NetHack関連








NetHackのコマンドと行動自由性


 ゲーム談義(大抵、wizとかDQ5とかSFCシレンとかアスカとかが元祖だとか至高だとかいう煽りあいだが、基本的にマンネリであまりやる気の見られないスレッド)のうち、シレンやRoguelikeに関するものの最中に、なぜか、非常に唐突に『ウルティマ』、特に『ウルティマオンライン』の話を振ってくる者、というのがしばしばいる。


 これは一体何の脈絡なのか、というのが長らく疑問だったのだが、どうも調べ続けた結果、「Roguelikeの決定版、実質的な元祖・本家=NetHack」という認識を持つ人々のうち、NetHackが持っていたRoguelikeの最大の本質=特徴=美点とは、
 「どんな行動でもできる(あらゆるコマンドが入る)」
 こと、という認識で語っている人々が、存外に多いようなのである。
 ウルティマシリーズに顕著に見られる行動の自由度(CRPGで最も高いというわけではないが、おそらく話題に出す人々にとってはUlやUOが身近なのだと思われる)を思わせる、あたかも人間のゲームマスター(D&D系ならダンジョンマスターだが)が存在するTRPGのように柔軟であることが、他のCRPGと一線を画するNetHackの最大の美点である、と紹介しているサイト等が少なくない。


 確かにNetHackは「どんな行動でもできる」という要素を持つ。しかし、それは無論のこと、"RogueLike"としては必須ではないし、特徴のひとつではあるとしても、明らかに最大の特徴や最大の美点ではない。
 *bandやcrawlはまぎれもなくNetHackと同等に非常に優れたRLだが、NetHackほど何でもできるわけでもなく、それ以前にこれらのRLには、NetHackを「元祖」としない(流れをくまない)ものも多数ある。(何でもできるという側面はRL関連ではelonaに受け継がれているが、必ずしもRLだけの特徴というわけでもない。むしろRPG史としては死体とか骨を投げまくりのリアル行動ゲームの祖であるダンマスの方が重要だろう。)


 実際のところ、NetHackがなぜか「何でもできる」ルールになっていることは、RLの中でもAD&Dのルール(TRPGの状況)にきわめて忠実な要素の多いゲームであり、実装できる限りしていること、それを実装するために膨大な歴史が積み重なってきたこと以外には、たいして深い意味はない。
 さらに言ってしまえば、日本のゲーマーが「奇想天外な行動」だとか、「こんなのわかるわけがない」「なんて何でもありなゲームなんだ」などと信じていることは、AD&Dとしては別にあたりまえの行動にすぎない、ということがたびたびある。
 例えば、「祭壇に秘宝を捧げたら昇天して神になった」とかも、祭壇とアーティファクトが手元にあってdivine ascendルールによってdemigodのstatus(divine rank)を獲得するつもりならば、やることは他に考えられない、ごく当たり前の話に過ぎない。






NetHackとCD&D要素


 wizの話の出張みたいになるがしょうがないなあ。
 NetHackは大半の要素がAD&D1stの引用だが、「一方でCD&D(赤箱シリーズ)の影響も強い」という見解で語られることも以前から多い。NHがCD&D同様に、アライメントに秩序−混沌の軸しかない点、初期版で種族と職業が分離されていない点、などである。
 NetHackがAD&D1st由来な点は、現にドキュメントの明言や各種データの丸写しより、見るからに明確であるし、各所のwiki等でも言及されていることは多いので、Wizardryほどには誤解されていることは多くないのだが、それでもNHがCD&Dがベースだと信じられていることや、いくつかのNHのバージョンアップについて、「D&D赤箱等→3e」改版の影響、という発言もときどき目にしたりもする。

 現に、NetHackには確かに、AD&D1stとは明らかに合致せず、CD&Dの方と共通する要素はいくつかあり(上記以外でも武器技能レベルの呼称、一部モンスターのヒットダイス等)これまでにもこのサイトでもCD&Dとの共通要素としていくつか言及している。
 しかし、結論から言うとこれらが確かに直接にCD&Dの由来・引用であるかは断言できない。ひょっとするとそれ以前のOD&D白箱(AD&D、CD&Dの共通の原点。AD&Dの方に近い)であるとか、その他の由来である可能性も否定できないためである。


 例えば、「秩序−混沌」の軸であるが、AD&D1stのPHB以前、すなわち1978年よりも以前に、OD&Dをベースにして研究用や教育用のコンピュータで作られたCRPGがいくつか(dnd, Dungeon, oubliette, 大文字DND, Telengard, 非RLのMoria, Avatar等)存在することは以前にこのサイトの別のコーナーで述べた。このOD&Dベースのゲームに、oubliette(そのうちwizページの方で述べるが、wizそのものの核心的原型である)など、lawful-neutral-chaoticのみのOD&Dのアライメントを既に採用しているものがある。
 (誤解のないように言うが、OD&Dの最初の基本ルールでは秩序−混沌の軸と善−悪の軸は分離されていない。別々に存在するのは種族・職業の方である。)
 研究用大型機のハッカー文化のゲームであるNetHackは、その前身のゲームであるこれらの最初期CRPGに倣って、秩序−混沌のシステムを採用している可能性がかなり高い。つまり、CD&D→NHではなく、どうやらOD&D→黎明期CRPG→NHという流れらしい話である。


 次に「初期NHは職業がCD&Dに近い」(職業と種族が分離していない)であるが、*bandやwizの「職業」のことすらも「ジョブ」などと平気で呼ぶ者がいたりする日本では、これらの用語の使い方に対する意識・認識が著しく軽視されていることがわかるのだが、NetHackの「職業」の原語は"role"であり、D&D系列での職"種"を示す"class"ではない。classはD&D系では、キャラクター類型・分類・プレイヤー分担の他に、経歴、能力的分野、経済的環境、生活世界、社会階級などの様々な意味合いを持っている語である。
 現にNetHackのroleの内容は、CD&DはもちろんAD&Dのclassとも、ルール的な内容がまったく一致していない。例えばD&D系列のclassは、特殊能力はもちろん、装備・使用可能物品、ヒットダイス、THAC0(打撃命中率)、セービングスロー(運勢値)等のありとあらゆる能力がclassによって大幅に異なるが、NetHackのroleでは一切反映されておらず(classとして見た場合、どれでもTHAC0が同じなどは到底信じがたい話である)またどんなroleでもおおむねどんな武器でも装備できたりどんな物品でも使えたりする(classは合わなければ装備自体できなかったり絶望的に能力が低下する)。

 よく引き合いに出されるのが、NHの古い版では「エルフ」が種族でなく職業という点がCD&Dと共通していた、という要素である。しかし、NHのelfのroleにしたところで、上述のようにCD&DのelfのclassやAD&Dその他のelvesのraceとはまったく似てはいない。そもそもelf以外にはただのひとつとして、CD&DのclassとNHのroleは一致しているものがない。


  CD&D  NH-role

  Cleric      Priest
  Fighter   該当なし(※1)
  Magic-User Wizard(※2)
  Thief       Rogue
  Dwarf       該当なし
  Halfling    該当なし

※1 NHのFighterは美少女戦士であり、これを該当させても誰の得にもなりはしない。他のNHの戦士系roleにCD&Dに該当するものが一切無いのは言うまでもない。KnightはCD&Dでは高レベルのFighterが転職し得る(スプリットクラス)が能力を見る限り関連性は皆無と思われる。ちなみにAD&DではKnightでなくCavalier(NHのドキュメントにもあるUnearthed Arcanaのクラス)である。

※2 ずっと後にWizardはAD&D2ndではMagic-User類似クラスの総称(グループ名)、D&D3e以降ではクラス名、となるのだが、少なくともCD&Dでは、9レベル以上のMagic-Userの称号(AD&D1stでは11レベル以上)でしかなく、Wizardというクラスは無い。


 こちらについては、NHのroleが「CD&Dのclassを原型とするもの」でないことはほとんど確実である。では、NHのroleの直接の原型は何なのかというと、結論は出ない。おそらくは、最初から「複数別種のclassの存在」が前提であった上記oubilette等や*bandとは異なり、NHではあくまでも「Rogue以来の万能キャラクター」をベースとし、それにある程度のプレイのバリエーションを持たせる、という考え方で導入されているものだろうという経緯が推測できることや、そういう意味ではNHのroleはAD&Dの「キット」というサブクラスのさらに下位の分類にかなり近いものが見えるが、OD&DやAD&Dの追加ルール(NHでも多くが惜しまず導入されている)の類をすべて探したわけではないので、直接の由来はわからない。






・ネーウォン・パンテノン


 墓堀:イセック

 フリッツ・ライバーの二剣士シリーズのネーウォン世界において、主舞台のランクマーの都で言及される神々には大別して、いわゆる都の守護神である「ランクマー”の”神々」と、宗教家たちによる小神群である「ランクマー”に集う”神々」とがある。

 ランクマー「の神々」の方は、このネーウォン世界に「実在」している存在で、黒いトーガに黒い骸骨じみた、いわゆるアンデッド達のような姿をしている。普段は都に身を隠し、表だって信仰されることもないが、後述の「集う神々」の不遜な者や、都の危機には、実際にその姿を現す。敵に回すと実に怖いが、味方としては『ランクマーの二剣士』で描かれたように案外頼りにならない。

 ランクマーに「集う神々」の方は、都の中央の「神々の大路」で布教を行う無数の宗教家たちが祀る神々の名で、実際のところ、作者ライバーによる現実社会の新興宗教や小カルトのカリカチュア以外の何でもないようである。これらの神性はいずれも、ネーウォンに実在する「の神々」に対して、宗教家の言葉以外に「実在」するかどうかは定かではない。少なくともその宗教家自身は信仰している場合も、この盗賊大都市に集う富が目当ての宗教家による看板にすぎない場合も、いずれもあるようである。


 NetHackなどに登場するイセク神、正確には、『ランクマーの夏枯れ時』に登場する『瓶のイセク』(なお、「集う神々」には他にも壺のイセクとか焼けた足のイセクとか無数にいたようである)は、そうした有象無象の「集う神々」の方の一体である。
 さえない老僧ブワドレスだけが布教していたところ、一時引退していた戦士ファファードが見習い僧として入信し、ファファードの吟遊詩人としての才もあって勢力を伸ばす。教義自体は、拷問台で殉教する聖者の正統派かつ地味なものであったが、ファファードの語りのために北欧英雄のような筋肉質なものに変化していった(それだけ宗教逸話の内容も元々あやふやだったのである)。
 後日談では、ファファードとマウザーが一時ランクマーを去った後は、彼らも関わった事件のため、イセクは「集う神々」の中でも随一の宗教に発展するが、前述の「の神々」の怒りに触れてアンデッド神らの襲撃にあい、壊滅したという顛末が述べられている。


 このようにイセクは、原作では実際に『神』として存在するか(力を持つかどうか)不明な存在であり、さらに作中でランクマーにある教団が壊滅してしまうという神性なのだが、ネーウォンがAD&Dにデータ化された際には、他の世界設定の信仰ルールと同様に、「神格」として信仰することができるデータになっている。おそらく、シリーズに登場した神・宗教の中では最も目立っているのと、教義自身はオーソドックスな聖者なこともあるのか、ネーウォン・パンテノンでは善神の代表のようになっている。AD&Dでのイセクのアヴァターのデータは、ブワドレスまでが伝えていた痩せ枯れた聖者ではなく、『ランクマーの夏枯れ時』の山場で登場する、とある代物を模したらしい極めて筋肉質なものになっている。NetHackでのイセクの信仰の扱いもだいたい同様の位置づけのものだろう。





・水上歩行の靴


 「水上歩行」ウォーターウォーキングは、CD&D赤箱の指輪アイテムをはじめ、アイテムに付与される能力等で、D&D系に何種類もの形態で現れる特殊能力である。発想自体は古今東西でよくある超自然能力の表現(仙人とか)のものと考えてよいように思われる。

 普通に「低空を飛行(浮遊)できる」「水中を行動できる」「水中で呼吸できる」呪文やアイテムや特殊能力というのは、これとはまったく別に存在する。水上歩行は、おおむね「浮遊」能力があれば完全にカバーでき、一部の目的に限るなら水中呼吸や水中行動でカバーでき、かなり範囲のかぶった能力であるかもしれない。普通のRPG、というよりも常識的には、(プレイヤーの様々なアイディアを許すならまだしも赤箱のような基本ルールで記載する事項としては)あまりにも内容のかぶった半端な別ルールを大量に記載するくらいなら、それらと統一するというのがまず尋常な発想であろう。
 RPGのシステムというものは、まったく別の特殊能力が増えれば増えるほど、別ルールの適用を余儀なくされ、説明の必要が出る。例えばNetHackでは「普通に浮かぶことはできるがモンスター等に引っ張り込まれると溺れる」と設定してあるが、赤箱にはそんな説明は一切ない。体の比重が水より軽くなる魔法だとも、体に水(だけ)と反発力が生じる魔法だとも、単に固液のいずれかに対して浮遊する魔法だとも、何も書いていない。したがって、アクシデントによって何が起こるかはさっぱりわからない。別々の能力やルールが増えればその都度解釈が不明になり、面倒が生じるに決まっている。(にも関わらず、かなりの要素についてCD&DやAD&D1stの丸写しで作られた『ソードワールド』をはじめ、おおまかな呪文の並びそのものがD&D系に倣ったいくつかのTRPGルールでも、そのまま踏襲されて水上歩行が入っていたりすることは少なくない。)

 赤箱のこうしたアイテムなどは、いかにも「ダンジョンという限られた環境で様々な状況を生み出す、様々なシナリオのイベントアイテムに使う」アイディアソースとして設定されたという背景が見え隠れする。
 しかしまたこれは同時に、古いD&D系の、空を飛ぶ呪文や効果だけで無暗に何種類も何段階も(羽毛落下、浮遊、浮揚、飛行、念動、風歩、遁行、仙雲、等)あることもそうだが、「飛行」のようなひとつの能力で何でもできるような能力をプレイヤーキャラにそう簡単には与えず、限定的な用法のものを小出しにすることで、なんとか「宝集めプレイ」を長引かせよう、という思想も垣間見える。これは、「できるだけ覚えることを少なくし、またルールを統一してすっきりした美しいものにしよう」という、「他のゲーム(D&D3.Xe含む)であれば尋常な発想」とは、まったくの対極にある考え方であることには留意してもいい。この方向性は後発のRPGやウォーゲームよりは、トレーディングカードゲーム等に顕著に見られる。





・「言葉であなたの位置を表現するような多くのアドベンチャーゲームと違って,NetHack はあなたのいるダンジョンのビジュアルイメージをあたえてくれる。」


 これはNethackのdescriptionのドキュメントの中にあるフレーズである。とんでもないことに、これはVectorのフリーソフトダウンロードコーナーのNethackの説明欄にもそのまま使われている。
 事情がわからない人々にとって、おおよそこれほど意味不明なフレーズもない。初期のAVG(RPGとのはっきりした境界はない)、Adventure (Colossal Cave Adventure, 1975)、Dungeon (1976ごろ)、特に金字塔ともいえるZORK (1979)などの、研究所計算機等で広くプレイされたものが、いわゆるテキスト・アドベンチャー(インタラクティブフィクション、ゲームブックのように文章だけが表示され、選択はじかに英文を入力するもの)であったため、「キャラの姿がマップに表示されている」という表現方法自体が画期的なものと位置づけられたためであった。
 この売り文句は、初代Rogueのドキュメント"A Guide to the Dungeons of Doom"に遡り、その「ローグはスクリーンを重視するという意味で、多くのコンピュータファンタジーゲームとは異なっている。...そのコマンドの結果は言葉で説明するよりもむしろ、スクリーンで視覚的に表示される。(日本語訳 Y.Oz氏)」というフレーズに見られる。NetHackはかなり後になるが、おそらくRogueのフレーズを伝統的に引き継いで用いているだけなのだろう。


 コンピュータゲーム最初期(50−60年代)のテニスやスペースウォー!系統がグラフィカル表示であったことは言うまでもない。スタートレック(70年代、当時はしばしばRPGとSLGの明確な境界もない)系統の大マップと小マップの切り替えはUltimaに影響を与えたといわれることも多い(もっともインターフェイスが大きく異なるので一見感触が似ていない。しかし、詳しくは今回は略すが、スタートレックゲームには他にも戦いと修理施設での回復を繰り返すなど、CRPGの原型的な様相は多い)。上記Dungeonの系列にも、視覚的なパーティー配置表示を選択するものがあるという。Rogueのダンジョンのビジュアルイメージなるものが、NetHack等の以後のRoguelikeでも売り文句として引き継がれるほどのものなのかという疑問も生じてくる。
 黎明期のゲーム事情については錯綜しており、一部のエピソードや事情を見るだけでははっきりしないことも多いが、あくまでひとつの見方として、「アドベンチャーゲーム」として名作ZORKの影響があまりにも大きかったために、Rogue系統のUNIX上アドベンチャーではそのZORKとの相違点をことさらに強調しなくてはならなかった、という側面も見いだせる。





・遠視の魔除け/テレパシーの兜


 NetHackの遠視の魔除け(amulet of ESP)は、 D&Dシリーズ、CD&Dでは赤箱から入っているマジックアイテム「ESPメダル(medallion of ESP)」に由来すると考えられる。
 同様に、テレパシーの兜(helm of telepathy)は赤箱やAD&Dの「テレパシーヘルム」に由来する。
 いわゆるエゴアイテムシステムのない(基本的には、通常アイテムに「能力」のみがつくことがない)NetHackにおいて、似たような「テレパシー」効果のマジックアイテムが重複して入っているのはなぜか、という疑問が生じるかもしれないが、元のD&D系ではこの二つは中途半端に異なる能力を有する物品であった。

 初代Rogueの「怪物の位置がわかる」に由来すると思われるRoguelikeでの「テレパシー」の効果については、*bandにもあるため用語集の方でそのうち触れるが、D&D系のESPとテレパシーの効果はこれとは全く異なるものである。「ESP」は、このメダルのアイテムのみならず魔法使系呪文としても存在するが、目標となる知的生物を定め、その者の「表層意識」のみを読み取ることができる能力である(その方向に複数がいた場合には混線が起こるなど、ややルールは煩雑である)。CD&DのESPメダルは、この呪文同様の効果を常時得られる物品であるが、使用するごとにダイスロールし、低確率で「効果が逆転」し、周りの不特定の者に使い手の思考を伝えてしまうことがある。一方、「テレパシーヘルム」の方は、読心のみならず対象に思考を伝えることもできる、ほぼ能力名称のイメージ通りの効果だが、使用回数に1日3回までの制限がある。なお、AD&Dの方はメダルにもヘルムにもこれら制限はなく(使用条件はかなり詳細なルールがある)NetHackはこちらに近い。

 ちなみに「テレパシー」はともかく「ESP」などという到底ファンタジーらしからぬ名前がついているのは、CD&DやAD&Dでは、呪文の名称はヴァンスの著作に倣って、故意に「とても神秘的とは思えない直截的すぎる名称」が選択されていたために他ならない(3eや4版ではこういった命名法はある程度改変されている)。
 結局のところ、NetHackではD&D系の読心は実装できず(CRPGでは再現しにくい)まったく異なるRogue系の怪物位置探知効果になったにも関わらず、アイテム自体は両方ともそのままD&D系の名称のものを移植してしまっている、という事情のようである。





・回復の薬と超回復の薬

 回復魔法Cure Light WoundsとCure Critical Woundsと同じ効果を持つポーションは、すっきりとシステマチックに考えればそれぞれ"Potion of Cure Light Wounds"と、"Potion of Cure Critical Wounds"という名前になるべきであろう。現に、D&D3.Xeではそうなっている。

 が、CD&DとかAD&D1st、2ndには「すっきりとシステマチック」などという言葉はない。すなわち、アイテムの名と効果はいきあたりばったり(おそらく、Eゲイリーとかが思いついたその場とか、わかりやすさとかは投げ出して語呂だけジャックヴァンスっぽくしてみますた、とか)で作られている。これらのポーションはどういうわけか同効果の呪文と無関係な「Potion of Healing」「Potion of Extra Healing」という名になっている。おまけにAD&DではHealという呪文がまったく別に存在するので(CD&DではCure Allにあたり、これらのポーションよりも遥かに強力な呪文である)紛らわしいことこの上なかった。
 ちなみにCD&Dの新和緑箱ではPotion of Extra Healingにあたるものは「スーパーヒーリングポーション」となっていた。スーパーってあんた……


 AD&Dでは、Potion of Extra Healingポーションは3回に分けて飲み、1/3ずつの回復に用いることもでき、そもそもがCure Critical Wounds呪文とは別種と考えることも一応可能ではある。CD&Dではそうした使い方はできない。わざわざ「一度に全て飲まないと効果がない」と付記されており、あるいはAD&Dとの差別化は意図的かもしれない。NetHackも同様である。


 無論のこと、D&D系のこれらのポーションはヒットポイントを回復するのみで、最大値を増強したりする効果はない。おそらくNetHackの最大値の効果は初代Rogueのそれを直接に踏襲したものと思われる。





・無力化の杖

 キャンセレーションロッドは、旧D&Dでは最初期レベルの赤箱からマジックアイテム表に載っている物品である。赤箱では杖のうち「ワンド」や「スタッフ」はスペルユーザーのみ、「ロッド」はどんなキャラクターでも使用できるとあるが、赤箱ではロッドはこれ1種しか載っていない。これはただ一度だけしか使用できないが、永続的アイテムを含めてマジックアイテムの魔力を消滅させてしまう、というものである。
 旧D&Dではディスペルマジック呪文がAD&Dや3、4版よりも遥かに強力であり、さらに緑箱などの上級ルールでは「タッチディスペル」という物品を特定した使用法によってさらに強力な効果を得ることができるが、その効果に似ている。AD&Dや後の版では、同様のアイテムが表に存在する他、最高レベル呪文Mordenkainen's Disjunctionなどでよく似た効果を得ることができる。
 なぜ経験レベル1−3の最初級、赤箱の時点でこれほど強力なアイテムがリストに入っているかは定かではないが、このレベルではプレイヤーキャラクターはディスペル呪文で呪文を消去することもできないので(まれに巻物が入手できることはあるが、高レベル呪文を入手することは推奨されない)ストーリー上の展開で、魔法やアイテムの魔力を破る必要が出ることを想定しているとも思われる。


 初代Rogueでは、杖のすべてがwandに統一されているものの、その名からおそらくこれに準拠したアイテムと思われる「wand of cancellation」(ローグ・クローン和訳では「魔力を封じる杖」)が実装されている。ただし、Rogueでは敵がアイテムを使ってくることも、アイテムに対して杖を振ることも当然ないので、原典の通りの杖として実装することはできない。Rogueではこの杖は、「敵の特殊能力を封じる」という効果になっている。しかし、これも「敵の魔力に対抗する手段」として見れば、原典と同様の位置づけのものと考えることができる。(言うまでもなく、D&D系では敵の生来の能力(3.Xe以降で言えば変則・超常能力)をディスペル呪文やキャンセレーションロッドで封じることはできない。)
 NetHackのwand of cancellationは、このRogueのものをそのまま踏襲していると思われ、肉体的な変則・超常能力を含めて対象の特殊能力をすべて封じ、さらにD&D系同様にアイテムの魔力も消去できる効果になっている。呪文書やアーティファクト(3.Xeなどでは判定がある)にも必ず影響を及ぼすので、考えようによってはその面でもD&D系より遥かに強力である。とはいえ、チャージ数や強化ボーナスは削ってもアイテムそのものは変質させるわけではないので、魔力消失というよりは*bandで言う「劣化」に近いのかもしれない。サイオニックなどにある、能力や魔力を奪取する効果の概念に近い気もする。ともあれ、NetHackは極度にマジックリッチな世界であり、魔力は付与されても消失する機会が少ないので、数少ない魔力消失手段であるこの杖が強力なのはバランスが取れているともいえる。





・セイカクハンテンカブト

  NetHackの逆属性の兜に相当する「アライメントチェンジヘルメット」は、クラシカルD&Dではすでに赤箱(キャラクター経験レベル1−3)の時点で登場するマジックアイテムである。
 赤箱では、性格が「逆属性になる」わけではなく、元とは別の性格のいずれか(例えば元が秩序なら、変化後は中立または混沌の、つまり2種)になるが、どちらになるかは「DMが無作為に決ゆる(新和版ルールブック原文ママ)」。なお、兜さえ取ればアライメントは元に戻る。

 ただし、赤箱の時点では、(AD&Dやのちの3.Xe,4版と違って)アライメントによって技能や呪文等の能力が影響を受ける局面は少なく、信仰と神格のアライメントのルールもなく、NetHackのようにクエストやアーティファクトが関わってくる局面も到底あるとは思えない。ちなみにWizardryのように属性が逆だとパーティーを組めないといったルールはクラシカルD&DやAD&Dのコアルールには存在していない。(進行が困難だろうと書いてある程度である。)
 したがって、例えばプレイヤーキャラがこの兜をかぶったとして、ダンジョン冒険でしかなくアライメントも善玉・悪玉の大雑把な区別でしかない赤箱では、いきなり悪玉になったりしたところでうまくプレイヤーがロールプレイ及びDMが運営できる指針があるわけでもなく、影響があるのはせいぜい会話(CD&Dではアライメントランゲージという善玉のみ・悪玉のみに通じる言語がある)くらいのもので、とても活躍の機会があるアイテムとはいえなかった。

 一方、AD&Dでは(すでに1stのDMGに)Helm of Opposite Alignmentという名前もNetHackと同一で存在しており、L-C軸G-E軸の両方が反転し、中立の者は中立を含まないいずれかの属性になる。ちなみに赤箱とは異なり、一度変わった属性はwish等を使わないと元に戻らない。NetHackのように、属性変更のためにかぶったり取ったりする使い方はいささか危険である。AD&Dではパラディンがたとえ魔法効果であっても「秩序にして善」以外になるといきなり特殊能力をすべて失うなど著しい効果をもたらす場合がある。
 おそらく、他のアイテムやモンスター同様D&D系からNetHackに無造作に移されたと思われるアイテムだが、その効果はNetHackにおいては元のいずれのゲームとも趣きがかなり異なるものとなっている。





・Demigodとハッカー


(1)現代英語のdemigod(半ば神のように崇敬される「人間」、ハッカーの称号など)
(2)半神半人(神と人間の混血)
(3)AD&D用語の半神格(「権能を持つ神性」のうちの最下位)

 RPG関連の英文で、demigodが例えば上のようなもののうちどういった意味で使われているのかは、前後の文脈だけで判断しなくてはならない局面が多い。これらを混同したり無理やりどれか一つの意味に押し込めようとすると、おそらく理解できない場面が出てくる。例えば、これまでにも繰り返し述べているが、NetHackでメッセージやバックストーリーに現れるのは原則として(3)の意であるが、(1)の意味で解釈しようとして混乱したというプレイヤーの報告や、「誤訳」だと主張したりという例はおびただしい。
 というよりも、NetHackではハッカー文化上、故意に(3)と(1)とを紛らわしくしている、手の込んだジョークである可能性がきわめて高い。NetHackのクリアーの"You ascend to the status of Demigod"は「プレイヤーキャラクター(@)が権能を持つ神性キャラになった」と、「おめでとう! you(@ではなく、プレイヤー)はとても偉いハッカーだ!」のダブルミーニング的な側面があるかもしれない。


 (1)−(3)のどれを採るかの解釈についていえば、demigodの代表例であるギリシアのヘラクレスが、たまたまこれらの別義の全部にあてはまるどころか、全部の代表例たりうるのも、混乱を招く所以である。余談だが、当サイトでは「半神」というと、わざわざ断っていない限りは、ほとんど(3)の意味でしか使っていない。なにげなく「ヘラクレスは半神」と言ってきたが、それはascending to the status of Demigodよりも後のもの、つまり一般に言われるところでは「真の神」(権能を持つ神性)になった後のヘラクレスを指しており、一般にヘラクレスが取り扱われる場面の多い混血の半神半人や英雄としての場面ではない……
 一般にヘラクレスは「半神半人であったが試練の後に真の神となった」とよく言われるが、それはAD&Dでは(2)の後に(3)になったという経緯になる。(2)の時点について言うと、定命の者と神性の混血はただそれだけの理由で「準神格(権能を持たない神性)」を得る場合もあるのだが(神の子だからといって、必ず「半神格」以上になるとは限らない)データによるとヘラクレスは”生まれた時から神性であった者の来訪者20HDを持たない”ので、当初は神性でなかった、つまり準神格や英雄神ですらなかった可能性が高い。この場合、当初のヘラクレスのdemigodはあらゆる意味で設定にすぎず、データ上は単なる「人間」である。





・スキルシステム


 NetHackの武器技能のシステムは、例によってAD&Dのものに近いといえそうだが、クラシカルD&D(CD&D)のものもだいぶ入っている。NetHackでは、武器は3段階、素手は5段階上昇するが、これは武器技能がAD&D1stの最もメジャーな追加ルール、Unearthed Arcanaで設定された武器技能での3段階、

 Proficient
 Specialize
 Double-specialize (Mastery)

 が設定されているものに、ほぼ対応している。

 ただし、NetHackでの素手では5段階ある技能の名前、

 Basic
 Skilled
 Expert
 Master
 Grand Master

 は、AD&Dでなく、クラシカルD&D(黒箱、マスタールール)のウェポンマスタリーシステムと同一のものが、名前のみあてはめて使用されている。これは、素手では5段階あるがAD&Dには3段階までしかないので、名前は5段階あるCD&Dと同様になっているのだろう。

 ちなみにAD&D2ndでは、基本ルールでは2段階(Proficient/Specialize)まで設定されているが、これもメジャーな追加ルールであるCombat&TacticsでProficient/Specialize/Mastery/High Mastery/Grand-Masteryの5段階存在する。『バルダーズゲート』シリーズなどでこちらが採用されているので、こちらの方を記憶しているプレイヤーも多いと思われる。





・ヌッヘッホー


>ヌプパーレボ(Slash'EM)

JSlashでは「のっぺらぼう」と誤訳されていた。


 それは妥当な訳ではないかもしれないが、少なくとも「誤訳」ではない。Nupperibo (HJ版和訳語は「ヌッペリボー)は早い話が「ぬっぺふほふ(ヌッペッボー)」である。ただし、一体どう訳せば最もそれらしくなるかは定かではない。





秩序混沌


 秩序と混沌の対立は、古くギリシアのカオス(元来は間隙、カスマ)とコスモス(秩序だった宇宙、というかただの間隙でない内容ある宇宙)の対立や哲学から見られるが、RPGのものは、D&D系のキャラパラメータにアライメントという概念があったことからの発想や、さらにそこから遡っているムアコックその他のSF小説の直接間接の影響にすぎない。

 旧D&Dでは、のちのAD&Dや3.Xeのアライメントのうち倫理観として知られる、Lawful-Chaoticの軸だけがあった。一番最初の版のD&D(白箱、OD&D)について、作者ガイギャックスが近年のインタビューで語ったところによると、これはポール・アンダースンやマイクル・ムアコックの秩序混沌の図式を直接元にしたとのことである。しかし同時に、この白箱D&Dではかなり単純に「Lawful=善玉」「Chaotic=悪玉」の図式の意味合いだった、とも言っている。

 このガイギャックスの図式は、例えば日本のゲーマーなどには「ムアコックは善悪のような単純な図式ではなく、秩序混沌のバランスがテーマである」と広く信じられているので、かなり意外に思えるかもしれない。しかし、実際にはエルリックやコルムシリーズでの作中の内容を挙げてみると、あくまで物語の上では「秩序の神が善玉、混沌の神が悪玉」という役割の範疇を出ていなかったため、この白箱D&Dの図式もそう穿ったものではないとも言える。

 より後の版のCD&D(新和ボックス版の赤箱など含む)でも、ここまで明記されてはいないが、白箱D&Dと図式としてはあまり差がないものといえる。Lawfulは「義を重んじる善玉」であり、プレイヤーはLawfulを推奨され、いわゆる「友好的モンスター」は軒並みLawfulになっている。いわゆる「敵役モンスター」は(AD&DではNeutralやLawful-Evilのものでも)CD&DではChaoticと設定されていることが多い。これらは個人の性情であって、「秩序混沌」の哲学的な思想とはほとんど関係がない。(しかし、ムアコック読者でもあるD&Dファンの解説などで、CD&Dの属性に対して、ムアコック的な説明を行ってしまっていることは非常に多い。)なおD&D4eは、「秩序(にして善)−善−無属性−悪−混沌(にして悪)」という一直線5属性のようなものになっているが、強いて言えばCD&Dはこれを3分したものにも近いのかもしれない。
 当然ながら、このCD&DのLawful/Chaoticは、日本のCRPGなどによくある、ムアコックの図式から想像したらしき哲学理屈や、「秩序=体制、法律」「秩序属性=法律や国家や教団の勢力に絶対服従」などと決め付けて信じ込んだ「ロウ・カオス」の図式とは、まったくの別物である。


 一方、AD&D1st、2ndやD&D3.Xeでは、よく知られている通りCD&Dとは異なる。Lawful-ChaoticとGood-Evilの二つの軸があり、合計9つの組み合わせがある点でも異なるが、Lawful-Chaoticの記述からしてCD&Dの3属性とは全く異なっている。それぞれの定義と9つに対しての説明は、版によって細部にかなりの食い違いがあるが、Lawful-Chaoticの定義はおおまかに言えば「不文律を重視するか(約束、規範や相互関係を重視するか)/しないか」である。
 Lawfulを「法」というほとんど誤訳に近い解釈のために、「明文化されてさえいれば、どんな法律や教義も逆手に取って利用する」「法律や教義に裏付けられた権威をかさにきて利用する」と信じられ、説明されていることが非常に多いが、むしろ明文化されていない規範、明文に裏付けられていない他者の尊厳に対して自主的に律するというのがLawfulである。同様にChaoticも、明文化された法や裏付けのある権威を盲目的に否定するといった明らかな社会落伍を免れない愚行を指すものではない。
 「無慈悲なEvilの者でも、元々友人ならば助けようとする」と同様、Chaoticでも明文化された法の力や明確な数の力の認識自体を盲目的に拒んだり(安手の漫画やネット創作等の勘違いエセアウトローのような)といったことはせず、理由があるなら当然重視する。そして、「Goodなら友人でなくても無条件に助けようとする」と同様、Lawfulは特に明文化や強制や格別な理由がなくとも、秩序(集団主義とは限らない。修行僧のような自己規律も入るためである)を重んじるものといえる。それはWorldviewの動機が「良心」であることと同様に考えれば、理屈上の思想や主義でなく、感覚や感情的な動機に根ざすものがむしろ入ると考えられる。
 AD&D/3eの方は、明らかに「善玉悪玉」ではない。が、さりとてこちらもムアコックや日本のロウ・カオスのような図式とはかけ離れている。AD&D/3eの「Goodが無条件に利他を重視」「Lawfulが無条件に不文律を重視」、ともに個人の性情の反映であり、属する勢力やら本人の哲学理屈立場やらとは全く別問題である。(来訪者、つまり天使やら悪魔やらの場合は、そのホームプレーンや性質とアライメントが関係しているので、まるで無関係というわけではないが、それでも一致はしていない。)


 さて、厄介なことに、NetHackの属性にはLawful-Chaoticしかないことは、おそらく「旧D&Dのような図式」を意図していると思われるのだが、にも関わらずモンスターや神々の属性に関してはAD&D1stのデータからWorldviewの部分をぶった切っただけで、そのまま輸入しているのである。その結果、形式上は属性が3分だけされている旧D&Dになっているのだが、モンスターや神々の実情から考えると属性の個々はAD&Dでの定義で解釈すべき、とも言えるのである。なので、NetHackの「秩序と混沌」が、旧D&D/4eと、AD&D/3eのどちらでのLawful-Chaoticの定義にあたるものなのか、はっきり言ってわからない。





ウィッシュ

 考えてみれば、NetHackにおける、アイテムを入手できる「願い(主に杖)」が、WizardryのHAMAN, MAHAMANやドラクエのパルプンテと元々同じ呪文を原型とすることは、これらの3種のゲームだけプレイしていると想像もつかないことではないかと思われる。

 D&D系のWishは、ランダムアイテムとして出てくる「3つの願いの指輪」などの効果として、「なんでもかなえられる願い」として初期ルールブック(青箱)にすでに登場する(後でプレイヤーキャラが呪文としても使用できるが、最高レベル呪文である)。効果は願いの言葉(文章)次第でなんでもありだが、アイテムに関するものの一例として「特定の種類の敵と戦う武器を願ったら現れるが、戦いが終わったら消える」といったものが青箱には書かれており、永続的にアイテムやアーティファクトを得られるものとは多少異なる。
 『クロちゃんのD&Dがよくわかる本』でも有名なように、wishは悪用されることが多く、後出のルールになればなるほどさまざまな効果制限やしっぺ返しがついた。

 NetHackでは、それらの多様になりえるWishの効果の中から、「アイテムを願う」という効果が選ばれている。日本民話の打ち出の小槌が草履や小判を出すように、願い事でアイテムを出すというのはポピュラーな発想であるとはいえるのだが、NetHackの場合はむしろ、ウィザードモードやデバッグ機能だったものが延長された発想という、いかにもハッカーらのゲームらしい背景なのではないかと想像する。一方でNetHackの、願う物の綴りを正確に入力しなくてはならないという点は、「願いの言葉の文章表現そのものが重要」という元のwishに一脈通じるところを再現している。
 結果として、MAHAMANやパルプンテのような形でwishを再現する方向性とは、大きく異なるものとなった。


 なお余談だが、WizardryでHAMANとMAHAMANの二つがあるのは何故かという疑問がよく聞かれるが、これはAD&DでWishと、やや下位のLimited Wishの二つが存在していたことの反映であるが、なぜAD&Dで二つあったのかとなると定かではない……。





聖水と不浄な水



>ということは、聖水とは「自属性の神によって」清められた「自属性にとって」清らかな水、といったところであろう。 

>こう考えた場合、骨ファイルで見つけた他属性のキャラクターの鞄の中に聖水が大量にあるのを見ると辻褄が合わなくなるが(笑) 

>ここはひとつ全属性共通で聖水が天上界寄り、不浄な水がゲヘナ寄り、という解釈は如何だろうか。

 聖水や不浄な水の「力」はどこから来ているのか。例によってNHの元であるAD&D系から引っ張るが、版によって(さらには世界設定によって)細部や用語はかなり食い違いがあるので、NHファンとしての知識に留め置かれたい。

 聖水は一律、祝福を与えたり、悪の来訪者(悪魔類)やアンデッドにダメージを与えたりする。そして聖水を作る(Bless Water呪文)のは「善」の呪文である(NHのアライメントには秩序・混沌の軸しかないが、こちらは善・悪の軸の方である)。
 しかし、聖水の力は必ずしも「善の神の力」やら何やらではない。例えば、聖水を作る呪文は、中立の神の聖職者でも発動できる。それどころか、パラディンのうち神を信仰しない者(パラディンは神でなく、正義に仕える)は勿論のこと、クレリックのうち神を信仰しない者(領域に仕えるなど)であっても発動は可能である。
 つまるところ聖水の力は、神から来るのではないもっと普遍的なエネルギーかもしれないのだが、聖水を作ったり扱うような行為はそれ自体が「善の行為」であり「善の属性の聖職者の主義」(「善の神の教義」では必ずしもない)に合致するので、善の聖職者には適正が高く、もっぱら善の聖職者に用いられるということにもなる。アライメントには、こうした「この呪文は発動すること自体が善」「アンデッドの退散は善、賦活は悪」「毒の使用は悪」などと、特に深い意味もなく定められている行為がいくつもある(単にアライメントの指針でしかないと考えられる)。

 NHではどうか。NHのアライメントには、秩序・混沌しかなく、善・悪の軸がないので、聖・不浄に対する属性の適性も主義もない。したがって、NHの神としては自属性の者が祈れば有利になるようプラス効果の聖を与え、他属性に祈られれば不利になるようマイナス効果の不浄を与えることも、どちらも問題なく可能なのだろう。





虫の召喚・棒きれを蛇に変える

 落ちていた墓堀が復活したようなのでタイムリーにいってみる。AD&DのSummon Insects呪文は聖職者系の3レベル呪文で、本来は「虫の大群(羽虫の群れ、雲状)」を呼び出すのだが、プレイヤーの選択で、巨大アリの類を呼び出すこともできる。
 NHでそれが使えなかった際のかわりの効果に相当するのが、AD&DではSticks to Snakes呪文だが、4レベル呪文であり、こちらの方がレベルは高い。

 一方、旧D&Dの方では、Insect Plaguesは5レベル呪文になっており、巨大な羽虫の群れしか呼び出せない。Sticks to Snakesの方は同じだが、特記すべき点として、ほかには赤箱の「マジックアイテム」の方に、蛇に変身させることができる僧侶用の杖のアイテム、「スネークスタッフ」がある。こちらは当然、かなり低レベルから使用できる(登場する)代物である。
 なお、これらはドルイドではなく普通の僧侶呪文であり、旧約聖書のモーゼ由来というのはプレイヤー間では定説である。

 NHでは、見かけ上は生物召喚となるこの二つの呪文が合体し、その力関係も錯綜しているわけだが、なんとなく旧D&Dの方に近いような気もする。





太郎一族

 これは何なのかよく聞かれるのだが、いまのところ述べようと思えば、RPG独自の資料や出典に基づいた考察ではなく、ごく当たり前の、すでにNetHackプレイヤー間でもよく行われている予想を述べることしかできない。結論から言えば、日本の侍のフルネームの真ん中あたりに現れる字(あざな)、通称の「太郎」が、複数の侍に用いられていることから、「一族」の名を指すミドルネームなのだと誤解されたのではないか、ということである。

 武士の名は例えば「苗字・字・氏・姓・諱」になっている。これはよく一部抜けたり入れ替わったりもする。徳川家康なら「徳川・次郎三郎・源・朝臣・家康」であるが、非常に乱暴に言うと、苗字が現代のものに近い。字(あざな)は通称で元服してからの呼び名である。氏は一族の原流だが原則的にごく一部の名家以外は定かでない(徳川氏の「新田源氏」系図の信憑性が薄いことは有名である)。姓は氏の朝廷との関係を表す。諱は本来公式文書以外あまり使われない正式名である。
 字、仮名、通称は、長男なら太郎、次男なら次郎、次郎の三男なら次郎三郎、といったようにつけられることもあるが、特に武家時代が下ると関係ないことも多い。官職名と入れ替わることも、官職風の名と合体していることもある(「次郎右衛門」など)。
 当然、「太郎」という字の武士は様々な家の長男をはじめとして複数現れる。この名や、さらには「○太郎」といった組み合わせでも現れる名、「一家の嫡男は伝統的に○太郎」などとなっていて代々同じ通称の場合、ひいては「Momo-taro, Kin-taro, Urashima-taro, Akebono-taro」などを「同族」として、一族の名として共通して現れているのだと、原語のNetHackでは誤解したのではないかということである。この誤解だとして、着眼点としては誤っているとは言えないのは、仮にすぐ右の「氏」を取っていたならば、まぎれもなく一族の名だからである(ただし、氏は姓についで略されていることは多い)。また最後の「諱」も、日本では一族ならば共通した文字を使うことも多いので(徳川家なら「家○」「○家」など)あるいはその知識を持っていたことから逆に生じた誤解とも考えられる。

 ほかに、「太郎」「次郎」等といえば、例えば狂言では主人(「大名」のことも多い)の第一の家臣は常に「太郎冠者」である。このあたりも何か誤解に関与している可能性も考えられる……。





トリックの鞄

 保存の鞄(軽量化の鞄)については英語版wikipediaにも詳しく、D&D3.Xeの日本語版DMGにも載っているが、トリックの鞄の方は3.XeのDMGからは無くなったままになっている。

 2ndのDMGを見るところ、おそらくその名前からも、手品からの連想かもしれないのだが、その記述のギミックを見ると、デザインしていくうちに最終的にはかなり手品のトリックからはかけ離れてしまったようにも見える。まず鞄に手を突っ込むと、「小さなモコモコした物体」に手が触れる。その物体を「6メートル以上遠く」に投げた場合、その物体は動物(ネズミからライオンまでランダム)に変身する。モコモコした物体とは、その動物のミニチュアではないかと思うところだが、投げてみるまで何の動物かはわからないので(強力な仲間を選んで出すことはできないようにだろう)投げるまで不定形か何かのものらしい。使用状況を想像すると結構シュールである。
 ちなみに2ndでは一度に動物は4体まで出せるが、週に10体までしか出せない。10分が経つか殺されるとバッグに戻ってしまう。NetHackのように死体が残ることはない。DMGには、特に保存の鞄その他に入れると爆発するといった記述はない。鞄そのものが亜空間で大きな動物が小さな鞄から直接ニョッキリ出てくる、といったものとは違うためにも思える。





サンソード、サンブレード

 FF1のスレッドなどで疑問が出ているが、FFそのほかRPGでのフレイムタン等と同様の由来を言えば、「サンブレード」はAD&Dのエゴアイテム"Sword , Sun Blade"ということになるのだろう。いわゆる「太陽の剣」であり、アンデッドほか負のエネルギー界関連の対象に命中ボーナスと2倍ダメージ、重さの有利点(Short Swordの荷重と速さでBastard Swordの威力、技能はどちらでも可)、日光の魔法を発する、などがある。

 さて一方で、NHの「サンソード」という表記は何か、AD&D1stのレイヴンロフトなどの一部シナリオにならば"Sunsword"というモノが出てくるが(効果自体はSun Bladeによく似ている)そこから直接出たとは少々考えにくい。Flame Tongue ->「ファイアブランド」、Dragon Slayer ->「ドラゴンベイン」などと同様、厳密には効果が違うこと(ベースアイテム等)ともあわせて、へたにAD&Dの効果を覚えているプレイヤーの混同を防ぐため、故意に表記をずらしている、とも考えられる。





杖をへし折る

 杖のチャージを通常に使用する(振る)以外の使用法として、旧D&D系のごく一部の強力なスタッフにのみ、杖をみずから”折って”残ったチャージ数に比例するダメージの大爆発を起こす応報の打撃(retributive strike)がある点、また、これはガンダルフのいくつかの描写が元になっているのではないかという点は、*band用語集の力の杖*破壊*の項目で述べたとおりである。なお、retributive strikeそのものではないが、エレメントに関係するなどのスタッフによく似た残チャージの開放と思える爆発を起こすものは、いくつか確認することができる。
 NetHackの杖の魔力の開放は、例によってこのretributive strikeを元にしたものではないかと思えるが、スタッフでなくワンドであるし(もちろん、D&D系ではDMの裁量ではないでもないが、こういったことができたり、電撃で爆発するようなワンドは基本的にない)魔力を開放できるワンドの種類も多く、その効果も遥かに多彩である。したがって、むしろNetHack独自のイメージで拡大したものであったり、ガンダルフの描写に立ち戻ったイメージである可能性も多々ある……。





ジャイアントスレイヤー

 NHでもAD&D関連の元ネタはまとめ出ししろとか言われることもあるが、個々色々隅をあさっていくときりがなくて、まとめにいつまでかかるかわからんものもあるしなあ。
 ランダムの特定モンスター系統に対する有効性がランダムでつくようになっている、旧D&D(緑箱)の「○○スレイング」や3.Xeの「○○ベイン」のエゴ属性などとはまた別に、初期のAD&Dには、特定対象への特定されたボーナスや効果が、生成アイテム表の中に特に記されている独立した武器属性がある。DMGに記されているそれは、「ドラゴンスレイヤー」と「ジャイアントスレイヤー」の二つである。(なお余談だが「ワースレイヤー」はなく、ライカンスロープやマジックユーザーに単に強化ボーナスが増加する武器が同様に独立して表にあるのみで、これらがWizadryのワースレイヤーやメイジマッシャーのアイディア元となったことが推測できる程度である。)

 AD&Dの'Sword +2, Giant Slayer'はヒルジャイアントやファイアジャイアントなどの'true giant'に対しては強化ボーナスが+2でなく+3となり、2倍のダメージを与えるが、タイタンのような巨人のたぐいではあるがモンスター名が「○○ジャイアント」でないものに対しては、+3になる効果しかない。これは、「ドラゴンスレイヤー+2が特定ドラゴンに対してのみダメージが3倍になり他ドラゴンには+4になるのみ」と似ており、なぜこういった基準での差別になっているかはよくわからないが、おそらく語呂合わせと、呪文やアイテムの効果を限定しゲームに謎を増やしてプレイヤーを煙にまく(非システマチックな初期D&D系の)目的のような気もしないでもない。

 NetHackのジャイアントスレイヤーの、タイタン等に対してはボーナスが有効にならないという点も含めて、狙ってか偶然かほぼ同様の品と言え、名称も引き継がれた所以ではないかとも思われる。対してNethackのドラゴンベインなどのおそらくAD&Dが元ながら名称が変わっているものは効果の変更の大きさが意識されているとも思われるが、一概には言えずもう少し検討が要る。





角のある悪魔

 「角をもつ」神や悪魔の奥深いシンボリズムに関しては、NetHackのみならずファンタジー談義でも頻出する。
 しかし、ここでのHorned Devilという名称とデータ(AD&D1st)が示すものは、今(D&D3.Xe)で言うところのただのコルヌゴンである。このあたりは、板倉氏がかつてタイルを描くにあたって一通り調べたものがある。
 一方ややこしいことに*bandには、[V]3.0系などにはバルバズゥ(Bearded Devil)やゲルゴン(Ice Devil)やオシュルス(Bone Devil)は出るが、コルヌゴンやハマトゥラ(Barbed Devil)は登場しない。

 なおコルヌゴンは、HD5+5 (AD&D1st)→HD10 (AD&D2nd)→CR10 (3.0e)→現在CR16 (3.5e)と、あれよあれよという間にとんでもなく強大化しており、「特殊能力が全くない」などというNH Database記述も今は昔である。特に3.Xeで間合い拡大アイテムとして知られるスパイクトチェインを「標準装備」として持つことに対するルールマンチ悪魔の呼称が響き渡り、「角の神話学」など思い出されることはない……。





超世界の目

 'The Eyes of the Overworld'はジャック・ヴァンスの作品集の題名で、この表題作といえる、いわゆる「切れ者キューゲル」シリーズの短編'Overworld'の、日本のFTアンソロジー短編集『不死鳥の剣』に収録された邦訳名は『天界の眼』である。
 これは、異界の触手うねうねの妖魔ウンダ=フラダ(アンダーハード)が、その無数の触手でこちらの世界を探る際にその先端にレンズをつけており、やがて触手をひっこめた際に、レンズだけがこちらの世界に414個残ったという代物である。仮にこの異界の物品を現世のものが用いた場合、周りの世界(視界に限らず)はいささか”違って見える”。
 キューゲルは自分で招いたトラブルのため、とある魔術師(後述)に腹中蟲を埋め込まれ、彼のためにこれを取ってくるため、とある村を訪れることとなる。キューゲルの目に映ったその村は、……

 T&Tのルールブックに、盗賊のモデルは「グレイマウザーと切れ者クーゲル」と書かれているが、サプリメント『モンスター!モンスター!』には「盗賊は切れ者クーゲルがモデル」とだけ略されており、どちらかというとマウザーよりキューゲルの方がウェイトが重いらしい(T&Tの盗賊は、ルール的にはマウザーそのものに見えるにも関わらず)。RPGの盗賊の原型として、またRPG世界のイメージにおいてそれほどキューゲルとその物語の影響も考慮できるということである。
 コナン以来の強力ヒーローどころか、マウザーやコーウィンのようなピカレスク剣士をもぶっちぎり、ひたすら猛烈な勢いで口八丁手八丁を連発し続けるキューゲルのキャラクターは、おそらくヒロイックFTの「ヒーロー」としては実に特異なものである。T&Tには「盗賊は幸運度で生き抜くキャラクター」と書いてあるが、キューゲルの行く先々に必ず見舞われるトラブルと、口八丁の裏目裏目っぷりは、到底「幸運」などとは言い難い。そしてそれらの手練手管も、ほとんど鮮やかに決まるためしなどなく、デコボコのボコボコ状態でなんとか走り抜けてくる、といった姿である。とはいえ、そんなんでも切り抜けてくるのだから、とんでもなく「悪運」が強いのは確かかもしれない。

 ちなみにキューゲルに使命を与えた"笑う魔術師"イウカウヌは、T&T7版おいて、魔術師クラスのモデルのひとりとして(マーリンとガンダルフと共に)加えられている(イヌカウヌの姿にT&Tのモンゴーやビオロムを思い出す読者は多いだろう)。作中、イウカウヌがキューゲルに施そうとした<よるべなき包嚢の術>は、D&D系の「インプリズンメント」の呪文の元とされているものである。なお、ヴァンス作品の妖魔はD&D系の悪魔のカテゴリ'Demodand'の由来であることでも知られる。
 この短編が日本語で読めるようになったのは、『不死鳥の剣』収録分が本邦初訳とされている(ちなみに、キューゲルやDying Earthの他編なら既訳がある。ただし入手困難)。つまり、これほどまでにRPGというものへのキーを多々有する作品を、日本は2003年3月に至るまで(おそらく、LotR映画の波及の古典FT注目がない限りはその機会さえ与えられず)延々と放置していたということだ。ばあっ!





ミトラ神

 ハワード等の『コナン』シリーズの舞台設定、ハイボリア時代において、文明域においてことに広く信奉されている(あるいは土地によって、過去信仰が存在した設定がある)のがミトラである。コナン自身も、都市を舞台にした作品では「クロムとミトラにかけて」とよく口にする(が、舞台が違うとやはり本来のクロムの名のみ唱えることも多い)。
 実のところ、コナンの書かれた最初の作品である(しかし、コナンの伝記中ではかなり後期に位置することとなる)短編『不死鳥の剣』において、ミトラの名と、それが「セト神に対立する存在」であることが、すでに明確に描写されている(なお『不死鳥の剣』は、このときすでにトート・アモンとその指輪といった要素・設定や、神秘・陰謀といったシリーズの骨子が無理矢理のように多量に詰め込まれていることは驚愕に値する一方で、導入としてはとっ散らかりすぎた作品であるのも同時に言えることである)。またこのシリーズは、まがまがしい古代の邪神やその呪いなどがむしろ目立つ(超自然に対して剣と筋肉で対抗するといった図式が多い故に)が、反面このミトラには、神々しいとされる姿、守護の印や神託など、ごく「普通の」神らしい描写のみならずその御利益などが描写されることもある。この作風には数少ない、しかも最初期作品から「善神」的な存在と定義されている神性である。

 ミトラは現実地球の歴史では古代ペルシア神話に発し、ゾロアスター教、インド神話、マニ教まで、ある程度、「光明神・司法神」の原型を残しながら信奉され続けた古く強大な神性である。なおAD&D2ndでは、ミトラはインディアン・パンテオンの中にデータ化されており、説明には守護者であることと「秩序にして善」とはあるが、おそらくはあまりNetHackに取り入れられたハイボリア祭式とは関係があるまい。NetHackの秩序のミトラは、元来のミトラの性質やこうしたゲームデータよりも、あくまでハイボリア時代の姿や、さらには(混沌にあたる)セトとの対立といった性質から選択されたと見てよいだろう。なおハイボリア祭式で中立のクロムは(主にコナンがベーリトに語った箇所などでは)荒々しく無慈悲で、人間に力を与えるが生死に頓着しない神、とされる。概して、ハイボリア祭式の秩序・中立・混沌の対比は、他の祭式に比べてもかなりわかりやすいものであるといえる。





ひとりぼっちの宇宙戦争

 アレアレックスとか呼びそうになる「アレアックス」だが、現在の日本語版BoEDでは「アリークス」と訳されている。
 D&D系のアレアックスは、神格が自分の機嫌を損ねたキャラクター(多くは、その神格の信者だがしくじったり怒りを買った等)に対して送り込む、「その対象キャラクターのそっくりロボ」のような存在である。(NHのように神の送り込むもの故に天使とみなされる場合もあるが、3.5e BoEDでは種別が本当に「人造」である。)ベースの能力も対象と同じだが、ロボなのでさまざまな特殊能力(再生や呪文抵抗など)を持ち、総合的にはモデルより大雑把に3レベル分ほど強い。
 アレアックスは、罰が下されるその対象、自分のモデル以外からの一切の攻撃が通用しない(こう表現すると強力だが、つまるところ、「対象にとってだけ存在する」のかもしれない)。対象は自分そっくりで3レベル強いロボと一人で戦わなくてはならない。ロボに負ければ、魂だけが該当の神格の元に転送され、贖罪する羽目になる(その贖罪にも失敗すれば、魂さえ消滅させられてしまう)。しかしながら、仮に対象がアレアックスを自力で打ち倒した場合、対象はアレアックスと合体(構成していた神力がモデルの方に吸収される)して強化されるのはともかく、送り込んだはずの神格は、あとは何事もなかったかのように忘れてしまうのである。あからさまに不自然だが、ゲーム的な都合のようである。

 さてアレアックスの能力が固定でなく、キャラ(プレイヤー)にあわせて変動するのはAD&Dの頃からのことであるが、NetHackのアレアックスはAC0, HD10の固定である。プレイヤーキャラに遣わされたものでないのかもしれないが、そもそも他者から攻撃を受けるというのは原典と合致しない。
 厳密に準拠せずに名前だけ取ったと考えるのが妥当だが、D&Dシリーズには山のように天使類がいる中、なぜよりによってアリークスのような特殊なものを取ったのかという疑問は残る。





・フヘトトル

 やっぱ「
混沌神なら他にいるはず」とか「ネタ切れ感漂う」とか思うかな? かな? それはNH侍の日本祭式を見て普通ならやっつけやネタ切れに見えてしまうのと同様、ごくごく自然な感覚であろう。
 フフェテォトルはAD&Dにおいてはわりと重要な(実在神話がD&D系ではひととおりデータ化されているという、それ以上の意味において)神格と、その配下の悪の勢力である。元来、言及されたのはモジュールシナリオ"The Hidden Shrine of Tamoachan"で、南米風セッティングをインディジョーンズノリ(かもしれない)で探検するこれは、現在でも星の数ほどあるD&D系のシナリオ中でも傑作(第18回ベスト)に数えられる有名なものである。実在の南米神話の神などのキーワードが出てくるのは恐らく、ふいんきなぜか変換できないを出すだけの理由で、このシナリオ自体は特定の世界設定に依存しないフリー(Generic (A)D&D)ということになっている。
 が、のちにこのシナリオを標準世界観であるグレイホーク世界として取り入れたためか、フヘトトルはオルマン人(古代南米を参考にしたWG世界の人種である)の神話に存在する邪神ということになってしまっている。アズテック神話のほかの神、たとえばケマゾツ、じゃなかった、カマソッツなども同様に存在することになっているが、これらは(一応)代表世界であるWGに取り入れられたこと、さらにはそのオルマン人がおそらく文化ごと他の世界に出張するなど(CD&Dのミスタラ世界にもある「恐怖の島」にもオルマン人が住むとされる)が重なり、D&D系の設定の中でも割とメジャーな存在になってしまったといえる。

 まったくの余談だが、D&D系オリジナルの(はずの)世界設定の中には、こういう怪しげな事情が重なったために、元々別世界設定やひいては実在の神々が一群まるごと平然と入っていたりするものがたびたびある(バートルの悪魔群もそれと言えるかもしれない)。WG世界にしろFR世界にしろ、ワールドガイドなどで紹介されているのは世界特有の人間の標準文化での信仰とその詳細ばかりで、こういった他文化の信仰(デミヒューマン等含め)などの内容がなかなか紹介される機会がないのは困ったものである。





「善悪なんてもともと存在しないんだよ。秩序混沌の方はあるけどね。」

 日本語で「善悪」という言葉を使うとその定義はあまりにも抽象的であることを逆に利用して、そんなものはもともと存在しないとか、定義を曖昧にする「思考停止キャンペーン」に走ろうとする動きが多い。
 が、少なくとも、該当発言の先の方の発言が指している、NetHackの原型であるD&D系における(ルールブックに明記してある)「GOODとEVIL」は、明確に定義されたものである。そして、その定義は単純無比である。それは「他者への思いやりを持っているか」「良心に従っているか」でしかない。その者がGOODかどうかを定義するのは「光の勢力」でも「神」でもない。本人の良心のみである。
 (なお、この発言者の「秩序混沌の方」も、仮にNetHackで流布されている一部情報のような定義を指しているとすれば、本来の「LAWFULとCHAOTIC」もこれとは全く異なったものだが、今回は省く。)

 例えば、安手の神話かぶれのRPGやFT漫画などに、「善」の性質があまりに強いとやらの理由で、異教になびく危険性を少しでも示した村人を虐殺する「天使」などが頻出する。ゲームにおけるGOODの定義にあてはめると、これはたとえアルコン(ここではLAWFUL-GOODの天使を指す)であっても決して起こることではない。たとえかれらが従う「法」が「処断を行わなくてはならない」という結論を要求してくる法であるとしても、その「法」だけに従い、村人への思いやりという「良心」を無視するならば、それは絶対にGOODではない。もちろん、人間のLAWFUL-GOODなどであればGOODよりもLAWFULの方を重視する者などもいるであろうが、アルコンは「LAWFULとGOODの両方の属性において極限」と定義される存在であり、GOODをそれほどまでに明らかに軽視することはありえない。(なお、真にLAWFUL-GOODのアルコンがこういう村人をどうするかといえば、単に殺す必要のない解決策を探すという当たり前の解答が出て来るだけの話である。)

 乱暴な言い方をしてしまうと、この描写の原典といえる、とある宗教の経典における一般人を焼き払った天使というのは、あくまで「戒律」「律法」を重視するこの宗教の法を説いているものであり、あえて言えば「LAWFUL」や「LAWFUL-NEUTRAL(TRUE-LAWFUL)」部分を説くにあたるものであるといえる(なお、この記事が墓堀からリンクされているため誤解が広まっているが、上記の描写や法はあくまでGOODではないものの例であって、「LAWFUL」の方の定義というわけではないので注意)。
 にも関わらず、付け焼刃の知識故に宗教について本質的な理解や区別ができない安手のFTの売り手や受け手は、「ありとあらゆる天使(特に、この戒律宗教から発展した、全く別の教義をもつとある大宗教など)」をこの虐殺描写そのものであると合点し、天使、パラディン、「秩序にして善」や、さらには「善」とはこうした描写を指しているものだと信じ込み、ひいては「善」そのものに対するネガティブキャンペーンや思考停止キャンペーンを広めるのに寄与しているという側面がある。

 NetHackの話に戻ると、NHはAD&D (D&D 3.Xe)とは異なり、アライメントにLAWFUL-CHAOTIC軸しかないため、同様にこちらのルールしかないCD&D(AD&Dや3.Xeの定義とは相当異なり、倫理観が多分に世界観(GOOD-EVIL軸)をも内包している)に近い可能性もある。しかし、モンスターの属性の大半をはじめとして、多くの要素がAD&Dの方と一致しているので、とりあえずAD&Dと同じ定義と判断しておくしかない……





・NetHack - そのほかの祭式

 以下は※印が、NHにおいてAD&D1stと属性が「異なっている」もので、下に記しているのはAD&Dのそのパンテノンの有名な神格のうち、属性上※のかわりの「候補」になりうるものである。


           NH  AD&D1st
※ルーフ       秩序  真なる中立、上級神
ブリジット      中立  真なる中立、下級神
マナナン・マクリール 混沌  混沌にして中立、上級神

アラウン       −   秩序にして悪、上級神
ディアン・ケヒト   −   秩序にして善、下級神

 AD&D1stのケルト神は大半が「真なる中立」(ヌァダすら含めて)であり、それ以外もほとんどがいずれかの中立で、秩序神は上の2神しかいない。これは、AD&Dではケルト神がもっぱらドルイド僧キャラクター(2ndまでは必ず「真なる中立」)のための神格であったためと思われる。
 しかし、NHではケルト神は「騎士」の祭式であり、秩序は開始時の主要神であり、下級神や悪属性の神を用いるわけにはいかないので、AD&Dの秩序2神を避けて、重要神のルーフを本来中立であるにも関わらず、秩序に持ってきたものと思われる。


           NH  AD&D1st
チュール       秩序  秩序にして善、上級神
※オーディン     中立  混沌にして善、上級神
ロキ         混沌  混沌にして悪、上級神

バルドル       −   中立にして善、下級神
フレイ        −   中立にして善、上級神

 同様に、オーディンがNHでは「中立」として入っているのは、初期属性が中立である「ワルキューレ」に開始時に主神(かつ元の神話では直接の従属先)を守護神格とさせる目的という、まったく同じ事情であると思われる。


 つまり、NHの祭式は完全にAD&D準拠というわけではなく、おそらくゲームの事情で随意に変更されているものも多い。
 繰り返すが、ならば「薬師の祭式ではなぜ主神のゼウスを無理にでも入れたりしていないのか」といえば、主神云々ではなく、「薬師の初期守護神格が、医術神の性質も持つ『ヘルメス』」であることがひたすら重要であるためだろう。
 対して、中国や日本の祭式ではこれまで述べたように明らかな不自然があるにも関わらずこういった修正が行われず、AD&Dそのままになっている部分が多い。しかしながら、NHの開発側はそもそも中国や日本の神話などAD&D以外では知らなくとも(知っていても属性を判断できるほど詳しくないか、ひいては名前さえ他では見たことがない可能性すらも)「山雷精」などを見る限り決して不思議ではない。変更する発想そのものが出ないか、あるいは独断で変更するほどの根拠がないと判断したのではないだろうか。

 無論、これらはすべて何か他の典拠がある可能性もある。あくまでAD&Dのデータのみを参照した筆者の推測にすぎない。しかし今の時点、神話アンチョコ本の類を頼りに属性そのものから当てずっぽうで予想するよりは、少しは論拠にはなるだろう。





・NetHack - 薬師の祭式

 至極当然の流れというのか、「NHの祭式はすべてAD&D1stのLe&Loからの引用なのですか」と聞かれた。引用なのかどうかはともかく、少なくとも1stのLe&LoやDe&Deと一致しているものが多い。ギリシア、バビロニア、エジプト、中央アメリカなどの祭式はすべてそうである。

           NH  AD&D1st
アテナ        秩序  秩序にして善、上級神
ヘルメス       中立  真なる中立、上級神
ポセイドン      混沌  混沌にして中立、上級神

ゼウス        −   混沌にして善、上級神
ハデス        −   中立にして悪、下級神

 「秩序がゼウス、混沌がハデスではないのは、NHの作者がペルセウス説話を念頭においたからだ」と主張する人がいるが、少なくともそれらが使われていない理由としては(神話のゼウスやハデスの実情が本当に秩序と混沌に合致するか否かという問題はさておき)AD&D1stから引用したとすれば、単にこれらデータでの彼らの属性に合わないからである。
 ただし、NHがヘカテ(秩序にして悪)、ディオニュソス(混沌にして中立)といったヘルメスと同格ともいえる呪術神など他の様々な選択をせずに現状になっているのは、ペルセウス説話を意識している可能性はないでもない。

 しかしアテナとポセイドンと来れば、それこそ中立の方に冥王ハーデスを入れたくなる衝動にかられるのが80年代ジャンプ世代のサガ@双子座というものであるが、要するにNHのギリシア祭式というのは、「薬師の初期守護神格」として、カドウケスが古来から中世の床屋医者をはじめ古風医術の象徴である「ヘルメス」を当てることがまず目的であり、それにあわせてとってつけたようにギリシア祭式にしているだけと思われるので、他はともあれ中立からヘルメスを外すだけはできまい。

 話を戻すが、一方で、NHとAD&Dが合致していない祭式もある。が、ここからも長くなりそうなので次回以降に続く。続かなかったりする。





・NetHack - 中国祭式

 どんどんいってみよう。NetHackの中国祭式(旧版では僧侶固定、最近の版では修行僧)の「山雷精(山海経)とは何か」「黄帝が混沌なのは何故か」といった疑問に関して、例によってAD&D 1stのLegend&Loreにその因を探る。この祭式もLe&Lo/De&Deのそれを踏襲していることは一目瞭然である。


      NH   AD&D1st
山海経   秩序   秩序にして中立、上級神(風、海)
赤松子   中立   真なる中立、上級神(雨、水)
黄帝    混沌   混沌にして善、下級神(戦争、頭を爆破)


 NHでの山雷精 Shan Lai Chingであるが、このLe&LoではShan 'Hai' Chingが上級神の名になっている。つまり、NHファンが考察しているように、これはまったくもって「山海経」のことである。
 1stのLe&Loの神格認定の目茶目茶ぶりは伝説の域であるが、それにしても中国の妖怪マニュアルである『山海経』が、「神格」になるという発想がどうやったら生じるのかという疑問になる。2ndのLe&Loでは「老子」「韓非子」などの神格がいるが、中国にはほかに『孫子』をはじめとして、書名がそのまま著者・原著者の名ともされる書物が多数あることは周知の通りである。Le&Loの著者が『山海経』を、しかも中国伝承(仙道)に関する重要書物として参照したさい、『山海経』もまた老子などと同様、書名がまた著者である偉人=神仙の名でもあると考えたのではないかと思われる。
 『山海経』の原著者は伝説的皇帝(創世神)のひとり禹帝であるともされるが、そのためLe&Loの神格「山海経」やNHの「山雷精」は、つまりは「禹」を指しているとも言えるかもしれない。NHのデータベースの"...which deals with the monster Kung Kung trying to seize power from Yao, the fourth emperor."というくだりは、多少の混乱が見られるが禹について書きたいようにも見える。これは現訳では「怪物クンクンを使わし4代皇帝,尭から力を奪取しようとした.」だが、あるいは「尭の力を奪おうとした怪物の共工に、(禹が)対処した」とでも訳すべきところかもしれない。
 なお、AD&D 2ndのLe&Loではこの「上級神・山海経」はあとかたもなく姿を消している。

 黄帝が混沌なのは、ただ単にLe&Loにおいて「混沌にして善」のためであろうが、Le&Loでのこの属性と「戦争の神」「敵の首が爆発」とされるのは、実質最初の中国全土の征服者とされる側面からと思われる。ちなみに下級神(本来は創世神の一体であり重要だが、Le&Loでは権能からそうは見られなかったらしい)なのに、なぜNHで「混沌の代表」となっているかといえば、おそらくLe&Loの中国神で「混沌」の属性には他に代表にできそうな神格がいない(他は怪物の半神などしかいない)為と思われる……。





・NetHack - 侍の祭式

 NHにおいて、秩序がアマテラス、混沌がスサノオはともかく、中立が「雷神」というのはいったい何なのか、ネタ切れ感の極致で風神・雷神からなのか、中立ならツクヨミやハチマンでは駄目なのか、といった声はかねてから多数聞かれた。
 これは以前からできる限り調査してはみたものの、例によって非常に面白くない結論だが、結局はAD&D1stを原点とするくらいしか妥当なことは言えなそうである。


               NH   AD&D1st
エイマターァスウ=オミケイミ 秩序   秩序にして善、上級神(高貴、太陽)
レェイドゥン         中立   真なる中立、上級神(電撃、矢鍛冶)
スーザンオワォォ       混沌   混沌にして中立、上級神(風、嵐、海)


ツキャミ           −    秩序にして善、上級神(善、月)
Oh=キューンニィ=ヌゥシィ −    混沌にして善、半神(勇士、大地、魔術)
ハッキマン          −    混沌にして善、半神(戦士、家紋)


 一目瞭然である。AD&D 1st当時のLegend&Loreでは、Japanese Mythosの上級神はツクヨミを入れた4神だけだが、NHの祭式に使う際、ツクヨミは属性が「秩序」にして善なのでアマテラスとかぶる上に、この1st当時はライデンが「中立」になっているので合致するのはこちらである。なおオオクニヌシやハチマンは神位が違う点はともかく(NHの他の祭式には異なる神位が混ざっているものも多い)属性がやはり「中立」にはそぐわない。
 NHのDatabase.txtの雷神の項目には、raijinとraidenの名が併記されており、おそらくNHの「雷神」は実質ライデンが採られたものであるか(半端に日本文化に詳しいNH側が単純に「よく聞く名前」に変更してraijinにしてしまった可能性も高い)あるいは、そのものでないとしても、このLe&Loの設定の中立の上級神に雷の神を配置する設定を意識していることは強く推測できる。

 AD&D 1stのLe&Loの神々の定義というのはともかくも滅茶苦茶なのであるが、それを加味したとしても、なぜ「ライデン」が上級神でここまで重要になっているのかという疑問が当然沸くだろう。(ちなみにライデンとはタケミカヅチの雷電神宮などから、社の名の方が採られてしまったと考えられる。)
 ひとつには、この時点では掲載されている神格が(おそらく当時はまだ調査が充分に及ばず)少なく、数少ない神格に強力な権能を割り振る他になかったこと(直接的に言えば、ツクヨミやオオクニヌシ、ハチマン(海外ではしばしばサムライそのものが「善」の象徴である)については善の性質を忠実に反映したいがため、「中立」の代表神格とできるものが他になかったと思われること)が上げられる。ちなみに、この1st Le&Lo当時、日本神には上の6神のほかは、アマ=ツ=マラとィエビスとダイコクとキシジョテン(2ndでベンテンに吸収されたと思われ)とかヤマモトとかそんなようなのしかいない。もうひとつは、ライデンが武具(このデータでは特に矢)の神でもある性質から、サムライ=ユミトリにとっての重要性を非常に拡大解釈したもの(強いていえば鹿島神宮の重要性に対応する)と考えられる。

 なお、AD&D 2nd以降は、上記した上級神はすべて中級神になり、また他の神らの神位も属性も大きく変化している。ライデンは「真なる中立」でなく、破壊の神のみの性質が持たされたのか、スサノオの従属にして「混沌にして悪」になっている。タケミカヅチの性質はさほど残っていない。





・NetHack - イーノグがAoYもって逃げまくってるんだが


>& < まよけをよこせ! おれはかみに なるんだ!
 (NetHack 地下:24スレッドより)


 イーノグはAD&Dの時点からすでに神格である(3.0eでは出身次元界においてDivineRank= 1の半神とされる。どころかAD&D時代に一時、下級神にまでなっているサプリメントがあったようななかったような)。

 なぜ強大なユニーク悪魔らは(普通は)自分で魔除けを取りにゆかないのかという疑問は、溜まり場の強引解釈スレッドならずともよく聞く。
 定命のものが魔除けを捧げてDivine Rank +1(Demigodとなるに最低値)を得れば、準神格をすっとばしてパンテノンの一級メンバーとして仲間入りだが、すでにDivine Rank= 1を持っているユニーク悪魔らにとっては、1が2になったところで主に本体の能力が若干上がる程度で(もっとも、5上昇して神位 Statusが上がるとなるとまったく話は変わってくるが)そんな程度のことに自分自身でNHクリアなどという膨大なリスクと手間隙をかけるくらいならば、<下方世界>での勢力を大幅に増大させるために他にできることはいくらでもあるのだろう。

 とはいえ、そのイーノグが現に魔除けを持って逃げ出したとなると、その理由の方もいくらか推測できる。プレイヤーキャラと同様、どれかの中級神(NetHackの祭式の神はほとんどが中級神である)から魔除けと引き換えにささやかな権能が貰えることになっているのかもしれず、それとあわせるとDivine Rankがとうとう「+5」できるような準備をすでに整え終わっているのかもしれない。あるいは、そのささやかな権能の内容が、<下方世界>でのその時点での勢力闘争において、たまたま決定的なキーになる性質のものだったのかもしれない。あるいはさらに間接的に、その権能と共に得られる信者や地上勢力のいくばくかが何か勢力闘争の重要なキーだからなのかもしれない。また、当然ながら、天上界(=アストラル間隙界)まで突っ走りそこから<奈落界>に入れるので本拠地に魔除けを持ち帰れば、(魔除けを捧げられた祭式の神格自身らがそうするように)神格であるイーノグ自身が魔除けから”神力を直接に抽出”することができる、というのも、この中では最もありえそうもないことではあるが、ひとつの可能性である。
 ともあれ、イーノグは、AD&D 1stの最初のMM1の時点から、他のユニーク悪魔と比べて「バクレツに弱い」ことからプレイヤーらから長年蔑まれ続けていた。それを打開するためなら、何かを必死でやらかしそうな気はしないでもない。





・NetHack - 本日の疑問

「System Shockってので死んだけどこれって何」

 AD&Dが初級ルールとも位置づけられるクラシカルD&Dと大きく隔てられるひとつの点がこのSystem Shockである。新和版のAD&D 2ndの和訳でも「システムショック」のままになっており、訳語というものはない。AD&Dの能力値テーブルには、耐久力(Con)の値ごとにパーセンテージでこのSystem Shockの固定値がすべて併記されている(Con10で70%)。強力なショックを受けるあらゆる効果、全身の肉体変容、石化、死の悪夢、インスタントキルイリュージョン(自分の頭上に落盤など即死するような幻覚を見せられ、しかも本当と信じたとき)などに晒された時は、まずこのチェックを行い、失敗すると(Con10なら7割成功、3割失敗)魔法の効果が適用されるよりも以前にショックで即死する。(なお初級D&Dではこれらの状況では何のチェックの必要もない。D&D3e以降ではそのまま対応するチェックはない。)
 つまり、悪い魔法使いがお姫様を石にしたりカエルにしたりしようとしても、10人に3人がいきなり即死してしまうわけで、ファンタジーらしからぬことこの上ない。これは、コナンやエルリックなどに発するアダルトでシビアな後年FT作品において、強烈な魔法にさらされたり実験台となった者がしばしば悲惨にねじくれた死を迎えるといった状況を意識したとおぼしきもので、「初級D&Dよりもリアル」を謳うAD&Dの構想が端的に現れている。魔法の効果を受けるというただそれだけにも、受ける側の資質を要求するというのは、リアルというより単にシビアである。


おれには強い男が必要だ! あらゆる実験にたえうる木人形(デク)がな
どうやらきさまは最高の木人形(デク)のようだ

(武論尊/原哲夫『世紀末救世主伝説 北斗の拳』集英社刊)


 しかしこのSystem Shockは、明らかに適用されるものに関してはルールブックに明記してあるにもかかわらず、独断でそれ以外のものにも適用しようとしたその効果範囲は、鳥取によってさまざまであった。中には味方にかけたEnlarge(肉体が大きくなる支援呪文)にこのチェックを強要するDMや、逆に敵にSlow(速度半減呪文)をかけて、心臓の動きが半分になったショックで心臓発作を起こさないかチェックしろとDMに強要するプレイヤーもいた。





・NetHack - 本日の疑問

「どのスポイラーにもモンスターのヒットポイントが書いていないのは何故」

 AD&D 2ndまでのモンスターデータでは、その生物のヒットタィィス(なぜか変換できない)だけが示されてhpはそのつどその回数だけの8面ダイスで決定される。hpの直接値は(ユニーク等わずかな例外を除き)まず表記されない。故に、システムが若干異なるとはいえ、monsters.lngなどのスポイラーはモンスターのレベルつまりヒットタィィスが示されていれば、表記する必要の有無以前に、多分「hpを表記するという発想そのものが抜け落ちている」という、予備知識なしの読者置いてけぼりの書き方になっている。
 (なおD&D3e以降はダイスタイプも8面だけでなく、各種修正も複雑なので、ヒットダイスには代表的hpが必ず併記されている。)


「武器を長剣(対M:1d8/対L:1d12)にしたいけど、サイズがLのモンスターとはどんなものを指すのか」

 モンスターのLargeサイズとは8-16フィートのモンスターのことである(つまりエルダールやドゥネダインにはLargeのものもいるだろう)。ヒットダイス=レベル4のオーガ(9フィート)が大型モンスターの代名詞で、肉体によるヒットダイスのこれより大きい(ヒューマノイドの隊長や王のような「熟練によってレベルが高い」ものを除いて)ものは、ほぼ大型かそれ以上である。
 NetHackに忠実に受け継がれている(特異な)点だが、AD&D 1st,2ndの武器データには「対中型」と「対大型」の2種類のダメージのタイプがある。武器の種類による個性化(剣は斧と対中型ダメージは同じだが、剣は対大型のダメージが大きい等)というのはわかるが、超小型や超巨大などのもっと著しく武器の影響が異なると思われるサイズもあるのに、なぜ中途半端に中型と大型のサイズに対するものしかデータがないのかという疑問が、しばしば囁かれてきた。これは、モンスターのサイズそのものではなく、プレイヤーキャラクターが中型であり「使い手と同じサイズか、より大型か」が分かれ目だという見地で分類されている、と考えるべきであろう。長剣や両手剣などは「非力なものがより大型のものに抗する状況において、その非力を補う」力が強いというわけだ。故に、戦士がモンスターと同じ大型へエンラージ(巨大化呪文)した場合、ダメージ自体は増えるが、武器のデータ自体は対中型のものへとわざわざ低下させる(使い手と対象が同サイズになるため)DMもいる。無論、AD&Dベースの多くのCRPGやNetHackではそうした点は考慮されず、無造作に大型以上のモンスターに対大型のダメージが適用されるのみである。





・半神と権能

>You ascend to the status of Demigod だから、別に昇天したわけでも神になったわけでもないのだが  (
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 まあNetHack系に定期的に出る「風物詩」のようなものであろう。
 改めて繰り返すが、これは言葉通りの、
 「半神半人の呼び名を得るほど立身した」
 ではなく、NHが流用しているD&D系のルールにおいて、
 「divine ascendによってDemigod (divine rank 1-5)の神位 statusを獲得した」
 であるといえる。D&D系でのDemigodの神位とは、一般に言う半神半人(現実には多分に人間への尊称)ではなく「完全な神力を備えた正真正銘の”神”の最下位ランク」である(もっと不完全な神は準神格/英霊神だが、その神位すら持たないことも多い;アルコンやタイタンなど。つまりこの定義では「半神」になった時点で最早タイタンなどのレベルではないのだ)。なぜD&D系の「半神」がそうした一般と違う用語になっているかといえば、準神格/英霊神の定義がなかった頃に、単純に「神性の存在の最下位のもの」として当てられたことの名残であろう。
 また、ワールドセッティングにもよるが、WGやFRといったメインの世界設定やそれに順ずるバランスでは、半神はホームプレーン(外方次元界のひとつ)に本拠地を獲得する一方で、主物質界には原則的には直接降臨を許されなくなる(WGのアイウーズ御曹司のような例外や、FRやDLの小説で書かれているような非常事態は別だが)。すなわち半神の神位を得ることは、同時に外方次元界に立ち去ること、つまり「昇天する」ことも意味するといえるだろう。

 さて、その「半神」となると、具体的に「どうなるのか」「何ができるのか」ということである。
 「半神」はそれ未満の準神格や英霊神とは段違いに強力な能力を有する。「神は何レベル呪文とかもうガンガン」だとか言ってる人もいるが、Divine Rankたるや到底そんな”発想”で済む話ではない。が、神格本体の能力に関しては別の機会に譲るとして、いかにも「神」として決定的な特徴としては、半神以上の神格はひとつ以上の、司り管理するもの、ポートフォリオ(権能)を有する。NHの場合、おそらく昇天と共にパトロンの神とそのパンテノンから与えられることになるのだろう。
 これら権能は、持つ数も決まっておらず、等価でもない。例えばFR世界のケレンヴォーはシアリックから「死」「死者」の権能を奪取したが、この二つを持つだけで「上級神」になっている。これらの権能はただの二つでもそれほどまでに強力で重要なものの例である。しかしながら、半神に昇ったばかりでは無論そんな重要な権能を任せられるわけがないので、地味なものを僅かに与えられることになるのだろう。それでも、「その権能を司る者」として認識されることによって、数百から数千の信者(半神は最低それだけの信者を持つと定義され)をただちに獲得するのであるから、伝説と化してから長大な歴史を通じてようやく信仰されるようになっていく準神格や英霊神(および、現実の神話の神々もそうだったろう)とは比較にならないほどの恵まれた待遇である。
 ただし、「黒プリン増殖」「看護婦との甘い性活」(912,913)といった権能では、数百数千の信者はとても支えられないと思われるので、この場合、十把ひとからげのこれ以上にしょうもない権能を他にも押し付けられることになるだろう。

 さてその得た権能に対して、具体的に何ができるのか? まず半神は基本的にあらゆる物事に対しての数百フィートの範囲での知覚能力と環境の自動コントロール能力を持つが、「権能」に関係しての物事ならばそれにすらとどまらない。権能に関係したある程度の規模の出来事ならば、どこで起こったどんなことでも、どこにいようと即座に知覚することができる。例えば全世界のNetHackのプレイヤーのうち「千人以上が一斉に」黒プリン増殖をはじめたとか、看護婦と甘い性活をはじめたとか、それらに対する何か新しいアイディアが広まった、といったことが起こった場合は、それらを自動的に知覚できる(そんなことが起こるかどうかは保証の対象外である)。
 無論、その知覚したことに対して、直接干渉し操作することもできる。権能に関係あることならば、(強大な神格自身が呪文やら何やらでみずから行動する必要すらもなく)「自動的に」いくらでも(最大6秒に2つまで)引き起こすことができる。もっとも、さすがに自動だけで引き起こせるのは「普通のこと」で、超高レベルの冒険者の技能でないと解決できないような難易度(DC)の行動は無理ではある(より高位の神格なら自動でそれすら可能である)。
 また言うまでもないが、半神は数百数千の「信者」すべてと、おそらく権能に関係した祈りを捧げ敬ってくるそれ以上の数の者と自在に交信できる。呪文(奇跡)を与え、恩寵を与え、提示を与えて自在に動かす、数百数千の文字通りの「耳目」「手足」を主物質界に獲得する。一体NH勝利者はこの力で何をする? 他の神の勢力と抗争し、新たな権能の獲得を狙うか?
 もっとも、(実際の大半のパンテノンがそうであるように)その力でもっても自分の権能を死守するのが精一杯かもしれないが。なにしろどんなちっぽけな権能でも、強奪して自分の神位の足しにしようと狙っている輩はいくらでもいるのだ。シアリックとケレンヴォーの抗争ならまだしも、甘い性活を奪われて黒プリンの権能だけ残ったなんて「神話」じゃサマになりゃしない。





・NetHack - エルフの祭式

 NetHackの旧バージョンで「エルフ」が種族でなく単独クラスであったころ、祭式に名を連ねる神々は、実在の神話のものでもないし、トールキンでもないしで調べがつかないという声が聞かれた。
 実のところこれらの神々が何かというと、例によって非常に面白くない答えだが、AD&Dのものである。また、エルフやドワーフ、オークといったデミヒューマンの神々はAD&D内のいくつかの世界設定に共通であるため(例えばGreyhawkとForgotten Realmsとでは、世界生成や人間に関わる神々はまったく別々にいるが、エルフの神々には以下の名は共通して見られる)「どれかの世界のエルフの神々」ではなく、あくまで「AD&Dのエルフの神々」である。これが、AD&Dのルールを流用しているNetHackでも、エルフにはこれらの神々の名が使用される理由のひとつかもしれない。

             NH    AD&D
ソロノー・サランディア  秩序    混沌にして善、下級神(弓、狩)
エアドレ・ファインヤ   中立    混沌にして善、下級女神(風、天候)
エレヴァン・イレイザ   混沌    混沌にして中立、下級神(災い、変化)


 見ればわかるように、ソロナーもエアドリーもAD&D本来は秩序でも中立でもなく、いずれも「混沌」にして善である。これは、エルフそのものが「混沌にして善」の種族のためでもある。
 ただし、AD&D 1stのUnearthed Arcanaによるとエアドリーは混沌にして善といってもかなり「中立寄り」の性格を有する。そこで、AD&Dでは似たような性質のこの三神格を、NHでは、混沌にして中立(この属性を「真なる混沌」と呼ぶこともある)のエレヴァンを混沌とし、エアドリーを中立として、ソロナーの「善」という面から、便宜上秩序にあてたものと推測できる。

 これらのデータは上記したUnearthed Arcana当時のもので、現在のD&D 3e以降ではすべて「中級神」である。また、この3神(と、共にUAのエルフ神のハナリィとラベラス)の名前は残っているものの、デミヒューマンパンテノンの編成はだいぶ変わっており、また唯一基本ルールなどに載っているエルフ神、ドワーフのモラディンやオークのグルームシュと同じような「エルフの主神」は、「コアロン・ラレシアン(上級神)」である。
 これらエルフの3神も、D&D系においては昔からポピュラーなはずなのだが、現在のD&D 3e基本ルールブックにはエルフの神としては主神コアロンしか載っておらず、LGG(グレイホーク・ワールドガイド)にはデミヒューマンの神々自体が(Grayhawk特有ではないので)他の地理や神などの項目に名前が断片的に出てくる程度である。したがって、たまたま「日本語版」の環境ではこれらのエルフパンテノンの名は、FRCSに名前や領域データだけが羅列されているくらいしか目に触れる機会がないのかもしれない。

 何にせよ、旧NetHackの「エルフ」クラスは、基本にトールキンがあるように見えてムアコックも入っている感があったりこうしたパンテノンのみがAD&Dだったりして、NHのほかのクラスに比してもわりと一貫性のない世界観であったかもしれない。





わたし残酷ですわよ

 日々こんなスレッドばかりを探している気がする。とりあえず「NHのFに関する参考にしてくだちい」などとAlba氏風のまとめ方をして強引にゲーム雑感ということにしてみるテスツ





NetHack - ”開放のベル”


 ...開放のベルはおよそ1フィートの長さがある中空のミスリル製(*1)のチューブである。これは打ち鳴らされた時、蓋、扉、栓、門の開放を促す魔法的な振動波(*2)を放射する。この器機は普通の格子、閂、縛鎖、枷などに対して作用する。開放のベルはまた、15レベル(*3)に満たない術者によって施された「門固め(hold portal)」のみならず「魔法錠(wizard lock)」の呪文の効果をも破壊する。...(中略)...そして打ち鳴らされた時、澄んだベルの音が鳴り響き(そしてモンスターらを引き寄せ)...ひとりでに錠は開錠され、閂は跳ね落ち、隠し扉は開き、落とし戸も櫃蓋も取り除けられる。...(後略)

(Gary Gygax, Advanced Dungeons & Dragons (1st edition), DUNGEON MASTERS GUIDE, 拙訳)


訳注:
*1 開放のベルのNetHackにおける未識別名は「銀」のベルだが、これは実は「まことの銀」を指すということになる。
*2 magical vibrations
*3 15レベルとはNetHackのクエストレベルのそれを連想するが、ここでは無論のこと16レベル(Magi/Master Wizardの大序列の資格を有した大魔法使)に及ばない、という意味である。





NetHack: 野蛮人の祭式

 R.E.ハワードの小説『コナン』シリーズの舞台であるハイボリア時代は、1万2千年あまり前の地球とされながらも、実のところ地球の古代から紀元前後までの文化・文明がごちゃまぜになった世界で、その人物や事柄の多彩な出身地ごとに、その地やその古代形に由来する固有名詞や神名が片端から登場する。これが、同じ「半分架空の神話的な古代地球」でありながらも、まったく独自の言語や文化を構築されているトールキンのエンドール(中つ国)とは「厳然と性質を区別すべき」とされる所以である。

 ハイボリア時代とは、「ハイボリア人」が西欧(にあたる部分)に急速に広まり勢力を拡大したことからの名で、これはハワードらの仲間ではC.A.スミス(ラヴクラフトではなく)がよく描いた「ヒューペルボリア」という語に拠っているが、この時代ヒューペルボリア地方とはハイボリア人の一国にすぎず、ハイボリアの遥かな(hyper-)さいはて、最北東に位置する。
 ハイボリア人諸種族はこの北西に数多くの国を築いているが、非常に厳密には、この西欧にあたる北方蛮族国でもコナンの出身地キンメリアだけはハイボリア人の国ではない(キンメリア人はアトランティス人の末裔で、故に蛮族の中でも知的・狡猾なのである)。またNetHackでハイボリア祭式にひっくるめられているセトの信奉されるスティギアのような南国は、地域としてはハイボリアではない。

 コナンシリーズで最も有名な神名、コナンの唱える神クロムとは、ケルト語であり、「腰の曲がったもの(すなわち長生者)」、もしくは「塚の主(クロムレック)」であり、ここまで言えばむしろ*bandファンの方に一発解りであるが、前者の意味ではアンバーのコーウィン、後者は紅衣の公子コルムに連なる、コウィル、クレム、クゥイルの名およびヌアダ(ノーデンス)の系譜とも相互に合流する最も主要な古代神に連なる、例の数多くの名のひとつである。結局のところ、コナンの出身地であるキンメリア(アースガルドおよびヴァナハイムと呼ばれる地域のすぐ南である)は、スカンジナビア南から北ブリテン島までがまだ陸続きになっているあたりの土地で、陸と島のともにケルト文化が形成されるあたりの土地であるといえる。
 ついでコナンがよく唱えるのがミトラ神で、これは言うまでもなくペルシアの強力無比な神性であるが、冒険者となって比較的初期のコナンが冒険、行商、盗賊、海賊などの行為を続けた南国で知った神の名に、運を祈るようになっている。そして、トート=アモンをはじめとするスティギア(現代地球ではエジプトにあたる地域と推測される)の呪術師たち、長大なシリーズを通してのもっぱら悪役らが信奉している敵側の神の代表格がセト神である。

 ハワードの原作には他にもあらゆる神名やそれをひねった名が登場するが、これらは現代地球での神名と同一とみなしてよい場合もあれば、そうでない場合もある;役割が異なる場合もあれば、コナンの敵や味方に、しばしばこれらの神や神話的人物と同じ名前の「人間」が出現することさえある。味方にはベリトやシーグルズやニョルド、敵にはイミルから、ゼラズニイ『光の王』でもちょい役の猿のタクまでいる。彼らが現代地球の神らの、超古代における前身なのかもしれないし、同じ出身地の語というだけの偶然かもしれない。
 神話由来の名前が次々と出てくるというただのそれだけで読者、下手をすると作者までが舞い上がっている「伝奇」「ファンタジー」は昨今多いが、膨大な神話の要素を認知した上で、そこからさらに数歩引いて読むことを要求してくる世界観は、最も初期の最も低俗なヒロイックファンタジーの先鞭から当然のごとく存在するものでしかない。そしてコナンシリーズなど、こうした神話がらみの設定ではなんら綿密な方になど入らないのだ。





トリカブト

 トリカブトとは兜を思わせる花弁(海外でMonk's hoodと呼ばれることがあるのも同様とされる)もしくは「敵の兜を奪う(=無力化させる)毒」の意から採られたといった話は、別にここは用語集コーナーではないしめんどいから割愛する。狼狩の矢に塗る毒として使われたことからWolf's baneの名があるが、クラシカルD&Dではそれを拡大解釈した、Wolf's baneの枝に「ライカンスロープを遠ざける」という効果を採っており、これは強い香草(ニンニク)の匂いが吸血鬼を遠ざけるという効果とちょうど並べる形で変身生物に効果のある薬品とされている。具体的には、枝でじかに攻撃し、命中し、相手が「毒抵抗」に失敗すると、その相手が恐怖にかられて逃亡するのである。(ベーシックプレイヤーズハンドブックには「ほらこれで攻撃して何が起こるか見てごらん! さあさあ!」とか書いてあるのだが、見ての通り即座に効くわけでもなくいくつかの条件を踏むので、力でライカンスロープをなんとかできないようなベーシックレベルのキャラが無理やり試みたりすれば大惨事は必至である。)
 さてクラシカルD&Dのかつての新和和訳ではWolf's baneを「トリカブト」と訳さずそのまま「ウルフスベイン」としていた。そのため本来の語の意には思いもよらず「ウルフ・スベイン」などと読み違えていた日本の古参プレイヤーすら少なからずいたが、実際に翻訳側もこれをいわゆるトリカブトのことだと認識していたかは疑わしい;なんせ山棲ライオンとか強盗エバとかいう翻訳態度である──からではなく、と言うのも、ゲーム内ではこの薬品にライカンスロープに対するもの以外の効果が全くないからである。D&D系では(T&Tなどと異なり)プレイヤーが毒を使用することが頑として阻まれているが(アサシンなど悪キャラクターの特殊技能とされ、それ以外が毒を扱うと誤って自分が食らうといった失敗確率が異常に高い)このプレイヤーがたやすく扱えるウルフスベインには、食べると毒であるなり、まして他の生物に対して毒に働くといった効果が一切ない。
 故に、これはトリカブトそのものではなく、あるいはライカンスロープの嫌う匂いだけを(抽出、もしくは魔法的に)取り出したものであるとか、もしくは匂いやひいては名前だけが似ているだけのまったく別の薬草なのではないかと考察するD&Dファンは古くからいた。NetHackにおいて服用することでライカンスローピイを避けられる「トリカブト」が毒とならないのは、あるいは同様のものなのかもしれない。





・半神

 いつのまに脱兎落ちしていたが、2ch NetHackの9スレ583で、「Demigodessというのは”半女神半人”になったという意味で、天に召されたわけでもなければオーディンたちと同じような神となったわけでもないので、『昇天し女神になった』というのは明らかに誤訳・超訳」というお話。

 元来は「デミゴッド」というのは熟語('Demi'-'God')ではなく、'Demigod'というひとつの単語であり、God(神)とは「異なるもの」を示すニュアンスが強い。最初からパンテノンとして生じたものではなく、神の落とし種であったり英雄が信仰対象となったものを指すことが特に多い。最も典型的なのはギリシアのヘラクレスだろう。

 さて一方で、NetHackの昇天=神格化システムはAD&D 1st-2ndのルールが参照されているが(クラシカルD&Dのイモータルシステムとも、試練やパトロン神にアーティファクトを捧げるなど共通点があるので、覚えている人は参照されたい)D&D系においては、落とし種や英雄などの現世の不完全な神性は、クァジゴッド(擬似神格)やヒーローゴッド(英雄神格)といって区別する。彼らは完全な神ではなく、ほとんど現世にとどまり、信者は得ていても奇跡を与えることはできない。
 そしてD&D系において「デミゴッド」と呼ばれるのはそのさらに一段階上で、パンテノンの一員であり、奇跡を信者に与えることもでき、神性の力を低レベルであっても持つ、名こそ半神であっても信仰対象としては「完全な神」である。(ただし、2ndまではルール的には区別がなく、クァジゴッド等はデミゴッドに含まれていた。)トールキンの「狭義でのマイア」あたりがこれに相当するだろう。
 つまりNetHackの「デミゴッドの位を得た」というのは、「以後、この英雄は通常の神話学で言う半神半人と呼ばれるようになった」ではなく、「最下位ではあるが明確な神としてパンテノンに引き上げられた」ことを意味している。故に日本語版の訳は(全く偶然そうなったのであろうが)誤訳ではない。





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