Angbandについて


 文:フェリアナス





 Angbandは極めて古いフリーウェアで、Roguelikeに分類されるRPGである(*1)。Roguelikeというと「トルネコやシレンのような……」という説明がお決まりだが、Angbandの実際のゲームの様相はそれらの雰囲気とはかなり異なっている。
 『トルネコ』や『シレン』は(及びRoguelikeとして最も有名なNetHackもある程度そうであるが)初代Rogueからの、ランダムなダンジョンで「一期一会の冒険」「命運をためす」という雰囲気を忠実に受け継いでいるが、Angbandは同じランダム生成されるダンジョンの中でもって「自キャラを堅実に鍛え上げ」「レアアイテムを集める」といった、むしろ『ウィザードリィ』や『ディアブロ』に近いプレイ感覚を持っている。
 つまりは、純Rogue系に比べると「普通のRPG」に近いわけだが、かといって、恐ろしくシビアであることには変わりはない。『ウィザードリィ』の序盤の辛さを知る人にはよくわかるだろう。

 それでも、これも言い尽くされたことであるが、ターン制による緻密なまでの状況のシミュレートとテキストのみの情報から浮かび上がる迷宮世界のイメージ、さらには、Angbandならではの、その重厚な世界に挑み得られるものを貪欲なまでに利用しつつ、たった一人で切り開き潜ってゆく、あまりにも苛酷なヒロイズムは、他では決して得られない。
 なお、Moria/Angbandの原作者はこのゲームを「RPG」ではなく「Dungeon simulator」と呼称している。



 Moria (1983): Angbandの原型。Rogueから派生している、というより影響を受けており、戦闘系のダンジョンシミュレータとしての新たな原型を構築している。非常にシンプルだが、ゲームバランスは後のAngband系よりむしろ良い。地下50階の「The Balrog」を倒すのが目的で、この点と題名だけがトールキンのアルダ世界から取られている。余談だが、筆者は10年ほど前、ネットを始める以前に偶然入手したこれを猿のようにやりこんでおり、故に後にAngbandへは非常に入門しやすかった。Angbandとは異なり、作者によると故意に非常にクリアが困難なように作られており、実際バルログ手前で力つきたキャラクターを筆者は山ほど抱えている。

 Angband (1990): 日本語版はJAngband。Moriaの発展型。おそらくMoriaをもじり、舞台と敵をアルダ世界の最大の悪の要塞アングバンドと暗黒の主モルゴスに設定した。階層が倍(100階以上)になり、アーティファクト(アルダ世界のアイテム)、ユニークモンスター(登場人物)、上位のレベルと上級呪文書などが追加され、Roguelikeの発展型として人気の高いNetHackと並び称されるゲームとなる。数多くの発展作(バリアント)が存在し、それらに対して(アイスクリームのバニラのように基本であることから)Vanilla, 略して[V]と表記される。ゲームバランスには若干問題もあり、また操作性に細かい改良が加えられたZAngband以降に比べて現在はややプレイしにくい面もある。(現バージョンの3.0系では、フィーチャーもかなり増え、操作等の細部が改善されている。)

 OAngband: Angbandのバランスを調整したもの。さらなるアルダ世界のフィーチャー(クラス、魔法、アーティファクト、ユニークなど)も加わっている。『指輪物語』のストイックな雰囲気を味わうには最適と感じるため、筆者は非常に好みで、翻訳に参加したこともあるが、現在ではプレイヤー数も多くなく、翻訳の更新も止まっているようである。

 ZAngband : バリアントの筆頭で、Angbandにゼラズニイの著作の世界観を盛り込んだもの。何故ゼラズニイかというと、日本語版を製作している板倉氏によると、アルダ世界の「9人のナズグル」を「アンバーの9王子」に置き換える発想が元ではないかとのことである。ゼラズニィのモンスターやアイテム以外にも、大幅にゲームシステムが拡張され、第二のベースとして多くのバリアントの基となっている。なお、変愚やToMEの直接の原型となっているのは2.2.8系であるが、現在は[O]に近いシステムを持つV2.4.0(2.8系が翻訳予定)であり大きく異なる。

 変愚蛮怒 (Hengband): 日本製のバリアントで、日本では恐らく最も多くプレイされ、*bandというとこれを指していることが最も多い。ZAngbandにさらに数多くのフィーチャーが加えられている(ジョークモンスターや「剣術家」のようなジャパニメ燃萌系クラスなど)他、AngbandやZAngbandで可能だった「嵌め手」系の技を回避するなどバランスが取られている。

 The Troubles of Middle Earth (ToME): Zangbandの旧バージョンをベースに、あくまでアルダ世界を舞台として、ゲームシステムおよびフィーチャーをさらに大量に加えたもの。非常にシステムは大規模で、ToME2.0系以降になると、ZAngband系列とは全くの別物である。地形やイベントなど純粋に『指輪物語』世界を踏襲するが、「始めて5分で罠にはまって中性に性転換」「プレイヤーキャラのデスモルドがモルゴスの体を乗っ取ってHP2万」といった荒唐無稽なことがあまりにも頻繁に起こるので、ときどき『指輪物語』世界の重厚さを忘れがちになる。が、総じて変愚蛮怒と並んで最もよくプレイされていると言われるバリアントである。
 なお、ToMEはメジャーバージョンアップによってゲーム性が大幅に変化しているため、当サイトの用語集でも網羅しきれておらず、比較的初期のPernAngband, ToME1又は2などを話題にしていることが多い点は注意されたい。

 Xangband: かつては[Z]2.4.0をベースに難易度を落とした簡単愚蛮怒というバリアントであったが、より変愚蛮怒に近いシステムのXangbandに変更された。(Xの名の由来は諸説あるが、海外バリアントには多い命名法、作者名のiks=Xに因むという説が有力である。)世界観はゼラズニイ他は外され、指輪物語に世界の主要神話が入ったものになっている。職業や魔法が簡略化され、難易度が大きく下がっているが、ゲームの本質(地道で慎重なプレイを要する)は変わっていないため、文字通りに*bandの入門に最適のバリアントである。



 1996年にしとしん氏らによってAngbandの日本語版が発表された当初は、同じRoguelikeでは、既にその形で完成してから久しく知名度も相当にあったNetHackに比べて、そのコミュニティは根強いながらもやや細々としていた、という印象を筆者は持っている。Angbandの時点では依然として情報交換よりも淡々とやりこむゲームであった性質もあると思われる。(しかし、スコアランキングやMAngband(マルチプレイヤー版)等はあった。)
 しかしながら、2000年にZAngbandが日本語化され、ついで間もなく日本製バリアントである変愚蛮怒が誕生し、それが数々の意見を活発に取り入れながら進化してゆく動きが一旦生じると、大きくコミュニティが発達し、コミュニケーションの活発さにおいてはNetHackにひけを取らぬようになる。


(*1) 07年3月現在、ライセンスが異なる(商業利用不能)ので厳密には法的にはフリーではない。ダウンロードやプレイ、改造してのバリアント(非商用)製作は無論フリーである。





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