他ゲーム再現モジュール諸々


 NWN1/2、特に1には、D&Dシリーズの他のゲームや、さらにはシリーズとは全く関係のないゲームをNWNモジュールとして再現したものが、海外、翻訳、日本語オリジナルモジュールともに、かなり多数にのぼる。そもそも他のプラットホームで様々なゲームを再現するクローンゲームの発想はありふれたものである。

 こうしたクローンゲーム全般に対して、決まって一定数、「元のゲームをやっていればよいのになぜわざわざそんなものを作るのか(プレイしたがるのか)」という疑問を述べるゲーマーが常にいるのだが、あえて他のシステムでプレイしてみたい(NWN1/2の場合、特に古いD&D系システムや、それを模した海外レトロゲームをD&D3.Xeに移すこと)という動機はありふれたものであるし、特にそんな動機がなくとも、同じゲームを繰り返しプレイするのと同様に細部が変わった別バージョンの同ゲームをプレイしたくなるのは珍しい話ではない。なぜ作ったりプレイしたがるのか、といっても、旧来一定の需要があるから、としか言いようがない。

 しかし、そうした移植ゲーム(モジュール)が作る側にもプレイする側にもメリットばかりとは限らない。元が名作ゲームなのである程度の出来は保証される、と期待したいところであるが、実際は、元のゲーム自体が別のシステムに移す(再現する)ことに向いているとは限らないし、また作者が再現するだけの能力を持っている・動機を維持しているとも限らず、また「プレイヤー側が期待している方向性で作者が再現する」とも限らないからである。vaultの海外モジュールに関して言えば、原作つき移植モジュールの「当たりはずれ」は完全オリジナルモジュールの玉石混交ぶりと大して変わらないようにすら思える。むしろ、埋もれるだけの作品が多いオリジナルに対して、目につきやすいだけ外れにぶちあたる可能性は高いようにすら思えてくる。
 例えば、vaultの海外モジュールのうち、以前述べたWizardry#1の再現モジュールについては、私見では決して誤った再現の方向性ではないのだろうが(シングルプレイ用ではなくDM有のマルチプレイも想定している点も含む)、日本のゲーマー、いわゆるwizフリークらが、「Wizardryというタイトルに対して持っている先入観・期待するもの」から考えると、この再現の方向性は完全に地雷だと思われる。

 ともあれ本記事では、直系のD&D系ゲーム(例えばGold BoxやInfinityなどの旧版ゲーム)やPnP版のD&Dシナリオの再現ではない、他のRPGやそれ以外のゲームの再現物を挙げる。
 なお、「Diablo再現・関連シナリオ」については(ゴールデンアックス以上に)あまりにも多いので機会があれば別の記事を設ける。



〇日本語版モジュール、Archiveで落とせるもの

 日本語版の再現モジュールは、すでにそれなりの評価のある海外版を翻訳したり、いちから再現するにしてもそれなりの強い動機が感じられるものが多く、比較的「当たり」は多いように思われる。いくつかは以前に雑記コーナーで紹介したものもある。



〇Tower of Doom
〇シャドー・オーバー・ミスタラ

 セガ版の頃の時代に雑記で述べたことがある、いわゆる「カプコンD&D」2作の再現モジュールである。(ちなみにいまだに誤解されているが、カプコンD&Dはあくまでカプコン製、つまり日本製のゲームであって、SSIやBiowareなどの海外製D&Dゲームとは関係ない。)いずれも「ベルトスクロールアクション」を「一本道CRPG」に変更する方向性で再現されている。
 続き物としてプレイはできるが、留意する点として、2作で作者が異なっているだけでなく、作風がまったく異なっている。1作目はNWN1が基本ボックスしかない(SoU, HotUが発売されていない)頃のもので、表現手法が限られた頃に、相当に試行錯誤して作られた感が強い。また、ゲームバランスも異常に強力なアイテムを多数登場させてバランスを取るなど、不具合でこそないが、今見るとやや不自然なところがある。2作目はNWN1用に同じカプコンD&Dキャラの顔グラを描いている、また他にはかつてT&Tソロアドの再現モジュールを作成していたarikawa氏によるもので、コンパニオンやゲストNPCとして登場するこれらのカプコンD&Dプレイヤーキャラ達をはじめ、演出がかなり豊富である。が、その演出に関して、こちらも1作目よりは新しいといっても、セガ版のかなり古いバージョンの頃に作られたため、現バージョン(GoG版Diamondや改善ユーザーパッチなど)では不具合が起こることがある。最悪、ラスボスの場面で進まなくなる。こうしたバージョン違いによる不具合は、プレイする前に一度新しいツールセットでモジュールを開いてセーブしなおす、という操作で改善することもあるが、古いモジュールについては基本的に最新のシステムに対応しておらず、万全というわけにはいかない。



〇Phantasian

 名前はファンタジアン(クリスタルソフトの名作ダンジョンゲー)だが、ストーリーや舞台設定の中身はまんまファルコムのザナドゥである。そして、ゲーム進行そのものはザナドゥとは全く異なっている。クーブラカーンの歓楽宮の都を舞台に、多クエストクリア型のキャンペーンRPG(ファンタジアンやザナドゥ当時の日本のCRPGには、こうした流れをRPGとして扱う概念自体が存在しない)となっている。
 ザナドゥ等の時代のファルコムファンにはたまらない、また特に知らなくともやりごたえのあるキャンペーンだが、話は途中(続編をにおわせた感)でエターなっている。



〇Wizardry外伝2 古代皇帝の呪い

 元ネタのWiz外伝2は、Wizプレイヤーのみならずゲームボーイファンに広く知られているGBの名作だが、これはそのNWN1再現モジュールである。元のGBゲーム、NWN1モジュールともに純日本製(海外の移植物でなく、日本のゲーマーが作成したもの)である。
 冒頭に挙げた海外の#1再現とは対照的に、Wizadryのハクスラ的・戦闘成長的RPG部分、また外伝の仕掛け部分、下層でのパワーゲーム部分などが、いずれも徹底して再現されている。さらには宿屋や回復、レベルアップシステムまでNWN1とは変更が加えられているのは、えらくうざったいと思うか、再現が徹底していると思うかはプレイヤー次第である。
 ただし、これもセガ版当時の日本製モジュールの傾向として、マルチプレイ(オンラインセッション)によるパーティープレイを重視して作られている。元ゲームが6人パーティーのWizなので、ソロでプレイするとその点は似ても似つかないゲームになるが、一応プレイヤー一人でもできないでもない。



〇Golden Axe-ゴールデンアックス-

 かの名作ベルトスクロールアクションゲームのNWN1再現モジュールである。実はゴールデンアックスシリーズの再現モジュールは、vaultの海外モジュールでもえらく多く、ほとんど再現の方向性も同じもの(ベルトスクロールを一本道戦闘物にするだけのもの)だけでも、同じ1作目の再現で細部が違うもの(ビジュアルやバランスが違うもの、ものによっては原作のグラフィックやBGMのデータなどを大量にぶっこぬいて作られているもの)、2やその他の続編を再現したものなどがある。なんでそんなに人気があるのかというかNWN1のモジュール作者らをそこまでひきつけるのかはいまいち不明である。
 archiveに収録されている日本語移植版のこれは、その中でも最初期のもので、NWN1のセガ版時代でも拡張2本が出ていない基本ボックスのみの頃に作られていた。あくまで基本ボックスの頃の表現は限られているが、当時としてはビジュアル再現などに払われた労力がかなり評価されていた。なお、同シリーズのうち2の再現物は
かつての4gamerの紹介記事でもモジュール作成の参照にすべきとして例示されていたことがある。
 今となっては、上記ゴールデンアックス再現物のうちでもこの最初期のものをプレイする理由としては、「日本語化されている」という一点はあるかもしれないが、もとのモジュールが別にテキストが多いでも重要でもないので、日本語版でプレイする動機は乏しい。が、かといって新しい再現モジュールを選んだところで、前述のようにどれも再現の方向性は似たり寄ったりで、ゲーム内容自体にはそれほど差があるわけではない。英語版でもよければ、vaultで別のバージョンで好評なものを探してみてもよいかもしれない。
 よく知られた原作ゲームの主人公3人がプレロールドキャラとして付属しているが、似たようなレベルのキャラであれば一応プレイ可能である。ただし、他のキャラや能力によっては不具合が起こったりすることもあるので(バージョンやoverrideによるかもしれないが、場合によっては召喚したクリーチャーやヘンチマンがいきなり敵対して襲ってくるので、これらが使用できないこともある)あくまでプレロールドキャラでのプレイしか想定されていないと考えた方がよい。



〇ソーサラー・ソリテア

 T&TシナリオコンバートやカプコンD&Dモジュール(やポートレート)を作っていたArikawa氏の1作である。このT&Tシリーズはセガ版のかなり昔に作られたきり以後アップデートなどもされていないため、現版(Diamondなど)では不具合が出るものもあるが、ソーサラー・ソリテアは特に問題が起こらないひとつである。
 T&Tコンバートシリーズは、T&T5版が大昔に現代教養文庫で和訳されていた頃に、その和訳版のソロアドベンチャー(ゲームブック)やルールブック内シナリオをもとにNWN1モジュールに変換された(なので、現在の9版などで和訳されたものとは細部が異なるかもしれない)日本人作・NWN1日本語版用モジュールである。
 このモジュールの原作となるT&Tソロアドは魔術師用ということで、原作文庫序文などでは魔術師キャラの入門に最適、などと某関西の大御所がかなり熱心に推奨している。確かに序盤は単なる戦闘用ではない呪文の使い方によって様々な種類の困難を撃退するなどそれらしい面白さがあるのだが、後半はだんだん投げやりになってきたのか、脈絡のないイベントの連続のようなものが目立ってくる。
 そしてこのコンバートモジュールも、NWN1に移す関係上、序盤のようなT&Tのシステムやソロアド・PnPのギミックに依存した呪文の使い方の工夫の部分などが再現しにくいため(コンバートモジュール作者もreadmeで語っていることではあるが)突発イベント羅列の部分だけがひたすら目立つモジュールになってしまっている。ある意味、T&Tにはそんなものが多いのだが、このシナリオは特にそれが目立つ。同作者のシリーズはT&Tの無造作なシナリオを元の味を生かしつつうまくソロCRPGストーリーに落とし込んであるものが多いのだが本作はどうも元の無造作が生のまま出るより他にどうしようもなかった感がある。
 それでも、前衛前提のことも多いNWNのソロモジュールの中にあって専業秘術系推奨のありがたいモジュールといいたいところだが、実のところタイトル通り「D&D3eの」ソーサラーにとって適切なモジュールかは定かではない。なにせT&Tの魔術師は全員がキャラメイク時に1lvの呪文を全て知っており、それが前提で組まれているイベントもあるのだが、呪文種類が少ないD&Dのソーサラー(時にはウィザードも)は適切な呪文を有しているとは限らず例えばしょっぱなから躓く可能性もある……。



〇鈴木直人版「ドルアーガの塔」サンプル評価版

 要するにドルアーガといってもアーケード等や以後の翻案のCRPG等ではなく、ゲームブック版のモジュール化である。鈴木直人版ドルアーガの塔とはゲームブックブームの頃に創元推理文庫から上中下巻で出ていたもので、1980年代の卓ゲーマーからは知る人ぞ知る有名ゲームブックである。20階ずつ3巻で塔をゲームブックに翻案していたもので、いまだに熱烈な(あるいはカルト的な)ファンを持つ。創土社からのリニューアル版もあるが、今となってはおそらくこちらもさほど入手しやすくはないだろう。原作ゲームブックについては別に機会を設けるとして、NWN1版でそれを再現するという試み(試みまでだが)があった点については、他にもゲームブックやCD&Dシナリオの再現物の多さといい、セガ版の頃のNWN1プレイヤー層には、1980年代のゲーマー、それも"TRPG"やウォーゲームの重マニアというよりは、かつてのゲームブック等の「ファンタジーファン全般」の中からのプレイヤーが多めだったのではないかと推測させる面がある。
 1lvの戦士系プレイヤーキャラを準備し、黄金(なだけで非魔法)装備を与えられ塔をのぼってゆく。上巻(20階)のさらにさわり部分であり、体験版のようなものである。当時から続きが作られていたという気配も、無論のこと今後作られる可能性もまったくない。しかし、僅かここまででも、再現として堅実に作ってあるのがわかり、普通にショートシナリオとしてプレイ可能な出来である。



〇火吹山の魔法使い

 ゲームブックの定番、FF#1 火吹山の魔法使いは、数々の他のゲームメディア(CRPG, RPG以外のゲーム, PnPの他システム)に移植されており、そのたびにアレンジが加わっていることも多い。FF#1そのものやD&D以外のそれらの移植版に関しては別の機会に述べることとして、このNWN1モジュールは、最初のFF#1ゲームブック版をわりと忠実に再現しているものである。
 FFゲームブックをD&Dライクとしたシナリオというと、3.Xe d20の一種であるミリアドール社のFF d20があり、当然FF#1のシナリオもある。このFF d20は、FF#1も含めて一部のシナリオは和訳版までも出ていた。現地会社がスタッフトラブルで傾きソーサリーが3巻で中断したというきわめて不遇のシリーズだが、d20版の設定がのちのAFF2eにも取り入れられているなど(例えば、AFF2e付属の火吹山シナリオのサンプルキャラには、d20版のプレロールドキャラが含まれているなど)内容は受け継がれている。
 このNWN1版についても、ミリアドール社のd20版シナリオの移植かというと、似ている点も多く、おそらく参照にされているが、データ的な食い違いの方が大きいので(一般のPnPモジュールのNWNコンバートの通例から考えても)直接のベースにはなっていないと思われる。
 ついでに言うと、FFゲームブックでは所持金0枚の金貨から始まり(本によっては開始時に所持金が入る)作中で入手できる金貨数枚でやりくりする流れが多いが、これを再現するために、このモジュールでは、開始すると所持金が0になり、本当にモジュール内の数枚でやりくりするようになっている。一応ではあるが大金を持っているキャラは要注意である。
 原作ゲームブックの魔法使ザゴールには、有名な弱点が2つあるが、このモジュールでも一応、両方とも再現されており、一方はかなりわかりにくい(クリックしにくい)ものの、どちらで倒すことも可能である。
 対象レベル域が5-10lvとかなり幅広いが、盗賊技能を駆使したり、原作ゲームブックの記憶を駆使したりすれば、ある程度は低レベルで通過することが可能である。一方で高レベルキャラで力押しで突破することもできる。そのあたりのバランスは(原作ゲームブック同様)よくできているといえる。



〇傭兵剣士

 上記ソーサラー・ソリテアと同様、セガ版当時にT&T5版ソロアドのコンバートを作っていたArikawa氏の作である。
 元のT&Tの『傭兵剣士』ソロアド(ゲームブック形式のソロシナリオ)は、T&T5版、7版、9版(完全版)でいずれも邦訳があり、T&Tゲーマーの間では和洋とわず、良作・初プレイシナリオとして定番となっている。
9版のものについては2023年現在普通に入手可能である。

 本NWN1コンバートモジュールは、無論のことT&Tの原作を知っている必要はなく、元ソロアドを知らないと突破できないといった仕組みも全くない。このコンバートシリーズはいずれも、ごく普通の日本語版モジュールのひとつとしてプレイ可能である。
 このT&Tコンバートシリーズのいずれも、現9版でなく、かつての社会思想社の5版ソロアドを底本としているが、元はT&Tのソロアドは全般、極端なデスシナリオが多い。上記9版のものはシステム変更上、また改訂に伴って若干緩和されているが、それでも現在の『TRPG』等の常識は著しく逸脱する範囲と思われる。これは、当時のPnPゲームの殺伐空気という理由という他に、PnPゲーム(ゲームマスターが調整できる)と違ってソロアドでは加減がきかないのと、何度でも別キャラクターを作って一人で挑戦でき、T&Tでは基本的にソロアドで使用したキャラをPnPゲーム等に持ち込むことが禁止されていないので(無論GMの許可こそ要るが、持ち込めること自体が大前提になっているらしき記述が多々ある)簡単には報酬を与えないためと思われる。一方で、このArikawa氏のNWN1コンバートシリーズでは、そのあたりはアレンジされ、いずれも普通のCRPG、NWNモジュールとして初見でも普通に通してプレイできるものになっている(嫌がらせ的なインスタントキルの仕掛けが乱発されていたりもしない)。
 原典の傭兵剣士は、他のソロアドと比べると(5版時点から)あまり凶悪ではない方だが、それでもT&Tらしく判定失敗・選択肢で一度に即死といった仕掛けは数多く見られるため、本NWN1モジュールではそのあたりも多くが(特に印象的な一部を除き)和らげられている。T&Tといえばまた、奇抜なギミックやアイテム性能だが、それらの再現にもアレンジの苦心が多々見られる。

 このT&Tコンバートシリーズでは、傭兵剣士と組として知られる同原作者の(5版、9版では同じ本に入っている)『青蛙亭ふたたび』もNWN1日本語モジュール化されており、現在もarchiveから落とすことができるが、これも同様のアレンジである。
 ただし、このシリーズはセガ版の非常に古いバージョンのエディタで作られているためか、青蛙亭ふたたびの方は、選択肢・展開によっては、稀にだが不具合が起こり進まなくなることがある。シリーズ全般、凝ったギミックが多いので、バージョンによる事故が生じやすいのかもしれず、セーブデータを複数残す等の一応の工夫は要るかもしれない。



〇アレンジドライド

 1980年代の8bit PCゲーム時代で一時代(ARPGブーム)をなした『ハイドライド』シリーズ、の用語や世界設定を使用したモジュールである。前に紹介したファンタジアンや、類似したアガウルドの塔モジュールと同作者、同じマルチプレイのグループによる作で、傾向もほぼ同様である。
 NWN1の頃のユーザー層がTRPGゲーマーの傾向があったといっても、日本製TRPGが小ブームとなった1990年代ではなく、なぜか1980年代ゲームのモジュール(このチームのザナドゥやハイドライド絡み、さらには他にも述べているT&Tシリーズなど)が複数作られていることに疑問を覚えるかもしれないが、そもそもセガ版当時のNWN1ファンにはCD&D時代からのD&Dゲーマーが多く、自然、CD&Dが日本に入ってきたと同時期のPCゲームを体験していたゲーマーが少なくなかったのだろうと考えられる。
 このモジュールもファンタジアン同様、元のハイドライドのようなARPGの形式とは特に関係ない(例えば後代でのARPGジャンルの主流のようなハクスラ系などにしたわけではない)、メインストーリー+多サブクエスト型のキャンペーン風となっている。クエスト型といっても、元のハイドライドは、特に1作目はほとんどテキスト自体が表示されないほどで、原作を踏襲するといってもストーリーや設定の分量自体がないので、「フェアリーランド」「アン王女」「バラリス」「3人の妖精」「過去の勇者ジム」といった用語が散発的に顔を出すにとどまっている。ゲームのギミック(妖精を出すため藪をつつくと蜂が出る、迷路を徘徊する危険な蛸など)を思い出すような要素もまばらに登場する。
 多クエストのキャンペーンとしては結構なボリューム(シングル1lvで開始したキャラが10lv台後半に至るなど)があるが、「経験値や金策に使用する」ことがreadmeなどで推奨されているハーベルの塔が、石化や装備永久破壊(ラストモンスター等)などのかなり剣呑な攻撃にあふれているなど、軽々しく推奨しかねる点も多い。このグループ作のシリーズに言えることだが、OC後の初心者や、ストーリードライブのNWN1/2定番モジュール群、さらにはストレスフリーなハクスラ系モジュールなどを求めているプレイヤーには必ずしも向いていないと思われる側面が多く、それこそ80年代のレトロゲーやある意味古典的Roguelike等に残っている挑戦的なゲームシステムの感覚を残している作である。



〇The Black Onyx 日本語版

 ブラックオニキスは日本のCRPGそのものの黎明期に海外CRPGの数々の面影の中から立ち現れた、8bitPCのCRPGの中でも最初期群に属する名作3DダンジョンRPGである。そして、このNWN1モジュールはあたかもその歴史の流れを再現するかのように、海外NWN1モジュールのひしめく中に日本語版NWN1の黎明の陰から立ち現れた存在である。
 これは実はNWN1がセガにより日本語化されるよりも前に、英語版NWN1(OC)を入手した日本人ゲーマーらによって既に「英語版」(ローマ字表記の日本語混じりメッセージ)が作られていたモジュールである。Archiveに置いてあるものは、その後、セガ版のリリース後に作られた「日本語版」である。
 それほどまでに熱心なNWN愛好家の手によるもので、古くからのNWN1ゲーマーにとっては独特の愛着のあるモジュールだが、やはり作られたのが海外・日本ともにNWN1のノウハウが未蓄積な頃であったための難点はかなり多い。
 原作のマス目マップを逐一NWN1のダンジョンフロアで表現しようとしたためか、通路や大部屋のど真ん中でマップが東西や南北にぶった切られて移動させられたりする。また、ランダムエンカウントを再現する手段に迷ってか、その広いフロアで同じ敵が出てくることが多い。一方で、原作通りの仕掛け(大詰めのイロイッカイズツなど)が再現されているために、現在のゲームとしてはえらく厄介になっている箇所もある。原作ゲーム(1本物のCRPG)のように、このモジュールで1lvキャラで開始してラストの7-10lvでクリアするというのは容易ではなく、攻略法を知っている上で7-10lvで開始するのが可能なソロプレイの形態と思われる。
 NWN1の拡張や他モジュールが出そろった頃に作られたモジュールであれば、それこそドルアーガ(アーケードでなくゲームブック版をベースとする)や、アレンジドライド(クエスト型に再編)のように、またはマップやイベントをアレンジの上で再現していたかもしれないが、こちらは海外本国の最初期モジュールにあるような、PnP原作モジュールやPCゲームのマップだけは忠実にコンバートして、あとは力尽きた再現物などと共通する感触もある。
 また原作ゲーム自体がかなりシンプルだが、このモジュールは(当時はよくあることだが)マルチプレイ用を意識して作られているため、シングルでは相当に素っ気ない部分が多い。とはいえ、Diamondの最終版1.69でも普通に不具合などは発生せずにソロでプレイすること自体はできる。



〇堕落せし者達の廃墟(EQ-Befallen')

 『堕落せし者達の廃墟』は上記日本サイト、Archiveでの登録名で、NWN1モジュール選択画面での名は『Befallen'』である。
 海外モジュールには最初期のOC当時から、他のMORPGやMMORPGの要素をNWN化(多分にマルチプレイを意識)したものが多く、海外有名MMOのEverquest(EQ)についてはMO,MMO要素の再現や、または特定のエリアやダンジョンをモジュール化したものが幾つかある。DMありやマルチプレイが大前提であったり、特定の条件のキャラやパーティーが必須であったり、そもそもEQの名前だけでエリアの中身はぞんざいだったりと現在の目で見ると難のあるものが多い。その中で、このBefallenは、日本語版については通常のモジュールとしてプレイ可能なものである。翻訳者のモジュール解説文にもあるように、元の英語モジュールは戦闘以外の要素が全く無かったものを、日本語版の訳者が戦闘以外の宝物収集のイベント(シナリオ目的、ジャーナル)を配置したものである。(なお、和名について、Grimdawnに『堕落せし者の聖域』というそっくりの名のダンジョンがあるのでハクスラ/*bandゲーマーは思い出すかもしれないが英語名は全く違う。)
 3層になっているが、1層は3-5lvあたりでちょうどいいものの、2層は手ごわく、そして3層は爆発的に危険きわまりない。日本語版のモジュール解説文にも「最下層ではちゃんと戦術を立てないと全滅する」と書いてあるが、どうやら特に最下層は、冒頭で挙げたマルチプレイ前提の再現同様に「多人数でバランスの取れた高レベルパーティーで綿密な連携をとって」攻略するのが前提らしい。Archiveでは開始適性キャラとして「2-6人の3-3lv」と書いてあり、かなり取得経験値は多く、3lvのキャラは1、2層でかなりレベルアップするものの、ソロだと3層は10lv台後半でも装備によっては充分とはいえない。しかし戦闘系としてはなかなか手堅く、訳者が戦闘バランスに注目したのも納得できる部分もある。
 元の英語版でのEQ-Befallenについては、新vaultでは殿堂入りも評価もなく、投稿者のコメントもどこかやる気のないものであったりと、他のEQ再現物の外れ率と相まって、おそらく現在目に留まる機会はほぼ無いに違いない。しかし日本のNWN1ユーザーには、上記翻訳時のアレンジがきっかけで戦闘モジュールとして知られ、いまだに貴重なArchiveの日本語モジュールに名を連ねている。



〇デストラップ

 Deathtrap Equalizer (1977)はT&Tの2番目(FT-RPG風ゲームブックとしても初でもある『バッファロー・キャッスル』に次ぐ)のソロアドベンチャー(ゲームブック形式のソロPnP-RPGシナリオ)である。T&TルールデザイナーのケンStアンドレによる作で、危険シナリオにあふれたT&T内でも、どころかPnP-RPG全体の、というよりもRPGというもの全体の代表的な「即死シナリオ」のひとつとしてかなり有名である。数パラグラフの小冒険のどれも選択肢ひとつや遭遇で即死の危険があり、それが16冒険並んでおり、ダイスで飛んだり連続でプレイさせられたりする。16冒険の個々の仕掛けそのものは、作者が各種の英雄伝承を参考にしたというように今の目でもなお興味深いものが多いが、それはゲームとして自分でプレイした際の理不尽さとは別問題である。なお、かつてのT&T5版の現代教養文庫版では邦訳『デストラップ』となっており、ファイティングファンタジーゲームブックの『死のワナの地下迷宮』(デストラップ・ダンジョン)と名前だけでなくデスシナリオという点でも共通しているためか、ゲーマーによっては記憶が混同している者と出くわしたりもしたが、シナリオの流れなどの内容は全く似ていない。
 
9版(完全版)対応版にリニューアルされたものも和訳されている。9版対応版は作者によりかなり手が入っており、名詞などが変更されているが、ゲーム面も調整され、ルール的な問題の幾つかは改善され、難易度も大きく下がっている。しかし「RPG全体の中では突出した即死デスシナリオ」である点はそれほど変わらない。
 原語出版当時や9版対応追加時の前書きなどには、当時前例の少ない「ソロシナリオ」に対する様々な工夫をこらした(前記の英雄伝を参照した等の他)結果として、会話型PnP-RPGに比べてとれる行動が限定されることに対する説明としての魔法の限定閉鎖空間、といった状況を慎重に配置した結果という作者本人の言がある。同作者の『運命の審判』(本記事後述)の原書前書きにはデストラップはそれほど難しくないなどという言及がある。実際のところ、一部T&Tゲーマーの中からも、よく解析すれば注意深く計算されているのが読み取れるとか、慣れればたいした危険もなく高報酬が得られるボーナスシナリオ、だとかいう作者と同じ主張すらある。しかし、前書きは9版対応版には収録されているが、5版文庫版には書いておらず当時の制作事情などわからず、こんなものが計算深いボーナスシナリオとして今なら理解はできてもそう受け入れられるのは本国・日本とわず廃人だけで、ごく普通にゲーム(ソロアド)としてプレイしようとする限りは行き当たりばったりの理不尽即死シナリオに他ならず、5版当時からの大半の評価はそれ以外の何でもない。本国の他のT&Tソロアド作者の言及(例えば『恐怖の街』序文等)でも「悪辣なケンのあのデストラップ」などと全く憚られていない。

 このNWN1モジュールは、これまでも紹介したT&Tコンバートシリーズのひとつで、かつての5版の現代教養文庫版の方をもとにD&D3.0eのNWN1にコンバートしているものである。これも例によって理不尽デスシナリオの側面は緩和され、普通にNWN1のソロモジュールとしてプレイできるようバランシング、調整されている(ただし、危険なトラップも残されている)。奇想天外な仕掛け、アイテムやギミックは、いかに3.0eやNWN1で再現されているかが逆にコンバートの醍醐味であり見どころである。無論、元のT&Tソロアドは知らなくても普通にNWN1ソロモジュールとしてプレイすることに内容、難易度とも問題はない。
 5版にせよ9版にせよこのソロアドを覚えている者にとっては、登場する強力なアイテム群が記憶に残っているところであろうが、D&D3.Xeへのコンバートやバランスの問題でボーナス、ペナルティともに特色は抑えられているものが多く、レベル相応のバランスである一方で、また3.Xeの習熟特技の問題で様々な武器種に散らばっていたりもしており、T&Tの頃に愛用していたアイテムが使用できないというプレイヤーもいるかもしれず、少々物足りない面もあるかもしれない。その一方で、永続的なトラップや能力値変化はT&Tでは(ソロアドに限らず)よく悩まされるものだが、一時的なものに変わっているものが多く、しばしば永続的武器破壊などがそのまま再現されてしまっているD&DのPnPコンバートシナリオなどよりも良心的である。
 このNWN1版は、T&T5版当時の情報または邦訳文庫版に限られた情報内によって作られているため、現在の9版の記述・設定や、また9版邦訳で読めるようになった情報とは食い違う点が多々ある。例えば人名は9版の「ムスカハ」「ラコヴ」ではなく5版の「ハクサム」「ヴォーカル」である。ダンジョンの作り主でナビゲーターの魔術師「”輝く歯”アムスロパガアス」は、5版の教養文庫版では姿などに対する描写が全くないためか、このNWN1版では「ドワーフ」になっている。これは理由は特にないのかもしれないが、姉妹編ソロアドである『鏡の国のダンジョン』のドワーフ魔術師マーセラニウス(アムスロップと友人であると言及されている)の方を元にした可能性も、ケンStアンドレのアヴァター(魔術神グリッスルグリムなど)がしばしばドワーフである点を考慮した可能性などもある。が、実は、教養文庫版では、同文庫の前掲のソロアド『運命の審判』の末尾(クリアしても目にしない者もいるかもしれない)に人間の姿でさそりの尾を持つ魔術師のイラスト(J.キルビィ画)があるが、これは原書初期版で裏表紙(L.ダンフォース画)に描かれている同じ画のリライト、同一人物であり、初期版の冒頭文によればこの裏表紙の人物=さそり尾の魔術師がアムスロパガアスに他ならない(本国ではアムスロパガアスはロストワールド(クイーンズブレイドの元ルール)でもデータ化されている)。9版対応版の上記邦訳になると、ダンフォースの方のイラストがアムスロパガアスとして冒頭部分に載っている。これらの状況から、現在のゲーマーから見るとかえって疑問が沸く点もかなり多いと思われるが、5版範囲でも他ソロアドなどのネタが仕込まれているため、9版のプレイヤーにとっても充分興味深くプレイできると思われる。







〇海外版モジュール


〇Naked Doom (新vault配布ページ

 T&Tの定番ソロアド、『運命の審判』をモチーフにしたモジュールである。T&Tシリーズといえばここでも幾つも紹介している日本のArikawa氏のシリーズだが、こちらは海外mod作者の英語版である。NWN1もOC(基本ボックス)しかない頃の、旧vaultでも最古の部類に属する。
 『運命の審判』は、犯罪者処刑用ダンジョンに放り込まれ、ほとんど死刑同然のデスゲームから生還する(ほとんど生還できない)というもので、デスシナリオが多いT&Tの中でも、特にギャンブル性の高さ(超ハイリスクハイリターン)で有名であるが、こちらは(日本製のArikawa氏のシリーズとは異なり)その危険さもある程度再現されていたりする。
 なお、投稿者のコメントにあるが、同梱もされていないがSASA hakを別途準備しなくてはならない。それも(原作通りの)カズヤパンツ一丁の裸状態を再現するというただそれだけの理由である。

 カザンの処刑部隊といったおおまかな設定や始点終点は同じだが、ただし、モジュールの流れ自体は、元のソロアドとは異なっている点が多く、厳密に再現モジュールというわけではない。元ソロアド自体が処刑用の罠迷宮といいつつキノコの洞窟だのバルログの信仰所だのに繋がっていたのに対して、こちらの方が処刑施設らしい印象を受ける。プレイ前に期待する向きにも言っておくと、残念ながら英雄剣や絶望剣が手に入る施設もこちらにはない。
 装備なしで始まるので、1lvのキャラで開始してそのまま突進すると簡単に死亡するため、何回かセーブロードを繰り返しながら通る順番(先に武器を手に入れる等)を見つけていくという元ソロアドやゲームブックそのままのプレイングを続けることになるが、短いモジュールなのでそれが飽きるほど続くというわけでもない。例えば最初から3lvのキャラを使用すれば楽だったり、隠密を使用して通り抜ける等の多少のバリエーションはある。
 かなり短い小粒モジュールで、他ゲームネタがなければ特筆するほどでもないが、NWN1の多様さや日本のモジュール製作者との共通嗜好を垣間見られるひとつである。








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