私家版*band用語集
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サイ皮よろい Rhino Hide Armour 【物品】
ハイドアーマーはなめしていないか、単になめしただけの皮を重ねたものとして、防具としては最も原始的で単純なものの表現として、しばしば海外ゲームを中心に登場する。その扱いは、防御効果は最低であったり、または防御は悪くなくとも異常に重く動きづらかったりと様々である。また、「サイの皮」はしばしば「硬い獣皮」の形容として引き合いに出され、使われる。
しかしながら、「ライノハイドアーマー」としては、AD&Dになぜか1st以来登場する同名の「マジックアイテム」がある。これはサイの皮で作られた鎧というだけでなく、どういうわけかそれをまとった者が動物などに騎乗して突撃(槍などによるチャージ攻撃)を行うと、あらゆるダメージが2倍になるという、とんでもなく強力かつ脈絡のない効果を持っている。
一体どこからそんな発想が出てきたのかというと、D&Dシリーズにはサイを含めて大型の四足歩行の獣は、頭から「突撃」することで本来のダメージを2倍にできるというルールがある。おそらく、ドラゴンスケイルメイル(→参照)が着用者に耐性やブレスウェポンの能力を与えるのと同様、サイ皮よろいはサイの突撃能力を与えるということなのだろう。──などと言われてそんな珍妙な映像を納得できるプレイヤーがそう多いとは筆者には思えない。
しかしながら、D&D 3eのパワーゲーマー(市販ルールの中から強力な組み合わせを探し出し、組み合わせたキャラクターや戦法を考え、パズル的楽しみを重視するゲーマーのこと)らの間では、この物品の突撃効果の強力さから、ドルイドやレンジャーその他騎乗系のクラスで、乗用動物と共にこのライノハイドアーマーの着用を指定するのは必須のセオリーになってしまっており、パラディン(クラスボーナスで必ず優秀な愛馬を持っている)が光輝く甲冑ではなく決まってサイ皮鎧姿というのも無論なんら珍しい光景ではない。*bandフリークがそう多いとは思えない以上、「ライノハイドアーマー」「サイ皮よろい」という単語に対して、いきなり目が「ギパア」と輝く人がいたらそれは十中八九D&D3eのパワーゲーマーである。
*bandでは、多数のノーマルアイテムをもって鳴らしたMoriaで存在するが、[V]にはなく[Z]のニューアイテムで追加され、以後のバリアントに引き継がれている。変わった皮鎧であるという以外の特性はなく、名前だけとらえて[変]のダジャレアーティファクトになっているのが目立つ程度である。
ザイクロトル族 Xiclotlan 【敵】
下級の独立種族、ザイクロトルからの怪物。ラムジー・キャンベル『シャガイよりの昆虫』に言及される生物で、シャン(→参照)の故郷であるシャガイ星に近いザイクロトル星の原住生物だったといわれる。半物質の身体と高度な精神・感応能力を持つシャンに対して、ザイクロトランは強力な肉体を持ち精神活動は低いため、シャンによって奴隷とされ、もっぱら労働力として使われている。
ザイクロトラン自体は約16フィート=4.5mほどの高さの木のような生物で、何本かの枝があり、枝の先端は指のように6つに分かれ葉のようにも見える円盤になっている。幹の頂点には口がある。CoCルールでは、この円盤つきの枝で人間をつかみ、頂点の口で丸呑みにする。また、木に近いことを利用してか隠れる能力があり、忍び歩きの隠密能力も何故か持っている。
*bandでは[Z]から登場し、木の#シンボルになっており、階層としてはやや耐久力(DEMON, EVILフラグともにない)や攻撃力が高いため面食らうが、呪文などの特殊能力もなく、落ち着いてみればさほど脅威ではない。
サイクロプス Cyclops 【敵】【種族】
ギリシアの単眼巨人。狭義には、ウラノス(天)とガイア(地)からティタン12神(→半タイタン参照)と前後して生まれた、ブロンテス(雷鳴)、ステロペス(雷電)、アルゲス(雷光)の3体の雷神を指す。ラテン慣用に従う英語でサイクロプスだが、元のギリシアの発音では「キュクロープ(キュクロペス)」である。その語意は「'cycl(e)-'円状の 'op(t)'光(眼光)」であり、「太陽」の表像から連想されたと言われ、彼等の個人名の通り「光・閃光」そのものも示している。(余談だが、故にアメコミ『X−メン』のリーダー、目から閃光を出す超能力者の名が「サイクロップス」、技の名が「オプティック(optic)ブラスト」なのはそれなりに辻褄が合う。)この3体のサイクロプスは力の上ではティタンに全く劣らぬため、疎まれて幽閉され、(同様に幽閉されていたヘカトンケイレスらと共に)助けられたゼウスに味方してティタン神族と戦い、以後ゼウスの朋友・部下として共に雷を鍛える雷神となった。
しかし、ホメロスの詩には、この3体とは明らかに別の、羊と葡萄を育てる低知能で獰猛なサイクロプスの「一族」が登場する。彼等の首領ポリュフェーモス(→参照)は、ウラノスではなくポントス(海)の血脈に属する一連の「怪物神」らのうち一体である。また、女神ヘラが鍛冶神ヘパイストスに鍛冶の部下として贈った者達もいる。恐らく、同じ表像・閃光の化身として様々な別の系統から神格化された単眼巨人がおり、広義ではその総称と見なすべきなのだろう。
D&D系をはじめとするRPGには、多くは巨人系のうちでもかなり強力なモンスター(タイタンが出現しない場合には、頂点のこともある)として出現する。一般に知能は非常に低く魔力もなく、ホメロスの描いたようなものを想定していると考えられる。NetHackのモンスター解説の文章は、ホメロスからの引用である。
*bandには、敵としては[Z]から登場する。一連の巨人系の一種だが、階層の割にかなり強く、特に攻撃力はそれまでの巨人と比してやや高めなので、巨人ピットなどに混ざっていた場合は注意を要する。
[Z]では種族としても使用できる。腕力と耐久は高く、ヒットダイスは半タイタンに次ぐが、他の能力値は軒並み低い。技能もどれも低いが、打撃は半タイタンに次ぎ、また射撃が意外に高い(器用さが低いのとアンバランスだが)。やはり雷神の眷属というべきで、また(レイシャルパワーにもなっているが)岩石を投げる場面が説話によく出てくる為でもある。概して戦士、[変]なら騎兵にも、さほど悪くない種族である。
→タイタン →ポリュフェモス →バイクロプス
サイバーデーモン Cyberdemon 【敵】
一世を風靡した有名シューティングゲーム'DooM'シリーズの代表的な強敵。DooMシリーズは宇宙時代が舞台の現代・未来兵器での銃撃戦ゲームであるが、宇宙ゲートの開発中に地獄のゲートが開いたという設定で、アンデッドや地獄のデーモンら、さらにはそれらが機械と合成した敵が登場する。サイバーデーモンはそのひとつで、「半ば無感情な機械、半ば怒りの感情にかられた悪魔」の怪物であり、身長10フィート以上(小説などの記述では5m以上のものもいるという)の、茶色の体のミノタウロスのような角の生えたデーモン(Baron of Hell (→地獄の公爵)によく似ている)に、左手の肘から先がロケットランチャーになっている、というものである。右腕もワイヤーなど金属部品が覗き、右足は金属の義足である(左足はヤギの足のようになっている。全体的にベースはバフォメット(→参照)のような典型的デーモンであるらしい)。初代DooMのドット絵では、そのイメージがわかりにくい部分もあるが、サイボーグのように単に一部に機械が混ざっているだけでなく、腹部に覗く人工素材と思われるケーブル束、間接部の一部生物的かつパーツ的な印象など、全体的に人工・生物の有機的な中間のようにも見える。その姿はDooMIIのパッケージでも描かれ、よく知られている。
おおむねDooMシリーズでは最強の敵といえ、強力無比な耐久力と、見たとおりの左手のロケットランチャーの絶大な攻撃力を持つ。3連発のロケットランチャー(そのうち1発や2発で、最強武装のプレイヤーキャラクターが簡単に沈む)はさらに爆風で広範囲に被害を与え、しかも自身は爆風のダメージを被らない。すなわちこちらは複数直撃や爆風を食らわないよう移動しながら、強力な武器(BFG9000(→参照)などでないとつらい)をかなりの数、しかもすべて直撃させなくてはならないという戦法になる。DooMプレイヤーならば誰しもが強烈に覚えている敵と言われ、代表的ボスキャラといえる。
*bandにおいて、[Z]以降にサイバーデーモン(と、オリジナルの首領としてOremorj)が登場するのはこの印象の強さを反映しているといわれ、「重厚な足音が聞こえた」というメッセージ、呪文や魔法効果などで特に「サイバーデーモン」を召喚する効果が独立しているものが多いなど、[Z]系の数多くの面で「特別扱い」されているモンスターであるといえる。そもそも「ロケット」という属性・攻撃そのものが、(プレイヤーの使うロケットランチャーも含むが)サイバーデーモンの攻撃を再現するために設定されたといえそうである。(たとえ破片耐性があっても)連発で食らえばほぼアウトというバランスも、忠実にDooMのサイバーデーモンのランチャーを踏襲したものといえるだろう。その特別扱いにたがうことなく、*bandのサイバーデーモンはそのロケットの攻撃力とたやすくはその危険性を排除できない耐久力から、熟練者が深層で最も警戒するモンスターの一体である。その危険さに関しては[Z]の公式サイトの攻略情報にも書かれているほどだが、見かければ即座に破壊か抹殺か、特に複数が登場すれば選択の余地はないに等しい。これが色々なモンスターの召喚等、さまざまな機会に頻繁に召喚されて登場することが、[Z]系の*bandの深層をきわめて凄惨なイメージに彩っているというのは動かしようのない事実である。
→Oremorj
財宝感知 Detect Treasure 【システム】【物品】
最も古いタイプのTRPGは迷宮に潜り、財宝を収集することを中心とするゲームであった。D&D系(赤箱)やT&Tのルールブックで示唆されているゲーム進行もそうであり、かなり後の、冒険者=遺跡探索者と位置づけている『ソードワールド』初期ルールブックにまで見ることができる。特に、クラシカルD&Dでは持ち帰った財宝が経験となり、財宝収集そのものがゲームの帰結になっている。
したがって、「迷宮中にある財宝の位置を直接感知する」という手段はこれらのゲームではかなり重要な要素であるように見える。しかしながら、アイテムの特殊能力(ポーション、インテリジェンスソードにつく特殊能力)や、種族の特殊能力で不完全なもの(金属、宝石感知)が得られたりすることはあるが、「呪文」で直接に財宝を見つけ出すといったものは、これらの基本ルールの類にはあまり見られない。
Roguelikeでは、初代Rogueの時点から画面上の物体を感知する手段があるが、どちらかというとシステム上実装が容易という理由で設けられただけに思える。そもそもRogueでは上記のTRPG類とは異なり、金塊についてはスコアに影響する程度であまり重要ではない。NetHackでも物体を探す薬と金貨を探す巻物があり、呪文(魔法書)にも宝を探す魔法書がある。単なるRogueからの伝統と考えられるが、NetHackでは金貨や宝石の使い道があり、掘削手段によって地中に埋まっている財宝を探すこともできる。
*bandでは、原型であるMoriaの時点から、各種初歩の呪文やアイテムでこの財宝感知の手段が豊富に得られる。さらに、アイテム手段や[Z]系の秘術魔法などでは「財宝」「アイテム」「魔法物品」の感知がわざわざ分けられており、多様もとい項目を水増しする秘術領域の駄目っぷりを際立たせている。NetHack同様、主に地中に埋まっている財宝の掘削がその用法であると思われる。財宝掘削に手間をかけるほどの値があるのは序盤のみだが、序盤にたまたま感知手段が手に入っていれば、資金集めなどに重宝することもある。
サウロン Sauron the Sorcerer, The Lord of the Rings 【敵】【システム】
出典:マイア。モルゴスの妖術師。指輪の王。かつてはアルダ世界のマイア(下級神)の中でもことに力ある者であり、工芸のヴァラ(上級神)であるアウレに仕えていたが、アルダの神話時代に暗黒の主メルコールに誘惑され、その技芸をもってメルコールの右腕ともいうべき、知恵袋・参謀格・実質上の軍団司令となった。メルコール(モルゴス)が怒りの戦いで倒されると、逃れて身を隠し、遠大な計画を実行する;すなわち、エルフの細工師らに力を貸すとみせて、彼等と共に鍛え上げた強大な20個の「力の指輪」に悪意を注ぎ、それらすべてを支配する《一つの指輪》を完成させると、一気に猛威をふるい、モルゴスの次の代の冥王として君臨する。その後、ヌメノールや最後の同盟(エレンディルとギル=ガラドの連合軍)に繰り返し打ち倒されるが、一つの指輪が存在する限りはその執念でもって存在し続ける。彼を滅ぼすには指輪を破壊する他ない……というのが『指輪物語』の背景である。
「サウロン」とはクゥエンヤ語で「身の毛もよだつ者」の意であり、これ自体が、第一紀に入りモルゴスの配下の悪霊となってからの彼にエルフらがつけた名であると思われる。ヴァラやマイアについているエルフ語の名というのは、アマンの地で上のエルフらが彼等を呼ぶためにつけた名にすぎないと思われる;未発表原稿の「マイロン」を根拠に、堕落する前のマイアとしての本名もあるとみなすファンの立場もあるが、あくまで正規(完成原稿)に近いヴァラクウェンタ、アイヌリンダレという物語稿に則ると、最初は工芸神アウレの配下だったとはいえ、アルダの形成直後・エルフの誕生前には、既にメルコールのもとにつき、恐らくアマンの地を踏んだことさえない彼は、エルフからは最初から忌まわしい名でしか呼ばれることがなかったと考えた方が妥当に思われる。なお、正規の物語稿の作中での呼び名には「サウロン」の他に、シンダリン語で同じ意味の「ゴルサウア」、エルフらを欺く偽名に「アンナタール(物贈る者)」「アウレンディル(アウレの友・従僕)」などがある。
『指輪物語』和訳ではサウロンは「冥王」と冠されているが、これはDark Lordの訳であり、日本語で「冥王」や「冥」などの語に用いられている冥界(死・死者の世界)やその支配者といった意(例えば冥王星 Plutoはローマの「死後の世界の神」である)ではない。「冥」という字はその漢字そのものの「冥(くら)い」の意から採られていると思われる。ただし、あくまで副次的な意としてはだが、第三期のサウロン自身が怨念(死霊)にすぎないこと、『ホビット』等で死人占い師(the Necromancer)と称されること、現に幽鬼や悪霊を多く配下としていることにも符合する訳語ではある。
サウロンは様々な姿をとることができ、『クゥエンタ・シルマリルリオン』では大蛇や巨狼、蝙蝠に変身する場面があるが、基本的には(アンナタールなど)非常に美しいエルフか人の姿である。ヌメノール没落でその変幻自在の肉体も滅び、「一つの指輪の力で作り上げた見るも恐ろしい姿」をとるが、エレンディルらによってその仮の肉体も滅ぼされ、以後は完全な霊体となる(「燃えさかるまぶたのない目」「指が九本しかない黒い人型」といった心象的な姿は描かれる)。第二の「恐ろしい姿」が、最もとっていた期間は少ないにも関わらず「冥王」としての姿の代表と見なされているが、どういった姿であったかは意見が分かれている。トールキンの書簡によると、「長身の人間型だが、(モルゴスのように)巨人というほどではなかった」というが、鎧の戦士のようにイメージする人々が多く、映画版FoTRの冒頭では、禍々しい鎧兜とメイスといういでたちだった。これはモルゴスの記述や、画家ジョン・ハウなどが描いたモルゴスの絵を元にしているというが、例によって賛否両論である。否定的な意見は、原作のサウロンの恐ろしさを表すためには、肉体のある姿では描くべきではなかったというものが、やはり多い。*bandでは、タイルの図柄や防御力の高さから推定して、やはり鎧姿をイメージしたものが登場していると思われる。
MERPなどのアルダTRPG、TCG設定を作ったICE社の設定では、サウロンには第一紀の妖術師時、第二紀の指輪の有無、第三紀の霊体など何種類もデータがある。指輪がある際はマイアとしては最大の力を持ち(レベル値360はトム・ボンバディルと同等である)最も弱い霊体の時(レベル180)でもガンダルフ(レベル40-50)やガラドリエル(レベル60)等よりも遥かに強力な敵である。映画版冒頭のような第二紀末の冥王としての鎧姿のデータもあり、黒龍の鱗の鎧、破壊力の高い殺戮の篭手(→上級王ギル=ガラド)、モルメギル(→参照)という黒い魔剣のほか、映画と同じようなメイス、『影の槌矛』も持っている。
敵、システム:前述のように『指輪物語』和訳ではサウロンは「冥王」と冠されており、実は[V]初期訳でも「Sauron, the Sorcerer」に対して「冥王『サウロン』」と意訳されていた。しかし、LotR読者からモルゴスが健在である[V]の舞台ではモルゴスの部下の「妖術師」にすぎず、the Sorcererをそのまま訳すのが適切という旨の意見があり、以後[V]をはじめ以後のバリアントの多くでそれが踏襲されている。
初代の冥王モルゴスが健在である*bandにおいては、このサウロンもその下僕であり中ボスのひとりに過ぎないわけであるが、*bandの設定(モンスターや物品)解説のそこかしこに現れる重要さにおいてはいささかも劣るものではない。[V]およびアルダを舞台としたバリアントにて、最終目的であるモルゴスのいる100階に達するための、99階のクエストの敵である。サウロンを倒せないようでは、モルゴス打倒はおぼつかないわけで、非常に強いが極端に苦労せずに倒せるくらいになってから降りるべきとも言える。
[Z]系では、最終がサーペント、そして99階がオベロンにとってかわられたため、クエストモンスターではなくなったのだが、そのせいでそれ以前に登場することがあるので、むしろ余計に厄介になっているとも言える。特に、ランダムクエストなどで80階代あたりに出てこられると放棄確定になったりする。なお、困ったことに[変]では九割方の確率で、《一つの指輪》ではなく《アホヤ》を落とす。まさか出てきた指輪を即座にはめるプレイヤーもいないと思うが、……
→力の指輪 →一つの指輪 →アホヤ →ドル・グルドゥアの死霊術師
サウロンの口 The Mouth of Sauron 【敵】
出典:「さうろんの『ろ』」と呼んではならない。指輪未読の*bandファンには、この名前だけでは何だかさっぱりわからないという意見が頻出する(「クチビル妖怪」だと思ったという話も冗談ではない)が、人間の妖術師のひとりである。サウロンの城砦バラド=ドゥアの司令官であり、『指輪物語』でガンダルフやアラゴルンらとの交渉にモルドールの黒門に現れたときに、軍使として登場する。黒い服に黒い鎧兜をまとい、骸骨のような巨大な黒いモルグルの馬に乗った「鎧武者」の姿である。(なお、映画版RotKにはフィルムはあるが、劇場公開版ではカットされているようである。)
彼は、怪物や幽鬼の類ではなく、「黒きヌメノール人」(ドゥナダンのうち、ヌメノールやその流れの王朝に従わず、サウロンに従った者)であり本編中のその代表である。年齢などははっきりしないが、「暗黒の塔の最初の再建時から、サウロンの軍に参加している」という記述を、ヌメノールによって陥落したバラド=ドゥアが再建された第二紀末からと考えると、3000年以上をサウロンの腹心として生きていることになり、イスタリ(魔法使)が中つ国で活動している期間(彼らは第三紀の1000年頃来た)よりも遥かに長い。無論、黒きヌメノール人とはいえこれほど生きられるはずがなく、妖術のみでこれだけ寿命を延ばしていると考える他にない。
「サウロンの口」という名は自称で、おそらく主にかわって布告役をつとめている等の役割からと思われるが、自分の本当の名前は「あまりにも長い年月を生きてきたので忘れた」という。また「サウロン」という名前をじかに口にしている(することを許されている)のは、冥王の配下でもこのサウロンの口とナズグルらのみである。
デーモン小暮閣下のような尊大な言葉遣いで喋り、その発言から考えられるサウロンからの信任や、サルマンでさえも格下扱いする発言からも、少なくともそれなりの格と実力は持っているはずである。しかし、登場する交渉場面においては、アラゴルンの飛ばしたガンにひるむわ、ガンダルフのまるっきり勢いだけの無根拠のはったりに取り乱しっ放しだわと(いくら彼らの引き立ての場面とはいえ)アルダ全史にも類を見ないほどに爆裂にヘタレキャラである。
これに関しては、サウロンの口は、魔力や指揮能力においては(また暴君の部下としては)おそらく有能であっても、エルフの寿命も持たず、妖術で無理やり人間の生を引き伸ばしているため(しかも、力の指輪のような手段ですらなく)精神や魂に欠陥が生じているのではないかと考えるファンもいる。自分の名前を忘れたこと(アルダ世界において、どれだけ「名前」が重要であるかは、多くの場面で証明されている)をはじめとして、人間としての器量や度量・胆力をはじめとする人間性が抜け落ちているのではないかというのである。
MERPでは、能力データの上ではナズグルの次席カムルや、白のガンダルフに匹敵する力をもつ妖術師で、サウロン不在のバラド=ドゥアやドル=グルドゥアを統率した設定もある。
敵:*bandではMERP同様、能力としては強力な術師として登場する。魔王につぐほどの深階層で、強力なパラメータと魔力の嵐をはじめとする凶悪な魔法を数多く備えた、非常に恐るべき強敵である。[変]ではディスペルや光の剣さえ持つ。魔術師系で攻撃力はやや低く、耐久力は中程度で、召喚がなく単独で現れることが多いのが救いと言えば救いである。
サスカッチ Sasquatch 【敵】
サスカッホ。下級の独立種族。巨大で毛深い原人。サスカッチ(サスクワッチ)とは北米大陸北部のネイティブ部族が伝承する巨人の一種を指す語で、Sasquatchという語の原語での意味は「人に似たもの」「毛深い巨人」等諸説があり、定かではないらしい。転じて、北米大陸の寒冷地帯における「雪男」「大型猿人型」といったUMA(未確認動物)を表わす一般的な用語として用いられることがある。米大陸でも地方ごとに異名があり、例えば海沿いの南部では、体臭が強いといわれることから「スカンクエイプ」とも呼ばれる。寒冷地の精霊としての「ウェンディゴ」(→イタクァ)と関連づけられることもある。これらのUMAをより広義に差す英語としては「ビッグフット」がある。(これらは、アジアの「イエティ」「野人」やオーストラリア大陸の「ヨーウィ」といった雪男類に対する語である。)
伝承のサスカッチは、身長が人間の倍あたりまで(2m後半から3m以上)の黒い毛むくじゃらの巨人で、伝承中では人間とは友好的だったためもあり、聖なる生き物として敬われてもいるという。現代に入ってから、北米で民家や市街に現れてパニックを引き起こした目撃例、足跡などが繰り返し発見され、いわゆるUMAとしてよく知られるものとなった。これらの例の中には集団で現れて人が避難した後の村を蹂躙したといったものもあり、そんなものが今も集団で生き残り生活しているのか、かえって疑念に拍車をかけている。説としては、かつての大型類人猿であるギガントピテクス属その他の生き残り、例によって他の動物(この地域では灰色熊など)の見間違い、誰かがふざけて着ぐるみをかぶっているだけ(実際、中の人は自分だと暴露した演者がいた)といったさまざまな憶測がある。人間サイズのヒバゴンや野人よりも大型で、毛の色が黒であることが特筆すべき点である。ビッグフットとは数多く残っている足跡が1フィート半(45cm)以上であることからの通称である。日本のバラエティー番組で、たまにネタがなくなってくると特集される際、「ビッグフット」の足跡写真の中に某いろいろな面でスケールのでかい芸能人・和田ア○子の足跡が混ざっているといったネタも定番である。
派生キャラクターとして日本で特に有名なものに、主に怪奇物の怪物キャラ達らが戦いを繰り広げる格闘ゲーム、カプコン『ヴァンパイア』シリーズのサスカッチがいる。ここでは、種族(部族)名が「ビッグフット」であり、「サスカッチ」はその個体名である。おおまかに雪男型(色は原型のような黒ではなく、雪男らしく白い)は踏襲してはいるものの、コミカルなデザインとバナナが好物の朴訥な性格になっている。怪物の集まるこのゲームのキャラには、形状・大きさともに人型をこえているものも多い中、このサスカッチは原型のビッグフットほど大柄ではないが(設定上は166cm)パワーキャラの一種をうけもつ。なお、2010年のカナダ・バンクーバーオリンピックの大会マスコットキャラの一体に同様にビッグフットをコミカル化した「QUATCH君」がいたが、何となくこのカプコンのサスカッチに似ていた。
RPGでの登場例は、イエティよりも米大陸では身近でUMAとしての知名度もやや高いと思われるにも関わらず、必ずしも古くからの定番のものではないようである。'Yeti'が多くのRPGの原型であるAD&D1stのモンスターマニュアルに載っているのに対して、サスカッチは基本ルールに無い。CD&Dではなぜか黒箱(最上級ルール)に載っており、「イエティ」や「ビッグフット」や「アボミネブルスノーマン」は別名であるとされる。NetHackのものはイエティよりレベルが若干上で冷気耐性がなく属性が異なるというだけで、CD&Dのものともデータは異なる。以降のCRPGにおいては、UMAの中でも大型でモンスター的なためか、「ビッグフット」の名ともどもやや強力なモンスターの一種として見られることがある。例としては『ファイナルファンタジー2』の「スノーマン」の上位種である「ビッグフット」がいる。
*bandでは、イエティ同様の猿類'Y'のシンボルで登場し、イエティよりは大型なためか階層も深くなっているのだが、他の階が浅いながらも集団で現れたり特殊能力持ちだったりする'Y'シンボルの面々から見れば影が薄いことは否めない。それでも初代RogueでイエティのYシンボルが存在していたため雪男類の扱いはましな方であるともいえる。
殺人クワガタ Killer Stag Beetle 【敵】
「殺人クジラ」等と同様に何か他に由来があるのかと思うかもしれないが、本当にただの巨大なクワガタのようである。昆虫の中でも屈指の人気を誇る(カブトムシが生息しない北国では特に)クワガタは、樹液や果実を食物とする昆虫で別に肉食であったりするわけではない。これがRPGにおいて殺人モンスターとして扱われているのは、いかにもな甲虫の姿の勇ましさだけのように思われる。こういうのは決まってオスしかデータ化されておらず、別に生態を細かく考察し設定された等ではなくモンスターとしての見栄えだけで決めた感が見える。
AD&D 1stの数多くの「ビートル類」の中に含まれているBeetle, Giant Stag(まったくの余談だが、やはり『ザナドゥ』では平然と「ビートルジャイアントスタグ」をモンスター名にしたりするのだろうか)は、サイズがLでおそらく体長3メートル近いと思われるものである。強さ(ヒットダイス)はグリフォンなど中レベルモンスター級はあり、予想通りというか何というか、甲虫だけにプレートメイルと同等の防御能力を備えている。動くものには何でも襲い掛かると書いてあり、鋏(大顎)は最低8フィート(2.4m)でドラゴンの爪くらいの攻撃力がある。
*bandではMoria以来、定番というかすでに「基本」のモンスターのひとつとして登場する。階層はノーマルモンスターの中でもさして高くはないが、それでもよく考えると多くの魔獣や巨人、ゴーレムと同じくらいなので相当なものである。別に攻撃力や防御力が理不尽に高いということもない。
殺戮雲 Cloud Kill 【呪文】
「抹殺」系の呪文とは関係なく、系統を示すのは「雲」の方である。毒攻撃の呪文で悪臭雲(→参照)の上級呪文にあたる。*bandの数多くの呪文の中でも微妙な位置にあるひとつである。[V]において、高レベルの呪文書の初期に記述されているもので、この呪文書が入手できるころにはメイジにはもっと有用な呪文が存在する。が、盗賊クラスにとっては、高レベルの呪文書で入手できるこの呪文が、実質上最初に習得できる直接攻撃の呪文である。しかしながら、[Z]では暗黒領域からも排除され、[変]ではふたたび戻っているものの、中盤以降で毒攻撃に頼る必要性、また([変]では忍者の登場でさらに日陰に押しやられた)暗黒盗賊(アサシン)や暗黒パラディン(デスナイト)が必要とする機会を考えても微妙なものがある。
これは元々AD&Dにおいて実質、悪臭雲 Stinking Cloudの上級呪文として存在するものである(とはいえStinking Cloudの存在しないクラシカルD&Dにも入っているので、こちらの方が下位呪文より重要なのかもしれない)。使用できるのはネームレベル(救国英雄レベル)の練達術師に限られ、(D&D系では)悪臭の効果しかないStinking Cloudと異なり、継続的に毒のダメージを与え、低レベルの対象は即死することもある。(なおソードワールドの「デスクラウド」の呪文はこの呪文と、元々全く別のDeath Spell呪文を組み合わせた案という説がもっぱらである。)どちらかというと瞬間的攻撃力よりも、Stinking Cloud同様に継続的効果や「重いガス」であるため使用する空間や風向きによって工夫が可能な点が特徴といえる呪文である。
が、*bandにおいてはStinking Cloud同様、瞬間的に毒ダメージを与えて即座に拡散する(と思われる)効果でしかない。毒攻撃全般が、プレイヤーキャラクターが前半に毒耐性がない場合に食らうと厄介なものであるが、敵に対して用いる場合、効果がある対象も効果自体もかなり限られてくる。引用元、また原理的に考えても本来非常に恐ろしい呪文であるはずのものが、実装の仕方によって弱体化している一例と言える。対象が限られる分、また本来上級呪文でもあるため、レベルを引き上げてダメージ自体を大きくする選択肢もあると思われるが、現状は慣例として[V]の盗賊の最初のダメージ呪文という位置づけのせいでもある。最初に書いた内容に対してでもあるが、*bandが歴史と共に必然もなしに何となく積み重ねている要素のひとつかもしれない。
→悪臭雲
錆の怪物 Rust monster 【敵】
D&Dシリーズに登場する「ラスト・モンスター」は迷宮探索ゲーム特有の変り種クリーチャーであり、迷宮のギミック、探索の意表をつく、という、このゲームに目立つ発想の真骨頂である。きちんとした名ではなく「錆の怪物」という名しか持っていないが、これほどこの怪物の名前として「必要にして十分」なものはない。
「触手のあるアルマジロのような姿」と書かれているのだが、特に後期のイラストではどう見ても「カマドウマ」にしか見えない。この謎の怪物は、一切の物理的ダメージを与える能力を持っていないが(D&D3eではなぜか微小なダメージがあるが)その触手で触れたあらゆる金属を「錆」に変え、その錆を食べるという習性を持つ。(化学的に酸化する金属か否かは全く関係はない。金貨だろうがプラチナ貨だろうがプルトニウム貨だろうが、おかまいなしに「錆」に変えてしまう。)装備のうちひとつ(「剣」「鎧」「盾」など)をただの一撃で錆と化し、非常に厄介なことに、魔法の装備でもわずかな確率でしかそれを逃れられない。当然ながら、たいていは金属の重装備をまとっている冒険者は、貴重な魔法の品をも錆に変えてしまうこの怪物は恐怖の的となる。装備がほとんどないモンクがいるパーティーならばともかく、そうでない場合はドルイド僧(普段から木製物品しか装備していない)、下手をすると魔法使いが、普段の温厚・インテリから人が変わったような(普段不敵な前衛らが恐慌を起こしているのがそれを助長する)叫びを上げながら杖を振り回し突撃する姿が見られるという。
こういった極度に変則的な怪物は、その「意外性」が命であり、あまりゲーム内に濫用すると魅力が半減してしまう。従って、本来ならばさほど遭遇の機会もなく、有名にも重要にもなりえないはずである。しかしながらこのモンスターを全ファンタジーファンに対して決定的に有名にしている原因として、クラシックD&D赤箱のベーシックルールの入門用ソロゲームに(おそらく変則モンスターの代表手として)このラストモンスターが登場するのである。これはすなわち、世界各地でファンタジーRPGに最初に入門するプレイヤーの多く(例外的に極度にD&Dの影響が少ない日本などの国を除いて)が、このラストモンスターに装備を破壊し尽くされた経験があることを意味する。
Roguelikeでは最初のUNIX-Rogueから登場し、非常にポピュラーである。ただし、あるバージョン以降(ローグ・クローンも含む)D&Dオリジナルモンスターを避けてか、Aquatorという名に変えられている(データは変わらない)。NetHackでも「錆の怪物」はD&Dシリーズや最初期のUNIX-Rogueとまったく同じ数値で登場し、概ね錆に関しても同じであるが、幸運にもローグ・クローンやNetHackには物品の「錆を防ぐ」という要素があるので守ることができる。
しかし、*bandにおいては、Moria以来、その錆の能力は単に「酸」の攻撃を行うことで
表現されており、劣化でさえもない。確かに酸攻撃は酸で傷つかない属性のない装備を破損し、防具を傷つけるという、元素攻撃でも厄介なものであるが、ダメージを与える攻撃であることも含めて、「ラストモンスター」の表現としては必ずしも忠実ではないのが残念といえば残念である。
サーベル・タイガー Sabre-tooth tiger 【敵】
通常サーベルタイガーと呼ばれるのは、古生物学では1万年前ほどまで主に北米大陸に生息していたスミロドンやマカイロドゥスを指す。マカイロドゥスはライオンほどの体に24センチほどの牙を持っていた生物で、その牙を突き刺すため顎も非常に大きく開くようになっており、おそらく肉食動物としては特に大型の生物を捕食するに特化していたと考えられている。実際に巨大な生物と戦った形跡のある骨格などが見つかっているため、その姿からの想像にたがわず、獰猛な生物だったと考えられている。
サーベルタイガーは「その牙のあまりの大きさのために滅んだ」という説が非常に有名であり、しばしば比喩にまで用いられる(手塚治虫『メトロポリス』の、サーベルタイガーの牙のごとく、人間も巨大化した科学のため滅びるに違いない、というテーマなど)が、生息していた期間がかなり長く、非常に繁栄していたと思われるため、現在では突然変異的・恐竜的進化で出現した短期的・短命種族の類ではないと考えられている。実際の絶滅理由に関しては諸説あるが、同時期のマンモスなどが滅びたのと同様の環境の変化や、「人間」が出現し餌となる生物を乱獲したなど生存競争に敗北したなどといった説がある。
RPGにおいては、獰猛な古生物は(実在のイメージが存在する等のため)モンスターとしては定番だが、ことに姿も勇ましく危険なサーベル・タイガーは古いTRPGの数々にはほとんど漏れることなくデータ化されており、それを参照したゲーム、また参照しなくても独自に追加したと思われるものでサーベル・タイガーも数多く見られる。当然ながら獰猛な肉食生物というもので、モンスターとして見てもかなり強力な場合が多いが(AD&Dの「スミロドン」は下手な魔獣を上回る大きさと攻撃力がある)はたして実際のサーベル・タイガーが人間くらいの大きさでしかも完全武装したものを襲うような生物であったか否かは定かではない。珍しいものではT&Tのソロシナリオで、真っ暗な部屋に明かりをつけただけなのに「虎の鏡」なるものの光にあたってサーベル・タイガーに変えられた上にその後も平然と冒険できたり、別の(もちろん別の作者の)ソロシナリオでなぜか戻れたりする(カヤーラ夫人)ものだが、なぜよりによってサーベル・タイガーなのかはわかっていない。
*bandではサーベル・タイガーも[V]以来定番の敵として登場する。動物系のモンスターはどれも階層の割にスピードや攻撃力が高いというものだが、これも例にもれない。牙のダメージは別にサーベルと同じではない(一律1d10)。思い出文章には「その牙は最強の鎧も切り裂く」とあるが、研究によるとサーベル・タイガーの牙は剣状といっても切り裂くのではなく大型生物に深く突き刺して失血させたのではともいわれている。[Z]系ではクエスト「柳じじい」にも登場するが、これに挑戦するかしないかといったレベルではかなり厄介な存在である。
五月雨斬り さみだれぎり 【システム】
五月雨とはいわゆる梅雨(旧暦で五月頃にあたることから)を指しもっぱら「絶え間ないもの」「いつ終わるともないもの」の比喩とされるといった細かい点はめんどいので手元の辞書かなんかを参照されたい。
実在の剣術流派では、新撰組が用いた天然理心流の目録に「五月雨剣」が見られるのが有名どころとなる。天然理心流と同様の鹿島流の流れをくむ(天然理心流の流祖近藤内蔵助は香取流の末裔を名乗っているが、内容的な実質は鹿島流、というよりこれらの亜流が混ざった当時の関東の膨大な雑流のひとつに天然理心流も入るといえる)流派には、目録に同様の名が見られるものや、流派名自体が「五月雨流」といったものの記録も残っている。剣術の法形の名は、宗教用語やさらに抽象的な語から、山野や動物などに倣った語、時代が下ってから日常的な語が用いられ、「五月雨剣」も少なくともその名自体はかなり後代に成立したもののような感触を思わせるが、無論これらの流派の共通の起源であるごく初期の鹿島・香取の分流から存在していた可能性も高い。
ゲームなどでも、「五月雨」を冠する刀術・剣術の技はDQシリーズやサムスピなど数多くに見られ、いずれも連続攻撃あるいは対多数攻撃のものであるが、上記の実在技から取った可能性もないでもないが、大多数は「五月雨」という語のごく普通の発想で独自に創作されたものだと思われる。*bandにおいて[変]で剣術家の武芸の技として入っている「五月雨斬り」の名は、直接はこれらのゲームのうち『ロマンシング・サ・ガ』シリーズからと思われ、手堅い名前なのかベタなのかいまいち微妙な名を持つこのシリーズの数々の技が多数、[変]に入っているうちのひとつのようである。効果自体は、ロマサガの先制攻撃のものよりは、DQ6等の1グループ全員に攻撃する「さみだれけん」を思わせるものに近い。ごく低レベルの剣術家から使用できる技で、3方向(慣れないとどの3マスなのか掴み難いかもしれない)に攻撃する。対単数攻撃しかできないという強い印象を与える(特に[V]系の)戦士とは、剣術家が大きく異なると初期レベルから大きくアピールする技である。
サムライ Samurai 【敵】【その他】
出典:侍は平安時代に武士が貴族の護衛士であった頃の「候(さぶろう)者」という語に由来する説がある等といった説明は割愛し、ここではゲームに登場する「サムライ」に深く関連する背景に絞る。一般に、漢字で「侍」と書いた場合に比べて、カタカナで「サムライ」と書いた場合は、実在の侍ではなく特に海外から発した誇張した武士像、その「イメージ」を指す語や、ひいてはゲームなどの架空のサムライモドキやその誇張性を指す場合が多いようである。さらに『無限の住人』『サムライスピリッツ』はともかくとして『るろうに剣心』あたりから少年漫画にかけての「『限界突破』しちまってる手合いは、ローマ字でSAMURAIと書く」という主張もある。
しばしば「サムライスォード」は岩も鋼鉄も両断し(→斬鉄剣)、「キアイ」は敵を金縛りにするか筋力を倍増させ、その剣技は超電磁タツマキを巻き起こして周囲の敵を吹き飛ばし(→カマイタチ)、1秒弱につき1人なので、小1時間で3600人の敵兵を切り殺す。主君の任務に対しては成功と死しかなく、そして名誉点をちまちま削られて足りなくなったら突如その場に座り込んでハラキリする。
こうした誇張のみならず、比較的シリアスな書物にさえ、サムライの守った名誉に対して「世界中の人々が理想とする戦士の姿を具現化した存在」といった姿勢で書かれていることは珍しくない。しかし我々日本人がよく知る通り、実際の侍は、戦国時代までならば下克上も主君とつかみ合いも厭わない殺伐としたモラルであったし、「武士道」が成立した江戸時代も、台頭した市民勢力に圧倒され、上層は腐敗し下層はしがないサラリーマンである。しかしながら一方で西欧の騎士が、パラディンやキャバリアを理想としながらも、特に地方では無頼の徒であり、その理想に応じたと確実に言える高潔な戦士を伝承以外に確実に見つけることが非常に難しい、という状況に比すれば、日本の侍はなんとか健闘している方である。その者らに、海外人すらも戦士の理想を託すというならば、甘受するにやぶさかではないだろう。
またウィリアム・ギブスンのサイバーパンク著作以来、現代・未来劇において、スタイリッシュを貫く強靭、鋭利なフリーの戦士を指す言葉が「サムライ」であることも多い。これはニヒル素浪人タイプなどからの発想と思われるが、上述の誇張像とはまた別のサムライのイメージである。
RPGに登場するサムライとしては、Wizardryの、魔術師呪文を覚える魔法戦士としてのものがきわめて有名である。現在は「戦士ながら優れた精神修養を生かし魔術師呪文を扱う」という説明になっているが、元々このクラス名はApple ][版の最初期にはRangerとなっていた(AD&D1stでは、レンジャーはドルイドと魔法使の呪文を使う)。何故レンジャーがサムライになったのかは、過去、一部には「野武士」から野伏と侍のイメージが重なっていた等とも言われるが経緯は定かではない。日本のWizファンの間では古くから疑問とされる、サムライが「初期は他の戦士系よりもHPが高いが、高レベルでは他の方が高くなる」のは、AD&D 1stのRanger(1レベルでは2d8、以降+1d8。他の戦士系はレベルx1d10)のルールの名残に他ならない。なお、Wizを強く意識したゲームや世界観でない限り、魔術師系魔法を使うという例は他には特に見られない。
NetHackではクラスのひとつにサムライがある。NetHackはAD&D 1stのOriental Adventureのルールに由来する、東洋神秘強力視がそこかしこにあり、サムライは能力・関連アイテムともにかなり強力である。アイテム等の名が海外人には意味不明な名前に置き換わることが引き換えのペナルティだというが、これは我々日本人にとってもしばしば意味不明なペナルティであったりもする(食料→グンニョキ など)。
その他、敵:*bandには直接は「サムライ」というクラスはないが、「剣術家」の英語表記名がSamuraiとなっている。また剣術家にはまさに海外のサムライ像を実現可能な荒唐無稽な技が揃っている。元々「剣術家」という名が取られたのは、場合によっては西洋剣を使うことも多いクラスに対してサムライよりは一般的な語を選択したのであろうが、一方で海外に対してはSamuraiの方がかえってわかりやすいとは言える。
[変]にはサムライが敵としても登場する。25階としては攻撃力は高めであるのだが、単独で出てくるためもあってさほど強敵という印象はない。なお、モンスターの思い出の文章は、どういうわけかPCレトロゲーム「ザナドゥ シナリオ2」の攻略本、『ザナドゥデータブック2』からの抜粋である。
サラマンダー Salamander 【敵】
出典:英語サラマンダーは有尾目の両生類(イモリも含み、よく和名であてはめられるサンショウウオだけとは限らない)の総称で、「炎のある場所」といった意味のギリシアのsalombeに由来する。これらの両生類あるいはそのいくばくかが「火炎の中に住む」という伝承ゆえんの名であるが、その体温の低さや、冷気を思わせる体表の粘液が炎を跳ね返す・消火すると信じられたこと(このため、逆に「冷気」の蜥蜴であるという伝承がより先に現れていたが、ギリシアやオリエントのその他の火龍の伝承と混同されていったという説もある)あるいは単に、うち一種の腹部の赤色や、その模様が火を思わせる(黒とオレンジ・黄が溶岩・火山帯を思わせる云々)ことから安易に信じられた、といった説まである。ともあれ両生類サラマンダーと「火蜥蜴」の伝承について探ってゆくと、とても紙幅の足りるところではないため、もっと詳しい伝承関連の専門サイトないし書物を参照されたい。ここではゲームにおける主に火蜥蜴のサラマンダーに関する話題に絞る。
RPGにおけるサラマンダーの大半は、上の火蜥蜴の伝承に立脚してサラマンダーを「四大元素のうち火を司る精霊」としたパラケルススの定義に従っているものだが、それ以外の単に火の能力も持つ蜥蜴、火龍、わずかにただの蜥蜴や山椒魚といった形で登場しているゲームも多種多様に存在する。火の精霊としているものでも、単に精霊のうち一種族としているもの、火炎の精霊すべての総称(その形態が蜥蜴であるかに関わらず)としているもの等さまざまである。定義も姿もあまりにも一定していないわけだが、これは実在する小さな両生類サラマンダーと、非常に曖昧な定義であるパラケルススの精霊サラマンダーの間に、想像力が及ぶべき「モンスターとしての実体」の姿がぽっかりと空いていることにも因すると思われる。
RPGの原型であるD&D系では、サラマンダーは精霊そのものでなく火の元素界に住む単に一種族とされ、いわゆる蜥蜴人のような姿と耐熱金属の槍を持ち、火の元素界の生物の中ではイフリート(→参照)に次ぐかなり強力な種族である。これは、上級モンスターとする確固たる理由があるというよりは、元素霊(→エレメンタル)を操ったり戦ったりする中上級ゲームルール(昔風に言えば、青箱)で登場するので、それにあわせたレベルにしたという単にそれだけの理由だと思われる。レトロPCゲーム『ザナドゥ』をはじめとして、これに準じて最上級モンスターとしているゲームもあるが、特に「火の精霊の代表」としているゲームでは、使いにくいためさほど高レベルとしていない場合が多い。とはいえその場合でも、外観はD&D系と同様のものを踏襲しているゲームも多い。なお、D&D系には前記した、サラマンダーのかつての「冷気の蜥蜴」としての伝承も反映した「霜蜥蜴(フロストサラマンダー)」という怪物もいる。(これが「地」の元素界の生物となっているのは、有名な新和版邦訳の誤植である。)
敵:*bandにおいて[V]以来登場するサラマンダーは、火炎攻撃以外は、普通のトカゲ等に毛が生えた程度のものになっている(古い[V]2.8が多くのノーマルモンスターを参照しているTRPG『ロールマスター』でも、下級の火炎霊ではあるが、これほど弱いわけではない)。「ジャイアント・サラマンダー」というものもいるが、名前と思い出文章ほど大仰に強いわけではまったくない。他のゲームの解釈にもこうした小さなトカゲ程度といったものはあるのだが、*bandの場合は特に火の精霊の代名詞や代表というわけではないためと、Roguelikeに伝統的なイモリ等に対照して、イモリと同類の両生類Salamanderだが伝承の能力も備えるなどといった位置づけで作られたのかもしれない。序盤で出会うと普通のトカゲ類と異なり、火炎の打撃とブレス(わずかな確率だが)を持っているのでアイテムを燃やされたりする可能性があり、飛び道具等で早めに倒すのが得策といえるが、それほど気にすることもないかもしれない。
ザレン Xaren 【敵】
ザレンはAD&Dのオリジナルモンスターであるゾーン(→参照)の近縁の亜種であり、そのバリエーションモンスターで、同様の大地のエレメント生物の一種である。地中を魚のように泳ぎ宝石を食べるゾーンとほぼ同じ形態だが、やや小型で(レベルとしても若干弱い)細身であり、岩のようなゾーンに対して、金属質の輝きをおびている。その特徴は、宝石を欲するゾーン以上の貪欲さでもって、金属(特に魔法の金属品)を追い求めることにある。ゾーンと異なり、攻撃した相手の、さらには攻撃された金属製武器に食らいつき、それを食べつくして破壊してしまう能力がある。あまりないことと思われるが、単なるゾーンと思って対処した冒険者らはただでは済まない。ラストモンスター、ガウス、劣化ビースト(→それぞれ参照)のように、存在そのものがダンジョンの冒険における特に高レベル冒険者キャラクターに対する手のこんだいやがらせの仕掛けであり、他のRPGにはあまりない、ダンジョン冒険ゲームであるD&D系の典型的特徴モンスターの一種であるといえる。大地のジィニー(魔神)であるダオ(→参照)はゾーンならば飼いならして宝石採掘に使うことがあるが、さすがにザレンは使いようがなく、飼いならしたり狩ることはないという。
ゾーンはその有名さから他のゲームに登場することがわずかにあるが、ザレンともなるとほぼ皆無に近い。その非常に数少ない例が、AD&Dの超マイナーモンスターの数々が登場するレトロCRPG『ザナドゥ』シリーズである。ただし、このゲームではモンスター一般、特に特殊能力の類が再現されているわけではない。
*bandではおびただしい多種のノーマルモンスターが伝統的に配置されている[V]以来、ほとんどのバリアントで引き継がれて登場するモンスターである。ただし、D&D系のザレンは前述のようにゾーンよりは小型で、レベルそのものは低〜中レベルモンスターにすぎないが、*bandのザレンはゾーンよりもかなり耐久力・攻撃力が高く、また40階という、ノーマルモンスターとしてはかなり強力な方のものとなっている。特殊能力も劣化や酸の類で再現できたものと思われるが、特にそうした面もない。これは、おそらくはザレン自体を表現したというより、単にゾーンのバリエーションとして、また派生ゆえに単に強化版として表現した、[V]にしばしば見られるシンプルな表現のものと思われる。耐久力が高いのも、金属の外皮を持つというイメージからのものと思われるが(実際はD&D系のデータのザレンは、ゾーンよりは防御の値は低い)単に上位版とするためのデータと思われる。
→ゾーン
サルマン Saruman of Many Colours 【敵】
出典:マイア。万色のサルーマン、多彩なるサルマン。中つ国のイスタリ(魔法使)のひとりでその指導者。もと神々の地アマンでは工人アウレに仕えるマイア(下級神)でクルモと呼ばれ、シンダリン語でクルニア、ローハン語でサルマン(実はトールキンは「欺瞞者」をも意味する古英語から取っているらしい)とも、すべて「技巧者」の意である。
最初は「白のサルマン」として、サウロンへの抵抗を助けるためアマンから派遣されたイスタリの筆頭、またエルフらも含めた賢人会議の主催であった。放浪するガンダルフらに対して、ヌメノールの遺跡アイゼンガルド(オルサンクの塔)に居を構え、歴史とサウロンの技を研究していた。しかし次第にサウロンと同じ技を我が物とする渇望に魅入られてゆき、表は賢人会議を主催しながらも裏ではひそかに様々な悪事を行い(例えば行方不明の二人の「青のイスタリ」を誤った方向に導いたのもサルマンとされる)やがては公然とオークの改造種族の軍団を編成し、白を捨て魔法使いのすべての「色」を手にしたかのごとき「万色」の衣をまとうようになる。すぐれた精神と能力の持ち主でありながら、ひそかな嫉妬や屈折、傲慢によって自らをより追い詰めてゆくさまなど、まさしく「中ボス敵」の真骨頂とも言える名仇役である。
LotR追補編やUnfinished Tales(UT)など、イスタリの設定については一貫しない点が多いのだが、UTによると至福の地アマン(神々の地、ヴァリノール)で中つ国に助力するイスタリが選定された際に、クルモとアラタール(青の魔法使のうち上位)がまず進み出た(自薦だけでなく、それ以前にアウレとオロメによって選ばれていた節がある)。また、かなり後に書かれた稿では、クルモがヴァリノールでの(マイアとしての)地位ではイスタリらで最も高位であり、オローリンは明らかに劣る、と記されている。しかし、クルモとアラタールの名乗り出た後に加えて、マンウェとヴァルダがさらにオローリンを推挙し、三番目ではない(おそらく、オローリンが他の二人より低位ではないの意)としたことから、すでにクルモからオローリンへの確執が生じ、さらには、イスタリが中つ国に到着すると即座にエルフの長老キアダンが火の指輪ナルヤをオローリンに渡したことで、クルモ(サルマン)はオローリン(ガンダルフ)に悪意を抱くようになっていったという。(なお、イスタリの4、5番目のアイウェンディル(ラダガスト)は、クルモの付き添いとして選ばれ、パルランドはアラタールの友人として同行した者らで、積極的に選定されたわけではないようで、特にアイウェンディルのヴァリノールでの地位がかなり劣る記載もある。)
LotR原作の描写では、多くのファンが「ガンダルフの色違い」のような漠然としたイメージを持っていたかもしれないが、映画版LotRで稀代の悪役名優クリストファー・リー演じるサルマンは、ガンダルフとは異質の威厳と格、また原作の描写にもある魅惑的「美声」などをつぶさに表現していた。原作のサルマンは、堕落・失墜する前から、喋り方(翻訳のせいもあるが)台詞の内容ともにかなり俗物っぽい部分もあるのだが、リーのサルマンはある意味では原作を逸脱したといえるほどの高貴な物腰・威厳を持っており、きわめて魅力的なビジュアルである。ただし立場という面では、原作ではサウロンをも出し抜こうと画策しつつ既に利用されているという味のある位置づけに対し、映画版は終始すっかりサウロンに従う単なる「映画的悪役」と化しているのが残念である。ガンダルフへの個人事情的な悪意も(サウロンに従って行動している面が大きいため)希薄に見える。また映画版では、外見が万色に変わることはなく扮装は白のままである。その末路(そもそも劇場公開版ではアイゼンガルドの陥落後、登場場面が端折られてしまい、全く登場することがない。演者リーが監督に直に不満を述べた話もある)も含めて、原作とは差異がかなり多い。
原作では直接に力をふるう場面はほぼなく、「魅惑的な声」が最大の脅威と描写されるのみだが、映画版LotRの3部作ではいかにも「魔法」らしき描写がかなり増やされており、賢者の筆頭らしく、いずれも(灰色の時点の)ガンダルフより能力的、また力の質的にも相当に卓越している描写である。1部でのガンダルフとの念動力対決での圧勝(杖から波動拳、有名なブレイクダンスなど)をはじめとして、旅の仲間がカラズラスの山越えをしようとした際の吹雪は(原作と異なり)サルマンが魔法で起こしている描写がある(ガンダルフの唱える呪文が原作含めて全てシンダリンであるのに対して、サルマンの呪文はより古く上位のクゥエンヤである)。3部では、劇場公開版では出番自体がカットされたが特別版(SEE)DVDではメラミくらいの大型火球をガンダルフに放つ場面もある。また、主に2部でのアイゼンガルドの工業化や、さらには火薬を用いるなど、原作通りの「産業的技術」を用いる点も無論描写されている。
一方、前日譚の『ホビットの冒険』では、原作ではサルマンは登場しないのだが(白の会議について「さまざまな知識とよい魔法をおさめつくしたりっぱな魔法使いたちの一大会議」があったという言及と、同じ時代についてのLotR追補編での補足説明のみである)2012年-の映画版Hob.では、中つ国の背景説明のための尺が大幅に継ぎ足されているので、1作目の会合の場面や、3作目の白の会議がドル=グルドゥア勢と戦う場面などに登場する。演者クリストファー・リーは、このときは非常に高齢でニュージーランドに渡航しての撮影は断念され、後述の格闘場面を含めて、英国ロンドンで撮影された声と映像に、CGや他のスタントなどの演者と合成して使用されている(現に、クリストファー・リーは逝去の直前まで映画に出演し続け、映画Hob.3作目の翌年に逝去した)。映画版Hob.でのサルマンの描写は、サウロンや自らの欲に操られているといった様子は特にないが(監督らのコメントでも「堕落前」であるという。ただし、原作では堕落が始まったのはHob.より前からである)ガンダルフ側があまり会うのが嬉しくなさそうな様子、会議では危険の兆しを重視しないなど、理念と能力は充分だが融通のきかない管理職の典型のように描写されている。また、原作LotRでは、茶のラダガストをお人よしと見下しつつも巧みに操り利用していたが、この会議の場面でのサルマンは(映画版での)ラダガストのあまりの変人ぶりに、名前を聞くのすら嫌がるほど心底辟易しており、ガンダルフとガラドリエルが話している背後で延々とラダガストに関する愚痴を述べ続けている(エルロンドだけ聞かされていることになる)という場面があり、映画LotRでラダガストが登場しない(サルマンが利用しない)こととも一応整合している(上述したように、UTによるとクルモはヤヴァンナに要請されてアイウェンディルを連れていったといい、元々サルマンとしてもラダガストは無理に押し付けられた厄介者だったではないか、との編者の考察もある)。全般、堕落前は「高貴」な者であったという原作の記述とは必ずしも合わないが、これはこれで実に味のある姿である。映画3作目では、ドル=グルドゥアでガンダルフやガラドリエルに加勢しエルロンドと共にナズグルらと戦う場面が描かれ(Hob.原作や追補編に触れられている白の会議による攻勢に相当すると思われる)複数のナズグルと杖で渡り合う、LotRの対ガンダルフ以上のかなり激しい活劇場面が描かれた。全般、Hob.映画では演者の都合上もあり、かなり無理のある登場であるが、軽視されても不思議ではないサルマンが豊富に描写されたことは、演者リーの魅力的なビジュアルと相まって実に幸いであった。
敵:*bandでは[V]から続けて、中盤の重鎮として60階に登場する。モンスターの思い出には「ソーサラーの王になるために……」というくだりがあるが、これはソーサラーという語には、ウィザードに比べて中立〜悪の語意があり、*bandでは悪におちた者(特にマイアで)は既にウィザードではなくソーサラーである、という解釈によるものと思われる。ひと通りの強力な魔法と召喚が揃っているので、このあたりから「本格的なボス戦の戦法」を取る必要が出てくる。なお[Z]以降、ある確率で「★丈高きエレンディルの星」を落すが、これはUnfinished Talesによると上記のサルマンの悪事のうち、イシルドゥアの死体から(まるで*bandやNetHackのプレイヤーのように)宝だけ奪い、戦後、本物のエレンディルの星がオルサンクから見つかった、と記されているため(アラゴルンが受け継いだ星は複製品である)サルマンがエレンディルの星の所持者であったことを反映していると思われる。
→ガンダルフ →丈高きエレンディルの星
サンタクロース Santa Claus 【敵】
1897年9月、ニューヨーク・サン新聞社に8才の少女ヴァージニアからの手紙が届けられた。友達にサンタクロースを否定され、父親に聞いてみたところ、「サン新聞がいると言ったら確かにいるんだろうよ」と答えられたので、本当に新聞社に手紙を出したというのである。子供の厄介な質問に困るのはどこの親でも同じとしても、押し付ける先が「新聞社」という発想は中々現代の我々の感覚では出づらいように思えるが、産業成長期のアンティーク時代、特に米国で新聞に対して寄せられている「知識・情報の集積」という市民の感覚はかなり強いものであったに違いない。
ニューヨーク・サン紙の編集長は、頭に「これほど重大な質問を寄せて下さるほどわが社を信頼して頂いている事を、記者一同大変嬉しく思っております」と書いてから、そのあとをそばにいた記者に押し付けた。たらいまわしにされた記者は編集長に怒りまくり、ぶつぶつと不満を漏らしつつ、その場で机に向かっておもむろに書き上げた。
...そうです、ヴァージニア。サンタクロースがいるというのは、けっしてうそではありません。...
あなたにも、わかっているでしょう。世界にみちあふれている愛やまごころこそ、あなたのまいにちの生活を、美しく、楽しくしているものなのだということを。...
そのようにうつくしく、かがやかしいものが、人間のつくったでたらめでしょうか?
いいえ、ヴァージニア、それほどたしかな、それほどかわらないものは、この世にはほかにないのですよ。...
ニューヨーク・サン紙の社説として掲載されたこの手紙は、その後の毎年クリスマスごとに米国のあらゆる新聞・雑誌等に掲載され、'Yes, Virginia'というフレーズと共に近現代における古典と化している。なお、ヴァージニア・オハンロンは長じると教職につき、退職後は恵まれない子供たちのために尽力したという。[Z]のサンタクロースがたまに発する台詞「ヴァージニア」の由来がこの説話である。
サンタクロース妖精説話の由来に関しては様々な場所で述べられているので(そして諸説もあるが)ここでは大雑把にだけ触れると、3世紀のギリシア南部の豪商でのちに司教位を得たニコラスと、その施した慈悲による聖人化に発し、英古伝の「冬の老人」(クロノスとオーディンの変形、冬の老人は聖ニコラスの名が変わったものという誤説があるほど影響が強い)、スカンジナビアのトムテ(ノームで最も著名な名で、現在はパン屋『北欧』のマスコットキャラを代表とする小人だが、元来は雷神トールの変形)などが次第に合流し、やがて近代に至って急速に、様々な詩歌、ことに19世紀の詩『ニコラスの訪問』と、司教装束や妖精に由来する赤い服の姿が形成されてゆき、1931年のナショナル・ジオグラフィック誌の裏表紙(コカコーラ宣伝用)によってほぼ定着したと言われる。なお聖ニコラスのオランダ読みシンタ・クラースがさらに米語訛りによってサンタ・クロースとなったのが名の由来である。
近代以降あからさまな商業主義によって形成されているサンタクロースには、その裏にはそれらに対するネガティブな印象と揶揄も、海外では酷薄と言えるほど強く目立つ一面もある。特に、年末に赤い服と付け髭の扮装でホーホーと叫ぶアルバイトにつく「身を持ち崩した酒臭い浮浪者」のサンタクロース像は、文芸肌では定番のひとつとなっているほどである。ヴァージニアが目の端に捉えたサンタクロースは、まさに純粋なフォークロアから商業の権化へと真っ逆さまに転落しつつある時代であった。[Z]以降敵として登場するサンタクロースのえげつない能力とmonspeak.txtの辛辣な台詞の数々は、その揶揄を端的に表しており(*bandの根幹といえる世界を作ったトールキン自身もサンタクロースに関する作品を残している以上、Roguelikeとしてはあまり邪険に扱うのも何やらという気もしないでもないが)原作者TY氏を「サンタクロースの本場」フィンランドに持つ[Z]にとって、ブルゲイツと「完全に同等レベル」の揶揄対象としているのは、それら俗世間に辛辣に斜から対するギーク文化の骨頂であろう。
[Z]に登場するものは何やらわからぬドラゴンと上級アンデッドの召喚能力と(これは北欧の死神オーディンの化身であることを端的に示している、というのは出まかせだが)異常なほどのスピードでアイテムを盗み、きわめて対しづらい敵である。鬱陶しいので後の階まで残しておくと、ユニーク召喚能力のために後々非常に面倒なことになる。倒せる時に倒す必要があるだろう。
→ブル・ゲイツ
サンダー・ボルト Lightning Bolt 【システム】
あまりにも*band内で見慣れているので筆者もすっかり忘れていたが、訳語は「サンダー」となっているがボール、ボルトとも原語はlightningである。これは、「ライトニング」では長すぎるのと、稲妻というより雷と言った方が日本では一般的なため採られた訳語といえる(NetHackでもWand of Lightningは「雷の杖」となっている)。
ただし、英語のthunderは雷全般や電撃・電光ではなく、ほとんどの場合「雷鳴」の音のみを指す語であることに注意されたい。日本ではRPGの呪文をはじめ「サンダー○○」という用法がよくあるが、海外では同じ用法で「電撃」のみの意味でこの名を使うことはほとんどなく('thunderbolt'としてはじめて雷電の意となる)、この用法はほぼ和製英語の範疇と見なしても構わない。ToMEに登場する「サンダー・ワイアーム」はストーム・ワイアームと何が違うのか、電撃を使わないのは何故か、といった質問が明日にでも溜まり場IIの理不尽解釈スレッドに出てもおかしくないが、このワイアームは稲妻ではなく「雷鳴のワイアーム」であり音のブレスを吐く。
魔法使が閃光・電光を使うのは、古来から天空から降りる雷は神々の武器と見なされ電撃が重要神の武器であった、といったごたくは筆者私見としてはほとんど無意味と考えられ、天候を祈る呪術や魔術伝が、パルプ漫画などのいわゆる超能力者が手から謎のエネルギーで稲妻のようにしか見えない代物を発するイメージと合流したものと思われる。『ホビットの冒険』ではガンダルフが霧降山脈のゴブリンと戦う際に「稲光のようなおそろしいひらめき」とあるが、この原語でのa terrific flash like lightningの最後の"lightning"自体が稲妻のみならず「閃光」の意にも採れるため、実際のところ電撃でなく例によってロケット花火か何かなのか定かではない(火薬臭もしているので)。どのみちこのガンダルフの術も参照され、ファンタジーRPGでは電撃の魔法は火の球(→ファイアー・ボール)と共に一般的なものとなっている。広域破壊(半面、融通も利かないことがある)の火炎に対して、狭い範囲を狙い、対象が少ないものの融通がきき、また防がれにくいという扱いが多い。
D&D系の元来のlightning boltとは、lightningのみでは前記のように「閃光」のみの場合もあるので、ここでは「電光」の意味のboltがつけられているものである。しかし、派生したRPGではこのboltはそのまま別義の「矢」の意になっていることの方がむしろ多く、*bandでも他の属性同様にボールとボルトの区別の意であり「矢」の意しかない。(TRPGではライトニング系の魔法は矢ではなく「貫通魔法」になっていることもまた多いが、*bandでは[変]での自然魔法の<稲妻>のようなわずかな例のみである。)
Moriaから通じて登場するが、ボルト・ボールともに火炎や冷却に対してレベル・威力ともに低く、比較的初級の魔法とされている。これは、TRPGで「対少数攻撃のライトニング・ボルト」が、「対多数のファイアーボール」や「応用範囲がさらに非常に広いアイスストーム」に比して比較的低レベルとなっていることが多いので、電撃→火炎→冷却の序列が作られていると考えられる。しかし電撃属性の攻撃はかなり後まで耐性を持つ敵が少なく、またコストが低いので、結果的に魔法、またアイテムともに後まで使用機会が多い。
斬鉄剣 ざんてつけん 【物品】
出典:アニメ『ルパンIII世』(原作漫画に関しては後記)にて、ルパンの仲間のひとり「13代目石川五右衛門」(五ェ門)が持つ刀。五ェ門の恐るべき伎倆と相まって、銃弾を切落にかけたり、明らかに刃渡り以上の厚みの物(戦車、航空機、ビルディングなど)を両断ひいては燕返しに三枚おろし、細切れに寸断することも自在である。しかし、こんにゃくは斬れず(そのため、鞘はこんにゃくで内張りされているという風説がある)、また(ストイックなサムライである五ェ門には)女性を斬ることができない。(他にもちらほらと斬れないものがあるが、一貫していたり斬れないものに必ず特異な設定があるというわけでもなく、かなり話の流れの適当である。)
拵えは差料や陣太刀ではなく、侠客の持つ鍔のない長脇差(ながどす)であり、使い方から見ると逆手で揮うことも多いのもどちらかというと脇差の刀法を思わせるが、五ェ門が先祖同様に百地三太夫(現代の)について伊賀忍術を修行しているため、忍刀の扱いの流れであるためかもしれない。
アニメでは、「虎徹、義兼、正宗などの銘刀を溶かし、アルセーヌ・ルパン1世が盗み出した秘伝書に書かれていた秘法で鍛え直した」という、明らかに確信犯に胡散臭い設定である。元々は雌雄一対で作られ、三百年に一度切れ味が鈍り(前にもこれがあったとすると、虎徹の生前か直後に鍛えられていなければ計算が合わなくなる)雌雄の剣を一晩の間合わせておくと元に戻る。荒唐無稽で大味な第二シリーズ以降のルパンにあって、この斬鉄剣と、それに付随する伝奇的なこれらのエピソードは、ひときわ妖しい魅力を放って筆者や周囲のハナタレ小僧どもを魅了していたものであった。
さて、「斬鉄剣」という名とこの設定はアニメ版のもので、原作漫画では全く異なり、「流星(ながれぼし)」という名の刀で、隕鉄を鍛えて作られたことになっている(一説には、「斬鉄剣」は二つ名・通称(エゴアイテム名?)であり、五ェ門の持つものの固有の銘が「流星」とも言われる)。ルパン原作ファンからは(恐らく、日本刀の設定としては)「あまりにも嘘臭すぎる」との意見も多く見られるが、古来より古今東西には、隕鉄から作られた刃には不思議な力があり、ひいては天空の金属は地上の鉄をやすやすと切り裂くことができるという伝承や創作がいくつもある(詳しくは「アングウィレル」の項目に譲る)。特にトールキンのファンであれば、隕鉄から鍛えられた中つ国最強の剣、アングウィレルとグアサングに関する記述を思い出さずにはいられないだろう。また[O]では、モルゴスの鉄冠を切り裂いた『アングリスト』(「鉄」を「斬」り裂くの意)も隕鉄から作られたという説明になっている。
物品:[変]の斬鉄剣は、[Z]での放浪者『グルー』と彼が高確率で落とす「★グルーのカタナ」のかわりに導入されたものである。
銘刀系アーティファクトに多い特徴である、ベースダメージが大きいが特にスレイングはなく切れ味属性を持つ武器である。修正も大きいので、武器能力としても上位に位置するが、こんにゃくからの発想で'j'シンボルおよび女性の敵にはダメージを与えられない。これとも相まって、「過信すると危ない」武器と言われている。
なお[変]掲示板で「二刀流に有利な刀アーティファクト」を追加する議論がされている時、斬鉄剣も上記した設定の通り雌雄一対であることから、これの対剣も追加する案も上がったが、あまりのマイナー故に除外されている。
→石川五右衛門 →アングウィレル →アングリスト
斬魔剣弐の太刀 ざんまけんにのたち 【その他】
この名を[変]の武芸の中に見つけて脱力した(できた)人がどれだけいたかはさておいて、いわゆる「美少女ハーレム物」の漫画・アニメ『ラブひな』に登場する「京都の神鳴る流派・神鳴流」の奥義で、人を傷つけず背後の魔を断つことができる。
果たしてこの「神鳴流」が、タケミカヅチを流祖神とする実在の鹿嶋神明流を発想元としているか否かは筆者には想像もつかないが、この技が鹿島新当流の塚原卜伝が流祖神から授かったという斬岩剣一之太刀(ざんがんけんひとつのたち)から名を取っていることは容易に想像できる。一之太刀は、日本の剣の奥義で最も名が知られた技でありながら、最も実体が謎に包まれた技とも言われており、実は人間技の剣技ではなく魔や霊体を斬る神技などと言われることさえある。(円月殺法を生み出した柴田練三郎などは、一之太刀を「物体の破壊点が眼に映り巨岩をも粉砕する」なる、直死の魔眼だか爆砕点穴だかのような設定にした何本かの小説を著している。)実際に一之太刀がどういった技であったか、例えば片手や肩で何らかの誘いをかけてから攻撃する、相手の太刀筋を読んで入り身になってから攻撃する、といった技だと考察する武芸研究家もいる。なお、実在の武芸には弐之太刀(にのたち)と呼ばれる技もいくつか実在するが、例えば京流のひとつ義経神明流の二ノ太刀は相手に小手などに一旦一撃を入れさせてから反撃する技とのことで、おそらく漫画のそれとは何の関係もない。
なお余談であるが、「一之太刀」はこの新当流の技の名だけではなく、元々単に「初太刀」の意味であったり「利剣」の意でもある言葉である。『指輪物語』原作のバーリンの墓の場面に、フロドが「ホビット庄の一の太刀!」と叫んでつらぬき丸(→参照)を揮う場面があるが、これは原語では単に"Shire!"であり、ボロミアが「ゴンドール!」と信じる地名を叫ぶのと同じようなものである。とはいえ「庄!」ではわからないので意訳された結果、庄で一の利剣・一番槍という意味のこの言葉になったようである。(なお、映画版LotRではかわりにメリーとピピンが石を投げる時にShire!と叫んでいる場面がある。この二人がボロミアと似た庄の戦士の家系であると考えると彼らの方に似合っているかもしれない。)
斬魔剣弐の太刀は[変]では剣術家の剣技に取り入れられ、22レベル(の称号「師範」級から修得という漫画によく似た位置付け、かどうかは不明だが)で使用できる。当初あまりに使い勝手が良すぎたため、現在のバージョンでは「生命がなく、かつ邪悪」なモンスターにのみ効果があるようになっている。
シアエガ Cyaegha 【敵】
旧支配者。グレート・オールド・ワン。エディ・バーティン『我が名は暗黒』に登場する邪神で、空中を飛ぶ巨大な緑色の目の周りを「夜よりも深い闇の」黒い触手が取り囲んでいるという姿をしている。西ドイツの片田舎にひそみ、その村から礼拝され、いけにえを捧げられているが、実際は人間の動向にもいけにえにも興味を示していない。ただし、開放されて彷徨い出ると、そばにある生き物であれ何であれ興味を示してその触手で拾い上げ、握りつぶす。
「最もマイナーな邪神」、さらには、あまりにも情報不足で正体不明、目立って奉仕されている種族もなく他の神話要素との関連も不明、マイナーで土着性が強いにも関わらずCoCルールでは奇妙に能力的に強力(そのいかにもホラー的な容姿からか、正気度喪失は重要な外なる神やクトゥルフに並ぶ最大限のものである)なこと等からか、CoCゲーマーからは「最も使いにくい邪神」などと呼ばれていることもある。
*bandでは[Z]以降登場するが、80階という他の旧支配者に比してもかなりの深層で、上を見ても数えるほどしかいない恐ろしい威力の打撃能力(ベネディクトと同等で、しかも地震である)と、深層ユニークとしてまったくそつのない数々の魔法を持っている。これは、CoCルールブックの強力なデータを元にしたという以外にまったく根拠が考えられないが、どうあがいてもマイナーな代物だけに、何か釈然としないものが残る。
シアーハートアタック Sheer Heart Attack, the Bomb Hand 【敵】
出典:人々を爆死させてきた左手。キラークイーン第二の爆弾。荒木飛呂彦の漫画『ダイヤモンドは砕けない』(『ジョジョ』第4部)に登場する最大の敵である猟奇殺人鬼、吉良吉影の使う「スタンド」の一部。
「スタンド」とは、精神力が人型や機械型などに具現化した、特殊能力を持つ守護霊のようなビジョンで、吉良吉影の持つスタンドはのっぺりした猫のような頭を持った人型の「キラークイーン」であり、触れた対象を爆弾に変える(爆弾は、それ自体の吉良が選んだ厳密な範囲だけが痕跡なく爆破消滅したり、爆弾に触れた他のものを爆発させたりと多くの応用がある)ことのできる特殊能力(第一の爆弾)を持つ。しかし、キラークイーンは左手の甲の一部を分離させ、遠隔自動操縦で爆破活動を行わせることもでき、この分離した小型の爆弾戦車が「第二の爆弾・シアーハートアタック」である。
シアーハートアタックは、てのひらサイズで金属的な外見のおおよそ半球状の、ちょうど玩具の戦車か何かのように見え、移動用の無限軌道(キャタピラ)がつき、頂上にカバー付きの突起、正面には鼻にトゲの生えたドクロのような顔がある。シアーハートアタックは全自動で「熱」のある方向に向かって進み、対象に近づくか触ったところで(温度が人間の体温に近づいた時点を検知すると思われるが、時間差がかなりある)爆発を起こす。周囲のものを爆発させるが、自分は爆発するわけではなく、破壊規模も靴屋の壁を破壊したり、人間が跡形もなく消滅したりと差がある。この熱のみに向かってゆく単純な性質に対して、遠隔自動操縦されているシアーハートアタックのみと対峙することになった空条承太郎(第3部の主人公、先代ジョジョ)と広瀬康一(第4部の語り手でほぼ読者視点の少年)は、様々な策を繰り出して致死的な爆発を避けていく。
この爆弾戦車のドクロ顔は、相手に向かってゆきながら『コッチヲミロオ〜』なる呼びかけや、いくつかの独り言を発する。「見ろ」とは言っているのだが、この爆弾戦車は犠牲者に「見られる」ことと、その能力との間には何も関係はない。ただし、あくまで一考察ではあるが、さきの康一の心拍数などが上がり体温が上昇するとそちらに向かってゆくという描写があるため、この『コッチヲミロオ〜』の呼びかけは犠牲者を慌てさせたり苛立たせ、体温を上げさせて、狙いをつけることに寄与している可能性がある。
玩具の戦車のようなシアーハートアタックだが、破壊力のほか、異常なほどの耐久力を持つ。承太郎のスタンド(スタープラチナ、3−6部を通じて最強のスタンドとされ、強力な格闘能力を持つパワー型スタンドで、3部ではダイヤ級の硬さのスタンドや大型車輌を破壊したりする)の直接打撃を数ページにわたって受けても、キャタピラの一部、鼻のトゲ、頂上のカバーなどの部品が取れたのみで、行動に何も支障がない。通常、スタンドはダメージを受けると対応する本体の部位にフィードバックするのだが、本体である吉良吉影はこのとき承太郎から攻撃を受けたことにさえ気づいていなかったほどである(なお後の5部序盤では康一が、五代目ジョジョことジョルノに「遠隔操縦型スタンドのダメージは本体には影響がない」と説明している)。しかし、康一のスタンド(エコーズact3)の重量攻撃を受けた場合には吉良自身の左手が重くなっているので、この爆弾戦車はあらゆる外部からの影響を受けないというわけではなく、あくまで「直接ダメージにのみ」極端に強い、という考察ができる。一考察ではあるが、シアーハートアタックは爆発を起こしても自分は破壊しない、つまり「常に破壊力の中心」に居ることが前提のスタンドであるため、破壊に対して強いということも必然的な特性のひとつであるためと思われる。
シアーハートアタックは、このエピソード数話に限っては承太郎・康一と息詰まる激戦を繰り広げたものの、結局それ以後の話では、終盤での該当部主人公・四代目ジョジョこと東方仗助との直接対決時を含めて最後まで使用されることはなかった。連載時の扉絵のひとつによると、分離したシアーハートアタックは仗助のスタンド(クレイジーダイヤモンド)の特殊能力である「修復能力」によって左手に戻されてしまうので、仗助に対しては効かないという。
後述するように吉良吉影は(いわゆる並行世界の対応人物と思われるが)8部にも登場し、4部とよく似たキラークイーンのスタンドを持つが、こちらもシアーハートアタックを出すことができる。こちらのシアーハートアタックは小型で一度に多数出せるようであり、また血管に侵入して血栓を破壊するなど(4部の猫草のエピソードを思わせるが)かなり精密な動作ができるようである。
荒木飛呂彦の漫画の横文字の固有名詞は、多くが洋楽に関連する用語から採られているが、Sheer Heart Attackは英国のロックバンド「クイーン」(キラークイーン自体の命名の元でもある)のアルバム名から採られているといわれ、直角の(=鋭い)心臓発作、といったニュアンスになる。
さて、『ジョジョ』第4部は、それまでのヒロイックな第1〜3部、特に世界を又にかけたロードムービーである第2部や第3部と異なり、一つの街(第8部でも舞台の杜王町)を舞台に日常に潜む異常や超常をテーマとしており、最大の敵である吉良吉影もそれを反映した特異な存在である。吉良は頭脳等の能力や容姿等では際立ちながら、普段は影のうすいサラリーマンとして生活しているが、その正体は、女性を殺して美しい「手」を持ち歩く衝動という異常すぎる性質を自覚しつつ、それを知られず目立たずに平穏な日常生活を送ることを強く望む猟奇殺人鬼である。普段の物腰は、犠牲者に対してすらも、きわめて紳士的で冷静であるが、その犠牲者に対して脈絡なく突如として激昂するなど、しばしばこの作者の用いるサイコパスの描写手法で描かれている。異常性と表裏一体の「精神の弱さ」を持ち、その自己防衛の願望が行動、及びスタンドの能力の動機となっているという点に、悪役としての一筋縄ではゆかない複雑さと特色がある。なお、この防衛願望がさらに能力の成長を招き、終盤ではスタンド能力に「第三の爆弾・バイツァダスト」を獲得するが、その能力は「時間の巻き戻し効果」を含めた、ここではとても説明しきれないほど複雑なものであり、いまだに議論や考察の対象となっている。
『ジョジョ』シリーズの代表的な悪役といえば、無論のことDIO(→ディオ・ブランドー)であるが、DIOは1、3、6部のいずれでもまるで人物像の描写が異なるなど、確固たるキャラクターというよりも、どこか作者自身により意図的に「永遠の敵役」にあえて据えつけられ、故意に「シンボライズ」された存在にも感じられる。それに対して、本来の意味でのシリーズを通しての悪役キャラクターの決定版は、この吉良吉影といえなくもない。作者もこの吉良を4部の他に8部や短編にも登場させ、かなり気に入っている人物と公言しているが、たとえ悪(この漫画では他人を踏みつけたり犠牲にすることが悪であると定義されている)でサイコパスであっても、同作者の漫画の根源的な人間原理である、前向きであり全力で意思を通し生き延びようとする姿勢は際立って徹底しており、吉良の視点からの描写は豊富で、読者に感情移入すら起こさせる。
吉良吉影の姿は、元(最初の登場時)の姿では非常にバタ臭い容姿の美中年だが、物語後半で逃亡のために他者のスタンド能力を利用して姿を換え、別のサラリーマン(川尻浩作)になりかわる。さらに、前述の第三の能力を得た際に髪型が変わる。(ラストで本来のバタ臭い姿に戻る描写があるのだが、なぜかその後日談の短編では、再び川尻浩作に近い姿になっている。)加えて、8部に登場する吉良(いわゆるパラレルワールドでの対応人物と思われる)も、これらとはまったく姿が異なる。「吉良吉影」で画像検索等を行っても、何種類も異なる姿が出てくるのはこのためである。
敵:[Z]から存在する何種類かの「爆弾型」モンスターと、「人々を絞め殺してきた切断された手」というノーマルモンスター(現在の訳語は「喉を絞める手」)の二つから連想されて追加されたとおぼしき[変]のユニークモンスターである。ただし、シアーハートアタックは「左手」といっても、人型のキラークイーンの左手の甲の「部品」が分離したのみの戦車型であって「切断された手」のような形状ではない。この点はむしろ、吉良が前述の戦闘時、特殊攻撃(前述のエコーズact3の重量攻撃など)を受けてもシアーハートアタックが自由に行動できるように、一時、自分の左手を切断したことがあり、その状態の切断された左手の描写を髣髴させる部分がある。爆弾モンスターではあるが、原作描写通り、アーマークラスはかなり高くなっており、耐性も揃いボルトを跳ね返す能力もある。原作では熱を感知するといっても、周りに火のエレメンタル等があっても特にそちらに向かうことはなく、当然冒険者側に突っ込んでくる。
ジ=インデュア Ji Indur the Dawndeath 【敵】
第四位のナズグル(指輪の幽鬼)。暁の死。南国人の君主でムーマクの長。トールキンの原作には第三位以降のナズグルの設定はなく、MERPやTCGのICE社の作った設定に存在し、ナズグルに関する話題にしばしば上る。新訳風には「インドゥア」である。
*bandの思い出には「ソーサラーの王で意思が弱く、容易にサウロンに屈した」としか書かれていないが、ICE設定では出身地と背景の設定がある。中つ国の最南端にある共和国の出身で、この国は第二紀の当時隆盛をほこったヌメノールの圧力・支配力に、土着の共和国議会の勢力が抗っていた(これは、トールキンが生まれた(育ったのはイギリスだが)件の南端の国を多分に意識しており、現実への対照を拒絶したトールキンの意思には極めて反した設定とも言え、ICE設定の避けられる雰囲気の一因かもしれない)。インドゥアは名家の出で議会の要人であったが、反ヌメノールの抗争で失敗し、この国を離れて東のムーマクの生息地でもある国に逃れる。そこを、反ヌメノールの思想を見込まれてサウロンに見出され、《九つの指輪》の第四を与えられ、ムーマクの国のみならず故国も取り戻す。「暁の死」とは、夜の間に暗殺を行い、暁と共にその敵の死が明らかになるところからついた二つ名である。長身痩躯、ナズグルでは最も偉丈夫であり、ムーマクを象った兜が特徴的であったという。
MERPのインドゥアは(暗殺者ながら)データでは魔術師クラスであり、「暁剣 Dawnsword」(無論、ホークムーンの暁の剣(→参照)とは何も関係ない)という白エオグのシミターを持ち、霧の中でペナルティなしに戦える「雲の弓」を持っている。
*bandには[V]系のアルダを舞台としたバリアントに登場する(ICE設定のナズグルを除去した[Z]では外され、[変]でも復帰していない)。序列は4位なのだが、なぜか本来6位のホアルムラスが繰り上がって2位のカムルに次ぐ強い階層になっているため、階層の上では5番目である。[V]ではナズグルの強さのダンゴになったうちの一体だが、各階層に散らばって配置されたToME2では、56階とちょうど中間の階層になっている。
→ナズグル →ムーマク
シヴァの化身の皮ジャケット The Leather Jacket of Shiva's Avatar 【物品】
出典:シヴァジャケ。ヒンズー教の3大神の一、破壊神シヴァは、古いヴェーダで疫風神ルドラの別名から発し独立していた舞踏神シバ(Siva)を元に、火神アグニなど大量の神が改めて合流し巨大神となったもので(これらシヴァの元の神はヒンズーでも単独のことも、シヴァの化身や別名・同一視されることもある)大変にめんどいので神話関係の専門サイトを参照されたい。神話を「引用」した物語(日本のあの漫画とかあの漫画とかあの漫画とか)では、「破壊神」という字面から短絡的に悪役を押し付けられるが、ヒンズーではシヴァ派はごく当たり前の宗派であり、広い信仰を集めている。
アーティファクト名の、他の神話神やヴァラールのような神の名には見慣れない「化身」という語に対する疑問が時々出るが、これはヒンズーの神々に特徴的なもので、神々が肉体をまとって現世に出現する場合原則的にその肉体を神の「化身(アヴアターラ)」と呼称するだけであり、単に「シヴァ神の」という意味であると理解して構わない。([変][Z]のインドラ帽の方は、[Z]邦訳の際に名前が作られたので、「化身」が忘れられている。)RPGの神格ルールやヴィジュアルチャット類の用語として出るアヴァターとは必ずしも同義ではないが語源は同じである。
しかし、この*bandでのシヴァは、ヴェーダとその派生インド神話を扱ったロジャー・ゼラズニイ『光の王』のシヴァを指す。『光の王』は、インドの神々の名を持つ超能力者たちが文明を独占している超未来のとある惑星が舞台であるが、ここのシヴァはやはり3大神とされる一人であり、物体の粒子の結合を崩壊させる能力を有する。空とぶ”いかづちの車”(武装ホバーカーらしいが、エンジンをあっためる等、ガソリン車のようなギミックにしか見えない)、破壊能力の媒介となる”三叉矛”を持つが、これらは紅衣の神ヤマ(目から殺神ビームを発する<死>の神だが、機械発明と個人戦闘の天才である)が作った科学兵器である。
しかし、この最初にシヴァとして出てきた神はろくに台詞などもないうちに、日常を襲われて「頭蓋骨を未知の鈍器で砕かれて」死亡する(なお下手人はゼラズニイが描いたのでなければ絶対にありえない聖者である)。別のとある神が次代のシヴァとして選ばれるが、上記の混合説を意識したものといえよう。なお、これらの神々は肉体を取り替える転生によって不死を得ているので、転生装置にかからずに急死すれば滅びてしまう(ここまで名を挙げた面々のうちには、これを避ける策を弄する例外もいるが)。『光の王』においては、「化身(アヴアターラ)」とは、この転生するたびにまとう身体のことを指す。
物品:*bandでは[Z]から引き継いで[変]にも登場する。話が二転三転するが、このシヴァの物品を追加したのは原作者TY氏ではなく、和Z板倉氏によると「サードパーティー」のアイディアによる追加品ということで、話によると特に『光の王』由来というわけではなく、単にエキゾチックな神話の名をつけたという程度のものらしい(『光の王』のシヴァには靴やジャケットの描写があるわけではない)。しかし、和Z氏はこの物品をはじめ、邦訳で一部物品名をインド神話の名に変更する時などは『光の王』を意識している、というので、ここでは、[Z]和訳とその和訳自体のバリアントである[変]のそれはゼラズニイの設定ということにする。[Z]日本語版からのアーティファクト解説文では「シヴァの力が宿った」となっているが、上記した「化身」の定義からすると、むしろ神が「力をこめた」よりは「化身が着用した」という雰囲気が強いのかもしれない。(『光の王』的にはやはり力をこめたのはヤマというところか。無論『光の王』にはシヴァジャケットは出ない。)
*bandのシヴァジャケットは、[Z][変]ともにクエスト「古い城」を修行僧で達成したときの報酬となっている。元素耐性、破片耐性、全能力維持などに加えて、殺戮や攻撃回数増加(1回だが)があり、修行僧のクエスト以外での他のクラスにとっても有効な物品のひとつである。
→シヴァの化身の軟革ブーツ
ジェラード Gerard, Strongman of Amber 【敵】
九王子。アンバーの強者、武神。人間離れした肉体能力を持つアンバーの王族の中でも随一で、コーウィンは「ぼくより強いがのろい」などと言っているが、実態は剣での「技の勝負」になればコーウィンにも少しは勝ち目もある、という程度でしかなく、総合的な戦闘能力の差はかなり大きい(コーウィンの言は、立ちふさがられても肉体的にも立場的にもたやすくかわせるような奴、という意味と思われるが、結果を見るとまるでそうなっていない)。思い出にも引用されている原作の一節に「こいつの力ときたら伝説の力士ほどもある」とあるが、この「伝説の力士」とは、他でもないヘラクレスやベーオウルフやサムソンといった面々のことである。姿はコーウィン(黒い髪、ただしジェラードは青い目で細かいヒゲ)によく似ているがゴツい。
頭は巡らないような言い方をされていることがあるが、他の王族のように陰謀や策略を巡らせないという意味で、決して知力が劣るわけではなく、抜け目はない。王位に興味はないが、アンバーの宮廷を守ることを常に目的にしている。いつもアンバーにおり、ケイン同様に海を守っている。(実在の伝承や聖書など多数に登場する強力な死霊船団「彷徨えるオランダ人」は、実はこのジェラードがアンバーへの幻想的侵入者を阻むため影から作り出す艦隊のひとつという設定である。)前半シリーズでは、自分から陰謀劇に加担することはないが、兄弟の良心のように、時には立ちふさがり時には助けて活躍。
[Z]以降ユニークとして登場。モルゴスや旧支配者か何かのように、壁に穴をあけながら突進し、地震パンチ(衝撃攻撃)を放ってくる。(「無言で突進してくる。」というメッセージが怖いが、一応言っておくが原作では普通に喋る人である。)一応魔法はいくつか持っているものの、怖いのはもっぱら打撃である。攻撃力はモルゴス以上で、サーペントに迫るものを持っていたりするので、油断するとごっそりとHPを削られる。様々な意味でストレートな敵なので、対処の方法はクラスによっていくつかあるが、敵わない場合とにかく引き際が肝心である(どこまでも追ってくるので)。
シェロブ Shelob, Spider of Darkness 【敵】
闇の大蜘蛛。キリス・ウンゴルの蜘蛛の大母。アルダ第三紀に、モルドールの入り口のひとつキリス・ウンゴル(蜘蛛峠)に棲んでいた大蜘蛛。アルダ神話時代の大蜘蛛の祖ウンゴリアントは、初代冥王モルゴスと共に中つ国に上陸したものの、諸事情で仲たがいしてひたすら南下したが、おそらく第三紀の舞台である南部に向かったと思われ、シェロブら大蜘蛛はその子孫と言われる。『ホビットの冒険』に登場する「闇の森蜘蛛」も実はシェロブの子孫らだと言われるが、シェロブはさらに遥か南のキリス・ウンゴルに(サウロンがモルドールに来るよりも前に)落ち着き、同族もすべて食い尽くして一体で棲み続けていた。サウロンがモルドールを築いた後も互いに不干渉であったが、事実上はサウロンはオークなどをキリス・ウンゴルに送り込んで食わせることでシェロブを養っており、サウロンはシェロブを「猫」と呼んでいるという関係が続いていた。
長らくキリス・ウンゴルには(恐れつつ見回るオーク以外は)誰も寄り付かなかったが、『指輪物語』にてゴクリ(→スメアゴル)に謀られた指輪所持者らがここに踏み込み、シェロブに襲われる。所持者サイドの中盤の最大の難所で、ガラドリ瓶(→参照)やつらぬき丸(→参照)の見せ場でもある。
映画版RotK(原作では『二つの塔』の中の場面なのだが、尺の都合で映画では三部目の方に入っている)でのこの場面に登場するシェロブは、大型動物くらいの大きさがあるCGクリーチャーである。ホラー監督でこれまでもクリーチャー類に(余計な分も含めて)力の入っていたPeter JacksonとWeta社の効果スタッフにしては、欲を言えばもっと大きく怖く、また動きなどもさらに恐ろしくてもよかったという意見が多いが、とりあえず十二分ではある。またここから続く一連の場面でサムが原作にも増して演じる大立ち回りが印象的であるが、今風に言えばFotRの頃から「レベルアップ」しているとでも考える他ないだろうか。
*bandでは、Moriaの後期のバージョンから入っているとも言われる(筆者がプレイしたバージョンでは無かったため、詳細は不明だが)非常に由緒正しいユニークである。混乱や致命傷などのちょっとした魔法はともかくとしても、暗黒ブレスや蜘蛛召喚などの明らかに原作設定にそぐわない能力も入っている(原作では同族を伴わずに棲んでいたはずだが、*bandでは蜘蛛を連れて現れる)が、これはウンゴリアントの下位版にあたるという考えからだろうか。攻撃の中に、毒の他に筋力減少があるのは、仮死状態にさせる毒を使い分けるためだろう。
ToMEでは、ダンジョン「闇の森」の最下層30階を守るユニークとなっている。モルドールではなく闇の森なのは変だが、上記したように闇の森蜘蛛と類縁関係にあるので、まったく無脈絡というわけでもない。これと同様に[変]でも、ダンジョン「森」の最下層ユニークとなっており、倒すと「毒針」が手に入るので、プレイヤーによっては入手手段として重要であろう。
次元の扉 Dimension Door 【システム】
ディメンジョン・ドアはクラシカルD&Dにおいて視界内程度への「短距離テレポート」の呪文であるが、本来、テレポート系の下級の呪文といえるものだった。UNIX-Rogue以来のRoguelikeでは「普通のテレポート」は、ランダムな遠距離への脱出のみに使用するものであるが、D&D系では別にそういうものでもなくほぼ距離が無制限かつ位置を指定できるものなので(ただし、失敗確率がある)次元の扉は、単に「テレポート」よりも安全で手軽な移動手段として、むしろ、*band (Moria)で言うフェイズ・ドア呪文の方に近いものだったといえる。短距離テレポートとしても戦略・作戦的に非常に応用範囲が広いのは言うまでもないが、戦闘中に肉体的に弱い魔法使が危険位置から離脱したり、逆に魔法戦士が特定位置に一気に切り込んだりと、非常に単純な戦術的応用手段でもある。他の次元界の生物をはじめとして、ディメンジョン・ドアを生来のレイシャルパワーとして有し、つねに多彩な応用をする種族も数多い。
D&D系における「次元の扉」の原理的な記述は、他の多くのテレポート系呪文(フェイズドアのようにエーテル界を経由するものや、操影術にある影界を通る能力などは除く)と同様に、アストラル界(これは実在界の「間隙」を指し、和製ファンタジーでレッテルを貼られた「精神面」とはほぼ無関係なことに注意。なぜ星幽界という名かといえば、それが外方次元界に通じ神性なども行き来する間隙にあたるためである)に一旦移動してあらかじめ指定した同じ界の場所に再び戻る。アストラル界には「時間」が存在しないため、発動によって起こるラグを除けば瞬間移動したように見える。この原理のため、アストラル界と隣接していない一部のプレーン(自然に存在する全ての界は隣接している)では次元の扉は発動しない。*bandにおいて、クエストやVault(宝物庫)内で次元の扉がうまく動作しないのは、そこがアストラル界と隣接していない擬似界(デミプレイン)として作られた独立空間であったり、一部のみ隣接(ドルジ部屋とか)、狭い隣接点しかないため這出ることはできても無理矢理入り込むことはできない、といった特性が(アンカー類の阻害呪文のほかに)考えられる。なお、アストラル界に入ったが主物質界に戻るのに失敗した場合(予定地点に固形物質があるなど)術者はいったんアストラル界に閉じ込められるが、意識で「探す」ことによって別の開けた場所に出ることもできる(ただし版によって細部ルールに細かい差がある)。*bandの次元の扉に失敗したメッセージ「精霊界から物質界に戻る時うまくいかなかった!」の原語は"You fail to exit the astral plane correctly!"で、直訳的には「アストラル界から正確に離脱できなかった」であり、アストラル界に入った後、予定地点で主物質界に戻ることができず、別の隣接地点で出たことを意味している。(なお余談だが、鏡使いの場合、次元の扉では「鏡の世界(the mirror plane)」を通るというメッセージが出る。D&D系の鏡の次元界は、アストラル界や影界同様の中継界(間隙)の一種である。)
*bandにおいては、コントロール可能なテレポートとして移動系魔法の極地といえるものではあるが、別に[Z]の仙術やトランプなどのテレポート系の専門家の専門技というわけでもなく、[O]などの[V]発展型から数多くのバリアントに追加されている。普通に便利なものが欲しいという発想のものとであると思われ、初代Rogue系やNetHack系と異なり戦術的な色合いの強い*band系において、便利さや幅を広げるものと予想こそすれ、大幅に難易度自体を変化させるものとは見なされていなかったに違いない。それが*band全体のバランスを決定的に崩壊させる結果まで招くとは誰も予想していなかったに違いないが、詳しくはhabu氏の[Z]攻略サイトを参照されたい。戦術的な応用は抜きにしても、テレポートが原則的にランダムであるRoguelike系において、普通に移動手段として便利であり、また単なる防御手段としても有効である。
至高神ファリスのロング・ソード The Long Sword of Falis 【物品】
和製ファンタジーの先鞭たるシリーズ『ロードス島戦記』に登場する剣。聖王国と呼ばれるヴァリス王国の至宝である聖なる武具のひとつで、RPGの設定名では『ローフル・ブレード』という名があるが、*bandでの直接の引用元(後述)であるOVA版ロードス島戦記の海外版でこの名が用いられなかったためか、はてまたこの名に問題があるためか(あまりにもありふれた名で、他のゲームにも頻出するが、英語としての座りが決してよくない二語熟語でもある)このエントリー名で入っている。
原作ロードス島戦記では、聖なる武具らはヴァリスの国王ファーンが聖騎士時代の魔神戦争の時代から通じて使用している。が、よく見ると魔神戦争時代をも通じて必ずしも決定的な一撃や活躍はしていなかったりする。あくまで脇役の剣のひとつである。一方で、TVアニメ版ではなにやら主人公パーンが別にファリスの騎士というわけでもないのに使っていたりもするのだがこれはファンからも流されているらしい。さらには、OVA版ではライバル側の魔剣ではあったが直接は無関係であった「魂砕き(→参照)」となぜか「対の剣」とされており、パーンがそれぞれ両手に持って戦うなどという場面に至っては黙殺されている。どちらのアニメ版にも言えることだが、元々無関係なパーンに何か主人公らしい「聖剣」を持たせるということで無理やり駆り出されている感があからさまである。
このシリーズの再現に用いられる『ソードワールド』TRPGのルール的には、攻撃性能的にはルールで許される最大限であるほか、ファリスへの敵対者に対してダメージがきわめて増大しやすいルールになっているが、さすがにAD&DのHoly Avengerほどの激烈な能力には及ばないようである。聖なる武具といっても、神聖魔法やその影響に似た条件を付与されている「魔法の物品」であり、直接神の力を宿された「祭器」というわけではない(ただし緒説あり)。
*bandには、『ロードス島戦記(あくまで最初のOVA版である)』の要素も取り入れたSBFbandに入っていた物品であり、それを経由して他の『ロードス』要素と共に[変]に入っている。修正値や、スレイングや能力の揃い方から考えて、「標準的なアーティファクト武器」である、アランルース(→参照)をもとに改造して作られたと推測できる。また、OVAの設定に従って、ベースアイテムを除くとほぼ『魂砕き』と対になるように意識されたデータになっているのもわかる。特に『ソードワールド』等原作リプレイ時のデータやHoly Avengerを意識した能力はない(ただし、(聖戦者)エゴに相当するスレイングおよび耐性、祝福などは結果的に揃っている)。中堅の攻撃力のアイテムとしては、ひと通りのスレイングと基本耐性が揃うので、もし中盤までに手に入れば相当に有効である──ところなのだが、出現階層が70階と(これは『魂砕き』の方に合わせてのことだと思われる)普通のロングソードの階層に比べてやたらめったらと深いので、初期に活躍できる可能性はほとんどない。終盤近くに偶然拾って棚の肥やしになるパターンが多いと思われる。
→魂砕き
地獄の公爵 Baron of Hell 【敵】
一見すると一般名詞のようだが、これは別ゲームに原典のあるモンスターで、[Z]が数多く参照しているシューティングゲーム'DooM'シリーズに登場する敵キャラである。ボスキャラのスパイダーマインドとサイバーデーモン(→参照)に次ぐ、3番目に位置する非常な強敵で、赤い体と茶の足を持ったミノタウルスのような姿をしており、緑色のプラズマ弾を投げて攻撃してくる。恐ろしく耐久力が高く、BFG9000(→参照)でも使わなければ数発程度では倒せない。マニュアルには「ダンプトラックの耐久力とほとんどその大きさも持つ彼ら巨人(ゴリアテ)は、ティラノサウルス以来の二本の足で立つうち最悪のものだ」といった説明がある。しかしDooM原作のidソフトウェアによると、二体一組のバロン兄弟は『スーパーマリオ』のハンマーブロス(→参照)から思いついたという非常に緊張感をそぐ逸話がある。
*bandでは[Z]から登場し、単に語感の問題でBaronが男爵でなく「公爵」とされている。(なお、DooMのものに対しては日本でも訳されずにBaron of Hellと呼ばれている。)思い出文章には「山羊の頭」とあるが、実際にはDooMの画面では山羊と牛のどちらに近いとも言いがたい。原典通りプラズマボルトの魔法を持ち、38階でアーマークラスが130(大抵のアンバライト以上)というまさに恐るべき耐久力を持つ。この特質がウォーハンマー系の上位デーモンと似ているためしばしばこれもウォーハンマー系と混同される。
死者召喚 Raise the Dead 【その他】
「死者を復活させる」魔術という言葉は、それだけだとRPG的にはまったく逆の二つのニュアンスを示す可能性がある。ひとつは、不慮の死をとげた死者を奇跡や恩恵によって蘇生させる救命の術であり、もうひとつは死んでいるはずのものを外道によって強引に立ち上がらせる術である。これは、効果としては同じことになる場合もあるが、後者の場合はいわゆる「アンデッドを作る」術も指し、この場合、いわゆる"白の魔法"の高等術の代名詞ともいえる治癒系の蘇生魔法とは、まさに正反対の意味をもつことになる。
D&D系などの「レイズ・デッド」の呪文は、治癒系呪文の蘇生呪文のひとつで、いわゆる死者救命の術の最も基本的なものである(高レベルではあるが、極端にというほどではない)。なおアンデッドにこの生のエネルギーをあてることで滅ぼす(死者であるアンデッドを生の方向へと返す)ことも可能である。
しかしながら、*bandでは[Z]のDeath(暗黒)領域より、Raise the Deadという呪文は、アンデッド召喚呪文、すなわち死者からアンデッドを作ること(死人返しの杖のように死体は必要ないが)を示す効果になっており、いわゆる救命呪文とは正反対である。これは、一人で冒険し死ねば救済手段のありようもない*bandでは救命呪文としてのRaise Dead呪文自体が必要ないことから、この呪文の名には闇の死者を動かす意味の方を採った、とも考えられる。
また、[Z]以降この呪文は[ネクロノミコン]呪文書の呪文だが、『クトゥルフの呼び声』TRPGルールには、死者を動かす呪文(これは、ラヴクラフト『チャールズ・デクスター・ウォードの怪事件』から採られたものである)に「復活」の名がつけられており、あるいはこれを意識したものかもしれない。
効果としてはアンデッド(術者のレベルが高い場合は、複数また上級アンデッドである可能性が高い)を召喚するが、支配能力はレベル依存などでは得られず、敵として登場する可能性(バリアントによるが、[Z]では一律3分の1である)は決して低くない。暗黒の魔法領域が死者に対して非常に弱いことから、そうした領域を持つ術者の安全性は保証されず、有効に使おうと思えばかなり状況を慎重に選ぶ必要が出るだろう。
→死人返し
地震 Earthquake 【システム】
ここでは武器エゴ属性ではなく、アイテムや呪文の地震効果に関する話題に絞る。おおよそ強力な魔法の効果として最も直接的なものは、いわゆる「天変地異」を引き起こす魔力の類であろう。これらは実際の魔術の祈願にも、また伝承や物語の魔法にもしばしば見られるが、むしろ典型的といえるのは、神話であれ信仰であれ「奇跡」の一種として現れるものである(創世神らが自然現象を操って戦う、預言者が海を割るなど)。初期のTRPGにおいて、魔法使系や自然系の術者のみならず、「聖職者」の呪文として普通にこれらが見られるのは、こういった点の反映といえる。
地震の魔法はそうした天変地異の魔法の一種だが、RPGの原型であるD&D系においては最上級の魔法の一種であり、地下探索における戦闘用や攻撃用というよりも、このゲームの高レベルがなりがちな大規模戦争・大規模イベントにおける典型的な実用呪文である。範囲は決して巨大ではないが(これが使える標準的術者で直径40m前後)範囲内の者がある「割合」で転等や地割れに飲み込まれる(判定の余地なく即死する)等が起こり、それ以上に著しい地形の変化や倒壊などが起こる。無論、浮揚能力などの影響下にあるものには効果がなく、そうした者への小規模戦闘より、大規模イベントを自分の手で起こす純粋な目的のための魔法といえる。
一方で、CRPGや、比較的後期のTRPGでは、より「規模の小さい地震」や「地割れ」を独立させて、単純にダメージを与える呪文として表現している例も少なくない。他の元素と並べる「大地属性の攻撃」ということで、必ずしも理屈や効率にあわず重視されて持ってこられている側面もある。
*bandでは、Moria以来、杖や一部呪文で用いることのできる効果で、*破壊*(→参照)ほど大規模でない効果範囲内の崩壊を起こす。またノーマルモンスターをすべて消し去るほどの破壊力ではなく、範囲内の壁シンボルのシャッフルを起こす。おそらく、Moria/*bandのRoguelike内でもことにランダム性の強い(保存性のない、使い捨て)ダンジョンゆえの安易なマップ改変の発想であると思われ、普段は特にメリットはないが、呪文として使用できるクラス(自然魔法など)でもっぱら召喚モンスター戦において地形の召喚よけとして使われていることが多い。
地蔵尊の蛸 Octopus of Kshitigarbha 【敵】
「蛸地蔵」の昔話、すなわち「天性寺聖地蔵尊縁起」に登場すると言われる蛸。その説話とは、南北朝時代ころ大阪府岸和田の守護神としてまつられていた地蔵菩薩像が、戦乱の事故によって海に没してしまった。または、蛸の上に乗った地蔵が海から流れ着いたが、信心深い当時の城主によって戦乱をのがれるため城の堀に埋められたという話になっていることもある。時代が流れ、戦国時代、松浦肥前守が守る岸和田城が、紀州の最強軍団ともいえる根来衆・雑賀衆に襲われた。城壁が破られ敗色濃厚となり、岸和田の地が滅亡に瀕したと思われた時になって、突如としてどこからともなく錫杖を持った法師が出現し、敵軍の中を錫杖を振り回して暴れまわった。その巻き起こす阿鼻叫喚はさながら天が鳴り地が動くほどであったという。当時の重火器軍団として名高い根来衆・雑賀衆は法師に雨あられと砲を浴びせかけ、数万の軍で押し包もうとしたが、そのとき凪いでいたはずの海がにわかに高波を起こしたかと思うと、大小の無数の蛸が地上に雨あられと降り注ぎ、根来衆・雑賀衆は周囲を闇夜のように染めた墨と蛸の毒気で次々と倒れ、戦意を継続できず死者なしに退却した(錫杖で殴られた分も死んではいなかったらしい)。戦が終わると法師も蛸もどこにも見当たらなかったが、数日後に肥前守が堀に木製の地蔵が流れ着いているのを見つけ、その地蔵には鉄砲で撃たれた跡が残っていたという。現在天性寺にまつられている地蔵はこの蛸地蔵であるといわれ、天性寺近くにある「蛸地蔵駅」でも有名である。
蛸はその姿から海坊主などしばしば仏僧と関連づけられ、日本には各地に「蛸薬師」などの説話があるが、この蛸地蔵は水から流れ着いた由来をもつ木の地蔵に対して付与された説話とも考えられる。無数の蛸が敵を襲ったというくだりに関しては、城の窮地に漁師が参戦し、海産物・蛸を投げつけたり墨を使ったりといったりといった戦法を一部で用い、それが変化した民話ではないかという説もある。
*bandでは、[変]のあとのバージョンから追加されたモンスターである。英語名がOctopus of Kshitigarbhaとなっているのは、「地蔵王菩薩」が梵語ではボディサトヴァ・クシティガルバになることからだが、日本の道祖神としての「地蔵菩薩」はきわめて独特の、それ単独で独立した存在と化している側面があるので、梵語の名をここで用いているのは疑問がないでもない。残念ながら味方モンスター(FRIENDLYやGOOD)ではないようで、大量に現れ、また水棲とは限らない。説話通り、暗黒のブレスを魔法で持つ上、盲目の唾を吐き、混乱させ、這い回って毒を食らわす力をもつが、なぜか原典では殺傷力はないはずなのに体当たりダメージもある。
始祖ベオルのブーメラン The Boomerang of Beor 【物品】
始祖ベオルとは、トールキンのアルダ世界においてエルダールと同盟を結んだ人間(エダイン)王家の始祖のひとりである。一族を率いてエルフらの治めるベレリアンドにやってきたベオルは、ノルドールのうちでも名君のフィンロド王に出会い、その臣下となる。最初にベレリアンドに入りエルフと手を結んだことから、ベオル一族は「人間の第一王家」とも呼ばれる。(第二、第三王家がハレス王家、ハドール王家で、別々の家だが、のちに互いに縁続きになり、それぞれ重要な人物を出すことになる。)なおフィンロドを最初にノム(知恵者)と呼んだのもベオルらである(→ノーム)。ことにベオル王家のフィンロドへの忠節は長く深く続き、遂にはそれに報いたか、フィンロド王自身がベオルの6代後の嫡流ベレンの命を救うために自分の命を投げ出すことになるのである。
さて*bandにおいては、ToMEの特徴的物品のひとつ「ブーメラン」のアーティファクトにこのベオルの名が選ばれている。おそらく、まだエルフに会わない頃、東の荒野を狩りをして暮らしていた頃の品をイメージして「未開」風の品をベオルらが使っていたと想定したと思われる。が、どのみち第一紀は太陽が出て人間が目覚めてから600年強の期間しかないため、「始祖の人間」といえどそれほど年数が離れていたわけではなく、すなわちそれほど「大昔の文化」を想定するのが相応とも思えない(無論、エルフらと出会う前と後では日常生活の文化にも雲泥の差があったであろうが)。スレイングなどは全く無いが、器用度とスピードの追加、基本四耐性が揃っており、レアリティも低いので前半に役立つことも多いと思われる。
子孫 しそん 【システム】
数々のRoguelikeの中でも*bandに特徴的な要素のひとつとして、Moriaの時代から「死んだキャラクターのセーブデータを引き継いで新しいキャラクターを作成した場合、モンスターの記憶等が前のキャラの死ぬまでのものが引き継がれる」というものがある。そして、その場合、前のキャラクターの行い(何体そのモンスターを倒しているか等)は、新しいキャラクターの「先祖」として表示される。
これは、おそらく「先祖が少しずつ培ってきた知識・経験が積み重なってはじめて、何代も後の子孫がようやく目的を達することができる」という図式をイメージしている。実際にMoriaの時代から、そうしてできた新しいキャラは「- II, III」(2世、3世)といった名前を持ち、しばしば勝利者はそうした代を重ねたキャラクターになるだろうというドキュメントがある。しかしながら、あるいは逆に、初期のMoriaの開発において、同じ条件の新しいキャラクターにII, IIIといった名をつけるプレイヤーがいるうち、「前の知識を継承させよう」というアイディアへと発展していった可能性も考えられるだろう。
さて、この子孫システムはMoriaからすべての*band系バリアントに受け継がれているが、同じ種族でなくとも、セーブファイルさえ引き継いでいれば記憶は引き継がれ、そのさいには前のキャラクターは「先祖」と表示される。あるときはモンスターの記憶や、あるいは単に設定ファイルを引き継ぐため、ひいてはただの無意識で、新規ゲームを始める時にはつい毎回前回と同じセーブファイルを選択してしまうプレイヤーも多いが、Moriaや[V]ならばともかく、種族が増えた[Z]以降では無生物やアンデッドと定命・神々しい存在など、しばしばどう考えてもありえない親子関係が生じてくる。実は「親子」を「師弟」か何かに置き換えた方がいいのではないかと思えてくるのだが、どちらにせよ、まったく覚えがないのに死んだあとに子孫が出現しているのはどういうことなのかといった疑問は、掲示板などに頻繁に書き込まれるものである。
さて、まずは、身に覚えがないのに子供がいるといえば、*bandのモチーフとなった作品から連想するに、疑いなくアンバーシリーズの「混沌の宮廷」の仕業である。「宮廷」のまわりでは時間が普通に流れていないため、アンバー原作においては、とある混沌の王女がとあるアンバーの九王子との間に「まだ何もしていないのに既に『既成事実』になっていて、『責任』をとらせる」という、まさしく混沌の王女にのみ可能な反則中の反則を用いる。男にとっては想像もしたくない悪夢そのものであるが、この例に限ってはせいぜい相応の報いが普段から気障女たらしのコーウィン - more
つまり、@にこれと似たことが起こっていると考えると、@は死ぬそのときまで、否、ファイルを引き継いだ新規キャラクターを作るその瞬間まで、あくまで本当に独り身のままなのである。しかし、新規キャラクターを生成したその瞬間に、「宮廷」の周囲の混沌の次元世界(どんな可能性もありうる)から、先代の@が既に子孫がいる未来(なおかつ、そうした平穏な余生を送った可能性へと収束した”影”)が選択され、その並行世界から宮廷によって子孫が送り込まれると考えられる。この用語集の読者の誰しもが、似たような「存在自体なかったのに、本人の死後唐突に出現する家族」を一度ならず漫画などで見た覚えがあるだろう;カムイの双子の兄弟やラオウの息子リュウはともかくとして連載時には間違いなく家族などいなかったツェペリ - more
なんのために「混沌の宮廷」がそんなことをするのかは、秩序との永遠の抗争の歯車なので窺い知ることはできない。しかし、あえて考えるならば、上の九王子の例と同様、混沌の勢力を少しでも増大させるために、「新規キャラクターを繰り返し作るようなしぶとい@の血脈」には、混沌の王族の血を混ぜているとも考えられる。であれば、子孫がいる”影”においては、@と結婚させられているのは混沌の王族のだれかであり、ならば、その子はいかに突拍子もない種族に生まれようが一向に不自然は認められない。例えば父親@が人間でも、母親が変幻自在の混沌の王族ならば、子はアンドロイドからデスモルドまで、何であっても不思議なことはないのである。
死の光線 Death Ray 【その他】
よく知られたことだが、クラシカルD&DやAD&Dのキャラクターデータには、抵抗力・罠などの回避力を示すセービングスローの値は、他の大半のRPG(や、D&D3.0e以降)のように「精神」「肉体」などの抵抗値や「敏捷」の回避力ではなく、脈絡のないさまざまな効果(ワンド、石化、ブレスウェポンなど)に対するものがそれぞれ設けられていた。これは、RPGの発祥であるD&Dには現在のRPGのようなスキルや、レベルや能力値でシステマチックに数値を算出するという発想自体がなく、ダンジョン内部で起こりやすい危険に対して手当たりしだいに抵抗値を設ける発想であったと思われる。その抵抗力の属性の中に、「デスレイ」という謎のものがあった。
このデスレイ(死の光線)は、おそらくは罠などの一種で「即死攻撃をもたらすような光線」を示していると考えられるのだが、具体的にどういう抵抗力を指しているかは諸説がある。即死攻撃の呪文(死の指先や分解(→参照)なども含め)に対しては「呪文」セービングスロー値でなくこれを用いることが多く、即死効果のショックに耐える「肉体的抵抗力」を指しているとも思われるのだが(値が「毒」への抵抗と同じ点も根拠である)一方で、物理的な刃などの罠の回避の判定に使われたり、アイテムの首切り効果(→切れ味の刃)への回避能力でもあったりして、光線をよける「回避力」を指していると思えなくもない。ともあれ、この謎の語はD&D系の攻撃の属性のひとつとして長い間定着していた。
*bandではDeath Rayは[Z]から同系バリアントにおいて暗黒(Death)領域にある死の魔法のひとつで、レベルx200という絶大なダメージの光線というものである。ただし、[Z]ではモンスターのレベルによっては抵抗され、またユニークモンスターにはほとんど効かず生命のないモンスターにも抵抗されるといったもので、D&D系の復活呪文を逆転させた即死攻撃呪文(即死させるか、抵抗されてもダメージを与える)に拠っていると思われるが、名前はそれらのポピュラーな属性であるデスレイになっている。
地走り じばしり 【その他】
地走りとは手職人(ことに植木や焼き物など土に関係した職人)の用語で使い走り、すなわち見習いが職人に対してつとめる雑用係を意味し、ことに陶芸の用語では「地走り3年、土もみ3年」と言われ雑用係と土をこねる仕事を計6年こなしてからようやく器の形をこねる仕事に携わることができるといわれる。また地走りは、いわゆる野伏(野盗あるいは密偵)の隠語として用いられることもあった。また、災害などの自然異常による動物の集団異常(レミング的行動など)を指すこともあり、白土三平の漫画で鼠の大群が村を襲う場面を思い出す人も多い。
しかし*bandが引用しているRPG『ロマンシング・サ・ガ』シリーズの大剣技「地走り」は上の語義とは100%何の関係もなく、波動が地面にそって走るように(割るように)伸びてゆき、一直線の敵を攻撃するという技である。この技から派生する「地ずり残月」(同様に白土三平にも登場するが、眠狂四郎の地擦り下段の円月殺法(→幻惑)からの連想であろうが、名前の連想以外には無関係なようである)が異常なほど習得しにくいため、特に地走りの使い勝手が極端に良いというわけでもないのに延々と地走りばかり放ち続けるというプレイヤーが数多く見られた。
地を走る衝撃波といった攻撃自体は、プレート帽子のヤンキーが波動拳コマンドで出す奴だとか昔から一般的なもので、対空攻撃ができず回避が容易なかわりに威力や範囲は大きい(筋だった理屈は不明なものの)という不文律になっていることが多い。しかしロマサガ以降、他のゲーム等においても類似の技や、ひいては低空関連の技に「地走り」という名がついていたり、またネットにおいて何か無意識にこうしたビジュアルの攻撃に対する、一般的な呼称として使われている例もかなり多い。これはロマサガでの名前やビジュアルの印象がそれなりに強いためなのか、上記のように地ずり残月狙いで延々と放ち続けてプレイヤーの記憶に捺しつけられてしまったせいなのかは定かではない。
*bandでは剣術家の武芸の技のひとつであり、[五輪書]の36レベルというやや高レベルの技である。衝撃波のビームを作り出す技で、ダメージはダイスのみからの期待値の半分である。なお、地を這っている敵や岩石溶解に弱い敵にはダメージが大きいといったことは特になく、本当に単なる遠距離攻撃技である。しかし遠距離から反撃を受けずに着実なダメージを与えることができるため(死の大鎌(→参照)についてはさておく)地味ながら堅実な技である。
死番虫 Death Watch Beetle 【敵】
鞘翅目シバンムシ科シバンムシ(Anobiidae)は主に体長3ミリ弱の甲虫で、人体には無害であるが、植物を食い荒らす害虫として知られる。古本や建材を食うものも知られており、俗に言う「名前のわからないなんか小さい本の虫や木の虫」はしばしばこれであることもある。が、特に害虫としては、タバコシバンムシが業者のタバコ葉をはじめ、住居においても煙草や葉巻、さらには畳、ひいては食物なども激しく食い荒らし、例年業者および家庭においてその被害は馬鹿にならない。
しかし自然の摂理は過酷であり、平和ながら人間に迷惑なシバンムシにも生存競争の宿敵がいる。それがアリガタバチである。アリガタバチとはお釈迦様の使いのありがたい蜂ではなく、羽がないため「アリ型」に見えるハチであり、西国で「アリに刺された」というのはかなり多くがこのアリガタバチによる被害でありちっともありがたくない蜂であると言えよう。特にシバンムシアリガタバチは産卵時にシバンムシの幼虫を宿主として卵を産みつけるため大量発生する。つまり、シバンムシは人の食住をさんざんに食い荒らし、そのシバンムシを狙ってアリガタバチが発生してついでに人を刺す、過酷な生存競争にひたすら巻き込まれて踏んだり蹴ったりの被害をこうむるのは人間なのである。元から根絶するためにはシバンムシ自体を駆除する他にないがその手段は専門の害虫対策サイトを参照されたい。
さて、Death Watch Beetleは、AD&D 1st以来、巨大Verminの表の中に(Wizardryファンの恐怖の的のBoring Beetleなどと共に)に入っているモンスターのひとつである。元々人を襲わないこんな虫をなぜわざわざ巨大化させてモンスターとしたのか、おそらくr_infoにもある通り「Death watch beetle」の名の由来である、家の建材を食い荒らすカチカチというような音(心霊現象のラップ音などの正体とも言われる)が死を刻む音と考えられたという、虫の実体に比してあまりにも無駄な格好よさが目だってつい追加されたのではないかと思える。(なお、日本の「死番虫」の「番」とは、watchを時計音でなく「見る=番をする」の意と誤訳したものと言われている。)
*bandでは、Moria以来伝統的にモンスターとして登場し、さほど危険な能力などは持っていないが、31階という中レベルで、かなりの巨大虫であるらしい。うめき声が恐怖ダメージの攻撃となっている所が「名前通り」でそれらしい。エントなどがいかにも恐れそうである。
至福の地アマンのクローク cloak of aman 【物品】
アマンとは、トールキンのアルダ世界において、エンドール(中つ国)のはるか西に浮かぶ大陸で、ヴァラール(上級神、精霊)とハイエルフらの住む地である。
アルダの神話時代、ヴァラールは最初はエンドールに目覚めるはずのエルフや人間と共に住む構想を持っていたが、悪神メルコール(モルゴス)が戦いを起こした。メルコールと配下の精霊らとの全面戦争となれば、エンドールが破壊され(はるかに後にモルゴスが倒された怒りの戦いで杞憂でなかったことが判明する)エルフや人間が目覚められなくなる恐れがあるため、ヴァラールは一旦エンドールを退き、遥かに西に隔絶されたアマンに神々の地を築いたわけである。
のちにエンドールにエルフが目覚めると、ヴァラールは最初の構想通り共に住むため、エルフをアマンに呼び寄せた。応じてアマンに移住し、力の上でも神々に準ずるものを得たのが「ハイエルフ」である。また、エルフにしろ人間にしろ、死後その魂はアマンのマンドス(宿命神)の館に集まる。寿命で死ぬことがないエルフは、中つ国に未練がなくなれば自ら西方に船出し、アマンに向かうことになる。
アマンは不死の者らが住む地とはいえ、単にアマンに行っただけで定命の者が不死を得られるわけではないのだが、人間のヌメノールの王アル=ファラゾンはサウロンにその点で偽りを吹き込まれ、アマンに攻め上ろうとした。結果、世界の変動が起こされ、アマン一帯は別の空間へと分断され、『指輪物語』時代の第三紀やそれ以後の現代には、アマンはすでに地球上には存在しない。第三紀もエルフらは便宜上アマンを「西方」と呼び、西の港からアマンに向けて旅立つが、実際は到達するのはエルフの魔法の力によってである。
*bandには、「至福の地アマンの」は[V]からエゴアイテムとして、「クローク」のみにつく属性として登場する。トールキンの原典にそうした品はないが、安らぎを与える最高級品として自然に名がとられたことは推測できる。(なお、ICE社のアルダTRPG,MERPでは、アマンから来たイスタリ(魔法使)らの各色のローブは、クロークではなく内側に着るローブだが「アマンのローブ」であり、鎧並の防御をはじめ有利な特性を持つ。)[V]以来、守りのクロークの上位版で、四元素攻撃では傷つかない上、上位耐性をひとつ持つ。上位耐性を揃える手段の限られた[V]系のシンプルなバリアントでは非常に強力であり、[Z]系でも耐性パズルの駒として考慮される。アーマークラスの高さもあって、多くのクラスで最終装備の選択肢となる。
邪悪存在感知 Detect Evil 【システム】
クラシカルD&Dの「デテクトエビルク(新和版旧ルールブック原文ママ)」は、聖職者・魔法使いが持つ最も初歩の魔法(およびパラディンの無制限の特殊能力)で、魔法によって「善悪」=「敵味方」をたやすく判断することができるという、地味ながら魔法の強力さ・便利さを象徴する呪文である。しかし、初級のダンジョンゲームや割り切った勧善懲悪ストーリーならば「出会った人間が善良な市民か、他人を獲物にする悪党か」といった分かりやすい例にすることができるが、少々話が複雑になると、何をもってこの呪文による善悪となすかがあっという間に曖昧になる。「属性が悪のもの」(それはいわゆる面倒なアライメント論争に発展し、版によって属性の定義自体も異なる)なのか、聖職者が使うので「教義に反するもの」なのか、「使い手に対して害意を持つもの」なのか、「悪の魔法で作られたもの」が入るのか入らないのか(これは、間違いなく悪の魔法だが自意識はほとんど持たないゾンビやスケルトンの属性論争にも関係する)実のところ、どれと解釈するべきかの結論は存在しない。D&D系では版によって(例えばスケルトンに反応するか否かさえ)異なり、派生した他のRPGの定義によっても異なる。しかし、どの定義を採るにせよ、杓子定規的なルールにせざるを得ず、結果的にどのゲームであってもさほど頼れない魔法になっていることが多い。
しかし、*bandでは単純に「EVILフラグを持つ存在」を感知できるというものになっている(定義でいえば「属性」と「悪の魔法」を感知するというものに近い)。Moriaの時代から、聖職者系魔法としてプリーストとパラディンが使用でき、スタッフなどでも存在する。メイジ系の「モンスター感知」の純然たる下位互換であり、プリースト系の方が「融通がきかない」という考えでこちらが入れられた可能性もあるが、あるいは単にプリーストやパラディンに対するイメージかもしれない。
当然ながら*bandのモンスターは基本的にはすべて襲ってくる敵であり([Z]系では少々複雑だが、残念ながらこの感覚を覆せるほどではない)善や中立のモンスターに反応しないというのは決して頼りにならない。しかし、ワーグなどを感知できるというのは(特にワーグクエスト等では)大きく、無いよりはかなり有利であり、要は使いようである。わざわざスタッフを持ち歩くほどではないが、[V]系ならばプリースト系の術師があれば便利と思える機会は多いものである。ただし、それも複数の魔法系統を扱える[Z]系では、いまや破邪パラディンなどかなり限られたクラスを除いて使う機会も中々なくなっているかもしれない。
邪悪退散 Dispel Evil 【システム】
RPGにおいて聖職者系のクラスの多くは、特殊能力や初級〜中級までの数々の呪文において破魔・破邪に相当するさまざまな能力を持つが、D&D系のDispel Evil呪文はそれらの「集大成」や「万能破邪呪文」とも言える高レベル呪文である。この呪文はいわゆる魔性のクリーチャーの退散のほか、悪い呪いや呪文の効果をすべて取り除く効果まで持っており、またその効果も強力なものである(例えば強力な呪いのアイテムは、解呪(→参照)の呪文では呪われた者を開放できてもアイテム自体の呪いを解くことはできないが、このDispel Evil呪文ではアイテムの呪い自体を消去することができる)。さらにAD&DやD&D3e以降の同名呪文は、術者に加護(→対邪悪結界)の非常に強力なものの効果までも付与する。故に、これが使えるネームレベル(救国英雄級)に達した聖職者に対しては、どんな強力なアンデッドや悪魔といったモンスターや強力な呪いでも、根本的にまったく無力になってしまう可能性がある(D&D系の場合、高レベルで「何も考えずにただモンスターを出す」といったことをすると何でもそうなる可能性はあるのだが)。旧D&D系のあとさきを考えないインフレの現われのひとつといえそうだが、後出のルールには付け焼刃的なフォロー(「通常の」解呪で解けないものは解けない等)がないでもない。
*bandにおいては[V]以来、「邪悪退散」は呪文やアイテムで存在し、EVILフラグのある視界内の敵に「ダメージを与える」という、かなり元とは異なるものになっている。Dispelが一律「退散」という訳になっているので混同しがちだが、邪悪な敵をテレポートさせる(こちらがむしろDispel Evilの元の効果に近い)「邪悪追放」とは異なる。同様のダメージを与える「アンデッド・悪魔退散」などの上位の呪文になっているといえるが、D&D系のアンデッド退散の上位の効果であったアンデッド破壊効果が、Moria以来アンデッドへのダメージとして表現されており、「退散」呪文が一律ダメージとなった名残といえそうである。どちらかというと元のDispel Evil呪文のような強力な万能破邪呪文の効果は、「神威」などのより高レベル呪文の方にといえるだろう。とはいえ*bandでの呪文そのものとしては、かなり効く敵も多いため、多くのバリアント通じてプリーストのみならずパラディンにとってもこれが使えるようになると大きく戦法が変わってくるといわれる。
邪悪追放 Banishment 【魔法】
「邪悪退散 Dispel Evil」などと字面がよく似ているが、*bandではまったく異なり、退散はダメージ、追放は強制テレポートの魔法である。ただし、下記するようにこれらの用語の元となったTRPGなどでは、効果は似ていたり重なっていたりもする部分もある。
邪悪や不浄・魔法の存在を追い払う魔法の類は、ことにTRPGでは主に聖職者系に、アンデッド退散(→参照)の呪文や特殊能力をはじめとして数多くの種類が存在し、その細かい目的(対象)や強力さなどによって細分されていることが多い。Banishmentは「追放・流刑」の意であるが、呪文の名前としては強制的な追放のような比較的強めの意を持つものと思われる。
AD&DのBanishmentは、聖職者系ではなく、かなりの高レベルの「魔法使系」呪文であり、異次元界出身の生物を元の界(プレイン)へと追い払うものである。対象の「真の名」や嫌う物体などの情報、異次元界に強く関わる物品・触媒などで成功率が大きく変化する点も、聖職者や悪魔払いより、魔術師の行った召喚術などを意識しているものと思われる。ただし、聖職者やパラディンの聖なる力の類よりは制限が多く、魔術でこれらを行うのは可能ではあるが、聖なる力よりは容易ではないということかもしれない。T&Tでも、ほぼ同様のかなりの高レベルに、よく似た効果の「バニッシング」の魔法があり、強力な悪魔であってもほぼ無条件で追い払うことができる(なお、のちに加えられた僧侶系にも、ほぼ同レベルに天使・悪魔の召喚・送還(サモニング・バニッシュ)の奇跡があるが、こちらは逆に若干条件が厳しい)。なお、これらは「Vanish 消滅」ではなく「Banish 追放」だが、「ヴァニッシュ」の方の名で、よく似た効果の魔法を取り入れているゲームもしばしばある。
*bandでは、[Z]の生命領域にある魔法で、生命領域の「良い」魔法という側面から、「邪悪」な存在にのみ効果を発揮する、しかし視界のすべてを対象にしたテレポート・アウェイ(→参照)というものである。特にAD&DやT&Tのようなゲームの効果に従った(異界の生物、異界に戻す等)というわけではなく、破邪的な名前からの発想で、治癒・防御に画一的になりがちなプリースト系呪文に*bandの他の魔法効果を加えたというところかもしれない。[変]では破邪の領域に移ったが同様の効果で存在する。「邪悪」な対象のモンスターは多いため、特にその点で不便・使えないとまで感じることはないであろうが、テレポートが抵抗されうる[Z]系ではやはり通常のテレポート・アウェイと同様の利点と欠点を抱えている。
ジャイアント Giant 【敵】
よく言われることであるが、トールキンのアルダ世界に「巨人」「ジャイアント」が登場するのは、『ホビットの冒険』にて、霧降り山脈の嵐の中に「石の巨人」が石を投げ合っているのを遠目から眺める場面のみである。他に描写がなく、これが単独の種族であればどういった起源に属するのか(アルダのあらゆる「種族」は起源が明確であるか、何らかの推測材料がある)等はまったく不明である。トロルの一種といった意見もあるが、この頃はガンダルフ(あるいはブラドルシン)は後のイスタリとしての設定がまだ出来ていないと思われるためもあるが、明らかに衝突を避けており、かなり強力な存在として描かれているようにも見える。
この嵐の中での巨人の石投げの描写は、雷鳴による山崩れなどを単に擬人化しているような雰囲気を思わせる部分もある。『ホビット』のこの巨人は、実際に「巨人」という生き物がいるのではなく、この場面の嵐を擬人化して表現しているに過ぎないとまで言ってしまうと極論に過ぎないが(例えば邦訳の瀬田翁は、擬人化された嵐だと考えていたようである)トロルなどと同列の「種族」よりは、山の精霊などに近い存在という解釈ができるのではないかと思われる。これは、ギリシアや北欧などの神話に現れる巨人が、しばしば原初の巨大な自然力の擬人化であるのを思わせる。また、例えばガンダルフは「話のわかる巨人に頼んでゴブリンの洞窟を塞いでもらう」といったことにも触れているが、これは文面通りにも受け取れれば、自然の精霊の力をかりて洞窟を塞ぐ=RPG的に言えばガンダルフが大地を動かすような魔法を用いる予定について触れているようにも受け取れる。
なお余談であるが、のちの『指輪物語』で同様に霧ふり山脈を越える場面には、逆に「山」であるカラズラスがまるで擬人化されているような描写が多いのが印象的である(「彼らを敗退させた」「怒り」等、ことに、FotR映画版での呼びかけの呪文など。なお、MERPのデータではカラズラスは本当に「マイア(ガンダルフやバルログと同類の半神)」となってしまい、山の精霊がいるものとして扱われている)。
2012年の映画版『ホビット』第1作でのこの場面では、この場面は実際に「巨人」が岩を投げ合ったり、拳や頭突きで格闘している姿として描かれている。ここでは巨人らの姿は巨大な自然の岩くれが組み合わさって人型になったような生き物として描かれている。メイキングのCGスタッフの発言によると、この巨人は身長127mとして計算したらしい。
さて、いわゆる巨人の中でも狭義に「ジャイアント」とされるモンスターとして、D&Dシリーズに「ファイア・ジャイアント」「フロスト・ジャイアント」「アース・ジャイアント」その他、自然の諸力に関係する属性をもつ巨人らが並んでいるのは、前述したような、神話の原初の力に関係する巨人(特に、北欧の「炎の巨人族」「霜の巨人族」など)をモチーフとしていると考えられる。D&D系をはじめ、大半のRPGにおけるジャイアントは、流石に神話の巨人ほどではなく、ドラゴンほど天井知らずの能力でもないが、英雄レベルのキャラクターと同等の上級のモンスターとして扱われているのが定番である。
かれらは「元素の属性を持っている」だけであって、(エレメンタルのように)身体がすべてその元素の塊でできているというわけではないが(Fire GiantやEarth(Stone) Giantといった言葉からは火炎や石そのものでできた魔人を連想されることもあるが、そうではない)どの程度その元素に関して能力を持っているかはゲーム等によって様々で、例えばファイア・ジャイアントはD&D系では火炎への耐性をもつのみで、火炎のオーラやブレス等は持たないが、RPGによってはこれらを持っているとする場合も多い。伝承では天変地異は「巨人が投げる岩」(最も原始的な飛び道具といえる)となぞらえられていることが多いためか、また直接には前述したトールキンの描写の影響もあり、D&D系やその流れのジャイアントは、石を投げる能力がある場合が多い。NetHackでジャイアントが岩を飛ばすのみならず、倒すと岩を残したりするのもこの反映である。
*bandにおけるジャイアントは、D&D系同様の多種類が登場し、前半なかばから中盤にかけての広域を占める。他のRPGでは中立〜友好的とされるものも、普通に「敵」として出現する。ジャイアントとして一般的に予想される直接攻撃力などよりも、*bandではファイア・ジャイアントやクラウド・ジャイアントなどは火や電撃の耐性のみならず、オーラも持っているのが、装備を傷つけたりとかなり厄介な敵となりうる点である。
→半ジャイアント
ジャッカル Jackal 【敵】
ジャッカルは死肉漁りで知られる(実際はそう信じられる動物らは大半は小動物などを狩って生きているが)犬に近い小型の野生動物で、狼と狐の中間ほどの体躯とやや大きな耳、黄褐色の体を持ち、東欧・インド・アフリカに生息する。その振る舞いから、古来より奇異な目で見られ、生息する地域においては変わった伝説を持つ。コヨーテが(狼に比べて)トリックスターである他方、より大型の肉食動物の隙間をかいくぐり、死肉を漁り、他者の獲物を奪い、他者の殺した生物を盗み、放浪するといった習性は、卑劣なイメージを重ねられたり、逆に聖化されたりもする(NetHackのデータベースにもある、獣王の下碑なり裁判官なり)。文芸においては、「血に飢えたもの」(下劣な戦闘狂、暴力主義者、また特に性欲や食欲を求める野獣などではなく、さらに「無意味な」暴力行為自体などに渇望する者)また特に、文明社会において見苦しい世渡りを行ってまでそうした主義で生きようとする「孤独な放浪者」に対する暗喩であることもある。
「ちがう、ちがう」ジャッカルはいった。「おれはアンバー家のファンだよ。そして、”混沌”家のファンでもある。王家の血におれは魅かれるんだよ、”混沌”の王子さん。そして、抗争というやつも好きなんだ」
(ロジャー・ゼラズニィ『混沌の宮廷』)
Roguelikeにおいては、最初期のUNIX-Rogueの、バージョンによっては序盤モンスターとして登場していた(ローグ・クローンには登場しない)ことに端を発して、卑小ながらも肉食動物として、最序盤の敵として登場するのがはるかな伝統であり定番である。また倒れたおびただしい序盤@の死体を漁る迷宮掃除屋でもあるのかもしれない。NetHackでは序盤の貴重なタムパク源であり、栄養値は非常に少ないが喰えるものならとばかりに喰われる筆頭である。
*bandでは動物の常で集団で現れ、スピードを持ち[Z]系では倒しにくい動きをするが、攻撃力があまりにも低いのでよほど虚弱なキャラクターで油断しない限りはそうそう危険なものではない。序盤の鍛錬と共に、この手の動物に対する戦法の練習としてプレイヤーも鍛錬しておく相手といったところである。
シャドウ・シフト Shadowshift 【システム】
出典:影の転移。アンバーシリーズの根幹をなすギミックのひとつ。あまたの並行世界のうち、実体と言える世界は真世界アンバーのみであり、他の無数の世界は真世界が投げかける”影”に過ぎない。その”影”から”影”へと移動するパラレルワールド移動術である。
この”影”同士は、量子力学の多世界解釈のごとく、よく似た並行世界(元は同じ世界の別の可能性から分岐したような)が隣り合って続き、「離れる」ほど違ってくるわけだが、シャドゥシフトを行なうアンバーの王族は、今いる世界とはほんの少しずつ違った要素を「想像」し「念じて」ゆくと、その少し違った世界へと移ることができる。それを繰り返して少しずつ変えてゆくと、最終的には全くの異世界に移動することが可能なのである。
この経過は、あくまで無限に存在する可能性の中からそれを選択するだけだが、一方で「望む世界を自在に作り出す」行為そのものでもあり、コーウィンに言わせるとそれは純粋に哲学的な問題だが、実際問題として特定の世界でアンバーの王族らはその場を自在にコントロールし、しばしば世界の創造主・神と崇められている。
しかしながら、特に王族自身より強大なもの(「少しずつ違った要素」では済まないほど強力な存在や、他にシャドゥシフト能力を持つものなど)はそうそう自由に操作することはできない。また、アンバーの真世界は「実体」であり、影ではないため、真世界の中では影の移動はできない。
簡単な変更(石ころの有無など)はその場で可能だが、次元的移動と等価の物理的移動をした方がより効果的なのか、移動しながら行なった方が大きく要素を変更できる(その場でぐるぐる回ってもいい)。アンバーの王族がシャドゥシフトしながら歩行し、他世界へ移動するのを”地獄騎行(ヘルライド)”とも言う。
一般にパラレルワールド物の物語は、量子力学の多世界解釈に認識論・存在論などを呼び込むが、アンバーシリーズは意識と認識力に従う「人間原理」的な解釈の最も典型的なものを提示する。想像しうる世界にこそ、到達できるのである。
システム:*bandでは、[Z]以降、種族アンバライトのレイシャルパワーのうちひとつとしてこの「シャドウ・シフト」が取り入れられている。自由に世界を変更できるわけではなく、「階を再生成」する能力である。別の可能性(階生成)の結果である並行世界に移る、というところだろう。*bandの世界は、アンバーにごく近いか、きわめて”影が濃い”ため(手っ取り早く言うと、アンバーの王族やその他関係者が多いと、その世界は影でなく実体に近い性質を持ち移動が難しくなる)世界そのものは中々変更できないとでも考えるべきだろうか。実は、アンバーに詳しい海外ファンの間では、[Z]のこういったアンバーの実装方法は賛否両論であるらしい。
完全に余談だが、プレイヤーのアンバライトにはこの「シャドゥ・シフト」の他に、「パターン・ウォーク」という能力回復の、計二つのレイシャルパワーがある。アンバー未読者には、このどっちがどっちの効果なのか覚えづらく(または、覚えていたとしても操作ミスなどで)これを相互に間違えたという報告例はあとをたたない(サーペントにあと一撃の所で、回復しておこうとして間違って階を再生成、悲嘆のあまりQy@等)。しかしアンバーのファンとしてはこれらの名前は外せないのでとりあえず我慢する。
→アンバライト
シャドウ・デーモン Shadow Demon 【敵】
シャドウ・デーモンはAD&Dのモンスターの一種で、影のような人間型(アンデッドのシャドウにも似ているが、アンデッドではない)をしたデーモンの一種である。最も下級のデーモンであるメインズ(→古代の死霊)から進化し、デーモンのエッセンスが「影の形」(AD&Dには他の生物や魔法を真似る一連の「影魔法」が存在するが、それと同種であろうか)にとらわれるとこうなるというのだが、あまり詳しい説明はない。中レベルのモンスターで、闇や恐怖の呪文を使う能力、物体を通り抜けて攻撃する能力、また生物に憑依する能力などを持っている。
*bandに登場するものも、Gシンボルで登場するがアンデッドではなく、おそらくはこのAD&Dのモンスターが元だと思われるのだが、アンデッドのような能力吸収などの能力が多く、かなり違う特性ともいえるので、他の由来もあるかどうかは定かではない。42階というノーマルモンスターとしては高い方のレベルであり、常に集団で壁を抜けてくることもあってかなり危険な怪物である。能力吸収の打撃と地獄の矢はいずれも危険だが、デーモンとはいってもそれ以外の危険な呪文は持たず耐久力もさほどではない。
邪舞邪舞鳥 Jubjub bird 【敵】
じゃぶじゃぶどり。ルイス・キャロルのナンセンス詩『スナーク狩り』『ジャバウォッキー』に言及される鳥とおぼしき生き物。『スナーク狩り』によると、その舞台とおぼしき孤島(キャロルの序文などから、おそらく『ジャバウォッキー』の舞台でもあると推測される)に生息し、めっぽう気が荒く、年中発情し、金と流行にやかましく美味な鳥だという。『ジャバウォッキー』の方では「気をつけるんだぞ be aware」としか触れられていない(普通これは併記される怪物同様、凶暴さに関するものだと思われているが、前述の性質を見るに、いったい何に気をつければよいのかは定かではない)。要は、ジャバーウォックやスナークやブージャムやバンダースナッチなどと同様の恐ろしい怪生物らしいという以外には、たいして重要な情報は与えられていない。(なお日本語で「シャンタク鳥」(→参照)とどことなく語感に共通点があるような気がしないでもないことが凄まじいまでに禍々しいが気付かないことにしておくのが無難である。)
なお、キャロルの造語の数々には、発想や語意のきっかけがあるていど解析できるものもあるものの、生野幸吉訳の『鏡の国のアリス』の訳注には、「ジャブジャブ鳥に関しては、作者もわからないと言っています。」などというあまりにも世も末なコメントがある。キャロル以降の文芸や芸術などで、これらのナンセンス詩の知名度により、やはりこれらの怪生物と並んで、諧謔や言葉遊びに「ジャブジャブ鳥」の名が出てくることは少なくない(例えば、小惑星9781番の名前にJubjubbirdがつけられている)。RPGでは、モンスターとして扱うにも正体不明ではあるが、T&Tのようにルールブックに正式に名前(だけ)が記載されている場合もある。
*bandでは[Z]以降ノーマルモンスターとして追加されている、これらキャロルのナンセンス詩の生物の一種である。「邪舞邪舞鳥」は『ジャバウォッキー』の数多くの和訳のバリエーションのうち、柳瀬尚紀訳の表記から採られていると思われるが、他の怪生物らは、この訳の「邪歯羽尾ッ駆」「蛮駄栖那ッ致」などが採られているわけではない。おそらく、この鳥に限っては「じゃぶじゃぶ」の間の抜けた字面よりは、漢字が選択されたのだろう。これら怪生物のどれもだが、階層としては肉体能力が割と高い強靭な怪物になっている。また屋外にも登場するのはともかく、レアリティがさして高くないのが*band世界の混沌ぶりを如実に示している。
シャーマン Shaman 【敵】
shamanは元々はシベリアの呪術師で、ケルトでドルイド、ヴードゥーでフーンガンといった地域ごとの呪術師の呼称のひとつにすぎない。しかし、土地神や神よりも霊格の低い精霊(先祖霊や自然霊であり、いわゆるエレメンタルとは異なる)もしくはトランス状態でこれら霊や神と交信するといった特徴の見られる宗教・呪術師の総称とされ(日本の神道、特に土着信仰を含む)さらには、かなり広義(厳密な宗教用語ではない)では原始的な宗教および呪術体系の総称のように用いられることがある。また、東西に共通して降霊は女性にウェイトが強く「巫女」の意が強い場合もある。感受性が特に強い女性の場合にトランスに入りやすいといった裏づけがあるためだが詳しい話は宗教学などの専門のサイトを参照されたい。
AD&D 2nd-3edのように、聖職者系のうち前記した「先祖霊・自然霊と交信するサブクラス」としてシャーマンを実際に詳細にデータ化している場合もあるが、大半のRPGでは、非文明圏における術者、「キャラクタークラスの魔法使や聖職者より限定された、非体系的な術者」としてシャーマンが登場する。特に多いのは「モンスター(ヒューマノイドなど)のスペルユーザー(特に聖職者)」がシャーマンと呼ばれる場合、およびクラシカルD&Dのようにそのためにルール化されている場合で、最も広義でのシャーマンの意がRPGでは用いられていると言えるだろう。
一方、とある和製RPGのシリーズでは、同じ「精霊」でもパラケルスス錬金術的・エレメンタルや妖精的精霊を使役する術者の呼称に対してなぜか「シャーマン」という語を選択している。これは、おそらく元々は海外RPGではドルイドやウィッカがカバーする自然魔法を、このシリーズでも「学術系」の魔法使とは別個の独立したクラスとして設定する意図であったが、クラス名を選ぶにあたってドルイドやウィッカといった史上に特定のイメージが強い(そして、海外FTはともかく日本では極度に認識の薄い)語を避けるため、それらよりは広義になっている自然術者のシャーマンという語を選んだと考察する意見もある(なおドルイドという語自体は、シャーマンの一派としてこのシリーズに一部使用されている)。しかしこのシリーズを鵜呑みにして、創作FTなどで「学術系のエレメンタル精霊術師」のことを「シャーマン」と呼んでしまっているものや、「シャーマン系」を、「魔法使系」「聖職者系」と並列するようなあらゆるFT世界設定に普遍的な魔法体系の種類であると頑として信じる和製ライトFTファンは多いようである。
*bandでは、おそらくクラシカルD&Dと同様に、特に主にヒューマノイド(オーク、オーガ、ついでにスケイブンなど)の社会における術者として、これらの種族のシャーマンが登場し、こうしたモンスターの集団の中に混ざっているのが通例である。一方、トロルなどのようにシャーマンではなく「プリースト」を擁する種族は、より高度な聖職者やその文化を持つと考えられる。これらモンスターのシャーマンが用いる呪文は、プリースト系とは全く同じではなく、マジック・ミサイルなどのメイジ系呪文も含まれており、これはシャーマンの用いる術が原始的で混沌とした魔法であることのみならず、それらの社会ではシャーマンがしばしばメイジとプリーストの区別がない唯一の術者であることも反映している。これらヒューマノイドのシャーマンは、強さとしては同階層の同族の戦士よりやや強いが、呪文内容もあっておおむねメイジやプリーストほどには注意を要しない。
シャン Shan 【敵】
シャガイからの昆虫生物。下級の独立種族、精神的な寄生生物。ラムジー・キャンベルの『妖虫(シャガイよりの昆虫)』で言及されるこの生物は、ハトくらいの大きさの昆虫に見えるが、足が10本あり、口が三つある。この生物は半物質的な肉体を持ち、知的生物の肉体を通り抜けて、脳にとりつき、精神を読み取ったり操ったりすることができる。彼らは元々惑星シャガイで高度な文化をもち、精神で操作できる機械を作り、アザトース信仰も行っていたが、惑星が寿命で崩壊したため、精神操作能力で他の異星人(ザイクロトル人(→参照)など)を隷属させながら宇宙を渡っている。「宇宙船兼アザトース寺院」に乗って地球に降りたものは、地球の大気が異質であったため、寺院を動かせなくなってしまい、そのまま地球にいるらしい。とりついての精神攻撃の他、「神経ムチ」のような精神を攻撃する機械も武器として使う。
*bandに[Z]以降登場するものは、打撃能力が全くなく、数多くの精神魔法を頻繁に使ってくることで原作通りが表現されたモンスターである。しかも、魔法系の生物である割に、クトゥルフ系怪物の常で妙に耐久力が高いので、名前だけでは正体不明(思い出を読んでもよくわからないと思われる)なことと相まって、かなりプレイヤーには不気味がられているようである。
シャンタク鳥 Shantak 【敵】
「しゃんたくどり」と読むと緊張感がないが、そうではなく「しゃんたくちょう」と読む。レン高原の鳥、レンのシャンタクとも呼ばれる。H.P.ラヴクラフト『幻夢郷カダスを求めて』のドリームランドにおいて登場するこの生物は、象よりも大きく、蝙蝠のような羽と馬のような頭があり、つるつるした鱗に覆われている(こうして見ると、どこが「鳥」なのか定かではない)。霜と硝石にまみれ、群をつくる凶暴な肉食生物だが、外なる神や旧支配者の奉仕者、異界生物の乗り物としてもかなりポピュラーであり、何度かこれに乗って移動する場面がある。なぜか夜鬼(夜のゴーント)が天敵である。後出のクトゥルフ神話系では、真空を移動する能力があるとされ、宇宙移動にも使われるが、放っておくと宇宙の中心に引かれて飛んでしまうので、最終的には乗り手もろともアザトースのもとに落っこちる、とも言われている。
[Z]以降に登場するものは、別に攻撃力があるわけではないのだが、動物系の常としてでもあるが、それにもましてかなりしぶとい。
獣人 Beastman 【種族】
出典:日本のゲーマーが「獣人」というとまず想像するイメージは、例外なく「動物と人間(ないし他ヒューマノイド)の中間形態の直立二足歩行人」であり、そのうち90%が「特定の動物の耳や尻尾だけつけた人間」である。その動物部分の構成要素は85%が猫(→フェルパー)であり、人間部分の構成要素は99.975%が美少女である(弊社調べ)。一方でTRPGゲーマーには「獣人」を、ライカンスロープやシェイプチェンジャー等、動物に変身する人間を指す「モンスター分類用語」として使うことも、またこの語義を主張する場合もあるにはあるものの、結局はRPGでのそれら変身生物の姿に対してすらも最初の方のイメージが重ねられるといった、どうしようもない状況も後を絶たない。「獣人」という語、この漢字二文字に対するイメージはあまりにも強いものがあり、これらとは別のものを指すとヘルプファイルに設定が明記されている*bandですらも、しばしば最初に挙げたイメージのようなものが先入観的に信じられてしまっている。かの@の溜まり場掲示板の「イメージ補完スレ」において、そのたびに反駁が入りつつも繰り返し「獣人」としてそれらのイメージ、こともあろうに森永こるね氏画のシャム猫ブロードソード少女が貼られたりもした事実がそれを非常に端的に物語っている。
RPG的世界における獣人・動物人は、(1)呪いや病で不随意に変形するもの(狼男など)、(2)血脈などで随意の変身能力を持つもの(トールキンのビヨルン一族など)、(3)本当に獣との中間的種族(D&D系のラカスタや、Wizardryのフェルパーなど。コボルドは違うことに注意)と大分できるが、Lycanthropが(1)、Shapechangerが(1)(2)(狭義では2のみ)、Werefolkが(2)(3)(世界設定によっては3のみ)と定義することもできるだろう。そしてBeastmanという語は、RPGにおけるこれらの語群のいずれとも見るからに別義であり(Beastという語が非常に凶暴な「野獣」「魔獣」を特定する単語でしかないため)原語では、おそらく混合されることはない。つまり、Beastmanが*bandでは「獣人」と訳されていることがすべての元凶なわけで、通例的な訳ではあるし横文字のままなのも変なので妥当ではあるのだが、誤解の原因であることは確かとしか言えない。
さて、ミニチュアウォーゲーム及びTRPG『ウォーハンマー』において、獣人こと「ケイオス・ビーストマン」は混沌の神らの勢力に飲み込まれつつある世界において、混沌の力の影響を受けて変容している亜人間を指す。それは部族をなしていることもある(さすがに人間社会とは隔絶している)が、混沌の影響の濃いこの世界においては人間の中に突如として生まれることも珍しくない。かれらは獣じみた肉体から想像できる通り、大半が常人よりかなり獣じみた知能しか持っていない。混沌の神と信者をはじめとする混沌の勢力において、彼らは混沌に身を売ったエリート戦士であるケイオスウォリアー(→混沌の戦士)と共に、また率いられてその最前線の尖兵となる。
つまるところ、かの二輪車を駆る「仮面の乗り手」が活躍する一連の特撮テレビシリーズにおける、悪の組織の「怪人」「改造人間」のイメージに近い存在であるといえる。また、それらテレビシリーズにおいては合成元となった生物のモチーフが明確である場合が多いのだが(ネズミ怪人ことスケイブンも一種であるといえるが、詳しくはその項目に譲る)混沌の獣人は個体によって幾種もの動物が混合しており、とはいえ大半は全体として「山羊」との中間を思わせる姿を持ち、そうでなくともほとんどがねじまがった二本の「山羊の角」を持っている。少数派ながら他の様々な角を持つものもおり、ことに角がないもの(人間に近いとも、また人間から生まれたものに多いともいう)は知能が高く、頭脳担当であるともいう。彼らは『ウォーハンマー』においても、成長ごとに変異を得てゆき、上位になればなるほどよりおぞましく強力に、変異で歪み捻じ曲がってゆく。そのまま強力に成長したものはケイオスウォリアー同様に混沌の覇者になったりデーモンへと昇格したりする可能性もあるが、能力的にも変異の「当たり」を引く可能性の低さからも、そこまで到達できる例はごくわずかであるのは言うまでもない。
とりあえず、『ウォーハンマー』と*bandのbeastmanに、この項目で最初に挙げたような猫少女やら獣娘やらのレッテルを貼ることは、どう控えめに表現しても「みすずちんの場合(→プラネター)」以上の行為であり、とりあえずそれでも個々の脳内でどうイメージするかはまったく自由ではあるのだが少なくとも元イメージを知るもの(この項目を読んだプレイヤーを含む)にそうした印象を与えることは重々念頭においておくべきだろう。
種族:『ウォーハンマー』世界の要素が取り入れられた[Z]において種族として追加されたひとつで、混沌の戦士(→参照)同様に「プレイヤーにギャンブル性を与える」ために追加されたのではないかと予想する。肉体側に有利な能力をもった種族なのだが、『ウォーハンマー』ルール同様、レベルが上がるごとに変異を得てゆく。自然、混沌の戦士の報酬よりも派手な変異となり、生い立ちからは最初から化け物じみた容姿が想像できるものの、レベルが10も上がればその容姿すらも原型をとどめている可能性はほとんどない。つまり、少し進めればこの獣人が間違っても「猫耳美少女」の類ではないことはわかる仕組みだが、なぜかそういう誤解が一向に減る気配がない。これほど上級者向けかつおぞましい種族にも関わらず、スコアサーバでは人気は上3分の1に入っており、なおかつ平均スコアがどん底に低い(下から二番目が人間、三番目が無印エルフ)ことから、種族の実像も特性も把握していない初歩のプレイヤーが手を出してしまっている可能性も高い。
→混沌の戦士 →混沌の獣人
重量 Weight 【システム】
ペーパーダイスのTRPGにおいて、重量を管理するのはきわめて煩雑ゆえに、ファイティング・ファンタジーのゲームブックのように「剣や盾のような大きいものを買ったらいままでの武器をひとつ置いていけ」というようないいかげんな判定になっているものや、完全にルールを設けずにイメージだけで判断とされているものも多い。しかし、それでもシステマチックな管理を重視して厳密な重量のルールが設けられているゲームは、むしろシミュレーションゲームの残影の濃い初期のTRPGにはことに多い。
コンピュータRPGになると、管理がシステム側任せになり煩雑さからは開放されるのだが、重量自体に縛られるのが鬱陶しいという理由で、採用しているRPGは少ない(その場合大抵、「持ち物欄が埋まるまで」といったものになる)。和洋ともに重量システムを採用しているものは、ことにシステム色の強いもの(日本では比較的初期のものに多い)となるのだが、中でも特に海外のフリーウェアRPGには、これら古いTRPG(D&D, T&T, BRPやロールマスター等)で蓄積された重量のデータをそのまま流用・参考にしているものも多い。Roguelikeの多くもその例にもれない。
NetHackではほぼAD&D1st/2ndのアイテムデータを重量も含めて参考にしており、余談だが、このため「鎧の重量が重過ぎる」という声を頻繁に聞く。NetHackの実際のプレイでは、ドラゴンの鱗鎧とそれ以外の鎧の重量があまりに違いすぎるので、他の鎧はほとんど実用にならず(重い鎧を着ることができるとしても、他の物品で重量は常に圧迫されるので)存在意義自体に疑問の声がある。AD&Dの鎧の重量が非常にきついというのは事実であるが、これはパーティープレイを前提にしているためでもある;非常に重い鎧を着るのは前線要員のみ、また多分に人外の腕力を持った戦士系(実際に18/01-100といった腕力は人間離れしたものと定義されている)を想定されているためでもある。AD&Dがリアル指向を謳っているため、史上の鎧の非常な重量と動きにくさを意識しているためもある(これに対して、より平易なルールのクラシカルD&Dでは、フルプレートでもかなり容易に行動・着脱できるなり、魔法の鎧は大幅に重量が減るなりと、プレイしやすさの方を重視していることを見て取ることができる)。現実の鎧と同様に、並大抵のキャラクターはそうやすやすとは重鎧を着られないが、同時に重装備できる戦士の人外ぶりを表現できるルールにもなっているわけである。NetHackに関しては、鎧の重量を下げるべきだという意見も多数あるが、こうした背景で加えられている鎧の重量を無造作に下げるよりは、あえて行うならばミスリル服の類のような、現実の鎧よりも「魔法的に軽い」ベースアイテムを幾つか追加し、従来の鎧の種類を単に減らす(生成されなくする)といった選択の方が妥当に思われる。
さて*bandにおいてはMoria以来、装備の総重量で行動スピードが減少する、武器の細かい重量に従って攻撃回数やクリティカル確率が増減する、重すぎる防具によってMPが減少するといった、コンピュータ管理ならではの緻密なルールとして反映されており、*bandのシステム色を他のRPGにもまして強めている一因である。魔法系のキャラクターが重い防具を着づらい点、奇襲は軽い武器でしか行えない点なども、主に重量をもとに再現されている。
しばしば疑問が述べられるのは、武器の重量がおかしい点、例えば剣が実際の重量に比べて明らかに重過ぎる点などである。これは、「重量」と表示されてはいるが、D&DやT&Tなどの概念でいうところの「荷重(エンカンブランス)」、すなわち重さだけでなくかさばりなど荷としての規模を示しているといった理由もある。しかしながら、武器の重量とその相互の関係に関しては、明らかにこれでも説明のつかない不可解な点(一部の槍が小剣より異常に軽いなど)も多い。
推測を挙げると、まずは*bandの武器の重量はそれ自体が攻撃回数と([V]以来の伝統システムでは)クリティカルの確率に直結していることから、それに伴って、実際の荷重ではなく純粋な「システム的な武器の威力表現」のために重量が操作されている側面がある。槍に比べて妙に重い小剣は、やや攻撃回数が少なくなり、かわりにクリティカルが出やすいことを狙っているともいえる。また、異常なほど重い深層の両手剣、粉砕のメイス(→参照 これ自体は別に巨大武器などの類ではない)やカオス・ブレード等の武器は、戦士系以外には有効に使えず、また強烈なクリティカルを出すという表現が狙われているとも言える。(ただし、グロンド(→参照)に関して言えば、これは本当にAD&Dの「巨神の槌」の荷重を踏襲した線が濃厚ではある。)
もうひとつは、*bandの武器のデータは前身であるMoriaのものが流用、言ってしまえばこの中から抜粋されている、という点である。Moriaには(アーティファクト等がないせいもあって)ベースアイテムとしての武器の種類は後の*bandの大半のバリアントに比べても遥かに膨大なものがあった。その個性づけのため、よく似た武器に対して重量(と、主にクリティカル率)の微妙な差、あるいは故意に大きな差をつけることによって性質づけが行われていた側面がある。*bandでは[V]においてその中から一部のみを抜粋し、その後にいくらかを追加、また多くのバリアントにおいて(おそらく、抜粋されたそのデータの重量のみを参照して)武器を多数追加した結果、現状のようなちぐはぐな部分のある武器相互の重量関係が出来上がったと思われる。あるいは整理しなおすことにも意味があるのかもしれないが、ことに固定アーティファクトがなかったりダイス目の小さい武器は使われる機会自体が少ないという背景もあり、しばしば不自然を感じる声が上がりつつも、Moria以来の伝統的にそのままになっているというのが現状であろう。
修行僧 Monk 【クラス】【敵】
出典:monkとはギリシア語のmonachos(単独で立つ者)に由来し、元々はベネディクト派修道院をはじめとして特に禁欲的な修養をおさめる修道士を指した語であるが、以後はより厳密な修行のイメージに合致した、少林寺をはじめ東洋の各宗教寺院の修行僧を指すことも多くなっている。西洋からのmonkの「一般的」なイメージは、チベットの僧院のような人知れぬ奥地で自給自足と厳しい修行の日々を送る。代表的源流である少林寺とその修行内容自体は、達磨大師の教えた功夫(格闘技だけでなく、肉体と精神の全面的な鍛錬術)に由来する説といった話からはじめるとこのサイトの90%が埋まってしまうっていうかめんどいから詳しくは格闘技の専門サイトでも参照されたい。こうした神秘の格闘家「モンク」が西洋人に意識されるようになったのは、アクション映画など以前に既に近代のスパイ作品頃から見られ、それは清朝によって崩壊させられた僧院や宗教結社の生き残りが、当時中国に介入した諸外国も交えた地下戦において暗躍するようになったあたりがきっかけであるとも言われる。
RPGにおいてMonkのクラスが扱われる由来は古く、オリジナルD&D(白箱)の追加ルールのBlackmoorサプリメント(1975年)、すなわちTRPGそのものが作られた翌年にすでに見られる。クラスmonk自体を作ったブライアン・ブルームは、この最初のmonkをDestroyerシリーズ(1971-, 邦訳は『殺人機械』『レモ第一の挑戦』)にヒントを得て作ったとのことである(後のOriental Adventureのガイギャックスの解説より)。Destroyerシリーズは、米国諜報員レモがkarate(「シナンジュ」と呼ばれる架空の東洋武術で、破壊神シヴァの力に擬せられており、Destroyerのタイトルの由来である)を身につけ活躍する活劇小説であり、武術シナンジュは火器を含む武器をたやすく凌ぎ、銃弾を回避し、水上を歩くといった超常的な力を与える。さらにこのmonkは、AD&D 1stの最も基本のルールの1冊目(Players Handbook, 1978)の時点では、プレイヤーが通常に選択可能なクラス(東洋風世界等でなく、西洋風世界にも戦士や魔法使と同レベルで当然に存在するもの)として載っており、AD&Dの普及率のため、この時点ですでにRPG自体にきわめて一般的な存在となっている。
これらD&D系でのmonkは、素手防具なしで素手の打撃ダメージ及び防御能力がレベルごとに上がってゆくため高い戦闘能力を持ち、聖職者系のような呪文は使わない(又は主としない)が、自己支援ならそれに匹敵する特殊能力(敵の気絶や即死を含む)を多数備えている。総じて、以後のRPGのモンク像の基本的な部分は既にできてしまっている。これは、映画などのモンク像、それどころかモンクが「ファンタジーRPG」という世界で活躍するなども、最初から当時のプレイヤーが共通して容易にイメージできる事柄だった、ということを意味する。
なお、日本では「最初のTRPGであるD&Dの黒箱ではmonkでなくmysticという名前だった」などという説が述べられることがあるが、赤〜黒箱のCD&Dは最初のTRPGであるOD&Dより遥かに後出の簡略版ルールでしかない。黒箱(1985年)のmysticは実質、AD&Dのmonkを名前だけ変更したものにすぎない。CD&Dのmysticの詳細は「修験者」の項目を参照されたい。
ある意味では、「格闘家」はともかく、「修行僧」のイメージは海外の方が確立しているのかもしれない。Monkが登場する海外ゲームに対して、日本のプレイヤーからは、しばしば、「『格闘家』『武闘家』とすればもっとイメージ(昨今のアニメ・ゲーム)が作りやすいのに、なぜ『修行僧』などというクラス名になっているのか」という不満が聞かれる。だが、カラテ映画ならともかく、海外のファンタジーという分野で、「修行僧以外の格闘家」というのはまずあり得るものではない。これは海外では、修行僧のレベルほどの格闘技は修行僧の専売特許と考えられているからで、「忍術」を忍者でもない一般人がまず習得できないのと同様であり、ましてや、「素手で武器以上の攻撃力を持ち、あらゆる敵に対抗する」など、厳しい戒律を何もかも遵守して人生のすべてを修行・鍛錬に費やしている「修行僧」以外には不可能だというのが尤もな考え方である。しかしながら、海外ではこうした格闘技・修行の極度の神秘視にも伴って修行僧という言葉が用いられている側面もあり、日本のプレイヤーはそれに囚われることなく、格闘ゲームのキャラだろうが何だろうが想像して構わないだろう。また便宜上「素手」と表示されているが、あるいは木刀や竹刀しか使用しない(他の武器を入手しても使わない)ストイックな「兵法者」などを想像してみるのも面白いかもしれない。
CRPGに登場するmonkに目を向けると、初期にはデータ量が限られていた商業用のCRPGでは基本クラスに比べてかなり後出になることがあり、ファイナルファンタジー1、またWizardryシリーズでも#6(敵としては#5)等かなり遅れることになり、これらがモンク職そのものの起源等と日本では誤解されていることがあるが、細かいシステムを実装することの多い海外のCRPG、特にハッカー作やフリーのRPGでは最初期からそれほど珍しくなく、TRPGのスタンダードであるAD&Dに準拠して多くが実装されている。
ともあれ、ハッカー作のRPGでは最初期から、日本の商用RPGでもDQ(ぶとうか)やFF以後、少々クラス数のバリエーションが多いRPGならば、モンクや格闘家に相当するクラスは必ずといっていいほど入っている。システム的な話をすれば、装備ありの戦士系クラスとどういった差を持たせるかがポイントであるが、それはゲームによってまちまちである。戦士以上に戦闘に特化するもの、ダメージのみが大きいもの、クリティカルだけが出やすいもの(ある意味Wizardryのニンジャもこれであろう)、逆に弱い敵の掃討役なもの、必殺技などを持つもの、魔法や特殊能力が売りのものなど様々である。海外RPGではその修養の高さから罠や魔法に対して頑健で、また身軽なことから、盗賊の位置もあわせもつという解釈が目立つ。和製RPGでは上記した理由から「モンク」より単に「格闘家」となっていることが多く、結果として単なる戦士系で、武器戦闘系より汎用性に欠ける戦闘能力に偏重したものが多いといえる。なお、『ファイナルファンタジー』のモンクは、海外版(NES用等)では「monk」ではなくblackbeltやら何やらという名になっていることがあり、(monkと訳されていないということは)海外でイメージされるmonkのイメージとはあるいはこちらの想像以上に大きく異なっているのかもしれない。
クラス:[Z]から参画し、おそらく[V]の各クラスとは異なる味にするよう、なおかつ煩雑なところがないよう工夫されたクラスである。装備品は(レベルにもよるが)ある程度の重量以上を装備すると著しく能力が落ちるので装備できず、ごく一部を除き武器はほとんど扱えないが、レベルによって素手の近接攻撃力が上がってゆく。技能は(射撃も含めて)どれも中程度に高い。魔法は「自然」が標準的とされ、最も便利だが他の「生命」や「暗黒」も中々に使える([変]では「匠」も使えるが、魔法剣などが使えないのでうまみが少ない)。防具を中々装備できないので、耐性が揃いづらいのが最大の難点といわれた。
おそらく[Z]当時は、おおむね素手の戦闘能力は戦士や、多分にパラディンなどよりも若干劣る程度としてデザインされていたのではないかと考えられる(大打撃や相手を気絶させる等を除いても、である)。少々時代遅れな分類であるのを承知で言うと、修行僧は武具の簡易鑑定能力が戦士系のものではないため、元来のデザインでは非戦士系のデュアルクラスに分類されていたとも考えられる。しかし、[変]では、うってかわって、近接系の最強クラスと見なされるようになった(狂戦士は除くが、他の能力の便利さの差が尋常ではない)。そういう結果を招いた理由として考えられるのは、例えば、単純に「戦士」というクラスが[V]2.2.8から大幅に弱くなったことが上げられる。そして戦闘系全般の戦闘能力の若干の低下である。ごく一例であるが、[Z]ではヴォーパルブレードのレアリテイが低く、終盤必ずといっていいほど手に入っており、打撃系は終盤この攻撃力が得られることは保証されていたも同然であったが、[変]では極端にレアリティが上がっているため、最終段階での武器攻撃力自体の平均が下がったとも言える。また、装備が少ない修行僧が耐性を埋める手段も、アーティファクトの追加や新ベースアイテム等で、[Z]2.2.8当時よりもかなり揃えやすくなったと言える。結果的に、戦士の弱体化はともかくとして、それ以外の点はひとつひとつを取ってみれば細かい点であるが、それらが積み重なって結果的に修行僧を上に押し上げたことは間違いがないだろう。本来は癖のあるクラスであるべきなのだが、強力な打撃と中程度の便利魔法・技能が合わさった、最も強力かつバランスの取れた「戦士系クラス」となっている。
なお、O-combatの[Z]2.4.0以降では、打撃全般が弱体化して戦士などの強さが抑えられたが、モンクもかなり割を食っているので(ダメージの指輪が一切無効など)位置づけとしては[変]ほど良くなっていない。
修行僧に向いたクラスは、修行僧は装備制限から特に初期に耐性をそろえにくいため、まずはドラコニアン(種族で元素耐性が揃う)が感覚的に非常にプレイしやすいが、それ以外は肉体能力と魔法に関係する賢さ中心の種族となる。が、武器の場合ほど攻撃回数に対して腕力と器用さに神経質が求められるわけではないので(あった方がよいが)実は思うほど極端な差は出ない。また魔法の成功率はさほど重視されないため、中級者以上はバルログやゴーレムといった賢さが極度に低いクラスでも打撃技能を重視して選ぶことも多い。
敵:クラスで修行僧が追加された[Z]以降、敵としても多分に「修験者(Mystic, クラシカルD&DでのMonkに相当する名)」と差し替えられる形で追加された。緑衣、白衣、黒衣といった色はそれぞれ自然・生命・暗黒の領域を選択した修行僧がイメージされている。いずれも中レベルの敵だが、あなどれない攻撃力(とものによっては召喚)を持っており、[変]以降の修行僧クラスの強さに辟易しているプレイヤーは注意する値があるだろう。
→マーシャルアーツ →修験者
(祝福)の武器 (Blessed) Weapon 【物品】
出典:RPGにおいて武器の祝福一般に対しては一般に魔化の一種として様々な効果が与えられるが、しかし、ここでは*bandにおける効果、すなわち、プリーストや他一部のクラスが、刃のついた武器では(祝福)ブランドのついた武器のみをペナルティーなしに扱える、という点に関する話題に絞る。魔法の祝福一般については「祝福」「天恵の巻物」といった項目を参照されたい。
多くのRPGは、「プリーストが刃のついた武器を使えない(か、ペナルティーを受ける)」というルールを用いている。RPGの原型である初期D&D系では、一部聖職者や十字軍騎士が杖や鈍器を用いたという説話(流血や武装を避けるという建前や主義であったという俗説があるが明瞭ではない)からの発想でもあるが、実質上は単に戦士系よりも戦闘能力を落とすという純然たるゲーム的な理由で、(最も基本的な)聖職者クラスは鈍器のみ使用可能とされている。その後のRPGにおいても、剣に比べて若干不利である、選択肢を狭くする、単純にラインナップを差別化するといった主にゲーム的な理由もあってこれが踏襲されるが、聖職者がなぜ鈍器しか使えないのかの「実質的」な理由づけに関しては、ゲームによって様々である。筋の通らない理屈も数多く述べられているが、単純に聖職者の「戒律」でそれらの武器(鈍器)を使うなり(その戒律の内容自体に対しては述べられていたりいなかったりもする)聖職者に伝わる武術がその武器を使う単なる伝統であるなりといった説明もある。
一部のゲーマーの間で話題を呼んだものに、AD&D小説『プール・オブ・レイディアンス』のティール神の僧侶らの「剣の試練」のものがあった。ここで理由として提示されるのは、剣とは所有者に支配されるのではなく、所有者を支配する武器であり、ティール神の僧侶は神と自分と正義以外には支配されることは望まない、というものである。剣が所有者を支配するというのは、RPGやヒロイック・ファンタジーにおいて「剣」という武器が他の種類に比べて別格であり、しばしば主人公と同じかそれ以上に物語の中心となり、そうでなくとも、直接に命運を切り開く「力」となっていることを示している。AD&Dが明確に「剣」にそうした命運が託される世界であることを示しているともいえるし、聖職者は剣すなわち力をふるうのではなく、徳によって命運を渡る存在であるべきだという、RPGの役割(ロール)分担を直接に理由として打ち出した、ともいえる。(ただし、D&D3eになるとルールや設定が変わり、ティール(ティア)神のフェーバードウェポンとしてロングソードが聖職者にも推奨される武器になってしまったので、この説明は宙に浮いている。なお現在のD&D系ルールでは聖職者は剣を使えないのではなく、標準では使用能力(Feat, 特技)を持っていないだけである。)
一方、そうした特定の形状の武器を戒律で使えないというものではなく、そもそも聖職者は祝福・聖別された武器「のみ」を使えるという理由づけのRPGも存在する。例えば'Wizardry #1'では、司祭や教父が使えるものは、スタッフ等を除いた明らかな殺傷武器ではANOINTED MACEやANOINTED FLAILなど、ANOINTED(塗油による儀式を施された)の武器になっている。
物品:*bandのプリーストや一部の派生クラスは、D&D系のような鈍器のみをペナルティーなしで使用できるというルールと、(祝福)された聖なる刃物ならば使用できるという、折衷のようなルールになっている(なおクラシカルD&DやAD&Dでは、聖職者はたとえ聖なる武器、例えば聖戦者(ホーリーアベンジャー)でも刃物は使用できない)。これは、基本的にプリーストの打撃能力にペナルティを与えながら、一人で冒険するRoguelike系においては、(戦士が各種魔法道具を、メイジがある程度の武器防具を使用できるのと同様)どんなキャラクターおよびクラスにもさまざまな物品を使用できるチャンスを与える、という*band系の基本理念のひとつによるものだろう。(ただし、[Z]系以降は修行僧やスペルマスターなどアイテムの縛りが最初から多いクラスも多く、こうした考えとは別である。)
なお、そもそもの「刃のある武器でペナルティー」の理由づけに関しては、*bandの原型であるMoriaからあるルールで(祝福エゴはない)これのプリーストが単なる(D&D系などの)標準的RPGプリーストを模したもので特定の世界設定などはないため、そのままでは理屈の通る説明は出てきそうにない。「使えない」だけでなく、装備すると「ペナルティー」であるため、習熟していないといった一般的な説明も使えそうにない。結局、できるだけ一般的な説明としても、プリーストというクラスそのものが修行僧のように、「縛り」の戒律によって魔法などの力を引き出している者ら、と考える他にないだろう。
通常はBLESSEDフラグはそのままの「(祝福)」エゴアイテムのほか、聖戦者や*滅邪*の武器にもついているが、アーティファクトの刃のある武器にもこのフラグがあるものが多い。ただし[V]の時点では、アーティファクトではことに剣系の強力なものには、意外にBLESSEDフラグは少ない。かわりに斧や槍ではアイヌア由来の武器など(→ウルモ槍 →エオンウェ斧)に多く、単純にその名前から聖なる武器とされた意外に、プリーストはリンギルのかわりにこれらを見つけることを想定されているともいえる。[Z]以降のプリーストには、魔法その他で武器に祝福フラグを与える手段がある。
→聖戦者の武器
修験者 Mystic 【敵】
日本で言う修験者(しゅげんじゃ)とは修験道の修行者、いわゆる「山伏」を指す。修験道とは基本的には真言密教と共通しながらもより呪術的、原始実利宗教的色合いの濃いもので、修行者本人が通力を得ることを目的としつつ、ちょうど海外のシャーマンのごとく文化的・宗教的に未発達な地域に対する諸々のバックアップとして機能していたという日本文化の一面を形成している。が、修験道に関してはこのあたりにとどめておく;というのは、ここでの「修験者」という語は日本語の修験者をそのまま指すのではなく、どうも[V]のMysticを訳するための苦肉の策に過ぎないと思われるからである。
Mysticとは、クラシカルD&Dのルールに存在するモンスターおよびキャラクタークラスで、内容的にはAD&DのMonk(→修行僧)とほぼ同じものである。ただし、Monkという語は、元来は特定の修道院宗派を指すものであったり、あるいは東洋系の要素が存在するファンタジー世界にしか存在できないもので、ファンタジー一般のクラスおよびその名としては相応しくないのではないか、という意見がAD&Dプレイヤーからは多々見られた。クラシカルD&DでMysticすなわち「不可思議な能力者」「秘伝能力者・神秘家」というような意味の語がとられたのは、より一般的に使用できる名を選んだのか(語自体は耳慣れないものだが)またクラシカルD&Dのオフィシャル世界であるミスタラ(ガゼッタワールド)の純中世西欧ファンタジー的世界観に合わせたとも考えられる。
なお、AD&D 2ndでは前記の意見を踏まえてMonkは基本ルールから外されているが、RPGの裾野が広がり又Monk自体もさらに一般化したせいかD&D3eでは再び基本クラスに戻っている。またMysticという語はAD&Dや3edで使われることもあり、この場合はMonkに限らず特定の風変わりな宗派の修行者を指していたりすることもある。
[V]や同系のバリアントでは、格闘家の敵としてMonkではなくこのMysticの方の語が選ばれている。この訳語に関しては、「Mysticイコール山伏」ではなく、Mysticの語義には強いて言えば山伏も含まれるという程度であろうが、「修験者」という字面そのものは、そう悪い訳ではないように思える。修験者・上級修験者・免許皆伝者などが登場し、特に上位のものは魔法・打撃ともに相当に手ごわい。一方で[Z]系ではMonkがキャラクタークラスとしても存在するため、魔法などに差はあるもののよく似た「修行僧」が入り、修験者はいなくなっている。ただし、[変]では再び取り入れられ、両方が混在するという状況になっている。あるいは[変]の修験者は本当に山伏なのかもしれない。
シューティングスター Shooting Star the Red Dragon 【敵】
出典:火竜山の魔竜。クロスメディアの和製ライトFTの先鋒『ロードス島戦記』に登場するドラゴンで、ロードス島に住む五色五匹の古竜(エンシェントドラゴン)の一体。
この五匹の古竜はかつて古代王国の魔術師が使役し、それぞれアーティファクトを守護していた。マーモ帝国の暫定指導者である黒騎士アシュラム(→参照)が、シューティングスターの守る「支配の王錫」を統治に役立てるため欲するが、彼を阻もうとしながらもやはり火竜に国土をおびやかされた剣匠カシュー王が一時協力し「その他大勢わらわらの冒険者ども」と共に火竜と戦う。
当初の設定や、登場時にカシューの軍隊を焼き払う描写などは、まさにドラゴンの脅威かくやといった画面が出ているが、肝心の冒険者たちが立ち向かう最後の戦いはNPC(非プレイヤーの脇役)が主役に立ちすぎている点のみならず、リプレイにせよ小説にせよアニメにせよ、スケールが小さい物足りない描写を出ることができず、非常に呆気ない。ある意味『ロードス島戦記』最大の見せ場にできる所であったろうにと惜しまれる一方で、ドラゴンのデフレーションの一端を担い、所詮は和製FTの限界かと諦観させる面もある。
シューティングスターは五匹の中では二番目の強さ(最大のものは金鱗の竜王マイセン(→参照)である)だが、最も獰猛なものとされ、火竜山と呼ばれる火山に住む。これは、『ロードス島戦記』が最初はクラシカルD&Dのリプレイであったため、5色の竜の序列がD&Dのデータにそのまま従い、レッドドラゴンがゴールドドラゴンに次ぐという位置づけの名残である。
なおTRPG『ソードワールド』のデータでは、かなりの紆余曲折を経て、ロードス島では「五匹の古竜」と呼ばれているが、実際はマイセンとシューティングスターのみが古竜(エンシェント・ドラゴン)であり、他の三匹はエルダー・ドラゴン(古竜より大幅に劣る種族)であるとなっている。これは、要は元々クラシカルD&Dのリプレイから発したロードス島戦記が、『ソードワールド』のルールが整理されていない頃から小説化・CRPGゲーム化などが行われたため、生じた矛盾点を無理につじつまを合わせようとして起きた混乱である。
なおリプレイ時の「火竜山(ファイアドラゴン・マウンテン)」は、かのゲームブックの「火吹山(ファイアトップ・マウンテン)」の模倣ではないかという糾弾説があるが、そうであるにしろないにしろさして深い意味は認められない。
敵:*bandでは、もともとSBFband([Z]2.2系をベースに、デイヴィッド・エディングスの『ベルガリアード物語』を中心に、OVA版の『ロードス島戦記』も加えたバリアントである。未訳)に登場していたものである。筆者(フェリアナス)が[変]の開発最初期に掲示板においてこのバリアントを紹介したところ(→アルグロスの項目参照)、このバリアントに登場するロードス島戦記のモンスター、アイテムが多数[変]に取り入れられたものである。
SBFbandでは、『ロードス島戦記』の物品・モンスター共に、かなり*band内で強力なデータとして扱っており(『ベルガリアード』も指輪に迫るスケールの世界設定なのだが、SBFband内ではロードス由来のものの方がむしろ強力である)シューティングスターら「五匹の古竜」も、上級ワイアームに迫る能力を持っている。なぜか異様に弱いアルダ系のドラゴンらと比べ、「ユニークドラゴン」としてはかなり強く、面目を保っている。真の上級ワイアームのような召喚も上位元素ブレスも持っていないが、その攻撃力と火炎攻撃のみでも充分に強敵である。なお、なぜかSBFband当時から[変]でも、五匹の古竜には肉体能力、階層にまったく差がない。
[変]ではシューティングスターは特に、阿蘇山ならぬダンジョン「火山」の最深階を守るという、重要ユニークの一体である。守るのは支配の王錫ではなく、魔力の嵐の杖である。
酒呑童子 しゅてんどうじ 【敵】
大江山の鬼の王。『御伽草子』によると、蛇神の落し子で大江山に住み着き美女と酒を奪っていたが、源頼光と四天王によって毒酒に酔わされ退治される。
説話によっては、酒呑童子は「山賊の首領」となっていることがある。頼光がそうした名の山賊の退治を行ったという記述は他にもあるのだが、頼光は手配を行ったのみで(摂津源氏は当時は貴族化していた)実際に討伐に出てはいないようである。
山賊であったにせよそれが発展したにせよ、酒呑童子伝説の由来には様々な説がある。有名なのがその容貌や嗜好の記述から、漂流した外国人やその混血だったという説、またはその恐れや風説が発展した等である。地元では悪役としてのみならず人気があり、供養なども行われる。特に、蛇神の落し子というのは、決まって毒酒で退治される大蛇伝説で、ヤマタノオロチのような土着の怪物神が大和神に淘汰されるものに、由来するか、後でこじつけられたか、どのみち合流しているように見える。なお、鬼(他も含め、山賊かもしれないが)にしばしば「童子」という名がついているのは、元服髪に結わずに童子髪のまま乱しているため、という。
余談だが、国宝には、酒呑童子を斬ったという逸話を持つ「童子切安綱」という名刀が現存している。例えば、江戸時代に格付けされた「最上大業物」のうちさらに切れ味の面で最高とされる「長曽禰虎徹」の作のものは「二ツ胴(罪人の胴体を斬る試斬で胴体を重ねて2体分斬ったこと)」とされ、さらに物によっては三ツ・四ツ胴などという話が伝わることがその圧倒的な切れ味の形容として引き合いに出されるが、対して童子切安綱は「6体」の胴体を両断しさらに下の台まで割り裂いたという説話があり、風説にしてもあまりにもスケールが違いすぎる。説話の真偽はともあれ、この安綱は桁外れの上作であり、例えば正宗や菊一文字は幕府や朝廷が値をつり上げた部分もあるのだが、この刀は見るからに造りの時点でその必要すらない出来のもので、後に逸話が付け加えられたものだとしても、そのあまりの刀の出来に伴うものに相違あるまい。
[変]に追加されているのは、似たような鬼退治伝説の『グレンデル』をベースにしているようである。(頼光四天王のひとり渡辺綱が退治した、羅生門の鬼の方がグレンデルには似ているが。)同じようなデータで階層が深くなっているが、元のグレンデル自体が階層不相応に凶悪な攻撃力を持っているので、深い階層で出会っても中々手ごわい。
シュド=メル Shudde M'ell 【敵】
旧支配者。地下に潜むもの。ブライアン・ラムレイの著作に登場する地下の穴掘り怪物クトーニアン(→参照)の、体長1マイルに及ぶ最大の個体。TRPGのCoCルールでは平均的な成体クトーニアンのさらに3倍ほどのサイズを持ち、単独でマグニチュード3.5の地震を起こす能力がある。無論、通常のクトーニアンが持つESP能力も持っている。
配下のクトーニアンと共にガールンや地上のドルイド信仰などで崇められ、グレート・オールド・ワン(神性)として扱われている。しかし、例えばこのルールでは、「深きもの」が巨大に成長したとされるダゴン(実在伝承の海神でもあり、一般的クトゥルフ神話では旧支配者とされる)が神性にはなっていないにも関わらず、同様の「通常生物の長老」にすぎないシュド=メルがなぜ神性とされているかの根拠は定かではない(あるいは、こちらはクトゥルフと落とし子(→参照)の関係のようなものかもしれず、元々クトーニアン自体がシュド=メル神の落とし子なのかもしれないが)。なお、d20版CoCルールではダゴンも神格であるのみならず、d20ルールでの神位(ディバイン・ランク)はシュド=メル(ランク1)よりさすがに有名なダゴン(ランク2)の方が高い。
*bandでは[Z]系以降登場し、旧支配者としてはさほど高い方のレベルではないものの、地震打撃を行ってくる生物の例にもれず地震の中で戦うとかなり厄介である。同族やデーモンの召喚能力を持っているため、クトーニアンが出てくると増殖地獄に陥るし、階層が近いナイトクローラーなどが出てくる可能性も高い。中盤レベルといえど落ち着いた対応が必要になってくる。
→クトーニアン
シュブ=ニグラス Shub-Niggurath, Black Goat of the Woods 【敵】
出典:外なる神。千匹の仔を連れた森の黒山羊。いわゆるクトゥルフ神話で、多くの神や旧支配者の「母神」とされる根源的な重要神の一体。
H.P.ラヴクラフトは書簡の中で、アザトースを宇宙の根源とする他に、ついで混沌の端末であるナイアルラトホテップ、時空・エネルギーの父性的存在のヨグ=ソトース、そして物質的な母性的存在のシュブ=ニグラスが三体並んで特に重要な存在としている。
が、このうちシュブ=ニグラスに関しては、実際はラヴクラフトのストーリーの中に直接に登場したり描写されたことはなく、その名前が(重要神らしく)呪文や詠唱にきわめて頻出するのみである。「イア、シュブ=ニグラス! 千匹の仔を連れた森の黒山羊よ!」という呪文がそれであり、ここから、クトゥルフ神話では「森の黒山羊」がシュブ=ニグラスの二つ名であり、外見的・性質的にそのイメージが重ねられることが多い。しかし一方でこの箇所は(和訳のみならず)「森の黒山羊に千の幼き贄を捧げよ」と解釈することもでき、この場合、ここでの黒山羊はオカルトに頻出する、別の魔神もしくは悪魔の一般的な呼称で、必ずしもシュブ=ニグラスを指していない、とする説もある。
黒山羊は現実のシンボルとしても、ドルイド信仰や、またキリスト教系の魔道・黒魔術によく用いられる(これは繁殖力が強いためといわれる)。クトゥルフ神話内では、これらやドルイド信仰、また山羊・羊頭の神(ギリシアのパン神やサテュール、それに発する各地の土地神なども含め)はシュブ=ニグラスの信仰が形を変えたもの、とされるのが通例である。シュブ=ニグラス女神自身の姿はラヴクラフトは描写したことがないが、この解釈にも従って、これら黒山羊の神の像画と似たものであったり、参考とされることが多い。『クトゥルフの呼び声』RPGでは、クラーク・アシュトン・スミスの描写する「あらゆる生命を生み出す巨大な雲状の塊」をベースに、山羊の角や足を思わせる器官を主に形成する、という解釈になっている。際限なく生命を産み落とし続け、その代表が「黒い仔山羊」であり、この存在もクトゥルフ神話・RPG上では母神の曖昧さに起因する複雑な事情を伴うが、詳しくは独立したエントリーを参照されたい。
敵:*bandには[Z]以降91階の深層ユニークとして登場する。クトゥルフ系の深層ユニークの常でもあるが、設定上でもありやはりユニークやデーモン召喚系をはじめとした充実した魔法と、上位元素ブレスや能力奪取などの攻撃をあわせもっている。こうした外なる神らは、『クトゥルフの呼び声』ルールブックでは「装甲がない」場合が多く(要は「物理的」な防御手段は必要としないというだけなのだが、どちらにせよ普通は近づいただけで発狂必至なので助けにはならない)その反映なのか、*bandでは耐久力が比較的低くなっており、それが弱点といえば弱点である。が、シュブ=ニグラスはどういうわけか電撃や冷気のオーラを持っており、さらに能力奪取攻撃の威力も大きいので、あまり接近戦は気が進まない。
→シュブ=ニグラスの黒い仔山羊
シュブ=ニグラスの黒い仔山羊 Dark young of Shub-Niggurath 【敵】
上級の奉仕種族。通常は単に「黒い仔山羊」と呼ばれるが、その名の通り「千匹の仔を連れた森の黒山羊」と呼ばれる外なる神シュブ=ニグラス(→参照)の、代表的な落とし仔とされる怪物。
太い荒縄のような黒い触手が寄り合わさり、上部はその触手が乱れ逆立ち、下部は太くなって山羊の蹄のようになっている。一方で、上部が枝のように、下部が根のようにも見えるので、立って歩く樹木のようでもある。
この怪物は、ラヴクラフトの最若かつ最も純粋に直弟子といえる、ロバート・ブロックの著作『無人の家で発見された手記』(典型的なクトゥルフ神話かつホラーとしてのまとまりがよく、入門にも向いている傑作である)に登場するもので、作中では実は「ショゴス」(→参照)と呼ばれている。ショゴスはラヴクラフトによると「古のもの」(→参照)が作り出した無定形の生命体であり、外なる神や旧支配者の眷属や奉仕種族とは本来あまり関係がない。ブロックは、無定形のショゴスが森の中でこうした姿をとるようになったものが、生贄を要求し崇拝され、木を崇拝したドルイドなどの信仰とつながりがある、という設定にしたのではないかと思われる。
それでは、なぜこの作品での「ショゴス」が現在シュブ=ニグラスに関連づけられ、黒い仔山羊と呼ばれているのかといえば、それはCoCルールブックが出典であると言われている。ブロック作中の「森に住む」「血の生贄を受ける」「古来のドルイド(地母神)信仰に関連する」といった点が、むしろシュブ=ニグラスに関連する生物に適すると見なされ、ラヴクラフトをはじめとして諸作でもかなり不明瞭な存在であったシュブ=ニグラスの設定を補強するものとして、拡大解釈されたのではないかと推測される。また、ラヴクラフトが用いている「ショゴス」という語は、古のものの作ったそれだけではなく、ある意味、奉仕・独立種族(人間と別の法則で構成されたもの全般)やそれに関係する事柄の総称と解釈できないこともないので、ブロック作品と辻褄が合わないこともないかもしれない。CoCの解釈はかなり無理やりなものであるが、クトゥルフ神話全般、互いにこうした行為が頻出し、その中でも知名度・共通認識が比較的広まっているものがゲーム独自であれ何であれ定着してしまうのは避けられないものがある。
CoCルールブックのアイディアソース章のキバヤシのような解説によると、シュブ=ニグラスとはアラビア語のshabb(若者)とラテン語のnigritiae(暗黒)の混成語であり、「シュブ=ニグラス」自体がdark-youngの意であり、元々はむしろ母神の方ではなく黒い仔山羊を指していた語であると解釈している。特に外なる神は、自身が人の前に現れることよりも奉仕種族を司祭あるいはじかの信仰対象として遣わすことが多いので、主に人間にとっては仔山羊が崇拝対象であり、また外なる神の中でもシュブ=ニグラスが特に不明瞭な存在なのはこの性質が特に強いためとも推測できる。
*bandでは中程度の階層のデーモンとして登場するが、'#'シンボルなのは「壁」ではなくエントやフオルン同様の「木」を示している。CoCに従って「腕力吸収」の能力が表現されている。さほど危険な能力はもっていないが、クトゥルフ系の敵の例にならって無駄にしぶとい。
→シュブ=ニグラス
シュモクザメ Hammerhead 【敵】
撞木とは鐘をつく道具で、例えば巨大な釣鐘に付属する釣り下がった太いものも指す語だが、ここでは小さな鐘を叩くための、超小型のハンマーのようなものが頭についている仏具を指す。撞木鮫とは、その名の通り、頭部がその撞木のような形になっていることからの名である。(英語のHammerheadもほぼ同じような呼び名である。なお、この魚の形状を思わせるものに対して、または単純にこの語の「語呂のよさ」から、実在・架空の兵器や機械などの名としてHammerheadが使われることがかなり多い。)具体的には頭がハンマーのように左右に伸び、その先端に眼があるというかなり奇妙な姿である。この眼には、単にひれと同様に働いて水深を一定にするのに役立つという説や、感覚器官が集中しており左右に離れていることで(距離をとるなど)有利であるなど、諸説があるという。大きなものでは6mになり、しばしばサメに珍しく群れを作ることでも知られる。主に魚類を捕食し、人食い鮫としてはさほど有名ではないが、人の被害例も少なくはない。
*bandでは、水地形の追加された[Z]から見られ、階層としては白鮫よりも浅いにも関わらず、攻撃力も高く、やや強靭である。ただし、一般のイメージと異なり、*bandではなぜか概して鮫よりも鯨の方が危険であるため、このシュモクザメも水系のモンスターとしては低階層のものにとどまっている。
ジュリアン Julian of Amber, Master of Arden Forest 【敵】
九王子。アーデンの森の主、アンバーの狩人、牧神。フィオナタソハァハァ同盟「名誉会長」もしくは「殺す奴リスト筆頭」。アンバー(と、周囲の世界)に広がる広大な森、アーデン(シェイクスピアに登場する森だが「エデン」を捻ったものと言われている)を守っており、部下や愛馬『明の明星(モルゲンスターン)』号をはじめ鷹、猟犬、ひいてはヘルハウンドなど、数多くの森の動物を従えている。黒い髪、青い目、無気力そうな血色の悪い顔色、頑丈な白い小札鎧(→「ジュリアン鎧」参照)。ゆったりとした、どこかうまく喋れないようにも聞こえる独特の喋り方。
兄弟の中では比較的、突出した才能や能力を持たず(もしくはあっても明らかにせず)冷淡・無気力・常に無表情で、何を考えているかわからない。しかしコーウィンとは当初非常に仲が悪く(ほとんど一方的にコーウィンが不当に侮辱したためなのだが)、愛馬のはずの「明の明星」号を、コーウィンの古着を着せた下男に虐待させ、「明の明星」号がコーウィンを見たら追いかけ回すように仕立てるなど、陰謀が茶飯事のアンバーの中にあってすら桁外れに陰険なことをやる(これで女性なら最近アニメ方面に見られる寡黙・ミステリアス・腹黒い系ヒロインだったかもしれないが)。前半シリーズでは、ケインと共に(コーウィンにとってはいけ好かない)エリックに従う立場をとり、エリックの陣取るアンバーの宮廷を守り続けている。
コーウィンがデアドリに対するのと全く同じ、フィオナへのあからさまな好意を公然と露にし(しかし、フィオナ側は、つれない態度でもないが底はあくまで冷淡である)オベロンが兄妹婚を禁じているのが不満だとコーウィンに述べる。他でもない、[Z]のモンスターの思い出解説のフィオナの項目は、元は原書のジュリアンの賞賛の言葉から採られているものである。(思い出の方の訳は邦訳版ではなく、板倉氏の訳文である。)
「しかし、おまえはアンバーで、フィオナにやけに好意を示すじゃないか」ぼく(コーウィン)はいった。「実際、彼女がそばにいる時のあの甘い態度は、少し度をすごしているぞ」
「もちろん」かれは笑っていった。「フィオナは昔から大好きだ。彼女はたしかに一番きれいだし、われわれの中で一番の文化人だ。おまえもよく知っているように、兄弟姉妹の結婚に、父がいつも猛反対するのが残念だよ。...」
(ロジャー・ゼラズニイ、『オベロンの手』)
同母妹のデアドリに懸想しているコーウィンに比べれば一応ましとも、さして大差がないとも言えるが、アンバー一族自体が近親交配によって世界を形成してゆく神話の原初神らと似たような存在とも言えるので、深く考えることもないのかもしれない。ともあれ、よりによって一番冷淡なジュリアンがこんなんなのが不気味であると同時に、またアンバーの王族の面白い所でもある。
[Z]以降、フィオナより一階層上、アンバライトとしては下から4番目の階層として登場する。それ以下よりはぐっと攻撃力が上がり、「戦士系のアンバライト」としての戦いになるのが特徴だが、ハウンドをはじめ、アリ、クモ、ヒドラの召喚、水や電撃攻撃などいかにも自然魔法を備えている。またジュリアンの鷹、ヘルハウンドもモンスターとして追加されている。
「★ジュリアンのスケイルメイル」をまとっているはずにも関わらず、なぜかアーマークラスが悪い(魔法使い系の敵と同じくらいしかない。もっとも、アンバーの王子らはジェラード以外皆そうなのだが)。
→ジュリアン鎧 →明の明星
ジュリアンのヘルハウンド Hell hound of Julian 【敵】
アンバーの九王子で森の主ジュリアンが飼っている獰猛な猟犬。例にもれず、彼がさまざまな”影”の世界からえりすぐり、強化した存在(→明の明星)である。
...地獄の猟犬(hellhound)がやってくるのだ──ジュリアンがどこかの影で見つけて、狩猟用に仕込んだ、速くて強力な、獰猛な獣が。...
...しかし、その瞬間、ぼくはこの疾風怒濤のような犬どものスピードを忘れていた。また、フローラのメルセデスに乗っていたランダムとぼくに、こいつらがいかに容易に追いついたかを忘れていた。また、普通の犬が車を追いかけるのとは違って、それらが車をずたずたに引き裂きはじめたことも忘れていた。
(ロジャー・ゼラズニイ『オベロンの手』)
なお、この時に限っては犬はコーウィンを追っていたのではなく、混沌の宮廷のマンティコラ(→参照)をジュリアンらが追っていたのにコーウィンは巻き込まれたのである。また後半シリーズにおいて、マーリンを襲った犬の怪物を仕留めたりと、実はこのヘルハウンドに活躍の場は多い。
黒い弾丸のように走る獰猛な猟犬だが、普通の猟犬のように群れて敵に襲い掛かりかみつくというもので、異様な外見や、RPGのヘルハウンドのような炎を吐く能力を(少なくとも描写された限りでは)持っていたりはしない。
*bandにおいては、[Z]におけるゼラズニイ由来の生物として加えられたものであるが、[V]2.8における普通の「ヘル・ハウンド」をそのまま名前を差し替えただけのものである。[Z]では、おそらくジュリアンと近い階層に出るものとして、もとの35階から83階([Z]2.7では105階)という深層に変更されているが、その他の能力には全く変更はない。つまり、原作のジュリアンのヘルハウンドにはない火炎ブレスを持っている。「熱を発して輝く巨大な犬で、火炎がその鼻孔からしたたっている」という原作と食い違う説明文もそのままである。また、ジュリアンはハウンド召喚能力を持っているが、このヘルハウンドは'Z'シンボルのゼファーハウンド(→ハウンド)ではない。
なお、ゼラズニイ由来を除いたGumbandでは名前はヘルハウンドに戻されているが、階層は83階のままである。またToMEや、[V]3.0およびその流れのバリアントでは、[Z]のモンスターリストを元にゼラズニイ系を除去したためと思われるが、元の「ヘルハウンド」も消えてしまっている。結局、最初の[V]2.8の形のヘルハウンドが残っているのは[O]のみである。
→ジュリアン →ハウンド →ヘルハウンド
ジュリアンの猟鷹 Hunting hawk of Julian 【敵】
アンバーの九王子で森の主ジュリアンが飼っている、鷹狩りの鷹。ランダムは、この鷹が自分ら(アンバーの王族)の目玉をえぐり出す恐れを口にし、たとえ比喩とはいえ彼が恐れるほどに凶暴な鳥だということは、やはり”影”の中から選りすぐって作り出された(→明の明星)動物だと考えられる。
ジュリアン登場場面の近くに「黒と緑の大きな鷹」が肩にとまったという絵になる描写があり、のちにも鷹は出てくるが、実際にこの鷹が何羽いるのか(猟犬(ジュリアンのヘルハウンド)のように膨大な数がいるのか、フローラの犬のように限られているのか)は定かではない。
*bandには、[Z]において8階相当(屋外、ダンジョンともに登場する)のノーマルモンスターとして追加されており、原作でどれだけいるにせよ、ここでは無数にいるということになっている。ランダムが恐れる割には強力ではないが、おそらく、ダンジョンにおける強敵としてよりは、[Z]の屋外を徒歩で歩く弱キャラクターの脅威となることを狙ったのだろう。実際にスピードの速さと3回攻撃は、ようやく外に出られる程度のキャラクターにとっては脅威となる。
屋外の方がメインであるため当然ながら、ただのHunting hawkというモンスターは広域マップのない[V]系統では登場しない。ただし、[Z]を元とするToMEやGumbandでは、データもそのままに名前だけがただのHunting Hawkと変更されて残っている。
→ジュリアン
ジュリアン鎧 The Metal Scale Mail of Julian 【物品】
[Z]では「★アンバーの王子ジュリアンの金属製スケイルメイル」、[変]では「★アーデンの森の主ジュリアンの〜」。[V]の「★ケレボルン王のミスリル製プレートメイル」に差し替えられて登場する品である。
由来は無論のことアンバーのジュリアンのトランプに描かれているだけでなく、実際に着用し威力も描かれる品で、「金属的な色ではなく、まるでエナメルを塗ったような」「白い金属製の小札鎧」で、「恐ろしく丈夫で、ショックに強い」。実際に、銃弾などはまるでものともしない。*bandでもかなり反則的な修正プラス値を持ち、(ケレボルン鎧ともども)鎧としては最大の防御力を誇るひとつである。
しかし、この鎧の特徴は発動で「抹殺」が使えることである(特に[V]のケレボルン鎧は、メイジ以外の抹殺手段として生命線であった)。なぜ抹殺なのか、ジュリアンが森の生物を支配する狩人だからという理解も可能だが、それよりはむしろ同じ「森の王」であるケレボルン鎧からそのまま受け継いだだけのようである。
そこでケレボルン鎧の話に移るが、なぜ「ケレボルン鎧」というものがあって、それが最強級なのかも、[V]当時から議論が繰り返されてきた。エルフ王ケレボルンは『指輪物語』では端役に過ぎないが、設定類は他の原稿に豊富にある。しかし武具やそれをほのめかす描写はない。一応、「ケレボルンがドリアスに住んでいた上古からの伝来の品を何か持っているとすれば」ドリアスに武具を提供したドワーフの手による名品、それも性格からすると武器よりは防具で、おそらくミスリルのそれも帷子ではなく甲冑であろうと納得はできる。が、結局はあまり深い意味は見出せないとしか言えない。発動が「抹殺」なのは、エオンウェ斧が「周辺抹殺」であることと同様、集団戦闘で大きな力を持つ(ケレボルンは指輪戦争でドル=グルドゥアの軍を破る指揮をとった)ことからとでも想像しておく他になさそうである。
→ジュリアン
俊敏の篭手 Gloves of Agility 【物品】
はめることによって盗賊の技、手先が器用になる魔法の手袋というのは非常に明快なアイディアであり、ゲームでも多くの固定アイテムないしエゴアイテムとして、古くから数多く存在する。ゲームでの原型のひとつとしてD&D系のエゴアイテムであるGauntlets of Dexterityが挙げられるが、ただし、D&D系のような「手先の器用さ」と「全身の敏捷さ」が統合されDexterityというひとつの能力値になっている(なぜなのかは「能力値」の項目参照)ゲームと、それを踏襲しているRLなどでは、器用さの篭手のはずなのがなぜか全身が俊敏になるという妙な効果が発生する。またD&Dにはないが、ゲームによっては「全身の俊敏さが上がるブーツ」で同様にDexterityが上昇し、ブーツなのに手先が器用になるという顛末も多い。もとが魔法の物品なので、別に関係ない能力が上がったところでどうということはないのだが、物品の明快なアイディア元から乖離することは確かである。なおルールが整理されていない古いAD&D1stなどでは、一応篭手によって「盗賊技能」が直接上昇する効果もあるという、あくまで器用さの手袋であるという自己主張があることはある。
*bandにおいては、ガントレット系においてDexterityが上がるエゴアイテムとして「俊敏」がある。(ブーツにつく「スピード」のエゴとは異なる。)ここでは、そのままDexterity(英語としても器用と敏捷をあわせたような意味をもつ)とせず、最初からAgilityという「全身の俊敏さ」の方を特定した名前になっている。あるいは、*bandにおけるDexterityは(日本語版では「器用」になっているものの)元来が、全身の敏捷性の方の意味合いが強い意味のかもしれないが、後述するようにメイジ系魔法を阻害しないという効果もある。バリアントによっては、[V]のJLEパッチから存在する、手の器用さを上昇させる「盗みの手袋 Gloves of Thievery」をこれとは別に採用している場合もある。どちらにせよ、*bandにおいては器用さというのはたとえ「盗賊」であっても(これが事実上戦士系なので)最も重要さの低い能力値であり、他の有用なガントレットのエゴやアーティファクトが入手できれば差し替えてしまうことが多いだろう。
なお、手の防具は重量によるMP減少とは別に「メイジ系」の魔法を阻害するが、Dexterityを上昇させるタイプの篭手は阻害しない。麻痺知らずの篭手も同様だが、メイジ系の魔法はプリースト系(祈り)と異なり、細かい手の動きを必要とするためとされる。厳密にはこの篭手が敏捷さ Agilityの篭手であることをさておいても、麻痺知らず=自由な動き Free Actionや器用さを上昇させることと、防具をつけてもそれが行動を阻害しないということは、やや別問題であるように思える。結局のところ、[V]以来すべてのクラスがさまざまな物品を使えるように救済策(→祝福の項目も参照)を設けているという側面も大きいだろう。
正気度ロール Sanity Roll 【システム】
SANチェック等とも呼ばれる(詳しくは後述するが、SANはCoCルールにおける正気度を指す)。言うまでも無くTRPGのCoC(『クトゥルフの呼び声』)シリーズの最も主要なアイディアと呼ばれるこのルールは、ラヴクラフト宇宙観の「宇宙の真実を知れば知るほど狂気に近づいてしまう」という諦観に満ちた世界を表現するためのものである。
具体的には、名状しがたい邪神や怪物の姿をはじめ、それに関連する知識を得る(書物を見る、魔術を実践するなどを含め)たびにこのロールを行い、プレイヤーの操る探索者の正気度が低下してゆく具体的には、各人は「正気度」という数値をもち、この正気度の判定(ダイス目と正気度の値を比較する「ロール」を行い、失敗すると正気度自体が激減し、成功しても大抵は若干減少する。つまり、機会に遭遇した時点で狂気に近づくことは逃れられない。正気度の減少具合によって一時的もしくは永久的狂気に陥る。CoCの「正気度」という数値自体の意味するものは正確には定義できないが、邪悪な魔術師に正気度がゼロになっているもの等がいるため、正気度ゼロには「狂気で前後不覚・行動不能」といったものだけでなく、人類の存続を省みない・邪神にすべてを売り渡してしまっているといった、普通の倫理・人格を失ってしまったものなども含まれると思われる。
CoCが怪物と戦ったりキャラクターを成長させたりするゲームではなく、ホラー物語の体験を再現するゲームという点を端的に表しているが、ただし、CoCのシナリオでは目的を達成するとボーナスとして正気度が得られたりすることが多い。これは、名状しがたい恐怖に精一杯対抗することで、さらに対抗する力を得ていくという印象も与え、CoCルールが、まっさかさまなラヴクラフト作品よりは邪神に抵抗するダーレス等のストーリーの実現に向いていると言われる一因である。とはいえ、この程度の正気度回復ではどうにもおっつかないので、探索者たちはいくらも「成長」うんぬんするよりも前に、運が良ければ引退するか、すぽっと狂気に陥るか、あるいは目に見えない怪物に貪り食われる(こういうのが最も羨ましがられる。「劇的」だから)といった末路をたどる。
なお、CoCルールでは厳密には、SANとは能力値としての正気度の初期値(POWx5)を指し、変動する正気度とは異なる。正気度は探索を経てSANより減っていることが多く、また、「最大正気度」こと99-クトゥルフ神話技能を上限としてSANより増えていることも稀にある。正気度ロールに使われるのはSANではなく、現在の正気度である(POWx5を使う場合は幸運ロールと呼ばれる)。しかし、現在では正気度=SAN値がCoCルールを知らない人々にもネットスラング的に広がった結果、「SAN」(最大値)や「SAN値」なる語が正気度(現在値)と混同されて用いられていたり、「SANチェック」ロールといった語が正気度ロールと錯綜して用いられていることも多い。
さて、*bandに[Z]のクトゥルフ系モンスターと共に導入された正気度ロール、ELDRITCH_HORRORモンスターによるSanity Blastは、言うまでも無くこのCoCの正気度ロールからの発想と思われるが、実際のシステム自体はあまり共通点は見られない;*bandの正気度チェックはELDRITCH_HORRORフラグを持つクトゥルフ系モンスターを感知するとチェックを行い、結果に応じてさまざまな精神的影響(幻覚や忘却のような単純なものから、精神的な突然変異を植えつけられるなど)をこうむるというものだが、CoCには影響の細かい表などがあるわけではなく、一時的狂気やその結果植えつけられるトラウマなどの具体的内容はなく(指針や例ならあるものの)ほとんどキーパー(ゲームマスター)に任されている。*bandでのさまざまな精神的影響は、超能力のバックファイアなどのテーブルと共通しているが、AD&DのPsionicルール(→超能力者)やGURPSのような汎用ルールの恐怖表の、精神効果のテーブルに近いものがある。
[Z]以降の*bandにはクトゥルフ系モンスターは頻繁に出現するため、(アンデッドやデーモン系などのELDRITCH_HORRORの影響を受けない一部の種族を除いて)逃れることや完全に防ぐことはまったく不可能である。最初に精神薄弱(知力・賢さ-4)の変異を喰らった時に初心者は何事かと慄いてしまうが、あまりに頻繁に喰らうのでそのうち気にせずに、その変異をつけっぱなしで進めたりもするものである。食らっても少ない影響なら割り切り、ズルの街でしばしば治療することを前提にする他にないだろう。
→クトゥルフ神話
上級王イングウェのアミュレット The Amulet of Ingwe 【物品】
イングウェは、アマンに渡った半神的エルフ、ハイエルフ三氏族のうちヴァンヤール(金髪のエルフ、光のエルフ)の王であり、エルフすべての上級王でもある。
ヴァンヤール(単数数はヴァンヤ)は三氏族のうちでは最も数が少なかったが、最も早くアマンに渡り、最もヴァラール(諸神)の寵愛を受け、恐らくは最も能力的にも高かったと思われる。エルフの中でも特にケルトの光の神々が暗示された存在であることは想像に難くない。(なお、ヴァンヤールはケルト神と関係する北欧の「ヴァン」神族も髣髴とさせ、イングウェと後述のインディスは、ヴァン神族のフレイ神の呼称のひとつイングヴェイと、フレイヤ女神の呼称ヴァナディスを思わせる。)
またエルフが金髪である場合、ヴァンヤールの血が混ざっていることが暗示されていることも多い。例えば、ガラドリエルの母方の祖母インディスはイングウェ王家である(ガラドリエルの兄フィンロドも同様にイングウェ王家の流れをくむことになるが、『指輪物語』の端役、冒頭に登場する”金髪の”ギルドールは、フィンロド王家の一族か郎党なので、ヴァンヤの可能性を主張するファンもいる)。
しかし、主要王家の血脈に関するものを除けば、ヴァンヤールやイングウェに関する記述は非常に少ない。これは、ヴァンヤールはすべてがアマンの地に渡ってしまい、アマンに関する(上のエルフらによる)言及はほとんどがヴァラールに関するものであるため、ということになっている。モルゴス軍とアマン軍との最終戦争「怒りの戦い」ではイングウェ率いるヴァンヤールも中つ国に攻め上ったということになっているのだが、その後中つ国に留まったヴァンヤはいないとされる。
勿論、原典にはイングウェの持ち物は無論のこと自身の能力に関する記述も一切ないが、*bandには[V]以来このイングウェのアミュレットが登場する。MERPの設定ではイングウェはヴァラールの各人から贈られたスーパーアイテムで全身武装しているが、アミュレットはヴァルダ(エルフの守護女神)からのもので、恐怖や麻痺への耐性・魔力増幅をもたらす。これと同じものかはともかく、*bandの[O]以降の解説にはイングウェの「先祖伝来の品」と書かれているのだが、実はイングウェに伝来できるほど遡れる先祖がいるかどうかも怪しい(誰かから生まれたのではなく、エルフ創造時に「生えてきた」エルフか、そのせいぜい次世代程度かもしれないのである)。ヴァンヤールの王家の家宝とでも思っておくべきだろう。発動で破邪の魔法というのは一応いかにもでもあるし、賢さが上がる点はパラディンやプリースト向けを意識しているのかもしれない。
上級王ギル=ガラドの偏向のシールド The Shield of Deflection of Gil-galad 【物品】
出典:エレイニオン・ギル=ガラドは中つ国のノルドール族のハイエルフで、主には第二紀の35世紀すべてという最長期の王であり、また第一紀以来の中つ国のエルフの上級王としては、最後の王にあたる。
ギル=ガラドは、エルフの王なりきと、
竪琴ひきは、悲しく歌う。
海と山との間にありし、
美しき自由の国の、最後の王なりきと。
(J.R.R.トールキン、瀬田貞二訳『旅の仲間』)
この詩は*bandのアーティファクトのコメントには「サムだかビルボだかの歌」とあるが、正確には、サムが旅の仲間に歌った歌で、幼い頃に一部ビルボから教わったものであり、その大元はビルボが古代語(おそらくクゥエンヤ)から西方語に訳した、エルフ伝来の古い叙事詩である。美辞麗句でも何でもなく、穏やかに平易平坦な文章にも関わらず、近代詩唱歌などにも見られる豊かな詩情の波打つこの訳文にじわじわと胸を打たれて瀬田文章の愛好家になったという日本の指輪ファンも数知れず、おそらく瀬田訳の詩文の中でも白眉であるに違いない。
ギル=ガラド(シンダリンで「輝く星」の意で、本名「エレイニオン」よりもっぱら呼ばれる通称である)は、上級王フィンゴルフィン(→参照)の孫にあたり(ただし遺稿によると異なる。→オロドレス)祖父、父、叔父らがエルフの王国と共に滅びると、彼らの後をついで上級王となり、第一紀末期はバラール島に本拠を築いて統治していた。ベレリアンド全土が沈み、第二紀になると、沈まずに残ったリンドンの地を本拠とし、ノルドールの生き残りばかりでなく、キアダンらをはじめとした灰色エルフらも含めた周辺の多種族のエルフの直接の指導者にもなっていた。
彼はエルフを統治すると共に、モルゴスの後に暗躍するサウロンの陰謀や、遂にはその軍勢とも対抗するべく策をめぐらし、軍を起こし、当時の人間の海上帝国ヌメノール他と同盟を行った。例えばUnfinished Talesの「アルダリオンとエレンディス」の挿話には、ヌメノールのまだ前期にアルダリオン王がサウロンに対抗するためギル=ガラドとの同盟を進めた話が載っている。この挿話をトールキンが未完にぶったぎっているので、この同盟がその後どうなったかは定かではないが、「最後の同盟」等以前にもギル=ガラドが複数回、人間と手を結んでいたことは伺える。
最終的にはギル=ガラドは第二紀の末に、ヌメノールの生き残りのエレンディルらと「最後の同盟」を結んでサウロン軍と戦い、ダゴルラド戦場の戦いを経て、バラド=ドゥア包囲戦でエレンディルと共にサウロンと直接対決に及んだ。アイグロスの槍(→参照)を持ったギル=ガラドは、イシルドゥアの記述によると「サウロンの手の黒くして、火のごとく燃えいたる熱気」によって倒れたが、エレンディルと共にサウロンを相打ちに打ち倒した。(なお、ギル=ガラドの死後は中つ国のノルドールは「上級王」は持たない。一応はエルフ全体の指導者は裂け谷のエルロンドであるが、最後の同盟の戦いの後には、エルフ全体に上級王を持つほど勢力が残っていなかったというのが実際のところであろう。)
MERPの設定には、サウロンとギル=ガラド・エレンディルの戦いにはさらに詳細な設定がある。それによると、ギル=ガラドがアイグロスでサウロンに捨て身の攻撃をしかけ、その隙をついてエレンディルがナルシルでサウロンに致命傷を与えたというものである。直後、アイグロスもナルシルも叩き折られ、二人の上級王も致命傷を負うのだが、これは上記の原典のギル=ガラドの倒された状況とは合致しにくいかもしれない。
映画版LotRには、アイグロスの項目に書いた通り、第一作FotRの冒頭場面などで登場するが(サウロンとの対決は改変されており出番がない)他に、第二作TTTでダゴルラドの戦場跡「死者の沼地」を通る場面で、沼地に沈んでいてフロドをひきこむ亡霊が、第一作冒頭のギル=ガラドに似ていないかという説がある。確かに映画ではサウロンと戦ってではなく、戦場で倒れたのかもしれないのだが、どちらにしろバラド=ドゥア包囲戦の場面に登場しているので、ダゴルラド(死者の沼地)ではないはずである。おそらくギル=ガラドではないが、彼を「イメージした」エルフの貴人の亡霊というところだろう。実際のところ、映画のメイキングによると、この死者の沼地の場面のエルフの亡霊は、かなり急造でマネキンに適当なCG処理を施したものとのことで、CGにギル=ガラドの映像を流用しているとも思われる。
物品:ギル=ガラドの盾は、上記の引用の詩文、『ギル=ガラドの没落』の後の方に一言ふれられる「銀の盾」である。
*bandには、SangbandやOangbandといったアルダ系バリアントに追加物品として古くから追加されていたが、ToME, [変], [V]3.0系などに広く取り入れられている。ベースアイテムが「偏向のシールド」となっているのは、上級のシールドとする以外にさほど意味はないと思われる。[変]のものは防御効果は高く、反射もあるものの、その他は下級耐性とカリスマの向上のみでさほど便利なものではないが、ToMEや[V]3.0系のものは上級耐性に賢さも含めたさらに大きな向上と、パラディンやプリースト中心にわりと強力な品となっている。
→アイグロス
上級王フィンゴルフィンのセスタス The Cesti of Fingolfin 【物品】
フィンゴルフィンは、ノルドール族のハイエルフのフェアノール(→参照)の異母弟である。モルゴスから大宝玉を奪還するため中つ国にやってきたノルドールのうち、志半ばに倒れたフェアノールに次いで上級王となった。(フェアノールの長子であるマエズロスが、年長ということで叔父フィンゴルフィンに譲ったところから、不死のエルフにとっては必ずしも直系を年長より重視するわけでもないらしい。)そして最初の大敗北までの長い間、中つ国のノルドールの上級王をつとめる。「The High-king of Noldor」あるいはしばしば「上級王」だけでもフィンゴルフィンの代名詞であるほどである。その後も、第二紀の最後の上級王ギル=ガラドに至るまで、上級王はフィンゴルフィンの武勇の家系から出ている。
『クゥエンタ・シルマリルリオン』にも、彼自身が全ノルドールのうちで最も武勇に優れていたという記述が実際に多いのだが、何よりも、最初の大敗北の際にモルゴスに直接対決を挑み傷つけたことから、アルダのエルフの武勇の象徴として広く認められている。モルゴスを倒すことが目的の*bandではそれは最たるもので、フィンゴルフィンの剣リンギル(→参照)の強さもその例である。このセスタスも、別にトールキンに登場していたわけではないのだが、フィンゴルフィンの武具で大きな武勇をもたらすもの、という意図で創作されたものらしい。
セスタスは、元来は古代の剣闘士が拳に握りこんで使うナックルのような武器で(単数形がcestus, 複数形がcestiである)本来はガントレットなどの防具とは別物である。無論フィンゴルフィンと何か関係があるわけではなく、おそらく、ガントレット系ベースアイテムの中では最も高級というだけの理由で、最も強力な篭手系物品のベースに選ばれたに違いない。極度に大きな殺戮修正を持ち、攻撃力増強物品の最たるものと常に見なされている。なにげに発動で魔力の矢の能力も意味不明ながらあるが、こちらはさほど注目されることはない。
→リンギル →ベレゲンノン
衝撃の杖 The Wand of Striking 【物品】
スタッフ・オブ・ストライキングは、オリジナルD&D(白箱, 1975)の最初のルールに記載されたマジックアイテムに由来し、後に和訳された赤箱などでもクラシック(ベーシック)D&Dのベーシックルール(駆け出し冒険者序盤用)から入手可能となっているマジックアイテムである。これはチャージを消費して、かなりわずかなダメージ(スタッフの元のダイス1個分1d6が、1チャージ消費ごとに2個分2d6になる)であるが余分に与えることができる武器である。ベーシックルールではクレリック(聖職者)のみが用いることができ、限られた回数であっても、魔法の武器しか通用しない対象等を含めて、「序盤においてあらゆる存在に確実にダメージを与えることができる手段」としてデザインされたものと考えられる。杖であることから隠者や聖職者の最終自衛手段、または懲罰、座禅のときに後ろで和尚さんが持ってる精神注入棒などを彷彿させる。また、強力な魔法の杖(「力の杖」など)の多くがこの能力を併せ持ち、より上のレベルのクレリックの呪文にはこの効果を他の対象の武器に付与できるものもあった。しかし、アイテムにしろ呪文にしろ、「確実なダメージを与える手段」という純粋にシステム的な効果でしかなく、他の攻撃手段や武器への魔力付与と整合性がとれず、また(武器に魔法がかかる等を一応具体的に説明してある他の付与魔法と異なり)原理的にもよくわからないためであるのか、呪文の方はAD&DやD&D3eのルールからは外され、結局ナゾのアイテムの形でのみ存在するものになっている。
他のRPGには、『ファイナルファンタジー』シリーズなど、だいたい名前だけ(一応彷彿とさせる効果のこともある)だが登場する例が見られる。
初代UNIX-Rogueでは、一部の初期のバージョンにはstrikingの杖(wand, staff両方がありえる場合がある)があり、確実に+3武器のダメージを与えるという点でAD&Dのものと似通っている。NetHackにはほぼ同じ存在として取り入れられているが(低ダメージ直接攻撃扱いで、命中率は敵のアーマークラスに依存する)NetHackではすべての杖は「ワンド」になっているためこれもWand of Strikingである。確実にダメージを与える手段(無論、マジックレジスタンスが高い敵には効かない)として、遠距離にも効果があり、また非生物を確実に破壊できる効果を持っているので、プレイヤーによって迷宮内のその手の作業(橋や像を壊す等)によく用いられる。
*bandに[変]など登場するものは、NetHackに準じた衝撃の「Wand」であり、「確実にダメージ」「遠距離攻撃」「破壊作業」という面をさらに発展させたものといえるのか、隕石の矢を多数放つものになっている。もはや元ネタ(聖職者の杖、近接で使う小ダメージ)からは完全に離れてしまったといえるだろう。が、NetHack和訳からの「衝撃」という字面には、こちらの方が合っているとも言える。
称号 Level Title 【システム】
出典:プレイヤーキャラクターに様々な称号がつくシステムは多いが、ここでは「プレイヤーキャラのレベルに対応して称号(呼び名)がある」というゲームシステムに関するものに絞る。
最初期に普及したTRPGであるCD&D(赤箱等)やAD&D1stには、各クラスに対応して、またレベルが上がるごとに呼び名がついていたことが有名である。例えばCD&Dでは戦士の1レベルが「(古)強者(Veteran)」、2レベルが「戦士(Warrior)」、3レベルが「剣匠(Swordmaster)」などである。AD&D1stのLevel Titleも細部が異なるだけで(Fighter 3lvがSwordmasterではなくSwordsmanなど)重なるクラスでは、中身もCD&Dとほとんど同様である。すなわち、海外ではRPGの初期にはこの称号システムはスタンダードとして長期間用いられていた。一方で日本のプレイヤーらの間では、この称号を積極的に使ったという例はあまり聞かない。(なお、CD&D和訳の新和版はとりわけこの称号の箇所について、訳や誤字の酷さは語り草になっていた。例えば戦士5レベルのSwashbucklerを「短剣家」は無理やり意味が通らないでもないが、別の箇所での「探検家」は誤変換なのか誤訳なのかいまだに判明していない。一部関連書やファンサイトにある「Swashbuckler=蛮族」は完全な誤訳である。)ちなみに、レベルアップごとの呼称・称号が昇進してゆくのは、「軍隊の階級」からヒントを得ているともいわれている。
このシステムの目的は何なのか、ルール内では、舞台となっているFT世界内のキャラクター同士の間では、「レベル」を名乗ったり呼んだりするかわりにこの称号を使う、と説明されていた。つまり、レベルのような「数値」をその世界内の人物が認識しているのはおかしいが、レベルがわからないと不便なことも多いので、かわりに称号で呼ぶということにしたようである。しかし、置き換えただけで結局レベルに一対一に対応している称号を認識している=レベルそのものを認識しているのと同じなので、何の言い訳にもなっていない。あくまでレベルという語を表面的に避けるためだけの目的にも見える。(なお、後には、あえて「レベル」という語をドラゴンボールの「戦闘力」のごとく作内の会話で乱発し、そのおかしさを狙ったRPGのパロディ的な世界も多く登場している。)
さらに、「ネームレベル」という英雄級のレベル(CD&Dでは一律9レベルだが、AD&Dでは戦士9レベル、魔法使11レベルなどクラスごとに異なる)になると、称号はレベルに一対一に対応するものではなくなり、最終称号にレベルをつけたものになる(15lvのMagic-Userクラスならば、称号もそのまま「Wizard-Lv.15」になるなど)。ネームレベル以後にレベルごとの独自の称号がなくなるのは、貴族の爵位、独自の二つ名や、自分で選んだ称号などを名乗れるため(そのため、これ以後が「ネーム」レベルと呼ばれる)とされるが、そうなると、称号をレベルに置き換えるという意義も定かではない。あるいは、高レベルにおいては、自称称号だけからはどれほどのレベルかを故意にわからなくすることで、高レベルゲームの難易度を上げるためかもしれない。
AD&D2nd以降ではこのレベルごとの称号システムは一部を除き無くなっている。これらのちぐはぐな制度のためか、あるいはうまく活用されなかったのか、あるいは称号の名前がサブクラス等のルールが追加された際に紛らわしくなるため(『ウォーロック』『ソーサラー』等を魔法使の一定レベルの呼び名にとどまらず、魔法使とは別のクラス名として使うなど)廃止されたのかもしれない。他のTRPGでは、スキルシステムのゲームでは無論採用されず、レベル制ゲームであってもT&T等でも採用されていない。特異な例として、『ウォーハンマーFRP』ではキャラクター成長のかなり短いスパンごとに別のキャラクタークラス(称号)に転職してゆくのだが、レベル上昇ごとに称号を得てゆく、もといサブクラスとレベル称号が一体化している感覚に近い。
かえってCRPGなどで、CD&Dや1st当時を参照したものに、しばしばこの称号システムが残っていることがある。例えば『ザナドゥ』などは16までのレベルに、ほぼAD&D1stの複数クラスからピックアップされて対応された称号がある(特に1作目ではゲーム中では数値としてのレベルが表示されない)。ちなみにザナドゥの称号には、ただ一つだけ「Wizard-Lv.15」なる珍妙極まりないものが紛れ込んでいるが、これは上述したAD&D1stでのネームレベルよりも後の呼び名に由来する。
Wizardry#1には「レベル○○ファイター」といったクラスレベルそのままの人間型敵が多く現れるが、レベルで表記されていないものには、AD&D1stの称号が用いられているものもある。例えば、"swordsman"が戦士3レベル、レベルも称号も何もつかないように見える単なる"thief"だけという名の敵が、盗賊9レベルを指している(AD&D1stではThiefはクラス名だけでなく、9レベル盗賊の称号でもある。盗賊のネームレベルである10レベル以降はMaster Thiefである)点などはそうである。ただし、一致しないものも多く、同じ名称・称号でレベルが違うものが複数種類いる、おまけに同じレベルでもプレイヤーキャラと能力が違うといったブラフも数多い。これは、Wizardryの主なプレイヤー層として想定されていた、恐らくその殆どがAD&D1stプレイヤーであった当時の欧米ゲーマーをあえて油断させる・驚かせる目的があったと考えられる。(AD&Dの予備知識なしにプレイした日本のプレイヤーから見れば、この不一致点や名称は単に不可解なものにしか映らず、その疑問が多く述べられてきた。)なお、Wizardry#1-5では、プレイヤーキャラクターの方にはクラスレベルごとに対応する階級は存在しない(表示されない)が、ゲームシステムを刷新した#6以降ではD&D系に近い形(称号の内容自体は独自面が強い)で実装されている。
なお、残念なことに、肝心の本家のD&D系のCRPG化、例えば最初期にAD&D1stそのものを再現したPools of RadienceなどのGold Boxシリーズでは、レベルごとのこの称号が表示されるということは別に無い。これは近い時期のCD&Dのオフィシャルゲームでも同様である。
キャラクターレベルに一対一で対応する称号という形ではあまり見られなくなっているものの、以後の主にCRPGには、一定レベルに対して称号を与えるもの、各サブクラスの名や、「技能」レベルの上昇する段階的な呼び名に、称号で呼ぶシステムが名残のように残っている例も多い。
システム:レベルが上がるごとに称号が改められていくシステムは、UNIX版に発する初代Rogueをはじめとして、Hack系(NetHack)及びMoria系(*band)のいずれでも採用されている。称号の内容そのものも、それぞれAD&D1stそのままだったり、強い影響のあるものである(無論、D&D系にはなく新しく考えられた職業では、称号も新たに考えられている)。かなりの高レベル、例えばD&D系では称号が使われなくなるネームレベルに相当すると思われるレベル以後も、Roguelikeでは対応する称号が使われ続ける。
これらは普段の画面にも、UNIX版Rogueなどではスコアランキングにもレベルと一緒に表示されており、特にレベルを隠匿する意図はなく、おそらく単にTRPGを踏襲しただけで、たいして深い意味はないと思われる。強いて言えば、初代Rogueが多目的のUNIX機のメモリの狭間をかりて利用者たちで行われるゲームだったので、プレイヤーごとにどこまで進んだか示すスコア同様の表示だったのかもしれない。クラスレベルごとの称号は、Rogue系においてもいまやフレヴァー以外の何の意味も持たないが、この「称号システム」が用いられていることをもって、Roguelikeが最も古いRPGの一群であることを端的に示す点のひとつと呼んでも構わない。
ショート・テレポート Short Teleport 【システム】
ショート・テレポートはメイジ呪文にせよ巻物にせよ、元々は「フェイズ・ドア」という名前だった。[V]のプリーストの呪文書でのみ、ほぼ同じ効果の呪文が「ショート・テレポート」と名づけられていた。しかし、[Z]掲示板あたりで「フェイズ・ドア」という名前がわかりにくいという意見が出たため、2.4.x系で訳語を調整しなおす際に、「ショート・テレポート」の方がわかりやすいのでそちらに統一してはどうか、と提案したのは、実は筆者だったような覚えがあるのだが、その時に直されたのかそうでなかったのか、実はその頃のことはよく覚えていない。
短距離テレポートのフェイズ・ドアとは元々AD&Dの呪文だったもので、さらに元は「フェイズ・スパイダー」というモンスターの特殊能力として設定されていたもののようである。詳しくはフェイズ・スパイダーの項目に譲るが、エーテルの物質部分と非物質の「相(フェイズ)」を行き来することで、幽界(イセリアル・プレイン)と主物質界を行き来し、すなわち幽界を経由して転移を行うものである。幽界を経由するので、「瞬間移動」ではない。なお「テレポート」呪文はこの原理とは全く異なる(転移物を分解して目的場所で再構成するか、転移物を光に変えて光速移動させるか、天界(アストラル・プレイン)を経由する等、何種類かある)。
AD&Dのフェイズ・ドア呪文はかなりの高レベル(7lv)呪文で、また特定の空間にひとつドアを作り出し、何回か出入りができるというものである(フェイズ・スパイダーのようにその場その場で自由にドアを作って出入りしたりはできない)。しかし、Moria以来の*bandのものはこれとは異なり、短距離テレポートのフェイズ・ドア呪文およびスクロールは、おそらく「フェイズ・スパイダーの能力を一回だけ使う」というような位置づけの物品になっているようである。
一応、メイジ呪文とスクロールは「ショート・テレポート」で統一されたのだが、超能力など他のクラスや能力に、名前は違うが同じ効果が多数見られる。Moria以来、ショート・テレポートの呪文やスクロールは、魔法や飛び道具で遠距離戦を行うクラスにとってかなりの長期間において必携である。大量のスクロールを持ち歩いて飛び跳ねながら遠距離攻撃という戦法は、戦法とさえ呼べないものだが、初心者には必ず教えておきたいものである。また、安価なショート・テレポートのスクロールは、どんなクラスでも、序盤は緊急手段として重宝する。特に「*bandでの前半戦」ゲームであるMoriaではそうだったのだが、*bandにおいても最もポピュラーで重要なゲーム要素のひとつである。
食屍鬼 Ghoul 【敵】
グールとは本来アラビア、遡ればオリエントの最も古代にまで遡る墓あさりの怪物であり、世界各地に見られる悪鬼(→トロル)への畏怖の一種であるという説から、アラブでは単に毛深く粗野な人間の姿であることから食人民族の姿が拡大したという説まである。時代が下りまた北西に上るに従って悪鬼・悪霊の性質が強くなり、大抵のRPGでのアンデッドとしてのそれに近い姿になったり、また一般的にghoulが死者から奪ったり廃品を奪ったりする者の俗称となっていたりもする。
それにつけてもグールといえば、PCレトロRPGの雄のひとつ『ハイドライド2』である。手がつりそうになるほどファイヤーの魔法でグールばかり倒しまくった記憶はレトロゲーマーの中に刻み付けられているはずである。なぜグールというメジャー性で中途半端なモンスターなのかといえば、ハイドライドやザナドゥなど直接続編のシリーズ物には、ときどき「前作に登場したモンスターとはなるべく違うものを出す」という奇妙な意地を張っているものがあり、その結果、若干(あるいはかなり)珍しいモンスターがひょっこりと前面に出てくることがしばしばあった。その結果、『ハイドライド2』では大量に倒す主要モンスターの位置に、何の因果かめぐり合わせでグールが来てしまったのである。これほどひたすらグールとばかり戦うゲームは、『ハイドライド2』以前にはなく、おそらく以後もないだろう。誤ってTalkモードでぶつかった際にときたま「はまち」とか「Ghoulちゃんです」とか返事してくれたのがまるで昨日のことのように思い出される。
激しく脱線したが、おそらく*bandにおける「食屍鬼」は、典型的なRPGに登場するアンデッドのそれと重ねられてはいるものの、形式上はH.P.ラヴクラフトの小説の数々に登場する同名の「独立種族」を指している面が大きい。ラヴクラフトの『ピックマンのモデル』等に登場する食屍鬼は、一応、墳墓のような黴臭い場所に生息する怪物という共通点はあるものの、いわゆる「変形(へんぎょう)」を起こした人間であり、アンデッドではない(CoCd20版ルールブックでは、共通ルールのD&Dにあわせて便宜上アンデッドになっていたりするが)。あるいはアラブ文化に興味が強かったラヴクラフトが、西洋でのグールの解釈とはあえて別のものを考案したのかもしれない。若干個体差があるが、犬のような目鼻・耳や毛深さ(ただし皮膚はゴムのようである)、サチュロスのような下半身など、様々な意味で「獣じみた姿に怪物化した」人間である。性質は歪み、声は異常に落ち着かない泣き叫ぶような喋り方になっているものの、人間であったころと同様に意思疎通が可能なようである。地上では地下墳墓の奥深くにしかいないが、ラヴクラフトの異世界ドリームランドには結構な集団がいる地域がいくつかあり、『幻夢郷カダスを求めて』等に登場し主人公カーターを助ける。その頼もしさには思わずハイドライド2のTalkモードでの彼らを思い出さずにはおられない。
他のRPGのものは、D&D系に倣って単にゾンビよりは上位のアンデッドとなっていることが大半だが、他の説話を参照していることもある。たとえばT&Tのグールは5版では(ただその一言しか説明がないが)「ラヴクラフトの著作より」と添えられており、少なくともD&Dのアンデッドそのままではないことは明言されている。モンスターに関する追加ルールでは「別の世界の住人が彷徨いこんだ」とあり上記ドリームランド住人を示唆されている。さらに、T&T9版では感染によって通常の人間が変容する記載があり(結局、アンデッドの性質があるのか無いのかは定かではない)また、条件つきではあるがプレイヤーキャラクターとしても選択できる。
*bandに[Z]以降登場するものは、一応は解説文を含めこのラヴクラフトのグールとなっているようだが、UNDEADフラグや光への弱さ、病気だけでなく麻痺打撃も持っている;RPGのグールは伝統的に麻痺打撃(これは毒による場合かそうでない場合かゲームによって異なる)を持つのだが、CoCのグールは新旧ともに病気打撃しかもっていない。そのため、RPGのアンデッドのグールとCoCのグールをあわせたような存在のようである。『幻夢郷カダスを求めて』にはとあるおなじみの人物が変形した首領格のグールが登場するが、それを元にしているのか「食屍鬼の王」もデータ化されている。この王や亡者『カリス』などに率いられて中盤に登場する印象が強いモンスターである。
食糧生成 Create Food 【その他】
なにもないところから食料を作り出す、冷静に考えれば突拍子もなく、またいかなる人間も小から絶大まで抱える根本的死活問題を帳消しにするこの恐るべき魔法は、初期のTRPGでは「聖職者」の呪文に見ることができる。悪くなったり不純物の混ざった水や食料を清める呪文と共に、聖者の典型的な「奇跡」として位置づけられている。通常は低〜中レベル呪文にすぎないが、まさに奇跡というに相応しい。(なお、AD&Dなどの上位呪文には、より強力な回復効果や増強効果を持つ食物を生成する呪文もあり、これはうって変わって各種神話にある神の宴会などに由来すると思われる。)
D&Dの通常の食糧生成呪文の場合、どういった質の食物かは定かではないが(おそらくは単なるパンの塊がドンと出てくるのだろう)量的にはほぼ申し分なく、かなりの大軍を養うこともできる。要は食糧問題を心配する必要がなくなるというために充分な量に設定されたのだと考えられるが、しかしながら、あまりにも大量の食糧が出てくるため、冒険の最中に重量(重し)が必要な時に大量に食糧を出す、逃亡時に食糧を充満させて通路を塞ぐといった、実に食い物を粗末にするというか、映像だけ見ればまるで幼年向けアニメの魔法のような使用法を行うプレイヤーが続出した。
*bandにおいては、食糧問題を解決する魔法としては、Moria/[V]のメイジ・プリーストや[Z]以降の生命・秘術魔法などでは「空腹充足」(→参照)となっているのだが、[Z]以降のホビットのレイシャルパワーおよび[変]の自然魔法などに限り、空腹充足ではなく、通常の食糧を足元に生成する「食糧生成」になっている。これは聖職者の奇跡としてではなく、ホビットや野外活動に慣れたレンジャーやドルイドの、野外でありあわせのものから食糧を作る能力を指しているようである。『指輪物語』でホビットは野外の旅のさなかに料理をする場面があり、すぐれた料理人である庭師サムが、道中のほぼ最後まで料理道具を持ち歩いていたことが代表的である(映画版LotRでは、ホビット庄で使われる塩の塊の箱を、料理用に荷物として持ち続けていた追加場面がある)。ただし、これらから考えると何も食べるもの(材料)がないところから食糧を作り出すような能力ではないはずだが、地下迷宮のありあわせの物、他の者が食べる方法すら思いつかないものまで料理にしてしまう能力なのかもしれない。地下迷宮には画面には表示されない数多くの、もはや死体アイテムとして扱われない破損しきった残骸、切り落とされた四肢だの臓腑の破片などが転がっていると思われるので、そうしたものも料理に仕立て上げてしまうとも考えられ、NetHackやCrawlの苦労から考えると便利な能力である。
ショゴス Shoggoth 【敵】
下級の奉仕種族。玉虫色の悪臭。いわゆるクトゥルフ神話で、神格以外では最も代表的な生物。H.P.ラヴクラフト『狂気山脈』によると、太古に地球を支配していた樽状生物「古のもの」(→参照)が作った生物であり、玉虫色をした原形質の、普段は直径15フィート(5メートル)ほどの巨大な重い球体である。が、不定形の体にあらゆる生物器官を形成することができ、「古のもの」に奉仕した。ショゴスとは、本来この怪物だけでなく、「古のものが作った原形質細胞生物」の総称のようである。しかし、やがてこの怪物ショゴスは暴走して、「古のもの」の文明の主要なものを滅ぼしてしまった。「テケ・リ・リ」という奇怪なあざけるような声を発するが、これは既に滅びてしまった「古のもの」らの声をいまだに真似ているだけなのだという。
なお、これもクトゥルフ神話の代表的な効果音のひとつ「テケ・リ・リ」だが、これは元々エドガー・アラン・ポオの怪奇小説の謎の鳥の啼き声で、なぜか当時の色々な作家が無性に使いたがって自作に出したというのだが、『狂気山脈』では、ポオが禁断の知識に触れてこの音を使ったなどと書かれてしまっている。
他のあらゆる存在を押し潰し吸いちぎる力があるが、TRPG『クトゥルフの呼び声』ルールブックのデータではその個体能力の危険性は尋常ではなく、下手な旧支配者でもこれに襲われればただでは済まない。
一般的なファンタジーRPGの設定としては、不定形の塊状のモンスター(スライムの類、特にブラックプディングなどの大型のもの)の原型のひとつと考えられている他は、直接にこれほど凶悪なものが登場する例は少ない。しかし、ジョーク色も強いTRPGのひとつT&Tでは、ソロシナリオなどに、相当な強敵としてではあるが、わりと頻繁に登場する。ここでは、スライム状ではなく「ロープのようなものに覆われた(又は毛むくじゃら)」「象くらいの重さと大きさだが全体として手足のある人型(シナリオや日本製の解説によっては、不定形のこともある)」「ピッコロ(アザトースなどのフルートではない)の音を聞いて踊りだす」「ピッコロの吹き方を知っている価値のある人間は捕えて侍従にする」といった、かなりのアレンジの入ったものになっている。D&Dシリーズでは、CoCのTRPGがd20化されたものでは、脅威度20というだいたい最高レベル(20lv)の冒険者と同等の強さとなっている。
*bandでは[Z]以降に敵として登場し、上記のような代物に個人レベルの能力で対抗できるだけ凄すぎるのかもしれないが、そんなことが有難いとは誰も思わないほど嫌すぎる敵である。階層の相応値より遥かに敏捷かつ強靭であり、酸攻撃を行なってくるので、そのレベルでまともに戦ったりするとたとえ勝てたとしても全身惨憺たる有様になる。終盤レベルのプレイヤーキャラクターでも被害なしでは済まされない。そして強さとは関係ないのだが、[Z]では出てくる一体一体が喋るので(原作の、主人らの言葉を真似るという設定からは、クトゥルフ系の台詞を片っ端から喋るのはなにげに正しい)面倒臭いことこの上ない。クトゥルフ系すべてに言えることだが、その中でも最たるものとにかく相手になどしていられない。
→古のもの →ウボ=サスラ
シルバーチャリオッツ The Rapier 'Silver Chariot' 【物品】
初期の開発時の[変]には、一時期かなり片っ端から物品を増やす雰囲気があったのだが、しかし著名なFT伝承・作品やゲームからは(故意に)引用せず、ただ漫画などで非常に有名なだけ有名だが「物品」とするには不自然な品、例えば「スタンド」をそのまま物品化した品などが、どういうわけか多数追加されていた(が、ある意味、[Z]の追加の姿勢と共通するノリを感じる)。
荒木飛呂彦の漫画『ジョジョ』シリーズに登場する「スタンド」は、漫画のキーワードとして未読者もよく耳にするような語になってしまっているが、それでも一応予備知識がまったくない人に説明すると、いわゆる「超能力」を、「背後霊・守護霊とそれぞれが持つ様々な特殊能力」のようなもので表現しているものである。持ち主(スタンド使い)ごとにそれぞれ異なる能力と外見を持つ。基本的には物品ではないし、受け渡しができるようなものではない。(例外がいくつかあるが、これは格好の例外のひとつである「アヌビス神のカタナ」の項目に譲る。)第3部の前半に登場するものはタロットの大アルカナに因んだ名をもち、このスタンドも『戦車VII』のカードから採られている。そのためか、スタンド名が単に「チャリオッツ」とだけ呼称されることも多い。
シルバーチャリオッツとは本来、第3部『スターダストクルセイダース』に登場する主人公一行のひとり、J.P.ポルナレフのスタンドの名である。鎧姿の人間、というより金属骨格が一部鎧だけつけたような姿のスタンドで、フェンシングの針剣(フォイル)を持っている。頭蓋のようなヘルムの形状と、人間に似た鋭い目が覗いていることから、どこかドクロの死霊めいた凄みもある(これは当初、ポルナレフとチャリオッツが敵として登場したことと無関係ではないと思われる)。なお、この鎧を脱ぐことでスタンドはスピードをさらに上げることができる(しかし、鎧自体が非実体ではないのか?)。フォイルの剣さばきと速度がかなりの攻撃力を持つが、スタンド自身の純粋な力自体は強くなく、剣の攻撃以外の肉体行動は不得手である。剣の刃を発射することで(一度限りだが)遠距離攻撃を行う奥の手も持っている。
ポルナレフは猪突猛進型で二枚目半、ギャグシーンには欠かせない存在だが、義に厚く、スタンドの外見通り騎士のような精神が根本にはあり、闘いやシリアスシーンでの見せ場にもやはり欠かせない存在であった。このポルナレフは第3部で活躍する他、第5部終盤にも登場し、こちらは年齢と第3部以後も経験を重ねたことからか、スタンド能力(精神力)のみならず、スタンド戦において重要な洞察力・判断力において非常に優れたものを持つ。ポルナレフの因縁の相手であるディアボロと対峙した際、興奮した時の台詞回しにどこか昔の面影がある程度で、行動そのものは理知的なものであり、もはや第3部の頃のような、三代目ジョジョ・承太郎に戦闘面での一番手を譲っていたギャグキャラの要素は無くなっている。第5部の最強の敵で、異常に自尊心の強いこのディアボロですら、第5部でのポルナレフのスタンド戦の能力については本人に向かってじかに「天才的」と評している。スタンド能力者は主人公ジョジョらを含めて、後天的にスタンド能力を得た者(弓と『矢』、『Disc』、肉親のスタンドパワーの影響など)がほとんどだが、ポルナレフは数少ない生まれつきの能力者であり、年齢の割にスタンド戦経験がかなり多いこともある。しかし、第5部においてその後のポルナレフ(及びチャリオッツ)を見舞った運命は、数々の奇抜なジョジョキャラの中にあっても、非常に数奇なものであった。
さて、『ジョジョ』のスタンドは、多くが「ビジョン」(守護霊のような人型などの像)と、主にそのビジョンが発動する「特殊能力」をそれぞれ別々に持ち、ビジョンの肉体行動の射程や持続時間には限りがあるが、特殊能力の方はこれらに制限が少ない、といったものが多い(例えば、五代目ジョジョことジョルノのゴールドエクスペリエンスは、人型のビジョンは短距離で攻撃力は人間程度だが、特殊能力で生み出した生物はかなり離れても半永久的に持続し、ヘリコプターを捕える巨大な樹に成長したりもする)。特殊なスタンドには、ビジョンがほとんど行動できないか出現せず、特殊能力の方だけが超能力的に発動するものもある。しかし、このポルナレフのシルバーチャリオッツは「これまで登場した中で唯一、ビジョンだけあって特殊能力が全く無いのではないか」という考察がよく話題にのぼる。鎧や剣を持っていてこれらが破損しても本体にダメージがないのが特殊能力だとか、あくまでビジョンのパワーは弱く剣の攻撃力が特殊能力だとか考察されることもある。実際のところは、3部の時点ではビジョンと特殊能力が明確に分離していたわけではなかったと思われるが(3部主人公の承太郎のスタンドも、ほとんどビジョンの肉体行動の強力さが売りであり、特殊能力が判明したのは最後の最後であった)その後も、たまたま「ビジョンの方しか無い」というスタンドとしてシルバーチャリオッツだけが残ってしまったように思われる。どちらにせよ、シルバーチャリオッツはスタンドパワー自体はさほど大きいスタンドではないが(先天的なこともあって、微小な超能力に近いのかもしれない)、ポルナレフ自身については、そこに自身のセンスと戦闘経験を加えることによって、かなり強力なスタンド使いになっているという意見はほぼファンの間でも一致している。
*bandのアーティファクトとして登場するものは、「シルバーチャリオッツが持っているフォイル(レイピア)」──をイメージされて作られた物品である(刃を飛ばした時にそれを回収すれば他者も入手できる、とかいう問題でもないだろう)。物品としては、割とレアリティが低く手に入りやすいだけでなく、揃ったスレイングや追加打撃など普通に強い。発動で刃(魔力の矢など)を飛ばすとか加速とかは提案されたこともあるが、とりあえずは実装されていない。盗賊系の軽い武器や、また二刀流用として、かなり有効な品とみなされている。
シンゴル
→灰色マント王シンゴルのクローク
真世界
→アンバー
真世界アンバーの金の冠 The Golden Crown of Amber 【物品】
唯一の真世界の王位の象徴である冠。囚われたコーウィンはエリックの戴冠式でこれをエリックに渡すよう命じられるが、彼は自分の頭に載せ、王位を宣言する……意味深な場面だが、結局、最終的にこれを冠ることになるのは……
原作では、もちろん王位を象徴する重要な品だが、特にこの冠自体に何かの力(魔力)があるという描写はない。さらに、実は記述では金ではなく、銀の冠である。
実はベースアイテムは「金の冠」ではなく「宝冠」に近いのではないだろうか。このあたりは、[Z]のこのアンバーの冠が、[V]の「★ゴンドール王国の金の冠」の国名だけを変えたものである所以である(だが、このゴンドールの冠の方にも実は突っ込みどころが……)。
ゴンドールの冠より能力が上乗せされており、発動した時の「体力回復」ポイントも若干大きい。
→ゴンドール王国の金の冠
水中の監視者 The Watcher in the Water 【敵】
『指輪物語』時代のアルダ第三紀に、モリア鉱山の廃墟の西の入り口の近くに住んでいる謎の怪物。モリアに入ろうとした指輪所持者一行の前に、河の中から触手を伸ばして一行を襲う。薄い緑色に発光する先にいくつも指がついた細長い触手が、水の中から20本ばかり現れる、という描写である。触手以外は登場しないが、もともと触手しかない怪物なのか、他の部分もあるのかは原典からはあくまで読み取れない。
「水中の監視者」と言う名前は、モリアの奪還に失敗したドワーフのバーリン一行の遺書「マザルブルの書」の中に現れるもので、「オインを捕らえた(おそらく水中に引き込んで殺した)」怪物とある。痛ましくもこのオインも、『ホビットの冒険』でビルボらと共にエレボールに旅した13人のドワーフのうち一人だった。
MERP和訳や『トールキン指輪物語事典』においては、このモリア入り口の触手の怪物を「クラーケン」と呼んでいる。非RPG派の日本の指輪ファンはこの点に対して非常に批判的だが(触手しか出ていないものをタコの怪物とイメージが固定されることに対するものや、単なるRPG化嫌いなど)ただし、これはあくまで、アルダにおけるこの怪物自体の「種族名」というより、「巨大な水の怪物」という意味の「形容」「一般名詞」(かなり古めかしい言葉だが)として呼んでいるだけのような気がする(→クラーケン参照)。
アルダの大半の「存在」はその種族的起源を辿ることができるが(アイヌア、イルーヴァタールないしヴァラールの子ら、オルヴァールとケルヴァールのいずれか)この水中の監視者は、その正体に関しては正確なところは不明である。自然の生物の一種(それこそ淡水のタコの仲間など)とも考えられるし、神話〜伝説時代にモルゴスあたりが戦闘用に作った怪物の一種とも考えられる。しかし、のちのガンダルフの台詞に「世界の底には、アルダ創造以前から存在するサウロン以上に古びたものがおり」「モリアの最深部にはそうした存在が多数いる」というようなものがあり、おそらくこの水中の監視者もその一体、創世以前の堕落したアイヌア(聖霊)か、精神としてはそれに近い悪霊であるという説が、ファンの間では有力である。「クラーケン」という語が使われるのはその意味の偉大さも根拠となっている。
映画版FotRでは、触手だけでなく、本当に巨大なクラーケンもどきの怪物のような全体像が現れる。全身に逆棘と、凶暴な牙を持ち、タコよりも遥かに怪物的で凶悪である。原作では、水中の監視者がフロドを最初に襲ったことについてはガンダルフらは「理由の推測を話そうとしない」のだが、映画版ではあからさまにフロドだけを襲い、《一つの指輪》の存在を感じ取っていることは確かのようである。また原作では触手にサムが切り付けると離したので逃げるだけなのだが、映画版では例によってボロミア・アラゴルンの剣とレゴラスの矢による大立ち回りがある。地味な触手のみの存在であった水中の監視者が、こうした派手な怪物のイメージが固定されたことには賛否両論であり、「単に指のついた触手だけ出せばいいのだ」(実際は映画版のデザインでも触手の先に支肢がついているのだが、暴れ方が目立ちすぎてそんなことにはほとんど誰も気づかない)という意見もある。しかし映画スタッフも軽率にこうした描写を行っているわけではなく、メイキングのデザインラフのスケッチには触手だけのものから、世界各地の様々な水の怪物など、あらゆる試行錯誤が認められる。その中から怪物的な姿が選択されたのは、映画として外せないアクション(メリハリ)の機であるため、やむなく行った部分もあるだろう。
*bandにおいては、[V]には水地形がないので当然ながら登場せず、[Z]においては大小の「クラーケン」がそれに相当するとはいえるものの、MERPのように実際に水中の監視者を意識しているものかどうかは不明である。実際にこの名で登場するのはToMEで、ここではクラーケン等ではなく思い出で「ほとんど触手だけの体をもつ」と定義されている。中レベルの怪物であるが、水・毒関係の攻撃および魔法を一通り使ってくるので原作描写と同じと思っていると危険である。
→モリア
スカサ Scatha the Worm 【敵】
大長虫スカサ。エレド・ミスリン(灰色山脈)の大冷血龍。灰色山脈は第三紀の中つ国の北端を横切る山脈のひとつであるが、ここには第一紀のモルゴス軍の竜らの生き残りが多数生息していた。スカサはそのうち著名なもので、灰色山脈に鉱山を築いて住んでいたドワーフら(後述するが、ドゥリン王家ではない)を脅かしていたようである。「スカサ」は古英語で「傷害を与える者」「強盗」などを指し、トールキン内の設定ではローハン語であろう。古語では「長虫 worm」だけでもドラゴンの婉曲表現で、トールキンにおいても竜に対して全般に使われるが、ことに狭義では冷血龍(コールド・ドレイク)すなわち火炎を吐かない竜の、さらにおそらくは足や翼のないものを指すと思われる。
しかし、第三紀の2000年前後に、エオセオド王家(エオル王家のローハン人の先祖)のフルムガール王の一族が、灰色山脈の南に移住してくる(それ以前はもっと南東のロヴァニオンに住んでいたが、東夷の侵入で住みづらくなったので北上してきたのである)。そして、フルムガールの息子のフラムという王子が大長虫スカサを退治し、山脈に平和をもたらし、その財宝を手にする。しかし一説によると、スカサの財宝は元々灰色山脈のドワーフらのものであったため、ドワーフらはその所有権を主張し、フラムはこれを拒み、一切の財宝を与えずかわりにスカサの歯で作った首飾りだけをドワーフに贈ってよこしたという。これに怒ったドワーフらによってフラムは暗殺されたともいうが、エオル以前のエオセオド王家の記録は曖昧な歌などにしか残っておらず、ドゥリン王家以外のドワーフの記録も皆無なので、実際のところは定かではないようである。
どちらにしろドワーフらはスカサの宝を取り戻すことはできなかったようで、この200年ほどあとにドゥリン王家のトーリン1世(→トーリン盾参照)がやってきて灰色山脈にふたたび巨万の富を築くまではこの地のドワーフは衰退していたようである。が、このトーリンの王国も、ダイン1世の代にやはり「大冷血龍」によって滅びてしまう。やはりスカサの後にも、灰色山脈には冷血龍が根強く生息し続けており、あるいは闇の森に「ドル・グルドゥアの死霊術師」として構えていたサウロンの影響によるものかもしれない。
『指輪物語』の中には、ローハンに仕えることになったホビットのメリーが、エオウィン姫からローハンの角笛を貰うが、エオウィンはこの角笛を、青年王エオルを通して伝わった「王家伝来の品」で「ドワーフの手になるもので、大龍スカサのためこんだ宝物の中から出てきた」と言う場面が出てくる。
*bandではスカサは[V]以来の主要ユニークモンスターとして登場するが、例によってアルダのユニークドラゴンはかなり弱めで、下級ワイアームより若干下くらいの能力しか持っていない。冷血龍Cold drakeは「炎を吐かないので冷血動物」という意味ではなく、「冷気を吐く」という意味に解釈されているようである。また、CAN_FLYフラグがついており、足や翼の有無に関わらずとりあえず空は飛べるようである(トールキンの設定では、かなり考えにくいものの、翼がないとも明記されていないので設定と違うとも断言できない)。召喚なども持っていないので、ブレスなどに油断しない限りはさほど強敵ではないはずである。
スキュラ Scylla 【敵】
ギリシア神話の代表的怪物の一体であるスキュラは、元々ポントス一族の海神の一体フォルキュス(→オーク)と、ネレイデス(海のニンフ)の一体クラタイスの娘で、一種のニンフであったと捉えられている。海神グラウコス(名には太洋の意があり、ポセイドンの無数の子の一体ともされる)に思いを寄せられ、嫉妬した魔女キルケー(ともにティタン一族のヘリオスとペルセイスの娘で、他にも人間を変身させた逸話がある)の毒薬によって、スキュラは怪物と化した。その姿には、下半身が6体の飢えた狼というものから、下半身が蛇、あるいは無数の蛇、もしくは身体がヒュドラのような多頭の蛇で頭がすべて女性というものまで、様々な異説がある。
『オデュッセイア』において、スキュラは渦巻の海魔カリュブディス(→参照)と協力して、海上をゆく人々を襲うということになっている。すなわち、この二体は狭い海峡の対岸(これが「メッシーナ湾」とされたのはかなり後代の挿入である)に住んでおり、通り抜けようとする船が片方を避けるともう片方に捕まるというものである(また一説には、海上に恐ろしい姿を出すスキュラが船を威嚇し、逃れた船をカリュブディスが飲み込むとも言われる)。オデュッセウスらの船は、スキュラの方がくみしやすいと判断し、犠牲を出しながらもスキュラの狼の頭のいくつかを切り落とし、難を逃れた。この逸話から、海外において「スキュラとカリュブディスの間を抜ける」「カリュブディスを避けようとしてスキュラに突っ込む」等は、危険を潜り抜ける(抜けられない)ことを意味する慣用句にもなっている。RPGでは、ギリシアに由来するモンスター類の例によって、しばしば個体名でなく、複数存在するモンスターの「種族名」として用いられることが多い。
*bandでは[Z]から登場するユニーク・モンスターで、ギリシアの元の個体を特定しているようである。'M'(爬虫類怪物)シンボルに「爬虫類の混合物」で「12本の足と6つの頭を持つ」というところから、多数ある姿の解釈のうち、下半身が6匹の大蛇と12本のタコの足というものが採られているようである。その姿から合わせたような毒攻撃、毒と火炎のブレスの能力を持っている。40階という階層にしては手ごわいものの、「この手の」ユニークがよく持っている同族召喚は持っていないので、それほど恐れる必要はない。
スタッフ
→杖
スケイヴン Skaven 【敵】
英国発のミニチュア蒐集ウォーゲーム/TRPG『ウォーハンマー』シリーズに存在する、人型のネズミの種族。特にワープストーン(歪みの石)と呼ばれる原初の混沌の結晶体に触れて突然変異してできた、混沌の落とし子の一種と呼ばれる種族だが、特にスケイヴンは、『ウォーハンマー』世界の地下にひそむ巨大勢力となっている一種である。(しかしながら、ウォーゲームの勢力としてはともかくTRPGなどのオールドワールドの設定においては、スケイヴンはもっぱら地下で行動するためもあり、地上の人間らには実在の噂を信じていない者が多いという、特殊な位置づけにある勢力である。)このゲームの混沌種族にありがちだが、色は鮮やかで禍々しく一見すると動物モチーフの原型に気づきにくいようなユニットミニチュア造形も多く、特にクラン(氏族)のウォーロードなどはかなり野獣じみており、竜やトカゲといったものさえ髣髴とさせる。いわゆるワーラット等や、ネズミ獣人のイメージとすらかけ離れたものといえる。
このゲーム世界では非常にポピュラーで、スケイヴンには兵士として多くのタイプのバリエーション、ワープストーンから力を得る呪術師(→スケイヴン・シャーマン)まで、多くの種類のユニットが存在する。また団体戦を単位として扱われ、基本的にユニットとしては数を揃えて出て来ると思われがちだが(ゴブリンやスケルトンの類と同様のような印象が強い)能力的にもかなり優れたものもいる。また、彼らが地下で作る戦争用のさまざまな兵器(ウォーマシーン)には、火炎放射器や長火砲、ドゥームホイール(戦車)などがあり(数人の集団でこれらを使用する)その威力も恐れられている。
*bandでは[Z]から登場するが、普通の小型ヒューマノイドとしてのスケイヴンの他はシャーマンがいる程度の再現のみで、数多くのバリエーションが再現されているというわけでもない。通常のスケイヴンは、階層もスナガ等と同程度で、集団で現れる他は特殊能力などは何も持っておらず、ヒューマノイドとしては下級のものになっているようである。できれば[O]のガヴェノール猫人種のような多数のバリエーションと個性化を望みたかったところである。
助さん Suke-san, the Mitsukuni's Warder 【敵】
日本の映像時代劇における「サムライ」で最も代表的といえるのは誰か、ミフネやライゾーをはじめとする古典映画におけるヒーローらや、ないしテレビ時代劇の主人公の侍らからも、挙げることのできる名は数多い。しかし、その意味で彼らの地位すらも脅かしかねない存在が、主人公でないにもかかわらずそのレギュラー作品のあまりの長寿と頭一つ抜けた知名度故に広くその存在が民間に浸透している、『水戸黄門』のお供の侍「助さん」である。助さんこと佐々木助三郎は、商家の隠居を装って諸国を漫遊する水戸黄門のお供の武士のひとりであり、テレビ時代劇においては、大らかで軟派だが剣の腕のたつ、作中における「二枚目」武士として位置づけられている。明治時代の講談から通じて、「格さん(渥美格之進)」と共に、この二人はお供として水戸黄門を題材とした作品のすべて(アニメ『ダイオージャ』のスケード公すら含め)に付き物とされている(いわゆるご一行のうち他の面々は、いたとしてもテレビ時代劇のみの登場人物等、基本的に作品個々にしか登場しない)。
佐々木助三郎は徳川光圀の全国漫遊がフィクションであると同様には架空の人物であるが、そのヒントとされるのは、史上の徳川光圀に重用された佐々介三郎宗淳(ささ すけさぶろう むねあつ/むねきよ)であるといわれる。佐々宗淳は京都の学僧であったが、40歳近くになって還俗し、奨学の強い水戸藩に仕えた。水戸光圀の『大日本史』編纂のために日本諸国を巡った学者らのひとりとして(つまり、史実では「お供した」のではなく、彼ら自身だけが諸国を漫遊している)またその学舎・彰考館の長、さらには引退後には光圀の小姓頭として側にも仕えた。佐々宗淳の人となりは、学者らしく温厚で物静かであったともいうが、一方では、突如還俗したのは京都の高僧らと学術・宗教論争のため対立したためとも、また光圀が宗淳をことに重用したのはその破天荒な気質のためであったという逸話も残っている。こうした面が講談ひいてはテレビシリーズの助さんの人物像に反映されているというのはつとに指摘されるところであるが真偽のほどは定かでない。
なお、テレビシリーズでかつて2代目助さんを演じた里見浩太朗が、現・5代目の水戸黄門であることから、助さんは単なるお供のように見えて実は脱皮して水戸黄門になることのできる幼生体であるとか、プレステージクラス(上級職)である水戸黄門への転職条件を満たすには助さんが有利であるとか奇怪な噂は絶えない。
*bandにおいては、[変]に追加されているアーティファクトである水戸黄門の印籠の発動効果である「例のアレ」(→更生せしセオデン王のビークド・アックス)等で登場する。この*bandの世界において常人としては結構な能力であるが(その攻撃はSUPERHARTである)階層にもよるが頼りになるかは定かではない。
→水戸黄門の印籠
スターライトの杖 The Staff of Starlight 【物品】
日光のみならず、しばしば月光や星の光の魔力が強力な魔力や、ことに聖なる魔力とされている魔法や物品等は決して少なくない。トールキン作品では主要種族エルダールに星と関わりが深く(→エルベレス)同様の発想は自然と思われる。
しかしながら、Moriaの時点から*bandに存在するこの物品は、それほどの含みがあるものとは思えない。ワンドが方向を指定するのに対してスタッフは発動すると自動的に(多分に使用者の周囲に)効果が及ぶ物品であるが、
MoriaでのStaff of Starlightは、光のワンドと同様の光線照射が、自動的に上下左右斜めの8方向に一度に照射されるという、ただそれだけの品である。おそらく、ワンドの上位版として「周囲すべて」に照射するものを作ったらstarマーク(*)を思わせるものになったので、単に面白半分に追加したのではないかと思われる。ただの光のワンドや光の杖(イルミネーション)に対しても、さほど実用性が高いとはいえない。
Moriaは別分岐であるRogue正当バランス系やHack系などのRoguelikeと比べても、堅実ではあるが非常に地味になりがちなゲームである。故に、あまり意味のないものやはずれアイテムも含めて、できる限り様々なアイテムを登場させたのではないかと思われる。*band以上に異様なほど豊富な武器防具のベースアイテムもその反映であると思われるし、また鑑定が思うようにならない最序盤、使用してみてはずれとわかる(後半には無駄な)アイテムなどもできる限りRogueから引き継いだり、またこのスターライトの杖のように豊富に追加したのだろうと思われる。
*bandの多くのバリアントでは、ある意味名前に反して、自動的に8方向ではなくランダムに5d3回(期待値10回)照射するものになっている。*band一般として光に弱いモンスターに対する光ビームの戦術性は高くなっており、またこの杖は回数も増えてはいるものの、反面ランダムになっているので、決してこの杖の戦術においての有用性が高くなっているとはいえない。さらに後半部が非常に長くなっている*band系においては、いまやMoriaの名残以外の意味をほとんど持っていないひとつである。
→光のロッド
ストームブリンガー The Blade of Chaos 'Stormbringer' 【敵】【物品】
出典:マイケル・ムアコックの永遠の戦士シリーズの中でも代表作と言われる『エルリック・サーガ』の主人公、メルニボネのエルリックの魔剣。単なる剣の名のみならず、全ヒロイックファンタジーの象徴ともいうべきタームのひとつである。知性を持つ剣や凶運を呼ぶ魔剣の代名詞であり、後発の多くのファンタジー物語でのそれらの直接のモデルとなっている。
一万年の長きにわたり、栄華を誇りしメルニボネの光の帝国の末期、大いなる異変天地にありて、人と神々の運命は〈宿命〉のかなてこの上に鍛へられ、恐ろしき戦さあり、もろもろの勲し行なはれたり。このときあまたの勇者輩出せり。なれど衆に優れたるはメルニボネ最後の王エルリック、ルーンの刻まれし黒き剣のになひ手なりき。
[変][X]のアーティファクト解説文にあるこの文章は、エルリック・サーガの最初の和訳作が「SFマガジン」に掲載されたときのみの序文だが、ハヤカワ文庫の単行本には収録されていない。(なお、この文と重複するくだりを含む序文はFTアンソロジー『不死鳥の剣』収録の、『翡翠男の眼』初期版にも添えられている。)
ストームブリンガーは黒い異界の物質で作られルーンが刻まれた巨大な段平で、殺戮に及んでは自ら黒い輝きを放ち啜り泣き呻くような音を立てる。切りつけた者の魂を吸い取り(魂を撃つので、神すら打倒する力を持つ)生命力を剣自体と使い手に与え、魂自体は剣と一体化する、もしくは混沌の魔神に捧げる。剣自身が一種の混沌の魔神(精霊)の化身のひとつであり、双子剣モーンブレイド以外にも多元宇宙に無数の投影を有する。エルリックの先祖、メルニボネの魔術王たちにゆかりのあった魔剣で、エルリックは強く求めてではなく、成り行きで手にしたが、アルビノで虚弱体質のエルリックはこの剣が使い手に与える生命力なしには生きてはゆけない。むしろエルリックに近しい親族や友人らの命を次々と奪い吸い取ってゆくが、エルリックはこれを手放すことができない(本当にひとりでに浮かんでエルリックの手に戻ってくることさえある)。
強大無比な魔剣の代名詞であり、またムアコックの描く「永遠の戦士」らが持つ「黒の剣」の中でも最も強力なものとされるが、実は原作中でも、生命を持たない敵に対する時など、あまり効かない場面も割と多い。そのあたりがRoguelikeでの結果的な位置づけと似ているかもしれない。
非常に有名であるにも関わらず、最も重要な悲劇的側面を表現しにくいためか、RPG等にそのまま登場する例は少ない。しかし、間接的にモデルにしている剣ならば数多い。D&Dシリーズに登場する「インテリジェンスソード」(知性、自我、属性を持ち、他の剣を圧倒する能力や禍々しいペナルティーを持つ)はストームブリンガーがモチーフというのは有名な話である。D&Dの英雄などを記述したサプリメントの最初期にも、ムアコックの英雄達とストームブリンガーのデータが存在したが、同書の後の版では削除されている。また、AD&DのGreyhawk世界のシナリオWhite Plume Mountainに登場する『ブラックレイザー』は、酷似した外見・性質のみならず、上記最初のデータのストームブリンガーを思い出させる危険な能力を持つことで類似品として有名だが、なぜかAD&Dの別の世界設定であるForgotten RealmsのCRPG『バルダーズゲート2』に登場する(性能は若干異なる)ことで広く知れ渡っている。(BlackRazorというユニークアイテムはDiablo1にも登場するが、短剣であり、剃刀のイメージ以外におそらく関係はない。)
エルリック・サーガ自体のTRPGである『ストームブリンガー』や『エルリック!』では、元々デーモンの封じられた武器は強力なのだが、ストームブリンガーの数値は文字通り桁外れとなっており(当たると精神力(POW)を数十点(1〜100の乱数)吸い取る。また魂を吸えない敵に対しても命中率880%、ダメージ+17Dという強烈な威力がある)同じBRPルールでの神や旧支配者やらにとっても危険すぎる値となっている(POWは大半が2桁前半、最も強力な類の外なる神でも100で、耐久力もよほど大型のもの以外数十である)。なお、これをd20化したもの(DRoM)での現在のD&D準拠データでのエルリックとストームブリンガーのデータもこちらに近い。
他のゲーム等の有名どころでは、特に『悪魔城ドラキュラ』の主人公のひとりアルカードの持つ「剣魔」が、浮遊して攻撃する・無数の兄弟剣を呼び出す(「百なる一の剣」という、ECシリーズファンならいかにもと感じる技の名である)など、明らかに黒の剣やストームブリンガーを模した様々な技を持つ。古典的RPG『ウィザードリィ』シリーズでは、後出になるが#5や外伝などの一部機種作品に「ソウルスティーラー」という呪いの剣があるが、外伝Iでのみ、この剣の名前が「あらしをよぶけん」となっており、ストームブリンガー(嵐をもたらすもの)を意識していると思われる。ソウルスティーラーの威力自体は各作品ごとのバランスによって位置づけが異なるが、#5での戦士系の準最強武器であるソード+3(#5一部和訳や外伝IIでのカシナートの剣)に匹敵し、さらに外伝Iでは一部武器が弱くなるバグのためもあり、位置としてはかなり強い方である。
RoguelikeではNetHackに登場しているものが有名である。生命のあるモンスターから1レベル吸い取る力をもち(上記D&Dの最初のデータでは一気にレベル総数の半分〜全部吸ったりするので、それに比べるとかなり生易しい)友好的モンスターにも攻撃する。癖があり、またNetHackのアーティファクトの中では飛びぬけて強力な方ではないが、「混沌」属性ではこれ以外に有用な武器アーティファクトがないので、エルフや盗賊はこれを最終装備とする羽目に陥る。
敵:*bandでは[Z]から登場する。原作にもひとりでに動いて敵を殺す場面がいくつかあるが、剣がひとりでに動く敵として登場する。準備なしで出会うと問答無用で気絶させられなすすべもなく殺されるので、中盤の主要な死因となるほどである。[Z]日本語版公式ページにも書いてあるが、準備を整えて戦う(スピードを上げ、フェイズドアで離れながら弓矢や魔法で撃つなど)のが望ましい。
物品:上記の敵ストームブリンガーを倒すと、アーティファクトの『ストームブリンガー』を落とす。純粋にダメージおよび修正が大きく、有用な耐性や能力値もあるが反テレポート([変]および[X]では除かれている)もあり、スレイング等は全くなく「吸血」属性だけがあるという、非常に癖のある品である。ランダムに反感か経験値吸収がつくが、この辺りのレベルならば経験値吸収はさほど大きなペナルティーではないので、後者の方が使いやすいとされる。強力なアーティファクトには吸血属性があるものは少ないため、特に回復手段が少ないクラスの場合、サブの武器としてこのストームブリンガーを持ち歩く場合もあるという。
なお双子剣「モーンブレイド」は[Z][変]では固定のアーティファクトとしては存在せず、ランダムアーティファクト名に名前のみが見える。
ムアコック世界観のGumbandでは、主役級アイテムであるためか、多数のスレイングや打撃増加などが加わり、さらに凶悪な武器となっている。
ストリガルドワー Strygalldwir 【敵】
コーウィンがロレーヌという地(アヴァロンの近くにある”影”)で女と乳繰り合っていた所に無粋にも部屋に侵入してきたデーモン。いかにも悪魔という姿で、自分で名乗ったにも関わらず名前を織り込まれた呪文にびびる。最初はルーンの剣でグレイスワンダーと丁々発止と戦っており、剣と魔法の名対決の予感、……であったが取っ組み合いにもつれこみ、なぜか絞め殺された。「混沌の宮廷」から派遣されてきた悪魔である。
[Z]から、中盤に入り始めた41階で登場し、いかにもZネタという雰囲気が出てくるところである。それはいいのだが、ゼラズニイからの引用を外して中つ国だけを舞台にしたはずのToMEや、それどころかムアコック世界のはずのGumBandにまで、このストリガルドワーだけは入ったままになっている。そのため、逆にゼラズニイを未読のプレイヤーが、これが何か他の出典(実在の伝承など)ではないかと思ってしまうこともある。
もしかすると、[Z]を元に「ゼラズニィを外した」モンスターリストを最初に作ったバリアントがあり、ToMEやGumBandはそれを参照しているが、そのリストがストリガルドワーを外し忘れていたのだろうか。
スナガ Snaga 【敵】
出典:トールキン作品における「ゴブリン」と「オーク」の違いに関してはいわゆる指輪関連のFAQのひとつである;『ホビットの冒険』ではゴブリンだった同等物が『指輪物語』ではオークになっており、かと思えば一律オークではなく混在していたりもする。結論から言えば、当時の語のオークを現代の英語に直したのがゴブリンで、混在するのは、せいぜいがゴブリンの方が英語なので「より口語的」といったところであろう。ホビットについて、「ホビット」と「小さい人(halfling)」が混在しているのと同じことである。(ただし、トールキン自身はオークとゴブリンをイコールとするかは、結局は迷っていたようである。北欧などに遡る「トロル」や「エルフ」といった語と異なり、「ゴブリン」は使われ始めたのが新しすぎる語のためでもある。)
しかし、トールキンの記述を出ない範囲内で、この語の使い分けに何らかのマニア的自家設定を作っているファンも多い。例えば、ゴブリンはオークがサウロンの滅亡後に統率者がいない烏合の衆と化し、種族的にも退化して、罪のない悪戯をする妖精=現代語のゴブリンとなったとする説がある。また、「ゴブリン」はオークの数多くの種族の中でも小型(つまりは、のちの小妖精に近い)のものを特に指すという説もある。『ホビットの冒険』でのゴブリン、すなわちグンダバドの洞窟オークらがゴブリンと呼ばれているので、オークの中でもこれらの部族をゴブリンとする解釈もある。RPGでは「ゴブリンは知能が低い」というのが定番と化しているが、『ホビットの冒険』のゴブリンらはドワーフについで工芸にたけ、殺傷兵器のような数々の機械を発明し、むしろ知能は高い(これは、科学技術を「悪」とする場合に、それらを発明した者らはノームのような良い発明家に対する悪の小鬼であるとか精神的なその子孫であるとかいう、近代以降の御伽噺の思想を感じさせる設定である)。なお岩波版『ホビットの冒険』の挿絵(画:寺島竜一)のゴブリンは「ドワーフそっくりで単に目つきが悪いだけ」だが、まだ当時は悪のオークの設定が完全でなかったとか児童文学だからだとか色々な事情がある。
映画版LotRや2012年-の映画版『ホビット』でも、霧降り山脈のゴブリンが児童文学の登場人物らであることから考えて、LotRのモリアの小型オークであるゴブリンや霧降り山脈のゴブリンに対しては、他のオーク(アゾグら等)と全く同じ種族ではなく、オークらほど恐ろしくない種族であるという、上述の一般的ファン見解と同様の見解(解釈)で作られており、映画版の解説類でもそうなっていることがある。しかし、これらはあくまで映画の描き分け上の(脚本上の)裏設定の類であって、原作に、またトールキン全般の設定としてこのようなオークとゴブリンの設定の定義が明確に存在するわけではないことには重々注意されたい。映画『ホビット』のゴブリンは、ウルク等と比べて、地下の種族であることからサンショウウオや深海魚などもヒントにデザインされている。日本の(おもにTRPGの)ゴブリンのステレオタイプとして乱用されがちな、悪魔や小鬼のような雰囲気は意図的に排除されており、地下の小動物のようなイメージが徹底されている。映画のゴブリンはトロルと異なりフルCGではなく、着ぐるみを用いて演じているもの(『ホビット』では自然に演技できるよう頭部のみかぶりものやメイクはなくCG合成されている)、また、そこにモーションキャプチャーした多数のCGクリーチャーを画面上に合成している映像の併用である。
まるで余談だが、映画RotKでモルドールのオーク「スナガ」(固有名詞)を演じているジェド・ブロフィーは、他にアイゼンガルドのワーグ乗りのシャークー、ハラド兵やローハン兵などで出演しているが、映画ホビットではドワーフのノーリ役である。
LotR以後、1974年のオリジナルD&Dに発し以後のRPGでは、ゴブリンとオークは全くの別種族とされていることが多い。D&Dではゴブリノイドとオーク種はそれぞれ別の多数の種族を包含する大カテゴリで、アライメントも異なる。にも関わらず、ゴブリン側が近代以降の妖精説話の語であるといった点は反映されず、LotRのオークのような単なる兵士階級とされていることが殆どである。
敵:*bandでは、ゴブリンについての上記の解釈のうち、オークの数多くの種族のうちでも最も小型で卑小な種族「スナガ」が、別名ゴブリンである、という設定になっている。
『指輪物語』においては、「スナガ」という種族、部族が存在するという明記があるわけではないが、小柄なオークが「スナガ」と呼ばれる箇所があり、固有名詞(キリス・ウンゴルに居るものは頭が大文字になっている)のように使われている箇所もある一方で、スナガは小柄なオークを指す一般的な語である、という説明がある。追補編によると「スナガ」は暗黒語で「奴隷」の意であるというが、トールキンの創作語のうち、暗黒語には特に不明な点も多いが、この「スナガ」の語に関しては英語の「小汚いもの snot」のような意味の語源から作られたに相違はない。また、[Z]以後には普通のスナガよりさらに若干弱い、『ウォーハンマー』から引用された「小汚いスナガ snotling」も登場する。スナガにしろスノットリングにしろ、序盤の最も早い時期に、ときには集団で登場するが、以後のオーク類と比べても(階層の割としても)さほど脅威ではない。
→オーク
砂に棲む者 Sand-dweller 【敵】
下級の奉仕種族、砂漠を忍び歩くもの。しかし、何に奉仕していて何をどう忍び歩いているのかもわかっていない。
この人型ヒューマノイドは、ラヴクラフトとダーレスの共作『破風の窓』に登場し、主人公が覗き見た遠くの地(アメリカ南西部のようだが、宇宙のはるか遠くのどこかの惑星のようでもある)の砂漠の、洞窟から出てきて砂漠を「たしたしたしたし」と歩いていた生き物である。出番はただそれだけで、詳しい情報は何もない。一応ついで登場する存在(ネタバレなので伏せる)に道を譲ってはいるが、これだけで奉仕しているとも言いがたい。姿はやせこけて干からびたような肌をもつ人間のようで、大きな耳を持つ「コアラそっくりの顔」をしている。(『狂気の山脈にて』に登場する巨大白ペンギンもそうだが、世間一般ではマスコミに煽られてマスコットとして可愛がられている生物の、冷静によくよく落ち着いて見てみると不気味とも言える姿の側面に目を開いているのは、ラヴクラフトらクトゥルフ神話作家に共通する視点である。)
しかし、どういうわけかこの生き物の知名度はクトゥルフ神話ファンの間ではかなり高いようである。それは、おそらくラヴクラフトとダーレスの共作の中でもこの『破風の窓』が比較的よく知られた作品で、さらにそれは、「クトゥルフ神話」の生物や神話の要素が盛り込まれた作品でなおかつダーレスの他の派手すぎる作品よりは馴染みやすいためかもしれない。なお、新版CoC-d20のルールブックには載っていない。
*bandでは不特定のクトゥルフ系生物に共通する小型デーモンシンボル'u'で登場し、暗くなってきてから出現したという描写からか、光に弱いという解釈が強められて、光によってダメージを受けるようになっている。同じように集団で登場し、光に耐性をもちそれ以外の点では似すぎている「ナーグリング」(ウォーハンマー系の小型デーモン)をこれと混同して光のロッドを振るといったプレイヤーの挙動がよく目撃される。
すばやき刺 Quickthorn 【物品】
マイクル・ムアコック『エルリック』シリーズの一編『薔薇の復讐』に登場する女傑、その名も<薔薇>が所持する剣。<すばやき刺>(箇所によっては<すばやい刺>となっていることもある)は細身の剣で、短剣<小さき刺>と共に<薔薇>が帯びている。
<薔薇>は大柄に緑と枯草色をまとった、赤味をおびた金髪の秀麗な女性で、エルリック(や、ここでの”英雄の介添人”役とも思われる詩人ウェルドレイク)が意気投合する傑物であり、<呪われた公子>ゲイナー(『コルム』にも登場するなど、エターナルチャンピオンシリーズに共通する敵の一人)や混沌の伯爵マシャバクにまつわる複雑な復讐のためにエルリックらと共に旅する。ふたつの<刺>は特殊な武器という描写は特にない;しかし、このシリーズの登場人物、エルリックの同行者には、心得として武器の扱いにたけた者は珍しくないが、<薔薇>は中でも剣士としてエルリックと肩を並べて戦うことに喜びを感じるという、卓越した技量の持ち主と描写されているひとりである。
『薔薇の復讐』は、それまでのエルリックのシリーズよりはかなり後になって書かれたため、雰囲気が大きく異なっているが、登場人物の極度に記号的・象徴的な側面を表に出した話作りという点が訳者やファンなどから指摘される点である。ことに<薔薇>はこの容姿や、<刺>と名づけられた剣、また植物の自然魔法を心得ている点から、自然力の象徴という側面が特に強く表現された人物である。そして、自然力は微々たる力ながら、エルリックをはじめエターナル・チャンピオンシリーズを暴風のように翻弄してきた<混沌>の魔力に抗し得る力と描写される。いくばくかのファンが指摘し、またBRPゲーム版エルリックが精霊などの自然力を<天秤>に属するものと定義するように、あるがままの自然の均衡とは、微々たる力ながら数少ない「正義」として現れる力の顕現なのかもしれない。なお<薔薇>(Rose)という人物の名は、ムアコック監修のアメコミなど、多元宇宙を扱った他作品にも見える。
*bandでは、[変]開発当時、「二刀流」に有利なアーティファクトを追加するというアイディアのひとつで、宮本武蔵のカタナ(→参照)と脇差と共に提示されたものである(なお英語名はこのとき原書等をあたる暇なく創作されたままである)。特にこの<薔薇>の剣に特殊な能力があるでも、二刀流という点自体が作中で強調されているでもないので(レイピアの使い手が短剣も持つのは珍しいことではない)なかなかそれらしいアーティファクトのアイディアが出ない中、双剣をふるう剣士ということで提示されたものだが、有名な『エルリック』シリーズに登場する剣士、それにまつわるアーティファクトを追加する自体は悪くないものである。
スピリット・トロル Spirit Troll 【敵】
スピリット・トロルとはAD&Dのモンスターで、スペクトラル・トロル(トロルがレイス(死霊)と化したもの)を、インビジブル・ストーカー(→参照)と魔法的に合体させたという、寝ぼけたような発想の代物である。同じ「スピリット」でも、スピリット・ナーガ(→ナーガ)が「精神的なものを守護するナーガ」であって実体のモンスターであるのとは異なることに留意されたい。
スピリット・トロルはその由来通り、トロルとレイスとインビジブル・ストーカーの性質をすべてあわせもった性質を持っている。すなわち、不可視であり、非実体であり(物理攻撃が効きにくいこともある)、さらに再生能力も持っている。ビジュアル的に、レイスのように生命力を吸い取り、そして吸い取った(与えたダメージの)分の傷も回復するという力がある。ほぼ想像できる通り、異常なほど倒しにくい。
どちらかというとこんな特異さやオーバーロード(詰め込みすぎ)は特定のシナリオの特殊モンスターのようなもので、おそらく最初はどれかのシナリオの仕掛けだったのではないかと想像できるが、一度オフィシャルに登場したものは「正式データ」と化して一般化してしまうのは割とD&D系の体質のような気もする。
*bandでは、いわゆるトロル系モンスターの中でも上位のものとして登場する。当然ながら、トロル系にも関わらず壁を抜けてくる能力を持つ。最もありがちなのが、トロルピットの中に数体混ざっていて、これだけが壁を抜けてやってくるパターンだろう。攻撃力は極端なものではないが、上記の設定ゆえか単に上位のトロルだからというだけか、体感的な耐久力が非常に高く、出現頻度の低いトロルの王と同等のものを持っている。
→トロル
スフィンクス Sphinx 【敵】
出典:ライオンの体と人間の頭(ないし胸から上)をもつスフィンクスは、おそらくエジプトからメソポタミアやギリシア神話に伝わったと考えられる幻想生物である。スピンクスはギリシアでついた名で「絞殺者」の意とされるが、元来エジプトでの原語で「神像」の意の「セシェプ」を含んでいたなんらかの名(エジプトでの原語は不明である)であったのが、似たギリシア語にあてはめられたとも言われる。
スフィンクスはエジプトでは大ピラミッドの像のものをはじめとして、多くの像や画像に見られ、エジプト神話の半神半獣であらわされた神の暗示・化身のひとつとされ(ここでは獅子の体はアトゥム神、人間の頭はラーやホルスといった王権を示す重要神とされる)またこれらに応じてエジプトには人間でなく鳥(ヒエラコスフィンクス)や羊(クリオスフィンクス)の頭を持つなどのバリエーションがある。人間の頭のものはエジプトの大王ファラオの象徴でもあるため、エジプトのスフィンクスは男性にあたる。3大ピラミッド(→クフ王)を守る大スフィンクスは、第2の大ピラミッドのカフラー王時代に建てられたという説があり(正確には不明である)ナポレオンの攻撃などで破損しているのが有名だが、元来がその古さのために破損に悩まされているという。
一方でギリシア神話のスフィンクスは、女性の頭にライオンの体、鳥の翼を持つが、ギリシア神話の神統の上では究極の魔神テュフォンと蝮怪エキドナの子とされ、ヒュドラ(→参照)やキマイラ(→参照)やケルベロス(→参照)やオルトロス等、ギリシアの主要な怪物の多くと兄弟姉妹にあたる、純然たる人食いの怪物である(オルトロスやキマイラの子という説や、後述のオイディプス伝説の人間の一族とされる場合もある)。テーベの旅人に有名な謎かけ(→ロック)をし、答えられなかったものを捕食していたが、オイディプスに謎を解かれて自害したという説話が有名である。エジプトのそれに対して、女性であるギリシアのスフィンクスは、ほかのギリシアの女怪同様に女性に対する恐れ、特に謎をかけるといった点が不可解さの象徴と考えられていることが多い。しかしながら、仮にこの怪物がギリシアで独自に発祥したのではなくエジプトから入ってきた説が確かであるとすれば、女性に混じって異文化の不可解さを示すものと考えることもできるだろう。
ゲームでも、スフィンクスは(ユニークではなく)一般的なモンスターの種族として登場することが多い。特筆すべきとして、RPGにおいてはそれぞれエジプトとギリシアの説話の差から、男性と女性のスフィンクスを別々のデータおよび性質としている例が少なくない。男性は善であったり深慮であったり聖職者系であったりし、女性は悪であったり凶暴であったり魔法使系であったりする。仮に凶悪であっても謎をかける役やイベントモンスターであることも多いが、何も考えずにただ襲ってくることもまた多い。TRPG等では、いずれも伝承幻獣がデータ化される例によって中〜高レベルのモンスターだが、エジプト・ギリシアいずれも知能が高いとされることからか、幻獣類の中では高めのレベルであることが多いようである。なお、「中レベルまでの呪文を跳ね返す結界をまとっている」というデータを採用しているゲームも時々あるが、これはRPGの多くの直接の原型であるクラシカルD&Dにおいて、スフィンクスが黒箱(最上級ルール)掲載の超高レベルキャラクター対応モンスターであったため、レベルの低さの割に、呪文を無効にする等のインフレした特殊能力を持っていたためである。後のAD&Dなどでは特にそんなことはない。
敵:*bandにおけるスフィンクスは[V]2.8系以来ではなく、[Z]から追加されたノーマルモンスターとして登場するが、17階と同種の伝承幻獣と比べても決して高くはない階層と強さのモンスターである。evilフラグがないことを含めて、それなりの強靭さをもつ怪物ではあるが、魔法も混乱と恐怖のみしか持っていない。これらは、D&D系などのデータにある「精神撹乱の吼え声」などの能力を再現したものと考えられ、同様にデータにある高度な呪文能力は反映されていないと思われる。性別フラグはないのだが、おそらくギリシアの女性版と考えられ、謎かけがこうしたゲームでは再現できない以上、(伝承でのその最期からも)怪物としてはさほど屈強・凶悪なものではない(単純なモンスターとしての力を持たせてもそれほど意味がない)と解釈されてのことと思われる。思い出文章には「そのなぞなぞに答えられなかったらあなたは食べられてしまうだろう」と書いてあるが、*bandでは言うまでもなく「なぞなぞ」などかける前に食べに来ることからして、あるいは伝承に登場するほどの高度な精神性に到達できなかった個体なのかもしれない。
スペクテイター Spectator 【敵】
R_INFOのコメントには「デイブスペクターではないよ」と書かれているが、なぜ「スペクター(→参照)」のデータではなくこちらにこのコメントがあるのかという疑問を口にした者には、<奈落界(アビス)>第六階層のビホルダー”太母”(→ビホルダーの巣母)よりの刺客が差し向けられるといわれているのでよくよく注意されたい。
スペクテイターはAD&Dオリジナルのビホルダーとその無数の近縁種(→ビホルダー参照)の中でも、きわめて特異な存在である。非常に「秩序」的な性質が強いため、魔術師らによって財宝などの「守護者」として召喚され使役されている存在である。スペクテイターはきわめて忍耐強く、いったん召喚・契約すると101年の間じっと動かずに場所や財宝を守護することができる。ビホルダー近縁種の例によって「見るもの」の名をもつが、spectatorとは傍観者、目撃者のニュアンスで、その不動の性質に由来しているのだろう。
魔術師は基本ルールにあるありふれた呪文によってこのスペクテイターを、<涅槃界(ニルヴァーナ)>、すなわち奈落界や七天界といった界(プレーン)が善や悪を象徴するのと同様に「秩序」を象徴する異界(現在はニルヴァーナは通称で、界の本当の名は「メカヌス」である)から召喚することができ、スペクテイターは普段からニルヴァーナと主物質界を自由に行き来する次元移動能力も備えている。ガーディアン・ナーガ(→ナーガ)同様に「仏法の守護者」のようなイメージも持たされているようである。ビホルダー近縁種は大半が邪悪で恐ろしく人間を憎んでいるが、スペクテイターは善というわけではないものの、利害が一致すればきわめて友好的・協力的なこともある。
スペクテイターは最も典型的な「ビホルダー」よりやや小型で、特殊能力ゆえにそのレベル相応よりはかなり危険ではあるものの、やはりビホルダーよりはだいぶ危険度は落ちる。ビホルダーによく似た、主眼のある球体に近い体の上に、先端に小眼のある触手が4本だけあるという姿で、4本の眼の魔法は精神操作系と、聖職者系呪文を思わせるものになっている。この姿からレトロゲーム『ザナドゥ』など、指が4本の「手袋」を思わせるようなビジュアルになっていることもある。
*bandではAD&Dモンスターが多く採り入れられている[Z]から登場し、32階とビホルダーよりはかなり低階層で、能力も相応なものである。なぜか思い出解説では眼柄は4本ではなく「2本」と書かれているが、直接攻撃は4回の凝視攻撃、それぞれ麻痺や混乱等と元に忠実なものである。魔法もプリースト系に近いもので、別物になっているビホルダーよりもむしろ原型に近いものが再現されているといえる。
スマウグ Smaug the Golden 【敵】
黄金竜スマウグ。トールキン『ホビットの冒険』に登場するドラゴン。元々は赤い竜なのだが、ためこんだ財宝が全身に付着して輝きまるで黄金色のように見えるためこの名がついた、と書いただけで、FTに深い馴染みのある人は、慣例的に並たいていの「格」のドラゴンに用いられる背景ではないことは察しがつくであろう。Smaugとは古西欧語で「狭い穴に入り込んでいる」といったような意味で、中つ国の言語学的に言えば、北方語(ローハン語など)の系統でつけられた名ということになるだろう。
スマウグは第三紀に生き残っていたウルローキ(火炎竜)の中では最も強大なものといわれるが、元々第一紀(伝説時代)にモルゴス軍の城砦アングバンドが陥落・水没した際、逃れてその南(つまり、第三紀の地図では北部)の灰色山脈に住み着いた竜らの一体であると言われる(ただし、あまり昔ではない「湖の町がエスガロスと呼ばれていた頃」に「若かった」といった記述もあり、スマウグ自身の生まれは第三紀ではないかという説もある)。やがて、灰色山脈のすぐ南の孤峰「はなれ山(エレボール)」にモリアを逃れてきたドゥリン王家のドワーフ(→モリア参照)が居を構え、800年ばかりをかけて「山の下の王国」と巨万の富を築くと、スマウグはこの王国を襲い、王宮と財宝を奪ってねぐらとする。この居も追われたドゥリン王家はこの後もまた別の場所で災難に見舞われるがそれは割愛し(→アゾグ参照)、その後年になって、ドゥリン王家の末裔トーリン・オーケンシールドがこのはなれ山と財宝の奪還の旅に出るというのが、『ホビットの冒険』の背景である。結果から言ってしまうと、このトーリン一行の侵入によって怒り狂ったスマウグは、ほとんど腹いせによって近くの湖の町エスガロスを襲ったが、その町人には「伝説の谷間の国の射手ギリオン王の子孫」バルドがいた。ホビットのビルボが発見したスマウグの弱点を聞いたバルドの矢によって、スマウグは射殺された(→射手バルド王のロング・ボウ、黒い矢)。
トールキンを敬うFTファンは、このスマウグをファンタジーの原点に登場する竜の代表格、またウルローキの生き残りという申し分ない血筋としても、「ファンタジー最強のドラゴン」の一体として位置づけていることも多い。一方で、日本のRPGファンからは「(彼らは)たかが一矢で死ぬような竜を買いかぶりすぎている」といった意見がしばしば筆者の耳にも届けられる。弱点によって一矢で殺される竜に対しては、東西の伝承の竜(および財宝の番人)には、特定の弱点をひとつだけ持つというものが多く、トールキンはその伝承類を非常によく検討しているというのが研究者らの意見だという(なお、T&Tではドラゴンは普通に倒す以外に、必ず一撃で倒せる弱点があるとルール化されている)。筆者としては、非常に逆説的であるが、竜という存在は力ずくで抵抗することは断じて不可能であり、「ただひとつの弱点をつく以外に倒す方法は皆無である」という方がかえって納得ゆくように感じられる。
スマウグの振る舞いは、トールキンが繰り返し強調する、狡猾さとそれに対極の野獣のような暴力をどちらも極限まであわせもった存在の威圧感に満ちている。その台詞は後代のRPG等の神や竜にありがちな上面だけの文語ではなく、悠然として不敵な圧力をもつ。瀬田訳にも独特の味があるが、ビルボとのやりとりの原文の独特の調子は、まさしく互いの口調を使い分けながら読み上げたくなる場面である。
2012年以降の映画版『ホビット』3部作では、CGにより映像化されているが、トールキン本人のスケッチの全長十数m程度のものから、(メイキングのスタッフの発言によると)90m近くまで巨大化している。また、1作目ではあまり姿がはっきりせず、トールキンの描いたような4つ足で細身のものという設定に拠った映像がいくつかあるが、2作目からは設定が変更され、前足のかわりに翼となっているワイバーン型となっている。もっとも、翼を支える肢がかなり強靭であり、伏せている際には前足のように体を支えるような節もある。炎を吐く寸前に胸元から一気に赤熱するという描写が印象的である。「宝石で全身を塗り固めた」という像はあまりなく、2作目でトーリンらによるドワーフの溶鉱炉の攻撃で溶けた金属を全身に浴びたまま飛ぶ場面が「黄金竜」を思わせる程度である。また、胸元の弱点は宝石に覆われていないというのではなく、かつて射手王ギリオンの矢によって鱗が一か所だけ剥がれた場所ということになっている。
*bandでは他のユニークドラゴンと同程度の45階に登場する。強さ・階層ともにだいたい古代ドラゴンと下級ワイアームの中間ほどであり、ドラゴンとしての対処を誤らない限りは(つまり、不意にブレスを浴びるなど)極度に手ごわいわけではないが、そうした死因となった場合に、印象に残りやすい。また、そういう手段を使わなければ倒せないほどの強敵というわけではないが、[Z]日本語版以降は特定のアーティファクトで大ダメージを与えることができる。アルダ世界の設定を重視する印象的なフレバーといったところであろう。
→射手バルド王のロング・ボウ →射手バルド王の黒い矢
スメアゴル Smeagol 【敵】
『ホビットの冒険(Hob.)』『指輪物語(LotR)』で大活躍する怪生物。原作中ではもっぱら「ゴクリ」と呼ばれ、スメアゴルは本名(かつてホビットだった頃の名)である。元々、スメアゴルはホビットの原住地であった北方の沼沢地に住んでいたヒューマノイド(ホビットのストゥア族の先祖とされる)のひとりだったが、偶然「一つの指輪」を発見し、力の指輪の魔力に心身ともに支配されて、5世紀に渡る寿命、河童か山椒魚人のような外見、卑屈で狡猾な悪性、そして謎の「ゴクリ語」を得るに至る。指輪が彼の手を離れてこれも偶然ビルボ・バギンズの手に渡り、ついでフロドに渡ると、執拗に指輪とバギンズを追い続け、ときにフロドの前後や傍らに見え隠れして、敵とも味方ともつかぬ様々な役割を果たすことになる。monspeak.txtの「いとしいしと」とは、ゴクリ語で自分もしくは「一つの指輪」を呼ぶ名である(→真・スメアゴル(Y.S.Remix)も参照)。
原作中でのもっぱらの通称である「ゴクリ」というのは、スメアゴルがよく発する喉を鳴らす語で、原語では「Gollum」である(LotR映画版の訳では、後述するように他の台詞との都合などで「ゴラム」のままになっている)。gollumは英語では、日本語の「ゴクリ」のような一般的な擬音ではなく、トールキンが考案した擬音のようであり、本来英語圏の人々にとっては「メ メ タ ア *ドグチアッ*」などと似たような突拍子もない音なのかもしれない(これを「ゴクリ」とするのは、『ホビットの冒険』が児童書とはいえ実に思い切った意訳である)。大きな英和辞典には、Gollumで引くと「トールキンの創造した妖怪」として載っていることもある。
原作でもそれらしき記述があるが、「スメアゴル」という名は彼のホビットだった頃の良心、「ゴクリ/ゴラム」は指輪に蝕まれた悪性と、二面性を指して使われることもある。映画版LotRやHob.ではさらに明確に、スメアゴルとゴラムが二重人格のように(水面などの鏡に別人格側が映るなど)描写されている。
元の「スメアゴル」という名は、ホビット庄のホビットらの名前とは語感が異なっており、ホビットの古い言葉である「スミアル」「マソム」といった語の方の響きによく似ている。これはスメアゴルの属していた部族が、西方に移住し西方語を使いはじめる前のホビットの先祖であることを端的に示す例である。トールキンの創作上の点では、古英語で穴を掘ることを意味するsmygelを変化させたものだが、「ホビットの名や西方語は、LotR原作小説でも英語・古英語風に直されて表記されているもの」という設定からすれば、本来は西方語やローハン語でそのような意味に近い語であるのだろう。
スメアゴルの指輪入手およびビルボの手にわたる経緯は、Hob.の初期版と後期版、LotR原作小説、後述する映画LotRや映画Hob.でそれぞれ異なっている。これは、スメアゴル自身の言葉や、のちには指輪に誘惑されたビルボの言葉や記述が、曖昧な記憶やわざとねじまげた経緯によって話したり、そのためそれぞれの記録によって食い違ったためと、LotR作中などでも説明されている。
映画版3部作LotRでは、ゴラムはフルCGクリーチャーとして、当時の映像技術の粋(のうち、ニュージーランドの田舎会社weta社の総力)を集めて映像化された。当初はCGクリーチャーに声の出演として呼ばれたアンディ・サーキスの声だけ載せる予定であったが、そのうちサーキスの卓越した演技力と演出力に着目した監督PJやスタッフらがモーションキャプチャを採用し、意見を取り入れ、表情や顔つきなどをどんどん反映させるようになっていき(そのため、1作目FotRと2作目TTT以後で実はデザインが異なる)急激に生き生きしたクリーチャーとなっていった。映画版3部作のLotRでは、演者サーキスが、ゴクリを演じるにあたって、実際に喉の奥を鳴らすような語では映画の台詞としてはわかりにくいため、(飼い猫が毛玉を吐き出す様にヒントを得て)咳き込むように吐き出す発音にしている。映画の邦訳では、字幕・吹き替えともに「ゴクリ」でなく「ゴラム」の方が採用されているのは、この発音に合わせる理由もあるようである。のちの映画版Hob.3部作では、上述したビルボが指輪を手に入れる場面にゴラムが登場し、1作目にしか長く活躍する場面はないが、映像技術の向上によりさらに精巧になり、サーキスのモーションキャプチャや表情などの演技の反映度も大幅に上がり、さらに鮮明なクリーチャーとなっている(アンディ・サーキスはその演出力からも、Hob.ではスタント達や特殊効果用映像を撮影する第二監督になっている)。
*bandでのスメアゴルは、[V]以来のバリアントに、序盤(屋外のあるバリアントでは野外にも)の「敵」として登場する。といっても攻撃はダメージの類ではなく盗みである。透明(これは、保護色のように風景に溶け込むことからと考えられる。指輪を持っているからではない)と序盤としては速いスピードを持ち、なかなか鬱陶しい相手である(視透明と弓を持ったハイエルフには、最初から射殺されたりもするが)。ともあれ、特に地味な[V]系において、マゴットやガラドリエルの玻璃瓶と並んで指輪世界をアピールする、序盤のフレバーのひとつであろう。
[Z]以降は現在でこそ、各ユニークの台詞をmonspeak.txtで編集できるようになっているものの、当初のバージョンでは、特定のユニークとしてはスメアゴルの台詞を編集するテキスト(その名もsmeagol.txt)があるのみであった。板倉氏が、このsmeagol.txtを日本の瀬田訳のあの印象的な「ゴクリ語」に置き換えてみようとして、うまく日本語フォントが表示されないので、どんどん日本語化に手をつけていったというのが、[Z]の翻訳が始まったきっかけである。つまり、もしスメアゴルがいなければ(そして日本のゴクリ語の権威tessy氏がいなければ)[Z]の日本語化もなく、[変]の登場もToMEその他のバリアントの翻訳もなく、日本でここまで*bandコミュニティが膨らむこともなかったのかもしれない。ジョークモンスターと侮るなかれ、Roguelikeのコミュニティにおいても、まさしく『指輪物語』での働きの如く、思いもよらぬ決定的な役割を果たしているのである。
→真・スメアゴル(Y.S.Remix) →一つの指輪
スラインのアーケン石 The Arkenstone of Thrain 【物品】
トールキン『ホビットの冒険』に登場するエレボール(はなれ山)のドワーフ王国の秘宝。この「スライン」とは、『ホビットの冒険』のトーリンの父のスライン2世ではなく、エレボールの王国の創始者であるスライン1世であるとされる。この宝石は、おそらくそのスライン1世の時代に鉱山の最深部で発見された、「山(エレボール)の精髄が凝り固まった大宝玉」とされる。アーケン石 Arkenstoneはそれ自体がトールキンの造語でアングロサクソン語の「貴重な石」に由来するが、例えば古語での秘術arcana等と同根に「秘石」などと読み取ることは可能である。もっとも、トールキン作内でのアングロサクソン語は「ローハン語」にあたるので、これも訳さずにそのまま「アーケン石」と書くのが正しいといえる。(強いて言えば、「アーケン石」は、この宝石のドワーフ語の本名とは別に、人間らとの間の通称としてローハン語でつけられた名前ということになる。)
ドゥリン王家の莫大な財宝の中でも最も重要なものとなっていたが、エレボールがスロール王の代にスマウグに奪われて以後は、スマウグの宝のひとつとなっており、トーリンは何よりもこの宝石を取り戻したがっていた。ビルボが忍び込んだスマウグの宝から見つけ出し、重要な鍵として使うことになる。物語の後、アーケン石は最終的には、はなれ山の最深部のトーリンの墓所に厳重に安置された。
アーケン石は千の切子面を持ち、みずから裡からの光を放って輝く上に、「その上に落ちるあらゆる光をおさめて、虹の多彩をまじえたさんぜんたる白光の千万の滝にかえてしまう(瀬田貞二訳)」という。これをはじめとして、アーケン石に対する原書での文章表現は、のちにトールキンがアルダ伝説時代の大宝玉「シルマリル」に対して用いた形容と共通する点が多い。無論、トーリンのこの宝石に対する執着は、伝説時代のノルドールらのそれに対応することができる。また、ビルボがスマウグの宝からこれを見つけ出したのは、元々鍵として使う策があったわけではなく、ただ魅入られたためである;ドワーフでないビルボですらも魅入られるという点は、シルマリルの、自ら呪ったノルドールだけでなく、神族にシンダールや上古のナウグリムも惑わせた性質を思わせる。あるいはトールキンはこのアーケン石を、シルマリルの構想をまとめ執筆する(発想自体は『ホビット』より伝説時代の方が先にできていたのであるが)ための「雛形」としても描写していたのかもしれない。
2012年-の映画版『ホビット』3部作では、アーケン石は原作の先祖スライン1世ではなく、トーリンの祖父スロールの時代に見つけられたことになっている。そのためか、「アーケン石」とは呼ばれるが、頭に「スラインの」はつかない。(発掘している場面のドワーフは、スタント演出スタッフのカメオ出演で、重要人物という設定ではない。)映画のアーケン石は(多くのホビット挿絵で描かれるものやシルマリルのような)球形に近いものではなく、ダイヤによくあるようにやや平たい形にカットされている。また、「ドワーフの王権を象徴するもの」という設定になっており、トーリンらはまずこの石を(忍びの者の手をかりて)スマウグから盗み出し、この王権の主張によってドワーフ7士族の全軍勢を招集し、改めてエレボールを攻略し龍から奪還する、という目論見を有しているという設定で、原作ではどうするつもりだったかいまいちわかりにくかった流れがわかりやすくなっている。このアーケン石の位置づけのため、映画版のエレボールの玉座にはアーケン石を着脱できる構造があり、スロールが王であった時代には玉座で輝いていたことや(2作目ではエレボール内の壁画でも表現されている)、スロールがスマウグに襲われてこれを紛失する場面も描写された。
*bandにおいては[V]以来、「光源」物品の実質の最高級品として登場する。発動すると「千里眼」すなわちそのフロアの地図の全感知を行うことができる。原典に直接そうした能力や示唆はないわけだが、「(周囲の)あらゆる光を照らし返す」という描写から、感知能力を連想できないでもない。[V]の時点では(モルゴスのDROP_UNIQUE以外は)特定のユニークがある物品を落としやすいというルールはないが、以後のバリアントでも、スマウグを倒すと手に入りやすいといったことは特にないようである。他のバリアントでは「審判の宝石」等の物品に挿しかわっているが、細部に差はあるものの概ね同等の位置である。
→審判の宝石 →輝くトラペゾヘドロン →スマウグ
<スラーネッシュ>の女悪魔 Daemonette of Slaanesh 【敵】
スラーネッシュはウォーゲーム/RPGの『ウォーハンマー』(→混沌の戦士の項目も参照)における「混沌の神」の一体で、「快楽・恍惚・情熱を追求する」神とされる。スラーネッシュ自身は魅惑的な両性具有の神格で、シンボルはいわゆる男女の象徴を組み合わせたものである。『ウォーハンマー』の混沌の神の信徒は、教義のみならず神そのものにならった振る舞い・装いを行うが、信徒もまた体の一部(主に右胸)を露出させ、奇抜な扮装をまとい、ときに理性をこえて快楽を追求する。もっとも、情熱と魅惑の神でもあるので、服装などのイメージには奇抜で刺激的はあってもデザイン的にセンスの良い印象がある、となっている。信徒には戦士よりも、知能や魅力にひいでた策士などが多いとされる。
スラーネッシュの女悪魔(デーモネット)は、そんなスラーネッシュの配下で誘惑を実践するレッサーデーモンである(なお、スラーネッシュのグレーターデーモンは「禁断の守り手」、秘儀の守護者である)。ぼろのような(しかしきわどく魅惑的な)服をまとっているのは、特に「堕落・退廃」をもたらす使徒であることの表れである。
*bandでは『ウォーハンマー』が取り入れられた[Z]以降の18階に登場する。うまく序盤を抜け出して進み始めたという頃であるが、この階層で混乱打撃を持つため、まだ大抵混乱耐性がない場合、殴られて混乱し、致命傷の薬を飲んで治って、また殴られて混乱し、という無限地獄にはまってしまう場合があり、特に他に敵がいる場合は致命的である。この辺りの階層ではしばしば注意を要する敵である。
→禁断の守り手
<スラーネッシュ>の蠍悪魔 Fiend of Slaanesh 【敵】
フィーンド。スラーネッシュの獣、スラーネッシュの雄羊、不浄の輩。ミニチュアウォーゲーム・TRPG『ウォーハンマー』において、快楽の混沌神スラーネッシュ(→スラーネッシュの女悪魔)の軍団の形成要素のひとつで、各神に一種類ずついる「獣」のスラーネッシュ陣営のもの。
その姿は、あえて形容すればよく一部ハイファンタジー世界にある「トカゲ竜の乗り物」に近い。全体的には小型走行爬虫類といったところで、どこか人間を思わせる顔つきと、尾は蠍のようなとげがついている。フィギュアを見る限りは、WH世界に共通だがこれも極彩色である。その見かけ通り、乗騎や戦車を引く役目などになったりもする。ユニット能力としては、「獣」の類に洩れず壁役で、尾のぶん攻撃回数が多いが、どうもスラーネッシュ自身の性質と個性的なほかの悪魔らのためか、陣営の中では影が薄い印象もある。
WHの日本のプレイヤーには「フィーンド」としか呼ばれていないことが多いが、[Z]和訳では「蠍悪魔」という、姿がイメージしやすい名がつけられた。ただし、「獣」でありレッサーやグレーターの「デーモン」ではないので、強いて言えば「悪魔」ではないかもしれない。[Z]以降登場するものは、28階という前半のノーマルモンスターで、ウォーハンマー系の例によって硬く、これは毒攻撃・腕力減少攻撃を持っているが、やはり同じスラーネッシュの女悪魔や、ティーンチの火炎悪魔といった獣の厄介な能力と比べるとやはり影が薄い。
→<スラーネッシュ>の女悪魔
スランドゥイル王の硬革帽子 The Hard Leather Cap of Thranduil 【物品】
スラパパ帽。スランドゥイルは第三紀の中つ国の闇の森のエルフ王で、旅の仲間レゴラスの父である。『ホビットの冒険(Hob.)』には本人が登場するが、名前は『指輪物語(LotR)』の方で(名前だけだが)出てくる。なおThranduilとは、「河(-dui)」を「横切る(thra-)」というような意味で、大河をこえて闇の森に来た、あるいは彼の大館が大河の向こうにある・魔の河の上をまたいでいる所からの名のようである。これは上のエルフや灰色エルフらのような抽象的な名でなく、明らかに住む土地に密着した名前であり、根っからの中つ国のエルフというわけだが、実際にHob.中には「上のエルフに比べて野蛮」「宝物に目がない」などと書かれてしまっており、豪放で気が短く、ドワーフらを監禁し不仲になる(後に五軍の戦いで共闘はする)。
スランドゥイルは、第1紀のドリアス王国出身のエルフ(血筋は不明)で闇の森の王国を立てたオロフェアの息子であり(つまり、闇の森のエルフは、王族だけは森エルフではなくドリアスの灰色エルフである。オロフェアは、ギル=ガラドとエレンディルがサウロンを倒した最後の同盟の戦で戦死した)かつてドリアスがドワーフとの諍いで滅んだ背景があるため、ドワーフへの悪感情が強かったのである。しかしスランドゥイルの息子のレゴラスは、同じ旅の仲間ギムリを通じてドワーフとの友情を築く。
映像でのスランドゥイルといえば、緑色の妖怪のようなランキン=バス版アニメのものがファンの間では語り草だが、2012年-の映画版Hob.三部作にも当然スランドゥイルは登場し、原作通り「黄金色の髪に木の葉の冠」の美青年王となっている(俳優同士の年齢でいえば、実はスランドゥイル役のリー・ペイスは息子レゴラス役のオーランド・ブルームよりも若い)。金髪に眉毛の異常な黒さが目立つ点なども含めて、これより先行していた映画版LotR三部作での息子レゴラスの姿から逆算して似せていると思われる。映画の尺にあわせて出番も大幅に増えており、またドワーフとの因縁についても設定が追加され、重要人物となっている。ドワーフ王トーリンに劣らず、やや頑迷な上に、(豪放・野蛮というよりは)エルフ君主のステレオタイプ的に厭世的な描写が目立つ。最後の同盟の大戦の経験者であるという上記原作設定のためか、戦闘能力も高く、北方の龍と戦った経験もあるという。馬ではなく、巨大な角を持つヘラジカ(馬で撮影し、CGで鹿に合成されている)を乗騎とし、二刀流を得意とする。
ICE設定のスランドゥイルのデータで帽子や兜の類では、単に"Helm"と書かれているだけの固有名のない物品で、Hob.原作の木の冠なのか他の物品や戦闘用兜なのかもはっきりしない。影を作り出し隠蔽の力を持つ魔法の品だが、*bandのものとは特に関係ないようである。
硬革帽子は[V]以降登場する物品である。スランドゥイルは狩とワインが何より好物で、狩人やレンジャーの革帽子を被るかもしれないと言えば言えるが、原作にこの物品は登場せず(被っていたのは上記したように草木の冠である)、能力的な根拠も不明である。「テレパシー」があることが特徴であるが、狩に有利な能力であるとは言えるかもしれない(アイテム説明には「領土の森のあらゆることを知る」とある)。比較的低階層で手に入りやすいため、「テレパシー源」としてプレイヤーには最も馴染みであると言われる。他にも精神能力値のプラス、盲目耐性、追加上位耐性ひとつと、中盤で装備選択肢のひとつになっている機会は多い。
スリープ Sleep 【システム】
どんな屈強もしくは活発な生物であっても、睡眠は取らなくてはならず、眠っている間は無力である。故に、相手を「無力化すること」の表現として、対象を眠らせるという魔法や術は、古来の物語とRPGとを問わず、非常にありふれたものであった。
ただし、トールキンのエルダールは目を開けて疾走したまま眠ることができる。AD&Dにおいてエルフに眠りの呪文が効かないのはここからの発想でもあり、また最近の版ではエルフは眠る必要がなく、短時間瞑想するだけで済むというルールになっている。一方、なぜかクラシカルD&Dのエルフには眠り耐性のルールはないが、おそらくルールを煩雑にしないため、睡眠も人間と同じとなっているのだろう。なお映画版RotKのガンダルフは目を開けたまま寝ているが、原作のモリアなどでの眠らずに考え事をしながら休んだという描写からは、あるいはエルダールの下位互換的な肉体を持つイスタリもエルダールほどではないが限られた睡眠で済むのかもしれない。
かなり脱線したが、RPGにおいては眠りの呪文は物理的な、また騒音などのショックで解けることが多い(まれに永続の眠りなど、ほぼ麻痺や束縛に相当する上級呪文の場合もある)。例えばTRPGならば無傷で無力化するにはこれで充分なのだが、そうした選択肢のない(あるいは、殺さないと経験が入らない)CRPGでは、単にその後一回だけ有効打を入れられるだけ、また効かなければ時間も魔力も無駄にするだけ、とおのずと重要性が低くなりがちである。D&Dの最下レベルのスリープ呪文に発し、それに発したお約束的RPG様式(SWの「眠りの雲」など)は「弱い敵なら多数を眠らせる」呪文だが、眠りよりむしろその「対多数」という点が重要であることも多い。
*bandには、Moriaの時点より低〜高レベルにわたって多数の眠りの呪文が存在し、高レベルにゆくほど範囲、効果ともに強力になる。意外なことにD&Dのスリープ的な、最下レベルで対多数という呪文はない。そのためもあって、残念ながら前出のCRPGにおける重要性の低さに近い。眠った敵に一撃入れるにせよ、ことに*band系は一撃二撃で敵を倒せるといったことは少なく(忍者などの例もあるが、スリープ呪文とはあまり関係ないので省く)そのため戦闘のまっただ中で敵を倒すのに役立つといった魔法ではなく、そうした意味では攻撃手段としては軽視されがちである。
ただし、前半戦で通路に列をなして襲ってくる敵などは、先頭をスリープのワンドや魔法で足止めするといった戦法は常套手段である。初代Rogueの杖のように、敵を倒す戦闘そのものでなく工夫できる戦術手段としての側面を持つとも言えるのだが、後半になるとNO_SLEEPを持つ敵も多く、たとえ上級呪文といっても中々使えるものではなくなる。Rogueに比して後半になるとひたすら殺人剣や呪文が飛び交う殺伐色が強まるというのはMoria当時からの性質である。
スリングウェシル Thuringwethil 【敵】
マイア。吸血姫の使者。アルダの第一紀に、モルゴスと腹心サウロンの間の伝令使をつとめていた吸血蝙蝠の悪霊。第一紀の当時、モルゴスの配下にはサウロンやバルログ以外にも多数の精霊(もとヴァラールのいずれかに仕えていたマイアールの意か、それ以外の原初の悪霊の意かは定かでない)がおり、その多くが巨狼(Worewolf)や吸血蝙蝠(Vampire)などの様々な巨獣の姿をとっていた。サウロンはエルフと人間を牽制する基地としてトル=イン=ガウアホス(巨狼の島)を構えていたことがあり、それらの数多くの魔獣の精霊をそこに従えていたが、そのうち巨大な吸血蝙蝠のスリングウェシルは、伝令として島とアングバンドを常に行き来していた。スリングウェシルは「隠密なる影の女」の意。
トル=イン=ガウアホスがエルフの王女ルシアンと忠犬フアンの活躍で陥落し、サウロンの魔力が島から霧散すると、なぜかスリングウェシルの精霊も消え去り、ぬけがらの蝙蝠の皮をルシアンが変装に利用することになる。実は、スリングウェシルには『クゥエンタ・シルマリルリオン』でルシアンがこの皮を拾った箇所での説明しかなく、実際の姿や活動している描写は一切ない。従って「ゴスロリ美少女」うんぬんの説明も無論なく、*bandでの「モンスターの思い出」の説明はほぼ創作のようである。
なお、トールキンの『レイシアンの謡』の初期稿(HoME3)では、ルシアン自身がモルゴスの前に引き出された時に自分の名乗りとして挙げる名が、影の女こと「スリングウェシル」というものである。最初はこのルシアンの別名として考え出された名が、のちにモルゴスの伝令を設定した時にその名へと変えられたとだけ編者クリストファー・トールキンは推測しているが、実際は案の段階でこのルシアンとスリングウェシルの間に表裏一体であるなり何なりと何の関係があったのかは定かではない。
*bandでは[V]以降のユニークとして、中堅の55階で登場する。名前が『スリングウェシル』だけで二つ名などが何もないので判りにくいと考えられてか、[変]などでは「吸血鬼の使者」というフレーズが名前の前に付け加えられている。地獄球などはあるが、階層としてはそれほど危険ではなく、近接能力も高くはない(これは女性であることを意識してか)。ただし、[V]では数少ないバンパイア(Vシンボル)のユニークモンスターであり([Z]以降では増えてゆくが)同族召喚でVを呼び出す。[V]ではVシンボルは最大でもバンパイア・ロードなわけだが、クトゥルフ系のV(星の精、炎の精)がいる[Z]やエルダー・バンパイアがいる[変]その他のバリアントなどで、危険度が大きく違ってくるといえる。
→マイア
スルト Surtur the Giant Fire Demon 【敵】
火の巨人。北欧神話において熱の国ムスペルヘイムの炎の民(いわゆるモンスターとしてのファイア・ジャイアントの原型)らの一体。炎の剣を持ち(この剣の名は決して「レーヴァティン」と断定できない →神々の黄昏)世界の終わりに古い世界を焼き尽くすが、また一説には世界のはじまりの熱にも関連する。詳細は神話関連の専門サイトに譲り略す。
ゲーム類への登場例は枚挙に暇をもたないが、この巨人を一種の「神」とするか「悪魔」とするか、あくまで炎の巨人としての「モンスター」として扱うかはそれぞれ異なっている。D&Dシリーズでは早いうちから神格(下級神, D&D 3.0eでは中級神)として扱われ、ファイア・ジャイアントのすべての呪術師が信奉するとなっている。特筆すべきは、このスルトが特定の世界設定の神としてではなく、D&D系の様々な世界に共通してモンスターらに信奉されているという点である;例えばGrayhawkやForgotten Realmsなどの世界設定では、創世に関連し人間が信奉する神は世界ごとに設定されているが、エルフやドワーフの神はどこの世界に行っても共通(コアロンやモラディン)である。それと同様に、ファイア・ジャイアントその他の巨人はどこの世界でもスルトをあがめ、それもスルトをモデルにしたD&Dオリジナルの神というのでもなく、「北欧のスルトそのものが」、他の神話を持つ異世界でも巨人らに崇められているというのである。
Roguelikeには、NetHackにおいてワルキューレのクエストネメシスである「サーター卿」というスルトのイメージからかけ離れた訳語が、実は原語ではLord Surtur(スルト王)であることが有名である。AD&Dのルールやデータのみならずパンテノンでもかなり参照しているNetHackであるが、サーター卿のデータはまったく参照されていないようで、AD&D 2ndのスルトのアヴァター(現世に現れる時の相当に劣った投影像)にさえ遥かに及ばず、はっきり言ってNetHackのクエストネメシスの中でも相当に弱い。とはいえクエストネメシスは他のそうそうたる面々(データベースのテキストではサウロンの説明になっている「暗きもの」、他に「クロマティックドラゴン」「トート・アモン」など)も原典なにがしよりはクエストに合わせて調整されたに過ぎないデータなので、深く考えることでもないのかもしれない。
*bandでは[Z]から登場しており、[Z]の重要モチーフのひとつであるワーグナーに関連する北欧神話関連というところである(直接は『ニーベルングの指環』では、神々の国を炎上させるのはスルトやその剣ではなく、火神ローゲ(→参照)の炎である)。[Z]のスルトはそのままToMEと[変]に残っているが、意外なことにそれ以外の派生バリアントには残っていない。NetHackとはうってかわり、D&D系と同様多元宇宙でも強大と形容できる最深層のユニークで、まったくそつのない打撃、魔法(火炎・プラズマブレス等の直接攻撃およびサイバーデーモン含む召喚)を兼ね備えている。
スレイプニル Sleipnir, Odin's steed 【敵】
北欧神話の主神オーディンの乗騎として広く知られる8本足の馬。スレイプニルとは「なめらかに滑るもの」の意で、神獣なりの並ぶもののない移動能力やときに飛行能力まで持っているとされる。多くの北欧の魔神の祖でもある火神ロキの子供だとかはてまた自身の変身とか、シグルズ(→ノートゥング)の馬グラニがその子孫である点はトールキンのメアラス(→飛蔭)の参照元であると思われるとか割と色々あるっちゃあるけど正直めんどいからネットのそこらへんに転がってる「新紀元社アンチョコ本の受け売り/丸写し系の解説」でも参照されたい。神話の世界樹ユグドラシルが「イグ(恐るべきもの;オーディンの別称)の乗騎」の意なので、その手の解説や自家設定によってはスレイプニルがこの樹と同一視されたり関連づけられる場合もあるが、語意としては別根である。スレイプニルの神話的シンボルの起源に関しては諸説あるようだが、おおむね8本の脚は「棺を運ぶ4人の男」の暗示であるとされ、オーディンがいわゆる死神であること、死んだ戦士を冥界に運ぶ権能に関与することをきわめて端的に示している。故に「滑るもの」という名はヴァイキングの水葬や葬送舟の暗示(舟形の塚も残る)と関連するとも考えられる。
このスレイプニルから他の民話や物語へと派生したイメージもまた多様であり、オーディンのイメージが合流したサンタクロース(→参照)の八頭立てのトナカイ橇(→フローラのアイリッシュ犬)が特に有名である。タブブラウザの名にSleipnirがあるが、電脳空間を闊歩する人間を「カウボーイ」「ジョッキー」、そのインターフェイスのソフト/ハードウェアを「馬」になぞらえる暗示は定番そのものである。少し歳のいったTRPG/ファンタジーゲーマーならば、スレイプニルという名前を聞くと、出淵裕の漫画『機神幻想ルーンマスカー』に登場する、ケンタウロスとジリオンのノーザ人がかけあわさったような精悍無比かつ屈強な巨大機神の一体、ルーンマスカー「スレイプニール」のことを、もう二度と望むことのできないこの漫画の続刊への願いに寄せる儚い哀愁と共に記憶に蘇らせることを誰一人として避けることはできない。避けることができたりする。
*bandでは[変]に登場し、明の明星号(→参照)やそのコピーである飛蔭(→参照)、黒王号(→参照)によく似た、すなわち攻撃力の割にスピードと耐久力が高いという特性を持つが、これらより10階ほどの深い50階代にも関わらずそのパラメータ全般がかなり大幅に高い。これらの特殊能力を持たない「馬系」の同類としては上位といえる。が、10階深く潜るプレイヤーキャラクターの能力が追いついているとも言えるので、さほど極端に特性が違うようには感じられないことも多い。
なお、このユニークモンスターが追加された直後のバージョンの[変]においては、恐らく調査が間に合わなかった等の様々な事情が重なったと推測できるとはいえ、英語名がそれにしてもよりにもよってsureipuniruとなっていたことは、エレンディルとエアレンディルを区別できない某字幕女王を糾弾する和Z氏が実は[Z]最初期に危うくこの女王と同じ誤字をしそうになったことに並ぶ、*band界の最もどす黒いバリバリ裂けるクレバスの如き黒歴史であるから、*bandに対して「玄人向けの渋いゲーム」という既に3割ほどは瓦解しているイメージをなおも維持しておきたいんだったら断じて他のゲームのファンに漏らさないようよくよく注意されたい。繰り返す、誰にも言うんじゃないぞsureipuniruのことは。いいかsureipuniruだぞ。
スレイングの武器 Weapon of Slaying 【物品】
古来の伝承や古典的なファンタジー物語には「特定の敵を倒すために存在する武器」「特定の敵はそれ以外では傷つかない武器」が定番として登場するが、ほとんどの場合、それらは本当に他の手段では傷つかなかったり、その武器では一撃必殺に近いといった物語の劇的な要素として存在する。例えば、以後のRPGファンタジーの雛形となったトールキンの『ホビット』『指輪物語』にせよ、龍を倒したバルドの矢(正確には矢ではなく急所を射ることであり、その狙いを外さない矢が、であるが)なり、不死の呪文を破ったメリーの西方国の武器(→参照)なりは一撃必殺の決定的なものだった。それ以外の武器、例えば「つらぬき丸」や「アンドゥリル」も西方国の武器以上にオークやトロルには効果が高いと思われ、それを想像させる記述はあるのだが、あくまで言及されてはおらず明確に必殺といった描写もない。物語的に重要なものとは、区別されているのだろう。
さてD&D系のアイテム・エゴアイテムのデータには、スレイングの武器、すなわち特定の種族・モンスターの大小の範囲に強い効果を及ぼすデータは、上記の物語のような必殺のものから、若干のボーナスまで何段階も存在する。最も強力なものとして、ある敵を一撃で消滅させたり石化させたりといったものがランダム生成のエゴアイテムですら登場することがあり(ただし、手にする者はその武器が作られた目的に関する呪縛(ギアス)のようなものにもかかってしまうこともある)、他には特定敵に3倍のダイスのダメージを与えるもの、追加ダメージを与えるもの、数段下がって強化ボーナスが若干増加するだけのもの(本来+1が、ライカンスロープに対しては+3など)まである。AD&D 1st/2ndではことに重要なスレイングの武器として「Dragon Slayer」と「Giant Slayer」がやや高確率で生成される。非常に多種多様であり、武器エゴアイテムの大カテゴリをなしているといえるが、最初の例の一撃必殺のものやDragon Slayerのような非常に強力なものはイベント的に用いられるとはいえ、基本的にD&Dでは武器にその敵に対する特性がなくとも、充分に敵につりあう実力があれば普通に倒せるようになっている。逆に、Dragon Slayerさえあれば実力より上のレベルのドラゴンを倒せるかというと、あまりそういうわけにもいかない(ダメージ以外にも色々な問題があるので)。概して、元素ブランド同様、決して必須の特性ではなく単なるシステムの色づけにとどまっているといえる。
Roguelikeでは、Moria/*band以外では、実はスレイングの武器はさほど初期から一般的であるとはいえない。初代UNIX-Rogueの時点で、AD&D(あるいは初期OD&D)を踏襲した数々のデータが実装されているが、特にDragonやアンデッド類にダメージが大きい武器が存在するわけではない。Rogueの発展型でさらにAD&D1stのルールの再現性が高いHack/NetHack系では、例えばNetHackに(銀武器などの一般的な神聖ダメージを除外すると)ドラゴンベーンやデーモンベーンといった武器は登場するが、これはアーティファクトという唯一無二の武器の持つ特殊な属性であり、「スレイング」「倍打属性」というものがより一般的な武器にも存在するわけではない。一方、日本のRoguelike(不思議のダンジョン系)に目を向けると、初代『トルネコの大冒険』には、UNIX-Rogueにも存在しなかった、「ドラゴンキラー」(および、火を軽減するドラゴンの盾)が登場するが、これはおそらく、AD&DやMoria系の踏襲というわけではなく、『トルネコ』の世界設定の元ネタである『ドラゴンクエスト4』に登場したアイテムに直接由来するものである。しかし、『トルネコ』と世界設定は違うがシステムを発展させた『風来のシレン』では同様の各種の敵に強い武器(ドラゴンキラーの他、成仏の鎌、ドレインバスターなど)が登場し、さらに合成によって他の武器にこれらの特性を移せるようなシステムになっているので、奇しくも、スレイングの属性がAD&Dのエゴアイテム同様に、様々な武器に付与可能な汎用的なものとなっている。
*bandではMoriaから通じて各種(Moriaでは破邪、ドラゴン、アンデッド、デーモンだが、[V]からはオークやトロル、ジャイアント、動物等が加わっている)のスレイングの武器がエゴアイテムとして登場し、主な対種族バリアントではD&D系を基にした3倍(*スレイング*なら5倍)のダメージを与えるものになっている。ただしO-コンバット(→参照)のバリアントでは倍率が低い。命中率・底ダメージ+値などの強化ボーナスは特に敵によって変化しない(エゴアイテムは上質品より高いことが多いが)。D&D系よりは大きな効果があるが、さりとて決定的というわけでもない。強力なアーティファクトなどのないMoriaでは武器を取り替える価値などもあるが、*bandでは後半から(O-コンバットでなければ)武器の「ダイス目」にしかかからないこともあって、「効けば儲け物」といった程度になってくる。ただし、ベースダメージが大きい武器で多くの敵にかかる破邪や、滅ドラゴン(龍倍倍打)などは最後まで大きな影響がある。
*bandでスレイングがついている武器は、特にエゴアイテムの場合、ほとんどの場合設定上で原理上その敵に効果があるか、その敵と戦うために作られた武器である。例えばヘルプファイルによるとオークスレイヤーの武器は「エルフによって作られた」とされ、西方国の武器はアングマールの亜人に対抗し、パターンの刻まれた武器は混沌の宮廷のデーモンの身を焼く効果があるためである。しかし、ことにアーティファクトの場合は、実際に設定上その目的のために作られた場合のほか、たまたまその武器がその敵を倒した場合についているといった純然たる「イメージ重視」のためのことが多い(例えば『イージス・ファング』は元来のD&Dデータでは対巨人の武器だが、小説中で竜と戦ったので*bandでは竜倍打がついている。しかも、小説でも直接この武器で竜を倒してはいない)。たかが3倍、されど3倍なので、あまり「ひとつの敵に決定的な力を持つ武器」の表現には向いておらず([V]系のトールキン原作内アーティファクトなどは比較的そうしようとしているようだが、結果として弱すぎになっている。無理して表現する場合、ソースレベルで6〜12倍などが再現されていることが多い)結果的に強い武器にはベタベタと色々ついているものである。何にせよ、ベースダメージが大きい武器で深階層の敵(ドラゴンやデーモンなど)に有効なスレイングが数多くついている武器は重宝される。
スローター Slortar 【その他】
古き神。最も美しき者。古き神といってもクトゥルフ神話の旧き神の意ではなく、マイクル・ムアコックのエターナル・チャンピオンシリーズに登場する神々のうち、<混沌>の神々の最長老のものを指す。最古の混沌神だが、地上に人間大の姿で実体化する際は細身で美しい姿をしている。
エルリック・サーガの終盤の法と混沌の大戦に出現し、<法>の最高神であるドンブラスと「美しい嘲るような」声で話すという場面がある。ここでスローターはドンブラスを「兄弟」と呼んでいるが、よくある神話のように両陣営の主神が対になっているのか、実際は対でなくとも何かの比喩なのか、あるいは単に同族である神々として等もっと曖昧な比喩なのかは定かではない。
最古の神といっても、コルムシリーズに登場する「混沌の神より古い」古代神ほどは古くないと考えられ、また、混沌の神は次元世界によって力関係が異なるため、最長老とはいえ最も強力とは言えないのかもしれない。それを加味しても、ムアコックの神々の中でもことに重要な存在に思えるのだが、シリーズに描写らしい描写はない。
*bandには[Z]以降、混沌の戦士の守護魔神として登場し、混沌の神の筆頭とみなされてかリストの最初に名が挙がる。報酬は無視・変異・物品などがそれぞれ平均的といった感があるが、能力増強になる確率がやや高く、あるいは長老ゆえに古い知識の守護神としての性質を反映したものかもしれない。
スロー・モンスター Slow Monster 【敵】
「速度差」に関する概説は「スピード」の項目に譲るが、敵と味方の間に速度差を作ることができれば、言うまでもなく、作戦・戦術・戦法的にきわめて有効である。攻撃回数などを変化させる魔法はCRPGには決して多くないが、ゲームブックの魔法やTRPGには必ずといってよいほど存在する。余談だが、変身などと同系の変容(オルタレーション、トランスミューテーション)や、精神操作(吟遊詩人の歌や幻術でこうした効果があることもある。この場合アンデッド等には効かない)であることも多く、別に「時間操作」のたぐいとは限らない。
特徴的なのは、(CRPG(あれば)やゲームブックの場合はどちらか片方、あるいは性質が違うものを用意しているのに対して)TRPGにはほとんど必ずといってよいほど、「敵を遅くする魔法(スロー)」と「自分を速くする魔法(ヘイスト)」の2種類が組になって存在することである。これは、汎用性や工夫を売りにするTRPGならではといえるが、当然ながら一見同じ効果に見えるこの二種の魔法は何らかの差別化が設けられている場合が多い。一般に、敵に呪文をかけて遅くするスローよりも、必ずかかる自分に呪文をかけて速くするヘイストの方が有効であるから、ヘイストの方にペナルティを設けたり、効果自体を落としてしまう場合や、スローを強化して存在意義を強める場合が多い。例えばAD&D1st/2ndではこれでスローを強化しすぎてしまい、非常に抵抗しづらい上にきわめて多数の対象にかけることができる等、同レベルとしては不自然に強力な魔法となっている。
*bandにおいては実のところヘイスト(スピード)が遥かに有効であり、スタッフや呪文によっては多人数にかかること等を含めても、敵に抵抗の余地がある(ユニークモンスターにもほぼ効かない)スローは、ヘイストの完全な下位である(多くのRoguelikeではプレイヤーキャラクターは一人なので、自分にだけ一度ヘイストするのに及ばない)。さらに、*bandでは低い階層からスピードの薬が普通に拾えるので、ワンドやスタッフや呪文のスロー・モンスターが役に立つのは、そのスピードの薬(さほど節約するようなものでもないが)をさらにノーマルモンスター相手に倹約する場合などである。敵の足止めに使う等は、Moriaは無論、初代Rogueの頃からの由緒ある戦術であるが、*bandでは最序盤のみに限られるといった例のごとくの位置である。
→スピード
スロール王の鉄鋲底の靴 The Pair of Metal Shod Boots of Thror 【物品】
アルダ世界のドワーフ、ドゥリン王家の系図にはスロールという名の継承者は一人しかおらず、即ちスライン2世の父であり、『ホビットの冒険』のトーリン2世からは祖父にあたるエレボールのスロールである。
スロールはドワーフの長い寿命の大半200年以上を、エレボール(はなれ山)の王として統治して過ごした。しかし、その最後の30年ほどは、この上もないほどに悲惨なものであった。800年あまり栄えていたエレボールの鉱山王国は、黄金竜スマウグ(→参照)の略奪にあい、国を追われたスロールは、息子スライン2世と一族と共に数年間、中つ国を放浪した。やがてスロールは、《七つの指輪》の最後のひとつであるドゥリン王家の指輪(→参照)をスラインに託すと、一族のもとさえも離れ、年老いた従僕ナル(→参照)ひとりを連れて姿を消した。彼はスラインに行き先は告げなかったが、彼は一説には失墜と長い放浪生活のため(あるいは長い間持っていた七つの指輪による富への渇望と、それが満たされなかったため)に精神に異常をきたしていたと言われ、エレボールよりもさらに遥か昔にドゥリン王家が富を築いていた大王国、モリアの廃墟にたどり着いていた。しかしスロールは、廃墟の暗闇に下りていったところを、住み着いていたアゾグら洞窟オークに殺される無惨な最期を迎えた。それが原因でドワーフとオークの激戦が勃発し、アザヌルビザールの決戦にて結ばれるに至るが、その後の顛末については、アゾグやモリアの項目を参照されたい。
なお、追補編のこの箇所には書かれていないが、ドゥリン王家の指輪だけでなく、エレボールの秘密の通路の地図と鍵も、モリアへ放浪の旅に出た時にスラインに渡している。スラインは後にサウロンに捕らえられ指輪は奪われるが、地図と鍵はガンダルフに託し、これがガンダルフからトーリンに渡され『ホビットの冒険』において冒険に使われる地図である。『ホビットの冒険』の時点ではトールキンはドワーフらの詳しい設定は完成させていなかったと思われ、スロールの名(初版ではトーリンの「祖父」とだけある)とモリアで死んだこととこの地図の詳しいくだりは版が進むにつれ詳しくなる。なおスロールとは『ホビットの冒険』に登場する他のほとんどのドワーフの名と同様、古エッダのヴェルスパー詩から引用されている名である(クズドゥル語の本名や当時の西方語の名ではなく、トールキンが「北欧語に訳した名」であることは言うまでもない)。
2012年-の映画版『ホビット』3部作では、冒頭でエレボールの豪壮な玉座での姿、スマウグの襲撃でアーケン石を失う姿などが描写される。国を失ってからは、経緯を省くためと思われるが、スロールの暗殺を原因としてのちのドワーフと洞窟オークの戦争が起こったのではなく、エレボールからモリアに移住しようとしたスロールと民が、モリアにいたオークと衝突し、最初からアザヌルビザールの合戦となったような説明(バーリンによる語り)となっている。スロール王は戦いの中でアゾグと対峙し、首を撃たれるという点は同様である。
*bandには、スロールの靴は[V]以来のアーティファクトとして登場するが、トールキンには特にスロールの「靴」に直接の由来があるわけではない。ICE社のRPGなどの設定にもない(スロールは能力値や物品などの詳しい設定がない)。腕力と耐久力が増加する(若干スピードも増加するが)典型的なドワーフの品としてデザインされたと思われ、おそらくその能力にあわせて放浪のドワーフ王の名が冠せられたものと想像できる。
→アゾグ →モリア →スラインのアーケン石 →ドゥリン王家の指輪
聖祈言の巻物 Scroll of Prayer 【物品】
PrayerとはAD&Dから存在する「祝福」系の呪文のひとつである。かつてウェブ以前のパソ通時代、とある大手ネットの過疎をきわめるD&D系フォーラム(新和のサポートが遥かな過去となって後、HJが3.0eを訳し始めるたっぷり7、8年前という大暗黒時代)で、濃い旧サプリメントの話をしているベテランプレイヤーからふと、「Prayer呪文はそんなに高レベルでもないのに味方全員のアーマークラスが一発でフルプレート級になって最強すぎる」という声が漏れた。不審に思った周囲が話を聞いて見ると、AD&D 1st当時から英語版のルールブックでプレイしていたそのプレイヤーの卓は、Prayer呪文の「アーマークラスが1ポイント下がる」という英語を、「1にまで下がる」と読み違えていたのである。
Wizardryなどのプレイヤーにはわかりやすい話だが、古いD&D系ではアーマークラスは値が低ければ低いほどよく(10からはじまって-10がシャーマン戦車級といわれる)1というのは非魔法的に得られるアーマークラスとしておおよそ可能な極限であり、全身を重騎士のフルプレートで覆った防護に匹敵する。祝福呪文の一種一発で味方全員にその防護が得られるというのを、その卓ではAD&D1st-2ndの十数年の間、誤りに全く気付かずに適用していたのである。このときからその卓でのPrayer最強伝説は終わりを告げたが、同時に別の伝説が始まってしまった。ともあれ、いまではネットなどでも交流の多い3.Xeに比べて、新和の頼りにならないサポートと個人輸入に頼った以前のD&D系のファンらが、しばしばこれほどの誤りに気付く機会もないほど閉鎖的にならざるを得なかったことをきわめて端的に示すエピソードである。
また、関西のとある「日本のファンタジー小説・ゲームデザインの第一人者」とやらが、神聖魔法を英語的文法では「ホーリー・プレイヤー」であるところを「ホーリー・プレイ」にしてしまい、これは英語ではなく造語なのだと取り繕ってはみたもののそこらの和製FTじゅうで鵜呑みにして同じ用語を使う者しつこくそれらを嘲笑い続ける者、どちらにしろ恥の上塗りに広まりまくったというバクレツに間の抜けた顛末などPrayerの伝説は枚挙に暇がないが、きりがないので省く。
D&D系のPrayer呪文は、Bless-Chant-Prayerと続く祝福系の上位呪文であるが、自己の命中率やダメージ、アーマークラスを良化させるのみでなく、敵からのダメージなども軽減するという効果のものになっている。とはいえ、あくまで祝福呪文の一種であり、ささいな(+1)修正で、劇的な効果をもたらすものではない。こうした多数の祝福呪文が存在する意義は、むしろこれらが他の祝福呪文の効果と累積するという点(→聖唱歌の巻物)にある。
*bandにおいて、天恵 Bless, 聖唱歌 Chant, 聖祈言 Prayerという似たような祝福の巻物が複数存在するのは、つまりはAD&Dに存在する複数の祝福呪文とその序列をそのまま持ってきているものだが、*bandのそれはAD&Dと異なり持続時間だけで効果が累積するわけではない。(なお、ほとんどのバリアントでは、呪文からはこれらの重複は除去されている。)純然たる[V]ないしMoria時代の伝統が残っているというものでしかないだろう。聖祈言の巻物はこれら祝福系の巻物の中では最も持続時間が長いため、戦士系の打撃能力の足しとして持っておくプレイヤーもいるといわれるが、やはりさほど大きな差があるわけではない。
聖唱歌の巻物 Scroll of Holy Chant 【物品】
*bandにはMoriaや[V]以来、「聖唱歌の巻物」「聖祈言の巻物」という似たような紛らわしい巻物が存在する。大きく違うのかといえば、さらに下位の「天恵の巻物」から含めて持続時間くらいのものでさほど大差もなく、なぜわざわざ複数の種類が入っているのかと疑問に思うプレイヤーも多いかもしれない。
戦闘において微々たるボーナスを与える聖職者の「祝福」系呪文は、呪文が細かく多数ある(そして整合性も低い)ことで有名なAD&Dでは、低レベルから中レベルまで天恵 Bless, 聖唱歌 Chant, 聖祈言 Prayerの祝福呪文が並んでいる(実は祝福系はこのほかにも多数ある)。高レベルになるほど若干強力になるといえばなるのだが、それよりも大きな特徴は(以後のRPGでの支援呪文のセオリーとは異なり)これらの呪文の幾つかによるボーナスが「累積する」ということで、聖唱歌と聖祈言が重なった効果はばかにならない。つまり「聖職者」の技は決して派手ではない祝福であるものの、高レベルになるに従って、細かい祝福でも重なると強力になることを表現するため、多数の祝福呪文が存在するわけである。
しかし、(呪文になっているか、またその内容などバリアントによって差があるものの)*bandでは累積するわけでもなく、強力な祝福呪文も効果では大差もなく、単に持続時間が異なるのみである(一応、重なると時間が長い方になる)。多数の祝福の巻物が存在するのは、*bandに限っては単にAD&Dに呪文の存在だけを倣っている「伝統」でしかないだろう。
AD&DのChantの呪文は、味方の攻防ともにボーナスを与えるが、聖職者が歌っている間だけ効果があるので同時に他の呪文などは使えない、というものである(前線で戦い、呪文は戦闘中でなく前後に使うことも多いD&D系のクレリックにことに合致しているといえる)。D&D3.Xeの基本ルール(SRDなど)では無くなっている。いわゆるバトルソングの類も彷彿とさせるが、特に戦や音楽の聖職者のみが使えるというわけでもなく、もっと一般的な賛美歌などのイメージのようである。聖職者自身が歌うのでなく、バリアントによってはこれがもっぱら「巻物」のみで登場するというのは考えてみれば不自然かもしれない。
→聖祈言の巻物
精神攻撃 Mind Blast 【魔法】
精神攻撃という曖昧な用語は、エンタテインメントやその話題ではことに、対象の心理的内容に揺さぶりをかけるといった効果(手段がどうであれ)を主とする「心理攻撃」とされがちである。また逆に、精神力を元にした物理的攻撃、PK(念動力)などによるものを指していることもある。ここでは、主にESP(さらに主にはテレパス、交感)を用いて対象の精神・精神力に対してじかに打撃を与えるもの、精神への接触能力を互いに攻撃に用いる戦闘について記述する。
サイオニックの類のルールがあるRPGでなければ、精神戦闘の類を特に設けていないことも多いが、そうでなくとも魔法の一種や、モンスター等のマインドブラストなどの特殊能力での精神に対する打撃の例は多い。しかし、精神攻撃を行った際の対象への効果は、主に精神的な状態異常などで表現しているRPGや、もしあれば精神力の数値を削るとしている場合が多い。一方で、精神攻撃であってもヒットポイントの類を削り肉体的ダメージと同等のものを与えるルールとしているものも存在する。*bandの精神攻撃も、ダメージはヒットポイントに対して与えるものの、精神に及ぼす効果や、倒した時に「精神を破壊し肉体を抜け殻とする」といった描写からも、そうしたものであると考えられる。そも、ヒットポイントや耐久力そのものが、肉体的な外傷のみならず疲労や消耗などを含んだ概念であるため、精神攻撃がこうした効果となっても不自然なことではない。
精神に打撃を与えるため具体的にどんな攻撃を行うのか、内容的には結局最初に述べたような心理戦であるとか、イメージファイトのようなものであると説明してあることもある。T&Tの、知力を攻撃力に変換する「これでもくらえ!(TTYF)」の術の説明には「脳を作る物質をゼリーのようにする」なる奇妙な描写がある(TTYF自体は物理破壊だが、この記述からか一部訳者はマインドブラストの一種とも述べる)。AD&Dのサイオニック戦闘では「霊力突風(PsionicBlast)」「念力の押しつぶし(PsychicCrash)」といった5種類の精神攻撃手段と、「思考盾」「意思の塔」といったこれも5種の防御手段をジャンケンのように出し合うという奇妙なシステムが、方式自体は延々と変更しつつも1stから3.0eに至るまで残っていた。
*bandの精神攻撃では、デーモンやアンデッドなどの異質な精神を持つものに試みた場合、しばしばバックファイアを受ける(自分がそれらをはじめ、通常とは異質な精神の種族である場合は耐性や免疫があったりもする)。AD&D 1st当時のサイオニックルール(→超能力者)では、モンスターのサイオニック所持者は強大なアークフィーンドなどであることが多く、プレイヤーがサイオニック能力を持ってしまうこと自体が、強大な能力者からの反撃=バックファイアの危険に相当に脅かされることであった点などを思わせる。
*bandでは、(ほとんどのバリアントで)超能力者の最も初歩の攻撃手段となっている、代表的なNeural Blastをはじめ初歩の魔法として存在する。超能力者のいくつかの攻撃には同様に精神に対する攻撃で、バックファイア効果がある同属性とおぼしきものが存在する。[変]などマインドフレアのレイシャルパワーに精神攻撃がある場合があり、これはマインドフレア種族がサイオニックにたけた種族であることを表現していると思われるが、効果のわりにレベルがやや高いので実用性はあまりない。
また他に、トランプ領域の初歩に精神攻撃の魔法が入っている。これは、トランプの原典であるゼラズニイ『アンバー』シリーズにおいて、トランプの他者との精神的コンタクト能力を利用して、その相手に精神的な「打撃」を与えるという使い方が描写されている(→感知のカード)ことからと思われる。これはシリーズ内では、
トランプに描かれた人物と交信中のみで使われ、他の人物に精神攻撃を放ったり等は特に描写されていないが、トランプの機能から考えると、描写されていない他の多数の使い方(があるとシリーズ内では示唆されている)という解釈なら可能かもしれない。
聖戦者の武器 (Holy Avenger) 【物品】
いわゆる聖剣の類であるが、*bandのHoly Avengerというエゴアイテム名はAD&Dのエゴ名からの引用である。しかしなぜ'avenger'(復讐者)という名がついているのか、疑問に思う向きが日本には多いようである。これは、単に「神の祝福を受けた」という類のみならず、二元論的な、異教に対する、いわば聖地奪還の十字軍的な「応報者」のイメージに発していることにも由来する。異教ドルイド系の剣であるエクスカリバーが、他はともあれ「聖戦者だけは」相応しくないとする主張の根拠のひとつである(→エクスカリバー)。しかし、D&D上でも(おそらく*band上でも)実際の扱いの上では単に神力の宿った武器を広義に指すと考えても構わないだろう。
AD&DのLong Sword +5, Holy Avengerは、普通の正義(Lawful-Good)の戦士も使用することができるが、パラディンが使用したときのみ、絶大な攻撃力と防御力を発揮する。聖剣を握ったパラディンの力はまさしく神の代行者が降臨したに等しい(本当に神のアヴァター(化身)同然の力がある)。まさにパラディンは聖剣のためのクラスとも言えるが、大抵のDM(ダンジョンマスター)は、(よっぽどストーリー性の強いキャンペーンでない限りは)あまりに怖すぎるのでHoly Avengerなど決して出さない(その結果、特に2ndのパラディンは日陰者である)。無論のこと、ひとつのワールドにあっても一振りより多くあるとは考えられない。
*bandの「聖戦者」は、Moriaの時点からエゴとして登場する(さらには、Moriaにはアーティファクトがないので非常に強力である)。剣以外にもつくエゴであり、さすがにAD&Dほど極端ではないが、悪魔・不死の倍打、破邪、視透明などが保障され、武器のエゴアイテムとしては最終装備級の強力なものである。[Z]以降はこれと並んで「パターン」の武器も強力であるが、「聖戦者」の方には追加攻撃がつくようになっている。また賢明にプラス値があるので、パラディンは無論のことプリーストや超能力者にも、仮に攻撃力を度外視してさえも最も有効な武器である。
聖なる御言葉 Holy Word 【その他】
伝統的に、呪文の名前は「直截的」「即物的」な英語であることが多い古いTRPG(これは仰々しさを示すことを目的とせず、システム上の区別だけが呪文名の目的のためである)においては、逆に妙に抽象的な言葉が用いられた呪文というのは、呪文自体がよほど強力・決定的であると予想できることもある。ことに聖職者に関連する用語としては実にありふれた語である「聖なる御言葉」(聖句、言霊等)などと言う名がついた呪文はなおさらである。
ただ一言の言葉が、ただ単に発せられたというだけで(それも、比較的唱える主や条件にかかわらず)それ自体が著しい効果、聖なる効果もしくは恐るべき悪の効果を持つという考え方は、特定宗教を意識した聖句や言霊という以外にも、伝承やそれを強く意識し、言葉や名を重視するファンタジーには頻繁に現れる。例えばトールキンに登場するいくつかのエルダール語、顕著な例ではシンダリン語の「エルベレス」などがそうであるといえるし(例えば、『指輪物語』でフロドを襲った、魔王を含むナズグルを全員撃退したのは、結局はフロドが唱えたエルベレスの名ひとことであった、という)また口にしただけで光の勢力がおののくモルドールの暗黒語にもその性質は多分にある。*bandに関係あるところとしては、ゼラズニイ『ディルヴィシュ』シリーズにおける暗黒語、マブラホーリング語が印象的である。
無論、こうした言葉の概念がRPGに直接そのまま導入されるのは稀だが、例えばTRPGの原型のひとつD&D系での、聖職者の「聖なる御言葉」や魔法使の「力の言葉(パワーワード)」といった強力な、抵抗を許さない問答無用な効果をもつ「言葉」の魔法は、多分にエルベレスや暗黒語を意識したものに相違ない。
Holy WordはD&D系のTRPGにおいて、高位の聖職者の「切り札」といえる強力な攻撃力を持つ高レベル呪文である。その効果は、相手に抵抗判定の類をほとんど許さず、相手の強さ(レベル)に応じて状態異常を与えるもので、弱い対象(判定基準は版によって異なる)は抵抗の余地なく即死さえする。ただし、Holy Wordの名の通り、使い手の聖職者と「違う属性」の対象にのみ効果を及ぼし(おそらく、元来は同宗教の信徒を想定したものと思われる。なお版によっては対象とする属性によってBlasphemyなど呪文自体が別になっていたりもする)混成パーティー(善と中立など)ではそうそう簡単に使用するわけにもゆかない。
*bandにMoriaの時点から聖職者系・破邪などの領域の魔法として存在する「聖なる御言葉」は、邪悪に対して強力な攻撃力を発揮するという点ではおそらくはこのD&D系のものが参考になっていると思われるが、効果としては状態異常ではなく直接の視界内のダメージであり、逆に自分の状態や傷を治癒する効果がある。[Z]の生命、[変]の破邪などでは2冊目の最高位呪文であり、ありふれてはいるが邪悪退散(→参照)などの同系の呪文の最上位にあたる。
西方国の武器 Weapon of westernesse 【物品】
西方国(ウェスターネス)とはかつて中つ国より西に浮かんでいた島、ヌメノール(→参照)を指すが、『指輪物語』ではメリーの持っていたアルノールの塚山出土の剣にこの名が使われており、つまりは直接ヌメノールではなく、その末裔であるアルノールのドゥネダインが作った武器を指している。アルノールは、アングマール(魔王が率いていた国)と戦い滅ぼされたが、彼らの剣にはアングマールの邪悪な生物を破るための呪文が刻まれていたという。同じ塚山出土の剣は『指輪物語』で旅の仲間のホビットらが皆持っていたが、特に活躍するのがメリーのそれである。
西方国の武器は、流石に第一紀のノルドール・エルフの銘剣である『つらぬき丸』には及ばないようである。塚山出土の剣はフロドもその前に持っていたが、魔王の呪文ひとつで朽ち果ててしまい、またサムの持っていたものは明らかに威力でつらぬき丸より劣っている。なお、映画版LotRでは、メリーとピピンの剣もガラドリエルから受け取ったノルドールの短剣となっており(SEE(限定版)での追加画像)西方国の剣ではない。
*bandでは[V]以降、強力なエゴアイテムとして「西方国の」武器が存在する。(ネタバレになるが)原作場面で印象深い敵の種類に対するものではなく、オーク、トロル、ジャイアントへのスレイングが付加される。アングマールの軍勢は主にこれら亜人のものであったと思われるので、アルノールの剣がそれらへのスレイングを持っているのは妥当だが、あくまで原作の場面を再現したいがために、これとは別に「★メリーの剣」を追加して欲しいという意見は繰り返し見られる。
これらのスレイングの属性のため、主に序盤〜前半でのみ役立つ武器と位置づけられているが、肉体系の能力値増強、視透明に耐麻痺などの有難い能力が揃っており、それこそ前半に限定するならば大抵のアーティファクトよりもかなり有効な武器である。
→ヌメノール
セインのスリング The Sling of the Thain 【物品】
「セイン(選候)」とは、トールキン作品におけるホビット庄の役職で、庄の名目上の「領主」にあたるほぼ世襲の地位である。形式的には「アルノール上級王から領地を預かった直下」を名乗り(とはいえ、この役職はアルノールが滅びてからのものである)議会の議長と軍の総指揮権を持つ。一方で、もう少し雑事的な内政はもうひとつの「庄長」という役職が担い、こちらは7年に一度選挙で選ばれる。しかしホビット庄には議会を召集するような非常事態はほとんどなく、軍など動かすことはそれ以上になかったので、セインは庄長と比べて完全な名目上だけのものに成り下がっていた。
(なお余談だが、赤箱等のCD&Dではレベルが上がったキャラクターは自動的に称号と地位を得ていくが、ホビットをモデルとした「ハーフリング」キャラクターが得る最上位の称号は「庄長(シェリフ)」である。これはもと庭師のサムが故郷に凱旋後に庄長(Mayor, postmasterとshiriffを兼ねる職)となったことを意識しているようだが、ともあれ、どうやらここでもセインは最高称号とは見なされていない様子である。)
セインは初期はバック一族、のちにはもっぱら一番の大家であるトゥック一族が代々世襲した。『指輪物語』のピピン(ペレグリン・トゥック)もセインの御曹司であり、指輪戦争後は無事にセインに任ぜられる。なお、『指輪物語』RotKには、ゴンドールに到着したピピンに対して「小さい人族の”王子”という噂が広がり、それを否定しなければならなかった」という記述がある。しかし、ホビット庄は(指輪戦争後には特に)属領や包領ではなく、ローハン等と同等の「同盟国」であることを考えると、名目上とはいえその領主であるセインは上にアルノールの「上級王」だけを持つ「王」と言うこともでき、その子息であるピピンを「王子」と呼ぶことは、決して的外れではないとも考えられる。もっとも、かといって(同じ噂で流れた)屈強なホビット軍を引き連れてくることができたわけでもないし、ホビットの体質からは王や王子を名乗るものでもなかっただろう(というよりも、この時代のセインの実情からは、ピピンは考えてもみなかったというのが本当のところであろう)。
なお、この箇所の原語はPrince of the Halflings (Ernil i Periannath)で、Ernilは「小貴人」でPrince同様、王子とも領主とも取れるが、第三紀のゴンドールではおそらくPrinceはイムラヒル等と同様の「大公」である。つまり、訳では「王子」となっているが、正確には「王の息子」の意のprinceではなく、ゴンドール人はピピンを「小領主」、つまりドル・アムロスのような領地を持ち、その兵団を率いて参じた大公、と誤解したといった意味に近いと思われる。
*bandにはToMEに登場する「セインのスリング」は、セインとなったピピンのさらに後をついだ息子のセイン、ファラミア一世のスリングである、という設定になっている品である。「ピピンの物語に出てくるような怪物たちに対抗できるように作ったスリング」という設定になっているが、この「ピピンの物語」とは彼が単に息子に聞かせた、といった意味ではなく、赤表紙本(フロドが書いた第三紀史)の写本のひとつに、おそらくピピンが写本させたと思われる「セイン本」というものがあることを意識し、指していると思われる;一部がトゥック家に伝わり、また一部がゴンドール王家に渡り、王家の最も主要な史書になったという写本である(ギャムジー家系などに伝わる他の写本とは若干食い違いがあるという)。
無理にこの写本の設定にひっかけたらしいとはいえ、平和になった指輪戦争後にファラミア一世が怪物への危惧とスリングを作らせるというのは妙に不自然な設定で、かえってまだ危険の残っている第三紀中期の「初期のセイン」のスリングという設定にでもした方がいいような気もするのだが、それこそホビット庄にはその時代さえほとんど危機もなかったのでどのみち不自然かもしれない。
赤外線視力 Infravision 【その他】
クラシカルD&Dの「インコラジジジョン能力(新和版ルールブック原文ママ)」は、地下に住むヒューマノイド(ドワーフやオーク等)、およびエルフ(これは後述する)の暗視能力を表現するためのルールであり、可視光線ではなく赤外線(熱線)を見ることができる視力を指す。気温よりも温度の高い物体(温血動物など)ならば、暗闇でも見ることができる。当然、冷血動物はまだしも、普通の物品、アンデッドやコンストラクトはよく見えない(気流などでぼんやりと推測できることはある)。
なぜ単なる暗視ではなく、「赤外視力」などというものになっているのかといえば、これがプレイヤーキャラクター(エルフやドワーフ)が使用できるため、ルール的に明確に定義するという目的と、それ以上に、暗闇が無条件に見える暗視だと「便利すぎる」ことを強く危惧したのではないかと考えられる。D&D系のインフラビジョンは、普通の光が存在する範囲ではまったく使用することができないという、かなりの制限を伴うものである。(和製RPGその他では、完全に赤外線が可視光線と同じ視界に存在するとし、「赤外線」という「色」を見ることができ、普通の視力と同時に使用できる定義になっていることもある。)しかし、結局D&D系でも後の方になってさほど差がないということになったのか、3edでは普通に闇を見通せるダークビジョン(暗視)やナイトビジョン(夜視)がプレイヤーキャラクターにも与えられている(これらの差や細部のルールはさらに細かい)。D&D系には他にも、種族によっては、紫外線を見ることができるのでほとんど制限のないウルトラビジョンや、下着の色などを透視できるXレイビジョンなどの能力がルールとして設定されている。これらは、「コンティニュアル・ダークネス」のような強力な暗黒発生呪文の範囲は見通すことができない。
さて、元々地下に住む種族はともかくとして「エルフが暗視能力を持つ」という設定の根拠として、トールキンのエルフのものが挙げられる。トールキンのエルフは天に星がちりばめられると共に目覚め、太陽も月もない世界に生きるよう生まれたため、星の光しかない夜でも昼と同様に物を見ることができる(このため、星の光のもとでのみ夜も目が見えるスタービジョン(星視)能力をエルフに与えているRPGもある)。また、特にハイエルフはアマンの地の光を自ら取り入れているため、自分から輝くことができ、闇でもまったく不自由はない(映画版LotRでは、ガラドリエルの瞳の中から幾つもの星の光が輝いているようなCG処理が行われている)。
こうしたエルフの暗視説話を、T&T(他の点では比較的『指輪物語』を重視しているのだが)では単に「噂にすぎない」として、他の大抵の地下種族ともども暗視能力を持たせていない。一方で対照的に、このエルフの暗視を神秘的に他の地下種族の暗視と際立たせてしまっているRPGもある。徹底しているのは、AD&Dの中でもDragonlance世界の設定(初期)で、他のAD&Dの世界設定ではなんらかの暗視を持っている種族、地下に住むドワーフやゴブリン、さらにはドラゴンさえもが、いかなる暗視をも持っておらず、エルフとハーフエルフしか赤外視を持っていない。
*bandではRoguelikeの中でも、Moriaの伝統から赤外線視力がルール化され、大半の「ファンタジー種族」にいくばくかの赤外線視力能力が与えられている。D&D系ではプレイヤー種族はほとんどが一律60フィート範囲までであり、一部のモンスターが90フィートを持つが、*bandでのそれは(D&D系より便利であるためか)いずれもかなり狭い範囲のもので、その距離は種族ごとにまちまちである。明かりの届かない範囲でも「温血動物」ならば見えるというもので、範囲の狭い一時的光源しか持たない、また視透明が手に入る前の序盤にはそれなりに重宝する。が、アイテムなどで出てくる(兜など)頃にはほとんど無関係になってしまっていることが多い。
せっかち Quickbeam the Ent 【敵】
ファンゴルンの森のエント。トールキン『指輪物語』TTT原作に登場する、エントの一族の中では最も若い一体で、エントの寄り合い会議の長い間、メリー・ピピンの森の案内と話し相手をつとめていた。せっかちといっても無論のこと、エントの基準での話である。「木の皮肌」族の一体であり、世話をしていた木がサルマン軍のオークによって滅ぼされた旨を語る。若さの他に、そのためにオークらに対して「せっかち」な態度をとるようになったともいう。エントの行進時はメリーとピピンは木の鬚(→ファンゴルン)のもとに返すものの、隣に立って行軍する。
Quickbeamとは、「ナナカマドの木」の呼び方のうち古いものであり、実際に本人もナナカマドの木を思わせる姿で(木の鬚よりもほっそりとして木肌に艶があり、いかにも若く見える。声も澄んで高い)作中で「木の牧者」として主にナナカマドの木の世話をしている旨がある。一方でQuickbeamのそのままの意味での「早く梁(枝)を伸ばすもの」(beamはここではビーム光線ではなく「梁」「直線」であるが、PC用赤外線通信システムのQuickbeamの名はここに引っ掛けられているようである)の意味も持ち、邦訳ではそのまま(ナナカマドの意味はなしに)「せっかち」である。シンダリン語では「速く生きる者」という意味の「ブレガラド」である。トールキンのコメントによると、このQuickbeamは「ブレガラド」が先にありそれを英語に訳した語というのだが、だとすると元来がナナカマドの牧者であることと辻褄があわないので、結局はよくわからない。
*bandにはToMEに登場するが、通常のエントより1階層だけ深く、能力的にはほとんど同じである。すなわち、普段は友好的だが、敵に回すと洒落にならない打撃力を発揮してくる。ユニークを友好的含めて些細なものでも潰しておきたいプレイヤーもいるであろうが、くみしやすい状況になるのを祈る他にない。
→エント
絶叫おばけキノコ Shrieker mushroom patch 【敵】
Moria以来、*bandに伝統的に存在する食用キノコ群体(mushroom patch)の中に、これも伝統的な「絶叫おばけキノコ」が含まれるのは、AD&D系に存在する絶叫キノコのモンスター「シュリーカー」であると考えられている(なお、D&D系のシュリーカーはモンスターデータではfungus (非食用野生キノコ)であり、mashroom (食用キノコ)ではない)。
シュリーカーは人間くらいの丈のある不気味な紫色のキノコで、移動もせず、何の攻撃力ももたないが、
光や侵入者(つまりプレイヤーキャラクター)に反応すると金切り声のような音を発するという性質がある。ダンジョン冒険のTRPGでは、これは当然周囲のモンスターを警戒させ、呼び寄せるといった効果をもたらす。おそらく、野生の大型キノコで風船のように空気を勢いよく噴出すると共に胞子をばらまくといった種からアイディアを得たものだろう。なお、D&D系のモンスターでは、シュリーカーに姿はよく似ている(おそらく同類でもある)が食肉植物キノコのヴァイオレット・ファンガスがしばしば近くや共に生えており、攻撃力のないシュリーカーに紛れて生物を襲ったり、またシュリーカーに警告させて現れる生物を襲ったりすることもある。
他のゲームでの登場例は少ないが、AD&Dからの引用例の多いPCレトロゲーム『ザナドゥ』に見られる。ただし、ここでは他モンスターに警告といった能力は意味がないので、金切り声を「精神をかく乱する」と拡大解釈し、データ的には精神攻撃魔法(DEG-NEEDLE)を使ってくる怪物としている。また、なぜか若干の移動能力がある。リアルタイム(時間以外も色々とリアルな)RPG『ダンジョンマスター』に登場するものは、ほぼ形状はAD&Dのシューリーカー亜種のようだが名前は「スクリーマー」(絶叫するもの)になっている。鳴き声を上げる点は特徴的であるものの、ごく普通の敵であり、食糧にもなる。
*bandでは最も浅い層の敵であり、D&D系同様に金切り声を発することで、初代UNIX-Rogueからの伝統である「モンスターを怒らせる」効果を発揮する。もっとも、最初期はモンスターが起きているか・襲ってくるかの点は終盤ほどには重要性が少ないので(むしろプレイヤーキャラのほかのコンディションに生死は依存する)あまり重要ではないかもしれない。とはいえ下手に刺激せず、見つけたら叫ばれないうちに飛び道具などで早めに倒した方が得策ではある。なお、ここではファンガスではなく、「おいしそうに見える」mashroom patchなので、人間の丈くらいの巨大なものなのかは不明である。
→おばけキノコ
ゼラチン・キューブ Gelatinous cube 【敵】
ゼラチン状立方体。「灰色泥土」「強盗エバ」などと並んで旧時代の新和訳クラシカルD&Dの伝説的モンスターと今なお語り継がれる存在である。
現在はRPG用語や古典的モンスター名は多くが横文字(もしくは偽外来語)のままで普及しているものの、新和クラシカルD&Dの最初期の版の当時は、RPGが完全に本邦初訳で、プレイするゲーマーがまったく英語の用語になじみがないことを極度に懸念しすぎたためか、アイテムやモンスター名などの英語のかなりの部分が無理やり日本語に直されて表記されていた(後の大半の版では苦情に応えて現在に近いカタカナ表記になっている)。「ゼラチン状立方体」はGelatinous cubeを指すものの日本語名として表記されていたものである。
現在でこそ、D&D3eのモンスターマニュアルにも「ゼラチン状立方体」と併記されており(なお、和訳のモンスター名の方は原語に近い「ゼラチナス・キューブ」になっている)また、英語名やイラストと併記されていれば、それが(他のD&Dオリジナルモンスターの多くに見られるように)性質を反映したニックネームであることが何となくわかりそうなものである。しかし、RPGやモンスターに関する何の予備知識もなく、どんな生き物が迷宮を徘徊しているのか皆目見当もつかないゲーマーらがモンスター名として「ゼラチン状立方体」とだけ提示され、「ゼラチン状」「立方体」がモンスターとして宝物をためこみ、襲ってくるというインパクトは絶大なものがあったのである。
D&D系のゼラチン・キューブは、数多く設定されたウーズ、モルド等の迷宮ギミックモンスターのひとつで、巨大な透明のアメーバ状の生物である。迷宮の通路(幅、高さともに10フィート)一杯に広がって移動し、ゴミや生物を取り込み、掃除しながら移動する。つまり、ちょうど10フィート立方の空間を充填しながら移動するのでこの立方体の名がある。その特徴は、通路を充填しながらも、薄暗い迷宮においては透明ゆえに非常に目視しづらいことである(もっとも、取り込んでも体内で溶けなかった金属などが詰まっているのは見える)。アメーバ状の体液の効果か、生物を麻痺させる力はあるが、それ以外に特殊能力はないので、この手のモンスターとしては初級で危険度も低いものである。
*bandにはMoriaにはおらず、[V]以来登場する。モンスターの思い出を見ると、ほぼD&Dの説明と同じ設定になっているようだが、そのイメージを優先しているのか、原典にはない「酸」の打撃能力がある。耐性の揃っていない初期のプレイヤーキャラには非常に厄介であろう。また原典通り元素攻撃にも耐性がある。取り込んだ宝という設定なのかこの階層としてはかなりの数の宝を落とすが、酸の危険度を考えると割にあうものではない。原典以上に純然たるトラップ(不利益)めいた存在になっているといえるだろう。
センゲル王の金属帽子 The Metal Cap of Thengel 【物品】
センゲル王とは、『指輪物語』で活躍するセオデン王の父にあたる先代のローハン王である。しかし、本文にはそれ以上の情報は何もなく、無論のこと金属帽子など出て来ない(MERPにもそれらしい物品があるわけでもない)。[V]以来、非常にレアリティが低く、手に入りやすいアーティファクトだが、上質品とさして変わらない防御力、賢さ・魅力の若干上昇のみと、「大抵のひとはがっかり」物品で、そもそも何のために創作されたのかも不明である。故に、人気がある物品とも思えず、あんまり解説を書くのも気が進まない。
しかしそれではどうしようもないので、無理やり追補編の年表から掘り起こすと、センゲルの父王が暗君であったため、センゲルは成年に達すると即座に学ぶもののないローハンを去って武者修行に旅立ち、ゴンドールに仕えて指揮官として活躍した。結婚したのもゴンドール人、ロスサールナッハのモルウェンで、一人の息子と4人の娘があり、第二子が息子セオデン、末娘がセオドウィン(エオメルとエオウィンの母)だった。つまり、青年王エオルの同盟に遡るまでもなく、この当時のローハンとゴンドールは縁が深かったわけである。(しかし、エオウィンがファラミアに自分は西方の血は引いていないと言っており、これは名家であるファラミアに対する謙遜だというのが表向きの解釈だが、要するに数少ない誤記だと考えられている。)父王の死後、センゲルはようやくローハンに戻り王位を継ぎ、名君となったという。強いて言えば、金属帽子の賢さと魅力上昇は、これらの背景に沿っているだとか言えないこともないかもしれない。
なお、代々のローハン王たちの名はほとんど「王」「指導者」「君主」の意味をなすアングロサクソン語から採られている。「センゲル」もそうだが、特に「王子(大公)」の意が強い語である。また、重要なロヒアリムの名(エオセオド、エオル、セオデン、エオメル、エオウィンなど)にはアングロサクソンで「馬」を示す-eo(h)という綴りが含まれているという説もある。こうした一致は概ね単なる偶然に過ぎないとトールキンはよく言っているのだが、仮に「センゲル」に-eoが含まれていないのが、彼のみゴンドールの城砦兵として活躍し騎兵でなかったことを示しているのならば、なかなか束の奴は食えないぜとしか言いようがない。
戦士 Warrior 【クラス】
RPGの語義での戦士とは概ね己の肉体を武器に闘うキャラクタータイプであり、古来より勇士・英雄の最もポピュラーな型である。「実在」の勇士や伝承の英雄は例外なく戦士であり(神性化の仕方によっては変わってくるが)またそれを模した(RPGの原型である)初期のヒロイックファンタジーでも主人公の多くは戦士である。
RPGが「戦士」にどんな語を当てているかは様々であるが、並んで多く用いられている「fighter」が、同じように戦士の標準的・総合的な語であるうちでも、どちらかというと「戦闘そのもの」の専門家を指すのに対して、「warrior」は戦闘行為を取り巻くあらゆる環境に関わる、戦闘の関係者の総合語としての語義がより強い。AD&Dでは、1stの後期と2ndではwarriorはfighter, ranger, paladinなど戦士系の職種の総称(グループ名)である。ただしD&D 3edでは、warriorは冒険者のような英雄タイプではない、もっと一般的な人々で戦闘・軍事行為に携わる人々を指す、NPCタイプとなっている。
*bandのクラスには、Moriaの頃から戦士・聖職者・盗賊・魔法使いにはwarrior, priest, rogue, mageという語が当てられているが、これはできるだけ一般的・総合的な語を採っているものと考えられる。特にクラスの少ないMoriaや[V]では、warriorは戦闘を専門とし、なおかつ魔法を使わないタイプの武人を総合して指していると思われる。戦士は魔法を使えないため、物品も使えないとしているRPGも多いが(D&D系では基本的には、スクロールやワンド・スタッフはその魔法の専門のクラスしか使えない。rogueは使用できるようになる場合があるが)一人で冒険するRoguelikeゲームでは流石に失敗率はあるものの使えるようになっている(本当にこれらが使えないのは[変]の狂戦士である)。
ほとんどすべてのRPGにおいて戦士もしくは戦士タイプの職業は見られ、その扱いは世界観の重みによって様々であるが、どちらにせよ一般に覚えなくてはならないことが最も少ない(特殊技能に関してなど。非電源ゲームにせよ、電源ゲームにせよ)ため、初心者に向いた職種と言われることが多い。また多くのRPGでは、能力が肉体能力に集中しているため生存率が高いこともその一因である。Moriaや*bandでも「初心者がプレイしやすく、生き残りやすい」クラスであることは、すべてのバリアントで共通している。しかし、強力なクラスであるか、最終的に*勝利*しやすいかという問題となると、バリアントごとにルール・扱いの差に従って全く異なっている。
[V]のうちでも当初バリアントや和訳の元となった2.8系では、戦士は魔法を使えない上、それらの効果に対応するロッドその他が存在せず、またスタッフやロッドが「重ならない」システムになっているため多数を持ち歩くことができず、後半になると進行がかなり困難になってくる。そのため、初心者の入門には向いているが、勝利は他のクラスに比べて極端に難しいと言われることが多かった。
[O]やその他の[V]の改良バリアントでは、これらのロッド他の追加や重なりが改良され、プレイしやすくなっている。また、[O]では(O-コンバットのため打撃全般が弱くなっているのだが)シールドバッシュや自動複数攻撃などが追加され、戦士ならではのスタイルが出来るよう工夫されている。
[Z]では、2.2.x系では[V]への反動からか、レベルごとの攻撃技能のさらなるボーナス、攻撃回数の増加、増えていく耐性など、極端に強化された。さらにはゴーレムやゾンビなど、戦士専門に完全に特化した種族が追加されたことも大きい。戦士なのだがプレイ感覚はむしろ[変]の狂戦士と言って差し支えない。一転して2.4.0では、O-コンバットになり、攻撃回数なども抑えられ、[O]などと同じ程度に落ち着いた。ただし、O-コンバットは打撃が弱いだけでなく、強力な物品やクリティカルによって「伸びる」ことがないので、[Z]の強力な敵に対して苦戦する事が多くなっている。
[変]では[Z]2.2.8がベースだが、かなり弱体化されて落ち着いたバランスになっている。職業技能レイシャルパワーとして「剣の舞い」が追加され、技能のすべてが伸びるため、結果的には(手にはいる武器防具に大きく依存するが)かなり強いクラスになっている。
ToMEでは、1.0系までは[Z]に似ているが、2.0系では純然たる「戦士」というクラスはなく、技能を配分することによって特徴を設けたり、戦士系であっても特殊技能を伸ばすなど様々なプレイスタイルが可能になっている。
仙術 Sorcery 【システム】
出典:「仙術」とは要するに仙人、ことに中国の神仙らの術といえる。これをいわゆるRPG的・FT的魔法として見た場合、つまるところ、仙人を頂とする道教の道士が修める法、「道術」の流れの魔法がそれだということに至る。が、道教(思想としての「道家」とは別である)自体が、成立が定かならぬほどさまざまな起源の思想・儀礼などが混合している(中国古来の呪術思想、巫術、鬼道、また儒・墨・仏などの宗教と共に儀礼など)と思われる上に、伝えられる神仙の姿そのものが様々な起源の要素を取り込んでいるため、仙術を「仙人らの使う術」と定義するとしても、中国のさまざまな術(また東洋魔術全般)のうちどういった術の範囲か絞るのは困難である。非常に乱暴に定義すれば、例えば特に道術といわず仙術(や神仙術)という場合は、各種の術のうちでも仙人(東洋における「高位体」)となった者が使うような高度な術の総称という考え方もある。あるいは、仙人が行う術で道教思想と繋がりが深いようなもの、及びじかに仙人になるための術と伝えられるもの(練丹、導引、その他各種儀礼など)などを指し、明らかな道術以外の「妖術」などは区別する、といった定義が可能かもしれない(無論、中国の説話にも仙術と妖術が区別されていなかったり、仙人が「妖術」を使っていたりすることも多い)。また、特に日本での使われ方を言えば、「中国」で道士や神仙が用いるものとして伝わったものを指し、日本の陰陽術や、風水や呪禁(などのうち、日本に渡航して後発展したもの)に入ったものは、たとえ内容的に同じでも指さないのが通例といえる。無論、フィクションにはさまざまな定義、これらが混合した例は枚挙に暇がない。
『抱朴子』などに記述される、いわゆる仙人修行とされる術には、練丹術(外丹すなわち錬金術・薬の製法のほか、体内の状態を調整し練る内丹)、導引(気功)などがあり、食・薬やまじない的な儀式法などもあるが、ことに目立つのは、呼吸法など、心身をコントロールするため普段からの生活習慣に関する法である。『ジョジョの奇妙な冒険』1部・2部において、東洋の「仙道」を「呼吸法」として定義していたのもこれに由来するとされる。
一方、RPGや最近のFTでは見かけないが、海外の幻想説話・昔話の邦訳に「仙人」「仙女」という訳語が使われている場合もある。「仙人」はいわゆる「隠者(hermit)」とされることも多いが、しばしば悪の意もある「魔法使い」に対する善の存在、特に「仙女」は、「魔女」の善のものを指すかのように使われることが多い。妖精物語の説明には「善:魔法使い、仙女」「悪:妖術使い、魔女」となっていることもある。またこれら仙人・仙女は人間の魔法使い等よりは、存在自体が妖精などの超自然のニュアンスが強い。シンデレラや眠り姫の説話に現れる妖精母・善魔女などに「仙女」の訳語があてられていることもある。そのまま女性の妖精、フェイなどの訳語が仙女とされる用法もある。
さて、ここまでで、なぜこの「仙術」が*bandにおいてsorceryの訳語となっているかの説明が必要であろうが、[Z]において魔法領域の訳語をそれぞれ選択する際、ニュアンスの境界が曖昧な「魔法」に対する様々な語よりも、それぞれ明確に他と際立って見える語を選択したというのと、またsorcery領域の認識強化、肉体強化、また変化・変換的な幻妖的な効果、非攻撃的な性質が、いわゆる仙人やその修行・術のイメージにあわせて[Z]の邦訳の際に選択された、というのが当時の経緯であり、特に道教思想の仙道自体とは直接的な関係はない。
sorceryという語は、詳しくは「ソーサラー」の項目を参照されたいが、曖昧なニュアンスではあるものの、手品の意でも頻繁に用いられるmagicに対して、sorceryは多分に魔術的、玄妙、ときに邪妖な雰囲気も含む。(ゲームブックのシリーズタイトルに、'Sorcery!'ただ一単語というのがあるのが印象的である。)また、RPGの原型となったいわゆるヒロイック・ファンタジーのジャンル名としてフリッツ・ライバーの命名による「剣と魔法 Swords and Sorcery」があるが、ここでのソーサリーはライバーによると、現実に存在すると噂された呪術(magic)以上の、あるいはそれ以外の、さらに幻妖・超自然的なものを狙っての命名であるという。必ずしも昔話の邦訳の「仙人」「仙女」とは合致するものではない。
なお[Z]のモチーフであるゼラズニイ『アンバー』シリーズに対して、この[Z]などの仙術が(他のカオス、トランプ等に対して)どの位置にあるものかを考えると、フィオナがthe Sorcerer(これは原作でもたびたび表現される)であることや魔法書に[Pattern Sorcery]があることなどから、このsorceryは「パターン(→参照)」をじかに操るようなアンバーの王族の魔法や、それを模造した他の”影(異世界)”の魔術師らの魔法にあたる、と考えることができる。アンバーや混沌の王族は、宇宙の法則が収束したトランプを操る、ないしトランプを道具として魔術を行うことが多いが、トランプでなくじかに宇宙の根源図形であるパターンを介する術は、コーウィンもまれに行い、また主にドワーキンからパターンの理と魔術を習ったフィオナ、ブレイズ、ブランド(人間トランプ能力以外にも)が心得ているのもそれと思われる。なお、いわゆるパターン使いがこれら稀な例であるのに対して、パターンと対の根源図形ログルスを歩いた混沌の王族には、トランプでなくじかにログルスを使う(→カオス魔法)術師はかなり多いようである。
システム:[Z]において、こうしたメタ領域にsorceryという名があるのは、直接的には[Z]の魔法領域の分類の例にもれず、[Z]のモチーフのひとつであるシミュレーションゲーム'Master of Magic'に由来するが、典型的な魔法(いわゆるメイジ領域から、カオスなどの他の性質の魔法を別領域にした結果、残ったもの)であるほか、これも[Z]の元でもあるカードゲーム'Magic: the Gathering'において、即時的な魔法であるインスタントなどに対して一般に大掛かりで効果も玄妙な魔法がソーサリーとされることなどもあると考えられる。
また[V]発展型のシンプルな[O]などのバリアントで、necromancyやときにillusionなどではない、典型的なメイジの魔法体系に対して、sorceryという名となっている場合もある。これはやはりmagicなどよりも純粋に魔法としての意でのsorceryと思われる。これらの和訳や、この命名の流れをくむ[X]などでもsorceryの訳語は[Z]からの通例にならい「仙術」になっているが、無論のこと、これら基本的なメイジ系の魔法体系は仙術という名であっても攻撃的な術なども含む。
[Z]の流れをくむ仙術の魔法領域は、探知・テレポート・鑑定・スピードなど、攻防以外のいわゆる「魔法」の効果の大半と、また眠りや魅了など、破壊ではないにせよ攻撃的な効果も含む。[V]系のメイジ魔法から攻防に関わるものを抜き、残りをさらに強化した領域といえるため、これに攻撃的な領域(カオスなど)を組み合わせたものが[V]系のメイジに近いとはよく定義される。仙術領域の有無で「できること」が大きく違うため、メイジなどで領域としてこれを選ぶか否かはかなり大きな選択であり、また他の領域と重複があっても(自然領域を基本で持つレンジャーなど)仙術を選択する場合も少なくない。
聖ぬぞぷり女学園 せんとぬぞぷりじょがくえん 【その他】
→ショゴス →シュブ=ニグラス →ぬぞぷり
全復活 Restoration 【その他】
この語感に対して、他のRPGでの先入観と混同しやすいが、蘇生やhp回復ではなく、経験値や能力値のペナルティをすべて回復する手段である。
クラシカルD&DのRestoration呪文は、かなり後出のルールに登場する最高レベルの聖職者呪文のひとつであり、エナジー・ドレイン(レベル・ドレインではない。呪文構成要素やイベントのペナルティーによる永続的なレベルドレインと区別し、アンデッド等により生命エネルギーを吸収されたものをこう呼ぶ)による負のレベルを回復することができるというものだった。これは、この呪文を自力で使用できるような高レベルは相当に後であり、その前に高レベルに達する前に他者からサービスを受けられることもほぼなく(これほどの高レベルの聖職者が街などにいるとは想定しづらい)この呪文が基本的に「イレギュラー」であること、すなわち、アンデッドによる経験吸収が初期のゲームでは基本的に「永続的」なものとして想定されている(D&D系にシステムの近いWizardryなどは完全にそうである)ことが見てとれる。またエナジードレインほど頻繁に起こることではないが、能力値パラメータの恒久的減少もよく似たもののようである。AD&D2ndではさらに、このRestoration呪文は「術者も対象も2年歳をとる」とされており、滅多に使えない呪文であることが強調されている。
以降のゲームでは、エナジードレインのシステム自体を採用するかにもよるが、CRPGに関しては元のD&DでなくWizardryから参照していたことが多いため、回復手段がないものも多々ある。回復手段を設けているものに関しては、施設によるもの、低レベル呪文やアイテムによるもの等さまざまであり、D&Dほど厳しいものというのは滅多にない。なお、D&D系でも能力減少などが頻繁になった3e以降ではRestorationには下級呪文が多数設けられ、かなり使用されることが多くなっている。
*bandでは、Moriaの時点から、無限のリソースがありまた一人で行動するゲームであることもあって、能力値や経験値の減少は永続的でなく、回復も比較的容易である(→能力値回復の薬 →生命力復活の薬)。ただし、一気に能力値と経験を回復できる手段は、[V]のプリースト系魔法をはじめ多くのバリアントの魔法や能力(生命、パターンウォークなど)にD&D系を踏襲した超高レベル手段として見られる。また「キノコ」システムで唯一存在意義があるとさえ言われるものに全復活のキノコがある。いずれも他の薬などで代用がきくため、必須というわけではないが、終盤ではロッド、キノコなどひとつの手段で全復活できるもの、まして呪文や能力で得られる場合は重宝する。
千里眼 clairvoyance 【システム】
クレアボヤンスとは鮮明な視界というような意味のフランス語で、英語では、いわゆるESP(超感覚)分野における視覚的な能力を指すことが多い。「透視(物体を透過した視覚)」「遠視(通常視覚の及ばない距離に対する視覚)」「念視(総合的に視覚に頼らない映像知覚能力)」など相互に重なる部分もある概念を、漠然と総称的に示しているともいえる。
一方、*bandの和訳語でもある東洋での「千里眼」という語は、おおむね「遠視」を指す語として、遠聴(クレアオーディエンス)を指す「順風耳」と一対で伝承や宗教説話に現れる語であったが、それが視覚的な超感覚に関する用語としては最も知られていたためか、日本の近代の超常能力能力研究などでは、遠視だけでなく透視などに対しても「千里眼」の語が用いられてきていることがある(よく考えてみると、元の英語ではもっと広義なはずのclairvoyanceが仏教用語でもある「千里眼」と訳されるのはstriderが「韋駄天」と訳された例にもよく似ている)。ESP全般がそうであるが、こうした能力で情報を得て、意識的あるいは無意識的に分析した結果が、一見、予知(コグニション)や読心(テレパシー)といった別の現象に見えることがあり、相互に無関係ではない。例えば、逆の話として他の生物(使い魔等)と交流し、乗り移り、あるいは操って、その耳目を借りることで遠地の情報を得るといった魔術説話は洋の東西問わずあり、テレパシーの能力がクレアボヤンスのような現象に見える一例である(これは単純に他者からの情報収集力や分析力の高い長老等の認識力が、千里眼の持ち主といった説話に発展するといった背景とも関連する)。ともあれ、実在のESP分野での和洋の逸話については専門のサイトに譲り、ここではRPGにおけるものに絞る。
FTでは古い説話の水晶玉、鏡、水盤、より時代が下ってLotRのパランティアなど、いわゆる「遠視」の物品や能力には事欠かないが、それらは上述したような視覚的能力の別やESP分野の別が渾然と混ざり合っていることが多い。しかし、RPG自体の原型であるD&Dシリーズでは、これらの能力をプレイヤーキャラクターが使えるものとして提供する場合、一度に多くの能力を与えることを避けた結果、きわめて細分化した多数の能力が存在するものとなっている。クラシカルD&Dにおいて、中級の魔法使の呪文やアイテムの特殊能力等で獲得できる場合のある「クレアボヤンス」「クレアオーディエンス」の能力は、「他の生物」の「視覚・聴覚を借りる」ことでその生物を介して情報を得るという、前述したテレパシー系との混合部分にあるような能力であり、いわゆる千里眼の意としてはかなり古典的な概念であり、さらに、クレアボヤンスという英語の一般的な用例に反してきわめて限定的な視覚能力である(一方、AD&D2ndや3.Xeの呪文のものは、生物を介してではなく一定場所に定めたセンサー位置を介して視聴覚を得るもので、かなり広義の念視に近い)。なお、いわゆる透視能力は「Xレイビジョン」、視覚センサーを飛ばして遠視する能力は「ウィザードアイ(アーケインアイ)」能力としてまったく別に存在する。余談であるが、D&D系がFT世界の魔法の呪文や能力に「クレアボヤンス」「Xレイビジョン」といった素っ気なく時代錯誤なESP用語を無造作につけているのは、それがウォーゲームのルール用語と同様の無機的分類であるため、ひいてはジャック・ヴァンスの小説のように魔法に味気なく説明的な名前をつけるという意図的なものであり、決してこれらが「幻想的・魔法的」な雰囲気を持つ用語として選択されているのでないことには注意されたい。
他のTRPGでは、一般的にD&D系よりは探知呪文や能力の種類は少なく、すなわち、種類は少ないが包括的な能力を持ち、裏を返せばD&D系ほど細分化されて明確な情報を得ることはできず、効果は明確ではなく、要は「曖昧な情報」を与えるものが多い。例えばT&Tのやや上級の《千里眼(ミスティック・ビジョンズ)》の魔法は特定の事柄だけ指定すると、それに関係のある映像が自動的に浮かぶというもので、遠視というよりは預言や水晶玉等に近い。一方、TRPGクトゥルフの呼び声では、様々な遠視・幻視・透視の手段が、神話的生物との交信の呪文、様々な原作登場アイテム(レンのガラス、アルハザードのランプ、輝くトラペゾヘドロン等)によって非常に充実しているものの、やはり使用者の望む条件の映像が明確に得られるというものではなく、CoCの他の光景や情報のように、むしろ見なかったことにしたいような映像ばかりというのがお約束である。
クレアボヤンスという用語の魔法については、例えばキャラの情報を知ることができるアイテムが「クレアボヤンス」という名になっているが、その説明は透視やテレパシーとおぼしきものになっていたりといったRPGも存在する。総合すると、どちらかというと、原語の意味のためか「透視」の意味で使われていることが多いように思われる。
CRPGでは、用語としての千里眼からは離れるが、*bandのような近いという意味では、オートマッピング等を表示するものは数多く、ドラゴンスレイヤーシリーズ等の古いCRPGでのマップ表示魔法・アイテムをはじめとして、携帯機用のWizardryシリーズのデュマピック呪文や、DQやFFでワールドマップを表示するアイテムや裏技などがある。これは呪文なりアイテムなりであっても、コストがごく安いものであることが多い。
*bandでは、「千里眼」はアイテム発動や魔法(仙術、生命等)により得られる効果であり、その階層一帯のマップについての情報が得られる。階層すべての明かり、モンスターの情報なども得られるが一定期間のテレパシー(秘術)等、同じ千里眼でも手段によって得られる場合と得られない場合がある情報がある。同様の効果が得られるものに薬等での「啓蒙」がある。一般に初代RogueやNetHackよりも1階層のマップが著しく広い(ことが多い)*bandにおいて、「魔法のマップ」がRogue等と同様に1画面分だけのマップの情報が得られるのに対して、「千里眼」では階層すべてが得られる。いわば魔法のマップに対して上級の魔法効果にclairvoyanceという語が当てられているわけだが、これはRogue等での魔法のマップが「心の中に浮かび上がった」といったメッセージであることと深く関連していると思われる。探知魔法の乏しいクラスではスラインのアーケン石(→参照)や審判の宝石等の能力で得ることが多く、入手できると探知手段として重宝する。
ソウルクラッシュ The Blade of Chaos 'Soulcrusher' 【物品】
原作では「魂砕き」と日本語名で表記されていることが多い。和製RPGの先鋒である小説・アニメ・RPG等『ロードス島戦記』シリーズに登場する、暗黒皇帝ベルド(→参照)および後継者の黒騎士アシュラム(→参照)の剣。もとはベルドが同時代の英雄らと共に倒した「魔神王」の持っていた剣だった。原作では黒く禍々しいいかにもな「魔剣」であり、無論のこと剣としても『ロードス島戦記』のフォーセリア世界で許される最大限に強力であるほか、名の通り対象の魂を砕くという力を持つ(RPGのルール上では「精神力」にダメージを与えるという形で表される。またこれで斬られた対象の魔法的な精神効果も無効にする)。結局のところ、物理攻撃が通用しない魔神王の魂を砕くために、ベルドが魔神王からこの剣を奪って倒したのだった。また所有者の老化を遅らせる効果があり、これを長期間所持していたベルドは実年齢よりもかなりの若さを保っていた。
フォーセリア世界の強力な物品は、一般には古代王国の魔術師が製作したものとされているが、この品はそうした設定の細部が決まっていなかった(ベルドらやその周辺は作者らが身内のゲームに用いていたデータである)頃に遡るためもあって、魔術師が対魔神用に鍛えたなり魔神自身が鍛えたなりと、設定が二転三転している。しかし、*bandが直接参照しているOVAアニメ版のロードス島戦記では、本来無関係なローフルブレード(→至高神ファリスのロングソード)と対になる剣という設定になっている。詳細は無論のこと謎である。なお同様のアニメ版の解説では、海外ではときどき'Sword-Devil'などという、まるで悪魔の化身が剣の形になったもののような説明になっていることがあり、これは単に日本での表記「魔剣」がうまく解釈できなかったためと思われる。
原作では横文字の名前でも「ソウル・クラッシュ」と表記されているのだが、*bandのデータの元であるSBFbandが直接参照したOVA版の海外版では、Soul Crushではなく'Soulcrusher'という形になっている。これはcrushのままだと普通は動詞であり、名詞として使われることはあるものの、やはり何らかの細かいニュアンスでの不自然が感じられて(これは海外ものの作品でつけられた日本名に、我々日本人がよく感じる妙な違和感と同じようなものだろう)「魂を砕く者」という形に直されたとみてよいだろう。ただし、もとのcrushには文語で「飲み干す」という意味があり、この剣自体がストームブリンガー(→参照)を原案にしていることを如実に暗示している点であるから、そのニュアンスが失われたのは否めない。
*bandではSBFbandから[変]に取り入れられた剣であり、SBFbandでは一般に『ロードス島戦記』由来の品がかなり強力に見なされているが、このソウルクラッシュも元となったストームブリンガー同様のカオスブレード、魔剣の「典型」と見なされたらしき、多数の強力なスレイングや能力がある。[変]でも、特に日本の原作通りの精神を砕くといった能力はない。ただしベースの殺戮修正等から考えると、グレイスワンダー等が元になっているとも思える。単純にカオスブレードとしては、エゴアイテムとしてのカオスブレードなどと比較すると極端に強力とはいえず、反感や呪い、経験吸収やカオス効果を含めると、それほど使える品とはいえない。ユニークモンスターのベルドを倒すと、なぜかかなり低い確率で落とすことがある。
→ベルド →アシュラム
ソウルソード The Scimitar 'Soulsword' 【物品】
*bandに登場するソウルソードは、マーベルのアメコミに登場するものが由来であると考えられている。マーベルのソウルソードは、X−メンのミュータント等として活躍する”マジック”ことイリアナ・ラスプーチナの剣である。
マジックは魔界(リンボ)で育ち、剣技と魔法を身につけており、テレポート能力と精神力(創造魔術)で作られた装備で戦う。血縁上はX−メンの金属体パワーファイター”コロッサス”ことピョートル・ラスプーチンの妹だが、イリアナはリンボで別れて過ごし、その生い立ち故かヒーロー側のことも、複雑に対立する立場のこともある。ソウルソードはマジックの装備のうち、マジック自身の霊魂を注入して作られた強力な武具で、霊体や魔法生物、魔法のフィールドを破壊する能力がある。ソウルソードのビジュアルはアメコミや派生作品でも一定せず、先端が曲がっていることも普通の長剣に見えることもあり、元々簡素な剣であったのが、能力を反映するイメージにより派手なエフェクトを伴うことが多くなっている。
*bandではアメコミからの引用も多い[Z]での追加物品のひとつで、[V]の『ハラデッケト』をベースに差し替えられて登場する。原典では対霊体・魔法生物用の剣だが*bandでは特に通常の対象に効かないということはなく、ベースの武器能力をやや低めに、スレイングを豊富にすることで再現していると思われる。魂で作られた魔力剣という神秘的な面の強調のためか、[V]の『ハラデッケト』と比べるとフラグは大幅に増加して強化されており、基本耐性(生命力維持、視透明など)や上級耐性(地獄、因果混乱、混沌、劣化、追加耐性)がきわめて充実しているのが最大の特色であり、前半に入手できた場合やサブ武器としてはかなり重宝される。階層やレアリティもやや低いので、前半これが出ることをピンポイントに期待しているプレイヤーも多い。
ソーサラー Sorcerer 【敵】【クラス】
RPG的なファンタジー世界においては「ウィザード」についでよく使用される「魔法使い」の呼称であるが、賢人や技術者も意味し非常に漠然とした現代語でもあるウィザードよりも、「魔術の使い手」そのもの、そして「メイジ」等の語よりもさらに特化した・高級の術師を指すことが多い。また主にゲーム以外では、賢者ではない悪や中立の術師を指すのに用いられることも多い。
魔術 sorceryとはラテンの「sorc 易、予言、命運」に由来する語で、sorcererは占いを行う者といった意であり、聖書で「占い(呪い)を行う者」「妖術師」と和訳されているものは英語ではsorcererで、すなわちキリスト教から見た異教・邪教の術者として、一般的に邪術士を指すものとして非常に多用される語といえる。これが転じて、邪術、キリスト教以外の魔術、地方ごとのマイナーな魔術といった意味も持つといえる。剣と魔法(sword and sorcery)という語を創始した作家フリッツ・ライバーは、sorceryとは「人間の歴史に登場した呪術よりも以上の、あるいはそれ以外のなにものか、という含蓄」を意識したものとしている(『魔の都の二剣士』訳者解説より)。
トールキン作品では、sorcerer 妖術師という語はもっぱら(主に第一紀の)サウロンに対して用いられている。すなわち、wizard(ここでは「種族」名である)の対義語としての「悪のマイアの大術師」を指すものといえそうである。ただし、ICE設定や*bandにおいては、「ソーサラー」という語が堕落したサルマンやナズグルの前身などに使われていたりもするため、悪の術師に対するより広義の語といえるだろう。
さて、他のファンタジー世界全般やRPGにおいてクラスの名や称号などになっていることが多いが、前述の通りその扱いは背景世界およびルールにおいて千差万別であり、指針や一般的といえる解釈はない。特徴としては(曖昧なウィザードという語に対して)ソーサラーは非常に特定された意味で用いられていることが多いのだが、その意味自体が世界背景ごとにまったく違うので、概説することに意味がなく、ソーサラーという語の意味として「特定の世界設定における定義を喧伝する」ことはウィザード他よりさらに無意味である。D&D系では、旧ルールではいわゆる高級術師の称号のひとつだったこともあるのだが、3edでは最も基本的なプレイヤーキャラクタークラスのひとつとなり、体系的なウィザードとは異質な、先天的・超能力的なものや、あるいは総括できないほどマイナーな体系の術の使い手などを指す。邪術の使い手および特定・限定された術のニュアンスの両方が採られた用法といえる。D&D3eのソーサラーの力が何に由来するかは個体ごとに千差万別なのだが、典型的なものとして「ドラゴンの血が流れている者」という例が挙げられている。そのため、D&D3eでは爬虫類人であるコボルド(→参照)には優秀なソーサラーが多い。
*bandにおいて[V]からモンスターとして登場するソーサラーは、「善の高級術者であるwizardに対する悪の高級術者」といった意味の存在であると思われる(*bandには「ウィザード」という敵は、ガンダルフなど特殊なものを除くと存在しない)。解説等のほかの項目にはソーサラーという語が非常に多出するが、ここでは悪の術士全般を指す語と見てよい。ノーマルモンスターとしての「ソーサラー」は、元素攻撃・召喚の強力な魔法をそつなく備え、スピードもある該当階層の強敵である。
ToMEにはソーサラーがクラスとして存在し、これはおそらくサウロンのような万能術師を想定してもいるが、どちらかというと「高級術師」のニュアンスであると考えられる。「スペルマスター」によく似たクラスであるため、特徴など詳しい点はそちらの項目に譲る。
ゾス=オムモグ Zoth-Ommog 【敵】
旧支配者。リン=カーターの同名の小説に言及される存在で、クトゥルフらの住む海底都市ルルイエにいる旧支配者の一体と言われる。底が広がった円錐形のような体に、頂点にトカゲのような頭があり、頭の周囲からはヘビかムカデかというような髪・ヒゲ・触手が大量に生えている。首の少し下からはひときわ大きな触手が四方に1本ずつ4本生えている。
人間にはほとんど知られておらず、信奉者もいないが、「深き者」らの中にはこの旧支配者を信仰対象としているものがいると言われている。にも関わらず、世界各地にはゾス=オムモグの姿を刻んだ像の数々があり、その像のどれでも、中から自由に実体化することができる。ただし、人間には信奉者がおらず利にならない種族だということを知っているのか、人間を見ると必ず殺すという。
クトゥルフやその眷属(→クトゥルフの落とし子)以外に、ルルイエに住む海底の旧支配者がいるというのは中々不可解にも見えるが、(深き者の項目にも書くかもしれないが)「クトゥルフの眷属」また「深き者」という語は単一の種族を指しているのではなく、同族や海に住む一連の旧支配者たちや種族を指している語である可能性もある。大いなるクトゥルフはよく似た落とし子以外にも、知られざる旧支配者をいくつも産み落としているのかもしれず、または霊的存在である「大クトゥルフ」を信奉する旧支配者的種族が複数いるのかもしれない。CoCのTRPGのサプリメントには、リン・カーターやブライアン・ラムレイの採る設定、ゾス=オムモグはクトゥルフの故郷であるゾス星での「クトゥルフの子」で、他の子であるガタノソア(→参照)、クティラおよびユトグタと共に地球に飛来したという説が紹介されている。
ゾス=オムモグの姿はイソギンチャクのようでもあるし、(カーターの本文にもあるが)ギリシアのゴルゴン姉妹を思わせるものでもある。あるいは、カリュブディスやスキュラやゴルゴンの神話、各地の海魔の伝承の数々は、クトゥルフの眷属以外にも、ゾス=オムモグが元になっているという設定でもあるのかもしれない。
*bandには[Z]以降、45階というマイナーな旧支配者のよくいるあたりの階層に現れる。CAN_SWIMフラグはあるものの、特に水地形に出現するとは決まっていない。各種の召喚系魔法をもち、ブレスではなくボール系の打撃魔法を用いてくる。
外なる神々の従者 Servitor of the outer gods 【敵】
上級の奉仕種族。H.P.ラヴクラフトの宇宙観では、宇宙の中心には混沌の核アザトートがおり、その周囲を主同様に知性のない(ものが多い)大小の数々の異形の神々が巡っている。そして、アザトートとその小神らはさらに、従者の吹くフルートの調べにのせてゆらめいているという有名なくだりがある。この従者というのは、あるいは単一の種族ではなく、人間などの種族の中の突出した芸術能力を持つ個体(おそらくエーリッヒ・ツァンがそうなったと推測されているように)がナイアルラトホテップによって連れてこられたのかもしれないし、フルートというのも便宜上や比喩でしかなくあるいは様々な芸術を指すのかもしれない。
しかし、少なくともCoCルールブックでは、ダーレス『暗黒の儀式』に言及されているようなパイプを吹く生物を、「外なる神々の従者」の主要なものとして定義している。ヒキガエルのような姿だがたえまなく外形を変化させるという、何やらどこぞで聞き飽きたような(→ツァトゥグァの落とし子)描写だが、CoCのイラストのものはむしろカエルより爬虫類の印象に近いものがあり、手足のかわりに固まった触手のようなものが生えて、その手でラッパパイプを持っているという姿である。(あるいはD&Dシリーズで(”善”を象徴する「天使」同様)”混沌”を象徴する「スラード」種族も、ツァトゥグァ一族やこの従者が元になっているのかもしれない。)
*bandでは[Z]にも、Cthangbandにさえも登場していないにも関わらず、ToMEには登場している。知能がないとされているのか、EVILフラグもDEMONフラグもない。またフルートらしき音波攻撃などの攻撃手段も持っていない。普通にELDRITCH_HORRORと各種の聖職者系魔法、アンデッド召喚や魔力の矢を持った、強靭な中レベルのクトゥルフ系モンスターである。
ソードマン Swordsman 【敵】
swordsmanとは「剣士、剣客」の意だがことに軍人のうち剣で武装したもの、という意味も強い。swordsmanshipは剣術やフェンシングの術だが、「騎士道」ほど広義ではない剣の作法も含むといえる。サムライ・武侠映画の訳をはじめとして「剣客」のようなニュアンスでもswordsmanはよく使われている。
AD&D1stにおいて、3レベルのファイターの称号がSwordsmanになっている(なお、クラシカルD&Dのファイターの称号はAD&D1stとほとんど同じだが、この3レベルだけはswordsmanでなく'swordmaster' 剣匠というより強そうな名になっている。これはクラスが少ないD&Dの方がファイターの位置づけもヒロイックであり、AD&Dの方がリアルであることも反映していると思われる)。この称号は、それ以下のveteranやwarriorといった称号から想像しても、やはり「軍人」としてのそれを想定していると思われる。以後のRPGでは'Swordsman'が「モンスター名」ともなり、この名のモンスターが敵として登場する場合もWizardry以後多々あるが、つまり、これらの場合は上記したような存在を想定しているといえるだろう。和洋の剣客ヒーローや、日本のCRPG等で(「勇者」ほどでないにしろ)美化じみたイメージが担わされた「剣士」という名のニュアンスではなく、剣を使う軍人、また3レベルファイターすなわち「初〜中レベル」ほどの戦闘能力を備えた戦士、というあたりである。
*bandにおいて登場するソードマンは、ほぼ上記の扱いと思われるもので、「戦士系」の敵としては見習戦士の上である。しかし、上位の重装備戦士などとの差は階層の差にくらべてさほど大きくなく、同階層のノーマルモンスターとしては強力な方だといえる。が、(単独で出現することもあって)だからといって特殊能力のない戦士は戦士であって、戦況が変わったり印象に残るほど強力というわけでもない。
ソーラー Solar 【敵】
出典:太陽の使者。いわゆる天使にあたる存在を、Angelという語や関連用語を「モンスター名」に使用することを避けるためTRPG, D&D系においては他の名がつけられているが、ソーラーとはそれらの存在(セレスチャル)のうち最上位にあたる種族である。また、これは<上方世界>に住む最上位の種族の「総称」であって、キリスト教の天使的な存在(神格に仕える、「秩序にして善」等)を特定しているわけでもない。Solarとは聖霊をセレスチャル(「天球儀」の意あり)とした場合、「天道」をなす者ら、あるいは恒星すなわち他のいくつかの群星の中心となる存在といった意味であるらしい。
その姿は巨躯(9ft, 2.7m)であることを除けば人型で、おおむね普通に想像される「天使」の姿である。D&D3eの記述では、「ソーラーに対抗できる存在は神格を除けば多元宇宙に存在しない」とされる。実際に、最大のモンスターとしてRPG一般で代名詞とされる上位ドラゴンやタイタンよりもレベル(脅威度、CR)自体は低いのだが、ソーラーはその特殊能力や装備(ヴォーパルブレードや、当たると即死する矢を標準装備)のため、相手にする方にとってはドラゴンやタイタンに劣らぬほど厄介なのは確かである。サプリメントの記述によると、ソーラーは神格となれるだけの充分な能力は備えているものの、信者を獲得することを望まない、また多くは自らが神格に仕えることを望んでいるため神性を得ていないともいう。またソーラーはミカエルのような非常に著明で強力な天使に位置するともいわれる。(現在のルール展開でこそD&D系ではさらに強力な悪魔等のデータもあり、ミカエルもサードパーティーのd20によってそれらと同等の、ソーラーより遥かに強力なデータが存在するものの、3eのごく初期はバハムート神も上位ドラゴンとさほど差のないレベルだったりと、データの上限自体が低い。おそらく、ソーラーのレベルあたりが当時において最大と見なされており、そのため異様に特殊能力等がオーバーロード(山積み)されているのだろう。なお最新版ではソーラーのCR値自体は若干上がり、タイタンより高い。)
敵:*bandにおいては、まずは[V]2.8系あたりまで41階のノーマルモンスターとして存在する。階層以外は[Z]系の「アルコン」と同じデータである。[変]などと異なり、これ以上のノーマルモンスターの天使が存在せず、また無傷球なども用いないため、危険度がそれらのアルコンよりもかなり低かったといえる(それでも、強靭であり天使召喚が厄介であることにはかわりない)。
[Z]では、D&D系由来のモンスター名を排除し、各種セレスチャルの名前を「〜天使」に変更、この2.8のソーラーも「アルコン(これはD&D系なのだが)」にデータ変更され、ソーラー自体は消失している(なお、[V]2.9以降や派生バリアントでもそれらが逆輸入され、ソーラーは戻っていない)。しかし、[変]ではアルコンよりもさらに上位の存在としてプラネターとソーラーのデータが追加され、最上位のソーラーは上位天使の能力を備えた恐ろしく強力な敵になっている。
→アルコン →天使
ゾーン Xorn 【敵】
ゾーンはAD&Dのモンスターであり、元来は「大地の元素界」に原住するエレメント生物の一種である。宝石や貴金属を食物とし、それら(しばしば地下の旅人なども持つすぐれた物品)を求めて主物質界の生物を襲う。「まるで水中を泳ぐ魚のように」土や石の中を自由に移動することができ、しばしば不意をうつ。特殊移動能力を持つクリーチャーや、強力なエレメント生物の代表のように言及されることも珍しくない。
その姿は岩でできた錐・柱に近い胴体に短く太い足、上部に近い方から細長い手、頭頂が放射状に開く牙の生えた口、側面に目(直立した魚にも近いが、4面対称である)という、非常に奇妙なものである。この特徴を踏まえてさえ、イラスト等の描かれ方によってかなりイメージは異なるが、その印象は日本のファンからは「MSM−10ゾック」「這い寄る硬質パックンフラワー」などさまざまに形容される。また背景・能力ともにあまり関係ないがラヴクラフトの古のもの(→参照)も思わせる姿であり、「きわめて異質を覚えさせる生物」として意識された可能性もなきにしもあらずである。その外見からは意外ではあるが知能は人間と同等ほどにあるため交流することができ、しばしばゾーンは鉱物のみを差し出すよう主物質界の生物に交渉してくる。
他のRPGでの登場例は当然ながら少ないが、「ウルティマ」シリーズにZornとして登場するのが同じものであると言われている。なおXornというとアメコミ'X-MEN'に登場するミュータントのKuan-Yin(観音)Xornも知られており、治癒と重力操作の能力を持つが、あまりモンスターのゾーンと関係はなさそうである。
*bandにおいては、[V]以来同類のザレンと共に、岩を自由に透過する能力を持つ特徴的なモンスターの一種として登場する。が、階層の割に基本能力はやや低く、地中から襲ってくるとはいえその場合に厄介なランダム移動やスピードの速さなども別にない。
ソロンドール Thorondor 【敵】
大鷲王。アルダ世界における大鷲(→参照)はヴァラール(上級神)の主マンウェの直の使いであり、光の勢力の非常に強力な存在であり、ことにアルダ第一紀(伝説時代)の大鷲はきわめて強大である。ソロンドールは、その第一紀に中つ国にいた大鷲の首長(thorondorとはシンダリンでそのまま「大鷲の王」を意味する)で、最大のものであったとされる。第三紀の鷲の王グワイヒア(→参照)ですら、第一紀の大鷲の最小のものに及ばないというほど、伝説時代の大鷲は巨大であったわけだが、アルダ史上最大の鳥であったソロンドールは、翼長が54メートルほどあった。
大鷲はマンウェの使いとされるが、ソロンドールはまだアルダの黎明期から中つ国ベレリアンドの、クリスサイグリムの連峰(のちにゴンドリンが築かれる環状山脈の一部)に高巣をかけていた。ベレリアンドにシンダールやノルドールが国を構えてからも、ゴンドリンをはじめエルフらを見守り助力し続ける。描写を見る限りは、ある意味では肉体をもつものとしては第一紀で最大の力をふるう存在にも見えるのだが、第三紀のグワイヒア同様、ソロンドールらも自らが先頭に立つというよりも、要所のみで現れて助力になるというだけである。ソロンドール自身には、フィンゴルフィンとモルゴスの対決後に現れ、敗れたフィンゴルフィンの遺体を持ち帰り、このときモルゴスに爪で傷を負わせたこと、アングバンドに潜入したベレンとルシエン王女が脱出するさいに手をかしたことが挙げられ、いずれも攻勢時にじかに助力しないあたりが、この大鷲らの微妙な位置づけといえる。しかし、第一紀の最後のハルマゲドン「怒りの戦い」においてはエアレンディルと共に大鷲を率いて空に現れてアンカラゴンら龍の大群と戦い、最後の最後には決定的な助力として出現するあたりが、『ホビットの冒険』『指輪物語』でのグワイヒアらと同じ位置づけになっていると言える。落下で山をも崩すほどのアンカラゴンに対抗するあたりが、特にこのソロンドールが相応のスケールと位置されていることを思わせるが、また、この巨鳥の王が龍への対抗として置かれている点が、東洋各地で龍の唯一の天敵とされる金翅鳥王(カルラ、ガルーダ)の伝承なども思いださせる。なお、ソロンドールは怒りの戦いの後は、(住居のクリスサイグリムも水没したこともあって)第一紀の他の大鷲らと共に、アマンの地に渡ったものと考えられている。
*bandでは[V]の時点では色々とあって出てはいないが、[Z]など以降のバリアントの大半に追加されている。鷲類の中では当然最も深階層の56階ではあるが、その「規模」と活躍から考えると最深層でもよさそうな気もするものの、こと[Z]では「規模」の面において天井しらずな面々が他に揃っている以上、こんなものなのかもしれない。[変]ではダンジョン「山」の最深モンスターとして位置されている。スピードならば最深層ですら滅多に見ないほどある上、同様にスピードの怪物である鳥系と共に現れ・また召喚してくるため、「山」に逃げ道がないこともあってかなり危険な戦いにもなりかねない。
ゾンビ Zombie 【種族】【敵】
ゾンビーとはコンゴのヌザムビ(「精霊」、蛇の主神ダンバラ・ウェドー(→イグ)のほか、漠然と「霊」全般も呼称する)に由来する語であるらしい。霊のうち、人間の意識と肉体の中間(チ=ボナンジュ、小守護霊)の部分を、いわゆるゾンビの粉(術師の使用する防腐剤や毒薬が変化したとも言われる)を投与することで奪い、生前の意志に関わらず動くようになるのが、ヴードゥーにおける「ゾンビの秘術」である。死者を司るヴードゥーの神(ロア)は、ウィリアム・ギブスンの『カウント・ゼロ』の山場にも登場する墓場の主、サムディ男爵である。
こうした原点とは既に関係はなく、ゾンビは現在ではいわゆる動死体の代名詞・総称であり、ホラー映画等に登場するのは、死体が腐っていて(ヴードゥーでは防腐されているはずだが、ホラーでは怖がらせるため大抵腐っている)動きが遅いものから強化されているため早いもの、意味もなく人間その他を食べるもの(ヴードゥーではゾンビは塩を舐めさせられると停止するので、それを防ぐため口が縫い付けてあり、何も食べられない)、感染するもの(薬品やカビや細菌その他バイオハザードで増えるもの)、とりあえず「死体が動いたら怖いから」という理由だけでホラーに使用されるが、内情はなんでもありである。
RPGでは(これもホラー小説等の流れの一種だが)邪悪な魔法使い・僧侶が死体から作ることが多い(なぜか、自然発生したアンデッドはもっと高級なものになる場合が多い)。ヴードゥーの事情に似ているわけだが、大抵あまり細かく設定されてはいない。知能・記憶はなく(ロボット的)一般に動きが鈍いがショックのダメージを受けないため耐久性だけは(普通の人間よりは)高い。一番下か2番目程度の最下級アンデッドである。ドラゴンその他の怪物のゾンビも安直な発想でよく登場する。
*bandには、普通の「ゾンビ」でなく、コボルド、オーク、人間など何種類かのヒューマノイドをベースにしたゾンビが登場する。大体それらの元の種族に応じて強さに若干変動があるが、少ししぶとい以外に特記すべき印象はない(特に[Z]以降には個性的な下級アンデッドが他に多数登場することもあって)。スケルトンと異なり、あまり強力なモンスターのゾンビはいない。
[Z]では種族としても、色物の極めつけとして追加された。吸血鬼や骸骨はともかく、こんなものになると最早どうにでもしてくれという感があるが、能力を検討すると一転、優れた肉体能力およびアンデッド故に揃った耐性類と、戦士系に特化した種族としては非常に有利であり、ゴーレムと並んで[Z]以降戦士そのものの地位を向上させた存在ですらある。哀れな外見描写の生い立ちにも関わらず、スコアサーバの人気ではおおかたの予想よりもかなり上位にいる。
あ-い
う-お
か
さ
た
な
は
ま
や・ら・わ
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