私家版*band用語集
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バイアクヘー Byakhee 【敵】
ビヤーキー。下級の奉仕種族。星間の乗用馬。H.P.ラヴクラフト『魔宴』に登場する生物が基になっているようだが、むしろこの名ではオーガスタ・ダーレスの一連の作品に旧支配者ハスター(→参照)の奉仕種族として定義されているものと言ってよい。ラヴクラフトの記述では「飼いならされた翼を持った生き物」で、正確な姿は形容しがたいとされるが、おおむね、人型でコウモリのような翼を持ち、毛に覆われ、羽虫・げっ歯類・腐肉漁りの鳥の印象が混ざり合ったような生物とされる。
ダーレス以後の物語やCoCゲームでは、ハスターの下僕の代表的なものとされ、星間宇宙を飛ぶ能力もハスターに準ずるものといえる。知能も高い生物なのだが、知識のある人間ならば(ハスターの名をかりることによって)使役することができる。ダーレスの物語では使役者が宇宙を移動するために呼び出されるが、ビヤーキー自身は宇宙を飛べるといっても、背中に乗る者が宇宙で生きられる能力を得られるわけではないので「黄金の蜂蜜酒」などで宇宙で生存する能力を得なくてはならない。ゲームなどではこうした移動手段として、また単なる魔術師の下僕として等、クトゥルフ神話の奉仕種族のうちでは最も登場する機会の多いひとつである。
*bandでは[Z]以降登場し、41階というノーマルモンスター中ではかなり強力なものの一体である。腕力と経験の吸収打撃を持っているが、これはCoCルールで吸血攻撃をしてくることへの再現と思われる。呪文はまれにだがデーモン召喚と混乱、ファイアボルトを使用する。最初の二つはともかく、最後のものは根拠は不明だが、おそらくいかにもな「魔法攻撃」のために付帯された能力で(風属性なら電撃であるべきだが)夜鬼(→参照)のものと同様、さほど深い意味はないと思われる。
→ハスター
灰色マント王シンゴルのクローク The Cloak of Thingol 【物品】
シンゴルは、トールキンのアルダの神話および伝説時代の灰色エルフの王であり、実質上は中つ国のエルフ(ハイエルフ以外)すべての首長であった。
のちにエル・シンゴル(灰色マント王)と呼ばれたエルウェは、エルフの三大種族のひとつテレリの上級王であったが、三大種族がアマンの地に移住する途中、中つ国に来ていたマイア(下級神)のひとりメリアンと恋におち、その地にとどまった。彼を慕って共に留まりドリアスの王国をなしたテレリらが、ハイエルフ(光のエルフ)と中つ国のエルフ(闇のエルフ)の中間を意味する、「灰色エルフ」である。なお広義には、ドリアス以外にも中つ国にとどまったテレリすべて(キアダンら水辺のエルフや、オスシリアンドの緑のエルフなども)はシンゴルを指導者とする灰色エルフとすることもある。(テレリの極一部はエルウェの弟オルウェに率いられ、アマンに渡り「アルクウェロンデのテレリ」と呼ばれるハイエルフとなった。)
シンゴルは銀髪で、中つ国のエルフでは最も上背が高く、また灰色エルフは基本的に中つ国のエルフだが、シンゴル本人だけはエルフの移住の前に使者としてアマンを訪れたことがあるのでハイエルフであり、メリアンと並んでもマイア(神族)のごとき威厳があったという。灰色のマントに、銘剣アランルースを佩いていた。彼とメリアンの娘がルシアン王女(→参照)である。
ドワーフと深い親交を結び、多数の武具をドワーフから提供され、ドリアスの都メネグロスは石製の地下宮殿であった。しかし、第一紀の末にはシルマリルに目がくらんでドワーフらと諍いを起こし刺されるという、あまりにもつまらない最期(神話の英雄らしいとも言えるが)をとげる。この諍いは後に灰色エルフの末裔ら(スランドゥイル一族など)に後をひくことになる。
シンゴルのマントに詳細や能力の描写があるわけではないが、因んだクロークが[V]から登場する。かなりレアリティは高めなわりに、四元素(なぜか電撃抜け)耐性と追加能力がつく場合があるが、発動は魔力充填という地味な物品である。充填がないクラスならば役立つかもしれないが、他の耐性が揃うクロークがあればそちらが優先になることが多いと思われる。
→アランルース →ドワーフの首飾り
ハイドラ Mother Hydra 【敵】
→ダゴン
ハイエルフ High Elf 【種族】
出典:上(かみ)のエルフ。トールキンの著作で、まだ人間もいない神話時代にヴァラール(諸神)に迎えられて不死の国アマンに行ったエルフ、又はその子孫でアマンで生まれたエルフを指す。中つ国のエルフ(灰色エルフ、森エルフなど)に比べて、圧倒的な能力(人間とエルフの差ほどもある)を持つ。なお、原作邦訳で「ハイ」エルフでなく「上の」エルフとなっているのは、英語(ここではhigh)は訳出する国の現地語に訳さなくてはならない、というトールキン自身の指示によるものである。
ヴァンヤール(金髪・光のエルフ)の総て、ノルドール(知識・地のエルフ)の大半、テレリ(海のエルフ)の一部がアマンに渡った(テレリの残りの多くが中つ国で灰色エルフとなった)。同じテレリの種族でもアマンの光を見たことがあれば上のエルフとなるので、「上のエルフ」とは厳密には「種族」を指す語ではない。しかし、一度は全員が不死の国に行きながら、モルゴスと戦うために戻り、第三紀にも一部がそのまま中つ国に住んでいるのはノルドール族なので、『指輪物語』などでは「上のエルフ」というと、ほぼ「ノルドール」を指す言葉同然とみていい。
上のエルフに限らず、トールキンのエルフ(のうち、自由の民エルダール)自体がそうであるが、寿命というものが全くない上、肉体的能力も含めて(彼等は現代の人間より遥かに大柄である)あらゆる能力で人間を圧倒する。和製RPGのようなあからさまな外見特徴によってではなく、その美しさと人間離れした雰囲気によって、ひと目でエルダールとわかるのである。神々すら、彼らにとって信仰などの対象ではなく「同じアマンに住む長兄・教師」にすぎず、ヴァラであるモルゴスや、マイアであるサウロンと戦うことも辞さない(これは、和製RPGなどでインフレの末に勇者が邪神に立ち向かったりするのとは異なっている。種族皆にとって、最初から対等に戦う存在でしかないのである)。おそらくトールキンは、西方に行った上のエルフを(行かずに単なる「妖精」へと変化していった中つ国のエルフに対して)ケルトなどの精霊神になぞらえていると考えられている。
なお、トールキンが「エルフ」という言葉を用いていることに対して、「トールキンのエルフは北欧の小妖精『アールヴ』が元になっている」とし、小妖精アールヴから大妖精エルダールへの改変についての説を展開する者がいる。昨今、北欧神話は神話伝承関連のアンチョコ本などで頭に詰め込まれる機会が非常に多く、そうした知識を使用してみたくなるのであろうが、これは到底妥当な説とは言えない。実際はトールキンがクゥエンディの原型としたのはケルトの強大な古妖精神らであり、強いて北欧(ゲルマン、スカンジナビア)神話にあてはめるなら、ヴァーン神族そのものである(なお、上のエルフ3種族のうち、最上位の「ヴァンヤール」がまさにヴァン神族であり、ヴァンヤールの長イングウェの名は、北欧のヴァン神族フレイ神の別名でもある)。「エルフ」という語は確かに北欧のアールヴの流れもくむが、トールキンがこの語を用いたのは、フェアリー faerie(→妖精の項目参照)のような妖精を示すほとんどの語が近代に至って極度に「矮小化」「通俗化」した結果、たまたま「かろうじて使用に堪える唯一の語(追補編より)」とトールキンが判断した語をあてはめているに過ぎない(アールヴであるとしても、後代に卑小化される前の、ヴァン神族に比肩する存在であったころの偉大な精霊神の姿ということになる)。また、トールキンは最初期の原稿では「エルダール」と種族の名をクゥエンヤ語でそのまま表記することが多く、また登場する古妖精らに対してむしろ多用していたのは「ノーム Gnomes」という語だった。「ノーム」ははるかに後(『ホビット』の初期版の頃まで。→ノームの項目参照)まで使い続けていたのは周知の通りであるが、「エルダール」の過剰な多用はかなり初期に「エルフ」という語へと(相互に対応する語として)置き換えられた。考えてみると、仮にトールキンが初期のまま「エルフ」という語をたまたま使わずに続けたとすれば、現在のファンタジーやRPGの様相そのものが全く異なったものになっていたことは疑いもない。
トールキンのエルフは、他の妖精説話の小妖精、まして劣化コピーの極め付けとなった他のファンタジー/RPGのエルフとは厳密に区別され、例え他のファンタジーのエルフのファンであっても、一種特別視する存在であることが多い。
なお、AD&DをはじめD&D系では、プレイヤーキャラクターが扱えるのがエルフ氏族中の「ハイエルフ High Elf」になっている。これは、D&D系のエルフ中で強力な種族という意味ではなく、単にRPGのエルフらの性質をトールキンのエルフ主要種族でそれに近いものに分類した場合(RPGのウッドエルフ→トールキンのナンドールなど)最もプレイヤーとして典型的なのはノルドールに近い位置づけに当たる種族という意味、あるいは、『指輪物語』でフロドが旅先で出会うギルドールが、ノルドールのひとりであることから、「一般に旅しているエルフ=High Elf」と解釈されていると思われる。ひいては、単に最初のD&D(OD&D白箱、1974年)の時点ではトールキンの側の資料があまり刊行されておらず、上のエルフの定義が充分には理解されていなかったため、等と推測されている(実際は、ガラドリエルと共に登場するエルフらや、ギルドールと共に旅している随伴者の殆どは、ノルドールではないと思われる)。AD&Dにおいて、「ハイエルフ:一般的」「グレイエルフ:ハイエルフよりも高貴」と、トールキンの設定と逆転しているのは、おそらくはOD&DやAD&Dの初期には他の資料がなく、指輪物語本編(追補編Bの年表解説など)の記述のみから推測せざるを得なかったためと考えられる。しかし、これはD&D系でも4版で改訂されるまで数十年間直っておらず、この定義は海外では広く普及している。
しかし一方では、特に和製RPGでは「ハイエルフ」とは、普通のプレイヤーの選べるエルフに対し、「ほとんど生き残っていない古代のエルフの上位種族」として扱われることが多い。さらに一部作品の影響で、この語に「エルフよりもさらにひ弱な種族」などと勝手なイメージを周囲に押し付けているゲーマーなども多数存在する。*bandの解説サイトにすら(ヘルプファイルさえまともに読まずに)そうした「ハイエルフ」であるなどと解説しているサイトもある。なお、[Z]和訳では、High Elfはアルダのエルダールの、トールキン和訳中での正式な訳語に従って”上(かみ)のエルフ”になっているが、[Z]翻訳サイトの掲示板に「”上のエルフ”などという訳語になっていますが、これはTRPGのエルフの上位種族のハイ・エルフという種族のことだと思いますよ」だの、某巨大掲示板のRLスレッドに「TRPGのハイ・エルフのことを、知らずに”上のエルフ”なんて萎える訳にしているZangband」といった、極め付けに間の抜けた発言が書き込まれたのは、何かの冗談としか思えないが本当の話である。
余談だが[変]ユーザーの間ではこれらを踏まえて、*bandにおける種族「ハイエルフ」はトールキンにおける厳密な上のエルフの定義だけではなく、トールキン作品の強力に描写されているエルダール全般や、他作品でもそれに匹敵する強力な上位エルフ、*bandにおける種族「エルフ」がそれ以外の”普通の”エルフと解釈されることも多いようである。
種族:[V]から登場するハイエルフは、いかにもトールキンのエルダールの通りほぼあらゆる能力で人間を上回っており、生い立ちで2メートル強の極端な長身になることが多いことを見ても、いかにも人間離れした体躯を思わせる。閃光耐性はともかく、視透明(これは「エルフ」にはない。上のエルフは日光も月光もない時代に神々の地で生きていたため、光に頼らずに物を見ることができる)も有利である。なお、射撃能力の技能は[変]においても、すべての種族中最高値である。
[V]では賢明さのみが低く(「エルフ」は+1であるが、「ハイエルフ」は−1である)『シルマリルリオン』での、知識や技術は多くとも血の気が多すぎ短慮的なノルドールをイメージしているのかもしれない。なぜか[Z]では賢明さもプラスになり、万能種族になったのだが、[変]ではふたたびマイナスに戻されている。他の種族の賢明さが上がったのと相まって、種族ごとの役割分担のためかもしれない。
経験値のペナルティの多さから、結果的に器用貧乏な嫌いがないでもないが、あらゆる職業([Z]以外では魔法は知能で用いるタイプの)に対して有利な種族と言えるだろう。
→エルフ
ハイオンハーン Hionhurn the Executioner 【その他】
執行者。絞首台の神。マイクル・ムアコック『エターナル・チャンピオン』シリーズにおいて、複数の作品・次元世界に共通して存在する数多くの<混沌>の神のうちの一体で、『エルリック・サーガ』に登場するほか、その名前は、ムアコックのほかの作品にも出てくることがある。
『エルリック』シリーズでは、第五巻末に収録された、赤衣の射手ラッキール(エルリックシリーズではいわゆる脇役の介添人のひとりとなることもあるが、自身が永遠の戦士となって主役を果たすこともある)が平穏の都タネローン混沌の勢力(ナージャンの率いるナドソコル軍など)から守るために活躍する、外伝的挿話で登場する。増援を求めて<混沌>の次元界に踏み込んだラッキールと案内の隠者ラムサーの前にハイオンハーンが現れ、このときは裸で木の幹のように節くれだった巨大な姿で、ライムのような緑色をしている。ラッキールらを阻もうとするが、ラムサーによって<正義の魔法>を付与されたラッキールの矢によって追い払われる(矢が当たってどうなったのかは不明だが、呻き声が聞こえたとあり、傷つけられたのは確かであるらしい)という、混沌神の中でもあまりよいところのない役回りである。直前にこの領域に他の混沌神がいた記述がなければ、にわかには神であることには気付きにくいほどである。
しかし、執行者という名と、特にエルリックのTRPG『ストームブリンガー』では処刑者などに広く信仰されるいわゆる典型的悪神のイメージがさらに拡大されているためか、混沌神の中でもかなり認知度は高い。特に、日本のファンらにとっては、漫画『北斗の拳』の悪役、わりと下っ端の小ボスキャラながら威厳があり根強い人気を持つ「ウイグル獄長」(アニメ版で矮小化したことにファンらは強い不満があるとのことである)が、ハイオンハーンの信徒や教義のイメージとして、どういうわけか毎回のように引き合いに出される。
*bandでは、[Z]以降の混沌の戦士などのカオスパトロンの一体としてこの混沌神が取り入れられている。チャードロス(→参照)と並び、*bandの長期的な戦略を狂わせる最たる要因となる「自己変容」POLY_SLFがないことから、わりと重宝されるカオスパトロンである。
パウアニンメン The Set of Gauntlets 'Paurnimmen' 【物品】
→コーウィン篭手
パウアネン The Set of Gauntlets 'Paurnen' 【物品】
パウアネンとは、ICE社のMERPにおけるTRPG用のアルダ世界の設定において、第三紀の灰色エルフの預言者フイネンが持っていた指輪である。フイネンは黒髪でつかみどころのない風采のシンダールであるというだけで、その素性は定かではなく、ドル=グルドゥアのサウロン軍によって「闇の森」となった緑森大森林の南部に住んでいた。フイネンは大きな力ではないにせよ、自ら力の及ぶ範囲でひそかにサウロンの軍に抵抗・その勢力を妨害しており、ちょうど同じ森の中部に住む魔法使ラダガストと同様、サウロンの勢力範囲から立ち退くこともなく隠者の立場でありながら抵抗していた賢者のようである。
パウアネンとは「水の拳」の意で、青いラエン(エルダールの謎の樹脂)で作られており、内側にシンダリンで「水の怒り」と刻まれている。そのルーンの力を解放すると、水を氾濫させて攻撃(ウォーターボルト)に用いることができる他、周囲の地を濃霧で覆い尽くす、使い手を隠蔽するなど自在である。所有者と同様にその由来は不明だが、ただし、(MERPのルール上)力の指輪のように使い手の呪文能力を幾倍増させるといった力を持っておらず、異種のものに見えるため、エレギオンの力の指輪の試作品と考えるのは早計かもしれない。
*bandには[V]以来、ガントレットとしてパウアネンというアーティファクトが存在する。が、いきなり筆者の私見だが、恐らくこれは別にMERPの物品を参照したわけではなく、「水の拳」という当たり前の発想のエルフ語の名称が、単に偶然の一致をみたのみと思われる。*bandのものは指輪ではなくて「篭手」であるし、「パウアニンメン(→コーウィン篭手)」「パウアッハ」「パウラエゲン」「パパウパウ」といった類似アーティファクトも、MERPの設定の方には存在していない。また*bandのパウアネンは名前こそ水であるが、属性は「酸」であり、「地」の要素を持っている(*bandにおける「水」の解釈は実質は酸だったり氷だったり一定しないのだが)。*bandのものはおそらく他のパウシリーズ同様、オリジナルの物品として独自に創作されただけだろう。
*bandのパウアネンは、酸の耐性と申し訳程度の発動によるアシッドボルト以外は、麻痺知らずや器用増加といった能力(メイジ系呪文使いが使用可能となる)もない。パウシリーズは、コーウィン篭手として若干強化されたパウアニンメンを除くと、サンクシリーズ同様の非実用的小物アーティファクトの一群となっている。
ハウンド Zephyr Hound 【敵】
*bandの掲示板などでよく出る疑問に、「ハウンド」(シンボル'Z')と「犬類」(シンボル'C')との明確な区別とは何なのか、というものがある。(「ヘルハウンド」はなぜ'Z'でなく'C'なのか、というように。)
手っ取り早い話が、'Z'シンボルとは、[V]が多く引用している古い指輪物語TRPGことMERPの原型ルールでもある、『ロールマスター』の「ゼファーハウンド」を指している。[V]の原型であるゲームMoriaでは、モンスターシンボルとして大文字のZが未使用だったため、[V]ではこれらTRPGにおいて比較的ポピュラーな要素である「ゼファーハウンド類」を、ひとつのシンボルを占拠させて加えたのだろう。(英語版のヘルプファイルのシンボルごとの説明には'Z: Zephyr Hound'となっているのだが、和訳ファイルでは「Z:ハウンド」としか書かれていない。手っ取り早くわかりやすくなった反面、原型が辿りにくくなってしまったわけである。)要は*bandでは「ゼファーハウンド」扱いのハウンドと、それ以外の犬・狼類は別物ということで、ヘルハウンドは「ハウンド」であっても「ゼファーハウンド」ではないということである(ヘルハウンド等については別エントリーに譲る)。
ロールマスターのゼファーハウンドは、Elemental Companionの記述にも入っていることからわかるように、動物というよりは、いわゆる魔法的な精霊クリーチャーの一種である。「毛皮が元素に覆われている」といった描写から、必ずしもそれらの元素の塊というわけではなく、半精霊的なものでもあるらしい。ロールマスターのElemental Companionには、精霊全般の特性として、精霊として定番の地水火風のほか、光や闇、カオス、ネクサス、エーテル、重力、時間、バイブレーションといったよくわからないものも含まれており、ハウンドもこれらの属性のデータが揃っている。
この原典でのゼファーハウンド(風の猟犬)自体は、多く考察されるように実在伝承の古い狩神が引き連れる霊の群犬(英霊の「ゼファーロード」や、ジュリアンがヘルハウンド(*bandではゼファーではないが)を連れているように)などからの発想であろうが、これらTRPGでは召喚獣として扱われることも多い。
*bandには、ロールマスターのサプリメントに登場するとおぼしきもの以外にも、ありとあらゆる属性・攻撃の種類に対して、対応する属性とそのブレス能力を持ったハウンドが集団で登場する。元素や属性(秩序・混沌など)のみならず、タイムハウンドなどの上記ロールマスターに登場するものがいるが、結果的に海外ファンタジーの通例としてAD&Dの擬似プレーン精霊に対応するものなどが揃っている。
唯一[Z]から追加されたクトゥルフ系の「ティンダロスの猟犬」(→参照)は'Z'シンボルになっているのは、単純に半幽体犬・ブレスを吐くといった性質がゼファーハウンドによく似ているからと思われる。
一般にハウンド類は、耐性や引き際(物資的にも、またプレイヤーの慣れ的にも)がないうちはブレスの連続やアイテム破壊など危険きわまりない。が、後半になると、さほど肉体能力は強力でない割に経験などは割がよいので、対処手段が充分ならば良い経験稼ぎの相手になるという、非常にはっきりした戦術の対象である。*bandのゲームの様相を最も特徴づける、代表的クリーチャーの一群だといえるだろう。
*破壊* *Destruction* 【システム】
自分の周囲のあらゆるものを破壊する手段。杖や巻物、カオス魔法がある。これを発動すると、広域に渡って地形が地震後のように無秩序な岩くれだらけになり、その範囲内のすべての物品およびモンスターも消し飛ぶ(アーティファクトやユニークは例外あり、後述)。また自分も盲目になるが、これを使用するような階層では大抵盲目耐性があるので忘れていることも多い。レベル・テレポートに次ぐ最後の緊急手段として用いられる。
Moriaの時点からこの*Destruction*の巻物・杖があり、どういう発想で緊急手段をこういうものにしたのかは定かではない。Moria以前のRPGには、こうした一撃で敵も味方もすべて台無しにする豪快な発想は見当たらない。強いて言えばD&D系の、魔法の杖を術者が自ら砕いて自爆するretributive strike(新和旧訳ではファイナルストライク)あたりである。ただし、深読みすれば、『指輪物語』のモリアの場面で、ガンダルフとの魔力が互いを破滅させるほどせめぎあい(単に、扉を挟んで開ける方と閉じる方が引っ張りあっただけの場面でもある所が、いかにも『指輪』の魔法の描写である)結果、大爆発が起こって坑道のその周辺を倒壊させ、結果的に敵がすべて埋もれ、脱出できたというくだりも彷彿させる。(なお、retributive strikeのモチーフはモリアの最後にガンダルフが橋を破壊した魔法とする説もある。)
ただし、実際にはこのときバルログが埋もれてはいなかったのと同様、ユニークモンスターの存在する[V]以降は、ユニークはその場から追い払われる(別の階での再生成待ち)だけで、倒したことにはならない。また、クエストモンスター(サーペント等も含む)は*破壊*しても同じ階の別の箇所に再生成されるだけ、すなわち全快して現れるので、これらへの対処手段にはならない。追い詰められた際の手段としては、回復系の薬や魔法のように、敵に与えたダメージはそのままに体勢を立て直す手段ではなく、あくまで「命だけは取りとめるための最後の緊急手段」であることを認識しておく必要がある。
また[Z]や[V]では、アーティファクトも*破壊*されることはない(正確には、アーティファクトの存在するマスは、一緒に落ちている他のアイテムごと影響を受けない)。そのため、大量の物品と強敵が詰まっているバルト(宝物庫)などを*破壊*し、アーティファクトだけを集めるという大味なプレイングが[V]や[Z]ではしばしば見られた(ただし、特に[Z]ではランダムアーティファクトより強力なエゴアイテムを回収できないので、有効とは言えない場合がある)。[変]ではこれを踏まえてか、アーティファクトも消失するようになっている(永久に失われるのではなく、鑑定する前ならば、別の機会での再生成待ちとなる)。どのみち、*破壊*してしまうとそれまでに敵の落とした上質な物品などを回収できなくなるので、無闇に使うものではないが、レベル・テレポートと同様、緊急時には命の方を惜しむことが肝要である。
破壊スル者 The Destroyer 【敵】
出典:デストロイヤーはマーベル(マーブル、マーヴル)のアメコミシリーズに登場する一種の破壊ロボットである。身長2メートル、金属板をリベットで張り合わせた鎧状のような、正直な感想としてはあまり見栄えのしない姿だが、マーブルの宇宙神ヒーロー達を大幅にしのぐほどの力を持つ、宇宙最大の危険物とも呼ばれる代物である。正面からぶつかれば、ソー(北欧神話を元にした宇宙神族としてのアスガード神のヒーローで、マーブル全体でも緑巨人ハルクと並んで最大の腕力を持つ)を遥かに圧倒する力を持つ。素材の謎の金属板は、マーブルでは有名な強力合金アダマンチウムをしのぐ正体不明の硬質素材からなる。他者の魂や精神力を鎧の中に取り込み、それをエネルギーとして、ほぼ精神なく破壊衝動だけで動くが、取り込まれた(操っている)者がある程度意思を反映させることもある。ロキに操られてソーと戦ったり、アスガード側が『シルバーサーファー』に登場する破壊神ギャラクタスに対して取引材料として持ち出したり、といった場面がよく知られている。デストロイヤーの特殊能力として、額のバイザーを開いて発動する「破壊光線」があり、これは星を丸ごと焼き払うといわれ、ソーの無敵の槌ムジョルニアを破壊し、ついでにソー自身を焼死させたこともあった。
*bandの思い出文章の範囲内でのネタバレを含めると、デストロイヤーは実際のところは、セレスティアルズ(生命に審判を下す宇宙神ら)という存在らに対抗するために、アスガードだけでなくオリンポスなどのすべての神々が協力してひそかに作製していた切り札ともいうべき破壊兵器だった。実際のセレスティアルズとの戦いでは、デストロイヤーはこれらの神々の魂とパワーをすべて乗り移らせて600mに巨大化して戦った。
敵:*bandには[Z]から登場する。[Z]はワーグナーを経由して北欧つながりの要素が多いため、そこから『ソー』などのアメコミに至り、導入されたものと思われる。アメコミの翻訳では通常「デストロイアー」とそのまま表記されるが、[Z]の和訳ではアメコミのこのキャラになじみがないと考えられてか、訳語をひねって独自のインパクトを出すためか『破壊スル者』となっている。この危惧からか、さらに和Zこと板倉氏は、思い出文章(これが稼動するとラグナロクの日が近い)や大元の設定(セレスチャルに対する兵器)を拡大解釈して、「巨神兵」(世界破壊兵器)とか「S2機関エヴァンゲリオン」(対天使決戦兵器)とかに名前を変更しようと思ったこともあったらしいが、幸か不幸か実装されなかった。(なお、こうした経緯が部分的に知られているせいで、アメコミでなく元来の北欧の別の何かであるとか創作であるかといった推測や風説がプレイヤー間に流れることも多かった。)
*bandでの能力としては、マーブル内でもきわめて強力なキャラクターであることに相応してか、非常に強力な敵となっている。終盤の危険・強ユニークの代表格として語られることが多く、強烈な破壊力を持つが、召喚や能力減少のような特殊な能力は持たず、上記のバイザーの破壊光線が元とおぼしき「魔力の矢」をはじめとして、「対処可能」な能力を数多く備えている。そのため、この敵への対策のために特別に装備を選択して挑む、といったプレイが多く(準備なしにいきなり深層ランダムクエストで破壊スル者が出たら放棄する深層プレイ者の報告、等)そういったプレイヤー知識や能力を試される、ある意味で終盤の試金石としての性質を持つ敵である。
破壊の隼の剣 Falcon Sword of Destruction 【物品】
「はかぶさのけん」とも呼ばれていることの多いこれは、FC(NES)版当時の『ドラゴンクエスト2』のきわめて有名な「裏技」で、呪われているが攻撃力は高い「はかいのつるぎ」と、攻撃力は低いが2回攻撃が可能な「はやぶさのけん」の、両方の利点を得るというものである。
DQ2のとあるイベントで、幻術のかかった神殿が舞台になることがある。この中で装備を変更しても、神殿を出る等で幻術から戻ると強制的に神殿に入る前の装備に戻るのだが、なぜかパラメータは神殿内の装備のまま戻らない値という、システムの手落ち(不具合というほどではないがバグといえばバグである)がある。そのため、神殿に入る前に「はやぶさのけん」を装備し、神殿内で「はかいのつるぎ」を装備すれば、幻術から出た時には「はやぶさのけん」に装備が戻るが、攻撃力のパラメータは「はかいのつるぎ」の高い値のまま戻らない。しかも装備の特性としては「はやぶさのけん」なので、2回攻撃が可能で「はかいのつるぎ」の呪いの効果の方は受けないというものである。
すなわち、裏技の俗称から想像されるような、「はかぶさのけん」「破壊の隼の剣」という名前のアイテムを「作る」わけではない。レベルアップや別の装備への変更でパラメータが計算し直されると、当然元に戻る。また、「はかいのつるぎ」「はやぶさのけん」以外の効果を合成することも可能である。例えば「あくまのよろい」などの呪われた防具を神殿内で装備することで、呪いの効果は受けず防御力は得るといったことができる。虚弱なサマルトリア王子をこれで強化することもできるが、そもそもこの王子は攻撃力が高いアイテムの装備自体ができず、最大で「鉄の隼の槍」なる代物であまり使えない。
「俺の剣は二度“破壊”の風をおこす……」
(吉崎観音『ドラゴンクエストモンスターズ+』)
裏技であり、明らかにゲームバランスを崩すものといえるが、『ドラゴンクエスト2』は当時のゲームとしてもやや難易度が高く、長大すぎる復活の呪文などやり直しの辛いゲームでもあるので、本当にこの裏技を頼りにクリアした、というプレイヤーの話は思ったより多く聞かれる。
この裏技は基本的にFC版のもので、他機種のリメイク版では基本的に使えなくなっている。例えばリメイク版ではサマルトリア王子が強化され、隼の剣と共に破壊の剣も装備できるようになっていることがあり、上に引用した漫画の場面はそれを意識したものであるらしいが、リメイク版ではこの裏技自体が使えないので漫画をそのまま再現することはできない。他のDQ内での登場例としては、DQ2のゲームブックには「隼の破壊の剣」というこの技をひねったものが登場したので、「はかぶさのけん」「はかぶさのつるぎ」等と共にDQファンにはこちらの(隼と破壊の順番が入れ替わった方の)名で呼ばれることもある。複数の関連作品に登場することからも、DQシリーズの裏技の中でも特に認知度が高いものと言ってよいだろう。
*bandでは[変]のDQ要素の追加アーティファクトのひとつで、ベースアイテムが「隼の剣」である都合上この名前になっている。追加攻撃とあわせて攻撃力はかなり高く各種元素ブランドもある。しかし、元のDQ2では呪い効果が除去されていたのに対して、[変]のものは呪いや太古の怨念、モンスターを怒らせる効果が入っており、ペナルティーアイテムになっている。これはむしろ破壊の剣の呪いというより元が「裏技」であったゆえのペナルティかもしれない。
爆発の薬 Potion of Detonations 【物品】
噂の巻物の中に「爆発の薬はニトログリセリンという名でも知られている」というものがある。実際にdetonationは爆発・起爆の意で特に爆薬などに関して使われるので、その連想に近いことは確かである。グリセロールの3硝酸エステルであるニトログリセリンは、アルフレッド・ノーベル発明によるダイナマイトに使用される化合物として爆発物ないしその原料(トリニトロトルエンと共に)として、また少々の衝撃で大爆発を起こす非常に危険な液体、として一般に広く知れ渡っている。実際には衝撃というよりも加熱(およびその元となるわずかな摩擦)であるが、1滴でも反応実験に用いたビーカーが破裂するほどの爆発力から、ノーベルが着火までは安全に扱えるダイナマイトを発明する以前は、危険すぎて実用にたえないとされてきた。
爆発の薬をニトログリセリンとしたのは、[Z]以降で投げつけることによって爆発ダメージを与えることができることからのようだが、[V]以来の爆発の薬はあくまで「飲むと大ダメージ」であり、本来のニトログリセリンは狭心症の薬品(グリセロールが加水分解されて生じる窒素化合物が血管拡張作用を持つことから)でもある。(なお舌から吸収し、そのさい甘い味がする。)無論、ポーションの瓶まるごとのニトロそのものを大量摂取してただで済むわけがないが、それが同じ量が爆発した時のダメージと同等といえるのかどうかは、ヒットポイント論ともなるのでにわかには判断することはできない。ともあれ、なにしろ噂の巻物の言うことであるので、ニトログリセリン論の真偽のほどは判ずることはできないだろう。
結局のところ、[V]の爆発の薬は、高レベルにおいて「毒の薬」の上位版にあたるポーションを追加する発想のひとつと思われ、あくまで飲むことによる効果を想定したであろうことから、detonationは体が炸裂する(→ケンシロウ)といったものや、飲んだ時よりむしろ飲もうとして蓋を開けた瞬間に炸裂してトムとジェリーように真っ黒で髪がヒマワリ状などといったものを想定したものと考えられる。死や破滅の薬といった上位の危険ポーションのどれにも言えることだが、毒の薬にもまして鑑定しないで飲むといったこともあまりなく、[V]の時点では敵に投げつけるといった使用法も再現されていないので、さほど存在意義はないかもしれない。とはいえ、何事もありうる*bandのこと、低レベルで鑑定せずに飲んだのがなぜか低階層に出ていたこれだったといった事件もないわけでもない。
爆発のルーン Explosive Rune 【魔法】
侵入者などに対していったん起動すると爆発するといった「魔法の罠」のアイディアはポピュラーなものであるが、ことに細に入ったTRPGルールであるAD&Dでは、そうしたものを仕掛ける呪文、さらに聖職者系の防護のもの(→結界の紋章)とは別に「魔法使系」の攻撃的なものが、低−高レベルにかけて特に多数存在する。これは敵役が使う(PCが入ってくるダンジョンに仕掛けられる)トラップ用というばかりではない;D&D系では魔法使が「呪文書」から呪文を覚えないと魔法を使えず、呪文書に常に頼りきり、書物・巻物がことに重要であることは有名だが、プレイヤーキャラクターでさえ常に秘密を守り防護を施すことと、ひいてはその手段が必須となっているといえる。特にD&D系を小説化した『ドラゴンランス』シリーズをはじめとして、高位の魔法使のほとんどが、そうした書物・物品の防護を厳重に仕掛けている描写を伴っている。AD&DのExplosive runesはそんな多数の呪文のうちのひとつといえ、Fireballなどと同程度の中レベル呪文である。場所や物などを封じるのではなく、書物やラベルの文字に仕組まれ、その文字を許可なく「読んだ」ものに対して、弱めのfireball程度の魔法の爆発を起こす、といったものである。
*bandでは仙術などにある呪文で、特に書物を読むといったものではなく、床に対して印を作るが、敵が通るとAD&Dの呪文同様のマナの爆発を起こすというものである。また、種族ハーフオーガのレイシャルパワーにもこれがあるが、ヘルプの説明によるとこれはオーガメイジの能力であるという。詳しくはオーガメイジの項目に譲るが、AD&D以来のセオリーとしてオーガメイジは東洋などの神秘的な鬼をイメージしているため、レイシャルパワーとして直接的な攻撃手段等ではなく、いかにも怪しげな紋章を描く、トラップを刻むといった能力を選んでいるもののようである。
パズズ Pazuzu, Lord of Air 【敵】
風の帝王。<下方世界>の空の王子。ほぼ完全な非キリスト教系(そのままの形では堕天使として取り入れられない)悪魔である「デーモン」の、一時期はしきりと代表格となっていたモンスターである。この元となったオリエントの非常に古く強力な神性パズズに関しては、詳しい情報は神話類の専門解説サイトに譲るが、鳥あるいは獣(犬科であったり猫科であったり)の頭と、翼を持つ、熱風もしくは疫風の神であった。
これがAD&D 1stにおいては、異教系悪魔の一種であるデーモン(属性は混沌である)のユニークとしてデータ化された。オーケスやデモゴルゴンのように基本のコアルールに載るほどポピュラーというわけではなかったのだが、故郷の奈落界(アビス・プレーン)の縄張りをほとんど離れることのない他のユニークデーモンらに対して、パズズは奈落界の最も浅い第一階層に存在し、さらには奈落界だけでなく、<下方世界>(邪悪系の神界の総称。属性が秩序の悪魔が住む九層地獄界 Nine Hellsなども含む)すべての第一階層をその翼で飛び回り、属性の異なる悪魔とさえ交流し、頻繁にこの階層や主物質界に現れ悪事を働く、デーモンの風来坊「<下方世界>の空の王子」という設定になっている。非常に由緒正しく強力な伝承を引く魔神にもかかわらず、かなりデーモンらしくない特異な設定が与えられたのである。この特殊性からよく知られるようになり、またある意味使いづらいユニークデーモンよりも現れる頻度も高くなったことから、海外ゲームなどを中心によく見られるようになったともいう。
しかしこの直接の影響で、日本の古参のCRPGゲーマーにまでさらにパズズを有名にしたのは、日本のFC版Wizardryにおいて、パズズのアヴァター姿を丸写ししたマイルフィック(メーリフイックという発音の方が妥当であろうが)である。パズズの姿自体を有名にしたキャラクターグラフィックが描かれ(これが下記する異教系の魔神ならすぐパズズという一時の流行りに従った偶然かは定かではないが)実際に、ベニー松山作の小説版などでマイルフィックの本体はパズズ神であると明言されており、その後のファンらの通説になっている。
こうした事情ともどの程度因果があるかは定かではないが、古今「大宗教やよくある神話とは無関係な(という約束の)」「古代の魔神」として、その手の作品に濫用されることが多い名である。架空世界にも関わらず安直な実在神話引用を出す和製FTには、ひと昔前はインド神話(自称「密教」)現在は北欧神話からの引用が目立つが、さらにFT啓蒙の乏しかったふた昔ほど前は、これまで神話類と無関係だった話に(あるいは既に出ている神話とは)ちょっと捻った悪魔や魔神を出したくなった時、すぐさまパズスだのパズズゥーだの、という現象はしばしば見られるものであった。
[V]から登場しているユニークモンスターのパズズは、特定するというほどではないものの、強いて言うならばAD&Dからのデーモンとしてのパズズと言える([V]の説明では地獄界 Planes of Hellから現れたというが、AD&DではHell出身とも無関係とも言い切れないので微妙ではあるが)。その名の通り非常に速いスピードが[V]ではかなり目立つが、スピードがややインフレした[Z]系においてはさほどの印象ではないかもしれない。電撃を中心として、深層ではそう強力でもない魔法を持つが、意外なことにデーモン召喚の類は持っていない。
ハスター Hastur the Unspeakable 【敵】
旧支配者。名状しがたきもの。無名のもの。羊飼いの神。空中凧八太郎。クトゥルフ神話における主要な旧支配者の一体で、大いなるクトゥルフ(→参照)と「対をなす」とされる存在である。アンブローズ・ビアスやロバート・チェンバースの著作を参照してH.P.ラヴクラフトが初期作品で言及したこともあるが、この時点ですらほぼ名前が出てくるのみで、クトゥルフ等と似たような「神性」と定義し主要なストーリーに採り入れたといえるのは、ラヴクラフト宇宙を神話体系化したオーガスタ・ダーレスである。(ダーレスにとっては、現在クトゥルフ神話と呼ばれているこの神話を当初「ハスター神話」と名づけたかったほど重要であったらしい。)ダーレスの神話体系では、風のハスターは水のクトゥルフに対立・敵対するとされるが(現にクトゥルフに対抗する人間が助けを求めたりするストーリーもある)ダーレスの宇宙観でないクトゥルフ系作品でも、ハスターをストーリーに取り入れる場合は、何らかの形でクトゥルフと対立する存在とされていることも多い。一般に、ハスターという神格のイメージはダーレスのストーリーで扱われる勧善懲悪的な俗悪性で見られる場合と、チェンバースによる戯曲の『黄衣の王』に関する謎めいたゴシック的ストーリーの雰囲気の、絶妙なバランスの上にある。
なお、ハスターを「シュブ=ニグラス(→参照)の夫」としたのはリン・カーターだが、これはラヴクラフトの「シュブ=ニグラスは名づけられざるものの妻」というくだりをダーレスの「名状しがたきものハスター」にこじつけたといわれる(しかし明らかにこれらの二つ名は食い違っている。ラヴクラフトの「名づけられざるもの」は本来ヨグ=ソトースを指すという推測が妥当である)。
地球の海底に眠るクトゥルフに対して、ハスターは地球外(アルデバラン近くの星にあるハリ湖)に住むとされ、地球での教団は「化身(アヴァター)」として現れる黄衣の王(→参照)、またその象徴である黄の印(イエロー・サイン)に関する、わずかな魔術師らによるものが主である。その間接的な係わり合いのためか、その性質は充分に明らかになっておらず(二つ名がそうであるが、「不明瞭」の象徴であるとする説もある)自身の姿も不明とされるが、『破風の窓』において現れた存在(ほのめかされるだけで明確にハスターかは定かではない)の姿から、「タコの姿をしている」もしくはそれを彷彿させる姿を部分的に含むとされることが多い。また同作の描写から「とても見る気になれない凶悪な面相」をしているという。星間宇宙を高速で飛翔する(地球とヒアデスのカルコサの間を短時間で移動する)能力もよく言及される。
*bandでは[Z]から登場するが、クトゥルフと対をなすほどの主要な旧支配者であるにも関わらず(しかも、黄衣の王のようなアヴァターでもないにも関わらず)55階というクトゥルフ系ユニークとしては割と低階層でしかない。これはあくまで”ラヴクラフトの宇宙観”においてはさほど重要ではないという意味であろうか。とはいえ、打撃・防御ともに充分に深層に匹敵し、魔法も内容的には(召喚がさほどきつくないとはいえ)上位ユニークに遜色ないものを持っている。
→黄衣の王 →バイアクヘー
バスト Bast, Goddess of Cats 【敵】
旧き神。猫の女神。古くから穀物を育てていたエジプトの地では、鼠害の対策のために人類史上最も早くから猫を飼っていた。バスト(軟膏壺の女神の意。バステト、ユバスティなどはヒエログリフを解読した際の発音の差と言われる)は初期は獅子の姿の凶暴な戦女神であったが、第18王朝頃から猫頭人身の温和な家庭神となり、またこの頃から猫はエジプトの「聖獣」という扱いが目立ってくる。同様に獅子頭のセクメト、テフヌトといった主要女神とも重ねられ、極めて「一般化」した神格となって、後のローマなどの各地に広まる。
しかしながら、ここではいわゆる「クトゥルフ神話」体系の中に加えられているものを指す。あまりに猫好きだったラヴクラフトには、猫を起こしたくなくて抱いたまま自分の方が徹夜したとか(猫好きに言わせると別に珍しくない行動であり、かえってリアルに感じられるとのことである)「バステトの神官ラヴェ・ケラフ」と書簡の中で名乗ったりといった数々のエピソードがあり、「ドリームランド(要はラヴクラフトの異世界)」を舞台とした作品には猫が重要な役割を占める国が登場し、また猫がいたく活躍する。その後、ロバート・ブロックをはじめとするラヴクラフトの後継者らが、「クトゥルフ神話」の世界観に(特にドリームランドの猫らの神として)書簡で言及されていたバストを神格として加えた。
モンスターの思い出の文章は、ラヴクラフトのエッセイ「猫と犬」からのもので、RPG『クトゥルフの呼び声』ルールブックのバストの項目からの抜粋のようである。RPGによると、現在地球では信奉者は絶えて見られないが、ドリームランドおよび「猫ら」によって信奉されており、信者を守るために非常に稀に出現するという。
*bandでは、[V]の『ネコの帝王』の性別等が差し替えられて[Z]以降に登場する(このネコの帝王も、ローマ時代に一部でバストが男神化したものなどに由来する伝承である。ただし[V]では特にAD&DのGreyhawkで一種のNPCとなっているCat Lordのデータに従っていると思われる)。旧き神は善玉もしくは中立であるが、*bandでは情け容赦なく敵である。スピードと、goodなのでしぶといのが難点であり、さらに'f'シンボルを引き連れて登場するが、[V]に比べてfが増えたバリアント、特に「九尾の狐」「猫又」が増えた[変]では危険度が大幅に増えている。
パターン Pattern 【システム】【物品】【その他】
出典:紋様。多元宇宙を記述するコード。ゼラズニィの真世界アンバーシリーズの根幹をなすキーワードである。
(アーティファクト解説やモンスターの思い出の情報を出ない程度でネタバレを含めると)「秩序のユニコーン」が「混沌のサーペント」から「審判の宝石」を奪い、「ドワーキン」がそれを受け取った。宝石の中に見えていた啓示に従って「ドワーキン」が描いたのが「基本の(原初の)パターン」である。「基本のパターン」が最初の”影”であるアンバーという真世界を形成し、アンバーが影を投げかけ、それまでは混沌でしかなかった宇宙(時間さえ普通に流れてはいなかった)に「秩序(オーダー)」が発生し、多元宇宙が構成された。
その「基本のパターン」をそのまま複製した「大パターン(グランド・パターン)」が、アンバーの城の地下、またアンバーの海底の投影世界「レブマ」の城の地下、また天の幻想投影世界「ティルナ・ノグス」にも存在する(大パターンはいくつか他の世界にもあるようだが、前半シリーズの時点では他には知られていない)。大パターンは地面に光で描かれて常にオーロラのように輝き明滅している、直径100-150m程度の、同心円と放射状の直線からなる「迷路」のような図である。
また基本のパターンの図は、主だったアンバーの王族の「血」にも生まれつき刻み付けられている。しかし、それはいわば活性化されない状態にあり、アンバーの王族は「大パターン」のうちどれかの上をなぞって「歩く」という儀式/試練を経なくてはならない。「パターンを歩く」行動は、激しく生命力を消耗させるが、途中で止まったり外れたりすれば必ず死ぬ。アンバーの王族以外には歩き終わる者はいない。大パターンの試練を経た者は、血の中のパターンを活性化し、多元宇宙のシステムを組み込み(もしくは自分がシステムと一部同化し)パターンを利用する能力を得る。また最初の試練だけでなく、後でもパターンを歩けば血が活性化し、力を増大させたり、失われた記憶や能力を取り戻したりすることができる。大パターンの中心からは多元宇宙のどこにでも転移することができる。
血の中のパターンを利用した能力には、例えば多元宇宙の繋がりに従って”影の転移(シャドゥシフト)”(→参照)を行なって多元宇宙を渡り歩く能力などがある。また、脳裏にパターンを思い出しながら念じることで、”影”に生じた異常を修復する等が可能である。具体的には、コーウィンとジェラードが、魔物の発生する”黒い道”を一部修復しようとして行なった。さらによくパターンを理解した者(フィオナやブランドなど)は、トランプに似た効果やトランプを作るなど様々なことが可能である。
ドワーキンの描いた基本のパターンは、あらゆる並行宇宙の根源であり、基本的には不滅・不変の絶対的な存在である(ほかの場所にあるパターンは、大パターンも含めて基本のパターンの複写でしかない)。が、唯一、「アンバーの王族の血によってのみ」基本のパターンを拭き消すことができる(遺伝子にパターンが刻まれた血──同質の溶媒、あまりにも安っぽい例えで言えば油で油性マジックを消せるようなものだろうか?)。もし、多元宇宙がその影である「基本のパターン」が破損すれば、多元宇宙自体が震撼するだろう。また、アンバーの王族は「審判の宝石」で新たなパターンを描くことも可能であるとドワーキンは言うが、これは激しい消耗を伴う。さらに、一部消されたパターンを修復するのは、新たなパターンを描くよりも困難であり、最も強大なアンバーの王族でも命を賭しても成功は確約できない。
なおpatternの訳については、真世界シリーズの和訳では、初期の巻では”模様”と訳されていたが、後になってパターンという言葉自体が持つ様々な意味がこめられているので”パターン”とそのまま表記していると、訳者の岡部宏之氏が前半シリーズ後書きに断っている。*bandでは、[Z]の和訳から、ところどころに「紋様」という語があてられている。
システム、その他:ゼラズニイの世界観の[Z]系では、Roguelikeという限られた状況のゲームながら、実に様々な形でこのパターンをゲームに取り入れようとしている。
まずは、アンバライトのレイシャルパワー「パターン・ウォーク」である。これは「脳裏にパターンを描いて歩く」というメッセージと共に、失われた経験や能力が回復するという力で、上記の、大パターンを歩いて記憶などを取り戻すものと、パターンを思い出して”影”を修復する効果を意識しているものと思われる。
また、ダンジョン内にはまれに明滅する*印の「パターン」という地形が現れ、大パターンを思わせる一筆書きの模様を形成していることがある。これはなぞって歩くことができ、最後まで止められないが、最後の中心部まで歩くと上質なアイテムがあり、またそこからどの階にもテレポートできる(ただしこの「パターン」はバルトの一種で、強力なモンスターが近くには配されている。面倒な割には実入りが少ないと言われる)。また、種族アンバライトは切り傷のある状態でこれに乗るとパターンを破損できるという、あまり意味のない所で妙に原作を再現している。
物品:エゴアイテムには(パターン)の武器が存在する。これは「パターン」の図形が複製された武器という説明があり、グレイスワンダーやワーウィンドルを意識していると思われる;「秩序」の根源であるパターンが刻まれたこれらは、「混沌」に対して非常に有効なのである。パターンの武器は、腕力・耐久上昇、破邪、デーモンとアンデッドのスレイ、麻痺知らずと視透明、さらにランダムな上位耐性一つと維持等の可能性多々と、エゴアイテムの中でも最も強力なもので、ベースや修正が強力であれば最終装備級なことも珍しくない。
→アンバー →審判の宝石 →ログルス
肌石化 Stone Skin 【その他】
Stone SkinはAD&D1stのサプリメントUnearthed Arcana以来D&D系の非常に重要な防御呪文であり、文字通り肌の表面を石のように硬くして物理的な防御能力を得るというものであるが、*bandにおいて自然魔法に入れられていることやそのイメージとは異なり、別に「ドルイド系」の自然魔法というわけではない。これは、自分が石像のような硬質の体と化して(よくある石化呪文の応用である)防護を得るクラシカルD&Dの呪文と共通のアイディアのようで、ごく普通の魔法使系の呪文である。しかしながら、自己石像化の呪文よりも弱めだが応用がきくというバランス取りがうまくいかないのか、AD&D当時は妙にアンバランスに強力なかわりに触媒(マテリアル・コンポネント)を異常に高価にして(花崗岩と大粒のダイアモンドを潰して粉にしたもの、というふざけたものである)無理矢理使いづらいようにしたりといったもので、3.Xe現在はある程度は整理されているがまだその性質は残っている(ダイアモンドの価値は250gp相当と規定された)。いずれもかなり強力な呪文と見なすことは確かだが、聞くゲーマーによってその印象は変わってくると思われる。
肌石化のイメージとしては、硬さが得られるというだけでなく、本当に肌が石のような色や質感(しばしば装備までも)に覆われるという説がもっぱらのようである。@の溜まり場掲示板のイメージ補完スレッドには、筋肉男が油を塗ったところをモノクロで撮影した写真の重厚な肌の質感を肌石化のイメージとして挙げるというあまりにも嫌すぎる例があり、達人はその肌の石化(筋肉力の結晶)を破片攻撃として飛ばすこともできるということになったらしい(→ボ帝ビル)。
*bandでは[Z]系などで自然魔法の一種として使用することができ、アーマークラスが+50されるというかなり強力なもので、ことにアーマークラスが低い時期は非常に重宝する。また種族ゴーレム(→参照)は元のアーマークラスにボーナスがある上、これをレイシャルパワーとして使用することができ、ゴーレムの生存能力の高さをひときわ高めている。
バック郷のスリング The Sling of Buckland 【物品】
バック郷とはホビット庄の東端、ブランディワイン川の川辺にある居住地で、「バック」一族の主に住む土地である。
バック一族の祖先であった「沢地のブッカ」は、ドゥネダインの北方王朝なきあとの最初の「選侯(セイン)」(実際の内政を行う庄長(シェリフ)に対して、名目上の「領主」にあたる名誉職である)に任ぜられ、後に一族中のゴーヘンダード・オールドバックがブランディワイン川の東に館を築き、ブランディバック家と名乗り名家となる(なお、以来セインは別の名家、トゥック一族が勤めている)。ホビットの古家は、代々伝わる丘の穴に住んでいることが多いが、ブランディバック家はバック館・ブランディ屋敷と呼ばれる巨大なトンネルを伴う邸宅に住んでいる。
バック郷のホビットらは、郷のさらに南に『指輪物語』時代にも残ると言われる、古い少数部族ストゥア族のホビットと一部混血している。そのため、特にブランディバック家はトゥック家と同様ファロハイド族(過去の勇猛な少数部族)の性質の他、ストゥアのもつ川での操舟や水練・漁などにたけている。しかし、この点が温厚なホビットの常識から見ると、トゥック家と同様に「名家」ではあってもどこか「変わった連中」とも見られている。トゥックやバックより小さくとも「ホビットらしい名家」とされていたのが「バギンズ一族」であったが、それは『ホビットの冒険』の主人公ビルボが出るまでの話であった。なお、この3家は恐ろしくややこしい系図で婚姻関係による親戚同士である。
さて、ホビットが武器として得意とするものは実のところ「弓」であるが、*bandのこの物品となっているのは弓でなく「スリング」、石投げ器である。これは、ホビットが「投石」を得意とするという他の種族にはない特徴を持っているので、それを強調するために、あえて弓のかわりに選ばれたと考えられる。(また、強いて言えば、Moria以来「盗賊」のボーナスのある武器が弓でなくスリングとなっているのは、特に他のファンタジーに由来するというより、「ホビット・盗賊」を「エルフ・レンジャー」との差別化を際立たせるためとも考えられる。)
『ホビットの冒険』の記述によると、ホビット全般が(忍び足などと同様に)投石の技を持っているというが、主人公ビルボも特に得意とするひとつで、文字通り飛ぶ鳥を落とし、人間大の大蜘蛛をあやまたず絶命させる。一応はビルボ個人の得意技であるだろうと想像したとしても、安穏と暮らしていた中年地主に過ぎないビルボがそれほどの技を当然のように習得しているとなると、ホビット全般が相当な腕であると考えるべきかもしれない。映画版LotRでは(原作ではそうでもないのだが)旅の仲間の若いホビット、メリーとピピンは、いざとなると石を投げて攻撃する場面がかなり多くなっている。
*bandではバック郷のスリングは、[O]にアルダ由来の追加物品のひとつとして導入されていたもので、[変]にも取り入れられているが、[O]の方が追加射撃、飛ばす石に元素ブランド付与などやや強力である。ホビットのいざと言う時の勇猛さ(あるいはブランディバックの後継メリーであろうか)に由来するのか、恐怖や混乱、盲目など重宝する耐性があり、階層からは中盤以降であるがその辺りでも充分な有用性をもつ。特に盗賊が持った場合はかなり強力である。
八方手裏剣 はっぽうしゅりけん 【その他】
放射状に八方に刃の出た形状をした八方手裏剣は、すでにそれ自体が忍者の象徴である「十字手裏剣」に次いで、「手裏剣」のイメージとして(手裏剣術で主に使われる棒手裏剣に対して)よく知られているものである。海外ゲームなどで、イメージ元が中国系と思われる修行僧が使う投擲剣なども、なぜか八方手裏剣や星型のものになっていることも多い。サイバーパンク小説『ニューロマンサー』のカウボーイ(ハッカー)のケイスがアーケードで眺めてなぜか憧れていたのも、クロム造りの星型の手裏剣だった(なおケイス本人はもちろん、あとでこの小説に出て来る忍者も、手裏剣はまったく使うことはない)。
棒手裏剣と、十字手裏剣や八方手裏剣のような車状の手裏剣を比較すると、精緻な技法が存在する棒手裏剣に対して車手裏剣は円盤のように比較的たやすく打つことができ、その点での応用範囲も広いが、一般に刃の多い車手裏剣は浅く刺さるため殺傷力では劣り(中には鋭いものや鉤のついた比較的殺傷力の高いもの、また毒を塗って使うことはあるものの)携帯にも不便で、形の複雑さから数もそろえづらい。また回転時に風を切るために隠密にも向かないが、また一方で多方手裏剣は大きな音を発することから、そもそも敵を威嚇・撹乱するのが大きな目的として使われたともいわれる。
*bandにおいて、[変]の忍者の忍術の中にある「八方手裏剣」は、技であることから言うまでも無く物品としての八方手裏剣ではなく、そのこころは鉄のくさび(*bandの忍者クラスにおいて棒手裏剣に相当するもの →参照)を8方向のランダムに、8回投げまくるというものである。(他のゲームによっては八方手裏剣という名で八方に投げたり8回投げたりといったものもないでもない。)八方手裏剣が逃亡時の撹乱に使われたという上記の説、またそこから「八方ふさがりの時に使う」という風説もあるが、映像としてはどちらかといえばそれらを思わせる様相である。
バテレン鎧 Metal Lamellar Armour of The Padre 【物品】
日本の史上「南蛮胴」と呼ばれている西洋鎧は、織田信長のものが非常に有名で、映画やドラマなどでも信長が「南蛮笠(宣教師のつばつき帽子のような形状の兜)」と共に、西洋鎧を着ている場面が描かれることがある。いかにも、西洋文化かぶれの信長に似合う専売特許に見えるのだが、実際のところ当世具足としての輸入品の南蛮具足は信長以外には全く例がなかったわけでもなく、有名なものでは前田利家が信長から授かったという記録があり、また徳川家康も持っていた西洋鎧が現存している。これらはいずれも、ドイツのニュルンベルグで作られたものをそのまま輸入し、日本人の体格にあわせて調整したものだが、戦国末期にはこれを参考にした「和製南蛮具足」も作られていた。しかし、こうした輸入品の南蛮具足については、織田家や家臣には存在していたが信長よりは後の時代のものといい、信長自身が着たかどうかは定かではない。
[変]に登場するものは、漫画『夢幻の如く』で信長が西洋鎧を着ていた例から直接に採られている。南蛮具足はいわゆるプレートアーマー(完全な板金主体の重鎧を指し、本来ならばチェインメイルの重要部分を板金で補強した「プレートメイル」とは別物である)の一種といえるものであり、さらに初期の銃器を受け流す構造が特徴の「強化プレート・メイル」が本来のベースアイテムであるが、[変]では、RPGにおいて「侍の鎧」の解釈の通例である、ラメラー・アーマーがベースアイテムになっている。にも関わらず、REFLECT属性がついているが、これはa_infoのコメントによると実際に強化プレート・メイルの弾丸を弾く効果を「考証」したものではなく、矢でも鉄砲でももってこいという「ノリ」によるものであるらしい。
ベースアイテム故にかなりの重量の鎧で、耐性も乏しいが、防御力自体はそれなりにあり、殺戮修正も若干ある。レアリティが低いので、他で耐性が揃うなら前半の戦士系の一時選択の余地に入るかもしれない。
バート、ビル、トム Bert/Bill/Tom the Stone Troll 【敵】
まぬけトロル三人組。J.R.R.トールキン『ホビットの冒険』序盤に登場する岩トロル。独立する必要が認められるわけではないので三人ひとからげの項目にするが、*bandでは別々のユニークモンスターである。旧ルダウア領のトロル森(ピンナス・テレグ)に住む三人で、主人公のホビット、ビルボと13人のドワーフを捕らえるが、ガンダルフの策略(一説には幻聴の魔法)により日光を浴びて石になる。なお、グラムドリングとオルクリスト、つらぬき丸はこの三人の岩屋の中にあった分捕り品の武器の中から見つかったものだが、これらノルドールの武器が遥かな宝玉戦争の時代からどういった経緯を辿ったものかは定かではない。
ビルは作中では「ウィリアム」と本名で呼ばれ、「ビル・ハギンズ」と苗字の方も呼ばれる(なお、MERPではバートとビルの姓もハギンズで、兄弟という設定になっている)。なぜトロルがこんなアングロサクソン系の現代人のような姓名になっているのかといえば、『ホビットの冒険』執筆当時はただの童話だったから、ではなく、名前に関しても、元が西方語であったものは「現代風に」すべて変換されたものがトールキンの表記である(たとえば西方語:Banazir 物語中の表記:Samwizeなど)ためである。こうした英語風の名前が出てくる場合は、トールキンの主張によるとホビット等やブリー郷等は西方語のごく当たり前の名前を「共通語の響きであるという印象を再現するため」英語風の名前に変えているのと同様に考えると、ここではこのトロルらが英語風の名なのは、「西方語の平凡な名前を持っていた」ことを示す記号にすぎない。
当初、民話の悪鬼としてのトロル(巨人)を意識して描かれたとおぼしきこの三人は、別に頭が回るわけではないが、トールキンはのちにトロルという種族はほとんど動物ほどに知能が低く、片言のオーク語か西方語を理解できる程度だと設定した(オログ=ハイはかなり知能が高いが、暗黒語しか話さない)。そのためこの普通に西方語で会話していた三人組は、トロルとしては卓越した知能の持ち主ということになってしまったらしい。
また日光を浴びるといきなり石化して元に戻らない(ふたたび夜になると元に戻るとする説話も多く、T&TなどのRPGでもそうである。→トロル)というのも、かつてモルゴスが光と戦う軍として作った生物としては(単に光を嫌うだけのオークに対して)やや不自然で、ひいてはこの三人組の当初の『ホビットの冒険』の雰囲気であった童話的な側面を、そのままトロル一般の設定として引きずっているという性質がある。
『指輪物語』原作では、『ホビットの冒険』で石になったこのトロルを、数十年を経て一行が遠くから見つける場面がある。生きた岩トロルがじっとしている姿とこの石化後のトロルはよほど酷似しているようで、ホビットらが生きたトロルと勘違いして日光下であることを馳夫にたしなめられる場面がある。映画版LotRでは、第一作FotRのDVD版の追加場面にこの石化したトロルが登場するので、一応はこの三人組は「映画にも出演している」といえるのかもしれない。なお劇場公開版でも、FotR冒頭にビルボがこのトロルの話をホビットの子供(演: PJ監督の実子)に語っている場面がある。
2012年の映画版『ホビット』第一作では、当然ながら一行がこのトロル三人組と出会う場面が実際に描写されている。かれらはLotR映画のモリアの岩トロルと同様のフルCGのクリーチャーだが、会話する場面があることから、LotRの岩トロルとは異なり、表情豊かとなるよう、また人間に若干近いシルエットになるよう、デザインが改められている。バートは料理担当なので小柄で、ビルはリーダーであることから大柄、トムはコミカルさを出すためにやせ型である。声とモーションキャプチャーは(LotR映画でギムリ役が木の鬚も担当したのと同様)ドワーフ役のうち3人が兼任しているので、よく聞くとどこか似ているのがわかる。なお、LotRで石になっているポーズと合わせるだけのために、演技・アニメーション加工で3週間もの時間を要したほど、トロルの登場場面には手間がかかっている。
映画での一行がこのトロル三人組と出会う場面は、アレンジが入りつつも原作とほぼ同様の流れだが、トロルが石と化すのはガンダルフの策・術ではなく、ビルボの機転で時間稼ぎをしたためになっている。ただし、この際は窮地を脱したきっかけもビルボならば元来窮地に陥ったのもほぼビルボのせいなので、この時点ではビルボはトーリンらの信頼をかちえることはできない。
*bandには[V]以来定番のユニークとして登場する。シェロブより深い階層になっており、さすがに単独ではシェロブほど強いわけではないが、大量にトロルを引き連れて登場するので危険である。その卓越した知能で手下を増やしたのかもしれない(ありえそうもないが)。特に3人が共に登場するということはなく、それぞれがトロルを率いて生成される。
→トロル
バハムート Bahamut, Celestial Dragon of Good 【敵】
出典:極楽界ドラゴン。善竜の首領。実在のバハムートの神話に関してはいまや多くの研究サイトに記されているので略すが、アラブで世界の底の何層目かを支えている光の巨大魚を指す。オリエントの根源的な無形・無名の世界構成神話に、ユダヤの巨獣ベヒモスの名が変形して冠せられているもののようである。
最初期のTRPGであるAD&Dでは、これをすべての善(金属の名をもつ)のドラゴンの首領であり神であるプラチナのドラゴンの名として用いた。ティアマット同様に、始原的な巨獣・水神の類で、かつ根源的な神話に発し複数の神話にまたがる存在の名を、シリーズにおいて最も重要な神格のひとつに選んだようである。日本では『ファイナルファンタジー』シリーズに1作目から龍として登場しているので、龍としての解釈が非常に有名である(なぜAD&Dの定義が採られたかといえば、元々初期のFFはAD&D、特にGreyhawk世界の影響が非常に強いためであるが、さらにそれは当時、勃興期の和製RPGを支配し始めていたDQやその流れの漫画的RPG世界への反動でもあったと考える人もいる)。召喚されて登場する等、怪物や神格よりは、「精霊」のような位置づけかもしれない。FFのさらに影響で巨竜として登場する他の作品RPGも非常に多く、それら記述を注意深く読めばAD&Dまで遡って調査された設定か、はてはFFの丸写しかをつぶさに判断できる。
AD&D及びその流れをくむ近年のD&Dシリーズのバハムート神はガス化、分解、冷気のブレスを吐き、中でも冷気が代表やバハムート神のシンボルと見られることが多い。しかし、『ファイナルファンタジー3』の召喚獣のバハムートがメガフレアを用いて以後、FFでは○○フレアなどの火炎(又は熱系多有効属性)ブレスを用いるため、日本のFT/RPGのドラゴンとしてのバハムートは火炎系ブレスとされていることも多い。
D&Dシリーズの基本設定のバハムート神はレベル値としてはティアマットとほぼ同等(若干だけ上)で、ということはつまり、3eでは見なかったことにした方がいいような数値である(例えば戦士系のHPはレベル毎に期待値8-10程度だが、バハムートのアヴァターのHPは1000とあといくらだったか)。バハムートは<上方世界>の「七天界」(セブン・ヘブン、現在はマウント・セレスティア)に、それ自体が財宝でできた宮殿を持ち、この宮殿は七天の第一〜第四階層を自由に動き回っている(一応普段は第二階層にある)。D&Dシリーズでは、最も有名な世界設定であるDragonlance世界の善神の長パラダインが、プラチナのドラゴンの名と姿も持つことでも知られているが、モチーフとしているだけで、パラダイン神と(他の世界の基本設定の)バハムート神は別神格のようである。(4、5版などでは、他の設定にもあることだが、同神格に統合されたらしき記述がある。)
RPG以外の登場例では、例えばレトロOVA『メガゾーン23』の巨大宇宙船のメインコンピュータがバハムートという名になっているが、これはFF1以前なので恐らくドラゴンではない。同作は聖書のイブやアダムなどの用語が登場するので、バハムートも旧約聖書にも関連する名から取られたという説がある。
敵:*bandでは筆者(フェリアナス)が[変]掲示板に提案した。ノーデンスや天使ウリエル等も敵であることに慣れきっており、善の極致バハムートも「敵」として扱うことに何ら疑問を持たなかったことを回想する。元々[V]から居たティアマットをほとんどコピーしたいいかげんな作りで(「極楽界ドラゴン」という名などは特になげやりである)開発諸氏による指摘と修正を繰り返し現状となる。ついでに言うと*bandの思い出文章で「第一階層を守護する」となっているのはティアマットの文章のコピー時の修正しわすれで、前述のようにAD&Dのバハムートの宮殿があるのは「第二階層」である。
結果として、善良モンスターで、かつ凶悪なブレスを持っているので(D&D系同様に善のドラゴンの特殊ブレスの数々を使用できることを考えもなしに写した結果である。なお元のD&Dのバハムートのブレスは冷気、ガス化、分解だが、*bandのものは何も考えずに上位ブレスを持たせている)強敵の代表格のひとつとなっているようである。
→ティアマット
バーバズ Barbazu 【敵】
バーバズはD&D系のモンスターとして存在するデヴィル(属性「秩序にして悪」のフィーンド)で、AD&D 1stにおいてはBearded Devil(顎鬚のある悪魔)という名であったが、ある時期にDevilという語が宗教的な事情で使用できなくなったため、Barbazu(HJ版のD&D3e邦訳では「バルバズゥ」)に改名されている。
バルバズゥは大柄で鱗に覆われた人型生物の形状を持ち、長い尾と鉤爪、とがった耳を持つ。これだけ見ると「悪魔」の典型の姿だが、やたらと長い顎髭を生やしているのが異質かもしれない。<九層地獄界(ベイアトール)>の軍勢の中では、最下級の悪魔であるレムレース(→参照)の大群が進軍する際、その露払いの突撃兵として活躍する。手には必ず鋸状のグレイブを持っている。が、このグレイブだけでなく、素手で抱きついた敵をヒゲでぐるぐるまきにするとその敵は奇病にかかってしまうという謎のセクシーコマンドーも用いる。
なお、NetHackには「髭のある悪魔」(無論、デヴィルなので「秩序」である)がいるが、これは原語ではbarbed devil (現:Hamatula)であり、名前こそ似てはいるがBearded Devilとは別物である。barbedは「逆棘、逆髪もしくは逆髭の生えた」の意であり、後者の意と定義したとすれば誤訳というわけではないが、実際のD&D系のハマトゥラは「全身に棘の生えた」悪魔であるため、やはり原義には沿わない。
*bandには、[V]3.0や[O]などの[V]派生系のみならず、GumBandやToMEなど、いわゆる[Z][変]系を除くほとんどのバリアントに登場している。元のバーブド・デビルも現在のバルバズゥも、デヴィルの中では「中上級モンスター」カテゴリをなす「バーテズゥ」一群の、さらにやや下級のものでしかない(AD&D 2ndではレッサー・バーテズゥに分類されていた)のだが、*bandではいずれも40-50階代から下手をすると75階(Gumband)という相等な深層になっている。階層ほどの攻撃力や耐久力は持たないので、どちらかというと「深層(奈落)に出現する一般兵士」的な位置づけになっていると思われるが、原典よりかなり格上であることには変わりない。おそらく、[V]に後から追加されたデヴィルはより強敵を追加する目的であったことや、元来の「悪魔」のイメージをより意識しているとも考えられるが、正確なところは不明である。
ハーピー Harpy 【敵】
ハーピーとはギリシア語のハルピュイアイ、旋風女精の半神らに発する。ヘシオドスによると、ポントスの子孫の一体でアイリス(虹)の姉妹にあたる鳥の羽根をもつ女神らで、鳥と並んで空を駆ける精霊らとされる。つまり、虹と同様に海嵐から生ずる穏やかな自然霊の一種で、名は「かすめとる者」を意味し、おそらく「つむじ風」を暗示しているようである。かようにヘシオドスではあたかも東洋の迦陵頻迦のような神鳥であるわけだが、何にせよ、アルゴー隊の詩においてこれらのハルピュイアイ姉妹が宴を邪魔する凶暴で不潔な怪物として描かれたあたりをはじめとして、ギリシアでも怪物化して描かれることが多くなってゆく。ただし、怪物化に関してはアイリスをはじめこれらの一族がティタン神族のオケアノスの血をひき、ゼウスと敵対する一群に位置づけられた(異文化由来の神や精霊のギリシア神話体系でしばしば辿る末路である)ため、悪役化されていったという側面もある。またギリシア内外の、他の水精らの持つ能力と合流したためもあって、孤島に住み魔力の歌によって船員を惑わすといったイメージも定着してくる。
ギリシア詩でのハルピュイアイやそれに由来する説話では、上記の初期の鳥の羽だけもつ女神から、美女の頭と鳥の胴体を持つというものまであるものの、RPGの原型であるD&D系のハーピーは「老人」の上半身に鳥の翼と下半身、鉤爪というもので、明確に怪物的である。ただし、以降のRPGではその混ざり型や人間部分は美女であったり悪魔系と混ざっていたりと、必ずしもそのイメージは確定していない。
ハーピーというと、魔導物語(→ぷよ)に登場するキャラクターを思い浮かべる人も多いかもしれないが、ここでは伝承や他のRPGのハーピーとはほとんど共通点は見えず、完全な人型で羽だけ生え薄絹をまとった、天使かギリシアニンフのような姿である。(ただし、モンスターが全般リアルな旧PC-98版の魔導物語1-2-3を除く。こちらでは半人半鳥の他RPGの姿に近い。)「人妻で本名は田村ヨーコ」という極めて謎の設定があるが、これは「音程を外した歌を歌う」という点をアイドル歌手のそれ、すなわちちょうど当時のアニメとタイアップされた駆け出しアイドル「田村英里子」および「ようこそよう子」をもじったか何かだろう、と、この上もなく脱線したが、一般的にRPGでのハーピーは、歌をはじめとする特殊能力をその特徴とするモンスターとして扱われていることが多い。概ね、肉体的には凶悪でなくとも、特殊能力のために低レベルながら厄介なモンスターとされている。それはCRPGにおいてもできるだけ再現されていることも少なくないもので、『ハイドライド2』において凶悪なディフェンス魔法を用いてくるあたりの印象が古参のゲーマーには特に強く印象に残っているだろう。
しかしながら*bandでは、Moria以来、ナーガなどと並んで、最も低階層の虚弱なモンスターの一群として登場する。特殊能力の類を再現できないと割り切られていたため、ナーガやハーピーのような比較的小型でなおかつ位置づけ的にも「大物モンスター」ではない合成生物を配置したと考えるほかにない。ブラック・ハーピーとホワイト・ハーピーがいるが、いずれも特殊能力のたぐいはなく、階層が若干違う以外にはほとんど差らしい差もない。
ハーフエルフ Half-Elf 【種族】
出典:妖精の血が人間に混ざるという考え方は古来からのものだが、「半エルフ」という「種族」カテゴリを強く印象づけたのはやはりトールキンである。
ただし、トールキン作品のアルダにおける半エルフ(シンダリン語でペレジル)とは、RPG一般のような「エルフと人間をそれぞれ父母にもつ者」ではなく、これらの複雑な混血のうちでも、特に「エルフ(不死)と人間(定命)のどちらの運命を取るか、選択権を与えられた者」を指す。この意味での「半エルフ」とされたのは、エルフの指導者となったエルロンドと、ヌメノールの人間の王となったエルロスの兄弟、そしてエルロンドの子ら(エルラダン、エルロヒア、アルウェン)だという。なおエルロンドは、映画版の解説書などではわかりやすいよう「エルフと人間の父母をもつ」などと改変された説明になっているが、実際は非常に複雑な混血である;9/16がエルフ(上のエルフの三種族の王族すべてが混ざっている)であり、6/16は人間の王家、そして1/16は神族(マイア)である。
エルフの血を引く者の総てが選択権を与えられたわけではなく、例えばエルロスの子孫のヌメノール王家や、ロスロリアンのニムロデルの配下一族の血を引く(とも言われる)ドル・アムロスの大公家などは「人間」として扱われる。しかし、MERPでは森エルフ等と人間の混血など、特に選択権を与えられないが若干寿命が長いなどエルフ寄りの能力を持つ種族が作れる。これは他のRPGのハーフエルフに近いと言える。
RPGでのハーフエルフは、一般にエルフと人間両者の利点(エルフの繊細さと特殊能力、人間よりやや長い寿命、人間の強靭さと適応性)をあわせもっている。AD&Dでは、純血のエルフのみがエルフと呼ばれ、エルフと人間の混血のうちエルフの血の方が濃い者のみをハーフエルフと呼ぶ、と定義されている。人間の血の方が濃い場合は単なる「エルフの血が入った人間」である。和製RPGでは、単純に混血がハーフエルフになるとか、遺伝子型に関わらず表現型が人間かエルフか「ハーフエルフ」にしかならない等(文化設定的にも)細かく設定されていないことが多い。社会的にどういった位置づけをもつかは作品世界それぞれの文化圏によって様々であるが、一般に海外RPGでは(特に上記のような、エルフが排他的な区別を行なうAD&Dでは)社会は混血に対しては容赦がなく、出生・その後の経歴ともに過酷なものであることが多い。性格がいじけて甲斐性がないハーフエルフと言えばAD&D小説『ドラゴンランス』の主人公タニスが、海外FTでも結構有名だが、この作品は人格者など一人もおらず種族背景に関わらず極めつけの厄介者だらけなので、タニスが「ハーフエルフだから」という印象はだんだん薄くなってゆく。なお、AD&D 2ndでは種族ごとに適切なクラスに大きく差があったりするが、ハーフエルフはバード(吟遊詩人)に極度に適化しており、社会に定住することなく、なおかつ様々な社会をうまく潜り抜ける・渡る能力が優れている、という解釈が端的に伺えるルールであり、トールキンのペレジルとも、和製RPGでの都合の良いところ取りのようなものとも異なっている。
種族:トールキンに登場するエルロンドらのペレジルは、描写を見る限り能力的にはほぼ完全に上のエルフであり、いわば*bandの種族としては「ハイエルフ」と言ってしまって構わないものである。*bandでのハーフエルフは、上記のMERPでのものをはじめ、またハイエルフではなく(普通の)エルフと人間との混血、ひいては他のRPGのようなものを指していると捉えるべきであろう。
ハーフエルフの種族はMoriaの時点から登場する。パラメータや技能を見る限り、エルフと人間の中間、すなわちプラスマイナス1点程度のみ肉体より精神の能力が優れている。つまり成長が早い分弱い=*bandではきわめて不利な「零細種族」のひとつである。が、打撃技能のペナルティーがマイナス1(エルフはマイナス10で、まるっきり打撃は使えない)のみなど、エルフよりは少しは使えないこともないとか言える可能性もないでもない。しかしながら、(普通の人間でも)身長・体重が海外風に巨大なものになりがち(女性でも180センチ90キロなど)な*bandにおいて、エルフやハーフエルフを選ぶと、ちょうど日本人の女性を想定するような身長体重に収まることが多く、女性キャラのイメージ化に一部に重宝しているという情けない一面も存在する。
ハーフオーク Half Orc 【敵】【種族】
出典:トールキン『指輪物語』にハーフオーク(半オーク)として言及される種族は、堕落した賢者サルマンの軍の主力をなす「人間とオークがかけあわされた種族」であるとされる。直接的には、木の鬚(→ファンゴルン)のメリーとピピンへの言葉の中に、「サルマン軍のオークは人間に近い性質を持つ(光を恐れない)ため、サルマンが人間を堕落させたものか、オークと人間の血を合成したものだろう」という推測が言及される。サルマン軍でもウグルクをはじめとする屈強なオーク(→ウルク=ハイ)は、この半オークであると推測される。オークと人間の長所を持つような言及からは、モルドールの黒いウルクに匹敵する高い肉体能力と知能を持つと考えられる。なお、ホビット庄の中で、サルマンの勢力の及んでいたブリー郷や南四が庄の一には、「オークじみた肌の黒い連中」の姿が見られ、一部ファンにこれが半オークと呼ばれていることもあるが、これらは単にさらに南国の人々との混血に過ぎないらしい。
映画版LotRでは、原作ではもっと広義と思われる「ウルク=ハイ」という語を、サルマンによるオークと人間の合成種族(=半オーク)と限定して使用している。
かつて強大なモルゴスが作り出したオークは、日光に耐えることができなかったわけだが、サルマンやサウロンがその点を克服した種族を作り出すことができたのは何故であろうか? サルマンはかつて光に属する技を持っていた、サウロンはエレギオンのノルドールから盗んだ技を得ていた、といった推測が口にされることも多いが、また一説には、モルゴスは何一つ自分では作り出すことができず、既にあるものを歪めることしかできなかったので、必ずなんらかの欠点を持つものしか作り出せなかった;しかしながら、アウレがかりそめながら生命を作り出すことができた(→ドワーフ)ように、アウレの従属神であったサルマンとサウロンは「偽りの命」ならば創造することができたと述べる意見もある。
さて、トールキンのハーフオークは、交配ではなく妖術で人間とオークを合成したものとされているが(実際には、どう交配されたか合成されたか、具体的に判明しているわけではない)他のRPGではハーフオークとはそのまま「他の種族とオークとの混血」と定義されることが多い。AD&Dではオークはエルフ以外のあらゆるヒューマノイドと交配するというルールになっている(なぜエルフは除かれるかといえば、オークはエルフを「裏返して」作られた、近縁ながら対極の種族であるからとも思われる)。そのためD&D系世界では、オークと他ヒューマノイドとの混血、特に人間との混血はかなりポピュラーである。世界に普遍的という以前に、AD&D 1stおよび3edでは、ハーフエルフ等と同様、「プレイヤーが選択できる種族」として最も基本のルールブックに載っている存在なのである。
この「人間とオークの混血」に対しては(D&D3edや*bandのこれを聞いて)「信じられない」というような感想を述べる人や、存在自体を否定しようとする日本のファンタジーファンが多い。これは同じ混血のプレイヤー種族であるハーフエルフが「美しい友好種族」との混血であるのに対して、「長所など一切ない劣等種族(特にRPGでは一方的やられ役)」との混血へのあまりの落差の大きさからと述べられる。しかしながら、ハーフエルフの項目でも述べていることでもあるが、「人間勇者様とエルフ娘精霊使いのパーティー内恋愛の結晶」といった、生っ白いし質感も何かぬるぬるしてるっぽい妄想ハーフエルフ背景などは、ご都合RPG、ご都合エルフだけの産物である。トールキンのように半エルダールが半神に相当する高貴で稀有なものである場合はまた別だが、それ以外の背景世界では「エルフ」とは厳然として極度に排他的な異文明に過ぎない。両文化の混血などは過酷な世においては戦乱などの結果として産み落とされる私生児以外ほとんどありえず、両文化の隔絶感は現実世界に存在する人種・文化・思想の壁よりもさらに遥かに強いのが当然であって、両方に相容れないものに対する偏見は想像に余りある。(現にRPG小説等でもしばしばそうであるが)本来ハーフエルフなどというものも、ハーフオークと同じかそれ以上に過酷な宿業をおびてしか存在しえないものに過ぎず、その上でそうした過酷な存在を「世界の一部である」として認めることが、海外RPGでは当然となっているのである。
海外RPGに登場するハーフオークやハーフトロルらは、粗暴なキャラクターであると思われがちだが、CRPG 'NeverwinterNights'公式キャンペーンのデイランのように誇り高い蛮族戦士などもおり、背景世界とイメージ次第である(非文明・蛮族の性質を持たせてキャラクターを立たせる方向性が強い)。
敵:敵としてのハーフオークは[V]以来登場し、Moriaの時点ではおらず、『指輪物語』のモンスターとして意識されて登場したことが伺える。現に、他のオーク類と同様一族が集団で登場する点からは、他のRPGの混血の意味でのハーフオークではなく、「サルマンの半オーク軍団」をイメージした存在であると推測される。ウルク=ハイ等と同様、閃光攻撃が通用せず、オーク類としてはかなり強力なものに属する。なお、ウグルクやマウフルなど、サルマンの半オークである設定のオークユニークは、「ハーフオーク」でなく、より広義の「ウルク」とだけ記されている。
種族:種族としてのハーフオークは、Moriaの時点から存在し、こちらは(ハーフトロル等と共に存在する点などからも)サルマンの半オークではなく、RPG一般の「混血のハーフオーク」であると考えられる。現に生い立ちの文章では父母のいずれかがオークだったといった類の文章が出る。
基本的に零細種族(人間や無印エルフ)ほどではないが、ドワーフやノーム等と同様の比較的低経験ペナルティーの種族で、知能より肉体側にさらに振れた能力を持つ。肉体系としても、妙に癖のある野蛮人などよりやや使いやすいとの意見が目立つ。一時はハーフオークというと、[変]スコアサーバの人気の最低辺であったのだが、映画版LotRのサルマンのウルク=ハイ(半オーク)軍団の大活躍のためか、オーク全般の力の入った描写のためか、はてまた他の作品のためか、オークのイメージの裾野が大きく広がってきたようで、かなり着実に人気を伸ばしつつある種族である。
→オーク →ウルク=ハイ →ハーフトロル
バフォメット Baphomet the Minotaur Lord 【敵】
ミノタウロスの王。バフォメットは、牛や羊の頭を持った「悪魔」の姿の典型のひとつとしてよく現される画像である。「黒魔術の悪魔の姿」として最も有名なひとつ、黒山羊の頭に翼をもつ人身の、エリファス・レヴィ画のメンデスの山羊(→参照)の姿は、悪魔バフォメットの姿とされる。その名はイスラムの聖者の名がなまったという穏やかならぬ説もあり、豊穣の家畜・生贄・キリスト教以前の地神のシンボル性自体はともかくとして、名自体はキリスト教のイスラム文化との接触や十字軍などの対立に応じて広まったと考えられる。特に、14世紀のテンプル騎士団が偶像崇拝を訴えられた際、信奉していた像がバフォメットであったとされ、著明・代表的な悪霊像といえる。
しかし、*bandがモンスターとして登場させているのは、TRPGの原型のひとつAD&Dにおいてユニークモンスターとしてデータ化されている、「デーモンロード」の一体としてのバフォメットであると思われる。ここでのバフォメットは3メートル半ほどの身体に牡牛の頭を持つデーモンで、デーモンらの住む「混沌にして悪」の下方世界こと<奈落界>の、「終わりなき迷宮」と呼ばれる階層に住んでいる。またグレイホークやフォーゴトンレルムといったオフィシャルの世界設定でも、ミノタウロスらが信奉する「モンスター神格」としても扱われている。(ただし、ミノタウロスがオーガに近い種とされるドラゴンランス世界設定は例外である。)AD&Dのデーモンでは、イーノグフ(イーノグ)とその信奉者のノールらとは特に対立している。これらの特性を見ると、元のキリスト教的な悪魔のバフォメットの、ないしその視点からの異教神や宗教的デーモンとしての性質すらAD&Dのものにはほとんど残っておらず、主にその姿から名前と姿以外はあまり関係のないものになっているといえそうである。
*bandには[V]以来の大半のバリアントに登場する。なお、Gumbandではその名は'Baphomet, the Goat of Mendes'になっている。階層は51階でD&D系のユニークモンスター由来としてはさほど深層な方には入らないが、攻撃力はかなり高い。特にミノタウロスやデーモンの仲間を連れて現れるわけではなく、召喚系などの厄介な魔法は持たないが、ブレスやボール、ボルトの魔法はしばしば放ってくる。
ハーフトロル Half-troll 【敵】【種族】
結論から言うとトールキンには半トロルもしくは人間とトロルの混血といった存在の明記はない。また、古典的なRPGでもハーフオークやハーフオーガと異なり、ハーフトロルはさほど一般的な存在というわけでもない(D&D3eなど、テンプレートでほとんどどんなハーフも(トロルとウォーターエレメンタルとか)作れるものは省略)。ことにRPGのトロルは、オーガより明確に怪物的であり特殊能力も多いため、ハーフを作れるヒューマノイドとしては扱われない傾向がある。むしろ、人間とのハーフよりも、T&Tや『ルーンクエスト』のようにモンスターながらも独立した種族として細かく設定され扱われる例の方が多いといえる。
しかし、トールキンのゲーム化であるMERPやMoriaには、オークと並んで「トールキンの代表種族」であるトロルに対して、ハーフオークと同様の発想でハーフが設定されているようである。トールキンの記述中には、遠ハラド人を「トロルに匹敵するほどの体格と力を持つ」といったものもあり、いかにも伝承の成立において異民族への誇張と誤解がそのままトロルの伝承と合流・発展した可能性なども思わせる。闇の勢力にはMERP版ゴスモグ(→ゴスモグ(第三紀)参照)などのハーフトロルが登場するが、これらはサルマンのハーフオークのような合成種族ではなく、人間(ゴスモグの場合はヴァリアグ)とトロルとの混血によるものである。
余談であるが、日本のLotR解説サイトなどには、「光に強いウルク=ハイが人間とオークの混血であるのと同様に、日光を浴びても石化しないオログ=ハイは人間とトロルの混血である」とされ、「ハーフトロル」=「オログ」との推測が多出する。これは可能性を否定する積極的な理由はないが、支持するに足る根拠といえるものもない。まず、ウルク=ハイという語自体が広義であり、「人間とオークの混血」(映画でのサルマンのハーフオーク)を特定する言葉ではない。またオログ=ハイは、サルマンのハーフオークよりも遥かに前にサウロンによって生み出されており(MERPの設定ではサルマンのハーフオークの15世紀前、モルドールの黒ウルクの10世紀前のアングマール時代に、すでにオログがいる)オログがサルマンのハーフオークと同じ技術・参考にした技術で生まれたとも考えにくい。またMERPの話であるが前記のゴスモグなど、オログとさらに人間のハーフである「ハーフオログ」がいるため、オログの時点で単なる人間とトロルのハーフとは考えにくい。結局のところ「人間とトロルのハーフ」はあくまで(MERPでなく)トールキン自身の記述では明確でなく、オログ=ハイの由来は不明としかいえない。勿論、オログ=ハイを作り出すにあたって、「どういった種族を用いたか定かでない」サウロンが、人間も使った可能性というのはかなり高い。
*bandにおいては、まず敵としてのハーフトロルは、種族として扱われるのではなく、打撃能力のみ持ち集団で出現する「ハーフトロル」というあたかもトロルの一部族のような単独のモンスターである。「オログ」と同様に閃光への耐性を持ち、並んで強力なモンスターである。モンスターの思い出には「トロルと人間の混血」と明記されている。
種族としてのハーフトロルはMoriaから存在する。Moriaではモンスターハーフとしてはハーフオークとハーフトロルだけになっているので、おそらくMERP等の設定を参照したというよりも、トールキンにおいてオークと並んで最も一般的なヒューマノイドである「トロル」のハーフを、モンスター的種族として加えたというだけだろう。しかし、Moriaでは肉体的能力に最も振れた種族として選択の余地があるのだが、Angband([V])ではハイエルフやドゥナダンのような「全般的に優秀=生存率の高い種族」が存在するためその意義は薄れ、また、ダンジョンの層が深く危険度も高く、さらに数多くの物品が存在し特に純戦士は魔法道具に頼らなくてはならない魔法道具能力の低さは致命的である。それでも、[V]では初期の生存率が高い種族として「勝利は考えないがゲームに慣れるために、最初にハーフトロルの戦士でやってみる」ことが推奨されていることもある。
[V]以外のバリアントでは、さらにファクター、ハーフトロルより強力な種族も大幅に増えたので、さらに存在意義は薄まっている(初心者に推奨する戦士種族ももっと強いものがある)。しかし、狂戦士のような最初から魔法道具の無関係なクラスの場合、高い肉体能力やHDが低い経験コストで得られるのでかなり有効であり、ハーフトロル狂戦士の選択者も少なくない(狂戦士はもっと反則的種族ならばいくらでもあるが)。
→トロル →オログ
ハマーホーン Hummerhorn 【敵】
J.R.Rトールキンの詩集『トム・ボンバディルの冒険』における赤表紙本抜粋のホビット詩のひとつ『さすらいの騎士』に登場する軍用の甲虫。さすらいの騎士はただひとりでファンタジー・フェアリーの国の軍勢と戦い、その国々が軍勢としてさしむけるのが、もっぱら「こふきこがね・かなぶん・みつばち」である。かつてのアルダには、この騎士に差し向けられたという人間と同等の巨大な昆虫が実在していたのか、これらの虫ほどに小柄な騎士が実在していたのか、それともこれがムーマクのようなホビットの誤伝・誇張かといったことは定かではないという。
──といったことが、『トールキン指輪物語事典』のかなぶん(ハマーホーン)の項目に馬鹿真面目に解説されているのだが、妖精の国を進む騎士云々の内容から見ても、これがあくまで作中においてもナンセンス詩であってアルダの伝承云々として取り上げるとかいう問題ではないのは言うまでもない。設定では、この「ホビット詩」は類似の形式のホビットのよくある歌に習って、ビルボ・バギンズがあらたに韻律を生み出して作り上げた自信作であるのだが、同時に空をゆく騎士が「エアレンディル伝説に強引にあてはめられた」部分があるという。確かに実際にこの詩の細かい描写にはエアレンディルやエルダールの伝説を意識したらしき部分が見られ、確かに上記の事典のように何かアルダの伝承の暗示を読み取りたくなる部分もなきにしもあらずである。また、ビルボはトールキン自身と重なる点が多い人物であるが、おそらく元来は別の(アルダとは無関係な)ファンタジー詩として作ったものをホビットの詩という設定で詩集に収録し、それらしい描写を入れたことへの、トールキンの自己パロディという側面も読み取れる。
ハマーホーンは[V]から登場し、説明では「巨大な虫」となっているが、「蟲の大群」のように1シンボルで群れなのか、それとも一体なのか定かではない。増殖モンスターだが、スピードが速いので増殖速度も速く、混乱打撃も持っているので突入して一掃するといった目論見は裏目に出ることも多い。増殖系のモンスターとしてはかなり厄介なものである。
隼の剣 Falcon Sword 【物品】
はやぶさのつるぎ。コンシューマRPG『ドラゴンクエストII』から同シリーズに登場する武器で、攻撃力自体は低い(「こんぼう」以下である)が、1回のコマンド(戦闘ラウンド)で2回攻撃できるという特性がある。DQシリーズのシステムは1回攻撃を前提に作られており、非常に例外的な武器だが、充分にレベル(素の攻撃力)が上がると2回分のダメージが大きくなり、単純にクリティカル(会心の一撃)の機会も増えるためきわめて強力になることがある。現に、最初に登場したDQIIでは、攻撃力値が最強の武器である「いなずまのけん」がやや見つかりにくいためもあって、こちらを最後まで使用したプレイヤーもいた。DQIIよりも後のシリーズでも登場し、会心の一撃の確率などからも、戦法の工夫に使用されることが多い。DQシリーズを通して武器の中では非常にポピュラーなものであり、DQ以外のゲームに類似武器も多く見られる。
ハヤブサは猛禽のうちでもタカ以上に旋回能力が高いため、「素早く振り回す」という発想からこの名が出たという説もあるが、単なる「はや」ぶさという語感からであろうとも言われている。DQ関係のイラストなどでは、そのスピードからフェンシングの用法がイメージされているらしい細身の剣で、柄の部分が隼を象った意匠になっていることもある。
*bandでは、[変]においてアイテム、モンスターに数多く加えられたDQ要素のうちのひとつである。ベースダメージが1d6(さすがに「こんぼう」1d4より低いわけではない)で、攻撃回数が追加されるという武器ベースアイテムである。1d6はレイピアやスモール・ソードと同じでここでも同じようなビジュアルを意識しているのかもしれないが、レイピアよりもさらに軽く、マン・ゴーシュと同じ重量しかない。攻撃回数が増加するというのは、*bandのシステムでは他のエゴ等の能力でもありうるもので、DQほど例外的ではないが、*bandでの攻撃回数増加が非常に強力なものであることに変わりはない。しかしながら、ベースアイテム自体については、いかんせんベースダメージがこの値であるため、かなり強力なエゴやアーティファクト(ことに、ベースダメージが底上げされるタイプのもの)でなければ中々使えるものでもない。
→破壊の隼の剣
パラディン Paladin 【クラス】【敵】
出典:聖騎士。paladinは元来はカール大帝(シャールマーニュ)の有名な12人の騎士を指す言葉であり、ローマのpalatinus(宮廷のもの)から発するドイツ語である。転じてロマンス物語詩では、彼らのような並外れて勇猛かつ高潔な理想的騎士らを指す。
とみに最近、「聖堂騎士」のルビとして「パラディン」を当てている漫画・アニメや、その流れのネット創作などはそれ以上に多出する。上記した語源の「宮廷→聖堂」からそう判断したことを想像できなくもないわけだが、「パラディン」という語自体の意味するところは「聖堂騎士」(テンプルナイト、テンプラー)とは全くの別物である(RPGの原型であるD&D系では、聖堂騎士をモデルにデザインされたのはパラディンではなく、そもそも最も基本的な聖職者「クレリック」であり、すなわち重武装と近接戦が可能で危険に赴く聖職者というクラスである)。十字軍のそれをモチーフとする聖堂騎士という語は、神の尖兵、しばしば教団の尖兵である。これに対して、パラディンは宗教組織や、ひいては宗教自体とすらその本質はなんら無関係であり、ただ正義の戦士として理想であることを追求する騎士を指すのである。(ただし、中世の騎士物語では理想的で高潔な騎士は敬虔なキリスト教信者として振舞うことが当然であり、神の加護・恩寵を賜ることは不可欠であるため、結果的に聖人としての性質もおびてくることになる。)特にD&D 3edでは、パラディンは「正義」のみに仕えるのであって、クレリックのように仕える「神」を特定することはないと明記されている。
条件が「神に仕えること」ですらなく、「抽象的理想を追求し、その具体的顕現となる」ことではじめてパラディンとなる、これらが一般に信じられる神官戦士もどきよりも遥かに稀有な存在を指すことは明白であろう。どれほど「パラディン」と呼ばれること自体が厳しいかと言えば、例えば、世のRPGの説明ではパラディンの代表例として「アーサー王の円卓の騎士」全員を挙げるが、AD&D2ndのLegend and Loreによると、アーサー王伝説の騎士の中でデータ上「パラディン」になっているのはアーサー自身と、聖杯探索を成功させたギャラハッドだけで、他はすべて普通の「戦士」である。ある意味理想騎士のあざとい具現化といえるランスロットですら、不義の罪の数々が傷となって、結果的にはパラディンとは認められていない。
(また、デスナイト、アンチパラディン、ブラックガード等の存在もまた、単なる暗黒戦士やら邪神に仕える戦士やらではなく、それほど稀有な存在であるパラディンの対極であるわけだが、これらについては独立したエントリーを設ける。)
とはいえ、実際のゲーム中では広義となり、あるいはプレイスタイルを明確にするために、D&D系の各ワールドセッティングを含めてパラディンは(本質は上記のようでありながらも)宗教組織の中にある設定であることも多く(Forgotten Realmsでは、パラディンの呪文発動には守護神格を定める必要があると「世界設定において」定められている)また、パラディンという言葉に対して、原義をあたらず、こうした既存のワールドを孫引きに参照した世界観において、パラディンと神官戦士の語義が混同される一因ともなっているようである。
また、CRPG等のパラディンは、単に聖職者(白魔術師)と戦士の中間にあたる「白魔法を使える戦士」(ゲームによってはナイトとしたりロードとしたりする)を、ときには特に深い意味もなく、またときには上記の誤解によって名づけられている場合が多い。
和製RPGにはまれに「格闘家」の上級職が「パラディン」になっているという突拍子もない例があるが、これは神官戦士=パラディンがさらに飛躍したもので、寺院に仕える戦士=修行僧と解釈されたと考察する人もいる。
おそらく予想がつくだろうが、本来CRPGに当てはめるならば、パラディンは「神官戦士」よりも、宿命(フェイト)によって選ばれた存在であり、目的と理想に向かって一本道に邁進する「勇者」にあたる存在に他ならない。(そして、よほどあざといシナリオのゲームでない限りは、存在しえないか、多大な苦労を強いられる存在でもある。)
なおトールキン作品に関しては、裂け谷のグロールフィンデル及びドル=アムロスの大公イムラヒルが、「パラディン」の例だと主張される例が多く見られる(両者もいかにも高潔で紳士的な騎士(騎手)・戦士としての姿とイメージから、このアーキタイプに当てはめているようである)。また、王家の末裔の貴種であり「癒しの手」を持つアラゴルンは、D&D的「レンジャー」の典型例であると同時に、頻繁に「パラディン」の説明にも用いられる。
パラディンクラスの初出であるOD&D(追加ルールGreyhawk, 1975)のパラディンは、基本的には戦士系で、追加の癒し(按手による治癒)や防護の能力を持つ。AD&D1st(PHB, 1978)のものはクレリック呪文能力や詳細な説明があるが概ね原型同様で、海外の多くのTRPG/CRPGがこのAD&Dに準拠している。なお日本でしばしば主張されている「最初のD&Dのパラディンは9レベル以上の戦士から転職する」といったものは、CD&D(緑箱, 1984)のもので、OD&Dとは全く違う上、OD&DどころかAD&Dよりもさらに遥かに後出なので注意されたい。OD&D〜AD&Dのパラディンはあくまで戦士系が基本であり、特殊能力は補助的なものであるが、3〜5版と版が進むと特殊能力面のウェイトや、純戦士との差は大きくなってくる。
D&D系のパラディンは、後日のデザイナーらの説明では、ポール・アンダースン『魔界の紋章』の主人公ホルガー卿(異界に巻き込まれた現代人)を強く意識したものと説明されている。
クラス:Moriaの時点から、*band系には前記した「単なるプリーストと戦士の中間」という位置づけでパラディンというクラスが存在し、勇士から神官戦士、単なる騎士まで広範なイメージをカバーするクラスのようである。その時点での原型のAD&Dがあくまで戦士系で呪文は補助的、特殊能力が強力であったのに対して、Moria/*bandでは呪文能力が高く、「戦士系/聖職者系の兼業」の側面が強くなっている。*bandの戦士に比べても各技能(射撃も含め)は低いが、(Moriaや[V]の同様の複合クラスであるレンジャーやローグが習得呪文に制限があるのとは異なり)すべてのプリースト呪文を使えるので、結果的にプリースト自体より有利ではないかと考える意見も多い。
しかしプリースト系呪文を使える戦士というものが果たして有利かは議論も多い。*bandのプリースト系の魔法は一般に探知も防御(サポート)も物足りず、治癒能力に重点があるが、RPG一般のように他者を治癒するわけでもないので重要性は必ずしも高くない。何故なら、パラディンは魔法に必ず5%の失敗確率が残るので、「いざという時に体力回復のポーションのかわりに魔法を使う」などと当てにすることはできないからである。また、邪悪系に対する攻撃力は高いが、攻撃の魔法は接近戦に強いパラディンとの相性は決してよくないだろう。結局のところ、戦士よりは堅固で堅実なプレイングができるという程度でしかないかもしれない(それも、序盤はほとんど魔法は役に立たないので苦労することになる)。
[Z]では、選択できる魔法が生命か暗黒の一体系だけになり、[V]に比べて魔法の範囲はさらに狭まった([V]のプリースト魔法は移動なども優れていたのであるが)。暗黒のパラディンは[V]系や生命のものとは全くゲーム性が異なってくる。便宜上、このエントリーでは生命・破邪のみを「パラディン」として扱い、暗黒パラディンは「デスナイト(死の騎士)」の項目に譲る。
[変]ではあるバージョンから[Z]の生命魔法が、主に治癒系の「生命」と邪悪攻撃系の「破邪」に分断され、パラディンは「破邪」の方のみを選べるようになった。「退魔」「魔狩人」のイメージが強まったと言え、破邪魔法自体は決して弱いわけではないが、接近戦クラスである以上攻撃系の魔法の旨みは少なく、さらに不利になったという意見がおしなべて多い。Moria/[V]当時から元々中途半端の感が免れず、さほど人気のあるクラスではなかったが、さらに日陰者に踏み込んだ感がある。
敵:これもMoria当時から、見習いパラディンをはじめとして何種類かの「パラディン系」の敵が全階層に渡って登場する。たとえ善のパラディンであっても(悪のパラディンも多数出てくるが)思い出によると「@を悪とみなして」襲ってくる。見習いパラディンは、せいぜいが恐怖の呪文を使ってくる程度で集団でもどうということはない敵だが、メイジなどは軽傷の呪文などでいきなり殺されたりするので油断は禁物である。[Z]では「反逆パラディン」「超エリート・パラディン」、[変]で「パラディン」が追加されたが、これらはいずれも非常にしぶとく、危険すぎはしないにせよ厄介な敵である。
→死の騎士
ハラドのヘビィ・クロスボウ The Heavy Crossbow of Harad 【物品】
トールキン作品に登場する中つ国の地方、ハラドとは「南」の意で、「ハラドワイス」すなわち南方国ともいうが、ゴンドールやモルドールよりさらに南の国々の総称である。ハラドリムすなわちハラド人については「ハラドリムの革製ラージ・シールド」の項目に譲る。
ハラドは多くの国からなっていたが、褐色の肌の人々の住む「近ハラド」と、黒い肌でトロルに匹敵するともいう体格の人々の住む「遠ハラド(ファルハラド)」に大別されていた。トールキンの設定でもハラドは広大な森林や砂漠からなる、地中海(モルドールの谷間にあたる)以南の諸国のような地理になっている。一言ハラドというが、文化も、近ハラドの亜熱帯的なものからムーマクを扱うような遠ハラドまで多岐に渡っていたようである。
第二紀にヌメノールが中つ国全域を植民地化していた時代をはじめ、第三紀の最初の10世紀ほども、ゴンドールはハラドのかなりの地域を従属させていた。ヒアルメンダキル王の時代までには、ウンバール港の一帯とその東のハラドワイスを従属させていたので、モルドールの真南を含めて、ほとんどゴンドール本国と同じほどの面積のハラド諸国を従えていたことになる。しかしながら、ゴンドールの力が弱まったそれ以降は、独立してゴンドールと争ったり、黒きヌメノール人に従えられたりでゴンドールを脅かしていることが多かった。またサウロンのモルドールが再び興った指輪戦争時代には、モルドール側についている。戦後は、ハラドはヌメノール時代のような従属国ではなく、同盟国となっている。
なお、ICE社のTRPG, MERPの設定では、ハラドのさらに南はアフリカ大陸のようにはなっておらず、ちょうど緯度が温帯にあたる辺りはかなりの面積が緑と島・港による地理になっており、アルドールと呼ばれるこの地域は北のエルフらとは完全に独立した、ノルドールの治める国となっている(→リリアのダガー)。
*bandでは、「ハラドのクロスボウ」は[O]に存在し、[変]にも手を加えた形で追加されているアーティファクトである。特に遠ハラドのムーマクや原始的な武具を用いるイメージも強いハラドに対して、「重クロスボウ」というアイディアが生じた原型は定かではない(MERPのデータにもそれらしいものはない)。やぐらのようなムーマクの背から撃つというものや、ハラドの主力都市であったウンバール港(→ウンバールのクロスボウ)の港や船の据付のクロスボウ(バリスタ)等をイメージしているとも考えられる。性能としては[O][変]ともに割と強力であるものの、反感があり、強力な武器の少ない[O]ではまだ使える機会もあると思われるが、[変]では反感がさらに不利でかなりのACペナルティもつき、軽重の呪いもつき完全な「呪いアイテム」として扱われている。ただし、新たに追加された物品であるにも関わらずなので、存在意義に疑問を感じないでもない。
バラヒアの指輪 Ring of Balahir 【物品】
『指輪物語』本編中にはほとんど言及されないが、アラゴルンの指輪であり、ドゥネダインの王家の家宝。エメラルドの指輪で、二匹の蛇がからみあい、一匹が頂く花の冠をもう一匹が噛んでいるというデザインである。魔力のある指輪ではない(アルヴェドゥイ王によると)のだが、その歴史は非常に(力の指輪よりも)古く、非常に数奇な運命を潜り抜けて伝わっている品である。
元々この指輪は、第一紀(アルダの伝説時代)にエルフ王のひとりフィンロド(ガラドリエルの兄、別記もしているが随一にまともな性格のノルドール王)が、ともにモルゴスと戦う人間の王、ベオル家のバラヒアに与えたものだった。その後、バラヒアは味方の裏切り(→ゴルリム)にあって呆気なく倒れてしまい、この指輪は息子のベレンに伝わる。ベレンはルシアンへの恋に生きモルゴスからシルマリルを奪取する大冒険を行なうが、この指輪は彼の身分を証明するものとして役立つ。その後、ベレンの孫娘のエルウィングを通して、曾孫のエルロスがヌメノール王となった際、この指輪もヌメノール王家の家宝のひとつとなるのである。
ところがヌメノールが水没した際、脱出した王族、宗家からは遠縁でしかないエレンディルが持っていた品の中に、なぜかこのバラヒアの指輪も入っていた。その後、エレンディルの、もとい中つ国のドゥネダインの北方王家(アルノール)の家宝のひとつとなる。アルノール王国が魔王の国アングマールとの戦いで滅亡し、最後の王アルヴェドゥイ(→参照)が逃亡する際、船などを援助してくれた北方ロスソス族に礼としてこのバラヒアの指輪を渡す。しかし皮肉なことに、アルヴェドゥイの乗った船は沈んでしまい、アルノールの残党の野伏たちがロスソス族から買い戻して、バラヒアの指輪だけがまたしても生き残った。その後、アルノールの末裔である王家の宝として(管理していたのはエルロンドだが)連綿と受け継がれ、アラゴルンの代にまで至るのである。
映画版LotRでは、FotRから続けてアラゴルンがこの指輪をはめているのが映り、マニアだけ気づく隠れアイテムと思いきや、TTTではこの指輪によって蛇の舌とサルマンがアラゴルンの正体に気づくという、まさにそのマニア泣かせの追加シーンがある。
*bandでは[V]からアルダ世界を舞台にしたバリアントに登場し、すべての能力値が+1されちょっとした耐性があるという品で、いかにも派手な魔法の指輪ではない、無意識の底上げ程度の力を持っている。はじめてこれが手に入るあたりの階層に達した入門者は能力値に+1にひかれてはめておくことが多いが、恐らくは同じくらいの階層ならば、もっと有効な指輪が何か手に入っているはずである。そうした意味で、コレクターズアイテムに近いかもしれない。[Z]系では、マーリンの指(腕)輪『フラキア』に差し替えられてなくなっている。マーリンとベレンの関係についてはフラキアの項目に譲る。
→フラキア
バラン Balaan the Grim 【その他】
冷酷なるもの。苦痛の神。マイクル・ムアコックの『エターナル・チャンピオン』シリーズにおいて、さまざまな次元世界に共通して存在するとされる数多くの<混沌>の神の一体である。(なお、地球の悪魔学のソロモンの悪魔バランはBalanである。)
『エルリック・サーガ』においては、混沌の神としてしばしば名前が挙げられ、例えば3巻においてエルリックが霧の巨人(→参照)と戦う時に連呼する神々の名の中に「バラーン」というのがあるがこれも同じだと思われる。混沌の勢力によるハルマゲドンの最終6巻では、神官ジャグリーン・ラーンによって、アリオッチ、バラン、マルクら<地獄の大公>と呼ばれる<混沌>の強力な神々がひとつの宮殿に集結、エルリックと対峙する場面がある。ここでバランは、マルク(*bandの混沌神にはいない)と共にその他大勢的な台詞を発するだけで、とくに個性や特徴の描写はない。このとき混沌の神らは定命の者に自分の小ささを抱かせる威厳を放ってはいるものの、普通の人間に似た姿をしている。なお、いったいこのときエルリックがかれらに対してどうしたかは、もはや章ごとの山場のひとつひとつが凡百の「ファンタジー大作」のクライマックスも霞むほどのスケールと描写の『エルリック』6巻の、該当場面を自分の目で確かめてもらう他ない。
ムアコックの描写ではこれだけだが、TRPG『ストームブリンガー』などでは、バランは「苦痛の神」という名を与えられ、仮面をつけた姿をして、拷問などを司るという設定になっている。
*bandではゲームでの設定が考慮されているかは不明だが、特に苦痛ばかりというわけではなく、不利なものから変容、経験や治療や物品といった様々な報酬がある。アリオッチやピアレーといった主要なムアコックの混沌神と違って、IGNORE(なにも起きない)になることはない。
パランティア The Palantir of Westernesse 【物品】
出典:西方国の物見の石。アルダ第二紀のヌメノール王朝から伝わり、のちの中つ国の北方・南方王朝の秘宝となっている7つの石で、伝承的なFTに登場するいわゆる「遠見の水晶玉」の、非常に強力なものである。クゥエンヤ語でpalanは「あまねく」、tirは「見張る」の意で、見る石と訳される。複数形はパランティーリである。
然るべき使用法で、かつ使用者の力の及ぶ限りは、およそ遠近の光景のみならず、過去を遡って見ることさえ可能である。さらに、複数の石と呼応すると、石同士が通話できることは無論、他の石の周辺も含めて、またさらに広く、表層だけでなく深い洞察を得ることもできる。直径は1フィート(30センチ)ほどで(ただし、後述するアモン・スールとオスギリアスの「親石」はもう少し大きかったと言われる)実に水晶に似て黒みがかった透明の球だが、中心は反射で火のように輝いているように見える。中つ国に存在する力ではほとんど破損は不可能と言われ、力の指輪同様にオロドルインの炎でなければ破壊不能とも噂されていた。
『クゥエンタ・シルマリルリオン』において、遥かなアルダの神話時代、ハイエルフ最高の鍛冶師フェアノール(→参照)が発明した作品の中にある、「遠くの光景をマンウェの大鷲の視力のように見られる水晶」と書かれているのがそれである。時代がくだり、第二紀に、そのパランティアのうちいくつか(TTT原作でのガンダルフの説明のように、じかにフェアノールが作ったり手を加えたものなのかは定かではないが)が、アマンのハイエルフによってヌメノールに贈られた。最初からヌメノールにあった数も定かではないが、少なくとも、ヌメノールが水没した際に、脱出してきた王族エレンディルらが「7つ」のパランティアを中つ国に持ってきた。
7つのパランティアは、エレンディルと息子たちが北方と南方王朝を分けて建国した際に、北方アルノールに3個、南方ゴンドールに4個を、それぞれ戦略上の要所に設置した。それぞれの辿った経緯は整理すると以下の通りである:
アルノールの石(3個)
(1)アモン・スールの石:3つのアルノールの石の上位にある「親石」で、アルノールの中央に位置する城砦アモン・スール(映画版FotRでアラゴルンがナズグルと戦った丘の上の廃墟)にかつては置かれていた。三つの国に分裂したアルノールは、実はこのパランティアの親石欲しさにアモン・スールを奪い合い、廃墟にしてしまったのである。石自体は回収され最後の王アルヴェドゥイ(→参照)まで伝わっていたが、彼が船で遭難すると共に海中に失われた。
(2)アンヌミナスの石:アルノールのかつての首都アンヌミナスにあったが、アルヴェドゥイまで伝わり、やはり共に水没してしまった。
(3)エミン・ベライドの石:ホビット庄西の塔山丘陵、エロスティリオンの塔に置かれていた石だが、他の石と違ってまったく通信能力がなく、人間には完全に忘れ去られていた。というのは、常に石の視線が「海」に向けられ西の国(アマンやその幻想)しか見ることができなかったためである。指輪物語冒頭のギルドールをはじめ、多くのエルフがたびたび西を見るためにこの塔を訪れた。しかしこの石も、エルロンドが西に去る際にアマンに持って行ってしまったという。
ゴンドールの石(4個)
(1)オスギリアスの石:4つのゴンドールの石の上位にある「親石」で、7つの最も上位の親石でもある。ゴンドールの当初の首都オスギリアスに置かれていた。しかし、簒奪者カスタミア(→参照)の乱でオスギリアスが荒廃した際に水中に没し、失われた。
(2)ミナス・イシルの石:ゴンドールの「月の塔」にあった石。月の塔がアングマールの魔王に奪われ「ミナス・モルグル」となったときに、サウロンによって持ち去られ、使用されていた。指輪戦争後も見つからず、おそらくバラド=ドゥアの崩壊時に埋もれた(オロドルイン噴火の地割れに飲まれた)と考えられている。
(3)ミナス・アノールの石:ゴンドールの「太陽の塔」にあった石。オスギリアスとイシルの陥落後、太陽の塔は首都ミナス・ティリスとなっていた。他の石が行方不明になってからは公式には使われていなかったはずだが、実は執政デネソールが密かに使用していた。(色々とあった結果)今では萎びていくデネソールの両手しか写らない石になってしまっている。
(4)オルサンクの石:元々がこの石を据えるための基地だったと思われる、アイゼンガルドの塔オルサンクに設置されていた石。アイゼンガルドを任されたサルマンが使い、イシルの石を持つサウロンに操られるきっかけとなっていた。旅の仲間たちが回収し、その後もアラゴルンが持ち、おそらく唯一「現存する石」となった。
最終的に残った石はアノールとオルサンクの二つ、さらに使える状態で残ったのはアラゴルンが回収したオルサンクの石だけということになる。ただし、指輪戦争後は強い必要もなく、また呼応する石もない状態では有効とも言えないので、以後は使用されることはなかったかもしれない(『終わらざりし物語』によると、アラゴルンは指輪戦争後に石をオルサンクに戻している)。しかし追補編には「使用可能なパランティアはすべて失われてしまった」とあるのは、オルサンクの石も存在が公にされず、失われたと信じられていた、とも考えられる。
然るべき「方向」に据えつけ、念をこらせば誰でもある程度は使用できるのだが、エルフや魔法使のような高度な技術の持ち主が特に使いこなすことができる。が、技術の有無に関わらず、ヌメノール人の指導者に(王族や、その代行者にまでも)最もよく従うように調整されている(これは、贈ったエルフらの手によるらしい)。故に、アラゴルンやデネソールも魔法使らに劣らずパランティアをうまく扱うことができたのである。
パランティアは使用すること自体も若干心身を消耗させるが、それ自体が悪であるわけではない。デネソールやサルマンがパランティアを使用して意思を曲げられたのは、あくまで接触したサウロン自身の力や、巧みに情報を与え操っていたサウロンの奸智によるところが大きい。映画版LotRの、触れただけでサウロンマークが爆発したりバリバリ光を発してアラゴルンの手にまで張り付いたりするのは、わかりやすくするための誇張表現による面も大きい。
海外では「パランティア」もかなり一般的なファンタジー用語となっているようで、T&Tのシナリオには「これはパランティアだ。」などと何の説明もなくいきなり登場したりもする(そんな物騒なものが唐突に登場するのも殺伐T&Tならではだが)。
物品:*bandでは初期の[V]には登場していなかったが、[V]拡張用のJLEパッチから[V]3.0に取り入れられ、ToMEなどアルダを舞台とする多くのバリアントに標準のアーティファクトとして追加されている。
ToMEには登場場面の多い「オルサンクの石」と、もうひとつはなぜか呪いの物品、サウロンが使用していた「イシルの石」が登場する。オルサンクの石は能力はともかく全テレパシーがあるのが大きいが、反感もついている。これは原作通りというより、むしろ「メリットもデメリットもある」という雰囲気を表現するためのデザインだと思われる。イシルの石も一応ESPはあるものの、太古の怨念など基本的に強力な呪いの物品である。なお、どちらの石も発動効果は千里眼である。
どちらの石も、何がどういうわけか、投げつけると爆発の薬と同等の恐るべき大ダメージを与える。これは「パランティアがほとんど破壊不能=硬い」という点を考慮していると思われるが、これでは原作で蛇の舌が投げたものがもし当たっていれば、いくらガンダルフのドタマでも間違いなくカチ割れていたという戦慄すべき可能性に至るや恐々たる感を抱かざるを得ない。
[V]3.0やEyAngbandやUnAngbandといったその他のバリアントのものも、だいたいオルサンクの石に似たデータである。が、なぜか[変]の「パランティアの石」は妙に軽く(重量が10、投げダメージも1d1しかない)やはりテレパシー源ではあるが、特にデメリットなどのない光源である(発動効果は「ユニークモンスター感知」となっている)。本来アルダのパランティアは最も由緒ある品のひとつであるが、ここでは『審判の宝石』ほどには光源物品としての格はなく、(他の状況にもよるのだが)位置づけ的にも手前の品ということであろう。
→フェアノール
バルド弓
→射手バルド王のロング・ボウ
バルログ Balrog 【敵】【種族】
出典:アルダ世界の第1紀にモルゴスの軍団の切り札であった悪霊たち。元はマイア(下級神)の火の精らであったが、アルダ世界の形成前後にモルゴスに誘惑されて配下となった。以後、竜やサウロン配下の様々な軍団とは別格として、モルゴスの「親衛隊」格をつとめる。バルログ(複:ベルロエグ)はシンダリン語で「力の悪鬼」であり、同じ意をクゥエンヤ語ではヴァララウコ(複:ヴァララウカール)と呼ぶ。
モルゴス軍が崩壊した第1紀の末にほとんどが滅ぼされた(マイアなので、肉体を奪われて魂は虚空に追放されたと思われる)が、第3紀に生き残っていた通称『ドゥリンの禍』が、『指輪物語』に登場し、その脅威がいかほどのものであったかをファンの間に存分に知らしめる。(『指輪物語』に登場した個体については『ドゥリンの禍』の項目を参照。)ファンタジーにおける暴威の象徴といえば竜であるが、ことトールキンに限ってはこの「バルログ」をおいて他にない。
トールキンの『クゥエンタ・シルマリルリオン』に個体名が登場するのは首領の「ゴスモグ」のみである。また、どれだけの数がいたのかは不明だが、トールキンの原稿集the History of Middle-earthによると、初期の原稿では数百体かそれ以上存在する構想などもあるが、後の方ではさらに強力・希少な存在とみなすため「7体」しか存在しないことにしようという構想もあったらしい。そのうち一体に「ルンゴルシン」の名が見える。ほかの記述と多々辻褄があわなくなるため(ゴンドリン攻防などで幾体も倒されたなど)特別にこの記述を優先する理由がない限り7体と解釈することはできないが、ファンの間では特に7体の「グレーター・バルログ」が存在する、と想像されていることも多い。
外見についてははっきりしないが、「火に被われた背の高い影のよう」「人の姿をしているが人よりもずっと大きく」「火の鞭を持ち、火を吹き出す」「燃え上るたてがみ(鞭ともども、火炎の比喩なのか判然としない)」などがある。背中に翼のように見えるものがあり、追補編にもサンゴロドリムから飛来(flying)してカザド=ドゥムに潜んでいた旨の記載があるが、比喩ならず実際に飛行可能か否かはトールキンファン間の千日議論の格好の議題となっている(飛べるなら何故、ガンダルフが橋を壊した時に落ちたのか? 単に落ちたのではなく、ガンダルフに魔法で落とされたのではないか、等々)。
Peter Jackson監督の映画FotRではまさしく「巨大なイフリートもどき」であったが、火の精霊である以上は遠からずとも言える。例によってファンからは賛否両論のようである。剣や鞭といった武器が物質ではなく、魔力で炎を固めて形成するものという、T&Tの記述のような描写だったのが印象的であった。
最初期のTRPGであるAD&D 1stでは、「タイプI-VIのデーモン」という便宜的な記号で表現されている中上レベルのデーモン各種のうち、最強の「タイプVI」のデーモンは、「鞭と剣を持ち火に包まれた」というものだった。また、(悪魔召喚などで「真名」が必要な場合などの設定として)タイプVIのデーモン各人の固有名詞として、「ンドゥルゥ」「テル-ソス」「アルゾール」「ウェンドネイ」「エルトゥ」が列記されており、それらの首領の名というのが「バロール(Balor)」であった。このタイプVIの姿・能力とバロールは、(バロールという名はケルト神話の悪神から採られているという建前ではあっても)その姿から、トールキンのバルログがモチーフであることは明らかである。しかしながら、AD&Dではある時期に宗教的配慮などさまざまな問題から、モンスター名に「デーモン」という語を避けることになったので、タイプI-VIのデーモンの「種族名」がそれらの固有名の中からとられたものに変更され、首領の固有名にすぎなかった「バロール(ベイラー)」がかつてのタイプVIすべての総称となってしまい、ちょうど「バルログ」と同じような種族名となってしまった。(なお、上記したタイプVIの各個体のうち「エルトゥ」は、『フォーゴトン・レルム』世界設定の小説などに悪役として登場する。)
Roguelikeでも、AD&D 1stのデータをそのまま多く流用しているNetHackでは、タイプI-VのデーモンがそれぞれAD&D 1stのデータ(と、後期の名からとられた「ヴァロック」「マリリス」などの種族名)で登場するが、「バロール」だけは登場せず、かわりにトールキンのままの「バルログ」が登場する。データもAD&D 1stのタイプVIよりも遥かに強いものである(なお、数値的にはAD&D 2nd以降のバロールのデータに近い)。
海外のRPGでは、AD&Dをそのまま流用しているようなCRPGでは上記タイプIVやバロールがそのまま出ていることがよくあるのは無論だが、D&Dシリーズ以外の他のTRPGなどでも、LotR要素が常識化していてそのままの名前で出ていたり、似た造形のものがあったり、近年の改版で名前が若干変わっていたりといったものが多い。例えばT&Tでは基本ルールブックやソロシナリオ等にLotRそのままの姿で「バルログ」として頻繁に登場する。後の版(7〜9版など)では「バルルク」「コーター」等に名前が変更され、都の下水に住んでいるなど元ほど凶悪な生物ではないことになってはいるが、オークやゴブリンのみならずドワーフにも支配力を持ち神として崇められるなど強大な原型は残している。タイタン世界(ファイティング・ファンタジーのゲームブック等)では『運命の森』等の「火の魔王」(FFモンスター事典では「火炎魔人」「ファイア・デーモン」)が、鞭を持ち、炎を吹くなどそれらしい造形である。CRPGでは、初期のひとつである『ウルティマ1』のモンスターに、鞭を持った悪魔の「バルロン」が登場し、以降のシリーズにも見られる。以後、海外のD&D系や海外産のオンラインウェアでバルログやベイラーがそのまま登場することは多い。
正統ファンタジーの普及率が低い日本でも、バルログはDQ3の終盤に登場したので(ちゃんとぎざぎざの剣と鞭を持っている)割とよく知られているが、終盤の中ではさして手ごわくないので印象が薄い。最初のFC版のモンスターグラフィック(色違いのサタンパピーも同様)では、解像度の問題からか腹筋が鍛えられて腹が凹んでいる様をあらわした線(∩状)が、股間がいきりたったシティーハンター状態にしか見えないだとか、炎の剣が蝋燭に見えたため「ムチとロウソクを持って股間モッコリ状態で襲ってくる意味不明な変態モンスター」などと称されていたこともあったが、今ではあまり聞かなくなった。
日本産のうち変則的なものとして、Wizardry外伝2に登場する強敵の一体「ディスペラント」はいわゆるバルログであると言われており、登場時のテキストもLotRのドゥリンの禍を彷彿させるものになっている。
現在の日本のゲームでは、『バルログ』というと、RPGよりも格闘ゲームの人気キャラが連想されることが多い。『ストリートファイターII』等のバルログは、仮面とクローの空中戦を得意とするスペイン系の美形ナルシストキャラ(ネタキャラ扱いもされるが、人気が高い)で、バルログという語が造語で完全なアルダ神話の創作物を指すものであるにも関わらず、上述のバルログとの関連性はほとんど見られない。あるいは、飛行する悪魔バル・ルグラ(AD&D等ではこれも頻出するモンスターである)から取られているのではないかという説を述べる格闘ゲームファンもいるが定かではない。
敵:*bandには、まず原型であるMoriaに「The Balrog」がラスボスとして登場している、きわめて由緒ある敵である。
発展型のAngbandこと[V]になると、これがそのまま「バルログ『ムアル』」になった。ムアルはICE設定のバルログで、本来モリアのバルログとは別個体であるが、階層やデータは流用されている。Moriaでは倒すのが不可能なほど強かったThe Balrogだが、Angbandではこの階層に達する頃になるとプレイヤーキャラが遥かに強くなっているので、『ムアル』は階層の割にかなり弱い敵になってしまった。一方、深い階層には『ルンゴルシン』『ゴスモグ』が追加され、さらに名もないバルログらの表現として、ムアルよりひと回り弱い「レッサー・バルログ」という非ユニークが追加された。レッサーであっても、かなり強力な火炎打撃・魔法能力をもち、デーモン大量召喚などを持っているので侮れない敵である。
[Z]では『ムアル』がトールキン原典に名がないためか除かれ、『ムアル』と同等の階層、パラメータを持った単なる「バルログ」という非ユニークになっている。が、この「バルログ」はなぜか『ムアル』に加えて壁を堀り進む力やデーモン召喚能力を持ち、相当に厄介な敵になっている。また、レッサー・バルログも除かれている。[変]では、[V]のレッサー・バルログが再び追加され、「バルログ」の方はグレーター・バルログに変更されている。なお、問題の飛行に関してだが、レッサー・バルログと『ムアル』にはCAN_FLYフラグがないが、他(非ユニークの「バルログ」含め)にはある。
ToMEでは[V]と同じであるが、『ムアル』は『ドゥリンの禍』になり、原典通りダンジョン「モリア」の最下層を守る。また[変]とはまた別に、『ムアル』より遥かに強力な階層に「グレーター・バルログ」が追加されている。さらに氷のダンジョンに『ホワイト・バルログ』も追加されている。
概して、*bandでのバルログは(レッサーからゴスモグまですべて)火のブレス、火の魔法、火のオーラ、とにかく火への耐性なしにはまともに戦えない敵である([V]でゴスモグと戦う際、魔法書を90冊持っていったら全部燃やされたという話がある)。免疫、でなければ二重耐性が望ましい。
種族:[変]では「種族」としてもバルログを使用できる。賢さが非常に低いのでプリースト系の魔法、超能力や剣技を扱う種族には向かないが、他は、きわめて高い肉体能力、かなり高い知力、精神攻撃への防御や豊富な耐性など、非常に強力な種族で、*勝利*者も多い。なお、やはり浮遊能力はつかない……また、[変]の最近のバージョンでは空腹充足の巻物が廃止されたが、バルログは通常の食物から栄養をとれず、死体を生贄にして栄養を取らなくてはならないため、魔法で空腹充足ができない職業は(または、できるまでは)その点が辛いことになる。
→ムアル →ゴスモグ →ドゥリンの禍 →ルンゴルシン
バルログの長ゴスモグのロッホアーバー・アックス The Lochaber Axe of Gothmog 【物品】
第一紀の伝説時代においてモルゴスの親衛隊長であったバルログの首領、ゴスモグ(→参照)の斧である。『クゥエンタ・シルマリルリオン』中には、ゴスモグが(鞭とともに)「黒いまさかり」を使っていたという記述があり、エルダール軍の二度目の大敗北(数え尽きせぬ涙の合戦)において、ノルドールの上級王フィンゴンをこの斧で倒したというのが代表的な登場箇所である。
ICE社のRPG, MERPの設定では、このゴスモグの武器はシンダリンで「ウルゴン」、クゥエンヤで「フェアゴン」という名になっており、いずれも「首領の精霊(=精霊の首領、でゴスモグ自身の意か)」「命令者の精神(=ゴスモグあるいはモルゴスの命の具現化、の意か)」というような意味と読み取れる。実はここではベース武器は斧ではなく「メイス」で、ただしクリティカル値等は斧のものを用い、つまりは斧とメイスの両方の長所を兼ね備えるという武器になっているようである。また巨大斧にもかかわらず、30メートルまで投げつけることができ、持ち主の手まで戻ってくるという機能があるが、武器としての攻撃力自体はグラムドリングあたりと変わらない。
むしろ鞭よりもゴスモグの主な武器と思われるのだが、*bandではこれが追加されているバリアントはToMEのみである。ゴスモグの武器としては鞭が追加されているバリアントは多いのだが、結局のところバルログの主力の武器が鞭であるからどちらかといえば鞭を追加、とみなされていることが多いのだろう。ToMEのゴスモグ斧は中堅あたりの能力と想像できる火炎免疫・火炎ブランド(これらの能力はICEのデータ等にもなく、多分にバルログのイメージからつけられたものと思われる)があるが、太古の怨念があるためあまり実用性のある武器ではない。
→ゴスモグ(第一紀)
バルログの長ゴスモグのムチ The Whip of Gothmog 【物品】
ゴスモグ鞭。アルダ世界の神話・伝説時代、モルゴスの親衛隊である火神バルログ(→参照)らは、個体ごとに様々な武器を用いたが、必ず「炎の鞭」を所持し、これが最もエルフらの軍に恐れられていた。*bandのこの物品は、その中でも、バルログの首領ゴスモグ(→参照)の持つものという位置づけで存在するものである。
なお、ゴスモグは鞭の他に「黒いまさかり」(→バルログの長ゴスモグのロッホアーバー・アックス)を持っていたことが有名だが、ノルドールの上級王フィンゴンとの有名な戦いの時には、フィンゴンに巻きついたのは別のバルログが持っていた鞭であり、その隙にゴスモグがまさかりでフィンゴンに斬りつけたのである。そのため、実はゴスモグの「鞭」の方にはこのとき直接の出番というものはない。(*bandのr_infoのゴスモグの思い出によると、ウンゴリアントの網を焼ききったのが大きな功績のように書かれてはいる。)
実際のところ、バルログの「炎の鞭」が実際の物品なのか、映画版LotRでのCG描写や一部RPGルールのように魔法の炎で形成されるものなのかは定かではないように思える。トールキンの描写、たくさんの皮ひもがついた鞭や皮ひもが音を立てる等の表現も、下手をすると純然たる「比喩表現」であって、自由に操られ、のたうつ炎の舌や火のはぜる音を立てる聖霊の炎のことを、神話叙事詩風に物品になぞらえて表現しているとも読み取れるのである。しかし、さすがにRPG等では普通に物品として解釈されていることが多い。
ICE社が細部を設定したMERPにおいては、ゴスモグのもつムチにはPedonor ペドーノールという名がついている。これはシンダリンで「炎の語り手 Fire Speaker」の意だと併記されているが、シンダリンのped-のニュアンスから考えると、「炎の舌(を伸ばす者)」という含みも可能であろう。またMERPの設定ではペドーノールは、黒い「オガムア」で作られており、これは非常な強度と弾力性に富む謎の繊維で、ドワーフやノルドールが最高級のばねや弓の弦に用いた材料である。第二紀の後期にドゥリンの民が製法を持っていたが、ペドーノールに使われたこれが第一紀から既にドワーフが持っていたものか、サウロン他が独自に相当素材を作り出したのかは定かではない。ゴスモグのバルログとしての身長は20フィートあまりだが、ペドーノールの全長は42フィート(12メートル半)に及ぶ。
ToMEおよびそこから輸入されて[変]にも登場するゴスモグ鞭は、武器としての能力としては中堅レベルに属する。能力値や反感、重い呪いなどのペナルティーと共に、炎免疫をはじめとして割と重宝する耐性やスレイングなどが揃っている。ペナルティーにも致命的なものはないので、クラスや状況によっては装備できる機会があるが、格別にバルログ種族と相性がよい能力でもない。
→バルログ →ゴスモグ(第一紀)
バロ Balo the Jester 【その他】
マイクル・ムアコックのエターナル・チャンピオンシリーズに存在する「道化の神」。『エルリック・サーガ』において登場する際は、ちらちらする斑の服をまとい、尖った冠(王冠自体を揶揄するもの)をかぶっている。名前の通り道化にふさわしい容貌と性質を持ち、頼りない他の混沌の神らに比べてさえ、あまり神らしい威厳はない。しばしば、このシリーズで多数活躍する<混沌の神>の一族のように見られるが、実際は混沌・灰色(中立)・秩序いずれの陣営にも属さず、かといってコルム・シリーズに登場する強大な古代神や、世界ごとの精霊王・獣の王らの類でもない。おそらく三属性の神と同時に生まれ、どれかといえば混沌の神の一種なのだがその性質ゆえに勢力からは弾き出されているというところなのだろう。エルリック『白き狼の宿命』第三の書において、混沌の陣営にそむき、独自の性質<逆説>の領域を作ろうとするが、エルリックに呼び出されたアリオッチによって元の領域に追い返されてしまう。
*bandでは[Z]以降、混沌の戦士の守護魔神の一種としてこの名が見える。実際にムアコックのバロがこのように信者をとったり支援するかは定かではない。報酬の内容は、能力低下や呪いなどのペナルティが特に目立ち、そうでないものも、敵の抹殺や破滅などの破壊的な効果が多い。混沌の神ら以上に混沌的といった性質が反映されているものだろう。
反射 Reflection 【システム】
防具につく「反射」物品エゴは、クラシカルD&Dにおける魔法のアイテムのうち、防具にランダムで付与される膨大なエゴ属性のうちひとつに見られる。「リフレクティング(リフレックス)」の防具は、光の呪文のたぐいが着用者にかけられた際、それを使い手に跳ね返す効果と、さらに重要といえる効果として、凝視攻撃(ヴァンパイア、ビホルダー、バジリスク等)によるあらゆる効果を反射できる、というものがある。
NetHackでは、これを元にしたとおぼしき「反射の盾」はともかくとして、「反射のアミュレット」というものがあるが、NetHackにはいわゆるノーマルアイテムに様々な性質が付与されるエゴアイテムというものがないので、鎧の反射属性のかわりにこれが入っているのかもしれない。ちなみにAD&Dには、同効果の反射シールドを張る呪文(Gaze Reflection)が存在するので、このアミュレットはそれを投射するものとでも解釈すべきであろう。またNetHackの反射の特色として、数多くの凝視攻撃はもちろんのこと、おそらくその拡大解釈として「光線」の形をとる攻撃(ブレスや死の光線なども)を相当に多岐にわたって反射してしまうことが挙げられる。
*bandに[Z]以降、盾のエゴアイテムと「反射のアミュレット」して存在する「反射」は、おそらくこのNetHackの盾とアミュレットを、直接に参考にしたものだと考えられる。その効果は、「ボルト系」に属するものを魔法、物理(弓矢)とわず、ほぼ9割方反射してしまうというものである。魔法がやたらと跳ね返ったNetHackの解釈に比べて、ブレス等を跳ね返さないだけ理にかなっているとはいえるのだが、なんでもボルト系なら9割というのも、別の意味で相当に不自然な気がする(なお、効果だけ見るならば強いて言えば、最初歩の防御呪文ながら特に飛び道具に高い効果を持ち、マジックミサイルとその上位呪文を完全遮蔽するD&D系のShield呪文に極めて似ている)。特定の敵(強力なボルト攻撃を行うダークエルフ・ワーロック、破壊スル者など)にはきわめて有効で、これらとの戦いが予想できる際にはできれば用意すべきとされるが、普段は他の「耐性」の方が優先であろうと見なされている。
半タイタン Half-Titan 【種族】
ギリシア神話において、原初神らはほとんどが自然現象をじかに神格化した存在であったが、やがてウラノスとガイアの子に、より擬人的な男女12神が出現し初期の主神族となる。狭義では、この12神が「タイタン」である。この12神の末子クロノスとレイアの子にゼウスらオリンポス神が出現し、タイタンから覇権を奪うが、12神とその子孫らのうちオリンポス神以外を総称して「タイタン神族」と呼ぶ場合もある。しかし、最も広義では、単純にギリシアの神々、オリンポス神を含めてウラノスとガイアの子らすべてを(特に「種族」としての呼称で)「タイタン」と呼ぶことが多い。なおRPGにおけるモンスターとしてのタイタンに関するさらなる情報はモンスターの「タイタン」の項目の方を参照されたい。
ギリシア神話の神々はしじゅう人間と交配し、神の血を引いた英雄などが次々と出現する。これら「半神」は(身も蓋もなく)強大な力をもち、不死身である。しかし、同じ神の力と血を引いても半神でない、「不死身」でない者もしばしば現れ、説話のテーマとなる。何にせよ、ギリシアの説話において「半タイタン」は、丁度トールキンでのエルフや神族の血を引くドゥナダン同様にポピュラーな存在である。
*bandでは[Z]以降追加された種族で、生い立ちにはギリシア神の血をひく由が出てくる(なお語そのままに巨大な身長体重になる)。まさしく圧倒的な肉体能力と打撃技能を持ち(ヒットダイス、近接攻撃技能ともに全種族中最大である)、レイシャルパワーが全くないこともほとんど欠点にならない。知能系の能力も技能も軒並みプラスである。隠密性と器用さ、解除能力が低いので、盗賊にだけは向いていないと言えないこともないのだが、打撃力とヒットダイスの並外れた高さによる生存性はどんな職業であれ有利に働くと結論せざるを得ない。経験値のペナルティーが特に厳しいとはいえ、初心者に有利な種族と思えるが、スコアサーバなどを見ると中程度までしか人気がないのは、「巨人」をイメージしにくいからだろうか。
半タイタンは唯一の種族耐性として「混沌」への耐性を有している。タイタンが秩序を体現する一族と表現してしまうと、特にオリンポス神らのろくでもない性格、むしろカオティックな振る舞いを知る人々は戸惑うかもしれない。が、結局のところカオス神からウラノス、クロノス、ゼウスに至る世代の移り変わりに伴う闘争は、宇宙に筋たった王国、「秩序」を打ち立てる目的で戦い続けてきたものと言え、それに伴って、混沌とした宇宙概念、ついで自然現象の象徴の神々から、次第に人々の営みを司る、律する神々へと支配者が移ってゆくのである。ムアコックやゼラズニィに際立つ「法と混沌の対立」が、ギリシア神話時代からの人々の原初的な発想と考えられる所以である。
→タイタン
バンパイア・バット Vampire Bat 【敵】
よく知られていることだが、実在の吸血蝙蝠はホラーやファンタジーの怪物的なイメージとそれほど合致するものではない。千種近いおびただしい翼手目のうち、血液食を行うのは中南米の3種のチスイコウモリ(体長5-大きく見積もっても9cm)のみで、大型哺乳類から血を吸うのはそのうち1種ナミチスイコウモリのみである。また牙で吸うというよりも、眠っている家畜などの血管を傷つけて舐める(ただし傷つけるために牙は大きく、また取る量は多く自分の体重近くを摂取する)と言う形で吸収する。人間から血を取ることは少ない(ただし、まれに人間が傷つけられた場合、病原菌を媒介して被害が出るということもしばしば起こるという)。また、欧州含め吸血鬼の伝承とはまるで別個のもので、結び付けられたのは近代以降であり、それ以後に、吸血蝙蝠の方も巨大化したり凶暴・怪物化のイメージが増えてきたものと考えられる。
しかしながら、古い伝承を重視しているはずのトールキンの神話には「吸血こうもりの精霊」が登場する。詳しくは「バンパイア」などの項目で述べることになるが、邦訳で「吸血こうもり」となっているものは原語では単に'vampire'であるが、かぎ爪のある黒い翼など、蝙蝠のイメージに相違ない。吸血こうもりの精霊はほかの巨狼(werewolf)などと同様、アルダの伝説時代にメルコールの副将であるサウロンが配下として従えているもので、これら巨大・変身動物の類の堕落したマイアールの精霊であると考えられている。『クゥエンタ・シルマリルリオン』にはスリングウェシル(→参照)の名が見える。また変幻自在のサウロンも、ときに吸血蝙蝠の姿をとることがある。
怪物化したイメージの吸血蝙蝠は集団で人間を襲い大量に血を啜ったり、また巨大であったりすることがあるが、RPGにおいてどこまで怪物化するか、もとい吸血の能力をどういったものとして解釈するかの扱いは実際のところさまざまである。例えば古いTRPGのいくつかでは、吸血蝙蝠の類は大型のコウモリで、血を吸うことによって朦朧や能力値を減少させる能力などがあるが、アンデッドのバンパイアのようなレベル・エネルギーの吸収能力というものではなく、つまりまったく別個の存在として扱われている(アンデッドのバンパイアはヴァンパイア・バットに変身する能力や、呼び寄せる能力があることはある)。一方で、特に普通のジャイアントバットとの差別化という目的のため、吸血を特殊能力、特にアンデッドのバンパイアのそれと類似したものにしている場合もある。
Roguelikeでは、NetHackでは例によってD&D系のそれを踏襲してか、「吸血こうもり」にはレベル吸収の攻撃はない(データ自体は旧D&Dなどのものとは全く異なり、引用ではない)。しかし*bandでは、コウモリ類のモンスターが非常に多いためもあって他との差別化のためか、経験吸収の打撃をもち、そも思い出解説でもフラグでも「アンデッドのコウモリ」となっており、下級モンスター類といえるコウモリとしてはかなり深層(24階)である。あるいは*band内設定的には吸血鬼の悪霊らの下僕として怪物化されたものや、トールキン設定的にはいわゆる下級の吸血こうもりの精霊や末裔なのかもしれない。
→バンパイア →吸血鬼 →スリングウェシル
反魔法バリア Anti-magic shell 【システム】
特に古いCRPGにおける多くの基本的・通例的なゲームシステム用語は、古式のTRPGである旧D&D・AD&D1stのゲーム用語をそのまま引き継いでいる、ないし強い影響があることが多いが、D&D系において、各属性・攻撃・魔法などへの抵抗手段としてanti-という語が使われる場合、resistやimmuneなどに対して、より積極的で強力な反発手段を示すニュアンスが強い。具体的には、体内の抵抗力などを上げるのではなく、ある程度の範囲に力のバリアが常に張られ、範囲内では力に反するものが(力の強力さに応じた責め合いなどではなく、問答無用で、または単純にある一定の確率などで)無効化される、といったものである。D&D系のビホルダーが持つアンチマジックレイ(主眼の反魔法光線、ただし派生作品では結界の類に変更されていることが多い)の特殊能力や、CD&Dのイモータルの特殊能力およびAD&Dの聖剣(→聖戦者の武器)が持つアンチマジック能力(Wizardryでも知られるAD&Dの魔法抵抗力やD&D3.Xeの呪文抵抗力に似ているが、より積極的に周囲の魔法を打ち消すもの)もこの一種といえる(ビホルダーは反魔法光線の範囲内の対象には、副小眼から出る他の魔法光線も使えない)。なおAD&Dには特定の種別の生物とその影響を完全に遮断するanti-animalやanti-plantといったものも存在する。
Zangbandからアイテムの効果等として存在する「反魔法バリア」は、D&D系の同名呪文であるAnti-magic shellから採られたものと考えられている。D&Dの同名呪文は魔法使系の上級呪文(最上級ではない。また漫画『バスタード』で描かれたような聖職者系ではない。D&D系からの引用が多いこの漫画では、単に高級防御呪文の例として使用したものと思われる)のひとつで、使用者によるものを含め、範囲内のすべての呪文魔法を無効化する。神格などの介入(ウィッシュ)、アーティファクトの効果など、「定命の者の用いる呪文」の範囲を超えた力を用いる以外には、貫通することも除去することもできない。たとえanti-magic shellを使用したより遥かに強力な術者であっても、これらの非常手段を採らない限りは破ることは不可能である。無論、魔法に対する絶対的な防御ということにもなるが、有利な呪文や、装備しているアイテムの有利な効果なども無効化するため、仮に非魔法能力の高い者が恩恵を受ける機会があっても、常に装備したり使い続けるようなものではなく、あくまで要所要所の手段である。
[Z]から派生の*bandバリアントに取り入られている反魔法バリアは、アミュレットをはじめとしてアーティファクトにつく効果などで装備することができる。英語版では、一部物品属性名では出典のままantimagic shellと書かれていたり、スポイラーなどでは効果を指して単にanti-magicとだけなっていたりすることもあるが、日本語版ではわかりやすいよう効果に即して反魔法「バリア」となっている。その効果は、D&D系と比べれば「不利」ということになるだろう;自分の魔法は全く使用できなくなってしまうが(レイシャルパワーなどでも働かないものがある)敵対する魔法に対しては、無効化するでもなく、固定値+レベルという強力な値ではあるもののあくまで「魔法抵抗力」技能値を上げるというだけである。しかしながら、最初から魔法の類を使わないクラスであれば、ほぼ一方的に有利であることは間違いない。D&D系のAnti-magic shellはサイオニックその他呪文以外も遮断する場合があるが(細かくは版ごとに異なる)*bandでも魔法防御の値を多くの防御効果に使用するため多岐にわたって有効である。また当然かもしれないが、*bandではアイテムすら無効化するD&D系のように装備品の攻撃力や属性などを無効化するといったことはない。装備枠をひとつ使ってしまう反魔法アミュレットや、また都合よく他の装備品につくとは限らないためままならない場合もあるが、終盤では呪文を使わない職は付けておきたいといわれている。
なお「反魔力ハウンド」は幻滅(劣化)の属性であり、あまり深い関係はない。
→アンバーの血の呪い
ピアレー Pyaray the Tentacled Whisperer of Impossible Secrets 【その他】
ありえざる秘密を囁く触手を持つ神、あるいは単に<囁く者>。マイクル・ムアコックの『エターナル・チャンピオン』シリーズに登場する<混沌の神>のうち一体で、なかでも代表作『エルリック・サーガ』において、エルリックらのメルニボネ皇国の守護神の一体(アルナラ女神とアリオッチと共に)であることで有名である。
二つ名からしてどこかクトゥルフ的だが、深海、特に海の死者を司っており(エルリックと縁の深い水の精霊王ストラーシァとは対立関係にある)無数の触手を持つ蛸の姿で実体化することがあるというのも非常にそれらしく、また、特定の自然の擬人化といった性質でないことの多いムアコックの<秩序>や<混沌>の神々とは、非常に異質な印象を受ける。
海神として<混沌の船団>をもち、エルリック第6巻(一応の最終巻)の混沌の最終戦争ではその船団をひきい、ピアレーはその触手もつ姿でエルリックの前に直接に現れ、ストームブリンガーと対決する場面すらある。こんな場面でさえ山場ではないというところが、黄金期ジャンプの連載短縮決定(打ち切りほどひどくない)後の大作漫画のテンパった超加速怒涛展開のごとき、エルリック6巻の展開である。
*bandでは、[Z]系などにカオスの守護魔神の一体として選択されることがある。災害から変容、召喚、物品などだいたいまんべんなく様々な報酬が揃っており、かなり典型的な変容神・カオス神というところだろう。
BFG9000 びーえふじーきゅーせん 【その他】
BFG9000はシューティングゲーム'DooM'における有名な最強武器である。一段下の武器プラズマライフルをさらにごつくしたような外観を持ち、同種のエネルギーセルを弾薬として使うため、これもプラズマ銃の一種であろうといわれている。複数の敵を一瞬にしてなぎ倒す力があるが、消費エネルギーが大きく発射に要する時間も長い。それでもあまりにも強力すぎたためか、後のシリーズでは徐々に弱体化されている(DooM3ではもっと強い武器も存在する)。「BFG」とは最初のDooMのドキュメントによると'Big Fucking Gun'の意というが、その後の書物や映画版など、'Blast Field Generator'をはじめとしてほとんど言及されるたびに食い違っており、要は何も決まっていないらしい。
*bandでは、[Z]以降の噂の巻物に「{BFG9000}と銘のある壊滅のロッドを見たことあるかい?」といったものがあるのをはじめとして、DooMからの引用や意識が強い[Z]以降にその名前が登場する。実際に海外のプレイ記録などには、壊滅のロッドに{BFG9000}と銘が刻んであるダンプをいくつも目にする。
光のヘルメット Helm of Light 【物品】
光の兜は、ICE社による指輪物語TRPGことMERPにおいて、中つ国の南東部のウォーマウ一族(→ドワール)の国の政治革命集団「光の結社」のメンバーの持つ兜である。MERPの設定では、第三紀12世紀頃のヴラク・タヌークというウォーマウの王族の装備の中にこの兜がある。この二本の角のあるフルフェイス・ヘルメットは、光の結社の一員がかぶった際には、周囲の魔法を打ち消し真実を見せる力がある。他にもヴラクは光の剣、白光の斧といった、光に関連する物品を数多く所持している。
が、*bandにおいて[V]以来、兜類につくエゴ属性である「光の〜」は、これとは100%何の関係もないと考えられる。古いTRPGには、光り輝くことやちりばめられた装飾から実際に光の魔力を発動できるものや、上のヴラクの兜のように、Lightとその意味の拡大から視力も増大させるといった兜のアイテムがあることにはあるが、兜が光を発するアイテムとしてそれほど定番というわけでもない。兜というよりも「冠」ならば、『指輪物語』にも登場するいくつかの冠やバンドのように光源の星(宝石)が配置され、頭上で輝きを発するという発想も妥当だが、Moriaの頃から「冠」に多数あるエゴ属性の中には光源としてのものはない。また、光るというよりも視力や感覚を増大させるという意味合いがこめられているとも考えられるが、赤外線やテレパシーの兜(これはまた違った意味での定番であり、独立したエントリーを設ける)が他にある以上、光に何の意味があるでもない。(トンネル工事用の額にライトのついたヘルメットの可能性などは、[Z]以降はともかく[V]ではあまり考えたくもないものである。)
頭に装備する物品には、着用者の知性や魅力など能力に影響を与えるといった他に、(ときにはそこから間接的に、あるいは直接的に)周囲に影響を及ぼす、といったイメージが与えられるが、おそらくそうした中で最も些細な魔力と思われる「光を放って輝く」という効果が、*bandにおいては兜に与えられたと言えそうである。が、何にせよ、数あるエゴアイテムの中でも実感できる効果が最も些細なこともあって、単に換金の値段を上げるだけのエゴ属性にとどまっていることが多い(外れの多い兜や冠のエゴの他にも言えることではあるが)。
光のロッド Rod of Light 【物品】【システム】
光のビームを作り出し、直線状に照らすと共に光に弱い怪物に一定のダメージを与える魔法は、[V]の「ライト・スピア」をはじめとして、「太陽光線」の呪文などかなり多数の方法で使用できる効果である。最も由緒正しいのは[V]のライト・スピア呪文であろうが、しかし、これに触れたことのないプレイヤーも多いと思われるため、便宜上ワンドと並んで最も使用される機会が多いと思われる当項目「光のロッド」で扱うこととする。
この効果は*bandの原型であるゲームMoriaの時点から、ワンド、呪文ともに存在するもので(Moriaにはロッドはない)モチーフとなる場面としては、『指輪物語』のモリアの場面において、オークとの交戦の直前に「ガンダルフが突き出した杖からの光が、廊下を照らし出した」という箇所がその候補に挙げられる。
さて一方で、『指輪物語』後半には、ナズグルに空から追われているファラミアらを救うために、ガンダルフが幽鬼ナズグルを「光の矢」で追い払ったという場面がある。旧版指輪物語の表紙絵(バクシ版アニメのポスター絵の再利用で、指から謎の光線を発しているガンダルフの図である)を見たことのある者は、例外なく直でその画像を思い浮かべざるを得ない:
アルダに 稲妻走り
炎の 賢者を照らす
飛び散れ ガンダルフビーム
幽鬼に 向かって
(詠み人知らず、某巨大掲示板過去ログより)
この場面は、多くのファンからは、数少ないガンダルフの「ダメージ魔法」(稲妻か魔力の矢か何か)を使う場面と見なされている。しかし一方で、当時から(主にこのポスター画を未見の人々から)あくまで文章のみからはこれはモリアの時と同様に、本当に単なる普通の「光」を放射したにすぎないもので、光に弱い影状態のナズグルを追い払ったのではないか、と考察する声もあった。
さて、Peter Jackson監督の実写版映画RotKでは、この場面は「光」の方の解釈で、バクシ版ポスターよりもさらに抑えられた、収束率の低い白光がサーチライトのように照射されるというものであった。PJとWETA社のやることだからファーストガンダムのビームライフル発射音のようなSEと共にギンギンの透過光が飛び出すものとばかり想像していた筆者らにとっては、良い意味で非常に予想外の点のひとつであった。ともあれ、*bandのプレイヤーならまさに光のロッドを思い出したかもしれない。
*bandにおいて光のロッドやワンドは、もっぱら光に弱い敵(一部のオーク、トロル、アンデッド、ダークエルフなど)に有効だが、特に光のロッドは、かなりチャージ時間が短いため、ある程度の本数をそろえておけばほとんど無制限に連発することが可能である。特に戦士系なら無理に持つほどのこともないが、序盤のオークとの戦い、またトロルあたりでも他の攻撃力に不安がある場合などはかなり頼りにできる効果を及ぼす。レベルによってダメージは上がらないため、中盤以降はロッドやワンド、呪文ともに出番がなくなってしまうが、ToMEでは直接攻撃をしたくないナズグルに対して、原作通りに光のロッドを大量放射して戦うという戦法にもしばしば用いられる。
秘術 Arcane 【システム】
アーケイナとは「古代の技」「秘法」「奥義」といった意味で使われることが最も多いが、それと同時にそれらの秘密の集大成、ひいてはそれをかき集めた「書物」そのままの意、すなわち「アンチョコ」「虎の巻」といったニュアンスでも扱われる。[Z]以来の魔法領域であるArcanaは[Z]和訳以来「秘術」と訳されているが、他の領域の呪文を少しずつ集めたというその内容からは、どちらかというと古代の術や他にはない秘儀「秘術」という意味よりも、前述の「集大成の書物」という意味の方が強いように思われる。とはいえそちらのニュアンスのうまい和訳などは中々考えられないので、結局のところ秘術とでもしておく他にないと思われる。
まったく余談であるが、アンバー後半シリーズにおいて、パターンやログルス、またそれらを応用したトランプの魔法をアンバーや混沌の王族が用いるが、アンバーや混沌の宮廷に近い”影”においては、それらの効果を模造したより「下位」の魔法体系が開発され、それらの世界で用いられている、という言及がある(もっぱら、パターンやログルスの試練を受けていないこれらの王族以外の魔術師が用いるものではあるが)。あるいは、この[Z]における秘術の魔法も、仙術(特にフィオナやブランドらが用いるパターン操作術と解釈できる)や自然・カオス(ログルス魔法)やトランプ(ただし感知やテレポートのみ)を模してそれらの”影”の世界で作られた下位の魔法なのかもしれない。
RPGの原型であるD&Dシリーズでは、昔からarcaneは魔法を指す漠然とした(そして大仰な)語として特に語義を限らず使われており、シリーズ全般で一貫した意味や定義はない。一方、3.0e以後は、「秘術」魔法はそれまでの版でのいわゆる「魔法使系」、「信仰」魔法はいわゆる「聖職者系」を指す分類となっているが、*bandよりは後の版の話なので使われ方にはほぼ関係は無い。
秘術は、英語版Zangband 2.1.0からトランプと同時に追加されたもので、カードゲームM:tGやCRPG Master of Magicに由来する[Z]の5色(トランプ以前)の魔法領域が、[V]系のメイジ・プリースト魔法に比してある分野には強力だが汎用性が低いことをカバーするために、各領域の下位の便利魔法を集めたとされる領域である。この実情と、上記したような下位でも普遍的な魔法を集めたという設定からは、D&D系のウィザードのようなスタンダードな魔法使の選択する、最もポピュラーな魔法体系となりうる位置づけかもしれない。
しかし実情で言うと、この体系がメインならずとも主力として選択されることはほとんどなく、実際にヘルプに書かれているように他の領域の欠点を補うために選択されるといった例もあまりない。秘術の呪文は下位呪文ばかり集められたのみならず、どれも極度に効率(消費MP,失敗率)が悪いため、魔法領域をひとつ占拠する価値があるかどうかは甚だ疑問がある。有用な呪文をえりすぐって入れたという建前に反して、4冊の呪文書は重なりや無理やり数合わせのために入れたとおぼしき呪文が多く、はなはだ魅力に欠けるリストである(とはいえ一応断っておくと、元素耐性が無駄に1元素ずつばらばらになっているのは数の水増しだけではなく、[V]の[スカラベの耐性]呪文書に倣ったものである)。多少キャラクターの汎用性が落ちても、別の領域の威力を選んだ方が有用とみなされる場合が多い。ことに秘術は便利魔法ばかりを集めた仙術との重なりが多く、例えば仙術では空腹充足など多少揃わない(汎用性に欠ける)ものがあったとしても、アイテムを持ち歩くスペースを消費してでも仙術の強力な力の方を選択することが多い。上級者は秘術や、秘術が必須とされる魔法戦士を「感知などの一通りの手段が揃うので弱くはない」と主張するが、結局のところ「使おうと思えば使えないこともない」といった程度のもので、お世辞にも「強い」「有用」とはいえない。あまり[Z]当初の追加目的を達したとはいえない結果になっているが、あまり改善する動きがないのは、この体系自体がさほど注目されていないためも大きいと思われる。
→魔法戦士
美髯公関羽の青龍刀 The Falchion of Guan Yu 【物品】
出典:『三国志演義』で有名な関羽は中国、後漢末の劉備(後の蜀漢)の武将で、東洋の武人としては最も人気を集めるひとりである。無双の豪傑でありながらも、弟分の武力一辺倒の張飛とは対照的に文武ともに秀で、非常な忠義の士とされる。「美髯公」とは、見事な顎鬚を生やしているための呼び名とされ、後代の物語や図画で定番とされるものだが、実は、史書には髭が見事とする記述が残ってはいるものの、それが「顎鬚」であったかは定かではない。
日本でも古代中国の「武将」として古くから知られ、講談や物語が作られ、またその忠義の性質から三国志中でも特に人気のあるものとされてきた。その状況は現在の日本の『三国志』ファンのものと基本的に同様である。しかし中国本国では、三国志での各人物の評価・評判は若干異なる性質を帯びている;関羽に関しても、死後「神格化」されてきた関羽は、中国の長い歴史の間に次第に、やがて大幅にその規模と権能を増してゆき、清代にまで至ると王室の守護神(同時に明確に交流・商業神)とされ、現代に至っても中国の民間信仰では各地で最も広く信奉される神となっている。(なお神号の「関聖帝君」であるが、中国の神の「帝」「天帝」とは、俗には中国の天界神の総帥(玉帝)も指すが、初期の創世神としての三皇五帝などと同様、創世神と同格の上位神らも指す。関羽の神号が「帝君」にまで上がったのは明代である。)『三国志演義』での表記「関公」(ここでの「公」はやはり神号)や、他の関羽の登場する書物でももっぱら「関帝」と表記されている。すなわち、中国では神としてさえ最も広く信奉されている関羽は、もはや「関羽という武将」ではなく、ほぼ「関帝という神」という形で主に存在するといえるようである。
呂蒙「故事にまでなった自分の人気でも及ばない!
か…「神」だ! や…奴は「神」になったんだ!
我われ…人間は か…「神」にだけは勝てない!
服従しかないんだ!
(スレッド『徐庶の奇妙な冒険』、某巨大掲示板過去ログより)
『三国志演義』をはじめ後代の物語のほとんどで関羽の定番の武器となっているのが「八十二斤(40kg前後)の青龍偃月刀」である。ここでは、いわゆる青龍刀(伝統的に四方獣のうち青龍が刻まれるのでこう呼ばれる)の刀身を先に持つ棹状武器(ポールアーム)の一種である。(なお、実際には青龍偃月刀のような武器が出現したのは宋代以降で、多分にそのものやそれに近い武器は後漢末には存在しなかったといわれる。)『三国志演義』にはこの偃月刀には「冷艶鋸」という名が見えるが、日本での定番である吉川英治の小説三国志などに載っていないのをはじめとして「青龍偃月刀」としか呼ばれないことも多い。これは最初に劉備らと挙兵する際、劉備の雌雄一対の剣や張飛の蛇矛と共に打たせたもので、以後『演義』を通じて使用する。関羽の死後は、次男の関興が呉軍から奪い返し、使用するとされる。
物品:かつて[変]開発途上当時、できるだけ多くの(要は剣以外の)ベースアイテムに対応する固定アーティファクトを増やそうという動きがあった際、[Z]から追加されたGreat Scimitarというベースアイテムの和訳が「青龍刀」であったことから連想されて、追加されたもののようである。当然ながら、本来の関羽のものは刃の部分こそは偃月刀であるものの実質はポールアームの一種であり、Great Scimitarにあたるものではない、という当時の掲示板での指摘もあった。しかしながら、現在では[変]に限ってはGreat Scimitarは(「青龍刀」という和訳はそのままに)Falchionという語に置き換えられている;これはGreat Scimitar同様の(ポールアームではない)偃月刀を指す語のひとつだが、英語圏の『三国志』関連では関羽の青龍偃月刀は'Blue-Dragon Halfmoon Falchion'といった訳になっていることが多いので、こちらは妥当ともいえる。物品そのものはベースダメージの高さや破邪、肉体能力増強、切れ味など割と強めのものになっているが、かなり重くレアリティも高いので、使える機会はめぐりあわせを期待するしかない。
ヒット・ダイス(HD) Hit Dice 【システム】
D&Dシリーズの「ヒットタィィス(新和版ルールブック原文ママ)」とは、ゲームに登場するクリーチャー(キャラクター、モンスター問わず)のhp(ヒットポイント)を決定するために用いるダイスのタイプ(何面体か)とその個数を指す。ヒットポイントの定義に関しては別エントリーを設けるかもしれないが、ヒットダイスはおおむねタイプも個数も、そのクリーチャーの「大型さ」や「強靭さ」を示す。魔法使より強靭な戦士はダイスタイプが大きく、大型のモンスターはダイスの個数が大きい。クリーチャーは作成される(あるいはレベルアップ等で個数を得る)ごとにこれらのダイスでhp最大値を決定し、HDが同じなら同じくらいのhpを得る(ことに高レベルでは平均に近くなる →ライフレート)が当然ながら個体差が出る。
なおクラシカルD&DやAD&D 2ndまでは、モンスターのHDの個数(タイプは1d8共通)がそのまま命中率やセービングスローと直結し、いわばモンスターのレベル相当で、「ヒットダイス」といった場合、上記の中でもモンスターのそれを指すことが最も多かった。NetHackのモンスターの「レベル」も、AD&DにおけるHDであり(元のAD&Dでも、モンスターはそのHDと同じ階層で最も多く出てくる)ポリモーフした際にhpやレベルのかわりに表記される「HD:」はモンスターのHD(大きさ)を示しており、要はモンスターのレベルである。NH関連の攻略などで「スポイラーファイルのどこを見てもモンスターのヒットポイントが載っていませんがバグですか仕様ですか」といった質問が出ることが頻繁にあるが、hpはHDからその場でダイスで決まるので載せる意味がない、というか、モンスターデータにHDを載せていればhpは載せる必要がないというのはAD&Dが普及した海外RPGでは当然で、スポイラーではおそらくhpを表記するという発想自体が出なかったと思われる。なおD&D 3eでは他の要素も多いため、昔ほどはHDと脅威度は直結していない。
一方キャラクターのHDといった場合、主にクラスごとに決定されるダイスのタイプを指す。キャラクターはレベルごとにそのタイプのダイスに応じて(レベル毎に耐久力等の修正が加わる)hpを決定する。*bandにおいて「ヒットダイス」という言葉が使われるのは、もっぱらこの意味である。*bandではMoriaの時代から一貫して、クラスごとにHDが決定されるのではなく、「種族」ごとに基本のHDが存在し、それに対してクラスごとに修正値が加わるという形になっており、ちょうどクリーチャーの大きさによるHD(そのままではないが)とキャラクタークラスの強靭さによるHDの、両方の意味が合わさったものになっていると言えるだろう。
種族ごとのHDと「耐久力」修正の住み分けは、これもhp定義論に立ち入るかもしれないが、どちらかというと耐久力は種族の強靭さ、HDは(モンスターの定義通り)その生物の「大きさ」や強度に由来する、純粋な物理的強度の総量ではないかと思える。例えば人間よりHDが−3で耐久力は+2のホビットは、人間より小柄だが、その身体としては強靭なわけである。クラス選択([変]では性格も)によってHDが上下するのは、戦闘に向いているクラスは強靭だという意味よりもむしろその「体の大きさを有効に使える」という意味とも考えられる。
hpに対して影響が大きいのは、ヒットダイスよりもむしろ耐久力による修正値の方である。つまり終盤ではどんなクラスもできるだけ装備等の修正で耐久力を上限にすることが求められるわけだが、つまりは耐久力が最大になった場合にものを言うのは元々のヒットダイスだということになる。能力値は初期値が低くともなんとかして補う方法があるがヒットダイスは生来のもので上がりようがない。耐久力の数値ほど極度に気にする必要はないかもしれないが、種族・クラス・性格の組み合わせであまりに低くなると突如として極端に難易度が上がるので注意する必要はある。
ピット・フィーンド Pit Fiend 【敵】
ロール・プレイング・ゲームAD&D/D&D3eにおいて、バーテズゥ(ベイアティーツ)、すなわち「秩序にして悪」の属性を持つ悪魔(旧版、およびしばしば現在も便宜で「デビル」と表記されている)の代表的種族である。タナーリ(「混沌にして悪」の悪魔、デーモン)の代表格といえるベイラー(バルログ)に匹敵する、非常に力ある種族である。
その姿はいかにも「デビル」的なイメージであり、いわゆるガーゴイルのような形態の、しかし全体的により威圧感に満ちた巨体と赤い肌を持つ。著明なユニーク悪魔(メフィストやアスモデウスといった面々)とは別種族だが、D&D系の設定ではピット・フィーンドの強力な個体(九階層中第一階層の主ベルをはじめ)は、彼ら有名陣と同様にデビルの中の権力者に名を連ねているものも多い。
NetHackの和訳では「穴の悪霊」となっているが、この訳はそこはかとなく淫靡な雰囲気を連想するばかりか意味としても必ずしも正しくはなく、ここのpitとは英文語の地獄の意である(*bandのモンスターぎっしりピットの「穴倉・墓穴」も文語だが意味はまた違う)。ここでのpitは、かつてAD&D小説の和訳で「魔界」と訳されていたことがあったが、「秩序にして悪」の属性をもつ<下方世界>である「九層地獄界(Nine Hells, バートル、ベイアトール)」を指すということになる。また、ピット・フィーンドもAD&Dオリジナルモンスターといえるものだが、「名前が単なる英語である」ためか、Wizardry VI (BCF)などにも平然と登場する。なお、ピットフィーンドを「魔王」などというどうしようもない訳にしていた、かの関西ゲーム集団の「大御所」がいたような気がするが、スケールにせよ強さにせよ、せいぜい和製RPGの発想スケールでの「魔王」くらいの能力は軽くあるのは確かかもしれない。
なお、FF(ファイティングファンタジー)のタイタン世界、ゲームブックの『死のワナの地下迷宮』には、同名のピット・フィーンド(竪穴の怪物)として二足歩行恐竜のような怪物(相当な強敵である)が登場するが、おそらくD&Dシリーズの悪魔とは関係はないと思われる。
*bandでは、AD&Dの悪魔のうち各種タナーリは[V]初期から出ていた反面、バーテズゥは2.8系の[V]や、[Z][変]でも登場していなかった。しかし現在では[V]3.0ほか[V]系をはじめToMEなど多くのバリアントにピット・フィーンドのデータがある。ノーマルモンスターにも関わらず、77階という、タナーリの大半(40階代)と比べても遥かに深層だが、これはベイラーに匹敵する種族としても、レッサー・バルログよりも、むしろToMEでのグレーター・バルログの方を意識しているのではないかと思われる。D&D系ではベイラーの方がやや強力であるほどなので、確かに恐れられている種族であるとはいえ、原典より大幅に強力な位置に収まってしまったノーマルモンスターである。
ヒットポイント(HP) Hit Point 【システム】
出展:ヒットポイントとは元来、最初のRPG(TRPG)であるD&Dシリーズでの用語で、その原義は、「打撃の点数」=「そのユニットを排除するまでに必要とされる有効打撃の度合いを示す点数」、である。このように、現在はキャラクターの能力を示す値であるように思われているが、実際はキャラクター側の目線ではなく、「そのキャラクターに対して『攻撃(判定)を行う側の目線』で定められた」用語や定義が非常に多いのは、D&D系のルールがシミュレーションウォーゲームの戦闘処理の流れを直接にくむという背景を如実に残している。(古いD&D系及びその踏襲であるNetHackやWizardryのアーマークラスの、「数値が高い方が『攻撃する側が命中させやすい』」=「ACが低い方が防御力が優れている」という定義もそうである。)「排除するまでの打撃の点数」の概念自体は、最初のD&Dの出版会社による前の艦船ウォーゲームに由来し、D&Dの創始者のひとりデイブ・アーンスンがRPGに導入したものとされる。
ヒットポイントは、よく定義される「負傷」「疲労」「気力消耗」「回避等の生存能力」とはいずれもイコールではない、いわゆるユニットの純然たる「死ににくさ」だけを直接的に示す、極度に漠然とした数値である。D&D系には、現実のなんらかの概念を数値化したものではなく、ウォーゲームの数値的な処理だけが先に立って設けられた、「レベル」「呪文スロット」などの非常に曖昧な値が多いが、ヒットポイントはそうした現実解釈から大幅にかけ離れた数値の中でも、最たるものといえる。
したがって、ヒットポイントが直接何を指すかは厳密には定められないが、元来ヒットポイントの定義を行ったD&D系のルールにおいて、具体的な例示がいくつか行われている。例えば、大型のモンスターや、粘体やアンデッドなどの機能に支障を受けにくい怪物、いかにも屈強な蛮人戦士などは、そのまま耐久力(打たれ強さ)が大きいと解釈してもよいが、そうでない小型のキャラクターのヒットポイントが同サイズの一般人よりも著しく高い場合は、耐久力そのものであるとは限らない。AD&D1stの基本ルール(PHB)には、英雄であれば軍馬の5倍にもなるヒットポイントは、物理的な耐久能力のほか、「戦闘技術、幸運(超自然的な力を含む)、魔法的な力」などの現れでもあるとされ、D&D3eのPHBにはより詳しい説明で、回避等によって致命傷を避け負傷を受ける度合いを最小限にすることができる場合や、魔法や気や神霊の加護などのキャラクタークラスの特殊能力によって守られていることを示す場合などがありうる、と例示されている。D&D4版のPHBにも1stのPHBと似た記載がある。D&D5版のPHBでは「肉体的および精神的な打たれ強さ・生きようとする意志・幸運」を「組み合わせた概念」であり、ヒットポイントが半分を下回るまでは目に見える怪我は全く負っていないとされる(「体力」だの「負傷」だのに比例していないことは明白である)。半分に落ちるまでは、気力や幸運その他の特殊生存能力で(例えば火球や砲弾で狙われても並外れた幸運や機転などで避けたが、疲労や運の尽きでとてももう一度はできないなど)致命傷を避けたなども考えられる。大きなHPを持つ者は、生存のための手段の種類や総量自体を多く持つので、魔法などで「固定値の回復」を受けても、それらの手段のうち一部しか回復しない。
なお、ここで非常に重要なのは、これらのヒットポイントに関連する可能性がある数多くの能力があくまで例示されているだけで、そのうちの「どれか」であるというのは、ヒットポイントの概念を創造したD&D系においても「明確に限定されていない」事項である、という点である。TRPGのルール上、定義がなければはっきりしないという気もするが、そもそもが負傷の度合いを無造作にひとつの点数だけで示す、というシステムがあまりにも非現実的すぎ、ヒットポイントの低下に具体的な現象を厳密に反映する必要にせまられることがさほどないので、これらの解釈の違いが致命的な問題になる局面はあまりない。
以後のRPGでは、かなりD&D系から離れたゲームであっても、そのままヒットポイントという概念も引き継がれていることが、CRPGでは特に多い。死ににくさであるヒットポイントは、ミス点数制のアーケードゲーム等における残機数やいわゆるライフポイントと直結しやすいので、日本では上記のヒットポイントの本来の定義である様々な要素の複合という説明は忘れられ(又は、D&D自体が最初から全く知られておらず)「体力」「生命力」「耐久力」等と訳されていることが大半である。しかし当然ながら、古典的なレベル制度の多くのRPGにおいては、レベル上昇に伴って際限なく上昇するこの値を、「体力」等として解釈すると激しい矛盾が生じる例は枚挙に暇がない。いわゆるドラゴンボール的に、強靭な人物は並外れた物理ダメージに耐えられる肉体能力を持つといった世界設定でもない限りは、一般人であれば絶命する剣の最大ダメージや火球の直撃を受けて「体力」が1割未満減るにすぎなかったりという現象は荒唐無稽にも程があろうというものである。こうした元来は体力でも耐久力でも何でもないヒットポイントという値を、日本では一度「体力」と訳して輸入してしまった以上は「体力」と捉えることしかできず、どうやって「体力」に無理矢理合致するように解釈すればよいのか、日本のDQ、FFやWizardryのゲーマーの間では、数多くの雲をつかむような推測や議論が数十年にわたって繰り返されてきた(「体力」が「上がる」のではなく「細分」されていくという有名な説など)。日本のレトロゲーマー、特にWizardryフリークの間では、AD&Dなどの最初の定義が存在することさえ知らないままに上述のようにヒットポイントについての議論が行われてきたため、「それまで『体力』『負傷』とだけ説明されてきたヒットポイントを『回避等の生存技術』として解釈した「画期的なアイディア」は『ウィザードリィのすべて』におけるベニー松山の記事が初である」等ともっぱら主張されている。しかし、上述したように、ヒットポイントが負傷以外の様々な能力の総括であるというのは、wizの原型であるAD&D1stに当初から記述されているのをはじめとして、そもそもがヒットポイントのシステムをRPGに導入したD&D系における、当初からの概念にすぎない。(なお、『ウィザードリィのすべて』のように負傷およびそれを細分する回避等の生存技術”のみ”として解釈すると、打たれ強さと同じかそれ以上に辻褄があわなくなるという点は、すでに多数指摘されている。元のD&Dでは戦闘技術による負傷の細分のみではなく、あくまで打たれ強さ、疲労、気力、特殊能力その他の複合的な値である。)
概するに、ヒットポイントとはヒットポイントそのもの以外の何でもない、「有効打撃の点数」それ自体が定義であり、それ以外の概念や用語(「体力」など)にそっくり置き換えることは、元来が不可能な語である。こうした語であるヒットポイントに対し、CRPGの日本への輸入及び普及最初期前後に「体力」という不適切極まりない訳語が、あまりにも軽率に過ぎた選択が行われ定着したことは、「RPGとは、ファンタジー世界を不自然(不適切)にも構わず投げっぱなしにデータ化だけすることしか考えてない代物」という誤った印象(海外FTやRPGの悪役の動機や対立の概念の輸入に失敗し、日本のRPGのような何の説明もない『勇者vs魔王』図式等がしばしば揶揄されるのと同様)を与えるに寄与してしまっているのかもしれない。
ヒットポイントが「全身を1つの値」で表現していることに対して、ウォーゲームの流れをくむ初期のD&D系では、(後に『ルーンクエスト』等が選択したように)手足ごとの耐久度を設定して管理する、といった処理を行う発想もあったと思われるが、結局はユニットごとにひとつだけの打撃点数を管理するという非常に単純なものが選択されている。D&D系の選択ルールで四肢に対するダメージといった概念をある程度導入されているものもあるが、その場合であっても、漠然とした数値であるヒットポイントと、四肢ごとの管理は相容れないことは、繰り返し様々なルールで言及されている。
他のRPG、特にD&D系以外のTRPGで非クラスレベル性のものに多いが、ダメージ耐性(削れると死亡する)を表すポイントに、直接にサイズ、耐久力や生命力の値を用い、レベル等によって増大しない場合もある。しかし、こうした耐久力非・難上昇型のゲームでも、純粋にゲーム処理のため、上述のD&D系などの伝統上の理解をたやすくする等のために、こういった耐久力のポイントを「ヒット・ポイント」と呼んで処理をするゲームもある。これが、逆算してD&D系や初期DQ/FF系の増大するHPに対しても「ヒットポイント=耐久力や体力である」と逆解釈されてしまう根拠となっていることもあるが、D&D系や初期DQ/FF系のその流れをくむRPGの際限なく増大するHPは、耐久力や生命力とは(完全に無関係ではないが)基本的にまったくの別物と考えられることは注意すべきである。
システム:*bandでは、原型のMoriaの時点からD&D系と同様に、キャラクターのヒットポイントは種族とクラスのヒットダイス、CON値の修正によってレベルごとに上昇してゆく。そのため際限なく上がる方のゲームと同様に見えるが、*bandでのレベル限界(Moriaで40、多くの*bandで50)のため、ゲーム内の値としては非常に低い値で打ち止めになる、といえる。具体的には終盤の敵は非ユニークであってもhpが数千数万のものが多くいるが、*bandのプレイヤーキャラはhpが最終局面で1000をこえれば高い方である。これは、なぜレベル上昇が一定で止まるのかという問題と直結しているが(そして、それはMoriaの製作者が、我慢してレベルさえ稼げば簡単になるゲームではなく、終盤を「クリアは難しいゲームにしたかった」という考えで調整した、その根本的概念を引き継いでいるということになるのだが)結果的に、*bandのHPが基本的には大きく上昇するタイプであるにも関わらず、「人間(定命の者)の肉体が耐えられる攻撃には限度がある」といった、耐久力非・難上昇型RPGのような印象も与えている。また、終盤以外でも、「ある階層以下では”ある耐性”がなければHPの数倍削られてほぼ必ず即死」など、全体的にゲーム世界内に比しても「プレイヤーキャラのHPは低めのもの」という位置づけが維持されている、といえる。余談ではあるが、ローグ・クローンやシレンでも、ヒットポイント自体は割と高くまで上がるが、あるときから敵の攻撃力がそれ以上に異常上昇し(ローグ・クローンでは2回行動、シレンでは36階以上など)絶対の安全はなく生存がプレイヤースキルに依存するRogue系のデザインの伝統ともいえる。
→ヒット・ダイス
ピップ Pip, the Braver from Another World 【敵】
出典:異世界からの勇者。イギリスのオカルト研究家J.H.ブレナン著の全8巻のゲームブック、'Grailquest(聖杯探索)'シリーズの主人公。邦訳での題名は当時の二見書房版では『ドラゴン・ファンタジー』(新訳の創土社版ではグレイルクエストのまま)であったが、どちらにしろこのシリーズを覚えているゲーマーらの間で、これらの題名で通ることはほとんどない──彼らが思い出すときに必ず口をついて出るその名すなわち、「14へ進めシリーズ」である。
Grailquestは、アーサー王伝説の魔術師マーリンの魔法によってプレイヤーの魂がアーサー王時代に呼び出され、ピップという若者の肉体に乗り移って冒険する、という設定になっている。シリーズはアーサー王伝説ながら、歴史背景はおろかオーソドックスな古典FTにすらとらわれず、ドラゴンや吸血鬼といった最も基本的なもの以外はオリジナル要素の強い時代錯誤なコミカルな要素に彩られている。なすことアバウト至極なマーリンに、毎回登場する「詩的魔神」、唐突で奇想天外なデストラップ、そして死んだピップが飛ばされるパラグラフ番号は必ず死のナンバー、「14」である。
文章はすべて読者をピップとみなし「さぁ、ピップ、そわそわするんじゃないぞ」といった親しみのこもった半命令の語りかけで、その独特の調子の語り口による情景と描写は、同じイギリスから上陸した金字塔シリーズ、『火吹山の魔法使い』をはじめとするFF(ファイティング・ファンタジー)の簡潔で淡々とした描写説明(「さあ、ページをめくりたまえ」)とは、また別の対極に位置する、ぞくぞくと背筋を震わせる言い知れない魅力に満ちていた。イラスト(日本語版独自のもの)とも相まっておどろおどろしくも絶妙な諧謔の入ったその雰囲気は、当時の他のゲームブックも含め、現在でもFTにおいて他に類を見ない独特の世界観を作り出している。
この時代のピップという青年は、アバロンの城(このシリーズではアーサーの治める国がアヴァロンという解釈を採っている)の見えるグラストンベリ町郊外の農場に住む「農夫ジョンとメアリーの息子」(つまり、この上ないほど平凡な出身だということである)で、若くたくましい美丈夫である(と紹介されたのは最初だけのような気がするが)。マーリンに与えられた装備、ドラゴンの皮の胴着をまとい、マーリンが作ったガラの悪い口調でしゃべる蜘蛛嫌いの剣『エクスカリバー・ジュニア(E.J.)』(→参照)を持ち、そしてマーリンがピップの手に安易にインクで描いた紋様から発せられる「火の指1,2(稲妻)」や「火の玉・発射(大抵の怪物、というか自分自身も2回死んでおつりがくるほどの激烈な威力がある。ただし命中率は決してよくない)」の魔法、また、T&T顔負けの脱力ものの名前のついた魔法帖の魔法(成功率はお世辞にもよくない)などを操り、やたらグロいが強力な現実変容効果をもつ「魔法のアヒル」や、「でくのぼうめ」と叫ぶと粘体が飛び出し相手を棒立ちにさせる魔法棒、ジンの飛び出すちくちくする指輪(1、2巻で入手できるが、3巻まで出番がない)など、登場する珍妙無比なアイテムにびっちりと身を固める。珍妙な冒険の末にも、魔術師アンサロム、真鍮のドラゴン、黒騎士などを倒す偉業を行い、アーサー王や円卓(あくまでそういう円卓なのだが)によって騎士として、またマーリンに次ぐ魔術師として一目置かれる存在となっている。
ピップ自身のキャラクターは固定主人公RPGのようなアクの強さはなく(なお、原語版では性別がわかる呼び方はないが、何となく少年風であり、日本語版でも一人称「ぼく」などその解釈になっている)、その台詞や振る舞いなどから何となくガラがあまりよくない点や、マーリンや円卓の騎士らをそれほど敬っていない点がわかる程度だが、それはとりもなおさずこのゲームの雰囲気そのものが反映されている面が大きい。
なお、これは既読者に向けてであるが、「14」という番号について、既に専門で扱っているサイトに詳しい情報であるが、少しでも誤説を防ぐため述べておきたい。なぜ死のナンバーが西洋のアンラッキーナンバーの13ではなく14なのかについて、とある関西の有名ゲームデザイナーが『ウォーロック』誌で記した「英語の原書では13だった」という風説が広く信じられ、頻繁に吹聴される。が、これは全くの事実無根であり、原書でも14である。ブレナンに質問する機会のあったあるファンによると、ブレナンは13の文字通り「一枚上手をゆく」という意味で14を選んだという(詳しくは専門サイトに譲る)。この原書が13で和訳が14という誤説は、おそらく、ブレナンの別の著作で、死のナンバーが13になっているものと混同したのではないか、と推測されている。
敵:[変]掲示板において、アーティファクト『エクスカリバー』(→参照)のデータを検討している際に、それに伴ってこのグレイルクエストの要素(E.J.やアンサロムなどと共に)も提案された。一応友好的モンスターでGOOD属性である。火の球や火の指(原作では稲妻のようなものだが、*bandでは名前の通りのファイアボルトになっている)が再現され、それらの魔法の再現をはじめ、再現されていないアイテムを含めいくつかの関連台詞を喋る。倒すと一定の確率でエクスカリバー・ジュニアを落とす。
また、ピップに欠かせない「14へ進め」は、いくつかの紆余曲折の末に、死に台詞が「『ピップ』は無慈悲な冒険者によって殺されてしまった。14へ行け。」と出るという形になった。しかし、未読者にはこの「14へ行け」がプレイヤーに向けられたものだと勘違いし、「14階に行ってみたが何も起こらない」という報告が届けられたことがあった。確かに微妙にわかりづらくはある。
→アンサロム →エクスカリバー・ジュニア →マーリン
火の鳥 The Phoenix 【敵】
出典:フェニックス(ポイニクス)はギリシア、ローマで(しばしば南国に住んでいると)伝えられる、死をこえて火炎の中から蘇るといわれる霊鳥で、一般に流布されている姿、生態などの詳しくは伝承関連のサイトを参照されたい。ギリシアでのフェニックスの古い記述(長寿、寿命がくると祭壇に身を捧げる等)はヘロドトス『歴史』だが、こうしたギリシアのフェニックスのさらに原型はエジプトの太陽に関する霊鳥ベンヌ鳥であるとも言われる。加えて、ヘロドトスにも既にみられる長寿や炎を思わせる羽毛なども相まって、火炎(の祭壇)に身を投じ蘇るといった性質が形成されたと考えられている。なおキリスト教的な見地では、幻獣・精霊にしばしばあるように異教的悪魔と見られる場合(例えばソロモンの大悪魔フェネクス)も、逆に復活奇跡に関連づけられて聖なるものと見られる場合もある(ある意味、セラフとして吸収された拝火教の炎の蛇などと似た道を辿っている)。
西洋のフェニックスはときに俗説的に、東洋の「鳳凰(→参照)」と同一視されたり近いものとされ、訳語などにもあてられる場合があるが、姿(西洋のフェニックスはヘロドトスをはじめ鷲に似ており、東洋の霊鳥は孔雀などを思わせる)をはじめ異なる点も多く、少なくとも起源が同一とするには疑問がある。しかしながらフェニックスにせよ、鳳凰や朱雀、ガルダ鳥といった東洋の霊鳥にせよ、おそらくは古代において、想像もしたことのないような異境の動物の中でも、特に鮮烈なものである「不思議な色や姿の鳥」の存在に関する想像力が膨れ上がったものであることは確かに思われる。(ギリシアのフェニックスの鷲の姿というものも、神秘的な鳥に対して、ギリシア・ローマでのボキャブラリにおいて偉大で力強い鳥として選ばれた形容と思われる。)特にその鮮烈な色からいわゆる「火の鳥」とされるもの、またその存在の裏づけとされる異境からもたらされた不思議な色の羽根や、あるいは血液と称されたものに、霊力があると信じられるのは妥当である。
なお、火の鳥をテーマとして多作の漫画を残した手塚治虫は、西洋の鷲型=男性的、東洋の鳳凰型=女性的といったイメージの差異に関してコメントしながらも、(エジプト・ギリシア・ローマなどでの初期の作品でも一律)東洋の鳳凰を思わせる姿のイメージと、西洋的な能力・霊力を持った火の鳥を描いていることと、そのイメージが日本では特によく知られている。
RPGにおけるフェニックスは、例えば最初のRPGであるD&D系では(ユニークではない種族の)モンスターとして存在し、ほぼギリシアのフェニックスに準じた炎の鷲の姿をしている。基本的に善のモンスターだが、利害により、また当然ながらその羽などを求めて、戦う可能性があることが前提となっているようなデータである。その能力はタイタンや神格に匹敵するほどの凄まじい肉体能力と魔力を有しており(CD&Dにだけは小型のものもいるが、とても安全とはいいがたい)hpをゼロまで落とすとティルトウェイトのような大爆発を起こし、中から小鳥が飛び出して全速力で逃走していく(CD&Dでは、この小鳥は少なくとも定命の者には決して追いつけないので、フェニックスを滅ぼすことは不可能である)。羽根は強力な耐火のポーションなどのアイテムの材料となるが、特に血に関する記述はない。
以後のRPGでは、CRPGでは特にモンスターとして扱われている場合もあり、その場合は(他の有名な幻獣が中上位や、下手をすると下位に落ちていることがあるのに対して)ボスキャラであったり非常に強力な敵であることが多い。しかし特にストーリー形のRPGでは、モンスターでなく上位の精霊や神格であったり、敵として現れるよりイベントのような存在として現れることも多い。モンスターの場合や、あるいは「火の鳥」の技や魔法など、火炎の化身といった扱いも多いが、一方で、『ファイナルファンタジー』シリーズの復活能力を持つフェニックスの尾をはじめとして、関連する物品が登場することも多々ある。概して、「復活」や治癒に関わるなどの「フェニックス」に関連する物品やイベントが存在するRPGも非常に多く、血や羽根に霊力があるといった、幻獣としての本来の性質を色濃く残しているといえる。ただし、関わるのが火炎であれ復活であれ、特に日本のRPGでは、その大半の場合「フェニックス」というモンスターには東洋の鳳凰に近いようなイメージが与えられていることが多い。
敵:*bandでは、[V]以来強力なユニークモンスターとして存在する。フェニックスは伝承では一羽しかいないなり、またはのちのFTでも上位精霊なり神格なりといった存在であることが多いので、ユニークとなっているのだろう。通常日本のRPGでもフェニックスといって通るが、*bandの和訳で『火の鳥』となっているのは、和訳者の「思い入れのある」名を選んだとコメントにある。しかし、この漠然とした名が逆に、RPGのモンスター等として使い古されたフェニックス像(鳳凰と同一視されているものを含め)とは若干異質な印象をもたらしている。思い出解説には「鷲」の姿とあり、能力的にもD&D系のそれのような存在と思われる。炎の打撃と炎、プラズマ、光のブレスや魔法を持ち、特に火炎免疫がないと厄介な強力な攻撃力をもつユニークである。
ビホルダー Beholder 【敵】
出典:D&Dシリーズの数あるオリジナルモンスターの中でも、どういう脈絡やら「真打ち」をつとめ、このシリーズの象徴として事あるごとにクローズアップされる、恐るべき目玉の化け物。
代表的な種類のものは(後述するが、大量に亜種がいる)直径2メートル前後の、キチン質の頑丈な甲羅(フルプレートより遙かに堅い)に覆われた浮遊する球体で、真ん中に一つ目と巨大な牙のはえた口、そして上部に、それぞれ先端に小さな目のついた触手が10本ある。D&Dシリーズのビホルダーは、この最も大きな一つ目からすべての魔力を打ち消すアンチマジックの、また触手からは10本それぞれ別々の種類(傷、催眠といった生易しいものから、石化から分解まで)の、「目からビーム」を発する。事実上魔法が通用しない上、ビホルダーの方が放ってくるのは即死系を含む凶悪な魔力で、肉体的にも強靭なため、かなり高レベルのキャラクターにとっても非常に恐ろしい怪物である。ダンジョンマスターによって喋ったり喋らなかったりするのだが(CD&Dの方にはどちらなのか書かれていないが、3eでは独自の言語と共通語を持つ)どちらにせよ知能は非常に高い。
どれだけD&Dシリーズがこの怪物を売り出しているか、例えばAD&D 2ndのMonster Manualには、「代表的」なものだけでも4ページ、十数種類の亜種が解説されており、さらに'I Tylant(アイの暴君)'という、まるごと一冊ビホルダーの生態・亜種などを解説したサプリメントもある。現在では説明するまでもなくbeholdとは「見る」の意の古語で、慣用句("Beauty is in the eye of the beholder"という諺など)に埋め込まれている他は、D&D以前は本来ならばラヴクラフトかヴァラールくらいしか使わない語であったようだが、「ゲイザー」「スペクテイター」などの亜種の名は、いずれも「見る者」の意から採られている。亜種には形状が若干違うもの、手足が生えたものや、生存環境や能力が違うものなど、考えられる限りのバリエーションがあるが、いずれも「自らと姿が異なるものをすべて殲滅する」という思想を有する。それの敵意は、自分たちの亜種と一部が違うだけの他のビホルダー亜種に対しても向けられ、また違えば違うほどに強い敵意を向けるため、人間のような生物をどれほど憎むかは想像を絶するものがある。おそらくこうした思想のため、いずれの亜種も決して数は多くないと思われるが、個体能力でおおよそ天敵といえる存在がいないため、絶滅には程遠いというのが実情であろう。
D&Dシリーズのオリジナルモンスターであるわけだが、これのさらに原型・モチーフとなる目玉の化け物が何らかの作品もしくは民間伝承等に存在するか否かは、長い間議論されてきた。よく候補として挙げられるのが、真っ黒い毛に包まれた巨大な充血した目玉という「バックベアード」というモンスターがそれである、という説である(実際に、ビホルダーそのもののモンスターを、バグベアードと名を変更して追加しているRPGもある)。バッグ(ク)ベアードという語自体は、西洋の伝承では「邪妖」を指す曖昧さのある語である(→コボルド、スナガ)。しかし、それに明確に上記の姿(姿自体はO.ルドンなどの絵画から案を採っているとも言われる)を特定して最初に描いたのは、日本が誇る妖怪研究家こと漫画家の水木しげるの創作という説が有力であり、伝承の時点からその形ができていたとは言い難い。
D&D系の代表としてのビホルダーに関しては、十年あまり前のAD&DのコンピュータRPGシリーズのひとつに"the Eye of the Beholder"シリーズがあり、しかもこれらがなかなかの傑作で、和訳されてコンシューマにも移植されたので有名である。
しかし日本ではそれ以上に「ビホルダー=どこぞの会社の版権物」を印象づけた事件として、漫画『バスタード』の「鈴木土下座エ門事件」によって明らかにD&Dの名や普及度以上に広まっている。詳しい事情はそれらの関連サイトに譲るが、もはやかなり昔の話なので概要だけでも触れておくと、週間少年ジャンプの連載当時に権利関係を知らずに「ビホルダー」を登場させ、担当の鈴木氏がわざわざ新和(当時のD&D和訳)まで謝罪に行ったと言われるため、単行本では「鈴木土下座エ門」という名前と無茶な解説、連載時から手足が生えて鎌を持っただけの謎のビジュアルに差し替えられたとされる事件である。(なお、この鈴木氏云々は、現在ではその担当氏や経緯が実在したのかは真偽の程は定かではなく、ネット流言・都市伝説の類と主張されていることもあるが、『バスタード』OVAアニメ版のイベントで原作者が語った話とされ、全くの流言の類というわけではない。)
この事件はビホルダーという名に対して、またD&Dシリーズの権利関係の厳しさに対してRPGファンらを震え上がらせたが、実際はかなり多くの要因がからみあって生じた結果である。すなわち、当時D&D本国のTSRが権利関係で神経質にならざるを得ない事件があり、新和が本国の方針を恐々として拡大したという説(一説には、和訳を続けるためになんらかの行動で意思表示する必要を感じ、スケープゴート的に強引にクレーム対象を探したのではないかという風説)『バスタード』の作者がそれまでも引用の多さなどが眼に留められていたという説、何より少年ジャンプ誌が、それまでのビホルダーの登場例に比べて非常なメジャー誌であったこととが深く関係していると思われる。当時の8bitPCのRPG、例えば『ザナドゥ』には、ビホルダーやスペクテイター(また、それ以外にもD&D系独自で、現在ではd20ライセンス等でも使用禁止になっているクリーチャー)が当然のように登場しており、そのため漫画作者もそもそも疑念を持たなかったのではないかと思われる。しかしこれらゲームが問題になっていなかったのは、当時8bitPC自体が一握りのGeekの玩具に過ぎなかったためもあるだろう。ビホルダーがここまで大事になったのは、これらの多数の要素が重なったためと言われており、本来ならばここまで大事件にも、また公の場にも出ないだろうともいう。とある掲示板のゲーム紹介において、*bandには「ビホルダーが”本名”で登場する」ことを特に取り上げて「驚天動地の極めつけ」のように紹介しているのを見かけたことがあるが、それほどまでに極端に「絶対にありえない」と思い込んでいるのは、上のような事件が刻み付けられた日本のファンタジーファンだけである。無論、海外の商用作品では、D&D系独自用語に対しては、一般に注意は払うがそこまで神経質ではなく(アルコンやリッチなど)、少々古いゲームならしばしばまだ普通に存在し、さらにフリーウェアではほとんど気にも留められるものでもない。まして「海外の古いフリーウェア」である*bandではまったくもって当たり前の存在でしかないだろう。
ただし、他のゲームに登場する場合は、姿や能力、位置づけが異なっていたり(例えば『ザナドゥ』のものは単眼のみで、低レベル、集団で登場し、念動魔法ひとつしか放って来ない。『ソーサリアン』のものは姿はそっくりだがやはり集団で登場し、特殊能力はない)能力が再現されていない(アンチマジックがないなど)ことなども非常に多い。これはシステム的に再現できないためや、それ以前にD&Dシリーズの記述に対する理解の不十分などに起因していると思われる場合があるが、何にせよ、他作品でも原型の通りの登場例ばかりというわけではない。
この鈴木土下座エ門事件の結果、海外のRPGコンテンツへの認識が強くなり正しい知識が広まったかというと、むしろ事件のインパクトだけが知られて詳細が伝わらず、誤った意識が広まる原因になっている節もある。例えば『ビホルダー以外もD&D要素要素は全て使用厳禁である』としてハーフリングやマリリス等も禁止されていると流布されている場合(ハーフリングやマリリスはd20の一定要件での許諾コンテンツである)、逆に『D&Dが権利を持っている要素はビホルダーだけだ』等と流布するばかりか、ビホルダーと同等の禁止を明言されたユアンティ等を日本の商用作品に登場させている場合、『ノールなどのD&Dオリジナル名は他のTRPGに出てきたので完全に著作権が切れてフリーになっている』等と理解されている場合(d20のコンテンツは著作権自体は切れておらず、許諾されているだけである)、WotC社や新和が『商標登録している』などと明確に事実に反する幾つかの単語への言及など、しかも「TRPG経験者」や「ファンタジー知識人」が、これらのD&Dやd20の基礎知識を欠いたまま流布している場合がむしろ多い。
敵:*bandには[V]以降、敵として登場する。亜種のうち、アンデッド・ビホルダーは[V]当時から登場するが、ゲイザーやスペクテイターといったメジャーな亜種は[Z]以降の追加である。[Z]は天使やデーモン(タナーリ)などの名でD&Dオリジナルのものを外したり一般名詞に変えたりしている一方で、こうしたAD&Dオリジナルモンスターを余計に加えたりしており、その姿勢はよくわからない。
浮遊し主に魔法攻撃を行ってくるという点は同じであるが、D&D系のビホルダーは主に「特殊効果」の魔力を放ってくるのに大して、*bandのビホルダーは元素などの直接攻撃の魔法を多数放ってくる。これは特殊効果攻撃が(特にビホルダーの登場する中盤以降は)あまり意味をなさないという為もあるだろうが、亜種はともかくビホルダーのイメージからはずいぶんと外れているかもしれない。また最大の特徴であるアンチマジックの結界能力なども当然ない。しかし、頻繁に魔法を放ってくる危険さや、わりとしぶとい割に倒しても宝を落とさない鬱陶しさなどもあって、原典と同様の厄介さは存分に感じさせてくれる怪物である。
→アンデッド・ビホルダー →ゲイザー →スペクテイター →究極ビホルダー
ビホルダーの巣母 Beholder hive mother
→究極ビホルダー
ヒムリングの硬革よろい Hard Leather Armour of Himring 【物品】
ヒムリングとは、トールキンのアルダ世界、ノルドールのエルフとモルゴス軍の戦っていた第一紀に、その戦略の有力指導者のひとりマエズロス(→参照)の砦のあった土地である。ヒムリングとは「him- 冷涼」「-ring 冷たい」という妙な二重の語で意味は明確でないという。エルフらの勢力範囲を大きく東西に分ける谷(マグロールの谷と呼ばれ、マエズロスのすぐ下の弟が守る)のすぐ西側の山地がヒムリングと呼ばれた。ここはエルフらの護りの要所とされ、この山地より北は広大なアルド=ガレンと呼ばれる緑地が広がり、さえぎるものなしにサンゴロドリム(モルゴスの領地の山地)に正対していた。このヒムリングを最前線として、南にはマエズロスとマグロールのさらに弟ら5人(→ケレゴルムなど参照)の領地があった。普段からモルゴスの軍と正対していた他、合戦などで人間やエルフ(主にマエズロス兄弟ら)の本拠地になることも多かった。このヒムリングの形勢する防衛線はほぼ最後までもちこたえたが、エルフの二度目の大敗北(ニアナイスの合戦)の際に、他の拠点(ゴンドリンは除く)と共に、ほとんど一度にすべて滅ぼされてしまった。
*bandでは[O]に由来し、多くのバリアントに取り入れられているヒムリングの鎧は、おそらく同様のアーティファクトのロヒアリムの鎧等と同様に有名な戦争に関係したものが加えられたもので、特定の誰かの鎧という意味ではないと考えられるが、強いて言えば指導者であったマエズロスの鎧と考えることは可能である。ICE設定ではマエズロスの鎧はヘルウアンノン(シンダリンで「侯の門」と読めるが、おそらく転じて「公子の防壁」といった意味であろう)と呼ばれ、能力的にも関係ないが、「ヒムリングの鎧」はあくまで通称のようにも見えるので同一のものを指すと想定することも可能である。*bandのヒムリングの鎧は上級耐性が揃っており、[変]などではその名前からか冷気オーラがあるため、階層よりは前半よりは後半耐性パズルを揃える際、ことに重い装備を身につけられないクラスの場合に候補に入ることの方が多いと思われる。
百目口 Gibbering mouther 【敵】
ジバリング・マウザー(うわ言を呟く者といった意)は、AD&Dにおける、確固たる背景などがないがダンジョン冒険の奇怪なギミックとして加えられている数多くの珍しい変り種モンスターのひとつといえる。(なお、単に「ジバリング」というヒューマノイドもいるが別物である。)
人肉を思わせる粘体状の怪物なのだが、常に表面に目や口が発生したり消えたりを繰り返している(ショゴス →参照に近いようなものか)。知能はほとんどないが、常に生物の血に飢えており、包み込んで攻撃する。無数の口はうわ言をつぶやき、唾液を吐き散らしており、うわ言は魔法的に聞くものの精神をかく乱し、唾液は触れた者を盲目にする。その他にも包み込みの吸血や地面を粘体化するなどの多数の特殊能力を持つ。さほど強力なモンスターではないが、これら特殊能力の数々がときに厄介である。
*bandでは[Z]以降登場し、百目口というのは日本妖怪風でうまい訳である。特殊能力のうち、うわ言の叫びは混乱や恐怖の魔法、盲目の唾液の飛沫は光のブレスで表現されており、なかなか原典通りの能力が実現されている。増殖する上、これらの耐性がない状態で不用意に討伐に行くと進退窮まったりするので注意したいものである。
百裂拳 ひゃくれつけん 【システム】
漫画『北斗の拳』の主人公ケンシロウの技「北斗百裂拳」は、北斗神拳の技の中でも最初に名前がついた技として登場したものであり、またこの漫画の中でも最も有名な技といえるものである。拳形を変えながら多数の打撃を繰り出すというもので、名前通り百回であるかは定かではないが、少なくとも画像では24回は見てとれる。応用技と思われるものに、ケンシロウの兄トキ(→アミバ)の使う、空中で繰り出す「天翔百裂拳」がある。
北斗の拳の名台詞の中で3指に入ると言われる「あたたたたたたたたたたたたたたたたた」は、元来ケンシロウがこの北斗百裂拳を発する際の声である。アニメ版でケンシロウを演じた神谷明は元々高めの声域を持つが、演じた数多くのヒーローの中でもことに重厚・屈強な漢であるケンシロウには低く重い発声をしているが、この「あたたた(ry」に限ってはあとの方にいくに従ってどんどん声が甲高くなっていくことがよく知られている。これはおそらくこの「あた(ry」をアニメで実際に表現するにあたってブルース・リーの「怪鳥音」を参考にしたためと考えられている。
原作漫画では北斗百裂拳は名前と共には登場時しか使用されていないが、他にもこの技とおぼしき多段攻撃は何度かあり、アニメ版では(他の名台詞同様)数回使用された。(なおその多段打撃自体で相手が吹き飛ぶ場合も、そのあとさらに北斗神拳の特徴である肉体崩壊を起こす場合もあり、効果自体も一定していない。)そのためもあってか、北斗百裂拳は「秘孔」による一撃必殺の北斗神拳の技としては必ずしも典型的でないにも関わらず、北斗神拳やケンシロウの技の最も代表的なもののように話題にされることが多い。また、この漫画やアニメの及ぼした多大な影響によって、他の作品でも「百裂拳」や「百裂〜」は多段攻撃の名前や代名詞として冠せられることが多い。
*bandでは、[変]において修行僧のレイシャルパワー(職業特有能力)などによって存在するものである。2ターン分の攻撃を一度に行う(攻撃回数が倍)が2ターンを消費すると言うもので、一見差し引きなしに見えるが、つまりは先手を取って多数攻撃ができるということである。「百裂」というには物足りないと感じる向きもあるかもしれないが、ただでさえ修行僧の強烈な攻撃力に対してはこれ以上極端な能力にもできないだろう。実際はこの効果でも修行僧が使えばケンシロウの描写に充分と思うことになる。
→ケンシロウ
ヒュプノス Hypnos, Lord of Sleep 【敵】
旧き神。眠りの大帝。H.P.ラヴクラフトの小編『ヒュプノス』に登場する一種の神で、名前はギリシア神話から採られているものの、ギリシアの神そのものを指しているわけではなく、また内容的にもおおよそラヴクラフトのイマジネーションに沿った存在とみてよい。
邦訳文庫版ラヴクラフト全集での『ヒュプノス』(『眠りの神』)では、彫刻家と友が共に夢の洞窟(後のドリームランドに通じるか)を探求するうちに深遠の狂気に蝕まれ、最後は(おそらくヒュプノスを見たことにより)変貌してしまう。ラヴクラフトに顕著な、夢に対する恐れと憧れとの具象化のひとつであるといえる。この描写から、*bandのモンスターの直接のもととなったと思われるTRPGのCoCルールでのデータでは、ヒプノスは夢の異世界「ドリームランド」と現世との狭間に存在する神で、近寄る者を夢や悪夢の通りに変形させ、自分の近くの夢の狭間に永遠に縛り付けてしまう。ドリームランドに迷い込んだ夢想家が最初に目にするヒプノスの姿は、名前から髣髴する通りのギリシア彫刻のような美しい姿(記述は原作の最後に登場する、とある「石像」のものである)だが、真の姿は悪夢の中でも最も最悪のものほどに歪んで恐ろしいものである、という。
ギリシア神話のヒュプノスは、ニュクス(夜)の子であり、エリス(争)、タナトス(死)、ネメシス(復讐)、モイライ(宿命ら)といった禍々しい神々の同族である(ニュクスの血脈は、ガイアを元とするタイタンらのような「ギリシアの大神統」からは完全に外れた、カオス(混沌)のみから生まれでた一連の存在である)。つまり、ギリシアのヒュプノスは眠りの単なる安息という側面ではなく、おそらくその裏にある恐れが変化して生じた存在であり、元から畏怖すべき異貌の神とでも言うべき存在である。この名前が近現代の夢想家であるラヴクラフトの名状しがたい連想に用いられたことは興味深いといえる。
CoCルールでのヒュプノスが「旧き神」(ダーレスの旧神という概念とは異なり、異形の外なる神らとは「別系統」の種族の神を指す)と分類されているのは、おそらく地球の神話と関係があるという理由であり、CoCルールにおいても別に人間にとって安全なわけではない。そして*bandではどちらにせよ見るなり襲い掛かってくる敵である。しかも、「旧き神」であるためEVILフラグもDEMONフラグもなく倒すのに手間取るという、クトゥルフ系の敵として非常に嫌なタイプのユニークである。67階という強めの標準的ユニークで、特殊・凝視系の打撃にテレポート系や因混・カオス・遅鈍攻撃などいかにも次元の狭間属性の魔法を用いてくる。
ヒーローの薬 Potion of Heroism 【物品】
クラシカルD&DやAD&D1stにおいて「ヒーロー」(新和邦訳では「闘士」)とは4レベルのファイターの称号である。故に、「Potion of Heroism ヒーローの薬」は、飲んだものがたとえ一般人でも「4レベルファイターの能力」を得るという、冗談なのか本気なのかよくわからない物品だった。元々が戦士の場合にこれを飲むとどうなるかといえば、元の戦士の能力が高いほど得られる能力の「増分」は落ちてゆき、高レベルの戦士の場合は一律でわずかに一時的レベルが上がるだけである(元があまり強いと効果自体がない)。また、なぜか一般人は飲めるのに戦士系以外のクラスの冒険者は飲んでも効果がない(単にルールを単純にするだけのためと思われる)。一方、D&D3.Xeなど最近の版では「ヒロイズム」は魔法使系の呪文で攻撃力と士気に一定のボーナスを与えるもので、ポーションも単に同名の呪文と同じ効果になっている。
Moria以来*bandに存在するPotion of Heroismは、どんなキャラクターが飲んでも一律、わずかな戦闘能力を増大させるものになっている。古D&D系からは名前だけを参照したのか、攻撃力だけでなくヒットポイントも増大させる点があるいは効果も踏襲しているのかは定かではない。また、その名からも、士気高上系の呪文(新版の方のヒロイズム呪文と似ているが、元は祝福系の呪文が担っていることが多い)の効果がむしろ高く、飲むと恐怖を除去し、効果時間の間恐怖耐性を与える効果がある。中盤までの恐怖耐性を得る手段としてもっぱら注目されがちだが(耐性を持たずにピンク・ブルーホラーなどと戦う場合は必携である)祝福系呪文(聖祈言など →参照)と効果が重複しそのボーナスも馬鹿にならないため、特に攻撃力に今一歩の不安があるデュアルクラス系の場合はなおさら、祝福系物品とあわせて終盤まで持っており決戦時に使用するプレイヤーも多い。
ファイア・キラービートル Killer fire beetle 【敵】
殺人炎熱兜蟲。原語ではKillerの方が先にきているが、[V]邦訳ではおそらく「火炎属性・キラービートル」というイメージの方が判り易そうということでこの訳になっているのだろう。しかし実際は「ファイヤービートル」という、クラシカルD&Dのモンスターに由来している。
D&D系のファイヤービートルは、おびただしい数の設定が存在する巨大vermin系モンスターのうち、初級(ベーシックルール)の最も初歩的なモンスターのひとつで、体長75cmの巨大甲虫である。その名前の特徴は、別に火炎を吐くなり炎の属性があるなりというものではなく、腹に赤色の発光腺を持っており、暗い所で火のように輝くというだけに過ぎない。おそらく、ホタルの一種の通称(よく知られたホタルはfireflyだが、熱帯の大型のものにfirebeetleがいる)を、あえて拡大解釈したモンスターと思われる。『クロちゃんのD&Dがよくわかる本』において、プレイヤーの一人が闇の中の発光体を見てファイヤービートルと見抜き、宝物を溜め込まないモンスターなのでメリットがなく迂回する、と判断したくだりは、ベテラン冒険者かくあるべしという典型例としてよく知られている。
しかし、その後このモンスターを引用した和洋のRPGでは、(ドラゴンフライ(→参照)がブレスを吐くトンボになったのとちょうど同様)大抵が火炎属性のビートル、火炎を吐いたり火炎オーラを持つ虫となっている。*bandでもMoria以来その例にもれず、火炎SPITの打撃を持っており、元のD&D系での初級モンスターに反してノーマルモンスターでは中レベルでもあり、わりと侮れない能力を持つものになっている。
ファイアー・ボール Fire Balls 【システム】
魔法使が火を操るのはガンダルフを例に出すまでもなく古来数限りなく描かれてきたが、RPGの原点であるD&D系において、火球(ここでの語義は、Fire Balls「火」の「球」という”熟語”ではなく、Fireball「火球」という”単語”、すなわち、化学・物理反応による爆発の余波の領域を特定して指す語である)を発生させて直接ダメージ攻撃に用いるという呪文が、魔法使系の標準的な攻撃手段のひとつとされたのは、(さらに遡ればジャック・ヴァンスなどに直接の原点を見出せるが)システマチックな「差別化」と「特徴づけ」の目的という側面が非常に大きい。即ち、汎用的な攻撃力である戦士の剣に対して、「火球」というこの特殊な現象は、対多数攻撃であり、無差別であり、熱攻撃という特殊な攻撃様式である(引火その他の影響のさまざまな可能性が大きく、特に効果的な対象も、逆にまったく効かない対象も共に非常に多い)。D&D系のFireballは直径12メートルに及ぶもので、他のRPGでは多いFire Ballsの方の語義や(直径3-5m等というルール等)そこから信じられ乃至映像化されているイメージよりも、そのもたらす影響はかなり激烈で甚大なものである。そしてそれらを、主な舞台である閉鎖空間ダンジョンにおいて使用するという行為は、衝撃や爆音などによって、「隠密性」という、冒険者が敵地ですがるべき唯一無二の蜘蛛の糸を完膚なきまでに断ち切るといった例をはじめとして、状況に「敵へのダメージ」などよりも遥かに多大な影響を及ぼす(ただし、これらは別の意味でプレイヤー、ダンジョンマスターともにあまりにも悪用され続けたため、やがてD&D系のFireball呪文は「衝撃および爆風は全く生じず、爆音は非常に小さく、対象範囲にほとんど純粋に火炎の高熱だけを発生させる」と明記されるようになった)。これらは、D&D系の呪文が「影響自体は強力だが、非常に限定された使用法」を主眼にデザインされている極めて端的な一例であり、あらかじめその日の呪文を準備しておかなくてはならないシステムと相まってマジックユーザーのプレイングに常に熟考を要求し、このクラス・役割を特徴づけていると言える。「ダメージ呪文しか使えない頭の悪い魔法使い」という表現がよく口にされるが、D&D系ではしばしばダメージ呪文にこそ最も頭をひねらないと、使うことすらできないのである。
こうした発想の原点はさておいて、以後のRPGにはD&Dと同じような呪文が踏襲されることも多く、RPGの魔法使系クラスの標準的な攻撃手段とみなされてきた(*bandのヘルプファイルにもFireballが魔法攻撃の例として触れられていることがある)。しかし他のRPGでは無論システムの為もあって大抵はD&Dのそれほど極端な性質ではなく、初〜中級で対多数の攻撃という以外は威力も範囲も、またFireballであったりFire Ballsの方であったり(ただし対単数のFire Ballsはむしろファイア・ボルトの方に近い発想で別である)と様々である。Roguelikeでは(火炎攻撃全般に言えることであるが)NetHackや*band系ともに、紙製の物品を燃やすといった点が意識されている。さほど甚大な影響ではないものの、アーチ・ヴァイル(→参照)の活躍などからは、中々侮れるわけでもない。
*bandでは、Moriaの時点から[V]までほぼ踏襲されている下級呪文書の中にあるが、「初〜中級」と呼ぶにはかなりレベルも高く(習得はともかく、消費や失敗率の点で実用になるレベルになるのが相当後になる)ダメージ自体もそれなりにかなり高いものがある。Moriaでは最高レベルの域に属する呪文であり元素攻撃のウェイトも高いので(→元素ブランドの武器)上級呪文として重宝するが、[V]以降の*bandでは、ファイアー・ボール呪文が使えるようになる頃、およびワンドやロッドなどでも普通に使えるようになる頃というのは、そろそろ敵にも耐性が揃い始めている頃なので、*bandにおいてはかなり微妙な存在といえる。アンドゥリルやナルヤなど有名な物品にはファイアー・ボールが発動できるようになっているものも多く、そのダメージ数値も大きいのだが、こうした事情からその効果のほどは期待を裏切るような結果になることが多い。とはいえ、上級呪文書が手に入る前の[V]系のメイジなど、敵に耐性があるにも関わらずこうした呪文に頼って戦い続けなくてはならない、やむを得ない状況にもしばしば陥る。
ファスティトカロン Fastitocalon 【敵】
中つ国のホビットらの民間伝承の中に語られる巨大な亀。赤表紙本から抜粋したというホビットの詩集(トールキン小品集に収録)の中に同名の題の詩が見られる。島のように巨大な亀で、長い間海に浮かんでおり、実際に島と勘違いして人々が上陸し、亀の身じろぎですべてが水没してしまう、という説話である。「じゅう」等と同様にホビットの法螺話の一種とされているが、トールキンがじゅうのようにそのままアルダに実在すると想定していたか、大長虫のように別の動物・怪物の口伝が形を変えたものであるかは定かではない。実在する動物を指したものではなく、ヌメノールが水没した伝説が変形を重ねたと想像するファンもいる。(その考えで言うならば筆者私見では、神話時代のエレスセアの動く島、またこの詩集がゴンドール由来詩を多く含むこととこのタイトルのラテン語風からは、オスギリアスの河上城砦の陥落なども大いに考えられることである。)なお、MERPではそのまま巨大亀の怪物ファスティトカロン(Fell-turtles, シンダリン名は「アイグ=クニモール」)としてモンスターデータが存在する。
元来ファスティトカロンとはギリシア説話での語で、アスピドケロン(巨大亀)が訛ったものといわれる。島のように長く浮かんでいる海の巨大な怪物、魚、クジラ、亀などこれらの名で呼ばれる説話は多数あるが、最も有名なのは『船乗りシンドバッドの冒険』の中に、このトールキンの詩とまったく同じ内容の話があることで、バハムート(→参照)のようなオリエントの古い起源と考えられるが、トールキンがこうした起源の説話やギリシア語をそのまま使う例は興味深い(おそらく詩を作った当時はホビットや中つ国とは無関係だったろうにせよ)。
*bandでは[Z]以降登場するが、解説には「ドラゴン亀(Dragon-turtle)と呼んでいる者もいる」となっており、実際に、ドラゴンの一種であるとも思われるDRAGONフラグや、火炎や酸のブレスの能力をもったものとしてデータ化されている。本来、D&D系ほかRPGではドラゴン・タートル、シードラゴン(甲羅を持ったドラゴンとされる)は別物の独立したモンスターであり巨大亀とは別であるが(MERPのFell-turtleも巨大亀にすぎない)*bandでは共通点をもつ海の巨大な怪物として同一視していると推測される。元々がホビットの伝承で正体が描写された生物というわけでもないので、穿った解釈とも言い切れないだろう。
ファフナー Fafner the Dragon 【敵】
出典:ワーグナー『ニーベルングの指輪』に登場する巨人、のちに龍で、元来はヴァイキングのウォルスング英雄譚に登場するファーヴニールという、西欧圏の伝承においては恐らく最も知られたドラゴンに取材したものである。
ワーグナーにおいては、兄ファゾルト(→参照)と弟ファフナーの巨人の兄弟は、ワルハラの城壁を築いた代償として神々に女神フレイアもしくは黄金を要求する。神々は紆余曲折の末にニーベルングたちから黄金と指輪を奪い、巨人兄弟に引き渡すが、指輪の呪いが働いたかのごとく、欲にかられたファフナーは兄ファゾルトを殺し、みずから龍と化して黄金をひとり守り続けることになる。このファフナーは英雄ジークフリートに剣ノートゥング(→参照)によって倒される。
この説話は、アイスランド、スカンジナビア神話やウォルスング英雄譚のいくつかの説話を組み合わせたものといえる。その大きなひとつはスノリ・エッダ編中の説話で、ヴァーン神らとの戦いによって荒廃したアースの地を一人の巨人が再興し、黄金を代償に求めたが、火神ロキの奸智(→スレイプニル参照)にかかり、最終的にトールによって頭蓋骨を亀を砕くようにブチ割られてしまうという説話である。だがこの禍・違約が神々の滅びのもととなる「運命のほころび」を作った、と信じられている点も共通している。いまひとつの説話が言うまでもないウォルスング英雄譚のものだが、そのさらに元となる「レギンの謡」によるとファーヴニールは巨人ではなく、黒倭人(ワーグナーではこの一族がニーベルングに相当する)の君主フレイズマルの息子のひとりである。神々がフレイズマルの息子オトを殺した過失の代償に差し出した黄金を、ファーヴニールは一族を殺して独占し、やはり大長虫へと姿を変えて(フレイズマル一族はそれぞれ別々の変身能力がある)守り続ける。兄弟のひとりレギン(→ミーメ)だけが残って、シグルズのために剣を鍛える。ウォルスング英雄譚のものは、結局は黄金の元々の持ち主の黒倭人の中で廻っているだけであったり、神々の立場がどうしようもないほど弱すぎたりと、ある意味では北国の血肉の部族中争いの凍りつくようなリアリティの迫力がある反面、又ある意味ではかなりスケールが小さいので、ワーグナーはスケールを水増しするために編集したとも言える。
レギンの謡に続く「ファーヴニールの謡」はシグルズと彼に倒された後のファーヴニールとの問答がほとんど(が、後代に無理やり挿入したらしい脱線も目立つ)を占め、これは明らかに『ホビットの冒険』のビルボとスマウグ(→参照)の問答を思わせる。ついでシグルズが鍛冶師レギンをも惨殺し、ファーヴニールとレギンの心臓を喰らい血を飲むことでシグルズは不死身となり、また鳥の言葉を解する人間一の賢明さを得る。(このときの鳥の台詞に、黒倭人であるはずのレギンを「冷たい霜の巨人」と呼んでいる箇所があり、別の説話が紛れ込んだとも言われるが、あるいはワーグナーが彼らの一族を巨人とした根拠かもしれない。)この点から、「龍の血や心臓は、不死や賢明をもたらす」という引用が後代の話によく用いられるのだが、元の詩篇ではこれが龍の特性なのか、黒倭人(ニーベルング)の特性なのかは定かではない。
一方で、同様にワーグナーの取材元である、より後代のドイツの「ニーベルンゲンの謡」では諸説があるが、ジーフレトが倒した龍とその説話はおおむねこれと同じ形で、龍の血を「浴びた」者が不死身になるといった説話はこの時点から出たと言われる。
敵:ワーグナーを取り入れた[Z]から登場するユニークで、47階とアルダ系のユニークドラゴンとだいたい同程度の中階層になっている。火炎と毒の両方の攻撃・ブレスを用いるのだが、これは詩篇の中に毒とも炎(実際は焼け付くような毒の唾液である)ともあるためゲーム的には両方の解釈とするのが通例であるためである。ワーグナーの通り『ノートゥング』によって大ダメージを与えられるが、ノートゥングのレアリティ故にスマウグと矢の場合同様、わざわざお膳立てしてはじめて見ることができるといった、おおむね単なるファンサービス的効果でしかない。
→スマウグ
フアン Huan, Wolfhound of the Valar 【敵】
ヴァラールの狼狩りの猟犬。フアンは元来、アマンの地において、ノルドール・エルフの狩人として名高かった金髪のケレゴルム(→参照)に、狩を司るヴァラ(上級神)のオロメが与えた名犬だった。しかし、中つ国においてなぜか単なる中ボス悪役に落ちてしまったケレゴルムを見限って、人間の英雄ベレンとエルフの王女ルシエン(→参照)の二人のもとに走り、王女を背に乗せ、英雄とともに戦う。
『クゥエンタ・シルマリルリオン』中にあって、おおよそ、これほど向かうところに敵を知らぬ存在はない(エルフなどの英雄らは、具体的な武勇の描写が少ないためもあるが)。なぜこれほど強いのか、それは単に「聖なる地ヴァリノールではどんな生き物も高潔で強力」であるためなのか、あるいは、オロメの猟犬や馬もまた、マンウェの大鷲と同様にマイア(下級神)と同列の一種の聖霊であるのかは定かではない。
狼狩り犬で最も優れたものとして生まれたフアンには、アルダで最も凶悪な狼と戦って最期を迎える、という予言があった。のちのアングマールの魔王(→参照)の予言より遥かに具体的なこれは、他の手段では不死身なことも意味するが、狼によって必ず倒すことができることも意味する。この予言を(ボインゴの本を読んだホルホースの如く)「自らに有利な形で成就」させるため、モルゴスの副官サウロンは狼王ドラウグルイン(→参照)や、自らが地上最大の狼の姿に変身してフアンを葬り去ろうとしたが、フアン自身およびルシエンの支援による卑怯なまでの無敵さに、徒に戦力を失う結果しか招かなかった。結局は、のちにフアンはアングバンドの門番であるモルゴス子飼いの狼カルハロス(→参照)と相打ちになり、ベレンにシルマリルをもたらすという最期を迎えた。
*bandにおいては、フアンは[V][Z]などには登場しておらず、[変]には初期に[Z]和訳の板倉氏の要望で追加された。このデータは、中〜高レベルで、動物系の例によって攻撃力はかなり低いものの、スピード・耐久力が非常に高いものになっている。
しかし、[V]の3.0系(拡張用JLEパッチを取り込んだもの)では、[V]のユニーク「ケルベロス」(→参照)を差し替える形で実装された。この[V]旧バージョンでのケルベロス自体が、カルハロスを意識して作られたユニークと言え、つまりここでのフアンは原典通りカルハロスとほぼ同等の最深層モンスターである。ケルベロスの能力を「冷却系」に変換したもので、ある意味ではケルベロス以上に強力といえる。
なお、原典ではいくら強力でもあくまで「犬」でしかないフアンは、普段は喋ることができないが、その生涯のうち「三度」だけ人の言葉を話すことができるという恩恵を与えられていた。これは原典ではベレンやルシエンらへの貴重な言葉として費やされたわけだが、しかし、*bandのmonspeak/monfearでは、特に恐慌状態になると三度どころか毎ターン罵倒してきたりする。この謎は長い間プレイヤーらを悩ませてきたが、喋っているのではなくスケッチブックに書いて見せているとか、頭に電光掲示板がついているとか、フキダシの台詞ではなく動物のお医者さんのチョビ達のように顔の近くにレタリングの書き文字が出ているだけなのでOKであるとか、まことしやかな説の数々が囁かれている。が、あくまでアルダの設定を逸脱しない範囲での現実問題としては、これはフアン本人の台詞ではなく、背中に乗っているルシエン王女(→参照)がプレイヤーを罵倒しているという説が、最も過不足のない解釈であるように思われる。
ファンゴルン Fangorn the Treebeard 【敵】
木の鬚。トールキン『指輪物語』に登場するエントの長老。樹木の牧者である、巨木のような巨人・エント(→参照)種族のうち、ファンゴルンは神話時代の始原に「目覚めた」ひとりであったようだが、この時代には実際に起きて活動できるのはそれら始祖のうち、ファンゴルンひとりしか残っていないようである。彼の住む同名のファンゴルンの森は、ホビット庄近くの古森と同様、わずかに残った神話時代の「始原の森」のひとつだが、まだ始原の森が残っていた神話・伝説時代には、今は水没したべレリアンドの森も、木の鬚が訪れ歩いていたこともあったという。
他のエント同様、森の外のことには関わりを持たなかったが、自然を破壊するサルマンや配下のオークらには反感を持ち、指輪戦争において偶然ごくつぶしドラ息子ホビット・メリーとピピンと出会ったのがきっかけで、他のエントを率いてサルマンのアイゼンガルドを壊滅させ、またローハンの角笛城にフオルン(→参照)を援軍としてさしむける。
ファンゴルンの外見は、いくつかは他のエントにも共通する特徴であろうが、身長は少なくとも14フィート(4.2m)で、幹のようなざらざらした肌、枝のような鬚、膝をほとんど曲げずに歩き、手には指が七本ずつある。のぞきこむと非常に印象的なのは目で、深い茶色で、光の加減によっては緑に見え(植物の様々な色を宿している、という意味らしい)底知れない水の深さ、年月そのもののような色が見えるという。
「ファンゴルン」とはシンダリン語で「木の鬚」の意で、つまり「木の鬚のファンゴルン」とは「緑葉のレゴラス」等と同様、同じ意味の名を続けているだけである。ホビットに木の鬚と名乗ったのは、つまりエルフにつけられた名を西方語に直して教えているというややこしい話である。なお、beardはあごひげの意なので、「鬚」の字をあてる。「髭」「髯」等と書くと、旧来の指輪物語ファンから小一時間説教されるので注意されたい。映画版のクレジットや書類では、めんどいからかひらがなで「木のひげ」と書かれていることも多い。
映画版LotRのエントの描写一般に関しては、「エント」の項目に譲るが、映画ファンゴルンは中でもCGだけでなく、パワードスーツのような巨大マシンをはじめとするハイテク・ローテクの数々や、ジョン・リス・デイヴィス(なぜか声がギムリと同じである)の声などが合体した巨大クリーチャーである。やむをえず原作の文章と異なる点、例えば茶色と緑という目を、表現が難しいので琥珀にしたなど、変更点も多いのだが、それよりも、展開を急いだためにどうしても威厳が落ちてしまった(ピピンの計略にひっかかる等)のがよく非難される点である。
┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ (火花を吹いて陥落するアイゼンガルドをバックに)
ピピン「木の鬚さん
ぼくは見たよ
サルマンが 何か
葉っぱみたいなものに
火をつけるのを」
……といっただけさ……といっただけさ…………といっただけさ………………
メリー「ピーティーの言葉はウソじゃない!
ピーティーは パイプ草の話をしているのに
森を焼かれたエントたちは 森のことだと理解したのだ
これがピーティーの天然なのだ……」
(『魔少年P.T.』 中つ国の奇妙な冒険、2チャンネルリオン過去ログより 詠み人知らず)
流れの手っ取り早さを重視したファンゴルンの描写は、映画としては無難なところに落ち着いてしまったと言うしかないが、前記したように成否が即、シリーズの破壊に繋がるイメージの要を、「落ち着ける」だけでも至難の産物であり、僥倖であったといえよう。
*bandには、非常に有名な存在であるにも関わらず[Z]以降になって登場するのは、要は[V]では「友好的モンスター」という概念自体が導入されていなかったためであろう。エントは中つ国のヒューマノイドとしては最も堅牢で破壊力をひめた存在であるが、その長老であるファンゴルンの威力たるや推して知るべきであり、エント全般の性質でもあるが接近戦のダメージは階層としてはかなり強烈なものをたたき出してくる。強敵と戦っている最中に、味方なうちはいいのだが、こちらの流れ弾が当たって急に襲ってきたりすると非常に大変なことになる。そのため、友好的とはいえつぶせる時につぶしておくとか、できればクトゥルフ系のユニークとの共倒れという具体的状況までも普段から期待しているプレイヤーは少なくない。
→エント →せっかち
ファントム Phantom 【敵】
phantomはギリシア語の「phantasma 幻影」に由来し、fantasyなどと同根の語である。幻影などの怪奇現象そのものがこの時分の幽霊、亡霊などと不可分であるともいえるので元来そうした意味を含むが、中世から近代に至って「霊魂」ひいては「正体不明のもの」「怪人」といったより漠然とした用法にまで広がってゆく。*bandでも、「Phantom Warrior/Beast 幽体戦士/獣」など、「幻影(幻術)」のモンスターとされ、いわゆるアンデッドとは別枠になっているのであるが、ここではそれらとは別のあくまでアンデッドとしての「ファントム」、[V]3.0系や[O]などの独立したモンスターに関して述べる。
ごく一部のきわめて有名なアンデッドは、ゲームなどでの扱いは定番と化しているが(下級のゾンビやスケルトン、中級のワイト、上級のバンパイア他)アンデッドを意味することのできる範囲にある無数の語のうちの大半は、その定義や位置づけは定番もないまちまちであり、ゲーム(古いTRPGだけとっても各々、ましてCRPGなどは)ごとに一定しない。Phantomというモンスターの位置づけは、例えば、RPGの原型といえるD&Dシリーズをとっても、クラシカルD&Dではハウント(ヴァンパイアをしのぐ強大無比なインフレモンスター)の一種とされ猛烈に危険な怪物だが、AD&Dでは一転して、恐怖を与える以外には何の攻撃力もない、そして攻撃を受けることもない純然たる幻影である(倒すのではなく、呪いを解かなくてはならない。これはphantomの語義をことに重視した位置づけといえる)。無論、以後のRPGでも、これらを踏襲しているという様子はほとんどなく、ポルターガイスト(→参照)のようなフレヴァーにとどめられているもの、小霊のようにたやすく散らされるもの、強力なアンデッドまでその位置づけ、また特殊能力もまちまちである。TRPGには語源を重視して幻やフレヴァーのように設定していることが比較的多いが、一概にアンデッドの種類が多いゲームがそうしているとも限らない。
Roguelikeでは、初代Rogueのver5系以後、Phantom(ローグ・クローン邦訳では「幽霊」)が存在する。これは姿が見えない怪物で、基本能力も上位モンスター群(いわゆるトロル以上)と同様というものである。これは、UNIX-Rogueのver4系の時点ではInvisible Stalker (→参照)というモンスターだったのだが、ver5からD&Dシリーズのオリジナルモンスターを削除するためにモンスターシンボルを含めて再編しており、Invisible Stalkerの能力を持った敵がPhantomに名が変わっているためである。つまり、CD&DのハウントやAD&Dのファントムとはデータ上は異なるものであり、Phantomという名を用いたことについては、ゾンビやワイト(死霊)よりもPhantomが格上らしき語であるという以上にさほど意味はないように思える。
*bandに[V]系やToMEなどに登場する「ファントム」は、忘却の魔法の有無など細かい差があるが、中レベル階層に相応のパラメータに経験吸収や知能・賢さ低下の攻撃を持つなど、ごく普通のアンデッドである。その攻撃手段に知性攻撃が揃っていることから、幻影やそれを操る怪物としての性質を反映したものとはいえる。
フィアグワス Feagwath the Undead Sorceror 【敵】
アンデッド・ソーサラー。ICE社によるアルダ世界のTRPG, MERPの設定において、「黒きヌメノール人の魔術師出身の幽鬼」とされている人物である。
これはMERPでも世界設定集ではなく、冒険シナリオのひとつ、Dagorlad and the Dark Marshesにその記述がある人物で、サウロンが指輪の幽鬼のひとりアドゥナフェル(→参照)に、同じドゥネダイン系の出身の部下を与えているひとりである。アドゥナフェルの配下として同じドゥナダンのヘルドゥアという将軍とともに、ドル=グルドゥア(→参照)に第三紀の半ば頃に駐留していたという。フィアグワスは'a lesser Nazgul'という記述になっているので、おそらくは『指輪物語』のモルグルの武器(→参照)のくだりに記述があったように、ナズグル(おそらくアドゥナフェル)に殺されてそのモルグルの刃の破片に心臓を冒され、「ナズグルの同類で、より弱い手下」になった一人であると推測できる。しかし、フィアグワスは下級のナズグルとはいえ、データ的には34レベルであり、実は3位以下のナズグルらにならば匹敵するほどの抜群の能力を備えている(ヘルドゥアは16レベル)。黒い軍馬に乗り、ドル=グルドゥアにおいて行われる死霊術にいずれも深く関わっていたといわれている。
その名はR_INFOの翻訳コメントの通り、シンダリン語で「死の精」を意味する。当然、ヌメノール人としての名前ではなく、幽鬼となってから名乗ったかつけられた名であると推測される。新しめのバリアント邦訳では、eaは「エア」に統一されており、「フェアグワス」の表記になっている。トールキン邦訳の最新版でもeaの表記は書物によって統一されていないので、どちらでもよいのだが(発音的には微妙な差しかない)ただし、例えばクゥエンヤのフェアノールは「Fёanor」だが、MERP原書表記のFeagwathはё(強勢の意が強い)ではなくeで、シンダリンの短母音なので、eaは二音節ではあっても抑えたような「フィアグワス」の方が近いのかもしれない。
*bandには、[V]の初期以来伝統的に存在している敵ユニークで、アルダを舞台とするバリアントのいずれにおいても登場する。しかし、下級のナズグルであるにも関わらず、階層は77階と、第二位のカムルと第一位のアングマールの魔王の中間という、非常な深層になっている。ナズグルがさらに深層に配置されたToMEでもそれでも彼らの大半より深いという点はかわらず、さらにはEyangbandではフィアグワスも89階とさらに深層になってしまっている。9人組の下位にならば匹敵するという設定を加味しても強すぎである。これほどマイナーなサプリメントから引用されているという点も奇妙であるし、あるいは[V]のデザイナーらにはフィアグワスを印象深くするなんらかのエピソードがあったのかもしれない。深層の魔術師系の敵の典型として、魔法は非常に強力であるものの、耐久力にやや弱点がある(打撃能力自体は決して低くはないが)ため条件を整える戦術が有効となる。
→アデュナフェル
フィオナ Fiona of Amber, the Sorceress 【敵】
四王女。女魔術師。アンバーの妖姫。オベロンの13子のひとり。魔人ブランドと共にドワーキンの直弟子で、兄弟のうちではブランドと並んで最も魔法に長ける。つまりブランド同様にトランプを使わずとも、パターンを操って人間トランプ的な転換や感知の能力を持つようである。5フィート2インチ。髪は赤く、目は緑、服も緑。エメラルドのブレスレット。美女ぞろいの一族の中でも最も整った容姿(ジュリアン評)。
「お知らせがあります、みなさん!」彼女(フィオナ)はぴょんと立ち上がって、叫んだ。「たったいま判明しました。これは本物のコーウィンではありません! かれの影の一つであるにちがいありません! こいつはたった今、信じるといったんですよ。友情を、尊厳を、精神の気高さを、そして通俗的ロマンスに顕著に表れるその他のもろもろのものを! これは大発見です!」
ほかの者たちが彼女を見つめた。彼女はまた笑って、それから急に座りこんだ。
フローラが「酔っ払い」とつぶやいて、デアドリとの会話に戻るのが聞こえた。
ランダムがいった。「影武者ばんざい」そして、ベネディクトとルウェラとの話し合いに戻った。
(R.ゼラズニイ『ユニコーンの徴』)
いかにも茶目っ気のある反応をふりまくが、抜群に頭が切れる。手の内を明かさないようなアンバーの王族らの中にあって、畳み掛けるような説得力を展開し、それがさらに欺瞞だったりは印象深い。実はアンバーのお家騒動の元である相続陰謀を企てた張本人であり、また後にはアンバーの王国を守る側に立ってブランドに対抗する。アンバー後半シリーズでも、コーウィンの息子マーリンの、魔術および陰謀の先輩として活躍。
これは無論のこと、アンバーシリーズの既読者ならば存分にひきつけられていて不思議のないキャラであるが、*bandコミュニティにおいては、未読者に対しても、否むしろかえって名前と「モンスターの思い出」とmonspeak.txtの台詞しか知らない未読者の方を「フィオナタソハァハァ」と片っ端から飛びつかせてしまう、フィオナには一体そうさせる何があるのか? 色気どころか素っ気のかけらもないテキストの*bandにおいて、砂漠の水を渇望するように萌えの影を求めるのは必然の帰結であるが、未読者にとって、既成のイメージを提示されないことがまた妄想力を助長する余地もあるかもしれない。まさにRoguelike的である。
しかし、なぜ女性キャラの中でもフィオナかといえば、単純に、いかにも「普通に女性とわかる名前」である(スリングウェシルだのアドゥナフェルだのは、まず元ネタ知らずにパッと聞きには何が何だかわからない)という、単にそれだけの理由だろう、との極めて身も蓋もない意見を述べる人もいる。
なお神話が埋め込まれていることでおなじみのゼラズニイ作品として、名前の由来については、コーウィンやマーリンが呼ぶ「ファイ」はそのまま妖精郷の魔女の総称フェイと考える人もいるが(アンバー後半シリーズによると、マーリンはフィオナとブレイズから魔術を習うが、実在伝承のマーリンを育てるのもフェイとドルイドのブレイズである)また、アイルランド南の伝承のフィオンガラ(細き顎の魔女)や水鳥女神フィオヌアラ、ドルイドの妖精神フィオガルに由来するとも考えられる。ケルトではフィン、フィオン Fionnとは「白き肌の」の意だが、単なるその女性形でもあるだろう。なお、アンバーシリーズの開始時に13子は多元宇宙じゅうに散らばっており、ジュリアンの言によるとフィオナはこのとき「南の方にいる」とだけ言及されるが、これが「南アイルランド」の魔女にかけてあった(あえて解釈するならば、フィオナの投影が「南の魔女」として信仰された)という意味だと考察するファンもいる。かなりの深読みだが、いかにもゼラズニイならばこのくらいの暗示は行いそうである。
フィオナはゼラズニイの要素として[Z]以降登場し、四王女の中では唯一ユニークモンスターとしてデータ化されている。その原作設定の能力の割に、アンバーの王族としては下位の階層だが、例に漏れず同階層のトールキン系の敵より手ごわい。強力な魔法、ことに[変]では<光の剣>を使用するため恐れられているが、実は打撃能力もかなり高い。
なおアーティファクトに登場する「★女魔術師フィオナのダガー」は、(「噂」にも登場するのでネタバレにはならない程度に書くと)彼女がとある暗殺に使用した短剣から採られているようである。特にデータに関係したり戦闘に使用した描写があるわけではない。
フィンゴルフィン篭手
→上級王フィンゴルフィンのセスタス
フェアノール Feanor 【その他】
おそらくアルダ世界のエルフの中で最大の能力を持っていた、アマンのノルドールの王子。最初の上級王フィンウェの長子であり、実質上、ノルドールが「工芸と知識の種族」と呼ばれる直接の因であろうと思われる、数々の偉大な品を作った。最大の作品はアマンの二本の木(太陽も月もない時代の光源で、太陽や月はのちのこれらの果実である)と同じ光を宿した三つの大宝玉「シルマリル」であった。それはヴァラ(上級神)達ですら驚嘆し、魅了させるほどの品であった。言うに及ぶや、当時アマンで軟禁の身であった暗黒のヴァラ、メルコールが、フェアノールらの父フィンウェを殺し、このシルマリルを奪って中つ国に逃亡したため、フェアノールは復讐とシルマリルの奪還を誓い、ノルドールらをひきつれて中つ国に帰還する。(本来はアマンに住む「上のエルフ」が中つ国に住むのはこの時以来である。)メルコールに「モルゴス(黒の敵)」という名をつけたのも彼であり、実質上モルゴスの本来の宿敵といえる。
が、モルゴス軍との最初の戦いで、突っ走りすぎてあっさりとゴスモグらに包囲され、呆気ない最期をとげる。その後には、ノルドール一族を縛るシルマリル奪還の誓いや、傲慢さ故に弟らの一族やテレリ族(および同族の灰色エルフら)との間に残った軋轢など、問題ばかりが山ほど残された。
誇り高いが傲慢で頑固で切れやすく、情愛も非常に深ければ愛さない者への無慈悲ぶりも並外れており、非常に味のある性格をしている。『指輪物語』に登場する第二紀〜第三紀の賢者らとサウロンの争いは見事な知能戦であるのに対して、この第一紀のフェアノールとモルゴスは双方いかにも何も考えずにひたすら突っ走るばかりで、まさしく原初神話の見事なまでの頭の悪さをアピールしている。
『クゥエンタ・シルマリルリオン』の物語そのものの立役者でもあるため当然のことであるが、*bandには、直接フェアノールの名のついた品をはじめ、パランティアや、ナウグラミア、モルゴスの冠など、フェアノールの作った・その手の関わった品が実に数多く登場する。
→パランティア →フェアノールのランプ →フェアノール王の硬革ブーツ
フェアノール王の硬革ブーツ The Pair of Hard Leather Boots of Feanor 【物品】
フェアノール靴。誰が呼び始めたものやら「フェラ靴」という、略称になっていない上に何処と無く淫靡な呼び名をとみに見かけるが、できるだけ避けるよう注意したい。アルダのノルドールの王子、フェアノール(→参照)がシルマリル奪還に駆り立てられ、モルゴスの軍団の中に突入した際の俊足──をイメージして創作されたとおぼしき物品である。ここは『クゥエンタ・シルマリルリオン』ではフェアノールの「勲し」のひとつのように書かれているが、傍から見ればその俊足が彼の「命取り」になったことは誰の目にも明白である(アーティファクト解説の文章はヴァラールの長マンウェの台詞からだが、他の描写も含めてこの手放しで感動してばかりに見えるマンウェが、どうもいまいち頼りにならない主神だと感じるのは筆者だけではないだろう)。そういう意味では、不吉なアーティファクトなのかもしれない。
なお、ICE社のアルダTRPGであるMERPの設定では、フェアノールは数々の強力な品を持っているが、そのうちブーツは「タルルーイン」(シンダリンで「火炎の足」の意)というミスリルの鎖と板金でできた金色の靴であり、翼の意匠を持ち、多数の走行、移動、飛翔などの魔法の力を持っている。*bandの品の直接の由来かは定かではないが、由来でないとしても原作の描写から、MERPでもこうした俊足の物品として別個に考案されたものと思われる。
*bandでは[V]以来通じて登場し、極端に大きいスピード修正と非常な貴重さから、特にスピードを上げる手段が貴重な[V]では極度に、リンギル等と並ぶ(ある意味ではリンギル以上の)超貴重物品のひとつとなっていた。
この物品においてフェアノール「王」となっているのは、正式に上級王とされたわけではないが、上級王フィンウェの死後は彼が長子であり実際にノルドールを指揮しているので、冠しても差し支えないだろうという、[V]和訳時の不浄のレン氏の見解を採っているようである。
→フェアノール
フェアノールのランプ Feanorian Lamp 【物品】
ノルドール・エルフの使うことで名高い青い光のランプ。かつてヴァリノール(アマンの地)で作られたもので、白い水晶の中に青い炎が封じ込められ、その水晶を繊細な網でくるんで吊り下げたもので、覆いによって光を調節する。風や水によって消えることはなく、永遠に輝き続ける。
これはUnfinished Talesのトゥオルの物語において、彼と出会ったナルゴスロンドのノルドール、ゲルミアが使う記述があるものである。UTの注釈には、これがトゥーリン物語のグウィンドールなど他のノルドールも使用していること(ただし、いずれもトールキンのまとまった物語稿にはランプに関しては入っていない)そのひとつで「フェアノールのランプ」と呼ばれていること(この名は本文中にはない)また、中つ国に渡ったノルドールの誰ひとりとして、なぜ発光するかの原理は知らない、とある。中つ国にやってきたエルフの技術では、既に作れるようなものではなく、些細ながらも力の指輪以上に由緒ある品ということになるが、はたして『指輪物語』の第三紀まで残っていたかは定かではない。
原理は不明とはいえ、無論、このランプはその名からアマンのノルドールの最大の鍛冶師フェアノール(→参照)が発明したもので(直接手を加えたかは不明にせよ)、フェアノールの数多く発明した「自ら光を放って輝くノルドールの宝石」の一種であると、にわかには推測できる。ただし、feanorとは単にクゥエンヤで「火の精」の意なので、単に「火の精の(封じられた)ランプ」の意の、まったくの一般名詞である可能性も否定できない。多分に、名そのままの意と、名鍛冶師の名をもこめた、両方の意味であったのだろう。
*bandでは、「ドワーフのランプ」と同様にMangbandに追加されていた品として知られていた。Mangbandでは、プレイヤーが多数いても原則的にアーティファクトは一つのゲーム世界に一つずつしか存在しないため、多くの物品、エゴアイテムがその補足として追加されている。[V]では「永久光源」はアーティファクトでしか存在しないが、これらランプはアーティファクトを持てないプレイヤーのために特に追加されていた永久光源物品である。ToMEなど他のバリアントにも存在し、ことに[変]では、他のバリアントでは永久光源・最浅階層アーティファクトの代名詞である『ガラドリエルの玻璃瓶』(→参照)をより深階層に変更したかわりの「最初の永久光源」の位置づけとして入っている。テルモラの「下水道」クエストで報酬として得られるが、ちょうど同じあたりにはブラックマーケット等で購入できることもあるだろう。他バリアントでは1−数階層でガラドリ瓶であったのが、間にフェアノールランプを挟みさらに遅らせたことで、それまでにやや真鍮のランタンなどを使用する期間が延びている。実際にはゲームバランスにほとんど差はないのだろうが、アーティファクトや永久光源の雰囲気を重視するこうした変更は歓迎できるものがある。
フェイズ・スパイダー Phase Spider 【敵】
位相蜘蛛。このAD&Dのモンスターは、「主物質界」と「エーテル間隙界」の間を行き来する能力を持つ巨大な蜘蛛である。8フィートほどの大きさの、白い体に背中に灰色や黒の不気味な模様のある蜘蛛に見えるが、エーテル間隙界(物質化していない「相」のエーテルが存在している、主物質界に重なって存在する最も近い「異界」である)へと自由に移動することができ、攻撃を加えてはエーテルに潜り込んで逃れる、といった戦法で主物質界の生物を襲い、捕食する。この戦法だけ見れば、またたいて消えたり現れたりしているようにも見える。エーテル間隙界に対しては、それが境界部分に身を置き続けていない限り(→幽体化)基本的に主物質界からは見ることも攻撃することもできず、一部のエネルギー魔法(力場(フォース)攻撃)やプレイナーチャンピオン(多元宇宙戦士)といった特殊能力者の剣などでしか打撃を与えられないため、通常このモンスターが登場する初期レベルでは、主物質界側に現れた隙を縫ってなんとか攻撃するという手段をとらざるを得なくなる。この特殊能力だけならまだしも、この蜘蛛はそれに加えて「弱体化」の毒も持っており、かなり対抗者をいらつかせる戦いになるモンスターであるといえる。D&Dシリーズのエーテル界のモンスターには、ゴーストなど「エクトプラズム(註:凝縮エーテル)の網」を操るものなどもおり、それと同様にエーテル界に糸・網を張りめぐらす蜘蛛といったところである。
*bandには、[V]以来ノーマルモンスターとして登場するが、その消えたり現れたりの能力は「ショート・テレポート」で再現されている。また「テレポートバック」の能力も持っているが、これが他の蜘蛛やフオルンなどの糸や蔓で物質的に引き寄せる能力を指していると予想されるものと同じなのか、それとも魔法能力を示しているのかは不明である。つねに集団で現れ、特に蜘蛛系のユニークなどや同族・モンスター複数召喚などで他の蜘蛛と共に大量に出現することも多いのだが、この多数でショートテレポート、テレポートバックともに非常にうっとうしい。一応毒も持っているが、このうっとうしさに比べれば強さの方はさほどでもない。
フェイズ・ドア
→ショート・テレポート
フオルン Huorn 【敵】
巨木の精。トールキンのアルダ世界のオルヴァール(植物)の特に古いものには、意思を持ち、歩くことすらできるものがいる。エント(→参照)らは彼らを短い言葉で「フオルン」と呼ぶが、彼らは中つ国の古い森には所々にひそかに生息しているという。『指輪物語』TTTにおいて、木の鬚ファンゴルン(→参照)たちエントがサルマンの軍と戦う際、仲間としてこれらフオルンたちも駆り集めて戦力とした。アイゼンガルドの侵攻にエントと共に加わっていた他、ヘルム渓谷の戦いに加勢し森に偽装して、逃げこんできたオークらを殲滅したのがフオルンのまとまった活躍である。映画版LotRでは、TTTのDVD版ではフオルンの森にオークの群れが逃げ込んだ直後、森が震えて「どかどか ばきばき」という実に漫画的な映像が追加されている。
ファンゴルンが別の箇所で、ホビットのピピンに「古いエントの中には、活動を止めてより樹木に近くなってしまった者がいる」と説明しているが、フオルン(ファンゴルン自身はその由来について言及しない)とは、そうしたエントであろうというのがピピンの推測である。ただし、実際のところは、元がエントなのか、偉大な古い木が意思を持ったり、エントに世話されるうち近くなったりしたものかは定かではない。
彼らは、たとえ元がエントであったとしても完全に野生化してしまっており、ほとんどの場合近づく生物(特に、森を荒らそうとする者)を区別なく襲う。しかし、エントとだけはいまだに意思疎通を行うことができ、利害によっては協力したりもする。ホビット庄の古森(ファンゴルンの森同様に、神話時代からの始原の森の生き残りである)にいる「柳じじい(→参照)」は、元エントというよりはそれこそ木に意思が宿ったものという印象を受けるが、どのみち広義でのフオルンの一体とみなされるのが通例である。(なお、古森の謎の爺トム・ボンバディルのことをドワーフが「フォルン」と呼ぶが、これは「年経た者」の意で、柳じじいと出番が近くとも彼はフオルンとは何も関係はない。)
*bandでは[Z]以降登場し、荒野地形のみのモンスターとなっているのだが、「柳じじい」クエストで遭遇するのがほとんどであろう。自分から動くことはないのだが、かなり意味不明なことにショート・テレポートを用いる。テレポートバックの方は、蔓などで引き寄せているイメージらしい。このクエストでは一斉に襲ってくる虎や猿などに比べれば、フオルンら自身はさほど危険なものではない。
→エント →柳じじい
深き者 Deep One 【敵】
出典:ディープワン。ルルイエの深きものども。下級の奉仕種族。エラのある亜人間。「まずはおさかな人間さんよりはじめよ」は、広大無辺なラヴクラフトの宇宙への扉を開く鍵として、TRPG『クトゥルフの呼び声(CoC)』のキーパー(ゲームマスター)が誰しも心すべき語とみなされている。その理由は筆者もさっぱり知らないが、とにかく慣例的にそうである。半魚人やら魚の怪物やらの話題を耳にすれば反射的にこのラヴクラフトの「深き者」を連想しない者はラヴクラフティアンの、クトゥルフ神話ファンの、ひいてはSFファンのモグリであるという過激派も一部には存在するとか聞いたことがあるような別にないような気もするが、即ち、それほどまでにクトゥルフ系において代表的な存在ということである。
「深き者」という語自体は、旧支配者クトゥルフ(→参照)に関連する(直接間接の子孫である、別種族だが信奉者である、等々)「奉仕種族すべて」の総称である、とする説もある。しかし、通例「深き者」という語が指すのは、H.P.ラヴクラフト『インスマウスの影』に登場した半魚人である。主人公が目撃するものは、鱗は全身ではなく背に沿ってなど部分的にしか生えておらず、声なども含めて両生類的な印象がある。よくある「半魚人」像のような、人間と魚の無造作な合成というよりもむしろ両生類の(カエルよりサンショウウオ的な)特徴を多く備えているのは、ラヴクラフトの科学的指向からは、「人間と水棲生物の中間」は両生類であるべきだという考えによるものと思われる。
CoCルールブックによると、彼らはおおまかな体格も知能もおおむね人間に準じているが、寿命で死ぬことがないため、肉体・精神ともに、人間よりひと周りほど優れているようである。彼らの文化は高度で美しいが、彼ら自身互いの接触を欲しないという性質の反映か、全体的にやや冷酷な色を帯びている(そうした性質だというだけで、やはり「悪」というわけではない)。ただし、彼らには人間を仲間に引き入れ、交配しようという欲求がある。これは、クトゥルフらが再び地上を覆う日のために交配を進めて多くの人間を勢力下に入れようという計画のためか、他の何かの脅迫観念なのかは定かではない。『インスマウスの影』やその影響を受けたクトゥルフ神話作品には、先祖に深きものが混ざっているといった家系、集団などに関しても多く言及されテーマとなっている。また先祖に「深き者」が混ざっている者が多いインスマウスの街での「インスマウス面(づら)」などをはじめ部分的に深き者の特徴を持つ人間や、ある日突然、人間から部分的あるいは完全に深き者に変わってしまう人間などの例もある。深きものらは、(おそらくルルイエから続いている)数々の海底都市に住む他、人間に影響を及ぼす浅瀬の暗礁地帯などに住んでいることも多いとされる。
ラヴクラフトは自分ではどうすることもできない遺伝・家系に対する恐怖(縁者にしばしあった精神の不安定さが遺伝的なもので、自分もそうなるのではないかという不安;結局そうはならなかったが)に対する物語を他にも残しているが、何よりも魚料理と魚の匂いが嫌いだったことで、そうしたおぞましい怪物の種族と混血しているという想像が何よりラヴクラフト自身にとって最も恐怖を誘う物語であったことは、文面からありありと想像することができる。
なおこの「深きもの」と「寺島版スメアゴル」とは、クトゥルフとマインドフレアのごとく完全な他人の空似であり、一切関係はない。
敵:[Z]以降のクトゥルフ系モンスターとして追加されているものであるが、原作の描写およびCoCルールブックなどの能力では個体能力はさほど極端に高いとは思えないにも関わらず、*bandでは28階というヒューマノイド的なものとしてはかなり強力な扱いになっており、またシンボルもフラグも「デーモン」である。これはやはり有名であり、クトゥルフ系の代表的生物という理由で補正がかかっているものと考えられる。
この階層のノーマルモンスターにも関わらず、ELDRITCH_HORRORフラグも当然ある。おそらく姿のイメージのみから(原作やCoCでは明記はない)毒の打撃を用いるが、魔法などは使ってこない。この階層では召喚や他のuシンボルと共に生成されるなど、集団で頻繁に登場する。
→ダゴン →クトゥルフ →タンノくん →すけとうだら
武器強化/防具強化 Enchant Weapon/Armour 【魔法】
出典:Enchantは「魔法を施す」といった意だが、一般の英語としては、(日常で用いられる範囲からも)特に人心を惑わす・魅了する(さらには魔法以外に対しても、その比喩)といったニュアンスがかなり強い。ことにEnchanter/Enchantressは魔女・妖女・そう擬せられるほど魅惑的な女性を指して用いられる(→エンチャントレス)。
しかし、RPGにおける用法に限っては、「エンチャント(魔力付加)」という語は、特に「物品に魔法を施す」ひいては、「物品を魔法で強化する」といった意味で専ら用いられる傾向が強い。精神操作が(特に、CRPGなど直接戦闘重視で)比較的軽視されていたり、ひいては別の分野(曰く、「魔術師系」とは別個なる「精霊使い系」だの何だの)とされる性質のあるゲームのプレイヤーの認識においては、特にその傾向が強い。(なお[Z]系の*bandが多く参考にしている、カードゲームM:TGやその影響の強いストラテジーゲーム『マスター・オブ・マジック』では、主にクリーチャーを強化するエンチャントの魔法の類が目立つ。)
魔法領域の細分されているD&D系の魔法の分野(スクール)としては、整理された現3.XeでこそEnchantmentは一般的な英語同様「心術」であり精神操作を指すものとなっている(例えば武器を強化する呪文はEnchantmentではなく、Alteration(変性術)である)。しかし、かつてAD&D当時は、精神に施すのがCharm、非精神に施すのがEnchantmentと、近い分野とはしているが分離していた。そして、非精神(物体など)に施す場合、例えば物体の形状・性質変容のような効果そのものはAlterationといった別の分野であるから、'Enchantment'そのものの範囲は、別の分野の魔法を物品に「定着させる=魔法の物品を作る」といった部分を指していたり、物品そのもの(強度やそれに伴う機能など)を単純に強化させる部分を指していたりもするが、ある意味ではメタマジック(魔法そのものの強化、例えば効果や持続時間延長などのシステム的魔法)と境界不明な面もある。AD&DのEnchant an item呪文は恒久的な魔法の物品を製作するための上級かつ大掛かりな儀式呪文であり、enchantという語には特にその性質が強いといえる。反面、一時的に物品を強化する呪文は、旧D&DやAD&Dなどは(かなり例外的なものや追加ルールを除いて)あまり主要に使われるものではない。
AD&D同様、同様の古いRPGにはEnchantmentを特に物品に魔力を付加するものに対する用法としているものが見られる。TRPG『クトゥルフの呼び声(CoC)』の、ほぼAD&Dと同名のEnchant Itemをはじめとする儀式呪文など、Enchantを同様に恒久的ないし長期的な魔力付加呪文としている場合もある。なお、恒久的な魔法物品は、AD&Dでは恒久化呪文のため耐久力を削ったり、CoCではPOW(精神力)を削ったりと、作成者自身の力を大きく付与する必要があり、容易なものではない。
一方で、ファンタジー小説などで一時的に武具に呪や祝福を与える例が決して少なくない点を受けてか、じかにEnchantという語を使用していないものも含め、BRPシリーズやT&TなどのD&D以後だが古いTRPGには、物品を「一時的に」強化する魔法類がかなり豊富であり、以後のTRPG(3.Xe系のD&Dも含め)では一般的である。また前記の小説などに現れるのは「特定の敵に効果を発揮する呪や祝福」であることが多いためか、「魔法の武器」でしか倒せない対象にダメージを与える手段、という側面が強調されている場合もしばしばある。
そのためもあって、意識的・無意識的に「エンチャント」という語に対して、「一時的に」「武具に」魔法を付加する類の魔法の種類である、という先入観をもつCRPG, TRPGゲーマーも珍しくない。さらに、一部TRPGのルールを根拠に、「すでに魔法がかかっている武器(プラス値を持つ武器など)は、こうした一時的な魔力付加で重ねて強化できない」という先入観を持つ一部のゲーマーも存在する。が、現にバランスの調整の範囲で可能とされているゲームシステムもTRPG/CRPGとわず多く、そもプラス値が強化魔法によるものかどうかもシステムや世界観によって大きく異なるものである。
魔法:*band系にせよNetHack系にせよ、Roguelikeの多くには武器や防具のボーナスをほぼ恒久的に強化する巻物が、決して希少でも高価でもない頻度で登場する(これは、AD&Dとほぼシステムが同じNetHackでは余計に、強力なものが容易に入手できるように見える)。これはまぎれもなく初代Rogueにおいてそれらの巻物が普通にありふれており、一期一会の偶然要素の強かった初代Rogueの頃の巻物の位置づけを、そのまま引き継いでいる伝統的なものといえる。しかし、AD&Dに比べても特に低レベルでの危険度が遥かに高い(単独で冒険する上、重量や魔法の関係でさほど重い鎧も身につけられない)NetHackにおいては、多数の防具によるアーマークラスを少しでも確保するという事情もあるとも考えられる。
また、[V]では武器強化、防具強化はプリースト呪文に存在する。これは、プリースト系統に自己支援の側面が強いことからと思われる。[変]では自己支援の系統である匠領域に武器と防具の強化魔法が存在する。
*bandでは、武器強化の巻物が「命中」と「ダメージ」の強化に分かれているのもまた特徴である。これはMoriaの頃からの伝統であり、武器の強化ボーナス自体が命中とダメージの二つに分かれていることもそうだが、エゴアイテムなどの種類の少ないMoriaでは登場する武器の個性づけのために命中とダメージを分離しているという側面もあると思われる。
*bandでは一般に、巻物は階層もさほど深くなく、店でも売っているため、かなり容易に入手することができる。しかし、巻物や強化魔法ではある程度以上には強化することは難しく、(自分で選んだ武器を強化するNetHackとは異なり)ある程度以上の強化値は深層の強力な物品に元々ついているのを当てにするほかにないので、ゲーム通しての重要性はさほどあるわけではない。しかし、前半から中盤あたりに元々安い装備品などにかけてアーマークラスを底上げする場合、また元来異様に強化値の低い物品にかける場合など、それなりに使用機会はある。カルリス(→参照)の命中率を強化して呪いを破るといった使用法は[変]などでいまだ使われることが多いかは不明だが、伝統的なものである。
不器用の篭手 Gauntlets of Clumsiness 【物品】
*bandにおいて手袋・篭手につく呪いのエゴ効果であるClumsinessは、AD&Dの指輪・腕輪のエゴであるClumsiness効果から採られていると考えられる。Ring of clumsinessは一見すると魔法のリング(D&D 3.Xeでは羽毛落下(→参照)のリング)に見えるが、装備するとDex(器用、敏捷)が固定値だけ下がり、また複雑な手の動きを必要とする呪文もある程度の失敗確率が出るという品である。*bandの不器用の篭手も、敏捷度が(固定でなくpval値だけだが)下がり、また呪文の失敗率はもともと篭手の類が持つ、メイジ系呪文を阻害する効果(しかもこの品は呪いエゴなので外せない)にあたると言えるかもしれない。
なお、AD&Dには同様に器用(敏捷)の低下をもたらす、しかも篭手のエゴアイテムである'Gauntlets of fumbling'がある。本来ならば、*bandにも呪いの不器用の篭手ならばこちらが採用されるのが自然なことと思われる。にも関わらずそうでないのは、この篭手が器用度の低下のほかに「50%で持ち物を取り落とす」という効果を持っており、それが当初のMoria/*bandのシンプルなシステムでは表現できず、反面AD&Dの'Ring of Clumsiness'は単に器用度を落とすのみの効果なので、こちらのClumsinessの名をとったものと推測できる。(なお*bandにはなぜかclumsinessの「薬」もある。)
Gauntlets of fumblingの方は、原典に近い効果も再現した上で、NetHackには実装されている(日本語版ではその効果から採られた「お手玉の篭手」という訳語になっている)。
舞空術 ぶくうじゅつ 【魔法】
舞空術とは、漫画『ドラゴンボール』に登場する流派「鶴仙流」の技術として登場した武道家の空中浮揚術であるが、次第に他流派も習得し、ひいてはいつのまにやら人外や異星人が文字通り乱れ飛ぶこのシリーズで当然のように飛ぶキャラばかりになっている。原理的には「気の流れをコントロールして飛ぶ」というもので、つまり、ほとんど何の説明にもなっていない。とりあえず元をたどると、元来は「鶴仙流」という流派の名から発想され登場した技術と思われ、では「鶴仙流」とは何かといえば、中国拳法の鶴拳や、形意拳その他の動物を模した用語や多彩な技に案を採っているとも考えられるのだが、おそらくはただ単純に既に出ていた「亀仙人」との対比で登場した以上の深い意味はないと思われる。一般に、武道や修行僧の「気」などの神秘視には、「浮遊」の特殊能力の説は珍しくなく(格闘ゲームのボスキャラには超能力(→ベガ)などの理由がつけられ、あるいは特に意味もなく浮遊しているものも多い)またもう少し穏やかな説には「軽足」、水上や紙の上を跡もなしに歩くなり、それが気や呼吸の力で浮く・足許をはじくといった話も多く、これは日本の忍者に輸入された説話としても頻出する。あるいは舞空術はこれらをも意識しているとも言えるのだが、これもさほど深い意味があるとも思えない。
*bandの舞空術は、[変]の練気術師の技「練気術」の一種で、他の練気術同様に『ドラゴンボール』からとられたものといえ、一定期間「浮遊」の効果を得るものである。*bandの浮遊は羽毛落下よりは強力だが、「飛行」といえるほどのものではないため、却って元とも言える軽足の効果に近いといえるかもしれない(→浮揚)。ごく低レベルで習得できるのは、『ドラゴンボール』でも(おそらくある程度の修行は必要とはいえ)後半ではかなり当たり前の技術となったためもあるが、*bandのゲーム的な効果のバランスともいえる。
→浮揚
プーケル人 Pukelman 【敵】
『指輪物語』原作RotKに、ローハンの馬鍬砦に多数残されている古い巨大な石像。太鼓腹の上にずんぐりした腕を組んであぐらをかいて座っているように見え(邦訳の挿画だと、人間の倍くらいの大きさですりへったモアイ像か何かを思わせる)道の曲がり目ごとや、禁断の「死者の道」には入り口に二列になって整然と並んでいる。今では何の力も威圧力も持たないといい、ほとんど人の気にはとめられていない。(なお、映画版RotKでも馬鍬砦の場面、エルロンドがアラゴルンに会いに馬をとばしてくる所に少しだけそれらしき像が写る。)
これは、かつてこの周辺に住んでいたとも思われる人間の一族、ドルアダン(森人、野人)らが自らの姿をもとに作ったものと言われている。トールキンのUnfinished Talesによると、ドルアダンの一族はかつてはこのゴンドール北西部にも多数住んでおり、その野戦能力によってオークやヌメノール人、エルフらをも敬遠させたが、『指輪物語』時代の第三紀は、さらに西の通称「古代プーケル人の谷」や、ゴンドールのドルアダンの森(ガン=ブリ=ガンを族長とする)などに非常にわずかに残っている程度である。なお、「プーケル」とはローハン語という位置づけだが、トールキンの命名学的にはアングロサクソン語で「森の精」を意味する、妖精パックなどと同根の語である。ローハン語でプーケル人はドルアダンとこの像の両方を指すが、もっぱらこの馬鍬砦の石像を呼ぶようである。ローハンの馬鍬砦は、ローハン人ではなく誰とも知らぬ人々が遥かな昔に作ったものというが、馬鍬砦を作ったのがドルアダンだったのか、そうでなくとも建造者とドルアダンに何の関係があったのかは定かではない。
ドルアダン人は、人間の一族であるが、外見も能力的にも「普通の人間とホビットの間」と同じくらい離れている。その記録は第一紀(伝説時代)にすでにエダイン(親エルフの人間種族)のハレス一族と共に、モルゴス軍と戦っていた時代まで遡る。『指輪物語』のガン=ブリ=ガンの描写からもわかるように、ドルアダンは非常に原始的で素朴な一族だが、Unfinished Talesによると、(少なくとも第一紀のドルアダンは)野伏としての能力をはじめ、驚異的な技術の数々を持ち、戦いに寄与した(そのぶんオークと激しく戦い、多くが命を落とした)。その技のうちのひとつに、「見張り石」という自分の分身のような石像を作るものがある。この石像は、有事には生きるドルアダンと同じ姿と能力をもって完全に作り主とは独立して動き戦うことができるものの、作り主が「命の一部を吹き込む」ため、石像の受けた傷は多少なりとも本人も受けてしまう(あたかもサウロンと指輪のように)。
この説話はハレス一族の伝説にすぎないともいうし、実際に馬鍬砦のプーケル人がその見張り石なのか否かは無論定かではない。しかし、ICE社のRPG, MERPでは、ドルアダンには「プーケル人を製作する」技術があり、強力なゴーレムの一種を作ることができる。
*bandでは、[V]の時点から「自律して動く石像」としての「プーケル人」が登場し、無論のこと、馬鍬砦のものではなく第一紀の伝説の「見張り石」やMERP設定のものと思われる。モルゴス軍の攻撃のために地上のドルアダンが送り込んでいるものならこちらを攻撃してくるのはいい迷惑であるが、さらにこのプーケル人を倒すごとに地上のドルアダンに重大なダメージを与えている気がするので気づかなかったことにしておいた方がよさそうである。ゴーレムとしても階層としてはかなり強靭であり、各種の魔法を用いてくるのは、元のドルアダンや見張り石の数々の神秘的な能力の反映といったところかもしれない。
不死ドゥリンのグレート・アックス The Great Axe of Durin 【物品】
ドゥリン(訳や版によってはデュリン、デューリン)はアルダの神話時代に工人アウレ(上級神ヴァラのひとり)によって作られた、7人のドワーフの祖のうちの最年長のものであり、ドワーフ全体の長でもある。結局のところ、トールキンの物語稿においてこの7祖のうち名前が出ているのも血筋について記述が存在するのも、ほとんどドゥリンとその一族のみである。これは、設定的に言えば、史書に記されているドワーフの歴史というのは、旅の仲間でドゥリン一族のギムリがエレスサール(アラゴルン)に語ったわずかな部分に過ぎないためでもあるし、実質的に言えば、トールキンが他の6祖については故意に空白にして歴史にあそびを設けたためでもある。(なお、トールキンの物語稿までまとまっていない準備稿まで見ると、ドゥリン以外の族については、ドゥリンの「長ひげ族」同様の西方共通語による通称が他の6族にも残っていたりする程度である。ICE社のMERP等のTRPG/TCGでは、他の6族のクズドゥル語の名前や、わずかに設定も追加されているが、準備稿が整理されていない時代に出ているので食い違いもある。)
始祖のドゥリン自身が非常に長命であり、また直系の子孫にはしばしば、始祖のドゥリンと姿がそっくり(いかにしてそう判断したかは定かではないが)の者が生まれ、ドゥリンx世という名を継いだ。生まれ変わりを信じるドワーフらはこれがドゥリンが不滅で生まれ変わって現れているのだと信じ、始祖のドゥリンを「不死のドゥリン」と呼んだ。不死ドゥリンことドゥリン1世はカザド=ドゥムを築き(→モリア)、ドゥリン6世まですべてのドゥリンがそこの王となっていた。ドゥリン6世はバルログに殺され、ドゥリン一族はモリアを離れたが、ドワーフ史が赤表紙本に付け加えられた頃の王は「ドゥリン7世」と系図に書かれている。これは、はたして悪の去ったモリアに再びドゥリンが戻った(HoMEのトールキンの断章にそのアイディアのみは見える)のか、単に名前だけ継いだのかは定かではない。
さてドゥリンのグレート・アックスであるが、『指輪物語』のモリアの場面にて、オークからのモリア奪回を試みたバーリン一行の記録(マザルブルの書)の中に、「判読不能だが、金とか『ドゥリンの戦斧』とか何とか兜とかが読み取れる」というくだりがある。これは、ドゥリンの戦斧が王家の家宝のひとつであり、バーリンがそれを見つけた記録と当然推定できる(もっとも、象徴的な名などで、斧そのものでない可能性もある)。もしそうだとすれば、斧をはじめドゥリンの宝は、人知れず別の宝物庫に収められている可能性もあるが、モリアの王となったバーリンが持ちその墓にともに埋葬された可能性がより高いように思われる。そして、バーリンの墓所はガンダルフとバルログの魔力の激突によって地崩れが起きたので(映画版LotRでは、ギムリが墓石に乗っていたのでトロルの棍棒で墓が粉砕されてしまう)結局は、ともに永遠に埋もれてしまったと考えられる。
なおICE社のTRPG, MERPでも、ドゥリンの斧のデータはあり、どうもドゥリン一世の斧という設定らしいのだが、武具の質としては「グラムドリングと同程度」で、神話時代にまで遡る品とも見えない。ただし、これは第三紀のプレイヤーキャラクターの手に入る可能性がある品なので、そのレベルに抑えられているのかもしれない。
*bandでのドゥリンの戦斧は[V]から登場し、リンギルよりは一回りほどダメージが劣るが、お決まりのオーク、トロルの他に、ドワーフの宿敵である龍の倍倍打や、バルログその他モリアの地底に住む悪鬼を示す悪魔の倍打がある。またドワーフの頑強を示してかアーマークラスにかなりのボーナスがある。が、レアリティは最終的にリンギルの1.5倍になるのでかなり出にくく、仮に終盤に手に入ったとしても(特に[Z]以降は)どうも今一歩ほど押しの弱い能力に何となく使わずに終わってしまい、レアアイテムにも関わらず印象が薄いのではないかと予測する。
ぷよ Puyo 【敵】
「ぷよ」は元来、「ぷよぷよ」が正式名であり、8ビットパソコン時代にMSX2用にコンパイル社が開発した3DダンジョンRPG『魔導物語1−2−3(まどうものがたり いっちょうめにばんちさんごう)』に登場するモンスターである。DQシリーズ以来和製RPGでは下級モンスターとして定着していた「スライム」を単にファンシー化したものに過ぎない。
主人公のボク娘(MSX版では名前がない)が使用できる火炎と冷却の呪文のうち、冷却呪文で凍結し、その後再度冷却呪文をかけると砕ける(火炎呪文をかけると元に戻ってしまう)という特性がある。最弱モンスターなので、実質の意味はあまりないのだが、このゲームは単純なダンジョン物ながら、ほぼすべてのモンスターに特殊攻撃や特性が設定されているのが特色であった。なおこの時点では無論、爆発も連鎖もしない。
やや時代が下り、コンパイル社はこの「ぷよ」を落下アイテムとして落ち物ゲームのブレイク時代をなした「ぷよぷよ」シリーズとなるが、一応かたちだけの設定としては同色のぷよを4つ消滅させると魔力に変換することができるオワニモ呪文だとか何だとかと共に上の魔導物語のキャラクターも使用される。多色のぷよと多段消滅の「連鎖」、連鎖時の上記の少女の呪文ボイスはぷよシリーズと共に広く知れ渡り、様々なメディアで展開するたびに元来の魔導物語の世界が広がってゆく──ことはなく、魔導とぷよの乖離的に先走ったキャラクターイメージが錯綜し矛盾に矛盾を重ね、泥沼のようになってゆく……
[変]に登場するさまざまな色の「ぷよ」は、自爆系モンスター、特にカミカゼ・イークの「連鎖爆発」にヒントを得たものだと思われる。魔導物語では別に連鎖せず、ぷよぷよでも爆発はしないが、ぷよぷよで有名な「連鎖」を起こすために爆発で表現されているわけである。常に集団で登場し、攻撃を受けると壮観な連鎖爆発を起こす。無論、免疫なしで近くにいればえらいことになる。また色は同色が対消滅しうる等ではなく、単なる爆発の元素として扱われている。
浮揚 Levitate 【システム】
出典:トールキンの『指輪物語』におけるファンタジー種族らの能力論の特徴的な点のひとつに、「飛行」の能力が非常に貴重である、あるいは飛行能力を持つものが、それのみをもってきわめて強力な存在とされていることが挙げられる。そも、本来の肉体でそれらを持たないものが魔法などによって自分の身に他の移動能力を得られることは原則的になく、『ホビットの冒険』のガンダルフのゴブリンに木の上に追い詰められたという描写などから、少なくともたやすくは得られない(飛行や瞬間移動などの魔法の行使が可能としても「目立つ」のか、ヴァラールから特に禁じられているのか)という解釈が妥当である。(なお、ラダガストは蛾や鳥に変身するじゃないかという説があるが、それはファンの間のお約束や自然術士扱いのRPGなどで可能なだけであって、別にトールキンにじかに変身する描写はない。)自由の民の勢力は、飛行する場面がほとんどが大鷲(→参照)に頼ってのものであり、またサウロン側の勢力にも、数々のRPGのモンスターの原型となった多彩な生物の中にも、飛行能力のある巨大生物は全く含まれておらず、唯一ナズグルの翼竜(→恐るべき獣)のみが見られ、またその能力を恐れられている。『指輪物語』以前の伝説時代、第一紀になるとやや増えてくるが、それでも大鷲や、翼をもつ竜、ひいては翼をもつ船などは翼があるというその点において非常に大きな力があると思わせる描写が多い。トールキンがしばしば飛行する存在を神出鬼没であるかのように扱っているらしき点を含めて、飛行に対してはことに特殊な位置づけにしていたことが伺える。以降のファンタジー作品では、飛行がそれほど極端に有効なわけでも、それほど大仰に扱っているわけでもないが、落ち着いて考えてみれば多大な影響をもたらす能力である。
RPGの原型のひとつであるD&D系では、中レベルの完全な「飛行」呪文よりも前の段階の下級の呪文として、落下速度のみを軽減する羽毛落下(→参照)や、この浮揚の呪文が存在する。浮揚の呪文はゆっくりと垂直移動ができるが、いったいどういう原理であるのか水平方向には一切移動できないというものである。なぜ無駄に飛行の下位呪文が多数存在するのかという点であるが、前記したように、自由に「飛行」できるということは(特に冒険や謎解きにおいて)非常に有利であったり、行動の予測をつけがたくするためであると思われる;そのため、低レベルの冒険では制限しつつも、限定された行動能力を与えるためと思われる。この垂直移動しかできない浮揚の呪文は壁を登ったり垂直の通路を移動するのに非常に有用であるものの、それ以上の応用(広い裂け目や川を呪文だけで渡ったり)はできないわけである。
こうした単純に初心者用ゲーム的な事情だけで存在する下位呪文であったが、以後のRPGやファンタジー作品でも同じような目的で、あるいは単に呪文リストを倣っているというだけの理由で下級の浮揚呪文が存在していることが多い。特に後者の場合、移動速度がゆっくりだというだけで方向には制限がなかったり(行動能力を軽率に与えており、しばしば戦闘以外を極度に軽視している作品にありがちである)なぜか地上10メートルまでしか浮上できない(別の意味で制限を与えている)といったものであったりもする。
システム:*bandにおいては、羽毛落下の[V]系にかわって、[Z]系において追加ではなく、羽毛落下に差し替えられてルール化された能力である。これは、落とし戸などに落ちた場合ダメージが軽減するだけの羽毛落下(本来、それほど影響のあった能力とはいえない)に対して、浮揚しているので落ちること自体がない、というもので、おそらく差し替える発想当時は、浮かぶ能力だけを与える(水平移動はできない)TRPGの限定された浮揚能力とさほど離れたものではなかったと思われるのである。しかしながら、[Z]においては水や溶岩の地形がダンジョン内にも存在し、それを飛び越えられる(あるいは軽減できる)という効果もついたため、結局は同じ速度で自由に「飛行」できる能力に相当するものになっている。また[変]など広域マップでの地形を飛び越えられる実質の飛行に相当するものといっていい。なお差し替えられたので[Z]や[変]のアーティファクトにはFEATHERがそのままLEVITATEフラグに差し替えられている(バージョンやものによってはFEATHERのままで浮揚の効果だったりする)ものが多いが、無論のこと不自然なものも多い。
一部の翼のある種族や、いかにも飛行能力のある物品など、飛行能力を普通に想像できるものを除いて、「追加能力として浮遊能力を得た冒険者」は中々イメージしづらい。浮遊能力を常時得た終盤の冒険者の「全員」が、鎧をまとい剣を持ちつつ、ミノフスキークラフト(フライト、ドライブ)つきモビルスーツのように手足を不自然に緩く曲げて強張らせた状態のままゆるゆると飛行しながら移動したり、オーバーマンのように後光を背負ってぎゅんぎゅん飛び回りながら同状態の人型ユニークと時を止めたり超加速したりの応酬をしているのかと思うと、とりあえずそれでいいというプレイヤーもいるのかもしれないがとても[V]2.8J以来が目指していた古典ファンタジー的な光景とはいえまい。ここは、トールキンのエルダールが「柔らかい降ったばかりの雪上を足跡をつけずに移動できる」といった描写をあてはめ(→エルフのブーツ)自分の体重がないかのように「普通に歩行する」といった想定が妥当と思われる。映画版LotRのあのレゴラスが水上を走ったりするイメージを想像してみるとてっとり早い。浮遊能力によって、極端に大きな飛行能力が得られるわけではないという点にも合致する(ならばなぜ種族ハイエルフに浮遊能力がないのかは各位こじつけられたい)。
→羽毛落下
浮揚のブーツ Boots of Levitation 【物品】
宙を歩ける、宙に浮かぶ靴というのは魔法伝承に非常によくある発想で、じかに飛ぶ靴が神話(ヘルメス神のウィングドブーツなど)に見られることもあれば、あるいは妖精などの「軽足」の発想が足跡や足音をたてない隠密性(→エルフのブーツ)のほかに、限定的な浮揚能力へと想像されていることがある。例えばロジャー・ゼラズニイのヒーローのひとり『ディルヴィシュ』は妖精を先祖に持ち、壁を容易に上ったりできる「妖精靴」を持っている。
つまり飛ぶ靴のほかにも、限定的に浮揚したりする靴の発想もありふれていることになるわけだが、RPGではどうかといえば、例えば飛行の魔法が妙に強弱で細分されている(→浮揚 →羽毛落下)D&D系においても、高速飛行能力を与えるウィングドブーツのほかにも、浮揚の能力のみ持つ「浮揚のブーツ」や、壁を歩けるブーツ、体重が羽のように軽くなるブーツなど、無駄に細分化されたものが存在する。最も弱い「羽毛落下」のみの効果のブーツも、1シナリオ(『モルデンカイネンの幻想冒険』)の限定だが存在する。変り種ではSpelljammerキャンペーン用に宇宙空間を歩けるブーツも存在する。
「浮揚のブーツ」に限った話では、このブーツは同名の呪文を完全に再現するため、つまりは垂直方向には動けるが水平方向にはまったく動けず、場合によってはただ上がっただけでどうにもならないので、ブーツにも関わらず「宙を歩く」ことはできない。
*bandでは、「浮揚」は靴の類の装備につくエゴとして、羽毛落下から「浮揚」の概念へとアップデートされた[Z]において存在し、特に伝承や既存のゲームを参考にしたというより、浮揚システムに伴って自然に出てきた発想といえるものだろう。浮揚能力はプレイ初期は指輪のスロットで持つが、他の指輪を使いたくなった際にこのエゴは役立つ。が、靴のスロットにいつまでもこのエゴを使っていられるわけでもない。
ブラウン・モルド Brown Mold 【敵】
ブラウンモルドはAD&Dにおいて、モルド(→参照)やウーズなどダンジョンの地下のじめじめした環境の背景の小道具が、そのまま厄介な「特殊能力」を持つ怪物となっている一種である。ブラウンモルドは茶色の光を放っているカビの塊であり、熱を吸収して増殖するという能力を持つ。すなわち、近づいた生物の体温を急速に奪いダメージを与える。この能力から「冷気」属性の怪物と思いがちだが、熱を吸収するため、火炎などの攻撃によってさらに増殖し、逆に急激な冷気攻撃では弱ってダメージを受ける。
が、*bandにMoria以来存在するブラウン・モルドは、冷気の能力も増殖することもなく、その打撃は関係のない「混乱」打撃となっている。おそらく、特にAD&Dのものを参照したわけではなく、Moria以来こうしたゼリー、モルドや動植物などのモンスターに各「色」とそれに対応する攻撃方法が揃っていたのをなぞっているだけなのだろう。また、「ブラウン」という色の属性は、コウモリやイークなど他のモンスターにおいては特に攻撃属性はない(打撃だけの)最もベースとなる生物だが、ここでは「混乱」打撃となっている。*bandでは「混乱」属性は茶色(u)ではなく青銅(U)である。これは、このブラウンモルドがMoria当時から存在するため、uが便宜上混乱の属性として使用されていたのではないかと思われる。(なお、u色は*bandの高レベルになると「インパクト」攻撃に相当するようになるが、Moriaにはこの属性は存在しない。)他のモルド類と異なり、混乱打撃は致命的に危険なわけではないが、序盤、混乱されて近くに他のモンスターがいると厄介なので、動かないモルド類の例にならってやはり遠距離から攻撃すべきである。
ブラック・プリン Black Pudding 【敵】
出典:よく知られている通り、英語のblack puddingとはblood sausageと同じもの、すなわち主に動物の血を固めて(血液や脂肪、多血・多脂肪の臓器、つなぎの穀物などを腸に詰めて)作られた、どす黒い塊状のソーセージを指す。周知の通り英語のpuddingは、いわゆる固め料理の総称であり、(日本ではプリンというと通常カスタードプディングを指すようには)菓子や小麦粉のものに限らない広汎な語義であるが、ブラックプディングはその中でも最も古典的なものといわれる(ギリシア詩『オデュッセイア』にも、血と脂を詰めて茹でたというそれらしき記述がある)。
このブラックプディングを、スライム・ウーズ・ジェリー・ブロブ・モルド系といったダンジョン内の集積塊系モンスターと同様の一種、這い回り喰らい尽くす怪物としたのは、例によって最初期TRPGであるD&D系といわれているが、なぜそうした発想が出たのかは、「プディング」が上記した菓子のプリンなどもあって「ゼリー」同様に集積塊系のモンスター系統としてうってつけであった、という以外に、ブラッドソーセージの臓物や血液などのグロテスクなモノを何でもかんでも詰め込んだという性質、そうした性質が「ソーセージと政策だけは製作過程を見ない方が無難(あまりにもおぞましいので)である」といった諺によって長く指摘され続けてきたことも相まって、ブラックプディングが何でも取り込み喰らいつくし吸収するモンスターとしての発想となったと思われる。
D&D系のブラックプディングは、集積塊系のモンスターにもれず攻撃に対する特殊耐性をもち、すなわち火炎の攻撃以外では一切ダメージを与えることができない。他の手段、ことに武器で攻撃したりすると分裂して増殖してしまう。腐食性の酸を分泌し、(他のゼリー系には金属などを溶かせないものが多いのに対して)金属を含めあらゆる物体を取り込み消化する。その腐食能力は例えばAD&Dでは、チェインメイルは1ラウンド、プレートメイルは2ラウンド、魔法の鎧はその1−5ラウンド延長で完全に溶解されるという強烈なものである。ダンジョンの掃除用(→ゼラチン・キューブ)としてはあまりにも危険だが、ゴミ捨て場や落とし穴に使用されており、開けたら飛び出してくるといったトラップにも多用される。また、一般に巨大なことが多く(旧D&Dでは中上級レベルのルール(青箱)に登場するモンスターであったためもあるが)黒色で悪臭を放ちつつ迫ってくる塊というイメージが、集積塊系のモンスターの原点のひとつとも噂されているラヴクラフトのショゴス(→参照)に、これらモンスターでは最も近いかもしれない。
敵:RoguelikeではAD&Dからの参照の多いNetHackと*bandともに登場する。NetHackの「黒プリン」は、AD&Dのものと数値的なデータはまったく同じで、切ると分裂する、火炎で殺せる、金属を腐食させるなどといった性質も同様である。ただし、必ず分裂するというわけでもなく、また何もかも消化するというわけではないらしく飲み込んだ死体やアイテムなどを落とすことがある(単に消化途中かもしれないが)点などが異なっている。分裂を利用して、ひたすら生贄を捧げる(プリン祭り)ために使うプレイヤーも多い。これらの使われ方も総じて、さほど巨大(重量はかなりだが)さや致命的なものを感じさせないので、D&D系のそれよりは小規模な印象がある。なお、食べると健康が増幅されたような気がするというが、これは黒プリンが「ブラッドソーセージ」でもあることをNH独自に反映したもの、ソーセージの栄養お子様のおやつにぴったり1本400mgカルシウムパワーのような気もするが気のせいだったということにする。
*bandの「ブラック・プリン」は[V]から登場するノーマルモンスターで、'j'系の敵としては上位のものにあたり、*bandのシステム上当然ではあるが武器無効といった特殊能力の類を持っているわけではなく、武器で分裂もしない(また死体の塊のように「増殖」することもない)「ごく普通の」敵として入っている。ただし、上位の'j'としてその酸攻撃の厄介さやダメージの大きさは単純に侮れないものがある。NH同様の解釈なのか、わりと多くのアイテムを体内に収めているのか倒すと落とすが、あまり割にあうものでもないだろう。NetHackほど重要ではないが、それなりに厄介な敵の位置にある。
プラネター Planetar 【敵】
プラネター(惑星の使者)とは、一部最初期以外のD&D系における、セレスチャル(いわゆる「天使」系モンスターの、宗教語を避けた別称)の一種であり、おおむねソーラー(恒星の使者)に次ぐ力をもつ上位の善の奉仕種族である。「セレスチャル」という語が聖なる(天の)もの、という他に、天球儀といった意味もあるので、群星の惑星霊というような意味でもあるだろう。セレスチャルの多くに言えるが、属性は「秩序にして善」「中立にして善」「混沌にして善」の3種類いずれでもあり得るので、キリスト教的天使のように「秩序」の尖兵に限らない。プラネターはあくまで天の住人である一種族だが、個体によって様々な属性で、様々な性質の神格に仕えるものがいるということである。
その姿は身長9フィート近い、堂々たる巨躯の、背中に翼の生えた全身エメラルドのように鮮やかな真緑に輝く人型生物で、その筋骨隆々たる体躯は全身つるっぱげである。D&D3eのモンスターマニュアルでのイラストはこのプラネターの「女性タイプ」が載っているが、こんなプラネターに某ダンプのように「みすずちん」なる名前をつけるのは、黒豚に「シャルロット」とかつけるような、これまでに傲慢な人類が数多く繰り返してきた行為以外の何でもないことを断言しておく必要があるだろう。
プラネターはAD&Dからアルコン等が引用されたNetHackには登場しないが、Slashにその名が見られる。データ上はレベル、攻撃などの詳細ともに現状のD&D系のそれとはあまり合致しない。
*bandには[変]に登場するが、いわゆるアルコンの上位種のひとつと位置づけられている。しかしD&D系では、(3edでの下位天使も含む総称であるアルコンはともかく)[Z]などのアルコンのモチーフとなったとおぼしき最上位の炎の怪物アルコンよりは、プラネターの方がかなり下である。'A'シンボルだが色は上記設定のような緑ではなく赤になっている。天使系にお決まりの異常なほどの硬さにアルコン同様の天使召喚、無敵化、さらに光の剣といった能力が目白押しなので、良い物品といった見返りを考慮しても相手にするようなものではない。
→アルコン →ソーラー →天使
ブラムド Bramd the Ice Dragon 【敵】
白竜山脈の氷竜。日本製の古典指向RPG世界のスタンダードナンバー『ロードス島戦記』に登場、しないドラゴン。ロードス島の5匹5色の古竜の一匹で、島の北端アラニアの白竜山脈に住んでいた。大神官ニース(大)によると生来が大人しく他の生物にも友好的だったようである。5匹の古竜はそれぞれ太守の秘宝と呼ばれるアーティファクト(ブラムドは「真実の鏡」)を守護する呪縛を課せられていたが、ブラムドは大ニースによって呪縛を解かれていた。が、秘宝のひとつ「支配の王錫」を求めて手当たりしだいに古竜をあたっていたアシュラム(→参照)一行に(非活動期であったこともあるが)殺された。その最期もアシュラムの台詞の中に出てくるのみである。*bandの直接の元ネタとなったOVA版アニメでは、大ニースの言葉に応えているような場面があることはある。
『ロードス島戦記』は当初はクラシカルD&Dのリプレイであったため、ブラムドも氷のブレスを吐く「ホワイト・ドラゴン」の一種であったわけだが、現行の「ソードワールド」ルールでは火竜以外のドラゴンのバリエーションでも炎以外のブレスを吐くものは確認されていないとされ、氷竜であるブラムドも氷の精霊力を有し冷気攻撃を無効化する能力はあるが、氷のブレスの能力は持たない。
*bandでは『ロードス島戦記』やエディングス作品の要素が取り入れられたSBFbandにデータが存在していたもので、[変]に修正と共に初期に加えられたものである。SBFbandではブラムドは氷のブレスを持つ、アイス・ワイアームに似た能力を持ったD&D的ホワイト・ドラゴンとされており、海外では『ロードス島戦記』はもっぱら'AD&D-like fantasy world'と呼ばれていることからもここではその解釈でデータ化したままで、本来の「ソードワールド」のルールが調査されてはいないらしい(というより、仮に調査したところで現状のSWロードスによってOVAロードスと充分な整合性が得られるとは言いがたい)。モンスターの思い出には原語ともども「ロードスの古代竜の中で最も年輪と叡智を重ねたドラゴン」とあり、これは「白い竜」そのもののイメージや大ニースと友好的だったこと等から推測されていると思われるが、SWのデータではブラムドはシューティングスターやマイセンのような真のエンシェント・ドラゴンですらなく、大幅に格の劣る(レベル自体は2しか違わないが)エルダー・ドラゴンでしかない。[変]では氷のブレスや他の古竜と数値自体は変わらないといったデータはそのままだが、ある意味原作通りに友好的モンスターになっているなど細部に手が加えられている。
フランテング The Great Sword 'Hrunting' 【物品】
デンマークの英雄王ベーオウルフの剣。*bandでは[Z]以降に同じベーオウルフ伝説の『グレンデル』が登場していることから、筆者(フェリアナス)が[変]開発掲示板に提案し、追加したアーティファクトである。
北欧語ではルーンティンといった発音に近い(研究サイトでは多くは「ルンティング」になっている)が、世ではラスニールではなくハースニール(ウィザードリィ2)とか、ウァルキィリァではなくワルキューレ(ドイツ発音)だのバルキリー(英語発音)といった発音が一般的で、「北欧発音など誰も省みない」のが通例であるらしい点を鑑みて、あえて英語発音を採っている。
実際の叙事詩では、この剣は名前は登場はするが活躍場面は全くなく、実は巨人から奪った剣とも竜を退治した剣とも何も関係がない。しかし単純にべーオウルフの剣として勲に関係のある能力を付加している(要はAD&Dのデータでもそうなっているので写しただけなのであるが)。
ブランド Brand, the Mad Visionary of Amber 【敵】
九王子。狂気の夢想家。アンバーの魔人。オベロンの子の中でも魔法にたけた「赤毛の三姉弟(クラリッサを母とする、フィオナ、ブランド、ブレイズ)」のひとりだが、さらにこの中でも最もドワーキンの言葉を理解した直弟子。
ドワーキンの教えの理解と生来の資質のため、”影”をなぞらなくとも、トランプのように自在にいくつもの影を移動しまた探ることができる「人間トランプ」的な能力を持つ。文字通り神出鬼没に現れることもある。躁鬱病で芸術家肌であり、ドワーキン同様にトランプの効果を持つ線を描くことができる。
例によって*band中の思い出や台詞を出ない範囲でネタバレを含めると、前半シリーズのキーキャラクターであり、なまじドワーキンと同じことを理解できる才能と頭脳、感性があっただけに、多元宇宙の創造と破壊に関わる、ドワーキンと同じような狂気(考える内容自体は異なるが)を思わせる願望にとりつかれてしまっている。そしてアンバーと混沌の宮廷の対立のどさくさに紛れ、周到かつ恐るべき規模の計画をめくるめく展開してゆく。原作の台詞だけ読み上げてみると、どこぞのファミコン時代のゲームのボスキャラのようで月並み極まりないのだが、その発言が意味している内容自体は古今東西に類をついぞ見ない、想像を絶するほどにばかでかいスケールの話である。
若者顔で繊細な容貌のイメージのキャラのようだが、実は後半シリーズで凄い女性の趣味だったことが明らかになる(とはいえ、オベロンや、ましてベネディクトの例もあるのでさして重大ではないかもしれないが)。
*bandでは[Z]以降、60階にユニークモンスターとして配されている。原作での能力と活躍にも関わらず、九王子の中では最も階層は低い。召喚系がない他はその能力はほぼサルマンと同等で、改造して作られているようである。したがって(血の呪いを除けば)サルマンと同様の対処で構わないわけだが原作での重要さの割に冷遇されていると言える。強いて考えれば、[Z]ではキャラの位置づけ的にもサルマンになぞらえられている(思い出の説明文でも「増上慢」だと原作以上に強調されているように見える)ため、ベースにされているのかもしれない。
なお、ブランド弓と『ワーウィンドル』もデータ化されているのみならず、倒すと低確率でこのどちらかを落とす。
→ワーウィンドル →ブランド弓
ブランド弓 The Light Crossbow of Brand 【物品】
[Z]: ★アンバーの王子ブランドのライトクロスボウ、[変]: ★狂気の夢想家ブランドのライトクロスボウ。[V]では★ライト・クロスボウ『クブラゴル』だが、[Z]からは名だけが「ブランドの」となっている。
出典でのブランドの弩の出番は、アンバー前半シリーズの最終巻中の1章だけで、すぐにコーウィンがふんずけて壊してしまう。こんな弓だが、どのみち『クブラゴル』の方も出典不明な怪しい品なので、どうせなので[Z]ではアンバーに登場する品に変更したのだろう。
しかし、こんな代物にも関わらず、クブラゴルにせよブランド弓にせよ、*bandでは「加速+10」という効果と、比較的手に入りやすいため、射撃重視クラスで別のもっと強い弓を装備したい場合や耐性の関係がある場合を除いて、後半や終盤の標準装備となる、でなくとも一時は装備する機会は多い。重要なアーティファクトのひとつとなっている。
ブランドという名前は普通にも少なくないが(ベルガリアード物語のリヴァの番人など)トールキンのアルダ世界でも、竜退治の弓の名手バルド王(→バルド弓、バルド矢)の孫がブランドと言う。こちらも弓の名手と思われるので紛らわしいが、[Z]和訳では一応アンバーの王子の方を採ったようである。
→クブラゴル
ブリー郷 Bree-land 【その他】
出典:粥の郷。トールキンの『指輪物語』に登場する地名で、ホビット庄のはずれに孤立するように位置する、ホビット、人間、ドワーフらの混合する交流地である。ブリー郷にはいくつかの居住地(元村、小谷村など)があるが、最も主要なのは「ブリー村」であり、中つ国で最も重要な舞台のひとつ、旅籠「躍る小馬亭」もブリー村にある。ブリー村には、アルノール一族郎党の野伏たち、東の青の山脈から工芸品を売りにくる実はドゥリン王家のドワーフ、さらにはガンダルフやトム・ボンバディルなども頻繁に訪れるが、郷の人々はこれらの来訪者の正体や過酷な使命に気付いている様子もない。色々な人々の往来がごく日常となっている土地のようである。ホビットにとって外の情報は正確なものいいかげんな噂話とわずここから入るので、「粥村で聞いた話(旧訳)」とは信憑性のない噂の代名詞となっているという。
breeとは「丘」を示すケルト語で、郷が丘ぞいに位置している(ホビットの多くは丘のホビット穴に住み、人間は平地に住むわけである)ことからの名と思われるが、しかし古い英語では「ビール」「オートミール(薄いスープ)」を指す言葉でもあり、例えば『中つ国歴史地図』編者などが、トールキンがこれらの語義すべてをひっかけたのだろうと推測している。しかし、旧版の瀬田訳で「粥の郷」「粥村」となっているのは、英語として解釈して最後の意味を採ってしまったもので、厳密には誤訳であろうと考えられている;「現代英語」を日本語に訳すというのがトールキンの訳の定則であるが、ここのbreeは(あくまで作者の主な意図としては)現代英語でなくケルト語ととらえるべきであり、ローハン語などと同様、訳さずそのまま表記すべきためである。そのため新訳(瀬田・田中編訳版)では「ブリー郷」「ブリー村」とそのまま表記されている。
ブリー郷にあたる土地は、第三紀の15世紀ごろ、最も古くからホビットが住み着いた集落地に発するとされている。『指輪物語』時代にはすでにホビットの住居の中心はより西の「庄」に移ってしまっているわけであるが、ブリー郷には現在でもホビット、しかも三種族すべて(→ホビット参照)がかなり住んでいる。また一説には第一紀(伝説時代)から人間の遠い祖先が住んでいたともいうのだが、実際のところはホビット以外の種族も住み交流が行われているのは、ほとんど他種族からは閉鎖されているホビット庄とは異なり、ブリー郷時代にはおそらくドゥネダインの北方王朝などからまだ文化を盛んに取り入れていたであろうと思われる名残なのかもしれない。
ホビット庄の近くにある郷であるため、少々雑然とはしていても、のどかな郷を思い浮かべていた読者が多いかもしれない。しかし、映画版FotRに登場するブリー村の場面は、ホビット庄からはがらりと雰囲気を変えて、薄暗い雨の中で到着することもあり、ホビット体格の視点が続く中から見ると、大きく粗暴に見えるひげづらの人間らが闊歩する「油断ならない土地」であった。ここで出会う馳夫の胡散臭さや脅威的な事件の数々を際立たせる、強い効果が上がっている。映画版Hob.でも、第二部のプロローグ部分で、トーリンが『躍る小馬亭』でガンダルフと話す場面(Hob.原作にはないがLotR追補編などに近いくだりはある)があり、同様に薄暗い雨の中で、ならず者らしき姿も見える不穏な空気の舞台として使用されている。
その他:ToMEにおいて、ブリー郷は「出発地」の村として選ばれており、その位置づけ的に相応しい舞台と言える。元々は、初期バージョンのPernAngbandでは[Z]などの「辺境の地」のマップがそのままブリー郷に使用され、宿屋の『躍る小馬亭』やその主人の「バーリマン・バタバー」など、ブリー郷の住人が使用されていた。ToME1,2ではマップも変更され、同心円状になっているのは、ブリー郷の「丘」の斜面にそって塀などが配置されているのをイメージしていると思われる(しかし、『中つ国歴史地図』での原典文面の検討によると、おそらくブリー村は北面に丘があり、丘と平地の接する所にホビットと人間の両方の住居があるという形ではないかという)。ブリー郷近くに住むマゴット老人(→参照)にはクエストも配置され、東にある塚山丘陵などの位置も検討され、結構それらしくなっているといえる。
フーリン王のビークド・アックス The Beaked Axe of Hurin 【物品】
フーリンとはアルダ第一紀(伝説時代)の人間(エダイン)の英雄であり、エダインの三大王家のひとつハレス一族の実質上最後の王であった(ドル・ローミンの最後の王『フーリン・サリオン』としてToMEに登場するが、ほぼイベント人物なので省き、この項目で扱う)。最後のフーリン一家はモルゴスや龍グラウルングの呪いによって全員が悲劇に見舞われ、その最たるものが息子トゥーリン(→グアサング等参照)である。トゥーリンの方が龍を退治し、その呪いによる悲劇的な話でファンにはよく言及されるが、フーリン自身の武功も大きく、実質、伝説時代のエダインでは個人の強さでも武功でも最大のものがフーリンと言ってよい。なお「サリオン」とは勇士の意である(→ダル=イ=サリオン)。
フーリンは上級王フィンゴンの信任あつく、フィンゴンの領地はべレリアンドの北西である冷たい霧の地・ヒスルムであったが、その南端にあるドル=ローミンがフーリンのハレス王家の領地だった。フィンゴンから、「ドル=ローミンの龍の兜(これは元々、ドワーフ王アザガルからエルフのマエズロスを通じてフィンゴンに渡ったものである。→参照)」を授かったのもフーリンで、フィンゴンの部下のエルフの戦士らにさえ使いこなせる者がいなかったのを、フーリンの武勇が認められて与えられたものだった。
フィンゴンがゴスモグに討たれたニアナイスの大敗北において、フーリンと兄弟フオルは退却する次の王トゥアゴンを守って戦い、フオルは討たれ、フーリンは斧を振るってただひとり、アーティファクト解説文に記されている通り鬼神のごとく戦った(初期稿ではこのときバルログを大量に撫で斬りにしたとさえあるが、さすがに変更されている)。が、敵らに取り囲まれ、フィンゴンを討ったバルログの長ゴスモグに捕らえられ、モルゴスの前に連れて行かれた。モルゴスは彼を殺さず、フーリンはサンゴロドリムの頂上にある椅子に魔法で縛り付けられ、そこから人間とエルフら、ことに家族らの悲劇のすべてを見せられることになったのである。(なお、ニアナイスの合戦以後ドル=ローミンはブロッダ(→参照)ら東夷が占拠し、トゥーリンのブロッダへの不用意な投げ技がもとで焦土となり、結果的にフーリンが最後の王となった。)しかし、トゥーリンらの死までを目撃させた後、モルゴスはエルフらの間に不和をまくため(彼らの悲劇にはエルフらの反目も関係していたため)フーリンを解き放った。フーリンは妻モルウェンの最期を看取り、トゥーリンを裏切ったミム(→参照)を殺し、灰色エルフの都ドリアスに至ったが、エルフ女王メリアンによってモルゴスの策略から目を覚まされた。しかし、かといって生きる望みも既にないフーリンは、西の海に向かい、そのまま海に身を投げたといわれる。
*bandにはToME, [V]3.0系などのアルダ系のバリアントをはじめとして、[変]にもかなり初期から取り入れられている。中級のアーティファクトであるが、[変]では+3もの追加打撃がある。この攻撃回数は戦場で数多くの敵を切りまくったという描写によるものだろう。トロルやバルログと戦った描写からかそのスレイングもある。30階でレアリティも中程度なので、その追加打撃のため、進行度によっては役立つ。
プリースト Priest 【クラス】【敵】
出典:プリーストはカトリックでは司教に次ぐ地位を持つ聖職「司祭」に対し、ギリシア語のPresbyteros(長老)に因んで名づけられた語である。しかし同時に、カトリックおよびキリスト教に限らず、聖職者、司祭、神官のたぐいを指すための、最も一般的な英語でもある(Wizardry#1のPC版マニュアルの「(プリーストのクラスのキャラクターは)教会での地位は司祭です」というのは、和訳ではわかりにくいがつまりはジョークらしい)。しかし、司祭の地位からか「プリースト」が同様に一般的な語「クレリック」(こちらは司教以下のすべての総称である)よりも、ゲームによってはやや上位の聖職者を示していることもある。
最古のRPGで原型でもあるD&D系では、基本的なキャラクタークラスは「プレイヤーが役割・活躍場面を分担する」という考え方でデザインされているが、「聖職者」は、「魔法使い」と同じ呪文の使い手で、なおかつ、「主に戦闘以外の局面に用いる呪文」を担当している。元々は防御や治癒の呪文、およびアンデッド退散なども戦闘の前後、直前もしくは直後に用いるもので、戦闘の最中は自らも武器をとる(ただし、レベルが上がると戦闘能力の低さが際立ってくる上、D&Dシリーズに言えることだが分担も曖昧になってくる)。こうしたクラスのデザインのため、D&Dのクレリックは史上の「十字軍のテンプル騎士団」がモデルとされている。有名な「刃のついた武器は信仰上の理由で使用を避ける」というルールは、聖職者や十字軍騎士団の一部が主義としていたといわれるもので(D&D系で定義されるような戒律であったかは定かでない)おそらくは城塞戦マニアであった作者ガイギャックスらが、これら重武装の騎士団に鈍器を用いるようなイメージを抱いていたため、使用武器にバリエーションを持たせるために設定したと思われるが、ルール的な実質は、戦士より攻撃力のみやや落とすためである。(なお、D&D 3eになると主義や刃の有無ではなく「単純武器(棍や槍などの比較的習得が容易な武器)以外、訓練を受けていない」という定義になっている。後から訓練も可能であるし、宗派によっては別に得意な武器がある場合も多い。)
海外発の多くのRPGにおいて、このD&Dのクレリックをモデルとして、聖職者、プリーストのクラスがデザインされている。しかしながら、宗教的な背景が薄い日本のRPGプレイヤー、さらには数々の似非宗教神話世界観が示すように「信仰」すらも理屈をこねないと存在を認識することさえできない和ゲーム・アニメ系プレイヤーにとっては、海外のRPGで提示されている通りの聖職者という「役割(ロール)」を正しく理解することはかなり困難であろう。能力のみならず、ウィズダム(賢明さ)を用い、パーティーの良識や良識的社会役・カリスマを勤める役割というものの位置づけそのものが理解されていないことも多い。結局、結果的もしくは意図的に「退魔師や呪術師、毛色の違う魔法使い」としてでもロールプレイする他にないのかもしれない。
和製RPGでは治癒や退魔のような「良い魔法」を行う単なる「白魔術師」になっていることが多く、もしくはプリーストと名がついていても、実質は極度に精神性が薄く、また単なる白魔術師以外の何でもない場合も多い。また、CRPGの初期のもののひとつ"Wizardry"でも、D&D系が原型でありながらCRPGで再現できない呪文のほとんどが省略された結果「防御や治癒の呪文の専門家(Healer)」とされてしまい、以後、戦闘の前後ではなく「戦闘の最中に後列で防御・治癒を行う」というクラスと解釈された傾向がある。特にこうしたクラスの場合、「白魔術のイメージ」とやら何とやらで、戦闘能力も異常に低く(魔法使系や魔法戦士よりも)設定され、結果、治癒以外に全くやることのない、特にTRPGやMMORPGなどでプレイヤーが担当するクラスとしてはデザイン失敗的にプレイングが退屈なクラスとなっていることも珍しくない。
クラス:*band系ではMoria以来、戦士・盗賊・メイジと共に最も基本的なクラスのひとつである。戦闘能力、刃のついた武器の制限、神から授かるので自分では選択できない呪文、防具制限の緩さ(メイジ系と異なり、手を覆う防具のペナルティーがない)等々、ほぼD&Dのクレリックそのままのクラスとなっている。プリーストという名は(AD&Dではクレリックやドルイドなど聖職者系の総称のカテゴリ名だが)クレリックよりも一般的で広範な語を選択したのであろう。
なお、ソロゲームの*bandでは他者を治癒するということが全くないため、他のCRPGやMMORPGの「ヒーラー役」とは決定的に異なる特性をもつ。中程度の打撃能力と、支援(治癒、防御、限定的な攻撃など)のかなり強力な魔法能力を持ち、どちらを主力にするにせよもう片方で補いつつ進めるという形になる。となると中途半端にならないかと考えがちだが、デュアルクラス系(レンジャーや魔法戦士)よりも魔法が明らかに強力でしかも範囲が限定されはっきりしているため、意外にプレイしやすい傾向にある。例えば、すべての魔法の失敗率が0%にまで落ちるため、治癒魔法に頼りきることができ、そのため逆説的だが打撃戦でかなりしのぐことができるのである。
[Z]では第一領域に生命、暗黒([変]ではさらに破邪、悪魔)と、第二領域としては第一領域と相反しないような魔法領域が選べる。結局のところ、プリーストの強力さは生命の領域において極度に強力であり、ハイメイジよりもさらに有利(習得率、失敗率、MP)であるという点につきる。それ以外の領域、特に暗黒などはそれほど第一領域が有利ではないが、それでも打撃と相補の相性がよいため、魔法戦士などのデュアルクラスよりは相当有利である。
ただし、魔法が伸びないうちの最序盤は打撃も中途半端なので、超能力者などと並んで若干苦しい展開になる。[Z]では、「生命+カオス」のプリーストが、序盤はつらいが終盤は最も勝利しやすいクラスと言われてきた([変]では生命+破邪が強いと言われる)。
総じてかなり有利かつプレイングも面白いクラスだが、スコアサーバーでの人気は基本クラスとしては相当に低い(27位中の20位)。戦士やメイジより半端なクラスという先入観もあろうが、それだけでは魔道具術師や魔法戦士より低いという現象の説明にはならない──おそらく、上記したように日本のゲーマーが「プリースト」に対する確固たるイメージを持っていないのが最大の原因であると思われる。一部では(これも上で推奨したように)神官・巫女や道士をイメージしながらプレイしたという声もないでもないが、「白魔術師」ならば破邪や生命のメイジやハイメイジを選ぶ例がよく聞かれる。当面はイメージのみが原因で目立たない扱いが続くだろう。
敵:Moriaから通してすべてのバリアントで、「人間モンスター」として、見習いからハイプリーストまで多数登場し、またモンスターにも(ある程度の知能を持つものには)プリーストの種類がいるものも多い。プリーストに共通しているのは、呪いや傷、恐怖などの「間接攻撃系」の呪文を用いてくるため序盤も鬱陶しいこと、また中盤以降は「モンスター召喚」を行ってくるので残しておくと非常に危険なことである。特に中盤以降単身で登場するものは早めに潰したくなるのだが、いずれも耐久力がかなりあるのでなかなか簡単には倒れてくれず、多数の中に一体混ざっているだけで戦術が崩壊することも多い(これは呪文使いに共通することだが、プリーストは特性上、戦士に混ざっていた時に特に始末が悪い)。致命傷呪文などにも油断せずに、本気で戦った方がよいだろう。
ブリーワグ Bullywug 【敵】
ブリーワグはAD&Dに初期から存在するモンスターで、ハーフリングほどの大きさに、蛙のような特徴をあわせもった卵生ヒューマノイドである(人間大の蛙そのものが高知能という「グリップリ」とは微妙に異なる)。湿地帯の廃墟などに群れて暮らすが、非常に獰猛であり、集団で跳躍力を生かした奇襲を行う。知能は低く、服も着ないのだが、なぜか人間と遜色のない武装はつねに行っている。実際のところ著名なのは、『グレイホーク』世界設定において、人間選民主義となぜか両生類を司る「”とびはねるもの”ワストリ」という悪神に関わりが深いことで、人間でも両生類じみた外見を持ったワストリの司祭に加勢し、率いられるといった点である(ちなみにブリーワグはラメノスという自身らの神を信奉する)。
*bandには、Pernangband/ToMEに後出のバージョンから追加され、その直接の影響下にあるバリアントにのみ追加されているモンスターである。7-8階の、スナガ等と同程度の集団モンスターであるが、一応「ブリーワグ戦士」や「ブリーワグ・シャーマン」などの数種類がおり、一種族カテゴリとして存在している。なぜToMEのみが、AD&Dの中でもかなりマイナーなこの種族を追加しているのかは定かではないのだが、爬虫類や動物のヒューマノイドが[Z]以降は数多く存在するのに対して、「両生類」のヒューマノイドを加えるという発想なのかもしれない。その意味では、*bandでのリザードマンとは異なり、ヒューマノイドにも関わらず「冷血」モンスターである点が特徴といえるためである。
ブリンク・ドッグ Blink Dog 【敵】
ブリンク・ドッグはD&Dシリーズのオリジナルモンスターで、「瞬間移動能力を持つ知能の高い犬」である。褐色の大きめの犬、形状としてはオーストラリアのディンゴ犬にそっくりだが、「またたき」すなわち主物質界とエーテル間隙界の間を、瞬間的に相(フェイズ)を切り替えて移動する能力を持つ。また次元の扉(ディメンジョン・ドア)の能力、すなわちアストラル間隙界との間も行き来する能力を持っており、これらの能力によって自在に出現・消滅したり短距離の瞬間移動ができる。この力で集団で狩をするが、D&Dシリーズのいずれも通して、非常に正義(秩序にして善)の性質の強い生物とされる。彼ら同士は不自由なく吼え声などで会話するが、他の種族の言語は話さない。ただし、ドルイドやレンジャーなどの盟友の例としてはよく挙げられる。ディスプレイサー・ビースト(→参照)の仇敵であり、対になる怪物という設定であるが、善の性質のため敵として出て来ることはほぼないためもあって、仇敵の方に比べると登場頻度も低く、また他のゲームなどにも流用されて登場することもあまりない。
*bandでは[V]以来登場し、フェイズ・スパイダーなどと同様にブリンク(ショート・テレポート)能力を持つことで表現されている。しかし、(善モンスターの設定できる[Z]系でも)特にGOODフラグなどはなく、単なる敵として戦わなくてはならない。なおシンボルの色がライトブルーなので、原典では褐色という点も忘れられがちである。
フルーツ・コウモリ Fruit bat 【敵】
フルーツバットとは、果実や花を主食とすることから呼称されるコウモリの総称である。翼手目は哺乳類の種のうちほぼ4分の1を占める1000種に及び、そのうちさらに5分の4が洞窟などに住む小コウモリ目、残りの5分の1が熱帯・亜熱帯の樹木に生息する大コウモリ目で、フルーツバットはその大コウモリの200種に及ぶ。一般にオオコウモリ自体の通称としてフルーツ・バットが用いられることも多い。オオコウモリは数センチから数十センチ、ときに1.5メートル近い翼長のものまで存在する。おびただしい種があるため、色なども千差万別である。亜熱帯では見かけやすい種であるものの、ウィルス感染の原因としても問題になっている。
*bandでは、Moriaの時点から最浅階層のノーマルモンスターとして存在し、*bandでも屋外含めて出現する。低階層では非常にスピードが速く、遠隔攻撃以外で倒すのは難しいが、ダメージは普通の打撃の1d3のみで特殊攻撃などは持っていない。特に感染症などをうつしてくるわけでもないので、そもそも果物を食べるこの種が何故襲ってくるのかも不明なのだが、結局はこれもすずめや一般人が襲ってくるのと似たようなものと諦めるべき点なのかもしれない。
古森 Old Forest 【その他】
ふるもり。ホビット庄の東、すなわちバック郷の東側に広がっている古い森。これはかつては中つ国の西側すべてを覆っていた森がやがて縮小し、この地だけに残ったもので(一方、東側の森の縮小したものがファンゴルンの森である)非常に古いためいわば妖怪化した木々(エントが野生化したフオルンだと推測されている)がその奥には多数住んでいる。ただし、森の謎の半神トム・ボンバディルも住んでおり、古森の中ではその歌は絶対的な力を持つ(おそらく、もっと森が広かった頃にはその範囲に歌の力は及んでいたのだろう)。ホビットらはこの森を妖精やゴブリンが住むといって恐れ(恐れはもっともだが、その噂の内容は正しくないわけである)唯一、無鉄砲でもあるバック一族は森の周辺には平気で入るものの、夜には入らない、焚き火をして木々を怒らせたらしいなど、あまり森の実情を解っているともいえない。指輪所持者たちは黒の乗り手を避ける為に道を避けてこの森を横切ろうとし、昼間であるというのに柳じじい(→参照)などの古い木々に襲われ、そしてトム・ボンバディルに助けられる。映画版のFotRでは割愛されている。
*bandでは、ToMEに闇の森などと同様の「森」ダンジョンのひとつとして存在する。13-25階となっているので、塚山丘陵を終えても森に居心地がいいタイプのキャラクターがしばらくここで進行するためのダンジョンと思われる。[Z]系と異なり、柳じじいはこのダンジョンの最下層ガーディアンという、原作に近いものになっている。
ブレイズ Bleys of Amber, Master of Manipulation 【敵】
九王子。訳は「ごまかしの名手」となっているが、このManipulationは技巧・操作の達人(マスター)とも称すべきである。アンバーの怪王。フィオナの弟、ブランドの兄で、オベロンの子の中では魔術にたけた「赤毛の3兄弟」のひとり。深紅の髪と顎ひげ、悪魔のような青い目、赤とオレンジの絹の衣装。
コーウィンやエリックのような、典型的なアンバーの王族の抜け目ない政治・軍事的感覚を持っており、魔力はブランドやフィオナほどではないようだが、インテリのこの二人に対してリーダーシップを取るようである。コーウィンとの会話を見てみると、いかにも感情の赴くままに考えなしに喋っているように見えて巧みでしたたかであり、いなしてばかりのコーウィンのやり口とは好対象であった。さらには、魔法だけでなく、コーウィンと共にエリックに対して軍勢を率いて攻め込む際には、トレードマークの「金の線状細工の剣」をふるって、コーウィンが「ベネディクトに次ぐ」と形容した(つまり、実はエリック以上なのだろうか)剣技の冴えを見せる。おそらく魔法の扱いとこの剣技両方に対してであろうが、技巧の名手の名に相応しい。……しかし、この攻め込む場面以外には前半シリーズには見せ場はなく、シリーズ通してみると何やら影がうすい。後半シリーズでは、フィオナと共にアンバーの魔術のマスターの位置にある。
r_infoにあるコメントでは「コーウィンの兄」となっており、これは邦訳1巻にそうなっている箇所があるのだが、原書ではbrotherである。3巻によると継承権ではコーウィンより後である。母が違うため、継承権の順番が生まれた順になっているとは限らず、また作中にもわずかに所によって食い違う場合があり、オベロンの13子たちの兄弟順ははっきりしない部分も多いのだが、ただ、フィオナがコーウィンより妹なのは確かで、ブレイズはフィオナの弟なので、確実にコーウィンより弟とは言えるようである。
[Z]以降、フィオナの1階手前で登場する。原作に準じているか否か、ほぼ強さはフィオナと同じなのだが、アイテム盗やテレポート系の魔法の多用など、フィオナのような純魔法系やジェラード・ベネディクトのような純打撃系とはまた違った厄介な戦いを余儀無くされる。
フローティング・アイ Floating Eye 【敵】
初期の代表的モンスター(トラップ)として最初期バージョンのUNIX-Rogue, *band, NetHack系, Omegaなどにもに登場し、Roguelikeの象徴的存在のひとつにすらなっているこの怪物は、AD&D 1stのモンスターマニュアルから採られているものである。なお、最近のD&Dシリーズのモンスターマニュアルには記載されていない。
これはその名の通りの浮遊する普通のサイズの眼球で、本体はほとんど肉体能力を持たないが、凝視による催眠能力を持った一種のトラップモンスターであり、その位置づけも存在もほぼRoguelikeのものと変わらないと考えてよい。まるで謎の生物だが、アンデッドや魔法生物といった「特殊」な存在ではなく、いわゆる「普通のモンスター生物」である。AD&Dのゲーム中では記述によると、水上などに浮かんでおり、犠牲者を引き寄せて肉食魚や水中モンスターらの餌に供するという形でこれらと「共生」していることが多いという。なおRoguelikeでは麻痺攻撃だが、元のデータは催眠術であり、また(その単なる普通の小さな目玉という形状から)非常に注意しないとほとんど不可視であるという性質を持っている。NetHackでフローティング・アイを食べるとテレパシー(不可視状態でのモンスター感知)が身につくのはこれらが元であると考えられる。
なんらかのモチーフが存在するか、沼や水上の燐光から発した悪霊の伝承、目の形をとる霊(→ビホルダー、→ウィル・オー・ウィスプ)などからの発想である可能性もあるが、どちらかというと単純にトラップとして考案されたものであまりモチーフがない可能性も高い。
Roguelikeのものは、最初期UNIX-Rogue(後期バージョンやローグ・クローンにはいない)の時点からfloating eyeが存在し、元のAD&Dの催眠能力が「麻痺能力」によって再現されたモンスターとなっている。NetHackや*bandをはじめ他のRoguelikeではこれを踏襲したものと思われる。NetHackのものは多くのモンスターがそうだが、AD&D1stのものと数値も同様である。
他のゲームにも、しばしば類似する浮遊して麻痺の凝視を放つ目玉のモンスターが登場することがあり、例えば(AD&D 1stの影響が強かった)『ファイナルファンタジー1』のものなども直接の引用と思われ、またNetHackなどから引用しているRPGも多いと推測されるが、それよりも「目玉と凝視のモンスター」「フローティングアイという名前」が非常にありふれた発想と思われるので、特に引用というわけではなく(あるいは完全に無意識に引用して)登場させているRPGも多いと思われる。その外見からいわゆるビホルダー類の下位として扱っているらしきゲームもある(本来のAD&Dのものは少なくともビホルダー種ではない)。
他のRoguelikeの相当物の例としては、UNIX-Rogueの後期バージョン、及びローグ・クローンでは、floating eyeはIce Monsterという怪物に差し替えられている。登場時は停止している(眠っている)が、隣接して目覚めさせる(攻撃する)と行動不能にしてくる敵であり、行動不能だけでなくそのまま即死させることもある危険な敵である。また、普及版として著名な『トルネコの大冒険』初代では、なぜか「まどうし」が、当初は眠っているが隣接するとラリホー(眠り)の呪文で行動不能にしてくる、序盤の危険モンスターという相当物に選ばれている。
*bandではMoria以来最下層から登場し、NetHack同様に、上述したようにうっかり接近戦攻撃を仕掛けると麻痺を食らってしまうというトラップモンスターとして登場している。NetHackでは、麻痺している間に別のモンスターに襲われるというのが定番であったが、*band系ではそれとは全く性質が異なり、最も浅い階層では他のモンスターあるいは殺傷力のあるモンスターがなかなか出てこないことも多いため、一度麻痺してしまうと本当にゲームが止まってしまうというパターンも多い。元のAD&Dでは近距離の対象に凝視攻撃を行うことができるが、Roguelikeでは隣接した時のみ凝視攻撃を食らうので、なんらかの手段で遠距離から攻撃する(AD&Dのように視認しにくいというわけでもないので)のがセオリーである。
フローラ Flora of Amber 【その他】
四王女。アンバーの美姫。フローラは通称でフロリメルが本名らしい。ブルーグリーンの服、茶色(おそらく)の髪と青い目だが、髪の色は登場ごとに変わったりもするのでファンの間でも謎(金とされることもある)とされている。
前半シリーズの印象では、のほほんと兄弟の間を渡っている末妹に見える。エリックに従い、記憶喪失で地球に飛ばされているコーウィンの近くに住んで監視していたが、記憶喪失が直ったというコーウィンのはったり(実は直っていない)を信じて旅立ちを見送ることになる。なにせ相手がコーウィンなので、これほど終始疑いさえ持たずに騙されても、フローラは彼の言うほどには「天然」ではないのだろうが、他の兄弟姉妹のように才気走るタイプでないことは確かである。その後のどさくさに紛れてエリックの政権樹立やその後にも王宮の重要な地位に居座り、(基本的に)アンバーに住む。
そのまま前半シリーズ最後まで目立った活躍をすることもないので、飄々としたイメージのまま、結局は「(シリーズには珍しい)比較的まともな女性キャラだったか」と思いきや、後半シリーズでは、常に男をひっかえて遊びまわっていたこと、おまけに地球の歴史の転換点のいくつかは「彼女の微笑」が傾けていたという驚愕の記述が出てくる。遊びまわりつつもハンドバッグに手榴弾を持ち歩いている(これはバッグからは無尽蔵に火器が出てくるというパターンぽい)。甥のマーリンがお気に入りのようで(といっても、マーリンはフィオナをはじめアンバーの皆、特に女性にやけに気に入られているのだが)何だかわからないが見ていてハラハラし通しである。
なお、フローラは「地球」(現実世界かはともかく、アンバー前半シリーズ当時の1970年代に酷似した”影”であることは確かである)に非常に長期間住んでいたアンバーの王族である。これはエリックにより記憶を奪われて流刑されていたコーウィンへの看守の役割でもあったが、それ以前から地球は「自分にとってのアヴァロン」(アヴァロンはコーウィンが作り、長期間支配していた代表的な影)にあたる存在だったとも言っている。この地球という影は、実質上フローラが操作し支配し、彼女の滞在で影が濃くなっていた世界であると考えて差し支えないだろう。なおローマ神話の豊穣と花と娼婦の女神フローラは(神話的な出身のニンフの性質を持ちつつ)ギリシアのレイアの権能が分かれたもの、つまり、ガイアの権能を引き継いだものである。
*bandには、本人はユニークモンスターとしては登場しないが、地球で飼っているアイリッシュ犬(冒頭に犬笛で操る場面がある)が通常モンスターとして登場する。また、アーティファクトとして、噂の巻物では「セクシーブーツ」とも呼ばれる「★フローラ靴」が入っている。
フローラのアイリッシュ犬 Irish wolfhound of Flora 【敵】
アンバーシリーズ最序盤、四王女フローラが”現代の地球”に持っている館の中に飼っていた巨大なアイリッシュ・ウルフハウンド犬。
「これは超音波の犬笛よ。このドナーとブリツェンの外に、あと四匹いるけれど、全部、嫌な人を始末するように仕こんであって、わたしの笛で動くのよ。だから、立ち入ってもらいたくない場所へ、足を向けないでちょうだい。ピッピーとやれば、あなただってやられちまうわ。アイルランドから狼がいなくなったのは、この種類の犬のせいだってこと、知ってるでしょう」
「しってるよ」そう言ってから、ぼくは知っていることに気づいた。
(ロジャー・ゼラズニイ『アンバーの九王子』)
「ものすごく大きく」「半トン」あり、フィオナの影の怪物(凶悪なヒューマノイド)とも互角に渡り合う。アンバーの王族でも「やられちまう」というのは嘘ではあるまい。本当にただの犬なのか、”影”を操って作り出した怪物ではないにせよ、どちらにせよフローラがさまざまな”影”から強い個体を選りすぐって配置したことくらいは確実に思える。なお、地球の館に住んでいるが、フローラが他の”影”でも連れているかは定かではない。
この名前の出てきた2頭、「ドナーとブリツェン」はドイツ語で雷鳴と稲妻の意だが、ここではおそらく英語圏では有名なサンタクロースのトナカイの名のうち、2頭のみドイツ語名をもつものから採られているだけと思われる。(サンタクロース(→参照)のトナカイが8頭(9頭目は近代の挿入)なのはオーディンの8足の乗騎スレイプニルに由来するが、うち6頭の名が英語で2頭のみ雷の意のドイツ語なのは雷神トールの2頭引きの戦車も合流しているためである。)
*bandでは[Z]以降、6匹どころか、常に大量の集団で登場する。あくまで単なる「犬」という解釈らしく、「ワーグ」と同程度で若干ダメージが大きい程度である。決して攻撃力が高くないのでさほど危険ではないのだが、ワーグとは異なり動きにランダム性が入っていないので、集団に執拗に追われる場合もあり油断は禁物である。
ブロッダ Brodda, the Easterling 【敵】
東夷ブロッダ。「東夷カムル(ナズグルの次席)」と混同されがちだが、こちらの方はまったくの端役の悪玉であり、第一紀のモルゴス軍の東夷である。エルフ語の発音では「ブロドダ」と読むため、ウェブのファンらの間ではそう呼ばれていることが多いが、東夷のリューン語の発音は不明で、ブロッダと読める節もあるため、原作邦訳ではいずれも「ブロッダ」になっている。
『クゥエンタ・シルマリルリオン』および『終わらざりし物語』に記述があるが、かつてハドール家(エルフと同盟しているエダイン(人間)三家のひとつ)が治めていたドル=ローミンの地に、ハドール家が離散したあとにやってきた東夷で、残された財産を略奪・民衆を隷属させてその地に収まっていた。ブロッダはドル=ローミンに残っていたエダインのアイリンを妻に(むしろ、力でもって妾に)していたが、このアイリンはハドール家の奥方モルウェンの縁者で、モルウェンの子息トゥーリン(→グアサングなど参照)が戻って来た時に母の消息などを伝える。
このときブロッダはトゥーリンに対して、占領者としては概ね当たり前の対応をしたようにしか見えないが、なにしろ相手はアルダの伝説において屈指の英雄にして屈指のDQNでもあるトゥーリンである。アイリンの話を聞いて唐突にブチ切れたトゥーリン(詳しい話を聞いて、龍グラウルングの陰謀にはめられたことを知った)に、たまたまそばにいたブロッダは腹いせの投げ技を食らい、受身をとりそこねて首を折り、はかなく絶命した。なおトゥーリンの起こしたこの騒ぎで、モルゴス軍に対する平穏の望みを絶たれたドル=ローミンのエダインの生き残りたちは村に火を放ち、アイリンをはじめ大半が自害したとされる。ブロッダよりトゥーリンの方がずっとひどいという意見は数多い。
*bandでは[V]から登場する。[V]からある「弱者をつけ狙う」という思い出の文は、戦って占領したのではなく、「放置されていた財産を私物化した」という原作の描写からつけられているのではないかと思われる。
[Z]以降の思い出のブロッダの引用文は、実はUnfinished Talesからのものであるが、この当時は無論邦訳(『終わらざりし物語』)は出ていなかったため、筆者(フェリアナス)が[Z]掲示板に書いた原書からの拙訳がそのまま載っている。ついにUTの翻訳が出た今となっては感慨深いものがある。
9階という低階層の、ごく普通の何の特殊能力も持たないユニークである。物資が尽きていたりすれば別だが、概ねさほど危険な相手ではなく、[変]の6階のランダムクエストなどで、相手にしづらいロビンフッドなどではなくてブロッダが出てきた際は、何か得したような気分になることが多い。
→孟獲
ブロンズ・ゴーレム Bronze Golem 【敵】
RPG、ことにCRPGにおいて、モンスターとしての「ゴーレム」として最も典型的といえるのは「動く石像」の類のものであり、倒しにくいが特殊能力や特殊攻撃のないきわめて単純明快なものが一種のお約束であるともいえる。しかしながら、初期のTRPGであるクラシカルD&Dでは、ゴーレム(グレーターコンストラクト)が登場する上級ルールへと進んでいっても、ストーン・ゴーレムやアイアン・ゴーレムといった「いかにも」典型的なものはなかなか登場してこない(なお、一方でAD&Dや3ed以降では基本ルールには典型的なものが記されている)。いかに荒野や領地などのルールが追加される上級ルールとはいえ単純なダンジョン冒険物の色合いの強いD&Dにおいては、コンストラクトであるゴーレムにはダンジョンの特殊な仕掛けやそのギミックでプレイヤーを驚かせる役割が与えられ、特殊能力や特殊攻撃を持ったゴーレムばかりが目白押しに登場してくる。クラシカルD&Dの「ブロンズ・ゴーレム」も単に動く青銅像ではなく、そんな特殊能力をもったひとつである。
このD&Dのブロンズ・ゴーレムは、見かけはファイアー・ジャイアントに似ており、肌は青銅でできているが(なお、D&D系ではファイアー・ジャイアントやイフリートの鎧は青銅製である)「液状の炎」が血のかわりに流れている。戦う者は打撃を受けるたびに熱によるダメージも受けるほか、このゴーレムにダメージを与えた方も、噴き出す炎の血によってダメージを受ける可能性がある。もとの打撃力も高いため、かなり危険なモンスターである。この扱いはギリシアの青銅の巨人タロン(タロス)を意識したともいわれるが、定かではない。タイタン(→参照)を模してヘパイストス神ないし名工ダイダロス(→ミノタウロス参照)が作ったクレタ島のタロンは高熱の体を持ち、体当たりで焼き殺すほか、熱線を発することもできるとされる。
一方で他のCRPGなどでは、ブロンズゴーレムは単なる「青銅のゴーレム」であることも多い(さしたる特殊能力もなく、あっても単にアイアンゴーレムなどの下位版であることも多い)が、*bandのものは明らかにD&D系の特殊能力を持ったブロンズゴーレムである。[V]3.0系をはじめ、その直接の流れをくむ(そのためアルダ系が多い)ToMEなどのバリアントに登場する。ブロンズにも関わらず、シンボルは火炎を表すオレンジ色である。火炎、電撃やプラズマの魔法どころか、どういうわけかテレポートとデーモン召喚の能力を持っている。強烈な耐久力と、打撃こそ通常攻撃であるが、ダメージはかなり強烈で、おそらくはタイタンの大きさのタロンに匹敵するような像なのだろう。その性質ゆえか、いずれのバリアントでも、原典のD&D以上にかなりの深層の強力なモンスターとして扱われている。
→ゴーレム
分解 Disintegrate 【システム】
特定の範囲のすべての物質を原子分解するという情け容赦のない攻撃の発想元は、もとはD&D系のDisintegrate呪文なのであるが、D&D系やその直の影響下のRPGの呪文におけるものは、「強力な手段」ではあっても、それは障害物などを問答無用で除去することができるといった意味においてのもので、「敵に対する攻撃手段」としてのものではなかった。対象を強制的に原子分解するという現象について考えればわかるが、敵への直接攻撃に用いると、D&D系ではいずれも抵抗判定や魔法抵抗などを打ち破らなくてはならなかったり、広範囲呪文にも関わらず「生物が相手」だと対象が必ず「一体」に限られたり、何らかの魔法の影響下にある物品(謎の基準である)には一切効かなかったりと、高レベル呪文の割には極めて非効率的である(ただし、アニヒレーションスフィアなどの敵やアーティファクトなど、一方的にプレイヤーを嫌がらせるためのものはその限りではない)。AD&Dでは、特に高いレベルでは、この分解呪文は敵のある特定の呪文障壁を打ち消すことができることから、「対呪文防御の対抗呪文」の定番のようなものになってくる。他でも述べているが、D&D系ではプレイヤーに与えられる力は、かように一方的で融通のきかないものというのが原則であった。
が、後になると、例えば日本の『ロードス島戦記』など、分解呪文を「直接の戦闘呪文」とするような描写が見られてゆき(おそらく、上級の破壊呪文としてビジュアル的に見栄えがするためであろう)その描写をそのままRPGとしてルール化されたものや、その影響下にある作品等が増えてゆき、D&D系を思わせるスペルセットをもつ魔法体系の世界観において「分解呪文」は「戦闘(ダメージ)魔法の定番」のひとつとなってゆく。
なお、海外RPGでも例外的にT&Tの「地獄の爆発」が分解呪文を踏襲したものでも直接攻撃魔法として恐れられているが、これは別にこの魔法が恐ろしいのではなく、大半の魔法に抵抗の余地が一切ないT&T5版以前の魔法ルール自体が恐ろしいというだけの話である。
分解の原理に関しては、D&D系のものは「緑色の薄い光線が触れた物体を次第に分解してゆき」(そのため、光線をかわしたり耐えたりすることが容易である)「あとには細かいチリが残る」とあるため、よく言われる通称に反して「原子分解」ではなく、爆発も爆音も一切生じない。T&Tのものは分解と共に「大量の熱が発する」とあるが、単に強制的に物質を気化させるならば逆に気化熱を吸収するはずなので、熱が発するというのはなにか物騒な反応自体を起こしているとしか考えられない。
*bandの[Z]以降に特に活躍する「分解」属性の魔法攻撃は、戦闘ファンタジー化したイメージの影響というよりも、「悪臭雲(→参照)」などと同様、さまざまな呪文をダメージ魔法という形で取り入れたものに過ぎないと思われる。プレイヤーキャラクターの呪文でもこの属性を多く使うことができるが、破壊可能な壁などは必ず破壊し、床の物品を蒸発させる「元の」効果と同じものを発揮する。対生物のダメージ自体は必殺というわけではないが、敵がブレス等で使ってくる場合は大抵元のダメージ自体が大きいので、名に恥じない大惨事に陥る。
粉砕のメイス Mace of Disruption 【物品】
Mace of DisruptionはAD&D 1st, 2ndの定番のエゴアイテムのひとつで、悪のモンスターに大ダメージを与え、さらにはアンデッドや<下方世界>の住人に対しては、相互の強さや数値に関わらず「その種類ごと」にある一定の確率で無条件に粉砕する、という特性を持っている(例えばレイスは95%、リッチは20%等)。
アンデッドを粉砕するというのはターンアンデッド(聖職者の特殊能力で、3e以前のD&D系では呪文ではなく回数に制限もなく、非常に強力である)において、術者の力がアンデッドに対して充分以上の場合に起こることである(なお、アンデッドは死や破滅とは言わず、粉砕・破壊という)。ベースアイテムが聖職者の基本の武器であるメイスである点も相まって、聖職者系の強力な物品とみなされていた。
ただし、このパーセンテージの破壊率そのものは、強力ではあるものの、高レベルでは劇的な意味があるわけではない(弱アンデッドに対する高いパーセンテージは普通に戦う場合と差がなく、強アンデッドに対する低い値はヴォーパル武器(→参照)程度のラッキーヒットを期待する位である)。D&D 3edでは同名の鈍器共通エゴは、アンデッド種類ごとにパーセンテージでなく、かなり低い抵抗ロールを強要するものになっており(このパーセンテージによる無条件破壊のロールが、3edの「ルール的整合性」にそぐわないためもあるだろう)実質上は相当ルールの品は消失している。
なお、Wizardry系に登場する「粉砕のメイス」はMACE OF POUNDINGであり、単なる+1メイスの通称で、この品とは関係はない。
*bandにおいては[V]以来、カオス・ブレード等と同様、ベースアイテム自体が強力な物品として、この名のついた強力なメイスが登場する。元になっている品を意識したらしき、元からアンデッドのスレイングがついているが、それよりもむしろ、非常な重量とベースダメージを持つ品という側面の方が大きい。名前の通り「凶悪」なイメージの方が強いらしく、アーティファクト『死の復讐者』を見ても、「聖なる武器」としてのイメージが残っているわけでもないらしい。
→死の復讐者
分身 ぶんしん 【その他】
出典:「分身」あるいは「身外身(しんがいしん)」の術こそは、摩訶不思議な「忍術」の中でも最も代表的なもののひとつであり、最も高度な技であるか否かはさておき、ニンジャの用いる高等な技の代表格とされることが多いものである。忍術の多くに見られることではあるが、中国の玄功術の説話にも顕著に見られることと(斉天大聖や二郎真君が用いるのがことに有名である)忍術説話には直接にその影響も強いと考えられることから、その発想の原型となるトリックなり説話なりは、なんらかの形で大陸由来のものと同根であるとも考えられる。
元の大陸の説話であれ、忍術となってからであれ、故意に「分身」を装う技術、もしくは計らずもそうした噂や説へと発展する根拠としては、様々なものが考えられる。例えば、「ひとりの人物がいるはずのない箇所に同時に存在する」といったものは「分身の術を使った」という噂へと発展する可能性があるが、実際は単なる高速移動や、その手段、トリックによるものかもしれない。それ以上に考えられるのが、いわゆる「影武者」を使うものである。その影武者のトリックの手の込み方も千差万別のものがあり、単に服の色だけ揃えるものから本格的に変装するもの、ルパン3世一味がよく使うような「へのへのもへじ」が書かれた人形を身代わりに使うとった生易しいレベルから、演技や催眠術その他の技術を併用するもの、ひいては自分によく似た姿の子供を探し出しておいて育てておき、有事に影武者として捨て駒にするといった所業は、武将のみならず上忍も持っていた手段であったともいわれる。主人公を死なせておいて、唐突に「実は死んだのは瓜二つの兄弟だった」とかいうのは、リアル系忍者漫画の金字塔、白土三平の『カムイ伝』がいきなり連載最初期にやらかしてくれる(これは、今なら連載が予定外に長引いた等といった事情が考えられるが、現在となっては想像する他ない)。こうした別人を用いた「影分身」と呼称するものは、白土漫画には他にも『忍者武芸帳』『サスケ』などに描かれるが、ここから他作品の例として実体を伴ったものなど上位の分身を影分身と呼称する場合も散見される。
もっと手近に「分身の術」として想像されるもの、同一人物の映像(または実体)が隣に出現する、といったものは、上記のような説話から発展した側面もあるだろうが、いわゆる忍術には直接にその元ともいえる技も存在する。薬物や、鏡・水などを用いた巧みな光の手品の幻惑、例えば光の屈折をうまく用いれば、一瞬にして自分のいる場所がずれたように見せることができ、タイミングによっては虚像を作るような効果が得られる。光によって直接に目をくらましてその間にトリックを使う法、闇の中で光源を切り替える法、また複数の組み合わせも数多く考えられる。忍者の活躍した時代は、映像などは無論身近でなく、迷信も深い。それに対して、新陰流(これも忍術に通じるが)の刀法の嵌め手に見られるように、心理術や幻惑のトリックの追及は、当時の世界の知識技術の最先端に比較してすらも、信じがたいほど高度である。きわめて単純な手品ですらも、最大限の効果を発揮したことは容易に想像できる。
さて、漫画などでは、忍術に限らず武術全般にいわゆる分身、虚像を作り出す技が登場することがある。純粋に肉体技能として分身を実現するその原理はさまざまだが、最も主要なひとつが、『ドラゴンボール』の序盤に登場した「残像拳」のように、高速移動をあえて断続的にすることによって残像を残す、というものであり、漫画等の描写の元としてはこれも白土三平の『サスケ』等を発祥とするとされるが、作中で原理が説明されていないものでも暗黙でこの原理であるらしき描写になっているものも多い。この案は、同様に分身の発想の原型やしばしばウツセミの術の類、すなわち何かの道具や一部をその場に残して身代わりとするものに近いといえる。一方で、残像を発する原理がむしろそちらに近いものになっている場合も散見する。
ドウン! F91が加速した。
と、その機体全体から発した光の雲のようなものが、ムラッと光の塊になって発した。
その影は、F91の機体の形そのものになって空中に残像となり、それが、直進するF91の航跡となって列を為した。
ビシューン! ギャン!
地上に装甲する円盤と、ビルギットとF91を追ったバグの中から、その残像を感知したものが攻撃行動を起こした。
...シーブックは、その時はじめて残像現象と敵の円盤型の兵器との関係を目撃した。
メカニックマンのグルス・エランの言っていた金属粒子の剥離現象のことと、レアリィ艦長代行から報された母モニカの最後の伝言を思い出していた。
『質量を感じさせる粒子なら、あの兵器のセンサーには、実態と感知されるのかもしれない』
(富野由悠季『クロスボーン・バンガード』)
一方で、高速移動のみによる残像分身という案は(そうした説明にはなっていなくとも)原型は昔から見られるもので、例えばふたたび『カムイ伝』であるが、抜け忍カムイの「変移抜刀霞斬り」は、フットワーク等によって目くらまし(単なるフェイントの一種とみていい)をかけながら突進するが、これが後出の漫画にあてはめれば、横方向の分身の表現のようにも見える描写になっている。こうした原理の場合、残像自体は映像にすぎず攻撃能力を持たないとしていることが多いが、分身の方も攻撃力を持つかは原理によって様々である。
古いゲーム(肉体能力系はそうした怪しげな能力を持っていないという前提であるもの)では、魔法使い系の「呪文」であることが多いが、幻影を作り出す呪文で代用できるにも関わらず、なぜか自分と同じ幻影を作るという呪文は、D&D系であれT&Tであれゲームブック『バルサスの要塞』『ソーサリー』『パンタクル』であれ独立に準備されていることが多く、分身という術が妖術としてポピュラーであることを物語っている。無論、(近接戦クラスではないためもあってか)上記の格闘家などが使う最高レベルの技のような強力な効果は持っていないことが多く、使用にはそれなりの工夫を要することが多い。
その他:*bandでは[変]のクラス忍者の「忍術」の最高レベル(とはいえ41だが)のものに「分身」がある。これは、半々の確率で攻撃が無効化するというもので、ゲームデータにおいて「分身の術」、ことに残像によるものを表現する処理法としては、数多くのゲームにおいて最もポピュラーなものである。しかし、処理が同じというだけで*bandのものは具体的な原理や分身自体の詳細は定かではない。終盤の忍者を非常に強力なものとしている、数々の要素のひとつといえる。
憤怒のトライデント The Trident of Wrath 【物品】
アルダ世界のマイア(下級神)、波頭の主オスセの武器として設定されている物品であるが、トールキンの記述にはそうした武器は登場せず、*bandにおける創作物品であると考えられている。
オスセは水の王ウルモ(上級神ヴァラールの一体)に従属するマイアールの一体で、わたつみの妃ウィネンという女性神格マイアと対をなし、この二体で海を司る。アルダでは、エルフやヌメノールによって海への信仰が強いこともあって、彼らはマイアールの中では旗手エオンウェ(→参照)についで有名な存在であるとされる。
アルダにおいて、海が荒れ狂うのはオスセのためであると言われている。というのは、オスセというマイアは非常に猛々しく、実は創世前後にはメルコール(→モルゴス)の虚言に従って海を荒らしていたことがあった;その後、完全に改心してウルモのもとに従属したものの、荒々しい性質は直らずいまだに荒れ狂うのが、海に起こる嵐であると言われる。それに対して、荒れる海を抑えるのが妃ウィネンであり、船乗りたちはウィネンをヴァラールにも劣らないほど敬愛する一方で、オスセに対しては尊敬こそするものの、運命の頼みにしたりものを願ったりはしない。民間信仰に見られるような変わった性質を持つマイアである。
ICE社の詳細なRPGデータでも、オスセの槍のデータはなく、そもそも武器を持っていない。また*bandの解説には「邪悪・軍勢と戦った」等となっているのだが、ICE設定のオスセのデータは魔術師系である。ウルモにも言えることだが、トールキンの原典でもアルダ世界の「水」に関するアイヌアは、他のヴァラールやマイアールのように古代多神教のような「擬人化された五体をもつ肉体をそなえた」神ではなく水に存在が拡散した、より概念的な性質を思わせる神格となっている。ICE社の設定でも、(カラズラス山の精霊がキャラクター化されているのと同様に)オスセは戦士のマイアというよりは、純粋に精神的な精霊に近い存在なのだろう。
*bandでは「憤怒のトライデント」は[V]以来通じて存在する。Wrathとはオスセの一時荒れ狂った性質から採られているのかもしれないが、あるいはwrathは「憤怒」よりは、嵐、海が荒れ狂うニュアンスに近いと思われる。ヴァラたちの武器に次ぐ攻撃力と、破邪等のひととおりのスレイング、明暗耐性に祝福と、かなり強力なものに属する武器で、レアリティもさほど高くないため、しばしば最終武器直前あたりに使用されているのが見られる。マイナーな物品が多く他の出典のものに差し替えられている[Z]系でも、どういうわけか通じて同じ名前のまま残っており、データとしてもだいたい準ずるが、ここでは「混沌」属性が追加されているので(オスセの性質にはさらに近くなったと言えるのだが)一気に使いにくくなったとして避けるプレイヤーが増えたのか、かなり使用例が減っているようである。
→水の王ウルモのトライデント
ベガ M. Bison 【敵】
闇の格闘王。対戦格闘ゲーム『ストリートファイター』シリーズのいわゆるボスキャラのひとり。格闘ゲームのブームを呼び起した同IIをはじめとしてストーリーの中核をなす、悪の秘密結社”シャドルー”の総帥であり、強力な「サイコパワー」を操って戦う。身長182センチ、B129, W85, H92, 体重ヒミツ(後述するが3サイズともども事情により一定しない)、好きなものは世界征服、嫌いなものは弱い・情けない部下。
その服装は軍服風にマントと、戦前の日本やドイツの将校のようでもあるが、別にシャドルーという組織がそうしたモノというわけではなく、単にベガのモデルが『帝都物語』の加藤保憲(近代日本の軍人だが、あらゆる東洋呪術に通じた魔人)、特に映画版で嶋田久作が演じる加藤(ベガの直接のデザイン元自体はその影響下にある漫画『力王』の鷲崎)であるためと言われている。さらに加藤保憲の原型は、原作者(荒俣宏)によると平安時代の陰陽師・賀茂保憲と、1960年代の米国TVドラマで探偵『グリーンホーネット』の助手、東洋人の拳法の達人・カトー(映画デビューする前のブルース・リー(→龍争虎闘)が演じた)だが、加藤保憲の服装(つまり、ベガや鷲崎の扮装の原型)は、直接に『グリーンホーネット』のカトーのものを意識していると思われる。
ことに、『ストII』のテレビCMの映像など映画の加藤そのままのこともあったが、後のイラストでは(後述する映画版の影響もあり)きわめて屈強なごつい外見になったりと、必ずしもそれのみ踏襲しているわけではない。
ベガはシャドルーと戦う軍や警察のキャラクターたち、また結社としてのシャドルーが多くの格闘家を戦力として引き入れようとする(主人公リュウに対しては、ベガ本人が次の肉体の器として狙っているという目的がある)などの事情を通じて他のキャラクターと関わる。
ゲーム内ではサイコパワーによるオーラをまとい、空中に浮揚するというもので、格闘ゲームにおける「ボスキャラ」の姿の典型のひとつを作ったといえる。キャラとしても非常に強力であったが、後のシリーズではボス的存在が別のキャラ「豪鬼」に移っていったためもあり、「強いが癖のあるキャラ」的に調整されたバランスになっている。
なお、海外版や映画ストリートファイターでは「ベガ」ではなく「M.バイソン将軍」に名前が変わっている。これは、Vegaがこと座のベガ星(織姫星)など女性的なイメージも強い名であること、ボクサーのM.バイソンを実在のボクサーのイメージからずらすためなどの理由で、四天王と呼ばれる主要悪役キャラらの名前をシフトさせているためである。海外版ではベガという名は日本でのバルログ(仮面貴公子)の名前になっている。
*bandでは[変]からユニークモンスターとして追加された。40階という中階層ユニークになっており、強さも相応のものだが、格闘ゲーム界でも最重要キャラと呼ぶに等しい割にさほど深層でないというべきか、逆に1キャラとして普通に倒せるのが相応というべきかは定かではない。
コメントに、KICK:18d2が2回+KICK:30d1が1回+CRUSH:FIRE:8d8が1回が「ダブルニーなんとか→ヘッドプレス→サイコクラッシャー」に相当する、というものがある。ベガの格闘ゲームでの必殺技のうち、「ダブルニープレス」は前方に回転しながら両脚を振り下ろす技、「ヘッドプレス」は相手の”頭上”へ飛び上がり蹴り下ろす技、「サイコクラッシャー」は全身にオーラをまとって突進するというベガの代名詞的な必殺技(何段階かの強さがある)である。魔力の矢とショートテレポートの能力を持っているため、いかにも格闘ゲームのボスキャラらしい動きをする。
ペガサス Pegasus 【敵】
「ペガサス」のみで「鳥の翼を持っている白馬」の普通の呼称のように使われることも多い。しかし、元のギリシア神話には天馬、さらに同じ形態とおぼしきものが他にもいくらか登場するが、一般に「ギリシア神話でのペガサス」とはポセイドンとメデューサ(→参照)の子であり、メデューサが斬首された時にその切り口ないし血から生まれた個体の名である。なお、ヘシオドスによると同時に生まれたクリュサオル(黄金の剣の意)も、天馬という説も、名が示す別の形態という(特にゲームなどで解釈が採られる)説もある。神話では英雄ペルセウスやベレロポンテスの乗騎として有名であるが、神話の詳細、また「ホワイトベース級なのかペガサス級なのか」「他は技が星座と何か関係あるのに流星拳や彗星拳やローリングクラッシュに関しては何がペガサスなのか」といったペガサスに伴う諸々の論点に関しては各専門サイトを参照されたい。
元々が天馬の一般名詞化していることもあり、創作説話、またRPGなどでも特に固有名詞ではなく、多数存在する種(種族)として登場することが多い。例えばD&D系では、ギリシア神話のユニーク個体を一般のモンスター種族化する例にもれず、またその能力は飛行能力以外は普通の軍馬より若干強い程度でしかない。さらにAD&Dでは、これも種族化しているメデューサを斬首した場合、そこから5%の確率で「グレーターペガサス」が誕生する場合があるが、2レベル強いだけである。なお、それ以外の普通のペガサスは「卵生」である。以降のRPGでは、特にTRPGではいわゆる幻想生物であることから、やや格上の中級モンスターとしていることもあるが、天馬一般、もとが英雄の乗騎で敵として襲ってくるモンスターらしくないことから、敵としての登場自体がないことも多い。むしろ登場人物などの乗騎や小道具としての登場例が多いかもしれない。
*bandでは元々[V]や[Z]にはおらず、主なところでは[変]の追加モンスターである。さすがに馬よりもかなり強靭な存在になっているが、特殊能力は飛行以外特になく、さほどスピードが速くないこともあって、動物モンスターとしては位置づけの割にはそれほど強力ではないかもしれない。
ベクナ Vecna, the Emperor Lich 【敵】
エンペラー・リッチ。不具の王、秘め隠されたる物の主。D&D系の最初のワールドセッティング、World of Greyhawkの代表的な、もといD&Dシリーズをも代表する悪役。
旧版から通じて、ヴェクナの行う陰謀との戦いは、いくつかの公式シナリオ(モジュール)の重要なテーマであり、Greyhawk世界のみならず、他のワールドにも影響したり、また悪役の集うRavenloftデミプレーンに舞台が移ったりと、D&Dシリーズ全体にとってすら、常にファンの注目の焦点となっている。(ただし、シナリオ自体は無茶な展開の不評がしばしば聞かれる。)
ヴェクナはOD&Dの当初から初期AD&Dの長い間、アーティファクト(しなびた手と目)の設定に「古代のリッチ」として名前が現れるだけであったが、その後にGreyhawkの設定が整備されると、半神Demigod(NetHackで昇天直後のプレイヤーキャラクターと同じ位階)、ついで最近の版では一段階高いLesser Godと化しており、Greyhawkの神格(魔術、知識、暗黒を司る。自身はリッチだが、特に死の神ではない)のひとつとしてD&D3eの基本ルールブックにも記述されていたりもする。旧版の半神時代はわずかな信奉者以外には単に古代のアーチリッチの名として認識されている状態であった(駆け出しの神格ならば、故郷のワールドではその程度かもしれない。が、Forgotten Realms世界の、和訳もされた『シャドゥデイル・サーガ』の主人公たちが、いずれもTime of Troubleのどさくさに紛れてGreater Godの位を掠め取ったあたりに比すると世知辛い話ではある)。が、現在は信者は数は相変わらず少なくとも、Greyhawk世界に広く分布しており、下級神ながら、単身で他の神をすべて滅ぼし支配者となることを目標とする陰謀を続けている神である。
ヴェクナ神は顔が隠れたローブの霊体の姿として描かれるが、真の姿は片手と片目がないリッチである。それはかつて神ではないリッチであった頃、腹心であった吸血鬼の将軍カースに背かれ、片手と片目を切り取られたためである;このあたり、例によってムアコックのコルム、アンバーのコーウィンに後半シリーズのコーラルといった面々や、その元となったケルト神話をいやでも連想するが、どう見ても何も関係ないので、特にリスペクトでもオマージュでもパクーリでもなく、深い意味はないような気がする。その切り落とされた「ヴェクナの手」「ヴェクナの目」は、D&Dシリーズでも最も著名な品らであり、基本のルールブックにアーティファクトの実例を説明するための代表的物品として、各版を通して挙げられている。
なお、Vecnaとは、Vanceのアナグラムであり、その著作がRPGファンタジーの祖型のひとつとされる作家ジャック・ヴァンスに由来する(D&D系では初代デザイナーのガイギャックスが特に愛読した作家であり、呪文のいわゆる「記憶スロット制」もヴァンスの『終末期の赤い地球』によっている)。
*bandでは[V]から登場する、AD&D独自のモンスターおよびユニークの一体としてシリーズを通じて入っている。前述のように、ヴェクナはOD&D〜AD&Dの長期間、アーティファクトに出てくる名前の設定しかなく、細かい設定やGreyhawkの神性に加えられたのはかなり後であるため、この[V]の設定は開発時期から考えて、当初のアーティファクトの名前のみから採られ、想像されたものである可能性がある。とはいえ、どのみち神でもそうでなくても区別なく敵として登場する*bandなので、どちらでも大差ない話なのかもしれない。しかしながら、[V]の思い出訳の「彼は…秀でたずる賢さと強力な魔力を持ったモンスターだ」というくだりは、その脅威や立場の設定を認識せずに訳された(「モンスター」などという語は原文にはない)ともおぼしき節がある。72階という一線級の階層だが、このあたりの階では、肉体能力・魔法能力にどちらか片方のみ最強級の能力を備えたユニークが多いのが特徴と言える。ベクナも接近戦ならば勝算が高い(なぜか、アーマークラスはノーマルの「アーチリッチ」より悪い)とは言えるので、戦術や状況が大きく物を言う。
ヘズロウ Hezrou 【敵】
ヘズロウはD&Dシリーズのモンスターであり、デーモン(「混沌にして悪」の悪鬼)のうちタナーリと呼ばれる中上級の一種である。AD&D 1stの最初期には「Type IIのデーモン」となっていたデータだが、事情による名称変更で、形状の通称ないし召喚時に知らなくてはならないデーモン語の名として添えられていた「ヘズロウ」がモンスターの正式名称になっている。ヘズロウは身長2-2.5mの、背中に棘の並ぶ屈強な両生類か爬虫類じみた人型をしており、その悪臭の毒と強い素手で戦うが、例によって魔法能力なども相当に多い。D&Dのデーモンの中では、下士官として、タナーリよりも下位の大軍団の指揮官となっていることが多い。
RoguelikeではAD&Dのデータやルールを流用しているNetHack系にも登場するが、ここでは名前はヘズロウであるもののデータはかなり弱かったAD&D1stの頃を流用しているため、バルログ等に比べるとかなり劣り、魔法などの特殊能力などにも乏しい。ただしいわゆる「グレーター・デーモン」の一種であるため、呪文無効化率などは充分に持つ。
*bandでは、[V]2.8以来おもにアルダ系のバリアントに存在する敵である。決して弱いわけではないのだが、悪臭や腕力などの特徴が(同格に近いヴァロックやナルフェシニなどに比べて)特に再現されているわけでもなく、タイプVIといえるバルログに比べるとさほど記憶にも残らない。とはいえ集団で登場し、召喚能力もあるので充分に危険な敵である。
→デーモン
ベネディクト Benedict of Amber, the Edeal Warrior 【敵】
九王子。理想の戦士。アンバーの剣聖。全多元宇宙のウエポンマスター。オベロンのすべての子の長兄であり、弟らに武術を教えた。体も顔も痩せてひょろ長く、まっすぐな茶色の髪と、はしばみ色の目。
...剣は音もなく抜けて、かれの頭上に美しい孤を描き、左肩の先のちょっと後ろに傾いた恐ろしい位置にぴたりと止まった。まるで鏡の繊条のようにきらめく小筆記体のような緑の線を持つ、鋭い鋼鉄の一枚の翼のように。そうしたかれの姿が、不思議な動きをする一種の華麗な輝きを帯びた絵のように、ぼくの心に焼きついた。...
(ロジャー・ゼラズニイ、『アヴァロンの銃』)
数千年の間、あらゆる”影”・あらゆる状況で、個人戦闘、戦術、戦略を研究し続けており、それらの力は途方もない。かつてコーウィンの作った世界「アヴァロン」を守る「守護者」となっており、混沌の女王リントラを、右腕の肘から先と引き換えであれ倒すほどである(なお、実在の神話学のリントラは大天使の一人と言われ、いわゆるリリスと関係があるようである)。また肘から先がない右腕の一撃でさえ、オベロンすらぶっ飛んでしまうこともある。前半シリーズを左腕一本で活躍するが、コーウィンがティルナ・ノグスで見つけた謎の機械義手を手に入れ、……
故人を含めてもオベロンの第一子だが、母が離縁されており継承権とは縁遠い所にいる。しかし、生粋の武芸者であり元々王位継承には興味がない。コーウィンがお家騒動の話をすると不機嫌のあまり拳でテーブルを叩き割るほどである(滅多に笑いも怒りもしないが、怒るとけっこう見境がない)。もっとも、王宮について何も考えていないというわけではなく、いざとなれば発言力は強い。彼が王位に関心がないことは、他の兄弟たちからは「ベネディクトは王位を取る気になればいつでも力ずくで(オベロンからでさえも)取れるので、陰謀を企てる必要はない」という畏怖をこめた言い方で常に表現される。
基本的に善玉に見えるが、コーウィンによると、必要とあらば限りなく非情にも非道にもなれる男である(もっとも、むしろこれは語義どおりというより、コーウィンがそれほどに彼を恐れていることの表われかもしれない)。
なお、日本文化に造詣があり、後半シリーズでは日本庭園を作っている。そのため、海外のサイトなどではいわゆる「勘違いサムライ」のように珍妙にビジュアル化されていることがある。
[Z]では、九王子のうち最も深い階層に登場する。単純に攻撃力(ダメージ)だけ見れば、オベロンやモルゴスどころかサーペント以上である。また基本的に打撃中心だが、実は魔法も危険なものを一通り揃えていたりする。この階層としては防御・耐久力が低いので、いかに手早く仕留めるかである。オベロンやサーペント戦で召喚されたりすると実に大変なことになるので、何としても最終装備級を整えてからオベロン以前に潰しておく必要がある。
ベビーサタン Demonite 【敵】
ベビーサタンはコンシューマRPG『ドラゴンクエスト3』以降このシリーズに登場する敵キャラクターである。*bandが直接に参照しているのはDQ3のもので、中盤の敵にすぎないが、メガンテ(自爆)、イオナズン(爆発系の最上級)、ザラキ(死滅呪文)といった強力な呪文を唱えてくるのだが、「MPがたりない」というメッセージと共に失敗するというブラフばかりで、(特にDQ2以来これらの呪文を恐れてきた)プレイヤーを驚かせる。ただし、つめたい息のブレスを吐いてくるので、まったく無害というわけでもない。
後出のRPGには数多くの敵にこうした変り種の特徴を与えるものは(『魔導物語』(→ぷよ)を筆頭として)数多く現れるが、オーソドックスなDQシリーズでアクセント的に入っているこれは非常に大きな効果を上げていた。いまだにシリーズ中でも傑作とされるDQ3だが、その要素の中でも必ずといっていいほど話題に上る、プレイヤーらの記憶に強く残っているひとつがこのベビーサタンのブラフである。
*bandでは[変]に追加されているモンスターで、元のDQ3に実に忠実であり、実際に効く魔法としては実は冷気のブレスしか持たないが、mon_speakによって表示されるメッセージ(「○○を用いた、しかしMPが足りない」等のメッセージだけが表示される)で数々のブラフ魔法が表現されている。その内容も*bandの方に沿ったもので、サイバーデーモン・ユニーク・アンバーの王族召喚、魔力の嵐、暗黒の嵐、スターバースト、光の剣、破滅の手、無傷の球、ザ・ワールドといったものであり、元のDQの呪文よりさらに恐ろしい。ただし、このメッセージによるブラフ魔法のアイディア自体は、ユニークモンスター「それ」において[Z]からすでに存在するものである。(なお、「それ」の場合は「MPが足りない」といった表示が出ないので下手をすると本気にすることもあるさらに悪質なブラフである。)
Roguelikeでは、他ならぬDQシリーズのキャラを使ったRoguelikeの普及作、『トルネコの大冒険』にも登場する。ここでは「小悪魔」という点のみが注目されたのか、アイテムを盗み、また倒すと必ずアイテムを落とす初代RogueのNymphにあたるモンスターにされており、ブレスや偽魔法の原型はまったくとどめていない。また、食糧事情が初代Rogueより緩い『トルネコ』ではNymphとやや位置づけが異なり、必ずアイテムを落とすことから、アイテム集めの稼ぎの対象となって、矢やアイテムで乱獲されるプレイ風景がよく見られる。
なおサタンとは、悪魔の首領のことのみならず悪魔の総称でもあるのでベビーサタンという名前もおかしくはないが、DQではどちらかというと「魔王の子供」じみたイメージを表す、ニュアンス重視のためにつけられている側面が大きいように思われる。しかし[変]では後の方のバージョンから、英語名のみは、小デーモンとでもいうべきDemoniteに直されている。*bandでは悪魔が一律「デーモン」フラグであることからも、海外向けとしてはこちらの方が無難だろう。
→それ
蛇人間 Serpent man 【敵】
下級の独立種族。完全な先祖返りの場合。ヴァルーシアの蛇人間は、C.A.スミスがラヴクラフト宇宙観の古代種族として設定した、というよりも、彼らやR.E.ハワードなどの仲間達が古代幻想・伝奇などを描くための共通の設定といえるものである。人類以前に爬虫類が高い知能と文明を持ち、栄えたとする設定は初期のSFからポピュラーなものであるが、AD&DのForgotten Realmsをはじめとしてファンタジー世界の設定にも時々見られる。その場合、リザードフォークやドラゴン、ドラコニアン(そしてD&D系のコボルド)といったものとは区別される。
スミスらの蛇人間に話を戻すと、彼らは恐竜の進化や同族ではなく、地球の恐竜時代よりもさらに前に栄えた種族で、当時大都市を築いたが、せいぜい数万年前のヒューペルボリアでも依然として活躍していたようである。しかし、さすがに現代ではほとんど残存しておらず、クトゥルフ神話関連の物語の舞台は一応近代〜現代ではあるものの、現代社会においては、当時の姿のままで生き残っている蛇人間は全地球をあわせても数匹に過ぎず、あとは遥かな子孫の中に先祖返りによって祖先と同じ姿と能力のものがごくまれに出現するので、他の大半の子孫は蛇人間はおろか人間よりも遥かに劣る「小人」のようなものへと退化してしまっている。なおこれらの生粋の、あるいは先祖返りした蛇人間は、その高度な呪文能力によって、現代では幻術で人間の間に紛れ込んでいることが多いという。
完全に先祖返りした蛇人間は、直立して手足のある全体として人間サイズの大蛇のような姿をしており、またかつての文明通りの古代衣装風のローブをまとっていることが多い。
イグに仕える者が多いにも関わらず、CoCルールではイグの奉仕種族でなく「独立種族」であるのはイグの信奉者とは限らない(よく共通の物語で言及されるツァトゥグァ信奉者が多いと思われる)ためであるか、また、あるいはイグによって生み出されたとは限らないということかもしれない。
*bandでは22階のノーマルモンスターとして登場する。常に集団であり、前記の「先祖返り」した完全な形での蛇人間が多数生き残っているか、あるいはまだ絶滅していない時期というあたりの設定であるらしい。個体能力はさほどでもないが(蛇らしく打撃・魔法ともに毒を使う)モンスター召喚を用いるのが、ノームメイジ等と同様集団の敵なので非常に厄介である。あまり近寄らない方がよいのかもしれない。
→イグ
ヘビの舌 Wormtongue, Agent of Saruman 【敵】
出典:北方人(ロヒアリム)、ガルモドの息子グリマ。サルマンの間者。(なお、『指輪物語』邦訳では「蛇の舌」と漢字であり、[V]翻訳には不浄のレン氏によるその修正案コメントもあるが、何故か「ヘビ」はカナのままになっている。)アルダの第三紀、北方国ローハンの家臣であったはずだが、闇に向かった賢者サルマンの間者となり、サルマンの妖術で精神を曲げられたローハン王セオデンの側に控えて、王をその二つ名の由来でもある狡知と口車で操り、ローハンの国を思うがままにしていた。しかし、ガンダルフが王宮で「例のアレ」(→水戸黄門の印籠)を発動したため、ローハンは世直しにあってグリマは王宮から逃亡する羽目になった。
原作では「やせてしなびたような体躯に青白い顔、瞼が重いような目、いかにも知識人めいた容貌」をしている。卑劣で狡猾な性根のために、間者としてのみならずもローハン人からは嫌悪されており、無慈悲に扱うサルマンを心底では憎みながらも、取り入るほかに活路がないため、のちも彼に付き従い、さらに堕ちてゆく。原作においても、読者としては、憎らしいというよりも、非常に哀れに見える男である。グリマは生い立ちや背景に対する詳しい記述や描写もほとんどなく、役割としても、また人物としても、単なる小悪党以上の何者でもなく、秀でた点や美点などは何も無い。であるからこそ、サルマンの堕落に伴う人間的な顛末やその野心のあとさきに相まって、その野望の手足であり一部をなしていた者に、ひとつの醜くも近しい人間の像としてその姿は浮き彫りになって見える。
映画版LotRでは、まさに原作通りの不気味な姿が演じられ、その容姿と性情に対してコンプレックスを持つという設定になっており、王女エオウィンに甘言を囁く姿などが強調された。些細な点だが、映画化で要素をカットせざるを得なかった人物が多い中で、より描写に深みが増している一人だといえるだろう。
敵:*bandでは、[V]から序盤の最重要ユニークモンスターである。非常に上質な品を落とす(DROP_GREAT)のだが、危険なわけではなくともかなり倒しにくい;スピードがあり、アイテム・金貨を盗む攻撃と治癒も含めた魔法を持っているので、十分な攻撃力で早期決戦を行わない限りはなかなか倒せない。最も有効なのは、ショートテレポートで距離を取りながら遠距離攻撃で倒す方法である(プレイヤーの周りの床にトラップを生成してくるので、下手に歩いてはいけない)が、これも攻撃力が足りないと回復を繰り返され、埒があかなくなる。
トラップや悪臭雲のような魔法を用いてくるが、サルマンから習い覚えた簡単な妖術ならば使えるのか、それとも機械罠をしかけたり毒薬を投げつけたりといったトリックなのかは定かではない。
ヘビの舌は序盤の数少ないDROP_GREATの品を落とし、アーティファクトなどが出ることもあり、逆にDROP_GREATでなくとも落ちているガラドリ瓶や単なる弾薬を落としたりするとぐっとやる気が失せたりと、序盤の興味の焦点がここにある。(ランダムクエストなどの報酬のない[V]系のシンプルなバリアントでは特に重要である。)結果、彼との戦いは序盤のちょっとした山場となるといえるだろう。ロビン・フッドやナミなど、ヘビの舌を改造して作られたよく似た性質のユニークもおり、同様の対処法が有効である。
なおサルマンによると原作ではホビットを食ったともいうが、NetHackでいつもホビットを食いまくっているローグライカーならそんなことくらいで彼を責めたりはしないだろう。
→サルマン
ヘルカラクセ Helcaraxe 【その他】
ヘルカラクセのきしむ氷への入り口。ヘルカラクセはアルダの神話・伝説時代に世界の北端にあり、至福の地アマンと中つ国のそれぞれ北端を(少なくとも当時は)氷で地続きにしていた地である。ただし、「氷軋む海」と通称されるようにその寒さのみならず、常に氷と氷がぶつかりあう非常に過酷な地であり、第一紀当時ですら、ここを越えてアマンと中つ国を行き来することはたやすくないと思われる。その記述からは、おそらく陸ではなく氷山同士がぶつかり裂け、常に酷寒の海に投げ出されても不思議ではないといった土地であるに違いない(なお、アルダのこの時代の訳もLotR映画版同様の字幕の女王にやらせると、この下に安全な「北極大陸」ができてしまうような文字通りの悪寒に襲われたが気づかなかったことにする)。
アルダ史においては、メルコールが二本の木を破壊してアマンから逃亡し、中つ国のアングバンドに舞い戻る際、ウンゴリアントと共にこの氷を渡っていったといわれる。また、さらに有名なのは、メルコール(モルゴス)に復讐するため中つ国に渡ったノルドール(上のエルダール;ハイエルフ)のうち、指導者のフェアノールは自分の一族だけ船で渡りあとの者に残さなかったため、弟フィンゴルフィンと甥フィンロド、姪ガラドリエルに率いられた一族は、この過酷な氷を渡っていかなくてはならなかったというくだりである。(なお、トールキンの準備稿や物語稿以後のガラドリエルに関する変更案(UT収録など)には、ガラドリエルはこのノルドールの一群からさらに後に、ケレボルンと共に船で、ヘルカラクセではなく安全な航路を渡ったという案もある。)この強行において、トゥアゴンの妻(イドリルの母、エアレンディルの祖母)のヴァンヤールのエレンウェが行方不明になった(用語解説など別の箇所では死んだと断言されている)ことも知られている。ノルドールにせよヴァンヤールにせよ、上のエルダールらは裡から非常に強い生命の炎を宿し、大概の寒さなどはものともしないはずであるから、おそらくはヘルカラクセは寒さ以外の危険に満ちあふれていたことはこの点からも想像できる。
第一紀が終わり、ベレリアンドの北西部がほとんど水没してしまうと、当然このヘルカラクセの地域も水没し、少なくとも徒歩で中つ国からアマンに渡ることが可能な地域はなくなっていると思われる。第三紀の地図の北端、ロスソスなどの地域は確かにかつてベレリアンドでも寒冷域であった辺り(→ヒムリング)だが、ヘルカラクセに比べれば遥かに南である。
*bandでは、Pernangband/ToMEに「ダンジョン」として古くから存在するひとつで、実際のアルダ史での位置にあたる辺り、北の氷の果てに存在する(そのあたりはちょうど第一紀のベレリアンドの北端と同じような地形になっており、アルダ史の地理では少し西に行けばアマンに着く)。階層は20−40階にすぎないが、氷地形のためになかなか進行は厳しくなる。ダンジョンの最下層は「ホワイト・バルログ」に守られているが、とりあえずトールキンの物語稿にはそれらしいものはいない。
ヘルキャット Hellcat 【敵】
英語のHellcatは凶暴な猫を示す一般的な語といえるが、「悪魔」や「妖女(直接にも、比喩的にも)」の婉曲語でもあったりする。これは魔女の使い魔などと同様に魔性の生き物として膨れ上がった連想とも、ギリシアの魔女神Hecateが訛ったとも言われており、明確ではない。
D&Dシリーズでは、このヘルキャットを<九層地獄界(バートル)>に原住する生物(つまり一種のデヴィルといえる)として設定しており、これは半幽体の猫に見える怪物である。他の海外ゲームでも、しばしば半精霊・悪霊のようなヘルキャットが登場する。一方で日本のRPGでは珍しいが、登場する場合ヘルハウンドをそのまま猫にしたような火を吐く怪物であったりして、これは海外ゲームと原義のどちらを参照したか、または名前だけから創造されているかは定かではない。
しかしながら、*bandに登場するものは、それが[Z]から追加されたということと、モンスターの思い出文章(「トラと同じくらい大きくて、その黄色い目には瞳がない。」)から、アンバー前半シリーズに登場するものを直接に採っているとわかる。
これは、コーウィンがアヴァロンに近い”影”のロレーヌ(→ストリガルドワー)に向かい、この世界のランスロット卿を助けて運ぶ途中に、彼らを殺す相談をし襲ってきた、二匹の猫である。虎のような大きさだが、体の色はシャム猫のようで、瞳のない無地のサンブライト・イエローの目を持つ。人間よりも甲高い声でなぞめいたことを話したが、グレイスワンダーで斬られた。
*bandのものは比較的低階層のノーマルモンスターである。悪魔として扱われているゲームのみならず、アンバーシリーズでも、ヘルキャットはグレイスワンダーで斬られると燃え上がったという点から、”混沌の宮廷”の生物であると思われるのだが、ここではANIMALとEVILだけでDEMONフラグはついていない。ゼラズニイに限らない一般モンスターと解釈されてか、ゼラズニイ関連を外したToMEやGumBandにも残っているほか、EyAngbandなどにも登場する。ときどきヘルハウンド等からの連想から炎に関連する等と先入観を持つプレイヤーもいるようだが、特殊能力や特殊攻撃などは持っていない。しかし集団で登場し素早く攻撃力も耐久力も決して低くない典型的動物ノーマルモンスターのひとつで、この階層で集団に出くわすと危険なことが多いので多くのプレイヤーが注意を払う敵のひとつである。
ベルシエル王妃の鉄冠 The Iron Crown of Beruthiel 【物品】
ベルシエル王妃はゴンドールの12代王タランノンの王妃というが、正式な文書に残らず伝承だけで伝えられる名であるという。それでも、指輪物語原作『旅の仲間』にてアラゴルンが、モリアを案内するガンダルフの眼力を「ベルシエル王妃の猫のように」と言っているところからは、例えに使う程度には有名な伝承であったに違いない。
タランノンは海軍によってゴンドールを栄えさせた艦船王であったが、子がなく、13代王は甥のエアルニル一世がついだ。その子がなかった王妃ベルシエルは、タランノンとの間にまったく愛がなく、海も嫌っており(なぜそうなのかといった詳細は、そもそもがトールキンの手書き草稿しか残っていないので不明である)首都オスギリアスの殺風景な一室に引きこもっていた。しかし、黒と銀をまとったこの王妃は、一説には邪悪な魔女であり、一匹の白い猫と九匹の黒い猫を操り、この猫の見ること考えることならば何でも知り、都じゅうの秘密をこの猫に探らせていた。当時の都の人々はこのベルシエル王妃の猫を大変に恐れたという。
タランノン王は最後には、このベルシエル王妃を猫と共に船に乗せて、北風に任せて海に流してしまった。この王妃が一体何をやらかしてそんな刑に処され、ゴンドールの史書からも抹消されたのか不明だが(筆者個人の解釈としては、猫なり魔女なりといった「噂話」が生じたのが、そもそも何か公にできなかったような類の所業ゆえに広まったイメージだったのではないのか)これ以上のエピソードは、トールキンの草稿としても大半が判読不能なので、この結末以外読み取れないという。
これらの情報は『終わらざりし物語』の『イスタリ』の章のさらに注釈にある。なんでこんな所に書いてあるのかというと、トールキン自身は「指輪物語中に言及されているうち、確固たる設定を作らないでおいたのは、残り二人のイスタリとベルシエル王妃だけだ」と言っているのだが、子息クリストファー教授によると、トールキンの手書き草稿だけならばこれらも存在するとのことで、二人の青のイスタリとベルシエル王妃を並べてここで記述しているのである。
余談であるが、トールキンのアルダ全史を通じて、犬は多いが猫が伝承のキーとなる場面は異常なほどに少ない。これは赤表紙本のホビット歌や、フロドが即興で作ったマザーグースの原詩、トールキンの最初期構想ではモルゴスの策士(のちにサウロンがその役となった)に猫属の王がついていたこと等を除けば、その数少ない例である。
ICE社のTRPG, MERPの設定では、ベルシエル王妃はなんとシンダール・エルフということになっている。ネックレスやブーツ、衣などに猫の名のついたものがあるが、冠のデータはない。
*bandではベルシエル王妃の鉄冠は[V]以来登場する。おそらく魔女王妃の冠ということで、「恐ろしく大きな肉体的代償と引き替えに卓越した眼力と知覚を授ける」というが、筋力・敏捷・耐久が実に25減少するかわりに、麻痺知らず・視透明、テレパシーと、さらに[変]ならば消費マナ減少などが加わる。が、特に物品が豊富な[Z]以降では、有効な冠・兜の物品は他にも多数存在する以上、これほどの肉体ペナルティー(HPが著しく下がるので非常に危険である)と引き換えにする価値があるかは難しいところである。
ベルスロンディング The Long Bow 'Belthronding' 【物品】
アルダ第1紀、灰色エルフ王シンゴル配下の二大勇士のひとり「強弓のベレグ」ことベレグ・クーサリオンのいちいの弓。(なお、二大勇士のもうひとりは「強腕のマブルング」。)ベレグはエダイン(人間)の英雄トゥーリン・トゥランバールの親友であったが、彼の手で事故により誤って魔剣グアサング(→参照)で殺された。ベルスロンディングは実のところ、ベレグが埋葬される場面に名前が登場しただけで、特に原典にそれ以上の逸話はない。
しかし、*bandでは第1紀の英雄の弓ということで、数少ない射撃武器のアーティファクトとして、[V]において強力な物品として登場する。威力そのものは「★射手バルド王の長弓」と同程度なのだが、なぜかベルスロンディングは「劣化耐性」を持つため、この耐性がかなりつけにくい[V]では、『クブラゴル』(→ブランド弓を参照)の加速+10よりも僅差でより重要とされ、射撃重視のクラスでなくとも最終装備とする場合も多い。
[Z]以降では、他の強力射・強速射などの射撃武器にもランダム耐性がつき、耐劣化の指輪などでも耐性がつけられるため、この点の重要性は下がったが、依然として射撃重視のクラスにとっては、バルド弓と双璧をなす強力な威力をもつ射撃武器である点は変わらない。
なお、[O]からのアーティファクト解説には、エルフの髪が弦に張ってあると書いてあるのだが、原典にはベルスロンディングに関してそう明記されている部分はない。ロリアンのガラズリムの弓からの発想で、おそらくはエルフの髪が様々なすぐれた特性を持ち、良い弓には使用されていると推定して加えられたのであろう。
ベレゲンノン The Mithril Chain Mail 'Belegennon' 【物品】
ICE社のMERPおよびTCGの設定において、ノルドールの上級王フィンゴルフィンの防具とされる鎧。『クゥエンタ・シルマリルリオン』には、フィンゴルフィンがモルゴスと戦う場面において、剣リンギル、銀の兜や青宝石の盾に関する記述はあるが、鎧に関するものは見当たらず、ICE社による創作のようである。
ベレゲンノンとはシンダリン語で「力ある守り」といった意味になるが、フィンゴルフィンがノルドール(中つ国の上のエルフ)の上級王であるにも関わらず、クゥエンヤではなくシンダリンの名前しか伝わっていない。これは、トールキン設定の「リンギル」もそうで、おそらくそれに合わせてであろうが、アマンで作られた上のエルフの品ならばクゥエンヤの名をもち、固有名詞はそのまま伝わるのが本来のように思われる。あるいは宝玉戦争の叙事詩(「ノルドランテの謡」など)を作ったマグロール(フェアノールの次男)が中つ国の人々に伝えるために他の名とともにシンダリンで残したためかもしれない。
MERPにおけるベレゲンノンは、白エオグとミスリルで作られ、リンギルの攻撃プラス値と同等の防御プラス値と、追加の魔法的防御効果も多数持つ相当の逸品で、TCGでもグレーターアイテムの一種である。
*bandでは、[V]やToMEなどアルダを舞台としたバリアントに登場する。数少ないミスリル製鎖かたびらをベースアイテムに持つ物品で、ゆえにレアリティも結果的にかなり高くなるが、アーマークラスは相当に高いもののだいたい基本元素耐性と恐怖耐性だけなので、早めに手に入らない限りはそれほど印象は強くない品ではないかと思われる。とはいえ、発動で777hpの回復と癒し・ヒーローの効果があるので、耐性が他の品によって余裕がある場合などは、かなり「便利な」品として重宝する。なお、EyAngbandでは、発動効果が短距離テレポートに変更されているが、これはあるいはフィンゴルフィンが、モルゴスの槌グロンドを飛びかわし続けた描写(普通はリンギルの加速の方に反映されているが)を意識してのことかもしれない。
[Z]系のアルダを舞台としないバリアントでは、ほとんど名前以外は変更がないローエングリンに差し替えられている。
→騎士ローエングリンのミスリル製鎖かたびら →リンギル →上級王フィンゴルフィンのセスタス
ベレリアンドの詩 Lay of Beleriand 【物品】
The Lay of Beleriandとは、トールキンの原稿集The History of Middle-earthの第三巻のタイトルであり、ほぼ年代順に編纂されたこの原稿集の初期の、名の通りベレリアンド地方を舞台とした伝説時代(第一紀)の物語の、創作時期がごく初期のものから収録されている。ここでのLayとは主に叙事詩・節回しの詠唱を指す古語だが、その名の通りトールキンの初期の叙事詩の形の物語が多数収録されている。
「ベレリアンド」とは、第一紀当時に中つ国の北西部(『指輪物語』における地図の北西リンドンと、それよりさらに北)に広がっていた土地で、その名は「バラルの地」を意味し、元々は西岸のバラル島とバラル湾の周辺の地の意だった。中央部はシンゴル王らシンダールの治める森林、南東にはライクウェンディ(緑のエルダール)らのオスシリアンドの森、南西にはファラスリム(キアダンら)のリンドンといった中つ国のエルダールの土地があり、主に北部の山がちや荒涼とした土地は、さらに北のサンゴロドリム(→アングバンド)を包囲するノルドール族らが軍勢を構えていた。第一紀以前、神話時代の「星々の時代」にはシンゴルらのみが住んでいたためもあって(ライクウェンディやファラスリムは一応、シンゴルを君主とする)シンゴルが表向きは「ベレリアンドの支配者」を名乗り、ノルドールらはこれを快くは思っていないものの、マエズロスの仲裁などもあって一応譲歩して発言力を認めていた。
このHoME3にも収録される数々の歌の舞台であったこれら豊かなベレリアンドの土地は、第一紀の最後の大会戦において、地中深くのアングバンドを破壊するための地殻変動によって崩壊し、わずかな土地を残してすべて水没してしまった。残ったのは例えばバラル島(多くのエルダールはここに移住した)であり、オスシリアンドであり、またリンドンである(『指輪物語』の地図で半島となっているリンドンは、実は第一紀には河で挟まれた土地だった)。ヌメノール(→参照)同様に、土地そのものがエルダールらの思い出の中だけの伝説と化してしまった土地、ということになるが、同時に伝説の重みまで水没してしまった側面もあり(「末永く安置された」はずの貴人の墓標がその後百年かそこらで水没するなど)どうも伝説時代が6世紀強しかないことを含めて、何度もトールキンが年表を書き直し未完に終わったあたりで生じた事情が若干残っているといえなくもない。
*bandにおいてはPernAngband/ToME1の歌集と、そこから引き続いて[変]の吟遊詩人の歌集の最後(4冊目)にあたるものである。Pern/ToME1当時は、その題名の通りアルダの伝説に関連した名前の歌ばかりが入っていたのだが、[変]ではかなり入れ替わっている。アルダ伝説時代はそれこそHoME3のように詩で語られることが多いのと同時に、その物語の中にじかに「歌」が直接の魔力を持つという描写が数多く、その描写に関連した魔法が多く入っている。
→吟遊詩人
変幻の魔公 Lord of Change 【敵】
ミニチュアウォーゲーム/TRPG『ウォーハンマー』のユニットおよびモンスターで、変化を司る混沌の神<ティーンチ>に仕えるグレーターデーモンである。
魔法の神でもある<ティーンチ>の上位デーモンであるためか、その姿はバルログ的な戦士めいたコーンのグレーターデーモン等とは異なり、「高司祭」「魔術師」のような印象に近い。代表的なミニチュアのいくつかを見ると、ローブをまとい、杖を持っている。しかし、その体躯はかなり異様なものである。*bandの思い出文章では、「巨大な鳥のようで、頭部は肉食の猛禽類」とあるのだが、実際のものは強いて言えば鳥人間的ではあるものの、そのフォルムはいわゆる「ガウォーク」に近く、首が胴体の上ではなくほとんど前に伸び、遥かに上に巨大な鳥の翼や、これも異様に大きく見える鉤爪の手が伸びている。実際のガウォークよりはだいぶ直立に近いのだが(YF/VF−19のガウォークや変形途中を思い出す人もいるかもしれない)人型とは到底言いがたい。首や鉤爪は猛禽と共に爬虫類も思わせ、始祖鳥を彷彿とさせる面もある。総じて、かなりのインパクトを与えるビジュアルである。
*bandでは[Z]から登場するが、ウォーハンマー系の例によってその耐久力は尋常ではない。さらにこの変幻の魔公は原典通りの多種の魔法と、さらに混乱や盲目の打撃も行ってくる(このあたりまでには耐性はあるだろうが、その打撃の威力もやたらと高い)。ウォーハンマー系のグレーターデーモンの例にもれず、相手にしないにこしたことはない。
→<ティーンチ>の火炎悪魔
ホアルムラス Hoarmurath of Dir 【敵】
第6位のナズグル(指輪の幽鬼)。極北ディアの巫術王。トールキン原作には記述はないが、RPG/TCGのICE社が設定した名・背景である。第二紀、これもICE設定の地域である極北のディア(トールキン設定のロスソスよりさらに北の森)の未開な民族の族長の家であったが、しきたりを破って同族と戦を構え、分担されるはずであった首長と呪術師の座と力を一握する。ここから同族殺し、魂を汚す者と呼ばれるようになる。北の地に勢力を拡大していたところをすでにナズグルの第2位であった東夷カムルに説得され、彼から《九つの指輪》の第六を受け取る。
カムルにもホアルムラスにも共通するのだが、アヴァリ(未開の闇のエルフ)の文明とその不死性に触れたことがきっかけで、それまでの人間のしきたりや定命に疑問を抱き、破壊者となってゆく。ヌメノールは別として、最初にフィンロドらエルダール(上のエルフ)と触れた人間らが魂を高貴なものとしていったのと対照する設定にも見える。
ホアルムラスは第三紀には呪術師としてオークの編成(おそらく「モルドールの黒いウルク」種族を作り出すにも一役買っていたと思われる)に尽力し、またゴンドールのミナス・イシルの陥落の指揮をとった。イシルがモルグルの塔となってからは、魔王やアコラヒルらと共にこのミナス・モルグルに軍を構えていた。ホアルムラスはいかにも蛮族風に屈強な体躯に碧眼、巫術師の衣装をまとい、北極熊を思わせる兜を頂いていたという。
背景を意識してか、MERPのデータでは他の多くのナズグル(戦士系のカムルとウバサを除き)が「魔術師」であるのに対し、ホアルムラスは「まじない師」となっている。武具としてはモルグルの刃の他、ドラゴンに強い'Snow Hammer'、なぜか使い手に保護色を与える槍'Hue Changer'を持つ。
*bandではICE設定に従い[V]から登場する。ナズグルの中でも果たした役割が比較的重要で、また特異な背景であるためもあるのか、第6位にも関わらず、第2位のカムルに次ぐ階層になっている(それでも、[V]系の固まった階層では微々たる差なのだが)。第3位以降が省かれた[Z]ではユニークからは外されているが、[変]には[V]と同じデータで戻されている。
→ナズグル →カムル
(防衛者)の武器 Weapons of (Defender) 【物品】
DefenderとはAD&D 1stより存在するエゴ武器(マジックウェポンの持つ属性)のひとつであり、武器の持つ魔法の力(ひらたくいえば攻撃力の+値)をラウンドごとに防御能力のボーナスに切り替えられるという特性をもつ「攻防一体武器」の特性である。それ自体は中々便利といった程度でしかないのだが、1st-2nd時代は一般にランダム生成でDefenderの武器が出てきた場合、プラス値自体が非常に強力になるので(これは、プラスがある程度以上ないとこの能力自体にさっぱり意味がないためだが)その印象が強い程度である。D&D系で有名な戦士ドリッズトの主武器『トゥインクル』が+5ディフェンダーであることくらいで、他にはさして有名な物品に付与されているわけでもない。
CRPGにおいては、例えばAD&Dの影響の強い初期の『ファイナルファンタジー』シリーズなどで「ディフェンダー」が登場したのは、この高プラス値という点に着目して、単に「比較的強力な物品」の名前として選んだと言われており、派生の他RPGなどでも防御などの特殊能力は持っていないことも多い。そのため、由来を知らなければなぜディフェンダーという名なのか見当のつきようもないのか、ゲームの解説書等で苦し紛れにでっちあげたとおぼしき「人々を守る希望が名にこめられた名剣である」等という無茶なこじつけが執筆者の苦労を余計にしのばせることもある。
*bandでは、Moria以来「(DF)」のエゴ武器として存在するが、元のAD&Dとエゴとしての意味は同じであるものの、効果そのものは別物になっている。アーマークラスが上昇するという効果はあるのだが、それよりも重要なのは、各種の「基本耐性・下級能力」がつくという点である。特にMoriaでは、ブレス等をはじめとして元素攻撃が非常に凶悪であり、また、[V]のように武器のブランドやスレイングは必須というわけではないため(これらはMoriaでは、ごく限られた機会のみに著しい効果を及ぼすもので、つまり、普段は「ない」ことがデフォルトである)重要な選択肢のひとつとなっていた(元素耐性については、どのみち全耐性「(R)」の防具を入手するまででしかないが)。
しかし*bandにおいては、打撃武器には高いベースダメージや、あるいはブランドやスレイングが当然のものとして要求されるため、防御とひきかえに必然的にそれらが得られない防衛者の武器は実質的な戦力にならず、役立つとしても、耐性を揃えられない序盤であることが多い。主に、打撃が必要ない魔法系クラスの武器であると言われるのはそれ故であるが、魔法系クラスの打撃能力がさらに減った[変]などでは比較的出番が増えたとも言われる。
剣一本さえ持っていれば、耐性も低レベルの必須能力も何もかも与えてくれるというのは御都合主義ストーリーの「ゆうしやのつるぎ」か何かのようでもあるが、*bandの戦士系クラスたるもの、それらの耐性や能力を「全部そろえる手段が防衛者の武器しかない」という状況は大変シテオクなものであるから、なんとか回避すべきであろう。
冒険者 Adventurer 【その他】
出典:*bandにおいて、「冒険者」という言葉は、モンスターの思い出文章などの一部でプレイヤーキャラクターを指す語として出て来る。日本語版[V]の翻訳を行ったしとしん氏は、英語のメッセージで多いyouをすべて「あなたの〜」と直訳すると日本語らしくない文章になってしまうことに着目し、いくつかのyouを訳さないか「あなた」以外の言葉に置き換えた。そのうち、解説内においてyouの訳語としてしばしば用いられるのが、「冒険者」という語である。
「冒険者」という言葉に対して、RPGのプレイヤーらは何を思い浮かべるであろうか。おそらく、「冒険者の宿」「冒険者ギルド」ひいては「冒険者養成学園」などに集い、研鑽し、遺跡の探索、トレジャーハンティングや持ち込まれる仕事などを請け負う一個の「職業」(RPGのクラス云々ではなく、そのまま現代語の職業、生業という意味である)の名前、というイメージを持っているプレイヤーはかなり多いのではないかと思われる。日本のTRPGの普及そのものをもたらしたといえる『ソードワールド』が、いわゆる遺跡探索者という特定の「職業」を指す言葉として特定し、以後TRPG/CRPGとわず類似した概念や描写で描かれてからは、ひいては「冒険者」とは、そういった「職業」だけを特定し、RPGのキャラクターでもなんらかの違う理由で旅/探索/行動しているもの(「騎士」や「勇者パーティー」など)に対しては呼ばない、といった風潮さえもある(なにかの冗談としか思えないが、*bandのプレイヤーキャラクターのことを「勇者」などと呼んでいた発言さえ筆者は見たことがある)。
しかしながら、元来はRPGの「冒険者」はかなり大雑把な語として使われてきた用語である。例えばD&Dや、BRPシステムの一部などではルールブック内の説明としてキャラクターを指すものとしてadventurerが頻出し、おそらくゲームで運用されること自体をすべて'adventure'と定義しているためであろう、T&Tでの「探検家」やCoCでの「探索者」などと同様、その背景に関わらず、プレイヤーキャラクターそのものを指す語である。もっとも、初期のRPGが主にダンジョン探索ゲームである以上は、言葉自体は広義であるとはいえ、いざこれらの冒険者らに目を向けた場合、やっていることは『ソードワールド』以後の職業冒険者とさほど大差はない。ともあれ、これらのゲームを意識してであれそうでなかれ、プレイヤーキャラクターをその内容如何に関わらず「adventurer/冒険者」と呼んでいる場合は古いゲームや海外ゲームの説明書などには多い。元来はRPGにおいて冒険者は「職業」ではなく、ほぼ「プレイヤーキャラクター」を指す広義に過ぎなかったわけである。
さて改めて、冒険者とはどういった存在か、遺跡探索や依頼解決を行う「職業」としての冒険者であれ、もっと広義ではあるが力を持ち困難解決を行う点では遠からぬ冒険者であれ、かれらの世界・社会の中での位置づけとはどういったものだろうか。仮に「冒険者の宿」で仕事請け負い業などを続けながら、そのまま高レベル・高名声に達した冒険者の「立場」に対する指針は、そもそもの『ソードワールド』ではきわめて少ない。そればかりか、似たような設定を受け継いだ日本のFT/RPGのうち、極端な例では、財宝探しや金次第の荒事に明け暮れる冒険者に対する「世間の評価」は、どれほど高レベルに対しても「ゴロツキ」「山師」「フリーター」「その日暮らし」だろう、と認識される場合すらある。元来、海外のゲームによっては(キャラクターメイクなどの章に)冒険者とは要は「自分の能力を試して富や名声を手に入れようとする野心家」と明記してあり、この場合、本来、仕事を請負ったりする姿も、あくまで大きな富や名声のための手段ないし過渡手段でしかないはずである。しかしながらご近所の仕事を請け負う、特に初期のレベルでの日常の姿のみが印象づけられ、本来の野心などのイメージが(漠然としている故もあって)忘れられた結果、「下等な便利人」としての面だけで定義づけられるような場合もあるのだろう。怪物等の脅威に立ち向かったり、小規模であっても人々が命を脅かされるような状況に対処する冒険者の任務は英雄的に見られて相応に他ならないものであるが、日本のTRPGでは、冒険者の任務が「フリーターの日雇い仕事」のように見られていることがあるのは、日本のCRPGよりもむしろ「TRPG」において、これらに全面的に「緊張感」が決定的に欠如している(緊張感のある世界設定を構築できないという設定的な面のみならず、システム面でも「TRPGはプレイヤーキャラはDMに贔屓して貰って傷つくことすら滅多になくまして死んだりロストなど絶対にありえない」がまかり通っているなど)ためも大きいと考えられる。
しかしながら一方で、例えば、D&D系の世界設定のひとつForgotten Realms (FR)では、「冒険者」とは(分別のないものや悪のものは山賊同然と断った上で)あらゆる偉大な権力者も少なからず恐れを抱き、善や強力な、問題解決能力をもつ冒険者は市民らからは好意で対され、また活躍を常に期待される存在であると、ワールドガイドに明記されている。この和製RPGの一部などとの、冒険者という存在の地位の認識の絶対的な差は、ひとえに世界設定のスケールと、そこからの発想の差で生じている、といえる。例えば、探索や仕事の請け負いを続けている冒険者であっても、高レベルならば、それなりの関連組織と関係(友好・敵対とわず)を少なからず持っていたり、組織の重鎮を兼業(『ソードワールド』ならば「見つける者たち」のように)していたりすることも多く、金目当ての暴力やその日暮らしとは程遠いはずである。しかしながら、レベル的に大陸有数だからといって一介のプレイヤーキャラクターに、例えば『ソードワールド』の正式の設定に記述されている国家を動かすような影響力など設定すれば、簡単に無闇な大風呂敷や独りよがり設定と化す。世界自体が(「見つける者たち」のようなデザイナー設定は可能ではあっても)高レベルのプレイヤーキャラクターに相応しい設定の受け皿としては、決して充分ではないのである。対してFRには非常な「あそび」がある。世界の存亡がかかった事件として知られる舞台(フランやバルダーズゲート、ムーンシェイ諸島)も、地図にすれば大判見開きのフェイルーン全図のうち、2センチ四方に満たない。キャラクターが縦横に動き、国家や組織を動かしても、その全図一杯にぎっしりと詰まった情報は、応じてこれも縦横無尽に動く。それが、冒険者に対する設定と行動スケール自体を可能にしている、といえる。
さらに、大陸を救うなり、その世界有数なりといった冒険者らの背景には、ムアコックの百万宇宙やゼラズニイの無限次元宇宙のような途方もないスケールが必要となる。言うまでもないことだが、力ある冒険者を描写するにはそれ相応の広さの世界、それも単なる大風呂敷ではなく相応の深み・奥行きのある設定が必要となってくる。仮に、*bandのプレイヤーキャラクターを「無限次元宇宙最大のサーペントも打倒するほどの力をもつ冒険者」として描写する場合、そのサーペント等の背後にあるスケールを書き手は把握し、消化し、背景として十二分に描写しきらなくてはならないだろう。それに失敗すれば、その冒険者も(どんなに大風呂敷の虚勢を張ろうとも)その日暮らしのゴロツキ同然の存在にしかならない、としか言えない。
その他:*bandのプレイヤーキャラクターを「冒険者」と呼ぶとき、それはいかなる位置づけのものだろうか。*bandの世界には無限の宝物があふれているが、*bandのプレイヤーキャラクターの目的はいずれも最終クエストモンスターを倒すことであり、宝物収集を目的とする等は一応除外して考える(「アーティファクト集め」を目的にするプレイヤーもいるが、他のRLやWizardry, Diabloなどに比して、不思議とその数は多くない)。初代Rogueのように、単に金貨を集める悪漢(→ローグ)というわけではなく(なおUNIX版以来、初代Rogueでレベルに対応して表示される「称号」のひとつにadventurerがある。ここではまさに初期のダンジョン探索者としての冒険者ということになる)モルゴスなりサーペントを倒すことを目的としている*bandのプレイヤーキャラクターは、探索などを行う狭義での「冒険者」らしくはない、と思えるかもしれない。
[Z]以降の設定で、なぜプレイヤーキャラクターがサーペントを倒すのかという動機は明らかになっていないどころか、こじつけの理由を見つけ出すことさえ不可能だが(→混沌のサーペント)[V]のモルゴスやGumbandのマベロードに関して言えば、明らかに「悪を打倒するため」ヴァラールなり<宇宙の天秤>なりの使命を受けたなり自覚したなりといった目的を想像するのが普通であろう。しかしながら、仮に最終クエストモンスター、しかも悪を倒すことが目的と限定されたとしても、皆その使命を受けた聖戦士とは限らない。トールキンにおいてべレン王子(→カムロスト)がモルゴスを打倒し(瀬田翁的表現)宝冠のシルマリルを奪うのが、実際は悪を倒すためでもシルマリルのためでもなく、ルシエン王女のためだったように、あるいは真の目的は倒して得られる、またはその向こうにある別のものかもしれないし、あるいは使命とひきかえに約束された別のものかもしれない。非常に空白の多い*bandにおいては、動機や目的についても何も断言することはできないということになる。結局のところ、*bandにおいてadventurerとは、上記した古いRPGの説明と同様、ダンジョンに潜るという行為、あるいは危険自体をadventureと総称し、それに晒される者をadventurerとする非常に大雑把な語義以外には定義のしようがないだろう。
北辰一刀流皆伝 ほくしんいっとうりゅうかいでん 【物品】
北辰一刀流は、江戸後期に中西派一刀流を学んだ千葉周作が伝統的な一刀流から離れて分流した流派である。北辰とは千葉の家伝の武芸であった北辰夢想流(名から察すると神道流の流れであろうか)に由来するが名以外にあまり関係はなく、内容的には中西派一刀流を徹底的に合理化し、伝統の硬化を完全にそぎ落としたものである。教育法や戦闘理論が合理化され、それまでの剣術とは桁外れに習得の効果が上がったこの流派は、江戸後期から幕末にかけて爆発的に門弟を増やし、幕末に活躍した非常に優秀な剣士を大量に輩出したばかりか、その理論は現代の剣道の礎ともなっている。
詰まるところ北辰一刀流は、優れた大流派であることは疑いないが、およそ古流と呼ばれる中では「秘伝・神秘・必殺技」云々とは最も縁遠い流派であることはそれ以上に疑いもない(そも、そうしたものを排斥する目的で作られた流派なのである)。しかしながら一般に、北辰一刀流が「『古流』剣術の究極」ひいては「その免許は秘伝・秘奥の極致」などと信じられることが多いのは、幕末の数々の名剣士の活躍、特に坂本竜馬とそのずば抜けた人気の高さから、「古流」の中での並外れた知名度の高さによると考えられている。
(まったくの余談であるが、坂本竜馬は北辰一刀流に関しては伝書類で確実に残っているのは長刀(薙刀とも言われるが、武器の総称的で総合武術等と採る向きもある)の目録のみであり、桂小五郎を破って日本一になった試合云々に至ってはこれが判明していなかった頃の司馬遼太郎の虚構である。現在、坂本竜馬の名を、少しでもその手の勉強をしている人達の間で歴史上の「強豪剣士」について語る際に出そうものなら実に大変なことになるので注意。)
また千葉周作自身も神聖化されている面があるが、実際は当時の真の強豪らに比べれば特に不敗でもない(むしろ、当時の大流派のヘッドの中では「弱い」方に入るだろう)。千葉周作の傑出した点は剣技以上に、理論者、教育者としての頭脳であったと言える。
上記したように、一般、特にアニメ・ゲーム系には北辰一刀流、ひいては「免許皆伝」(本来は江戸時代ならば皆伝でようやく師範代である)という語が神秘視されていることをあえて反映してか、[変]では剣術家の武芸の書の最高レベルの品の名に[北辰一刀流皆伝]の名がとられている。上記した実情を知らずとも、[五輪書]より上の時点で既に首をかしげる意見も見られるが、とりあえず、このくらいは笑い飛ばせるくらいの方が、[変]の節操のない世界観をより楽しむことができるだろう。
ボクラグ Bokrug 【敵】
旧支配者。クトゥルフ神話の原点であるラヴクラフトの著作のうち、ドリームランド(夢から入ることができる異世界)を舞台にした『サルナスの災厄』に登場する小神。ドリームランドのイブという都市において、その住人である、マカロニほうれん荘のきんどーさんのような面構えの小型ヒューマノイド「イブの怪物」たちによって崇拝されていた。体長3.6メートルほどの青銀色の大きなイグアナのようで、顎に禿げかけのヒゲのような触手がまばらに生えている。本当の冷血動物のように非常にのんびりしていることもあり、とうてい強そうには見えないが、実際に旧版CoCルールのデータでも、標準的な人間くらいの知能と、どう見ても少し強め奉仕種族くらいの肉体能力しかない。
ボクラグを崇拝していたイブの怪物は、ドリームランドでも指折りの大都市サルナスの住民らによって絶滅した。そのため普段は温厚なボクラグが荒れ狂い、サルナスを一夜にして壊滅させた、というのがこのトカゲ旧支配者の唯一のエピソードである。が、CoCではこの能力で一体どうやったのかという疑問がしばしば口にされる。
なお、ドリームランドの住人はラヴクラフトの外なる神や旧神、または現実地球の旧支配者を礼拝していることが多く、ドリームランド固有の、しかも旧支配者(巨大生物)というのは非常に珍しいという。
*bandでは33階という、CoCルールで旧支配者となっている(ダゴンなどは違う)ユニークモンスターとしては最も低い階層で登場する。古代ドラゴンくらいの肉体能力しかなく、また同じシンボルを引き連れて登場、同族召喚魔法なども使用するのだが、少し早めの階層で出たりすると'R'というのがほとんど暗黒トカゲなどの非常に低階層のモンスターばかりになってしまうことも多いので、かなりへぼい登場のしかたになることも多い。CoCルールでは同族ではなく、「イブの怪物」の亡霊を伴って現れることが多いが、これはアンデッド召喚能力で表されているようである(しかし、当然ながら出てくるのは無関係のアンデッドばかりなのであまり表現されているとは言えない)。精神攻撃や水ボルトなど中々強い攻撃も持っているのだが、後々悩まされるクトゥルフ系ユニークの先鋒の存在感を発揮しているとは言いがたい。
星の精 Star vampire 【敵】
下級の独立種族。不可視の吸血鬼。H.P.ラヴクラフトの弟子ロバート・ブロックの『星よりの召喚者』に
登場する、「異なる物理法則で形成された」「不可視の生命体」という、かなりラヴクラフトのテイストを思わせなおかつ非常にSFホラー的な存在である。「炎の精」と混同されがちだが、ほとんど関連性はない。
人間の身長かやや大きいほどの直径の、脈動する触手でできた「毛玉」のような生物で、吸血のための吸引器官がある。それらの器官は全身が真っ赤である、というよりも、地球の生物の血を吸った時に、その血の色でしかこの種族の姿は見ることができないため、そうとしか言いようがないのである。「視透明」などの能力によって(CoCルール的には、イブン・グハジの粉などを用いた時に)どう見えるかは定かではない。姿は見えないが、何か人間がクスクスと笑うような音を立てるのでそれと知れる。(新版CoCルールブックには、獲物への期待から笑っていると書かれているが、そういう問題とも思えない。)
知的生物というより、知られざる宇宙の法則で形成されたなんらかの「存在」であるが、魔術師(クトゥルフ神話的にはこういう言い方をするほかにないのだが、本来はそれらの知られざる宇宙法則を理解し利用できる知識・技術者のことである)によって宇宙の彼方から呼び出し、奉仕することができる場合がある。血をもつ地球の生物に対しては非常に貪欲で、派生作品などでは動物の大量失血死のような超常現象は星の精の仕業となっていることもある。
*bandでは[Z]系のクトゥルフ系モンスターの一種として登場するが、35階という中レベルでクトゥルフ系ノーマルモンスターとしては割と危険な方であるといえる。例によって階層以上にしぶとく、吸血攻撃も厄介だが、それ以外には特殊能力や呪文などは持っていない。ブロックの原作では吸血能力からVampireという名がついているだけで、アンデッドではないが、当然ながら'V'シンボル故に吸血鬼系の召喚によって出現することもある。
ボーダイル Boadile 【敵】
ロジャー・ゼラズニイ『我が名はコンラッド』で描かれる未来世界の野生動物の一種。『コンラッド』は異星人との戦争が繰り返されて環境が変わり果てた未来の地球が舞台で、ギリシアの伝承のような怪物たちが闊歩する大地、などと裏表紙や広告には書いてあるが、実際はまるででたらめな生物らも同じくらい闊歩している。ボーダイルは一言で言えば、ダンゴムシのような形状と体格を持つワニである。体長40フィート(約12m)で1トン火薬の衝撃でもそう簡単には倒せない。この時代の地球ではよく知られている生き物のようだが、「足が何本あるのかは」コンラッド一行の誰も(有能な生物学者のジョージも含め)知らないという。異常な変異によって生まれた生物で、個体ごとに足の数が定まっていない、という設定なのかもしれない。あとでコンラッド一行を襲ったものは2ダース(左右に1ダースずつ)の足があった。コンラッドはゼラズニイの主人公にもれずこれと素手で取っ組み合いになる。
*bandでは、ゼラズニイが取り入れられた[Z]および[変]において登場する。特徴としてはまずレアリティがかなり高いことで、これは変異種であるためあくまで[Z]世界では普通の動物より少ないという見解であろうとも思われる。またシンボルが爬虫類の'R'などでなく、クモ類の'S'になっているが、これは足が多いことからのみ選択されたと思われる;一応見かけはワニではあるのだが、ジョージによると「爬虫類なのはほぼ断言できるが(中略)ワニ目という説に賛成」といったもので、つまりこの見かけにもかかわらずさっぱり確定されておらず曖昧な生き物であるため、見かけの方をシンボルとして採ったと思われる。
しかし、このレアリティの高さと、原作通り水辺に登場すること、'S'シンボルの組み合わせが*bandにおけるボーダイルの微妙なバランスを生み出している。さほど能力自体は極端に高いわけではないはずなのだが、水辺に出てくるような非ユニークの'S'シンボルにはそうそう強敵がおらず、またレアリティがかなり高いので普段からボーダイルであることを警戒されることも少なく、結果、警戒を怠ってこのボーダイルに手ひどい目にあうことも多いようである。極端な特徴がなくとも、出現頻度やバランスによってプレイヤーによく記憶されるモンスターとなっている例である。
ボダック Bodak 【敵】
ボダック BodakとはAD&Dのモンスターであるが、スコットランドの悪霊Bodach(日本の幻想関連の記述では「バダッハ」と表記されていることがある)の名をもとに翻案されたものといわれている。Bodachとは古スコットランド語で「年老いた男」を意味するが(Boogeymanと似たものといわれ、またボーグルやバグベアといったゴブリン類の語源との関連も指摘される)これは「子供が想像で作り上げる悪霊」を指すといわれ、定まった形態や性質を持たないが、骨ばった姿とマント、素早い動きで子供をさらうといった姿とされる場合もある。
AD&Dのボダックはこの発想元をわずかにしかとどめておらず、なんらかの「強力な悪の力」によって人間が破滅したさい、そのなれの果てが変形(へんぎょう)するといわれるモンスターである(人間以外の生物がボダック化する場合もある。D&D3eではアンデッドとされる)。そのため、悪の外方次元界、<奈落界(アビス)>などに存在しそこから物質界に来訪する場合も多いが、<奈落界>で破滅したものが再構成された、一種のデーモンでもあるともいわれる。後の版では死のデーモン・プリンスのオルクス(NetHackではオーケス)と関係があるとされていることもある。その姿は戦隊物の悪の戦闘員のような全身黒灰色のウェットスーツのようになってしまっており、顔が縦に妙に長くなっている。知能は低いが、人間であった頃の記憶がわずかに残っている。中レベルモンスターに過ぎないが、もとのD&D系で最も特徴的で恐ろしい点は「即死」の効果のある凝視攻撃を行うという点である。これで殺された人間は、例によって1日以内にボダックに変形する。中レベルのD&D系プレイヤーにとって、かなり印象の強いモンスターである。
*bandでは古い[V]2.8から引き続いてほとんどのバリアントに存在し、アンデッドのフラグはなくデーモンだけがあり、また火炎の打撃や魔法があるという、AD&Dとは異なるものになっている。最大の特徴である即死攻撃が再現できないので(ただし、経験値吸収の凝視攻撃がある)<奈落界>のデーモンという背景のみから、あるいは悪霊という原型から創作されたとも思われるが定かではない。
ボ帝ビル Boty-Buildeng, the emperor 【敵】
ビルダー帝国皇帝。8ビット時代のコンシューマゲーム機、PCエンジンのシューティングゲーム『超兄貴』のラスボス。銀河ボディビルコンテスト十連続グランドチャンピオンにして宇宙神も相手取る究極のボディビルダー。身長32メートル、体重82ポンド。(明らかに密度が薄すぎるが、これは龍力(ろんり)学的に言えば韻度がほとんどなく念度が非常に高いためと思われる。)
ボ星の支配者ことボ帝を名乗ったビルは、全銀河の「プロテイン」を掌握すべく周囲の星々に侵攻を開始する。しかし、ビルのかねてからの好敵手であった宇宙神のひとり「イダテン」(できればこんなことに触れたくはないが、しかしすべては映画FotR日本語版字幕の災禍のために断っておかざるを得ないが、アラゴルンとは絶望的なまでに関係ない)が、ボ帝ビルの野望を挫くために立ち上がる。そしてイダテンを兄と呼ぶ頼もしい舎弟ら、以後シリーズの顔となり抜群の知名度を誇る(というか一般には彼ら二人以外ほとんど知られていない)二人のマッチョダンディが「アドン」と「サムソン」である。彼らはグラディウス型の縦方向シューティングゲームとしては「マルチプル」に相当する存在であり、故に、イケメンがポージングを決めた二人の筋肉男を文字通り周囲にくっつけて同様のノリの敵をなぎ倒してゆくという、いったん文章にしてはみたものの改めて言語を絶する画面がそこには現出する。
あ、兄貴ぃぃ! もう駄目だぁぁぁ!
当時、CD−DAによる音声=キャラクターボイスを使用できることで完全な「ギャルゲヱマッシイーン」と化していたPCエンジンという機種にこうした性質のゲームが投入されたその背景に関しては、その考察は到底筆者ごときの手に余るため専門のサイトを参照されたい。なお「イダテン・アドン・サムソン」のかわりに「女神ベンテン(リブタイラーのアルウェンとは一切関係ない)と天使ミカ・エル」でプレイすることもできるが、主人公側が表面だけ繊細になったからといってゲームの濃さに対しては何ら根本的な解決をもたらさない。このシリーズはこんなあるのかないのかわからないような設定を引き継ぎながら様々なハードウェアで存続してゆき、存在自体が一発ものだったせいか、決して低くないゲーム性の部分以上に、色物としての評価でかなりの地位を得ている。なお[変]の指輪のエゴ「究極無敵銀河最強」は別に厨設定ネーミングセンスからではなく、超兄貴シリーズのタイトル(とラスボスの1人)から採られているものである。
さてボ帝ビルの必殺技である「ボ帝ビルカッター」とは、莫大な筋力を秘めて引き締まった腹筋の割れ目が激しく収縮して、デビルカッター等でもおなじみの半月状の真空光輪(リング・スライサー)を放つ猛攻撃を行うというものである。*bandではこれが「破片のブレス」として扱われているが、他の破片ブレスを飛ばすモンスターに対して「破片というのは一体何の破片を飛ばしているのか」というしばしば生ずる疑問に対するひとつの答えであろう。破片攻撃とはすなわち内なるエネルギー、汗臭さの文字通りの結晶という説である。
焔の一撃 Flame Strike 【その他】
[Z]系のカオス魔法であり、[変], ToMEともに[ハルマゲドン大全]に入っている呪文で、すなわち「メイジ系攻撃呪文」のひとつであるが、これは元々AD&Dにおける聖職者系(プリースト呪文に近い)だったものである。
D&D系の聖職者の(ドルイドや戦のクレリックは除き)共通呪文には直接攻撃に使えるものが希少であるが、これはほぼ標準的宗派の聖職者が使えるものとしてはさらに数少ない(謎のフォースなどではなく)直接攻撃を行うもので、ほぼ敵一体の範囲を包む火炎の柱が天から下るという、いわゆる「裁きの炎」のイメージといえよう。触媒(マテリアルコンポネント)はリンの粉である。しかしながら、その破壊力自体は実にヘヴォゲなもので、全般魔法使系のファイヤーボールよりかなり低い固定ダメージしかない。純粋な火炎攻撃であり、聖職者系にありがちな「不浄なものに効果が大きい」等も別になかったりする。しかも、同レベルの呪文スロットに死者復活や致命傷治癒など非常に重要なものが揃っているため入れる空きがない。それでも、本当にいざという時のために(D&D系の高レベルゲームはあらゆる苦境に対する「状況対処能力」が必須であるから)無理矢理この呪文を用意しておきたい衝動にかられるプレイヤーは少なくなかった。なお、Wizardryのプリースト呪文'LITOKAN'が呪文レベル、ダメージともに完全に同じデータである。(ちなみに、D&Dでも3ed以降はうって変わって攻撃範囲もダメージ上限も跳ね上がり強烈な攻撃手段となった。聖職者の直接破壊呪文自体が他にも増えているのだが。)
こんな影が濃いのか薄いのかわからない呪文であるが、[Z]において特にプリースト系でなく、メイジ系の方に入っているのは、要するに「カオス魔法」に入れる大量の直接破壊魔法のネタが尽きて、D&D系の聖職者呪文からも引っ張ってきたものと思われる。自分を中心に半径8(対象を指定できるが効果は1体のD&D系とは異なり)の火炎を作り出すもので、[変]では[Z]より遥かにダメージ量が大きいが、どのみち中盤以降の呪文であり、火炎耐性のない、しかも近距離でなくてはならない敵にどれだけ有効に用いることができるかは疑問である。ネタ埋め的な魔法の割には、それなりのバリエーションをもたらす呪文とはいえるかもしれない。
炎の使者 Fire angel 【敵】
ロジャー・ゼラズニイ『アンバー』後半シリーズに登場する怪物のひとつ。ドラゴン型をした翼のある肉食動物で、非常に強靭であり、心臓が三つあることを含めてきわめて「余剰な」部分の多い体を持っている。特徴は、これが”影”を渡る能力がある生物のひとつであることで(秩序のユニコーンと同様、アンバーと混沌の根源的な生物のはしくれということだろうか)”影”を渡りながらもひたすらに獲物を追いかけてゆき、あやまたず殺戮するという習性がある。もともとが『混沌の宮廷』の近くに多数原住しているようだが、『宮廷』はこの生き物を飼いならし(*bandの思い出解説にあるように、登場するものは首輪がはめられている)この習性を利用して侵入者を追跡・抹殺する、いわゆる猟犬と同様に使用している。とあるトラブルでルイス・キャロルの世界に放り込まれたマーリンが、ジャバーウォック(→参照)と共にこの生き物にも追いかけられる場面などがある。
なぜ「ドラゴン型」の生物が'Fire Angel'なのか、ゼラズニイの神話設定のうちでも最も短絡的な側面(HobbitとRabbitの如く表面に過ぎないことを重々に断っておく)だけをここでは述べるにとどめるが、炎の天使といえばヘブル系では熾天使(→参照)であるが、このセラフィムとは周知の通り「燃え上がる蛇」の意である。火炎とは旧来の神話では(稲妻と共に)神の力の象徴であり、最上位の天使がその力を与えられていることを示しているとも、純粋な愛情が炎と化しているとも炎から作られたとも解釈されるが、要はもとを辿るとこれらの熾天使は旧へブルやそれ以前の重要な蛇神・怪物神、ないしその性質(ことに、ペルシアや以東の拝火など)が、もとの力と権能を奪取されないまま唯一神の下にある天使として吸収されている側面があるものともいえる。『混沌の宮廷』からたち現われるこれらの怪物は、その原型の怪物らを示しているともいえるし、三つの心臓や過剰な器官がヘブルの上位天使の持つ複数の手足・頭や翼などを暗示するのみならず、”影”を渡る=無数の影を投影する存在というのは、古い信仰の「天使=怪物」の、いずれも力ある強力な殺戮者として千差万別の様々な像へと展開していった隠喩でもあるだろう。
*bandでは[Z]以降その流れをくむバリアントに登場し、小型ドラゴンシンボル('d')だが、なぜか群れで登場するのが特色である。火炎打撃やオーラなどは持っていないのだが、吐くのが中盤としてはかなり稀有な上位「プラズマ」のブレスなので、群れとまともに戦うとなるとかなり厄介である。
炎の精 Fire Vampire 【敵】
下級の奉仕種族。火炎をもたらすもの。オーガスタ・ダーレスの創造した旧支配者クトゥグァの随臣にあたる、主同様に炎の塊のような知性あるエネルギーである。クトゥグァはつねにこの炎の生き物を数千も伴って出現する。独立した種族というよりも、クトゥグァに関係する背景・脇役のような存在といえる。
CoCルールブックによると、一体の炎の精は最大でも1フィートに満たない小型のものに過ぎない。ルールブック邦訳でも「炎の精」といういかにも変哲ない名前が定着しているが、原語はFire Vampireであり、かなりニュアンスが異なるようにも思える(なお、星の精 Star Vampireとは、訳語は同じ発想なのかもしれないが、まったく無関係の生き物である)。その名の由来は、見かけ通りに熱の攻撃をするほかに、「触れた知的生物の精神力を吸い取る」という攻撃を行うことにある。あるいは、エネルギーというより、「霊気」が燃えているという生物で他者の霊も強制的に燃料にしてしまうような代物なのかもしれないが、推測の域を出ない。なお親玉であるクトゥグァにはそんな能力は(少なくともCoCルールブックで、なおかつ普段主物質界で使おうとするものとしては)存在しない。一応独立して召還する呪文が存在するが、実質上はクトゥグァに伴われて以外は地上に登場することはないとされる。
*bandには[Z]以降登場するが、'V'シンボルで39階というノーマルモンスターとしてはやや深い階層で登場する。CoCルールの1フィート大でせいぜい耐久力も人間以下といったものと考えると、あまりにも硬いが、思い出文章で「集合体」とあるのは、(クトゥグァのもとでは集団で出るという意味ではなく)あるいはこの1シンボルが数体分を表しているというそのままの意味かもしれない。精霊類のごとく壁を通り抜ける力と、各種の呪文を持ち、予想通りに炎の攻撃・炎オーラと、精神力を吸い取る力は呪文と知性・賢明減少攻撃で再現されている。
→クトゥグァ →星の精
ホビット Hobbit 【種族】【敵】
出典:トールキンが『ホビットの冒険』において創造した種族で、エルフやドワーフらと同じ世界に住む妖精の一種でもありながら、古き良き近代のイギリス市民が重ねられたともいう温厚な小人。トールキン作品におけるより詳しい情報や主要人物の顔ぶれに関しては、ネットに爆発的に増加した映画版のファンサイトもといイライジャフロドタソハァハァサイトに譲る。
アルダではどういう起源を持つ種族かは定かではない(あえて空白にされている)が、どれかと言えば人間の遠縁であり、第三紀の前半には中つ国の中央の霧ふり山脈とその東におり、後に「ホビット庄」と呼ばれる中つ国西中央部の丘に集結したことになっている。ホビットの世界は庄の中のみで、以来、ガンダルフ以外の賢人も含めて、近くに住む人々以外にはほとんど存在すらも知られていなかった。第三紀に何人かが活躍するが、それまでは外勢力と戦争すら(牛うなりとオークが戦った緑野の戦を除いて)行なったことがなかった。
「ホビット」とはエルフ語でも共通語でもないが、名前の由来はローハン語の「ホルビトラン(穴に住む者)」であると記述されている。ローハン語自体が古英語と繋がっているが、現代英語の「hole-builder」から採ったとも言えるとのことである。しかし、研究家によって穴ウサギ rabbitが由来であろうという説が広く流布し、トールキンは強く否定していた。ただし個人的には、実際はトールキンはrabbitも含め、上記などさまざまな含みを持たせて名づけたが、中でも最も短絡的な由来が広まるのを嫌ってわざわざ否と答えたのではないかと想像する。なお、古来の妖精とその名ではなく近代造語にも関わらず、大きな英和辞典には「Hobbit:トールキンの童話に登場する妖精」等として載っていることがある。
トールキンの創造した種族の中でも、完全に実在の伝承の妖精説話との繋がりを何ももたない、真にトールキン独自の種族であるが、指輪物語がRPGの原型となる際に一緒に型に取り込まれてしまったため、このホビットをそのまま、あるいはこれをイメージした「人間の半分くらいの背の」種族を追加するのは、ほとんどのTRPGおよび設定類の細かいCRPGでは通例となっている。
その最初の例である、D&Dシリーズで採用された「ハーフリング」という種族名は、著作権問題でホビットという名が使えなかったために「D&Dで創作された言葉」である、という俗説があるが、これはかなりひどい(特に両方の原語が読まれなかった日本で広まった)事実無根説のひとつで、トールキンの作品内でもホビットは共通語(つまり、人間らの間での呼び名)では「halfling 小さい人」と呼ばれている。つまりD&Dは「ただの英語としても解釈できる、無難な方」を取ったというだけで、結局はトールキンから引用しており、同じ種族を出しているのである。D&Dが「ホビット」の方を避けたのは、指輪物語(あるいはホビットの冒険)の版権者の方からクレームがついたためという風説も広まっているが、実際に権利関係でどういったやりとりがあったのかは明確ではない。少なくとも表向きは、D&Dの創始者のひとりゲイリー・ガイギャックス自身が「最初の版(1974年のオリジナルD&D、白箱のうち、最初の版を指す)以外は、自主的にホビットを避けることにして変えた」と言っている。
D&D系以外の古いTRPG/CRPGの場合、そのまま「ホビット」として使用している場合も多い。代表的なものでは、古い版のT&T(かつて和訳されていた5版等)などはホビットの名を出すだけでなく、FT用語については指輪物語由来であると明記されている箇所が多々ある。これは古いRPGが「指輪物語風の典型的な世界」であるため、あるいはむしろ指輪風であると積極的に主張するために、あえて故意に使用している節もあり、D&D以外はさほどこの単語に危機感を持っているようには見えない。
これら古いRPGに関して、特に「wizardryがD&D系と異なり直接『ホビット』という種族を使用している」ことについて、問題にならなかったのかという疑問が、ホビットの話題になると毎回必ずと言っていいほど挙がる。これは幾つもの説明ができるが、TRPGはともかく少なくともCRPGに関しては、Wizardryの時代には、CRPGというものが非常にマイナーであったため「論外」「歯牙にもかけられなかった」のが最も大きな原因であろう(ホビット以外にも、LotRやD&D系の要素が当時のCRPGに当然のように出ていたのも似たような事情である)。日本では、DQやFFが先に普及しCRPGに比べてTRPGやFT小説が非常にマイナーなマニアだけの間のものであるため想像もつかないと思われるが、世界規模では、LotRのようなFT小説や、D&D系のようなTRPGはほとんど何家かに一冊というほど普及していた反面、当時のCRPGは相当なマニア(電脳オタ)でもない限り知りもしないような代物であり、比較にならないほど知名度も影響力も小さい。当時、トールキン著作の億オーダー、D&D系の北米のみで当時既に数百万オーダーのプレイヤー数に対して、Apple][自体の出荷数が10万台前後であり、Apple][版のwizardry#1の販売数は2.4万本に過ぎず、wizardryの影響力などFTは無論のこと、RPGにおいても微々たるものでしかない(ただし、権利について神経質なD&D系(TSR)はwizardryをはじめ各種小規模なCRPGに圧力をかけていたとも言われており、メーカーごとや使用する用語の種類・知名度によって程度の問題の大小はあると思われる)。世界的にwizardryの存在や影響力が(CRPGはともかく)「FTやRPG全般の最大の事件」であるかのように誤解しているのは、日本のごく一部のマニアだけであることは、FT史の理解の上では充分に認識する必要がある。
なお、昔からWizardryフリークという管理人によるLotR映画版ファンサイトに、単に「ホビット」という種族がいるからというだけの理由で、ここぞとばかりにWizardryを「指輪物語の続編」「指輪世界を忠実に引き継いだ世界観」もとい「指輪物語を最も体験できるゲーム」として紹介していることがあるが、それはあまりにも無茶というものである。日本ではそれほど古いRPGというもの自体がWizardryしか知られていないが、ホビットをそのまま使用している古いゲームは、上述したようにTRPG, CRPGとわず他にも掃いて捨てるほど存在する。また、上述のようにhobbitとhalflingは、指輪物語世界内においても「同じ種族」を単に別の言葉で呼んだだけなので、「この種族がwizにだけ出ていてD&Dには出ていない」という主張は成り立たない。
これらの古いTRPG/CRPGでのホビットの使われ方の一方で、2000年台頃からは(LotRやHob.の映画でことに有名になった、関連商品の商標が登録されたなどの理由も考えられるが)他のTRPG,CRPGの類からは、トールキン独自の造語と判明したものは差し替えられる傾向もある。例えば、前記T&Tでは5版では「ホビット」だが、7版以降は「ホブ」となっている。
さて一方で、RPG世界に定着したホビット・ハーフリングにおいて特記すべきこととして、なぜか現在においては、「全員が敏捷で好奇心旺盛、能天気で悪戯好きな種族」という先入観が非常に強いことが挙げられる。言ってしまえば、トールキンの設定する温厚な種族とはむしろ正反対の像である。特に和製RPGでは単純に、「ホビット=能天気でやかましいトラブルメーカー」をトールキンを参照する前から既に先入観に決め付けている場合さえ多い。
しかし、例えば「ドワーフ」という種族は、トールキン本来の描写では、物静かで堅実、上品ですらあるはずだが(原作のギムリなどは好例である)、RPGでは「頑固で偉ぶり、物々しい大音声を発する種族」とされるのは、『ホビットの冒険』のトーリンただひとりを典型にしてしまっているという説がある;それとまったく同様に予想するのであるが、トールキンのホビットが「温厚で消極的、困難を避ける牧歌的な小人」であるにも関わらず、RPGにおけるホビットおよびハーフリングが「好奇心旺盛で積極的、トラブルメーカー」という位置づけが定着してしまっているのは、おそらく『指輪物語』に登場するホビットらのうちでも最も若く軽率なピピン(ペレグリン・トゥック)ひとりを典型として引いているのではないかと思える。無論、エルフを加えた三種族間の性質を好対照としようとする意図も働いているだろう。「ホビット、ハーフリング」という名でないオリジナル種族を作っている場合、その傾向は特に強い。
D&Dシリーズの「ハーフリング」に関しても、初期はトールキンのビルボそのままの描写がルールブックに記述されていたのだが、トラブルメーカー類型のハーフリングの嚆矢ともいえるAD&Dの有名作品Dragonlanceの『ケンダー』族は、作者のひとりトレイシー・ヒックマンが牧歌的なハーフリングと冒険物語の齟齬に違和感を抱き創造したという。一方で、種族全体が盗賊(非社会的)という設定にするのも違和感があったため、好奇心のために見境なく拾い物をするという、能天気設定の原型も作られたという。
D&Dシリーズでも時代が下ると、D&D3eでは「定住せず、他の種族の社会に適応して生きる(二千年庄に篭り続けるホビットとは正反対である)」「髪は暗色で直毛(言うまでもないが、トールキンのホビットの最大の特徴は「巻き毛」である)」といった設定さえも明記されている。これは、3eがあえてトールキンを避けることを意識している点にも起因しているだろう。
ホビットであれそうでなかれ、「ハーフリング」種族の特徴として、機転がきき、敏捷で目ざとく、見かけによらず頑強な肉体と、非常な幸運さを持つ。RPGの「トラブルメーカーの盗賊種族」としてのハーフリングの多くは、これらの資質を常に前面に押し出し、最大限に利用するのが種族としての習性そのものになっていると言える。一方で、トールキンの描くホビットにとってこれらの能力は、温厚な種族としての性質の奥深くに常に隠されているもので、本当にいざという時だけに発揮される。これは、トールキンがホビットという種族に与えたイメージが「盗賊としての役割」よりもむしろ「無力な一般の人々がいざという時に重要な役割を果たす」であり、直接的な「筋力」や「魔法の力」といったいかにも英雄の持つような力を持たせることなく、活躍するためのささやかな能力として厳選された結果が、この「敏捷力」「忍びの力」となったことに疑う余地はない。
なおまったくの余談であるが、ムアコックの『エレコーゼ・サーガ』には、「妖精族」(ムアコックによく登場する、メルニボネ人、ヴァドハーなど、歴史から消えつつある精霊・神の象徴)の同族だが、人間たちの住む次元と別次元とに「半分ずつ」存在しているので「ハーフリング」である、という種族が登場したりもする。
種族:*bandにはMoriaの時点から登場する種族のひとつであり、直接打撃を除いてあらゆる技能がかなり高い。「盗賊」に向いているとどこにでも書かれているが、打撃を当てにできない(特に序盤)以上は、盗賊のプレイングスタイルのうちでも様々な策略を利用して戦うことを余儀なくされる。無論、技能が高いのでその戦法を試すにはうってつけである。盗賊以外では、隠密の高さから「メイジ系」にも単純に向いている。(ホビットは魔法を扱わないというのがトールキンの設定だが、しかし、Moriaの頃から生い立ちには「ホビットのメイジの一粒種……」などというものが平然と出てくる。)
[Z][変]では、よくトールキン原典の「忍びの者」と称して「秘術盗賊」や「忍者」をプレイしている例を見かける。しかし、ヘルプファイルによると「忍びの者(burglar)」とは「仙術盗賊」のことであり、それに向いているとも明記されている。実際のところ、[Z][変]ではホビットのレイシャルパワーに食料生成があり(これは、トールキンにおいて庭師サムが料理道具を持ち歩いていたことに由来する)「空腹充足」のないことが弱点のひとつである仙術盗賊にはうってつけなのだが、何より仙術は前記したような力任せではない戦い方、テレポート系やスピードを駆使して遠距離戦、不意打ちといった戦法に秘術以上に向いている。初心者向きかは抜きにして、「ホビットの仙術盗賊」はお約束として一度はプレイしておく価値はあるだろう。
敵:敵として登場するホビットは[V]からの「貧弱ホビット」(『指輪物語』にもちらほらと登場する、ならず者のホビットであるらしい)が現れる程度で、ユニークの『牛うなり』とあわせ、やはりホビット自体がさほど強敵となりうる存在ではないらしい。[Z]からは、ストラテジーゲームMaster of Magicに由来するとおぼしき「スリング・ハーフリング」という敵が現れるが、これはアルノールとアングマールの戦いにバック郷が送った弓の名手を指しているとも言える一方、単に「語呂合わせ」の敵を出すというアイディアのみにも見える。集団で出現し、なかなかしぶといために割と印象に残る。
→盗賊 →バック郷のスリング
焔霊 ほむらだま 【その他】
漫画『るろうに剣心』の中盤のボスキャラ(投げやりな呼び方)剣士、志々雄真実の技。志々雄は幕末に暗躍した人斬りという設定だが、口封じのため暗殺され焼却されたと思われていたところを実は生き延び、全身に火傷を負っており、全身包帯化キャラとして登場する。持つ刀「無限刃」は刃が鋸状にこぼれ(刃こぼれを修繕しないまま斬り続けるのが「無限」の由来だが、一方でアメコミ好きなこの作者のチェンソーなどからの名の発想を感じさせる)そこに斬った人間の脂肪がしみこんでいるので、剣撃の火花などでしばしば発火が起こる。火傷による高体温化と、この無限刃や火薬を使った技によって、自身なんとなく「炎」系統の属性キャラになっている。格ゲーやドラゴンボール等にありがちな「気」などの説明を使わず、あくまで剣客作品ということで、戦後まもなくの荒唐無稽時代小説の忍術などの仕掛けを思わせるが、なんかしょっぺえ味すると言えばそれまでである。通常発火によって火炎と斬撃の二重ダメージを与える「壱の秘剣・焔霊(ほむらだま)」、火薬を使った「弐の秘剣・紅蓮腕(ぐれんかいな)」、さらに鍔元から刀の全火炎力を解放する(なんなんじゃいそりゃ)「終(つい)の秘剣・火産霊神(かぐつち)」という上位技があるが、*bandではバランス上通常技の「焔霊」のみ採用されるにとどまっている。
φ(ファーイ)! アワビのロースでしょって言う!! .rar!!
*bandでは剣術家が最序盤から使用できるダメージ増加系統の武芸技であり、火炎によるブランドダメージを+1.5倍するという効果になっている。どんな武器でも使う剣術家が「無限刃」と同じ原理で発動させるとは思えないが並大概の発火ではさしたるダメージにはなると思えないので(→元素ブランドの武器)結局もとの木阿弥だが「気」か何かでうそっぽく凄い火炎を発生させているとでも思う他ない。実際に、中西派一刀流から出て精神修養を中心とした天真一刀流を立てた江戸後期の寺田五郎右衛門宗有は、あまりの気合に「剣尖から火炎が発した」という説話が伝わっているが、漫画のそれとはほぼ間違いなく無関係である。*band序盤の剣術家にとって火炎耐性のない敵には確実にダメージを増強させる技として、対ユニーク戦などで重宝する。
ホムンクルス Homonculous 【敵】
瓶詰妖精。ホムンクルスは人造人間(→ゴーレム参照)の概念のうち、中世以降の錬金術におけるそれである。錬金術と具体的技芸に関しては他の専門サイトを参照願うが、人造生命の実現は、元素変換などと様々に優先順位の込み入った究極的目的のうちのひとつであった。
ホムンクルスの定義・製法で最も著名なものは、人間の精子を瓶で適度に培養していると、やがて瓶の中で小さな美しい人間へと成長し、それは人間以上の英知(特にさらなる錬金術に関するもの)を秘めているというものである。当時の錬金術に見られる、アラブで発展した生物学の知見が中途半端に入った(精子を拡大すると中に人のような影が見えたという説に由来する)秘法のいかにも典型である。この型のホムンクルスはゲーテのファウスト第二部に登場するため、文学でも極度に有名であるが、錬金術においては他にも血液や動物の組織を材料とするもの、他の工程を要するもの、男女一組が出現するもの、瓶の中にエデンの園ができるもの、フェイツのような3〜4人の女神が出現して喋くるものなど、様々なバリエーションが見られる。
これに限らず、オカルト・魔術用語的には、錬金術的に作られた人造生命の総称である場合が多い。(より広義では、ドワーフやインプといった「小人」「小鬼」の類語とされていたり、保健室・理科室の内臓むき出し人体模型を指す俗称だったりする。)こうした説話を中途半端に参照し、和製ファンタジーやRPGでは「人造生命」ひいては、ホムンクルスを「人造人間(完全な人間型のもの、いわゆる魔法的レプリカント)」とあたかもイコールの語義であるかのように使用されている場合も多い。また、元々は同じ人造生命としてはむしろゴーレムの方が魔法的な産物であり、ホムンクルスの方がテクノロジー的であるにも関わらず、以後のRPG系のイメージでは、ゴーレムに無機的、ホムンクルスに生命的なレッテルが貼り付けられていることが多い。
Roguelikeをはじめとして、古いRPGに登場するものは、AD&D 1stでデータ化されたような、インプなどと同列の「使い魔系」の小型生物といったものであり、にわかなゲームやアニメに登場する「人間型」のものとはほぼ無関係であることに注意する必要がある。ゴーレム等とは異なり、中級以上の術師ならばかなり簡単に作ることができるが、肉体的、精神的にも非常に貧弱で哀れな生物であり、ちょっとした使いにしか役に立たない。一応、弱い毒をもっているくらいが武器である。小さな人間型だが、非常にぶかっこうで哀れな体格と、きめの粗い肌をしている。こうしたゲーム内では、こういった哀れな人造生物に伴う味わいの苦さから、無論のことプレイヤーよりはおそらく物語に登場する悪〜中立の術者による、それも敵などより雰囲気「フレヴァー」として使用されることがほとんどであろう。
*bandではMoria以来登場するが、思い出からはやはりD&D系のような小鬼のような生き物で、麻痺攻撃も持っている。ただし、ここでは小型の「デーモン」になっており、おそらくはクアシトなどと同類として扱われる説がとられているのであろう。美しい小妖精よりは、哀れな小妖魔の姿かもしれない。階層の割にはさほど危険な生物ではない。
→錬金術師 →ゴーレム →妖精
ポリュフェモス Polyphemus, the Blind Cyclops 【敵】
盲目のサイクロプス。キュクロープ(一つ目巨人)でありながら、ここでさらに「盲目」となっているのは、このポリュフェーモスが登場するオデュッセイア叙事詩において、名将オデュッセウスに目を潰されたという話になっており、おそらくここではその後のポリュフェーモスであるという設定なのだろう。
オデュッセイア詩とは、トロイア戦争からオデュッセウスが帰る際の航海中に10年もの間さまよい、さまざまな災難にあいつづけた話だが、巨人の洞窟に囚われたオデュッセウス一行は、ポリュフェーモスを酒で酔わせて、焼けたオリーブの枝で目を潰す。持ち前の機知で逃亡するオデュッセウスらに対して、盲目になったポリュフェーモスがでたらめに投げた岩が、現在のアーチ・トレッツァの巨岩の転がる浅瀬だという。また、ポリュフェーモスはネレイデス(水ニンフ)のガラティアに恋し、嫉妬からその恋人をそれらの岩の下敷きにしたという説話もある。
ヘシオドスらの記すギリシア神話の神統において、「サイクロプス」とはティタン12巨神と兄弟にあたるブロンテスらの三神だが(→サイクロプス参照)このポリュフェーモスはその血統ではなく、ティタンより後代の海神ポセイドンの血統であり(実際のところ、オデュッセウスが海を彷徨い災難にあい続けるようになったのは、ポリュフェーモスを害されたポセイドンの怒りである)その同族関係は明確ではない。実は、これと同じ説話を描いたとされるギリシア彫刻にも、ポリュフェーモスが二つの目で作られているものがある。閉じた二つの眼と、額に一つの眼を持つ造形の場合もある。恐らく、「ひと突きで盲目にされた」という説話から、ヘシオドスの言及するような形態の顔の中心に一つ目を持つという説が定着したと考えられる。例えば神話の典拠としてよく引かれるアポロドロス『ギリシア神話(ビブリオテーケ)』には単眼という記述があるが、これは紀元後1世紀以後の作とされる。
しかし、特に物語的な活躍がないタイタンと同族の3体よりも、オデュッセイア詩の有名さから、ポリュフェーモスとその一族の方がむしろ「サイクロプス」としては代表的と見なされているといえる。H.P.ラヴクラフトは海神ダゴンに対して「ポリュフェーモスのような」という形容を用いているが、これは「岩を掴んだ」というその内容からの発想でもあるものの、「ポリュフェーモス的」は、巨人・怪物の形容としてラヴクラフトが他の箇所でもよく用いる語である。RPGにおけるD&D系の「チーズと葡萄酒を作る」「非常に策略に弱い」というサイクロプス全般の設定は、あからさまにブロンテスら鍛冶神ではなくポリュフェーモス一族からの引用である。
*bandでは、ToMEにPernAngband時代から意外に多い純伝承系モンスターの一体であり、[V]でも最近のバージョンでは加えられている。元来サイクロプスは雷神であるが、海神(ポセイドン)の子孫であるという出典を重視して、水の魔法を操るということになっている。*bandにおいて水の攻撃とは、水のボルト・ボールの他、冷却攻撃(ポリュフェモスは酷寒の矢を用いる)と、酸の攻撃も入る。打撃もかなり強力である。
→サイクロプス
ボルグ Bolg, Son of Azog 【敵】
グンダバドのウルク=ハイの首領。アゾグの息子、五軍の戦いの司令。霧ふり山脈のドワーフとオークの決戦、アザヌルビザールの戦いでダインに討たれたアゾグ(→参照)の子というが、五軍の戦い以前にどうしていたかは記述がない。
が、『ホビットの冒険』で霧ふり山脈の洞窟オークの「大ゴブリン」を、ガンダルフが逃げるついでに叩き斬ったことが原因で(大ゴブリンは固有の名前さえ出てこないが、なんか重要人物だったらしい)オークらはグンダバド山(モルゴス時代のものが南下した者、およびアングマール時代の者らも含めて北のオークらの本拠地である)に兵力を集結させ、ボルグを司令官に押し立ててドワーフの山を攻撃してきたのが五軍の戦いである。しかし、ボルグ自身はほとんど名前しか出てこず、五軍の戦いの最後に熊のひとビヨルン(→参照)に踏み潰されて命を落としたという。こうして見ると、悪辣な描写の多かった父親に対して、旗印に持ち上げられて戦乱に踏み消された御曹司のような気の毒な空気が漂ってこないでもない。
2012〜年の『ホビット』映画3部作では、1作目で父アゾグが生き残り主要な悪役、オーク軍の首領として活躍しているのでボルグの方は登場しないのではないかと噂されたが、2作目から登場した。アゾグ配下でも特に強力なオークであるような描写で、姿もアゾグによく似ているが、金属を体に鎧のように埋め込んでいる、さらに凶暴な姿である。2作目では、アゾグの命令によりドワーフらを追跡し(原作にはない)ドワーフを助けるエルフらとも戦い、特にレゴラスと対決し背後を取って羽交い絞めにしたり鼻血を出させたりといった(LotRで無敵を誇るレゴラスの強さから逆算すると)到底尋常とは思い難いほどの強さを発揮する姿が描かれている。LotR/Hob映画は戦争映画の娯楽性からオーク勢もかなり優遇されているが、ボルグも結局名前だけでおしまいだった原作からは想像もできないほど活躍している。映画3作目でもボルグは、キーリ、タウリエル(映画オリジナルの森エルフ女戦士)、因縁のレゴラスらと敵を変え状況を変え、長時間激しい戦いを繰り広げる。ビヨルンに討ち取られたという点は再現されていない。
*bandではオークユニークの代表として20階に登場し、例によって大量のオークを引き連れてくる。集団に気をつけるのは無論として、ボルグ自身は、同じウルク(という設定)のウグルクやルドゥグシュと、階層、データともにだいたい同じなのだが、彼らよりはスピードが速く、わずかに攻撃力(ダメージ)が大きい。充分に強くなってから遭遇した場合などは特に差が感じられないだろうが、仮にやけに強いなと思ったらそれは多分に気のせいではないので物資を惜しまないことが肝要である。
→アゾグ →ウルク
ポルターガイスト Poltergeist 【敵】
騒霊の意のドイツ語とされる心霊現象としてのポルターガイストは、部屋の中の品が自然に動いたり、謎のラップ音(家具が動く音や意味のない雑音から、明確な声に至るまで)を発するもので、狭義ではポルターガイスト現象はラップ音を除く念動現象のみ指す場合もある。遥かな古来より現代に至るまで「悪霊」や「地縛霊」の仕業と信じられているが、多感な子供の傍で起こることから、制御できないPK(サイコキネシス)能力の発動であるという説が現在はかなり人気がある。単純なラップ音は電磁波の仕業と説明されたり、ただの死番虫(→参照)の出す音だったりすることも多い。
ともあれ詳細は心霊現象に関しての専門のサイトに譲り、ここではRPGでの扱いに絞るが、「ポルターガイスト」がモンスター等としてデータ化されている場合、騒ぐだけで物質的・魔法的な直接的影響力を持たない存在とされていることが多い。きわめて例外的に、クラシカルD&Dではハウント(ヴァンパイアより遥かに上級のアンデッドである)の一種とされ、非常に危険なモンスターだが、クラシカルD&Dのルールではインフレに伴って上級モンスターをひねり出し、それまでのモンスターにたまたま使っていなかった「霊」の名前を無理やりつけているだけなので、実際の心霊用語のポルターガイストとは決して同一ではない。同様にモンスターを水増しするようなCRPGなどでは普通のアンデッドモンスターの一種になっていることもあるのだが、AD&Dでは一転して非常に小型の霊であり、恐怖をもたらす以外には直接的な影響力は持っていない。これを参照した他のTRPGで登場する場合も同様であったり、さらには互いに攻撃することさえ不可能な完全なフレバー的存在のことさえある。
*bandには古くMoriaの時点から低階層に登場するアンデッドである。不可視で、ランダムに移動し、時々ショートテレポートを行うが、恐怖打撃(ダメージ0)以外には一切の能力を持っていない。何となくうっとうしいのみならず、*bandでは同系のゴーストやバンシーと混同し、反射的にドレインなどの被害を恐れるプレイヤーもいるかもしれないが、ポルターガイストには実害そのものはほとんどない。(ただし、実体のない騒霊だとすれば、ときどき金貨を落とすのが謎である。)Moria以来、低階層のダンジョンの「雰囲気」を出すために存在する細かい要素の一種といえる。
ボレル公爵 Lord Borel of Hendrake 【敵】
アンバーシリーズに登場する「混沌の宮廷」の貴族で、混沌のウェポンマスター。ヘンドレイク家は混沌の貴族のうち、魔術のサワール家と並び称される武辺の家柄で、ボレルは武人として非常に有名(と、ダラは言っている)。前半シリーズのヒロイン(?)ダラに武術を教えた人物である。乱戦の中でコーウィンと出会い、鎧を脱いで正々堂々と決闘を挑むが、コーウィンは、アルダのエルフ王女ルシアンがモルゴスを地に這わせたことでも知られる超必殺技「黒マント投げつけ」をかまして問答無用で倒す。乱戦の中で決闘などという自体がナンセンスだとコーウィンは主張し、もっともな理屈にも思えるが、その後これを言及する人々が口を揃えて卑怯だと言うので、やはり作内世界の基準に照らしても卑怯なのだと思われる。
[Z]以降に、比較的初期の36階で登場する。テレポートバックのほか、同族召喚がこのレベルの敵としては厄介だが特別強いわけではない。「混沌のウェポンマスター」は、アンバーのウェポンマスターであるベネディクトに対応する言葉であるようにも思え、実際にコーウィンはダラの太刀筋をベネディクトに似ていると判断しているので、実は原作ではベネディクトと並ぶほどの達人なのではないかと思うのだが、なぜこんな低階層の敵になっているのかといえば、やはり「あまりにもやられ役すぎた」のが原因と考えられる。
ボロミアの首飾り The Torque of Boromir 【物品】
兄者アミュ。通例ではボロミアというと、『指輪物語』の九人の旅の仲間の一人であるボロミア二世を指す。第三紀末、断絶したゴンドール王家にかわり代々政治を預かる「執政家」の長男に生まれたボロミアは、指揮官としても戦士としても群を抜き、復興してきたモルドールとの激戦に活躍する随一の武将だった。エルロンドの会議に参加し、そのまま《一つの指輪》棄却の旅の一行となるが、最初から指輪をゴンドールを守る「力」として使うことにひかれていた彼は、遂には旅のなかば指輪に魅了されて乱心するに及ぶ。改心したボロミアは償いをしようとするが、その代償は高いものについたのである。
武闘派で力を求め指輪に引かれ続ける姿は「悪役」となってしまいがちな役柄である。ややこしい言葉遣い(原書では、同じヌメノールの末裔といえるアラゴルンともども古風な語であるが、邦訳では、アラゴルンがホビットらと話す時など妙にくだけた語調が混ざるのに対して、ボロミアの喋りは読みなれていなければ徹底して時代劇か何かのように見える)端々が大言壮語的な豪壮な態度も、それを悪い意味で助長することもあると思われ、最初は良い印象を持たない読者も多いであろう。しかしながら力を求めたのは劣勢続きのゴンドールを守るためのみならず、またこの国が自由の民の世界すべての盾となってきたことへの重圧であること、イシルドゥア同様に「人間」であることの現れ等には描写の中でも充分な説得力があり、指輪物語や映画LotR関連のウェブサイトのどこを見ても存分に考察されている通りである。
映画版LotRでは、原作での描写が拾われ、また端々のアレンジ、映画のみの数々の追加場面(ことにDVD版の追加映像の数々)や、ことにアラゴルンが大幅に弱みを持つ者として描かれているため両者が浮き彫りになっているやりとりなど、原作初読では気づきにくい魅力を映画視聴者に対してかなり前面に出すことに成功しているといえる。およそ『指輪物語』の登場人物の中で、映画公開によって最も株が上がったとも大幅に印象が向上した人物とも言える。(その分、父デネソールや弟ファラミアの描写に大幅に皺寄せがいったことはまぎれもない事実であるが、詳しくはファラミアの項目等に譲る。)ただし、そうした細かいニュアンスで表現されていたため、FotR公開当初は一時大きな問題になった字幕問題の割を最も大きく受けてしまっていた。
*bandにおけるボロミアの首飾りは、ToMEをはじめとしてアルダ系バリアント的と思いきや、[変]にも取り入れられているため著名である。原作で着用しているのは「白い石のひとつはまった銀の襟飾り(collar)」となっており、*bandの物品の説明のような金と鋼のtorque(ゴートやゲルマンの古武将が用いた、ねじった鎖で作られた首飾りを指す)ではない。物品の性能自体は、ダメージの+8ボーナスの他は、恐怖耐性や腕力維持などさほど目立ったものではない。また階層は低いがレアリティは非常に高く、あまり頻繁に入手できるものでも活躍するものでもない。しかし、仮に中盤までに手に入った場合、アミュレットの枠は特に中盤まではどうも物足りない物品・空きスロットとなることは多いので、特に接近戦重視クラスの場合はダメージの+8ボーナスはかなり馬鹿にならない威力となり、割と使用される機会は多いようである。
→ファラミアのアミュレット
ボロミアの角笛 The Horn of Boromir 【物品】
『指輪物語』において旅の仲間の一人、ゴンドールの戦士ボロミア(→ボロミアの首飾り)の所持していた角笛。白い大きな牡牛の角を銀で補強した「戦闘用の角笛」で、しばしば本文中、また他者の台詞によってボロミアの特徴的な品と言及される。本人の言によると出立の前には必ず吹き鳴らす慣習のもので、また鳴らせばあらゆる敵を退散させるという。実際に一行の旅において何度か鳴らされ、実際に退散させたわけではなかったが、危急を告げ、またその音ははるか離れた故国ゴンドールにも聞こえたといわれている。
ボロミアの角笛は元々、ゴンドールの執政家であるフーリン家に代々伝わる品である。執政家はフーリン(第三紀15世紀)を祖とし、第三紀2080年のマルディルから絶えた王家のかわりに国を預かっていたが、マルディルの先代であるヴォロンウェの角笛がこの品であった。これは、ヴォロンウェが遥かな東方のリューン湖(指輪物語の時代にはゴンドールは圧迫され、リューン湖は完全に東夷の勢力内である)に赴き、「アラウの牡牛」と言われる巨大な野牛を狩り、その角で作られたと言われている。「アラウ」とは他でもない、神話時代に東方を散策したヴァラール(上級神)であるオロメの通称だが、第三紀にもまだリューン付近に住むといわれる白い巨牛らは、かつてオロメがアマンから連れてきた牛の子孫だと言われている。ともあれ、この角笛はマルディルをはじめ、執政家の世継が代々所持し、第三紀末に執政デネソールの長子であるボロミアにまで至るのである。
『指輪物語』でもかなり目立つ物品のひとつであるが、*bandにはToMEに至るまで追加される機会のなかった品である。なぜ[変]にはボロミアの「角笛」がなくて、遥かにマイナーな(創作物品といってもいい)「首飾り」が入っているのかという疑問もある。これは、首飾りと角笛があるToMEから[変]に輸入されたものだが、ToMEには「楽器」という装備枠がある一方で[変]にはないので、単純にアミュレットの装備枠に入る首飾りの方が入ったという、単にそれだけの話である。
Pernangbandなどの旧版では、発動(吹き鳴らした)効果は勇気・祝福などの支援効果となっていたのだが、いつのバージョンからか「人間召喚」というものになっている。装備ボーナスとしては、腕力・耐久力の上昇と恐怖耐性という、ボロミアの性質からいかにもな物になっている。原作で裂け谷において音でエルフらを怯えさせてエルロンドにたしなめられる場面を強く意識しているのか、吹き鳴らすと目立つということで、「モンスターを怒らせる」効果がついているが、ペナルティーとしてもかなりやりすぎな気がする。旅で持ち歩くにはあまり向かない品かもしれない。
あ-い
う-お
か
さ
た
な
は
ま
や・ら・わ
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