五つの試練:Infinite Labyrinth







1.序


 『五つの試練』はWizardryの公式(商用)タイトルで、シナリオエディタツールが利用できることから、公式サイトにはユーザーの制作したシナリオが多数アップロードされている。自分なりのwizを作りたい、というユーザーの要求はほとんど古典的なもので(伝説的なレベルのエピソードと言えそうだが、最初のapple ][版には既にそうしたハックツールが出回っていた)そうしたファンが求めるツールとコミュニティを、公式が提供したというそれ自体を含めて、『五つの試練』に魅力を感じるところは多々あった。
 が、実のところ筆者は、当初はこの『五つの試練』をプレイする予定はなかった。世には自力でwizライクを作ろうとする作者は絶えることはなく、フリーゲームにも、ストイックに旧作(#1-5)を忠実に踏襲した新シナリオともいうべきものも含めて、すでにプレイしきれないほど多い。さらに、自分でシナリオを作るなりシステムをアレンジしたければ、javardryのようなツールが非常に強力であり、不足を感じることはない。いま一歩のところで手を出すに至るきっかけが無い、というのが実情だった。
 そこにきて、一歩を踏み出すきっかけとなったのが、Wizardry(wiz)とRogueLike(RL)の要素を併せ持つという謳い文句の、Infinite Labyrinthというユーザーシナリオの存在であった。


 実のところ、wizと旧来のRLの折衷という発想自体は珍しいものではない。後述するが、wiz自体にもRLとの共通点が主張されることは多々ある。のみならず、古典的なwizのマップ部分のみを無造作にRLの自動生成ダンジョンとしたwizライクはフリーウェア含めて幾つか存在している。もっと根本的なゲームシステムのレベルでwizとRLの融合をはかったような試みも多い。
 これらに対して、『五つの試練』は、ユーザーシナリオを作れるとはいえ、かなり古典的wizの再現に特化したシステムである。よく知られているが、『五つの試練』のエディタでは#1-5までの種族職業以外に追加変更はできず、当初(Infinite Labyrinthが発表された当時を含めて)は#5のイベントも充分には再現できず、呪文の削除変更すらできなかった。当然、『五つの試練』内で独創的なシナリオ(ひいてはゲームシステム)を作ろうと思ってもそのシステムの範囲内に限られるが、換言すれば、古典wizの性質を失わないゲーム性を備えた上で、どこまでの独自性を出せるかの追求を要求されているとも言える。
 筆者も(しばしば古参のwizファンにありがちな傾向と言われるが)ことwizに対してはあまり新しきを求めないが、その「従来wizに対する欲求」と、それとは一見相反する「独自性への好奇」とが、『五つの試練』のストイックな色の上で微妙に噛み合い、このユーザーシナリオに対して、他のwizライクに比しても強い関心と期待を抱かせたように思える。





2.マップ


 RLの特徴とは何か、「ランダムダンジョン」「プレイヤーキャラの死が保存」「一人で冒険」など諸説あるが、これらのうち幾つかを欠いたものが、いわゆるRLの広義の俗称である「ダンジョンタイプRPG」等と呼ばれていることもあり、特に定説はないように思える。例えば、しばしばwiz#1なども「RL性がある」と主張されることがあり、「死が保存」「敵やアイテムのランダム登場に対する展開の依存性」「アイテムコレクト」等の幾つかのRLに見られる共通点はあるものの、これらについては何れも欠けたダンジョンタイプRPGも多い。この記事では、”何をもってRLと呼ぶ条件とするか”の「定義」はあえて行わない。
 wiz自体が元来有している(もしあるとして)RL性に加えて、このInfinite Labyrinthのさらに有する主要なRL的特徴であり、実際にタイトル名の元にもなっているのは、「ダンジョンのランダム性」である。


 前述のように古典的wizの再現に特化した『五つの試練』シナリオエディタツールでは、当然ながらダンジョンの自動生成のようなシステムは選択できない。Infinite Labyrinthは「ダンジョンのランダム性」を出すために、あらかじめマップを準備し、1回の探索(ゲートを潜る)ごとにランダムに選んだそのいずれかのマップ(ランダムテレポートが応用されている)に転送されるというシステムを採用している。
 これは、NeverwinterNights(D&D3.0eのシナリオ自作可CRPGツール)や古いツクール系(2000など)等の自動生成ダンジョンを持たないシステムでも、擬似的にいわゆるランダムダンジョンに相当する仕掛けを作る場合に、しばしば選択されていたものである。ちなみに、マップ自体のランダム生成ではなく、あらかじめ用意された固定マップのうち選択されたいずれかがランダムに出現するという構造自体は、*band系の「バルト(vault)」構造、NetHackや*band系の一部バリアントで迷宮途中に無作為に現れる「特殊レベル」、風来のシレンのこばみ谷の経路に多くある「シャッフルダンジョン」構造等、旧来のRL内でも用いられてきたものである。


 しかしながら、シャッフルダンジョンに近い構造をとるにせよ、『五つの試練』のエディタのシステムでは、マップ構造のみならず、イベントや仕掛けの位置やタイミングをランダムに発生させるのも困難である。限られた種類のマップで毎度同じイベントが起こるようでは、ランダムなダンジョンという印象を持つことは難しい。かといって、イベントを排除してしまえば、マップのランダム如何に関係なく、wizの戦闘特化タイプのシナリオと変わることはない。
 その最大の問題点の解決が、Infinite Labyrinthの最大の特徴であると共に、容易ならざる力技である。どうしているかというと、マップそのもの、その中のイベントやギミックが大量に準備され、まずもって滅多なことでは同じマップやイベントには飛ばないようになっている。あまりにも膨大なので、ほぼ探索のたびに違う展開が起こると思って差し支えない(ただし、『五つの試練』自体のランダマイザーのせいか、またゲーム環境によるようだが、なぜかゲーム起動直後に飛びやすくなるマップなどは一部存在する)。  仮に上述のNWNやツクールなどと同様にこの構造を思いついたとしても、普通は『五つの試練』でこれを実際に作ってしまったりはしない、というよりも、マップやイベント、後述するがそれを支えることができるデータの分量のアイディアが尽きてしまい、作ること自体が不可能ではないか。


 Infinite Labyrinthのマップ及び探索の展開のもう一つの特色に、「出口」がある。このシナリオでは、いずれかのマップの領域にテレポートで飛ばされると、脱出口(地上へのテレポーターや階段)にたどりつかない限り、戻ることはできない。
 古典的wiz(主に#1-5ベース)では、探索や経験稼ぎの過程は、退路は確保された上で行われるものであり、それだけにいつ戻るかの引き時が重要である(その目測を誤った場合、探索の途中で迷ったり帰還手段が尽きることがあるが、それは遭難というイレギュラーな事態である)。それに対して、このシナリオでは行くも帰るも自由ではなく、行き当たりばったりの状況に放り込まれる、という印象を抱かせる一因であり、古典的wizとは探索の感覚が全く異なる。そうした展開も、従来のwizに比べて「ランダム性が高い」と思わせるのに一役を買っている。なお任意の呪文テレポートは不可能で、緊急帰還手段は多くが制限のきついものである。
 「出口」の階段をひたすら求めるという展開は、初代Rogue、不思議のダンジョン系、NetHack等の一部の展開(特に終盤)に見られる。(ただし、これらでは探索というよりも危険にあわないうちにさらに深く潜る(階数を稼ぐ)というものではある。)


 ダンジョンの仕掛けは自然「いかに脱出口に到達するか」に関連したものが多いが、きわめて多彩である。初級ダンジョンではマップでは簡素でエリア範囲も限られたものが多いが、難易度の高いダンジョンに入るにつれて広いマップや複雑な仕掛けが増えてゆく。称号、所持品、装備、性別を利用した仕掛けや、中には複数の階層を行き来するものも存在する。後述するモンスターの特定の属性に対応した階層や、極度な危険やボーナスの階層、アイテムの入手や強化についての固定イベントも数多い。繰り返しになるが、ランダムでない固定イベントの比重が大きいにも関わらず、そのイベント量があまりにも多いため、ほぼ毎回違う展開に遭遇することとなる。


 なおゲーム性には無関係な余談だが、『五つの試練』ではマップ1階層ごとに名前をつけることができ(「試練場4階」「異界」といったもの)、呪文でオートマップを表示するとその「階層名」が表示されるが、Infinite Labyrinthの莫大な階層名は、筆者の確認できた限りでは全てD&D系及びT&Tのサプリメント名からとられている。都合、未訳のAD&Dのものがかなり多い。ダンジョン名にも関わらず、シナリオ(モジュール)名ばかりというわけでもなく、ルール名からとられているものもかなりある。階層名とその中のイベントは(一つの階層にランダム性を感じるほど多様なギミックが埋め込まれている関係上)特に関連性のないものがほとんどだが、中には『Naked Doom(運命の審判)』など、密接に関連したイベントが存在する場合もある。あるいは、このシナリオのランダムに固定小冒険に飛ばされる構造自体に、『デストラップ』や『鏡の国のダンジョン』のメインの流れを思い出す古参ゲーマーもいるかもしれない。







3.データ(出典)


 必ずしもRLの必要条件でもなく、またRLのみに限られた要素ではないにも関わらず、しばしば「RLの大きな魅力」として語られることが多いのが、その「物量」である。NetHack系のデータの多さや、特に*band系のアイテム(アーティファクト)やモンスターの多さは、よく言及される。加えて、それ以外にも引用元がきわめて多様にわたること、その傾向が一定でなく(脈絡なく)「カオス」であることも、NetHack系や*band系の特色として言及される点である。
 Infinite Labyrinthのデータは、それらと無関係ではないと思われる性質を多分に有している。アイテムやモンスターの「物量」は非常に多い。一部RLとwizの共通側面、すなわちランダム遭遇に依存したハック&スラッシュとアイテムコレクトを重視したゲームとして、充分な物量を有している。


 そのデータの由来は、元々古典的TRPGの引用が少なくないwiz#1-8にさらに加えて、オーソドックスな追加モンスターやアイテムが多い(ユニークモンスターの中には、一応神話由来とはいえ、NetHackと同様にAD&Dの最初のモンスターマニュアルに近い姿のもの、実質Greyhawk設定のままで登場しているものも少なくない)。
 その一方で、小説などのゲーム以外の既存作品に由来するものもあるが(アイテムでは不確定名が「英雄の武具」とされているものが主にそれである)FTは無論のこと、有名SFを典拠とするものも多数ある。その中には、商用フリー問わず、他のパロディゲームでもまずお目にかかれないような出典に拠る代物も含まれている。その一方で、やや古めのコンシューマゲーム由来のものや、不意打ち的な流行り物などもある。
 しかしながら、その出典は、「極度にカオス」や「脈絡がない」と形容できるほどではない。TRPGにかなり比重が多いことが、*bandやNetHack等(いわゆる洋ゲー由来の宿命として、引用元に「古典的」なSF/FTや、D&D系などの古いTRPGの引用が多い)と共通するものとなっており、そこに加わる他要素とあわせて、何となくこれら海外RLメンテナーらのセンスを思い出させる雰囲気を漂わせている。wiz#1-4のような故意に猥雑なジョーク世界に比べても、どこか飄然としている。
 (むしろ、本当に脈絡なくカオスなのは同作者のシナリオでも『コロッセオ!』等の方が該当するかもしれない。なお、街との間を行きつ戻りつして戦い強化し、要所で強敵のクエストモンスターを倒し少しずつ強化していくという意味でも、*bandにより近いのは『コロッセオ!』の方かもしれない。)


 なお、昨今の多くの同人流通RL等には、「*band, NetHackやCrawlを直接由来とする」データが含まれることもあるが、Infinite LabyrinthにはRLを経由する(主要RLのいずれかを直接の由来とする)と思われるデータはほとんど含まれていない。にも関わらず、重なっているものが少なくないのは、古典的TRPG等から多くのものを採っているという共通点によると思われるが、絶妙に多彩な出典を感じさせる雰囲気については、偶然の一致のようである。







4. データ(傾向)


 アイテムやモンスターのデータのバランスは、例えばwizのお約束ともいえる「村正」「グレーターデーモン」等が強力なものとして登場するといった基本は外していないが、基本的に古典的なwizとはかなり様相が異なる、独自性の強いテーブルが占める部分が多い。


 その一例として、戦闘関連のデータは、(同作者の最初期のシナリオから見られる特徴であるが)当時の『五つの試練』のエディタでは再現できなかった(現在は製作側が非公式で配布しているパッチで機能が拡張されている)「モンスターの元素属性」に基づいて作られている。wizには伝統的にモンスターにも「戦士」「魔術師」等のクラス分類があり、倍打等のためのフラグとして用いられているが、同作者の一連のシナリオではこれらのフラグをクラス分類の意味では使わず、「魔術師系=火、僧侶系=氷、盗賊系=風、忍者系=雷撃・大地」の意味で用いている。すなわち、火のモンスター、例えばファイアエレメンタルには魔法生物云々ではなく、「魔術師系」というフラグがついており、氷系の武器には「倍打:魔術師」がつくことで、火のモンスターに氷系の武器が有効、といった元素属性のモンスターと武器の関係を再現している。これは後述するアイテムセットと戦術のバランスに少なからず影響しているが、wizと別ゲームと化すというほど派手なものではない。
 なお、偶然か否かは不明だが、この「火:魔術師」等の元素とクラスの関係はCD&Dにおける、各キャラクタークラスとアウタープレーンの「領域」の対応関係(好意)と共通している(CD&Dでは黒箱〜金箱のイモータル化ルールに記載)。


 アイテムセットのバランスも、「長剣−切り裂き−真っ二つ−カシナート−エクスカリバー(ソード+5)」序列といった、wiz#1-3の、ひいては#5や外伝の伝統的なアイテムテーブルにはなっていない。例えば、中盤では切り裂きレベルで、かつ上述の「属性」を持った武器が特に充実している。上述した古典的なレアアイテム系以外は、どちらかというと弱めのものが続き、属性の弱点をつかないと中レベルの打撃はやや厳しく思える。
 後述する迷宮の進行にも関係するが、迷宮には特定の属性と関係したエリア(前述の火系ばかり出るエリアなど)がしばしば現れ、アイテムボックス(註:『戦闘の監獄』『五つの試練』で配置可能なイベントで、街の酒場にストックしてあるアイテムを迷宮内で取り出せるもの)が配置されており、迷宮の傾向に応じて装備を整えることもできる。
 そういった意味でも、力押しよりも装備を変える工夫をすることで有利となり、単調にならないようなバランスに一役買っている。(もっとも、面倒なら低位のダンジョンで鍛えて力押しもできる程度のバランスである。)


 Infinite Labyrinthに限らず『五つの試練』でユーザーが製作したシナリオの多くにおいては、従来のwizのバランス上にユーザーが抱いた不満点を、アイテムのバランスで調整しようとする試みというものがなされている。
 例えば、本家wizで#5から後列攻撃が可能となったため、外伝シリーズ等では特に終盤の打撃偏重、敵が魔法無効化率が高く敵のHP上昇に魔法威力が追いつかなくなる終盤や特に裏ダンジョンでは、後列まで全員打撃職、といった様相になることがあった。また、高レベルになればなるほど戦士と上級打撃職では成長率からレベル差が開いていくので、終盤や裏ダンジョンで上級職の戦力が戦士に大きく劣るという問題も発生した(上級職専用の村正等のレアアイテムの性能差があるが、これに追いついていないことが多い)。  『五つの試練』の多くのユーザーシナリオでは、魔法が無意味にならないよう魔法の威力を大幅に上げるアイテムや、敵の魔法無効化率を低下させるアイテムを登場させる、上級職をアイテム性能でさらに優遇する、後列打撃アイテムの威力を調整する、といった調整でこれらの問題に対処している。
 Infinite Labyrinthも、後述するように外伝系以上に強力なアイテムやモンスターが用意されているので、ユーザーシナリオの高レベルバランスの例にもれず、各クラスごとに強力なアイテムが準備されている。さらに、打撃と魔法、基本職と上級職の、いずれのクラスと能力もバランスが考慮されている。例えば、後列職用には魔法を強化するアイテムは無論のこと、逆に強力な打撃アイテムも準備され、射程やACを調整するアイテムを装備することもできる。そのため、従来のwizに準拠したキャラクターやパーティーの様相の他、入手したアイテムや進行によっては、全く異なる様相のパーティー編成(前列に魔術師、後列に侍を配置するなど)を選択できることもある。


 強力なアイテムが登場する反面、あえて装備制限が設けられていることも特色である。例えば『戦闘の監獄』や、『五つの試練』公式シナリオでは、武器防具以外の「その他」枠の強力な特殊アイテムは複数装備できることになっており、それだけに、アイテムを手に入れれば入れただけ強化できるという方向で、アイテムコレクトを追及できるようになっている。反面、Infinite Labyrinthは「その他」枠には公式以上に強力無比なアイテムもあるが、クローク枠にその強力なものの一つしか装備できないなど、キャラクター選択とあわせたコーディネートには頭を悩ませるものとなっている。ちょうどNetHackの装備選択や、*bandの耐性パズルに近い。
 『五つの試練』は前述したようにゲームシステムは#1-5を大きく拡張していないので、選択できるクラスも種族も決して多くはない。しかし、このシナリオはこのデータの傾向のためキャラクターのカスタマイズの自由度は、かなり高いものとなっている。
 例えば、魔法を強化するアイテムや上級職の成長率(経験値入手率)を向上させるアイテムは、かなり初期から入手でき、最初から古典的wizとはかなりバランスの異なる戦略を考慮できる。しかも、ゲームが進めば進むほどそうしたアイテムが多種大量に入手できるため、その選択肢は拡張するものとなっている。データ傾向がwizや公式シナリオとは異なる面も多いので、それらを求めるプレイヤーの好みに合うかの点はさておくが、「wizの本来の目的を追求した」と評されることもあるように、キャラ育成ゲームとしての充分な舞台を提供していることは確かである。







5. 進行


 ゲーム全体の進行は、wizで言う各モンスターの強さに対応した「階」に相当するものとして、4種類の入口(ゲート)があり、キャラクターの強さに応じてこれらに入り、いずれかのランダムダンジョンに飛ぶものとなっている。当初の目的としては、これらのダンジョンを巡って「称号」(ドラゴンの鱗や宝石のコレクト等)を獲得するものがある。どれも入手のランダム性がかなり高く、鱗や宝石の収集はかなりの数なので、これだけでもさほど楽ではない。
 称号を入手する頃には、ダンジョン内に色々な要素が現れているので、一定の目標(特定の敵の打倒、特定のマップの制覇、特定のアイテムの入手など)を自分で設定することになる。目標となるべきイベントアイテムやイベント敵、それらのアイテムの育成などの要素も数多い。
 後の方の重要な目標として、ダンジョン内でランダムに現れるメッセージ「ビジョン」に関係するものがある。ダンジョンを歩いていると特定の場所で(唐突に)メッセージが現れるのだが、そのメッセージを全て集めることで、メッセージの全貌と共にその先の目標にたどり着けるという仕掛けが準備されている。この迷宮はDungeonでなくLabyrinthであるのだが、そのメッセージと目標は、その語源に関するある伝承がモチーフとなっている。(余談だが、同じ伝承をモチーフとしたものに携帯用『ネザードメイン』#1シナリオ『シャインカーの娘』があるが、当然アプローチは全く異なる。)
 このシナリオは、下記する紹介記事における作者氏自身の紹介や、その他の感想レビューでは「ストーリー性は低い」といった紹介がされていることがあるのだが、この伝承に関するテキストは上述のGEEK的でクールな世界観の中でかなりの雰囲気を出しており、決して無味乾燥ではない。*bandの、戦闘ゲームでありながら設定上意味不明になっているラスボス(サーペント)の存在や、NetHackの、拡張を繰り返した結果としてまったく脈絡がなくなっている死者の書や魔よけの一連のイベントのように、RLでは最終目標はありながらも世界観的にはとってつけたようになっていることも少なくないのだが、このシナリオのビジョンのくだりは、あくまでRL的な進行を邪魔しないような簡素なものでありながらゲーム進行中で充分な存在感を放つものとなっている。
 wizの公式シナリオや『五つの試練』の多くのユーザーシナリオでは、キャラ育成等や探索の緊張感を失わない程度に簡素で、かつ一定の雰囲気を感じさせるようなストーリーやテキストが作者のセンスにより追及されているものが多いが、そうしたwizの体質とRLの目標がうまくかみ合った例ともいえる。


 全体の流れとしては、wizの要素の中でも「キャラ育成」「アイテム収集」といったハック&スラッシュに特化したシナリオとはいえ、その面においても、wizとは別ゲームである、という様相が強い。一例としては、マップや進行にもランダム性が高いので、一定のマップで一定の敵を狙って、一定のアイテムを狙い経験を稼ぐ、といったことは行いにくい。(もっとも、作者氏がwiki紹介ページで解説している「宝石の集め方」のように、ある程度のtipsはある。とはいえ、上述のようなカスタマイズや属性戦闘の工夫はできるとはいえ、RLのようなプレイヤースキルと呼べるほどに蓄積する攻略技術までは存在しないという点は、従来のwizと同様である。)
 そうした意味では、#1や外伝のマップだけをランダムにした、というゲームでは決してなく、#1や外伝とは別種、別個のゲームとしての性質を有している。前述したように、あくまで慎重に行動することでクラス・アイテム編成等で旧wizに則った進め方を行うことも充分に可能である一方で、データが非常に充実しているので、従来のwizとは全く発想の異なった進め方を考えることもできる。
 これらの要素から考えると、wizとRLが併さったゲームというよりも、必ずしもwizとRLのどちらにも収まらない、別の新たなゲームとも言える。
 多彩なランダム性を持ち、かつそれがプログラム処理に頼らずに一つづつ準備されているためか、仕掛けの多いゲームブック(T&Tソロシナリオについては上述したが)や、TRPGの古い非ストーリー系シナリオなどのプレイ感を思い出させるところがある(最近のRPGの宣伝文句にはよくある、「文章や世界がTRPG風雰囲気の」なる意味ではない)。
 『五つの試練』の、wizから外れない限られたシステムの範疇でこうしたシナリオが現れたのは興味深いが、『五つの試練』シナリオやwizライクの一種だけにはとどまらないのは無論として、RL側から見ても異彩を放つゲームでもあるかもしれない。



(2012.11.10)

(この記事はシナリオ作者sugsyu氏の許可を得て作成)




 五つの試練公式

 シナリオエディタサービスよりInfinite Labyrinth

 五つの試練wikiより作者レビュー





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