PnPコンバートモジュール
 (※下の記事の方が新しい)


 当然予想できる話だが、NWN1/2には、D&DシリーズのPnP公式の既存のモジュール(市販シナリオ)をコンバートしたモジュール(WG, FR, DL, ミスタラ, レイブンロフト等)が非常に多数ある。このサイトでも他記事で数多く取り上げているし、翻訳モジュールリストやNWN1モジュールレビューの類でも多々見られる。
 コンバートされるようなものは、多くが元モジュールが良作、そうでないとしても少なくとも完成品なのだから、一定以上の品質は確保されている、と誰しも思うところである。

 しかしながら、CRPGのモジュール化の時にも全く同じことを言っているのだが、筆者に言わせれば、これらが品質面では一定レベル以上とは限らない。アイディアがあってもNWN1/2のモジュールとしてまとめられるかどうかは、モジュール作者自身のツールセットのエディットに依存することは、オリジナルでも既存PnPモジュールでも変わらない。モジュール内容のコンバートがうまくいかないとどういうことになるかといえば、バランス(特にD&Dの版の違いや、PnPとCRPGの違い、例えば戦闘頻度やリアルタイムとターンなど)の感覚を見誤ったり、モジュール作成技術自体が足りずに表現できなかったり、場合によっては、プレイヤーの方が元ネタのPnPモジュールを知らずにNWN版をプレイすると完全に意味不明になっていたりする(これらはPnPモジュールに限らず、他ゲームのNWN化などについてさらに頻繁に起こる)。ましてD&Dのモジュールというのは、往々にしてストーリーやら物語のテーマやらを重視されたりその点で評価を与えられているのではないことが多い。無論下を見ればきりがないであろうが(vaultの4000ものNWN1モジュールの中には「モジュール作者の二日酔いの起き抜けの悪夢を強制的に見せられるような代物」も多数含まれていることはよくNWN1サイトではネタにされていた)少なくとも、PnPコンバートという理由だけで一定以上の質が確保されているという根拠にはならない。
 かつてのセガ版の頃のNWN1の日記サイトで、「英語版モジュールの紹介」と称して、決まってPnP原作モジュールを選んで多人数マルチプレイをレビューしていたが、毎回ことごとくハズレモジュールばかり引いていた、というサイトを覚えているNWN1ゲーマーも多いと思われる。

 しかし、ハズレではなく、ある程度の出来でソロプレイに堪えるようなNWN1/2モジュールであれば、D&D公式モジュールがおおまかにどのような内容(厳密に当てにはならないにせよ)であったか、PnPの実プレイよりは手軽に触れることができるので、有用性は高いと思われる。一方、PnPの方のD&Dの内容には特にこだわりがないという場合は、PnPコンバートという要素には(NWN1/2モジュールとしてそれ自体が良作という評価がある場合以外は)特に選ぶことにメリットはない。

 以下はそれらを踏まえて、いわゆるハズレを引かないための足しになる情報の羅列で、必ずしも良作をピックアップした情報とは限らない。



〇日本語版モジュール、Archiveで落とせるもの


・カスタナミアの失われた島

 AD&D1stのC3: The Lost Island of Castanamirのコンバートモジュールである。遺跡探索アドベンチャーとなると仕掛けなどが面倒なのではないかと躊躇するところだが、少なくともこのNWN1版はそれほどではなく、思ったよりあっさり味でプレイしやすい。
 実はこのモジュールのPnP原作は、C1(
ナターリア無双)やC2(『ゴーストタワーの魂の石』)モジュールとの続きものでもあるが、特にC1-C3各編を独立してプレイするのに支障はない。C2にはPnP版の他に上記Super Endless Questゲームブック版をじかにNWN1にコンバートしたモジュールもあったりする。



・Spires of Ravenloft

 以前も雑記類で述べたことがあるが、AD&D1stのI6: Ravenloftモジュールが元である。5版のコアルールにも名前が出てくるD&D定番悪役、ストラード伯を打倒する最初のモジュールである(有名悪役には1st当時にはただの単発シナリオのボスキャラだった者も多い)。
 Ravenloftセッティングにはアンデッド等を強化する凶悪な特殊ルールがあるが、I6の時点ではまだRavenloftが単独のワールドセッティングだったわけではなく、また、このNWN1版も、わりと厳しいハクスラではあるものの、そういった特殊な仕掛け等はない。同様にI6をテーマとした、かなりいまいちな出来のSuper Endless Questゲームブック版(富士見邦訳では『暗黒城の領主』)のように正攻法ではバッドエンドにしかならないおかしな展開があったりもせず(このゲームブックのせいで、NWN1版の初プレイ時に妙な深読みをしたことがある)ごく普通な攻略が可能である。
 やはり基本的には多人数マルチプレイや、可能であればDMありを想定されているらしく、妙なだだっ広さと冗漫さ、一方でゴシックホラー雰囲気モジュールの割には演出のかなりのそっけなさは、そのためでもあると思われる。が、ソロでプレイするのに問題があるというほどではない。



・病魔の坑道

 セガ版の最初期にセガのウェブサイトから落とすことのできたモジュールであるが、実はこれは3.0eのPHBの巻末に載っていたアドベンチャーのコンバートであり、PnP版原作モジュールということができる。
 ただし、このNWN1版は妙にだだっ広かったりラスボスが異様に再生力があったりと、かなり多人数パーティーでのマルチプレイ、特にDMがいるプレイを推奨されていると思われる。ソロでのプレイは(構造上は)可能だが、おそらく向いてはいない。




〇英語モジュール


・B2: Keep on Borderlands (1-4lv開始) (新vaultのDLページ)

 B2についてはNWN2版も紹介しているが、ここでは別の作者によるNWN1版である。BD&D-CD&Dの有名モジュールで、新和時代の赤箱用モジュールの和訳は「国境の城塞」である。
 B2は海外では非常に普及度が高いモジュールであるためか、NWN1には再現モジュールが異常なほど多く、ファンサイトで「推奨」されているB2モジュールだけでも両手に余る。なので、その中から自分で選んだりしてもよいのだが、上で上げたのは安牌の、「ひねりのないシンプルな作り」の一例である。ただし、休息制限のような追加ルールやアイテム、マップのNWN1ソロ向け簡略化などのアレンジが適度に加わっている。また、再現モジュールには、記事冒頭で述べたようにマルチプレイや要DMでないと実プレイにたえないものも多いが、上記は問題なくシングル、ソロキャラでプレイできる。



・B3: Palace of the silver princess (1-3lv開始) (新vaultのDLページ)

 B3はその名の通りB2に続くCD&Dの有名モジュールで、新和の和訳は「アリクの瞳」である。
 PnP版については、単純なダンジョンアタックのB2とはうって変わって、王宮や遺産にまつわるミステリアスな背景の仕掛けのあるモジュールだが、広いマップと戦闘が中心である傾向は同様である。戦闘と仕掛けのバランス上、B2よりこちらがゲーム入門に向いているのではないか、一方DMへの負担が大きい、といった点はオールドゲーマーの間で議論がある。
 ちなみにWikipediaのENにもJPもこのモジュールの記事があるが、分量の大半が「最初の版が重役の判断で回収・廃棄された」顛末と、それに関する憶測が延々と書き連ねられており、モジュールの内容や評価についてはろくに情報がない。クラシカルD&Dマニアは有名モジュールの内容はとっくに知っているので、それらの内容よりも、背景事情や有名デザイナーらの裏話の方が興味があるだろう、と判断したのかもしれないが、おそらくはD&Dモジュールなぞの単独Wikipedia記事を作るようなマニアは記事の情報性の充実よりそんな些末事にばかり気をとられている、と言ってしまえばそれまでである。
 NWN1版については、これも再現モジュールは多いが、上記は上のB2と同作者の、比較的シンプルなつくりのものである。ただし、B2に比べるとマップがかなり冗長な点が、PnPコンバートである点を思わせる。また、B2とB3は続き物ということになっているのだが、少なくとも同作者のこの2作は完全に独立しており、別々にプレイ可能である(同作者で2連作になっているバージョンも別に配布されている)。
 なお、archiveには「アリクの瞳」として、B3の上記とは別のコンバートモジュールが和訳されたものがあるが、これは元のモジュール自体が調整不足らしく問題が多く、あまりおすすめできない(あるいはDMのいるオンラインマルチプレイでDMが問題を解決することが前提だったとも考えられる)。



・G1: Steading of the Hill Giant Chief (G1は8-12lv開始〜Q2終了時40lv)(新vaultのDLページ

 G1から続く長大なシリーズはPnP原作でもNWN1でも定番の戦闘モジュールである。
 G1-G3: Against the Giantsは、AD&D1stでも初期(G1の単体版が1978年になる)の連作モジュールだが、例によって微妙に続けても続けなくてもいいような感で、海底や地底に進むD1-D3、さらにはロルス女神と対峙するかの有名なQ1モジュールへと続く。なお、PnPでこのシリーズが連続でパックされたリニューアル版の名はGDQ1: Queen of the Spidersとなっており、結局ロルスが中心となっている。
 これらは当然AD&Dのものは訳されていないが、G1-G3は5版用の公式コンバート集Tales from the Yawning Portal(HJ訳『大口亭綺譚』)に収録されたものが邦訳(「巨人族を討て」)されている。

 これらのG1-Q1の連作は全てNWN1で再現モジュールが作られているが(G1-3にはNWN2版もあるが、別の箇所で述べる)例によって、それぞれ複数の作者による再現がある。
 今回冒頭のリンクに挙げているものは、シリーズのいずれも旧vaultでは高評価、殿堂入り(Hall of Fame)しているものであり、ファンサイトの類でもよく話題に上るものである。同作者によるQ1までの続編も上記からリンクされているが、さらにこの作者による続編のQ2もある。

 が、手っ取り早く言ってしまうと、純粋にNWN1のモジュールとして見た場合、ストーリードライブの現在の良作モジュール、ひいてはSoU/HotU, NWN2などを体験したいまどきのNWNユーザーが今体験したところで、あまり納得できる出来のものではないと思われる。
 例えばG1についていえば、平坦な戦闘(ヒルジャイアント、オーガ、エティンなど)が続き、PnPコンバートにつきものの異様にだだっ広いマップ上で、シナリオクリアにあたって必須の抑えるべきポイントというのは2か所ほどしかない。
 「戦闘モジュール」にも、2010年代以降良作とされているものも数多くあるが、それらは連続戦闘を飽きさせないための工夫、例えばアイテムルートなどの特殊ルールなり、物資の管理なり、遭遇のメリハリ、これも例えれば弱敵をなぎ倒す爽快感と強敵を打倒した達成感を配置しているなど適度に配慮されているものが多い。本モジュールはPnPコンバートなのでそのままと言ってしまえばそれまでではあるが、CRPGに変換するにあたってのアレンジくらいはあってもいいはずである。
 このモジュールの好評と殿堂入りについては、NWN1でもかなり初期のモジュールであり(最初の投稿が2004年である)また、NWN1初期にはシングルプレイやPWサーバーよりも、マルチプレイ(オンラインセッション)のウェイトが大きかったといった事情も関わっている可能性がある。すなわち、マルチプレイ重視のモジュールには、内容がシンプルな割にはだだっ広く、必須でない移動箇所や探索箇所が設けられているものが多い。巷の評価にはこれらを考慮する必要もあるかもしれない。



・H4: The Throne of Bloodstone (15-30lv)(新vaultのDLページ

 AD&Dには、大スケールモジュールとして前述のQ1などと並んで、対象レベルが18-「100lv以上」用で、他次元界を飛び回りオーケスやティアマットなどの著名悪役と正面から丁々発止を繰り広げるシナリオがあった、というのは必ず一度は聞いたことがあるだろう。
 OD&DやAD&D1st初期は高レベル用のルールはコアルールなどではかなり乏しく、せいぜいが10lv前後までのプレイングが中心であったと思われる節がある(特に最初期は重要NPCのレベルなども概して低い)。その一方で、システム上はlvには上限がなく、一応20lvで区切られている2nd以降と異なりエピックレベルといった区切りもない。そのため、高レベルルールがないので逆に単純に数値だけをどんどん加算することにプレイヤーもDMも負担が全くないため、超高レベルまで伸ばすプレイヤーも少なからずいたと推測できることがある。それはプレイングの風説であったり、また一例として、このようなモジュールの対象レベルであったりもする。
 PnPのAD&D1stのH1-H4(Bloodstoneシリーズ)は、H1がいきなり15lvから始まり大規模な脅威に対抗するシリーズで、流れとしては後年のRed Hand of Doom(邦訳『赤い手は滅びのしるし』)との類似点が指摘されることもあるが、H1などは、ウォーゲーム用のbattlesystemルールとの併用がむしろ売りになっていた。H4はサンプル(プレロールド)キャラに19lvと100lvのものが付属していることから、本来はH1から続ければ19lvを想定していると思われる。100lvのキャラの運用説明はあるが「ルール上さほど追加されるパワーはないし(注:上述のように初期はそうだった)パワーを与えなければいいのでかまわん」などと非常に無造作であり、おそらく現在のエピックプレイヤーの参考にはならないと思われる(この頃からCRPGのような数値だけを99lvだろうが65535lvだろうが稼いでも多元宇宙最強になるにはほど遠い、という立場が既に見えるともいえる)。なお100lvサンプルキャラはLegends and Loreから抜粋された実在伝承英雄のペルセウスやキルケなどを再編されたものだが、データ以外の説明やなぜH1以降の冒険にそんな奴らが参加しているかという説明はまったくない。
 H1-4自体は1st最末期で、内容上はその版の次元界設定の集大成のような大スケールキャンペーンのひとつといえる。なぜかH4だけがFR世界のロゴのついたモジュールになっているが(H3にはあのエド・グリーンウッドが共著に入っているにもかかわらずFRロゴがない)この時点では次元界の「転輪」はWG世界だけでなく他のワールドにも共通して使用されていたので(2ndのPlanescapeのように転輪が全ワールドに直結している、という設定があるわけではなく、単に使用区別というものがないだけである)さほど大きな意味があるわけではない。

 さて一方、このNWN1コンバートモジュールだが、無論100lvなどはサポートしておらず、普通に(HotUレベルなどの)エピック用になっており、対象の目安は15-30lvである。目安は(H1を意識してか)15lvパーティー(パーティーはオンラインマルチプレイの場合と思われる)とは書いてあるが、多分に、NWN1のプレイヤーの手持ちの高レベルキャラとして手っ取り早く、HotUクリアキャラ、28lv等も想定して作られていると思われる。
 このコンバートモジュールは、原典だと遭遇し得るデーモンやアンデッドが百だの万だのといった非常識な状況は抑えられ、このlvのNWNキャラを使ったソロモジュールとしてプレイできるよう、ごく普通に調整されている。旧vaultでは高評価、殿堂入り(Hall of Fame)しているものの、例によって、NWN1でも初期のモジュールであるためもあり、かなり大味で粗もある(進行不能となるほどではないが、細かいバグは報告されている)。しかし、次元界をまたにかけ、有名ユニークモンスターが次々と登場するエピックシナリオ、ついでに古いAD&Dの無造作な雰囲気を味わうことはできる。



・The Sunless Citadel (1-2lv開始、終了時3-4lv)(新vaultのDLページ

 D&D3.0eのPnP元ルールのアドベンチャー、The Sunless Citadel(HJ和訳『地底の城塞』)は、PnP-RPG、D&Dや3.0eの初プレイ初心者プレイヤー及びDMを想定して作られたという公式シナリオである。導入的シナリオとしての意味もあり3.Xeゲーマーにはよく知られており、5版用の公式コンバート集Tales from the Yawning Portal(HJ和訳『大口亭綺譚』)にも収録されている。
 地底の城塞はWotC側からは上記シナリオ集のコラム等で「D&Dに最初に触れるプレイヤー、DMともに最適なアドベンチャーとして広く賞賛されている」と紹介されているが、少なくとも、広大なマップと、広さと危険の割に報酬の少ないバランスといった(前版のAD&D2nd、というより1st的ともいえる)古式然とした作りが目立つ。一方で、ダンジョンに背景ストーリーを盛り込む仕掛けは周到であり、地味なダンジョンがラストは劇的、というパターンのモジュール、シナリオ類の幾つかにも影響を及ぼしていると推測できる。この作品の知名度の一例として、コボルドの「ミーポ」は、海外でも日本でも、コボルドを3.0eにおけるマスコットキャラ(NWNではディーキン)として定着させることとなった。

 NWN1版のコンバートモジュールは、元のPnP版が3.0eでは有名作だけのことはあり、複数がvaultに登録されているが、上記リンクしたものは旧vaultで「殿堂入り」し評価の高いものである。(上記新vaultの配布リンクでは、exeのインストーラーによって配布されている。インストーラーがOSによっては動作しない場合は、NWN1用各種ツールを使う手もあるが、そのツール自体も動作しない場合がある。その場合、例えば、モジュールのexeのインストーラーを7-zip等の圧縮ファイルの展開ツールの類で開いて手動で展開することができる。)
 ReadmeなどにはDMを設けたマルチプレイのための言及があるが、DM無し、シングルプレイでも特に問題なくプレイできる。元のPnP通り「1lvキャラならば4人」を想定されているが、宿屋で3人のヘンチマンと合流し、4人パーティーとすることができる。ヘンチマンは3.Xeのアイコニックキャラ(PHBのサンプルキャラ、厳密にはWG世界の人物)のトルデク、ジョウゼン、リダ、マイアリーが準備され、うち3人選べる。かれら4人はPnP版では、モジュールの表紙には描かれているが、シナリオの文中に登場するわけではない(5版のTales from the Yawning Portalの表紙でも、大口亭の主人ダーナン(NWN1-HotUではデュルナン)の左に背後霊のように浮かんでいる不気味な顔のうち二つがマイアリーとトルデクだと端書きに書いてあるが、マイアリーとトルデクが何者なのかはこのシナリオ集本文には一言も説明はない)。このNWN1版の世界設定については言及はないが、少なくとも3.0eデフォルトのWGの頃のアローナ女神、ペイロア神やアシャーダロンのようなWG世界の単語はそのままになっている。
 マップなどは(広すぎる点も含めて)割と忠実にコンバートされており、豊富にしかけられた、PnP-RPG特有の細かい部屋の仕掛け等も多くが再現されている。そのぶん、それらの仕掛けを解くためのヒントが少な目という声もvaultのコメント等にあるが、難しいというほどではなく、また、メインの目的に対して進めなくなるというほどではない。

 このNWN1版同作者には、PnPで緩くシリーズ物であった次作のForge of Fury(秘密の工房)のコンバートモジュールもあり、インストールしておくと、クリア時にキャンペーンのように自動的に移動することができる。



・The Forge of Fury (3-4lv開始、終了時5-lv)(新vaultのDLページ

 元のPnPのThe Forge of Fury(HJ訳『秘密の工房』)は3.0eのアドベンチャーで、The Sunless Citadelと同作者である。やはり5版のTales from the Yawning Portalにも収録されている。内容的にThe Sunless Citadelと直接の繋がりはないが、対象レベルなども継続しており、緩いシリーズ物とされていることが多い(こうしたシリーズもD&D系のオフィシャルモジュールには伝統的である)。
 傾向もThe Sunless Citadelとよく似ており、PnPの原書の時点から、「ドワーフの遺産の眠る廃墟」「最下層で財宝の上に横たわるうんたら」といういかにも宝の山を思わせるセッティングの割には、比較的報酬がしょぼいと思うところがある。危険度も高いが、作成直後のパーティーよりは選択肢が多いためか、前作ほど苛烈ではなく、むしろこちらが初期プレイヤーやDMに向いている、と評価する声もある。

 このNWN1版もやはり前作と同じモジュール作者により、続編として作られており、前作同様vaultでは殿堂入りしている。やはり同様の傾向であり、広めのマップが忠実に再現されており、NWN1モジュールとしては冗漫に感じる点があるものの、全体としてそつのない作りである。クリアに必須で難易度の高い仕掛けなどもなく、探索していればクリアでき、例えば元シナリオの予備知識などは不要である。PnP原書では、秘密の工房のダンジョンに向かう理由として複数の導入(依頼など)が示されているが、どれもイベント化されてある程度再現されている。
 元のPnPでやはりシリーズ続編とされる、The Speaker in Dreams (邦訳『夢でささやく者』)に続くようダミーモジュールが同梱されており、キャンペーンとしてさらに続く予定になっていたと思われるが、現状では作られていない。



・X3: Curse of Xanathon (3-4lv開始、終了時6-lv)(新vaultのDLページ

 初期の割と粗いモジュールで、殿堂入りしているというわけでもないが、原作が新和CD&Dでも知られているので触れる。CD&DのX3モジュールの新和の和訳は『ザナソンの呪い』である。PnPのX3は海外での評価では、それほど傑作モジュールというわけでもないが、直前のX1(恐怖の島)とX2(アンバー家の館)の理不尽な危険度があまりにもブッ飛んでいるため(前者はパワー、後者は奇想天外なデストラップ類が)、X3は中レベルのモジュールとしては、それらに比べれば『まともに遊べる』のが良い、という評判がある。
 元のPnPモジュールは「推理モジュール」と評されていることもあるのだが、このNWN1版はvaultの作者分類によるとなぜか「ストーリー/仕掛け/ハクスラ」が「light-light-heavy」の戦闘モジュールになってしまっている。コンバートのためのアレンジといえなくもないが、力押しでは勝てず、一度は戦って退却して仕掛けを経ないと勝てない、といったハクスラモジュールらしからぬ局面などもあるにはあるが、迷うとか「推理」を要するほどのものではない。また、ジャーナルにも一部バグがあり、ストーリー物にあるまじき誘導ミスも混ざっていたりするが、それでも進行に困るほどのものでもなかったりする。これもNWN1最初期のコンバートの粗削りをうかがわせる。



・C1: The Hidden Shrine of Tamoachan (5-7lvキャラ3-6人推奨、ソロ推定6-8lv) (新vaultのDLページ

 PnP版の元モジュール(5版での邦題『タモアチャンの秘密の神殿』)の情報についてはNWN2版の方で触れたので略すが、NWN1版も再現モジュールが複数ある。上記リンクはNWN2版と同じ作者Enoa4氏の作による。(そして、そちらでも触れたように、タイトルがTomoachanとTamoachanでなぜか異なっている。)このNWN1版も、旧vaultでは殿堂入りしており、評価には定評がある。

 こちらはシンプルなつくりになっており、NWN2版のダンジョンに落とされるまでのストーリー補足や、ナターリアや船長などは登場せず、開始直後にいきなり舞台である神殿に落とされる所から始まる。つまり、一人で探索することになるのだが、元々はDMありでオンラインのマルチプレイを重点に置いて作られたNWN1モジュールであったらしい。しかし、構造上はソロプレイにも問題はない。
 その一人としてどんなキャラを投入するかだが、クラスのバランスとしては、シークレットドアが非常に多いため、全く捜索ができないとかなり困ることになる。かといって戦闘も少なくないので、ローグを若干lv入れた前線戦闘系のキャラが好適かもしれない。
 無論のこと不具合などはなく、また過剰に難解な点もなく、作者、モジュールともに定評の通りである。

 一方で、NWN1版をソロのキャラのみ操ってプレイしていると特に感じられる点だが、このモジュールは(システム的なトラップは多いものの)パズルやリドル的な難易度は特に高くなく、特にクリアするのに解決必須の謎などはない。
 個々の仕掛けやモンスターがタイトルの元である南米神話にひっかけたものであり、元々のPnPでは、それらが登場するごとに、見慣れない文化に対する新鮮な驚きがある、といったつくりになっている面がある。しかし、これらのすんなりと通過できてしまう仕掛け類が、PnPならばともかく、CRPGで淡々と連発されても特に盛り上がりもなく流してしまうかもしれない。そつなくNWNモジュール化されているのだが、難なくCRPG化されすぎている、という面も感じられる。



・DL1: Dragons of Despair (新vaultのダウンロードページ

 ドラゴンランスのデータ学コーナーの方ではほぼ毎回のように名前を出しているが、DL1モジュールは、ゲームと小説のタイアップであったDL世界シリーズのゲームシナリオ側の1作目である。AD&D1stのDL1-4については小説よりも先に出ており、最初期はまずゲームが行われリプレイが小説に起こされているので、DL1は文字通りにDLシリーズそのものの起点となるモジュールである。DL1(絶望の竜)は当然、小説でも1巻『廃都の黒竜』に相当する。
 初期のDLモジュールは評価は高いが、記録による当時のゲーマーの評では、ストーリーや背景が豊富な半面、プロットに対して強引にプレイヤーを誘導しなくてはならない、といった見解が多かったようである。もっとも、これは当時「『D』&『D』なのにダンジョンばかりだった」、戦闘やトラップのモジュールが多く、世界設定などは当時の後発ゲームにおくれをとっていた当時のAD&Dの事情での他シナリオとの比較であったと思われ、詳細な分析は省く。日本のドラゴンランスファンの間にも、(d20版ではなく)AD&DでのDL1や、その再録のDragonlance Classics IでのDL1相当部分についてプレイングを行ったという記録は(現存しないファンサイトを含めて)幾つか聞いたことがあったが、特にストーリーが優れているという好評もなければ、逆に強引な誘導が必要という悪評がそれらで触れられることはなく、高能力のサンプルキャラですら尋常でない危険にさらされる過酷なゲームバランスに対する評が目立っていたという記憶がある。古いD&D系モジュールにこのバランスが当然であった半面、ストーリー型での進め方に対するノウハウの方は日本の『TRPG』界隈ではすでに蓄積していたため進行自体は難が無かったのかもしれないが、現在となっては詳細は不明である。

 このNWN1版の作者は、他にもPnPコンバートモジュール(前述したH4など)を作っているTim氏であるが、これは特にHotUが発売されて何日も経たない頃に作られており、NWN1ではかなり初期の部類に属するモジュールである。
 Wikipedia(en)の原作DL1モジュールの記事でも(CRPG化の例として、かの『ヒーロー・オブ・ランス』と並んで)このTim氏のNWN1モジュールが紹介され、リンクも貼ってあるが、旧vaultなので当然ながらリンクが切れており、そのまま放置されている。

 ドラゴンランスは小説があることから、小説の流れ、あるいはDL1モジュール自体の流れを他の選択肢も含めて辿っていくような、ストーリードライブを予想される、または期待される向きもあるかもしれない。また、前述のDL1モジュールの事情からも、ストーリー重視を予想するところでもある。
 しかし、このNWN1モジュールはそうした予想とはかなり異なっている。一定のストーリー展開を誘導されるのではなく、周辺の舞台であるアバナシニア平原を自ら散策し、クエストを見つけてクリアしていくような、フリーシナリオやワイルダネス冒険のシナリオに近い。
 例えば、序盤ですぐに到達できる『憩いのわが家』亭でフィ…老語り部に話しかけると、台詞で「ザク・ツァロスに行くがよい」などと言うが、クエストジャーナルに入るでもなく、そのままメインストーリー(小説で言えば、青水晶の杖を追いかける軍団やドラゴン軍の手の者から逃亡を余儀なくされるといった強制または誘導)が始まったりもしない。自分で土地を探索し、クエストを探しながら進めてゆくことになる。複数のクエストから、DL1の目的地である廃都ザク・ツァロスに向かう動機に収束してゆくことになる。

 付属のサンプルキャラの他にも、竜槍の英雄らはヘンチマンとして『憩いのわが家』亭に待機しており、ヘンチマンを8人ほど追加できるので、原作の大所帯パーティーのかなりの再現が可能である(通常、4人が推奨のようである)。持ち物や戦術も変更できるが、HotU以降のモジュールで一般的な操作法とはかなり勝手が違うのでわかりにくく、また操作しにくい面もある。
 イントロはDMルーム(NWN1/2モジュールにはよくある、開始前後に説明やキャラの調整などをする舞台裏)の類として、アスティヌスのいる「パランサス図書館」から始まり、事前情報をある程度得られるようになっている。NWN1の3.0eの頃には、AD&D時代や後の5版時代とは異なり、D&DゲーマーとDLの小説のシリーズ読者とは必ずしも重なっていない場合があること、DL世界の知識がないNWNプレイヤーを強く意識した節がある(なお、DLの『戦記』時代のd20版が出るのはNWN1より後の3.5eになってからで、それまでは遥かに後の時代を舞台にした、d20ではないSAGAシステムで展開されていた。当然、このDL1再現モジュールもd20 3.5eの竜槍戦争のモジュールより前のものである)。
 上述のように広大なアバナシニア平原にクエストやイベントが配置されているが、DLモジュールには無いもの(いないヘンチマン)も、異なる展開になっている箇所も多い。例えば、サブクエストにはトード長官とホブゴブリンらが農家の熟女人妻をさらって洞窟にとじこめているので一戦交える必要があるだとか、DL原作からはかけ離れたものも含まれている。

 全般、力作ではあるのだが、素材、表現手法ともにNWNが未熟な時代を感じさせるものがある。例えばDL世界と言っても、古いモジュールらしく、素材などは特に世界設定独自らしいものは工夫されていない。サンプルキャラとして同梱されていたりヘンチマンのDLキャラは、DLモジュールのデータとはポートレイトやモデル、さらに能力値や装備などは割とかけ離れたもの(モーニングスターとタワーシールドを持つタニスなど)になっていたりもする。素材や表現手法の不足から、DLの「らしさ」についても、DLファンや現在のゲーマーの目から見れば、かなり物足りないと感じられると思われる。
 古いモジュールの傾向にしばしば見られるが、内容的には素っ気なさを残しており、マルチプレイヤーでのプレイヤー間(おそらくDLをよく知っている仲間内)で雰囲気を盛り上げることを期待している節もある。
 これもNWN1/2ともに初期のモジュールにありがちだが、マップポイントや誘導も少ない。一応、付属のドキュメントに配置されているイベント表や、舞台の地図画像などが添付されているものの、新vaultのコメントにも何をやっていいか途方にくれるといったものもある。一応、上記のドキュメントを参照すれば、普通にフリーシナリオモジュールとして進めてエンディングに辿り着くのに難点を感じることはない。
 旧vaultでは殿堂(HoF)入りしてはいるものの、現在の新vaultではコメントも少なく、また好意的なものばかりでもない。例によって、NWN1初期の定番作の位置づけを強く感じさせる。








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