ドラゴンランスのデータ学







ソス卿の死の呪文


 ソス卿の「指をつきつけて死ねというだけの魔法」は、D&Dシリーズのデス・ナイトの疑呪(疑似呪文能力)である「パワーワード・キル」(魔法使系呪文レベル9)呪文であることはD界隈には周知であり、ゲームの方には触れていない小説読者でも、小耳に挟んだことくらいはあると思われる。
 ここで、『伝説』1巻の注釈版では、ウェイレスの森でソス卿によってクリサニアが死の呪文を受けた(パラダインによって保護され仮死状態となる)箇所の注釈は、「デス(死)の呪文」についてのAD&D2ndのPHBの引用となっている。しかし、ここで引用されている文章、1995年版の2nd-PHB(注釈では「1997年版」となっているが、2nd-PHBの89年と95年の2種表紙のうち後者と思われる)の222-223ページに記載の注釈の文章の呪文は、注釈題名の通りそのまま「デス・スペル」(魔法使系呪文レベル6)呪文の説明であり、Power Word Killではない。
 これも知っての通り、Power Word Killはヒットポイント60以下の対象を即死させるconjuration呪文、それに対してDeath Spellはヒットダイス(レベル)8+3以下の対象を即死させるnecromancy呪文(Wish以外では蘇生できない)で、全くの別物である。(なお、デスナイトの初出の1st-Fiend Folioから、これらのPower Word疑呪を用いるデータとなっているが、necromancyでなくconjurationのpower wordを用いるのは、騎士の「命令」が意識されている節もある。)

 あるいは、Wish(他の版ではそうとは限らないが、2ndでは神の介入、とPHB内で説明されていることがある)以外には蘇生できないという記述から、クリサニアが容易に蘇生できない状況に陥ったこの呪文を、故意または何となくデス・スペル呪文の方とした、DL世界のデスナイトはそちらの設定である、と考えることもできるかもしれない。
 しかし一方で、『伝説』5巻のダラマールの台詞には「死の騎士の強力な示唆の言葉──『死ね』『気絶せよ』『盲いよ』(注釈版の邦訳では『失明せよ』)となっている。これらはDeath Knightのデータの通りの3種のPower Word呪文、Kill/Stun/Blindを指している。すなわち、当初の『伝説』執筆当時には、ソス卿が用いるこれらの疑呪は、まだルール通りのDeath Knightの3種のPower Word呪文であることが念頭に置かれていたことは確実である。明らかに小説執筆時の想定と、後の注釈において食い違っているようである(ちなみに5版のMMのデスナイトからは気絶と盲目は無くなっており、Dragonlance: Shadow of the Dragon Queen (2022)(邦訳『女王竜の暗き翼』)のソス卿のデータでも同様である。気絶と盲目は、小説作中では上記言及はあるものの少なくとも戦記伝説内では使われていない)。

 呪文に関する注釈には他にも、『伝説』4巻のキャラモンが「クリサニアに若者を呪縛してもらうことを期待する」という箇所に、同様に2nd-PHBを引用して「チャーム・パーソン・オア・ママル」(聖職者系呪文レベル2)の注釈があるが、この呪文はAD&D2ndではアニマルスフィアーの呪文で、コアルールではドルイドかレンジャーにしか使えない。世界特殊ルールの類でも、特殊な自然神クレリックにしか使えない。2ndのTales of the Lanceによると、アニマルスフィアーにマイナーアクセス(呪文レベル3まで)を持つのはマジェーレ、ブランチャラ、ギレアンであり、メジャーアクセス(アニマルの全呪文)を持つのはハバクク、ゼボイム、チスレヴでDL世界では意外と多いが、パラダインは含まれていない。AD&D1stではそもそもドルイド呪文でありクレリックのリストに無い。すなわち、1st, 2ndともに、DL世界用のルールを適用したとしても、パラダイン僧侶にはチャーム・パーソン・オア・ママルは使用できない。
 この時点でキャラモンが念頭に置いている呪縛はむしろ自分が以前に『伝説』2巻末にクリサニアにかけられた呪縛(ホールド・パーソン呪文であると推測、さらにほぼ確定であるかのように主張されていることが多いが、実際には効果は一致せず、厳密には不明である)が近いのではないかと考えられる。

 なぜか『戦記』よりも『伝説』注釈版では急増しているPnP版資料の引用のうち、この部分を配置したのが作者チーム、ワイスやヒックマンらの他、モジュール調整を行っていたジェフ・グラブや、注釈全般を執筆しているジーン・ブラッシュフィールド・ブラック(『戦記』当時の編集長、『ゴーストタワーの魂の石』等の何作かのAD&Dゲームブックの作者であり、決してルールに昏くはないと考えられる)のうち誰なのかは定かではない。しかし、どちらにせよ、この注釈を付ける頃(『伝説』注釈版は2003)には、『伝説』本文(1986)執筆時に比べるとAD&Dのルールまたはデータなどは、この面々らにとってはかなり忘れられていた、というのが何となく想像できる記述である。
 無論、ゲーム環境ならともかく小説作内では当然PnPデータより「小説内の」注釈が優先されるのであろうから、PnPデータ上はPower Word KillやHold Personであると推測できるとしても、「小説内では」注釈に記されている以上、あくまでデス・スペルやチャーム・パーソン・オア・ママルであるのかもしれないが、しかし、本記事では、何故小説や注釈がそんな記述になったかの分析はするが、どちらが作内の「DL世界設定の正史」で「正しい」のか、といった議論は行わない。

 ちなみにクリサニアはTales of the Lanceで14lvのクレリックでhp63, HD9+10hpなのでこの疑呪がPower Word KillとDeath Spellのどちらであったとしてもルール的には全く効かないが、あるいは『伝説』1巻時点ではこれより低かったのかもしれない。
 また、『伝説』5巻で、死の騎士と戦おうとするタニスを騎士訓練を受けていないとして止めようとする騎士団長グンター卿に対して、能天気騎士マーカム卿が「指をつきつけて死ねというやつと戦うのに騎士訓練なんてあってもなくても同じですよHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!」などと言っているが、タニスは伝説時(Dragonlance Adventures)は12lvでhp79(HD9+9hp)なのでやはりどちらの疑呪も効かない。
 小説とPnPで、「用いるデータ自体」は一応合っているが、「ルール適用」については整合がとれたりとれなかったりすること自体は、これまで説明してきたアイテムデータと同様、注釈版以前の『戦記』『伝説』本文当時からよくあることである。





クリンのドワーフ亜種族


 D&DシリーズでもFR世界のPCゲームなどでは、「ドゥエルガル(灰色ドワーフ)」などが登場すると「昔読んだ小説の『どぶドワーフ』とかのことだろうか」というコメントをたまに聞く。同じ小説に出ていたはずの「デュワー(黒ドワーフ)」について思い出したという話は聞いたことがない。
 クリンのドワーフについては、5版の設定として現在日本語で読めるDragonlance: Shadow of the Dragon Queen (2022)(邦訳『ドラゴンランス:女王竜の暗き翼』)の世界設定ルール部でも、このルール部が概要的にすぎないためもあるが、山・丘ドワーフについての簡単な記述しかない。より前のMordenkainen's Tome of Foes (2018)(邦訳『モルデンカイネンの敵対者大全』、以下『敵対者大全』)にもクリンでの各サブ種族の名と歴史概要こそあるものの、詳しい説明やデータ等は特にない。


 まず、AD&D1stの時点でドワーフには「ヒル・ドワーフ」と「マウンテン・ドワーフ」の2サブ種族がおり、前者がプレイヤーキャラ種族としては一般的である(厳密にはMM1,PHBではサブ種族として「丘ドワーフ」という名ではなく「PC種族の丘に住む『ドワーフ』」と「その類縁の『山ドワーフ』」がいる、として説明されている)。これらは『ホビットの冒険』のホビットや他種族と生活域を共有する(実際は流浪の)「青の山脈からエリアドール丘陵地のドワーフ」らと、定住しより秩序だっていると思われる「くろがね連山のドワーフ」らの2種を意識して設定されたと考えられている。無論、当サイトの読者のRoguelikerならばすでに知っての通り、本来トールキンのアルダ世界のドワーフの大分類としては適切ではない(青の山脈とくろがね連山のドワーフは、七氏族のうちのさらに主要一家系が住居を別にしているに過ぎない)。これはОD&D/AD&D1stの時点ではアルダの資料がほとんど出版されていなかったため、LotR/Hob本文のみから推定され、アルダの世界設定の踏襲としては誤った形で初期海外RPGでは定着した数多くの要素のうちのひとつである。
 これらに加えて、AD&Dには敵対的(少なくとも初期では)な想定のドワーフ亜種族として、北欧の黒倭人デルガーを元とする「ドゥエルガル(グレイドワーフ)」と、さらにモンスター的なハイブリッド種族である「デロ」が設定されている。D&Dシリーズのデロ種族の記述は版によって大きく違う。デロはAD&D1stのMM2ではドワーフと人間が合成された種族であり、3.Xe (MM1)でも同様の記載がある。しかし一方で、5版ではデロはドゥエルガル同様に起源的にはドワーフで、共にマインドフレアに囚われたが、デロがより強く精神操作の狂気を受けた者の末裔(『敵対者大全』)とされる。デロとドゥエルガルはいずれも丘・山ドワーフにはない特殊能力(疑呪など)を持つ。
 なお、DLでは影響が少ないが、D&D4版や5版になると、トールキンを最初期に誤輸入した齟齬の是正を含めて、旧版から変更された箇所が多く、AD&Dや3.Xeといった旧版の定義等が4、5版のそれと全く合っていないことが多い。日本のCRPG史解説や『ファンタジー』『TRPG』解説ではこれらが混同されて吹聴されていることもかなり多いが、5版のコア(PHB)やFR世界の書物、またDLの5版シナリオなどとの照合には注意が必要である。

 DL世界では、このAD&Dのコアや標準的世界用の設定をベースにエルフ同様にドワーフの設定やサブ種族が大幅に膨らませてあり、『戦記』刊行途中の最初期のワールド解説であるDL5モジュールの時点ですでに基本設定が確立している。以下は特に断りがなければ、DL5時点からのものである。

〇山ドワーフ
ハイラー:Hylarはhighestの意。トルバルディンの山ドワーフ。大変動の災害時にネイダーらを締め出したため、『伝説』で描写されたドワーフゲイト戦争を招く。AD&D2ndのMC4: Monstrous Compedium Dragonlance Appendixではなぜか、ネイダーのはずのフリントのイラストになっている。MC4によると通常は「秩序にして中立」とされる。
デアワー:Daewarはdearstの意。後述の黒ドワーフのデュワー(Dewer)とは、混同しないような注意書きが随所にあり、別物である。統治層のハイラーに対して職人(鉱夫、工芸師)や商人の階級であり、またハイラーのような貴族や騎士階級ではないが戦闘能力にはたけている。AD&D2ndのMC4では、山ドワーフ(ハイラー)の箇所に触れられているため、データは同じと思われる。
ザクハー:Zakharはcursed peopleの意。DL5には無く、AD&D2ndのTales of the Lance (ToL)で、おそらくは半ばシナリオソース的な記述と共に追加されている種族で、カルキスト山脈中央の古代ドワーフ帝国の廃墟ザカール(Zhakar)に少数のみ住み、他の種族と交流もなく関係はまったく不明であるとされる。肌に苔の生える奇病にかかっている者が多い。ハイラーとの血縁関係も不明だが、前記AD&D2ndのMC4ではハイラーとは別データながら山ドワーフに分類されている。MC4では通常「真なる中立」とされる。

〇丘ドワーフ
ネイダー:Neidarはnearestの意。大変動以前からトルバルディン外に住んでいた丘ドワーフ。カロリス山脈に主に住む。DL5では、ネイダー種族が「トルバルディンに住むドワーフ種族(ハイラーだけでなく)との軋轢・確執がある。MC4によると通常は「中立にして善」とされ、DLモジュール群でのフリントもこのアライメントである。コアルールで「ドワーフは『秩序』属性が多い」という記載になっている版が多いが、DL世界においては、最もプレイヤー用のドワーフ亜種族として一般的な丘ドワーフは秩序ではないことになる。
クラー:KlarはDL5モジュールには無く、『伝説』より後のDragonlance Adventures (DLA)に記述がある。種族としてはネイダーと同族だが、ドワーフゲイト戦争においてトルバルディン側で戦った種族とされる。AD&D2ndのMC4にはクリーチャーデータはないが、ネイダーの箇所に言及があるため、同じ丘ドワーフのデータと思われる。一方で、5版の『敵対者大全』では、なぜか「水銀を愛するあまり気が変になってしまった種族」なる記述で、ネイダーとの類縁については書かれていない。

〇黒ドワーフ
 DL5では、いわゆる黒ドワーフ(dark dwarves)各サブ種族の総称がDerroとなっており、Derroらは過去に人間と混血した背景を持つという記載があるため、AD&Dの標準的な設定(MM2)のデロに相当する。ただし、データ・特徴上でAD&D標準のデロにほぼ対応するのは後述のようにゼイワーのみである。DLでのDerroはdegenerateの意とされている。黒ドワーフ各サブ種族はいずれもトルバルディンでハイラーを宗主としているか、又は同盟している。
ゼイワー:Theiwarはthanklessの意。人身御供などの忌まわしい慣習を持ち、ガーゴイルやラミアと同盟するとされる。MC4では高lvの個体は幾つかの疑呪を持ち、後の版では直接「なぞめいた魔術を用いる」等となっている。ほぼAD&D標準のデロにそのまま相当すると思われる。MC4によると通常は「混沌にして悪」とされる。
デアルガー:Daergarはdeepestの意。似た綴りからAD&D標準のドゥエルガル Duergarに相当すると思われるが、ここでは「ゼイワー(デロ)から分れたdark dwarfの一支族」となっており、また、ドワーフとの姿や能力の違い(AD&D標準のドゥエルガルは疑呪などを持つ)の記述もない。『伝説』より後のDLAには、好戦的で暗殺者なども含むとされる。AD&D2ndのMC4でも同様で、ドワーフと共通の能力は持つが、ドゥエルガルのような姿だという記述はなく、疑呪などの特殊能力も持たない。MC4では通常「秩序にして悪」とされる。
デュワー:Dewarは『伝説』で「黒ドワーフ」として登場する種族で、トルバルディンに住み暗殺などを引き受ける等、小説の記述は他のDerroに近い。しかし、DL5モジュールや『伝説』以前の資料にはDewarという記述は無く、小説『伝説』本編が初出ではないかと考えられているが、『伝説』よりさらに後のDLA, ToLやMC4にも記述がなく、実はAD&D時代には対応するデータを持たない。綴りが違うが、元々小説作者は漠然とDL5で既出だったデロ、多分にそのうちデアルガーにあたる種族を想定していたが、名前だけが小説執筆時に何らかの混乱を起こしたと考えられる(作者らによると、「カガネスティ」と「カゴネスティ」など、小説とD&D資料で同じ事項を指しているはずが綴りだけが異なっていることはよくある。単なる誤字がそのままになった等を含め、事情は様々である)。
 かなり後になるが、3.5e d20のDragonlance Campaign Settingsでは、デアルガーの箇所に(ゼイワーとデアルガ―の他に)「ダエガー(デアルガー)とゼイワーが混血してデュワーというなまった名前になった氏族がいる」と説明されており、『伝説』注釈版(邦訳は通称アスキー版、エンターブレイン版や電子書籍版)にもこの3.5e d20の同じ記述が注釈として抜粋されている。

〇どぶドワーフ
アガー:Agharはanguishedの意。DL5の記述の時点から、アガーの起源は『灰色石』による変貌から間もない頃、ドワーフとノームが混血し、どちらでもない種族になり、両種族から受け入れられなかったものとされている。つまり、ドワーフとは根本的に別種族かもしれず、「ドワーフ」の亜種であるかのように分類されているのは、何らかの歴史経緯上のものでしかないのかもしれない。『戦記』1,2巻のように廃墟等に集落を作っていることもあるが、トルバルディンの片隅にも住んでいる。
 アガーはDL1-5モジュールの時点ではクリーチャー形式の一行データしかないが、のちのDLA, ToL, MC4ではプレイヤーキャラとして作成できるデータがある。DLAではStrとDexが4d4+2(6-18, 平均12)でかなり高いが、Conは3d4, Int, Wis, Chaは2d4+1しかない。限界レベルはFtr6, Bbn7, Thi8, Clr5で、高lvキャンペーンには厳しいとはいえ『戦記』あたりのスケールなら同行できる。ToL, MC4でもデータに大差はない。
 その性情に関しての記載は、初出のDL1のデータセクションでは「何もしない」「モラルは皆無」などと書かれていたが、後のDLAでは「どぶドワーフの重要な性格として認められているのは生存本能、プライド、忍耐、愚かさ」とされ、この「プライド」については(多種族からばかげているように見える事項でも)「何事も真剣である」旨だと説明されている。DL2以降、パーティーに同行するコミックリリーフ的な側面が強調されたと推測される。アライメントはDL1,2のクリーチャーデータでもMC4でも通常は「混沌にして中立」だが、ブープー(ToLでは中立にして善)やセスタン(真なる中立)など名有りキャラが異なっている例もある。
 セスタンのデータは過去記事で述べた通りDL1-5ではクリーチャーデータのみ、後出ではThi2などだが、ブープーのデータやクラスも版によって異なる。ブープーはトカゲやネズミの死体で「ひみつのまじつのじもん」を使用する呪術師とその社会地位のため、2ndのToLのようにShamanなるクラスのことも、d20のようにHeathen Cleric(『戦記』初期のシーク教徒のように治癒呪文を発動できないClr)のこともある。


 後年のd20版、3.5eのDragonlance campaign settingsではプレイヤー用種族として山ドワーフ、丘ドワーフ、黒ドワーフ、どぶドワーフのデータがある。
 山ドワーフと丘ドワーフは3.5eのPHBと同様とされる。ハイラー、デウワー、さらに(血縁上はネイダーだが、トルバルディンに住む)クラーも山ドワーフに分類されている。
 黒ドワーフはゼイワーとデアルガーが分類され、また上述のように「デュワー」のデータ設定が出現し、デアルガーの別名や支種族とされている。WGやFRのようなD&D他世界の(デフォルトモンスターの)ドゥエルガルとは、能力値など共通点はあるが、疑呪などは持たないなど同一ではない。ゼイワーが魔術に興味を持つなどという記述があるが疑呪や適性クラスへの反映はなく、黒ドワーフは3種とも同一データで、適性クラスはローグである。
 どぶドワーフはDex+2, Int-4, Wis-4など概ねAD&Dを踏襲しているようだが、Con+2など異なる特性もある。生存関係にボーナスがあるものの、臆病なため恐怖や威圧技能抵抗にペナルティがある。適性クラスはRogである。
 上記DlCSよりさらに後の『秘史』のうちドワーフに関連する1巻では、ドワーフの各種族に関する説明があるが、DL5やDlCSに近い記述であり『戦記』『伝説』とは細かい食い違いがある。黒ドワーフはデュワーではなくゼイワーとデアルガーが登場する。ゼイワーは魔術能力を持ち、異端魔術師(上位魔法の塔に属さないレネゲイド)であり呪文書を用いずに魔術を使用するとあるが、MC4の「疑呪」の使い手として整合可能である。この作中でもネイダーらはハイラーとの間はかなり険悪である。クラーはトルバルディンの種族となっており、丘ドワーフとの関連は言及されていない。アガーの起源(ノームとの混血)については可能性として挙げるにとどめられている。
 ここで、『秘史』で活躍するドワーフ首長らの名は古くDL4の時点からあり、魔術師でもあるゼイワー首長リアルガーについては、なぜか「使える呪文のリスト」があるがキャラデータ自体はなく、疑呪なのか魔術師クラス能力なのかは明らかでない。一方、後のd20の竜槍戦争モジュールでは、なぜかリアルガーはWizardのクラスを持ち、ルール上もレネゲイド・ウィザード扱いである。

 D&D5版ではコアルールにも直接DL世界についての記載が増え、PHBにヒル・ドワーフとしてネイダーとクラー、マウンテン・ドワーフとしてハイラーとデアワーが書かれている。さらに『敵対者大全』には「クリンのドワーフ」の1章が設けられている。上記した各種族の概要が説明されているが、しかし、前述のようにクリン独自のドワーフ種族のデータについては特に載っていない。(また、『敵対者大全』は他のFRなどの5版資料と整合しない点があり、後日他の資料で上書きされたデータが多いと考えられるが、ここでは省く。)
 ここで、5版のDLシナリオ集『女王竜の暗き翼』にどぶドワーフのプレイヤー種族データが載っていないことが一部で指摘されているが(指摘している旧読者が本当にどぶドワーフでプレイする気があるのかは不明だが)5版におけるアガーの情報は上記『敵対者大全』の概要しかないため、アガー種族のデータについては(自作するのでなければ)他のドワーフのものをそのまま流用する想定と思われる。実際のところ、種族間の格差が以前の版よりもかなり小さくなっている5版では、それでもさほど支障が生じないのかもしれない。





ウィリアム・スウィートウォーター


 3.5e d20版ドラゴンランスのWar of the Lanceは『戦記』、Legends of Twinsは『伝説』の、3.Xe版の主に追加データが載っているが、たまに元の小説のベースとなったAD&Dのデータにはなく小説後に追加されたもの等で、何の使い道があるのかわからない奇想天外なキャラなどが詳細にデータ化されているものが載っている。

 War of the Lanceのキャラデータ集のうち、一番最後(頭文字がwなので)に載っているのは、バリフォール港の『豚と口笛』亭の酒場の親父、ウィリアム・スウィートウォーター(『戦記』4巻冒頭のほか、後述の外伝)のデータである。
 ウィリアムはAD&D時点では、DL12モジュールでバリフォールの酒場の主人の「心優しい豚面の男」として名前が一度出て来るが、データなどはない。一方、このd20では、Master 2lvで人間、「秩序にして善」である。(ウィリアムは、DL世界には居ない「ハーフオーク」種族のキャラだった世界設定確立前のアイディアが変化したもの、という説があるが、少なくともDL12にもWar of the Lanceにも特にその言及や伺わせるものはない。)

 Master(工匠)というベースクラスは、このWar of the Lanceで設定されているDL d20の独自クラスで、これは3.Xe/d20デフォルトルールのNPCクラスの「エキスパート」によく似ているが、PCクラス同等に強化されているようで、スキルが多く(Rogと同様)、ボーナス特技や主に製作系のボーナス能力を多く持つ。このウィリアムのような名有りの一般人の他に、パランサス図書館の文人バートレム(『伝説』6巻によればドラコニアンを棍棒で撲殺する強者である)、銀の腕の鍛冶屋テロス・アイアンフェルドといった、D&Dデフォルト冒険者クラスではないと思われるが屈強なキャラも、d20版では中〜高レベルのMasterクラス持ちで再現されている。

 ウィリアムのデータに戻ると、もと船乗り出身という小説記述に拠って、武器はbelaying pin(ビレイピン)を棍棒がわりに使うもののみとなっている(ビレイピンは船でロープを巻くために使われていた木製棒状部材で、『伝説』2巻でキャラモンの剣闘士仲間フェラーガス(エルゴスの船乗り出身)が航海士を殴るのに使ったと言っている「索止め栓」がそれである)。
 しかし、ウィリアムがのちに覆面に小剣の「怪傑豚鼻仮面」に変身(『英雄伝』1巻、『闇の夢、光の夢』)した際のデータは載っていない。というか、怪傑モードだといかにも盗賊系クラスなど軽快そうなのだが、このd20データはStr 16, Dex 9, Con 15, Int 11, Wis 13, Cha 13でありむしろ屈強で鈍重となっている。この強さは「元船乗り」であればわからないでもない。
 さらに、『英雄伝』の短編では冒頭が「ウィリアム・スウィートウォーターは小男だった」で始まるのだが、このd20データでは'a large man'と書かれている。DL12や『戦記』4巻本文では、ウィリアムが大柄か小柄かは特に書いておらず、同4巻の登場章の口絵に描かれている姿でもどちらかは判然としない。しかし、バリフォールでの『赤い魔術師の大幻術団』の演目に、キャラモンが片手で軽々とウィリアムを持ち上げる怪力ショーというのがあるので、ウィリアムは肥満小兵よりは、見るからに巨体でもあった方が辻褄は合うことは合う。上記高Str,低Dexは大男を想定して設定されていると思われる。

 このd20版では、『戦記』4巻でタニス一行と会った後(レイストリンとの関係を含め)の記述がないだけでなく『英雄伝』の内容の記述が全くないのは、竜槍戦争前のためとも考えられるが、上記のようにエピソードだけでなく記述自体に食い違いがあるのは、『英雄伝』は「非正史」とされてしまっており、このデータでも反映されておらず、あくまで『戦記』4巻のみから作られている可能性が高い。現に、他にも英雄伝収録の外伝の幾つかは、元から本編と矛盾点が著しいものや、そうでなくても後日の他作に上書きされてしまい、明らかに非正史となっているものがある。
 しかし、このWar of the Lanceのキャラデータには『英雄伝』以上にさらにイレギュラーな出典のデータが混ざっていたりするが、それはまた後日に回す。





ワイアムスレヤァ


〇AD&D1st、DL2: Dragons of Flame
 タニスが小説『戦記』2巻のパックス・タルカス砦の墓所でエルフ王キス=カナン(の骨)から授かった魔剣ワームスレイヤーは、初出のDL2モジュールでは小説通りキス=カナンの墓所に配置されており、「トゥーハンデッドソード+3」になっている。ドラゴンとドラコニアンに2倍のダメージを与える。(ピンチになったら骨が手渡してくれるなどといったギミックは少なくともDL2のここの墓所の説明にはない。)DL2には「彼(キス=カナン)の時代においては最も強力(有効)な武器(the most potent weapon)」と書かれている。
 AD&DのDMGデフォルトの属性武器であるSword +2, Dragon Slayerが、true dragon(色と金属、クリン外では宝石も)にのみ強化ボーナスが+2でなく+4に、さらに一定のいずれか1種(例えばレッドドラゴンのみなど)にのみ3倍ダメージになる効果とはかなり異なっている。また、Dragon Slayerの3倍打は武器のベースのダメージダイスのみを3倍とするが(DMGにロングソードであれば対large: 1d12の3倍である3-36(3d12)+4と明記されている)、ワームスレイヤーは通常にダメージ値を出した後にトータルを2倍にする(Determine damage as usual, and double the total)旨の規定がある。仮にStrやSpecialize/Masteryなどの習熟度によるボーナス、バフ魔法によるボーナスなどがあれば、ワームスレイヤーはそれらも加算した上で倍加すると考えられ、であるとすれば特攻武器としてはかなり強力である。
 『戦記』2巻には、ワームスレイヤーはドラコニアンが石化しても剣が捉われることがなく「易々と、まるでただのゴブリンの肉でしかないようにすらりと抜けた」(2巻13章)という描写があるが(小説でも以前のタニスの+2の剣やスタームの+3の剣が捉われているので、強化ボーナス有の剣なら何でも捉われないというわけではない)DL2のワームスレイヤーのデータにも、「バアズ・ドラコニアンが石化で武器を奪う効果が無効である」旨の記述がある。
 所有者はhilt(鍔)により、ドラゴン、ドラコニアンの呪文とブレスウェポンに対してセーブにも+3のボーナスがある。AD&D1stの時点のブレスウェポンはドラゴンのhpと同点(セーブに成功しても半分)のダメージなのでセーブに+3でもまったく気休め程度でしかない。どちらかというとドラコニアンの呪文を意識した能力といえる。しかし、ここでゲームブック『パックス砦の囚人』での魔剣『ワイアムスレヤー』は、赤竜のブレスウェポンを弾いたり『バーミナード』の投射したスピリチュアル・ハンマー呪文(マレットをくらえ)を飲み込んだりする描写があるが、これらはAD&Dの通常のデータやDLの世界観の感覚からは明らかにかけ離れた誇張がされてはいるものの、「ブレスウェポン、及び呪文(ドラゴンらからのみだが)に対して防御効果がある」という性能からは、完全に事実無根の描写ともいえない。
 『戦記』2巻本文で赤竜マータフルールに気付かれたのと同様、データ上もtrue dragonが近く(30フィート以内)にいると激しく音響(a loud buzzing noise)を発し、眠っているドラゴンを必ず起こす特性がある(この特性についてはドラコニアンは含まない、と書いてあるが、true dragonとあるためワイバーンなども含まない)。ここで、古いD&Dシリーズでは、極悪な強さのドラゴンに対してなんとか少しでも有利に運ぶための特殊則として「ねぐらで遭遇するあらゆるtrue dragonは、眠っている確率が存在する」という重要なルールが存在する(例えば1stのMM1ではレッドドラゴンは20%の確率で眠っている)。特に1stやCD&Dのドラゴンはブレスウェポンのダメージがhpの点数と同じなので、最初のブレス攻撃を受ける前にどれだけhpを減らせるかはプレイヤーキャラ全員の生死に直結する。つまり、ワームスレイヤーはそのドラゴンが眠っている最初の好機を台無しにするため、通常のD&Dゲームでのダンジョン探索でドラゴンのねぐらを襲うには全く向いておらず、襲って来るドラゴンを感知し国を守る「防戦」に向いた剣と考えることもできる。
 ゲーム上は、DLモジュール群の中でも序盤に登場する点、バアズの石化や、高位(ボザク以上)のドラコニアンの投射する呪文への耐性から考えて「対ドラコニアン」用に配置されている武器と思われる。

 後のAD&D1st用のワールド設定書のDragonlance Adventureでも、2ndのTales of the Lanceでも記述があるが、DL2と全く同じデータである。DlAなどには第二次ドラゴン戦争時にシルヴァネスティで鍛えられ、キス=カナンが同族殺し戦争当時に所持し共に葬られたた旨の記載はあるが、それ以上はあまり詳しい背景の追加情報はない。なお、DlAの年表では第二次ドラゴン戦争は2645-2692PC(PCはPre-Cataclysm, 大変動前)、同族殺し戦争が2192-2140PC、キス=カナンらのクオリネスティへの移住が2050-2030PCなので、剣の由来とキス=カナン自身の時代はかなり離れている。

 ここで、日本の数少ないDL関連の話題ではかなり昔から、ワームスレイヤーを2Hソード「+1」である、ひいては、タニスがDL1で最初から持っていたロングソード「+2」よりもかえって弱体化している、等とネタにされていることがある。しかも、この剣の活躍の無さとタニス自身の戦闘面のあまりのヘボさがあたかもそれを裏付けるかのような側面すらある。この「+1」の説について典拠は挙げられていない場合もあるが、DL1-4の再録であるDragonlance Classics I (1990)を典拠として挙げているウェブサイトが複数ある。DLが日本に入ってきて以後長い時期にわたって、DL2モジュールやDragonlance Adventureに対して、Classicsの方が入手はかなり容易だったため、Classicsを典拠にデータを説明しているサイトが複数あるのも、それが広まっている理由でもあると思われる。
 実のところ、ワームスレイヤーの初出であるDL2では「2Hソード+3」になっているのだが、DL2の再録のこのDragonlance Classics Iでは、本文(キス=カナンの墓所の説明)では2Hソード+3のままで、巻末のアイテムデータの部分のみ、どういうわけか2Hソード「+1」になっている。一体+3と+1のどちらが正しいかだが、DL2でもDragonlance Adventureでも、より後のClassics III (Mantoothという名が併記される。ただし、後のTales of the LanceではMantoothは別の剣の名になっている)でも、ひいてはAD&D2ndのTales of the Lance (1992)でもさらに後のd20でも、全て「2Hソード+3」である。繰り返されるthe most potent weaponという表現からも、+1の武器であるとは非常に考えにくい。
 2Hソード「+1」は後出データで上書きされた結果等でもなく、またClassics Iでも本文の方では+3であることから、Classics Iのアイテムデータ部分の+1は「一箇所だけの単なる誤字」という可能性が極めて高い。
 しかしながら、アイテムデータを参照する場合は、本文ではなく巻末のデータセクションをまず見るのが通常であると思われる。Classicsのみを所有し、かつ実プレイなどのために本文を確認でもするのでなければ、よりにもよってデータセクションだけが誤植されていれば、これだけが誤字だとは全く気付かないのが当然だろう。
 Classics I-IIIは本サイトでも何度か挙げているが、ほぼDLモジュールの再録で、AD&Dの1stから2ndへの最低限のコンバートすらも行われていないが(classics自体はTSR側から2nd対応を謳われていることもあり、2nd版データであると繰り返している日本のwikiもあるが、冊中に2ndロゴもなく、現に2ndで使用するのに明らかに欠落や支障が多く「2nd用に作られたモジュール」ではない)一方で初出のDLモジュールそのままというわけではない。以前ドラゴンオーブでも説明したように、データ等の内容がより後出のものに差し替わっていたり、複数モジュールをまとめた都合で必要な記述が欠落しているデータや、上記のような原因不明のかなり厄介な誤字が混ざっている箇所が幾つかあるため、Classicsをデータの「初出」ひいては「小説のゲームデータ上の典拠」として挙げる前に一応は照合が必要である。


〇3.5e d20: War of the Lance
 d20ではなぜか「ロングソード」に変わっている。小説本文(『戦記』2巻のヴェルミナアルドとの決戦場面)に「古風なエルフ作りの両手持ちの大剣」とあるので、本文の2Hソードからd20では明らかに変更されているが、スタームの剣が2ndまでの2Hソードからd20でバスタードソードに変更されたのと同様の調整の範疇ではある。使用者のタニスの使用武器(3.Xeでは1stコアルールよりも武器習熟は厳密である)に合わせたものとも考えられるのだが、少なくともこのWar of the Lanceのタニスのザク・ツァロス戦終了後(『戦記』1巻終了時)のデータでは、《武器熟練》はロングボウしか持っておらず、どの軍用武器の剣が出てきても支障があるわけでもない。なお、d20でのこのデータ(1巻終了)時点でのタニスの剣は「ロングソード+1」であり、AD&D(DL1)の初期装備の+2ではない。
 d20でのワームスレイヤーの性能は「+3ドラゴンベイン」であり、エゴアイテム性能を3.Xeの通りに厳密に解釈するのであればAD&Dとは異なり「通常は+3強化ボーナス、種別:竜に対しては+5強化ボーナスおよび+2d6ダメージ」となる(3.Xeのドラゴンベインの対象はtrue dragonだけでなく種別「竜」の全てのクリーチャーなので、ワイバーン等の亜種や、クリンではドラコニアンを含む)。ドラゴンら(all dragonsとあるのでtrueだけではないと考えられる)のブレスウェポンや呪文等に+3のセーブボーナスがある点、true dragonのみ近づくと音響を発する(ただし、なぜか300フィート以内のドラゴンを起こすと範囲は増大している)など、その他は2nd以前のデータと同様である。基本的に(ドラゴンランス槍の方よりも)移行誤差は少なく初出に近い形でコンバートされているといえる。War of the Lance Chronicles I(竜槍戦争の3.5eシナリオ)の方でも同様の記述である。


 この間に紹介した2020年の顔が怖いアメコミ版では、ワームスレイヤーは登場時の場面では刀身にルーンが刻まれたかなり大型の剣として描かれ、初出の2Hソードであることが意識されているようにも見えるが、これも紹介したように小説よりさらに活躍せず、しかも以後の場面では忘れられたのか、タニスが以前まで持っていた剣の形状に戻っている。


 なお、同じ竜特攻のあるドラゴンランス(槍)とワームスレイヤーの関係については、小説版読者は、ドラゴンランスはパラダイン神から授けられた唯一の対ドラゴン武器ではないのか(いずれも作内でさっぱり活躍しない点では同じだが)と納得しかねるものを感じるかもしれない。
 実際のところAD&Dの時点では、ワームスレイヤーがドラゴンに対して倍打で(上述のClassicsの誤字以外では)強化ボーナス+3であるのに対して、ドラゴンランスは以前の記事で述べたように遥かに強大な竜特攻(使用者のhpと同ダメージ)を持つ一方で初出のDL7の時点ではドラゴン以外にはさらに使いづらく、性質は大きく異なっている。ゲーム的な都合を言えば前述したように序盤DL2のワームスレイヤーの方は対ドラコニアン、後半DL7のドラゴンランスは対ドラゴンを想定して配置されているといえる。
 前述のAD&D1stのDL Adventureの年表では、ヒューマの時代、つまり最初のドラゴンランスの出現は第二次ドラゴン戦争なので、この時点ではこの2種の武器はほぼ同時代に作られていることになるが、同時期でも別特性武器であることになる。第二次ドラゴン戦争当時はドラコニアンはおらず、ワームスレイヤーはtrue dragonに対しては防戦にしか向かない剣であるので、やはり当時の有効性はドラゴンランスに劣る。
 一方、AD&D2ndのTales of the Lanceの頃には既に年表が前述の資料とは大きく食い違っており(小説の注釈版の方は、こちらの年表に準拠している)、ヒューマの時代は第三次ドラゴン戦争で、ワームスレイヤー(第二次ドラゴン戦争時)はドラゴンランスよりも遥かに前の時代に作られているため、ドラゴンランス以前の貴重な竜特攻武器であったことになる。d20の方では全く同特性(ベイン武器)になっているが、活躍していた時代が全く違うとすれば、並存の辻褄は合う。
 何にせよ、年表の設定変更はDL世界の酷い設定混乱の一因であるため、詳しくは別の機会とする。キス=カナンの剣としてシルヴァネスティに雌雄一対として伝わる剣、ワームズベイン(Redeemer)についても別の機会とする。(「ワームスレイヤーの別名がリディ―マーである」と書いてある日本のサイトがあるが、ワームズベインと名前が似ているのと両方タニスの剣なので混同されていると考えられる。)

 ワームスレイヤーのその後だが、小説作中では『戦記』3巻の一行の分断の(タルシスで武装解除の後の)際にタニスでなくローラナ側が持ち、そのまま南エルゴスのクオリネスティらの避難所に(折れたドラゴンランスと両方は持てなかったので)置いてきたままになって以後『伝説』に至っても登場しない。『伝説』終盤のパランサスの戦いで、タニスがドラコニアンの石化を避けるため柄で殴ったという描写があり、この剣は上述の石化で奪われる効果への耐性を持つワームスレイヤーではないことがわかる(あるいは、それ以前に2年間剣を使っていなかったというタニスがワームスレイヤーを持っていながらその性能を忘れていた感、というよりは、作者らがワームスレイヤーの存在そのものを忘れていた感が著しく伝わってくる)。『伝説』後のDragonlance AdventuresやTales of the Lanceなどの設定集にも、それ以後についての記述はない。上述のd20のWar of the Lanceでも「置いてきて以後は不明」などと書いてある。一方、『憩いのわが家亭遺聞』ではタニスとローラナの結婚時にクオリネスティ王家(ポルシオス)から返還され以後は再度タニスが所持しているとされるが、ただし、『遺聞』よりも後に出た設定集でもこの記述には触れられることはなく、タニスらの手に戻ったという設定が故意に抹消されたという説も唱えられている。以後d20などでも後の時代のタニスが持っているのは上記したワームズベインの方であり、以後のワームスレイヤーについてはやはり定かではない。





セスタン


 D&D5版のFizban's Treasury of Dragons(邦訳『フィズバンと竜の宝物庫』)には『魔法使いフィズバンの姿をとったバハムートが、一見英雄らしからぬ英雄2人が赤竜パイロスの怒りから逃れるのを助ける。』という一枚絵がある(邦訳32ページ)。無論これは戦記2巻『城塞の赤竜の書』で、パックス・タルカス城塞の「鎖室」でパイロス(エンバー)からフィズバン、タッスルホッフ、どぶドワーフのセスタンが逃れる場面だが、この5版資料ではフィズバンには帽子がなく(この点についてはセスタンを助けようとして帽子をパイロスの目の前にうっかり落とした後という小説の描写と合っている)、カナリアを連れている(DLのパラダイン神ではなく、WGでのバハムート神が連れている金竜の化身)など、DLで普段描かれている姿らしくないので一見わかりにくい。英雄2人はタッスル(該当画の右)とセスタン(同左)ということになるのだが、タッスルはともかく、セスタンもどぶドワーフだとわかりやすいとはいえず、思い出すのに苦労する元DL読者も多いと思われる。
 竜槍の英雄タッスルホッフはともかく、セスタンははたして「英雄」なのか、読者らにとってそれほど存在感はあるのだろうか。


 クリンには、どぶドワーフから英雄が誕生するだろうという予言があります。笑うなかれ──セスタンがそうかもしれないのですから。
(『城塞の赤竜』注釈版、第4章タイトル注釈)


 小説版からさらにAD&Dのデータに遡ると、『城塞の赤竜の書』に相当する最初のDL2モジュールには、セスタンの記述そのものはある。『戦記』2巻同様に一行がソレースに戻ってからトード長官らの軍に囚われる箇所に登場し、小説版や挿絵の「金属の兜」「さびた斧」などのちぐはぐな装備の記述はあるが、独立したキャラクター(NPC)データとしては存在していない。おそらくモンスターデータ一覧表に乗っているどぶドワーフの一般データ(AC7, HD1, 混沌にして中立)を使えということだと思われる。
 その後、舞台がパックス・タルカスに移ってからは、囚人の牢に囚われている所に再会する場面があり(小説版のように寝ているドラゴンの隣からフィズバンが救出したりする場面の示唆はない)どぶドワーフとしては勇気にあふれ、ドラゴン軍には反発する意思があることなどが記されている。DL2にはこれ以後は具体的な記述はないが、展開によっては同行することを想定されているのかもしれない。
 また、DL5モジュール(この時点での包括的なワールドやデータ情報、DMへの手引き)には、(おそらくDL2よりも以後も)同行し得るNPCとしてセスタンが記述されており、相変わらずデータは無いが、同様にコミックリリーフだがどぶドワーフとしては「noble」なる精神を持つとされている。どぶドワーフでも、利益のためにはプレイヤーキャラ達を騙す狡猾でしたたかなバルプ大王ファッジ1世らのような者ではなく、ドラゴン軍に対抗するプレイヤーキャラ達と同様の動機を持ち得る、ということなのだろう。
 AD&D1stの総合的ワールドガイド、Dragonlance Adventuresには特にセスタンの記述はない。一方で、AD&D2ndのTales of the Lanceでは、NPCデータの箇所に能力値等を含めたデータが設定されており、2lvシーフ、真なる中立であるが、他には特にDL2,5以上の新しい情報はない。同様にコミックリリーフながらパーティーの助けになるように使うのがよいといったDM向けの手引きがある。
 かなり後年、3.5e d20のDragonlance Campaign Setting、War of the Lance (竜槍戦争時代のd20資料)にも特に記述はないが、3.5e d20版のシナリオDragons of Autumn (War of the Lance Chronicle I)では「ローグ2/ファイター1, 真なる中立」であり、データセクションにNPCデータがある。DL2,5と同様の記述の他、シナリオ内に台詞などもあり、その後は(パックス・タルカスに残った『戦記』と異なり)エリスタンらと共にやはりパーティーメンバーとしてトルバルディンに同行する可能性が触れられている。

 セスタンは『戦記』2巻末によるとパックス・タルカス開放戦の後は同城塞に残ってどぶドワーフを指揮してドラゴン軍を岩落としで阻止し、『戦記』4巻には以後も同城塞に留まっている旨がある。さらに戦後は、Leaves from the Inn of the Last Home(かつての富士見邦訳では『憩いのわが家亭遺聞』)によるとヴェルミナアルドの槌鉾ナイトブリンガーを(盲目効果を避けるため袋に入れて)私物化し、パックス・タルカスのどぶドワーフの首長になっている記述がある。
 小説版でも地味ながら竜槍の英雄一行を助けたことのある場面や、DL2,5の勇気ある云々、一行(小説だけでなく、各DLシナリオをプレイするゲーマーらのパーティー含む)に同行する可能性がある等の記述からは、ブープーが作者らのDL1のテストプレイで偶然活躍して以後『伝説』に至るまで重要キャラになったのと同様、セスタンが各DLシナリオで活躍する可能性を作者らから目されている節もある。

 一方で、先に話題にした近年の「顔の怖いアメコミ版」では、セスタンは存在自体がほぼ端折られており、トード長官がヴェルミナァルドにスパイ容疑者としてべレムとセスタンを連れてくる場面には、漫画でも一応どぶドワーフも描かれておりこれがセスタンに相当することはするが、漫画では名前は出ず、それ以外の小説でのセスタンの登場箇所にあたる場面にも出てこない。さきの鎖室の場面もフィズバンとタッスルだけになっており、というかパイロスから逃亡もしていないのにフィズバンが一人でトラブルを起こす。ダイジェストの都合とはいえ、どうにもセスタンは重視されていない存在に見える。
 Dragonlance Wikiなどの海外サイトでも、パックス・タルカス開放戦より後の記述や上記『遺聞』などについては載っておらず、セスタンのその後は「消息不明」などと書いてあり、このWikiに関わった海外の無数のDLファンの中に注意を払う者が一人もいなかったことを示している。D&D5版側がこの午に及んで「英雄」として言及しているのに対して、意識されていないことも多いようである。





ドラゴン・オーブとThe Orbs of Dragonkind


 3.XeのDMGに載っている『オーブ・オブ・ドラゴンカインド』は、「太古のドラゴン戦争で作られた」といった、DLの小説に登場した「ドラゴン・オーブ」を思わせる記載がある。さらには5版のDMGの方の同アーティファクトには「クリンの上位魔法の塔のウィザードらが作った」とはっきり書いてあり、少なくとも5版では汎用のオーブ・オブ・ドラゴンカインドとDLのドラゴン・オーブは同一である。
 そのため、当初の『戦記』小説等の当時、AD&D1st当時から両者は同じものである、5版コアルールのDMGのそれはDL世界発祥のアイテムが新たにコア側に輸入されたものである、または、DL小説からデータ化したものである、という理解をしようとしている5版ゲーマーもいるが、これはそうそう簡単な話ではない。


〇ОD&D、Eldrich Wizardry
 D&DシリーズにおけるThe Orbs of Dragonkindは無論のことDL発祥のものではなく、初出はDL世界そのものよりも遥かに前の、ОD&DのEldrich Wizardry (1976)である(DLの影も形もどころか、ローラ・ヒックマンがトレイシーの誕生日になぜかD&Dなんぞという淑女の贈物らしからぬ代物を送りつける、その前年である)。
 ここでは、「ドラゴンの精髄(essense)が封じ込まれたオーブ」という記述こそあるが、ОD&Dのアーティファクトの例によって効果は不定で(厳密には、ОD&DやAD&D1stのアーティファクトの能力は5版のランダム特性と似て、DMが登場させる際に表の中から選択するのでDMG/DM用ルールを読んだことのあるプレイヤーにもわからないようになっている)どれもありふれた疑呪のようなもので、実はドラゴンに直接関係する(ドラゴン限定、特効など)ものは何も無い。「人のアタマくらいの大きさでダイヤモンドくらいの硬さがある」とあり、竜の成長段階の名前Hatchiling 〜 the Eldest Worm (wyrmではない)がついた5種類のオーブがあり、それぞれパワーの強さが違う。


〇AD&D1st、Dungeon Masters Guide
 ついで、AD&D1stのDMG (1979)では、やはりアーティファクト表の中にあり、竜の精髄云々の他に「善の神々が悪のドラゴンを制御するために」作られたという説明が加わっているが(これは後のDLとは食い違っている)やはり効果は不定で、ドラゴンに関係する発動能力を持つとは決まっていない。一方で、不定能力の他に、いずれにも自分よりエゴ値が低い使用者を支配する、悪の精髄によるため善・中立のキャラは接触近く(5インチ)まで近寄ると魅了を回避(セーブ)する必要がある、悪のドラゴンはセーブできず、他のドラゴンもセーブにペナルティがある(すなわち、近づいたドラゴンが魅了される。DLのように発動で遠くのドラゴンを呼び寄せる、ではない)といったОD&Dに比べると追加要素もある。
 なお、言うまでもない話だが、この時点ではDMGのような基本ルール要素は(ヴェクナのような固有名詞や背景ストーリーを有するものも含めて、また、これらは3.XeではWG世界の要素と定義されているが)いずれかの世界設定の歴史等に固有・特有という設定そのものが無く、どの世界でも汎用的に使用されていたものである。


〇AD&D1st、DL6: Dragons of Ice
 DLシリーズの方のDragon Orbsのデータは、おそらくは上述したコアルールに既にあったOrbs of Dragonkindのアイディアを受けて設定されたと思われるが、効果の方は、それらとは全く異なっている。アイテムデータとしてはDL6モジュール(1985)(『氷壁の白竜の書』に相当)に現れる。
 シナリオ文中ではDragon Orbだが、データ箇所のエントリー名としてはOrb of the Silver Dragonとなっている。氷壁で入手できるこれは赤竜が封じ込められているものとされている。ドラゴン・オーブは基本的にモジュールのプレイヤーらには背景や能力を知り制御する手段は全く無いと書かれ、少なくともDL6の時点で使用されることはあまり想定されていないらしく、記載は詳しくない。
 制御できなくとも利用できる能力として、まず、オーブ表面のコマンドワードを唱えて触れた者は、魅了を回避(セーブ)する必要がある(AD&Dのエルフにはチャームへの90%の魔法抵抗力があるが、アーティファクト能力であるためか後述のローラナでもロラック王でも全く働いていない)。セーブに失敗するとオーブ内のドラゴン(赤竜)に魅了される。セーブに成功すると、33%(1d6の1-2)の確率で数ターン置きに、10-40(1d4x10)マイル以内のドラゴンがランダムな色や大きさのものが呼び寄せられてくるが、状況による(例えば氷壁なら白竜が来る等)だろうとも書かれている。呼び出されたドラゴンは、(1st-DMGのようには)オーブやその利用者に魅了や支配などはされておらず、オーブの近くにいるevilでないクリーチャーを手あたり次第に攻撃する。
 小説には全く言及がないが、他に制御しなくとも使用できる能力としてはキュア・シリアス・ウーンズを1日3回(DL世界では「癒し」はまことの神々=信仰系のみによるという傾向とは対応しない)、ディテクト・マジックとコンティニュアル・ライトが無制限というものがある。これらの術者lvは11lvのマジックユーザー(1stのネームレベルであり、大魔法使の目安)相当だが、無論(魅了を含め)ディスペル時などに関連するというだけで、オーブ自体がわずか11lvのアイテムというわけではない。


〇AD&D1st、DL8: Dragons of War
 DL8モジュール(1985)(『城塞の青竜の書』に相当)にも大司教の塔のオーブの説明としてデータがあるが、効果はDL6とはやや異なっている。
 オーブの背景が若干明かされ(特に「竜の魂の精髄(the dragon's soul essense)」云々の用語はОD&Dや1st-DMGのOrbs of Dragonkindそのままである)完全に制御できない者も竜を呼び寄せる効果を利用できる(小説でローラナが利用)のは同様だが、効果範囲は「111マイル以内」のドラゴンとされ、魅了へのセーブに成功すると、20%でブルードラゴン、10%でレッドドラゴンが、111マイル以内にいれば呼び寄せられてくる。70%で何も起こらない。呼び寄せられたドラゴンはDL6同様にオーブ近くにいるクリーチャーを攻撃しようとするので、小説の記述の通り、大司教の塔はこのアイテムの特性に応じた構造に建造されていることが伺える。効果範囲がDL6より遥かに広くなっているのは、ルールの変更なのかオーブ個体ごとの差なのかその他状況の差なのかは定かではないが、いずれにせよDL8が大規模な戦場を扱っているという理由もあると思われる。


〇AD&D1st、DL10: Dragons of Dreams
 DL10モジュール(1986)(『樹海の緑竜の書』に相当、小説とモジュールで順番が前後しているが、分断したパーティーのうちタニスらシルヴァネスティに向かった方)では、エルフ王ロラックがとりつかれていたオーブの作られた背景の詳しい説明や、再度データがあるが、範囲は111マイルで同じだが呼び寄せるドラゴンが20%でグリーン、10%でホワイト、10%でブルー、60%で何も起こらないとなっている。DL8とのドラゴンの内訳差は、この時点では単にモジュールの状況の違いによるように思われる。
 加えて、小説でロラック王の悪夢が広域に投影されていたMindspin能力の記述もある。最大で悪夢を見る者のInt×1マイルに投影され、近づくほど悪夢が強まっていく。ロラック王のIntは12である。本来はIntelligentな王であるという記述があるので、衰弱のためIntなどの能力値が下がっているとも考えられる。hpも18しかなく、明らかに衰弱した状態のデータである。背景説明もロラックがイスタルの上位魔法の塔で《大審問》を受けた際に持ち帰ったと小説に近い経緯になってはいるが、ロラックはFtr15/MU3であり、魔法使の方の能力もさほど高くない(MU 3lvで大審問自体は受けられる)。なお、のちの2ndのTales of the Lanceでもロラックの能力はそのままだが、3.5e d20のWar of the LanceではロラックはNoble6/Abj6/Wizard of High Sorcery6でInt17である。
 悪夢を終わらせるには(小説と異なり)オーブを破壊するという手段をとることもでき、オーブはアーティファクトであるにもかかわらず(小説でDL6の方のオーブをタッスルがぶつけたホワイトストーンはおそらくは単なる岩ではなかったとはいえ)呪文等ではない物理打撃なら15%(1d20の18+)で砕くことができる。
 トレイシー・ヒックマン自身は『樹海の緑竜の書』の注釈で、オーブのデータ能力の把握が曖昧なまま描いたため、ドラゴンを呼び寄せる力しかないはずのオーブで追い払わせた(ロラック王を開放した後に緑竜カイアンが退散したこと)旨、ただしオーブはドラゴンに不快感を与えて遠ざけること等はできたのではないか、と述べている。DL6の説明のような、通常プレイヤーキャラが全容を知ることはできないオーブの能力、に含まれると考えれば、なんとか辻褄はあわないでもない。
 なお、DL8やDL10の再録のDragonlance Classicsでは効果範囲は恐らく後のDragonlance Adventuresに準拠して差し替えられMindspinの記述も無い。


〇AD&D1st、Dragonlance Adventures
 AD&D1stでの総合的ワールドガイドにあたるDragonlance Adventures (1987)では、なぜかエントリー名としてのアイテム名はOrb of Dragonkindの方になっており、Dragon Orbsとも呼ぶと添えられている。効果は遡ってDL6のものに近く「1d4x10マイル以内のドラゴン」、確率が「1d6の1,2で近くのランダムなevilドラゴン」となっているが、DL10のMindspinの記載はない。内容自体に追加などはなく、ОD&Dや1st-DMGと異なっているのは同様である。


〇AD&D2nd、MC4: Monstrous Compendium Dragonlance Appendix、他
 2ndでのDLのクリーチャーが記載されたMC4 (1989)には、上記ロラックの悪夢の中のDreamwraith(夢の生霊, DL10にも記載)のデータがあるが、その箇所に共に、夢を投影するMindspinの魔法使系用の呪文としてのデータ(呪文レベル7)がある。加えてそこにドラゴン・オーブのデータも載っているのだが、DL6(なぜかDL10ではない)やDragonlance Adventuresのものとほぼ同じでオーブ自体の追加の情報はない。

 DL世界の他DM用ガイド、例えばAD&D2ndのTales of the Lanceには言及はあるが、ドラゴン・オーブのデータ自体はなく、完全に制御できた場合の能力の全容も載ってはいない。
 レイストリンが小説本編ではDL10のロラックのオーブを入手し、以後使用することがあるドラゴンに特に関係ない特殊能力の数々は、おそらくはAD&D1stコア側のThe Orbs of Dragonkindが持っているような不定の多数の疑似呪文能力のような発動効果があるのではないかと推測させるが、これらの書物に記述はない。


〇3.5e d20, Towers of High Sorcery
 d20(小説作者らのSovereign Press社による、WotCのライセンス品)のDLシリーズでは、3.5eの設定集のDragonlance Campaign SettingやWar of the Lanceには記述はないが、Towers of High Sorcery (2004)にはメジャー・アーティファクトとして載っている。属性真なる中立、Int19, Wis12,Cha19,Ego25といったデータがある。AD&D時代の魅了効果に相当するものとしてDC25の意思セーブに成功しなければオーブに支配され、Mindspinの効果を受ける。オーブの(おそらく支配されなかった場合に利用できる)能力としては、意思セーブ(DC25)に失敗した者で、術者のカリスマ修正値x5マイル以内のクロマティック(evil)ドラゴン、カリスマ修正値x1マイル以内の種別・竜クリーチャーを呼び寄せ、また術者lvが10lv以上であればドミネイトモンスター呪文扱いで500フィート以内のドラゴンをコントロールできる(即ちこちらでは「追い払う」こともできる)。スクライング(念視)呪文を3回/日使用できる能力もある。
 ただし、それ以外の能力に関しては結局「(上位魔法の塔の魔術師らにとっても)全容は不明である」と書かれ、やはり終盤レイストリンのように制御できた場合の能力については完全に記載されていない。数値処理は細かくは違うものの、DL6以来のものと基本的に類似のデータといえる。前述のように、3.Xeのコア側のDMGにはコア記載のオーブがDL側も指すとも読める示唆があるが、3.5eのDL側では別のデータが準備されている。


〇AD&D2nd、Book of Artifacts (1993)、他
 一方、D&Dシリーズコアルール側に戻り、のちのAD&D2ndの基本ルールの方では、Orbs of DragonkindはDMGにこそ載っていないが、コア追加ルールのBook of Artifacts (1993)に記述があり、丸数ページにわたってかなり詳細な記述がある。背景は「竜に脅威を覚える他のクリーチャーの願いに応じて神々が竜と交渉し『人質』として取得した」「ドワーフと竜の(北方の神話めいた)対立で生じた」といったDL世界とは全く異なるものが詳細に記されているが、アイテム名がthe Dragon Orbsと称されている箇所もある。1stのようなオーブの色(元になったドラゴン)や成長段階に関連する他の様々な能力の他に、各種のオーブに共通する(基本的な)パワーとして、能動的に発動する、ドラゴンの戦闘能力を与えるものや、ドラゴンに対するdomination呪文がある(1stの魅了効果のように自動成功ではない)。なお、DL6のOrb of the Silver Dragonのキュア呪文発動に対し、この2ndコア側のSilver DragonのオーブはGreat Healing Powerを有する。
 ただし、断り書きとして「ドラゴンランス(R)世界の似たアイテムとは同じものではない。それらのオーブは該当世界(DL)にのみに特有のものである」とされており、基本的にWGなどの他世界のOrbs of Dragonkindと、DLのドラゴン・オーブは完全に別なものと規定されている(見開きでDL10の表紙と同じ一枚絵、オーブとカイアン・ブラッドベインに取り憑かれてしまっているシルヴァネスティのロラック王がでかでかと載っているにもかかわらず、である)。補足的に、Dragon誌#230 (1996)のロジャー・E・ムーアの記事にはWG世界でのOrbs of Dragonkindの記載(5版資料でも触れられる、古代スゥエル帝国の頃に作られたという説明を含む)があるが、ОD&D〜Book of Artifactsの背景説明はWGのものと「強く関係がある」、Encyclopedia Magica(註:2ndまでの書物のアイテム集大成資料、DLのものも含まれ、DL6やMC4のドラゴン・オーブも記載がある)には過去orbsとして発表された物品にも「似たものがある」などと曖昧にごまかしたような記載がある。
 なお、DLが一時D&Dシリーズから離れ別のシステム(SAGAシステム)に移るのはこの資料より後の1996年であるが、それ以前からDL側とD&Dコア側の距離感はやや複雑である。

 さらに後の3.Xeのコアルール、DMGのアーティファクト欄のオーブ・オブ・ドラゴンカインドは、効果上はこれらD&Dコア記述側のものを踏襲していると思われるが、前述したようにドラゴン戦争云々などとDL側を思わせる記述もある。しかし、DLのドラゴン・オーブも指すのか、2ndのように別物なのかは明記はない。
 4版ではDMGにはなく、4版Draconomiconでは背景の説明は僅かで、経緯は不明箇所が多いとされるが、ただし前記したクリンの緑竜カイアン・ブラッドベインの説明があり、使用していたのはオーブ・オブ・ドラゴンカインドと書かれ、したがってこの書物のものはDLと同一である。5版DMGでは、前述のように同一となっており、竜呼びの能力で呼ばれた竜は敵対的な場合が多い等とDL6等に近い効果も統合されている。


 すなわち、DLのドラゴン・オーブは最初期はおそらくはD&Dのコア側のルールのOrbs of Dragonkindに限られた影響を受けて作られたが、小説に記述された効果およびDLモジュールでのデータは完全な別物であり、途中では、はっきりアーティファクトとしても両者は別のものだとD&D側からも明示されたが、ライセンス的にDLがD&Dに戻った5版に至ってコア記載としても同じものだと完全に統合されたということになる。
 D&D基本ルール側とDL側の相互の発祥・疎遠・接近再統合を繰り返したややこしい関係からは、こうした極めて複雑な経緯を辿っている要素は他にも多い。DL設定とコア設定の一見共通に見える要素は「D&Dとしてはどの版でも一貫して同一のものを指し、小説作者だけが一時期短期間、勝手に違うと主張していただけ」のように流布されていることがあるが、その把握が正しいとはいえない。





ソス卿/デスナイトの姿


 Death KnightはAD&D1stのFiend Folio (1st-FF)の時点で、能力(呪文を反射する、各種のパワーワード呪文やなぜかアイスウォールや20d6ファイヤーボールを使用する)自体はすでに定まっている。しかし、設定上は「デモゴルゴンがパラディンから作り上げた12体の特殊なリッチの形態」といった説明しかない。また、1stのMonstrous Manual (MM1)の時点ですでにアンデッドに関連するデーモン・プリンスはオーケスだが、1st-FFではデスナイトに関連するのはこのオーケスではなく、デモゴルゴンになっている。デモゴルゴンのデスナイトについては、3.Xeの日本語で読める書物でも、Fiendish Codex I (FCI, HJ訳『魔物の書I』)のデモゴルゴンの拠点の記述の中に、最初のデスナイトであるカルゴス卿について触れられている。なお、デモゴルゴンはDLの外伝にも登場するが(『英雄伝』1巻の『投げられた石』)ソス卿のデスナイト化にデモゴルゴンが関わっているかどうかの考察は見たことがない(そもそも『投げられた石』はDragon #85で、DL1や『戦記』よりも先にDL世界自体のプレビューとして書かれたため、デモゴルゴンが出るのは世界設定が確定していないためもあると思われる)。
 (ちなみにこの記事で断る必要があるのかはわからないが、ここでは*bandなどの暗黒魔法騎士・キャラクタークラスとしてのDeath Knightではなく、より普及しているD&D系でのアンデッドとしてのデスナイトの語義である。)
 一方、AD&D2ndのMMでは、クリーチャーに関する説明は大幅に(1体ごとに丸1〜2ページは珍しくない)増加しているが、この時点ですでに本家のDeath Knightの背景が、一世界にすぎないDLのソス卿に引っ張られたような節がある。
 さらに5版では、基本ルールであるMMのデスナイトに、ソス卿のイラストや背景説明が付されている。ドラウといえばドリッズト(グレイホークのエクラヴドラ等でなく)なのと同様、デスナイトといえばドラゴンランスのソス卿(グレイホークのカルゴス卿等ではなく)になっている。


 が、今回は実は、背景設定の話ではなく、「イラスト」の話である。
 前記したように、「ソス卿」について知られている姿が、そのまま「モンスターのデスナイト全員のイメージ」とほぼイコールの姿として一般的に捉えられているものであると考えてよいのだが、現在、ソス卿や、ひいてはデスナイトの姿の定番は、5版のMMのような「ソラムニックアーマー(註:アイテムデータ名)にチェスのルークのような形状の兜の隙間の真っ黒の中から橙色の目がキュピ〜ン」というものである。胸甲は薔薇勲爵士の紋章そのままだったり、あるいは5版のように、黒薔薇を示しているのかしおれたような薔薇の紋章だったりする。
 ドラゴンランスはキャラクター性が特に高いため、各人物の画像は(つばさ文庫版すら含めて)初期の画像、特に(DL1モジュール等よりも)小説表紙等のラリー・エルモアのイメージが強く残っているが、やはり数十年も時代が下ると大きくぶれがある。しかし、ソス卿の姿については、1990年代以降は『伝説』挿画などで描かれた上記の鎧兜の姿で完全に定着しており、アレンジすらほとんど加わったものは見つかることはない。したがって、デスナイト自体の画像イメージについても全く同じことが言え、他のクリーチャー以上に長年に渡ってイメージのぶれが少ないといえる。
 しかし、実はソス卿やデスナイトには、最初からこの姿が確定していたというわけではない。

 まず、上記1st-FFでは、Death Knightはデータ上は「軽装鎧」であり、騎士鎧に兜の完全武装ではない(とはいえ、鎧自体が非実体なので、見かけがどちらでも実質はたいした意味はない)。1st-FFや、2nd-MMでもデスナイトのイラストは、単なる鎧兜のスケルトンといったものである。

 加えて、DL世界についても、初登場の『戦記』5巻の時点では、ソス卿の作中の描写は、「胸甲はあるが兜がない、透き通った顔の窪んだ眼窩に青白い光」という描写があるかと思えば同じ巻のしかも直後の章以降は「兜の中が空洞、橙色の目」など一定していない。
 最初期のDLモジュールではどうかというと、DL8では文字情報のみだが、DL9(1985)のソス卿のNPCキャラデータ付属のアイコンでは、骸骨や亡霊というより「干からびて朽ちたゾンビ」のようで、肉が剥がれて歯茎がむき出しになっている。1st-FFのデスナイトの標準と比べてすら、相当かっこわるい姿である。顔画像は後出の例のチェスのルークのような兜でも、スタームやグンター卿らの用いているようなソラムニア様式の兜でもなく、よくあるフルフェイスヘルメットの面頬を上げて、歯茎ゾンビの姿が覗いている。

 ついで、1stのDragonlance Adventures (1987)の表紙は『戦記』6巻でタニスがアリアカスを刺して力の冠を奪った場面のものだが、すぐ横にいるのがソス卿で、鳥ガラの出涸らしのようでめちゃくちゃにかっこわるい(ただし、このしばらく後の場面のタニスの壮絶なかっこわるさに比べれば些細な問題ではある)。このDragonlance Adventuresの表紙の画家ジェフ・イーズリーは、マッチョなモンスターや悪役(特にドラゴンや『戦記』2巻表紙をはじめとするヴェルミナアルド)の迫力にはきわめて定評があるが、ヒョロい化け物(初期ドリッズトなど)が、妙にかっこわるいことも多い。あるいは、この当時はデスナイトの姿として、前記1st-FFのような「リッチの一種」という情報を頼りに描いた、というのもありえる話である。ただし、兜や鎧そのものは、後で定着したものとほぼ同じである。
 Dragonlance Adventuresには本文中にはデータはあるが、他にソス卿のイラストはなく、この書物(DL世界全体の包括的ワールドガイド)の範疇ではあくまで鳥ガラの出涸らしの姿であり、この時点ではこのような姿も広く認識され知られていた可能性が高い。

 一方、例の今も広く知られた「ソラムニックアーマーに(中略)真っ黒の中から橙色の目がキュピ〜ン」の鎧兜の姿は、『伝説』最終巻(Test of the twins, 1986)のヴァレリー・ヴァルセックの挿画にも現れ、それ自体は前記Dragonlance Adventureより早くからも存在するが(ただし、1年差なので整理されていない事情もあると思われる。これまで述べてきたようにDL Adventuresの内容自体も同様である)、クライド・コールドウェル画のDragonlance Calender (1987)には、すでにwikipedia(en)にも引用されている画像が出てくる(キティアラがショイカン原林の手に捕まっているのを画面の横で見ている場面だが、この横の部分だけぶった切られたり、切り抜かれて「ソス卿BB素材」化され、トレーディングカード画像などに用いられていることが非常に多い)。
 さらに、AD&D2ndのTales of the Lance (1992)になると、その鎧兜に加えてさらに5版のMMの例の「松明」を掲げた姿の、後姿のイラストが描かれており、この時点では、すでに現在知られているソス卿やデスナイトの姿で定着している。(ただし、同じTales of the LanceのNPCデータ箇所や、1993年の再録モジュールには、DL9の歯茎ゾンビの姿がモノクロではあるものの載ったままになっている。)

 以後は、少なくとも30年以上の長年にわたって、ソス卿やデスナイトの姿は「ソラムニッ(中略)キュピ〜ン」の姿として認識され続けており、歯茎ゾンビや鳥ガラの姿はそうそうお目にかかることはできない(現に、DL9の姿は検索などでは探すことができず、画像に至るリンクを出すことができなかった)。しかし、ソス卿もデスナイト自体も、少なくとも一時期については(それらの書物の普及度から考えて)現在とはいささか異なる姿で認識されていたと推測される。





竜槍(ドラゴンランス)


 『竜槍(ドラゴンランス)』という武器は作品どころかワールドセッティングの題名にすらなっているが、全く活躍しないことはよく知られている。活躍どころか、「重要なアイテム」としての役割に据えられていたことすらほとんどなく、富士見版4,5巻の一部で他のアイテムや地形との合わせ技に使われていた程度である。
 このためもあって、日本の読者の風説では、アイテムとしても何ら強い品ではなく(現に作中でもしじゅう、不格好で非実用的であることが言及されている)「仮にどこかに強力なアイテムデータが載っていたとしても、小説版が完結して人気が出てきてからの後付けである」と推測、ひいては断定されて、その説明が当然のように流布されていることがある。というか、DLシリーズのゲームデータは、全てがそういう遥かに後出の後付けであると認識されていることが多く、実際にそういう品も混ざっているため、別にそれはそれで構わないが、中にはこの竜槍に対して、「竜特攻さえ無い」というとんでもない風説まで流れていることがある。
 つまりドラゴンに効くとか貴重な武器(現に作中では量産されている)という言い伝えすらも全て嘘であり、完全に飾り物という説だが、そう捉えてしまっても戦記伝説あたりのストーリーにはほとんど支障がないのが始末に負えない。

 結論から言ってしまうと、竜槍(ドラゴンランス)の武器データも、絶大な竜特攻を持つことも、最初期のDL7モジュールの時点から存在する。面倒は抜きにして以下データ履歴を羅列する。


〇AD&D1st, DL7: Dragons of Light
 続くDL8モジュールなどにも同様のデータがある。歩兵用のfootman's(基本ダメージM:1d6/L:1d8)と竜兵用のmounted(M:2d4+1/L:3d6)の2種類があるが、「付与された能力」は1種類である。全ての敵に近接では命中判定がfootmansで+1, mountedで+2され、ドラゴンに対しては、ダメージが上記ではなく、「使用者のヒットポイントと同点」となる。古いAD&DやCD&Dを知っていれば気付くと思われるが、つまり、これらの旧版における「ドラゴンのブレス」のダメージと同じものを、戦士側がドラゴンに対して与える、というギミックなのである。当然、膨大なヒットポイントを有するAD&Dのドラゴンを通常1攻撃ごとに1d8やら1d12で削る(期待値4-6点、例えばタニスのStr16のロングソード+2で期待値L:1d12+1+2で9.5点)のは並大抵ではないが、この槍ならば使用者のヒットポイント(戦記開始時のタニスでさえ一撃あたり35点)に応じて絶大な威力を発揮する。アイテム分類として"artifact"であることも明記されている。
 歩兵用は長すぎてかなり使いにくいため、投げる場合はデフォルトで命中率に-2(さきの+1は適用しない)のペナルティがある。いくら4メートルの槍とはいえドラゴンに接近して刺すなどぞっとしないが、投げつけると命中率が悪い(D&Dシリーズでは当たったかと鎧を貫いたかが一緒くたのACシステムなので、凶悪なACを持つドラゴンに対して、まず命中させなくてはならず、低レベルキャラにはどのみち絶望的である)という酷いジレンマがある。『戦記』作中、「古臭く時代遅れで若い騎士たちが手に取りたがらない」という記載と合致する。
 『戦記』で銀の腕の鍛冶屋テロスが「自分が作ったものの他に昔からあった古いランスを持って来た」と言っているが、DL7のラストでは、石のドラゴン像には10本ずつのfootmanとmountedの古いランスが見つかる。ただし、mountedは小説の方では『戦記』のさらに後の巻でギルサナスが善竜を連れてきた時にはじめて登場し、新型と言っているのとは合わない。mounted は乗り手とドラゴンのヒットポイントの合計ダメージを与えるためさらに非常に強力だが、『戦記』のファイアフラッシュ(キルサー)に乗っての戦いでの邪竜(こちらはランスがないので遥かに不利のはずである)の急所を外れてひん曲がり捨てなくてはならなかった等はとてもその威力があるようには見えない。
 なお、作中描写とモジュールデータが整合しないことを認識している読者からは「小説作者らとモジュール作者の間に行き違いがあったのでは」という説が出ることもあるが(以前述べたダラマール腕輪などは恐らくその類である)小説中最初にドラゴンにランスが使用された箇所のDL8モジュールの作者はトレイシーとローラ・ヒックマンである。


〇AD&D1st, Dragonlance Adventures
 footman'sとmountedの2種類があるという他に、「カーラスの槌」「エルゴスの銀の腕」のいずれか片方で鍛えられた場合+2の強化ボーナス、両方が用いられた場合は+4の強化ボーナス(無論、ドラゴン以外にも)となる。ドラゴンに対するヒットポイントと同点のダメージはDL7,8と同じである。上記の命中率に対するボーナス/ペナルティも同じものが書かれているが、強化ボーナスと累積(合計値を計算)するのか否かは判然としない(書き方から考えて、すると推測される)。


〇AD&D2nd, Tales of the Lance
 前述の1stのDragonlance Adventuresとほぼ同じデータのfoootman, mountedと、+2/+4の槍があるが、これらは"Lesser" Dragonlanceとなり、さらにこの他に"True" Dragonlanceのデータがある。
 Lesser Dragonlanceは前述と同性能で、ドラゴンへのダメージは1st同様、使用者のヒットポイントである(2ndではブレスウェポンのルールは変わっているにもかかわらず)。-2のペナルティーはfootman's lanceを投げた時のみである。なお、アライメントがgoodでないキャラクターが触れると4d6のダメージを受ける。無論、大司教の塔の戦いでキティアラ(この資料でも"秩序にして悪")が拾い上げた時の描写と合わない。
 True Dragonlanceは、槌と腕の両方が用いられ、ドラゴンメタルが使用され、かつ白ローブの長とパラダインの高僧の助力により作られる。強化ボーナスは書いていないが、槌と腕が両方用いられた場合の+4と考えられる。これを騎竜と共に使った場合、竜の攻撃力が大幅に増大する(ブレスウェポンの威力や範囲が倍増し、THAC0が半分になる=AD&Dでは低い方が良いので、命中率が増大する)。ただし、この槍は竜に対して致命的な存在であるため、使用し続けていると騎竜(善竜であっても)が衰弱し、死亡することもある。槍自体の威力が高いとも書いておらず、槍が特筆するものというよりは、シナリオイベント道具としての用法を思わせる。


〇3.5e d20: Dragonlance Campaign Setting
 3.Xeの整合性に合わせてか、footman'sとmountedの別は特に記載されず単にlanceとなっているが、やはり能力にLesserとGreaterの2種類がある。Greaterは"true"とも呼ぶと書いてあるが、Greaterの能力は2ndのTrue Dragonlanceとはかなり異なっている。
 Lesser Dragonlanceはカーラスの槌か銀の腕のどちらか片方で鍛えられたもので、「+2ドラゴンベイン・ランス」、すなわち3.Xeのルール整合上のベイン武器のエゴアイテム性能で表現され、「通常の敵には+2、竜種別の敵に対しては+4の強化ボーナス及び追加ダメージが+2d6」である。一見するとAD&Dの「使用者のヒットポイントと同点」に対して3.Xe d20の「+2d6ダメージ」はかなり目減りしたように見えるが、強化ボーナスの増大と3.Xeの高lvキャラがかなりインフレしたシステムをあわせると、一概に「竜槍を持った戦士のドラゴンに対する戦力」が大幅に弱体化したともいえない。ただし、他の武器との差が小さくなったという言い方はできる。(lesserでも必ずsilver dragonmetalで作られ、+2のボーナスのうち+1は素材、+1が魔法的な強化ボーナスとあるが、素材に関する記述が他の箇所と微妙に食い違っているので詳細は略す。)
 Greater Dragonlanceは純粋なドラゴンメタルで作られ、カーラスの槌と銀の腕の両方で鍛えられたもので、2ndのTrue Dragonlanceよりは条件が緩くなっている。こちらは「+4ドラゴンベイン」であり、さらに、邪竜のCon値を永続的にドレインする(命中ごとに1点、クリティカルすると使用者のキャラクターlvと同点)能力がある。2ndのTrueのような使用者の騎竜の能力増大や、反面ペナルティーなどもない。悪のクリーチャーが触れると害を受けるのはgreaterのランスの方だけであり、負のレベルを与えてランスは消滅する(つまり、テロスの銀の腕だけで作られた大司教の塔のランスはlesserなので、キティアラが触れることができた描写とは合っている)。
 また、Greaterに加えて、竜槍戦争時は竜槍は量産品だが、DMはlesserやgreaterの他にuniqueな竜槍にフレイミングなどの他能力を付与した武器として登場させてもよい、というコラム欄(オプション)がある。


〇3.5e d20: War of the Lance
 Dragonlance Campaign Settingの補足として、前述のものをcommon (footmans)と位置づけ、こちらにはmountedランスの記載がある。基本的には前述のcommonと同様だが、mountedにはアーマークラスと、ドラゴンのブレスや呪文・疑呪に対するセーブ(回避)にボーナスがある。


〇その他:Gold Box DLシリーズ
 SSI社のかつてのDOS用PCゲーム、Gold Boxエンジンで作られたAD&D1stのDLシリーズにも竜槍(Footman's Dragonlance)は登場する。ただし、ここでは強化ボーナスが「+5」となっており、当時の1stのデータとは合わない上にかなり強力である。その他の基本ダメージや対ドラゴンの使用者hpと同じダメージなどはPnPデータと同様である。
 元ルールよりもさらに強力な強化ボーナス故に、ドラゴン以外にも「高い強化ボーナスの武器でないと傷つけられない敵」を傷つけられるなど重宝することもあるが、両手持ちの割に1stのデータの他の両手武器よりベースダメージが低く、特に高レベルで増えてくる大型敵に対して2Hソードなどより大きく劣るため、ドラゴン以外の敵にはいまひとつのことも多い。


〇その他:5版、Fizban's Treasury of Dragons
 時系列上はかなり後(2021)だが、日本語でも読めるゲームデータ資料として5版のコア追加ルール(フィズバンの名は冠しているが、ワールド限定ではない)にもドラゴンランスの記載があり、バハムートに縁のある強力なアーティファクトの助けをかりて作られるとなっている。5版では各ワールド汎用のバハムートとDLのパラダインは同一神格となっており、アーティファクトとはDLでは銀の腕やカーラスの槌を指すと思われるが、他ワールドに登場する場合はそれらに限らないと思われる。+3(5版での最大値)のパイクまたはランス(それぞれfootmansとmountedに相当と思われる)で、ドラゴンに対して3d6の追加力場ダメージとなっている。また、近くの任意のドラゴン(乗っている場合は通常その竜と思われる)が追加の攻撃ができるボーナスがある。5版DMGの剣、ドラゴンスレイヤーもドラゴンに+3d6ダメージなので、コアマジックアイテムのベイン武器と同等の竜特攻という意味では3.5eのd20と同様だが、5版のデフレからも考えるとやや強力である。


 以上のようにいずれのデータでも竜に特攻、AD&Dでは強力な特殊ルールと3.Xe系でもシステムに従ったベイン属性を有している。よって、「竜特攻がない」という風説の根拠については定かではない。前述したように、そんな説も出るくらい作中では活躍せず、上記mountedランスのようにデータとは明らかに相反するとすらいえる描写も散見するため、作中描写のみから判断された説とも考えられる。または、AD&Dのいずれかのデータを見た者が、1st-2nd DMGのvsドラゴン強化ボーナスや、正規の"Dragon Slayer"エゴ属性に関してはこの竜槍が有していないこと(特殊なルールで表現されているため、別の意味では『DMGの正規ルールの竜特攻』を持っていないこと)、また、この『AD&Dのもの』については日本のゲーマーによく知られた『3.Xeの』ベインやスレイングにあたる属性は有していない、と言及していたものが、又聞きによりおかしな結論に変化して伝聞された可能性などが考えられる。


 これは強い武器なのかというと、ドラゴンに対しては、他のワールドでも類を見ないほど恐ろしく強力なデータである。例えば、『戦記』4巻の大司教の塔の戦いの時点のスタームは、DL8によれば10lv, hp74なので、キティアラの乗る青竜スカイア(DL14などでhp63)に対して先制すればhp-11に落とせるので瀕死ですらなく一撃必殺である(無論、実際に戦記4巻で対峙した時には竜槍は使っていない。なおAD&D1stは初期はOD&D等と同様ローパワーが想定され、ドラゴンは2nd以降に比べるとhp自体はかなり低いものがいる。後の版、d20のスカイアは3.Xeのマチュア・アダルト(平均hp276)なので、上記d20版の竜槍ではかなり辛くなっている)。
 しかし、実際に作中の状況で最終兵器として使えたかというと難しい。例えば仮にスタームがスカイアに竜槍を使用できたとしても、キティアラ本人も他の配下もいるので直後の展開はあまり変わらないと思われる。スタームに賛同した見習い騎士たち(DL8では大司教の塔の若輩連中の「冠の騎士」はHD4なので、hpは18前後)が十数人、量産品のfootman'sの竜槍を持ったとして、もちろん他の武器よりは当たれば大きなダメージは与えるが、当たるかどうかを含めて絶望的なことにはほとんど変わりはない。

 本サイトでは何度も言及したことがあるが、結局のところ、D&D系では(T&Tのような攻撃力だけ正面衝突するシステムやJRPGとは異なり)、いずれかのパラメータ、例えば武器のダメージだけが突出して高かったところで全くどうにもならない。ドラゴンの強大な防護(前述したように、D&DのACシステムでは、ダメージが大きいだけでは強固なAC(鱗)に対処できない)や疑呪や反撃をなんとかする手段がなければどうしようもない(d20のmounted lanceには少しはそれらもあるにせよ)。これ一本でドラゴンに万全などといったものではなく、小説のみでPnPルールに関心のない読者だとか、ひいては一般のファンタジーゲーマーにとっては「強い」とは感じられない場合があると思われる。同時に、そのD&Dのシステム自体との相関が、描写やデータからの読者からのさらなる過小評価にも繋がっていると考えることができる。(一方、竜槍と異なり、ゲームブック『パックス砦の囚人』の魔剣ワイアムスレヤアはダメージ以外の点でも攻防ともに完璧にめちゃくちゃに強く、当時まだDLの設定がいいかげんだったことを非常に顕著に示している。)


 なぜ(小説版では活躍しない)この竜槍という武器がワールドの名前にまでなっているのか。様々な事情の情報(重要そうな予定の武器の名をつけたが内容は決まっていなかった等)があるが、この場であえて付け加えるならば、結局のところ(少なくとも当初は)小説のストーリーを中心とした世界ではなく、PnPのゲーム用の世界であったことが大きいと考えられる。DLモジュールをあくまでゲーム用世界としてワールドセッティングが作成された時点では、「ドラゴンの脅威・強大さ」を前面に押し出した世界において、キャンペーンの大詰めにおいて英雄的なプレイヤーキャラ(例えば、上記10lvスタームのような状況)が手にする武器として強く想定されていたということかもしれない。キャンペーンの最終兵器が最初から準備され、しかも量産品という設定なので複数の(卓ごとの)英雄が所持しても問題ないという話である。つまりゲーム上での使用を想定しての重要性であって、小説の展開(低レベルキャラや見習い騎士たちが右往左往する)をもとに決めたワールド名ではないということなのかもしれない。とはいえ強大なドラゴンを強大な英雄が強大なアイテムで打倒するという、当初目論まれていたかもしれない展開は、以後のDLのPnP用シナリオや他の関連出版物にも目立たない。前記した『パックス砦の囚人』の終盤の滅茶滅茶な展開がそれを忍ばせるくらいのものである。





ドラゴンランス 秋の黄昏の竜

 角川

 Dragons of Autumn Twilightとは、ドラゴンランスシリーズの1作目(富士見文庫では『ドラゴンランス戦記』、アスキー等のハードカバーではただの『ドラゴンランス』つまり無印)を3部作とした場合の第1部である。AD&D1stのDL1(絶望の竜:廃都の黒竜)とDL2(炎の竜:城塞の赤竜)モジュールが元となっている。以降、第1期1作目の3部作は無印でなく『戦記』と呼ぶが、これは筆者が富士見文庫版世代だからにすぎない。
 つまり最近(2020年2月)出たこのコミックは、最初のシリーズの冒頭リメイク、ガンダムで言えば初代劇場版3部作のI・砂の十字架編というわけであるが、ドラゴンランスの初期シリーズは、日本での初代ガンダム同様、一定世代には趣味嗜好とわず話が通じるようなブーム作品だったといういいかげんな概要は過去にも説明した通りである(Hob/LotRのような全世界全世代の共通認識や、玻璃ポタやドラゴンボールのような全世界規模というにはおそらく及ばない)。
 ガンダムはZ以降、作風ががらりと変わったことから、オタには長年、初代以外はシリーズ化していることすら認めないという論者が根強く、初代原理主義者がオタ内ですら「少数派」にまで減退するには、かなりの年月を要した。ドラゴンランスについても同様に、第2期シリーズ(サマフレ)以後は作風が完全に変わり拒否感を巻き起こしたが、ガンダムのような続編の評価も安定しひと段落した、という状態にはいまだに至っておらず、いまだに第一期だけがドラゴンランスだという空気のファンも多いのではないかと思わせるところがある。5版でもPHBなどで久々にDL世界が取り上げられているが、いまどき第一期、それも特に『戦記』を引っ張り起こしたような記述になっている。細部の事情は定かではないが、いまだに商品価値の高い初代作品を5版とあわせてコミック化したということらしい。(なお第一期ブーム当時にも当然コミカライズが存在し、富士見から和訳が出ていたが、今回は省く。)

 ともあれ今回のコミックだが、洋モノの常を差し引いてもなお、無茶苦茶に絵が怖い。レイストリンが(メルニボネのエルリック同様)海外物では完全に化け物(旧コミカライズの表紙は除く)なのは常に指摘されるところだが、このコミックでは全員がまさしく化け物なので些細な問題にしかなっていない。その化け物どもの中では引退した日本のお笑い芸人のようなタッスルホッフのかわいくなさも特筆に値するが、冒頭近くのフィズバン(とシリーズ最後に判明する老人)の形相などは、バキに出てくる老格闘家のようである。
 だがその位置がすごくいい(声:グイード・ミスタ)。かつて洋モノRPG、特にD&D物、さらにドラゴンランス関連商品は、新たにビジュアルを目にするたびに驚愕と恐怖とコレジャナイ感が怒涛のように襲ってきたものであった。玻璃ポタやLotRブーム以降、洋ゲーも身近になった今となっては、その類の奔流にさらされる新鮮な感覚を失って久しい。この適度な刺激こそが久々の醍醐味である。こんなことを言うと(別の所の富野小説論とかともども)マゾヒズムとしか聞こえないのかもしれないが昔の洋TRPGの展開(公式シナリオの殺伐とか)など全編そんなものを喜んで受容するでもないとやってられないではないか。
 怪物の表現、特にドラゴンは、富士見版やDLモジュールの表紙等でおなじみのジェフ・イーズリーの方向性とはまったく変えてきているが、かなり見栄えがする(D&D系以外のCRPGや、5版でもよくある表現に近い)。ナイトブリンガーがトゲトゲ巨大球モールになっているヴェルミナァルドは、イーズリーよりさらに筋肉達磨が増しているのも良い。
 話は結構アレンジされ端折られているが、それ自体はわりとうまく取捨選択されているというのが私見である。例えばパックス砦地下の全滅必至の巨大ナメクジ(DL2ではヒットダイス12。なお赤竜エンバー(パイロス)がDL2ではヒットダイス11である)との泥沼場面を、このコミックではローラナが弓矢でワンショットキルする所は結構話題になっており、この時点でのローラナのお荷物感が減っている上にただでさえ少ないタニスのワームスレイヤーの見せ場もついでに無くなっている。が、ローラナは次部(冬の夜半の竜、『氷壁の白竜の書』)ですでにドラゴンの翼を射抜くなどがぜん活躍しはじめるので、多少それが早くなっても実はさして大きな問題がない。DLシリーズ原作小説一般の戦闘のgdgdな扱いに対して、こちらの方が演出的メリハリも多少出ており悪くもない。
 また、話が端折られ方つつも台詞が注意深く残されており、原作小説の独特の「雰囲気、空気」がよく伝わってくる。ただし、原作未読者が、独特の台詞回しの細かいニュアンスなど、地の文で説明されていたものを理解するのはかなり難しいと思われる。帯には「電子版(原作)の予習に最適」などと書いてあるが、正直言って原作より先に読むのは適切とは思えない。というか、バキ格闘家や引退お笑い芸人などの化け物面は上述したようにそれ自体は良いとしても、化け物面が小説を読む際の予備知識になってしまうと色々と支障があるだろう。刺激ブツ推奨の本サイトでも、そればかりはおすすめできる手順ではない。





ブライトブレイド


 『戦記』冒頭からスタームが、後にスティールが所持するブライトブレイド家の先祖伝来の両手持ちの剣は、例によって後のゲーム資料になるに従ってデータ面も追加されているのだが、登場当初から名品であることは強調されており、強さそのものが大きく変わっているわけではない。
 いずれもルール上は「魔法の武器」である。クリンはマジックプアな世界であるという印象を持つ小説版読者が多いと思われるが(その印象自体も正しいとは言えないのだが)魔法の強化ボーナスと品質その他によるボーナスがルール上分離されている3.Xeと異なり、特にAD&Dにおいては、「鍛冶技術による上質品」と「魔法の品」とは厳密に区別されているわけではない。


〇AD&D1st、DL1: Dragons of Despair
 「トゥーハンデッドソード+3」という記載のみで、固有名もない。またタニスが+2のロングソードを持っていたり、DL2のワームスレイヤーが同様に2Hソード+3(DL2の再録のClassics Iでは困ったことに+1と誤字になっている箇所がある)だったりするので、ボーナスなどがDLゲーム全体でこれだけ極端に飛び抜けているわけではない。しかし、+3というのはルール上、強力なエゴアイテムに付与されていたり一定の強力な敵にダメージを与えられる段階であり、しばしばAD&Dでは「伝説的な名品」の強化ボーナスの目安なので、3-5lvのパーティーの持つ品としてはこの時点から一種別格扱いであることがわかる。


〇AD&D2nd、Tales of the Lance
 「ブライトブレイド」という剣の固有名、「トゥーハンデッドソード+3」のままだが反応に+2する能力、ライト呪文、プロテクションフロムイービル呪文/日、(小説本文中にも説明されているように)所有者が望まない限り破損することがない、といった特性がデータ上も追加されている。2900年前、バーセル・ブライトブレイドの時代にドワーフの手により鍛えられた等、本文や後の資料にも引き継がれた設定が述べられている。


〇3.5e d20, War of the Lance
 「ブライトブレイド」の背景等の説明は2nd当時とほぼ同じだが、「+2アクシオマティック・バスタード・ソード」(混沌属性に対し強化ボーナス+4、+2d6ダメージ)となり、反応に+2や疑呪などは無くなっている。ベースの強化ボーナスが+3から+2に落ちているのはパワーバランス上の調整(ドリッズトのトウィンクルが2ndの+5から3.0eで+2になったのと同様)と思われる。小説本文中には「鞘(拵え)が銀造り」である旨の記述があるのだが、この資料ではsilvery blade(銀光の刀身)となっており、本体も銀や錬金術銀であるかは定かではない。


 ここで、小説本文中では「両手持ちの大剣」となっており、AD&Dでもそうだが、d20ではなぜバスタード・ソードに変わっているのか。
 実際のところ本文中では両手持ちであるにも関わらず、盾と同時に使っている場面が多々ある(そもそも富士見版1巻や4巻の表紙もそうである)。なのでそれらの描写にあわせてd20ではグレートソードではなくバスタードソードに変更されたと考えられないでもないが、あえて説明を加えるならば、AD&D及びその各版と、d20の準拠するD&D3.Xeでは武器の定義は同一ではない。これらの物品のゲームシステム上の分類にはいずれもかなりの範囲がある上、学術上の分類や、日本のアンチョコ本のたぐいに書いてあるものとは一致しないことが多々ある。AD&Dでもバスタードソードや2Hソードはあるが、それが3.Xeでのバスタードソードやグレートソードと同一とは限らない。同じ剣がAD&Dでは2Hソード、d20ではバスタードソードとしてデータ化されることはありえない話ではない。





ダラマールシリーズセットアイテム


 ドラゴンランスはAD&D1stをベースに小説化されていた、とはいうのだが、基本的にPnP-RPGのモジュールとしてもストーリーが展開していたのは前半(『戦記』)であり、後半(『伝説』)には対応するデータがあるとは限らない。
 しかし、『伝説』の主要人物のうち、ダラマールの名のついたアイテムはやけにデータ化されている。これは(杖と短剣以外に)強力な魔法の品の助けを必要としない(という)レイストリンと異なり、ダラマールはなにかと話の上でアイテムとの絡みが多いためである。DL世界のキャラの中では、(データパワープレイヤー(和マンチ)な)D&Dデータ寄りのデザイナーや読者から、ダラマールがなにかと人気があるのもわかる気がする。


○防護の魔法の腕輪(Dalamar's Bracelet of Magic Resistance)

 『伝説』終盤、パランサスでソス卿を迎え撃つためにダラマールがタニスに貸したもの。終盤タニスが活躍できたのはほぼこれのおかげである。文中のダラマールの言によると、ソス卿の用いるような氷や炎の呪文(Death Knightの疑似呪文能力である無限Wall of Iceと20d6 Fireball)、「死ね」「気絶せよ」「盲いよ」といった示唆の言葉(Power Word呪文のうちPHB記載の主要3種)から守ってくれる。ただし、作中の描写では何度か呪文を受けると腕輪の力が弱まってくる。そのためもあって、ショイカン原林の恐怖の領域を通過するほどの魔力はない。

 AD&D1stのDragonlance Adventuresのデータでは、呪文レベル3−5の呪文に対しては10%, 6−7の呪文に対しては20%, 8−9の呪文に対しては30%のMagic Resistance(魔法無効化率)を発揮する。上記それぞれに対して、1日に3回までしか無効化できない。
 ソス卿(Death Knight)の使う炎や氷の呪文は呪文レベル3−4、各Power Word呪文は呪文レベル7−9なので、辻褄はあっている。しかし、無効化率10-30%というのはいかにも心許ない。この記述をAD&DのMagic Resistanceのルール通りに解釈すると、10%の無効化率というのはダメージを10%に減らすとか10%減らすとかではなく、10回に1回だけ完全無効化する(つまり9回はそのまま食らう)ということである。

 この腕輪はアイテム自体の属性がEvilであり、Goodキャラは触れると3d10ダメージを受ける。確かに小説作中で騎士団長グンター卿はこの腕輪からダメージを受け(Tales of the Lanceによるとグンター卿は13lvの騎士でhp62だから良かったものの、d20の並の現代軍人なら3回死んでおつりがくる)タニスは「騎士の誓いか何かに関係あるのだろう」と考察していた。が、よく考えてみるとタニスも属性がNeutral "Good"なので同ダメージを受けるはずである。Dragonlance Adventuresは小説『伝説』より若干後だが、照合が間に合わなかったか単に忘れたか、データを設定した側の整合が不十分だった可能性が高い。一方、後のAD&D2ndのTales of the Lanceによると、ダメージを受けるのは「Lawful又はChaotic」Goodのキャラクターであるという意味のわからない記載に直され(やはり誓いとは関係ない)、一応Neutral Goodのタニスが使う分には問題がない。


○稲妻のワンド(Dalamar's Wand of Lightning)

 キティアラに肩甲骨を両断されたダラマールが苦し紛れに発動したと思ったら、キティアラの巨乳すら貫通して文字通り胸に風穴をあけた非常にえんがちょなライトニングボルトワンド。小説本文では単に稲妻のワンドとしか書かれていないが、D&D系のワンド(一律6d6ダメージ)どころか、Lightning Boltそのものの常識からも度肝を抜くような威力である(AD&Dでは高lvの戦士の耐久力は同等の魔法使の呪文ダメージよりかなり高く、呪文1つで致命傷を負わせることは難しいが、さらにワンドは一般に高lvキャンペーンで役立つほど強くはない)。文中の描写によるとキティアラはそれまでにかなり弱っており、現に『伝説』富士見版最終巻の表紙でダラマールと対峙しているカバー画でも、服がボロボロで少なからず手傷も負っている。D&D系のヒットポイントは疲労や運の尽きなども総合的に示しており、目に見える外傷を負っている時点でhpは半分以下に落ちている。故に、こんなありふれたワンドごときから致命傷を受けたのは相当に弱っていたためではないかという考察もあったが、要はただの演出だろうと流されるのがD&D系小説の(特にAD&Dデータを知らない読者からはローパワー扱いされるDL世界設定の)常であった。

 しかし、AD&D1stのDragonlance Adventuresでは、このワンドは上述したようなD&Dシリーズのデフォルト設定のWand of Lightningの一種とは書かれているのだが、それらの基本データとは大幅にかけ離れた性能を有している。15lvの術者が発動したのと同じ威力があり、AD&D1stではLightning Boltには(2ndや3.Xe以降のような)ダメージダイス上限はないので、15lv術者が発動すればダメージは15d6で上記AD&Dデフォルトのワンドの2.5倍、期待値は52.5である。キティアラは15lv戦士で最大hp68だが、表紙の状態でhp34以下とすると、これをまともに食らったらまず助からない。AD&D2ndのTales of the Lanceでは、(2ndのLightning Boltの上限の)10d6ダメージで、期待値は35であり、上記の状態のキティアラに直撃すればちょうどhp-1に落ちる。タニスが手当すれば助かるが、しなければ9ラウンドで死亡し、作中の状況と一致する。
 なお、このワンドは(雷雨のあった週の)1週間ごとに1チャージを回復するようになっており、ただの量産品・消耗品のWand of Lightningではないようである。なぜこんなものをダラマールは無造作に机に置いておいたのか(携帯していなかったのか)。しかし、以後、キティアラの死因となったこのワンドのその後の使用者は、使用するたびにソス卿が傍に駆けつけてくる可能性がある、とも書かれており、いくら強力といっても、プレイヤーキャラとしてはそうそう使用したいものではない。


○癒しの指輪(Dalamar's Ring of Healing)

 上記のキティアラの攻撃で腕がもげかけたダラマールが発動し、一命をとりとめた際の癒しの指輪。AD&D1stのDragonlance AdventuresではDalamar's Ring of Healing、2ndのTales of the LanceではGolden Ring of Healingと記述されている。
 癒しは「信仰系」能力であることはDL世界設定でも例外ではなく、作内でもしじゅう言及されている。にも関わらず、この指輪は秘術系術者が「死から逃れるための最後の手段」として携帯するもの、といずれのデータにも記載されているが、その理由(どうやって秘術系で実現しているのか、それとも実は信仰系の品なのか)はこれらの資料には全く説明がない。1stのデータではCure Light Wounds、2ndのデータでは固定6hpを回復し、回復量そのものはわずかでしかないが、hpが0やマイナスに落ちている場合は触れるだけで(つまり、前述の瀕死状態でも自分で使えると思われる)1hpまで回復できる。チャージも特殊で、これで1度癒されたことのある人物には再度効果は発揮しない。例外的なアーティファクトめいた物品のようである。





クリンのデミヒューマンの限界レベル


 クラシカルな(3.Xeより以前の)D&Dでは種族ごとに限界レベルがあり、特にAD&D1stではデミヒューマンのそれは非常に低いことに前回も触れている。具体的には、どんな種族でも盗賊に制限はないが、それ以外の得意なクラスは10lv前後までしか上げられず、不得意なクラスには全く就けないか、あるいは一桁lvにとどまる。例えばAD&D1stのPHBによると、種族「エルフ」は盗賊(Thi)のみ無制限で、戦士(Ftr)7lv, 魔法使(MU)11lvまでしか上げられず、それ以外のクラスには就けない(エルフの聖職者(Clr)はNPCしかなれない)。また、StrやInt値が低いとさらにFtrやMUの限界レベルは低い。「海外エルフはトールキン準拠のチート種族」なる風説は完全な事実無根であり、海外RPGで80-90年代に支配的であったAD&D1stにおいて、エルフは近接はもちろん魔法においても限界能力は人間に遠く及ばない。
 これは、当初せいぜいが10lv前後までのプレイしか想定していなかった時点で作られたOD&Dの設定を、AD&D1st当時は引きずっていたためと想像される。人間も限界レベルがないとはいえ、おそらく「頑張ればエルフを超えられる」といった程度で、十数やら数十レベルに上げることは強く想定していなかったと考えられる。(一方、デミヒューマンの限界レベル以降も何らかの能力上昇を行うルールはCD&D緑箱などで知られるものをはじめAD&Dにも何種類かあるが、付け焼刃の感は免れない。)


 AD&D1stのCRPGであるGoldBoxのフォーゴトン・レルム(FR)のシリーズでも、このPHBのデフォルトのルールと同様であり、レベルが高くなりがちなFR世界の高レベルシナリオではデミヒューマンは(盗賊以外)全く使い物にならなくなってくる。
 しかし一方で、GoldBoxでもドラゴンランス(DL)の方のシリーズでは、AD&D1stデフォルトとは異なり、デミヒューマンが高レベルまで成長可能な点についても前回述べた。前回言い忘れていたが、これもCRPG版独自ではなく、元のPnP(卓上ゲーム)版のDLのルール集のデータに準拠したものである。


 以下、AD&D1stのDL世界の資料であるDragonlance Adventures (1987, 『ドラゴンランス伝説』完結直後)から抜粋し、代表例を挙げるが、UL(制限なし)はレベル上昇の限界なし(ただし、クリンでは実質18lv)である。バーバリアンBbnとキャバリアCvlはこのDragonlance Adventuresでは使用が前提とされているAD&D1st版Unearthed Arcanaというルール集のクラスで、3.Xeなどのそれとは全く異なっているが、後者のさらにバリアントであるソラムニア騎士(下記Cvlレベルとは別)の特殊ルール、CvlとPalの関係などとあわせて、別の機会に述べる。ティンカーTnkはノーム専用の技術者クラスである。


                           Ftr  Bbn  Ran  Pal  Cvl  Clr  Drd  Thi  Tnk  Wiz
--------------------------------------------------------------------------------
ケンダー                    6   10    6             12    6   UL
ノーム                                                             UL
シルヴァネスティ・エルフ   10        UL   12        UL                   UL
クォリネスティ・エルフ     14        UL        10   UL        UL         UL
ハーフエルフ         9        11             UL   UL   UL         10
マウンテン・ドワーフ       UL              8    8   10         8
ヒル・ドワーフ             UL   UL    8    8         8         8



 マイナーな種族、カガネスティ(ワイルドエルフ)、ダルゴネスティとディメルネスティ(海エルフ)といった種族や、Unearthed Arcanaのさらに細かいサブクラス等の設定もあるが省く。
 なお、最初の小説と同時期・同ストーリーのシナリオモジュール(DL1:Dragons of Despair等)の時点ではまだ上記のDragonlance Adventuresのような詳しい設定は書かれておらず、PHBのハーフリングと差し替わるケンダーについて数行の説明がある程度である。つまり、小説当初の想定(あるいは小説のベースとなった実プレイング)の時点ではPHBのデフォルト(WG世界、というには語弊がある)に近かったが、これに対して、Dragonlance Adventuresの時点でも非常に追加ルールが多い。
 一般にgdgd人間ドラマで英雄的行動には程遠いキャラの多い小説のイメージから、DL世界はローパワーと信じられていることが多いが(日本のDLファンに、キャラやアイテムのルール上の強力さを、公式データの根拠を挙げて説明してもなお信じないことが多い)強力なデミヒューマンひとつとってもPHBよりも遥かにハイパワーなルールが多々ある。これは推測だが、おそらくファンがDL世界のパワーを求めたというわけではなく、作品世界の圧倒的な人気(数千万単位。なお、指輪物語が億単位、ファイナルファンタジーが百万単位、Wizardryが一万単位)故に、それほど必然性がない細部までデータ化(差別化)を行っているうちにこうなったのではないかと思われる。
 蛇足ながら、タニスはDL14モジュールでFtr11lvに至っているので(『伝説』時のFtr12lvは2ndのデータなのでともかくとして)AD&D1stのPHBデフォルト(ハーフエルフはStr16だとFtrは6lvまでしか上がらないので、DL3で既にはみ出ている)は勿論、このDragonlance Adventure(Ftrは9lvまで)とも合わない(小説のヘタレた戦闘描写の多くからは当初ルールの6lvからずっと上がっていなかった疑惑を感じる人もいるだろうがさておく)。他にもクラスレベルがこれらのルールと合っていないキャラは散見される。


 余談はともあれ、上記限界レベルからは、エルフは秘術系・信仰系ではかなり制限が少なく、さらにデフォルトでは不可能だったレンジャーにも就け、無制限で上げられるようになっている。ドワーフの戦士も同様である。しかし、それ以外のクラス適正については、デフォルトより若干上程度で、さほど差がないことが多い(後では一般的になっているドワーフ僧侶はクリンでも作り難い)。一方、盗賊系はデフォルトではどんなデミヒューマンでも高レベルにできたが、クリンでは制限が多く、盗賊系に就けない種族も多い。
 これらの特性からは、DL世界の設定では、デミヒューマンそれぞれの個性付けよりを強くしたものと推測できる。OD&D当時のままで長期間プレイの実情に沿わなくなってきたAD&D1stのデフォルトの限界レベルを変更し、小説でも活躍したデミヒューマンで、長期間プレイすることを想定したルールになっていると思われる。そして、やはりこの当時は定型から外れたようなキャラは作り難い。制限によって、逆に小説でも描かれているような世界の再現を自然と支援・誘導するような設定になっているといえる。





ドラゴンランスとGold BoxのCRPG


 初代Pools of Radiance (PoR)等と同時に展開されたAD&D1stのコンピュータプロダクトとして、PoR(『フォーゴトンレルム(FR)』世界設定)と同様の、SSI社のGold BoxエンジンのCRPGが、『ドラゴンランス』世界設定でも3作作られている。


 Champions of Krynn (1990)
 Death Knights of Krynn (1991)
 The Dark Queen of Krynn (1992)


 の3作がそれである。前の2作はPC版の日本語移植さえ作られた。しかし、その知名度は非常に低い。日本では「ドラゴンランスのゲーム」は、FC(NES)で出たアクションゲームの(かなりの残念ゲーとして有名な)『ヒーローオブランス』『ドラゴンオブフレイム』しか存在しなかった、と信じ込まれていることがほとんどである。というより、わずかなPCユーザーを除いて、当時のAD&Dの「CRPG」自体が、FCにも移植されたPoR1作しか存在しなかったかのように信じられていることも多い。
 「TSR/SSI社=一番人気のドラゴンランスで肝心のCRPGを作らなかった愚か者ども」というのが、あたかもD&D系全体の最大の突っ込みどころであるかのように、日本では誤って語られていることも少なくない。


 上記のGold Boxの3作とアクションゲーム2作(ヒーローオブランスら2作は、銀縁の箱に入っておりSilver Boxとも呼ばれる)の他にも、ドラゴンランスのコンピュータゲームには、空戦シミュレータもどきのDragonstrikeやストラテジーのWar of the Lance、また複合ゲーム的なShadow Sorcererなどがあり、これらも実は本編との関係でかなり重要なのだが、今回はFRとの関連・比較でも重要な主要なRPGシリーズ、Gold Boxに限って話を進める。


 当時の雑誌の紹介などでは、「AD&Dのゲームシステムに興味があるならFRのシリーズ(PoRや続編4作)、元々ドラゴンランスのファンで世界・ストーリーを追体験するならDLのシリーズを選ぶといい」などと紹介されていた。これは、DLの方は原作つき(そして、本国では原作の人気が天井知らずに高いので、遠慮なく原作ファン向け限定に作られている)という点を考慮したと思われるが、あたかもFRのシリーズの方がゲーム性では出来が良く、DLの方はシステム面は劣っているというような印象を与えがちな紹介である。

 しかし、実を言うとGoldboxのこれらのシリーズは、システム面から見ても、DLのシリーズの方にむしろ見るべき点が多かった。PnP(TRPG)での両シリーズは、コアルールのAD&D1stに比べると、ワールド独自の特殊ルールが少なからず存在するのはFRでもDLでも同様である(DLは小説のイメージからローパワーなワールドのように見られがちだが、FRと比較してすら非常にハイパワーなルールも多々ある)。GoldBoxのCRPGでは、FRのシリーズがこれらの特殊ルールをほとんど採用しておらず、コアルールのままになっているのに対して、DLのシリーズではかなりの特殊ルールを採用していた。
 例えば、AD&D1stのコアルールでは、デミヒューマンはThief以外のどのクラスでも、レベルが一桁か10前後までしか上がらない。Gold Box EngineのFRのシリーズではこのコアルールのままを再現しているため、10lvを超える2作目あたりからは、ほとんどマルチクラスのデミヒューマンを入れる余地はなくなってしまう。(なお、AD&D2ndではこの限界レベルはかなり引き上げられ、さらに後年の2nd準拠のInfinite Engineの『バルダーズゲート』(BG)等のシリーズでは、その他の選択ルールにあるようにデミヒューマンのレベル制限自体が撤廃されている。)
 これに対して、Gold Box EngineのDLのシリーズでは、種族によってレベル制限のないクラスも多く、制限があるにしても10lv台後半という特殊ルールが採用されている。そのため、後のBGシリーズ以上に、高レベルまでマルチクラスのキャラ編成を考慮する余地が多くなっている。
 サブ種族、サブクラス類の再現も多く、エルフやドワーフの亜種族、赤と白のローブの別(ちなみにDL小説でおなじみの赤と白の月の満ち欠けによる能力変化も再現されている)、各神格ごとのクレリック、それらの能力差も再現されている(無論FRの方はコアの種族やクラス以外の再現は無い)。特に、パワーゲーム志向のD&D系全体をとっても強烈な強キャラと語り継がれている、「ソラムニア騎士」3階級のサブクラスも導入されている。総じて、高レベルまでの長期間のキャンペーンを通じて、DL独自のゲームシステムを体験、考慮できるようになっている。ドラコニアンの危険な能力、ドラゴンランス槍の強力さなど(小説の描写からはわかりにくいが、実は他のAD&D世界設定と比べても非常にハイパワーな)特殊ルールも多く再現されている。
 これは、Gold BoxのCRPGの中ではこれらDLのシリーズの方が後に作られたという点もあると思われるが(PoRは1988年、CoKは上記するように1990年である)非常に多い原作ファンのために、再現のためにかなりの注意を払っていると思われる。


 一方、ストーリーの方はというと、上記したような『ドラゴンランスのファンが世界を味わうのに適している』という評が適切かというと、どうもそう言い切れるわけではない。中身を説明するのが手っ取り早いと思われるが(すでにネタバレという時代ではないので)、例えば、2作目は死の騎士・ソス卿がスタームの遺体を乗っ取って最強騎士になろうとするのをプレイヤーキャラ達が阻止し、3作目は、惑星クリンの裏側(タラダス大陸)で「ガルガスの灰色石」の力をかりて奈落から脱出する女王を奈落に閉じ込められているレイストリンの力もかりて阻止する、といったもので、良くも悪くも、ファンの安易に想像する夢展開やら燃え展開の直な再現である。
 これらは『夏の炎の竜』以降を読んだファンならばすぐにわかる話だが、公式のソス卿や灰色石のその後の展開とは著しく矛盾するため、完全に非公式のパラレルワールドである。(ただし、『夏の炎』以降の展開そのものが、それ以前のファンからは決して好評なものではない。)
 つまり、ファンでなければ理解できず、ファンでこそ楽しめるような話だが、かといってこの世界(原作)を大事にするファンらにとって誰にでもプレイする価値がある、とも言い難い。それこそ日本で同様の位置にある人気シリーズ、ガンダムの派生ゲームのifストーリーのような、微妙な位置とも思える。
 当時の全般的な評価はばらついており、1、2作目がDragon誌やCGW誌で好評を得たのに対して、3作目は殊に致命的なバグが多く、戦闘以外のストーリーや仕掛けがあからさまに少なく、さらに92年にはすでにかなり古く難があったシステムであることもあって、評判は芳しくない。20を超えるようなレベルの冒険についても、FRのシリーズよりは強化されているとはいえ(FRのGoldboxはさらに味気ないが)後のAD&D2ndを再現した『バルダーズゲート2』等に比べると、高レベル呪文は非常に少ないし技能も存在しないので、非常に面白みがない。


 上記のような事情が、『夏の炎』『魂の戦争』等を経た現在となって、本国のDLファンらからはどう見られているか、また、単純に(FR世界のPoR等が何度も再販やリバイバルされているのに対して)これらDLのゲームがリバイバルや言及されないのは何故か、調べてみたことがあった。
 わかったのは、どうも2000年代には、権利関係(一時、DL世界が権利譲渡によってD&D系のシステムではなくなっていた頃か)で、これらのDLのGold Boxのシリーズは出すことができず封印されていたという話である(なお、現在はGoGのDL販売でWindowsで動くPC(DOS)版を入手できる)。しかしまた、D&D5版のルールブック内にDL世界のキャラが例として挙げられるようになった現在、DL世界の派生作品も今後事情は変わってくるのか、それはわからない。





検索ワード:レイストリンのlv

ドラゴンランス レイストリン レベル
 『戦記』開始時(AD&D1st、DL1: Dragons of Despair)3lv、『伝説』当時(AD&D1st、Dragonlance Adventures)20lv。
 開始時すでに”大審問”を通過していたレベルが3というわけだが、実のところクリン世界の大審問とは、呪文レベル2に手が届いた時に課せられる試練に過ぎない。また、『戦記』2巻でフィズバンに対してFireballがまだ手におえない、と言っているので、4lv以下というのは予想がつくだろう。注釈版(いわゆるアスキー版以後)の注釈にもそれらの説明がある通り、『戦記』2巻に対応するDL2モジュール付属データでは4lvである。

 一方、終盤20lvは(FR世界の誰ぞがAD&D当時でも29lvなどに比べると)あまり高くないように感じるかもしれない。同資料では、パー・サリアンが18lv、ユスタリウスとラドンナが17lvで、データ的には2-3lv差にすぎず、『伝説』文中で語られるような大差がレイストリンと他の魔術師らの間にあるようにも見えない。ただし、実際には20lvのみでは現せない能力(例えば、フィスタンダンティラスに由来する能力や知識、呪文数)があったとしても、AD&Dのあくまで基本ルールではレベルが20までなので、基本ルールのみで表現した「便宜上のデータでは」最強の魔法使を20lvにしているにすぎない、という言い方もできる。
 実際のところを言うと、強大化した後でさえ、レイストリンの能力や行う事の描写を見ているところ、AD&Dの魔法使の基本ルール的な能力の範疇からは別に極端に飛びぬけているわけではないので、ある意味では妥当とも言える。

 なお、後のd20(3.Xe)系のデータは、後で作られたもので小説の描写の元となったというわけではないが、ここでは『伝説』時のレイストリン(3.5e, Legends of the Twins)は27lv (Wiz7/Wizard of High Sorcery(Black)7/Loremaster8/Archmage5), CR28 (Master of the Tower of PalanthasテンプレートでCR+1)であり、D&D標準のWG世界の代表術師モルデンカイネンの27lvとほぼ同格にあたる……。





属性

 D&D系の属性(秩序・混沌、善・悪)は、基本的に本人の個人的な性質(対人関係を尊重するか否か、他者を尊重するか否か)を示しているものである。他のゲームやロー・カオス対立型のFT小説のように、いわゆる「世界のバランス」や「哲学・主張」を示しているものではない(ただし、個人の性質の結果として、主張もそうなることはある)。そのため、これらの属性が、「善の軍勢」と「悪の軍勢」のどちらにつくかという立場に一致しているとは限らない。(魔法使いのローブの色は、魔法に対する姿勢としての個人の性質を示しているため、これよりは属性と近い。)
 ただし、ゲームのシナリオとして設定された当初(最初期のAD&D1st、DL1-2モジュール)、小説として人物が軍が動き回り悩み始める前は、これら(個人の属性、善悪の軍、ローブの色)はほぼいっしょくたになっていたのであろう。

スターム     秩序にして善
キャラモン    秩序にして善
リヴァーウィンド 秩序にして善
ゴールドムーン  秩序にして善

タニス      中立にして善
フリント     中立にして善

レイストリン   真なる中立
タッスルホッフ  真なる中立

(サブキャラクター, DLモジュール群では「NPC」)
エリスタン    秩序にして善
ティカ      中立にして善
ギルサナス    混沌にして善
ローラナ     混沌にして善

 これらのデータは読者には意外に思えるかもしれず、現に筆者の周囲のクラシカルD&Dプレイヤーがそうだった。軟派というか軽薄と言ってもよいキャラモンが、騎士の鑑として引き合いに出されるスタームと同じ「秩序にして善」であること、また友人思いで友人以外でも死を悲しむ(平原人の村や、ときに敵のドラゴンにも)タッスルホッフが「善」でなく中立であること、さらに古今のFTの登場人物の中でも最大級にねじ曲がった性格であることに疑いのないレイストリンが「混沌」ではなく中立であること、等である。

 これらには、いくつかの説明を加えることができる。まずは、本来のD&D系において、本人の性質である属性というのはあくまで性質を9種類に大別したものに過ぎず、極端にその性質を持つことを示しているものではないという点である。
 特に「秩序にして善」は、パラディンがその極致として説明する例に使われることからも、「秩序にして善」の者が全員がパラディンのように、ひいては、あのスタームのように厳格だと思い込まれている例が非常に多い。しかしながら、パラディン(やスターム)とは、「秩序にして善」の性質を持つすべての者の中でも最も極端なごく一部に過ぎない。キャラモンに関しては、軽い人物ではあるが、ものを決断する段になれば結局は「馬鹿正直」である点が「秩序にして善」であると言えそうである。

 もうひとつは、このサイトの別の記事でも述べているが、D&D系の属性で「善」というのは利害を越えてでも他者を尊重しようとするものを指し、自らに益があるならば助ける、というものは「中立」にあたることである。益には、友人や身内ならば助けようとする、といったものも含まれる(特に真なる中立を「主義」として持つ者には、友人や身内すら特別に扱わないといった者すらいるが、それは属性の分類とはまた別の問題である)。友人には思いやりが深いが、通りすがりの者に災難を巻き起こしても無頓着なことが多いタッスルホッフは、中立としては強い「善傾向」は持っているがやはり「善」そのものではないという解釈ができるだろう。

 最後に、D&D系における属性はキャラクターが作られた時に今後ロールプレイをするための「指針」として与えられるもので、すでに決まっている性質にあてはめて強引にレッテルが貼られるものではないし、典型たることを強要するものでもない。実際はゲームのプレイに従って典型とは離れることもあろうし(極端ならば属性自体がゲーム内に変化することもあるが)まして小説の描写が続くうちに属性では表現しきれない(矛盾というほどではなくとも)ような複雑な人間性を呈していくことも多いだろう。現に、レイストリンの属性は後のシリーズで大きく変化していくことになる。『伝説』を想定されているAD&D1stのDragonlance Adventuresのレイストリンのデータ(20lv)では「混沌にして悪」である。一方、より後のd20のデータには伝説当時「中立にして悪」のものもある。





マギウスの杖


 ドラゴンランスの魔術師レイストリンの『マギウスの杖』は、小説が進むごとに若干ずつ背景が説明され、また(レイストリン本人の手を離れパリンの手に渡った後も)さらに重要なアイテムとなってゆくが、本編では大きな力を秘めているという言及がある一方で、直接に強大な魔法を発揮するといった描写があったわけではなく、その齟齬については小説のみからは判然としない。
 その手がかりとして、ドラゴンランスは最初期は小説より前にAD&D1stのDLモジュール群が作られ、小説展開の後もD&Dシリーズの版に従ってゲームデータが作られてきたことは周知の通りである。そのため、ゲーム版のデータや記述からドラゴンランスの人物や物品の「真の能力や背景」を伺おうとすることもできる。しかし、ゲーム版でのマギウスの杖のデータは、小説の元となった初期データや、その後に本編に応じて変更されていったものを含め大きく変化している。実際のところ『戦記』執筆前後にあたる初期の時点では、それほど多くの能力やバックストーリーを思わせるものではない。


〇AD&D1st、DL1: Dragons of Despair
 初出であるDL1モジュールの時点では、プレロールドキャラであるレイストリンのキャラクターデータ箇所に”Staff of Magius (+3 protection, +2 to hit [dmg 1-8], continual light [1 /day], feather fall [1 /day])”とただ1行で示されているだけである(刷によって”[dmg 1-8]”の最後の]が誤植され ”[dmg 1-81”というとんでもない記述になっている場合があるが、ダメージが1d8なのは明らかで、DL2以降も1-8になっているため普通は間違わない)。すなわち、虚弱なMagic Userクラスの攻防能力を申し訳程度に補強し、あとは小説文中でも頻出する「明かり」と「羽毛落下」の発動能力があるだけである。
 DL1モジュールでは重要アイテムとして、青水晶の杖、ミシャカルの円盤、最後にゴールドムーンが持つことになる信仰のメダリオンは巻末のTreasures and Tomesの箇所に記載されているが、この杖は(後の再録版などとは異なり)この重要アイテムの箇所には記載されておらず、キャラデータ箇所以外には一切出てこない。つまり、この防御と疑呪2種のみの能力から考えても、この時点では、「数回の冒険経験後」(3-6lv)のプレロールドキャラが持っている能力補強アイテム(スタームの2Hソード+3同様)のひとつでしかない扱いそのものである。
 DL1の時点では、先にDL1モジュールをプレイしその経過に沿って小説が執筆されているデータ先行小説だが(もっとも、その後も『戦記』の大部分は、プレイ経過準拠でこそないがゲームデータ自体は先に作られている)、しかし一方で、『戦記』小説初期の時点でも、DL1データのような単なる「役立ちマジックアイテム」だけではない代物であるようなほのめかしが既に見られる。DL1ではこの程度の記述しかなくとも、この時点で既に作者らには背景の設定や明らかになっていない能力などの構想があったかもしれないが、その詳細は完全には不明である。
 以後のDL2-4等でも、最初期のDL世界設定集であるDL5: Dragons of Mysteryにも、レイストリンのデータ箇所に全く同じデータしかない。
 なお、DL1-4の再録のDragonlance Classics IではDL1-4と異なり、巻末のMagical Itemsの箇所にも説明され、アイテム性能は後述するDlA(Dragonlance Adventures)の方と同様のものに改訂されているため、このデータとは異なっている。


〇AD&D1st、Dragonlance Adventures
 1st時点の総合的ワールドガイドとして多量の世界特殊ルールも追加されているDlAでは、ヒューマと同行したマギウスが所有していた等の背景の説明があり、「能力ではなく、使用者」により崇敬されるアーティファクトとされている旨の説明がある。
 この説明では、DL1-5の防御、疑呪の能力に加えて、6lv以上のmageが使用した場合、呪文を増幅する能力がある旨の追加の能力がある。増幅効果は:
・所持者が発動した光、空気、精神に影響を与える魔法の持続時間が2倍
・精神集中が中断した後も追加で1ラウンド集中効果が持続
・すべてのダメージ呪文について、ダメージ決定が全ダイスにおいて+2
 であり、術者としては極めて「有用」な能力である。この時点ですでにDL1とは何段か飛ばしで強力な物品となっているが、しかし、杖自体が強大な魔力を発揮する、目を見張る現象を及ぼすといったものではない。能力自体よりも使用者の偉大さが有名という背景の記述内にとどまった能力である。
 DL1-5の防御、疑呪の能力は杖の所有者には最初からわかるが、DlAで追加された呪文増強の能力については、それぞれ実際に対応する呪文(光等の呪文、精神集中を必要とする呪文、ダメージ呪文などと思われる)を使用してはじめてわかるようになっている。


〇AD&D2nd、Tales of the Lance
 背景設定の説明はあまり増えていないが、小説1期の『伝説』完結から時間が経ち、版が上がったためもあると思われるが、ここでもさらにデータに大幅に手が加わっている。
 まずプロテクションリング+3、武器能力やダメージダイス+2、持続時間や集中といったあたりは1stのDlAまでと同じである。これに加えて、Secrets (Hidden Powers)として、AD&Dの多くのアーティファクト同様の大量の発動(疑似呪文能力)が追加されており、チャージ消費式のきわめて多彩なものになっている。

・1チャージ:コンティニュアルライト、フェザーフォール、ダークネス15’R、ホールドポータル、ディテクトマジック、プロテクションフロムイービル/グッド、エンラージ、ストライキング(スタッフのダメージが2倍)
・2チャージ:エンタングル、ガストオブウィンド、ジャンプ、マジックミサイル(3本)、ノック、スパイダークライム、レビテート、テレキネシス
・4チャージ:ディスペルマジック、ライトニングボルト(6d6)、フェインデス、ロケートオブジェクト、ファイアーシールド、パラライズ、インビジビリティ、サモンスウォーム

 この疑呪のラインナップは、基本ルールのうちチャージ有アイテムの中でも非常に強力なものに属する、スタッフ・オブ・パワー(FR世界の小説にもしばしば登場していた)やスタッフ・オブ・マギといった杖にも匹敵するほどの多様な能力である。さらに決定的に違う点は、これら基本ルールのスタッフが消費式であるのに対して、この杖は20チャージを持っており、このチャージは銀の月ソリナリの光に1時間あてるごとに1チャージ回復するという、充電式で無限の使用が可能になっている。(設定上、最初の所有者のマギウス自身は赤の月ルニタリから力を引き出す赤ローブであるが、このTales of the Lanceの説明にはすでに所有者にパリンの名があるので、ソリナリの光云々はパリンが白ローブであることを意識した可能性もあるが、実際のところは不明である。)
 ただし、このSecretsの箇所の擬似呪文能力は最初からすべて使えるわけではなく、所持者が杖を持って念じるたび、かなり低確率(1d10の1)で上記のうちランダムでどれかの能力が認識される。そうして3回認識した能力に対して、しかも使い手がIntの半分(Int18でも45%)チェックに成功して、はじめてその呪文能力を自分で使用できるようになる。非常に多彩な力がこめられているが、よほど使い込まない限りはすべての能力を知り、また使えるようにはならない。
 また、上記のランダム認識のチェックの際、選ばれたのが高位の呪文能力のいくつかだった場合、その場でConチェックに成功しないと使用者は激しく消耗しきり、判定と移動にペナルティを受ける。レイストリンが呪文をかけるたびに消耗しきるという描写は小説版ではお馴染みのものであるが、実際はAD&Dには、特に呪文をかけたその場で肉体的にも消耗してペナルティを受けるという基本ルールがあるわけではない。また、レイストリンはCon10(ほぼ平均値)であり、小説の描写のような極端な虚弱体質では別にない。しかし、あるいはこの小説後のAD&D2ndの杖のデータは、レイストリンがしばしば消耗することに関する(整合するわけではないにせよ)後付け的なデータのひとつかもしれない。
 何にせよ、この時点では名実ともに他のD&D系の「アーティファクト」に相応の物品にめざましい強化をとげている。DL世界のデータは、日本のDL読者からは「ゲームデータなどというものは小説の人気が出てから全部後付けされたものに違いない」などとほとんど断定されて流布されていることが殆どであり、実際にはDL初期のAD&Dモジュールのものについては小説以前に設定されているためその説の多くは誤りだが、しかし、このマギウスの杖の2ndの強化版については後から小説設定や人気が膨らんだ反映という側面は否定しきれないものがありそうである。


〇3.5e d20, Dragonlance Campaign Settings
 3.5eのd20のドラゴンランスシリーズはD&Dではなくd20(ライセンスによるサードパーティーのD&Dライクゲーム)製品で、「D&DのTSR社から離れた小説作者ら(Sovereign Press社)が、DL世界について権利をTSRから引き継いだWotC社からライセンスを受けて作った」というややこしい経緯の製品だが、要は小説作者らによるD&D系データのDL世界シリーズと考えてよい。(このシリーズで最初のDragonlance Campaign SettingsはWotC社から出ているが、マークは「D&D」ではなく「d20」である。しかし、日本ではあたかも「D&D」として紹介されていることが多い。)
 3.XeではAD&Dに比べてバランス上データが変貌し、コンバートに伴って相対的・絶対的に弱くなっている品物(FR世界のドリッズトの剣の大幅低下が有名だが、DL世界でも他記事で述べる竜槍や、スタームの剣もそうである)も少なくない。
 d20のマギウスの杖は、「+2クォータースタッフ、+3反発ボーナス(プロテクションリングと同様)、フェザーフォールとデイライトを1日1回」という基本性能は同様である。光、精神操作、風の呪文については、3.Xeの《呪文距離延長》特技と同様に距離を延長できるが(なぜかDlAのような「持続時間」ではない)1日3回に限られている。
 武器のスタッフとして使用した場合、相手が秘術術者でない場合は、1レベルの負のレベルを一時的に与えるという、以前は見当たらない能力がある。特にそのレベルが杖の持ち主に一時的に加算されたりもしない。
 1stのDlAからのダメージ呪文の増幅能力、2ndにあった大量の疑似呪文能力は、全く記載が無くなっている。「他にも使用者によって異なる様々な能力を発揮する」「前の使用者が付与した能力が追加されているかもしれない」などという非常に曖昧な説明があるのみである。初出DL1版とDlA版の中間くらいの能力になっているが、小説側とは整合する範囲で、低lv(『戦記』開始時のレイストリンや、杖を受け継いだ直後のパリン)が持つ可能性のあるアイテムとしてバランス上の支障が生じないようにしたものと考えられる。


〇3.5e d20, Legends of the Twins
 『伝説』についてのデータが主に追加されたこの資料のレイストリンのキャラデータ(27lv時)に記載があり、基本的には上記d20のDragonlance Campaign Settingsのデータを参照するように書いてあるが、そのデータの一部がレイストリンによってunlockされた能力に置き換わる旨の記述がある。ここでは「+2スペル・ストアリング」スタッフとなっている(DMGでは本来は指輪に付与される性能であるスペルストアリングは、呪文レベル5レベル分の呪文を蓄える)。また、呪文抵抗23、反発ボーナスは+6(+3でなく)、各種のグレーター・メタマジック・ロッド同様に呪文の距離延長、威力強化、最大化、持続時間延長を行うことができ、それぞれ1日3回ずつ適用できる。また、アークメイジのクラスを持つ使用者は(レイストリンも5lv持つ)「秘術の業火」による純粋魔力の攻撃をスペルストアされたものを含めて近接・遠隔で放つことができる。成長後のパリンのデータ(ウェイレスの塔の枢密会議の総首座となった頃の18lv時のデータが載っている)の箇所でも杖のデータは同じものとなっている。
 3.5eの物品としてはかなり強力であり、ある程度は1stのDlAまでの性能に戻った部分もあるが、威力や持続時間延長が無限回であったDlAには及んでいない。2nd当時の疑呪も、おそらく自前で豊富な呪文を持つ『伝説』時レイストリンや成長後パリンには不要とも考えられてであろうがデータとして設けられていない。





 Neverwinter Nightsモジュールの紹介(NWN記事、公式PnPコンバートモジュール記事へのリンク)

 ・DL1: Dragons of Despair
 ・DL2: Dragons of Flame
 ・DL3: Dragons of Hope





凡例(略語など)

富士見版:最初の邦訳として富士見ドラゴンブックから出ていた文庫版。一部の訳が後の注釈版とは異なる。ここでは無意識に富士見版の訳語を用いていることが多い
注釈版:いわゆるアスキー版と呼ばれるもので、注釈つきのThe Annotated Chronicles/Legendsの邦訳。基本的に現在(2024)読むことができる版である。エンターブレインの単行本、電子書籍など複数の版形があるが、基本的に富士見版以外はAnnotatedの訳
 なお、戦記、伝説とも、巻数は断り書きがない限りは日本語版(富士見版、注釈版ともにそれぞれ6巻)の巻数を指す(原語の3部作ずつ等ではない)
『戦記』:Dragonlance Chroniclesの邦訳。『ドラゴンランス戦記』は富士見版の邦題で、注釈版の訳では『ドラゴンランス』のみの題名になっている
『伝説』:Dragonlance Legendsの邦訳。富士見版、注釈版ともに邦題は『ドラゴンランス伝説』
『英雄伝』:外伝集Dragonlance Tales Iの邦訳で富士見版のみ。邦題は『ドラゴンランス英雄伝』、一時の富士見の広告等の「ドラゴンランス神話」もこのシリーズを指すと推測されている。外伝短編の一部は『セカンド・ジェネレーション』(邦訳では注釈版と同シリーズで、電子版あり)に収録されている

※D&Dルール書類などの略語はフォーゴトンレルム/NWN用語集などと同じものも用いている






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