※このページはNWNシリーズをはじめD&D系PCゲーム全般のネタバレを含む
 ※下の方が新しい



〇ミアクるん・レインボー!!(ライバるん(ミストラ)の杖をバキ折る)


ベイン!
ミアクル!
バール!


彼らはいつ! どこで! この世に産まれたのかも
どんな一族なのかもわかりません……
しかし、人間の歴史にその姿をあらわしたのはネザリルの時代と
伝えられています

ジャーガル神より得た恩恵! 暗黒の権能とともに!

3神は人間をつかまえると信仰力の収集をくりかえしました…
男! 女! 子供! 老人! ムーンシェイ諸島! フラン市!
何万人も何十万人も

だがッ! 彼らの収集には真の目的があったのです!

自分たちが宿命の銘板(タブレット・オブ・フェイト)を手にしトーリルを征服する!
究極の超神になるための道具として信仰力を完成させるという
最大の目的がッ!

(『卓ゲーマーの奇妙な冒険』某掲示板過去ログより、詠み人知らず)



 AD&D1st時代にFR世界の3バカ大将とか呼ばれていたのがベイン、バール(ベハル)、ミアクル(マークル/マークール)の3神である。和訳もされていた『ムーンシェイ・サーガ』、『プール・オブ・ダークネス』や『シャドゥデイル・サーガ』で描かれるこれらの大将らの振る舞いは柱の男のような切れのある姿ではなく(9割方、これらの作品の出来のせいでもあるが)非常に小悪党で恰好悪い。
 NWN1ゲーム内の本棚の読み物(灰色表紙のフレバー書物のひとつ『タイム・オブ・トラブル』)で読めるが、AD&D2ndへの移行時の『災厄の時』(1358DR)で、ベインはトーム、バールはマスク(とシアリック)、ミアクルはミストラの手にかかって倒れ、このとき権能を失ったデッドパワーとなっている。D&D3.0eでベインのみが復活したが、BG(2nd)やNWN1,2(3.Xe)の時点ではバールとミアクルは活動不能のデッドパワーのままである。知っての通り、BG2のToBやNWN2のMotBでは、デッドパワーであるバールとミアクルの残した名残がさらに弱体化する姿も描かれる。
 しかし、D&D5版に至り、遂に3バカ大将が全員復活し、再びそろい踏みすることとなった。PC版ゲーマーにはMotBはともかくToBであんなに苦労したのが台無しだという声もあるが、そのうち考察する機会もあるだろう。


 FR世界の構築上のことを言えば、ベインの原型は、Dragon#54のグリーンウッドの記事によるとドルアーガ(AD&D1stのDDG/LLなど)である。ただしFRの歴史上、メソポタミア神にあたるアンサー・パンテオンとの絡みの話題はほとんど無く、『災厄の時』の際にアンサーで金ぴか(ギルジーム)とティアマットらが抗争した際にも何か関与した形跡は特にない。
 バールについてはそのまま古代オリエントの神話用語で何も説明する必要はないと思われる(なお、各種バアルの語が変形した多数の神霊・悪霊については、九層地獄などにそれらの悪魔がFRその他のバール神とは全く別個にそれぞれ居る)。一方、ミアクルについては(Dragon#54にもモチーフとの関連は書いておらず)諸説がある。単にアイスランド語のミシュクル(myrkur, 暗)そのままとか、又は、WG世界の死神ネルル(Nerull)の綴り替えにすぎないという意見も聞くが、ネルル自体の正式な初出はDragon#74であり上記#54より後なので、ここからは判断できない。


 ともあれ、少なくとも3バカ大将については、原型となる地球等の神々があるとしても、それらとは「同名の別人」であり(欧州由来、アンサー、ムルホランドの地球と同名のFRの神々の多くが、地球の神々と完全に「同一人物」であるのとは異なる)もとはFR世界の「人間」であったものがascendしたものである。人間の冒険者であった3人がジャーガル神から権能を譲られた経緯は、BG等のゲーム内書物、『デッド・スリーの歴史』等に説明されているので、これも特に説明の必要はないと思われる。
 この書物等に記された逸話は単なる「神話」であって、その内容は真実とは限らない、という説もある。しかし、3.0eのFaith and Panthenonsのベイン神のデータは、ミストラ、ケレンヴォー、シアリックら(これらは『災厄の時』に人間がAscendしたことがはっきりしている)と同様に「来訪者ヒットダイス」を持っていない。これは3.0e Deities and Demigods (DDG, De&De)でのヘラクレスやヴェクナ同様、定命からAscendした者の特徴である(※1)。3.0eまでのベインが元は人間だった、というのは少なくともこのデータからは裏付けることができ、おそらく同様の経緯でascendしたとされる3バカ大将の全員が同様であると考えられる。
 神格としてのモチーフは明確だが人間としての出自がはっきりしていないベイン、バールに対して、逆にミアクルの人間時代については、FRの設定上はマーゴームの王子であったと明確である。マーゴームとは、大概のフェイルーン地図では東端に描いてあり、ムルホランドの東にある地方だが、3.0eFRCSには小さな段落ひとつの説明しかない。1372DRの時点では村落の集合体しか残っていない。



 さて、デッドパワーとしてのミアクルであるが、NWN2のMotBではその姿は巨大な「地形」となってアストラル中継界に浮かんでいる。3.0eのManual of Planes(MoP, 邦訳『次元界の書』)などの次元界関連の書物には、アストラル中継界には滅びた古代の神格の巨大な肉体が浮かんでいると書かれており(ただし、どの程度力が残っているかは卓ごとの判断による)MotBのロード画面でも簡単に説明されているので、それだけ知っていれば特にこの描写に疑問は起こらないと思われる。
 が、よく考えてみると3バカ大将は元は人間であるから、「巨大な肉体」を持っているのは妙にも思える。神性の基本ルールであるDDGに載っている諸神性も、肉体については神格化前と特に変わらない見かけ(少なくとも、データに書いてある「主要な姿」については)をしているのだが、FRの神々についても、上記Faith and Panthenonsでは元人間のシアリックもケレンヴォーもミストラも、よもぎ色のホブゴブリンのような姿をしているベイン(グリーンウッドがドルアーガの姿と言っていたのと違う)も、本体のデータは「中型サイズの来訪者」であり神格の本体そのものも人間と変わらないサイズであることがわかる。
 ならばなぜ人間出身のミアクルが、デッドパワーになると巨大な体になって浮いているのか。仮に神としては巨大な姿をとることもあると考えたとしても、デッドパワーは権能を喪失しているのだから、人間の肉体に戻ったりしないのか、という疑問が浮かぶ。


 おそらくはこのNWN2の描写は、FRや3.Xeのascendの設定ではなく、上述した3.0e-MoPなどの「アストラル中継界には信仰を失って死んだ神の身体が浮いている」という設定の方だけからインスピレーションを得て、死んだ神であるミアクルもそうであるとして作られた描写で、それ以上は深い意味はないのだろう。ascendや神性の描写には曖昧な場面やその場の想像力の赴くままというものが特に多いので、そんなものである。


 しかし、強いて言えば、神以外の者がascendした時点で(多分に下級神以上の存在になった時点で)心身ともに完全に別の存在へと変質してしまう可能性は、他の様々な箇所で示唆されている。
 例えば、ケレンヴォー神は、人間だったころの知人エイドンについて無慈悲すぎる裁定を下し、裁定神としてのケレンヴォーは、かつての傭兵ケレンヴァーとはまるで別の存在になってしまった逸話としてよく挙げられている。これをいかにも裏付ける例として、そもそも見かけからして人間時代のケレンヴァー・リーオンズベインは、中年のむさくるしい髭面だが、NWN2のケレンヴォー神はマスカレードな仮面をかぶり、そしてこの仮面の下は若々しい超絶イケメンであり、完全に人間時代とは別物と化している。
 おそらく、人間だったミアクル王子も、マークル神となった時点で、人間とは全く別の形態、NWN2のMotBの「地形」のような巨大な(そして、シャドウ・ムルサンティアに多数設置されている神像のような)姿に変貌してしまい、そして、マークルが権能を喪失した後も神性を完全に喪失してないのと同様、神として得たその形態も特に喪失するということはないのだろうと考えられる。



※1 3.0eのDDGやSRDによると、ほとんどの神性は「来訪者ヒットダイス+冒険者クラスレベル」を持つが、冒険者クラスレベルだけを持つ神性についての説明もある。加えて、3.0e-DDGには(mortalからascendしたヘラクレス等の箇所に)定命mortalがascendした神性は「冒険者クラスレベル」だけを持つ、という説明がある。
 ここでよく、「WGのアイウーズや聖カスバートのデータを見ると、神以外からAscendしたにも関わらず来訪者HDを持っているので、『神以外の出身は来訪者HDを持っていない』というルール解釈は誤り」という反論がある。
 しかし、ものすごく厄介なことなのだが、D&Dシリーズではimmortalという語は、神性(神格ランクを持つ)や、ひいてはアークフィーンドやセレスチャルパラゴン等に限る意味ではない。例えば単なる来訪者などが、主物質界の生物に対して定命(mortal)を呼びかけに用いることが頻繁にある。D&D系において、immortalとdeityと"a" "g"odは多分に重なる部分はあるが、同一の用語ではない。(日本のTRPG界隈では、CD&DプレイヤーがCD&Dのイモータルルールとこれらを必ずといっていいほど混同して吹聴しているので、注意を要する。)immortalという語の3.Xe(d20)での信憑性のある定義はDDGやSRDのdivineルールで神格ランク0以上の持つimmortalityの項目、「加齢せず生存に空気や飲食を必要としない」ことを指すとも言えるのだが、2nd以前を含めた話においては、当然ながら統一的なものではない。
 アイウーズはカンビオンなので元から来訪者である。聖カスバートは地球人、「オアース以外の主物質界」の出身、場合によっては聖人(霊)なので、明らかに「オアース出身の人間」ではない。よって、オアースのmortalではないから、オアースの神性としてascendすれば来訪者HDを持つことも考えられる。トーリルについても同様に考えると、ベインは来訪者HDを持っていない以上は、「トーリル出身の人間」(少なくともトーリルのmortal)が出自である(ドルアーガ等の神が出自でもなければ、地球等の別の主物質界の人間が出自でもない)ということになる。
 とはいえ、これらはあえてデータのみを材料にして導き出した推論にすぎず、上記ミアクル地形の例のように、Ascendのシステムはワールドや各設定者に丸投げされた部分が非常に多く、特にFRでは版が変わるごとに神々の設定が大幅に変わることが珍しくないので、推論の根拠含めて確実性は低い。(例えば4−5版ではベインはFR以外の世界にも存在し、それらは明らかにFRの人間出自ではないし、FRでもいささか話が変わってくる。)



〇引き継ぎ


Q:昔のD&Dにはダークエルフの神を殺しに行くシナリオがあったらしいけど(筆者註:
Q1モジュールとかを指していると思われる)神が死んだとかなったらダークエルフ達はどうなったんだ?

A1:よく知らないけど3版以降にもロルスはいるからそのシナリオは無かったことになってるんじゃないの

A2:死んだのは単なるアスペクトだったとかという後付け設定になってうんぬんかんぬん

A3:A1〜A2では、1st時代(3版より以前)に実際に当時のプレイヤーがどう処理していたかについて、何も質問の答えになっていない。考えられる処理としてはその卓では別の神とか同名の次代のロルスに権能が移ってうんぬんかんぬん

A4:Q1モジュールのAD&D1stの1980年の時点では、そもそもクレリックが神やそのドメインから呪文をドローするといった厳密な設定が無い。権能や信者と密接に関係するといった設定も2ndまで無い。なので
死んだところで別にダークエルフ達は何もどうともならない


 D&D系の世界設定ではどれもそうなのだが、FRではことさらに、神々が死んで代替わりするというイベントが、これはちょっと多過ぎるだろうというほどにあまりにも多い。そういうイベントがあると、神々や信者らはどうなってしまうのか。

 神々自身の引き継ぎについては、実は問題はたいして無い。前の神が死んだり権能(ポートフォリオ)が奪われたりして、権能が移動すると、能力なども大体そのまま移動する。3.Xeでは神格ランクも、行使できる能力(権能に関連する事項についての影響力)も、だいたい権能で決まる。

 が、信者の方はどうなるのか。というのは、ゲーム処理ではなく世界設定上、信者は「神」を信仰しているわけであって「権能」を信仰しているわけではないからだ(※1)。権能のシステムなどその世界の一般人の信者はまず知らないし(PHBには権能については載っていないことから、少なくともプレイヤーキャラの基礎知識ではなく、したがって聖職者らにとっても必須の知識ではないともいえる)、権能が別の神に移ったなどと言われた所で何だかわからず、急に名前も知らない新しい神を信じろと言われてもまずわからない。

 この場合、新たな神が寛大であれば、信者にはそれまで通り振る舞えばよく、改宗等を要求しないかもしれない。例えば何度か代替わりしたミストラがそうであり、3代目のミストラは先代と同じ名を名乗り、自身は「中立にして善」にも関わらず「秩序にして中立」のクレリックを認めているのは、2代目の信者はそのまま特に離脱や方針を変える必要がないという意である(※2)。

 しかし一方で、悪神の場合はそこまで慈悲深くはないことが大半である。神が代替わりした際に、前の神の信者に改宗や、場合によってはアライメントチェンジさえ要求するかもしれない。それらを躊躇した信者に容赦なくおしおきだべ〜等とやっていると、戦力が減少するかもしれないが、忠誠心等を篩にかける機会でもある。悪は用心深くなければやっていけないという事情もある。
 例えば、ベインからシアリックに、さらに再びシアリックからベインに(ついでにゼヴィムからもベインに)権能が移った際、ゼンティル・キープ等ではそれぞれ大混乱が起こっている。シアリックが「死者」の権能をミアクルから奪った際に、ミアクルの信者に改宗を強要した様は、MotBのシャドウ・ムルサンティアでのイベントで説明される。
 また、悪神から(慈悲深いとは言えないが)悪神ではない神に移った際も同様の混乱が起こり得る。MotBのゲーム内では充分には語られていないが、「死者」の権能がミアクル・シアリックからケレンヴォーに移った際も、これらの教義・主義は全く異なる(例えばミアクルはアンデッドの神でもあったが、ケレンヴォーはアンデッドの存在は認めない)。

 ちなみに権能を持っていない信仰対象(準神格、英雄神、セレスチャルパラゴン、アークフィーンド、Pathfinderの"Kami"など)は信仰こそされているが、権能や信者から力を得ているわけではない(又は、限らない)ので、実は冒頭の例話のロルスのごとく、死のうが生きようが信者には特に関係はない(※3)ことも多いと思われる。 


※1 3.Xeのルール上(例えば標準のWG世界など)は、神でなく「領域」を信じている信者やクレリックならば居る。が、FR世界では基本的に想定されていないと考えた方がよい。

※2 実際には神格本人が認めれば済む話なのかは大いに疑わしい。3.Xeのルール上は、クレリックと神格はethicsとworldviewのどちらか1段階のずれしか許されず、「秩序にして中立」は両方がずれているので、PHBのルールに適合しない。つまりミストラについては3.Xeの根本ルールをはみ出すことが平然と認められているわけであって、これはミストラ神が常に名前が出るごとに指摘される「FR世界のデザイナーのえこひいき」を満身に受けた存在であることと、深く関係していると思われる。
 なお、WGなどの3.Xeの一般的ルールでは(3.Xeのゲーマーにも勘違いされていることが多いが)クレリック以外の信者(パラディン等を含む)は信仰対象と自分のアライメントが全く離れていても構わず、上記片方1つのずれまでしか許されないのは「クレリック」だけである。しかし、(3.0e FRCSによると)信仰の影響が非常に大きいFRでは、クレリックだけでなく全ての信仰呪文の使い手はアライメントの一致か1段階のずれまでしか許されないという、基本ルールより厳しいルールになっている。(なお、スーニー女神(混沌にして善)だけは2段階ずれたパラディン(秩序にして善)が存在し、例外ルールであると明記されている。FRのルールとしては例外だが、前述したように3.XeのPHBの基本ルールではクレリック以外は何段階ずれていてもいいので、PHBの範疇内にすぎない。)信仰呪文使い以外の「通常の信者」と守護神格のアライメントの許容範囲については、FRCSではいまひとつ明確ではないが、おそらく同様が推奨され、特に対立する属性(例えば混沌にして善のローグが、秩序にして悪のベインを守護神格にするなど)はあり得ないと例示される。

※3 ちなみに冒頭の答A4についてだが、まさしくQ1モジュールには、「主物質界以外では」クレリックは自力で呪文レベル1−2をドローできるが、それ以上は高位存在などに依存するので、例えば外方次元界では低レベル呪文しか使えないことがある旨の記述がある。一見、呪文のドローが高位存在に由来するというルールに見えるが、高位存在がどこにいればいいのか、どの主物質界(非常に厄介なことに、この時点で主物質界という記述は「WG世界の主物質界」に限らない。地球の神がFRなどにいるのか、等と考えると非常にややこしくなる)とアクセスしていればいいのか等、ろくな答えになっていない。そもそも低レベル呪文ならクレリックが自力でドローできるなどという時点で、AD&D2nd以降と根本的に異なっている。



〇「死」「死者」の権能


 FR(『バルダーズゲート』シリーズ)やNWN1/2の紹介サイトには、版ごとの変更や情報の錯綜ばかりとも、また誤解釈(誤訳)ばかりともいえないのだが、FRやNWN2における「死」の神、中には「死神」が、「ジャーガル→ミアクル→シアリック→ケレンヴォー」の順番に変遷した、と書いてしまっているサイトがある。というよりFRの背景を良く知らなければ、NWN2-MotBの描写もそのように解釈してしまいそうである。

 「フーガ界(AD&D1stではGray Waste)で死者を管理する役」が、有史以前にジャーガルからミアクルに渡り、やがて(2−4版の長期間)ケレンヴォーに渡った、という経緯は確かである。
 が、「死の神」「死神」がこの順であった、という把握は正しくはない。


 AD&D1stでミアクルが持っていた権能は、「死(Death)」ではなく、「死者(Dead)」である。当時のミアクルは「死んだ後の者」に関する神であって、「死そのもの」の神ではない。わかりやすい話をすれば、ぺガーナ神話のムングは死そのものの神だが、東洋のヤマは多くの文化圏では死者(死そのものというより、死んだ後にどうなるか云々)の神である。
 Deadの権能を「死」と訳したり理解しているのは、誤訳であると共に、日本のゲーマーの間でよく知られている神話群(あるいはその間での海外の神話・信仰の理解の仕方)では、少なからぬ死神や冥府の神が、死そのものというよりは死者の命運を云々する神々であることにも原因があるだろう。
 なお、AD&D1stでの「死」そのものの神、Deathの権能を持っていたのはFRの3バカ大将のうち、バールである。バールは殺害(Murder)の権能も持っており、BG内でもよく使われていたロード・オブ・マーダーという名の由来である(BGを忘れ、うっかりバールを「ロード・オブ・デストラクション」と呼びそうになるDiabloゲーマーも多い)。

 一方、AD&D2nd〜D&D3.Xeでは、「死」「死者」の権能は両方ともケレンヴォーが所持している。
 しかし、これがミアクル(マークル)が復活した5版になると、極めてややこしいことに、5版ではミアクルが持っている権能は1st当時持っていた「死者」ではなく「死」の方になっており、「死者」はケレンヴォーに残っている。おそらく、裁定者としてのケレンヴォーの役割は残しておいた方がわかりやすいと判断したのであろうが、マークルの方について理解を難しくする(上記の誤解を促進する)結果になっているといえなくもない。

          前史    1st  1358DR-    2nd−4版 5版
--------------------------------------------------------------------------
死(Death)  ジャーガル バール  シアリック ケレンヴォー ミアクル 
死者(Dead)  ジャーガル ミアクル シアリック ケレンヴォー ケレンヴォー



 一見すると「死神」のように見える者が同時に多数いる場合、それぞれが実は別々の権能を持っている場合もあるが(DeathとDeadの他、UndeathやUndeadなど)その他に、3.Xeの信仰のルールによれば、ひとつの世界(惑星)上に複数のパンテオン(神話)が存在する場合、通常は「権能」もパンテオンごとに別々に存在する。例えば地球でも別々の神話の死神はそれぞれがDeathのポートフォリオを有する。
 D&D3.Xeでも、例えば標準のWG世界では同様に、スゥエル・パンテオンではウィー・ジャス女神が、フラン・パンテオンではネルル神がDeathの権能を有する。そのため、3.Xeの基本のPHBには「死の神」が2体載っている、というわかりにくい事態になっている。

 しかし、ここでFRに話を戻すと、『災厄の時』などの事情を見る限り、FRではWGとは異なり、1つの権能はパンテオンごとでなく、惑星トーリル全体に渡って1つしかないものであるように見える。ケレンヴォーは人間であろうが他パンテオンを信仰する他種族であろうが、トーリル全体の死者を管理しているように見えるし、エルフやドラウのパンテオンが、フェイルーン・パンテオンの神々と権能の争奪を行ったりしている。
 これは権能や神格ランクのルールは世界設定ごとの裁量による部分が多く、「WGとFRで違う点」または「パンテオンを総括するエイオーによる特殊ルール」と説明することも可能ではある。が、要するに、権能はパンテオンごとにある(=他のパンテオンとまたいで権能の奪い合い等をすることはできない)というルールが、この頃(1st末期)にはまだできていなかった、といえばそれまでである。



〇BGでクラスの名称は「クレリック」なのにキットの名称は「プリーストオブタロス」等になっていてややこしい。なんでクレリックとプリーストのどっちかに統一しないのですか


 クレリックとプリーストにそれぞれ全く別の意味合いがあるからである。クレリックはクラスであり、プリーストは職業である。「クラス」と「職業」は完全な別物である。
 クレリックはクラス名であり、ゲームシステムにおけるキャラデータの最重要分類だが、プリーストは単にその世界設定内で聖職者の地位や肩書であることを指すに過ぎない。


 これではたいして答えになっていないので、なぜクレリックがクラス名で、プリーストオブタロスがキット名なのかも説明する。「クレリック」はクラス名であり、クラスとはゲーム上の「分類・役割・キャラ類型」を示す。日本では誤訳されているが、Classは「職業」ではないし、クレリックのクラスは神性の信者や聖職者であるという意味ですらない。
 その社会での「職業」が司祭や聖職者でなくとも、神性と無関係でも(FRはともかく、3.Xeの一般ルールとしては、神と無関係に領域から呪文をドローするクレリックが可能である)いざダンジョン探索になれば前線で治癒・撲殺・ワレニカゴーするような分類・役割・キャラ類型であれば、それはクレリックであり、たとえ職業や地位が聖職者でなくとも往々にしてクレリックのクラスで再現される。他の役割・類型(例えばドルイドやモンク)の者は、たとえ職業や地位が司祭や聖職者であったとしてもクレリックではない。

 一方「プリースト」はクラス名ではなく、聖職者を示す最も一般的な用語である。職業や地位がタロスの聖職者であれば、クラス(キャラ類型)がクレリックでなくとも、例えばタロス信仰のドルイド、モンク、シャーマン、又はタロスから信仰呪文をドローする他のクラス(レンジャー若しくはブラックガード等)であっても、その世界設定での呼び名としてはプリーストオブタロスである。BGでは再現されていないが、2ndのルール上、キットは推奨される特定のクラスやグループ以外にも適用できる(意味があるかはともかく。2ndではクレリック以外の上記クラスは、クラスの属性制限上タロス信仰が不可能なものも多い)。それどころか、冒険者クラスでさえなくとも、宗教組織内で司祭や聖職者の地位を持っていればプリーストである。

 ルール用語「以外」の会話や説明文等でプリーストという語が使われる際はどの版でも上記の通りだが、もっとも、BGシリーズのAD&D2ndには、「ルール用語としての」Priestという語がまた別にある。AD&D2ndのPriestグループは、信仰系クラスのいずれかに属するものを指し、上記のうちクレリック、ドルイド、モンク等の聖職者クラスに属する者を指す。
 ちなみに世界設定の中で普通に使われている一般用語に対して、全く同じ語が「ルール用語」として使われていることがあり、別途特殊な意味がある、というのは、特に海外のPnPのRPGではごく普通にあることである。上記した「プリーストオブタロス」はFR世界設定の中での日常語では当然タロスの聖職者すべてを指すが、BGのルール用語としてはクレリックのキットのひとつしか指さない。同様に「ストームロード」はFR世界ではタロス神自身や聖職者を指す通称であったりすることもあるが、NWN2のルール用語としてはストームロードの上級クラスを取得した者しか指さない(どうでもいいことだが、3.0eのFaiths and Pantheonsによるとタロス神の神性の張本人はストームロードの上級クラスを持っておらず(Bbn20/Evo20, 神格ランク16)ルール用語で言えば本人すらもストームロードではない。しかしタロス神自身の別名としてthe Storm Lordという用法はFnP内の説明でも現に使用されている)。
 ちなみにこれはAD&D2ndの話で、どれがクラスでどれがグループでどれが一般用語といった定義は往々にして他の版にはあてはまらない。例えばRogueは最も広義では無頼の通称のFT用語としてD&D系内でも使われるが、2ndではグループ名で、3.Xeではクラス名である。Wizardもクラス名、グループ名、ただのクラスレベル称号のひとつと、版やバージョンによって使われ方が全く異なっている。AD&D2nd内ですら、後のルールで別の記述があったりする。ひいては、D&Dシリーズ以外の他のゲームや世界設定ではクレリックとプリーストの意味はおそらく上記とは全く違うだろう。

 しかし、少なくともD&Dシリーズでは、クレリックとプリーストが使い分けられることには意味があり、無意味に混在しているわけではない。



○セプター・オブ・ザ・タイランツ・アイ

 「圧政者の目の笏」は、『ベインに選ばれし者』(2nd-3.Xeの時点。4版ではベインのエグザルフ(随神)化)であり、3.Xe時点でのゼンタリムの指導者である聖職者、フズール・チェンブリルの武器である。
 フズールは「災厄の時」を描いた小説シャドウデイル・サーガでも活躍したので、それを記憶している日本のFTファンもいるかもしれないが、以後のD&D書類などでの活躍も少なくなく、現在はむしろそちらで知っているD系ゲーマーの方が多いかもしれない。

 3.0e FRCSに書いてある通り、タイランツ・アイは暴君ベインの看視の目という意味の他に、アイ・タイラント(ビホルダー)もかけてあり、このメイスはビホルダーに関連した能力を多く持つ。マイナーアーティファクトであり、(3.0e以前の古いアーティファクトの定義に拠って)便利な疑呪の発動を多数持つ。

 3.0e FRCSの
フズールのイラストで持っている、このアーティファクトとおぼしきメイスは、いかにも典型的な(普通の)形状のメイスである。
 が、旧版とおぼしきこの画像は、3.5e以前のベインのホーリーシンボルである「手」を象ったものとなっているようだが、どう見てもトリーシャ・フォスターが持っているあの棒である。



〇HotUのM氏は本体なのかアスペクトなのか

 以下はPnPのゲーマーにとっては、というかD&D系中のあらゆる情報の中で、下手をするとコアルール自体よりも最も広く知れ渡っている情報のうちのひとつである。どこかにはもっと詳細な分析もあるだろう。なので、ここでは非PnPのNWN1/2のみのユーザーのfaqに応える程度の、おおまかな概説しか触れない。

 まずは「HotUのメフィストフェレスはWG世界(標準宇宙=一般的なD&D情報)でなく、FR世界のものなので、標準世界(WG世界)を説明している3.Xeの記述とは無関係なのではないか」という議論がある。3.XeではFRがWG(Ps)と異なる独自のコスモロジーを得たので、FRとWGのメフィストフェレスは、厳密には「別人」である。しかし、といっても、(WGとFRのロルス女神の違いなどとは異なり)メフィスト以下の君主について、3.0eのFRにおける(WGと異なる)独自のデータが準備されているわけではない。
 さらには、NWN1/2のコスモロジーは3.0eFRCSなどのFRのコスモロジーが充分に反映されておらず、BGやPs:Tなどと同様に転輪(WGというよりも2nd以前のPs)のままになっている(別記事で述べているが、FRCSの反映が間に合わなかったのか既存ユーザーに分りやすくする故意かは定かではない)。完全に標準宇宙やWGと同一の存在(例えばPsのように、WGとFRでそれぞれ同一存在のアヴァター)というわけではないが、3.Xeでの「データ」としては、Psの情報、もとい標準宇宙(WG)のものを、ある程度参照してよいように思われる。考慮すべき点はその都度触れる。


 HotUに登場するメフィストフェレスは、アークフィーンド本体(本物)なのか、そうでない一部の能力を分離して形成した分身(アヴァター、アスペクト等)かは、HotU内でも両方の可能性が示され、確定されていない。
 実データを見ると、メフィストフェレスのPnPでの3.5eでのデータはFiendish Codex II (以下FCII, HJ邦訳『魔物の書II』)にある。しかし、3.5eでは非エピックを中心としていることもあり、載っているのはかなり力の弱い「アスペクト」のデータ(脅威度24)にすぎない。そして、HotUのメフィストフェレスのデータ(脅威度53)は、当然ながらFCIIのアスペクトとは比較にならないほど強大である。そのため、HotUのものはアスペクトではなくやはり本体ではないか、という当時のゲーマーからの疑惑が生じる原因となっていた。

 ここでFCIIによると、アークフィーンドらのアスペクトでない「本体」のデータは、3.0eのBook of Vile Darkness (以下BoVD, HJ邦訳『不浄なる暗黒の書』のものである、ということになっている。そこでBoVDのものを見ると(3.0eと3.Xeの差を加味しても)FCIIのアスペクトよりは、比較には細かい点の検証は要るが脅威度自体はかなり高い(脅威度29)。しかし、HotUのデータに比べるとやはり遥かに低い。
 そもそもFCIIには、「卓の事情に応じて」「エピックPCのために」もっと強力なデータが必要になったら、もっと強いアスペクトや本体のデータをでっちあげるために非常に無造作に強大化するための手引きが書いてある。BoVDにも、「物足りなくなったら神格ランク1(=半神)を付与しる。」といった非常にいいかげんなことが書いてある。逆に言えば、FCIIやBoVDのデータは、普通に強大化することがあり得、仮にHotUのデータが遥かにFCIIやBoVDより強大だったとしても、それがアスペクトなのかアヴァターなのか本体なのかは、データからは依然としてわからないということである。

 ただし、HotUのものはそのデータの強大さ以外にも、あるいは本体かそれに近い存在ではないか、と推測させる点が多々指摘されている。
 HotUにはメフィストが(これも真偽のほどは曖昧な部分があるが)アリベスに「呪文を与えていた」という言及がある。通常、d20のDivineルールでは、呪文を与えることができるのは半神以上の神格なので、「BoVDの神格ランク1以上の本体」ではないか、と推論することは可能である。
 ただし、FCIIにもBoVDにも触れられているが、善のセレスチャルパラゴンや悪のアークフィーンドは、神性ではなくともしばしば「カルト」を持ち、信奉者に呪文を与えることは可能である(ギミックの詳細についてはこれも推論が可能だが、別の機会に述べる)。また、3.0eの初期のルールが定まっていない頃の記述で、後のDivineルールとは異なる記載ではあるが、LGG(グレイホーク・ワールドガイド)によると準神格は信徒に呪文を与えられないが、英雄神には可能である。つまり、半神よりランクが低くとも呪文を与えられる場合があるので、結局は呪文を与えられるからといって本体とは確定できない。


 なお仮にHotUのメフィストが、アスペクトやアヴァターでなくFRや転輪での「本体」であったとして、それが滅ぼされたとしても、転輪の歴史が狂うほどのことではない。一部来訪者や神性は「本体が完全に殺された」場合ですらも、完全にいなくなるわけではない場合が多々あるからである(もっとも、本体がそこに存在することを前提にした計画は破綻することとなり、特にデヴィルにとっては深刻な事態ではある)。例えば以前までの記事で述べてきたMotBのミアクルのように、神性は「殺された」上に権能を全て失ってすら、デッドパワーとしてアストラル中継界に浮いていることがある。本体が滅ぼされた時点で、アヴァターのみならず、いずれかのアスペクトが別のプレーンに存在していた場合、そのアスペクトが以後本体となる場合もある(もっとも、データを見ればわかるように、本体の能力が少なくとも一時アスペクトの能力まで落ちてしまうのだから、著しいパワーダウンは避けられない)。
 ひいては、ピッコロ大魔王に対するマジュニアが「ピッコロ」の名と本質をそのまま引き継いだかの如く、「子」のたぐいが居た場合、以後はそれが親そのものになってしまう場合がある。(これは現実世界の神話的、といっても神話内の説話のことではなく、人間の間での神話の伝達過程で、しばしば起こる現象と同様である。)ベインに対するゼヴィム、バールに対するアブデル(4版末まで時間がかかったが)などがそれである。メフィストが次に登場したときに
CV:古川登志夫になっていたとしたら、それは二世が親の地位になりかわった、まぎれもなくピッコロさんと完全に同じパターンである。メフィストは子安武人? いや子安ではまだまだ……。



〇overdeityとはホニャララ宗教の唯一の神や造物主のことなのですか


 d20のoverdeity(divine rank 21+)は、現世に干渉せず、信徒を持たず、学術的以外の側面を認識されることもない存在と定義されるので、そのほげほげの神は明らかに指していない。
(現実のほげほげの例の神やその信者も、そういう実質の無いものかもしれない、というアイロニーではないか、という主張もあるのだが、同様に実質が無いと思われる他の現実神話の神々は普通にデータ化されている以上、それは考えにくい。)
 どちらにせよ、overdeityのデータは「唯一神や造物主の能力や神性のデータ化を目的としたものではない」(データ化が不可能という意味ではない)ということはこの定義上確実である。

 ではoverdeityは一体何を指すのかというと、ぺガーナ神話のマアナだとかクトゥルフ系のなんたらその他もろもろから着想されたものと考えることもできるのだが、実際のところは、この明らかに「使用」を前提としていない不干渉云々の定義からは、何かをデータ化しているというよりも、「神々(deities)も創造したそれ以上の次元の存在」がどうしても必要となった場合、その説明の道具として準備されているものに過ぎないだろう。


 しかし、ここで話を戻すと、一部日本ゲーマーの間では、
 「d20の超越神格(overdeity)=唯一神・造物主を指す」
 という説が、当然のように流れていることがある。何故かといえば、SRD(d20の公開公式ルール)に明記されている事項である、と主張されている。その典拠として、とある有名な日本のD&Dサイトで配布されていた、SRD(d20公式)を和訳したファイルにそう書いてあったから、というのである。


 一部の万神殿では、超越神格になるには、造物主(God)なる必要がある。


 が、結論からいうと、これはSRDに対してこの翻訳文の時点で生じた誤解釈である。英語SRD(及び、その原典である3.0eのDeities and Demigods (DDG))の原文における該当箇所は、


 In some pantheistic systems, the consent of an overdeity is required to become a god.


 原語の"a god"は、頭文字が大文字ではなく、定冠詞付きでもないので、明らかに「造物主」の意ではない。それどころか、不定冠詞付きなので、どう解釈したところで「多数の(多神教の)神々のうちの一体」の意以外には読み取れない。この英語のgodという単語は、冠詞の有無、種類や(文の途中でこの単語が現れた際の)大文字の有無によって意味がまるで異なる語である。
 ともあれ、原文の大雑把な意味としては、これも厳密な訳ではないが、


 パンテオンの仕組みによっては、「(そのパンテオンを構成する)神々のうちのいずれか一体("a" god)」となるには、
 「超神(のうちいずれか一体)("an" overdeity)」による承諾(consent)を必要とする。


 というあたりである。つまりこの文は、造物主・唯一神・"The"/"G"odに関する言及どころか、「超神になるための条件の説明」とすらも何ら関係はなく、それ以前に、「超神自身」についての説明でさえもない。この一文は、早い話が、例えばFR世界では、いずれかのパンテオンを構成する神性の一員(a god)になるには、エイオー超神の承諾を要する、といった仕組みの一例があることについて説明しているくだりに過ぎない。
 (これに対し、例えばWG世界には、惑星オアース上で他者のascendやパンテオンへの加入を承諾するような超神はいない。DL世界には、超神自体は存在する(Krynn High-god)が、承諾するわけではない。これらは、FR世界とはまた異なる"pantheistic system"を採用している例である。)

 すなわち、原文は上記私訳とはまるっきりぜんぜん違う意味の説明であり、そんな無関係の説明が、なぜか「overdeityは例のホンダラホイホイ宗教群でいう唯一神・造物主を指す」なる風説の根拠として、日本のゲーマーの間では広められてしまっているのである。
 なお、上記訳が、原文でわざわざ不定冠詞つき頭小文字の"a" "g"odと書いてあるものを、一体全体何故わざわざ訳文にまで頭大文字・冠詞なしの"G"odと改竄した英文を付しさえした上で、その意味の方で訳したのか、筆者には正直なところ理由は推測さえもできない。が、こういった事態は、海外RPGの訳には非常によくあることで、商用・公式訳ならともかく私訳者であれば、別に責められるような話ではない。
 これまで用語集等で、LotR関連の(特に個人の)邦訳、特にNetHackや、*bandその他のドキュメントに非常によくあることとして数多くの例を挙げてきたが、かなり広い範囲の背景や、予想もできないような情報(このSRD訳の場合、膨大なD&D系やd20)を把握していないと、全く意味がわからない・どうやっても誤解釈にはまりこむことが避けられない要素というのは数多い。上の例にしても、FRのエイオー超神の例を知っていれば当然にそのような事例を指していると即座に思い当たるが、知らなければ(あるいは思い出せなければ)一体どのような状況を説明している文なのか皆目見当がつかないこともありえる話である。
 したがって、これらの大規模ジャンルの私訳には、誤訳・誤解釈はあって当然と常に警戒しているべきであって、私訳の利用は利用者の自己責任であり、利用者が訳者を責めることのできる話ではない。確実を期したければ、詳しくは自分で原語をあたり、前後の文脈及び記事の背景に十二分に照らして判断するしかない、としか言いようがないのである(原語を読んでもわからないものはわからないことが多いが)。


 SRDに戻り、ここで、誤解釈の切欠のひとつは、原語で唐突にgodという語が使われている点にあると推測できる。このSRDのdivineルールでは、他の箇所では神性にはほぼ一貫してdeityという語が用いられているので、あたかもここでいきなり出てくるgodという語が、deityと全く違うものを指しているように読み取られてしまう可能性がある(そもそもこのdivineルールはほぼ全編deityの話をしているところに、いきなり改めて「godになるにはあれこれが必要」などと書いてあるためもあって、そう読めるのも無理はない)。
 そのため、「パンテオンの構成神(要は他で書かれているdeityの単なる一種)」という意味ではなく、神性について述べたルール記述の中ですらも、他とは全く別のもの、例えば「造物主」のようなものの説明であるかのように受け取られたと思われる。


 実際はどうなのか。"The" "G"odは論外だが、d20やD&D系でのa god/godsとa deity/deitiesについては、何か違いがあるのか。
 それは実のところ一概には言えない。言うまでもないことだが、godの方がdeityよりも遥かに口語的であり、それだけの差でしかないような使用例もあるし、一方では、全く別の語義で使い分けられている節もある。例示できる記載・推測できる材料もあるが、時代背景等も考慮するとあまりにもめんどいので次回以降に回す。



〇5版用語


 AD&D1st〜3.Xeまでは、システムはともかく用語などはたいして変わっていないのであるが、実のところ3.Xeから4版や5版の際に、(英語の表記の時点で)大幅に変わった点が多い。
 それは、伝統的なAD&D用語のおかしな点、例えば一般的な(辞典に載っているような)英語の用法とRPG用語が大幅にずれているまま長年定着してしまっていたものや、トールキンの用語を誤って輸入したまま定着してしまったものが5版で是正されているものも多く、基本的に肯定的に捉えることができる(困難ではあるが、いつかは着手しなくてはならなかった)改訂である。

 しかし、元々FT/RPG用語全体の認識が薄い日本では、1st等と5版で定義が変更されたことで、原語での変更よりなお重大な問題が生じている例が散見される。「レトロCRPGの元ネタは『D&D』由来」とだけ聞いて、検索して適当に出てきたwikiや、かつてのHJ社ウェブサイト、それらwikiやHJ社サイトを丸写しした日本語サイト/SNS言及などに載っている4−5版の用語を引用し、「AD&D1st準拠であるレトロRPGの用語」について、「遥かに後で噛み合っていない4−5版の用語を典拠に誤った説を拡散する」など、混乱が著しい。

 本サイトのこのコーナーでは、1st〜3.Xeまでの「神性の定義」に関する用語を普通に挙げて何の説明もしていないが、これらは5版以降は大幅に変わっている例であり、考えてみると、現在のゲーマーが3.Xeの記事のこれらの用語を把握しているかは不安がある。


 3.Xe                     |5版
---------------------------------------------------
 上級神(Greator Deity)   |上級神(Greator Deity)
---------------------------------------------------
 中級神(Intermediate Deity)| −
---------------------------------------------------
 下級神(Lesser Deity)   |下級神(Lesser Deity)
---------------------------------------------------
 半神(Demideity)       | −
---------------------------------------------------
              |亜神(Quasi-Deities):
 英雄神(Hero Deity)    | 巨神(Titans)
              | 廃神(Vestiges)
 準神格(Quasi Deity)    | 半神(Demigods)


 ちなみに3.Xe以前(ОD&D〜AD&D2nd)相互でも、用語や序列は変わっていないとはいえ内容には少なからず差がある。が、それは今回は省く。
 ややこしいのは3.Xeでは最下位だったQuasi-が、5版では下級神より下全ての「総称」となり、しかも3.XeでのQuasi Deitiesに近い意味を含んでいる語が、5版ではDemigodsに入れ替わっていることである。
 AD&D〜3.Xeの半神 Demideityは非常に高位の存在であり(「完全な権能を持つ神性」のうちの最下位)現代英語のDemigodsの一般的な使用例のいずれからも大幅に乖離していたため、このような改訂は妥当なものだが、片方の版の予備知識のみで(改訂経緯を知らずに)もう片方の版の記述を目にすれば把握はほぼ不可能と思われる。
 例えば、現在日本で(非TRPGゲーマーを含めて)頻繁に検索・引用されている
FR wikiでは、説明されている内容は基本的に5版であるにも関わらず、何の説明もなく3.0eの記載が紛れ込んでいるので、例によって混乱は確実である。

 3.Xeでは上級神〜半神までが権能を持ち、信者に呪文を与えることができた。その下が英雄神と準神格で、権能も持たず、呪文も与えられない。3.Xeでは英雄神と準神格はしばしばいっしょくたに(Hero or Quasi Deities)説明されている。
 しかし、厄介なことだが、AD&Dや3.0eの初期(LGGなど)に至るまで「英雄神は呪文を与えられるが、準神格は与えられない」としている資料がある。3.0eの正規ルール(DDG)以降には英雄神の呪文云々は無くなっているものの、これらの資料の記述から、正確には英雄神の方が上位であり、最下位は準神格である、という節がある。
 日本のPnPの3.Xeゲーマーの間では(準神格と英雄神は神位上はいっしょくたである、という前提の上で)「D&Dでは『英雄』が神格になったら当然『英雄神』になる=プレイヤーキャラの神格化の足掛かりは英雄神である」と流布されていることがあるが、(ルール上は誤りとまではいえないが)英雄神の方が上位という旧版の経緯及び過去の記載からは妥当とはいえない。
 またPnPの3.Xeゲーマーの間では、(現代英語との混同のため)神の子や定命との混血は自動的に「半神」になると流布されていることも非常に多いが、3.Xeでは神性の子供が自動的になるのは「準神格」であり、「半神」ではない。3.Xeで半神の神位を持っている混血は、混血であるという理由で自動的に獲得したのではなく、なんらかの別の理由で権能を獲得した者(ヘラクレス、アイウーズなど)である。

 一方、5版では、3.Xe以前に「半神」以下だったものの名称・定義が軒並み変わっている。Quasi-deitiesが下級神よりも下の神性の「総称」となり、この内訳のVestigeは死んだ神格、Titanは神々同士の子などの下位の神性、Demigodsは片親だけが神性の存在である(つまり、3.Xeまでゲーマーによって誤用されていた方の意味に近い)。いずれも、より「一般的な英語」に近い意味に変更されているが、3版以前とは同じ用語でも意味や階位は全く一致せず、完全に対応する用語をあてはめることも難しい。例えば、廃神について、2ndにはデッドパワーという用語があったが、3.Xeには独立したルール用語がない。タイタンは3.Xeまではモンスター種族名である。5版の半神は3.Xeの準神格の一部が該当するが、当然一致はしない。5版DMGには、下級神は諸次元界、中には物質界で生きている者もおり、定命の存在が遭遇し得る、と書かれているので、下級神は3.Xe以前の半神と統合されている節もある(3.Xeでは多くのワールドでは、よほどの理由(災厄の時など)がない限り下級神は主物質界に肉体を持ったりアヴァターを現すことは禁じられている)。

 5版の亜神は、3.Xeの英雄神・準神格(さらに、権能を全て失ったデッドパワー)と同様に呪文を与えられないのか、というと、実は5版では、3バカ大将(ベイン、ベハル、マークール)は復活はしたものの第二次大分割(4版から5版の移行)を経て能力(少なくともトーリルへの干渉力)が減少し、定命の姿で行動している(5版シナリオのBaldur's Gate: Descent into Avernusではこの状態の3バカを「quasi-divine beings 半ば神的な存在(HJ訳)」「demigods 半神(HJ訳)」としている箇所があり、5版のDemigodsの定義の混血なのか、定命の肉体で行動していることをそう指しているのか、厳密に前記表のどの状態かはここからは判然としない)。しかし、5版のPHBなどによると、この3神は、クレリックの信仰リストに普通に載っており、領域も有し、したがって呪文を与えることができる。すなわち、少なくとも神性としてのルール上は、これらの亜神でもより上位の神性と変わらないようである。3.Xeとは異なり神位と能力の相関関係は少なくとも厳密でないと考えられる。




〇サタンはどこにいる


 BGやNWNといったD&DのPCゲーマーの間でも、「BGやNWNの最強悪魔がデモゴルゴンやメフィストなら、BG3やNWN3ではその上を行くボスはやっぱり『サタン』でなきゃ」だの、「元ルールのD&Dには悪魔学の有名悪魔を倒すシナリオがあるらしいけど、まさか『ルシファー』を倒すようなとんでもないシナリオはないよね?」だのという発言は、PCゲームの掲示板やSNSでは相当に頻繁に目にする。
 D&DのPnPのみならずNetHackなどのゲーマーにも、D&Dシリーズやその関連世界(つまり、海外FT/RPGの「前提知識」「常識的教養」)では、究極的なスケールの悪魔はアスモデウスであり、たかがサタンだのルシファーだのは、仮にそれらが存在するという設定においてすら「遥か昔に九大君主たちに叩き殺されたか、または九層地獄から追い出され転輪を放浪している下っ端」でしかない、というのは完全に周知の事項だが、仮にそれを一番最初から説明しようとするとかなり時間のかかる話である。
 実は昔に話そうとして面倒になってやめたことがあり、個人的に宗教の説明を併せて行うのが面倒だからという理由で話を打ち切ったに過ぎないが、その詳細に触れていた現存しないあるサイトの文が「D&Dの最初期では、悪魔系モンスターの頂点はサタンという設定・データになっていたが、外部からの宗教的クレームで後から強引にアスモデウスに変更された」と誤読または改竄して伝えられ、今でも日本の一部界隈には吹聴・拡散されていることがある。「実情」は今では日本のD&Dゲーマーにならば充分有名な話で、今改めて説明したところで何の情報価値もある話ではないが、NWNゲーマー向けには、また前記一部の誤読を放っておくのも何なので、触れておくことにする。ただし実在宗教との関連の話は長くなりすぎるので省いているため、充分な説明とはいえないかもしれない。


 まず、(無論どの版のどのデータでも)「サタン」でなく「アスモデウス」が九層地獄の最高支配者、もといデヴィルの、ひいては悪役の頂点であり続けている事情は、メタ的には最古の強悪魔、AD&D1stのMonstrous Manual I(MMI, 1977)での強モンスターであったから、というただそれだけにすぎない。
 一方、設定上でそれがどのように説明されているかというと、地獄の成立やアスモデウスが支配するまでの来歴については、相互に矛盾する膨大な記述があり、このサイトでも一概に明白な設定として述べることはできない。そのうち、特に(日本の非D&D系のFTファンの間ですら)極めて有名なのは、以下に挙げる記述である。


(a)AD&D1st時代、コアルール直後のDragon#28 (1979)のPolitics of Hell記事には、最初はサタンが君臨していた九層地獄がべルゼバブ(この個体、または当時は「バアルゼブル」ではない)に、ついでアスモデウスに支配者が変わった旨の記事がある。この過程でサタンはベリアルを除く支持を完全に失い、九層地獄から放逐されている。追い出されてからも(人間を誘惑するなど)活動はしているが、多元宇宙を彷徨っているという以後どこに居るという情報はない。
 つまり、ここでもサタンやベルゼバブが以前の支配者であったことはゲーム以前の「前史」として述べられているのみである。ゲームデータ設定としては、あくまで最初からデヴィルの頂点はアスモデウスであり、改訂や版上げで「宗教上の理由」やら何やらによってサタンだったデータから変更された事実はない。

(b)AD&D2ndのGuide to Hell (1999)の序文には、アスモデウスの本体である大蛇(アーリマン)が別の大蛇(ジャズィリアンであり「アフラマズダ」ではない)と共に「転輪」を創造した後、転輪の下極、即ち後の九層地獄の最下層に落下した旨が述べられている。つまりアスモデウスの正体こそが多元宇宙自体の根源であり、それより格上の者は存在しない。

(c)3.5eのFiendish Codex II (FCII, 2006)には、アスモデウスとその配下の手勢(最初からディスパテルとメフィストの名がある)は、WG世界の秩序の神々(ハイローニアスやモラディン等)に仕えるいわゆる天使群だったが、混沌と戦ううちにデヴィルの姿となり、ついで原初契約により何もない場所に九層地獄とその役割を形成した歴史の記載がある。つまり、やはりアスモデウスよりも格上のデヴィルや、アスモデウス以前の九層地獄の支配者は存在しない。


 なお4版は、そもそもそれ以前の版とコスモロジーも含めて最初から別物として作られており、知られているように4版以後はアスモデウスは神格となっており、3.Xe以前とは悪役としての立ち位置自体が違い(尤も2nd以前に全く神格でなかったというわけでもないのだが、いくらなんでもあまりにもややこしすぎるので省く)さらに5版は、3.Xe以前と4版の両方を半端に踏襲しているので省略する。


 (a)〜(c)は全く異なる説明である。ただし、3.0eのManual of Planes(MoP)やFCIIでの詳細な説明をはじめ、九層地獄の底のネッソスにいまだに設定されている落下跡の亀裂「大蛇のとぐろ(Serpent's Coil)」の存在は、(b)こそが最も真相に近いか、少なくとも真相に含まれることを強く示している。FCIIでは、(c)を説明しつつ、地獄の成立とアスモデウスの来歴には(メタ的に)相互に矛盾する無数の説があるとし、(b)に近い説の存在についても併せて触れられており、「大蛇のとぐろ」と(c)の説を不完全に整合するような説明がなされている。
 ちなみに(b)のアーリマンとアスモデウスについて、日本のアンチョコ本やネット上の解説類では
アスモダイ(アイーシュマ・ダエーワ)はアンラ・マンユの「配下」「部下」と説明されていることが殆どだが、メフィストの時にも似たことを書いたが、化身や幻像(3.0eのMoPの例示はこれらである)や代行者が、部下や子孫等と見分けがつかないことはごく当たり前にあることである。
 これも話の順番が前後するが、配下、代行者、近親者、化身、同じ存在の別名などは、しばしば相互に見分けがつかない。地球の史上でも、アースモディやメフォースト自体が悪魔全般や、総称的サタンの単なる婉曲語(別名)として用いられていた経緯がある。かと思えば、D&Dの各世界設定では、正体はアスモデウスやメフィストフェレスである存在が、一部の並行世界や地域では、誤って「サタン」であると信じられていたりその名で呼ばれていることもある。
 D&Dの各世界設定で遥かに小規模のデヴィルがその名で呼ばれている例としては、例えば、エド・グリーンウッドのDragon#91記事などで言及される、第6階層の過去の支配者ベヘリットは、同作者のElminster in Hellでは相当する者はLuciferと呼ばれ、他にも名前(Beheritはシリア語でサタンを指す)をはじめサタンとの関連を伺わせる設定が多々ある。なお、ベヘリットはどのみち遥か昔(第6階層を一時期バアルゼブルやモーロックが支配するよりさらに前)にアスモデウスらに一族のみならず郎党も全員皆殺しにされており、また、グリーンウッドの管理範囲であるFR世界以外の第6階層の歴史にどの程度の影響があるのかは定かでない。

 話を戻し、「アスモデウス以前にその格上として君臨していた他の存在」ひいては「それがサタンやルシファー」である可能性は、前記(a)以外の場合には最初から存在自体し得ない。(a)はまた、以後の一連のD&D記載との整合性が非常に低い。バアルゼブルの方についても(a)以外の資料では、地獄の階層社会形成よりかなり後にアルコンが堕天した存在であり(ただしMoPには、元アルコンが前任者の名を奪ったのが現在のバアルゼブルだという記述が残っており、前任者はもっと古い存在とも読める)整合しない。(a)記事では、サタン側の味方として唯一残り、サタンと共に地獄を脱出したのがベリアルだが、AD&Dの方のMMIIのベリアルの記述ですでに第4階層の支配者と現設定と同様になっており整合しない。(実は(a)にはアスタロトもいるが、以後のAD&Dでアスタロトが辿った経緯はサタン以上に説明が面倒なので今回は省く。)この他、(a)は以後の他の転輪の設定とはほとんど整合性が取れない。
 当時のDragon誌の記事自体が、読者投稿も掲載していたため、現在では「公式度」が低く、(a)は宗教云々(および、この記事の、地獄の政権交代を無理矢理「地球」の歴史にこじつけた不自然さ)よりも、むしろ矛盾点が多すぎて整合できないという理由で消滅している設定だろう、という主張がよく見られる。

 以後は(a)の設定を直接引き継いだ資料は殆ど出ていない。ところが、一度だけ突如として出現するのが、3.0eのBook of Vile Darkness (BoVD)内に、「この次元界の最初の支配者は彼(アスモデウス)ではなかったという者もいる」、アスモデウス以前の地獄の支配者たちの名の例として「サタンやルシフェルの名が挙がっている」という記載がある。
 ただし、このBoVDの「過去の地獄の支配者」については、アスモデウスより格上のデヴィル云々よりは、MoPに触れられNWN1-HoTUにも登場した「古バートリアン」のようなものを指している節もある。3.0eのMoPでは紙面の足りない中、九層地獄の第6階層の重要要素として古バートリアンが住むという謎の地マゴグス・ティグが記載されている。3.5eでも、Fiendish Codex I(デーモンに関する書物の方)には、古バートリアンの記述が残っており、オビリス(古アビス種族)と古バートル種族はバエルノロスという種族から分かれた説が示されている。FCIIより後の3.5eのElder Evilsや、かなり後の5版のSword Coast Adventurer's Guideにはこれまた唐突に、BD&DのB4モジュール以来の悪役ザルゴンが、九層地獄の最初の支配者という説もある等と記されていたりもする。
 古バートリアンを他説と辻褄を合わせようと思えば、(b)のアーリマンによる転輪の形成から、現在の主な住民(≒バーテズゥ)らが九層地獄に定住するまでの空白期には、バーテズゥらとは別の古バートリアンが住んでいた、さらには、その古バートリアンやバエルノロスの一体がサタンやルシフェルやベヘリットやザルゴンだった、といった整合は不可能ではない。
 一方、FCIIの(c)の方は、アスモデウスと部下の堕天使らの移住以前には地獄という次元界自体が存在しなかったので、古バートリアンは存在し得ず(なぜかほぼ同時期の上記FCIのバエルノロスの記載とは異なり)明らかに合わない(3.0eのMoPの第6階層の古バートリアンの記載も、FCIIでは無くなっている)。4、5版でも(FCIIが記載しているWG世界以外でも)同様であり、「古バートリアン」は版が進んで設定消滅した、と考えられている(しかし上記のように5版で半端にザルゴンについて、真実とはいえないまでも説として言及されたりはする)。が、古バートリアンについては、おそらくNWN1-HotUに関して後日述べる機会があるだろう。

 ともあれ、このBoVDの「サタンやルシフェル」の言及をもって、(a)の設定も完全には消滅していない、という主張は日本のD系ゲーマーにも根強い。少なくともBoVDでは、各卓の鳥取ごとの選択肢として、あえて記載に残されていると思われる(もっとも(a)について、大量の矛盾点を実際にどのように(b)(c)の説と整合させるかの手がかり・手引きはBoVD内にも全くない)。
 たとえそれが、5版のバエルの記述で「このバエルのことを『デヴィルの筆頭』であるなどと、誤って信じ込んでいる主物質界人がいる」(オカルトでバエルはソロモン72悪魔では第一位だが、D&Dではバエルは第3層の有象無象の一体にすぎない)という記載と同程度の扱いであるとしても、である。ついでに言うと、BoVDの「過去の支配者であったルシフェル」という説についても、前記の第6階層の古参ベヘリットの打倒に関する噂が伝言のうちに変形した、バエル同様の風説という節もある。


 結局のところ、3.0eのBoVDの記載から、各卓の鳥取ごとの解釈として、「サタンやルシファーが存在する」という選択肢は現在でも示されているし、過去に一時的に支配者だったとかとする解釈も今でも可能と思われる。
 しかし、地獄の支配者が「現在も」サタンだとか、あるいはアスモデウスのさらに格上として君臨する偉大な存在がルシファーだとかいう解釈について、あるいは行っている鳥取はどこかにあるにはあるかもしれないのだが、それを支持するような設定が最初期を含めてD&D側から出た試しはない。
 その理由は、Dragon#28が古いとか齟齬が埋められないとか、宗教云々とかいう節もないでもないが、むしろ、「単にアスモデウスの現状を覆す理由がないため」のように思われる。
 すなわち、D&Dは悪魔学周りでトラブル自体は生じているが、引っ込められた経緯のある用語も後で復帰したものもあり、また「地球」のサタンについて述べた記事なら以後Dragon誌にも複数回あり、前記したように3.0e BoVDで再び記述されてすらいる(ただし、BoVDは年齢制限書物として出版されている)。ついでに、Dragon#75-76,前記#91で九層地獄やデヴィルについて多数の設定を記述したグリーンウッドは、「なぜサタンやルシファーを追加しなかったのか」についても触れているが、ガイギャックスがMMIでアスモデウスを頂点としたことに準拠した、としか言っていない。「決してサタンを言及できない」という事情が、過去の時点でも、また今でも残っているわけではない。
 一方アスモデウスについては、少なくとも、実在のオカルトや宗教云々とは別に「フィクションのFT設定」としての話をすれば、巨大な規模と歴史の「海外RPG」というエンタティメントの巨大な一分野(現にオカルト分野よりも危険視された経緯がある)においては、「悪魔の頂点としてのアスモデウス」もMMI以来長年、充分に定着してきた存在である。特に、「3.0e以前には、海外RPGにおいては赤箱シリーズの世界(ガゼッタ、ミスタラ)が最も支配的なFT世界設定だった」などといまだに主張され続けている日本のRPG界隈では、長年アスモデウスどころかデヴィルや九層地獄すら一言たりとも言及されず、想像だにできない話かもしれないが、これらはAD&Dのコアルールと共に海外FT/RPGの発祥当時からその常識・不文律に取り込まれて久しい。
 冒頭のように、アンチョコ本やネットを根拠に「サタンやルシファーが頂点でアスモデウスやメフィストはその部下という設定だけが正しいはずだ」と主張したところで、前述したように史上、サタンやルシファーも単なる婉曲語や総称や、より下級の一悪魔の呼名としても用いられてきた経緯がある以上、それらは特に根拠にはならない。いわば同様のアンチョコのみ根拠に「エルフやホブゴブリンは小妖精という設定だけが正しいはずだ」等と同様、海外FT/RPGに対しては既に何の意味もない主張である。


 ついでにWotCのD&Dではなく、サードパーティーのd20では、ルシフェルのデータでは有名なものにThe Tome of Horrors(言うまでもないが、有名シナリオのTomb of Horrorsに引っかけられていると思われるが、内容はあまり関係はない)でデータ化されているものがある。これがPathfinderの一部wikiに掲載されているため、日本のこれも一部界隈では「今のD&Dにはルシファーがいる」「D&DにはルシフェルはいないがPFにならばいる」だとか吹聴・拡散されていることが頻繁にあるが、あくまでD&DともPFとも別のd20である。
 ここでは、上記(a)によく似た(少なくとも(c)とは整合しない)、過去の地獄の支配者で、ベリアルと共にアスモデウスの簒奪に対抗したが失敗した経緯が説明されている(ここでは(a)と完全に一致はせず、直後の簒奪者はバアルゼブルではない。またベリアルは反乱の最後に結局ルシフェルから離反し、九層地獄側についている)。現在のルシフェルはイセリアル中継界に小次元界を構え、復帰の計画を練っているとされる。
 このデータでの脅威度は39である。アスモデウスが3.0eの前記BoVDではCR36、3.5eの前記FCIIではそのさらにアスペクトがCR27なので、例えば(a)解釈で「ルシフェルをアスモデウスより古い存在」とした場合は、なかなか妥当な線だといえるだろう。ただしアスモデウスのCR36も、3.0e MoPや3.5e FCIIに書かれているように、とぐろの底にいる本体に対しての化身だか幻影だかのものに過ぎないので、本体の方と比べればCR39のルシフェルなぞは微々たる規模でしかないこともまた定義してしまっている。




〇ジャズィリアン


 アスモデウスの来歴に関して前に述べた(b)の説、すなわちAD&DのGuide to Hellの序文の、2体の秩序存在が多元宇宙を創造し、片方が地獄に落下したもの、というところまでは、典拠は全く読まれていないと思われるにも関わらず、どういうわけか以降の3〜5版のゲーマーにも極めて広まっている。
 これは3.0eのManual of Planes (MoP)のネッソスの箇所の説明の他、3.5eのFiendish Codex II(FCII)の序文の(c)の原書契約の説の箇所にも一行だけ「そんな別の物語がある」と触れられているためもあると思われる。

 ところが、アスモデウスと分かれた方の秩序の最高存在、「秩序にして善」の化身は一体何者だったのか、という情報は、なぜか多くの場合、それらの流言から欠落している。一体どういうわけか、それらの風説では、ほとんどの場合Guide to Hellの記載の一部または全部が抜けてしまっているのである。
 その結果、3.5eのBook of Exalted Deeds (BoED)に載っていた、七層天界山の最上層にいる最上位のセレスチャルパラゴン、
『ザフーキエル』がそのアスモデウスの片割れの善側である、と推測、ひいては『断定』して述べているD&D系/非D&D系ゲーマーが少なくない。
 その根拠としては、3.5eのデータ上、セレスチャル/インファーナルパラゴンとして位置づけが対極であるというほかに、ザフーキエルがアスモデウスとよく似たデータになっている、という点が挙げられている。

 データの類似というのは確かに興味深いところである。しかし、その存在、(b)の秩序の化身がザフーキエルである可能性は、かなり低いと言わざるを得ない。
 そもそも上記の典拠のBoED自体に、「多元宇宙が形成されて間もない頃の7人の殉教者」が変容し、ザフーキエルを頂点とする7体のトーム・アルコン(七層天界山のセレスチャルパラゴン)になったと記載されており、ここから見れば、ザフーキエルの前身は多元宇宙形成よりも「後」である。また多分に、その前身は定命の存在である。
 ついでに、だしぬけの不意打ちのように3.5eのFR資料Players Guide to Faerun (PGF)の末尾近くには、「ザフーキエルの来歴を知っているのはティア神だけである」と書かれている。ティア(ティール)神が惑星トーリルに来たのはこの惑星史においては「かなり昔」といえるかもしれないが、それでもおそらく、転輪の形成よりはかなり後である。(ひょっとするとこの記述は、ザフーキエルの前身はティール(チュール)同様に地球出身、つまりしばしばユダヤ天使とされるツァフキール/ジョフィエル本人とかいう可能性を示唆しているのかもしれないが、きりがないので今回はさておく。)
 こじつけはしようがあるかもしれないが、どちらかというとこの「トーム・アルコンは殉教者らが昇天した」云々は、むしろFCIIの(c)の原書契約の説、アスモデウスらは天使から堕天した云々の説の方との対称性が高いように思われる。


 ザフーキエルについてはさておき、実際にGuide to Hellに書かれている秩序の化身、アーリマンの片割れは、『ジャズィリアン』という大蛇で、現在(前史以降のAD&D以降という意味でしかないが)の転輪ではコウアトルの神である。この蛇神という点、また七層天界山の第一層でなく第四層に拠点を持つという時点で、ザフーキエルと何らかの意味で同一存在、という可能性は非常に低く、というか、普通にジャズィリアンの設定を容れればその可能性は全く無い。
 ジャズィリアンの初出はAD&D2ndのMonster Mythology (1992)で、Guide to Hellよりは前であるものの、かなり新しい。また、他に言及されている資料は(転輪の神性としては)非常に少ない。一応は(現在も)上級神であるが、信奉者はコウアトル(それ自体が来訪者)のみで、人間のクレリックなどは持たない。Monster Mythologyでは、ジャズィリアンは「ワールド・サーペント」の「典型(archetype, form)」を最も完全に備えている一体、とされているが、特に実際に宇宙創造に関わった云々は説明されていない。仮にGuide to Hellの記述を容れるとしても、現在の転輪のジャズィリアンはアーリマンと同様に、多元宇宙形成時の能力の大半は喪失していると考えられている。

 ここでFR世界の、ひいてはNWN1/2の設定に戻るのだが、3.Xeのいくつかの資料、特にFR世界のSerpents Kingdoms (2004)では、NWN1-OCの”創造種”こと、かつて惑星トーリルに君臨した爬虫類種族サルークの守護神が、そのまま『ワールド・サーペント』という蛇神とされている。ここではジャズィリアンや、マーシュ―ルク(ユアンティの神)、セムアーニヤ(リザードフォークの神)、シーキネステル(ナーガの神)などの数々の爬虫類神は、ワールド・サーペントのアスペクト、または不完全な顕現や断片であるとされる(ネットのForgotten Realms Wikiにもイオ(アズゴアラス)なども列記した解説があるが、出典として示している書類には実際は書かれておらず、またFR wikiにはこうした不正な記述が非常に多いため、かなり注意を要する)。
 なおSerpents Kingdomsの記述では(つまりFRの惑星トーリルでは)ジャズィリアンはマーシュ―ルクに殺されており、現存しない。あるいは、ほぼワールド・サーペントに近い存在であるPsのジャズィリアンよりも低位のアヴァターか何かが、FRではジャズィリアンと呼ばれているに過ぎないのかもしれないが、基本的に神話自体が別物と考えられる。結局、FRではジャズィリアンは由来にせよ末路にせよ、3.0e MoPまでの秩序の大蛇のそれとは全く合致せず、ザフーキエル同様に直接は繋がらなくなっている。


 ワールド・サーペントの名前からは、WG世界の方でヴェクナが信じている"超神(overdeity)"、魔力そのものの化身である”ザ・サーペント”(3.0e MoPなど)を思い出さざるを得ないが、名前は似ているが無論直接的な言及は特にない。
 ヴェクナに関する言及(Dragon#348)では、魔力そのもののザ・サーペントは、アスモデウスまたはモクスリュク(WGのフラン人に伝わる神性存在)の姿をとるという噂が存在する、というが、ここではこの3つが同一(化身の類)という意味か、単にアスモデウスやモクスリュクが魔力にあふれているという意味にすぎないのかははっきりしない。
 Monster Mythologyなどには、ドラゴンの主神のイオが多元宇宙の創造に関与という説が言及されることもある。結局のところ、これらの芋づるを見る限り、ワールド・サーペントもイオもジャズィリアンもアーリマンも、”ザ・サーペント”の一面にすぎない、というのもありえる話ではある。
 NWN2-SoZにも登場した4版のゼヒア(セト)と、スセス、マーシュ―ルク、ワールド・サーペントの芋づるの関係などはきりがないので後日に回す。




〇レルムのユアンティ神ら


・ワールドサーペント、マーシュールク、スセス

 後の版だが日本語で読める資料として5版のVolo's Monsterでは、ユアンティ神のうち、「マーシュールク(マーショルク)」は古い休眠中の神、「スセス」はより新しいがやはり今は休息中の神とされ、現在の日本のD&Dゲーマーにも、かなり広く知られていると思われる。なお、前記5版資料では、休眠中の2体のかわりに主神のように述べられる巨大暗黒蛇の女神「デンダー」は、AD&D2nd〜3.Xe時点ではフーガ界(当時はハデス、Gray Waste)の巨大モンスターにすぎない。
 順を追うと、まず、Serpent Kingdoms (2004)などによると、マーシュールクはジャズィリアンと同様に、ワールドサーペント(創造種の爬虫類種族サルーク(サルーフ)らの主神)の直接の断片のひとつである。前述したように、FRにおいてはジャズィリアンと抗争し滅ぼした等の経歴を持つ。
 スセスは同書によれば、ユアンティの王国と共にマーシュ―ルク信仰が衰退した頃に現れた、多分に当初は定命のユアンティであったが、マーシュールクの再誕・化身などを名乗っていた。のちにスセスが主要な神となると、ユアンティの間では他の蛇神はスセスの別の側面であると信じられるようになる。
 実際に、Serpent Kingdomsの神格データでは、他の神はともかく、マーシュールクは本当にスセス(中級神)のアスペクトとなっている。つまり、なぜかいつのまに本体とアスペクトが逆転しているわけだが、結局のところ名前が違うだけで、当初ワールドサーペントから分離した「スセス=マーシュ―ルク」は単一の存在であり、時代によってどちらかが本体・分身の名として呼ばれているだけかもしれない。
 3.0e, 3.5eの時代とも(いずれもMMに記載がある)ユアンティの主神は「マーショールク」の方になっている。


・セト

 セトは実在神話のエジプトの(およびREハワードなどでアレンジされ、元の神話の話題以前にヒロイックFT全般で非常に高知名度となっている)神である。セト(Set)と、前記のスセス(Sseth)との名からは、おそらくスセスの創作的アイディアはセトからヒントを得たものと思われるが、FRの設定上は基本的にはまったく別個の神である。しかし、後述するように無関係というわけではなく、かなり複雑である。
 FR世界では「セトらエジプト神=ムルホランド・パンテノン=地球のエジプトから直接移住してきた同一人物」というわけだが、セト神はWG(標準宇宙観、転輪)の方でも、九層地獄の5階層(スティギア)に領地を持っており3.5eのFCIIなどに普通に載っている。これはおそらく、ОD&Dや2ndのPlanescapeでは、地球の実在の神が普通に入っていたのが今でも残っているだけであり、特にFRとの整合は考えられていないと思われる。
 前述のように、スセスはワールドサーペントの断片、セトは地球のエジプトから来ただけで、起源は全く異なるが、蛇を司るという共通点がある。Serpent Kingdomsによると、『災厄の時』(AD&D1st→2nd)の際にセトはスセスを幽閉し、権能やアスペクトの制御権を根こそぎ奪ってしまっている。以後、スセスの信者に対して、呪文を与えたりアスペクトを制御しているのは実際はセトだが、ユアンティの信者らは変わらずスセスに仕えていると信じており、真相は一部のサルークしか知らない。Serpent Kingdomsには「スセス神」のデータとしても、セトがなりすましているもの(秩序にして悪)と、囚われている本物(混沌にして悪)のものがあり、いずれも中級神である。


・ゼヒア

 Zehir(NWN2和訳ではゼヒア、4−5版HJ和訳ではゼヒーア)は4版の基本ルール(つまり、FR世界に限らない)の毒と闇の神で、ユアンティの創造者であると設定されている。
 4版のFR世界でも導入されたが、それまでもユアンティの神はすでに存在していたので、ゼヒアがユアンティの創造者という設定は矛盾が生じるが、ゼヒアの方は『呪文荒廃』(3.Xe→4版)時に出現したということになっている。さらには、知っての通り、NWN2のSoZでは、ユアンティの教団のうち、旧来のスセスの教団と、新興のゼヒアの教団の対立が描かれる。つまり、NWN2のSoZのゼヒア云々は本来は3.5eのコンテンツではなく、4版への移行という背景に深く関連したものであったに他ならない。これはBGシリーズでのバールの死やシリックの介入が1st→2ndの『災厄の時』に深く関連するのと似ている。
 4版以降発生した設定については3.Xe以前とは全く整合しないので詳しくは述べないが(日本では4版以降を引用して頻繁に主張されているが「CRPGの原型になったD&Dの設定」とも無論何も関係はない)、ゼヒアの「起源」としては、4版のDivine Power(邦訳『信仰の書』)などに、イオがバハムートとティアマットに引き裂かれた際に、ゼヒーアもあわせて生じた等の説が(おそらくユアンティによって)主張されている、と記載されている。無論、これは3.Xeまで、すなわち2ndのMonster Mythologyなどのイオ、バハムートやティアマットの創造説話とは著しく矛盾するため、(解釈によっては)ユアンティらのみや、3.5e的には上記SoZの新興ゼヒア教団のみに伝わると考えることもできる。なお、5版のDMGには、なぜか4版の基本ルールの神々(”暁の戦”パンテオン)をどのようにデザイナーが創作したかが載っているが、ゼヒーア(トルコ語の「毒」)はエジプト神話のセトを取って来て改名したものという。ちなみに
Forgotten Realms wikiでは「ゼヒーア=セト」と断言されたり、ゼヒーアはセトのアスペクトである等と複数箇所に記載され、その出典として5版のDMGの上記ページが引かれているが、DMGの記載は前述のように創作上の起源という書き方にすぎず、少なくともFR世界にすでにいるムルホランドのセトと、FRでのゼヒアが同一神格や一方の化身・アスペクト等とは書かれておらず、上記信仰の書の説とも合致しない。ただしあくまで現状で、版上げでしばしばあったように、今後セトとゼヒアが設定上も関連する可能性はある。




〇優先順位


 NWN1-HotUのM氏があれだけ壮大な侵略を実行したその目的は、世界征服だのなんだのではなく(結果としてはそれらも生じるが、途中の過程にすぎない、という言い方もできるが)惑星トーリルを丸ごと《九層地獄界(バートル)》の階層として取り込み、それによって、「九層目の支配者のアスモデウスの裏をかく」ため、ただそれだけが件の計画全体の目的である。

 どこかの別の次元界やワールドを自分の次元界(プレイン)に取り込むのは、下方次元界ではかなり頻繁に見られる。Ps:Tには、アウトランズ次元界にある都市がまるごとカルケリ(AD&D1stでのタルタロス)次元界に取り込まれ戻すために奔走するという章があり、九層地獄のあちこちには、やはりアウトランズの都市が地獄に封印されたとかいう記述が出てくる。最近の話では5版で、九層地獄の第一階層の(5版時点での)支配者ザリエルもトーリル上の都市(バルダーズゲートの隣のエルタレル)を第一階層に引き込んでいたことがある。他の次元界同士でも、前記5版の記述には、フェイワイルドの土地が堕落してやはり第一階層に取り込まれていた例もある。
 HotUのM氏の計画はそれに対してトーリルを全部丸ごとであり、3.Xeと5版ではワールドの扱いが異なるが、5版でトーリルが「色々なワールドを包含する主物質界のうちの一部」なのに対して2nd-3.Xeではトーリルを取り込むというのはひとつの主物質界丸ごとを意味している。また、これはしばしば指摘されるが、NWN1では、3.0eのFRCSに記載されているような「世界樹のような宇宙構造を介してFR世界内部だけと繋がっている”FRの九層地獄”」ではなく、(おそらく)2ndのPlanescapeの設定をそのまま引きずっているので「あらゆる世界設定と繋がっている”転輪の九層地獄”」というスケールの代物である。
 なお、これも後の5版の記述(Mordenkainen's Tome of Foes)になるが、デーモンの側についても、他の次元界やどこぞのワールドの惑星地上全土が、奈落の影響で次第に汚染されてゆき、遂には《奈落界(アビス)》の1階層として丸ごと取り込まれる旨が説明されている。アビスの無数の階層にはそのようにして生じたものが当たり前に存在し、要はデヴィルの周到な計画に対して、デーモンの方ではより無造作・頻繁に起こるものと考えられる。

 何にせよ、デヴィルがこれらの計画を行う場合は、他次元界の一部、または他ワールドの丸ごとを自階層に取り込むとしても、それ自体が目的なのではなく、それすらも上位階層主の裏をかく計画のごく一部に過ぎない。逆に言えば(大概のワールドを全部合わせたよりも転輪の外方次元界の方が遥かにスケールの大きいPlanescape、を引きずっているNWN1時点では)それほどのことを成功させないと、上位階層主には対抗できないのである。
 《九層地獄界》のデヴィルの行動動機は、一般の魔王のたぐいというか、海外FT含めて、おおよそ他のファンタジーの悪役のたぐいと全く違っている、と言われるが、その実情は上記のM氏の動機からもうかがい知ることができる。

 ここで、3.5eのFiendish Codex II(FCII)には面白い表がある。デヴィルが恐れるものの優先順位表である。


>1. 降格
>2. 忘却
>3. 自身が仕える大公
>4. 直属上司
>5. 部下が企む陰謀
>6. 失敗
>7. 無秩序
>8. アナーキック武器
>9. ダメージ減少を克服するアイテム


 アナーキック武器とは武器が[混沌]属性を有し「秩序」対象に対して特効の武器だが、要するに妖精系やデーモン系、いわゆる異教系の強力な武器である。「ダメージ減少を克服するアイテム」には多分にアナーキック武器も含まれることも多いが、要は9番に入るのはアナーキック以外のそういう品物で、勇者サマの手にある聖剣(必ずしもホーリー”アベンジャー”とイコールではない。FCIIでは克服に必要なものはデヴィルによって異なるが、高位ではほぼ[善]に加えて他の何らかの要素である)もそれに含まれる。
 デヴィルが最も恐れているのは、天罰でも天の軍勢でも聖なるなんたらでも勇者サマや聖剣でもない。6位までぎっしり埋まっているのは、早い話が全て九層地獄の組織から裏をかかれることである。7〜8位は多分に《忘却界》や《奈落界》の波及である。9位でようやく聖剣が来る。デヴィルが有するであろう膨大なリストのうち、9位というのは決して低くはない、というか、おそらくは相当に高いと思われるのだが、されど9番目たかが9番目である。善神だの天使だのは、このリストに入ってすらいない。
 これを「デヴィルは内輪揉めに手一杯で勇者サマや聖剣に対して『油断』している」などと、ひたすら勇者サマのプレイヤー側の視点の都合のいいように捉えたってもちろん構わないとは思うが、上記の優先順位は、”秩序の大蛇”の軌跡の描く聖紋によって”転輪”が形成されて以来の年月すべてをかけて、順序が決まってきたものである。表の下の方に押しやられているものは、現にそれだけの年月においてデヴィルにその程度の脅威しか与えることができていない、宇宙の構造上かなり根本的な力関係の序列であることを非常に強く示している。現に《七層天界山》の勢力や刺客が九層地獄に攻め込んで、何の成果もあげられなかった実例が幾つも挙げられるが、それ自体は退屈な話なので省く。
 その理由は、早い話が「現在の多元宇宙の構造に合致した脅威」(九層地獄の中ならば、序列)に対して、「構造から明らかに馬鹿馬鹿しいほど逸脱した脅威」(上方と下方の外方次元界が睨み合った均衡状態が揺るがない現状にも関わらず、普段から抗争している奈落界でもない上方次元界の勢力や勇者サマだのが九層地獄を蹂躙するかもしれないだの)は、一切想定しないのはいささか愚かではあるとしても、かといって前者の脅威よりも常に怖がっているようではそれより遥かに愚かという、単純な側面もある。また一方では、恐らくそれだけアスモデウスの”秩序”のスケールが大きい、というか、アスモデウスの原型である”秩序の大蛇”が宇宙秩序自体を形成したという設定は3.5eのFCIIでは厳密には踏襲されていないのだが、以後の版においても九層地獄の重要性として引きずられている、という側面もある。

 もっとも、アスモデウス自身は上方次元界に対抗する軍勢も準備しており、また4版以降はその行動動機もいささか異なる。上記の5版のMordenkainen's Tome of Foesでは、デヴィル(全体)が魂を集めるのは上方次元界の秩序を揺るがすため(他の次元界に行く魂を九層地獄に引き込むことによる)としており、デヴィル同士の抗争のためばかりでもないため、上記の動機だけというわけでもない。というよりも、5版では意図的にぶれが設けられている、ともいえる。というか、4版以降ではアスモデウスの悪役としての位置づけ自体が(1−3版間の著しい変遷と比べてもさらに)3.Xe以前とは全く異なり、自然、デヴィル自体の動機にも大きく影響を及ぼしているので、そのまま現版にあてはまる話ではない。




〇ザリエルの整合


 D&D5版準拠のFR世界のBG3などで、《九層地獄界(バートル)》第一階層アヴェルヌスの階層主として説明される堕天使『ザリエル』については、版ごと及び5版内でも顕著な設定変更がある。それについてゲーマーの間で疑念が述べられていることもあれば、また例によって、疑念なしに設定が混乱した状態のまま流布されていることもある。

・旧版
 AD&D2ndのDragon #223 (1995)では第一階層主の主はベルであるが、固有名は出てこない「Tiamatではないthe original Lord of Avernus」(この時点ですでに三人称がshe/herであり女性悪魔である)が、ベルに「数千年前」から幽閉され力を奪われている旨が現れる。(なおそれ以前、AD&D1stの時点ではMM2(1983)で第一階層の支配者はティアマットになっており(*bandを含めレトロゲームにはその影響が大きい)、ベルはディスペータの配下となっている。ティアマットはDragon #223の前記箇所やPlanescape (Ps)資料では層支配者であったとは俗説にすぎないとも、さらに後の版ではアスモデウスに階層を奪われたともある。アヴェルヌスの歴史とは切っても切れないが、きりがないので詳細は別の機会とする。)
 2ndのGuide to Hell (1999)では、このthe original Lord of Avernusという称号の悪魔の固有名がZarielとされ、地獄の内乱の応報の乱(Reckoning, 地獄の数千年単位の政情を決定したと書かれる)ではバアルゼブル側の勢力に名を連ねている。一方で地獄の階級社会を地味に昇ってピット・フィーンドに成り上ったベルが「ザリエルの右腕」の地位につき、「数世紀の間」その下で流血戦争を戦い、やがて軍の支配権を手中にしザリエルを幽閉して能力を吸い取り、アスモデウスは城守マルティネットを遣わし、ベルの方を階層主とした旨が記述されている。
 日本語で読めるものとして3.0eのManual of Planes (MoP), Book of Vile Darkness (BoVD), 3.5eのFiendish Codex II (FCII)ではベルが階層主のままだが、いずれも上記記述のうちザリエルとベルの関係の一部が説明され、ほぼ同様の設定が踏襲されている。
 4版は宇宙観自体が別物なので基本的に整合しないが、4版MoPにベルが階層主とあるがザリエルの記述はなく、Dungeon #197のグラシアに関する記事では応報の乱の際にザリエルが投獄されベルが据えられたとされる(ベルが自力で覆した2nd-3.Xeとは整合しない)。余談だが外部d20、Pathfinderでは第一階層の主はバルバトス(3.XeのWGでは第七階層マラドミニ元帥)であり、このため(日本ではD&Dとd20の区別がわからない外部ゲーマーによって)誤って名が挙げられていることがある。

・5版(2014-2018)
 5版のDMG (2014)では、ザリエルが第一階層主となった、とあるが、ライバルのベルから地位を奪ったとあるだけで経緯の詳細は書かれていない。
 5版のFR舞台のアドベンチャー、The Rise of Tiamat (2014)では、ザリエルは「堕天使 fallen angel」とされ、アスモデウスによってベルから階層主(女大公)の地位に戻されたという記述がある(堕天使という設定の追加は、2nd設定のかつての同盟者バアルゼブルと同族を意識されている可能性も考えられる)。堕天に簒奪に幽閉というアクシデント人生を送ってきたためか、不当な立場(5版では)にあるティアマットには同情的ともある。
 5版のMordenkainen's Tome of Foes (2018)(邦訳『モルデンカイネンの敵対者大全』)でも、同様にザリエルは「地獄の影響力により道を踏み外した」堕天使とされており、定命の信徒を率いて流血戦争に介入して破れ、堕天し階層主になった過去(この箇所は後述の別設定に近い)、および、アヴェルヌスの階層支配者の座に(以前の版までの)ベルにかわって「帰り咲いた」とある。
 すなわち、この時点までは、5版(標準はFR世界)でも2nd-3.5e(特に3.Xeは標準はWG世界)から既存設定部分には大きな変更はなく、ザリエルは「古くからの階層主であったが、ベルに地位を奪われ囚われた」という2nd-3.5eまでの設定に、さらに元は堕天使出身という点と、「ベルの元から脱出し、再度階層主の座に復帰した」という設定が単純に追加されているものと思われる。

・5版(2019-)
 しかし、次に5版FRのシナリオ集、Baldur's Gate: Descent into Avernus (2019)(邦訳『バルダーズ・ゲート:地獄の戦場アヴェルヌス』)では、《七層天界山(マウント・セレスティア)》の天使ザリエルが最初に堕天したのは、FRの歴史上、5版のわずか140年前、AD&D1stの小説やゲームが同時期にひしめいている1354DRとされている。堕天前のザリエルはラサンダー神が遣わした・仕える天使という記述が幾つかある(FRのラサンダーは「中立にして善」であり、七層天界山の秩序にして善の神ではないという点でまず合致しないが、ラサンダーと「秩序にして中立/善」のアモネイターとの同一性をはじめ他にも版上げに伴う問題が多々あるので、別の機会に回す)。
 『アヴェルヌス』シナリオによると、ザリエルは流血戦争を戦うデヴィルとデーモンを共に殲滅するため、神聖都市エルタレルのヘルライダー隊(この隊の名自体は1stのFRCSからある。3.0e FRCS邦訳では「地獄の騎兵隊」)を率いて第一階層アヴェルヌスに侵攻するが破れ、アスモデウスから流血戦争でのデーモン殲滅を持ちかけられて堕天し、第一階層の主となる。
 見かけによらず、もと戦闘天使のザリエルが猪突猛進型で、成り上がりで苦労人のベルが慎重、両者は協力はしているが犬猿の仲、という点は変わっていない。
 Mordenkainen Presents: Monsters of the Multiverse (2022)は『敵対者大全』を含む過去の5版データの再録・改訂とされるが、ここでのザリエルのデータは、背景説明の部分は『アヴェルヌス』の方のクリーチャーデータの説明に変わっている(堕天云々はあるが、時系列等の詳細はない)。モルデンカイネン自身のコメントも、『敵対者大全』では「こんな堕天使を憐れむ必要などない」といった無情きわまりないものであったのに対し、こちらでは「栄光から堕落した者にもそれを取り戻すために立つ可能性がまだある」なる、『アヴェルヌス』シナリオの展開のひとつ(ただし、BG3では踏襲されておらずFRの歴史には組みこまれていない)を思わせるものに変わっている。

 『敵対者大全』の附図でのザリエルの姿は角のある悪魔で、革鎧にマント、蹄、蝙蝠の翼を持つが、一方で『アヴェルヌス』で表紙などを含め描かれているザリエルの姿は、上位セレスチャルのように髪がなく白面、全身鎧で、堕天使的な黒い鳥の翼となっている。
 数値や能力などのクリーチャーデータはほぼ同じである。ただし武装だけが、『敵対者大全』のザリエルはロングソードとジャヴェリンを持っているのに対し、『アヴェルヌス』のザリエルは、切り落とされた(堕天時の戦いで)左手首から直接に鎖分銅(フレイル)を生やし、コシチェイ(デーモン)を捕虜にした際に奪った百トンハンマー(マタロートク)を右手に持っている。ザリエルの立体物やその他の映像では『アヴェルヌス』での姿が多いが、ややぶれ(左手首の有無など)がある。
 Monsters of the Multiverseでは前記のように『アヴェルヌス』の方準拠でイラストもその表紙だが、データが若干異なり、ヒットダイスがなぜか大幅に低下し(CRは同じ)、以前の両方のデータの武器からロングソードとフレイルを持つ。単に『アヴェルヌス』表紙と同じイラストで描かれている武器に合わせてあるだけかもしれないが、データのロングソードはイラストのソード・オブ・ザリエルではなく『敵対者大全』と同じ炎の剣である。

・FRでの整合
 『敵対者大全』等のザリエルがベル以前の古来から階層主であったという設定と、『アヴェルヌス』のザリエルがわずか140年前の1354DRにはじめて堕天しそれまでのベルに取って変わって以後の階層主という記述は、基本的に両立はしない、別設定を想定されている、と考えられる。無論、旧版のザリエルが起源的な階層主であった、ベルを「数千年〜数世紀間」従えていたといった記述が、5版の『アヴェルヌス』以後とは明らかに融合不能なのは考察するまでもない。
 一方、5版内の記述だけでも無理に整合しようとすると、1354DR以前にはベル、堕天して以後はザリエル、ついでベルが簒奪し、再度ザリエルが幽閉から返り咲いたという、2者間のみの交代が5版の1494DRまでの長くとも140年間で続けて起こったことになる。さらに、1444DRにエルタレルに築かれた”友垣”のフィールドはザリエルの指示下で現在と同じベルの鍛冶場で製造されているため、1444DRには現状態であった可能性が高く、この交代は90年間の出来事に狭まる。
 ここで例えば、第六階層の主が地獄創世以後にベヘリット(ルシフェル)−バアルゼブル−モーロック−マラガールデ−グラシアと変わった例では、1stまではモーロック、2-3.0eでマラガールド(デ)、3.5e以降はグラシアであり、これをFRの年表にあてはめてしまうと、1st-3.5eの17年間で起こったことになる。また、惑星トーリル上では、百年もあれば天変地異が何度も起っているので、FRに限れば、ザリエルとベルの頻繁な交代もありえないこともない、とはいえる。しかし、これらのトーリル上の天変地異や、第六階層の交代(アスモデウスがモーロックからグラシアへの移行の緩衝のため、マラガールデを故意に短期間据えていた策略)は明記されている事項であるのに対して、ベル−ザリエル−ベル−ザリエルという2者間のみでの交代が1世紀前後の短期間で立て続いたという明記はない以上、トーリル上にとどまらない九層地獄界の歴史や地獄の悪魔らの年代のスケール上、そのような想定はやはり自然ではない。
 『アヴェルヌス』に数人登場する、ザリエルに堕天時に直接呪縛された部下らが、ザリエルの幽閉中にベルの下で流血戦争を戦っていたとは考えられない。D&Dによくある不整合に比べれば細かい点とはなるが『アヴェルヌス』の、ザリエルが「デーモンと戦うため自らアスモデウスに降った」設定は、『敵対者大全』の「地獄自体の影響力により道を踏み外した」「アスモデウスへの復讐を目的としている」等の記述とは整合しない。かつての旧版の、ベル以前の数千年君臨していた「名前のないthe original Lord of Avernus」と、1354DRに堕天した「ザリエル」は実は別人であった、という説を上げるゲーマーもいるが、それを採ったとしても矛盾点の多くは解決しない。
 これらの諸々を考慮してか、D&Dゲーマーからは、レルム設定の解釈としては、『敵対者大全』およびそれ以前の設定は、『アヴェルヌス』の設定に完全に「上書きされた」(前の設定は廃棄された)という見解が見られる。
 『敵対者大全』はあくまでそれ以前の版のようにWG世界/Psのみ、『アヴェルヌス』はFR世界のみ限定の設定と考えることも不可能ではないが(WGのティアマット、FRのティアマト、DLのタキシスが5版では「同一神格」とされながら整合不可能で、各世界限定の設定を有する等と同様である)基本的にD&D5版のコア資料はFRが背景世界である点、『敵対者大全』と同様のThe Rise of TiamatがFR世界が舞台のシナリオである以上は、FR/5版標準全体で当初はThe Rise of Tiamat及び『敵対者大全』の設定であり、かつ『アヴェルヌス』の設定に上書きされたという経緯になっている。(無論、WGのみを用いる卓の方では3.Xe以前や『敵対者大全』の設定の方を採っても問題は生じない。)
 ザリエルについては、旧版や『敵対者大全』、『アヴェルヌス』の、どちらの設定を採るか、または設定を融合させるかどうかは、個々の卓に任されている点であろうが、(他者に流布する場合は)本来は元から融合しているものではなく、各設定の把握および整合困難な別設定である、という認識は必要である。

 日本のゲーマーに掲示板やSNSで頻繁に引用されているForgotten Realms Wikiでは、例によって、相容れない新旧設定の記述が無造作に混ざっており、何の整合の説明もされていない。随所で「ザリエルは元ソーラーであった」とされているが、典拠として引用している資料の該当ページには例によって実際にはそんな記述など無い(天使としてのデータにソーラーのデータブロックを使用する、とあるだけである。5版のソーラーはザリエルのデータとは比較にならないほど弱く、同データブロックを使用するのは、5版公式シナリオのジャイアントの非戦闘民にオーガのデータブロックを使用したりと同様便宜上であることは明白である)。Greyhawk Wikiでもレルムの項目を設けながらそれ以外の箇所でFRの設定が混ざっていたりと錯綜しており(予備知識無しではおそらく)理解は困難である。おそらく上述の設定齟齬を解読するのに必須の予備知識なしに、FR wikiを機械翻訳したり鵜呑みにし、破綻した設定を流布している例が日本のD&DやM:tG(コラボしたTCG)界隈には見られる。日本のD&D関連と称するwikiには、5版ゲーマー向けのガイドと言いながら3.0eの日本語書物を引き写しているものもある。ましてwikipedia(ja)のバートルの記事などは、英語版の古い記事を改悪し、必須事項の大幅な欠落、逆に現版では解消済で現状と齟齬のある設定が説明(典拠の理解)無しに羅列されているなど著しく目に余る。
 D&D5版には(1stのように混沌とした設定無管理の時代ではなく、以前の版よりも遥かに数が少ないにも関わらず、また『敵対者大全』と『アヴェルヌス』のようなわずか1年差といった)同じ版内の書物内ですらも、著しく矛盾している、特に、旧版にはよくあった「DMによってどちらを選択してもよいもの」というものではなく、上記のように著しくコンフリクトし、当面どう扱うかの指針すら無い記述がしばしばある。そこには、3.Xe以前と、システムも設定も無関係な別ゲームとして設定された4版の設定が、5版で無造作に結合された、という事情を強く感じさせるものが多い(ただし、このザリエルのものについては特にそれとは関係ない)。
 それらをどう扱うか(例えばかつては標準宇宙観であったWGの記述と、現在の標準宇宙のFRの折り合いをどうつけるか等)については、あまり公式側からの手引きはない。これは5版公式の放任主義的な傾向であり、WG/PsやFRを利用しようとする場合に既に予備知識が有り余っている(上記wikiなどを読んでも情報の取捨選択が即座に判断できる)海外ゲーマーにはかえって自由にできて都合が良かろうが、D&D背景がごっそりと欠落し、外部wikiの丸鵜呑みや誤訳頼りが当然のようにはびこっている日本の環境において充分な情報があるとはいえない。




〇ジャーガル=Minecraftのウィザー説


 WithersといえばBG3の骨男(和訳版では「シナビ」)である。BG3のシナビの正体は、登場した状況をはじめ、作内の台詞と書物等およびエンディングの多数の示唆、さらには作外の開発書類などの情報から、「ジャーガル神」本人か、その化身であるとされている。

 一方、ウィザー(Wither)といって、すでにゲーマーの間で広く知られているのはMinecraftの裏ボスとも呼ばれる
アンデッドの化け物である。
 が、マイクラのウィザーの姿は、むしろ、NWN2-MotBに出て来るミアクル(マークール)の姿、シャドウ・ムルサンティアなどに多数設置されている像やデッドパワーとしての姿や、BG3での化身(マークールの使徒)の姿を思わせる。
 後述するように、レルムにおいて一般にはジャーガルの直接的な継承者はミアクルだと信じられているが、おそらく、ジャーガル神がかつて保持していた死者などの権能と共にThe Lord of Bonesの名称がミアクル神に継承された際、ジャーガルの多数の姿のうち「骨の王」の化身としての姿も、ミアクルに継承されたのだと推測することができる。何にせよ”万物の終焉の王”ジャーガルの強大な力のこだまは、死者/死の権能と、現在のその権能の持ち主の姿と共にマイクラの広大無辺な諸世界にまで及んでいる。おおよそマイクラとBG3ほどかけ離れたゲームはない(その自由度の面を除き)という見解を聞くこともあるが、Rogueliker側の立場としては、マイクラが(作者の開発経緯上)Dwarf Fortressの影響下にある点をあわせて、D&Dゲームの一群と隔絶していると意識したことはない。


 BGシリーズでの情報で知っての通り、ジャーガルは少なくともネザリル時代には強大な暗黒の権能を(「夜」「喪失」などを持つ原初女神シャーと共に)所有していたが、それらを後代の者らに押し付け、「半神」(英語の一般会話用語や5版定義のDemigodsとは異なり、1st-3.Xeでは最下級ではあるが権能を所有する真の神性である)の地位に相当するわずかな小規模の権能のみを手元に残し、記録者・助言者として後代の神の補助のみを行っている。5版のPHBやSword Coast Adventurer's Guide(HJ邦訳『ソード・コースト冒険者ガイド』)でも、その位置づけは変わっていない。(知っての通り、AD&D2ndや3.Xeでは、各ワールドや多元宇宙の根本原理である「権能」の重要性や数が、そのワールド又は宇宙における神性自身の神位や能力に直結する。1stや5版では定かではない。)
 ジャーガル神が、力に飽きたため、当時人間だった3バカ大将(デッド・スリー)に文字通りの投げやりに権能を分け与えた経緯として、バルダーズゲートシリーズの作内書物『デッド・スリーの歴史、”ナックルボーンズ、スカルボーリング、そして空の王座”』は、ほぼ同じ文章が5版の上記Sword Coast Adventurer's Guide(『指骨遊戯と髑髏転がしと虚ろな玉座の伝説』)にも載っている。実は、これと全く同じ文章は、AD&D2ndのFaiths and Avatars (1996)に現れる(なお、上記書物を含めてBGのセガ訳についてはえらく誤訳が多い)。
 しかし、このFaiths and Avatarsでもこのコラム以外にはジャーガルのさほど詳しい情報は出て来ず、他の神との関係や、死者・死の神の助言者およびthe Scribe of the Doomed(破滅者の書記、5版HJ訳では「最期の筆記者」)という名が出て来るのみである。
 ジャーガルの名は当初のグリーンウッドのDragon #54記事や、AD&D1stのFRCSの時点では載っておらず、2nd以後に入ると上記を含め様々な資料に何度も出て来るものの、5版まで通じて現役で信仰されている神性にもかかわらず、一覧表に出て来るような最低限の情報以外は以後も少ない。和訳されたものではおそらく5版の『ソード・コースト冒険者ガイド』に載っているものが詳しい方という状況であろう。

 その中で、ネザリル時代の当時の”万物の終焉の王(Lord of the End of Everything)”ジャーガルの詳しい説明は、2ndのNetheril: Empire of Magic (1996)に現れる。3バカ大将に権能を渡す前の時代には、日本の一部のファンからは上級神、あるいは”超神”だったのではないかと推測されていることがあるが、ここでは「上級神」として、やはり現代レルムでは古代神となっているアモネイター、ミストリルなどと並んでいる。この当時はジャーガルは秩序にして中立ではなく「秩序にして悪」である。ただし、姿などは後述するように近現代レルムでの半神での描写とさほど変わらない。ネザリルの時代から「巻物とペンを持っている」という姿で表現され、前述したthe Scribe of the Doomedの「書記」のイメージを示している。
 この時代には一つ一つが強力な権能をそれも多数保持していたわけだが、ネザリルの時代に持っていた権能は「死、死者、死の運命、葬儀と墓、不死、不死者、浪費、老齢、疲労、専制、黄昏」などである。例えば「死」がバール(ベハル)、「死者」がミアクル、「専制」がベインに移った等は周知の通りである。この他、ジャーガルが後述する半神時代にも手元に残している「墓守」などの権能があるはずだが、このデータには無い。設定変更になった(D&D旧版メモでも触れたが、この書物には現在では没設定もある)というよりは、おそらく重要な権能だけが上記されており、他にも上記に付随する無数に細かいものを持っていたと考えられる。
 2ndでは、3.Xeと違って本体のデータが載っているわけではないので、特に上級神だからといって(その神位と権能以外には)半神の時より「強そう」な記述が何かあるわけではない。
 ネザリルのジャーガル教会はアンデッドを支配する(操る、滅ぼす)「青白い仮面の同朋」と、より直接的な教会の兵士である「ジャーガルの手」を擁している。この書物では、ジャーガル信仰の特殊プリーストクラスであるDoomscribesのルールもある。プリーストの名前が神性自身の称号と同じだったり似ていることは、ラサンダー、タロス、ケレンヴォーなどFRでは例が多い。Doomscribesはプリーストだが、ウィザード系のネクロマンシーの呪文を多数発動する能力を持つ。(なお3.Xeではジャーガルの好意武器はサイズ(鎌, 固有名はWhite Glove, 3.0e FRCS邦訳「白いグラブ」)だが、2ndのDoomscribesは殴打武器しか使用できない。)

 一方、「現在のFR世界のゲーム」に関係ある、近現代レルムにおける半神ジャーガルのかなり詳しい説明や能力は、AD&D2ndのPowers and Pantheons (1997)に現れる。この時点で神位がDemipowerで「秩序にして中立」、権能が「運命論、死の運命、適切な埋葬、墓守、死者の名の保護」であるといった、3.Xeや5版まで引き継がれた(ただし、3.0eのFRCSやFaiths and Pantheonsでは権能は「運命論、適切な埋葬、墓守」のみである)設定はほぼ既にある。ここでも、権能の一部だけを手元に残したDemipowerとなる前はFormerly Greaterであったとされている。
 ジャーガルはミアクルが所持していたLord of the DeadとLord of the Bonesの地位(称号)を以前に持っていた者、と説明されているが、「何人かの賢者はベインとバールの持つ権能も持っていたと信じている」とあり、つまり、ミアクルは別として、ベインとバールらのジャーガルとの関係については、上記『デッド・スリーの歴史』のような内容は、レルムでは賢者の間の学説(有力かはともかく)のひとつにすぎないとされ、一般的に信じられている事項ではない。
 この書物でも、特殊プリーストクラスのDoomscribesのルールもあり、幾つかジャーガルのプリースト専用の特殊呪文のデータもある。無数といえるFRの神々の中では、特殊クレリックのプレイングが後押しされているだけ、当時のゲームでは優遇されていた方だったのかもしれない。
 2nd時代から神位は信仰者数などに応じて決まるため(概ね持つ権能の質と量に比例するが、それぞれの権能の及ぼす力が信仰者に影響されるという言い方もできる)ジャーガルが半神の地位を持っているということは信仰者こそ少ないが確実に存在することを意味する。これは3.Xeでも同様であり、Faiths and Pantheonsでもわずかな社と組織化されていない教会(「青白い仮面の同朋」の道も数えるほど(a handfull)の信徒に生き残っている)があるのみという記述は5版とあまり変わらない。
 なお、3.0eのNWN1の日本語化もされているユーザーモジュールのShadowlordsで、ジャーガルが重要な役割を果たすが、2ndや3.Xeの「現代レルムにおける」ジャーガルの詳しい記述に合わせたという感はなく、イベント類は(現代レルムの「死者」の主神である)ケレンヴォーの立場も思わせるものになっている。

 2nd以降、暗黒の権能の数々については、「災厄の時」当時3バカ大将からシアリックが大量に権能を奪った事態や、一部がケレンヴォーにさらに奪われた事態など、控え目に言っても極めて見苦しい経緯が続いたが、この間、ジャーガルはその時点の権能の主を補助するだけで、本当に何もしていない(Powers and Pantheonsにも実際にそう書いてある)。なので、BG3で間接的とはいえ3バカ大将と対立する立場を示したのは何かよほどのことである。3バカ大将がいかに散々見苦しいとはいえ、いくらなんでもシアリックほどではないと感じているゲーマーも多いと思われる。


 Powers and Pantheonsによると、半神としてのジャーガルのアヴァターの能力は2ndのデータで「クレリック25lv/ウィザード18lv」であるが、2ndでは神性(や、それに準ずる存在)は、全員本体でなくアヴァターの能力しかデータ化されず、それらも1stや3.Xeの本体やアスペクトの能力と比較するといずれも大幅に異なっているので、ここからネザリル時代や3.Xeや5版の能力を判断することはできない。(3.0eのFaiths and Pantheonsの方は、ごく一部の主要な神々のみデータページに載せたようなクラスlvなどのデータが載っているが、ジャーガルを含めて大量の神性が短めの説明のみで自身のデータは載っていない。)前述したように後の3.Xeではジャーガルの好意武器はサイズだが、この2ndのアヴァターは武器は持たず、素手で1d10ダメージ+エナヴェ―ション、両手でエナジードレインで攻撃する。
 なおBG3の骨男の能力は(他の既存キャラらもPnP側の公式データとは異なっていてほとんど参考にならないが)Wisだけ18、他の能力は10、lv1でhp1(システム上、ダメージは受けない)というものでまったく参考にならない。

 Netheril: Empire of MagicおよびPowers and Pantheonsに全く同じ文章があるが「ジャーガルは決して怒ることなく、長く忘れられた墓からの囁きのような反響を伴う冷たい声で常に話す。その言葉は常に運命論的であり、その物腰は過度に形式ばっている」。その姿(およびアヴァター)の外見はこれも全く同じ文章で「古代の異種族の皺がよった wizened、非実体の(あるいは脆い、虚ろな) insubstantial ミイラのような姿で、骨格にへばりついた灰色の肌を持っている」というものである。
 実はBG3のゲーム内のシナビの姿は、この両2nd書物の記載に非常に忠実である。BG3のシナビのコンセプトアート(Jergalという名がメモされているものを含め)や開発中はこれとは異なる、かなりありふれた骸骨の死神のような姿であったことから考えるときわめて興味深い。




〇メフィスト3世はラファエルと同じカンビオンなのか


 たまに説を目にする。これは一概に答えるのは難しい。そもそも3世の父の
メフィスト2世の時点で「大悪魔と魔女の混血」(WG世界のアイウーズやディスガイアのラハールと同様「悪魔の御曹司」のアーキタイプ)であるため、2世がすでにハーフフィーンドやカンビオンであったり、3世はそれ以後の世代すなわちティーフリングである可能性がある。

 「カンビオン」の定義は様々で、たとえD&D界隈であったとしても、どれを指して呼んでいるかは定かではないが、RPG/FT関連の俗説では(ド・プランシーでの夢魔同士の子から派生して)夢魔と人間の子、とされていることがある。D界隈内外のいずれでもしばしば「ハーフフィーンド」と同義でも使用されるが(例えば海外のBG3 wikiではcambionをhalf-fiend, half-mortalと書かれているが、定義としてはいずれの版でも誤りである)、ゲームシステム上の分類では正確にはハーフフィーンドのうちさらに一定条件の一部のみを指し、かつ、その条件は版により異なる。
 AD&D1stのMM2では、カンビオン(Semi-demon)は「デーモンの父とヒューマンの母の息子(常に男性しか生まれない)」であり、他の組み合わせのもの(無論親がデヴィルや人間以外の人型生物など)は指さない。同じMM2では「ヒューマンの父とサキュバス(デーモン)の母の娘(常に女性しか生まれない)」がアル=デーモンである。AD&D2ndのMC8: Monstrous Compedium Outer Planes Appendix及びPlanescape Monstrous Compedium Appendix Iでもカンビオンとアル=フィーンド(名前が変わっているのは2ndでは「デーモン」はクリーチャーのルール上分類としては使用していないためである)の定義そのものは同様で、レッサー・タナーリの項目にリストされている。
 一方、3.XeのMM1ではハーフフィーンド(片親がフィーンド、もう片親は「実体・知力4以上・生来善属性以外」なら何でもありえる)の説明の箇所に「フィーンドと人型生物の子はカンビオンと呼ばれることもある」となり、人型とのハーフなら混血全般、フィーンドや人型生物の特定種族(副種別)や、両親及び子の性別の組み合わせなども限定されていない。(日本語版wikipediaのカンビオンの記事には、3.Xeではハロウィンに配布されたTome of Horrors Revisedに記載などと書いてあり、これは英語版wikipediaの古い記事のd20のTom'e' of Horros Revisedについての記載を、WotCのハロウィン配布のTom'b' of Horrors Revisedと混同し、Tom'e'をWotC配布などと追加する改悪をしているもので、WotCのTom'b'にカンビオンなど出てこない。それどころか、サードパーティーd20をWotC書物として拡散している危険極まりない誤情報だが、日本語wikipediaなぞに突っ込んでいると全くきりがないので今回は省く。)また、3.5eのExpedition to the Demonweb Pitシナリオのデータ箇所には「カンビオンという語は人型生物のハーフフィーンドを指すが、”真の”カンビオンは、タナーリ(筆者注:3.Xeではデーモンの副種別)の父とプレインタッチト(主にティーフリング)の母を持つもの」と書かれ、2ndまでに近いようでなにげにプレインタッチトは3.Xeでは人型生物ではなく原住来訪者なので広義からも逸脱している。コラム欄に「男爵級・子爵級のカンビオンはデーモンロードの父と人型生物ハーフフィーンドの母から生まれる」というものがあり、ハーフフィーンドの種別は人型生物ではなく来訪者なのでこれも逸脱している。つまり、片親の人型生物は種別上ではなく、要は「フィーンドの血が5割を超え、残りが人型生物の血」であれば、カンビオンではあると思われる。いずれも3.Xe MM1のハーフフィーンドのテンプレートとはかなり能力が違う。他資料ではグラブレズとドラウのハーフフィーンドをドレイグロス、デヴィルとドゥエルガルのハーフフィーンドをダーザゴンと呼ぶが、これらは(特に前者は見かけは人型とかけ離れているが)人型生物ハーフフィーンドであるカンビオンの、さらにサブタイプといえる。
 4版はそれ以前の版とは設定もシステムも別物のゲームで、5版とも充分は整合しないが、4版MMではカンビオンは「デヴィルと定命の存在」の子とされており、インキュバス/サキュバスがデヴィルに変更されている点とも整合している。日本では(AD&D準拠の大多数の海外レトロゲームの例や、5版の定義にも反して)「カンビオンはデヴィルとの混血だけを指す」という情報が流れていることがあるのはこの影響である。
 一方、5版MMではカンビオンは「フィーンド(主にインキュバス/サキュバス)と人型生物(主にヒューマン)の子」となっている。5版MMではインキュバス/サキュバスはフィーンドではあるが、デヴィル、デーモンのどちらにも分類されておらず(中立にして悪だが、ユーゴロス(ダイモーン)のサブタイプも無い)アスモデウスとグラッズトの両方が使役している記述がある。3.Xe以前と4版を無理矢理融合した結果のひとつであると思われる。インキュバス/サキュバスの子以外のデヴィル、デーモンとのカンビオン(アイウーズを含め)もMordenkainen's Tome of Foes(HJ訳『モルデンカイネンの敵対者大全』)に言及されている。(5版ではカンビオンも「フィーンド」の副種別を持つが、以下は説明上、あくまでフィーンドの血が半分以上の者をハーフフィーンドとしている。NWN2種族追加の記事で述べたが、血の濃淡と能力が一致しない場合もあると思われる。)

 いずれにせよ、4版以外の全ての版で、ハーフフィーンドのうち、片親が少なくとも「人型生物」であるかその血が入っていることが、最も広義であっても「カンビオン」という名の定義上の条件である。
 現在のところは、D界隈でも3.Xeや5版同様に「フィーンド」と「人型生物」のハーフフィーンド全般がカンビオンと呼ばれると思われるが、「各ワールドの住人の間」では、カンビオンやアル=フィーンドという語には、上記数種類の「狭義」を指して用いられることも多いと推測される。以前も書いたがルール的な用語と、世界設定上の用語(文化の設定蓄積として使用されてきた語)は必ずしも一致しないためである。WG世界のアイウーズはグラッズト(タナーリ)とイグヴィルヴ(ターシャ、5版ではフェイに変容したが、アイウーズを産んだ当時はヒューマン)の息子なので、AD&D当初の最も狭義でもカンビオンである。

 『バルダーズゲート3』(BG3)のラファエルも、メフィストフェレスの子でカンビオンと呼ばれていることがあるが、ラファエルは3.Xeの曖昧な定義や5版の広義のカンビオンかもしれないが(おそらくラファエル戦で襲ってくる手下のカンビオンらもデヴィルの子だと思われるが)、5版の最狭義(フィーンド方が夢魔)や、AD&D(フィーンド方がデヴィルでなくデーモンのみ指す)の定義では、かれらはハーフフィーンドではあってもカンビオンとは呼ばれない。その一方で、前記した3.Xeの「『アークフィーンド』と『人型生物のハーフフィーンド』の子である場合は男爵級・子爵級カンビオンである」という設定が、このアークフィーンドがタナーリ(デーモンの一部)でなくバーテズゥ(デヴィルの一部)の場合でも踏襲されている場合、母方の血筋によってはラファエルもそれらである可能性もある。日本のBG3の話題では「カンビオンという悪魔種は序列では下っ端なので、あのラファエルも実は大した階級ではない」というのはかなり定説のように広められているが、それほど下っ端ではない可能性も微妙にないというわけでもない。
 メフィストと正妻ベルフェゴール以外との間のハーフフィーンドとして、特に有名な者に3.0e BoVDに載っているメフィスタール宮廷歌手のアンティリアがおり、母方がエルフなので、BG3のラファエルとはおそらく異母姉か妹にあたる。男爵級以上ではなく通常のハーフフィーンド(3.0e〜5版の広義のカンビオン)と思われるが、3.0e時点でBrd20, CR22なので、12lvパーティーで対抗可能なラファエルよりはかなり強そうに見える。ラファエルと異なり、アンティリアの父がメフィストであることは宮廷では厳重に秘密にされているが、それでもこれだけの地位についている。
 IWD2のイザイアとマディもカンビオンとされ、父がデヴィル(ベルフィット/ポキューリン)、母がエルフで人型生物であり、IWD2のベースルール3.0eの広義をとると両者とも(アンティリア同様の)カンビオンである。ただし、IWD2の時代でのFR世界が該当するAD&D1stの定義の方をとると、親がデーモンではないため両者ともカンビオンでもアル=フィーンドでもない(ゲーム中にベルフィットがdemonという言及の箇所があるが、属性や後出のBG1EEのSoDなどから、デヴィルと考えられる。当時のInfinityのゲームによくある混乱と思われる)。
 NWN2-MotBのガン(夢のガナイエフ)は、ナイト・ハグ(下方次元界来訪者)とヒューマンとの子なので実はハグスポーンではなくカンビオンだという説がNWN1/2ファンらの間に根強くある。ナイト・ハグは、AD&Dではフィーンドという明記がないが下方次元界(ハデス)の原住で(当時は分類自体が曖昧である)、3.Xeでは来訪者だが「フィーンド」サブタイプは無く、5版ではフィーンドなので、ハーフフィーンドやカンビオンが「フィーンドとの混血」という広義上でも、ガンがどれにあたるのかは不明(おそらく版次第)である。

 WG設定でのメフィストの正妻ベルフェゴール(おそらくバーテズゥであるが、古バートリアンの可能性がある)については長くなるのでさておき、「埋れ木版」の水木しげるの連載漫画では、メフィスト2世の母は魔女サマリンとして登場する。「魔女」といっても水木漫画では人間とは限らず、別種族かというと、明確な判断基準はない。水木漫画では、妖怪一般(特に海外妖怪)が「悪魔」と総称されていることがあるが、しばしば魔女もその意味での西洋妖怪に入っており、「山田版」の漫画ではメフィスト老が地下世界(埋れ木版での悪魔界かもしれないが、地獄や冥界とは同一ではない)から西洋妖怪軍団(サマリンとは別の魔女の他、吸血鬼や狼男のようなゴシックホラーのストックキャラの面々)を呼び出す場面があり、かれらは広義でのメフィスト老の同類の悪魔であると考えられる。これらの「悪魔」はいわゆるフィーンディッシュ種かもしれないが、魔女は前記ナイト・ハグなどフィーンドそのものの場合もある。
 つまり、メフィスト2世は、母のサマリンがナイト・ハグ等でフィーンドである場合は、ハーフフィーンドや広義のカンビオンではなく真正の「フィーンド」だが、であるとしても、2世が「純血のバーテズゥ」(メフィストフェレスらの完全な同族のデヴィル、起源は別記事)ではないことは確実である。サマリン自身がカンビオンである場合は、2世は男爵級・子爵級カンビオンである(その場合、メフィストの偽名又はアヴァターで副称号の「モリクロス男爵」は、2世の称号なのかもしれない)。サマリンがフィーンドでない場合は、メフィスト2世はフィーンドとフィーンド以外の子なので確実に「ハーフフィーンド」ではあるが、サマリンが(他の西洋妖怪等ではなく)「人型生物」かその血が入っていない限りは、2世は広義でも狭義でも「カンビオン」ではない。
 メフィスト3世は、2世がハーフでなく真正の「フィーンド」である場合は、人間(人型生物)との混血となる3世はハーフフィーンド、かつ広義でのカンビオンとなるが、それ以外の場合は3世はフィーンドの血は半分未満となりティーフリングである。水木漫画の「山田版」では、山田真吾はプレインタッチトである可能性(ノストラダムス編など)も考えられるが、「埋れ木版」の埋れ木真吾もそうであるか、すなわちメフィスト3世の母の埋れ木エツ子の血筋も同様であるかは定かではない。
 なお、メフィスト2世とラファエルが同母兄弟か異母兄弟かは現状では明らかとなっていない。




〇カーサスのキャラデータ


 かつてネザリルの時代、初代ミストラ女神から魔力と権能を奪おうとし、ネザリル帝国の滅亡どころかウィーブの危機(NWN2-OCの『影の王』の発生もその影響である)も招いた大魔術師カーサスについては、昔から歴史設定(例えば邦訳されたものだけでも3.0eのFRCS、5版の『ソード・コースト冒険者ガイド』)にも書かれているが、NWN1-SoUにも(空中都市の幻影として)言及される。しかし、海外でもPCゲーマーを含めて、ゲーマーに特に広く知られたのはBG3であろう。

 実はカーサスにはデータが存在し、AD&D2ndのPowers and Pantheonsに記載されている。ここでは、一時期でも神格化(divine ascend)に成功していたとしてか、Dead Power(生前能力としては主物質界Demipower)として記されている。
 アヴァターのかわりに「生前のデータ」として書かれているのは、41lvのmentalist wizardであり、Str18/Dex15/Con19/Int22/Wis19/Cha23である。2ndの時点では、エルミンスターでも29lvなので、この時点で定命の到達点としては遥かに高い位置にあったことが設定されている。mentalist wizardはFRのネザリル資料にあるサブクラスで、他のスペシャリストウィザード(スクール専門家)と類似したルールである。デッドパワーの多くがそうだが、この2nd時代の時点でも、カーサスを神として崇めるカルトは存在する。

 この説明とあわせて、カーサスがAscendのために発動した呪文として、Karsus's Avatarという「魔法使系呪文レベル12」の呪文が2ndの呪文データ形式として書かれているが、項目の中身がほとんど「Unknown」となっていて、意味はなしていない。物質構成要素として「カーサスはゴールドドラゴンの砂嚢とタラスクの血と12首ヒドラの胆汁を含む多数の材料を使った」などと書いてあるが全く何の意味もなしていない。おそらく何かのシナリオのフレバーに使えと言っているような気がする。
 残念ながらこの書物の時点では「カーサスの冠」については書かれていない。




〇シルヴァナスの聖印


 BG3の第1章で数多く登場するドルイドらは、コンパニオン候補のハルシンらを含めて、多くが鎧などに「オーク樹の葉とドングリ」の聖印を身に着けている。これはFRの自然神シルヴァナスの印なので、「このドルイド達はシルヴァナスを信仰し、呪文などの現象は『この神の起こしている力』である」等と理解され、しばしば(BG3の攻略サイトや、BG3の話題で自称”紙版”ゲーマーによって)流布されているが、そう単純に説明できるような話ではない。

 旧版に遡ると、信仰術者と特定の神性の関連は非常に強く、AD&D2ndはコア自体が信仰術者が極めてがんじがらめであり、FRの1st-2ndの過渡期の小説『ムーンシェイ・サーガ』には地母神信仰がシャウンティア(チョーンティーア)信仰に置き換わった過程があるのもその現れである。3.XeではFR世界設定に限ると2ndまでにかなり近く、3.0eのFRCSでは、「全ての信仰術者」(クレリック以外を含む)は特定の神性を選択し、属性も同じか近い必要がある。ドルイドも特定の自然神の守護神格から呪文を得る(※1)と明記されている。

 しかし、3.Xeでは、FR世界でこそ上記のように全ての信仰術者と特定の神性は必須とされるが、PHBのデフォルトルール(WG世界など)では、クレリック以外の信仰術者は神性と近い属性も、神性自体も必須ではなく、クレリックすらも「神性でなく領域(多元宇宙の思想的原理)」から呪文を得ることもある。ドルイドについても、特定の自然神に使えるドルイドもいるが「一部」でしかないとされる。
 さらに、BG3のベースでもある5版のFR設定では、Sword Coast Adventurer's Guide (SCAG、HJ邦訳『ソード・コースト冒険者ガイド』)(2015)によれば、ドルイドは「特定の神」でなく「円環」に仕え、それぞれの自然神に対しては「自然現象」の側面(例えばグラムバーに対しては「地元素の神」ではなく「陸の地勢そのもの」)として理解するにすぎない。
 5版のPHBでも「献身の誓い」を立てるパラディンの「多く」は秩序や善の神性に誓う、とされるが、ルール的に必須ではない。(そもそも5版ではクラスにも信仰にも属性の必須がほぼなく、推奨すら書かれていないことがある。)

 2版や3.Xe-FRあたりと異なり、5版ではFRでも信仰術者でも特定の神性と必ずしも結びついていないということだが、5版のはずのBG3でもドルイドにシルヴァナスの印が各所に見えるのをはじめとして主に信仰系クラス(ロール)と神性の強固な関連の描写は多くある。これは、信仰が(5版では必須ではなくとも)一般的であるFRの従来の設定を重視しているとも、信仰ではなく慣習や文化のようなものとして、古くからのFR設定の積み重ねであるともいえる。あるいは、あえて描写にあたって旧版の設定を重視しているのかもしれない。
 惑星トーリルに住む定命の存在は、3.Xeまでは、大半が何らかの信仰を持つ旨が(他のワールドよりもかなり強固に)記載されており、無信仰者は死後はケレンヴォーによって壁に塗り込まれてしまう(NWN2-MotBでのビショップのように)という2nd-3.Xeの記述が5版初期までは残っており、ルール的な縛りがなくなったBG3でも、それらの背景は生きているのかもしれない。その一方で、上記の不信心者の壁の記載はのちにエラッタで削除されており、定命の者の大半が信仰を持つという設定自体が5版では必須ではなく、BG3では無くなっている(近年の『多様性』に関する様々な理由により)可能性すらある。この場合、5版でのBG3や信仰術者と神性の関係の描写は、世界設定の文化背景の描写ですらなく、単なるフレバー的なものにすぎない。
 何にせよ5版では、シルヴァナスの聖印等は世界設定の「描写」の範疇であって、「ルール的な縛り」ではない。

 2023年のD&D映画のドルイド、ドリックはネヴァーウィンター森のエメラルド団に属するが、エメラルド団(BG3の「エメラルド・グローブ」はメンバーや信条などが重複するが、同一組織ではない)は、AD&D2nd時点ではシルヴァナスとの関係が特に深いとされており(集団自体の別名が「シルヴァナスに選ばれし者」であったこともある)エルダスやマイリーキー(いずれもシルヴァナスの従属神である)の言及はあるが、1st−2ndコアのドルイドが真なる中立に限る点にも対応して、所属者はいずれかの中立属性に限り、中立の性質の強い集団となっている。3.0eのFRCSではエルダス、マイリーキー、シルヴァナスに選ばれし者の3者を首長に持ち、前2神のような善神の勢力からもなり非暴力的傾向を持つが「善にも悪にも加担しない」「文明の侵食に抵抗する」とあり、この時点でも他者の援助よりも自然(均衡)の性質が強い。
 しかし一方で、映画時点に相当する5版のベーシックや前記SCAGのエメラルド団の記述では、特定の神性の名は言及されていない。5版ベーシックでは「文明と自然が互いに破壊せぬよう」務め、SCAGでは特に北方のエメラルド団は「自然による破壊から文明を守る」とされ、援助者の性質がかなり強い。


 ドルイドと関連すると書かれている数多くの自然神のうち、2ndで注目されているのは上述のようにチョーンティーアだが、3.0eのFRCSのドルイドの箇所ではなぜか「マイリーキーが多くのドルイドやレンジャーの信仰対象として有名」とされている。マイリーキーはシルヴァナスの従属神で、2nd-3.Xeは神位は信仰者数などの勢力に直結しているので、従属神の方が勢力が大きいような言い方は不自然である。マイリーキー(ミエリッキ)はドリッズトシリーズ小説で信仰対象として繰り返し言及されたので、小説読者に媚を売った可能性が強く感じられるが、一方で、シルヴァナスが「真なる中立」で(特に2ndでは真正の均衡ドルイドのロールプレイのようになり非常に)扱いにくいに対して、チョーンティーアやマイリーキーは「中立にして善」(FRでは信仰呪文使用者は同じか近い属性である必要がある)であるためゲーム上の都合がよい、という側面も考えられる。

 シルヴァナスは5版のPHBの邦訳には「(地球の)ケルトの神々のシルウアヌスと同一綴りだが恐らく別個の存在であろうとされる」(ティアやオグマは地球と同一存在なのに対し)という訳注があるが、無論PHBの原語にはない。
 そもそも、シルウアヌスは通常ローマ神話の名だが、なぜD&Dシリーズでは伝統的にケルトの神々(5版PHBでも「ケルト神」のリストにある)になっているかといえば、ОD&DのGods, Demigods and Heroes、AD&D1stのDeities and Demigods (DDG)やLegends and Loreの頃から、いずれもシルウアヌスはCeltic Mythosの箇所に書かれている。ただし、1st-DDG等のシルウアヌスはトンカチにボサボサの髪と鬚の図像をはじめ、古ガリアのスケルス神にむしろ近いことが頻繁に指摘されている。ローマのシルウアヌス(「森の者(霊)」の一般名詞とも採れる)の名は、欧州古伝の土地神一般と習合したり単にそれらの呼称/分類としても用いられることがあり、ここでスケルスのような神に冠されケルト神の名として使用されているのも同様と思われる。
 グリーンウッド自身はFR最初期のDragon #54で、FRのシルヴァナスは(創作起源についてだが)1st-DDGそのままと言っているが、1st-DDG等のシルウアヌスは前記のようにスケルス神に近く、いまだにFRのシルヴァナスの武器が大木槌(グレート・マレット・オブ・シルヴァナス)であるのはその名残である。
 2ndのPlanescapeでもシルヴァナスはケルトパンテオンが住むアウトランズのティルナ・ノグスを(オグマらと共に)拠点としており、ここでは地球のケルトとフェイルーンのシルヴァヌスはオグマ同様に完全に同一存在ということになるが、2ndのPsには3.Xe〜5版等に明らかに引き継がれていない没設定も多い。原初の「D&D全般設定」と、旧「Ps」と、現5版等の「レルム」との地球神性の関係・同一性は、ティアや、アンサー/ぬるぽランドパンテオンのように明記されたものを除くと諸説があり、明確な没設定などもあり(Forgotten Realms wikiなどでは例によって没設定含むPsとFRが無造作に混同されており、情報として著しく欠陥がある)非常にややこしいので別の機会とする。5版PHBの訳注は「地球の(例えばローマのファウヌスのような)シルウアヌスと、FRの(スケルスのような)シルヴァナスは別である」といった意ともいえる。
 何にせよ、FRと地球の神々の設定上の同一性はともあれ、少なくとも創作起源としては、FRのシルヴァナスは「ローマのシルウアヌスの名で呼ばれる、古ガリアのスケルス等の自然神」にあるということである。


※1 なお何度か繰り返して書くことになると思われるが、ほぼAD&D〜5版を通じ、惑星トーリル上で発動する魔法的・呪文的効果は、秘術だけでなく信仰や大半の疑呪・超常能力(ドラゴンのブレス等)も含めて、基本的にウィーブ(織)の作用である。ウィザードは寝て呪文書を読んで準備し、特定神性のクレリックはその神性が準備してくれるが、この段階ではウィーブが整えられ発動が「準備」されるだけで、発動した時点で発揮されるのは全て「ウィーブの作用」である。
 FRではクレリックやシャーマンが発動する呪文も発動効果それ自体は全てウィーブの作用であり(旧版ではこのウィーブの作用によってさらに内方次元界から正負(治癒・負傷)や元素等のエネルギーが流入するのが呪文発動の原理だが、5版ではこの詳細は曖昧である)、「神の力」「神の起こす奇跡」「精霊力」等ではない(ウィーブ(織)はミストラ女神、シャドゥウィーブ(影織)はシャー女神と合一した存在だが、織や影織による発動が「ミストラやシャーの力」だというのは著しく語弊がある)。故に、たとえFRでも「信仰」呪文が常に特定の神の信仰により発動するとは限らない。AD&D2ndの信仰が「がんじがらめ」であるといっても、それはあくまで「準備段階まで」に必要な話であり、発動するのはウィーブの作用である。
 ただしフェイルーン上の大半の状況では上記ではあるが、一方で惑星トーリルにもウィーブ等以外の発動過程も存在しないわけではない。例えば3.5eのFRCGによると(イリシッドやサイオン等の)サイオニックはウィーブもシャドウウィーブも必要とせず、5版FRではサイオニックやMnkの東洋の神秘”ki”と、ウィーブの関連は不明(今だ議論の対象)とされる。








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