最初からオーバーランドやフリーというわけではなく、導入部(1-4lvほど、作者曰くthe first few hours)はしばらくシティーアドベンチャーのクエストクリアを繰り返し、その後、街を出て自由にオーバーランドマップを移動できるようになる。導入部は、主人公のクラスごとに違う流れが用意されているとのことだが、筆者も全部確認してはいない。なおOCやMotB同様、プレイヤーが作成するキャラは最初の主人公一人だけで、冒険中にコンパニオンが加入することになる。
オーバーランドマップはSoZ形式で移動していくものだが、SoZのような屋外の敵や罠・宝などとの遭遇は設けられておらず、単なる移動用である。このあたりは、SoZのテンポの遅さに対して、余計なものは省いて、イベントはマップポイントでのダンジョン内や、街で起こる出来事に集中したと考えられる。SoZそのもののマップや、屋外でのランダム遭遇、シンボルエンカウントの敵と戦い続ける流れが好みなプレイヤーには、この点は物足りないかもしれない。
SoZでのオーバーランドマップがサマーラック(サマラッチ)とソードコースト北の一部にすぎなかったのに対して、このPath of Evilで移動できるマップは極めて広大、というか、公式のフェイルーン地図のポスターをそのままマップ画像に使用しており、その広い領域を探索できる。もっとも、バルダーズゲート市など有名な地点の多くにはマップポイントは設けられておらず、地図上の全ての場所に入れるというわけではない。フェイルーンを再現した等ではなく、あくまで作者独自のイベントを配置するのにフェイルーンマップを使用し、またイベントの数とマップの規模が地図相応に大きいというだけである。
例えば、出発点のすぐ近くの街でメインストーリーに関わるイベントを進めるには、ヒント(ジャーナル、マップポイント)等は全く無しに、マップ上の民家からあるアイテムを盗み出さなくてはならない。この民家は家の扉にもアイテムが入った箱にも施錠されている。なぜここでそれを強調するかというと、例えば上記の『バルダーズゲート』シリーズでは、施錠されていないものはともかく施錠されている扉や箱を開けると衛兵に咎められたり敵対されたりする。なので、たとえD&Dゲームであっても通常プレイなら(場合によっては悪人プレイであっても)「わざわざ施錠されている扉を無闇に開ける」ようなことはしないし、そういう発想そのものが出ない。
しかし、Path of Evilではそういうことをしないとメインストーリーが進まないことがある。何故かというと、ヴィラン推奨だからである。民家のタンスは適当に漁っても一切咎められないDQ勇者(そして、FT素養の乏しい者は、「FT世界とは・勇者とは」そうした行動が許されている世界である、合法・倫理に適っていると許容されている、などと都合のいいようにしか解釈しようとしない)とはわけが違う。ヴィランが奨められている、あらゆる悪行の余地がある、ということは、裏を返せば、あらゆる不評・人倫を外れた選択肢も含めて全て考慮しなければ、突破困難ということである(まして、善人プレイをしようと思えば前述のスポイラーのようにさらなる隙間を縫うような困難を要求される。しかも、それは不可能ではない)。かつての黎明期のCRPG(悪に走った方が進めやすかった最初期Ultimaなど)の、行動余地の広さと裏返しの難解さを思い出させる。
これは初代PoRこと、1988年のPool of RadianceのNWN2版リメイクモジュールを謳われているものである。初代PoRについてはこのサイト全般で何度も話題にしているが、DOS時代(ただしApple][やC64でも作られ、FC版も存在した)のAD&D1stのゲーム、Gold Box EngineのCRPGの1作目である。英語圏のD&Dゲーマーには名作の位置にあるが、日本では和訳版が一部のPCやFCゲーマーに記憶されているのみの、知る人ぞ知る存在である。
なお、毎回毎回「初代」PoRと言わなくてはならないのは、Gold Boxの連作のさらに続編の位置づけで2001年に同タイトルのWindows用ゲーム(Pool of Radiance: Ruins of Myth Drannor)が存在していたためである。これは3.0eのルールが未確定の頃に、AD&D2ndゲームの予定だったものを強引に改変して作られたもので、非常に問題が多く、現在海外では全く話題にのぼることは無い。しかし厄介なことに、よりによってこの2001年版は「和訳」されており、数少ない「日本語D&Dゲーム」のひとつになっていた。そのため、日本のゲーマーに限っては、いまだにPoRとだけいうと(Windows用なので、下手をすると初代より知名度もあるため)不用意にこの2001年版を話に出してしまい、無用な混乱を呼ぶ者が少なくない。当サイトでは(もし書き忘れた場合)単にPoRというと88年の初代のものだけを指す。
ストーリードライブの構築にあたっては、ゲーム版だけでなく、関連作品、例えばPnP版のモジュール(FRC1: Ruins of Adventure)、モジュールと同作者による小説版『廃墟の王』などの要素が追加されている。
事務官のサシャ(PoRの続編のシリーズにも登場する)はストーリー自体の牽引役となっており、キーパーソンのカドルナは勿論、小説版のカドルナの知恵袋ゲンサーなども登場し、小説版とは若干違った展開の役目を果たす。
元のPnPのC1: The Hidden Shrine of Tamoachanは、当サイトでは過去に話題にしたこともあるが、AD&D1stの「古典的」作品とみなされているもので、トラップの多い古代遺跡に迷い込み、脱出するものである。設定上も、南米風の文化及びパンテオン(ケツァルコアトル等)、WG世界設定では「オルマン人」の文明と位置付けられているものの描写で重要である。(D&D5版用の再録シナリオ集のHJ和訳『大口亭奇譚』では「タモアチャンの秘密の神殿」。)
これに対し、NWN2版のコンバートモジュールは、(レルムのルールの再現性が高いゲームシステムのためか)NWN1版その他以上に、WGやミスタラのモジュールがFR設定に変更されていることが多いが、このモジュールもWGやミスタラでなく、FRと同じ惑星トーリルに舞台が変更されている。トーリル上で南米にあたる「マズティカ」大陸のある遺跡が舞台となっているが、フェイルーン領域ではないため、厳密には「レルム」ではない、といえるかもしれない。
なお、元のC1モジュールの題名はThe Hidden Shrine of "Ta"moachanである。本モジュールでは"To"moachanになっているのは、アレンジして綴りを変えているのかとも思えたが、ドキュメント類ではPnPのC1モジュールのことも"To"moachanと表記されているのでよくわからない。誤記や覚え違いとも思われたが、同作者の過去作のNWN1版のモジュールの方ではPnP通り、C1: The Hidden Shrine of "Ta"moachanという正しい題名になっている。あるいは、原作モジュールのWG世界などとは異なり、アレンジされた「FRでの地名」ではTomoachanという別の綴りだという設定なのかもしれない。
これは同作者のChronicles of Charniaというシリーズのうち、最もまとまった長さのあるキャンペーンである。他にThe Exile, Escape from Charnといった同シリーズの単発モジュールがあるが、Lanternaが最も新しく、システム及び話にも分量がある。なお、IWD1のNWN2版と同作者でもある。
Chronicles of Charniaは、「カルニア国物語」とでも表記すればいいのか、C.S.ルイスのナルニアシリーズを強くモチーフにしたシリーズである。例えばNWN2版ではライオンがクマーに置き換わったりしているが、意図があるというよりは、NWN2の素材に合わせたという感が強い。この背景から想像できる通り、シリーズ通してカルニア国の危機(侵攻など)に対峙してゆくストーリードライブであるが、(元が児童書でもあるためか)さほど難解な話や謎などはない。中〜長編シナリオのクライマックスにはナルニアでもおなじみの大規模戦(合戦シーンというほどではないが、数十のNPCなどのユニットが入り乱れ、シーンが何度か切り替わりながら進む)の場面がある。
なお、Chronicles of Charniaはこの作者がかなり長く作っているシリーズらしく、シリーズのシナリオの幾つかは例えばNWN1や、IceBlink(NWNの新vaultで開発されている、3.XeもどきのFRUAもどきのようなRPG作成ツールである。PC, Android, iOSなどのバージョンがある)版がある。GooglePlayなどで(IceBlinkはシナリオ単発でゲームとしてプレイすることもできる)上記シナリオが確認でき、特にLanternaはIceBlink2の新エンジンのデフォルトになっている。これらの収録状況からも、ある程度は定評があるモジュールといえる。
例えば、NWN2日本語wikiでは「船を動かせたりするなど工夫が光る」などが紹介されていた。船を動かせる工夫、とはどういうことかというと、少しネタばらしになるが、例えばSoZが導入された現在では、主人公のアイコンを船に変えてオーバーランドマップで船で旅することなどができるが(例えば、以前紹介したBlack Scorge of candle coveキャンペーンなどがその移動場面を採用している)OCのみの頃にはそれらは無い。当時のこのモジュールがどうしているかというと、船の形状のコンパニオンを作成し、自動選択させて移動させることで、疑似的なオーバーランドマップと、その上での操作を実現しているのである。
他にも、OC以来一度はやってみたかった子豚たちを引き連れて村を歩き回る場面、犬を操作して証拠を追跡していく場面など、通常の冒険シナリオでは今でもそう見られない展開や、そのための工夫が山積みである。このモジュールの好評は、作者の「アイディア」、その投入や実行をことに歓迎し評価するという、NWN1/2のユーザー文化も強く反映されていると思われる。
このアイディアに支えられるストーリー自体も、ノンストップなストーリードライブの展開で、この点はTragidorキャンペーンやPoRと並べてもスピーディーでNWN2OCを思わせる。
ただし、プレイヤーの介入の余地のない展開、何もできないうちに味方キャラが死亡する場面、主人公の友人が突如として邪気眼(ウォーロック)に覚醒して強敵をイヤボンヌする場面など、JRPG的劇場展開がある意味これもOCに似た難も抱えている。そしてお約束だがぶっちぎれる。王都にようやく船がついたところでto be continuedとなる。当然、最も古いモジュールのひとつなので放置されている期間は長く、続編が出る見込みは少ないだろう。
これはエピックレベル、特に30lv、MotB終了後のキャラクターを対象としたモジュールである。システム面(単純な戦闘や技能解除トラップ)を中心としたダンジョンアタック物である。
他でも述べているが、NWN1/2では本編クリア後のキャラを使用といった高レベルから開始するユーザーモジュールは少な目で、特にNWN1よりもはるかにモジュール数の少ないNWN2ではエピックレベル対象、ひいてはMotB終了後や限界レベルの30lvに達したものが対象となると(30lvキャラの性能をテストするビルド試験用アリーナといったものを除けば)ほんのわずかしかない。Trial and TerrorはMotB当時(SoZやMoWがまだ無い頃)からあり、MotBクリアキャラを投入する高レベルモジュールとしてたまに話題にのぼり、新vaultでも「殿堂入り」しているものである。
が、NWN1/2各初期モジュールに対してこれも述べてきたことではあるが、その評価に対しては、現在となってはいささか疑問符がつく。初期のPnPコンバートモジュールやマルチプレイ前提モジュールは、マップがえらくだだっ広いが、このモジュールは輪をかけて本当に無駄に広い。その広いマップを、初期NWN1-OC直後のモジュールのように、ショートカットなしでお使いで往復したりするサブクエストなどもある。PnPコンバートモジュールのように、異常に広大なマップを隅まで探索し、特に利益がなかった(わずかな宝くらいで、メインの流れに特に何も影響しない)こともある。次々と登場する敵は、特に工夫や対策などはなく、単純にヒットポイントなどの数値が高いものが順次出てくるのみである。
30lv以上だからといって、設定やストーリーにも特に相応のスケール(例えばMotB後半の次元界をまたいで神々の権能がテーマに含まれるような)があるわけではない。その一方でこのモジュールの特記すべき点として、何がどういうわけなのか、ゲームブックFF#6『死のワナの地下迷宮』の引用・踏襲が見られる。迷宮通過・脱出というテーマがそうだが、迷宮主がサカムビット高僧で「サカムビットのうじ虫野郎!」の台詞だの、像に登って目のルビーを取る場面(D&Dではモーロック像が定番のような気がするが、このモジュールではなぜか日本の「地蔵」である)なんぞはそのまんま出てきたりもする。かといって、よきも悪きもあのFF#6のような「仕掛け」の凶悪さやこだわりはない。Trial and Terrorという題名自体が、FF#6を上回るD&D界の凶悪モジュールの雄Tomb of Horrosの語呂に引っ掛けてある可能性があるが、結局いずれの凶悪さも思い出させるところはない。
無論のこと、上記した最初期のAD&Dモジュールやゲームブックのような凶悪・剣呑な騙し仕掛けトラップが、NWN1/2、CRPG、ひいては現在のゲーマー全般の求めるものに合っているというわけではない。しかし、NWN1/2やCRPGでも凝った仕掛けを感じさせるにはそれなりにやりようがあるところ、このモジュールはやはり単にNWN1/2初期の戦闘シナリオのような素っ気なさ・だだっ広い冗漫さの色が濃い。30lvパーティー専用の高レベル対象・強敵・高難度トラップが待ち受けるという謳いが、いずれも単純に数値・CRが高いだけ、という意味で使用されているに過ぎない結果となっている。
小さな村Tragidorを出発舞台とするが、この村自体はD&Dシリーズの公式のものである。AD&D2ndのマスタースクリーン(REF1)に付属していた、NN: Terrible Trouble at Tragidorというごく短いモジュールに登場する。ただし、このAD&Dモジュールの時点では村の名前以上の情報はほとんどなく、Hanumanなる街の隣にあるというくらいで、どのワールドかも規定されていない(マスタースクリーン付属という性質故もあり)ようである。
実はAD&D2ndのマスタースクリーンは新和により和訳されていた非常に数少ないAD&D書物のひとつであり、この付属モジュールの部分も当然和訳され、『トラジドーアの忌まわしき出来事』と題されていた。
このNWN2モジュールでは、内容自体は前記マスタースクリーン付属モジュールとはさほど関係ないようである。トラジドーアの村はFR世界(シルヴァリムーンの近く)に設定されている。もともとのTerrible Trouble at Tragidorという題名が(原文では)韻を踏んでいたが、このモジュールのTragedy in Tragidorも同様に韻を意識したものと思われる。
MotBの頃に出た(若干古い)「殿堂入り」ストーリーモジュールのひとつで定番である。日本語化ファイルも配布されているHarp and Chrysanthemumと同じ作者である。日本のNWN1の小セッション用短編モジュールのように、長くて数十分の短編である。戦闘系モジュールで紹介したGrimm Brigade同様、NWN2初期のobsidianの童話テーマモジュールコンテスト作だった背景がある。
実は、前記Harp日本語化ファイルを入れていると、いきなりBirthdayではなくHarpの方のイベントが始まることがある。これは、Harp日本語化ファイルではいくつかのファイル(harp jフォルダ)を「oveeride」フォルダに入れるよう指定されているのだが、おそらくBirthdayと同作者のHarpでは、イベント名として同じものを使用しているので、その結果、Birthdayでイベントを呼び出しても、overrideに入っているファイルの方が優先されるので、harp jのイベントが呼び出されてしまうのだと思われる。また、ジャーナルが空白になるなどの不具合に見舞われることもある。
対策のひとつとしては、Harp日本語化の指示では「override」フォルダに入れるとなっているファイルharp jフォルダを、フォルダ丸ごと「Campaigns」の「Harp and Chrysanthemum」のフォルダの方に移すことで解決する。いわゆるoverrideに相当するファイルは、campaignsフォルダの該当キャンペーン名フォルダに移しても(ほとんどの場合)動作し、かつ、そのキャンペーンの実行中のみ機能する。
Harp and Chrysanthemum以外でも、日本語化ファイルなどで「overrideに入れる」ような指示があるファイルは、キャンペーン形式のモジュールであれば、キャンペーンフォルダのそのモジュールのフォルダの方に入れておいた方がよいかもしれない。
これはレイブンロフト世界設定のおなじみ最初のI6モジュールと、結合モジュールであるI10: Ravenloft II: The House on Gryphon Hillモジュールを元にしたNWN2モジュールである。
AD&DのI10モジュールは、'Ravenloft II'とは題されているものの、I6モジュールの直接の続編ではなく、別の館が舞台となる一見全く別のモジュールだが、単独でプレイする他、I6モジュールと「連動」してプレイすることのできる仕掛けがある。I6モジュールで登場した、プレイヤーが占い師(ミンスクのアメコミにも登場したマダム・エヴァ)の所で引くカードによって展開が変わるアイディアに引き続いて、プロットやアイテム、NPCが変化する仕掛けがあり、I6同様、モジュールの評価はかなり高い。
I10は原案はI6と同様にトレイシーとローラ・ヒックマンだが、執筆はドラゴンランスも含めてモジュール側の執筆者だったジェフ・グラブや、当時の多くのモジュールを手がけたゼブ・クックが行っている。