PnPコンバートモジュール
 (※下の記事の方が新しい)


 当然予想できる話だが、NWN1/2には、D&DシリーズのPnP公式の既存のモジュール(市販シナリオ)をコンバートしたモジュール(WG, FR, DL, ミスタラ, レイブンロフト等)が非常に多数ある。このサイトでも他記事で数多く取り上げているし、翻訳モジュールリストやNWN1モジュールレビューの類でも多々見られる。
 コンバートされるようなものは、多くが元モジュールが良作、そうでないとしても少なくとも完成品なのだから、一定以上の品質は確保されている、と誰しも思うところである。

 しかしながら、CRPGのモジュール化の時にも全く同じことを言っているのだが、筆者に言わせれば、これらが品質面では一定レベル以上とは限らない。アイディアがあってもNWN1/2のモジュールとしてまとめられるかどうかは、モジュール作者自身のツールセットのエディットに依存することは、オリジナルでも既存PnPモジュールでも変わらない。モジュール内容のコンバートがうまくいかないとどういうことになるかといえば、バランス(特にD&Dの版の違いや、PnPとCRPGの違い、例えば戦闘頻度やリアルタイムとターンなど)の感覚を見誤ったり、モジュール作成技術自体が足りずに表現できなかったり、場合によっては、プレイヤーの方が元ネタのPnPモジュールを知らずにNWN版をプレイすると完全に意味不明になっていたりする(これらはPnPモジュールに限らず、他ゲームのNWN化などについてさらに頻繁に起こる)。ましてD&Dのモジュールというのは、往々にしてストーリーやら物語のテーマやらを重視されたりその点で評価を与えられているのではないことが多い。無論下を見ればきりがないであろうが(vaultの4000ものNWN1モジュールの中には「モジュール作者の二日酔いの起き抜けの悪夢を強制的に見せられるような代物」も多数含まれていることはよくNWN1サイトではネタにされていた)少なくとも、PnPコンバートという理由だけで一定以上の質が確保されているという根拠にはならない。NWN1界隈でのオールドスタイルPnP(AD&DやBD&D初期のもの)モジュールやその再現モジュールの愛好家には、また同時に、このNWN1のシステム自体がそれらのオールドスタイルの再現には向いていない、という見解を示す者もいる。
 かつてのセガ版の頃のNWN1の日記サイトで、「英語版モジュールの紹介」と称して、決まってPnP原作モジュールを選んで多人数マルチプレイをレビューしていたが、毎回ことごとくハズレモジュールばかり引いていた、というサイトを覚えているNWN1ゲーマーも多いと思われる。

 しかし、ハズレではなく、ある程度の出来でソロプレイに堪えるようなNWN1/2モジュールであれば、D&D公式モジュールがおおまかにどのような内容(厳密に当てにはならないにせよ)であったか、PnPの実プレイよりは手軽に触れることができるので、有用性は高いと思われる。一方、PnPの方のD&Dの内容には特にこだわりがないという場合は、PnPコンバートという要素には(NWN1/2モジュールとしてそれ自体が良作という評価がある場合以外は)特に選ぶことにメリットはない。

 以下はそれらを踏まえて、いわゆるハズレを引かないための足しになる情報の羅列で、必ずしも良作をピックアップした情報とは限らない。



〇日本語版モジュール、Archiveで落とせるもの


・カスタナミアの失われた島

 AD&D1stのC3: The Lost Island of Castanamirのコンバートモジュールである。遺跡探索アドベンチャーとなると仕掛けなどが面倒なのではないかと躊躇するところだが、少なくともこのNWN1版はそれほどではなく、思ったよりあっさり味でプレイしやすい。
 実はこのモジュールのPnP原作は、C1(
ナターリア無双)やC2(『ゴーストタワーの魂の石』)モジュールとの続きものでもあるが、特にC1-C3各編を独立してプレイするのに支障はない。C2にはPnP版の他に上記Super Endless Questゲームブック版をじかにNWN1にコンバートしたモジュールもあったりする。



・Spires of Ravenloft

 以前も雑記類で述べたことがあるが、AD&D1stのI6: Ravenloftモジュールが元である。5版のコアルールにも名前が出てくるD&D定番悪役、ストラード伯を打倒する最初のモジュールである(有名悪役には1st当時にはただの単発シナリオのボスキャラだった者も多い)。
 Ravenloftセッティングにはアンデッド等を強化する凶悪な特殊ルールがあるが、I6の時点ではまだRavenloftが単独のワールドセッティングだったわけではなく、また、このNWN1版も、わりと厳しいハクスラではあるものの、そういった特殊な仕掛け等はない。同様にI6をテーマとした、かなりいまいちな出来のSuper Endless Questゲームブック版(富士見邦訳では『暗黒城の領主』)のように正攻法ではバッドエンドにしかならないおかしな展開があったりもせず(このゲームブックのせいで、NWN1版の初プレイ時に妙な深読みをしたことがある)ごく普通な攻略が可能である。
 やはり基本的には多人数マルチプレイや、可能であればDMありを想定されているらしく、妙なだだっ広さと冗漫さ、一方でゴシックホラー雰囲気モジュールの割には演出のかなりのそっけなさは、そのためでもあると思われる。が、ソロでプレイするのに問題があるというほどではない。



・病魔の坑道

 セガ版の最初期にセガのウェブサイトから落とすことのできたモジュールであるが、実はこれは3.0eのPHBの巻末に載っていたアドベンチャーのコンバートであり、PnP版原作モジュールということができる。
 ただし、このNWN1版は妙にだだっ広かったりラスボスが異様に再生力があったりと、かなり多人数パーティーでのマルチプレイ、特にDMがいるプレイを推奨されていると思われる。ソロでのプレイは(構造上は)可能だが、おそらく向いてはいない。




〇英語モジュール


・B2: Keep on Borderlands (1-4lv開始) (新vaultのDLページ)

 B2についてはNWN2版も紹介しているが、ここでは別の作者によるNWN1版である。BD&D-CD&Dの有名モジュールで、新和時代の赤箱用モジュールの和訳は「国境の城塞」である。
 B2は海外では非常に普及度が高いモジュールであるためか、NWN1には再現モジュールが異常なほど多く、ファンサイトで「推奨」されているB2モジュールだけでも両手に余る。なので、その中から自分で選んだりしてもよいのだが、上で上げたのは安牌の、「ひねりのないシンプルな作り」の一例である。ただし、休息制限のような追加ルールやアイテム、マップのNWN1ソロ向け簡略化などのアレンジが適度に加わっている。また、再現モジュールには、記事冒頭で述べたようにマルチプレイや要DMでないと実プレイにたえないものも多いが、上記は問題なくシングル、ソロキャラでプレイできる。



・B3: Palace of the silver princess (1-3lv開始) (新vaultのDLページ)

 B3はその名の通りB2に続くCD&Dの有名モジュールで、新和の和訳は「アリクの瞳」である。
 PnP版については、単純なダンジョンアタックのB2とはうって変わって、王宮や遺産にまつわるミステリアスな背景の仕掛けのあるモジュールだが、広いマップと戦闘が中心である傾向は同様である。戦闘と仕掛けのバランス上、B2よりこちらがゲーム入門に向いているのではないか、一方DMへの負担が大きい、といった点はオールドゲーマーの間で議論がある。
 ちなみにWikipediaのENにもJPもこのモジュールの記事があるが、分量の大半が「最初の版が重役の判断で回収・廃棄された」顛末と、それに関する憶測が延々と書き連ねられており、モジュールの内容や評価についてはろくに情報がない。クラシカルD&Dマニアは有名モジュールの内容はとっくに知っているので、それらの内容よりも、背景事情や有名デザイナーらの裏話の方が興味があるだろう、と判断したのかもしれないが、おそらくはD&Dモジュールなぞの単独Wikipedia記事を作るようなマニアは記事の情報性の充実よりそんな些末事にばかり気をとられている、と言ってしまえばそれまでである。
 NWN1版については、これも再現モジュールは多いが、上記は上のB2と同作者の、比較的シンプルなつくりのものである。ただし、B2に比べるとマップがかなり冗長な点が、PnPコンバートである点を思わせる。また、B2とB3は続き物ということになっているのだが、少なくとも同作者のこの2作は完全に独立しており、別々にプレイ可能である(同作者で2連作になっているバージョンも別に配布されている)。
 なお、archiveには「アリクの瞳」として、B3の上記とは別のコンバートモジュールが和訳されたものがあるが、これは元のモジュール自体が調整不足らしく問題が多く、あまりおすすめできない(あるいはDMのいるオンラインマルチプレイでDMが問題を解決することが前提だったとも考えられる)。



・G1: Steading of the Hill Giant Chief (G1は8-12lv開始〜Q2終了時40lv)(新vaultのDLページ

 G1から続く長大なシリーズはPnP原作でもNWN1でも定番の戦闘モジュールである。
 G1-G3: Against the Giantsは、AD&D1stでも初期(G1の単体版が1978年になる)の連作モジュールだが、例によって微妙に続けても続けなくてもいいような感で、海底や地底に進むD1-D3、さらにはロルス女神と対峙するかの有名なQ1モジュールへと続く。なお、PnPでこのシリーズが連続でパックされたリニューアル版の名はGDQ1: Queen of the Spidersとなっており、結局ロルスが中心となっている。
 これらは当然AD&Dのものは訳されていないが、G1-G3は5版用の公式コンバート集Tales from the Yawning Portal(HJ訳『大口亭綺譚』)に収録されたものが邦訳(「巨人族を討て」)されている。

 これらのG1-Q1の連作は全てNWN1で再現モジュールが作られているが(G1-3にはNWN2版もあるが、別の箇所で述べる)例によって、それぞれ複数の作者による再現がある。
 今回冒頭のリンクに挙げているものは、シリーズのいずれも旧vaultでは高評価、殿堂入り(Hall of Fame)しているものであり、ファンサイトの類でもよく話題に上るものである。同作者によるQ1までの続編も上記からリンクされているが、さらにこの作者による続編のQ2もある。

 が、手っ取り早く言ってしまうと、純粋にNWN1のモジュールとして見た場合、ストーリードライブの現在の良作モジュール、ひいてはSoU/HotU, NWN2などを体験したいまどきのNWNユーザーが今体験したところで、あまり納得できる出来のものではないと思われる。
 例えばG1についていえば、平坦な戦闘(ヒルジャイアント、オーガ、エティンなど)が続き、PnPコンバートにつきものの異様にだだっ広いマップ上で、シナリオクリアにあたって必須の抑えるべきポイントというのは2か所ほどしかない。
 「戦闘モジュール」にも、2010年代以降良作とされているものも数多くあるが、それらは連続戦闘を飽きさせないための工夫、例えばアイテムルートなどの特殊ルールなり、物資の管理なり、遭遇のメリハリ、これも例えれば弱敵をなぎ倒す爽快感と強敵を打倒した達成感を配置しているなど適度に配慮されているものが多い。本モジュールはPnPコンバートなのでそのままと言ってしまえばそれまでではあるが、CRPGに変換するにあたってのアレンジくらいはあってもいいはずである。
 このモジュールの好評と殿堂入りについては、NWN1でもかなり初期のモジュールであり(最初の投稿が2004年である)また、NWN1初期にはシングルプレイやPWサーバーよりも、マルチプレイ(オンラインセッション)のウェイトが大きかったといった事情も関わっている可能性がある。すなわち、マルチプレイ重視のモジュールには、内容がシンプルな割にはだだっ広く、必須でない移動箇所や探索箇所が設けられているものが多い。巷の評価にはこれらを考慮する必要もあるかもしれない。



・H4: The Throne of Bloodstone (15-30lv)(新vaultのDLページ

 AD&Dには、大スケールモジュールとして前述のQ1などと並んで、対象レベルが18-「100lv以上」用で、他次元界を飛び回りオーケスやティアマットなどの著名悪役と正面から丁々発止を繰り広げるシナリオがあった、というのは必ず一度は聞いたことがあるだろう。
 OD&DやAD&D1st初期は高レベル用のルールはコアルールなどではかなり乏しく、せいぜいが10lv前後までのプレイングが中心であったと思われる節がある(特に最初期は重要NPCのレベルなども概して低い)。その一方で、システム上はlvには上限がなく、一応20lvで区切られている2nd以降と異なりエピックレベルといった区切りもない。そのため、高レベルルールがないので逆に単純に数値だけをどんどん加算することにプレイヤーもDMも負担が全くないため、超高レベルまで伸ばすプレイヤーも少なからずいたと推測できることがある。それはプレイングの風説であったり、また一例として、このようなモジュールの対象レベルであったりもする。
 PnPのAD&D1stのH1-H4(Bloodstoneシリーズ)は、H1がいきなり15lvから始まり大規模な脅威に対抗するシリーズで、流れとしては後年のRed Hand of Doom(邦訳『赤い手は滅びのしるし』)との類似点が指摘されることもあるが、H1などは、ウォーゲーム用のbattlesystemルールとの併用がむしろ売りになっていた。H4はサンプル(プレロールド)キャラに19lvと100lvのものが付属していることから、本来はH1から続ければ19lvを想定していると思われる。100lvのキャラの運用説明はあるが「ルール上さほど追加されるパワーはないし(注:上述のように初期はそうだった)パワーを与えなければいいのでかまわん」などと非常に無造作であり、おそらく現在のエピックプレイヤーの参考にはならないと思われる(この頃からCRPGのような数値だけを99lvだろうが65535lvだろうが稼いでも多元宇宙最強になるにはほど遠い、という立場が既に見えるともいえる)。なお100lvサンプルキャラはLegends and Loreから抜粋された実在伝承英雄のペルセウスやキルケなどを再編されたものだが、データ以外の説明やなぜH1以降の冒険にそんな奴らが参加しているかという説明はまったくない。
 H1-4自体は1st最末期で、内容上はその版の次元界設定の集大成のような大スケールキャンペーンのひとつといえる。なぜかH4だけがFR世界のロゴのついたモジュールになっているが(H3にはあのエド・グリーンウッドが共著に入っているにもかかわらずFRロゴがない)この時点では次元界の「転輪」はWG世界だけでなく他のワールドにも共通して使用されていたので(2ndのPlanescapeのように転輪が全ワールドに直結している、という設定があるわけではなく、単に使用区別というものがないだけである)さほど大きな意味があるわけではない。

 さて一方、このNWN1コンバートモジュールだが、無論100lvなどはサポートしておらず、普通に(HotUレベルなどの)エピック用になっており、対象の目安は15-30lvである。目安は(H1を意識してか)15lvパーティー(パーティーはオンラインマルチプレイの場合と思われる)とは書いてあるが、多分に、NWN1のプレイヤーの手持ちの高レベルキャラとして手っ取り早く、HotUクリアキャラ、28lv等も想定して作られていると思われる。
 このコンバートモジュールは、原典だと遭遇し得るデーモンやアンデッドが百だの万だのといった非常識な状況は抑えられ、このlvのNWNキャラを使ったソロモジュールとしてプレイできるよう、ごく普通に調整されている。旧vaultでは高評価、殿堂入り(Hall of Fame)しているものの、例によって、NWN1でも初期のモジュールであるためもあり、かなり大味で粗もある(進行不能となるほどではないが、細かいバグは報告されている)。しかし、次元界をまたにかけ、有名ユニークモンスターが次々と登場するエピックシナリオ、ついでに古いAD&Dの無造作な雰囲気を味わうことはできる。



・The Sunless Citadel (1-2lv開始、終了時3-4lv)(新vaultのDLページ

 D&D3.0eのPnP元ルールのアドベンチャー、The Sunless Citadel(HJ和訳『地底の城塞』)は、PnP-RPG、D&Dや3.0eの初プレイ初心者プレイヤー及びDMを想定して作られたという公式シナリオである。導入的シナリオとしての意味もあり3.Xeゲーマーにはよく知られており、5版用の公式コンバート集Tales from the Yawning Portal(HJ和訳『大口亭綺譚』)にも収録されている。
 地底の城塞はWotC側からは上記シナリオ集のコラム等で「D&Dに最初に触れるプレイヤー、DMともに最適なアドベンチャーとして広く賞賛されている」と紹介されているが、少なくとも、広大なマップと、広さと危険の割に報酬の少ないバランスといった(前版のAD&D2nd、というより1st的ともいえる)古式然とした作りが目立つ。一方で、ダンジョンに背景ストーリーを盛り込む仕掛けは周到であり、地味なダンジョンがラストは劇的、というパターンのモジュール、シナリオ類の幾つかにも影響を及ぼしていると推測できる。この作品の知名度の一例として、コボルドの「ミーポ」は、海外でも日本でも、コボルドを3.0eにおけるマスコットキャラ(NWNではディーキン)として定着させることとなった。

 NWN1版のコンバートモジュールは、元のPnP版が3.0eでは有名作だけのことはあり、複数がvaultに登録されているが、上記リンクしたものは旧vaultで「殿堂入り」し評価の高いものである。(上記新vaultの配布リンクでは、exeのインストーラーによって配布されている。インストーラーがOSによっては動作しない場合は、NWN1用各種ツールを使う手もあるが、そのツール自体も動作しない場合がある。その場合、例えば、モジュールのexeのインストーラーを7-zip等の圧縮ファイルの展開ツールの類で開いて手動で展開することができる。)
 ReadmeなどにはDMを設けたマルチプレイのための言及があるが、DM無し、シングルプレイでも特に問題なくプレイできる。元のPnP通り「1lvキャラならば4人」を想定されているが、宿屋で3人のヘンチマンと合流し、4人パーティーとすることができる。ヘンチマンは3.Xeのアイコニックキャラ(PHBのサンプルキャラ、厳密にはWG世界の人物)のトルデク、ジョウゼン、リダ、マイアリーが準備され、うち3人選べる。かれら4人はPnP版では、モジュールの表紙には描かれているが、シナリオの文中に登場するわけではない(5版のTales from the Yawning Portalの表紙でも、大口亭の主人ダーナン(NWN1-HotUではデュルナン)の左に背後霊のように浮かんでいる不気味な顔のうち二つがマイアリーとトルデクだと端書きに書いてあるが、マイアリーとトルデクが何者なのかはこのシナリオ集本文には一言も説明はない)。このNWN1版の世界設定については言及はないが、少なくとも3.0eデフォルトのWGの頃のアローナ女神、ペイロア神やアシャーダロンのようなWG世界の単語はそのままになっている。
 マップなどは(広すぎる点も含めて)割と忠実にコンバートされており、豊富にしかけられた、PnP-RPG特有の細かい部屋の仕掛け等も多くが再現されている。そのぶん、それらの仕掛けを解くためのヒントが少な目という声もvaultのコメント等にあるが、難しいというほどではなく、また、メインの目的に対して進めなくなるというほどではない。

 このNWN1版同作者には、PnPで緩くシリーズ物であった次作のForge of Fury(秘密の工房)のコンバートモジュールもあり、インストールしておくと、クリア時にキャンペーンのように自動的に移動することができる。



・The Forge of Fury (3-4lv開始、終了時5-lv)(新vaultのDLページ

 元のPnPのThe Forge of Fury(HJ訳『秘密の工房』)は3.0eのアドベンチャーで、The Sunless Citadelと同作者である。やはり5版のTales from the Yawning Portalにも収録されている。内容的にThe Sunless Citadelと直接の繋がりはないが、対象レベルなども継続しており、緩いシリーズ物とされていることが多い(こうしたシリーズもD&D系のオフィシャルモジュールには伝統的である)。
 傾向もThe Sunless Citadelとよく似ており、PnPの原書の時点から、「ドワーフの遺産の眠る廃墟」「最下層で財宝の上に横たわるうんたら」といういかにも宝の山を思わせるセッティングの割には、比較的報酬がしょぼいと思うところがある。危険度も高いが、作成直後のパーティーよりは選択肢が多いためか、前作ほど苛烈ではなく、むしろこちらが初期プレイヤーやDMに向いている、と評価する声もある。

 このNWN1版もやはり前作と同じモジュール作者により、続編として作られており、前作同様vaultでは殿堂入りしている。やはり同様の傾向であり、広めのマップが忠実に再現されており、NWN1モジュールとしては冗漫に感じる点があるものの、全体としてそつのない作りである。クリアに必須で難易度の高い仕掛けなどもなく、探索していればクリアでき、例えば元シナリオの予備知識などは不要である。PnP原書では、秘密の工房のダンジョンに向かう理由として複数の導入(依頼など)が示されているが、どれもイベント化されてある程度再現されている。
 元のPnPでやはりシリーズ続編とされる、The Speaker in Dreams (邦訳『夢でささやく者』)に続くようダミーモジュールが同梱されており、キャンペーンとしてさらに続く予定になっていたと思われるが、現状では作られていない。



・X3: Curse of Xanathon (3-4lv開始、終了時6-lv)(新vaultのDLページ

 初期の割と粗いモジュールで、殿堂入りしているというわけでもないが、原作が新和CD&Dでも知られているので触れる。CD&DのX3モジュールの新和の和訳は『ザナソンの呪い』である。PnPのX3は海外での評価では、それほど傑作モジュールというわけでもないが、直前のX1(恐怖の島)とX2(アンバー家の館)の理不尽な危険度があまりにもブッ飛んでいるため(前者はパワー、後者は奇想天外なデストラップ類が)、X3は中レベルのモジュールとしては、それらに比べれば『まともに遊べる』のが良い、という評判がある。
 元のPnPモジュールは「推理モジュール」と評されていることもあるのだが、このNWN1版はvaultの作者分類によるとなぜか「ストーリー/仕掛け/ハクスラ」が「light-light-heavy」の戦闘モジュールになってしまっている。コンバートのためのアレンジといえなくもないが、力押しでは勝てず、一度は戦って退却して仕掛けを経ないと勝てない、といったハクスラモジュールらしからぬ局面などもあるにはあるが、迷うとか「推理」を要するほどのものではない。また、ジャーナルにも一部バグがあり、ストーリー物にあるまじき誘導ミスも混ざっていたりするが、それでも進行に困るほどのものでもなかったりする。これもNWN1最初期のコンバートの粗削りをうかがわせる。



・C1: The Hidden Shrine of Tamoachan (5-7lvキャラ3-6人推奨、ソロ推定6-8lv) (新vaultのDLページ

 PnP版の元モジュール(5版での邦題『タモアチャンの秘密の神殿』)の情報についてはNWN2版の方で触れたので略すが、NWN1版も再現モジュールが複数ある。上記リンクはNWN2版と同じ作者Enoa4氏の作による。(そして、そちらでも触れたように、タイトルがTomoachanとTamoachanでなぜか異なっている。)このNWN1版も、旧vaultでは殿堂入りしており、評価には定評がある。

 こちらはシンプルなつくりになっており、NWN2版のダンジョンに落とされるまでのストーリー補足や、ナターリアや船長などは登場せず、開始直後にいきなり舞台である神殿に落とされる所から始まる。つまり、一人で探索することになるのだが、元々はDMありでオンラインのマルチプレイを重点に置いて作られたNWN1モジュールであったらしい。しかし、構造上はソロプレイにも問題はない。
 その一人としてどんなキャラを投入するかだが、クラスのバランスとしては、シークレットドアが非常に多いため、全く捜索ができないとかなり困ることになる。かといって戦闘も少なくないので、ローグを若干lv入れた前線戦闘系のキャラが好適かもしれない。
 無論のこと不具合などはなく、また過剰に難解な点もなく、作者、モジュールともに定評の通りである。

 一方で、NWN1版をソロのキャラのみ操ってプレイしていると特に感じられる点だが、このモジュールは(システム的なトラップは多いものの)パズルやリドル的な難易度は特に高くなく、特にクリアするのに解決必須の謎などはない。
 個々の仕掛けやモンスターがタイトルの元である南米神話にひっかけたものであり、元々のPnPでは、それらが登場するごとに、見慣れない文化に対する新鮮な驚きがある、といったつくりになっている面がある。しかし、これらのすんなりと通過できてしまう仕掛け類が、PnPならばともかく、CRPGで淡々と連発されても特に盛り上がりもなく流してしまうかもしれない。そつなくNWNモジュール化されているのだが、難なくCRPG化されすぎている、という面も感じられる。



・DL1: Dragons of Despair (1-4lv開始)(新vaultのダウンロードページ

 ドラゴンランスのデータ学コーナーの方ではほぼ毎回のように名前を出しているが、DL1モジュールは、ゲームと小説のタイアップであったDL世界シリーズのゲームシナリオ側の1作目である。AD&D1stのDL1-4については小説よりも先に出ており、最初期はまずゲームが行われリプレイが小説に起こされているので、DL1は文字通りにDLシリーズそのものの起点となるモジュールである。DL1(絶望の竜)は当然、小説でも1巻『廃都の黒竜』に相当する。
 初期のDLモジュールは評価は高いが、記録による当時のゲーマーの評では、ストーリーや背景が豊富な半面、プロットに対して強引にプレイヤーを誘導しなくてはならない、といった見解が多かったようである。もっとも、これは当時「『D』&『D』なのにダンジョンばかりだった」、戦闘やトラップのモジュールが多く、世界設定などは当時の後発ゲームにおくれをとっていた当時のAD&Dの事情での他シナリオとの比較であったと思われ、詳細な分析は省く。日本のドラゴンランスファンの間にも、(d20版ではなく)AD&DでのDL1や、その再録のDragonlance Classics IでのDL1相当部分についてプレイングを行ったという記録は(現存しないファンサイトを含めて)幾つか聞いたことがあったが、特にストーリーが優れているという好評もなければ、逆に強引な誘導が必要という悪評がそれらで触れられることはなく、高能力のサンプルキャラですら尋常でない危険にさらされる過酷なゲームバランスに対する評が目立っていたという記憶がある。古いD&D系モジュールにこのバランスが当然であった半面、ストーリー型での進め方に対するノウハウの方は日本の『TRPG』界隈ではすでに蓄積していたため進行自体は難が無かったのかもしれないが、現在となっては詳細は不明である。

 このNWN1版の作者は、他にもPnPコンバートモジュール(前述したB2,H4など)を作っているTim氏であるが、これは特にHotUが発売されて何日も経たない頃に作られており、NWN1ではかなり初期の部類に属するモジュールである。
 Wikipedia(en)の原作DL1モジュールの記事でも(CRPG化の例として、かの『ヒーロー・オブ・ランス』と並んで)このTim氏のNWN1モジュールが紹介され、リンクも貼ってあるが、旧vaultなので当然ながらリンクが切れており、そのまま放置されている。

 ドラゴンランスは小説があることから、小説の流れ、あるいはDL1モジュール自体の流れを他の選択肢も含めて辿っていくような、ストーリードライブを予想される、または期待される向きもあるかもしれない。また、前述のDL1モジュールの事情からも、ストーリー重視を予想するところでもある。
 しかし、このNWN1モジュールはそうした予想とはかなり異なっている。一定のストーリー展開を誘導されるのではなく、周辺の舞台であるアバナシニア平原を自ら散策し、クエストを見つけてクリアしていくような、フリーシナリオやワイルダネス冒険のシナリオに近い。
 例えば、序盤ですぐに到達できる『憩いのわが家』亭でフィ…老語り部に話しかけると、台詞で「ザク・ツァロスに行くがよい」などと言うが、クエストジャーナルに入るでもなく、そのままメインストーリー(小説で言えば、青水晶の杖を追いかける軍団やドラゴン軍の手の者から逃亡を余儀なくされるといった強制または誘導)が始まったりもしない。自分で土地を探索し、クエストを探しながら進めてゆくことになる。複数のクエストから、DL1の目的地である廃都ザク・ツァロスに向かう動機に収束してゆくことになる。

 付属のサンプルキャラの他にも、竜槍の英雄らはヘンチマンとして『憩いのわが家』亭に待機しており、ヘンチマンを8人ほど追加できるので、原作の大所帯パーティーのかなりの再現が可能である(通常、4人が推奨のようである)。持ち物や戦術も変更できるが、HotU以降のモジュールで一般的な操作法とはかなり勝手が違うのでわかりにくく、また操作しにくい面もある。
 イントロはDMルーム(NWN1/2モジュールにはよくある、開始前後に説明やキャラの調整などをする舞台裏)の類として、アスティヌスのいる「パランサス図書館」から始まり、事前情報をある程度得られるようになっている。NWN1の3.0eの頃には、AD&D時代や後の5版時代とは異なり、D&DゲーマーとDLの小説のシリーズ読者とは必ずしも重なっていない場合があること、DL世界の知識がないNWNプレイヤーを強く意識した節がある(なお、DLの『戦記』時代のd20版が出るのはNWN1より後の3.5eになってからで、それまでは遥かに後の時代を舞台にした、d20ではないSAGAシステムで展開されていた。当然、このDL1再現モジュールもd20 3.5eの竜槍戦争のモジュールより前のものである)。
 上述のように広大なアバナシニア平原にクエストやイベントが配置されているが、DLモジュールには無いもの(いないヘンチマン)も、異なる展開になっている箇所も多い。例えば、サブクエストにはトード長官とホブゴブリンらが農家の熟女人妻をさらって洞窟にとじこめているので一戦交える必要があるだとか、DL原作からはかけ離れたものも含まれている。

 全般、力作ではあるのだが、素材、表現手法ともにNWNが未熟な時代を感じさせるものがある。例えばDL世界と言っても、古いモジュールらしく、素材などは特に世界設定独自らしいものは工夫されていない。サンプルキャラとして同梱されていたりヘンチマンのDLキャラは、DLモジュールのデータとはポートレイトやモデル、さらに能力値や装備などは割とかけ離れたもの(モーニングスターとタワーシールドを持つタニスなど)になっていたりもする。素材や表現手法の不足から、DLの「らしさ」についても、DLファンや現在のゲーマーの目から見れば、かなり物足りないと感じられると思われる。
 古いモジュールの傾向にしばしば見られるが、内容的には素っ気なさを残しており、マルチプレイヤーでのプレイヤー間(おそらくDLをよく知っている仲間内)で雰囲気を盛り上げることを期待している節もある。
 これもNWN1/2ともに初期のモジュールにありがちだが、マップポイントや誘導も少ない。一応、付属のドキュメントに配置されているイベント表や、舞台の地図画像などが添付されているものの、新vaultのコメントにも何をやっていいか途方にくれるといったものもある(この記事ファイルの冒頭部分に挙げた英語モジュールマルチプレイのレビューサイトでも、このNWN1版DL1はどこに行っても何も起こらないので投げ出した、というものだった。ただでさえ時間のかかるマルチプレイではいかにも想像できる)。一応、上記のドキュメントを参照し、イベントを巡っていけば、普通にフリーシナリオモジュールとして進めてエンディングに辿り着くのに難点を感じることはない。
 旧vaultでは殿堂(HoF)入りしてはいるものの、現在の新vaultではコメントも少なく、また好意的なものばかりでもない。例によって、NWN1初期の定番作の位置づけを強く感じさせる。



・DL2: Dragons of Flame (5-6lv開始)(新vaultのダウンロードページ

 DL2(炎の竜)はドラゴンランスの最初のPnPモジュールシリーズの2番目で、小説では2巻『城塞の赤竜』に相当する。非DL小説読者のゲーマーにも知られているかもしれないPC/FC(NES)用アクションゲーム『AD&Dドラゴンオブフレイム』やゲームブック『パックス砦の囚人』の原作にもあたる。
 初期のDLモジュールは(後からの小説のヒットの影響を抜きにしても)充分に内容的な評価は高い。しかし、その一方でDL1についても述べたように、これらのモジュールが持つ「初期のAD&Dコンテンツのストーリー・設定面での欠如に対する充足」への好評と、「その方向性のノウハウ不足による未成熟面」への不評の両方もないまぜになっている。そしてDL2は、小説の該当箇所からも想像できるように、その両方の側面が特に顕著である。敵軍に捕まって護送され、エルフ軍の奇襲で救出されてエルフ国クオリネスティに向かい、エルフらの計画に協力してパックス・タルカス城塞の捕虜開放に向かう、話としてはめまぐるしく魅力的な状況や舞台も次々と現れるが、PnPシナリオとしては、プレイヤーキャラはお膳立てされた「ストーリーの線路」を辿り続けるような状況とならざるを得ない。これはDL2に対しては当時から他のDLモジュール以上に指摘されていたようである。小説『戦記』2巻では知っての通りクライマックスで難民らが蜂起する中で二頭の竜が激突し、竜槍の英雄らと前半の大敵ヴェルミナァルドとの対決になるが、PnPのDL2モジュールでは特にそうはならない展開が主であることも、このDL2のPnPモジュールの評価を物足りないものにしていると思われる。なお、PnPモジュール群では3部作第1部の一区切りとなる(ヴェルミナァルドが撃退され、「秋の黄昏」の中の結婚式で締められる)のはDL4であるが、『戦記』小説では知っての通りDL3,4の内容がすっ飛ばされて2巻がそこで締められている(のちの『秘史』1巻との関係についてはDL3に関する機会で述べる)。
 小説の2巻相当部については、筆者の周囲のD&Dゲーマーや、目にしたことのあるネットでの評価では「ドラゴンランスは1部(1、2巻)が面白くないが、中でもこの2巻がとにかく突出して退屈」というものが目立った。一方で、筆者個人としては2巻はDL全編でも思い入れは強い方である。全編の中でも特に、いわゆるPnP-RPG的なギミックが端々に妙に悪目立ちする(施設の仕掛けや背後で絡みすぎる密偵の陰謀など)ほかに、戦に巻き込まれた民衆らや、戦で多くを失った老竜マータフルールらの描写の端々に、ベトナム戦争世代である作者らの実感が見え隠れする点も独特の味を残すためもある。

 このNWN1版だが、前に述べたDL1の再現モジュールと同作者によって、続き物として作られている。wikipedia(en)のDL2モジュールの記事でも、コンピュータゲーム化例として、PC/FC(NES)の当時の残念ゲー『ドラゴンオブフレイム』と共に、このtim氏のNWN1モジュールが紹介されているが、DL1同様に旧vaultのリンクが切れたまま直す者もいない。
 ドキュメントなどではわかりにくいが、DL2.modとDL2H.modの2ファイルが同梱されており、同作者のDLモジュールでも同様だが、後者は「HotU対応版」とのことである。これらのモジュールが最初に作られたのがHotUのリリースのちょうど前後だったため、後で対応したものと2バージョンが存在するらしい。おそらく、現在のNWN:EE, NWN DiamondなどではDL2H.modの方を起動して問題ないと思われる。
 vaultのコメントで報告されているようなクラッシュの恐れについても(現在のDiamondで動かした限りでは)支障はない。一方、DL1からヘンチマンを連れて来ることができるとされているが(DL3もDL1,2から連れて来られると書かれているが)うまく機能しないことが多い。とりあえず、今回は話の流れでDL2内で合流するティカ、ギルサナス、エーベンの3人をひきつれることが多いと思われる。

 NWN1版のDL1モジュールの方は、そちらの紹介で述べたように、粗さが残っていながらもいかにも力作と感じさせるオープンワールド物になっていたが、こちらのDL2の方はそれらの展開の点では、かなり小粒と言わざるを得ない。これは原作モジュールの性質上やむを得ない部分もある。小説版の展開からのみでも想像がつくであろうが、DL1の方は、原作(モジュール、小説とも)自体の展開もわりと荒野の逃避行・探索行の果てにクライマックスの廃都に辿り着くというものであった一方で、DL2の方は虜囚や連行などの強制的な進行の後は、ゲーム的に行動できるメインになりそうなのは後半の城塞の中のみとなっている(そのぶん、『パックス砦の囚人』のようなゲームブック風の展開には向いている側面もある)。そのため、月並みなダンジョン物のようにならざるを得ない。ある程度自由度が高い箇所もあり、パックス砦内の例えばストーリーと関係のないエリアに行けたりもするのだが、行ってもあまりメリットなどはない。結局、誘導の少ない古いダンジョン物のシナリオのようになっている。誘導がないため、城塞で合流する難民を探していたら何のヒントもなくヴェルミナァルド+赤竜エンバーと鉢合わせする羽目になったりもするが、(ゲームブックではそのまま倒して正エンドとなるが)推奨レベルでは突破は困難である。なお、小説版『戦記』2巻ラストでは、ヴェルミナァルドのある一言の台詞に対する老竜マータフルールの行動が引き金となって難民の蜂起とヴェルミナァルドとの対決になるが、PnPのDL2ではこの台詞や流れ自体は書かれているものの、難民や英雄らはその混乱に乗じて逃亡し、ヴェルミナァルドは前述のように「かろうじて生き残る」と書かれ、直接の対決にはならない(という展開が主に想定されている)。しかし、このNWN1のDL2では、それらの展開自体が準備されておらず、砦から逃亡するのみとなっている。その他随所に小説はもちろんPnPのDL2とも違う点がありそれらの理由もあってわかりにくい部分もある。例えばローラナがいきなりエルフ国クオリネスティのど真ん中でトード長官(DL1に続いてなぜか女に目がない役回りと化している)に連れ去られ、助け出せとかいうクエストに一体どうすればいいのか混乱するしかないが、実はパックス砦に囚われており、要は以後のモジュールでその存在が必須となる可能性のあるローラナの参戦経緯としてタニスを追いかけてくる以外の理由(NWN1モジュールではパーティーにタニスがいるとは限らず、前述のようにプレイヤーに選んだキャラ以外はティカとギルサナスとエーベンしかいない場合もあるため)が創作されただけのようだが、小説読者はかえって混乱すると思われる。
 誘導の少なさに手を焼くとはいえ、モジュールと共にウォークスルーも同梱されているため、完全に詰まることはないが、しかし、かといってウォークスルーの通りに沿って進めたりすると、一本道でひどく味気ないものになる。
 こちらも旧vaultでの評価にしたがって、新vaultでも「殿堂入り」評価がついているが、新vaultの方ではコメントも少なく、現在では難もあるかもしれない。



・DL3: Dragons of Hope (5-7lv開始)(新vaultのダウンロードページ

 AD&D1stのDL3モジュールはドラゴンランスの序盤部の4モジュールの1つであり、そして、DL4と共に小説本編『戦記』では飛ばされたエピソードである。DL3,4は『戦記』では2巻と3巻の間に相当し、3巻冒頭のプロローグで簡単に触れられる。竜槍の英雄らが2巻で難民と共にパックス・タルカス砦を脱出してから、難民の避難先として山ドワーフ王国トルバルディンの入口を探すまでがDL3、トルバルディンで難民の受け入れのために『カーラスの槌』を探索するまでがDL4である。遥かに後に原作者らがこれらのエピソードを描いた『秘史』1巻については後述する。

 余談になるが、原書・モジュール・作者らの情報が充分に日本には入ってきていない富士見版の当時、「トルバルディンとカーラスの槌の探索は、実際には書かれていたが伏せられていた」、ひいては「『戦記』の本国の英語原書では完全なテキストで章(部)として存在していたが、その箇所を描いた他の書物やゲームを売りたいがために日本の訳者らが日本語版では原作者に無断で章・部まるごと削除していた」、さらにはDL3,4相当箇所の他にも、各ゲームブックに対応する内容などについても『戦記』『伝説』等でも書かれていたのを訳者が削除していた、などといった様々な怪説がまことしやかに唱えられていた。現在は注釈版や『秘史』が書かれた事情などに関する本国原作者らの解説から、実際には、DL3,4や各ゲームブックの内容は(当然ながら)原書本編には当時から含まれていなかったことは、ごく普通に注釈版以後の読者らに周知されているが、今でもたまに、富士見版当時の読者とおぼしき者らによって掲示板等でこれらの説が囁かれていることがあり、新規読者に無用な混乱をばらまいているのをしばしば目にする。

 PnPモジュールとしてのDL3の流れは、パックス砦を南下した秋〜冬の寒冷地(アンサロン大陸は南半球なので、南下すると寒くなる)にさまよい出た難民の衣食住を補助しつつ避難地を探し、スカルキャップ城塞(ドワーフゲイト戦争のフィスタンダンティラスの城塞)の廃墟を見つけ、そのダンジョンでトルバルディンに入るための手がかりを入手するという流れとなる。前半で難民を生存させるための特殊ルールなどもあり、強引なストーリー誘導が必要になることがあるDL2などに比べて探索・ゲーム性ともにかなり自由度が高い反面、DM、プレイヤーともに負担が大きいことが指摘されており、まだ多様なシナリオの模索期を思わせる。
 『戦記』と相当するDL1-14のモジュールについては、DL1,2の頃は実際のAD&Dのプレイングをなぞって小説が描かれていたものの、以後はDL3,4が飛ばされたのをはじめとして(プレイング自体は行われたが)実際のプレイの内容は踏襲されていないことはよく知られている。その目算、また特にDL3,4を飛ばすという判断については、賢明であったと言わざるを得ない。避難民の受け入れのDL3,4では、エピック的な世界の脅威(邪竜軍)に対する対応は進まない(モジュールの方ではDL4まで前半の大敵ヴェルミナァルドとの対決が引っ張られる点を加味したとしても)上、DL1,2と変わり映えのしない探索の描写になるので、『戦記』のこの箇所に入れても間延びしていた可能性が高いためである。
 例えば、DL3モジュールではかつてスカルキャップ城塞を根拠地にしていたフィスタンダンティラス自身が「デミリッチ」としての姿で登場する。(後には作外でも「リッチ」と説明されていることもあるが、リッチとデミリッチの位置づけや関係はD&Dシリーズの版によって著しく異なり、小説版の方の存在はどれとも微妙に異なるため、どちらということもできない。D&D5版のFR世界のSword Coast Adventurers Guideでは、ウォーロックの契約相手として、ヴェクナやヴラーキスと並んで、どういうわけか「不死のウィザードであるフィスタンダンティラス」の名があるが、詳細の説明は全くない。)フィスタンダンティラスの正体は『戦記』通じて、小説読者に対しては明らかにならず、その「謎」が『戦記』『伝説』を牽引していた動機のひとつでもあったのだが、そのフィスタンダンティラスやドワーフゲイト戦争の情報量をDL1-4モジュールの順番通り『戦記』2巻の後などに持って来ず、詳細を全て『伝説』の方に回したのは、結果的に成功だったと考えられる。
 後日DL3,4の内容は、DLシリーズそのものの歴史の完結とされた(当時)『魂の戦争』よりもさらに後に小説作者らによって執筆されたLost Chronicles(『ドラゴンランス秘史』)のうち1巻にまとめられ、『秘史』1巻の前半(第一の書)がDL3に相当する。ただし、おおまかな流れ(起こったことの大筋)はDL3のプレイングとして予想できる流れとは共通しているものの、同じ時代を異なる作者が描いた娯楽時代小説のように描写の中心は大きく異なっている。『秘史』1巻前半では、スカルキャップのダンジョン探索は大幅に簡略化され、かわりに難民に対する(パーティーが分断しての)竜槍の英雄それぞれの決断や振舞いが中心になっている。ただし、『秘史』1巻では難民の各勢力(エリスタン率いる信徒群や、必ずしも協力的でない平原人)同士の厄介なやりとりが目立つが、そうした勢力対立をまとめていかなくてはならないのは実はDL3にも元からある要素である(一方、DL3では勢力指導者には秘史の悪玉へデリックはいない。かわりにDL3ではまだ生きているエーベンがいる)。何にせよ、後から書かれた外伝なので過剰に『戦記』の流れのわかりやすさを考慮する必要はないとしても、モジュールのプレイング風に忠実にしない、というのは妥当な判断であると考えられる。なおDL3には'Dragons' of Hopeという題だけあってフィスタンダンティラスが砦の守護者にしていたシャドードラゴンが登場するが、『秘史』1巻前半では、フィスタンダンティラスの描写が略されているためなのか、シャドードラゴン自体のDL世界設定での位置づけが不定なのか(DLでのPnPデータの詳細が現れるのは実はかなり後の版である)ひいては後半にDL4のEvenstarが出るので題名の竜はそちらで済まされたのか、全く登場しない。

 DL3,4の相当箇所の当時のゲーム化としては、リアルタイムストラテジーの複合ゲームのShadow Sorcererがあり、実はFC等のガッカリゲーとして有名なDL1,2の『ヒーローオブランス』『ドラゴンオブフレイム』と同じSilver Boxシリーズに属しこれらの続きにもあたる。Shadow Sorcererには前のガッカリ2作と異なるゲーム性や前述の小説空白部であった部分といった要素について本国では評価する向きもあるが、当然日本語化されておらず、日本ではDL小説読者含めて知名度は皆無である。
 wikipedia(en)のPnPのDL3の記事には、Shadow Sorcererと共にDL3の再現ゲームとしてこのTim氏のNWN1モジュールが紹介されているが、リンク切れどころか「要出典」になっておりぞんざいにも程がある。DL1,2の紹介もそうだがいまだに「プレイするには元のゲームとSoUとHotUが必要」などと書いてあり、DiamondやNWN:EEの現環境では意味すらわからない(SoUとHotUがストーリーモジュールではなく、かつて本体の機能拡張パックだったことを指している自体が、すぐには理解できないゲーマーも多い)と思われる。


 このNWN1のDL3再現モジュールは、ある程度簡略化されつつもDL3の再現が試みられている。前半は難民たちの生存のために物資を集めて来つつ、荒野を探索してスカルキャップ城塞を探さなくてはならず(レイストリンが「なぜか」知っていた『秘史』とは異なり、当初目的地のヒントが無いが)後半はスカルキャップ内のダンジョンで、トルバルディンの入口の位置を見つけるための手がかり(とあるドワーフの宝物)を探さなくてはならない。

 付属ドキュメントの記述によるとDL1,2モジュールのヘンチマンを引き継ぐことができ、NWN1の同作者のDL1,2モジュールをプレイしていれば、DL1の竜槍の英雄らや、DL2のティカ、ギルサナス、ローラナなどから選んで連れていくことができる、という仕掛けになっているらしいのだが、DL2の際と同様、うまく機能しないことがある。結果、このDL3の冒頭で出会うフィズバンひとりしか連れていけないことも多く、雪原やスカルキャップ城塞を延々フィズバンだけ(小説『戦記』では、そもそも2巻末で墜死した(とタッスルは信じていた)ことになっているが、PnPのDL3モジュールでは普通に登場する)を道連れに探索することになるという相当にシュールなゲームになる。

 物資として寒さをしのぐ毛皮や食料のために動物を追いまわしたり、ハチと戦ってハチミツを取ってきたりするおおよそドラゴンランスらしからぬ場面(これらはPnPのDL3モジュールの時点から記載されているものの再現であり、DL1,2のトード長官が女を追いまわす謎行動のようなNWN1独自要素ではない)もあるのだが、また、これらの物資によるタイムリミットとは別に、トルバルディンへの抜け道を探すまでに絶対的なタイムリミットがある(物資があろうが無かろうが、冬になるまでに避難所が見つからなければ、難民が生存できないということである)のも気が重い。パックス砦から脱出してきた総勢「800人の難民」という語が『戦記』『秘史』に繰り返し(タニスとスタームの口論の形で)出てきたのを覚えている読者も多いと思われるが、ラストではこのうちの生存者数に応じてボーナスxpが入る(これは元のDL3でも同様である)。
 結局のところ、フリー同然のマップの広域を盲目的に自力で探索する、という舞台に対して(日程のやりくりをしようにもできず、というのはこの英雄らの状況から考えるとリアルではあるかもしれないが)設けられた多重の時間制限要素は、このNWN1モジュールを面白くしているとはいえない。タイムリミットが無ければ、ハチミツ探しやら何やらも、もっと面白く感じられたのではないかとも思えるところである。
 元のPnPのDL3では(フリーのワイルダネス探索とその特殊ルールが設けられていながらも)結局のところ、DLモジュール全体の傾向としてのDMによる補助や運営処理も強く必要とされていたのに対して、このDL3のNWN1版ではモジュールの無造作な再現が裏目に出てしまっている面もある。

 前半のワイルダネスに指針が乏しいばかりでなく、後半のダンジョンにおいても不親切である。例えば、元のPnPモジュールでは複数の解決方法(魔法の壁が設けられている箇所に対して、鍵を見つけることで解除できる、プレイヤーキャラがディスペルの呪文で解除する、など)が設けられている場所について、このNWN1版では通過方法が限られ、しかもヒントに乏しかったりもする。新vaultでの現在(2024.6月)唯一コメントも、スカルキャップ城塞の目的地のラスト直前まで遂に辿り着いたにもかかわらず、フィスタンダンティラスの骸骨(デミリッチ)のいる階で何をすればよいかわからなくなって中断した、などという評である。
 一応、DL2同様に付属のドキュメントにウォークスルーが付属しており、参照すれば流れをなぞることは可能である。が、このDL3については、たとえウォークスルーの通りに行動したとしてもわかりにくかったり、簡単にはいかない箇所が多い。筆者はヒントなしでクリアしようとした1回目の際は無論のこと、2回目にウォークスルーのそのままその通りに行動してクリアした際も、クリア後のパランサス図書館のDMルームでアスティヌスから「そなたが生還させることのできた人数は『0人』である。その栄誉に対して『0点』の経験値が与えられるであろう」などと有難いお言葉を頂戴することとなった。
 新vaultではすっかり埋もれて上記の如くだが、一方で旧vaultではDL1,2同様好評で殿堂入りしている。難はあるにせよDL3をある程度忠実に再現を試みた労作であり、それがNWNモジュールとしてまとまっていることには一定の評価の対象であったと思われる。

 モジュール作者tim氏のDL3添付のドキュメントには、DL1,2のそれにも記述されていたが「このモジュールの評判が良かったら続きのDL4を作る」と書いてあったものの、DL4以降は作られていない。新vaultでのDL3はともかく、旧vaultではDL1-3ともかなり好評だったので、不評が理由で中断したとも思えない。かといってtim氏は他のモジュール(上述した他の再現物や、オリジナルのキャンペーン長編など)も作成しているので、NWN1の活動自体していないわけではなく、詳細は定かではない。いずれにせよ、DLの序盤シリーズであるDL1-4までも、NWN1では揃わなかったことになる。
 他にNWNのDL物としては単発やPWサーバーなどがあるが、PnPのDLモジュールシリーズの再現としては、DL1-3のNWN1再現とは別の作者だが、DL16: Dargaard Keepがある。戦記相当のDL1-14に対して、DL16はクリンを舞台にした外伝的な短編シナリオ集で、Dargaard Keepはその中の一編である。筆者は(Diamond, NWN:EEともに)このDL16はプレイ中にセーブデータのクラッシュが続出したのでレビューすることはできない。



・S2: White Plume Mountain (14-17lv開始)(新vaultのダウンロードページ

 AD&D1stごく初期のS2モジュール(1979)については、過去に小説版(ジャスティカー偽一シリーズ)やNWN2版に関する機会で述べているが、PnPモジュールでは日本語で読めるものとして5版のTales from the Yawning Portal(HJ和訳『大口亭綺譚』)に「白羽山の迷宮」として収録されている。かのブラックレイザーをはじめ、D&D5版のDMGにも載っている3種のインテリジェント武器を白羽山の迷宮から持ち帰るダンジョンアタック(「戦闘」と「トラップ・仕掛け」が半々)である。

 このNWN1版再現モジュールはNWN1自体がOCしかない最初期に作られたもので、旧vaultで殿堂入りしているものである。ワイルダネス冒険へと大幅にアレンジされたNWN2版や、拡張パックやhakなどを駆使した後日の他の再現モジュールと異なり、このモジュールは白羽山のダンジョンのみを再現したシンプルなものである。ノウハウの少ない最初期のモジュールだけあって粗も多いが(わかりにくい可能性のある仕掛けや、vaultコメントで指摘されているようなヘンチマンの持ち物の問題など)、進行自体には不具合などはなく、現バージョンでソロで普通にプレイが可能である。添付のreadmeにはヒントやスポイラーもある。
 元のPnPモジュールは(AD&D初期の怪奇ソーズアンドソーサリーな探索モジュールによくあるように)トラップや仕掛けが過剰だが、このモジュールではOCの段階の表現力で再現しているので素っ気無く済まされているものが多い一方で、装備破壊のような初期PnP特有の悪意トラップが再現されている箇所もあり、そういう性質が肌に合わなければプレイ自体避けた方が無難である。マルチプレイ用に各DMが独自要素を配置することを推奨されている空っぽの部屋などもあり、いかにもOC最初期当時である(空っぽのままでもソロ進行上の支障はない)。



・Tomb of the Lizard King (9-10lv開始)(新vaultのダウンロードページ

 I2: Tomb of the lizard king (1982)は、AD&D1stの中期のモジュールのひとつである。WG世界の重要作となっている名作モジュールの数々と比べると、さほど有名作や傑作の類ではないが、当時の評価の類では好評であるらしい。I2のIとは単に「Intermediate」の意で、中レベルを意図するものだが、AD&Dモジュールシリーズ内での「中堅」ともいえる。DLやFRといった世界設定が立ち上がる以前のAD&Dにはよくあることだが、世界設定は特に決まっていない(5版の『大口亭奇譚』のようにどの世界にも自由に配置できるようになっているのではなく、単純に「背景のワールド」というもの自体が意識されていない)。同様のIシリーズでもう少し有名なものにはかつて紹介したI6やI10のレイヴンロフトがある。
 I2は伯爵に依頼されて領地を悩ます山賊を追っていると、リザードマン(現・リザードフォーク)とその背後の古代王の遺跡が姿を現してくるといった、D&Dシリーズのダンジョン物としてはオーソドックスな(近年のシナリオよりはやや古代怪奇的な『剣と魔法』世界観寄りの)作である。以後によく似た背景のシナリオがD&Dシリーズや、他のPnPシステム用シナリオに存在することは指摘されているらしい(例えば、T&Tの『レッドサークル』(1987)を思い出すゲーマーも日本にはいると思われる)。

 このNWN1モジュールは新vaultの評価で殿堂入りしているわけでもなく、細部まで手の入った凝った造りというわけでもないが、普通にコンバートされている。だだっ広い(一つ一つも広めでエリア数も多い)マップや、やや弱い敵と微々たる戦利品が多量に出るきらいがある点など、いつものPnPコンバートの傾向だが、NWN1の帰還ポータルストーンのシステムが採用されている点が配布ページのコメントで好評な理由のひとつと思われる(作りのぞんざいなモジュールや、PnPをそのままコンバートしたものには、ポータルストーンなどは無く、長い距離を歩いて戻ることを強いられるものが多い)。
 だだっ広いマップをスルーして奥へ進むことも可能だが、わかりにくいかもしれない点に、モジュール最終の敵の倒し方がある。元のPnPモジュールは倒し方が複数例示されているが、このNWN1モジュールでは、そのうち一定のアイテムを使用する方法でないと滅ぼせない(所持品に入ってさえいればよい)。その必要アイテムが何なのかは、沼地のわかりにくい箇所(まっすぐにダンジョンに辿り着いてしまった場合は見つからない)に落ちている文書にヒントが記載されている。ダンジョン付近を探索していると偶然その必要アイテムが見つかる(知らずに拾っている)場合もあるが、悪い方に偶然が重なると、ヒントすら見つからないことも考えられる。結果、広いマップを隅々まで探索する必要がある場合もあり、それこそ80年代のPnPモジュールやCRPGではよくあった話だが、現在のPCゲームとしてはかなり古式然としたつくりであるため、その旨を理解の上でプレイできる(初期モジュールを踏み慣れた)NWN1ユーザー向けではある。



・The Temple of Elemental Evil T1 (2-4lv開始) (新vaultのダウンロードページ

 T1-T4: The Temple of Elemental Evil (ToEE)は用語集やNWN2版の方でも述べているが、AD&Dからの古典的な重要モジュールであり、グレイホーク世界の設定上の重要施設(元素邪悪寺院)名でもあり、NWN1と近い時期のPCゲーム版(Troika社版)もD&Dゲーム史上重要であったりもする。
 NWN2の方の再現モジュールは1種(とそのバリアント)しか選択肢がないが(それも問題を抱えているが)、ユーザーコンテンツ作成がより豊富なNWN1の方では当然、ToEEモジュールの再現の試みが多数ある。が、どういうわけかToEEでは厄介なことに、元のPnPモジュールやPC版の再現において、「NWN1版のToEE」として決定版といえるものが中々見当たらない。新旧vaultで検索すると多数の候補が出て来るが、内容が途中で止まっているもの、hakなどの不具合があるもの、NWNがバージョンアップした際に不具合が出るようになりそのまま直されていないものなどが新vaultに多数登録されており、通してプレイできるものにすら中々たどりつかなかったりする。

 それらの中で完成版として幾つか挙げられるモジュールは別の機会にさておき、今回、冒頭にリンクを挙げたNWN1モジュールは、「T1」だけが冠されていることからもわかるように、実はT1-4のうち序盤部分(PnPではT1: Village of Hommlet)のみの再現である。ToEEのPnP版やPC版を知っている人に言うと、最初の「モートハウスの山賊」を倒すまでの所までで終わりで、元素邪悪寺院は出てこない。なお、このT1の部分だけのNWN1モジュールというのも複数ある。
 しかし、このモジュールは、vaultで「殿堂入り」しているところからもわかるように、この範囲においてはまとまって完成しており、また細部に手がかかっている。例えば山賊退治の依頼ひとつとっても、よくある村長に話せばジャーナルが更新されてあとは向かうだけ、ではなく、村の会議が開催される夜になるまでわざわざ宿屋等で待ち、夜に会議に出席して村の重鎮らが発言・検討する中で依頼され、そこでモートハウスや、元素邪悪寺院のWG世界の背景設定も詳しく語られる。それ以後のシナリオの主要部分はダンジョンアタックではあるものの、単純なハクスラだけのモジュールではなく、なんとかできるだけ「ストーリー物」に見えるように尽力されているのが伺える(NWN1のPnP再現物には、特にこのあたりがぞんざいだったり、そうでなくとも原作未プレイ者には説明不足なものが多い)。
 PC版ToEEと同様、ホムレットの村人エルモをヘンチマンにできるが、なぜか『地底の城塞』でも述べたWG世界の冒険者キャラ(Troika版ToEEのデフォルトキャラでもある)では、ドワーフ戦士のトルデクだけが出て来る。



・B1 - In Search of the Unknown (1-4lv開始) (新vaultのダウンロードページ

 元のPnPのB1モジュールは、かつてBD&D第ニバージョン(Holmes版)の初期にルール本体に添付されていたシナリオである。第二バージョン後期〜第三バージョン時には(何度か紹介した)B2モジュールが添付され、第四バージョン(赤箱)になるとDMブック内にミスタメア城の廃城ダンジョンのシナリオが入っているが、B1はこれらと同様の「最初または初期の入門用冒険」の位置づけの作といえる。B2の方は第四バージョン用のモジュールとしても別売されていたので新和から和訳されていたが、B1は和訳されてはいない。(なおwikipedia(ja)のB1の記事では、「ベーシックセットの初版」に添付されていた、などと書かれているが、これはwikipedia(en)の方の該当記事で最初のベーシック=Holmes版の初版に添付されていたという記事が直訳されたままになっているもので、D&Dの文脈での”ベーシック”が何を指すかが混乱したままの日本の『TRPG』界では非常に説明の不足した記事となっている。)
 この題名はBD&Dの最初のシナリオとしてそれなりに意識されているのか、総集編モジュールや(例えばB1-9: In Search of Adventureだが、題名にB1の番号は入っているがB1の要素は洞窟のマップの一部が流用されているだけである)、OGLのオールドスタイルD&Dクローンゲームが、似た題名になっていたりする。そういった意味でも重要な位置づけにある最初期モジュールだが、日本のゲーマー間の知名度は皆無である。

 Holmes初期に添付されていたPnPのB1モジュールの内容は、かつて冒険者の拠点の廃墟の上層のダンジョンと、下層の洞窟のマップからなる。上層は、2人の荒くれ者が冒険者ギルドのようなものを設立し成功に浮かれて外征に出たらひねり潰されたという、D&D世界には至極ありふれた(危険にあふれた世界で強がった者の末路のごく日常通常運行的な)背景で、その冒険者らの拠点跡であり遺産が宝にせよ罠にせよ残されている。下層の方は、DMが自分でクリーチャーや罠や宝などを配置するようになっており、配置内容の指針だけが示されている。CD&D第四バージョン(赤箱)のミスタメア城の下層と同様の、プレイングとDMのシナリオ(当時はダンジョンのみだが)作成の入門となっている。

 B1モジュールにもNWN1にはいくつかの再現の試みがあるが、例によってうまくコンバートされているものもそうでないものもある。上記リンクに示したものは、元々はこのモジュール作者が別のキャンペーン用に使用していたエリアの一部ということだが、普通にコンバートされているひとつである。
 上層ダンジョンに入った瞬間、おそらくマップウインドウに表示されるそのあまりの広さに度肝を抜かれるに違いない。単に元のPnPモジュールと同様のつくりなのだが、通路が入り組んでいるため、NWN1で再現すると面積がえらく広くなっている。冒頭でいくつか目的が示されるが(元のPnPモジュールにもある、上記ダンジョンで行方不明になった冒険者を探すなど)どこに行けばいいのかの指針などはなく、この広いダンジョンを探りまわっているうちに、クエストに関係する情報(報告すればクエストクリアとなる)が自然に入ってくるという流れが多いが、きわめて漫然としている。かつてのPnP初期には、まさに当面の指針もなく漫然とダンジョンのハック&スラッシュを行うことも多かったとはいえ、マップの冗漫さもあって盛り上がりにくいのは否めない。ダンジョンが暗い上に松明がすぐに燃え尽きる、休息制限など特殊ルールがあるので、あらかじめ光明アイテムや呪文を持ったキャラでプレイした方が無難である。固定モンスターの他に適度な(多すぎない)頻度でワンダリングモンスターが生成されるのが、いかにも古風なPnP初期ダンジョンらしい味もあり、他の多くのNWN1/2モジュールとは一風変わったプレイ感もある。
 下層は(元のPnPモジュールでは各DMにデザインが任されているので)このモジュール作者がデザインしたもののようだが、元モジュール指針の洞窟ではなく、人工ダンジョンとなっており、上層に比べてかなりこぢんまりしている。
 初期かつ入門用PnPモジュールが元だけあってシンプルなのは確かだが、逆にあまりにもシンプルすぎてNWN1/2の近年モジュールとは乖離が激しく、それを納得してPnP再現物を試行するユーザー向けである。








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