〇バルダーズゲート3:Trials of Tav - A roguelike Mode (
Nexus Modsのダウンロードページ)
オリジナルRogueやNetHackがD&Dシリーズのシステムを流用して生じた一方で、逆に、既存の商用のD&D(d20)のPCゲーム、端正に見栄よく作られたPCゲームのエンジンで、改めてRoguelike化やランダム戦闘シム化する試みも多く、またファンからのmodやDLCなどの要望もよく聞かれる。しかし、それらは、D&DゲームとRLとしてのどちらか片方の側面についても、まっとうな評価が可能なものは少ない。EotBエンジン流用の当時流行のダンマス風が粗を余計に際立たせているDungeon Hack(AD&D2nd)、ゲーム構造やダンジョンの調整は良い(部分が多い)のが全面的なユーザーアンフレンドリーで完全に台無しのInfinite Dungeons(NWN1(3.0e))などの、ほんの触りだけでもいかにも問題がわかる極めて残念な代物がまず目立つ。一方で、@の溜まり場にあからさまなステマが投下され、触り一周の外面は一通りまとまっているが、何か'Roguelike'の前例を勘違いしたような周回や深層の調整に相当な難があるPathfinder: Kingmakerのストールンランドの地下ローグライクモード(3.Xe-d20)などは記憶に新しい。Low Magic Age? 目的以上でも以下でもない出来としか言いようがないLMAに対して不満を持つ人々というのは大半が(多分にLMAの”志の低い”ゲームコンセプトに対して)「過大な期待」をしすぎているか「的外れな期待」をしているかのどちらかである……。
なお、真にレトロスタイルな個人作成などのD&D(d20/OGL)-RLとしてはIncursion, JavelinやZorbusなど、さらに普通に5版系のRoguelikeとしてはRed Prisonがあるが、これらに関しては別の機会とする。
そんな状況の中で、D&D5版ゲームとして、mod (modification; NWN1/2の'module'ではない)作成が盛況なBG3で作られたのがこのTrials of Tav (配布ページでの作者の略称として'TT'が使われている箇所がある)のmodだが、BG3の「Roguelikeモード」を謳われているものである。完全にストーリー型のBGシリーズだが、BG1,2のエンジンでもランダムダンジョンmodが欲しいという要望は昔からかなりあった。実際はBG1,2のInfinityのシステムはランダムダンジョンにはかなり向かない点が多いが、InfinityではないBG3は(基本は)ターン制であるなど戦闘シムなどにはより適する点もある。
このmodのRoguelikeモードとやらがどのように進むかというと、普通のBG3(本編シナリオ)の流れと違うこのmod(TT)のゲームモードに入るのだが、mod導入後「すでにあるセーブデータをロードした時」に、TTのゲームモードに入るかどうか聞かれる。TTのゲームモードでは基本的に、
(1)キャンプ(野営地)に入る
(2)キャンプから出た際に、BG3内のマップのどこかに飛ばされる
(3)ランダムな敵が出て来るので戦う。ランダムな報酬が文字通りドロップする
(4)キャンプに戻り、(1)から繰り返し
という、BG3本編のセーブデータを流用するが本編とは異なる流れが続く。
つまり、Roguelikeなどといっても、オリジナルRogueやNH系やCrawlやシレンや、派生のハクスラ(*band, Diablo)のような典型的なRLのダンジョンゲームの様相は全くない。というか、むしろ「アリーナ」に近く、当サイトでも紹介しているような、LMAのランダムな敵とボタンひとつで再戦しランダムドロップもあるアリーナモードや、NWN1/2の訓練場類でレバーを引くとランダムな敵が次々と出てきてスクリプトでランダムドロップもするように設定されている、というものに似ている。(これが「Roguelikeゲームに該当するかどうか」「名乗るべきか」の議論は当サイトでは行わない。)
冒頭に挙げた各種のD&D-RLについてRoguelikerらに検討されていたことではあるが、このmodも、Roguelikerが新たなRLの選択肢として(BG3の導入ごと)検討するというよりは、あくまでBG3の既プレイヤーで、BG3や5版系のシステムやインターフェイスでランダム戦闘反復を繰り返すことに強く興味があるゲーマー向きである。
BG3の普通のセーブデータを使用するのだが、最初にロードやニューゲームを行った時にTTのゲームモードにするか聞かれ、そのセーブデータは以後は(1)〜(4)の流れが繰り返されるようになる。
基本的には、新規でBG3を開始し、カスタムキャラ(自作主人公, カスタムの場合のデフォルト名がTav)をキャラメイクし、最初にセーブデータを作り、それをロードしてTrials of Tavのモードを選んで開始することを想定されているようである。このように開始すると、(BG3本編とは異なり)最初から野営地にシナビがおり、クラス変更等のユーティリティや、傭兵雇用(3lv以降)ができる。オリジンキャラは会話などの面で不具合が出る可能性があり、カスタム主人公と傭兵のメンバーのみで進めることが推奨だという。
BG3本編の進行中セーブデータ(つまり、ある程度lvやアイテムが揃ったデータ)をロードし、途中からTTのゲームモードに変更することも構造上は可能である。しかし、mod作者によるとオリジンキャラやBG3の本編シナリオ要素は不具合を起こす可能性が高く、というか実際に(本編の中lvデータで試そうとしてみると)野営地を出てもランダムなマップに飛ぶのではなく普通にBG3の本編の流れが続くだけなど不具合が続出した。しかし、新規で作ったセーブデータから始めた場合も不具合が時々は(modの宿命といえるが)出たので、これが既存セーブデータやオリジンキャラを使用したせいなのかそうでないのかは不明である。いずれにせよ、カスタムキャラで新規に開始し、傭兵を使用した方が無難である。
逆に、一度TTモードでアイテムや経験を獲得したセーブデータを(強引にmod自体をアンインストールするなどして)BG3本編に戻すことも構造上は可能だが、作者は一度TTゲームモードに入ったセーブデータでは本編の流れは破壊されるとしており、想定されていない。
Trials of Tavゲームモード自体でも、キャラの能力にあわせてランダムに敵が選ばれる'Roguelike'戦闘モードと、敵の強さのレベル範囲やマップなどを指定できる戦闘モードがある。セーブデータの初回ロード時や「u」を押して出て来るTTモード用のコンソールのconfig画面で、Play Roguelike Modeにチェックするかどうかで切り替えられる。
戦闘をクリアしていくとcostと、'Roguelike'モードであれば(つまり、ランダム生成度が高い挑戦的な戦闘をクリアすれば)RogueScoreが増加する。costを消費して、能力・機能をunlockしてゆき、RogueScoreが一定量ないとunlockできない項目もある。
野営地内に店はない。買えないというより、むしろランダム入手したアイテムを売ることができない。シナビと交渉して蘇生や傭兵雇用に使用するための費用は、コンソールの「unlocks」からアンロックでcostの5ポイントごとと引き換えに手に入る100gpごとのみになる。シナビとの取引のみならその程度で充分足りるのだが、現在(2024.6月)ショップを追加するかどうか、どのようにバランシングするかは不明とのことである。
Nexusの配布ページによると、故意に戦闘ごとにある程度難易度に幅が設けられているが、多々報告されているが、特に'Roguelike'戦闘モードでは、敵の強さが極めてばらつくことは少なくない。特にまだ3lv未満でソロの時点で、こちらが1lvなのに5lvの敵が出て来るなど普通に起こる。BG1-3とも、選択できる手段が少ない序盤が極度に辛いのは有名だが、このmodでも、仮に高lvであったりリソースが揃って来れば対処可能であっても、序盤はこういった状況が事故になりやすい。また、3lv以降でもパーティーが複数でこれらの状況に遭遇した場合も、蘇生させようにもcostが溜まらず蘇生費用も調達できないので、どうにも進まなくなることも起こる。大休憩のための食品も(ほとんど枯渇することのないBG3本編とは違って)costを払うしかないので(たまにドロップすることはあるが)序盤で勝てなくなりcostが尽きると立て直しさえできなくなることもある。
また、マップによっては戦えない箇所に敵が出て来てクリア不能になる状況もたまに起こる。これらの場合、同じセーブデータからロードしても同じ状況の敵が出る。
敵だけ入れ替えるならば野営地でconfigからstart -> stopなどを繰り返せば敵編成、マップなどは更新される。また、このTTモードは前述したように'Roguelike'(完全なランダムおよびレベルスケーリング)戦闘モードだけでなく、次回指定したlvの敵やマップを登場させるモードとすることもできるのだが、上記したようにどうしても進まなくなった場合、やむを得ずとりあえず1lvなどの弱い敵を手動で出現させ、敵出現をリセットしたりcostを貯めてもよい(RogueScoreは上がらないが、costは貯まる)。「u」を押して出てくるコンソールのconfigからPlay Roguelike Modeを切り、Scenariosで低レベルの敵が出て来るように設定する。状況が回復したら再びRogueScoreを上げるために'Roguelike'モードに戻すなどする。
Nexusの作者の説明によると100時間以上のプレイが可能とされているが、固定シナリオに一定時間かかるようなものではない以上は、どちらかというとプレイヤー側が、そのランダムアリーナを本当に100時間プレイするかどうかの問題である。上述の難易度のばらつきは、手札が揃ったある程度のlvにおいてはプレイングに適度なメリハリをもたらしており、おそらく本来その目的(序盤以外)で故意に設けられてもいると思われるのだが、記事序盤に挙げた微妙なRoguelike試行作品群、特にLow Magic Ageのような単調さとは異なる感触がある。これにのめりこんで長時間反復するBG3エンジンのファンも多いかもしれないと納得させるものはあり、現に長時間の報告はある。一方で、他のアリーナ類に触れているゲーマーは、一戦ごとにエリア移動とそのロード時間がかかるのは、単なる戦闘反復のアリーナに強く求められる「手軽さ」という一面に欠けると感じるかもしれない。
敵やアイテムは、BG3本編にデフォルトで登場する中からランダムで選ばれているのみであり、プレイヤーキャラの能力に合わせたスケーリングといっても、その場で敵のデータ自体が調整されていたりランダムアイテムが生成されたりする機能は現状では無い。BG3自体のゲームスケールの大きさによるデータの豊富さから、それでも充分にランダムアリーナとしては機能しているが、上記ハクスラRPGのような要素を求めている人は留意する必要がある。lv上限を20lvに変更したり他の5版のシステムを導入するような他のmodと併用することもできるが、BG3の前提である12lv上限を超えるような敵やアイテムなどは用意されていない。現在もアップデートが続いているmodであり、今後上記のような要素のいずれかが拡張されるかは定かでない。
(途中)