〇ネヴァーウィンターの街


 Neverwinterという都(国)の名の由来についてはゲーム内外の色々な所に書かれている。ソードコースト北の地理条件から考えると不自然に温暖なこの街が、「冬の訪れることのない都」と、単に自然に呼ばれ始めた、という説の他に、D&D4版の書物、例えばHJ社から和訳も出ているNeverwinter Campaign Settingでは、創設当時、庭師らが真冬に花で覆い尽くすことに成功し、驚嘆した旅人がこの地をこう呼ぶようになった、という説が挙げられている。同書によると、これらは諸説のうちわずかなものに過ぎず、様々な理由を主張するのが主に市民らの恰好の話題のひとつとなっているという。


 そもそも、なぜこの都が「冬が訪れることがない」ほど温暖なのか。D系ゲーマーには特に説明する必要もなく周知だが、とりあえず諸説を整理する。
 現在よく説明されている設定、特に2016年現在、wiki等のほとんどのFR記事(NWN2wikiを含む)で紹介されている説は、ネヴァー川の温水が流れているからで、そのネヴァー川はホテナウ(NWN2-SoZ和訳での訳語。HJ社和訳書物では「ホートナウ」)火山から流れてきているから、火山の周辺に住むファイア・エレメンタルらのため、というものである。
 さらに、D&D4版の書物、例えば上記Neverwinter Campaign Settingによると、「だいたいプライモーディアルのせい」で全編にわたって押し通されている。プライモーディアルとは、4版になって突如、どの世界設定でも創世や神話などのいたる所に現れるようになった存在である。神話上の役割はギリシアのティタン(D&Dのタイタンではない)によく似ているが、性質は精霊と旧支配者がいっしょくたになったような、要するにここでは「バルログのようなもの」である。
 4版では、ホテナウの火山活動及びネヴァーウィンター市の温暖は結局のところ地下に眠っているプライモーディアル”灼熱のメイジェラ”に帰結することになっている。上記書物では、ドワーフ(とサーイ人)が地下に眠っていたメイジェラを覚醒させたとかいう、著しくどこぞで聞いたような設定が書かれている。ともあれ、メイジェラの覚醒が、DR1452年(NWN1,2からは80年近く後である)にホテナウが噴火し、ネヴァーウィンター市が溶岩で半壊し、都を1-3版やNWN0-2等のいわゆる「旧時代」と、4-5版やNW-MMO等の「新時代(New Neverwinter)」に分断する原因に繋がっている。


 しかし、これらの設定を読み通して、特に3.Xe以前のゲーマーは、「そのりくつはおかしい」と思うかもしれない。
 火山や川の近くにあるというだけなら、火山のもっと近くや川の流域の全域に渡って温暖でもいいはずで、ネヴァーウィンターの市内でだけ春の花が咲くというのは妙である。
 もっとも、あるいは単に書かれていない(この都での現象だけが有名)に過ぎず、周辺の他地域にも、同様の現象はあるということも考えられはする。


 さて、NWNプレイヤーにはすでに周知の通りだが、ネヴァーウィンター舞台の作品のうちでも決定版ともいえるNWN1-OCで説明された背景は、上記の4版の設定とは全く異なるものである。CRPGの描写は(1−3版の時代には)非正式とされることが少なくなかったとか、そもそも後の4版の正式設定で上書きされているはずだとかいう見地もあると思われるが、それを念頭に置いたとしても、NWN1で説明されたそれは、FR世界の設定全体でも、空前のスケールに及ぶものである。
 「ネヴァーウィンターの温暖」の真の原因として、この都の地下には、この都や、ソードコースト北の範囲、フェイルーン地方どころか、惑星トーリル(レルムはもちろん、アル=カディムやカラトゥアやマズティカの世界設定を含む)全土の始原を俯瞰する、とてつもない秘密が隠されていた。
 上記4版の資料はもちろん、3.0eのFRCSを含めて、FR世界の年表のうち多くが、せいぜいが2万年前のエルフのイレファーン帝国の記述から始まっている。しかし、このNWN1-OCの秘密は、遥かに以前のトーリルの惑星全体が若く熱に覆われていた時代にまで遡るものだった。
 あるいは、NWN1の以後の展開やNWN2、4版以後でも、この設定は特に触れられることがないのは、前述したように単に言及されていない、上書きされているという解釈の他に、ひょっとすると、この事実の全容を知るのが、いまだにトーリル全土でもNWN1-OCの主人公(ネヴァーウィンター-ラスカン戦の英雄)ひとりだけなのかもしれない。


 しかしまた一方で、そもそも「冬の訪れることのない都」という語義そのものと、まったく異なった説もある。NWN2-OCで、老冒険家・通りのガイヴィンがクロスロード・キープにおいて、NWN2-OC/MotB主人公(破片の使者)がネヴァー城地下にある創始者ネヴァーと九人衆の墳墓を訪れた際の体験を聞かされた時、その背景として、主人公に語るものである。
 この説によると、Neverwinterとは、創始者であるエルフ英雄、ハルエス・ネヴァーが戦死した際に、その終焉の地として「ネヴァーの冬」と呼ばれた、というものである。
 この説は、NeverがFR世界の固有名詞であるとすれば、winterという英語と一単語の中に混ざっている、ということになるのだが、FR世界は(作内世界の言語と、読者に伝えるための英語の関係が整理されたLotR等と異なり)D&D最初期ルールの流用のため地球伝承用語を単語ごと持って来たりする、きわめて粗雑に作られた由来を持つ世界設定なので、そういうことは頻繁にある。海外の初期CRPGなどのオリジナル世界にはこういった傾向は珍しくない。



 ホテナウの設定、城の地下の聖域の設定、ハルエス・ネヴァーの設定は、見事なまでに、互いにまったく関連性というものがない。互いに矛盾なく(どれが"Neverwinter"という名の決定的原因というのでもなく)存在させることもできれば、一方で、相互に排除するように解釈することもできる。
 上述したように、D&Dシリーズの本家のPnPでは、3.XeまではPCゲームの設定は非公式扱いで特に触れられていないことも多かったが、4版に至るとCRPGの設定、アリベスや死悶の疫(HJ社邦訳では「泣き叫ぶ死」)等も積極的に取り入れられている。ここから考えると、本家側がこれらの設定のどれかを知らないとは考えられない。故意に無関係な説を別々に提示していると推測できる。現実の歴史等の用語起源の解釈にも、相互にまったく関係がない説が唱えられている例が多数ある。冒頭で挙げたように、作内設定でも市民らがまちまちの説を唱え確定した説がない、と設定されていることにも挙げられるが、故意に全く別の説を併存させてリアリティを狙っているとも言えるし、単純にTRPGの卓ごとの創作の余地を設けているともいえそうである。



〇旧PnP版のネヴァーウィンター


 これはNWN1/2に限らずBGその他のPCゲーマーにもしばしば囁かれることだが、PCゲーム版の設定のどこまでがPnP資料と共通なのか(PnPに記述が実際にあり、準拠しているのか)という疑問は頻繁にある。NWNについてはロード・ナッシャーやアリベスその他の設定は元からPnP版にあるのか、というものである。

 最初のFR世界の参考資料こと、AD&D1stのForgotten Realms Campaign Set(初代FRCS)(1987)には、わずか小さな1段落だけだが、Neverwinter市についてのエントリーがある。また、かつてネヴァーウィンターに居た、魔術師アガナザー(FR世界の特にPCゲームには頻出する、Agannazar's Scorcher呪文の由来であるが、詳細は別の機会に述べる)の記述などにまつわり、ロード・ナッシャーの名前があちこちに見える。
 同年のWaterdeep and the North (1987)は、大半がウォーターディープ市を解説した書物だが、ここでも同じような小さな段落が設けられており、ロード・ナッシャーが(AD&D1stのデータでは)12lvのファイターであるなどの記載がある。他の箇所でもしばしば最北方の(善勢力の)都として、ネヴァーウィンターが言及される。

 さらに、AD&D2ndのVolo's Guide to the North (1993)になると、旅行家ヴォロらしく市内の施設の記述なども増えてくる。ムーンストーン・マスク、シャイニング・サーペント亭、シャイニング・ナイト武具店などのNWNプレイヤーには周知の施設もある。ヴォロによる評価はきわめて高く、マスクは4つ星、武具店は5つ星である。また、これもおなじみ近くの町ポート・ラストの記述もあり、クラックド・アンヴィル武具店(4つ星)、アライアンス・アームズ宿屋といった施設の説明もある。


 AD&D1stの時点でネヴァーウィンターの街と、少なくともロード・ナッシャーについては記述があり、さらにAD&D2ndの頃には、街の主な施設や概要などについては設定されていた。
 1st-3.Xeの頃には「ゲームのみ」を出展とする設定はnon-canonnicalとされ、PnPよりもかなり重要性が低いものとして扱われているような傾向があったため、これらPnPの時点から典拠を持つ設定は重要である(逆に言えば、1st-3.0e頃の設定で、ゲームで見たものが他のD&D媒体に登場した場合、ほとんど「ゲーム出典」のことはなく、何らかの別の典拠があると目星をつけた方がいい。例えば日本の自称TRPG経験者のPCゲーマーが「バルダーズゲートが起源」と主張している内容のほとんどはFRか90年代の拡張2nd書物が典拠である)。
 一方でD&D4版以降はPCゲームの設定はPnP側にも積極的に取り入られているが(アリベス、死悶の疫、バールスポーン等の設定はPnP書物にも表れる)これは2000年代以降、PCゲーマー自体の人口が増えたこと、さらには、4−5版のFRでは3.Xe以前から大きく年代を経ておりPC版の設定を引き継ぐとしても部分的なので、PC版ゲーマーにはサービスになるが、PC版未経験者にも違和感を感じるほどではなく導入できるようになった、といった諸々の事情が考えられる。







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