」の伝承の実在を強く認めることになる。アラゴルンがこの葉をエルフ語の歌をうたいながら用い、按手(あんしゅ)や言葉と共に不思議に癒しの空気が満ちる、といった光景も、いわゆるRPG的「レンジャーの治癒魔法」であるようにも読み取れ、アラゴルン自身の内的な力であるかのような印象を強めている。
 アルダ世界を細かくルール化したICE社のTRPG、MERPのルールでは、このアセラスの薬効は単純に使用者のドゥネダインの血が濃ければ濃いほど(たとえ黒きヌメノール人でも、首領や王族であれば)劇的に効果を増す、というかなり魔法的な解釈になっている。
 *bandでは、[O]およびToMEに登場する、スロットとしては「食料」の物品である。原語はSprig of Athelasなのだが、固有名詞「アセラス」のみでは判りにくいという*bandの翻訳姿勢に沿ってか、また他にレンバスでなくエルフの行糧(→参照)になっていること等に雰囲気を合わせてか、「王の葉」という表記にしてある。
 [O]では、単に食料として摂取するだけで(ヌメノールの血や癒しの技能は必要ない)ナズグルの吐く「黒の息」を治療することができる。ToMEでも取り入れられ、無論のことナズグルの攻撃がさらに厄介なこちらでは重ねて重要な物品となっている。継続的にキャラクターが衰弱化してゆく黒の息は王の葉か、あるいは「生命の薬」でしか治すことができず、ナズグルと戦いになる中盤までに生命の薬が入手できているとは思えないため、実質上黒の息を癒す必須手段となる。

 →ナズグル →黒の息



大長虫 Wereworm 【敵】

 大長虫はもともと大蛇やドラゴンの古語であるが、トールキンのアルダ世界では、「数多くあるホビットの伝承のひとつで、北の地に住んでいた大虫」を指すということになっている。これは、ホビットの遠い先祖らが霧降り山脈の東側に住んでいたことから、山脈の北東や、さらに北の灰色山脈やくろがね山脈に住んでいた竜らの伝承が姿を変えたものとみなされる。またホビットのその伝説以外にも、翼のない地を這う形の竜、特に、炎を吐かない「冷血竜」のことを大長虫と表現している箇所がいくつかある。特に、灰色山脈のドワーフを襲い、エオセオド(ローハンの先祖)のフラムに退治された大長虫スカサ(→参照)が有名である。
 そうしたわけで、アルダでは大長虫は竜、特に冷血竜と同義と考えて差し支えないと思われる。しかしながら、*bandでは[V]から、ドラゴンとは無関係のそのまま「巨大な虫」としての大長虫が現れる。あるいはファスティトカロンなどと同様「ホビットの嘘から出たまこと」として加えられているとも考えられるが、解説によると「邪悪な魔法でねじまげられて堕落している」生物といい、Werewormから、他のワークリーチャー(アルダではWerewolf=巨狼など、巨大な動物を示すことが多い)同様、モルゴスが妖術で堕落させた巨大虫の怪物とも言えそうである。意外にしぶとい上、経験奪取(これは「吸血虫」という発想からであろうか)や酸の攻撃がばかにならないので、割と厄介な怪物である。

 →ワイアーム →ナイトクローラー



大鷲 Great eagle 【敵】

 出典:ここではトールキンのアルダ世界における「大鷲」を指す。大地の女神ヤヴァンナの手による他の鳥類・動物と異なり、大鷲は緒神(ヴァラール)の長である風の王マンウェと妃ヴァルダに仕え、つねにマンウェの伝令・使いとなりアルダの全上空を偵察している。力による介入はしないが、偵察や逃走は助け、また最終決戦に限っては直接に参戦し大きな力になる。第一紀の大鷲は翼長54mのソロンドールをはじめ巨大なものだが、第三紀では長グワイヒアでも第一紀の鷲の最小のもの程度でしかない。それでもたやすく人間ひとりくらいは運ぶことができる。詳細や第一紀・第三紀の具体的な活躍に関しては、ソロンドールやグワイヒアの項目も参照されたい。
 マンウェに創造された大鷲は、自由に言葉を話す(他の動物はたとえアマン出身であっても、厳密には自由に「ものをいう」ことはできない(→フアン))ことができることをはじめとして、他の善の動物とは完全に別格である。マンウェとヤヴァンナの対話により生じた節があることから、通常の動物の肉体に霊が宿っているといった示唆もある。*bandのモンスターの思い出解説をはじめ、大鷲が「マンウェの直の使徒として、マイアール(下級神)の精霊もしくはそれと同格である」とされる見解は多い。実際のところは、マンウェの鷲が直接に「マイアールの精霊であった」という記述は『クゥエンタ・シルマリルリオン』にも『終わらざりし物語』にもないが、トールキンの準備稿集であるThe History of Middle-earthの中に「マンウェはマイアの精霊らを鷲の姿で送り出し、サンゴロドリムの近くでメルコールを見張らせた」という記述がある。物語稿では鷲らが住まっていたのはゴンドリン近くのクリスサイグリムで、敵地のただ中サンゴロドリムという案は(『終わらざりし物語』に記されているように)廃されており、このくだり自体が最終的には採用されていない可能性もあるが、この大鷲の、通常のヤヴァンナのケルヴァール(動物)とは明らかに異なる性質から、定命のものではなく精霊などに近い存在であろうと受け取ることは自然である。
 直接にこれらの鷲ではないが、ヌメノール時代後期、ドゥネダインらが堕落するとヌメノールに送られる風や天候は目に見えて悪いものになったが、中でも巨大な翼を広げたような嵐雲が西の方から現れ、ヌメノールの島全体を闇に覆ってしまうことがあった。これをヌメノールの市民らは「マンウェの大鷲が襲う」といって非常に恐れていた。
 なお、主に映画版LotRの視聴者から「なぜあの大鷲に乗って指輪を運んでいかないのか」という疑問が頻繁に述べられる。これは原作『指輪物語』の時点からのFAQであり、原作・映画関連サイトに存分に説明されているのでそちらを参照願いたいが、一言で言えば目立ちすぎる点(隠密の他、指輪棄却という目的自体も隠していること)、また普段から大鷲がサウロンに非常に警戒されているであろう点(サウロンがイスタリ(魔法使)以上に警戒しているものといえば、西方の直接の使徒である大鷲を置いて他にないだろう)などが挙げられる。また筆者の推測であるが、イスタリがその力をふるうことを西方の諸神から制限されているのと同様、モルゴス時代以来あくまで監視者である大鷲らもその介入を制限され、また、たやすく「頼んで力を借りられる」存在ではないことも考えられる。映画版LotRでは、FotR, RotKのいずれの鷲が登場する場面もガンダルフが蛾を介して「呼び寄せた」ような描写になっているが、原作ではあくまで(ラダガストに知らせを受けてではあるが)自ら飛んできた点にも留意すべきだろう。
 敵:*bandでは野外マップが取り入れられた[Z]と引き続いてToME, [変]にも登場する。変り種として、[O]にはサウロンによって堕落させられたという設定の「ドル=グルドゥアの大鷲」というものが登場する。別に堕落しているというわけではない他バリアントのものも、普通に「敵」として登場する。[Z]のものは「何か超自然的なものの使い」となっており、あるいはマンウェの大鷲とは限らないのかもしれず、[Z]の友好的モンスターのエント等ほどには「善の使徒の大鷲」を特定していないのかもしれない。あるいは、アンバー世界観で戦う[Z]のプレイヤーキャラクターは、必ずしもアルダの自由の勢力に属するとは限らないという過酷な状況なのかもしれない。敵としては[変]のものは特にスピードが速く、階層相応よりもかなり強敵に感じられ、逃亡が困難なダンジョン「山」で遭遇するためもあって危険を強いられることも多い。

 →ソロンドール →グワイヒア →Thunderlord



オーガ Ogre 【敵】

 出典:オーガ Ogreは「鬼」「食人鬼」に対するものとしては最も一般的な英語とみてよいもので、「トロル」は由緒が非常に正しい反面、ある意味北欧に限定しすぎた伝承的であり、古めかしすぎる語だが、オーガはしばしば口語でも用いられるほどに汎用的な語であり、怪物の呼称としても用いられる。しかし、その英語の正確な語源は不明とされる。べオウルフなどの古英語ではorcという形で見られるのがそれにあたるため、オーク等の項目で述べているようにローマ神話の冥府の軍神オルクスおよび海の怪物に由来する(なおベオウルフのグレンデルは、水中に住む怪物である)という説があるが、一方で、かつてゲルマン人を圧迫した東洋の騎馬民族、オノグル人およびウゴル人、もしくはウイグル人などへの畏怖が変化したものという定かならぬ説もあり、何にせよ、どれが有力ともいえないほどに不明瞭なようである。何にせよベオウルフをはじめ、シャルル・ペローあたりから「オーガ」という名の鬼として登場するようになってくる。
 RPGでは汎用語であるが故に、トロル以上に一般的といえる存在なのだが、実はRPGの原型となったトールキンのアルダ世界には「オーガ」と直接呼ばれる種族は存在しない。しかしながら、上記したようにオークの語源はオーガと関係があるため、現在オーガと呼ばれるものは、オークの凶暴なもの(特にウルク)が変化したもの、というトールキンの構想とも考えられ、ファンの中でもよく聞かれる意見である。一方で、トロルの上位種「オログ」が関係あるとも見なすことができ、いわゆる巨人であることからこれも有力である。さらに少数派だが、人間のドルアダンなどの森野人の暗黒語での呼称「オゴル=ハイ」との関係も考えられる(これは先述した異民族や、また後述するが古いシャーマニズムに由来する鬼神信仰の風習が文化圏の鬼イメージに反映された事情も思わせる)。
 RPGに登場するオーガは、中世以降の童話などに通例の「人食い鬼」をイメージしたD&D以来の通例のように、原始人を一回り大きくしたような屈強な体躯に、知能が低く棍棒を持ち毛皮をまとっているというあたりまで一般的なイメージである。RPGモンスターとしてはおおむねトロルと同じか若干低い程度のレベルの初中級の位置をしめる。ただし、(畏怖の象徴であるが北欧限定のトロルに対して)オーガを原初的な「鬼」とし、日本のアラミタマとしての強力な鬼(詳しくはオーガ・メイジの項目に譲る)のような、神秘の血筋と定義づけている場合もあり、『ルーンクエスト』のグローランサ世界のオーガや、またAD&DのDragonlance世界のオーガ上位種のイルダのように、貴族的な設定をもうけている世界もある。
 総じて、「トロル」が由緒正しいかわりに、イメージも実在伝承に引っ張られやすいのに対して、さまざまな世界設定においてより一般的な種族、特に「悪の種族」としてよく使われる言葉といえるだろう。
 敵:Moriaから通して大カテゴリをなす一連の種族として登場する。オークやトロルほどではないものの、割と多くの量の亜種族や職業などが存在する一族である。*bandにおいては、フラグがなぜかGIANTとなっており、オークやトロルでない巨人の一種として扱われているようである。そのため巨人ピットなどで遭遇することもある。おおむねトロルよりは強敵でないことが多いが、[V]のロッカク以来、[変]でも何種類か追加されているオーガのユニークに限っては、階層不相応に非常に攻撃力が高いという特性が一貫している。

 →ハーフオーガ →オーガ・メイジ →グレンデル →ロッカク



オーガ・メイジ Ogre Mage 【敵】【種族】

 オーガ・メイジはオーガのメイジ、すなわちオーク・シャーマンやトロル・プリースト等と同様、モンスター種族内の特殊職種バリエーションということもできるのだが、海外RPGではいわゆる「神秘的モンスター」として、オーガとは独立して一種独特の位置が与えられていることがある。
 最初期のD&D(白箱)やAD&D1stのモンスターマニュアルでは、Ogreとは別にOgre Mage (Japanese Ogre)というモンスターが設定されており、オーガの「東方土着の類縁種」と説明されている。オーク部族中のシャーマン等とは異なり、「オーガ・メイジ」自体が、オーガとは別の種族であるということである。和風の武装の挿画も添えられ、D&D4版、5版でのJapanese Oniの一種のような位置づけに至るまでこれが続いている。オーガ・メイジにこうした位置づけが与えられた理由は定かではないが、日本のOniの姿が初期のデザイナーらには独特のものに映ったのかもしれない。かなり後年なので実際に当時の事情かは定かではないが、WotC社のデザイナーによるウェブ上のMonster Makeover記事によると、日本の民話・神話の「獰猛さ、悪賢さ、魔法能力」を兼ね備えた姿からは刺激を受けたとのことである。また、特に東洋風冒険をするためのオリエンタル・アドベンチャー等のセッティングでなくとも、通常の中世洋風世界のモンスターリストに普通に載っている、tenguやki-rinなどと似たような使われ方をしているのだが、tengu等が単に名詞を借用しただけと思われるのに対して、オーガ・メイジは装備や設定も東洋風というものである。オーガ・メイジは緑・茶・青の肌を持ち、額に角があり、(今で言えば)擬似呪文能力として冷却攻撃や各種精神操作系、変身を含めた様々な魔法使系呪文の能力を持つ。
 他のRPGでは、Wizardry#1のオーガ・ロードはなぜかメイジ系呪文を使うことができ、おそらくはD&D系のオーガ・メイジを思わせるような、通常のオーガとは別の種族の集団であると思われる。一方、AD&D1stの影響が大きい『ファイナルファンタジー』1、2では、呪文こそ使うものの、オーガやオーガ・チーフの色違いであり、特に和風というものではない(海外版ではWizard ogreとなっていることがある)が、肌の色はD&D系のイラストによくあるものと同様に青い。NetHackには珍しく登場しないが、SLASH'EMに追加されており、データそのものはAD&Dとは異なるが、変身魔法などは踏襲されている。特に謎の和風アイテム(→サムライ)ばかり持っているというわけではない。
 AD&DのMMのオーガ・メイジやOniとは別系統で、太古の巨人・妖怪としての神秘・怪奇的な高い能力を持つオーガを(多くは食人鬼としての通常のオーガとは別種族として)設定しているRPGも多い。例えばオーガの項目で述べたようにAD&DのDragonlance世界設定では、オーガが堕落する前の上位種のイルダ(イローダ)は優れた姿と能力、長大な寿命を持ち、他種族から隔絶した文化を維持している。
 *bandでは、[V]の時点からノーマルモンスターとして存在し、冷却攻撃(階層にしては強力なアイス・ボール)の魔法を持っていることからも、おおむねAD&Dのものと同一であると思われる。しかし、思い出文章には「ソーサラーの着る黒いローブ」とあり、おそらく和風モンスターではない。恐れられているのは冷却攻撃よりも、むしろモンスター召喚の方である。
 [Z]では、ハーフオーガがプレイヤーキャラクターとして選択できるようになったが、ヘルプファイルのraceclasには、レイシャルパワーに召喚のルーンがあることについて、「オーガ・メイジに関係があり」という一文があり、オーガ・メイジの魔法的モンスター種族としての一種独特の位置付けを示している。



オーカー・ゼリー Ochre jelly 【敵】

 80年代のCRPG勃興期には既に、「スライムとオーカー・ゼリーは姿は似ているが、まったく異なるモンスターだ」といった訳知り顔の主張が頻繁に聞かれたものであった。当時はRPG世界(「ファンタジー世界」ではない)の設定語りといえば、こんな実にどうでもいいような主張(現在ではその区別など誰も気にしていないモンスターの、どうしようもない細部ばかり記述されたモンスターマニュアルなど)がなぜか声高に飛び交っていたのだが、それは当時のRPG世界が曖昧でバリアフリーで混沌としていたゆえが大きい。また、当時の彼らにとっては、「雄大もしくは緻密な世界設定」云々以前の問題として、ともかくも「モンスター」そのものが目新しく、その泥臭い身近な細部を彼らの想像力の及ぶ限りで姿にし、イメージにしようとしていたのである。現在ではRPGの「設定馬鹿の語り」というと、自分の頭を占領している特定作品の設定をあたかも一般論のように吹聴するか(アストラルサイド云々だの、龍と竜の区別だの)実在神話伝承の貧困な知識の威を借りたような話ばかりで、これはそれなりに世界に対する意識が落ち着いた結果であろうが、一抹の寂しさは拭えない。
 しょっぱなから思いっきり脱線したが、それでは実際に「ねばねば屑」と「黄土色ジエルリイ」との違いは何かといえば、オーカー・ゼリーの原典であるクラシカルD&Dにおいては、「スライム」とは元々は地下迷宮の石組の隙間などから湧き出す汚れ、グリーンスライムなどのことだが、「オーカー・ゼリー」は巨大なアメーバである。スライムはカビやそれが生息したモノの集合体であり、本来は自立的に動く生き物というよりトラップに近い(それがWizardryやドルアーガ、ハイドライドなどを経て、次第にこちらもアメーバのような動きを見せるモンスターとなってくる)のだが、一方でオーカー・ゼリーはそれ自体が自立した単細胞生物である。
 D&D系にはこの手のカビ、粘液体といった地下迷宮のギミック的なモンスターが嫌になるほどに種類が多い。そして生物としての正体のみならず、特殊能力などがそれぞれ大きく異なっていたりするので厄介なことこの上ない。D&D系のオーカー・ゼリーは火炎や冷気攻撃しか効果がなく、武器・電撃によって分裂(細胞分裂を間違ってイメージしているのかもしれない)する。グリーンスライムのような感染などはないが、かなり酸の攻撃力が危険な中級モンスターに位置する。
 他のRPGでの登場例は、海外の古いものやフリーウェアを除けばかなり少なく、特に日本ではスライムに比してほとんど知られていないが、特にモンスターの多いRPGで「スライムの上位版」のように登場することがある(なにげにFFには初期から登場する)。おそらく最初に日本でこれを有名にした『ザナドゥ』では「スライム」がアメーバ状の自律生物ではないという点に無駄にこだわった結果、かわりに登場させたようだが、第一階層の敵でこのゲームの例によって特殊攻撃などはなく、さほど危険ではない。なお、和訳の類では元の発音の方に近く「オーク・ゼリー」と表記されている場合があり、そこからの発想か最初に記したような昔のRPGアンチョコマニュアル等にはオーク鬼(→参照)と関係があるなどと書かれていたりするが何も関係はない(特定世界の設定でそうなっていない限り)。
 *bandでは[V]以来登場する。13階のノーマルモンスターなので、どちらかといえば中レベルと言えるかもしれない。あるのは酸の攻撃だけだが、*bandのシステムでは前半の酸攻撃というのはきわめて厄介な威力を持っているので、凶悪な印象が強いモンスターである。

 →ゼリー →モルド →ゼラチン・キューブ



丘トロル Hill Troll 【敵】

 トロルには、トールキンの記述の時点から、いわゆる強化種族オログ=ハイ以外にも「丘、岩、洞窟」といった多数の亜種の使い分けがあり、非常にRPG的(というより色違いモンスターのFC版ゲーム的)に思えるが、その中の一種である丘トロル(原語Hill-trollにも関わらず、邦訳では「山トロル」となっているので注意する必要がある)の記述は『指輪物語』には2箇所ある。
 ひとつは、RotK半ば(アラゴルンサイド末)の黒門前の戦いの箇所で、黒門から出てきた「ゴルゴロスから来た山トロルの大部隊」である。人間より背が高く厚みがあり(他の種のトロルほどは極端に巨大ではないのかもしれない)薄板を張り合わせた鎧に見えるが自身の皮膚かわからないもので覆われており、円形の盾と重い槌を持つ。黒門の戦いでベレゴンドとピピンが戦うのが、この部隊の首領である。
 もうひとつの記述は、追補編の『アラゴルンとアルウェンの物語』のもので、北方の野伏の長アラドール(アラゴルンの祖父)は、本拠地の裂け谷のすぐ北の岩山で、「山トロルの一団にとらわれ殺された」というものである。これら二つの記述からは、丘トロルはサウロンの配下のトロルの中でも武装度・統率・おそらく知能も高く(大きさや力自体は劣るとしても)サウロンによく従って組織的に行動していたのではないかと思わせる。アラドールが殺されたのも野生のトロルによる偶然(一度「とらわれた」という記述からも)ではなく、策略によるものであると推測できる。
 なお、MERPの設定では、身長は9−11フィート(2.2-3.3m、森トロルよりは大きい)で、他のトロルよりは集団で組織的に生活することが多いとあるものの、とりたてて知能などが強調されてはいない。
 こうした亜種の中でも重要ともいえる丘トロルであるが、どういうわけか、*bandにおいては[V]由来のものとしては存在せず、現在に至ってすら、ToME以外のバリアントには登場しない。多種のトロルを追加するうちに抜けたものと考えられるが、『指輪物語』本編にしろMERPにしろ明らかに目立つ記述・描写があるので、単に忘れたというのも不可解が残る。ともあれ、ToMEの丘トロルは、MERPの設定同様に森トロルよりは若干深い階層だが、トロルの中ではかなり下位で、ウルクなどに比べても危険ではない。

 →トロル



オーク Orc 【敵】【システム】【その他】

 出典:アルダ世界の闇の勢力を形成する一群としてトールキンが創造した種族。アルダの神話時代にメルコール(後のモルゴス)によって、ウツムノ(メルコール最初の要塞)の地下坑で作られた。「闇の中で作られたため」一般に日光を苦手とするが、屈強で粗暴な体躯と強力な繁殖力を持ち、闇の勢力の兵士階級として常に頻出する。
 鬼族や邪妖精の多くは元はオークの眷属であるとトールキンはほのめかし、また他作家も考察しており(「ゴブリン」との関係については「スナガ」の項目参照)、オークという語はトールキンの小型〜中型の鬼族一般の語でもあり、*bandにおいても広範なものを含んでいる。当項目に関してはオーク全体の概説とし、「ウルク(ウルク=ハイ)」「スナガ」「ハーフオーク」といった種族に関してはそれぞれの項目を参照されたい。
 『クゥエンタ・シルマリルリオン』によると、オークはメルコールが捕らえたエルフをウツムノの要塞で拷問し、ねじまげて作り上げたのが由来である、というのが賢人らに信じられている説であり、おおむね指輪ファンの間でも通説でもある(映画版FotRでもサルマンがウルク=ハイ創造場面で述べている)。が、トールキンによると、それはあくまで賢人らの「多数の推測」のうちのひとつに過ぎず、原稿集the History of Middle-earthによると真実はエルフをじかに改造したものではなく、参考にして作った「生命そのものがまがいものの、機械のようなもの」である、という構想もあったらしい。あくまで草稿段階の構想のひとつで『シルマリルリオン』に比べれば記述自体が参考程度とはいえ、最初はオークを妖精説話の悪鬼程度に考えていたトールキンが年を追うに従って悪辣なイメージを重ねてゆく経過がつぶさに見えて興味深い。
 なお、映画版のウルク=ハイ創造場面のこのサルマンの台詞などが誤解されて、「オークは”すべて”エルフが改造されたものである」(指輪物語時代のオークも、この時代のエルフが攫われて一人一人改造されている、という説)「オークはすべて改造で生まれ、繁殖能力がない」等といった曲解までもが、一部に広まっている。これは明言しておくが、「エルフが改造された(HoMEの説でなくそれを採るとしても)」というのは神話時代のウツムノでオークという「種族が」発生した経緯のみを指すものであり、またトールキンのコメントによると、オークという種族は人間とまったく同じ形で(すなわち男女で)それ以上の速度で繁殖する。
 「オーク」という語そのものは、実在の妖精説話等の何にも由来しない(エルフ語、特にシンダリン語の「orch オルフ」がローハン語や共通語で変化したのが「オーク」であり、暗黒語の「ウルク」も同根であるという)。トールキンはこの語は、大型海洋生物(シャチなど)や海魔を指す「オルク」などではなく、「オーガ」などの悪魔・悪鬼を表す語(ベーオウルフなどの古英語で鬼ogr-を意味する表記orc-など)から完全に創作したと言っている。ただし、トールキンは自作が比喩として取られるのを非常に嫌い、本当の創作モチーフをよく隠していたため、実際のところは不明である。
 トールキン独自の種族と知られつつも、オークはRPGの一般用語と化し、単一の種族として用いられる。その位置づけは「豚の顔をしたヒューマノイド」というものである。無論のこと、トールキンには豚云々の記述は一切なく、オークの元とされる鬼類の伝承類にもその示唆もまったくない。こうしたイメージを定着させたのは、RPGの原型であるAD&Dのルールブック類(特に、AD&D1stの基本ルールブックであるモンスターマニュアル(1977)のオークの項目の挿画)やイメージイラスト等の画像であるといえる。D&D系がそれを選択した根拠と思われるものとしては、最初期のDragon誌のトールキン世界とD&Dの関係に関して述べた有名な記事の中に、オークはオルクス(豚の頭部を持ったローマの冥王)に由来しているであろうという考察がある(トールキンが上記している「オーガ」の語も、実際はオルクスに由来するという説があり、それに立脚している)。以後、このオルクスがデーモンとしてデータ化された際(NetHackにも「オーケス」として登場する)従うオーク種族がいるという節も生じている(ただし、このD&D系のデーモンのオルクス自身は豚面ではなく、典型的な悪魔像のような羊の頭を持ち、権能は主に原型の冥王としてのアンデッドである)。ローマの冥神オルクスは、ギリシアのポルキス、フォルキュス(→メデューサ)と関係が推測されるが、さらにさかのぼるとバビロニアのポルキス女神に影響されているとも言われている。
 敵:Moriaの頃から、*bandにはオークとその眷属は実に膨大な種類の種族・種類が登場する。種類によって強いもの、弱いもの、光に弱いものや強いもの、耐性を持つもの、飛び道具を持つものなど千差万別である。そしてほぼ例外なく(ユニークが率いている場合は特に)おびただしい数の集団として出現する。何より、ユニークモンスターも、『指輪物語』でチョイ役に過ぎない名しか出ていないものまで手当たり次第に登場する。
 大抵のRPGではオークは「やられ役」の立場が与えられ(DQ3のように中盤以降登場する例もあるが)レベルが少しでも上がると相手にならないような存在なのが大半だが、*bandでは、序盤〜前半を通じて主要な敵として、常に戦い続けることになる。元来、オークはエルダールに次ぐ能力を持った種族であり、(特にウルクなどの場合は)人間より能力的に劣った種族などとみなせる根拠は何もない。RPGで大抵やられ役なのは、「兵士階級」の軍団と遭遇する機会が多いためで、人間の普通の兵士であっても弱いのは同じことのはずである(ただし、*bandには超エリート・パラディンの大群などという奇ッ怪なものも登場するが)。[V]の頃から、集団で、なおかつ屈強なものが少し混ざっているというオーク群がどれだけ脅威であるかが絶妙なバランスで再現されており、『指輪物語』などで英雄と呼ばれる者らがオークたちに悩まされた描写を、ゲーム中でまさしく実感することができる。
 前半はオークを敵にする機会が多いため、オークスレイヤーや西方国の武器(序盤ではまったくの偶然で手に入ることしか望めないが)がもしあれば、また、光に弱いスナガや丘オークに対して光のワンドやロッドを持っているとかなり有効である。

 →ウルク →丘オーク →スナガ →ハーフオーク



O−コンバット O-combat 【システム】

 [O]で導入された戦闘・ダメージシステムの通称。[V]では、例えば「(2d5) (+10, +15)」の武器は、2d5の値にダメージ修正の15の値をそのまま加えるが、O-combatでは「ダメージの倍率」がおよそ45%(+1につき3%前後)増加し、他に修正がなければ、2d5の値が1.45倍されるのである。
 明らかに打撃が弱体化するのがわかるが、これは[V]終盤での数値のインフレを抑えるためのもので、[O]では敵のAC(半分に)およびHP(50-70%に)を減少させてバランスを取っている。また、武器のベースのダメージ(武器の大きさにほぼ依存する)が重要なのも特徴である;1d4のダガーは倍以上の修正がない限りは、2d4のメイスに及ばない。また武器のスレイなどの属性は、[V]では最初の2d5などの部分についたので、修正が大きくなる終盤はほとんど関係がなくなっていたが、O-combatではすべての倍率につくので、終盤も重要である。
 [Z]もバージョン2.4.0以降、この戦闘システムに変更された。しかし、魔法のダメージは落ちずにそのままになっている、カオス・ブレードなどのベースダメージが大きい武器が強すぎる([O]では調整されている)、[V][O]と違ってベースダメージが大きいエゴアイテムやアーティファクトが多数出てくるために、小型の武器やベースが小さい武器は完全に使い道がないなど、明らかに問題が多く、おおむね不評のようである。
 なお[変]およびToMEは[Z]のバージョン2.2.8から派生しているので、戦闘システムは[V]のままである。また簡単愚蛮怒は[Z]2.4.0をベースとしていたのでO-combatであったが、バージョンと名前が変わり[X]になってからは[変]と同じ[V]準拠のシステムに変更された。



オグリロン Ogrillon 【敵】

 しばしば誤って「オログリン」と呼びそうになるこの種族は、AD&Dに存在する多数のオーク/オーガ亜種のひとつで、 「オークとオーガの混血」とされる、さらにその一種である。同じオーク、オーガ混血種として代表的なものに「オロッグ」(Orog, トールキンのOlogとは異なる →オログ)がいるが、強靭なオロッグに対して、オグリロンはオークと大差ない体躯しか持っておらず、やや力が強く好戦的であるがオロッグより知能もかなり低い。(D&D系の一般的なオークは獰猛であるが、版によっては、例えばCD&Dのものは士気が低く、すなわちトールキンのそれと違いかなり臆病である。)オロッグが、オークの中でも特に強靭な種とオーガの混血したものが一個の「種族」として確立しているのに対して、オグリロンはおそらく平均的なオークとオーガの血による雑多な個体の総称ではないかとも思われる。ただし、さほど強種族でないこともあってか、プレイヤーキャラクター用の選択モンスター種族」として扱われることもある。
 *bandにはToMEから、おそらくAD&Dのものから採られて追加されたと思われるが、他にはなぜか[変]にも採り入れられている。*bandのものはオーガ同様にGIANTフラグがついており、シンボルも'O'なので、おそらくオーガの方に近いものとされているようである。とはいえ、*bandではウルクやハーフオーク等、オークでももっと格上のものが存在する。特殊能力等は全くなく、同程度のオークに比べれば、強いて言えば攻撃力は高いと言えるものの、特筆できるほどのものでもない。



オシラス Osyluth 【敵】

 骨の悪魔。D&Dシリーズにおけるデヴィル(いわゆる悪魔のうち「秩序にして悪」のもの)の一種で、中でも代表的な中高種族「バーテズゥ」のうちの一種である。なお、エジプトのオシリス神 Osirisとは特に関係ない。ホビージャパン社のD&D3e邦訳では「オシュルス」になっている。
 その姿は身長270cmほどの、やせて長い手足の指、先端に鉤じみた毒針のある尾を持っている。体が骨ばっている上に顔つきも骸骨じみており、古いAD&D1st(および、それを踏襲したNetHack)では「Bone Devil 骨の悪魔」となっているが、最近の版のイラストなどではあくまで骨ばっているだけでむしろ小鬼(インプ)などに似た印象の痩せた悪魔である。テレポート系や氷の壁をはじめとするいくつかの擬似呪文能力をもつが、毒針の尾にせよ極端に強力な能力を持っているわけではなく、あくまでバーテズゥの中ではあるが、インパクトに欠ける存在かもしれない。厳密な階級組織社会を形成している「秩序にして悪」のデヴィルらであるが、オシラスは主要な戦闘員等ではなく、その中で組織内の監視役・内部スパイの役割を担っていることが多い。
 *bandでは、[V]3.0などで大量にD&D系由来のモンスター、ことに[V]2.8にいなかったデヴィルが追加された中に混ざっている一種で、主にアルダ舞台のバリアントに登場する。追加されたデヴィル類は(NetHackのゲヘナのごとく)深層における兵士的存在として考えられているのか、[V]2.8以来のデーモン類に比べても非常に階層が深いが、このオシラスも65階という深層になっている。能力的には階層ほどに強いわけではないのだが(だいたい40階後半のノーマルモンスターに近いパラメータを持つ)それでも、AD&Dでは同格だったマリリス等のタナーリ類に比べるとかなり強力な値であることにはかわりはなく、モンスター追加の事情とはいえデヴィル類全般が元よりもかなり強化されているといえる。



恐るべき獣 Winged Horror 【敵】

 出典:ナズグルの乗騎。*bandプレイヤーにはこの獣が何処に入っているのかはあまり認識されていないが(*bandでは「ワイバーン」やひいては「ゴルゴロスの蝙蝠」がそれにあたるのだろう、等と思われていたりもする)実際は、ToMEにおいてこの名で入っているのが原作中で「ナズグルの翼」「翼持つ影」「腐肉食らいの鳥」などと呼ばれる生き物である。原作では正式には「名前がない生き物」とされる。*bandではToMEのモンスターの思い出解説文によるとこのWinged Horrorがそれにあたる。MERPでの名はFell Beastであり、日本語版ToME1の「恐るべき獣」はその邦訳から取られている。
 『指輪物語』後半において、ナズグル(9人の指輪の幽鬼)らが与えられた空とぶ乗騎で、歴史が始まる前の時代に闊歩していた生物の生き残りを、サウロンが育てたものである。この有史以前という記述から、この獣も「マイア」(アルダ生成=神族が作る以前から存在する=それ自身が神族)であると拡大解釈してしまっている資料もあるが(『トールキン指輪物語辞典』など)後述するように「恐竜」をイメージされているらしいので、単にこの有史以前とは人やエルフが歩き始める以前と考える方が無難である。なお、アルダの龍(ドラゴン)はメルコール(モルゴス)が第一紀になってから自力で作り上げた生き物なので、この獣はマイアにせよ有史以前の生き残りにせよ、龍とは全くの別物である(他に「恐竜」がいたならば、モルゴスがそれを龍の原型とした可能性はあるが)。
 原作の描写では「鳥だとすれば」どんな鳥にも似ておらず、遥かに大きく、羽毛が生えておらず、皮膜の翼を持つとある。恐らくはプテラノドンのような翼竜をイメージしていたさまが伺える。ただし、この獣に関しては、イラストレーターや、ひいては読者個々の持つイメージさえ、奔放な想像力に従って千差万別で、ドラゴンやワイバーンとほとんど変わらないものや、始祖鳥が怪物化したようなものなどがある。映画版LotRでは既存の怪物にとらわれずにデザインが考えられたというが、結果的にはシルエットは既知のドラゴンに酷似し、大型爬虫類のような肌と細部の造りを思わせるクリーチャーになっている。
 これらの影響もあって、日本のLotR解説サイトや*band関連の日記などではこの獣を「ドラゴン」や「ワイバーン」と呼んでしまっている=定義してしまっていることが大半だが、これは(細かいことだが、しかし確実に)誤りであって、この生物はあくまで得体も知れず名前もない、他とは全く違う生き物としか言いようがない。
 また、この獣はあくまでナズグルの足であって、ドラゴンほどに圧倒的に力で押す生物でもないように思える。『指輪物語』原作では、確実ではないのだが、おそらくレゴラスがこの獣の一体を射落とす場面がある(「バルログに似ていたが、もっと冷たかった」という言及があり、これがマイアとされる根拠でもあるが、どちらにせよ非常に古い生き物という意味と考えられる)。しかし映画版ではえらく屈強な見かけなので、ファラミアが弓矢で追い払う場面や、騎士デルンヘルムが魔王の乗ったこの獣を倒す場面は、やたらとありえないパワーバランスにも見える。
 敵:ToMEに登場する恐るべき獣は、シンボルは'B'になっており、ANIMALフラグがある。9体のみでなく、ノーマルモンスターであるばかりか、なぜか出現頻度も割と高い。ちょうど中階層の怪物で、おおむねワイアームほどの力は持っていない。「いやな臭い」の拡大解釈といえる毒の他に、暗黒と地獄のブレスを持つのは、やはり一方でマイアールの悪霊としても解釈できる側面もある。
 *bandのナズグルは、この獣に「騎乗している状態のデータなのだろうか」という疑問がしばしば話題に上るが、仮に他バリアントでもだいたいこの強さだと仮定すると、おそらく[V]などの40階代のナズグルは違うであろうが、[変]の60階代のナズグルは騎乗しているとも考えられ、あるいはナズグルの地獄ブレスは黒の息ではなく、この獣の息とあえて考えることも可能である。



おどろしきバンダースナッチ Frumious bandersnatch 【敵】

 ルイス・キャロルの『スナーク狩り』、および『ジャバウォッキー』とそれが収められた『鏡の国のアリス』に言及される怪物。キャロルの造語であり、詳細はまったく不明である。詩ではほとんど名前のみだが、ただ「それを捕らえることは時間の一分を止めることと同じくらい困難な」怪物であるという。識者らは、バンダーは「ban-dog 猛犬」、スナッチは「snatch 鷲掴みにする」に由来していると解釈し、そのため牙、爪を持ち斑点がある、猟犬が凶暴化したような挿絵が与えられることがある。
 しかし、例えば邦訳において生野幸吉はFrumious bandersnatchに「するしいくちなば」という訳語を当てており、「くちなば」はくちなわ=蝮のもじりと見られるが、snatchにとぐろを巻くもの・巻きつくもの、あるいはsnake, snailといった語を重ねているのであろう。これと同様に、ゼラズニイをはじめとして、ヘビかムカデのような長い体をもつ怪物と解釈されていることも多いようである。*bandに直接に登場するものは、おそらくはゼラズニイに登場するものがモチーフと考えるべきであるが、これも充分な情報があるわけではない。アンバー後半シリーズにて、マーリンらがとある事情でアリスやジャバウォッキーの世界に紛れ込んだ際、しょっぱなから登場するのがこの「バンダースナッチ」である。が、マーリンが出会い頭に驚きのあまりログルスを思いっきりかましたため次の瞬間には床にのびた死体になってしまい、結局「長い体」をもつ怪物だということ以外ほとんど何もわからない。しかしその後もこの世界の代表的な怪物らしく名前はしじゅう登場する。
 さらにまた一方では全く別の例として、ルーディー・ラッカーのパンクSF『フリーウェア』に登場するパタパタパー(バイオ自律マスコット人形)のバンダースナッチは、なぜか「尻尾のかわりに手が生えた気色悪い猿」のような姿をしているのだが、さおりちゃんだかまいなちゃんだかに相当やばいいたづらを仕掛ける。
 「バンダースナッチ」は近代創作にも関わらず、英語圏ではことにアリス(ジャバウォッキー)と共に非常に有名な怪物であるが、キャロル当時から間もない時代より既にかなりポピュラーな名になっていたようである。例えば、J.R.R.トールキンと共に同じ文芸サークルに加わっていたひとりC.S.ルイスは、とある書簡の中で、トールキンの作品がにわかに朗読を聴いただけでは助言できるようなスケールを超えていたことに対して「(彼のファンタジー観に影響を与えようとするのは)バンダースナッチをどうにかするくらい無駄な試みだ」と言っている。
 *bandでは[Z]以来ノーマルモンスターとして、上記のゼラズニイでのイメージから連想したのか「頑丈なアゴと尖った尻尾を持った、防御力の高い巨大なムカデ」となっており、モンスターの思い出もシンプルすぎてやはり情報は不足している。その高名さに比して初期の階層(12階)で、また比較的攻撃力は低いのだが、この階層としては何か相当にしぶといので無理は禁物である。

 →ヴォーパルブレード →ジャバーウォック



汚物エレメンタル Ooze elemental 【敵】

 ウーズ・エレメンタルは、厳密に言えばAD&Dにおいてパラ・エレメントのひとつ「ウーズ(泥)」に対応するエレメンタルであるといえる。いわゆる「地水火風」の「四大元素」の他に、これらが「水+地=湿」などとまざりあって「乾湿冷熱」(水と火など対立するものは混ざらないので4つ)の性質が生じるのが錬金術でのもっぱらであるが、AD&Dでは4つの「元素界」の交差点にそれぞれ独立したこれらの乾湿冷熱の性質の岐次元界(パラ・エレメンタル・プレーン)が存在し、四大元素のエレメンタル(→参照)のほかにこれらにもエレメンタル生物が存在した。冷・湿・乾・熱に対してアイス・ウーズ・スモーク・マグマの4種類のパラ・エレメンタルがそれぞれに対応する。
 なお、D&Dシリーズでも版が進むと内方次元界のコスモロジーは微妙に異なり、例えばD&D3.Xeの標準コスモロジー(一応、グレイホーク世界の次元の仕組みとなっている)では、パラ・エレメンタル・プレーン自体は存在しなくなっているが、これらのパラエレメンタルは元素界の隣接・混合地点に存在するという設定になっている。4版は標準コスモロジー自体が異なるので省略するが、D&D5版では、元素界の境界部分が「粘液の元素界」等の別名で呼ばれ、岐次元界(パラ・エレメンタル・プレーン)は存在はしているものの、なぜか「火+風」が「灰」になっている(旧版では「火+風」は「乾(煙)」で、「火の元素界+負物質界(ネガティブ・マテリアル・プレイン)」の境界が「灰」である。なお「火+風」を「塵」などとする別案がさらに古い資料に存在した)など異なるので注意されたい。
 *bandでは[V]以来、通常の四大元素やこれらのパラ・エレメントのほかにも、時間(タイム)などのマイナーな次元界に対応するエレメンタルが多数登場する(なお、AD&Dでは時間の界はマイナーな「擬似次元界」だが、D&D3eではオプションではあれ「エネルギー界」のひとつである)。故に、この*bandのOoze Elementalも「湿のパラエレメンタルプレーンから来たエレメンタル」であり、単に「泥のエレメンタル」と訳すべきところと思うところである(D&D3.0eではモンスター名は「ウーズ」のままだが、説明文では「泥」、5版では「粘液」)。しかしながら、[V]以来のモンスターの思い出解説には明らかに「汚物の塊 mass of filth」(filthは英文語で「悪漢」なども指す、これはT&Tでいう「人間の屑」である)「見るも汚らわしい eyesore」とあり、ただの無属性エレメンタルではなく本当に汚れたものとされているようで、「汚物エレメンタル」というインパクトのある訳は実は妥当である。なぜ*bandの原語が、他のエレメンタルはさておいてもウーズ・エレメンタルにこうした解釈を取っているのかは定かではないが(アティアグなどの本当の汚物のモンスターのイメージも思わせる)結局は純粋に「モンスター」として凶悪なものに見せる文章表現にするためであろうか。あえて*band内の世界で考えるならば、結局はアングバンドなどの悪の迷宮の奥底では元素そのものも汚れているといった解釈が取れそうではある。エレメンタルは通常は術者などが召喚して使役するものであるが、あまり呼び出したくはないものである。

 →エレメンタル



オベロン Oberon, King of Amber 【敵】【システム】

 アンバーの王。最初のアンバライト(詳しい出身は一応伏せ)。彼の子と孫(便宜上は孫まで)が、様々な能力を持つ「アンバーの王族(アンバライト)」である。前半シリーズで活躍する主要な王子・王女は13人だが、故人の王子・王女についても何人か言及され、また、後半シリーズになると「隠し子」が何人か登場する。実は、計47人の子供がいるらしい……(なお、数千年でそれだけなので、アンバライトは極めて繁殖能力は低いと言えるとのことである。トールキンのエルフほどではないにせよ頷ける点である。)
 アンバライトはほぼ不老不死で(数千年、とは確実に言っている)最初の王オベロンは実際に衰える気配も見せない。容貌はいかにも王者の風格を備えた偉丈夫で、作内でも王子たちをも翻弄する策謀をめぐらせ、その腕力はジェラードすら叩きのめし、”パターン”を操る能力もコーウィンを遥かにしのぎ、精力的に活躍する。子供たちも、彼こそは王として相応しいと皆みなしており、元々は継承の必要も認めていなかったが(もっとも継承権そのものには、兄弟間の力関係上、こだわっていた)──ちょっとしたきっかけが原因で、一家の内で陰謀が巡らされ、彼は失踪し、それが呼ぶ兄弟間の継承争いが、アンバーシリーズのきっかけである。
 伝承の「妖精王オベロン」は元々フランスのロマンス散文『ボルドーのユーオン』が原典で、北欧のニーベルングの王にも連なる妖精(魔術師)アルベリヒ(→参照)を元に創作されたと言われている。これを友人に教わったシェイクスピアが妖精女王ティタニア(こちらはギリシアの女神に由来し、アルテミスやディアナの別名としても用いられる、遥かに古く強力な神性である)の夫として配したため、一気に妖精王として定着した。やはりこちらの姿は小妖精である。伝承では変身能力と、転移能力、自由に幻想世界を創造する能力を持つが、これらがアンバーシリーズでの変身能力(混沌の王族の血を引く者の能力で、アンバーの王子たちにさえ看破できない)とシャドゥシフトによる世界創造能力にあたることは説明するまでもない。(なお、EyAngbandにはこの「妖精の王『オベロン』」の方が登場する。データ的には、あまり[Z]系のオベロンとは関係がなさそうである。)
 [Z]および[変]などZ系バリアントでは、[V]などアルダ系世界でのサウロンにかわって、このオベロンを倒すことが100階に到達する(最後のクエストに挑戦する)ために必須の自動クエストになっており、「オベロン」がクエスト名でもある。なぜオベロンが99階を守っているのかは、説明によると「混沌のサーペントが倒されると宇宙バランスが崩壊する恐れがあるので、阻止しようとする」という、かなりよくわからない理由になっている。一応、原作でも「宇宙の秩序を維持するために」全力を尽くして活躍するのは確かで、わからないでもないが、サーペントの説明の方には「サーペントを放っておくと秩序が崩壊する」と書いてあるのだが……ともあれ、細かい点はさておき、サウロンに取ってかわるに相応しい「大物」なのでその点は妥当である。
 強さはサウロンよりひと周りほど上で、ひと通りの手強い魔法も備えている。特に「アンバーの王族召喚」が場合によっては厄介である。が、サーペントに挑戦するために降りていったプレイヤーキャラクターならば、極端に苦労することもないはずである。倒すと一定の確率で「★審判の宝石」もしくは「★真世界アンバーの金の冠」を落とすが、この頃までには拾っているかもしれない。

 →アルベリヒ



オルクリスト The Broad Sword 'Orcrist' 【物品】

 トールキン『ホビットの冒険』に登場するドワーフの長トーリン・オーケンシールドの剣で、元は第一紀(アルダ世界の「伝説時代」)のノルドール(地エルフ)の都、ゴンドリンで鍛えられた銘剣。エルフ語で「オーク(orc)を切り裂く(rist)」の意である。トールキン設定に当時の持ち主の言及はないが、対であるグラムドリングがゴンドリンの王トゥアゴンの剣なので、それに次ぐ地位のゴンドリンの名将の剣であろうとトールキンのファンは推察し、「泉のエクセリオン」の剣という説が有力(水属性なので辻褄は合う)。だが、ToMEなどにはエクセリオンの剣は別に存在する。ICE設定ではエクセリオンはそもそも剣ではなく斧を使用している。
 オルクリストは、*bandでは[V]以降、火の剣グラムドリングと対になる氷の剣として登場する。グラムドリングは「青い炎のような光(bright as blue flame)」を発し、さらに火の魔法使ガンダルフの佩刀なので、火の剣というのはわかる。では、なぜオルクリストが氷の剣になっているのか? 単にグラムドリングと一対だから、ということであろうが、注記に値する点として、原書'The Hobbit'では(オークの洞窟から逃亡する際、ガンダルフとトーリンが並んで剣を抜く場面に):

 (They found) Goblin-cleaver and Foehammer shining cold and blue light

 となっている。これは、本来ならば両方の剣が「冷たく青い光」をどちらも同時に発した、という意味に読み取るべきだが、*bandに限っては(恐らく、あえて故意に拡大解釈して)「オルクリスト(Goblin-cleaver)が冷たい光」「グラムドリング(Foehammer)が青い光」を別々に発した、という意味に採っているようである。
 オルクリストはゴンドリン製の剣だが、orcristという語の言語はクゥエンヤ(ゴンドリンのノルドール達の使っていたゴロジン)では明らかになく、もっと一般的なエルフ語のシンダリンである。orc-も-ristも明確なシンダリンの語幹である(ただし、正法のシンダリン、すなわちドリアスリンであるかは明確でない。これはもっと解析が難しい「グラムドリング」という語も同様である)。orcは『指輪物語』作中で発音されているローハン語の「オーク」ではなく、シンダリンのorchであり、ゴロジンや(コル)ノルドリンのurkであれドリアスリンのorch/yrchであれrは有声で発音するので、NetHackなどの「オークリスト」という訳語・発音は完全に誤りである。
 2012年-の映画版『ホビット』でもトーリンの剣として登場する。ここでは、組の剣であるグラムドリングと異なり曲刀状となっている。映画のメイキングによると、湾曲させたというよりも、グラムドリング(やつらぬき丸)の葉状のブレードを半分に断ち切った形状に近いようである。映画でLotRですでに登場したこれらの剣と形状を異ならせたのは、特に重要な(トーリンの)剣なので独特の形状にしたかったため、とのことだが、後述するが、グラムドリングとは異なりオルクリストは背の低いドワーフがふるうことができるので曲刀状かもしれないという考察も、ファンの間ではそれ以前から定番である。設定としては、上述のファンの想像である「泉のエクセリオンの佩刀だった」という仮説は、映画版では正式な設定になっている。また、オークらの間では「かみつき丸 biter」が通称である点を膨らませ、映画設定では柄の部分に龍(おそらく冷血龍)の牙が使われ、刃には蛇の意匠や「大蛇の牙」「龍の口から生まれた飢えた刃」といったキアスが刻まれている。この映画のオルクリストは(LotR映画から通じてのグラムドリング同様)特に冷たい光や青い光などを発することはなく、オークが近くにいても輝くことはない。これは、LotRメイキングでの予算のためとつらぬき丸と差別化するため、という理由の他に、戦闘場面で3本もの剣が光りっぱなしだとライトセーバーが出るスぺオペ映画のようでかえって見栄えがしないという理由もあるとのことである。原作では、オルクリストは一時トーリンらが森エルフに囚われた際に没収され、一時期はスランドウィル王らの手元にあるが、そのため映画版『ホビット』2作目以降ではスランドウィルの息子であるレゴラスがオルクリストを使用する場面もある。映画3作目ではトーリンがアゾグと、レゴラスがボルグとそれぞれ戦う中で、オルクリストが再びレゴラスからトーリンの手に渡り、使用される。
 ゲームデータでは、*band ([V])の参照元であるICE社のMERP設定では、上記トーリン2世のデータ内に存在する。グラムドリングとほぼ同性能で、+30という第一紀の名剣としてはかなり控え目な性能になっているが、これは当初から第三紀を舞台にしたデータの時点から存在するためゲームバランスを取ったのがそのままになっている経緯と思われる。ファンブルが起こりにくく、オークやトロールが接近した際に発光する特殊能力があるが、特に特定の敵や氷元素でダメージが増大する能力などはない。また、これらの接近時に発するのはオルクリストが「bright blue flame」、グラムドリングが「glows cold blue」となっており、上述したオルクリストがcoldでグラムドリングがflameといったデータにはなっていない。
 ゲームの登場例として最も有名なのがおそらくはNetHackである。NetHackの前身シリーズであるHackに続くABHackで最初に追加されたアーティファクトで、ABHackでは全バージョン通じてアーティファクトと呼べるものはオルクリスト1種しかなく、その後もNetHackのバージョンが進んでもエクスカリバーやスティングが追加されるにとどまっていた。どちらかというとオルクリストよりもグラムドリングの方が有名であるが、なぜHackにはグラムドリングがなくこちらが入っているのかというと、実のところNetHackではトールキンから引用したというよりも、多数登場する対オーク武器として追加され、バージョンが進んでもデーモンベーンやワーベーンなどの各種スレイング武器の一種として、オークのスレイングもそろえるというだけの意味で、グラムドリングを差しおいてそのまま入っている可能性の方が高いだろう。現状では、NetHackには強力なアーティファクトは他に多数存在するので、「オークリスト」はアーティファクトにも関わらず、名前を刻むだけで作れる上にオークにしか効果がない駄目武器になってしまっており、悪名はかなり高い。
 *bandではこれよりはましで、オーク以外にも様々な属性を持つが、中レベルのアーティファクトの例にもれず、入手時期がよほど早い場合以外はあまり役には立たない(同じくらいの強さの『グラムドリング』の項目参照のこと)。火と氷以外はほぼ強さなどはグラムドリングと同じだが、グラムドリングが「探知」に対して修正があるのに対し、オルクリストには「隠密」に修正がある。グラムドリングがメイジならば、オルクリストはレンジャーや盗賊に向けてデータ化されているのかもしれない(微々たる差でしかないのだが)。
 Eyangbandではグラムドリングとは異なり、ベースアイテムは「エルフのファルシオン」となっている。この根拠は定かではないのだが、映画版LotRのように海外の解釈ではエルフの剣として曲刀も多い、という点を別にしても、もしトーリンの剣であれば、長身のノルドールの長大なブロード・ソードよりは、ドワーフのトーリンには曲刀の方が扱いよいのは確かと思われる。また、これはこの二振りを見つけた際に、なぜガンダルフがグラムドリング、トーリンがオルクリストを取ったのか、という理由の想像にもなる点である。

 → グラムドリング  → アエグリン



オログ Olog 【敵】

 オログとはエルフ語のトログに発する、トロルを指す暗黒語だが、(丁度「ウルク」の場合と同様)特に大型で上位のトロルを指すことが多い。さらに狭義では、サウロンが作り上げた「オログ=ハイ」種族のトロルを指している場合が多い。
 (なお、NetHackのDatabase.txtのオログ=ハイの「サウロンは彼等がどこからきたのか知らないまま,彼等を忠実な下僕に育てました」は、「That Sauron bred them none doubted, though from what stock was not known. サウロンが種の交配によって作り出した者達であることは確かだが、どのような種族を用いて交配したのかは定かではない(田中明子訳)」の誤訳と考えられる。)
 オログ=ハイとは「大型のトロルの者ども」の意だが、この語が用いられる場合は、(かなり広義らしきウルク=ハイとは異なり)「サウロンがモルドールで生み出した、日光を弱点としないトロル」と定義がはっきりしている。トロルはモルゴスがエントから作り出したといわれる(確定はされていない)種族だが、『ホビットの冒険』で描かれたように、アルダ世界のそれは日光を浴びると石になる。しかし後のサウロンは、何らかの手段で昼間行動できるトロルを作り出した(サルマンのハーフオークのウルクハイ同様、人間と魔術的に合成したと考えることもできるが、*bandやICE設定の場合、オログと人間のさらにハーフであるハーフオログもいるので何とも言えない)。
 日光に強い以外の点での肉体能力的には(意外なことに)トロルとさほど差がないが、知能が非常に高く、技術や武器をたくみに用いることができるため、遥かに手ごわい。指輪戦争では鎧をまとい巨大なハンマーと盾を持ったオログ=ハイが多数見られた。オログ=ハイが作られたその時期に関しては明らかではないが、第三紀の末期にモルドール国内だけでなく近傍の山林や、闇の森の南(ドル=グルドゥアの勢力内)に見られたとのことである。
 映画版LotRでは、直接戦闘以外にもいかにも力仕事を担当(TTTで黒門を開ける、RotKで攻城機を運ぶなど)して、モルドール軍の随所に顔を出す。FotRに登場した岩石トロルよりも武装度が高く、また昼間に活動しているので明らかにオログ=ハイだとわかる。しかし、原作設定を細かく知らずに半端にトロルは日光で石化するというFotRの情報を見たファンは、かえって混乱するのではないかとの危惧もある。
 AD&Dにはオログ(オロック)というモンスターが存在するが、これはトロルではなくオークの上位種でオーガの血が入っているといわれるものである。これはアルダにはオログ=ハイがオークの巨大なもの(日光で石化しないことから)という風説もあったり、現代語のオーガがオログに発しているといった考察の影響によるものであろう。
 NetHackにはオログ=ハイというモンスターが登場するが、通常のトロルより桁外れに強靭であり、ヒットダイス(NetHackでのAD&Dルールに準拠した値で、モンスターのレベル)は実に13に達する;これは大抵のジャイアント(NetHackが流用しているクラシカルD&Dでの値)を遥かにしのぎ、ナズグルと同じ値である。もしこれが軍団にかなりの数が加わっていたとなると、モルドール軍は大抵のFTファンの想像をおよそ絶するほど強力だとしか言えない。しかしNetHackでは、これが登場するような深階層では厄介な特殊能力がないため印象が薄いかもしれない。
 *bandでは「オログ」という単独のモンスターが登場するが、他にも「ハーフトロル」や「闘トロル」も日光でダメージを受けないことから、これらも広義でのオログ=ハイ、もしくは何種類かの階級がいるのかもしれない。中盤の主要な敵であるトロルの中でも強い方に入り、設定階層通りで集団で現れた時などはさほど怖くはないが、トロルピットの中に混ざっていた時などは極度に危険な場合があるので注意が必要である。

 →トロル



オロドレスのエルフのクローク The Elven Cloak of Orodreth 【物品】

 オロドレスとはアルダ伝説時代のノルドール、フィナルフィンの一族で、その都ナルゴスロンドの摂政として治めていた王侯である。オロドレスのクロークは*bandではEyangbandにしか存在せず、また残念ながら、ICE設定にもオロドレスの装備のデータは見当たらず、クロークはEyangband独自のもののようである。
 『クゥエンタ・シルマリルリオン』ではその辿った経緯しか書かれてはいないが、そこから読み取るに、父フィナルフィンや兄フィンロド(後述するがそれぞれ祖父、叔父の見解あり)らと同様に清廉な性質だが、かれらのように情にもろ過ぎることはなく、王侯としての実直さを併せ持っているように見える。
 オロドレスは初期は、ミナス・ティリス(フィンロドが建てた要塞で、『指輪物語』のものとは別である)を守っていたが、「俄かに焔流るる合戦」の敗北でサウロンにこの砦が奪取されると(この砦は以後、ガウアホスの塔(→ドラウグルイン)となる)フィンロド王のナルゴスロンドに移った。フィンロド王がベレン(→参照)に危険を顧みない助力を行うと、中ボス悪役の策士ケレゴルム(→金髪のケレゴルム)の扇動もあって、民心がフィンロドから離れた。そのため摂政に任命され、かわってナルゴスロンドを治めることになったのがオロドレスであり、フィンロドがのちにベレンを守って死んだ後も、ナルゴスロンドを治めていた。(なおケレゴルムは、弟クルフィンと共にナルゴスロンドをのっとる目論見であったが、失敗しオロドレスに追放された。)のちにやってきたトゥーリン(→グアサング等 トゥーリン物語のフィンドウィラスはオロドレスの娘である)を重用し、ナルゴスロンドの防衛を続けるが、グラウルング(→参照)をはじめとする大軍によってナルゴスロンドが滅びた際は、トゥムハラドの合戦の最前線に立ち、討ち死にした。
 さて、オロドレスは『シルマリルの物語』ではフィナルフィンの多数の子のひとりと記述され(フィンロド・フェラグンドをはじめ、アングロド、アイグノール、ガラドリエルの兄弟にあたる)巻末の系図でもそうなっている。しかしながら、トールキンの遺稿(HoME収録)によるとオロドレスはアングロドの息子とされている。さらには、のちの上級王ギル=ガラド(→参照)は『シルマリルの物語』ではフィンゴルフィンの系統(フィンゴンの息子)であるが、トールキンの原稿ではほかならぬオロドレスの子であり、フィナルフィンの系統であった。これらは、未完だった『シルマリルの物語』を編纂した子息クリストファー教授が変更を加えたためである。『シルマリルの物語』は、『ホビット』『指輪物語』に比べると未整理点があるものの、一応は「物語稿」であり、かみ合わない場合は遺稿類などよりは重視されるのが通例である。しかしながら、このオロドレスとギル=ガラドの件に関しては、クリストファー教授はさらに原稿を整理した結果、元の案の方が妥当であろうと結論している。そのため、ごく一部のファンは、「オロドレスはフィナルフィンの孫、ギル=ガラドはその息子」が正しいとするが、ただしHoMEの認知度の低さもあって、日本のウェブサイトをはじめとして『シルマリルの物語』に準拠した記述を採っている場合も多い。

 →上級王ギル=ガラド





 
あ-い  う-お              や・ら・わ




フレーム版へ

トップページに戻る