ウィザードリィとその系譜


 文:フェリアナス





 世に「やりこみ型」のゲームは多かれども、およそ『ウィザードリィ』ほど、やりこむ事自体を目的にプレイされているゲームもあるまい。もし、周囲にこのゲームが好きだというプレイヤーが5、6人もいる場合、その中にレベルを200や300程度に上げたというフリークを見い出すことならば、さほど困難ではないだろう(※1)。ましてネットなどで強者を探せば、天井知らずの記録保持者をいくらでも見つけることができる。

 際限ないレベル上げをするプレイヤーがいる一方で、元々、『ウィザードリィ』のゲームシステムは、どの程度のレベルをサポートしているかというと、およそ「30レベル程度」が限界として考えられているのではないかと思われる。(※2)
 それ以上のレベルの強さに対応した呪文、モンスター、アイテムなどが用意されていないため、それを超えると、レベル上げが単純作業とはいかぬまでも(作業になりきらぬところが、またこのゲームの絶妙な点でもあるのだが)事実上、「キャラクターの成長」のフレバーは失われると言ってよい。
 現にそうなった後も、なおも人によってはレベル上げを続けさせるこのゲームの魅力に関しては、とりあえずさておいて、より長く「楽しむ」ために、システムを拡張し、より高いレベルに「対応」した『ウィザードリィ』を作れないだろうか、というのは、誰しも考えつく発想であろう。



 その場合、まず真っ先に思い付くのが、強力なモンスターやアイテム、より強力な呪文を追加して高レベルに対応する方法である。
 しかし、その方法だと、どの道レベルが少し上がるとその追加では再び対応できなくなり、結局同じことになる(※3)。よほど頻繁に、そして際限なく追加していかねばならなくなり、プレイヤーに完全に合わせるのは不可能であり、CRPGのリリースにおいては現実的ではない。(※3)

 フリーウェア『無限の迷宮』では、呪文・アイテム・モンスターを「追加」するのではなく、ある一定の数・種類を用意しておいて、プレイヤーキャラクターの「レベル」が上がるのと同様にこれらの「ランク」が上昇するという方法で対応している。例えば、より強力な呪文自体を用意するのではなく、呪文リストは基本的に『ウィザードリィ』第1作と大差なく、キャラクターの能力に応じてそれまでと同じ呪文を複数のMPを消費して「x倍」の効果を上げる、といったシステムを採っている。またアイテムやモンスターも、深くなる階層に従って基本データの「x倍」の能力を持つものが出現する。プレイヤーキャラクターが到達する階層・レベルの数値が上がるごとに、そのx倍のランクも大きくなっていくのである。
 こうしてほぼ無限にインフレーションが可能な世界が構築され、また、このゲームのプレイヤーには実際に数千階、数万レベルといった記録が名を連ねている。それがとりもなおさず、そこまでやりこめるゲームとして成功した証拠であるのは言うまでもない。

 とはいえ、「『ウィザードリィ』そのままの」無限の冒険が続けられるかというと、わずかに問題がないでもない。随分と粗探しになってしまうが、やや単調なきらいがあることである。
 無論、元々の『ウィザードリィ』型自体が単調これ美徳といった面のあるゲームであるという言い方もできるのだが、それとは少し別問題として、『ウィザードリィ』1作目には、他のアイテムより遥かに貴重で、なおかつ重要度が極端に違う「レアアイテム」が幾つか存在し、その存在自体が、ゲームを続ける原動力となっていた。また、極端に危険なモンスターや、不自然に経験の高いモンスターなどが存在し、それらが常に絶妙な刺激を与え続けていた。
 『無限の迷宮』にも、まれに階層本来より遥かに強力なものが現れる「やや悪/極悪」モンスターや、それを倒して得られる経験もしくは高ランク上の物品の可能性など、よく似た状況を作り出すようかなり工夫はされているが、それを加味しても全体的なプレイ感の平板さは否めない。

 また、序盤が辛いことは『ウィザードリィ』以上である。特に、幾つかのシステム呪文を覚える前は、まともな進行さえおぼつかない。酷な言い方をしてしまえば、「強力なキャラクターになってから」のプレイが可能なことが売りである反面、強力になる以前のフォローに関しては、並大抵のRPGより遥かに不親切である。そういった意味でも、『ウィザードリィ』ファン中でも普段からレベルを数百やそれ以上に上げるといった、地道なやりこみを求めるフリークに向いていると言えるかもしれない。


 (続く)



※1 例えば、昔話になり4−5人のWiz愛好家のグループが集まったとすると、その中には必ず「愚直に」単一パーティーのキャラのレベルだけをただ上げ続けたというプレイスタイルの者が一人か二人はおり、200〜400レベルくらいを口にする、ということがある。
 80年代のPC版当時では、SF作家の矢野徹が300レベル以上(のちの著書では400以上)だったというのはかなり有名な話であった。ジャンプ攻略コーナーのキム皇こと木村初の1000レベル台や、まゆらの4001レベルやらも、簡単ではないが、特に信じがたいような数値ではない。

※2 一応、第1作のクリア可能なレベルは13(基本職が全呪文を修得するレベル)となっているが、すべての上級職が全呪文を修得するのは20レベル代後半であり、ニンジャの非装備時のACがマイナスに達するのは30レベル前後である。また、戦闘系クラスは3レベルに5%命中率が増加するが(実際はもっとややこしい計算になるが)開始時に半々の確率でしか命中しなかった敵に100%命中するのも30レベルである(実際は装備等の関係もあるのでそれより遥かに早いが)。
 実際上、すべての強力なモンスターを最小限の危険で撃退できるのも、おおよそ30レベル前後だと言えるだろう。
 なお、『ウィザードリィ』のゲームシステムの直接のモチーフとなったTRPG、D&D系のうち、クラシカルD&D(黒箱)は限界レベルが36レベルであることが有名である。また、AD&D1st、2ndでも基本ルールで情報があるのは20レベル前後までであり、高レベル拡張ルールでも30程度までが設定されている。呪文数や能力の規模において、人間に管理できる限界がこの程度だといえるだろう。
 AD&Dでは数値上のレベルだけならいくらでも上げることは可能ではあるが(2ndには、100レベル以上のための公式シナリオなどもある)『ウィザードリィ』で1000レベル以上のキャラクター等でも実質ヒットポイント以外に差はないのと同様、単に数値が大きくなるだけで、情報量や冒険のスケールなどは広がらない。

※3 実は、この一例であったのが『ウィザードリィ』の第2作(PC版では)にあたる『ダイアモンドの騎士』である。第1作のキャラクターがそのまま引き継げるようになっており、それに備えてモンスターやアイテムに強力なものを追加していたのだが、大半のプレイヤーキャラクターのレベルの方が上がり過ぎていて、全く対応の役目を果たしていなかった。便宜上、1作目がクリアできるレベルが13レベルであるため、おそらく15レベル程度を対象としたゲームであったが、大半のプレイヤーはその倍以上のレベルで挑み、いとも簡単にクリアしてしまった。

※3 ある意味では、AD&Dや現在のD&D3edはその方法論を選択していると言える。次々と追加ルールを出してゆくことで対応する方法は、システムの過剰供給が可能なメーカーで、また人間のゲームマスターが常に一人ひとりのプレイヤーに応じてルールを追加できるこのゲームにおいては有効に働くといえる。






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