Roguelike今昔物語集








盾ゲー(システム解析の話題ではない)


 日本でよく知られているRoguelikeであるトルネコやシレンは盾ゲーである。特に初期シリーズは、防御力の影響が大きすぎることがよく知られる。
 シレン等での盾の意義のシステム解析は今回はさておき、トルネコ等の元になったオリジナルRogue(クローンも)には盾がなく、鎧しかない。なぜ鎧はあるが盾がないかというと、オリジナルRogueのシステム引用元のOD&D/AD&Dでは、盾のベースアイテムのバリエーションが少なすぎるからだと思われる。
 日本で普及していた赤〜黒箱のCD&Dでは、魔法の盾でもない限り、盾には1種類しかなく、ACにも「1」(被命中率5%)の差しかなかったことはよく知られていると思われる。実際は後発ルールであるCD&DはCRPGへの影響は(時系列上)全く関係ないが、CD&Dの原型であり、多くの最初期CRPGの原型であるOD&Dの基本ルールでも、盾のデータは同様である。
 ほとんどの海外CRPGの直接のベース・源流となっているAD&D1stはどうかというと、盾はPHBの基本ルールではSmall Shield, Normal ShieldとLarge Shieldの3種類しかない。同様にAD&Dをアイテム名の元ネタとする日本のCRPG『ザナドゥ』で、武器や鎧はかなりバリエーション豊かなのに、盾のリストだけSmall/Largeで交互に+1, +2等と+7まで増えていくだけがずらっと並んでいるシュールさを覚えている人もまた多いのではないかと思われる。そしてAD&Dでは(ザナドゥや3.Xeなどのように、Largeの方がAC補正が大きいなどですらなく)「Smallは1ラウンドに1回の攻撃に対してのみACに1のボーナス、Normalは2回まで1のボーナス、Largeは3回まで1のボーナス」という、異常に処理が煩雑な割には、まるで効果にも乏しいものとなっている。(脱線するが、盾の+の強化ボーナスがいくつであってもSmall Shieldは1人の敵に対してしか防御効果を発揮せず心もとないため、ザナドゥで多少強化ボーナスに差があってもLargeの方が強力なのはそれを反映しているのかもしれない。また、後代でCRPGへの影響の話とはあまり関係ないが、AD&D2ndの基本ルールでは1stよりは強力となっており、防御可能人数も増えているがAC自体は最も大型のBody Shieldが飛び道具に対してのみ「2」のボーナスになるというだけでやはり大差がない。3.Xeなど大型の盾はAC自体がより良くなる版もある。)
 盾の有無の影響は、片手武器か両手武器を使えるかというところにもあるが(そしてAD&Dでは一部の両手武器がやけに不自然に強い)オリジナルRogueには片手・両手武器のダメージ数値自体の差はともかくシステム差(他のアイテム所持との関係など)は特に存在しない。そういった諸々の事情で、FT/RPGの重要アイテムにも関わらず、省略されてしまったと考えられる。
 オリジナルRogueの直接派生であり、同様にAD&D1stに重度に依拠したゲームシステムのRL、例えばHack系列には両手武器も盾もある。また、NetHackにはAD&D1stの基本ルールには存在しない、ACが異なる盾のバリエーションもある。

 一方で、なぜトルネコやシレンが鎧でなく「盾」だけが防具なのかというと、キャラグラが鎧より盾を取り替えた方がわかりやすい、すなわち元のキャラデザを生かし(特にトルネコはDQ4に出てきたあのキャラだとわかるように)かつ正面を向く盾の方が変化がわかりやすいというビジュアル上の問題も少なくないと思われる。以前に述べたように、「キャラゲー」である点は、特に日本製のRoguelikeでは少なからぬウェイトを占めており、文字通りに軽んじて見るべきでない側面である。
 シレンが和風(日本では、戦場戦法はともかく、剣術では盾は基本的に使われない)なのに盾が必携なのは不自然だ、という意見も目にするが、トルネコから引き継いだシステムとあわせて、おそらく開発当初、「南米色」がもっと濃かった頃の名残でもあるのだろう。





Doomという語


 doomは初代Rogueの舞台"Dungeon of Doom"をはじめ、その流れを直接にくむRoguelikeでも見かける語である。
 一般にdoomという英単語は(FTやRPGに限らず)「運命」と和訳されていることが大半なのだが、実際のところは和単語の「運命」の一言とはかなり異なり、「破滅の運命」「必滅の凶運」「避けられない死」といった意味合いが非常に強い。分厚い英和辞典にも載っていないことがある英単語だが、初期PnPゲームやその影響のCRPGにはかなり頻出する単語である、という事実それ自体が、これらの初期ゲームの殺伐感を端的に表しているといえよう。
 元々は古いゲルマンのdomに由来し、これ自体は権力や状態などを指し、英語でもその形でも残っているが(領地のdomain, kingdom等、状態のfreedomなどはガンダムのダムもそれである)古英語でそれらを確定する判決や審判、さらには最後の審判、終末などとなり、英語でのdoomの現在の語義となったらしいが、言語学的な詳細については手に余るので専門のサイトを参照されたい。
 前述のように多くの和訳の「運命」はこのdoomの語義を正確に捉えた訳とはいえず、日本語では2、3文字の熟語で短く訳すのはかなり困難な語となっている。英語では運命にあたる語はかなり多いが(destinyやfortuneなど)どれもこれもが和訳時には「運命」とされ、doomについてもほとんどがそうなっているのだが、それでほぼ合っていることもあれば、全く違うニュアンスになっていることもある。最初から日本語として作文された文章での「運命」は、「偶然」とか、逆説的に「偶然とは思えないドラマチックな出来事」を指している用法が多い。そのため、日本語の「運命」の通例での用法からは、原語のdoomが避けられない無造作な(ときに理不尽な)破滅を指している場合は合わない訳であることが多い。
 FPSのDOOMが訳さずにそのまま(日本語文書内で表記される場合もアルファベットそのまま)になっていることは、深い意味があってのことではないだろうが、結果的に内容そのままの題名を把握することに寄与しているといえる。

 一般ファンタジーゲームでの用法として、PnPの方を見ると、T&Tの有名ソロシナリオに『運命の審判』Naked Doomがある。これはデスシナリオの多いT&Tの中でも際立って有名な即死連発シナリオで、Naked Doomは「むきだしの(あからさまな、緩衝もなく出くわす)破滅」という意味であるが、かつ、元から犯罪者処刑用施設なので、doomには語源のような裁判という意味と、さらにはnakedには裸(カズヤパンツ一丁)で放り込まれて走り回ることになる、といういずれの語にも多重の意味がこめられている。
 なので、和訳の「運命」という語はこれらのニュアンスに関しては訳しきれているとはいえないのだが、「運命の審判」とふたつ合わせると、doomの語源とあわせて、判決をつきつけられる、運命を強制される、といった意味合いも感じさせ、原義はともかくシナリオの内容には何となく合っている。
 FF(ファイティングファンタジー)ゲームブックの3巻、『運命の森』の原題はForest of Doomとなっている。これは舞台のダークウッドの森が、次々と危険が襲ってくる事実上ダンジョン仕立てになっているので、OD&Dなどの初期PnPゲームにありがちな「入ったら破滅する危険な森」、という意味が濃いタイトルであったと思われる。
 が、実際は、このFF3巻は、FFゲームブック、ひいては海外PnPゲームの中では規格外と言えるほどに致死度・難易度が低い。無論安全にはほど遠いが、即死・不可避トラップや難解すぎる謎などもほとんどない。なので元々のForest of Doomという題名自体が、結果的にとはいえ内容とあまり合っていないといえる。
 一方で『運命の森』という和訳は、「運命」がかなりドラマチックな連想を呼ぶ、美麗とすらいえる題名で、破滅の森といった原題とは印象は似ても似つかない。しかし、致死度が低いとはいえ遭遇や罠の連続で、特に高いストーリー性やドラマ性があるわけでもないので(なにせ初期PnPのダンジョンが屋外に変わっただけなので)この和訳題名も、やはり内容には合っていないといえる。
 D&Dでは3版で、秀作シナリオとして知られるRed Hand of Doomが「赤い手は『滅び』のしるし」と訳された例がある。死の司祭の上級クラス名Doomguideは運命ではなく破滅(死)の導き手の意だが、和訳されずドゥームガイドのままである。アーケードのTower of Doomは海外の古い用語に典拠したものではなく、後出のCD&Dかつ日本製であるが、「タワーオブドゥーム」のまま訳されていない。

 初代RogueのDungeon of Doomは、AD&Dにバランスが強く依存したゲームであるという性質上、初期PnPゲームの即死ゲーと同様の状況、「必滅をもたらすダンジョン」といった意味合いで選択されたものと思われる。このため、「運命の大迷宮」という訳語では合っているとは言えない。
 一方でNetHackでは、多数のダンジョンをつなぐメイン迷宮が、Rogueから引き継ぐ「運命の大迷宮」となっているが、こちらについては、なぜか他の異郷・異次元界に接続する中心となるダンジョンでもあり、またこのダンジョンを中心とするゲーム自体がDivine Ascendなどの大仰なイベントを伴うため、必滅ではない「運命」の訳語でも結果的に合ってしまっているように思える。
 *bandでは、用語集でも触れているが『運命の切札』Trumps of Doomは[Z]初期では『破滅のカード』となっていた。これは元はアンバー6巻のタイトルで、ブランドの息子リナルドが作成し、宮廷の王族らを罠にはめるために(手っ取り早くはマーリンの所に)ばらまいた一連のカードをマーリン自身が命名した名である。リナルドのもくろんだ仕掛け上は、破滅のトラップ、といった意味が強く、一方で「運命の切札」では自分の側が運命を切るように見える。
 *bandのまるで話題に上がることがなく存在感のないカオスブレード『災いを招く者』 はDoomcallerであるが、[V]の訳候補として『悪運招致者』のコメントが残っている。しかし、「悪運」にせよ「災い」にせよdoomの原語ほど強い意味が出ているとはいえない。

 無論、すでに長年定着してしまった訳語を変える必要はないにしても(例えばなんでも「チ」を「ホ」に変えればいいという話ではない)初期FT/RPGやRLの過酷な空気に直結しているこの語の訳については、今以上に意識されてもよいような気がする。





SteamのRogue


 Steam


 自分で調べられる人は調べていると思うので改めてこのサイトで述べる必要もないような気がする。が、避けて通るのも不自然なので、これまでと重複もあるし形だけではあるが触れることにする。
 このSteam配布のRogueは「Epyx版のPC-Rogue1.49」の移植である。ローグ・クローン系統とは全く別物の「オリジナルRogue」の系統となる。EpyxのPC-Rogueとは、UNIXのオリジナルRogue5.X(5.3の移植を標榜されているが、それ以前の要素もある)をベースにしてPC-DOS(要はIBM-PC)など個人PC向けに市販されていたもので、UNIX版とは細かい差異点がある。日本で市販されていたPC-x8版のローグ(PC-Rogue1.6x)や、(おそらく)アスキーネット版の系統につながる。
 現在、UNIXのオリジナルRogueもソースが復興され無料で配布されているのに、いまさら同系列が有償市販されることに何の意味があるのかといえば、こちらは「市販のPCゲーム(レトロゲーム)」の移植、という意味合いがあるのだろう。

 「オリジナルRogue系列かつEpyxのPC-Rogue1.49」を今プレイする価値があるかといえば、無論あるというか、絶対にプレイしておかなければならない。「日本語版ローグ・クローン2が無料配布されているので不要」とすでに巷で主張されているが、ローグ・クローン系統は、オリジナルRogueに比べてシステムが根本的に別物である上に、ゲームバランスが(オリジナルRogue->トルネコ以上に)大幅に劣化しており、オリジナルRogueをプレイしなければ、大元の、ひいては「初期のRoguelikeが直接参照した内容」は把握できない点は、これまで繰り返し述べてきた通りである。
 さらには、PC-Rogueの系列は、UNIX版としてソースが配布されている3.X-5.Xとは細かい差異があることもこれまで述べてきた通りだが(分裂モンスターの存在や鑑定の仕様など)最初期の日本のPCゲーム作家に影響を与えたのはPC-Rogue系のアスキーネット版であり、トルネコなどの不思議のダンジョンの直接の参照元もアスキーネットやEpyx版と推測できる点が多々ある。すなわち、ゲーム史を把握するためには、このPC-Rogueにできるだけ近いバージョンの体験は必須である。

 ではこのサイトの読者のRoguelikerが、このSteam版を買う必要があるのかといえば、実は特に無かったりする。おなじみ日本での復興ソースの配布サイトでは、日本版の独自仕様で、PC版などを再現できるオプションが多々追加されており、よく読んで導入すればPC-Rogue1.4x風どころか1.0xや1.6x風もだいたいの相当物(同じではない)が再現できるからである。

 このSteam版の商業的な意味を考えると、長い間、又、2020年現在も、上記のソース復興の事情を知らず「オリジナルRogueはソースが喪失し、ゲームとして現存しない」「市販されていたEpyx版も今のPCではプレイする手段がない」と一部では信じられているのが確認されており、そういったプレイヤーが、このSteam版登場に唯一オリジナルRogueをプレイする手段だと勘違いして飛びつくようなことはあるかもしれない。と思ったが、そういうプレイヤーはオリジナルとクローンがそもそも別ゲームだと知らなかったりすることが多いので「クローンがあれば要らない」とか思ってやっぱり買わないような気もする。





呼びかけ


 DQ大百科 〜 主人公が喋るシーン


 *bandのドキュメントに今でも残っている、しとしん氏の「you」を「あなた」でなく「冒険者」に置き換えた等の翻訳の苦心はRoguelikerにもよく知られているが、主人公とプレイヤーの投影の問題、特に「喋り」についてはJRPGでは、ときに必要以上に議論になることがあり、中には投影や喋りの有無が「そのゲームがRPG=ロールプレイをするゲームか否か」を決定する、といった酷い議論のすり替えすらも見られる。日本のゲームではCRPGよりも当然先(前提背景)にあるべきPnPが無いから例によってこんな無駄な議論をすると言ってしまえばそれまでだが、今回は別にRPG一般についてのその問題は取り上げない。


>不思議のダンジョンシリーズのアイテムの説明を見たときの「○○だぞ。」のような説明文は彼ら(筆者注:トルネコら主人公、≠プレイヤー)の口調であると思われる。


 まじかよ。コッパがシレンに対して説明してるのかとずっと思ってたぞ。しかしよく考えてみればコッパの居ないSFCトルネコ1の頃からあるが、トルネコの口調だとはとても思えないため、いったい何を想定していたのかは考えてみるとよくわからないぞ。
 が、何にせよ、これは初期トルネコ、シレンの独特の「雰囲気」「らしさ」と捉えられることが多い。何らしいかといえば、手探りで危機に恐々としながら探索するプレイヤー(≒主人公)らに対して何者か(≒ダンジョンマスター、必ずしも≒ゲーム作者ではない)が呼びかける、最初期の探索型のAVGやゲームブックに見られたそれらしさである。のだが、ディアボロの大冒険が私家版で「アイテム説明の〜だぞ。は不自然なので削除」などと、異常に無造作に軽視されることもある。
 ちなみに古いTRPGやゲームブックで「だぞ。」のような呼びかけが多用されているのはグレイルクエストの旧訳とかだぞ。





だんじょん みずのおと


(A)古池や 蛙飛び込む 水の音

(B)古池に 蛙飛び込み 平泳ぎ


 (A)は言わずと知れた芭蕉の句である。(B)は中学校だかの何かの古典の授業で、その古典の教師がその場で作った句だった。
 教師いわく(A)はすでに何百年も語り継がれているが、(B)はおそらくこの授業が終わる数十分までの間に忘れ去られてしまうだろう。それは何故なのか、この二つの句のその差は一体どこにあるのか考えなさい、と言った。
 生徒たちは考え込んだ。しかし、おそらく両方の句において描かれている状況はほとんど同じである。(A)の句の魅力について長々と解説してあるサイトにも、この句の最大の魅力とは「自ずとストレートに情景が伝わってくるという点」だと何度も繰り返されているではないか。情景だけを言えばむしろ(B)の方がストレートである。結局、その場の誰にもわからなかった。

 古典教師の答えは、(A)と(B)の句の決定的な差は「想像の余地の有無」というものだった。
 (B)は「見たまんま、そのまんま」である。自ずと情景が伝わってくる、と言えることは言えるが、目の前で蛙が池に落ちる風景も平泳ぎする光景も、他に何も言及する余地も、突っ込みどころも何もあったもんじゃない。
 しかし(A)の句は、 最後を「水の音」で止めることで、その最後の風景は目で見たものではなく、想像したものとなっている。しかも、その前の古池(「や」で締められている)及び蛙が飛び込んだ姿も、句の全てが水の音から想像したものではないか、という連想をさらに呼ぶ。想像の余地そのものが広がっていくのである。それは数百年の間、無数の人々が想像を広げても、決して全く同じ情景にはなり得ないし、余地が尽きることはない。
 なるほど、これは非常にわかりやすい。生徒らは得心した。しかし、筆者はその後数十年、思い起こせば思い起こすほどに(それは、結局筆者には俳句の真価を理解するほどの詩心が身につかなかったためでもあろうが)「芭蕉の句の妙」よりもむしろ、「この説明の伝わりやすさの妙」を実感する。
 (B)の句の方は無論のこと数百年語り継がれることはないだろうが、(A)の句の価値を理解するため、という一点目的に用いるためだけでも、数十年くらいは語り継いでゆく価値はあると思った。あるいは、だんじょんひらおよぎwikiが閉鎖して久しいが、Dungeon Crawlをやるたびに(B)の句を思い出す、そのくらいの価値は少なくともあるだろう。





ゲス技


 ヒテッマンリスペクトまとめより


 Roguelikerにはポケダンは特に必修項目ではないが、ポケダンプレイヤーに罵愚の探検隊は必修項目である。
 「ゲスドロカノン」「ゲロスポイズン」「ゲロマセラピー」あたりの爆発的なえんがちょ感は半端ないが、「ゲスあんじ」「ゲスリークリスマス」などの一見ちぐはぐに無理やりくっついた系にもじわじわと鋭い笑いがゆっくりやってくる感があり、いずれの技もまんべんなくゲスな味わいがある。



薬のストレングス


>Extra healing/最大限の治癒:
>Potion of healing/治癒・回復の水薬のようではあるが、
>ストレングスを2倍にする。しかも、目が見えない、混乱、
>もしくは幻覚の症状がある場合、治癒される。
(The Rogue's Vade-Mecum)


 このドキュメントの「ストレングスを2倍にする」の原語は、「like a potion of healing, but double strength」である。
 実際のポーションの効果から考えても、「potion of healingの2倍の『強さ』(の回復効果)がある」の意と思われる。

 他にも、「能力値のストレングス」と「アイテムの強さ」がわかりにくい箇所があるのだが、それらも原語からして両方ともstrengthと書いてある。よりにもよって、他に存在するルール用語(しかも、Rogueにはプレイヤーが目にするパラメータなどたいして無いのだから)など用いず、アイテムの効果ならeffectなどの語を使って説明するのが当然の発想、というか、現在のゲームの解説なら必須の配慮であって、該当能力値以外を指すのにstrengthなどという言葉を使う方が手落ちという他にない。

 が、おそらくこの文書は、AD&D1stに慣れた者なら、strengthと書いてあっても筋力なのかアイテムの効果なのかは文脈から当たり前に読み取れると思って書かれており、他は全く配慮されていないと思われる。つまるところ、当時の海外のハッカー間の研究所RPGの事情として、オリジナルRogueというもの、ファンタジーゲームを恐らくはどこかの施設のUNIXの端末でわざわざプレイしようとする者なら当然読み取れる者といったような漠然とした無意識(無配慮)の上で書かれていると思われる。海外CRPG(特に古い研究所CRPG)のドキュメントなど、万事がこんな調子なのである。





メデューサその他


 ケストレル等に続いて、これも今更言うことではないし、用語集などと他と重複する点ではあるが、ローグ・クローンのメデューサが「石化」でなく、「混乱」の視線を放つのが全く意味がわからない、という疑問が頻繁に挙げられる。

 これはクローン以前の、オリジナルRogue5.3に由来する。オリジナルRogueでは繰り返すように、5.2から5.3に移行する時点でモンスターがAD&D1stのMonster Manual I (MM1)そのままから(多くは)Rogueオリジナルのものに多数差し替えられているのだが、そのほとんどは、名前が変わっているだけで、内部データはほぼ同じである。
 Rogue5.3の"Medusa"は、5.2の"Umber Hulk"の名前が差し変わったものにすぎない。アンバーハルクはAD&D1stでは直立した昆虫型で混乱の凝視を放つ怪物だが、それがRogue5.3では特殊能力はもちろん、ヒットダイスやAC、攻撃回数、ダメージに至るまで全部そのままでメデューサという名前に変わっているのである。
 なお、AD&D1stにも別にMedusa は存在するが(MM1)、ヒットダイスやAC、攻撃回数はアンバーハルクよりかなり悪く、特殊能力が凶悪な以外は能力は低く、データは全く異なっている。
 これはオリジナルRogueのモンスターデータを見れば(ゲーマーはMM1など丸ごと諳んじていて当然なので)5.2以前を知らなくとも、メデューサなどではなくアンバーハルクのデータなのは一目瞭然な話だが、ローグ・クローンのデータだけ見ると、システムが別物の上にアンバーハルクの事情などわかるわけがないので、メデューサのこの実装は完全に意味不明に見えるのである。

 この他にも、Giant Ant -> Rattlesnake, Floating eye -> Ice monster, Rust Monster -> Aquatorなどは、内部データはAD&D1stでの変更前のクリーチャーのデータのほとんどそのまま(ヒットダイスなどの要点以外では微妙に変わっているものもある)で、名前が変更されている。そのため、変更前と変更後の(少なくともRogue側のドキュメントの説明での)モンスターの姿や特徴では全く違うと思われるものが、中身は非常に類似している。当然ながらFloating eyeの精神麻痺がIce Monsterの凍結に、Fungiの腐れ病による麻痺がFlytrapの束縛に、といった、原理的にも絵的にも(本来AD&Dでは内部処理的にも)変更前後まるで違うはずの特殊攻撃もある。
 Invisible Stalker -> Phantomや、Xorn -> Black Unicornなどは、AD&D1stにはRogueより以後(MM2)にPhantomやUnicornのデータが存在するので、結果として(Invisible StalkerやXornを流用しているRogueとは)似ても似つかないデータになっているものもある。
 以後のNetHackなどの、同様にAD&Dにシステムが準拠したRoguelikeでは、AD&D1stと名前とデータは合うように直されているものも、直っていないものもある。

 一方で、Griffinのように、変更ではなく5.3で完全に新規に追加されたモンスターも存在するが(Gnomeが削除されているので、差し替えられたともいえるが、内部データもGnomeからは変更されている)、これはAD&D1stのMM1のGriff"o"nのデータとは全く異なっており、Rogue側のゲームバランスのみで設定されたデータを有するモンスターというものも存在する。

 RLについては最初にデータありき、な立場をとるこのサイトにおいては、以下のような言い方もできる。意外に思えるかもしれないが、本来、「Rogueオリジナルのモンスター」と呼んでしかるべきものは、AquatorやXerocのような、他で名前を目にしないモンスターではない。これらは、単に「表示」が違っているにすぎず、「中身のデータはAD&D1stのMM1のクリーチャーでしかない」のである。
 一方で、Griffinの方が純然たる「オリジナルRogue内のゲームバランス調整」に従って新たに設定された、Rogue独自の要素、というわけである。





ケストレル(大はやぶさ)


 オリジナルRogue5.4やローグ・クローンの"K"シンボルのモンスター、Kestrelとは「チョウゲンボウ」のことであり、実在のハヤブサの一種である。翼長は2−3フィートになるので結構大きい。
 これが実在のチョウゲンボウではなく似た姿をした架空のモンスターなのではないか、ソースとなるデータがTRPGなどにないか、といった議論はあまり意味がない。これは、オリジナルRogue 5.2では"Kobold"だったデータを、5.3以後は内部データはそのまま名前だけ差し替えたものだからである。要するにAD&D1stのトカゲヒューマノイドそのままのデータなのだが、小ヒットダイス・素早い・低ダメージといったデータが鳥としても差し支えないとでも思われたのか、そのまま使われている。
 なおAD&D1stのハヤブサ(Falcon)のデータはMonster Manual II (1983)なので1980年のRogueとは関係はなく、当然データ内容も異なる(AD&D2ndでも1stのMM1と同じデータである)が、ヒットダイスが1-1〜1といった小型モンスターである点では共通しているといえ、Koboldのデータをハヤブサに流用することは(オリジナルRogueのシステムに反映できる限りのデータでは)それほど無茶な話ではない。

 むしろ、Xorn (Ur-vile), Rust Monster (Aquator)といったD&Dオリジナルのモンスターが5.2->5.3で差し替えられるのはわかるが、Koboldという妖精説話一般名詞以外の何でもないものが名前だけ差し替えられた理由が定かでない。





指輪と消耗


 オリジナルRogueでは遅消化の指輪以外のほとんどの指輪は「空腹を早める」という特性がある。これは以後のRoguelikeには受け継がれていたりいなかったりするが、だいたいにおいて、受け継がれていないことの方が多い。例えばMoria/*bandでは急速回復の指輪(及び同様のregenerationの効果のアイテム)が、いかにもという理由で消耗を早めるが、特に指輪一般というわけではない。シレンの重装の盾は、あまり関係のない強アイテムのペナルティーと思われるが、発想自体はこれら先行Roguelikeから出ていると思われる。
 オリジナルrogueのこの決して一般的でないシステムのルーツを辿ると、システム上の直接の原型であるOD&DやAD&D1stでは、特に指輪で腹が減るなどというルールはない(*bandの急速回復の原型であるRing of Regenerationも同様である)。が、指輪により直接に「消耗する」というアイディア自体は古いFTや他のFTゲームにはしばしば見られる。例えば、初代ファイティング・ファンタジーTRPG版(英スティーブ・ジャクソンの書いた簡易TRPG)添付のシナリオのうちひとつの登場アイテムには、「『フロドの指輪と同じで』体力を消耗するのだ」と書いてあるものがある。実際にLotRでは一つの指輪がその性能のためにフロドの体力や魔力を使用していたというものではなく、その誘惑や重荷がフロドを疲弊させたものだが、発想元とはなっていると思われる。
 以前雑記で述べたように、D&D系以外のFTにはしばしば、一見永続的に見えるマジックアイテムも、機能を発揮するには常に莫大なエネルギーを消費し、それは惑星そのものの(有限の)マナや、宝貝(パオペイ)のごとく製作者や使用者の魂魄を常に削り取っている、という考え方がある。指輪は杖や薬同様に「魔法(奇跡)を起こす品物」であり、Rogueでのワンドやスタッフのような有限のチャージのこめられた物品ではなく、一見永続的に見える指輪も、代償なしに使用できるわけではないため、使用者になんらかの消耗を設定されていると考えられる。が、要するに(OD&Dや1stの当時)「MP」という概念もなければ呪文スロット(正確にはこれも当時は概念自体がない)を消耗させるわけにもいかなので、「腹が減る」という何かかっこわるい(ゲーム内では充分深刻だが)消耗となっているらしい。
 ちなみにかつて用語集でも書いたように、遅消化の指輪がこの中でも唯一他の指輪とは逆に空腹を遅くすることが「一つの指輪のごとく他の指輪すべてに君臨するよう設定されている」という説を述べている者もいるのだが、そもそも上記のフロドの指輪に関する認識やそのFTへの影響にも合致するとはいえず信憑性は薄い。





舞台


 D&D5版のDMGには「ダンジョンの存在する場所」を決めるためのランダムチャートがある(そんなものまであるのかとかいまさら驚くような人はRoguelikerにはいないだろうが、いたら置いていく)。城の廃墟とかジャングルの中とか、いかにもな状況が並んでいるが、1/20の確率で、さらに「風変わりな場所」ばかりが並んだ特殊な表に飛ばされる。この特殊表に20種類並んでいるうちの3番目に、「滝の裏」というのがある。

 つまり、SFCシレン1のクライマックスの舞台は、ファンタジーの常識的には、「巨大な生き物の背中の上にある」「モルデンカイネンズマグニフィセントマンションの呪文で作られた空間の中にある」というのと同じくらい風変わりな、すなわち、「コアルールに載っているからには、いかにもファンタジックなあるあるの一種の範疇であり、なおかつ、実際にはそうそうお目にかかれるような機会はない舞台」、ということである。

 グラとテキストの全編にわたり南米と時代劇が無造作に合流した奇妙な舞台にさらにRLというシステムがないまぜになって、当時のプレイヤーに与えたであろう印象に加えて、いまだに「風変りの王道」と呼ばれ続けるSFCシレン1には相応しい。





分裂モンスター


 以下はこのサイトからしばしばリンクしているサイト類を読んでいれば当然に把握できる帰結にすぎず、情報価値はまったくないのだが、各論というか具体例として挙げる。
 SFCトルネコ1の「スモールグール」やSFCシレン1の「ゲドロ」について、「原型のローグには分裂するモンスターは登場しないので、トルネコを発祥とするオリジナル要素である」と主張されていることがある。

 この論拠となっている「原型のローグ」と認定されているものは例によって「ローグ・クローン2」だが、クローン2には分裂するモンスターはいない。原型のRogue Clone、さらにその原型となるRogue V5(Rogue5.3及び5.4)では、"S"シンボルはSnakeとなっている。さらに遡っても(Rogue V3, V4でも)同様である。

 ところが、なぜかEpyx移植のIBM PC-Rogue 1.4及び1.6(アスキーネット版含む)では、"S"シンボルはSlimeとなっており、分裂するモンスターとなっているのである。Epyx移植の流れをくむPC-x8版Rogueについて、ポプコムのライター、ジャックダニエル加藤氏が(*bandのシラミ記事のごとく)スライムに囲まれて何度も死亡したという記事を覚えている当時のゲーマーは多いだろう。
 なお、yozvoxサイトでDLできるRogue5.4にはSnakeを分裂するSlimeに変更できるオプションが可能なものがある。

 トルネコや特にシレンのスタッフが、ローグ・クローンでなくRogue V4以前を参考にしてこれらを開発した証拠が多々あること、同時に当時のゲーマーが多く触れていたRogue V4以前といえばアスキーネット版であることは以前にも述べている。トルネコのスモールグールやシレンのゲドロは、PC-Rogue1.XのSlimeが直接または間接的に原型であると推測できる。

 ゲームの要素について「原型のゲームには存在しないから、日本製のゲーム(やWizardry)が創始した要素である」という日本のゲーマーの主張は、完全にその裏が取れているもの以外は、ほぼ全て「誤り」と考えてかかるべきである。この手の主張では、「原型のゲーム」の認定が正しかったためしがないことに尽きるが、要は実際の原型やその後の経緯を含めて日本ではあまりにも知名度が低すぎるだけと言ってしまえばそれまでである。





ブフぅ〜


 【チートバグ】―パッショーネ24時―の3【ジョジョ】


>アバッキ肉 20歳

>ミス肉 18歳

>肉ランチャ 17`

>ポルポのス 6歳


 この並びを見てRoguelikerなら必ず連想することがあるはずだ。すなわち、ギャングハウスでブフーの杖を振りまくって全員肉に変えたがなぜか最後のフーゴだけがパルテノスXの肉に変わり、食ったらフリーズ



輸入齟齬


 携帯用などのゲーム、特に海外製Roguelikeのレビューや紹介文で、

「トルネコやシレンの元祖の日本語版!」

 などというタイトルがついていることがある。トルネコやシレンの元祖といえばオリジナルRogue(クローンではない方)だが、これらで紹介されている携帯用ゲームは無論のこと、UNIX-Rogueやローグクローンですらない別のゲームである。

 これはおそらく、上記の文章の「トルネコやシレンの元祖」という箇所に、「オリジナルRogue」ではなく、「Roguelike」という語をそのまま代入しろ、という構文なのだろう。
 また大いに考えられる可能性としては、おそらくレビューした者にとっては、「オリジナルRogue」からトルネコやシレンが生じたのではなく、「Roguelikeという海外製・マニア向け不親切ゲームの沼」の中からトルネコやシレンが生じた、という認識しかできていないのだと思われる。

 しかし、上の文面をそのまま見た者は、上記の事情を知るRoguelikerでない限り、ほぼ間違いなく騙される。
 たぶん、上の文面を書いた者にあるのも、仮に「Roguelike」と書いたところでその単語の意味など誰にもわからないから、という親切心だけであって、騙すつもりなど全くないのだろう、と仮定してみる。が、こう仮定した場合であっても、確かにインチキではないだろうが、トルネコやシレンの原型でない全く別のゲームを原型だと称しているのだから、どう控え目に言っても「インチキまがい」である。





底抜けの鞄


 NetHackや、不思議のダンジョンシリーズにも輸入された大量に物の入る保存の鞄(Holding Bag, 軽量化の鞄)は周知の通りAD&Dに由来する。シレンでは保存の壺1個あたりの収納量はかなり限られているが(NWN1ではDiablo2のキューブにも似た限られた収納量である)、NetHackや、他のAD&D再現ゲームであるBaldur's GateやNWN2では(いずれも無限ではないが)大量に物が入り、四次元ポケット状態となっている。

 これらのゲームの多くでは再現されていないが、AD&DではさらにこのHolding Bagと対になるアイテムとして、口から入れたものが同様にいくらでも入るように見えて実は入れたものが全て消滅している「Bag of Devouring 貪食の鞄」が存在する。筆者の参加していたAD&Dの卓では、この鞄の口を開けて中を覗くと中には無限の空間が広がっておりこのBGMが流れているというものだったが、実際のルールの記述では多少異なり、この鞄は見たところはBag of Holdingと区別がつかず、物を入れてしばらくの間は残っている。しかし、ある程度時間が経つと中身のものが消滅しているという、AD&Dにはよくあるわざと対になる利益アイテムと混同させるよう入念に仕掛けられたトラップアイテムである。
 Bag of DevouringとHoldingのどちらかをどちらかに入れようとすると、対消滅エネルギーを発して大爆発を起こし両方とも消滅する。おそらくDM裁量によってはそれを行った者は正物質界(Positive Material Plane)に引きずり込まれる可能性もあるだろう。NetHackではBag of Devouring自体は登場しないが、類似のアイテムであるトリックの鞄(これも元のAD&Dのものとは実装がかなり異なっている)で似た対消滅現象が起こるのは、おそらくこのルールの記述を念頭に置いたものだと思われる。

 さて、オリジナルRogueやNetHackで再現されていないために(Moria/*band系ではBag of Holdingの類も無い)上述したように多くのRoguelikeではBag of Devouringは登場しないが、シレンにはSFCシレン1から登場する「底抜けの壺」が入れたアイテムを消失させるよく似たものになっている。一見すると倉庫の壺(保存の壺ではないが)と混同するトラップアイテムとしても機能していることなど共通点もある。が、SFCシレン1がオリジナルRogueV4以前に遡った形跡はあるもののAD&Dまで遡った形跡(FFやDQにはしばしば見られる)ははっきりしないため、元のAD&Dと一致したのは多分に偶然と思われる。

 なお、入れたものがしばらくすると消滅するのは岸辺露伴のおばあちゃんがグッチで買ってきた鞄とも似ている(こちらは消滅したものの対価が後で還ってくる)が多分関係はない。ただし、こちらはシレン外伝や3−5などに登場する換金の壺とも共通点がある。





「ブッ殺される」と心の中で思ったならッ! そのターンにスデに対策は終わっているんだッ!


 ペッシの折り方


 ジョジョ5部のペッシといえばRoguelikerからすれば当然「ペケジ」(SFCシレン1/シレンGB(DS)2)である。
 しかし、待望の5部アニメ版の動画コメの類では「おばけ大根」だとか、急成長場面をおばけ大根がねむり大根に進化したなどというコメしか見当たらない。


毒攻撃


>Ant/ジャイアント・アントが攻撃をしてきたら、毒から身を守らなければならない。
>さもなければ、君はストレングスを1ポイント失うだろう。クラス1のRogueの場合、
>65%の確率で毒針に刺される、しかし経験によって毒針を食い止められるように
>なっていくだろう。
(The Rogue's Vade-Mecum)


 おばけ大根のついでにオリジナルRogueの毒攻撃モンスターだが、シレンのおばけ大根やその毒草と異なり、Str低下はあるが遅鈍の効果はない。65%の確率で刺されるとは、35%の確率で回避できるということで、つまり「対毒セービングスロー」(運勢値1)が「14」(1d20の14以上の目で回避に成功)だということである。
 ここでAD&D1stのDMG(ダンジョンマスターズガイド)を見ると(※1)1lv時に対毒stの値が14なのはFighterで、Thiefは13である。命中率などからも推測できることだが、Rogueの主人公は盗賊系ではなく、戦士系のデータを元に作られていることがわかる。無論、レベルが上がるとセービングスローの値は良くなる。ちなみに赤箱を典拠に、「昔のD&Dでは毒は食らったら必ず即死だった」と流布されていることがあるが、実際に主流であったOD&D/AD&Dでは違う効果が併記されていることもあり即死とは限らない(違う効果でないものはつまるところ即死だが)。

 なおこれはオリジナルRogueがAD&D1st準拠であることを示す一例だが、ローグ・クローンのがらがらへびの毒攻撃は例によって典拠不明の謎の計算式(どういうわけか「アーマークラス」に依存する)であり、全くの別物である。シレンの前身のトルネコのおばけキノコの毒はちから-1のみでやはり遅鈍の効果はないが、(解析によると)効果は単純におよそ1/3で、オリジナルRogueともクローンとも異なる。


※1 プレイヤーの読むことのできるPHB(プレイヤーズハンドブック、ルールを厳密に適用すれば、プレイヤーはDMG及びMMは読むことはできない)には、「1d20しる。あなたのダンジョンマスターがセービングスローの表を持っている」などと書いてある。つまり、AD&D1stはオリジナルRogue同様、これらの値はプレイヤーにはマスクされており、プレイヤーは自分の持つキャラの詳細な能力すらも見ることはできない。
 Wizadry関連の記事でも述べたことだが、「TRPGがベースのゲームは細かいパラメータが多量に表示されプレイヤーが把握(管理)できるようになっているはずだ」といった認識は、AD&D1stベースの海外CRPGについては最初から誤りである。





レプラコーンは妖精物語では「寝ている間に仕事してくれる靴屋の小人さん」のはずなのにローグでは盗んで逃げたりするのは出展不明だとかいう以下略


 AD&D1stのLeprachaunが盗んで逃げたりするからである。おわり(パプテマス・シロッコのAA略)
 これで済ませたいのだがそうもいかないので続ける。AD&D1stのMM1(Monster Manual I)のLeprachaunには、攻撃するかわりに「75%の確率(無造作)で誰かの物品を盗み、透明化して逃亡する」という特殊能力がある(この行動ひとまとまりで一つの特殊能力になっており、後出のPnP/TRPGのように整理されていない)。幻術でプレイヤーキャラを翻弄する怪物であり、無害な靴屋の類ではない。
 ここで特記すべきは、原典のAD&DではLeprachaunが盗むのが「金貨」ではなく「物品」であることである。知っての通り、RL(Roguelike)ではオリジナルUNIX-Rogueの時点から金貨を盗むのがLeprachaun、物品を盗むのはNymphである。

 ではNymphの方はどうかというと、例によってオリジナルRogue 3.XのNymphのパラメータは1st-MM1と完全同一(ヒットダイス、アーマークラス等)だが、特殊能力は異なっている。
 D系ゲーマーにはD&Dのニンフ全般として有名な話だが、MM1のNymphは服を着ているか着ていないかのどちらかである。そのうちのどっちかなのは当たり前だろとか思うところだろうが当たり前では済まされないのは、服を着ている姿を見た男は以後恒久的に全盲になり、着ていない姿を見た男は即死するからである。ローグハンドブックやローグ・クローンの解説、NetHackの各種ニンフの項目には、可憐な小妖精であるかのように説明されていることもあるが、本来、原典のMM1における、これらRLとデータが同一(NetHackもそうである)のNymphは人型の大きさで、上記のようにきわめて妖艶かつ致命的な危険きわまりない怪物である。
 MM1のNymphはこのように視力を盗んでいったり命を盗んでいったりするが、他の物は特に盗んでいかないので、この点ではオリジナルRogueや以後のRLとは異なっている。結局のところ、NymphはMM1のそれとパラメータこそ同じだが、MM1を再現するためではなく、オリジナルRogueにおいてLeprachaunと同種の役割として、かつ金と物品に役割分担するように改変されて導入されたものといえる。なぜ盗むモンスターが他の小妖精的なPixie, Sprite, Homunculous(断っておくがAD&Dのそれはできそこないの小亜人で、なぜか日本のFTで定着している「魔法で造られし『人間』」といった性質は無い)等ではなく、LeprachaunとNymphが選ばれたかといえば、これも毎度の話だが空いているアルファベットをもとに序列から選択された可能性が高い。MM1-2には膨大なモンスターが記載されているので、アルファベットだけを基準に選択しても大抵それらしい名のモンスターが見つかるのである(ただし、RogueのいわゆるV5以降は多くがRogueオリジナルのモンスターに差し替えられているため、例えばRogueといってローグ・クローン2しか知らない向きにはこの選択基準の想像がますます困難になっている側面はある)。
 なので、名前とパラメータこそMM1のNymphだがRLでは実際は別物で、他のフェイに近いLeprachaunと同サイズの小妖精という解釈もことさら穿ったものではないのかもしれないが、ヒットダイスが3というのはヒューマノイド形態ではそれなりの大きさを示しているのは確かである。





クアッガ(大つのじか)


 Roguelike独自のモンスターとして、用語集の方に書いてもよいのであるが、主要な*bandバリアントには登場しないため、とりあえずここに書き残す。将来どこかに移動させるかもしれない。

 Quaggaは、オリジナルUNIX-RogueのV5(現在確認できるV5ソースは5.4)、その流れのPC用Rogueやローグ・クローンをはじめとしてRoguelikeに登場する、RL独自の謎のモンスターの一種である。
 Quaggaとは、学術上は19世紀末頃に絶滅したサバンナシマウマの近縁種を指し、ロバくらいの大きさで特徴的な鳴き声(クアッガという名はその音に由来する)を有していたという。
 日本語版ローグ・クローンでは「大つのじか」と訳されているが、(そもそも「なごみ系」として故意に原意にこだわらずに訳されたという事情のあるクローン和訳において)それと関係あるのかどうかは不明である。

 しかし、1999年に作成されたThe Rogue's Vade-mecum(スポイラー)ドキュメントによると、Quaggaという単語自体は上記の絶滅した生き物を指すが、おそらくはV5以降のこのモンスターはその生物を指しているのではなく、「おそらくQuaggothの綴り間違い」であると述べられている。

 ここで、"Quaggoth"とは何かというと、AD&D1stのFiend Folioに存在するモンスターで、毛むくじゃらの中型のヒューマノイドである。基本世界WG(グレイホーク)では寒冷地に住む雪男のような存在だが、FR(フォーゴトンレルム)では地下に住む生物となっている。(なおAD&D2ndではやや強力になり、サイオニック・クリーチャーの一種でもある。)
 しかしながら、Fiend FolioのQuaggothと、Rogue V5の時点(ローグ・クローンとは異なり、NetHack同様にAD&Dと同ルールのモンスターデータを持つ)のQuaggaのデータを比較すると、ヒットダイス(モンスターレベル)やダメージ等の値はまるで異なる。AD&DのQuaggothはホブゴブリンよりやや大型のヒューマノイドの一種でしかないが、一方で、Rogue V5以降のQuaggaはTroll以前では強力な方に属する。Rogue4.X-5.X(1982-3年と推測されている)からかなり離れて書かれた1999年という時代が考えても、QuaggaがQuaggothの綴りが違うだけで同一という説をそのまま容れてよいかは疑問も残る。

 前述したように、このQuaggaはオリジナルRogueがV5になる過程で追加されたモンスターである。オリジナルのUNIX-Rogueは、V4系(4.2など)からV5系(5.4など)へのいずれかのバージョンアップの際に、D&Dシリーズ独自(または、その色が強い)モンスターを数多く別モンスターに差し替えているのだが(mimic -> xerocといったジョークモンスターが多い)V4やそれ以前のQシンボルは、Quasit(→クアシト)というAD&Dでの小型のデーモンであった。V5のQuaggaを見ると、このQuasitと完全に同一ではないが近い数値を持ち、ほぼ同じ位置づけのモンスターで差し替えられていると言っていい。
 要するに、RogueV5でクアシトをAD&Dモンスターを避けて別に差し替えようにも、「Q」などという頭文字を持つ適当なモンスターがいなかったため、データはクアシトの位置づけのままにし、V5で加えられたEmuなどと同様の絶滅動物のQuagga(名前はAD&DのQuaggothもあるのかもしれない)にひっかけてこのようにしたのではないかと考えられる。これは、MoriaのQuylthulgがアティアグ(オチュー)等の名前を捻っている可能性があるが、であるとしてもデータ自体は別物である(アティアグにはクィルスルグのような召喚や増殖の能力は無い)のと同様である。なお、絶滅動物がモンスターとして登場する自体は、ルイス・キャロルでドードー鳥がジャバウォック等の幻想動物に混ざって登場するかの如く発想としては珍しい話ではない。
 ちなみにハッカー文化では、UNIXのルーティングソフトウェアZEBRAの派生ソフトウェアにQuagga(2005年)という名が知られている。





「東芝のTV部門をトルコの企業が買収」を「トルネコが買収」と空目した


 やつめ遂にそこまで魔の手を伸ばしたかと戦々恐々としてこそ用心深いRogueliker



オリジナルRogue for Mac


 Rogue5.4 for MacOS


 ありそうで無いクローンではないオリジナルRogueの日本語版。昔からなぜかMacの方がフットワークが早い。日本のRoguelikeのサイト・記事ではほとんど行われる例のないことだが、「オリジナルRogue」と「ローグ・クローン2」の内部動作が別物であることをきちんと説明している。
 5.4はオリジナルの(ほぼ)最終版ではあるものの、クローンやPC版2.Xなどに慣れたプレイヤーには厄介な仕様が多いが、"Y.Oz Vox"サイトで配布されているこれのソースはそのあたりはオプションで調整可能である。





最大ダメージ信仰@Rogue


 以前、Wizardryフリークの間に頻繁に蔓延している最大ダメージ信仰(自分の打撃・武器で与え得るダイス値の期待値ではなく、「最大値」を「ロマン」等と称して、それ以外には見向きもしない主義)には、何の意味もない、という話をした。
 が、オリジナルRogueのスポイラーには、「敵から受ける可能性のある最大ダメージ」のリストがある。
 それはWizardryの自分の与える武器ダメージとは異なり、オリジナルRogueでは「敵から受ける」最大ダメージの把握が、実際に必要だからである。


 オリジナルRogueは、ローグ・クローンとは異なり、ACとダメージは確率制であり、確実にダメージを無効にできる手段はない。無数の戦闘のうちには、最悪の確率で打撃を受けて、最大ダメージを受けてしまう可能性が常にある。その最大ダメージよりも上にヒットポイントを管理できなければ、一撃死する可能性が常にある。それは、呪文失敗率を常に念頭に置く*bandプレイヤーや、空振りの可能性といった最悪の事態を常に念頭に置くシレンのプレイヤーにも周知である。
 なので、敵から受ける可能性のある最大のダメージは、把握しておかなければならない。


 (もっとも、Rogue開発当初の海外の大半のプレイヤーには上記スポイラーのファイル自体はまったく不要と思われる。オリジナルRogueの敵は全部、AD&D1stのMM1と同じデータ(V3-V4は名前すらも)だが、MM1に載っているクリーチャーのダメージダイスなどは、当時の海外ゲーマーなら誰だって全部丸ごと頭に入っている。)


 RogueでもWizardry同様に、「『こちらが与える』可能性がわずかでもある最大ダメージ」などという、ロマンだのお花畑な妄想には、何ひとつ価値はない。しかし、「『敵から与えられる』可能性がわずかでもある最大ダメージ」は、常に念頭に置く必要がある。
 「最善のロマン」の妄想には何の価値もないが、「最悪の悪夢」の想定は必須である。



残るのは冒険の履歴の「遠投をはめて合成の壷を投げた」という言葉のみ


>いっつもよォー、不思議に思うんだぜェ〜〜、
>オレのこの「遠投の腕輪」よォ〜〜、
>画面外に投げ飛ばした「合成の壺」は、いったいどこへ行っちまうんだろう?
>ってなあ〜〜っ。

>まっ! オレ、頭悪いから、深く考えると頭痛おきるけどよォ〜〜っ。


 真世界アンバーで言う隣の『影』の世界ではないか、という考察が溜まり場に出たことがあった。ともあれ深く考えても仕方がない。どのみち合成したものはスタンドパワーで削り取られたかのごとく、最早この世界には二度と戻って来ないのだから。





MacRogue(90年代)


 ここで前回話が出たついでにMacRogueについて触れておいてもいいかもしれない。まず、80-90年代の680x0時代に「Mac用のRogueとして存在したもの」という触れ込みで、現在もっぱら知られている(というほど日本では知名度自体は高くないが)のは、他のIBM版やアスキーのPC-x8版と同様にEpyxが正規に移植したものである(参考:タイトル画面プレイ画面)。Epyxの他のPC版等と同様、ローグ・クローンではなくオリジナルRogueだが、モンスター等を見ればわかる通り、V4(5.2)系が元となっている。


 プレイ画面を見ればわかるが、これはMacの特徴を生かそうとして、マルチウインドウやマウスオペレーションで操作するようになっているものだった。なぜRogueなどというシンプルなゲームに対して、そんなおかしな移植をしていたのか。それは当時のMac事情そのものを説明しなくてはならない。
 2016年現在では信じがたい話かもしれないが、1990年代前半までは、ウィンドウシステムやマウスオペレーションは日本のPC-x8はもちろん、世界の大半に普及しているIBM互換機ではまったく実用になる代物ではなく、680x0のMacだけが、文字通り20年の未来を先行していた。
 Rogueというキーボード入力のゲーム(UNIXのvxキー操作の練習の目的で作られた、というのは都市伝説であるが、実際に練習に使う者は少なくなかった)さえも、全編マウスオペレーションに変更してまで移植したのは、「Macソフトウェアを作る者のプライド」が少なからずあったろうし、そのため努力も並大抵のものではなかったことを伺わせる。
 が、それが成功しなかったこと、テンポが悪化したことがRogueのゲーム性を著しく落としていたことは、80-90年代当時のMac関連誌でも取り上げられるたびに酷評されていた。
 (一方、逆にキーボードからゲームパッドに移植すると、簡略化が容易で快適になったのは、コンシューマ用RogueLikeが示す通りである。)


 そんな微妙なEpyxのMacRogueだが、しかし、実情を言うと、当時、680x0Macのユーザーが実際に入手することができたのはこちらではない。当時(特に日本では)Epyx版のRogueを入手することは容易ではなかったが、これに対して、日本でもなぜか雑誌などによく添付されていたのがユニセフウエアのドット絵UMacRogueである(タイトル画面)。Rogueの実際のプレイ経験としては、前記Epyx版よりもこちらの方が経験者が多いと思われる。実は筆者もMoriaと並んで、かなり長い間、Rogueといえば(雑誌のアスキーネットや日本版の知識を除くと)これしかプレイしたことがなかった。Epyx版のMacモノクロアイコンの様式とは異なり、アニメ絵風ともなんとも言い難いグラフィックだが、操作そのものはキーボードでオリジナルと同様(マウスも併用できる)である。


 ただし、Macでは早くからNetHackが忠実に移植され、広く配布されていたため(v2.2や英語版が多かったが)、それ以外のRogueLikeの人口そのものがかなり少なかった。当時Mac版のフォーラム等で、オリジナルRogueやMoria/Angbandについていくら質問しても、全員口を揃えてNetHackについての答え以外一切返さなかった、という状況には何度も遭遇したものである。一度などは、「いいかげんNetHack以外のRoguelikeを誰か知らないのか」と聞いたら、トルネコを薦められたことすらあった。
 理由は数多く考えられる。Mac使いの多くが当時から持っていたGeek体質に最も合致するのがNetHackであった、というのも大きいだろう。





シレンの不思議な云々


 単に大会のOP動画なのだが忘れないうちに貼っておく



広告文


 KOTY候補作としてむしろRogueLikerに名高いかつてのローグハーツ・ダンジョンは、ローグ・クローン移植のかの太田氏が監修したことは、逆に同作に触れたことのないRoguelikerにも広く知られている。
 が、各所の大手ゲームサイトに載っている紹介文や広告を読むと、どういうわけか細部が微妙に異なっているのがわかる。



>88年に「ローグクローンII日本語版」をネット上で公開した太田純氏が監修を担当

>日本でローグを公開した太田純氏が監修

>日本にローグを広めた太田純氏が監修

>「ローグ」を初めて日本に持ち込んだ太田純氏が監修

>日本に最初に「rogue」を紹介した太田純氏が監修



 下の方に行けばいくほど、一体70-80年代前半のUNIXハッカー間のオリジナルRogueの話題や電子学雑誌より前の話なのか、という話になるので、ものすごく怪しい。その時代の太田氏について裏を取った上で書いているという可能性も無ではないが(はたしてリコーの太田氏に、Rogueに言及したのがUNIXハッカーらを含めて日本で誰が初、といった判断が可能かもさておき)むしろ、例によってクローンとオリジナルの区別がつかない等の理由もあり「ローグ・クローンの配布」を「Rogue自体の紹介」と完全に混同しているか、ゲームカタログでもそうだがローグ・クローンのPC-98版によって日本にRogueが広まったと勘違いしているか(オリジナルRogueが全くプレイされなかったと思っているか、よくあるようにアスキーのPC-x8版とローグ・クローンのPC-98版を混同しているか)および/または、おそらく単なる伝言ゲームと脚色で、どんどん下の方の表現に変わっていったのだろう。

 クローンでないオリジナルRogue(日本限定の旧PC版やUNIX版、アスキーネット版でさえも)について、ほんの少しでも調べればわかるところ、日本のRPG史のこういうところの「いいかげんさ」「無頓着さ」はとにかく極めて異常である。
 Wizardry周りもそうだが、書く者以上に読む方の側のファンタジー/RPGの資質がどん底に低いので、こんな適当なことを書いても誰も構うまい、とか思っている節がある。


 ローグハーツ・ダンジョンは「パッケージ詐欺」という評が随所にあるくらい、パッケージやビジュアルイメージは中々の出来だった。主人公を男女から選べるのは、Rogueにおいては何の意味もないが、ひょっとすると680x0 Mac使いにはかなりおなじみの、 Mac版Rogueのひとつのドット絵のユニセフウェアのものなども意識している可能性がないでもない。戦士系の男性と魔法使系の女性というのも、ゲームデータ上は何の意味もない、という点も同じである。調べていくと色々な興味深い点も出てくるが、顧みる者もないまま歴史に押し流されようとしている……。





ローグ・クローンで「帯金のよろい」と「延金のよろい」の防御力が同じなのは何故なのかと聞かれた


 AD&D1stのSplint mailとBanded mailの基本ACが同じだからである。おわり(パプテマス・シロッコのAA略)
 これで済ませたいのだがそうもいかないので続ける。まず、UNIXのオリジナルRogue(ver5.2まで)では、アーマークラスのシステム(数値判定)も、鎧の数値データそのものもAD&D1stと全く同じである。鎧の防御力は、アーマークラスが低ければ低いほど良い。未装備状態でAC10なので、下記する表で「ACが8になる」のLeather armorは2点良くなる。「ACが4になる」Splint mailとBanded mailは6点良くなる。


 ちなみにNetHackでも同様である。ただし、訳語がローグ・クローンとは異なり、Splint mailが「鉄片のよろい」、Banded mailが「帯金のよろい」(紛らわしいことに、日本語版ローグ・クローンでは「帯金のよろい」はSplint mailに用いられている語である)となっている。
 NetHackのスポイラー等のアイテム表では、これらの鎧はACが「6」と表示されていることがあるが、これは「6点良くなる」(未装備のAC10に着用すると4になる)ことを示しており、オリジナルRogueと同様である。


 しかし、オリジナルRogueでも、これがRogue5.3になると、どういうわけかアーマークラスは加算制(高ければ良い)になる。Leather armorはACを2点、Splint mailとBanded mailはACを6点、「加算する」鎧になる。(D&D3.Xe以降では「10点」に対して加算するが、Rogue5.3では「0点」に対して加算するので、見かけの値も異なっている。)内部数値や命中率の自体は全く変わらない。鎧なしでおよそ半々、AC1点につき5%の被命中率が低下する。


                V4(5.2-)   V5(5.3+)/Rogue Clone   
Leather armor	8          2
Studded leather 7	   3
Ring mail	7	   3
Scale mail	6	   4
Chain mail	5	   5
Splint mail	4	   6
Banded mail	4	   6
Plate mail	3	   7



 ローグ・クローンは、このRogue5.3の「目に見える部分だけを写し、それに合わせて内部システムの辻褄を合わせた」ものなので、「帯金のよろい」と「延金のよろい」を含め、鎧の防御力は5.3と同じものである。ちなみに、クローンにはstudded leather(NetHackでは「鋲付き皮鎧」)は無い。


 オリジナルRogueやローグ・クローンでは、鎧のデータはAD&Dの踏襲のため、上記のように同じ数値のものがあるというだけでなく、1点刻みの差で最も弱い鎧と強い鎧の差が5点しかないという状況になっている。Rogueやクローンには盾やそれ以外の防具はないので他の防具で差が広がる要素はない(防護の指輪などはある)。

 ところが、以前の記事で述べたように、ローグ・クローンの内部システムはAD&DやオリジナルRogueとは全く異なっている。オリジナルRogueはAC1ごとに5%の命中率が変動するが、クローンでは防御力1点ごとにダメージが3%軽減する。つまり、ダメージの値自体が小さい(2−3点とか)うちは防御力が数点違ったところでほとんど差がないといったことが起こる。このようなダメージ軽減制の防御力の場合は、鎧のデータを大差のないダンゴにすることは有効ではなく、DQをはじめ後出のCRPGのように大きな値にした方が機能するのだが、クローンは「表示される数値」だけはオリジナルRogueから写さなくてはならないため、こんなことになっているのである。


 話を最初に戻して、それではなぜAD&D1stではStudded leatherとRing mail、Splint mailとBanded mailのように、同じACの鎧があるのか。
 実はAD&Dでは、これらは全く同じではない。(オリジナルRogueではいずれも意味はないが)動きやすさや価格や重量や購入しやすさは異なっている。特に2ndではコアルールでかなり詳しくなっているが、「基本AC」は同じでもどんな攻撃を受けるかのタイプによってさらに変動する。AD&DではSplint mailは革の上に金属小片を継ぎ合わせた防具、Banded mailは革と鎖の下地の上により大型の金属帯を並べた防具だが、これらの構造に応じて、Splint mailは小片を繋いだ構造が打撃に応じて変形するので殴打に弱く、Banded mailは帯の隙間を縫われると弱いため斬撃に弱い(具体的には、これらに対してはACが2悪化する)等といった特性がある。

 (なお、これらの防具の名称及びその定義は、*bandのヘルプの説明とはかなり異なる。学術書や、ゲーム解説と学術を混同した粗雑なFTアンチョコ本の類とも、大幅に異なっていることが大半である。AD&DやRoguelikeのものは、ゲーム上の分類の便宜上のものであって、実在した/学術的な防具の名称と合致しているか否かは問題ではない。単に「そのような特性のものを指すという前提で上記のようなデータが作られている」というだけである。)

 このように鎧の性能を個性分けすることで、大量の防具データがあるのだが、要するにオリジナルRogueやNetHackをはじめ多くのCRPGではそれが再現できないため、全く同じデータの防具が(これ以外にも多数)存在する結果になっているのである。
 これは防具に限らない話で、AD&Dでは差別化されていた武器が、CRPGやCD&D赤箱等ではそれらのルールが再現できないという例は枚挙に暇がない。(AD&Dを簡略化したCD&D赤箱シリーズ(D&D系の「原型」ではないので注意)では、こういった重複したデータはばっさりと削除されていることが多い。)一方、同様にAD&Dの鎧リスト・序列を丸写ししているが、内部数値は全く異なる日本のCRPGザナドゥ(防御力の数値は数百だの数万だのになる)ではStudded leatherよりもRing mailの方が、Sprint mailよりもBanded armorの方が強力である。


 しかし、Rogueはもちろん、その他の初期CRPGでは、特にそのような再現できないための重複したデータを削除したり再調整したりせず、そのまま入れている例は多々ある。その理由も多々考えられる。出現確率の調整のためかもしれないし、ただ単に色々な防具の名前が出てくることでそれらしい雰囲気を出すために(ゲーム上は何の意味もなくなっていると知りつつ)出しているだけなのかもしれない。
 こういった伝統は無害というわけではなく、NetHackでは鎧のデータがおかしい(ACに差がない上に重さに差がありすぎる・元から重すぎる)、*bandでは序列が不可解である(元はMoriaが差別化のためだけにデータにバリエーションがある膨大な種類の装備品があったのが、[V]で有名なものを残して間引いたため)というのと同様、ローグ・クローンでは中身がAD&Dと無関係にもかかわらず見かけは写したため、上記のようにデータ踏襲そのものの意味が非常に薄くなっている、という状況が生じている。






オリジナルRogueの「Trollの壁」とローグ・クローン


 これまでオリジナルRogueとローグ・クローンの内部動作が全く異なることを例示してきたが、以後、そのためにゲーム性がどれだけ異なるかについて踏み込んでいく。
 両者のゲーム性が実際のプレイ感覚の差に及んでいる例は無数に挙げられるが、恐らく最も目立つものではないかと思われるひとつが、前半すなわち「序盤より少し進んだあたり」のバランスである。
 (なお、「最序盤」は大差がない。開幕で囲まれていたり、Hobgoblin(子鬼)に襲われて不運だとあっさり死ぬのはオリジナルでもクローンでも変わらない。)


 このサイトでは用語集等の様々な箇所において、オリジナルRogueのゲーム進行について、「前半Trollが登場するまでは割とパワーゲーム的に進めることができる」と述べてきている。
 PC版V1-1.6やアスキーネット版をプレイした経験者の言葉からも、Rogueの特徴として「とにかくTrollが強い」というのは、頻繁に耳にすることができるはずである。80年代の『ポプコム』誌のライター、ジャックダニエル加藤氏のPC-88版Rogue(アスキー、PC-RogueV1.6)のスコアランク画面にはTrollに殺された履歴ばかりがずらりと並んでいたのを覚えているレトロゲーマーは多いと思われる。


 しかし、これに対して、ローグ・クローンでは、トロール(巨人)に到達するまでもなく、というより、それ以前のクァッガ(大つのじか)やイェティ(雪男)、特に、イェティより前のケンタウロスあたりでまるで歯が立たなくなる事態の方が多い。
 これは気のせいではなく、最序盤突破〜ケンタウロス、トロールあたりの前半までのゲーム性が、オリジナルRogueとクローンのゲームシステムの差を理由として、実際に異なっているためである。


 その差としては、クローンのケンタウロスがやけに強いというのも確かにある。いきなりダメージ期待値がそれまで最大のラトルスネーク(がらがらへび)の2倍になり、命中率が85%になる。なお以前の記事で説明したように、クローンでは「敵の命中率は固定」であり、85%の敵は@(プレイヤーキャラ)がどんなに高レベルで重装備だろうが深層で鎧が無効になっていようが8割5分で叩き込んでくる。
 しかし、もうひとつ大きな理由は、クローンでは@がこの時点では弱すぎること、@の能力上昇による恩恵がこのあたりの序盤〜前半では少なすぎることにある。


 例えば、クローンでケンタウロスの登場する階層から考え、@が1→7レベルになった場合にどれだけ能力が成長するかをオリジナルとクローンで比較する(ただし、オリジナルではCentaurの登場階層自体がクローンよりも遅い)。

 オリジナルRogueのシステムがOD&D・AD&Dそのままであることは以前の記事で述べているが、AD&DやD&D3e以降はもちろん、それに影響されたWizardryなどでも、1レベルと7レベルの能力差は歴然としている。例えば、命中率(THAC0)だけをとっても30%当たりやすくなる。これは例えばAC4のCentaurに対して以前30%の命中率だったのが60%、すなわち2倍当たりやすくなることを示す。命中6割とだけいうと低く見えるが、RogueやD&D系は命中後にさらに鎧や盾でダメージを軽減するクローンや不思議のダンジョンと異なり、命中だけで防具を完全に抜けたことを示すので、命中率の差がそのままダメージの差を指している。Rogueのような1対1であれば、命中率%が2倍になったのは、完全にそのまま2倍速く倒せるようになることを示す。すなわち、D&D系のTHAC0/AC/確率命中率制は、低レベル時、さらに敵が強敵であればあるほど成長の恩恵が大きくなっている(卓上版、PnPではそれによる問題も多々あるが、今回は省く)。
 これに対して、ローグ・クローンではレベルアップごとに、ダメージが2レベルに1点上昇し、単純に1命中で与えるダメージが3点加算される。初期のメイスのダメージ期待値は10点なので、3割増である。命中率は初期51%で、レベルx2%、すなわちラウンドあたり12%上昇し、63%となり、2割強増となる。
 クローンではモンスター側に回避力や防御力という数値自体が一切存在しないので、@の命中やダメージの2−3割上昇は、そのまま殲滅スピードが2−3割増になったことを意味する。オリジナルRogueでの(序盤での)殲滅力が2倍になるといったものに比べると非常に心許ない。さらに、ローグ・クローンではモンスターが強くなると体力(ヒットポイント)だけが単純に大幅に増大していくため、これらの@の攻撃力増強の価値はさらに低い。

 レベルではないが、序盤での防具の影響も考察する。
 例えばオリジナルRogueで、初期のRing Mail+1(AC6)からPlate Mail+1(AC2)を拾ったとする。それまでHobgoblinを含む最も命中率の低い敵から55%の確率で命中を受けていたものが、35%まで落ち、ラウンドごとの被害は4割近く減少する。
 これに対してローグ・クローンで同等のかたびら+1(防御4)から鋼鉄のよろい+1(防御8)を拾った場合を考える。以前の記事で述べたように、クローンでは被った総ダメージが防御値x3%軽減される。すなわち、防御4の上昇=軽減値12%の上昇は、序盤〜前半では1ポイント分の軽減にすらあたらない場合がほとんどである(子鬼の総ダメージ期待値は3.5)。


 結局のところ、ローグ・クローンでは序盤〜前半に限っては、敵が急速に強くなるのに対して、@の能力の増強の影響がかなり小さい。感覚的には、前半ではレベルアップによる恩恵は「ヒットポイントが大きくなること」のみが大半を占め、敵に与える命中・ダメージの増大や被害の現象は非常に体感しにくい。
 クローンでは前半敵が急激に強くなることと、@が全く強くならないことをあわせて、かなりの幸運に恵まれない限りは、前半を勝ち進むことすらできない、という状況に陥ることが多い。
 クローンの典型的な勝ち筋の例としては、序盤で強力なアイテムを得られた場合、特に、遅消化の指輪を入手・鑑定して低階層で粘ってさらなるレベルアップや鎧の強化が可能になった場合である。


 ローグについて日本語版ウィキペディアなどでも「目的の達成はきわめて困難であり、どこまでスコアを伸ばせるかを競うのが目的である側面が強い」などと、Roguelikeらしくもなく、端からクリアを諦めているかのように述べられているのは、前半から既にまともに進めないことが多いクローンに大きく依存した記述である可能性が高い。
 なお、ではオリジナルの方が最終的にもクリアしやすいかといえば、Trollよりも後の敵の強さも折り紙つきであるためもあって、特にそんなことはない。一方クローンでは高レベルでは、これまで述べた例とは逆に(アーマークラスの記事でも述べたように)@の能力全般が急激に上昇しすぎて無双状態化する。そのため、クローンは後半まで進んでしまえば易しい、という意見も多い。後半の調整についてはまた別の機会に回すが、ただし附言すれば、序盤よりも高レベルになればなるほどインフレするゲームシステムは、終盤のバランスを取るのが困難なRoguelikeにはより不向きである。


 以上、オリジナルRogueがTrollまでの前半はパワーゲーム進行が可能なのに対し、ローグ・クローンはTrollまでの到達すらも困難になっている、という話だが、それはゲーム性全般にどのような影響を与えているのか。
 オリジナルRogueでは、Trollが出るあたりまでは、操作やゲームシステムに慣れれば、ある程度は進めるようになっている。(ただし、Hobgoblinや開幕で囲まれるなど危険すぎる要素は残っているので、意図的な調整の上で序盤が易しくされているわけではなく、単にD&D系のモンスターリストをアルファベットに合わせて写した偶然の産物である可能性が高い。)
 しかし、Troll以後はアイテムの使用法をはじめ経験をかなり駆使しないと進めない。すなわち、ゲームに慣れてある程度進めるようになったプレイヤーが、その先に進むにはアイテムや鑑定等の技術を駆使するという、次の段階に進むようになっている。ひいては、一定の段階に進んだ時点でパワーゲームでは対処できなくなることで、「強敵や特殊な敵に対処する際にはリソースを管理しつつアイテムや各種技術等で対処する」という、以後の古典的Roguelikeの基本的な流れがこの時点で構築されている。
 これに対して、ローグ・クローンでは前半から運頼みの傾向がより強く、順次ゲームの経験を得ていくことも困難になっている。仮にクローンのみからRoguelikeに入門した場合、前半アイテムを集めて識別するどころの騒ぎではなく、がむしゃらに生き抜く(生き抜けない)ことしか学べない場合も多い。
 結果、前半のプレイ感覚というだけでなく、Roguelikeとしての基本的なゲーム性も大幅に異なるものとなっている。


 ローグ・クローンの方のゲーム性が必ずしも不正解というわけではない。現に、クローン自体にも多くの支持者やプレイヤーがおり、海外では日本と異なりクローン自体の改良も現在に至るまで続けられている。
 しかし、重要なのは、Roguelike全般のゲーム進行全般に及ぶ基本的なゲーム性を確立し、以後のRL(特に前回の記事で述べたように、不思議のダンジョンをはじめ)の原型となったのは、あくまでオリジナルRogueのゲーム性であって、ローグ・クローンのそれは全く別物である、という点である。オリジナルRogueと、そのバランスに準拠した派生のRoguelikeを「基本」と考えた場合、少なくとも、クローンのゲーム性はRoguelikeとして「典型的」であるとか、「基本に忠実」であるとは到底言い難い。

 Roguelikeの界隈内であっても、初心者が非常に入りにくいことで定評のある古典的Roguelike(不思議のダンジョンライクではない、NetHack, *band, Crawlのような古式のもの)に関して、「初心者は最初に変愚やDCSSに手を出すよりも、日本語版ローグ・クローン2から入った方がいい」と述べる経験者は非常に多い。
 これは、ローグ・クローンがRoguelikeの中でも特にシンプルでフィーチャーが少ないことが最も大きな理由だが、クローンが「最初のRogue(と同じ内容のもの)である」と信じられていることと、それがRoguelikeの「規範」であるとか、「典型的」「基本に忠実」「これをプレイすればRoguelikeの基本を習得できる」といった見地、ひいては「最初のRogueなのだから経験としてプレイしておくべきである」といった面から語られていることも非常に多い。
 しかし、ローグ・クローンは上記したように序盤が運頼みすぎる難易度に難があり、初心者がプレイしやすいとは到底言い難い。典型的なRLのゲーム性でもないため、RLの基本を習得するのに適しているとも言えない。また、オリジナルRogueとは内容は全く異なり、「規範」でも他のRLの参照元でもないため、それらの意味においてはプレイする価値は無い。
 ローグ・クローンをRoguelikeのプレイ、ひいては製作の導入として初心者に薦めるのは、あらゆる面から大きな問題がある。


 さらに、古典的RL界隈を離れると、主に不思議のダンジョン等に関する議論において、「オリジナルのローグが絶対」「最低限これをプレイしてからローグライカーを名乗れ」などと称して、掲げているのは日本語版ローグ・クローン2であったり、さらには、「オリジナルのローグは前半空振りし過ぎ・死に過ぎな劣悪バランス」「こんなものを丸写ししているという海外ローグライクが、不思議のダンジョンに比べて出来がいいわけがないからやる価値はない」等といった、愚痴り合いに終始する質の悪い主張やコメントを、Roguelikerならば誰しも一度は目にしたことがあるはずである。
 日本での、しばしばRoguelikeの普及そのものを妨げているこのような状況は、オリジナルとクローンの内容及びその認識に対する齟齬が招いているものである。





白紙の巻物とオリジナル(非AB)Hack


 オリジナルRogueの影響が強いとされる『Simple1500 the ダンジョンRPG』のレビューには、例えば「白紙の巻物がシレンのような万能アイテムでなく何の効果もないのは、シレン経験者向けの引っかけ」である、等と書かれている。
 この手のゲームには実際、Wizardryのバブリースライム(D&D系の恐ろしいスライムにひっかけたサプライズという説がある)や*bandのGHB(グレーターヘルビースト)のように、一般的RPGに慣れているゲーマーに強モンスターと思わせて驚かせるひっかけもよくある。


 しかしながら、「白紙の巻物」が無効アイテムなのは、何もシレンを意識した引っかけなどに求めなくとも、オリジナルRogueの時点からの要素である。


 先に、オリジナルRogueのV4までは「白紙の巻物」が存在していたが、V5(PC版・アスキーネット・クローン等の分岐元)からは削除された点に触れた。
 このV4の白紙の巻物とは、V4までのRogueには薬や指輪にも相当物がある「無効アイテム」である。(シレンで言えば、「白紙の巻物」ではなく、「ただの紙切れ」にあたる。)
 NetHackでは、同様の無効アイテムとしての白紙の巻物(Blank Paper)を導入し、さらに水に浸す等で作ることも容易としておきながら、巻物の方ではなく、それに書き込むことのできる道具(マジックマーカー)に万能性を持たせているのは、周知のとおりである。


 Hackの原型は82年であり、その後にソースが大幅にリファインされた84年のAB HackがNetHackの原型となっているとされている。NetHack系に白紙や虐殺の巻物が存在するのは、ABではないオリジナルのHackが、時系列から考えて、これらの巻物が削除されたRogue V5(83年)より前の、Rogue V4(82年)の時点から派生しているためと思われる。


 オリジナルHackのソース自体は、この時点のRogueV4のソースが非公開であるため、独自に構築された(スクラッチ)もので、Rogueとは無関係であると日本のNetHackユーザーからは推測されている。
 オリジナルHackは、モンスターがRogueとほぼ完全に一致しているなど、Rogue自体からほとんど拡張されていない。あるいは、Rogueを発展させる目的というよりも、ソース非公開のRogueに対してその再現・いわゆるクローンにあたるものの一種だったと考えられる。


 しかしながら、スクラッチだからといってオリジナルRogueとは中身も別物という話にはならない。Hack/Nethack系は、Roguelike、というよりあらゆるRPGの中でも、ずば抜けてAD&D1stそのものとの共通点(再現点)が多いが、80年代当時、AD&Dの内部数値計算やアイテムやモンスターのデータは海外であればゲーマーには当たり前に知れ渡っていたため、戦闘、モンスター等のデータやダンジョン構築等の内部動作に限っては、これらがAD&D準拠物=オリジナルRogueと全く同じものを作るのは、きわめて容易である。
 よくハッカー側の立場によるローグ・クローンの解説で、「ソースが紛失して再現不能になったオリジナルのRogueの内部動作を詳細に解析し、完全に再現することができるようになったので、以後はRoguelikeの開発が容易となった」といった説明があるが、上記の事項を鑑みれば完全にちぐはぐである。クローンはRogueの内部動作を解析して作られてなどいないし、現に動作・ゲームシステムは完全に別物である(これはクローンにのみD&D系又はオリジナルRogueに数値を似せることができない事情があったと考えられる)。たとえソースが公開されていなくても、内部はAD&Dに完全に準拠したオリジナルRogueに近づけることはいとも簡単であり、なまじ外見だけ同じで中身が根本的に別物のクローンをわざわざ作る方が遥かに難しく、調整も不完全にならざるを得ない。
 今回のHackだけでなく、現にクローンでなく非公開のはずのオリジナルに近いRogueが多数存在することも前回述べている。日本で多くなされているような、「ローグ・クローンを基準・派生元にした考察」では全く理解できなくなるのは、ゲームシステムだけでなく系譜や歴史の点も同様である。





ローグ・クローンと命中率


 KOTYwiki、ローグハーツ・ダンジョンの評より、

>恐ろしいほど攻撃がミスる


 ローグハーツ・ダンジョンは、ローグ・クローン2に準拠していると公称されている(どの程度内部動作まで忠実であるかは不明である)。
 ローグ・クローンの内部動作での@の攻撃の命中値は、基本が「40%」である。最初のレベルや武器の補正を加えると、初期値で50%前後であることが多いが、力や武器が劣化すると、当然40%にまで落ちることがある。
 さすがにローグハーツ・ダンジョンほど酷い評判ではないが、トルネコやシレンのプレイヤーがローグ・クローン2をプレイした際の感想でも、「あまりにも空振りが多過ぎる」という感想は頻繁にある。
 シレン等では(続編によって差があるが、SFC版では)必中の印がない場合の命中率は9割強なので、命中率4−5割はいかにも外れすぎという感想は実に妥当なものであろう。


 なぜローグ・クローンの前半はここまで命中率が悪いのか。
 DQなどの大半のJRPGも、トルネコ・シレンもそうだが、攻撃には一応成功や失敗が設けられているものの、命中自体の確率はかなり高い。被害は基本的に、「鎧の防御力によるダメージの軽減」で調整するようになっている。ローグ・クローンも内部動作はシレン等に似て、命中判定の後に、さらに鎧がダメージ軽減として機能するので、命中率の時点では、DQとはいかずともシレン程度には命中して欲しいという感覚は当然出て然るべきである。
 ローグ・クローンの命中率が低い理由は、洋ゲー(TRPG,CRPG含め)がJRPGとは根本的に違う調整であるとか、色々と理由として述べられることはある。しかし、最も大きな直接的原因として挙げられるのが、ローグ・クローンは、内部動作はオリジナルRogueと完全に異なっているにも関わらず、「見かけ(表示される数値やメッセージ)だけはオリジナルRogueに似た感じになるよう」辻褄を合わせているからである。
 要するに、D&D系やオリジナルRogueが序盤は外れまくりだったので、クローンも外れまくるよう、序盤には外れたというメッセージが頻繁に表示されるように無理矢理調整されているのである。


 以前述べたように、オリジナルRogueはD&D系やWizardry同様にAC(防御力)は純粋な確率制であり、ACは命中と鎧をいっしょくたにした数値で、ACをかいくぐって有効打を与えたことは命中だけでなく実際に鎧を貫通して打撃(消耗)を与えたことを示す。そのため、全般にわたって(特に序盤は顕著に)軽減制よりも命中そのものがしにくいという状況が多い。D&D系やWizardryを思い起こせば、序盤はなかなか当たらないが、当たると敵も味方も致命傷というバランスを思い出せるプレイヤーも多いと思われる(現にシステム上、AC10の鎧が全くない敵に対してすら、攻撃力最少値のキャラクターの命中率はわずか半々である)。
 オリジナルRogueはD&D系やWizardry同様にAC確率制なので、必然的に命中しにくいのだが、ローグ・クローンは「普通の」JRPG等と同様の軽減制であるにも関わらず、見かけ上の命中だけそれに似せているのである。


 なお、ローグハーツ・ダンジョンについて「レベルが21になればまず外れなくなる」という感想もあるが、クローンの計算上はそのあたりで武器も強ければほぼ必中である。つまり、クローンでは序盤から一転、後半では敵の能力に関係なく、全く攻撃が外れなくなる。
 具体的には、ローグ・クローンでは、終盤になると、命中値(命中率)は単純にレベルx2%、武器命中値x3%上昇する。以前にシステムについて調整したように、敵の方には「防御力」だとか強さによって命中率を低下させる要素が一切存在せず、この命中率でそのまま一方的に上昇していく(ついでに言えば、敵にはダメージを軽減させる要素もない)。彼我の能力で命中率のバランスをとっているD&D系(に由来するオリジナルRogue)と異なり、ローグ・クローンでは敵の能力に無関係に、無造作に序盤外れやすく、終盤当たりやすいという状況が現れるように、直接的に命中率自体を操作するという手段をとっている。
 このような性質から、ゲーム性自体が序盤と後半でまるで異なってくるが、こうした影響によるゲーム性全般については別の機会に回す。



しないほうがいいスレ


 風来のシレンのAAできたよースレッド


 見てくれは結構酷いスレだが内容はかなり充実。てかさらに調べてみると動画になっていた。


 一般にシレン関係のAAは顔文字板系のものはあまり充実しておらず、また使いにくそうである。一方、ゲーム版系でよくみられる小型AAはコハルやvsハムポンなどなじみ深い。





イヅナとは一体なんだったのか


 このサイトでは「いまどきのゲーム」だとか「普通のゲーム」だとか「有名なゲーム」だとかは話題にしない、という噂もある。この『イヅナ』は、1や2が出ていた当時はシレンファンなどのRoguelikerの間の話題にもしばしばのぼったことがあるので、あまりこのサイトが扱うには相応ではないと感じる読者が多いかもしれない。
 が、どちらにせよ、これは今になって考えてみると、さほど有名だったり普通のゲームとはいえない。2でもすでに2007年のゲームであり、この年数で埋もれたという意味でも最近のゲームでもない。そろそろこのサイトでも話題にする頃合というものである。
 実際のところ、およその出荷数はイヅナ1で13000本、2で7000本にすぎなかったようである。Rogueliker同士で話していても、プレイ経験者にぶち当たる率がどれだけあるかは甚だ疑問である。おそらく、下手な同人ゲーム(そしてそれらは、内容の上でも、本作に比べてもよりシレン等の不思議のダンジョンに近い)の方が売れているのではないか。


 このゲームは(現在、イヅナでぐぐっても出てくる情報の大半はパズドラである)pixivやらニコやらの辞典には遂に項目が作られず終わったに関わらず、なぜかアンサイクロぺディアにだけ申し訳程度ながら項目がある(なおアンサイはpixiv等よりも遥かに「親Roguelike・しかも*band等の古典派寄り」という意味不明な特色がある。が、溜まり場の面々を思い出すに、アンサイ住人とかぶっていてもおかしくはない気はする)。
 そのアンサイクロぺディアにも書かれているが、話題になっていた当時には単なる「おっぱゲー」とか言われていた。が、1作目の時点では、巨乳というよりむしろ美乳に近い絶妙なボリュームである。反面、2作目では評判を意識しすぎたのか、いわゆる奇乳的な不自然な表現が目立ち、いささか迷走気味である。これは、同様におっぱゲー呼ばわりされることがあるシレン4が、スレンダーキャラばかりなのに女性キャラと露出度の醸し出す独特のボリューム感表現から何故か呼ばれるのとは対照的である。しかし、今回は別にキャラやビジュアルを話題にするわけではない。


 この『イヅナ』について当時からもっぱら(くどいようだがおっぱゲーはもう置いておくとして、ゲーム内容自体に)寄せられている評は、「劣化シレン」というものである。
 ちなみにイヅナ1・2を開発したサムライファクトリーは、シレンのチュンソフトともアスカのネバーランドカンパニーとも特に関係はない。携帯アプリで、このイヅナと世界設定を同じくする封神霊符シリーズというRoguelike(等)を出していたこともあるが、どちらにせよ2015年現在、この会社はすでに現存していない。

 不思議のダンジョンに比べると(SFCシレン1に比べてすらも)かなりフィーチャーは少ないのだが、トルネコやシレンとは操作性や細かい所が異なっており、これらをやりこんだプレイヤーにとってはいたずらに混乱を呼ぶような部分が多く、「シンプル」よりは「劣化」と呼ばれがちな理由のひとつとなっていると思われる。

 独自の特色として、読んだり投げつけたり武具に貼ったりして使う「霊符」がタイトル通りに最大の特徴とされているのだが、読んだ時の制限が(一部除いて)非常に多い。具体的には、不思議のダンジョンの「巻物」に相当する消費アイテムであるにも関わらず、SP(MPのようなもの)も消費するのだが、このSPの制限が非常にきつく(特に2作目)危機回避手段としての使い勝手は良くない。敵に投げつけた場合の効果は、シレンの札よりは「草」に近く、敵の方に有利な結果になることも多い。そのため、霊符は武具に貼るくらいしかやることがない。
 かといって霊符以外には、シレンやトルネコの壺のような強力なアイテムや応用のきくアイテムもない。2作目には杖なども登場するが、レアであり、活躍の場は少ない。
 結局のところ、アイテムの管理や使い方で戦略を進めたり窮地を打開するゲームではなく、武具に霊符を貼って物理攻撃するだけのゲームと化している。場所取り、回復アイテムの管理、飛び道具で削る等の要素はないでもないが、戦略とか戦術といえるようなレベルのものではない。結局のところ、単なる殴りゲーである。


 このゲームは、トルネコやシレンの大半ようなレベルリセット制(トルネコ3やシレン3等を除き、探索失敗はもちろん、ダンジョンを脱出してもクリアしてもレベルはリセットされる)ではなく、チョコボやポケダンのような「ライトなRL」の属性としてしばしば付与されている、レベル継続性である。力尽きたり成功したり途中で脱出しても、レベルは下がらない(ただし、ポケダン同様、裏ダンジョンには不思議のダンジョン様にレベルもアイテムもリセットされるものが用意されている)。
 ここで、「力尽きても脱出してもレベルが下がらない」のうち、実際のところ、「力尽きても」の方にはたいして意味はない。トルネコやシレンの表のストーリーダンジョンもそうだが、このゲームはシレン以上に、ある程度ゲームに慣れると途中から、力尽きることはほとんどなくなるためである。
 しかし「脱出しても」の方は重要である。(少なくともクリア前や表ダンジョンでは)潜りと脱出を繰り返しつつ往復、アイテムだけでなくレベルも上げながら、次第に深くまで潜ってゆく、という展開を続けることとなる。総合的にキャラを成長させて攻略する側面が大きい。


 アイテムの方はというと、これもレベル継続性によく採用されているように、失敗(死亡)するとアイテムの方は装備含めてロストする。しかし、装備はかなり破損しやすく、また進めば進むほど強力なものが登場し、適宜取り替えた方が手っ取り早いため、どちらかというと使い捨て感が強い。(表クリアの時点ではほぼ必要ないが、際限なく装備を強化しようと思えば可能である。そういった意味で、やりこみ要素としては残されている。)シレンの持ち込み可能ダンジョンのように長期間鍛えたり合成することが前提となっておらず、そういった意味ではアイテムロストが大きすぎる負担になっていないともいえる。


 さて、ここまでの説明で薄々わかってきたかと思われるが、そもそもこの*bandサイトで取り上げたこと、殴りゲー、アイテムをどんどん拾って取り替える、キャラを成長させて進んでいく等、このゲームは、実を言うと、RL系の中では*band系に通じるものがある。オリジナルRogueから不思議のダンジョン、Crawl等に至るような一期一会・素潜り挑戦の古典的なRoguelikeではなく、正面からの戦闘、蓄積と強化を行うハクスラの側面を強く持っているということである。イヅナ2の無駄に数が多く個性的なキャラ達は、それぞれ別々にレベルを上げないと全く役に立たないため、実質上大半は周回プレイ用であり、様々なキャラで集めた装備を他キャラで活用するなど、色々なクラスが準備されたハクスラゲームのやりこみを思わせる。
 実際のところ、同様のレベル継続性のポケダン(ポケモン不思議のダンジョン)について、レベル継続による持続的なキャラの育成、さまざまな特性のキャラ(ポケモン)の周回プレイ的な育成など、「実はシレンやRoguelikeよりも、ランダムダンジョンのハクスラという意味でDiablo等に近いのではないか」等と評されていたこともある。ただし、ポケダンはシステムが非常にシンプルであるため(特にアイテム関連のフィーチャーはほとんど無い)ハクスラの方向性にはあまり近いとはいえない。それに対してイヅナは、前述したようなやりこみ要素としての強力なベースアイテムや合成用アイテムを探す要素なども考慮すると、Diabloや*bandとの共通点を思わせる。


 にも関わらず、このゲームのプレイヤーからは、「劣化シレン」という言葉、もとい「トルネコやシレンとの直接の比較」以外の、*bandをはじめ他の海外RLとの比較、という視点から語られるケースは、ほとんど目にすることはなかった。
 そして、おそらく製作側も、「不思議のダンジョン」の延長としての側面でしか見ていなかったのではないか。例えば、イヅナ1、2ともに表ダンジョンの深層やさらに高レベルの裏ダンジョンでは、特殊能力の非常に剣呑な敵が登場し、シレンに倣ったものと考えられる。しかし、シレンと異なり、イヅナでは各種アイテムがシレンの杖や巻物等に相当する強力な打開アイテムとして機能しない。特殊能力そのものに対する対策が少なすぎるので、速攻で打撃で倒せなければ、アイテム破壊や永続的低下などの凶悪な能力をなすすべもなく食らうしかない。
 また、その調整から、剣呑な敵が待ち構える深層に挑もうという気が起きにくい。やりこみゲームとして成立・調整が充分であるとはいえない。


 結局のところ、製作する方もプレイヤーも、「『不思議のダンジョン』のバリエーション」で片づけてしまったところに、このゲームが追い詰められた袋小路がある。イヅナ2までの時点で気づかなかったとしても、仮にプレイヤーの多くがそれに着目し、可能性を探る姿勢を見せていれば、何らかの打開は可能だったのではないか。これは不思議のダンジョンに倣って中途半端なゲーム性に落ち込んでいる、他のアマチュア製作のRLにも、しばしばあてはまる点ではある。





オリジナルRogueの発祥とその特徴(エピソード3:シスの復讐)


 まずは個々の事項の前にざっくりとオリジナルRogueのバージョンが上がるにしたがってどのような変更が加えられていったかを大まかに羅列する。以下が全てではないので、これ以上の詳細はスポイラーやソースコードをじかに参照されたい。


○オリジナル(-1980)〜V3まで
・現在も参照可能なソースはRogue3.6(1981)
・ほぼオリジナルD&D(OD&D茶・白箱)及びAD&D1stと同様の内部動作、ゲームデータ。高性能になるほど「値が低下」していくアーマークラス、確率制
・ストレングスの計算はAD&Dと同じ(Str18以上では、うしろに1-100のエクセプショナル値が付く)
・V5やクローンとは全く異なるモンスターリスト。floating Eye(E), Invisible stalker(I), Umber hulk(U), Xorn(X)などの、当時は(RPG=AD&D1stという認識から)ファンタジー一般であったが、現在では「D&D系独自」として避けられるものを多く含む
・ジェノサイドの巻物がある。1ゲームで1種だけ、指定したシンボルの怪物を根絶やす(NHや*band等の以後の海外RLではなく、SFC『風来のシレン』1と同様の効果
鎧を保護する巻物・指輪は無い
・クロスボウとスリングがあり、シュリケンは無い
・暗い部屋が存在し(割合は非常に多い)、部屋を照らす巻物がある

○V4
・Rogue4.2以降が相当。現在参照可能なソースはRogue5.2(1982-83)
・システム及びデータはほぼV3までと同様。ACは高性能=低下制
・ストレングスの計算が18の次は「19」となる。単純にAD&Dの18/01-100を19-31に置き換えただけで深い意味はない(D&D3.Xe等とは異なる)
・いわゆるモンスターハウスが追加

○V5
・Rogue5.3(1983-)以降が相当。現在参照可能なソースはRogue5.4
・内部動作システムは従前と同じだが、ACは高性能=上昇制に変更
・モンスターやデータの多くがPC版やローグ・クローンと同様のものに差し替わる。2015年代現在日本で"Rogue"と思われているデータのほとんどは、80年のオリジナルではなく、このV5の時点から確立
・いわゆるD&D系モンスターがEmu(E), Ice monster(I), black Unicorn(U), Xeroc(X)などのRogue独自のモンスターに差し替えられる
・識別の巻物がアイテムの種類(武器、巻物等)ごとに異なるものを要する
鎧を保護する巻物が追加、錆の罠が存在
・白紙の巻物、ジェノサイドの巻物等の削除やシュリケン他の追加
・迷路地形、隠れた通路が追加

○PC版1.0
・Epyx社のIBM-PC版Rogue1.0-1.1(1984)が相当。V5(Rogue5.3)がベース
・V4とV5の中間的要素(識別の巻物がV5の数種でなくV4以前の1種等)がある

○PC版1.4
・Epyx社のIBM-PC版Rogue1.2-1.49, アスキー社のPC-88/98用Rogue1.65-1.67(1985-87)、アスキーネット版(推定)等が相当
・PC-x8版が「Rogue5.3からの直移植」と書かれているドキュメントがしばしば存在するが、PC1.0についての経緯の説明がそのまま残っているのが、誤って読み取られているだけと思われる
・Snake(S)をSlime(S)(分裂するモンスター)に、black Unicorn(U)をUr-vile(U)に変更

○(参考)ローグ・クローン1(1986)
・V5(Rogue5.3)のクローンを標榜されている
・画面及び表示される分の数値だけは同じだが、内部動作及び内部数値データは上記オリジナルRogueとは一切共通点が無い。過去記事参照
・5.4と比べてもアイテムは削除、整理
・PC1.0と同様に識別の巻物は1種類、Uはユニコーンのまま
・暗い部屋は無い


 無論、上記の分類にあてはまらないものも多数存在する。例えば、Epyx社が商用化したPC1.0はRogue5.3ベースだが、他社Mastertronic社が移植したコモドール64版やZX Spectrum版といった8bitPC版の中には、後述するようにV3やV4ベースと思われる要素が存在するものがある。


 なお、『ローグ・ハンドブック』にて、大雑把には「UNIX版」と書かれているのがV5, 「UNIX版(旧)」と書かれているのがV4である。pdfなどで配布されたことで有名な『ローグ・ハンドブック』だが(しかも、一部はローグ・クローンに添付されて配布されたことがあったが)非常に困ったことに、このハンドブックの内容はあくまで「オリジナルRogue」(主にアスキーのPC1.6)準拠であり、クローンとは別物である。PC1.6系とクローンは、なまじアイテムやモンスター等の内容は共通しているためもあって、クローンがこのハンドブックの内容に準拠していると誤解される(特にゲームバランス)大きな原因のひとつになっている。


 さて日本では、ネットとWindows普及以降、日本語版ローグ・クローン2がよく知られるようになったが(そして、オリジナルRogueが完全に再現されているかのように誤解されて流布されているが)ローグ・クローン以前のいわゆるレトロゲーマーが認識していた「ローグ」とは、どの段階のものであったのか。
 ひいては、SFC『トルネコの大冒険』(トルネコ1)が登場した時に、「これはローグのキャラゲー移植だ」と分析していたゲーマーが指していた「ローグ」とは、上記のうち主にどのような形のバージョンであったのか。


 80年代のゲーム製作者には、アスキーネット(ダイヤル回線のパソ通)でのRogueがかなり知られており、当時のRPG製作者らのインタビュー等には必ずといっていいほど登場してくる。木屋氏(ドラゴンスレイヤー)、内藤氏(ハイドライド)、富氏(夢幻の心臓)の三頭対談やそこに絡んでくる編集者すら含めて、アスキーネットのRogueやその影響を語っていたことは、レトロゲーマーにはよく記憶されていると思われる。
 かなり長期にわたってサービスが続いていたアスキーネット版が、UNIXのV5やPC版のいずれかに近いかははっきりしていないが、開発事情や当時のプレイ録からはPC1.4-1.6系と推定される。ともあれ、アスキーネットとあわせて、近い時期、近いバージョンのPC-88版等のPC1.6系が、上記『ローグ・ハンドブック』の主要な攻略対象をはじめ、日本ではゲーマーに主に知られていたと言えそうである。
 しかし、それ以前のバージョン、V3やV4も少なからず知られていたと推測させる判断材料も少なくない。


 古典的なRoguelikeの主な開発層、主にコンピュータ研究所の専門家などのハッカーのうち、クローンではないRogueのプレイ経験がある人々の話を聞くと、「鎧を保護する巻物が無かった」という証言が多数聞かれる。モンスターやアイテムがV4以前のものであったような記憶で語られている話もある。上述のように、『ローグ・ハンドブック』にアスキー版のPC1.6だけでなくオリジナルV4を含む情報が、しかも攻略法(モンスターへの対処法等)の細部にわたって書かれている。ここから、V5の流れをくむものだけでなく、V4がすでによく知られていたことがわかる。
 また、海外でMastertronic社により8bit機に移植されていたRogueには、モンスターにKoboldやRust Monsterが含まれており、これはV4以前のモンスターリストである。おそらく、Windows版クローン2の普及やトルネコ1以前に"Rogue"として知られていたものには、V5やPC版だけでなくこれらオリジナルRogueのV3やV4が多く含まれていたことを推測させる。他社が移植を担当していたことからわかるように、オリジナルRogueのソースは当時「非公開」ではあっても、原作者達以外に「門外不出」でも「遺失」していたわけでもない。Roguelikeの中でも、オリジナルRogueの「直系」とされる、Advanced Rogue(84年), UltraRogue(85年), XRogue(89年)等の流れは、ゲームシステムだけでなく、ソースコードそのものも最もオリジナルのV3(Rogue3.6)をベースに作られている。


 また一方で、いわゆるヘビーユーザー層の中には、「RogueはUNIXかDOSでしかプレイする手段がなく、日本製のPCユーザーの大半はプレイ不可能」と述べていた者(例えば、Oh!MZ誌『ゲームデザインを考える』記事等)もおり、すなわち、これらのハッカーはアスキーネットや日本製PC-88版の存在自体を知らず、これらのV3-V5やPC1.0-1.4等をもっぱらプレイしていたことを意味する。


 こうした状況を踏まえて、いわゆるトルネコ1以後の不思議のダンジョンの原型を検証すると、分裂するモンスター(スモールグール、ミドロ系)が居る点はローグ・クローンではなく、PC1.4(SnakeがSlimeに差し替わっている版)の要素である。チュンソフト最初期、8bitPCのオリジナルゲーム(エニックス販売)やエニックスのPCゲームの開発の一部を担当していた当時に、上記のハッカーやPC製作者に普及していたアスキーネットや日本製PC版との繋がりを推測させる。さらに、SFC『風来のシレン』(シレン1)はNetHackの影響が強く見られるが、一方で「ジェノサイドの巻物」のシステムはNetHackや*bandとは異なり、RogueV3-V4のもので、開発側のいずれかがオリジナルRogueの、しかもV3-V4を知っていたことは明らかである。
 確実にそれが原型といえるほどではないが、トルネコ1をはじめ不思議のダンジョンの直接の由来はクローン1や2ではなく、オリジナルRogueに強く求めることができる。


 UNIXハッカー視点からのRogueとクローンの歴史には、「フリーだったRogueがIBM版等の商用に移り、フリーとして添付できなくなったので、フリーでソース公開されたクローンがUNIXに添付されるようになり、以後はクローンが主流となった」「以後クローンのソースコードを元にRoguelikeが作られるようになった」といった説明が行われていることがある。しかし、少なくともクローンの出た80年代後半までの時点では、時点では一概にUNIXのクローンが主流とはいえず、上述したように、商用に移ったオリジナルの影響力も少なからず感じられる。
 RL全般がローグ・クローンから派生したような説明は、クローンのみが(当時)オープンソースであったことからも一見説明の筋道が立つように見えるが、全く正しくはない。日本のローグに関する言及のほとんどで行われている、あたかも「トルネコ1は『日本語版ローグ・クローン2』をそのままSFCに移植したもの」といった説明は、誤りであるというだけでなく、(世界初のCRPGがRogue・その内容はローグ・クローン2と同一、という二重の誤伝とあわせて)日本でのゲーム史・RPG自体の筋道を徒に混乱させる結果も招いている。





キャラゲー性


 溜まり場をはじめとして、RL関係の掲示板やスレッドには、
「『ローグライクツクール』とかないの?」
 という質問が出ることがある。
 これに対して、*bandやNetHackのような古典的RLのユーザーからは、「ソースを改変すればいいのに一体何を言っているんだ」といった感想を抱かせ、まるで話が噛み合わないままに終わる状況が頻繁に見られる。


 が、上記の発言者の言動を注意深く検証してみると、要するに求めているのは、*bandやNHやCrawlのような古典的RLを製作するような意味でのRL製作環境ではなく、大概の場合、要は『不思議のダンジョン』の『ツクール』であると判ずることが多い。
 すなわち、手っ取り早く言えば、「シレンやトルネコのような不思議のダンジョンのキャラクターを、ジョジョや東方その他に置き換えたよくあるアマチュア製作ゲームのようなもの」を作りたい、「ツクールのようなお手軽なインターフェイスで、不思議のダンジョンのキャラグラや能力を編集できるようなもの」をどうやら欲しているらしいことが判明する。
 これに対して、古典的RLユーザーはまた、「RLプレイヤーなんていまだにテキスト表示画面にも不満を感じないような演出・ビジュアル不要の人種」と信じていることがあるので、そんな要望が存在するという発想にすら至らないことも多いのも、話がかみ合わない大きな理由である。
 が、こうした安直な『不思議のダンジョンツクール』の欲求が出ることは、決して不自然なことではない。


 Roguelike全般の特徴とはまた別にして(それはRL全般の特徴と並立し得るものか、それとも排他的なものかは、別の機会に議論する)『不思議のダンジョン』の最大の特徴は、「キャラゲーである」という点である。

 さまざまな特徴を持った敵キャラ(さらにシレンやポケダンの場合は味方キャラ)が、特徴をとらえたドット絵で画面上にそのまま見える状態で配置され、さらに、それぞれのキャラ性に見合った特殊攻撃をドット絵で行ってくる臨場感は、さらに、チュンソフトが、はるか『ドアドア』の時代に遡るドット絵のノウハウを有するメーカーであったこともあり、トルネコの当初からきわめて見栄え上の完成度が高かった。

 表現できるのは外見だけではない。しばしば、そのキャラのゲーム内容的な面の特徴においても、他のゲームではうまく表現することができなかったり、あってもそのシステムでは生かすことができなかった特徴や特殊能力・特殊攻撃等が、Rogue/RLという場での特徴に移すことで、魅力や個性を(ビジュアル的に、ときにはゲーム的に凶悪に)発揮することが、往々にしてあり得る。
 ポケダン(『ポケモン不思議のダンジョン』)で原作ポケットモンスターで微妙だったポケモン種の一部の能力が、異常に危険だったりするのがその一例である。これが例えばせいぜい数体にとどまっているならば、(トルネコのDQモンスターのごとく)システム移植の都合で強化されたり弱体化するモンスターだって中にはいるだろう、ということになるのだが、ポケダンの場合は、RLに移植することによって個性を爆発させる種が数体にとどまらず、異常に危険化しているポケモンはきわめて多い。これは、ポケモン種らの能力が、元々RogueやDQの敵のごとくRPG進行の都合だけで設定されているのではなく、いずれもプレイヤー側がパーティーメンバーとして駆使することを前提にしていることにも関係する。そうしたポケモン種のそれぞれに設定された個性が、RLに移されることによって、いずれも原作ポケットモンスターのゲーム以上に顕在化しているということもできる。


 なお、実の所、不思議のダンジョン以外のRL、グラフィックが存在しないテキスト表示か、仮にタイル版であってもそれほどグラフィカルではない古典的RLであっても、キャラゲー的な性質がないとはいえない。かつての初代Rogueの最大の売りが、ゲームバランス等よりもむしろ「画面のマップ上にキャラが目に見える形で表示されていた」ことであった点にも、その根源は認められる。そもそもが初代RogueやNetHack、溜まり場の新システムやジョーク物件にいまだに大量に投下されるキャラネタにすら、それはいまだに感じられる。
 ましてグラフィック化された不思議のダンジョンであれば、非常に優秀なキャラゲーのプラットフォーム(に一見見えるもの)であることは確かであろう。本家のポケダンや世界樹のほか、一時期は特に多かった商用スピンオフ(チョコボ、魔導物語、サクラ大戦、ドルアーガ、ハロ等)、前述したアマチュア製作など、大量に「原作つき二次創作」の「不思議のダンジョンライク」が作られるのも無理からぬ話である。


 そのようなキャラゲーのプラットフォームとして、キャラの個性を発揮させたいという動機でRLを選ぶ強い欲求は、不思議のダンジョンライクはもちろん、RL自体にもキャラゲー性がある以上、否定することはできない。
 ただし、そうした欲求が、(ただでさえゲームシステムの調整に絶妙なものに要求されるRLにおいて)完成度に直結するかどうかは別問題である。





オリジナルRogueの発祥とその特徴(確率制ACシステム)


 前回までに「オリジナルRogue」と「ローグ・クローン」がシステム的に全くの別物である旨を述べているが、故に、後者の方がゲームとして遥かに大味(オリジナルの方がOD&D由来の荒削りであることを考慮してさえも)・平坦という結果を招いている直接の要因は幾つもある。
 その要因のうちでも、オリジナルとクローンで最も目立って大きく異なる、「アイテムの取捨選択」や「ダンジョン構造」の差についての検証に入ってもいいのだが、前回の続きで、もう少し数値(戦闘バランス)の差について詰める。このあたりは早めに埋めておかないと、誰も検証しそうにないからである。


 前回、オリジナルとクローンでは数値判定のあらゆる面が異なる点について具体的に述べたが、このひとつ、アーマークラスの差とその影響について取り上げてみる。「盾ゲー」とかになりがちなRLについて、これは重要である。


 オリジナルRogueでは、アーマークラスがD&D系及びその直系同様の「確率制」であるのに対して、ローグ・クローンでは「軽減制」であるという決定的な差がある(実際はクローンにも命中率の段階もあるが、敵の攻撃については固定値なので省く)。ちなみに、オリジナルRogueでもVer5.3以降(IBM版、旧PC版、アスキーネット版)では、5.2以前やD&D系とは異なる、ACの「値が大きければ大きいほど良い」となっているが、内部動作自体は、Ver5.2以前と同様にあくまで「確率制」なので注意を要する。
 すでにこのサイトの他のコンテンツを見ている読者に対してはくどい説明かと思うが、オリジナルRogueのアーマークラスは、初期D&D系と同様のものである。すなわち、ACは回避力と防御力がいっしょくたになった値で、「一定確率で攻撃を完全に防ぎ、それ以外では完全に通過させる(軽減というものがない)」。ローグ・クローンでのACは「受けたダメージに応じて確実に一定の値を軽減させる」。
 言うまでもなく、DQシリーズをはじめCRPGはもちろん、TRPGですら、「防御能力」「鎧の性能」については後者の軽減制が主流である。確率制はD&D系がウォーゲームから発展したため、ユニット数が増えた際の負担軽減のために防御と回避を1回の計算・判定で済ませる目的で採用されていたもので、特にそれ自体にリアリティやメリットがあるわけではない。
 ちなみに軽減制そのものは、T&TやBRPなどの1970年代のTRPGにおいて、D&D系以外ではすでに主流なものであり、「CRPGが創始した」「ローグが創始した(86年のクローン以降の採用なのでどちらにせよ誤り)」「DQが広めた」といったものではない。


 では一体、「確率制」と「軽減制」の差はどう出てくるのか。
 実はTRPG、CRPGともに、一般には決定的な差があるわけではない。例えば、「多数対多数戦闘」、「高レベル戦闘」、特にCRPGによくある「高hpで多回数の攻撃が繰り返される戦闘」を想定する。すると、例えば確率制で、Wizardryの高レベルキャラのように「10回攻撃があってACのために(鎧の表面で反れて)5回しか命中しなかった」というのは、ダメージの期待値に換算すると、「ダメージが全て鎧で半分に軽減された」という軽減制の表現に置き換えることが可能である。これが、D&D系で「命中率であるACが、回避と軽減を両方表現できる」とされている所以である。
 無論、このような多数対多数等の状況に限っても確率性と軽減制の処理を全く同一視はできないが(それが70年代TRPGの時点から軽減制が主流となった所以でもある)少なくとも、どちらかでないと状況を全く再現できない、というわけではない。


 しかし、Roguelikeでは、このようなウォーゲーム的TRPGや、CRPG一般とはまるで話が違ってくる。Roguelikeは一般的に少数対少数、低hp、少攻撃回数であり、一人の一行動・一撃の価値が非常に大きい。
 こうした戦闘状況では、

・確率制の「ACが良いと何割かの確率で回避できるが、残り何割かの確率で瀕死の大ダメージがそのまま入る」
・軽減制の「ACが高いとダメージの点数が確実に何割か軽減される」


 では、根本的にまるで別のゲームになるのである。
 これは(上記した@側のACではなく、@が攻撃側に立った場合ではあるが)*bandで「呪文等に5%の失敗率があるかないか」、日本製RLでもシレンシリーズで「攻撃力自体よりも、必中の印が入っているかいないか」で、信頼性が全く違うこと等、RLのプレイヤーならば誰しもがその身でもって存分に理解していることだろう。
 例えば必中がない場合、命中率が9割前後(SFCシレン)だが、これを上記のwiz等の10回攻撃と同様に「必中ありに比べて総ダメージ期待値が90%になるのと同じ」などと評価する者は誰もいない。「1ラウンドを費やした行動が外れる可能性のある」自体が、比較にならないほど危険である。


 無論、軽減値でも弱すぎれば確率制よりも遥かに危険なわけで、ファンブルやクリティカルの調整にもより、一概にこの要素だけが直接的な差になっていると評価することはできない。しかし、これはアイテムの検証の際にも述べることになると思うが、オリジナルRogue(の大半のバージョン)と異なり、ローグ・クローンには「鎧を保護する巻物」が存在することもあって、防御力を上昇させることがかなり容易であり、反面、以前の記事で述べたように敵に与えるダメージの方はレベル及び武器性能によって加速度的に増大し、殴られる機会自体も減る。
 ローグ・クローンの定番の攻略として、遅消化の指輪を手に入れたら延々と同じ階層で戦い続けてレベルと鎧を強化すればダメージすら受けないようになるという非常に大味な勝ち筋があるが、これはローグ・クローンのゲーム性の、このような雑な調整が招いたものである。





Spirit Hunter Mineko


 開発サイト


 Roguetouchを作ったchronosoft(クロノトリガーシリーズとチュンソフトをひっかけているらしい)の製作中RL。SNES(スーファミ)のゲームのオマージュでクロノトリガー、シレン、ポケモン(SFCじゃないのに)のオマージュと書いてある。
 素晴らしき90年というか80年代末の肩パットJRPG臭。しかもロゴのバックが「魂(spirit)」ではなく、どう見ても「塊(katamari)」になってる。ワクワク。


 が、調べるとどうも2010年ごろから開発中のままになっているらしい。なあんだ。あまり完成は期待しすぎない方がよいのかもしれない。



Roguelike今昔物語 〜 はらへりじじい


 SFCシレン1で、スララ等のNPCはオヤジ戦車等にぶっとばされたりぴーたんの肉をぶつけられてカニバリズムの犠牲になったりしても次の周回ではまた平然と登場するのは、実際はシレン同様に力尽きて村に戻されただけで、死亡していないという説を前回までに述べた。ガイバラの二番弟子に肉をぶっつけてぼうれい武者に変身させ、さらにトドに憑依させ、そのトドを分裂させて残らず皆殺しにしても、次の周回ではやはり二番弟子は普通に山頂の町に現れる。
 ぴーたんにされて食われたりトドに乗り移らされた上分裂させられても死亡しないってどないやねんとか思うかもしれないが、考えてみればシレンもガイコツまおうのブフーの杖効果でおにぎりにされた所にデロデロ罠を浴びてお茶漬けになってしまっても力尽きるだけで宿場で復活するし、シレン4のバナナ王子も炎を浴びて焼きバナナになった挙句あろうことかそのバナナをシレンに食われた(しかも残った皮までモンスターの足を滑らせるのに利用された)後も、次の周回ではモンキービレッジで平然と待機している。これが不思議のダンジョンの特性(トルネコで「ダンジョンが特殊なものである」という説明において示唆されている)なのか、住人の特性なのかは定かではない。『月影村の怪物』(シレンGB1等)によれば、風来人は復活できてもある事情で村人は復活できないというが、フミちゃん(スララやめぐすり幼女のグラ流用だが別人である)もスララ同様に戦車に巻き込まれて爆死しても出発時点の位置に戻るだけなので一貫しているとはいえない。この世界の住人らは明らかに「死亡」したと言われない限りは生存はしていると考えるべきである。


 しかし、これに対してひとつ情報が入った。はらへりじじいである。
 覚えていない読者もいるかもしれないので概説すると、SFCシレン1で「おにぎりをくれ」と唐突に登場するが、あげないと餓死し、くさったおにぎりをあげると中毒死する人物である(酷い話だが、NetHackやcrawlの@すら含めてそれが人間として当然であり、腐敗物を食っても各種不調になるだけのトルネコやシレンや、喜んで食って平気なペケジやバナナ王子がどう考えても異常なだけである)。なお、その後の階が恨みを叫ぶ老人の亡霊と共に大量のまわるポリゴンで埋め尽くされるという非常に不気味な光景が展開され、最初に見たとき本気で何かバグだと思った者は筆者含め多い。よく考えれば、まわるポリゴン系というモンスターは、「ハラヘリ」特殊能力を持つために老人の報復に同行しているのであろうが、それに気づかなければ、ポリゴン自体がCRPGにおいてメタな存在であるといえるため(→ポケモンショック)その無機質な外見と動き故に実に不気味であり、かまいたちシリーズのチュンソフト面目躍如である(おおげさ)。
 本題に戻るが、老人がシレンのせいで空腹か中毒で倒れた際、「老人は餓死してしまった」「老人はおにぎりの毒にあたって死んだ」と、「死亡」したことが明確に表示される。本当に死亡したからこそ後で「亡霊」となって出てくるわけで、当たり前の話だが、にも関わらず、別の周回になるとまた平然と出てくる。死んだと表示されて亡霊まで出てくるのに、ぶっとばされただけだった、死んだふりの一発芸だった、では説明がつかない。
 考えられるひとつは、スララやペケジと違って個体が特定されていないため、はらへりじじい自身が複数存在し、出てくるたびに一人ずつ、本当にシレンに殺害されているというものである。


 不思議のダンジョンには、店主や村人を虐殺する定番の遊び(Ultima1,2等からの伝統ともいえる)があるが、店主や村人らは死と表示されていない上に周回ごとに復活してくるので別にそうご大層な所業ではなく、不死身のかれらはどこかで嘲笑っている(T&TやFFゲームブック的表現)のかもしれない(Ultimaで画面を切り替えると住人たちが復活するのも同様である)。
 これに対して真に恐ろしいのは、本当の「殺人」である行為、しかも複数のはらへりじじいを死に追いやる所業である。亡霊とポリゴンの画面の不気味さが、それを暗示している。





ローグ・クローンの再調整


 ベクターダウンロードサイト


 レーゲン氏のExtended Rogue。ローグ・クローンをベースとしたバリアントである。かつては「アドバンスドローグ」として氏のサイトで解説を含めて紹介されていたものだが、今は氏のサイトが無くなっており、ベクターからのDLという形態になっているようである。
 アドバンスドから名が変更されたのは、Advanced Rogueという名が海外のRoguelikeにすでに存在する(SuperRogueから発展し、UltraRogueやXRogueに至る「オリジナルRogueに近いRoguelike」の系列である)ためなのか、特に関係ないのかは定かではない。


 ローグ・クローンは、バランスに非常に歪んだ所が数多くある。その多くはOD&D/AD&DベースであったオリジナルRogueから、クローンが根本的にシステムを変更した際に、D&D系準拠によってとれていたバランスが崩壊していることに起因するものである。一方で、ゲーム進行上無理矢理に選択しているもの(例えば、ある階層以上では突如敵が全部倍速になったりアーマークラスが無意味になったりする等。これはSFCシレン1で36階から敵の攻撃力が爆発するのと同様に一応理由のある措置だが、長くなるので次回以降に回す)もある。
 ともあれ、このバリアントはそんなクローンのバランスをとろうと試み、いくつかのアイテムの追加の他、システムに変更点を加えているものである。


 こうした改良バリアントは日本でももっと出てもよいはずだが、日本ではメッセ―ジ分離型のメッセージ変更などは多数見られるものの、ローグ・クローンのシステム自体のバリアントはほとんど見られることはない。理由は様々に推測できるが、実際はローグ・クローンは(他の人気のあるRoguelikeほどには)それほどプレイされていないと思われることが、その一因である。
 また、ローグ・クローンのゲーム性が実はかなり歪なことは、海外RLを貶めがちな不思議のダンジョンファンを中心に薄々勘づかれてはいるのだが、ローグ・クローンに対する、「RoguelikeやCRPGそのものの元祖・基本・モデルであるローグなのだから、これはシステムとして完成されたもののはず」という先入観(これまでも述べてきたが、実際はローグ「クローン」に対するその認識は全くの誤りである)から批判的視線にさらされにくい、という理由も考えられる。



もざらしとぬすっトド

 シレン5で登場する「もざらし」がネットキャラの荒巻スカルチノフを思わせるデザインのみならず特質を持つことは、当時話題になった。位置取りに配慮すれば、寝たままで襲ってこないことから、パターンを覚えればアイテム鑑定などにも利用できるが(例えば杖の効果で強力なモンスターに変化しても危険はない)下手に近づいた場合の威力は強烈で部屋にいるとなんとなく緊張を感じながら遠巻きにする羽目になる。


 一方、シレンシリーズには、SFCシレン1以来、「ぬすっトド」系列の敵が存在する。
 ここでふと、いったい「アザラシ」と「トド」はどう違うのか、ぬすっトド系列ともざらし系列はキャラやモチーフがかぶっていないのか、と疑問に思うプレイヤーもいるらしい。


 姿で言えば、アザラシは(アシベの母ちゃんがゴマちゃんの姿からエビフライを思いついたように)頭から胴体まで一体の寸胴、まるで魚雷とか先太りの降下爆弾とかのシルエットに見える。これに対して、トドやオットセイは首が細くなっており身体の各部の区別がある、というシルエットがわかりやすい。
 アザラシは陸上では寝転んだような姿のままで、(よく「モキュモキュ」と表現されるあの動きで)腹で這って進み、水中では尾で水をかいて泳ぐ。
 これに対して、トドやオットセイは陸上では座ったような姿で(「スピード落っとせい」の看板で有名である)後ろ足で進むことができ、水中では前足を鰭のように使って泳ぐ。


 しかし、ここでシレンのぬすっトドを見てみると(首だけは上向きに起こしていることが多いものの)どちらかというとアザラシのように胴体で這っていないだろうか?





オリジナルRogueの発祥とその特徴(エピソード2:クローンの攻撃)


 「最初のオリジナルRogueとローグ・クローンがまったく別のゲーム」であることは、すでにこのサイトの各所でも何度も述べていることであるが、前回の記事で改めて、非常に意外である、等との反響があった。
 オリジナルRogueとローグ・クローンの羅列的な対比は後回しにする予定だったのだが、ここで少々脱線して、一度、ゲームシステムの唯物的な対比だけでも提示しておくことにする。


 両者は、まずゲームシステムの数値の内部動作そのものが根本的に異なっている。特にオリジナルRogueのスポイラーに記載された各種の計算式やテーブルを見ただけで、AD&Dの知識がある人々なら、これがOD&DやAD&Dとどれだけ酷似しているか(そして、ローグ・クローンを一度プレイした範囲でも把握できる内容ともどれだけ違うか)も見るからにわかるはずである。
 が、D&D系の非プレイヤーにはもう少し詳細な対比が必要であると思われる。今回は両方のソースから、何点かを抜粋して例示する。


○命中率
 オリジナルRogue : 5%+@の経験レベルごとに5%+敵のACごとに5%(+武器の命中修正値ごとに5%)
 ローグ・クローン: 40%+武器のa値ごとに3%+@の経験レベルごとに2%


 オリジナルRogueはすべて5%刻み、すなわち1d20であり、この判定式自体もOD&D・AD&D1stの戦士系のものと全く同じである。
 クローンのものは、オリジナルRogueともD&Dシリーズとも全く異なっている。数値は5%刻みではなく、1d20を用いたシステムとの連続性がまったくない。それどころか、敵のパラメータが命中に全く関与しない。というか、クローンは後述するが敵にACとか防御とかいう数値自体がない。一見するとクローンの方が武器やレベルによる上昇率が低いように見えるが、クローンには敵の防御側の命中率低下が全くない。


○@が敵に与えるダメージ
 オリジナルRogue: 武器固有のダメージ(1d8等)+腕力修正+武器のダメージ修正値
 ローグ・クローン: (a個のb面ダイス)+腕力修正+(@の経験レベル/2)

 オリジナルRogueのそれはD&D系そのものである。武器のダメージはD&D系同様にダイスで決まり、その後に、腕力や武器の魔法ダメージ修正が固定値として加算される。
 ローグ・クローンは武器のダメージの計算法がまったく違う。上記a、bとは、修正値と、武器ごとに決まった値との合計である。クローンでは、例えば「ほこ」自体にも「+2、+3」という数値があり、「(+1、+1)ほこ」ならば、合計a=3、b=4である。つまり、(+1、+1)は一見、それぞれ「前者が命中・後者がダメージ」に加算される値のように見えるが(オリジナルRogueやNetHackではそうである)、ローグ・クローンでは実際はダイスの数や面数を加算しており、しかも、aが命中だけでなくダメージの方の値にも相乗されているのである。さらに、ローグ・クローンのダメージは@の経験レベルによっても上昇する。クローンが後半オーバーキルになったり、遅消化の指輪で粘ってレベルを稼ぐと無双状態化する所以のひとつである。


○敵が@に与えるダメージ
 オリジナルRogue: モンスターデータによって決まったダイスの値


 ここで、オリジナルRogueのモンスターデータの一部を引用する。

[表1]
 	Name		HD	AC	Damage
B	bat		1	3	1d2
C	centaur		4	4	1d6/1d6
D	dragon		10	-1	1d8/1d8/3d10
H       hobgoblin       1       5       1d8
T       troll           6       4       1d8/1d8/2d6

 ヒットダイス(HD)、AC、ダメージは、D&D系のプレイヤーであれば見覚えがあるはずである。くどくどと説明しなくとも、D&D系のプレイヤーには、このデータを見ただけで、ゲームシステム全体がD&D系と完全に同一のもので回っている(そうやって運用されているのが当然である)ことは、瞬く間に想像・把握できると思われる。
 なお、数値内容自体も全て、AD&D1stのモンスターマニュアル1(1977)と全く同一である。これ以外のA-Zのすべてのモンスターについて同様に、名前も数値もAD&D1stのMM1のデータと同一となっている。


 ローグ・クローン: モンスターの攻撃力*((100-@の鎧の防御力*3)/100)

[表2]

記号 名前     体力  攻撃力     
B  大こうもり  10  1d3     
C  ケンタウロス 32  2d3/2d5
D  ドラゴン   145 4d6/4d9
H  小鬼     15  1d3/1d2
T  巨人     75  4d6/1d4


 D&D系の知識がなくとも、計算式もデータも、D&DシリーズともオリジナルRogueとも全く似ても似つかない別物であることがわかるであろう。前述したが、クローンの方にはモンスターにはAC(防御力)自体が存在しない。
 ダメージについて、「@の鎧の防御力」は、「命中率」ではなく、@が受ける「ダメージ」自体に関与する。@の鎧はダメージを軽減するが、敵の方には防御への修正は何もなく、敵と味方でルールの統一性さえ全くない。敵の耐久性を規定しているのは「体力」値のみで、しかも固定値である。
 モンスターの「攻撃力」の値はダイスで決まってこそいるが、その数値内容(ダイス面数や個数、攻撃回数)自体はD&D系やオリジナルRogueとは似ても似つかない。



○敵のヒットポイント
 オリジナルRogue : 敵のヒットダイス(表1)の個数だけの1d8の合計値
 ローグ・クローン: 敵の体力値(表2)そのままの値

 オリジナルRogueのヒットダイスとヒットポイントはD&Dシリーズのプレイヤーには周知である。
 ローグ・クローンの「体力」(なお、「ヒットポイント」に対して「体力」という訳語は明確に誤訳である)はダイスではなく固定値であり、その値自体もRogueのヒットダイスで決まる範囲とは関連が一切見られない。


○アイテムの効果、例:ダメージを与えるwand
 オリジナルRogue
  Lightning 6歩分の距離まで到達し、ダメージは6d6
  Fire 爆発する炎を放つ。その他はLightningに類似
  Cold 氷を噴射する。その他はLightningに類似
  Magic missile:1d4+1のダメージ
 ローグ・クローン
  魔法のミサイルの杖 直接攻撃した場合と同点のダメージ(武器の強さも含めて同点)

 オリジナルRogueには、マジック・ミサイル以外にもD&D系の定番の攻撃用ワンド、攻撃手段としておなじみの稲妻・炎・冷気の杖が揃っている。赤箱CD&Dしかプレイしていない日本のプレイヤーは失念している場合すらあるが、これらの基本的ワンドのダメージが「6d6」であることもAD&Dでは当然の話である。無論マジック・ミサイルの杖も存在し、ミサイルが1本である場合、ダメージが1d4+1というのもAD&Dそのままである。
 対して、ローグ・クローンには「魔法のミサイルの杖」1種しか存在しない。しかも、その威力は直接攻撃、というか「所持している武器での攻撃」と全く同じだという、オリジナルとはまるで異なるものである。



 以上のように、オリジナルRogueはOD&DやAD&Dに酷似したゲームシステムであり、ローグ・クローンはそれとは全く似ても似つかない計算式になっている。
 ローグ・クローンがなぜこのような脈絡のまったくない数値システムにしているか(D&D系と無関係な式を最初から創作しているにも関わらず、シンプルさや対称性にも著しく欠け、全くハッカーらしくない)そもそも、このようなシステムをどこから持ってきたのかの経緯ははっきりしない。ただし、ソースをオープンにする以上、万一にも備えて、D&D系ともオリジナルRogueのソースともあえて全く関連性のないコードやその機能を意図的に選択した、というのもありえる話である。今回は詳細は省くが、UNIXに添付するプログラムとして一時期、ソースが行方不明であったRogue5.0系とローグ・クローンは競合関係にあった、という話もある。


 上述したオリジナルのRogueから、UNIX-Rogueはver5.4までバージョンを重ねていくと共に(上述したスポイラーではv4,v5等と書かれている)システム以外にもモンスターやアイテムのテーブルが順次差し替えられていき(例えば、AD&DのMM1そのままのモンスターから、Aquator, Icemonster, Xeroc等に差し替えられる等)次第に、日本のRoguelikerもよく知るローグの外見に近くなっていく。さらに、UNIX-RogueからIBM-PC用に移植されてからも、細部に変更が続けられていく。このIBM版を元にしたのが、日本でアスキーネット(ダイヤル回線での「パソコン通信」の80年代での大手である)上でヒットしたものや、PC-9801用にアスキーから(1万円以上のパッケージ価格で)販売されていたローグで、80年代以来の古いPCゲーマーにはクローンよりもこのバージョンを知っている人々も多い。SFCのトルネコ1も諸々の材料から、クローンではなくIBM版の系統をベースにしたと推測できる。しかし、オリジナルRogueのバージョンアップと変遷については、詳細は次回以降に譲る。
 ローグ・クローンは、UNIX-Rogueの最終版(つまり5.4)をベースにしたと説明されていることが多いが、必ずしも断言はできない。どちらにせよ、Rogue5.4とローグ・クローンではモンスターやアイテムはだいぶ近くなっているが、上述した計算式やデータは全くの別物のままである。


 日本では、Rogueについて語られる場合、話者の大半が1988年時点の『日本語版ローグ・クローン2』しか見ておらず、その内容が「最初に(1980年に)作られたRogueの形」だと信じられている。のみならず、「ローグはこれだけD&Dと数値が異なっているのだから、D&D(TRPG)を脱して現在のCRPGの原型になっている先進的なRPGだ」という主張や、まったく正反対に、「ローグはこれだけD&Dと異なっており、wizardryの方がTRPGに近いのだから、wizの方が後に作られたといっても、やはりCRPGの元祖はwizの方だ」といった主張が頻出する。
 しかし、オリジナルRogueとローグ・クローンのシステムは別物であり、遥かに後出のローグ・クローンのシステムをオリジナル時点のものと誤解したこれらの主張は、いずれも一切成り立たない。

 前回述べたように、オリジナルRogueですら既に初のCRPGからは大きく離れた派生品でしかなく、Roguelikeのシステムの数多く(数値バランスやランダムダンジョン等)の起源ですらもないのだが、ましてやローグ・クローンの内容をそれらの起源であると誤解したせいで、補足不能・修復不能なまでに事実と乖離しかつ話の筋道が破綻している例は、日本のCRPG解説では枚挙に暇がない。



 さて、オリジナルRogueとローグ・クローンの計算式やデータが全く違うからといって、ゲーム内容に共通点が全くなくなるとは限らない。実際のところ、ローグ・クローンのシステムであろうが、SFCトルネコの大冒険1のシステムであろうが、例えば大体どのくらいの階数で敵がどのくらいの強さか、といった大枠ならば、だいたい同じような序列になるように作られてはいる。
 しかし、上述したような、ローグ・クローンのモンスター側に防御性能のパラメータが皆無であること、攻撃力の歪な上がり方、ランダム性の使い方が、プレイ感覚の時点でオリジナルRogueとの体感的な差を確実に感じさせるものになっていることは確かである。上記のワンドの差のような、もっとあからさまに効果が異なる物品なども数多い。

 また、今回は単純な数値の比較を行ったが、一部アイテムの有無そのもの(よく比較されるものに「鎧の保護」の有無)やダンジョン配置等の難易度のバランス(例えば出現確率等)、それに対する評価、評判などの面から見ても、オリジナルRogueとローグ・クローンは、似ても似つかないゲームであると判断できる。しかし、唯物的な「対比」の次の段階であるそれらの「評価」的な詳細については、次回以降に回す。





オリジナルRogueの発祥とその特徴(その1)


 まずはオリジナルRogueの歴史から入る。このサイトで繰り返し述べているが、Rogueが世界初のCRPGであるとか、すべてのCRPGの元祖(原型)のうちのひとつである、とかいう、日本で流布されている説は正確ではない。
 コンピュータ研究所の大型汎用機等で動いていた最初のRogue(1980)より以前にも、同様の研究所CRPGが数多く存在していた。dnd(小文字)やpedit5を皮切りに、1974-77年あたりには莫大な量の研究所CRPGが作られている(記録が充分残っていないものも多い)。それらの中には、いわゆるAVG、テキストアドベンチャーとの境界がはっきりしないものあるが(これもTRPGのシナリオを再現したものといえる)、いわゆる戦闘中心、「迷宮に潜り戦闘とアイテム取得を繰り返す」という、いわゆるWizardry的なRPGに近いものもすでに数多く含まれる。これは、元来ウォーゲームから発展したオリジナルD&D(ここではOD&D白箱(1974)を指す。会話や交渉にウェイトが増えたCD&D赤箱(1981-84)は遥かに後出である)をベースにしている以上、当然の帰結である。なお、Rogueが「1975年に作られた初のRPG」という有名な誤説は、初のCRPGの候補である、他の1975年製研究所CRPG群や、ひいては日本で世界初のRPG(AVGとの明確な区別がない)とハッカー間にすら誤説が流れているテキストゲームのColossal Cave Adventureとの混同ではないかと考えられている。RogueはD&DとColossal Cave以外の影響は受けてない、と主張されることもあるが、インターフェイス等にRPG以外も含む多くの他ゲームの影響があり、かなり後発のRogueについて単純にその2ゲームから発したとは言えない。(ただし、Rogueが「グラフィック表示である」ことを最大の売りとしていたのは、テキスト表示であるColossal Caveから発展したことを作者らが強く意識していたことを伺わせる。)
 このうち、一人でダンジョンに潜り、迷宮探索と戦闘を行うといった要素で、直接にRogueに影響を与えたものとしては、重要なのは大文字DND(大文字DNDと小文字dndで別ゲームなので注意。1975-1976あたり)であろうといわれている。このあたりの事情は大文字DND、小文字dnd等の当時のゲームについて調べれば把握できるであろう(言うまでもないが、このあたりは日本語版wikipedia(2014年11月現在)をはじめ日本語で書かれた資料には、ほとんど載っていないか、さらに悪いことに「RogueとWizardryとUltimaの3つが世界初のCRPG」だとかいう全く根拠のない出鱈目しか載っておらず、例によって大半の日本のサイト等は、FT史の考察には全く何の役にも立たない)。
 特に大文字DNDは、その家庭用機移植版であるTelengardがDiablo(Roguelikeの要素が強いと考えられている)の直接の原型として知られているが、Rogue以前のRoguelikeそのものの先鞭とみなされることが多い。


 以上のように、しばしば流布されている「Rogueが世界初のRPG(のひとつ)で、ゲームシステム(数値や戦闘バランスを含む)等をゼロから構築したにも関わらず、中毒者を出すほど最初から完成度が高かった」という見地は妥当ではない。あくまでシステムの母体であるOD&D・AD&Dや、それを元にしたdnd/DND等の研究所CRPGの背景があり、その上でRogueが新たに加えた要素が存在する。
 以下、そのオリジナルRogueの歴史的意義を考察するが、ここで留意点として、これも当サイトのいろいろな所で書いているが、この時点のオリジナル『Rogue』(1980)は、現在和訳もされて日本のwindows等のゲーマーの間にも普及している『Rogue Clone』(1986-),『日本語版ローグ・クローン2』(1988)とは、まったくの別物である。ローグ・クローンはオリジナルRogueのソースが行方不明だった時代に、オリジナルのガワを模倣して作られたにすぎず、80年代の他のCRPGの要素や数値バランスをかなり数多く有している。よって、オリジナルの功績を考える場合、それらの要素を除外して考える、というより、クローン自体を最初から問題外とし、あくまでオリジナルRogueのみを検討・評価しなくてはならない。
 日本でRogueについて言及する大半のRPG関連、しばしばRoguelikeの関連サイトですらも、「ローグ・クローン=Rogue」という認識で書かれており、1988年の日本語版ローグ・クローン2の諸要素を1980年の時点のRogueの最初の形と同様であるか、あるいは「ローグ・クローンはソース(コード)は異なるがRogueの動作を完全に再現したもの」「Rogueとローグ・クローンは内容は完全に同一である」などと誤解した上で解説しているため、注意を要する。これは、こうしたRPG関連サイトの作成者がほとんどの場合AD&Dに関する知識が全く無いため、OD&D・AD&Dに準拠したRogueとそうでないローグ・クローンのシステムや内部数値データがどれほどかけ離れているか、全く認識・実感できていないことに大きく因する。


 1980年の時点のRogueがはじめて導入した要素とは何か。まず、初代Rogueのゲームシステム(プレイヤーや敵のパラメータ、それに対する数値システム、アイテムの効果等)は、完全にOD&D・AD&Dの複製(例えばUNIX-Rogue3.X系のソースによると10からはじまって鎧を着ると「低下」して良化していくアーマークラス、ダイスで決まるダメージ、さらにモンスターやアイテム等の数値内容自体もAD&D1stと完全に同一である)、ひいてはRogue以前のOD&Dシステムを再現した研究所CRPGの数々と同様であり、目新しいものは全くといっていいほど何も無い(一方、ローグ・クローンのシステムはD&D系とは完全に異なり、ここでもクローンをオリジナルRogueと混同するとさらに誤解を何重にも深めるため、注意が必要である)。


 Roguelikeの最大の特徴が何かと問われた時、「冒険失敗したらやりなおし」「レベルやアイテムがロスト」を挙げる者が最も多いと思われる。
 しかし、これがオリジナルRogue独自の特徴・初のアイディアだったかといえば、wizardry関連でも説明したように、これはオリジナルRogueがPLATOやUNIXなどの複数ユーザーが並行して利用している汎用機上で経過が逐一記録されていたとか、実際のTRPG(OD&D・AD&D)のプレイングのようにバタバタと死ぬのが当然、死んでもやりなおしがきかないのが当然、ズルができないようになっていただけで、珍しくもなく、たいして深い意味もない要素である。


 Rogueの特徴として、上記のロストと同等以上に挙げられるのは、マップや内容物が「ランダムダンジョンである」というところであろう。
 しかし、Rogueの中身の絶妙なバランスはともかく、ダンジョンがランダムで生成される自体は、別に目新しいものではない。AD&D1stのDMG(ダンジョンマスターズガイド, 1978)には、すでにダンジョンをマップから内容物から全て、丸ごと全自動生成するためのチャート・表が存在する。
 これは和訳されていたCD&D赤箱をはじめ、無論のこと日本で普及し、「TRPGとはこのようなものを指す」という先入観・誤解の根源となったソードワールドver1等にも存在していない。そのため、日本のRPG解説には、"後出の日本製TRPG"を根拠に「TRPGとは会話が中心のゲームである」「TRPGではモンスターやアイテムはストーリー性を損ねないようゲームマスターが設置するものである」「ランダムに発生する戦闘が中心で、ランダムでレアアイテムが出てくるようなゲーム性は、TRPGの時点では存在しなかったので、それに着目したのはWizardryが初である」などという主張がしばしば見られるが、ダンジョンやレアアイテムの自動生成は、世界的に最も普及しているRPGの代名詞である(TRPGの、ではない。C/Tいずれも含めてである)AD&D1stで、すでにまったく当然のものであった。
 無論、AD&DのそれはTRPG上のシステムである以上、全自動といっても作業自体は人間がダイスと紙を使って手動で行わなければならないのだが、要は人間が考えたり調整しなくとも全て乱数と表で決定できるシステムがすでに整備されていたということである。コンピュータによる自動処理が(一部の研究所以外には)到底不可能な時代に、ダンジョンを全自動生成するためのシステム自体が当然に存在していた。多くの(研究所以外の趣味人の)ハッカーらがワンボードマイコンを自作した動機が、スタートレックゲームのストラテジーシステムを自動化したいばかりに、という話と同様である。スプロール・シリーズの『カウント・ゼロ』で、フィンが「コンピュータよりもICE(電脳防壁)が先に生じた」、とうそぶく所以であり、ギークやハッカーの文化の真髄がここに垣間見える。
 余談はともあれ、Rogueに話を戻して、結局のところ、ダンジョンがランダムで自動生成することそのものではなく、そのバランス(モンスターやアイテムのデータ自体がAD&Dと同じであっても、それらがどういったタイミングで登場するかの選択や調整)がRogueの特色となるわけだが、これについては非常に長くなるため次回以降に回す。


 こうした現在のゲーマーが一般に流布しているRogueの特徴以外に、実際の当時の製作側の姿勢や、当時の事情に目を向けてみる。Rogueのドキュメントなどにも書かれており、当時のゲーム開発事情を解説した海外文章等にもよく出てくるが、Rogueは画面が「グラフィック表示である」という点が、それまでの研究所CRPGに対するRogueの特徴の筆頭に述べられていることがある。ここでグラフィック表示であるとは、「テキスト」(「文章の羅列」による表現)のみではなく、@やアルファベットのような文字で構成されてはいても、ダンジョンや戦闘状況の俯瞰図が、文章ではなく目で見てわかる「図」「絵」として表示されている、ということである。
 前述したように、研究所CRPGにはゲームブック(TRPGのソロシナリオ)のようなテキストAVG以外にも、戦闘中心のものなども存在していたのだが、それでもインターフェイス自体はテキスト文章表示のみ、というものも多かった。dndなどでは多くの環境では、状況の推移(自分のパラメータの変化など)が、モニタに表示されるのではなく、ラウンドごとにプリンターに打ち出されてくる場合すらあった。
 Rogue以前にも、DNDなどダンジョンがグラフィック表示されているものはある。しかし、DNDやその個人用PC移植であるTelengardに至っても、そのダンジョンの表現は決して完成度が高いものではない。(ちなみに、Ultimaのフィールドの地図を移動し街などで拡大マップに移動するといったシステムは、RPGよりも、スタートレックゲーム(1971)などのストラテジーゲームの宇宙地図に由来するともいわれている。なお、スタートレックでも地図の変化はモニタに常に表示されているのではなく、毎ターンごとにプリンターに打ち出されてくるなどという環境で遊ばれていることもあった。)
 Rogueの四角い部屋が通路で繋がっている映像が俯瞰できるその様子は、オリジナルD&Dでミニチュアを載せて移動させたり闘うためのタクティカルダンジョンタイル、シナリオマップ(及びプレイヤー側(マッパー)が手書きするマップ特にAD&Dでランダム生成したダンジョンのマップの様相に、それ以前の研究所CRPGやストラテジーゲームの様相と比べて、段違いに近い。これがゲーム性以上に、Rogueの普及に大きな影響を与えたのは想像に難くない。

 (続)



こばみ谷山間渓流にて



 「モンスターにやられて、
 目が見えなくなったんです。
 助けて下さい!」

  投げる→めぐすり草

 「あっ、目が見えるようになった!
 ありがとう!」

  ズキュウウウン

 「君達……もうシレンにキスはしたのかい? まだだよなァ……

 初めての相手はケヤキでもアスカ(※1)でもコハルでもないッ!
 このめぐすり幼女(※2)だッ!──────ッ」

  バアア───z___ァン



※1 ただし、シレン2でタイガーウッホ系に投げつけられてシレンとアスカが顔面激突を繰り返していると、その手の事故も起こっているのではないかとは誰もが想像するだろう。

※2 小説版ではスララと同一人物






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