ドラゴンランスのデータ学







ドラゴン・オーブとThe Orbs of Dragonkind


 3.XeのDMGに載っている『オーブ・オブ・ドラゴンカインド』は、「太古のドラゴン戦争で作られた」といった、DLの小説に登場した「ドラゴン・オーブ」を思わせる記載がある。さらには5版のDMGの方の同アーティファクトには「クリンの上位魔法の塔のウィザードらが作った」とはっきり書いてあり、少なくとも5版では汎用のオーブ・オブ・ドラゴンカインドとDLのドラゴン・オーブは同一である。
 そのため、当初の『戦記』小説等の当時、AD&D1st当時から両者は同じものである、5版コアルールのDMGのそれはDL世界発祥のアイテムが新たにコア側に輸入されたものである、または、DL小説からデータ化したものである、という理解をしようとしている5版ゲーマーもいるが、これはそうそう簡単な話ではない。


〇ОD&D、Eldrich Wizardry
 D&DシリーズにおけるThe Orbs of Dragonkindは無論のことDL発祥のものではなく、初出はDL世界そのものよりも遥かに前の、ОD&DのEldrich Wizardry (1976)である(DLの影も形もどころか、ローラ・ヒックマンがトレイシーの誕生日になぜかD&Dなんぞという淑女の贈物らしからぬ代物を送りつける、その前年である)。
 ここでは、「ドラゴンの精髄(essense)が封じ込まれたオーブ」という記述こそあるが、ОD&Dのアーティファクトの例によって効果は不定で(厳密には、ОD&DやAD&D1stのアーティファクトの能力は5版のランダム特性と似て、DMが登場させる際に表の中から選択するのでDMG/DM用ルールを読んだことのあるプレイヤーにもわからないようになっている)どれもありふれた疑呪のようなもので、実はドラゴンに直接関係する(ドラゴン限定、特効など)ものは何も無い。「人のアタマくらいの大きさでダイヤモンドくらいの硬さがある」とあり、竜の成長段階の名前Hatchiling 〜 the Eldest Worm (wyrmではない)がついた5種類のオーブがあり、それぞれパワーの強さが違う。


〇AD&D1st、Dungeon Masters Guide
 ついで、AD&D1stのDMG (1979)では、やはりアーティファクト表の中にあり、竜の精髄云々の他に「善の神々が悪のドラゴンを制御するために」作られたという説明が加わっているが(これは後のDLとは食い違っている)やはり効果は不定で、ドラゴンに関係する発動能力を持つとは決まっていない。一方で、不定能力の他に、いずれにも自分よりエゴ値が低い使用者を支配する、悪の精髄によるため善・中立のキャラは接触近く(5インチ)まで近寄ると魅了を回避(セーブ)する必要がある、悪のドラゴンはセーブできず、他のドラゴンもセーブにペナルティがある(すなわち、近づいたドラゴンが魅了される。DLのように発動で遠くのドラゴンを呼び寄せる、ではない)といったОD&Dに比べると追加要素もある。
 なお、言うまでもない話だが、この時点ではDMGのような基本ルール要素は(ヴェクナのような固有名詞や背景ストーリーを有するものも含めて、また、これらは3.XeではWG世界の要素と定義されているが)いずれかの世界設定の歴史等に固有・特有という設定そのものが無く、どの世界でも汎用的に使用されていたものである。


〇AD&D1st、DL6: Dragons of Ice
 DLシリーズの方のDragon Orbsのデータは、おそらくは上述したコアルールに既にあったOrbs of Dragonkindのアイディアを受けて設定されたと思われるが、効果の方は、それらとは全く異なっている。アイテムデータとしてはDL6モジュール(1985)(『氷壁の白竜の書』に相当)に現れる。
 シナリオ文中ではDragon Orbだが、データ箇所のエントリー名としてはOrb of the Silver Dragonとなっている。氷壁で入手できるこれは赤竜が封じ込められているものとされている。ドラゴン・オーブは基本的にモジュールのプレイヤーらには背景や能力を知り制御する手段は全く無いと書かれ、少なくともDL6の時点で使用されることはあまり想定されていないらしく、記載は詳しくない。
 制御できなくとも利用できる能力として、まず、オーブ表面のコマンドワードを唱えて触れた者は、魅了を回避(セーブ)する必要がある(AD&Dのエルフにはチャームへの90%の魔法抵抗力があるが、アーティファクト能力であるためか後述のローラナでもロラック王でも全く働いていない)。セーブに失敗するとオーブ内のドラゴン(赤竜)に魅了される。セーブに成功すると、33%(1d6の1-2)の確率で数ターン置きに、10-40(1d4x10)マイル以内のドラゴンがランダムな色や大きさのものが呼び寄せられてくるが、状況による(例えば氷壁なら白竜が来る等)だろうとも書かれている。呼び出されたドラゴンは、(1st-DMGのようには)オーブやその利用者に魅了や支配などはされておらず、オーブの近くにいるevilでないクリーチャーを手あたり次第に攻撃する。
 小説には全く言及がないが、他に制御しなくとも使用できる能力としてはキュア・シリアス・ウーンズを1日3回(DL世界では「癒し」はまことの神々=信仰系のみによるという傾向とは対応しない)、ディテクト・マジックとコンティニュアル・ライトが無制限というものがある。これらの術者lvは11lvのマジックユーザー(1stのネームレベルであり、大魔法使の目安)相当だが、無論(魅了を含め)ディスペル時などに関連するというだけで、オーブ自体がわずか11lvのアイテムというわけではない。


〇AD&D1st、DL8: Dragons of War
 DL8モジュール(1985)(『城塞の青竜の書』に相当)にも大司教の塔のオーブの説明としてデータがあるが、効果はDL6とはやや異なっている。
 オーブの背景が若干明かされ(特に「竜の魂の精髄(the dragon's soul essense)」云々の用語はОD&Dや1st-DMGのOrbs of Dragonkindそのままである)完全に制御できない者も竜を呼び寄せる効果を利用できる(小説でローラナが利用)のは同様だが、効果範囲は「111マイル以内」のドラゴンとされ、魅了へのセーブに成功すると、20%でブルードラゴン、10%でレッドドラゴンが、111マイル以内にいれば呼び寄せられてくる。70%で何も起こらない。呼び寄せられたドラゴンはDL6同様にオーブ近くにいるクリーチャーを攻撃しようとするので、小説の記述の通り、大司教の塔はこのアイテムの特性に応じた構造に建造されていることが伺える。効果範囲がDL6より遥かに広くなっているのは、ルールの変更なのかオーブ個体ごとの差なのかその他状況の差なのかは定かではないが、いずれにせよDL8が大規模な戦場を扱っているという理由もあると思われる。


〇AD&D1st、DL10: Dragons of Dreams
 DL10モジュール(1986)(『樹海の緑竜の書』に相当、分断したパーティーのうちタニスらシルヴァネスティに向かった方)では、エルフ王ロラックがとりつかれていたオーブの作られた背景の詳しい説明や、再度データがあるが、範囲は111マイルで同じだが呼び寄せるドラゴンが20%でグリーン、10%でホワイト、10%でブルー、60%で何も起こらないとなっている。DL8とのドラゴンの内訳差は、この時点では単にモジュールの状況の違いによるように思われる。
 加えて、小説でロラック王の悪夢が広域に投影されていたMindspin能力の記述もある。最大で悪夢を見る者のInt×1マイルに投影され、近づくほど悪夢が強まっていく。ロラック王のIntは12である。本来はIntelligentな王であるという記述があるので、衰弱のためIntなどの能力値が下がっているとも考えられる。hpも18しかなく、明らかに衰弱した状態のデータである。背景説明もロラックがイスタルの上位魔法の塔で《大審問》を受けた際に持ち帰ったと小説に近い経緯になってはいるが、ロラックはFtr15/MU3であり、魔法使の方の能力もさほど高くない(MU 3lvで大審問自体は受けられる)。なお、のちの2ndのTales of the Lanceでもロラックの能力はそのままだが、3.5e d20のWar of the LanceではロラックはNoble6/Abj6/Wizard of High Sorcery6でInt17である。
 悪夢を終わらせるには(小説と異なり)オーブを破壊するという手段をとることもでき、オーブはアーティファクトであるにもかかわらず(小説でDL6の方のオーブをタッスルがぶつけたホワイトストーンはおそらくは単なる岩ではなかったとはいえ)呪文等ではない物理打撃なら15%(1d20の18+)で砕くことができる。
 なお、DL8やDL10の再録のDragonlance Classicsでは効果範囲は恐らく後のDragonlance Adventuresに準拠して差し替えられMindspinの記述も無い。


〇AD&D1st、Dragonlance Adventures
 AD&D1stでの総合的ワールドガイドにあたるDragonlance Adventures (1987)では、なぜかエントリー名としてのアイテム名はOrb of Dragonkindの方になっており、Dragon Orbsとも呼ぶと添えられている。効果は遡ってDL6のものに近く「1d4x10マイル以内のドラゴン」、確率が「1d6の1,2で近くのランダムなevilドラゴン」となっているが、DL10のMindspinの記載はない。内容自体に追加などはなく、ОD&Dや1st-DMGと異なっているのは同様である。


〇AD&D2nd、MC4: Monstrous Compendium Dragonlance Appendix、他
 2ndでのDLのクリーチャーが記載されたMC4 (1989)には、上記ロラックの悪夢の中のDreamwraith(夢の生霊, DL10にも記載)のデータがあるが、その箇所に共に、夢を投影するMindspinの魔法使系用の呪文としてのデータ(呪文レベル7)がある。加えてそこにドラゴン・オーブのデータも載っているのだが、DL6(なぜかDL10ではない)やDragonlance Adventuresのものとほぼ同じでオーブ自体の追加の情報はない。

 DL世界の他DM用ガイド、例えばAD&D2ndのTales of the Lanceには言及はあるが、ドラゴン・オーブのデータ自体はなく、完全に制御できた場合の能力の全容も載ってはいない。
 レイストリンが小説本編ではDL10のロラックのオーブを入手し、以後使用することがあるドラゴンに特に関係ない特殊能力の数々は、おそらくはAD&D1stコア側のThe Orbs of Dragonkindが持っているような不定の多数の疑似呪文能力のような発動効果があるのではないかと推測させるが、これらの書物に記述はない。


〇3.5e d20, Towers of High Sorcery
 d20(小説作者らのSovereign Press社による、WotCのライセンス品)のDLシリーズでは、3.5eの設定集のDragonlance Campaign SettingやWar of the Lanceには記述はないが、Towers of High Sorcery (2004)にはメジャー・アーティファクトとして載っている。属性真なる中立、Int19, Wis12,Cha19,Ego25といったデータがある。AD&D時代の魅了効果に相当するものとしてDC25の意思セーブに成功しなければオーブに支配され、Mindspinの効果を受ける。オーブの(おそらく支配されなかった場合に利用できる)能力としては、意思セーブ(DC25)に失敗した者で、術者のカリスマ修正値x5マイル以内のクロマティック(evil)ドラゴン、カリスマ修正値x1マイル以内の種別・竜クリーチャーを呼び寄せ、また術者lvが10lv以上であればドミネイトモンスター呪文扱いで500フィート以内のドラゴンをコントロールできる。スクライング(念視)呪文を3回/日使用できる能力もある。
 ただし、それ以外の能力に関しては結局「(上位魔法の塔の魔術師らにとっても)全容は不明である」と書かれ、やはり終盤レイストリンのように制御できた場合の能力については完全に記載されていない。数値処理は細かくは違うものの、DL6以来のものと基本的に類似のデータといえる。前述のように、3.Xeのコア側のDMGにはコア記載のオーブがDL側も指すとも読める示唆があるが、3.5eのDL側では別のデータが準備されている。


〇AD&D2nd、Book of Artifacts (1993)、他
 一方、D&Dシリーズコアルール側に戻り、のちのAD&D2ndの基本ルールの方では、Orbs of DragonkindはDMGにこそ載っていないが、コア追加ルールのBook of Artifacts (1993)に記述があり、丸数ページにわたってかなり詳細な記述がある。背景は「竜に脅威を覚える他のクリーチャーの願いに応じて神々が竜と交渉し『人質』として取得した」「ドワーフと竜の(北方の神話めいた)対立で生じた」といったDL世界とは全く異なるものが詳細に記されているが、アイテム名がthe Dragon Orbsと称されている箇所もある。1stのようなオーブの色(元になったドラゴン)や成長段階に関連する他の様々な能力の他に、各種のオーブに共通する(基本的な)パワーとして、能動的に発動する、ドラゴンの戦闘能力を与えるものや、ドラゴンに対するdomination呪文がある(1stの魅了効果のように自動成功ではない)。なお、DL6のOrb of the Silver Dragonのキュア呪文発動に対し、この2ndコア側のSilver DragonのオーブはGreat Healing Powerを有する。
 ただし、断り書きとして「ドラゴンランス(R)世界の似たアイテムとは同じものではない。それらのオーブは該当世界(DL)にのみに特有のものである」とされており、基本的にWGなどの他世界のOrbs of Dragonkindと、DLのドラゴン・オーブは完全に別なものと規定されている(見開きでDL10の表紙と同じ一枚絵、オーブとカイアン・ブラッドベインに取り憑かれてしまっているシルヴァネスティのロラック王がでかでかと載っているにもかかわらず、である)。補足的に、Dragon誌#230 (1996)のロジャー・E・ムーアの記事にはWG世界でのOrbs of Dragonkindの記載があるが、ОD&D〜Book of Artifactsの背景説明はWGのものと「強く関係がある」、Encyclopedia Magica(註:2ndまでの書物のアイテム集大成資料、DLのものも含まれ、DL6やMC4のドラゴン・オーブも記載がある)には過去orbsとして発表された物品にも「似たものがある」などと曖昧にごまかしたような記載がある。
 なお、DLが一時D&Dシリーズから離れ別のシステム(SAGAシステム)に移るのはこの資料より後の1996年であるが、それ以前からDL側とD&Dコア側の距離感はやや複雑である。

 さらに後の3.Xeのコアルール、DMGのアーティファクト欄のオーブ・オブ・ドラゴンカインドは、効果上はこれらD&Dコア記述側のものを踏襲していると思われるが、前述したようにドラゴン戦争云々などとDL側を思わせる記述もある。しかし、DLのドラゴン・オーブも指すのか、2ndのように別物なのかは明記はない。
 4版ではDMGにはなく、4版Draconomiconでは背景の説明は僅かで、経緯は不明箇所が多いとされるが、ただしクリンのカイアン・ブラッドベインの説明があり、使用していたのはオーブ・オブ・ドラゴンカインドと書かれ、したがってこの書物のものはDLと同一である。5版DMGでは、前述のように同一となっており、竜呼びの能力で呼ばれた竜は敵対的な場合が多い等とDL6等に近い効果も統合されている。


 すなわち、DLのドラゴン・オーブは最初期はおそらくはD&Dのコア側のルールのOrbs of Dragonkindに限られた影響を受けて作られたが、小説に記述された効果およびDLモジュールでのデータは完全な別物であり、途中では、はっきりアーティファクトとしても両者は別のものだとD&D側からも明示されたが、ライセンス的にDLがD&Dに戻った5版に至ってコア記載としても同じものだと完全に統合されたということになる。
 D&D基本ルール側とDL側の相互の発祥・疎遠・接近再統合を繰り返したややこしい関係からは、こうした極めて複雑な経緯を辿っている要素は他にも多い。DL設定とコア設定の一見共通に見える要素は「D&Dとしてはどの版でも一貫して同一のものを指し、小説作者だけが一時期短期間、勝手に違うと主張していただけ」のように流布されていることがあるが、その把握が正しいとはいえない。





ソス卿/デスナイトの姿


 Death KnightはAD&D1stのFiend Folio (1st-FF)の時点で、能力(呪文を反射する、各種のパワーワード呪文やなぜかアイスウォールや20d6ファイヤーボールを使用する)自体はすでに定まっている。しかし、設定上は「デモゴルゴンがパラディンから作り上げた12体の特殊なリッチの形態」といった説明しかない。また、1stのMonstrous Manual (MM1)の時点ですでにアンデッドに関連するデーモン・プリンスはオーケスだが、1st-FFではデスナイトに関連するのはこのオーケスではなく、デモゴルゴンになっている。デモゴルゴンのデスナイトについては、3.Xeでも、Fiendish Codex I (FCI)のデモゴルゴンの拠点の記述の中に、最初のデスナイトであるカルゴス卿について触れられている。(ちなみにこの記事で断る必要があるのかはわからないが、ここでは*bandなどの暗黒魔法騎士・キャラクタークラスとしてのDeath Knightではなく、より普及しているD&D系でのアンデッドとしてのデスナイトの語義である。)
 一方、AD&D2ndのMMでは、クリーチャーに関する説明は大幅に(1体ごとに丸1〜2ページは珍しくない)増加しているが、この時点ですでに本家のDeath Knightの背景が、一世界にすぎないDLのソス卿に引っ張られたような節がある。
 さらに5版では、基本ルールであるMMのデスナイトに、ソス卿のイラストや背景説明が付されている。ドラウといえばドリッズト(グレイホークのエクラヴドラ等でなく)なのと同様、デスナイトといえばドラゴンランスのソス卿(グレイホークのカルゴス卿等ではなく)になっている。


 が、今回は実は、背景設定の話ではなく、「イラスト」の話である。
 前記したように、「ソス卿」について知られている姿が、そのまま「モンスターのデスナイト全員のイメージ」とほぼイコールの姿として一般的に捉えられているものであると考えてよいのだが、現在、ソス卿や、ひいてはデスナイトの姿の定番は、5版のMMのような「ソラムニックアーマー(註:アイテムデータ名)にチェスのルークのような形状の兜の隙間の真っ黒の中から橙色の目がキュピ〜ン」というものである。胸甲は薔薇勲爵士の紋章そのままだったり、あるいは5版のように、黒薔薇を示しているのかしおれたような薔薇の紋章だったりする。
 ドラゴンランスはキャラクター性が特に高いため、各人物の画像は(つばさ文庫版すら含めて)初期の画像、特に(DL1モジュール等よりも)小説表紙等のラリー・エルモアのイメージが強く残っているが、やはり数十年も時代が下ると大きくぶれがある。しかし、ソス卿の姿については、1990年代以降は『伝説』挿画などで描かれた上記の鎧兜の姿で完全に定着しており、アレンジすらほとんど加わったものは見つかることはない。したがって、デスナイト自体の画像イメージについても全く同じことが言え、他のクリーチャー以上に長年に渡ってイメージのぶれが少ないといえる。
 しかし、実はソス卿やデスナイトには、最初からこの姿が確定していたというわけではない。

 まず、上記1st-FFでは、Death Knightはデータ上は「軽装鎧」であり、騎士鎧に兜の完全武装ではない(とはいえ、鎧自体が非実体なので、見かけがどちらでも実質はたいした意味はない)。1st-FFや、2nd-MMでもデスナイトのイラストは、単なる鎧兜のスケルトンといったものである。

 加えて、DL世界についても、『戦記』の時点では、ソス卿の作中の描写は、橙色の目の他は「胸甲はあるが兜がない」という描写があるかと思えば他には「兜の中が空洞」など一定していない。
 最初期のDLモジュールではどうかというと、DL8では文字情報のみだが、DL9(1985)のソス卿のNPCキャラデータ付属のアイコンでは、骸骨や亡霊というより「干からびて朽ちたゾンビ」のようで、肉が剥がれて歯茎がむき出しになっている。1st-FFのデスナイトの標準と比べてすら、相当かっこわるい姿である。顔画像は後出の例のチェスのルークのような兜でも、スタームやグンター卿らの用いているようなソラムニア様式の兜でもなく、よくあるフルフェイスヘルメットの面頬を上げて、歯茎ゾンビの姿が覗いている。

 ついで、1stのDragonlance Adventures (1987)の表紙は『戦記』6巻でタニスがアリアカスを刺して力の冠を奪った場面のものだが、すぐ横にいるのがソス卿で、鳥ガラの出涸らしのようでめちゃくちゃにかっこわるい(ただし、このしばらく後の場面のタニスの壮絶なかっこわるさに比べれば些細な問題ではある)。このDragonlance Adventuresの表紙の画家ジェフ・イーズリーは、マッチョなモンスターや悪役(特にドラゴンや『戦記』2巻表紙をはじめとするヴェルミナアルド)の迫力にはきわめて定評があるが、ヒョロい化け物(初期ドリッズトなど)が、妙にかっこわるいことも多い。あるいは、この当時はデスナイトの姿として、前記1st-FFのような「リッチの一種」という情報を頼りに描いた、というのもありえる話である。ただし、兜や鎧そのものは、後で定着したものとほぼ同じである。
 Dragonlance Adventuresには本文中にはデータはあるが、他にソス卿のイラストはなく、この書物(DL世界全体の包括的ワールドガイド)の範疇ではあくまで鳥ガラの出涸らしの姿であり、この時点ではこのような姿も広く認識され知られていた可能性が高い。

 一方、例の今も広く知られた「ソラムニックアーマーに(中略)真っ黒の中から橙色の目がキュピ〜ン」の鎧兜の姿は、『伝説』最終巻(Test of the twins, 1986)のヴァレリー・ヴァルセックの挿画にも現れ、それ自体は前記Dragonlance Adventureより早くからも存在するが(ただし、1年差なので整理されていない事情もあると思われる。これまで述べてきたようにDL Adventuresの内容自体も同様である)、クライド・コールドウェル画のDragonlance Calender (1987)には、すでにwikipedia(en)にも引用されている画像が出てくる(キティアラがショイカン原林の手に捕まっているのを画面の横で見ている場面だが、この横の部分だけぶった切られたり、切り抜かれて「ソス卿BB素材」化され、トレーディングカード画像などに用いられていることが非常に多い)。
 さらに、AD&D2ndのTales of the Lance (1992)になると、その鎧兜に加えてさらに5版のMMの例の「松明」を掲げた姿の、後姿のイラストが描かれており、この時点では、すでに現在知られているソス卿やデスナイトの姿で定着している。(ただし、同じTales of the LanceのNPCデータ箇所や、1993年の再録モジュールには、DL9の歯茎ゾンビの姿がモノクロではあるものの載ったままになっている。)

 以後は、少なくとも30年以上の長年にわたって、ソス卿やデスナイトの姿は「ソラムニッ(中略)キュピ〜ン」の姿として認識され続けており、歯茎ゾンビや鳥ガラの姿はそうそうお目にかかることはできない(現に、DL9の姿は検索などでは探すことができず、画像に至るリンクを出すことができなかった)。しかし、ソス卿もデスナイト自体も、少なくとも一時期については(それらの書物の普及度から考えて)現在とはいささか異なる姿で認識されていたと推測される。





竜槍(ドラゴンランス)


 『竜槍(ドラゴンランス)』という武器は作品どころかワールドセッティングの題名にすらなっているが、全く活躍しないことはよく知られている。活躍どころか、「重要なアイテム」としての役割に据えられていたことすらほとんどなく、富士見版4,5巻の一部で他のアイテムや地形との合わせ技に使われていた程度である。
 このためもあって、日本の読者の風説では、アイテムとしても何ら強い品ではなく(現に作中でもしじゅう、不格好で非実用的であることが言及されている)「仮にどこかに強力なアイテムデータが載っていたとしても、小説版が完結して人気が出てきてからの後付けである」と推測、ひいては断定されて、その説明が当然のように流布されていることがある。というか、DLシリーズのゲームデータは、全てがそういう遥かに後出の後付けであると認識されていることが多く、実際にそういう品も混ざっているため、別にそれはそれで構わないが、中にはこの竜槍に対して、「竜特攻さえ無い」というとんでもない風説まで流れていることがある。
 つまりドラゴンに効くとか貴重な武器(現に作中では量産されている)という言い伝えすらも全て嘘であり、完全に飾り物という説だが、そう捉えてしまっても戦記伝説あたりのストーリーにはほとんど支障がないのが始末に負えない。

 結論から言ってしまうと、竜槍(ドラゴンランス)の武器データも、絶大な竜特攻を持つことも、最初期のDL7モジュールの時点から存在する。面倒は抜きにして以下データ履歴を羅列する。


〇AD&D1st, DL7: Dragons of Light
 続くDL8モジュールなどにも同様のデータがある。歩兵用のfootman's(基本ダメージM:1d6/L:1d8)と竜兵用のmounted(M:2d4+1/L:3d6)の2種類があるが、「付与された能力」は1種類である。全ての敵に近接では命中判定がfootmansで+1, mountedで+2され、ドラゴンに対しては、ダメージが上記ではなく、「使用者のヒットポイントと同点」となる。古いAD&DやCD&Dを知っていれば気付くと思われるが、つまり、これらの旧版における「ドラゴンのブレス」のダメージと同じものを、戦士側がドラゴンに対して与える、というギミックなのである。当然、膨大なヒットポイントを有するAD&Dのドラゴンを通常1攻撃ごとに1d8やら1d12で削る(期待値4-6点、例えばタニスのStr16のロングソード+2で期待値L:1d12+1+2で9.5点)のは並大抵ではないが、この槍ならば使用者のヒットポイント(戦記開始時のタニスでさえ一撃あたり35点)に応じて絶大な威力を発揮する。アイテム分類として"artifact"であることも明記されている。
 歩兵用は長すぎてかなり使いにくいため、投げる場合はデフォルトで命中率に-2(さきの+1は適用しない)のペナルティがある。いくら4メートルの槍とはいえドラゴンに接近して刺すなどぞっとしないが、投げつけると命中率が悪い(D&Dシリーズでは当たったかと鎧を貫いたかが一緒くたのACシステムなので、凶悪なACを持つドラゴンに対して、まず命中させなくてはならず、低レベルキャラにはどのみち絶望的である)という酷いジレンマがある。『戦記』作中、「古臭く時代遅れで若い騎士たちが手に取りたがらない」という記載と合致する。
 『戦記』で銀の腕の鍛冶屋テロスが「自分が作ったものの他に昔からあった古いランスを持って来た」と言っているが、DL7のラストでは、石のドラゴン像には10本ずつのfootmanとmountedの古いランスが見つかる。ただし、mountedは小説の方では『戦記』のさらに後の巻でギルサナスが善竜を連れてきた時にはじめて登場し、新型と言っているのとは合わない。mounted は乗り手とドラゴンのヒットポイントの合計ダメージを与えるためさらに非常に強力だが、『戦記』のファイアフラッシュ(キルサー)に乗っての戦いでの邪竜(こちらはランスがないので遥かに不利のはずである)の急所を外れてひん曲がり捨てなくてはならなかった等はとてもその威力があるようには見えない。


〇AD&D1st, Dragonlance Adventures
 footman'sとmountedの2種類があるという他に、「カーラスの槌」「エルゴスの銀の腕」のいずれか片方で鍛えられた場合+2の強化ボーナス、両方が用いられた場合は+4の強化ボーナス(無論、ドラゴン以外にも)となる。ドラゴンに対するヒットポイントと同点のダメージはDL7,8と同じである。上記の命中率に対するボーナス/ペナルティも同じものが書かれているが、強化ボーナスと累積(合計値を計算)するのか否かは判然としない(書き方から考えて、すると推測される)。


〇AD&D2nd, Tales of the Lance
 前述の1stのDragonlance Adventuresとほぼ同じデータのfoootman, mountedと、+2/+4の槍があるが、これらは"Lesser" Dragonlanceとなり、さらにこの他に"True" Dragonlanceのデータがある。
 Lesser Dragonlanceは前述と同性能で、ドラゴンへのダメージは1st同様、使用者のヒットポイントである(2ndではブレスウェポンのルールは変わっているにもかかわらず)。-2のペナルティーはfootman's lanceを投げた時のみである。なお、アライメントがgoodでないキャラクターが触れると4d6のダメージを受ける。無論、大司教の塔の戦いでキティアラ(この資料でも"秩序にして悪")が拾い上げた時の描写と合わない。
 True Dragonlanceは、槌と腕の両方が用いられ、ドラゴンメタルが使用され、かつ白ローブの長とパラダインの高僧の助力により作られる。強化ボーナスは書いていないが、槌と腕が両方用いられた場合の+4と考えられる。これを騎竜と共に使った場合、竜の攻撃力が大幅に増大する(ブレスウェポンの威力や範囲が倍増し、THAC0が半分になる=AD&Dでは低い方が良いので、命中率が増大する)。ただし、この槍は竜に対して致命的な存在であるため、使用し続けていると騎竜(善竜であっても)が衰弱し、死亡することもある。槍自体の威力が高いとも書いておらず、槍が特筆するものというよりは、シナリオイベント道具としての用法を思わせる。


〇3.5e d20: Dragonlance Campaign Setting
 3.Xeの整合性に合わせてか、footman'sとmountedの別は特に記載されず単にlanceとなっているが、やはり能力にLesserとGreatorの2種類がある。Greatorは"true"とも呼ぶと書いてあるが、Greatorの能力は2ndのTrue Dragonlanceとはかなり異なっている。
 Lesser Dragonlanceはカーラスの槌か銀の腕のどちらか片方で鍛えられたもので、「+2ドラゴンベイン・ランス」、すなわち3.Xeのルール整合上のベイン武器のエゴアイテム性能で表現され、「通常の敵には+2、竜種別の敵に対しては+4の強化ボーナス及び追加ダメージが+2d6」である。一見するとAD&Dの「使用者のヒットポイントと同点」に対して3.Xe d20の「+2d6ダメージ」はかなり目減りしたように見えるが、強化ボーナスの増大と3.Xeの高lvキャラがかなりインフレしたシステムをあわせると、一概に「竜槍を持った戦士のドラゴンに対する戦力」が大幅に弱体化したともいえない。ただし、他の武器との差が小さくなったという言い方はできる。
 Greator Dragonlanceは純粋なドラゴンメタルで作られ、カーラスの槌と銀の腕の両方で鍛えられたもので、2ndのTrue Dragonlanceよりは条件が緩くなっている。こちらは「+4ドラゴンベイン」であり、さらに、邪竜のCon値をドレインする能力がある。2ndのTrueのような使用者の騎竜の能力増大や、反面ペナルティーなどもない。
 また、Greatorに加えて、竜槍戦争時は竜槍は量産品だが、DMはlesserやgreatorの他にuniqueな竜槍にフレイミングなどの他能力を付与した武器として登場させてもよい、というコラム欄(オプション)がある。


〇3.5e d20: War of the Lance
 Dragonlance Campaign Settingの補足として、前述のものをcommon (footmans)と位置づけ、こちらにはmountedランスの記載がある。基本的には前述のcommonと同様だが、mountedにはアーマークラスと、ドラゴンのブレスや呪文・疑呪に対するセーブ(回避)にボーナスがある。


〇その他:Gold Box DLシリーズ
 SSI社のかつてのDOS用PCゲーム、Gold Boxエンジンで作られたAD&D1stのDLシリーズにも竜槍(Footman's Dragonlance)は登場する。ただし、ここでは強化ボーナスが「+5」となっており、当時の1stのデータとは合わない上にかなり強力である。その他の基本ダメージや対ドラゴンの使用者hpと同じダメージなどはPnPデータと同様である。
 元ルールよりもさらに強力な強化ボーナス故に、ドラゴン以外にも「高い強化ボーナスの武器でないと傷つけられない敵」を傷つけられるなど重宝することもあるが、両手持ちの割に1stのデータの他の両手武器よりベースダメージが低く、特に高レベルで増えてくる大型敵に対して2Hソードなどより大きく劣るため、ドラゴン以外の敵にはいまひとつのことも多い。


〇その他:5版、Fizban's Treasury of Dragons
 時系列上はかなり後(2021)だが5版のコア追加ルール(フィズバンの名は冠しているが、ワールド限定ではない)にもドラゴンランスの記載があり、バハムートに縁のある強力なアーティファクトの助けをかりて作られるとなっている。5版では各ワールド汎用のバハムートとDLのパラダインは同一神格となっており、アーティファクトとはDLでは銀の腕やカーラスの槌を指すと思われるが、他ワールドに登場する場合はそれらに限らないと思われる。+3(5版での最大値)のパイクまたはランスで、ドラゴンに対して3d6の追加力場ダメージとなっている。また、近くの任意のドラゴン(乗っている場合は通常その竜と思われる)が追加の攻撃ができるボーナスがある。5版DMGの剣、ドラゴンスレイヤーもドラゴンに+3d6ダメージなので、コアマジックアイテムのベイン武器と同等の竜特攻という意味では3.5eのd20と同様だが、5版のデフレからも考えるとやや強力である。


 以上のようにいずれのデータでも竜に特攻、AD&Dでは強力な特殊ルールと3.Xe系でもシステムに従ったベイン属性を有している。よって、「竜特攻がない」という風説の根拠については定かではない。前述したように、そんな説も出るくらい作中では活躍せず、上記mountedランスのようにデータとは明らかに相反するとすらいえる描写も散見するため、作中描写からとも考えられる。または、AD&Dのいずれかのデータを見た者が、1st-2nd DMGのvsドラゴン強化ボーナスや、正規の"Dragon Slayer"エゴ属性に関してはこの竜槍が有していないこと(特殊なルールで表現されているため、別の意味では『DMGの正規ルールの竜特攻』を持っていないこと)、また、この『AD&Dのもの』については日本のゲーマーによく知られた『3.Xeの』ベインやスレイングにあたる属性は有していない、と言及していたものが、又聞きによりおかしな結論に変化して伝聞された可能性などが考えられる。


 これは強い武器なのかというと、ドラゴンに対しては、他のワールドでも類を見ないほど恐ろしく強力なデータである。例えば、『戦記』4巻の大司教の塔の戦いの時点のスタームは、DL8によれば10lv, hp74なので、キティアラの乗る青竜スカイア(DL14などでhp63)に対して先制すればhp-11に落とせるので瀕死ですらなく一撃必殺である(無論、実際に戦記4巻で対峙した時には竜槍は使っていない。なおAD&D1stは初期はOD&D等と同様ローパワーが想定され、ドラゴンは2nd以降に比べるとhp自体はかなり低いものがいる。後の版、d20のスカイアは3.Xeのマチュア・アダルト(平均hp276)なので、上記d20版の竜槍ではかなり辛くなっている)。
 しかし、実際に作中の状況で最終兵器として使えたかというと難しい。例えば仮にスタームがスカイアに竜槍を使用できたとしても、キティアラ本人も他の配下もいるので直後の展開はあまり変わらないと思われる。スタームに賛同した見習い騎士たち(DL8では大司教の塔の若輩連中の「冠の騎士」はHD4なので、hpは13前後)が十数人、量産品のfootman'sの竜槍を持ったとして、もちろん他の武器よりは当たれば大きなダメージは与えるが、当たるかどうかを含めて絶望的なことにはほとんど変わりはない。

 本サイトでは何度も言及したことがあるが、結局のところ、D&D系では(T&Tのような攻撃力だけ正面衝突するシステムやJRPGとは異なり)、いずれかのパラメータ、例えば武器のダメージだけが突出して高かったところで全くどうにもならない。ドラゴンの強大な防護(前述したように、D&DのACシステムでは、ダメージが大きいだけでは強固なAC(鱗)に対処できない)や疑呪や反撃をなんとかする手段がなければどうしようもない(d20のmounted lanceには少しはそれらもあるにせよ)。これ一本でドラゴンに万全などといったものではなく、小説のみでPnPルールに関心のない読者だとか、ひいては一般のファンタジーゲーマーにとっては「強い」とは感じられない場合があると思われる。同時に、そのD&Dのシステム自体との相関が、描写やデータからの読者からのさらなる過小評価にも繋がっていると考えることができる。(一方、竜槍と異なり、ゲームブック『パックス砦の囚人』の魔剣ワイアムスレヤアはダメージ以外の点でも攻防ともに完璧にめちゃくちゃに強く、当時まだDLの設定がいいかげんだったことを非常に顕著に示している。)


 なぜ(小説版では活躍しない)この竜槍という武器がワールドの名前にまでなっているのか。様々な事情の情報があるが、この場であえて付け加えるならば、結局のところ(少なくとも当初は)小説のストーリーを中心とした世界ではなく、PnPのゲーム用の世界であったことが大きいと考えられる。DLモジュールをあくまでゲーム用世界としてワールドセッティングが作成された時点では、「ドラゴンの脅威・強大さ」を前面に押し出した世界において、キャンペーンの大詰めにおいて英雄的なプレイヤーキャラ(例えば、上記10lvスタームのような状況)が手にする武器として強く想定されていたということかもしれない。キャンペーンの最終兵器が最初から準備され、しかも量産品という設定なので複数の(卓ごとの)英雄が所持しても問題ないという話である。つまりゲーム上での使用を想定しての重要性であって、小説の展開(低レベルキャラや見習い騎士たちが右往左往する)をもとに決めたワールド名ではないということなのかもしれない。とはいえ強大なドラゴンを強大な英雄が強大なアイテムで打倒するという、当初目論まれていたかもしれない展開は、以後のDLのPnP用シナリオや他の関連出版物にも目立たない。前記した『パックス砦の囚人』の終盤の滅茶滅茶な展開がそれを忍ばせるくらいのものである。





ドラゴンランス 秋の黄昏の竜

 角川

 Dragons of Autumn Twilightとは、ドラゴンランスシリーズの1作目(富士見文庫では『ドラゴンランス戦記』、アスキー等のハードカバーではただの『ドラゴンランス』つまり無印)を3部作とした場合の第1部である。AD&D1stのDL1(絶望の竜:廃都の黒竜)とDL2(炎の竜:城塞の赤竜)モジュールが元となっている。以降、第1期1作目の3部作は無印でなく『戦記』と呼ぶが、これは筆者が富士見文庫版世代だからにすぎない。
 つまり最近(2020年2月)出たこのコミックは、最初のシリーズの冒頭リメイク、ガンダムで言えば初代劇場版3部作のI・砂の十字架編というわけであるが、ドラゴンランスの初期シリーズは、日本での初代ガンダム同様、一定世代には趣味嗜好とわず話が通じるようなブーム作品だったといういいかげんな概要は過去にも説明した通りである(Hob/LotRのような全世界全世代の共通認識や、玻璃ポタやドラゴンボールのような全世界規模というにはおそらく及ばない)。
 ガンダムはZ以降、作風ががらりと変わったことから、オタには長年、初代以外はシリーズ化していることすら認めないという論者が根強く、初代原理主義者がオタ内ですら「少数派」にまで減退するには、かなりの年月を要した。ドラゴンランスについても同様に、第2期シリーズ(サマフレ)以後は作風が完全に変わり拒否感を巻き起こしたが、ガンダムのような続編の評価も安定しひと段落した、という状態にはいまだに至っておらず、いまだに第一期だけがドラゴンランスだという空気のファンも多いのではないかと思わせるところがある。5版でもPHBなどで久々にDL世界が取り上げられているが、いまどき第一期、それも特に『戦記』を引っ張り起こしたような記述になっている。細部の事情は定かではないが、いまだに商品価値の高い初代作品を5版とあわせてコミック化したということらしい。(なお第一期ブーム当時にも当然コミカライズが存在し、富士見から和訳が出ていたが、今回は省く。)

 ともあれ今回のコミックだが、洋モノの常を差し引いてもなお、無茶苦茶に絵が怖い。レイストリンが(メルニボネのエルリック同様)海外物では完全に化け物(旧コミカライズの表紙は除く)なのは常に指摘されるところだが、このコミックでは全員がまさしく化け物なので些細な問題にしかなっていない。その化け物どもの中では引退した日本のお笑い芸人のようなタッスルホッフのかわいくなさも特筆に値するが、冒頭近くのフィズバン(とシリーズ最後に判明する老人)の形相などは、バキに出てくる老格闘家のようである。
 だがその位置がすごくいい(声:グイード・ミスタ)。かつて洋モノRPG、特にD&D物、さらにドラゴンランス関連商品は、新たにビジュアルを目にするたびに驚愕と恐怖とコレジャナイ感が怒涛のように襲ってきたものであった。玻璃ポタやLotRブーム以降、洋ゲーも身近になった今となっては、その類の奔流にさらされる新鮮な感覚を失って久しい。この適度な刺激こそが久々の醍醐味である。こんなことを言うと(別の所の富野小説論とかともども)マゾヒズムとしか聞こえないのかもしれないが昔の洋TRPGの展開(公式シナリオの殺伐とか)など全編そんなものを喜んで受容するでもないとやってられないではないか。
 怪物の表現、特にドラゴンは、富士見版やDLモジュールの表紙等でおなじみのジェフ・イーズリーの方向性とはまったく変えてきているが、かなり見栄えがする(D&D系以外のCRPGや、5版でもよくある表現に近い)。ナイトブリンガーがトゲトゲ巨大球モールになっているヴェルミナァルドは、イーズリーよりさらに筋肉達磨が増しているのも良い。
 話は結構アレンジされ端折られているが、それ自体はわりとうまく取捨選択されているというのが私見である。例えばパックス砦地下の全滅必至の巨大ナメクジ(DL2ではヒットダイス12)との泥沼場面を、このコミックではローラナが弓矢でワンショットキルする所は結構話題になっており、この時点でのローラナのお荷物感が減っている上にただでさえ少ないタニスのワームスレイヤーの見せ場もついでに無くなっている。が、ローラナは次部(氷壁の白竜の書)ですでにドラゴンの翼を射抜くなどがぜん活躍しはじめるので、多少それが早くなっても実はさして大きな問題がない。DLシリーズ原作小説一般の戦闘のgdgdな扱いに対して、こちらの方が演出的メリハリも多少出ており悪くもない。
 また、話が端折られ方つつも台詞が注意深く残されており、原作小説の独特の「雰囲気、空気」がよく伝わってくる。ただし、原作未読者が、独特の台詞回しの細かいニュアンスなど、地の文で説明されていたものを理解するのはかなり難しいと思われる。帯には「電子版(原作)の予習に最適」などと書いてあるが、正直言って原作より先に読むのは適切とは思えない。というか、バキ格闘家や引退お笑い芸人などの化け物面は上述したようにそれ自体は良いとしても、化け物面が小説を読む際の予備知識になってしまうと色々と支障があるだろう。刺激ブツ推奨の本サイトでも、そればかりはおすすめできる手順ではない。





ブライトブレイド


 『戦記』冒頭からスタームが、後にスティールが所持するブライトブレイド家の先祖伝来の両手持ちの剣は、例によって後のゲーム資料になるに従ってデータ面も追加されているのだが、登場当初から名品であることは強調されており、強さそのものが大きく変わっているわけではない。
 いずれもルール上は「魔法の武器」である。クリンはマジックプアな世界であるという印象を持つ小説版読者が多いと思われるが(その印象自体も正しいとは言えないのだが)魔法の強化ボーナスと品質その他によるボーナスがルール上分離されている3.Xeと異なり、特にAD&Dにおいては、「鍛冶技術による上質品」と「魔法の品」とは厳密に区別されているわけではない。


〇AD&D1st、DL1: Dragons of Despair
 「トゥーハンデッドソード+3」という記載のみで、固有名もない。またタニスが+2のロングソードを持っていたり、DL2のワームスレイヤーが同様に2Hソード+3だったりするので、ボーナスなどがDLゲーム全体でこれだけ極端に飛び抜けているわけではない。しかし、+3というのはルール上、強力なエゴアイテムに付与されていたり一定の強力な敵にダメージを与えられる段階であり、しばしばAD&Dでは「伝説的な名品」の強化ボーナスの目安なので、3-5lvのパーティーの持つ品としてはこの時点から一種別格扱いであることがわかる。

〇AD&D2nd、Tales of the Lance
 「ブライトブレイド」という名、「トゥーハンデッドソード+3」のままだが反応に+2する能力、ライト呪文、プロテクションフロムイービル呪文/日、(小説本文中にも説明されているように)所有者が望まない限り破損することがない、といった特性がデータ上も追加されている。2900年前、バーセル・ブライトブレイドの時代にドワーフの手により鍛えられた等、本文や後の資料にも引き継がれた設定が述べられている。

〇3.5e d20, War of the Lance
 「ブライトブレイド」の背景等の説明は2nd当時とほぼ同じだが、「+2アクシオマティック・バスタード・ソード」(混沌属性に対し+2d6ダメージ)となり、反応に+2や疑呪などは無くなっている。+3から+2にボーナスが落ちているのはパワーバランス上の調整(ドリッズトのトウィンクルが2ndの+5から3.0eで+2になったのと同様)と思われる。小説本文中には「鞘(拵え)が銀造り」である旨の記述があるのだが、この資料ではsilvery blade(銀光の刀身)となっており、本体も銀や錬金術銀であるかは定かではない。


 ここで、小説本文中では「両手持ちの大剣」となっており、AD&Dでもそうだが、d20ではなぜバスタード・ソードに変わっているのか。
 実際のところ本文中では両手持ちであるにも関わらず、盾と同時に使っている場面が多々ある(そもそも富士見版1巻や4巻の表紙もそうである)。なのでそれらの描写にあわせてd20ではグレートソードではなくバスタードソードに変更されたと考えられないでもないが、あえて説明を加えるならば、AD&D及びその各版と、d20の準拠するD&D3.Xeでは武器の定義は同一ではない。これらの物品のゲームシステム上の分類にはいずれもかなりの範囲がある上、学術上の分類や、日本のアンチョコ本のたぐいに書いてあるものとは一致しないことが多々ある。AD&Dでもバスタードソードや2Hソードはあるが、それが3.Xeでのバスタードソードやグレートソードと同一とは限らない。同じ剣がAD&Dでは2Hソード、d20ではバスタードソードとしてデータ化されることはありえない話ではない。





ダラマールシリーズセットアイテム


 ドラゴンランスはAD&D1stをベースに小説化されていた、とはいうのだが、基本的にPnP-RPGのモジュールとしてもストーリーが展開していたのは前半(『戦記』)であり、後半(『伝説』)には対応するデータがあるとは限らない。
 しかし、『伝説』の主要人物のうち、ダラマールの名のついたアイテムはやけにデータ化されている。これは(杖と短剣以外に)強力な魔法の品の助けを必要としない(という)レイストリンと異なり、ダラマールはなにかと話の上でアイテムとの絡みが多いためである。DL世界のキャラの中では、(データパワープレイヤー(和マンチ)な)D&Dデータ寄りのデザイナーや読者から、ダラマールがなにかと人気があるのもわかる気がする。


○防護の魔法の腕輪(Dalamar's Bracelet of Magic Resistance)

 『伝説』終盤、パランサスでソス卿を迎え撃つためにダラマールがタニスに貸したもの。終盤タニスが活躍できたのはほぼこれのおかげである。文中のダラマールの言によると、ソス卿の用いるような氷や炎の呪文(Death Knightの疑似呪文能力である無限Wall of Iceと20d6 Fireball)、「死ね」「気絶せよ」「盲いよ」といった示唆の言葉(Power Word呪文のうちPHB記載の主要3種)から守ってくれる。ただし、作中の描写では何度か呪文を受けると腕輪の力が弱まってくる。そのためもあって、ショイカン原林の恐怖の領域を通過するほどの魔力はない。

 AD&D1stのDragonlance Adventuresのデータでは、呪文レベル3−5の呪文に対しては10%, 6−7の呪文に対しては20%, 8−9の呪文に対しては30%のMagic Resistance(魔法無効化率)を発揮する。上記それぞれに対して、1日に3回までしか無効化できない。
 ソス卿(Death Knight)の使う炎や氷の呪文は呪文レベル3−4、各Power Word呪文は呪文レベル7−9なので、辻褄はあっている。しかし、無効化率10-30%というのはいかにも心許ない。この記述をAD&DのMagic Resistanceのルール通りに解釈すると、10%の無効化率というのはダメージを10%に減らすとか10%減らすとかではなく、10回に1回だけ完全無効化する(つまり9回はそのまま食らう)ということである。

 この腕輪はアイテム自体の属性がEvilであり、Goodキャラは触れると3d10ダメージを受ける。確かに小説作中で騎士団長グンター卿はこの腕輪からダメージを受け(Tales of the Lanceによるとグンター卿は13lvの騎士でhp62だから良かったものの、d20の並の現代軍人なら3回死んでおつりがくる)タニスは「騎士の誓いか何かに関係あるのだろう」と考察していた。が、よく考えてみるとタニスも属性がNeutral "Good"なので同ダメージを受けるはずである。Dragonlance Adventuresは小説『伝説』より若干後だが、照合が間に合わなかったか単に忘れたか、データを設定した側の整合が不十分だった可能性が高い。一方、後のAD&D2ndのTales of the Lanceによると、ダメージを受けるのは「Lawful又はChaotic」Goodのキャラクターであるという意味のわからない記載に直され(やはり誓いとは関係ない)、一応Neutral Goodのタニスが使う分には問題がない。


○稲妻のワンド(Dalamar's Wand of Lightning)

 キティアラに肩甲骨を両断されたダラマールが苦し紛れに発動したと思ったら、キティアラの巨乳すら貫通して文字通り胸に風穴をあけた非常にえんがちょなライトニングボルトワンド。小説本文では単に稲妻のワンドとしか書かれていないが、D&D系のワンド(一律6d6ダメージ)どころか、Lightning Boltそのものの常識からも度肝を抜くような威力である(AD&Dでは高lvの戦士の耐久力は同等の魔法使の呪文ダメージよりかなり高く、呪文1つで致命傷を負わせることは難しいが、さらにワンドは一般に高lvキャンペーンで役立つほど強くはない)。文中の描写によるとキティアラはそれまでにかなり弱っており、現に『伝説』富士見版最終巻の表紙でダラマールと対峙しているカバー画でも、服がボロボロで少なからず手傷も負っている。D&D系のヒットポイントは疲労や運の尽きなども総合的に示しており、目に見える外傷を負っている時点でhpは半分以下に落ちている。故に、こんなありふれたワンドごときから致命傷を受けたのは相当に弱っていたためではないかという考察もあったが、要はただの演出だろうと流されるのがD&D系小説の(特にAD&Dデータを知らない読者からはローパワー扱いされるDL世界設定の)常であった。

 しかし、AD&D1stのDragonlance Adventuresでは、このワンドは上述したようなD&Dシリーズのデフォルト設定のWand of Lightningの一種とは書かれているのだが、それらの基本データとは大幅にかけ離れた性能を有している。15lvの術者が発動したのと同じ威力があり、AD&D1stではLightning Boltには(2ndや3.Xe以降のような)ダメージダイス上限はないので、15lv術者が発動すればダメージは15d6で、期待値は52.5である。キティアラは15lv戦士で最大hp68だが、表紙の状態でhp34以下とすると、これをまともに食らったらまず助からない。AD&D2ndのTales of the Lanceでは、(2ndのLightning Boltの上限の)10d6ダメージで、期待値は35であり、上記の状態のキティアラに直撃すればちょうどhp-1に落ちる。タニスが手当すれば助かるが、しなければ9ラウンドで死亡し、作中の状況と一致する。
 なお、このワンドは(雷雨のあった週の)1週間ごとに1チャージを回復するようになっており、ただの量産品・消耗品のWand of Lightningではないようである。なぜこんなものをダラマールは無造作に机に置いておいたのか(携帯していなかったのか)。しかし、以後、キティアラの死因となったこのワンドのその後の使用者は、使用するたびにソス卿が傍に駆けつけてくる可能性がある、とも書かれており、いくら強力といっても、プレイヤーキャラとしてはそうそう使用したいものではない。


○癒しの指輪(Dalamar's Ring of Healing)

 上記のキティアラの攻撃で腕がもげかけたダラマールが発動し、一命をとりとめた際の癒しの指輪。AD&D1stのDragonlance AdventuresではDalamar's Ring of Healing、2ndのTales of the LanceではGolden Ring of Healingと記述されている。
 癒しは「信仰系」能力であることはDL世界設定でも例外ではなく、作内でもしじゅう言及されている。にも関わらず、この指輪は秘術系術者が「死から逃れるための最後の手段」として携帯するもの、といずれのデータにも記載されているが、その理由(どうやって秘術系で実現しているのか、それとも実は信仰系の品なのか)はこれらの資料には全く説明がない。1stのデータではCure Light Wounds、2ndのデータでは固定6hpを回復し、回復量そのものはわずかでしかないが、hpが0やマイナスに落ちている場合は触れるだけで(つまり、前述の瀕死状態でも自分で使えると思われる)1hpまで回復できる。チャージも特殊で、これで1度癒されたことのある人物には再度効果は発揮しない。例外的なアーティファクトめいた物品のようである。





クリンのデミヒューマンの限界レベル


 クラシカルな(3.Xeより以前の)D&Dでは種族ごとに限界レベルがあり、特にAD&D1stではデミヒューマンのそれは非常に低いことに前回も触れている。具体的には、どんな種族でも盗賊に制限はないが、それ以外の得意なクラスは10lv前後までしか上げられず、不得意なクラスには全く就けないか、あるいは一桁lvにとどまる。例えばAD&D1stのPHBによると、種族「エルフ」は盗賊(Thi)のみ無制限で、戦士(Ftr)7lv, 魔法使(MU)11lvまでしか上げられず、それ以外のクラスには就けない(エルフの聖職者(Clr)はNPCしかなれない)。また、StrやInt値が低いとさらにFtrやMUの限界レベルは低い。「海外エルフはトールキン準拠のチート種族」なる風説は完全な事実無根であり、海外RPGで80-90年代に支配的であったAD&D1stにおいて、エルフは近接はもちろん魔法においても限界能力は人間に遠く及ばない。
 これは、当初せいぜいが10lv前後までのプレイしか想定していなかった時点で作られたOD&Dの設定を、AD&D1st当時は引きずっていたためと想像される。人間も限界レベルがないとはいえ、おそらく「頑張ればエルフを超えられる」といった程度で、十数やら数十レベルに上げることは強く想定していなかったと考えられる。(一方、デミヒューマンの限界レベル以降も何らかの能力上昇を行うルールはCD&D緑箱などで知られるものをはじめAD&Dにも何種類かあるが、付け焼刃の感は免れない。)


 AD&D1stのCRPGであるGoldBoxのフォーゴトン・レルム(FR)のシリーズでも、このPHBのデフォルトのルールと同様であり、レベルが高くなりがちなFR世界の高レベルシナリオではデミヒューマンは(盗賊以外)全く使い物にならなくなってくる。
 しかし一方で、GoldBoxでもドラゴンランス(DL)の方のシリーズでは、AD&D1stデフォルトとは異なり、デミヒューマンが高レベルまで成長可能な点についても前回述べた。前回言い忘れていたが、これもCRPG版独自ではなく、元のPnP(卓上ゲーム)版のDLのルール集のデータに準拠したものである。


 以下、AD&D1stのDL世界の資料であるDragonlance Adventures (1987, 『ドラゴンランス伝説』完結直後)から抜粋し、代表例を挙げるが、UL(制限なし)はレベル上昇の限界なし(ただし、クリンでは実質18lv)である。バーバリアンBbnとキャバリアCvlはこのDragonlance Adventuresでは使用が前提とされているAD&D1st版Unearthed Arcanaというルール集のクラスで、3.Xeなどのそれとは全く異なっているが、後者のさらにバリアントであるソラムニア騎士(下記Cvlレベルとは別)の特殊ルールとあわせて、別の機会に述べる。ティンカーTnkはノーム専用の技術者クラスである。


                           Ftr  Bbn  Ran  Pal  Cvl  Clr  Drd  Thi  Tnk  Wiz
--------------------------------------------------------------------------------
ケンダー                    6   10    6             12    6   UL
ノーム                                                             UL
シルヴァネスティ・エルフ   10        UL   12        UL                   UL
クォリネスティ・エルフ     14        UL        10   UL        UL         UL
ハーフエルフ         9        11             UL   UL   UL         10
マウンテン・ドワーフ       UL              8    8   10         8
ヒル・ドワーフ             UL   UL    8    8         8         8



 マイナーな種族、カガネスティ(ワイルドエルフ)、ディメネスティ(水エルフ)といった種族もすべて設定がある。
 なお、最初の小説と同時期・同ストーリーのシナリオモジュール(DL1:Dragons of Despair等)の時点ではまだ上記のDragonlance Adventuresのような詳しい設定は書かれておらず、PHBのハーフリングと差し替わるケンダーについて数行の説明がある程度である。つまり、小説当初の想定(あるいは小説のベースとなった実プレイング)の時点ではPHBのデフォルト(WG世界、というには語弊がある)に近かったが、これに対して、Dragonlance Adventuresの時点でも非常に追加ルールが多い。
 一般にgdgd人間ドラマで英雄的行動には程遠いキャラの多い小説のイメージから、DL世界はローパワーと信じられていることが多いが(日本のDLファンに、キャラやアイテムのルール上の強力さを、公式データの根拠を挙げて説明してもなお信じないことが多い)強力なデミヒューマンひとつとってもPHBよりも遥かにハイパワーなルールが多々ある。これは推測だが、おそらくファンがDL世界のパワーを求めたというわけではなく、作品世界の圧倒的な人気(数千万単位。なお、指輪物語が億単位、ファイナルファンタジーが百万単位、Wizardryが一万単位)故に、それほど必然性がない細部までデータ化(差別化)を行っているうちにこうなったのではないかと思われる。


 余談はともあれ、上記限界レベルからは、エルフは秘術系・信仰系ではかなり制限が少なく、さらにデフォルトでは不可能だったレンジャーにも就け、無制限で上げられるようになっている。ドワーフの戦士も同様である。しかし、それ以外のクラス適正については、デフォルトより若干上程度で、さほど差がないことが多い(後では一般的になっているドワーフ僧侶はクリンでも作り難い)。一方、盗賊系はデフォルトではどんなデミヒューマンでも高レベルにできたが、クリンでは制限が多く、盗賊系に就けない種族も多い。
 これらの特性からは、DL世界の設定では、デミヒューマンそれぞれの個性付けよりを強くしたものと推測できる。OD&D当時のままで長期間プレイの実情に沿わなくなってきたAD&D1stのデフォルトの限界レベルを変更し、小説でも活躍したデミヒューマンで、長期間プレイすることを想定したルールになっていると思われる。そして、やはりこの当時は定型から外れたようなキャラは作り難い。制限によって、逆に小説でも描かれているような世界の再現を自然と支援・誘導するような設定になっているといえる。





ドラゴンランスとGold BoxのCRPG


 初代Pools of Radiance (PoR)等と同時に展開されたAD&D1stのコンピュータプロダクトとして、PoR(『フォーゴトンレルム(FR)』世界設定)と同様の、SSI社のGold BoxエンジンのCRPGが、『ドラゴンランス』世界設定でも3作作られている。


 Champions of Krynn (1990)
 Death Knights of Krynn (1991)
 The Dark Queen of Krynn (1992)


 の3作がそれである。前の2作はPC版の日本語移植さえ作られた。しかし、その知名度は非常に低い。日本では「ドラゴンランスのゲーム」は、FC(NES)で出たアクションゲームの(かなりの残念ゲーとして有名な)『ヒーローオブランス』『ドラゴンオブフレイム』しか存在しなかった、と信じ込まれていることがほとんどである。というより、わずかなPCユーザーを除いて、当時のAD&Dの「CRPG」自体が、FCにも移植されたPoR1作しか存在しなかったかのように信じられていることも多い。
 「TSR/SSI社=一番人気のドラゴンランスで肝心のCRPGを作らなかった愚か者ども」というのが、あたかもD&D系全体の最大の突っ込みどころであるかのように、日本では誤って語られていることも少なくない。


 上記のGold Boxの3作とアクションゲーム2作(ヒーローオブランスら2作は、銀縁の箱に入っておりSilver Boxとも呼ばれる)の他にも、ドラゴンランスのコンピュータゲームには、空戦シミュレータもどきのDragonstrikeやストラテジーのWar of the Lance、また複合ゲーム的なShadow Sorcererなどがあり、これらも実は本編との関係でかなり重要なのだが、今回はFRとの関連・比較でも重要な主要なRPGシリーズ、Gold Boxに限って話を進める。


 当時の雑誌の紹介などでは、「AD&Dのゲームシステムに興味があるならFRのシリーズ(PoRや続編4作)、元々ドラゴンランスのファンで世界・ストーリーを追体験するならDLのシリーズを選ぶといい」などと紹介されていた。これは、DLの方は原作つき(そして、本国では原作の人気が天井知らずに高いので、遠慮なく原作ファン向け限定に作られている)という点を考慮したと思われるが、あたかもFRのシリーズの方がゲーム性では出来が良く、DLの方はシステム面は劣っているというような印象を与えがちな紹介である。

 しかし、実を言うとGoldboxのこれらのシリーズは、システム面から見ても、DLのシリーズの方にむしろ見るべき点が多かった。PnP(TRPG)での両シリーズは、コアルールのAD&D1stに比べると、ワールド独自の特殊ルールが少なからず存在するのはFRでもDLでも同様である(DLは小説のイメージからローパワーなワールドのように見られがちだが、FRと比較してすら非常にハイパワーなルールも多々ある)。GoldBoxのCRPGでは、FRのシリーズがこれらの特殊ルールをほとんど採用しておらず、コアルールのままになっているのに対して、DLのシリーズではかなりの特殊ルールを採用していた。
 例えば、AD&D1stのコアルールでは、デミヒューマンはThief以外のどのクラスでも、レベルが一桁か10前後までしか上がらない。Gold Box EngineのFRのシリーズではこのコアルールのままを再現しているため、10lvを超える2作目あたりからは、ほとんどマルチクラスのデミヒューマンを入れる余地はなくなってしまう。(なお、AD&D2ndではこの限界レベルはかなり引き上げられ、さらに後年の2nd準拠のInfinite Engineの『バルダーズゲート』(BG)等のシリーズでは、その他の選択ルールにあるようにデミヒューマンのレベル制限自体が撤廃されている。)
 これに対して、Gold Box EngineのDLのシリーズでは、種族によってレベル制限のないクラスも多く、制限があるにしても10lv台後半という特殊ルールが採用されている。そのため、後のBGシリーズ以上に、高レベルまでマルチクラスのキャラ編成を考慮する余地が多くなっている。
 サブ種族、サブクラス類の再現も多く、エルフやドワーフの亜種族、赤と白のローブの別(ちなみにDL小説でおなじみの赤と白の月の満ち欠けによる能力変化も再現されている)、各神格ごとのクレリック、それらの能力差も再現されている(無論FRの方はコアの種族やクラス以外の再現は無い)。特に、パワーゲーム志向のD&D系全体をとっても強烈な強キャラと語り継がれている、「ソラムニア騎士」3階級のサブクラスも導入されている。総じて、高レベルまでの長期間のキャンペーンを通じて、DL独自のゲームシステムを体験、考慮できるようになっている。ドラコニアンの危険な能力、ドラゴンランス槍の強力さなど(小説の描写からはわかりにくいが、実は他のAD&D世界設定と比べても非常にハイパワーな)特殊ルールも多く再現されている。
 これは、Gold BoxのCRPGの中ではこれらDLのシリーズの方が後に作られたという点もあると思われるが(PoRは1988年、CoKは上記するように1990年である)非常に多い原作ファンのために、再現のためにかなりの注意を払っていると思われる。


 一方、ストーリーの方はというと、上記したような『ドラゴンランスのファンが世界を味わうのに適している』という評が適切かというと、どうもそう言い切れるわけではない。中身を説明するのが手っ取り早いと思われるが(すでにネタバレという時代ではないので)、例えば、2作目は死の騎士・ソス卿がスタームの遺体を乗っ取って最強騎士になろうとするのをプレイヤーキャラ達が阻止し(つまりソス卿を打倒してしまう)、3作目は、惑星クリンの裏側(タラダス大陸)で「ガルカスの灰色石」の力をかりて奈落から脱出する女王を奈落に閉じ込められているレイストリンの力もかりて阻止する(つまり、五つ首の竜を打倒してしまう)といったもので、良くも悪くも、ファンの安易に想像する夢展開やら燃え展開の直な再現である。
 これらは『夏の炎の竜』以降を読んだファンならばすぐにわかる話だが、公式のソス卿や灰色石のその後の展開とは著しく矛盾するため、完全に非公式のパラレルワールドである。(ただし、『夏の炎』以降の展開そのものが、それ以前のファンからは決して好評なものではない。)
 つまり、ファンでなければ理解できず、ファンでこそ楽しめるような話だが、かといってこの世界(原作)を大事にするファンらにとって誰にでもプレイする価値がある、とも言い難い。それこそ日本で同様の位置にある人気シリーズ、ガンダムの派生ゲームのifストーリーのような、微妙な位置とも思える。
 当時の全般的な評価はばらついており、1、2作目がDragon誌やCGW誌で好評を得たのに対して、3作目は殊に致命的なバグが多く、戦闘以外のストーリーや仕掛けがあからさまに少なく、さらに92年にはすでにかなり古く難があったシステムであることもあって、評判は芳しくない。20を超えるようなレベルの冒険についても、FRのシリーズよりは強化されているとはいえ(FRのGoldboxはさらに味気ないが)後のAD&D2ndを再現した『バルダーズゲート2』等に比べると、高レベル呪文は非常に少ないし技能も存在しないので、非常に面白みがない。


 上記のような事情が、『夏の炎』『魂の戦争』を経て完結した現在となって、本国のDLファンらからはどう見られているか、また、単純に(FR世界のPoR等が何度も再販やリバイバルされているのに対して)これらDLのゲームがリバイバルや言及されないのは何故か、調べてみたことがあった。
 わかったのは、どうも2000年代には、権利関係(一時、DL世界が権利譲渡によってD&D系のシステムではなくなっていた頃か)で、これらのDLのGold Boxのシリーズは出すことができず封印されていたという話である(なお、現在はGoGのDL販売でWindowsで動くPC(DOS)版を入手できる)。しかしまた、D&D5版のルールブック内にDL世界のキャラが例として挙げられるようになった現在、DL世界の派生作品も今後事情は変わってくるのか、それはわからない。





・検索ワード

ドラゴンランス レイストリン レベル
 『戦記』開始時(AD&D1st 'Dragons of Despair')3lv、『伝説』当時20lv。
 開始時すでに”大審問”を通過していたレベルが3というわけだが、実のところクリン世界の大審問とは、呪文レベル2に手が届いた時に課せられる試練に過ぎない。また、『戦記』2巻でフィズバンに対してFireballがまだ手におえない、と言っているので、4lv以下というのは予想がつくだろう。

 一方、終盤20lvは(FR世界の誰ぞがAD&D当時でも29lvなどに比べると)あまり高くないように感じるかもしれない。あるいは、AD&Dのあくまで基本ルールではレベルが20までなので、基本ルールのみで表現した「便宜上のデータでは」最強の魔法使を20lvにしているにすぎない、という言い方もできる。が、実際のところを言うと、強大化した後でさえ、レイストリンの能力や行う事の描写を見ているところ、AD&Dの魔法使の基本ルール的な能力の範疇からは別に極端に飛びぬけているわけではないので、ある意味では妥当とも言える。

 なお、後のd20(3.Xe)系のデータは、後で作られたもので小説の描写の元となったというわけではないが、ここでは『伝説』時のレイストリンはCR28とのことで、D&D標準のWG世界の代表術師モルデンカイネンのCR27とほぼ同格にあたる……。





属性

 D&D系の属性(秩序・混沌、善・悪)は、基本的に本人の個人的な性質(対人関係を尊重するか否か、他者を尊重するか否か)を示しているものである。他のゲームやロー・カオス対立型のFT小説のように、いわゆる「世界のバランス」や「哲学・主張」を示しているものではない(ただし、個人の性質の結果として、主張もそうなることはある)。そのため、これらの属性が、「善の軍勢」と「悪の軍勢」のどちらにつくかという立場に一致しているとは限らない。(魔法使いのローブの色は、魔法に対する姿勢としての個人の性質を示しているため、これよりは属性と近い。)
 ただし、ゲームのシナリオとして設定された当初、小説として人物が軍が動き回り悩み始める前は、これら(個人の属性、善悪の軍、ローブの色)はほぼいっしょくたになっていたのであろう。

スターム     秩序にして善
キャラモン    秩序にして善
リヴァーウィンド 秩序にして善
ゴールドムーン  秩序にして善

タニス      中立にして善
フリント     中立にして善

レイストリン   真なる中立
タッスルホッフ  真なる中立

(サブキャラクター)
エリスタン    秩序にして善
ティカ      中立にして善
ギルサナス    混沌にして善
ローラナ     混沌にして善

 これらのデータは読者には意外に思えるかもしれず、現に筆者の周囲のクラシカルD&Dプレイヤーがそうだった。軟派というか軽薄と言ってもよいキャラモンが、騎士の鑑として引き合いに出されるスタームと同じ「秩序にして善」であること、また友人思いのタッスルホッフが「善」でなく中立であること、さらに古今のFTの登場人物の中でも最大級にねじ曲がった性格であることに疑いのないレイストリンが「混沌」ではなく中立であること、等である。

 これらには、いくつかの説明を加えることができる。まずは、本来のD&D系において、本人の性質である属性というのはあくまで性質を9種類に大別したものに過ぎず、極端にその性質を持つことを示しているものではないという点である。
 特に「秩序にして善」は、パラディンがその極致として説明する例に使われることからも、「秩序にして善」の者が全員がパラディンのように、もとい、スタームのように厳格だと思い込まれている例が非常に多い。しかしながら、パラディン(やスターム)とは、「秩序にして善」の性質を持つすべての者の中でも最も極端なごく一部に過ぎない。キャラモンに関しては、軽い人物ではあるが、ものを決断する段になれば結局は「馬鹿正直」である点が「秩序にして善」であると言えそうである。

 もうひとつは、このサイトの別の記事でも述べているが、D&D系の属性で「善」というのは利害を越えてでも他者を尊重しようとするものを指し、自らに益があるならば助ける、というものは「中立」にあたることである。益には、友人や身内ならば助けようとする、といったものも含まれる(特に真なる中立を「主義」として持つ者には、友人や身内すら特別に扱わないといった者すらいるが、それは属性の分類とはまた別の問題である)。友人には思いやりが深いが、通りすがりの者に危害を加えても無頓着なことが多いタッスルホッフは、中立としては強い「善傾向」は持っているがやはり「善」そのものではないという解釈ができるだろう。

 最後に、D&D系における属性はキャラクターが作られた時に今後ロールプレイをするための「指針」として与えられるもので、すでに決まっている性質にあてはめて強引にレッテルが貼られるものではないし、典型たることを強要するものでもない。実際はゲームのプレイに従って典型とは離れることもあろうし(極端ならば属性自体がゲーム内に変化することもあるが)まして小説の描写が続くうちに属性では表現しきれない(矛盾というほどではなくとも)ような複雑な人間性を呈していくことも多いだろう。現に、レイストリンの属性は後のシリーズで大きく変化していくことになる。





・マギウスの杖


>487 名前:NPCさん :2005/08/25(木) 02:04:56 ID:???
>お邪魔します、小説ドラゴンランスシリーズに出て来る
>マギウスの杖の能力を聞きたかったのですが
>このスレ正しいでしょうか。

>あの杖、小説では光源の役割しか果たしてない気がして
>ゲームではもう少しマシな能力なのかと気になった次第で。

>AD&D1stのDragonlance Classicsによると(別のデータでは細部は違う可能性がある)
>・武器能力は+2スタッフ
>・プロテクションリング+3相等の防御能力
>・フェザーフォールとコンティニュアルライト/日
>・所持者は光、空気、精神に影響を与える魔法の持続時間が2倍
>・精神集中をやめた後も1ラウンド集中効果が持続
>・ダメージ決定ダイスがすべて+2
>と、かなり強力ではあるが派手ではない、「所有者の能力を底上げ」的な力にとどまっている。


 
SF板で発したこの質問がどういうわけかD&D 3eのスレッドにやってきたのは、1stからのAD&Dと現在の3.Xeがかなりの別物だという感覚がなかったのかもしれない。2ndスレッドに誘導するまでもないだろうとその場で上記のように答えたのは筆者だが、そのために3.Xe関連発言を集めるSiGにまで収録されてしまった。
 「別のデータでは細部は違う可能性がある」と書いたのは、実際にシナリオの収録時期によって違っているデータが多数あることが念頭にあったためである。ことに、タニスの剣ワームスレイヤーやドラゴン・オーブなども、記述によって「地味」なデータになっている。Dragonlance Classics(最初に刊行されたシナリオのまとめ冊子)でのマギウスの杖も、かなり弱いバージョンのデータではないかという予感があった。

 そこで改めて調査してみたところ、案の定、一度は小説等が出きってからの、後出のAD&D2nd用のTales of the LanceにおけるStaff of Magiusのデータは、上記とは細部どころか全く違う、遥かに強力なものだった。そして、その内訳はとてもスレッドのレスでは説明しきれない非常に複雑なものになっている。

 まずプロテクションリング+3、武器能力やダメージダイス+2、持続時間や集中といったあたりは同じである(これだけでも、つまり上記でも充分すぎるほど強力ではある)。全く違うのは発動による擬似呪文能力で、チャージ消費式のきわめて多彩なものになっている。


1チャージ:コンティニュアルライト、フェザーフォール、ダークネス15’R、ホールドポータル、ディテクトマジック、プロテクションフロムイービル/グッド、エンラージ、ストライキング(スタッフのダメージが2倍)。
2チャージ:エンタングル、ガストオブウィンド、ジャンプ、マジックミサイル(3本)、ノック、スパイダークライム、レビテート、テレキネシス。
4チャージ:ディスペルマジック、ライトニングボルト(6d6)、フェインデス、ロケートオブジェクト、ファイアーシールド、パラライズ、インビジビリティ、サモンスウォーム。


 わかる人はわかるだろうが、これは基本ルールのうちチャージ有アイテムの中でも非常に強力なものに属する、スタッフ・オブ・パワー(FRの小説にもしばしば登場していた)にも匹敵するほどの多様な能力である。さらに決定的に違う点は、スタッフ・オブ・パワーが消費式であるのに対して、この杖は20チャージを持っており、このチャージは銀の月ソリナリの光に1時間あてるごとに1チャージ回復するという、充電式で無限の使用が可能になっている。
 (なおソリナリの光という点から、ヒューマとともに戦った魔術師マギウスは設定では赤ローブとあるが、この設定ではむしろ白ローブを想定していると推測できる。パーティの魔術師が赤や黒でなく、白ローブのキャラクターを作成することを予想して作ったのではないだろうか。無論、赤や黒ローブの魔術師が使っても特に不利があるわけでもないが。)

 ただし、この強力な杖の擬似呪文能力は最初からすべて使えるわけではない。所持者(6レベル以上である必要がある)が杖を持って念じるたび、低確率(1d10の1)で上記のうちランダムでどれかの能力が認識される。そうして3回認識した能力に対して、しかも使い手がIntの半分(Int18でも45%)チェックに成功して、はじめてその呪文能力を自分で使用できるようになる。
 非常に多彩な力がこめられているが、よほど使い込まない限りはすべての能力を知り、また使えるようにはならない。レイストリンやパリンは最初は明かりや羽毛落下の能力しか知らなかったのであろうが、特にレイストリンのプレイング中どのように杖の能力を使えるようになっていったのかあとから想像すると興味深いところである。

 さらにこの杖で非常に興味深いのは、上記のランダム認識のチェックの際、選ばれたのが高位の呪文能力のいくつかだった場合、その場でConチェックに成功しないと使用者は激しく消耗しきり、判定と移動にペナルティを受ける、という点である。
 レイストリンが呪文をかけるたびに消耗しきるという描写は小説『ドラゴンランス』ではお馴染みのものであるが、実際はAD&Dには、特に呪文をかけたその場で肉体的にも消耗してペナルティを受けるという基本ルールがあるわけではない(使用回数に制限があるのは消耗のためもあるという説明はあるが)。また、レイストリンはCon10(ほぼ平均値)であり、小説の描写のような極端な虚弱体質では別にない。故に、小説の虚弱描写は、「魔法使い全般が」脆弱であること(開始時にキャラモンhp56, レイストリンhp8)に対する極端なロールプレイの反映であるとか、小説に起こす際の著者らの完全な創作である等と、ファンの間では推測されていた。
 しかし、あるいはこの小説後のAD&D2ndの杖のデータから後付設定的に逆算するならば、あまりにもしじゅうレイストリンが弱っているのは(Con10ならば、杖の消耗チェックには半々でしか成功しない)実はこの杖の使用による消耗にあたるかもしれない、という想像も可能である。






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